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マト ー)メ M・Mのようです

1名も無きAAのようです:2013/09/28(土) 06:36:56 ID:a0hWVy360


  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。

  僕は今でも夏が過ぎ秋が訪れる度に彼女と出逢ってからのあの数週間の出来事を思い出す。
  もう記憶は所々曖昧になってしまっていて、細部は日記という記録に頼るしかないのだけれど、それでも目を閉じれば彼女の笑顔は浮かんでくるのだ。
  あの最後の時と同じように。


  誰かに友人を紹介しようとする時、何から話し始めるのだろうか。
  彼女について語ろうと思った際に僕は何から話せば良いだろうか。
 
  自分との関係性?――彼女と僕は赤の他人だった。
  その人の職業?――誤解を恐れずに言えば彼女は無職だった。 
  年齡や経歴?――それすら彼女にはなかった。
  なら名前?――そんなものでさえ、僕と出逢った時の彼女にはなかったのだ。  

  あの日、僕が出逢った少女は掛け値なく何者でもない誰かだった。
  誰でもない、彼女だった。
  何の記録も残っていないとしても彼女は確かにそこにいた。

2名も無きAAのようです:2013/09/28(土) 06:38:04 ID:a0hWVy360

  今から僕が語るのは、そんな彼女の物語。
  記録と記憶を巡る少女の物語だ。

  その時、あの全ての過去を失くした少女に残っていたのは――未来が見える瞳だけだった。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第一話:Missing Memory」




.

3名も無きAAのようです:2013/09/28(土) 06:39:07 ID:a0hWVy360

 都会に空けられた緑の穴のような自然公園のベンチに腰掛けていた僕の隣に座ったのはショートカットの少女だった。
 とりあえず辺りを見回してみる。
 池を囲う柵と平行するように設置された椅子はほとんどが空いている。
 平日のお昼過ぎということもあってか、使われているのは僕(と少女)の座るここと、カップルらしき男女が座る斜め前のベンチくらいだ。

 今がお昼時ならまだ分かる。
 お昼休みのサラリーマン達やちょっとしたハイキングにやって来た学生で賑わい、ベンチもほとんど埋まってしまう。
 そういう状況ならば三人掛けくらいの椅子に一人で座っている人がいれば隣にお邪魔することもあるだろう。

 だが、今はそうではない。



マト゚ー゚)メ



 この僕の隣に座る少女が何故わざわざ僕の隣に腰掛けたのかがさっぱり分からない。
 理由を訊いてみようか、いや何も言わずに立ち去った方が良いだろう。
 何か高価な壺でも売られてしまってはたまったものではない。

 数百万の程度の品を一つ二つ買ったところで困らないような金を今の僕は持っているが、だからと言ってなんだかよく分からないものを買うのは嫌だ。
 金額云々以前に僕は無駄なものを所有することを好んでいない。


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