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('A`)は撃鉄のようです
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__ ,、
く_;:::ハ /::ヘ
(_厂 ヒコ
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ミルナは心を落ち着け、ドクオをどうするべきか考え始めた。
世界が変わる度に過去を切り捨て、百万通りの正義を使い分けてきた彼にとって、
今更誰がどれだけ干渉してきたところで、思う事は何もない。
正直ついてきても構わないと思えるが、問題は……
( ゚д゚ )(……いや、問題も何もない。勝手にしろ、それだけだ)
十分に鈍化した彼の心は、最終的にそういう結論を出した。
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( ゚д゚ )「……ついてきていい。放せ」
(;'A`)「……気持ち悪いぐらいあっさりだな」
ドクオはそう言い、胸倉を掴んでいた手を放した。
( ゚д゚ )「……俺には行く当てがない。ついてきていいとは言ったが、道はお前に任せるぞ」
('A`)「……お、おう……」
一瞬前の様子とは打って変わり、今は不気味なまでに穏やかなミルナ。
その姿に、ドクオは大きな不気味さを覚えた。
( ゚д゚ )「続きは歩きながら喋るぞ。急ぎたいだろ」
('A`)「……そうだな」
ドクオは心配そうな目でミルナに一瞥を送ってから、一歩を踏み出した。
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( ゚д゚ )「……」
('A`)「……どうした、来ないのか?」
( ゚д゚ )「……行く。ちょっとな」
ミルナもまた一歩を踏み出し、いよいよレムナントを回る二人の旅が始まった。
( ゚д゚ )「暇潰しに俺が一番好きなお話をしてやる」
('A`)「藪から棒にも程があるだろ」
( ゚д゚ )「話したい気分なんだ。その話はな、百万回生きた猫って話でな……」
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≪2≫
ドクオはレムナント監獄を出発してから西へ歩き続けた。
ダディ達と一緒に見た地図では、目的地は大体こっち方向だった覚えがある。
記憶は酷く曖昧だが、この先の森と崖を超えていけば、あとは土地勘で何とかなるとドクオは考えていた。
('A`)「……必殺技、欲しいんだよ。
こないだ戦ってる時に名前思い付いたんだけどさ……」
( ゚д゚ )「必殺技か、俺も一時期やってたな。今思うとすごい恥ずかしい」
('A`)「叫びたいんだよ……カッコイイやつを……切実に……」
(;゚д゚ )「やめとけやめとけ、本気でドラゴンブロウとか叫ぶの結構キツイぞ」
('A`)「えっ? ドラっ……」
( ゚д゚ )
('A`)
('∀`)「カッコイイな! それな! それ貰っていい?」
(;゚д゚ )「好きにしていいからこの話はやめろ! ほら、あれが目的地だろ!」
('A`)「……おっ、もうすぐそこじゃん。案外早かったな」
雑談に花を咲かせている内に、彼らは一つ目のチェックポイントである森林を目前にしていた。
レムナントで唯一植物が群生しているあの森を抜け、崖を飛び越えればドクオの故郷はもうすぐだった。
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ミルナは空を見上げ、太陽の位置からおおよその時間をはかった。
太陽はほぼ真上に位置している。
( ゚д゚ )「あの森を抜ける、か……半日で行けると思うか?」
ドクオは森に向かって目を凝らした。
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('A`)「……けっこう広いな。しかも奥の方は結構暗いぞ。昼間なのに殆ど光が差し込んでない」
( ゚д゚ )「……どうする?」
('A`)「……今日はとりあえず森を抜けよう。
無理でも森の中なら火を起こせるし、食べ物もあると思うし」
( ゚д゚ )「だな」
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――森に近づいていくにつれ、二人は先程の目論みがどれだけ甘かったかを徐々に理解していった。
木々はその一本一本が高く図太く、地面にも多くの雑草が生い茂っていた。
見る限り道と言えるものも存在しておらず、進行は手探りにならざるをえない様子だった。
地形の高低差もかなり激しい。
途中から上り坂と下り坂が入り乱れており、下手な進路をとればすぐに体力を消耗してしまう。
素人の二人で乗り越えるには、この森はあまりにも広大で複雑なつくりをしていたのだ。
森の入り口まで来て立ち止まったドクオとミルナは、今一度森を見渡してあんぐりと口を開けた。
(;゚д゚ )「おい半日じゃ無理だろコレ」
(;'A`)「……とりあえず真っ直ぐ進めばオッケーの筈だから、深く考えずに直進してこうぜ」
(;゚д゚ )「真っ直ぐか、なら大丈夫だろ……」
森の怖さを知らないままに、二人は森の中を歩き始めた。
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三時間後、二人は迷子だった。
('A`)
('A`)「は?」
ドクオは逆切れ気味に呟き、後ろについてきているミルナを睨んだ。
( ゚д゚ )「いやこっち見るなよ」
('A`)「ここどこだよ。結構歩いたよな? は?」
( ゚д゚ )
(;゚д゚ )「……あー。そういや何度目かの休憩で真っ直ぐじゃなくなった気が……」
('A`)「言えよ」
( ゚д゚ )
(#'A`)「それ言えよ!!」
ドクオはついに逆切れし、近くにあった木に拳で八つ当たりした。
木々がざわめき、木の葉が空中を舞い落ちていく。
( ゚д゚ )「……」
途端、ミルナは空中を見上げた。
それを不思議に思い、ドクオは一時の怒りを忘れて彼に尋ねた。
('A`)「どした」
(#゚д゚ )「伏せてろ!」
瞬間、ミルナは超能力を発動し、振り返ると同時に拳を突き出した。
超能力によって鋼鉄に包まれていた彼の拳は、ガキンという音をあげて何かを打ち落とした。
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(;'A`)「――トゲ!?」
ミルナが地面に打ち落とした物を見て、ドクオは一歩遅れて周囲の気配に気がついた。
ドクオは身構えて周囲を見回し、敵の存在を視認した。
木々の陰に隠れて輝くそれらは、森に住む生物達の双眸だった。
(#゚д゚ )「なんでか知らんが怒りを買ったらしい!」
ミルナは木陰から次々と飛来する巨大なトゲを的確に打ち落としながら言った。
(;'A`)「お、俺もッ!」
危機感を覚えたドクオは能力を発動しようとしたが、その為の光源を持ってくるのをすっかり忘れていた。
(;'∀`)「……やっべ」
冷や汗が頬を伝って流れ落ちていく。
その様子から今が好機と悟ったのか、茂みの中から生物達がなだれの様に飛び出してきた。
驚く事に、飛び出してきた動物達はその多くが超能力らしきものを発動していた。
火達磨のリス、八首のヘビ、全身を針に覆われた犬、ミサイルを携帯した鳥、
体が水で出来ているクマ、三羽そろって牙をむくスズメなど、そのバリエーションは種族超能力ともに多岐に渡った。
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('A`;)「ヤバイ! ヤバイってミルナおいこれ逃げた方が!?」
(;゚д゚ )「同感だ! この数はさすがに今はッ……!」
二人が背を合わせて切迫している間に、動物の大群の中から、人型の鳥が先行して接近してきた。
(# ゚∋゚)
3メートルはあろう鳥人間の肉体は完璧な二足歩行で走り続け、
そのまま二人に体当たりをかまそうとしていた。
(;'A`)「くっそ!」
( ゚д゚ )「……」
鳥人間から逃げようとしたドクオは、そのとき急にミルナの雰囲気が変わったような気がした。
その感覚は、ミルナが光源なしに物質を具現化した――tanasinnの力を使った時に似ていた。
ミルナの左腕に、黒い煙が巻きついた。
('A`;)(――止めねえと!)
ドクオは咄嗟にそう思った。
何が起こるか具体的に想像した訳ではなかったが、心身が一瞬にして“あれは危険だ”と察知したのだ。
ドクオは踵を返し、ミルナの肩に手を伸ばした。
だが既に、ミルナと鳥人間の間には何者かの攻撃が割り込んできていた。
.
-
二人の間に割り込んできたもの。
それは、地面や草木を容易に切断しながら飛んでくる殺人的な旋風だった。
(; ゚∋゚)「ッ!」
( ゚д゚ )「新手……」
直撃が危険と悟った鳥人間は急停止して後方に飛びのいたが、
ミルナは悠然と左腕を振るい、腕に巻きついていた黒煙を放って旋風に直撃させた。
黒煙と旋風はぶつかると同時に相殺し、やわらかな風を残して双方消滅した。
(;'A`)「……」
ドクオは、旋風が飛んできた方向に目を向けた。
すると間もなく、森の奥から長身の男がぬらりくらりと歩み出てきた。
.∧_∧
( ´Д`)「参ったな……」
男は、後頭部をかきながら呟いた。
.∧_∧
( ´Д`)「あんな握りっ屁に消される技じゃなかったんだが……」
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「……あんたら」
男はミルナとドクオをそれぞれ見てから、ドクオに声を掛けた。
.∧_∧
( ´Д`)「俺は八頭身。見ての通り、剣士だ」
八頭身と名乗った彼は、身の丈を超える大刀を肩に担いで自己紹介した。
(;'A`)「でっけ……」
.∧_∧
( ´Д`)「見慣れないだろ。こいつが案外ただならねえ」
八頭身はドクオの訝しげな反応に不敵な笑みを返した。
それは、自身の技量と刀への信頼を表していた。
.∧_∧
( ´Д`)「クックル、さっきのはただの八つ当たりだろうよ。
こいつらに敵意があった訳じゃねえさ」
( ゚∋゚)「……」
鳥人間――クックルは八頭身の言葉に耳を傾けたようで、小さく頷くと、彼は森の生物達に視線を送った。
すると動物達は静かに超能力を解き、静かに森の中に帰っていった。
.
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.∧_∧
( ´Д`)「俺は探しモンでここに来た。
コイツ、クックルには道案内を頼んでる。ただの迷子じゃねえさ」
.∧_∧
( ´Д`)「一緒に来るか? 俺の用事を手伝ってくれりゃ金も取らねえよ」
(# ゚∋゚)
クックルは八頭身の隣に立ち、ドクオをじっと睨んだ。
まだ怒っているのだと察したドクオは、バッグから食料の一部を取ってクックルに差し出した。
(;'A`)「……これ、ビスケットだけど要る?」
(* ゚∋゚)
餌付け、完了。
.∧_∧
( ´Д`)「で、どうするよ。クックルがいりゃあ夜中襲われる心配もねえが、今の内に動きたいだろ」
('A`)「……そりゃそうだ。ミルナ、こいつらに付いてこうぜ」
( ゚д゚ )「……ああ」
.∧_∧
( ´Д`)「そんじゃあクックル、案内頼む」
クックルが歩き出すと、各々もその後に続いて歩き始めた。
.
-
≪3≫
道程は長く、三人は歩きながらの雑談で暇を潰していた。
特に何かがあるわけでもないので、適当な事を話すしかやる事がない。
今の話題は、八頭身が呆然と語る“剣士とは何ぞや”だった。
.∧_∧
( ´Д`)「……まぁ剣士なんざ結局二通りよ。
斬り合ってるか刃物集めてるかのどっちかだ」
.∧_∧
( ´Д`)「たまに獲物自体が超能力持ってたりするしな、剣の腕はあんまり関係ねえのが現状だ。
俺もそんなに腕は立たねえ。俺はこの刀ありきで今までやってきた。さまさまだ」
('A`)「アンタのそれも、凄い刀なのか?」
.∧_∧
( ´Д`)「すげぇのなんの、石ころひとつで姿形と能力が変わる化け物だ。
鍔のとこにへこんだ場所があるだろ、そこに石をはめこむんだ」
.∧_∧
( ´Д`)「名前は『大長刀・アハト』。自慢の一振りだ」
八頭身は少し屈み、背中の大刀をドクオに見せつけた。
強固に作られた鍔の部分には球形のくぼみがあるが、今はそこに何も収まっていなかった。
.∧_∧
( ´Д`)「俺が今探してるのはその石ころだ。
この先の崖下にあるらしいんだが、ほんとに見つかるかどうか……」
('A`)「……俺達が手伝う用事はそれか?」
.∧_∧
( ´Д`)「そうそう。頼りにしてるぜ」
八頭身は振り返り、ドクオに笑顔を送った。
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「俺が探してる石ころ、その名も『両刀・太刀猫』よ」
(;゚д゚ )「……ろくでもない名前だな」
('A`)「?」
.∧_∧
( ´Д`)「……そういやぁ兄さん、さっきの煙、ありゃ何だよ」
.∧_∧
( ´Д`)「俺は驚いたんだぜ、だって光もなしにあんなの出したんだ。
世の中にゃあ生身で大地震起こす熊みたいな化け物が居るらしいが、アンタ、それとも違うだろ」
( ゚д゚ )「……あらかじめ能力を発動してただけだ。剣士にしては目が悪いな」
.∧_∧
( ´Д`)
.∧_∧
( ´Д`)「は? お前あとでぶった切るからな」
(;゚д゚ )「真に受けるな! 冗談だよ!」
.
-
('A`)「……能力と言えば、なんで森の生き物が能力出してたんだ?」
.∧_∧
( ´Д`)「あぁそれか、それは俺にも分かんねえ。不思議な事もある」
( ゚д゚ )「……認識の違いだろう」
( ゚д゚ )「俺達にとって光は人工的なものだが、生き物にとって光は太陽だ。
その認識の差異が長い年月をかけて超能力の違いを生み出した、とかな」
.∧_∧
( ´Д`)「進化の過程で超能力が枝分かれしたか。
案外そうかもしれねえよ。アンタ頭良いな」
ミルナの空気の読めないマジレスに、八頭身は優しく対応した。
( ゚∋゚)「そろそろ森を抜ける」
.∧_∧
( ´Д`)「あいよ。ご苦労さん」
(;゚д゚ )(こいつ喋れたのか……)
(;'A`)「……クックル? さん……は、種族的に何なんですか?」
ドクオは勇気を出して聞いてみた。
雰囲気がどことなくクマーに似ているので、ドクオはクックルを怖がっていたのだ。
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( ゚∋゚)「……鳥人間、というよりは人間鳥」
( ゚∋゚)「昔は完全に人間だったけど、気付いたら鳥だった」
(;'A`)「気付いたら!?」
( ゚∋゚)「寝て起きたら空とか飛べそうだった……それで鏡見たら羽毛もっさもさだった……」
(;'A`)「そ、そんな感じでいいんすか……?」
( ゚∋゚)「元々森に一人で住んでたから、特に生活に変化とかない。
生き物の言葉が分かるようになっただけ、むしろ便利」
.∧_∧
( ´Д`)「しかもコイツ、聞いたら人間に戻る方法知らねえんだってよ。ずっとこのままだと」
(;゚д゚ )「……森で生きてたから、超能力の概念も動物寄りになったのか……?」
( ゚∋゚)「超能力、とても不思議」
.∧_∧
(*´Д`)「まあ今の方が断然カッコイイと俺は思うけどな! いいじゃん人間鳥!」
(* ゚∋゚) ポッ
八頭身はクックルの肩に腕を回し、高らかに笑った。
(;'A`)(こんな気楽な話じゃないと思うんだけどなぁ……)
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「――っと! いよいよお目当ての場所だ!」
森の出口が間近に迫ると、八頭身は走り出してクックルを抜いていった。
( ゚д゚ )「森を抜けたら次はなんだ?」
('A`)「崖、っていうか谷かな……。地面がばっくり割れてる場所」
( ゚∋゚)「凄い昔に、凄い剣士が作った谷、らしい」
間もなくして、ドクオ達も八頭身に続いて森を出た。
久方振りの太陽が、彼らの頭上で眩く輝いた。
そして先頭に立っていたミルナは、突然足元に広がった断崖絶壁に目を丸くした。
( ゚д゚ )「は?」
(;゚д゚)「おっ↑ちる!!!!!!!!!」
ミルナは声を裏返らせて言い、落ちる寸前でなんとか踏み止まった。
しかしすぐそこが崖なのを知らなかったドクオは
(*'A`)「わぁ〜崖だぁ〜」
などと意味不明な供述をしながら崖下に落ちていった。
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('A`)(…………あ……?)
('A`)(………………)
('A`)
('A`)「あっ」
ようやく気付いたその瞬間、ドクオは腹の底から悲鳴を上げた。
(;゚A゚)「死ぬぁアアアアアアアアアアアアアア――――……」
(;゚д゚ )「あンのバカ野郎ッ!!」
ミルナは遠のく悲鳴を追いかけるように体を前傾させて崖を飛び降りた。
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('A`)「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」
(;゚д゚)「ビビってんじゃねえ! 手ぇ伸ばしてろ!」
ミルナは体を大の字に開いて落下しながら超能力を発動した。
右腕が鈍色の装甲に覆われ、彼の背に撃鉄がひとつだけ具現化する。
(;゚д゚)(少しは力が戻ったか……!)
ミルナは右腕を真下に向け、それを左腕で支えた。
照準をドクオに絞り、ミルナは何万年振りに背の撃鉄を落とした。
(;゚д゚)「ぐッ……!」
それを切欠に背の撃鉄から光が溢れ出した。
光の流動が生み出した推進力は彼の落下速度をさらに上昇させ、ドクオとの距離を瞬く間に縮めていく。
だが、長い間超能力を発動せずに居たミルナには、マグナムブロウという超能力の反動は余りにも大きすぎた。
(;゚д゚)(ここまでッ……)
(; д )(ここまで鈍ってるのかッ……!)
加速し始めた途端、右腕の装甲が一気にひび割れて崩れ始めた。
装甲は肉体との結合を維持できず、破片になって空中に散っていく。
装甲がはがれる度に、生身から分厚く皮膚をめくられるような激痛が彼の全身に突き刺った。
(; д )(なまるにも程があるだろッ……!)
(;'A`)「――おい! 大丈夫か!?」
あと少しで手が届くというところで、ミルナの意識は激痛によって打ち切られた。
ふっと力が抜けて自由落下を始めた彼の手を、ドクオは咄嗟に掴み取った。
(;'A`)(このままだとコイツごと地面に――!)
ドクオはこの状況を何とかしようと考えたが、やれる事は何一つとして思い浮かばない。
せめて傷のない自分が下になろうとミルナを庇い、ドクオは覚悟して目を閉じた。
.
-
――目を閉じる最中、ドクオは崖下に奇妙な姿を捉えていた。
それは、地面から空中を睨んで居合いの構えをとっている八頭身の姿だった。
.∧_∧
(#´Д`)「クックル! 二人を止めるぞ!」
八頭身は深く息を吐きながら『大長刀・アハト』の柄に手を触れた。
そしてドクオらが攻撃範囲に入った瞬間、一気に腰を切って抜刀。火花が散るほどの加速をもって刀身を弾き出す。
同時に爆風が巻き起こり、抜刀の衝撃波が空気を切り裂いて飛翔していった。
(;゚A゚)「おおおおおっ!?」
衝撃波はドクオとミルナに直撃し、二人の落下を一時的に止めて見せた。
しかしふんわりとした浮遊感は一瞬で、一秒と経たずして、二人は再度地面に向かって落ち始める。
そこに手を伸ばしてきたのは、背中に純白の両翼をたたえたクックルだった。
(; ゚∋゚)「危ない危ない……」
クックルに手を掴まれると、ドクオはようやく安堵して口元を緩めた。
(;'∀`)「……すっげー……マジで鳥だ……」
クックルと一緒に空を飛びながら、ドクオ達は徐々に地面に降りていった。
.
-
≪4≫
目が覚めると、ミルナは満天の星空に迎えられた。
体に掛けられていたタオルケットをはがし、ミルナは体を起こした。
('A`)「……よう。森でキャンプ中だぜ」
ドクオは焚き火をつつきながらそう言い、森の木の実をひとつ口に入れた。
( ゚д゚ )「……気絶してたのか……」
('A`)「年を考えろってヤツだ。助けに来てくれたのは素直に感謝してるけどな」
( ゚д゚ )「……あの二人は?」
('A`)「刀探しでまだどっか歩いてる。俺もさっきまで手伝ってたけど、見つかんなかった。
でもお礼にペンライト貰えたんだ。これで俺も戦える」
食料の入ったバッグから缶詰と缶切りを取り出し、ドクオは缶詰を開けて食べ始めた。
('A`)「食べる? 二人分の食料は十分あるぞ」
( ゚д゚ )「……働かざる者だ。今夜は飯抜きでいい」
.
-
('A`)「そういやクックルに地図も貰ったんだ。
次の目的地までは半日かからないってよ」
( ゚д゚ )「次か。次はどこだ?」
('A`)「俺の故郷。久し振りに帰ろうと思って」
( ゚д゚ )「なんだ、親の顔でも見に行くのか?」
('A`)「……いや、親は居ないんだ。育っただけ。親の顔なんざ見たこともねえよ」
( ゚д゚ )「……じゃあ何の為に寄るんだ?」
(;'∀`)「おいおい、質問攻めは勘弁してくれよ……」
ドクオは苦笑いを浮かべてミルナの方を向いた。
('A`)「ついでに俺も聞くけど、あの時、崖から落ちてる時、なんで超能力に頼ったんだ?」
('A`)「あるんだろ? まだよくわかんねえけど……tanasinnとかっていうのの力がさ。
森で動物に襲われた時には使ってたけど、どうしてあの時使わなかったのか気になったんだ」
( ゚д゚ )「……さぁな、どうしてだろうな……?」
ミルナは本心でそう言って俯いた。
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-
ドクオが少しの間沈黙していると、ミルナは考えをまとめて話し始めた。
( ゚д゚ )「……今朝、ついてくるなってお前に言っただろ。
あの時、俺は諦めたんだ。結局人を巻き込むんだなって」
( ゚д゚ )「それでも希望はあった。
お前が切欠で何かが変わるんじゃないか、とかそういう……無責任な希望だ」
( ゚д゚ )「一歩踏み出す直前、俺はその考えが間違っていると思った」
だったら一体、何が正しいのか……」
( ゚д゚ )「正しさはあらゆる要素によって無限に定義される。
だが、今の俺には正しさを定義する材料が何もない」
( ゚д゚ )「……そこで俺は、お前に合わせてみようと思った。
この世界でひどく馬鹿らしい生き方をするお前にだ」
( ゚д゚ )「tanasinnの力を使わなかった理由はそれだ。
……素直クールも、お前の前ではあの力を使わなかっただろう」
( -д- )「言っちまえば今の俺は素直クールの後追いなんだと思う。
アイツも、今の俺も、きっと『正しく』とかじゃなくて、普通に生きてこうとしたんだろうな」
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('A`)「……」
('A`)「……主体性がないって言うんだろ、そういうのって……」
(;゚д゚)「……そう言われると……」
思わぬマジレスにミルナは困惑した。
('A`)「……まぁ俺に合わせるのも勝手にすりゃあいいけどさ、
正しいとか間違ってるとか、考えてても終わらないだろ。自分一人でだと特に」
('A`)「俺は自分のやってる事は間違ってると思う。でも正しい事をしてる自負もある。
あれだ、矛盾だ。世間のルールが矛、俺のアイツを助けたいって考えは盾」
( ゚д゚ )「……よく分からんな」
('A`)「俺もわかんね。でも逆に、分かってた方が不自由ってことも多いし、別にいいだろ」
( ゚д゚ )「……それはよく分かる」
.
-
( ゚д゚ )「……荒巻と俺は、力量的には殆ど互角だ」
ミルナはふたたび寝そべり、焚き火を見つめながら次の話題にうつった。
( ゚д゚ )「ドクオ、お前が知ってる奴で最強の奴を一人思い浮かべてみろ」
('A`)「デルタ関ヶ原。間違いなく、あの人が最強だよ」
ドクオは考えるまでもなく即答した。
( ゚д゚ )「荒巻はそいつより強い。無論、俺もだ」
('A`)「にしては随分弱ってたけどな……」
(;゚д゚ )「リハビリ中だ。仕方ないだろ!」
ミルナが逆ギレ気味に反論すると、ドクオはへらへらと笑って彼を宥めた。
( ゚д゚ )「……この先も俺と一緒に居れば、お前は確実に荒巻に会うだろう。
こないだ、監獄の騒動に乗じて奴の部下が俺を殺しに来た。
荒巻もまた、動き出そうとしている」
.
-
('A`)「……」
( ゚д゚ )「先に聞きたいんだ。荒巻に会った時、お前は荒巻に戦いを挑むか?」
ドクオは少し考えてから開口した。
( 'A`)「……タイミングによる。さすがにもう闇雲に戦ったりしねえ。
俺より強い奴には山ほど出会った。ヤケクソじゃ勝てない……」
('A`)「看守長にもギコにも、結局は負けちまったしな……」
( ゚д゚ )「……お互い、今はクソ雑魚ゴミ野郎だな……」
('A`)「やる気なくなること言うなよ……」
( ゚д゚ )「……俺は、荒巻に会ったら、正直どうするのか分からない」
('A`)「戦うかどうかって話か?」
( ゚д゚ )「……いや、ちょっと違うな。奴に協力するか、それとも奴に殺されるか。
多分俺は、そういう選択を強いられている」
(;'A`)「協力? つーか聞いてなかったけど、荒巻とお前の関係ってどうなってんだ?」
( ゚д゚ )「……それはまた今度だ。まだ体が痛いから寝る。お前もさっさと寝ろ」
ミルナは寝返りをうってドクオに背を向けた。
( ゚д゚ )「明日から俺のリハビリに付き合え。特訓好きだろ」
('A`)「……いや、明日は駄目だ」
( ゚д゚ )「……明日は、お前の故郷か」
それ以降ミルナはなにも喋らず、ドクオも缶詰を食べ終えるとすぐに横になった。
ドクオはゆっくり時間をかけて明日への緊張を飲み下し、眠りに就いた。
.
-
≪5≫
翌朝、クックルに起こされた二人は近くの川で体の汚れを落とし、軽い朝食をとった。
( ゚д゚ )「お前にやる」
朝食の途中、ミルナはドクオに衣服を差し出した。
( ゚д゚ )「ずっと囚人服のままは嫌だろ。俺が昔着てたのをtanasinnで具現化してみた」
,_
('A`)「……tanasinnの力は使わないんじゃなかったのか?」
( ゚д゚ )「こんな便利な能力だぞ? そりゃ必要最低限は使うだろ」
(;'A`)「……確かに……。ま、ありがたく貰うわ」
衣服を広げて現れたのは、深紅のシャツ(DEAD or DIEと書かれている)と、
黒のレザージャケット、致命傷と言うほどのダメージ加工を施されたジーンズだった。
必殺技のくだりでもドクオは思っていたが、ミルナは案外痛い趣味をしているようだった。
(;'∀`)「……やっぱジャケットだけ貰うわ……」
( ゚д゚ )「そうか? 俺の中では渾身の組み合わせなんだがな……」
('A`)
ドクオは笑いを我慢した。
.
-
出発の準備を済ませた二人はクックルの後について歩き始めた。
一時間経たずして森の出口に到着。クックルに掴まって空を飛び、崖を飛び越える。
.∧_∧
( ´Д`)「おう、元気そうだな」
崖の向こう側では八頭身がしたり顔で待ち構えていた。
よく見ると彼の背中にある刀に変化があった。鍔のくぼみに、昨日にはなかった球体がはめこまれていたのだ。
球体があるせいなのか、刀は二本に分かれていた。
ドクオの視線に気付くと、八頭身は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。
.∧_∧
( ´Д`)「今朝方見つけた。お前らのおかげだ」
刀を小突き、八頭身は朗らかに微笑んだ。
('A`)「お世辞言うなよ。……太刀猫だっけ? いいな、カッコイイぜ」
( ゚д゚ )(言葉の意味は教えないほうがよさそうだな……)
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「なんにせよここでお別れだな。あんたら良い話し相手だったぜ」
('A`)「あ、ちょっと待ってくれ。クックルさんも。
聞いて欲しいことがあるんだった」
.∧_∧
( ´Д`)「お? なんだ?」
( ゚∋゚)「?」
八頭身とクックルを呼び止め、ドクオはレムナント制圧作戦の事を二人に伝えた。
二、三週間後に大きな戦いが始まる事を知ると、二人の表情は徐々に険しくなっていった。
.∧_∧
( ´Д`)「……参ったな、そいつは……」
(;'A`)「あえっと……。俺らはレムナント監獄から来たんだよ、あそこ脱獄してさ」
慣れない説明役に戸惑いながら、ドクオは言葉を続けていく。
(;'A`)「出所は監獄の看守長だよ。確信が欲しいなら一度監獄に行ってみてくれ」
(# ゚∋゚)「……」
クックルは沈黙したが、その雰囲気は怒りに満ち溢れていた。
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「ふぅん……制圧作戦ね……だから俺を……」
八頭身は腕を組んで考える素振りを見せたが、考えても分からないのですぐに居直った。
.∧_∧
( ´Д`)「とにかく分かった。嘘でも本当でも言いふらしといてやる」
(*'A`)「おお! 助かる!」
八頭身はドクオらに背中を向け、二つに分かれた二本の大長刀・アハトを両手に構えた。
.∧_∧
( ´Д`)「それじゃあ今度こそお別れだ。
しかも厄介な話を聞いちまった、善は急げってヤツだぜ」
刀を地面に突き刺すと、八頭身はポケットに手を突っ込んでその中身をジャラジャラと音を鳴らした。
次の瞬間、彼は勢いよくポケットから手を抜き出した。
同時に、八頭身の手の平からビー玉ほどの水晶が大量に空に放たれた。
彼が先日話した通りならば、空中に飛ばされた全ての水晶は、超能力を有している事になる。
(;゚A゚)「――マジかっ!?」
(; ゚∋゚)
(;゚д゚)「バカだろ」
.∧_∧
( ´Д`)「大マジだ」
ドクオの驚愕も束の間、多数の水晶はアハトと八頭身を中心に浮遊し始め、一斉に超能力を発動した。
実に三十はあろう水晶達はぼんやりと輝き、炎や水、氷、稲妻、風などの超能力をその身に纏った。
.
-
.∧_∧
( ´Д`)「縁がありゃあまた会える。そういうもんだぜ人生」
超能力が一度に三十種類も発動した光景に圧倒され、三人は息を飲んだまま目を泳がせていた。
八頭身は空中に浮遊する水晶をひとつ取り、それを大長刀・アハトに装着した。
刀身は輝きながら形状を変え、最終的にスノーボードのような形に変形する。
果たしてこれを刀と言うのか分からなかったが、とにかく凄かったのでドクオは何も言わなかった。
.∧_∧
( ´Д`)「ドクオ、ミルナ、クックル。ついでに俺の名前も広めといてくれ。
どうやらこっちじゃ無名らしいからな、売名も大事な活動なんだ」
(; A )「頼むから超能力一個分けてくれ!」
(;゚д゚ )「あっおい! 俺のがあんだろ!」
.∧_∧
( ´Д`)「俺の名は八頭身、またの名を『東方の抜刀神』だ。
確かに伝えたぜ、武神の馬鹿弟子さんよ」
八頭身がスノーボードに乗ると、氷雪系の能力を持つ水晶が彼の前方を走り始めた。
大地を凍らせながら水晶が走っていく一方で、ボードの後部では風の能力を持つ水晶が低く唸り声を上げていた。
(;'A`)「ちょっ! 武神って――」
.∧_∧
( ´Д`)「また会おうぜ、あばよ!」
風の水晶はエンジンのように唸って爆風を噴射し、ボードは一気に最高速度に達して動き始めた。
八頭身は瞬く間に離れていき、結局ドクオの質問はうやむやになってしまった。
.
-
( ゚д゚ )「……もしかして、凄いヤツだったんじゃないのか?」
(;'A`)「……かもしれない……」
二人はしばらく黙ったまま、八頭身が見えなくなるまでそこに立ち尽くした。
十秒もすれば、八頭身は完全に見えなくなってしまった。
そこでミルナはドクオの肩をポンと叩き、自分達も先を急ごうと言って歩き出した。
(;'A`)「……抜刀神、ダジャレかよ」
ようやく落ち着いてきた所で、ドクオはクックルの方を向いて軽く頭を下げた。
次いで荷物のバッグから食料をいくらか差し出し、昨日の一件を改めて謝罪した。
('A`)「……それじゃあ俺らも行きます。クックルさんも、森のみんなも元気で」
( ゚∋゚) コクリ
もう一度頭を下げると、ドクオは身を翻してミルナのもとへ駆けていった。
.
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(`・ω・´)「――向こう側に行きたいだと?」
メシウマ側にある巨大な塔、ステーション・タワーの一室。
シャキンは事務机から視線を上げてそう言うと、目の前でピンと突っ立っている少年と目を合わせた。
<_プ−゚)フ「もうすぐ制圧作戦が始まります。あそこはもう戦場になる。
それまでに助けたい人が、あの町に」
(`・ω・´)「誰だ」
シャキンは右手のペンを一回転させた。
<_プ−゚)フ「育ての親です。……もう年です。こちら側に住まわせたい」
(`・ω・´)「……越権行為だが、いいだろう。デミタスに話を通しておく。
しかしあくまで制圧作戦の一環としてヤツに提案する。却下されても知らないからな」
<_プー゚)フ「ありがとうございます!」
エクストは満面の笑みを見せ、さっさと部屋を後にした。
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1〜15話 >>2
第十六話 仲間を求めて >>6-24
第十七話 Waste Land >>33-71
大変お待たせしました
次回の投下は今月末〜来月です。次も二話分投下できればいいなと思います
以下おまけ
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≪ ( ゚д゚ ) / マグナムブロウ ≫
【本体名】 ミルナ
【タイプ】 近距離/具現・装着型
【基本能力】
[破壊力:D] [スピード:D] [射程距離:D]
[持続力:E] [成長性:F]
A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み E=よわい F=論外
【能力概要】
ドクオの能力の原型で、右腕版のマグナムブロウ。
ドラゴンブロウという必殺技(名前だけ)がドクオに受け継がれた。
長年の停滞によって過去最弱の状態にまで落ちぶれている。
少しずつ感覚を取り戻していこう。
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≪ ( ゚∋゚) / (本人が考えていない) ≫
【本体名】 クックル
【タイプ】 身体強化型
【基本能力】
[破壊力:-] [スピード:B] [射程距離:C]
[持続力:B] [成長性:D]
【能力概要】
鳥になれるぞ!
-
.∧_∧
≪ ( ´Д`) / 大長刀・アハト ≫
【本体名】 八頭身(抜刀神という異名がある)
【タイプ】 異物
【基本能力】 ※水晶なしの状態
[破壊力:B] [スピード:C] [射程距離:B]
[持続力:A] [成長性:-]
【能力概要】
超能力を有した水晶を鍔のへこみに装着すると、その水晶の能力が発動する。
使い込んだものは装着する必要もなく発動可能。
現時点で少なくとも30種類の超能力を有しており、とてもすごい。
通常のままでもとてもすごく、爆風を起こして攻撃する事が出来たりする。
刀身は3メートルくらいある。とてもすごい。
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乙
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乙
次回はよ
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おつおつ
八頭身がかっこいい・・・だと・・・
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乙!次回待ち遠しい…!
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この八頭身は1さんを追い回すのだろうか
おつ
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補足王ギコwwwwwwww
ミルナの本調子の能力が楽しみだな、おつ
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とてもおつ
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とてもすごい乙
次も楽しみ
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24日の21時に投下
よければリアルタイムで('A`)
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はい
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やったぜ
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八頭身の能力かっけー
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≪1≫
ドクオは、素直クールと一緒に作った掘っ立て小屋に来ていた。
彼女との思い出はここに凝縮されている。
それは幸せな日々だ。今よりもっと純粋に、単純に生きていた気がする時代。
純粋であるという事を無思慮に崇高だと考えるほどドクオは子供ではなかったが、
あの頃の思い出が次々と想起されていき、彼の思いは止め処なく溢れ返った。
ドクオが思い出したのは、この名も無き町での生活、素直クールとの生活だった。
町を離れて数年、様々な経験を経た今でも彼女の事は忘れていない。
時が経つにつれ、彼女への感情は確かなものになっていった。
しかしドクオはそれを言葉にはしなかった。愛に形を与えれば、人の心は欠陥品に成り下がる。
強さを維持し、高めていくのに愛は邪魔だった。彼女を助ける為には、何にも勝る力が必要だった。
徹しなければ上を向けない、切り捨てなければ前にも進めない。
ドクオはそういう感じで生きていこうと思っていたが、どうにも上手くできず、
今も郷愁のあるがままに心を動かされている。
('A`)(……いつになったら、大人なんだろうな……)
長い年月が経った今でも色褪せないこの場所を見回しながら、
ドクオはただ、あの頃の記憶をなぞり続けた。
('A`)「……手入れだけは、してくれてるみたいだな」
ドクオは二人用の小さなテーブルを指でこすり、小屋を出た。
歩き出す直前、最後に小屋を一望してから、ドクオは町の中を歩き始める。
.
-
ドクオには行き着けの八百屋があった。
町で暮らしていた当時は、買い物の殆どをここで済ませていた。
ここの店主に言われて運搬の仕事をやった事もある。エクストと一緒に。
久し振りに八百屋に来たドクオは、まず息を殺して物陰に隠れた。
遠くから、八百屋の様子をじっと窺う。
(゜д゜@ 「……」
軒先の椅子に腰掛け、彼女は呆然と空を眺めていた。
陳列された野菜も最低限の数が置いてあるだけで、繁盛している様子は感じ取れない。
風が吹きぬけるだけのこんな町で、商売をしようというのも無理な話だが。
ドクオが知る当時に比べると、店の雰囲気はあまりにも退廃してしまっていた。
店主である彼女自身も、ここ数年見ない内に随分と老け込んだ気がする。
ドクオは自分が町を去った後の事を知らない。
それもあってか、彼女をこんなにしてしまったのは自分だという気がして、急に罪悪感が込み上げて来た。
しかし同時に怒りもあった。
素直クールはこの町の全員によって売られたのだ。彼女もまた、裏切り者の一人に過ぎない。
.
-
ドクオは作戦を立てた。
それは完璧な作戦だった。
まずは物陰で気持ちを落ち着け、おばちゃんが店の奥に引くのを待つ。
そして彼女が引いたらすぐ店に近付くのだ。
そこから先の事はその時考える。
現実に直面すれば本心が出る筈だという適当な思いつきだったが、抜け目ない完璧な作戦だった。
その時。
青空を見上げていたおばちゃんが何かに気付いた。
彼女は杖をついて立ち上がり、周囲に視線を泳がせた。
('A`)(……もう、気付いてももらえないんだな)
気が萎えたドクオは両手をポケットにしまい、猫背になって物陰から出て行った。
数歩出て行くと、そこでようやく彼女の視線がこちらに向いた。
彼女は目を凝らしてこちらを見つめ続け、ややあってから、ドクオの存在を認めた。
(゜д゜;@ 「……ドクオ……」
表情を何度も変えながら、絞り出すようにその名前を口にする。
('A`)「……」
かける言葉が何も見つからず、ドクオはただ黙って立ち尽くした。
しかし彼女はそれで満足だったようで、彼女はただ彼の名前を涙声で呟きながら、まるで懺悔するように地面に膝を落とした。
ドクオはただ、彼女のそんな姿を見つめ続けていた。
.
-
≪2≫
ドクオは古びた畳の部屋に通され、そこで彼女と昼食を食べる事になった。
お互いに、交わす言葉は必要な分だけに抑えていた。
一言漏らせば、そこから全部が流れ出てしまう気がしたからだ。
昼食として出てきたのは大きさの違う三つのおにぎりだった。
ドクオは一番大きいのを手に取り、口に運んだ。
('A`)「……味気ないな。味付けは手汗だけか?」
(゜д゜@ 「年寄りにはこれで丁度いいのさ」
('A`)「……もう何歳になる」
(-д-@ 「聞くもんじゃないよ。女に嫌われるよ」
('A`)「女を選べる顔してねえって」
(゜д゜@ 「……ずいぶん見違えたと思うけどねぇ。良いツラしてるよ」
('A`)「おばちゃんもかなり変わったよ。かなりヨボヨボになった」
(゜д゜@ 「時間が経てば人間だって干乾びる……オアシスなんかありゃしないよ」
('A`)「化粧水使えば?」
(゜д゜@ 「焼け石に水だよ」
('A`)「確かに」
.
-
(゜д゜@ 「……いまさら何しに来たんだい」
湯のみにお茶を注ぎながら彼女は言った。
(゜д゜@ 「町の連中はもう居ないよ。みんな壁の向こうに行っちまった」
('A`)「……別に怨念返しに来たわけじゃねえよ。
近くに来たから寄った、それだけ」
(゜д゜@ 「……それだけで済む理由で、あんたこの町を出てってないだろ」
('A`)「……俺が町を出たのはお前らが理由じゃない」
ドクオは口早に続けた。
('A`)「今更なんてこっちの台詞だ」
('A`)「今になって謝って、それで話を終わらせようとか思ってんなら……。
それこそ本当に、俺はお前らを許さない」
冷たくそう言い切ってから、ドクオは空虚に嘲笑した。
('∀`)「……みたいな感じでな、本当は来るつもりだったんだ。
そしたらおばちゃん以外誰も居ねえし、色々覚悟してたのも空回りだ」
('A`)「俺さ、強くなったんだよ。今は超能力もあるんだ。
こんな小さい町なら俺一人でブッ潰せる。今日はそういう決心をしてここに来た……」
(-д-@ 「……」
('A`)「……ってな、冗談だよ。今しがた、冗談って事にした」
.
-
('A`)「おばちゃんは何でここに残ってたんだ?
町の奴と一緒に行けばよかったのに」
(゜д゜@ 「……なんでだろうねぇ。あたしも今しがた忘れちまったよ」
('A`)「……俺ぁ元気にやってるよ」
ドクオは残りのおにぎりを頬張り、それをお茶で流し込んだ。
('A`)「エクストも多分、上手くやってる」
('A`)「あんたが元気で良かった。……じゃ、体壊す前に引っ越せよ」
ドクオは立ち上がり、彼女に背中を向けた。
二人の間に存在する軋轢が、彼らの会話を表面上の部分だけで終わらせようとしていた。
('A`)「……」
ドクオはふと、素直クールが消えた日を懐古した。
しかし、ドクオはその事で彼女や町の人間を責めようとは思わなかった。
それは決してコミュ障の弊害などではなく、単に彼女達が悪いと思っていないからだった。
クーは俺が弱いせいで町を出た――悪いのは俺だという確たる結論が、彼の内心にはあった。
ドクオはあの一夜の責任を一身に抱えることで、素直クールへのささやかな独占欲を満たしていた。
自分で彼女を救いたいという思いも、もしかすると歪曲した独占欲に過ぎないのかもしれない。
.
-
('A`)(独占欲……)
('A`)(……俺は……自分の欲の為にここまで来たのか……?)
世の中には、誰かを助ける事でしか自分を助けられない人間が居る。
それは、他人の幸福を利用しなければ、自分自身の幸せを自覚できないという人種だ。
彼らはある種の妄信だけで生きている。
人を幸せに出来る自分は幸せだ、偉い、凄い。
人の為に生きている自分は生きていて良い。
そんな他人に依存しきった幸福感が彼らを生かし続ける。
他人に利用される事に存在意義を見出し、幸福のおこぼれから自己肯定の材料をかき集める。
ドクオは、自分にこそ“コレ”が当てはまるのではないかと胸を痛くして考えた。
そうしていると、おばちゃんが小さな声で話し始めた。
(゜д゜@ 「……あたしゃね、あんたが生きてて本当に良かったと思うよ。
あんたいっつも死にたがってたから……。
クーちゃんが居なくなったら、もう本当に死ぬんじゃないかって」
(゜д゜@ 「長い間、帰りを待ってて本当に良かった……」
彼女は一息つき、微笑んで言った。
(゜д゜@ 「もうすっかり大人じゃないか、ドクオ」
('A`)「……よしてくれ。俺はそんなんじゃない」
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('A`)「……そうだ、おばちゃんに渡すもんがあるんだ」
ドクオはそう言って踵を返し、おばちゃんの前に腰を下ろした。
('A`)「ペンダント。あいつが俺にくれたんだけど、おばちゃんにやるよ」
首にしていたペンダントを外し、手の平にのせて差し出す。
おばちゃんはポカンとしてそれを見たが、すぐ我に返り、首を振って身を引いた。
(゜д゜;@ 「受け取れないよ! それ、凄く大事なもんじゃないか!」
('A`)「すげぇ大事だ。これがなきゃ眠れない夜もあった」
(゜д゜;@ 「そんな、どうして……」
ドクオは彼女の目を見た。
('A`)「自分の為はここまでだ。俺はもう、誰かの為に戦える」
('A`)「いつかアイツを連れて帰ってくるよ。それまで、どうか預かっててほしい……」
(゜д゜;@ 「……」
おばちゃんは少しのあいだ考え、やがて、ペンダントを手に取った。
(゜д゜@ 「……綺麗だね。大事にするよ」
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('A`)「そんじゃあ行ってくる」
('A`)「ちょっと騒がしくなるから、家から出んなよ」
(゜д゜@ 「……え? なんだい?」
('A`)「いいから安全な場所に居てくれ。じゃあな!」
ドクオは彼女にそれだけ言い残し、急いで小屋を出て行った。
(;'A`)「――うおっ!?」
小屋を出た途端、地面を揺らす巨大な爆発音が響いてきた。
音を頼りに周囲を見回すと、町から離れた場所で空を刺すような砂塵が舞い上がっていた。
(;'A`)(やっぱり戦ってやがる! なんでか知らねぇけど……)
先程からの物音、耳の弱ったおばちゃんには聞こえていないようだったが、ドクオにはハッキリと聞こえていた。
誰かが戦っている音、心当たりはミルナしか居ない。
ドクオは急いで戦場へと走り始めた。
まだ本調子ではないミルナを一人で戦わせるのは余りにも危険だ。
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-
「――お前、まさか……」
しかし、その時、背後から聞こえてきた呑気な声に、ドクオは足をその場に押し止めた。
確かに聞き覚えのあるその声……ドクオは、ゆっくりと振り返った。
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-
('A`)「エクスト……」
<_*プー゚)フ「ひっさし振りじゃねえか、ドクオ!」
まるで全てを忘れ去ったかのように、エクストは満面の笑みでドクオに言った。
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第十八話 「限りある世界」
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≪3≫
ドクオの顔を見ると、エクストはすぐドクオに歩み寄っていった。
彼が着ている服はデミタス達が所属するメシウマ側の組織、カンパニーの制服だった。
<_*プー゚)フ「元気にしてたかよオイ!」
馴れ馴れしくドクオの肩を叩き、エクストはさらに続けた。
<_;プー゚)フ「……結構ゴツくなったのな。色々あったか?」
('A`)「……まぁな」
ドクオは精魂の抜けた返事を返した。
<_プー゚)フ「まぁ〜話すことは山盛りだよな」
<_プー゚)フ「ああ、ところでおばちゃん居るか?
なんかおばちゃんだけずっと町に残っててな、今日は俺が説得に来たんだよ」
('A`)「……町の連中は元気か?」
<_プー゚)フ「そりゃあな。ここより断然暮らしは豊かだ、みんな元気だよ」
.
-
エクストは白い歯を見せて笑い、ドクオに手を差し出した。
<_プー゚)フ「お前もこっち来いよ、ドクオ。
見つかんなくて困ってたけど、今日は一石二鳥だぜ」
('A`)「……なあ、エクスト」
エクストの手を見つめながら、ドクオはひとつ質問した。
('A`)「お前、幸せか?」
<_プー゚)フ「……ああ、充実してるぜ?
こないだ学校も卒業できたんだ、すげぇだろ!」
('A`)「……楽しそうだな」
<_;プー゚)フ「……大変だけどな? ……どうした?」
ここまで、ドクオは一瞬たりとも嬉しそうな素振りを見せていない。
それを心配に思い、エクストは顔を傾けて彼の顔を覗き込んだ。
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('A`)「……言いたい事は、全部言い終わったか?」
<_;プー゚)フ「……なんだよ、会わない内に死にたがり加速したのか?」
('A`)「言い終わったら教えてくれ」
冷たく言い切り、ドクオはエクストの手を強く弾いた。
<_;プー゚)フ「……何すんだよ」
('A`)「……分からねえんだろ」
('A`)「終わった瞬間、これがゼンブ大爆発だ」
<_;プー゚)フ「……ドクオ……?」
('A`)「さっさと自慢話を続けろよ」
('A`)「それとも言わなきゃ分からねぇか……」
昔から感情出すの苦手だったしな……」
('A`)「……エクスト、俺は『ブチギレ』てるんだよ……」
.
-
<_;プー゚)フ「ちょっ! ちょッッッッッッッッッ!! 待て!!」
静かな激昂にようやく気付いたエクストは、即座に引き下がって距離をとった。
<_;プー゚)フ「なんだよいきなり!! そりゃ怒るのも分かるけどよ!! 時効だろ!?」
時効、一定期間が経過して効力のなくなること。『約束はもう―だ』
('A`)「……時効、時効か……時効……」
('A`)「……時効……」
('A`)「時効……それか……」
ドクオは理解した。
エクストにとって、あの日の事はすべて終わった話なのだ。
ドクオは、腹の底に熱いものを感じ取った。
張本人達がのうのうと生き、幸せに暮らし、あまつさえ時効と言い切ったのが堪らなく腹立たしい。
言葉にすればするほど、この怒りは明確になってドクオを熱くさせていく。
.
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('A`)「お前にとってはもう、ゼンブ終わった事で、何もかも元通りか……」
<_;プー゚)フ「……クールさんも助ける。それで元通りだ」
エクストを一瞥してから、ドクオは空を仰いだ。
心に怒りが染み渡り、感覚が麻痺していくのが手に取るように分かった。
('A`)「……いつか『昔あんなこともあったね』『色々ごめんね』なんて語り合う」
('A`)「俺達は仲直りして幸せになって終わり、ゼンブ忘れて元通り……」
<_;プー゚)フ「……」
('A`)「……くだらねぇ話だ。くだらねぇ……」
('A`)「俺達の世界は終わったんだよ。
跡形もなくなって、今はもうどこ探したって見つからねえ。
どうしたって、あの頃を取り戻す事なんざ出来ないんだよ……」
.
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('A`)「……分からねぇだろ。俺が今までどうやって生きてきたか」
('A`)「都合の悪い事は何もかも忘れたお前には分からねぇだろ。
俺とあいつを利用して、今みたいに幸せになったお前には」
('A`)「……もし、お前が『哀れなドクオ君を助ける神サマ』気取りなら……」
('A`)「……そいつはもう、本当に駄目だ……」
<_;プー゚)フ「おい、待てって! まさか俺と戦うつもりか!?」
('A`)「美談で終わって元通りなんて、それは平和ボケしたバカ野郎の考えだ……」
('A`)「何より、絶対にお前が言っちゃいけない台詞だった……」
八頭身から貰ったペンライトをポケットの中で点灯させ、そこから光を吸収する。
ドクオは左腕を突き出し、意識を集中した。
ドクオの全身がほのかに光り、次いで左腕に光が集中していく。
('A`)「その服着てるって事は超能力あるんだよな。だったら早く発動しろ」
('A`)「俺は見ての通り『どん底帰りのゴミクズ』だが……」
('A`)「クソガキ一人を倒すだけなら、十分だ」
超能力・マグナムブロウがその姿を現した瞬間、
ドクオは弾けるように飛び出してエクストに襲い掛かった。
<_;プー゚)フ「――いいぜ、だったら! 今でも俺が上だって証明してやる!」
エクストもまた超能力を発動し、ドクオの攻撃に正面から挑んでいった。
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミルナは苦戦を強いられていた。
ドクオの邪魔はさせまいとカンパニーの足止めを買って出たが、ミルナはそれを満足に出来ずにいた。
最初ミルナを囲んでいたカンパニー隊員はおよそ二十人。
その内の十九人はなんとか倒せたが、
特に厄介な男が健在で、今もその男はミルナと互角以上に渡り合っていた。
(´・_ゝ・`)(こいつが件のアレか、荒巻の同類……)
涼しげな表情のまま、デミタスは自身の超能力とミルナをそれぞれ一瞥した。
デミタスの傍らには、毒物によって肉体を構成された女性――超能力“毒の姫君(ポイズン・メイデン)”が立っている。
(;゚д゚ )「……クソッ!」
ミルナが唾棄して攻撃を再開すると、ポイズン・メイデンも反応して前に出た。
毒で出来た肉体は、それ自体が盾であり武器となる。
デミタスとミルナの間に立つだけで、ポイズン・メイデンは攻防両方の役割を果たせていた。
一方、ミルナの超能力は物理的に接触出来ない相手には殆ど無力になる。
相性で言えばマジ最悪、勝機がまったく見えてこない程だった。
(;゚д゚ )(……すまん、こいつtanasinn無しの今の俺じゃ無理だ!)
昨日の自分に謝りながら、ミルナはtanasinnの力を解放した。
彼の左腕に黒煙が巻きついていく。
.
-
(´・_ゝ・`)「おっ」
ミルナから荒巻と同じ雰囲気を感じ取ったデミタスは、ようやくお出ましかと目を見張った。
ポイズン・メイデンを一度自分の所に戻し、奥の手を準備し始める。
その時ふと、デミタスの脳内にドクオと直面しているエクストの姿が思い浮かんだ。
わざわざ二人を再会させるよう仕向けたのはデミタス。
ドクオならエクストを成長させる切欠になると考え、彼はエクストを連れてきたのだ。
(´・_ゝ・`)(……せいぜい現実を見るんだな、エクスト)
( ゚д゚ )「……」
(´・_ゝ・`)「……おいおい、あんまりこっち見るんじゃねえよ」
熱烈な視線を向けてくるミルナに、デミタスはおちゃらけて反応した。
しかしそれは、圧倒的な勝利への確信があるからこその態度だった。
(´・_ゝ・`)「こっちの能力は『毒』だぞ? いいのか?」
( ゚д゚ )「……何が言いたい?」
(´・_ゝ・`)「そうだな、じゃあ格好つけて言ってやろう」
デミタスは煙草を一本くわえ、それに火をつけた。
.
-
(´・_ゝ・`)「あんまり俺を見ない方がいい」
(´・_ゝ・`)「目に 『毒』 だ」
( ゚д゚ )(……?)
その瞬間、ミルナの視界が不自然にぼやけた。
目にゴミでも入ったかと思って咄嗟に瞬いて目を擦ったが、視界のぼやけは少しも直らない。
それどころか、視界の隅の方から少しずつ暗闇が広がってきた。
“目に毒”――両目が暗闇に落ちていく最中、ミルナはその言葉の意味を遅れて理解した。
(;゚д゚ )「そういう事かッ……!」
(´・_ゝ・`)「そういうこった。ついでに言うとあんまり呼吸しない方が身の為だ」
(´・_ゝ・`)「なんせ俺の能力は全身毒、どんな毒を撒き散らしてるか分からねぇ」
(´・_ゝ・`)「いわゆる 『体に毒』 ってヤツだぜ。どうだ、耳はまだ聞こえるか?」
(;゚д゚ )「……」
(;゚д゚ )「……なんだ、何を言いやがった!」
(´・_ゝ・`)「……tanasinnも毒には耐性無しか。有益な情報だ」
.
-
煙草の火を煽りながら、デミタスはミルナに歩み寄っていった。
視覚に加えて聴覚まで失いつつあるミルナは、既に完全にデミタスを見失っていた。
この状況は最早戦闘としての体を成していない。
形勢は100%デミタスに傾いており、勝利は彼の手中にあった。
(;゚д゚ )「こッの……!!」
ミルナは当て所なく腕を振るい、せめてもの抵抗を示す。
腕に巻きついた黒煙が、デミタスの頬を掠めてどこかへ飛んでいく。
(´・_ゝ・`)「おっと危ないな」
(´・_ゝ・`)「だがいいのか? 触っちまったぞ」
攻撃の最中、ポイズン・メイデンはミルナの腕を容易く掴み取っていた。
(;゚д゚ )(こいつ……!)
腕の皮膚を入り口にして、ミルナの体内にじわりと毒が侵食し始める。
今度の毒は、ミルナの平衡感覚を一瞬にして麻痺させた。
(´・_ゝ・`)「……撃鉄か、荒巻とは比べ物にならねえ雑魚だな」
デミタスはそう呟き、ミルナの胸を軽く小突いた。
(;゚д゚ )「なッ……!?」
視覚、聴覚、そして平衡感覚すら喪失したミルナは、ちょっと小突かれただけで大きく仰け反り、簡単に地面に倒れた。
しかしここまでされた今でも、ミルナは自分が地面に倒れた事に全く気付いていなかった。
気付く為の器官がそもそも無効化されているのだから、それも仕方のない事だった。
彼自身は今、突然全身が壁にぶち当たったような奇妙な感覚を覚えていた。
.
-
(´・_ゝ・`)「……」
地面に倒れたまま狼狽するミルナを見つめながら、デミタスは次の毒をメイデンの体に充満させた。
毒の名前はストリキニーネ。人を殺すに余りある猛毒中の猛毒である。
(´・_ゝ・`)「……」
デミタスは、毒で死ぬ惨さを誰よりも知っている。
毒に侵されて死ぬ苦痛を身をもって知っている。
だからこそ毒殺は最後の手段。
猛毒を使う相手は、完璧な止めを与えるべき相手に限定していた。
世界中の猛毒をちゃんぽん一気飲みさせても死にそうにない相手でなければ、デミタスは人間相手に猛毒を使えなかった。
(´・_ゝ・`)(あれの同類とはいえ今やこのザマだ……。
奥の手無しでtanasinnの何とやらを圧倒か、倒した実感に欠ける)
(´・_ゝ・`)(……それでもタダで返すのは危険だ。
今後コイツが荒巻の話を受け入れて、奴と手を組まないとも限らん……)
長考の末、デミタスはミルナの始末を決めた。
(´・_ゝ・`)(……両腕と目は完全に潰す)
.
-
(;゚д゚ )(相性が悪すぎる……とにかく今は逃げるッ!)
ミルナは何としてでも生き延びるため、形振り構わず残った力を全解放した。
背中の撃鉄から光が爆発し、ミルナの肉体に一方向への推進力が生まれる。
(´・_ゝ・`)「まぁ待て」
デミタスは余裕を持ってそう言い、逃げ出そうとしたミルナの頭を全力で踏ん付けた。
撃鉄が生み出す推進力がその程度で止まる訳もなかったが、毒を盛るには一瞬の隙があればいい。
ポイズン・メイデンは間一髪でミルナに触れ、そこから毒を侵食させた。
デミタスが足を離すと、ミルナはどこぞへ向かってブッ飛んでいった。
傍から見れば滑稽に見える逃走方法だったが、生き残るには何をしてでも逃げるしかなかった。
(; д )(……クソ……ッ!)
先日から確かに感じていた、“マグナムブロウ”という超能力の弱体化。
感覚を思い出せば元に戻ると信じていたが、事はミルナが思っているほど簡単ではないようだった。
全力で超能力を使ったことで、またミルナの全身に激痛がほとばしった。
腕の装甲も瞬く間にひび割れ、崩壊していく。
(; д )(……俺は……俺はッ……!)
屈辱を噛み締めながら、ミルナは地面を跳ねて転がってデミタスから逃走していく。
自慢の拳とまで謳ったこの力、それが圧倒的に完敗した現実が、ミルナの心臓を強く握り締めていた。
.
-
≪4≫
――それは、エクスト・プラズマンが超能力を手に入れて間もなくの事だった。
彼はデミタスの勧めでアサピーが居る総技研へ出向き、彼らに超能力の検査分析をしてもらっていた。
エクストの来歴が特別なだけに、結果が出るまでには数日必要になった。
検査の結果がようやく出揃った後日、エクストは市街の総合病院に呼び出された。
精神科の部屋に入ると、部屋にはアサピーと彼の知人である超能力分析を専門とする人物が待っていた。
<_;プー゚)フ「能力の検査って精神科扱いなんですね……」
(-@∀@)「本当は紙切れ一枚で終わる。お前の為に色々根回しした結果だ」
エクストは椅子に腰掛け、アサピーの知人に視線を送った。
「……では結果の方を。エクストさんの超能力についてお話します」
知人は慣れた口調で切り出した。
「超能力としては具現化、装着型。つまり戦闘向きの超能力です。
発動すると脚部に装甲が具現化し、およそ時速100km程度の加速ができるようになります」
<_プー゚)フ「そう……ですね……」
「と、ここまでは自分で自覚できる事なんです。
デミタスさんがあなたに伝えたいのは、きっとこの先の話ですよ」
.
-
「……超能力の覚醒には、二通りあります」
知人はエクストの目を見ながら話し続ける。
「心理的な切欠があり、それを種として超能力が覚醒するパターン。
あるいは何の脈絡もなく、ある日突然超能力に目覚めるパターン」
「分かりやすく言えば、原因が先か結果が先か……。漫画でよくあるのは後者ですね」
「しかしエクストさんの場合は前者です。
あなたの生い立ちと精神状況から見るに、間違いなく」
<_;プー゚)フ「……何かダメなんですか?」
知人の口振りに不安を感じ、エクストは率直に質問した。
「ダメという事はありません。ただ、先程上げた2パターンには幾つか違いがあるんです」
「まず前者、戦闘向きの超能力が多く、超能力の性能、発動もハッキリしている事が多いです。
種類も具現化ばかりでシンプルです」
「次に後者、結果が先に来た方です。先天性の超能力。こちらは戦闘向きではない超能力が多いです。
そして超能力の性能、発動にムラがあり、種類も分類しきれないほどに多い」
.
-
「そして最大の違いが一つ」
知人は人差し指を立ててエクストに見せた。
「それは前者の場合に限り、『原因』が消滅すると超能力自体が消滅するという事です」
<_;プー゚)フ「消滅……」
「……エクストさん、自分が加速能力を獲得した理由、原因は分かりますか?」
<_;プー゚)フ「……」
心当たりはあったが、エクストは沈黙したまま答えなかった。
「……ここの精神科医に、あなたの事を匿名で分析をさせました」
「その人いわく、あなたは『生き急いでいる』から『加速能力』を手に入れたそうです」
「あなたの過去に具体的に何があったかは我々の知る所ではありません。
ですが確かに、あなたの加速能力は自分の精神を切り崩す事で――生き急ぐことで成立しているんです」
<_プー゚)フ(……心当たりのド真ん中か)
.
-
「焦燥、重圧、あるいは後悔……」
「……この先も超能力を使い続けるのなら、あなたはそういったものと死ぬまで付き合う必要があります。
自分自身を生き急がせる、追い詰める要素を持ち続ける事でしか、超能力を維持出来ないからです」
<_プー゚)フ「もしも、その……後悔がなくなったら?」
「……先程言ったとおり超能力は消滅します」
「詳しい検査結果はこちらになります。目を通して、質問があればお答えします――」
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……やっと起きたか」
<_;フー )フ「まぁ、な……」
戦闘が始まってしばらく。無傷のドクオとは打って変わり、エクストは満身創痍を極めていた。
エクストは数分前まで掘っ立て小屋として存在していた木片を乗り越え、ふらつきながらドクオの前に戻った。
<_;プー゚)フ(クソッ、こんな時に変な夢見せやがって……)
ドクオの一撃をまともにくらったせいで、エクストの昨日今日の記憶は完全にブッ飛んで消えていた。
そのかわりに思い出したのが病院での会話――後悔そのもののようなこの町では、出来れば思い出したくは無かった。
エクストは傷だらけになった自分の体と、ボロボロに砕けた両脚の装甲を虚ろな目で見つめた。
<_;プー゚)フ(……なんつぅザマだよ……)
<_;プー゚)フ(全部切り捨ててあっち行って……色々やって成長したつもりがコレか……?)
<_;プー゚)フ(……分かってた。焦ってたよ、だからこんな能力が出来上がっちまったんだろうが……)
.
-
<_;フー )フ「でもまぁ……分かってても止まらないものってあるよな……」
('A`)「……あるな」
<_;フー )フ「分かってる。お前の言葉も、俺がバカだった事も……」
エクストは背筋を伸ばし、目を光らせた。
<_;プー゚)フ「分かってるけど、今日の所は『それ』でいく……」
<_;プー゚)フ「今日の俺は『止まらない』。生き急いで何が悪い、死ぬまで走り続けてやる……」
その時、エクストの超能力に異変が起きた。
脚部の装甲がわずかに剥がれ落ち、光の粒子となって散ってしまったのだ。
傍目に見れば小さな変化。しかしエクストは予感した。この超能力は、もう先が長くない。
ドクオとの再会が彼にもたらしたのは、後悔や重圧からの解放だった。
<_;プー゚)フ(あんなに弱かったドクオがここまで強くなった。
だから俺はもう、前を走らなくていい……)
<_;プー゚)フ(そう言いたいんだろうが……そんな弱音は後回しだ)
装甲に覆われた爪先で、地面をトントンと叩く。
エクストはペンライトを点灯させて光を吸収し、超能力を再構成した。
<_;フー )フ(この能力とも、短い付き合いだったな……)
地面を蹴り、エクストは一気に加速してドクオに急接近した。
.
-
エクストは最速でドクオの背後に滑り込み、更に加速してドクオに迫った。
片脚に遠心力を加えて振り上げ、それを力のままに振り下ろす。
ドクオは咄嗟に反応して体を翻し、左腕の装甲で攻撃を受け止めた。
金属同士が強い力で拮抗し、ギチギチと音を上げる。
<_#プー゚)フ「もう喋る必要もねえだろ……俺はお前の敵、お前は俺の敵だ……」
<_#プー゚)フ「……」
<_#プー゚)フ「……俺は俺のやり方でクールさんを助け出す! てめえが割って入ってくんな!」
(;'A`)「喋らねえんじゃなかったのかよ!」
<_#プー゚)フ「てめえの言う事なんざ聞かねえ!」
(;'A`)「今さっき自分で言っただろ!」
<_#プД゚)フ「ゴチャゴチャっ……うるせえッッ!!」
エクストは攻撃に使った片足を引き、軸足を切り替えて次の一撃を放った。
体を回転させ、なぎ払うように片脚で一閃。
その脚は風を切ってドクオの左腕に直撃し、ドクオを一歩よろめかせた。
(;'A`)「おッ……!」
エクストとの戦いにおいて、この時初めて脅威を覚える。
大して体も鍛えておらず、実際戦ってみてもそこまで強くない奴だと思っていただけに、
エクストが一瞬で成長した事に驚きを隠せない。
それがドクオの対応を遅らせた。そのとき既に、エクストの追撃が始まっていた。
.
-
エクストの脚が防御をすり抜け、ドクオの顔面に鋭く飛んでゆく。
ドクオは上体を大きくそらし、脚の軌道上から素早く離脱した。
装甲によって攻防共に強化されたエクストの蹴りが、ギリギリ顎先を掠める。
(;'A`)「チッ!」
エクストの脚が引き下がろうとした瞬間、ドクオはその脚を掴み取り、力任せにエクストを放り投げた。
エクストは空中で体勢を整え、少し離れたところに綺麗に着地してみせた。
ドクオは体勢を戻し、額の汗をぬぐう。
(;'A`)(そうだよ、コイツこういう奴だった……)
(;'A`)(人のこと煽ってはすぐ開き直る、喧嘩したがりな奴だった……)
だが、そっちの方が見慣れてて相手しやすい。
ドクオは昔を思い出して笑い、そして背中の撃鉄に意識を集中した。
('A`)(『撃動のドラゴンブロウ』……)
('A`)(……)
('A`)(やっぱり叫ぶのは恥ずかしいな……)
背中の撃鉄がガキンと音を立て、羽のように広がる。
そして、起き上がった撃鉄から光が――
('A`)(……お?)
――光は、まったく出てこなかった。
.
-
(;'A`)「ちょッ……!」
カーチャンと戦った時にはあった光の噴出が不発に終わる。
しかし予想外の事態に手間取っている暇は無い。特に今はエクストから目を離す訳にはいかなかった。
数瞬後、エクストの脚が肉体の寸前にまで来ていた。
目を離してはいけないという自戒がなければ、ドクオはこれに直撃していた。
ドクオは後ろへ軽く跳躍し、エクストの蹴りを回避する。
(#'A`)(ないなら無いで戦う!)
蹴りはリーチと威力については殴る以上に強い攻撃方法だが、とうぜん相応の弱点がある。
蹴りの弱点とは、体重を支えるのが片足だけでバランスを崩しやすいのと、連続して出すのが難しいという事。
そして何より、次の一撃を出すにはどうしても“脚を引く”という大きな動作をせざるをえない事だ。
ドクオは、エクストが脚を引くのに合わせて前に出た。
素早く二回、エクストの顔面を右拳で殴る。
顔面の痛みもそのままに、エクストは即座に膝を突き上げてドクオを追い払った。
<_#プー゚)フ(顔面容赦無しかっ!)
エクストは大きく後ろに跳んで距離をとった。
鼻から垂れてきた血を親指で乱雑に拭い、一旦頭を落ち着かせる。
<_#プー゚)フ(俺の戦闘経験は多対一ばっかりだ。戦うにしても、俺にはいつも味方が居た……)
<_#プー゚)フ(タイマン勝負はアイツのが慣れてる。ムカつくけど本当の事だ)
<_#プー゚)フ(けっこうマジの蹴りも見切られちまった。
当てるには……陽動? とかなんか頭良い事しねえとだよな……)
<_プー゚)フ(……でも、今日の俺は止まらない。考え事は俺の足を引っ張るだけだ)
<_フー )フ(……だったら、結論なんかこれしかねぇ……)
エクストは、ペンライトから更に光を吸収した。
全身に力がみなぎり、超能力が次の段階へとシフトする。
.
-
<_;フー )フ(『今よりもっと生き急ぐ』。今の俺には速さが足りない……)
<_;フー )フ(嫌なこと全部思い出して、焦りまくって余裕なくして……。
そうすりゃ俺はもっと速くなる……そういう能力なんだろ……)
<_;プー゚)フ(……笑えるぜ。今じゃ俺の方が死に急いでやがる)
<_;プー゚)フ(でもまぁ……例えそうでも、この決着だけはつける……)
崩壊しようとする装甲を気力で維持しながら、エクストは歩を進めた。
ドクオも身構え、次の攻防を頭の中で想定し始める。
やがて両者の間合いが10メートルを切ろうとしたその時、
(;'A`)「!」
エクストがドクオの視界から消えた。
途端、ドクオのみぞおちに堪らない激痛が走った。
ドクオは反射的に視線を落としてその正体を確かめた。エクストの足が、深々とみぞおちを穿っていた。
(; A )(コイツまた強く――速くッ――!)
ドクオは弾けるように後方へと蹴り飛ばされた。
地面を何度も跳ね、しばらく地面を転がり続ける。
町から大きく離れた場所まで飛ばされたドクオはすぐに起きて構え直した。
エクストはその隙に加速して接近し、ドクオを空中に蹴り上げる。
<_#フー )フ「この程度かよ!!」
エクストは両手を地面につけると、タイミングを見切って両脚の力を爆発させた。
すると彼の姿は一瞬でその場から消え、そこには少しの砂煙だけが取り残された。
.
-
<_#フー )フ「この程度で向こう側に楯突いてんのか、テメェは!!」
<_#プД゚)フ「向こう側の連中はこんなモンじゃねえ!
これじゃあクールさんを助けるどころか、テメェの命すら守れねぇぞ!」
空に上がったエクストは一段と加速し、ドクオの腹を蹴り貫いた。
(; A )(致命傷だけは受け流すッ――!)
脚が肉体に風穴を開ける寸前、ドクオは反射的に体を大きくねじり、エクストの攻撃を別方向に誘導した。
エクストの脚が血肉をえぐり、皮膚表面を削りながら体を過ぎていく。
ドクオは下腹部から肩にかけて大きな傷を負ったが、即戦闘不能になる事だけは回避してみせた。
(; A゚)(――来た!)
攻撃を受けた直後、ドクオは背の撃鉄に充足感を覚えた。
次いでドクオは受身をとって地面に着地し、、すぐに空を見上げてエクストを目視した。
エクストは片足を突き出した姿勢で、ドクオに向かって真っ直ぐ落ちてきていた。
安直なキックだが、加速に加速を重ねたその一撃は十分な威力を誇っている。
(# A )「何がこの程度だッ……!!」
怒号を上げ、ドクオは拳を振り上げた。
(# A゚)「撃動のォォォォッ!!」
背の撃鉄から光が噴出し、生み出された力が彼の拳を後押しする。
エクストの蹴りが来る一瞬を予測し、ドクオはその瞬間に拳を打ち出した。
だが、ドクオの渾身の一撃は空を裂くだけに終わった。
<_#フー )フ「だからッ……!」
エクストはドクオの背後で舌打ち、加速した。
ドクオの背中に強烈な回し蹴りを直撃させ、またもドクオを遠くへと蹴り飛ばす。
<_#プー゚)フ「いい加減気付け! 真正面から戦って勝てる相手じゃねえんだよ!
お前は昔からバカ正直すぎる! ちったあマシになったみたいだが……」
<_#プー゚)フ「……だがまだ足りねぇ! 足りねぇぞ!」
(# A )「今更偉そうに高括ってんじゃねえェェェェェェェッ!!」
蹴り飛ばされたドクオは光の噴出によって勢いを殺すと、反転してエクストに飛び掛っていった。
.
-
<_#フー )フ「言った傍からッ……!」
エクストは片足を上げ、真ん前に飛び込んできたドクオを難なく蹴り返した。
その一瞬の間に、ドクオの体には無数の蹴りが叩き込まれていた。
(;゚A゚)(……クソッ……!)
背の撃鉄は、ドクオが地面に倒れゆくと同時に、静かに光の噴出を止めた。
<_#プー゚)フ「……これが数年鍛えたお前の強さかよ……」
傷口から大量に流れ出る血液、多数の打撲、三半規管の混乱。
そんな状態のまま全力を出したのも重なり、ドクオの体は既に限界を迎えていた。
超能力が肉体にかける負担は大きい。
考え無しに使えばこうなると、ドクオ自身も理解していた筈だった。
しかしドクオにとって、エクストとは我を忘れて戦ってしまう程の相手なのだ。
ドクオはここまで、全くと言っていいほど戦いに集中していなかった。
過去の後悔が永遠に生み出し続ける怒りと憎しみに頭を支配され、ドクオは考える事を止めていたのだ。
それこそが、今の状況を作り上げた最大の理由だった。
<_#プー゚)フ「中途半端な力だ、何の意味もねえ」
そう言った途端、脚の装甲に亀裂が走る。
間もなく訪れる離別の時を予感し、エクストは超能力に最後の発破をかけた。
.
-
<_#プー゚)フ「立て!」
エクストは大手を振ってドクオを怒鳴りつけた。
<_#プー゚)フ「お前が今までどうやって生きてきたかは知らねぇが、
弱いお前なりに、背負ったモンがあるんだろうが!」
<_#プー゚)フ「今のお前はそれを全部捨てて這い蹲ってんだぞ!
立って敵に立ち向かえ! でなきゃっ……」
(; A )「……うるせぇな……立ち上がれねぇとでも思ってんのか……」
ドクオは片膝に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
口内に溜まった血反吐を地面に吐き捨て、乱雑に口元を拭う。
(; A )(……慣れてんだよ、こんな状況)
(; A )(誰かに勝てた覚えなんざありゃしねえ。いつもズタボロ、相打ちぐらいが関の山だ……)
(; A )(そんで今日もこの通り。自分が雑魚なの忘れて、調子に乗ったら大事故だ……)
ドクオは自分を戒めながら、光を吸収してマグナムブロウを補強した。
.
-
――ドクオは思い出していた。
確かめる為の力……昔の俺は、多分そんなものを求めていた。
しかし今でこそ思う。そんな力では、目の前の現実を何も変えられないのだと。
(; A )(……エクストの言った通りだ。俺は、中途半端だった……)
(; A )(……戦うのを正当化したいだけだったのか、俺は……)
ドクオは装甲に覆われた左手を見下ろした。
(;'A`)(俺は……そもそも戦うのが好きじゃなかった。
ガキの頃のエクストとの喧嘩だって、口ばっかりで本気ではやらなかった……)
(;'A`)(殴るのも人を殺すのも嫌だ。
だから暴力に理由をつけて、自分は間違ってないと思い込みたかった……)
(;'A`)(今もそうだ。俺はまだ、この戦いを人のせいにしようとしている……)
(;'A`)(俺の戦いは、俺が原因なんだ。誰かの為に戦おうが、全部自分一人の責任だ……)
ドクオは拳を作り、奥歯を噛み締めた。
(;'A`)(だったら俺は……自分の為にだけ戦う。自分の為に人を傷つける。
最初から何かの、誰かのせいにしちゃいけなかったんだ……)
(;'A`)(……俺は、俺の意思で、俺の為にクーを助け出して……)
('A`)(……親友を……)
.
-
平常心を取り戻したドクオはエクストに目を向けた。
そこでようやく、ドクオはエクストの脚部に違和感を覚えた。
('A`)「……」
エクストの脚に具現化された超能力。
その能力は既に限界を迎えており、崩壊と具現化を繰り返しながら形状を保っていた。
<_#プー゚)フ「……だからどうした」
ドクオの視線に気付いたのか、エクストは強く反発した。
<_#プー゚)フ「俺がもう戦えないんだと思うんなら、どうするんだ?
俺はまだやる。たとえ何があってもな……」
('A`)「……お前は敵だ。昔、どれだけ、何があったとしても、今のお前は敵だ」
('A`)「敵は倒す。一人残らず。……中途半端な考え方はもう止めだ」
ドクオは身構え、ペンライトに残された全ての光を吸収し、意識を集中した。
意識が透き通り、心が闘争心に染まってゆくと、彼の背中には新たな撃鉄が具現化し始めていた。
.
-
背の右側、一つ目の撃鉄の真下に具現化した第二の撃鉄。
それは白と黒が中途半端に混ざり合った、曖昧な灰色をしていた。
一つ目が重厚な金属らしくあっただけに、この撃鉄はドクオには似合わない異質な雰囲気を漂わせていた。
('A`)「……自分の為に人も物も傷つける。
そうしなきゃアイツを助けられないなら、俺はもう、それでいい」
('A`)「正しさでアイツを救えないなら、俺はもう、悪でいい」
その時、二つ目の撃鉄が落ちて金属音を響かせた。
('A`)「……」
('A`)(……そうか、俺は……)
.
-
('A`)(俺自身の正しさを踏み躙ってでも、クーを自分の物にしたいのか――)
.
-
≪5≫
(´・_ゝ・`)「――御厚意に感謝します」
(゜д゜@ 「そんなんじゃありませんよ、久し振りに賑わってくれて嬉しいです」
枕元に二人の声があった。
エクストが次に目覚めたのは夜、町の掘っ立て小屋の中だった。
(´・_ゝ・`)「……と、遅いお目覚めだな」
デミタスがエクストの顔を覗き込む。
エクストは布団から体を起こし、外が真っ暗闇であることを確認した。
そして、もう全てが終わった後なのだと自覚する。今更、その事を理解する。
<_プー゚)フ「……俺は、どうなったんですか」
そう聞きながら、エクストは戦いの記憶を掘り起こしていた。
戦いの記憶が徐々に蘇っていく――それにつれて、エクストの精神は活力を失っていった。
ドクオとの戦いは実に呆気なく、単なる実力差だけを理由にして決着した。
だからこそ、それは変えようの無い残酷な現実だった。
根拠のない自信だけで生きているような人間には、この現実が酷く傷口に染みる。
.
-
(´・_ゝ・`)「強かっただろ、一人でこっちに攻め込んでくるだけはある」
<_フ− )フ「……」
(´・_ゝ・`)「……エクスト、お前は弱い。弱いなりに、今までよくやった」
<_フ− )フ「俺は……お払い箱ですか……」
(´・_ゝ・`)「使えない雑魚は置いていく。そう、使えない雑魚はな。
まだ自分に利用価値があると思うなら、話は別だが……」
デミタスは立ち上がり、おばちゃんに会釈をしてから小屋の戸に歩き始めた。
(´・_ゝ・`)「明日にはここを発つ。ここに残るかどうかは勝手にしろ」
(´・_ゝ・`)「……お前は一度、自分自身を裏切ってこの町を出た。
もしもまた町を出るつもりなら、その時は別のものを切り捨てて来い」
(´・_ゝ・`)「中途半端に責任負って走り出すような真似は、もう二度とするなよ」
(´・_ゝ・`)「……ゆっくりしろ。本当にな。
ドクオの事は任せておけ、殺しはしない……お前はよくやった」
デミタスは背を向けたまま手を振り、外に出て行った。
.
-
(゜д゜@ 「……今日は良い日だ。待ち人が二人も来てくれた」
おばちゃんはデミタスを見送ると、微笑んでエクストに話し掛けた。
(゜д゜@ 「ここでの生き方は覚えてるだろう。なんでも好きに使いな」
<_フ− )フ「……ああ」
エクストの返事は空虚だった。
今まで取り繕っていた虚勢が敗北によって剥がれ落ちた今、彼を現実から守るものはない。
ドクオのため、素直クールのため――それが嘘だったわけではない。
確かに当初のエクストは素直クールの為に様々な考えを馳せていた。
だがそれは時間の経過によって変化した。向こう側での生活が、彼の決意を少しずつ鈍らせていったのだ。
最初でこそ大義名分、しかし今は“成り上がり”の口実に過ぎない。
それを自覚した時、エクストはその現実を都合よく塗り替えてしまった。
行動を先延ばしにして現状を正当化し、最終的にどうにかなればいいという無責任な希望に、思考を停止させたのだ。
そして今日の敗北は、自分で動く事をやめ、他人に従い続ける道を選んだ男の末路だ。
言い訳の余地は無い。自分の行動が招いた結果は、他の誰のせいにも出来ないのだ。
もしもそれすら人のせいにしてしまったら、その人はもう、自分を理由にして動けない。
他人に依存しきった考えでしか生きられなくなってしまう。
成功すれば人の為でしたと言って褒められたがり、失敗すれば人のせいにして現実から目を背ける。
そんなバカ丸出しのバカになる。
.
-
<_フ− )フ「……やっぱりか」
(゜д゜@ 「……何がだい?」
<_フー )フ「……超能力、消えてら」
エクストは先程から超能力を発動しようとしていた。
しかし天井に吊るされた裸電球に変化はない。電球は十分に光り続けていた。
<_フー )フ「……しばらく世話になるよ。一人で頑張る時間が要るみたいだ」
<_フー )フ「早くドクオの後を追っかけねえとな……」
(゜д゜@ 「……エクスト、あんたの脚は……」
<_プー゚)フ「分かってる。分かった上で言ってるんだ」
笑顔を取り戻したエクストは、涙を滲ませた目でおばちゃんを見た。
次いで自分の両脚の付け根をポンと叩き、
<_プー゚)フ「脚がなくても、俺はドクオを追っていくよ」
<_プー゚)フ「今度こそ、歩くような速さで……」
完全に消し飛ばされた両脚に思いを馳せながら、そう言って笑った。
.
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( ゚д゚ )「……」
('A`)「……」
互いに互いを探して歩き、夜になってやっと巡り合った二人。
見た目は揃ってボロボロで、かたや視力を喪失し、かたや返り血で真っ赤に染まっている。
ドクオにとって唯一の救いは、見るに耐えない今の姿を誰にも見られない事だった。
( ゚д゚ )「……目をやられた。何も見えん。腕も上手く動かん」
('A`)「……次は武器の補充だ。バーボンまでちょっと遠いけど、歩けるよな」
( ゚д゚ )「肩貸せ。それか手をつなげ」
(;'A`)「肩貸すよ……」
傷だらけの二人は肩を組み、レムナントの荒野を歩き出した。
( ゚д゚ )「……色々あったみたいだな」
('A`)「……」
( ゚д゚ )「俺もだ。正直、今は自分に自信がない……」
('A`)「……歩こうぜ。今は、話せる気分じゃないんだ……」
沈黙だけが二人を繋ぎ止めたまま、夜は、段々と更けていく。
.
-
1〜15話 >>2
第十六話 仲間を求めて >>6-24
第十七話 Waste Land >>33-71
第十八話 限りある世界 >>89-134
次回の投下は来年を予定しています
オマケは投下予告の時に
-
乙。
-
おつおつ
-
クソっリアルタイムで支援しようと思ってたのに出来なかった
乙!!!!!
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