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ロボの貞子が古城を調査したらみんなとにかく笑えるようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 06:37:07 ID:kzfdz5PsO
百物語に参加したいけど、7時までに投下終了をすることは出来ないので、問題があれば除外してください。
83
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:02:38 ID:kzfdz5PsO
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 ̄ ̄ ̄\∵∴∵/ ̄ ̄ ̄
\∵/
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『I know all of you』
「お前のことなら何でも知ってる」
84
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:04:37 ID:kzfdz5PsO
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.:∴∵∴∵∴:.;'
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'・;.、)
『I am the one who created this world. You cannot stop me』
「この世界を創ったのは私だ。お前には止められない」
85
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:06:20 ID:kzfdz5PsO
先導する長岡は、ちょうど鉄格子の扉から5メートルほど離れた位置で立ち止まった。左の絵も、右の絵も視界に入る範囲だった。
貞子はこの星に来て初めて人間が本来対話するときに用いる言語を耳から聞いた。
ポケットの中のビスケットを砕いたような雑音が混じり、全身を虫が這うような感覚に陥った。足のつま先から、足首、脛、股、腰、腹、胸、肩、首、顔、頭。腕から指先へとカサカサ、さわさわ犯されていく蟻走感。
薬物中毒者のそれと比較するなら、違うところは口の中だろうか。ポツポツと湧き出る大小の丸い突起が、痛く、不快な炎症を引き起こし、ついにはその口内炎がきびきびと移動を始める。生命の誕生。
到底、ロボットには無縁であるはずの錯覚は、生まれた感受性豊かな彼女に恐怖を植え付け、続けざまに開放された。
86
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:07:26 ID:kzfdz5PsO
_
( ゚∀゚)(ご丁寧に英語字幕の日本語音声付きだよ。文字通り、主にはルールが適用されない)
長岡の発した念話は、肉体と精神の痛みが初めからなかったかのようにスッと脳内へ入っていく。
覚えた快感と安堵は、得てして同意義ではなかった。
_
( ゚∀゚)(この世界は……いや、この城は彼が創った。主であるtanasinnが)
_
( ゚∀゚)(廃れた文化が生み出した、最高の娯楽さ)
_
( ゚∀゚)(ミームだよ。自然と伝わっていく、とらえようのない概念)
87
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:09:04 ID:kzfdz5PsO
_
( ゚∀゚)(主はそれを体現した。人間は、それから目を背けた。それが今の地球さ)
_
( ゚∀)(放っておいたらむしろ、自浄するはずの自然がこうして失われているのも主が原因だ)
_
( ゚)(行こう。君には、いや、レンズの向こうにいる君たちにはすべてを見る必要がある)
88
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:10:37 ID:kzfdz5PsO
0歳児の二足歩行は愛を覚えた。
この世界を好きになった。
89
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:12:38 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
鉄格子の向こう側に進んだ。そこには主がいた。
いや、いなかったのかもしれない。だが、確かにそこにはいた。
90
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:13:58 ID:kzfdz5PsO
_
( ゚∀゚)(これがtanasinnだ。人間が生み出した、廃れた文化の成れの果て)
( ゚∀゚)(おぞましいだろう怖いだろう気持ち悪いだろう)
.・::・..・(君も一緒になるんだ)
貞子は世界を憎んだ。
91
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:15:22 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
スリープモードから起動したのは、蜥蜴が頬に触れたから。
これが人間の女性であれば金切り声のひとつでも上げて、ドタバタと逃げ回っていたのかもしれない。
だが、彼女はロボットだった。人が作った機械だった。
にもかかわらず、宝石のような赤い模様は消え、白い肌は柔らかい肉となり、絹のような純白のローブがそれを隠していた。
唯一、貞子が貞子として持っている長い黒髪だけが、自身のそれと同義だと思わせた。
92
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:16:41 ID:kzfdz5PsO
次にわかったことは、ここが井戸だということだった。手を伸ばせば壁があり、つたってみれば一回転。
足元に感じるくるぶしのあたりまで溜まっていた水が、この場所が底であることを理解させた。
浅い水の底で、仄暗い井戸の中で、貞子は身動きがとれなかった。本来ならば強化骨格を使ってこの程度の壁など何の苦労もなしに上りきることは可能だった。
しかし、柔く、暖かい身体と、刻まれたものではなく、体内で動いている赤いポンプは、不便であることこの上ない。
まるで、人間じゃないか。
そう思った彼女は、膝を抱え、両手で顔を塞いだ。人間が、どうしようもない状況に陥った時にする行動だった。
93
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:17:47 ID:kzfdz5PsO
そして、そのようなか弱い女性が次に取る行動といえば。
川⊃д⊂川(助けて……博士……)
川⊃д⊂川(……助けて……長岡……)
心の奥にある人を想うことだった。
94
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:19:01 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
水子の霊とは、中絶や流産で胎児の間に命を落とした霊である。生きてこの世界に生まれたかった小さな命が霊となって、訴える存在である。
感情が一つ、二つと生まれていった彼女には心があった。もしかすれば人間として生まれ、もしかすれば受肉する前に死んでいったかもしれない。
貞子はそれにすら成れなかった。貞子はロボットとして起動された。
では、なぜ、型番で呼ばれなかった。
95
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:20:12 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
生まれたての赤ん坊は、波が打つ音を聞いて立ち上がり、周囲を見渡した。防波堤に居た。先ほどまでと比べて解放感のある場所だった。
世界全てが灰色に見えるという表現は比喩と少し違う。探索時に頭上にあった鈍色の空は変わらず、足元や周囲にはセメントが固められた足場があった。
曇った空が波の色を鼠色に見せていた。ここはいったいどこなのだろうか。
依然として、人間然とした身体を動かし、進む彼女の前に現れたのは土蔵だった。その他には何もない。
外壁を土壁として漆喰などで仕上げられている中規模のそれは、門のところが開いている。回帰するように、誘われていった。
96
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:21:35 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
薄暗い蔵の中で、どこから差し込んでいるのか、一筋の光芒が綿ぼこりを視認させる。その量は、この場所が長い間使われていないことを示していた。
なぜか、貞子にはそれが懐かしくも思えて、帰ることのできるはずの場所ではない閉塞的な中であるにも関わらず、焦燥していた精神が落ち着いていくことを感じた。
まるで蚕のような、野生としての回帰本能を持たない存在である機械の彼女に生じた矛盾。膨らめば膨らむほど、人間へと近づいていく。
壁際のところに備えられた黒い衣桁──室内で衣服などを掛けておく道具──に気付かなかったのは、そうした変化が原因であるのかもしれなかった。
そこに掛けられていたのは、いつか見た花を文様とした小袖だった。
近づいてみてみれば、それは彼岸花だった。赤く、悲しげなそれが黒地によく栄えていた。
97
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:22:34 ID:kzfdz5PsO
本来、着物の文様には様々な意味や規則がある。歴史と人々が紡いでいったその過程に、彼女が目にしている彼岸花をあしらった和装というものは非常に珍しいものだった。理由は死の連想である。
たとえそれ以外の名や意を持とうとも、纏う身を見て誰がどう思うかなど想像に容易い。
もっとも、仮に創作の中であればそういう存在もあるのだろう。衣桁の横に落ちていたのは絵画だった。
もちろん、鉄格子の扉の前で見た感覚に陥るようなことはなく、貞子はそれを手に取った。
98
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:23:45 ID:kzfdz5PsO
美人画の定義はしばしば曲解されがちであるが、単に美しい女性を描いたものではない。
あくまで女性の中にある美を強調した絵のことを指している、いわば一種の抽象的な浮世絵のひとつと言えるだろう。
描かれていた女性は首を傾け、どこかを見つめていた。ちょうど、先ほど見た小袖を着ていて、長い黒髪を降ろしていた。
だから、顔はまでは見えなかった。それでも貞子は確信した。これは自分だと。
そして、一連の不可解な現象は、ミームによる自身のルーツを断片的に体感しているのかもしれないと推測した。
99
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:24:46 ID:kzfdz5PsO
土倉の中の人形──もはや彼女は人形ではないのかもしれないが──は、しばらくの間鑑賞し、辺りを見回した。
なおも伸びている光芒が指し示している先には、乱雑に積まれている箱があった。
貞子は一つ一つ、箱を退けていった。すると、扉を発見した。蔵の造りに合っていない、現代風の扉だった。
貞子は扉を開けた。
100
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:26:03 ID:kzfdz5PsO
〜〜〜
夕暮れを思わせる紅の景色と、その役目を失った壊れた風鈴。日本家屋の軒下で、貞子は縁側に座っていた。
近くで盆踊りでもしているのだろうか。太鼓の叩く音や、笛の鳴る祭囃子が聞こえてきた。
少し辺りを見回ってから元の位置に戻った。家の中に両親は居なかった。
それどころか、これだけ文化的な雰囲気の中で人の気配すらしなかった。家のカギは自分が持っていた。ポケットの中に入っていた。
101
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:27:35 ID:kzfdz5PsO
どこかで教えてもらった遊びを、貞子は思い出していた。こっくりさんという遊びだった。硬貨は自分が持っていた。ポケットの中に入っていた。紙は隣に置いてあった。鳥居と五十音が並んでいた。
彼女は硬貨を紙の上に置いた。
やれ気が狂うだとか、やれ神隠しに遭うだとか、そういった要素を孕んだ占いの一種を実行しようとする彼女には、それほどまでに思いを伝えたい相手が居た。そして、それを邪魔しようとする相手も居た。
102
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:30:06 ID:kzfdz5PsO
ソロモン・グランディ
月曜に生まれて
仮にここを日本としたらば、1884年に伊豆半島沖に漂着したアメリカの船員が自国で流行していたテーブル・ターニングを地元の住民に見せたことをきっかけに、日本でも流行するようになったという情報が関係しているのかもしれない。
陽気な祭囃子の終わりと、夕日が沈む情景に流れた、あの不快な音声がノイズと共に聞こえてきたこととは無関係でないのかもしれない。
103
:
名も無きAAのようです
:2015/08/17(月) 20:33:01 ID:kzfdz5PsO
火曜に洗礼
雑音。指が震える。
水曜に結婚して
不快が全身を襲う。
木曜に病気
貞子は嘔吐した。ほうれん草とハムカツと人の指が地面に落下した。
金曜に危篤
川д川(……は、かせ……)
それでも指を動かした。動かした先は自分が思っているよりも大事な存在だった。
104
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:35:29 ID:Hcl4dlPMO
それでも指を動かした。動かした先は自分が思っているよりも大事な存在だった。
土曜に死んで
本来の占い方と違う、ただ自分の思いを一心に込めた願望が揃えた文字列は。
日曜に墓の中
ただの変態の名前だった。
――はいそれまでよ ソロモン・グランディ
105
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:39:20 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
白昼夢だったのかもしれない。目を覚ました彼女は、そんなことがあるはずないと断言できなかった。
その理由としては、自分の体が元の強化骨格であること。確かにあった鼓動は、人為的に作られた赤い模様に置き換わっていて、ロボットが夢を見るはずがないという当然の帰結。反証するは、これまでの現実。
隣にいたはずの長岡はどこにもいなかった。
辺りを探そうとしたその時、これまでとは全く違うイメージが頭に浮かんだ。
106
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:41:13 ID:Hcl4dlPMO
―――――――――――――――
『任務終了。帰還せよ』
―――――――――――――――
107
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:43:08 ID:Hcl4dlPMO
まだ会話に近しい念話とは異なり、マイクロチップに直接タイピングされた文字列、言ってみればプログラム命令文が、貞子の使命の終わりを告げる。
火星からのメッセージ。貞子は機械であり、宇都宮が操作するPCと繋がっている。親子の絆。
この城はなんなのか。そもそも、事前調査で謎に包まれた廃村という情報があったが、そんなものはどこにもなかった。
ミームとはなんだ。
tanasinnとはなんだ。
自分は何者だ。
長岡は、どこにいる。
108
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:44:12 ID:Hcl4dlPMO
それら、一切の懸念を捨て、今思うことは一つだけである。この城から一刻も早く脱出すると。
生まれてきた感情を一度押し殺した彼女は、その場の調査をせずに鉄格子の扉を開けた。
それが裏目になった。
109
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:46:31 ID:Hcl4dlPMO
それら、一切の懸念を捨て、今思うことは一つだけである。この城から一刻も早く脱出すると。
生まれてきた感情を一度押し殺した彼女は、その場の調査をせずに鉄格子の扉を開けた。
それが裏目になった。
110
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:51:41 ID:Hcl4dlPMO
( _ ミ
γ ヽ
(| (_ノ
| | |
(_(_)
絵画室の中央にいる人型のそれは、非常に背が高く、痩身で、不自然に長い、触手状の腕──触手にも見える──が情報として最初に得ることのできる発見だった。
それが危険なものであると判断できたのは、一瞬にして視界から消え去ったからである。
自身が地に伏していると認識できたのは、右腕上腕部分の破損を知らせるエラーメッセージがマイクロチップに伝達されたから。
111
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:53:11 ID:Hcl4dlPMO
すぐに起き上がり、周囲を見渡すと、10メートルほど離れた所にそれは居た。
こういった時に長岡が居れば──感情の隆起と、使命の達成が混在し、貞子は冷静な判断を取った。
逃走である。彼女は逃げ出した。助けを求める弱者のように、救いを求めてそれから遁走する。
ロビーを通過した。食堂から生首がこちらを見つめていた。それどころではなかった。
112
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:54:57 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
文字通りの血の海が、ガーデンを埋め尽くしていた。それは液体ではなかった。異形な花々であった。
無数の赤い花弁は滴る口、茎を地面に這わせ蠢く。
ここはもう庭園ではなく、人食い魚のいる池だ。
113
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 05:55:50 ID:Hcl4dlPMO
後ろにいるであろう脅威に挟撃されてしまえば元も子もない。貞子は意を決し、赤い水の上を泳ぐ。
ある花は花弁を鋭く尖らせ、強化骨格の身体を食む。蝕まれていく四肢からは、赤くない液体が流れていく。
ある茎はその身を這わせ、縛り上げる。ギリギリと軋む腕や足の損傷から、貞子は悶えた。
だが、言葉を発してはいけないというルールが、彼女に痛みの吐息を吐かせることすら許さない。
114
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 06:05:15 ID:Hcl4dlPMO
悶絶するほどの恐怖と苦痛、なまじ生まれ出た感情からの、尊厳の崩壊。
からがら、岸にたどり着き、庭園を抜け出すことに成功した彼女は、数瞬、地面に突っ伏す。
顔を上げ、立ち上がろうとしたその時だった。
/⌒―-_/⌒―-_/⌒―-_
X ,ァX ,ァX ,ァ
ヘヘヽ__//ヘヘヽ__//ヘヘヽ__//
ヘ |セ><セ|ヘ |セ><セ|ヘ |セ><セ|
、ヘヘ 仝 /、ヘヘ 仝 /、ヘヘ 仝 /
ヘマフ/ ヘマフ/ ヘマフ/
\`/ / \`/ \`/
y / ヘ ヘ `ヘヘ
_/ / ` _ノ ノ | ヘ
`~ ̄ `^´ ^^
這う這うの体で泳ぎ切った先に居たのは、ちょうど目線が同じ位置にあった犬。違うのは目の数。
その犬には首が三つあった。それぞれの顔が有する口元には、人の手と、足と、胴体があった。
痩身の怪奇により、右腕は上がらない。死を思わせた花々が、彼女を立ち上がらせるエネルギーを食らいつくしていた。
115
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:19:03 ID:Hcl4dlPMO
そうして、興味などないかのように肉を吐き捨てた犬は貞子に飛び掛かる。
川 ‐川
諦観した貞子へと、三頭の牙が、未だ味わったことのないであろう体に──
─=ヽヾ_
.─ = 三(`゚∀)_─=三⊃
─ =三 <_つノ-=━ ̄
─ = 三/ _ィ、ヾ
_(_ノ~ 、(,,),'
川 ο川
_
( -∀゚)(魔犬風情が、調子に乗るなよ)
突如現れた鈍い打撃が当たる音と、見覚えのあるサンダルによって、ついぞ、触れることはなかった。
116
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:20:52 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
彼は変態だった。
金髪の髪に、白いシャツ。シワのない黒いスラックスと、意味の分からないサンダル。
それでも、彼女にとっては愛おしく感じた。
_
( ゚∀゚)(貞子!!)
肩に触れる。かかる前髪から覗かせた瞳は、決して潤んでなどいない。
_
( ゚∀゚)(大丈夫か?)
川-ー川(……はい)
117
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:22:17 ID:Hcl4dlPMO
念話のやり取りがこうも心地いいものだとは、思っていなかった。長岡に介助してもらった貞子は立ち上がる。
_
( ゚∀゚)(心配しなくていい。もう大丈夫だ。もう誰も君を傷つけない)
_
( ゚∀゚)(さぁもう少しでこの領域から脱出できる。行こう)
そして、差し出された右手に触れようとした刹那。
_
(゚∀゚ )(ちょっと待ってもらおうかな)
変 態
もう一人の王子様が現れた。
118
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:23:43 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
_
( ゚∀゚)(!)
川д川(!?)
_
( -∀゚)(……貞子、この先は闇だ。絶対に行ってはいけない)
_
( -∀゚)(……貞子、この先は光だ。絶対に行かなければいけない)
_
( ゚∀゚)
(死ぬぞ)
_
( ゚∀゚)
119
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:25:22 ID:Hcl4dlPMO
初めて第三の念が、満身創痍の彼女に伝わる。隣と目の前、どちらも同じ周波、同じ気持ち。
違うのは、その情報が正反対の方向を向いていることだった。進むか、止まるか。
当然の如く、膠着状態となった現状で、先に話題を呈したのは目の前にいる長岡だった。
_
( -∀-)(こういう話を知っているかい?自分そっくりの第三者)
_
( ゚∀゚)(通称、ドッペルゲンガー)
_
( ゚∀゚)(オートスコピーさ。ただの病気だよ)
_
( ゚∀゚)(ロボットが、病気になるとでも?)
_
( -∀-)(故障かな?ねぇ、貞子)
川д川(……)
120
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:26:22 ID:Hcl4dlPMO
飄々とした態度、軽口を叩く口調、そして話好きな好事家。
そのどちらもが、貞子の思考が坩堝に嵌っていくことを、男たちは悟った。
そして、どちらともなく。
_
( ゚∀゚) (どちらを信じるべきか分からないか)
_
( ゚∀゚)(なら俺の生い立ちでも話そう。どうだい、偽物君)
_
( ゚∀゚)(悪くないな。ボロを出してくれれば儲けものだ)
思い出話を始めた。
121
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:27:50 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
幽霊である長岡には最愛の故人が居た。彼女は幽霊だった。とても献身的だった。
ある日、彼女の作った味噌汁を飲んだ。とてもおいしかった。
成仏しようと思った。でもできなかった。
たけのこが、入っていた。それだけが理解できない。だから彼はここにいる。
122
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:28:47 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
_
( ゚∀゚)(どこか、間違いはあるかい?)
川д川(……)
_
( ゚∀゚)(ない)
どれだけ格好をつけようと、そのエピソードを脳内で浮かべるだけで呆れが出る。
緊迫した状況であるにも関わらず、既に聞いている馬鹿げた話に貞子はより無表情となった。
そんな、助けようとしている相手のつまらない顔を見た彼らは、さらなる提案をする。
123
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:29:51 ID:Hcl4dlPMO
_
( ゚∀゚) (八方ふさがりになってしまったな……こうなれば彼女に決めてもらうしかあるまい)
_
( ゚∀゚) (さすが俺の分身だ。ちょうどそう思っていたところだよ)
_
( ゚∀゚)⊃
_
( ゚∀゚)⊃
差し出された二つのそれは、残酷な手だった。握る方を間違えれば、意味がない。
客観的に見れば、それはプロポーズにも似ていた。もっとも、貞子にそこまでの主観性はないのだが、彼女はドキドキした。
戸惑うロボットに命令をするかの如く、強く、頭に浮かべた言葉を伝えたのは、後に出てきた長岡だった。
124
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:30:57 ID:Hcl4dlPMO
_
( -∀-) (選択しろ、貞子。君の使命はくだらない。だが)
_
( ゚∀゚) (君自身は、尊い)
存在の承認。火星にいる生みの親のみが行うことのできる、あるいは意味を成すそれを、会って間もなくなんの縁もない幽霊が発する。
この上のない贅沢であった。現に、胸が張り裂けそうなほど高揚した。無機質な肌が火照ると誤認するほど、ひどく嬉しかった。だから、手を伸ばした。
125
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:33:16 ID:Hcl4dlPMO
_
( -∀-) (──脳の側頭葉と頭頂葉の境界領域に脳腫瘍ができた患者がドッペルゲンガーを見るケースが多い)
それを止めたのは、もう片方の──
_
( -∀-) (この脳の領域は、ボディーイメージを司ると考えられており、機能が損なわれると、自己の肉体の認識上の感覚を失い、あたかも肉体とは別の「もう一人の自分」が存在するかのように錯覚することがあると言われている)
くだらない話が好きな、ちぐはぐな格好の──
_
( ゚∀゚) (ブルッガー博士の研究だ。さて、偽物君)
会って間もないにも関わらず、確かに貞子の窮地を救った──
_
( -∀゚) (彼女のおっぱいの大きさはいくつだったかな)
_
(; ゚∀゚) (!!)
最低の口説き文句だった。
126
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:35:11 ID:Hcl4dlPMO
_
( ゚∀゚) (俺は揉みまくることでサイズを測ることができた。じゃあ君にはできるか?できないな、肉体の認識上の感覚がない君に触診は不可能だ)
彼女の手を掴むはずのそれは、空中で何かを触っている動作をしている。なぜか、貞子には卑猥に思えた。
_
( ∀ ) (っ、うう)
同時に、ああ、こっちだと確信した。
_
( -∀-) (答えはEカップだ。失せろ)
ドッペルゲンガーは霧散した。
溶けてなくなった。あたかも、初めからそんなものいなかったように、跡形もなく。
長岡は所在なく動かしていた手を降ろし、今度はしっかりと差し出す。別れの時。
_
( ゚∀゚) (さぁ、行こう。君は帰るんだ。使命を全うするんだろう?)
127
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:36:47 ID:Hcl4dlPMO
惜別の思いがこみ上げてくる。帰らなければいけない。でも帰りたくない。
できることならば、一緒に帰ることはできないだろうか。
もはや、ロボットとは思えないエゴに満ち溢れた考えを、おずおずと伝えようとした彼女のマイクロチップは悲鳴を上げていた。
_
(; ゚∀゚) (……貞子?)
川д川(……!!)
だが、それとは別に、彼女の自立を壊す何かが。
川Д川 (ッ!)
その身に降りかかった時には、既に倒れていた。
128
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:38:26 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
_
( ゚∀゚)(貞子……?)
突然の転倒。もしかすると損傷の蓄積が稼働の限界を訴えたのか。
そう思った長岡は、眠っているように動かない彼女の顔を、黒髪を払って覗き込む。
川-、川
端正な顔だった。均等の取れたパーツを見て、改めて製作者の煩悩に感嘆する。
とはいえ、急がなければ。異常を表示している箇所を見つけることにそう時間はかからなかった。
川『エラー』、- 川
貞子の瞳は特殊であった。
万が一、使命に支障が出た際に外部へと情報を伝えるための装置を、宇都宮はレンズに埋め込んでいた。
もっとも、それはとても小さいものだったし、そもそも古城探索において、あまり有効な装置とは言えない。それでも長岡は、目と目が触れるほどに近づかせ、解読した。
129
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:39:24 ID:Hcl4dlPMO
_
( ゚∀゚)(エラーメッセージ……再起動すればいいのか?)
さて、どこに再起動するボタンがあるのだろうか。そういった希望と不安は、絶望と恐怖に塗り替えられる。
『残念ながらそれは不可能というものだ』
機械的なメッセージの次に瞳に映ったのは、饒舌な文字の羅列だった。
_
(; ゚∀゚)(……主か)
130
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:40:39 ID:Hcl4dlPMO
落胆と諦念が長岡の頭に浮かぶ。映る瞳が連ねる文字は、貞子のエゴを超えていた。
『永遠の存在だよ、彼女は。帰すには惜しい』
_
( ゚∀゚)(インターネットミームである主が機械を支配することは容易というわけだね)
『その通りだ。電源を落とせばこのロボットのosと、つながっている火星のPCを爆発させる』
_
( -∀゚)(やっかいなウイルスだ)
『諦めろ。お前になすすべはない』
_
( -∀-) (いや)
_
( ゚∀゚) (俺はもう諦めない)
131
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:44:36 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
通 信 不 能
〜〜〜
132
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:45:37 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
視界がぼやける。再起動プログラムが発動したことを自覚する。うっすらと見える面影がとても近かった。
まだ、自由に体を動かせる状態でもなく、視認性も著しく落ちてはいるものの、脳の活動に異常はなかった。
二度目の復帰に貞子は驚く。直前の情報を解読し、見える範囲で周囲の状況を確認した。
仄暗い井戸も、薄暗い土蔵も、夕暮れの祭囃子もない。
あるのは、至近距離に居る、変態幽霊。
133
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:46:43 ID:Hcl4dlPMO
川-、川(……)
視界が開けていく。金髪の髪が頬にかかりそうだ。
川・ο川(長岡……!)
彫の深いその顔が、その実体が、意図していない念を頭に浮かべさせる。
川^ー川(長岡ぁ!!)
134
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:48:54 ID:Hcl4dlPMO
名前を叫んで気が付いた。
そういえば、彼はいつから自分の名前を知っているんだろう。
135
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:50:38 ID:Hcl4dlPMO
そうして、完全に起動した彼女が見た長岡の姿に。
''';;::.'';;:, '::
.,. ';; ';;: ;
.:;;;;;, ;; ,;:;ー--
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'Lノー'ー'ス、T(●) ̄¨;||
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.`^~ '';;, ''
(もう、大丈夫だよ)
一時停止せざるを得なかった。
136
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:51:49 ID:Hcl4dlPMO
〜〜〜
火星の拠点でその様子をうかがっていた宇都宮とその部下たちは、貞子の映し出すレンズの中の箱庭を眺めていた。
ガラス製の高画素モニターの向こうに見える、怪奇と地球の今に、ある者は倒れ、ある者は失禁していた。
それでも、ほとんどの人間たちは事の顛末を見守った。感情移入する者も居た。
久しぶりに感じた、好奇心の為せる静聴だった。
137
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:52:53 ID:Hcl4dlPMO
そして、最後に映った映像を見た怠惰な人間たちは。
とにかく笑った。
滑稽であり、面白おかしく、珍妙で、剽軽な、コミカルめいた茶番劇は、彼ら、彼女らに笑いを与えた。
極上のエンターテイメントだった。
地球などどうでもよく思えるほどに笑った。
笑って笑って、とにかく笑えた。
138
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:55:40 ID:Hcl4dlPMO
(((((*'∀`*)))))
宇都宮は、息もできないほどの状態で、キーボードから、子に伝えた。
139
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:57:03 ID:Hcl4dlPMO
貞子の感情は、
爆発した。
140
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:58:04 ID:Hcl4dlPMO
〃ⅢⅢ
ⅢⅢⅢⅢ ⅢⅢ
ⅢⅢⅢ ⅢⅢⅢ
ⅢⅢ _,-─、-= 、ⅢⅢ
ⅢⅢⅢ/〆 ̄  ̄ヾ ⅢⅢⅢ
∥ⅢⅢⅢ/″_. | ⅢⅢⅢ
ⅢⅢⅢ / /:."-、 | ⅢⅢ∥
ⅢⅢⅢ/V::o:::ヽ/ ⅢⅢ
ⅢⅢⅢ|V::●::ノ/ Ⅲ川
ⅢⅢⅢ| ヾ~~ ̄= Ⅲ ∥
∥ⅢⅢ∥ ミニ~ ̄ Ⅲ |
Ⅲ∥|  ̄ ∥
| |
141
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 08:59:27 ID:Hcl4dlPMO
【ロボの貞子が古城を調査したらみんなとにかく笑えるようです】
おしまい。
142
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 09:19:22 ID:yx4kiImc0
乙乙
どきどきした
143
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 11:19:27 ID:x6BhOP3Q0
乙
クトゥルー的な感じ
144
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 14:09:47 ID:kdwtcvmk0
すげぇこわい。心霊のかんじでもないけどこわい
クトゥルフ的こわさだった。おつ
145
:
名も無きAAのようです
:2015/08/18(火) 22:34:58 ID:uaVW1P7s0
SCPかと思ったら、ドグラマグラだった。
なんかそんな印象、乙
146
:
名も無きAAのようです
:2015/08/22(土) 17:49:53 ID:NdGFP3Cg0
面白かった。雰囲気がとても良いですね。
貞子からの視点では謎の一端にしか触れられなかったので(それがこの作品の魅力ある世界観を演出をしている面もあるのだけど)
長岡視点の話だったり過去の地球を舞台にした番外編があることを期待してしまいます
148
:
名も無きAAのようです
:2015/09/02(水) 19:47:09 ID:PM2WDzZ.0
乙乙
149
:
名も無きAAのようです
:2016/03/24(木) 22:51:09 ID:w2guVCps0
面白かった
貞子は遊ばれていただけってことる
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