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('A`)は撃鉄のようです
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__ ,、
く_;:::ハ /::ヘ
(_厂 ヒコ
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<_;プー゚)フ「ちょっ! ちょッッッッッッッッッ!! 待て!!」
静かな激昂にようやく気付いたエクストは、即座に引き下がって距離をとった。
<_;プー゚)フ「なんだよいきなり!! そりゃ怒るのも分かるけどよ!! 時効だろ!?」
時効、一定期間が経過して効力のなくなること。『約束はもう―だ』
('A`)「……時効、時効か……時効……」
('A`)「……時効……」
('A`)「時効……それか……」
ドクオは理解した。
エクストにとって、あの日の事はすべて終わった話なのだ。
ドクオは、腹の底に熱いものを感じ取った。
張本人達がのうのうと生き、幸せに暮らし、あまつさえ時効と言い切ったのが堪らなく腹立たしい。
言葉にすればするほど、この怒りは明確になってドクオを熱くさせていく。
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('A`)「お前にとってはもう、ゼンブ終わった事で、何もかも元通りか……」
<_;プー゚)フ「……クールさんも助ける。それで元通りだ」
エクストを一瞥してから、ドクオは空を仰いだ。
心に怒りが染み渡り、感覚が麻痺していくのが手に取るように分かった。
('A`)「……いつか『昔あんなこともあったね』『色々ごめんね』なんて語り合う」
('A`)「俺達は仲直りして幸せになって終わり、ゼンブ忘れて元通り……」
<_;プー゚)フ「……」
('A`)「……くだらねぇ話だ。くだらねぇ……」
('A`)「俺達の世界は終わったんだよ。
跡形もなくなって、今はもうどこ探したって見つからねえ。
どうしたって、あの頃を取り戻す事なんざ出来ないんだよ……」
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('A`)「……分からねぇだろ。俺が今までどうやって生きてきたか」
('A`)「都合の悪い事は何もかも忘れたお前には分からねぇだろ。
俺とあいつを利用して、今みたいに幸せになったお前には」
('A`)「……もし、お前が『哀れなドクオ君を助ける神サマ』気取りなら……」
('A`)「……そいつはもう、本当に駄目だ……」
<_;プー゚)フ「おい、待てって! まさか俺と戦うつもりか!?」
('A`)「美談で終わって元通りなんて、それは平和ボケしたバカ野郎の考えだ……」
('A`)「何より、絶対にお前が言っちゃいけない台詞だった……」
八頭身から貰ったペンライトをポケットの中で点灯させ、そこから光を吸収する。
ドクオは左腕を突き出し、意識を集中した。
ドクオの全身がほのかに光り、次いで左腕に光が集中していく。
('A`)「その服着てるって事は超能力あるんだよな。だったら早く発動しろ」
('A`)「俺は見ての通り『どん底帰りのゴミクズ』だが……」
('A`)「クソガキ一人を倒すだけなら、十分だ」
超能力・マグナムブロウがその姿を現した瞬間、
ドクオは弾けるように飛び出してエクストに襲い掛かった。
<_;プー゚)フ「――いいぜ、だったら! 今でも俺が上だって証明してやる!」
エクストもまた超能力を発動し、ドクオの攻撃に正面から挑んでいった。
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ミルナは苦戦を強いられていた。
ドクオの邪魔はさせまいとカンパニーの足止めを買って出たが、ミルナはそれを満足に出来ずにいた。
最初ミルナを囲んでいたカンパニー隊員はおよそ二十人。
その内の十九人はなんとか倒せたが、
特に厄介な男が健在で、今もその男はミルナと互角以上に渡り合っていた。
(´・_ゝ・`)(こいつが件のアレか、荒巻の同類……)
涼しげな表情のまま、デミタスは自身の超能力とミルナをそれぞれ一瞥した。
デミタスの傍らには、毒物によって肉体を構成された女性――超能力“毒の姫君(ポイズン・メイデン)”が立っている。
(;゚д゚ )「……クソッ!」
ミルナが唾棄して攻撃を再開すると、ポイズン・メイデンも反応して前に出た。
毒で出来た肉体は、それ自体が盾であり武器となる。
デミタスとミルナの間に立つだけで、ポイズン・メイデンは攻防両方の役割を果たせていた。
一方、ミルナの超能力は物理的に接触出来ない相手には殆ど無力になる。
相性で言えばマジ最悪、勝機がまったく見えてこない程だった。
(;゚д゚ )(……すまん、こいつtanasinn無しの今の俺じゃ無理だ!)
昨日の自分に謝りながら、ミルナはtanasinnの力を解放した。
彼の左腕に黒煙が巻きついていく。
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(´・_ゝ・`)「おっ」
ミルナから荒巻と同じ雰囲気を感じ取ったデミタスは、ようやくお出ましかと目を見張った。
ポイズン・メイデンを一度自分の所に戻し、奥の手を準備し始める。
その時ふと、デミタスの脳内にドクオと直面しているエクストの姿が思い浮かんだ。
わざわざ二人を再会させるよう仕向けたのはデミタス。
ドクオならエクストを成長させる切欠になると考え、彼はエクストを連れてきたのだ。
(´・_ゝ・`)(……せいぜい現実を見るんだな、エクスト)
( ゚д゚ )「……」
(´・_ゝ・`)「……おいおい、あんまりこっち見るんじゃねえよ」
熱烈な視線を向けてくるミルナに、デミタスはおちゃらけて反応した。
しかしそれは、圧倒的な勝利への確信があるからこその態度だった。
(´・_ゝ・`)「こっちの能力は『毒』だぞ? いいのか?」
( ゚д゚ )「……何が言いたい?」
(´・_ゝ・`)「そうだな、じゃあ格好つけて言ってやろう」
デミタスは煙草を一本くわえ、それに火をつけた。
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(´・_ゝ・`)「あんまり俺を見ない方がいい」
(´・_ゝ・`)「目に 『毒』 だ」
( ゚д゚ )(……?)
その瞬間、ミルナの視界が不自然にぼやけた。
目にゴミでも入ったかと思って咄嗟に瞬いて目を擦ったが、視界のぼやけは少しも直らない。
それどころか、視界の隅の方から少しずつ暗闇が広がってきた。
“目に毒”――両目が暗闇に落ちていく最中、ミルナはその言葉の意味を遅れて理解した。
(;゚д゚ )「そういう事かッ……!」
(´・_ゝ・`)「そういうこった。ついでに言うとあんまり呼吸しない方が身の為だ」
(´・_ゝ・`)「なんせ俺の能力は全身毒、どんな毒を撒き散らしてるか分からねぇ」
(´・_ゝ・`)「いわゆる 『体に毒』 ってヤツだぜ。どうだ、耳はまだ聞こえるか?」
(;゚д゚ )「……」
(;゚д゚ )「……なんだ、何を言いやがった!」
(´・_ゝ・`)「……tanasinnも毒には耐性無しか。有益な情報だ」
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煙草の火を煽りながら、デミタスはミルナに歩み寄っていった。
視覚に加えて聴覚まで失いつつあるミルナは、既に完全にデミタスを見失っていた。
この状況は最早戦闘としての体を成していない。
形勢は100%デミタスに傾いており、勝利は彼の手中にあった。
(;゚д゚ )「こッの……!!」
ミルナは当て所なく腕を振るい、せめてもの抵抗を示す。
腕に巻きついた黒煙が、デミタスの頬を掠めてどこかへ飛んでいく。
(´・_ゝ・`)「おっと危ないな」
(´・_ゝ・`)「だがいいのか? 触っちまったぞ」
攻撃の最中、ポイズン・メイデンはミルナの腕を容易く掴み取っていた。
(;゚д゚ )(こいつ……!)
腕の皮膚を入り口にして、ミルナの体内にじわりと毒が侵食し始める。
今度の毒は、ミルナの平衡感覚を一瞬にして麻痺させた。
(´・_ゝ・`)「……撃鉄か、荒巻とは比べ物にならねえ雑魚だな」
デミタスはそう呟き、ミルナの胸を軽く小突いた。
(;゚д゚ )「なッ……!?」
視覚、聴覚、そして平衡感覚すら喪失したミルナは、ちょっと小突かれただけで大きく仰け反り、簡単に地面に倒れた。
しかしここまでされた今でも、ミルナは自分が地面に倒れた事に全く気付いていなかった。
気付く為の器官がそもそも無効化されているのだから、それも仕方のない事だった。
彼自身は今、突然全身が壁にぶち当たったような奇妙な感覚を覚えていた。
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(´・_ゝ・`)「……」
地面に倒れたまま狼狽するミルナを見つめながら、デミタスは次の毒をメイデンの体に充満させた。
毒の名前はストリキニーネ。人を殺すに余りある猛毒中の猛毒である。
(´・_ゝ・`)「……」
デミタスは、毒で死ぬ惨さを誰よりも知っている。
毒に侵されて死ぬ苦痛を身をもって知っている。
だからこそ毒殺は最後の手段。
猛毒を使う相手は、完璧な止めを与えるべき相手に限定していた。
世界中の猛毒をちゃんぽん一気飲みさせても死にそうにない相手でなければ、デミタスは人間相手に猛毒を使えなかった。
(´・_ゝ・`)(あれの同類とはいえ今やこのザマだ……。
奥の手無しでtanasinnの何とやらを圧倒か、倒した実感に欠ける)
(´・_ゝ・`)(……それでもタダで返すのは危険だ。
今後コイツが荒巻の話を受け入れて、奴と手を組まないとも限らん……)
長考の末、デミタスはミルナの始末を決めた。
(´・_ゝ・`)(……両腕と目は完全に潰す)
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(;゚д゚ )(相性が悪すぎる……とにかく今は逃げるッ!)
ミルナは何としてでも生き延びるため、形振り構わず残った力を全解放した。
背中の撃鉄から光が爆発し、ミルナの肉体に一方向への推進力が生まれる。
(´・_ゝ・`)「まぁ待て」
デミタスは余裕を持ってそう言い、逃げ出そうとしたミルナの頭を全力で踏ん付けた。
撃鉄が生み出す推進力がその程度で止まる訳もなかったが、毒を盛るには一瞬の隙があればいい。
ポイズン・メイデンは間一髪でミルナに触れ、そこから毒を侵食させた。
デミタスが足を離すと、ミルナはどこぞへ向かってブッ飛んでいった。
傍から見れば滑稽に見える逃走方法だったが、生き残るには何をしてでも逃げるしかなかった。
(; д )(……クソ……ッ!)
先日から確かに感じていた、“マグナムブロウ”という超能力の弱体化。
感覚を思い出せば元に戻ると信じていたが、事はミルナが思っているほど簡単ではないようだった。
全力で超能力を使ったことで、またミルナの全身に激痛がほとばしった。
腕の装甲も瞬く間にひび割れ、崩壊していく。
(; д )(……俺は……俺はッ……!)
屈辱を噛み締めながら、ミルナは地面を跳ねて転がってデミタスから逃走していく。
自慢の拳とまで謳ったこの力、それが圧倒的に完敗した現実が、ミルナの心臓を強く握り締めていた。
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≪4≫
――それは、エクスト・プラズマンが超能力を手に入れて間もなくの事だった。
彼はデミタスの勧めでアサピーが居る総技研へ出向き、彼らに超能力の検査分析をしてもらっていた。
エクストの来歴が特別なだけに、結果が出るまでには数日必要になった。
検査の結果がようやく出揃った後日、エクストは市街の総合病院に呼び出された。
精神科の部屋に入ると、部屋にはアサピーと彼の知人である超能力分析を専門とする人物が待っていた。
<_;プー゚)フ「能力の検査って精神科扱いなんですね……」
(-@∀@)「本当は紙切れ一枚で終わる。お前の為に色々根回しした結果だ」
エクストは椅子に腰掛け、アサピーの知人に視線を送った。
「……では結果の方を。エクストさんの超能力についてお話します」
知人は慣れた口調で切り出した。
「超能力としては具現化、装着型。つまり戦闘向きの超能力です。
発動すると脚部に装甲が具現化し、およそ時速100km程度の加速ができるようになります」
<_プー゚)フ「そう……ですね……」
「と、ここまでは自分で自覚できる事なんです。
デミタスさんがあなたに伝えたいのは、きっとこの先の話ですよ」
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「……超能力の覚醒には、二通りあります」
知人はエクストの目を見ながら話し続ける。
「心理的な切欠があり、それを種として超能力が覚醒するパターン。
あるいは何の脈絡もなく、ある日突然超能力に目覚めるパターン」
「分かりやすく言えば、原因が先か結果が先か……。漫画でよくあるのは後者ですね」
「しかしエクストさんの場合は前者です。
あなたの生い立ちと精神状況から見るに、間違いなく」
<_;プー゚)フ「……何かダメなんですか?」
知人の口振りに不安を感じ、エクストは率直に質問した。
「ダメという事はありません。ただ、先程上げた2パターンには幾つか違いがあるんです」
「まず前者、戦闘向きの超能力が多く、超能力の性能、発動もハッキリしている事が多いです。
種類も具現化ばかりでシンプルです」
「次に後者、結果が先に来た方です。先天性の超能力。こちらは戦闘向きではない超能力が多いです。
そして超能力の性能、発動にムラがあり、種類も分類しきれないほどに多い」
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「そして最大の違いが一つ」
知人は人差し指を立ててエクストに見せた。
「それは前者の場合に限り、『原因』が消滅すると超能力自体が消滅するという事です」
<_;プー゚)フ「消滅……」
「……エクストさん、自分が加速能力を獲得した理由、原因は分かりますか?」
<_;プー゚)フ「……」
心当たりはあったが、エクストは沈黙したまま答えなかった。
「……ここの精神科医に、あなたの事を匿名で分析をさせました」
「その人いわく、あなたは『生き急いでいる』から『加速能力』を手に入れたそうです」
「あなたの過去に具体的に何があったかは我々の知る所ではありません。
ですが確かに、あなたの加速能力は自分の精神を切り崩す事で――生き急ぐことで成立しているんです」
<_プー゚)フ(……心当たりのド真ん中か)
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「焦燥、重圧、あるいは後悔……」
「……この先も超能力を使い続けるのなら、あなたはそういったものと死ぬまで付き合う必要があります。
自分自身を生き急がせる、追い詰める要素を持ち続ける事でしか、超能力を維持出来ないからです」
<_プー゚)フ「もしも、その……後悔がなくなったら?」
「……先程言ったとおり超能力は消滅します」
「詳しい検査結果はこちらになります。目を通して、質問があればお答えします――」
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('A`)「……やっと起きたか」
<_;フー )フ「まぁ、な……」
戦闘が始まってしばらく。無傷のドクオとは打って変わり、エクストは満身創痍を極めていた。
エクストは数分前まで掘っ立て小屋として存在していた木片を乗り越え、ふらつきながらドクオの前に戻った。
<_;プー゚)フ(クソッ、こんな時に変な夢見せやがって……)
ドクオの一撃をまともにくらったせいで、エクストの昨日今日の記憶は完全にブッ飛んで消えていた。
そのかわりに思い出したのが病院での会話――後悔そのもののようなこの町では、出来れば思い出したくは無かった。
エクストは傷だらけになった自分の体と、ボロボロに砕けた両脚の装甲を虚ろな目で見つめた。
<_;プー゚)フ(……なんつぅザマだよ……)
<_;プー゚)フ(全部切り捨ててあっち行って……色々やって成長したつもりがコレか……?)
<_;プー゚)フ(……分かってた。焦ってたよ、だからこんな能力が出来上がっちまったんだろうが……)
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<_;フー )フ「でもまぁ……分かってても止まらないものってあるよな……」
('A`)「……あるな」
<_;フー )フ「分かってる。お前の言葉も、俺がバカだった事も……」
エクストは背筋を伸ばし、目を光らせた。
<_;プー゚)フ「分かってるけど、今日の所は『それ』でいく……」
<_;プー゚)フ「今日の俺は『止まらない』。生き急いで何が悪い、死ぬまで走り続けてやる……」
その時、エクストの超能力に異変が起きた。
脚部の装甲がわずかに剥がれ落ち、光の粒子となって散ってしまったのだ。
傍目に見れば小さな変化。しかしエクストは予感した。この超能力は、もう先が長くない。
ドクオとの再会が彼にもたらしたのは、後悔や重圧からの解放だった。
<_;プー゚)フ(あんなに弱かったドクオがここまで強くなった。
だから俺はもう、前を走らなくていい……)
<_;プー゚)フ(そう言いたいんだろうが……そんな弱音は後回しだ)
装甲に覆われた爪先で、地面をトントンと叩く。
エクストはペンライトを点灯させて光を吸収し、超能力を再構成した。
<_;フー )フ(この能力とも、短い付き合いだったな……)
地面を蹴り、エクストは一気に加速してドクオに急接近した。
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エクストは最速でドクオの背後に滑り込み、更に加速してドクオに迫った。
片脚に遠心力を加えて振り上げ、それを力のままに振り下ろす。
ドクオは咄嗟に反応して体を翻し、左腕の装甲で攻撃を受け止めた。
金属同士が強い力で拮抗し、ギチギチと音を上げる。
<_#プー゚)フ「もう喋る必要もねえだろ……俺はお前の敵、お前は俺の敵だ……」
<_#プー゚)フ「……」
<_#プー゚)フ「……俺は俺のやり方でクールさんを助け出す! てめえが割って入ってくんな!」
(;'A`)「喋らねえんじゃなかったのかよ!」
<_#プー゚)フ「てめえの言う事なんざ聞かねえ!」
(;'A`)「今さっき自分で言っただろ!」
<_#プД゚)フ「ゴチャゴチャっ……うるせえッッ!!」
エクストは攻撃に使った片足を引き、軸足を切り替えて次の一撃を放った。
体を回転させ、なぎ払うように片脚で一閃。
その脚は風を切ってドクオの左腕に直撃し、ドクオを一歩よろめかせた。
(;'A`)「おッ……!」
エクストとの戦いにおいて、この時初めて脅威を覚える。
大して体も鍛えておらず、実際戦ってみてもそこまで強くない奴だと思っていただけに、
エクストが一瞬で成長した事に驚きを隠せない。
それがドクオの対応を遅らせた。そのとき既に、エクストの追撃が始まっていた。
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エクストの脚が防御をすり抜け、ドクオの顔面に鋭く飛んでゆく。
ドクオは上体を大きくそらし、脚の軌道上から素早く離脱した。
装甲によって攻防共に強化されたエクストの蹴りが、ギリギリ顎先を掠める。
(;'A`)「チッ!」
エクストの脚が引き下がろうとした瞬間、ドクオはその脚を掴み取り、力任せにエクストを放り投げた。
エクストは空中で体勢を整え、少し離れたところに綺麗に着地してみせた。
ドクオは体勢を戻し、額の汗をぬぐう。
(;'A`)(そうだよ、コイツこういう奴だった……)
(;'A`)(人のこと煽ってはすぐ開き直る、喧嘩したがりな奴だった……)
だが、そっちの方が見慣れてて相手しやすい。
ドクオは昔を思い出して笑い、そして背中の撃鉄に意識を集中した。
('A`)(『撃動のドラゴンブロウ』……)
('A`)(……)
('A`)(やっぱり叫ぶのは恥ずかしいな……)
背中の撃鉄がガキンと音を立て、羽のように広がる。
そして、起き上がった撃鉄から光が――
('A`)(……お?)
――光は、まったく出てこなかった。
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(;'A`)「ちょッ……!」
カーチャンと戦った時にはあった光の噴出が不発に終わる。
しかし予想外の事態に手間取っている暇は無い。特に今はエクストから目を離す訳にはいかなかった。
数瞬後、エクストの脚が肉体の寸前にまで来ていた。
目を離してはいけないという自戒がなければ、ドクオはこれに直撃していた。
ドクオは後ろへ軽く跳躍し、エクストの蹴りを回避する。
(#'A`)(ないなら無いで戦う!)
蹴りはリーチと威力については殴る以上に強い攻撃方法だが、とうぜん相応の弱点がある。
蹴りの弱点とは、体重を支えるのが片足だけでバランスを崩しやすいのと、連続して出すのが難しいという事。
そして何より、次の一撃を出すにはどうしても“脚を引く”という大きな動作をせざるをえない事だ。
ドクオは、エクストが脚を引くのに合わせて前に出た。
素早く二回、エクストの顔面を右拳で殴る。
顔面の痛みもそのままに、エクストは即座に膝を突き上げてドクオを追い払った。
<_#プー゚)フ(顔面容赦無しかっ!)
エクストは大きく後ろに跳んで距離をとった。
鼻から垂れてきた血を親指で乱雑に拭い、一旦頭を落ち着かせる。
<_#プー゚)フ(俺の戦闘経験は多対一ばっかりだ。戦うにしても、俺にはいつも味方が居た……)
<_#プー゚)フ(タイマン勝負はアイツのが慣れてる。ムカつくけど本当の事だ)
<_#プー゚)フ(けっこうマジの蹴りも見切られちまった。
当てるには……陽動? とかなんか頭良い事しねえとだよな……)
<_プー゚)フ(……でも、今日の俺は止まらない。考え事は俺の足を引っ張るだけだ)
<_フー )フ(……だったら、結論なんかこれしかねぇ……)
エクストは、ペンライトから更に光を吸収した。
全身に力がみなぎり、超能力が次の段階へとシフトする。
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<_;フー )フ(『今よりもっと生き急ぐ』。今の俺には速さが足りない……)
<_;フー )フ(嫌なこと全部思い出して、焦りまくって余裕なくして……。
そうすりゃ俺はもっと速くなる……そういう能力なんだろ……)
<_;プー゚)フ(……笑えるぜ。今じゃ俺の方が死に急いでやがる)
<_;プー゚)フ(でもまぁ……例えそうでも、この決着だけはつける……)
崩壊しようとする装甲を気力で維持しながら、エクストは歩を進めた。
ドクオも身構え、次の攻防を頭の中で想定し始める。
やがて両者の間合いが10メートルを切ろうとしたその時、
(;'A`)「!」
エクストがドクオの視界から消えた。
途端、ドクオのみぞおちに堪らない激痛が走った。
ドクオは反射的に視線を落としてその正体を確かめた。エクストの足が、深々とみぞおちを穿っていた。
(; A )(コイツまた強く――速くッ――!)
ドクオは弾けるように後方へと蹴り飛ばされた。
地面を何度も跳ね、しばらく地面を転がり続ける。
町から大きく離れた場所まで飛ばされたドクオはすぐに起きて構え直した。
エクストはその隙に加速して接近し、ドクオを空中に蹴り上げる。
<_#フー )フ「この程度かよ!!」
エクストは両手を地面につけると、タイミングを見切って両脚の力を爆発させた。
すると彼の姿は一瞬でその場から消え、そこには少しの砂煙だけが取り残された。
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<_#フー )フ「この程度で向こう側に楯突いてんのか、テメェは!!」
<_#プД゚)フ「向こう側の連中はこんなモンじゃねえ!
これじゃあクールさんを助けるどころか、テメェの命すら守れねぇぞ!」
空に上がったエクストは一段と加速し、ドクオの腹を蹴り貫いた。
(; A )(致命傷だけは受け流すッ――!)
脚が肉体に風穴を開ける寸前、ドクオは反射的に体を大きくねじり、エクストの攻撃を別方向に誘導した。
エクストの脚が血肉をえぐり、皮膚表面を削りながら体を過ぎていく。
ドクオは下腹部から肩にかけて大きな傷を負ったが、即戦闘不能になる事だけは回避してみせた。
(; A゚)(――来た!)
攻撃を受けた直後、ドクオは背の撃鉄に充足感を覚えた。
次いでドクオは受身をとって地面に着地し、、すぐに空を見上げてエクストを目視した。
エクストは片足を突き出した姿勢で、ドクオに向かって真っ直ぐ落ちてきていた。
安直なキックだが、加速に加速を重ねたその一撃は十分な威力を誇っている。
(# A )「何がこの程度だッ……!!」
怒号を上げ、ドクオは拳を振り上げた。
(# A゚)「撃動のォォォォッ!!」
背の撃鉄から光が噴出し、生み出された力が彼の拳を後押しする。
エクストの蹴りが来る一瞬を予測し、ドクオはその瞬間に拳を打ち出した。
だが、ドクオの渾身の一撃は空を裂くだけに終わった。
<_#フー )フ「だからッ……!」
エクストはドクオの背後で舌打ち、加速した。
ドクオの背中に強烈な回し蹴りを直撃させ、またもドクオを遠くへと蹴り飛ばす。
<_#プー゚)フ「いい加減気付け! 真正面から戦って勝てる相手じゃねえんだよ!
お前は昔からバカ正直すぎる! ちったあマシになったみたいだが……」
<_#プー゚)フ「……だがまだ足りねぇ! 足りねぇぞ!」
(# A )「今更偉そうに高括ってんじゃねえェェェェェェェッ!!」
蹴り飛ばされたドクオは光の噴出によって勢いを殺すと、反転してエクストに飛び掛っていった。
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<_#フー )フ「言った傍からッ……!」
エクストは片足を上げ、真ん前に飛び込んできたドクオを難なく蹴り返した。
その一瞬の間に、ドクオの体には無数の蹴りが叩き込まれていた。
(;゚A゚)(……クソッ……!)
背の撃鉄は、ドクオが地面に倒れゆくと同時に、静かに光の噴出を止めた。
<_#プー゚)フ「……これが数年鍛えたお前の強さかよ……」
傷口から大量に流れ出る血液、多数の打撲、三半規管の混乱。
そんな状態のまま全力を出したのも重なり、ドクオの体は既に限界を迎えていた。
超能力が肉体にかける負担は大きい。
考え無しに使えばこうなると、ドクオ自身も理解していた筈だった。
しかしドクオにとって、エクストとは我を忘れて戦ってしまう程の相手なのだ。
ドクオはここまで、全くと言っていいほど戦いに集中していなかった。
過去の後悔が永遠に生み出し続ける怒りと憎しみに頭を支配され、ドクオは考える事を止めていたのだ。
それこそが、今の状況を作り上げた最大の理由だった。
<_#プー゚)フ「中途半端な力だ、何の意味もねえ」
そう言った途端、脚の装甲に亀裂が走る。
間もなく訪れる離別の時を予感し、エクストは超能力に最後の発破をかけた。
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<_#プー゚)フ「立て!」
エクストは大手を振ってドクオを怒鳴りつけた。
<_#プー゚)フ「お前が今までどうやって生きてきたかは知らねぇが、
弱いお前なりに、背負ったモンがあるんだろうが!」
<_#プー゚)フ「今のお前はそれを全部捨てて這い蹲ってんだぞ!
立って敵に立ち向かえ! でなきゃっ……」
(; A )「……うるせぇな……立ち上がれねぇとでも思ってんのか……」
ドクオは片膝に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
口内に溜まった血反吐を地面に吐き捨て、乱雑に口元を拭う。
(; A )(……慣れてんだよ、こんな状況)
(; A )(誰かに勝てた覚えなんざありゃしねえ。いつもズタボロ、相打ちぐらいが関の山だ……)
(; A )(そんで今日もこの通り。自分が雑魚なの忘れて、調子に乗ったら大事故だ……)
ドクオは自分を戒めながら、光を吸収してマグナムブロウを補強した。
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――ドクオは思い出していた。
確かめる為の力……昔の俺は、多分そんなものを求めていた。
しかし今でこそ思う。そんな力では、目の前の現実を何も変えられないのだと。
(; A )(……エクストの言った通りだ。俺は、中途半端だった……)
(; A )(……戦うのを正当化したいだけだったのか、俺は……)
ドクオは装甲に覆われた左手を見下ろした。
(;'A`)(俺は……そもそも戦うのが好きじゃなかった。
ガキの頃のエクストとの喧嘩だって、口ばっかりで本気ではやらなかった……)
(;'A`)(殴るのも人を殺すのも嫌だ。
だから暴力に理由をつけて、自分は間違ってないと思い込みたかった……)
(;'A`)(今もそうだ。俺はまだ、この戦いを人のせいにしようとしている……)
(;'A`)(俺の戦いは、俺が原因なんだ。誰かの為に戦おうが、全部自分一人の責任だ……)
ドクオは拳を作り、奥歯を噛み締めた。
(;'A`)(だったら俺は……自分の為にだけ戦う。自分の為に人を傷つける。
最初から何かの、誰かのせいにしちゃいけなかったんだ……)
(;'A`)(……俺は、俺の意思で、俺の為にクーを助け出して……)
('A`)(……親友を……)
.
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平常心を取り戻したドクオはエクストに目を向けた。
そこでようやく、ドクオはエクストの脚部に違和感を覚えた。
('A`)「……」
エクストの脚に具現化された超能力。
その能力は既に限界を迎えており、崩壊と具現化を繰り返しながら形状を保っていた。
<_#プー゚)フ「……だからどうした」
ドクオの視線に気付いたのか、エクストは強く反発した。
<_#プー゚)フ「俺がもう戦えないんだと思うんなら、どうするんだ?
俺はまだやる。たとえ何があってもな……」
('A`)「……お前は敵だ。昔、どれだけ、何があったとしても、今のお前は敵だ」
('A`)「敵は倒す。一人残らず。……中途半端な考え方はもう止めだ」
ドクオは身構え、ペンライトに残された全ての光を吸収し、意識を集中した。
意識が透き通り、心が闘争心に染まってゆくと、彼の背中には新たな撃鉄が具現化し始めていた。
.
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背の右側、一つ目の撃鉄の真下に具現化した第二の撃鉄。
それは白と黒が中途半端に混ざり合った、曖昧な灰色をしていた。
一つ目が重厚な金属らしくあっただけに、この撃鉄はドクオには似合わない異質な雰囲気を漂わせていた。
('A`)「……自分の為に人も物も傷つける。
そうしなきゃアイツを助けられないなら、俺はもう、それでいい」
('A`)「正しさでアイツを救えないなら、俺はもう、悪でいい」
その時、二つ目の撃鉄が落ちて金属音を響かせた。
('A`)「……」
('A`)(……そうか、俺は……)
.
-
('A`)(俺自身の正しさを踏み躙ってでも、クーを自分の物にしたいのか――)
.
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≪5≫
(´・_ゝ・`)「――御厚意に感謝します」
(゜д゜@ 「そんなんじゃありませんよ、久し振りに賑わってくれて嬉しいです」
枕元に二人の声があった。
エクストが次に目覚めたのは夜、町の掘っ立て小屋の中だった。
(´・_ゝ・`)「……と、遅いお目覚めだな」
デミタスがエクストの顔を覗き込む。
エクストは布団から体を起こし、外が真っ暗闇であることを確認した。
そして、もう全てが終わった後なのだと自覚する。今更、その事を理解する。
<_プー゚)フ「……俺は、どうなったんですか」
そう聞きながら、エクストは戦いの記憶を掘り起こしていた。
戦いの記憶が徐々に蘇っていく――それにつれて、エクストの精神は活力を失っていった。
ドクオとの戦いは実に呆気なく、単なる実力差だけを理由にして決着した。
だからこそ、それは変えようの無い残酷な現実だった。
根拠のない自信だけで生きているような人間には、この現実が酷く傷口に染みる。
.
-
(´・_ゝ・`)「強かっただろ、一人でこっちに攻め込んでくるだけはある」
<_フ− )フ「……」
(´・_ゝ・`)「……エクスト、お前は弱い。弱いなりに、今までよくやった」
<_フ− )フ「俺は……お払い箱ですか……」
(´・_ゝ・`)「使えない雑魚は置いていく。そう、使えない雑魚はな。
まだ自分に利用価値があると思うなら、話は別だが……」
デミタスは立ち上がり、おばちゃんに会釈をしてから小屋の戸に歩き始めた。
(´・_ゝ・`)「明日にはここを発つ。ここに残るかどうかは勝手にしろ」
(´・_ゝ・`)「……お前は一度、自分自身を裏切ってこの町を出た。
もしもまた町を出るつもりなら、その時は別のものを切り捨てて来い」
(´・_ゝ・`)「中途半端に責任負って走り出すような真似は、もう二度とするなよ」
(´・_ゝ・`)「……ゆっくりしろ。本当にな。
ドクオの事は任せておけ、殺しはしない……お前はよくやった」
デミタスは背を向けたまま手を振り、外に出て行った。
.
-
(゜д゜@ 「……今日は良い日だ。待ち人が二人も来てくれた」
おばちゃんはデミタスを見送ると、微笑んでエクストに話し掛けた。
(゜д゜@ 「ここでの生き方は覚えてるだろう。なんでも好きに使いな」
<_フ− )フ「……ああ」
エクストの返事は空虚だった。
今まで取り繕っていた虚勢が敗北によって剥がれ落ちた今、彼を現実から守るものはない。
ドクオのため、素直クールのため――それが嘘だったわけではない。
確かに当初のエクストは素直クールの為に様々な考えを馳せていた。
だがそれは時間の経過によって変化した。向こう側での生活が、彼の決意を少しずつ鈍らせていったのだ。
最初でこそ大義名分、しかし今は“成り上がり”の口実に過ぎない。
それを自覚した時、エクストはその現実を都合よく塗り替えてしまった。
行動を先延ばしにして現状を正当化し、最終的にどうにかなればいいという無責任な希望に、思考を停止させたのだ。
そして今日の敗北は、自分で動く事をやめ、他人に従い続ける道を選んだ男の末路だ。
言い訳の余地は無い。自分の行動が招いた結果は、他の誰のせいにも出来ないのだ。
もしもそれすら人のせいにしてしまったら、その人はもう、自分を理由にして動けない。
他人に依存しきった考えでしか生きられなくなってしまう。
成功すれば人の為でしたと言って褒められたがり、失敗すれば人のせいにして現実から目を背ける。
そんなバカ丸出しのバカになる。
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-
<_フ− )フ「……やっぱりか」
(゜д゜@ 「……何がだい?」
<_フー )フ「……超能力、消えてら」
エクストは先程から超能力を発動しようとしていた。
しかし天井に吊るされた裸電球に変化はない。電球は十分に光り続けていた。
<_フー )フ「……しばらく世話になるよ。一人で頑張る時間が要るみたいだ」
<_フー )フ「早くドクオの後を追っかけねえとな……」
(゜д゜@ 「……エクスト、あんたの脚は……」
<_プー゚)フ「分かってる。分かった上で言ってるんだ」
笑顔を取り戻したエクストは、涙を滲ませた目でおばちゃんを見た。
次いで自分の両脚の付け根をポンと叩き、
<_プー゚)フ「脚がなくても、俺はドクオを追っていくよ」
<_プー゚)フ「今度こそ、歩くような速さで……」
完全に消し飛ばされた両脚に思いを馳せながら、そう言って笑った。
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( ゚д゚ )「……」
('A`)「……」
互いに互いを探して歩き、夜になってやっと巡り合った二人。
見た目は揃ってボロボロで、かたや視力を喪失し、かたや返り血で真っ赤に染まっている。
ドクオにとって唯一の救いは、見るに耐えない今の姿を誰にも見られない事だった。
( ゚д゚ )「……目をやられた。何も見えん。腕も上手く動かん」
('A`)「……次は武器の補充だ。バーボンまでちょっと遠いけど、歩けるよな」
( ゚д゚ )「肩貸せ。それか手をつなげ」
(;'A`)「肩貸すよ……」
傷だらけの二人は肩を組み、レムナントの荒野を歩き出した。
( ゚д゚ )「……色々あったみたいだな」
('A`)「……」
( ゚д゚ )「俺もだ。正直、今は自分に自信がない……」
('A`)「……歩こうぜ。今は、話せる気分じゃないんだ……」
沈黙だけが二人を繋ぎ止めたまま、夜は、段々と更けていく。
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1〜15話 >>2
第十六話 仲間を求めて >>6-24
第十七話 Waste Land >>33-71
第十八話 限りある世界 >>89-134
次回の投下は来年を予定しています
オマケは投下予告の時に
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乙。
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おつおつ
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クソっリアルタイムで支援しようと思ってたのに出来なかった
乙!!!!!
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乙!
ほんと面白い!
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ら、らいねん?
読み返せるne!
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ライバル戦は熱いね おつ
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デミタスつっええな
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能力バトルもの
好き
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今週投下
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待ってました!!!!!
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ドクオのしぶとい生き様や熱い展開大好き
期待してます
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こいやぁ!投下こいやぁ!!!
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除夜の鐘を聞きながら全裸待機
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≪1≫
「お嬢さん、あんたも変な人だぜ」
店に居るたった一人の客を相手に、酒場・バーボンの経営者である大男はそう言った。
綺麗に磨いたグラスにワインを注ぎ、それをカウンター席の女性に差し出す。
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう。そういう貴方は……普通の人みたいね」
優しく笑い、彼女は大男からグラスを受け取った。
ふくよかな下唇にグラスの縁を乗せ、口の中へワインを送っていく。
大した味ではなかったが、彼女は処世術に基づき、満足そうな表情を作って見せた。
「こんな店をやってるから堅気に見えたか? これでも、こないだまで牢屋の中だったんだぜ?」
ミセ*゚ー゚)リ「あら、どうして」
「向こう側に歯向かったんだ。言いたかないが、ザマァないって奴だ」
ミセ*゚ー゚)リ「……どうして、その牢屋を出られたんです?」
聞かれると、大男はニヤリと頬を弛ませた。
「つえぇ奴が出てきたのさ。まさか看守長までブッ倒すとは思わなかったけどな」
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-
( A )「オウッフ……」
その時、スウィングドアが軋みながら開き、一人の男がフラつきながら店に入ってきた。
途端、男は糸が切れたように床に落ち、そのまま微動だにせず沈黙した。
「……ドクオか……?」
大男は訝しげに眉間をすぼませ、ドクオらしきそれに近づいた。
それは不細工なドクオだった。
大男は床に倒れたドクオをひっくり返し、彼の頬を叩いた。
「おい、ドクオ! お前ドクオだろ!?」
(゚A゚) ※連戦、長距離移動から来る疲労困憊、筋肉痛
それから程なくして、更にもう一人が店に入ってきた。
大男が顔を上げると、ちょうど二人目の男が床に落ちていく所だった。
( ゙゚Д゙゚)「カッハァ……」
( ゙゚Д゙゚) ※毒物による体調不良、貧血、しかも目が見えない
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揃いも揃ってズタボロの二人を見回し、大男は参ったと言わんばかりに頭をかいた。
「……どういうこったよ……」
ミセ*゚ー゚)リ「……大変そうね」
騒々しくなった背後をよそに、彼女は静かにグラスを揺らした。
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目的地の酒場に到着したドクオとミルナは、その日を丸々休日とした。
二人のズタボロっぷりを見かねた大男もそれを認め、しばらく店に居付いていいと言ってくれた。
武器は地下倉庫にたっぷり用意してあるらしく、ダディとの待ち合わせにもまだ時間がある。
ドクオは今日からの数日間を休息に当て、万全の体制を作るために使おうと考えた。
ミルナもそれに賛成しており、二人のちょっとした旅はこれで呆気なく終わった事になる。
('A`)「……」
ドクオは店先の岩に座り、ぼんやりと空を眺めていた。
微弱な風を全身で感じ取りながら、雲の動きを目で追い続ける。
たまに足元を変な虫が通り過ぎていく。そいつに息を吹きかけて遊んだりもする。
大きな欠伸もするし、かゆい所があれば即ポリポリしていく。
('A`)「……ハァ」
ドクオはそんな動作をして思考を誤魔化し続けていたが、
彼は自分がエクストの両脚を千切り、消し炭に変えてしまった現実を受け止めきれずにいた。
能力者同士が戦うのは銃と銃を向け合うのとなんら変わりない。
どちらかが“その気”になれば、その時点から戦いは現実の殺し合いに発展する。
死んだ方が負けという現実が始まれば、超能力は単なる人殺しの道具になってしまう。
エクストとの戦いを経てそれを実感したドクオは、感情に任せて拳を振るった事を深く後悔していた。
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-
「なんだよ、死人みてぇなツラしやがって」
店から出てきた大男はそう言い、ドクオが座る岩の隣に来た。
('A`)「死んだように生きてりゃこうなる」
「……器用だな、俺には出来ねぇ」
大男は肩を竦めて言い返すと、ドクオに新しいシャツを放り投げた。
それは白い半袖シャツだったが、今ドクオが着ている返り血まみれのシャツよりは幾分か上等だった。
ドクオは大男に礼を言い、さっさと服を着替えた。
「あの男、目が見えてないな」
('A`)「らしい」
「かたや視力無し、かたや血塗れか……」
大男は肩を落として言った。
「ま、俺には関係無いから事情は聞かん。だが、この店に厄介な客が来るのは御免だぜ」
('A`)「……来ないと思う」
「……どうしてそう思う?」
('A`)「あっちは制圧作戦の為に戦力を集めてるんだ。
それをわざわざ分散するような真似はしないだろ」
「……確かに。お前意外と冷静だな」
('A`)「自分でもビックリだよ」
.
-
ドクオは呆然としたまま、大きな間を置いてから尋ねた。
('A`)「なあ、あんた、人殺しの経験はあるか?」
「……そういう奴じゃなきゃ監獄には入ってねえ」
そう答えると、大男は地面に腰を下ろした。
「変な事を聞くんだな。お前、ここがどういう場所か知ってんのか?」
('A`)「掃き溜めだろ」
「……違いねえが、それは向こう側の人間のセリフだな。
ここは人殺しも強盗もある、ただの無法地帯だ。金と力がありゃ不自由は無い、そんな場所だ。
目に見える自然は確かに綺麗に見えるが、その上に生きる俺達はゴミクズの極み。そうだろ?」
('A`)「……そうだな。忘れてた」
('A`)「……俺はそういう人間だったな」
「……そう意味深な事を言われても分かんねぇぞ。喋るんなら分かりやすく、だ」
ドクオは困ったように両手をあげた大男を見て微笑み、すぐに表情を戻した。
('A`)「親友だった奴がいるんだ」
ドクオは、躊躇いなく先日のことを口走った。
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-
('A`)「昨日、そいつの両脚を俺が潰した。
服の返り血はそいつの血だ」
('A`)「……初めて人を殺そうと思った。だから少し思い詰めてたんだ」
('A`)「でもまぁ、それも開き直れた。今はメシを食いたい」
「……メシか? そいつぁ分かりやすっ――」
その時、大男の言葉を遮って大きな物音が轟いた。店の中からだった。
二人は一瞬目配せし、すぐに立ち上がって駆け出した。
.
-
≪2≫
店内では、ミルナと一人の女性が相対していた。
ミルナは拳を固めて立ち上がっており、女性の方は椅子に掛けたまま落ち着いている。
二人の間にあったテーブルは粉々に粉砕されており、今はもう跡形も無い。
テーブルを破壊した際の余波なのか、周囲のテーブルも方々に吹き飛んでいた。
ミセ*゚ー゚)リ「……激しいのが好きなの?」
(#゚д゚ )「……黙れクソ女。この場で殺すぞ」」
女性はグラスに残ったワインを飲み干し、グラスを空中にそっと置いた。
本来なら重力に従って床に落ちるはずのグラスは、そのまま空中に静止して落ちなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「私は利口な生き方を提案しただけ。
目的の為なら人殺しだって厭わない、そういう生き方をね」
(#゚д゚ )「それはお前みたいな根っからの悪人の生き方だ。
俺は俺自身の正義を捻じ曲げてまで、自分の為に生きようとは思わない」
ミセ*゚ー゚)リ「だったらこう言えば貴方は悩むのかしら。
その生き方でどれだけの人を救い、一方でどれだけの人を苦しめ、殺してきたの?」
ミルナは、何も言い返せなかった。
彼女は口元に手を当てて小さく笑い、ミルナを上目遣いで見つめた。
.
-
ミセ*゚ー゚)リ「長生きしててもお子様なのね。
今時、そういう人は沢山居るけれど」
( ゚д゚ )「……お前も同類だろうが」
精一杯の反抗心を言葉にして吐き出す。
しかし彼女は物ともせず、ミルナの台詞を否定した。
ミセ*゚ー゚)リ「私は大人よ? ちゃんとした大人の女性。
少なくとも貴方ほど他人に依存してないし、自立してるの」
( ゚д゚ )「孤立の間違いだ」
ミセ*゚ー゚)リ「それでも構わないわ。何か問題ある?」
彼女は言い切った。
ミセ*゚ー゚)リ「私は私一人で私の為に生きている。
楽しい事、嬉しい事の為に生きている。私はね、これで幸せなの」
ミセ*゚ー゚)リ「楽しい事の内容に問題があるとか言わないでよ?
これは単なる個人的な人生観なんだから。世の中のアレコレなんか知らないわ」
(#゚д゚ )「そんな勝手――ッ!」
ミセ*゚ー゚)リ「――間違ってるってね、よく言われてたわ」
ミセリは口元に人差し指を立て、静かに呟いた。
.
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ミセ*゚ー゚)リ「でもね、そう言って私を否定した人達は、誰も私に戦いを挑まなかったわ」
ミセ*゚ー゚)リ「私が悪いと思うなら殺しに来ればいい。裁けばいい。
大なり小なり超能力者が居るんだから、大勢で私を嬲り殺せばいいと思った」
ミセ*゚ー゚)リ「しかし彼らはそうしなかった。私はしばらくして気付いたわ。
彼らはね、私を利用して自分の立ち位置をアピールしたかったのよ」
ミセ*゚ー゚)リ「正義と悪の構図がね、欲しかっただけなの」
ミセ*゚ー゚)リ「彼らはね、『悪に立ち向かう正義の僕私』を演出して、利益を上げようとしたの」
そこまでを言い、彼女はカウンターに置きっ放しだったワインボトルに視線を送った。
するとボトルは宙に浮かび、彼女が空中に置いたグラスに近づいてワインを注いだ。
彼女はグラスを持ってワインを煽り、口を開いた。
ミセ*゚ー゚)リ「話が逸れたけど、私が言いたい事は一つだけ」
ミセ*゚ー゚)リ「ミルナさん、貴方は元の世界に帰りたいんでしょう?
その為に必要なものは準備出来ているわ。足りないものは、あと貴方だけ」
( ゚д゚ )「……目的が手段を正当化する。大義名分があれば、大悪党も正義の味方だ」
ミセリは背筋を正して言った。
ミセ*゚ー゚)リ「……そうね。私達という集団は完全完璧な『黒』よ。
およそ悪と言うに相応しい、そんな悪者達の集まりだわ」
ミセ*゚ー゚)リ「しかしそんな黒でさえ、tanasinnの前では純白のように光り輝く。
それを知らない貴方ではないでしょう?」
ミセ*゚ー゚)リ「それに……別に初めてって訳でもないんでしょう?
tanasinnを倒す為に他人を使い捨てるなんて、今までの世界ではよくやってたらしいけど?」
ミセ*゚ー゚)リ「言っておくけど、あなた、私なんかよりよっぽど多くの人を殺してるんだからね?」
.
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( ゚д゚ )「……俺は……」
ミセリの問い掛けは、ミルナにとっては古傷を抉られるようなものであった。
仲間を集め、力を蓄え、決戦に挑み、すべてを失う。
そんな経験を何度もしている内に鈍化していった心ですら、後ろめたい自覚はあったのだ。
tanasinnに勝てる見込みなど無い筈なのに、俺達なら勝てると嘘を吐いて味方を鼓舞する。
心からミルナを信用し、彼の宿命に怒りと同情を覚えるような仲間達ですら、
世界が変わればミルナは彼らの存在を忘れ、次の世界に適応していく。
ただ心臓を動かして生きているだけだった。
それだけで、他人という存在の価値がどんどん下がっていく気がした。
命の価値が分からなくなった。やがて、仲間が死んだ所で何も思わなくなった。
( ゚д゚ )「俺は……」
――結局のところ、ミルナは他人を利用し、その場凌ぎをしていたに過ぎなかった。
思考を停止し、『仲間達との友情演劇』の為に同じ事を繰り返していたに過ぎない。
精神の安寧を欲するあまり、彼は目的を見失って一時の安らぎを追ってしまっていた。
tanasinnを倒して元の世界を取り戻すという、大義名分と言っても余りある正義の言い分が、
その重荷が、彼という人間を少しずつ現実から遠ざけていったのだ。
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ミセ*゚ー゚)リ「ずばり、自信がないんでしょ」
彼女はミルナを指差し、にんまりと笑った。
ミセ*゚ー゚)リ「あの仲間達と過ごした時間は紛い物だったのか?
俺は本当にあいつらを信用していたのか?
一般人を死地に送り込むような真似をしたのに、俺はまだ正しさを語れるのか……」
席を立ち、彼女はミルナから離れていった。
そうして少し距離を取ると、彼女はくるりと体を翻してミルナを見直した。
ミセ*゚ー゚)リ「……考える時間は山ほどあったでしょう?
もう答えは出てるんじゃないかしら。どうであれ、何であれ」
やがて、彼女の背後に暗闇よりも黒いものが渦巻き始めた。
彼女はミルナと目を合わせたまま、黒い渦の中に一歩踏み入った。
黒い渦は、少しずつ彼女の体を包んでいく。
ミセ*゚ー゚)リ「人生には数多くの決着が必要である。
前に進む為ではなく、過去を過去に留めておく為に」
ミセ*゚ー゚)リ「私の名言よ。今思いついたの。良ければ覚えておいて」
黒い渦は彼女の全身を飲み込むと、ふわっと周囲に霧散して消滅した。
次の瞬間には、彼女はもう、どこにも存在していなかった。
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≪3≫
(;'A`)「どんだけ派手にすっ転んだんだよ……」
テーブルと椅子がめちゃくちゃに吹き飛んだ店内を掃除しながら、ドクオはミルナを一瞥する。
ミルナは椅子に座り、光を失った目でどこか遠くを眺めていた。
( ゚д゚ )「仕方ないだろ。そういう事もある」
('A`)「……お前の目、もう見えないままなのかな」
( ゚д゚ )「……直そうと思えば直せる。しかし面倒だからな、自然に治るのを待つ」
(;'A`)「自然に治るなら、まあいいんだけどさ……」
ドクオはミルナの前に椅子を置き、そこに腰を下ろした。
('A`)「これから先も一緒に来るなら荒事だってあるんだぜ、大丈夫かよ」
( ゚д゚ )「……分からん。俺の中にあった自信は、ここ数日でかなり粉々だ」
('A`)「……そういやリハビリとか言ってたよな。どうする?」
( ゚д゚ )「……分からん」
ミルナは同じことを繰り返してドクオをあしらい、目をそらした。
歯切れの悪い言葉が連続したせいか、場の空気がずんと重くなる。
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( ゚д゚ )「……そういえば、お前も故郷で何かあったんだろ?
血の臭いくらいは分かる。お前こそ大丈夫なのか」
('A`)「……大丈夫だよ。ちょっと現実見ただけだ」
('A`)「気分は悪いけど、仕方ねえと思ってる。
自分がどういう人間だったかやっと思い出した……そんだけ」
( ゚д゚ )「……なあ、ドクオ」
ミルナは音を頼りにドクオの方を向いた。
( ゚д゚ )「お前には、何をしてでも帰りたい場所があるか?」
('A`)「……ある。今もその場所を目指してる」
( ゚д゚ )「……そうか。俺は今でも道に迷っている。
帰る場所も分からないまま、ずっとだ」
互いに目をそらしたまま、二人はしばらく口を閉ざした。
その最中、二人は沈黙しながら真逆の事を考えていた。
('A`)(帰れるなんて思ってねえ。これはただの夢だ、分かってる……)
( ゚д゚ )(tanasinnさえ倒せれば可能性はあるが、その為には……俺はまた……)
一人は夢が夢であると自覚し、一人は自分の夢を信じようとしていた。
それは、この二人の決別を意味していた。
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( ゚д゚ )「……なあ、ドクオ」
( ゚д゚ )「……俺は元の世界に帰りたい。帰って何がしたいって訳じゃない。
どうせ死ぬなら、見慣れたあの世で死にたいんだ」
('A`)「……帰る手段は」
( ゚д゚ )「……ある」
('A`)「……じゃあやればいい。お前の好きにすればいい。
俺は知ったこっちゃないからな、無責任にそう言うぜ」
ドクオは表情を曇らせ、さらに続けた。
('A`)「例えそれで、自分自身の正しさを踏み躙ってもだ。
人に恨まれたって、責められたって成し遂げたい事があるなら、それはもう 『なる』 しかないんだ」
( ゚д゚ )「……なる? 何にだ?」
('A`)「悪者にだよ。そう呼ばれる覚悟をして、間違った事をするしかない。
間違った事をしないとどうしようもない人間なら、もう諦めてやるしかねぇんだ」
ドクオは嘲笑し、さらに付け加えた。
('A`)「……俺は悪者だ。社会の正しさの手には負えねえ、社会不適合者のゴミクズだ。
俺はもう、それでいいって決めた。これで結構気が楽だ」
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(;゚д゚ )「それはっ……!」
途端、ミルナは声を張り上げた。
(;゚д゚ )「それはただの身勝手じゃないのか!?
悪者になるしかないって……そんなの……」
狼狽した彼とは反対に、ドクオは冷たい表情のまま答える。
('A`)「身勝手だろうな。でも 『だから何だ、それがどうした』 だ。
俺は元々こんな世界は大ッ嫌いでな、今更誰に何言われようが知らねぇんだ」
('A`)「俺は女一人を取り返せればそれでいい。他の全部は、もういいんだ」
('A`)「……俺はそういう身勝手な開き直り方をした。
そりゃあ何をするにしたって、最低限の常識は守るけどな」
(;゚д゚ )(……俺には分からない。お前は、そんな簡単に他人を切り捨てられるのか?)
ドクオを否定するその言葉は、思った直後に自分に跳ね返ってきた。
過去の行いを思い返せば、ミルナはドクオよりよっぽど多くの悪事をこなしてきた。
より多くの他人を切り捨ててきた。より多くの現実から目をそらしてきた。
人を責められるほど俺は上等な人間じゃない。
そう思えば思うだけ、ミルナは『正義』としての自分の考えを肯定できなくなっていった。
結果を伴わない綺麗事は世迷言だ。
そんな事は分かっていた。分かっていたからこそ、彼は現実を直視することができなかった。
思い描いた綺麗事とは真逆の、罪悪と失敗だけが積み上げられた今という現実を。
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改めて外に出てきた今、ミルナは選択をしなければならない。
それは至極単純な話、戦うか戦わないかの二択である。
tanasinnと関わり、もうこの世界と無関係ではいられない彼は、このどちらかを選ぶ義務がある。
もちろん義務を放棄して死ぬのも一つだ。
荒巻に頼めば彼は快くミルナを殺し、かくしてミルナは全ての義務から解放されるだろう。
だが、それでは駄目だとミルナは思う。
( ゚д゚ )(……死ねば楽になるなんて、それこそ一番最初に考えた)
( ゚д゚ )(死ぬのは別にいい。ただ、何も成し遂げられないまま死ぬのは――)
('A`)「――おい、大丈夫か?」
ドクオに声を掛けられると、ミルナはハッとして顔を上げた。
駆け巡った考えが急停止し、彼はドクオの存在を思い出す。
('A`)「……さっき聞いたんだけどさ、地下の武器庫を寝床にしていいって。
雑用はやっとくから休めよ。顔色悪いぜ」
( ゚д゚ )「……」
( ゚д゚ )「……すまん。先に寝る。
だがそういうお前も万全じゃないんだ、早めに切り上げろよ」
(;'A`)「お前が散らかしたんだろうがッ」
そう言ってミルナが席を立つと、彼の目の代わりをするべく、ドクオも腰を上げた。
ドクオはミルナの手を取り、彼を地下に案内していく。
.
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('∀`)「野郎の手なんか握りたくないんだが?」
( ゚д゚ )「……」
(;'∀`)「……」
おかしな雰囲気を打開するために放ったドクオのボケは全く意味をなさなかった(実際面白くなかった)
変な汗を拭い、喉を鳴らして仕切りなおす。
(;'A`)「明日、お前用の杖でも作ろうぜ。武器にも出来るしな。便利だろ?」
沈黙を誤魔化し、ドクオはぺらぺらと話し始めた。
手を握るという行為によって、ミルナが自分の心を覗き見ている事にも気付かず。
( ゚д゚ )「……心が決まった。もう、大丈夫だ……」
('A`)「……?」
ミルナは独り言のように言い、ドクオはそれを聞き流した。
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レムナントでの諸用を終えた後、ミセリはメシウマ側に移って都内観光を楽しんでいた。
彼女は数多くの店に入り、目に付いたものを一つ残らず買っていった。
荷物は超能力で浮遊させればいいので、彼女の買い物は留まる所を知らなかった。
ミセ;*゚ー゚)リ(……さすがに買い過ぎたか)
荷物の積みあがり具合がそこらへんのビルを超えようとして、ようやく気付く。
彼女は仲間からコピーした瞬間移動能力を発動し、荷物をすべて本拠地にすっ飛ばした。
それと同時に携帯電話が鳴り響く。ミセリは携帯電話を耳に当てた。
「嫌がらせか何かか?」
開口一番の言葉には、明確な怒りが込められていた。
ミセ*゚ー゚)リ「こんにちは。何が?」
「空から女物の服やアクセサリー、家具家電が山のように降ってきたぞ。
つーか何が悲しくて無駄毛処理機を複数買ってんだよお前、アルパカでも飼ってんのか」
ミセ*゚ー゚)リ「……送り先間違えました。ごめんなさい。あと買ったもの見るな」
ミセリも怒った。アルパカは飼っていない。つまりそういう事だった。
「次からは普通に宅配を使え。この量だとダンボール幾つだ?」
ミセ*゚ー゚)リ「それこそ宅配業者への嫌がらせだわ。
荷物は適当に部屋に突っ込んどいて。次は気をつけるから」
ミセリは反省せずに言い、そこで会話を区切った。
.
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歩道の端っこに寄ってから、彼女は本題を語った。
ささやかな監視の目がこちらを向いている。
彼女は監視に対して手を振って応えた。
ミセ*゚ー゚)リ「仕事は終わったわ。一応それなりに煽っておいたけど」
「……それなりか」
電話の相手は不安そうな声色で繰り返した。
ミセ*゚ー゚)リ「あら? 仕事のパートナーが信用できない?」
「人心についてはお前の方が専門だ。お前が駄目なら適役は居ない」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫よ。たとえ数万年数億年生きていようが、人は切欠一つでコロッと変わるわ」
ミセリはゆっくりと、それこそ子供相手に話すように言った。
ミセ*゚ー゚)リ「どこかの先生も、あっという間に変わってしまった事だしね」
「……ぐうの音も出やしねぇ。そうだな、確かに人は変わる」
ミセ*゚ー゚)リ「あのミルナとかいう男、今なら貴方でも圧勝出来るほど弱いわ。
だからこそ彼は変わる。『弱い』という事は、いつか必ず『強くなる』という事なの」
.
-
「……よく分からん、お前の哲学は」
相手の反応は溜め息交じりだった。
「とにかく仕事は終わりだ。さっさと荷物片付けに帰って来い」
ミセ*゚ー゚)リ「ええ、買い物が終わったら帰るわ。あと夕飯、お願い出来ない?」
「うちは当番制で、今日はお前の番。
遅れたら新品のパンツが食卓に並ぶからな。まず黒のひらひらを並べる」
ミセ;*゚ー゚)リ「ちょっと見ないでよ!」
相手は一方的に通話を切った。
ミセリは携帯電話を睨んで「どうしてこうなった」と何度も考え、やがて薄緑のスカートを翻して歩き出した。
とにかく食卓にパンツが並ぶのだけは阻止したいので、彼女は即座に帰る準備に取り掛かった。
ミセ*゚ー゚)リ(……ミルナより、あの子の方が将来有望だったかな)
ミセ*゚ー゚)リ(いつか彼が強くなったら、また会いに――)
ミセ;*゚ー゚)リ「――あれはッ!」
そう思った矢先、彼女は手近にあった宝石店に目を奪われ、そこに駆け寄っていった。
彼女はその後の数時間をもショッピングに使い、メシウマという街をエンジョイしたのだった。
食卓には黒のひらひらパンツと脱毛器具が並んだ。
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第十九話 「ドクオは泥を見た。ミルナは星を見た」
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≪4≫
――ミルナは星を見上げていた。
( ゚д゚ )「……綺麗なもんだな、どの世界でも」
真夜中、夜風を浴びながら、一人。
光を取り戻したミルナは、右手に掴んだ大男の亡骸から目を逸らすように、満天を見続けた。
大男の肉体は黒い霧に変換され、ミルナの右腕に巻きついていく。
やがて大男の全身が霧になって消え失せると、ミルナはようやく自分の右手を見下ろす事が出来た。
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( ゚д゚ )「…………」
言葉を失ったまま、ミルナはしばらくその場に留まった。
人を殺したという罪悪感すら抱けない自分を、彼は冷ややかに自嘲する。
( ゚д゚ )「……こんなもんだったな、人殺しなんて……」
ドクオが居てくれて、何かを取り戻せる気がしていた。
しかしそれも気のせいだった。今のミルナに、そんな気持ちは微塵も無かった。
自分の中に戻りつつあった何かを、ひっそりと、胸のうちで絞め殺す。
こみ上げる感情は途端に息絶え、感情の波もやがて治まった。
ミルナは振り返り、店に帰っていった。
彼が立ち去った後には、大男が居たという痕跡は何一つ残らなかった――
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('(゚∀゚;∩「……あの人、ヤバイんだよ……」
――遠くの岩陰で事の一部始終を見ていたなおるよは、そう囁き、静かに望遠鏡を下ろした。
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1〜15話 >>2
第十六話 仲間を求めて >>6-24
第十七話 Waste Land >>33-71
第十八話 限りある世界 >>89-134
第十九話 ドクオは泥を見た。ミルナは星を見た >>149-173
4〜8月頃まで逃亡します
恐らく今年中に完結出来る可能性が高い予感を感じるので、
年内完結への準備期間と思ってもらえるとGJ部です
頑張って最終回ぐらいまで書き溜めてきます!待て次回!m9(^ω^)('A`)(´・ω・`)9m
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乙!
楽しみにしときます
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おつおつ
ゆっくり待つ
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乙乙! 気長に待ってる
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まだ中盤入ったばかりと思ってたけどもう完結見えてるのか
待ってるおつ
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50話くらいまであるとか言ってなかったっけ
これは休載明ければ怒涛の連投の予感
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乙乙ー
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ドクオとギコの喧嘩以来久々に見たらスクライドやっててワロタ
まだ追い付いてないからこれから楽しみますわ
しかしドクオの「衝撃のー」後の台詞が気になる
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そらもうファーストブリット
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逃亡したか…(スットボケー
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おもしろい
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年内完結は無理です諦めました(^ω^)
6月から再開します よろしくお願いします
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(^ω^)おっ
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終わらせてくれるなら自分のペースで頼んだ
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好きな作品
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うっひょう待ってるぜ
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おいもう6月になったぞ
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今夜投下
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おう
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マジでもう6月だった
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≪1≫
('A`)(……久し振りにまともに寝たな)
酒場・バーボンに来てから一夜が明けた。
ドクオは快晴の空を仰ぎ、大きく体を反り返らせた。
('A`)「しっかし、あの野郎はどこ行ったんだろうな?」
体をほぐしながら、ドクオはミルナに話しかけた。
('A`)「買い出しに行くにしたって、行き先くらい教えろってんだよ」
( ゚д゚ )「おかげでタダ働きしなくて済むんだ。気にするな」
('A`)「……まぁそうだけどさ」
( ゚д゚ )「お喋りは後だ。念願の特訓だぞ、さっさと準備しろ」
ミルナはそう言い、店から持ってきた大型の懐中電灯を点けた。
二人は距離をとってそれぞれ超能力を発動し、静かに拳を構えた。
('A`)「とりあえず軽くな。ラジオ体操気分でやろうぜ」
( ゚д゚ )「分かった。いつでも来い」
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第二十話 「説明をする回」
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半分の力も出さず、二人はしばらく小競り合いを続けた。
それは、互いに相手の癖を観察する為だった。
自覚のない癖を相手に見つけてもらい、それを後で確認し合うのはとても良いと思う。
衣服が汗を吸い、冷たさを覚えるようになった頃合で、二人は一旦動きを止めた。
(;'A`)「どうだった?」
( ゚д゚ )「とりあえず……左腕に意識を割きすぎだな。
動きが強張って攻撃を読み易くなってる」
(;'A`)「……マジか。4月末だと思ったら6月だった時くらい驚いたぜ」
( ゚д゚ )「全体のキレは良いが、なんだろうな……。
簡単に言ってしまえば、超能力に慣れてないんだろうな」
(;'A`)「……だよなぁ」
ドクオは苦笑いを浮かべ、肩を落とした。
(;'A`)「これ、装甲の分だけ重くなるんだよなぁ。
使用者は重さを感じない的なのを期待してたんだけど……」
( ゚д゚ )「そう都合良くは出来てない。
だが重さについては対策がある。一回能力解いて、少しずつ光を吸収してみろ」
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言われた通り、ドクオはゆっくりと超能力を発動しなおした。
( ゚д゚ )「俺の場合、装甲の厚さ重さは発動時の集中力次第だ。
お前の場合なら、きっと取り込んだ光の量でそれが決まるはずだ」
( ゚д゚ )「能力を使う時は光の量を考えろ。丁度良い加減を探っていけ」
('A`)「なるほど。分かった」
( ゚д゚ )「まずは拳だけで具現化してみろ。
適当なグローブを想像すれば上手くいくだろう」
(;'A`)「素人相手に無理言うなよ……」
じわじわと光を吸収しながら、拳だけに意識を集中する。
拳に淡い光が灯り、やや遅れて装甲が具現化し始める。
(;'A`)「……けっこう辛いな……」
( ゚д゚ )「わざと呼吸を止めてるようなもんだからな。慣れるまでは仕方ない」
しばらくして拳が装甲に覆われきったところで、ドクオは光の吸収を打ち切った。
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(;'A`)「まぁ……こんなもん……?」
ドクオは拳を凝視し、装甲がしっかり具現化できているかを確かめた。
指の一本一本を動かした時には不自由もなく、重量もかなり削減出来ていた。
(;゚д゚ )「一発かよ。ふざけんな、もっと苦労しろ」
ミルナは4月末から6月にタイムスリップした時くらい驚いた。
(;'A`)「……いや、これ強度がまったく駄目だ」
しかしドクオは言い返し、地面に向かって左拳を打ちつけた。
拳の装甲は、たったそれだけの衝撃で砕けてボロボロになってしまった。
軽量化には十分成功していたが、これではとても武器防具にはなりえない。
(;'A`)「……まだまだ」
( ゚д゚ )「……これはもう体で覚えるしかない。
加減も、お前なりの落とし所を見つけるんだな」
ミルナは体裁を整え、先輩面して言った。
(;'A`)「あいよ……他に直すとこあったか?」
( ゚д゚ )「ない」
ミルナは断言した。
( ゚д゚ )「俺はお前みたいに修行とかした訳じゃないからな。
諸々の動きはお前の方が完成度高いぞ。だから言える事はない」
(;'A`)「……まぁ、そりゃそうだ」
( ゚д゚ )「俺だって素人だ。アドバイスにも限界がある」
(;'A`)「……じゃあ相談。まず撃鉄の使い方、教えてくれよ」
ドクオはマグナムブロウを再発動し、装甲と撃鉄を肉体に具現化した。
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( ゚д゚ )「コイツの使い方ねぇ……」
ミルナは腕を組み、自身の背中にある撃鉄を一瞥した。
( ゚д゚ )「おい、今までどんな風に使ってきた?」」
('A`)「爆発ッ! って感じで撃鉄落として、なんか凄いパワー出てる」
(;゚д゚ )「アホっぽい扱い! ……とりあえず手本をやってやる」
ミルナは近場の岩を指差し、ドクオと一緒に岩に近づいた。
( ゚д゚ )「今のお前は、燃料が切れるまでエンジンを掛け続けるような使い方をしてる筈だ。
確かにそれなら見栄えは良いが、肝心な時に燃料切れになる事もある」
(;'A`)「……肝心な時にな……」
( ゚д゚ )「いいか、マグナムブロウはその名のとおり銃をモチーフにしている。
扱いも銃と同じようにすれば、ある程度は節約が効く」
('A`)「……?」
( ゚д゚ )「……こうやるんだ。見てろ」
いまいち理解出来ずにいたドクオを一歩下がらせ、ミルナは岩に右手の平を当てた。
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('A`)ノ 「じゃあ次の質問」
そう言って踵を返し、ミルナに背中を向ける。
ドクオは先日現れた二つ目の撃鉄を見ながら言った。
('A`)「こないだ新しいのが出てきた。コレがなんか変なんだよ」
( ゚д゚ )「……何が変なんだ?」
('A`)「なんか、しっくりき過ぎてて、逆に変……って感じ」
ドクオはたどたどしく、曖昧な答えを返した。
しかし返答としてはそれで十分だったらしく、ミルナはドクオのクソみたいな返事に文句を言わなかった。
( ゚д゚ )「……こいつは……」
ミルナは大きく息を吐き、腰に手を当てて深慮した。
今、彼の心中には 『tanasinn』 という言葉が色濃く浮かび上がっていた。
( ゚д゚ )「……お前自身、それをどう思ってる?」
('A`)「一回使った切りだから、あんま何も思ってないけど……」
( ゚д゚ )「……分かった。なら、もう二度と使わない方が良い」
ミルナは一瞬口ごもってから、俯いてその理由を口にした。
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( ゚д゚ )「微弱にだがtanasinnを感じる。俺のが影響しちまったな……」
('A`)「……使うなって、なんか不都合あるのか?
お前はバカみたいに使ってるけど」
( ゚д゚ )「普通の人間に耐え切れるとは思えないんだ。
特にお前、精神脆いだろ? tanasinnに全部支配されるぞ」
( ゚д゚ )「つーか今バカって言った?」
(;'A`)「そんな事より具体的に話してくれよ」
一瞬前に具体性皆無のクソみたいな返事をした男はそう言った。
( ゚д゚ )「……最終的に俺と同じなるか、存在そのものがtanasinnに呑み込まれる。
強過ぎる力を扱うなら、それを制するだけの精神が必要なんだよ」
( ゚д゚ )「少しずつ慣らして使うなら問題ないだろうが、一個目の撃鉄と同じような使い方は絶対にするな。
もしそんな使い方をすれば、tanasinnはお前の全てを燃料にして暴れ回るぞ」
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('A`)「……そっか。分かった、使わないようにする」
( ゚д゚ )「……」
ドクオはやけに素直に頷いた。
その様子から彼の本心を察したミルナは、はっきりと言葉にして釘を刺した。
( ゚д゚ )「出来れば取り除きたいんだが……お前嫌がるだろ」
('A`)「うん。弱くなって堪るかよ」
( ゚д゚ )「……だがまぁ、お前がヤバくなったら問答無用で取り上げる。
それを使うならタイミングは選んでくれ。せめて、俺が居る時だ」
('A`)「……分かってる」
ドクオは体を構え直し、ミルナを煽るように拳を振った。
('A`)「時間が惜しい。さっさと続きやろうぜ」
( ゚д゚ )「……お望みどおりに」
再開の合図として拳を突き合わせると、二人は拳を飛ばし合った。
.
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≪2≫
('A`)「――で、そろそろ聞かせてくれよ」
酒場に戻って一杯酌み交わそうと準備している二人。
何を聞かれているかは想像出来たが、ミルナは一度とぼけて見せた。
( ゚д゚ )「何をだ?」
('A`)「なんで目が見えるようになったんだよ。ま〜た例のヤツか?」
( ゚д゚ )
(;゚д゚ )「……そっちか。荒巻の話だと思ったぞ」
(;'A`)「……やっぱそれで」
(;゚д゚ )「聞きたがって癖に忘れてたのか……」
ミルナは呆れて半笑いを浮かべ、席に着いた。
ふと、脳裏で「上手く誤魔化せた」と考える。
( ゚д゚ )「まあ話すのは別にいいが、とりあえず飲み物とツマミだ。
長話になる。多めに頼むぞ」
('A`)「あいよっ」
気前の良い返事をした後、ドクオは注文の品を腕一杯に抱えてテーブルに戻ってきた。
これで、長々と駄弁る準備は整った。
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