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( ^ω^)千年の夢のようです
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9/24(水) 夕方より投下します
よろしくお願いします
前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/
まとめサイト様(以下敬称略)
>ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
>グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
作品フィールドマップ(簡易)
http://imefix.info/20140922/321215/rare.jpeg
http://imefix.info/20140922/321216/rare.jpeg
-
薬剤の包装アルミ箔にも似た、
おなじ間隔おなじ扉がずらりと並ぶ住居エリア。
( ^ω^)「評議会でなにが起きたんだお」
――010号室。
カーペットの敷かれた部屋には、
内藤が木材でこしらえた背の低い椅子が乱雑に置かれている。
「三女神の一人となるべく、井出はいま最上層にいる」
( ^ω^)「めがみ?」
しかしお互いそこには座らず、床から延びた円柱を椅子がわりにした。
西川が選ぶのはいつもそちらだ。
内藤の造った椅子に腰を下ろす場面を見たことがない。
日常の光景。
内藤の舌打ちが虚しく空に舞うが、
それを気にする様子は父親から見られなかった。
-
「なにか可笑しいか?」
( ^ω^)「なにか、って……」
女神――いにしえの比喩表現において表れた、実在なき偶像の概念。
創られては地母や鬼母のような両極面をもち、感情の象徴として捉えても差し支えない。
それを目の前の男が発する異物感が大きい。
「私も生まれる遥か以前のロストワードだからな、無理もない」
( ^ω^)「…回りくどいお…その女神が、井出とどう関係して――」
「あの針が6度回る頃にこのグランドスタッフは沈み、硬く暗い海でみな死ぬこととなった」
( ゚ω゚)「 は?」
-
「お前にもやってもらうことがあるのだ。
次に呼ばれる時は井出とも逢えるだろうが、それが見納めだと思ってくれ」
( ゚ω゚)
「せめてお前の結婚式は見てみたかったが」
( ゚ω゚)
人類の歴史は間もなく終着点に到達する。
緩やかに…しかし加速度的に、
幾星霜の果てで世界は死に辿るのだ。
( ゚ω゚) 「……それ、どういう意味だお」
――確定済みのロストオデッセイ。
(消えゆく人類の遍歴)
-
世界には。
物質を物質足らしめるための二大要素がある。
【魔導力】は想像と魂を生み出し、
【重力】は命をはじめとする総ての存在を具現した。
どちらも欠けてはならない。
重力がなければ、生まれるはずの命も魂と成るまえに散る。
魔導力がなければ、何一つ創造されない【無】の世界となる。
バランスを保って過ごしていたはずの永き史上に飽いた摂理の結果か…。
そもそもが平等性を欠いた別離の繰り返しか…。
いつしか暴走を始めた魔導力によって、天地は人の手を離れ、
重力は彼方に消えようとしている。
何年前…何十年前…
それとも何百年、何千年と…。
星はもはや、ひたすらに生の息吹をぐしゃぐしゃにかき回し、
虚しく命の粒子を巻き散らかすだけの遊戯処刑場と相違無い。
それでも…定まることを知らぬすべての生命。
感情が失されながらも、
辛うじてその名残をもつ人間が存在した。
(; ω ) 「いや、それよりも彼女は…ツンはどうなってしまうんだお?!」
「どうにかなってしまうのは我々のほうだ。
私も、お前も」
(; ω ) 「…」
「伊出は生き残るために礎となる。
人が、人であるうちにな」
-
----------
从 ゚∀从
_
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚) 「私達は…これからどうなるんだ?」
「どうにかなってしまうのは我々だ。
高岡、伊出、素直。
君たち以外は針が6度回る頃にグランドスタッフと共に沈み、魔導力の藻屑となる」
――時、同じくして。
グランドスタッフ最上層に位置する赤い空間…。
やはり全身に外套を被る評議会員の元、終末を通達される三人の女性がいた。
「君たちは尖兵であり、さもなくば最後の人間だ」
ξ゚⊿゚)ξ 「…なぜ、私たちなのですか?」
天井というものはそこに有って無いような場所だった。
内部での視界は不思議とクリアだが、
半透明に映る外を悠長に眺めるには、外壁をなすクリムゾンカラーのベールが邪魔をする。
吹きすさぶ大嵐がノイズとなって更に不透明さを増した。
ここに立つ限り、世界は紫と濁赤に染まり、世の終わりの増殖を連想させる。
-
名前通り、グランドスタッフは杖の形状をしている。
天空から見下ろせばスケールに従い、先端には巨大な紅きオーブが嵌め込まれていた。
そんな球体内部からはじめて見る景色。
素直はほんの少しだけ目を細め、
伊出は大きく眉をひそめ、
高岡は微動だにしない。
「感情値の高い者と想像値の豊かな者、そして性別が雌の君たちが選出された。
もっとも可能性が高いために」
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「中身の説明はいただけるのか?
いや、それとも拒否権の有無は」
「拒否はすなわち人類への反逆を表すことになる。
しかしそれを罰することは評議会でも決定していない」
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
「説明に入る」
从 ゚∀从
-
海に沈殿する魔導力の暴走により、ことごとく触れた物質が海面に熔けてゆく。
例外はない。
魔導力は人のみならず、星への猛毒としてすべてを滅ぼしにかかっていた。
かつてのグランドスタッフならば天を貫くほどの高さを誇るも、
今では最下層が浸かり、その根元すら維持できていない状態だ。
事ここに到り、評議会は科学技術による回避手段が尽きてしまい、
ついにははち切れんばかりの魔導力を、反対に利用することに活路を見いだした。
「有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない」
それが発足したばかりの評議会が出した結論。
重力はもう戻らない。
もはや魔導力を抑え込んでも人類の末路は変わりない。
評議会は移住を決めた。
"別の星" ではなく、"別の世界" へ。
それは魔導力を結晶化し、概念に乗せ、新しい世界へと人類を移す方舟計画。
「そのためには我々では話にならないのだ。
感情をもつ者が想像し、はじめて創造できる」
_
ξ゚⊿゚)ξ
「世界を……?」 从∀゚ 从
川 ゚ -゚)
-
グランドスタッフに生き残る評議会員、あるいは他の外套姿の者達に
感情というものは大概残っていない。
空っぽだ。
泣くことも…笑うことも…
怒ることも、悲しむこともない。
現代人類には表現できなくなった、"心" 。
たとえ言葉を駆使し、喜怒哀楽というものを伝えられたとしても、
果たして真意まで解らない。
たとえば訝しげに顔を歪める井出の表情は、他人にしてみれば理解しがたい反応に映る。
「グランドスタッフにおいて感情をもつと評される6名のうち、雌三名。
君たちには古来伝わった運命の女神たる称号を与える。
私には無意味でも、言霊は君たちの力になるのだろう」
彼女たちの反応は気にすることなく、外套の男は三者三様の衣装を差し出した。
特注品の儀式衣裳。
いまや珍しい、色彩とデザインを伴う、実用外に見出だされる感情の賜物。
受領者の意思などお構い無しに手渡した。
評議会が導きだしたキーワードと共に、未来は彼女たちに握られる。
-
現――。
川 ゚ -゚)
「素直、君は表面上を我々にいくら真似ていようと
心中穏やかではいられない生き物らしい。
それは太古の空模様と同じだという」
「空、そら、から、くう…。
三日後までに好きなものを選び抱いておけ。
」
渡された絹の法衣…
カラーは覚めるような青。
-
未来――。
ξ゚⊿゚)ξ
「伊出、君の名は創造にとても都合が良いとのデータがある。
原初たるアルファ(a)を抱け、未来を育む者…イデアよ」
渡された絹の法衣…
カラーは赤と黒のツートン。
-
過去――。
从 ゚∀从
「高岡、君は」
差し出される法衣…
白地に灰色ラインの紋章。
从 ゚∀从
「その前に。
選出のためのデータ誤りを私は疑っている。
なぜ君なのか、評議会の誰もが理解できなかった」
从 ゚∀从
『呼びつけておいて何を……』
そう素直と伊出が、怪訝な表情を向ける先に立つ高岡の顔は動かない。
しかし議会の評価はもっともだった。
高岡は常に笑顔を絶やさぬ代わり、変化に乏しい。
周囲はそんな彼女を "能面" と呼ぶ。
張り付いた笑みが、文献に載る舞踊に用いられたというマスクに酷似していた。
地位高い評議員の前でも決して媚びず、
誰かの提案に否定したことも、命令には質問を返したこともない。
能面を除けば、高岡もまた普遍的な人間に数えられた。
从 ゚∀从
-
「我々にとってこれが最後の任務となる。
成功してもそこから先は君たちにしか認識できない。
もともと亡ぶ運命にある人類の足掻きだ」
从 ゚∀从 「わかります」
「なぜ君が選ばれたのだろうか、本人ならば答えもでるのではないか」
从 ゚∀从 「答える材料がありません」
「運動能力、知能、神経率のいずれも君の水準は高い。
認めよう。
しかし今回に最も必要なものは "感情" だ。
君には本当にそれがあるのか?」
从 ゚∀从 「データに出たのであればそれは相違なく」
「それが信じがたい。
ならばどうしてそれが外面に表れないのだろうな。
それとも以前に比べて減少傾向にあるのか」
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「それは―― 」
-
-
高岡の夢は
もうこの世界では叶わない
-
----------
―― 十数年前。
静寂に混ざってけらけらとあがる、幼い笑い声。
从 ´∀从 (´- ` 川
ξ´⊿`)ξ(^ω^*)
(`・ω・)
('A` )
葵色モザイクの空間…育児院。
天井と壁に名残ある彩りは、かつての空と大地を模していたのだろう。
幼児たちの感情と想像の具現を受容していた壁画だ。
羊皮紙代わりの記録群。
それも年月を重ねるたび、記憶のようにかすれていくこともまた摂理。
-
人類の記録が語る。
『おめでとう! 無事産まれたよ』
無事、出産を告げる声。
いくつもの母胎がひとまずの役目を終えて安堵するであろう。
それはいつの時代も変わらない。
『可愛いね、元気な子だね』
連れ歩けば届く声。
何人もの父像が未来を夢見て奮起するはずの。
何時なんときも変わらない…?
( ∵) 『高岡、おいで』
『ハイ、せんせー』从∀` 从
――そして、過ぎ去りし夢。
変わらないでいてほしいのは、今を生きる者にとって共通の願い。
しかし、過去と未来はそれを保障しなかった。
安心を生むはずの感情は、やがて変質していくことになる。
嫉妬や怠惰という天秤にかけられる労い。
失った感情がコピーにコピーを重ね、様式美すらも一寸先は形骸。
傾いた感情は徐々に淘汰されてしまった。
-
この世にはもう、幹も枝もない。
だから巻き取る蔓も居られない。
涙ほどの新樹の種が
ぽつり、
ぽつり、
蒔かれても、迎え入れるには心モノクロな箱庭。
新生児専用の容器…並ぶ空白。
それが表すは絶対的人口数と、未来好奇心の減少だ。
ゆくゆくは魔導力の海に沈んでしまった育児院にも、玩具と呼べるものはなにもなかった。
イメージを投影する積み木も、
法則を超越するトランポリンも、
音を歌にするハーモニカも。
( ∵) 『見よう見まねだけどね。
私からのプレゼントだ』
『センセー!
なぁに、これ??』 从∀` 从
博物な文献に遺されるのみ。
『そっか!
こうやって遊ぶんだ』从∀` 从
( ∵) 『そうか。
そうやって遊ぶものだったのか』
-
比ぶれば、両手から零れるほどに新たな生命が生まれていた時代…。
人が願望を叶え、理想を現実にする都度、その心は空っぽになってしまった。
空虚な大人たちは、わずかに守った自己の投影を我が子に託す。
怪我をさせない…不慮の事故に備えたい…。
言う通り生きなさい…心配させないで過ごしなさい…。
『子供たちのため』
『子供たちのため』
『子供たちのため』
呪いを勝手に背負わせてきた、そんな幾多ものエゴイストたちすらもう居ない。
創造物を奪い続け、去りゆくものを遺すことすら許せない化け物は
後の魔導力によって暴走した感情の末路…そのパラドクスだったのだろう。
( ∵) 『高岡が一番よく笑うからな』
『わらうとだめ??』从∀` 从
もはやグランドスタッフにいるのは、感情を失った人類の成れの果てだ。
( ∵) 『いいや、そのままで生きてほしいと私は思った。
だがいつか評議会に強く目をつけられてしまう』
( ∵) 『だから――』
育児院に預け、いずれは手がかからなくなるほど、
人はますます我が子と逢う頻度を減らしていく。
生死の確認だけが、親たちが顔を出す基準。
『感情がないのだから仕方ない』
『心配する情などないのだからやむを得ない』
それが現代人類の持ちうる免罪符。
白紙同然の証明書。
その溝を埋めるように……
感情を持つ僅かな子供たちは自然と集い、
同じ仲間と過ごす時間を一層大切にした。
-
从 ´∀从 『はい、ツンのまけ〜♪』
ξ´⊿`)ξ 『だからイヤだって言ったのにー』
川 ´ -`) 『…ふたりとも、なにやってるの?』
ξ´⊿`)ξ 『クーだー。
あのねー、かくれんぼー』
从 ´∀从 『いつも布団のすきまでねたふりしてるんだもん、わかるよ♪』
ξ´⊿`)ξ 『目をとじてるのにどうして見えるの?』
川 ´ -`) 『…だれが? …だれを?』
ξ´⊿`)ξ 『あたしのこと。 ハインが』
从 ´∀从 『わたしとじてないよ! だからみえるよ』
ξ´⊿`)ξ 『おかしーなー??』
川 ´ -`) 『…みえるよ、目をとじてるのはツンだけだもん。
…たまにへんなこというよね』
从 ´∀从 『へんなこという、いう!』
ξ´⊿`)ξ 『ブーン、ふたりがバカにしてくるよー』
(*^ω^) 『おっおっみんな仲良くしようお!
ねえドクオ、シャキン?』
(`・ω・) 『仲良くなんて…』
『…ブーンが代わりに
やりかえせば?』"('A` )
ケホッ ケホッ
-
必要最低限にしか口を開かない同級生と比べ、
なんにでも笑い合える彼女たちは、かけがえのない友だった。
暗号を決め、秘密基地を作り、食事の時間になるまで遊戯に興じた。
人に無意味と断された "渾名" という文化すら独自に作り上げた。
…はじめこそ気付けなかった違和感。
他の誰と話したところで、返ってくるのはイエス・ノーの二者択一。
誰の家族も皆が皆、それが当然だったのだから致し方ない。
このグランドスタッフにおいて、
彼女たちこそが異質であることを知ったのは、六人が成長を経てごく最近のことだ。
从 ´∀从 『わたなべー、わたなべー!』
从 ´∀从つ◇ 『ねぇみてみて! 今日もテストで100点だよ!』
从 ´∀从つ◇ 『井出ちゃんと素直ちゃんよりも!
内藤っちよりも点数良かったんだよ!』
『100点はすごいことねぇ、一度できたのだから次回もできるはず。
何より他者より優れていて不利なことはないわよ〜』
『あぁでも声のボリュームが大きいかな。
もう少し下げなさい、人間の聴力も許容量は有限なのだから』
从 ´∀从つ◇
从 ´∀从
从 ∀从 『……うん』
-
小さな枯れ井戸も、
大きな海の枯渇へと続く路となる。
突然変異などではない。
高岡の味わった家族愛の先天的喪失など、ほんの一部でしかない。
共存社会においても、
競争社会においても。
弱者への口先だけの庇護と、
強者に向けた反逆においても。
喜びも、寂しさもぜんぶ。
自らの意志で、長く永い時間をかけて、
人は他人への無感情を呼び込み続けた。
『魔導力値が上昇している』
『例がない。 誰だ?
何かが共鳴しているとでも』
『吸いこんでいるのか、
それともこれは――』
記録に頼り、データをなによりも最重要視する世界。
感情を司るはずの原子たる【魔導力】は、もはや人と依存し合うことが無くなった。
…酸素と同じく、人に必要とされるはずの粒子はとうに破棄されていたのだ。
それは過剰な毒となって
人類へと襲い掛かる。
-
( ∵) 『高岡、何歳になった?』
『17歳だよ、名瀬せんせー』 从 ∀゚ 从
( ∵) 『結婚相手はもうアーカイブに記されたのか?』
『…ねえ、アタシは好きでもない人と
結婚しなくちゃいけないのかな』从∀゚从
( ∵) 『…』
( ∵) 『だれか "好き" な人がいるのか?』
从∀゚ 从
『……あれっ?』从∀゚ 从
-
数百年、数千年と。
大地震や巨大竜巻、はたまた病原ウィルスの超蔓延……。
人がおおよそ体験してきた天災の歴史は数えれば果てがない。
しかし言い換えればそのたびに克服し、免れてきた勝利者の歴史でもある。
人の生命と共に曖昧なる記憶が消えたとしても、記録はカタチとなって残る。
客観性をもつ事実は文字となり、脳裏に刻まれやすい。
ひとつ…またひとつと積み重ね構築されたそんな歴史。
アーカイブが人々の信頼に足るのも、致し方ないのかもしれない。
…しかし、これでもう最後だ。
供給過多の魔導力が大気を支配した時、星の中心に大きな穴が開いた。
【重力】と【魔導力】が流れ込み、
置き去りの世界からは多くの魂…感情が、光の粒子となって空と大地に散る。
『現在、建設中のグランドスタッフ。
これなら穴を塞げるかもしれん』
高岡の先祖たちはそう提案した。
致命的傷痕をたんなる物理的な穴としか認知できず、
だからこそ物理的な解決方法しか思い付かなかったのだろう。
当時すでに失いかけていたのかもしれない。
移入できなかったのだ…
星が嘆く感情に。
安易な記録が、訴えるべき情を持ち得ないことを誰もが見過ごしていた。
-
眠っていた大穴――深淵に潜む[かがみ]の存在。
その本質を人類が認識したのは百数年後。
世の万人が取り戻せなくなった感情に
世の番人が改めて縋ったのは、
さらにその数十年後のことだった……。
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-
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〜now roading〜
从 ゚∀从
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / B
magic registence / C
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-
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「具合はどう?」
('A`) 「良くならないからここにいるんだろうが」
グランドスタッフには、人が必要とする設備のすべてが詰め込んである。
外套姿の女性――西川と別れてから、直接向かった先の病室に現れた彼女。
その目線は痩せこけた頬に目の下のくまが目立つ、実の息子に注がれていた。
('A`) 「今さらなにか用か?」
周りには誰もいない。
二人だけの空間…ベッドに沈む鬱田の口調は冷たい。
だらりと垂らした両腕。
力が入っていないことが見てとれる。
更にいうなれば彼の両脚も、幼少の頃から動くことがなかった。
いくら感情を抑えても、内包する感情は漏れ伝わりそうな吐き捨てる言葉。
…そんな親子関係も時代によって確かにあったのだろうが。
「三日後に世界は終わるんですって」
('A`)
('A` ) 「ああ、そう…」
病室に窓はない…それでもまるで外の景色を眺めるような素振りを鬱田はした。
つるりと白い壁一面。
治療を名目とし、自死防止のための措置として
娯楽性を廃して機能美のみを求めた部屋。
-
壁の向こう側を席巻しているはずの大嵐と同様に、彼の機嫌を感じられる者はここに居ない。
項垂れた彼が一度大きく咳き込むと、
シーツの上にべたべたと少量の血が飛び散った。
混じりけのない鮮血が、内臓から涌き出たことを暗に示す。
( A ) ハァ… ハァ…
「大丈夫?」
( A`) フゥー…
( 'A`) 「うわべの言葉はいらねえよ」
心配を口にする母親ではあるが、それもまた先人に学んだ結果に過ぎなかった。
こういうとき、親はこうするものだ…そんな習性を反復しているだけ。
息子もそれを見破っている。
「生徒たちはお見舞いに来てくれてる?」
('A`) 「アンタの用件をまず言えよ、なにかあるんだろ?」
「素直、井出、高岡の三人。
彼女たちを[かがみ]にぶつける【魔導力】の塊にして、
別の世界に移住してもらうわ」
切り返される会話が異なろうと、母親は言い淀まなかった。
感情を失くした者はそういった躊躇がない。
-
('A`) 「別の、世界だあ?」
「それだけじゃない。
これは秘密事項だけれど、貴方に隠し事はできないから言うわね。
貴方と内藤を含めた感情値の高い三人は――」
続く言葉を訊き終えた頃、彼の身体は悲鳴をあげた。
苦痛のなか、鬱田の瞳に映るのは
無表情にこちらを見やり、コールスイッチを押しながら状況を伝える母の姿。
「ヒーラー、病号666にてクランケの容態悪化。
喀血量の増大が見られるため迅速に」
がフッ―― ('A`)、'、
「血量さらに増加」
( A`)
「ひ… ひひひっ」( ∀`)
――こんなことなら早く死ねばよかった。
感情をもつ鬱田は母親に聞こえないよう呟き、意識が果てた。
生まれつき病いに冒され、
苦しめられ、
三日後に世界に殺される運命を背負う彼は、より明確な死を宣告されたことになる。
-
…次に意識を取り戻したのは、針が一回転半した頃。
('A`)
誰もいない病室――のはずが、
彼を取り囲むように子供たちが立っていた。
「起きた?」
('A`)
「目が覚めたみたい」
「おはよう、せんせー」
まるで砂漠で見付けた蜃気楼のようだった。
嬉しさや驚きのない、事実をなぞるだけの淡々とした響き。
子供の声からやはり感情というものは感じられない。
彼らもまた鬱田の母親…そして評議会の者と同じ顔をしている。
('A`)
なのにどうして…
彼の目尻は僅かに下がっていた。
-
('A`) 「なぜ、ここにきた?」
鬱田は問う。
「せんせーにお礼を伝えるためです」
と、子供たちは答える。
('A`) 「そうか…」
('A`) 「もう少しだけ教えてやれることもあったがな。
誰かから聞いたのか、明後日のことを?」
鬱田は幼少から病いに伏しながらも、
勉学に励み、手作りの教壇に立ち、
車椅子から降りることなく職務を全うする教師だった。
表向きは生徒の知識量向上。
その裏、主体性を育まんと、自らの想う感情のなりたちを教示した。
『有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない』
評議会…いや、この世界において通説となる言葉。
昔から幾度となく聞かされたものだが、鬱田はそれに強く反発して生きてきた。
('A`) 「率直に訊く。
お前らはどうやら二日後に死ぬ、そして俺もな」
('A`) 「それについてどう思うか、答えてみせろ」
-
子供たちはさほどの反応を示さない。
…だがしかし数人。
窺うように隣の者と目を合わせた生徒が居たのを、鬱田は見逃さない。
('A`) 「理解出来はしても、言葉にできる奴はいないか?」
「いま僕たちにうかんだ言葉は、きっとせんせーの望むものではないとおもうんです」
('A`) 「…そうか、それならいい」
拒絶じみた反論。
なのに鬱田は満足げに頷き、生徒を並ばせると
各自の頭に ぽん…ぽん… と、手を置いた。
('A`) 「たった数年の付き合いだったが…楽しめた」
('A`) 「じゃあな」
-
結局、退出し終わった子供たちはなにも答えなかった。
二、三人振り返ったのを鬱田はただ見届けた。
迷ったのだろう…だが、鬱田にとってはそれこそが望んだ答え。
――迷い、戸惑い、躊躇する。
まさに感情が為せる沈黙に他ならない。
( 'A) ( …他人の気持ちを理解すべきだなんて思っちゃいない。
くそくらえだ。
どうせ心があろうとなかろうと、真に解り合える人間なんていやしねえ )
…世界が終わらなければ。
後天的に感情を取り戻した子供たちが
次世代を繋いだかもしれない未来を思い、鬱田はほくそ笑む。
だがそれは決して子供のためでなく、
人類と世界構造への挑戦ともいえた自身の人生に対する自嘲に過ぎない。
( 'A) ( 俺が教師になったのも、
可能性すら決め付ける俺以外の人間が許せなかっただけ…。
奴らは俺のエゴに付き合わされただけ… )
横たわる以外の時間を指導に費やし、
感情の伝達――その達成率は低くとも、不可能と云われたことを可能にしたのだと。
ささやかながら自負し、何も遺らない未来に唾を吐いた。
そして酸素と魔導力漂うベッドの上で一人、入り口に背を向けて眠りにつく。
次に目覚めた時は…世界最後の日であればなお良い。
――そんな達観の境地を邪魔する者ありて。
( 'A) 「…」
( 'A) 「おめーかよ」
-
彡
彡
( ^ω^) ( 'A)
彡
-
風が吹く。
窓もない袋小路の一室に。
その来訪に、鬱田は背中越しでも正体が判る。
( 'A) 「ブーンか」
( ^ω^)「…ドクオはもう聞いたかお、例の話」
顔も向けない鬱田の様子は、内藤にとっていつも通りだ。
ベッド脇に寄り、座りもせず視線を下ろす。
( 'A) 「おめーはなんて聞いてる?」
( ^ω^)「西川からは、
三人が[かがみ]に突入する際の "つがい" だって…」
( ^ω^)「ドクオは?」
( 'A) 「"壁" だってよ」
鬱田が「ひひひ」と嘲笑った。
共に両親は評議会メンバーであり、重要事項は洩らすところなく伝達される。
-
"つがい" と "壁" ――。
内実の意味は同じであっても、言い方に差異が生じていることもまた感情の証。
鬱田は嘲笑いが止まなかった。
…それは内藤の父親に対して向けられてはいない。
西川には極々僅かながら感情があるのではないかと、母親から聞いたことがある。
評議会の言葉を、より正しく伝達したであろう己の母とは違う。
…だから嘲笑う。
( ^ω^)「ドクオはやるのかお?」
( 'A) 「そもそも選択肢なんてねえだろ」
( ^ω^)「でももし、グランドスタッフが沈まなかったら――」
( 'A) 「ふざけんな、俺にはその可能性すらすがれねえ。
おめーはそれで良かろうがよ」
( ^ω^)「…ドクオ…」
-
他の者に比べ、鬱田には絶対的な時間がない。
彼の死は約束されたもので、たまたま今に至り生き延びているだけの偶然。
血を流すたび臓物は抉れ、体力を削られる。
内藤もそれを知らぬわけではなかった。
ただ…友が自分より先に死ぬことは信じられないのだ。
幻想に縋りたいだけだ。
( ^ω^)「せめて最後まで一緒にいたいお」
とはいえ評議会の計算ミス、地殻変動の気紛れ……。
はたまたその他、いかなる理由によってグランドスタッフが生き残ろうとも
その直後に病いが生命を喰い尽くすならば、
鬱田にとってはやはり世界が終わるに同じこと。
( 'A) 「…井出のところにはもう行ったのか?」
-
内藤の慰めには応えず、恐らくの本題を問うた。
( ω )「…」
( 'A) 「…けっ、相変わらず優柔不断なヤローだ」
沈黙――…感情の表れ。
( ω )「どんな顔でツンに…最後になんて言えばいいのか判らないんだお」
迷い――…感情の表れ。
( 'A) 「だったら尚更…こんなところに来るんじゃねえよ、クソったれが」
( 'A`) 「おめーのやりてーことをやる。
…それの何が難しい?
誰に遠慮して、何を恐がるって――ゲホッ んだ」
('A`) 「死ぬことよりも、ツンに会うことが恐いか?
だったら生まれた時期を間違えたな、早く死ね、ボケ」
( ω )
向き直した先、内藤が大きく項垂れている。
『あまりにも女々しい』と鬱田は胸中で毒づいた。
('A`) 「……チッ」
彼はそんな内藤が好きではない。
…枕元に隠し持つタバコに火をつけ、煽るように煙を吹き掛ける。
そして――
('A`)y-~ 「なぜ、ここに来た?」
生徒たちと同じ言葉をぶつけた。
-
( ω )
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「友達に会いに来たらダメなのかお?」
('A`)y-~ 「…… わかってんじゃねえか」
鬱田はまた舌打ちしてしまう。
しかし風を扇ぎ、煙を払いのける内藤の答えは明るかった。
上げたその表情からは一種の爽やかさすら感じさせる。
ε_ ('A`)y-~
( ^ω^)「……そうだおね。
行ってくるお、ツンのところにも」
( ^ω^)「最後でも、そうじゃなくても…
会わなきゃなにも始まらないんだおね」
('A`) 「…」
――嫌いだった。
内藤の愚直さも。
どんなに悪態をつこうと、決して友を拒絶しない情の持ちようも。
愚痴り、迷いはしても帰る場所をもつ、心ひとすじなところも。
僅かでも感情をもつ者が親であったことも。
自分には叶えられないことに手を伸ばせる、その自由さも。
-
二吸いほどしかしていないタバコをもみ消すと、鬱田はゴソゴソと身を下げてしまった。
( 'A) 「もういけよ、時間は足りねえくらいじゃねえか?」
「疲れたから寝かせろよ」
…そう言ったきり、鬱田は眠りに入る。
隠れて小さく何度も咳き込む唇が赤く染まり、
シーツを同色に汚したことを内藤は気付いただろうか…。
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
入室時とはまるで正反対に、跳ねる靴裏。
井出の元へと歩く内藤の足取りは軽かった。
…鬱田の元を離れるその足取りは速かった。
二人のあいだに別れの言葉はない。
内藤は想う。
最後まで鬱田は自分にとっての友でいてくれる、と。
彼は井出との時間と、求めるための勇気のひと押しを与えてくれたのだ。
-
鬱田が毎日血を吐き、死の淵を往来していることを知っている。
それを自分たちの前に決して見せまいと振る舞うことも知っている。
だから、走った。
自らもいままで通りの友で居なくてはならない。
井出を優先し、鬱田に甘え、背筋を伸ばす。
(^ω^ )
情を繋いだ存在。
友が最後までこの世界にいることが嬉しくもあり…楽しかった。
( A)
背後に消える鬱田の病室…。
そよいだ風は、もう止んでいる。
-
----------
川 ゚ -゚) 「…感情を魔導力としてぶつける、か」
ξ゚⊿゚)ξ 「そもそも[かがみ]を信じていいのかしらね」
从 ゚∀从
三人はトボトボと階段を降りる。
高岡以外の表情は暗い。
先ほど評議会との作戦会議を終えたところだった。
…世界のリミットはあと二日。
グランドスタッフが沈むまでに実行、そして成功しなければ、
人という種はこの星から完全に消える。
川 ゚ -゚) 「どう思う?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうって…」
魔導力渦巻く猛毒の海――その排水口となる、
[かがみ]への突入だけならば、
生死を問いさえしなければ誰にでもできること。
川 ゚ -゚) 「なにを創造すれば良いと思う?
どう想像すれば…私たちや、皆が、生き残ることができるんだろうか」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「…みんなが生き残る」
川 ゚ -゚) 「会議ではその点にまったく触れられなかった。
つまり評議会…しいてはアーカイブにも答えがないということだろう?」
-
三人に課せられた事項は多くない。
ひとつ、――[かがみ]への突入。
ひとつ、――創造。
ひとつ、――移住の達成。
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「[かがみ]がどこまでの力を持っていて、どこまで反映できるのかよね」
星の外に目を向けて
『世界はまだまだ広い』と豪語した学者のいた時代は確かにあれど、
達したのは絶望的結論。
観測上、そして現実問題においても
人類は星間移動を成し遂げられていなかった。
川 ゚ -゚) 「それも不安要素のひとつか。
誰かが先に飛び込んで、試してみるか?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
川 ゚ -゚) 「……すまない、さすがに不謹慎だった」
すでに大地を飲み込み、グランドスタッフという最後の一口も喰らおうとしている魔海。
飛び込むことはイコール死を意味する。
前例もある。
――星の外も同じ。
例外なく、飛び立つことは死を約束されていた。
-
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「とはいえ実質あと一日だけが私達に残された時間か。
悔い無く取り組まねばな」
先の素直の言葉は、誰かを犠牲に試そうと言ったわけではない。
問題点とその解決方法について近道を口にしただけ。
「なんなら私が先に飛び込むさ」とフォローしたものの、
首を横に振る友の姿から余計に、ばつの悪さを覚えてしまったようだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ…クー、ハイン」
川 ゚ -゚) 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンに逢ってきても…いい?」
川 ゚ -゚) 「ああ、行ってくるといい。
ハインも構わないだろう?」
从 ゚∀从 「いいよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ありがと、二人とも。
また明日ね」
-
…去り行く姿は背筋を伸ばし、凛としていても、バタバタと急く足取り。
小さな背中と、ウェーブがかるブラウンの巻き髪がゆらり揺れるのを見送った。
――まるで、さよならの挨拶のように。
从 ゚∀从
外見ならば、素直。
振る舞いや言動をみれば、井出。
高岡にとって彼女たちは、それぞれ女性らしさという点において突出している気がした。
同性からみても愛らしさを感じてしまうほどに。
川 ゚ -゚) 「結婚式を前に、とんだ邪魔もあったものだな」
从 ゚∀从 「ああ」
川 ゚ -゚) 「ハインは? 名瀬先生はいいのか」
从 ゚∀从 「!!」
川 ゚ -゚) 「隠さなくてもいいさ、私達をなんだと思ってる」
从 ゚∀从 「それを言うのはクーだけだよ」
-
川 ゚ -゚) 「む、そうか」
素直の観察眼…昔から鋭かったのを思い出す。
彼女に嘘や、場凌ぎの言い訳は通用しない。
それゆえに小さい頃は誰とでもよく喧嘩をした。
川 ゚ -゚) 「ドクオの顔でも見てくるよ。
おそらく、あいつが私のパートナーになるはずだから」
そう言って、彼女もその場を後にした。
真っ直ぐな黒髪の先が柳のように左右を泳ぎ、
その姿が消えるまで、ついつい目線を釘付けにされてしまう。
从 ゚∀从
……居残った高岡だけはそのまま立ち尽くし、階段を降りようとはしなかった。
从 ゚∀从
パートナー、つがい、壁……。
人は感情の差によって、同じ意味を違う言葉で表す。
从 ゚∀从
-
時間だけがただ流れていく。
…いまの高岡にはそれも心地良かった。
もう少しで自由になれる気分だった。
手持ち無沙汰に壁に背を預けると、そのまましゃがみこむ。
从 ゚∀从
両膝を抱えて顎をのせ、じっと動かず耳を澄ます。
あの時と同じように…
"能面" の彼女は待っていた。
从 -∀从
「…二人はもう行ったのか」
――その声を。
-
从∀゚ 从 「うん」
/ ∵) 「場所を移ろう。
さすがにここでは他の者も来る」
外套の隙間から覗く瞳は一見して、感情を表さない。
だが高岡はその顔が昔から好きだった。
挨拶もそこそこに寄り添い歩く。
無駄という無駄を省かれた、同じ内観を。
階段… 踊り場… 横に伸びる通路は円を描き、遠く反対側で連結している。
リング状のエリアをひとフロアに数え、延々と階層を連ねているグランドスタッフ。
从 ゚∀从 「評議会はもういいの?」
/ ∵) 「ほとんどの者は残るがね、私は今をもって解放されたよ」
魔導力を悦ばしく定義した、歴史上の象徴的建造物。
……皮肉にも、過剰な魔導力を集めてしまった諸刃。
そんなグランドスタッフに似つかわしくない光景といえば、
元評議会員の外套が女性の指先によって、ささやかに引っ張られていることだろうか。
从 ゚∀从 「…そっか」
/ ∵) 「…これで私も、君たちと一緒だ」
-
高岡、素直、井出。
内藤、鬱田… そして、名瀬。
選択されし[かがみ]の贄たち。
たどり着いた名瀬の部屋は殺風景なものだ。
感情のない者にレイアウトなど必要なかった。
全面は真っ白。
放り投げた書類を受け止めるだけのローテーブルが、ぽつりと備えられているだけ。
他には何もない。
――高岡と出逢う前であれば。
从 ゚∀从 「相変わらずだなー」
/ ∵) 「習慣はそうそう変わらないよ」
从 ゚∀从つ∥ 「お邪魔しまーす」
言うより早く、リビングとキッチンを通った高岡が、奥へと続くカーテンをめくり開けた。
(▼・ェ・)
(^ω^∪)
四方壁を金糸の刺繍で施された、
荘厳たるレリーフ布で囲むプライベートルーム。
ゴシック調の棚の上では彼女たちを出迎えるように、
二体の大きなぬいぐるみが左右に鎮座している。
両極の愛らしさを表す動物をモチーフにした綿人形。
どちらも高岡が造ったものだ。
「ただいま!」
そう言って、彼女が二体の頭をころころ撫でる。
そして止まらぬ歩調で最奥のベッドに倒れ込む一連の様子を、
名瀬はただじっと眺めていた。
-
( ∵) 「…」
从 ゚∀从 「ねー、センセーも疲れたっしょ?
こっちで横になろうよ」
( ∵) 「……その前に、君に謝らなければ」
緩慢な動きで脱いだ外套を備え付けのフックにかけるなり、名瀬は深く頭を下げた。
从 ゚∀从 「なんだよー……そんなに改まって」
( ∵) 「昔、君に言ったことを憶えているか?」
当然憶えている。
だからこそ高岡は、友の前でも能面であり続けたのだから。
从∀゚ 从
ザ――ザッ
彼女の網膜に焼き付いた四角いモニタ。
白い枠、映り流れる時の思い出…。
三三三三三三
( ∵三三三
――ザザッ
脳裏からめくり被さるあの頃が、 ザッ
目の前に広がる視界を揺らがせた。
三三三三三三三三三三三
三三三三三从
三 夢――ノイズが…走る。
ザザッ――
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三
ザーーッ 三三三三三三三
-
推奨BGM:lipse of Time (Harp Version)
(https://www.youtube.com/watch?v=UJrCeAOO3Xo)
-
----------
( ∵) 『評議会に強く目をつけられてしまう。
だから――これからは感情を抑えて過ごすんだ』
『どーしてー??』 从∀` 从
…いつだったか、名瀬はそう言った。
『それがいつかはまだ視えない。
だが感情豊かな者ほど、過酷な運命が待ち受ける未来があるのだ』
と、言葉を繋いで。
( ∵) 『君には笑っていてほしい。
その運命も今ならまだ避けられる可能性がある』
高岡も思い出す。
二人の始まりは空虚な育児院を出てすぐの、
通路で独り蹲っていた時だったということを。
素直と喧嘩し、泣きっ面を誰にも見られたくない一心で膝を抱えた日。
人の行き交う背景で、膝を抱える女児がそれだった。
-
人体なれど肉の塊にしか見えない、高岡を誰もが無視していく…。
せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と、
( ∵)
『どうかしたのか』
从 ;∀从
聖杯の滴に似た、救いのひと声。
-
以来、二人は幾度言葉を交わしただろう…。
別段面白い話をしていた訳でもないが、
しかしコロコロと変わる少女の顔を見たときから……、
まるで生まれた時代を間違えているかのような、爛漫な振る舞いの高岡を見たときから……、
名瀬はひとつの夢を見出だしてしまった。
( ∵) 『それが誰を指していたのか見当はつく。
君はこのままでは含まれる』
ある日、目にしたアーカイブ。
抽出されていた六人分の人体データ。
『かこく、ってなにー?』从∀` 从
( ∵) 『とても、とても辛いということ。
だから私がそれに取ってかわろう』
『?? なんでー?』 从∀` 从
( ∵)
( ∵) 『そうすれば君を救えるかもしれないから』
从∀` 从
-
グランドスタッフにおける教師の役目とは、
アーカイブに記された過去の出来事を、ひたすら機械的に詰め込む作業に他ならない。
疑問や寄り道はないはずだった。
教師も、生徒も。
淡々と学び、史実の羅列を頭に並べるだけ。
だからこそ道徳なき歴史の反復によって、世界は間も無く滅ぶのだが…。
( ∵) 『その代わり教えてくれないか、君の感情というものを』
『……』 从∀` 从
( ∵) 『どうした?』
『ううん、なんでもないー』从∀` 从
-
名瀬だけが気付いていなかった。
高岡に惹かれた、その心こそ感情であるのだと。
何年経っても、気付かない。
( ∵) 『今日はどうした』
『別に……ただちょっとだけ、
クーと喧嘩しただけだよ』从 ゚∀从
( ∵) 『そうか』
『理由は訊かないの?』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡から言わないときは、こちらから訊けば良かったのか?』
『…めんどくせーなあ』从∀^ 从
( ∵) 『そうか?』
高岡だけは気付いていた。
自分に気をとめた名瀬には、自分たちと同じく感情があることを。
-
しかし彼の日常態度は常に無表情だった。
からかった後のツンのような、つっけんどんな態度をとることもなければ
意見の対立によって喧嘩したときの、クーのような無口になることもない。
( ∵) 『まだあの玩具はとっておいてあるのか?』
『あるよー、せんせーからせっかく貰ったんだから
簡単に捨てやしないって』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡は物持ちがいいんだな』
『…』 从∀゚ 从
( ∵) 『どうした?』
『なんでもねーよ…』 从 ゚∀从
淋しくなかったといえば嘘になる。
他人の心を察するのに感情は不可欠であっても、
かといって、感情があれば心が読める道理もない。
可能性があるだけだ。
より深く知り合うための。
( ∵) 『…』
( ∵) 『解ってやれなくて、すまない』
-
いつのまにか、拗ねて見せると罪悪を覚えるようになったらしい。
その時だけは、二人だけの牢獄。
かつて失われた恋人の語らいのように。
『…ばーか』 从 ^∀从
――しかし相剋。
いつかは失われる恋人の信頼のように。
名瀬の思惑すら踏み潰す、この世の魔導力は命すら奪うことを思い出させてくれる。
-
高岡と名瀬が時間を共にするようになってしばらく。
グランドスタッフ中層、展望台の名残りである広域窓の一部が人為的に破壊された。
そこは唯一、外の世界を眺めるための機能を備え、
しかし利用者は彼ら以外に居なかった。
感慨を覚える者でなければ、景色に目を奪われることもない。
川 ゚ -゚) 『……なぜ、こんなことに』
人々には計り知れなかった事実がそこにはある。
――毒は無くとも、魔導力漂う外気に望んで触れる者など居るはずもない――。
そう考えるのが一般的だった。
環境の引き起こした突発的な事故としての処置を施し、
数日後には記憶から消去された、数百年ぶりの自殺者の出現。
『相談された人はいないの?』ξ゚⊿゚)ξ
从 ゚∀从 『ブーンは?』
( ^ω^) 『特になにも…。
でも、あいつの部屋でこれを見付けたお』
『見せてみろ』 (A` )
川 ゚ -゚) 从∀゚ 从
((( ^ω^)つ◇ ⊂(A` )
ξ゚⊿゚)ξ
-
内藤を含めた五人が一斉に覗きこむのは、手のひらに収まるほどの薄い一枚の用紙。
丁寧に書かれた筆跡は、
心境を落ち着かせ、一字一字を確実に記したものと推測させるに充分だ。
『気が狂う前に試したい。
先に逝くよ、三度めの大嵐にまた』
川 ゚ -゚) 『…』
( ^ω^)『シャキンは一体なにを言いたいんだお…』
从∀゚ 从
『…知るかよ、めんどくせえ』(A` )
ξ゚⊿゚)ξ 『試したい…なにを?』
級友たちに走る動揺は激しかった。
…だが、名瀬に突き刺さった衝撃はそれを越える。
( ∵) 『……』
-
ザザザ…
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
イケニエ カイシュウタイショウ
ヘンコウ…_
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
粛然、かつ真暗闇に浮かぶ文字。
( ∵)" 『…』カタカタ
名瀬はアーカイブに指を走らせていた。
ホログラムに映り並ぶ、上層エリアの片隅。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ヘンコウコウホヲ
チュウシュツ シマシタ
■タカオカ_ 从 ゚∀从
生命力 / D
表現力 / E
身体耐久力 / E
発想力 / C
感情値 / B
魔導波動力 / B
魔導適応力 / B
魔導許容量 / C
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
( ∵) 『……やはり』
溜め息と――狂った計算。
選ばれるはずの一人が消えたことで、
自身が庇うべき高岡の名が、再び候補者に浮き上がってしまったことを知る。
頭を抱えて、同時に崩れそうになる脚に力を注いだ。
一度芽生えた感情に抗えず、次の手立てを考えるべく瞳を閉じる。
…彼もまた、夢を視るために。
三三三三三三三三
ザザ三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三――ザ
三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三
二二三三三三
三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三
三三三三三
(推奨BGMおわり)
-
----------
目覚め、ベッドの上で抱擁していた腕を離した。
高岡の首元でごろりとした重みが残されていることに気付く。
( ∵) 「…すまない、痛かったか?」
その声で、遅れて意識は覚醒した。
――いつもと同じかそれ以上に。
体勢は不自由ながらも大きく首を振り、答える。
「ううん、満たされた気分」 从∀^ 从
枕木の役目を果たす名瀬の腕は細身ながらどっしりと、そして柔らかさを感じさせる。
触れる微熱が遅れてやってくると、
首から胸、胸から背中を伝わり…足先までが痙攣したような気がした。
-
从∀- 从
流れ落ちる一粒の汗の感触が背筋をなぞる。
ふわふわとした心地よき倦怠感。
宙に浮くようなこの気持ちは何度体験しても慣れないものだと…胸中で呟いた。
いまの二人の距離。
吐息が当たり、しかし肌の触れ合わない隙間がある。
腕を伸ばすまでもないが、指先だけでは届かない。
いまの高岡にとって具合の良いスペース。
…でなければ一糸纏わぬその身体を、彼の視界に入れてしまう。
「わがままばかり聞いてくれて、ありがと。
アタシはこれでもう悔いはない」 从∀ 从
( ∵) 「…」
「――って、センセーも一緒に飛び込まなきゃいけないんだっけ…。
最後がアタシで悪かったかな?」 从∀゚ 从
( ∵) 「そんなことはないよ。
むしろ…私こそ同じように考えていた」
「…そっか」 从∀^ 从
-
齢、成人に届かぬ女が微笑う。
つられ、妙齢たる男も目を細めた。
……もう逢えないかもしれない。
その想いを、互いに秘めたまま。
名瀬が高岡と居た年月は十と無かったが、
代え難い時間を過ごさせてもらったと彼は考えている。
…心残りを挙げるなら、笑顔だけは最後まで上手くならなかったことだろうか。
「ね、センセーはさ…」 从∀゚ 从
…ゴ ゴ
( ∵) 「――!」 ゴ
「? どしたの 从∀゚ 从
《ゴ ゴ ゴ》
――これ、なんの音だ?」 ::从;゚∀从::
::(∵ )::
::( ∵):: 「…高岡、服を」
《ゴゴゴ ゴ ゴ ゴ》
-
世は無慈悲。
悠長な暇(いとま)など、
むざむざ与えてくれはしない。
《ヴ…ォオオ》
誰かを中心にこの世は回らない。
ヒトを最後まで裏切って… その日が――来た。
-
記念すべき終わりの日。
グランドスタッフ
――崩壊。
-
------------
〜now roading〜
( ∵)
HP / C
strength / D
vitality / D
agility / F
MP / C
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
本日は以上です。続きは後日に
-
乙
続きも待ってる
-
井出って書かれてる所と伊出って書かれてる所があるのは仕様かな?
-
乙!
-
乙〜
早く続きが知りたい
-
超気になる
どう繋がるんだろ
-
読んでいただいてありがとうございます
>>747
すみません、伊出が正しい表記です
■誤字修正について
井出×→伊出○
>>728
>せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と×
→せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子だな』という声の刃と
-
期待
-
おつおもしろい
こっからどうなってくんだ
-
いい所で切るなあ
おつ
-
――崩壊の刻がきた。
彼らの前に、
地響きの末路は様々に、明確な姿を現す。
「チキショウがぁ…っ!」
))
( ;'A)
意図せず大海へと向かって放り出され、
満足に四肢をばたつかせることも出来ない鬱田が短く叫ぶ。
彼は眠り、しかし夢を見る前に病室から投げ出されて空にいる。
三日後の滅亡どころではなかった。
二日後に来るはずの壁の役目すら、満足に与えられる以前に――。
「どうして…
なんで俺がこんな!」
((
('A`#;)
強風に煽られ、彼は頭から墜落していく。
下は魔導力によって腐った海…、
上は大きな影に覆われてはいるが、倒壊する人類の象徴グランドスタッフが見える。
翼があれば、この窮地を脱出できたのだろうか。
もはや手本となる生物はおらず、
嵐によって気流を乱した空はそもそも慈悲など持ち合わせることなく、
彼の骨肉をバチバチと殴りつける。
…それはまるで、早く死ねと言われているようでムカついた。
…雨に濡れて重みを増した服が無駄にまとわりついて苛ついた。
-
((
(A`#)
「ふざけんな、
俺は俺の意思で最後を…――」
下半身は既にない。
千切れた肉からは、神経繊維が簾のように揺れる感触。
それを振りほどけない不自由な状況と…なによりも。
((
(# A`)
「そもそも――
なんなんだよ、テメーは…」
))
(# A
「こんな、こんな死を俺は――」
-
『望んじゃあいねぇぞぉ…!』
-
…そう、彼は終わりの否定を願った。
命の死を、魂の消滅を。
己の脆さと世の不条理に怒りを抑えられない青年。
安穏とした日々に求めたはずの永久を、
どうしてこの期に及んで振りほどこうというのか。
…だが悲しきかな、
力なき抵抗は薄儚く粉砕される運命にある。
どのみち鬱田という存在は、死を目前に控えた弱者だった。
分断された肉は体機能を停止させ、
薄弱な意識もろとも黒き濁流へと飲み込まれていく…。
「せめて死ぬんなら、A`)
..,,:;;:
テメーを('殺してかぁ…――ッ
そんな断末魔も風と牙に消え。
闇に喰われ、血飛沫すらも遺さぬまま、
彼という存在は漆黒の渦に捲き込まれていった。
-
----------
))
川#゚ -゚) 「ドクオーーーっ!!」
倒壊するグランドスタッフよりも高きもの…
自身が落下する速度よりも速きもの…
分離していく鬱田の下半身よりも歪なるもの…
嵐よりも荒々しい、衝撃的なワンシーンが大部分の意識を占めた。
灰空の吐き落とす水滴は彼女の長髪を縛り付け、
現実の直視から逃れようとする。
文字通り、空に後ろ髪を引かれながらも、
しかし彼女のその切れ長な瞳を釘付けにした。
((
川# -゚)
友と別れ、眠る鬱田の背中を見送りながら自室に戻るところだった。
明日には[かがみ]に突入し、果たさねばならない使命感を胸に床につく。
…そんな今日という日を無事に過ごすはずの彼女の時間を――
-
))
( - ゚#川 「この…化け物が…!」
…破壊した。
それがアーカイブに記される、
星の外に住まう巨獣であることを彼女が知る術はない。
赤と黒で彩られた顋の向こう側を目前に…。
同じ時を過ごした友が、
評議会員に手渡されていた法衣の色を思い出す。
-
小さな頃、三人でよくやった遊戯がある。
伊出も高岡も、そして素直も、
いわゆる "ごっこ遊び" が好きな子供だった。
集まると誰かが床に線を引き、
ここではないどこかの間取りを創ったものだ。
ξ´⊿`)ξ 『ママやるー』
从∀` 从 『えー、じゃあアタシは娘ね♪』
川 ´ -`) 『…わたしは?』
ξ´⊿`)ξ 『パパやってよー』
無遠慮な返答に洩れる溜め息…。
しかし、それもいつものことだ。
男の役目を負わされることに抵抗などなかったが、
たまには可愛い役を回してほしいと考えたことも当然ある。
だがそれを口にしたことはない。
素直が役割を果たすことで、
二人の友は愉しげに笑い、そうして素直も笑えたのだから。
川 ´ -`) ξ´⊿`)ξ 从∀` 从
川 ´ -`)
川´ー`)
-
役割は重要だ。
人は生活の過程で自然と立場を得て、
在るべき場所で生きるのではないかと素直は思う。
そして心安らかにしていられるならば、どんな苦境にも耐えられる。
だからこそ高ぶり、吼える感情。
川# Д
…せめて気持ちの整理をつけたかった。
例えば[かがみ]に飛び込んで、
【魔導力】によって望みを叶える…。
その代償として命を失うならば、等価と納得できなくもない。
だが現実はどうだ?
こんな訳のわからない化け物に齧られる最後など、
予想もしなければ望みもしていない。
まだなんら対価を支払っていないつもりだ。
-
それとも何かを願うこと…
それ自体が代償とでも、
この世界は言い張るつもりか?
-
))
川# Д 「そんな人生は――」
非道、不条理、裏切り…。
歴史は誰彼構わずそれらを繰り返して、繰り返して、
そして、終わるのか?
バ
「認め 」
ク
ンッ
-
----------
唸る雷雲。
ブラウンの巻き髪を絡めとる、
雨、雨、雨……。
空気に代わり、水分を多分に含んだ毛髪が、
背中から墜ちていく彼女の視界を
さながら朽ちた炎のように揺らめき埋め尽くす。
))
ξ ⊿ )ξ
手足に力が入らない。
…いや、呆然として、感じられないというほうが正しいのかもしれない。
))
ξ ⊿ )ξ
遠目に見やれば、伊出の片手が少し長く影を作っていることに気が付くだろう。
それは腕から生える腕…。
比べれば、握る指先から先は一回り以上もがっしりとしている。
-
数秒前の伊出は内藤と共に、
ゆるやかな時を…
ささやかな語らいを…
十数年間変わらぬ、時の共有感を愉しんでいた。
前触れなく出現した太陽に、
グランドスタッフの頭部を食むられるまで…。
二人は肩を寄せあい、蜜を交換し合っていた。
見つめあい、瞳の奥に吸い込まれるほど暖かな幻想を抱き合っていた。
))
ξ ⊿ )ξ
――そんな二輪の向日葵を、誘われた太陽が焼き尽くした。
失われし神話…
イカロスの翼に激怒した神の如く。
牙によって片割れを奪った災厄がそこには在る。
-
))
ξ ⊿ )ξ 「……ブー…ン?」
不思議と涙は流れていなかった。
ひたすらに放心し、取り残された胸中には後悔の念が押し寄せている。
揺れを感じたあのとき、僅かでも自分から離れれば良かった。
自身の甘えがもし彼を殺したとすれば――こんな風に考えてしまうと内藤は怒るだろうが、
……しかし正直な気持ちだ。
((
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ほんの一部分のみになった恋人を見つめる間だけは時間が止まる。
ずっと一緒に居て、
それが恋だと後で知って、
寝ても覚めても共に在った。
空に落ちる時、護るよう腰にあててくれた掌。
闇に満ちる時、庇うよう突き放してくれた腕。
それが今もまだ…伊出から離れようとはしない。
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ξ ⊿ )ξ⊃⊂(^ω^
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
-
絡めた五指に繋がるべき青年に想いを馳せる。
とめどなく込み上げる熱に反して、どうしても湧かない泪。
それでも…太陽は朧ぎ、いくつも見えた気がした。
髪の隙間の向こうで空をぐるりと輪転し、舞っている。
ξ゚⊿ )ξ 「…?」
-
"それ" からすれば伊出など塵に充たない矮小な存在だろう。
…にも拘わらず、
明らかにこちら目掛けて折り返してくるのが解る。
嵐の元に晒される太陽ではあるが、よく見れば違和感を覚えるフォルムだった。
雷光に照らされる伸びた黒い塊が節足動物を思わせる。
――それも二体。
螺旋を描いて渦巻きあう。
巨大さゆえの緩慢さと不規則な動きが、
却ってそれぞれ意志をもつ生物であることを直感に告げた。
ξ゚⊿ )ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ#゚⊿゚)ξ
そう考えるが瞬刻、伊出の心が奮い起った。
頬が紅潮するのを強く自覚する。
-
天寿、天災…
病い、事故…
天命に従い魂が召されるならば、
湧いた悲哀を閉じ込め、己を納得させる時間も作ることができるかもしれない。
そして、感情によって言い訳を生み出す。
ξ#゚⊿゚)ξ 「…返して」
――だが、違いすぎる。
いま目の前に広がる太陽は、
近くで見れば見るほど一個体の生物であると認識できた。
闇に紛れてはいるが、触手がある。
太いのは触腕か。
先端に生えているのは触角なのだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーンを、返してよ…」
生き物が意志をもち、
意思によって生き物を殺すのならば…
弱者と認識してなお、喰らうならば…
『弱肉強食って言葉が、昔あった』
-
走馬灯のように。
…いつかの、生きていた頃の彼の言葉が浮かぶ。
『ぁあん?』 ('A`)
(`・ω・) 『食物連鎖ともいうらしい。
弱いものは強いものの供物になる、という意味だが』
川 ゚ -゚) 『シャキン…お前またアーカイブを勝手に覗いたのか?』
(・ω・´ ) 『調べ始めればキリは無くとも面白いものだよ、あれは』
(`・ω・) 『強いものはイタズラに弱いものを食べるわけじゃないんだってね。
手加減をして、自分が飽きたり飢えないように…
そして半永久的にその関係性を保つケースが多かった』
( ^ω^) 『それがどうしたんだお?』
(`・ω・´) 『いまの僕たちの話だ。
人類以外の生き物が居ない世界……
これはそんな関係性を保つことに失敗したということじゃないか?』
『…』 从∀゚ 从
彼は皆と共に行動することが少なかった。
代わりに博識ぶって、
考えることそのものが愉快であるかのように、
たまに口を開けば皆を困惑させていた。
-
『くだらねぇ…
いちいち深い理由なんてあんのかよ』 ('A`)
(`・ω・) 『君も先日晴れて教師になったろう、まんざら興味のない話ではないと思うけどね』
( ^ω^)『マジかお?! いつのまにおめでとうだお!』
『おめー…、うるせぇよ』 ('A`)
(` ω ) 『それはおそらく、 "感情" のせいさ』
彼の表情は、伊出が横から見ていてもはつらつと…だが同時に陰りを見せた気がした。
(`・ω・) 『かつての人間には類を見ない知恵と向上心があった。
弱点を補い、欠点を隠し、道具や環境すらも操って生き延びるといった…ね』
ξ゚⊿゚)ξ 『道具を操る… そうね、言われてみれば』
从∀゚ 从
彼女たちは玩具すら与えられない時代を過ごした体現者だ。
物に溢れ、者に溢れる時代もたしかに存在するのだろう。
だがそれも "霊長類の頂点" を自ら謳った時点で終わりに向かっていた。
-
川 ゚ -゚) 『だが頂点の何が悪い?
成ってこそ得られるものも、きっとあっただろうに』
(・ω・´ ) 『まだ見ぬ "得られるもの" の存在を認めるなら、
いつか来る "失うもの" もまた共に認められるべきじゃないか?』
『表裏、相反…いや、突き詰めれば相剋か』
――彼はそう言葉を続ける。
川 ゚ -゚) 『理解はできるがな…』
(・ω・´ ) 『きっと君の言う通りだ。
はじめこそ希望のために、人は何かを求めるんだろうし』
それなのに驕り、怠み…
そのくせ同種である他者を妬んでは怒りを露にする。
それがアーカイブに記された
人間という生物。
先天的性差や後天的ハンデであろうと臆面なく利用して、
周囲を蹴落とすことのみに時間を費やし、
"我こそ頂点" たる矜持を維持しようとする。
それがアーカイブに記された
人間という歴史。
-
(`・ω・) 『ヒトという種を蔑ろに、
個の優劣をこうまで醜く気にする生物は他に居ないんだよ』
( ^ω^)『どうしてそんな……仲良くしてほしいお』
(`・ω・´) 『ブーンやクーの発言も、いつかは僕のような歪みとなる日が来るのかな?』
『とどのつまり、
てめーも責任転嫁じゃねぇか』 ('A`)、
苛立たしげに鬱田は唾を吐き、タバコに手をかける。
隣にいた高岡が無表情のまま大きく離れたのは、煙を嫌がったのかもしれない。
(`・ω・) 『天敵のいない存在になってしまった挙げ句、操るものを消費しきって…
磨耗し、ついにほとんどの感情をなくしたヒトの残り屑が僕らなら――』
ξ゚⊿゚)ξ 『ねえ、考えすぎじゃない?
卑下したって良いことなんてなにも…』
(` ω ) 『……しかしもう、そうとしか思えなくなってしまった』
_
ξ゚⊿゚)ξ 『…』
良くない思考のどつぼにはまっているのだと、しかして伊出は言葉を飲み込んだ。
-
真実は違うかもしれない…が、残念ながら史実は如実に物語った。
兄弟喧嘩も、宗教戦争も、
個の概念から魂の救済を追い求めた末路でしかない。
心から相手を尊重出来たなら、たとえ相容れない存在であろうと赦せるはずだ。
…とはいえ彼の個人的考察も、
過去の何者かが視た未来の一部でしかない。
解っていても、人は辿る。
(`・ω・) 『ただ生きて、ただ無意味に死ぬだけの人生ならいっそ…』
ξ゚⊿゚)ξ 『……もぅ!』
川 ゚ -゚) 『いい加減にしろ、お前の言っていることは結果論じゃないか』
(・ω・´ ) 『そうだ、しかし紛れもなく僕たちに降りかかっている現実だ。
"もしも" なんて材料が、もうこの世界には無いんだから』
世のすべては天秤にかけられる。
どちらかを得ればどちらかを失う。
表があれば裏があり、光によって影が創られるように。
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