したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

( ´_ゝ`)二人の旅路は波乱万丈のようです(´<_` )

1 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:34:43 ID:DZDhlMOE0
「兄者、行くぞ!」
 その言葉で、全てが始まった。





第一章  旅立ちの夜

2 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:37:24 ID:DZDhlMOE0
 世界の片隅の小さな村に、その塔は建っていた。
 出入口は無く、てっぺんの部分のみに唯一の部屋がある。その部屋の窓から垂らされるロープを登るしか、出入りが出来ない。そのような不便極まりない塔のがなぜ存在するのか。
 それは、軟禁、である。
 凝った内装のその部屋で、今日も青年は目を覚ます。

( つ_ゝ`)「んー・・・、よく寝たなあ」

 彼の名は、サスガ・アニジャ。囚われ人とは思えない呑気な台詞だが、彼にとってここでの生活は既に日常だった。故に、嘆きも絶望もない。

( ´_ゝ`)「弟者、今日も来てくれるかな」

 そう口にするのもいつもの事。今日のおやつは何にしようか、などと朝食も食べない内から考えるのも、いつもの事だった。

3 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:39:06 ID:DZDhlMOE0
 待ち人が来たのは、陽が傾く少し前くらいだった。
 兄者、と声が聞こえて、彼――アニジャは、ぱっと顔を綻ばせた。そして急いで窓辺に駆け寄って、常備してある頑丈なロープを外に向かって垂らす。事情を知らない者が見たら、そのロープで脱走できるじゃないかと言いそうだが、勿論、それが出来ない理由がアニジャにはある。
 外と中とを繋ぐロープがぎしぎしと軋む。その音が段々と近付いてきて

(´<_` )「兄者、元気か?」

 閉じ込められている青年と瓜二つの顔が、窓の向こう側に居た。
 何も驚く事はない。彼らは双子の兄弟なのだから。ただ、髪の色と瞳の色は異なり、アニジャは海のような青、もう一人は森のような緑色をしていた。
 緑色の青年――オトジャという――が部屋の中に入ると、アニジャは彼を歓迎した。

( ´_ゝ`)「俺は今日も元気だ!変わりない。お前も変わりはなさそうで何よりだ」

(´<_` )「・・・ああ」

 心なしか、オトジャの表情には翳りがある。それに気付かない振りをして、アニジャは弟を椅子に座らせた。

( ´_ゝ`)「おやつにしよう。今日は色々作ったんだ」

 そう言って、テーブルの上に素朴な見た目の、けれども甘く香ばしい香りを放つ菓子を次々に並べていく。甘すぎる物は好まないオトジャの為に、アニジャが腕によりをかけて作ったのだ。この部屋には生活に必要な全てが揃っており、新鮮な食材も毎日届けられるからこそ何でも作る事が出来た。
 表面がつやつやしたアップルパイ、香ばしい香りの胡桃のクッキー、ふわふわのパンケーキ、ずっしりとしたフルーツケーキ、どれも美味しそうだ。

4 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:40:26 ID:DZDhlMOE0
( ´_ゝ`)「コーヒーも用意したぞ。お前、好きだろう」

 凄いだろう、とアニジャは胸を張る。コーヒー豆はこんな山奥までは中々流通しない、貴重なものだ。

( ´_ゝ`)「村長に我儘を言ったんだ。今日くらいは許されるかなって――」

( <_ )「兄者!」

 突如、オトジャが大声を出した。アニジャは驚いて飛び上がる。

( ;´_ゝ`)「な、何だ弟者。急に大声をだすな!」

 驚くじゃないか。そう続けようとして、アニジャは言葉を呑み込んだ。オトジャの強い視線がアニジャを射抜く。その表情は深い悲しみと苦悩に歪んでいた。

( ;´_ゝ`)「お、と・・・」

( <_ )「どうして兄者はいつも通りなんだ?もう兄者に明日は来ないのに」
 絞り出すような声だった。

( <_ )「今夜、俺に殺されるのに」

 時が、止まる。
 その瞬間、アニジャの脳裏に、これまでの出来事が走馬灯のように蘇った。

5 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:41:57 ID:DZDhlMOE0
 ――十八年前、世界の片隅の小さな村マターリに、双子の男の子が誕生した。兄は青い髪、青い瞳。弟は緑の髪、緑の瞳。その他は全く同じだった。
 兄はアニジャ、弟はオトジャと名付けられ、両親と姉の愛情に包まれてすくすくと成長した。サスガ家の兄弟なので、村人からは『流石兄弟』と呼ばれていた。
 温かな家庭、穏やかな暮らし。しかし双子が五歳の時、村の占術師が放った一言が、その何の変哲もない普通の幸せを奪ってしまった。

6 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:43:28 ID:DZDhlMOE0
 ある日の午後、村長のモララーと占術師のミルナが連れたって、サスガ家の戸を叩いた。村長が我が家に来るなんて何事だろう、占術師が一緒にいるのは何故だろうと、あの時は疑問に思ったものだった。

( ゚д゚ )「これより十四年後、封印されし“破滅の神”が蘇る。それは即ち、世界の終わり。それを阻止するには、強い強い魔力を生まれながらに秘めた者・・・そう、お前の血が必要なのだ」

 そう言って、ミルナはアニジャを指差した。
 家族の誰も、呆けていた。指を差されたアニジャですら、まるで他人事のようにミルナの指先を見つめていた。そんなサスガ一家を見て、今度はモララーが語り出した。

( ・∀・)「ミルナの占術結果は、必ずその通りになる。ミルナと話し合って、アニジャが十八の誕生日を迎えたら、その首を斬り落とし、流れ出た血を壺に集めて、封印されている神殿に撒く事にした。魔力は血液に凝縮されているから、それが神を再び封印するという」

 その為には、成長と共に魔力を増幅させなければならない。だから

( ・∀・)「この子は私が預かり、魔術師としての英才教育を施してやろう。その暁に、この子は世界を救う者となる」

 モララーの言葉に、家族は我に返り、当然ながら猛反発をした。
 怒れる姿は魔人の如きと称される、母親のハハジャは勿論の事、普段はハハジャの尻に大人しく敷かれている父親のチチジャですら声を荒げた。その後ろで姉のアネジャと弟のオトジャがアニジャを両側から抱き締め、絶対に渡すものかと意思表示をしていた。その時、アニジャは家族に守られているというのに、嫌な予感に胸を押し潰されそうになっていた。
 そしてその予感は、すぐに的中する事になる。

7 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:45:04 ID:DZDhlMOE0
 @@@
@#_、_@
(;  ノ )「――っ!?」

 彡⌒ミ
(; _ゝ )「ぐっ・・・!!」

∬; _ゝ「んあっ・・・!!」

( <_ ;)「かはっ!!」

 突如、両親と姉、弟が喉を押さえて苦しみ始めた。一人平気なアニジャは、「え?え?」と家族、村長と占術師を交互に見遣る。よく見ると、占術師ミルナが両手で包み込むように持っている水晶玉が、赤く光っていた。

( ・∀・)「――アニジャ」

 モララーに名前を呼ばれ、アニジャはビクッと身体を震わせて、視線を水晶玉から外した。
 そんな彼に、モララーは一言。

( ・∀・)「来なさい」

 アニジャは涙を溢れさせ、モララーと占い師に縋りついた。

( ;_ゝ;)「いきます!いくから、みんなをたすけてください!!」

 必死で懇願する。すると後ろから、アニジャの腕を掴む者がいた。

8 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:46:32 ID:DZDhlMOE0
( <_ ;)「あ、あに、じゃ・・・いく、な・・・!」

 オトジャだった。彼は息も絶え絶えに、声を絞り出していた。アニジャは目から大粒の涙をぽろぽろと零して、弟を抱き締める。

( ;_ゝ;)「ああ、おとじゃ!おとじゃ!おとじゃ!!」

 その様子を見て、ミルナはほぅ・・・と感嘆した。

( ゚д゚ )「息の根が止まりかけているというのに、まだ口が聞けるとは。・・・ほぅ、ほぅ、これは面白い」

 彼は微かに笑いながら、水晶玉をひと撫でした。すると赤い光が消え、それと同時に四人が咳き込み大きく息を吸う。呼吸が戻り、辛うじて死なずに済んだらしい。
 それを眺めながら、モララーはオトジャにとって、そして他の家族にとっても、最も残酷な一言を言い放った。

( ・∀・)「オトジャ、お前にはアニジャの首を斬り落とす役目を与えよう」

(・<_・;)「なっ」

 オトジャが声を上げたが、ミルナが水晶をちらつかせると悔しそうに黙りこむ。そしてモララーは言葉を続けた。

( ・∀・)「お前にはあらゆる武器の扱い方を叩き込んでやろう。ついでに武術もな。身体を鍛え抜き、兄の首を一刀両断するといい」

 それが、素直にアニジャを差し出さなかった罰だ。そう言って、モララーは口の端を歪めて笑った。
 愕然とする四人を残し、モララーとミルナはアニジャを連れて行ってしまった。

9 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:47:56 ID:DZDhlMOE0
記念すべき初投下はここまで。
また明日、続きを投下します。

10 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 23:00:48 ID:y7jPsDDw0
ちょっと文章が直接的すぎる気がする

トリップは変えたほうがいいかも

11 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:21:52 ID:gBzeezhs0
>>10

了解、気をつけます。
あとトリップも変更しました。

12 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:26:55 ID:gBzeezhs0
 続きを投下。 




 それからアニジャは、村長の屋敷の一室で、様々な魔術師達に様々な事を叩き込まれる日々を送った。モララーは金と人脈を最大限に利用し、優れた魔術師をとっかえひっかえアニジャの講師に宛がった。
 魔力はめきめきと増幅していく。けれど屋敷から一歩も出ることのできない軟禁生活は、幼い子どもにとって孤独以外のなにものでもない。
 その支えとなったのは、アニジャ同様、あらゆる武道家や戦士に戦い方を叩き込まれる生活を送る事となったオトジャだった。彼は兄とは違い、自宅での生活を続けていた。そして一日に一回、兄に会いに行くのを許されていたのだ。今思えば、アニジャの精神が壊れてしまわない為の策だったのだろう。
 兄は魔法の、弟は武術の修行。そんな日々が八年ほど過ぎた頃、ある事件が起きた。
 それ以来、アニジャの軟禁場所は塔になった。
 それでもオトジャの来訪がない日はなく、今に至る。

13 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:29:47 ID:gBzeezhs0
 長い長い回想を数秒で終え、アニジャはふぅと息をついた。

( ´_ゝ`)「すまない」

 アニジャがぽつりと言った。

( ´_ゝ`)「俺が魔力を持っていたばかりに、お前には辛い思いをさせてしまうな。これまでも・・・そしてこれからも」

 オトジャは首を振った。ちがう、ちがうと呟きながら。

( <_ )「悪いのは占術師だ。あいつがあんな事を言わなければ、こんな事にはならなかった。それに村長も、兄者の命を何だと思っているのか。兄者の命がなければ滅ぶ世界など、破滅の神に滅ぼされてしまえばいい!!」

( ´_ゝ`)「ああ、弟者。弟者、そんな事を言うんじゃない。世界が滅んだら、大事な家族も死んでしまうんだ。そんなの、俺は嫌だよ」

 アニジャは弟をぎゅっと抱き締めた。

( ´_ゝ`)「・・・そりゃ、もう少し生きていたかったとは思うよ?でも、大事な家族の命を危険に晒す位なら、皆を守る為なら、俺は死んでも構わない」

 オトジャはぎり・・・と唇を噛み締めた。強く噛み過ぎて血が流れている。それを見て、アニジャは血を拭ってやると、己の両手を弟の両頬にふわりと添えた。

( ´_ゝ`)「勿論、家族の皆が俺に対して、同じように生きていてほしいと願ってくれている事は知ってる。・・・そこは心残りでもあるし、申し訳なく思ってる」

 オトジャの右手はアニジャの左手を掴んだ。ごつごつとした武骨な手は、白く繊細な手をいとも容易く握り潰せるだろう。双子ではあったが、全く違う育ち方をしたせいで、二人の外見は似てこそいたものの身体つきは正反対だった。

( ´_ゝ`)つ「弟者」

 掴まれていない方の手で、アニジャはオトジャの頭を撫でる。

( ´_ゝ`)つ「お前の両腕は、誰かを守る為にある。それを忘れるな」

 それを聞いたオトジャは、一気に頭に血を上らせた。

14 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:34:00 ID:gBzeezhs0
(°<_° )「違う!俺の両腕は、兄者の首を斬り落とす為のものなんだ!!」

 それはまるで、悲鳴だった。

( <_ )「嫌だ。どうしてこんな・・・」

 大の男が子どものように泣きじゃくる様は中々シュールだが、彼にはそうするだけの理由がある。だからこそアニジャも、弟をただ抱き締めてやる。

( ´_ゝ`)「弟者・・・落ち着け。なあ、頼むから・・・」

 泣きすぎて過呼吸を起こしかけているオトジャの背中を擦り、必死で宥めた。

( ´_ゝ`)「弟者、最期の頼みがあるんだ。だから落ち着いて、俺の話を聞いてくれ」

 頼み、という言葉に反応し、オトジャは顔を上げた。目は真っ赤、顔は涙でぐちゃぐちゃで、折角の整った顔立ちが勿体ない事になっている。アニジャはまず、オトジャの顔を拭いてやり、それからきっちりと畳まれた一枚の紙――手紙を渡した。

( ´_ゝ`)「これ、皆に宛てた手紙。渡しておいてくれ」

 オトジャは渡された物をしばし見つめ、そして静かに頷いた。
 外では、太陽がゆっくりと傾こうとしていた。

15 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:35:27 ID:gBzeezhs0
 母者、父者、姉者、弟者、妹者へ。
 
 
 弟者以外の皆に会えないまま逝くことを許して下さい。
 短い人生だったけれど、俺は幸せでした。
強くて頼りになる母者がいて、穏やかで優しい父者がいて、よく遊んでくれた姉者がいて、長い間支えてくれた弟者がいて、会った事はないけれど目の中に入れても痛くないと思える妹者がいて、俺は世界で一番の幸せ者だと、心から思っています。
 どうか、幸せに。安寧に。それを願っています。
 今までありがとう。

 アニジャ

16 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:38:51 ID:gBzeezhs0
短いけれど今日の投下はここまでにします。

17名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 18:10:55 ID:58YvBjTg0
支援
流石兄弟が好きだから覗いてみたら、俺好みの作品だった。

18名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:27:33 ID:XkoVuZ5U0
続き待ってるからな

19 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:10:24 ID:eihIy5p.0
私も流石兄弟が好きで小説投下を始めたから、支援嬉しい。ありがとう。
続きを待っていると言われて、浮かれながら本日分を投下します。

20 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:13:01 ID:eihIy5p.0
 深夜、小さな塔の根元では、ある儀式が行われようとしていた。
 どこから運ばれてきたのか、広く平らな石畳が一枚用意された。その上に横たわるのは、他でもないアニジャだった。
 腰から足首までは、薄い絹の一枚布でぐるりと覆われていたが、他に身に付けている物はは何一つなかった。禊を済ませた身体は月明かりに照らされ、まるで大理石の彫刻を思わせる。
 アニジャの目は閉じられていたが、眠っている訳ではない。周囲に人の気配を感じながら、特に恐怖を感じることもなく、その時を待っていた。
 横たわる彼を囲むのは、村長のモララーと占術師のミルナ、モララーの護衛兼使用人数名である。そして

( ´_ゝ`)(・・・来た)

 ざく、ざく、ざく。砂利混じりの土を踏む足音が聞こえる。それはゆっくりとアニジャに近付き、すぐ傍で止まった。
 もうすぐ、彼の人生は終わる。

( ´_ゝ`)(さようなら・・・)

 家族への思いを胸に、彼はその瞬間を待った。
 ・・・だが、次に聞こえてきたのは、何かが割れる音。ばきっ、どん、という音。苦痛に呻く誰かの声。

21 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:14:53 ID:eihIy5p.0
( ;´_ゝ`)(え?)

 瞬く間に打撃音が続き、呻き声が増えていく。だがアニジャは目を閉じたまま硬直していた。
 長い長い時間が流れたように感じた。実際はほんの一瞬だったのだが。
 辺りが静かになると、アニジャは急に腕を引かれて身体を起こされた。そこで、彼はようやく目を開いた。

( ;´_ゝ`)「・・・は?」

 思わず、間の抜けた声が漏れた。
 その場に立っているのは自分と、自分を起こしたオトジャの二人だけになっていた。他の者達は全員、口から泡を吹いたり、手足を有り得ない方向に曲げたり、或いは白目を剝いたりと、いずれも悲惨な有様で転がっている。
 そんな現状に目を白黒させるアニジャの手を、オトジャが掴む。

(´<_` )「兄者、行くぞ!!」

 そう叫ぶと、オトジャは兄の手を引いて走り出したのだった。

22 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:31:05 ID:eihIy5p.0
(´<_` )「はあ・・・ひとまずここまで来れば大丈夫か」

 村から飛び出して一時間。川を渡り、岩場を抜け、獣道を通り、小さな泉のほとりに辿り着いた所で、ようやくオトジャは足を止めた。息が少々上がっているが、途中からアニジャを抱きかかえていた事を考慮すれば、驚くべき体力といえよう。

(´<_` )「兄者、ここで少し休んだらまた移動するぞ。夜明けまでにシタラバまで行きたい」

 シタラバとは、マターリ村から一番近い町だ。一番近いと言っても、普通に歩けば半日はかかる。
 知識としてそれを知っているアニジャは、移動中は混乱して挟めなかった口を、ようやく開いた。

( ;´_ゝ`)「あのー・・・弟者?」

(´<_` )「何だ兄者」

(;´_ゝ`)「村長達、何で叩きのめしたの?」

(´<_` )「愚問だな。兄者を村から連れ出す為に決まっている。まあ積年の恨みもあるが」

(; _ゝ )「・・・こんな事をしたら、お前、ただじゃ済まないぞ」

(´<_` )「捕まらなければいいだけの話だ」

( ; _ゝ )「母者や父者、姉者に妹者はどうなる?」

(´<_` )「四人とも、今頃は村を離れて安全な場所にいる。心配ない」

(; _ゝ )「・・・俺が生贄にならなかったら、世界は」

(´<_` )「兄者」

 オトジャがアニジャの言葉を遮った。切れ長の目が、ひたとアニジャを見据えている。いつもとは様子の違うオトジャに、アニジャはどきりとする。

23 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:33:15 ID:eihIy5p.0
(´<_` )「兄者は、死にたかったのか?」

( _ゝ)「・・・・・・」

 アニジャは俯く。それは、何かに耐えているようでもあった。
 答えない兄に、オトジャは静かに問いを重ねた。

(´<_` )「なあ、俺に殺されたかったのか?」

( °_ゝ°)「――違う!!」

 アニジャは顔を上げ、オトジャの瞳を睨みつけるように見返した。

( °_ゝ°)「死にたくなかったさ!生きていたいとずっと思っていた!書物やお前の話でしか知ることのできない外の世界を見てみたいと、ずっとずっと思っていた!」

 感情を露わにして喋るアニジャを見て、オトジャはふっと笑った。

(´<_` )「それが聞けてよかった。兄者、よく聞け。兄者の手紙を読んで、俺達はこの脱走劇を考えたんだ」

 初めのうちは、あのミルナの水晶玉や他の村人の監視もあり、どうすることもできずただ日々が過ぎていくだけだった。だがオトジャが力をつけるにつれ、アニジャを逃がす為の作戦は少しずつ練られていった。ミルナの魔術をどう防ぐか、どこへ身を隠すか、移動手段はどうするか。だが肝心の、アニジャを連れ出す方法が思いつかなかった。
 しかしアニジャの手紙を読んで、己の死を受け入れた上で家族を案じている彼の思いを知って、家族は決意した。

(´<_` )「敢えて儀式の準備をして、事の寸前で不意を突くことにしたんだ」

 真っ先にミルナの水晶玉を破壊したら、後は簡単だった。元々素質があったのか、オトジャは非常に強い。戦いに慣れていない者も混じっていたので、全員を叩きのめすのは赤子の手を捻るより簡単だったという。

(´<_` )「上手くいくかどうかは、正直五分五分だったが、何とか逃げだせたんだ。だからもう、腹を括って自由になれ。多分、これからは追われる身になるだろうが、何とかやっていけるさ」

24 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:35:19 ID:eihIy5p.0
 オトジャの言葉が胸にすとんと落ちて、そこから熱がじわりと滲んでくるような気がした。
 裸足に食い込む小石と、土の感触。身に付けている物といえば、腰に巻いている布一枚のみなので、山の冷たい空気は剥き出しの肌を震わせる。それなのに、それらの感覚はアニジャに『生きている』ことを強く実感させた。

( _ゝ )「旅がしたい」

 アニジャがぽつりと言った。

( ´_ゝ`)「世界が見たい」

 青い瞳は、同じ高さにある緑の瞳を真っ直ぐに見ていた。

( ´_ゝ`)「破滅の神とやらが本当にいるのか知りたい」

 彼は言う。

( ´_ゝ`)「もしも世界が終わるというのなら、それを阻止する方法を見つけたい」

 オトジャは笑う。

(´<_` )「やろう、兄者。俺らなら出来る」

25 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:37:18 ID:eihIy5p.0
 だがとりあえず、シタラバまで行かないとな。そうオトジャは言った。
 アニジャは勿論の事、オトジャも儀礼用の薄い服を纏うのみなので、明るくなれば非常に目立つだろう。それに武器も、先立つものもない。

(´<_` )「シタラバまで行けば、知り合いの薬師がいる。そこを頼ろう」

 オトジャは自分が着ていた上着を脱ぎ、アニジャに着せた。

(´<_` )「これも薄いが、裸よりはマシだろう」

( ´_ゝ`)「でも、それじゃお前が・・・」

(´<_` )「俺は鍛えているから平気だ。さあ、行くぞ」

 そう言って、オトジャはくるりと背を向ける。その瞬間、逞しい背中に残る古い傷痕が――まるで滅多打ちにされたかのように凄まじいそれが、アニジャの目に飛び込んでくる。
 彼の息が詰まる。

( _ゝ)(・・・やっぱり、傷は残ったんだ)

 思わず傷に手を触れようとして、直前で引っ込める。オトジャはそれに気付かず、兄の手をとって再び山を下りはじめた。

26 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:39:00 ID:eihIy5p.0
今日はここまで。
次は七日の夜に投下予定です。

27名も無きAAのようです:2013/01/07(月) 19:58:12 ID:N640KVh60
七…今日か?

28 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:33:35 ID:Ykk9bmtw0
はい、今日です。
では投下します。

29 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:34:35 ID:Ykk9bmtw0
 二人は夜通し歩き続け、夜明け前にはシタラバに到着することができた。
 人通りのない道を、疲れた足を引きずるようにして歩く。オトジャが時折きょろきょろと辺りを見回し、目的の家を探す。




第二章  追っ手

30 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:35:40 ID:Ykk9bmtw0
(´<_` )「ここだ」

 オトジャは小さな家と店が合体したような建物を指す。彼はドアの前に立つと、こんこんと控えめにノックした。
 起きるにはまだ早すぎる時間帯だよなあとアニジャがぼんやりと考えていると、ドアが静かに開いた。アニジャがびっくりしていると、オトジャがその背を押して家の中に押し込み、自分もその後ろから中に入り、後ろ手でドアを閉めた。
 一瞬の静寂。

31 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:36:49 ID:Ykk9bmtw0
(,,゚Д゚)「・・・久し振りだな、オトジャ」

 一本だけ揺らめく蝋燭の明かり。それを持っているのは、双子よりも少々年嵩の青年だった。その隣には、妻らしき女性が寄り添っている。
 オトジャとこの二人は知り合いらしい。アニジャが二人にぺこりと頭を下げると、女性の方がにっこりと笑いかけてくれた。

(*゚ー゚)「貴方がアニジャさんね。オトジャ君から話は聞いていたわ。私はシィ、こっちは夫のギコよ」

 ギコは精悍な顔に笑みを浮かべた。

(,,゚Д゚)「薬師をしているギコ・ハニャーンだ。まあ立って話すのもなんだから、とりあえず椅子に座れ」

 二人は勧められた椅子に、倒れこむように座り込んだ。夜通し歩いてきたので無理もない。座った途端に、疲労がどっと押し寄せてくる。

(*゚ー゚)「その恰好じゃ寒いだろうから、この毛布を羽織るといいわ。貴方達の身体に合うような服がないから・・・明るくなったら買ってくるわね」

 シィは持ってきた毛布で二人を包むと、今度は台所に立ってこんがりと焼いたパンと温かなシチューを用意してくれた。美味しそうな匂いに、兄弟の腹が激しく自己主張を始める。

(,,゚Д゚)「さ、しっかり食べろ。食べながらでも話はできるからな」

 その言葉を合図に、二人は勢いよくパンにかぶりついたのだった。

32 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:39:36 ID:Ykk9bmtw0
 ギコとシィの夫婦はシタラバで薬屋を営んでおり、住居に隣接している店舗で、自ら摘んできた薬草やそれらを調合して出来た薬を販売し、生計を立てていた。
 そんな二人がオトジャと出会ったのは、マターリ村からそう遠くない場所で道に迷っている時だった。

(,,゚Д゚)「あの時は店を一日休んで薬草取りに行ったんだが、途中で道を間違えたらしくてな」

 途方にくれてうろうろしている時に、傷だらけの少年が通りかかった。それがオトジャだった。
 一人で鍛錬中だったオトジャは小さな傷を全身に負っていた。見かねた夫婦は彼に手当てを施し、彼はお礼に夫婦を村へと案内した。それ以来、親交があったという。
 話を聞いて、アニジャはああ・・・と思いだした。確かオトジャがたまに話題に出していた、気のいい薬師の夫婦。彼らだったのか。

(,,゚Д゚)「初めて会った時は無愛想だったのが、次第に色々話してくれるようになってな。それで・・・その、昨夜行われる筈だった儀式の事もちらっと聞いていたんだ」

 ギコの様子から、「ちらっと」どころか全ての事情を知っているのだろうとアニジャは察した。オトジャがそこまで心を開くのだから、この二人は信頼できる人達なのだろう。

33 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:40:43 ID:Ykk9bmtw0
( ´_ゝ`)「・・・もしかして、俺達がここに来る事を予感していました?」

(,,゚Д゚)「ああ」

 間髪入れずに答えたギコがにやっと笑う。

(,,゚Д゚)「何となく予感はしていたんだ。オトジャはお前さんを心の底から大事にしている。そんな相手を殺すなんて絶対に出来やしない。どうにかして逃げてくるんじゃないかってね」

(*゚ー゚)「あそこから一番近いのは、この村だものね。だからそうなったら、きっとここに立ち寄ると思ったの」

 シィは、私達を頼ってくれて本当に嬉しいと笑った。

(*゚ー゚)「多分、着の身着のままだろうと思って、旅に必要な物は少しずつ集めておいたの。十分とは言えないけれど、少しはましな旅ができると思うわ。服は今日中に何とかするから」

 アニジャとオトジャは、食事の手を同時に止めた。そして同時に深々と頭を下げて、同時に「ありがとうございます」と礼を言う。そのあまりにもそっくり同じ動作に、ギコとシィは声を上げて笑った。

34 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:42:28 ID:Ykk9bmtw0
今日の投下はここまでです。
次回投下は九日予定。

35名も無きAAのようです:2013/01/09(水) 21:50:32 ID:Si9gGuBU0
9日だよー待ってるよー!

36 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:38:39 ID:V4yhxFSw0
少し遅くなったけれど、本日の投下開始。

37 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:39:39 ID:V4yhxFSw0
 食事と話が終わると、二人は屋根裏部屋へと案内された。そこは狭いながらも掃除が行き届いていて、ベッドや小さな棚も置いてあった。隅の方には古着やガラクタが詰め込まれた木箱がいくつか、邪魔にならないように積んであった。オトジャは整えられたふかふかのベッドに目が吸い寄せられていたが、アニジャは何故かガラクタを興味深そうに見ている。
(*゚ー゚)「今日はここでゆっくり休んでね。ベッドは、貴方達二人にはちょっと窮屈かもしれないけど」
(´<_` )「いえ、十分です。本当にありがとうございます」
 一晩、殆ど休まずにシタラバまで移動した身にとっては、ベッドで眠れるだけでも有り難い。
( ´_ゝ`)「シィさん。よかったらこの古着や木箱、使ってもいいですか?」
(*゚ー゚)「・・・?ええ、どうせ使わないから、どうぞ」

38 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:41:13 ID:V4yhxFSw0
 シィは「おやすみなさい」と言って下に降りて行った。
 オトジャはさっさと布団に包まって眠りたかったが、アニジャがぼーっと木箱を見ているので、どうしたのかと声をかけた。

(´<_` )「兄者?」

( ´_ゝ`)「マターリからここまでの距離だったら、早ければ今日中には追手が来るかも」

 唐突に言われ、オトジャは戸惑いながらも「そうだろうな」と同意する。するとアニジャはくるりと振り返って、オトジャに言った。

( ´_ゝ`)「弟者、先に休め。俺はいつでもここを出られるように準備するから」

 むしろ休むべきはアニジャだと思っているオトジャは、目を数回瞬かせた後、僅かに首を傾げる。

(´<_` )「兄者、何をするんだ?」

 アニジャはそれに答えず、悪戯っ子のような笑みを浮かべてみせた。そして木箱を漁り、
古着を数枚取り出した。それから丸めて置いてあった古い地図を数枚に切り分け、その内の一枚に何やら図形のような物を書き込んでいく。それが書き上がると畳んで重ねた古着の上に置き、アニジャは口の中で聞き慣れない言葉を紡いだ。
 すると、ただの古着が眩しく発光した。驚いたオトジャが目を閉じると、次の瞬間には古着が大きめのチュニックとズボンになっていた。アニジャがそれをオトジャに宛がうと、それは彼に丁度良い大きさだった。

39 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:42:53 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「よし、ぴったり」

 アニジャは満足気だが、オトジャは驚きのあまり目が点になっている。

(´<_`;)「あ、兄者。これって魔法か?」

 そう聞いてきたオトジャに、アニジャは「んー」と考える。 

( ´_ゝ`)「まあ、魔法の一種とも言えるが、正しくは錬金術だ」

 れんきんじゅつ、とオトジャは復唱する。

( ´_ゝ`)「魔力を込めた魔法陣を材料に貼りつけるか、材料それぞれに同一の魔法陣を描いて、魔力を発動することによって、新たな物を作る事が出来るんだ」
 例えば、数本の材木でいかだを作る事ができる。小麦粉、水、塩、イーストでパンが出来る。壊れた物でもパーツが揃っていれば、元通りに直す事も出来る。
 生み出せるモノは無限大だが、材料と作りたいモノによって魔法陣は細かく変わり、魔力の消費量も異なる。そして、作った物には魔力などの特別な付加が出来ない。

( ´_ゝ`)「でも、こういう時は便利だろう。服も、とりあえず見栄えを整えることが出来れば問題ない」

 そう言って、アニジャは自分用にローブとズボンを作った。それから二人分の外套も。
 次に、アニジャは壊れた燭台を取り出した。

40 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:44:25 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「弟者、得意な武器は何?」

+(´<_` )「拳」

(;´_ゝ`)「・・・OK、ナックルにしよう」

 そうして燭台はオトジャの拳に合ったナックルへと姿を変える。アニジャも護身用に、木箱で棍棒を作った。

( ´_ゝ`)「ひとまず、これで次の町まで凌ぐしかないな。まあどうにかなるだろう」

 弟者、強いし。そうアニジャが言えば、オトジャは苦笑する。

(´<_` )「さて、俺は荷物の点検でもするかな」

 オトジャはギコとシィが用意してくれたのであろう荷袋を開けた。中には携帯食料や火打石、地図やその他細々とした物が丁寧に詰めてあった。その中には、銀貨と銅貨が数枚入った財布もある。決して大きな額ではないが、慎ましく暮らす二人が捻出するには節約が必要だったに違いない。
 オトジャはそれを荷袋の奥深くにしまい込み、出した物を再度丁寧に詰め直した。その中に、アニジャが錬金術で作った着替えを数枚追加した。
 その間、残りの古着や木箱で何やらごそごそとしていたアニジャだが、ひと段落したらしく大きな欠伸をした。

41 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:46:16 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「さー、やることやったし、寝ようか」

 オトジャも欠伸をしながらそれに同意した。そしてふと、ベッドを見る。それは先程とは何かが違った。

(´<_` )「・・・大きくなってる?」

(*´_ゝ`)「その通り!残りの古着と木箱を全力投球してみた。これなら二人で並んで寝てもそんなに狭苦しくないし、手足も十分伸ばせるぞ」

 アニジャは満足気にベッドに横になり――ハッと真顔になった。

(´<_` )「どうした?」

 表情の変化に戸惑いながら弟者が聞けば

( _ゝ )「枕・・・作るの忘れてた・・・」

 オトジャは盛大にずっこけた。そんな事で真顔になるなとも思う。だが口に出して言うには疲れ過ぎていた。

( _ゝ )「古着は使い切ったから、枕が作れない・・・」

 ベッドにうつ伏せになって、足をばたつかせる兄に、弟は溜め息を一つ。

42 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:47:28 ID:V4yhxFSw0
 オトジャもベッドに入り、アニジャの隣で横になると、自分の片腕をアニジャの方に伸ばした。その上に、アニジャの頭を乗せてやる。

(´<_` )「ほら、腕枕。固いが我慢してくれ」

 初めはきょとんとしていたアニジャの表情が、みるみる内に嬉しそうなものへと変わる。

(*´_ゝ`)「こうしてお前と一緒に寝るのも、久し振りだな!」

 アニシャのその。あまりにも嬉しそうな様子に、オトジャは胸が詰まる。
 そうだ。兄は長い間一人だったのだ。

(´<_` )「・・・これからは、ずっと一緒だ」

 静かに言ったオトジャの言葉に、アニジャは満面の笑みのまま頷いたのだった。

43 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:49:24 ID:V4yhxFSw0
今回はここまで。次回の投下は16日の予定です。

44 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:01:18 ID:pyo7vI6Q0
時間ができたので、一日早いけど投下します。

45 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:02:38 ID:pyo7vI6Q0
(´<_` )「なあ、そういえばさ」

(‐_ゝ- )「うん?」

 既にうつらうつらと船を漕いでいるアニジャが寝てしまわない内に、オトジャはふと浮かんだ疑問を言ってみることにした。

(´<_` )「今までは、俺が頼んでもどんな事を習っているかとか、魔法については一切教えてくれなかったよな」

(‐_ゝ- )「・・・ああ」

(´<_` )「なのにさっきは、錬金術について解りやすく教えてくれたよな。何でだ?」

 アニジャは眠たげな目をオトジャに向けた。

(‐_ゝ- )「・・・これからは、お前も基本的な知識について知っておいても損はないからな。むしろ手探りの状態で村を飛び出したからこそ、情報を集めたり知識を蓄える必要がある。例え魔法を使えなくても」

(´<_` )「じゃあ、これから毎日、少しずつでいいからアニジャの知識を分けてくれ。俺も一生懸命覚えるから」

 アニジャは答える代わりに微笑んで、すっと目を閉じた。やがて聞こえてくるのは安らかな寝息。
 オトジャはしばらく、アニジャをじっと見つめていた。
 長い間閉じ込められていたせいで、殆ど日に焼けたことのない肌は白かった。時折、顔色が青ざめて見えるくらいに。また、死を前提として魔術を学んでいたので身体を鍛える事がなく、その体躯は華奢ですらあった。何と脆く見える事か。
 守ろう、と思った。
 この両腕はきっと、その為に存在しているのだ。

46 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:03:37 ID:pyo7vI6Q0
 アニジャがふと目を覚ますと、幼子のように無心に眠るオトジャの顔が傍にあった。まだ自分の家で暮らしていた頃を思い出し、思わず笑みが零れる。
 弟の寝顔を見ていると、眠る前に彼が聞いてきた質問が脳裏に蘇る。

( ´_ゝ`)(今までは・・・か)

 双子の弟、オトジャ。双子だからこそ、彼がもし万が一、自分と同じような魔力を生まれつき秘めていたら、もしそれにミルナ達が気付いていないだけだったら。自分程じゃないにしても魔力を秘めていたら。もし自分に何かあって、生贄になる歳まで生きられなかったら。
 可能性をいくつも考えた。その上で、オトジャが自分の代わりになる事がないように、魔法については一切教えなかった。自分も無事に成長できるように健康に気を付けた。
 結果、自分はここにいる。家族のお陰で死なずに済んだ。自分が生きている事が不思議ですらあった。
 アニジャはオトジャの寝顔を見続ける。長い間鍛え抜いて逞しく成長した弟はしかし、繊細で柔らかな心を持っている。
 守ろう、と思った。
 この身に宿る魔力は、きっとその為に授かったのだ。

47 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:04:24 ID:pyo7vI6Q0
 二人が起きて身支度を整えたのは、夕方になる頃だった。
 追手の事を考慮すれば寝過ぎた感はあるが、二人の疲れはとれ、頭もすっきりしていた。幸い、その追手もまだ来ていないようで、二人はほっとしつつ階下へと降りる。
 下では、少し早目の夕食の準備ができていた。鳥肉のクリーム煮とサラダ、そして香草茶。どれもよい匂い、香りがする。それらはアニジャとオトジャの鼻を心地よくくすぐり、食欲をわかせてくれる。

(*゚ー゚)「丁度良かったわ。今起こしに行こうと思っていた所よ。どうぞ、召し上がって」

(´<_` )「ギコさんは?」

(*゚ー゚)「今、薬草を届けにいっているの。もうすぐ戻ってくると思うから、貴方達は先にどうぞ。私はギコと一緒に食べるから」

 たくさん作ったから遠慮なく食べてね、とシィは笑う。その笑顔が、アニジャの古い記憶の中にある、姉のアネジャと重なった。おっとりとした雰囲気のシィとは違い、アネジャは快活な人だった。けれど双子の弟達である自分達への面倒見がよく、可愛がってくれる心の優しい人だった。
 今は、どのように成長しているのか。

( ´_ゝ`)(――生きていれば、きっと会える)

 生きる為には、まず腹ごしらえだ。二人はシィに礼を言って席に着いた。
 その時だった。

48 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:05:06 ID:pyo7vI6Q0
(*゚∀゚)「サッスガ、アニジャー!!オットジャー!!出ッテコーイ!!」

 弾かれたようにアニジャとオトジャが椅子から立ち上がる。今、町中に響き渡るのではないかという大声で叫ばれたのは、確かに彼らの名前だった。シィの表情も強張っている。

( ´_ゝ`)「シィさん、折角用意して下さった夕食、無駄にしてしまってすみません」

 アニジャがシィにそう言いながら、二人分の荷物を手にする。オトジャは窓から外の様子を窺う。だがすぐに「出るぞ」と声をかける。すぐ近くにはいないらしい。
 アニジャはオトジャの分の荷物を彼に放り、シィに素早くお辞儀をする。オトジャもそれに習い、すぐさま二人は外へと飛び出した。

(;*゚ー゚)「気を付けて!無事でいてね!!」

 シィは叫んだが、果たして二人に届いただろうか。

49 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:06:36 ID:pyo7vI6Q0
 アニジャとオトジャは全速力で町の中を駆け抜けていた。通りすがりの人が何事かとこちらを見るが、いちいち気にしてはいられない。
 次の行き先は決めていなかったものの、現在の最優先事項は逃げること。とにかく町を出ようと二人は走った。
 だが、相手もそう簡単には逃がしてくれない。

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、見ーッケ!!」

 聞いていて頭が痛くなるような、甲高い女性の声がすぐ後ろに追いついていた。はっと後ろを振り向いた二人は、全身が赤い毛並みで覆われた女性と対峙する事となった。
 途端、ぶわっと殺気が広がる。オトジャは咄嗟にアニジャの前に立ち、殺気の元から放たれたナイフ二本を叩き落とす。庇われたアニジャは長身を少し屈め、オトジャの広い背中からそっと顔を出して相手の様子を窺った。

(*゚∀゚)「アヒャ!オ前ラ双子ナンダッテナ。イイ男が二人モ相手ダナンテ、クゥッ!美味シイネェ!」

(´<_` )「黙れ」

 底冷えのするような冷たい声が、オトジャの口から発せられる。初めて聞く声音に、思わずアニジャは上を見た。その表情は声と同様、今までに見た事もないものだった。
 兄の視線に気付いたオトジャは少し表情を緩め、「動くなよ」と囁いた。
 その向こうに一瞬で迫った、赤。

50 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:07:45 ID:pyo7vI6Q0
(;´_ゝ`)「――!!」

 アニジャが目を見開き、オトジャが危ないと呪文を唱えようとした時

 赤い女は宙を舞っていた。

 驚愕するアニジャ。
 どさりと落ちる赤い身体。
 
 近くに居た人達は、何事かと集まってきている。

(;´_ゝ`)「お、おま・・・今・・・」

(´<_` )「殴った」

Σ(;´_ゝ`)

 一撃で、あれだけ人の身体が飛ぶ事にアニジャは驚愕する。

(;´_ゝ`)「・・・一応女性なのに、容赦ないな・・・」

(´<_` )「命を狙ってくる奴にかける情けなんてあるのか?」

(;´_ゝ`)「いや、ないけどさ」

 とにかく、今の内に逃げようと二人は踵を返した。しかし

(* ∀ )「ユ、ユ・・・ユルサ、ナイ!コロ・・・コ、コロス!」

 物騒な物言いに、集まっていた町人達が蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。寧ろ、そちらの方が余計な怪我人を出さなくていい、とアニジャはほっとする。そのアニジャをオトジャが再び背に庇い、拳を構えた。
 女はよろよろと立ちあがる。
 その、後ろ。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板