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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

391名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:40:12 ID:Dz5RW/cY0
それに合わせて、つい先ほど乗船したジュスティアからの応援部隊代表者二名。
錚々たる代表者達が集められたのは、第三ブロック一階にある大会議室だった。
赤い絨毯が敷き詰められ、部屋全体を照らすのは天井一面の薄型照明器具。
全員が椅子に座ることなく、壁にかけられたスクリーンを注視していた。

やがて、光がゆっくりと消されて部屋が暗闇に染まり始めた。
スクリーンだけが光を浴びる中、一枚の写真が映し出される。
それは、この事件の最初の被害者ハワード・ブリュッケンの死体の写真だった。
軍人としてその席にいたカーリー・ホプキンスは、思わず口元を押さえた。

その隣で紅茶の注がれたマグカップを手にする男、刑事トラギコ・マウンテンライトは左眉を持ち上げた。
一目で事件現場の矛盾点に気が付いたのである。
風呂場での殺人では、基本的に証拠を洗い流すことを目的としている。
しかし、これは安いカモフラージュを目的としていた。

狙いは、銃弾の隠ぺいだ。
頭部に穴があり、壁には汚れがない。
貫通したはずの銃弾による傷も汚れもないのは、明らかに異常だ。
その異常が意味するものは、銃弾が持つ重要性。

それを補足する情報として、使用された銃が現在行方不明となっている第一ブロック長、ノレベルト・シューの物であることが断定されたと付け加えられた。
この死体の写真と映像が船内で流されたのは、八月五日の午前十時十三分。
それから間もなく、サイタマ兄弟と呼ばれる探偵が襲撃を受け、そこで奪われた鍵を使って警備員詰所で虐殺が起こる。
犯人が棺桶を使用し、また、水中作業用の棺桶が奪われたことも告知される。

使用された棺桶はジョン・ドゥ。
奪われたのは、ディープ・ブルー。
いずれも珍しくない棺桶だが、武器を使わずとも人を縊り殺せる代物だ。
ディープ・ブルーは陸上での戦闘に向かない。

392名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:43:30 ID:Dz5RW/cY0
逃走用のために奪取したのだと考えられる。
昨日午前十一時二十分、この船で最も危険度が高い状況でのみ発令されるハザードレベル5によって、船全体が厳戒態勢となる。
そして、厳戒態勢にもかかわらず、昨夜十時頃に女性二人が毒殺された。
犯人が警備員に扮し、変装技術が非常に高いことが確認されている。

最重要人物にして容疑者は、ノレベルト・シュー。
彼女の行方は、今なお捜索中である。
用意されていた全てのスライドを流し終えてから、探偵長“ホビット”は一同を見た。

(<・>L<・>)「……以上が現時刻までに起こった事件の概要となります。
       この時点で、何か質問は?」

このプレゼンテーションで大まかな事が分かった。
トラギコは他の人間の下らない質問で時間を失う前に、事件の核心に触れた。

(=゚д゚)「クリス・パープルトンと云う乗客はこの船にいるラギか?」

ポートエレンで発見された溺死体。
トラギコの推理が正しければ、あの死体はこの船の乗客だ。
船から落とされて溺死したのではなく、船で殺されて遺棄されたものだ。
それが丁度コクリコ・ホテルまで流れ着いたのである。

タイミングから考えて恐らくそれは、計画された動きだったはずだ。
何を目的としたのかは、まだ分からない。
しかし、トラギコはクリス殺害の犯人がこの船に乗っていること。
そしてそれがこの事件の犯人と繋がっていることを、確信した。

(<・>L<・>)「……いいえ、そのような人物は名簿にありません」

393名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:47:02 ID:Dz5RW/cY0
背の小さな男の隣でしきりにトラギコに視線を送っていたショボン・パドローネが、それに反応した。
彼も、ポートエレンの事件に関わっている人物だ。

(´・ω・`)「トラギコ君、どうして――」

(=゚д゚)「……いいや、気にしなくていいラギ。
    ただの好奇心ラギよ」

¥・∀・¥「それでは、集まってもらった理由を話そう。
      皆には、この第三ブロック内に常駐して、犯人を確保してほしい。
      生きたまま、だ」

その言葉に食いついたのは、意外にも、ショボンだった。

(´・ω・`)「市長、お言葉ですが、生け捕りは困難かと」

¥・∀・¥「それは何故だ?」

(´・ω・`)「第一に、犯人が武装している事。
     第二に、棺桶を所有する人間を生捕るなど、あまりにも理想論過ぎます。
     それにですね、第三ブロックの開放などあまりも軽率過ぎです」

ショボンの言うことは理に適っている。
生け捕りをするには、まず、相手よりも戦力で上回っている必要がある。
そして何より、その機会を手に入れられるかどうかが重要だ。
出会った瞬間に攻撃されでもしたら、反撃をするのが人である。

394名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:49:14 ID:Dz5RW/cY0
殺す気で攻撃をしなければ、絶対に勝てない。
ましてや、こちらが生け捕りを狙っていることが判明すれば、それを犯人に利用されて被害が拡大する一方だ。
躊躇せずに殺すのが望ましい。
第三ブロック解放についてはまだ情報が少ないため、何とも言えない。

¥・∀・¥「ショボン君、だったね。
      いいかい、よく聞いてくれ」

マニーは一つ咳払いをしてから言った。

¥・∀・¥「無能は黙って指示に従えばいいんだよ」

(;´・ω・`)「っ……!?」

その部屋の誰も、もう、これ以上の質問をしなかった。
彼の発言に呆れたからではない。
彼らは、自覚せざるを得なかったのだ。
ここまで人が集まらなければ、犯人に太刀打ちできない現実を。

そして、トラギコ達が来るまでの間、犯人に翻弄され続けたことを正当化できなかったのだ。
トラギコはマニーをただの無能な金持ちでは無い事を、その発言から察した。
同時に、今の言葉は本当に“彼自身の言葉”なのか、とも思った。
経験上、誰かに対して攻撃的な言葉を口にする際には、口元に特徴が現れるはずだ。

少しだけ、彼の喋り方に違和感を覚えたのだが、あまり深くは考えないことにした。
今トラギコが探すべきは、この船に乗っている彼の宿敵。
金髪碧眼の流浪の旅人。
湾岸都市オセアンを事実上の崩壊へと導いたと考えられる、素性不明の女。

395名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:51:58 ID:Dz5RW/cY0
彼女について分かっているのは、デレシアという名前だけ。
彼女がこの事件を引き起こしたとは考えられないが、カギを握っていると、勘が告げている。
最優先事項は事件の解決だが、デレシアとの合流も考えに入れておく必要がある。

(=゚д゚)「なぁ市長、俺はこう考えているラギ。
    恰好だけのくっだらねぇ会議より、現場を歩いて調べる方が時間を無駄にしないって」

¥・∀・¥「全くもって同感だよ、えーと……」

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト、トラギコと呼べばいいラギ。
    じゃあ俺は適当に散策するラギ、後は好きにしてくれや」

市長は、馬鹿ではない。
それが分かっただけで収穫だ。

(=゚д゚)「邪魔だけは、してくれるなよ」

アタッシュケースを持って、トラギコはその陰気くさい部屋を出て行った。

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                 ‥…━━ August 6th AM07:05 ━━…‥
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396名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:54:29 ID:Dz5RW/cY0
その光景を目にした時、思わず、観光で訪れたアルカトラズ島の監獄での出来事を思い出した。
脱獄不可能と言わしめたアルカトラズ刑務所の跡地。
観光の目玉とも言える監獄体験の時に起こった、一つの事件、事故。
当時の情景の懐かしさに、デレシアは思わず頬を緩ませた。

鉄格子の代わりに開いたのは装飾された扉。
現れた人々の顔に浮かぶのは安堵と疑問の色が入り混じった、歓喜と恐怖の表情は同じ。
籠から出された鳥が外の世界を恐れるような、そんな感じもまた同じだ。
それはそうだ。

実際、彼らを待つのは殺人鬼。
飼い慣らされた鳥にとっての自然と同じなのだ。
気の毒だとは思うが、自分自身を守ることが必要とされている時代だと云うことは、生まれた時から教わっているはずだ。
幸いなことに、彼らは武器を手にしている。

昔とは違い、銃を携帯することに誰も躊躇をしない。
平和主義だとか、共存だとか抜かす阿呆はとうの昔に絶滅した。
だが不幸なことは、彼らが怯える対象にあった。
彼らに危害を加え得る存在には、偏執がある。

それも、異常な類の。
デレシアはこの狩場で、犯人の目的と偏執を探らなければならない。
判断材料が極めて少ないため、相手が動きやすい場を作り出しでもしないとパズルのピースが揃わないのだ。
パズルのピースを強引に引き出せれば重畳。

次の被害者が出たとしたら、それは残念なことだ。
犯人が早計で、浅はかだと分かってしまうからだ。
出来ればそうであってほしくない。
ブーンを海に放り、デレシアを怒らせた人間が、ただの精神異常者であっては困るのだ。

397名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:57:56 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚、゚*ζ「……さて、と。 ヒート、私達も動くわよ。
      用意は?」

すっかり人気のなくなった第三ブロック一階にある大会議室。
その出口から姿を現したのは、カーキ色のローブで身を固めたデレシア。
彼女の腋の下に吊るされたホルスターと、腰のホルスターには銃が収められている。
腋の下の二挺は、傷だらけの黒のデザートイーグル。

装填されているのは、マンストッピングパワーに優れたホローポイント弾。
腰のソウドオフショットガンには、対棺桶用の大口径のスラッグ弾が詰まっている。
予備の弾も弾倉もローブの下にある。
正面切っての戦闘だろうと、左右を挟まれての攻撃だろうと、切り抜けられる。

この準備は大げさとは思わない。
デレシアの推測では、この殺人劇は序章。
全体の注目をこれに集めるための茶番劇に過ぎない。
ならば、その茶番劇に全力で付き合う人間を宛がい、こちらはこちらで、準備をすればいい。

敵がそれに気付いたとしても、反応することは難しい。
反応すれば、それはデレシアの推測を肯定することになるのだ。

ノパ⊿゚)「いつでも。 で、あたしが合流する協力者ってのはどんな奴なんだ?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは、ダークグレーのシャツに黒のジャケット、そして下はスラックスと云う姿だ。
堅気の格好とは言えないが、動きやすさとカモフラージュのアレンジはデレシアのそれよりも遥かに高い。
防弾・防刃の服装ではないが、その代わりに、彼女の背中には棺桶がある。
Aクラスのコンセプト・シリーズ、対強化外骨格用強化外骨格“レオン”が。

ζ(゚、゚*ζ「そうねぇ……」

398名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:00:27 ID:Dz5RW/cY0
さて、協力者の事をどう語ろうか。
湾曲表現は好まない。
特に、親しい人間に対する隠し事は好きになれなかった。
だが迂闊にその人物の情報を公開するべきでないことは、この状況では明らかだ。

デレシアの見立てでは、犯人はあの会議室にいた人間の中にいる。
それが変装をしているにしろ、していないにしろ、だ。
となれば、今こうしている間にもどこかでデレシア達を監視しているかもしれない。
一先ず、真実を一つだけ教えることにした。











     ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ不器用な、私の親友よ」











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                           ___________|\
‥…━━ August 6th AM07:15 ━━…‥[|[||  To Be Continued....!    >
                            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

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399名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:20:16 ID:Dz5RW/cY0
これにて第七章の投下は以上となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

400名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:57:11 ID:eNVGNUmcC
途中まで流し読みしてたよ、後編の投下がまさか今日だとは思ってなかった 
主とか犯人の影とか色々盛り上がってきた、主と犯人誰だろ

401名も無きAAのようです:2014/03/04(火) 00:15:13 ID:9tBCDAyEO
VIPのログ読んできた、こっちを先にしたんだな

402名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 00:47:12 ID:ykRLbvVU0
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編 第八章

3/29 夜 VIPにて投下します!!

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1511.jpg

403名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 00:56:16 ID:.SyG0gmY0
よしきた

404名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 01:52:00 ID:OUCATiFQC
( ^ω^)はあくしたお

405名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:09:37 ID:ykRLbvVU0
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In the flame if you hide a tree.
木を隠すなら炎の中。

In the water if you hide the flame.
炎を隠すなら水の中。

In the rain if you hide the water.
水を隠すなら雨の中。

In the storm if Hide rain.
雨を隠すなら嵐の中。

- Now, if you hide the mystery?
――では、謎を隠すなら?

                                  The last examination of detective
                                          【探偵試験最終問題】

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406名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:14:50 ID:ykRLbvVU0
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.     ,.- 、
     i|三li:.. ,..-- 、       ,..-- 、
     i|三liミil三三|ヽ       .;|三三|i        _____
     i|三liミi|三三|iiii|;..     ;;i|三三|i==lニニニl=i|____
_二二二二lミi|三三|iiii|iil    ;;ii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiii|ii|    |iii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiii|ii|    |iii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiiiレ     キ.|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==l⌒l=====i|三三レ'     .'i|三三|i ェェ.il==li ェi| ┌──
           ‥…━━ August 6th AM08:06 In the 3rd block ━━…‥
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それは希望と恐怖が混在した、矛盾した空気だった。
蜂蜜とワインビネガーをあえたピクルスのような、気持ちの悪い空気だ。
すれ違う人間の顔に浮かぶ表情は、釈放された直後の犯罪者のそれに近い。
何度も間近で見た光景と感じ取った空気に、理由はすぐに分かった。

自由に対して、不安を持っている状態。
周囲を気にしながら歩き、目に入る娯楽と呼ばれる物に身を委ねたいのだろうが、その一歩が踏み出せないのだ。
彼らは今、自由に対してわずかな恐怖を感じているのだ。
あらゆる自由には少なからず危険が潜んでいることに気付いた、と言い換えてもいいだろう。

安全が約束されている不自由に限り、不自由は精神安定剤に転じる。
今回の事件は、それをより強く人々に認識させることとなった。
突如として起きた連続殺人を深刻に捉えたオアシズ上層部は最高レベルの警報、ハザードレベル5を発令。
全ブロックでは特定の時間帯のみ外出が許され、他ブロックへの移動は禁止とされた。

407名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:20:43 ID:ykRLbvVU0
それがオアシズで与えられた不自由、そして安全の正体だ。
そして、安全が確認されたことをきっかけに、第三ブロックの人間だけが自由を得た。
だが、ショウウィンドウを眺める目も、アイスクリームの屋台に向ける視線も、全てが疑念の色を帯びている。
あれだけの犯行をしておきながら、依然として捕まらない犯人を相手に翻弄される警察と探偵。

彼らの仕事ぶりを見れば、疑心暗鬼になるのも無理はない。
彼らの懐や腰で出番を待つ銃が、何よりの証拠だ。
それでいい。
安全だと言われたとしても、武器の携帯は基本的にするべきだ。

腕力を気にせずに自分の身を守るためには、銃は最高の物だ。
通りすがりの中には稀に棺桶――軍用第三世代強化外骨格――を背負った者もおり、中には大型のCクラスを運んでいる者までいた。
常識的に考えると、棺桶は基本的にサイズが大きければ大きいほど、強力な武装と装甲を持つ傾向にある。
が、サイズが大きければ強いと言う訳でもない。

サイズ差はあくまでも装甲の厚みと攻撃力の問題であって、後は棺桶持ちの技量次第だ。
中にはAクラスでCクラスの棺桶を圧倒するものもある。
要は使い方一つ。
世間に出回っている武器と何一つ変わらない。

使い方さえ分かれば、老若男女、誰でも人を殺すことの出来る武器は人類の偉大な発明だ。
しかし、この張りつめた状態とその発明品の組み合わせはあまり好ましくない。
武器を持った人間は常に緊張の糸を張り巡らせており、それが僅かな刺激で切れることもある。
乗客の誰か一人が始めれば、それはすぐに飛び火して船内で殺し合いが始まる。

そうなれば、犯人が直接手を下さなくとも大量の死人が船に溢れかえる。
人の精神は案外脆く、ちょっとした拍子ですぐに理性のブレーキが壊れる事を、トラギコ・マウンテンライトはよく知っている。
誘拐された少女が犯人に恋をすることもあるし、普段は紳士的な行動がどうのとか言っている人間が、災害現場で我先にと駆け出すこともある。
被災した街で暴動が起こり、強姦事件が多発するのはそう云う訳だ。

408名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:25:57 ID:ykRLbvVU0
恐らくそれが起きないでいられるのは、市長がこのブロックに警備員と探偵達を集中させたからだろう。
秩序を守る存在が大量に集まれば、人は自ずとそれに従う。
第三ブロック解放は早計な気がしないでもないが、やり方は間違えていない。
流石に市長として働いているだけあって、大胆な行動力と計画力がある。

一人先に乗船したトラギコは、第三ブロック一階の歩道を歩きながら周囲を観察していた。
活気と呼んでいいのか分からない微妙な空気の漂う第三ブロックの天井を見上げ、溜息を吐く。
ビル群から青空を見上げているよりもずっと狭苦しい場所だが、いい船だと思う。
不可能なのは知っているが、出来れば、平時の時にこの船に乗り合わせていたかった。

これだけの豪華客船に乗っておきながら、仕事のせいでその醍醐味を味わえないのは高級料理をガラス越しに眺めるようなもの。
今のトラギコが少しでもオアシズでの生活を楽しむには、方法は一つしかない。
早急にこの事件を解決することだ。
そうすれば、トラギコは船が次の場所に着くまでの間、ゆっくりと船旅を楽しめる。

普段から経費削減を言われ、領収書の中身にまで文句を言われる毎日の中、これぐらいの贅沢を楽しんでも罰は当たらない。
平均的な警察官の半分以下の年休しかないために、旅行などしたことがない。
給料は安いし過酷な労働環境だが、それでも、トラギコはこの仕事が天職だと心から言えるほど大好きだった。
事件、特に難事件が大好物だからだ。

女や洒落た趣味なんかよりも、よほど魅力的で有意義な時間が約束される。
人を殺して自分だけ助かろうと思い、足りない脳味噌を必死に回転させて考え付いたトリックの数々。
丁寧に積み重ねられたそれは、高級料理の調理工程によく似ている。
下ごしらえをする様に計画を組み上げ、ソースを作る様に環境に合わせて計画を調整し、食材を刻む様に人を殺し、盛り付けるように事後処理をする。

そうして最後に召し上がれ、と云う訳だ。
トラギコが楽しみなのは惨たらしい死を遂げた人間の末路を見る事ではなく、犯人の思いを踏み躙ることだ。
愚かな思惑を打ち砕き、真実と呼ばれる事件の真相を知ることはこの上ない快感だ。
希少な珍味が比喩し難い味を持っているのと同じように、難事件は希少価値の高い馳走、あるいは極上の蒸留酒だ。

409名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:30:08 ID:ykRLbvVU0
それに遭遇できれば、三年は気持ちの良いまま過ごせる。
その点で言えば、デレシアに出会ってからは感謝の気持ちが絶えない。
彼女を追えば、必ず歯応えのある獲物にありつけた。
オセアンから始まり、フォレスタ、クロジング、ニクラメンでも楽しませてもらった。

これまでに数千人の犯罪者と数万人の人間を見てきたからこそ、断言できる。
デレシアは別格の人間だ。
トラギコが生きている間に彼女の代わりは見つからないし、彼女を越える人間は現れない。
その姿を一度見失ってしまえば、彼女の足取りを掴むのは困難を極めるだろう。

今回は偶然にも彼女の足跡を辿れたが、次に見逃したらもう見つけられないかもしれない。
デレシアに対する思いを募らせながらも、トラギコはオアシズで起きた事件解決に向けて意識を集中させていた。
当然のことだが、複雑な仕掛けを施した事件を相手にするのは初めてではない。
だからこそ分かる。

今回は、タイミングを逃してはならないと。
食べ頃がある事件なのだと、概要を聞いただけで分かった。
まず、被害者に共通点が無い事が理由の一つだ。
大抵の犯人は凶器や殺し方に共通点があるものだが、この事件では全てがばらばらだ。

第一被害者ハワード・ブリュッケンの丹念な殺しに比べて、第二の現場となった警備員詰所では虐殺に近く、第三被害者に至っては毒殺だ。
この違いにこそ意味があると、トラギコは考える。
犯人の狙いは、誰かを殺すことだ。
殺す過程に快楽を感じるためではなく、人が混乱している様子を楽しむことでもない。

殺すことで得られる利益が目的の可能性が非常に高い。
無論、それを装っている可能性もある。
疑えば疑うほど事件を必要以上に複雑に感じる時があるが、そんな時、トラギコは常に自分の直観に従ってきた。

(=゚д゚)「……ん?」

410名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:36:12 ID:ykRLbvVU0
不意に、トラギコの鼻が香ばしい香りを嗅ぎつけた。
どこからか漂ってくる、料理の匂い。
肉、小麦粉を油できつね色になるまで焼いたような香りだ。
ここまで濃厚に漂うということは、換気扇を備えている店舗型ではありえない。

屋台だ。
どこかの屋台が、この犯罪的に美味そうな匂いを漂わせているのだ。
途端に、猛烈な空腹に襲われた。
一度意識してしまうと、もう我慢できない。

切なそうに腹が音を立て、自己主張をする有様だ。
味噌汁と紅茶だけしか胃袋に入っていないことを思い出し、懐から古びた財布を取り出して中身を確認する。
細かい硬貨を合わせて、七十五ドル。

(=゚д゚)「……いけるか?」

ハザードレベル5の発令に伴い、乗客はオアシズでの飲食は無料と言われている。
だから金の心配はしていないが、万が一の場合がある。
そもそも招かれてもいない客として乗っている身分に、それが適応されるかどうかも分かっていないのだ。
訊きそびれた自分が悪いのだが、あの場の空気では流石にそんな事を口に出せない。

匂いを辿って歩を進め、第三ブロックの中央に位置する公園にある噴水の前に、それらしい屋台の一団を見つけた。
一団は別々の料理をその場で調理し、陳列し、販売している。
アイスクリーム、焼きそば、クレープなどだ。
客はそこそこ来ているが、一か所だけ奇妙な隙間があった。

これだけの芳香を漂わせている店にだけ、客が一人も寄りついていないのだ。

( `ハ´)

411名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:40:21 ID:ykRLbvVU0
店主は特徴的な細目で、黒い髪を前髪ごと後ろに流して一つに束ねた髪型をしていた。
顔だけを見ればやせ形に思われそうだが、黒い半袖のシャツから覗く筋肉が只者では無い事を物語る。
首の太さも、格闘技を経験している者に共通しているそれだった。
放つ雰囲気は鋭く、堅気の世界で生きている人間で無い事は明らかだ。

(=゚д゚)「おい兄ちゃん」

( `ハ´)「……何か用アルか」

見た通りの無愛想だ。
見た目の通り、声にも若さが聞き取れる。
三十代前半か二十代後半。

(=゚д゚)「それ、何ラギ?」

( `ハ´)「餃子」

一言で会話が終了した。
素晴らしい。
店主とはこれでいいのだ。
飯屋は寡黙が一番。

不要な会話をする店主は嫌いだった。

(=゚д゚)「焼き立てを二つ、それとビールを大ジョッキで」

( `ハ´)「七百ドル」

(;=゚д゚)「あぁん?! 手前、ここに一つ三ドル、ビールは一ドルって書いてあるラギ!!」

412名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:46:38 ID:ykRLbvVU0
思わず冷静さを欠いた反応をしてしまったトラギコに対し、店主は冷笑を浮かべて答えた。

( `ハ´)「じゃあ七ドル」

(#=゚д゚)「俺を馬鹿にしてるラギか?」

( `ハ´)「冗談アル」

この店主、無愛想ではない。
人間性に問題があるのだ。
冗談にしてもセンスの欠片すらない。
本心から冗談で済ませようと思うなら、それなりの反応があるはず。

なのに、冷笑とは何事だろうか。

(#=゚д゚)「七ドルだな?」

( `ハ´)「……」

財布から七ドルを出そうとしたが、細かい金がなかった。
そしてそこで気が付いた。
船内での買い物は、全て乗船券を兼ねたカードで済ませる事になっている。
当たり前の話だが、トラギコは乗船券を所持していない。

まさか。
この店主。
こちらが非正規の客であることを察して、試したのだろうか。
オアシズに乗るには乗船券が必須。

413名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:50:07 ID:ykRLbvVU0
その乗船券を持っていない人間となると、この船にとっては歓迎しない存在だ。
つまり、サービスを提供してもしなくてもいいだけでなく、怪しまれて然る存在でもある。
非常時の際に部外者を疑うな、と言う方が無理だ。
そしてこの店主は、トラギコが非正規の乗客であることを見抜いているに違いなかった。

トラギコが乗船券を持っていない人間であることに気付いたからこそ、いきなり金を請求したのがその証拠だ。
店員としてあるべき姿としては、カードの提示もしくは無料である旨を伝えるのが道理。
自分の推理に絶対の自信を持っていなければできない会話だったのだ。
恐ろしいほどの観察眼だ。

警察にぜひ欲しい人材である。
それに、この船での食事が七ドルで済むのであれば、安いぐらいだ。

(;=゚д゚)「……っ、ぐぬ」

( `ハ´)「……」

財布から十ドル硬貨を取出し、店主に差し出す。
釣りを出されない可能性を考え、トラギコは最後に一つ付け加える。

(;=゚д゚)「ビールを特大ジョッキにしてくれ」

これで丁度十ドルだ。

( `ハ´)「……」

店主は無言のまま顎でカウンターを指した。
そこに硬貨を置けという意味だ。
トラギコは渋々それに従い、金を置いた。
男は鉄板の上で焼いていた餃子をパックに詰め、カウンターの上に積み重ねていたパックの上に乗せた。

414名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:54:58 ID:ykRLbvVU0
それを取ろうとした時、男が鉄製のヘラでその手を制した。
疾い。
これがナイフだったら、トラギコの手首から先は地面とハイタッチしていたはずだ。
油断していたと云うのは言い訳にしかならない。

戦闘の技量で言えば、トラギコを上回っている。
この男、一体何者なのだ。

(;=゚д゚)「何のつもりラギ?」

( `ハ´)「焼き立て注文したアル」

そう言うと、男は新たな餃子を鉄板の上に並べて焼き始めた。

(=゚д゚)「……そうかい」

意外と律儀な性格をしているようだ。
仕方なしに待つ事になったトラギコは、噴水の傍にある木製のベンチに腰掛けた。
背中から聞こえる噴水の音を無視し、トラギコは意識を男に集中させる。
男の動作を改めて観察してみると、屋台経験は短いという印象を受けた。

接客態度もそうだが、全体的に、慣れている様子がないのだ。
まだどこか不慣れな動き。
餃子を焼くことには慣れていても、売ることには慣れていない。
怪しい。

容疑者の一人として、トラギコは頭の中に男の人相を記憶した。

(=゚д゚)「んや?」

415名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:56:11 ID:0Q/bTnb.0
Ammo→Re!!のようです
http://hayabusa5.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1396091199/
支援するならこっちもな
まあ自分は規制中の身なんだが

416名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:59:34 ID:ykRLbvVU0
項の毛が、ピリリと反応を示した。
何かよくない物が近くにある、もしくは起ころうとしている。
視線を周囲の物陰に向け、索敵を行う。
約五十ヤード先、トラギコの正面に、それはいた。

その体躯はずっしりとした岩石を思わせ、手と顔に刻まれた皺と傷はその人生の壮絶さを雄弁に物語る。
楽な人生。
ぬるま湯の生活。
平和な暮らし。

明らかに、そう云ったものとは無縁の人間の体だ。
上瞼から下瞼にかけて走る大きな傷は、鋭利な刃物とは真逆の物でつけられたに違いない。
開かれた黄金瞳は純金よりも鈍く、月よりも優しく、宝石よりも輝く獣のそれに酷似している。
皺のない白いボタンダウンのシャツの上に羽織る黒のジャケット。

首の太さ、そして耳の形は格闘技を経験した人間独特のもの。
後ろに撫でつけたオールバックの黒髪。
歳は六十代後半。
一目で、人を殺したことのある人間だと断言できる姿をしていた。

( ФωФ)「……」

(;=゚д゚)

男のした行動は、ただ、トラギコの前を歩いただけ。
それも、五十ヤードは離れた場所を悠然と歩いているだけだ。
それだけで、トラギコは呼吸を止めてしまっていた。
あの男の前では迂闊な言動が命取りとなると、断言できる。

417名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:01:55 ID:mFxhbgFI0
主要な人物が揃ってきたな。
支援

418名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:02:30 ID:ykRLbvVU0
一瞬の事だったが、トラギコはすぐさまその男を容疑者の二人目として、人相を記憶。
すぐさま男を尾行することにした。
ベンチから立ち上がり、屋台の前を小走りに横切る。
極力近寄りたくないが、この際仕方がなかった。

悟られないギリギリの距離を保ち、そこから監視するしかない。
いきなり尋問などしようものなら、縊り殺されるかもしれないからだ。
あれは猛獣の類だ。

( `ハ´)「どこ行くアル?」

屋台を通り過ぎた辺りで、トラギコの背中に無愛想な声がかけられた。

(=゚д゚)「手前にゃ関係ねぇラギ」

( `ハ´)「それ駄目アル。
     お金貰ったら、私は商品渡す義務有ル。
     行かせないアルよ」

どうしてこう、変な所でこの男は義理堅いのだろうか。
普通の屋台の人間なら、ただで金を手に入れたと喜ぶところだ。
横目で先ほどの男を探すが、もう、視界の中にはいない。

(=゚д゚)「……後どれぐらいかかるラギ?」

( `ハ´)「三分」

(=゚д゚)、「ちっ、分かったラギ」

419名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:05:45 ID:ykRLbvVU0
今更追ったところで、男を見つけられる確証はない。
どうせ、男の移動できる範囲は第三ブロックに限られているのだ。
トラギコは観念してベンチに戻り、餃子を待つことにした。
丁度近くを通りがかった新聞販売員のカートから、世界規模の情報を載せている“モーニングスター新聞”を一部引き抜いた。

一昨日、つまり八月四日の日付だった。
新聞の一面を飾っているのは、やはり、まだニクラメンが地図上から消えてなくなったことについてだ。
世界中からトレジャーハンターギルドが集まり、海底に沈んだ街から金品を引き上げ、時折死体も引き上げているとのことだ。
死体を引き上げているのは善意だと主張しているらしいが、遺族からの感謝料を目的にしているのだろう。

ニクラメンの名を聞くと、ワタナベ・ビルケンシュトックや、ギコ・カスケードレンジと出会った時の記憶が蘇る。
不完全燃焼の謎だけを残した事件は、結局、海の底だ。
あの時に会った彼らとは、また会うような気がする。
出来ればワタナベとはもう出会いたくないが。

紙面を捲り、二面に掲載されている世界情勢を見る。
西の土地にある三つの街が合併し、一つの大きな街となった事が二面全てを使って書かれていた。
カルデとコルフィ、そしてファーム。
それぞれの位置関係が書かれた地図を見ると、新たな街の大きさはオセアンの二倍ほどになる。

かなり大きな街だ。
元々、三つの街はコーヒーの産地として有名だったが、これを機に世界屈指のコーヒーの街になるのは間違いない。
誕生した街の名は、“カルディコルフィファーム”。
そして、市長は内藤財団とあった。

それは異例の事ではなかった。
企業が街を支配し、市長として機能した前例は幾つかある。
ただし、一つとして成功した例はない。
企業内での権力争いと不景気の影響をもろに受けるため、長持ちしないのだ。

420名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:09:40 ID:ykRLbvVU0
だが、内藤財団の経営力と経済力は世界随一だ。
オセアン復興に着手した事も含めて考えると、世界各地の街を統治し、更なる事業拡大を狙っているのだろう。
記者の意見ではオセアンでの実権を手に入れたことに伴い、コーヒーの安価な輸出入を可能にし、利益を上げるのではないだろうか、とのことだった。
確かに、カルディコルフィファームは海から遠くはないが、どちらかと云えば山に囲まれた盆地にある。

三つの街を一つにしたことで、港に最も近い街にコーヒー豆を集めて一度に送り出せる。
陸運にかかるコストが安上がりで済むため、それもまた利益につながる。
陸路を通じて港に運び、そこから船で東のオセアンに向かう。
港も船も全てが自社の物であるため、格安で高価なコーヒー豆の取引が出来るのだ。

西側で盛んな貴金属市場に手を付け始めているとの噂が本当だとすれば、近い内に貴金属の取引にも手を出すだろう。
経営者は慎ましく貪欲であれ、とは企業の依頼でトラギコが逮捕した会計管理者の言葉だ。
新聞を畳み、それを膝の上に乗せる。
トラギコは振り返り、噴水の真ん中に立つ巨大な時計を見上げる。

店主の言葉から、三分が過ぎようとしていた。

(=゚д゚)「……」

屋台の男と、先ほどの人相の悪い男を除くと、現在手元にある疑わしい人間は五人いる。
第一ブロック長、ノレベルト・シュー。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。

探偵長“ホビット”。
市長、リッチー・マニー。
彼らの内、誰かがこの事件の鍵を握っているはずだ。

( `ハ´)「お待ちど」

421名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:17:54 ID:ykRLbvVU0
(;=゚д゚)「のっ! お、おう」

視線を戻した先にいた店主の手には、餃子の入ったスチロール製トレイが二つと、ビールの特大ジョッキがあった。
それを受け取ると、店主は屋台に戻った。
気を取り直してから、トラギコはまず餃子を食すことにした。
手元から立ち上る湯気と香りが食欲を刺激してやまない。

ベンチの傍らにジョッキとトレイを一つ置き、もう一つのトレイを膝の上に置く。
トレイに添えられていた割り箸を口で咥えて、二つに分ける。
一つのトレイに五つの餃子が乗っており、調味料は一切見当たらない。
そのままの味で勝負をしているらしい。

半月型の餃子を箸で一つ摘まんで口に運び、一口で食べる。
火傷しそうなほど熱い汁が、中から溢れた。
野菜と肉から出た汁の味は熱すぎてよく分からないが、美味いのは確かだ。
空気を口の中に取り入れて冷ましながら、餃子を咀嚼する。

肉汁の甘い香りと濃厚なニラの香りが鼻から抜け出る。
口の中が火傷しないように、すかさずビールを口に含む。

(*=>д<)。゚「くぅあっ!!」

そして、トラギコは腹から湧き上がる食欲に身を任せ、次の餃子に箸を伸ばしたのであった。
トラギコは予期することが出来なかった。
この後に起こる事態を。
この時は、まだ。

422名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:25:50 ID:ykRLbvVU0
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           ‥…━━ August 6th AM10:30 In the 1st block ━━…‥
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全身が心地よい疲労感に満たされていた。
打撃に必要な筋肉を意識的に鍛えるためにサンドバッグを相手に繰り出した拳は、五千以上。
その後に行った腕立て伏せ数百回などによって、腕に力が入らない。
また、蹴り技の取得に伴う脚力の向上とトレーニングで、足腰は別物のように動かなかった。

甘い毒を注入されたように痺れて動かない四肢。
リングの上に汗だくで大の字に倒れ、荒い呼吸をしながらも、達成感に笑顔が浮かぶ。
垂れた犬の耳と丸まった犬の尻尾を持つ少年は、自分を見下ろす女性の肌に汗一つ浮かんでいないことに気付いた。
自分と全く同じトレーニングを横でこなしていたのに、と驚く。

微笑を浮かべる女性には狼の耳と尻尾があり、慈母の様な柔らかな感情を湛えた深紅色の瞳は、少年の深海色の瞳の奥を見つめていた。
気恥ずかしそうに笑顔を浮かべた少年はブーン。
それを無言で見つめる二十代半ばと思われる女性は、ロウガ・ウォルフスキン。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「どうだ? 流石に、もう動けないだろう?」

(∪´ω`)「はい、ししょー」

423名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:35:51 ID:ykRLbvVU0
リi、^ー ^イ`!「ならば風呂にしよう。 筋肉をほぐし、次の鍛錬に備えようか」

(∪´ω`)「ししょー、でも、ぼくうごけなさそうです」

この状態では、風呂場まで這っていくのも難しい。
指の力だけで這うにも、手は拳を形作ったまま開かない。

リi、゚ー ゚イ`!「ん? 私が君を運べば何も問題はないだろう。
      さ、行くぞ」

有無を言う間もなく抱きかかえられ、風呂場に連れて行かれた。
早朝の時と同じように汗を洗い流した後、湯船の中でロウガにマッサージを教わった。
ロウガに背中を預け、肩越しに彼女の手がブーンの太腿や脹脛をもみほぐした。

リi、゚ー ゚イ`!「次からは自分でやるんだ、いいな?」

(*∪´ω`)「わかりました、ししょー」

体を後ろから押さえつけるロウガの手は力強かった。
腕から足まで愛撫するように撫でさすり、指圧するロウガの指は優しい。
筋肉が緩和し、力が徐々に回復する感覚が湧き上がる。
緊張から解き放たれ、瞼がゆっくりと落ちる。

トレーニングの最中、幾つかもらったアドバイスを思い出す。
踏み込みは静かに、だが力を込めるタイミングを誤らない。
拳は常に固く握る必要はなく、最もリラックスした状態で維持。
衝撃の際にのみ拳を形成し、速度を意識して抉りこむようにして打ち込む。

424名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:42:06 ID:mdABcWrY0
支援
初リアルタイム!
ブーンかわいい!

425名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:44:12 ID:ykRLbvVU0
そうすれば、素早い攻撃が可能となる。
殴り合いの喧嘩に発展する前の先制攻撃としては、十分な威力があるとのことだ。
鼻先を狙うか顎の先端を狙うのが効果的で、先手を打つのであれば腹部。
大の男が敵となれば、金的を狙うのもありだそうだ。

これまでのパンチと、今のパンチは明らかに形、そして威力が違っている。
それが自覚できるレベルにまで変わった。
向上した、と言った方がいいだろう。
更に、護身に必要な技まで教えてもらえたことで、それを実際に使ってみたいという初めての欲求が生まれていた。

リi、゚ー ゚イ`!「筋は悪くない。 後は、実戦での経験だ。
      人を殴ったり、殺したりした経験は?」

(∪´ω`)「……ありませんお、ししょー」

まともに殴ったことも蹴ったこともない。
強いて言うなら、腕を噛み千切ったぐらいだ。

リi、゚ー ゚イ`!「だろうね。 そんな雰囲気をしている。
       覚えておきなさい。 誰かを傷つけて自分を守る時は、遅かれ早かれ必ず来る。
       この世界を生きていくのなら、これは避けて通れない道だ。
       その時が来たら、何があっても躊躇ってはいけない。

       しかし君は怖いほどに優しすぎるから、躊躇ってしまうかもしれないな。
       それがいいんだがね」

(∪´ω`)゛「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「さ、汗を流したら次は戦い方を身に付けよう」

426名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:52:56 ID:ykRLbvVU0
(∪´ω`)゛「はいですお、ししょー」

そう返事をすると、耳元でロウガが嬉しそうな声色で囁いた。

リi、゚ー ゚イ`!「……ふふふ。 素直で大変よろしい」

(∪´ω`)「あの、ししょー?」

リi、゚ー ゚イ`!「ん?」

(∪´ω`)「あるじさんって、いまはどこにいるんですか?」

解放されているのは第三ブロックだけであることから、ロウガが主と呼ぶ人物はこの部屋の中にいるはずだ。
だが、まだ一度もその姿を見ていない。
むしろ、存在自体を感知していない。

リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、主ならこのブロックにいない。
      主は第三ブロックにいる」

ロウガから得た情報を元に考えると、主と呼ばれる人物はハザードレベル5が発令されてから部屋を出て行った事になる。
ハザードレベル5はブロックだけでなく、部屋の扉までも完全に封鎖するもので、部屋への出入りは自由には出来ない。
また、そうなる前にブロック中の人間を部屋に戻させたとも言っていたので、一度はこの部屋にいたはずなのだ。
だがしかし主が第三ブロックにいるには、二つの方法がある。

一つは、ハザードレベル5が発令される前に第三ブロックにいて、発令後もそこに隠れていたか。
もう一つは、外出許可が下りている時間帯にブロック間の移動をしたか、だ。
どちらか一つに可能性を絞った質問をすると、答えてもらえないかもしれない。
ブーンはどちらでも答えられるよう質問を考え、口にした。

(∪´ω`)「どうやったんですか?」

427名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 21:57:50 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、方法は主にしか分からないさ。
      私が命じられたのは君をこの部屋で持て成し、そして鍛えることだ」

どうしてそのような命令をロウガにしたのか、ブーンは分からなかった。
ひょっとすると、ブーンの知る人物なのかもしれない。
無駄だとは思うが、一応、ブーンは尋ねることにした。

(∪´ω`)「ししょー、あるじさんのなまえって……」

リi、゚ー ゚イ`!「隠す必要はないと言われたが、教えない方が君のためかもしれないな」

(∪´ω`)、「お……」

リi、゚ー ゚イ`!「教えてもいいが、条件がある」

(*∪´ω`)「じょーけん?」

リi、゚ー ゚イ`!「風呂上がりに一試合、実戦訓練をしよう。
      そこで私に触ることができれば、教えてあげよう」

思わず、尻尾が揺れるのが分かった。
戦える。
そして、勝てば知らないことを知ることが出来る。
それは何よりも嬉しい提案だった。

リi、゚ー ゚イ`!「おいおい、くすぐったいな。
      喜ぶのは、試合で勝ってからだ」

(∪´ω`)「お」

428名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:04:28 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「さ、出よう」

そして、二人は風呂から上がって新しい服に着替えた。
冷蔵庫でよく冷やされた水をグラス一杯飲み、体から失われた水分を補給する。
その後、ブーンには瓶に入った牛乳が与えられた。
成長盛りの子供は牛乳をもっと飲むべきだ、とロウガに言われてブーンは瓶三本分を飲んだ。

ロウガからの指摘で、風呂上がりに柔らかくなった手足の爪を切ると、とてもさっぱりとした気分になった。
それから、ロウガはタンクトップとスパッツ、ブーンは半袖のシャツとズボンに着替え、再びトレーニングルームに移動した。
リングの上に上がり、柔軟体操を行う。
多少は緩和されたが、まだ四肢は重りをつけているかのように鈍い。

拳を痛めないようにと、ロウガが巻いてくれたテーピングはいい具合だ。
二人とも靴は履かずに、素足の状態だった。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、ブーン。 実戦では、常に万全の状態で戦いが始まることは稀だ。
      油断、疲労、精神的疲労など様々な要因が付き纏う。
      例えば今、君は精神的に少々の不安があり、体力的にはかなりの負担が掛かっている。
      その状態でも戦えるよう、今から私と一戦する。

      ルールはシンプルに、何でもありだ。
      殴るのも蹴るのも頭突きも、好きに使っていい。
      私はハンデとして両腕を使わないが、私の使うゴム製のナイフに触れれば君の負け。
      君が勝つには、私の足以外に触れればいい。

      ……始めようか」

429名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:15:11 ID:ykRLbvVU0
突如として始まった訓練。
ブーンの体は合図とほぼ同時に動いた。
その理由はおそらく、ロウガから発せられる雰囲気だろう。
殺気に限りなく近い闘気。

僅かな油断が大怪我を招くことが一瞬で分かった。
関節の鈍い痛みと疲労感を取り去ることは無理だが、ロウガに教わった事を意識しながら動くことは可能だった。
まずはリラックスし、攻撃を読ませない。
そして、近接戦闘では動き続けることが重要だとも教わった。

初手としてブーンが選んだのは、バックステップ。
距離を置こうと動いたブーンだったが、ロウガはたった二歩踏み出すだけで、それを無意味にした。
両腕を胸の前で組み、自然体でブーンのすぐ目の前にいる。
触れれば勝ちという勝負。

勝ちを欲するあまり、ブーンの体が動いてしまった。
腕よりも離れた距離に攻撃できる左回し蹴りを放つ。
その蹴りを、ロウガは一歩も動かずに右足の裏で止めた。
これが勝ちを意味しないのは分かっている。

ブーンの攻撃は防がれたのだ。
身を守る術の基本を体に叩き込まれたブーンは、その状態がロウガによるテストなのだと気付いた。
足の裏で防がれた攻撃に対して、ブーンは前に進んだ。
両手が塞がっている以上、上半身への攻撃は当たりやすいはずだ。

前蹴りを放とうとした瞬間、ブーンは天井を見ていた。
何が起こったのか理解する間もなく、リングの上に背中を強打する。

430名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:19:06 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「遅い。 君の攻撃は全て私が教えたものだ。
      私にそう簡単に通じるはずがないだろう?
      攻撃に工夫するか、速度を上げるんだ」

攻撃に合わせた足払いだ。
攻撃が形になる瞬間こそ、打撃戦で人間が最も油断する時だとロウガは言っていた。
それがこの事だと、やっと理解した。
まだナイフを使われていないことを考えると、これでも手加減されている。

しかし気になるのはナイフの使い方だ。
両手を使わないのに、どうやってナイフを使うのだろうか。

リi、゚ー ゚イ`!「まだ訓練は終わっていないぞ」

(;∪´ω`)「はい!」

起き上がり、ブーンは再びロウガに向かって行った。

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             ヽ、 ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:::/
           ハ:::::::::::ヽニニニニ7, '
             /:::::ヽ、::::::: ̄ ̄ ̄ :,′
           ‥…━━ August 6th AM11:20 In the 3rd block ━━…‥
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431名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:27:39 ID:ykRLbvVU0
ベッドの上に腰掛けてから、何もしないまま時間が経過していた。
脇に置かれた小さな机の上には、冷めたコーヒーと無線機。
そして、一挺の拳銃。
腕時計の秒針が立てる音が、やけに大きく聞こえる。

左腕の時計を見た時、時刻は十一時二十分丁度だった。
とうとう、残り五分となった。
全てが動き出すまでに出来ることはやった。
しかし足りなかった。

殺すはずのデレシアは見つからず、その手段も同様だ。
マニーとデレシアによって、計画が一部計画通りでなくなってしまった。
他の者にとっては些細な事だろうが、小さな見逃し、些細な失敗が取り返しのつかない事態に発展する。
それを知らない人間が多いが、それに甘えるわけにはいかない。

こうなったら、デレシアを殺すタイミングをずらすか、諦めるしかない。
元々、こちらがいらぬ用心のために殺そうとしていたのだ。
警戒だけさせておくのも一つの策と言える。
デレシア達の注意が別方向に向いているだけでも、成功だ。

全ては一つの瞬間のために用意した下地。
不要とも言える演劇、目を欺くための茶番劇。
それがこの船で起こした全ての事件の正体だ。
茶番劇と言える簡単な事件ですら気付けなかった探偵たちには、それすらも分からないだろう。

情けない。
本当に、情けない。
彼らが愛して止まない物を。
彼らが期待して止まない物を用意してやったというのに、誰も食い付かなかった。

432名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:32:57 ID:ykRLbvVU0
触れる事すらできず、眺めているだけで終わった。
これが情けなくて、何と言うのだろう。
何のための探偵だ。
凡人には解決できない事件に対して真っ向から、そして全身全霊を持って取り組むのが彼らのはずだ。

それは幻想だったというのか。
それは妄想だったというのか。
それは幻影だったというのか。
やはりこれが現実だというのか。

まだ初心が残されていたあの頃に受けた探偵試験の最終問題で、彼らは胸を張って答えたはずだ。
木を隠すなら炎の中。
炎を隠すなら水の中。
水を隠すなら雨の中。

雨を隠すなら嵐の中。
そして、謎を隠すなら謎の中、と。
事件の中に事件を潜ませ、目を欺くことは初歩の技術。
あらゆる事件は、基本的な技術にそれなりの工夫を施して姿を変えているにすぎないという意味だ。

憤りに高ぶり、感情が溢れだす。
彼らは知らない。
知らないまま、この事件は幕を下ろす。
誰にも解かれないまま、事件は闇の中。

誰にも解いて欲しくないと思う反面、誰かに解いて欲しいと云う期待。
それは、正義の味方と云う幻想を抱く子供の様なものだ。
この世界に正義を語ることの出来る者は、まだ表れていない。
未来永劫続く平和を謳うことは簡単だが、この世界を動かすだけの力がなければ、何も変わらない。

433名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:41:54 ID:ykRLbvVU0
それを知っている。
それを知っているからこそ、この手を犯罪に染め、血で汚し、快楽として享受するまでになったのだ。
それでも果たしたい目的があった。
目的のためなら、例え意に反することでも実行に移せる。

机に置かれていた拳銃の弾倉を抜いて、残弾を確認。
遊底を軽く引いて薬室に弾が装填されていることを確認し、懐に収める。
道化は道化らしく、最後までその役を果たす。
それが、自分の仕事。

胸を痛めながらも、ブーンを殺したのはそのためだ。
小さな少年だった。
勇敢な少年だった。
愚かな少年だった。

あのような少年が世界に増えればいい。
そうすれば、世界は今よりももっと綺麗になる。
無線機が五回、定められたリズムを刻んで電波を受信した。
これが合図。

全ての準備が整い、計画通りに舞台が動き始める合図だ。
重い腰を上げ、所定の位置に向かう。
玄関の扉に手を伸ばした時、いつもの癖が出てしまう。
念には念を、の癖だ。

完璧にこなしたとしても、確認をせずにはいられない癖。

「ふむ」

434名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:46:45 ID:PTMHtc9s0


〜夕凪パクリこと暗黒騎士ガイアが書いた駄作スレッド〜

( ^ω^)ブーン系小説なんてもう全然興味ないようですね
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1394970858/

総レス91中、投下レス数34
1レス投下するごとに1.67の読者レスが付く計算

宣伝も何もせずこんなネガティブなスレタイでここまでレスを稼ぐ
夕凪パクリのガイアはこれくらいのことをながら投下で簡単にやってのけるわけだ



支援!頑張って投下してくれ!
歯車さん!夕凪パクリなんかに負けるなよ!

投下レスに対して1~2のレス数が夕凪パクリのガイアに勝つ目安だからな!
夕凪パクリを許すな!本当のブーン系小説の力で叩きのめそう!

435名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:47:39 ID:ykRLbvVU0
踵を返して、ベッドの下に隠した死体を覗き込む。
息を吹き返していないかどうか、改めて調べる必要がありそうだ。
服を掴んで引きずり出すと、そこには完璧な絞殺体があった。
顔には鬱血、首元には内出血の痕。

一旦気絶させてから、風呂場で縄を使って絞殺したため、汚物は部屋の中にはない。
服も着替えさせてあるし、息もしていない。
確かに、死んでいる。
死んではいるが、先月起こった事件を思い出す。

死亡が確認された死刑囚が息を吹き返し、再び処刑されたと云う事件。
デレシアに使うはずだった毒薬のアンプルを懐から取出し、死体の口に含ませた。
これで、確実に死ぬ。

「……君は義務を果たした。
安らかに眠るといい」

そう言い残して、部屋から出て行った。

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   (⌒ 、    .. . ... :. .:.:.:.: .: .... ..:.:.:.:..       .:.:.:.. ..  .. .... .:.:.:...
 (     ヽ⌒ヽ 、            /   / .. .:.:.:..: .:.:.:.. ....:.:...
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  , ⌒ヽ . .. :. .:.:.:.: .: .... .:.:.:. . |___/    / . ... ..   |   |  .. .... .. .:.:.:.
           ‥…━━ August 6th AM11:25 In the control room ━━…‥
  ゝ     `ヽ          / .... .:.:.:.:.:... / .:.:.:..:.:. ..   | . ......  .. .
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436名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 22:59:55 ID:ykRLbvVU0
朝日が雲の隙間から顔を覗かせ、洋上に浮かぶ巨大豪華客船を照らし出してからもう大分経つ。
白い巨体が乱反射する海面に浮かぶ姿は、鏡の上にできた影の様だった。
自然の光が船内に注ぎ込んでから、人々の心中には安堵が芽生え始めた。
嵐の中と晴天の中とでは、人の心境は大きく変わる。

それまで偽りの青空を映し出していた天井のモニターが引き込み、一枚張りの大きなガラス越しに本物の青空を覗かせた。
だがその青空を頭上に見上げられる人間は、第三ブロックにいる者に限られた。
それは、船のほぼ全てを操作することの出来る操舵室も例外ではなかった。

「……ん?」

それでも、船首である第一ブロックにある操舵室からの展望は非常にいい。
乗組員から言わせれば、オアシズで最も眺めのいい場所は間違いなく操舵室だ。
二十階建てのオアシズの七階に位置する操舵室でレーダーを睨みつけていたキース・バレルは、隣にいるエル・マリンを見た。
異変に気が付いたのは、彼だけではなかった。

レーダーに映る小さな船影に気付いたのは、オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーも同じだった。
舵輪の備え付けられた船長専用の座席には、レーダーを含んだコンソールが備わっている。
前方から距離を縮めてくるそれは、ジュスティアの物ではない。
ジュスティアは後方にあり、前方から来る船など連絡がなかった。

キースは慌てて現在地と海図とを見比べ、海賊の多発する場所との距離を測る。
ラヘッジも計算を行い、海賊の活動範囲外にいる事を確認した。
この場所で海賊に出くわすのは奇妙だ。

「船長、前方より船影が七つ接近中。
本船を目指しているものと思われます」

437名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:02:22 ID:ykRLbvVU0
報告をしながらも、キースは決してレーダーから目を離そうとしない。
船影の大きさからすると、中型の漁船ほどの物だ。
移動速度もその程度だ。
ラヘッジはその報告とレーダー図を見て、眉を顰めた。

漁船だとしてもタイミングと合わせて考えると、明らかに不自然だった。
嵐の通り道から、わざわざ嵐を追って来る船はいない。
漁師が嵐の後に漁をするのもまたおかしい。

「ヨセフ、警備員達に通達しろ。
海賊の可能性が高い」

無線係であるヨセフ・ガガーリンが頷き、無線機を所有している全員に発信する。

「全職員に報告します。 十時から二時までの方角から、合計で七隻の船が接近中。
海賊の可能性もあります。
それぞれ所定の位置に着き、対処してください」

「キース、電池はどうだ?」

「残り三十パーセント。
エンジンに回しても、生活電力との関係ですぐに停船してしまいます」

こうして報告している間にも、船影はオアシズを取り囲むように移動を開始している。
たった七隻。
しかし、こちらは動かぬ島と化した巨大船舶。
状況で言えば、決して有利とは言えなかった。

438名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:03:50 ID:eSFRjzoU0
紫煙

439名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:07:32 ID:ykRLbvVU0
万が一相手が海賊だった場合、オアシズへ侵入を試みるだろう。
船内へ通じる非常用階段を使えば、それは可能だ。
だが彼らにとって、今はタイミングが悪かったとしか言えない。
船外、そして船内に通じる扉はことごとくロックがかけられている。

それを解除できるのは市長であるリッチー・マニーの生体データだけだ。
まだ海賊と決まったわけではないが、用心するに越したことはなかった。
船は配置に着いたのか、速度を落とした。
やはり、オアシズの進路を封鎖する形だ。

七隻はオアシズから約三百ヤードの地点で扇形に展開して、こちらの様子を見ているようだ。
事態の深刻さを察知したラヘッジは、すぐに指示を出した。

「各員に通達。 不明船は包囲陣形で停止。
攻撃に備え――」

「――ひぐっ!?」

誰かの狼狽えた声が聞こえたと思った次の瞬間、操舵室は地獄絵図と化した。
悲鳴と共に椅子から転げ落ちた船員たちは、頭髪を毟り取り、喉を掻き毟りながら、口から血の泡を吐いて痙攣した。
ボタンを押すことも、放送を入れることも、レーダーを確認することも出来ないまま、彼らはやがて動かなくなる。
唯一無事なのは、ラヘッジだけだった。

「毒かっ……!!」

いつ、どのタイミングで毒が盛られたのか。
答えはすぐに出た。
ディアナ・カンジンスキーが皆に振舞ったコーヒーだ。
ラヘッジだけがあれを口にしていない。

440名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:15:20 ID:ykRLbvVU0
死んでいる人間との違いは、それしかなかった。
即効性だと怪しまれるために、わざと遅延して効果が表れる毒を使ったのだ。
白目を剥いて地面に転がっているディアナを見ると、彼女が盛ったのではないことが分かる。
別の段階でコーヒーに毒が混入され、操舵室に運び込まれた。

タイミングの良さを考えると、本来であればあの海賊たちは密かに乗船する予定だったはずだ。
内通者がいる。
その内通者が何者なのか、ラヘッジはすぐに気付いた。
連続殺人犯こそが、海賊の一味。

警戒の目を船外ではなく船内に向けさせ、レーダーを管理している操舵室を無効化し、侵入を容易にする算段だったのだろう。
だが偶然の産物によって、それが破算となった。
ラヘッジはその場に止まることが危険だと理解した。
緊急放送用のマイクを掴み、無線を持っている全員に向かってラヘッジは叫んだ。

「コードブラック、コードブラック!!」

コードブラック。
外敵から攻撃を受けたことを意味する、ハザードレベル5に直結する緊急コードだ。
犯人の狙いは、オアシズのシージャック。
彼らの失敗は、この船に乗り合わせているジュスティア軍の存在と既に発令されているハザードレベル5だ。

しかし、船外から中に入ることが出来ないのと同じく、船内から船外に出ることは出来ない。
また、警備のほぼ全ては第三ブロックに集中しており、彼らが迎撃に向かうことも出来ない。
迎撃するためには、第三ブロックから船外に通じる全ての出入り口のロックの解除が必要だ。
その権限を持っているのは市長であるマニーだけ。

ベレッタの安全装置を解除し、操舵室から脱出しようと出口に顔を向ける。
無線を聞いていたジュスティア軍の兵士二名が、操舵室に入ってきたところだった。
運がいい。

441名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:21:58 ID:ykRLbvVU0
(::0::0::)「何事ですか?!
     これはひどい……」

「あぁ、犯人と海賊はグルだ。
海賊の侵入を手助けするのが犯人の目的だったんだ」

(::0::0::)「なるほど。 船の動かし方は?」

流石は兵士だ。
この状況でも狼狽えずに、必要な行動をしている。

「これがマニュアルだ」

船を動かせる人間のほとんどがいなくなった以上、彼らの力を借りるしかない。
ラヘッジは机の引き出しから、分厚い本を取出し、手渡した。

「まずは市長を探して、ロックを解除してもらわないと」

(::0::0::)「今、同志たちが探しています」

「あぁ、頼む」

(::0::0::)『一度は死んだが、天国がどんなだか聞きたいか?』

男の口から出た言葉を聞いてから、ラヘッジは時間の流れがとてもゆっくりとしたものに感じた。
その時間の中、彼の思考は自然と逆算してその言葉の意味を理解しようとした。
言葉の意味は質問だったが、本質は違う。
それは紛れもなく、軍用第三世代強化外骨格の機動解除用のコードだった。

442名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:23:50 ID:fLkpWRZo0
支援

443名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:24:58 ID:mFxhbgFI0
支援

444名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:31:00 ID:ykRLbvVU0
声の前には、視覚情報もあった。
彼らは棺桶を背負っていた。
サイズはBクラス。
その前には、距離の疑問があった。

第三ブロックからここまで来るには、マニーの力がいる。
無線で緊急事態を告げてから、五分も経っていない。
事前にこちらを目指していたとしか思えない。
つまり、こうなる前に許可を得て移動していたのだ。

逆算が終了し、現実の世界に引き戻されるまでには一秒弱。
目の前にいる兵士の拳が鼻面に吸い込まれ、床に倒れる。
その背後には、強化外骨格を装着し終えた男の姿が。

「い、一体お前たちは!?」

上体を起こしながら、ラヘッジは問うた。
犯人だけでなく、ジュスティア軍人までもが加担する事件。
目的、そして正体は何なのか。
それが全く分からない。

ラヘッジを殴り倒した男は、腰から拳銃を抜いて答える。

(::0::0::)「我々ですか? 勇敢な、そして優秀な船長殿。
     我らの上官に代わり、お答えしましょう」

拳銃の銃口を向けながら、男は誇らしげな声で言った。

(::0::0::)「我々は――」

445名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:38:35 ID:ykRLbvVU0
銃声、衝撃。
そして暗転。
終ぞ、ラヘッジは男の言葉を聞くことが出来なかった。
例え聞いていたとしても、それは彼の頭には残らなかっただろう。

その言葉を記憶した脳髄が床に飛散してしまっては、何の意味もないのだから。

(::0::0::)「操舵室制圧」

難なく操舵室を占拠し終えた男は、ラヘッジが使っていた物とは異なる周波数の無線を使って、仲間達にそう呼びかけた。

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Ammo→Re!!のようです

                                         Ammo for Reasoning!!編

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二二ニニ_____|
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  し ニ=  `ー-'′  (  ‥…━━ August 6th AM11:28 In the 3rd block ━━…‥
     ヽ__ノノ_冫‐ `i
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446名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:43:43 ID:ykRLbvVU0
コードブラック、という言葉を無線で聞いた瞬間、ジュスティア海軍所属強襲部隊“ゲイツ”の指揮官、カーリー・ホプキンスは気持ちを戦闘用のそれに切り替えた。
船に危機が迫っている。
正直、この船で起きたという殺人事件については手を拱いていたというか、何も考え付くことがなかったので丁度良かった。
こうやって分かりやすい形で危機が迫ってくれると、手出しが楽だ。

室内戦を想定して改造されたコルトM4は銃身を限界まで切り詰め、銃床を伸縮式の物に変え、更に既存のバレルを交換して対棺桶用の弾を発砲できるようにされている。
ダットサイト、そしてアングルドフォアグリップによって中距離での射撃制度も上げている。
貫通力の高い銃弾が装填済みで、棺桶だけで無く、固い装甲や障害物に対しても有効だ。
漁船程度の大きさなら、エンジンを狙えば動きを止められる。

オアシズを取り囲むほどの相手なら、間違いなく棺桶を持っているはずだ。
棺桶には棺桶だ。
背負っている運搬用コンテナの中には強襲作戦に特化したAクラスの棺桶、“キーボーイ”が入っており、当然、ホプキンス用の改修が施されている。
停船中を好機と考えたのだろうが、海賊たちは自ら進んでライオンの檻に入ってこようとしているだけだ。

檻に触れる前に殺す。
ジュスティア軍の力を見せつけるいい機会だ。
力を見せつければ、犯人も怖気づいてこれ以上の犯行を考え直すだろう。
海賊の騒ぎを解決すれば、一先ず仕事をしたことにはなる。

一連の事件解決に関してはトラギコ・マウンテンライト刑事と探偵たちに任せた方がいい。
となれば、行動あるのみだ。
まず必要なのは、先制攻撃。
先制攻撃に必要なのは、位置に着くことだ。

海賊船に対して攻撃を与えるためには、第三ブロックから外に出る必要がある。
その為にはマニーの許可が必要だ。
全体会議以降姿を消してしまったマニーに向かい、ホプキンスは無線で呼びかけた。

447名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:51:16 ID:ykRLbvVU0
「市長、こちらホプキンス少佐です。
海賊の迎撃のために、船外への移動許可をいただきたい」

すると、無線機から帰ってきたのは第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマの声だった。

ノリパ .゚)『すでに船外に出るための扉は開閉されています。
     お急ぎください!』

対応が早い。
目の前では、従業員たちが乗客達にすぐに部屋に戻る様に指示を出している。
これで、安心して戦える。
ホプキンスは海兵たちの無線に向かって、指示を出した。

「賊を排除するぞ。 ヴァルとラルは操舵室に行き、敵船の位置を報告。
残った者はスリーマンセルで行動し、船外から賊を攻撃。
ジンターとギュスターヴは私と共に屋上から外に出て、全体を指揮する。
状況開始、後れを取るな!!」

そして、ホプキンスは駆けた。
緊急時に動けるようにと十階にいたのが幸いだった。
エレベーターに乗り込み、屋上行きのボタンを押す。
体が軽く持ち上がる感覚の中、ストラップで肩に掛けていたライフルを確認する。

弾、状態、バッテリー。
全て万全だ。
ダットサイトの電源を入れ、安全装置を解除してから棹桿操作をして薬室に一発送り込み、いつでも戦闘が可能な状態にする。
ストックを伸ばし、フォアグリップの穴に指を入れてしっかりと持つ。

448名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:56:05 ID:ykRLbvVU0
屋上に到着する前に、ホプキンスはライフルを前方に構えた。
扉がゆっくりと開くと、その隙間から強い潮風が顔に吹き付けた。
眩しいほどの青空には雲一つ浮かんでいない。
波の音と風の音が涼しげだ。

夏の暑さを含んだ空気にも、ホプキンスは眉ひとつ動かさない。
銃口の先には、鮮やかな人工芝が敷かれていて、運動場を思わせた。
慎重に歩を進め、船外に足を踏み出す。

「……まだ来てないのか」

部下達がまだ来ていないことに少し落胆したが、ホプキンスはそれならばと、まずは海賊船を確認することにした。
船の縁まで姿勢を低くして移動し、左舷の高い柵から下を見下ろす。
確かに、灰色の船が囲むようにいる。
まだ何もアクションを起こしていないのを見ると、要求や侵入方法を考えているのかもしれない。

(::0::0::)「少佐殿!!」

「ん? お前は――」

声に反応して振り返るも、ホプキンスはその声の主がジンターやギュスターヴで無いと分かった。
一体誰の声だろうか。

(::0::0::)「攻撃です!!」

その声が無線機からも同時に聞こえたかと思うと、背後から連続して銃声が鳴り響いた。
海兵はホプキンスの襟首を掴んで、一気に引きずり倒した。

「うぉっ?!」

449名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 23:58:58 ID:ykRLbvVU0
(::0::0::)「こ、こいつら……うわぁっ!?」

屋上の至る所から次々と銃声が響き、悲鳴が風に乗って届いてくる。
しかし、目の前にいる男は倒れないどころか、撃たれた気配すらない。
遊んでいるのか。

(::0::0::)「し、少佐!? 大変だ、ホプキンス少佐が殺された……
     本部、聞こえるか? “ゲイツ”は全滅……全滅だ……
     あ、あっ……やめっ……!!」

何を。
何を、言っているのだろう。
まだ自分は生きている。
ただ、倒されただけだ。

周囲では銃声が響いて、悲鳴がするだけだ。
誰も死んでなどいない。
何がどうなっているのだ。

(::0::0::)「……では、さようなら、少佐」

銃声が、ホプキンスのちっぽけな疑問と意識を脳髄ごと吹き飛ばした。
コードブラックを耳にしてから、僅か六分の出来事だった。
物言わぬ死体の傍に立つ男は、無線機に向かって淡々と報告した。

(::0::0::)「屋上制圧」

450名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:02:33 ID:46mCtulo0
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           ‥…━━ August 6th AM11:35 In the 3rd block ━━…‥
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最終的な変更点はわずかだった。
気にしないといけないことは、侵入口の数が五分の一となり、館内の五分の一しか制圧できない点ぐらいだ。
最優先目標は変わらず、市長のリッチー・マニーの確保。
海賊船は両舷に分散し、所定の位置に付く。

左舷に六隻、右舷に一隻。
船長が乗る指令艇一隻が第三ブロックの警備員詰所前でエンジンを切り、船首に取り付けた捕鯨砲を喫水線よりも上の壁を狙って撃ち込んだ。
クジラの巨体をも貫通する銛はオアシズの壁を貫き、海賊船とワイヤーで繋がった。
捕鯨砲のスイッチを入れてワイヤーを巻き取り、海賊船をオアシズに密着させて停船させた。

見上げると、途方もなく巨大な船なのだと再認識させられる。
進入口が一階とは言っても、実際は喫水線の上にあるわけではない。
喫水線の約五十フィート上にせり出す形で設けられた踊り場がある。
そこが非常口の出口となっており、そこまでは垂直に伸びる梯子を上って行く事になる。

非常口前には転落防止用の鉄柵に囲まれた広い踊り場があり、巨大な非常階段がそこから壁伝いに屋上まで伸びている。
この階段を使えば、各階への移動が簡単に行える。
立派な装備で身を固めた部下達が甲板から梯子を使ってオアシズを登っていく様子を、ストローハット海賊団船長、マンキーデー・ラフィングは満足げに見ていた。
これまで彼らが狙った中で最大級、否、世界中の海賊達も決して成功しなかった世界最大の豪華客船への海賊行為。

451名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:06:28 ID:46mCtulo0
海賊の王を夢見て幾星霜。
ラフィングの夢が成就するのも、そう遠くなさそうだ。
彼らは、ラフィングが海賊を志してから直に集めた同じ夢を持つ仲間。
皆、防弾ベストと個人防衛火器であるP90、そしてBクラスの棺桶で武装している。

海賊の装備としては現代的かつ高価な物ばかりだ。
部下には話していないが、今回の件には出資者がいる。
ラフィングは出資者の指示したことをやれば、後はオアシズをどうしてもいいと約束を取り交わしている。
無論、そんな約束を守る必要はないが、今後とも是非ビジネスを続けたい相手であるため、今はまだ裏切らない。

彼自身も船から梯子に飛び移り、胸の高鳴りを感じた。
この大きな獲物を彼らが好きにできると云うのは、金持ちの美女を好きにしていいのと同義だ。
出資者からの指示は一つ。
市長を捕らえて指定の場所で引き渡すだけ。

楽な仕事だ。
梯子を上り終えると、部下達が非常口である水密扉の前で待機していた。
入り口で指示を待つ部下達に、ラフィングはハンドサインで合図し、待機を命じた。
左舷が各階に散る中、右舷の彼らは一か所から侵入し、第三ブロック唯一の詰所を制圧することを狙いにしている。

つまり左舷は陽動、右舷が本隊だ。
事は慎重に、かつ確実に行う必要がある。
まだ誰にも気づかれていないことは分かっているが、焦って事を仕損じるわけにはいかない。
左舷が侵入し、船内の注意がそちらに向いた頃合いに詰所を襲えば容易に制圧が出来るが、タイミングを誤れば警備員の残る部屋に入ることになってしまう。

無線が三度、無言の合図を受信した。
二度、無言で無線を送り、こちらも合図を出す。

(::0::0::)「ゴー」

452名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:10:47 ID:46mCtulo0
ここから先は害虫駆除に似た動きをするだけだ。
短い合図を受け、先頭に立つ男が水密扉に付いたハンドルを回し、ゆっくりと押し開く。
そして、空いた隙間から一気に二人が侵入した。
海賊団切っての命知らず、ブロックリンとジンサだ。

声を立てずに侵入した彼らがまず中の安全確保と偵察を行い、その後で残りが入る作戦だ。

(::0::0::)「クリア!」

一発の銃声を聞くことなく、クリア、の声を先に聞くこととなった。
銃を構えながら船内に入る男達の最後尾に、船長であるラフィングは余裕の表情で付いた。
広々とした警備員詰所には、誰もいなかった。
多少は反撃を予期していたのだが、どうやら、全員出払った後のようだ。

拍子抜けではあるが、戦闘が避けられたのは良い事だ。
構えていた銃を下に降ろし、指をトリガーガードに乗せる。
胸の無線機を取り出して、専用の周波数に合わせて状況を報告する。

(::0::0::)「第三ブロック警備員詰所、制圧したぞ」

453名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:14:30 ID:46mCtulo0
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          レ′
 r.二二.)     /   ・ ・ ・
  ≡≡    ,イ
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\   /  ├、
::::::` ̄´   /  !ハ.
           ‥…━━ August 6th AM11:40 In the 3rd block ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

制圧の報告後、ラフィングたちはこの詰所を念入りに調べた。
爆破物などの危険や、罠である可能性を考えたのだ。
考え過ぎだったようだ。
楽な仕事だ。

今日はいい日だ。
仕事が円滑に進めば、それだけ時間が有効活用できる。
その分金も手に入るし、好きなことに時間を使える。
例えば、海賊業の旨味の一つ。

(::0::0::)「よし、まずは人質だ。
     若い女、それと子供を選んで連れてこい。
     ここを一旦、我々の拠点にするぞ」

人質は儲かる。
世界中、どこでもそれは通じる。
生かしておけば金が入るかもしれないし、売っても金になる。
特に、女子供は高値で売れる。

454名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:20:36 ID:46mCtulo0
連れ帰って彼らの慰み者になってもらってもいいし、いいこと尽くしだ。
中でも、ラフィングが好むのは女児だ。
美人になる素質を漂わせる、六歳ぐらいの女児が最もいい。
子供の中でも、女児は特に恐怖に屈しやすいからだ。

邪悪な笑い声を上げながら、男達が続々と詰所から出て行き、居住区へと進んでいく。
ラフィングと男二人が詰所に残り、部下が連れてくる人質を待つことにした。
ナイフ使いのババロア・ジロー、そして狙撃の天才ソイップは煙草を咥えて余裕の表情を浮かべている。

「――ひきゅっ?!」

悲鳴が、どこかで上がったような気がした。
周囲を見渡すが、ラフィング以外にそれに気付いた様子がない。
気のせいだろうか。

「――あぱっ!」

否。

「どうっ!?」

これは。

「みけっ!」

気のせいなどではない。

「てゅっ!?」

「うがあああああ!!」

455名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:27:30 ID:46mCtulo0
「誰だてめ――」

間違いなく、悲鳴だ。
サンドバッグを殴るような鈍い音――サプレッサーで抑えてはいるが、紛れもなく銃声だ――の後に悲鳴が上がっている。
そして、フロンキーの悲鳴を最後に銃声が止んだ。
ラフィングは叫んだ。

それは命を奪われたコニー・ビロンやニトー・チョップー達のための叫びではない。
自分自身の身を守るための叫びだ。

(::0::0::)『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

謎の襲撃者がすぐにでもここに攻め込んでくる可能性を考慮して、咄嗟に棺桶を装着した。
それが幸運だった。
コンテナに取り込まれる一瞬前に、目の間でババロアとソイップの頭が一部吹き飛び、コンテナの蓋に銃弾が当たる音を聞いたのだ。
防弾性に優れたコンテナの中では装着を終えるまでの間、外の音がほとんど聞こえてこない。

ただ、何者かがラフィングたちを殺そうとしているのは分かった。

「早く、早くっ……!!」

残り三秒。
着々と、彼の体に合わせて強化外骨格が取り付けられているのが分かる。
この暗闇から外に出れば、襲撃者を返り討ちにできる。
早く敵を殺したい一心で、ラフィングは乾く唇を舐めた。

残り二秒。
誰の気配もしない。
ラフィングが棺桶を使おうとしているのを見て、怖気づいたのだろうか。
今更許しを請われようが、絶対に許さない。

456名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:32:23 ID:46mCtulo0
そして、時間になった。
コンテナが開き、強化外骨格で全身を固めたラフィングが一歩を踏み出す。

〔欒゚[::|::]゚〕『どこだ、どこにいる……』

銃を構えて、周囲にそれを向ける。
それ以上、足を踏み出せない。
否、踏み出さないでいる。
少なくともこの位置にいれば、背中はコンテナが護ってくれる。

三方向に意識を集中させていればいい。
仲間達を皆殺しにして逃げたのか。
いや、それはない。
この部屋に、まだいる。

どこかでこちらの様子を見ている。
ラフィングは、試されているのだ。
これまでに感じたことのない緊張感に、ラフィングはたまらず呟く。


〔欒゚[::|::]゚〕『くっ……何が、何が目的だ……』












                      声が、聞こえた。















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457名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:37:39 ID:46mCtulo0
.









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                   I want love or death. That's it.
              『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』


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458名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:40:03 ID:aWwOaI.IO
遂に来たか

459名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:40:36 ID:2ZM1rNTEC
こっちにも支援

460名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:45:12 ID:46mCtulo0
それは女性の声だった。
それは美しい声だった。
それは歌うように紡がれた言葉だった。
声が聞こえてから振り返ろうとするまでの間は、僅か三秒。

命取りとなる三秒だった。
だがそれに、ラフィングが気付くことはない。
背後から電磁誘導で射出された杭がコンテナを貫通し、彼の後頭部から顔を貫いたのだから。

【+ 〔欒゚[●ル>フ。゚ ・ ィ゚

強化外骨格を運搬するためのコンテナは、そう簡単な事では破損しない。
棺桶はその装着時間が最も無防備であるため、それを補うためにコンテナはかなり堅牢な作りをしている。
状況によっては遮蔽物としても使用することが可能なそれに対して、棺桶持ちは絶大な信頼を置いている。
勿論、使用頻度によっては強度が落ちて徹甲弾に貫かれる例もあるが、普通はコンテナごと急所を破壊されるなど、夢にも思わない。

ラフィングも例外ではなかった。
声が聞こえてから彼はまず、左右の確認を行った。
これで一秒半を消費した。
残された一秒半で彼が判断したのは、背後にいると分かった人間への対処方法だ。

彼が選んだのは、コンテナを相手側に蹴り飛ばして機先を制すことだった。
だがそれは、コンテナが後ろにある限り、背中から攻撃されることは有りえないと云う感覚があったからだ。
棺桶持ちだけが持つ、無意識の内に芽生えた油断。
襲撃者は、そのことを熟知し、その油断を容赦なく狙った。

しかしラフィングの考えは間違いではない。
長年に渡る戦闘を経験して理解した、コンテナの強度に対する信頼。
室内と云う状況を合わせて考えれば、彼の動きは模範的だった。
普通なら、それで対処できる。

461名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:55:03 ID:46mCtulo0
相手が普通なら、の場合だが。
杭が引き抜かれると、死体はその重みで背後に倒れ、再びコンテナの中に納まった。
文字通りの棺桶となったそれの上に足を乗せ、襲撃者は杭打機を振って血を振り落とした。
それは、単一の目的のために開発された対強化外骨格用強化外骨格、“レオン”に相違なかった。



となれば、それを駆る迎撃者は――





ノハ<、:::|::,》「さぁ、お仕置きの時間だ」





――ヒート・オロラ・レッドウィング、ただ一人なのである。

462名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 00:57:35 ID:46mCtulo0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
          /:::::::::::::::::::::::;/:::::;r''"   __,.、---‐‐‐‐‐---、.,,゙Y、  
.          /:::::::::::::::;;::-''":::::/  ,.-'''"´ ___          ,.r''",イ \          ヽ
        /::::::::_,,.:::::\::::::, '゙ ,.イ-‐‐'''"´ ``ヽ、._   / \./ ,.イ          }}
        /-‐'''":::::;.、-'゙T'''" ̄  `'┬‐┬--、.,,,___ `''‐-'゙、._\\イ イ´\        〃
      /:::::_,.、-''" /´`゙'''‐-、   ``ヾ、 ゙、 `T゙T'i''''''‐‐‐゙ヽ、ノノノル 人      //
     /,..-,.'ニ-‐''''"ヾz、_/ヽ-‐'゙``<‐┬-゙ヽ、l   〉-ヽ、‐‐---<゙  ル人 レー… ´
    '"´ ̄       |/ \ _/!  〉 ./\/`ヾ、. _>‐--、.,__`ヽ、 =ニ´     /
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           ‥…━━ August 6th AM11:44 In the 3rd block ━━…‥
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                                       第八章【intercept-迎撃-】
                                         To be continued...!!
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463名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:01:29 ID:oitFW0.w0
読んでる支援

464名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:05:42 ID:46mCtulo0
支援ありがとうございました!
これにて本日の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

465名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:10:51 ID:FaWtvpoc0
お疲れ様です。
迎撃開始、という事で次回が既に楽しみです。
さっそくブーンが練習の成果をみせる事になるのかなー。楽しみです!

で、ひとつ質問なんですが海賊の名前は、ワン○ースの麦わら帽子被った海賊からとったんでしょうか?w

466名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:15:16 ID:46mCtulo0
>>465
はい、その通りです。
例の海賊団から参加してもらって退場してもらいました。

467名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:15:54 ID:oitFW0.w0

おもしろい
前話であたらしい棺桶のキングシリーズってのが出てきたけど、棺桶の国別のカラーリングとかあったりしますか?

468名も無きAAのようです:2014/03/30(日) 01:19:11 ID:46mCtulo0
>>467
その国らしい、っていう漠然としたイメージですね。
銃と同じで状況に合わせてカラーリング出来るって設定です。

469名も無きAAのようです:2014/04/05(土) 21:40:28 ID:kPK7OpXE0
棺桶が第三世代だったり第七世代だったりするのってなんか意味あるのかな?棺桶によって世代が違う物もあるってこと?

470名も無きAAのようです:2014/04/05(土) 23:11:57 ID:MD5blfwY0
>>469
そこに気付くとはやりますね。
そのことについては後々作品内で語る予定ですが、
第三世代と第七世代を使っている人間の共通点なんか気にしていただけるといいかと思います。

471名も無きAAのようです:2014/04/06(日) 17:48:25 ID:l6wHcDow0
めっちゃ気になるなそれwww

読み返そうか

472名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 14:04:04 ID:WhlWnops0
今晩VIPでお会いしましょう

473名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 15:43:07 ID:OUFh8imE0

待ってる

474名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 17:08:04 ID:jfPlWyBM0
うお来るのかwktk!

475名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:18:08 ID:WhlWnops0
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If giving is the love, killing means the love.
与えることが愛ならば、殺すことも愛なのだろう。

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476名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:19:02 ID:WhlWnops0
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          !.ニ'.           _,,....,_   〈ニニ/ヽ
        '.ニ,' , - '''' ‐ 、   〃 ,. 斗 ヽ  マy'ム !'.
          '.ニ! / `゙_ー-_..,_',u、ji!‐'´-‐ 。ァ }}‐'´l! 〉ヽl !
         マ {{ ゝ-‐゚ ´.}!⌒!、 `¨¨´ .〃  l!'  У
            'ム、     〃.!   ー-‐ '    ノ´
              '., ` ¨¨´  .!           !´
           ‥…━━ August 6th AM11:43 In the 3rd block ━━…‥
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海上を我が物顔で荒らし回るストローハット海賊団に所属する彼らは、嵐を愛していた。
自らの蛮行を嵐に例える同業者がいたが、彼らは嵐ではなかった。
人間がいくら徒党を組んで強力な装備を手に入れたところで、本物の嵐になることも、それ以上の存在になることも出来ないのだ。
嵐を自称する海賊団と対峙した時、ストローハット海賊団は容赦なく敵船を攻撃し、海に沈めてきた。

確かに、猛烈な弾幕と攻撃を嵐に例えたくなる気持ちも分からないでもないが、所詮は人間の技。
弾雨は豪雨には敵わず、砲声は雷鳴にも劣った。
RPG-7の一撃で喫水線に穴を空けただけで沈む船の脆さは、嵐の豪健さと比べることが無礼なほどだった。
人間は嵐を始めとした自然現象には絶対に勝てない。

勝てないが、利用することは出来る。
人の不幸を糧に生きる人間ならば分かることだが、嵐とは、被害だけをもたらすものではない。
要は捉え方と動き方だ。
確かに、嵐はあらゆるものを根こそぎ吹き飛ばし、何事もなかったかのように青空と瓦礫の山をそこに残す。

同時に、何の労力も割かずに人間に対して精神的、肉体的なダメージを与えるものでもある。
嵐によって壊滅的な打撃を受けた街には崩れた家が多々見受けられるが、その下から価値のある家電を容易に掘り出すことが出来る。
また、家族と離れ離れになって途方に暮れた子供を手に入れる絶好の機会でもある。
言わば、無欲な暴虐者の後ろに付き従うハイエナとして、嵐を利用するのだ。

477名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:20:35 ID:WhlWnops0
海賊の中にはその行為が卑怯だと言う者もいるが、それは間違いだ。
要は、人が手を下すかどうかの問題であり、無駄な労働をするか否かと云う違いしかないのだ。
あくまでもこちらは自然災害の猛威によって打撃を受けた街から利益を得ているだけであり、被害者から金を巻き上げる警察と大差ない。
どちらも人の不幸を商売にしているのであって、誰もが幸せな世界なら、どの商売も成り立たずに消え去るだろう。

それが成り立つということは、これは商売として成立しているということだ。
悔しければ真似すればいい。
腹立つならば真似すればいい。
咎めるなら止めて見せればいい。

電池を使い果たして動きのとれない豪華客船もまた、彼らが幸せになるためには不幸になってもらう対象でしかない。
そうなってもらう予定だった、と言うべきだろう。
一カ月も前から計画されたオアシズ襲撃計画。
それは、非常にシンプルかつ大胆な内容だった。

孤立した船で起こる連続殺人事件とその内容のエスカレート。
全ての注意がそこに向けられている隙に彼らが乗船し、目的を達成するという流れだ。
それを達成するための最大の障害が、オアシズに搭載された高性能なレーダーだ。
一般の船舶に積まれているそれとは違い、海底の形状は勿論だが、接近してくる影の速度や種類までも詳細に分かる代物だ。

レーダーの無効化と云う問題の解決は、協力者が請け負った。
事件解決を目的にジュスティアから派遣される兵に混じり、オアシズ内に潜入。
既に船に潜伏している人間と協力し、内部からレーダーを無効化すると言うのだ。
絵空事の様に思えた作戦は、だがしかし、現実化した。

計画通りに各階に二人一組で散った海賊達の中で、第三ブロック三階の船外に設置された非常扉を開いたのは、ガイモン・グリーンヘッド、そしてパール・シールだ。
ストローハット海賊団の戦闘員である二人は素早くクリアリングを行い、船内に通じる最後の非常扉の前で待機し、仲間に合図を送った。
合図は無線機の通話ボタンを一定間隔で数回押すことで伝わり、声を使わないので敵に聞かれる心配がない方法を取っている。
その合図からすぐに応答が来た。

478名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:24:15 ID:WhlWnops0
攻撃を実行せよ、とのことだ。
水密扉のハンドルをパールが回し、ガイモンが扉の向こうに銃を向けて待機する。
慎重に開かれた扉の向こうには、写真や噂で聞いた通りの街が広がっていた。
これまでに多くの船を見てきた彼らにとって、それは常識を変える光景だった。

世界最大の船上都市として機能しているだけはある。
飲食店は勿論、その他娯楽施設、住居までが船に収まっている。
ある意味で混沌としていて、またある意味では整然とした景色。
あまりにも現実離れした光景に、一瞬言葉を失ってしまう。

胸の無線機から警備員詰所を制圧したとの報告が音声で入り、あまりの呆気なさに驚きを隠せなかった。
世界最大の船上都市の警備は、ここまで脆かったのだ。
本当は、熾烈な戦闘を期待していたのだが、それは期待のし過ぎだったようだ。
彼らの役目は搖動。

警備員詰所が空になるまでの間、注意を惹きつける役割を担っていたのだが、その必要はなくなってしまった。
危険を承知でそれを受けたのは、危険を楽しむためだった。
銃撃戦の中で自分が生きているという実感と、相手の人生を終わらせることに快感を覚えたかったからだ。
だが、素早く展開された作戦がオアシズを陥落させるのに有効だったという結果は、素直に受け入れるべきだ。

例え撃ち合いが行われなくとも、仕事は果たす。
それがプロと云うものだ。
気を取り直して、意識を整える。

「クリア。 パール、行くぞ」

「あいよ、ガイモン。 目標は市長だ」

479名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:27:07 ID:WhlWnops0
ガイモンが角から足を踏み出した瞬間、視界の端に黒い何かを捉えた。
積み重ねた経験と勘が、彼の体に対して後退を命じた。
一瞬でもその行動が遅れていたら、彼の首に特注の空気穴が出来ていただろう。
堰を切ったように銃声が連続して響き、目の前を銃弾が通り過ぎる。

ガイモンは、この呆気のない制圧が罠であることを瞬時に理解した。
どこかで何かがずれたのだ。
噛み合うべき歯車が、噛み合わなかった。

待ち伏せされていたということは、つまり、初動の際に綻びがあったのだ。
協力者側の失態で、接近が知られていた可能性が非常に高い。
今すぐに計画の変更をしなければ、多くの死人が出て作戦そのものが破綻する。
無線機を胸から取出すが、本体に空いた銃痕を見てそれを地面に叩きつけた。

パールは無線機の代わりに防弾プレートを入れる男。
これで、本隊に連絡が取れなくなった。

「ガイモン、大丈夫か?!」

「大丈夫だが、やつら待ち伏せしてやがった!
情報と違うぞ!」

「本隊に連絡は?」

「駄目だ、無線機が撃たれた!
この調子だと、他の連中も危ない!」

あちらこちらで響く銃声が、第三ブロック全体で同じことが起こっている事を物語る。
接近してくる複数の跫音が耳に届き、ガイモンはパールに言葉をかけた。

480名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:29:58 ID:WhlWnops0
「ここは俺達で切り抜けて、他の連中と合流しよう!
俺達ならやれる!」

銃弾は曲がり角を削り取り、弾雨によって二人をそこに釘付けにした。
背中には出口、正面はT字の道だ。
あまり待ってもいられない。
反対方面の道に陣取られて狙撃でもされたら、ひとたまりもない。
逃げるという選択もあるが、今は進む方が賢明だ。

襲い掛かった以上、後退は悪戯に被害を出しただけという結果だけを残す。
地の利は相手にあるが、来る方向さえ分かれば対応は出来る。
ダットサイトとレーザーサイトを装着した個人防衛火器P90を肩付けに構え、パールは壁を背に付けた。

「よし、やってやろうぜ!」

「おい、パール! 壁にっ……!!」

屋内の銃撃戦の中で忘れてしまいがちなのが、壁に近づくという愚行だ。
木製ならいざしらず、鉄製の床と壁が周囲にある状況では跳弾の危険性が高まる。
特に、壁に近い位置にいると跳弾を受けやすくなる。
その為、室内戦、特に廊下のような狭い場所での戦闘では壁から離れて真ん中に位置取る事が基本とされている。

しかし、パールの性格上、それは難しい話だった。
彼は臆病故に、防弾チョッキを重ね着するほどの慎重な性格をしている。
そのため、一方向を安全な状態にしようと壁を利用したのだ。
それが、失敗だった。

「おぷっ!」

481名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:33:12 ID:WhlWnops0
運悪く跳弾した銃弾は、何の防御もない彼の頭を直撃してその命を奪った。
銃弾の飛んできた先を確認し、ガイモンは姿勢を低くしてパールの死体の傍に近寄って彼の銃を手に取った。
悲しいことだが、彼の利口さが足りなかったがために起きた事態だ。
いちいち悲しんでなどいられない。

近接戦闘が予想されるため、両手に銃を構える。
数の不利を補うには、弾の数と命中精度が必要だ。
呼吸を止め、跫音と銃弾の飛んでくる方向と、その逆方向に銃口を向けて敵を待つ。
正面にはまだ敵の姿が見えないため、備えはしない。

数は複数だが、十人以下だ。
そこまで多くはない。
殺り甲斐がある。
一つ、簡易な罠を使うことにした。

「ぐおっ、ぐっ……い、あがぁっ……!?」

偽りの悲鳴。
偽りの悶絶。
致命傷を負っていると勘違いをして、勇み足でやってくるかもしれない。
十回に七回は成功したこと、実績のある罠だ。

そして、その時が来た。
クリアリングのために角から僅かに覗いた銃身。
次に出てくるのが人の顔か小型の鏡かで、対応が変わってくる。
呼吸を止め、相手の動きを待つ。

482名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:37:37 ID:WhlWnops0
左の曲がり角から僅かに現れたのは男の顔。
それが、発端となった。
銃爪を引いて銃弾の雨を浴びせると、名も知らぬ男の顔が砕け散った。
床の上でのた打ち回り悲鳴を上げる男に、右手のP90で弾を浴びせる。

その時間を契機と見た新たな男が姿を見せるが、左手の銃が火を噴いてその勇気を凌辱する。
胸に弾丸を受けた男は正面から殴られたように後ろに倒れる。
防弾チョッキを着ていたのだろうが、こちらの銃弾はそれを貫通する。
殺した男達の武装はいずれも拳銃だった。

つまり、警備員の可能性が低い。
正規の警備員は、アサルトライフルで武装しているはずだ。
警備員以外で武装していてもおかしくないのは、探偵だけだ。
敵は総出で迎え撃とうとしているのだが、妙なところで詰めが甘い。

マニュアルでしか対処したことのない事態だから慣れていないのだろう。
だが情況的に、決してこちらが有利なわけではない。
楽観的な行動は禁物だ。
切り札を使う時だと、ガイモンは心を決めた。

『そして望むは、傷つき倒れたこの名も無き躰が、国家に繁栄をもたらさん事を』

背負った軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の解除コードを静かに口にして、ガイモンは鎧を身に纏う。
銃撃戦で命を失うのはまっぴらだ。
生身で殺し合いをするのはガンマンのすること。
棺桶を持っているのならば、躊躇わずに使うべきなのである。

483名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:42:32 ID:WhlWnops0
コンテナの中から姿を現したのは、Bクラスの傑作機として名高いジョン・ドゥの軽量型モデル、ジェーン・ドゥ。
基本的な運動性能を損なうことなく、軽量化に伴う機動力を有する機体だ。
カメラを光学モードから熱源探知モードに切り替え、曲がり角の向こうにある僅かな熱を感知し、可視化する。
敵は三人。

全員生身。
楽勝だ。
両手にP90を構え、ガイモンは角から姿を現した。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ばぁ!』

(+゚べ゚+)「ひっ!?」

二挺の弾倉を使い切るまで撃ち続け、三人の頭を瞬く間にミンチにする。
カメラを光学モードに変更し、男達の姿を確認する。
スーツを着ている男もいれば、シャツにジーンズとラフな格好をした男もいた。
だが、得物は拳銃で統一されている。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……探偵?』

何故、ここに警備員を配置しなかったのだろうか。
何故、装備を整えて配置されていないのか。
ただの捨て駒として考え、最低限の武装だけさせたのだろうか。
いや、有り得ない。

味方を犠牲にする戦法を取るような状況ではないはずだ。
彼らからすれば、船内のあらゆる箇所が要所。
一か所たりとも通過させてはならない状況なのだ。
考えられる可能性としては、要点を別の場所に定めて――

484名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:47:01 ID:WhlWnops0
『名も無き私は知っている。人類最後の日まで、銃が世界から消えない事を』

背後から聞こえたのは、ジョン・ドゥと比較される傑作機、ソルダットの解除コードだった。
棺桶同士の戦い。
興奮に、全身に鳥肌が立つのが分かった。
振り返ると、十三ヤードの位置に仁王立ちになる者がいた。

武骨な鎧は堅牢な装甲の証。
表面に負った浅い傷は経験値と技量の証明。
そして漂わせる雰囲気は、棺桶持ちの実力。

([∴-〓-]『海賊風情が乗っていい船じゃないんだよ、オアシズは』

歳を重ねた男の声。
これは期待が出来そうだった。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……楽しめそうだ』

対峙する男は鋼鉄の拳を打ち合わせて、言った。

([∴-〓-]『来なよ、若造』

駆け出したのは同時。
速度はほぼ互角の時速五十マイル。
銃弾よりも肉弾戦による戦闘が望ましい距離と速度だ。
P90を手放し、両の拳を握りしめ、ガイモンは右ストレートを相手の頭部に打ち込む。

485名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:51:36 ID:WhlWnops0
相手はそれを左手で払い飛ばし、頭突きを放つ。
狙われたのはこちらの顔。
ジェーン・ドゥの同型機は皆、他の場所と比べて顔面前部の装甲が弱い。
その弱点を潰しに来た一瞬の中、ガイモンは仰け反ることでそれをギリギリで回避した。

両者共に速度を生かした攻撃だったが、共に外れた。
残された結果としては、互いの胸部がぶつかり合っただけ。
鈍い音と強い衝撃。
一瞬だけカメラが乱れるが、問題はない。

距離はゼロ。
完全に密着した状態になり、ガイモンは戦術を一瞬で立てた。
引き剥がしてから、再び肉弾戦に持ち込む。
その戦術を、即行動に移す。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『せあっ!!』

バックステップと同時に前蹴りで距離を離し、五ヤードの位置に付く。
相手も同じようにして距離を開け、十五ヤードは離れた。
仕切り直すなら今だ。

([∴-〓-]『君の役割はここまでだ』

そう言うと、ソルダットは股間の前に取り付けられた鞘から大振りの高周波ナイフを右手で抜き放ち、空中で逆手に構えた。
高周波の小さく甲高い音が、ガイモンを興奮させる。
彼も左腰の鞘からナイフを抜いて右手で構え、切っ先を相手に向ける。
じりじりと距離を詰めつつ、手の中でナイフを弄ぶ。

486名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:56:40 ID:WhlWnops0
高周波ナイフを使えば、棺桶の装甲を切断することが出来る。
狙うなら関節部か急所。
先に仕掛けたのはガイモンだった。
突き殺すためにナイフを構えながらの突進。

リーチを考えても、相手にできるのは払い除けるか横にずれてからの反撃だけだ。
ならば、勝てる。
肉薄するこちらの様子を見ても、相手は静かに立ったままだ。
喉元目掛けてナイフを突き出し、必殺を狙う。

([∴-〓-]『甘い』

逆手に構えた状態から、ソルダットはそのナイフを腰の位置から低い位置に投擲してきた。
加速した状態と距離、そして構えから、それを回避したり弾き飛ばしたりするのはまず無理だった。
意識の全てがナイフの飛んでいく先に向けられた一瞬。
それが、ソルダットの狙いだった。

ナイフは回転しながらガイモンの右膝に突き刺さり、バランスを崩させた。
その一撃で精密さを要求される攻撃から集中力が削がれ、命中率は絶望的な物となった。
回避行動一つなく攻撃は鋼鉄の仮面を僅かに掠るだけに止まり、お礼に繰り出された巨大な握り拳が左胸を直撃する。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ぐおっ!?』

装甲越しに浴びせられた凄まじい衝撃は、銃弾の比ではない。
心臓が一瞬止まり、意識が飛ぶ。
前屈みになったところに合わせた肘蹴りが顔を襲う。
装甲越しの攻撃に、顔面の骨が砕けるのが分かった。

([∴-〓-]『せっかくもらったおもちゃも、使いこなせなければ意味ないのさ』

487名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 20:59:11 ID:WhlWnops0
後頭部を両手で掴まれ、男は肘蹴りを何度も顔に浴びせてくる。
装甲が変形して顔に食い込み、攻撃の度に激痛が走る。
肘蹴りの最中、頭を掴む手が徐々に時計回りに力を込めていることに気付けなかった。

([∴-〓-]『さよなら』

首が一回転する直前に聞いたその声は、恐ろしいほどに優しげだった。


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Ammo→Re!!のようです

Ammo for Reasoning!!編

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           ‥…━━ August 6th AM11:47 In the 3rd block ━━…‥
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488名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:01:26 ID:WhlWnops0
撃ち合いは第三ブロックの各階で起こっていた。
特に熾烈さを極めていたのは、一階だった。
待ち伏せしていた状況にも関わらず、僅か三分で死傷者五名。
逆に、仕留められたのは一人だけ。

短時間の間に住民を室内に避難させていたからよかったものの、オアシズ側の受けた被害は大きすぎた。
警備員の意識は高いが、戦闘経験が浅いのが問題だ。
撃ち合いになる前に棺桶を使うべきなのだが、彼らはどうしてか棺桶を使おうとしない。
そのせいで、棺桶持ちが銃弾に倒れるという情けない状態になっている。

あれは恐らく、自分自身の生存本能とは別の意志に従っているのだろう。
そうでなければ、ただの自殺志願者だ。
対等な武力での応戦という戦い方には、覚えがある。
正義の都として名を知らしめる、ジュスティアの軍人が最も好む戦法だ。

生まれついての馬鹿か、馬鹿な命令に従う馬鹿なのか。
どちらにしても、オアシズ側の受ける被害は大きなものとなるのは間違いない。

(=゚д゚)「あーあ、信じらんねぇラギ」

公園のベンチの下で冷めた餃子と炭酸の抜けたビールに舌鼓を打つトラギコ・マウンテンライトは、目の前で起こる殺し合いを見て嘆きの溜息を吐いた。
野球観戦よりもつまらないし、観劇よりも退屈だ。
どちらもトラギコには気付いていないのか無関心なのか、構ってくれない。
構われても面倒だが、何もないのは少しつまらない。

かと言って自ら進み出て参戦する気はない。
立ち上がった瞬間に両陣営から撃たれるか、流れ弾に殺されるのがオチだ。
脇に置いたアタッシュケースが既に三発も弾を防いでいるのがその証拠だ。
冷めてしまった餃子を一口で頬張り、甘味と塩気が口の中に広がってきた辺りでビールを飲む。

489名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:07:31 ID:WhlWnops0
食べ辛い上に飲み辛いが、それでも摂取する。
アルコールの魅力である酔いも全くないが、それでも胃に収める。
それというのも、空腹では戦うに戦えないし思考が上手く回らないからだ。
それにしても、この餃子は美味い。

結局あれから、五回も餃子を買うことになり、ビールは七回も買ってしまった。
領収書をもらうことが出来たので、後で費用として警察本部に請求できる。

(=゚д゚)「……ったく」

正直な所、トラギコはまだこの襲撃に対してあまり危機感を抱いていなかった。
海賊の質は下の上。
装備は上の上だ。
不釣り合いな装備が意味するのは、彼らが何者かの支援を受けていると云うことだ。

それは、フォレスタとオセアンで起こった事件に似ていた。
民間人がインテリアとして家に飾っておくには高級すぎる棺桶、銃器。
この事件も、それに限りなく近い何かが関係しているはずだ。
ならばこのような小事が目的のはずがない。

茶番だ。
別の目的があるに違いない。
それをどこかの段階で見極め、突き止め、叩き潰せば後手に回って悔しい思いをしないで済む。
今は時間が経過して相手の目的が浮き上がるまで、じっとしているのが得策だ。

ベンチの下で優雅なランチを満喫しているのは、部屋に閉じ込められて身動きが取れなくなるという事態を避けるため。
そして、宿泊している部屋がないためだ。

(=゚д゚)「お」

490名も無きAAのようです:2014/04/29(火) 21:11:11 ID:WhlWnops0
新たな餃子を箸で摘まみ上げた時、目の前で戦闘を繰り広げていた海賊たちの動きに変化が現れた。
遮蔽物として屋台に身を隠しながら銃撃していた海賊たちは、銃弾が飛んでくる方向に背中を向け始めたのである。
棺桶の使用前によく見られる動作だ。
注意、深く次の言葉を待つ。

背負っている棺桶のサイズはBクラス。
屋内戦で強力なそれだ。
問題となるのはその種類だ。
現存する棺桶は数百種類を優に超え、その性能は多種多様。

全方位にベアリング弾を発射できる危険極まりない物もあれば、荷物運搬に使われる支援型の物もある。
耳を澄ませてコードを聞き取ると、それは聞いたことのないコードだった。

『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

現れたのは純白の強化外骨格。
しかし、その型をトラギコは良く知っていた。
ジョン・ドゥだ。
塗装と解除コードを除けば、一般的なそれと同じ。

〔欒゚[::|::]゚〕『市長はどこだ!!』

やっと、海賊が目的の一部を口にした。
彼らは市長を探している。
目的は分からないが、とにかく、彼らは市長をどうにかしたいそうだ。

『今日は今までで一番長い一日になる!!』

警備員側から帰ってきた言葉は、トゥエンティー・フォーの起動コードだ。


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