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みんなで文才晒そうぜ part2
1
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2014/01/18(土) 18:14:17 ID:mNOcI4dM
ここはお題に沿った地の文込みのSSを晒すスレッドです
・主に地の文の練習や批評・感想の場として使ってください
・次スレは
>>990
が(規制等の際には有志が)必ず『宣言』して立てる事
・気楽な雑談がしたい方は酒場や休憩所でどうぞ
【注意】台詞形式のSSは受け付けておりません
前スレ
みんなで文才晒そうぜ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1352992635/
お題
>>2
618
:
「宇宙」(1/2)
:2017/11/05(日) 02:06:33 ID:WIWPfjjU
どこまでもどこまでも大地が続く世界。果てがない大地が続く世界。
とある王は旅人に訊ねた。この大地に果てはあるのかと。この世界はどんな姿をしているのかと。
「さて、旅人はなんて答えたと思う?」
付き合い始めて一月になるが、一体何度このような哲学的なようなそうでないような問いを聞いただろうか。軽く両手の指の数は超える。無論両手両足合わせてだ。
「そうだなぁ、まずその旅人は王様の質問の答えを知ってるの?」
「知らなかったら知らないって言うだけだから今回はそのパターンは考えません」
果てのない大地を旅する旅人は大地に果てがないことを知っている。ならばひとつめの問いには果てがないと答えるのだろう。だが果てのない大地が続く世界はどんな姿をしているかは――
「旅をしているから、世界が丸くループしていることを知っている。だから旅人はそれを教えた」
「うん。現実ならそう。でも、本当に大地が無限に続く世界だったら?」
今回の本題はこれらしい。本当に無限に大地の続く世界の姿とはどんな形か。
「空もどこまでも続くの? その上には宇宙も果てなく続くの?」
619
:
「宇宙」(2/2)
:2017/11/05(日) 02:07:29 ID:WIWPfjjU
無限の長さの大地という板に無限の長さの空を重ね、無限の長さの宇宙を重ねる。そんな形をしているのだろうか。
しかし、本当にそんな世界だというなら、どのように大地に果てがないと知るのだろう。そこにある大地が無限であるという証明を、旅人はどのようにして行ったのだろうか。
果てがない。だが果てを確認できないだけで本当は果てがあるかもしれない。大地が無限であることが真実だと仮定するこの場の二人とは異なり、旅人にはそれを証明する手立てなどないはずだ。
「――そうだね、本当に果てがないっていうのは想像しづらいから少しだけ現実に寄せよう」
「現実に寄せる?」
まず考えるのは、宇宙の果てはどこにあるか。どこまでも広がる宇宙、その端に、大地がある。宇宙の中に星という大地があるのではなく、大地が宇宙を包み込む世界。
「こんな世界なら、面白いと思わない?」
意味があるとは思えない問い。それでも自分なりに真剣に考えて答えを出してみる。なんだかんだでこの意味不明の問いを楽しんでいる自分がいるのだろう。ただ、一番楽しみなのは――
「そんな世界なら、旅してみたくなるかも!」
楽しそうな、この笑顔を見ることだ。
620
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/05(日) 13:06:00 ID:uJkyIjIc
>>618-619
軽快な会話調が良いですね。
恋愛小説か青春を題材にした小説にありそうな文章だと思いました。
621
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/05(日) 20:43:45 ID:WIWPfjjU
>>620
感想どうもです。くだらない話でも楽しめる二人は書いているほうも気楽に書けた気がします。
622
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/07(火) 01:27:08 ID:Xvn7EHMU
陽が沈んで夜が巡ってくると、彼女は飽きもせず空を見上げた。
何をそんなに惹かれるものがあるのかと真似したこともあった。
けれども、満天の星空はいつもただ綺麗なだけで面白みなんてなかった。
「見えてるものが違うからかな」
星以外に見えるものなんて、ただ暗いだけの空しかない。
瞬いている星をまばらに散らしたような夜空の
大部分を占める、明るさなんて何一つない広大な
暗闇は、氷点下に保たれた恐ろしく寒い空間らしい。
「見上げてると安心するんだ。今日も私はちっぽけでしたって」
彼女は安心に和らいだ表情で空を見つめていた。
温かいお茶を手渡されたようなのどかな微笑みだった。
元気に白い歯を見せて活発に笑う姿をテレビ越しで
見せていた彼女とは思えない対照的な穏やかさは、
こちらが本来の性格に感じるほど自然なものだった。
「星にも寿命があるんだよ。超新星。爆発。どっかん」
とっくに使い古された表現だけれど、テレビに
映っていた彼女は確かに光り輝く星だった。
多くの人に明るさを振りまく、多くの星に紛れた星。
そのたったひとつの星の最後は、彼女の言葉通りに
誰よりも目立つだけ目立って世間を騒がせから消えていった。
「楽しかったけど、けど、宇宙は人の住める場所じゃなかったよ」
彼女の震える肩ごと胸に抱くと、ようやく地面を向いて涙をこぼした。
623
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/07(火) 23:44:54 ID:W2NmUmg.
>>622
芸能界を輝く星空のステージとたとえるのはよくあるけど、その負の側面まで宇宙でたとえるのは凄い。シンプルに凄い。
624
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/21(火) 20:05:56 ID:CclceaJk
2週動きないし、そろそろ次のお題っちゃう?
↓
625
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/22(水) 23:48:46 ID:HjG28NUw
過去のお題の中から任意にひとつ選んで書く
626
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/23(木) 18:06:22 ID:eFu0YvWI
このクソスレをわざわざ掘り返すのか……
627
:
「怖い話」
:2017/11/25(土) 02:46:00 ID:fjsOt9Lw
水の悪いとある町。水屋の百平は水を汲むために登る山で石を拾ってきては磨いて眺める趣味があった。綺麗に磨ければ暫し神棚にそれを飾り、新しく石を磨けば古い石は捨て値で小遣いに変えていた。
ある日、百平がいつものように石を磨いていると手元を誤り磨いていた石を割ってしまう。すると石の中から毒虫が現れ百平に噛み付いた。
百平はその場に臥しその命は尽きようとしていたが、百平の下に近所の悪餓鬼が訪ねてくる。悪餓鬼は拾った石みっつと磨いた石ひとつを交換する百平のお得意様だった。
悪餓鬼は百平の指を喰らう毒虫に目をつけると神棚に供えてあった石を手に取り毒虫を叩き潰した。すると不思議なことに割れた石は砂となり指の形となり百平の手は元通りになった。
百平は悪餓鬼に大変感謝して神棚の石を悪餓鬼に持たせ、いっそう心をこめて石を磨き神棚に石を飾るようにしたそうな――
○月●日
××府××市――村某金物屋で男性の遺体が発見された。
発見時点で既に死後数日は経過しており直接の死因はアレルギー反応によるアナフィラキシーショックであるとされるもアレルギーの原因は不明。
また遺体の一部が欠損しており欠損部位は今だ見つかっていないこと、未完成の金物一点が不自然に破損していることから警察は事件、事故両面から捜査を開始――
――また、最近ボランティア活動で男性と共に山へ登ったというDさんに話をうかがうと――
ボクは学校では優等生と言われている。でも実は皆に内緒で悪いこともしている。
ボクはスプレー缶が壊れたときのプシューって音が好きで、よくゴミ捨て場から缶を拾ってきては壊して音がなるかならないかを楽しんでから元の場所に戻している。
大人に見つかったらきっと怒られるから誰にも見つからないような場所でこっそりやっている。
自分で作った石斧はボクの宝物。何回も失敗しながら完成した石斧で缶を割ると凄く気持ちいい。
今日も缶を拾ったから秘密基地で割っていこう。この缶は音がでるかな? 楽しみだなぁ――
628
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/25(土) 23:00:35 ID:Cc83zqUY
このクソスレをわざわざ掘り返したのか……
629
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/26(日) 00:08:37 ID:9SmyUFEU
真に申し訳ないことに安価とってしまったので責任は取らないとと思いまして、すみません……
630
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/18(月) 23:07:15 ID:dlyiAQ2M
流石にもう変えましょう。変なお題出してすみませんでした
次のお題↓
631
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/19(火) 15:47:08 ID:FSp9BzTM
灯台
632
:
「灯台」
:2017/12/20(水) 03:41:54 ID:9WJa9Bug
説明しよう。この世界は危機に瀕していた。過去形だ。
大いなる闇が現れ世界から全ての光を奪おうとしたが光の剣を振るう勇者により大いなる闇は倒された。
だが大いなる闇はその強大さ故に倒れた後も夜という形で世界に残り続けた。
全ての人々の中に睡眠という魔が根付き、人々の時間は大きく切り取られてしまった。
「光の剣の光を拡散して高い塔から放ち続ければ全て解決するんじゃね?」
そんなノリで塔が建てられ鏡やガラス、歯車などにより空を巨大な光の刃で凪ぎ続ける仕掛けが作られた。勇者は喜んでその塔に光の剣を収めた。
結論を言おう。全くの無意味だった。夜が消えても人々から睡魔が消えることはなかった。
むしろ明るすぎて寝れないと苦情が来た。でも何か綺麗だったので年に数回、特別な日だけ祭りを行い塔に光の剣が収められることになった。
「そんな伝統のある塔なんだから、地震で倒壊したラッキーとか言うんじゃないよこの馬鹿!」
「えぇ、だって雨戸閉めてもまだ明るいし……てか大人たちが一晩中祭りで酒飲みたいだけ」
「うるさい! 普段ちゃんと稼いでる父ちゃん母ちゃんはあんたにとって勇者だよ! 敬いな!」
自分を叱る親を見て、それでもやっぱり塔が倒壊してラッキーだったと思う。
何しろ父親の臨時収入の出所が『闇祓う灯りの剣の台座となる塔』の再建という仕事なのだから。
「どうでもいいけど塔の名前長いよ。略して灯台でいいじゃん」
「この罰当たり!」
633
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/21(木) 21:02:13 ID:Az1vMx6A
このクソスレまだ続けんの?
634
:
「灯台」
:2017/12/21(木) 22:10:28 ID:5Ukbbvl2
期待はしていなかった。久々の帰郷で感傷的になったのか、普段なら絶対にしないであろう思い出の場所巡りなんてのを始めたものの途中でやめようかと思ったくらいだ。とりあえず近いからという理由で向かったそのおんぼろ屋敷は子供の頃よりさらに老いていたがまだ生きていた。
「うわ!うまい棒5円のまんまじゃん」
思わず当時の高揚感が蘇ってくる。たった5円。だが半額だ。謎のうまい棒のみ半額。すぐに売り切れるから学校が終わったらダッシュでここへ急いだ。5円のために。
その田舎村の生態系が今も受け継がれているのかと思うと不思議な安心感に包まれる。と同時に、お会計をする時のひまわりのような笑顔が頭をよぎり、心臓が心地よいテンポを刻み始める。扉を開けようとしたが、変わり果てた自分がガラスに写り躊躇する。帰ろう。おんぼろ屋敷に背を向けるとクジラと瓜二つのゆったりとした時間を感じさせる目がこちらを見つめていた。
「いらっしゃい。今日は息切らしてないんだねえ」
「・・・夏休みだから」
「あーそうだったね」
扉を開けてカウンターに向かうばあちゃんの後にいつも通りついて行った。いや、今日はペンギンみたいになった。店の中も昔とあまり変わっていなかった。あれ、商品名が読めない。
「ばあちゃん商品名滲んでて分かんないよ。書き直しときなよ」
「え?・・・そうかい。あとで直しとくよ。ふふふ」
ばあちゃんは訝しげな顔をしたが、俺の目を見ると心底面白そうに目を細めて笑った。やはりお年寄りにこういうのは効く。なんてクールを装い、心の平静を保って視界を確保すると、奥の商品棚にはインテリアが飾られているのが見えた。
「あれ?イカゾーンは?」
635
:
「灯台」
:2017/12/21(木) 22:26:41 ID:5Ukbbvl2
左手奥にはイカ関連の駄菓子が一面にならんでたはずだ。あまりの種類の多さにイカゾーンと呼ばれていた俺のお気に入りの場所が。よく見ると右手奥のロシアンルーレットゾーンも無かった。
「もうないよ。あっても誰も買わないからねえ。子供がすっかり居なくなっちゃって」
そうなんだ、の一言が出なかった。さっきまでここに来るのをやめようとしてたくせに胸が痛む。少子化の影響を最初に受けるのは田舎だ。言われてみれば当然のことだ。だけどそれだけで納得したくはなかった寂しい現実。
「おかげで毎月赤字だよ。大人買いのひとつやふたつしてっておくれよ」
この陽気な感じが懐かしくて大笑いしてしまった。ばあちゃんは口の端をひくひくさせながらまた面白そうに目を細めた。
「じゃあここからあっちまで全部ちょうだい」
「1億万円ね」
「2万しかないや」
「ならうまい棒4本だけしか買えないねえ」
「じゃそれで」
なぜか1万9980円のお釣りが返ってきた。99.9%OFFなんて聞いたことないぞ。俺はお釣りを財布にしまいながら、ある疑問を聞こうか聞かざるべきか悩んだ。けど、結局子供の頃のよしみに甘えてストレートに聞いてみることにした。
「ばあちゃんはなんでまだ駄菓子屋やってるの?」
636
:
「灯台」
:2017/12/21(木) 22:28:44 ID:5Ukbbvl2
「そうねえ。こうしてここに居ると時々、旅人さんが帰ってくるからね。やめるわけにはいかないのよ」
ばあちゃんにそこまでの責任はないはずだ。しかし、俺は駄菓子屋という目印が無ければ子供時代に帰ることはできなかったかもしれない。都会の波に揉まれて、心が沈みかけていたからこそ、思い出の場所巡りなんて柄にもない行動に出たのだろうか。ばあちゃんの言葉がすっと染み込んできて俺は無意識のうちに感謝していた。
「孤独でも旅人さん達を思えば寂しくなくなるの。いつか迷った時、帰れるようにを私がここを守ってるって思うと死んじゃいられないって元気が湧いてくるのよ」
ここに来て良かった。ばあちゃんのしわくちゃな目尻を見て心からそう思えた。ばあちゃんは一流の灯台守だ。
ほんわかした空間に、ガラガラっと古い音が鳴り響いて俺は振り向いた。
「あ・・・」
「たーくん?」
「そうちゃんけ!?」
俺達は子供時代大陸に上陸した。
637
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/23(土) 00:54:28 ID:8lgCVS/w
サンタクロースなんかいない。
年齢不相応に本当のことを色々と知っている私は、夢のないやつだと言われてよく仲間外れにされてきた。
言動が子供っぽくない。可愛げがない。同年代から一歩引いた冷めた性格だと、大人たちはよく言った。
「私は悪くないんだけどなあ」
頬杖をついてココアをひと口含む。珈琲が苦くてまだ飲めない私は、こうして大人の真似っこをするのが好きだった。
口にたまった甘い海の中に少しでも苦いところがないものかと舌を漕ぐ。
牛乳に砂糖を足したお子様向けのココアなのだから、そんなものがあるわけない。
本物の珈琲が注がれたマグカップを傾けて飲むお兄さんを横目で盗み見る。
砂糖もミルクもシュガーシロップも使っていない正真正銘の珈琲。
どうしてあんなに苦いものを表情一つ変えずに飲めてしまうのだろうか。
「それって大人が悪いと思う?」
コップを置いてお兄さんは微笑んだ。私が好きなお兄さんの中で、たぶん一番好きな表情だ。
でもそれと同じくらい嫌いな笑顔かもしれない。だって笑顔の意味が分かってきてしまっているから。
「お兄さんがそうやって、私に難しい質問をするからいけないだよ」
テーブルに組んだ腕を敷いて頭を乗せる。下からお兄さんを見上げると、やっぱり年上なんだなと実感した。
私がその日の出来事を教えると、お兄さんはいつも不思議な質問をしてきた。
どれもが頭を使う内容で、お兄さんからすればまだ子供な私には意味を考えるだけで精一杯になってしまう。
「子供っぽくないと言う大人が悪いのかな。それとも大人びてきた君が悪いのかな」
今日のお兄さんはなんだかいつもより嬉しそうだった。
たぶん私がだんだんと変な方向に賢くなってきて、お兄さん好みに穿った視点で世間を見れるようになってきたからだ。
お兄さんの笑顔はそういう意味だ。私はまだお兄さんほど大人じゃないしえらくない。
珈琲の入ったコップに口をつけて眉をしかめると、お兄さんは楽しそうに笑った。
638
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/23(土) 00:56:19 ID:8lgCVS/w
思い付いたことを投げただけのフリースタイル
お題成分はとくになし
639
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/29(金) 12:53:42 ID:vu/R.rRk
いいね
640
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/02(火) 23:20:13 ID:dbOgreRI
「付き合ってあげましょうか」
顔を覆って唸っていると、頭の上から明るい声がした。
無邪気を声で表現した場合の模範解答のような声だった。
どうしてこんなにタイミングよく救済の手が差し伸べられるのか。
悩める者にとってその一声は、空腹に動けなくなったときに
与えられたひと玉の林檎のように感じられる――わけがない。
「お前はお呼びじゃない」
顔を隠したまま突っ張る。個人的には最も首を突っ込まれたくない相手だった。
こいつには個人的興味だけを的確に見つけ出す天性の嗅覚によって散々に苦しめられた。
癒えない傷を負わされた心は気配を感じ取るだけでチリチリキリキリと悲鳴を上げた。
「えー、だってどうせまた楽しくなるんでしょ」
根っこが腐り堕ちてそうな主観で語られると反論する気力も起こらなかった。
当事者にとって不幸以外のなにものでもないことを享楽にするのだからたまらない。
いったいどんな環境で育ったらこんなにも捻くれて育つのだろうか。
「今回ばかりは本当にやめてくれ。お前が絡むと拗れた問題がねじ切れる」
「諦めた方が早いのに。無理ってしってるくせにー」
追い払うつもりで言ったのに、何が面白いのかケラケラと笑い始めた。
歳の差を考えない無遠慮な手がわきまえず、髪の毛にわしゃわしゃとじゃれついた。
だからそういう人目を気にしない軽率な行動が誤解を生むのだからやめてくれ。
ほらもう視線が痛い。胃が痛い。逃げるように顔を伏せると、遠くの陰口が余計に鮮明になった。
だって周りが荒れているほど君のそばがよく落ち着くんだ。
まるで秘密の約束事をするように、他の誰にも聞き取れないような小声で言った。
641
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/02(火) 23:21:50 ID:dbOgreRI
みたいな
お題「内緒話」↓
642
:
「内緒話」
:2018/01/04(木) 19:05:53 ID:ds3NJXx6
皆が内緒話をしているんだ。振り返るとなんでもないように振舞っているけど、分かるんだ。
すれ違った人が、後ろを歩く人が、座っている人が、内緒話をしている。
きっと嫌なことばかり話しているに違いない。皆、笑っている。
「い しゃ せ」
内緒話はできても、お前と話す言葉はない。そんな嘲笑が透けて見える。
見ていないところではハッキリと話していたのに、挨拶すらまともにしたくないのか。
「お 計 円 ま 」
聞こえない。仕方がないから表示される金額を見て、その通りに支払う。
「 」
とうとう何も言わなくなった。店を出る前に、また内緒話と嘲笑が聞こえた。
店の外に繋がれている犬がこちらを見ている。
しゃがんで撫でてやりながら、あいつらに仕返しをする。
お前にだけ、内緒の話をしてあげよう。犬は、返事をするように首をかしげた。
643
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/21(日) 22:37:05 ID:2yHkzoG2
お題↓
644
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/22(月) 04:12:03 ID:.xL08G9o
ナルシスト
645
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/16(金) 01:08:53 ID:nb8bXdMg
「ごきげんよう」
屋上でひとり寝ころんで時間を潰していると、視界の端からおさげが割り込んできた。
長さの合っていないマフラーが鼻の頭をくすぐる。あまりにも絶妙な配置に悪意を感じる。
「ここに何の用だ」
「それは私が聞きたいんだけども。風紀委員長として」
眼鏡の奥で大きな瞳がギラリと光る。
お互いに望まない邂逅が増えたせいか、最近は特に肉食獣の表情が様になりつつある。
無論、そこに相手を震え上がらせる気迫がこもっているかどうかは別の話しだ。
「あーあ、せっかく休憩してたのに。『婦長』のせいで邪魔されちった」
「誰が『ふちょう』だ! 私は風紀委員長だ!」
「それを略せば」
「役職を略すな!」
苛立たし気に覗き込む顔を手で退けて、勢いよく跳ね起きる。
そして右足を基軸にして軽やかに婦長の後ろに回り込んで抱きこんだ。
予想していなかったであろう不意打ちに、腕の中で婦長がびくりとはねた。
「婦長は相変わらず不用心だよな。俺だから抱きしめるだけ済んだものの」
蛇に喉を噛まれたネズミのように、婦長は抵抗することなく内側に収まる。
年齢のわりには小さな頭を撫でると、シャンプーの香りがふわりとひろがった。
「よかったわね、私がか弱い美少女で。体育委員長だったら締め落とされてるところよ」
「叱るつもりなんかないクセによく言う。俺のことが好きだからいつも来てんだろ」
マフラーの半分を借りて首に巻く。風の少ない冬の空では雲がゆっくりと流れていった。
646
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/16(金) 01:10:03 ID:nb8bXdMg
消化してリフレッシュ
↓次題
647
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/18(日) 03:41:13 ID:YpezZsN.
残雪
648
:
「残雪」
:2018/02/24(土) 02:39:08 ID:hccBNE7k
「残ってない!」
タイトルに反して悪いが、既に雪は残っていない。
暦が春に移り変わるのと同時に雪は溶け去ってしまった。
「素直にバレンタインとかネタに書こう? な?」
「安価は絶対なんだよ! 何がチョコだ、ケツにチ○コ貰えやリア充!!」
口汚いコイツはどうしても残雪というお題で書きたいらしい。
仕方がないとキッチンに戻り戸棚の上を漁る。これで我慢してもらおう。
「……えっ、それ?」
「これで我慢しろ」
夏の風物詩、カキ氷機が器に雪を盛った。
無論、その雪はシロップかけて無理矢理コイツに食わせた。寒くても、知らん。
649
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/01(木) 20:02:37 ID:KySL4HE6
草にかぶさった雪を踏みつける。
手のひらほどもない残雪は土のつちのついた靴跡を綺麗にかたどった。
「ここはもうこんな季節になったんかい」
身の丈ほどもある銃を担いだ少年が言った。
そのすぐ隣。杵で突いたばかりの餅のような姿をした生物がぴょこんと飛び跳ねた。
「はやいね! もうあったかい季節になるんだ!」
興奮気味に大声で言った軟体生物は、少年の足に張りつくとずるずると昇り始めた。
体を這い上られる感触が好きではない少年はあからさまにため息をつく。
もちろん人間とはまったく別の感覚をもつこの生き物に感情など理解できるはずもない。
足を伝って背中を通り過ぎ、ついに頭の上にまで到達した白い生き物は、
遠くまでひらけた景色を見て、またぴょこんと跳ねた。
「頭の上で跳ねるな」
「すっごいすっごい! 僕の仲間が沢山いるんだ! あっちにも!」
賢くはないながらも抑えきれない感動を覚えた生き物が跳躍でもって喜びを表現する。
これまでも禁足事項として忠告をしてきた少年の我慢が限界を迎えるのはそれほど遅くはなかった。
体にひっついた時点ではたき落とすときもあるのだから、むしろよく耐えた方ではある。
頭上に居座る軟体な生き物を掴み取ると、すぐ傍の名残の雪にあらん限りの力を込めて勢いよく叩きつけた。
「ビャぎぃッ!!」
静かな森に悲鳴が響く。雪でなければ衝撃で体がはじけ飛んでいたはずだったので、それは少年の温情だった。
雪に紛れて全身を貫く激痛にもだえる白い生き物を置き去りに、少年は森の奥へと歩いて行った。
650
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/01(木) 20:03:29 ID:KySL4HE6
3月入ったし次奴↓
651
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/02(金) 00:03:56 ID:VAyS/HEI
イキ人形
652
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/10(土) 02:29:59 ID:QeyNLqCw
「おはようございます。今日の具合はどうですか?」
「特に問題はないよ」
問い掛けに鷹揚に頷く。幾度となく繰り返された問答。もはや新鮮さなど何一つなかった。
返事をしなくとも良いだろうが、習慣でつい応えてしまう。
「暖かくなってきましたよ。どうです散歩でも」
私は答えなかった。答える意味も必要もなかったのだ。
散歩をするとしてどこへ行けば良いのか。外を歩く事など全くの無意味だと言うのに。
「私は貴方とずっと一緒に――」
「黙っててくれ」
なおも喋り続けようとするのを遮り、私は感情の赴くままに叩き付ける。たやすく弾き飛ばされて
床に転がる。手足があらぬ方向に曲がっていた。
何という事だろう。やってしまった……
軽い自責の念が襲う。面倒な事が増えてしまっただけじゃないか。
嘆息しつつ転がった女の姿をしたそれを抱えてベッドに寝かしつける。こうして一日放置して
おけばまた動き出すだろう。
「ふぅ。それにしても厄介な物だ」
人類が、世界が崩壊した現状話し合える存在は有り難い、本来ならば。
だがこれは人形なのだ。気紛れに周辺の荒野を出歩いた時に奇跡的に残されていた建物の中で
遺棄されていた。
初めは人間だと思ったがそうではなかった。ロボットと思ったがどうにも仕組みが全く異なる。
驚いた事に素材は人形そのもの。目はグラスアイ、身体は大きさは異なるがよくある球体関節だ。
だが自律して会話でき、どういう仕組みなのか傷なども放置していれば修復される。
会話が出来て喜んでいたのは最初の内だけだ。会話の中身がとにかく少ない。同じ事しか言わない上に
学習機能もない。
ただ動き続けるだけの人形。生き続ける人形――イキ人形というわけだ。
どこかへ捨ててもいつの間にか戻ってくる。どうにも厄介な代物である。
世界にたった一人ぼっちになっても煩わしい事があるなんて、物事はうまくいかないものだ。
653
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/10(土) 02:31:27 ID:QeyNLqCw
手直ししていたらageしてまったスマヌ
654
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/17(土) 23:56:53 ID:1ceeLE5Y
次↓
655
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/01(火) 01:29:22 ID:LK3wS1Ak
GWらしく「連休」で
656
:
「連休」
:2018/07/26(木) 20:25:46 ID:l0VzMjYs
同僚が、たまに家に帰ると娘に「おかえり」じゃなく「いらっしゃい」と言われると愚痴る。
それを私は他人事のように聞いていた。彼に比べれば私はまだマシだと思っていた。
帰ればちゃんと「おかえり」と言ってくれる息子。いつの間にか料理も覚えていた。
だから、気付かなかった。久しぶりにとれた長めの休日。
「久しぶりに遊園地にでも行く?」
もう、そんな年じゃないよと言われた。
「久しぶりにキャッチボールでもしようか?」
もう、そんな年じゃないよと言われた。
「久しぶりに一緒にお風呂にでも入ってゆっくり――」
もう、そんな年じゃないよと言われた。
タブレット端末を弄る息子の手は、よくよく見れば、もう私と変わらない大きさだった。
身長も同じくらい。思い返せば、確かにそうなのだ。息子は、もう立派に育っていた。
気付かなかった。息子は私を親として見てくれていたのに。私はそれに気付かなかった。
思わず息子を抱きしめる私に、息子はまるで親が子にするように、仕方ないなという顔をした。
時間はもう戻らない。でもそれは今から努力しない理由にはならない。
遅くなってしまったけど、今気付いたから。これからの時間を大切に過ごそう。息子と一緒に。
657
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/07/28(土) 03:41:48 ID:u7FoUD4Y
忙しさゆえに子供の成長を正しく認識できなかった、ある意味時間が止まったままの父親
長い休日で時の流れを知ったせつなさと前向きに歩み寄ろうとする、読後感の良いSSですな
658
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/08/07(火) 00:37:57 ID:KzR64ivw
>>657
感想どうもです。上手く思いつかなかったのですがシンプルに纏めようと書いてみました。
659
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/08(土) 03:40:58 ID:8eahRa6w
次↓次↓
660
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/12(水) 08:13:39 ID:qo2.WOWg
お題ちょうだい
661
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/12(水) 22:43:30 ID:hSpCFKPM
じゃあ「台風」で
662
:
「台風」
:2018/09/21(金) 00:26:55 ID:SNG73sTc
「台風であぶないから学校休みだって〜」
このお子様は何故うちにいるのだろう。台風で危ないから自宅に戻りなさい。いやそもそもベランダ伝いにこっちの部屋に来るのは台風じゃなくてもやめなさい。
あとさっきから人の家で何を書いているんだろう。「だいかんげい」? 大歓迎?
「ねぇ手伝ってよ〜」
「何作ってるの」
「台風がまたきてくれるように旗作ってるの」
台風の被害がシャレになってない人もいるというのにお子様は気楽な物だ。学校が休みになることを喜んでいるだけか。わざわざ旗まで作るのは不謹慎だと思うけど。
「ほ〜ら、台風は目がすっごく大きいから大きく書かないとダメなんだよ!」
「あぁ、台風の目ね」
なるほど、台風の目では風も雨もないのは台風が物を見るためか。その発想はなかった。
旗作りを手伝うことになったが、被災地の人に配慮して目潰し用の一味唐辛子も用意したので許して欲しい。
663
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/08(月) 17:10:29 ID:n6wi0WFs
子供らしい発想描けていてええやん
そろそろ次のお題をば↓
664
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/16(火) 03:16:43 ID:TfUTLrfM
駅
目薬
冷え性
の内どれか任意
665
:
「目薬」
:2019/02/02(土) 17:23:49 ID:AXDv511Q
花粉症の辛さは多くの人がわかってくれると思う。そして多くの花粉症患者は花粉症じゃない人を
羨み、嫉妬しているはずだ。別に心が狭いとかそういうのじゃない。たぶん。
「そんなあなたに」こちら。といって紹介された魔法の目薬(パン屋のポイントカードと交換)を手に
私は迷っていた。この目薬を一滴垂らした瞳で相手を見れば、たちまちその相手は花粉症になってし
まうという魔法(呪い)の目薬。
本当に使ってもいいのだろうか。確かに私は毎年のように、この辛さを皆も味わえばいいんだと思った。でも、思ったこととそれを実行することとは別だ。この目薬を使えば、沢山の人が地獄を味わう。
悩んだ末、私はその目薬をそっと机の引き出しに仕舞いこんだ。この辛さを知らない人の幸せを奪
う権利は誰にもない。私の分まで春を謳歌して欲しい。きっと、これでいいのだ――
後日、
「あんたの机にあった目薬いつの? 全然効き目ないんだけど」
「わぁああ゛あ゛っ!? 何してんの糞姉貴ぃいい!!」
666
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/11(月) 00:13:10 ID:DY/2TerY
かわいいお話ですね
ただ説明や補足がどの設定にも無いから話全体が薄っぺらいと感じちゃいました
次のお題は隣でお願いします
667
:
「隣」(1/2)
:2019/04/09(火) 18:46:46 ID:/aAF7he6
事故物件に住むバイトという都市伝説をご存じだろうか。家賃どころか住んでてお金が貰えるなんて凄い話だが、冷静に考えるとまずありえない。法的なことに目を瞑ってもまだ問題があるのだ。
問題となるのは期間。ひと月か二か月か、それくらい住んで何もなければ晴れて何もなかったと言い張れるとか。でも、住居が欲しくて始めたバイトなのに二か月住んだら職も住居も失う。バイトを続けても二か月ごとの引っ越し、不便すぎる。だから、私はそんなバイトが実在するなんて思いもしなかった……
「ここがそうです。一階につき四部屋、計八部屋。まずは102号室からお願いしますね」
まさか今時あの程度の地震で部屋が倒壊するとは思っていなかった私はダメ元で後輩君に相談した。どこかミステリアス君だとは思っていたけど、割とすぐにこんな怪しげなバイトを見つけてくれた。正直怪しすぎるのだが、今の私に頼れる伝手は少ないし都合もよかった。
まずバイト先の物件、なんとこのアパート全室が訳あり。101を除き一部屋二か月ずつ住んで、計一年と二か月。大学卒業までは足りないけど、住むこと自体が仕事なら他のバイトも掛け持ち可能。家賃は問題なく稼げる。
不気味さはあったけど私から後輩君に持ち掛けた相談だということもあり、このバイトを受けてしまった。
バイトを始めてから二週間目。何の怪現象も起きない。ただ、管理人室すらも人の気配がない。詳細は聞いてないけどそれ相応の何かはあったのだろう。気にはなるけどこれからも聞かないほうがよさそうだ。
バイトを始めてから一か月目。心配になったのか後輩君が様子を見に来た。もっと早く来て荷物整理手伝ってくれるようだったら後輩君もモテただろうに。あと清めの塩とかいらないから。
バイトを始めてから二か月、「この調子でよろしくお願いしますね」と不動産の人が隣の鍵を渡しにきた。103号室に移ってから一週間もすると早速102号室に入居者がきたらしい。何も怪現象は起きなかったし部屋は中々よかったから不思議ではない。
三か月目、やっぱり怪現象なんて起きない。もしかして私に霊感がないだけ? ちなみにまた後輩君が来たけど後輩君も今までの人生で心霊体験とかはないらしい。
バイト生活四か月目。新しく始めたバイトで覚えることが多くてすっかり忘れてたけど、不動産の人が隣の部屋の鍵を渡しに来た。隣の部屋に移る、104はないので105号室。履歴書に部屋番書けないよねこれ。
バイト生活四か月と三日目。102の人は私が普通に103号室に住んでると思ってたらしく妙に驚かれた。バイト内容聞いても気分悪くするだけだろうし、単に全部屋に欠陥がないか実際に住んで試すバイトしてますとだけ言っておいた。
バイト六か月目。今回は私が105号室に住んでる間に103号室の入居者は決まらなかったらしい。今回は隣に移るんじゃなくて二階だ。今回も何事もなく201号室の鍵を渡された。
バイト六か月と一日目。荷物二階に上げるのがつらい。でも後輩君が覚えててくれて手伝いに来てくれた。後輩君最高ご飯奢ってあげる。あと手土産のおはぎ美味しかった。
八か月目。このアパートの階段は何故か奥にあって、201号室が一番歩く。疲れたバイト帰りには設計者に殺意すら覚える。相変わらず怪現象起きないし、この適当日記も書くことないけど、一応変わったバイト経験談として記録しておく。隣の202号室に移ろう。
八か月と一週間目。誕生日ということで腐れ縁どもが押し寄せてきた。事故物件だと知っていながら酔って騒ぐ馬鹿どもだ。下に人住んでるのに、102の人ごめんなさい。幸いリバースした奴もいないし、騒ぎで霊が怒って怪現象が起きたりもしなかった。102の人にはバイト先のアイスを渡してお詫びに行く。あと後輩君に強いの飲ませた馬鹿、アルハラで訴えられたら負けるぞ。
十か月。いつの間にか101号室に管理人さんがいた。問題なさそうだからと住み始めたらしい。今回は管理人さんに鍵を渡された。あと103号室と105号室にも入居者が決まったらしい。下の部屋に誰も住んでない間は騒ぎ放題じゃね? とか言う馬鹿は首を絞めておく。あと隣の203に荷物を移すのを手伝わせる。今回は後輩君も手伝ってくれたのでかなり早く終わった。後輩君はこの馬鹿たちに染まらないで。
今日で丁度一年。最後の部屋、205号室の鍵を渡される。正直管理人さんよりも102の人の方が付き合い長いから「折角仲良くなれたのに寂しくなるねぇ」とか言われても微妙だけどあと二か月でこのアパートからお別れだというのは事実だ。家賃払って住み続けてもいい気もしてきたけど、事故物件じゃなくなったらそんなに家賃は安くならないだろう。安い物件探さないと。
668
:
「隣」(2/2)
:2019/04/09(火) 18:47:48 ID:/aAF7he6
一年と、二日。102の人が亡くなったらしい。それで何故か管理人さんは私を疑ってる。事故が起こればまたこのバイトができるから? 流石に本当に人が死ぬような場所には住みたくない。警察の人は普通にお風呂での事故だといってたけど変に疑われるのも嫌だし、というか私にバイト続行の指示が出るとは思えないし予定通り二か月後には出ていくと宣言。
一年と、六日。103の人も亡くなったらしい。さすがに変だと鑑識さんとかがドラマみたいに色々調べてたけど、結果は密室での事故。それでも私が合鍵作ったのではとか疑われ、警察に任意同行を求められた。断るなら断る理由があるとみなす、とか、行くしかないじゃん……
一年と一週間。私の取り調べ中、また密室で105の人が亡くなったらしい。もう流石に私も偶然だとは思えない。一応、取り調べ中という完全なアリバイができた私は無事解放された。帰ると101号室に管理人さんはいなかった。正直もうここには住みたくなかったけど、不動産の人から電話で「バイトを降りたら違約金を払ってもらう」とか一方的に宣告される。いくらグレーゾーンとはいえバイトなのだから辞める権利はあるはずだけど、私はもう冷静ではいられなかった。怖かった。
気づいたら、泣きながら後輩君に泊めてほしいと頼み込んでいた。
「先輩……あの、先輩は特に何もなかったんですよね? つまり、先輩は安全のための条件を満たしていた、ということなんじゃないんですか?」
自分以上に取り乱している人を前にすると冷静になるというのは本当なのか、意外なほどに後輩君は頼りになった。何故私が無事だったのか、何故亡くなった人たちは今までは大丈夫だったのか、それがわかれば安全を確保できるかもしれない。私はその言葉に必死になってこの一年を思い返すけど、何も心当たりはなかった。
私はいつ死ぬのだろう。最近はそんなことばかり考えながら怯えている毎日だ。もう少しの間は後輩君の所にお世話になれるけどいつまでも居るわけにはいかない……
あれから三週間。私はいまだ無事に生きていたけど、恐怖は消えない。私が無事な理由、他の人が死んでしまった理由を考え続けていた。そんな有様ではバイトで接客中も上の空、クビかと思ったら店長さんと先輩たちに囲まれて何かあったのかと訊かれた。どうにも私より前にバイトしてた高校生の男の子がストーカー被害で重い後遺症を、ということがあったらしい。事情を説明すると皆が違約金払ってでも引っ越しなさいという。お金より命だと。
後日、店長さんたちが事故にあった。トラックがお店に突っ込んだらしい。お店に突っ込んだトラックは思っていたよりも形が残っていて、逆にお店は外から見ても酷いことになっていた。トラックの運転手は病院で亡くなって、店長さんたちはまだ意識が戻っていないとか。私は、これが偶然だなんて思えなかった。
事故物件バイト最終日、だったはずの日。一年と二か月の間、私は無事だった。きっとこのアパートは私を逃がしたくないんだ。別の不動産で新しく安い部屋を借りようとしたら火事でその部屋が駄目になったし、今まで住んでも私に直接被害はなかった。そして私が出ていくときになって新しく事故が起きて、違約金を払ってでも出ていくべきだと話した店長さんたちが事故にあった。きっとそういうことだろう。
バイト最終日だというのに、ヤクザみたいな人を連れて事故物件バイトをまた初めから頼もうとしてきた不動産の人にそのことを話す。不気味で現実的ではない話。私はもうこんな事故物件とは関わりたくないけど、また周囲の人が傷つくかもしれない。
「だから、バイトじゃなくていいです。家賃を安くしてくれたら、住みますから……」
結局私は、一応もう一回事故部屋を経て101号室に住むことになった。その後の入居者も含めあれから事故なんて起きていない。
「……先輩、ごめんなさい……あんなバイトを紹介したから、」
「大丈夫、きっと何とかなるって」
不動産の人が言うにはこのアパートは近々取り壊して一軒家を建てるそうだ。取り壊し中に事故が起きず、アパートがなくなれば私は解放されるのだろうか。何にせよ一軒家なんて私には荷が重いから、そこからはもう私は関わらないほうがいいだろう。たとえ、その後一軒家で不審死している人をお隣さんが発見するようになったとしても……
バイト前は大学卒業したら上京でもしようかと思っていたし、後輩君と、単位足りなくてまだ大学生やってる馬鹿どもの卒業に合わせて皆で上京するってのも、悪くはないかもしれない。今日も私は後輩君を隣に引き連れ店長さんたちのお見舞いに行く。
669
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/04/09(火) 18:49:25 ID:/aAF7he6
>>666
感想どうもです。遅くなりましたけど今回のお題は薄っぺらいと言われないよう意識して書いてきました。
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