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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
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猪の攻撃は未だ続いていた。
眼中に無いのかツンの元には飛来しないが、ヨコホリと激しい打ち合いの応酬を行っている。
どちらも、生命の常識を超えていた。
ヨコホリは襲い来る木片の砲弾を的確に迎撃し、僅かな隙に反撃を撃ちこむ。
猪の方は回避や防御は一切行わず、ただひたすらに攻撃を続ける。
攻撃を受けて破損した体はすぐさま再生し、被害があるようには見えない。
逆さ男、フォックス、イナリその他も援護を行っているが、ほぼ無意味。
ヨコホリよりも頻度は少ないが攻撃に曝され、回避で手いっぱいといった様子だ。
ミ´ w ン 「ディレー……トリ……とめ……てくれ……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「わかったから、喋んないで!止まるものも止まらないわ!」
流れ弾への警戒をしながら、ミンクスの傷に応急処置の魔法を重ねがけし、何とか出血を止めた。
これで、失血による死亡はかなり遅らせられるはずだ。
あとは、魔法の効果があるうちに血をぶち込んで傷を塞ぐことさえ出来れば。
咆哮が響く。
特に傷を負っていないツンですら、皮膚がビリビリと震えた。
ミンクスが呻くと同時に、じんわりと血が滲み出る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「とりあえず、安全なところに……」
魔法の応急処置は脆い。
大きな衝撃を与えれば、すぐに出血は再開してしまうだろう。
ツン一人の力で遠くへ運ぶのはいくらか無理があった。
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いつ猪の意識がこちらへ向くかという不安と焦りが、ツンの集中を欠けさせる。
ミンクスを運ぶこともできず、ただ少し離れたところへ引きずるしかできない。
それだけで出血は再開し苦しげな息が胸を上下させた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……くそ、リッヒのところまで運ぶなんて、到底無理だ」
三度の応急処置の魔法。
痛みどめとしての効果で、何とか体力の消耗を抑えなければ。
背後で戦闘の残響が幾度となく響く。
戦況がどちら有利なのか、ツンには分からない。
そういった感覚で推し量れる状況を逸脱しているというべきか。
もし仮に、あの猪のような何かが、蛇頭や怪獣のキメラ並みの不死性を誇るとしたら。
あくまで人間である根絶法指示勢には苦しい相手だろう。
ヨコホリ自体も化け物染みてはいるが、この場だけを見ればはるかに人間らしい。
ミ´ w ン 「止め、てくれ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「大丈夫、血はもう止まったから、とにかく安静に……」
ミ´ w ン 「……違…う……あね……さんを、とめて、くれ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさんを?」
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ィシさんなんて、どこに。
そう聞き返そうとしたツンの脳みそが、急速に回転を速める。
折れたハルベルトの先端があったことを見るに、ィシがこの場にいたことは間違いない。
禁恨党のメンバーが勢ぞろいしている状況を見ても、確定していいだろう。
なら、彼女はどこにいる。
逃げたのか?あの人が、仲間を置いて?
死んだのか?死体が残らないほど粉砕されて?
そして、この場において、最も重要で、最も不確定な存在の猪。
こいつは、なぜここにいる?
最近は人外と遭遇する確率が異常に高かったため、それほど深く考えなかった。
どうせ魔女がまた、適当な理由で置いて行ったのだろうとしか思わなかった。
ツンやミンクスに攻撃が来ないのも、敵意の無いものには興味が無いとか、そんなところだろうと。
ならなぜ。
無遠慮に周囲に木槍をばら撒いておきながら、禁恨党の党員は、誰一人その一撃を受けていないのか。
同じく死体になっていた敵側の兵士は、既に数発の流れ弾を受け、酷く損壊しているというのに。
なぜ、禁恨党員だけを避けて、攻撃をしているのか。
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ξ;゚⊿゚)ξ (いや、まさか)
禁酒党の兵士が、胸を穿たれて絶命する。
これでの残るは、主要戦力の四人だけとなった。
猪が、木片による掃討攻撃を辞めた。
周囲の木々は悉く破壊され、森の中に猪を中心とした広場が出来上がっている。
足元の不安定さをどうにかすれば戦闘を行うに十分な領域であった。
ξ;゚⊿゚)ξ (そんなわけ、無い)
猪が離れた場所のハルベルトを見た。
折れた斧刃に地面から伸びた木が絡みつき、そのまま飲み込んでゆく。
最終的には、斧刃の柄が修復され、元よりはいくらか歪んだハルベルトが現れた。
猪は、迷いなくそれを手に取る。
巨体には少々小さいが、扱いは手馴れていた。
ξ;゚⊿゚)ξ (……違う)
猪が中途半端に体から延びた木の根を引き千切り、ヨコホリへ猪突猛進する。
見たことがある形だ。
何度か救われた力だ。
だが、あまりにも、違いすぎる。
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(//‰ ゚) 「チィィッ!!」
上半身に比重のあるバランスの悪い体系であるにも関わらず、猪の動きは軽快だった。
一歩で間合いを詰め、もう一歩でハルベルトを振りかぶる。
ヨコホリが放った魔法を受け、少し動きが鈍ったが、それも一時的なもの。
次の瞬間には、ハルベルトの斧刃が、ヨコホリの体を薙ぎ払っていた。
(//‰ ゚) 「グゥッ!」
耳に痛い金属音。鼓膜を突き抜け、脳を直接痺れさせる。
ヨコホリは、大きく吹き飛ばされていた。
斬撃自体はガードを間に合わせたが、あまりの衝撃に足が地面を失う。
低い姿勢で着地したそこへ、猪の追撃。
振り切ったハルベルトをそのまま強引に、今度は逆に向かって叩き付ける。
これまた右腕で受けるヨコホリだが、あまりの力差に耐えられず地面を転がった。
(//‰ ゚) 「クソが、厄介なババアだ……」
〈;;(。个。)〉 「!」
ヨコホリに意識を集中していた猪の首に逆さ男が飛び掛かる。
体を軸に回転、遠心力と体重を乗せた蹴りで、その巨大な頭を蹴り抜いた。
重い音が爆発のように響き渡る。
山が震え木々が葉を落とし、しかし猪の巨体は揺るがない。
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逆さ男の着地際を狙い、腕を振るう。
これを、脚甲の足の裏で受け、器用に跳躍し勢いを殺す逆さ男。
再び着地すると、耐えかねて膝を折った。
並であれば死んでいておかしくは無い。
あの程度で抑えたのはさすがというべきか。
ξ;゚⊿゚)ξ (……)
ツンは、今までに戦った二頭のキメラを思い出す。
どちらも、今目の前にいる猪と同じく、強大な力を持ち、人間であるツンたちを圧倒した。
しかし、目の前にいるこれは、彼らとは決定的な違いがある。
この猪型の化け物は、「技」を持ってるのだ。
目標に対し持っている力をぶつけるだけだったキメラたちには無かった「戦闘の経験」というべきか。
武器を扱っているのがその証拠。
ハルベルトは数種の型を持つ多機能の武器ではあるが、その分扱いは難しい。
ただ力のある者が使っただけでは、刃を合わせることすらロクに出来ないだろう。
それを、この獣は。
的確にヨコホリの急所を狙い、刃を合わせ、その膂力を余すことなく振るっている。
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腕と、ハルベルトで体を守った猪だが、傷は深く大きい。
木製かと思われたその体の奥から、赤いものが染み出している。
すぐさま身体が蠢き傷を塞ぐも、確かにあれは血だった。
(//‰ ゚) 「流石にコイツは通るみてェだな、安心したぜ」
再び、今度は縦に腕を振るうヨコホリ。
放たれた巨大な鎌鼬は猪を両断すべく、容赦なく襲いかかる。
森ごと割れるかと思う一刀が、地面の土を巻き上げながらハヤテのごとく突き抜けた。
〈;;(。个。)〉 「……恐れ入る」
風の刃は、遠くにあった木を縦に切り裂き、さらに後ろにあった木を粉砕して消えた。
対象であったはずの猪はハルベルトを構え、悠然とヨコホリを見据えている。
武器と体裁きによって体表の一部すら切り裂かせず、無傷のままやり過ごしたのだ。
一撃見ただけで技を見切り、最小限の動きで回避するなどただの剛力にできることでは無い。
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〈;;(。个。)〉 「変貌しても中身はィシ=ロックスというわけか」
(//‰ ゚) 「それどころじゃねェやな。体がタフになって余裕が出た分、技がキレまくってやがル」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……
一瞬の間に交わされた二人の会話を、ツンは聞いてしまっていた。
聞くまでも無く、導き出されていたことだ。
ただ、まだ予測の範囲であると、ごまかすことが出来ていた。
しかし、答え合わせを聞いてしまった。
ミ´ w ン 「たの、む……ディレ―……トリ」
ξ゚⊿゚)ξ
ミ´ w ン 「姉御……を、助けて……やって…くれ
悪夢にうなされているかのように、ミンクスが繰り返す。
ツンは答えない。
ハルベルトを振り上げる、猪の化け物。
その姿の中に見つけてしまったィシの名残を、ツンはただ、見ていることしかできなかった。
* * *
-
(;'A`) (おうおうっ、予想以上にヤバいのがいるっぽいな)
ブーンの感じ取った魔女の気配を目指し、ドクオが飛行している途中。
目指す森の木が、次々と倒されていく。
与作がヘイヘイホーと切り倒しているというような穏やかさでないことは、その勢いからしてわかった。
( ^ω^) 『何がいるか見えるかお?』
(;'A`) (…………わからん。魔力が乱れすぎててサーチもロクに効かねえ)
( ^ω^) 『……』
(;'A`) (どうする?距離を取って魔法で狙撃する手もあるぞ)
( ^ω^) 『……いや。状況が把握できない限り、それは危ないお。僕がやるから、現場へ』
(;'A`) (言うと思ったよ、ったくよー)
ドクオはさらに加速。
木が倒れ広場となった地点へと急ぐ。
(;'A`) 「居た!一旦預けるぞ!」
( ^ω^) 「任せるお」
目標を目で確認。
上空でドクオとブーンが入れ替わる。
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( ^ω^) 「?!」
ククリ刀を構え、落下。
その間にもはっきりと見えるようになったそれは、獣でありながら、獣では無かった。
( ^ω^) 「!!」
慣性を十全に乗せた、中空での居合切り。
刃が鳴り対象を切り裂くが手ごたえが悪い。
まるで年輪の詰まった巨木を斬りつけたようだ。音も硬く鈍い。
(;'A`) 『何だこいつぁ?!』
割愛すると、木で出来た猪。
幻想物語に登場する猪頭人の魔獣、オークのような造形だ。
手に持ったハルベルトが小さく見えるほどには体が大きい。
( ^ω^) 「無刀の型―――」
落下の衝撃を転がって殺し、すぐさま立ち上がる。
猪の意識はブーンに向き、滑らかな動作でハルベルトを横に振りかぶった。
( ;^ω^) 「かげッ…陽送り!」
人間の振るう斬撃とは格が違った。
ククリの柄尻を合わせて逸らし、辛うじて直撃を防ぐ。
しかし、腕が痺れ体も大きく流された。反撃に移る余裕は無い。
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( ;^ω^) 「ちょ、やば……」
侮っていたわけでは無いが、予想以上だった。
高い膂力を持っていることはもちろん、それを無駄なく攻撃に生かしている。
単なる腕力だけならばさらに強いものと対峙したことがあるが、質が違う。
左から右へとブーンを払ったハルベルトが、体を捩じった振り終わりの体勢から、クルリと向き変った。
そうしてそのまま、往復の斬撃。
一撃目でその威力を体感しているブーンは大きく飛びのいて回避する。
頬をなでる風が、肌を引き千切るようだ。
真っ向から受け止めていたら、防御の上からでも死ぬかもしれない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
( ^ω^) 「お?」
〈;;(。个。)〉 「……ここでオルトロスとはな」
(//‰ ゚) 「なンだァ?こりゃサプライズパーティかなンかか?」
名を呼ばれ、ツンの存在に気づく。
恐らくは味方側であるだろう兵士を抱え、焦りの濃い表情をしていた。
こんなところで無防備にしていては、すぐに殺されてしまうだろうに。
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(//‰ ゚) 「敵か?」
〈;;(。个。)〉 「敵の味方ではありそうだが、敵の敵でもあるようだ」
猪が左腕をブーンへ、右腕をヨコホリへと向ける。
腕の甲がささくれ立ち、そこから小ぶりの、矢ほどの木片が頭を覗かせた。
咆哮と同時にそれらが発射。
ブーンはツンとは逆へ走って回避。
サイボーグは数回に分けて放った風の刃ですべてを切り払う。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン、その人、私の知り合いなの!!」
( ^ω^) 「おーん?!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「だから!味方なのよ!!」
( ^ω^) 「……マジで?」
ブーンが伏せる。
その頭上に、指数本の間を開けてハルベルトが過ぎ去ってゆく。
危うく頭蓋を器に味噌汁(生)がお粗末様してしまうところだった。
( ^ω^) 「めっちゃ狙われてるんですけど」
(;'A`) 『いきなり斬りつけちゃったしNE!!』
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猪が再び往復の斬撃を放つ。
一辺倒かつ、単純だが、非常に効果的だ。
この連撃を躱すのは、見た目のシンプルさ以上に辛い。
一撃目の回避で体勢を崩せば、二撃目に確実に捕まるだろう。
ハルベルトの間合いでこれをやられると厄介この上ない。
欠点であるはずの重量は、高い腕力のせいでむしろ破壊力へと変換されている。
的確だ。
読めたところで簡単に反撃に移ることが出来ない。
これを繰り返せば、受ける側は間違いなく消耗する。
(//‰ ゚) 「よくわからンが、頭数が増えるなら歓迎だ」
サイボーグの放つ、袈裟斬りの鎌鼬。
ブーンに意識を向けていた猪の脇腹を狙う。
だが、腕だけで強引に振るわれハルベルトがこれを迎え撃った。
空気とは思えぬ甲高い残響と共に鎌鼬が爆ぜ、周囲に小さな刃をまき散らす。
猪の体表に無数の傷が出来たが、直撃とは雲泥の差だ。
ついでにいくつか、傍にいたブーンも巻き添えを喰らった。
(//‰ ゚) 「別にオルトロスはどうなってもいいンだろ?」
〈;;(。个。)〉 「特に気遣う必要はない」
( ;^ω^) 「くぅ〜〜〜」
-
獣の如く跳ねて距離を取るブーン。
半端な間合いは危険だ。
一太刀目の手応えから言って、懐へ潜り込んでも活路はない。
ブーンが攻撃圏内から離れた途端に、猪はサイボーグへと突進。
右腕一本でハルベルトを振りかぶり、左腕の木を増量し盾の如く構える。
猪、叩きおろしの一撃。
ヨコホリは右腕を刃に合わせ力を僅かに反らす。
見事だ。斧は地面を深く抉り、ヨコホリには当たらない。
自ら作り出したこの隙に、ヨコホリは流した体を予備動作に繋げ、魔法を発動する。
対する猪は、この攻撃を読んでいた。あるいは、超速で反応した。
鋼鉄の腕が振るわれ始めのその一瞬に、開いていた左腕をコンパクトに振るう。
この視界の外からのジャブはヨコホリの脇を捉え、軽々と弾き飛ばした。
水切石の如く地面を跳ね、四つん這いで止まるヨコホリ。
赤黒い唾液が、その口からぼたぼたと零れる。
〈;;(。个。)〉 「……」
黒づくめに仮面を身に着けた男。
特徴を見るに、ツンに聞いた逆さ男であろう。
彼は身体強化の魔道具である指輪を発動し地を蹴った。
付随するように、鎌のような刀を持った女も猪の死角へと走る。
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〈;;(。个。)〉 「!!」
正面切って迫る逆さ男に対し、猪はハルベルトの刺突。
これはフェイク。
本命は先ほどと同じく左腕の追撃だ。
逆さ男は回転し紙一重で回避。
向かって左に流れ、猪自身の腕が作る死角に潜り込む。
猪は逆さ男の位置を予想して左腕を振るった。
これは、狙いの通り。
強引な一発を期待していた逆さ男は、すかさず跳躍し躱す。
飛び立つカラスを思わせる軽い身のこなしで猪の体を蹴り、後ろへ回り込んだ。
猪は反射的に向き直り、ハルベルトを横に振り回す。
しかし、これもまた逆さ男の狙い通りだ。
ハルベルトは空を斬り、代わりに猪の目の前にいたのは、
イ(゚、ナ#リ从 「ァァッ!」
全身の筋肉を隆起させ飛び上がった、剣の女。
剣を両腕で振り上げ、他のメンツに負けず劣らずの剛力で振り下ろす。
鉤になった先端は、甲高い音色と共に見事狙いの眉間へと深く食い込んだ。
それでいても、手ごたえがない。
ほぼ無意味に終わったことを悟ると同時に、女は剣を離し軽やかに飛び退く。
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女の着地を待たず、再び逆さ男が前へ。
ハルベルトギリギリの間合いで跳躍の予備動作を取る。
直前何度かの経験で飛翔からの展開を警戒し、猪の意識が上へ向いた。
その一瞬を、逃さない。
逆さ男はやや屈んだ姿勢からそのまま懐へすべり込み、密着する窮屈な間合いから、
〈;;(。个。)〉 「ふッ」
真上、猪の顎へと脚甲を突き上げる。
力だけでなく、恐るべき柔軟性だ。
不意のこの一撃に、猪は巨体を、僅かではあるが仰け反らせる。
(//‰ ゚) 「ガァァッ!!」
この好機に飛び込んだのは、再起したヨコホリ。
目を剥き血走らせ、余剰魔力が煙となって吹出す右腕を、大きく振り上げる。
もはや魔法の間合いでは無い。
放たれた真空の大剣は爆発と違うほどの轟音を持って、猪の体を肩口から真っ二つに切り裂いた。
衝撃で割れた体内に、内臓が覘く。
猪の悲鳴は音にはならず、代わりに真っ黒の血反吐を吐き出した。
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膝から崩れる猪。
まだ、絶命はしてはいない。既に再生が始まっている
一切の油断なくサイボーグが追撃へ。
魔法の巻き添えを避けていた逆さ男と剣の女の両名も前へ出る。
しかし。
ξ#゚⊿゚)ξ 「“シュート=インパクト”!!」
〈;;(。个。)〉 「?!」
ツンの放った衝撃波の魔法が、サイボーグの足を止めさせ。
その間にニョロの放った嵐の魔法がイナリと逆さ男を巻き込んで吹き飛ばす。
機敏な反応でダメージを避けた二人だが、代わりに大きく距離が開いた。
(//‰ ゚) 「グッ?!」
体勢を崩したサイボーグへツンは自ら飛び込む。
魔法を発動し、加速した足の裏でその横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。
ブーンが見た限りでも二度目。マリオネットのように体を歪ませながら吹き飛ばされていく。
(//‰ ゚) 「……ナァァンのつもりだァァ、ディレェェトリィィィ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ィシさんを、やらせたりはしない」
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( ^ω^) 「……」
魔女の魔力によって生み出されたであろうこの猪の能力を探るべく。
そしてツンの「味方」という発言で様子見を決め込んでいたブーンだったが、改めて剣を握りなおす。
ツンは、正直なところ思慮深い性格では無い。
直情的だし、すぐ突っ込むし、後先考えないし、もうちょっと脳みそに仕事させてほしいと思うことが何度もあった。
だがしかし、今現在、生半可な覚悟でこの選択肢を導き出したわけでないだろうことは、分かる。
その意志を、できれば踏みにじりたくはない
無論、だからといって魔女の関わった「力」に対する警戒心を捨てたわけではない。
(;'A`) 『……できうる限り、元に戻す方法を考えてみる……だが……』
ただし、猪の力の矛先が、しかるべき目標を見失ったその時は、容赦は出来ない。
制御を失った強大な力が一体どれほどの被害を生むか、ブーンは嫌というほど知っている。
ξ゚⊿゚)ξ 「ィシさん、そいつは、ブーンは敵じゃないから、攻撃しなくても大丈夫」
ブーンが一歩近づいただけで腕を突き出し、木片を放つ動きを見せていた猪、ィシ=ロックス。
ツンのその一言を聞き、僅かに逡巡する間を置いて腕を下した。
少なからず驚く。
ここまで変貌してなお、人語を理解し行動を律する精神が残っているとは。
-
〈;;(。个。)〉 「厄介な展開になったな」
イ(゚、ナリ从 「だから早めにあいつぶっころべきだった。だんちょのせい」
爪;'ー`)y‐~ 「やははは、厳しいね……でもまあ、人間相手なら俺も役には立てるかな」
ィシを挟み、ツンはサイボーグと、ブーンは逆さ男、剣の女イナリ、そしてだんちょ、フォックスと向かい合う。
単純な数では三対四。現状のィシが超人の能力を持っていることを考えれば、不利なバランスでは無い。
危惧すべきは、ィシがどこまで味方でいてくれるか、だ。
現段階ではブーンやツンに危害を加えることは無いが、魔女の力に飲まれている以上安心するべきではない。
いざというときはィシ、ヨコホリたちの双方からツンを守らなければならなくなるだろう。
ィシの雄叫び。
ぱっくりと体を割いていた傷はもう修復が済んでいた。
あの咄嗟の一瞬に正中線を躱していたのは、この再生力を自ら知らなかったのか、それとも。
人間だったころの名残といえばそうかもしれないが、注視しておく必要はありそうだ。
ブーンはドクオに猪の観察を任せ、逆さ男たちにククリを突き出した。
〈;;(。个。)〉 「……貴様、大五郎には関係ないと聞いていたが」
( ^ω^) 「大五郎の関係者では無く、この場を見かねて飛び込んだ正義の味方ってことで頼むお」
〈;;(。个。)〉 「……正義か。嫌味な言葉を使う」
( ^ω^) (この臭いは……)
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イ(゚、ナリ从 「だんちょ、煙早く!!」
言うが早いか、イナリが前へ。
剣はィシが引っこ抜き、明後日の方へ投げ飛ばしていたが、拾う気はないらしい。
太腿のホルダーに差してあった投具を抜き取り、近い間合いから振りかぶって投げつける。
ブーンは冷静に射線を見切り、ククリの先端を合わせて弾く。
軌道をずらされた小型の刃は錐もみ回転しながら森の中へ消える。
進行方向を横に変え、イナリがもう一本の投具を放つ。これもブーンは最小限の動きで弾いた。
この間、逆さ男が弧を描いて接近。
ィシとブーン、どちらも狙える位置を取っている。
ちらりと後方を確認するブーン。
ィシはその場から動かず、ヨコホリを木片で狙撃。
ツンは巻き添えを食わぬように横へ流れながらヨコホリに格闘を挑んでいる。
ヨコホリを二人に任せ、自らは逆さ男へ。
迷いなく顎を砕きに来た前蹴りを、仰け反って避ける。
当たれば口中の歯列ごと砕かれるだろう。表情には出さないが、背筋に冷たい電流が走る。
振り切られた男の足は、引き戻されるかと思いきやブーンの左腕に絡みついた。
腕の上側にふくらはぎを乗せ、角度と足首のひねりで、つま先だけを下側に回し込み引っ掛ける。
蹴りを放った後とは思えない精密な動作。
ブーンが右手のククリを振るおうとするよりも早く、逆さ男が右足に体重を乗せた。
絡めとられた腕を押し下げられ、肩の関節が悲鳴を上げる。
-
( ;^ω^) 「?!」
ブーンが何とか押し返そうと力を込めた瞬間に逆さ男は体を後ろへ倒す。
自らの力も利用され、ブーンはあっさりと引きつけられた。
巴投げの要領。
咄嗟に判断し、何とか堪えようとしたブーンの鳩尾を、軸足であったはずの左足が蹴り抜いた。
重さは、それほどではない。それでも一瞬意識を白濁させるには十分。
左足の爪先はさらに食い込み、ブーンの体を持ち上げる。
地面に肩を突き、全身のバネで足を振り切った逆さ男の力に空中で逆らうこともできず。
落ち着きのない空中浮遊を楽しむ暇も無く、離れた木の根に直接叩き付けられた。
(;'A`) 『足だけの投げ技なんて初めて見た……』
( ;^ω^) 「……喰らってみる?」
(;'A`) 『また今度ね』
小ボケを楽しむ余裕すら逆さ男は与えない。
地面に肩をついた姿勢から、腕の力でクルリと体を向き直し、起き上がる勢いでそのままブーンへ接近する。
体操選手かよ、死ね。という悪態もそこそこ、ブーンもダメージ色濃く残る体で迎撃を体勢を取った。
その向こうで、イナリが落ちていた手斧を拾い、ィシへ向かうのが見える。
-
逆さ男のスタイルはブーンが今までかつて体験したことの無い型だ。
負ける気はないが、楽勝というには今のブーンでは苦しいだろう。
(;'A`) 『ブーン、仕方ねえ使え』
( ^ω^) (……僕も、そう思ったところだお)
小さな踏み込み。
ククリの先端を土に食い込ませ、撒き上げる。
逆さ男は舞い上げられた土を、体幹の回転で円の軌道を描き回避。
この僅かに稼いだ時間に、ブーンは逆へ距離を取る。
そして右手の袖をまくり、手首を露出させた。
太く力強いそこに嵌っていたのは、大きな銀のブレスレット。
ドクオの師の元にあった、魔道具の一つ。
形態としては星。現在封じられている魔法は。
( ^ω^)( 'A`) 「『“我、永遠喰らう者―――汝を、蹂躙す”!!』」
ドクオが使える中で、最も効果の高い身体強化魔法。
腕輪から吹き出した炎の帯がブーンの体にまとわりつき、全身の筋力を増強してゆく。
初手を取ろうと蹴りを構えていた逆さ男は、咄嗟に距離を取る。
ブーンから溢れだす圧力が、普段の比では無くなっていた。
本人からすれば、本来の能力にもまだ至らない、不完全なものではあるが。
-
(;'A`) 『副作用は相変わらずだ。無理はすんなよ』
( ^ω^) 「……お」
ゆらりと、ブーンが前へ。
余計な力が篭っていない。
力む必要が無いからだ。
〈;;(。个。)〉 「?!」
( ^ω^) 「杉浦双刀流変式一刀の型―――」
ブーンが気配を消す。
逆さ男程の相手に使うには、動揺の見える今しかない。
軽やかに地を蹴り、間合いを詰める。
逆さ男は既にブーンへ意識を戻していた。
だがそれは、早いが、遅い。
( ^ω^) 「“攫い百舌鳥”」
左脇へ居合抜きの構えから放たれたのは、左の貫き手。
当然斬撃を回避する意識であった逆さ男は面食らう。
後退し身を捩じって交わすも、反撃を放つには不十分な姿勢へ。
ブーンの動きは止まらない。
貫き手を放った勢いのまま、一回転。軸足が瞬時に入れ替わり、重心が滑らかに移動する。
-
〈;;(。个。)〉 「……くッ」
回転を活かした振り上げから、倒れるような踏み込みによる音速の斬撃。
逆さ男はこの一太刀を強引に避ける。
完全にとはいかない。先端が服と皮膚を浅くではあるが、切り裂いた。
( ^ω゚) 「ッ」
細く糸を引く逆さ男の血液。
ブーンは振り切ったククリをすぐさま引き戻し、獣を思わせる荒々しさで間を詰める。
逆さ男は崩れた体勢から前蹴りを放つが、ブーンの反応はそれを軽く回避。
腹の脇で蹴り足を掴まえ、そのまま強引に推す。
もはや崩れ切った体勢の逆さ男の体はいともたやすく浮き上がった。
ギリギリと足を締め付ける剛力は、脚甲が無ければ骨を折るほどだ。
地面に逆さ男を叩きつける。
足を離さぬまま押さえつけ、ククリを首を断つ形で一文字に放つ。
逆さ男はこれを腕で防御した。
袖の中のロンググローブに仕込んだ鉄板が切断を防ぐ。
( ω゚) 「ッ!!」
連続で、頭へ向かって振り下ろされるククリ。
逆さ男は辛うじて鉄板で受け、致命傷を防ぐ。
ブーンの動きは振るうというよりも、鍔元で殴りつけるような直線の動き。
勢いはないが、増強された身体能力により、すさまじい音が鳴り響く。
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このまま逆さ男が惨殺されるのは時間の問題かと思われたが、ブーンが何かに気づき逆さ男を解放した。
野性的な動きでその場を飛びのき、一気に距離を取る。
ブーンがマウントを取っていた逆さ男の上を、鞭のような青白い何かが揺らめく。
それは細く伸びる煙の筋であった。
爪;'ー`)y‐~~ 「いやぁ、待たせたね旦那。生きてる?」
〈;;(。个。)〉 「……この通りだ」
フォックスの魔法の煙が糸のように逆さ男の周囲を囲む。
具体的な効果はわからないが、危険な臭がプンプンする。
(;'A`) 『大丈夫か、一瞬飛んでただろ』
( ;^ω^) (……すまん……お、どうも、火の強化魔法は苦手だお)
(;'A`) 『興奮の副作用がお前には厄介すぎるな……辛いようなら解除しろよ』
( ;^ω^) (魔法なしでやるには、相手がちょっと悪いおね……)
爪'ー`)y‐ 「さーて、あんたも大概人外の臭いがするけど俺の魔法は効くのかな?」
煙が意志を持って揺らめく。
速度は無いが、確実にブーンへ迫っていた。
-
(;'A`) 『魔法毒……いや、色が薄いな……精神干渉……』
( ;^ω^) (当たったらどうなる?)
(;'A`) 『……たぶん、無傷で倒れている奴らと同じ感じに』
( ;^ω^) (囲まれちゃったネ)
(;'A`) 『……ブーン、代われ策がある』
( ;^ω^) (……)
(;'A`) 『先生のタリズマンがある。簡単にやられたりはしない』
返事もそこそこにブーンの姿がドクオへと変わる。
フォックスは僅かに驚きを見せたが、逆さ男はすぐに対応。
魔法を使わせまいと一気に間合いを詰める。
(;'A`) 「“―――盾よ”!!」
ドクオの詠唱に呼応したのは、胸元に下げたタリズマン。
元から持っていた月の他にもう一つ、小さい指輪が括り付けられている。
弱い斥力効果を持つだけの障壁魔法式が刻まれた大地の。
魔力に適合性があるドクオしか使うことが出来ないが、発動スピードは他の魔法を圧倒的に凌ぐ。
-
躍りかかる逆さ男の前に表れた六角形の障壁。
突然のことに避けきれず触れた彼の体は、眩しい発光と共にはじき返される。
逆さ男を一旦撃退するだけの任を全うして、障壁はすぐに消え去った。
爪'ー`)y‐~~ 「よくわからないけど、仕留める方向でいいんだね」
様子見で漂っていた煙がドクオへ迫る。
これに関しては物理面に重きを置いた盾の魔法では対抗できない。
既に――まだドクオであれば抵抗できるレベルではあるが――魔法が浸蝕してきている。
ドクオは逆さ男に意識を配りながらも、煙の薄い方へ走った。
あからさまな誘導だ。それにはドクオも気づいている。
しかし、なんにせよ間合いは詰めなければこの策は成り立たない。
(;'A`) 「“盾よ”!!」
〈;;(。个。)〉 「……ッ」
迫る逆さ男を足止め。
盾を複数同時に生み出して、横への移動も制限する。
爪'ー`)y‐~~ 「お兄さん、戦い方がせこいねえ」
(;'A`) 「お前みたいなタイプには言われたか無いね」
爪'ー`)y‐~~ 「まあ、それも終わりさね」
-
煙は、完全にドクオを囲んでいた。
しかし、まだやられるとは限らない。
精神干渉の魔法などは、魔法使いなど魔力の扱いに長けた者ならば抵抗することが出来る。
万全である今のドクオであれば十分耐えられるはずだ。
その隙に手に持ったククリでぶん殴れば勝てる。
格闘は苦手だが、今は筋力がちょっと増しているし、強化魔法の効果もあるので十分効く、と思う。たぶん。きっと。恐らく。お願い。
爪'ー`)y‐~~ 「言っておくけど、我慢なんてしない方がいい。辛いだけだ」
ドクオが耐えようとしていることを、フォックスも当然見抜いている。
だからこそ、拡散した煙で襲うのではなく、自らの近くまで誘い込んだのだ。
フォックスの手に現れた、濃密な煙の剣。
単に濃いだけでなく、追加の魔法式によって効果が大きく上昇している。
そのためフワフワと漂わせて操ることは困難になるので、扱いは易いようにこうしてまとめているのだ。
(;'A`) 「でえええ!!」
ドクオがダメもとで切りかかる。
しかしフォックスの動きはそれよりも早く、魔法の剣はドクオの胸を横に切り裂いていた。
痛みはない。ただ、ハーブ類のもたらす清涼感に似た冷たさがあった。
頭が一瞬、強く揺さぶられる。
眩暈だ。強烈な、目の前が一時見えなくなるほどの。
-
眩暈の収まったドクオの目に留まったのは、荒れ果てた森の中の風景では無かった。
フォックスも、逆さ男も、分かれて戦っていたツンたちの姿も無い。
背の低い草が茂るなだらかな丘と、収穫され幹だけになった桑の畑が広がっている。
最近も立ち寄った、ドクオの故郷、クシンダの風景だ。ただ、少し古い。
フォックスの術に嵌った。そう判断した思考すら、すぐに意識の中から消え去った。
ドクオの立つ丘の頂上へ、誰かが歩いてくる。
女性だ。ロングのスカートに濃紺のカーディガン。手には食料品の入ったバスケットを持っている。
風が草を、スカートを靡かせた。ドクオは彼女のことを、よく知っている。
(;'A`) 「先生、ダメじゃないですか、町へ下りたりしちゃ」
川 ゚ -゚) 「大丈夫だよ、今日は体調がいいんだ」
(;'A`) 「そんなこと言ったって、もし何かあったら」
川 ゚ -゚) 「ふふ、ドクオは心配性だな」
女性の、先生の手がドクオの頭を撫でた。
まだ十代の前半で、その上発育の悪いドクオの頭は、女性の先生にも見下ろされる位置にある。
それが一人の男としてはもどかしいし、同時に優しく頭を撫でられることにこの上ない幸福を感じてしまう。
川 ゚ -゚) 「今日は、ドクオの好きなチキンのマリネだ」
(*'A`) 「本当ですか?やった!!」
痩せた先生の体に寄り添い支え、ドクオは暮らす家へと帰る。
これから口にするであろう、先生の美味しいマリネの味に、期待を膨らませながら。
なぜだか失ってしまったような気がしていた幸せを、じんわりと噛みしめながら。
-
爪'ー`)y‐~~ 「ふぅー。魔法使い相手にも効いてよかった」
〈;;(。个。)〉 「落したのか」
爪'ー`)y‐~~ 「ああ、念入れて強力にしたから、もう戻ってこられないかもしれないけど」
〈;;(。个。)〉 「……」
爪'ー`)y‐~~ 「ま、心地いい夢を見ながら死ねるなら、幸せでしょう」
〈;;(。个。)〉 「ヨコホリの援護へ行くぞ留めはあとでいい」
爪;'ー`)y‐~~ 「ちゃー、俺で役に立てるかねぇ……」
地面に膝を突き、ぽろぽろと涙をこぼすドクオ。
その意識は既になく、逆さ男が触れても何の反応も見せなかった。
魔法使いの方であれば耐えられる可能性があると考えたようだが、無意味だったなと、逆さ男は息を吐く。
言葉の通り、逆さ男とフォックスは激しい戦闘を続けるヨコホリたちの方へ。
逆さ男が前に出て、フォックスが後方で援護の陣形。
( ^ω^) 「―――無刀の型」
爪;'ー`)y‐、~ 「?!」
( ^ω^)「“囚人殺し”」
-
油断しきっていたフォックスの背中。
肋骨の隙間に、ブーンの両拳から突き出した中指が食い込んでいる。
声にならぬ嗚咽を漏らしながら、フォックスは地面に倒れた。
四つん這いの姿勢で何とか息をしようとしているが、無駄だ。
突き抜けた指の刺突は、肺に著しい損傷を与え、しばらくの呼吸を奪う。
漂っていた煙が中空に消えたのに僅かに遅れ、フォックスも泡を吹いて意識を失った。
〈;;(。个。)〉 「貴様、フォックスの術に……」
( ^ω^) 「かかったのは、ドッグの方。僕は問題無いお」
ドクオの策は、これだった。
精神、つまりは脳に干渉する術ならば、その後に入れ替われば、もう片方には影響がない。
ブーンとドクオは合成され、神感応系の魔法によってリンクはしているが、存在としては個別のままなのである。
入れ替わった後でもそれぞれに自我を保っていられるのがその証拠だ。
故に、この特性を活かし、ドクオを囮にして無力化されたと思い込ませ、隙を作り。
ブーンがどちらでもいいから、討つ。
その作戦は見事に決まった。
問題があるとすれば、深層に引っ込んだドクオの意識が未だフォックスの術に囚われたままだということだが。
-
( ^ω^) (ドッグ。ドッグ…………ダメか)
フォックスの首根っこを掴み、巻き添えを喰らわないように投げ飛ばす。
逆さ男は再びブーンを攻撃の対象として構えていた。
奥に見えるツンとィシの戦闘はほぼ五分か。
ィシは強いが、魔女の呪具により著しく知性を欠損している。
無意識レベルまで体に刷り込まれた技は使うことが出来たとしても、連携や罠への対処はどうしても直感や本能便りになっていた。
それでも十分恐ろしい性能を持っているが、ヨコホリの性能もまた人外の域にある。
( ^ω^) (……追い詰められて完全に自我を失う可能性もある……早めに援護したいけれど)
テンポよくステップを踏む逆さ男。
ここまでの地に足をつけた安定感のあるスタイルから一転、軽やかに小刻みな跳躍を繰り返す。
( ^ω^) (斬る気で行かなきゃ、推し負ける)
腕輪の魔法の効果はまだ続いている。
効果が切れてしまう前にせめて逆さ男を倒さなければ。
もう一回残ってはいるが何度も使いたい代物では無い。
〈;;(。个。)〉
睨みあうこと十数秒。
逆さ男が助走をつけるような無防備さでブーンに駆け寄る。
この力みのなさに、逆に強い警戒を覚えた。
-
逆さ男の体がふわりと浮き上がり、右の回し蹴りを放つ。
頭を狙ったこれを、ブーンは伏せて躱した。
逆さ男は振り切った右に次いで、左の逆回し蹴り。
コンパクトな振りで顔面を狙いに来る。
ブーンはあえて回避せず、腕を折りたたむようにククリを振り上げた。
盾として構えられた刃と脚甲がぶつかり合う。
衝撃が体を突き抜け地面にまで届くが、なんとか耐えられない重さでは無い。
狭い間合いから弾かれたのは逆さ男。
馬力についてはやはりブーンに分がある。
さすがに微動だにしないというわけにもいかなかったが想定の範囲内だ。
ブーンが体勢を整えるのと、逆さ男の着地はほぼ同時。
挙動の速さは、僅かに逆さ男が先行した。
体を屈めた状態から一歩踏み込み、足に力を溜める。
体が浮くその瞬間を狙うため、ブーンはククリを脇に構えた。
しかし、目の前にいたはずの逆さ男の姿が、消える。
逆さ男は跳躍と全く同じ予備動作から、膝を折り地に伏せたのだ。
単純なフェイクではあるが、刹那の判断を繰り返す中では絶大な効果を発揮する。
下方への意識が薄れていたブーンの足を、鞭のような蹴りが刈り取りにかかった。
-
間一髪。
跳躍による回避が間に合う。
蹴りを見たわけでは無い。
逆さ男の攻撃へ対応するためにとりあえず距離を取ろうとしただけだ。
伏せ、地面に着いた両腕を軋ませ、逆さ男は体を持ち上げる。
慣性に腕力を追加し、逆さまの状態から跳躍。
体の上下を捻って戻しながらの、乱気流の如き連続の回転蹴りでブーンを襲う。
予想外の位置からの追撃にブーンはさらに後退。
重さと速さを兼ね備えた逆さ男の蹴りは、たとえ身体強化された今であっても迂闊に手を出せない。
着地の瞬間を狙い、ブーンは前へ。
空中で既に体勢を整えていた逆さ男は、着地と同時に先手を打つ。
折り曲げ引き上げた足を延ばし振り上げるだけの、素早い足刀。
ただし、ブーンはこれをいなす十分な体勢を整えていた。
( ^ω^) 「“陽炎送り”」
前へ出る姿勢から一転、半歩後退しながら、左の手刀を合わせての受け流し。
自身の力を付与し、上へ力を流すことで逆さ男のバランスを大きく崩す。
軸足の浮き上がったところを軽く足で払うと、逆さ男の上下は簡単に入れ替わった。
-
地面に背中から落ちる。
咄嗟に頭を強打させることは防いだが、それでもダメージはあった。
だからと言って落下の衝撃に呻く暇はない。
ブーンは、四股を踏むように大きく足を振り上げた。
逆さ男はすぐさま横へ転がる。
地面に叩き付けられたブーンの足を何とかやり過ごした。
そのまま数度転がり、勢いづけて立ち上がる。
半端な姿勢のところへブーンが切りかかるが、背後へ後転し刃を躱す。
〈;;(。个。)〉 (……)
( ^ω^) 「!」
闘志を高め、踏み込もうとしたブーンの動きが止まる。
互いの闘気とは異なる感覚が二人を襲い、ビリビリと肌が痺れた。
瞬間的な判断で、ブーンと逆さ男は距離を取る。
二人のいた、丁度中間の付近に、巨大な木片が落下し突き刺さった。
ィシの持っていたハルベルトだ。
腕ごともぎ取られ、ここまで吹き飛んできたのだろう。
( ^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「どうやら、いつまでも小競り合いをしている場合では無いようだ」
-
ィシたちへ走る二人の視線。
自分たちの戦闘に集中するあまり、ほとんど気にかけることが出来ていなかった。
腕を吹き飛ばされたィシに、ヨコホリが迫っている。
巨大な木槌と化した左腕での迎撃は空を切った。
頭を下げ、腰元に右腕を構えていたヨコホリ。
体を起こすと同時に、開いた掌でィシの体を撫で上げた。
無論、ただ触れただけでは無い。
指先に生み出された鎌鼬が、ィシの体を駆ける。
大きく、深い。
さすがの巨体も、風の猛襲に揺らいだ。
(//‰ ゚) 「……」
振り上げた腕を、捻り腕甲を開く。
瞬く間に内部のタリズマンを差し替え、閉じた。
手早く、流れるよう。手の平は既に、バランスを立て直したィシへと向いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさん!!」
連射された五つの風の榴弾。
二つはィシが左腕で防ぐ。
頑丈な腕は、表面を砕かれ罅を走らせたが、破壊しつくされることは無い。
しかし。後続の三つはヨコホリの操作によって防御をすり抜け、体へと直撃する。
-
ただ当たっただけならば、問題は無かった。
通常よりも強固な体は、このレベルの砲撃であれば十分に耐えられるのだ。
しかしながら、風の砲弾が捉えたのは鎌鼬によって切り裂かれた体のその深部。
そうなれば、話は変わる。
くぐもった爆音。
木片が爆ぜて飛び、ィシが悲鳴を上げた。
狭い裂傷の中で行き場の限定された爆風は、体表よりも脆い内部を荒々しく蹂躙する。
大きく抉れた肩口が、腕の重みでさらに引き裂かれる。
再生を始めようとしたそこへ、ヨコホリは再び砲撃をおこなった。
既に破壊を受け強度を下げた体は、木端へと変貌する。
ィシはすさまじい雄叫びをあげ、鋭い木片を周囲へとまき散らし反撃する。
威力はそれなりだが、急所でも無ければ当たったところで死にはしないだろう。
一応は味方であるブーンの目から見ても、ただの悪あがきであった。
木片は、ただ悪戯に周囲の戦闘不能の者たちばかりを傷つける。
ブーンも含め、動ける者たちは皆弾くなり回避するなりして無傷だった。
(//‰ ゚) 「面倒な力だったが、これならまだ、人間のままの方がヤバかったゼ、糞ババア」
大きなゴミを片付ける。
ヨコホリの顔に見えたのは、そんな気だるさだった。
既に勝負は着いたのだ。あと数発魔法を叩き込めば、胴を遺しただけの体は容易く破壊されるだろう。
-
しかし、絡まり合ったィシと魔女の怨念は。
それほど容易い存在ではなかった。
(//‰ ゚) 「?!」
何者かがヨコホリの腕に飛び掛かる。
直後放たれた魔法弾は目標をそれ、地面の土を頭上高く舞い上げた。
( ^ω^) (危惧していたよりも、不味い事態かも……)
ヨコホリの腕にしがみついていたのは、禁酒党の兵士だ。
ィシに屠られ、死んだはずの、いわば死体である。
それが動き、あまつさえ味方であるはずのヨコホリの攻撃を妨害した。
敵味方問わず、戦慄が走る。
死体であるはずの彼がなぜ動いたのか、一目でわかったからだ。
彼の頭には、木片が突き刺さっていた。
そこから根が伸び、申し訳程度の葉をつけた枝も生え始めている。
先ほど木片をばら撒いたのは、生きている者を殺すためでは無かった。
既に死んだものを、蘇らせるためだったのだ。
〈;;(。个。)〉 「……ッ」
放置されていた死人たちが、次々と立ち上がる。
逆さ男たちの味方ばかりでは無い。
禁恨党の兵士たちも分け隔てなく、体に木片を宿している。
逃れたのは、ブーンが投げ捨てたフォックスと、ツンが木の陰に隠した瀕死の青年のみ。
-
(//‰ ゚) 「チィッ!!」
ヨコホリが腕を真上へ振り上げた。
しがみついていた一体は、払われ空中に投げ出される。
そうして何も出来ぬまま、放たれた風の榴弾二発により胴を破砕され、頭のみで地面へと帰る。
小刻みに痙攣していたが、再び回復し動き出すことは無く。
そのまま動きを停止した。
(//‰ ゚) 「どこまでも、どこまでも胸糞の悪ィ呪具だ」
一斉に飛び掛かる、元禁酒党の兵士たち。
ただ単に雇い主が同じだけのヨコホリに、容赦はない。
魔法で、拳で、次々と粉砕する。
彼らは体を一部破壊した程度では死ななかった。
一体目同様体を完全に破壊しつくすか、頭を吹き飛ばしてやっと活動を止める。
不死身ではないが、厄介な性質だ。
恐らくは、彼らの動きはィシが統率している。
ヨコホリの援護に向かおうとしていた逆さ男にも、二人が割り振られた。
口をだらしなく開き、体に根を張り巡らされた兵士。
容赦は情けにならぬとばかり、一瞬で鋼鉄の足がその頭を蹴り飛ばす、
残りの一体は急激な伏せからの足払いで転倒させ。
跳躍から頭部を踏み砕く。どちらもしばし痙攣したのち、再び死体へと戻った。
-
イ(゚、ナリ从 「逆さ!!だんちょ!」
〈;;(。个。)〉 「ッ、向こうで伸びている」
イ(゚、ナリ从 「こういうときこそ出番だろやくたたづ!!」
両手で持った手斧で、目の前に迫った一体の頭部を斬り砕くイナリ。
木化した体表と、肉のままの脳がまぜこぜに飛び散る。
( ^ω^) 「……」
どうする?
ィシの攻撃対象は、未だ根絶法側の人間に留まっている。
傀儡化した死体達も、戦闘に用いているのは敵側の物ばかり。
禁恨党のメンツたちはィシの周囲に集まり、少なくとも捨て駒としては使われていない。
意志はどこまで残っているのか。
仮に残っていたとして、ここまで人外化してしまっているこの状況、何とかできるものなのか。
魔法専門のドクオの意見を聞きたいところではあったが、未だ戻っては来ない。
-
ブーンが迷いを捨てきれない中、ィシが新たに生やした細い腕で、兵士の一人を掴み上げた。
少女がお気に入りの人形を抱くような優しさとぞんざいな扱いで胸に押し付ける。
魔法使い風のその兵士は力なく四肢を垂らし、そのまま、
( ;^ω^)
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ……」
つるりと、ィシの体の中に飲み込まれた。
胸の中心に巨大な洞が開き、それがまるで口のように喰らったのだ。
その行動に思考が停止する間にも、兵士たちは次々とィシに取り込まれて行った。
ただ単に吸収して、体を肥大化させているわけでは無い。
胃が動くのと同じく、ィシの体がポンプのように収縮する。
同時に、一番最初に取り込んだ兵士の顔が、ィシの胸の中心に表れた。
一人に留まらず、取り込まれた物が次々と、木が芽吹くのと同じくィシの体に頭を生やす。
( ;^ω^) (解説のドクオさーん!ドクオさーん!)
相変わらずドクオからの応答はない。
ドクオだからといって状況を理解できるとは限らないが、少なくともブーンよりは適応できるはずだ。
現時点で、ブーンが考えられることとと言えば、頭をどの順番で叩き潰すかくらいのことである。
-
(//‰ ゚) 「なァ逆さ、面倒になった。逃げていいか?」
〈;;(。个。)〉 「死ぬまでここにいろ」
(//‰ ゚) 「ゲェー」
〈;;(。个。)〉 「……この有様を見ても、まだそちらに与するのかオルトロス!!」
( ;^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「今はヨコホリへの敵意があるからまだ無事だが、此奴が街に下ったらどうするつもりだ」
(//‰ ゚) 「この傀儡の能力を街中で、それも脳筋バカどもが山ほどいる場所で使われたら手が付けられねえな」
逆さ男の言葉は、彼らが襲撃者側であるという前提を除けば、正当であった。
殺しても死なず、むしろ再生の度に周りを巻き込む。
今は僅かに残った自我か怨念かでヨコホリへの攻撃が中心になっているが、いつまで続くかわからない。
もしヨコホリが死ぬか、上手く逃げおおせたとしたら。
この暴威の矛先は、一体どこに向かうのか。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン?」
ツンの肩口には、イナリの投具が突き刺さっていた。
恐らく彼女の乱入によってィシを援護しきれなくなったのだろう。
-
( ^ω^) 「……ツン、この人は、多分もうだめだ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
( ^ω^) 「僕は魔女の力が人を傷つけるさまを、これ以上見たくない」
ξ; ⊿ )ξ 「……ィシさんはまだ、魔女の力に飲まれてなんかいない」
( ^ω^) 「……」
ィシの兵士吸収は、すでに終わっている。
異様な、異常な光景であった。
ヨコホリに破壊される前よりも一回り大きくなった体に、ィシ本来の物を含めて頭が八つ。
一つ放った咆哮に合わせ、全ての頭の目が開いた。
魔力由来の朱い光が穏やかに輝く瞳。
少なくとも、もう人では無い。
ξ ⊿ )ξ 「……そもそも!」
-
ξ# ⊿)ξ 「そもそもあんたたちのせいじゃない!!闇雲に人を殺して!!追い込んで!!」
〈;;(。个。)〉 「……」
ξ#゚⊿゚)ξ 「あんたたちがいなければ!ィシさんがこんなことになることも無かったのに!!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「それを今更!人を気遣うような言葉を吐いてッ!!!」
ツンの叫びに、ィシの咆哮が被さった。
失ったハルベルトの代わりに、腕から木製の剣を生やす。
切れ味はよくなさそうだが、鈍器の役目も果たすと考えれば、十分武器になりうるだろう。
完全にプッツンしてしまったツンは、ナイフを構えィシの前に立ちはだかる。
本気であることは目を見ればわかった。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン。あんたが、魔女の力を嫌っているのも、倒すために旅しているのも、知ってる」
ξ#゚⊿゚)ξ 「だけど、ごめん。ィシさんが私の背中を攻撃するその瞬間まで、私はィシさんの味方をする」
( ^ω^) 「……そうかお」
ツンの体を風の鎧が包む。
ニョロも彼女の怒りに同調するように口を大きく開いた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「……かかってきなさいよ糞野郎ども!!全員、ぶっ飛ばしてやるわ!!!」
-
ここまでっす
続きはまた年内を目指して
ではまた
-
乙でした! あと質問の回答ありがとうございます
激闘に次ぐ激闘に毎回興奮させてもらってます
杉浦双刀流の新技も密かな楽しみです
-
ドクオードクオー起きてー!
-
ィシが元に戻れることを願う!
-
乙、ヨコホリくっそ強いな
やばすぎだろ
-
ィシさんは最後に人として逝けるのかな…
-
ツンのヒロイン力がすげえ、かっこいい
乙
-
これで本来の能力に至らないとか
ブーンも相当化け物やでぇ
-
乙。純粋な一対一なら猪に勝てるレベルなのかヨコホリ
-
乙
杉浦双刀流のまとめが欲しくなってきた
10種類ぐらい出てきてる気がする
-
横堀とブーンが頭ひとつ抜けてる感じか
あと
>>192
この前抜けてない?
-
>>240
まじや、ミスってんね
>>192の前に↓入ります
(//‰ ゚) 「ったく、とんでもネエぜこりゃァ」
ヨコホリが右腕を眼前に構え、勢いよく手首を甲側へ倒す。
それに連動し静脈側の装甲がパカリと開いた。
溢れる蒸気でぼやけるその内側に、生身の肉体は無い。
代わりにあるのは、複雑に編み込まれた金属繊維の筋肉と、その中心に突き刺さった四角い何か。
恐らくはタリズマン。ヨコホリは左手でそれを抜き取ると、口に咥え。
代わりに懐から取り出した同じ形状のものを、同じ場所に差し込んだ。
開いた時を逆回しにした動きで腕の装甲を閉じると、調子を確かめるように腕をぐるぐると回す。
(//‰ ゚) 「行くぜェ」
猪に絡みついていた逆さ男とイナリが、大きく飛びのく。
邪魔者が離れ、余裕を取り戻した猪が見たのは、右腕を左に振りかぶるヨコホリの姿。
(//‰ ゚) 「シィィッ!!」
横一線。何もない空間に全力で振るわれたヨコホリの剛腕。
ほんの、瞬き程度も無い間を置いて、巨大な真空の刃が生み出された。
ツンやニョロの扱うのと同じ鎌鼬の魔法だ。
だが威力と範囲の桁が違う。
放たれた荒れ狂う無色の刃は、猪の体を真一文字に切り裂き、
それでも勢い衰えず、背後に、周囲にあった木の幾本かをすっぱりと切り払った。
-
かっこ良いヨコホリのかっこ良い場面が飛んでいたなんてwww
気付かずに読み進めてしまっていた('A`)
-
魔力補充したってことか
-
ω`)ブーンもツンもヨコホリに喰われてるなw
-
(性的な意味で)
-
まだかな
-
横堀と魔女の関係って語られてたっけ
-
ω・)多分まだ
-
> ヨコホリ=エレキブラン。別名、サイボーグ。
> 魔女によって半身を奪われ、代わりにタリズマンを埋め込まれハーフゴーレムとなった元暗殺者だそうだ。
こんくらいだな
-
ω・)流石も気になるな
-
( ^ω^)再開はよ
-
次は年内にって書いてあるが
-
漫画6 いつものうpロダが何故か使えなかったので
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4733303.zip.html
パスは daigoro
-
>>253
毎度ながらのGJ
心なしかブーンさんがイケメンになっておられる
-
そういえば大五郎の漫画をまとめ忘れていたなぁということに気付き、
いざzipを落とさんとURLを踏んだのですが時すでに遅し404を突き付けられました、ブンツンドーです。
>>253
そういうワケありで、たかだか一まとめの都合のために厚かましい申し出だとは思いますが、
もしよろしければ、再度ファイルを上げていただけると大変助かります……。
-
>>255
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4778209.zip.html
パスは daigoro
あけましておめでとうございます
七話の出来は半分程度です 順調に予定より遅れております
それにしてもPHPうpろだは何故zipを受け付けなくなったのだろうか・・・
あまりうpロダを知らないんだが、また流れたらどうしよう
-
>>256
お手数おかけしましてスミマセン、無事に落とせました。
ありがとうございました!
-
o川*゚ー゚)σ゙ 「〜〜♪」
暗く湿った砦の中。
手を濡らしながら何かをこねる少女の姿が、魔法の柔らかな光に浮かび上がる。
薄らと笑みの浮かぶ口から、小さな歌が零れた。
少女特有の甲高い軽やかな声。
それが、世を知り尽くした妙齢の女の静けさを持って空気に広がってゆく。
生きている者の姿は彼女しか存在しない。
死した者の姿は、周囲に山のように積み重なっていた。
川*゚ ,゚) 「……うーん」
d
捏ねていた何かから手を離し、俯瞰から眺める。
ねっとりとした液体に塗れた手を、人差し指をピンと立て口元に寄せ、思案のポーズ。
赤黒い液体は、這いずるナメクジのように、ゆっくりと腕へと垂れてゆく。
川*゚ ,゚) 「もう少し盛った方がいいかな……」
d
川*゚ ,゚) 「でも、バランス悪くなるとなぁ……」
d
川*゚ ,゚) 「……お腹の筋肉ちょっと盛ろう」
d
-
o川*゚ー゚) 「えっと……」
少女の手が傍らにあった死体の山を弄り始める。
亡骸どもは多くが原形を留めておらず、動かされるたびに濡れた音を立てた。
o川*゚ー゚)oζ 「あったあった☆」
笑顔で肉の山から引き抜かれたのは、細長い、蛇のようなものの死骸だった。
あらゆる血にまみれてはいるが、体表には獣の毛が生えそろっている。
少女はおもむろにその蛇の尻尾を掴み、
o川*゚ー゚)o 「えいっ」
牛の乳を絞るかのように優しく、握りつぶす。
汁に浸った麺を啜る音、というと印象に近い。
大きく空いた蛇の口から、“蛇の肉”が勢いよく吐き出された。
少女は逆の手でそれを掴み、手の中に残った細長い袋状の毛皮を後ろ手に放り投げる。
細長い身体は、うっすらと血に塗れ、しかし新鮮であることが分かる色合いをしていた。
皮が無いことを除けば、今にも脈動を始めそうな、生体と違わぬ姿。
少女はその蛇を再び握り、今度は内臓と骨を吐き出させる。
内臓と骨には用が無いのか、残ったぶよぶよの肉を丹念に見て回す。
桃色の肉に、所々筋と脂肪の線が入った蛇の身体。
少女は時々指を振るい、不要である脂肪を丁寧に抉り飛ばしていった。
-
o川*゚ー゚)o 「このまま焼いて食べても結構おいしいんだよね〜〜」
もはやただの純粋な肉となったその亡骸を、丁寧に折り畳み、両手で包むように持つ。
紅葉ほどの小さな手にはいくらか余る量であったが、本人は気にも留めない。
川*゚ ,゚) 「えっと……形は……」
o@o
目の前の大きな何かと、手の内の肉を慎重に見比べる。
何度かそれを繰り返し、やっと目的が定まると。
川*゚ー゚) 「よいしょー」
.`oo 、´
蛇の体を、両手で思い切り握り潰す。
指の間から血が零れ、親指同士の隙間からは、包みきれなかった肉がはみ出している。
ほんのりと魔法の光を帯びる手。
両の掌の中で、蛇だったものがブルブルと震え始めた。
耳に不快な音を立てながら、時々血を吹き出しながら、徐々に小さくなってゆく。
はみ出していた部分も、その過程でちゅるりと掌の中に飲み込まれていった。
o川*゚ー゚)o 「出来た〜☆」
最終的に、少女の手に収まるほどまで小さくなった、肉の塊。
掌がゆっくりと開かれると、白い湯気を伴って、二つの肉片が現れた。
それまでのぷるりとした質感は無くなり、引き絞られた筋肉の硬質さを思わせる。
-
o川*‐ ,゚)σ゚ 「そーっと……」
二つの内の片割れを、少女は慎重に何かの中に押し込んでゆく。
始めは反発し合った肉同士が、少女の手が淡く光るのをきっかけに抵抗をやめた。
肉片はするりと飲み込まれ、何かの一部となる。
もうひとかけの結合も終え、少女は両腕を組んだ。
しげしげと全体をまんべんなく眺める。
肉を集めた大きな何かは、概ね人の形をしていた。
椅子に座らせられている姿勢のためはっきりとはしないが、身長はさほど高くない。
頑強さを見て取れる体型に、バランスの取れた筋肉。
膂力の高さが見て取れる。
今はぐったりと猫背であるが、この肉塊は確かに戦士の趣を湛えていた。
いくらか通常の人間と異なるのは、全身に皮膚が無いことと。
頭蓋から首にかけてがぱっかりと左右に開き、その中に脳と思しきものが全く存在しないこと。
o川*゚ー゚)o 「いいや、試作だしこれでけってーい!」
次の作業に戻るべく、少女が指を鳴らす。
壁の向こうで水音がしたかと思うと、少女の傍らに頭でっかちな人間が現れた。
起立状態で糸につられたような姿であったが、力を失い地面に崩れ落ちる。
-
( uФωU) 「……わがは……わが……」
o川*゚ー゚)o 「よっこいしょー」
蹲りうわ言のように何かをつぶやく彼の後頭部に、少女は手を突っ込んだ。
小柄な体がびくりと大きく震え、少女が手を動かすのに合わせて諤々と痙攣する。
言葉はますます明確さを失い、唾液で出来た泡が混ざり始めていた。
o
o川*゚ー゚) ミ 「どっこせーい!」
少女が勢いよく引き抜いた手に握られていたのは、脳。
釣り上げた魚のようにビチビチと脳髄が暴れていた。
気にする様子も無く、少女はその灰色の知能を、物言わぬ肉体の頭部に差し込んで行く。
脳は暴れながらも、巣に逃げ込むような迷いの無さで体に潜り込んだ。
千切れた脳髄の先端が、肉体の脊椎に届くと、自動的に割れていた頭蓋が元の形へ。
瞼の無い眼窩の中で、血走った眼球がぐるぐると動き回った。
o川*゚ー゚)o 「体の具合は、どう?試作ちゃん」
(;;;¢w¢) 「ゔぉえあ」
o川*゚ー゚)o 「あちゃー、舌が上手く回らない?それとも顎かな」
-
o川*゚ー゚)o 「うーん。人間足りないからって熊ちゃんのべろ使ったのが失敗だったかな」
(;;;¢w¢) 「べぁ」
o川*゚ー゚)o 「あーもう、だらしないからちゃんとしまって」
(;;;¢w¢) 「??」
川*゚ ,゚) 「むむ……一番質が良くないのだったとはいえ、もうちょっと考えないとな……」
b
(;;;¢w¢) 「?」
o川*゚ー゚)o 「まあいいや。ベロ丁度良くしてあげるから、あーんして、あーん」
(;;;¢Д¢) 「えあ」
川*゚ ,゚) 「んー。半分ぐらい切り落として見る?」
d
て
(;;;¢w¢)そ 「ぇ゙う?!」
o川*゚ー゚)o 「あー、閉じちゃダメだって、痛くしないから」
(;;;¢w¢) 「ゔー」
o川*゚ ,゚)o 「むむむ……もう少し大人になってからでもよかったかな……」
-
o川*゚ー゚)o 「ま!概ね上手くいったってことでいっか!」
(;;;¢w¢) 「あぃ゙」
o川*゚ー゚)o 「ベロはあとで調整するとして、皮も作らないと」
(;;;¢w¢) 「ゔー?」
o川*゚ー゚)b゙ 「えいしゃー!」
少女が振った指の動きに合わせて、「試作ちゃん」の体表が毛羽立ち始める。
元々皮膚が無く、血の粘液で濡れていただけのそこに、うっすらと皮膚らしきものが見え始めた。
真皮が染みのように広がり全身に行き渡ると、内側から押し出されるように盛り上がり、表皮を形作ってゆく。
当の「試作ちゃん」は、高速で細胞が代謝する苦痛に呻き、床に這いつくばった。
皮膚の再生というよりも、黴や苔に繁殖されているようですらある。
肌が作られ体表が隆起するほど、彼の呻きはより苦しげなものになっていった。
そして、全身を淡い色の皮膚が覆い尽くす
( ;;;Фωφ) 「……う、あ」
o川*゚ー゚)o 「まだちょっと突っ張る?」
( ;;;Фωφ) 「うんむ」
-
o川*゚ー゚)o 「まあ、もう少しすれば馴染むと思うから、我慢してね」
( ;;;Фωφ) 「うんむ」
o川*゚ー゚)o 「あ、ちょっと口大きく開けて見て」
( ;;;ФДφ) 「うんあ?」
o川*゚ー゚)σ 「えい☆」
試作ちゃんの口が大きく空いたその一瞬、少女が指を振るった。
同時にだらしなく垂れた舌に切れ目が入り、余分な肉と表面が地面に落ちた。
残された口内の方は、すぐ傷が塞がり血の一滴も零れることが無い。
( ;;;Фωφ) 「??」
o川*゚ー゚)o 「おっけー。なんか喋って見て」
( ;;;Фωφ) 「…ギュゥド」
o川*^ー^)o 「……んふふ、はぁい☆」
( ;;;Фωφ) 「おなが、ずいだ」
o川*゚ー゚)o 「あ、そっか。まだ何も食べてなかったもんね」
-
o川*゚ー゚)o 「とりあえず、上においで。ご飯準備してるから」
( ;;;Фωφ) 「うむ」
布を服代わりに体に巻き、試作ちゃんと少女は上階へ移動する。
出来立ての皮膚は柔軟性が足りず、ふとした拍子に破け血を溢した。
痛みに鈍いのか、特に反応が無いため、少女も特別処置を施したりはしない。
o川*゚ー゚)o 「そこのソファに座ってって。すぐ準備するから」
元々砦として建設されたこの建物は、今もその名残を多く残している。
しかし、この部屋だけはいくらか趣が違った。
カーテン、照明、ベッド、ソファにテーブルに、敷き詰められた絨毯。
全ての家財は少女趣味な色合いで統一され、まるでおとぎ話の姫が暮らす場所を思わせる。
天蓋付きのベッドには、三頭の大型犬が丸くなって眠っていた。
試作ちゃんは少女の言葉通り、中央からやや外れた位置のソファへ座る。
柔らかくほんのりと温かい。
うまく動かない体が勢いのままに倒れてしまうと、近づいた耳元からかすかに鼓動が聞こえた。
興味を持ってビシバシと掌で叩く試作ちゃん。
ソファは打たれるたびに、衝撃とは別の弱弱しい震えを見せる。
-
川*゚ー゚) 「あーもう、ソファのこといじめないでよね」
o―‐o
( ;;;Фωφ) 「む?」
川*゚ー゚) 「ケルたんに食べられちゃって新しいのに変えたばっかりなんだから」
o―‐o
( ;;;Фωφ) 「むー?」
o川*゚ー゚)o 「まあいいや、はい、クマちゃんのステーキ!!」
(;;*Фωφ) 「おー!!」
目の前のテーブルに置かれた品良く装飾の施された鉄板の上で音を立てる巨大な一枚肉。
脂身の少ない赤身肉はこんがりと色づき、見た目にも美味しそうだ。
ただし、その野性味ある独特な臭いが、やや鼻に突く。
味付けはシンプルに塩。
香草をいくらか振りかけてはあるが、肉の総量に対しては足りていない。
o川*゚ー゚)o 「焼きたてだから、気を付けてね」
試作ちゃんに与えられたのは、ごく一般的なナイフとフォーク。
少女は彼がどうやってそれを使うのか眺めるように、床に座り込んでテーブルに頬杖をついた。
-
( ;;;Фωφ) 「いだだきまふ」
試作ちゃんが右手に持ったのは、ナイフ。
フォークには目もくれず、小さく振りかぶり。
手先が消えたと見紛うほどの速さで、肉を切り裂いた。
肉は綺麗に分かたれ、僅かな肉汁が鉄板に流れ落ちる。
ナイフを突き刺して持ち上げた肉の下の鉄板には傷一つ付いていない。
的確に肉だけを斬って見せたのだ。
刃物と呼ぶにはあまりに鈍い、食事用のナイフで。
o川*^ー^)o 「……ふふふ」
試作ちゃんは持ち上げた肉を、一口でほおばった。
切り分けたとはいえ決して小さい塊では無かったが気にもしていない。
満足げに顎を動かし、目元を満足げに持ち上げる。
気持ち程度の咀嚼を済ませると、上を向いて飲み下した。
食道の中ほどでつまりそうになったのを、体を揺さぶって胃に落とし込む。
o川*゚ー゚)o 「美味しい?」
( ;;;Фωφ) 「むぅごぼんがえぐ?」
o川*゚ー゚)o 「んーん、私は別に食べたから食べちゃっていいよ」
(;;*Фωφ) 〜♪
-
少女は嬉しそうに、試作ちゃんの食事を眺めていた。
一枚目が無くなると、手早く次の肉を鉄板に乗せ、一瞬でちょうどいい具合に焼き上げる。
試作ちゃんの肌は食事が進むにつれて少しずつ改善されていった。
火傷の痕のような光沢のあった皮膚が、人間本来のものへと治ってゆく。
伴って、裂けていた傷も塞がれていた。もう、動くたびに割れるようなことも無い。
o川*゚ー゚)o 「……ん?」
試作ちゃんの食事が肉四枚目に差し掛かったころ、少女の前髪の一部が上へはねた。
意志を持つようにプルプルと震え落ち着かない。
少女は指を振って、ベッドサイドに置かれていた水晶球を手元へ呼び寄せる。
不思議そうにしている試作ちゃんの向かいにそれを置き、再び指を振るった。
透明の水晶が白く濁り、少しの間を置いてどこか森の中の景色を映し出した。
o川*゚ー゚)o 「……ふーん」
木々がなぎ倒され、荒れ果てた森の中。
巨大な猪と鋼鉄の腕を持つ男が殴り合い、その周囲で数人の人間が武器を振るっている。
猪が誰であるか、すぐに分かった。
あれは、少女が与えた力だ。
歳を取り、戦うには不十分になってゆく体を補うための、ささやかなプレゼントであった。
o川*゚ー゚)o 「……そっか。ダメだったんだねおばさん」
ほんの一瞬であったが、少女の目が哀しみに曇った。
すぐに気楽な色を取り戻したが、直前まで程の明るさは無い。
-
o川*゚ー゚)o 「…………あ、ブーンがいる!」
o川*゚ー゚)o 「……ふふ、結構順調だね☆」
( ;;;Фωφ) 「……」
o川*゚ー゚)o 「ん?」
食事を続けていた試作ちゃんの動きが唐突に止まる。
左右不揃いな目が見つめるのは、水晶に映る一人の剣士。
正確には彼が扱う技に、並々ならぬ関心を見せている。
( ;;;Фωφ) 「ぎゅぅど」
o川*゚ー゚)o 「なあに?」
( ;;;Фωφ) 「わがはいの、がたなは?」
o川*゚ー゚)o 「……ふふ、ふふふ」
少女が指を鳴らした。
空中に突然剣が二つ、現れる。
二刀共に、反りのある片刃の剣。
片方は黒光りする鞘に、銀装飾を施された、芸術品としても通用しそうな麗刀。
もう一方は拵えすらなく、細い布を巻きつけただけの赤茶けた幅広の錆剣。
試作ちゃんは自らそれを手に取り、まじまじと見つめた。
-
o川*゚ー゚)o 「どう?私は刀剣の利きはできないから、とりあえずで選んだんだけど」
( ;;;Фωφ) 「…………うむ」
試作ちゃんは先ず銀ごしらえの刀を抜き放った。
音叉を鳴らしたような、澄んだ音色。
仄かに青を帯びた刃はさながら穏やかに宙を舐める紫煙のようであった。
ハチミネサルシゲナミ
( ;;;Фωφ) 「……八棟申茂南」
試作ちゃんは、ゆったりと数度振るい、一連の流れのまま、鞘へ戻す。
その顔は、どこか満足気。
続いて入れ替えて錆塗れの剣を手に取った。
布をほどいて現れたのは、柄と同じく赤黒い刀身。
赤錆に表面を覆われ、刃もボロボロだ。
一見して粗悪な骨董品でしかない。
しかし、これを見る試作ちゃんの目は、先ほどよりも鋭くなっている。
( ;;;Фωφ) 「……」
振るわず、布を巻き直し、ソファに立てかける。
不思議なことに、試作ちゃんの手にも、床の絨毯にも錆の零れ一つない。
-
o川*゚ー゚)o 「気に入ってくれたみたいでよかった」
( ;;;Фωφ) 「うむ。あと、ふくほしい」
o川*゚ー゚)o 「それは準備してあるから、ご飯終わったらね」
( ;;;Фωφ) 「うむ」
再び食事に戻る試作ちゃん。
しかしその眼は、以前水晶の映像に向けられている。
気になるのだろう。時折手が止まり、食い入るようだ。
o川*゚ー゚)o 「あ、またこの子いる。へっぽこピーなのにがんばるなあ」
o川*゚ ,゚)o 「……まどろっこしいな。私が行ってバーンってやっちゃおうか……」
o川*゚ ,゚)o 「でも、あの二人のこともあるからなぁ……うーん、ちょこっとだけならいいかな……?」
( ;;;Фωφ) 「……ギュゥド、おがわり」
o川*゚ー゚)o 「あ、ハイハーイ」
o川*゚ー゚)o 「……ま、いっか。わたしが手を出しちゃったらつまらないもんね♪」
* * *
-
足し算。
算術の中で最も基本にして、最も単純。
たとえ人間程の知恵を持たぬ猿であっても、「2」と「2」が合わされば「4」になるということを感覚として理解している。
その、集めればより大きな存在になるという式を、その魔物は如実に表していた。
(//‰ ゚) 「……」
ィシが体内に取り込んだ兵士は六人。
すべてが頭部のみをィシの体生やしている。
そして、どうやらその一つ一つが意識を持って、周囲を観察していた。
もちろん彼らの頭はただあるだけでは無い。
イ(゚、ナリ从 「?!」
隙を見て背後に回り、ィシの首を狙っていたイナリに木片が放たれる。
発射口は肩甲骨付近生えた兵士の口。
死角に対し、臭いや気配で察知したにしてはあまりに的確な攻撃だ。
( ;^ω^) (まさか、あの一つ一つが独立して行動できるとか?)
体を穿たれる寸前で回避したイナリを、木片の射撃が正確に追いかける。
猪の頭部は今にも襲い掛かりそうな気迫でヨコホリと睨みあっていた。
ィシ本体が彼を操作して、という様子では無い。
-
(//‰ ゚) 「雑魚を取り込ンだくれェで、調子に乗ンじゃねェ!」
ヨコホリの空弾。
連続して三つ放たれるが、ィシは防御すらしない。
代わりに、魔法弾がシャボンが割れるように中空で消えた。
ブーンはいまいち状況が分からなかったが、他のメンツは全てを悟る。
猪の、ィシの胸部の中心に据えられた頭。
魔法使いにして、魔法分解のスペシャリスト、シーン=ショット。
彼が、ィシの体に取り込まれながらもその能力をもってヨコホリの魔法を分解したのだ。
そのキレは本来のものと何ら遜色無く。
むしろ自身が狙われる警戒の必要が無くなったことにより、対応がより機敏になっている。
(//‰ ゚) 「……勘弁してくれ」
試すように、ヨコホリが射線を散らして魔法を三発。
シーンの目がキョロキョロと動き、全てが一瞬の内に消えた。
このあたりでブーンも何が起きているのかを薄ら理解する。
ただ、理解したがために正直帰りたい気持ちでいっぱいになった。
これは単に「ィシが強くなった」という情報以上の危険をブーンに悟らせる。
取り込まれた人間が、元々の能力を発揮できるならば。
もし仮に、例えばこの場でいう伸びているフォックスをィシが取り込んだら。
あの糞ほど厄介な魔法を、ィシが使えるようになってしまうということでは無いのか
-
(//‰ ゚) 「シィッ!!」
ヨコホリが魔法弾を放ちながらィシへ接近。
当然これは全て消える。
一度見せた魔法は通用しないと考えるべきだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「でぇい!!」
あえての正面から、ツンが切りかかる。
こめかみに太い青筋を浮かべて、何とも愛らしい。
ヨコホリ的には抱き留めて頭を撫でてやりたいところだが、足元に魔法弾を撃ち込むことでその動作を牽制した。
攻撃が止んだ隙を、ィシは見逃さない。
ツンに覆いかぶさる形で、ヨコホリに迫る。
右腕の甲から生えた木剣を振りおろし、同時に左腕でツンを庇う。
大きく後退したヨコホリへ、肩口から生えた木槍が放たれた。
その動作を管轄したのは、同じく肩口に生えた兵士の頭。
ィシが単体で放っていた時よりも的確な攻撃となっている。
ヨコホリはさすがの反応を見せ、素早く右手を翳した。
そこから放たれた魔法弾が、槍の飛来を破壊―――しない。
(//‰ ) 「グッ!」
掌に表れた空弾はその瞬間にかき消され。
破壊されるはずだった槍の切っ先がヨコホリの胸板を捉える。
雑に切り出された粗末な槍だが、重量故に威力は高く、服を割いて深々と突き刺さった。
-
衝撃で吹き飛ぶヨコホリ。
ツンをそっと横にどかし、ィシは追撃に走る。
巨体。一歩が大地を揺らし、その身が風を切るだけで空間が歪んで見える。
低い跳躍と同時に剣を振り上げた。
着地の衝撃を全て込めた、渾身の一撃。
辛うじて身を起こしたヨコホリは、槍を抜き捨てた流れで、右腕を防御に差し出した。
衝突の音は鼓膜を痺れさせた。
木剣は根元から折れ、木片がすさまじい勢いで宙に散る。
受けたヨコホリは、腕こそ傷は無いが槍を受けた傷から血が噴き出していた。
防御したとは思えないほどのダメージだ。
〈;;(。个。)〉 「!!」
援護に走ろうとした逆さ男の前にツンが立ちはだかる。
一瞬で倒すか、無視してすり抜けるか。逆さ男の逡巡。
後者はダメだ。魔法を使われれば、僅かだがツンの方が速い。
それに、この女に背中を向けるのは赤子に包丁を持たせるよりも危険。
本当に何をしてくるか予想が出来ない。
-
〈;;(。个。)〉 「イナリ、ヨコホリの援護を。あの娘は俺がかまっておく」
イ(゚、ナリ从 「おう、しっかりやれよ」
ヨコホリは辛うじて耐えている。だが、分は明らかに悪い。
イナリは直接ィシに走り、逆さ男はその場で低く姿勢をとった。
正面から落ち着いて戦えば、無理のある相手では無い。
が、誤算はまだまだ付きまとう。
( ;^ω^) 「!」
〈;;(。个。)〉 「ッ」
身構えるツンと、攻めに動いた逆さ男の間にブーンが割って入った。
牽制に振るわれたククリ刀を腕に仕込んだ鋼鉄の腕甲で受け止める
この瞬間に、ツンは二人を無視しイナリへと走った。
〈;;(。个。)〉 「……貴様は一体何がしたい、オルトロス」
( ;´ω`) 「いやぁー―……ほんと僕もどうしたもんかと……」
互いに一歩後退し、すぐさま攻撃に移る。
数度打ち合う刃と脚甲。
眩しい火花が散り、ククリの破片がブーンの耳を掠めて切った。
-
その気になれば、ツンを斬り倒してィシとの戦闘に集中することはできた。
自分の中にそう言った冷徹さがあることを自覚している。
実力としても、それは一瞬で済むだろう。
( ;^ω^) (あ〜〜くそっ!!)
逆さ男との間合いが僅かに開いた一瞬。
ブーンはククリ刀をヨコホリへ向かって投擲する。
頭部を正確に狙い定めたこの一撃は、ツンを殴り倒そうとしていたヨコホリを防御へと回らせる。
( ;^ω^) 「ツンさん!お願いだからこっちに回って!それかどっか行って!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「やだ!!」
( ;^ω^) 「ぅえ〜〜い」
〈;;(。个。)〉 「……」
逆さ男の回し蹴りが一閃、ブーンの首を刈る。
寸前で体をのけぞらせたブーンはそのまま後転。
近くに落ちていた剣を拾った。
細身の部類に入る、両刃剣。
業物では無いが手入れは悪くない。
激しく打ち合ったのか刃こぼれは多いものの、使用には足りそうだ。
-
両手で剣を持ち、脇構え。姿勢を低く逆さ男に突進する。
勢いを利用し、まずは薙ぎの一撃。
逆さ男も素直に応対。
鋼鉄の脚甲を軽々と振り回し剣を迎え撃つ。
悲鳴を思わせる、金属音。
鳴り響く音は振動となって肌を震わせた。
〈;;(。个。)〉 「あの小娘を庇うつもりならば」
( ^ω^) 「お?」
〈;;(。个。)〉 「むしろ俺か貴様が早めに落とした方がいい。向こうの二人は、邪魔になったら殺すぞ」
( ^ω^) 「……あんたも中途半端だおね」
〈;;(。个。)〉 「あの化け物を倒すには、貴様の協力が不可欠だ。貴様の協力を得るならば、あの娘に手を出すわけにはいかん」
( ^ω^) 「……」
-
〈;;(。个。)〉 「オルトロス。貴様ならあれを倒すことはできるか?」
( ^ω^) 「お?現状一番効きそうな技はあるけど」
〈;;(。个。)〉 「……俺が、あの娘を数秒抑える。その隙決められるか」
( ^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「貴様と俺が戦うのは、無駄だ。娘に傷を負わせるような事態は控える」
( ^ω^) 「……」
ちらりと、ィシを見る。
魔法をほぼ使えない現状、ヨコホリ側の不利は否めない。
防御を気にする必要のないィシの猛攻は、見ているだけで失禁してしまいそうだ。
〈;;(。个。)〉 「奴には魔法が使えん。恐らく、通用するのは貴様の技くらいだろう」
( ^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「頼む。俺たちの撒いた種であることは、自覚している。だからこそあれをあのままにはできない」
逆さ男もまた、危惧している。
ヨコホリが死ぬのは手痛いが、問題はそこではない。
少なくとも人間であったころほどの理性を持っていないィシが、最も重きを置いているヨコホリを倒したとき、どうなるか。
その予想は、大よそブーンと同じだ。
-
魔女の力は、尋常では無い。
ヨコホリのようにある程度コントロールしている例もあるにはある。
しかし、窮地に立たされたが故にその力に頼り飲まれてしまったィシはむしろ真逆。
今は憎しみと使命感が理性に似た形で制御を行っているが、ヨコホリがいなくなればそれも無くなる。
超常の獣と化したィシは、「ヨコホリ倒したから大人しくします」とはならないだろう。
否、なるかもしれないが、ならなかった場合の危険性があまりに高すぎる。
有機物を吸収し回復、人間までも取り込んでその力を利用する。
手練れの一人でもィシの傀儡になればもはや手が付けられない。
それが街に降り、無差別に人を襲い始めたとしたら。
兵士と、木造建築に溢れるサロンはィシの戦力補給施設でしかなくなる。
場合によっては、間接的にではあるものの「魔女に滅ぼされた四つ目の街」になりかねない。
( ^ω^) 「……正直、あんたたちに協力するのはいい気分じゃないんだけお」
〈;;(。个。)〉 「それは……こちらもだ」
( ゚ω ) 「……変なマネをすれば、その場で殺す」
〈;;(。个。)〉 「……了解ということで、いいか」
-
すぐにも衝突しそうな殺気の中で行われた算段。
ブーンは剣を構える。
その対象は逆さ男では無く、猛威を振るうィシ=ロックス。
( ^ω^) (せめてツンにも攻撃してくれてれば、もう少し躊躇いなく行けるんだけど)
( ^ω^) (……そうなってからじゃ、遅い)
猪に背を預けるツン。
一切の警戒が無い。
それはィシが最後の理性を失わないようにという願懸けにも見えた。
合図は送らない。
素直に一直線でィシへと向かう。
ツンが反応した。
ィシ自身の攻撃範囲が広いため、かなり余裕がある様子。
剣を構えるブーンを見た目に宿ったのは戸惑いか。すぐに戦意が輝いたためもう分からない。
構えられたナイフ。
戦士としては華奢な、少女としては屈強な腕に力が篭る。
-
しかし、彼女の相手をするのはブーンの役目では無い。
ブーンの倍に近い速度で脇を駆け抜けた逆さ男がツンに跳び蹴りを放つ。
殺気が無い。明らかな牽制だ。
それでもツンの意識はブーンからずれた。
条件は十分。
ブーンは持っていた剣を、思いっきり高く放り投げる。
その瞬間に、場にいた者たちの意識から、ブーンの姿は消え去った。
ィシの体から生えた二つの頭が、一瞬ぽかんと呆けた顔をする。
準備していた木槍は穿つ対象を失い適当な地面に突き刺さった。
( ω ) 「“我、永遠喰らう者―――”」
気配を消す、とブーンは称している。
あらゆる技術を駆使し、相手の意識から自分を排除、あるいは優先順位を著しく下げる。
上手く行けば、相手はまるでブーンが消えたかのような錯覚を思えるのだ。
当然、永遠には続かない。
効果はほんの一瞬。
だがその一瞬こそ、複数の意識に守られたィシへたどり着く、僅かな道筋。
( ゚ω ) 「“―――汝を、蹂躙す”」
-
背面を守っていた頭が、真っ先にブーンの姿を捉えた。
その目は爛々とィシの背中を見据え、地面に片手を突き体勢を整える。
タリズマンから吹き出した魔法の炎が闘気と混ざり、空気がぐにゃりと揺れた。
ィシ本体も、他の頭も、まだブーンの存在を追い切れていない。
背中の頭は、素早い判断で口から木の槍を吐き出した。
狙いは的確。
外れたのは、ブーンがそれ以上であったに過ぎない。
( ゚ω ) 「“杉浦双刀流―――”」
立ち上がりざま、足一つ分重心をずらしただけの回避。
矛先は、ブーンの耳を掠めた。
体勢に崩れは無く、構えられた両拳は自ら潰れそうなほど硬く握られている。
( ゚ω゚) 「“鐘砕き!!”」
振るった瞬間に、音が割れた。
目に消えるほどくっきりと空気に広がる衝撃の波紋。
すべてを置き去りにしたブーンの拳は、確りと、確りとィシの背中を捉える。
亀裂。
蜘蛛の巣のように方々へ広がり、音と血しぶきが噴出。
深い。撃たれたのが背面であるのに、罅が正面にまで表れているのがその証拠。
-
ィシの口からどす黒い血が吐かれる。
それまで機敏に動いていた上半身が、ぴたりと動きを止めた。
体表の頭たちを含めて損傷は大きい。
好機だ。
ツンを除く全員が、この事態をそう取った。
ヨコホリは右腕に魔力を込め。イナリは全身の筋肉を倍ほどまで隆起させ。
逆さ男は強化魔法発動と同時にツンをすり抜け、ブーンは落ちて地面に刺さった剣を手に取る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさん!」
ツンの叫びか、怨念か。
ィシたちは意識を取り戻す。
ほんの刹那の先行であった。
ヨコホリの放った魔法弾を消去。
直近、死角である真後ろへ右足を蹴りあげる。
防御で何とかそれを受けるブーン。その体は軽々と浮き上がり吹き飛ばされた。
そのまま前傾。左足で跳躍し空中で前転する。
短い浮遊。自由になった両腕を、左右へ開く。
掌にはそれぞれ兵士の顔。ギョロリと動く目玉が狙いを定め、木槍でイナリと逆さ男を穿つ。
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