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元勇者「本物の勇者が現れてから一年経った」

1 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:10:49 ID:IyhGY/1M

巨竜は 咆哮を あげた!   ▼


勇者「皆いったん退くぞ! おい、聞いてるのか!?」

勇者(くそっ、雷雨で声が――)


巨竜の こうげき!!  ▼


勇者「うわああああぁぁ!!  うぅ……」

勇者「!?  武道家!? おい、大丈夫か! おい!!」

勇者「僧侶、武道家を頼む! 手当てを急げ!!」

勇者「魔法使いも俺の近くに! ルーラの詠唱を――」


巨竜の こうげき!!  ▼


勇者「ぐああああッ!!」


勇者(くそっ、どうすれば!)

勇者(このままじゃ全員……――)

180 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/27(金) 12:57:03 ID:asxzQkDg

――

信者A「――僧侶? ああ、あの大罪人なら、追放された日にここから消えてそれっきりさ」

信者B「――知るものか。奴が一時ここにいたと考えるだけでも身の毛がよだつ」

信者C「――存じません。僧侶などという方はここにはいません」

信者D「――ああ、あんたもあいつを探してるのか? やっぱり直々に極刑を下さないとな」

信者E「――知らないが、それよりあんた、どこかで見たような……」

――

賢者(……)

賢者(こんなところかしら。そろそろ怪しまれてきたし、切り上げ時ね)

賢者(できれば司祭級の立場の人に会って、詳しい話を聞いてみたかったのだけれど)

賢者(……奥の間は、外来の信者は立入禁止みたい。それに堅守な備えに、武装を隠した僧兵達)

賢者(分かりやすい伏魔殿ね。水面下でどんな悪巧みがのさばってるのかしら)


  信者「 」ヒソヒソ
  信者「 」ヒソヒソ

賢者(……長居は禁物ね) スタスタスタ…

181 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/27(金) 12:58:36 ID:asxzQkDg

――

【城下町・広場】

 

剣士「悪い、遅くなった」

賢者「本当に。遅かったわね」

剣士「悪いが、急いでここを出よう。怒るのは後にしてくれ」

賢者「何」

剣士「ルーラを使うのは目立つから、ほら、行くぞ」 ギュッ  ザッザッザッ

賢者「あ。ちょ っと」 ザザッ ザザッ

剣士「走らなくていい。人ごみにうまく紛れこむ」

賢者「何があったの。もしかしてばれたの」

剣士「いや。下手うって勘付かれた」

賢者「何をやらかしたの」

剣士「隙間だ。急ぐぞ」

賢者「ちょっと」

182 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/27(金) 12:59:38 ID:asxzQkDg

――

【フィールド・王都周辺】

剣士「つまりだな」

剣士「俺なりの清算をしてたんだ」

賢者「具体的にかつ簡潔に説明して」

剣士「いやぁ。勇者やってた頃にだな」

剣士「あっちこっちの民家から、タンスや壺や宝箱を漁ってたじゃないか」

賢者「ええ」

剣士「その清算」

賢者「返していたの」

剣士「ああ」

賢者「私が大聖堂で情報収集してる間に、一軒一軒回ってアイテム置いていったというの」

剣士「そうだ。郵便受けやらドアの前やらにな」

賢者「それで結局勘付かれちゃったというの。そんな馬鹿げたことのために、私の手首がつかまれたの」

剣士「そこを根にもつのか」

183 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/27(金) 13:01:05 ID:asxzQkDg

剣士「まぁ、何とか全軒回れたから良かったけどな」

賢者「全軒ですって」

剣士「物覚えには自信がある。確かに城下町の民家は全軒だ」

剣士「さすがに城は無理だったが、あっこは元々金持ちだからどうってことないだろ」

剣士「たかが964ゴールドと、毒消し草、ちからの種とすばやさの種だ」

賢者「一年前の話よ。適当にしか聞こえないわ」

剣士「すごいもんだろう」

賢者「誰も証明できない。お城の人でも無理でしょうね」

剣士「賢者のかしこさってのは、記憶力とは無縁なのか?」

賢者「私は盗んでないもの。賊はあなた一人よ」

剣士「否定はしないさ。あの頃は勇者って権力を盾になんでもやってたからな」

賢者「なんでもやってるという言い方なら、今も変わらないけど」

剣士「ああ。権力がないぶん、かえってやりたい放題だ」

賢者「どこまででたらめなの」

剣士「とりあえずは、仲間が集まるまでだな。――で、僧侶はどうだった?」

184 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/27(金) 13:01:36 ID:asxzQkDg
ぶつ切りで申し訳ない
とりあえずここまで

185以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/27(金) 13:05:16 ID:xnM0YLqo
乙乙!

186以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/27(金) 13:30:47 ID:vhcX1Qv6


187以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/27(金) 14:08:38 ID:U5.V9eRw
待ってた乙乙

188以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/27(金) 18:45:35 ID:6pn7Gb8Q
待ってたよ、帰ってきてくれてありがとう

189以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/28(土) 12:20:28 ID:UWj4aUi2
待ってた
この二人の距離感が好きだからまだまだ続けてくれ

190以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 09:02:03 ID:3ifZBLTY
支援ありがとう。少し投下します

191以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 09:02:58 ID:3ifZBLTY

賢者「僧侶は追放されて、北の方へ逃げたらしいわ」

剣士「ふんふん、北のどこだ?」

賢者「さ。どこかしら」

剣士「えっ、終わり?」

賢者「そうよ」

剣士「終わり……」

賢者「何」

剣士「いや。ちなみに、何人くらいに尋ねた?」

賢者「10人程度かしら」

剣士「10人も? それだけ聞いてそれだけの情報てことはつまり」

賢者「相当嫌われていたわ。誰しも興味ないか、忘れたがってるみたい」

剣士「なるほど。言われてみりゃそりゃそうか」

賢者「そういえば何人か、探し出して極刑にしたいなんて仰る信者様もいらしたわ」

剣士「カルト教団も甚だしいな。人が人を襲ってどうするんだよ」

剣士「子供でも分かるのにな? 勇者が何を目的に戦っているのかなんて」

192 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:03:50 ID:3ifZBLTY

賢者「僧侶は、例の件で一気に異端者に格下げ」

賢者「そのまま追放処分になって、その日のうちに雲隠れしたそうよ」

剣士「だろうな。そのまま町に留まっていたら危険だったはずだ」

剣士「問題は、どこに逃げたのか……」

賢者「僧侶の出身は聞いてないの」

剣士「さあな。あの教会が出身だと言い張っていたからな」

賢者「教会の孤児ってことかしら」

剣士「その可能性もあるし、別に郷里がある可能性もある」

賢者「いずれにしろ、当ては分からないということね」

剣士「それどころか、生きてるかどうかさえ、な」

賢者「埒が明かないわね。結局どうするの」

剣士「そうだな」

剣士「消息が分からないんじゃ仕方がない。後回しにするか」

賢者「後回しって」

剣士「先に武道家に会いに行こう」

193 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:07:05 ID:3ifZBLTY

剣士「という訳で、ルーラを頼む。行き先は――」

賢者「一撃の山。だったかしら」

剣士「そうだ、よく覚えていたな。確か現地の言葉で『ゲキザン』だったかな」

賢者「きっかけに乗じて、知ってることをとりあえずひけらかす人っているわよね」

剣士「はいはいそうだな。で、ルーラで行けそうか?」

賢者「待って」スッ

剣士「頼む」

賢者「静かに」

剣士「……」

賢者「そうね」

賢者「行けるわ」

剣士「やっぱり瞑想のイメージって大切なんだな」

賢者「別に。さっきの間は特に意味はないわ」

賢者「ただ一旦、あなたを黙らせたかっただけ」

剣士「そういう嫌がらせじみたことはやめろよ!」

194 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:07:59 ID:3ifZBLTY

賢者「ただ、あの山に行く前に断っておくけど」

剣士「武道家のことか」

賢者「ええ」

剣士「大丈夫だ。ちゃんと考えてるさ」

剣士「最後にあんな状態で別れたからな。加入を無理強いはしない」

賢者「ならいいけど」

剣士「それに、ニセ勇者騒動の煽りを食らった一人だ」

剣士「俺たちがその気でも、あっちの方から拒絶するかもしれない」

賢者「それでもいくの」

剣士「ああ」

剣士「俺は前のメンバーで旅をしたいからな。出来るなら」

剣士「頼むよ。ルーラ」

賢者「そう。 いいわ」

 
賢者は ルーラを となえた! ▼

195 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:08:56 ID:3ifZBLTY

【一撃の山】

  トンッ   タッ

賢者「着いたわ」

剣士「ふもとだな」

賢者「そうね」

剣士「できれば、山頂の道場に直接飛んでいって欲しかったんだが」

賢者「そうね」

賢者「運任せになるけど、バシルーラという呪文があるの」

剣士「分かった。悪かった。歩いていこう。行くぞ」 ザッ ザッ ザッ

賢者「無能扱いされた気がして不愉快ね」ザッ  ザッ

剣士「誰もそんなこと言ってないだろう」

賢者「誰かが言った言ってないなんてどうでもいいの。私が不愉快なの」

剣士「!  ……不愉快なのはお前だけじゃないみたいだぞ」

賢者「そう。ご勝手に」

剣士「違う、魔物だ!!」

196 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:10:05 ID:3ifZBLTY

ごうけつぐまが あらわれた!

ガルーダが あらわれた!  ▼


ごうけつぐま『グオオォォン!!』

ガルーダ『ゲェー! ゲェー!』


賢者「挟まれてるわね」

剣士「前門のクマ、後門の怪鳥か」

賢者「どうするの」

剣士「後ろのガルーダを任せるが、大丈夫か? 久々の戦いなんだろう」

賢者「何なら前も任せてもらっても結構よ」

剣士「頼もしいな。だがそれには及ばない」


ごうけつぐま『グオオオオオッ!!』


剣士「すぐ終わる」

剣士は ブロンズナイフを ぬきはなった! ▼

197 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:10:54 ID:3ifZBLTY

ごうけつぐま『グアアアアッ!!』

ごうけつぐまの こうげき! 

剣士は ひらりと みをかわした! ▼

剣士「ふっ」

剣士は からだを バネのようにしならせた!

剣士は しっぷうづきを はなった! 

ブロンズナイフは  ごうけつぐまの 急所を つらぬいた! ▼


ごうけつぐま『グオオッ……!  オ……オオン……』


ズ ズ ー ン


剣士「……うまく山に還れよ」 ヒュヒュッ  スッ


ごうけつぐまを たおした! ▼


剣士「さて、うちの姫さんはどうかな」

198 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:13:21 ID:3ifZBLTY

ガルーダ『ゲエエ! ゲエエ!』 バッサ バッサ

賢者(不思議ね)

賢者(こうして戦いの際に立つと、屋敷にこもっていた頃の方が夢みたい)

賢者(敵。この緊張感。杖の感触。敵。湧き出る魔力。呪文のイメージ。敵)

ガルーダ『ゲエエーッ!!』ビュウウウウゥゥ

 ガルーダは きゅうこうかした! ▼

賢者(一年ぶりだなんて冗談、まるで前の旅と今日とを繋ぎ合わせたよう)

 ガルーダの こうげき! ▼

賢者「あとは役者が務まっていれば、完全に勘が戻っていたわね」

 賢者は メラゾーマを となえた!

 ガルーダに 分厚いひばしらが ちょくげきした!▼


ガルーダ『グエエエエエェェェェッ!!』 バササッ バササササ バサ…


賢者「おやすみなさい」

 ガルーダを たおした! ▼

199 ◆RvUAp8KrlM:2015/03/29(日) 09:15:14 ID:3ifZBLTY

剣士「終わったな。ケガも無いか」

賢者「した方がちょうど良かったくらいよ」

剣士「何よりだ。俺たち、ちょっと強くなりすぎたな」 ザッ ザッ ザッ

賢者「実感はないわね」 ザッ ザッ ザッ

剣士「初めてここに来たときは、死闘の連続だったもんだ」

賢者「記憶にないわね」

剣士「お前も、まだメラミを覚えたばかりだった」

賢者「下らないことは覚えているのね」

剣士「あの時はそりゃあ、楽しそうに乱発してたからな」

賢者「記憶にないわね」

剣士「今も楽しそうだけどな」

賢者「記憶にないわね」

剣士「照れるなって」

賢者「誰も照れてなん」

剣士「シッ!   魔物だ。さっきより多いぞ、気をつけろ――!」 ダッ

200以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 09:15:46 ID:3ifZBLTY
いったんここまで

201以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 09:22:10 ID:xLqMFUAM


202以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 09:26:51 ID:xKXq9NQs
賢者可愛い

203以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/29(日) 16:58:05 ID:20f43VuU
続き待ってるぜー

204以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/30(月) 02:37:26 ID:8rsHK5tU
おつん

205以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/31(火) 08:01:44 ID:tQy8djjA
回想でもいいから一度目の旅のときの雰囲気を見てみたいな
メラミ乱発してはしゃぐ賢者見てみたい

206 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 12:56:43 ID:/c/whufc
まだどうなるか分かりませんが、回想自体はちょくちょく挟んでいこうと思ってます
投下します  >>199

207 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 12:57:19 ID:/c/whufc

――――――――――


 剣士たちは  まもののむれを  たおした! ▼


剣士「……ふう。これで10戦目を超えた訳だが、さすがに疲れてきたか?」

賢者「疲れるとしたら、あなたの執拗な気遣いね」

剣士「いやしかし、とても1年ぶりとは思えないぞ。全戦無傷じゃないか」

賢者「それが、私が疲れてると思う根拠なの」

剣士「無理してるなら言えってこと。高等呪文を連発してるのは分かってるぞ」

賢者「あなた」

賢者「『賢者』の号を持つ意味が、いまひとつ分かってないようね」

剣士「そりゃ、からきしだからな。あんだけ豪勢に使いまくっても平気なもんなのか?」

剣士「以前はメラゾーマだけに魔力使っても、50発ぐらいが限度だったろ?」

賢者「今の私なら、余裕で100は数えられるわ」

剣士「なっ」

賢者「精神修養を欠かしたことはないの。甘くみないで」

208 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 12:58:05 ID:/c/whufc

剣士「お前が平気なのは分かった。それで、戦いの勘は取り戻せたか?」

賢者「大体ね」

剣士「それなら、トヘロスを頼む」

賢者「なんですって」

剣士「トヘロス。一定時間、自分より格下の魔物が出てこなくなる呪文」

賢者「あなたより知ってるわ。私が言いたいのは、今さらその呪文を使う意味よ」

賢者「まさか私の戦いの勘を取り戻すためだけに、無駄な戦闘を繰り返させたというの」

剣士「ああ。だが、もう確かめた。大丈夫だ。トヘロスだ」

賢者「不愉快ね。要は使い物になるかどうか、上から見定められたんだわ」

剣士「仕方ないだろ。一応命がかかってるんだ」

剣士「でも杞憂だったな。1年前と同じ、いや呪文を見るに当時よりキレがあるくらいだ」

賢者「もし私が使い物にならなかったら、どうするつもりだったの」

剣士「そんときゃ……まあ、俺が結成するパーティーの一人だからな」

剣士「守るさ。俺が」ザッ  ザッ  ザッ

賢者「 不愉快ね、それは。不愉快極まりないわ」 ザッ ザッ

209 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 12:58:43 ID:/c/whufc

――――

ザッ  ザッ ザザッ  ザッ ザッ

ザッ


【一撃の山・道場・門】


剣士「着いた」

賢者「見れば分かるわ」

剣士「トヘロス使えばすぐだったな。基本的に一本道だもんな」

剣士「一応、山頂近くまで歩いてきた訳だが、足は疲れてないか?」

賢者「平気」

剣士「体力まで鍛えているのか」

賢者「平気なものは平気としか言えないわ」

剣士「やせ我慢だけはするなよ」

  見張り「おい、お前ら何者だ!?」

剣士「ん?」

210 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:00:29 ID:/c/whufc

  見張り「そこの二人、この道場に何の用だ?」

剣士「ああ、用があって来たんだ。早いトコこのでかい門を開けてくれよ」

  見張り「怪しいなりだな。入門希望者か?」

剣士「じゃなかったらどうする?」

  見張り「そうだな。お前なら賊と見立て、こらしめてやる」

賢者「名答ね」

剣士「愚答だ」

剣士「じゃあ、入門希望者でいいや。とにかく中に通してくれ」

  見張り「ならば、入門に足るかどうか、実力を確かめる」

剣士「んん? 待てよ、この道場は、来る者は拒まない信条じゃなかったのか?」

剣士「武者修行がてらだろうが、孤児だろうが、どんな厄介者も受け入れたはずだろう?」

  見張り「そんな考えはもう古い。より強い者をより強く育むのが、今の流派の考え方だ」

剣士「流派? 流派が……変わった?」

  見張り「おい、そっちの女! お前はどうするんだ?」

賢者「無作法ね。メラミで十分かしら」   剣士「えっやめろよ」

211 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:01:17 ID:/c/whufc

  見張り「女、顔を上げろ。お前は何者だ?」

賢者「 」ツーン

剣士「ああ、こいつは賢者様だよ。ただの俺の連れだ」

  見張り「賢者? ああ、道士様か」

  見張り「我が道場ではケガ人も多い。是非客人として迎えたいが」

剣士「だってさ」

賢者「何。聞いてなかったわ」

剣士「だってさ!」

  見張り「道士様なら、無条件で中に入れてもいいと言っている!」

剣士「こっちの方が賊だったらどうするんだよ」

  見張り「無論、お帰り願う。無傷で済むかどうかは別にしてな」

剣士「だってよ」

賢者「イオナズン10発程度で済むかしら」

剣士「聞こえてんじゃねーか」

  見張り「おい、結局どうするんだ!?」

212 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:02:18 ID:/c/whufc

剣士「分かった分かった。さっさと『実力を確かめる』とやらを済ませてくれ」

剣士「こっちもそんなに暇じゃないんだ」

賢者「嘘。稀代の暇人のくせに」

剣士「そうだっけ」

  見張り「よし、行け! 門下生A、B、C!」

剣士「ん?」

「チョワーッ!」 バッ
「イヤーッ!」  ビュンッ
「ハーッ!」   ザザザッ

門下生A・B・C があらわれた! ▼

  見張り「その3人の中から、一人を指名しろ」
 
  見張り「そいつから1本取れたら、入門を認めてやる」
 
  見張り「それぞれが拳、蹴、柔術の使い手だ。自分が得意だと思う相手を選ぶんだな」

剣士「……」

剣士「賢者、変わってみるか?」

賢者「嫌。戯れ事はあなたが付き合って」

213 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:03:18 ID:/c/whufc

門下生A「さっさと選べ。俺なら文字通りすぐに門前払いにしてやる」

門下生B「お前はまだ門下ではないから、持ってる武器を使っても構わんぞ」

門下生C「道士様、あなたが望むなら、この輩を付き人扱いで中に通せますが」

剣士「待て。分かった。決めた」

剣士「まず、あんたら3人まとめて相手するのは前提として……」 ザッ ザッ

門下生A「何ィ?」

門下生B「おい、逃げるのか?」

門下生C「……ん? 剣を抜いて何をするつもりだ?」

  剣士「よっ」 ヒュヒュッ   スパパッ

剣士は 近くの木のえだを 切りとった!  ▼

剣士「賢者」ザッ ザッ

賢者「何」

剣士「こいつの両端を、メラで軽くあぶってくれ」

門下生「??」

  見張り「??」

214 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:04:59 ID:/c/whufc

剣士「――うん、上等だ」

剣士は ひのきのぼうを そうびした! ▼

剣士「見ての通り、俺は剣士だ。武道も多少かじってるが、得意ではない」

剣士「だからこうしよう。俺はこの『剣』を使わせてもらう代わりに」

剣士「もしこの『剣』が折られたら、即座に負けを認めて帰ろう」

剣士「もちろんあんたら3人同時に相手して、だ。これでどうだ?」

門下生「「「……」」」

  見張り「……はぁ」

  見張り「おい、門下生A。この調子に乗ったお上りさんを帰らせてやれ」

門下生A「押忍」 ザッ

剣士「おっ、一人か? お前、でかくていい身体してるな」

門下生A「俺たちはふざけて修行に励んでるんじゃねえ」

門下生A「魔王軍に対抗すべく、命を賭して身体を鍛えている」

剣士「ああ。いい事だ。本当にな」

賢者「 」フアァ…

215 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:06:09 ID:/c/whufc

門下生A「だからお前みたいな半端な男を見ると――」

門下生Aは せいけんづきを はなった! ▼

門下生A「無性に腹が立ってくる!」 ブオォッ

剣士「半端か」

剣士は ひらりと みをかわした! ▼

剣士「そうかもな」

門下生A「ぜええぇい!!」

門下生Aは せいけんづきを はなった! ▼

剣士は 上体を そらした ▼

門下生Aの ばくれつけんを はなった!! ▼

剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした! ▼

門下生A「な……ニィ?」

剣士「おいおい、仮にも入門希望者に出す技じゃないだろ、それ」

216 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:07:12 ID:/c/whufc

剣士「ほら。俺の『剣』はここだぞ」フワフワ

門下生A「うおおおっ!」

門下生Aは しっぷうづきを はなった! ▼

剣士は 胸もとを そらした ▼

剣士「ほりゃ」

剣士は 門下生Aの わきばらを かるく突いた ▼

門下生Aは バランスを くずし たおれこんだ! ▼

門下生A「がはぁ!」 ドシャッ

  見張り「ど、どうなっている……?」

門下生B「あ、あいつタダモンじゃないぞ!」

門下生C「そりゃそうだ……思い出した」

門下生C「どこかで見たことがあると思ったらあいつ、ニセ勇者だ! 1年前の!」

剣士「おっ、憶えてる奴がいたか」

賢者「いつ聞いても不名誉な称号ね」

剣士「否定も拒絶もしないさ」

217 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:07:57 ID:/c/whufc

  見張り「お前たち、全員でかかれ! そやつは我らが流派の敵だ!」

  見張り「『痛恨流』にかかれば、紛い物の勇者など大したことはない!」

剣士「『痛恨流』……?」

門下生B「確かに、あの出来損ないと通じていたなら、我々の敵だな」

門下生C「ニセ勇者か……道場での噂通りの軟弱者か、確かめてやろう」

門下生A「こいつ、ぶっ潰してやる!!」

剣士(武道家は『会心流』だったはず……)

門下生A・B・Cは 同時に とびかかった!

門下生Aは せいけんづきを はなった!
門下生Bは あしばらいを はなった!
門下生Cは ともえなげを しかけた! ▼

剣士(この1年で何があったんだ?)

剣士は ひらりと みをかわし ひのきのぼうを くりだした!
剣士は ひらりと とびあがり ひのきのぼうを くりだした!
剣士は ひらりと 身体をひねり ひのきのぼうを くりだした! ▼

門下生「ぐわあああ!」「ぎょえーっ!」「ぬわーっ!!」ザザザーッ

剣士「ま、いいか。よーしどんどん来い!」 ヒュホッ!

218 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:09:00 ID:/c/whufc

――――

門下生A「ハァ……ハァ……」
門下生B「ぜぇ……ぜぇ……」
門下生C「ひゅー……ひゅー……」

  見張り「そ……そんな……」

剣士「もう全員立てないみたいだな」

剣士「なら俺の勝ちだ。1本取ったらいいんだろ? もう100本は取ったぞ」

  見張り「くっ……」

剣士「早く開けてくれ。開けないなら勝手に入るぞ」

  見張り「馬鹿な……ニセ勇者は魔王討伐に敗走した小物ではなかったのか」

剣士「ニセ勇者ってのは、騙ってた訳じゃない。勘違いしてたんだ」 トンッ トンッ

剣士は 一気に見張り台まで とびあがった! ▼

見張り「!? は、速――」

剣士は きゅうしょづきを はなった!

見張りは きをうしなった!  ▼

剣士「偽物だから弱いとでも思ったか? 高いところから見下ろしてんなよ」 コンッ

219 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:10:31 ID:/c/whufc

賢者「終わったの」

  剣士「ああ。待ってくれ、すぐ内側から開ける」

賢者「必要ないわ」

賢者は アバカムを となえた! 

とびらは 低い音を たてはじめた! ▼

  剣士「おっ、そんな呪文もあったか」

ズズズズズズズズズズズズズ

ズゥーンン……

賢者「茶番を無視して始めからこうしても良かったのだけれど」 スタスタ

剣士「ややこしくなりそうだからやめてくれ」 ヒュー  スタッ

賢者「なんですぐ終わらせなかったの。自分の力を誇示したいの」

剣士「あいつらがどの程度の実力かを知ろうと思ってさ。あと肩慣らし」

賢者「何か収穫はあったの」

剣士「即席ひのきのぼう」

賢者「暇人ね」

220 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:12:12 ID:/c/whufc

【一撃の山・道場・境内】

剣士「懐かしいな、この雰囲気」スタスタ

賢者「私も嫌いじゃないわ」スタスタ

剣士「……道場内から気合いが響くな。あの中に武道家もいるんだろうか」

賢者「あの子、新しい流派とやらに改めたのかしら」

剣士「さあな。まずは中に入って――」

剣士「!」

トタタタタタタ…

賢者「! ねえ。あそこで雑巾がけしてる子って」

剣士「おい、武道家!」

武道家「!!」ピタッ

武道家「あ! 勇者さん! 魔法使いさん!」

武道家「お、お久しぶりです!! どうしてまた、こちらに?」

剣士「武道家。お前。1年経ったのに」

剣士「片目片腕のままなのか」

221 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/10(金) 13:13:11 ID:/c/whufc
ここまで

222以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 13:25:53 ID:HF1JV3R2


223以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 14:00:32 ID:YSxM6/ig


224以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 21:10:45 ID:s.uSFaIs



225以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 21:31:49 ID:.KydA0OI
乙!

226以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 22:58:34 ID:QyiG4qBo
ここの住民はスルー力を鍛えるべき

227以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 22:59:16 ID:QyiG4qBo
誤爆でした

228以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/10(金) 23:47:44 ID:s.uSFaIs
特定した

229以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/11(土) 11:07:06 ID:Kt5Gr8Xc
片目片腕って武闘家ボロボロじゃねえか

230以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/11(土) 15:03:52 ID:mUvhQETM
せな報われてほしい乙

231以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/11(土) 17:46:49 ID:sRKJZj0M
修行で封印してるとかそういうのかと思った

232 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:49:23 ID:MEUD3F.g
投下します
作中の固有名詞は、基本的に原作準拠の方針ですが
「武闘家」に関しては、筆者の小さいこだわりで「武道家」表記にしてます

233 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:50:29 ID:MEUD3F.g

武道家「はい! 大丈夫です、自分はもう慣れました!」

剣士「慣れたって……簡単な義肢も用意してもらえなかったのか?」

剣士「目だって、すぐに教会に通い続ければ……」

賢者「ちょっと。その眼帯、取ってもらえる?」

武道家「え? ええっと……は、はい」

武道家は 眼帯を はずした ▼

武道家の 左のひとみは 白くにごっている…… ▼

賢者「……」

剣士「こいつは、回復呪文もマスターしたらしいんだ」

武道家「えっ!? そ、そうなんですか! すごいです!」

賢者「じっとしてて」

武道家「は、はい、すみません」

賢者「……」

剣士「……どうなんだ?」

賢者「ちょっと黙ってて」   剣士「へい」

234 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:51:20 ID:MEUD3F.g

賢者「……難しいわね」

賢者「視力を失った状態が、完全に定着してしまっているわ」

賢者「無闇に回復呪文を集中させたら、かえって悪化するかもしれない」

剣士「なんとかならないのか」

賢者「分からない。なるかもしれないけれど、恐らく分の悪い賭けになるわ」

剣士「そうか……」

剣士「武道家、改めてすまない。俺があの時、至らなかったばかりに――」

武道家「いえいえそんな、とんでもないです! いいんです!」

武道家「自分はこうしてまた、この道場に戻れただけで満足なんです!」

剣士「でもお前。かつては『武姫』と謳われた会心流筆頭だぞ」

剣士「なんだって小間使いみたいなことさせられてるんだ」

武道家「そ、それは……」

 ダンダンダン ダ ン !   門下生「おい!」

武道家「!」

門下生「いつまでダラダラ廊下やってるんだ! こっちも手伝え!」

235 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:52:30 ID:MEUD3F.g

武道家「は、はい! 申し訳ありません、ただ今!!」スッ

賢者「ちょっと」

門下生「ん? なんだ客人か?」

賢者「この子、左腕が無いのよ」

賢者「なんでこんな無茶なことをさせるの」

門下生「はあ?」

剣士「よせ」

武道家「あ、あの、魔法使いさん」

賢者「あなただったらどうなの。片腕がなくなっても、廊下がけなんてできるの」

武道家「いいんですッ!!」

賢者「!」

武道家「あ、あの、自分のことは本当に、大丈夫ですから」

武道家「あの、申し訳ありません! いとまの分は、必ず埋め合わせますので!」ペコッ

門下生「……ちっ。さっさと来いよ」 ダン ダン ダン…

武道家「そ、そういう訳なので、お二人とも、また!」 トタタタタタ…

236 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:53:48 ID:MEUD3F.g

剣士「……」

賢者「ねえ。さっきはなんで止めたの」

剣士「ん? 俺か?」

賢者「『よせ』って言ったわ。あの子はあのままでいいということなの」

剣士「俺だって気持ちは同じだ。だが、あそこは出しゃばるべきじゃない」

剣士「俺たちは事情を知らないが、武道家はすでにあの立場が長いようだ」

剣士「面倒事を起こせば、不利になるのは当人だろう。まずは様子見だ」

賢者「悠長ね。あなたはあの子をみて何とも思わないの」

剣士「もちろん、一刻も早く引き取るつもりさ」

剣士「だがその前に、会って話をすべき人物がいる」

賢者「誰」

剣士「そこの木陰のご老人だ」

賢者「!」

  老師「……ほほっ。流石は勇者殿と呼ばせてもらってもよろしいかな」

剣士「ええ。お久しぶりです、師範」スッ

237 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:55:15 ID:MEUD3F.g

老師「『勇者』が変わったと聞き気がかりじゃったが、達者であったか」

賢者「ご無沙汰です師範様。ごきげんよう」 スッ

老師「ほほっ、よいよい。今のわしは、ただの厄介者の隠居じじいじゃ」

老師「わしを師範と呼ぶものは、この道場にはもう一人もおらんよ」

剣士「そのようで。流派改新の件、先刻耳にしたばかりです」

老師「ふむ……左様か」

賢者「師範様。以前我々と旅を共にした、あの武道家についてですが」

老師「うむ、分かっておる。おぬしらは、あの子を引き取りに来たんじゃろう」

剣士「それは可能で?」

老師「……その前に」

老師「おぬしらは、あの子の生い立ちをどこまで知っておる?」

剣士「……孤児だとしか。細かいことは」

賢者「ただあの子は、義理の兄がいると言ってたわね」

老師「……もう夕暮れ時じゃ」

老師「積もる話は、わしの庵で語ろう――」

238 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:57:06 ID:MEUD3F.g

【一撃の山・老師の庵】


パチパチパチパチ…


賢者「前から思ってたけど、不思議な暖炉。部屋の中央で火を焚くのね」

剣士「確かイロリって言うんだ。このカギに鍋を吊るして、汁物を煮込んだりできる」

  老師「大したもてなしも出来んで済まんな」スタスタ

剣士「おお、鍋だ!」

老師「どっこいしょっと」 ガコン  ジュウゥゥゥ…

賢者「師範様、お炊事でしたら手伝いましたのに」

老師「構わんよ、さほど凝ったもんでもない」

老師「とはいえ、多少は客人向けに贅沢はしとるがの。ふぉっふぉっ」

剣士「かたじけない」

賢者「お気遣い、痛み入ります」

老師「ほほ。おぬしらからは、根っこから謙虚さが伝わってくる」

老師「まるであの子と語らっとる気分じゃ」

239 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 12:58:34 ID:MEUD3F.g

賢者「あの子……武道家のことですか?」

老師「うむ。何から話そうかの」

剣士「では、先刻おっしゃっていた生い立ちから」

老師「ああ、そうじゃの」

老師「まぁ、別に珍しい話じゃありゃせんよ」

老師「ある時期から魔物が活発になって以降、日々の生活に苦しむ村が出始めての」

老師「主に遠くの村から、ここまで連れて来られる子が増えてきたんじゃ」

老師「それである時、二人の子供が届けられた。6つの女子と8つの坊主じゃ」

賢者「その女の子が、武道家なのですね」

老師「うむ。二人に血縁は無かったが、同郷出身ということもあり、まるで兄妹のように仲が良かった」

剣士「その義理の兄は、今?」

老師「そこの道場で、『痛恨流』の師範代をやっておる」

剣士「! 新流派の師範代……」

賢者「それなら、なんであの子が雑用なんかさせられているの」

老師「ふむ……順を追って話そう」

240 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 13:00:08 ID:MEUD3F.g

老師「連れて来られた二人に、並外れたような武術の才は無かった」

老師「ただ女子の方は、当時わしが師範を務めていた流派、『会心流』の理解が早かった」

老師「積極進取を信条に道場内を奔走し、一刻千金とばかりに時を修行に費やした」

老師「素直でひたむきなこともあいまって、その技量は天井知らずに上達した」

老師「ひいては、王都の勅命であった魔王討伐召集に推薦できるほどにな」

剣士「……『ゲキザンの武姫』」

老師「その二つ名は、元々その義理の兄がつけたものじゃ」

賢者「どうしてそんな」

剣士「多分、開き直ったんだろう。もう追いつけないと知って」

賢者「えっ」

剣士「兄の方は、妹の上達についていけなかった。違いますか?」

老師「……そも、『会心流』は他と優劣を競う流派ではない」

老師「兄はそれを理解できず、目先で膨らんでいく妹の影に焦る一方じゃった」

老師「しかし後に、流派に関わる一大事が起きた。同時に、それは兄の転機でもあった」

剣士「……『ニセ勇者発覚』、か」

241 ◆RvUAp8KrlM:2015/04/14(火) 13:02:48 ID:MEUD3F.g
ここまで

242以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/14(火) 13:09:34 ID:H2gQxlvY
乙!

243以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/14(火) 14:18:59 ID:8uF/hlC.


244以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/14(火) 16:58:46 ID:GJp5K2aQ
けっこう楽しみにしてる!

245以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/14(火) 17:25:21 ID:kbReIwq2
読み返したら、2014年中終わらせるつもりと書いてあるぞwww

楽しく読ませてもらってます。
乙。

246以下、名無しが深夜にお送りします:2015/04/22(水) 23:15:31 ID:UWmn3Jys
まだかなーー

247以下、名無しが深夜にお送りします:2015/05/02(土) 10:10:02 ID:1Gk6gJmk
保守

248以下、名無しが深夜にお送りします:2015/05/24(日) 23:10:41 ID:Ivp9ihZY
保守あげ

249以下、名無しが深夜にお送りします:2015/05/26(火) 09:35:08 ID:/vKe/miY
1か月以上続き無しか…
大丈夫か?

250 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:25:05 ID:1Flk/wVA
かなり遅れて申し訳ない
>>240〜 から続き投下

251 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:26:10 ID:1Flk/wVA

老師「そう――魔王討伐に赴いたおぬしらは、とある戦いで敗れた」

老師「代わって現れた者が、のちに正式な勇者と定められた」

老師「よってぬしらは国をたばかった贋物とされ、余儀なく旅を断ち、各地へ散った」

剣士「……」

老師「じゃがのう。話を聞くに、ぬしらは何ひとつ誤ってはいない」

老師「非力な人々に代わり、世の危難に立ち向かい、命を賭して戦った」

老師「どこにそしり咎めを受ける謂れがある。かけられるべきは、感謝と労いではないのか」

剣士「……師範は」

剣士「俺たちが命を賭けて戦ったなんてこと、信じますかぃ?」

剣士「旅をするふりをしながら、あちこちで勇者を騙って盗みをはたらいた、なんて話もありますがね」

賢者「それはある意味間違っていないけれど」

老師「ぬしらを信じる由縁……それはのう。ここに帰ってきたあの子の眼じゃ」

剣士「武道家の?」

老師「うむ。隻眼にこそなれど、そのまなこは純真を保ち、なお前を向いていた」

老師「未だ、嘘をつくことも知らぬ眼のままじゃった」

252 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:27:36 ID:1Flk/wVA

老師「旅からこの地へ帰ったとき、あの子は創痍の体で何度も訴えておったよ」

老師「勇者たちは戦ったと。自分がこのような身になったのは、ひとえに自分が未熟だったためと」

剣士「……」

賢者「……」

老師「じゃが当時の多くの弟子たちは、腕と眼を失った『武姫』の姿を見て、迷った」

老師「自分達が最強と信じて疑わなかった拳士が、深い傷を負って戻ってきたのだ」

老師「このまま『会心流』の場にいて、果たして将来大成なれるのか、と」

賢者「俗ね。何が起きたかも知らないくせに」

剣士「しかしお言葉ですが、仮にも御師の弟子達です。そう簡単に疑心を抱くとも思えませんが」

老師「ふむ……」

老師「それはの……」

老師「……ここから先は、我ながら情けない話になるが」

老師「あの子が傷つきここに帰ってから半月も経たないうち――とある男もまた、帰ってきたのじゃ」

剣士「とある男」

老師「うむ。わしの一番弟子――義理の一人息子じゃ」

253 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:28:50 ID:1Flk/wVA

剣士「師範の……義理の息子」

老師「その男は、幼少より常に『最強』を志しておった」

老師「成長するにつれ、しばしばわしのやり方に異を唱え、衝突するようになった」

老師「わしとあの男はついに和解できず、ある日を以てわしが破門とした」

老師「そのまま道場を去って10年になるが――」

賢者「このタイミングで帰ってきたという訳ですね」

剣士「なるほど。ということは、流派改宗を立ち上げたのは」

老師「いかにも。その愚息じゃ」

賢者「『会心流』の武道家がボロボロになった頃合いを計るなんて、浅ましい性分ね」

剣士「しかし……『会心流』も長く続いた流派だ。門下生全員を納得させる手段となると……」

老師「ふっ、察しよし。言うたじゃろう、情けない話になると」

老師「この山で拳を極めた者同士が、門下総出で立ち会う中、全霊を懸けて仕合う『一撃仕合』」

賢者「いちげきじあい……?」

剣士「……」

老師「わしは道場を懸けてあの男と闘うことになり、その『一撃仕合』に――敗れた」

254 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:29:32 ID:1Flk/wVA

――――――――――――――――

――

 師範は 道場の端に 吹き飛ばされた! ▼

師範「が……がふっ……」

武道家「師父!!」

タタタタタ

武道家「! 師父、血の色が……まさか病が……」

 

拳士「『会心』の門下たちよ、しかと目に焼き付けておけ! これが現実だ!!」

拳士「勝たば強し、敗らば弱し、まことの強さは常に二者択一」

拳士「約束通り、この道場は俺が預かる。そしてこれをもって」

拳士「新流派の立ち上げを宣言する!!」


 門下生『『『!?』』』


拳士「はっきり言ってやろう。今のままではお前たちに真の強さは得られん!!」

255 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:31:53 ID:1Flk/wVA

拳士「お前たちのやってる会心流は、自己満足の流派だ!!」

拳士「真の強さとは、幾多の『勝利』の先にある!」

拳士「己が殻にこもった末に手に入れた、証なき力など、児戯に等しい!」

拳士「打ち負かしてこそ、踏みつけてこそ、敵を喰らい糧にしてこそ、高みは目指せるのだ!」

拳士「強さには、正誤も善悪も貴賎もない! そんなもの知ったことではない!!」

拳士「全ては修行の果てに得た、『勝利』で築いた山の大きさだ!」

拳士「そして――最も高い山を積み上げた者が」

拳士「『最強』の座を得られるのだ」

 門下生『『『……………………』』』

 義兄「……」ゴク

拳士「俺は『最強』を目指している。心底からだ。誰よりも強くなるために闘っている」

拳士「新流派立ち上げは……俺なりのけじめだ。だがやる以上は、本腰は入れよう」

拳士「ついてくる者は、我が元に座せ。その瞬間から入門を認めてやる」

拳士「来ない者は、一生あの爺の元で戯れているがいい。俺の流派には無用だ」

拳士「ただ、あの爺はたったいま俺が下した。その現実を改めた上で決めることだな」

256 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:32:36 ID:1Flk/wVA

武道家「師父! 大丈夫ですか! 師父!!」

師範「フゥ……フゥ……」ボタボタ

武道家「口から血が……は、早く薬草を……」

武道家「だ、誰か、師父を庵へ! 義兄上!!」バッ

  
 拳士「ほう。いの一番に馳せるとは見所があるな」
  
 義兄「はっ。私は師範の弁に感銘いたしました」

 義兄「是非ともわたくしめも、師範と共に『最強』を志したく存じまする」

 拳士「ふっ、師範か。良かろう、見込み次第では、お前を師範代にすることも考えてやる」

 義兄「はっ、ありがたきお言葉!!」


武道家「あ……義兄……上……?」


門下生『『『…………』』』 ゾロゾロ  ゾロ ゾロ


武道家「!? み、皆……なぜ……」

武道家「師父が……師父の血が止まらないというのに……」

257 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:33:22 ID:1Flk/wVA

師範「うっ……ぐぶっ……武道家よ……」

武道家「師父!」

師範「行け……お前も行くのだ」

武道家「師父!? どうして……」

師範「わしなら大事ない。いいから行け」

武道家「し……しかし……血が……」

師範「大事ないと言っておる。真にわしを慮るならば行け」

師範「会心流は、必ずしも流派という型に収められるものではない」

師範「流派を乗り変えたとて、会心流を捨てたことにはならぬ。――行け」

武道家「……」

武道家「……押忍……」 スッ…

 
 スタスタスタスタ     
             スッ

拳士「お前が最後の一人か。誰かと思えば、ニセ勇者についていった負け犬か」

拳士「どの道来るのが遅かった者は、まず性根から改めねばならん。覚悟しておけ――」

258 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:35:21 ID:1Flk/wVA

――――――――――――――――

――

賢者「……そんなことが……」

剣士「それであいつは、新流派では下っ端扱いされているのか」

老師「……新しく立ち上げられた『痛恨流』とは、勝つための流派」

老師「いかに痛みを与え、急所を狙い、心から折り……勝ちを得るか」

老師「力に振り回されやすく、視野の狭い体系からなる、危険な流派だ」

賢者「下らないわね。それこそ児戯だわ」

剣士「……考え方は戦いにおける理の一つではあるが、それが全てでは話にならないな」

賢者「そんな野卑な流派に、あの子がついていく訳ない。すぐに引き取りましょう」

老師「それが実は難しいのじゃ」

賢者「えっ?」

老師「道場のしきたりでな。破門と免許皆伝の際には、山を降りる前に」

老師「必ず『一撃仕合』をもって、実力を示さねばならん」

老師「そしてわしの知る限り――あの子は新流派において、一度も本組み手で勝ったことがない」

259 ◆RvUAp8KrlM:2015/06/04(木) 12:35:57 ID:1Flk/wVA
ここまで。これからちょくちょく更新していきます

260以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/04(木) 12:54:55 ID:94oBymyU
乙!待ってる!

261以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/04(木) 18:33:03 ID:ajlfWZBs
乙乙

262以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/04(木) 19:16:38 ID:dBAM0/PA
破門で血から試すって残るためのものでつれてくにはかんけーなくないか

263以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/05(金) 09:02:57 ID:FpyhVwag
更新きてた!
わくてか

264以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/07(日) 13:55:09 ID:dn9S0IkY
週1のペースでいいから更新きてくれると嬉しい

265以下、名無しが深夜にお送りします:2015/06/24(水) 16:04:01 ID:6CH///2.
待ってる

266以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/04(土) 02:41:28 ID:7FuSlESA
あげ

267以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/04(土) 04:12:31 ID:a3FpeSbs
一気見してしまった
続きが楽しみ

268以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/04(土) 06:40:37 ID:pYDGnZwI
こりゃ2015年中にも終わらないな

269以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/15(水) 21:57:42 ID:2bzil37o
続きが気になる

270以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/17(金) 22:40:43 ID:Hzpj9k1k
待ってる

271以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/22(水) 12:18:47 ID:mYgXkZjQ
この文体、まさか…いやまさか…




……冒険の書が完結しない、の作者さんですか?

272以下、名無しが深夜にお送りします:2015/07/31(金) 23:14:18 ID:clRMAYek
ほしゅ

273以下、名無しが深夜にお送りします:2015/08/04(火) 18:45:14 ID:/gXknnF6
期待

274以下、名無しが深夜にお送りします:2015/08/06(木) 07:37:57 ID:j7DebIUM
>>271
むしろひのきのぼうの奴に雰囲気が似てると思った

275以下、名無しが深夜にお送りします:2015/08/09(日) 08:29:31 ID:vrEvphzo
待ってるんだけどなあ
もう2ヶ月か…

276以下、名無しが深夜にお送りします:2015/08/16(日) 08:35:48 ID:tD/ZdatE
>>1さんの過去作品が知りたい

277以下、名無しが深夜にお送りします:2015/08/30(日) 00:41:26 ID:vICKMEFQ
もうだめかな…

278以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/03(木) 13:24:47 ID:jDFvuhVk
待ってる

279以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/06(日) 09:15:25 ID:awY2oW0s
やっと追い付いた
そして今気付いたんだが…武道家が女の子ってことは、偽勇者パーティーって剣士のハーレム状態じゃね?


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