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元勇者「本物の勇者が現れてから一年経った」
108
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:39:45 ID:lu5/Tctw
三女「……」
剣士「……執事から聞いた。お前、賢者になったんだってな」
三女「じいやとそんなことを話していたのね」
剣士「お前が呪文を覚えてきたのは、過去を繋ぎとめるためでもあったんだな」
三女「分かった風に言わないで。もちろん公爵家のためよ」
三女「賢者にもなったら、見合いの目通りにも箔がつくでしょ」
三女「これでも、迷惑をかける形になった責任は取ってるつもりなの」
剣士「素直じゃないな。ついでに負けず嫌いのままだ」
剣士「根っこの部分は変わってないようで安心したぜ」
三女「揶揄として受け取っておくわ。あなたは前よりも随分口が減らなくなったのね」
剣士「だからこれが本当の俺―― ! しっ!」
使用人『………………』
執事『………………』
剣士「思ったより余裕はなさそうだな」
109
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:44:23 ID:lu5/Tctw
三女「執事? さっきは下にいたのに、相変わらず神出鬼没ね」
剣士「あの人はタダもんじゃないからな」
三女「当然よ。私の執事なのよ」
剣士「まぁそれに関しても詳しく聞きたいが、今は出発が先だ」
三女「今から出るつもりなの」
剣士「ああ。わくわくしてきただろ」
三女「たまには子供っぽいことも言うのね」
剣士「俺はニセ勇者になる以前から、現役の冒険者だ」
三女「そう」 スタ スタ カチャ ギィィ…
三女は ふくろを てにいれた!
三女は けんじゃのつえを そうびした!
三女は てんしのローブを そうびした! ▼
剣士「なんだ。クローゼットに旅の支度分、そろえてあったのか」
三女「護身用に忍ばせてあるだけよ」 ゴソゴソ
剣士(結局、最初から断る気なかった訳ね)
三女「何よニヤついて。不愉快ね。とても不愉快だわ」
110
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:46:21 ID:lu5/Tctw
コン コン
三女/勇者「!!」
執事『お嬢様、申し訳ございません』
執事『旦那様がお呼びとのことです。お急ぎ下さい』
勇者「あちゃー、夜明けまでってのは本当に冗談だったのか」ボソ
三女「何の話」ボソ
勇者「それより、急がないとまずいんじゃないか」
三女「ノックの間隔が長かったわ。わずかでも時間を稼ぐって合図ね」
勇者「なるほど。じゃあその配慮に応えるぞ」
ガチャ キイイィ
剣士「さ、行こうぜ」 スッ
三女「 本当に、なってないわね」
三女「レディに手を差し出すときは、手のひらを上に向けるのよ」 …ギュ
賢者が 仲間になった! ▼
111
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:47:16 ID:lu5/Tctw
【屋敷・屋根】
剣士「窓は開けっ放しでいいな」
賢者「何故」
剣士「その方が賊が攫ったようにみえるだろ」
賢者「そう。それもそうね」
剣士「で。さっそく悪いんだけど、ルーラを頼む」
賢者「何ですって」
剣士「ルーラを頼む」
賢者「あなたね。攫った相手に移動呪文を頼むなんて、どういう了見なの」
剣士「無意味なリスクを負うこともないだろ。それともあれか」
剣士「お姫様だっこかなんかで、逃避劇のマネ事でも期待してたのか」
賢者「次にその手の冗談を口走ったら、メラゾーマを見舞うわ」
剣士「悪かったよ。……悪かったって! 杖を下ろせ!」
賢者「どこに行けばいいの。早くして」
剣士「お、王都だ。次は僧侶に会いに行く。頼んだぜ」
112
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:48:36 ID:lu5/Tctw
賢者「王都ね。待って。イメージするから」
賢者「……」
剣士「……」
賢者「……」 チラ…
剣士「……」
剣士(前と違って、見送ってくれる者は一人もいない)
剣士(仕方ないとはいえ、辛い出立になってしまったな)
剣士(旅に区切りがついたら、必ずこいつをここに帰してやらなきゃな)
賢者「……いいわ。ルーラの準備は」
剣士「もういいのか」
賢者「ええ。行きましょう」
賢者は 杖をふりあげた!
賢者は ルーラをとなえた! ▼
賢者「新しい旅路へ――」
113
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:50:26 ID:lu5/Tctw
――
【屋敷】
執事「だ、旦那様! 大変でございます!」
公爵「どうした。お前が取り乱すとは珍しい」
夫人「あの子はどうしたの?」
執事「お嬢様が、お嬢様が賊に攫われました!!」
公爵「な……何だと!?」
夫人「何ですって!? き、きっと何かの間違いよ」
執事「部屋の窓が開け放たれておりました! 壁を登った痕跡もあります!」
執事「厩舎からは馬も盗まれております! おそらく、この日を狙われていたのでしょう」
公爵「すぐに探し出せ! 絶対に連れ戻すんだ!」
執事「すでに手配しております。私めも捜索の許可を」
公爵「もちろんだ、行け!」
執事「はっ」
夫人「ああ神様……あの子が無事でありますように……」
114
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 11:54:29 ID:lu5/Tctw
――――――――――――
執事「――残念ながら少なくとも、もう町にはいらっしゃらないようです」
執事「ただ町の者の情報によると、昨日、あのニセ勇者がこの町を訪ねていたとか」
公爵「ニセ勇者だと!?」
執事「お嬢様と同時に姿を消していることから、実行犯の疑いが濃厚」
執事「町民からは彼を非難する声も多く、捜索に協力的です」
公爵「今でもあの若造の顔は覚えている! あの低俗な野盗めが!!」
執事「申し訳ございません。私めがついておきながら何たる失態……」
公爵「詫びを入れる前にもう一度探し出せ!」
執事「はっ」 スッ
執事(勇者様――私めも身を切る思いですが、あなたにははっきり汚名を被って頂く)
執事(犯人像を明確にすることで、お嬢様の家出がより迷彩される。元より覚悟は出来ていたはずです)
執事(その上で恥を忍んで改めて申し上げたい。お嬢様のことを、何卒お願い致します)
執事(お嬢様――爺めができることはここまでです)
執事(どうか御心に深く刻み込まれるような、悔いなき良き旅路を――)
115
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 12:00:00 ID:lu5/Tctw
ここまで。 クリスマスか…
116
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:21:18 ID:DqZlvEeI
面白かった
次も期待
117
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/24(水) 12:26:00 ID:lu5/Tctw
>>115
で、全く意識してなかったのに凄いキリ番タイム取ってしまった!
そんなことより、今さらながら皆さんレスつけてくれてありがとう。励みになってます
118
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:29:29 ID:lu5/Tctw
ごめんなさいコンマと勘違いしてました見なかったことに
119
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:29:30 ID:DqZlvEeI
>>117
ここでもダブルオー
120
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:30:50 ID:Qnar7QJw
二回連続はすげぇ
そして乙
121
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:50:08 ID:7jtNCRa2
乙
122
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 12:59:36 ID:t9HgLatU
乙乙
123
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 14:56:59 ID:3kVff7DQ
>>118
クリスマスだからって鳥肉食いすぎw
124
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 18:14:23 ID:l15NaNOA
乙
ワクワクする
125
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/24(水) 19:02:55 ID:a4P5bQBM
おつります
126
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/25(木) 01:22:56 ID:PwOwU2I.
わくわくしますなー
おつ
127
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/25(木) 05:36:03 ID:hqKnjhhQ
良いぞ良いぞ
128
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/28(日) 14:32:21 ID:NyqQ1JLI
更新されるたびに期待感が高まっていく
久々に良いSSに出会えたかもしれない
129
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:41:51 ID:BpeG6qfc
<夜>
【王都・入口】
スタッ スタッ
剣士「なんか久しぶりだな。ルーラの感覚」
賢者「そう」
剣士「一発で成功したのは流石だな。あ、さては度々屋敷から抜け出してたな」
賢者「そこまで転婆になる余裕は無かったわ。あなたと一緒にしないで頂戴」
剣士「俺だって好きで根無し草やってた訳じゃないさ。どこ行ったって大抵は嫌われ者だ」
賢者「ここだと特にそうかしら」
剣士「かもな。さすがに素顔でうろつくのは騒がれるから――」
剣士は バンダナを そうびした!
剣士は あかのえりまきを そうびした! ▼
剣士「簡単に変装」
賢者「ただでさえ賊なのに、余計不審になったわね」
130
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:44:23 ID:BpeG6qfc
賢者「それで。これからどうするの」 スタスタ
剣士「もうこんな時間だ、まずは宿屋で一泊しよう」 スタスタ
賢者「外泊なんて久しぶりね」
剣士「大丈夫なのか、オジョーサマ」
賢者「こう見えて覚悟は決めてきたの。何だったら野宿でも結構よ」
剣士「強がるのはいいが、無理なことは無理ってちゃんと言えよ」
賢者「あなたに気遣われると、感謝どころか逆に心配になってくるわね」
剣士「お前、前にも増してツンツンするようになったな」
剣士「おまけに高飛車っぷりと能面っぷりにも磨きがかかってるしさ」
賢者「あなたこそ、多分に毒気が混じったわね。前の方が紳士的ではあったわ」
剣士「垢抜けたって言えよ。何度も言うが、これが素の俺なんだ」
賢者「なら私だってこれが素よ」
剣士「ああ、分かってるよ」
賢者「あなたのその、何でも見透かしたような言い方は気に食わないわね」
剣士「遠慮する必要が無くなっただけさ」
131
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:45:32 ID:BpeG6qfc
【王都・宿屋】
主人「旅人の宿にようこそ。こんな夜更けまでお疲れ様でした」
剣士「…………」
賢者「……?」
主人「お一人様ひと晩100ゴールドですが、お泊りになりますか?」
賢者「え。ええ。泊まるわ」
主人「ただ今混んでおりまして、お二人様でご一緒のお部屋でよろしいですか?」
賢者「えっ。出来たら別々の個室がいいのだけれど」
主人「申し訳ございませんが……」
賢者「ならやめるわ」
剣士「おいっ」ボソッ
賢者「世の中には、死んでも嫌なことがいくらでもあるの」
剣士「さっき『覚悟はしてきた』って言ったばっかりじゃねえか!」ボソッ
賢者「ええ、だから野宿でもいいと言ってるでしょう」
主人「ええっと、あのう……」
132
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:47:59 ID:BpeG6qfc
――
【王都>宿屋・2F相部屋】
賢者「いい?」
賢者「ここから先に入ったら、本気であなたを屠るから」
剣士「どれだけ占領してんだよ。俺動けねえよ」
賢者「そうね。いっそ朝まで動かないでいて」
剣士「結婚前夜だったご令嬢をいきなり襲うほど下衆じゃねえよ、俺は」
賢者「口に出して不安を煽らないでくれる。耳にするだけでおぞましいわ」
剣士「大体、二人で寝るんなら野宿でも同じことだろうが」
賢者「分からないの。ベッド付きの個室に閉じ込められるのって状況が嫌なの」
賢者「外なら、いざとなったら周囲を火の海にしてルーラで逃げられるでしょう」
剣士「ルーラ使うなら火の海にする必要ないだろ!」
剣士「まったく、前途多難だぜ……」 ギシッ スタスタ
賢者は ベギラマを となえ
剣士「ちょっとちょっと待て! 風呂に行くだけだって!!」
133
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:50:16 ID:BpeG6qfc
【宿屋・1F】
――
剣士(ふう。風呂の気持ちよさは、勇者だった頃と変わらねぇな)
剣士(……ん? 話し声)
剣士(主人一家の控え部屋か)
主人「……ああ、ニセ勇者だ。どこかで聞いたような声と思ったんだ」ヒソヒソ
奥さん「まさか。わざわざ王都に戻ってくる理由がないじゃない」ヒソヒソ
主人「俺は1年前、勇者が泊まりに来たってんで舞い上がってたからよく覚えてる」
主人「あの顔を隠した男は、おそらく本物のニセ勇者だ。なあ、どうだろう」
主人「引っ捕らえて教会に突き出したら、恩賞が貰えそうじゃないか」
奥さん「およしよ。仮にもお客さんなんだし、それにあれはきっと、あのお嬢さんの従者よ」
奥さん「きっとお嬢さんを守るために、顔中にひどい傷を負ったんだわ」
主人「いや、そのお嬢さんてのも、前のニセ勇者パーティーで見た顔なんだが……」
主人「でも髪型や雰囲気が違う気がするし……あんな装備じゃなかったし……う〜ん……」
134
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:52:16 ID:BpeG6qfc
剣士(ふーん。思ったよりこの町に居続けるのは危険みたいだな) スッ スススッ
剣士(教会に突き出して恩賞、ね。『勇者教』の過激派絡みだろうな)
剣士(勇者を神格化するあまり、勇者に関するものを少しでも否定・侮辱したりすると)
剣士(すぐさま厳罰を下しがる狂った集団。騙りなんてもっての他だろう)
剣士(こういう可能性があるから、あまり主人の前で声を聞かせたくなかったんだが)
剣士(まさか賢者があそこまで嫌がるとはな)
剣士(っと。入る前にノックだったか)
コン コン
賢者「誰」
剣士(だから声は出したくないんだって)
剣士(どうしようか。執事さんのマネで伝わるか?)
コン コン
賢者「……」
賢者「入って」
135
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:53:50 ID:BpeG6qfc
【宿屋・2F相部屋】
パタン
賢者「何かあったの」
剣士「その前に自分のベッドまで行ってもいいか」
賢者「どうぞ。何かあったの」
剣士「さっき下で、主人たちの話を盗み聞きしたんだ」
剣士「ニセ勇者を教会に突き出せば儲かるかも、だってさ。声色で勘付かれた」
賢者「そう」
賢者「逃げた方がいいのかしら」
剣士「大丈夫、まだ完全にそうだとバレちゃいない様子だった」 ドサッ
剣士「逃げるのは襲ってきたからでも間に合うさ。今日はゆっくり寝よう」
賢者「そう」
剣士「あっ、お前はもっと大丈夫だから、安心して風呂に入れるぞ」
賢者「屋敷で済ませたわ。それにあなたの残り湯の浴場なんて死んでも嫌ね」
剣士「そうかよ。この旅であと何回『死んでも嫌なこと』が数えられるんだろうな」
136
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:55:03 ID:BpeG6qfc
賢者「明日はどうするの」
剣士「明日は、すまないがお前が主体で立ち回ってくれ」
剣士「教会に立ち寄って、僧侶の行き先を聞いてくるだけでいい」
剣士「それが済んだら、なるべく早くこの王都からオサラバだ」
賢者「僧侶の行き先ってどういうこと」
剣士「裕福な町の酒場で聞いたんだ。あいつは教会を追放されたらしい」
賢者「そうなの」
剣士「『勇者教』が台頭してから、俺たちへの風当たりも相当強くなったからな」
剣士「本物の勇者を『神』と称える以上は、ニセ勇者一行の一人なんて置いておけないだろう」
剣士「まぁ命が助かってるだけでも儲けもんだと思って、旅の途中で拾ってやろう」
賢者「勇者教ね。私の町でも流行ってるけど、さっぱり理解できないわ」
賢者「要は言い伝えに沿った魔王討伐隊員を、勝手に現人神にしてるだけでしょう」
剣士「まぁ俺たちが勇者やってた頃より、魔物も活発になってるらしいからな」
剣士「弱い人ってのは、どこかに救いを求めて、それに責任を押し付けたがるんだろう」
賢者「身を守る力が弱いだけならまだしも、心まで弱かったらいよいよ救いがないわね」
137
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 12:56:42 ID:BpeG6qfc
剣士「――さて、そろそろ俺は寝るぞ」
賢者「寝れば」
剣士「お前もちゃんと寝ろよ」
賢者「髪の手入れが必要ない人は気楽でいいわね」
剣士「伸ばすのも手間ヒマかかって大変だな」
賢者「切ってしまえばいいとは言わないのね」
剣士「せっかく伸ばしたんなら、切るのは勿体ないだろ」
賢者「そうよ」
剣士「ついでに『似合ってる』とか『綺麗』とか言ってやろうか」
賢者「なら私も、あなたのことを『格好いい』とか『素敵』とか言ってあげるわ」
剣士「あっそ。じゃ、ちゃんと寝ろよ。おやすみ」 バサッ
賢者「………………」
賢者「 おやす」
剣士「Zzz――」
賢者「 何よ。もう」
138
:
◆RvUAp8KrlM
:2014/12/29(月) 12:57:12 ID:BpeG6qfc
ここまで
139
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 13:00:06 ID:umg/DG/U
ツンケン賢者ちゃん可愛いペロペロ
140
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 14:15:49 ID:GlvJUvjY
乙
141
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/29(月) 18:41:41 ID:f5uXWTVU
乙
142
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/12/30(火) 23:21:25 ID:tXlzWFJU
まるで老夫婦のような会話のよさ
乙!
143
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/01(木) 17:11:36 ID:3NfViTGg
まーだかなー
144
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/02(金) 17:37:48 ID:PhT4r4cM
僧侶がいらないような気がしてくる
145
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/05(月) 04:39:05 ID:bpNpvHIE
おもしろーい。期待。
146
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/07(水) 08:15:44 ID:i6jlCShA
続きが気になる
147
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:33:02 ID:h0bTK8sU
<翌朝>
ゴソ ゴソ ゴソ
剣士(はがねのつるぎ1本)
剣士(ブロンズナイフ2本)
剣士(ひのきのぼう1本)
剣士(防具はバンダナ、あかのえりまき、たびびとのふく)
剣士(これで全部か、元勇者の武装は。モノだけ見ると落ちぶれたもんだ)
剣士(ただ、装備ありきで戦士って訳じゃない。こいつらはあくまで道具)
剣士(可能性を引き出すのは俺たち戦士。いつだって最初は戦士ありきだ)
賢者「……ん……」
剣士「おっ。おはようさん」
賢者「……。 !? 」
剣士「分かりやすい反応だな。じいやは居ないぞ」
148
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:33:50 ID:h0bTK8sU
【王都>宿屋・受付】
主人「おはようございます」
賢者「もう行ってもいいのかしら」
主人「はい結構です。あとはこちらで手続きしておきますので」
主人「ただ、その……もしよろしければ……」
主人「そちらのお客様の、お顔を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
剣士「……」
主人「最近、物騒な事件も起こっておりますので、念のために……」
賢者「物騒な事件が起こっていると、なぜ顔を晒さなければならないの」
主人「え、えぇ、例えば、指名手配されている罪人を泊めたとなれば、当宿屋の風評などにも影響が……」
賢者「そう。保身のために、支払いを済ませた客を疑うというのね。結構なことね」
剣士「いい。晒そう」
剣士は バンダナと えりまきを とりはらった! ▼
キズだらけの みにくい顔が むきだしになった! ▼
主人「ひぇっ!? も、申し訳ございませんでした!!」
149
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:35:53 ID:h0bTK8sU
【城下町・大通り】
スタスタ スタスタ
剣士「――簡単な落書きだ。塗料は木屑や葉っぱ、それに本物の血も少し」
賢者「呆れたわ。暇さ加減はもちろん、よくそんな不潔な顔で平然としていられるわね」
剣士「洗えばすぐ落ちるし、こうやって隠してるなら素顔でも同じだ」
賢者「かつての扱いを思うと不遇なものね。素顔で出歩くこともままならないなんて」
剣士「言っとくが後ろめたくてこうしてるんじゃないぞ。ここ以外じゃ堂々としてるさ」
剣士「ただ、王都で俺が無遠慮なのはまずい。なんたって勇者教の中枢だ」
剣士「下手に騒ぎを起こしたら、最悪、連れのお前も屋敷に帰れるか分からないぞ」
賢者「脅してるつもり? その時はあなたを差し出して、赤の他人を装えばいいだけよ」
剣士「お前なら本当にやりかねないな……」
剣士「おっと、ここで曲がれ。そっちに行くと城だ。教会はあっち」
賢者「あら。お城に用は無かったかしら」
剣士「あるわけないし、入れるわけないだろ。素直に間違いを認めろ」
剣士(……まぁ一年前は、王都に寄ったらまず王様に謁見してたからな……)
150
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:37:21 ID:h0bTK8sU
【城下町・広場】
剣士「見ろ。広場に勇者がいるぞ」
賢者「真ん中にある黄金の像のことを言ってるのかしら」
剣士「ああ。あんな高いところで金キラキンになって剣を掲げてる」
剣士「大した財力だな。勇者教も相当でかくなったもんだ」
賢者「あの景気の良さそうな方は、残念ながらあなたではないようね」
剣士「残念ながら俺ではないな。あれは正真正銘の現勇者様だ」
賢者「凛々しいわね。きっと世を救う勇者というのは、あんな顔つきの殿方であるべきなのね」
剣士「俺には女にも見えるけどな」
賢者「あの抜き放った剣先は、どこに向けられているのかしら」
剣士「この世界のド真ん中にある、険しい山岳地帯に囲まれた邪悪なる城郭だろうな」
賢者「そういえば魔王の城の方角ね」
剣士「結局俺たちは行きそびれたけどな」
賢者「誰かさんが勝手にパーティーを解散したおかげでね」
剣士(……打倒魔王のシンボル、か……)
151
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:38:44 ID:h0bTK8sU
【王都・大聖堂前】
剣士「――うおっ。ここまで大きくなってたか」
賢者「国教だもの。王族との癒着も強くなってるわ」
剣士「とはいっても、たった一年足らずでこんな規模になるか?」
神父「――迷える子羊たちよ。勇者様へ祈りを捧げなさい」
神父「魔を討ち、世に安寧をもたらすその御身に、我らの加護を届けるのです」
神父「怯えることは何もありません。勇者様はあまねく人々を残らず救って下さいます」
神父「救世がなされる歴史に生まれたことを、誇りなさい――」
剣士「……聖堂の前なのに、あちこちで人が集まって説教を受けてるな」
賢者「一体何を考えているのかしら。ここにいる人たち全員」
剣士「俺も入るのか」
賢者「筆頭よ」
剣士「何を考えてるかって? こんだけ数がいれば、軽く中隊ぐらい作れそうってことさ」
賢者「ほらみなさい、やっぱり何を考えてるのか理解できないわ」
152
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:40:47 ID:h0bTK8sU
【大聖堂・入り口】
剣士「……さて。しばらくだんまりになるぜ。後は頼んだ」
賢者「楽なものね」
僧兵「どなたでしょうか」
賢者「旅の道士。先日こちらに訪れたばかりよ」
僧兵「当聖堂に何のご用でしょう」
賢者「ここの礼拝堂にて祈りを捧げるよう、知人に勧められたわ」
僧兵「なるほど、記念礼拝ですね。どうぞお通り下さい」
賢者「ありがとう」
僧兵「そちらの方は? お顔を伏せられているようですが」
剣士「……」
賢者「この者は私の……護衛よ。ただの護衛。何か問題かしら」
僧兵「失礼ながら、ここから先は前科者かどうか確認するため、お顔を晒して頂きます」
僧兵「教会に異端分子が紛れるのを防ぐため、規定は厳守です。ご協力下さい」
153
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:42:02 ID:h0bTK8sU
賢者「……」
剣士(……やむを得ないな。俺は抜けよう。さっきの広場近辺で待ってる)
賢者(勝手ね)
剣士(一人じゃ不安か?)
賢者(一人の方がいいくらいよ)
剣士(その意気だ。じゃあな) スタスタスタ…
賢者「失礼したわ。私一人で入るわね」
僧兵「お連れの方は?」
賢者「顔の傷を治してから出直すことになったわ。気にしないで頂戴」
僧兵「はあ」
賢者「礼拝堂はどちら。あまり時間もないのだけれど」
僧兵「し、失礼しました。まず聖堂に入ってすぐの通路を、真っ直ぐ行って――」
賢者「……」 チラ
賢者( すぐいなくなるのね。本当、勝手)
154
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:42:59 ID:h0bTK8sU
【大聖堂内】
賢者(……さて。僧侶の行方ね)
賢者(誰に聞けば、すぐに分かりそうかしら)
賢者(そこそこ偉そうな人なら、誰でも良さそうだけれど――)
「あら。こんなところまで足を運ぶなんて」
賢者「!」
「いよいよ懺悔も佳境ってことかしら?」
賢者「お姉様」
次女「近々婚礼があると聞いていたけど、その様子じゃ破談したみたいね」
次女「まぁ妥当な顛末でしょうね。ニセ勇者の側女なんて、不名誉の塊だもの」
作曲家「ハニー、ここにいたのか。おや、その子は誰だい?」
次女「あっダーリン! 紹介するわ、我が公爵家未曾有の汚点、妹の三女よ!」
賢者「お姉様」
賢者「ちょうど良かったわ。聞きたいことがあるの」
155
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/01/10(土) 04:44:09 ID:h0bTK8sU
ここまで。これからぽつぽつ更新していきます
156
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/10(土) 04:59:53 ID:Jm0TXMyY
乙
157
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/10(土) 06:44:17 ID:FuzynUYI
おつかれさま!
158
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/10(土) 07:05:36 ID:TSwLnD.U
乙
159
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/10(土) 09:01:07 ID:XW40QWF.
乙
160
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/16(金) 03:38:50 ID:XFYqUKHE
楽しみに待ってるぞー
161
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/19(月) 20:25:41 ID:5Ue4PqkU
>>77
密かに楽しみにしてるから、長いと嬉しい。
まだかなぁ。
162
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/24(土) 18:58:40 ID:xAdsWgZk
帰ってきてくれー
163
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/01/29(木) 00:45:03 ID:y/SVKyts
まだか
164
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/01(日) 21:46:16 ID:C5QuDbOI
待ってるんだけどなー
165
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/08(日) 13:30:48 ID:vMrWwHDQ
はよ
166
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/11(水) 19:31:34 ID:WK2.P73w
婆さん続きはまだかのぅ…
167
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/14(土) 23:54:21 ID:9Ympi0E2
最近の勇者系SSは途中で消えてばっかだなあ・・・
168
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/14(土) 23:58:57 ID:.ShvU8RM
魔王倒したら今度は人から追われるから失踪も仕方ないね
169
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/02/19(木) 17:04:35 ID:3xMnVW8g
再開しなさそう
170
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/01(日) 00:52:42 ID:hh/4GwqA
age
171
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/16(月) 23:17:26 ID:xoHhWWT2
トリ合ってるかな
もうちょっと待ってて下さい
172
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/16(月) 23:34:49 ID:maowLYRI
待ってるよ〜乙
173
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/17(火) 00:44:04 ID:6QojeXgE
よっしゃ
174
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/20(金) 20:39:58 ID:2Ri9ZX.2
乙!
面白い
続き待ってる
175
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:51:37 ID:asxzQkDg
2ヶ月ぶりに投下
>>154
〜
176
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:52:19 ID:asxzQkDg
次女「まあまあ。あなたが私に頼み事なんて、よっぽど追い詰められてるのかしら」
次女「何を聞きたいのか、当てて見せましょうか? どうせ行く場所に困って、わざわざここを訪ねたんでしょ」
次女「そうねえ、本命は『私たちの楽団に入りたい』といったところかしら?」
作曲家「彼女は、なにか音楽はできるのかい?」
次女「さっぱりよ! 見たことないもの!!」
作曲家「う〜んそれはナンセンス。我が楽団は入団希望者で溢れてる、余裕はないねぇ」
次女「らしいわよ! ふふっ、残念だったわね!」
賢者「僧侶はどこに行ったの」
次女「え? 何、なんですって?」
賢者「この教会から追放された、僧侶はどこに行ったの」
作曲家「? 僧侶……?」
次女「……」
次女「あんた――昔から気に入らないのよ」
次女「僧侶は、どこに行ったの、ですって?」
177
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:53:35 ID:asxzQkDg
次女「いつもいつもいつも私のことなんて眼中にないような態度を取って!!」
次女「稽古だってろくにやらなかったくせに、いつも平然とすました顔して!!」
作曲家「お……おい、ハニー……」
次女「呪文なんて訳の分からないものにのめりこんだくせに、皆にチヤホヤされて!!」
次女「魔王退治に出るあんたを笑顔で町から送りだすとき、頭がどうにかなりそうだったわ!!」
次女「今でこそ言うけど、とっとと魔王に殺されてしまえばいいと呪ったものよ!!」
作曲家「ハニー、落ち着いて……」
次女「ハァ……ハァ……」
賢者「……」
次女「ハァ……ハァ…… ふ ふふふ」
次女「でもね」
次女「許してあげる」
次女「そんなみじめな末路を迎えたんですもの。やっぱりあなた、何もかも間違っていたのよ」
次女「そして私は正しかった。それが証明されたから、あなたのすべてを許してあげるわ」
次女「跪いて懇願なさい? 姉妹のよしみで、楽団の雑用としてこき使ってあげる」
178
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:54:17 ID:asxzQkDg
作曲家「ハニー、そんな勝手に……」
賢者「……」
スッ
ペコリ
次女「何? それ。メイドの真似事じゃなくて、跪きなさいと言ったのよ」
賢者「そちらの殿方」
作曲家「!? ぼ、ぼくかい?」
賢者「こちらの教会に以前いらしていた、ニセ勇者一行の一人」
賢者「僧侶の行方をご存知ないでしょうか?」
作曲家「さ、さあ……北の方へ逃げたとしか……」
賢者「十分です。ありがとうございます」ペコリ
作曲家「い、いや……」
次女「あんた」
次女「許さない。絶対に……許さないわ」フルフル
179
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:55:58 ID:asxzQkDg
次女「 」スー
次女「みんな来――」
賢者は メラを となえた!
メラは 次女の めのまえを とおりすぎた!! ▼
次女「来ゃふっ!?」ズテン
作曲家「ハニー!? 大丈夫か!?」
賢者「――例えばの話よ。お姉様」
賢者「お姉さまの美しい歌声と、私の『呪詛(ザキ)』……『勝負したら』どちらが勝つかしら」
次女「!? あ……あんた……」
賢者「何の勝負かは決めてないけれど、多分、どんな勝負だったとしても、お姉様の息の根は止まるわ」
賢者「そうなると、勝ち負け以前の問題になってくるでしょう。だから、争い事は成立しないの」
賢者「相手が今のお姉様一人である以上、争いなんて成立し得ないの」
賢者「少しは言いたいこと、伝わったかしら」
賢者「じゃあ、さようなら」 スタ スタ スタ
180
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:57:03 ID:asxzQkDg
――
信者A「――僧侶? ああ、あの大罪人なら、追放された日にここから消えてそれっきりさ」
信者B「――知るものか。奴が一時ここにいたと考えるだけでも身の毛がよだつ」
信者C「――存じません。僧侶などという方はここにはいません」
信者D「――ああ、あんたもあいつを探してるのか? やっぱり直々に極刑を下さないとな」
信者E「――知らないが、それよりあんた、どこかで見たような……」
――
賢者(……)
賢者(こんなところかしら。そろそろ怪しまれてきたし、切り上げ時ね)
賢者(できれば司祭級の立場の人に会って、詳しい話を聞いてみたかったのだけれど)
賢者(……奥の間は、外来の信者は立入禁止みたい。それに堅守な備えに、武装を隠した僧兵達)
賢者(分かりやすい伏魔殿ね。水面下でどんな悪巧みがのさばってるのかしら)
信者「 」ヒソヒソ
信者「 」ヒソヒソ
賢者(……長居は禁物ね) スタスタスタ…
181
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:58:36 ID:asxzQkDg
――
【城下町・広場】
剣士「悪い、遅くなった」
賢者「本当に。遅かったわね」
剣士「悪いが、急いでここを出よう。怒るのは後にしてくれ」
賢者「何」
剣士「ルーラを使うのは目立つから、ほら、行くぞ」 ギュッ ザッザッザッ
賢者「あ。ちょ っと」 ザザッ ザザッ
剣士「走らなくていい。人ごみにうまく紛れこむ」
賢者「何があったの。もしかしてばれたの」
剣士「いや。下手うって勘付かれた」
賢者「何をやらかしたの」
剣士「隙間だ。急ぐぞ」
賢者「ちょっと」
182
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 12:59:38 ID:asxzQkDg
――
【フィールド・王都周辺】
剣士「つまりだな」
剣士「俺なりの清算をしてたんだ」
賢者「具体的にかつ簡潔に説明して」
剣士「いやぁ。勇者やってた頃にだな」
剣士「あっちこっちの民家から、タンスや壺や宝箱を漁ってたじゃないか」
賢者「ええ」
剣士「その清算」
賢者「返していたの」
剣士「ああ」
賢者「私が大聖堂で情報収集してる間に、一軒一軒回ってアイテム置いていったというの」
剣士「そうだ。郵便受けやらドアの前やらにな」
賢者「それで結局勘付かれちゃったというの。そんな馬鹿げたことのために、私の手首がつかまれたの」
剣士「そこを根にもつのか」
183
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 13:01:05 ID:asxzQkDg
剣士「まぁ、何とか全軒回れたから良かったけどな」
賢者「全軒ですって」
剣士「物覚えには自信がある。確かに城下町の民家は全軒だ」
剣士「さすがに城は無理だったが、あっこは元々金持ちだからどうってことないだろ」
剣士「たかが964ゴールドと、毒消し草、ちからの種とすばやさの種だ」
賢者「一年前の話よ。適当にしか聞こえないわ」
剣士「すごいもんだろう」
賢者「誰も証明できない。お城の人でも無理でしょうね」
剣士「賢者のかしこさってのは、記憶力とは無縁なのか?」
賢者「私は盗んでないもの。賊はあなた一人よ」
剣士「否定はしないさ。あの頃は勇者って権力を盾になんでもやってたからな」
賢者「なんでもやってるという言い方なら、今も変わらないけど」
剣士「ああ。権力がないぶん、かえってやりたい放題だ」
賢者「どこまででたらめなの」
剣士「とりあえずは、仲間が集まるまでだな。――で、僧侶はどうだった?」
184
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/27(金) 13:01:36 ID:asxzQkDg
ぶつ切りで申し訳ない
とりあえずここまで
185
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/27(金) 13:05:16 ID:xnM0YLqo
乙乙!
186
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/27(金) 13:30:47 ID:vhcX1Qv6
乙
187
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/27(金) 14:08:38 ID:U5.V9eRw
待ってた乙乙
188
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/27(金) 18:45:35 ID:6pn7Gb8Q
待ってたよ、帰ってきてくれてありがとう
189
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/28(土) 12:20:28 ID:UWj4aUi2
待ってた
この二人の距離感が好きだからまだまだ続けてくれ
190
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 09:02:03 ID:3ifZBLTY
支援ありがとう。少し投下します
191
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 09:02:58 ID:3ifZBLTY
賢者「僧侶は追放されて、北の方へ逃げたらしいわ」
剣士「ふんふん、北のどこだ?」
賢者「さ。どこかしら」
剣士「えっ、終わり?」
賢者「そうよ」
剣士「終わり……」
賢者「何」
剣士「いや。ちなみに、何人くらいに尋ねた?」
賢者「10人程度かしら」
剣士「10人も? それだけ聞いてそれだけの情報てことはつまり」
賢者「相当嫌われていたわ。誰しも興味ないか、忘れたがってるみたい」
剣士「なるほど。言われてみりゃそりゃそうか」
賢者「そういえば何人か、探し出して極刑にしたいなんて仰る信者様もいらしたわ」
剣士「カルト教団も甚だしいな。人が人を襲ってどうするんだよ」
剣士「子供でも分かるのにな? 勇者が何を目的に戦っているのかなんて」
192
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:03:50 ID:3ifZBLTY
賢者「僧侶は、例の件で一気に異端者に格下げ」
賢者「そのまま追放処分になって、その日のうちに雲隠れしたそうよ」
剣士「だろうな。そのまま町に留まっていたら危険だったはずだ」
剣士「問題は、どこに逃げたのか……」
賢者「僧侶の出身は聞いてないの」
剣士「さあな。あの教会が出身だと言い張っていたからな」
賢者「教会の孤児ってことかしら」
剣士「その可能性もあるし、別に郷里がある可能性もある」
賢者「いずれにしろ、当ては分からないということね」
剣士「それどころか、生きてるかどうかさえ、な」
賢者「埒が明かないわね。結局どうするの」
剣士「そうだな」
剣士「消息が分からないんじゃ仕方がない。後回しにするか」
賢者「後回しって」
剣士「先に武道家に会いに行こう」
193
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:07:05 ID:3ifZBLTY
剣士「という訳で、ルーラを頼む。行き先は――」
賢者「一撃の山。だったかしら」
剣士「そうだ、よく覚えていたな。確か現地の言葉で『ゲキザン』だったかな」
賢者「きっかけに乗じて、知ってることをとりあえずひけらかす人っているわよね」
剣士「はいはいそうだな。で、ルーラで行けそうか?」
賢者「待って」スッ
剣士「頼む」
賢者「静かに」
剣士「……」
賢者「そうね」
賢者「行けるわ」
剣士「やっぱり瞑想のイメージって大切なんだな」
賢者「別に。さっきの間は特に意味はないわ」
賢者「ただ一旦、あなたを黙らせたかっただけ」
剣士「そういう嫌がらせじみたことはやめろよ!」
194
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:07:59 ID:3ifZBLTY
賢者「ただ、あの山に行く前に断っておくけど」
剣士「武道家のことか」
賢者「ええ」
剣士「大丈夫だ。ちゃんと考えてるさ」
剣士「最後にあんな状態で別れたからな。加入を無理強いはしない」
賢者「ならいいけど」
剣士「それに、ニセ勇者騒動の煽りを食らった一人だ」
剣士「俺たちがその気でも、あっちの方から拒絶するかもしれない」
賢者「それでもいくの」
剣士「ああ」
剣士「俺は前のメンバーで旅をしたいからな。出来るなら」
剣士「頼むよ。ルーラ」
賢者「そう。 いいわ」
賢者は ルーラを となえた! ▼
195
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:08:56 ID:3ifZBLTY
【一撃の山】
トンッ タッ
賢者「着いたわ」
剣士「ふもとだな」
賢者「そうね」
剣士「できれば、山頂の道場に直接飛んでいって欲しかったんだが」
賢者「そうね」
賢者「運任せになるけど、バシルーラという呪文があるの」
剣士「分かった。悪かった。歩いていこう。行くぞ」 ザッ ザッ ザッ
賢者「無能扱いされた気がして不愉快ね」ザッ ザッ
剣士「誰もそんなこと言ってないだろう」
賢者「誰かが言った言ってないなんてどうでもいいの。私が不愉快なの」
剣士「! ……不愉快なのはお前だけじゃないみたいだぞ」
賢者「そう。ご勝手に」
剣士「違う、魔物だ!!」
196
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:10:05 ID:3ifZBLTY
ごうけつぐまが あらわれた!
ガルーダが あらわれた! ▼
ごうけつぐま『グオオォォン!!』
ガルーダ『ゲェー! ゲェー!』
賢者「挟まれてるわね」
剣士「前門のクマ、後門の怪鳥か」
賢者「どうするの」
剣士「後ろのガルーダを任せるが、大丈夫か? 久々の戦いなんだろう」
賢者「何なら前も任せてもらっても結構よ」
剣士「頼もしいな。だがそれには及ばない」
ごうけつぐま『グオオオオオッ!!』
剣士「すぐ終わる」
剣士は ブロンズナイフを ぬきはなった! ▼
197
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:10:54 ID:3ifZBLTY
ごうけつぐま『グアアアアッ!!』
ごうけつぐまの こうげき!
剣士は ひらりと みをかわした! ▼
剣士「ふっ」
剣士は からだを バネのようにしならせた!
剣士は しっぷうづきを はなった!
ブロンズナイフは ごうけつぐまの 急所を つらぬいた! ▼
ごうけつぐま『グオオッ……! オ……オオン……』
ズ ズ ー ン
剣士「……うまく山に還れよ」 ヒュヒュッ スッ
ごうけつぐまを たおした! ▼
剣士「さて、うちの姫さんはどうかな」
198
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:13:21 ID:3ifZBLTY
ガルーダ『ゲエエ! ゲエエ!』 バッサ バッサ
賢者(不思議ね)
賢者(こうして戦いの際に立つと、屋敷にこもっていた頃の方が夢みたい)
賢者(敵。この緊張感。杖の感触。敵。湧き出る魔力。呪文のイメージ。敵)
ガルーダ『ゲエエーッ!!』ビュウウウウゥゥ
ガルーダは きゅうこうかした! ▼
賢者(一年ぶりだなんて冗談、まるで前の旅と今日とを繋ぎ合わせたよう)
ガルーダの こうげき! ▼
賢者「あとは役者が務まっていれば、完全に勘が戻っていたわね」
賢者は メラゾーマを となえた!
ガルーダに 分厚いひばしらが ちょくげきした!▼
ガルーダ『グエエエエエェェェェッ!!』 バササッ バササササ バサ…
賢者「おやすみなさい」
ガルーダを たおした! ▼
199
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/03/29(日) 09:15:14 ID:3ifZBLTY
剣士「終わったな。ケガも無いか」
賢者「した方がちょうど良かったくらいよ」
剣士「何よりだ。俺たち、ちょっと強くなりすぎたな」 ザッ ザッ ザッ
賢者「実感はないわね」 ザッ ザッ ザッ
剣士「初めてここに来たときは、死闘の連続だったもんだ」
賢者「記憶にないわね」
剣士「お前も、まだメラミを覚えたばかりだった」
賢者「下らないことは覚えているのね」
剣士「あの時はそりゃあ、楽しそうに乱発してたからな」
賢者「記憶にないわね」
剣士「今も楽しそうだけどな」
賢者「記憶にないわね」
剣士「照れるなって」
賢者「誰も照れてなん」
剣士「シッ! 魔物だ。さっきより多いぞ、気をつけろ――!」 ダッ
200
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 09:15:46 ID:3ifZBLTY
いったんここまで
201
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 09:22:10 ID:xLqMFUAM
乙
202
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 09:26:51 ID:xKXq9NQs
賢者可愛い
203
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/29(日) 16:58:05 ID:20f43VuU
続き待ってるぜー
204
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/30(月) 02:37:26 ID:8rsHK5tU
おつん
205
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/03/31(火) 08:01:44 ID:tQy8djjA
回想でもいいから一度目の旅のときの雰囲気を見てみたいな
メラミ乱発してはしゃぐ賢者見てみたい
206
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 12:56:43 ID:/c/whufc
まだどうなるか分かりませんが、回想自体はちょくちょく挟んでいこうと思ってます
投下します
>>199
〜
207
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 12:57:19 ID:/c/whufc
――――――――――
剣士たちは まもののむれを たおした! ▼
剣士「……ふう。これで10戦目を超えた訳だが、さすがに疲れてきたか?」
賢者「疲れるとしたら、あなたの執拗な気遣いね」
剣士「いやしかし、とても1年ぶりとは思えないぞ。全戦無傷じゃないか」
賢者「それが、私が疲れてると思う根拠なの」
剣士「無理してるなら言えってこと。高等呪文を連発してるのは分かってるぞ」
賢者「あなた」
賢者「『賢者』の号を持つ意味が、いまひとつ分かってないようね」
剣士「そりゃ、からきしだからな。あんだけ豪勢に使いまくっても平気なもんなのか?」
剣士「以前はメラゾーマだけに魔力使っても、50発ぐらいが限度だったろ?」
賢者「今の私なら、余裕で100は数えられるわ」
剣士「なっ」
賢者「精神修養を欠かしたことはないの。甘くみないで」
208
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 12:58:05 ID:/c/whufc
剣士「お前が平気なのは分かった。それで、戦いの勘は取り戻せたか?」
賢者「大体ね」
剣士「それなら、トヘロスを頼む」
賢者「なんですって」
剣士「トヘロス。一定時間、自分より格下の魔物が出てこなくなる呪文」
賢者「あなたより知ってるわ。私が言いたいのは、今さらその呪文を使う意味よ」
賢者「まさか私の戦いの勘を取り戻すためだけに、無駄な戦闘を繰り返させたというの」
剣士「ああ。だが、もう確かめた。大丈夫だ。トヘロスだ」
賢者「不愉快ね。要は使い物になるかどうか、上から見定められたんだわ」
剣士「仕方ないだろ。一応命がかかってるんだ」
剣士「でも杞憂だったな。1年前と同じ、いや呪文を見るに当時よりキレがあるくらいだ」
賢者「もし私が使い物にならなかったら、どうするつもりだったの」
剣士「そんときゃ……まあ、俺が結成するパーティーの一人だからな」
剣士「守るさ。俺が」ザッ ザッ ザッ
賢者「 不愉快ね、それは。不愉快極まりないわ」 ザッ ザッ
209
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 12:58:43 ID:/c/whufc
――――
ザッ ザッ ザザッ ザッ ザッ
ザッ
【一撃の山・道場・門】
剣士「着いた」
賢者「見れば分かるわ」
剣士「トヘロス使えばすぐだったな。基本的に一本道だもんな」
剣士「一応、山頂近くまで歩いてきた訳だが、足は疲れてないか?」
賢者「平気」
剣士「体力まで鍛えているのか」
賢者「平気なものは平気としか言えないわ」
剣士「やせ我慢だけはするなよ」
見張り「おい、お前ら何者だ!?」
剣士「ん?」
210
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:00:29 ID:/c/whufc
見張り「そこの二人、この道場に何の用だ?」
剣士「ああ、用があって来たんだ。早いトコこのでかい門を開けてくれよ」
見張り「怪しいなりだな。入門希望者か?」
剣士「じゃなかったらどうする?」
見張り「そうだな。お前なら賊と見立て、こらしめてやる」
賢者「名答ね」
剣士「愚答だ」
剣士「じゃあ、入門希望者でいいや。とにかく中に通してくれ」
見張り「ならば、入門に足るかどうか、実力を確かめる」
剣士「んん? 待てよ、この道場は、来る者は拒まない信条じゃなかったのか?」
剣士「武者修行がてらだろうが、孤児だろうが、どんな厄介者も受け入れたはずだろう?」
見張り「そんな考えはもう古い。より強い者をより強く育むのが、今の流派の考え方だ」
剣士「流派? 流派が……変わった?」
見張り「おい、そっちの女! お前はどうするんだ?」
賢者「無作法ね。メラミで十分かしら」 剣士「えっやめろよ」
211
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:01:17 ID:/c/whufc
見張り「女、顔を上げろ。お前は何者だ?」
賢者「 」ツーン
剣士「ああ、こいつは賢者様だよ。ただの俺の連れだ」
見張り「賢者? ああ、道士様か」
見張り「我が道場ではケガ人も多い。是非客人として迎えたいが」
剣士「だってさ」
賢者「何。聞いてなかったわ」
剣士「だってさ!」
見張り「道士様なら、無条件で中に入れてもいいと言っている!」
剣士「こっちの方が賊だったらどうするんだよ」
見張り「無論、お帰り願う。無傷で済むかどうかは別にしてな」
剣士「だってよ」
賢者「イオナズン10発程度で済むかしら」
剣士「聞こえてんじゃねーか」
見張り「おい、結局どうするんだ!?」
212
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:02:18 ID:/c/whufc
剣士「分かった分かった。さっさと『実力を確かめる』とやらを済ませてくれ」
剣士「こっちもそんなに暇じゃないんだ」
賢者「嘘。稀代の暇人のくせに」
剣士「そうだっけ」
見張り「よし、行け! 門下生A、B、C!」
剣士「ん?」
「チョワーッ!」 バッ
「イヤーッ!」 ビュンッ
「ハーッ!」 ザザザッ
門下生A・B・C があらわれた! ▼
見張り「その3人の中から、一人を指名しろ」
見張り「そいつから1本取れたら、入門を認めてやる」
見張り「それぞれが拳、蹴、柔術の使い手だ。自分が得意だと思う相手を選ぶんだな」
剣士「……」
剣士「賢者、変わってみるか?」
賢者「嫌。戯れ事はあなたが付き合って」
213
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:03:18 ID:/c/whufc
門下生A「さっさと選べ。俺なら文字通りすぐに門前払いにしてやる」
門下生B「お前はまだ門下ではないから、持ってる武器を使っても構わんぞ」
門下生C「道士様、あなたが望むなら、この輩を付き人扱いで中に通せますが」
剣士「待て。分かった。決めた」
剣士「まず、あんたら3人まとめて相手するのは前提として……」 ザッ ザッ
門下生A「何ィ?」
門下生B「おい、逃げるのか?」
門下生C「……ん? 剣を抜いて何をするつもりだ?」
剣士「よっ」 ヒュヒュッ スパパッ
剣士は 近くの木のえだを 切りとった! ▼
剣士「賢者」ザッ ザッ
賢者「何」
剣士「こいつの両端を、メラで軽くあぶってくれ」
門下生「??」
見張り「??」
214
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:04:59 ID:/c/whufc
剣士「――うん、上等だ」
剣士は ひのきのぼうを そうびした! ▼
剣士「見ての通り、俺は剣士だ。武道も多少かじってるが、得意ではない」
剣士「だからこうしよう。俺はこの『剣』を使わせてもらう代わりに」
剣士「もしこの『剣』が折られたら、即座に負けを認めて帰ろう」
剣士「もちろんあんたら3人同時に相手して、だ。これでどうだ?」
門下生「「「……」」」
見張り「……はぁ」
見張り「おい、門下生A。この調子に乗ったお上りさんを帰らせてやれ」
門下生A「押忍」 ザッ
剣士「おっ、一人か? お前、でかくていい身体してるな」
門下生A「俺たちはふざけて修行に励んでるんじゃねえ」
門下生A「魔王軍に対抗すべく、命を賭して身体を鍛えている」
剣士「ああ。いい事だ。本当にな」
賢者「 」フアァ…
215
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:06:09 ID:/c/whufc
門下生A「だからお前みたいな半端な男を見ると――」
門下生Aは せいけんづきを はなった! ▼
門下生A「無性に腹が立ってくる!」 ブオォッ
剣士「半端か」
剣士は ひらりと みをかわした! ▼
剣士「そうかもな」
門下生A「ぜええぇい!!」
門下生Aは せいけんづきを はなった! ▼
剣士は 上体を そらした ▼
門下生Aの ばくれつけんを はなった!! ▼
剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした!
剣士は ひらりと みをかわした! ▼
門下生A「な……ニィ?」
剣士「おいおい、仮にも入門希望者に出す技じゃないだろ、それ」
216
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:07:12 ID:/c/whufc
剣士「ほら。俺の『剣』はここだぞ」フワフワ
門下生A「うおおおっ!」
門下生Aは しっぷうづきを はなった! ▼
剣士は 胸もとを そらした ▼
剣士「ほりゃ」
剣士は 門下生Aの わきばらを かるく突いた ▼
門下生Aは バランスを くずし たおれこんだ! ▼
門下生A「がはぁ!」 ドシャッ
見張り「ど、どうなっている……?」
門下生B「あ、あいつタダモンじゃないぞ!」
門下生C「そりゃそうだ……思い出した」
門下生C「どこかで見たことがあると思ったらあいつ、ニセ勇者だ! 1年前の!」
剣士「おっ、憶えてる奴がいたか」
賢者「いつ聞いても不名誉な称号ね」
剣士「否定も拒絶もしないさ」
217
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:07:57 ID:/c/whufc
見張り「お前たち、全員でかかれ! そやつは我らが流派の敵だ!」
見張り「『痛恨流』にかかれば、紛い物の勇者など大したことはない!」
剣士「『痛恨流』……?」
門下生B「確かに、あの出来損ないと通じていたなら、我々の敵だな」
門下生C「ニセ勇者か……道場での噂通りの軟弱者か、確かめてやろう」
門下生A「こいつ、ぶっ潰してやる!!」
剣士(武道家は『会心流』だったはず……)
門下生A・B・Cは 同時に とびかかった!
門下生Aは せいけんづきを はなった!
門下生Bは あしばらいを はなった!
門下生Cは ともえなげを しかけた! ▼
剣士(この1年で何があったんだ?)
剣士は ひらりと みをかわし ひのきのぼうを くりだした!
剣士は ひらりと とびあがり ひのきのぼうを くりだした!
剣士は ひらりと 身体をひねり ひのきのぼうを くりだした! ▼
門下生「ぐわあああ!」「ぎょえーっ!」「ぬわーっ!!」ザザザーッ
剣士「ま、いいか。よーしどんどん来い!」 ヒュホッ!
218
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:09:00 ID:/c/whufc
――――
門下生A「ハァ……ハァ……」
門下生B「ぜぇ……ぜぇ……」
門下生C「ひゅー……ひゅー……」
見張り「そ……そんな……」
剣士「もう全員立てないみたいだな」
剣士「なら俺の勝ちだ。1本取ったらいいんだろ? もう100本は取ったぞ」
見張り「くっ……」
剣士「早く開けてくれ。開けないなら勝手に入るぞ」
見張り「馬鹿な……ニセ勇者は魔王討伐に敗走した小物ではなかったのか」
剣士「ニセ勇者ってのは、騙ってた訳じゃない。勘違いしてたんだ」 トンッ トンッ
剣士は 一気に見張り台まで とびあがった! ▼
見張り「!? は、速――」
剣士は きゅうしょづきを はなった!
見張りは きをうしなった! ▼
剣士「偽物だから弱いとでも思ったか? 高いところから見下ろしてんなよ」 コンッ
219
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:10:31 ID:/c/whufc
賢者「終わったの」
剣士「ああ。待ってくれ、すぐ内側から開ける」
賢者「必要ないわ」
賢者は アバカムを となえた!
とびらは 低い音を たてはじめた! ▼
剣士「おっ、そんな呪文もあったか」
ズズズズズズズズズズズズズ
ズゥーンン……
賢者「茶番を無視して始めからこうしても良かったのだけれど」 スタスタ
剣士「ややこしくなりそうだからやめてくれ」 ヒュー スタッ
賢者「なんですぐ終わらせなかったの。自分の力を誇示したいの」
剣士「あいつらがどの程度の実力かを知ろうと思ってさ。あと肩慣らし」
賢者「何か収穫はあったの」
剣士「即席ひのきのぼう」
賢者「暇人ね」
220
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:12:12 ID:/c/whufc
【一撃の山・道場・境内】
剣士「懐かしいな、この雰囲気」スタスタ
賢者「私も嫌いじゃないわ」スタスタ
剣士「……道場内から気合いが響くな。あの中に武道家もいるんだろうか」
賢者「あの子、新しい流派とやらに改めたのかしら」
剣士「さあな。まずは中に入って――」
剣士「!」
トタタタタタタ…
賢者「! ねえ。あそこで雑巾がけしてる子って」
剣士「おい、武道家!」
武道家「!!」ピタッ
武道家「あ! 勇者さん! 魔法使いさん!」
武道家「お、お久しぶりです!! どうしてまた、こちらに?」
剣士「武道家。お前。1年経ったのに」
剣士「片目片腕のままなのか」
221
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/10(金) 13:13:11 ID:/c/whufc
ここまで
222
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 13:25:53 ID:HF1JV3R2
乙
223
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 14:00:32 ID:YSxM6/ig
乙
224
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 21:10:45 ID:s.uSFaIs
乙
乙
225
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 21:31:49 ID:.KydA0OI
乙!
226
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 22:58:34 ID:QyiG4qBo
ここの住民はスルー力を鍛えるべき
227
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 22:59:16 ID:QyiG4qBo
誤爆でした
228
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/10(金) 23:47:44 ID:s.uSFaIs
特定した
229
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/11(土) 11:07:06 ID:Kt5Gr8Xc
片目片腕って武闘家ボロボロじゃねえか
230
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/11(土) 15:03:52 ID:mUvhQETM
せな報われてほしい乙
231
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/11(土) 17:46:49 ID:sRKJZj0M
修行で封印してるとかそういうのかと思った
232
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:49:23 ID:MEUD3F.g
投下します
作中の固有名詞は、基本的に原作準拠の方針ですが
「武闘家」に関しては、筆者の小さいこだわりで「武道家」表記にしてます
233
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:50:29 ID:MEUD3F.g
武道家「はい! 大丈夫です、自分はもう慣れました!」
剣士「慣れたって……簡単な義肢も用意してもらえなかったのか?」
剣士「目だって、すぐに教会に通い続ければ……」
賢者「ちょっと。その眼帯、取ってもらえる?」
武道家「え? ええっと……は、はい」
武道家は 眼帯を はずした ▼
武道家の 左のひとみは 白くにごっている…… ▼
賢者「……」
剣士「こいつは、回復呪文もマスターしたらしいんだ」
武道家「えっ!? そ、そうなんですか! すごいです!」
賢者「じっとしてて」
武道家「は、はい、すみません」
賢者「……」
剣士「……どうなんだ?」
賢者「ちょっと黙ってて」 剣士「へい」
234
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:51:20 ID:MEUD3F.g
賢者「……難しいわね」
賢者「視力を失った状態が、完全に定着してしまっているわ」
賢者「無闇に回復呪文を集中させたら、かえって悪化するかもしれない」
剣士「なんとかならないのか」
賢者「分からない。なるかもしれないけれど、恐らく分の悪い賭けになるわ」
剣士「そうか……」
剣士「武道家、改めてすまない。俺があの時、至らなかったばかりに――」
武道家「いえいえそんな、とんでもないです! いいんです!」
武道家「自分はこうしてまた、この道場に戻れただけで満足なんです!」
剣士「でもお前。かつては『武姫』と謳われた会心流筆頭だぞ」
剣士「なんだって小間使いみたいなことさせられてるんだ」
武道家「そ、それは……」
ダンダンダン ダ ン ! 門下生「おい!」
武道家「!」
門下生「いつまでダラダラ廊下やってるんだ! こっちも手伝え!」
235
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:52:30 ID:MEUD3F.g
武道家「は、はい! 申し訳ありません、ただ今!!」スッ
賢者「ちょっと」
門下生「ん? なんだ客人か?」
賢者「この子、左腕が無いのよ」
賢者「なんでこんな無茶なことをさせるの」
門下生「はあ?」
剣士「よせ」
武道家「あ、あの、魔法使いさん」
賢者「あなただったらどうなの。片腕がなくなっても、廊下がけなんてできるの」
武道家「いいんですッ!!」
賢者「!」
武道家「あ、あの、自分のことは本当に、大丈夫ですから」
武道家「あの、申し訳ありません! いとまの分は、必ず埋め合わせますので!」ペコッ
門下生「……ちっ。さっさと来いよ」 ダン ダン ダン…
武道家「そ、そういう訳なので、お二人とも、また!」 トタタタタタ…
236
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:53:48 ID:MEUD3F.g
剣士「……」
賢者「ねえ。さっきはなんで止めたの」
剣士「ん? 俺か?」
賢者「『よせ』って言ったわ。あの子はあのままでいいということなの」
剣士「俺だって気持ちは同じだ。だが、あそこは出しゃばるべきじゃない」
剣士「俺たちは事情を知らないが、武道家はすでにあの立場が長いようだ」
剣士「面倒事を起こせば、不利になるのは当人だろう。まずは様子見だ」
賢者「悠長ね。あなたはあの子をみて何とも思わないの」
剣士「もちろん、一刻も早く引き取るつもりさ」
剣士「だがその前に、会って話をすべき人物がいる」
賢者「誰」
剣士「そこの木陰のご老人だ」
賢者「!」
老師「……ほほっ。流石は勇者殿と呼ばせてもらってもよろしいかな」
剣士「ええ。お久しぶりです、師範」スッ
237
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:55:15 ID:MEUD3F.g
老師「『勇者』が変わったと聞き気がかりじゃったが、達者であったか」
賢者「ご無沙汰です師範様。ごきげんよう」 スッ
老師「ほほっ、よいよい。今のわしは、ただの厄介者の隠居じじいじゃ」
老師「わしを師範と呼ぶものは、この道場にはもう一人もおらんよ」
剣士「そのようで。流派改新の件、先刻耳にしたばかりです」
老師「ふむ……左様か」
賢者「師範様。以前我々と旅を共にした、あの武道家についてですが」
老師「うむ、分かっておる。おぬしらは、あの子を引き取りに来たんじゃろう」
剣士「それは可能で?」
老師「……その前に」
老師「おぬしらは、あの子の生い立ちをどこまで知っておる?」
剣士「……孤児だとしか。細かいことは」
賢者「ただあの子は、義理の兄がいると言ってたわね」
老師「……もう夕暮れ時じゃ」
老師「積もる話は、わしの庵で語ろう――」
238
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:57:06 ID:MEUD3F.g
【一撃の山・老師の庵】
パチパチパチパチ…
賢者「前から思ってたけど、不思議な暖炉。部屋の中央で火を焚くのね」
剣士「確かイロリって言うんだ。このカギに鍋を吊るして、汁物を煮込んだりできる」
老師「大したもてなしも出来んで済まんな」スタスタ
剣士「おお、鍋だ!」
老師「どっこいしょっと」 ガコン ジュウゥゥゥ…
賢者「師範様、お炊事でしたら手伝いましたのに」
老師「構わんよ、さほど凝ったもんでもない」
老師「とはいえ、多少は客人向けに贅沢はしとるがの。ふぉっふぉっ」
剣士「かたじけない」
賢者「お気遣い、痛み入ります」
老師「ほほ。おぬしらからは、根っこから謙虚さが伝わってくる」
老師「まるであの子と語らっとる気分じゃ」
239
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 12:58:34 ID:MEUD3F.g
賢者「あの子……武道家のことですか?」
老師「うむ。何から話そうかの」
剣士「では、先刻おっしゃっていた生い立ちから」
老師「ああ、そうじゃの」
老師「まぁ、別に珍しい話じゃありゃせんよ」
老師「ある時期から魔物が活発になって以降、日々の生活に苦しむ村が出始めての」
老師「主に遠くの村から、ここまで連れて来られる子が増えてきたんじゃ」
老師「それである時、二人の子供が届けられた。6つの女子と8つの坊主じゃ」
賢者「その女の子が、武道家なのですね」
老師「うむ。二人に血縁は無かったが、同郷出身ということもあり、まるで兄妹のように仲が良かった」
剣士「その義理の兄は、今?」
老師「そこの道場で、『痛恨流』の師範代をやっておる」
剣士「! 新流派の師範代……」
賢者「それなら、なんであの子が雑用なんかさせられているの」
老師「ふむ……順を追って話そう」
240
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 13:00:08 ID:MEUD3F.g
老師「連れて来られた二人に、並外れたような武術の才は無かった」
老師「ただ女子の方は、当時わしが師範を務めていた流派、『会心流』の理解が早かった」
老師「積極進取を信条に道場内を奔走し、一刻千金とばかりに時を修行に費やした」
老師「素直でひたむきなこともあいまって、その技量は天井知らずに上達した」
老師「ひいては、王都の勅命であった魔王討伐召集に推薦できるほどにな」
剣士「……『ゲキザンの武姫』」
老師「その二つ名は、元々その義理の兄がつけたものじゃ」
賢者「どうしてそんな」
剣士「多分、開き直ったんだろう。もう追いつけないと知って」
賢者「えっ」
剣士「兄の方は、妹の上達についていけなかった。違いますか?」
老師「……そも、『会心流』は他と優劣を競う流派ではない」
老師「兄はそれを理解できず、目先で膨らんでいく妹の影に焦る一方じゃった」
老師「しかし後に、流派に関わる一大事が起きた。同時に、それは兄の転機でもあった」
剣士「……『ニセ勇者発覚』、か」
241
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/04/14(火) 13:02:48 ID:MEUD3F.g
ここまで
242
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/14(火) 13:09:34 ID:H2gQxlvY
乙!
243
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/14(火) 14:18:59 ID:8uF/hlC.
乙
244
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/14(火) 16:58:46 ID:GJp5K2aQ
けっこう楽しみにしてる!
245
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/14(火) 17:25:21 ID:kbReIwq2
読み返したら、2014年中終わらせるつもりと書いてあるぞwww
楽しく読ませてもらってます。
乙。
246
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/04/22(水) 23:15:31 ID:UWmn3Jys
まだかなーー
247
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/05/02(土) 10:10:02 ID:1Gk6gJmk
保守
248
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/05/24(日) 23:10:41 ID:Ivp9ihZY
保守あげ
249
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/05/26(火) 09:35:08 ID:/vKe/miY
1か月以上続き無しか…
大丈夫か?
250
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:25:05 ID:1Flk/wVA
かなり遅れて申し訳ない
>>240
〜 から続き投下
251
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:26:10 ID:1Flk/wVA
老師「そう――魔王討伐に赴いたおぬしらは、とある戦いで敗れた」
老師「代わって現れた者が、のちに正式な勇者と定められた」
老師「よってぬしらは国をたばかった贋物とされ、余儀なく旅を断ち、各地へ散った」
剣士「……」
老師「じゃがのう。話を聞くに、ぬしらは何ひとつ誤ってはいない」
老師「非力な人々に代わり、世の危難に立ち向かい、命を賭して戦った」
老師「どこにそしり咎めを受ける謂れがある。かけられるべきは、感謝と労いではないのか」
剣士「……師範は」
剣士「俺たちが命を賭けて戦ったなんてこと、信じますかぃ?」
剣士「旅をするふりをしながら、あちこちで勇者を騙って盗みをはたらいた、なんて話もありますがね」
賢者「それはある意味間違っていないけれど」
老師「ぬしらを信じる由縁……それはのう。ここに帰ってきたあの子の眼じゃ」
剣士「武道家の?」
老師「うむ。隻眼にこそなれど、そのまなこは純真を保ち、なお前を向いていた」
老師「未だ、嘘をつくことも知らぬ眼のままじゃった」
252
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:27:36 ID:1Flk/wVA
老師「旅からこの地へ帰ったとき、あの子は創痍の体で何度も訴えておったよ」
老師「勇者たちは戦ったと。自分がこのような身になったのは、ひとえに自分が未熟だったためと」
剣士「……」
賢者「……」
老師「じゃが当時の多くの弟子たちは、腕と眼を失った『武姫』の姿を見て、迷った」
老師「自分達が最強と信じて疑わなかった拳士が、深い傷を負って戻ってきたのだ」
老師「このまま『会心流』の場にいて、果たして将来大成なれるのか、と」
賢者「俗ね。何が起きたかも知らないくせに」
剣士「しかしお言葉ですが、仮にも御師の弟子達です。そう簡単に疑心を抱くとも思えませんが」
老師「ふむ……」
老師「それはの……」
老師「……ここから先は、我ながら情けない話になるが」
老師「あの子が傷つきここに帰ってから半月も経たないうち――とある男もまた、帰ってきたのじゃ」
剣士「とある男」
老師「うむ。わしの一番弟子――義理の一人息子じゃ」
253
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:28:50 ID:1Flk/wVA
剣士「師範の……義理の息子」
老師「その男は、幼少より常に『最強』を志しておった」
老師「成長するにつれ、しばしばわしのやり方に異を唱え、衝突するようになった」
老師「わしとあの男はついに和解できず、ある日を以てわしが破門とした」
老師「そのまま道場を去って10年になるが――」
賢者「このタイミングで帰ってきたという訳ですね」
剣士「なるほど。ということは、流派改宗を立ち上げたのは」
老師「いかにも。その愚息じゃ」
賢者「『会心流』の武道家がボロボロになった頃合いを計るなんて、浅ましい性分ね」
剣士「しかし……『会心流』も長く続いた流派だ。門下生全員を納得させる手段となると……」
老師「ふっ、察しよし。言うたじゃろう、情けない話になると」
老師「この山で拳を極めた者同士が、門下総出で立ち会う中、全霊を懸けて仕合う『一撃仕合』」
賢者「いちげきじあい……?」
剣士「……」
老師「わしは道場を懸けてあの男と闘うことになり、その『一撃仕合』に――敗れた」
254
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:29:32 ID:1Flk/wVA
――――――――――――――――
――
師範は 道場の端に 吹き飛ばされた! ▼
師範「が……がふっ……」
武道家「師父!!」
タタタタタ
武道家「! 師父、血の色が……まさか病が……」
拳士「『会心』の門下たちよ、しかと目に焼き付けておけ! これが現実だ!!」
拳士「勝たば強し、敗らば弱し、まことの強さは常に二者択一」
拳士「約束通り、この道場は俺が預かる。そしてこれをもって」
拳士「新流派の立ち上げを宣言する!!」
門下生『『『!?』』』
拳士「はっきり言ってやろう。今のままではお前たちに真の強さは得られん!!」
255
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:31:53 ID:1Flk/wVA
拳士「お前たちのやってる会心流は、自己満足の流派だ!!」
拳士「真の強さとは、幾多の『勝利』の先にある!」
拳士「己が殻にこもった末に手に入れた、証なき力など、児戯に等しい!」
拳士「打ち負かしてこそ、踏みつけてこそ、敵を喰らい糧にしてこそ、高みは目指せるのだ!」
拳士「強さには、正誤も善悪も貴賎もない! そんなもの知ったことではない!!」
拳士「全ては修行の果てに得た、『勝利』で築いた山の大きさだ!」
拳士「そして――最も高い山を積み上げた者が」
拳士「『最強』の座を得られるのだ」
門下生『『『……………………』』』
義兄「……」ゴク
拳士「俺は『最強』を目指している。心底からだ。誰よりも強くなるために闘っている」
拳士「新流派立ち上げは……俺なりのけじめだ。だがやる以上は、本腰は入れよう」
拳士「ついてくる者は、我が元に座せ。その瞬間から入門を認めてやる」
拳士「来ない者は、一生あの爺の元で戯れているがいい。俺の流派には無用だ」
拳士「ただ、あの爺はたったいま俺が下した。その現実を改めた上で決めることだな」
256
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:32:36 ID:1Flk/wVA
武道家「師父! 大丈夫ですか! 師父!!」
師範「フゥ……フゥ……」ボタボタ
武道家「口から血が……は、早く薬草を……」
武道家「だ、誰か、師父を庵へ! 義兄上!!」バッ
拳士「ほう。いの一番に馳せるとは見所があるな」
義兄「はっ。私は師範の弁に感銘いたしました」
義兄「是非ともわたくしめも、師範と共に『最強』を志したく存じまする」
拳士「ふっ、師範か。良かろう、見込み次第では、お前を師範代にすることも考えてやる」
義兄「はっ、ありがたきお言葉!!」
武道家「あ……義兄……上……?」
門下生『『『…………』』』 ゾロゾロ ゾロ ゾロ
武道家「!? み、皆……なぜ……」
武道家「師父が……師父の血が止まらないというのに……」
257
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:33:22 ID:1Flk/wVA
師範「うっ……ぐぶっ……武道家よ……」
武道家「師父!」
師範「行け……お前も行くのだ」
武道家「師父!? どうして……」
師範「わしなら大事ない。いいから行け」
武道家「し……しかし……血が……」
師範「大事ないと言っておる。真にわしを慮るならば行け」
師範「会心流は、必ずしも流派という型に収められるものではない」
師範「流派を乗り変えたとて、会心流を捨てたことにはならぬ。――行け」
武道家「……」
武道家「……押忍……」 スッ…
スタスタスタスタ
スッ
拳士「お前が最後の一人か。誰かと思えば、ニセ勇者についていった負け犬か」
拳士「どの道来るのが遅かった者は、まず性根から改めねばならん。覚悟しておけ――」
258
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:35:21 ID:1Flk/wVA
――――――――――――――――
――
賢者「……そんなことが……」
剣士「それであいつは、新流派では下っ端扱いされているのか」
老師「……新しく立ち上げられた『痛恨流』とは、勝つための流派」
老師「いかに痛みを与え、急所を狙い、心から折り……勝ちを得るか」
老師「力に振り回されやすく、視野の狭い体系からなる、危険な流派だ」
賢者「下らないわね。それこそ児戯だわ」
剣士「……考え方は戦いにおける理の一つではあるが、それが全てでは話にならないな」
賢者「そんな野卑な流派に、あの子がついていく訳ない。すぐに引き取りましょう」
老師「それが実は難しいのじゃ」
賢者「えっ?」
老師「道場のしきたりでな。破門と免許皆伝の際には、山を降りる前に」
老師「必ず『一撃仕合』をもって、実力を示さねばならん」
老師「そしてわしの知る限り――あの子は新流派において、一度も本組み手で勝ったことがない」
259
:
◆RvUAp8KrlM
:2015/06/04(木) 12:35:57 ID:1Flk/wVA
ここまで。これからちょくちょく更新していきます
260
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/04(木) 12:54:55 ID:94oBymyU
乙!待ってる!
261
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/04(木) 18:33:03 ID:ajlfWZBs
乙乙
262
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/04(木) 19:16:38 ID:dBAM0/PA
破門で血から試すって残るためのものでつれてくにはかんけーなくないか
263
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/05(金) 09:02:57 ID:FpyhVwag
更新きてた!
わくてか
264
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/07(日) 13:55:09 ID:dn9S0IkY
週1のペースでいいから更新きてくれると嬉しい
265
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/06/24(水) 16:04:01 ID:6CH///2.
待ってる
266
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/04(土) 02:41:28 ID:7FuSlESA
あげ
267
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/04(土) 04:12:31 ID:a3FpeSbs
一気見してしまった
続きが楽しみ
268
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/04(土) 06:40:37 ID:pYDGnZwI
こりゃ2015年中にも終わらないな
269
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/15(水) 21:57:42 ID:2bzil37o
続きが気になる
270
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/17(金) 22:40:43 ID:Hzpj9k1k
待ってる
271
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/22(水) 12:18:47 ID:mYgXkZjQ
この文体、まさか…いやまさか…
……冒険の書が完結しない、の作者さんですか?
272
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/07/31(金) 23:14:18 ID:clRMAYek
ほしゅ
273
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/08/04(火) 18:45:14 ID:/gXknnF6
期待
274
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/08/06(木) 07:37:57 ID:j7DebIUM
>>271
むしろひのきのぼうの奴に雰囲気が似てると思った
275
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/08/09(日) 08:29:31 ID:vrEvphzo
待ってるんだけどなあ
もう2ヶ月か…
276
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/08/16(日) 08:35:48 ID:tD/ZdatE
>>1
さんの過去作品が知りたい
277
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/08/30(日) 00:41:26 ID:vICKMEFQ
もうだめかな…
278
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/03(木) 13:24:47 ID:jDFvuhVk
待ってる
279
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/06(日) 09:15:25 ID:awY2oW0s
やっと追い付いた
そして今気付いたんだが…武道家が女の子ってことは、偽勇者パーティーって剣士のハーレム状態じゃね?
280
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/20(日) 13:05:01 ID:.XHexFFc
待っとるで
281
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/22(火) 05:57:38 ID:GP/jUXy2
最近このss見つけて今追い付いたけど、
お願いだからえたらないで欲しい。
このssは
>>1
にしか書けないから。
待ってます。
282
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/23(水) 21:22:09 ID:OsCTJ3yY
ほ
283
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/24(木) 07:06:52 ID:85yTM0Os
これからちょくちょく更新するって発言をしておいて消えるときはもうどうでもよくなってエタるパターンだよ
284
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/09/30(水) 20:00:08 ID:YHFTpMzw
は
285
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/10/06(火) 01:28:37 ID:mM9gzD5Q
こんな気になるところで終わらせるつもりなら処刑
286
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/10/12(月) 09:24:57 ID:dUEVpAZg
ほ
287
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/10/21(水) 01:34:03 ID:5L0KBFKo
星ュ
288
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/10/22(木) 00:05:15 ID:FxKQKh4A
干し芋
289
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/10/30(金) 04:11:20 ID:g/Ma/v9g
こないの? 泣きたい
290
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/11/08(日) 19:43:10 ID:ExNdSL3k
せめて生存確認だけでもしたいところ
気長に待ってます
291
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/11/17(火) 18:57:10 ID:FDagDgZM
もう5ヶ月か
駄目みたいですね…
292
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/12/05(土) 00:15:41 ID:hgj8QY1A
あ
293
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/12/10(木) 21:28:28 ID:9emA0Tj6
はよー
294
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/12/17(木) 20:12:45 ID:AyHqXXDk
マダー?
295
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/12/19(土) 16:20:55 ID:QR4qARsM
更新ないまま年を越しそして終わっていく
296
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2015/12/28(月) 19:57:44 ID:vRS7Lg8U
まだかなぁ
297
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/01/13(水) 13:46:27 ID:q2DIUY3Q
ほ
298
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/01/25(月) 07:44:46 ID:PEqoxBTI
ほしゅ
299
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/02/01(月) 04:07:18 ID:E4TzL1PA
一体いつになったら落ちるのか
300
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/02/11(木) 00:15:20 ID:ZzFFk8mY
ほ
301
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/02/13(土) 22:49:12 ID:Bi1dMP.g
こんなに続きが読みたいのも久々だ
302
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/02/29(月) 02:19:47 ID:VzY.gcKs
何ヵ月経ってるんだこれ
保守
303
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/13(日) 11:15:41 ID:H0Gfcvz.
ほ
304
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/20(日) 18:31:01 ID:UITU0q0k
戻ってこいこい
305
:
1
:2016/04/01(金) 12:26:23 ID:NmU8o8Zo
更新再開します!
とかいう4月1日感
306
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/01(金) 17:46:53 ID:fkuof8E.
あくしろよ
307
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/11(月) 05:24:45 ID:5L7J2kVQ
保守
308
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/24(日) 07:19:43 ID:y.p0kCLU
ほし
309
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/05(木) 12:12:34 ID:oolezfuQ
まだか
310
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/10(火) 18:04:01 ID:o3FCC.7g
ほほほ
311
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/17(火) 14:31:20 ID:s.OCnSSk
ししし
312
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/29(日) 08:32:19 ID:GuqeNDEA
もうすぐ1年経つってマジ?
313
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/30(月) 22:36:11 ID:01xFibzM
>>312
まじ
314
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/05/31(火) 13:20:26 ID:N7hCNIkg
一気読みして損した
勝手に続き書くぞ?
315
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/01(水) 21:43:11 ID:GKhvuH52
乗っ取るぞ?
316
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/01(水) 23:48:39 ID:5dWn7crY
おう、どんどんやってくれ
317
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/01(水) 23:52:11 ID:at/eNsNE
つまらなかったら無視されるだけだし勝手にやってくれれば良い
318
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/02(木) 12:12:10 ID:L7sL5t8.
ほいだら書き溜め作業に入るかの
319
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/04(土) 12:52:35 ID:tbP3ivls
>>1
が最後に現れてから一年経った
320
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/05(日) 09:55:01 ID:VRIGMgs.
>>319
かなしいなぁ…
321
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/15(水) 20:05:06 ID:AZUpNbrE
まだいける
322
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/16(木) 17:58:48 ID:CQdBXGo2
乗っ取りまだ?
323
:
1
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/21(火) 06:08:09 ID:Ed0ZsVak
まだスレがあって驚きました。エタってごめんなさい。保守してくれてありがとう
乗っ取りの方には申し訳ありませんが、少しずつ勘を取り戻して後日再開しようと思います
324
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/21(火) 06:17:29 ID:IqLoEyLg
よし来た
325
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/21(火) 06:18:49 ID:hq278Xhg
よっしゃあ、俺の賢者ちゃんにまた会える
326
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/21(火) 08:18:56 ID:nwURMwbs
おおおおおおおおおおおおおおおお
327
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/21(火) 12:42:55 ID:kC18ElgY
待ってます!
328
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/21(火) 12:51:41 ID:etwKeJK.
読み直さないと(使命感
329
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/22(水) 17:51:29 ID:cFFWrH52
うわああああああ!!!
もう来ないとおもってたからすごく嬉しい…!
330
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:49:07 ID:k.2SASjs
>>258
〜
投下します
331
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:49:50 ID:k.2SASjs
剣士「一度も勝ったことがない? あの武道家が?」
賢者「待って。あの子に組み手をさせてるというの」
賢者「片腕だけでどうやって荒事ができるの」
賢者「片目の視界でどうやって対等な組み手ができるの」
老師「落ち着かれよ」
剣士「大丈夫だ、俺が最後に見た武道家は強かった。あの連中相手ならハンデにもならない」
剣士「……はずだが、本組み手で勝ったことがないというのは解せないな」
剣士「武道家は純真で実直だ。前と変わらない性格なら、稽古に手を抜くようなことは絶対しない」
老師「そう。あまりに純粋無垢にして、謹厳実直。ゆえに」
老師「長年染み付いた会心流の心・技・体を、痛恨流のそれへと新たに修めることができずにおる」
賢者「どういうこと。それが組み手と関係あるの」
剣士「大ありさ。今日聞きかじっただけでも、会心流と痛恨流はまるで考え方が違う」
剣士「純粋であればあるほど、流派を身に宿すことの影響は、戦いにもろに出るってもんだ」
老師「そうじゃ。あの子は痛恨流の門下である以上、痛恨流の信念を宿さねばならぬと思いつつも」
老師「その心は会心流を捨てきれずにおる。これではまともな組み手もできぬ。いたわしいことじゃ……」
332
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:50:34 ID:k.2SASjs
剣士「そうか……それでいつも組み手で勝てないという訳か。あの武道家ならあり得る」
賢者「勝てないってつまりどういうこと」
賢者「つまりあの子は、組み手と称してただ無闇に暴力を振るわれてるだけなの」
剣士「門下生は意気揚々だろうな」
剣士「なんせ手負いとはいえあの『武姫』に勝つんだから、自信もつく」
賢者「酷い。そんなのすぐにやめさせるべきだわ」
老師「……『痛恨流』には、門下の中で独自に細かな階級が定められた」
老師「組み手で昇格できないあの子は、未だに入門生と同じ扱いを受けておる」
剣士「雑用、下働きか。別に疲労が溜まって、まともに稽古もできやしない」
剣士「いやそれどころか、恐らくまともな睡眠すらも……」
老師「うむ……あの子がまともに休んでる姿はついぞ見たことがない」
賢者「そんな」
老師「じゃがな」
老師「あの子はどんな目に遭おうとも、いかなる稽古にもついていった」
老師「新流派になったのち、こんなことがあった」
333
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:51:47 ID:k.2SASjs
老師「この道場を越えてまっすぐ突き進むとな。半里ほどさらに山頂へと続く石段がある」
剣士「ああ、確かにやたら長い階段があったような。その先には?」
老師「このゲキザンの神を祭る、小さな社があるんじゃが」
老師「神聖な領域ゆえ魔物も近づかなくてな。昔から修行の場として皆が使っておった」
老師「ある時、我が愚息……痛恨流の師範が、門下生を石段の前に集めてこんなことを言い出した――」
――――――――――――――――――――――――――――――
師範「ここに、お前らが水を汲んだ桶がたくさん並べてある」
師範「このうち、一人四つの桶の水を、一滴も零さず社まで運ぶのだ」
師範「無論、一度も地に着けること無くだ。出来ないものは、三日間の断食を命ずる」
ザワザワ ザワザワ
門下生「お、押忍、師範!」ビッ
師範「なんだ」
門下生「桶は取っ手をつかんで右手で一つ、左手で一つ……一度に運べるのは二つまでかと!」
師範「ほう、そう思うか。ではこうしよう」
334
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/24(金) 12:53:09 ID:he8Nc2.E
やったぜ
335
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:53:27 ID:k.2SASjs
師範「この石段を、二度の往来で四つの桶を運びきったものはそれでよしとする」
師範「ただし、一度で運びきったものは即座に昇格とし、帯の色を変えてやろう」
門下生「!? そ、即座に帯を……」
師範「二度より回数をかけた者は、降格のち罰を与える。以上だ」
ザワザワ ザワザワ
門下生A「昇格たって、一度に四つ全部を運ぶのは無理だ」
門下生B「ここは二往復で済ますべきだな。それでも相当大変だが」
門下生C「いや待て……四つってこういう意味じゃないか。両ひじにかけて、ほら」
門下生A「おお、なるほど。一つずつ両ひじにかけて、あとは両手で持てばいけるな!」
門下生C「あとはこれを持ち上げ……ぬおおおっ!? お、重すぎる!!」
門下生B「ぐぬぬ……持ち上がるには上がるが……こんな状態で石段は登れぬ……」
門下生A「一滴も零さず、途中で降ろさずにだぞ! 無理だ無理だ、二つずつ運ぼう」
武道家「……」
336
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:54:35 ID:k.2SASjs
――
ハァ ハァ ヒィ ヒィ
門下生A「ふう、やっと二つ運んだ。あれ、お前は?」
門下生B「いやあ、途中ですっ転んじまって。また一からやり直しさ」
門下生C「ようお前ら、まだやってるのか」
門下生A「あれ!? お前もう終わったのか??」
門下生C「おうよ。一発で四つ運んで終わりさ」
門下生B「馬鹿な、できるわけないだろう」
門下生C「師範の言葉を思い出してみろよ、『一滴も零さず』としか言ってねえ。つまり……」
門下生C「最初に中の水を半分以上飲んじまえばいいんだよ。頭を使えば、文字通り軽々楽勝よ」
門下生A「あーっ、その手があったか!」
門下生B「いや、それは無しだろ。痛恨流はとんちや謎かけを問う流派じゃねえ」
門下生C「阿呆め、最強を志すなら頭も使わないと勝てんぞ?」
門下生B「なんだと」
門下生A「ん? おい見ろ、お前なんかよりもっとアホがいるぞ!」
337
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:55:29 ID:k.2SASjs
武道家「うーん……」
門下生B「ああ、例の雑用女か。桶の前で首傾げて何やってんだありゃ」
門下生A「ほら、師範が最後に三往復以上は罰を与えるって言っただろ」
門下生A「だからどうにかして二往復で済ませようって考えてるんだよ」
門下生C「片腕残ってんなら、ひじと手で運べばいいじゃねえか……あっ」
門下生A「そう! それすら気づかないからアホなんだよ!!」
門下生B「ぶはは、なんだそりゃ。やっぱり、頭を使ったほうがマシだな。よっこいせ」
門下生A「あ! お前なに下に置いてんだよ!」
門下生B「どうせ今周りには俺らしかいねえよ。あー水がうまい」
門下生C「お前さっきは痛恨流がどうたらとか偉そうなこと言ったクセに」
門下生B「いやあ、なんかあのアホ面見てると気が抜けちまってさ」
門下生A「はははは、確かにアホ面だ。かつての武姫様の見る影もないなありゃ」
武道家「うーん……」
338
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/06/24(金) 12:57:16 ID:k.2SASjs
いったんここまで
339
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/24(金) 13:12:39 ID:3MWFDcxo
待ってた乙乙
340
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/24(金) 13:15:41 ID:Hdt1sOQQ
おつ
341
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/24(金) 15:41:47 ID:uaSck41s
乙!
342
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/26(日) 22:50:19 ID:srSFIvzY
ポクポクポクポクポクポク
343
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/06/28(火) 09:57:40 ID:tJafgzig
待ってた甲斐があった! 支援!!
344
:
◆RvUAp8KrlM
:2016/07/01(金) 03:00:58 ID:yIlAiI3A
少しずつ書き溜めてます。もちょっと待って下さい
345
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/07/03(日) 23:31:09 ID:UYoU0UT6
生存報告があるだけで安心できる
346
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/07/17(日) 22:29:15 ID:MvBdAdVA
まだかなー
347
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/07/23(土) 07:20:37 ID:kfl0D9Tg
更新されてた。嬉しい。
乙待機
348
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/07/30(土) 20:48:25 ID:rjF9nvMA
乙
一年間待ってて良かった
349
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/08/01(月) 17:54:25 ID:NaYktM22
8月だぞー
350
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/08/07(日) 20:36:51 ID:.Z1sPII2
まだかなー
351
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/08/09(火) 15:00:27 ID:u2c/iAl.
待機
352
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/08/22(月) 12:31:31 ID:r2Iytu3M
待ってます
353
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/09/04(日) 22:23:02 ID:2GlIwOEc
まだかー
354
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/09/14(水) 14:17:17 ID:xjRTngNI
ほしゅ
355
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/09/25(日) 05:15:02 ID:WBXniXEE
もうダメか
356
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/10/09(日) 11:00:03 ID:DtCCrheM
保守
357
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/10/25(火) 20:47:51 ID:wD8q81ys
ほしゅ
358
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/11/06(日) 20:09:22 ID:2Zp/yYpY
まだかなぁ
359
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/11/18(金) 09:42:51 ID:4VW01oyE
待機
360
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/12/02(金) 07:24:58 ID:6ORZtQYs
現在行方不明の僧侶や真勇者パーティの活躍を見たいので、全力で保守
361
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/12/18(日) 18:13:02 ID:3bg2jS/M
追いついて止まってるスレがここにも…
362
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/12/31(土) 07:28:18 ID:.dtr/itc
今年最後の保守
来年も気長に更新待ってます
363
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/01/09(月) 11:32:29 ID:h/In8PNM
頼む!!続きをください!
364
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/01/25(水) 07:30:15 ID:HN4.HMR.
ほ
365
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/02/18(土) 11:42:25 ID:DQJJMgR6
し
366
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/02/20(月) 08:34:07 ID:S1mCc9ak
まだだ、まだ終わってない!
367
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/02/27(月) 04:31:21 ID:WoDqAjhk
まだかな?
368
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/03/19(日) 10:21:02 ID:6Ijq8GJM
続きは?
369
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/16(日) 08:15:39 ID:nIbfdB4o
保守
370
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/14(日) 07:36:37 ID:6O.UD4j2
保守
371
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/16(金) 09:43:15 ID:f/F7WzSk
保守!
372
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/19(水) 22:35:52 ID:xR83Wq7s
保守
373
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/20(木) 01:12:59 ID:Xt/i4VqU
革新
374
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/20(木) 06:23:33 ID:FgbAKayQ
進歩
375
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/18(金) 07:17:17 ID:RtwdynVc
保守
376
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/23(土) 23:01:17 ID:D8XdB8UI
保守
377
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/10/07(土) 09:34:41 ID:vuVWG02Q
頼む……頼む……
378
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/12(日) 19:28:52 ID:ZnAHsqq6
保守!
379
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/14(火) 16:39:53 ID:gco1k99Q
今でも一番期待してるんだぞ…
380
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/17(日) 00:35:58 ID:WIhk4RBc
追い付いた
381
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/17(日) 15:10:02 ID:OePgD5tI
もう一つ楽しみにしてた勇者モノが終わったからこっちも終わらせてくれ
382
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/06(土) 18:11:48 ID:l.dEjv8o
生きてる?
383
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/07(水) 17:34:34 ID:h8XDifN2
保守
384
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/06(火) 18:41:48 ID:.r/FA0uY
ほっしゅ
385
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/04/07(土) 20:33:39 ID:B0P5Kcwk
ほ
386
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/10(木) 07:29:03 ID:32FnFkXc
保守
387
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/06(水) 18:50:35 ID:demFMlP2
生きてるか?
388
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/07/10(火) 10:27:35 ID:AGtqmCyE
まってるんだぞおおおお
389
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/08/11(土) 11:46:55 ID:wVxIrnfs
保守!
390
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/19(水) 02:04:36 ID:gH2bwoJE
ほい
391
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/12(金) 22:40:34 ID:ECIwWZok
へい
392
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/12/05(水) 13:31:23 ID:vgh0e0q2
保守
393
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/03/28(木) 09:58:09 ID:w6I5W6Ec
保守っとく
394
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/05/02(木) 00:36:34 ID:7e7Wna7Y
まだか
395
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/06(土) 15:21:27 ID:iETZYnsk
ほ
396
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/09/07(土) 07:45:50 ID:uipyHl.M
保守
397
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/17(日) 22:18:14 ID:MYaQ.HZI
ほしゅ
398
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/01/09(木) 00:17:26 ID:JIqEx1Ug
ほほ
399
:
プラ
◆eD5nH70JFc
:2020/01/14(火) 16:23:40 ID:xgKFDWQ2
簡単に言えば、
読者「1がいなくなってから何年も経った」
400
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/03/14(土) 15:30:37 ID:f7iVAnpo
はよ
401
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/05/03(日) 03:53:28 ID:IpmnYCq6
まだこのスレあったのか嘘だろ
ただただ驚いている
402
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/05/10(日) 01:47:28 ID:hXeRhZJU
待ってるんだよ
403
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/07/13(月) 23:48:44 ID:SNgCr6nw
ほっしゅー
404
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/07/26(日) 03:42:35 ID:gHYRELkU
久々に見つけた
405
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/10/10(土) 23:31:52 ID:xUT5m/XA
保守
406
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/10/25(日) 12:21:32 ID:5NUZG7WQ
うわーん
407
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/12/19(土) 18:58:00 ID:XPD8mpYk
ほしゅ
408
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/01/21(木) 01:23:35 ID:CBw/VhRU
あけおめ保守
409
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/03/24(水) 12:19:03 ID:32l78e/I
ほしゅ
410
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/07/11(日) 12:01:45 ID:ew4eM0oo
保守
411
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/08/09(月) 22:25:30 ID:dTl1.RHM
保守
412
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/17(日) 18:34:40 ID:TczB0Fz.
保守
413
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2022/03/13(日) 23:16:56 ID:d36aYzZs
ほ
414
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2022/03/24(木) 11:23:02 ID:vC6YDHQY
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
415
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2022/09/13(火) 23:43:48 ID:xW6.C7k.
しゅ
416
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2023/12/17(日) 21:26:03 ID:z1HiFm26
ほい
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