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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
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二十八話 魔女対流石兄弟の一幕で漫画描いた
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org578049.zip.html
続きは無いです
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まず何よりも先にミルナ=スコッチと言う男の紹介をせねばなるまい。
過去に何度も登場した彼を特筆して語るなど、いまさら何をと思うかもしれないが、少々堪えていただきたい。
ミルナ=スコッチ。
とある辺境の地のさらに秘境じみた土地に存在する、隠密の里の生まれ。
幼少より修行に明け暮れた身体は、小柄さを代償に多くの能力を身に着けている。
まずは隠密として必須の能力、身隠しの技である。
彼は地平の望める見晴らしの良い荒野であっても、他者の目を欺き潜伏することが出来る。
さらには特殊な術を用いることで、魔法探知に対しても高い隠密性を確保することが可能だ。
彼が一度本気で姿を消そうとすれば、見つけることが出来る者はそう居まい。
次に、強靭な足腰。
短距離を高速で駆け抜ける走力は勿論、山を一つ越えても衰えない持久力を兼ね備える。
当然単に走るのみならず、限られた領域内での機敏な動作にも優れる。
森や林の中ともなれば、最早彼が地面を踏む必要などなくなるだろう。
さらに、上記二つをもってしても逃れられぬ状況に陥った場合の為に、彼は相応の武力も身に着けている。
好む武器はあれど、扱えぬ武器は無いという程。
特に愛用するトンファーを用いた格闘術は一級品で、並の戦士であれは容易く圧倒できる。
無論、戦闘にならぬことが最善故に優先度は低く、純粋な武の達人には遅れを取ってしまう場合もある。
とはいえ、ある程度渡り合い、逃走の隙を伺う程度であれば十分に可能だ。
と、大まかに三点、彼の優れた部分を紹介させていただいた。
細かく書き出せばまだまだあるのだが、この辺にしておこう。
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さて、上記した彼のハイスペックさを踏まえたうえで、今の彼の状況の把握に移るとしよう。
チーン
( ゚д゚ )
ノ| ノ|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
地 面
こんな感じである。
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( ;゚д゚) 「こっちくんな!マジで!来ないで!!お願い!!」
とある森の中にて、ミルナは下半身を地面に埋めた状態で、短刀をがむしゃらに振り回していた。
実にハイスペックさに満ち足りた光景である。
彼の敵は赤黒い血にまみれた異形の人間。
魔法によって再び生を与えられた屍、いわゆる「アンデッド」だ。
新鮮な血肉を求めるが故か、ひっきりなしにミルナに襲い掛かってきている。
なぜ、こんなものと交戦しているのかも、補足せねばなるまい。
人を追っていた彼は、なるべく早く追いつくために山中へと割って入った。
彼にとっては山道といえどさほどの支障も無いため、確実に時間の短縮はできていた。
しかし、ここまでずっと走りづめていたミルナである。
流石に疲労を感じて、少々の休憩を取ろうと安全そうな場所で休憩を取ることにしたのだ。
元々人の手が加わった気配の無い森で、獣避けの術を用いれば落ち着いて体を休めることは可能。
事実、彼の術を無視して接近するほどの猛獣はおらず、この場所は確かに安全だった。
いくらか前に、無数のアンデッドを連れた魔女が、この付近を通ってさえいなければ。
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そう。
この森の中には、魔女に置いてけぼりにされ行き場を失ったアンデッド達が無数に潜んでいたのだ。
彼らの知能は高くない。
自ら思考し、山を下るマネなどはしなかったので、近隣に被害は無かったが。
( ;゚д゚) 「キャー!キャー!!」
ノコノコとこの男がやってきて、腰を下ろして仮眠なんぞ始めてしまったのである。
新鮮な肉を補充出来ないアンデッド達は、仮死状態となって地面や木の洞にうずまり身を隠していた。
さしものミルナも、息もせず脈動もなく、落葉に埋もれている彼らを「敵」として察することが出来なかったのだ。
だが、初めてその存在を認識した時点ではまだ、ミルナは今ほど取り乱してはいなかった。
唐突に地面より這いだした屍には多少戸惑ったが、戦力を見極め、脅威を感じるほどの相手では無いと判断。
短刀により首を落とした手並みは実に鮮やかだった。思わずキメポーズを取ったくらいである。
が。
ことはそう簡単には終わらない。
滅多に訪れぬ栄養の気配を察知したアンデッド達がワラワラと集まって来てしまったのだ。
アンデッドの戦闘力は予想に反せず並の戦士程度かそれ以下。ミルナの腕があれば問題は無い。
しかし、いかんせん数が多かった。
ざっと見ただけでも十数。まだ増える可能性もある。
やむなし。
当然ながらミルナは逃走の選択を取った。
彼は隠密であって、戦士では無い。無理な戦闘は避けるに限る。
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その潔さこそがまさに落とし穴だったのだ。
流れ的にも、物理的にも、見事な落とし穴であった。
一見して人の手の入っていない山中ではあったが、かつてはこの森にも狩人が存在した。
もう数年も前のことではあるのだが、彼らは生活の為に獣を捉える罠を複数設置していたのだ。
その中の一つ。
中型の獣を捕まえるための深い竪穴がこの近辺に仕込まれていた。
奇跡的に獣がかかることなく数年を経て、自然に溶け込んでいた深い落とし穴が、
これまでウサギの一匹も捉えられなかった分際で、見事にミルナの足を誘いこんだのである。
重ねられた落葉と、支えの枝を踏み抜いた体は、反応するよりも早く重力に吸い込まれた。
穴の中には雨でぬかるむ泥が満ちている。落ちた衝撃はそのまま深くミルナの体を穴に沈ませた。
あとは周囲の土が呼応するように崩落してしまえば。
チーン
( ゚д゚ )
ノ| ノ|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
KONOARISAMAである。
田舎に帰ろう。無理だよこんな人生。不運と踊っちまいすぎだよ。
いくらなんでも散々だよ。僕らが就職希望した明るい未来はどこに行っちゃったのって心持だった。
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ミルナwwwww
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一時本格的に自害を考えたミルナであったが、何とか気を持ち直した。
幸いにして命を奪う仕掛けは無く、時間をかけて掘り返せば十分に脱出できる。
敵も単調な動きで食い掛かってくるだけなので、冷静に応対すれば何とかなるだろう、と考えたのだ。
「アンデッドは首を落とせば死ぬ」という、前提の下で。
当然、そうは問屋が卸さなかった。
実際に迎撃を始めてみると、アンデッドの首を落とそうが、手を落とそうが、自分で拾ってくっつけ直しまた来るではないか。
いくら倒すのが容易くとも、死なないのだから終わりが見えない。
しかも再生するたびに体を乱雑に貼りつけ合わせてくるので、異形さがみるみる増していく。
一番大きい奴など、首のところからまた胴が生え、腕は八つもついていた。
この状況でこの特異な見た目は、さしものミルナも精神衛生を侵されずにはいられない。
接近を拒むべく、ミルナは膝を狙い手裏剣を放った。
手裏剣は見事命中。しかし、アンデッドはよろけて倒れ、体を四散させる。
しかし。
この一瞬の隙に、別のアンデッドが二体、背後に迫っていた。
すぐさま反応。
一体の頭を何とか弾き飛ばす。
しかし、もう一体への攻撃が間に合わず、肩口にかぶりつかれた。
アンデッドの顎の力はすさまじく、歪な歯が纏う装束ごと肉に突き刺さる。
何とも言い難い痛みだ。
すぐさま顎の腱を断って引き剥がしたが、咬撃特有の痺れるような痛みで、腕の回りが著しく悪くなった。
ミルナの冷静さはみるみる失われる。
下半身は身動きが取れず、終りの無い敵の襲撃に晒され、徐々に確実に体力を削られる。
目に入る敵は異形さを増し、周囲にはもはや腐りかけた血肉の臭いしかしない。
これでも何とか凌げているのは、積み重ねてきた修練の賜物と言っていいだろう。
現実的には苦しみを長引かせているだけなのだが、それに気づいた時点で終わりである。
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「ししょー!こっちにもいますよー!しかもいっぱーい!」
精神的にも肉体的にも限界が見え始めた時、ミルナの耳に少女の声が聞こえた。
明るく快活な、この死に満たされた森の中にはあまりに不似合いな色だ。
ついに、幻聴が聞こえ始めた。もう拙者も終わり。ミルナの手から、短刀を握る力が抜けていく。
「“―――足踏みなどせず、躊躇いなどせず”!」
「“―――刹那に鳴き、光の刻を駆け貫けなさい”!」
「いっけーぇっ!“サンダーショットフレア”ぁ!!」
虚ろにまどろんでいたミルナの視界に、閃光が満ちた。
意識が叩き起こされ、反射的に顔を庇う。
耳に痛い連続する破裂音。これは、雷が疾走する際に爆ぜる轟きだ。
光と音は、数秒の間目と耳を焼き、止んだ。
ミルナが驚きから回復しないまま瞼を開けると、接近していたアンデッド達が湯気を立ち上らせながら崩れ落ちていく。
ζ(^ー^*ζ 「だいしょーりー!」
倒れたアンデッドの向こうに人影が見えた。
小さく跳ねながら、顔に見合った可愛らしいガッツポーズを取っているのは、恐らく十いくつの少女である。
二つに束ねられた金髪がぴょこりと跳ねた。
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拙者は夢を見ているのだろうか、とミルナは呆ける。
人里より離れた山の中、救援などあり得ないと諦めていたところに、少女は現れた。
容姿は可憐で、血なまぐさいこの場にはあまりに似つかわしくない。
助かったというよりも、これが死後に見る景色なのかと捉えてしまったほどである。
少女は満足気に死体を一瞥した後、ミルナに視線を止めた。
花の、まるで向日葵のような少女だ。
とぼけたような表情からも、明朗快活な性格が滲み出している。
ζ(゚、 ゚*ζ 「―――あ、」
( ゚д゚ )
ζ(゚Д゚*ζ 「まだ残ってた!殺らなきゃ!!」
(゚д゚ )
( ゚д゚)
( ゚д゚ )
( ゚д゚ ) (もしかして:拙者?)
ノ| ノ|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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少女は機敏な足運びで二歩距離を取り魔法式の展開を開始した。
恐らく雷属性。
少々雑だが、式の展開は早い。
現在ミルナは返り血や肉片に塗れ、さらに下半身は無くなっているのでアンデッドに間違うのも当然の見てくれだった。
とはいえこのまま大人しく魔法を喰らえば、感電によって脳が蒸し焼きになること請け合いである。
ζ(‐、 ‐*ζ 「“――――雷鳴の射手よ、弦を引き、速く、疾く、卑獣の眉間を射抜きなさい”!」
( ゚д゚ )+ 「待ちたまえお嬢さん」 キラーン
ζ(゚ー´*ζ 「いっけー!“サンダー=ボ………って」
( ゚д゚ )+ 「拙者は生きた人間だ」 キラーン
ζ(゚Д゚;ζ そ 「うわぁしゃべってる?!きもちわるい!!」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ ) (つらさ)
ノ| ノ|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
-
ミルナのピンチは続く、と。
支援
-
ζ(゚Д゚*ζ 「って、他のも全然倒せてない!」
雷撃を受け、やっと死んだと思われたアンデッド達が再び立ち上がる。
動きは鈍くなっているが、どうやら食欲は増したらしい。
蒸気を伴う息を吐き、わき目も振らず少女に向かってゆく。
`,ζ(゚、 ゚*;ζ 「こないでよー!えいっ!“サンダーボルト”!」
少女はミルナに使おうとしていた魔法を接近していたアンデッドに発動した。
頭上に小さな魔法陣が現れ細い稲妻が数本降り注ぐ。
雷撃は、全て的中。
アンデッドは全身を痙攣させ膝を突き、しかしすぐに立ち上がった。
少しは効いているようだが、火力が不足している。主要な体組織を焼き尽くせていないのだ。
ζ(゚、 ゚*;ζ 「雷撃じゃだめ……。なら、とお!」
少女は纏うローブの内側に手を入れ、剣を抜き放った。
小剣に類する、刃渡りも幅も控えめの物。
ただし柄は長剣ほどに長く、両手で持って扱いやすく拵えられている。
切り替えが早いのはよいが、魔法でも殺せぬこれらに対して剣を用いるなど悪手に他ならない。
少女は二体ほど切り倒し、すぐに囲まれた。
位置取りや状況の把握が甘い。
あまり実戦慣れしていないと見える。
ζ(゚Д゚*;ζ 「ぎゃー!無理ムリィ!!ししょー!はやくーー!!お手上げーー!!お手あげぇー!!」
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喚きながら逃げ回る少女。
言葉から察するに仲間がいるのだろうか。
「ししょー」と言うのだから彼女の師に当たる存在であるだろう。
年端もいかぬ少女にこれだけの技能を仕込んだ人物となれば、期待は出来そうだが。
ζ(>Д<:ζ 「ギェー!」
何とか逃げまわていた少女だったが突如足を取られつんのめった。
ショートブーツを履いた足を、千切れたアンデッドの手が掴んでいる
これが原因だ。少女はバランスを崩し、盛大にたたらを踏む。
ζ(゚゚Д゚゚;ζ 「ほぁあ?!」
バタバタと足を動かし、なんとか転ばずに耐えた、と思ったその瞬間、少女の身長が急激に縮む。
否、正確には地面が突如陥没し、下半身が呑み込まれ――――。
チーン
ζ(゚言゚;ζ
( ) ノ| ノ|
| |ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
KONOZAMAである。
ミルナと少女は、見つめ合う。
彼女が言いたいことがミルナには痛い程分かった。目と目で通じ合った。
-
ζ(゚―゚*ζ
( ゚д゚)
ζ(゚―゚*ζ
ウボォォォ......
( ゚д゚)
ζ(゚―゚*ζ
( ゚д゚)
ζ(゚―゚*ζ
グルルルルゥァァ......
( ゚д゚)
ζ(゚―゚*ζ
( ゚д゚)
ζ(゚□゚;ζ 「ししょぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」
( ;゚'Д゚) 「たすけてぇぇええええ!!!ししょぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
必死である。
-
ヤタノカガミ
「“八咫鏡”」
.
-
その瞬間、世界が停止し、視界から色が消えた。
はるか昔の記憶のように、白と黒の濃淡でのみで映しだされる景色。
ミルナも少女も、反射的に喚くのをやめた。
無音である。
光も存在するはずなのにその温かみを感じない。
( ゚д゚ ) (これ、は……?)
視界の変化に伴い、アンデッド達の体が爆発的に蒸気を吹いて崩れ落ちた。
一体何が起きたのか。肉が炭化し、骨が枯木の如く朽ち果てている。
「まったく、勇んで先走ってなんという様ですか」
ζ(゚ー゚*ζ 「ししょー!!」
|゚ノ ^∀^) 「ししょー!!じゃありません。まったく、あなたももう少し思慮深さを身に付けなさいと言っているでしょう」
視界の色が元に戻り、困惑するミルナの目の前に現れたのは、若い女だった。
これが、「ししょー」。
どう見ても二十代の中ごろ。
浮世離れした神秘的な美しさを感じるものの、とても弟子を取るような歳には見えないが。
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いや訂正しよう。歳は問題では無い。
ミルナは目の前に崩れたアンデッドの身体だったものを指ですり潰す。
細胞が完全に死滅している。
炭化―――火や電流で焼かれた状態に似ているが、そんな生易しいものではないだろう。
このタイミングで、景色が色を取り戻した。
感じ取れる魔法の名残。
属性は恐らく火と冷だ。相反する属性の魔法を一つの魔法として実行したのだろう。
理屈は予想できるが、それ故に簡単で無いことが分かる。
これほどの腕の魔法使いならば、確かに弟子の一人や二人いて普通だ。
|゚ノ ^∀^) 「そちらの方は、ご無事ですか」
( ゚д゚ ) 「ああ、お蔭さまで、この通り生きている。感謝する」
|゚ノ ^∀^) 「いえいえ、袖振り合うも多生の縁と申しましょう」
周囲にアンデッドの気配は無い。
ミルナは落ち着きを取り戻し、自身の下半身を掘り起こし始めた
少女の方はししょーの女性に手を取られやや強引に引っ張り出されている。
ζ(> < ;ζ 「痛い痛い痛いっ!ししょー、もっと優しく!」
|゚ノ ^∀^) 「自業自得です。反省なさい」
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( ゚д゚ ) 「拙者、ミルナ=スコッチと申す。危ういところを助けていただき、改めて感謝する」
|゚ノ ^∀^) 「いえ、たまたま通りがかってよかったですわ」
ζ(゚ー゚*ζ 「道に迷ってただけですけどね」
|゚ノ ^∀^) 「お黙り」
( ゚д゚ ) 「失礼だが、名を尋ねても」
|゚ノ ^∀^) 「レモネード=ピルスナーですわ。気軽にレモナとお呼びください。此方は弟子の……」
ζ(゚ー゚*ζ 「っはーい!デレ=ディレートリでーす!」
落とし穴からの脱出を終え、ミルナは改めてレモネード=ピルスナーとデレ=ディレートリを観察する。
レモネードは、やはり二十代の半ば以降だろうか。
ロングのローブをまとい、錫杖を携えた姿は、見た目の割に老齢の気配を匂わせている。
この独特の空気が、彼女がただ者でないというミルナの確信に拍車をかけた。
弟子のデレは、レモナと似たローブを纏っているが、動きやすさを重視してか丈が短い。
内側はシャツにパンツルック。
少女らしい華奢な骨格にしては、やや少年的な印象だ。
そして、それぞれに大きな荷物を背負っている。
いかにも旅の最中と言った風貌だった。
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( ゚д゚ ) 「レモナ殿、是非礼がしたい。何か拙者に出来ることは無かろうか」
|゚ノ ^∀^) 「そんな、お気になさらず」
( ゚д゚ ) 「このミルナ=スコッチ。命を救われ何も返さぬわけには。なんでもかまわぬので、どうか」
今回はさしものミルナも死を覚悟した。
そこから救われたのだから礼をせぬわけにはいかない。
別に、師弟そろって美人だからとかお近づきになりたいとかそんなんじゃない。本当だ。
ζ(゚ー゚*ζ 「いいじゃないですかししょー、お願いしましょうよ!」
|゚ノ ^∀^) 「まあ、そうね。せっかく言ってくださっているし」
( ゚д゚ ) 「何なりと」
|゚ノ ^∀^) 「ミルナさん、サロンシティの場所をご存じ?」
( ゚д゚ ) 「当然。むしろこれよりサロンに向かう途中であった」
ζ(゚ー゚*ζ 「ホントですかー?やった、ラッキーですねししょー!」
|゚ノ ^∀^) 「私たちも、サロンへ向かっていたのですが、揃ってその、地理に疎いもので……」
( ゚д゚ )+ 「容易い話だ。是非案内させていただこう」 キラーン
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( ゚д゚ ) 「しかし、拙者こう見えて急ぎの身。少々足早な道中になるやもしれんが……」
|゚ノ ^∀^) 「それなら大丈夫ですわ」
レモナが背負っていた荷物の中から、丸めた布を取りだした。
厚手の敷布。
見たことがある。
飛行魔法に用いやすいようタリズマン粉末を編み込んだ特殊な布だ。
|゚ノ ^∀^) 「長く付き合わせるのも申し訳ないですし、これで手早く向かいましょう」
ζ(´ー`*ζ 「やったー、歩くの疲れたからうれしー」
( ゚д゚ ) 「拙者としてもありがたい」
話はすぐにまとまり、三人は魔法の敷布に乗って森より空へ飛び立った。
風がさほどない穏やかな陽気だ。飛行魔法には適した気候と言える。
ミルナも幾分疲れがたまっていたし、魔法で運んでもらえるとなれば重畳だ。
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( ゚д゚ ) 「一先ず、あの地平に見える山を目指していただこう」
|゚ノ ^∀^) 「あの山ですわね」
分かりましたわ。と言いながら、レモナは90度違う方向へ敷布を操作し始めた。
何か特別な理由があるのかと、少々様子を見る。
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )
( ゚д゚ ) 「レモナどの」
|゚ノ ^∀^) 「はい?」
( ゚д゚ ) 「まったく違う方向へ向かっているが、何か立ち寄る場所が?」
|゚ノ ^∀^) 「いえ?ミルナさんの言う通りの方角へ飛んでいるはずですが」
( ゚д゚ ) 「いや、全く違うが」
ζ(゚ー゚*ζ 「ししょーは超が三つはつく方向音痴なんですよ〜」
( ゚д゚ ) 「いやこれ方向音痴とかのレベルじゃないが」
ζ(゚ー゚*ζ 「超三つですから〜」
* * *
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∬´_ゝ`) 「―――魔女が、死んだ?」
『ああ、そうだ』
嫌に低い声になっていることを自覚しつつも、アネジャはぬいぐるみに対し問い返す。
ぬいぐるみは肯定の返事をしたあと、考え込むように沈黙している。
当然、ぬいぐるみが意志を持ち喋っているわけでは無い。
普段は妹の部屋の戸に掛けられているこの猫のぬいぐるみには、父と母のものに限り念話の機能が備わっているのだ。
妹がいたずらに使用したがらないように彼女には伏せているし、アネジャ自身も使うのはこれが初である。
普段滅多に使わぬ機能を用い、父に連絡した理由は単純。
ヾl从・∀・*ノ!リ人ノシ 「やったのじゃ!やったのじゃ!!」
ミ*゚∀゚彡 「よかったねイモジャ!!」
l从・∀・ノ!リ人 「うんなのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡 「これで一緒にお外で遊べるね!」
l从・∀・ノ!リ人 「なのじゃ!!」
自室で友達と一緒にはしゃぐ、末っ子のイモジャ。
『魔女』に奪われていた彼女の手足が、にわかに元に戻ったのである。
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『魔法が消えたのではなく、休止状態になったというなら
気まぐれに解除したと言うよりは何らかの理由で魔力供給が不能になったということだろう』
∬´_ゝ`) 「魔力が半無限の魔女がそう言った状態になったってことは」
『そうだ。死んだか、あるいは限りなくそれに近い状態に追い込まれたか』
∬´_ゝ`) 「……」
『手足が戻ってしばらく経ちながらも魔法が再発動して居ないとなると、死んだと考えるのが自然だ』
∬´_ゝ`) 「魔法が完全に消えたわけでは無いみたいだけれど」
『供給が止まっても魔法式そのものが消えないような細工が施されていた。
もし魔女が死んでいるならば、貯蓄された魔力が費え次第、スリープした魔法も消えるだろう』
∬´_ゝ`) 「それじゃ、まだ警戒はした方が良いのね」
『そうだ。私たちもなるべく早く戻る。イモジャにはそれとなく、また失うかもしれないことを伝えておけ』
∬´_ゝ`) 「……わかった」
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魔法、と言うのは常々減衰するという宿命を負っている。
干渉され改変された情報は、正常であろうとする世界によって復元されるからだ。
この“復元力”は非常に強力で、魔法の維持に多大な魔力を支払わなければならない理由に直結する。
ただし、魔法によって及ぼされた「結果」までは元には戻らない。
たとえば火炎の魔法で薪に火をつけたとすると、発動した魔法の火は消失するが、
その熱が移り燃えだした薪の火はそのまま灯り続ける。
魔法によって作られたキメラが元に戻らないのも同じである。
彼らは基本的に魔法によって遺伝子や身体構造を改造された一個の生命体だ。
「組み替える力」が無くなったとしても「組み替えられた構造」は元に戻らない。
イモジャが受けた魔法は、こういった、物理的に結果を残す魔法では無かった。
あくまで四肢はつながったままで、存在そのものを別の次元にキープされていたのだ。
だから、その場には無くとも胴体と共に成長するし、キープに用いられる魔法が機能しなければ有るべき場所に再現する。
以上の理由から、父はイモジャの手足が戻った事象の原因を「魔女が死んだ」と判断したのだ。
気まぐれなあの女の事であるから、何とはなしに供給を断っただけという可能性は大いにある。
その是非は、他に魔法を受けていたものを調べてみれば分かるだろう。
もし、イモジャに限らず、「魔力供給によって維持されていた魔法」を受けていた者たちが元の状態を取り戻していれば、
魔女が死んだ、と言う父の仮説が真実味を帯びてくる。
-
∬´_ゝ`) (だけど)
と、アネジャは思う。
魔女が死ぬ、ということがあり得るのだろうか。
魔女は、少なくとも半世紀以上前から猛威を振るっている存在だ。
何度か戦った父母の言葉を信じれば、彼女はただ強いという以上に不死身の性質を持つという。
イモジャの手足を奪われた際に対峙した経験を持つアネジャは、それが決して眉唾で無いと確信している。
殺す方法が無いわけでは無い、と父は言っていた。
ただし魔女がその上を行く可能性は大いにあるから慎重にならなければ、とも。
アネジャの知る限り父母は最強の真人間である。
彼らがそれほど警戒する相手を死に至らしめるような現象があったのだろうか。
一瞬脳裏に浮かんだ双子の顔をすぐに否定する。
身内びいきを抜きにしても弟達は優秀だが、かといって父母を超えるほどでは無かったはずだ。
妹の四肢消失に責任を感じ勇んだとて現実的に可能かどうかは別である。
ふと、不安になって妹の部屋に戻る。
父役のぬいぐるみを戻すついでに、弟役のぬいぐるみを改めて観察した。
イモジャの異変に気付き、父に連絡を取ろうとしたとき、双子の役を与えたぬいぐるみは揃って床に落ちていた。
父に通じるのを待つ間、何の気なしに掛け直したが、その時は特に変わった様子は無かったはずだ。
今見ても、双子のぬいぐるみには染みの一つも存在しない。
-
∬´_ゝ`) 「イモジャ、嬉しいのはわかったけど、あんまり騒がしくしないの」
l从・∀・ノ!リ人 「アイサーなのじゃ!」
∬´_ゝ`) 「フーちゃんも帰らないと、さすがにお母さん心配するわよ」
ミ*゚∀゚彡 「いちりある!」
∬´_ゝ`) 「もう暗くなるし、送って行ってあげるわ」
ミ*゚∀゚彡 「おことばにあまえます!」
l从・∀・ノ!リ人 「イモジャも一緒に行くのじゃ!」
∬´_ゝ`) 「……はしゃいで勝手に歩き回っちゃダメよ」
l从・∀・ノ!リ人 「ラジャ―なのじゃ!」
窓の外は、もう日が沈みかけ、東の空は夜の色に染まりかけている。
この付近は比較的治安がいいが、かといってVIPの黄昏を子供一人で歩かせるわけにもいかない。
フゥはイモジャの大切な友達であるし、何よりこんな時間まで帰せずにいたのはこちらの都合だ。
アネジャが送って帰すのが道理である。
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アネジャを真ん中に、左にフゥ、右にイモジャと並び、手を繋いで黄昏の道を行く。
子供二人は相変わらずの上機嫌だ。
アネジャに窘めれれたため声を抑えてはいるが、まくしたてるように言葉を交わし合っている。
l从・∀・ノ!リ人 「フーちゃん明日も遊ぶのじゃ!」
ミ*゚∀゚彡 「当たりまえだのクラッカー!がってんしょうちのすけ!」
l从・∀・ノ!リ人 「噂にきく『けいどろ』というやつをやりたいのじゃ」
ミ*゚∀゚彡 「じゃあじゃあ!他の子たちもよばないとね!」
l从・∀・ノ!リ人 「イケメンいる?」
ミ*゚∀゚彡 「善処します」
時折激しく動くイモジャの手を、離さぬように、アネジャは優しく力を強めた。
妹の手を引き歩くなどいつぶりだろうか。
本人は、手足のある感覚を全く忘れていなかったらしく、ふらつく様子など一切見せていない。
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ミ*゚∀゚彡 「それじゃあまた明日ね!」
l从・∀・ノ!リ人 「うんなのじゃ!!」
フゥを無事送り届け、帰路につく姉妹。
空は幾分暗くなってきている。
早目に戻って夕飯を仕上げなければ。
l从・∀・ノ!リ人 「姉者、イモジャのからだ元に戻ったから、皆帰って来るのじゃ?」
∬´_ゝ`) 「……とりあえず父者と母者はなるべく早く戻るって」
l从・∀・ノ!リ人 「アニ兄者とオト兄者は?」
∬´_ゝ`) 「あいつらは…………そうだ、叔父者ならどこにいるか知ってるかも」
l从・∀・ノ!リ人 「じゃあ、皆で一緒にご飯食べられるのじゃ?」
∬´_ゝ`) 「……うん、きっとね」
l从・∀・*ノ!リ人 「やったのじゃ!」
-
∬´_ゝ`) 「……でもね、イモジャ」
l从・∀・ノ!リ人 「じゃ?」
∬´_ゝ`) 「あの魔女が、またイモジャの手と足を、取りに来るかもしれないの」
l从・∀・ノ!リ人 「そうなのじゃ?」
∬´_ゝ`) 「もしかしたら、だけどね」
l从・〜・ノ!リ人 「そしたら、またみんないなくなっちゃうのじゃ……」
∬´_ゝ`) 「……」
l从・∀・ノ!リ人 「!じゃあ、イモジャもっと強くなって、今度は魔女さんに負けないようにするのじゃ!!」
∬´_ゝ`) 「…………あなた、やっぱりあの二人の娘だわ」
l从・∀・*ノ!リ人 「てへへ〜」
∬´_ゝ`) 「私としては複雑だけど……」
l从・∀・ノ!リ人 「そうと決まれば明日からしゅぎょーなのじゃ!休んでたぶんも取り返すのじゃ!」
∬´_ゝ`) 「はいはい、それと字の勉強ね」
l从・∀・ノ!リ人 「しゅぎょーもべんきょうも頑張るから早く兄者たちに会いたいのじゃ!」
∬´_ゝ`) 「ま、あの二人のことだからその内ふらっと帰ってくるわよ」
* * *
-
('A`) 『なあブーン』
( ^ω^) (お?)
('A`) 『ツンに、剣を教えてやらねえか』
( ^ω^) (……)
('A`) 『俺も、魔法教えるし』
( ^ω^) (前は嫌がってたじゃない)
一度目を覚ましたツンが再び安静状態を取り戻してしばらく、ブーンはそのベッド脇の椅子に腰掛け、彼女の寝顔を眺めていた。
子供と言うには精悍で、大人と言うには幼い面立ちは、ハインリッヒの魔法に守られ小さな寝息を立てている。
時々目覚めてはすぐ眠るをしばらく繰り返している。
恐らく山場は越えたのだろう。起きるのはある程度の回復が済んだからで、眠るのは魔法の効力だ。
ξ ⊿゚)ξ 「私の体が回復したら、私に剣と魔法を教えて」
二時間ほど前のツンの顔が頭に浮かぶ。
すぐに返事は出来なかった。
かつてならば、即答で断っただろう。
理由はそれぞれ違えど、弟子を取らないというのがブーンとドクオの主義だ。
だが、自分たちの技術を誰かに授ける気はないという反面、この娘を何とかしてやりたいという情は確かに芽生えている。
-
('A`) 『基礎を仕込んだ師匠がいるならそこで学ぶのが一番なんだ。でも、その師匠は今ここには居ない』
( ^ω^) (……)
('A`) 『それに仇の存在が傍にあり過ぎる。ツンの性格で、挑むなって方が無理だ』
共に戦った分だけ彼女の性格は理解している。
きっと彼女はどんな理由であれ、ヨコホリへの復讐を諦めたりはしないだろう。
例え殺されたとして、頭だけでも喰らいつく気迫と執念が、この少女にはある。
そもそも、しっかりと修練を積んで勝ち目が見えてから挑むなんてことが出来たならば、今ここでこんな目には遭っていないのだ。
この猪突猛進な娘を心配してしまった時点で、根負けしているのと同義。
ツンが突っ走ろうとするその傍らに付き添って援助してやるほかない。
今それをしてやれるのは、恐らくブーンとドクオだけだろう。
やってやれるだけの能力が二人にはあるし、してやりたいと思うだけの情もある。
('A`) 『仮に俺らが断ったとしてアイツは復讐を諦めたりしないだろうし』
( ^ω^) (むしろ、増えちゃったからね。サイボーグを憎む理由)
('A`) 『だからよ、今限りなく0に近い勝率を、なんとか1%くらいにしてやりてえんだよ』
( ^ω^) (……)
('A`) 『だめか?』
( ^ω^) (……わかった。君にまでそう頼まれたら、無下にはできないお)
-
心中での相談が終わり、ブーンはベッドに戻って大五郎(この場合焼酎の銘柄を指す)をちびちびとやり始めた。
ツンをベッドに寝かせるために不用意に体を使いダメージを加算してしまったため、動き回るのは得策でない。
外を眺めながら持ちだした干し肉を噛む。
穏やかな空気だ。せめて回復するまで、この状態が続けばいいのだが。
ドクオは精神の奥に沈んでいつものようにブツブツとやり始めた。
体の優位を譲った状態でよく考え事が出来るものだといつものことながら感心する
逆の立場になるので分かるのだが、優位を譲っている時に存在するのは思考のみだ。
感覚や主導権は表出している方に依存するので、あまり一つのことに集中することも出来ない。
ブーンなんて、今日の晩飯を考えることすら散漫になるほどだ。
魔法の理論を組み立て考察するなどもってのほかである。
ドクオはよく自分を「魔法の才能が無い」と卑下するが、ブーンにはいまいち理解できなかった。
確かに魔力の適性が低ため、他の魔法使いたちよりは不利なのだろうが、劣って見える点などそれくらいだ。
彼の手腕をこえる魔法使いはそうそういない。
現にドクオと合成させられてから戦った難敵の多くは彼の能力なしには切り抜けられなかっただろう。
ドクオにばれないよう、なるべく深く意識しないようにそんなこと考えてしばらく、ツンの呻きが聞こえた。
起きたようだ。
残っていたひとかけの干し肉を口に放り込み、ブーンは彼女の元へ行く。
-
ξ ⊿゚)ξ 「ブーン……?」
( ^ω^) 「調子はどうだお?」
ξ ⊿゚)ξ 「あれ、私……?」
( ^ω^) 「動かない動かない。そのままで居なさい」
どうやら記憶が混乱しているようだ。
無理も無い。
ずっと寝ていたため、夢現で居る時間の方が長かったはずだ。
ξ ⊿゚)ξ 「私、もう、何回か起きた?」
( ^ω^) 「うん」
ξ ⊿゚)ξ 「そっか……」
相変わらず呆けた目で、天井を見ている。
失礼ながら気持ち悪いな、と思った。
飛び起きてぶっ倒れるくらいの方がツンらしい。
-
ξ ⊿゚)ξ 「さっき頼んだの……頼んだと思うこと、どう?剣と魔法を教えてって、言った気がするんだけど……」
( ^ω^) 「……うん。ドッグと相談してね、いいよって、ことになった」
ツンの眼が少し驚いたようにブーンを見た。
また起きようとしたようなので、手でそれを制する。
( ^ω^) 「どうせ君僕らが何言っても突っ込むだろうし」
ξ ⊿゚)ξ 「……ありがとう」
( ^ω^) 「まだ何もしてないし」
ξ ⊿゚)ξ 「……そうね」
( ^ω^) 「そう言うことだから、今は大人しく体を休めなさい」
ξ ⊿゚)ξ 「うん。……ごめん、水って、飲んでも大丈夫なのかな」
( ^ω^) 「あ、大丈夫だと思うお。まっててお、飲ませてやるから……」
ベッドサイドに置かれた水差しを手に取る。
ランプのような形状の、長い吸い口の付いた金属の入れ物だ。
便利なもので寝たままでも水が飲みやすい。
頭の下に手を入れてやり、飲み口を咥えさせる。
傾けると、ツンの喉が動いた。
少しの間続け、手が動いたのを合図に水差しを戻す。ツンの口から、ぷは、と湿気の多い息が漏れた。
-
ξ ⊿゚)ξ 「なんか、意外だわ」
( ^ω^) 「何が?」
ξ ⊿゚)ξ 「ドクオはともかく、あんたが世話焼いてくれるなんて」
( ^ω^) 「そう?」
ξ ⊿゚)ξ 「うん、あんた、にやけた顔してるくせに、案外シビアだし」
( ^ω^) 「そうかな。でも、意外さで言ったら今の君も中々だけど」
ξ ⊿゚)ξ 「そう?」
( ^ω^) 「お。気持ち悪いくらいしおらしい」
ξ ⊿゚)ξ 「まるで普段の私がしおらしくないような言い方ね」
( ^ω^) 「違う?」
ξ ⊿゚)ξ 「合ってる」
( ^ω^) 「でしょ」
ξ ⊿゚)ξ 「でも腹立つ」
( ^ω^) 「らしくなってきたじゃない」
-
ξ ⊿゚)ξ 「あんたたちの方はどうなの?」
( ^ω^) 「まあ、ぼちぼち。ゲロ重い筋肉痛みたいな」
ξ ⊿゚)ξ 「……そう」
沈黙。
ツンの視線は天井に戻り、そのまま動かなくなった。
なにを見ているのか、考えているのか。
保護魔法の陣が、クルクルと回っている。
ξ ⊿゚)ξ 「……申し訳なかったわ」
( ^ω^) 「お?」
ξ ⊿゚)ξ 「あんた達を巻き込んで」
( ^ω^) 「まあ、あそこに行ったのは僕たちの意志だし」
ξ ⊿゚)ξ 「それに、あんた達が倒そうとするのを止めなければ、もっとマシな締めになってたかもしれない」
( ^ω^) 「それはどうだろ。展開が早まっただけで、結果は似たり寄ったりだったと思うお」
ξ ⊿ )ξ 「……結局、ィシさんを助けることはできなかった」
( ^ω^) 「うん」
-
ξ ⊿゚)ξ 「……水、もう一口ちょうだい」
( ^ω^) 「あんまり飲むとトイレ近くなるお。動けないんだから」
ξ ⊿゚)ξ 「別に、尿瓶でいいし」
( ´ω`) 「この男所帯で誰が世話するの……」
ξ ⊿゚)ξ 「あ、そっか」
( ´ω`) 「もう少し恥じらいを持ちなさいよ」
ξ ⊿゚)ξ 「あるよ。みる?」
( ´ω`) 「どこ」
ξ ⊿゚)ξ 「ここらへん」
( ´ω`) 「うわ。ちっっさ。ちっっっさ」
ξ ⊿゚)ξ 「本気で腹立つ」
( ´ω`) 「元気そうで何より」
ξ ⊿゚)ξ 「おかげ様」
-
( ^ω^) 「さてと、そろそろ寝た方が良いお。睡眠状態が一番いいらしいから」
ξ ⊿゚)ξ 「正直、意識は重いけど、眠くは無いのよね」
( ^ω^) 「ずっと寝てたしね」
ξ ⊿゚)ξ 「どうせなら、あんたと話してた方が気がまぎれるわ」
( ^ω^) 「お」
ξ ⊿゚)ξ 「寝ても、碌な夢見ないもの」
( ^ω^) 「そう言うことなら、付き合うお」
ξ ⊿゚)ξ 「ありがと」
( ´ω`) 「ちょっと待ってて、食べ物とか持ってくるから」
よっこいせ、と椅子から立ち上がった。
相変わらずぎこちない身体だ。
まどろっこしさを感じつつも、ブーンは自分のベッドに戻ろうとする。
その瞬間、痛烈な眩暈に襲われ、ブーンは体勢を崩した。
倒れそうになるのを必死でこらえる。
ツンが、心配そうにこちらを見ているのに気がついた。
-
ξ ⊿゚)ξ 「本当に大丈夫なの?」
( ;^ω^) 「いや、うん。そのは…………」
言葉の途中、開きかけの口がぐにゃりと捩じれた。
これには目の前にいたツンも、ブーン自身も驚く。
物理的な力が加わっているわけでは無い。
痛みを感じるということも無いが、ただひたすらに不快だった。
歪みは全身に及び、ブーンの身体はミルクを垂らされたコーヒーの如く周囲の空間と混ざり合っていく。
( ;^@^) (魔法攻撃?)
咄嗟に思いついたのは、其れだった。
あまりに脈絡なく、唐突に起きた特異な事象は大概が敵性魔法使いの攻撃と判断するのが妥当だ。
( ;^@^) (ッ――――――――――――)
応対しようとするが間に合わない。
既に効果が表れている以上、ブーンの技能では無理だ。
ξ; ⊿゚)ξ 「ちょっと、ブー――……」
ツンの呼びかけが終わりきらぬその瞬間。
ブーンの意識は、断たれるように暗転した。
-
おわり
夏も本格化し毎日うだるような暑さが続いていますが皆さんいかがお過ごしでしょうか
書いている奴はパン一で寝ていたらなぜか風邪をひきました。不思議。
>>801
誤字多すぎワロタ
コイツの頭もうダメなんじゃないか
ともかく誤字脱字の指摘はありがたいので今後見直すときの参考にしますありがとう
>>804
おk、その調子でキュートが脱ぐくらいまで行こう
次は今週末か来週の頭には来ます
詳しい日時はまた予告スレにて
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乙ぅぅぅうううう久しぶりのツンさんんんん次回も楽しみです!
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乙乙乙
妹者がそうなったということはブーンとドクオもそうなるよな
次回も楽しみにしている
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乙です
魔女叩くなら今なんだろうがブーンとドクオもこれじゃ動けんな・・・
続きが来週には読めるとは嬉しいね!
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乙!
この作品のツンが一番「ツンさん」って感じ、いや自分でもよく分からないけどそんな感じ
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乙!
おお!遂に分裂か!!
万全の妹者がどれくらい強いのかも気になる
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おつ!おつ!
-
レモナはドクオよりも能力高そうだな乙!
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おつ!おつ!まってたぞー!
ミルナくそわろたwwwデレはツンの妹ってことでいいのかね。ししょー実は何歳なんですかね・・・
これ分裂したら大五郎もブシャアアアッって感じででてくるんだろうか。床酒びたしになりそう
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大五郎きたこれ
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マジで!?待ってた!!超待ってた!!!!
本当ありがとう!そして最大級の乙!!!!
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乙乙
続きが気になりすぎる
週末マダー?(・∀・)っ/凵チンチン
てか流石夫妻は妹者襲撃のとき以外にも何度か魔女と相対してんのか
夫妻の人外っぷりもやべぇwww
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ししょーがついにきた!
デレがつんの妹だと…
女らしさは全部デレにいってしまったのか…
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誰か夏に突っ込んでやれよ
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作品に集中しすぎて投下予告以外見てなかったわ
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うひゃあいああいああああ待ってたああああああ!
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>>857
全裸余裕だろ
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きた!大五郎きた!これで勝つる!
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え?更新?
最近のんびり読み始めて途中なんだけどマジかよ!?
てっきりもう更新無いものと思ってたからすげー嬉しいわ
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わーい更新来てるやったー
魔力供給止まったてことはつまりどういうことだろう キューちゃん生きてるし普通に魔法も使ってたよね
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大五郎のξ゚⊿゚)ξさんが大好きでキーホルダーとかあったらいいなと思い
こんなん描きました。続きお待ちしております!支援!
('A`)ξ゚⊿゚)ξ( ^ω^)(擬人化注意)
http://vippic.mine.nu/up/img/vp156312.jpg
-
>>864
製品化確定だな!
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なにそれかわいいほしい
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あっ…
どっくんはべつにいらないかなー
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そういやVIPにプラ板職人が自作品の宣伝兼ねてたまに来てるな
彼に頼んだら作ってもらえんものかしら
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ブーンのストラップはドックンとのリバーシブルにするとか
-
何その抱き合わせ商法
-
>>869
ならブーンの2つ買ってくっつけるわ
-
ドクオになんの恨みが
-
じゅう。と魅惑の音がした。
ハインリッヒの持つフライパンからは、音と共に脂がはぜているのが見える。
香ばしく、濃厚な匂いだ。
鼻から脳へと伝わったそれは、口に唾液を分泌せよとせわしなく指令を送らせる。
从 ゚∀从 「あぶねえからちょっと下がってな」
ξ゚⊿゚)ξ 「はい」
ツン達の目の前にあるのは、これまた熱された鉄板だ。
上でこんがりときつね色の焼けめを見せているのは、軽く潰したポテトと、スライスされたオニオン。
一つまみほど振られた黒コショウが香り立ち、こちらも目に見えぬ幸福で鼻をくすぐる。
うっすらと湯気を立てるポテトとオニオンの上で、フライパンが傾けられた。
熱された縁が、より一層芳しい音を奏でる。
(*^ω^) 「おっ〜〜」
黒鉄のパンから零れたのは、金色の肉汁である。
ハインリッヒの手によってハタハタと降り注ぎ、ポテトとオニオンに沁み込んでゆく。
受け止めた鉄板の淵で脂が泡立つと同時に、これまでとはまた異なる、甘味を持った香りが立ち上った。
一通り肉汁を降り掛け終えたフライパンから、ハインリッヒがトングで持ち上げたのは、
厚くスライスされた豚ばら肉の燻製――――ベーコンである。
しっかりと焼きの差した桃色のそれは、ツン達の目に何よりも輝いて見えた。
-
ハインリッヒはあまりに慈悲深い暴虐さで、ベーコンをポテトの上に横たわらせた。
フライパンから離れてもなお、プチプチと爆ぜる旨みの粒。
もう、この時点で美味。口の中に溢れた唾液は、少し唇を緩ませれば零れてしまいそうだ。
从 ゚∀从 「熱いから、気をつけてな」
つまり、「食ってよし」の合図であった。
真っ先に動いたのはブーンである。
ベーコンの端から数センチの場所をフォークで突き刺し、持ち上げ、口へ運び。
その反抗的な弾力を喜びながら噛み千切る。
数度、顎を動かすと、元よりほころんでいた頬が、更なる堕落を見せた。
すぐさまフォークでポテトとオニオンを一片に掬い取り、こちらも口の中へ。
ベーコン。ポテト。オニオン。
同じく焼かれ焦げ目をつけながら、異なる香りの三重奏。
ブーンは前のめりだった体を、椅子の背もたれに預け直し、深く、長く、そして感慨を帯びた息を洩らす。
美味い。
言葉を聞くまでも無い。
その表情が、雰囲気が、全てを物語っている。
-
満足げなブーンを横に見てツンもフォークを手に取った。
彼女の場合は、まずはポテトだ。
フォークの先でひっかくように少量を掬い取って、薄い唇で咥え、食す。
ほっくりとした優しい口当たり。
滑らかに摺り潰されており咬むまでもなく容易く解れてしまう。
蕩けた食感の代りに、舌に与えられるのは、じんわりと染み渡る、素朴な香りと甘味。
口内に満ちていた唾液が、そのまま柔和な蜜へと変わってゆく。
ポテトを胃へと抱き込み、舌を口内でぐるりとさせてから、たまらずオニオンへ。
火を通されてしっとりとした感触がフォーク越しにも分かる。
しかし、一度口へ運べば、しゃっきりとした触感が、歯を出迎えてくれる。
噛む。
しゃき。
香ばし。
甘し。
絡まった脂の旨みと、黒コショウの刺激的な香りを漏らすことなく活かしきったオニオンの味わいは、
それだけで一つの料理として完成していると、ツンの舌を屈服させてしまったではないか。
-
なんて飯テロ
支援
-
しかし、しかしだ。
まだ負けてしまうわけにはいかない。
確定した敗北の先にも、戦うべき”領域”はあるのである。
ツンのフォークは、果敢にもさらなる強敵へ。
そう。厚切りにされ、これだけ肉汁を溢れさせながらも、未だ瑞々しさを失わぬ驚異の存在。
ベーコン。ベーコン。ベーコン、貴様の番である。
突き刺し、やや持ち上げ、自ら迎えに鉄板へ顔を寄せる。
頬を撫でる熱気。
鼻孔へ満ちる香り。
唾液洪水警報発令だ。
多大な期待と共に、ツンはベーコンへかぶりついた。
弾力に、歯が沈む。
ぷり、と肉が切れ、同時に、じわ、と肉汁が溢れだす。
ξ゚⊿゚)ξ (――――これは)
満たされる塩味。
しかしただしょっぱいだけでは無い。わけが違う。
摺りこまれ、寝かされ、燻製され、熟成し。
長く険しい時を肉とスパイスと共に耐え抜き帰ってきた、まるで老兵の、世捨ての旅人のような深みを持った塩味である。
刺激的で力強い旨みを持ちながら、されどしつこく居座る悪辣さとは無縁。
いずれまたここからいなくなってしまうのだという淋しさを押し殺し、ツンはベーコンを噛みしめる。
ξ゚⊿゚)ξ (―――――おかえりなさい)
その言葉を、胸の中で静かに独り言ちたのは、ごく自然のことであった。
-
開幕飯テロつらい
-
味わいつくしたベーコンを惜しみつつも飲みこみ、ツンは手を震えさせた。
そうだ。
ここまでは、あくまで鉄板に盛られたそれぞれの食材を別々に食したに過ぎない。
この料理の真価は、まだ発揮されていないのだ。
ツンは震える手でフォークを縦にし、ベーコンを丁度良い大きさに切り分ける。
その上に、オニオン、ポテトを、そっと重ねる。
個別でありながらあれだけの力を持っていた彼らを、まさか同時に食さなければならないとは。
正気の沙汰では無い。正常で健全な脳の判断ではありえない。
最早、食への、美味さへの、舌で請け負う幸福への、服従じみた依存にほかならぬ行為だ。
見よ。隣でせわしなくフォークを口へ運ぶブーンの顔を。
かつてオルトロス―――魔犬などと畏れられた覇気も狂気も存在せず。
一心不乱に舌を振り回すその姿は、牙を丸められた愛玩犬の様ではないか。
これを、一たび味わってしまえば、自分もああなってしまうのか。
情けなく、だらしなく、幸福に首をくくられた盲目の犬に。
恐る恐る、口を開く。
黒鉄に焼かれた魅惑の三層を、誘い、閉じる。
ξ゚⊿゚)ξ (――――――――ああ)
その時ツンは、確かに、発するべきあらゆる言葉を、失ってしまったのだ。
-
* * *
从;゚∀从 「そんなに美味いか?」
(*´ω`) 「この鉄板の上でなら死ねる」
从;゚∀从 「そうか、命を大事にな」
時は夕刻。場所はいつも通りサロンの郊外に位置するハインリッヒの自宅である。
往診を終えたハインリッヒが準備した食事を四人で楽しむ最中であった。
内容は至って素朴なものであったが、しばらく専用の栄養食ばかり食べていた彼らにとっては、何にも代えがたい美食だ。
元より食い気の強いブーンのみならず、病み上がり間もないツンまでもがゆっくりながらも止まらずフォークを動かしている。
ちなみに、タカラも来る予定ではあるのだが大五郎での仕事が長引いているらしく、まだ戻ってきていない。
彼は、侵攻の翌日から、ツン達が床に伏せっている間ずっと戦後処理に当たっている。
タカラは器用で要領が良いので、大抵のことをあっさりこなしてしまう。
その上面倒見が良く、人当たりも優れているので、傭兵でありながら店舗運営でも活躍してるらしい。
お蔭さまで連日働きづめ。
彼の働きぶりを簡潔に語ったハインリッヒの眉間には、深々と皺が寄っている。
相変わらずの心配性だ。
髪と寿命が儚く散ってしまいそうで、見ているこっちは彼の方が心配だ。
-
何レス飯に使うんだw
-
(;'A`) 「……ブーン、あんまり食い過ぎんなよ。腹壊れるだろ」
(*^ω^)+ 「心配無用だお。こんなことで負ける僕の胃袋では無い」
(;'A`) 「一応病み上がりなんだからよ……」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう言うあんたは食べないの?」
(;'A`) 「いや、これで俺が食ったらわけわからないことになるだろうが」
自分の食事を進めながら、ツンはぼんやりとブーンとドクオを見た。
何度見直しても珍妙だ。
慣れはしたが、気色悪いことには変わらない。
从 ゚∀从 「お前ら、大五郎(焼酎の意。柿の渋抜きにも利用可)は飲まなくていいのか」
( ^ω^) 「昼間飲んだ分で十分だとは思うお」
('A`) 「俺も、この状態じゃあな」
-
そのまましばし食事を続けていると玄関の扉が開いた。
「邪魔するにゃ」と言って入ってきたのは、ご存じの通りタカラ=イッコモン。
彼の登場で、やっといつものメンツになった、と言ったところだ。
( ,,^Д^) 「お、目が覚めたのかにゃ。大丈夫なのかにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。ずっと寝てたせいで、鈍って仕方ないくらい」
( ,,^Д^) 「お前さんらしいにゃあ」
(*^ω^) 「おかえりだお!タカラも早く食べるお!おいしいお!」
( ,,^Д^) 「お、ブーンも包帯取れ…………」
( ,,^Д^)
( ,,^Д^)
(*^ω^)゙ 「リッヒ、芋おかわりだお!」
( 'A) 「……」
( ,,^Д^) 「えっ」
タカラが硬直した。
ブーンは彼の表情なぞ気にせず、芋をモグモグと食べ続ける。
他の三人、ツン、ハインリッヒ、ドクオは、「まあ、そうなるよな」という心地でその反応に納得する。
-
( ,,^Д^) 「えっ」
(*^ω^) 「どうしたお?」
( ,,^Д^) 「…………この場合、逝っちまったのは俺の頭なのかにゃ」
从 ゚∀从 「いや、多分お前は正常だ」
( 'A) 「まあ、な」
( ,,^Д^) 「そうか。俺の目がおかしくなったわけじゃにゃーのか」
タカラの困惑は当然であった。
何せ、これまでは二人で一人、入れ替わりに片方しか存在できなかったブーンとドクオの顔が。
( ^ω^) 「あ、これのこと?」
('A`) 「それ以外にないだろ」
二つ並んで、同時に目の前にあるのだから。
-
ただし。
(^ω^Y 'A)
> <
/ ヽ
__(_つ_⊂_)__
胴体は一つであるのが最大の問題である。
オルトロス
ξ゚⊿゚)ξ 「まさに双頭の魔犬よね」
( ,,^Д^) 「オチてないからね?」
-
ななななんだってぇええー!!?
-
ブーンとドクオがこの状態になったのは、この日の夕前。
丁度ツンが目を覚まし、二人に武と魔の教授を乞うた後のことである。
その時優位にいたブーンが俄かに苦しみだし、気絶。
困惑し何も出来ないでいたツンの目の前で、首元が変形しドクオの頭部が顕現したのだ。
目覚めてみると意識が混線するということも無く、この状態に落ち着いている。
ξ゚⊿゚)ξ 「こう、人面疽が膨れるみたいになって、ドクオの頭が生えたのよね」
( ,,^Д^) 「ええ……キモ……」
(ω^* Y ;'A) 「俺らも望んでなったわけじゃないからそう言うなよ……」 ハフッハムッ...モキュモキュモキュッ
( ,,^Д^) 「原因はわかってるのかにゃ?」
(ω^* Y 'A) 「現時点じゃ、魔女に何かあった、とまでしか推測できねえな」 バクッ ホフッ......ムグムグ......
恐らくは、魔女が二人を融合させておくのに用いていた魔法に乱れが生じただろう。
故に二人を同一で居させる力が弱まり、部分的な分離が起きた、とドクオは予想を立てている。
もしかしたら、ただ単に気まぐれを起こした可能性も高いだろう。
それでもドクオが「魔女に何かあった」と優先して考えたのは、以降魔女が彼らに何も干渉してこないからである。
魔女は、自分でやったことは自分がやったと主張せねば気が済まぬ面倒な性格を持っている。
特に、他者とっては迷惑な行為であればあるほど。
気まぐれに何かを仕掛けたのなら、必ずその反応を楽しむため現れるはずだ。
-
( ,,^Д^) 「そのまま元に戻れたりしないのかにゃ?」
(ω^* Y 'A) 「弛みはしたが、魔法自体はまだ生きてる。この状態が限界だろうな」 モゴモゴ......グビッゥ...グビッゥ...
ξ゚⊿゚)ξ 「アンタの魔法で打ち消したりできないの?」
(ω^* Y 'A) 「難しいな。弱ってても魔女の魔法だ。干渉力の桁が違う」 プフゥ...... ハムッ...ムグムグ......
( ,,^Д^) 「……魔女が、またお前たちの前に現れる可能性もあるのかにゃ?」
(ω^* Y 'A) 「恐らく……ちょっと待って」 ガフッ......モッキュモッキュ......
(ω^* Y'A` ) 「ブーン、食べるの後にしろ。話が頭に入らなくなる」 ............ピタッ
(#^ω^Y'A`;) 「話終わるまでのちょっとの間だよ。食うなって言ってんじゃないんだ」
(。´ω`Y'A` ) 「……分かった分かった、手短に終わらせるから。なんだったら優位変わって寝とけ」
i|il('A` ) フッ
( ,,^Д^) 「あ、普通に入れ替わることはできるのかにゃ」
('A`) 「おう。分離できるって言っても、基本的には単一であるように力がかかってるからな」
-
完全に分離したらタイトルの意味が微妙になっちゃうしなぁ
しかしホラー
-
('A`) 「んで、魔女が来る可能性な。まあ、あるだろう」
( ,,^Д^) 「やっぱり」
('A`) 「仕方なく魔法の管理を手放したってんなら、補修に来るはずだからな」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうするの?」
(;'A`) 「戦うっきゃねえよ。そもそも、そのつもりで探してんだ」
( ,,^Д^) 「勝てるのかにゃ」
(;'A`) 「……考えはある。が、基本の条件は、前に戦った時よりも悪い」
ξ゚⊿゚)ξ 「手伝う?」
(;'A`) 「いや逃げろよ。絶対逃げろよ。お前が弱いってんじゃなくて、マジでヤバいから」
ξ゚⊿゚)ξ 「あんたは逃げないんでしょ」
(;'A`) 「まあ、な」
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあ、良いでしょ。これから色々教えてもらうのに、見捨てて逃げるってのは性に合わないわ」
(;'A`) 「場合によっては剣と魔法とツンちゃんと大五郎になりかねないんですが……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……下着は私に合わせてね」
b
(;'A`) 「やっぱり逃げてください」
ξ゚⊿゚)ξ 「嫌よ。それに、魔女は間接的に私の仇でもある」
-
(;'A`) 「まあ、そうだけどよ」
( ,,^Д^) 「何なら俺もやるかにゃ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「あんたはそれこそ逃げなさいよ。家族いるんでしょ」
(;'A`) 「そだよ。気前がいいのはありがてえが、何の因縁も無しに対峙して得になる相手じゃねえ」
( ,,^Д) 「……まあ、無いわけじゃないんだけどにゃ」
从 ‐∀从uq 「……」 ズズ......
ξ゚⊿゚)ξ 「……?そう言えば、一回操られてたわね」
(;'A`) 「つっても、普通の攻撃はほぼ意味ないし……」
( ,,^Д^) 「援護くらいなら。弓と逃げ足には自信あるにゃ」
(;'A`) 「剣と魔法とツンちゃんと弓と大五郎になりかねないんですが……」
ξ゚⊿゚)ξ 「二日に一回は入浴したい」
( ,,^Д^) 「月一くらいで嫁と子供に会いに行っていいかにゃ」
(;'A`) 「お二人ともどうぞお逃げください」
-
一応タカラへの事情説明が済み、ドクオはブーンに優位を返した。
特に会話が必要なくなったからか、先ほどのように頭を生やすことは無い。
他愛のない話をして、夕餉を終える。
早い時間に始めたが、外はもう暗くなってきていた。
( ^ω^) 「お、わかったお」
散々お代りを繰り返し、やっと満足したブーンが、唐突に独り言ちる。
すぐさま入れ替わりにドクオが現れた。
あれほど膨らんでいた腹が何も無かったようにへっこんだが、胃の内容物は共有していないのだろうか。
('A`) 「よし、じゃあツン、やるぞ」
ξ゚⊿゚)ξ 「わかった」
二人の分離騒ぎでうやむやになっていたが、ツンはドクオに魔法の手ほどきや改良の手伝いをされることになっている。
ブーンも静かになったしさっそく取りかかろうというのだろう。
('A`) 「お前がすぐ休めるよう、病室でやるぞ」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん」
普段よりもさらに遅いドクオの歩みについて行く。
魔法漬けで眠っていただけあって、体の回復自体はツンの方が進んでいるらしい。
そもそも彼らのダメージは、怪我だけでなく、使った技の副作用もあるので回復が難航している。
-
病室に着いてすぐ、ベッドに入らされた。
ドクオは椅子を引いて、その傍らに座る。
('A`) 「まず、何から見る」
ξ゚⊿゚)ξ 「天叢雲かな。絶対に必要だけど、一番うまく使えない魔法だから」
('A`) 「……わかった。とりあえず、発動はしないで、式を組んでみろ」
言われて、ツンは深呼吸した。
天叢雲は、彼女が使う魔法の中で最強かつ最高難度の魔法だ。
落ち着いた環境であっても、組むのには相応の集中を要する。
ドクオに手を取られた状態で、魔法式を展開する。
目の前に人がいる状態でどうどうと詠唱を唱えるのは気恥ずかしかったので、口の中でもごもごと呟く。
そもそも言わなければよいだろうと思われるかもしれないが、詠唱は完全に癖になっているし、
なにより、重要な魔法式の暗号になっているのでつい唱えてしまうのだ。
-
少し緊張しつつも、式を組み終えた。
これに必要な魔力をつぎ込み、実行の式を組めば灰色の雲が屋根壁ぶち抜いて降りてくるはずだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「……どう?」
('A`) 「ん〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「師匠が使う時と、私が使う時とじゃ効果の出方が全然違うのよ。単純に魔法の技術の差だと思ってたんだけど」
('A`) 「それもあるんだろうが、魔法式にちょこちょこ変なところがあるな」
ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱり?」
('A`) 「珍しい話でもねえ。弟子に強力な魔法を真似されないように、魔法式を偽装してたんだろう」
ξ゚⊿゚)ξ 「何とかできる?」
( ;'A) 「どうだろうな……分析はともかく、偽装された魔法式の復元ってなると……」
ξ゚⊿゚)ξ 「あいつを殺すには、本来の天叢雲の力が絶対に要る」
( 'A) 「……わーってるよ。少なくとも、コスト削減と威力アップぐらいは何とかしてやる」
-
飯テロうめええええ
からの、ええええええ!?
その分裂の仕方にはびっくりだよ
-
('A`) 「ちなみに聞くけどよ」
余計な魔力の消費を抑えるため、解析を終えると直ぐ魔法式を取り消した。
天叢雲は展開の段階から異常な魔力を消費する。
ドクオ曰く、それも天叢雲に仕込まれた、使用を困難にするためのセーフティなのだという。
('A`) 「師匠にもう一度習い直す気は無いのか」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
('A`) 「前から言ってるが、魔法は基礎を仕込んだ師か、近い流派の魔法使いに習うのが一番なんだよ」
('A`) 「俺とお前じゃ、魔力の適性も流派も違うし、してやれることはあんまり多くないんだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……師匠は、私のことを戦わせたくないのよ」
('A`) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「天叢雲だけじゃない。他の攻撃系の魔法だって、自分から教えてくれたことはなかったわ」
ξ゚⊿゚)ξ 「戻ったって、捕まえられるだけで、魔法を教えてくれたりはしないと思う」
('A`) 「そうか」
ξ゚⊿゚)ξ 「って言うか四肢分断された後大地の裂けめに落とされるかもしれない」
('A`) 「お前の師匠なんなの?邪神??」
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キモすぎワロタ
-
ツンの師が自ら教えてくれたのは、身を守るための体術と、強化・防護の魔法が中心。
攻撃系の魔法についてはツンが勝手に身につけたものを、安全に使えるように正してくれただけだ。
故に、ツンが「使いこなせる」のは精々中級程度まで。
其れより上の魔法となると、十分な効力を発揮出来なかったり、そもそも発動することが出来ない。
中には、天叢雲と同じく、意図的に弱体化するよう教えられたものもあるのだろう。
('A`) 「……わかった。天叢雲以外にも、使えそうな魔法は考えてみよう」
ξ゚⊿゚)ξ 「出来るの?」
('A`) 「ああ、お前が使えるレベルで収まるかは分かんねえけど」
ξ゚⊿゚)ξ 「そこは、何とかする」
('A`) 「とりあえず、お前の使える魔法を全部教えろ。
その組み合わせで何とかなれば、習熟も早いし、実戦でも使いこなせるだろう」
ξ゚⊿゚)ξ 「わかった」
ツンはすぐに魔法の展開に入った。
慣れているものから一つずつ、名前と大まかな効果をドクオに伝えた。
比較的簡単なものを終え、少し難易度の高いものになると、ドクオの眉間に皺が寄り始める。
解析が難しいのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「どうしたの?」
('A`) 「……展開式の構成が独特だ。これもお前の師匠のオリジナルだろう」
ξ゚⊿゚)ξ 「そこまでは聞いてないけど」
魔法とは、本来それぞれの魔法使いたちが独自に研究し、導き出す一つの成果の形だ。
一般に広まり、魔法塾のような場所で当たり前に教えられているものはともかくとして、
オリジナルの魔法と言うのはつまり考案した魔法使いの努力の賜物なのである。
( 'A) 「理由は何であれ、俺は弟子を誑かして、別の魔法使いの研究を盗んでるのと同じだからな」
躊躇う理由が魔法使いとしての生業に誇りを持つ彼らしい。
ツンのみならず、魔法をただの手段としかとらえていない者たちにとっては理解できない感覚だ。
ξ゚⊿゚)ξ 「これが悪いとしても、あんたに責任は無いわよ」
( 'A) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「それに、師匠はこれくらいの魔法、割とポンポン作ってたし、大丈夫だと思う」
( 'A)
( ;'A) 「マジで?このレベルのを?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。中級くらいならわりと」
( ;'A) 「それはそれで不満だ」
-
すべての魔法を見せ終える頃には、既に一時間ほどが経っていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「……たぶん、これで私の使える魔法は全部見せたと思う」
('A`) 「お疲れさん。俺はこれを元にちょっと案を練ってみるから、お前は休んでろ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……うん」
展開だけとはいえ使える魔法を一通り組んだため、ツンの魔力は大幅に減っていた。
元々魔法があまり得意では無いツンにとっては、神経を使う作業でもある。
ドクオに手伝わせておいて自分は休むというのはいくらか気持ちが悪いが、言葉に甘えておくことにした。
ベッドに横になり、掛布を胸元まで引き上げる。
散々寝たてきたというのに、自然と瞼が重くなる。
腹も膨らんでいるし、しばし眠るのも悪くは無いだろう。
ドクオは自分のベッドに戻って、書き留めたメモを睨みながらいろいろと考えているようだった。
彼は、ツンの得意な風魔法の適性は低いはずだが、大丈夫だろうか。
ひとくくりに魔法と称しても、普段扱わぬ属性と言うのは全くの異文化である。
腕前は信頼できるが、慣れない魔法を構築しなおすとなると相当な難題のはずだ。
ξ ⊿゚)ξ (……ま、ドクオなら、大丈夫か……)
意識に靄がかかり、頭が枕に深く沈んでいく。
そうだと自覚した瞬間に、ツンの意識は眠りに落ちた。
-
夢を見た。
見覚えのある景色だけれど、少し違うどこかの街並み。
付随する感情は、悲しみとか怒りとか、そんな感情だった。
景色はどんどん流れてゆく。
歩いていたんだ、と気づいたのはさらに見覚えのある場所に辿り着いた時だった。
荒れ果てた街の一角。
数本の柱を僅かな壁を残して木端微塵になっている建物。
半分に割れて転がる「そ屋」と書かれた看板。
そして、その前に微動だにせず立っている、金髪の少女の背中。
いろんなことを思った。
内容はわからないけれど、とにかくいろんなことを考えたんだと思う。
少女は知人らしい誰かに、半ば強引に連れられてゆくまでずっとそこに立っていた。
手を引かれながらも、何度も振り返り、少女とは思えない眼で、廃墟をにらみつけている。
しばらく眺めて、その少女が自分なのだと、ツンは思い出す。
-
ィシは、呪具に飲まれた後、ツンに意識を呼び覚まさせられた時点で命を絶つことを覚悟していた。
もう人に戻れぬなら、何としてでもヨコホリを屠り、潔く世を去ると。
これは、ツンにも告げられていて、だからこそツンも、ヨコホリを討たせなければと奮闘したのだ。
その裏でィシは、ツンには告げずもう一つ別の準備を進めていた。
自身と、自身が取り込んだ仲間たちの戦闘の記憶の圧縮である。
同化した禁恨党の面々の「戦いの技能」の情報を単純化してまとめ、呪具の思考同期でツンに授けようとしたのだ。
それは、自分たちの死後もきっと戦い続けるだろうツンヘの置き土産。
共に戦うことのできない同胞への、共闘の申し出だった。
一度ヨコホリを倒し、ツンがィシを殺すための魔法を汲み始めた時点で、圧縮された記憶はツンに届けられた。
ツン自身にも気付けぬ、秘匿のプレゼントだ。
就寝時の記憶の整理―――つまり夢を見た際に順次開封、定着されるよう仕組まれていた。
しかし、そこで想定外の事態が起きた。
そう。ヨコホリは狡猾にも自身の命の予備を準備しており、それを用いて復活。
瀕死ながらも、ィシを殺したのだ。
その際、本来ではツンに与えるつもりで無かった、ィシの過去の記憶の一部までもが走馬灯に紛れ送信されてしまったのだ。
そう、これは。
ツンが知るよりも高い視点から、故郷の町を見る記憶は。
ィシ=ロックスが、ツンに知らせずに終わりたかった、彼女らが失った時代の記憶だ。
-
ツンはもう何度もこの夢を見ている。
寝ている間はこの記憶ばかりを繰り返し反芻していた。
一度目は何のことか全く分からなかったが、二度目には、大よそこの夢の意味を理解している。
ィシの夫の仇はヨコホリだとィシの口からきいていた。
ツン自身は幼さゆえにほとんど覚えていなかったが、両親の店が襲われた時に死んだ傭兵は、ィシの夫であった。
だからツンは両親の仇がヨコホリ=エレキブランであると悟った。
ィシは、間違いなくそれを知っていた。
知っていてツンに教えず、全てを先んじて終わらせようとしていたのだ。
ツンはヨコホリが仇と知ればまず間違いなく特攻する。
そして、今頃には殺されるか、少なくとも再起を望めるような状態では済まなくなっていた可能性が高い。
ィシが死に、彼女が隠したかった事実はツンに伝わったが、状況は以前とは違う。
何度も交わした戦闘で思い知った、ヨコホリの強さと己の弱さ。
かつてであれば、構わぬと、死んでもよいと、放たれた矢と同じくツンは駆け出していただろう。
今もそれは変わらない。
だけれど、何とか飛び出すのを堪え、ブーン達に剣と魔法の教えを乞うたのは、
絶対に、確実に、ヨコホリを殺さなければならないという、意地が故。
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