したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

みんなで文才晒そうぜ part2

137以下、名無しが深夜にお送りします:2014/03/13(木) 10:27:08 ID:RY4evkPM
いつも通りの退屈な講義を聞き流している。忘れていた事を思い出すようにして教授がホワイトボードに書き出す単語。それを時々写すだけの退屈な時間。暇なのか癖なのかは知らないが、教室内の誰かがノートをペンでトットッと叩く音が耳に残る。リズミカルに、だが不規則に鳴らされるそれは何かの催促のようにも聞こえた。それに促されるようにしてわざと音を立てて参考書を捲る。ペラララ、ペラ。ペラララ、ペラ。いつも必ず途中で一度止まるのはそこに異物の重みがあるからだ。
「はぁ…」
気が重い。だが見ないという選択肢はないのだろう。こういう事は本来、一度気が付くと放っておけるような物ではないのだから。僅かな躊躇を抑え込んで問題のページを開く。
―ああもう。
そこにはプリクラが貼られている。写っているのは俺ともう一人。照れながらもピースをカメラに突き付けた女の姿。このプリクラの持ち主だったはずの女。
悪戯の張本人を探し横の席を見る。いつもこの時間は俺の隣で寝ているのだが、今日は寝ていない。いや、今日も、か。ここ数日間で別人のように変わってしまった女だがその理由は分かっている。このプリクラも大分前に貼ったものを今になってようやく気付いただけのこと。指でそっと撫でると、隅が捲れることに気がついた。台紙から剥がすときに折ったのか、3ミリほどがドッグイヤーのようになってしまっている。
ちょうどいい摘まみだ。外してしまおう。勝手に貼られたのだから勝手に捨てても罪はないだろう。誰にも問われる事のない責任に免罪符を貼り付けて、ゆっくりとプリクラを剥がした。
「…剥がすんじゃ、無かった」
通路を挟んだ席の学生が、突然の一人言にこちらを向く。目が合うと、気まずそうな表情で視線を落とした。仕方の無いことだ。いい年をしていきなり一人言を呟き、泣き出した男をみたら誰だってそうするだろう。
プリクラの裏には消えかけたような筆跡。強がりの笑顔の裏に残された『ごめん。』の文字。
ああ、なんだ。あいつはちゃんと謝っていたのか。意固地になって責め立て、喧嘩別れをしてしまった女。今はもう隣にいない、冷たい目線しかよこさなくなった女。あまりに素直じゃない、こんなやり方しか知らない不器用な女。
いや、違う。不器用なのは自分だ。いつだって催促されるまでは行動が出来ない。後ろ向きな発言で行動を避けてばかりいる自分。
トットットッ。音が聞こえる。先程より早く、急かすように打ち鳴らされる。それに促され、仕方なく教室をでた。数人の視線を背中に感じるが、気にせずに進む。
トットットットットットッ。
段々と早くなる音に責められながら校舎を歩き回る。涙を流しながら彷徨う姿はどれだけ滑稽だろうか。ほんの少しの後悔が漂い始めた頃、ようやく見つけた。
トクン。
一際大きな音を立てると、催促の音は鎮まっていった。
『―――。』
一言だけ伝えると、女は泣きそうな眼を歪めて、紅潮した笑顔でピースを突き付けてきた。
トットットットットッ。また、せわしない催促の音が聞こえる。促され、女を抱き締める。
ああ。きっともう大丈夫なんだろう。いつだって正しく催促してくれるこの鼓動に身を任せていれば、僕たちは素直になれるのだろうから。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板