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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
389
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 07:24:17 ID:gxDJg0ug0
今日も待ってる
390
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 15:57:20 ID:qVbHiMQ20
今日も無遠慮にいきます。
第19話
391
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 16:02:41 ID:0xtdkcbk0
これを見るのが最近の楽しみ
392
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:06:40 ID:qVbHiMQ20
◆第19話◆
XX24年 T月
ヾ(゚、゚トソン「あ、ツン先輩ー」
待ち合わせ場所にいたのは、小柄で細身の学生だった。
昔一緒に仕事をした、ツンの後輩である。
いかにもという育ちの良さそうな外見通り、美大生ということもあってか何かとコネクションもある彼女が
滅多に求人情報など出さない美術館でアルバイトしてて、且つ広告関係の仕事に捩込んでもらえるあたり、有能な芸術家の卵なのかもしれない。
しかしそこに驕った様子はなく、仕事先の目上の人間に対しても『先輩』呼ばわりする学生気質の抜けてなさが、飾らなくあどけない印象を受ける。
そうやって人を悪い気にさせないコケットが、トソンの良さでもあった。
393
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:09:02 ID:qVbHiMQ20
仕事は、一週間ほど休暇をもらった。有休を消化するタイミングも計りあぐねてたから丁度良かった。
休日に仕事先の人間と会うということも滅多にないので、あまり目にしないトソンのフェミニンな私服姿も、なんだか新鮮で可愛らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよ。わざわざごめんね、こんな大荷物」
(゚、゚トソン「いいんです。なんだか楽しそうだし」
.
394
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:10:16 ID:qVbHiMQ20
ツンがジョルジュと別れたことは、風の噂で知っていた。
そんな矢先の一週間の休暇となると、何事かとトソンも思ったが、思いの外元気そうなツンの姿になんだか安堵した表情を浮かべていた。
ξ゚⊿゚)ξ「おー元気元気。べつに失恋旅行とかはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「ちょ…人が聞くまいと気を遣ってたことを自らサラッと……」
トソンの突っ込みを受け流し、ツンは彼女の手から『大荷物』を受け取った。
.
395
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:11:25 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。助かったわ。経験はあるけどさすがに道具までは持ち合わせてなかったからさ」
(゚、゚トソン「きょうび自宅でも簡単にできるキットもあるそうですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「んー…でも家でまでやる?」
(゚、゚トソン「…やんないです。w」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね…まぁ学校に道具があればどのみち買いはしないでしょうけど」
さすが美大生。と微笑んでツンは荷物を肩にかけた。
396
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:12:35 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「これからバイト?」
(゚、゚トソン「そうなんです。できればツン先輩のお手伝いもしたいところなんですが…」
ξ゚⊿゚)ξ「それには及ばんよ。人手はあるから」
(゚、゚トソン「そうですか…?」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、お借りするね。返す時また連絡するから」
そう言って、ツンは振り向いた。
その飄々とした背中は、心配するまでもなくいつも通りだと安心したトソンも、職場へ向かって歩き出した。
.
397
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:14:04 ID:qVbHiMQ20
ツンは、ブーンやドクオの職場であるダイニングバーに向かった。
といっても、今日は店自体は定休日らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」
( ^ω^)「おっ!おはよーだおツンさん!ほんと助かるお!」
前回連絡先を受け取って、ツンはその日のうちに自分の連絡先を送信した。
そして彼から連絡が来たのは、その次の日のことだった。よほど切羽詰まった用件だったらしい。
そのことで訪れたのが、今日の話というわけだ。
.
398
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:15:03 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ツンさんおはよっす。わざわざすいません」
そう言ってドクオが運んできたのは、中身の詰まった大きな段ボール箱だった。細身の彼が持ち運ぶには、少々危なっかしい。
もちろん客もおらず閑散とした店内には、ブーンとドクオしかいなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。こう見えてもシルクは得意だったから」
美術部出身のツンだからこそと頼まれたのが、シルクスクリーンだった。
.
399
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:16:07 ID:qVbHiMQ20
近々、ブーンらの職場であるこの店は、開店五周年を迎えるそうで
ぼちぼち客足もついてきた今日この頃、切りも良い周年ということで今年はちょっと盛大にパーティーを催すとのこと。
その記念品として、店のオリジナルTシャツを販売する運びとなった。それが先ほどドクオが運んできた段ボール箱の中身だ。
しかし、パーティーともなると食材やお酒を主体に奮発するためあまり羽振り良く経費をかけることもできず、自分らで手をかけようとしたまでは良かったが
週に一度の定休日だけを使っても終わる見通しが立たず、店を営業しながらだとブーンも仕込みに追われるなどでなかなか手がつけられなかった。
しかも、いかんせん未経験の作業だ。
あれやこれや調べてはみたがなかなかうまくいかず、家庭用シルクスクリーンキットのちゃちな仕上がりにもなんだか納得がいかず、頓挫しかかっていたのだ。
.
400
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:17:39 ID:qVbHiMQ20
そこへ現れた美術部出身。
ならばやり方ぐらいは知ってるだろうと、活動の一環として経験のあったツンにお呼びがかかった。
なんとか知恵を貸してもらえないかと打診した末、こうして手伝いに来てもらえることとなったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「乾かせるものは何かある?」
('A`)「一応、ドライヤーとヒーターなら」
美大生であるトソンから借りた道具をカウンターに並べ、準備に取り掛かった。
.
401
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:18:59 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「図柄は?」
( ^ω^)「これだお!こっちが表でこっちが裏で…」
そう言って、プリンターから印刷した絵をツンに渡した。
店のロゴと、ロックグラスに注がれた酒と五輪の花の絵が融合された、シンプルながらどこか遊び心のあるデザインだった。
ξ゚⊿゚)ξ「これもブーンが描いたの?」
( ^ω^)「そうだお!本当はツンさんに頼みたかったんだけど…」
ξ゚⊿゚)ξ「それはさすがに荷が重いわ」
.
402
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:20:15 ID:qVbHiMQ20
そう言いながら、ツンは木版に感光乳液を塗り始めている。
簡単そうに見える作業だが、まっすぐに塗らなきゃいけない、神経使う作業なのだ。喋りながらできるとは思えない。
にも関わらず、ツンの手先は軽やかだ。一応手元を注視してはいるが、覚束ないようには見えない。
さすが周知の器用さは伊達じゃないようだ。あまり話し掛けない方がいいのかとも思ったが、少しくらいなら大丈夫そうだ。
( ^ω^)「おー…ただでさえギャラも出ないのに申し訳ないお…賄いは作るからそれで勘弁してほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「マジで?やった。どうせあたしの収入なんてほとんどエンゲル係数だしね」
手を止めることなく、しかしいつも通りに答える。
.
403
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:21:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ツンさーん!コーヒー置いとくんでよかったら…」
ξ;゚⊿゚)ξそ「ちょ、急に話し掛けないでよ!手元狂うじゃない!」
(;'A`)そ「え!?気利かしたつもりが怒られた!でもすいません!」
(;^ω^)「……」
ドクオの二の舞にならないように…いや、ツンが集中できるように、ブーンは自分の城である厨房の中へ避難した。
.
404
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:23:37 ID:qVbHiMQ20
さすがにTシャツ200枚の印刷は骨が折れる作業だった。
しかし手慣れたツンのペースで作業は順調に進み、ちょっと時間をかければ今日中には終わりそうな見通しである。
ξ゚⊿゚)ξ「…そうそう。ゆっくりね。ドクオ君、案外丁寧なのね」
(;'A`)「いや…また怒らせたら作業が滞ると思って慎重にやってるだけですよ」
ツンの指導でドクオに補佐をさせ、作業の能率が上がってることもスピードアップに繋がっている。
意外と、ドクオの飲み込みが早いのは助かった。
( ^ω^)「お、捗ってるかおー?」
ブーンが厨房から顔を出した。
仕込みをしてたのか、熱気が伝わってくる。
405
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:25:04 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「手空けられるようなら賄い作っちゃうおー」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、じゃああとこれだけ塗っちゃうわー」
ライトボックスに乗せて光を当てたデザイン画を洗い流す作業は終わっていた。
これで光が反応した部分が流されて、切り絵のように浮かび上がるのだ。
その濡れた絵をドライヤーで乾燥させた後、必要な部分を流して絵が歪んだり欠けたりしてないかどうかを入念にチェックし、欠けてる部分があれば修正する。
ドクオも手伝って、今はその修正作業に着手していた。
修正した絵はまた乾燥させて光を当てる工程に移すので、そういうちょっと時間をかけてもいい作業に移れば手が空く。
そういえば、ぼちぼち昼時だ。
ツンは大きく伸びをした。
.
406
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:27:17 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、なんか嫌いな食べ物とかあるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「特にないわ。何でも平気」
( ^ω^)「それはよかったお!そこのドクオは好き嫌いが多いから賄いに苦労するんだおw」
('A`)「うっせーな味覚がデリケートなんだよ」
はいはいお、とあからさまに適当な返事をして厨房に戻ると、ドクオはドクオでカウンターに入る。
('A`)「ツンさん、ビールでいいっすか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え、大丈夫なの?」
('∀`)「大丈夫大丈夫!ノーギャラで手伝ってもらってるんだからそれぐらいは」
そう言いながら既に、人数分のビールを注ぎ始めている。
407
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:29:36 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「お、昼間からビールなんてやっぱり休日はこうでなくちゃだお!」
そう言いながらブーンがカウンターに置いたのは、オムライスだった。
キノコをたっぷり使ったソースからは、バターやチーズの香りが鼻を擽り、クミンやガラムマサラなどカレーの風味を思わせるスパイス香が空腹感を刺激した。ビールとの相性も良さそうだ。
そんなこってりした料理だったからか、野郎二人の分よりツンの分は気持ち少なめに盛ってくれてるのもプロである所以の気遣いだった。
三人はカウンターに並んで座り、ビールの入ったグラスを合わせて食べ始めた。
.
408
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:30:48 ID:qVbHiMQ20
一言で言えば、絶品だった。
どんな料理でも、カレー風味なアレンジは邪道でジャンクになりがちな印象はあったが、やっぱりカレーが嫌いな人は少ない。
もともとが卵と米を使った素朴な料理である。カレーが合わない訳がない。
ξ*゚⊿゚)ξ「すごい!ソース美味しい!」
美味しいものを食べてる時の女の子は、本当に幸せそうな顔をする。
ツンのように、普段気丈で凛とした印象の女性でも顔を綻ばせてしまうほどだ。
.
409
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:32:09 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「よかったお。あくまで余り食材だからそれを使うのも申し訳ないとは思ったんだけど…」
ξ*゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。ただでこんなの食べさせてもらえるなら充分よ!」
オムライス一つで、年甲斐もないほどテンションを上げるツンに、そんな食事にもう慣れているドクオは少々気圧されているようだ。
.
410
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:33:23 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばシルクの方はどうだお?まだかかりそうかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん…でもドクオ君も手伝ってくれてるし今日中にはあがると思うけど」
('A`)「ブーンはどうだ?手空かないのか?」
( ^ω^)「もうちょっとだお!終わったら僕も手伝うお!」
そう言って三人は、Tシャツ完成への道程を急ぐように食事のピッチも上げ始めた。
.
411
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 16:34:44 ID:qVbHiMQ20
ちょい中途半端ですが、長くなりそうなのであとは20話に続きます。
19話おわり!
412
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 17:34:38 ID:bDiP/Jpo0
乙!
思わずオムライスが食べたくなったよ…
413
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 18:28:09 ID:gxDJg0ug0
乙
オムライス食べたい
414
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 19:43:44 ID:J6pBsOT.0
追いついた!おもしろい
乙
415
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:07:51 ID:qVbHiMQ20
レスありがとうございます。
オムライスへの食い付き方ニヤニヤしてもうたwww
いつの間にか第20話
416
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:09:23 ID:qVbHiMQ20
◆第20話◆
XX24年 T月
食事を終えた三人は、再び作業に取り掛かった。
皿を洗い、煙草を吸い終えたドクオがツンの作業を手伝い、その間は必要な指示や返事以外はほとんど無言だったが、それを気まずいと思う隙さえないほどの集中力だった。
( ^ω^)「ツンさーん!こっちは仕込み終わったお!なんか手伝うことはあるかお?」
ξ#゚⊿゚)ξ「「あ"ーーーっ!!だぁかぁらぁぁぁ!!!」」('A`#)
(;^ω^)そ「お…ごめんだお」
自分の仕事を終え、手が空いたブーンが途中で加わると、張り詰めていた空気が俄然緩和するようだった。
417
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:11:37 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、仕事は大丈夫なのかお?」
ブーンが作業に加わり、自分の視野に入ってる分には話し掛けられても驚きはしない。
黙ってないと集中できないドクオを除いて、二人はだんだんたわいもない話に花を咲かせ始めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。一週間ぐらい有休にしたの」
( ^ω^)「それはまた随分思い切ったおね…わざわざすまないお」
ξ゚⊿゚)ξ「べつにこれだけのためってわけじゃないし。パーティー当日も呼んでくれるんでしょ?」
( ^ω^)「もちろんだお!ツンさんの好きなウィスキーもたらふくサービスするお!」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あと後輩も呼んでいい?シルクの道具貸してくれた子なんだけど」
( ^ω^)「おー…ほんと何から何までありがたいお」
(;'A`)(なんでこいつら手動かしながらそんなに喋れるんだ…?)
418
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:13:55 ID:qVbHiMQ20
人知れずひぃこら言ってるドクオをよそに、二人の会話は止まらない。
気がつけば、陽が傾き始めていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっと……あと印刷するだけなのね…」
(;^ω^)「ふぃー…長かったおー…」
(;'A`)「って言っても200枚だろ?それはそれで長期戦だな」
いよいよ本番。というところまで来ていた。あとはTシャツ一枚一枚に、デザイン画を印刷するだけである。
シルクスクリーンの工程自体は一日かかるほどの作業ではないのだが、200枚という数字が、ついて回るネックだった。
419
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:16:53 ID:qVbHiMQ20
(;'A`)「その前に一服していいか?すぐ戻ってくるわ」
そう言ってドクオは外に出て行った。
店内でも煙草は吸えるのだが、非喫煙者の女性であるツンに気を遣ったのだろか、さすが普段人にサービスしてるだけのことはある。
( ^ω^)「コーヒーでも飲むかお?僕らも一息つこうお」
同じく非喫煙者のブーンも残り、カウンター内に入って言った。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
そう言ってツンも、軽く伸びをしてカウンター席に座った。
.
420
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 23:17:40 ID:41hr4lHsO
続きキター!!
421
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:20:07 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「なんか、学生時代の文化祭を思い出すお」
ブーンはコーヒーを出しながら言う。
昔のツンがいた、みんなで一つの空間を作り上げるという仕事の中、そこで一緒に働いた仲間なんかもよく『文化祭をやり直してるようだ』なんて言ってた気がする。
学生時代のツンは、そうやってみんなで寄り集まった作業に協力した記憶がないので、社会人になってからそんな仕事に従事して初めて、そんなことなら学生の頃も少しはその輪に入ればよかったと後悔したものだった。
422
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:22:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「文化祭か…あたしは特に思い出ないなぁ」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「クラスでやる模擬店とかはほったらかしで、部活の作品作ることしか頭になかったから」
ξ゚⊿゚)ξ「今考えると、そういう個人プレーよりもっと団体プレーに加わればちょっとは違ったのかなぁって…思ったりもするけど」
( ^ω^)「ツンさん…まさかの元ヤンかお?w」
それは、ハインと付き合いのあることも加味した結論だろう。
酒が入ると多少ガサツにはなるが、あれで素面じゃ思慮深いんだぜ。とツンは思った。
423
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:24:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、見る人が見ればそうなのかな。決して真面目ではなかったから」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは?学生時代楽しかった?」
( ^ω^)「お…まぁそれなりだお。高校入るまでは彼女もできなかったし薄虚しい感じだったけど」
( ^ω^)「それより明確な夢を持ってる今のほうが、よっぽど楽しいお」
そう言ってブーンは、コーヒーを一口飲んだ。
.
424
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:26:22 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「夢って?」
(;^ω^)「あ、いや…そんな大層なもんじゃなくて、リアリティがある分つまんないかもしれないけど」
( ^ω^)「…自分のお店を持ちたいんだお。人が作った土台じゃなくて、自分が作った土台で勝負したいんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
425
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:27:15 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「今でも料理長っていう肩書きがあって、ある程度自由にやらせてはもらってるけど」
( ^ω^)「人に与えられた自由ってのはやっぱり限界があるお」
( ^ω^)「もっといろいろ試してみたいし、作ってみたいものもあるし」
( ^ω^)「それに合わせて、お酒も幅をきかせたい」
( ^ω^)「…そういうの全部、自分でやりたいんだお」
ブーンの柔和な顔つきが、この時ばかりは気勢を孕んでいた。
それは一点の迷いもない、まっすぐな目だった。
.
426
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:30:39 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………」
自分はどうだろうか。
夢とか目標と言えるほどの志はなく、むしろ気分には少々ムラがあり、いつも通りの仕事さえ集中できない時がある。
ブーンの料理の腕や、ドクオの気の遣い方。
そんな仕事由来の確かなスキルを当たり前のように身につけた同年代を目の当たりにすると、下がった士気を隠そうともしなかった自分が情けなくなる。
.
427
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:32:56 ID:qVbHiMQ20
ξ゚ー゚)ξ「ブーンならできるよ」
何が、とは言わなかった。
たぶん、それは全部本人が秘めてるはずだから。
ブーンがやりたいこと、やりたいようにできる日が来ることを、ツンは知ってるから。
( ^ω^)「…ありがとうお」
そのタイミングでドクオも戻って来たので、三人は再び作業に着手した。
.
428
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:35:58 ID:qVbHiMQ20
ξ;゚⊿゚)ξ
(;^ω^)
(;'A`)
依然として、三人とも無言だった。
最初は集中力によるものだったかもしれないが、それも切れて今は疲労による無言と化している。
(;'A`)「あと…何枚だ……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あと10枚…ラストスパートよ……」
.
429
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:37:56 ID:qVbHiMQ20
最初の何枚かこそ、その仕上がりには感動すら覚えたが、あとはひたすらメリハリのない作業だ。
そのくせ失敗しないように神経使うだけ、集中力の消耗も激しかった。
しかし長かった道程も終わりが見えてくると、安堵の息が漏れる。
気合いを入れ直して再び手を進めようとした。
気がつけば、日付も変わりそうな時間であった。
.
430
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:39:39 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「うーす。やってるかー?」
そこに何故か、ハインが入ってきた。
すっかり疲弊した三人との温度差が激しい、安穏な声だった。
ξ゚⊿゚)ξ「ハインじゃん。今日はやってないよ」
さながら店のスタッフのように、今日は定休日であることを主張するツンに、いやそういう意味じゃないんだけど…と苦笑いしながら、ハインはカウンター席に座った。
なんだか荷物が多く、重そうだ。
431
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:41:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ハインさんちっす。ようやく終わりが見えてきましたよ」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?ハインこのこと知ってたの?」
从 ゚∀从「一応な。バイトが休めなくて手伝えなかったけど」
そう言い合いながらも、作業する手は止まらない。
繰り返されてきたその手順を、手先が覚えたかのようだった。
432
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:44:03 ID:qVbHiMQ20
ξ*゚⊿゚)ξ「できたー!あたしのノルマ完成!」
珍しく、ツンから歓喜の声があがった。
(*'A`)「俺も終わったっす!いやー長かった!」
从 ゚∀从「おぅ、やっと終わったか!お疲れだったな」
(;^ω^)「本当だおー…こんな根気のいる作業、慣れてる人一人いないと気が遠くなるお…」
从 ゚∀从「まぁそこはツンに感謝だな。…おっと、もう日付変わるか?」
そう言って時計を見遣ると、日付が変わる一分前を指していた。
ブーンは厨房に引っ込み、ドクオも飲み物の用意でもするのか、カウンターに入った。
.
433
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:46:12 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「本当だ。もうそんな時間か。終電って何時―――」
バツン!!!
突然、店内の照明が全て消えた。
次の瞬間仄かに見えた灯が照らしたのは、
「「「ハッピーバースデー(だお)!!!ツン(さん)!!!」」」
ブーンが運んできた、バースデーケーキだった。
.
434
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:48:01 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………えっ?」
照明が点いてから改めて見たそれは、やっぱりホールケーキだ。
ベイクドチーズケーキにベリーのソースがあしらわれたそれは、いかにもツンの好みど真ん中だった。
ケーキが乗っている皿には、チョコペンで書かれたであろう『HAPPY BIRTHDAY ツン』の文字。
小洒落た筆記体が、さながら一つのアートのようだった。
.
435
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:50:24 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「ちょwwびっくりしすぎでノーリアクションですかwww」
このサプライズを企てた首謀者であろうハインは、瞳孔が開ききったツンの正気を戻させるかのように軽く肩を叩いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ……いや、うん。本当にびっくりしすぎちゃって…」
主役の締まらない一言に、満足そうに笑うハイン。
.
436
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:52:13 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「おめでとうだおツンさん!これ、焼きたてのホヤホヤだお!」
確かに、おかしいとは思ってた。
休みの日に、いつまで何の仕込みをしてるのだろうと。
それも有り得ない話ではないのだろうから特に気には留めなかったが
まさか自分のためだとは、ミリ単位も思わなかった。
.
437
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:53:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ハインさんから聞きました。日付変わったら今日が当日だって。おめでとうございます!」
いつの間にか、23歳になった。
祝ってくれるであろうと踏んでたジョルジュとも別れ、母も亡くしてからはあまり盛大に祝われたことがなかった誕生日。
昔は、苦い思い出さえ刻まれたはずの誕生日だったが
ξ゚⊿゚)ξ「…また死に一歩近づいたのね……」
(;'A`)「え!?そんな感想なの!?」
ξ゚⊿゚)ξ「…嘘だよ。嬉しいに決まってるじゃない」
.
438
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:55:27 ID:qVbHiMQ20
从*゚∀从
(*^ω^)
(;'A`)「………」
祝ってくれる人達の笑顔に囲まれて
ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。最高の誕生日になった」
.
439
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/22(木) 23:56:23 ID:qVbHiMQ20
20話おわりです。
440
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 00:09:24 ID:qDm1VgCg0
おつ!
441
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 00:16:43 ID:LbI5/vaw0
乙、ちょっとずつ進んでいく感じのこの量、なかなかいいな
そしてさらなる料理の描写に期待しているんだぜ?
442
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 02:42:12 ID:o1BK5jVMO
…なんというか、ジョルジュと付き合ってるツンって珍しいなと思ったけどやっぱりツンはブーンがいいな。
443
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 14:58:07 ID:Do4KT3us0
乙です!ツン可愛い
444
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:00:33 ID:uLjBbDWQ0
レスありがとうございますいつも言ってるけどほんと嬉しいです。
雷のせいで集中できなくて完全に詰んだかと思ったー
そんな第21話
445
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:02:04 ID:uLjBbDWQ0
◆第21話◆
XX20年 Z月
ζ(゚ー゚*ζ「なんか呼ばれた気がしたんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「…やればできるもんね」
久しく見てなかった、あの夢。
無性に昔の自分に会いたくて、どうにかして見れないものかと何日かただ祈ってた末だった。
.
446
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:05:39 ID:uLjBbDWQ0
前にも会った、地元の大きな川の河川敷。
そこで泣いてた自分に、その時は何も言ってやれなかった。
初夏の候の夕暮れ時。
いつか見た、ロマン派画家の風景画を思い出す。
フランスやイタリアの格調高雅には目もくれず、一生のうちに一度も訪れることもなくただ自分が美しいと信じた地元の近所の風景だけを、描き続けたというあの画家。
.
447
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:11:40 ID:uLjBbDWQ0
英国の田舎が美しいというのも今は周知。
こんな日本の田舎以上都会未満、開発が進んでるわけじゃないが住みにくいほど不便でない土地に比べたら、そこに描く価値を見出だせるのもよくわかる。
でも彼が愛したのは、あくまで地元だ。
地元愛由来の美質なら、今も昔も誰もが持ち合わせてるものだろう。
ツンにとって、この河川敷から眺める春夏秋冬の風景が、育った場所を愛するがゆえの佳処だった。
あの画家のように、人々の喝采を呼ぶような形に残すことはできないけど
少なくとも、その自分が愛した風景を涙で滲ませるのはもったいない。そう思っていた。
.
448
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:14:55 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「まぁいいじゃない。学校も卒業して暇してんでしょ?」
暇してたからといって、それを咎める人も、もういない。
それを示唆したニュアンスを含んでいることに、デレも気がついた。
ζ(゚ー゚*ζ「…今度こそ、何か用があるの?」
とりあえずおとなしくツンの隣に座りながら、デレは聞いた。
.
449
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:16:09 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「んー…まぁ用ってほどのことじゃないんだけど…」
ζ(゚ー゚*ζ「何よ」
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、この間誕生日だったの」
ζ(゚ー゚*ζ「………」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
ζ(゚ー゚*ζ「………で?」
ξ゚⊿゚)ξ「で?って…それだけ」
デレは、掘り下げたことを後悔した。
.
450
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:17:15 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚;ζ「あんたって人は…年甲斐もなくそんな…」
ξ゚⊿゚)ξ「そう?まだ20代前半だけど」
ζ(゚ー゚;ζ「いやそういうボーダーライン的な意味じゃなくてさ」
デレは大きな溜め息をついた。
なんのために呼ばれたのかと思えば、誕生日でテンションが上がった余韻かと。
しかし何故か立ち去る気になれないのが、同一人物とはいえその人が現れると周りに放たれる不思議な情調だった。
451
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:18:45 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「で?彼氏になんか貰ったりしたわけ?ついでに惚気に来たってわけ?」
少々うんざりしたような声だった。
10代の多感な頃の誕生日こそ、母が倒れたり亡くなった後だったりと、苦い思い出ばかりなのだ。
浮かれた話なら大概だと思うのも、無理はない。
ξ゚⊿゚)ξ「もう彼氏はいないって。ったくどいつもこいつも」
ζ(゚ー゚;ζ「えー…急にキレられても…」
.
452
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:22:49 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚;ζ「っていうかそういうネタバレってありなの?」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁいいんじゃない?聞きたくなければ止めるし。あんたは?今彼氏いたっけ?」
ζ(゚ー゚;ζ「なんか矛先がこっち来た…」
自分自身に対してだからといって、不条理であっていいとは思わないが、今更この人に道理というものが通用するとも思えないデレは、一歩引いた身持ちでいるしかない。
.
453
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:25:07 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「っていうか覚えてないの?斉藤先輩だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「斉藤?」
ζ(゚ー゚*ζ「斉藤モララー先輩」
ξ゚⊿゚)ξ「……あぁ」
その頃の、真剣なりに朧気だった恋愛などあまり記憶にはなかった。
ミーハー精神には縁のないツンだから、惰性や軽い気持ちで付き合うなんてことはまずなかったが、それでもだ。
まぁ、今の自分がそんな関係に不満がなければいいことだろう。
大人になった自分が差し挟むのも、なんだか野暮だ。
454
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:28:50 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「で、いくつになったの?」
それを年下の女の子、しかも自分自身に聞かれることなんてまず経験しない。
23歳にして初体験な違和感である。
ξ゚⊿゚)ξ「23だけど」
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん。それって、なんか気持ちの変化ある?」
10代の頃は、歳を重ねるごとに多少の意識の変化があった。
15歳から16歳、16歳から17歳になるということが、大きなプログレスだと思ってた。
.
455
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:30:14 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「んー…ないね」
ζ(゚ー゚*ζ「言い切ったね」
ξ゚⊿゚)ξ「ハタチ超えたら、当日いきなり意識が変わるんじゃなくて、日が経ってだんだん自覚してくものよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなもんかね…そういえばあんまり浮かれてないもんね」
それは、死に一歩近づいたからだよ。…とは、やっぱり言えるはずがなかった。
それに、ああやって自分には内緒で企てられたサプライズが、嬉しくなかったわけもなければ、浮かれてないつもりもない。
456
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:31:39 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「そんなことないよ。今年は祝ってくれる愉快な人達がいたから」
ζ(゚ー゚*ζ「…やっぱり自慢しに来たんじゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。あんたがこれから経験するべき未来の話よ?」
拗ねるデレに、そう説き伏せた。
やっぱり、この頃の自分は些か素直じゃない。
.
457
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:33:06 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「今のあんたは、あんまり積極的に人の輪に入って行こうとしないかもしれないけどね」
ξ゚⊿゚)ξ「それでもついてくる人はついてくるってこと」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまり人と繋がろうとしてこなかった分、いざ繋がってしまった人との縁は強固よ」
ξ゚⊿゚)ξ「だから今のあんたは、べつに正しくもないけど間違ってもない」
ξ゚⊿゚)ξ「それだけ忘れなければいいかな」
.
458
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:34:47 ID:uLjBbDWQ0
その当時、本当は少し懐疑があったことをツンは覚えてた。
ハインとも違う高校に進学し、そこで出会った同級生らに対し
それなりには関心あるけど、それなりにどうでもいいと思ってしまうことに。
誰とでも仲良くできればいいけど、誰とでも深く付き合いたいわけじゃない。
そんな自分は、薄情者なのだろうかと、思うことがあった。
それが否定されたわけじゃないけど、『ついてくる人はついてくる』。それだけ分かればデレの懐疑を融くには充分だった。
459
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:37:44 ID:uLjBbDWQ0
ζ(゚ー゚*ζ「…そういう説教は意味ないんじゃなかったの?」
相変わらず素直ではなかったが、自分自身の言葉に愚直に狂信されてもなんだか薄気味悪いので、何も言わなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「他人から言われたって聞きやしないでしょうに」
ζ(゚ー゚*ζ「…そうだね。あなたに言われるのが一番説得力はあるよね」
もはやただのネタバレだけどね。と、声だけはっきり聞こえた時にはもうデレの姿は意識の向こうにいて
どこか和らぎを含んだその声を漏らしたデレの表情だけは、見届けることができなかった。
.
460
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:39:45 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……」ボー
目が覚めた時にはもう、正午前だった。
普段の自分ならそろそろ休憩に入ろうとしてる頃だろうか。
縛られない生活というのも、なんだか地に足着かないようで思ったよりも落ち着かない。
.
461
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:41:12 ID:uLjBbDWQ0
ξ゚⊿゚)ξ「……寝違えた」
原因は、誕生日の時にハインがくれた、安眠枕だった。
やれパウダービーズやらメタルチタン加工生地やらの、見た目より重くはなかったそれは、昨今のツンの生気のなさを案じて選んでくれたものなのだろう。その気持ちだけは有り難い。
ξ゚⊿゚)ξ「…今度からは足に敷こう」
そう呟いていつもの枕に取り替えたツンは、特にやることも思い付かず再び横になった。
.
462
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/23(金) 16:43:15 ID:uLjBbDWQ0
21話おわりです。
463
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 23:31:00 ID:IYk2UWD.0
連日乙
464
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:10:41 ID:rwN06UWc0
気がついたらまとめていただいてました。本当に感謝です。
Boon Roman様
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/dream/
終わりが見えたとぶっこいてから何話書いたことでしょう第22話
465
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:13:09 ID:rwN06UWc0
◆第22話◆
XX24年 U月
陽が短くなり、そろそろ肌寒くなってきたが、さすがに今日の店内は絵に描いたようなお祭り騒ぎだった。
開店五周年。
流行るまでに少々時間がかかったため、盛り上がりが見込めなかったというこの店は、今までパーティーらしいパーティーなどしたことなかったそうだ。
ところが今では、店内は満席どころか座りきれなかった客が立食するという有様で、今日は少しでも場所を確保するため、普段カウンター席に置かれている足の長い椅子は全部撤去されていた。
ただでさえ、こんな祭の日は店側から客に対して、限られた範囲内ではあるが破格の値段で酒やら料理やらを大盤振る舞いする日だが
記念品作りに助勢したツンや彼女が呼んだ客は、招待客として扱われ、申し訳程度の祝儀のみでほぼフリードリンクで良いとの優遇ぶりだった。
466
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:15:02 ID:rwN06UWc0
ツンは、ハインとトソンに声をかけて参加した。
ブーンやドクオは、案の定忙しそうでなかなか話し掛けられる雰囲気ではない。
(゚、゚;トソン「………」
気品漂う淑やかなお嬢様は、あまりこういう騒がしい場には来ないらしく、ソワソワと落ち着かない様子でいる。
从 ゚∀从「………」
しかも、住む世界が違いすぎてまず巡り合わされることはなかったであろう耐性がない人種に対しても、どう扱っていいかわからないのか、人見知りも度を超えて少々尻込みしてるようである。
467
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:16:15 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「えっと…こちらハインリッヒ高岡。見た目通りの元ヤンだけど取って食われはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「元ヤン……」
从 ゚∀从「おい、初めて会う子にそういう洗脳はやめなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「で、こちらが職場の後輩で都村トソンちゃん。美大生でシルクの道具貸してくれたの」
从 ゚∀从「スルーが軽快すぎるだろ」
そういう荒っぽい言葉遣いもさることながら、ハインのその見た目の派手さに気圧される人は少なくない。
赤みがかった髪色や、鼻筋の通ったハーフのような顔つきは、決して下品な印象を与える派手さではないのだが
スレンダーだが女性にしては高い身長も、小柄なトソンには威圧感を与えてしまうだろう。
468
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:17:47 ID:rwN06UWc0
キュートが一見親しみやすい愛玩動物に例えられるなら、ハインは雌豹なのだ。
遠くから見てる分には美しいのだが、その猛威を孕んだような鋭い目に見られてしまうと、あまり近づきたいとは思えない。
美人なわりにこうも見た目で損をしてるタイプも、ハインの他に類を見ないだろう。
ちなみに昔、それを本人に言ったところ『それを言うならツンは雌鹿だな』と言われたことがある。
それがどういう理屈なのかは、いまだにわからない。
从 ゚∀从「トソンちゃんか。よろしくね。このたびはツンがお世話になったようで」
しかし、相手が引き気味なことにも気づいていながら、構わず気さくに話し掛けることができるのが、ハインの救いでもあった。
469
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:19:11 ID:rwN06UWc0
(゚、゚トソン「あ、いえ…こちらこそツン先輩にはいつもお世話になってます…」
物腰柔らかく、丁寧に挨拶するには役不足な相手かもしれないが、それがトソンの色だ。
憂惧せずに会話できるようになれば、それでいいのだとツンは思った。
(*^ω^)「おっおー。お三方わざわざありがとうだおー」
こちらから声をかけに行くのを自重してると、向こうから寄ってきてくれた。
既に何杯か飲んでるようで、顔にも火照りが浮かんでいる。
470
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:20:44 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、この子がシルクの道具貸してくれたの」
(゚、゚トソン「都村です。初めまして…」
(*^ω^)「お!君がトソンちゃんかお!おかげで良い記念品が作れたおー!」
そう言ってるブーンは既に、完成されたTシャツを着ていた。
今日のスタッフは全員記念Tシャツ着用が義務付けられているのだろうか、一日限りのユニフォームと化している。
来客も既に何人か記念Tシャツを着てる人がちらほらいて、売れ行きは好調なようだった。
471
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:21:49 ID:rwN06UWc0
(゚、゚*トソン「素敵なデザインですね。これはツン先輩が?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、デザインしたのはそこのコックのお兄さんよ。あたしはただシルクの手伝いしただけ」
(*^ω^)「でもおかげで本当に助かったんだお!未経験の野郎だけじゃ何人いても確実に終わらなかったお!」
(゚、゚*トソン「そういうことだったんですね」
芸術家魂が疼いたのか、トソンはTシャツのデザインを食い入るように見つめる。
ひたすらに胸元を見つめ続けられたブーンは、ちょっと困惑しながらもそうそう、とまだビニールのフィルムに梱包されたままのTシャツを三人に渡した。
472
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:22:51 ID:rwN06UWc0
(*^ω^)「よかったら、持って帰ってくれお!なんだったら今すぐ着替えてくれてもいいお!」
それを受け取ったトソンは、ツンとハインに一着ずつ配った。
(゚、゚*トソン「ありがとうございます!」
そのデザインがお気に召したのか、トソンの目は心底嬉しそうに輝いていた。
.
473
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:23:52 ID:rwN06UWc0
从;゚∀从「今にも着替え出しそうな勢いだねトソンちゃん。なんか意外…」
トソンのそんな姿にタジタジになるハインのほうが、よほど意外である。
(゚、゚*トソン「そうですねーどうしましょう?お二方、どうします?」
もはやその『どうします?』は、『一緒に着替えましょう!』と言われてるようにしか聞こえなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、記念品なんてその日一日しかありがたみがないんだから、パジャマにする前に着てあげるのもいいかもね」
一人は半ば道連れにして、無理矢理満場一致にした一行は、ノリに身を任せる運びとなり交代でトイレに篭る羽目となった。
.
474
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:25:18 ID:rwN06UWc0
黒地に赤色でデザイン画が印刷されたTシャツは、着る人を選ばず無難な配色だったようだ。
クラッシュ加工されたデニムのショートパンツが似合うハインはもちろん、シフォン生地で花柄のミニスカートで決めてきたトソンの奥床しさを、極端に損なうこともなかった。
たまにスタッフと間違えられるのには困ったが、それもご愛嬌ということで特に迷惑がってもいないらしいトソンやハインの姿には、微笑ましささえ感じる。
475
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:26:10 ID:rwN06UWc0
多少お酒も入ったことだし、もう二人の間に入らなくても気まずくなることはないだろうと踏んだツンは、二人に断って外の風に当たりに行った。
ξ;゚⊿゚)ξ==3フゥ
盛り上がりも好調なパーティーは確かに楽しいが、店内に詰め込まれたキャパオーバーな人出と熱気が少々窮屈になってきた頃だった。
多少酔いもあり、体も火照ってきたところで澄んだ夜風に当たると、気持ちが洗われるようだ。
476
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:27:34 ID:rwN06UWc0
久しぶりに、一つの空間を作り上げる現場に立ち会った。
自分がしたことは本当に微々たるものかもしれないが、小さな要素が一つ欠けただけで、その空間の仕上がりにどれだけ反映されるかを、ツンは知っている。
だからこそ、今回は胸を張れる仕事ができたと素直に思えるし
ただちょっと器用なだけで、昔美術部にいただけで、何も持っていない自分をそれでも必要としてくれたブーンやドクオには、感謝しなければと思ってる。
.
477
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:29:34 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「お、飲み過ぎちゃったかお?」
背後から、ブーンの声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。でもちょっと外に出たい気分だったの」
ツンは振り向きもせず、夜空を仰いだまま答える。
.
478
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:30:21 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「そうかお。でもさすがにTシャツ一枚じゃ寒いお」
そう言って、自身が来てるTシャツの上に羽織ってた厚手のワイシャツを、ツンの肩に乗せた。
(;^ω^)「あ、いや…外出てくる前に羽織ったばっかりだから、べつに汗とかはかいてないから心配しなくていいお」
何も言ってないのに勝手にあたふたし始めたブーンに、ツンも吹き出す。
その『何も言ってない』時間が、彼にとってはそんなに長い時間に思えたのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「べつに心配してないよ。ありがと」
そう言ってツンは、その長すぎる袖に腕を通した。
479
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:31:49 ID:rwN06UWc0
思えば『あの時』以来、まともに二人きりになったことなどなかった。
ハインにこの店に連れてきてもらった時、気まずさを顔に出さずにいてくれたのは、仕事中だったからなのかと思っていたが
しかしこうして個人的に頼み事をされ、惰性で何事もなかったかのような、ぬるま湯に浸かった雰囲気に委ねてしまったので
あの時はなんて理不尽なことを言ってしまったのだろうと、悔やむ気持ちはあってもそれをなかなか言い出せずにいた。
480
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:32:56 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あのね…」
今がその時だ。と何かに煽られてる気がした。
しかし同時に、それを口に出したらもう後戻りはできない。そんな終局での決断を迫られてるような気分だった。
.
481
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:34:09 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ずっと謝ろうと思ってたんだけど…この前、美術館に来てくれた時のこと」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしあの時、自分のことしか考えてなくて…本当に浅はかだった」
ξ゚⊿゚)ξ「ひどいこと言って、ごめんなさい…」
( ^ω^)「…もういいお。気にしてないお」
普段飄々としてるツンが、僅かながらも自分の胸のうちを打ち明けることなんて、あまりない。
ジョルジュと付き合ってた頃でさえ、彼に寂しいとか心細いとか、何をどうしてほしいかなんて滅多に言わなかった。
そんなツンが、人に『ごめんなさい』などと言ったことなど、いつぶりだっただろうか。
.
482
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:35:47 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、ブーンが来てくれて、迷惑だと思ったことなんて一度もないよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにあの時は、そうしなきゃって…それが正しいんだって片意地張ってて…」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにこういう場に呼んでくれて…あたしを頼ってくれて…」
ξ゚⊿゚)ξ「…あたしももう、どうしていいかわかんなくて…」
( ^ω^)「………?」
.
483
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 14:37:59 ID:rwN06UWc0
馬鹿正直で直情そうに見えて、人が言ったことはちゃんと受け止める寛容さは持っていて
不器用そうに見えて、内に秘めた芯はしっかりしていて
話してるといつも調子が狂わされて、いつの間にか彼のペースに嵌まってしまって
( ^ω^)
そんな彼に、たまらなく惹かれてしまうこの情動を、一度自ら手放しておきながら、今更なんと言えばいいのだろうか。
.
484
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 14:51:31 ID:wV7J6c2.0
支援!
485
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:00:02 ID:U3e.BJL60
ξ゚⊿゚)ξ「…このままじゃ、ダメだと思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「うまく説明できないけど、とにかく流されちゃダメだって思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、うまくいかなかった」
ξ⊿)ξ「どうしても、抑えられないの…あたし一体、どうすればいいか…」
.
486
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:01:32 ID:U3e.BJL60
ξ⊿)ξ「あたし…やっぱりブーンのことが……」
( ^ω^)「ツン」
大事そうにその名をそっと囁き、ブーンはツンの言葉を遮った。
.
487
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:03:11 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…僕は、ツンが一緒にいてくれれば、それでいいお」
( ^ω^)「…もしツンも、同じ気持ちでいてくれるなら」
( ^ω^)「あんまり、そんな辛そうな顔はしてほしくないお」
ξ⊿)ξ「………」
.
488
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/24(土) 15:05:28 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…率直に聞くけど」
( ^ω^)「僕はツンが好きだお。一緒にいてほしいお」
( ^ω^)「ツンは、応えてくれるかお…?」
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……あたしは………」
.
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