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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
1
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品
521
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:55:58 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
('A`;)「ブーン、天井はダメだ――!!!」
ゴーレムの腕をかいくぐりながら空へ、空へと飛んでいたブーンは、聞こえた声に動きを止めた。
浮かび上がった体はそのままに天井へ、その向こうの空へと向けてそっと手を伸ばす。
( ^ω^)∩「……」
伸ばした手が、何かに触れる。
硬い感触はまるで、壁にでも触れたかのようだった。
空への道を遮るものは何も見えない。しかし、ブーンの手は確かに何かに触れている。
(;^ω^)「オトジャ、ダメだお!!」
(´<_` )「……!」
ブーンには一体どうなっているのか、わからない。
しかし、空中にあるこの“何か”をどうにかしないと、脱出することが出来ないということだけは理解できた。
.
522
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:57:08 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「扉も、天井も無理ときたか……」
/◎ ) =| )
呟きながら、弟者は曲刀を振るう。
ブーンのダメだという言葉に失望しなかったかといえば、嘘になる。
しかし、今は思い悩んでいる場合ではないと、弟者は考えを切り替える。
(´<_` )「……」
扉と天井。目に付く二つの出口は、使えそうにない。
これだけでも厄介なのに、目の前には弟者やブーンを狙って動くゴーレムの姿がある。
――どうすればいい? 弟者が逡巡したのはほんのわずかな間だけ。
(´<_` )「ブーン、お前は兄者を」
(;^ω^)「オトジャ! どうする気だお!」
次の瞬間には弟者は刀を翻し、再びゴーレムへと挑みかかっていた。
狙うは巨体を支える足元、複雑な機構が絡みあう無限軌道だ。
.
523
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 20:59:12 ID:OeiHTfo.0
弟者が腕を振るうたびに、手に握られた曲刀から火花が散る。
戦況は一見、弟者の優勢。
ゴーレムが振るう腕は弟者の手によって避けられ、あるいは刀によって受け流される。
その一方で、弟者の振るう刀はすべてゴーレムに打撃をあたえていく。
――が、結局のところそれまでだ。
(´<_` )「――っ!」
弟者の攻撃は先程までと同様に、有効な一撃を与えることができない。
そして、今はまだ涼しい顔をしているが、弟者の体には限界がある。
攻撃を避け続ければ体力は失われていくし、一撃を放つたびに手にかかる反動も大きい。
だから、長い目で見れば追い込まれているのは弟者の方だった。
(´<_` )「……」
現に、弟者の体はじりじりと壁へと向けて後退している。
(;^ω^)「オトジャっ!」
(´<_` )「余計な手出しはするな」
.
524
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:01:33 ID:OeiHTfo.0
横薙ぎに振るわれた岩の腕を、弟者は後ろへと飛ぶことで回避する。
巨人の体が、足にあたる無限軌道がギチリと音を立て、弟者を壁へと追い詰めていく。
(´<_` )「……」
弟者の背が、壁へと触れる。
これ以上後退することは、もう出来ない。
そして、そんな弟者の退路をさらに断つようにして、ゴーレムが腕を振り上げ弟者の正面に迫り来る。
/◎ ) =| )//
背後は壁。正面にはゴーレムの姿。
挟まれてしまったこの状態では、左右へと逃れることも難しい。
そして、空気を噴き上げる音と共に巨大な腕が、弟者に向かって振り下ろされる。
( <_ )「……」
唸りを立てて落ちてくる、岩の腕。
風を起こしながら迫り来るその一撃は、地面をえぐるほどに重い。
当たればきっと、ただではすまない。
振り下ろされる腕をギリギリまで視認してから、――弟者は駆け出した。
.
525
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:03:23 ID:OeiHTfo.0
(´<_`#)「お前は――」
目指すのは右でも、左でもない。
目指すはひたすら真っすぐ、ゴーレムへと向けて。
/◎ ) =| )// g
ゴーレムは振り下ろす腕を止めることが出来ない。
重さで勢いのついた腕は、標的のいなくなった壁へと向けて放たれる。
それを確認することもないまま、弟者はまっすぐに走り、そのまま巨人の足――無限軌道へと駆け上がる。
(´<_`#)「――壁でも攻撃していろ!!」
身のこなしは、しなやかな猫の如く。
体重などないように弟者の足は軽々と巨体を登り超えて、あっという間にその背後へと降り立つ。
それと同時に、
聴覚を根こそぎ奪い去るような、轟音と震動が響いて、
巨人の腕は弟者ではなく壁へと叩きつけられていた。
.
526
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:05:26 ID:OeiHTfo.0
((( ;゚ω゚)))「あばばばば」
(´<_` )「――どうだ?」
弟者は背後を振り返る。
ゴーレムに有効打を加えられたかどうかはわからない。
しかし、先ほどの攻撃で壁が崩れでもしてくれれば、万々歳だ。
/◎ ) =| )
しかし、振り返ったその先。
そこに見えるのは、傷一つないゴーレムと壁の姿だった。
先ほどの轟音や衝撃などなかったかのように、壁もゴーレムも先ほどと変わらない姿をしている。
( <_ ;)「――っ、これでも無理か」
(;^ω^)「おかしいお、なんかヘンだお!」
ブーンの言葉に声を返す余裕は、弟者にはなかった。
逃した獲物を今度こそ倒そうと、ゴーレムの上半身が回転をはじめる。
壁と腕が擦れあい大きな火花と、耳をつく高い異音があたりに響く。
(´<_`#)「バケモノめ」
.
527
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:07:08 ID:OeiHTfo.0
足に力を込め弟者は、ゴーレムを睨みつける。
相手から遠く距離をとるか、懐に飛び込んでやり過ごすか。
半端な距離では攻撃を食らうし、近づき過ぎるとその巨体に踏み潰される可能性がある。
(´<_` )「……」
ためらいの末に弟者が選んだのは、前者だった。
ゴーレムから距離をとるように地を蹴り、走る。それで、威力はあるが大振りな攻撃は回避できる。
はずだった。
ここまで来ればいいだろうと、弟者が足を止めかけた時、ブーンの声が響いた。
(#^ω^)「危ないお!」
(゚<_゚ ; )「――っ!」
火花をまき散らしながら振るわれるゴーレムの腕が、一際大きな音を立てる。
空気の固まりを噴き上げるようなその音とともに、岩で作られたゴーレムの腕が――伸びた。
はじめから伸縮が可能なつくりになっていたのか、それとも状況に応じて形を作り替えたのか。
――どちらにしても、まともな生物ではない。
.
528
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:09:20 ID:OeiHTfo.0
今更、後退は出来ない。
今できることは足を前へと進めることだけだ。
/◎ ) =| ) gi
大地を踏み足を速めるが、弟者にはわかっていた。
このままでは――あと、一歩足りない。
(´<_`#)「……糞っ」
避けきれない。
飛び上がって回避をするか? 果たして、自分にそれが可能なのか。
――それでもやるしかない。
弟者は、視線をゴーレムの腕へと向ける。勝負は一瞬、それで全てが決まる。
(#^ω^)「オトジャー!!」
決意を固めた弟者の背に、強い力がかかる。
背筋がぞわりと粟立ち、足は地面の感触を失う。
.
529
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:11:29 ID:OeiHTfo.0
( <_ ).。oO(やられたか)
岩の巨人のたてる音でおかしくなりかけた耳が、妙な音を拾う。
これは一体と、弟者は思って――、そして気づいた。
覚えのあるこの感覚は、魔力だ。
そして、この場でこんなことができるのは……
(#^ω^)《全力で飛ぶお!!》
(´<_` )「――ブーン」
魔力を帯びた強烈な風が、弟者の背を押し体を宙へと舞い上げていく。
巨体の腕の高さを超え、弟者が半身を起こそうとしたところで、上へと持ち上げられる力は徐々に弱くなっていく。
(´<_`;)「すまない」
( ^ω^)「こういう時ニンゲンは、『困ったときはお互い様』って言うんだお?
ブーンは知ってるお!」
(´<_` )「……」
こんな時に、こいつは何て呑気なことを言い出すのか――弟者の脳裏をよぎったのはそんな言葉。
しかし、弟者は不思議と悪い気持ちではなかった。
.
530
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:13:54 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「――そうか」
(*^ω^)「そうだお!」
ああ、こいつは精霊の癖にとんでもない阿呆なのか――と、宙を飛びながら、弟者はようやく理解した。
話しかけるなと言っても、笑顔で話しかけてくるしつこい精霊。
すぐに兄者の言葉に騙されるくせに、本質だけはしっかり見ぬくその目。
人の言葉は聞かないし、すぐ騙されるし、感情もわからないし、何より人間ではない。だけど――、
どれだけ冷たくしても暴言を吐いても心配してついてくるこいつのことが。
俺は、結局嫌いにはなりきれなかったらしい。
……本当に、悔しいことにだが。
精霊だとしても……こいつのことだけは、信じていいのかもしれない。
(´<_` )「……すまなかった、いろいろと」
(*^ω^)「大丈夫だお!」
万感の思いを込めてつぶやかれた弟者の言葉は、ブーンには届かなかった。
しかし、それでいいと、弟者は手にした刀を強く握る。
(´<_` )「まだいけるか」
( `ω´)「まだまだいけるお、オトジャ!」
.
531
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:15:17 ID:OeiHTfo.0
弟者を捉え損なったゴーレムの腕は、そのまま振り切られ、再び壁へと激突していた。
相も変わらず、白い一枚岩の壁の方には何の変化も見られない。
しかし、ゴーレムの側にはかすかに変化があった。
三度に渡る衝撃のためか、腕が鈍い音を上げ黒く変色している。
,
(´<_` )「壁からの脱出は諦める。ここからはあのデカブツ狙いだ」
……ブーン、援護を頼めるか?」
(*^ω^)「まかせるお!」
ブーンの巻き起こした風が消えると同時に、弟者は着地の体勢を整える。
ブーンが上手く支えているのか、大した負荷もないままに弟者は地へと降り立つ。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
そして、弟者は再び曲刀を構える。
目指すは目の前で音を立てる、岩でできたバケモノ。
(#^ω^)《風よ、オトジャを守れお!》
――全身に魔力を感じながら、弟者は一直線に駆け出した。
.
532
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:17:47 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(;゚A゚)「――っ!!!」
轟く轟音に、ドクオの意識は引き戻された。
音のした方を見れば今まさに、岩の巨人の腕が壁へと向けて放たれたところ。
それが止んだかと思えば、再び耳障りな音を上げながら巨人の腕が地へと突き刺さるところだった。
(;゚A゚)「ブーン! 弟者っ!」
(;´_ゝ`)「――弟者は大丈夫だ」
(#'A`)「なんで、言い切れるんだよ! 弟者はニンゲンなんだぞ、心配じゃないのか!?」
兄者の声が、一瞬止まる。
ゴーレムの腕が振り下ろされた先は、土煙が上がり視界がきかない。
ブーンと弟者がどうなったのか、ここからでははっきりとしない。
( ´_ゝ`)「弟者のことならわかる。それよりも、ブーンだ」
('A`)「……」
.
533
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:20:10 ID:OeiHTfo.0
土煙が消え、視界がきくようになる。
ゴーレムの腕が振り回された箇所には、倒れているものは誰もいない。
代わりに――
(;´_ゝ`)「弟者。ブーンも一緒か……」
(;'A`)「驚かせやがって」
ブーンの魔法か。宙に浮かぶ弟者と傍らを飛ぶブーンの姿に、兄者とドクオは安堵の息をつく。
二人はとりあえずは、窮地を脱したらしい。
しかし、この状況をどうにかしない限り、いつかは弟者やブーンに危害が及ぶ。
(∩;-_ゝ-)∩「……どうする。どうすればいい」
兄者は頭を抱え、呟き続ける。
自分は兄だ。弟者が戦っているのならば、自分も最善を尽くさねばならない。
考えろ。何でもいいからこの状況を打破するために行動しろ。
(#´_ゝ`)「――ゴーレム止まれっ! 召喚者は俺だ!!」
(;゚A゚)て「おま!!」
.
534
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:21:07 ID:OeiHTfo.0
(; ´_ゝ`)「ドクオはちょっと黙っていてくれ」
衝動的に漏らしたドクオの言葉に、兄者は焦ったような声で答える。
何が黙っていてくれなのか。それに、ついさっきの正気とは思えない言葉はなんだったのだ。
――ドクオはそう問いかけようとするが、それよりも早く兄者はゴーレムへと向けて声を振り上げていた。
( ´_ゝ`)「召喚者が命じる。動きを止めろ!」
(´<_`#)「兄者、何をしている!」
(;^ω^)「お、オトジャ、よそ見しちゃ危ないお!!」
兄者の声は、弟者やブーンの元へも届いたらしい。
振り向いて声を上げた弟者を、ブーンが飛び回りながら慌てて止めている。
ゴーレムは弟者とブーンのすぐ傍らで、耳障りな音を上げながら上半身を動かしていた。
(;'A`)「お前……今のは……」
( ´_ゝ`)「黙れと言っただろうに。集中が切れる」
ドクオの問いかけに、兄者は視線をゴーレムへと向けたまま言葉を返す。
その表情は真剣で、本人は別にふざけているわけではない様だった。
.
535
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:23:17 ID:OeiHTfo.0
( _ゝ )「暗示ってのは結局のところ言葉だ。
言葉に力さえこもっていれば、魔力なんて無くとも効果はある」
(;'A`)「……しかし、ゴーレムはだなぁ」
( ´_ゝ`)「やってみなければわからん」
兄者は力を込めて、巨人を睨みつける。
息を吸い、険しい表情で再度、ゴーレムへと向けて言葉を投げかける。
(#´_ゝ`)「――止まれっ!!!」
/◎ ) =| )
岩の巨人の上半身が動き、兄者を見据える。
しばしの沈黙。それとともに、ゴーレムの動きが止まり、
(*´_ゝ`)「……よしっ」
――甲高い音とともに蒸気を噴き上げると、上半身と腕が同時に回転を始めた。
(;゚A゚)「だから、無理だって言っただろーっ!!!」
.
536
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:25:29 ID:OeiHTfo.0
⊂二(; ゚ω゚)二⊃「あば、あばばばばば」
(´<_`#)「馬鹿、余計なことはするな!」
ドクオの声と合わせるように、遠くからブーンと弟者の声が上がる。
ブーンは飛び上がり、弟者は大きく下がりゴーレムの攻撃から辛うじて逃れている。
攻撃を受けた形跡はないことに、兄者はほっと息をつく。が、
ベチン (;゚A゚)ノシ);´_ゝ`)アダッ
(#゚A゚)「この状況下で、何をアホなことやってるんだ!」
(;´_ゝ`)「いや、俺は本気だったぞ。説得や暗示は試してなかったからいけるかと思ってだな。ムリ ダッタ ケド」
ドクオは兄者のその言葉に、紫の顔を赤に染めた。
そのまま兄者の顔のすぐ傍らを飛ぶと、薄水色の耳を引っ張りながら怒鳴りつけた。
(゚A゚)「ゴーレムに魂なんざないんだよ!
できるなら、俺だってとっくにやっとるわゴルァ!!」
(; ゚_ゝ゚)「なんとぉ――!!!」
.
537
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:27:35 ID:OeiHTfo.0
(#'A`)「あいつらの弱点は核だ! 核さえ壊せば止まる!!」
( ´_ゝ`)「……弱点」
ドクオは勢いに任せて怒鳴り付ける。しかし、その声に兄者の動きがぴたりと止まった。
一瞬の沈黙。しかし、すぐに兄者は細い目を見開くと、ドクオの体を思いっきり掴んだ。
(♯゚_ゝ゚)「なぜそれを、もっと早く言わない!!」
('A`)「え? そんなの知ってるだろ、普通?」
ギリギリ(♯ _ゝ )つ(゚A゚;)て
(;゚A゚)「ごめん。ごめんなさいぃぃ!!!」
(;´_ゝ`) ハッ
謝罪の声に、兄者はドクオの体を締め付けていた手の力をあわてて抜く。
すまなかったと謝る兄者には、つい先ほどの怒りの表情は消えている。
まだ体を掴まれてはいるものの、とりあえずは開放されたことにドクオはほっと息をついた。
(;'A`).。oO(やべぇ。一瞬、兄者が弟に見えた)
.
538
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:29:57 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「アイツの核はどこにあるのだ?」
(;'A`)「そんなもの知るか!」
…ギリ(♯ _ゝ )つ(゚A゚;)て
ドクオが考え事をしている間に、再び兄者から質問の声が飛ぶ。
それにドクオは適当に返し、兄者によって再び握りつぶされそうになった。
――が、途中から兄者も我に返ったらしく、すぐに手から力がひく。
(;'A`)「助かった……おい、兄者っ!」
ドクオは緩んだ兄者の手を何とかこじ開けると、慌てて脱出する。
兄者はすぐに力を緩めたので、飛ぶことには支障はない。
羽を動かして飛び上がると、文句を言おうとドクオは浮かび上がり、息を呑んだ。
( _ゝ )「……俺らしくない」
('A`)「兄者?」
( _ゝ )「これは俺のやり方じゃない。俺は、弟者とは違うんだから」
そう自分に言い聞かせるように呟き、兄者はしばしの沈黙の後にようやく顔を上げる。
そこにいるのはもう、脳天気が服を着て歩いているようないつもの兄者の顔だった。
.
539
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:31:24 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「悩むの終了。弟者は戦ってるんだから、俺もできることをする」
(;'A`)「……そ、そうか。で、何をするんだ?」
ドクオの言葉に、兄者は瞳を閉じる。
つい先程、扉に手を触れていたのと同様の沈黙。
じっと目を閉じた兄者は、沈黙の末にふと目を開く。
星を見るときのように、兄者の瞳が動く。
視線を彷徨わせる兄者の表情は薄く、感情に乏しい。
が、操られていた時とは違い、その瞳にははっきりと意志の光があった。
( ´_ゝ`)「……頭」
('A`)「今、何て?」
(#´_ゝ`)「頭だ! 頭の装甲を狙え、その下にあいつの核がある!!」
兄者の怒号が響く。
普段よりも低く鋭い声は、はっきりと弟者に届いた。
(´<_` )「把握した!」
そして、――返ってきた声は、兄者とそっくり同じだった。
.
540
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:33:12 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「こっちも行くぞ、ドクオ」
('A`)「行くって……おいっ!」
弟者が言葉を返すやいなや、兄者が駆け出す。
目指す先は部屋の中央――。
大市の市場ほどの広さのある、最奥の間。
一番奥にそびえるのは魔法陣の浮かび上がった壁。部屋の中央には白い石造りの祭壇。
祭壇から一番近い右手の壁には岩の巨人と弟者。そして、ブーンの姿。
草のそよぐ地面。崩れた天井からは青い空が覗いている。
(;'A`)「やめろって。そっちにはデカブツが」
( ´_ゝ`)「もし何かあったら、俺は無視して祭壇を壊せ。
……それでどうにかなるはずだ」
兄者の細い目は祭壇を探るように見つめている。
その薄水色の毛並み逆立っているのを見て取って、ドクオはごくりと息を呑んだ。
(;'A`)「これから一体、何をするつもりなんだ」
( ´_ゝ`)b「決まっているだろう。
――結界を崩す。そうすりゃこんな所おさらばだ」
.
541
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:35:10 ID:OeiHTfo.0
じゃりという土を踏む音が周囲に響く。
扉から祭壇へと向けて、岩の巨人からなるべく距離を取りながら兄者は走っていく。
注目を浴びないようにするためか、それとも弟者に殴りつけられた腹がまだ痛むのか、それとも単に体力がないのか。
走っているにもかかわらず、兄者の動きは遅かった。
それでも、兄者はどうにか祭壇の正面へとたどり着く。
( ´_ゝ`)「ドクオ。俺が言った言葉を覚えているか」
('A`)「何かあったらってやつか?」
(*´_ゝ`)ノ「じゃあ、お前さんはしばらく待機頼んだ」
(;'A`)「ちょ」
兄者が、腰に下げたナイフを抜く。
ドクオが覚えている限り兄者は、これまで武器を手にしたことがない。
息を呑むドクオの横で、兄者は瞳を閉じ小さく息を吸うと、「よしっ」と、声を上げた。
その足が、一歩前へと進む。
それと同時にドクオの頭に響く、音。
___―===―_― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― ___
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=
.
542
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:37:42 ID:OeiHTfo.0
頭を揺さぶるそれは、いつだか聞いた音だった。
兄者の様子がおかしくなった元凶。
弟者が血相を変え、ゴーレムなんてものが出て来る羽目になった全ての原因。
人を惑わす、異質な音。
(; _ゝ )「 !」
(;゚A゚)「おい兄者っ!!!」
兄者の足は止まらない。
早くもない足を必死で進ませて、一直線に祭壇へと向かう。
(#´_ゝ`)「 」
兄者の瞳には、意志の光。
利き足が大きく踏み込まれ、片足が大きく後ろへと流れる。
そのまま勢いがつけられ、兄者のニンゲンにしては長い足が前へと振り抜かれる。
放たれた兄者の足が向かうのは、祭壇の周囲に飾られた壺の一つ。
.
543
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:39:25 ID:OeiHTfo.0
鈍い音がした。
ドクオの耳には確かに、その音が聞こえた。頭を揺さぶるような異音ではなく、もっと小さな鈍い音。
それは兄者のブーツが壺に当たった音だった。
兄者の放った蹴りは見事に命中し、壺が倒れて割れる。
甲高い音と共に破片が飛び散る。
しかし、兄者は壺にはもう目もくれず、膝をつくと手にしたナイフを突き立てた。
(#´_ゝ`)「そう何度も同じ手にかかって、たまるかっての!」
ナイフが突き立てられたのは、先程まで壺が置かれていたちょうどその場所。
祭壇から続く、白い石材。
兄者は無言で力を込めると、ナイフを少しずつ動かす。
かすかな音とともに、祭壇と同じ材質の石材が傷つき醜い傷が刻まれていく。
(;'A`)「兄者っ!」
ドクオは兄者の元へと、飛ぶ。
待機しろと言われたような気がするが、そんなものは知らない。
それよりも大切なのは、何が起こったのかだ。
.
544
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:41:15 ID:OeiHTfo.0
(; ´、ゝ`)「む。待っていろと言っただろうが」
('A`)「今のはなんだ、説明しろ」
ドクオは兄者の手元を覗きこむ。
祭壇と同じ白い石材。そこには赤黒い塗料で何かの図案が描かれている。
円と多角形で描かれたそれを見た瞬間、ドクオの紫の体はぞわぞわと得体のしれない感覚を覚える。
しかし、その感覚も一瞬ですぐに消え失せた。
('A`)「なんだ、これ」
ヽ(#`_ゝ´)ノ「諸悪の根源っぽい何か。詳しくはわからん」
(;'A`)「わからんって、おい」
( ´_ゝ`)「この部屋の中で、ここが一番いやな感じがした。
だから、仕掛けがあるならここだと思った。音がやんだところを見ると、これが正解だな」
へらりと笑って、兄者は言う。
その言葉が意味することをドクオはしばらく考えて、兄者がとんでもない博打を打っていたことにようやく気づく。
何もわかっていないのも同然なのに、目の前の男は何を考えているのか。
ドクオは兄者に怒鳴りつけたい気持ちにかられ、――弟者が兄者によく怒鳴りつけてばかりいるのも仕方がないなと納得した。
.
545
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:43:46 ID:OeiHTfo.0
(;´_ゝ`)「妙な音と聞いていたが、ありゃ音じゃなくて一種の暴力だな。ミミ ガ チギレル
一瞬で意識を持ってかれたのも、超納得だわ」
(;'A`)「……お前、馬鹿だろ」
(*´_ゝ`)「褒めても何も出ないぞ」
そう言葉を返しながら、兄者は祭壇の周りに立っている壺や燭台を蹴り倒していく。
時折、瞳を閉じて集中するそぶりを見せると。倒れた壺のなかの数個を砕き、床にナイフを突き立てていく。
('A`)「それは一体、なんなんだ?」
(;´_ゝ`)「んー、多分。魔力に反応して発動する術式とか罠とかそんなものだと思われ。
調査隊には魔法使いがいないからなぁ、いたら大惨事だったと」
('A`)「なるほどな。……ん、魔法使い?」
ドクオの声には耳を止めないまま、兄者はナイフを滑らせていく。
いくつか目の図案を傷つけ削った所で、「よし」とつぶやく。
(*´_ゝ`)「多分これでよし。嫌な気配はもうない」
('A`)「お、おう」
.
546
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:45:47 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「残るは結界なのだが……ふむ」
(;'A`)「その前に、一つ聞いていいか?」
(;´_ゝ`)「どうした、こんな時に?」
兄者の表情が怪訝そうにひそめられる。
ドクオはそんな兄者に向けて、先程引っ掛かりを覚えた言葉を放つ。
('A`)「兄者、お前さんは魔法使いなのか?」
( ´_ゝ`)「……」
兄者は一瞬きょとんと目を見開いた後に、小さく舌打ちをした。
自分が失言をしたことに気づいたように表情を歪める兄者に、ドクオは更に追い打ちをかける。
('A`)「さっきの妙な音、お前さんが一番効いていたみたいだし。
例の魔法陣を起動したのも、操られていたお前さんの魔力だ。
それから結界やら、ゴーレムの核やら、祭壇の罠やら……」
( ´_ゝ`)「俺は魔法使いじゃない。
弟者と違って師匠について学んだことだってないし、さっきのだって全部勘の我流だ」
(;゚A゚)「……は? 弟者、が?」
.
547
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:47:23 ID:OeiHTfo.0
魔法がこの上なく嫌いな弟者と、魔法。
この二つが、とてもじゃないが結びつかない。
ドクオは目を白黒させて兄者を見やるが、兄者はこれ以上その話題に触れようとはしなかった。
( ´_ゝ`)「それより今は、結界を崩すのが優先だ」
(;゚A゚)「……はひ」
兄者は立ち上がって、祭壇を睨みつける。
自身の手によって破壊された壺や燭台には目もくれず、兄者は白い台座に触れると目を閉じる。
大きな風が吹いたわけでもないのに、兄者の毛並みが逆立ち飾り帯が小さく音を上げた。
( ´_ゝ`)「……扉や天井と同じ魔力だ。
この祭壇を壊せば結界は壊せる。たぶん、だが」
(;'A`)「え? あ、そう?」
衝撃が大きすぎて話についていけないドクオの横で、兄者はナイフを持ったもう片方の手に力を込める。
白い台座を長め、それから台座横手の装飾を注意深く眺め、
台座を飾る装飾の一角に向けて、ナイフを振り上げた。
( ´_ゝ`)「……」
.
548
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:49:28 ID:OeiHTfo.0
( ´_ゝ`)「……気づいてしまったのだが」
振り下ろされるはずだった、兄者の腕が止まる。
その目はしっかりと標的となる装飾を睨みつけているのに、兄者はこれ以上動きを見せようとしない。
兄者の薄水色の毛並みがどこか青ざめているような気がして、ドクオは声を上げる。
(;'A`)「……ひょっとして、無理なのか」
(;´_ゝ`)「いや、きっとどうにかなる。だがしかし」
兄者の声はいやに歯切れが悪い。
それにようやくショックから立ち直ったドクオが話せと促すと、兄者は渋々と声を上げた。
(;´_ゝ`)「ここで結界を壊したら、あのデカブツはどうなるのだ?」
('A`)「……」
ドクオは沈黙する。
しかし、それもほんの少しの間だけのこと。ドクオは表情を引き締めるとすぐに兄者に詰め寄った。
('A`)「そんなこと、どうとでもなる。
だから、今はとにかく結界を解いてさっさと脱出を」
.
549
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:51:21 ID:OeiHTfo.0
(; _ゝ )「……できない」
しかし、兄者の言葉は否定だった。
これまで脱出に意欲的だったのが嘘のように、兄者は言葉を濁し黙り込んでいる。
ドクオは弱気になった兄者の態度に、とうとう怒鳴り声をあげた。
(# A )「どうして!」
(; _ゝ )「結界を解けば、あいつが外に出てくる。
だが、外には……しぃ者やでぃ者がいるんだぞ!」
(;'A`)「しぃ……さん……」
その名前にドクオの言葉も止まる。
黒いドレスに赤い飾り帯が似合う、優しそうな女性。
笑顔がとても綺麗で。あんなにきれいなニンゲンがいるのかと、ドクオは見とれたものだった。
しぃと、その妹のおとなしそうな娘。二人の姿がドクオの脳裏に浮かんで、消える。
( _ゝ )「あの二人は戦えない」
(#'A`)「……でも、このままじゃお前らが。
それに、外ならちゃんと戦えそうな奴がいるだろ!」
(#´_ゝ`)「ギコ者だって同じだ。
あのデカブツに普通の攻撃は通らん。いくらギコ者の力がすごくとも無理だ」
.
550
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:53:23 ID:OeiHTfo.0
感情的に言い切った後、兄者はすぐにその表情を消す。
何を考えているのかわからない無表情のまま兄者は、普段よりも低く声を上げる。
( _ゝ )「俺たちが死ぬか。ギコ者や他の皆を犠牲にするか。
……これはそういう問題だ」
(# A )「じゃあ、どうするんだよ!」
( _ゝ )「だから今、こうして考えているところだろ!」
兄者らしくない、過激な――ある種、突き放すような冷たい言葉。
それに怒鳴り返しながらも、ドクオは気づいていた。
ちゃらんぽらんに見える兄者でも、まっとうに追い詰められることがあるのだと。
( ´_ゝ`)「……魔法陣」
(;'A`)「は?」
ドクオの思考を邪魔するように、兄者が小さく声をあげる。
ぽつりと呟いた兄者の口元が、じわじわと上がっていく。
その瞳はいきいきと輝きだし、ついには笑顔になった。
(*´_ゝ`)「ドクオ、今すぐ魔法陣があったところまで案内しろ。
これは勝つるかもしれんぞ」
.
551
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:55:36 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(´<_` )「弱点が判明したのはいいのだが」
弟者は攻撃を避けながら、目の前の巨人の姿を見上げる。
目指すべき巨人の頭部は、長身の弟者の背よりもさらに高い位置にある。
軽く跳躍する程度では届きそうにない距離に、弟者は一瞬頭を抱えたい気持ちにかられる。
(´<_` )「頭の装甲を狙えと言ってもな。無理をすればいけなくもないが」
(;^ω^)「大変なのかお?」
(´<_` )「どうにかなるさ」
しかし内心の悩みなどなかったように、弟者は岩の巨人に向かって駆ける。
威力は高いが動きの鈍い巨人の腕をかいくぐり、最初の跳躍で無限軌道の上に着地を遂げる。
巨人の体を支えるその機構が動き出さないうちに、曲刀を持つ手を翻し一撃を放つ。
硬い音とともに、火花が散る。
刀が捉えたのは、頭部よりもやや下。人間で言うのならば、胸か首に当たる部分。
それに弟者が舌打ちをすると同時に、足元の無限軌道が音をたてて動き始め、弟者は慌ててその場から離脱をする。
.
552
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:57:36 ID:OeiHTfo.0
(;^ω^)「ええと、風じゃなくてあばばば」
跳躍、そして着地。
振り払われる腕は、姿勢を低くして回避。
追撃はせずに、そのまま後退。
(´<_` )「落ち着け。こちらが危なくなったら、手助けしてくれれば十分だ」
(*^ω^) !
(´<_` )「打ち込んだ感じでは、高さが足りない。
もう少し高さを稼ぐ必要があるな」
(*^ω^)「だったら、ブーンがなんとかするお!
ブーンがオトジャを風で飛ばすから、それでズバンと攻撃を」
ブーンの元まで後退した弟者と、ブーンが言葉をかわす。
作戦会議めいたその言葉の応酬に、ブーンの顔が心なしか輝く。
それに何を笑っているのだと弟者は言い放ち、再びゴーレムへとむけて駆け出そうとして、
(´<_` )「……兄者?」
動きを止めた。
弟者は視線をさまよわせ、兄の姿を探す。
.
553
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 21:59:51 ID:OeiHTfo.0
(;^ω^)「アニジャがどうかしたお?」
(´<_` )「今、一瞬あの音が……」
弟者の視線が、祭壇で止まる。
そこに何やら話し込む兄者と、ドクオの姿が見える。
祭壇の周りは壊れた壺や、倒れた燭台が散乱しており……
(#^ω^)「オトジャ、前っ!!」
(´<_` ;)「――っ、把握した」
ブーンの警告ではじめて弟者は、ゴーレムが接近してくることに気づいた。
足にあたる無限軌道で、弟者とブーンをひき殺そうと巨体が迫る。
魔力じかけの機関から鈍い音をあげて迫るゴーレムを、弟者は危なげもなく回避する。
ゴーレムの体を避けながら、すれ違いざまに足の機関に一撃を加える。
刀と岩がぶつかって甲高い音が上がるが、ゴーレムにダメージを与えられた様子がない。
それどころか重い反動がかかる腕を軽く振るうと、弟者は小さく舌打ちをした。
(´<_` )「バケモノめ」
/◎ ) =| )
.
554
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:01:41 ID:OeiHTfo.0
ゴーレムからの反撃はない。
大きな体は細やかな方向転換には不向きだ。だから初撃さえ避けてしまえば、どうということはない。
(´<_` )「ブーン、高さを稼ぎたい。いけそうか」
(*^ω^)b「まかせるお!」
(´<_` )「じゃあ、こちらが合図をしたら……」
弟者の動きがピタリと止まる。
言葉の続きも話すわけでも、攻撃をするでもなく、弟者は立ち尽くす。
かわりに出たのは、先ほどの言葉とはまったく関係ない乾いたつぶやき。
(´<_` ;)「――まさか、」
顔を上げた弟者に浮かんでいるのは、驚きの表情。
なぜ、どうして、信じられない――そう表情で語る弟者には、すでにゴーレムの姿は見えてはいない。
弟者の毛並みが逆立ち、顔色が徐々に青くなっていく。
(;^ω^)「オトジャ、どうしたお?」
(´<_` )「あの馬鹿」
.
555
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:03:17 ID:OeiHTfo.0
弟者の視線が祭壇へと向く。しかし、そこには誰もいない。
弟者の視線は動き、部屋の一番奥で止まる。
白い壁。そして、その前に立つ兄者と、その周りを飛ぶドクオの姿。
( ´_ゝ`)「 」
(;'A`)「 ?」
二人の声は、弟者の位置からは聞こえない。
しかし、弟者は直感でこれから何が起ころうとしているのか、はっきりと理解した。
弟者は粟立つ肌を強く押さえつけ、手にした刀を鞘へと収めると、動きの邪魔になる鞄を遠くに投げ捨てる。
(´<_`#)「どうして兄者はいつもいつも!!」
(;^ω^)「オトジャ!?」
( <_ #)「……」
ブーンの問いかけに、返答はない。
武器を収め荷物を手放して身軽になった弟者は、ゴーレムから背を向け走り始めた。
弟者の姿は、どんどんと遠ざかっていく。
しかし、それでもブーンは弟者を追おうとはせずに、目の前の岩の巨人へと向き直った。
(;`ω´)「えっと……ブーンが相手だおっ!!」
何が何だかわからないなりに、ブーンは戦うことを選んだ。
.
556
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:05:44 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
('A`)ノ「魔法陣が出たのは、ちょうどここだ」
(; ´_ゝ`)「つかれたもうダメ」
二人の目の前には、そびえ立つ白い壁。
もうこれ以上は進めないというところで、兄者はへなへなと座り込む。
荒く息をつき、あがった息を何とか整えると、兄者は大きく息をついた。
┐('A`)┌ 「本当にお前さんの体力は残念だな」
ヽ(#´_ゝ`)ノ「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」
('A`)「兄者……もんって言うのはやめようぜ。気持ち悪い」
(;´_ゝ`)て「しんらつ!」
緊張感のないやり取りを終えた末、兄者は壁を眺める。
白いつややかな壁には繋ぎ目など、見えない。
兄者の見たところ、この壁は巨大な一枚の岩。一体どうやってこんなものを見つけて持ってきたのか、まったく検討もつかない。
.
557
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:07:41 ID:OeiHTfo.0
――兄者は、壁に触れる。
ひやりとした感触をかえすその壁は、何の変哲もない一枚岩に思えた。
が、今の兄者ならそうではないことを知っている。
('A`;)「お、おい、危ないぞ!」
( ´_ゝ`)「俺よりも弟者やブーンの方が、そもそもからして危ない件」
(;'A`)「じゃなくてその壁はさっき、魔法陣が!!」
( ´_ゝ`)「だからだよ」
壁に触れた手には、何の変化もない。
壁の方も同様で、先程までとなんら変わりない。
( ´_ゝ`)「召喚の魔法というのは、大抵もう一つ――送還の魔法と対になっている。
そりゃあそうだ。呼び出すだけ呼び出して、帰さないってのはマズイからな」
('A`)「もっと、わかりやすく言え」
( ´_ゝ`)σ「この魔方陣を使って、あのデカブツを送還する」
('A`)「できるのか!? っていうか、わかるのか!?」
ドクオは信じられないという顔で、兄者を見やる。
兄者といえばもう息は整ったのか、平然とした顔をしている。
.
558
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:09:21 ID:OeiHTfo.0
( >_ゝ<)b +「少なくともツン者のところで、こっそりと読んだ魔法書ではそうだった。
後は魔力の流れを見ながら、勘!」
(;'A`)て「結局のところ勘かよ! 考えなしなのも、いい加減にしておけ!!」
( ´_ゝ`)「こういうのは勘が一番モノを言うのだよ、ドクオ君。
それに、……後悔するよりは試してみるべきだと、俺は思う」
最後の言葉だけを真剣な声で言ってのけると、兄者は壁を睨みつける。
星を読むように視線を動かし、やがて「ここだ」と小さく呟いた。
それから、視線をドクオに移すと兄者は小さく笑った。
( ´_ゝ`)「弟者は怒るけどな。でも、やらないよりはずっといい」
('A`)「……」
兄者の真剣な言葉にドクオは言葉を失う。
それを見て取ったのか、兄者はこれ以上何も言わず瞳を閉じる。
瞳を閉じていたのは、ほんの少しの間だけ。兄者はすぐに目を開くと、壁へと向き直る。
( ´_ゝ`)「……」
兄者は壁を見据えたまま、意識を自身の下へと落としていく。
自分の内面。自分の中心を、井戸の底を見るように深く、深く覗きこむ。
.
559
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:11:27 ID:OeiHTfo.0
意識の底。その中に横たわる、ざわりとした感触。
その感触をはっきりと意識できるところまで、手をかけ引っ張り上げる。
――兄者の場合は、そんなイメージだった。
魔力を扱う感覚。
彼にとってはかれこれ十年ほどぶりとなる、意識しての魔力行使。
しかし、その空白期間などなかったかのように、呼吸するかのように自然と兄者は魔力を自身の中から組み上げ形にする。
( ´_ゝ`)「さてと、行きますか」
(;'A`)「本気でやるのか?」
意識できるところまで引っ張ってきた魔力を、両手へと走らせる。
壁と接した手から、魔力が流れだしていく。
そして、その感覚とともに壁面に浮かび上がるものがある。
光の軌跡が円と多角形を描き上げ、今では失われた文字が刻まれていく。
それは――先程まで壁に浮かんでいたのと寸分の違いのない魔法陣だ。
(; _ゝ )「……っ」
(;'A`)「おい、大丈夫か?!」
(;´_ゝ`)「……まったく、弟者といいドクオ者といいそんなにこのお兄ちゃんが心配ですか、っと」
.
560
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:14:38 ID:OeiHTfo.0
ドクオの声にそう答えて、兄者は細い目を更に険しくする。
口調だけは軽いもののその表情は真剣そのものである。
(;´_ゝ`)「よーし、このまま言うこと聞いてくれよ」
兄者は慎重に、魔力を込めていく。
少しずつそして徐々に勢いを強く。魔法陣を見据え、こちらの意志に沿うように力を強めそしてその方向性を変えていく。
一人分の魔力で足らなければ、もう一人分の魔力を。
力が逸れそうならば、少しずつ調節を。
もともと、星を読むのは得意だ。
些細な術式と魔力の流れを、星の微かな動きを見るのと同じように読み取る。
血のように流れる魔力を操り、調整していく。
(; _ゝ )「逆に、狭く、強く――そうじゃない」
(;'A`)ハラハラ
( ´_ゝ`)「帰れ、返れ、変えれ、かえれ――還れ」
兄者の言葉が意味するところはドクオには読み取れない。
しかし、兄者はつぶやきに応じて、流れる魔力の大きさが、方向が微妙に変化していくのが見て取れた。
.
561
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:15:27 ID:OeiHTfo.0
魔法陣を描く光が白から黄。そして、緑から青と色を変えていく。
それと時を同じくして低い音が――、そしてそれを打ち消すように甲高い音が鳴り響く。
高く低くを繰り返す音達は狂った調子に鳴り響き、とてつもなく耳障りだ。
それでも、兄者は動かない。
かわりにその顔は発熱で赤く染まり、汗が一筋、二筋と地面へと吸い込まれていく。
( _ゝ )「還れ、還れ、還れ」
('A`)「……」
魔法陣の光は幾筋にも残像を増やし、そこに流れ込む魔力はどんどんと増えていく。
魔力混じりの風が兄者の足元から吹き上がり、ドクオの体は流されそうになる。
聞こえる音はドクオが耳を塞ぎたくなるほどに大きい。
兄者の体がぐらりと、大きくゆらいだ。
慌てて足を踏みしめ体を支えるが、兄者の顔色は今や紙のように白い。
壁に添えられた手は小さく震え、それでも流れだす汗は止まらない。
(;'A`)「……兄者、もういいやめろ!!」
( _ゝ )「……おもしろい冗談ですな、と」
楽ではないのだろう。兄者の顔からは表情がごっそりと抜け落ちている。
分が悪いのは明白だった。
それでも兄者は壁を睨みつけ、魔力を止めようとはしなかった。
.
562
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:17:13 ID:OeiHTfo.0
(; _ゝ )「――還れ!」
色を変えていく魔法陣が強く、弱く明滅を始めた。
その光と対応するように、ゴーレムの体に一筋、二筋と光の筋が絡み始める。
高く低く鳴る音は、暴風のように部屋中に響きわたっている。
(#'A`)「ああもう、無茶しやがって!!」
魔力の奔流は渦を巻き、大きく火花を散らし始めていた。
その魔力の流れに、吹き飛ばされそうになりながらドクオは兄者へとその手を伸ばす。
風にはためく被り布を掴み、兄者の顔へとようやく手を伸ばす。
(#'A`)「やめろ! これ以上はヤバイ!」
ようやく届いた兄者の体は、冷えきっている。
手だけではなくて、全身が震えている。
そんな状態なのに、魔力だけは際限なく兄者の体から壁へと流れだしていく。
(#'A`)「おい、やめろ」
ドクオの力では。体の大きさでは兄者を止め切れない。
その間にも、周囲に響く耳障りな音は大きくなっていく――。
.
563
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:19:16 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は走る。
その歩みは弟者自身が思うよりもはるかに遅く、胸を掻き毟りたくなるような焦燥感に叫びたくなる。
まだか。
まだなのか。――弟者は自問自答を繰り返し、そして気づく。
走っても間に合いそうにないのならば、取れる手段が他にあるではないか、と。
(´<_` )「……緊急手段」
扉の前で、兄者が冗談めかして言っていたそれ。
双子だから。できそこないの産まれぞこないだからこそ取れる、唯一の方法。
(´<_` )「手段は選んでいられない、か」
弟者は走りながら、意識を下へと落としていく。
魔力を取扱うときのイメージ。もう何年も忘れていた、その感覚。
弟者=流石という名のイレモノを超えたさらに、下。
肉体という垣根を超えて、“自分”という存在そのものの中へと意識を向けていく。
.
564
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:21:19 ID:OeiHTfo.0
( <_ )「あの馬鹿」
そして、弟者ははっきりと悟る。
流れだしていく魔力の量が、とてつもなく多い。 ・ ・ ・
兄者=流石というイレモノの持つ量を超えて、弟者=流石というイレモノが預けていた魔力までもが流れだしていく。
魔力が向かう先は――再度出現した、魔法陣。
黄色から緑。そして、青へと色を変え、渦を巻き火花を散らす魔力の奔流。
( <_ #)「やめろぉぉぉ!!!」
弟者は“自分”の内へと手を延ばす。
実際に手を伸ばすわけではなく、魔力を扱う時と同じ、自分の内部へと手を延ばす感覚。
流れだしていく魔力を意識の中でつかみとり、それを強引に断ち切る。
意識の一角がひっかかり抵抗された気がしたが、弟者はそれすらも押し切る。
( <_ ;)「――くっ」
断ち切った魔力が、逆流する。
魔法陣のものらしき異質な流れと、魔力が弟者の中を暴れて焼く。
自分の内側を焼きつくそうとする激しい痛みに弟者は呻くが、それもすぐに止む。
どこにも損傷はない。先ほどの魔力は魔法のたぐいではなかった。
――だから、これは痛みを受けたという錯覚だ。
.
565
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:23:19 ID:OeiHTfo.0
ほんの一瞬。
魔力がほんの一瞬、逆流しただけであの痛み。
あんなふうに滅茶苦茶に魔力を扱えば、その負担は軽くは済まない。
……兄者本人の負担は、この程度で済むはずがない。
(´<_` )「くそ兄者が」
弟者は走る。
魔力を取り返そうという抵抗を押さえつけて、祭壇のその向こうの壁を目指す。
広がる魔法陣は、魔力を絶ったというのにまだ消える気配がない。
大丈夫。
まだ大丈夫。まだ、決定的な破滅が訪れたわけではない。
だから、走れ。
今は――あの時とはもう違うのだから。
(´<_` )「――俺は、決めたんだ」
内心の葛藤を振り払い、弟者は走り続ける。
その頭からは、ゴーレムや脱出という言葉は消えている。
今、彼の内心を占めているのはどうにかして、兄者を止めなければという一点のみ。
草を踏み散らし、石を蹴り飛ばして進む。
――そして、伸ばした腕はようやく、届いた。
.
566
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:25:31 ID:OeiHTfo.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(# _ゝ )「――馬鹿弟者っ!!」
壁へと魔力を向けていた兄者が、不意に怒鳴り声を上げた。
いくら顔をひっぱたいても、たいして反応をしなかった兄者の突然の変化にドクオはたじろぐ。
(;'A`)「は、あ、え?」
(#´_ゝ`)「あいつ魔力全部持って行きやがった、こっちはまだいけるっていうのに。
戦ってるんじゃないのかよ、畜生」
ドクオには兄者の言葉の意味が分からない。
ただ兄者の荒れ様を見て、ただごとではない何かが起こったと察するだけだ。
ドクオは兄者の顔を見上げて、それから視線を壁へと移して、異変を悟る。
魔法陣に流れる、魔力が激減している。
いや、魔力そのものが止まったといったほうが正しい。
兄者は怒りを隠そうとしないままに、壁を見据えそれから瞳を閉じる。
(#-_ゝ-)「まだ取り返しがつく。ドクオお前――魔力は」
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567
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:27:32 ID:OeiHTfo.0
瞳を閉じ意識を集中しようとする兄者の肩を、背後から伸びた手がぐいと引く。
突然のことに体勢を崩す兄者の手を、後ろから伸びたもう片方の手が掴みさらに引く。
(;´_ゝ`)て「うっひゃぁお!!」
体勢を立て直せずに、兄者は派手に尻餅をつく。
受け身などまともに取れなかったものだから、体重と落下の勢いに兄者の臀部が激しく痛む。
一体何が……と、兄者は視線を上げる。
そして、息を荒げ血相を変えた弟者の姿が兄者の目にはいる。
(´<_`#)「この馬鹿」
(;´_ゝ`)「お前、何でこっちに!!」
(´<_`#)「何ではこちらの台詞だ。
兄者は自分がどれだけギリギリだったかわかっているのか!」
(#´_ゝ`)「これが一番平和な解決方法だったのだ! ここで動かずにして何とする!」
兄者はふらつきながらも立ち上がる。
その顔色は変わらず白いままだったが、それでも体の震えはどうやら止まったようだった。
(´<_`#)「だからといって無茶をする馬鹿がどこにいる!」
.
568
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:29:48 ID:OeiHTfo.0
(#´_ゝ`)「そういうお前こそ、ブーンとゴーレムは」
弟者に向けて声を上げる兄者の背後で、ひときわ大きな金属質の音が響いた。
それが一度、二度。
兄者が慌てて音のした方向をみやると、そこには黒にそまった魔法陣。
先程まで色を変え輝いていたはずの魔法陣。その記号や円が炎をあげて、白い壁を焼いていく。
( ;゚_ゝ゚)「――って、あぁあああああああ!!!!!」
(;゚A゚)「げぇぇぇぇぇ!!」
崩壊は止まらない。
魔法陣の円が焼き切れ、浮かび上がっていた文字が消えていく。
それとともに魔法陣の術式がちぎれ崩れていくのを、兄者は瞬間的に理解した。
(; ゚_ゝ゚)「魔法陣ちゃんがぁぁぁぁぁ!!!」
(;'A`)「ゴーレムは……」
ドクオは壁からゴーレムへと目を向ける。
――そびえ立つ岩の巨人はいまだ健在で、消える気配すらない。
飛び回るブーンの目の前、ゴーレムの体に魔法陣の名残の光が一筋強く輝いてすぐに消えた。
(ノ'A`)ノ「いやぁぁぁ、とっても元気でいらっしゃるぅぅぅ!!!」
.
569
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:31:58 ID:OeiHTfo.0
(; ゚_ゝ゚)「魔法陣……魔法陣ちゃぁぁぁぁん!!!
だめだ。もう反応しないぃぃぃ!!!!!」
(;゚A゚)「あばばばばば、どうするんだよ、おい!!」
(;´_ゝ`)「この状況を打破できるとっておきの手段だったのに。
ああ、もう次だ次っ! 別の手段を考えるぞ」
そう言いながらも兄者は、取れる手段がもうほとんど残っていないことに気づいていた。
結界を崩して脱出するか。それとも、ゴーレムを倒すか。
ゴーレムを倒すのは絶望的。それは弟者とブーンの奮闘で既にわかっている。
迷っている時間はない。そんなことをしていたら、ゴーレムを引きつけているブーンが危険だ。
(´<_` )「兄者よ。真面目に考えているところでなんだが。
――要はアレを倒してしまえばいいのだろう?」
……そんな中、弟者だけがいつもと同じ口調でなんでもない事のように言った。
.
570
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:33:20 ID:OeiHTfo.0
(# _ゝ )「お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」
(´<_`;)「えー、あー。」
兄者の剣幕に弟者は一瞬だけ、言葉に詰まる。
それでもその動揺は一瞬だけで、すぐにその表情は感情の薄いいつもの表情に戻る。
・ ・ ・ ・
(#´_ゝ`)「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」
(;'A`)「おい、兄者落ち着け。それより脱出を」
(´<_` )「でもな、俺だけでもなんとかなると思う」
兄者の怒りの声にも、弟者の表情は変わらない。
怒っているのか、焦っているのか、単に余裕なだけなのか、まったく見えない表情。
.
571
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:35:41 ID:OeiHTfo.0
(´<_` )「だって、な」
弟者はどこか遠くを見るように目を細めると、小さく呟く。
その表情にはやはり、何の感情も浮かんでいなかった。
( <_ )「――俺はそういうのが嫌いなんだから」
そして、その言葉と同時に――兄者の体は崩れ落ちた。
.
572
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:36:23 ID:OeiHTfo.0
そのなな。 戦え、その命尽きようとも
おしまい
.
573
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 22:37:09 ID:OeiHTfo.0
投下ここまで! しばらく休憩したらオマケ8レス投下します
574
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:00:14 ID:OeiHTfo.0
ゴソリ
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) 「ああ、良く寝た。母者さんとの交代の時間までは、と」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)フッフッフッ
彡⌒ミ
∩(*´_ゝ`)∩「さーて、儂の愛する植物ちゃんたちは……」
彡⌒ミ
( ; _ゝ )「……オワタどうしたんだ?! ゆうたろう、それにブームくんまで!!」
彡⌒ミ
( ; _ゝ )「フッジサーン!!」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「そんな、せっかくオワタに花が咲いたというのに! 誰がこんなひどいことを!」
.
575
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:02:15 ID:OeiHTfo.0
,――――――ヽ
,――――、 / \ /\
_/ \ / ヽ/ \
/ ,V ━━━━━━━━┥ ◯_.\
| -'''''''''ヽ ━━━━━━━━┥ //(_冫 ⌒ヽ、
| / .−‐ 1 `\ │// | | |
| l ヽ.___ノ ,' l │/ | | ( ) |
| 、._.../ ,' │ .| | |
| /⌒ヽ く ━━━━━━━━┥ .| | 〃
! `ー‐' / ! ━━━━━━━━┥ .| | ノ
\\ / /| | .| | /
\\ / /_| / .| | /
r-― \\ / // \.| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
/ \\ ,/ / | r―――― () () () | ( )'''''''''''''''''''''''( ) |
/ \ V /―| // ̄ ̄ ̄ ̄() () () | | || |
│ ....--\/――(('_`_`_'() () () | ( )'''''''''''''''''''''''( ) |
釗 / ,..-‐‐‐l\ ヽー―――() () ()  ̄"ン ̄ ̄ ̄ ̄~.) ̄ ̄~)
ヽ、 1釗 l│ /ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ │礀 1 │
゙ヽ ゙''\:二ニ-‐ ノ_ノ ノ ノ ノ ノ | ゝ ノ 丿
ヽ―――ヽ―――――――――――――――――――――‐''’――
マルタスニム卿/著『幻想生物研究録』よりゴーレムの図
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
576
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:04:34 ID:OeiHTfo.0
彡⌒ミ
(つ;_ゝ;)つ「我が娘よぉぉぉ!!!!」
ガバッ
∬;´_ゝ`)て「ちょっ、父者どうしたの?
暑苦しいからさっさと離れて、気持ち悪い」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「姉者よ大変なんだ、儂の可愛いオワタが!ゆうたろうが、ブームくんが!!
それにフッジサーンまでもが大変なことに!!」
∬´_ゝ`)「……誰それ?」
彡⌒ミ
∩(;´_ゝ`)∩「オワタたちだよ。ほら儂が中庭で大事にしている!」
_,
∬´_ゝ`)「……父者。植物に変な名前をつけるなって、母者に怒られてなかった?」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「ああ、それについては、ちゃんと母者さんと和解したから大丈夫だよ」
.
577
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:06:41 ID:OeiHTfo.0
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「それよりも大変なのだ、姉者。
父さんの大切なオワタたちが無残にも踏み潰されてるんだ!」
∬´_ゝ`)「へー」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「ああなんてかわいそうな、オワタ……ゆうたろう、ブーム、フッジサーン」
∬´_ゝ`)「そー」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「種の時から大切に守って育ててきたのに。
悲しい思いをして泣く泣く剪定もして、ようやくその苦しみが実を結んだというのに」
∬´_ゝ`)「へー」
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「オワタァァァァ!!! ゆうたろうぅぅぅ!!! ブームくぅぅぅん!! フッジサーン!!」
∬´_ゝ`)「そー」
彡⌒ミ
( ∩_ゝ∩)「姉者は優しいなぁ。流石は、儂の娘。
父さんの苦しみをわかってくれるのは、母者さんと姉者くらいだよ」
∬´_ゝ`).。oO(やばい。聞いてなかった)
.
578
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:08:06 ID:OeiHTfo.0
∬´_ゝ`)「それで父者はどうするの?」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)て「そうだ! オワタたちをひどい目に合わせた賊が、我が家に侵入したみたいなんだよ、姉者!
母者さんが出かけているこの時に、ああどうしよう?!」
∬´_ゝ`)「時に落ち着くといいわ、父者。
賊の気配なんて無いし、警備からは何の報告も入ってないわ」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「あ、そうなんだ。よかったぁ〜。
じゃあ、賊たちは儂のオワタちゃんたちだけが目的だったのかな」
∬;´_ゝ`)「……父者聞いてた? 賊は無いって言ったんだけど」
彡⌒ミ
(|||´_ゝ`)「……まさか、魔物?!
どうしよう、儂の力で娘たちを守れるか」
∬;-_ゝ-)「そんなの出てたら今頃大騒ぎでしょうが……」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「あ。そうなんだ、よかったぁ〜」
.
579
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:10:19 ID:OeiHTfo.0
∬´_ゝ`)σ +「いい、父者? こういう場合は内部犯を疑うのが鉄則よ」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「……そんな。我が家にいるのは、みんないい子だよ!
疑うなんて、父さんは嫌だよ」
∬´_ゝ`).。oO(この人、こんなんでよく人生渡ってこれたな)
彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「オワタたちのことは心配だし悲しいけど、みんなを疑うなんてとても儂には…
いやしかし、悪いことをしたら謝ることは大切だし。
ああ、儂はどうしたら……。母者さん、儂はどうしたらいいんだろう?!」
∬#´_ゝ`) イライラ
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「なにか動物が侵入したのかもしれないし、何か不思議な現象が起こったということも。
いやいやそもそも、これははじめから事故だったんじゃないのかな?
もしそうだったとしたら疑うのはとても悪いこと……」
∬#´_ゝ`)「ああ、もう! 私がどうにかするから!!
父者は引っ込んでて!! 犯人見つけて、母者に引き渡せばいいんでしょ!」
.
580
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:12:13 ID:OeiHTfo.0
・
・
・
・
|゚ノ ^∀^)「はい。今日の授業はここまでですよー」
⊂l从-∀-;ノ!リ人「つかれたのじゃー。
いつもより、いっぱいお勉強させられたのじゃ……」
|゚ノ#^∀^)「途中で寝たりするからですよぅ、もう!」
l从・〜・;ノ!リ人「……ごめんなさいなのじゃ」
|゚ノ ^∀^)「でも、途中からは頑張ってたから、先生ほめちゃおっかな〜」
l从>∀<*ノ!リ人「せんせい、大好きなのじゃー!」
|゚ノ*^∀^)「あらあら。妹者様ったら」
|゚ノ*^∀^)つol从・∀・*ノ!リ人エヘヘー
.
581
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:14:07 ID:OeiHTfo.0
∬ _ゝ )「……和んでいるところ悪いんだけど、ちょっといい?」
|゚ノ ^∀^)「あら、姉者様。何の御用でしょうか?
このレモナで役立てることでしたら、いくらでも」
∬´_ゝ`)「ごめんね。私が用があるのは妹者なの」
l从・∀・ノ!リ人 ?
|゚ノ ^∀^)「それはそれは、失礼致しました。
さあ、妹者様。姉者様がお呼びですよ」
;;;;∬*´_ゝ`);;;;「妹者ちゃん、お姉ちゃんとちょっとお話しようか?」
Σl从・∀・;ノ!リ人 ビクッ
l从・∀・;ノ!リ人:::. ……
つぎのはなしに つづく
.
582
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:15:29 ID:OeiHTfo.0
今日の投下ここまで
例によって書きため分がないので、次回の投下は未定です
完成したら来月中旬。無理でも生存報告には来ます
583
:
名も無きAAのようです
:2013/06/23(日) 23:51:23 ID:zXLEe4ag0
乙!
584
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 02:26:39 ID:h923mA/Y0
おつ
バトルかっけぇなー
楽しみに待ってるぞ
585
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 03:22:35 ID:.9JK1Uc6O
おつ!
だいぶ佳境になってきたなあ
読むのが毎回楽しみすぎる
586
:
名も無きAAのようです
:2013/06/24(月) 03:24:38 ID:6AKer0lU0
待ってるよ!
587
:
名も無きAAのようです
:2013/07/06(土) 20:36:32 ID:TSDGt/8U0
一気に読んだわ。面白いなー。うまい
588
:
名も無きAAのようです
:2013/07/18(木) 10:27:45 ID:NKICDSnc0
おひさしぶりです
現在書きためは、そのはち。本編が116レス(タイトル等も含む)で仮完成、オマケは作成中です
この話は、その次に投下となる、そのきゅう。と、後日談で完結の予定です。
なので、最後まで書きためを完了させてから、間を開けずに少しずつ投下する形にしようと思います
間に百物語があるので、書き上がるには時間がかかると思いますが、気長にお待ちいただけたら幸いです
589
:
名も無きAAのようです
:2013/07/18(木) 20:13:41 ID:aGpjsXN.0
待つぜー!
590
:
名も無きAAのようです
:2013/08/20(火) 21:38:26 ID:GSrsGdds0
こっそり生存報告
書きため状況は
>>588
から変化なしです
百物語のために中断していましたが、ぼちぼちこちらの書きためも再開しようと思います
完成してても、してなくても9月の中旬にはまた生存報告にくるので、気長にお待ちを
591
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 04:23:22 ID:PjSo4plkO
生存報告ありがたい
待ってるぜー
592
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 13:50:56 ID:rp85/IssO
│д゚)チラリ
593
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 13:52:52 ID:IgGcJTyI0
おや、生存報告かい?
594
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 20:10:28 ID:qxOQxKPA0
あがっていたので生存報告をば
百物語での燃え尽きが思いの外ひどくて、ちょっと難航中です
現在書きためは、そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成(本編が少し伸びました)
そのきゅう。は、現在12レスまで作成中(仕上がってない部分も含めると合計40KBくらい)です
次の生存報告は、10月中旬の予定。それまでには書き上げたいですが、予定は未定です
595
:
名も無きAAのようです
:2013/09/19(木) 23:05:55 ID:N9fvjisY0
量が増えるのはウェルカム
遅くなってもいいぜ待ってる
596
:
名も無きAAのようです
:2013/09/20(金) 09:11:36 ID:1D497UkU0
報告乙
完結まで付き合うよ
597
:
名も無きAAのようです
:2013/09/21(土) 03:41:21 ID:ZEHxh6Vc0
おつおつ、生存報告ほんとに安心するから嬉しいよ。
俺もそれまで、今までの話を読み返したりしながら待ってる!
598
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 11:40:44 ID:Kix5NC0.0
影|A`)マダキテナイ…シエンスルナライマノウチ…
影|A`)つ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1303.jpg
完結楽しみにしてるよー
支援
599
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 20:00:32 ID:xI3Xq1FcO
>>598
ありがとうございます!!
ものすごい力作で、すっごくうれしい。キャラもだけど、背景とか小物の書き込みも素敵
それと、せっかくなので生存報告をば
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
現在、後日談を作成中です。これが出来たら、見直しをして投下予定です
11月は生存報告ではなくて投下ができるといいとは思いますが、例によって予定は未定です
600
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 21:01:40 ID:b5pT.gBY0
楽しみにしてるよん
601
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 23:21:46 ID:3LUClPpU0
すごい書きため量……楽しみー!
602
:
名も無きAAのようです
:2013/10/18(金) 23:51:39 ID:Hdx31PwgO
生存報告乙!
いつまでだって待つから納得のいくのを書いてくれ。
こまめな生存報告と進捗を教えてくれるのほんとに安心するわ。
603
:
名も無きAAのようです
:2013/10/19(土) 00:23:10 ID:cvPVITB60
おお、楽しみに待っとく!
604
:
名も無きAAのようです
:2013/11/20(水) 00:47:59 ID:mUNaYCps0
こっそりと生存報告。某イベントに浮気してましたゴメンナサイ
書き溜めの方は、
そのはち。本編が122レス、オマケが10レスで完成
そのきゅう。本編が96レス、オマケが20レスで仮完成(見直しはこれから)
後日談が、71レス相当で仮完成の状態です
レス数がレス数なため、見直しにかなり時間がかかりそうです
年内に投下を目指したいですが、例によって予定は未になります
605
:
名も無きAAのようです
:2013/11/20(水) 19:36:41 ID:03SKVqzU0
報告乙!
凄く楽しみにしてる
いつまでも待つよ
606
:
名も無きAAのようです
:2013/11/21(木) 01:09:57 ID:LlNxGI4AO
報告きてた!乙乙!!
じわじわと確実に書き溜め増えてるなあ…楽しみにしてるよー
607
:
名も無きAAのようです
:2013/12/04(水) 21:36:02 ID:rZZdxbms0
長いことお待たせしました、12月6日(金)の夜8時頃から投下します
608
:
名も無きAAのようです
:2013/12/05(木) 06:32:16 ID:mVnClryc0
時は来た
609
:
名も無きAAのようです
:2013/12/05(木) 08:08:09 ID:8WmKYcdMO
イヤッッホォォォオオォオウ!
* + 巛\
〒| +
+ 。||
* + / /
∧_∧ / /
(´∀`/ / +
/~ |
/ュヘ |*
+ (_〕) |
/ | +
ガタン / /ヽ |
||| / / | ||||
―――――――――――
610
:
品質は
:2013/12/05(木) 11:41:05 ID:B0XG./Ug0
買います!
http://u.ttj.cc/2J
http://u.ttj.cc/2K
http://u.ttj.cc/2M
611
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:04:59 ID:ttGVJWA.0
俺と兄者は、二人になりそこねた一人だ。
.
612
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:06:06 ID:ttGVJWA.0
まともに産まれなかった、人間のできそこないと、言い換えてもいい。
俺ともう一人の俺――兄者は、つながったまま産まれてきた。
感覚や力を共有しているとでも言えばいいのだろうか。
肉体というイレモノこそ二つあるけれども、俺たち二人は根っこのところでは一つだった。
(´<_` )「なあ、おれ」
片方が怪我をすれば、どれだけ遠くにいたとしてもわかったし、その痛みを引き受けることだってできた。
力が足りないのならば借りればよかったし、貸すことだってたやすくできた。
足りないのならば二人ぶんの力を使い、負担はそれぞれ分けあう。
そうやって俺らはずっと過ごしてきた。
( ´_ゝ`)「どうした、おれ?」
俺たちにとってはそれが普通。
だから、感覚や力を分け合う“もう一人”がいない他の人間がいつも不思議だった。
それは、今だって変わらない。
.
613
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:08:27 ID:ttGVJWA.0
俺は兄者で。兄者は俺。
俺の考えることが兄者の考えることであり、兄者の考えることが俺の考えることだった。
十年前……少なくとも、あの日が来るまでは。
(´<_` )「なあ、おれ。探検にいかないか」
今でも、思い出す。
どうやっても、忘れ去ることが出来ない。
――その言葉が、すべての始まりだった。
( ´_ゝ`)「それはよくない。母者におこられる」
+(´<_` )「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
俺は少し考えて、それから小さく頷いた。
.
614
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:10:27 ID:ttGVJWA.0
打ち明け話を一つするならば。
――元々、鏡なんてものは大嫌いだったのだ。
誰も彼もが、鏡に写るのは現実とそっくり同じ風景だと言う。
だけど、そんなものは嘘っぱちだ。
物心ついたときからずっと、鏡に写る全ての光景はニセモノだった。
そうでなければ、俺ともう一人の俺がこんなに違って見えるはずがない。
薄水色と、若草色。
青と、緑。空の色と、草の色。
似ているけれど、全く違う毛並みの色。
鏡は、俺と俺が違うものだと突きつけてくる。
兄者と弟者という名前と同じだ。俺は、俺ともう一人が違うものだと突きつけるもの全てが大嫌いだった。
だから、かもしれない。
屋敷の一角。
使われなくなったものをしまうための、一室。
そこにある鏡に、当時の俺は惹きつけられた。
.
615
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:12:28 ID:ttGVJWA.0
_ _
,、,j `´ !.,、
_ __r' \.Y./`ヽ__ _
,、/ `´ヽヽ .|. ,´,´ `´ \
,、_ノヽゝ (`´ヽヽ ..|.. //`´) ノノゝ_,、
〉-===−-ニニヽl | lニニ-−===-〈
/_ヽ_r−-、__--、_,ノl..|..l!.、_,--__,-−、_/_\
__/ /=/ `ー´  ̄ ̄ `ー´ \=!.\__
,-" 〉/= / ヽ=\〈゙-、
`)゙( ( (= i i= ) ))"(
( `Yミ=}_ _{彡Y´ )
<=--ヽ=、`、 ,´ ,=/ --=>
〈彡´ ̄ )) ) ( ((  ̄`ミ〉
//ミ≡/ \≡彡\\
\\\/ ヽ///
(ミ、.Y Y.,彡)
l≡ l l ≡l
l圭ヽ / 圭l
`l圭 ! ! 圭l´
(三=`, 、´=三)
lミミ i_ / _i彡彡l
`lミミ l / .l彡彡l´
lミミ l / / .l彡彡l
(ヽヽ } / / { / / )
/__ノ .ヽ / / / ゝ__ヽ
\三≡、\ / / /,≡三/
 ̄\彡ヽ / /ミ / ̄
\彡ヽ r−-' 二二`-−ヽ /ミ /
ゝ圭⌒ヽヽ ノ...|...ヽ //⌒圭ノ
〈彡´`ヽ_/..|..\_/´`ミ 〉
\三三//l\\三三/
 ̄ ̄ ̄
.
616
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:14:16 ID:ttGVJWA.0
ありとあらゆる装飾で飾り立てられた、古い鏡。
金属で作られた蔦や鳥の姿。
金剛石や紅玉、青玉などの高価な石たち。
湧き出る泉をそのまま形にしたような、透き通る鏡面。
その鏡に映る、俺と俺の姿は――まるっきり同じ真っ白な毛並みをしていた。
本当の俺。
緑色なんかじゃなくて、本物の俺の色。
それは物心ついてからずっと抱えていた違和感を打ち消す、魔法の鏡だった。
――まだガキだった俺が、その鏡に夢中になるのにさほど時間はかからなかった。
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
探検という名目で俺は兄者を連れ出し、暇さえあればその鏡を見に行った。
.
617
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:16:12 ID:ttGVJWA.0
――馬鹿だったのだ。
俺は屋敷の中に、危ないことがあるなんて思っていなかった。
怪しいものに近づくとどうなるのか、わかっていなかったのだ。
だから、罰を受けたのだ。
.
618
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:18:36 ID:ttGVJWA.0
それはいつもと同じ、何でもない一日だった。
あの日も、俺たちは部屋に忍び込んで、鏡を見ていた。
( ´_ゝ`)「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」
(´<_` )「……?」
そして、兄者は『何か』の声を聞いたのだ。
兄者に聞こえる声は、他の奴らには聞こえなくても、俺にだけは聞こえる。
――でも、あの日のあの時だけは違っていた。
(´<_` )「……聞こえない。聞こえないぞ、おれ」
( ´_ゝ`)「じゃあ、気のせいか……」
そう言って、兄者が何気なく触れた鏡の表面が、水面のように揺れた。
水に触れたように、その手が鏡に溶けていた。
不思議に思ったのは、ほんの一瞬。
(;゚_ゝ゚)「逃げろ、おれ」
次の瞬間には、俺は兄者のもう片方の手によって突き飛ばされていた。
何が何だかわからないまま兄者へ視線を向けると、そこには――真っ黒な腕がいた。
.
619
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:20:47 ID:ttGVJWA.0
そう、腕だ。
鏡の中、水の様に揺れる鏡面から、黒い腕が伸びている。
鋭くとがった爪。
それはまだ子供だった俺たちの胴をあっさりと捕まえられるくらいに大きかった。
(´<_`;)::「……何?」
肌がざわざわと粟立っている。
魔力を感じた時と同じ感じ、それなのに「これは嫌だ」という言葉が頭を駆け巡る。
とても寒かった。
あの黒い腕以外、部屋の中は何も変わらないはずなのに体が震えて止まらない。
赤や青の光がぐるぐると回り、視界を邪魔する。
(♯ _ゝ )「いいから早く、逃げろ!」
――なんなのだ。なんなのだこれは。
もう一人の俺はそう呼びかけるだけで、自分は逃げようとはしない。
(´<_`;)「おれ! おれもいっしょに」
.
620
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:23:00 ID:ttGVJWA.0
そして、俺はようやく気づく。
兄者の手は鏡の水面に飲み込まれたままだ。
その鏡面は水のように揺れているのに、兄者がどれだけもがいても腕を引きぬくことが出来ない。
連れ戻さなければと思った瞬間には、俺の体はさらに遠くに突き飛ばされていた。
他ならない、兄者自身の手によって。
俺は、俺から拒絶された。
(;<_; )「おれ!」
(*´_ゝ`)「おれはほんとに、泣き虫だよな。
男だし直さなきゃはずかしいよなぁ、やっぱり」
俺は、こんな状況だというのに笑っていた。
俺がこんなにも泣いているというのに、笑っていたのだ。
わけがわからなくて。
それでも、俺はもう一人を連れだそうとして立ちあがった。
――今でも、その瞬間を覚えている。
.
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