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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ

1 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 12:08:05 ID:xaL22uFs0














――――  予告  ――――









.

353 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:30:34 ID:LUlKybsE0
音をなるべく立てないように、進む。
ヒートの背後に迫っていく。

ヒートはお店の品定めをしている様子だった。
今は下見だろうか。
もう少し後になって、完全に盗みに入るのかもしれない。

だとしたら今はチャンスだ。
仕事していない今ならば、油断しているだろうから。

ヒートがとあるお店に近づいた。
老舗の果物屋らしい。
軒先から、フルーツの芳醇な香りが漂ってくる。

ヒートはしゃがみこんで、顔を寄せて、果物をひとつひとつ眺めている。

354 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:31:34 ID:LUlKybsE0

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「気にいったかい?」

ヒートに対して店主が声をかけていた。
やけにがたいのいい女性だ。

ヒートが顔をあげる。
ジョルジュからは背中しか見えない。

ノパ⊿゚)「ああ、いい色してるね」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「採れたてだからね。
 在庫もあるし、今なら安くしておくよ」

ノパ⊿゚)「考えておくよ。そうだ、おばさん」

ヒートが立ち上がる。

355 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:32:28 ID:LUlKybsE0
店主も釣られて顔を上に上げる。
無意識に。

その一瞬の隙。

ジョルジュは見逃さなかった。
ヒートが立ち上がりざま、腕を素早く下に動かしたのを。
そしてそのまま洋梨を自分の手持ち鞄の中に入れたことを。

音も、振動も出していない。
おそらく店主も気付いていないだろう。

ジョルジュはクロスボウを構えた。
今がチャンス。
現行犯だ、逃しやしない。

網の入った矢。放たれた瞬間拡散して網となる。
それを思いっきり指で引いた。きりきりと軋む。

356 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:33:35 ID:LUlKybsE0
指を離す。
放たれ、広がる網。

まっすぐヒートの方へ向けて。

途端に、状況が一変した。

( ゚∀゚)「え?」

声はすぐにかき消されてしまった。

ヒートが確かに立っていたその場所で、轟音が響き、土煙が上がる。

理解が追いつかない。

ヒートの姿も、お店の姿も見えなくなる。

自分もまたそれに巻き込まれた。
露店の前だけが急に、煙に包まれたのだ。

357 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:34:36 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「え、煙幕か!?」

ジョルジュは腰を抜かしてわめいた。
不自然な土煙だ。

煙の奥に人影が見える。
それが一気に跳んだ。

なんとか目で追う。
煙を飛びだしたその影が露わになる。

赤い髪が見えた。

(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」

そう言い切ると同時に、顔面に何かを投げつけられた。

( ×∀×)「のわああああ」

情けないくらいの叫び声をあげながらそれを確認する。
洋梨だ。
青果店から盗んだものの一つに違いない。

くそ、してやられた。

358 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:35:33 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとする。
びっくりしただけだ。こんなところで倒れている場合じゃない。

せっかくブーンを出しぬけると思ったのに。

頭の中で憤りが錯綜する。
悔しさで目の前が滲む。

俺は、あいつに負けたくなんかないのに。



     ☆     ☆     ☆

359 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:36:29 ID:LUlKybsE0
最初に会ったときから気に食わなかった。
あんなにやにやした、いかにも臆病そうな少年が、ジョルジュはどうも嫌だった。

それで、うっかりちょっかいを出したから
あれよと言う間に魔人を失うことになった。

悔しかった。

何かを奪われることの悔しさをそのときに知った。

そのあとで、あの地球儀の事件のときに見た格好いい人が、
ブーンとこっそり特訓をしていることをたまたま聞いた。

最初は無視しようと思った。
ブーンが何していようと俺には関係ないって。

でも、モララーが衛兵の中でもかなり優秀な人であると知って、気が変わった。

自分もモララーに近づきたいと思ったのだ。

だけど、もうそのときのジョルジュにはモララーに近づけるチャンスはなかった。
少なくとも、衛兵見習いとしての身分じゃだめだ。接点はない。

唯一の接点はあの地球儀の事件だけ。

360 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:37:33 ID:LUlKybsE0
それでもどうにかしてモララーに近づきたい。
せっかくあのとき近づけたのに
ブーンと自分とで、差ができてしまうことが嫌だった。

それはくだらない固執かもしれない。
純粋な、負けたくないという気持ち。
人はそれを笑うこともある。

でも、ジョルジュはどこまでもその気持ちを大切にした。

あるときのことである。
城下町を歩いていたときに、レジスタンスのパフォーマンスを目にした。

そしてそれの後処理をしている人の中にモララーを見つけた。
あの人がこんな仕事もするのか、という興味。
そこから、ついジョルジュはモララーの後をつけた。

レジスタンスの舞台裏に忍び込んだ。
そこで、モララーとレジスタンスの関係を知った。
モララーがレジスタンスと協力していること
彼らの悪事を小さく報告し、なるべく活動が継続できるように取り計らっていること。

ジョルジュはそのとき、しめたと思った。
これを使えばモララーと近づけるかもしれない。

361 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:38:34 ID:LUlKybsE0
レジスタンスの舞台裏で張り込んだ。
こそこそと、そこから出てくるモララーを見つけた。

そして

( ・∀・)「あ……」

モララーと再び出会った。

( ・∀・)「お前あのときの」

モララーはジョルジュのことを覚えていた。

だらだら話していたら不審に思われる。
そう感じたので、ジョルジュはすぐに頭を下げた。

( ゚∀゚)「俺を弟子にしてください!」

一気に言ってのけた。
いつでも、欲しいものがあれば率直にアプローチする。
それがジョルジュの信条だった。

(;・∀・)「ええ? ちょっと待って、ええ?」

狼狽するモララーを、ジョルジュはまっすぐに見つめていた。

362 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:39:32 ID:LUlKybsE0
(;・∀・)「それって、何? 俺、君の魔人帰らせたんだよ?」

( ゚∀゚)「あいつはもういいです。クビにしました」

(;・∀・)「ああそう。思いきったことするんだね」

( ゚∀゚)「今は人間として強くなりたくて、お願いしてます!」

(;・∀・)「……」

(;ー∀ー)ハア

モララーは目を閉じて、眉間を指でつまんでいた。
頭が痛いときの動作。

( ・∀・)「どうすりゃいいのよ。俺は。
 お前人間として強くなるって言ったって、それで何をしたいのさ」

( ゚∀゚)「何を……?」

( ・∀・)「それがわからなきゃ何も教えてやらね」

そう言って、モララーはその場をさっさと歩いて行ってしまった。

363 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:40:29 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは、やろうと思えばその歩みを止めることができた。
でもしなかった。

頭の中でモララーの言った言葉が響いていたからだ。

自分は何をしたいのか。

ジョルジュは純粋な男だった。

目の前の問題には真摯に立ち向かう。
精神誠意をこめてそれに対峙し、自分の欲しいものを獲得する。

それが信条。
一番大事なこと。

だからジョルジュは、その問いかけにも全力で取り組もうと思った。
余計なものや、煩わしいものを捨てて。

その一端として、ジョルジュは衛兵見習いをやめた。

寄宿舎に入ったことは、親の言いつけでしかなかったので
それを続けていてはいつまでたっても問題は解決しないと思ったのだ。

364 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:41:37 ID:LUlKybsE0
少しは大人らしくなるために、力をつけろと言われた。
いつまでも裕福な暮らししてちゃいけない。
他国にいい修行の場所がある。そこへいけ。
それで南西のテーベ国にある家を渋々出て、ラスティア国にきた。

でも、それは自分の意思じゃない。

じゃあ自分のしたいことは何なのか。
その問題に直面したのは初めてだった。

真剣に悩んだ。
城下町でその日暮らしを始めて、ひたすら自分をいじめ抜いて
世間のことも学んだ。

寄宿舎で閉じこもっていては得られないことだってたくさんあった。
それは今でも誇っている。

やがて、ジョルジュは自然とレジスタンスに辿りついた。
この町で一番まっすぐに生きている連中だと思ったからだ。

365 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:42:28 ID:LUlKybsE0
当時、レジスタンスはまだ盗賊団のメンバーで構成されていた。
それが次第に人数を減らしていった。
別にみんながレジスタンス活動をしたかったわけじゃないからだ。
その引き潮のときに、ジョルジュは入って、入団したいと答えた。

モララーと出会ってから1年が経過した、冬の話である。
そのとき、モララーはいなかった。
国王の外交に付き添っていたのである。

モララーの帰りを待って、ジョルジュは『三匹のカエル』に入り浸った。
やがてリーダーのヒートが面白がって彼にお酒を担当させてみた。
お酒も飲めない子どもなのに。

面白いことに、彼はカクテルの作り方を容易にマスターした。

モララーが帰還した夜
カウンターにいるジョルジュを見て、彼は愕然としていた。

(;・∀・)「……なんすかこれ」

( ゚∀゚)「マスターと呼んでください」

(#・∀・)「何しれっといるんだよてめえは」

そのまま、モララーは奥の部屋へとジョルジュを連行した。

366 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:43:37 ID:LUlKybsE0
現在の訓練部屋だ。
当時から、モララーとドクオが技術の鍛錬のために使っていた。

そこで、モララーはジョルジュを投げ捨てた。

( ×∀×)「ぬわあ」

( ・∀・)「なに情けない声だしてんだよ。
 俺は今むしゃくしゃしてるんだ。ほら、木刀手に取れ」

モララーは部屋の隅にあった木刀に手をかけ、一本をジョルジュに投げる。
そしてもう一本を自分の手に持った。

( ・∀・)「いいか、ジョルジュ。これは入団テストだ。
 この組織がレジスタンスとなって以来、初めてのな。
 俺相手に三本取ってみろ」

その日、訓練部屋の灯りが消えることはなかったという。

367 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:44:29 ID:LUlKybsE0
こうしてジョルジュはレジスタンスのメンバーとなった。

以降、誰もレジスタンスになろうとしていない。

いや、誰も来なかった。
現在
ブーンがその門戸を開くまでは。

なんでよりにもよって、一番気に食わない奴が来てしまったのだろう。
一番会いたくない奴が。

こんな不思議な縁、いらなかったのに。

くそ野郎。


     ☆     ☆     ☆

368 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:45:31 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」

雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。

ぱっと見たら血にも見えたかもしれないが、ただの塗料だ。

ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。

ああ、またこいつは現れた。
ジョルジュは心の中で悪態をついた。

会いたくないって思ってるのに。
なんだってこいつはくるんだ。

しかも、思いっきり俺を心配する表情で。

こいつは馬鹿なんじゃないか。

俺はお前を苦しめたことがあるんだぞ。

なんで俺を心配するんだよ。

あのときだって、俺と一緒にいた魔人ですら、俺を気遣ってくれなかったのに。

369 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:46:29 ID:LUlKybsE0
そう悪態をつきながら、
ジョルジュは自分が笑いそうになっていることに気付いた。

それを隠すため、思わず叫んだ。

(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
 逃げられちまったよ!」

やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。

明らかに動揺しているブーン。
そりゃそうか、こんな風に叫ばれたら、こいつは驚いちゃうんだ。
小心者だから、ちょっと大声だしたくらいですぐ。

(;^ω^)「そんな……いつまでも尖がっている場合じゃないお」

そのくせこんなふうに反論してきやがる。

(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」

ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。

ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。

このお店の店主の姿。

370 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:47:34 ID:LUlKybsE0

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)

毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。

二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。

やがて、女性はゆっくりと口を開いた。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「お勘定」

(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」

ジョルジュは泣きごとを漏らした。

(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」

ブーンが必死に呼びかける。

なんだよ、急に男らしいこといいやがって。

371 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:48:31 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」

(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」

喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。

(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」

ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。

ジョルジュはその手をぼんやり眺めていた。

得体のしれない男が、まっすぐに自分を助けようとしてきている。
意味がわから……いや
ジョルジュは自分の思考を上書きする。

ああ、そうか。

こいつは優しいんだな。

モララーは言っていた。
ブーンは俺たちにできないことができるって。

その言葉が本当かどうか確かめられるかもしれない。
モララーがどうしてブーンに入れ込んでいたのか。

自分がいつまでもいらだってしかたないこの男に何があるというのか、わかる。

372 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:51:24 ID:LUlKybsE0
心の奥がざわめいた。

それを見てみたいという意欲が湧いた。

ブーンに賭けてみたいという気持ち。

焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。

(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」

ジョルジュが震える声で問いかける。

ジョルジュにははっきりと、ブーンの目が見えていた。
まっすぐに人を信じ切っている目。
一緒に何かをしようという目。

こういう目は、嫌いじゃない。
むしろ、俺の信条通りだ。
俺が最も憧れる生き方。

ジョルジュの警戒心が解けていく。

373 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:52:23 ID:LUlKybsE0
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。

高く、看板が抱えあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。

ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。

(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」

叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。

こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。

すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。

374 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:53:24 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは純粋な男だった。
蟠りがあっても、目標があれば、それに一直線。
その方が、楽だし、うじうじするより性に合う。

ジョルジュは前を向いた。

あの洋梨好きな女め、絶対のしてやる。

俺たちで。



     ☆     ☆     ☆

375 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:54:23 ID:LUlKybsE0
午後3時

住宅街

柔らかそうな茅葺屋根の上で、ヒートは洋梨をかじっていた。
基本的には通りすがりの一般人から盗み集めたものだ。
店先で盗むことは、本当はリスキーなのだ。

ノパ⊿゚)「あの子らどこいったんかねえ」

はるか遠くの青果商通りの方を眺めつつ、呟く。

洋梨が一つ食べ終わる。
芯をぽいっと捨てる。

『三匹のカエル』であの子らを見かけてから、予感がした。

ドクオのことだから、すぐに自分を捕まえに来るかなとも思った。
だけど、繁華街であの見慣れぬ少年がきょろきょろしているのをみたとき
事情はなんとなく察した。

ああ、自分を捕まえに来ているんだなって。

376 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:55:20 ID:LUlKybsE0
だからわざと騒ぎが起こるようにしむけてみた。
群衆の中で洋梨がないと最初に叫んだ女性の声が、私の声だと、あの子は気付いただろうか。
あのあとは勝手に人々が騒ぎ始めただけ。

ノパ⊿゚)「きっと気付いていないだろうなあ」

そういって、また一つ芯を落とす。
こうしておけば見つけられるだろうとぼんやり考えながら。

「おーい」

足元で声がする。

首を傾げて、そちらを見る。

ノパ⊿゚)「ありゃ」

( ^ω^)「おー」

少年がいつの間にか、建物の入り口のところにまできていた。

ノパ⊿゚)「よくわかったねー」

( ^ω^)「芯が落ちてたお」

ノパ⊿゚)「お、鋭い。感心するね」

377 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:56:23 ID:LUlKybsE0
自分の出したヒントにちゃんと気付いてくれるのは、嬉しい。

( ^ω^)「ちょっと下で話がしたいお」

ノパ⊿゚)「なんだい? つかまってとかは聞かないよ?」

( ^ω^)「あ、事情知ってるんだおね?
 僕はブーンだお。これ、入団テストってことになっているお」

ノパ⊿゚)「ああ、どうせドクオが仕向けてきたんだろ。
 自分で捕まえるのは面倒、とか言っちゃってさ」

( ^ω^)「そうだおー、ひどいことするお」

ノパ⊿゚)「同情するわー。
 で、下降りたら何するの?」

( ^ω^)「テストだお」

テスト?

378 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:57:24 ID:LUlKybsE0
何だろう。
面白ければいいな。

ヒートはそう思って、飛び降りた。





     ☆     ☆     ☆

379 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:58:24 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「ヒートは、面白いことが好きなんだ」

( ^ω^)「面白いこと?」

( ゚∀゚)「ああ、だから、何か新しいものや、興味深いことがあると、まずは寄ってみたくなる。
 美味しそうなものも好きだな。で、そこに急いで寄って行っちゃう」

( ^ω^)「なるほど……使えるかもしれないお」

( ゚∀゚)「お前の策に?」

( ^ω^)「そうだお。隙を作る必要があるからだお」

( ゚∀゚)「なるほど……でも
 これえ気を引くとしたら、勝負は一瞬になるんじゃないか?」

( ^ω^)「それくらいギリギリの相手だお……」



     ☆     ☆     ☆

380 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:59:17 ID:LUlKybsE0
飛び降りたのは、ブーンの傍。
その隙に、ブーンは建物の屋根の下へと移動した。
上から覗いたときには見えなかった位置。

大きな網を備えた虫取り網があった。

ヒートは思わず笑ってしまった。

こんなもので自分を捕まえようとでもいうのだろうか。
振りかぶる動作さえあれば、自分にとって逃げるには十分なのに。

(#^ω^)「おおお!!」

ブーンが叫ぶ。
虫取り網が振りおろされる。

ヒートは一歩引いてそれを避けた。
道の真ん中へ。

網はかすりもしなかった。

381 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:00:17 ID:LUlKybsE0
そんなんじゃだめ、と言おうとした。

(#^ω^)「いまだお!」

ブーンが叫んで、背後の、茅葺屋根の上を見た。
さっきまでヒートのいたところ。

(#゚∀゚)「おお!」

ジョルジュがいた。
遠回りして、別の場所から屋根に上っていたのだろう。

そうか、芯を見つけたのは随分前だったんだな。
それで私がいるところがわかってから、計画を練ったのか。

ヒートは素直に感心した。

それから、批評した。

382 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:01:26 ID:LUlKybsE0
このブーンという少年は過ちを犯した。
見なければよかったのに。
ジョルジュの方を見なければ、私は彼に気付かなかったのに。

今、ジョルジュは上から私たちを見下ろしている。
圧倒的に優位な状況だ。
私が平面上でどこに逃げようとしても、簡単にあのクロスボウで狙って射止めることができる。

その優位な状況を破ってしまったのは、ブーン自身だ。

ヒートは足に力を込める。
くるっと後ろを振り向く。
ジョルジュが撃つ、その前に。

ヒートが今見ているのは、ジョルジュのいる家の向かい側の住宅。
幸いなことに、一つだけある窓枠の上に、出っ張った屋根がある。
私の脚力とバネの作用があれば、簡単にそこに乗り移ることができるだろう。

383 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:02:23 ID:LUlKybsE0
さよなら、見知らぬ少年よ。
私を捕まえるにはまだ早かったようだな。

心で別れを告げ、

地面を蹴る。

いつものように、空中へ。

「そうだお」

顔は見えなかった。

でも確かに、あの少年の声が聞えた。
後ろから。

( ^ω^)「そこにしか逃げ道はないんだお」

384 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:03:20 ID:LUlKybsE0
顔を向ける。
片目だけで、彼を見る。

彼はクロスボウを構えていた。

なんで、それがここにあるんだろう。
二つあったのか。
でも、だったらどうして初めから使わなかった。

ああ、私を油断させるためだったのか。

ジョルジュの方を見たのも、ブーンから注意をそむけさせるため。

ここに至るまでの何もかもが、私を驕らせるための布石。

385 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:04:30 ID:LUlKybsE0
その結論が導き出されたときには

すでに頭の上から足の先まで

大きな網が彼女を包み込んでいた。




     ☆     ☆     ☆

386 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:05:27 ID:LUlKybsE0
夕方

『三匹のカエル』

ノハ×⊿×) ムキュー

ブーンとジョルジュはヒートを抱えて連れてきた。
町中で大変な数の人々にみられたが、気にしている場合でもなかった。
むしろ積極的に、洋梨を販売していたお店や、盗まれたお客に声をかけた。

そうしてきっちり領収書をもらってきた。

('A`)「おおう、きっちり……きっちり……」

ドクオの顔は、明らかに、「こんなことまでしなくていいのに」と物語っていた。

( ゚∀゚)「お前らしいや」

ジョルジュがそう言ってのける。

387 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:06:23 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「お? そうかお?」

呑気に返すブーン。

ジョルジュはそれを鼻で笑った。

( ゚∀゚)「あほみたいに正直なんだな。
 そりゃ、モララーさんも構っちゃうよ。
 ほっといたら何するかわからんものな」

ブーンはむっとする。

(#^ω^)「なんだお、協力してやったのにその言い草は」

( ゚∀゚)「あー、はいはい。ありがとうさん」

(#^ω^)「ぐぬぬ……」

('A`)「さて、お金はなんとかしよう」

またもやドクオが口を挟んできた。

388 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:07:23 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「おい、模造品返せ」

シュールがブーンに声をかける。
ブーンは「ああ」と言って虫取り網の中からクロスボウの模造品を取りだした。

あのとき、ジョルジュと合流してから、一旦『三匹のカエル』へ赴いた。
そこで計画をしっかり練る中で、シュールの模造品の話を聞いた。

それが、ヒートを油断させるために使えるかもしれないとひらめき
ジョルジュに持たせて、ブーンはヒートの前に現れた。

( ^ω^)「うまくいきましたお。ありがとうですお」

lw´‐ _‐ノv「壊してないだろうな?」

(;^ω^)「た、たぶん。もし壊れていたらジョルジュのせいですお」

( ゚∀゚)「え?」

( ^ω^)「使ったのはお前だお!」

lw´‐ _‐ノv「ほう」

(;゚∀゚)「た、たぶん大丈夫です。はい」

389 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:08:23 ID:LUlKybsE0
('A`)「で、ヒート。何か言いたいことは」

ノパ⊿゚)「……縄をほどけ」

('A`)「嫌だ」

お店の一角にある柱に、ヒートは縛られていた。
盗みのあとで捕まったら、いつもこうして反省させているらしい。

ノパ⊿゚)「お前それがリーダーに対する態度か!?」

('A`)「もう何年も言ってるけどな、ここはもう盗賊団じゃないんだ。
 レジスタンスなんだよ。魔人と戦う勇者の集いだ」

( ^ω^)「勇者?」

唐突に聞えた奇妙な単語に、ブーンは反応する。

('A`)「カエルって、勇者っぽいだろ?」

( ^ω^)「ええ……ええ?」

この団体は勇者のパーティだったのか。

やたらと俊敏な泥棒と、青白い細身の衛兵と、掴みどころのない料理人と、調子のいい青年と
……自分。

なんだこれ。

390名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 23:08:25 ID:atSXWnCM0
長丁場の投下ですな。本当に筆早くて羨ましいわ
しえんしえん

391 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:09:20 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)「はーなーせー」

('A`)「いーやーだー」

lw´‐ _‐ノv「おう、洋梨のタルトできたぞ」

( ゚∀゚)「凝ってんなー」

それからレジスタンスの方々は話しあって、今日はもう店は閉めようということになった。
どうせいつも大した客は来ない。
それに、なんだかみんな疲れている。

だけど、閉めた後で

それからすぐに、号令に合わせて
小気味良いグラスの音が響く。

飲み会となれば話は別。
それに、新しい入団者が来ているのだから。

その日はずっと、ブーンは『三匹のカエル』で過ごしていた。
寄宿舎のF棟の管理人には後で謝っておこう。

392 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:10:26 ID:LUlKybsE0
気分は晴れた。
言い切ってもいい。

いつまでも落ち込んでばかりじゃいられない。

今は新しくできた仲間と共に過ごそう。

そして、魔人に立ち向かおう。

ブーンの心は、ひとまず今、固まっていた。




     ☆     ☆     ☆

393 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:11:18 ID:LUlKybsE0
午後8時

寄宿舎G棟3階368号室

ツンの部屋

ξ゚⊿゚)ξ「……月が綺麗」

彼女は思わず呟いた。
窓の外から見える、下弦のそれが、あまりにも綺麗だったから。

ブーンのことを思った。

彼は元気にしているだろうか。
心配でもあった。
ひょっとしたらやけをおこしているんじゃないか。

394 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:12:23 ID:LUlKybsE0
それで、やけになって、危ないことにでも手を出していやしないか。

もしそんなことになれば、自分は……

逸る気持ちを抑える。

ξ゚⊿゚)ξ「……きっと平気よ。ブーンなら」

誰にも届かない言葉。

それだけを残して、夜は更けていく。

深く、深く。

395 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:13:17 ID:LUlKybsE0





―― 第三話 おわり ――




―― 第四話へ続く ――



.

396 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:14:17 ID:LUlKybsE0
―― コラム③ レジスタンス ――

lw´‐ _‐ノv「……中世、近世、ヨーロッパ、料理、で検索っと」

lw´‐ _‐ノv カタカタカタ……

lw´‐ _‐ノv「中世ばっかり出てくるな……」

lw´‐ _‐ノv「……犬のようにがっつくのは当たり前。口の中に食べ物をめいっぱい詰め込み、その状態でお喋りをする。
 食事中にゲップやオナラをして恥じ入ることがない。タンやツバをあちこちに吐き、
 汚れた口はテーブルクロスを持ち上げてその裾で拭い、さらには同じ場所で洟までかむ。
 皿以外に食器はなく、どんな料理も手づかみわしづかみ。汚れた指先は意地汚くしゃぶったり、あるいは洟をかんだテーブルクロスで拭う。
 酒に酔っては大声で歌い、喚き、罵りあう。そのうちに相手の胸ぐらをつかみ、喧嘩が始まる。皿が舞い、食器が飛ぶ。
 そのうちに武器を取り出す者が出てきて、刃傷沙汰へと発展する。悲鳴と怒号が響き、警備兵がすっ飛んできて、ますます辺りは喧噪に包まれる……」

lw´‐ _‐ノv「……彼らがこのように野放図な食事を繰り広げていた理由は、
 当時のヨーロッパが慢性的な飢えや病気に苦しみ、その上戦争ばかりしていたからです……」

lw´‐ _‐ノv「あー、前提が違うな。ふむ」

lw´‐ _‐ノv「……なんでもありにするか」

397 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:15:17 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「レジスタンスはいろんな町にいる魔人反対派組織。
 ラスティア城下町のように盗賊団がそのまま型となっていることもある。
 大体において反政府勢力がなっていることがおおい」

lw´‐ _‐ノv「その活動は魔人利用に対する抗議デモやパフォーマンス
 それと政府や衛兵が取り扱ってくれない魔人がらみの事件を解決していたりもする。
 そのためたまーにレジスタンスのファンもいたりする」

lw´‐ _‐ノv「とはいえ、政府に反対しているわけだから大概は良い顔されない。
 南の山での魔人の事件はイメージアップのいいチャンスだったんだけど、上手くはいかなかった。
 イメージダウンすれば活動の幅も狭まったりする。割と辛い立場だ」

lw´‐ _‐ノv「ラスティア城下町のレジスタンスはかなり緩い方で
 他の町や国にはもっと過激な団体さんもいる。
 場合によっては政界に進出したりなんか怖いところに手を出している団体もある」

398 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:16:26 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「まあ、そういうところはいろいろと役立つ面もある。
 純人間製の道具を作ったりだとか。ジョルジュが輸入していた武器もこれ。
 私も作っていたりする。こっそりと」
 
lw´‐ _‐ノv「大きな町のレジスタンスはときどき集まって会合を開いている。
 開催場所は内緒。そもそも開催の直前まで知らされない。
 物語の時期ではちょうど他国でそれが行われていて、別のメンバーが行ってる」

lw´‐ _‐ノv「……総括すれば
 政府とも魔人とも対立しているもう一つの派閥みたいなもの。
 純粋な人間の組織としてのね」

lw´‐ _‐ノv「今回はこれで終わり。そろそろもうわざわざコラム出して説明する項目もなくなってきたと思う」

lw´‐ _‐ノvノシ「それじゃあ」


―― コラム③ おわり ――

399名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 23:34:32 ID:bYVcXlZI0
カエルと勇者って聞くとクロノトリガー思い出す

400名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 01:40:52 ID:PGCDrU5M0


401名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 04:54:15 ID:Wh.TUukAO
ω・)乙。面白いよ

402名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 08:10:24 ID:T/VQgDAk0


403名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 21:49:47 ID:xAd0Vn.EO
2H以上もお疲れ乙でした、でももっと上はいるもんだ 
ミセ*゚ー゚)リ樹海は休憩入れながらだけど先日8H以上やってたんだぜ

404名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 00:15:45 ID:QGUK15KY0
作者それぞれのペースでいいじゃないか
読み手としてはそりゃ頻繁に来てくれたりいっぱい読ませてくれた方が嬉しいけどさ

405403:2013/08/31(土) 01:14:02 ID:S2dFR5J6O
>>404 
別に悪い意味合いで書いたんじゃないんだぜ 
純粋なねぎらいの気持ちで書いたんだよ、ミセ*゚ー゚)リ樹海に対しても

406 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:04:37 ID:t8lg.qj.0










―― 予告 ――









.

407 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:05:51 ID:t8lg.qj.0
「大丈夫ですかな」

声をかけられる。
落ち着いた、大人の声。

デレは反射的に顔を上げた。

( ФωФ)「私ですよ」

目の前にいたのは、衛兵隊長のロマネスク。
以前父に紹介されてから、知り合いだった。

ロマネスクはグラスを掲げ、猫のような目をデレに向ける。

( ФωФ)「楽しんでおられますかな」

デレは答えなかった。

その代わり、彼を睨み据える。

その表情を見てから、ロマネスクが「やれやれ」と残念そうな声を出した。

408 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:07:27 ID:t8lg.qj.0
( ФωФ)「おられないみたいですな」

ζ(゚ー゚*ζ「おかげさまで」

デレは短く畳みかけた。
鋭い睨みはそのままに、上半身を動かして、なおのこと勢いをつけていた。
ロマネスクは虚を突かれたようで、微かに肩を震わせている。

それから、彼は目を細めた。
猫が知らない人を見るとき、相手を品定めするように。

( ФωФ)「小娘め……」

他の人には伝わらないように、細心の注意を払って出した声だろう。
デレだけの耳に、それは届いた。

409 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:08:42 ID:t8lg.qj.0




―― 第四話 ――




―― 猜疑の瞳と月下の告白 ――




明日夜10時半から投下開始。

410名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 23:12:22 ID:m1INFahM0
明日夜か……
最近寒くなってきたし靴下だけは履いて待ってる

411名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 23:25:07 ID:S2dFR5J6O
今日予告ということは1日でほぼ書き終わったということか 
ハイペースもいいけど無理するなよ

412 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:39:10 ID:t8lg.qj.0
>>411
おっしゃるとおりです……
第四話でお話の前提がでそろうので、そこまでどうしても短期間で投下したかったんです。
そこからはもう少し余裕を持って臨もうと思います。腰も痛いし。
お楽しみに。

413名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 03:32:49 ID:YE3GlqKM0
腰お大事に
ハイペースで嬉しいけど無理しないでね

414 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:28:37 ID:X94qherQ0
そろそろ投下を始めますね。

415 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:30:01 ID:X94qherQ0
ブーンはレジスタンスに加わった。

すでに彼はその活動に参加している。
暇をもらっているうちに、『三匹のカエル』に寄り、話し合う。
そして時折町で起きている魔人絡みのトラブルを解決していく。

解決と言っても、大それた事件があるわけではなく
お城によって揉み消されてしまいそうなものをしっかり成敗する、という役割だった。

情報を集めてくるのはシュール。
現場に赴くのはジョルジュやブーン。
もう少し大きな事件になればドクオやヒートも参加するそうだが、今のところその気配はなかった。

いずれにしろ、ブーンは新入りという立場上、比較的よく働かされている。

月は移った。
今は10月。

そろそろお休みの時期も終わりかな、これからは参加の間隔があいてしまうだろうな
そんなちょっとした不安をブーンが抱き始めていた頃。




     ☆     ☆     ☆

416 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:31:01 ID:X94qherQ0
ある日のお昼

(-@∀@)「号外だよー!!」

新聞屋が駆けまわっていた。
お城からスタートして、中央広場、商店街、住宅街
その背負った新聞を一枚一枚、道行く人々に配っている。

(-@∀@)「新嘗祭の日取りが決定したよー」

そのお触れが出されたのはつい先ほどのことだった。
政務官、貴族、町内会長、それに加えて国王が討議した結果だ。

(-@∀@)「ほら、お兄さんも」

('A`)「え? ああ、はい」

半ば押しつけられる形で、ドクオは新聞を手に入れた。
読もうとする間に新聞屋は走り去ってしまう。

('A`)「どれどれ……」

書かれている日付は、今日から3週間後。
もう秋が深まる時期になってようやく開催されるとのことだった。

417 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:32:01 ID:X94qherQ0
それじゃ新嘗祭の意味がないじゃないか。
そう突っ込みながらも、ドクオはそこに掲載された写真を見る。

満面の笑みを浮かべたショボンの写真。
よほど祭が行われることが楽しみなのだろう。
それにしても、相変わらず間抜けな顔をしている、とドクオは内心悪態をつく。

実際今のショボンはその人柄から、面白がられこそすれ、あまり尊敬されているとは言い難かった。

魔人をお城に入れなかった頃は、むしろ今とは逆に気の毒なほど暗くて棘のある人物だった。
その独特の雰囲気から、恐れられたり、時にはかっこいいと言われることもあったらしい。

しかし今のショボンは丸くなっていた。
人当たりが良くなったと言えば聞えもいいか。

こうして暢気に新嘗祭の日取りを決めているあたり、
親近感こそ湧くが、他もやることがあるんじゃないかなとも訝しんでしまう。

('A`)「あれ……」

そこで、ちょっとしたことにドクオは気付いた。

この写真はおそらく国王の部屋で撮られたものだ。
壁には数々の装飾品が飾られている。
その中には今時珍しい武器や防具なども見られた。インテリアとして飾られているのだろう。

418 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:33:02 ID:X94qherQ0
('A`)「これは、まさか」

ドクオが目を細める。
写真の中のそれが、自分の思い描いているものと同じか確認するために。

ドクオの気を引いた装飾品、それは壁に飾られた剣だった。
カラー写真なので、その色合いもよくわかる。

黄金色の柄に、赤い宝石がひとつ埋まっている。
大きなルビーの原石。

これと同じものを、ドクオは何度も目にしていた。



     ☆     ☆     ☆

419 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:34:01 ID:X94qherQ0









―― 第四話 猜疑の瞳と月下の告白 ――








.

420 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:35:02 ID:X94qherQ0
翌日の朝。

リ´−´ル「ツンちゃん、ツンちゃん!」

彼女が声をかけられたのは、G棟寄宿舎の廊下だった。
ツンは自分の部屋から出てきたばかりである。

ややふくよかな体系の、優しそうな女性。
何度か見覚えがあった。

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、F棟の管理人さんじゃないですか」

主にブーンの部屋に寄るときに会っていた。
従者見習いが衛兵見習いの寄宿舎に入るためには許可が必要になる。
だから管理人とも知り合いになっていったのだ。

リ´−´ル「ツンちゃん、よくブーンくんに会っていたんだよねえ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、まあ。友達ですから」

リ´−´ル「実は、彼のことでちょっと困ってることがあって」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

寝耳に水だった。
ブーン、確かに最近彼に関して思うことはある。
でも決してネガティブなことじゃない。

421 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:36:01 ID:X94qherQ0
彼は最近妙に明るくなっていた。
モララーが亡くなったときはずっと悲しんでいたのに
それが、城下町に赴いた途端、変わっていったのだ。

何か町で楽しみでも見つけたのかな、とツンは思っていた。
それはそれで喜ばしいことだ。
そのためツンは特別彼に追求はしていない。

あの様子なら、きっと変なことには手出ししていないだろう。
そう思って、安心していたのに。

ξ゚⊿゚)ξ「……何があったんですか?」

やや慎重に、ツンは管理人の返事を待つ。
管理人は自分の口の傍に手を添える。

リ´−´ル「実はねえ、最近ブーンくんの帰りが遅いのよ」

発言をしっかり聞きいれて、ツンはわずかに安堵した。

422 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:37:01 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「それは……きっと町で遊んでいるからじゃないですかね?
 落ち込んでいたようだし、そういうことで遅くなってもしかたないんじゃないでしょうか」

リ´−´ル「それはそうなんだけど……こう何日も遅く帰られると私の立場としてもよくなくてね」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなに、なんですか?」

リ´−´ル「ええ、もう1週間以上、毎晩遅くに帰ってくるの」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

これまた初めて聞く話。
思わず疑問符をつきつけてしまった。

思い返してみれば、ブーンを見かける機会は少なくなっていた。
以前よりもずっと。

リ´−´ル「ブーンくん、いっつも真面目で良い子だったのに。
 そんなに遅くまで何をやっているのか、怖いことにならなきゃいいなと心配で」

423 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:38:00 ID:X94qherQ0
ツンの耳に、管理人の言葉が届く。
その意味内容が、冷や汗を流させた。

ツンは顎の下に手をつけて「うーん」と唸る。

引っ込んでいた不安が浮かんでくる。
ブーンは何をしているのか。

何か危ないことに手を出しているんじゃないのか。

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ、ちょっと聞いてみます。
 あいつが復帰するときってわかります?」

リ´−´ル「ちょうど明日よ。お昼前の訓練に参加するはずだから
 訓練場に行けば会えるんじゃないかしら」

頼んだ、との意味で管理人はツンに頭を下げる。
ツンもまた同じように頭を下げた。



     ☆     ☆     ☆

424 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:39:05 ID:X94qherQ0
同日のお昼

衛兵見習い訓練場入口。

ξ゚⊿゚)ξ「という話があったんだけど」

さっそく、ツンは話題のブーンの前に立っていた。

(;^ω^)「……」

ブーンは黙って、目を泳がせている。
何か言い訳しなくては、だけど咄嗟には出てこない。
まさか復帰初日から、こんな追求をされるとは思っていなかった。

今二人は壁際にいた。
ツンが壁に片手をついて、ブーンの前に聳え立っている。
まるで尋問だとブーンは思った。

ξ゚⊿゚)ξ「何かいうことないの?」

(;^ω^)「うーん……遊んでいたじゃだめなのかお?」

425 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:40:01 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「管理人が納得しきっていなかったわよ。
 それに、いったいどんな遊びなのよ?」

(;^ω^)「それは、その……酒場とか」

ξ゚⊿゚)ξ「酒場!? あなたお酒のんでいたの?」

(;^ω^)「いやいや、違うお! 誤解だお!
 僕はちゃんとジュースしか飲んでないお!」

ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ、どうして酒場に?」

(;^ω^)「それは……その、実は知り合いがそこで働いてまして」

ξ゚⊿゚)ξ「だれ?」

(;^ω^)「あー、昔衛兵見習いやってて、やめちゃった奴だお。
 やめたあとに自分探ししていたらしくて、その酒場に落ち着いているんだお。
 この前城下町に降りたときに出会って懐かしくて、楽しんでいたんだお」

ここでジョルジュの名前を出したらややこしくなる。
ブーンはなんとか彼の名前を言わずにこの場を取り繕おうとした。

426 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:41:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ほらでも、酒場にいるなんてさすがに言えなかったんだお。
 そいつもお酒を飲んじゃいけないはずだし、
 もしかしたら言ったことで迷惑がかかっちゃうお」

(;^ω^)「だから黙っていたんだお。それで迷惑かけてしまったならごめんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……ふーむ」

ツンが訝しげな表情をする。
鋭い視線が突き刺さる。

ブーンは身を固くしてツンの裁決を待った。

ξ゚⊿゚)ξ「……筋は通っているわね」

ほっとする。
溜めていた息が口から洩れる。

( ^ω^)「そ、そうかお。よかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「ただ、このことちゃんと管理人に報告しておくからね」

( ^ω^)「あ……うん。わかったお」

なんとか危機を脱した。
手を振って去っていくツンの、金色の髪を眺めながら
これはますます活動しにくくなると思い、ブーンは顔を青ざめていた。




     ☆     ☆     ☆

427 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:41:59 ID:X94qherQ0
3日後のランチタイム

『三匹のカエル』

復帰してすぐに休みを要求したことでかなり怪しまれたが、許可はもらえた。
ただ、雰囲気から察するに、これからは一週間に一度しか休みはもらえないだろう。

客は数人だけいる。
町の技術工のおやじたちで、このお店の常連だ。
彼らはお店の隅に集まって、何事かを賑やかに談笑している。

その対角線上にブーンは座っていた。
向かいにはドクオがいて、話を聞いている。

( ^ω^)「……という話があったんですお」

ブーンはツンから疑いの目をかけられたことを述べた。
ドクオは口を窄める。

('A`)「……このままで大丈夫だと思うか?」

(;^ω^)「いやー、厳しい気がしますお。
 もし僕がレジスタンスの仲間入りしていることがばれたらと思うと……
 絶対に上官からは良い顔をされないですお」

428 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:43:00 ID:X94qherQ0
('A`)「うまく立ち回る自信がないなら、少し控えた方がいいかもしれないな。
 しかし、今日もあっさり来てしまっているけどいいのか?」

( ^ω^)「まあ、外から見てればただの酒場ですし。
 お城の上官そのものに目をつけられるよりかはましだった気がしますお」

(;^ω^)「むしろドクオさんは今までどうしていたんですかお?」

('A`)「俺はばれないように動くのが得意なんだ」

(;^ω^)「……影が薄いだけですおね?」

( ゚∀゚)「ようよう、何の話だよ」

カウンターから出てきたジョルジュが、陽気に声をかけてきた。

( ^ω^)「お、仕事いいのかお?」

( ゚∀゚)「どうせあのおっさんらは話しているだけだしな。
 それで、何の話さ」

('A`)「それがなー、レジスタンスに入っているってことばれそうなんだってさ。
 お城側の人にさ。めんどくさそうだよなあ」

( ゚∀゚)「そうかそうか、やめちゃえよ」

( ^ω^)「ちょ」

429 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:44:00 ID:X94qherQ0
( ゚∀゚)「んなことよりさあ、最近輸入が滞っているんだけど、お城側でなんかわからない?」

あっさり話題を変えられて残念だったが、それはそれで興味のある話題だった。

( ^ω^)「輸入……それ自体はわからないけど
 世界のニュースが入りにくくなったとかぼやいている友達がいたお」

思えばその人が、ブーンを疑っている張本人。

( ゚∀゚)「んー? 外との関わりを絶ってる?
 でも、その割には外交にいってるよな」

( ^ω^)「あれは北のマルティア王国にいってるんだお。
 前々から親交があるとかで。大事なお得意様なんだろうお」

('A`)「この国は外交後進国だから、そういう繋がりは大事なんだな」

( ゚∀゚)「ふむむ、だったらなおさら、なんで輸入できないのかわからん」

430 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:45:00 ID:X94qherQ0
('A`)「あまり貿易しない国なんだろ。
 とりあえずここにいるうちはシュールの発明で我慢するしかないな」

lw´‐ _‐ノv「そうだ」

(;゚∀゚)「うおお、びっくりしたあ!」

(;^ω^)「というか、え、誰もカウンターにいないのかお?」

lw´‐ _‐ノv「大丈夫、すぐに連れていく」

シュールはジョルジュの襟首を掴み、引っ張っていく。
どうやら単純に、さぼっているジョルジュを持っていくためにきたらしい。

賑やかさが遠のく。

( ^ω^)「そういえば、ドクオさんの方こそ今日は来てほしいって話だったじゃないですか。
 なんなんですかお? そういう事情なんであんまり遅くまではいられないんですけど」

('A`)「ああ、今後の方針があってな。
 ひとつ大きな仕事を見つけたんだ。ランチタイムが終わるまで待ってくれ」

431 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:46:03 ID:X94qherQ0
技術工たちが帰ったのは午後3時。
ランチタイムの時間いっぱいまで居座られていた。

その集団が去って、さらに数分後になり

扉が開かれる。

ノパ⊿゚)「遅れたわー」

ぐだぐだな様相で、リーダーが入ってきた。

('A`)「言うくらいなら遅れるなよ……
 よし、みんな集合したな」

語り方からして、どちらがリーダーかわかったもんじゃない。

思うに、リーダーという肩書自体前の盗賊団から通して使っているというだけなのだろう。

432 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:47:00 ID:X94qherQ0
酒場には、レジスタンスのメンバーのみ。
ドクオは各自の顔を見回して、それから一枚の紙を取りだした。

( ^ω^)「新嘗祭の号外ですかお?」

('A`)「そう。このカラー写真を見てくれ」

写真に映る、ルビーの剣。

('A`)「……誰かこれを覚えている者はいないか?」

その剣を見たとき、ブーンはどこかに引っかかるものを感じた。
自分は確かにあれを見たことがある。何度も。

( ゚∀゚)「……ある」

カウンターからジョルジュが言う。

( ゚∀゚)「モララーさんの剣だろ?」

その言葉を聞いて、ようやくブーンは思い出した。
モララーが持っていたルビーの剣。
それが国王の背後に飾られているということは、今は国王の所有物なのだろう。

( ^ω^)「なんで、モララーさんの剣がそこにあるんですかお?」

433 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:48:00 ID:X94qherQ0
('A`)「理由は二つ考えられるな。
 一つは国王自身がそれを欲しくて、事件の際に奪ったというケース。
 もう一つは誰かが事件で盗んで、国王にそれを献上したというケース」

lw´‐ _‐ノv「それじゃ、モララーさんがいなくなったときも持っていっていたのか?」

('A`)「ああ。あの任務のときに確かに持っていた」

ノパ⊿゚)「それなら、最初のケースじゃないな。国王はその頃外交でいなかったわけだし。
 誰かがそれを奪って国王に献上したってことか」

( ゚∀゚)「また魔人か?」

('A`)「それはわからない。確かに俺たちは魔人に襲われたが……
 誰かがその魔人を操って奪ったのかもしれない。その操った人間が国王ということも考えられる」

('A`)「とにかく、あの剣はモララーさんの大切な家宝で、事件以後は行方不明になっていた。
 俺としてはなんとしてでもあれを取り戻したいんだ。モララーの大切な品を、あんなところに置いておきたくない。
 誰か、この考えに賛成してくれる者はいないか?」

ブーンはもう完全に思いだしていた。
モララーさんは衛兵になってからというもの、ずっとあの剣を携えていた。
家族を魔人に襲われたモララーさんにとって、家宝のそれは大切な思い出の品だったのかもしれない。

434 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:48:59 ID:X94qherQ0
それを取り戻したいというドクオの気持ちもわかる。
ブーンとしても、あの剣がひっそりとお城に飾られてしまっているのは釈然としない。
魔人と繋がっているあのお城に。

ノパ⊿゚)「あたしはやるぞ。
 結局は盗めばいいんだろ? お安いご用さ」

ヒートが勢いよく手を挙げて答える。
ドクオは「ありがとう」と言って、別の人々の目を見て回る。

('A`)「他は?」

( ゚∀゚)「他も何も」

ジョルジュが口を挟む。

( ゚∀゚)「このレジスタンスに、あの人に恩が無い人なんていないでしょうよ。
 どうせみんな行きたいはずさ。そうだろ?」

ジョルジュがそう言ってみんなを眺めた。
ブーンを含め、全員が首を縦に振る。

( ゚∀゚)「というわけですよ、ドクオさん。
 そうと決まれば奪還作戦の計画を練りましょうよ」

ジョルジュの目が次第に輝いていく。

お城に忍び込む、それだけ大それたことを行える機会がやってきたのが嬉しいのだろう。

435 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:49:59 ID:X94qherQ0
それはブーンとしても同じ事であった。
何せお城は魔人によりガードされている。
たとえ敷地内で暮らす衛兵見習いとしても、1階の講堂以外には入らない。。

他の場所は用が無い限り立入禁止だ。

もちろんデレがいるところも。

そこで一つ思いつきがあった。
ひょっとしたら、お城にいけば彼女に会えるんじゃないか。
いや、会うまではいかなくても、彼女の行動に関する手掛かりは見つかるかもしれない。

たとえば、部屋に入るとか。

('A`)「よし、じゃあ次回集まったときに詳しく決めようじゃないか。
 忍び込む目途だけでも決めておきたいんだが、いつがいいだろう」

( ^ω^)「あ、あの……」

若干気が引けるものの、ブーンは手を挙げる。

( ^ω^)「新嘗祭のときがいいんじゃないですかお?
 国王だって町を回っているだろうし、警備はそっちに行ってしまっているし」

lw´‐ _‐ノv「……いいな」

ノパ⊿゚)「うん、いいと思う!」

436 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:50:59 ID:X94qherQ0
賛同する声があがる。
ブーンは頬が熱くなった。
なかなかなれるものでもないが、素直にうれしい。

('A`)「よし、3週間後か。そうと決まれば新嘗祭の状況がどうなるか調べてみよう。
 各自できることを調べておいてくれ。1週間後ここで会おう」

そしてその場は解散となった。

( ^ω^)「僕早めに帰りますお」

ツンの話があってから、帰る時刻には気をつけている。
この時間なら文句はないはずだ。

玄関の扉を開け、外へ。
冷えつつある空気。
もうじき冬が来る、そんな予感を感じさせる。

そんな、道の上

437 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:52:00 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……」









( ^ω^)「……」









( ^ω^)「……え?」

438 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:53:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ツ、ツンかお!?」

反射的に、ブーンは後ろ手で扉を閉めた。
バタンという強い音。

ξ゚⊿゚)ξ「あー、ここだったのか!」

ツンは扉周りをしげしげと観察して回る。

(;^ω^)「な、なんでここに?」

ξ゚⊿゚)ξ「いやね、あんたをこのへんで見かけたって話を聞いたから。
 このあたりの酒場ってどこだろうなーって、回っていたところなのよ」

(;^ω^)「なんでそんな探偵みたいなことするお!
 こんなの個人の自由だろうお!」

ξ゚⊿゚)ξ「何怒ってるの? 私のだって個人の自由じゃない。
 あれ、この看板どこかで」

ツンは店の軒先に掲げられた看板を見る。
三匹のカエルの絵。

レジスタンスのマーク

439 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:54:00 ID:X94qherQ0
(;^ω^)「ツン!! そろそろ僕も帰るし、一緒に帰るお!
 お店の場所もわかったことだし、今日のところはいいおね?」

ξ゚⊿゚)ξ「え? ああ、うん」

首を傾げるツンの背中をを押す。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、なおさら危ないって!」

(;^ω^)「ごめんだお!」

ξ゚⊿゚)ξ「なんか随分挙動不審じゃない?」

(;^ω^)「いつものことだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……そんなこと、ああ、まあいつもそんなだったっけ」

眉を顰めるツン。

何か言葉をつづけなきゃと思った。

そのとき、背後の扉がわずかに開く。

440 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:55:00 ID:X94qherQ0
('A`)「おい、何騒いでるんだ」

顔だけを出して、ドクオが言う。

(;^ω^)「あ……」

ブーンはドクオの顔を確認し、慌ててツンを見る。
彼女は相変わらず顔をブーンに向けていた。

ツンはドクオを知らない。
よかった、ドクオを見て怪しがられたら言い逃れできないところだった。

('A`)「……あれ、おい」

何故か、ドクオが声をかけてくる。
冗談じゃない、これ以上ここにいたらぼろがでてしまう。

(;^ω^)「し、知り合いですお! ちょっと僕に会いに来たみたいで……
 とりあえずここは帰りますお!」

そう言って、さっきよりも必死でツンを押す。

441 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:56:00 ID:X94qherQ0
ξ゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと! ちゃんと歩くわよ!」

苛立つツンも、ようやく帰る気になってくれたので、ブーンは安心した。

二人は急いでその場を退散する。

('A`)「あいつは……」

そのドクオの最後の言葉は、誰の耳にも至らなかった。

こうしてその場はひとまず収まった。

ブーンの心の中はおさまるどころじゃなかったが。

442 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:56:59 ID:X94qherQ0
本格的に良くないことになってきた。




せめて新嘗祭が始まる前までに対策を練らなければならない。




そう思い、この日からブーンは毎晩計画を練ることにした。




ツンをうまくはぐらかすために。





     ☆     ☆     ☆

443 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:58:08 ID:X94qherQ0
新嘗祭まであと2週間

ラスティア城、5階 貴族の間

お城には貴族が暮らしている。
国王であるショボンに近い親戚やその家族だ。
国王と王女が使っていないお城の部屋は基本的に彼らが使うことになっている。

彼らがお城に本格的に入ってくるようになったのも3年前からであった。
それまではごく少数の親族しか暮らせなかったので
その頃と比べれば現在は賑やかになったといえる。

貴族のほとんどは政治に務める。
かつては戦争にて率先して戦場に駆けつける役目もあったが、今時は無い。
わずかに衛兵隊長が貴族の血を引いているだけ。それだって、実力だ。

また、貴族全員がラスティア城にいるわけでもなく、
統治能力に長けた貴族はショボンの判断で地方の領主となることもあった。

そんなお城に暮らす彼らが、今日は貴族の間に集結していた。
お仕事を離れての、3か月に一度のパーティのためである。
たとえお祭りの日が近づいていようとも、従来通りに行われていた。

444 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:59:00 ID:X94qherQ0
ζ(゚ー゚*ζ「……なんだか久しぶりに参加したわ」

ショボンの隣の椅子に座って、デレが呟いた。
彼女がこのパーティに参加するのは、実に1年ぶりのことだった。

(´・ω・`)「いろいろあったからね、仕方ないね。
 他の貴族の人たちとは話してこないのかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわ。歩くと疲れてしまうし」

(´・ω・`)「そうか……
 デレは新嘗祭にも出ないのだから、もっと楽しめばいいのに」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、私はそういう賑わいを外から眺める方が好きなんですよ。
 それに、お話合いのときはちゃんと出席しているでしょう?
 私にはあれで十分ですよ。どんなお祭りになるのか、それだけ聞けば十分」

そういって、デレは微笑みをショボンに向けた。

(´・ω・`)「……そうだね、また来週には町長たちを交えての話し合いもしなきゃだし……」

ショボンはそれ以外にも何かを言いたそうにデレを見つめたが、やがて何度か小さく頷いて目を離した。
パーティの様相を眺めるその顔は、どこか悲しげである。

445 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:59:57 ID:X94qherQ0
貴族たちは思い思いに部屋を歩き、談笑をしている。
立食パーティなので移動はしやすい。
自分と趣味があう人と一緒に会食をし、お酒を飲み、楽しんでくれている。

|゚ノ ^∀^)「ショボンちゃん、外交お疲れ様」

ふいに声を掛けられて、ショボンは振り向く。

(´・ω・`)「やあ、レモナさん。こちらこそ、お世話になったよ。
 あなたの文章力で私のスピーチはいつも助けられている」

|゚ノ ^∀^)「いえいえ、あれくらいお安いご用ですよ。
 あら、デレちゃんもお久しぶり! なんだか大きくなったわね」

ζ(゚ー゚*ζ「最後に会ったのはまだ私が小さい頃でいたから」

貴族の一人、レモナ。
ショボンにとっては従妹にあたる。

彼女は3年前にお城にたくさん入ってきた貴族のうちの一人だった。
それまでは北の、マルティア国との境目にある領土で生活をしていた。
デレははるかな昔、まだ母親が生きていた頃にそのお城を訪ねたことがあったのである。

まだ父親である国王が、外の世界を恐れていなかった頃。

|゚ノ ^∀^)「懐かしいわね。本当に」

446 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:00:59 ID:X94qherQ0
3年前に入ってきた人たちの入城理由は多々ある。
彼女のように、辺境の領土から越してくる者は多かった。
大概に置いてラスティア城の方が生活しやすく、活気もあったからだ。

より裕福で暮らしやすい生活をしたい。
それは人間の本能であり、決して悪いことではない。

でも、貴族の人たちは表立ってそんなことは言えない。
ショボンの身を案じてとか、世間の中心に立ちたいとか
好き勝手に建前を述べる必要があった。

このレモナにしろ、例外ではない。
そしてそのような人たちは、デレにとって心を開く対象にはなりえなかった。

|゚ノ ^∀^)「そうだ、私の息子もだいぶかわったのよ。
 ちょっと呼ぶね、おーい」

元気よく、レモナが声をかける。
パーティ会場の隅の方に、青年が座っていた。
彼がレモナの息子なのだろう。

(-_-)「……」

青年は、レモナとは対照的に物静かだった。
悪くいえば暗い。レモナと並んでも、とても親子とは思えないだろう。

447 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:01:57 ID:X94qherQ0
そして何より、その青年を見かけたことは今まで無かった。
3年間生きていてである。
よほど表に立たない人なのだろうか。だとしたら自分以上だ。

彼が近づいてくる間に考えたが、やはり思い出せない。

ζ(゚ー゚*ζ「えっと……ごめんなさい。
 以前お会いしたのかもしれないけど、もしかしたら私、忘れちゃったかも」

|゚ノ ^∀^)「ああ、いいのよ。本当に小さいときの話だし
 あれからこの子もだいぶ変わったからね」

そう言って高らかに笑いだす。元気な人だ。
やってきた静かな青年がますます対比されて映し出される。

|゚ノ ^∀^)「ほら、ヒッキー、挨拶しなさい」

催促されて、ヒッキーは頭を下げる。
しかしそこから言葉は続かず、そのままパーティの席へ戻ってしまった。

レモナが腰に手をついて溜息をつく。

|゚ノ ^∀^)「あの子もねえ、どうも人見知りなところがあるから。
 とても引っ込み思案だし、困っちゃったなあ。勉強はできるんだけどねえ」

軽く愚痴をこぼすレモナ。
それからデレとショボンに手を振って、別の場所へと行ってしまった。

448 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:02:58 ID:X94qherQ0
その背中をしばらく見ていたデレ。
やがて目線を手元のグラスに移した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、もう飲んじゃってたのね」

(´・ω・`)「ついでこようか?」

ζ(゚ー゚*ζ「さすがに平気よ、これくらい自分でやるわ」

微妙に顔を引きつらせながら、デレはショボンを手で払う。

ζ(゚ー゚*ζ「まったくもう、いつまでも子ども扱いして」

(´・ω・`)「そうかな? いやあ、ごめんね」

そう言ってとぼけた顔をする。
デレはまた口元を押さえて微笑み、それから飲み物を探しに歩いた。

宴会はますます賑やかになっていく。
大人たちはお酒が回り、声の音量が少しずつ大きくなっていく。
子どもも数人混ざっていたが、彼らもその雰囲気に巻き込まれ、上気してきていた。

449 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:03:58 ID:X94qherQ0
ミセ*゚ー゚)リ「あ、王女! 飲み物をお探しれすか!」

ジュースのグラスを持とうとしたところで、メイドのミセリに呼びかけられる。
そもそも彼女は王女専門の付き人のはずだが、いつの間にか宴会そのものに参加していたらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「お探しというか、今ちょうど飲もうとしていたところなのだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「そうれすか! これはうっかりしれした! えへへ」

デレは得体のしれない不安を感じた。

明らかにいつもの様子と違う。
いや、いつもどこかしらおかしな人なのだけど、今日は格別に違っている。

頬は赤いし、ろれつも回っていない。
目の焦点もあっていない。

ζ(゚ー゚;ζ「……ミセリ、あなた酔ってるの?」

ミセ*゚ー゚)リ「ふぇ? ジュースしか飲んれないはずなんれすけろ、なんれそんなことg」

言葉が中断されたのは、ミセリの側頭部を強烈な一撃が見舞ったからだ。
ミセリの身体は丸いテーブルに突っ伏し、ぴんと伸ばされた何者かの手だけが残る。

450 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:05:00 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「お見苦しいところをお見せしました。王女」

手を引っ込めたのは、髪を結わえた清楚な女性。
流れるような動きでデレに頭を下げた。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、メイド長のトソンさん。
 あなたもパーティにいらしていたの?」

(゚、゚トソン「はい。国王陛下と王女のためもありますし
 後輩だけに任せておくのが不安でしかたなかったものですから」

トソンはそう言って、一瞬突き刺すような睨みをミセリの後頭部に向けた。
顔はすぐに元の清らかなものに戻ったが、デレはわずかに聞えた舌打ちを聞き逃さなかった。

(゚、゚トソン「……ミセリ?」

首を傾げてミセリの頭を叩くトソン。
結構大きな音がしたが、ミセリはちっとも動こうとしない。

トソンは顔をミセリに近づけて確認する。

451 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:05:59 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「……こいつ」

小さくトソンがぼやく。

ζ(゚ー゚*;ζ「ね、ねえ。ミセリは大丈夫なの?
 打ちどころが悪かったとか」

(゚、゚トソン「いえ、そんなんじゃ決してありません。
 寝てるだけです。すいません。今すぐ連れ出します」

そういって、トソンはミセリの腕をぐいっと持ち上げた。
真っ赤なミセリの顔が露わになる。

ζ(゚ー゚*ζ「……ずいぶん飲んでいたのね」

それはそれは酷い顔だった。

思わず口を手で押さえ、でもまじまじと彼女を見ながら呟いた。
呼吸はちゃんとしているので、トソンの見立て通り、彼女は寝ているだけのようだ。

(゚、゚トソン「よっと」

トソンはミセリの腕を肩に回した。
酔い潰れた後輩を居酒屋から連れ出す上司そのものであった。

452 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 23:06:59 ID:X94qherQ0
(゚、゚トソン「王女、ミセリは何かご迷惑をおかけしていませんか?」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

トソンがそんなことを突然言うものだから、デレはきょとんとした。

(゚、゚トソン「この子もまだここに来て日が浅いうちに
 王女の付き人になってしまったし、最初から不安はあったのです。
 もしご不満があるようでしたらすぐに別の者に変える準備はできていますが」

ζ(゚ー゚*;ζ「いえ……いえいえ、そんなことはないですよ!」

思わずデレは大きな声を出しそうになる。

ζ(゚ー゚*ζ「ミセリは本当によくやってくれています。その、一生懸命に」

(゚、゚トソン「こんなんでもですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは……」

真っ赤なミセリを見ていても、何も思い浮かばなかった。
でも、とにかく言い繕おうとデレは口を開く。

ζ(゚ー゚*ζ「それはおいといて、包括的に見てです。
 だいたい、歳が近いメイドをつけるように頼んだのは私です。
 去年から、本当にミセリにはお世話になっていますよ」


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