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ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
288
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:41:27 ID:CBudCD2k0
君と出会えて、結婚できて、幸せだったんだお。
その最後のブーンの言葉は、はっきりと聞こえた。
289
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:42:31 ID:CBudCD2k0
「ツン……」
外は白んでいる。
普段ならまだ起きてる時間ではないらしい。
.
290
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:44:12 ID:CBudCD2k0
(;゚∀゚)「どうした?泣いてるのか?」
隣にいたジョルジュに、また心配かけてしまった。
ξ;⊿;)ξ「………」
涙が止まらなかった。でも、説明のしようがなかった。
.
291
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:45:52 ID:CBudCD2k0
覚えてる。
誰に何を言われたか。
則ち、数年先の結末だ。
ξ;⊿;)ξ「………」
(;゚∀゚)「…ツン……?」
啜り泣きが止まらない。
強気なツンが、よもや怖い夢ごときで泣き出すとは思ってなかったジョルジュは動揺を隠せないが、過呼吸気味な彼女の精神の平穏を優先して、何も聞かずに背中を撫でる。
292
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:47:49 ID:CBudCD2k0
ξ;⊿;)ξ「………」
ジョルジュの手が温かい。
よりにもよって、何故ジョルジュの隣であんな夢を見たのだろうか。
(;゚∀゚)「………」サスサス
いずれ来るこの人との別れを、決定づけるような未来の夢を。
.
293
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/18(日) 23:49:23 ID:CBudCD2k0
15話おわり。
294
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:54:24 ID:cLWfd/rw0
乙!
295
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 00:29:56 ID:k3hKElls0
乙
296
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 01:32:04 ID:ZHgI82JMO
( ^ω^)は幸せを伝えたいようですを思い出したじゃねえかよ
すぐ、早く、続き書け、いや書いてください待ってる
297
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:17:18 ID:qTz0cvPY0
百物語お疲れさまでした。
投下はしませんでしたが楽しく読ませていただきました。
そんな祭のあとの第16話
298
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:19:09 ID:qTz0cvPY0
◆第16話◆
XX24年 T月
予定調和で、仕事に身が入らない日が続いた。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
もともと本腰入れるほどのモチベーションで仕事してなかったので、あまり人に気づかれることはないのだが
( ゚∀゚)「………」
.
299
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:20:38 ID:qTz0cvPY0
夢にうなされ、終いには泣き出したツンを目の当たりにしたジョルジュだけは、なんとなくその士気のなさに気づいたらしく、落ち着いてから改めて理由を尋ねてみたことがあるが
言及しようとすればするほど押し黙るツンをいい加減見限って、最近は目に余る勤務態度を咎めることさえある。
そういうツンの頑なな態度は、時に男性の英気に一点の曇りを齎す。
要するに、自分じゃ頼りにならないのか。そんな風に思わせてしまうことがあるのだ。
.
300
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:21:38 ID:qTz0cvPY0
もとより、やや女々しい性格のジョルジュにしてみたら、なんだか隠し事をされてるように見える時さえある。
人間、隠し事をされたと思うと俄然裏切られたと錯覚するもの。
もしそれが勘違いなのであれば、普段のツンなら毅然と否定し納得のいく弁明をくれるはずだと思ってたが、今はただただ黙秘を決め込んでいる。
結局ジョルジュになんの説明も相談もできてなく、だんだんコミュニケーションを取らなくなってきた二人の関係は、今はあまり芳しくなかった。
301
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:23:42 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「ツンじゃん。相変わらず暇そうだな」
無駄に壮麗な美術館にはそぐわない、底抜けに明るい声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?何してんの?」
まさかの珍客に少々出し抜けられたが、その締まらない声の返事は、とても仕事中とは思えない。
从 ゚∀从「今展示してるのってミセリの絵だろ?ちょっと気になってたんだよね」
.
302
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:25:29 ID:qTz0cvPY0
ミセリ。今20代を中心に人気のあるイラストレーターだ。
オブジェなどの立体的な作品がなく、ちょっとファンシーなポストカードのようなイラストがひたすら展示されている。
その目玉のなさを補うように、期間限定で本人に似顔絵を描いてもらえる小さな特設会場なんかもあり、それなりに反響を呼んでいるようだ。
はっきり言って、この一切関心が持てない展示物もツンの士気を下げる一つの要因といっても過言ではない。
デジタルには頼らず、100%手描きのアナログ手法を謡ってるが、それが何だと言うのだろう。
ミセリ自身の若さと容姿、そしてストリートを経たというちょっとした付加価値がつけば簡単に話題になる浅はかさが、ツンには理解できなかった。
現にこうやって、普段なら現れないような珍客まで呼び寄せる、ミセリのネームバリューも馬鹿にできないから尚、不可解の一途である。
303
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:27:26 ID:qTz0cvPY0
そういえば、ジョルジュも言ってた気がする。次の企画はあのイラストレーターだと。
なるほど自分がその企画案が出た現場にいたら、素直に賛成できた自信はない。
でも結果がこれだから、差し詰めまた自分の意見を正直に主張したところで、場を白けさせるのが関の山だったのだろう。
304
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:28:22 ID:qTz0cvPY0
ハインはふらふらとフロア内を歩き回り、あまり満足に鑑賞したようには見えなかったが早々と一周してツンのもとへ戻ってきた。
从 ゚∀从「まぁ、実物ってこんなもんだよね」
ハインが期待したほどのクオリティではなかったようだ。
現れた時は一瞬彼女の価値観を疑ったが、あながちそれは歪んだものでもなかったらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「実際鑑賞もそこそこに、本人に会いに行く人ばっかりだよ」
从 ゚∀从「まぁ、それぐらいしか目玉ないもんな…」
ξ゚⊿゚)ξ「行ってみれば?」
从 ゚∀从「そうだなー…似顔絵待ち時間長いかなー…」
ξ゚⊿゚)ξ「そうそう。みんな似顔絵目的だから待ち時間潰しの鑑賞と化してる」
从 ゚∀从「…わからんでもないが、趣旨ズレてねぇか?」
305
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:30:15 ID:qTz0cvPY0
だからこそ不本意なのだ。とツンも思う。
企画にミセリ案を採用したことにより、美術館がただのミーハー向けのイベント会場と化している。
ただでさえ気分が沈んでる時に、この仕打ちはつらい。
何もかも、納得のいかないことばかりだ。
.
306
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:31:49 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「そういえば彼氏は?館内にいるの?」
ξ゚⊿゚)ξ「んー今は似顔絵の会場でこき使われてるんじゃない?」
从 ゚∀从「まじか。後で見に行ってみよっかな」
ξ゚⊿゚)ξ「ピンクのワイシャツだからすぐわかると思うよ」
そう言ってツンは、話し掛けられた見物客に簡単な案内をし始めた。
その声のトーンが、自分のような気心知れてる友達と話してるトーンとまるで変化がなく、そのあまり抑揚のない喋り方に緊張感なさすぎだろ…とハインは内心ちょっと呆れながら、ミセリがいる特設会場に向かって行った。
.
307
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:33:17 ID:qTz0cvPY0
会場には、長蛇というほどでもないがそこそこ列ができていた。
でも、一人分の似顔絵を描くのに10分や15分で終わるとも思えないので、そう考えると待ち時間はかなりありそうだ。
並ぶミーハー客に配慮して、会場にはプロジェクターが設置されており、『ミセリヒストリー』という軽いドキュメンタリーが放映されている。
『若く才能に溢れた美人イラストレーター』とたらし込まれた、製作側のセンスを疑う無限ループの映像に飽きた客はもう、何人か見向きもしてないようだが
从 ゚∀从(凝れば凝るほど、ただのイベント会場だな…)
なるほど根っから芸術オタクのツンが面白くなさそうなのも合点がいく。
尤もそれも狙いの一つなのか、美術館という敷居の高そうな威厳が覆されたようだ。
.
308
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:35:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「こんにちはー。似顔絵お待ちの方ですか?」
ハインが突っ立ってると、爽やかそうな青年に声をかけられた。
首から名刺サイズの社員証らしきIDカードをぶら下げた、例のピンクのワイシャツだ。
それに寒色系のネクタイを合わせた姿が、凛々しく決まっている。
それでいて活力に溢れたような逞しさを体現したような、肉厚でがっしりした体格によく合っていて、顔も彫りが深く秀麗といえる。
从 ゚∀从「あ、いえ…結構待ちそうですし」
( ゚∀゚)「そうですねー。今からですと約1時間半ってとこですかね」
从 ゚∀从「そうですか…じゃあまた今度」
( ゚∀゚)「はい!お待ちしてまーす!」
.
309
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:36:59 ID:qTz0cvPY0
ハキハキとそう告げながら、青年は去って行った。
そうだよこれが仕事中の喋り方だよ。と、ハインは内心突っ込んだ。
まさかあの不精な喋り方をするツンが見習うべき模範が、あの彼氏とは。
从 ゚∀从(しかし……)
と、ハインが次にジョルジュを見遣った瞬間にはもう、似顔絵が仕上がった客とミセリのツーショット写真を撮っている。それもファンサービスの一環なのだろう。
310
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:39:44 ID:qTz0cvPY0
ちょっと目を離した次の瞬間にはもう、次の仕事に取り掛かるテキパキとした彼氏に対し、あまり動かなければ覇気もないツン。
二人が一緒にいたら、どんな雰囲気になるのだろう。
ハインにはいまいちビジョンが湧かなかった。
しかしやはりというべきか、人の長所を見抜く才には長けてるツンのことだ。
悪癖はない彼のだろうし、このような職場で出会った人なら、話も合うのかもしれない。
从 ゚∀从(……いや…)
.
311
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:41:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「―――――」
ミセ*゚ヮ゚)リ「――――――!」
ミセ*>ヮ<)リノシ(゚∀゚*)
( ゚∀゚)「―――!」
ミセ*^ー^)リ「――――!」
从 ゚∀从(…まぁこんな職場だから、か)
今更ながら、あまり人の彼氏を注視しすぎるのも無骨な気がしてきたハインは、聞こえてもいない会話は気にしないことにしてその場を後にした。
.
312
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:42:47 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「………」
相変わらず暇だった。
売れ線に目を向けた恩恵でいつもよりは人出はあるが、やはり絵に触れようとする人などいなければ、壊されたら困るような展示物もない。
さらに、ガイドというガイドを必要としないジャンルの絵なので、案内したことと言えばトイレの場所くらいなものである。
その人出も、ミセリ本人と会えるというイベントが終わればなくなるだろう。
わざわざ足を運んで鑑賞だけしに来るほどの絵じゃないとはツンも思ってるし、その面白みも歴史背景もない作品を、美術館側も推してるわけではないのだ。
313
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:44:46 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「お。ツンさんこんにちはだお」
また、その男は音もなく現れた。
あの夢を見てから数日が経っていたが、それでもなおしこりが残っているツンは、彼は何も知らないとわかってはいながらも一瞬顔を強張らせてしまう。
(;^ω^)「……お?」
ブーンもその、ツンの表情の鋭さに気づいたようだ。
.
314
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:45:56 ID:qTz0cvPY0
いつか、こういう日が来ることはツンも予感してた。
将来結婚を約束するほど縁のある人だ。今現在は連絡先さえ知らないが、どこかで絶対に会う。そんな気はしてた。
それも、ツンの行動範囲が自宅と職場の往復のみなら、その狭い道すがらでしかありえないのだ。
ブーンは絵を描くのが趣味だという。ならば美術館で遭遇するのもなんら不思議ではない。
ツンの職場であり、逃げ場のないこの美術館は、二人が交流するにはうってつけの『出会いの場』なのだ。
.
315
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:47:11 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「…ごめん、なんでもないの。それより、こういう絵にも興味あるの?」
ブーンの価値観を測るための、ある意味誘導尋問だった。
出会うべくして出会ってしまった今、どこかでブーンに失望しないと、決められた未来への一途だ。
すなわちそれは、避けようのない、死。
.
316
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:49:16 ID:qTz0cvPY0
――僕が生きてる現実とは違う生き方を、これからしてみるといいお。―――
そうだ。抗ってみないと。
何が変わるかはわからないけど、何もしなければ何も変わらないことだけはわかる。
.
317
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:50:21 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「おー…ろくに調べもしないで来ちゃったお。前回ツンさんに勉強させてもらったこともあって、今度から休みの日はたまに美術館覗いてみるっていう習慣もいいかなーって思ったんだけど…」
ξ゚ー゚)ξ「当たり外れあるからね」
(;^ω^)「あ…いやそんなことは…」
ツンは意地悪く笑って言った。
純粋なミセリ目的の見物客を気にしてか、はっきりと『興味ない』と言い出せないでオブラートに包むような言い方をするのが、いかにもブーンらしい。
そんな風に言われてしまうと、ついからかってみたくなるのだ。
318
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:52:04 ID:qTz0cvPY0
思えば、いつもそうだった。
素直で愚鈍そうに見えながら、自分の言ったことはちゃんと受け止めてくれてる。それでいて誰にでも気を遣えて、底抜けに優しい。
そんなブーンと喋ってると、いつの間にか専心してしまう。
そのやり取りが、なんだか心地良いのだ。
現に今も、ブーンの価値観に相違のない返事に安心してしまってる自分がいる。
.
319
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:53:15 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇブーン」
その安寧は、つまり好意に値する。
今すぐ芽生えなかったとしても、時間の問題だろう。
そしてそれは現実世界において、ジョルジュに対する背徳感情。
否定してもいいはずだ。とツンは思い直した。
.
320
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:55:43 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ本人に似顔絵描いてもらえるっていう、イベントコーナーは見た?」
( ^ω^)「おー…さっきチラッと見た気がするけど、並ぶ気にはならなかったおw」
ξ゚⊿゚)ξ「…そこのスタッフがね」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしの彼氏なの」
( ^ω^)「…お、そうだったのかお!ちゃんと見に行ってみれば良k―――」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりそういう時に何度も来られると、正直困るの」
.
321
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:57:50 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…そういうことかお」
あの優しいブーンからは聞いたことなかった、重々しい声だった。
.
322
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 18:58:56 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…まぁ最初会った飲み会でもあんまり乗り気だったようには見えなかったし、なんとなく予想はしてたお!」
( ^ω^)「まさか同じ職場だったとは、考えが及ばなかったお!」
今度は殊更に明るい声だ。
気にしてない素振りの下手さに、心乱されそうになる。
323
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 19:00:14 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…迷惑かけて、ごめんだお」
そう言って去って行くブーンを、追い掛けたくなる足を必死に我慢しながらツンはその背中を見送った。
.
324
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/19(月) 19:01:01 ID:qTz0cvPY0
16話おわりです。
325
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 19:13:23 ID:mwikmeAY0
見てるぞ
乙
326
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 20:38:49 ID:kvTNQZZI0
うむむ...乙
どうなるんだ...
327
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 20:50:54 ID:j9fksRJY0
続きが気になる
乙
328
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 23:22:22 ID:ZHgI82JMO
17話まだー!
329
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 01:07:43 ID:fKkTYZhY0
続きが気になる小説じゃねーか、乙!
330
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 01:19:50 ID:xAVFO8jE0
これはいい
早急に続きを書くのだ
331
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 07:46:24 ID:sqi2JzkQ0
おもしろいよー
332
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:18:29 ID:essLX21o0
オゥフいつの間にかレスも増えてめっちゃ嬉しいですありがとうございます。
そんな勢いで第17話
333
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:19:58 ID:essLX21o0
◆第17話◆
XX24年 T月
「「「「ミセリさん、お疲れ様でしたー!!!」」」」
とある居酒屋の広い個室。
イラストレーター、ミセリを囲んだ飲み会だった。
ツンの職場である美術館にて期間限定で催された、本人によるファンサービスのイベントが今日で終了した。
まだミセリの絵自体は展示されたままなのだが、本人がこの美術館に仕事しに来るのが最後ということで、打ち上げと洒落込んだわけだ。
334
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:21:34 ID:essLX21o0
ミセ*゚ー゚)リ「長岡君、お疲れ様ー」
( ゚∀゚)「お疲れ様っす。本当助かりました!」
ミセリの隣には、ジョルジュが付きっ切りだ。
同じ現場で仕事した時間が一番長かったのだろうし、企画の段階でいろいろ世話にもなってるはずだし
歳も近くてミセリも心開きやすいジョルジュが実質彼女のマネジメントのような仕事も担ってたので、こういう席でも何かと気を遣うのだろう。
べつに嫉妬はしないが、ただでさえあまりよく思ってないミセリ相手だから面白くないと言えば事実だ。
ただ、そう思っていられるだけ自分の立場なんて気楽なもんだとツンは思っていた。
335
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:23:08 ID:essLX21o0
ツンの職場では、こういう飲み会が催される機会は少ない。せいぜい忘年会や新年会程度である。
だからこそ、このイレギュラーなゲストを迎えた飲み会が新鮮なのか、それともイベントを終えた達成感なのか、思いの外盛り上がってるようだが
そのどちらにも属さない立ち位置のツンからしてみたら、自分との温度差はただ事じゃなかった。
もともとお酒は好きなツンだから、機会があれば飲み会に参加するのは大いに結構なのだが
歴史的遺産である芸術品や絵画、画家の歴史背景を研究している博士や学芸員、『マニア』の域を出ないかもしれないが、研究者らに負けず劣らない知識を誇る館長などを囲み、彼らの見聞でも聞いてる通例の飲み会の方がよほど身になるとツンは思う。
どうせ酔っ払いなどしないのだ。
ただ盛り上がるだけの飲み会なら、適役な酔っ払いに任せておけばいいし、それを尻目にしてるだけのツンはそもそも、行く必要性を感じない。
336
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:25:09 ID:essLX21o0
ところが今日の飲み会はどうだ。
いかんせん、主役は若い女の子。
解せないアートを持ち味とする女の子から、吸収すべきノリッジも期待できないし、その子に喜んでもらうために必死に盛り上がる周りの連中の低俗な煽り方も、野暮ったくて見てられない。
長時間居たい席ではないと判断したツンは、どのタイミングで席を立とうか考え始めていた。
ミセ*゚ー゚)リ「あのー、お疲れ様です!」
そんなことを考えてる時に、まさかのミセリから話し掛けられた。
ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様です」
門が立たないように気をつけたつもりの、当たり障りない声色でツンは返した。
もしかして、つまらなそうにしてるのが顔に出てしまってたのだろうか。
そんな危疑もあったからこそだった。
337
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:26:52 ID:essLX21o0
ミセ*゚ー゚)リ「申し訳ないんですけど、ブログに載せる写真、撮ってもらっていいですか?」
杞憂に終わった。
確かに、ミセリを囲む野郎共はこぞって目上の人間ばかりだから、それを押し退ければ一番近くいたツンは、下っ端の若い女の子に見えて頼みやすかったのだろう。
べつに、それぐらいなら吝かではない。ツンは了承してミセリからカメラを受け取った。
.
338
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:28:34 ID:essLX21o0
しかし何枚撮らせる気なのだと、数秒後にはげんなりしていた。
こと有名人の女の子となると、自分の写真写りには神経質になるのもわかるし、それをブログという不特定多数の人に向けて発信するフィードとなるなら尚更なのかもしれないが
それにしても、保険も甚だしいほど撮らせる。
ミセ*゚ー゚)リ「何枚もごめんなさい、ラスト一発お願いしまーす!」
酔いもあるのか、さながらモデルにでもなったかのようなテンションで近づいた先にいたのは、上司に酌をするジョルジュだった。
ミセ*゚ー゚)リ「長岡君!写真いーい?」
( ゚∀゚)「え?…あぁまぁいいっすけど」
ミセ*゚ー゚)リ「やった!でさ、ブログとか載せちゃって大丈夫?」
( ゚∀゚)「マジすか?どーしよっかな…」
カメラマンに任命されたのがツンだと気づいたジョルジュも軽い困惑を見せるが、特に嫌がりもすることなく、ミセリのペースで写真に映らされていた。
.
339
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:30:04 ID:essLX21o0
ようやくミセリから解放されたツンは、席に戻って自分の飲みかけのビールを空にした直後
ξ゚⊿゚)ξ「すみません、ちょっと疲れちゃったんでお先に失礼します」
と上司に告げて立ち上がった。
その上司に『そうか、お疲れ』と言われたのみで、盛り上がる群集からは労いの言葉をかけてもらうこともなく、それらを尻目にツンはこっそりと店を抜け出した。
.
340
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:31:06 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ(…うーーーん……)
早々と帰宅したツンは、自宅にストックしてあるバランタインを見つめながら迷っていた。
飲み足りない、飲み直したい気もするが、こんな気分で飲むウィスキーもいかがなものか。
なんとなく手が伸びずにいると、バッグにしまわれたスマートフォンが震えてることに気がついた。
341
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:32:22 ID:essLX21o0
ジョルジュからの着信だ。
そういえば、ジョルジュに断りも挨拶もなく店を出てしまった。
気がつけば店を出てから随分時間も経ったことだし、飲み会も一段落したのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし?」
意識はしてなかったが、我ながらなんだか憮然とした声だった。
( ゚∀゚)『…おぅ。いつの間に帰ったの?』
あまり抑揚はないが、いつも通りと言われればそうとも聞こえる。
ジョルジュの胸懐までは、電話越しからは伝わらなかった。
342
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:33:44 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ「…あぁ。ちょっと疲れちゃって」
( ゚∀゚)『…だとしてもさぁ』
( ゚∀゚)『一言ぐらいあってもよかったんじゃねぇの?…ミセリさんに対してもさ』
確かに、ミセリのカメラマンから解放された直後の退席だった。
そうやって飲み会の席でこき使われ、気を悪くした至りの退席と思われても不思議ではなかっただろう。
そんなつもりはなかったが、言われて初めてその可能性に気づいた。
ξ゚⊿゚)ξ「あーごめん。でもべつに機嫌悪くしたわけではないから」
( ゚∀゚)『……はぁ』
溜め息つかれた。それが最近たまにある、小言が始まる空気に変わった。
.
343
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:35:32 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…確かに、いろいろ面白くないこともあるかもしれないし、ミセリさんだってお前の好みじゃないことはわかってるよ。でも、一緒に仕事したんだから挨拶ぐらいはしないとマズイだろ』
( ゚∀゚)『最近いっつも上の空っぽいし、仕事中もそんなんだとさすがに感じわりぃよ』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
それは、ジョルジュしか気づかないほど小さな変化だったかもしれない。
しかし、気づかれたからこそ図星であることも明白で、何があったか言わないツンに落ち度があることも理解しているので
いつまでもジョルジュが味方してくれるわけじゃないことも、その声色から窺えた。
.
344
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:36:47 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…もちろん、理由もなしに、気まぐれでモチベーションが下がってるわけじゃないとは思ってるけど、何も相談してくれないんじゃ何もしてやれねぇよ』
( ゚∀゚)『やっぱり、俺には言えないことなのか?』
ξ゚⊿゚)ξ「そういうわけじゃ…」
( ゚∀゚)『じゃあ、俺が納得するように否定してくれよ』
そう言われていつも、言葉を詰まらせて話が行き詰まってしまうのだ。
.
345
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:38:25 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『……やっぱりダメか』
諦めたように、ジョルジュは吐き捨てた。
( ゚∀゚)『…ツン、俺実はさ』
( ゚∀゚)『ミセリさんに、ちょっと口説かれたんだ』
ξ゚⊿゚)ξ「!………」
さすがにちょっとショックではあったが、言葉には出さなかった。
.
346
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:39:34 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『ミセリさんって同じ専門学校の先輩でさ、もともと知らない仲でもなかったんだ』
( ゚∀゚)『だから今回もいろいろ協力してもらえて、ああいうイベントできたわけなんだけど…』
ξ゚⊿゚)ξ「…ふぅん。それは知らなかったな」
( ゚∀゚)『あぁ。言ってなかったな』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
347
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:40:40 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『久しぶりに会って一緒に仕事して、いろいろ相談とか提案し合いながらイベント企画して、成功して』
( ゚∀゚)『……昔の俺らも、そんな感じだったよな』
言うまでもなく、そういう苦楽を共にしたという過程があったからこそ、二人は惹かれ合ったのだった。
同じ職種で、同じ現場で
展示物や、それに付随するイベントやグッズなど、小さな要素を集めて一つの空間を作り上げるという貫徹に向けて
二人同じ気持ちで、駆け抜けた。
あの時、仕事が終わった後のビールは旨かった。
残業中のさりげないお菓子の差し入れが、嬉しかった。
.
348
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:42:36 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ『お疲れ様でーす!一息つきませんか?』
(゚、゚トソン『あ、ツン先輩お疲れ様です!』
(-@∀@)『お、差し入れ?気が利くねー……ってあれ?』
(゚、゚;トソン『……これは………』
( ゚∀゚)『ちょwなんで差し入れにキュウリとか沢庵www』
ξ゚⊿゚)ξ『なによー!ちゃんと枝豆もあるわよ!』
( ゚∀゚)『そこじゃねぇよ!お前女子なら女子らしくシュークリームとかマカロンでも買って来いよwww』
ξ#゚⊿゚)ξ『ひっどい!せっかく自家製の漬物なのにそれじゃ不満だってわけ!?結構いい感じに漬かってるのに!!』
( ゚∀゚)『ババァか!お前ババァなのか!www』
(;@∀@)『…ビールどこにしまったっけなぁ…?』
(゚、゚*トソン『あ、でも意外と美味しいー』
自分がもらった差し入れのお礼のつもりで持って行ったものがきっかけで、軽い諍いにはなったが、結局その日はそのまま飲み会になってしまったり
楽しかった。本当に。
その頃の自分らと、今のジョルジュとミセリを投影させるのであれば
ジョルジュの気持ちはもう既に、ミセリに傾いてても不思議ではなかった。
.
349
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:45:13 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『べつに今すぐミセリさんとどうこうなるってわけじゃないんだ。…ただ、正直言ってちょっと揺れた』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ゚∀゚)『もちろん、ツンを一番大事にしたい。だけどツンがいつまでもそんな態度だと、俺もう自信ねぇんだよ』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ゚∀゚)『…だからさ』
( ゚∀゚)『ミセリさんのこととは関係なく、俺らは俺らで…もう終わりにしよう』
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
350
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:48:28 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…ごめんな。俺が不甲斐なかったばっかりに』
ξ⊿)ξ「…………だ」
( ゚∀゚)『うん?』
ξ⊿)ξ「終わりにするなんて、嫌だよ」
( ゚∀゚)『………』
.
351
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:49:57 ID:essLX21o0
( ゚∀゚)『…勝手なこと言うなよ』
( ゚∀゚)『じゃあ俺にどうしろって言うんだ?』
ξ⊿)ξ「………」
( ゚∀゚)『…またそのパターンだろ』
『ごめんな』
その一言を最後に、通話は途切れた。
.
352
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:51:14 ID:essLX21o0
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……やっぱり飲もう」
ジョルジュとの恋が終わった。
電話一本で、こうもあっけなく。
わかっていたこととはいえ、やはりいざ言われると堪える。
353
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:55:34 ID:essLX21o0
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりクリエーターに惹かれるか…」
ツンは二杯目のバランタインを煽った。
クリエーターである彼女と、ちょっと器用なだけの一般人である自分。
そこを天秤にかけられたらかなわない。
いや、そう思わないと報われない
。
これが自分の死へ向かっていく小さな一歩になるだなんて、やっぱり認めたくはないのだ。
結局、ジョルジュとの別れは回避できなかった。
ただ『嫌だ』と言う一言に、一生分ほどの勇気を使い果たした気分だったのに。
.
354
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:57:40 ID:essLX21o0
でもそれが、自分の死を回避したいがために出た言葉なのか、消え去ってもいないジョルジュへの好意から出た言葉なのかは、正直言ってよくわからない。
現に、今ツンを支配する虚無感は、結局ジョルジュと別れてしまったがために
突き放してしまったあの人の笑顔ばかり思い出す、薄弱な自分に対するものなのだから。
.
355
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 19:59:20 ID:essLX21o0
( ^ω^)
何も悪いことなどしてないのに、ツンの勝手な言い草を責めることもないどころか、謝罪まで残して去って行ったあの人。
まるで救いを求める人々が伸ばす手の先にいる仏のようなその笑顔に
自分は、手を伸ばす了見などあるのだろうか。
.
356
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 20:00:38 ID:essLX21o0
何もかも、失った。
それが自分の死を回避するための埋合だったとしても
ξ⊿)ξ「……助けてよ……」
救いを求めずには、いられなかった。
.
357
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/20(火) 20:01:34 ID:essLX21o0
17話おわりです!
358
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 21:34:46 ID:FNlnxtt.0
乙
ツン……
359
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 23:36:48 ID:psUevbKwO
今日は一話だけなのかな
360
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 23:38:02 ID:xAVFO8jE0
あー重いねー
しかし展開気になるねー
361
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:33:50 ID:bIh5c29w0
をををレスいただけるとほんとモチベーション上がりますありがとうございます。
今後は一日一話ペースになるかと思いますが、出来次第マイペースに投下します。
そんなわけで第18話
362
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:35:20 ID:bIh5c29w0
◆第18話◆
XX24年 T月
从 ゚∀从「…なんかまた脱魂してねぇか?」
待ち合わせ場所に到着したハインの、開口一番がそれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」
从 ゚∀从「明らかにそうだろ。とりあえずなんか食えって」
そう言ってハインはツンの腕を引いて歩き出した。
.
363
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:36:59 ID:bIh5c29w0
向かった先はダイニングバーだった。
初めて来るはずなのだが、店の名前にはなんだか見覚えがある。
从 ゚∀从「ちょっと前にバイト先の先輩に連れてきてもらったんだ。飯もうまいけど酒も充実してんぞ」
そう言って扉を開けるとすぐ、『おーハインさん!』という声が飛び込んできた。
.
364
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:38:21 ID:bIh5c29w0
('A`)「お疲れっす。また寄ってくれたんすね」
長い一枚板のカウンターの向こうに立つ、背の高い青年がハインを見かけるなり挨拶してきた。
細身で貧相な体つきはやや不健康そうにも見えるが、決して愛想がないわけでもない。
気怠そうに見えるのは地顔だろうか、そんな彼にもツンは見覚えがあった。
('A`)「あ、ツンさんですよね。お久しぶりですー。覚えてます?」
いつだか、ブーンにも同じことを聞かれた気がする。
紛れもなく、そのブーンと初めて出会った現場にもいた、あの冴えない印象の青年だった。
365
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:40:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……うん。久しぶり。名前は覚えてないけど」
(;'A`)「いやちょっとひどいっすよー。ドクオです、欝田ドクオ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん」
(;-A-)「興味なしっすかそーですか」
なんだかんだ言い合いながら、二人はカウンター席に座った。
.
366
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:47:09 ID:bIh5c29w0
ハインが以前、バイト先の先輩に連れて来られたというこの店で、彼に再会したのはほんとに偶然だったそうだ。
このドクオという青年は、この店のバーテンダーらしいのだが、オーセンティックな印象のそれとはまた違った、カジュアルなスタッフである。
はっきり言って、彼はあまり垢抜けてるようには見えない。
バーテンダーという職種も、単にモテたいからという邪な動機さえ孕んでるような気がする。
しかし、カウンター席に座る客と時々馬鹿笑いしながらも、作業してる様は決して手を抜いてるようには見えず
客に囃し立てられている姿も、いわゆる『弄られキャラ』として認知され、確立されてるものなのだろう。あながち向いてない職種でもないらしい。
367
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:49:09 ID:bIh5c29w0
('A`)「お二方、何飲みます?」
ドクオはツンとハインの前に立って聞いた。
その繰り返されてきたであろう何気ない所作が、いかにもバーテンダーらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「ラフロイグ。ロックで」
('A`)「渋いなぁ…ハインさんは?」
从 ゚∀从「んー…じゃあモスコミュールで」
('A`)「了解っす。……あ、そうだ」
何か思い出したように、ドクオは自分の背にある厨房に顔を向けた。
.
368
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:51:14 ID:bIh5c29w0
('A`)「ブーン!ツンさんとハインさん来てんぞー」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
ツンは驚いて顔を上げた。
.
369
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:52:34 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)
そうだ。店の名前に見覚えがあったのも、ブーンにもらった名刺に記載されていたそれだった。
( ^ω^)「……おー。二人ともいらっしゃいだお」
(;'A`)(…………あれ?)
从 ゚∀从「そうそう。こいつも飲み会で会ったの覚えてるか?内藤っていって何故かみんなからはブーンって呼ばれ………」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
从;゚∀从(…………あれ?)
.
370
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:55:09 ID:bIh5c29w0
ドクオはドクオで、珍しくブーンがなんとなく言葉を詰まらせたことに気づき、ハインはハインでツンのその硬直した表情に気づいて、なんだか気まずい空気が流れた。
それはもはや、あれ?お二人知り合いだったの?などと聞くのも、なんだか無粋だと思わせるほどだった。
いや、もちろんブーンとツン、お互いに面識ぐらいはあることは知っているのだが
初めて会ったあの場所での、会話らしい会話をしてない間柄としか、ドクオもハインも認識してなかったので、よもやそれ以上の交流があるとなどまるで思ってなかったのだ。
371
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 13:58:53 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…久しぶり」
意外にも、沈黙を破ったのはツンだった。
( ^ω^)「…久しぶりだおツンさん」
そしてブーンもまた、ツンがそうであるように、なんだか見てはいけないものを見てしまったような表情のドクオとハインに気づいていた。
.
372
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:00:20 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「二人ともお腹空いてるかお?もし食べれるようなら"ブーンのオススメ"作ってくるお!」
ブーンは、いつもの柔和な笑顔で聞いた。
そんな人の緊張を解す笑顔が、10年先も変わらないことを、ツンは知っている。
从;゚∀从「お、おぅそうだな!特にツンは最近ろくなもの食べてなさそうだから頼むわ!」
おっおっ、合点承知だおー!と、あの一瞬張り詰めた空気はなんだったのかと思わせる、底抜けに明るい返事で厨房に引っ込んでいった。
.
373
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:02:13 ID:bIh5c29w0
ブーンが提供したオススメは、牛ほほ肉を使った料理だった。
赤ワインとハーブに漬け込み、真空保存して一晩寝かせた肉を、赤ワイン、ポートワイン、マルサラ酒などで四時間ほど煮込み、それを更に蒸して仕上げたというなかなか手の込んだ一皿だ。
ツンとハイン、一人に一皿ずつ少なめのポーションで盛られたそれは、もともと一皿だった料理をわざわざ取り分けてくれた様が窺えた。
お通しで出されたほうれん草のキッシュも美味しかったのだが、それはドクオが趣味半分で作ったものらしい。
とはいえ、店の全料理を取り仕切るブーンの手が回らないときは、手がかからなくても大量生産が求められるお通しなんかの仕込みを時々手伝うことがあるというドクオの意外な手腕も馬鹿にはできないと思ったが
その後に出された牛ほほ肉は、さすがプロフェッショナルと言わざるを得ない。
.
374
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:04:20 ID:bIh5c29w0
从*゚∀从「んまい!すげぇなブーン!」
ξ*゚⊿゚)ξ「本当だ!肉やらかーい!」
普段滅多なことでは声のトーンも上げない女性二人も、この時ばかりは感嘆した。
( ^ω^)「おっおっ。喜んでもらえて何よりだお!」
そう言ってブーンは、呼ばれた客のもとへ向かった。
このブーンの腕もあってか、店はなかなか繁盛しているようだ。
375
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:05:41 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「ちょっとは元気になったか?」
ひとしきり食べると、ハインはツンを覗き込んだ。
前回会った時の、ツンのあまりの覇気のなさを気にかけたのも、今日この場に誘った理由の一つだった。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁね」
いつも通りの口調のようだが、美味しい料理と好きな酒を堪能しながらのその一言は、満足感を含んだような色づきがされてるように聞こえた。
376
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:06:51 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「仕事、つまんねぇのか?」
ツンがかつて切望してた仕事から追放され、今の職務に位置づけされた経緯も知っていたし、それが本人にとって本意ではないこともわかってるつもりだが
所詮、違う職種の自分には理解しきれない世界だとも思っていた。
そんなハインが仕事の話に切り込んでいくなど、珍しいことだった。
しかしそうせずにはいられないほど、あの時見たツンの生気抜かれたような姿もまた、腐れ縁のハインさえなかなか見る姿ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…それもあるけど、いろいろうまくいかなくてさ…」
从 ゚∀从「そっか…彼氏とか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー……うん、別れた」
.
377
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:08:17 ID:bIh5c29w0
人に初めて漏らした。
そうやってピンポイントで聞かれないと、自分からはいつまでも切り出さなかっただろう。
できれば、回避したかった。
でもそれは、本当に意味のある抵抗だったのだろうか?
ジョルジュとの別れを回避することは、本当に自分の死の回避に繋がったのだろうか?
最近、そう思い始めてた。
同じ理由で、ブーンを突き放したことにも意味はあったのだろうかとも思う。
.
378
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:09:32 ID:bIh5c29w0
なんて浅はかだったのだろう。
自分に来るべき障害をいくら避けようとしても、人の人生は自分の知らないところで廻り続けてるのだ。
ジョルジュだってそうだ。
ツンの知らないところでは、他の女性と親密になるきっかけがあり、それに至る相応の縁があった。
そこにいくらアンチテーゼを主張しても、覆りようがないのだ。
簡単に誰かが割って入れるものじゃない。人と人が繋がるということが、得てしてそういうものなのだとしたら
あんな理不尽な理由で突き放したにも関わらず、こうも巡り合わされる機会に恵まれた、ブーンの方がよほど縁があるように思える。
.
379
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:10:52 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「…そっか」
ツンの一言で、ハインは彼女が生気ない理由を理解した気になった。
今現在はそれも要因の一つではあるが、肝心要のあの夢の話までは、できるわけがないのでそれを肯定するかのように黙り込んだ。
それ以上、尤もらしい原因が説明できなかったに過ぎないのが本音ではあるが。
.
380
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:12:09 ID:bIh5c29w0
从#゚∀从「おいブーン!男紹介してやれよ男!」
多少酔いもあるのか、ハインにしてはデリカシーに欠ける声だった。
伊達にバールのようなものを振り回してた学生時代を過ごしてない女の、本気の凄みだった。
(;^ω^)「え!?唐突に僕!?」
脈絡なく怒鳴られたブーンも、その剣幕に怖じけづく。
かと思えば、急に何かを思い出したようにブーンは二人の前に近づいた。
.
381
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:14:35 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「時にツンさん。絵を描くのは得意かお?」
唐突だが、今更な質問のように思えてツンはキョトンとした。
ξ゚⊿゚)ξ「…どうかな。一応美術部だったけど人並みじゃ…」
从 ゚∀从「そうだな。こいつは彫刻専門だから絵心に関してはミセリ以上ブーン未満ってとこじゃね?」
何故ミセリを引け合いに出すのだろうか。
空気が読めるのか読めないのか、よくわからない友人である。
382
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:16:26 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン未満って?」
从 ゚∀从「あれ?気がつかなかったか?」
ハインに指さされた壁には、あまり主張しないサイズの絵が飾られていた。
薄暗い店内では気づかなかったが、店の外観が描かれたその絵は一見写真と見間違えるほどのリアリティなタッチで
セピアを思わせる色彩は、限られた色しか使ってないはずなのにちゃんと被写体一つ一つの色が伝わる、スキルなしでは描けない一枚だった。
よく見ると、それだけでなくカウンターの所々に並べられたフォトスタンドに入ってるのは、料理の絵だった。
全体的に暖色ベースのそれらは、料理の湯気まで伝わるようで、写真よりも食欲が刺激されるようだった。
.
383
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:19:20 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…本当だ。すごい」
その一言しか出なかった。
本当はもっと、ツンしか気づかないような目敏さでディテールを誉めてあげたいのに。
( ^ω^)「この前見せてもらった風景画に、ちょっと触発されたんだお」
いつか一緒に見た、あの絵画。
あれがあったからこそ、セピアの店の絵ができたのだとブーンは言う。
.
384
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:20:56 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「…それはともかく、美術部にいたならそれはそれで都合が良いお」
二人の間に、一体何が起きたんだと不思議そうな顔をするハインに気がついて、ブーンは話を戻した。
( ^ω^)「ツンさん、折り入ってお願いがあるんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「お願い?」
怪訝そうな顔をするツンに、何事か説明しようとした刹那、料理のオーダーが入ったというドクオの声がブーンに飛び込んできた。
385
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:22:08 ID:bIh5c29w0
(;^ω^)「…あー、もう、しょうがないお」
説明する時間が奪われたブーンは、手元にあるメモ用紙にサラサラと何か書き込んでツンに渡した。
(;^ω^)「僕の連絡先だお。詳しく説明したいからそこにツンさんの連絡先送っておいてほしいお!」
それだけ言うと、慌てて厨房に戻って行った。
386
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:24:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ブーンの連絡先を受け取ったツンは、一瞬どうするべきか迷ったが
突き放しても結局こうやって繋がりが出来てしまう縁に、抗えないことを確信した。
ξ゚ー゚)ξ「………」
しかし何故か、それに心弛している自分にも気がついた。
.
387
:
◆7mt.DZ.sYo
:2013/08/21(水) 14:25:03 ID:bIh5c29w0
18話おわりです。
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