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月明かりのネコのようです

1名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 22:50:23 ID:O305c2PI0
西暦でいう2250年を間近に控えた世界。



人類は今や、宇宙にその拠点を移していた。
ーーいや、移すことを余儀無くされていた。


地球の資源が枯渇し、また汚染により「使用不能」と判断されたのがおおよそ2100年。
そこから急ピッチで移住計画が始動し、人類が月に移ったのがその50年後だ。


残されたありったけの資源と材料、そして技術を使って作られた月の街。
地球の暮らしを知らない世代のみになってからも、人類はそこで生き延びていた。


そして今、月の地下に眠っていた良質な資源も、半分程が食いつぶされているというのが政府の試算だ。
その事実を先回しにし、目を背け、まだ人類は生きていた。

163名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:22:26 ID:kGOiR2..0

『交差その2』


(;,゚Д゚)

一度目を閉じて、また目を開けただけの、短い時間だと思っていた。
現実はそうではなかった。
気を失っていたようだ。

スピーカーからは、がんがんと声が聞こえる。
聞き取れない。
それどころではない。

周りの状況を見る。

車が燃えている。
人が走り回っている。
人が倒れている。
武装した人が、建物内に入っていく。

動かなければ。

(;,゚Д゚)「……っ!!!」

ふらつきながら、どうにか立ち上がった。
身体中が引き裂かれるように痛い。

トランシーバーに手をかけたが、無駄だと分かった。
完全に壊れてしまっている。

考えなければ。
冷静にならなければ。
自分一人で。

164名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:23:30 ID:kGOiR2..0

(;,゚Д゚)

横に倒れている警備員を見る。

首を切られて、『殺されている』。
その横も同様だ。

(;,゚Д゚)「…なんだってんだ!?」

フサの姿を最後に見た地点は、車のすぐ横だった。
その車は、今やごうごうと燃え上がっている。

一瞬だけ見えた記憶だと、あの車が最初に爆発していた。

(;,゚Д゚)

生きているか、どこにいるか分からないフサよりも、目の前に沢山見えている人を助けるべきだ、と冷静に判断できた。

自分の体は、動かせる。
今は、それだけ分かれば、いい。

視界の端に、救急車が映った。

(;,゚Д゚)「あれか」

165名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:25:04 ID:kGOiR2..0

救急車に駆け寄り、中の救急隊員に声をかける。
隊員はギコの姿を見て少し驚いたようだった。
救急車の中でやっているのは、緊急的な止血のようだ。

(,,゚Д゚)「おい!!あんた!!」

(-@∀@)「警備員の方ですか?」

(,,゚Д゚)「そうだ!俺はどうすればいい!」

(-@∀@)「ここから一番近いのはビップ病院、次いでソウサク病院です。両方に連絡はついていますので、そこに怪我人を運び込んでください!往復する救急車では足りなければ、他の車でもなんでも構いません!」

(,,゚Д゚)「分かった!」

急な質問にも、しっかりと返してくれた。
目標が見えたのはありがたいことだ。
踵を返して、周りを見渡す。

酷い様子だ。

人々は悲鳴をあげるか倒れるか。
建物の中からは時折発砲音が聞こえる。
爆心地には、もはや目を向けることもできない。

(,,゚Д゚)

できることを、しなければ。

166名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:27:01 ID:kGOiR2..0

(;,゚Д゚)「あれは…?」

放送塔の、大きなモニターを見る。
見たことのある顔が大写しにされていた。

テロ組織の長。
指名手配犯。

(#,,゚Д゚)「クソが!!あいつらか!!」

怒りが沸き起こるが、それどころではないと思い直す。
とにかく、あそこに機動隊が入ったのは見た。
今の目的は、人命救助だ。

それからは、ただ走り回っていた。

一人を救急車に放り込み、二人目を運転してくれるという人の車に担ぎ入れる。
同じように三人目を助けようと思ったが、その人は既に死んでいた。

(;,゚Д゚)「………!」

厳しい話だが、死人を運んでいる余裕は、今はない。
断腸の思いでそこを離れた。
一人でも多く助ける必要がある、仕方ない、と自分に言い聞かせながら走った。

また数人助けたあたりで、急激な眩暈に襲われた。

改めて、自分の体を見る。

大火傷だ。
これまで気づかなかったのが不思議なほどの、恐ろしい出血だった。

167名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:28:06 ID:kGOiR2..0

(;,゚Д゚)「く、そ…」

出血を意識した瞬間、視界が大きく歪む。
体のバランスが崩れるのを感じる。
抗えずに、道路に倒れてしまった。

もう、体は一寸たりとも動かない。

強制的にテロリストの演説が聞こえてくる。
もはや繋がった言葉の意味は分からないが、耳がひとつの単語を拾った。

(;,゚Д゚)「何が…何が」

(#,,゚Д゚)「何が『平等』だ……」



彼の意識は、ここで再び途切れた。

168名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:29:09 ID:kGOiR2..0

――――――

(゚、゚;トソン「モララー!!モララー!!!だ、大丈夫ですか!!」

目の前の恐慌状態など、目に入らなかった。



(; ∀ )

モララーが、腹から血を流して倒れている。



原因など探っている暇ではないが、トソンにも、そしてモララーにも分からなかった。
二人は、放送塔を取り巻く群衆の、一番外側にいたのに。
真横のトソンは、せいぜい尻餅をつくだけで済んだのに。

(; ∀ )「が…げほっ…」

モララーが辛そうに咳をする。
口から血が吹き出た。

(゚、゚;トソン「あ、あ、あ、あ…う…」

対処法が分からない。
救急車が来てくれるとは思えない。
周りの人が助けてくれる見込みもない。

目が回る。
言葉も出ない。
何も分からない。

逃げ惑う群衆の中、二人は孤独だった。

169名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:30:33 ID:kGOiR2..0

(; ∀ )「…ごほっ!ごぼっ…」

モララーが辛そうなのだけは分かっていた。
それだけ分かってもどうしようもなかった。

(゚、゚;トソン「ど、ど、どうしたら…!も、モララー!!大丈夫ですか!?モララー!!!!」

間抜けな言葉だと思った。
大丈夫なわけがないのに、そう言うしかない自分に腹が立った。

左手でモララーの手を握り、右手で丸めた上着を傷口に押し当てている。
止血のつもりだった。
背中側から血だまりが広がってくるあたり、何かが貫通したのだと理解できた。
理解できても、どうしようもない。

何をすれば、どうしよう。
無意味な言葉だけが頭をぐるぐると回る。
何もできない。

涙が溢れた。
私は無力だ、と思った。

考えなければならないのに。
動かなければならないのに。
何もできない。

(;、; トソン「ああ…ううう…モララー…」

(; ∀ )「と… そ」

激しく咳き込みながら、モララーが何かを言おうとする。
聞くべきだと思った。
一言一句、漏らさず。

170名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:31:46 ID:kGOiR2..0

(; ∀ )「け…げぼっ…ごっほ…ぁ…」

(;、; トソン「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…うぅぅぅ…ぅ…」

(; ∀ )「け、が…は、」

また咳き込む。
口からも、お腹からも、血は止まらない。

(; ∀ )「け が…は、……ない、かッ…?」

(;、; トソン「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

自分が不甲斐なかった。
この状態の彼に心配されるなんて。

(;、; トソン「だ、ぁ、誰か、だれかぁぁぁぁぁぁぁ…だれかぁぁぁぁぁ…」

助けを呼ぶことしかできない。
それも満足にできていない。

一緒にいたのに、肝心なときに助けられない。

(;、; トソン「まってよおぉぉぉぉぉぉぉぉ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

(;、; トソン「なんでぇぇぇぇぇぇぇ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

泣くことしかできない。
誰も来ない。

171名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:32:57 ID:kGOiR2..0

「―――」

何か聞こえた。
話しかけられていると気づくのに少しかかった。

血塗れの男性が、こちらに叫んでいた。

(;,゚Д゚)「おいッ!!!!」

(;、; トソン「ぁ…」

(;,゚Д゚)「怪我はないかと聞いてるんだ!!!」

(;、; トソン「かれが、かれがぁぁぁぁぁ…」

(;,゚Д゚)「それは分かる!!あんただよ!!!!」

(;、; トソン「な、な、ないですぅぅ…」

言う間にも、男性はモララーを担ぎあげる。
しっかりとした声で、私に言葉を叩き込む。

(;,゚Д゚)「いいな!!無事なら!!怪我人を!!!ここから近いビップ病院か!!ソウサク病院に運べ!!!!その辺の車でもなんでもいい!!いいな!!!!」

(;,゚Д゚)「救急隊員は来てるが、限界がある!!聞いてるな!?」

(;、; トソン「はいぃぃ…」

172名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:33:49 ID:kGOiR2..0

男性は行ってしまった。
迅速で、力強かった。

ふらふらと立ち上がる。
男性の後を追おうとして、転んだ。


(;、; トソン「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


涙は拭っても拭っても、流れる。

やらなければ、と思った。

怪我人を積み込んでいる車が何台も見えた。
救急車と、隊員が見えた。

やらなければ。

泣いている暇はない。


(;、; トソン「うぅぅぅぅ…ぁぁぁぁぁ…」


助けられた。


今度こそ、自分がやらなければ。


しかし、体は動いてくれなかった。

173名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:34:29 ID:kGOiR2..0

――――――
―――



最下層。
一人の男が、ふらふらと歩いていた。
大きな鞄を持っている。
その後ろには、猫。
不安そうに男の背中を追っている。

(;'A`)

思考がまとまらなかった。
スイッチを押してすぐ、鞄を持った呉島の部下がやって来た。
報酬らしい。
中身は確認したが、かなりの額と重量だ。

同時に、別の路地から女が矢のように飛び出し、起き上がりつつある警備員の首を片端から掻き切っていった。
五人までは見ていたが、そこから先は影に隠れて見えなかった。

(;'A`)

自分がやったのだ。
あの大騒動の、火付け役を。

174名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:35:43 ID:kGOiR2..0

見通しが、甘かった。
たくさんの人が、吹き飛んだ。
怪我をし、そして死んだ。

思っていたよりも、爆発は大きかった。


あの中層を、さながら地獄のような場所に変えたのは、他ならぬ自分だ。

息が荒い。
どうしても呼吸がおさまらない。


しかし。
しかし、金は手に入ったのだ。

(;'A`)「これでいい」

口に出す。
どうしても、達成するべき目的があった。
クーの為だ、と自分に強く言い聞かせた。

しっかりしなければ、と思った。

だが、そのクーの姿は見えない。
どこにもいなかった。

不安が募る。

175名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:37:35 ID:kGOiR2..0

イ从゚ ー゚ノi、「…よう。お疲れだね」

細い路地から、名無しの女が出てきた。

服も髪も、べっとりと赤黒く染まっている。
出発前の饐えた臭いは、今やむせ返るような血のそれに変わっていた。
また地獄を思い出し、吐き気がした。

(;'A`)「…、…早かったじゃないか」

イ从゚ ー゚ノi、「応援の奴らは真っ先に塔に入っちまったからね。警備員十三人、なかなかだろ。あと、あんたの歩きが遅いんだ」

女は、行動と撤退は速くするに限る、と付け加えた。

(;'A`)「…着替えてこい」

イ从゚ ー゚ノi、「言われなくとも」

また、違う路地に女が消えていった。
去りゆく赤い背中は、彼には同じ人間には見えなかった。

また一人と一匹で歩く。
とりあえず、目的の金は手に入ったのだ。
これでいい、と自分に言い聞かせ続ける。

176名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:38:54 ID:kGOiR2..0

(;'A`)

誰かが道を塞いでいる。

ここ最下層において、道に人が寝ていることなど日常茶飯事だった。
それでも道が『塞がれている』と感じたのは、その寝ている本人と強く目が合うからだった。

【+  】ゞ゚)「……よう」

(;'A`)「…よう」

名前も知らない、浮浪者。
段ボールの中から、ゆっくりと立ち上がった。
彼に懐いている筈の猫も、何故か今はじゃれつかない。

【+  】ゞ゚)「テロ」

(;'A`)「……」

【+  】ゞ゚)「お前…だな?」

何故わかった、というドクオの考えを読むように続ける。
会話の意図が見えない。
濁った目に全て見透かされているようで、彼は怖くなった。

【+  】ゞ゚)「簡単だ…。呉島が、お前の家に、行くのを見た」


【+  】ゞ゚)「放送塔、あそこでは、俺の…兄が、働いている」

(;'A`)「…」

【+  】ゞ゚)「縁は、切られたが、兄だ」

177名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:40:08 ID:kGOiR2..0

(;'A`)「……何だ。口止め料か」

当然、違うのは分かっていた。
が、何か言わずには、心が保たなかった。

【+  】ゞ゚)「…この際だ。はっきりさせろ」

(;'A`)「何、を」

沈黙の時間が流れた。
単なる空白ではなく、きりきりと張り詰めた、恐ろしい静寂だった。

【+  】ゞ゚)「お前が…たまに上層に金を持って行っている、あれは何だ」

(;'A`)「…」

答えられない。


【+  】ゞ゚)「…そうか」

【+  】ゞ゚)「質問を、変えよう」

178名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:40:55 ID:kGOiR2..0

【+  】ゞ゚)「薬は、やってるのか」

(;'A`)「やってない…何が言いたい」

質問の意味がまだ分からず、苛ついてきた。
浮浪者がため息をついた。

【+  】ゞ゚)「おまえが、…狂っているか、狂っていないかを知りたい」

【+  】ゞ゚)「狂っていれば…それまで。言うことはない」

【+  】ゞ゚)「狂って…もしも狂っていなければ、そこまでして…金に執着する、理由を聞きたい」

【+  】ゞ゚)「俺の兄を、殺してまで。…というのは、私怨だがな」

(;'A`)「狂ってなんかいない。だから、これだけ稼げるんだ」

鞄を見せる。

断言できた。
自分はまともだ。

【+  】ゞ゚)「狂人…は、皆、そう言う。判断するのは、俺だ」

【+  】ゞ゚)「最後の、質問だ」

【+  】ゞ゚)「今は、いないみたいだが、な…その様子から」

(;'A`)「…なんだ」

179名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:41:43 ID:kGOiR2..0











【+  】ゞ゚)「お前は、いつも、……誰と話していたんだ?」











.

180名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:42:25 ID:kGOiR2..0
つぎでおわりかも

181名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:47:02 ID:tr5rinVk0
ええええええ
続き気になり過ぎて禿げた

182名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 22:50:52 ID:Wh9DjhHg0

慌てて読み返したが、クー会話してるようでドクオ以外と話してないな……
まじかよ

183名も無きAAのようです:2015/11/27(金) 23:10:31 ID:qKPj91lQ0
最終回たのしみ

184名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:30:38 ID:ZDx3VL.Q0

『交差3』


病院の廊下を、二人が歩いている。
片方の体には包帯が残り、痛々しい姿を晒している。
しかし、見た目よりは余程しっかりとした足取りだ。

やがて二人がある病室の前で立ち止まり、かかる名札を確かめてから開けた。


(,,゚Д゚)「…フサさん?起きてます?」

(*゚ー゚)「こんにちは」

根子ギコ。
横にいるのは、その恋人だ。

ミ;,゚Д゚彡「おうおう」

呼ばれた男性が、ベッドから上体を起こした。
瞬間、慌てて二人が駆け寄る。

(;,゚Д゚)「いやいやいや!なんで起きようとするんですか!!」

ミ;,゚Д゚彡「呼んだろ」

(;,゚Д゚)「横になってていいんですよ!大怪我どころじゃないんですよ!」

185名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:32:06 ID:ZDx3VL.Q0

房田フサは、五体無事に生きていた。
件のテロ、その爆発の付近にいながら、である。奇跡としか言いようがなかった。
長期入院が必要となってはいるものの、入院五日目には意識を回復させた。二度目の奇跡であった。
本来なら動く筈もないのにのっそりと起き上がろうとするミイラ男を見て、看護婦が一人気絶したのはまた別の話である。
ともかく、入院から一週間経つ今日、ようやく面会を許された。

ミ,,゚Д゚彡「体だけは強いんだ、問題ない」

(;,゚Д゚)「ありますって…」

フサが横の女性を見て、またギコを見る。
誰だ、と問いたげだ。

(*゚ー゚)「こんにちは…」

(;,゚Д゚)「えっとですね、彼女、といいますか、そんな感じの…。しぃです」

ミ,,゚Д゚彡「自慢かコラ」

(;,゚Д゚)「だってほら、果物持ってきたけど俺ひとりじゃ皮むけないんですよ…」

ミ,,゚Д゚彡「そのまま食うから構わんぞ」

(;,゚Д゚)「いやいや…」

186名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:32:59 ID:ZDx3VL.Q0

(*゚ー゚)「ふふ」

二人のやりとりに微笑みながら、しぃは林檎の皮を剥き始めた。
フサは、ギコの話の中に何度となく出てくる。
彼の話の通り、不器用を体現したような温かな人だと感じた。

(;,゚Д゚)「……あー、それで、ですね」

ギコが何かを切り出す。
やたらと言い辛そうだ。

ミ,,゚Д゚彡「?」

(;,゚Д゚)「今日二人で来たのはですね、果物もそうなんですけど、紹介っていうか、報告っていうか」

(;,゚Д゚)「そういう、なんというか、あの」

ミ,,゚Д゚彡「結婚すんのか」

(;,゚Д゚)「なんで言うんですか!」

ミ,,゚Д゚彡「今の調子でどう言い切る気だったんだ」

(;,゚Д゚)「いやまぁ…そういうことなんです」

187名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:34:27 ID:ZDx3VL.Q0

ミ;,゚Д゚彡「はぁー…」

(*゚ー゚)「…?」

フサは不思議そうにしぃを眺める。
しぃも少し緊張気味に姿勢を正した。

ミ;,゚Д゚彡「アンタ、本当にこいつでいいのか?何なら部下のいい奴紹介するが」

(;*゚ー゚)「えっと」

(;,゚Д゚)「やめて下さい!」

フサは冗談めいたように笑う。
ギコがため息をついた。

(,,゚Д゚)「式とかはほら、ほんと小さいんですけど、フサさんが退院したらやろうかなって」

ミ;,゚Д゚彡「別に俺を気にしなくてもいいんだが」

(;,゚Д゚)「何言ってんですか…」

少しの間、誰も話さない時間が過ぎた。
ややあって、フサが静かに口を開く。

188名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:36:09 ID:ZDx3VL.Q0

ミ,,゚Д゚彡「しかしアレだ、安心した」

(;,゚Д゚)「?」

ミ,,゚Д゚彡「潰れてるんじゃないかと思ったんだよ、テロで」

(;,゚Д゚)「それは…」

ミ,,゚Д゚彡「そこの奥さんのお陰か」

(;,゚Д゚)「…まぁ、はい」

ミ,,゚Д゚彡「奥さんよ」

(*゚ー゚)「はい」

ミ,,゚Д゚彡「こいつは弱い。昔から何かある度やたらとへこたれるわ、俺が小突けばすぐ泣くわ」

(;,゚Д゚)「泣いてません!」

ミ,,゚Д゚彡「きっとこいつはあんたを必要としてるんだろうよ。少しでも横にいてやれ」

(*゚ー゚)「はい、勿論です」

ミ,,゚Д゚彡「あと子供早く作れよ。このご時世、いつ死ぬか分からんぞ」

(;,゚Д゚)「ちょっと!!」

(*゚ー゚)「うふふ」

189名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:38:07 ID:ZDx3VL.Q0

(;,゚Д゚)「全くもう…面会時間ももうないんで、今日は引き取ります。明日も同じぐらいの時間に来ますね」

ミ,,゚Д゚彡「おう、…あ、ラジオつけてけ。そこのやつな」

(;,゚Д゚)「はい……はい。これで、と。じゃあ、失礼しました」

(*゚ー゚)「失礼しました」

二人が去っていく。
ドアが閉まり、足音が遠退き、部屋は静かになった。



ミ,,゚Д゚彡「…」

ラジオでは、ちょうど先週のテロのことを放送している。
死者が何人、怪我人が何人。
首相が死んで、テロリストがどうこう。

結局テロリストは演説をするだけして、すぐに去った。
首相の殺害よりも、演説すること自体が目的だったようだ。
民衆の格差についてどうこう言っていたらしいが、正直なところどうでもいい。

ミ,,゚Д゚彡「…かなわんな」

しかし、負けを認める形になるが、警察ではどうしようもなかった。
守るよりも、壊す方がずっと簡単らしい。

190名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:39:04 ID:ZDx3VL.Q0

ミ,,゚Д゚彡

何人もの部下と上司が死んだが、自分はあまり気にしていない。
その術を身につけている。

それをまだ持たないギコが心配だった。
横の恋人にも限界はあるし、何より最後は自分自信の力で立ち直る必要があるだろう。
それができなければ、いずれ潰れてしまう。

この世界で、その上この職業で、ギコは過剰に図太く生きていけるだろうか。

ミ,,゚Д゚彡「……そのうち、どうにかなるか」

ラジオは、まだテロに夢中だ。


気分を変えたかったのに、この調子ではどこの局も同じだろう。
手を伸ばし、ラジオを切った。

191名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:39:46 ID:ZDx3VL.Q0

――――――


『中層で起きた大規模なテロ事件による爆破、及び首相の殺害から一週間、未だにその爪痕は――――――』


(゚、゚トソン

手を伸ばし、ラジオを切る。
言われなくても、皆知っていた。

最下層。
スラムにぽっかりと空いた土地に、大きな機械が座り込んでいた。

テロから一週間。


モララーが死んでから、一週間。

192名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:40:27 ID:ZDx3VL.Q0

( ´_ゝ`)「トソンさん、余ったケーブルどこに置けば」

(゚、゚トソン「あ、こ、こっちに纏めて」

(*゚∀゚)「設置だいたいOKです!」

(゚、゚トソン「あ、ありがとう」

少し前から部室の機械をスラムに移し始め、今それが終わったところだ。
直すはずだった発電機も、しっかり直っている。

トソンは現場監督ということになっている。
実際、毎夜テロの光景を思い出しては寝不足になり、作業どころではなかった。

全員が気を使ってくれるのは、申し訳ないがありがたかった。

(゚、゚;トソン「いたっ」

ケーブルを運ぼうとして、傍の部品で手の甲を切ってしまった。
血が滲むとともに、あの日の様子が嫌でも思い出される。

全身から力が抜け、その場に座り込んでしまった。

(;´・ω・`)「大丈夫ですか」

(゚、゚;トソン「あ、うん…だ、だ、大丈夫…」

193名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:40:47 ID:/E/GZrPU0
http://is.gd/4twCxM

194名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:41:25 ID:ZDx3VL.Q0

(゚、゚;トソン

もとの椅子に座る。
大きく深呼吸をして、トラウマを遠ざける。

(゚、゚;トソン

そう、モララーは、死んだ。
病院に着いて間もなく、息を引き取ったらしい。

らしい、というのは、あれから誰もモララーの顔を見ていないからだった。
家族以外、遺体と会うことは許されなかった。

彼の家は上層とはいえ大きな葬式などが行われる程ではなかったようで、モララーの家族を除けば、トソンが見た顔が、彼の最後の表情だった。


苦しみに満ちたあの表情を、忘れることはないだろう。


その後、部員に話をした。
何故か上手く話せた。

決意は固まっていた。
その部員も、彼女に向かって大きく頷いた。


『通信機を完成させよう』


トソンは、モララーのできなかったことを完成させることが、彼の為になると話した。

195名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:44:22 ID:ZDx3VL.Q0

モララー抜きだと、様々なもののスピードが、がくりと落ちた。
喪う前からもその後も、彼は大きな存在だった。
それでも、不安を振り切るように作業を続けてきた。

彼は今の自分達をどう思い、何を言うだろうか、と考えてみた。

ζ(゚ー゚*ζ「運搬終わりました、組み上げましょう!!」

(゚、゚;トソン「あ、うん」

ふと、デレの声で現実に引き戻される。
トソンは大きく息を吐き、立ち上がった。
今からの新しい発電機を使ってのテストをしてからも、課題は残るだろう。

仮に、もし仮に通信が繋がったとしても、一分も持たない。
機械の発熱と発電機の大きさが原因だった。

だから今からのことに関わらず、これからも作業は続く。

特に、鬱田とはこれからも関わることになるだろう。
まだ、あの店に住んでいて、もちろん何でも請け負ってくれる。
スラムの土地のことも含め、随分世話になっている。

196名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:45:46 ID:ZDx3VL.Q0

夕方には、機械は組み上がった。
外装も何もない歪な形だが、今の所はこれしかない。
構造は全て自分達が知っているもので、組み上げ自体に苦労はなかった。

( ´_ゝ`)「トソンさん」

名前を呼ばれた。
自分が号令をかける必要がある。

(゚、゚トソン「じゃ、じゃあ、はじめようか」

部員が返事をする。

これで終わる訳ではないのに、心臓は痛いほどに脈打っている。
あまりの緊張に視界が揺れる。
なるべく平静を装うが、できているかは定かではない。

機械の前に立った。

197名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:46:34 ID:ZDx3VL.Q0


(゚、゚トソン


震える手で、一つ目のスイッチを入れる。
機械の唸りが、大きくなる。

二つ目のスイッチを入れる。
辺りが、ざざあ、というノイズで満たされる。


兄者が慣れた様子で、少し離れて繋がれた画面、そこに映る波形を調整する。

音がだんだんとクリアになっていく。


少しずつ、少しずつ。


頭上に見える地球が、近づいてくる。

198名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:47:21 ID:ZDx3VL.Q0

(゚、゚;トソン

いよいよ、ノイズが小さくなる。




何か、聞いたことのない音が走った。


全員と目が合う。

今だ、と思った。

何か話さなければ。

台詞はずっと前から決めていた。
簡単な台詞。

しかし、上手く言えるかは分からない。



(゚、゚;トソン「…あ、あー…」


(゚、゚;トソン「聞こえますか、こちらは、月。き、聞こえたら、返事をして、ください。こちらは、月…」


頭上では、いつものように地球が青く輝いていた。

.

199名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:48:05 ID:ZDx3VL.Q0




















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200名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:48:53 ID:ZDx3VL.Q0

――――――


猫の頭上で、いつものように地球が青く輝いている。


ここは最下層。
どこかへ向かってふらふらと歩く男を、猫はなんとなく追っていた。


この男の家に寄るようになって、もう何年になるだろうか。
別にこの男がいなければ死んでいた、という程ではないが、少しは感謝している。

猫には不思議なことがあった。


いつも男の横にいた女性がいない。
ここ一年間ぐらいだろうか、姿を見ていない。
彼以外とは決して話さない、話しかけられもしない、奇妙な人だった。


それにしても、彼はどこに行くのだろうか、と思っていると、一人の人が出てきた。
いつも妙な臭いのする、あの女の人だった。
少し苦手だ。

長話になりそうな雰囲気を感じ、猫は彼らとは違う路地へ向かった。
最近、中層にいい寝床を見つけられたので、そこへ行くことにした。

勝手知ったる最下層を捨てる気はないが、中層に住み着くのも悪くはないと思った。

201名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:49:35 ID:ZDx3VL.Q0

――――――


最下層。
ドクオの前に、名無しの女が立っている。
今日は、幾分かまともな格好だ。

('A`)「何だ」

イ从゚ ー゚ノi、「これを、返しに」

銃だ。
使わなかったらしい。

('A`)「そうか。じゃあな」

横を通り抜けて去ろうとするところを、女が止める。
手を伸ばした訳でも踏み出した訳でもなく、視線だけの制止だった。

イ从゚ ー゚ノi、「…待ちなよ。話をしよう」

('A`)「行くところがある」


イ从゚ ー゚ノi、「上層だろ。それも、上層の病院だな、その金を持って」

('A`)「…」

イ从゚ ー゚ノi、「悪いね、この前後をつけてみたんだ。気になってね」

202名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:50:18 ID:ZDx3VL.Q0

イ从゚ ー゚ノi、「そこで、話も少し聞いてみたんだ。警察の真似事だ」

ドクオは話さない。
ただ、女をじっと見ている。
その目に、感情は見えない。

イ从゚ ー゚ノi、「四年前」

イ从゚ ー゚ノi、「…四年前のテロから、らしいね?…一人の女が、ずっと眠ってる。目を、覚まさない」

イ从゚ ー゚ノi、「そいつを、…生かすためのものかな。それ、金は」

イ从゚ ー゚ノi、「健気じゃないか。似合わないよ」

('A`)「…だから何だ」

イ从゚ ー゚ノi、「感動的だ」

女が笑う。
底意地の悪い笑い方だった。

203名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:51:34 ID:ZDx3VL.Q0

イ从゚ ー゚ノi、「なあ。…最近、あれが無いな?」

('A`)「…」

イ从゚ ー゚ノi、「何もないところに話しかける、あの癖。幽霊か何か知らないが、誰かがいたんだね。知らなかったよ」

イ从゚ ー゚ノi、「…それが、無い。さては、さては……さては、だが」




イ从゚ ー゚ノi、「もう見えないんだね? その女」

('A`)「黙れ」

女に銃を突きつけた。
だというのに、女は怯んだ様子もない。

('A`)「銃を持ってる奴に最下層で喧嘩を売るとは、いい度胸だな」

イ从゚ ー゚ノi、「…お前には撃てない」

('A`)「…」

イ从゚ ー゚ノi、「ほらな。臆病者」

204名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:52:15 ID:ZDx3VL.Q0

ドクオは、舌打ちをして銃を下ろした。

('A`)「…らしくないぞ。そんなにペラペラ喋って、何が言いたい。何の薬だ」

イ从゚ ー゚ノi、「薬じゃないさ」

女は、ゆっくりと答える。
女の考えが読めないが、こちらの考えが読まれている気がする。
普段のこの女とは、確実に違う。

イ从゚ ー゚ノi、「…その幽霊だかが見えない理由、分かるよ。医者じゃないがね」

イ从゚ ー゚ノi、「あんたが、人を殺したからさ」

イ从゚ ー゚ノi、「もう、見えるようにはならないだろう。あんたは、これからは死体に金を送り続けるのさ」

イ从゚ ー゚ノi、「…今回の仕事でだいぶ入ったようだが、それもまた尽きる。そうしたら、どうするか」

イ从゚ ー゚ノi、「当然、また人を殺すことになる。いずれね」

イ从゚ ー゚ノi、「知ってるか? 人を殺すのに慣れると、ガラリと世界が変わるんだ」

('A`)「…」

イ从゚ ー゚ノi、「……うふふふ、次からは罪悪感もないさ。安心しなよ」

205名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:53:12 ID:ZDx3VL.Q0

('A`)「もう一度聞く。何が、言いたいんだ」

イ从゚ ー゚ノi、「そりゃ、あんたにここを離れられちゃ困るからさ。そんな気を起こさないように」

('A`)「…どうあろうと、そのうち出て行く」

イ从゚ ー゚ノi、「お前には、できない」

女は断言した。
初めて、この女を怖く思った。

また、この目だ。
寝転がる浮浪者と同じ目で、こちらを見る。
隈のひどい濁った目で、見透かされている。

イ从゚ ー゚ノi、「あんたはもう、ここに染まりきった。ここ以外では、生きられない」

イ从゚ ー゚ノi、「…だって、見えないのかい、それ」

女が、ドクオの手元を指す。
腕を上げて、その手首を見る。


鎖があった。
太く、錆びつき、しかし尚頑丈そうな鎖。


(;'A`)


手首にしっかりと巻きついている。
伸びていく先は、灰色に淀む路地の暗がり。

206名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:53:55 ID:ZDx3VL.Q0










イ从゚ ー゚ノi、「ようこそ、『最下層』へ」


イ从゚ ー゚ノi、「これからも、よろしくな。相棒」











.

207名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:54:36 ID:ZDx3VL.Q0















月明かりのネコのようです














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208名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 19:55:34 ID:ZDx3VL.Q0
ひっそりとおわり
最終話に決定的な矛盾を見つけてどうにかしようとしてたらこんな季節だったからとにかく完結させた、申し訳ないです
SF楽しいからまた書きたい

209名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 20:16:58 ID:Edef0ufs0

最終話ずっと待ってた
じっとりと胸に何かが残る終わり

210名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 21:22:35 ID:jbkRL/iM0
乙、今回上がってきて初めて一気に読んだけど凄く好き。やるせない感じ

モララーたちの感じはフリーダムを思い出した。カップヌードルのアレ

211名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 22:26:56 ID:JGmBuRfs0

最終話待ってたよ

212名も無きAAのようです:2016/03/22(火) 22:44:31 ID:j8sPI2UA0
いい世界観だった
フサが生きてたは救いだわ…


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