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みんなで文才晒そうぜ part2

1以下、名無しが深夜にお送りします:2014/01/18(土) 18:14:17 ID:mNOcI4dM
ここはお題に沿った地の文込みのSSを晒すスレッドです

・主に地の文の練習や批評・感想の場として使ってください
・次スレは>>990が(規制等の際には有志が)必ず『宣言』して立てる事
・気楽な雑談がしたい方は酒場や休憩所でどうぞ

【注意】台詞形式のSSは受け付けておりません

前スレ
みんなで文才晒そうぜ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1352992635/

お題>>2

518以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/19(月) 08:46:29 ID:9AGXNaLw
クリスマスツリー

519以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/21(水) 19:33:29 ID:u677st4c
毎日、体験してるはずだ。
毎日、毎日、毎日、飽きることもせず、
繰り返し、僕らは目を覚ましてる。
眠ったら目覚める。昔、ママに買ってもらった車のおもちゃが
後ろに引っ張ったら、前に走り出すみたいに、
僕らは当たり前に、目を覚ましてる。
当たり前なのにおぼてない。いつもの朝がなにから始まるか。
枕の柔らかさだった気もするし、朝日の鋭さ立ったかもしれない。
パパの野太くて優しい声だったかもしれないし、
ママの作る朝ご飯のにおいかも。
ただ、今日だけは忘れない。


脂肪と髪の毛、それにむき出しになった血液を焦がす臭い
「よく眠れたかね」
神経質そうな兵隊さんは、そう声をかけ、わたしの隣に、
その大きな体を縮こませるようにして座った。
ボロボロにころされた街と対称的について、
昨日も当たり前の昨日だったように太陽は出てきて
わたしの吐く息を白く塗った。
お尻に付いた小石とか、砂を払おうと腰を浮かせると、兵隊さんは
「敵さんはすごいね、人殺しに自分の神様まで使うなんてさ」
目の前で焼ける、山積みになったパパやママを見ながら
ぼうっと言った。
わたしは何も、答えなかった。
ただ、ただ、山積みのパパやママはクリスマスツリーみたいだなって思った。

520以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/21(水) 22:22:06 ID:TphRbRdI
>>519
表現したい事は分かるけど、描写が全部雑です。
一人称が途中で変わったのは、視点が変わったからだろうけど、こういう短い文章でやるのは、わかり辛くなるだけだからやめた方がいいでしょう。
最後のクリスマスツリーの取って付けた感がかなり気になりました。
でも、雰囲気と前後半の対比はよかったし、
文章のテンポもすごいよかったです。
もっと、小説を読んで勉強してほしいです。

521以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/22(木) 11:39:56 ID:5ZGXf4qo
>もっと、小説を読んで勉強してほしいです。

意識高い系()がそうやって突っぱねるから過疎ってたんだろうな
もっと、スレを読んで勉強してほしいです。

522以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/22(木) 11:58:17 ID:nRt2OZtc
つスレタイ

523以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/23(金) 07:03:48 ID:9cu0lHsQ
「欲しがり屋さんは卒業しましたので」

アクリルケースに行儀よく収まったクリスマスツリーを見ながら彼女が言った。
暖色の間接照明のみで薄暗い寝室に置かれた、彼女が見とれているミニチュアの
ツリーは、飾れた赤と金のクーゲルを遠慮がちに輝かせていた。

「そのツリー、気に入ってくれるのは嬉しいけどさ。去年の思い出だよ」

ベッドで横になっている彼女のすぐ後ろの縁に腰を下ろす。
自分好みに伸ばされた長い黒髪を掬うと、防衛本能が働いたのか僅かに身を縮めた。
悪いことなんてまったくするつもりないんだけどな、と思いながら髪の毛を弄ぶ。
心なしか、いつにも増して黒髪の手触りが良いように感じた。

「私ってみんなが思っている以上に欲張りみたいで。だから、いい子じゃないんだ」

欲張りと聞いて思い出したのは、彼女と出会った去年のクリスマスイブだった。
三年間も付き合っていたかつての恋人を浮気相手に取られ、公園のベンチで
雪をかぶりながら缶チューハイを呷っていると、声をかけてきたのが彼女だった。
私も隣いいですか、と聞いてくると返事を待たずしてベンチに腰掛けてきた。
そして俺と似たように上を向いて、叫びたい感情と一緒に缶チューハイを一息で飲み干した。
誰も信用したくない、けれども誰かが隣に居て欲しい。
そんな都合のいい寂しさを彼女も抱えていたように見えた。

「もう去年との俺たちじゃないんだし。新しいのが欲しいでしょ」

ベッドに倒れて背中側から腕をまわすと、彼女は振り向いて「大きいのは欲張りだから」と答えた。
「いらない」と言われなかったことにひとまず安堵して、ベッドの下に隠していた鞄を取り出した。
彼女を起こして正面に座らせて、赤地に白い星が散った包装をされた箱を手渡す。
緊張気味に受け取って固まる彼女に「開けてみて」と促すと、小さく頷いて包装を剥がした。
彼女が既に持っている物と全く同じ型のツリーは、クーゲルの輝きに混じって自慢げに白い指輪を下げていた。

524以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/23(金) 07:08:27 ID:9cu0lHsQ
>>519
前半部分がいじりがいありそうね
もっと表現のしようがありそうでもったいないなあって思いました
全体的な内容は好きよ
だから読んでて惜しいなあって

525以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/23(金) 14:29:44 ID:EGnQJXr.
我が家にはクリマスツリーがある。

俺が幼稚園の頃に親父が買ってきたやつだ。当時の俺にはそのツリーは東京タワーぐらいにデカく思えたもんなんだが、今見ると別にたいした大きさじゃない。小市民という言葉がこれほど似合うツリーはないんじゃないかってぐらいの、『そこそこ』の大きさの平々凡々としたツリーだ。

ただ、このツリーには少し変わった思い出がある。

それを見て、無邪気にはしゃいでいた俺を横に、親父は真面目な表情でこんな風に言ったんだ。

「これはな、目印なんだ。柱の傷と一緒だ」

「はしらのキズ?」

「そうだ。父さんが子供の頃は一年ごとに背の高さにそって柱に傷をつけたもんさ。成長の記録ってやつだ」

ここは借家だから、柱に傷を残す事は出来ないからな。そう言った後で親父は不意に真剣な表情に変わり、

「このツリーより背が高くなったら、お前に我が家の大事な秘密を伝えようと思ってる」

今、俺はとうにそのツリーの高さを越えているんだが、親父はその事をすっかり忘れてしまったのか、未だに我が家の大事な秘密は謎のままだ。

526以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/25(日) 00:42:35 ID:5ZQItgR2
>>525
わざとか分かりませんが、文章が悪い意味でバカっぽいです。
例えが吐き気をもよおす程下手とか、『』の無駄遣いや、真面目な表情から真剣な表情っの違いがわかるって凄い表情に敏感な幼子だなあ、とかありますが、特に目についたのが下の一文です。
我が家にはクリスマスツリーがある
とありますが、この書き方だと「常にか?我が家のどこにだ?」
と思ってしまいます。
短い文章でも5w1hを忘れないでください。
またツリーの出てくる時期と一緒に、飾り付けがどうとか、臭いがどうとか書いてあげれば、文章が記号的ではなくなり、厚みがでます。
ストーリーもありがちというか、陳腐でこの文章の中に褒めれる所は見つかりませんでしたが、文章を書ききったというのは素晴らしいです。
昔使った国語の教科書のような、読みやすいものから読んでいくといいかもしれません。

527以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/26(月) 01:55:35 ID:LixYi5U2
お題:白

528(1/2):2016/12/29(木) 18:37:57 ID:W4OOGiVI
「白」


 冬休み、少し早めに行った高校の卒業旅行。その日東京に行くまで私はホワイトクリスマスという言葉を知らなかった。冬なんて雪が降るのは当たり前、積もらないほうが珍しい。そんな風に思っていた。雪かきの手伝いが面倒だから嫌だとすら思っていた。雪をありがたがる気持ちなんてわからなかった。

「ホワイトクリスマスだね」

 そう呟かれて隣を見る。空を見上げるその男の目は今まで私を映していた。でも今は雪の降る空を見ている。

 別にこの男が好きだなんて思ってはいなかった。ただ一人でいるよりはマシかなとデートに一回付き合うだけのつもりだった。それでも私は隣にいた。今も隣にいる。なのに、この男は私にではなく雪に目を奪われた。
 別に私だけを見てほしいだなんて重いことを言うつもりはない。だけど雪なんかに負けるのは我慢がならなかった。雪なんて、毎年のように人を殺しているような物なんかには。

「私、雪嫌いなんだ」

 少し早歩きで距離をとって振り返る。男は困惑の表情を浮かべている。そんなに私は今冷たい目をしているのだろうか。

「今日はもう解散ということでよろしく」

 有無を言わさず分かれる。これならデートを断ったほうがまだ誰も傷つかなかったかもしれない。
 だけど、雪はどうしても好きになれない。

529(2/2):2016/12/29(木) 18:39:34 ID:W4OOGiVI
 故郷よりも重く粗い雪が歩道を濡らす。今日のこの先の予定は決めていない。一人で何もないクリスマスを過ごして一日を終えるしかないかもしれない。それ以外に思いつくことも特にない。
 適当にコンビニでシュークリームを買って帰ろう。雪よりも幸せな白いクリームを味わって、それでクリスマスを終えよう。

 ふとメールが届いた。確かめてみると弟から小さな雪ダルマの画像が送られてきていた。嫌がらせでしかない。

「雪、雪、雪」

 溜息しか出ない。試しに雪に手を伸ばしてみても少し冷たいだけだった。

「うぉ!?」

 前方で誰かが転ぶのが見えた。あまり積もってないけどきっと雪のせいだ。

「いててっ……」

 追い抜く時に見てみると、まったく知らない男の顔。ただ、痛そうに表情を歪めているのを見ると少し心が軽くなった。雪が嫌いな仲間ができたかなと、思わず目尻が下がるのを感じた。
 気付けばお互いに見詰め合っていた。普段ではまず起きない異様な状況の中、私は先手をとられてしまう。

「あの、一目惚れしました」

 結局のところ雪嫌い仲間はできなかった。雪嫌い仲間は、できなかった。
 今はまだ、雪は好きになれそうにない。

530以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/31(土) 20:58:20 ID:TAgSOaHI
>>528-529
なんかストーリーから技術から、何もかもチグハグですね。
まず、その日東京に行くまでは、ってその後の陳腐なストーリーは
現在進行形に見える文章なのに、過去形の言い回しはやめて欲しいです。
まあ、おしゃれな言い回しだから使いたい気持ちはわかりますが、
どうしても現在進行形の書き方で使いたいなら、その日○○、の後に行間を3位開けて、
一拍開けた感が出せれば違和感ない気がします。
次にホワイトクリスマス、あんまりこういう言い方したくないですが、
これを知らない若い女の子なんてあまりにリアリティが無いです。
別にホワイトクリスマスを知らない女の子がいてもいいんですが
キャラの作りが小児用の風邪薬より甘いです。
普通の地方の女の子からホワイトクリスマスという単語を抜いただけっていえば伝わりますかね。
ホワイトクリスマスを知らないなら、それに付随してアホの子とか
一つのことに陶酔してそれ以外の常識等が欠如しているとかなら、
ホワイトクリスマスを知らないってことに納得できるんですが
あなたの書いた女の子はそれが無く、ザーメン臭くて薄っぺらいハリボテだなって感じちゃいます。
まだまだ言いたいことはありますが、完成させたのは偉いです。
頑張って書き続ければ読んでくれる人も増えるはずです。
根拠はありませんが頑張ってください。
よいお年を

531以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/31(土) 21:28:01 ID:JOHpJeOc
>>530
感想どうもです。お目汚しすみませんでした。
キャラ背景の描写に次から気をつけます。感想ありがたかったです。

532以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/02(月) 15:16:38 ID:Oc8YOVxY
年あけたし変えるか
お題↓

533以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/02(月) 16:53:39 ID:wvnOQ1QE
>>531
そいつ、嵐みたいなもんだから、触らなくていいよ

お題は、やっぱり正月で

534以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/02(月) 21:57:08 ID:T4GbhNu.
「正月」


 年が明ける。日の出を見る。それは新たな年への希望を胸に行う儀式。だというのに目の前の太陽は落書きのようにしか見えない。直視もできない輝きはただの赤い渦巻きに置き換えられていた。

 振り返ると山肌が見える。丸められた厚紙のような岩、薄い色紙の草花、ダンボールの樹木、眼下に広がる雲すらも歪な紙風船。少しずつ見づらくなっていく月も不自然な三日月型の紙にクレヨンで色を付けたようにしか見えない。昨日、海を見たときは細かく千切れた水色の紙片の中を厚紙の魚が泳いでいた。

「喉、渇いたな」

 紙、紙、紙……紙しか存在しない落書きの世界。悪い夢なのだろうか、人すらも紙を張り合わせ作った模型が動いている。紙でないものは自分自身のみ。
 気が狂いそうだ。もう既に狂っているのだろうか。狂ったからこんな世界になってしまったのだろうか。

 あまりの空腹に紙の草花を千切り、口に含む。噛めども噛めども紙の味しかしない。口の中の水分が奪われ余計に喉が渇いた気すらする。

 ――もう、疲れた。

 手首の皮を少し深めに噛み千切る。痛くて何度も失敗しながら、それでも必至に何度も牙を突き立てる。血が滲む、それでも噛む。痛くて痛くて涙が出る。自分で決めたことだというのに怖くて仕方がない。
 手首から明確な血の味が口内に広がる。いつの間にか涙だけでなく鼻水すら止まらなくなって息が詰まる。それでも必死に描いていく。折角手に入れた赤を無駄にしないように、覚えている限りのリアルを描いていく。

 いつの間にか、熱が頬を撫でていた。世界が、全て赤く染まっていく。息ができない、苦しい、だけどようやく開放されるのだとわかった。
 世界が全て白に染まるのを見届けることなく、私は黒い炭になっていく――

535『白』の方:2017/01/04(水) 22:26:01 ID:dTVCckZ6
ここに来れば忘れていたものを取り戻してくれるかもしれない。
この雪原に彼女の記憶が残っていれば、俺のこともきっと思い出してくれるはずだ。
すがる思いで困惑する彼女の腕を強引に引っ張って数百キロも越えてきたのに、
彼女の回答は一縷の望みを絶ち切る、言葉の無い困ったような笑みだった。

「ごめんね。やっぱり見覚えないや」

雪に手足をついて愕然とうなだれる俺の頭に彼女が言った。
奥手で奥ゆかしい彼女に惚れて俺が告白してから三年。
その三年間で最も多くの思い出を作ったのがこの雪原だったのに、
彼女を襲ったたった一回の事故がそのすべてを根こそぎ奪い去ってしまった。

「あーあ。じゃあ、もうどうしようもうないわ」

本当の彼女と築き上げた時間は、もう頭の片隅にも残っていないらしい。
そうでもなければこの人がこんなに戸惑うはずがない。
俺が好きになった人はこの世界から死なずに消えてしまった。
これほど辛い別れは、人類史を底の底からほじくり返してもそうないだろう

「帰ろうか。こんなとこまで無理矢理連れてきてごめんね」

言葉遣いから性格まで、しいては表情の使い方もまったく別人。
知らない人だと割り切れと、頭の中で誰かがささやいた。

「君の知ってる私って、たぶん私じゃないんだよね」
「そうね。知らない人よ。だから」
「やり直せないかな。ここで別れたら、元の私に悪いよ」

彼女の記憶が戻ったら、また好きになった人を失わないといけない。
そうなったらもう一度ここまで戻って来れる自信は、まだ俺にはなかった。

536以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 22:51:23 ID:dTVCckZ6
>>528-529
擦れた感性をお持ちの女性やね
負けず嫌いな性格というか世界中を見下してる冷たい感じの、はっきりとしたキャラクターは好きよ
「人であれば雪が好き」を前提にした表現の「雪嫌い」と考えると色んなものが当てはまって面白く見えてくるし
あまり人からは好かれない方向に尖った子だけど俺は好きよ付き合ってほしい

「思わず目尻が下がるのを感じた。」
を自分で読み返して、ん?って思えば、文章内のたいていの違和感は直せると思うからがんば
頭がHappyなものしか書けない俺からすれば読み続けたい独特の視点で興味あるよ

537以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 23:01:20 ID:dTVCckZ6
>>534
ずいぶんとスプラッタなお正月をご存じで
そっち方向には詳しくないから浅い感想になるけどご容赦を

一文一文が短くてテンポがよくて好きよ
世界を紙に置き換えて話しを進める斬新さはそうそう出るものじゃないからすげえよね、ぱねえ

お前さんの作風と書き方から察するに、「ここがおかしい」というと
「んなわけねえじゃん!」とか返ってきそうだけど、ひとつだけね
「余計に喉が渇いた気すらする。」
気すらするじゃなくてもっと言い切る形にした方がより強い飢えや渇きが出せるんじゃないかねって
全体の表現が押し付けるほどに強めだから一歩でも引いたような部分があると目立って勿体ナス

しかしスプラッタについては何が適切なのかが本当に分からん

538以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/04(水) 23:37:54 ID:pFsfw0L2
>>536-537
>>533で言われたのでむやみに誰かの感想に返答してもいいのかわかりませんが、感想どうもです。
細かい違和感に気付くのは難しそうですけど、少し時間を置いてから読み直す等で頑張ってみます。
あと世界観と主張の激しい作品はなるべく堂々とした書き方を貫けるよう気をつけてみます。
アドバイスありがとうございました。

539以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/06(金) 01:02:34 ID:KcGN5FVo
「あけましてええぇぇ、おめでっ、とおぅっ!」

年明けの挨拶から妙にテンションの高い幼馴染が振袖姿で何かの決めポーズを取った。
カマキリが鎌を振り上げたような上体とフラミンゴを彷彿とさせる片足立ち。

「今の私は縁起がいいよ。力がすごい。なんか、こう、縁起力がすごい」

インターホンに呼ばれた年明けの一発目にこんな奇怪な光景を見せつけられた俺の心境が、こいつに理解できるのだろうか。
幼馴染は奇妙な佇まいを維持したまま何やら企むような怪しげな顔でにやけた。
まだ午前八時。人の家の前で理解不能なポージング。もう既に不審者。
その不審者が意味あり気な笑みを浮かべるのだから、これは通報する以外の選択肢はないに等しい。

「お年玉ちょー」

全てを聞き終わる前に扉を締めて手早く鍵をかける。
チェーンを引っかける完全防備の時間まで許してくれたは、
相手の反応が遅れる程度には想定外の行動だったのかもしれない。

「お餅! お餅でいいから頂戴! お餅でいいからあ!」

自業自得のクセに半泣きになっている声が扉越しに聞こえてきた。
何年一緒にいても思い付きと好奇心に急かさせる幼馴染の行動パターンはまったく読めない。
いつまでも玄関前で騒がれているとさすがに近所迷惑になると思い、
施錠を解いて玄関を開き、幼馴染を中にへと引っ張り込む。
改めて幼馴染の振袖姿を見ると、まあなんというか、馬子にも衣装とはよく言ったものだと感心する。

「いきなり閉められたからびっくりした。さ、お年玉」

こんな思考回路でなければ可愛いとは思う。
つくづくもったいないことをしてるなと思いながら、幼馴染の顔面にのし餅を叩きつけた。

540以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/10(火) 22:44:33 ID:z8MNuiGQ


541以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 01:34:30 ID:wF.RdGcU
そろそろお題変更かな


542以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/11(水) 09:50:54 ID:C553H5TM
かまくら

543以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/12(木) 21:43:46 ID:xGyuYHGY
「かまくら」


 雪が降り積もる中で妖精が遊んでいる。妖精は楽しそうに雪をすくい上げ、見つめる。見つめ終わると雪を宙に舞わせ、また楽しそうな表情を浮かべる。

 そんな光景を、ただ見つめる者がいた。周囲に足跡はない。長い時間その場に佇んでいたことがわかる。
 妖精は自分よりも何倍も大きなその人物に怯えることもなく、雪に目を輝かせている。雪の上に倒れこみ、雪のクッション性を確かめる。小さな足跡で覚えたてのひらがなを書いてみせる。大して積もっている訳でもない雪を、それでも小さな体で存分に楽しんでいる。

 今度は雪ダルマを作るようだ。小さな雪球を作り、重ねる。大きな雪ダルマを作ろうという発想がないのか、その小さな雪ダルマで妖精は十分満足した。作った雪ダルマを掲げ、自分を見つめる者に笑顔で差し出すのだ。

 雪ダルマの受け渡しが完了すると、今度は雪を大量に集め始める。小さな手ですくい上げた雪を少しずつ固め、壁のようなものを作ろうとする。サークル状の壁、それは見る者に竈のような形を思い浮かばせる。小さな体では思うように雪を集められないが、懸命にその小さな大仕事に取り組む。

 思わず、手が伸びたのだろう。その大きな手が雪を片手にひとすくい分、妖精の傍に積んだ。妖精が嬉しそうにその雪を固めて作品を仕上げていく。妖精のために、それは何度か続けられた。
 出来上がったのは小さく不恰好なかまくらだった。妖精は満足そうに笑顔を振りまく。

「先輩、ここにいたっすか」

 雪の上に大きな足跡が現れる。無言の世界に、声が戻ってくる。既に小さな雪ダルマは、体温で完全に溶けてしまっていた。

「……雪、娘さん、喜んだっすかね」

「あぁ、妖精さんは喜んでいるよ」

 妖精が抱きついた大きな手は、霜焼けで真っ赤に染まっていた。喜びに顔を赤くする妖精と、同じ色だった。

544以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 00:27:44 ID:inaiQAdo
>>

545以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 00:42:14 ID:inaiQAdo
>>543
やっぱり無邪気って可愛いわ
幼子や子供じゃなくて妖精と言われると純潔さが出ていいよねえ
俺もあの頃は自由だったわ……あの頃に帰りたい……
無言の世界に声が戻ってくるって表現が意図的に用いた比喩なら大好き
背丈相応の小規模な世界ってどうしてあんなに時間が詰まってたんだかね……

テーマのかまくらを冒頭に持ってくると使える行が減って苦しくなるから省いていいと思うよ
面白いお話なのにぎゅうぎゅう詰めで読まないといけなくなるからなんかもったいない
それと「私」とかを使ってはっきりとした一人称視点で書いた方が妖精の観察してる感じが際立ったかなあって

妖精が自然体でいる表現が上手でおいらは好きだよ
なんて言いながら書く側の意図を汲めてなかったらスマソ

546以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 00:43:27 ID:inaiQAdo
空を見上げれば冬。
ふわりふわりと降りてくる雪に囲まれていると、いつもより一秒が長く感じられる。
バケツに雪をかき込む作業の手を止めて振り返ると、中庭に面した校舎がそびえ立つ。

創立80周年を迎えた名門校。名前を聞けば誰もが驚きに眉を持ち上げる。
独自の教育カリキュラムを組み上げることで有名大学への進学率では他校を圧倒。
運動部からも毎年のようにトップアスリートを輩出している登竜門的な存在。
『世界の牽引者の育成』にふさわしいトップレベルの学習環境の中にいながら、
なぜか俺は、水面が凍り付いた池の前でかまくら作りに加わっていた。

「本当に何故だ」

本来なら暖房の効いた図書館で難問奇問の並んだ入試問題に挑んでいたはずである。
それなのに、どうして今、手袋とマフラーと耳あての防寒三種の神器を身につけているのか。
握っているのはペンではなくてシャベルとバケツ。幼稚なお遊び道具に眩暈が起きそうになる。

「ギャザー(gather)! 動きが遅い! カーゴ(cargo)に待ち時間を作らせない!」
「はいはいはい!」

指揮を執る部長の怒号に突かれて慌ててバケツに雪を放り込む。
かまくら作り最短記録の樹立を宣言したレクリエーション部部長は、なまはげの形相だ。

「ギャザー! あんた、雪国を舐めてんでしょ!」

こちとら産まれも育ちも在住も関東圏。部長だって北緯36度線を越えた経験が無いのは知っている。
横目で製作部門に振られた女子部員に視線を向けると、寒さと冷たさと恐怖で目に涙を浮かべていた。

「ああもう! ギネスから2分遅れ! やり直し! 配置用意!」

挑戦的な部長の大声が冬休みの中庭に響く。築いたかまくらを崩す虚無感が白い溜息となって空へと昇って行った。

547以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 21:40:56 ID:Kp8g4iP6
>>545
感想どうもです。次からお題は名前欄に書いておきます。
伝えたいことが伝わらなかったのはこちらの力不足なのだと思います。無言の世界は比喩じゃなかったです、ごめんなさい。
流石にこんな小さな妖精さんはいません。見えるのならそれは家族を失った誰かの妄想、ということです。

548以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 21:41:16 ID:rh9dxZO6
>>543
妖精さんが可愛いだけに、後輩?の台詞が「楽しめた」じゃなく「楽しんだ」なのが
(深読みし過ぎだろうけども)最初の…も相まって、もしかして「娘さん」は亡くなっていて全て空想…?と思う程度にはひっかかったので
例えば妖精の頭を撫でながらとか、真っ赤な手に少し呆れたような声でとか、後輩の感情が分かる描写があればなお良いと思う
雰囲気は好き

>>546
実際ありそうな部活且つ居そうな先輩なのがまた

549以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 21:44:14 ID:EJIICtYA
すまん被った
深読みじゃなかったのか…

550以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/13(金) 22:31:32 ID:Kp8g4iP6
>>548-549
感想どうもです。一応妖精さんのサイズが人間の子供とは思えないほど小さいように描写したつもりでした。
後輩が妖精さんに話しかけないのもお察しのとおりです。
次からは意図的にそういった部分を匂わせる文章をもう少し足してみることにします。

551以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/18(水) 22:48:30 ID:ouxW/CU2
お題↓

552以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 12:37:51 ID:EW5.s8XM
苦味

553以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 16:06:33 ID:M4RYfjU.
 そう新しくもない公立校だからか、教室内はともかく廊下や階段に暖房設備はありません。忍び込んだ一月の風が緩く吹き廻るこの一角は、建物の中だというのに吐息が白く染まる寒さです。それにこの旧校舎二階から三階は各科目の実習室が並ぶところ、木曜日の午後は全クラス共にこのフロアを利用する授業が無い事も解っています。真冬の今、昼休みとはいえ用も無くここを訪れる者など職員にも生徒にもいない事でしょう。たとえ誰かが近づいたとしても、その人がこの三階の階段ホールに辿り着くまでに足音で気づけます。だから、何も心配は要らないのです。

「見せてごらんなさい。ああ、もうこんなに苦しそう」

 私は制服のスラックス越しにその生殖本能が集中し昂った部分を指でなぞると、視線を上げて彼の表情を確かめました。頰

554以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 16:09:50 ID:M4RYfjU.
 そう新しくもない公立校だからか、教室内はともかく廊下や階段に暖房設備はありません。忍び込んだ一月の風が緩く吹き廻るこの一角は、建物の中だというのに吐息が白く染まる寒さです。それにこの旧校舎二階から三階は各科目の実習室が並ぶところ、木曜日の午後は全クラス共にこのフロアを利用する授業が無い事も解っています。真冬の今、昼休みとはいえ用も無くここを訪れる者など職員にも生徒にもいない事でしょう。たとえ誰かが近づいたとしても、その人がこの三階の階段ホールに辿り着くまでに足音で気づけます。だから、何も心配は要らないのです。

「見せてごらんなさい。ああ、もうこんなに苦しそう」

 私は制服のスラックス越しにその生殖本能が集中し昂った部分を指でなぞると、視線を上げて彼の表情を確かめました。ほおが紅潮し、目は潤み、吐く息はさっきまで以上に白く湿り気を帯びています。彼は小さく呻くように「先生」と囁き、私を見つめ返してくれました。きっと今、その瞳に映る私は恍惚に塗れた雌の顔をしている事でしょう。

 スラックスの内で真上に反り返り脈を打つ充血した固い肉のスポンジを徐々に上に擦り上げてゆくと、それまでより少しだけ柔らかい部分に辿り着きます。その境い目である段差を指が乗り越える時、ぶるんとした感触と同時に彼の身体が一瞬強く脈を打つのが伝わりました。
 もう一度「見せてみなさい」と促すと、彼は酷く恥ずかしそうにファスナーを下ろします。しかし既に平常時の大きさでは無くなってしまっている彼の器官は、引っかかったように顔を出しません。私はそれを解放してあげるため制服のベルトを緩め、スラックスのホックをそっと外しました。次の瞬間、今まで彼自身と同じように恥ずかしがっていたはずのそれは牙を剥いたかの如く弾け出て私の顔を真っ直ぐに指したのです。
 形だけを見れば爬虫類の頭部に似たそれは、鼓動と同じ一定のリズムで僅かに上下しながら獲物を捉えようとしていました。今この時、彼にとっての獲物とは私自身。彼は相手を捕食するのではなく、その体内に侵入し己の遺伝子を撒き散らす事を望んでいるのです。彼の本能は私に対して『自分の分身を孕み、胎内で育て、産め』と言っている。私は恐怖と歓びが湧き上がるのを感じ、喉が鳴るほど大きく唾を飲み込みました。

 私はその付け根に指を当て、今度は布に遮られる事なく直接触れた状態で同じように指を伝せてゆきます。痛みと擽ったさの間、ちょうど心地よいと思ってもらえる強さを探り、それを維持するつもりで擦ります。硬直し、ほとんど弾力が無いと思えるほど硬直した茎にも、真裏に当たる部分に少しだけ柔らかいところがあるのは知っていました。そしてそこがこの周辺では最も敏感であることも。

555以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 16:10:25 ID:M4RYfjU.
 茎の先には丸みを帯びた赤黒い果実がなっています。その先端には小さな割れ目があり、そこから透明な蜜が少量溢れていました。でも私は、それが本当は少量ではない事も知っています。茎を擦り上げた人指し指を果実に移し、残りの指を開いて包み込んで潰さない程度の力で握ると、また彼は小さく呻きました。そして果実の付け根から先端に向けて搾るように動かすと、更に多くの蜜が溢れ出してきます。私は親指の腹を先端の割れ目に当て、そっと円を描くように捏ねまわしました。にち、にち、と僅かな粘性を持つ事の判る水音がたちます。少しずつ溢れ続ける蜜はやがて私の親指の付け根に垂れるまでになり、それを五指に纏わせ果実全体を捏ねると更に大きく卑猥な音をたて始めます。

「ぬるぬるした方がずっと気持ちいいでしょう? でもこれは貴方の中から出てきたの。貴方、自分で出したもので気持ちよくなってるのよ?」

 そう嗜めると彼は羞恥あるいは悔しさからか、息遣いを荒くしたように思えました。でも本当は彼だけを責められる立場には無いのです。私には彼の出口よりもずっと大きな、でも形の良く似た入り口としての割れ目があります。私のそこは触れて音をたてずとも、彼とは比べものにならない量の蜜を溢れさせている事は解っていました。
 でもその入り口に彼を迎えてあげる事はできないのです。彼の本能がどんなに私に種子を植えつけたくとも、そして私の本能がそれを乞いているとしても。私と彼が教師と教え子である以上、今は彼の遺伝子を私のそれと交じらせる事はできません。

 絡む指を潤滑させていた彼の蜜は、互いの体温で次第に乾いてゆきます。音がたたなくなり、接着力の弱い糊のようにべたべたとし始めた茎と果実。本当は私の蜜が溢れる入り口に誘われたがっているそれを、せめて似た感触と温もりで包んであげたい。私はそう思いました。

 口の中にできるだけたくさんの唾液を溜めて、果実の先端に優しく口づけます。唾液が溢れないよう薄く唇を開き舌を伸ばしてそれを塗り広げると、彼の出口からも新しい蜜が滲んでくるのが判りました。私はそれを愛おしく吸い取ります。そして隙間を作らないよう唇をぴったりと彼の果実に沿わせて、少しずつそれを口内に飲み込んでいきました。
 彼が快感に震えながら「先生、あったかい」と呟きます。しかし口内を犯す彼の塊も、私には熱いものとして感じられました。なぜ互い共が温もりを感じられるのでしょう。一方が熱いと感じればもう一方は冷たく感じるのが普通であるはずなのに、とても不思議に思えました。
私は舌をできるだけ横に広げ、彼の裏側半面を包み擦るつもりで押し付けながら頭を前後に動かします。喉に当たるまで深く咥え込み、強く吸い上げながらゆっくりと引き抜いて。彼が一段階太くなる、最も敏感なその段差を唇で締め付けながら乗り越えました。そして撫ぞる相手を失った舌の先を彼の先端にある割れ目に少しだけ侵入させ、まだ出てくる前の蜜を味わいながらもう一度深く沈めてゆきます。

 1ストロークに数秒、でもだんだんと早くしてゆくとほんの十回目ほどで彼が艶やかな声をあげながら私の頭を両手で掴みました。女では抗えない彼の力で、今までで一番深く咥え込むよう引き寄せられます。彼の先端が喉を強く押し、私は若干の苦しさを覚えました。しかし次の瞬間、彼は私の口内で激しく暴れ狂いながら喉の奥に多量の粘液を撒き散らしたのです。それが少し落ち着きかけた時、彼は私の頭を掴んだまま自らの腰を前後に動かし始めました。最後の一滴まで出し切ろうとしているのでしょう、それは私の事を微塵にも気遣った動作ではありませんでした。でも彼が我を忘れてしまったのは紛れもなく私が与えた快感のせいであり、私の心には歓びの他に感情はありませんでした。

 彼が自身を引き抜くと、私の唇から少しだけ彼の白濁とした欠片が溢れました。自然界において苦味と辛味は有毒のサインであるといいます。しかし私は生臭さを帯びたその苦い粘液を、衝動のままに飲み干したのです。

556以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 16:11:11 ID:M4RYfjU.
すまん、何回かミスった上に本文長すぎって言われて2レスに分かれた。また他の感想も書きにきます。

557以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/19(木) 19:21:29 ID:EW5.s8XM
官能ありだったのかここ

558以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/20(金) 00:20:43 ID:4o4BCuGE
そんだけ長いのを書きたければ自分でスレ立ててうんぬん
官能が禁止かどうかは知らん
知らないが触発されて官能が出てくるようならいらない

559「苦味」(1/2):2017/01/20(金) 19:29:32 ID:hUl4NPm6
 お客さん、これは今よりずっと昔から「昔々」と伝わるお話でさぁ。

 ある森に狼の群れがいやした。その狼の群れの頭は強くて賢く、おまけに格好いい。それはもう立派な狼だったんでさぁ。これがあまりにも凄い狼なもんで群れのメス皆がその狼にホの字になっちまいやしてね、他のオスの狼はモテないことモテないこと。

「おい、どうする。このままじゃ群れは子供が少なくなって滅んじまう」

「何、ボスならメス全員に子供生ませるくらい簡単だろうさ」

「お前さんそれでいいのかよ。俺はモテたいぜ」

「俺だってモテたいさ。モテモテになりたいよ」

 モテない狼たちは頭を悩ませる。するとこんな声があがる。

「そうだ! 婆様から聞いたことがある。なんでも森の沼にとんでもない木の実があるって」

「とんでもない木の実? なんだいそりゃ。食べたらモテるようにでもなるのか?」

「全部食べきることができたって話だがな」

 まさかまさかの凄い情報に狼たちは顔を見合わせる。デマじゃないのか、いやただ不味いだけの木の実ならこんな噂話出るはずがない。少しの間相談すると我先にと狼たちは駆け出しやす。
 そうして辿り着いたのが森の沼。森で一番大きな沼の真ん中にある小島に木が生えている。そしてその木には沢山の木の実がなってるんでさぁ。狼たちは沼を渡りなんとか木によじ登って木の実を手に入れる。ところがいざ食べてみると皆が吐き出しちまいやす。

「甘すぎる!」

 そう、木の実は尋常じゃないほどに甘かったんでさぁ。何とか食べようとしても甘すぎて吐き出しちまいやす。これは食べられたもんじゃない。頑張ってみる狼たちもどんどん諦めていくんでさぁ。
 だがまだ諦めていない狼がいやしてね。どうしてもモテたいんでしょうなぁ、この甘すぎる木の実を食べる妙案を思いつきやす。

560「苦味」(2/2):2017/01/20(金) 19:31:32 ID:hUl4NPm6
 その狼は木の実を木の枝に突き刺して口にくわえ、森を駆け抜ける。モテない仲間の狼たちもそれに続いて駆けていくと山に辿り着いた。暑い熱い火山でさぁ。そして狼は毛皮が焼けちまうほど熱い風の吹き出る穴の近くに木の枝を突き立てやした。
 しばらく離れて待っていると木の実はどんどん焼けていって黒くなっていきやす。そう、焼いているんでさぁ。よく焼けて炭になった外側の部分と一緒に狼は木の実を食べる。甘すぎる木の実に炭の苦味が足されて「これは美味い」と狼はとうとう木の実をひとつたいらげやした。

 凄いと賞賛し次々に木の実を焼き始める他の狼たちを尻目に木の実を食べた狼の姿が変わっていきやす。毛並みはどんどん美しくなっていって――

 ――狼はそりゃもう美しいメスになりやした。

 こうして狼たちに伝わる昔話は木の実の正しい食べ方が追加されるのと同時に訂正されやす。経験者曰く、「モテモテになるのではなく、モテモテになってしまう」ってな話に。
 お客さんらもモテないからといって美しいメスになった親友を襲わないようにしてくだせぇ。寝ている間に木の実を口に放り込まれても、あっしは知りやせんぜ……

561以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/21(土) 02:11:16 ID:Lno3w9Sg
>>554-555
手が込んでるのとこだわっているのは感じるけど、内容も量も場所を選べばもっとよかったかなあとね。
それだけ書けるなら自分でスレ立てた方がまとめられただろうし外の評価ももらえただろうし、
なんかもったいないことしてるねって。

ここで書くにしては……というのを抜きにすれば、中身は普通にいいよ。面白い。
全部を比喩で通してるけど読みやすいのは羨ましい。
10レス完結でいいからその内容でスレ立てちまえよ。読むよ、俺は。

>>560
落語かよ。
語り口調の軽さと会話のテンポの良さ、好き。
内容の童話っぽさとかオチの分かりやすさもええね。
俺は好き。

562以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/21(土) 02:12:35 ID:Lno3w9Sg
「なにが青春よ。学校は学校でも私にとっては職場だってのに」

デミグラスソースの染みた割り箸に、憎らし気に歯を立てて呪詛を唱える学年主任。
コンビニで買ってきたのだろうハンバーグは、そのトレーの中でサイコロ状に細かく切り刻まれていた。
恨み声から察するに、どうやら先ほどの昼休み中に人目を憚らない学生カップルと出くわしてしまったらしい。
大台の30歳を目前に控えていながら恋愛経験がないことを飲み会の席で嘆いたのがつい先日。
焦りと妬みが同時に襲い掛かって来れば、確かに不平等な現実への不平不満を吐き出したくなってしまう。

「どうせあの子たちだって私と同じよ。十年もしたらすぐに私みたいになるんだからね」

誰か彼女を止めろ、という無言の押し付け合いを含んだ視線が教務室内を飛び交う。
プレッシャーを感じているのは彼女だけではないので愚痴に付き合ってもいいのだけれども、
今話しかければ面倒な事態に発展してしまうのは火を見るよりも明らかなので、
手元にある小テストの採点を進めることで不毛な争いから抜け出すことを選ぶ。

「先生、なに一人で丸付けなんてしてるんですかあ」

しかしその努力も甲斐なく、質の悪い絡み酒のごとく面倒事が向こうからやってきてしまった。
願わくば勤務時間中は喋りかけられたくなかったし、彼女ともそう約束していのだが、
長年の鬱憤がここにきて許容限界を越えてしまったようだった。

「私のイライラの原因は先生にもあるんですからね。早く責任とって下さいよ」

教務室内の空気が全て抜かれたかのようのしんと静まり返る。
分かってる。お互いに酔った勢いと言えども、わりとまんざらでもなかったのは認める。
動かないのは逃げるための先延ばしではなくて、身を固めるための準備期間だからもう少しだけ待ってほしい。
などの言い訳にもならない無責任な言葉を出すわけにもいかず、押しつぶされそうな重い空気の中で手帳を開く。
次の空白は日曜日。サプライズで諸々の予定をこっそりと進めていく計画はご破算となり、
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれと手帳を渡すと、彼女は黒ペンで予定を書き加えた。
筆圧強く刻まれた『指輪選ぶ』の四文字に、傷んだ林檎を齧ったような苦みを感じた。

563以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/21(土) 02:13:41 ID:Lno3w9Sg
被った感がすごいから違うのかこうかなあと思ったけど練り直し面倒だからいいやってなった

564以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/21(土) 22:09:22 ID:bQ4N6b6w
>>561
感想どうもです。色んな書き方試してるので次も褒めてもらえるような作品を作れるようにしたいです。

565以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/24(火) 08:00:03 ID:ngBDKrBQ
そ次題↓

566以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/26(木) 01:03:18 ID:jB9WGfSs
椿

567「椿」:2017/01/27(金) 19:17:27 ID:oFVgC8Gw
 虹椿により選ばれた勇者は毒の蛇を祓う。その話が伝説となった時代。しかし伝説の毒蛇は今一度復活した。八つの首から生える牙の毒は霧となって世界を覆い、この世の生き物の寿命を半分にまで縮めた。多くの動植物が絶滅の危機に瀕し、人もまた滅びようとしていた。
 だが一人の勇者が選ばれた。虹椿から枝を与えられ、その枝を燃やした灰を鋼に混ぜ、七色の聖剣を生み出した。勇者は聖剣を振るい谷を進む。そしてついに毒の蛇の前に辿り着いた。

「蛇よ、何故世界を毒で覆う?」

「恐怖こそが我が糧となる」

 蛇は世界が怯えるほどに力を増す。しかし勇者もその分力を増した。恐怖に対を成す人々の希望が勇者の力となっている気がした。
 戦いは八夜続いた。半日をかけ首をひとつ落とす。何故か毒の蛇は勇者が一時撤退しても追うことをしない。休み休み戦い、ついに九日目の朝に最後の首は聖剣により落とされた。それを見届けた勇者はその場で眠りに付いた。

 勇者が目覚めると、蛇の巨体は姿を消していた。残るのは薙ぎ倒された木々の切り株のみ。聖剣が勇者に語りかける。

「私を中央の切り株に突き刺せば、あなたの役目は終わります」

「それで毒の蛇を封印できるのですね?」

「八百年、毒の蛇は現れないでしょう」

 勇者は切り株に聖剣を深々と突き刺した。すると空に虹が現れ世界から蛇の毒が消えていった。こうして勇者は伝説の再来として語り継がれた。
 だがまた八百年後、毒の蛇は再び姿を現すのだろう。そして新たな勇者がまた伝説を紡いでいく。

 二百年後、誰もいないその場所に声が響く。

「あと六百年……」

 挿し木から成長した椿は、二股に分かれていた。

568以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/31(火) 01:06:47 ID:xRhkDFL2
私たち双子は似ているらしい。
鏡に映してるみたい、なんて笑われることもしばしばあったけれど、
私たちからすればお互いが全くの別人で、その言葉が理解できなかった。

「私たちって似てないよね」
「似てた方が嬉しかった?」

紙パックの残り少ないジュースをストローですする姉と、サンドイッチを両手でつまんで食べる妹。
保育園に入園してから大学に進学するまで同じ部屋、同じ教室、同じ友達と過ごしてきたのに、
食事の作法のひとつを取り上げてもこんなに違っていた。なのに周りは「似ている」と笑うのだ。
示し合わせたわけでもなく希望した大学の学部まで被ったときは「ああ、一卵性の運命なんだなあ」と
妙に納得してしまったけれど、それ以外に一卵性を意識する機会なんてまったくと言えるほどになかった。

「おしとやかに食べるよねえ。モテたいんだ?」
「違います。人の目を気にするべき場所だからです」

顔を覗き込んでからかわれても妹は雰囲気を崩さない。
それどころかテーブルに置いていたハンカチで姉の汚れた口元をさっと拭い取ると、
慣れた手つきて照り焼きのソースがついた面が内側に入るように畳んだ。
こんなに出来た子が姉に似ていると言われてしまうのが可哀想だと思わずにはいられない。

「私にはもったいないくらいのいい人紹介してあげるよ」
「なら私にも釣り合わないよ」

サンドイッチを食べ終えた妹は、ハンカチを開いて口を拭いた。
「気取らない優美さ」。今の妹には、好きだと言っていた赤いツバキの花言葉がそのまま当てはまる気がした。
じゃあ、今の私にはなんの花が似合うのか。椿に似た花を咲かせるサザンカだろうか。
気になってサザンカの花言葉を検索にかけると、答えを見つけるよりも早く妹がため息交じりに言った。

「私よりもきれいなのに、お姉ちゃんってもったいないよね」

569以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/31(火) 12:57:59 ID:nFfCAds.
>>567
oh…マッチポンプ…
オチは好きなんだが、椿である必然性が薄いのが残念
例えば油によって灯りが出来る→闇を祓う、とかいうこじつけや
首が落ちるように花ごと散る様及び血のように真っ赤な色から、犠牲者の無念の象徴とされる、なんて描写があれば
伝説に説得力増すし、最後の不穏さが増したんじゃなかろか

>>568
サザンカの花言葉:困難に打ち勝つ・ひたむき・素直・飾らない心
謙譲・あなたがもっとも美しい(赤)
愛嬌・あなたは私の愛を退ける(白)
…ほほう
コンプレックスの描写、花言葉の使い方が上手い
似ていないと思ってるだけで根っこは似てる気がするなこの双子

570以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/01(水) 00:48:33 ID:4KpRldZM
>>569
感想どうもです。見直しもしたのにご指摘されるまで完全に失念していました。
八岐大蛇を退治したスサノオの奥さんが二股の夫婦椿を植えたという逸話を見て衝動的に書いたせいだと思います。
今後は説得力を出すための描写を忘れるようなミスをしないように気をつけたいと思います。すみませんでした。

571以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/02(木) 20:28:35 ID:nF8xgnAc
そ(ry
お題↓

572以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/03(金) 00:42:51 ID:U0TimGTE
鬼やらい

573「鬼やらい」:2017/02/04(土) 01:44:16 ID:BwQylNTs
 人々が恐れを抱くほどに鬼は力を増す。だがそれも今は昔の話。
 鬼と聞き今の人々が思い浮かべる擬人化された姿は、人々から恐れを取り除くために陰陽師たちが世に広めたものだった。陰陽師たちは勝った。擬人化された鬼を追い払う儀式すらただの恒例行事に成り果て、鬼たちは陰陽師たちの広めた逸話のとおりの弱点を抱えることになったのだ。

 鬼は陰陽師に敗れたが、鬼は不幸そのもの。鬼は消えない。人々に不幸をもたらす己の役割を忘れたりはしない。

「おい! しっかりしろ! こんな見え見えの誘惑に負けるな!」

「くっ、この俺がこんな誘惑に、ひとつふたつみっつ、ああっ!?」

 若い鬼が庭に撒かれた煎り豆を数え始める。そして風が吹き豆が動き最初から数えなおしだ。若い鬼は己の役割を忘れ楽しそうに豆を数えている。
 酒、嘘、柊、申酉戌、そして豆。陰陽師に負け、背負うことになった様々な弱点。その弱点を突かれない限り己の役割を忘れたりはしない。しかし、今の世にはその弱点が多すぎる。

「若い奴は誘惑にやられたか。だが負けるわけにはいかない。この家の住人を不幸に」

「うわぁ!? いっ、犬だ!」

 窓から見える小型の座敷犬に怯える鬼たち。犬がお腹を空かせキッチンに餌を強請りに行っても鬼たちは怯えるばかり。勇気を振り絞り家に侵入できた鬼はわずか三名。

「お前らふざけんなっ! ちゃんとしろ!」

 飲み酔っているこの家の大黒柱の手元の酒に吸い寄せられる二名の鬼。そして大黒柱の酔った勢いに任せた大法螺に倒れ臥す。僅かな時間で残る鬼は一名のみとなってしまった。

「絶対に、絶対にこの家の者を不幸にっ」

 酒を飲んでいる大黒柱に不幸は届かない。だが鬼の誇りにかけてせめて一人でもこの家の者を不幸にしなければならないと決意し、最後に残った鬼は扉をすり抜ける。

「バレンタインとかマジ死ねよバレンタイン。チョコとか太るし、お菓子会社必死すぎ乙」

 鬼は目を逸らし部屋を出る。鬼は再び敗北した。だが最後に残った鬼だけは一人分の不幸により己が力を増していた。仲間から褒め称えられるが、その鬼の表情はおこぼれで一等賞を貰ったかのような微妙な表情であった。

574以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/05(日) 15:53:49 ID:9NRsXTTI
鬼ですらそっ閉じする嘘か…哀しいな…

575以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/10(金) 00:38:59 ID:ReLx1ed6
高校の入学式から一週間も待たぬ間に、兄の紹介によってとある部活の
マネージャーになった私でございますが、なにやらここ数ヶ月間で部活内の
雰囲気が変わりつつある気がするのです。

以前と何が違うのかと聞かれてもはっきりとお答えができないのですが、
先代の部長が抜けてから部活内の空気が落ち着いてしまい、目先の一勝に
対しての執着が剥がれかけているように感じ取れました。

「先代たちが築いてきた歴史が途絶えてしまう恐れがあります!」

危機感に駆られた私は、バインダーを机に打ち付けて立ち上がりました。
全国大会に出た回数こそ指折りで数えても片手に収まってしまいますが、
県大会で万年二位、稀に一位の成績を維持している私たちは、同地区内の
他校からすれば強豪校と称えられる立場に居るのです。居てしまうのです。

「そんなことを言われてもねえ。俺たちは楽しく部活がしたいだけだし」

ミーティング中だというのにガムを噛みながら話すのは現部長。
机の上に足を投げ出してスマートフォンを弄っている姿に、高校男児の
青春に欠かせない勝利への飽くなき渇望は見て取れませんでした。

「楽しく部活がしたいんですよね」

『自分に厳しく、部活は楽しく、ご飯は美味しく』が先代たちのモットーで、その言葉は
入部申請書を渡される前の見学希望を行っているときに聞かされているはずです。

「あー、そういうことね。だから俺の凡ミスで先輩方の引退試合が早まったのはメンゴって」

部長はいけしゃあしゃあと言ってのけました。この人の陰謀で負けた後、兄は部員に頭を下げたのです。
負けた後の見栄っ張りの笑顔を思い出して、私はあまりの悔しさにバインダーを強く握りしめました。

576以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/12(日) 00:28:41 ID:qmcYgHBQ
次かな?
お題↓

577以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/13(月) 08:37:57 ID:byf1CSmk
チョコ


時期だしな

578「チョコ」:2017/02/14(火) 22:23:10 ID:pP7jtXR6
 夏休みの自由研究。ボクはクラスメイトの観察日記をつけることにした。明日から色んな場所に行って、見かけたクラスメイトのことを書いていこうと思う。

 初日から凄いところを見てしまった。名前を出したらイジメになりそうだから書けない。ボクは変には思わない。周りは気にせず、二人が幸せになりますように。……見たぞ?

■■■■■■■■■■  ■■
  ■■■■■■■■■■
    ■■■■■■■■■■

 三日目、幼馴染のアイツが遊びにきた。そして勝手に観察日記を見てチョコアイスを落とした。二日目に書いたことが消えた。しかもそれを「バレンタイン、プレゼントってことで」と。アイツの中では今はまだ寒い季節らしい。くすぐってから布団で簀巻きにしておいたた。

 四日目、アイツそのままボクの家に泊まった。勝手にボクのバニラアイスも食べていた。「ホワイトデーのプレゼントってことで」とか。ヘッドロックかけておいた。

 〜(中略)〜

 夏休み最終日、なんでまたボクはコイツと一緒にいるのかわからない。クラスメイトの観察というよりもコイツの観察日記になってる。

 けど、アイツは最後の最後に、冷凍庫の奥をよく探してみてと言ってきた。冷凍庫の奥には、ラッピングがくしゃくしゃになって砕けたチョコがあった。手紙も入っていた。アイツの文字だ。信じられないくらい真剣な言葉が書かれてた。

 今、夏休みだぞ。家は冷凍食品多いから、こんな奥に入れたら気付けないよ。明日から新学期だ。アイツは何ヶ月も悩んだんだ。夏休みの最後だから勇気が出せたんだ。
 ボクとアイツは似ている。アイツは何かないと素直になれない。チョコも素直には渡せない。夏休み最後の日という魔法の日だから言えたんだ。ボクもきっと、今日しか言えない。
 外は夜で危ないって言ってたけど、どうしても今日しか言えない気がした。

 きっとボクたちはあんまり変わらない。でも日記を読んだ先生なら少し変わったってわかる。先生にだけ最初に教えます。だから先生、どうかこの日記は誰にも見せないでください。
 でないと登校日のアレ、バラします。

579以下、名無しが深夜にお送りします:2017/03/24(金) 11:14:01 ID:IzJtwU7Q
一月も止まってんのか
お題↓

580以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/02(日) 15:47:05 ID:nsfNRUtE
明かせない嘘

581「明かせない嘘」:2017/04/08(土) 01:06:16 ID:iWrTyoxU
 家族に嘘をついてしまった。今となっては明かすことのできない嘘だ。何故なら、

「なんであの子が……」

 死んでしまったからである。家族に私の姿は見えないし私の声も聞こえない。何故私は婚約者ができたから今度連れて行く、なんてすぐにバレる嘘をついてしまったのだろう。そして調べればすぐに嘘だとわかるだろうに何故家族は未だにそれを信じているのだろう。

「あの、婚約者の方のご親族が同時葬式を提案されているのですが、どうしますか?」

 ん? 何やら不穏な話になってきた。私の婚約者の親族? 同時葬儀?

「最期までこの子を守ろうとしてくれた人ですもの。二人もきっとそれを望んでいます」

 最期まで、私を守ろうとした? 私は、一人でバスに、

「この鍵、たぶん合鍵だと思うのでお返ししますね」

 やめて、やめてっ! 嘘ついたことは謝るから、だから同時葬儀なんてやめて!

「きっと、二人仲良く旅立ってくれることでしょう」

 私の姿は誰にも見えないはずなのに、後ろから視線を感じる気がした。

582以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/11(火) 21:54:40 ID:YdOfsw4A
ストーカーか?こええなあ

細かいけど、同時葬式より合同葬式のが良いかな、合同結婚式のごとくw

583以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/12(水) 23:10:57 ID:smlX6Fx2
>>582
感想どうもです。はい、ストーカーです。
合同葬式とするとバス事故だから他の人たちも一緒に埋葬するイメージとなってしまうかなと。
今思えばバス事故という設定自体を変えて死者を二人だけにすればよかったんですよね、次はもう少し頑張ります。

584以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/07(水) 00:40:48 ID:09JfhA7E
だいぶ滞っているね
お題↓

585以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/11(日) 20:41:20 ID:KDeEW5ks
梅雨

586「梅雨」(1/2):2017/06/12(月) 20:24:38 ID:da6ifwd.
 時に、雨が長く続く。暑い季節の前にやってくる。体が冷えるが、食べ物は多くなる。だが食べ物よりも楽しみにしていることがある。今日も、あの場所へと行く。

「やあ、おひさしぶり」

 あいつはいつも高いところにいる。この季節はずっとぶら下がっている。だから誰が来てもすぐに挨拶してくる。あいつより先に挨拶してやりたいが、あいつには熱がない。いつも先に見つけられてしまう。
 今日も、あいつと話をする。

「今年もカエルを食べにきたのかい?」

「何も食べない奴は気楽そうでいいな」

 軽口を叩きあう。それが楽しい。体は冷えるが、この季節は毎日のように通う。カエルを食べにくるという言い訳を用意して、次は何を話そうかと考える。冬眠中もよくあいつの夢を見る。

「君は、長生きするんだってね」

「変な虫や鳥よりも生きると思うけど、そっちは生きてすらいないだろ」

 長く生きた他の蛇は、結構死んでいる。あと何回かこの季節がきたらきっと自分の番だ。最初から生きていないあいつを残して死ぬことになる。

「生きてないんだから寿命もないんだろ? 羨ましい」

「君は自由に動けるだろう? 自分にないものは羨ましいものさ」

 どうでもいいような話ばかりを楽しむ。今日は少し寂しい話になったけど、明日もまたこよう。死んであいつに会えなくなるまで。そして、あいつの下で死のう。そう思っていた。

587「梅雨」(2/2):2017/06/12(月) 20:26:11 ID:da6ifwd.
 雨が続いていた。挨拶が聞こえない。あいつがいない。まだ雨が続いているのにあいつがいないなんておかしい。冷える体を動かしてあいつを探す。探して、みつけた。初めて近くで見たあいつは、泥だらけでボロボロだった。

「よう」

「……あぁ、こんにちは」

 初めて先に挨拶できた。けど、こんな形でなんて望んでなかった。

「もうお前自由じゃん。よかったな、喜べよ」

「そうだね、じゃあ、行きたいところがあるんだ。連れて行ってくれよ」

 何かを運ぶなんて、今まで全然やったことがなかった。泥だらけのあいつをくわえて、雨の中を行く。あいつは、晴れが見たいらしい。空が見たかった。雨の空はもう見ることができたから、晴れの空が見たい。
 晴れた場所になんて連れて行けない。けどこのままここにいたらあいつは人間に捨てられる。誰にも見つからない場所まで運ばないと。そう思って、あいつを巣に運んだ。

 雨は続く。もうあいつの体はグシャグシャだ。きっと、長くは持たない。命のない物に終わりが来るなんて考えもしなかった。雨だっていつか終わるって知っていたのに。
 翌日、晴れた。あいつはもう何も話さなかった。暖かい空の下で、あいつの残骸の傍で語りかける。見えているか? 晴れの空。
 もう、雨を楽しみに思うことはなくなった。

588以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/15(木) 19:12:04 ID:DgRQo.Wc
>>586 >>587
二回読み返してようやく蛇だと気付いた。わりとはっきり書いてあるのに……
読み方が雑になってるな……気をつけます

読後感が悪くない。梅雨のお題らしく、寂しげな結末になってるのも好印象。梅雨時の晴れの日という普通は前向きな要素が、別れを際立たせているのも面白いと思う。
地の文に短文が多いのは意図してなのだとは思うけど、もう少し改行すると読みやすくなると思う。……こういった書き方の文学作品に難癖付けるような感想だけど、正直他には改善点は見当たらなかったです。すっげえ
拙い感想ですがご容赦を。何せ初レスなもので……

589以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/15(木) 21:07:01 ID:zU7wks86
>>588
感想どうもです。お褒めいただけて嬉しいです。
改行に関しては、あまり改行しすぎると2レスにも収まらなくなっちゃうので。
もっと読みやすい形にできたのかもしれませんが、申し訳ないです。

590以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/18(日) 10:56:38 ID:OdstTLRw
僕は君の事を想う。
去年会った君とはまた別の、新しくて少し懐かしい君を。

去年の君は、それまでと同じようにやっぱりきまぐれで、冷たい時もあれば温かい時もあって。
人を笑顔にしたり、ため息をつかせたり。時に傷つけてしまう事もあったね。
それでも僕は毎年、君の事を想う。今年の僕は、今年の君を。

空調の利いたオフィスビルの中から見上げる空は、春の名残なんかこれっぽちもない抜けるような青空。
でもこの空の向こう、ずっとずっと南の空の下。君は今まさに、僕の方へと近づいてきている。

こんな風に言うと、湿っぽくて温かい君は「ありがとう、私も早く逢いたい」って言ってくれるかもしれない。
それともドライで冷たい一面もある君は「自意識過剰ね」って突き放すのかも。

ビルから外に出ると、からっとした暑さが僕を襲う。でもこれは、君に出会うために必要なこと。
大きく息を吸い込んで、排気ガスの臭いの中に君の香りを探す。
湿って、温かくて、懐かしい、あの夏の雨の香りを。

街頭に設置されたモニタでは気象予報士が当たらない予報を喚き散らしている。
そしてこの街に君がやってくる事が宣言された。

僕は君の事を想う。今まさに、生まれたばかりの君を。
おめでとう。おめでとう。お誕生日おめでとう。


「ハッピーバースディ、梅雨」

591以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/18(日) 14:06:28 ID:Qwy9QgiY
読みやすいね
途中でネタに気づいて、にやっとなったw

>そしてこの街に君がやってくる事が宣言された。
勿体をつけて「そして」のあとに「、」とか「ついに」とか入ってたら、好みだったかな

592以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/19(月) 21:10:03 ID:8ygAbkNE
>>590
電車の中でふふってなったじゃねーか!

593以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/19(月) 21:45:28 ID:28RzlaGg
今まさに生まれたばかり、という表現と去年の、って表現を両立するのがいい感じ
でも梅雨にこれだけ思い入れがあるなら毎年の梅雨明けの寂しく思う心情とかも書いたほうがより今の梅雨への思い入れが強く感じた気がする

他には視覚と聴覚と嗅覚と色々な感覚に結びつけた描写が割りとクオリティ高くて好きかも

594以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/22(木) 04:38:21 ID:zmtSALaU
羽を回す換気扇越しにしとしとと降る雨音が聞こえてくる。
雲のかかる空は薄暗く翳り、多湿になりがちな梅雨の時期は、どうにも気分もつられて陰鬱気味に下がってしまう。

「私としては、まだ希望が残されていると思うのです」

台所に立つ同居人が寸胴鍋を見つめて唾を飲み込む。
おそるおそる蓋の取っ手に手を延ばしてみるものの肝心の決心はまだ準備中のようで、すぐに手をひっこめる。

「諦めろ。二日も火を通してないんだからとうにカビてら」

しつこいほどに「数日間じっくりと煮込んだカレーを食べたい」と駄々を
こねるから作ってやったのに、毎朝毎晩の過熱を忘れていたらしい。
ペットをねだる子供みたいに「ちゃんとお世話するから」なんて甘えたあの潤んだ瞳はいったいどこに捨て去ってきたのか。
言うは易しの責任感の希薄さは、むしろ子供と同程度だろう。

「あ、あの」

「新しいのなんか作らねえぞ。そして、まずそれをお前が処理しろ」

「ううぅ……」

雨音に混じってかき消えそうな弱った呻き声。まるで俺が悪者だ。
外を吹く風に急かされて雨粒がガラスをバチバチと叩く。

「……ったく。片付けてやっから、どけ」

脇の下に手を差し込んで持ち上げ、布団の上に投げ飛ばす。
軽々と飛んで行った同居人は、うつ伏せに落ちてからぴくりとも動かない。
案の上白い毛を生やしたカレーをまったくやる気なく処分していると、冷めた声で「またカビさせちゃったね」と聞こえてきた。
片付けを止めて布団に倒れ込み、かびた同居人を抱きしめる。これだから本当に、梅雨ってのは苦手なんだ。

595以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/23(金) 02:00:29 ID:/GFlDqII
梅雨といえばカビ
同居人ということは一緒に住んでるはずなのに代わりに加熱はしてあげない
でも片付けるのはやってあげる、もしかして少しの間家を空けてた?
陰鬱なのは梅雨のせいだけじゃなくて会えなくて寂しかったからなのかなとか思うと、より微笑ましくて味が出ていいね

596以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/12(水) 00:04:40 ID:f7t8Lap.
そろそろ次いきますか
お題↓

597以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/12(水) 00:29:35 ID:Kg6U4B4I
うた

598「うた」1/2:2017/07/13(木) 21:30:20 ID:YSKM/2vI
 声を失った。今は機械仕掛けの人工声帯もあるから声を失う人なんていないと思っていたのに、健康なはずの喉から声が出ることはなかった。
 魔女に声を差し出した人魚姫を思い出す。もしも魔法で声を奪われたのならこうなるのかもしれない。
 ストレス性の失声症。そう診断された。一体どんなストレスを抱えているというのか。家族関係は良好、友人は少ないけど孤立はしていない、将来への不安も特別強いわけじゃない。なのに何故声を失うほどのストレスがあるというのか。医者が信用できなくなりそうだ。

「何に悩んでいるのか、わかるといいね」

 両親も、その程度しか言えない。原因も何も分からないのだから仕方がない。医者がストレス性だと診断した以上、素人が自己判断でそれを否定するのは危険だ。だから両親は仕方ない、けどどうしても自分ではそんなに強いストレスを抱えているなんて思えない。
 今はテキスト読み上げアプリでなんとかカバーしたりしている。クラスメイトも面倒そうな表情ながらも理解してくれた。ラインのやり取りも問題ない。声を失っても、案外問題なく暮らせた。
 声を失った影響は、ただ生活が面倒になっただけ。ただ変な目で見られるだけ。医者は自然治癒するから安心していいというけど、それが本当なら早く治って欲しい。

 そう思いながらも時は過ぎ、声を失った原因もつかめず治りもしないままに数ヶ月が過ぎる。自然治癒といっても個人差もあり年単位が必要だったりするらしい。
 とはいうものの、正直もうどうでもいい。面倒なだけで声が出ないことでそんなに不便に思うこともない。周囲は声が戻るといいねの一点張りだけど、最近は別に治らなくてもいいかなとすら考えている自分がいる。
 テキスト読み上げアプリがない時代ならともかく、今の時代で何故声の有無が重要視されるのかわからない。現に問題なく暮らしているのに、それでも声が戻るといいねとしか言われない。そんなに同情したいの? 皆が優しいのはわかったからもっと他の困った人に同情して助けてあげて欲しい。

 あと一月で一年が経つ。声は戻らない。けど、よく観察していると皆の様子が少し違う。正確に言うなら、声を失う前の皆と比べると少しずつ様子が違う。同情されているというのとはまた違う部分で、違う。
 先生は昔鈍かったはずなのに何故かイジメのような雰囲気に敏感になった。馬鹿やっていたクラスメイトは無難な話題しか話さなくなった。病院に行ったりでお金がかかっているのに、両親は何故かお小遣いを増やしてくれた。どれも、どこかおかしい。
 皆のおかしさに気付いてから、皆の言葉が金箔のように感じるようになった。キラキラしてて綺麗だけど簡単に破れてしまうような、薄い言葉に。何故だろう、皆の変化にはきっと理由がある。一年経つまでに調べてみようと思う。

599「うた」2/2:2017/07/13(木) 21:32:08 ID:YSKM/2vI
 一週間観察してみたけど、わからない。探偵でもない素人が調べても分かるはずがないのかもしれない。でも、気になる。
 少しでも手がかりはないかと昔のメールを読み返すことにした。日付を遡っていくと、大体一年前で途切れる。何で途切れたのだろうと考えるが、昔はガラケーを使っていたからこの時に機種変したのだろうと、納得しかけて、また疑問。何でそんな最近のことを忘れていたのだろう。声を失った時期と被るから、そのせいだろうか。
 机の引き出しから昔の携帯を探し出す。随分奥にしまわれていたそれは既に充電が切れていた。充電器は見当たらないけどガラケーの充電器くらいコンビニにも売ってる。使い続けるわけでもないから適当に買ってきて、早速中身を見る。見て、妙にメモ帳を使っていることに気付いた。

 『ずっと好きでいれば結ばれる。そんな世界なら結ばれたかな? 簡単に別れる人に恋人ができるのに、神様になれたらそんな人より一途な思いを応援したい。そんな人よりずっと愛し続けてみせるから。神様、どうか死んでください。一途な誰かが新しい神様になりますように』

 身に覚えのない詩(うた)が打ち込まれていた。うた? このポエムが? そう、ウタだ。覚えていないのにこのポエムが歌だと知っている。書いたときはただの詩だった。けど、あの日に詩は歌になった。急に雨に降られて、携帯が無事か確認しようとして、それを突然取り上げられて、返してもらえないまま、詩は歌になった。皆の前で。
 気が付けば歌は別人の悲鳴に変わっていた。右手の平に小さな赤い痕があった。ペンの後ろを手の平に、ペン本体を中指と薬指の間から突き出るように握って、拳を突き出す。ペンを深く突き刺すための握り方なんて何で知っていたのだろう。その瞬間まで意識もしたことない知識が無意識に発揮されたから、気付いたときに一瞬何があったのか自分でも飲み込めなかった。

 両親が急にスマホを渡してきたこと、声を失っただけなのにしばらく学校を休むように言われたこと、医者が無意味とも言える質問を何度も繰り返したこと、声を失っただけなのに皆が執拗なレベルで親切になったこと、最低限のデータしかスマホに移されていなかった事、一人少ないクラスに疑問を抱かなかったこと、記憶のない一月があるのに疑問に思わなかったこと、何故、声を失ったか、皆が悩みを自覚し声を取り戻せるといいねと言い続けた理由、あんなに好きだったあの人の事を今まで考えなかった理由。

 ――そんな真実を、思い出して、気が付けば右手に、ペンを――
 ――耳の奥で、焼きつくように、ウタが、リピートし続けている――

600うた:2017/07/13(木) 22:24:38 ID:MTx./ko6
 ウタの好きな彼女に愛を訴えようというのだから、僕もやはりウタをウタわなければならないだろう。
 しかし歌えども詠えども謡えども、どうにも上手く伝わらない。
彼女を謳う胸の高鳴りが、宴のように騒いでいる所為だ。
 水面をたゆたう泡沫のように、想いが先へ進まないのだ。
 自分の魅力を疑いながら、それでも彼女にウタい続ける。
 今日は歌おうか、詠おうか、唄おうか。

601以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/15(火) 01:36:33 ID:SDs16rLo
勢いも死んでるし惰性で行こうぜ
そ次題↓

602以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/15(火) 09:23:29 ID:fFiVcFTk
お盆の親戚

603「お盆の親戚」:2017/08/17(木) 22:33:33 ID:vb611qhE
「まずいっす。こんな、こんな……」

 パソコンのモニターの前で硬直する。目を見開きその表情が歪む。
 まさにピンチ。誰が見てもただ事ではないと判断するような顔色で何度もモニターを確認してはそれが間違いであって欲しいと願い、その度に現実を突きつけられ絶望する。

「お盆の親戚、ちょっと遠いから気軽に行けなくて、今年もやっぱり行ってないのに、このお題」

 書いてみようという気持ちを真正面から叩き折られ、キーボードに突っ伏す。そしてお題を取った人物に身勝手な恨み言を散々吐き出した後に自己嫌悪で再び崩れ落ちる。お題を出してくれた感謝ならともかく、お題を出した人にとって責められるいわれはない。
 やる気をなくしダラダラと寝転がっていると、思いついた。自分の体験をモデルに出来ないのならば他人の体験をモデルに書けばいい。

「こんな時こそ先輩の出番っす! このボクの役に立てるなんて先輩は幸せ者っすよ! うん」

 無駄に自信満々で自意識過剰な発想に突き動かされるようにしてメールを打つ。まだかまだかと返信を待っていると、ほどなくしてメールが届いた。そこには一言、こう書いてあった。

「メシマズの影響で親戚の家には、いけない」

 一言「ごめんなさい」とメールを返し、無表情のままに他の誰かの作品か、次のお題を待つことにした。

604以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 00:46:44 ID:FcnESL8Q
やめておけばよかった、なんてのは薄っぺらい反省だと思う。
既読のつかないLINEを眺めながら、私は後悔の溜息をついた。

大学に進学を決めた姉貴を東京へと見送ったのが五年前。
都会に関する噂話でいいものを聞いた試しがなかった私は、
田舎から離れようとする姉を必死になって説得しようとした。

ひったくりや痴漢の類は日常茶飯事。
田舎から出てきたお上りは都会人の食い物。
打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた生活に憧れるなんてまともじゃない。

どんな言葉をぶつけても姉貴は表情を崩さなかった。
感情に任せすぎた訴えには姉貴に対しての暴言も交じっていたかもしれない。
それなのに私の一方的な訴えを黙って聞き続けた姉貴は怒ることもなく、
たった一言、「知らないから怖いんでしょ」とだけ言って荷造りに戻った。

LINEの履歴を辿りながら遠く離れた姉貴との記録を反芻する。
オシャレなバーを見つけたこと。綺麗な色のカクテルの写真付き。
都会にだって自然が多い公園があること。はしゃぐ子供たちの姿。
大学の先輩と付き合いだしたこと。恥ずかしそうに笑う男の人。

『姉貴なんか帰ってくるな』

姉貴は都会に明るいものを見ていて、本当にそれがあった。
だけど私は受け入れることを拒否して理解しようとしなかった。
たぶん姉貴は今年も帰ってこない。私が言ってしまった通りに。
立ち上がりかけて視界がくらみ、手のついた先に置いてあったコップをはじく。
こぼれたジュースはテーブルに広がって、その端からカーペットへと滴り落ちる。
もしやり直すことができたらなんて都合のいい妄想を繰り返しながら、
ジュースを吸い取るカーペットを見つめ続けた。

605以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 00:56:52 ID:FcnESL8Q
>>603
ノンフィクっぽい感じが面白くて好き
後半の切ない本音っぽさもシュールで好き
お題は出す側も出される側も難しいけど書けたら楽しいもんよね

606以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 01:41:21 ID:aJ7mGnhk
>>604
帰ってこない親戚側の視点、なるほど。
こぼれた液体が戻らない様が後悔と重なる所とか、分かりやすいのにおしゃれな工夫ですね。

>>605
感想どうもです。お題には感謝するばかりです。本当です。本当ですよ?
他の人がどんな風に書いているのか想像する、ということをしてみるのが意外と楽しかったです。
今回のこの子は書けていませんでしたけど。次も誰かに褒めていただけるような文章が書けたらなと思います。

607以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/22(火) 00:59:00 ID:.XsV2kQQ
夏休みも後半戦が見えてきてるぞ
そ次題↓

608以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/22(火) 21:28:18 ID:70qzWbIU
制限時間

609「制限時間」(1/2):2017/08/28(月) 03:17:05 ID:H7G2QIvQ
 授業のチャイムが鳴る。次は現代文の時間だ。現代文の時間のはずだったのだが、何故か教師が和服で入室し、扇子で教卓を叩いて授業の始まりを告げた。今まさに、この場での最高権力者による気まぐれからデスゲームが幕を上げた。

「皆さんこんにちは現代文の時間がやってまいりました、教員の鹿井です」

 一気に授業というよりも休み時間に近い雰囲気に戻ってしまう生徒達。

「いい答えの人には座布団を差し上げます。悪いと取ります。座布団がなければ椅子も取ります」

 だが、いつもの授業と同じだと思ってはいけない。場合によっては座って授業を受けるという当たり前の光景すら遠いものとなる。絶対に避けなければならないのは、ジェノサイドの引き金となるような性質の悪い答え。

「人というのは普段答えられる問題でも制限時間がつくと急に答えられなくなったりしますよね」

「クイズ番組あるある」

「そこで皆さんには『制限時間』をお題に何か問題を作ってもらいます」

 生徒達に緊張が走る。

「その問題を聞いた後、で答えは? と訊きますので答えをどうぞ。制限時間は授業終了までです」

 誰も、手を上げない。急に言われてもそんな短時間で答えが浮かぶほどにこのような状況に慣れている生徒はいない。そして真っ先に答えを言うのは気恥ずかしいという独特な感覚もこの沈黙の要因となっていた。そしてそれが、悲劇を生む。

「田山先生全員の椅子取ってください」

「理不尽!? 待って、はい! はい!」

 鹿井の我慢の制限時間を越えてしまったようだ。ジェノサイドを回避するため咄嗟に挙手してしまう一人の生徒。こうなれば何が何でも答えを捻り出さなければ、椅子がなくなる。

610「制限時間」(2/2):2017/08/28(月) 03:17:50 ID:H7G2QIvQ
「はい。答えがあるのに絶対に答えられない問題とは何か?」

「で、答えは?」

「制限時間が1プランク時間な問題」

「プランク時間って言いたかっただけでしょ。まあいいや田山先生、倉野さんに座布団一枚」

 一人の成功を皮切りに生徒たちは少しずつ手を上げ始める。判定基準は意外と緩いのか、答えた生徒はほぼ座布団を貰っていた。そんな中、空気に乗せられお調子者の生徒が挙手をする。

「はい。この問題の制限時間は答える人によって変わります。この中では先生が一番少ないです」

「で、答えは?」

「制限時間=余命です」

「田山先生全員の全部持っていってください」

 地雷を踏んでしまった。しかしこの問題の制限時間である次のチャイムまであと僅か。少しの間立たされる位ならばどうということもない。既に生徒たちからは緊張感というものが抜け落ちていた。
 そしてスピーカーからは生徒たちが待ち望んだ音が流れる。

「では皆さん座布団も椅子もないようですが本日の現代文はここまでです。また来週」

 退室する教師と入れ替わるようにして、続く授業の教師が姿を現す。生徒たちが凍りつくのを尻目に、扇子が教卓に叩き付けられた。

「続いて数学の時間がやってまいりました。教員の合馬です」

611以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/24(日) 03:02:44 ID:5IAfWWf6
もう夏じゃないね
そ次題↓

612以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/24(日) 09:46:15 ID:fuRJpAUY
明治・大正

613{}:2017/09/25(月) 03:13:09 ID:xJgA0eSg
 犬は人類の友。犬と人間の関わりは西暦が始まるよりも遥か昔から始まったと言われている。
 猟犬として、番犬としての歴史はとても長い。ところが警察犬となると途端に最近の話になる。
 1896年、明治29年のドイツでのことだ。日本では大正元年にイギリスから購入した二匹が始まりとなる。

 当時の彼らは今のように犯人を追跡したり遺留品を探したりする役割というよりも、パトロールの友として防犯広報目的で運用されていた。その後戦争により一時廃止され昭和に至るまで警察犬が本格的な事件解決を担うようにはならなかった。

「もしも、その時代に生まれていたら、お前は幸せだったのかな?」

 警察犬の使命など忘れ、明治の終わりを悠々と散歩する姿を思い浮かべる。
 それとも警察犬が事件を解決した始めての例として名を残しただろうか。誇らしげな表情が新聞に掲載されたかもしれない。

 そんな、意味もないことばかりが頭をめぐる。

「偉かったな。先輩たちに沢山自慢してこいよ」

 初めての功績を褒めてあげられなかった不甲斐ない奴の事なんて忘れて、沢山褒めてもらえよ。

「先輩邪魔です。大人しくしててください」

「あっはい」

 両腕を骨折し、今回の功労者を撫でてやることもできない不甲斐ない奴の妄想は終了した。

614以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/24(火) 06:00:02 ID:XBIYBM4o
よし次いこう
そ次題↓

615以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/30(月) 02:29:29 ID:kB/LM24o
宇宙

616以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/01(水) 21:32:44 ID:fyLB7QdM
むかしむかしあるところに、ジャックというおとこのこがおりました。
ジャックはいつもそらをみあげて、よぞらのほしやおてんとうさまにむちゅうです。
ほしをつかみたい。おつきさまでうさぎとダンスしたい。でもどうすれば?
いくらなやんでも、いくらかんがえてもだめでした。
むらのちょうろうもだれもしりません、どんなほんにもかいてありません。

ある時ジャックはおもいました。
絵本のジャックと豆の木みたいにマメを植えよう。
高く、高く……ずっと高くのばして、それで星までとどかせよう!
ジャックはうらにわに豆をうえました。

豆の木は高く伸びていきます。ジャックの頭をこえ、屋根をこえ、でも星にはとどきません。
ジャックは考えました。考えて調べてまた考えて、分からない事は質問して、色々なことを学びました。

風で倒れないよう、蔓を硬くする方法を作り出しました。
飛行機がぶつからないよう、航空灯を設置しました。
空気がなくても育つように、太陽の光を電気に変えて貯められるように、まっすぐまっすぐ伸びるように、からみあう沢山の蔓の中を、弾丸のように列車が駆け抜けられるように。
何年も、十何年も、何十年も。夜空を見上げ、星に手を伸ばし続けました。

しかし、ジャックはついに星を掴むことは出来ませんでした。
豆の木に登って分かったことは、星はあまりにも遠くにありすぎると言うこと。
それでもジャックは諦めません。いつか、いつか自分の後ろを歩く誰かが――――

最期までそう言い続けたジャックの意志を継いだ誰かが今日も、36,000kmまでこの豆の木を昇ってくるのです。

星を掴むために。

617以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/02(木) 18:00:18 ID:rVlY302s
本当はかっこいい童話になっとるw
軌道エレベーター豆の木か…


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