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みんなで文才晒そうぜ part2

1以下、名無しが深夜にお送りします:2014/01/18(土) 18:14:17 ID:mNOcI4dM
ここはお題に沿った地の文込みのSSを晒すスレッドです

・主に地の文の練習や批評・感想の場として使ってください
・次スレは>>990が(規制等の際には有志が)必ず『宣言』して立てる事
・気楽な雑談がしたい方は酒場や休憩所でどうぞ

【注意】台詞形式のSSは受け付けておりません

前スレ
みんなで文才晒そうぜ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1352992635/

お題>>2

566以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/26(木) 01:03:18 ID:jB9WGfSs
椿

567「椿」:2017/01/27(金) 19:17:27 ID:oFVgC8Gw
 虹椿により選ばれた勇者は毒の蛇を祓う。その話が伝説となった時代。しかし伝説の毒蛇は今一度復活した。八つの首から生える牙の毒は霧となって世界を覆い、この世の生き物の寿命を半分にまで縮めた。多くの動植物が絶滅の危機に瀕し、人もまた滅びようとしていた。
 だが一人の勇者が選ばれた。虹椿から枝を与えられ、その枝を燃やした灰を鋼に混ぜ、七色の聖剣を生み出した。勇者は聖剣を振るい谷を進む。そしてついに毒の蛇の前に辿り着いた。

「蛇よ、何故世界を毒で覆う?」

「恐怖こそが我が糧となる」

 蛇は世界が怯えるほどに力を増す。しかし勇者もその分力を増した。恐怖に対を成す人々の希望が勇者の力となっている気がした。
 戦いは八夜続いた。半日をかけ首をひとつ落とす。何故か毒の蛇は勇者が一時撤退しても追うことをしない。休み休み戦い、ついに九日目の朝に最後の首は聖剣により落とされた。それを見届けた勇者はその場で眠りに付いた。

 勇者が目覚めると、蛇の巨体は姿を消していた。残るのは薙ぎ倒された木々の切り株のみ。聖剣が勇者に語りかける。

「私を中央の切り株に突き刺せば、あなたの役目は終わります」

「それで毒の蛇を封印できるのですね?」

「八百年、毒の蛇は現れないでしょう」

 勇者は切り株に聖剣を深々と突き刺した。すると空に虹が現れ世界から蛇の毒が消えていった。こうして勇者は伝説の再来として語り継がれた。
 だがまた八百年後、毒の蛇は再び姿を現すのだろう。そして新たな勇者がまた伝説を紡いでいく。

 二百年後、誰もいないその場所に声が響く。

「あと六百年……」

 挿し木から成長した椿は、二股に分かれていた。

568以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/31(火) 01:06:47 ID:xRhkDFL2
私たち双子は似ているらしい。
鏡に映してるみたい、なんて笑われることもしばしばあったけれど、
私たちからすればお互いが全くの別人で、その言葉が理解できなかった。

「私たちって似てないよね」
「似てた方が嬉しかった?」

紙パックの残り少ないジュースをストローですする姉と、サンドイッチを両手でつまんで食べる妹。
保育園に入園してから大学に進学するまで同じ部屋、同じ教室、同じ友達と過ごしてきたのに、
食事の作法のひとつを取り上げてもこんなに違っていた。なのに周りは「似ている」と笑うのだ。
示し合わせたわけでもなく希望した大学の学部まで被ったときは「ああ、一卵性の運命なんだなあ」と
妙に納得してしまったけれど、それ以外に一卵性を意識する機会なんてまったくと言えるほどになかった。

「おしとやかに食べるよねえ。モテたいんだ?」
「違います。人の目を気にするべき場所だからです」

顔を覗き込んでからかわれても妹は雰囲気を崩さない。
それどころかテーブルに置いていたハンカチで姉の汚れた口元をさっと拭い取ると、
慣れた手つきて照り焼きのソースがついた面が内側に入るように畳んだ。
こんなに出来た子が姉に似ていると言われてしまうのが可哀想だと思わずにはいられない。

「私にはもったいないくらいのいい人紹介してあげるよ」
「なら私にも釣り合わないよ」

サンドイッチを食べ終えた妹は、ハンカチを開いて口を拭いた。
「気取らない優美さ」。今の妹には、好きだと言っていた赤いツバキの花言葉がそのまま当てはまる気がした。
じゃあ、今の私にはなんの花が似合うのか。椿に似た花を咲かせるサザンカだろうか。
気になってサザンカの花言葉を検索にかけると、答えを見つけるよりも早く妹がため息交じりに言った。

「私よりもきれいなのに、お姉ちゃんってもったいないよね」

569以下、名無しが深夜にお送りします:2017/01/31(火) 12:57:59 ID:nFfCAds.
>>567
oh…マッチポンプ…
オチは好きなんだが、椿である必然性が薄いのが残念
例えば油によって灯りが出来る→闇を祓う、とかいうこじつけや
首が落ちるように花ごと散る様及び血のように真っ赤な色から、犠牲者の無念の象徴とされる、なんて描写があれば
伝説に説得力増すし、最後の不穏さが増したんじゃなかろか

>>568
サザンカの花言葉:困難に打ち勝つ・ひたむき・素直・飾らない心
謙譲・あなたがもっとも美しい(赤)
愛嬌・あなたは私の愛を退ける(白)
…ほほう
コンプレックスの描写、花言葉の使い方が上手い
似ていないと思ってるだけで根っこは似てる気がするなこの双子

570以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/01(水) 00:48:33 ID:4KpRldZM
>>569
感想どうもです。見直しもしたのにご指摘されるまで完全に失念していました。
八岐大蛇を退治したスサノオの奥さんが二股の夫婦椿を植えたという逸話を見て衝動的に書いたせいだと思います。
今後は説得力を出すための描写を忘れるようなミスをしないように気をつけたいと思います。すみませんでした。

571以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/02(木) 20:28:35 ID:nF8xgnAc
そ(ry
お題↓

572以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/03(金) 00:42:51 ID:U0TimGTE
鬼やらい

573「鬼やらい」:2017/02/04(土) 01:44:16 ID:BwQylNTs
 人々が恐れを抱くほどに鬼は力を増す。だがそれも今は昔の話。
 鬼と聞き今の人々が思い浮かべる擬人化された姿は、人々から恐れを取り除くために陰陽師たちが世に広めたものだった。陰陽師たちは勝った。擬人化された鬼を追い払う儀式すらただの恒例行事に成り果て、鬼たちは陰陽師たちの広めた逸話のとおりの弱点を抱えることになったのだ。

 鬼は陰陽師に敗れたが、鬼は不幸そのもの。鬼は消えない。人々に不幸をもたらす己の役割を忘れたりはしない。

「おい! しっかりしろ! こんな見え見えの誘惑に負けるな!」

「くっ、この俺がこんな誘惑に、ひとつふたつみっつ、ああっ!?」

 若い鬼が庭に撒かれた煎り豆を数え始める。そして風が吹き豆が動き最初から数えなおしだ。若い鬼は己の役割を忘れ楽しそうに豆を数えている。
 酒、嘘、柊、申酉戌、そして豆。陰陽師に負け、背負うことになった様々な弱点。その弱点を突かれない限り己の役割を忘れたりはしない。しかし、今の世にはその弱点が多すぎる。

「若い奴は誘惑にやられたか。だが負けるわけにはいかない。この家の住人を不幸に」

「うわぁ!? いっ、犬だ!」

 窓から見える小型の座敷犬に怯える鬼たち。犬がお腹を空かせキッチンに餌を強請りに行っても鬼たちは怯えるばかり。勇気を振り絞り家に侵入できた鬼はわずか三名。

「お前らふざけんなっ! ちゃんとしろ!」

 飲み酔っているこの家の大黒柱の手元の酒に吸い寄せられる二名の鬼。そして大黒柱の酔った勢いに任せた大法螺に倒れ臥す。僅かな時間で残る鬼は一名のみとなってしまった。

「絶対に、絶対にこの家の者を不幸にっ」

 酒を飲んでいる大黒柱に不幸は届かない。だが鬼の誇りにかけてせめて一人でもこの家の者を不幸にしなければならないと決意し、最後に残った鬼は扉をすり抜ける。

「バレンタインとかマジ死ねよバレンタイン。チョコとか太るし、お菓子会社必死すぎ乙」

 鬼は目を逸らし部屋を出る。鬼は再び敗北した。だが最後に残った鬼だけは一人分の不幸により己が力を増していた。仲間から褒め称えられるが、その鬼の表情はおこぼれで一等賞を貰ったかのような微妙な表情であった。

574以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/05(日) 15:53:49 ID:9NRsXTTI
鬼ですらそっ閉じする嘘か…哀しいな…

575以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/10(金) 00:38:59 ID:ReLx1ed6
高校の入学式から一週間も待たぬ間に、兄の紹介によってとある部活の
マネージャーになった私でございますが、なにやらここ数ヶ月間で部活内の
雰囲気が変わりつつある気がするのです。

以前と何が違うのかと聞かれてもはっきりとお答えができないのですが、
先代の部長が抜けてから部活内の空気が落ち着いてしまい、目先の一勝に
対しての執着が剥がれかけているように感じ取れました。

「先代たちが築いてきた歴史が途絶えてしまう恐れがあります!」

危機感に駆られた私は、バインダーを机に打ち付けて立ち上がりました。
全国大会に出た回数こそ指折りで数えても片手に収まってしまいますが、
県大会で万年二位、稀に一位の成績を維持している私たちは、同地区内の
他校からすれば強豪校と称えられる立場に居るのです。居てしまうのです。

「そんなことを言われてもねえ。俺たちは楽しく部活がしたいだけだし」

ミーティング中だというのにガムを噛みながら話すのは現部長。
机の上に足を投げ出してスマートフォンを弄っている姿に、高校男児の
青春に欠かせない勝利への飽くなき渇望は見て取れませんでした。

「楽しく部活がしたいんですよね」

『自分に厳しく、部活は楽しく、ご飯は美味しく』が先代たちのモットーで、その言葉は
入部申請書を渡される前の見学希望を行っているときに聞かされているはずです。

「あー、そういうことね。だから俺の凡ミスで先輩方の引退試合が早まったのはメンゴって」

部長はいけしゃあしゃあと言ってのけました。この人の陰謀で負けた後、兄は部員に頭を下げたのです。
負けた後の見栄っ張りの笑顔を思い出して、私はあまりの悔しさにバインダーを強く握りしめました。

576以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/12(日) 00:28:41 ID:qmcYgHBQ
次かな?
お題↓

577以下、名無しが深夜にお送りします:2017/02/13(月) 08:37:57 ID:byf1CSmk
チョコ


時期だしな

578「チョコ」:2017/02/14(火) 22:23:10 ID:pP7jtXR6
 夏休みの自由研究。ボクはクラスメイトの観察日記をつけることにした。明日から色んな場所に行って、見かけたクラスメイトのことを書いていこうと思う。

 初日から凄いところを見てしまった。名前を出したらイジメになりそうだから書けない。ボクは変には思わない。周りは気にせず、二人が幸せになりますように。……見たぞ?

■■■■■■■■■■  ■■
  ■■■■■■■■■■
    ■■■■■■■■■■

 三日目、幼馴染のアイツが遊びにきた。そして勝手に観察日記を見てチョコアイスを落とした。二日目に書いたことが消えた。しかもそれを「バレンタイン、プレゼントってことで」と。アイツの中では今はまだ寒い季節らしい。くすぐってから布団で簀巻きにしておいたた。

 四日目、アイツそのままボクの家に泊まった。勝手にボクのバニラアイスも食べていた。「ホワイトデーのプレゼントってことで」とか。ヘッドロックかけておいた。

 〜(中略)〜

 夏休み最終日、なんでまたボクはコイツと一緒にいるのかわからない。クラスメイトの観察というよりもコイツの観察日記になってる。

 けど、アイツは最後の最後に、冷凍庫の奥をよく探してみてと言ってきた。冷凍庫の奥には、ラッピングがくしゃくしゃになって砕けたチョコがあった。手紙も入っていた。アイツの文字だ。信じられないくらい真剣な言葉が書かれてた。

 今、夏休みだぞ。家は冷凍食品多いから、こんな奥に入れたら気付けないよ。明日から新学期だ。アイツは何ヶ月も悩んだんだ。夏休みの最後だから勇気が出せたんだ。
 ボクとアイツは似ている。アイツは何かないと素直になれない。チョコも素直には渡せない。夏休み最後の日という魔法の日だから言えたんだ。ボクもきっと、今日しか言えない。
 外は夜で危ないって言ってたけど、どうしても今日しか言えない気がした。

 きっとボクたちはあんまり変わらない。でも日記を読んだ先生なら少し変わったってわかる。先生にだけ最初に教えます。だから先生、どうかこの日記は誰にも見せないでください。
 でないと登校日のアレ、バラします。

579以下、名無しが深夜にお送りします:2017/03/24(金) 11:14:01 ID:IzJtwU7Q
一月も止まってんのか
お題↓

580以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/02(日) 15:47:05 ID:nsfNRUtE
明かせない嘘

581「明かせない嘘」:2017/04/08(土) 01:06:16 ID:iWrTyoxU
 家族に嘘をついてしまった。今となっては明かすことのできない嘘だ。何故なら、

「なんであの子が……」

 死んでしまったからである。家族に私の姿は見えないし私の声も聞こえない。何故私は婚約者ができたから今度連れて行く、なんてすぐにバレる嘘をついてしまったのだろう。そして調べればすぐに嘘だとわかるだろうに何故家族は未だにそれを信じているのだろう。

「あの、婚約者の方のご親族が同時葬式を提案されているのですが、どうしますか?」

 ん? 何やら不穏な話になってきた。私の婚約者の親族? 同時葬儀?

「最期までこの子を守ろうとしてくれた人ですもの。二人もきっとそれを望んでいます」

 最期まで、私を守ろうとした? 私は、一人でバスに、

「この鍵、たぶん合鍵だと思うのでお返ししますね」

 やめて、やめてっ! 嘘ついたことは謝るから、だから同時葬儀なんてやめて!

「きっと、二人仲良く旅立ってくれることでしょう」

 私の姿は誰にも見えないはずなのに、後ろから視線を感じる気がした。

582以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/11(火) 21:54:40 ID:YdOfsw4A
ストーカーか?こええなあ

細かいけど、同時葬式より合同葬式のが良いかな、合同結婚式のごとくw

583以下、名無しが深夜にお送りします:2017/04/12(水) 23:10:57 ID:smlX6Fx2
>>582
感想どうもです。はい、ストーカーです。
合同葬式とするとバス事故だから他の人たちも一緒に埋葬するイメージとなってしまうかなと。
今思えばバス事故という設定自体を変えて死者を二人だけにすればよかったんですよね、次はもう少し頑張ります。

584以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/07(水) 00:40:48 ID:09JfhA7E
だいぶ滞っているね
お題↓

585以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/11(日) 20:41:20 ID:KDeEW5ks
梅雨

586「梅雨」(1/2):2017/06/12(月) 20:24:38 ID:da6ifwd.
 時に、雨が長く続く。暑い季節の前にやってくる。体が冷えるが、食べ物は多くなる。だが食べ物よりも楽しみにしていることがある。今日も、あの場所へと行く。

「やあ、おひさしぶり」

 あいつはいつも高いところにいる。この季節はずっとぶら下がっている。だから誰が来てもすぐに挨拶してくる。あいつより先に挨拶してやりたいが、あいつには熱がない。いつも先に見つけられてしまう。
 今日も、あいつと話をする。

「今年もカエルを食べにきたのかい?」

「何も食べない奴は気楽そうでいいな」

 軽口を叩きあう。それが楽しい。体は冷えるが、この季節は毎日のように通う。カエルを食べにくるという言い訳を用意して、次は何を話そうかと考える。冬眠中もよくあいつの夢を見る。

「君は、長生きするんだってね」

「変な虫や鳥よりも生きると思うけど、そっちは生きてすらいないだろ」

 長く生きた他の蛇は、結構死んでいる。あと何回かこの季節がきたらきっと自分の番だ。最初から生きていないあいつを残して死ぬことになる。

「生きてないんだから寿命もないんだろ? 羨ましい」

「君は自由に動けるだろう? 自分にないものは羨ましいものさ」

 どうでもいいような話ばかりを楽しむ。今日は少し寂しい話になったけど、明日もまたこよう。死んであいつに会えなくなるまで。そして、あいつの下で死のう。そう思っていた。

587「梅雨」(2/2):2017/06/12(月) 20:26:11 ID:da6ifwd.
 雨が続いていた。挨拶が聞こえない。あいつがいない。まだ雨が続いているのにあいつがいないなんておかしい。冷える体を動かしてあいつを探す。探して、みつけた。初めて近くで見たあいつは、泥だらけでボロボロだった。

「よう」

「……あぁ、こんにちは」

 初めて先に挨拶できた。けど、こんな形でなんて望んでなかった。

「もうお前自由じゃん。よかったな、喜べよ」

「そうだね、じゃあ、行きたいところがあるんだ。連れて行ってくれよ」

 何かを運ぶなんて、今まで全然やったことがなかった。泥だらけのあいつをくわえて、雨の中を行く。あいつは、晴れが見たいらしい。空が見たかった。雨の空はもう見ることができたから、晴れの空が見たい。
 晴れた場所になんて連れて行けない。けどこのままここにいたらあいつは人間に捨てられる。誰にも見つからない場所まで運ばないと。そう思って、あいつを巣に運んだ。

 雨は続く。もうあいつの体はグシャグシャだ。きっと、長くは持たない。命のない物に終わりが来るなんて考えもしなかった。雨だっていつか終わるって知っていたのに。
 翌日、晴れた。あいつはもう何も話さなかった。暖かい空の下で、あいつの残骸の傍で語りかける。見えているか? 晴れの空。
 もう、雨を楽しみに思うことはなくなった。

588以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/15(木) 19:12:04 ID:DgRQo.Wc
>>586 >>587
二回読み返してようやく蛇だと気付いた。わりとはっきり書いてあるのに……
読み方が雑になってるな……気をつけます

読後感が悪くない。梅雨のお題らしく、寂しげな結末になってるのも好印象。梅雨時の晴れの日という普通は前向きな要素が、別れを際立たせているのも面白いと思う。
地の文に短文が多いのは意図してなのだとは思うけど、もう少し改行すると読みやすくなると思う。……こういった書き方の文学作品に難癖付けるような感想だけど、正直他には改善点は見当たらなかったです。すっげえ
拙い感想ですがご容赦を。何せ初レスなもので……

589以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/15(木) 21:07:01 ID:zU7wks86
>>588
感想どうもです。お褒めいただけて嬉しいです。
改行に関しては、あまり改行しすぎると2レスにも収まらなくなっちゃうので。
もっと読みやすい形にできたのかもしれませんが、申し訳ないです。

590以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/18(日) 10:56:38 ID:OdstTLRw
僕は君の事を想う。
去年会った君とはまた別の、新しくて少し懐かしい君を。

去年の君は、それまでと同じようにやっぱりきまぐれで、冷たい時もあれば温かい時もあって。
人を笑顔にしたり、ため息をつかせたり。時に傷つけてしまう事もあったね。
それでも僕は毎年、君の事を想う。今年の僕は、今年の君を。

空調の利いたオフィスビルの中から見上げる空は、春の名残なんかこれっぽちもない抜けるような青空。
でもこの空の向こう、ずっとずっと南の空の下。君は今まさに、僕の方へと近づいてきている。

こんな風に言うと、湿っぽくて温かい君は「ありがとう、私も早く逢いたい」って言ってくれるかもしれない。
それともドライで冷たい一面もある君は「自意識過剰ね」って突き放すのかも。

ビルから外に出ると、からっとした暑さが僕を襲う。でもこれは、君に出会うために必要なこと。
大きく息を吸い込んで、排気ガスの臭いの中に君の香りを探す。
湿って、温かくて、懐かしい、あの夏の雨の香りを。

街頭に設置されたモニタでは気象予報士が当たらない予報を喚き散らしている。
そしてこの街に君がやってくる事が宣言された。

僕は君の事を想う。今まさに、生まれたばかりの君を。
おめでとう。おめでとう。お誕生日おめでとう。


「ハッピーバースディ、梅雨」

591以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/18(日) 14:06:28 ID:Qwy9QgiY
読みやすいね
途中でネタに気づいて、にやっとなったw

>そしてこの街に君がやってくる事が宣言された。
勿体をつけて「そして」のあとに「、」とか「ついに」とか入ってたら、好みだったかな

592以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/19(月) 21:10:03 ID:8ygAbkNE
>>590
電車の中でふふってなったじゃねーか!

593以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/19(月) 21:45:28 ID:28RzlaGg
今まさに生まれたばかり、という表現と去年の、って表現を両立するのがいい感じ
でも梅雨にこれだけ思い入れがあるなら毎年の梅雨明けの寂しく思う心情とかも書いたほうがより今の梅雨への思い入れが強く感じた気がする

他には視覚と聴覚と嗅覚と色々な感覚に結びつけた描写が割りとクオリティ高くて好きかも

594以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/22(木) 04:38:21 ID:zmtSALaU
羽を回す換気扇越しにしとしとと降る雨音が聞こえてくる。
雲のかかる空は薄暗く翳り、多湿になりがちな梅雨の時期は、どうにも気分もつられて陰鬱気味に下がってしまう。

「私としては、まだ希望が残されていると思うのです」

台所に立つ同居人が寸胴鍋を見つめて唾を飲み込む。
おそるおそる蓋の取っ手に手を延ばしてみるものの肝心の決心はまだ準備中のようで、すぐに手をひっこめる。

「諦めろ。二日も火を通してないんだからとうにカビてら」

しつこいほどに「数日間じっくりと煮込んだカレーを食べたい」と駄々を
こねるから作ってやったのに、毎朝毎晩の過熱を忘れていたらしい。
ペットをねだる子供みたいに「ちゃんとお世話するから」なんて甘えたあの潤んだ瞳はいったいどこに捨て去ってきたのか。
言うは易しの責任感の希薄さは、むしろ子供と同程度だろう。

「あ、あの」

「新しいのなんか作らねえぞ。そして、まずそれをお前が処理しろ」

「ううぅ……」

雨音に混じってかき消えそうな弱った呻き声。まるで俺が悪者だ。
外を吹く風に急かされて雨粒がガラスをバチバチと叩く。

「……ったく。片付けてやっから、どけ」

脇の下に手を差し込んで持ち上げ、布団の上に投げ飛ばす。
軽々と飛んで行った同居人は、うつ伏せに落ちてからぴくりとも動かない。
案の上白い毛を生やしたカレーをまったくやる気なく処分していると、冷めた声で「またカビさせちゃったね」と聞こえてきた。
片付けを止めて布団に倒れ込み、かびた同居人を抱きしめる。これだから本当に、梅雨ってのは苦手なんだ。

595以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/23(金) 02:00:29 ID:/GFlDqII
梅雨といえばカビ
同居人ということは一緒に住んでるはずなのに代わりに加熱はしてあげない
でも片付けるのはやってあげる、もしかして少しの間家を空けてた?
陰鬱なのは梅雨のせいだけじゃなくて会えなくて寂しかったからなのかなとか思うと、より微笑ましくて味が出ていいね

596以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/12(水) 00:04:40 ID:f7t8Lap.
そろそろ次いきますか
お題↓

597以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/12(水) 00:29:35 ID:Kg6U4B4I
うた

598「うた」1/2:2017/07/13(木) 21:30:20 ID:YSKM/2vI
 声を失った。今は機械仕掛けの人工声帯もあるから声を失う人なんていないと思っていたのに、健康なはずの喉から声が出ることはなかった。
 魔女に声を差し出した人魚姫を思い出す。もしも魔法で声を奪われたのならこうなるのかもしれない。
 ストレス性の失声症。そう診断された。一体どんなストレスを抱えているというのか。家族関係は良好、友人は少ないけど孤立はしていない、将来への不安も特別強いわけじゃない。なのに何故声を失うほどのストレスがあるというのか。医者が信用できなくなりそうだ。

「何に悩んでいるのか、わかるといいね」

 両親も、その程度しか言えない。原因も何も分からないのだから仕方がない。医者がストレス性だと診断した以上、素人が自己判断でそれを否定するのは危険だ。だから両親は仕方ない、けどどうしても自分ではそんなに強いストレスを抱えているなんて思えない。
 今はテキスト読み上げアプリでなんとかカバーしたりしている。クラスメイトも面倒そうな表情ながらも理解してくれた。ラインのやり取りも問題ない。声を失っても、案外問題なく暮らせた。
 声を失った影響は、ただ生活が面倒になっただけ。ただ変な目で見られるだけ。医者は自然治癒するから安心していいというけど、それが本当なら早く治って欲しい。

 そう思いながらも時は過ぎ、声を失った原因もつかめず治りもしないままに数ヶ月が過ぎる。自然治癒といっても個人差もあり年単位が必要だったりするらしい。
 とはいうものの、正直もうどうでもいい。面倒なだけで声が出ないことでそんなに不便に思うこともない。周囲は声が戻るといいねの一点張りだけど、最近は別に治らなくてもいいかなとすら考えている自分がいる。
 テキスト読み上げアプリがない時代ならともかく、今の時代で何故声の有無が重要視されるのかわからない。現に問題なく暮らしているのに、それでも声が戻るといいねとしか言われない。そんなに同情したいの? 皆が優しいのはわかったからもっと他の困った人に同情して助けてあげて欲しい。

 あと一月で一年が経つ。声は戻らない。けど、よく観察していると皆の様子が少し違う。正確に言うなら、声を失う前の皆と比べると少しずつ様子が違う。同情されているというのとはまた違う部分で、違う。
 先生は昔鈍かったはずなのに何故かイジメのような雰囲気に敏感になった。馬鹿やっていたクラスメイトは無難な話題しか話さなくなった。病院に行ったりでお金がかかっているのに、両親は何故かお小遣いを増やしてくれた。どれも、どこかおかしい。
 皆のおかしさに気付いてから、皆の言葉が金箔のように感じるようになった。キラキラしてて綺麗だけど簡単に破れてしまうような、薄い言葉に。何故だろう、皆の変化にはきっと理由がある。一年経つまでに調べてみようと思う。

599「うた」2/2:2017/07/13(木) 21:32:08 ID:YSKM/2vI
 一週間観察してみたけど、わからない。探偵でもない素人が調べても分かるはずがないのかもしれない。でも、気になる。
 少しでも手がかりはないかと昔のメールを読み返すことにした。日付を遡っていくと、大体一年前で途切れる。何で途切れたのだろうと考えるが、昔はガラケーを使っていたからこの時に機種変したのだろうと、納得しかけて、また疑問。何でそんな最近のことを忘れていたのだろう。声を失った時期と被るから、そのせいだろうか。
 机の引き出しから昔の携帯を探し出す。随分奥にしまわれていたそれは既に充電が切れていた。充電器は見当たらないけどガラケーの充電器くらいコンビニにも売ってる。使い続けるわけでもないから適当に買ってきて、早速中身を見る。見て、妙にメモ帳を使っていることに気付いた。

 『ずっと好きでいれば結ばれる。そんな世界なら結ばれたかな? 簡単に別れる人に恋人ができるのに、神様になれたらそんな人より一途な思いを応援したい。そんな人よりずっと愛し続けてみせるから。神様、どうか死んでください。一途な誰かが新しい神様になりますように』

 身に覚えのない詩(うた)が打ち込まれていた。うた? このポエムが? そう、ウタだ。覚えていないのにこのポエムが歌だと知っている。書いたときはただの詩だった。けど、あの日に詩は歌になった。急に雨に降られて、携帯が無事か確認しようとして、それを突然取り上げられて、返してもらえないまま、詩は歌になった。皆の前で。
 気が付けば歌は別人の悲鳴に変わっていた。右手の平に小さな赤い痕があった。ペンの後ろを手の平に、ペン本体を中指と薬指の間から突き出るように握って、拳を突き出す。ペンを深く突き刺すための握り方なんて何で知っていたのだろう。その瞬間まで意識もしたことない知識が無意識に発揮されたから、気付いたときに一瞬何があったのか自分でも飲み込めなかった。

 両親が急にスマホを渡してきたこと、声を失っただけなのにしばらく学校を休むように言われたこと、医者が無意味とも言える質問を何度も繰り返したこと、声を失っただけなのに皆が執拗なレベルで親切になったこと、最低限のデータしかスマホに移されていなかった事、一人少ないクラスに疑問を抱かなかったこと、記憶のない一月があるのに疑問に思わなかったこと、何故、声を失ったか、皆が悩みを自覚し声を取り戻せるといいねと言い続けた理由、あんなに好きだったあの人の事を今まで考えなかった理由。

 ――そんな真実を、思い出して、気が付けば右手に、ペンを――
 ――耳の奥で、焼きつくように、ウタが、リピートし続けている――

600うた:2017/07/13(木) 22:24:38 ID:MTx./ko6
 ウタの好きな彼女に愛を訴えようというのだから、僕もやはりウタをウタわなければならないだろう。
 しかし歌えども詠えども謡えども、どうにも上手く伝わらない。
彼女を謳う胸の高鳴りが、宴のように騒いでいる所為だ。
 水面をたゆたう泡沫のように、想いが先へ進まないのだ。
 自分の魅力を疑いながら、それでも彼女にウタい続ける。
 今日は歌おうか、詠おうか、唄おうか。

601以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/15(火) 01:36:33 ID:SDs16rLo
勢いも死んでるし惰性で行こうぜ
そ次題↓

602以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/15(火) 09:23:29 ID:fFiVcFTk
お盆の親戚

603「お盆の親戚」:2017/08/17(木) 22:33:33 ID:vb611qhE
「まずいっす。こんな、こんな……」

 パソコンのモニターの前で硬直する。目を見開きその表情が歪む。
 まさにピンチ。誰が見てもただ事ではないと判断するような顔色で何度もモニターを確認してはそれが間違いであって欲しいと願い、その度に現実を突きつけられ絶望する。

「お盆の親戚、ちょっと遠いから気軽に行けなくて、今年もやっぱり行ってないのに、このお題」

 書いてみようという気持ちを真正面から叩き折られ、キーボードに突っ伏す。そしてお題を取った人物に身勝手な恨み言を散々吐き出した後に自己嫌悪で再び崩れ落ちる。お題を出してくれた感謝ならともかく、お題を出した人にとって責められるいわれはない。
 やる気をなくしダラダラと寝転がっていると、思いついた。自分の体験をモデルに出来ないのならば他人の体験をモデルに書けばいい。

「こんな時こそ先輩の出番っす! このボクの役に立てるなんて先輩は幸せ者っすよ! うん」

 無駄に自信満々で自意識過剰な発想に突き動かされるようにしてメールを打つ。まだかまだかと返信を待っていると、ほどなくしてメールが届いた。そこには一言、こう書いてあった。

「メシマズの影響で親戚の家には、いけない」

 一言「ごめんなさい」とメールを返し、無表情のままに他の誰かの作品か、次のお題を待つことにした。

604以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 00:46:44 ID:FcnESL8Q
やめておけばよかった、なんてのは薄っぺらい反省だと思う。
既読のつかないLINEを眺めながら、私は後悔の溜息をついた。

大学に進学を決めた姉貴を東京へと見送ったのが五年前。
都会に関する噂話でいいものを聞いた試しがなかった私は、
田舎から離れようとする姉を必死になって説得しようとした。

ひったくりや痴漢の類は日常茶飯事。
田舎から出てきたお上りは都会人の食い物。
打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた生活に憧れるなんてまともじゃない。

どんな言葉をぶつけても姉貴は表情を崩さなかった。
感情に任せすぎた訴えには姉貴に対しての暴言も交じっていたかもしれない。
それなのに私の一方的な訴えを黙って聞き続けた姉貴は怒ることもなく、
たった一言、「知らないから怖いんでしょ」とだけ言って荷造りに戻った。

LINEの履歴を辿りながら遠く離れた姉貴との記録を反芻する。
オシャレなバーを見つけたこと。綺麗な色のカクテルの写真付き。
都会にだって自然が多い公園があること。はしゃぐ子供たちの姿。
大学の先輩と付き合いだしたこと。恥ずかしそうに笑う男の人。

『姉貴なんか帰ってくるな』

姉貴は都会に明るいものを見ていて、本当にそれがあった。
だけど私は受け入れることを拒否して理解しようとしなかった。
たぶん姉貴は今年も帰ってこない。私が言ってしまった通りに。
立ち上がりかけて視界がくらみ、手のついた先に置いてあったコップをはじく。
こぼれたジュースはテーブルに広がって、その端からカーペットへと滴り落ちる。
もしやり直すことができたらなんて都合のいい妄想を繰り返しながら、
ジュースを吸い取るカーペットを見つめ続けた。

605以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 00:56:52 ID:FcnESL8Q
>>603
ノンフィクっぽい感じが面白くて好き
後半の切ない本音っぽさもシュールで好き
お題は出す側も出される側も難しいけど書けたら楽しいもんよね

606以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/18(金) 01:41:21 ID:aJ7mGnhk
>>604
帰ってこない親戚側の視点、なるほど。
こぼれた液体が戻らない様が後悔と重なる所とか、分かりやすいのにおしゃれな工夫ですね。

>>605
感想どうもです。お題には感謝するばかりです。本当です。本当ですよ?
他の人がどんな風に書いているのか想像する、ということをしてみるのが意外と楽しかったです。
今回のこの子は書けていませんでしたけど。次も誰かに褒めていただけるような文章が書けたらなと思います。

607以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/22(火) 00:59:00 ID:.XsV2kQQ
夏休みも後半戦が見えてきてるぞ
そ次題↓

608以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/22(火) 21:28:18 ID:70qzWbIU
制限時間

609「制限時間」(1/2):2017/08/28(月) 03:17:05 ID:H7G2QIvQ
 授業のチャイムが鳴る。次は現代文の時間だ。現代文の時間のはずだったのだが、何故か教師が和服で入室し、扇子で教卓を叩いて授業の始まりを告げた。今まさに、この場での最高権力者による気まぐれからデスゲームが幕を上げた。

「皆さんこんにちは現代文の時間がやってまいりました、教員の鹿井です」

 一気に授業というよりも休み時間に近い雰囲気に戻ってしまう生徒達。

「いい答えの人には座布団を差し上げます。悪いと取ります。座布団がなければ椅子も取ります」

 だが、いつもの授業と同じだと思ってはいけない。場合によっては座って授業を受けるという当たり前の光景すら遠いものとなる。絶対に避けなければならないのは、ジェノサイドの引き金となるような性質の悪い答え。

「人というのは普段答えられる問題でも制限時間がつくと急に答えられなくなったりしますよね」

「クイズ番組あるある」

「そこで皆さんには『制限時間』をお題に何か問題を作ってもらいます」

 生徒達に緊張が走る。

「その問題を聞いた後、で答えは? と訊きますので答えをどうぞ。制限時間は授業終了までです」

 誰も、手を上げない。急に言われてもそんな短時間で答えが浮かぶほどにこのような状況に慣れている生徒はいない。そして真っ先に答えを言うのは気恥ずかしいという独特な感覚もこの沈黙の要因となっていた。そしてそれが、悲劇を生む。

「田山先生全員の椅子取ってください」

「理不尽!? 待って、はい! はい!」

 鹿井の我慢の制限時間を越えてしまったようだ。ジェノサイドを回避するため咄嗟に挙手してしまう一人の生徒。こうなれば何が何でも答えを捻り出さなければ、椅子がなくなる。

610「制限時間」(2/2):2017/08/28(月) 03:17:50 ID:H7G2QIvQ
「はい。答えがあるのに絶対に答えられない問題とは何か?」

「で、答えは?」

「制限時間が1プランク時間な問題」

「プランク時間って言いたかっただけでしょ。まあいいや田山先生、倉野さんに座布団一枚」

 一人の成功を皮切りに生徒たちは少しずつ手を上げ始める。判定基準は意外と緩いのか、答えた生徒はほぼ座布団を貰っていた。そんな中、空気に乗せられお調子者の生徒が挙手をする。

「はい。この問題の制限時間は答える人によって変わります。この中では先生が一番少ないです」

「で、答えは?」

「制限時間=余命です」

「田山先生全員の全部持っていってください」

 地雷を踏んでしまった。しかしこの問題の制限時間である次のチャイムまであと僅か。少しの間立たされる位ならばどうということもない。既に生徒たちからは緊張感というものが抜け落ちていた。
 そしてスピーカーからは生徒たちが待ち望んだ音が流れる。

「では皆さん座布団も椅子もないようですが本日の現代文はここまでです。また来週」

 退室する教師と入れ替わるようにして、続く授業の教師が姿を現す。生徒たちが凍りつくのを尻目に、扇子が教卓に叩き付けられた。

「続いて数学の時間がやってまいりました。教員の合馬です」

611以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/24(日) 03:02:44 ID:5IAfWWf6
もう夏じゃないね
そ次題↓

612以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/24(日) 09:46:15 ID:fuRJpAUY
明治・大正

613{}:2017/09/25(月) 03:13:09 ID:xJgA0eSg
 犬は人類の友。犬と人間の関わりは西暦が始まるよりも遥か昔から始まったと言われている。
 猟犬として、番犬としての歴史はとても長い。ところが警察犬となると途端に最近の話になる。
 1896年、明治29年のドイツでのことだ。日本では大正元年にイギリスから購入した二匹が始まりとなる。

 当時の彼らは今のように犯人を追跡したり遺留品を探したりする役割というよりも、パトロールの友として防犯広報目的で運用されていた。その後戦争により一時廃止され昭和に至るまで警察犬が本格的な事件解決を担うようにはならなかった。

「もしも、その時代に生まれていたら、お前は幸せだったのかな?」

 警察犬の使命など忘れ、明治の終わりを悠々と散歩する姿を思い浮かべる。
 それとも警察犬が事件を解決した始めての例として名を残しただろうか。誇らしげな表情が新聞に掲載されたかもしれない。

 そんな、意味もないことばかりが頭をめぐる。

「偉かったな。先輩たちに沢山自慢してこいよ」

 初めての功績を褒めてあげられなかった不甲斐ない奴の事なんて忘れて、沢山褒めてもらえよ。

「先輩邪魔です。大人しくしててください」

「あっはい」

 両腕を骨折し、今回の功労者を撫でてやることもできない不甲斐ない奴の妄想は終了した。

614以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/24(火) 06:00:02 ID:XBIYBM4o
よし次いこう
そ次題↓

615以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/30(月) 02:29:29 ID:kB/LM24o
宇宙

616以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/01(水) 21:32:44 ID:fyLB7QdM
むかしむかしあるところに、ジャックというおとこのこがおりました。
ジャックはいつもそらをみあげて、よぞらのほしやおてんとうさまにむちゅうです。
ほしをつかみたい。おつきさまでうさぎとダンスしたい。でもどうすれば?
いくらなやんでも、いくらかんがえてもだめでした。
むらのちょうろうもだれもしりません、どんなほんにもかいてありません。

ある時ジャックはおもいました。
絵本のジャックと豆の木みたいにマメを植えよう。
高く、高く……ずっと高くのばして、それで星までとどかせよう!
ジャックはうらにわに豆をうえました。

豆の木は高く伸びていきます。ジャックの頭をこえ、屋根をこえ、でも星にはとどきません。
ジャックは考えました。考えて調べてまた考えて、分からない事は質問して、色々なことを学びました。

風で倒れないよう、蔓を硬くする方法を作り出しました。
飛行機がぶつからないよう、航空灯を設置しました。
空気がなくても育つように、太陽の光を電気に変えて貯められるように、まっすぐまっすぐ伸びるように、からみあう沢山の蔓の中を、弾丸のように列車が駆け抜けられるように。
何年も、十何年も、何十年も。夜空を見上げ、星に手を伸ばし続けました。

しかし、ジャックはついに星を掴むことは出来ませんでした。
豆の木に登って分かったことは、星はあまりにも遠くにありすぎると言うこと。
それでもジャックは諦めません。いつか、いつか自分の後ろを歩く誰かが――――

最期までそう言い続けたジャックの意志を継いだ誰かが今日も、36,000kmまでこの豆の木を昇ってくるのです。

星を掴むために。

617以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/02(木) 18:00:18 ID:rVlY302s
本当はかっこいい童話になっとるw
軌道エレベーター豆の木か…

618「宇宙」(1/2):2017/11/05(日) 02:06:33 ID:WIWPfjjU
 どこまでもどこまでも大地が続く世界。果てがない大地が続く世界。
 とある王は旅人に訊ねた。この大地に果てはあるのかと。この世界はどんな姿をしているのかと。

「さて、旅人はなんて答えたと思う?」

 付き合い始めて一月になるが、一体何度このような哲学的なようなそうでないような問いを聞いただろうか。軽く両手の指の数は超える。無論両手両足合わせてだ。

「そうだなぁ、まずその旅人は王様の質問の答えを知ってるの?」

「知らなかったら知らないって言うだけだから今回はそのパターンは考えません」

 果てのない大地を旅する旅人は大地に果てがないことを知っている。ならばひとつめの問いには果てがないと答えるのだろう。だが果てのない大地が続く世界はどんな姿をしているかは――

「旅をしているから、世界が丸くループしていることを知っている。だから旅人はそれを教えた」

「うん。現実ならそう。でも、本当に大地が無限に続く世界だったら?」

 今回の本題はこれらしい。本当に無限に大地の続く世界の姿とはどんな形か。

「空もどこまでも続くの? その上には宇宙も果てなく続くの?」

619「宇宙」(2/2):2017/11/05(日) 02:07:29 ID:WIWPfjjU
 無限の長さの大地という板に無限の長さの空を重ね、無限の長さの宇宙を重ねる。そんな形をしているのだろうか。
 しかし、本当にそんな世界だというなら、どのように大地に果てがないと知るのだろう。そこにある大地が無限であるという証明を、旅人はどのようにして行ったのだろうか。
 果てがない。だが果てを確認できないだけで本当は果てがあるかもしれない。大地が無限であることが真実だと仮定するこの場の二人とは異なり、旅人にはそれを証明する手立てなどないはずだ。

「――そうだね、本当に果てがないっていうのは想像しづらいから少しだけ現実に寄せよう」

「現実に寄せる?」

 まず考えるのは、宇宙の果てはどこにあるか。どこまでも広がる宇宙、その端に、大地がある。宇宙の中に星という大地があるのではなく、大地が宇宙を包み込む世界。

「こんな世界なら、面白いと思わない?」

 意味があるとは思えない問い。それでも自分なりに真剣に考えて答えを出してみる。なんだかんだでこの意味不明の問いを楽しんでいる自分がいるのだろう。ただ、一番楽しみなのは――

「そんな世界なら、旅してみたくなるかも!」

 楽しそうな、この笑顔を見ることだ。

620以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/05(日) 13:06:00 ID:uJkyIjIc
>>618-619
軽快な会話調が良いですね。
恋愛小説か青春を題材にした小説にありそうな文章だと思いました。

621以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/05(日) 20:43:45 ID:WIWPfjjU
>>620
感想どうもです。くだらない話でも楽しめる二人は書いているほうも気楽に書けた気がします。

622以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/07(火) 01:27:08 ID:Xvn7EHMU
陽が沈んで夜が巡ってくると、彼女は飽きもせず空を見上げた。
何をそんなに惹かれるものがあるのかと真似したこともあった。
けれども、満天の星空はいつもただ綺麗なだけで面白みなんてなかった。

「見えてるものが違うからかな」

星以外に見えるものなんて、ただ暗いだけの空しかない。
瞬いている星をまばらに散らしたような夜空の
大部分を占める、明るさなんて何一つない広大な
暗闇は、氷点下に保たれた恐ろしく寒い空間らしい。

「見上げてると安心するんだ。今日も私はちっぽけでしたって」

彼女は安心に和らいだ表情で空を見つめていた。
温かいお茶を手渡されたようなのどかな微笑みだった。
元気に白い歯を見せて活発に笑う姿をテレビ越しで
見せていた彼女とは思えない対照的な穏やかさは、
こちらが本来の性格に感じるほど自然なものだった。

「星にも寿命があるんだよ。超新星。爆発。どっかん」

とっくに使い古された表現だけれど、テレビに
映っていた彼女は確かに光り輝く星だった。
多くの人に明るさを振りまく、多くの星に紛れた星。
そのたったひとつの星の最後は、彼女の言葉通りに
誰よりも目立つだけ目立って世間を騒がせから消えていった。

「楽しかったけど、けど、宇宙は人の住める場所じゃなかったよ」

彼女の震える肩ごと胸に抱くと、ようやく地面を向いて涙をこぼした。

623以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/07(火) 23:44:54 ID:W2NmUmg.
>>622
芸能界を輝く星空のステージとたとえるのはよくあるけど、その負の側面まで宇宙でたとえるのは凄い。シンプルに凄い。

624以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/21(火) 20:05:56 ID:CclceaJk
2週動きないし、そろそろ次のお題っちゃう?


625以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/22(水) 23:48:46 ID:HjG28NUw
過去のお題の中から任意にひとつ選んで書く

626以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/23(木) 18:06:22 ID:eFu0YvWI
このクソスレをわざわざ掘り返すのか……

627「怖い話」:2017/11/25(土) 02:46:00 ID:fjsOt9Lw
 水の悪いとある町。水屋の百平は水を汲むために登る山で石を拾ってきては磨いて眺める趣味があった。綺麗に磨ければ暫し神棚にそれを飾り、新しく石を磨けば古い石は捨て値で小遣いに変えていた。
 ある日、百平がいつものように石を磨いていると手元を誤り磨いていた石を割ってしまう。すると石の中から毒虫が現れ百平に噛み付いた。
 百平はその場に臥しその命は尽きようとしていたが、百平の下に近所の悪餓鬼が訪ねてくる。悪餓鬼は拾った石みっつと磨いた石ひとつを交換する百平のお得意様だった。
 悪餓鬼は百平の指を喰らう毒虫に目をつけると神棚に供えてあった石を手に取り毒虫を叩き潰した。すると不思議なことに割れた石は砂となり指の形となり百平の手は元通りになった。
 百平は悪餓鬼に大変感謝して神棚の石を悪餓鬼に持たせ、いっそう心をこめて石を磨き神棚に石を飾るようにしたそうな――

○月●日
××府××市――村某金物屋で男性の遺体が発見された。
発見時点で既に死後数日は経過しており直接の死因はアレルギー反応によるアナフィラキシーショックであるとされるもアレルギーの原因は不明。
また遺体の一部が欠損しており欠損部位は今だ見つかっていないこと、未完成の金物一点が不自然に破損していることから警察は事件、事故両面から捜査を開始――
――また、最近ボランティア活動で男性と共に山へ登ったというDさんに話をうかがうと――

 ボクは学校では優等生と言われている。でも実は皆に内緒で悪いこともしている。
 ボクはスプレー缶が壊れたときのプシューって音が好きで、よくゴミ捨て場から缶を拾ってきては壊して音がなるかならないかを楽しんでから元の場所に戻している。
 大人に見つかったらきっと怒られるから誰にも見つからないような場所でこっそりやっている。
 自分で作った石斧はボクの宝物。何回も失敗しながら完成した石斧で缶を割ると凄く気持ちいい。
 今日も缶を拾ったから秘密基地で割っていこう。この缶は音がでるかな? 楽しみだなぁ――

628以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/25(土) 23:00:35 ID:Cc83zqUY
このクソスレをわざわざ掘り返したのか……

629以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/26(日) 00:08:37 ID:9SmyUFEU
真に申し訳ないことに安価とってしまったので責任は取らないとと思いまして、すみません……

630以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/18(月) 23:07:15 ID:dlyiAQ2M
流石にもう変えましょう。変なお題出してすみませんでした
次のお題↓

631以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/19(火) 15:47:08 ID:FSp9BzTM
灯台

632「灯台」:2017/12/20(水) 03:41:54 ID:9WJa9Bug
 説明しよう。この世界は危機に瀕していた。過去形だ。
 大いなる闇が現れ世界から全ての光を奪おうとしたが光の剣を振るう勇者により大いなる闇は倒された。
 だが大いなる闇はその強大さ故に倒れた後も夜という形で世界に残り続けた。
 全ての人々の中に睡眠という魔が根付き、人々の時間は大きく切り取られてしまった。

「光の剣の光を拡散して高い塔から放ち続ければ全て解決するんじゃね?」

 そんなノリで塔が建てられ鏡やガラス、歯車などにより空を巨大な光の刃で凪ぎ続ける仕掛けが作られた。勇者は喜んでその塔に光の剣を収めた。

 結論を言おう。全くの無意味だった。夜が消えても人々から睡魔が消えることはなかった。
 むしろ明るすぎて寝れないと苦情が来た。でも何か綺麗だったので年に数回、特別な日だけ祭りを行い塔に光の剣が収められることになった。

「そんな伝統のある塔なんだから、地震で倒壊したラッキーとか言うんじゃないよこの馬鹿!」

「えぇ、だって雨戸閉めてもまだ明るいし……てか大人たちが一晩中祭りで酒飲みたいだけ」

「うるさい! 普段ちゃんと稼いでる父ちゃん母ちゃんはあんたにとって勇者だよ! 敬いな!」

 自分を叱る親を見て、それでもやっぱり塔が倒壊してラッキーだったと思う。
 何しろ父親の臨時収入の出所が『闇祓う灯りの剣の台座となる塔』の再建という仕事なのだから。

「どうでもいいけど塔の名前長いよ。略して灯台でいいじゃん」

「この罰当たり!」

633以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/21(木) 21:02:13 ID:Az1vMx6A
このクソスレまだ続けんの?

634「灯台」:2017/12/21(木) 22:10:28 ID:5Ukbbvl2
 期待はしていなかった。久々の帰郷で感傷的になったのか、普段なら絶対にしないであろう思い出の場所巡りなんてのを始めたものの途中でやめようかと思ったくらいだ。とりあえず近いからという理由で向かったそのおんぼろ屋敷は子供の頃よりさらに老いていたがまだ生きていた。

「うわ!うまい棒5円のまんまじゃん」

 思わず当時の高揚感が蘇ってくる。たった5円。だが半額だ。謎のうまい棒のみ半額。すぐに売り切れるから学校が終わったらダッシュでここへ急いだ。5円のために。
 その田舎村の生態系が今も受け継がれているのかと思うと不思議な安心感に包まれる。と同時に、お会計をする時のひまわりのような笑顔が頭をよぎり、心臓が心地よいテンポを刻み始める。扉を開けようとしたが、変わり果てた自分がガラスに写り躊躇する。帰ろう。おんぼろ屋敷に背を向けるとクジラと瓜二つのゆったりとした時間を感じさせる目がこちらを見つめていた。

「いらっしゃい。今日は息切らしてないんだねえ」

「・・・夏休みだから」

「あーそうだったね」

 扉を開けてカウンターに向かうばあちゃんの後にいつも通りついて行った。いや、今日はペンギンみたいになった。店の中も昔とあまり変わっていなかった。あれ、商品名が読めない。

「ばあちゃん商品名滲んでて分かんないよ。書き直しときなよ」

「え?・・・そうかい。あとで直しとくよ。ふふふ」

 ばあちゃんは訝しげな顔をしたが、俺の目を見ると心底面白そうに目を細めて笑った。やはりお年寄りにこういうのは効く。なんてクールを装い、心の平静を保って視界を確保すると、奥の商品棚にはインテリアが飾られているのが見えた。

「あれ?イカゾーンは?」

635「灯台」:2017/12/21(木) 22:26:41 ID:5Ukbbvl2
左手奥にはイカ関連の駄菓子が一面にならんでたはずだ。あまりの種類の多さにイカゾーンと呼ばれていた俺のお気に入りの場所が。よく見ると右手奥のロシアンルーレットゾーンも無かった。

「もうないよ。あっても誰も買わないからねえ。子供がすっかり居なくなっちゃって」

 そうなんだ、の一言が出なかった。さっきまでここに来るのをやめようとしてたくせに胸が痛む。少子化の影響を最初に受けるのは田舎だ。言われてみれば当然のことだ。だけどそれだけで納得したくはなかった寂しい現実。

「おかげで毎月赤字だよ。大人買いのひとつやふたつしてっておくれよ」

 この陽気な感じが懐かしくて大笑いしてしまった。ばあちゃんは口の端をひくひくさせながらまた面白そうに目を細めた。

「じゃあここからあっちまで全部ちょうだい」

「1億万円ね」

「2万しかないや」

「ならうまい棒4本だけしか買えないねえ」

「じゃそれで」

 なぜか1万9980円のお釣りが返ってきた。99.9%OFFなんて聞いたことないぞ。俺はお釣りを財布にしまいながら、ある疑問を聞こうか聞かざるべきか悩んだ。けど、結局子供の頃のよしみに甘えてストレートに聞いてみることにした。

「ばあちゃんはなんでまだ駄菓子屋やってるの?」

636「灯台」:2017/12/21(木) 22:28:44 ID:5Ukbbvl2
「そうねえ。こうしてここに居ると時々、旅人さんが帰ってくるからね。やめるわけにはいかないのよ」

 ばあちゃんにそこまでの責任はないはずだ。しかし、俺は駄菓子屋という目印が無ければ子供時代に帰ることはできなかったかもしれない。都会の波に揉まれて、心が沈みかけていたからこそ、思い出の場所巡りなんて柄にもない行動に出たのだろうか。ばあちゃんの言葉がすっと染み込んできて俺は無意識のうちに感謝していた。 

「孤独でも旅人さん達を思えば寂しくなくなるの。いつか迷った時、帰れるようにを私がここを守ってるって思うと死んじゃいられないって元気が湧いてくるのよ」

 ここに来て良かった。ばあちゃんのしわくちゃな目尻を見て心からそう思えた。ばあちゃんは一流の灯台守だ。 
 ほんわかした空間に、ガラガラっと古い音が鳴り響いて俺は振り向いた。

「あ・・・」

「たーくん?」

「そうちゃんけ!?」

俺達は子供時代大陸に上陸した。

637以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/23(土) 00:54:28 ID:8lgCVS/w
サンタクロースなんかいない。
年齢不相応に本当のことを色々と知っている私は、夢のないやつだと言われてよく仲間外れにされてきた。
言動が子供っぽくない。可愛げがない。同年代から一歩引いた冷めた性格だと、大人たちはよく言った。

「私は悪くないんだけどなあ」

頬杖をついてココアをひと口含む。珈琲が苦くてまだ飲めない私は、こうして大人の真似っこをするのが好きだった。
口にたまった甘い海の中に少しでも苦いところがないものかと舌を漕ぐ。
牛乳に砂糖を足したお子様向けのココアなのだから、そんなものがあるわけない。
本物の珈琲が注がれたマグカップを傾けて飲むお兄さんを横目で盗み見る。
砂糖もミルクもシュガーシロップも使っていない正真正銘の珈琲。
どうしてあんなに苦いものを表情一つ変えずに飲めてしまうのだろうか。

「それって大人が悪いと思う?」

コップを置いてお兄さんは微笑んだ。私が好きなお兄さんの中で、たぶん一番好きな表情だ。
でもそれと同じくらい嫌いな笑顔かもしれない。だって笑顔の意味が分かってきてしまっているから。

「お兄さんがそうやって、私に難しい質問をするからいけないだよ」

テーブルに組んだ腕を敷いて頭を乗せる。下からお兄さんを見上げると、やっぱり年上なんだなと実感した。
私がその日の出来事を教えると、お兄さんはいつも不思議な質問をしてきた。
どれもが頭を使う内容で、お兄さんからすればまだ子供な私には意味を考えるだけで精一杯になってしまう。

「子供っぽくないと言う大人が悪いのかな。それとも大人びてきた君が悪いのかな」

今日のお兄さんはなんだかいつもより嬉しそうだった。
たぶん私がだんだんと変な方向に賢くなってきて、お兄さん好みに穿った視点で世間を見れるようになってきたからだ。
お兄さんの笑顔はそういう意味だ。私はまだお兄さんほど大人じゃないしえらくない。
珈琲の入ったコップに口をつけて眉をしかめると、お兄さんは楽しそうに笑った。

638以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/23(土) 00:56:19 ID:8lgCVS/w
思い付いたことを投げただけのフリースタイル
お題成分はとくになし

639以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/29(金) 12:53:42 ID:vu/R.rRk
いいね

640以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/02(火) 23:20:13 ID:dbOgreRI
「付き合ってあげましょうか」

顔を覆って唸っていると、頭の上から明るい声がした。
無邪気を声で表現した場合の模範解答のような声だった。
どうしてこんなにタイミングよく救済の手が差し伸べられるのか。
悩める者にとってその一声は、空腹に動けなくなったときに
与えられたひと玉の林檎のように感じられる――わけがない。

「お前はお呼びじゃない」

顔を隠したまま突っ張る。個人的には最も首を突っ込まれたくない相手だった。
こいつには個人的興味だけを的確に見つけ出す天性の嗅覚によって散々に苦しめられた。
癒えない傷を負わされた心は気配を感じ取るだけでチリチリキリキリと悲鳴を上げた。

「えー、だってどうせまた楽しくなるんでしょ」

根っこが腐り堕ちてそうな主観で語られると反論する気力も起こらなかった。
当事者にとって不幸以外のなにものでもないことを享楽にするのだからたまらない。
いったいどんな環境で育ったらこんなにも捻くれて育つのだろうか。

「今回ばかりは本当にやめてくれ。お前が絡むと拗れた問題がねじ切れる」
「諦めた方が早いのに。無理ってしってるくせにー」

追い払うつもりで言ったのに、何が面白いのかケラケラと笑い始めた。
歳の差を考えない無遠慮な手がわきまえず、髪の毛にわしゃわしゃとじゃれついた。
だからそういう人目を気にしない軽率な行動が誤解を生むのだからやめてくれ。
ほらもう視線が痛い。胃が痛い。逃げるように顔を伏せると、遠くの陰口が余計に鮮明になった。

だって周りが荒れているほど君のそばがよく落ち着くんだ。
まるで秘密の約束事をするように、他の誰にも聞き取れないような小声で言った。

641以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/02(火) 23:21:50 ID:dbOgreRI
みたいな

お題「内緒話」↓

642「内緒話」:2018/01/04(木) 19:05:53 ID:ds3NJXx6
 皆が内緒話をしているんだ。振り返るとなんでもないように振舞っているけど、分かるんだ。
 すれ違った人が、後ろを歩く人が、座っている人が、内緒話をしている。
 きっと嫌なことばかり話しているに違いない。皆、笑っている。

「い  しゃ  せ」

 内緒話はできても、お前と話す言葉はない。そんな嘲笑が透けて見える。
 見ていないところではハッキリと話していたのに、挨拶すらまともにしたくないのか。

「お 計   円   ま 」

 聞こえない。仕方がないから表示される金額を見て、その通りに支払う。

「           」

 とうとう何も言わなくなった。店を出る前に、また内緒話と嘲笑が聞こえた。
 店の外に繋がれている犬がこちらを見ている。
 しゃがんで撫でてやりながら、あいつらに仕返しをする。
 お前にだけ、内緒の話をしてあげよう。犬は、返事をするように首をかしげた。

643以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/21(日) 22:37:05 ID:2yHkzoG2
お題↓

644以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/22(月) 04:12:03 ID:.xL08G9o
ナルシスト

645以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/16(金) 01:08:53 ID:nb8bXdMg
「ごきげんよう」

屋上でひとり寝ころんで時間を潰していると、視界の端からおさげが割り込んできた。
長さの合っていないマフラーが鼻の頭をくすぐる。あまりにも絶妙な配置に悪意を感じる。

「ここに何の用だ」
「それは私が聞きたいんだけども。風紀委員長として」

眼鏡の奥で大きな瞳がギラリと光る。
お互いに望まない邂逅が増えたせいか、最近は特に肉食獣の表情が様になりつつある。
無論、そこに相手を震え上がらせる気迫がこもっているかどうかは別の話しだ。

「あーあ、せっかく休憩してたのに。『婦長』のせいで邪魔されちった」
「誰が『ふちょう』だ! 私は風紀委員長だ!」
「それを略せば」
「役職を略すな!」

苛立たし気に覗き込む顔を手で退けて、勢いよく跳ね起きる。
そして右足を基軸にして軽やかに婦長の後ろに回り込んで抱きこんだ。
予想していなかったであろう不意打ちに、腕の中で婦長がびくりとはねた。

「婦長は相変わらず不用心だよな。俺だから抱きしめるだけ済んだものの」

蛇に喉を噛まれたネズミのように、婦長は抵抗することなく内側に収まる。
年齢のわりには小さな頭を撫でると、シャンプーの香りがふわりとひろがった。

「よかったわね、私がか弱い美少女で。体育委員長だったら締め落とされてるところよ」
「叱るつもりなんかないクセによく言う。俺のことが好きだからいつも来てんだろ」

マフラーの半分を借りて首に巻く。風の少ない冬の空では雲がゆっくりと流れていった。

646以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/16(金) 01:10:03 ID:nb8bXdMg
消化してリフレッシュ
↓次題

647以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/18(日) 03:41:13 ID:YpezZsN.
残雪

648「残雪」:2018/02/24(土) 02:39:08 ID:hccBNE7k
「残ってない!」

 タイトルに反して悪いが、既に雪は残っていない。
 暦が春に移り変わるのと同時に雪は溶け去ってしまった。

「素直にバレンタインとかネタに書こう? な?」

「安価は絶対なんだよ! 何がチョコだ、ケツにチ○コ貰えやリア充!!」

 口汚いコイツはどうしても残雪というお題で書きたいらしい。
 仕方がないとキッチンに戻り戸棚の上を漁る。これで我慢してもらおう。

「……えっ、それ?」

「これで我慢しろ」

 夏の風物詩、カキ氷機が器に雪を盛った。
 無論、その雪はシロップかけて無理矢理コイツに食わせた。寒くても、知らん。

649以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 20:02:37 ID:KySL4HE6
草にかぶさった雪を踏みつける。
手のひらほどもない残雪は土のつちのついた靴跡を綺麗にかたどった。

「ここはもうこんな季節になったんかい」

身の丈ほどもある銃を担いだ少年が言った。
そのすぐ隣。杵で突いたばかりの餅のような姿をした生物がぴょこんと飛び跳ねた。

「はやいね! もうあったかい季節になるんだ!」

興奮気味に大声で言った軟体生物は、少年の足に張りつくとずるずると昇り始めた。
体を這い上られる感触が好きではない少年はあからさまにため息をつく。
もちろん人間とはまったく別の感覚をもつこの生き物に感情など理解できるはずもない。
足を伝って背中を通り過ぎ、ついに頭の上にまで到達した白い生き物は、
遠くまでひらけた景色を見て、またぴょこんと跳ねた。

「頭の上で跳ねるな」

「すっごいすっごい! 僕の仲間が沢山いるんだ! あっちにも!」

賢くはないながらも抑えきれない感動を覚えた生き物が跳躍でもって喜びを表現する。
これまでも禁足事項として忠告をしてきた少年の我慢が限界を迎えるのはそれほど遅くはなかった。
体にひっついた時点ではたき落とすときもあるのだから、むしろよく耐えた方ではある。

頭上に居座る軟体な生き物を掴み取ると、すぐ傍の名残の雪にあらん限りの力を込めて勢いよく叩きつけた。

「ビャぎぃッ!!」

静かな森に悲鳴が響く。雪でなければ衝撃で体がはじけ飛んでいたはずだったので、それは少年の温情だった。
雪に紛れて全身を貫く激痛にもだえる白い生き物を置き去りに、少年は森の奥へと歩いて行った。

650以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 20:03:29 ID:KySL4HE6
3月入ったし次奴↓

651以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/02(金) 00:03:56 ID:VAyS/HEI
イキ人形

652以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 02:29:59 ID:QeyNLqCw
「おはようございます。今日の具合はどうですか?」
「特に問題はないよ」
 問い掛けに鷹揚に頷く。幾度となく繰り返された問答。もはや新鮮さなど何一つなかった。
返事をしなくとも良いだろうが、習慣でつい応えてしまう。

「暖かくなってきましたよ。どうです散歩でも」
 私は答えなかった。答える意味も必要もなかったのだ。
 散歩をするとしてどこへ行けば良いのか。外を歩く事など全くの無意味だと言うのに。

「私は貴方とずっと一緒に――」
「黙っててくれ」
 なおも喋り続けようとするのを遮り、私は感情の赴くままに叩き付ける。たやすく弾き飛ばされて
床に転がる。手足があらぬ方向に曲がっていた。
 何という事だろう。やってしまった……
 軽い自責の念が襲う。面倒な事が増えてしまっただけじゃないか。
 嘆息しつつ転がった女の姿をしたそれを抱えてベッドに寝かしつける。こうして一日放置して
おけばまた動き出すだろう。

「ふぅ。それにしても厄介な物だ」
 人類が、世界が崩壊した現状話し合える存在は有り難い、本来ならば。
だがこれは人形なのだ。気紛れに周辺の荒野を出歩いた時に奇跡的に残されていた建物の中で
遺棄されていた。
 初めは人間だと思ったがそうではなかった。ロボットと思ったがどうにも仕組みが全く異なる。
驚いた事に素材は人形そのもの。目はグラスアイ、身体は大きさは異なるがよくある球体関節だ。
 だが自律して会話でき、どういう仕組みなのか傷なども放置していれば修復される。
会話が出来て喜んでいたのは最初の内だけだ。会話の中身がとにかく少ない。同じ事しか言わない上に
学習機能もない。
 ただ動き続けるだけの人形。生き続ける人形――イキ人形というわけだ。
どこかへ捨ててもいつの間にか戻ってくる。どうにも厄介な代物である。
世界にたった一人ぼっちになっても煩わしい事があるなんて、物事はうまくいかないものだ。

653以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 02:31:27 ID:QeyNLqCw
手直ししていたらageしてまったスマヌ

654以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/17(土) 23:56:53 ID:1ceeLE5Y
次↓

655以下、名無しが深夜にお送りします:2018/05/01(火) 01:29:22 ID:LK3wS1Ak
GWらしく「連休」で

656「連休」:2018/07/26(木) 20:25:46 ID:l0VzMjYs
 同僚が、たまに家に帰ると娘に「おかえり」じゃなく「いらっしゃい」と言われると愚痴る。
 それを私は他人事のように聞いていた。彼に比べれば私はまだマシだと思っていた。
 帰ればちゃんと「おかえり」と言ってくれる息子。いつの間にか料理も覚えていた。
 だから、気付かなかった。久しぶりにとれた長めの休日。

「久しぶりに遊園地にでも行く?」

 もう、そんな年じゃないよと言われた。

「久しぶりにキャッチボールでもしようか?」

 もう、そんな年じゃないよと言われた。

「久しぶりに一緒にお風呂にでも入ってゆっくり――」

 もう、そんな年じゃないよと言われた。
 タブレット端末を弄る息子の手は、よくよく見れば、もう私と変わらない大きさだった。
 身長も同じくらい。思い返せば、確かにそうなのだ。息子は、もう立派に育っていた。

 気付かなかった。息子は私を親として見てくれていたのに。私はそれに気付かなかった。
 思わず息子を抱きしめる私に、息子はまるで親が子にするように、仕方ないなという顔をした。
 時間はもう戻らない。でもそれは今から努力しない理由にはならない。
 遅くなってしまったけど、今気付いたから。これからの時間を大切に過ごそう。息子と一緒に。

657以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/28(土) 03:41:48 ID:u7FoUD4Y
忙しさゆえに子供の成長を正しく認識できなかった、ある意味時間が止まったままの父親
長い休日で時の流れを知ったせつなさと前向きに歩み寄ろうとする、読後感の良いSSですな

658以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/07(火) 00:37:57 ID:KzR64ivw
>>657
感想どうもです。上手く思いつかなかったのですがシンプルに纏めようと書いてみました。

659以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/08(土) 03:40:58 ID:8eahRa6w
次↓次↓

660以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 08:13:39 ID:qo2.WOWg
お題ちょうだい

661以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 22:43:30 ID:hSpCFKPM
じゃあ「台風」で

662「台風」:2018/09/21(金) 00:26:55 ID:SNG73sTc
「台風であぶないから学校休みだって〜」

 このお子様は何故うちにいるのだろう。台風で危ないから自宅に戻りなさい。いやそもそもベランダ伝いにこっちの部屋に来るのは台風じゃなくてもやめなさい。
 あとさっきから人の家で何を書いているんだろう。「だいかんげい」? 大歓迎?

「ねぇ手伝ってよ〜」

「何作ってるの」

「台風がまたきてくれるように旗作ってるの」

 台風の被害がシャレになってない人もいるというのにお子様は気楽な物だ。学校が休みになることを喜んでいるだけか。わざわざ旗まで作るのは不謹慎だと思うけど。

「ほ〜ら、台風は目がすっごく大きいから大きく書かないとダメなんだよ!」

「あぁ、台風の目ね」

 なるほど、台風の目では風も雨もないのは台風が物を見るためか。その発想はなかった。
 旗作りを手伝うことになったが、被災地の人に配慮して目潰し用の一味唐辛子も用意したので許して欲しい。

663以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/08(月) 17:10:29 ID:n6wi0WFs
子供らしい発想描けていてええやん

そろそろ次のお題をば↓

664以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/16(火) 03:16:43 ID:TfUTLrfM

目薬
冷え性

の内どれか任意

665「目薬」:2019/02/02(土) 17:23:49 ID:AXDv511Q
 花粉症の辛さは多くの人がわかってくれると思う。そして多くの花粉症患者は花粉症じゃない人を

羨み、嫉妬しているはずだ。別に心が狭いとかそういうのじゃない。たぶん。

「そんなあなたに」こちら。といって紹介された魔法の目薬(パン屋のポイントカードと交換)を手に

私は迷っていた。この目薬を一滴垂らした瞳で相手を見れば、たちまちその相手は花粉症になってし

まうという魔法(呪い)の目薬。

 本当に使ってもいいのだろうか。確かに私は毎年のように、この辛さを皆も味わえばいいんだと思った。でも、思ったこととそれを実行することとは別だ。この目薬を使えば、沢山の人が地獄を味わう。
 悩んだ末、私はその目薬をそっと机の引き出しに仕舞いこんだ。この辛さを知らない人の幸せを奪

う権利は誰にもない。私の分まで春を謳歌して欲しい。きっと、これでいいのだ――

 後日、

「あんたの机にあった目薬いつの? 全然効き目ないんだけど」

「わぁああ゛あ゛っ!? 何してんの糞姉貴ぃいい!!」


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