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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
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ヨコホリが魔法を放ち、シーンが分解したのをきっかけに、両者が動いた。
相手も手練れではあるが、こちらも雑魚では無い。
一旦武器をかち合わせてしまえば、そこらの傭兵など軽くしのぐ猛者たちだ。
戦況は、一気に乱戦へ。
地元の農夫たちが手入れをしているお蔭か、近辺の足場はある程度開けているが、木は当然多い。
幸いにしてこの窮屈さが、数の差を埋めてくれていた。
敵の主力四人がまだ様子見していることも、大きい
腹が立つほど余裕の態度ではあるが、その分踏みにじり甲斐がある。
〈::゚−゚〉 「!!」
立ち位置さえ注意すれば、ィシの腕ならばハルベルトも問題なく扱える。
ィシは大きく踏み込み、自身に迫ってきていた二人の敵を武器で薙いだ。
斧刃が一人目の腹を大きく抉り、その体を刃に絡めたまま勢いでもう一人も払い退ける。
巻き込まれた枝葉が、抵抗も敵わず舞い散った。
刃を直接受けた方は今の一撃でほぼ即死。
巻き込まれ突き飛ばされた方は、身動きしなくなった仲間にのしかかられ、自由に動けない。
この機会を逃すことなく、ィシはその男の頭に斧刃を落とす。
頭蓋が割れ、脳漿と血液が噴き出した。
自らの服にはねた赤を気にする様子も無く、ィシはハルベルトを引き、刃の穢れを払う。
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〈::゚−゚〉 「我々は大五郎とは違う」
未だ血のこべりつくハルベルトを脇に構え、ィシが一歩前へ。
無表情でありながら、その気迫が肌を震わせるようであった。
迎え撃とうとしていた敵兵の足が、自然に二歩後ずさる。
〈::゚−゚〉 「失うものなど何もない。故に、貴様らに容赦もしない」
ィシの奮起を目にし、禁恨党員たちが戦意を取り戻し始めた。
士気さえ釣り合えば、人数差を埋める十分な実力はある。
いくらかの余裕を見せていた根絶法側に緊張感が走った。
〈::゚−゚〉 「我々に武器を構えたからには、死ぬと思え」
根絶法側が有利なことには変わりない。
しかし、決して安全な勝負では無い。
初老でありながら、女でありながら重量武器を振るうィシの姿は、畏怖を覚えさせるに十分な迫を持っていた。
雄叫びをあげ、禁酒党の男が手斧を振り上げィシに襲い掛かる。
背後、死角の位置。
自らを奮起させるための雄叫びが攻撃を悟らせはしたが、十分に奇襲の役を果たしている。
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〈::゚−゚〉 「……」
ィシは頭だけを振り向かせ、その姿を確認。
手斧のリーチは短いが、威力は高い。
喰らえば相当に致命的な傷を負うだろう。
しかし問題は無い。
〈::゚−゚〉 「……」
ィシは、左足を一歩、後ろへ引く。
爪先は横向き。それに従い体もやや開く。
この時点で既に、ィシの上体はハルベルトを振るう準備を終えていた。
「?!」
迫る男の脇、あばらに向けてィシはハルベルトを振り上げる。
敵の攻撃も、回避も間に合いはしない。
斧刃が男の肋を捉えた。
骨が割れ、肉が裂かれ、内臓が潰れ。
それでも重厚の刃は止まらない。
両手から片手に移行しながらも、ィシは完全に得物を振り抜いた。
男の体が宙に浮き、鮮血が吹き上がる。
ほぼ即死したその体が衝撃で回転するのに従って、血が生臭い螺旋を描いた。
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爪;'ー`)y‐、 ~ 「……人間か?」
イ(゚、ナリ从 「だんちょ、ちびりそう」
爪;'ー`)y‐ 「安心しな。俺なんか既にちびったよ」
(//‰ ゚) 「俺が言うのもなンだが、人間じゃねえな」
〈;;(。个。)〉 「ヨコホリ、フォックス、予定通り行くぞ」
爪;'ー`)σ ⌒ 、 「あーあ、こんなんならニダの旦那の方行けばよかったな」
逆さ男が前へ。後ろにヨコホリが続きフォックスとイナリはその場にとどまる。
ィシが腰の剣を投げつけさらに一人を討ち、いくらか情勢を持ち直した禁恨党。
目の前の一人を危なげしかない動きで何とか切り伏せたミンクスが、ィシの横につく。
〈::゚−゚〉 「……ミンクス」
ミ;´・w・ン 「言わないでくださいよ。俺だって、意地はあるんです」
〈::゚−゚〉 「せめて一人は、引きつけろよ。そして、危なくなったらすぐに逃げろ」
ミ;´・w・ン 「……ゥス」
-
〈;;(。个。)〉 「……行くぞ」
飛び立つ燕のようであった。
音も無く逆さ男の姿が残像に変わり、ィシへ迫る。
空中へ飛翔。全身のばねを利用し、鋼鉄の脚甲でィシを薙ぎ払った。
ハルベルトの柄を引き揚げ、これを受け止めるィシ。
互いの衣服が衝撃で靡き、足が地面に深く食い込む。
逆さ男の手には輝く指輪があった。
魔道具だ。これによって身体能力を強化している。
脚甲をつけていることもあり、直撃であれば必殺に近い破壊力だ。
逆さ男は蹴り終わりの着地と同時に後転。
反撃に振るわれたィシのハルベルトをやり過ごす。
振り切られた武器を剛力で制動し、ィシは踏み込んで追撃の刺突を放った。
空気がうねりをあげるこの一撃を、逆さ男は飛び越えて回避。
胴を軸に数度の回転を加え、体重の乗った蹴りをィシの頭へ叩き付ける。
〈::゚−゚〉 「フンッ」
〈;;(。个。)〉 「ッ?!」
鉄槌のごとき一撃を受けたのは、頭蓋では無く、筋肉の隆起する二本の腕。
ィシがハルベルトを手放し、素早く防御に回したのだ。
骨が砕けても不思議は無いというのに、まるで巨木を叩いたようにびくともしない。
-
〈::゚−゚〉 「ぬうん!!」
着地でバランスを崩した逆さ男の服をィシの手が掴んだ。
振りほどこうとする抵抗を無視し、片腕で軽々と振り上げる。
〈::゚−゚〉 「ハァ!!」
〈;;(。个。)〉 「グッ!?」
ィシは、持ち上げた逆さ男を、メンコで遊ぶかのように地面に叩き付けた。
地面は柔らかい腐葉土。
しかしそれでいても、2m弱の高さから受け身も取らず叩き付けられれば。
〈;;(。个。)〉 「……ッ……、恐ろしく強い」
ダメージは相当なものになる。
叩き付けからすぐさま転がって距離を取った逆さ男ではあったが、その足取りはいささか頼りない。
指輪の輝きはいつの間にか消え、彼が魔法の補助を失っていることを示す。
〈;;(。个。)〉 「……なるほど、魔法を解除されるというのは、なかなか厄介だ」
( ・−・ )
逆さ男の視線の先には、魔法使いシーン=ショット。
蹴りを放った時点で、身体強化は解けていた。
この援護が無ければもう少しまともなダメージを通せただろう。
-
(//‰ ゚) 「ハッハァ!!」
逆さ男がィシを引きつけている内に、ヨコホリはシーンに迫っていた。
魔法分解の能力を除いてもシーンは優秀な魔法使いだが、正面からヨコホリの相手をするだけの技量は無い。
割って入った数人の禁恨党員を吹き飛ばし、鋼鉄の腕をギシリと鳴った。
シーンはィシの援護にで魔法分解を行っており、ヨコホリへの対処が遅れている。
下がって間合いを取りながら、ヨコホリの「心臓」の魔法の解析を始めるが、接近の方が早い。
ミ;´・w・ン 「させないって!!」
割って入るミンクス。実力差は歴然だが、僅かな時間稼ぎにはなる。
シーンは魔法を展開。
丸めて背中に括っていた魔道具の布を、大きく広げる。
布は蛇の如く揺らめき、ヨコホリの体に絡みつく。
ミンクスを捻りつぶそうとしていた腕が寸前で止まった。
狙ったのは関節。万力を誇る“サイボーグ”の体であっても要所を抑えれば拘束は可能だ。
(//‰ ゚) 「チィッ!せこいマネ…………ヲッ?!」
悪態をつく彼の背後迫るィシ。
反応したヨコホリだが、布に動きを邪魔され対応が間に合わない。
大きく振りかぶったィシの裏拳がヨコホリの頭を側面から殴り抜く。
金属が砕ける音とは、ここまで響きがよいものか。
ヨコホリの体は鞠のように跳ねて転がり、木に激突して止まった。
轟音と共に彼の体を受け止めた木が、軋みを立てて傾いていく。
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〈::゚−゚〉 「……」
ィシがヨコホリを跳ね飛ばすと同時、がら空きの背中に逆さ男が躍りかかる。
再び強化魔法を発動していたが、すぐにシーンによって強制解除された。
それでも勢いのまィシの背中を蹴り抜く。
〈:: − 〉 「ぐっ!」
蹴りの衝撃は分厚い胸部を駆け貫く。
ィシは苦しげに呻くも、すぐさま反撃の体勢。
振り向きざまに裏拳を放ったが、逆さ男はひらりと飛びのいてやり過ごす。
(//‰ ゚) 「おィィ……逆さァ……しっかりひきつけといてくれよォ……」
ヨコホリが魔法布を引き千切りながら立ち上がる。
頭の形が変形している上に、よく見れば首は横に折れているだけでなく180度捩じれていた。
それを、自身の両手で挟み、ゴキゴキと整形しなおす。
(//‰ ゚) 「俺も不死身じゃねえンだ。死ンじまうぞ」
〈;;(。个。)〉 「想像以上の戦力だ」
(//‰ ゚) 「こいつ、なンかやってやがるぜ、気ィつけな」
余裕は未だあるようだが、ダメージがゼロでは無かったらしい。
少しばかり、彼の醸す空気に真剣みが混じり始めている。
-
爪'ー`)y 「……イナリ、もう大丈夫だ。お前も旦那たちに加勢しなさい」
イ(゚、ナリ从 「わかった。だんちょ、わたしが離れてる間に死ぬなよ」
爪;'ー`)y 「いやははは……厳しいねイナリは」
逆さ男たちから離れて後方、フォックスとイナリ。
フォックスは逆さ男がィシに仕掛けた時点から魔法の展開を開始し、イナリはそれをずっと守護していた。
現在魔法は無事に発動し、フォックスの周りには青みがかった煙が滞留している。
フォックスの言葉に従い、イナリは得物である剣を構えて飛び出した。
獣の如くとはこのことで思慮も策略も無く真正面から切り込んでゆく。
部下の背中を笑顔で見送り、フォックスもゆっくりと前に出た。
武器も持たず、まるで散策するように歩く彼を、禁恨党の兵士は見逃さない。
それまで刃を合わせていた敵を力ずくではじくと、フォックスに襲い掛かった。
爪'ー`)y‐ 「やれやれ」
怪しげに揺れ漂う煙が兵士を迎え入れる。
爪'ー`)y‐ 「良い夢をごらんよ」
その次の瞬間、唐突に兵士が膝をついた。
白目を剥き、口をだらしなく開けて、そのまま地面に倒れ込む。
死んではいないが、意識を取り戻す様子も無い。
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爪'ー`)y‐~ 「ふむ、どうやら何か魔道具を使っているね」
フォックスが煙草に火を点け、乱戦するィシたちに歩み寄る。
それに伴って魔法の煙が周囲に拡散し、敵性の兵士のみを次々と不能にしていった。
ィシの奮闘で均等になっていた力のバランスが、一気に根絶法側に傾く。
爪'ー`)y‐~ 「だがまあ、脳があるなら問題ない」
ィシの体は、元よりも一回りほどパンプアップしていた。
動ける禁恨党の兵士は、既にィシ、ミンクス、シーンの三人のみ。
それでいても押し切れないのは、彼女の能力がいよいよ人知を凌駕し始めていたからである。
〈::゚−゚〉 「ォォォォオオオ!!!」
混戦の中取り戻したハルベルトを、豪快に振り回す。
接近していたイナリは守りに構えた武器ごと弾き飛ばされた。
ヨコホリが安全圏から魔法で攻撃するも、全てシーンに無効化される。
〈;;(。个。)〉 「フォックス!」
爪'ー`)y‐~ 「わかっている。あの化け物にどれだけ効くか分からないけどね」
周囲に散っていた煙が、意志を持ってィシたちの周囲に集まる。
ミンクスが抵抗し剣を振るうが、もちろん意味は無い。
-
( ・−・ ) !
爪'ー`)y‐~ 「君の分解は防ぎようがないけどね。手間をかけさせるくらいなら簡単さ」
煙には複数のダミーの魔法式が含まれていた。
主となる魔法式への介入を防ぐ性質があり、シーンの分解を妨害する。
魔法同士が干渉し合い、空中に激しい閃光の粒が生まれたが、肝心の煙は全く減らなかった。
ミ;´・w・ン 「やられる前にやるしかないっしょぉ!!」
ミンクスが口元を腕で抑え、煙を低い姿勢でフォックスへ。
意志をもって持続させるこのタイプの魔法は術者を落とすのが一番手っ取り早い。
もちろん、敵もそれは十分に理解しているため。
イ(゚、ナリ从 「させねっし」
イナリの持った鉤爪のような剣がミンクスを薙ぐ。
持ち前の臆病さでこれに気づいていたミンクスは大げさに転がって逃げた。
他の主力三人はミンクスの相手はイナリ一人で十分と判断したのか、ィシとシーンに迫っている。
( ・−・ )
爪;'ー`)y‐~ 「いやあ虚しくなるなあ……もう見破ったのかい」
シーンは、驚くべき速さで煙の魔法を看破していた。
すべてを消し去ることは叶っていないが、それでも自分たちに絡みつこうとしている部分は片っ端から消されていく。
-
だが、結果的にそれは、シーンを封じる役目となった。
魔力を注いだ分だけ増幅する魔法の煙は、消しても消しても後を絶たない。
発動者であるフォックスの保持する魔法式を瓦解できればよいのだが、煙に対処しながらできることでは無かった。
(//‰ ゚) 「カカカカァッ!!」
〈::゚−゚〉 「くッ」
分解される恐れの薄まったヨコホリは、思う存分に魔法を放つ。
無論シーンの援護は成り立たない。
ィシはハルベルトで土を舞い上げ、魔法攻撃を防ぐ煙幕とした。
炸裂し拡散する衝撃波で、互いに弾き飛ばされる。
ヨコホリが次の魔法を放つまでの隙を埋めるように間合いを詰める逆さ男。
彼は指輪の強化魔法を思う存分に使い、膂力を増していた。
地に足をついた状態で放たれたハイキックは、防御のために引き上げられたハルベルトの柄をゆがませる。
〈;;(。个。)〉 「これだけのメンツを集めて、成果なしとはいかんのでね」
〈::゚−゚〉 「……」
〈;;(。个。)〉 「貴様一人が優秀でも、この差は覆せん」
足を引き戻してからの、連撃。
激しく重い追撃はガードを突き抜けて体に響く。
強化魔法により倍近くまで引き上げられた脚力は、乱打にも関わらず大槌での殴打を思わせる。
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振り抜きの強打を一撃、逆さ男が飛び跳ねて離脱した。
これで終わりではない。
むしろ。
(//‰ ゚) 「ラァ!!」
入れ替わりに、ヨコホリが右手を突き出し接近する。
格闘の間合いであるが、掌が僅かに輝くのをィシは見逃さない。
弓のように体を横にしならせ、放たれた魔法を回避。
倒れた姿勢のまま、腕力のみでハルベルトを振り上げる。
先端が鋼鉄の腕を弾き上げ、体はその慣性を利用して起き上がり。
腕を弾くために振り上げた武器は、そのまま攻撃への予備動作へと、流れるようにつながった。
しかし。
〈;;(。个。)〉 「ハッ」
剛力で振り下ろされたハルベルトは、黒鉄の脚甲に払われる。
鈍い音を立てて柄が弾け折れた。
飛んでいった先端の行方を気にする余裕は無い。
腕を弾かれた勢いで後退したヨコホリが、十分に立て直している。
突き出される右腕。照準は紛れも無くィシ。
飛翔蹴りから着地した逆さ男がすぐさま距離を取る。
(//‰ ゚) 「カカカッ」
-
〈::゚−゚〉 「――――――ッ!!」
輝くヨコホリの腕。
掌に生み出された無数の魔法弾が、花火のように飛び散った。
空気が歪み、蜃気楼のような帯が伸びる。
数え切れぬ魔法の榴弾は、小粒ながらも十分な破壊力。
ィシは咄嗟に折れたハルベルトの柄をバトンのように回転させて投げた。
だが、藁ほどの助けにもならず、数発で砕かれ盾の役目は果たさない。
強化された体が魔法の暴威に食い荒らされてゆく。
歪む視界。
頭にもらった一発が頭蓋を抉り取ってゆく。
視界の端で、ミンクスが切り伏せられるのが見えた。
膝が折れる。
シーンの姿は見えない。
彼は、どこにいる。
ィシの探し出した、切り札だ。
仲間であり、友であり、実の家族のような存在。
まだ失うわけにはいかない。
何度も何度も奪われるわけにはいかない。
-
〈;゙゙−゚〉 「……グッ、ハァァッ!!」
倒れかかった体を、背骨と腹筋で強引に持ち直す。
頭から、ごぽりと血が零れた。
熱いのに、冷たい。しかし、不思議と痛みは無かった。
(//‰ ゚) 「…………人間辞めすぎだぜェ」
飽きれるヨコホリを殴ろうとして、右腕が無いことに気がついた。
左腕はあった。指が無いため拳は握られないが、手刀の形で強引に叩き付ける。
(//‰ ゚) 「ナッ?!」
回避されるも、ヨコホリには普段のキレが無い。
戸惑っている?あるいは、怯んでいる?
ィシは左腕を振るった力を制御せず、そのまま頭からヨコホリに飛び込む。
額はヨコホリの鼻っ柱を捉えた。
自身の頭に走る痛烈な痺れに、目の前が白と黒の明滅を繰り返す。
何はともあれ、ヨコホリに隙を作った。
今ならば、分解が通用するはずだ。
ィシは振り返る。
声が出ないので、視線でシーンに指示を飛ばすつもりだった。
-
〈:;゙゙−゚〉
( − )
〈:;゙゙−゚〉
ああ。
.
-
シーンには、左腕が無かった。
ィシを外れた流れ弾が吹き飛ばしたのだろう。
そして、目は白を剥き、地面に半身を沈めていた。
集中力を失い、フォックスの魔法に飲まれたのだろう。
〈:;゙゙−゚〉
ィシは、膝から崩れ落ちる。
終りだ。
復讐のために積み上げてきた戦力はすべて失われた。
無謀だった。
無策だった。
何より無能だった。
大五郎への襲撃など、黙って見逃せばよかった。
罠にわざと食いつくことなどせずに身を潜め、虎視眈々と隙を伺うべきだった。
そうできなかったのは、おのれの甘さに他ならない。
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(//‰ ゚) 「……」
〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ、もういい」
(//‰ ゚) 「まだ息があル。止めを刺すまで安心はできねェ」
〈;;(。个。)〉 「不要だといっている。既に治る傷では無い」
(//‰ ゚) 「……逆さァ、お前のそれは情けでも仁義でもねえ。ただの侮辱だ」
〈;;(。个。)〉 「……」
地面に膝を折ったィシの頭に、ヨコホリが右手を押し付ける。
これで終わりだ。頭を吹き飛ばされて終わりだ。
夫のもとへ行ける。
散々苦労を掛けた同胞たちと共に行ける。
(//‰ ゚) 「あんたとは、長い付き合いだったなァ。あばよ……」
〈:: − 〉
ああ。
だけれど。
(//‰ ゚) 「?!」
この男を遺していくことだけは、やはり出来ない。
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今まさに魔法を放とうとしていたヨコホリの腕を、ィシの左腕が鷲掴む。
指を失っていたはずの手には、歪な木の枝が生え、鋼鉄の腕をギリギリと締め上げた。
反射的にヨコホリが魔法を放つ。
力づくで射線をずらされた魔法弾は、地面を炸裂させるに終わる。
(//‰ ゚) 「何事だよ、こりゃあ」
ヨコホリが言うが早いか、ィシはその体をいとも簡単に振り上げた。
そして、高い位置からの叩き付け。
逆さ男に行ったような、一度限りのものでは無い。
何度も、何度も執拗に地面に叩き付けヨコホリの体を痛めつける。
逆さ男が蹴りかかったのをヨコホリの体を投げつけることで迎え撃った。
爪;'ー`)y‐ 「おいおいおい。嘘だろう?!」
イ(゚、ナリ从 「だんちょ!ダメだ逃げろ!」
フォックスの魔法煙がィシに絡みついたが、彼女の動きは止まらない。
虫を追い払うような雑な動きでフォックスに体引き千切った欠片を投げつける。
間一髪飛びついたイナリによって直撃は避けたが、射線にあった木の幹が大きな音と罅を作った。
-
(//‰ ゚) 「あの、胸…………糞がァッ!」
起き上がったヨコホリの視線の先。
体を再生し、一歩一歩地面を貫くように歩み寄るィシの胸元。
破れた服の隙間から、赤黒い木片のような物が覘いている。
木片はィシの皮膚に根を張り、鼓動に呼応して生き物のように脈を打つ。
見れば彼女の体表は、木の皮のように変貌をはじめ、もはや人間のそれでは無くなっていた。
(//‰ ゚) 「成程なァ。ババアとは思えねえ戦闘力、逆さの蹴りが通じねえ頑丈さ。そう言うことか」
ィシの右の肩口から先が割れて尖った木の枝が三本張り出す。
それはギシギシと軋みを立て、先端をヨコホリへ。
完全に向き直ると同時に、バリスタの如く高速で射出された。
〈;;(。个。)〉 「ッ!一体、何が起きている」
二本をヨコホリが魔法で。
一本を傍らにいた逆さ男が蹴りで軌道を変えた。
ィシは立ち止まり、ヨコホリを睨みつける。
ただそうしているわけでは無い。
周囲に落ちていた木の枝や木の葉などを足から取り込み、体表を作り替えてゆく。
-
〈;;(。个。)〉 「あの赤い木片、魔道具か?」
(//‰ ゚) 「魔道具なんて甘いもンじゃねえ」
ィシが大口を開けて吠えた。
既に人間の声では無い。
よだれが飛び散り、口の奥から猪の牙のように木の枝が伸びる。
抉れていた頭部も、もがれていた腕も節張った木の肌として再生。
さらに一回り大きくなり、元の名残はどこにも無い。
(//‰ ゚) 「魔女の呪具だ。俺と同じく、体内に埋め込ンで、体そのものを変えちまう」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「あそこまでなったらもう元には戻らン。あの女、本当に人間を辞めやがった」
人の輪郭を失い、上半身が以上に発達した姿。
ィシ、だったそれは、ヨコホリを見据えもう一度大きく吠える。
その姿には、知性も、心も、人間であった面影は一切残ってはいなかった。
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おわりんこ
次は年内目標で。
まあできるだけ早く来る気概だけは忘れず
あとこんだけ間開けてんのに支援とか絵とか貰えるのは相当嬉しいッス
ほんならまた。次回も予告スレをsageていくスタイルで
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乙乙!
やっぱり戦闘シーンかっこいいなー
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乙!!ブーンの奥義にワロタwww
相変わらずの戦闘シーンだうめぇ…
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うへあおつ
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おつ面白い。
ィシ…
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強すぎるィシは身を滅ぼす
のび太
-
おつ
緊張感ある戦闘が熱い
ィシ辛いな…
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待ってた!乙!
ィシも魔女の被害者なのか…
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おつおつ 面白い
ブーンは安定してるなあ
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乙 今回特に面白かった
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いやあ…凄いな色々と
ィシはいつから赤い木片入れてたんだ?
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漫画5
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1309.zip
6は未定
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>>167
相変わらずの再現度で自分が書いた話なのに若干興奮する
いつも本当に乙ッス
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>>167
復活かよくっそ嬉しい
この作品は脳内で映像浮かべて見てるからこういうのありがたい
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諸事情で延期
明日夕方以降に
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期待
-
待機
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6話の内容に関して質問があります
185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/16(日) 18:55:24 ID:uUx1ZvuU0
ξ;;⊿゚)ξ「“ただ、天の意思のままに―――”」
更に二匹、蛇の接近。
にじり下がりながら魔法式を展開、発動まで後一歩に漕ぎ着ける。
しかし、そこへ二匹の蛇が飛び掛った。
ξ;;⊿゚)ξ「“―――マリオット”!!!」
上記の場面でツンの使用した魔法「マリオット」は「マリオネット」の誤りではないでしょうか?
些細な事なんですけど回答してもらえるとありがたいです
-
>>173
質問とか誤字の指摘は割と歓迎っス
確かに「マリオネット」が元だけれど語感の好みと、「操り人形」モチーフの魔法が別にあるので、そのままにせず「ネ」をぶっこ抜きました
さらにいえば最初は「マリオ」だけだったんですがマンマミーヤー過ぎたのでこの半端な改変にしました
目処ついたんで今日の21時以降に来ますNE
-
マンマミーヤーワロタ
-
* * *
まどろみの中に似ていた。
意識の動きは鈍く停滞しているが、不思議と不快では無い。
体の中に渦巻く、自身もよくわからぬ感情は、いつの間にか五歩ほど離れた場所にある。
実に、穏やかな心地であった。
もうよいのだと、優しい誰かに体を抱かれているようだ。
それが母親であるのか、愛した男であるのか、それとも命を預け合った友であるのか。
見当もつかないが、しかし。
あまりに心地よく、穏やかで、体の芯が溶けてしまいそうだということは、間違いない。
怖い。
手を伸ばし、切り離された感情の坩堝に触れる。
電流であり、炎であり、刃のようでも、毒のようでもあった。
ただひたすらに、痛い。苦しい。そして、重たい。
ああ、だけれど。
無くしてはいけないはずの物なのだ。
これは。
人生の内のいくらかを、これらと共に生きた。
幸福とは程遠い時間であったがそれでも、自身の、成した、残した、大切なもの。
記憶がめぐる。
これを走馬灯と呼ぶのだろうと、自嘲気味に笑った。
* * *
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「…………はぁ。クッソ」
ロミスに捕まり、どれだけの時間を消耗したか。
魔力は特に使わなかったが、体力を多きく失ったように思う。
その内訳は、主に精神的なもの。
£凄惨) 「………………聞いていた以上の…………強さ……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんで、気絶しないのよ……」
£凄惨) 「…………我がしつこさは永久に不滅」
ξ;゚⊿゚)ξ 「結界も消える気配が無いし、クソッ」
£凄惨) 「…………一つ、教えよう」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何よ」
£凄惨) 「…………この結界…………我がものでは無い…………」
ξ゚⊿゚)ξ 「は?」
£凄惨) 「…………我は発動の合図を送っただけ…………我を伸しても障壁は消えん」
ξ゚⊿゚)ξ
ツンは殺す勢いの蹴りをロミスに叩き込んだ。
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「なんじゃそりゃぁ!!」
£壊滅) 「…………我が役目は…………障壁の破壊の…………妨害」
ξ#゚⊿゚)ξ 「くっそぁ……はめられた!」
£壊滅) 「…………だから…………肋骨三本目折れたあたりで…………いっそ死にたかった」
緊張が解けたのか、本当の限界を迎えたのか、ロミスが地に伏した。
言葉の通り、障壁が消えることは無い。
これだけの強度の障壁、なんの補助も無しに発動しているとは思わなかったが、
まさかまったく関与していないとも思わなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ってことは本物の術者は外か……くそ、結局自力で何とか壊すしかないや」
もう少し早くわかっていればロミスを放置して取りかかっていたのだが、仕方がない。
こうなればもう天叢雲を使うしかないだろう。
避けたい手法だったが、このまま手間取って他の足止めが現れても厄介だ。
幸い、ツンの監禁が続いているという事実が、まだ全てのことが済んでいないという証明になっている。
ヨコホリが同じ場所にいるかはともかく、早くここを出て味方の援護に向かわねばならない
-
ξ;゚⊿゚)ξ (なるべく、小さく、素早く、無駄なく)
言い聞かせながら魔法式を展開。
相変わらず複雑で面倒な式だ。
散々ロミスにかき乱され集中を欠いているため、組み立てには少々難儀する。
ξ;゚⊿゚)ξ 「“こい―――天叢雲!!”」
障壁の隙間から雲が侵入し、掌に剣が生み出される。
ツンは即座に剣を振り、障壁を自分が通れる程度まで切り裂いた。
再生を防ぐため切った部分を蹴り飛ばし、すぐさま外へ。
そこへ来てやっと、天叢雲を解除する。
ξ;゚⊿゚)ξ 「クソ、これしか使ってないのに、やっぱり結構持ってかれた……」
魔力は戦闘で消費した分も含めて半分ほどまで減っている。
おまけにブーツの魔法もストックを二つ使ってしまい残り一回。
ヨコホリや、その他の手練れを相手にするとなると少々心もとない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「今のうち、一つだけでも装填しておこう」
周囲に敵の姿が無いことを把握。
ツンが脱出した時点では数人の気配があったが、既に逃げたようだ。
十分に時間は稼がれたということか。元から戦闘向きの配置では無かったのか。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「……?!」
ブーツに魔法式を組み込んでいるその最中。
突然に腹を揺すぶられるような轟音が響いた。
地鳴りの類とは違う、地面の震るえる感情を持った音。
それが獣の咆哮らしいことに気づいたのは、二度目が聞こえた時だった。
ξ;゚⊿゚)ξ (何が起きてんの?)
響いてきたのは、それだけではない。
禍々しい魔力の波動。
攻撃魔法の類ではなく、何か別の、もっと複雑な魔法による余波であることだけがわかる。
魔法の感性が零の者ですら何かしらを感じ取りそうな濃厚な魔力だ。
肌に触れているだけで、不安に胸をくすぐられる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「“――――韋駄天招”!!」
タリズマンへ魔法式の組み込みを手早く終え、立ち上がる。
禍々しい魔力の根源は、恐らくヨコホリがいたはずの方向だ。
濃度のせいでかなりわかりにくいが、恐らく間違いないだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ「なんだ、なんでこんなに嫌な予感がするの」
ナイフを持ったまま、ツンは走り出す。
木々をすり抜け、枯れ枝を踏み抜き、山を駆け上った。
-
再度、咆哮が聞こえた。
それに伴い戦闘を行っているようなノイズと、怒鳴るような人の声も聞こえる。
もうすぐたどり着くというところで、視界に見えていた木の一本が弾け飛んだ。
幹を粉砕され、支えを失った上部が少し浮遊して地面に突き刺さる。
周囲にあったもう一本の木が、寄りかかられて軋みを立てた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きてるっての?」
ただならぬ殺気というか、危険な臭いを感じペースを落とす。
太い幹を盾にしながら、それでもできうる限り間を置かずに接近を試みた。
念のため、ニョロに魔法を展開させる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「―――なによ、これ」
辿り着いた、その現場。
初めに目に飛び込んだ光景に、ツンは一瞬凍り付いた。
そこにいたのは、人の形を模した巨大な猪、のような何かだった。
前に伸びた長い鼻と、大きく裂けた口。
頬の際から延びているのは、これまた木製と思しき立派な牙だ。
体表は木で覆われているが、まるで皮膚かのような柔軟性を持って動いている。
上半身は頑強と剛力を思わせる隆々しさ。
下半身は上半身に対してやや心もとないものの、やはり膂力の高さを思わせる、引き締まった筋肉の線が見える。
-
支援
-
ξ;゚⊿゚)ξ
似たような者を、何度か見た。
見た目では無く、本質的な存在が似通っている者を、だ。
一つ目は巨大な狼の体に蛇を生やした異形。
二つ目は海獣の下半身を持った大山犬。
そして、恐らく。これも同系列の存在。
魔女だ。魔女がらみの何かだ。
そうであれば、この吐き気を催す薄気味悪い魔力にも納得できる。
(//‰ ゚) 「ォオ?!ディレートリィィ!!よく来たなァ!!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ニョロ!」
(//‰ ) 「グェッ」
反射的にニョロに魔法を放たせた。
声をかけてきた男、ヨコホリ=エレキブランは顔面に直撃を受けて大きく仰け反る。
どうにも様子がおかしい。
今までならば躱されるか、弾かれるか、当たってもロクに効果が無かったはずだ。
(//‰ ゚) 「……ディレェェトリィィ、可愛がってやりってェがァ、今はそれどころじゃねえンだ」
体を後ろに九十度のけぞらせたままヨコホリが魔法を放った。
手のひらを飛び出した空弾が、迫っていた木片を破壊する。
壊しきれなかった最後の一つは起き上がると同時に腕で弾き飛ばした。
-
状況の把握を優先し周囲に素早く目を走らせる。
ヨコホリの他に立っているのは、皆根絶法関連の人間ばかりだ。
武器を構え、切迫しているところを見るに猪の化け物と友好的な関係では無いらしい。
ツンが周囲をうかがっている間にも、一人の兵士が頭を穿たれて吹き飛んだ。
無骨な木の槍が頭蓋を貫き、衝撃に吹き飛ばされ木に叩き付けられる。
即死だろう。びくびくと痙攣するだけでまともに動く気配はない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……!ミンクス?!」
吹き飛ばされた死体の傍に、見慣れた顔を見つける。
ミンクスだ。倒れているので気付かなかった。
見ると、肩口から斜めに刀傷を負っている。
一見して致命傷のようだが、辛うじて生きている気配があった。
ツンは応急処置の魔法を展開しながら、彼のもとへ走る。
イ(゚、ナリ从 「!新手……!」
爪;'ー`) 「放っておきなさいイナリ。それよりも今は」
イ(゚、ナリ从 「チィッ」
猪は方向と共に体の各部から木片を飛ばし続けている。
当たれば即死が約束されていることは先ほど見た。
ツンは足元を抉り飛ばした一撃を飛んでやり過ごし、着地の勢いのまま転がってミンクスにたどり着く。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「ミンクス!ミンクス!ちょっと!」
ミ´ w ン 「ディレー……トリ……?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんつー傷……!“痛いの痛いの、飛んでけー”!!」
大きく深い傷に、応急処置の魔法を施し出血を抑える。
既に大量の血が流出しているのは明らかで、まだ意識があるのが不思議なくらいだ。
裂傷が内臓に届いていなかったのは幸いだが、このままではどちらにせよ死ぬ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「クソ!なにがどうなってんの!!」
再度見渡せば、倒れている者の約半数は禁恨党のメンツだった。
猪の傍には、シーンの姿もある。
全員意識を失うなり死ぬなりしているらしく、この騒ぎの中ピクリとも動かない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ッ、ィシさん、ィシさんは?」
柄の折れたハルベルトの刃が転がっているだけでどこにもィシの姿が無い。
逃げたか、あるいは既に殺されて遠くに吹き飛ばされたのか。
前者は恐らく無い。後者については、あり得るが、望む結果とは異なる。
-
猪の攻撃は未だ続いていた。
眼中に無いのかツンの元には飛来しないが、ヨコホリと激しい打ち合いの応酬を行っている。
どちらも、生命の常識を超えていた。
ヨコホリは襲い来る木片の砲弾を的確に迎撃し、僅かな隙に反撃を撃ちこむ。
猪の方は回避や防御は一切行わず、ただひたすらに攻撃を続ける。
攻撃を受けて破損した体はすぐさま再生し、被害があるようには見えない。
逆さ男、フォックス、イナリその他も援護を行っているが、ほぼ無意味。
ヨコホリよりも頻度は少ないが攻撃に曝され、回避で手いっぱいといった様子だ。
ミ´ w ン 「ディレー……トリ……とめ……てくれ……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「わかったから、喋んないで!止まるものも止まらないわ!」
流れ弾への警戒をしながら、ミンクスの傷に応急処置の魔法を重ねがけし、何とか出血を止めた。
これで、失血による死亡はかなり遅らせられるはずだ。
あとは、魔法の効果があるうちに血をぶち込んで傷を塞ぐことさえ出来れば。
咆哮が響く。
特に傷を負っていないツンですら、皮膚がビリビリと震えた。
ミンクスが呻くと同時に、じんわりと血が滲み出る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「とりあえず、安全なところに……」
魔法の応急処置は脆い。
大きな衝撃を与えれば、すぐに出血は再開してしまうだろう。
ツン一人の力で遠くへ運ぶのはいくらか無理があった。
-
いつ猪の意識がこちらへ向くかという不安と焦りが、ツンの集中を欠けさせる。
ミンクスを運ぶこともできず、ただ少し離れたところへ引きずるしかできない。
それだけで出血は再開し苦しげな息が胸を上下させた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……くそ、リッヒのところまで運ぶなんて、到底無理だ」
三度の応急処置の魔法。
痛みどめとしての効果で、何とか体力の消耗を抑えなければ。
背後で戦闘の残響が幾度となく響く。
戦況がどちら有利なのか、ツンには分からない。
そういった感覚で推し量れる状況を逸脱しているというべきか。
もし仮に、あの猪のような何かが、蛇頭や怪獣のキメラ並みの不死性を誇るとしたら。
あくまで人間である根絶法指示勢には苦しい相手だろう。
ヨコホリ自体も化け物染みてはいるが、この場だけを見ればはるかに人間らしい。
ミ´ w ン 「止め、てくれ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「大丈夫、血はもう止まったから、とにかく安静に……」
ミ´ w ン 「……違…う……あね……さんを、とめて、くれ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさんを?」
-
ィシさんなんて、どこに。
そう聞き返そうとしたツンの脳みそが、急速に回転を速める。
折れたハルベルトの先端があったことを見るに、ィシがこの場にいたことは間違いない。
禁恨党のメンバーが勢ぞろいしている状況を見ても、確定していいだろう。
なら、彼女はどこにいる。
逃げたのか?あの人が、仲間を置いて?
死んだのか?死体が残らないほど粉砕されて?
そして、この場において、最も重要で、最も不確定な存在の猪。
こいつは、なぜここにいる?
最近は人外と遭遇する確率が異常に高かったため、それほど深く考えなかった。
どうせ魔女がまた、適当な理由で置いて行ったのだろうとしか思わなかった。
ツンやミンクスに攻撃が来ないのも、敵意の無いものには興味が無いとか、そんなところだろうと。
ならなぜ。
無遠慮に周囲に木槍をばら撒いておきながら、禁恨党の党員は、誰一人その一撃を受けていないのか。
同じく死体になっていた敵側の兵士は、既に数発の流れ弾を受け、酷く損壊しているというのに。
なぜ、禁恨党員だけを避けて、攻撃をしているのか。
-
ξ;゚⊿゚)ξ (いや、まさか)
禁酒党の兵士が、胸を穿たれて絶命する。
これでの残るは、主要戦力の四人だけとなった。
猪が、木片による掃討攻撃を辞めた。
周囲の木々は悉く破壊され、森の中に猪を中心とした広場が出来上がっている。
足元の不安定さをどうにかすれば戦闘を行うに十分な領域であった。
ξ;゚⊿゚)ξ (そんなわけ、無い)
猪が離れた場所のハルベルトを見た。
折れた斧刃に地面から伸びた木が絡みつき、そのまま飲み込んでゆく。
最終的には、斧刃の柄が修復され、元よりはいくらか歪んだハルベルトが現れた。
猪は、迷いなくそれを手に取る。
巨体には少々小さいが、扱いは手馴れていた。
ξ;゚⊿゚)ξ (……違う)
猪が中途半端に体から延びた木の根を引き千切り、ヨコホリへ猪突猛進する。
見たことがある形だ。
何度か救われた力だ。
だが、あまりにも、違いすぎる。
-
(//‰ ゚) 「チィィッ!!」
上半身に比重のあるバランスの悪い体系であるにも関わらず、猪の動きは軽快だった。
一歩で間合いを詰め、もう一歩でハルベルトを振りかぶる。
ヨコホリが放った魔法を受け、少し動きが鈍ったが、それも一時的なもの。
次の瞬間には、ハルベルトの斧刃が、ヨコホリの体を薙ぎ払っていた。
(//‰ ゚) 「グゥッ!」
耳に痛い金属音。鼓膜を突き抜け、脳を直接痺れさせる。
ヨコホリは、大きく吹き飛ばされていた。
斬撃自体はガードを間に合わせたが、あまりの衝撃に足が地面を失う。
低い姿勢で着地したそこへ、猪の追撃。
振り切ったハルベルトをそのまま強引に、今度は逆に向かって叩き付ける。
これまた右腕で受けるヨコホリだが、あまりの力差に耐えられず地面を転がった。
(//‰ ゚) 「クソが、厄介なババアだ……」
〈;;(。个。)〉 「!」
ヨコホリに意識を集中していた猪の首に逆さ男が飛び掛かる。
体を軸に回転、遠心力と体重を乗せた蹴りで、その巨大な頭を蹴り抜いた。
重い音が爆発のように響き渡る。
山が震え木々が葉を落とし、しかし猪の巨体は揺るがない。
-
逆さ男の着地際を狙い、腕を振るう。
これを、脚甲の足の裏で受け、器用に跳躍し勢いを殺す逆さ男。
再び着地すると、耐えかねて膝を折った。
並であれば死んでいておかしくは無い。
あの程度で抑えたのはさすがというべきか。
ξ;゚⊿゚)ξ (……)
ツンは、今までに戦った二頭のキメラを思い出す。
どちらも、今目の前にいる猪と同じく、強大な力を持ち、人間であるツンたちを圧倒した。
しかし、目の前にいるこれは、彼らとは決定的な違いがある。
この猪型の化け物は、「技」を持ってるのだ。
目標に対し持っている力をぶつけるだけだったキメラたちには無かった「戦闘の経験」というべきか。
武器を扱っているのがその証拠。
ハルベルトは数種の型を持つ多機能の武器ではあるが、その分扱いは難しい。
ただ力のある者が使っただけでは、刃を合わせることすらロクに出来ないだろう。
それを、この獣は。
的確にヨコホリの急所を狙い、刃を合わせ、その膂力を余すことなく振るっている。
-
腕と、ハルベルトで体を守った猪だが、傷は深く大きい。
木製かと思われたその体の奥から、赤いものが染み出している。
すぐさま身体が蠢き傷を塞ぐも、確かにあれは血だった。
(//‰ ゚) 「流石にコイツは通るみてェだな、安心したぜ」
再び、今度は縦に腕を振るうヨコホリ。
放たれた巨大な鎌鼬は猪を両断すべく、容赦なく襲いかかる。
森ごと割れるかと思う一刀が、地面の土を巻き上げながらハヤテのごとく突き抜けた。
〈;;(。个。)〉 「……恐れ入る」
風の刃は、遠くにあった木を縦に切り裂き、さらに後ろにあった木を粉砕して消えた。
対象であったはずの猪はハルベルトを構え、悠然とヨコホリを見据えている。
武器と体裁きによって体表の一部すら切り裂かせず、無傷のままやり過ごしたのだ。
一撃見ただけで技を見切り、最小限の動きで回避するなどただの剛力にできることでは無い。
-
〈;;(。个。)〉 「変貌しても中身はィシ=ロックスというわけか」
(//‰ ゚) 「それどころじゃねェやな。体がタフになって余裕が出た分、技がキレまくってやがル」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……
一瞬の間に交わされた二人の会話を、ツンは聞いてしまっていた。
聞くまでも無く、導き出されていたことだ。
ただ、まだ予測の範囲であると、ごまかすことが出来ていた。
しかし、答え合わせを聞いてしまった。
ミ´ w ン 「たの、む……ディレ―……トリ」
ξ゚⊿゚)ξ
ミ´ w ン 「姉御……を、助けて……やって…くれ
悪夢にうなされているかのように、ミンクスが繰り返す。
ツンは答えない。
ハルベルトを振り上げる、猪の化け物。
その姿の中に見つけてしまったィシの名残を、ツンはただ、見ていることしかできなかった。
* * *
-
(;'A`) (おうおうっ、予想以上にヤバいのがいるっぽいな)
ブーンの感じ取った魔女の気配を目指し、ドクオが飛行している途中。
目指す森の木が、次々と倒されていく。
与作がヘイヘイホーと切り倒しているというような穏やかさでないことは、その勢いからしてわかった。
( ^ω^) 『何がいるか見えるかお?』
(;'A`) (…………わからん。魔力が乱れすぎててサーチもロクに効かねえ)
( ^ω^) 『……』
(;'A`) (どうする?距離を取って魔法で狙撃する手もあるぞ)
( ^ω^) 『……いや。状況が把握できない限り、それは危ないお。僕がやるから、現場へ』
(;'A`) (言うと思ったよ、ったくよー)
ドクオはさらに加速。
木が倒れ広場となった地点へと急ぐ。
(;'A`) 「居た!一旦預けるぞ!」
( ^ω^) 「任せるお」
目標を目で確認。
上空でドクオとブーンが入れ替わる。
-
( ^ω^) 「?!」
ククリ刀を構え、落下。
その間にもはっきりと見えるようになったそれは、獣でありながら、獣では無かった。
( ^ω^) 「!!」
慣性を十全に乗せた、中空での居合切り。
刃が鳴り対象を切り裂くが手ごたえが悪い。
まるで年輪の詰まった巨木を斬りつけたようだ。音も硬く鈍い。
(;'A`) 『何だこいつぁ?!』
割愛すると、木で出来た猪。
幻想物語に登場する猪頭人の魔獣、オークのような造形だ。
手に持ったハルベルトが小さく見えるほどには体が大きい。
( ^ω^) 「無刀の型―――」
落下の衝撃を転がって殺し、すぐさま立ち上がる。
猪の意識はブーンに向き、滑らかな動作でハルベルトを横に振りかぶった。
( ;^ω^) 「かげッ…陽送り!」
人間の振るう斬撃とは格が違った。
ククリの柄尻を合わせて逸らし、辛うじて直撃を防ぐ。
しかし、腕が痺れ体も大きく流された。反撃に移る余裕は無い。
-
( ;^ω^) 「ちょ、やば……」
侮っていたわけでは無いが、予想以上だった。
高い膂力を持っていることはもちろん、それを無駄なく攻撃に生かしている。
単なる腕力だけならばさらに強いものと対峙したことがあるが、質が違う。
左から右へとブーンを払ったハルベルトが、体を捩じった振り終わりの体勢から、クルリと向き変った。
そうしてそのまま、往復の斬撃。
一撃目でその威力を体感しているブーンは大きく飛びのいて回避する。
頬をなでる風が、肌を引き千切るようだ。
真っ向から受け止めていたら、防御の上からでも死ぬかもしれない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
( ^ω^) 「お?」
〈;;(。个。)〉 「……ここでオルトロスとはな」
(//‰ ゚) 「なンだァ?こりゃサプライズパーティかなンかか?」
名を呼ばれ、ツンの存在に気づく。
恐らくは味方側であるだろう兵士を抱え、焦りの濃い表情をしていた。
こんなところで無防備にしていては、すぐに殺されてしまうだろうに。
-
(//‰ ゚) 「敵か?」
〈;;(。个。)〉 「敵の味方ではありそうだが、敵の敵でもあるようだ」
猪が左腕をブーンへ、右腕をヨコホリへと向ける。
腕の甲がささくれ立ち、そこから小ぶりの、矢ほどの木片が頭を覗かせた。
咆哮と同時にそれらが発射。
ブーンはツンとは逆へ走って回避。
サイボーグは数回に分けて放った風の刃ですべてを切り払う。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン、その人、私の知り合いなの!!」
( ^ω^) 「おーん?!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「だから!味方なのよ!!」
( ^ω^) 「……マジで?」
ブーンが伏せる。
その頭上に、指数本の間を開けてハルベルトが過ぎ去ってゆく。
危うく頭蓋を器に味噌汁(生)がお粗末様してしまうところだった。
( ^ω^) 「めっちゃ狙われてるんですけど」
(;'A`) 『いきなり斬りつけちゃったしNE!!』
-
猪が再び往復の斬撃を放つ。
一辺倒かつ、単純だが、非常に効果的だ。
この連撃を躱すのは、見た目のシンプルさ以上に辛い。
一撃目の回避で体勢を崩せば、二撃目に確実に捕まるだろう。
ハルベルトの間合いでこれをやられると厄介この上ない。
欠点であるはずの重量は、高い腕力のせいでむしろ破壊力へと変換されている。
的確だ。
読めたところで簡単に反撃に移ることが出来ない。
これを繰り返せば、受ける側は間違いなく消耗する。
(//‰ ゚) 「よくわからンが、頭数が増えるなら歓迎だ」
サイボーグの放つ、袈裟斬りの鎌鼬。
ブーンに意識を向けていた猪の脇腹を狙う。
だが、腕だけで強引に振るわれハルベルトがこれを迎え撃った。
空気とは思えぬ甲高い残響と共に鎌鼬が爆ぜ、周囲に小さな刃をまき散らす。
猪の体表に無数の傷が出来たが、直撃とは雲泥の差だ。
ついでにいくつか、傍にいたブーンも巻き添えを喰らった。
(//‰ ゚) 「別にオルトロスはどうなってもいいンだろ?」
〈;;(。个。)〉 「特に気遣う必要はない」
( ;^ω^) 「くぅ〜〜〜」
-
獣の如く跳ねて距離を取るブーン。
半端な間合いは危険だ。
一太刀目の手応えから言って、懐へ潜り込んでも活路はない。
ブーンが攻撃圏内から離れた途端に、猪はサイボーグへと突進。
右腕一本でハルベルトを振りかぶり、左腕の木を増量し盾の如く構える。
猪、叩きおろしの一撃。
ヨコホリは右腕を刃に合わせ力を僅かに反らす。
見事だ。斧は地面を深く抉り、ヨコホリには当たらない。
自ら作り出したこの隙に、ヨコホリは流した体を予備動作に繋げ、魔法を発動する。
対する猪は、この攻撃を読んでいた。あるいは、超速で反応した。
鋼鉄の腕が振るわれ始めのその一瞬に、開いていた左腕をコンパクトに振るう。
この視界の外からのジャブはヨコホリの脇を捉え、軽々と弾き飛ばした。
水切石の如く地面を跳ね、四つん這いで止まるヨコホリ。
赤黒い唾液が、その口からぼたぼたと零れる。
〈;;(。个。)〉 「……」
黒づくめに仮面を身に着けた男。
特徴を見るに、ツンに聞いた逆さ男であろう。
彼は身体強化の魔道具である指輪を発動し地を蹴った。
付随するように、鎌のような刀を持った女も猪の死角へと走る。
-
〈;;(。个。)〉 「!!」
正面切って迫る逆さ男に対し、猪はハルベルトの刺突。
これはフェイク。
本命は先ほどと同じく左腕の追撃だ。
逆さ男は回転し紙一重で回避。
向かって左に流れ、猪自身の腕が作る死角に潜り込む。
猪は逆さ男の位置を予想して左腕を振るった。
これは、狙いの通り。
強引な一発を期待していた逆さ男は、すかさず跳躍し躱す。
飛び立つカラスを思わせる軽い身のこなしで猪の体を蹴り、後ろへ回り込んだ。
猪は反射的に向き直り、ハルベルトを横に振り回す。
しかし、これもまた逆さ男の狙い通りだ。
ハルベルトは空を斬り、代わりに猪の目の前にいたのは、
イ(゚、ナ#リ从 「ァァッ!」
全身の筋肉を隆起させ飛び上がった、剣の女。
剣を両腕で振り上げ、他のメンツに負けず劣らずの剛力で振り下ろす。
鉤になった先端は、甲高い音色と共に見事狙いの眉間へと深く食い込んだ。
それでいても、手ごたえがない。
ほぼ無意味に終わったことを悟ると同時に、女は剣を離し軽やかに飛び退く。
-
女の着地を待たず、再び逆さ男が前へ。
ハルベルトギリギリの間合いで跳躍の予備動作を取る。
直前何度かの経験で飛翔からの展開を警戒し、猪の意識が上へ向いた。
その一瞬を、逃さない。
逆さ男はやや屈んだ姿勢からそのまま懐へすべり込み、密着する窮屈な間合いから、
〈;;(。个。)〉 「ふッ」
真上、猪の顎へと脚甲を突き上げる。
力だけでなく、恐るべき柔軟性だ。
不意のこの一撃に、猪は巨体を、僅かではあるが仰け反らせる。
(//‰ ゚) 「ガァァッ!!」
この好機に飛び込んだのは、再起したヨコホリ。
目を剥き血走らせ、余剰魔力が煙となって吹出す右腕を、大きく振り上げる。
もはや魔法の間合いでは無い。
放たれた真空の大剣は爆発と違うほどの轟音を持って、猪の体を肩口から真っ二つに切り裂いた。
衝撃で割れた体内に、内臓が覘く。
猪の悲鳴は音にはならず、代わりに真っ黒の血反吐を吐き出した。
-
膝から崩れる猪。
まだ、絶命はしてはいない。既に再生が始まっている
一切の油断なくサイボーグが追撃へ。
魔法の巻き添えを避けていた逆さ男と剣の女の両名も前へ出る。
しかし。
ξ#゚⊿゚)ξ 「“シュート=インパクト”!!」
〈;;(。个。)〉 「?!」
ツンの放った衝撃波の魔法が、サイボーグの足を止めさせ。
その間にニョロの放った嵐の魔法がイナリと逆さ男を巻き込んで吹き飛ばす。
機敏な反応でダメージを避けた二人だが、代わりに大きく距離が開いた。
(//‰ ゚) 「グッ?!」
体勢を崩したサイボーグへツンは自ら飛び込む。
魔法を発動し、加速した足の裏でその横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。
ブーンが見た限りでも二度目。マリオネットのように体を歪ませながら吹き飛ばされていく。
(//‰ ゚) 「……ナァァンのつもりだァァ、ディレェェトリィィィ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ィシさんを、やらせたりはしない」
-
( ^ω^) 「……」
魔女の魔力によって生み出されたであろうこの猪の能力を探るべく。
そしてツンの「味方」という発言で様子見を決め込んでいたブーンだったが、改めて剣を握りなおす。
ツンは、正直なところ思慮深い性格では無い。
直情的だし、すぐ突っ込むし、後先考えないし、もうちょっと脳みそに仕事させてほしいと思うことが何度もあった。
だがしかし、今現在、生半可な覚悟でこの選択肢を導き出したわけでないだろうことは、分かる。
その意志を、できれば踏みにじりたくはない
無論、だからといって魔女の関わった「力」に対する警戒心を捨てたわけではない。
(;'A`) 『……できうる限り、元に戻す方法を考えてみる……だが……』
ただし、猪の力の矛先が、しかるべき目標を見失ったその時は、容赦は出来ない。
制御を失った強大な力が一体どれほどの被害を生むか、ブーンは嫌というほど知っている。
ξ゚⊿゚)ξ 「ィシさん、そいつは、ブーンは敵じゃないから、攻撃しなくても大丈夫」
ブーンが一歩近づいただけで腕を突き出し、木片を放つ動きを見せていた猪、ィシ=ロックス。
ツンのその一言を聞き、僅かに逡巡する間を置いて腕を下した。
少なからず驚く。
ここまで変貌してなお、人語を理解し行動を律する精神が残っているとは。
-
〈;;(。个。)〉 「厄介な展開になったな」
イ(゚、ナリ从 「だから早めにあいつぶっころべきだった。だんちょのせい」
爪;'ー`)y‐~ 「やははは、厳しいね……でもまあ、人間相手なら俺も役には立てるかな」
ィシを挟み、ツンはサイボーグと、ブーンは逆さ男、剣の女イナリ、そしてだんちょ、フォックスと向かい合う。
単純な数では三対四。現状のィシが超人の能力を持っていることを考えれば、不利なバランスでは無い。
危惧すべきは、ィシがどこまで味方でいてくれるか、だ。
現段階ではブーンやツンに危害を加えることは無いが、魔女の力に飲まれている以上安心するべきではない。
いざというときはィシ、ヨコホリたちの双方からツンを守らなければならなくなるだろう。
ィシの雄叫び。
ぱっくりと体を割いていた傷はもう修復が済んでいた。
あの咄嗟の一瞬に正中線を躱していたのは、この再生力を自ら知らなかったのか、それとも。
人間だったころの名残といえばそうかもしれないが、注視しておく必要はありそうだ。
ブーンはドクオに猪の観察を任せ、逆さ男たちにククリを突き出した。
〈;;(。个。)〉 「……貴様、大五郎には関係ないと聞いていたが」
( ^ω^) 「大五郎の関係者では無く、この場を見かねて飛び込んだ正義の味方ってことで頼むお」
〈;;(。个。)〉 「……正義か。嫌味な言葉を使う」
( ^ω^) (この臭いは……)
-
イ(゚、ナリ从 「だんちょ、煙早く!!」
言うが早いか、イナリが前へ。
剣はィシが引っこ抜き、明後日の方へ投げ飛ばしていたが、拾う気はないらしい。
太腿のホルダーに差してあった投具を抜き取り、近い間合いから振りかぶって投げつける。
ブーンは冷静に射線を見切り、ククリの先端を合わせて弾く。
軌道をずらされた小型の刃は錐もみ回転しながら森の中へ消える。
進行方向を横に変え、イナリがもう一本の投具を放つ。これもブーンは最小限の動きで弾いた。
この間、逆さ男が弧を描いて接近。
ィシとブーン、どちらも狙える位置を取っている。
ちらりと後方を確認するブーン。
ィシはその場から動かず、ヨコホリを木片で狙撃。
ツンは巻き添えを食わぬように横へ流れながらヨコホリに格闘を挑んでいる。
ヨコホリを二人に任せ、自らは逆さ男へ。
迷いなく顎を砕きに来た前蹴りを、仰け反って避ける。
当たれば口中の歯列ごと砕かれるだろう。表情には出さないが、背筋に冷たい電流が走る。
振り切られた男の足は、引き戻されるかと思いきやブーンの左腕に絡みついた。
腕の上側にふくらはぎを乗せ、角度と足首のひねりで、つま先だけを下側に回し込み引っ掛ける。
蹴りを放った後とは思えない精密な動作。
ブーンが右手のククリを振るおうとするよりも早く、逆さ男が右足に体重を乗せた。
絡めとられた腕を押し下げられ、肩の関節が悲鳴を上げる。
-
( ;^ω^) 「?!」
ブーンが何とか押し返そうと力を込めた瞬間に逆さ男は体を後ろへ倒す。
自らの力も利用され、ブーンはあっさりと引きつけられた。
巴投げの要領。
咄嗟に判断し、何とか堪えようとしたブーンの鳩尾を、軸足であったはずの左足が蹴り抜いた。
重さは、それほどではない。それでも一瞬意識を白濁させるには十分。
左足の爪先はさらに食い込み、ブーンの体を持ち上げる。
地面に肩を突き、全身のバネで足を振り切った逆さ男の力に空中で逆らうこともできず。
落ち着きのない空中浮遊を楽しむ暇も無く、離れた木の根に直接叩き付けられた。
(;'A`) 『足だけの投げ技なんて初めて見た……』
( ;^ω^) 「……喰らってみる?」
(;'A`) 『また今度ね』
小ボケを楽しむ余裕すら逆さ男は与えない。
地面に肩をついた姿勢から、腕の力でクルリと体を向き直し、起き上がる勢いでそのままブーンへ接近する。
体操選手かよ、死ね。という悪態もそこそこ、ブーンもダメージ色濃く残る体で迎撃を体勢を取った。
その向こうで、イナリが落ちていた手斧を拾い、ィシへ向かうのが見える。
-
逆さ男のスタイルはブーンが今までかつて体験したことの無い型だ。
負ける気はないが、楽勝というには今のブーンでは苦しいだろう。
(;'A`) 『ブーン、仕方ねえ使え』
( ^ω^) (……僕も、そう思ったところだお)
小さな踏み込み。
ククリの先端を土に食い込ませ、撒き上げる。
逆さ男は舞い上げられた土を、体幹の回転で円の軌道を描き回避。
この僅かに稼いだ時間に、ブーンは逆へ距離を取る。
そして右手の袖をまくり、手首を露出させた。
太く力強いそこに嵌っていたのは、大きな銀のブレスレット。
ドクオの師の元にあった、魔道具の一つ。
形態としては星。現在封じられている魔法は。
( ^ω^)( 'A`) 「『“我、永遠喰らう者―――汝を、蹂躙す”!!』」
ドクオが使える中で、最も効果の高い身体強化魔法。
腕輪から吹き出した炎の帯がブーンの体にまとわりつき、全身の筋力を増強してゆく。
初手を取ろうと蹴りを構えていた逆さ男は、咄嗟に距離を取る。
ブーンから溢れだす圧力が、普段の比では無くなっていた。
本人からすれば、本来の能力にもまだ至らない、不完全なものではあるが。
-
(;'A`) 『副作用は相変わらずだ。無理はすんなよ』
( ^ω^) 「……お」
ゆらりと、ブーンが前へ。
余計な力が篭っていない。
力む必要が無いからだ。
〈;;(。个。)〉 「?!」
( ^ω^) 「杉浦双刀流変式一刀の型―――」
ブーンが気配を消す。
逆さ男程の相手に使うには、動揺の見える今しかない。
軽やかに地を蹴り、間合いを詰める。
逆さ男は既にブーンへ意識を戻していた。
だがそれは、早いが、遅い。
( ^ω^) 「“攫い百舌鳥”」
左脇へ居合抜きの構えから放たれたのは、左の貫き手。
当然斬撃を回避する意識であった逆さ男は面食らう。
後退し身を捩じって交わすも、反撃を放つには不十分な姿勢へ。
ブーンの動きは止まらない。
貫き手を放った勢いのまま、一回転。軸足が瞬時に入れ替わり、重心が滑らかに移動する。
-
〈;;(。个。)〉 「……くッ」
回転を活かした振り上げから、倒れるような踏み込みによる音速の斬撃。
逆さ男はこの一太刀を強引に避ける。
完全にとはいかない。先端が服と皮膚を浅くではあるが、切り裂いた。
( ^ω゚) 「ッ」
細く糸を引く逆さ男の血液。
ブーンは振り切ったククリをすぐさま引き戻し、獣を思わせる荒々しさで間を詰める。
逆さ男は崩れた体勢から前蹴りを放つが、ブーンの反応はそれを軽く回避。
腹の脇で蹴り足を掴まえ、そのまま強引に推す。
もはや崩れ切った体勢の逆さ男の体はいともたやすく浮き上がった。
ギリギリと足を締め付ける剛力は、脚甲が無ければ骨を折るほどだ。
地面に逆さ男を叩きつける。
足を離さぬまま押さえつけ、ククリを首を断つ形で一文字に放つ。
逆さ男はこれを腕で防御した。
袖の中のロンググローブに仕込んだ鉄板が切断を防ぐ。
( ω゚) 「ッ!!」
連続で、頭へ向かって振り下ろされるククリ。
逆さ男は辛うじて鉄板で受け、致命傷を防ぐ。
ブーンの動きは振るうというよりも、鍔元で殴りつけるような直線の動き。
勢いはないが、増強された身体能力により、すさまじい音が鳴り響く。
-
このまま逆さ男が惨殺されるのは時間の問題かと思われたが、ブーンが何かに気づき逆さ男を解放した。
野性的な動きでその場を飛びのき、一気に距離を取る。
ブーンがマウントを取っていた逆さ男の上を、鞭のような青白い何かが揺らめく。
それは細く伸びる煙の筋であった。
爪;'ー`)y‐~~ 「いやぁ、待たせたね旦那。生きてる?」
〈;;(。个。)〉 「……この通りだ」
フォックスの魔法の煙が糸のように逆さ男の周囲を囲む。
具体的な効果はわからないが、危険な臭がプンプンする。
(;'A`) 『大丈夫か、一瞬飛んでただろ』
( ;^ω^) (……すまん……お、どうも、火の強化魔法は苦手だお)
(;'A`) 『興奮の副作用がお前には厄介すぎるな……辛いようなら解除しろよ』
( ;^ω^) (魔法なしでやるには、相手がちょっと悪いおね……)
爪'ー`)y‐ 「さーて、あんたも大概人外の臭いがするけど俺の魔法は効くのかな?」
煙が意志を持って揺らめく。
速度は無いが、確実にブーンへ迫っていた。
-
(;'A`) 『魔法毒……いや、色が薄いな……精神干渉……』
( ;^ω^) (当たったらどうなる?)
(;'A`) 『……たぶん、無傷で倒れている奴らと同じ感じに』
( ;^ω^) (囲まれちゃったネ)
(;'A`) 『……ブーン、代われ策がある』
( ;^ω^) (……)
(;'A`) 『先生のタリズマンがある。簡単にやられたりはしない』
返事もそこそこにブーンの姿がドクオへと変わる。
フォックスは僅かに驚きを見せたが、逆さ男はすぐに対応。
魔法を使わせまいと一気に間合いを詰める。
(;'A`) 「“―――盾よ”!!」
ドクオの詠唱に呼応したのは、胸元に下げたタリズマン。
元から持っていた月の他にもう一つ、小さい指輪が括り付けられている。
弱い斥力効果を持つだけの障壁魔法式が刻まれた大地の。
魔力に適合性があるドクオしか使うことが出来ないが、発動スピードは他の魔法を圧倒的に凌ぐ。
-
躍りかかる逆さ男の前に表れた六角形の障壁。
突然のことに避けきれず触れた彼の体は、眩しい発光と共にはじき返される。
逆さ男を一旦撃退するだけの任を全うして、障壁はすぐに消え去った。
爪'ー`)y‐~~ 「よくわからないけど、仕留める方向でいいんだね」
様子見で漂っていた煙がドクオへ迫る。
これに関しては物理面に重きを置いた盾の魔法では対抗できない。
既に――まだドクオであれば抵抗できるレベルではあるが――魔法が浸蝕してきている。
ドクオは逆さ男に意識を配りながらも、煙の薄い方へ走った。
あからさまな誘導だ。それにはドクオも気づいている。
しかし、なんにせよ間合いは詰めなければこの策は成り立たない。
(;'A`) 「“盾よ”!!」
〈;;(。个。)〉 「……ッ」
迫る逆さ男を足止め。
盾を複数同時に生み出して、横への移動も制限する。
爪'ー`)y‐~~ 「お兄さん、戦い方がせこいねえ」
(;'A`) 「お前みたいなタイプには言われたか無いね」
爪'ー`)y‐~~ 「まあ、それも終わりさね」
-
煙は、完全にドクオを囲んでいた。
しかし、まだやられるとは限らない。
精神干渉の魔法などは、魔法使いなど魔力の扱いに長けた者ならば抵抗することが出来る。
万全である今のドクオであれば十分耐えられるはずだ。
その隙に手に持ったククリでぶん殴れば勝てる。
格闘は苦手だが、今は筋力がちょっと増しているし、強化魔法の効果もあるので十分効く、と思う。たぶん。きっと。恐らく。お願い。
爪'ー`)y‐~~ 「言っておくけど、我慢なんてしない方がいい。辛いだけだ」
ドクオが耐えようとしていることを、フォックスも当然見抜いている。
だからこそ、拡散した煙で襲うのではなく、自らの近くまで誘い込んだのだ。
フォックスの手に現れた、濃密な煙の剣。
単に濃いだけでなく、追加の魔法式によって効果が大きく上昇している。
そのためフワフワと漂わせて操ることは困難になるので、扱いは易いようにこうしてまとめているのだ。
(;'A`) 「でえええ!!」
ドクオがダメもとで切りかかる。
しかしフォックスの動きはそれよりも早く、魔法の剣はドクオの胸を横に切り裂いていた。
痛みはない。ただ、ハーブ類のもたらす清涼感に似た冷たさがあった。
頭が一瞬、強く揺さぶられる。
眩暈だ。強烈な、目の前が一時見えなくなるほどの。
-
眩暈の収まったドクオの目に留まったのは、荒れ果てた森の中の風景では無かった。
フォックスも、逆さ男も、分かれて戦っていたツンたちの姿も無い。
背の低い草が茂るなだらかな丘と、収穫され幹だけになった桑の畑が広がっている。
最近も立ち寄った、ドクオの故郷、クシンダの風景だ。ただ、少し古い。
フォックスの術に嵌った。そう判断した思考すら、すぐに意識の中から消え去った。
ドクオの立つ丘の頂上へ、誰かが歩いてくる。
女性だ。ロングのスカートに濃紺のカーディガン。手には食料品の入ったバスケットを持っている。
風が草を、スカートを靡かせた。ドクオは彼女のことを、よく知っている。
(;'A`) 「先生、ダメじゃないですか、町へ下りたりしちゃ」
川 ゚ -゚) 「大丈夫だよ、今日は体調がいいんだ」
(;'A`) 「そんなこと言ったって、もし何かあったら」
川 ゚ -゚) 「ふふ、ドクオは心配性だな」
女性の、先生の手がドクオの頭を撫でた。
まだ十代の前半で、その上発育の悪いドクオの頭は、女性の先生にも見下ろされる位置にある。
それが一人の男としてはもどかしいし、同時に優しく頭を撫でられることにこの上ない幸福を感じてしまう。
川 ゚ -゚) 「今日は、ドクオの好きなチキンのマリネだ」
(*'A`) 「本当ですか?やった!!」
痩せた先生の体に寄り添い支え、ドクオは暮らす家へと帰る。
これから口にするであろう、先生の美味しいマリネの味に、期待を膨らませながら。
なぜだか失ってしまったような気がしていた幸せを、じんわりと噛みしめながら。
-
爪'ー`)y‐~~ 「ふぅー。魔法使い相手にも効いてよかった」
〈;;(。个。)〉 「落したのか」
爪'ー`)y‐~~ 「ああ、念入れて強力にしたから、もう戻ってこられないかもしれないけど」
〈;;(。个。)〉 「……」
爪'ー`)y‐~~ 「ま、心地いい夢を見ながら死ねるなら、幸せでしょう」
〈;;(。个。)〉 「ヨコホリの援護へ行くぞ留めはあとでいい」
爪;'ー`)y‐~~ 「ちゃー、俺で役に立てるかねぇ……」
地面に膝を突き、ぽろぽろと涙をこぼすドクオ。
その意識は既になく、逆さ男が触れても何の反応も見せなかった。
魔法使いの方であれば耐えられる可能性があると考えたようだが、無意味だったなと、逆さ男は息を吐く。
言葉の通り、逆さ男とフォックスは激しい戦闘を続けるヨコホリたちの方へ。
逆さ男が前に出て、フォックスが後方で援護の陣形。
( ^ω^) 「―――無刀の型」
爪;'ー`)y‐、~ 「?!」
( ^ω^)「“囚人殺し”」
-
油断しきっていたフォックスの背中。
肋骨の隙間に、ブーンの両拳から突き出した中指が食い込んでいる。
声にならぬ嗚咽を漏らしながら、フォックスは地面に倒れた。
四つん這いの姿勢で何とか息をしようとしているが、無駄だ。
突き抜けた指の刺突は、肺に著しい損傷を与え、しばらくの呼吸を奪う。
漂っていた煙が中空に消えたのに僅かに遅れ、フォックスも泡を吹いて意識を失った。
〈;;(。个。)〉 「貴様、フォックスの術に……」
( ^ω^) 「かかったのは、ドッグの方。僕は問題無いお」
ドクオの策は、これだった。
精神、つまりは脳に干渉する術ならば、その後に入れ替われば、もう片方には影響がない。
ブーンとドクオは合成され、神感応系の魔法によってリンクはしているが、存在としては個別のままなのである。
入れ替わった後でもそれぞれに自我を保っていられるのがその証拠だ。
故に、この特性を活かし、ドクオを囮にして無力化されたと思い込ませ、隙を作り。
ブーンがどちらでもいいから、討つ。
その作戦は見事に決まった。
問題があるとすれば、深層に引っ込んだドクオの意識が未だフォックスの術に囚われたままだということだが。
-
( ^ω^) (ドッグ。ドッグ…………ダメか)
フォックスの首根っこを掴み、巻き添えを喰らわないように投げ飛ばす。
逆さ男は再びブーンを攻撃の対象として構えていた。
奥に見えるツンとィシの戦闘はほぼ五分か。
ィシは強いが、魔女の呪具により著しく知性を欠損している。
無意識レベルまで体に刷り込まれた技は使うことが出来たとしても、連携や罠への対処はどうしても直感や本能便りになっていた。
それでも十分恐ろしい性能を持っているが、ヨコホリの性能もまた人外の域にある。
( ^ω^) (……追い詰められて完全に自我を失う可能性もある……早めに援護したいけれど)
テンポよくステップを踏む逆さ男。
ここまでの地に足をつけた安定感のあるスタイルから一転、軽やかに小刻みな跳躍を繰り返す。
( ^ω^) (斬る気で行かなきゃ、推し負ける)
腕輪の魔法の効果はまだ続いている。
効果が切れてしまう前にせめて逆さ男を倒さなければ。
もう一回残ってはいるが何度も使いたい代物では無い。
〈;;(。个。)〉
睨みあうこと十数秒。
逆さ男が助走をつけるような無防備さでブーンに駆け寄る。
この力みのなさに、逆に強い警戒を覚えた。
-
逆さ男の体がふわりと浮き上がり、右の回し蹴りを放つ。
頭を狙ったこれを、ブーンは伏せて躱した。
逆さ男は振り切った右に次いで、左の逆回し蹴り。
コンパクトな振りで顔面を狙いに来る。
ブーンはあえて回避せず、腕を折りたたむようにククリを振り上げた。
盾として構えられた刃と脚甲がぶつかり合う。
衝撃が体を突き抜け地面にまで届くが、なんとか耐えられない重さでは無い。
狭い間合いから弾かれたのは逆さ男。
馬力についてはやはりブーンに分がある。
さすがに微動だにしないというわけにもいかなかったが想定の範囲内だ。
ブーンが体勢を整えるのと、逆さ男の着地はほぼ同時。
挙動の速さは、僅かに逆さ男が先行した。
体を屈めた状態から一歩踏み込み、足に力を溜める。
体が浮くその瞬間を狙うため、ブーンはククリを脇に構えた。
しかし、目の前にいたはずの逆さ男の姿が、消える。
逆さ男は跳躍と全く同じ予備動作から、膝を折り地に伏せたのだ。
単純なフェイクではあるが、刹那の判断を繰り返す中では絶大な効果を発揮する。
下方への意識が薄れていたブーンの足を、鞭のような蹴りが刈り取りにかかった。
-
間一髪。
跳躍による回避が間に合う。
蹴りを見たわけでは無い。
逆さ男の攻撃へ対応するためにとりあえず距離を取ろうとしただけだ。
伏せ、地面に着いた両腕を軋ませ、逆さ男は体を持ち上げる。
慣性に腕力を追加し、逆さまの状態から跳躍。
体の上下を捻って戻しながらの、乱気流の如き連続の回転蹴りでブーンを襲う。
予想外の位置からの追撃にブーンはさらに後退。
重さと速さを兼ね備えた逆さ男の蹴りは、たとえ身体強化された今であっても迂闊に手を出せない。
着地の瞬間を狙い、ブーンは前へ。
空中で既に体勢を整えていた逆さ男は、着地と同時に先手を打つ。
折り曲げ引き上げた足を延ばし振り上げるだけの、素早い足刀。
ただし、ブーンはこれをいなす十分な体勢を整えていた。
( ^ω^) 「“陽炎送り”」
前へ出る姿勢から一転、半歩後退しながら、左の手刀を合わせての受け流し。
自身の力を付与し、上へ力を流すことで逆さ男のバランスを大きく崩す。
軸足の浮き上がったところを軽く足で払うと、逆さ男の上下は簡単に入れ替わった。
-
地面に背中から落ちる。
咄嗟に頭を強打させることは防いだが、それでもダメージはあった。
だからと言って落下の衝撃に呻く暇はない。
ブーンは、四股を踏むように大きく足を振り上げた。
逆さ男はすぐさま横へ転がる。
地面に叩き付けられたブーンの足を何とかやり過ごした。
そのまま数度転がり、勢いづけて立ち上がる。
半端な姿勢のところへブーンが切りかかるが、背後へ後転し刃を躱す。
〈;;(。个。)〉 (……)
( ^ω^) 「!」
闘志を高め、踏み込もうとしたブーンの動きが止まる。
互いの闘気とは異なる感覚が二人を襲い、ビリビリと肌が痺れた。
瞬間的な判断で、ブーンと逆さ男は距離を取る。
二人のいた、丁度中間の付近に、巨大な木片が落下し突き刺さった。
ィシの持っていたハルベルトだ。
腕ごともぎ取られ、ここまで吹き飛んできたのだろう。
( ^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「どうやら、いつまでも小競り合いをしている場合では無いようだ」
-
ィシたちへ走る二人の視線。
自分たちの戦闘に集中するあまり、ほとんど気にかけることが出来ていなかった。
腕を吹き飛ばされたィシに、ヨコホリが迫っている。
巨大な木槌と化した左腕での迎撃は空を切った。
頭を下げ、腰元に右腕を構えていたヨコホリ。
体を起こすと同時に、開いた掌でィシの体を撫で上げた。
無論、ただ触れただけでは無い。
指先に生み出された鎌鼬が、ィシの体を駆ける。
大きく、深い。
さすがの巨体も、風の猛襲に揺らいだ。
(//‰ ゚) 「……」
振り上げた腕を、捻り腕甲を開く。
瞬く間に内部のタリズマンを差し替え、閉じた。
手早く、流れるよう。手の平は既に、バランスを立て直したィシへと向いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ィシさん!!」
連射された五つの風の榴弾。
二つはィシが左腕で防ぐ。
頑丈な腕は、表面を砕かれ罅を走らせたが、破壊しつくされることは無い。
しかし。後続の三つはヨコホリの操作によって防御をすり抜け、体へと直撃する。
-
ただ当たっただけならば、問題は無かった。
通常よりも強固な体は、このレベルの砲撃であれば十分に耐えられるのだ。
しかしながら、風の砲弾が捉えたのは鎌鼬によって切り裂かれた体のその深部。
そうなれば、話は変わる。
くぐもった爆音。
木片が爆ぜて飛び、ィシが悲鳴を上げた。
狭い裂傷の中で行き場の限定された爆風は、体表よりも脆い内部を荒々しく蹂躙する。
大きく抉れた肩口が、腕の重みでさらに引き裂かれる。
再生を始めようとしたそこへ、ヨコホリは再び砲撃をおこなった。
既に破壊を受け強度を下げた体は、木端へと変貌する。
ィシはすさまじい雄叫びをあげ、鋭い木片を周囲へとまき散らし反撃する。
威力はそれなりだが、急所でも無ければ当たったところで死にはしないだろう。
一応は味方であるブーンの目から見ても、ただの悪あがきであった。
木片は、ただ悪戯に周囲の戦闘不能の者たちばかりを傷つける。
ブーンも含め、動ける者たちは皆弾くなり回避するなりして無傷だった。
(//‰ ゚) 「面倒な力だったが、これならまだ、人間のままの方がヤバかったゼ、糞ババア」
大きなゴミを片付ける。
ヨコホリの顔に見えたのは、そんな気だるさだった。
既に勝負は着いたのだ。あと数発魔法を叩き込めば、胴を遺しただけの体は容易く破壊されるだろう。
-
しかし、絡まり合ったィシと魔女の怨念は。
それほど容易い存在ではなかった。
(//‰ ゚) 「?!」
何者かがヨコホリの腕に飛び掛かる。
直後放たれた魔法弾は目標をそれ、地面の土を頭上高く舞い上げた。
( ^ω^) (危惧していたよりも、不味い事態かも……)
ヨコホリの腕にしがみついていたのは、禁酒党の兵士だ。
ィシに屠られ、死んだはずの、いわば死体である。
それが動き、あまつさえ味方であるはずのヨコホリの攻撃を妨害した。
敵味方問わず、戦慄が走る。
死体であるはずの彼がなぜ動いたのか、一目でわかったからだ。
彼の頭には、木片が突き刺さっていた。
そこから根が伸び、申し訳程度の葉をつけた枝も生え始めている。
先ほど木片をばら撒いたのは、生きている者を殺すためでは無かった。
既に死んだものを、蘇らせるためだったのだ。
〈;;(。个。)〉 「……ッ」
放置されていた死人たちが、次々と立ち上がる。
逆さ男たちの味方ばかりでは無い。
禁恨党の兵士たちも分け隔てなく、体に木片を宿している。
逃れたのは、ブーンが投げ捨てたフォックスと、ツンが木の陰に隠した瀕死の青年のみ。
-
(//‰ ゚) 「チィッ!!」
ヨコホリが腕を真上へ振り上げた。
しがみついていた一体は、払われ空中に投げ出される。
そうして何も出来ぬまま、放たれた風の榴弾二発により胴を破砕され、頭のみで地面へと帰る。
小刻みに痙攣していたが、再び回復し動き出すことは無く。
そのまま動きを停止した。
(//‰ ゚) 「どこまでも、どこまでも胸糞の悪ィ呪具だ」
一斉に飛び掛かる、元禁酒党の兵士たち。
ただ単に雇い主が同じだけのヨコホリに、容赦はない。
魔法で、拳で、次々と粉砕する。
彼らは体を一部破壊した程度では死ななかった。
一体目同様体を完全に破壊しつくすか、頭を吹き飛ばしてやっと活動を止める。
不死身ではないが、厄介な性質だ。
恐らくは、彼らの動きはィシが統率している。
ヨコホリの援護に向かおうとしていた逆さ男にも、二人が割り振られた。
口をだらしなく開き、体に根を張り巡らされた兵士。
容赦は情けにならぬとばかり、一瞬で鋼鉄の足がその頭を蹴り飛ばす、
残りの一体は急激な伏せからの足払いで転倒させ。
跳躍から頭部を踏み砕く。どちらもしばし痙攣したのち、再び死体へと戻った。
-
イ(゚、ナリ从 「逆さ!!だんちょ!」
〈;;(。个。)〉 「ッ、向こうで伸びている」
イ(゚、ナリ从 「こういうときこそ出番だろやくたたづ!!」
両手で持った手斧で、目の前に迫った一体の頭部を斬り砕くイナリ。
木化した体表と、肉のままの脳がまぜこぜに飛び散る。
( ^ω^) 「……」
どうする?
ィシの攻撃対象は、未だ根絶法側の人間に留まっている。
傀儡化した死体達も、戦闘に用いているのは敵側の物ばかり。
禁恨党のメンツたちはィシの周囲に集まり、少なくとも捨て駒としては使われていない。
意志はどこまで残っているのか。
仮に残っていたとして、ここまで人外化してしまっているこの状況、何とかできるものなのか。
魔法専門のドクオの意見を聞きたいところではあったが、未だ戻っては来ない。
-
ブーンが迷いを捨てきれない中、ィシが新たに生やした細い腕で、兵士の一人を掴み上げた。
少女がお気に入りの人形を抱くような優しさとぞんざいな扱いで胸に押し付ける。
魔法使い風のその兵士は力なく四肢を垂らし、そのまま、
( ;^ω^)
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ……」
つるりと、ィシの体の中に飲み込まれた。
胸の中心に巨大な洞が開き、それがまるで口のように喰らったのだ。
その行動に思考が停止する間にも、兵士たちは次々とィシに取り込まれて行った。
ただ単に吸収して、体を肥大化させているわけでは無い。
胃が動くのと同じく、ィシの体がポンプのように収縮する。
同時に、一番最初に取り込んだ兵士の顔が、ィシの胸の中心に表れた。
一人に留まらず、取り込まれた物が次々と、木が芽吹くのと同じくィシの体に頭を生やす。
( ;^ω^) (解説のドクオさーん!ドクオさーん!)
相変わらずドクオからの応答はない。
ドクオだからといって状況を理解できるとは限らないが、少なくともブーンよりは適応できるはずだ。
現時点で、ブーンが考えられることとと言えば、頭をどの順番で叩き潰すかくらいのことである。
-
(//‰ ゚) 「なァ逆さ、面倒になった。逃げていいか?」
〈;;(。个。)〉 「死ぬまでここにいろ」
(//‰ ゚) 「ゲェー」
〈;;(。个。)〉 「……この有様を見ても、まだそちらに与するのかオルトロス!!」
( ;^ω^) 「……」
〈;;(。个。)〉 「今はヨコホリへの敵意があるからまだ無事だが、此奴が街に下ったらどうするつもりだ」
(//‰ ゚) 「この傀儡の能力を街中で、それも脳筋バカどもが山ほどいる場所で使われたら手が付けられねえな」
逆さ男の言葉は、彼らが襲撃者側であるという前提を除けば、正当であった。
殺しても死なず、むしろ再生の度に周りを巻き込む。
今は僅かに残った自我か怨念かでヨコホリへの攻撃が中心になっているが、いつまで続くかわからない。
もしヨコホリが死ぬか、上手く逃げおおせたとしたら。
この暴威の矛先は、一体どこに向かうのか。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ブーン?」
ツンの肩口には、イナリの投具が突き刺さっていた。
恐らく彼女の乱入によってィシを援護しきれなくなったのだろう。
-
( ^ω^) 「……ツン、この人は、多分もうだめだ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……」
( ^ω^) 「僕は魔女の力が人を傷つけるさまを、これ以上見たくない」
ξ; ⊿ )ξ 「……ィシさんはまだ、魔女の力に飲まれてなんかいない」
( ^ω^) 「……」
ィシの兵士吸収は、すでに終わっている。
異様な、異常な光景であった。
ヨコホリに破壊される前よりも一回り大きくなった体に、ィシ本来の物を含めて頭が八つ。
一つ放った咆哮に合わせ、全ての頭の目が開いた。
魔力由来の朱い光が穏やかに輝く瞳。
少なくとも、もう人では無い。
ξ ⊿ )ξ 「……そもそも!」
-
ξ# ⊿)ξ 「そもそもあんたたちのせいじゃない!!闇雲に人を殺して!!追い込んで!!」
〈;;(。个。)〉 「……」
ξ#゚⊿゚)ξ 「あんたたちがいなければ!ィシさんがこんなことになることも無かったのに!!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「それを今更!人を気遣うような言葉を吐いてッ!!!」
ツンの叫びに、ィシの咆哮が被さった。
失ったハルベルトの代わりに、腕から木製の剣を生やす。
切れ味はよくなさそうだが、鈍器の役目も果たすと考えれば、十分武器になりうるだろう。
完全にプッツンしてしまったツンは、ナイフを構えィシの前に立ちはだかる。
本気であることは目を見ればわかった。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン。あんたが、魔女の力を嫌っているのも、倒すために旅しているのも、知ってる」
ξ#゚⊿゚)ξ 「だけど、ごめん。ィシさんが私の背中を攻撃するその瞬間まで、私はィシさんの味方をする」
( ^ω^) 「……そうかお」
ツンの体を風の鎧が包む。
ニョロも彼女の怒りに同調するように口を大きく開いた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「……かかってきなさいよ糞野郎ども!!全員、ぶっ飛ばしてやるわ!!!」
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ここまでっす
続きはまた年内を目指して
ではまた
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乙でした! あと質問の回答ありがとうございます
激闘に次ぐ激闘に毎回興奮させてもらってます
杉浦双刀流の新技も密かな楽しみです
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ドクオードクオー起きてー!
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ィシが元に戻れることを願う!
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乙、ヨコホリくっそ強いな
やばすぎだろ
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