したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

元勇者「本物の勇者が現れてから一年経った」

1 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:10:49 ID:IyhGY/1M

巨竜は 咆哮を あげた!   ▼


勇者「皆いったん退くぞ! おい、聞いてるのか!?」

勇者(くそっ、雷雨で声が――)


巨竜の こうげき!!  ▼


勇者「うわああああぁぁ!!  うぅ……」

勇者「!?  武道家!? おい、大丈夫か! おい!!」

勇者「僧侶、武道家を頼む! 手当てを急げ!!」

勇者「魔法使いも俺の近くに! ルーラの詠唱を――」


巨竜の こうげき!!  ▼


勇者「ぐああああッ!!」


勇者(くそっ、どうすれば!)

勇者(このままじゃ全員……――)

2 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:12:18 ID:IyhGY/1M


チカッ


勇者(くっ、また落雷が――)


??の こうげき!!


勇者「えっ?」


巨竜に 大ダメージを あたえた! 

巨竜は のけぞり たおれた!  ▼


??「そこの人たち、無事ですか!」

勇者「あ、あんたは――」

??「あとはボクたちに任せて下さい!!」


――


――――――――――――――――

3 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:13:32 ID:IyhGY/1M

【某アジト】

 

団員A「オラ新入り、とっとと起きろ!」

剣士「……ん……」

団員B「例のデカブツ、こんな朝っぱらから出やがったらしい」

団員C「メシ食うヒマあるかなあ」

剣士「ふああ。……よし」

団員A「よしじゃねえ! さっさと団長ンとこ集まるぞ!」

剣士「あだっ」


――


団長「おう、お前ら集まったな」

団員s「「へい!」」

団長「さっそくだが出陣だ。メシは歩きながら食え。オラ、行くぞ!」

団員s「「へいッ!」」

4 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:14:55 ID:IyhGY/1M

【村落郊外】

ザッザッザッ  ザッザッザッ  ザッザッザッ

団長「村長にゃ話はつけてある。デカブツを片付けりゃ、久々の酒盛りだ!」

団員A「ひゃっほう!!」

団員B「こんな薄いハムと、水みてえな酒じゃないッスよね?」

団長「おうよ! ヤツら俺らに頼るしかねえから、報酬はたっぷり絞りとれるって訳よ!」

団長C「さっすが団長、商売上手〜!」

団長「へっへっ。当然よぉ」

剣士「……あのう」

団長「ん? なんだお前、新入りか」

団長「昨日入ったばっかだからって、手ぇ抜くんじゃねえぞ。死ぬ気で戦え」

団長「もし勝手に逃げ出そうもんなら、必ず探し出して――」

剣士「あのう、俺の分のメシは?」

団長「ん? ちゃんと人数分配ったぞ? おう、お前ら!」

団員A「知らねえよ〜」   団員B「ちゃんと取っとけよ、マヌケ野郎」

5 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:17:18 ID:IyhGY/1M

剣士「……」 グ〜

剣士(はあ……。やっぱり面倒くさいな、組織で働くなんてのは)

団長「見えてきたぞ、東の砦だ!」

団員A「何か思ったより小さいっすね」

団長「話によりゃ、デカブツはあの砦をぶっ壊して姿を消したらしい」

団員B「何か思ったよりキレイに残ってますね」

剣士「……なんでまた、砦なんて襲うんだ?」

団長「なんでも、人が造ったもんだけを狙って暴れ回ってるらしい」

団長「じわじわと村に近付いてきてっから、こんままじゃ危ねえとか」

団員C「じゃ、村に来たとき依頼を受けてたら、もっとボロ儲けできたかもっすね〜」

団長「おお〜? お前もなかなか頭が回るじゃねえか〜」

団員C「いやあ、団長には敵いませんて〜」

剣士「……」

剣士(ま。人助けって意味じゃ、元勇者におあつらえ向きか)  グ〜

剣士(ああ……それにしても腹減ったなぁ)

6 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:18:29 ID:IyhGY/1M
【砦付近】

団長「……んん〜? 妙だな。別に変わった様子にゃ見えんなぁ」

団員A「村のヤツら、ホラ吹きやがったんじゃないっスか?」

団長「だとしても、ちゃあんと金は頂くぜ。こちとら慈善でやってんじゃねえんだ」

団員B「じゃ、もしかして俺ら、剣も抜かずにボロ儲けスか?」

団長「かもな。へへっ、久々のデカいヤマだってのに、腕がなまっちまうぜ」

団員C「そんなら俺、あの砦ン中、ひとっ走り様子を見てきまさァ!」

団長「おおう、気ぃ付けろよ」

剣士「……ん?」

   ガラ…


剣士「おい、止まれ!!」

団員C「へっ?」

ガラガラガラガラガラガラガラガラ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

団員C「うわわわわ、なんだあッ!?」

7 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:19:38 ID:IyhGY/1M

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


団長「野郎、砦の中に潜んでやがったか!!」

剣士「違う! あれは――」


ゴーレムが  あらわれた!!  ▼


剣士「もともと砦が魔物だったんだ!」


ゴーレム『オオオォォォォォ』 ガラガラガラ…


団員A「ひっ、ひいっ!!」

団長「うろたえるんじゃねえ! ここは落ち着いて……」


ゴーレムの こうげき!!
あたりいちめんに じなりが おきた!!  ▼


団員B「うわああああああっ!!」

団長「た、退却だあぁーっ!!」

8 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:20:40 ID:IyhGY/1M

ギルド団員たちは にげだした! ▼


剣士「あらら。腕がなまるんじゃなかったのかよ」

ゴーレムの  こうげき!! ▼

剣士「おっと」

剣士は ひらりと みをかわした! ▼

剣士(それにしても馬鹿でかいゴーレムだな。このサイズのは初めてだ)

剣士(建造物ばっか狙うってことは、明らかに天然モノじゃないよな)

剣士(魔王軍の差し金か? ……ま、俺にはもう関係ないか)


ゴーレム『オオォォォォ!!』


剣士「さーて」


剣士は はがねのつるぎを ぬきはなった! ▼


剣士「来い」

9 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:22:53 ID:IyhGY/1M

ゴーレム『オオオオオオオ』

ゴーレムの こうげき!

剣士は ひらりと みをかわした! ▼

ゴーレム『オオオオォ!!』

 ズズーンン……

剣士(威力だけはある。まともにくらったら一撃だ)

剣士(だが俺の知る限り、ゴーレムがフェイントを仕掛けてくることはあり得ない)

剣士(その上で、攻撃は全部直線的でノロノロ。1対1じゃ当たる方が難しいぜ)

剣士(その代わり、やたらタフで硬い。長期戦に持ち込まれれば、いくらでも事故は起こり得る)

剣士(急所を知らなければな)

剣士は のびきったゴーレムの腕に 飛び乗った!  ▼

剣士は 一気に ゴーレムの肩まで かけあがった! ▼

剣士(魔力で動いている物質系の魔物には、必ず動力を生み出している部分がある)

剣士(その露出部を――捉える!)

剣士は ゴーレムの 目元に 剣をつきさした! ▼

10 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:23:59 ID:IyhGY/1M

ゴーレム『オオオオオオオオオオオオオ』

ズズーン    ズズーン   

剣士「うおっと。まだまだ!」

剣士は ゴーレムの目元に はやぶさぎりを はなった!
剣士の こうげき!
剣士の こうげき! ▼

ゴーレム『グググオオオオオオオオオオ』

剣士「とどめ!!」

剣士の こうげき!  かいしんの いちげき!! ▼

ゴーレム『オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ』

ゴーレムに 大ダメージを 与えた!! ▼

ゴーレム『オオオオオオオオ……オオオオオ……』

ゴーレム『オオオ……  オ……   』 ズズズズズーン


ゴーレムを  たおした! ▼


剣士「どうだ。朝飯前だぜ」  ヒュンヒュン  キンッ

11 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/09(火) 06:25:03 ID:IyhGY/1M
とりあえずここまで
まったりローペースで更新していきます

12以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/09(火) 08:02:11 ID:JVvB24tE
期待

13以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/09(火) 10:18:12 ID:QL3Vvzus
カコイイ...

14以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/09(火) 12:00:58 ID:MGay2anw
勇者

15以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/09(火) 21:29:01 ID:4nBvefXw


16 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:14:43 ID:7xgI/VRA

――

【村】

村長「そんな! ここにきて報酬の吊り上げとは!」

団長「ありゃアンタらが思ってるより相当やべえバケモンだ」

団長「本気で片付けるとなりゃ、こっちにも相当の覚悟がいる」

村長「し、しかし魔物については予め詳しく話しておりましたし……」

団長「素人のヨタ話を聞くのと、実際に目で見るのとを一緒にしちゃいけねえ」

団長「嫌なら嫌でいいんだぜ? 他を当たるんだな」

団長「だがこの時期、こんなヘンピな村を訪れるギルドがどれだけあるかねえ……」

村長「うう……」

村長「……村が滅びては元も子もありません。分かりました、割増いたししましょう」

団長「おう。それなら報酬は倍額で、うち半分を前金として頂こうか」

村長「な、なんと!? そんな法外な!!」

団長「こっちもタマ張ってんだ。死んだら終わりっつーな、お互い様だろ?」

村長「しかしあのお金は、村の皆がどれだけ苦心してかき集めたものか――」

17 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:15:53 ID:7xgI/VRA

団長は 剣を ぬきはなった! ▼


団長「グダグダ渋ってんじゃねえ! 前金を出すのか、出さないのか!?」

村長「ひいっ」

団長「少なくとも、用意してた分はあんだろ! それを出しゃいいんだよ!」

村長「そ、そんな横暴な。これでは盗賊と変わらない!」

団長「仕事はやるって言ってんだろ! さっさと金を出せ!」

村長「ひいっ!」

村長は 小袋を つきだした

いきおいあまって 中の ゴールドが ちらばった! ▼

団長「おーおー、ちゃんとぎっしり詰まってんじゃねえか」 チャリリリン

村長「うう……」

団長「安心しろ、今度こそあのデカブツを片付けてやるからな」


剣士「何から何まで適当だな」  バタン

村長・団長「!?」

18 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:16:30 ID:7xgI/VRA

団長「いま交渉中だ、後にしやがれ!」

剣士「ゴーレムは倒した。もう何も交渉しなくていい」

団長「はあ!?」

村長「ほ、本当ですか!?」

剣士「ああ」

 ズンッ

団長「な、なんだこの、小樽みてえな岩は」

剣士「あのゴーレムの核(コア)だよ。デカいだろ」

団長「こあ? なんだよそりゃ!」

剣士「ありゃ、知らないのか。そこまでだったとは」

村長「あ、あのう、これは一体……」

剣士「ゴーレムの動力を直接発していた部分だ。普通の岩とは少し違うだろ」

剣士「物質系の魔物を討ち取った証は、こいつを首級代わりにするんだ」

村長「おおっ! では――」

団長「待て待て待てって!!」 ダンッ

19 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:17:17 ID:7xgI/VRA

団長「いきなり横からしゃしゃり出て、勝手に話を進めやがって!」

剣士「大した仕事じゃなかったから、報酬は半分でいい」

村長「えっ?」

団長「おい!!」

剣士「このテーブルに散らばってる分から頂くぜ」

団長「てめえいい加減に――」

剣士「ほい」ジャララ

団長「!?」

剣士「俺の取り分は2割でいい、一宿一飯の礼だ。あ、パンの方はなかったか」

団長「きっさまあああああぁぁ!!」

村長「ひ、ひーっ!」

団長は 剣を ふりあげた!!

剣士は 団長の手首を とめた
剣士は 団長のうでを ねじった
剣士は 団長を テーブルに 組み伏せた ▼

団長「あ、あが!?」

20 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:18:24 ID:7xgI/VRA

剣士「団長。昨日の今日で悪いが、俺はこのギルドを抜けるぜ」

団長「いででででで!」 ギリギリギリ

剣士「どうも俺の肌にしっくりこない。最初は適任だと思ってたんだけどな」

団長「いででででで! は、放せ! 折れる! 放せええ!!」 

村長「あわわわわ……」

剣士「約束しろ。これで交渉は終わりだと。じゃなきゃ折る」

団長「いでででででで! さ、さっさと放せえええええ!!」

剣士「折るぜ。歯ぁ食いしばれ」

団長「わわわわわ分かった分かった! それでいい! いいから放せええ!!」

剣士「なんだ、やっぱり聞こえてるんじゃねーか」 パッ

団長「ううっ……ハァ……ハァ……」

団長「きっさまァ……」ギロッ

剣士「ん?」

団長「……くっ……   覚えてろよ!!」

団長は にげだした!  ▼

21 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:19:18 ID:7xgI/VRA
剣士「ふう」

剣士「という訳で、この話は終わりな」

村長「あ、ありがとうございます。何とお礼を申し上げてよいのやら……」

剣士「仕事だから、礼なんていらない。お互い、支払ったものの対価を受けただけだ」

村長「は、はい。本当にありがとうございます」ペコペコ

剣士「……」

剣士「なあ。俺が(止めにかかる団員全員ぶっ飛ばして)この部屋に入ってきたとき」

剣士「『何から何まで適当だな』って言ったのを覚えてるか?」

村長「え? ええ……」

剣士「あれはアンタに向けても言ったんだぜ」

村長「え!?」

剣士「村人で苦心して貯めた金だって? 本当なら、なんであんな奴らに渡そうとした」

村長「そ、それは……」

剣士「この村を守る切り札なんだろ? 軽々しく手放していいものじゃない」

剣士「もし失敗したらこの村はどうなる。武装に充てた方がまだマシだ」

22 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:20:24 ID:7xgI/VRA

村長「わ……わしらは……あなたみたいに強くありません」

村長「生き延びるには、あのような連中でも雇い入れ、村を守ってもらうほか無いのです」

剣士「守ってるもらうほか無い? 本当にか?」

村長「そ、そうですとも」

剣士「いいか、イメージしてみろ。この村に、凶悪な魔獣が現れるとする」

剣士「アンタらの金で雇った連中が全員やられる。もしくは逃げる」

剣士「その魔獣が村を荒らしまわり、逃げるアンタをも追う」

剣士「ついに組み敷かれ、アンタは目先の地面に映った、鋭い爪の影を見る」

剣士「その瞬間――アンタは悔いなく、殺されることができるか?」

村長「そ、それは……そのときは……」

剣士「ま、パニック状態でそんな理性は残ってないかもな」

剣士「ただ、もしこの話を他の誰かが聞いたら、どう思われると思う?」

剣士「『なけなしの金で、あんな奴らを雇ったりするから……』だろ、普通は」

剣士「それを聞いたら、アンタ悔しいって思うだろう」

村長「……うーん……」

23 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:21:41 ID:7xgI/VRA

村長「つまりあなたはこの村を……自衛できるように軍事化しろ、というのですか?」

剣士「俺が一番言いたいのはそれじゃない」

剣士「『覚悟を決めろ』って言いたいんだ」

剣士「アンタさっき、団長のペテンと気迫に圧されるままに金を払っていた」

剣士「村を守る立場のくせに、なんてことはどうでもいい」

剣士「アンタ自身に、覚悟が見えなかった。だから適当だと言ったんだ」

村長「……」

剣士「命がかかっているのなら、全力で覚悟を決めろ」

剣士「俺から言わせてもらえば、誰かをアテにして、その勝利を信じるヒマがあれば」

剣士「いざとなったときに備え、ナイフでも振っていた方がいい」

剣士「いまこの世界は、魔王軍の危機に晒されている。いつ死ぬかも分からない」

剣士「でも最期の瞬間まで、勇者がお前のそばに来て、助けてくれるとは限らないんだ」

剣士「そんなもの、いないも同然だ」

剣士「はっきり言っておくぜ」

剣士「勇者なんてのは、いない」

24 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/10(水) 13:22:43 ID:7xgI/VRA
ここまで

25以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/10(水) 14:14:46 ID:5IJs19nA


26いぬのたまご:2014/12/10(水) 16:29:40 ID:jLprG3hk
まとまったお金が欲しい人はこちらへ

http://www.fc-business.net/qgesw/

27以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/10(水) 16:47:58 ID:g/aGZZes
この宣伝で台無し感ww

28以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/11(木) 17:40:27 ID:OPYUpoq.
面白そう、期待

29以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/11(木) 21:17:20 ID:VAN/do9k
ゴミクズ業者は置いといて、
これは期待作

30以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 13:01:31 ID:O4qihjng

村長「はあ……」

剣士「すまん。勝手に突っ走って話が逸れてしまったな」

剣士「ま! ひっくるめて言えば、後悔のない選択を心がけるべきってこと」

剣士「説教は終わり。俺はいくぜ。じゃあな」

村長「あっ……待って下さい!」

剣士「ん?」

村長「も、もしよろしければ……しばしこの村に留まっては頂けませんか?」

村長「あの巨大な魔物がいつまた現れるかもしれませんし……」

村長「先のならず者たちが、この村を襲ってくるとも限りません」

村長「どうか半月ほどでいい、この村を守ってくれませんか?」

村長「ほれ、この通り、お金は余っておりますゆえ――」

剣士「俺は断る。他を当たりな」

村長「えっ? な、なぜですか?」

剣士「非情な物言いだが、弱いものを全部守ろうとするとキリがないんだ」

剣士「あんまり頼ってくれるなよ。守る方だってつらいんだぜ」  バタン

31 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:02:08 ID:O4qihjng

【村の酒場】

  カラン カラン

剣士「やあ。軽食はとれるかい」

マスター「おう、そこのメニューから選んでくれ。……ん?」

マスター「アンタ、例のギルドの団員じゃないのか?」

剣士「ああ、さっき抜けてきた」 ペラ

マスター「抜けてきたって? ゴーレムはどうしたんだ?」

剣士「もう片付けた。あばれうしどりのソテーと、それに合う酒を」

マスター「片付けた!? アンタ傷ひとつ付いてないじゃないか」

剣士「逃げたと疑われてもしょうがないが、本当なんだとしか言えないな」

剣士「それより腹ペコなんだ。口は結構だが手も動かしてくれよ」

マスター「あ、ああ……」 カシャン カシャン…

 

  客A「あいつ今朝ゴーレムが出たってのに、こんな所で何を」ヒソヒソ

  客B「逃げ帰ってヤケ酒たぁ、なんてふてぇ野郎だ」ヒソヒソ

32 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:03:10 ID:O4qihjng

剣士「――んん! 美味い! 空きっ腹は最高の調味料だな」

マスター「……」ギロ

剣士「あ、ああ、もちろん料理の腕があればこそだ。酒も美味いし――」

マスター「そうじゃねえ。アンタ、ちゃんと戦ってくれるんだろうな」

剣士「はぁ、勘弁してくれ。村長の家にコアを置いてきたから、後で見てこいよ」

マスター「コア? ゴーレムのコアか?」

剣士「そうそう、さすが情報通。もうあんたが傭兵ギルド立ち上げたらいいんじゃないかな」

マスター「そのコアが本物だという確証はねえ」

剣士「2,3日待ってみろよ。もうアレは襲ってこねえからさ」

マスター「なるほど、そんだけあれば十分ここから逃げおおせるな」

剣士「やれやれ。まぁ、本気で信じて欲しいようなことでもないけど」 グビッ

マスター「安心しろよ。俺たちだって、若造のアンタ一人に期待はしてないぜ」

剣士「おっいいね。その調子で、俺のことなんかずっと期待しないでいてくれよ」

マスター「はあ? 何言ってんだお前」

剣士「ふー。ごちそう様ついでにマスター、聞きたいことがあるんだが――」

33 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:04:09 ID:O4qihjng

マスター「勇者の動向?」

剣士「あいつら今、どこまで進んでるんだ?」

マスター「さあ、知らないね」

剣士「わずかな情報でもいいんだが」 チャリン

マスター「……知ってることだけでいいんなら」

剣士「どうぞ」

マスター「例のニセ勇者が利権を剥奪された後、新たに王に勅命を受け」

マスター「魔王を打倒すべく、大陸や海の向こうを転々としている」

マスター「まあ、誰でも知ってる古い情報だが、残念ながらこれで終わりだ」

剣士「えっ?」

マスター「無理ないだろう。こんな辺境にある、何の変哲もない村に勇者が来たことはない」

マスター「俺らだって、最近増えつつある魔物の数が、もし減ったとして」

マスター「それが勇者のおかげだと分かったとき、初めてありがたみを感じる程度だ」

マスター「そんなもんだ勇者なんて。ふふん、損したな。金は返さねえぞ」

剣士「いや、聞く価値のある話だったよ。――さて、それじゃごちそうさん」カラン カラン

34 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:04:39 ID:O4qihjng

【村の通り】

剣士「……」 ザッ  ザッ  ザッ


  村人A「おい、アレが例の……」ヒソヒソ

  村人B「ああ。戦わずに逃げて、村長から金を奪ったって奴だ」ヒソヒソ

  村人C「ちくしょう。俺らが必死に集めた金を……」ヒソヒソ


剣士「」チラッ


  村人A「!」ビクッ

  村人B「……チッ。行こうぜ」

  村人C「臆病者の詐欺師め、地獄に落ちろ」


剣士「はは」

剣士「『臆病者の詐欺師』? よく分かってるじゃないか」

子供「――ねえ、お兄ちゃん」グイッ

剣士「ん?」

35 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:05:21 ID:O4qihjng

子供「お兄ちゃんは、まものをたおしたの?」

剣士「ああ、倒した。良かったな、今日からぐっすり眠れるぜ」

子供「でも父ちゃんたちは、お兄ちゃんはウソつきだって言ってた」

剣士「そうか。それでお前は、父ちゃんの言うことを信じるかい?」

子供「……うん」

剣士「じゃ、俺はウソつきでいいや。真相とは関係ないからな」

子供「でも、父ちゃんだって、ときどきウソ言う」

剣士「ウソを言わない人間なんていないよ。世の中みんなウソつきさ」

子供「でも、でも、お兄ちゃんが、自分でウソっていうなら」

子供「それもウソなんだから、じゃあ、お兄ちゃんはやっぱりまものを倒したの」

剣士「へえ、面白いこと考えるな。じゃあ、やっぱり倒したのかもな」

子供「えっと、じゃあ、ありがとう」

剣士「おう! こっちもありがとな」

子供「? うん!!」

剣士「ただな。ひとつだけ言っておく」

36 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:06:05 ID:O4qihjng

剣士「『ありがとう』って言った後なんだ。大事なのはさ」

子供「えっ?」

剣士「『ありがとう』だけが上手になっちゃダメだ」

剣士「自分もたくさん言われるようにならなきゃな」

子供「そうなの?」

剣士「ああ、お前も大きくなったら分かるさ」

子供「ふうん」

剣士「いや、やっぱり分かんないかもな」

子供「へんなの!」

剣士「ははは。じゃあ俺は行くぜ。元気にしてなよ」

子供「ばいばい!」

 

剣士(さて、この村ともお別れか)

剣士(おそらく近いうちに、あの不良ギルドの逆恨みに遭うだろう)

剣士(でも俺は手を出さない。巨大ゴーレムとどっちがマシだ? 自分達で何とかするんだ――)

37 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:07:45 ID:O4qihjng

【フィールド】

 

剣士「さて」 パラ…

剣士(このまま道なりに進めば、今日中には町に着くか)

剣士「……」ザッザッザッ

剣士(町には魔法使いがいる)

剣士(もう一度仲間に……まあ、ならないだろうな)

剣士(あいつは裕福な貴族の出身だからな)

剣士(あいつが乗り気になっても、身内が絶対に許さないだろう)

剣士(その前に、会いに来るのが『俺』って時点でもう無理だもんな)

剣士(ニセ勇者騒動で、無意味な煽りを受けてなきゃいいけど)

剣士(……やっぱり、会いに行くのはまずいかなあ)

剣士「……」ザッザッザッ

剣士(顔だけでも)

剣士(顔だけでも見に行こう)  ザッザッザッ

38 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/12(金) 13:08:16 ID:O4qihjng
ここまで

39以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 13:15:32 ID:NRSPRSsU
人間って悲しいな、自分は何も出来ないのに人に頼ってそいつがヘマしたら影でコソコソと陰口を言う

まぁ、この剣士は成功したけど

40以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 15:15:24 ID:3TK86LHo
期待

41以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 19:09:32 ID:OgU8SHfY


42以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 22:17:54 ID:ukGKVoGw
ここからどう展開していくか期待

43以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/12(金) 22:17:56 ID:AK8/0AWQ
うーむ、シブイねぇ…


44以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/13(土) 08:12:42 ID:pOfaXV5E


45 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:44:26 ID:c55sLdL2
――――――――――――――――――――――――――

女の子「じいや。わたしもアメがほしいの」

執事「いけません。旦那様より、次の稽古で結果を出すまでお預けとの仰せです」

女の子「姉さまたちだけずるい。わたしもほしい」

執事「お嬢様はなまけすぎです。どうして一生懸命にやらないのですか」

女の子「だって、つまらないもの。おさいほうがじょうずになったって、役に立たないわ」

執事「お嬢様、お聞き分け下さい」

女の子「じいやも、わたしのこといじめるのね」

女の子「じいやなんかきらい。みんなみんな大きらいだわ!」

執事「お嬢様」

女の子「じいやなんか…………グスン……ヒック……」

執事「お嬢様、どうぞ。アメですぞ。こんなにたくさん」

女の子「えっ……?」

執事「ご安心下さい。お嬢様がつらいときは、この爺やめがついておりますぞ」

――――――――――――――――――――――――――――――

46 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:45:57 ID:c55sLdL2

【屋敷・三女の部屋】

 

三女「……」

  コン  コン

   執事「お嬢様、執事でございます」

三女「入って」

   執事「失礼します」

  カチャ       パタン

執事「お嬢様。また窓の外を眺めていらっしゃるのですか」

三女「そうよ。今日は雲を追っているの」

執事「昨日は鳥。その前は雷雨でしたな」

三女「そうだったかしら」

執事「お嬢様」

三女「何」

執事「旦那様と奥様がお呼びです。応接間までお越しを」

47 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:47:13 ID:c55sLdL2

【屋敷・応接間】

 

公爵「――このたび西の魔道士家には、とても返しきれぬ借りができた」

公爵「我が家の歴史に、遠縁とはいえ英名を刻ませて頂くことにより」

公爵「我が家の歴史で、最大の汚点を払拭してくれたのだからな」

三女「……」

夫人「あなた、言いすぎよ。この子は騙されていただけなのよ」

公爵「事実は覆せぬ。これだけの噂は、3世またいでも消しきれん」

公爵「たとえお前が教会に身を投じ、半年以上の懺悔を捧げてもな」

三女「……」

夫人「あなた、もういいでしょう。最後には、こうして無事に収まったのですから」

公爵「収めたのは我々だ。まったく最後まで世話のかかる」

夫人「あなた!  ごめんなさいね。せっかく大事な日に」

夫人「いいわ、お話はまた明後日にしましょう。その時には笑顔も見せてくれるでしょう」

三女「……はい」

48 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:49:16 ID:c55sLdL2
【屋敷・三女の部屋】

 パタン   

執事「お帰りなさいませ。お部屋の掃除は済んでおります」

三女「そう」    スタ   スタ   スタ    ギシ…

三女「……」

執事「もしよろしければ、窓べり用のイスをご用意いたしましょうか」

三女「いらないわ。    ……ねえ、じいや」

執事「何でございましょう」

三女「最近ね。昔読んだ、おとぎ話を読み返したの」

三女「お姫様が窓際で、身分の違う男の人を想うの」

三女「そうしたら、窓の下に生えたツタを伝って、正にその人が会いにくるの」

三女「でも私、思うの。もしそれが意中の人じゃなかったら? 賊以外の何者でもないわ」

執事「……」

三女「もしそうだったら。まるで違う物語になっていたのかも、しれないわね」

――――

49 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:50:22 ID:c55sLdL2

――

【裕福な町】

剣士(ようやく着いたぜ)

 ガヤガヤガヤ   ワイワイ  ガヤガヤ

剣士(やけに騒がしいな。また勇者教か? にしては様子が違う)スタスタ

町民A「 」ガチャ

剣士(ん。あの家は――)

剣士「ちょっと、そこのオバさん」

町民A「なんだい? アレ、あんたどっかで会ったかい?」

剣士「今日は一体、何があるんですかい? 祭りか何かの準備にみえるけど」

町民A「ああ、確かに今日は準備だよ。明日の結婚式のね」

剣士「へえ、誰の?」

町民A「この町一番のお金持ち、公爵様のご息女よ!」

剣士「   へえ」

剣士「そっか。そうなのか」

50 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:51:36 ID:c55sLdL2

町民A「驚いたでしょ。ほら、あのお嬢さん」ヒソヒソ

町民A「例のさ、ニセ勇者に付いてってしまったもんだから」

町民A「もうどこにもお嫁にいけないって話だったじゃない?」

剣士「……」

町民A「それがびっくり、お嫁に来て欲しいっていう物好きな家があって」

町民A「それだけでもびっくりなのに、お相手の男性、どこの人か知ってる?」

町民A「なんとあの、西の魔道士家よ! 驚いたでしょ!?」

剣士「聞いたことはあるな」

町民A「えっ、あんた知らないの? ほら、本物の勇者様ご一行の――」

    町民B「ちょっと〜、お料理の仕込み、手伝いなさいよ〜」

町民A「あら! ハーーイ!! いけないいけない、この話はまた今度ね」

剣士「待ってくれ。ほら、薬草と15G。いつか勝手に盗ったの、返すよ」

町民A「えっ? えっ?? ちょっと……」

   剣士「それじゃ」 スタスタ スタスタ…

町民A「……あ! あああっ! 思い出した! あっ、ちょっ……皆に話してこよ!!」

51 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:52:16 ID:c55sLdL2

【裕福な町・酒場】


  ガチャ


マスター「いらっしゃい」 ンフッ

剣士「やあ。こんな日だが、飲めるかい?」

マスター「ええ。でも、明日だけは臨時休業よん」

マスター「それで、ご注文は?」ムフッ

剣士「安めの酒を。それに、話好きの常連客も」 チャリンチャリン

マスター「よくってよぅ。 オヤジさーん! 剣士さんがおよびよー!」

剣士(……顔がすでにオカマだもんな……)

マスター「あら、私? オカマスターよ」

剣士「いやアンタはもういい」

オヤジ「おう、俺に話があるってのは兄ちゃんかい」

剣士「ああ」

オヤジ「よーし、おごれーい!」

52 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:53:13 ID:c55sLdL2

オヤジ「  」グビ 

   グビ   グビ  グビッ  ド ン ッ

オヤジ「ぷぁーっ!  んで? 何を聞きたいんだ?」

剣士「えーと、そうだな」

剣士「あの屋敷と勇者ってさ。どういう関係があるんだ?」

オヤジ「なんだ、やっぱあんた旅人か。この町で知らねえのはガキと猫ぐらいだ」

オヤジ「まぁ大声で話せるもんでもねえから、よそ者が知らねえのも無理ねえか」

剣士「やっぱり、例の公爵ってのが圧力かけてるのかい?」

オヤジ「まあな。なにぶん長く続いた家柄に、一番汚い泥を塗られたんだからな」

剣士「泥の名前は、ニセ勇者のお供」

オヤジ「そうそう。あんたどこまで知ってるんだ?」

剣士「知ってることを好きに話してみてくれ。おさらいも兼ねるさ」

オヤジ「分かった。だがその前に――」

剣士「ほい」 コトン

オヤジ「おっ、分かってるな。アンタよく見てるぜ」 グビッグビッ

53 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:54:29 ID:c55sLdL2

オヤジ「……まずあの家柄の起源だが、詳しいことは俺も知らん」

オヤジ「ただ、最初から金持ちだったみたいだな。貴族の中でもよ」

剣士(恵まれた家柄なんだよな)

オヤジ「話は飛んで、今の公爵の代になって、3人の娘が生まれた」

オヤジ「最初に生まれた長女は、母方に似て美しい金髪の持ち主!」

オヤジ「そりゃもうベッピンさんで、一通りの嗜みもしっかり備えていた」

オヤジ「王族から直々にお声がかかって、あっという間に娶られていったな」

剣士「へええ」 コトン

オヤジ「次に生まれた次女の髪は、父方と同じ深い茶色!」 グビッ

オヤジ「姉ほどではないがやはり美人で、こちらは音楽の才があった」

オヤジ「ほんの数年前に、教会の関係者に嫁いだ。幸せそうな夫婦だったぜ」

剣士(なるほどね。王族、教会とで仲良くなってからの――)

オヤジ「そして3人目だ。知っての通り、明日の式の主役だが」

オヤジ「ああ、まず髪の色がな――」

剣士「オレンジ。朱に近い橙色だ。まるでメラみたいなな」

54 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:56:39 ID:c55sLdL2

オヤジ「俺ぁあれも器量が良いし、よくできた娘と思うんだが」

オヤジ「どうも家人は、あの髪が『品の無いケバケバしい色』って嫌っててな」

オヤジ「しかも貴族のたしなみなんて、これっぽっちも覚えなかったもんだから」

オヤジ「他の姉たちに比べて、結構ゾンザイな扱いをされてたらしいぜ」

剣士「へえ。そりゃ」

剣士「初耳だな」   …コトン

オヤジ「ただし、その末妹には飛び抜けた才能があった。それは」 グビッ

オヤジ「呪文だ。小さいうちから、片っ端から呪文を習得していったのさ」

オヤジ「信じられるか? ただの金持ち貴族の血筋だぜ」

オヤジ「あまりに覚えがいいから、一度別の家の子なんじゃないかって疑われて」

オヤジ「間違いなくその家の子ってのが証明されたとき、おったまげたね」

オヤジ「その嬢ちゃんは、魔道の血も、師もなしに、全部自力で覚えたってことだ」

剣士「……」

オヤジ「そうしてその実力と成長を見込まれ、勇者様ご一行に選出されたって訳だ」

オヤジ「あ、『ニセ勇者』様のな。……へい兄ちゃん、グラスは空だぜ?」

55 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:57:37 ID:c55sLdL2

オヤジ「んで、例の『ニセ勇者』騒動だ」グビッ

オヤジ「最初みんなが勇者と思い込んでた奴は、ニセもんだった!」

オヤジ「ボロボロになって逃げ帰ったのさ。ドラゴンにやられちまってよ!」ヘヘッ

剣士「ああ」

オヤジ「だがその日のうちに、本物の勇者様が現れた。華々しい登場だ」

オヤジ「なんせ勇者は、ニセ勇者が敵わなかったドラゴンを倒してしまったんだからな」

オヤジ「それに言い伝え通り、呪文も扱えたし、聖剣も持っていた」

オヤジ「ニセ勇者の方は、剣しか能がなかったからな。もちろん普通の剣だ!」

剣士「 ああ」

オヤジ「世間は騒いだ。本物の勇者様のご光臨だ! 俺たちは騙されていたんだ!」

オヤジ「かくして激しい批判を受けたニセ勇者パーティーは、解散となった」

剣士「……」  コトン

オヤジ「うち一人が、先の天才魔法使い――あの公爵の三女だ」 グビグビグビッ

オヤジ「ニセ勇者出征の際に、町中で寄付を募って盛大に送り出した手前」

オヤジ「屋敷に対する非難はえらいもんだったぜ」 グビッ ゴトンッ

56 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 12:58:44 ID:c55sLdL2

オヤジ「嬢ちゃんが帰ってきて待っていたものは、公爵の激しいお怒りと失望だ」

オヤジ「あわや勘当という事態だったが、夫人と執事が必死に庇って事なきを得た」

オヤジ「その後彼女は、教会に足しげく通い、懺悔の日々を過ごすことになった」

オヤジ「公爵は本人の意志だと主張していたが、どうみても体裁のために強いていたんだよなぁ」

剣士「……」

オヤジ「公爵は他の姉たち同様、三女をどっかに嫁がせたかったようだが――」

オヤジ「ニセ勇者についていったって経歴は、そんだけで面目が大暴落だ」

オヤジ「案の定、貰ってくれる貴族ぁいなかった。大体が王族とつるんでっからなぁ」

オヤジ「下手に嫁にもらおうもんなら、王族の心証も悪くなりかねんからな」

オヤジ「ニセ勇者が発覚する前なら、どこもこぞって手を挙げたもんなのに、現金だよなぁ」

剣士「……。おっと」 コトン 

オヤジ「ところが!」 グビッ

オヤジ「ところが一発逆転ベギラゴン!」 グビグビグビグビグビグビ

オヤジ「そんな三女を嫁に欲しいって家があった!!」 ドンッ

57 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 13:00:02 ID:c55sLdL2

オヤジ「それが西の魔道士家だ!」

剣士「それは、どんな家だ?」

オヤジ「さほど金持ちじゃねえが、魔道学校の主席・次席をかっさらった名門だ」

オヤジ「世間じゃそんなことより、真・勇者パーティーの一人を輩出したので有名だな」

オヤジ「ほら、あの僧侶ちゃん。勇者にホの字の女の子。あれが魔道士家んとこの娘だよ」

剣士「へえ。そうだったのか。それで、結婚相手は?」

オヤジ「その兄貴だ! 兄は、他の貴族との縁結びを全部断り――」

オヤジ「この公爵家の三女に求婚したんだ。なんでだと思う?」

剣士「さあな」

オヤジ「見合いの時に、見抜いたそうなんだ。ただもんじゃねえ魔道の才能によ」

オヤジ「強い魔力同士が結ばれれば、より強い種が生まれる――お決まりの迷信よ」

オヤジ「三女は顔も良かったしな。当家からしてみりゃ、願ったりの残りモンだったろう」

オヤジ「一方、公爵家にしてもありがたい話だった」

オヤジ「西の魔道士家は勇者絡みの件で、この界隈じゃ一番人気だったからな」

オヤジ「双方ともにオイシイ話だったわけよ。……ヘイ兄ちゃん、グラス!」

58 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/15(月) 13:00:42 ID:c55sLdL2
ここまで。セリフばっかですまぬ

59以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/15(月) 13:21:00 ID:EAHtaD6o
最初から剣士だと言ってたらこんなことにはならなかったろうに
そうせざるをえない何かがあったんだろうが


60以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/15(月) 13:45:19 ID:h6q3VflM


61以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/15(月) 21:25:47 ID:Q4eKugGo
おつ

62以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/16(火) 00:45:55 ID:H2pHsXqc
強いから勇者な世界かもよ

63以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/16(火) 14:14:02 ID:pNcrdudA
面白い
一気読みした

64以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/17(水) 19:23:09 ID:E46aeyTM


周りから勇者と持ち上げられたのか、それとも自分から勇者と言い出したのかは気になるな

65以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/17(水) 23:59:05 ID:taa2F0Vs

オヤジ「――とまあ、そんなもんかねえ? 他に何かあるかい?」グビグビ

剣士「そうだな」

剣士「そのお嬢さんは、今回の結婚についてどう思ってるんだ?」

オヤジ「さあなぁ。でも、そんなに悪いとも思ってないんじゃねぇのか」グビッ

オヤジ「とりあえずは家のメンツは守れたし、将来も安泰ってな流れだしよ」トン

オヤジ「ああ、あとこれは又聞きだが、お相手の魔道士家のムコさん」

オヤジ「さっき言った魔導学校の主席の賢者なんだが、結構ヤサ男で、性格も穏やかとか」

剣士「へえ。そうなのか」

オヤジ「なんもかんも至れり尽くせりだ。落としどころとしちゃ、万々歳じゃねえの?」

オヤジ「少なくとも、『ニセ勇者』パーティーの中じゃ一番ラッキーだろうなあ」

オヤジ「僧侶なんて最終的に教会を追い出されたしな。他の二人はよく知らんが」

剣士「 へえ。そっちも後で詳しく聞かせてくれ」 コトン

オヤジ「後で?」 グビグビグビグビグビ

剣士「先に、そうだな」

剣士「俺は今からそのお嬢さんと話がしたいんだが、どうすればいい?」

66 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/17(水) 23:59:51 ID:taa2F0Vs

――


<夜>


【屋敷・三女の部屋】


  コン  コン


   メイド「お嬢様。メイドでございます」

三女「そう。用件は?」

   メイド「明日の式の日程のご確認を。広間までお越し下さい」

三女「そう」

   メイド「それでは、失礼しま――」

三女「待って」

   メイド「えっ?」

三女「入って」

   メイド「えっ? は、はい。失礼します……」

67 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:02:27 ID:46UOM7iw

  ガチャ        パタン

 

三女「……」

メイド「あ、あの……」

三女「執事は?」

メイド「えっ、ええ。先ほどすれ違いまして、急用ができたとのことです」

メイド「このたびのお声かけも、執事より代理を受けたものです」

三女「急用って?」

メイド「えっ? も、申し訳ございません。そこまでは――」

三女「そう」

メイド「……」

三女「……」

メイド「あ、あの……」

三女「あなた」

メイド「は、はひっ!?」

68 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:03:48 ID:46UOM7iw

三女「この屋敷に来て、2年と4ヶ月だったかしら」

メイド「えっ!? は、はい、その通りでございます。よくご存知で」

三女「生まれた年は聞いてなかったわね」

メイド「えっ、あ、あの、勇暦2年でございます」

三女「そう。なら私と同い年ね」

メイド「は、はい。恐縮です」

三女「……」

メイド「…………あ、あのぅ……」

三女「」    ギッ 

メイド「!」

三女「」   スタ  スタ  スタ  ゴソゴソ

メイド「??」

三女「」   スタ  スタ  スタ

メイド「えっ? あの?」

三女「これ。あなたにあげるわ」 スッ

69 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:05:55 ID:46UOM7iw

メイド「こ……この指輪は……!」

三女「私が以前これを付けていたとき、あなたがちらちら見てたのを覚えてる」

メイド「も、申し訳ございません! け、決してそのような下心は……」

三女「いいのよ。どうせ私にとっては価値のないもの」

三女「傷を癒したり、魔力を補ったりできない、ただの装飾品よ」

三女「生きるのに必要のないものなんて、それに価値を見出す人だけが持てばいいの」

三女「ほんの気まぐれよ。あなたにあげるわ」

メイド「あ、ありがとうございます。しかし、受け取れません」

メイド「我々当家専属の使用人は、お身内の方々より物品を賜ることは、固く禁じられております」

三女「平気。姉様たちも常々、贔屓の下男にやっていたもの」

三女「誰かに咎められたら、私が無理矢理押し付けたことにすればいいわ」

三女「受け取って。これきりだから。受け取って」

メイド「あの……えっと……」

三女「ほら」 ギュッ

メイド「……あ……ありがとうございます……」ボソ

70 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:08:57 ID:46UOM7iw

三女「私の用は済んだわ。下がってもよくてよ」 スタ  スタ   ギシッ

メイド「えっ? あ、あのう」

三女「広間へは、取り込んでいるから小1時間ほど遅れると伝えなさい」

メイド「……はい。かしこまりました。……。……」

三女「聞きたいことがあるならいいわ。一つだけ答えてあげる」

メイド「えっ!? あ、あの……はい。それでは不躾ながら」

メイド「お嬢様はその、どうしていつも窓の外を眺めていらっしゃるのですか?」

三女「そう。  そうね」

三女「夢を見てるのよ。回想も、空想も、この先のことも、全部ひっくるめてね」

三女「……!  話は終わりよ。もう出ていって」

メイド「えっ? は、はい、失礼しますっ……」 ガチャ

三女「あなたの」

メイド「!」

三女「カーテシー(お辞儀)、私好きよ」

三女「一度くらい、メイドになってみてもいいと思う程度にはね。おやすみなさい」

71 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:11:39 ID:46UOM7iw

――

【屋敷・塀】


   スタッ


剣士(月が綺麗だ。困ったことに)

剣士(苦しい言い訳しか思いついてないが)

剣士(まぁやれるだけやってみよう。多分大丈夫だろう)


  ット   ット   ットン


剣士「……」チラ

   門番「ふああ……」

剣士(大丈夫だな。他に忍び込むものがあっても、別に人食いモンスターじゃない)

剣士(仮想敵はせいぜいコソ泥、言葉の伝わる人間だ。そりゃ緊張感もなくなる)

剣士(あれじゃ本物の魔物が襲ってきても、絶対に使い物にならないな)

剣士(まったく、よくあんな体で仕事が成り立つもんだ。――よし、今か) ットン

72 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:20:52 ID:46UOM7iw

剣士(しっかし音を消すためとはいえ、鳴らない財布は悲しいぜ)トンッ

剣士(あのオヤジの飲み代で、ほとんど使い切ってしまったからな――)タタタ

 

   オヤジ『嬢ちゃんと今すぐ話がしたいィ? そりゃ無理だ、諦めな』

   オヤジ『式の前夜だぜ? 親族でも無理だろうに、兄ちゃんみたいなのは尚更だ』

   オヤジ『それでもってんなら、へへ、忍び込むしかねえわなぁ』

   オヤジ『なんでも嬢ちゃん、屋敷にいるときは四六時中、窓に張り付いてるらしいぜ』

   オヤジ『見回りの数? ああ、この間コソ泥が捕まったばかりでな』

   オヤジ『ただ今、絶賛警戒強化中だ。毎晩7、8人はうろついてるぜ』

   オヤジ『残念だったなぁ兄ちゃん、バカなこともできなくてよ』

   オヤジ『まぁ明日みんなで、ドレス姿の嬢ちゃんに会おうや』

 

剣士(明日じゃ遅いんだ)タタタ ット  ットン   タタタ 

剣士(今なんだ。あいつが本音を語ってくれそうなタイミングは)

剣士(勇者一行の一員でも、既婚の貴族でもない、今のあいつに――)

73 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:23:46 ID:46UOM7iw

見回りA「ふい〜ヒマだな。とっとと部屋に戻りたいぜ」

見回りB「ああ。いくら何でも、結婚式の前に悪さしようなんてクズは居ねぇよ」

見回りA「まぁ夜道を散歩するだけで金が入るんだ。気楽にいこうや」


  剣士(あらま。本当に金の無駄遣いだな) トンッ  タ タタッ


見回りC「……ん?」

見回りD「どうした?」


  剣士(ん。そうでもないか?) ピタッ


見回りC「さっき執事がいなかったか?」

見回りD「執事? 執事がなんだって外をうろつくんだよ」

見回りC「だな。どうでもいいや」  スタ スタ スタ


  剣士(……)


  剣士(他で見かけたのも含めて、これで8人全員……のはずだが……)

74 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:26:14 ID:46UOM7iw

【屋敷塀内・窓下付近】

 ット

剣士(お……この角度だとよく見えないが)

剣士(いま窓に映ってる影――ひょっとしてあれが魔法使いか?)

剣士(……3階か。あの壁も何とか登れそうだ)

剣士(まぁツタでも生えてりゃ、もっとやりやすかったけどな)

 

剣士(ん) ピクッ

剣士「…………」

剣士(……うん。さすがは金持ちというべきか)

剣士(すごいのを雇ってるな。居場所が分からない)

剣士(見つかってるか? いや、どちらかというと探られてる感じだな)

剣士(参ったな。こんな一介の町屋敷に居るようなレベルじゃないんだが)

剣士(うかつに窓の下に行けば、一発で補足されるだろう)

剣士(しかしあまり時間もかけられない。さて、どうしたもんか……)

75 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:27:14 ID:46UOM7iw

  ジリジリ     ジリ…

剣士(……この一帯はマークされてるな。動く気配がない)

剣士(仕方ない、気付かないフリして出ていくか)

剣士(こいつは多分、大声で増援を呼ぶタイプじゃないだろう)

剣士(下手に騒げば、取り逃がしてしまう恐れがあるからな)

剣士(だからゆっくり後ろに忍び寄り、攻撃してくるはずだ)

剣士(そこを返り討ちで気絶させてしまえばいい)

剣士(気付いてないと思い込ませてしまえば、いかな手練でも虚は突けるはずだ)

剣士(そうと決まれば)

 ザッ

剣士「……」 スタ  スタ  スタ  スタ

剣士「……」

剣士「…………」

剣士(しまった。様子見か。なるほど、そりゃそうだ)

剣士(壁を登ってるときの方が圧倒的に隙だらけだもんな。こりゃまずいぞ……)

76 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:30:59 ID:46UOM7iw

ザッ

剣士「!」

××「……」  スタ スタ スタ スタ

剣士(来た。しかし想定外だ、普通に歩いてくる)

剣士(これも困ったな。気付かないってのも無理があるし……)

××「そこの御仁、よろしいですかな」

剣士「……。……あ」

剣士「あのう、すんません、ちょっと俺、飲みすぎて道に迷っちゃって」

剣士「気付いたらこんなトコに……よければ、出口まで案内……」

××「……」

剣士「して頂けると……というのはやっぱり無理がある……?」

××「……はい。……しかし」

××「人違いやもしれませんが、よもやあなたは、勇者様ではございませんか?」

剣士「  ああ。『元』がつくけどな」

執事「やはり。長らくお待ちしておりました。わたくし、執事と申します」

77 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/18(木) 00:33:07 ID:46UOM7iw
ここまで。今年中に終わらせるつもりだったのにムチャクチャ長くなりそう……

78以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 01:06:07 ID:GjlHl2iM

楽しみにしてるから長いとうれしい

79以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 01:06:14 ID:9h4bufqc

ムチャクチャって!

80以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 07:31:38 ID:RkUFkXQA
こんな話ならメチャクチャ長くても全然良いよ

エタらなければ

81以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 07:46:36 ID:UNRliVuc
おつううう

82以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 13:22:00 ID:F8kOZfdg

長いの歓迎だ

83以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 13:34:58 ID:D/VJ5AOQ

面白いから、年間連載でもいいくらいだ。
何だったらまおゆう並みに続けてくれちゃってもいいのよ?

84以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/18(木) 20:52:48 ID:d1G/6wrw


85以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/19(金) 00:15:26 ID:LCGVWEjQ
長い方が楽しめる

86以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/19(金) 00:36:02 ID:VJIiYkpc
期待してるぞ
今週で1番ってくらいには

87以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:30:42 ID:8Q6OmL9Y

剣士「――何か訳ありのようだが、先にこれを聞かせてくれ」

剣士「執事さんは最終的に、俺をどうしたいんだ?」

執事「お嬢様とお会いして頂きたく存じます。語らいはご自由に結構です」

剣士「その後は?」

執事「その後は……この町の怒りを買って頂くことを許されれば、幸いでございます」

剣士「ふうん。捕まえるとか絶交じゃなくて、『町の怒りを買って頂く』ね」

剣士「なるほど。それが本当なら、俺と争う気はなさそうだな」

執事「機敏なお察し、恐縮でございます」

剣士「しかし、すると魔法使いはすっかりその気ってことか?」

執事「私の口からは申せません。すべてはお嬢様の思し召し次第でございます」

剣士「分かった。他に見逃してくれる条件は?」

執事「そうですな。5分ほど、私めの戯れ言に付き合って頂きましょうか」

剣士「余裕は」

執事「ここは巡回の経路から外れております。お嬢様もまだ一時はあそこに」

剣士「分かった、聞こう。そうまでして伝えたいことを」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:31:13 ID:8Q6OmL9Y

執事「――お嬢様は、幼少より聡明なお方でした」

執事「貴族の家に生まれながら、魔王によって世界が恐慌に覆われていると知った時」

執事「自らが何をすべきかを、いち早く悟っていらっしゃったのです」

執事「お嬢様は貴族のたしなみを身に付ける時間のほとんどを、呪文習得に費やしました」

執事「才はとどまるところを知らず、様々な高等呪文をさして難なく習得され」

執事「ついには、王の募った魔王討伐に名乗りを上げるまでになりました」

剣士「始めからそのつもりだったのか? 自分の身や、家を守るためでなく?」

執事「魔王討伐そのものは、お嬢様が自負をかけ、『自分にできること』と判断されたものでございます」

執事「勇者一行に選出された際、当家の者は皆、我が事のように大喜びでした」

執事「町中で宴が催され、お嬢様は激励とともに送り出されました」

執事「そうして――勇者様が交代されてから一年後、この屋敷に戻ってこられた際」

剣士「そこからは知っている。怒れる公爵相手に、執事さんと夫人があいつを庇ったんだろ」

剣士「その後教会に通わされ、毎日無意味な懺悔をさせられていた」

執事「それは誤りでございます。お嬢様は考えあって、教会に通ってらっしゃいました」

剣士「えっ?」

89以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:32:59 ID:8Q6OmL9Y

執事「このことを知る者は屋敷において――この町において、私めただ一人ですが」

執事「お嬢様が持参されていた聖書の幾頁は、僧侶指南の導書に差し替えられていました」

剣士「!」

執事「お嬢様は懺悔の祈りを装いながら、新たな力を身につけていらっしゃったのです」

執事「すなわち、ホイミをはじめとする数多の回復・補助呪文を」

剣士「お、覚えたっていうのか? 独学で?」

執事「はい。もはやお嬢様は、熟練の魔法使いにも、僧侶にも相当されます」

剣士「……つまりあいつは、あんた以外の誰にも知られずして」

剣士「一人で『賢者』になったってことか?  はは。信じられない話だな」

剣士「もし本当なら……本当なんだろうな。俺の知る限り、この世で最年少の賢者だ」

執事「……賢者への道は、並ならぬ修練を要すると聞きます。お嬢様はそれを乗り越えられた」

執事「何故か。ついに打ち明けられることはございませんでしたが」

執事「私めは僭越ながらこう存じます。『機に備えていた』と」

執事「その『機』とは身を守るとき、家を、町を、国を守るとき、そして」

執事「今でございます」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:34:19 ID:8Q6OmL9Y

剣士「……」

執事「お時間が迫ってきたようです。私めからは、ここまで」

執事「これから屋敷に戻り――お嬢様の部屋の前にて耳を塞ぎ、見張りとなります」

執事「夜明けまでには、話をお済まし下さい」

剣士「……分かった。分かったが、『夜明けまでに』はさすがに余計なお世話だ」

執事「はて、どのようなご解釈を?」

剣士「何でもない」

執事「――勇者様」

執事「お嬢様を何卒。よろしくお願いいたします」 スス…

剣士「執事さん。最後に、俺からも一つだけ」

執事「伺いましょう」

剣士「あなたは一体、何者だ。『執事』以外で答えて欲しい」

執事「――私めは」

執事「その昔、貴方様の母君と、武芸の縁があった者とだけ」

執事「では、お急ぎ下さい」 トンッ   ス…

91以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:35:21 ID:8Q6OmL9Y

 ググッ   グンッ

剣士「ほっ」   トンッ 

グッ    グッ    ストンッ

剣士(一旦、窓の屋根に登って……)   ググッ  グッ  

剣士(這いつくばって、上から覗くように窓面へと) カサカサ

剣士(ん)


三女「……」

剣士(……)

三女「…………」

剣士(目が合ってるなら開けてくれ) コン コン

三女「………………」

 ガチャン       キイイィ

剣士「よっと」 スルン

  キイイィ      
          パタン…

92以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:36:38 ID:8Q6OmL9Y

【屋敷・三女の部屋】

剣士「髪、伸ばしたんだな」

三女「そうよ」

剣士「久しぶり」

三女「何しに来たの、賊」

剣士「賊? 賊なら何で入れた」

三女「こっちの話よ、賊」

剣士「そっちの話か、花嫁さん」

三女「何。何しに来たの」

剣士「一年前の誼で、結婚式の祝福に来た。おめでとう」

三女「そう。感謝するわ。じゃあもう帰って」

剣士「帰っていいのか」

三女「結構よ。いま窓を――」

剣士「もう一度」

剣士「もう一度いっしょに、旅に行かないか」

93 ◆RvUAp8KrlM:2014/12/21(日) 12:38:18 ID:8Q6OmL9Y
短いけどここまで

94以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:49:12 ID:ZkibDlcU


95以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 12:51:51 ID:W7G4GwnA
盛り上がってきたね


96以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 15:31:52 ID:q0SLZDPE
やっぱり「魔王討伐隊に参加したら、いつの間にか勇者扱いされてた」的なパターンだったか。
かわいそうな剣士……。


97以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/21(日) 17:20:38 ID:ZbmYSvow


98以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/22(月) 00:18:59 ID:erzpsLxs
乙乙

99以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/22(月) 00:37:15 ID:T6of6Z4o
乙乙乙

100以下、名無しが深夜にお送りします:2014/12/22(月) 01:46:34 ID:quXub9V.
乙乙乙乙


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板