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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

1 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。

今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。

ご存じない方は、下記URLを参考ください。

ブーン文丸新聞 様
第一部      ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm

では、開始します。

353 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」

脂汗を流しながらモララーが聞く。

/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」

逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。

(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」

/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」

ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。

実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。


他に出来る人はいない。だから、一任する、と。


(;・∀・)「なぜ、今ここで?」

/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」


/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」

354 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
    じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」


/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」


/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
    戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」

/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」


(;-∀-)


モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。

結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。

戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。


/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
    こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
    災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」

/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
    ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」

/ ,' 3「出来るな?」

355 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。

優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。

でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。




わかってる。

ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。


重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。



(; ∀ )「はい」








――――。


部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。

356 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』

(  ∀ )『……いつでも』


戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。

それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。

もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?

想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。

/ ,' 3『では、始めよ!』


部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。

( ・∀・)「……!」

遅れて起こった変化は、上空からだった。

何かが落下してきている。

鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。

それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。

357 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)


モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。



異常は既に始まっている。

椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。

ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。


从三//从


从 ゚//从「…………あ?」


(;・∀・)「ッ!!!」


スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。

目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。


从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」

358 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。

対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。

かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。


从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」

口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。










/ ,' 3「始まったか……」


近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。

常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。

359 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。

中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。


どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。

魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。

下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。

スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。





从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」

( >∀・)「ぐっ!?」

無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。

だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。

目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。

360 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」

( ・∀・)「プロミネンス!」

高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。

从 ゚∀从「ふゥむ」

ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。

从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」

(;・∀・)「……」

从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」

(;・∀・)「……な!?」

言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。

从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
      一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」

クハハ、と楽し気に笑う。

从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」

361 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」


振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。

火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。


(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」

空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。

モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。

敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。

从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」

从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
      だから、攻め方もワンパターンなんだ。
      つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
      そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」

( ・∀・)「!」

いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。


从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
      理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
      そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」

362 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。

しばらくは動けないはずだ。

魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。

( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」

足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。

( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」

掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。

( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」


発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。

これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。

あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。


炸裂すれば、塵一つ残らない。

363 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」


はずなのに。


(;・∀・)「な……!?」


めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。

何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。

(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」

从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」

( ・∀・)「なんだって……?」

指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。

从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」

从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」

(;・∀・)「!」

从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」

从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
      スカルチノフは、イカれちまってんのか?」

364 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」

語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。

从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
      自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」

(; ∀ )「それは……!!」


呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。


从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」

片手で闇の波動魔術を放つ。

モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。

从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
      おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」

更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。

从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」

从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」

(;・∀・)「ぐぅうう……!!」

モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。

365 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。


理由はただ一つ。


この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。

当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。

だが、モララーは違った。

手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。


何故、今になっても尚そうするのか。

相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。


(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)


幾度も出た戦場の最中。

敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。

ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。

366 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。


何度も自問した。

回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。

いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。

習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。

怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。

そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。

でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。

時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。


ずっと。




(;・∀・)「うあぁあッ!!」

思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。

367 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从


从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」


飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。


从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」






从 -∀从



从 ゚∀从「バーンプロミネンス」


(;・∀・)「は!?」


片手をちょいと翳しただけだった。


そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』

上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。

368 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」


不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。


まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。

そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。

どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。


それなのに……!

(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)

スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。


(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」

落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。

十分、バーンプロミネンスに対抗できる。





从 ∀从「そこだよ」

369 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」



ハインリッヒの声だけが聞こえた。

モララーは辺りを伺う。

どこにも居ない。

……否。


どこにも居ないのではない。


何も見えなくなっている。


バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。


灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。


从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
      スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」



(;・∀・)「どこだ!」


从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
      お前さんは」

370 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。

从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
      目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」


(;・∀・)「ハインリッヒ!!」


膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。

伏せる彼の意識は既になかった。


从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」

モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。

本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。

少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。


目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。

371 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。

ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。



从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」



从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」



从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」



高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。




そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。



まるで当たり前のように、施錠を破壊した。








嘗四話「その扉を開く者」

372 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます

373名も無きAAのようです:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0


374名も無きAAのようです:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね

375名も無きAAのようです:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね

376 ◆mGwfd747EA:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください

377名も無きAAのようです:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk

378 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」





(;-∀-)



(;-∀・)




(;・∀・)




(;・∀・)「!!」



急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。

そこは自室だった。

379 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。



だからこそ焦る。


何故、自室に……!?


モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。


気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。

いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。



(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」

肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。

380 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。


何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。


それこそが最も大きな原因。




探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。

もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。


そうに違いない。


そう思いたい、



(;-∀-)




(; ∀ )「……………………あぁ。」

381 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。

風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。


それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。



探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。




城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。

意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。

辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。

医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。

不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。

ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。


何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。

382 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0

(;・∀・)「……! おじい様は!?」


動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。

捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。


(;-∀-)「……」


とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。

壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。

混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。

思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。

場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。


それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。


口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。

383 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)

いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。

それを手繰れば……!!

切り、貼り、伸ばし、繋げる。

空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。

(;・∀・)「……ここだ!」


魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。

予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。





/ ,' 3「待て」

(;・∀・)「国王陛下!」

手をあげて、降伏の仕草をするモララー。

いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。

384 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」

(;・∀・)「ご無事ですか!?」

場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。


だが、決定的な違和感がある。



/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」




(;・∀・)




(;-∀-)


言葉だけで、その意図は伝わった。

モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。

385 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。



数名、減っていた。



いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。


そこに居ない。

収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。


状況と、結果。


照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。


出てしまっていた。



彼らは、王を庇い殉職したのだと。



/ ,' 3「モララーくん」


(; ∀ )

386 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」



(; ∀ )



/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」



(;・∀・)「は、はい!」


気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。


/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」


/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」


/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」


/ ,' 3「……良いな?」

387 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)


(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」



顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。

残された部屋で、国王は思う。


未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。

けれど、やはりまだ少年なのだ。

怖かったはず。
辛かったはず。


ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。

見当はつかない。

だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。

頼れるのは彼だけだ。


自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。

388 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。

することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。


願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。







( ・∀・)「……」

暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。

俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。

初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。

今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。

綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。

意図を理解できていなかった。

389 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。

多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。

『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。


ああ。

結局、そんな決意も覚悟もなく。


ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。



(  ∀ )「……ごめんなさい」

謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。

苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。

どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。

深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。

390 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。

そもそも、その考え方が間違っている。


自分だけじゃないんだ。


ここにきて、世話になった人たち。

関わった以上、もう他人ではない。

そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。

心底、腹が立つ。


甘い。甘すぎる。甘っちょろい。


何度も言われていた気がする。思われていた気がする。

見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。



(  ∀ )「……はぁぁ……」



震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。

391 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。

冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。


こうなったのは、誰のせいだ。


自分だ。



……だが、やったのは誰だ。



あいつだ。



あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?


心臓が高鳴る。


今までの、緊張とは違う。

熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。

392 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0


そうだ。

そうだ。


あいつを世に放ったのが自分の責任なら。


自分自身で、始末をつけなくてはならない。


国王の命令だけじゃない。


今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。



――――憎い。



この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!



手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。



再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。


闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。

393 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0









从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」





そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。


どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。


被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。



( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」


( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」


从 ゚∀从「おォ、なんだ?」

394 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。


( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」

从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」


彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。


从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」


从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」


从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
      生きてても意味がねェんだ。だから殺す」


从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」

395 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0


( ・∀・)



( -∀-)



( ・∀・)「……ああ、良かった」



( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
       悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
       ぼくは少しは躊躇したかもしれない」


( ・∀・)「でも、違うんだな」


( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」


从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」



( -∀-)「いいや、助かった。
       おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」

396 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0






( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」





.

397 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。


从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)




凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。

全力を賭して、気兼ねなく殺せる。

最高だ。

その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。

それこそが、自分自身の生きている意味。

おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。



ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。



从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」





つづく

398 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。

399名も無きAAのようです:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー

400 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」



ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。


凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。


闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。


当然、彼のやるべきことは決まっていた。


溢れる魔力、強大な魔術。

多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。


若さゆえ、魔法力の回復は早い。


彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。

血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。

401 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60




从 ゚∀从(つまんねェな)

死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。

風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。


从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)


魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。

今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。


从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)


封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。

人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。

どれも簡単だ。


从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)

402 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。

他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。

研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。

圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。

その征服感が、最高に生を実感させていた。




……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。

不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。

最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。

専用の地下牢に投獄されることとなった。


本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い


いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。

403 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60


从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)


激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。

前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか

興味しかなかった。


( ・∀・)「……」

望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。


从 ゚∀从「!」


瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。

圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。

404 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:15:04 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「おっとォ!」

大地を両側に隆起させる。
直後に風の刃が衝突し、岩壁が崩れ落ちていった。

ハインリッヒは嬉しそうに笑うと、すぐさま迎撃を行う。

从 ゚∀从「フォーレンスタイン!!」

手に込めた魔力が青く光り、球体を生成する。
禁術の魔法名を叫ぶと、それは一直線にモララーに飛んで行った。

( ・∀・)「……プロミネンス!」

スペルキャンセラーを構えたモララーだったが、すぐに詠唱を変更する。
彼の洞察通り、それはかき消すことの出来ない魔法。
触れれば、永久的に凍結を繰り返し広がっていく恐ろしい氷魔法なのだ。

だから、モララーは火炎弾の連発で対抗する。
目にも止まらぬ速さで射出された、上級火炎魔法は十を超えた辺りで爆発を巻き起こした。

温度差による水蒸気爆発で巻きあがった煙。二人の視界は遮られる。


从 ゚∀从「アクアレーザー、ツヴァイ!」

指先から、細い水を圧縮させて放つのがアクアレーザーだ。
ハインリッヒは、圧縮(コンプレス)で累乗させ威力を増加。
眼前の煙ごと、一直線に切り裂いて確実に生命を奪いにかかる。

だが、その一閃は途中で角度を変える。
上空のあらぬ方向へ向かう原因は、モララーのスペルカウンターによるものだった。

405 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:16:59 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ハイライトニング」

塞がっていない方の手で、別の魔法を放つ。
上空に、雷による帯のようなものが形成された。

それは一つに収束すると、ハインリッヒに目掛けて無数の矢のように飛んでいく。

从 ゚∀从「マジックスカルヴ!」

連射される雷の刃は、途中で速度を失った。
ピタリと止まると、次に方向を変える。矛先はモララーの身体だ。
放った魔法を、意のままに操る禁術の効果である。

( ・∀・)「いちいち、面倒な魔法を……」

スペルキャンセラーを発動して、自身の魔法を相殺していく。
見たことのない魔術の連発に、モララーはやや苛立ちを覚えていた。


从 ゚∀从「ハッハッハッ! どうだよ、面白いだろォ!? 禁術はよォ!」

( ・∀・)「微塵も面白くなんかない」

高らかに笑うハインリッヒに、モララーは即答する。

从 ゚∀从「ちまちまやってたって、何も進まねェぜ!?
      こっちは『レナトス』を発動してんだ。
      そう簡単には魔力切れをおこさねェぞ!」

406 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:18:35 ID:OsElsdq60
通常、魔力を回復させるには休息を取る他ない。

時間経過以外には、薬などを使うしかないが
大気中の魔力を強制的に吸引し、自分のモノとする禁術がある。
それが『レナトス』だった。
植生や動物の生態に、悪い影響が出るので封じられた魔法である。

从 ゚∀从「オレを止めに来たんだろ!? だったらすることは一つじゃねェか!」

从 ゚∀从「取りにこいよ、オレの命をよ!」

( ・∀・)「最初からそのつもりだ」

手を向けると、魔力に引かれて数多の石礫が浮かび上がる。
土の上級魔法、ストーンレインだ。

从 ゚∀从「しょっぺえなァ、オイ!」

ハインリッヒが両手をかざす。
当たればケガではすまない速度や大きさの飛礫が、磁力のようにビタリと止まっていく。

从 ゚∀从「シュラムベディーネン」

徐々に徐々にそれは、形を成していく。
巨大な腕が、大きな腹が、太い足が。
全て岩石で形成された人形が、モララーの前に立ちはだかる。

石と石がぶつかり、軋む音を立てながら腕を振り上げてきた。

407 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:22:06 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ギガブラスト!」

それよりも早く、モララーが無属性魔法を胸元に叩き込んだ。
動力源である核を完璧にとらえたその一撃は、轟音を立てながら活動を停止させる。

石と雨水の隙間から、鋭い視線が飛んでくることに、ハインリッヒは思わず笑みを浮かべた。


从 ゚∀从「……ハッハッハッ。いいねェ、いいぜ。モララーよォ」


从 ゚∀从「その暴力的な魔術、破壊的な魔力! オメーは、戦いの為に生まれてきたんだな!」

( ・∀・)「違う」

戦うことが、殺し合うことが楽しくてたまらないハインリッヒ。
あざ笑うような挑発に、モララーは間髪入れずに否定する。


从 ゚∀从「違うもんか! そんだけの超人的な能力を、何故正しい方向に使おうとしない!?」

(  ∀ )「違う!!」

鳴り響く雷にかき消されぬよう、声を荒げて拒絶する。


(  ∀ )「そんな……そんな悲しい生き方をするために、ボクは生まれてきたんじゃない!」


(#・∀・)「人を殺すことが! その為だけの力なんてものが、正しいわけがない!」

408 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:25:01 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「綺麗事を言うんじゃねェよ……。じゃあ、オメーの大好きな国王陛下を
      オメーは否定すんのか?」

( ・∀・)「なに……?」

从 ゚∀从「国に仕えている戦士は皆、人を殺すために日々鍛錬している。
      そして鍛えられた奴らを、正しく利用するのが統率者。つまり国王だろう」

从 ゚∀从「国王は、戦うことを。戦争の為の力を、正しく使ってると思うが?
      オメーは、それを拒むんだな?
      間接的な殺人鬼である、国王陛下を否定するんだな!?」


(  ∀ )「…………それは……!!」


从 ゚∀从「いいか、モララー!
      命を与えられ、戦場に立っている駒が出来ることは二つ!
      敵を殺すか、敵に殺されるかだ。それ以上も以下もねえ!」


从 ゚∀从「ごちゃごちゃ難しいこと考える必要なんざねーんだよ。
     好きなように、好きなだけ暴れる。
     その先にある景色は、死体の山か真っ暗な空か、どっちかだ!」


从 ゚∀从「人を殺す力が、正しくないだァ……? 笑わせるぜ。
      その台詞、騎士や魔術師の連中に言えるか?」

(;・∀・)「!」


从 ゚∀从「オメーは自分自身で、戦士としての『仲間』をバカにしてんだよ」

409 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:26:48 ID:OsElsdq60


(  ∀ )「違う……違う……!!」


从 ゚∀从「ハッハッハッ! そーかいそーかい。それでも『違う』んかよ」


从 ゚∀从「だったら、することは一つだよなァ……?」


从 ゚∀从「……お前が、真の戦士であることを」


从 ゚∀从「大事な大事なオトモダチに! 国王サマに!
      自分の存在価値がまだあることを!
      人を殺せるんだ って、証明してみせろや!」


(  ∀ )「……さっきも言ったはずだ」




( ・∀・)「最初から、そのつもりだ、と」

410 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:28:03 ID:OsElsdq60
从 -∀从「クク……いいねェ」



まだ迷っていた幼い瞳が、更に深淵を増していく。

もっともっと。

強い殺意を、激しい恨みを!

怒りは力を引き出してくれる。

そんな極上の相手を、自分の培った力で真っ当に殺す。


これ以上の快楽は世に二つと無い。


堪えきれない笑みを浮かべ、ハインリッヒは再びモララーへ猛攻を仕掛けるのだった。








――――。


(;メω-)「む……う……」



遠く離れたNEET城の医務室。
ロマネスク団長が、呻き声を開けながら目を覚ました。

411 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:29:35 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「ここ……は……?」

ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君。よかった、起きたんだ」

川 ゚ -゚)「まだ熱が引いていない。寝てると良い」

天井までの視界を遮るのは、幼馴染と妻の姿。
育児のため一時的に戦線から離れていたはずだが……。

(;メωФ)「クー、どうしてココに?」

川 ゚ -゚)「聞いたこともないくらいの重傷と聞いてな。
     居てもたってもいられなくて来たんだ」

摩擦を感じさせない長い髪を、キラキラと反射させながらかき分ける。
ロマネスクの妻のクーレ=ホライゾネルは、不安と安心の入り混じった顔で
疲労の溜まった ため息をついた。

(;メωФ)「ブーンは?」

川 ゚ -゚)「母さんが見てくれてるよ」

(;メωФ)「そうであるか……」

ζ(゚ー゚*ζ「それにしても傷だけで良かったね。
       五体満足なのは、幸運だったとしか言いようがないよ」

(;メωФ)「……うむ。ブスダドクオ……恐ろしい男だったのである」

川 ゚ -゚)「……ロマネは知らないだろうが。
     実は今の王都は、もっと危険な状態なんだ」

412 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:31:57 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「? どういう……」

言いかけたロマネスクが、とある異変に気付く。
痛む身体を無理やり持ち上げ、窓でもないあらぬ方向の壁を見た。


(;メωФ)「……なんであるか、この強烈な魔力の波動は……?」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ロマネ君でもわかるんだ。凄いね、騎士なのに」

川 ゚ -゚)「私はさっぱりだが……デレもわかるんだな」

ζ(゚ー゚*ζ「まあね。これだけの魔力、魔術師なら誰でもわかるよ」

(;メωФ)「何が起こっているのである……?」


デレは今の城の状況を説明した。
ドクオに敗れて、ニメア地区が陥落した件。
それに伴い、国王がモララーと『白炎』ハインリッヒを対峙させたこと。

目的は、モララーに殺生の経験をさせて、戦力として扱えるようにすること。

だが、モララーは敗れハインリッヒは逃亡。
街を半壊させて、大きな被害を生み出した。


その後始末として、再びモララーがハインリッヒを追い
今現在、戦っているであろうこと。

413 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:34:03 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「そんな……。モララー殿に加勢は向かってないのであるか?」

ζ(゚ー゚*ζ「わかるでしょ? 巻き込まれるだけだよ」

(;メωФ)「しかし……一度は敗れた相手なのである。
       そもそも、モララー殿は強くとも、まだ少年なのである。
      いくらなんでも、何もかも背負わせすぎでは……?」

川 ゚ -゚)「……それはきっと、誰でも思っていることだ。
     戦線に居なかった私ですら、聞き及んだ情報だけでも
     十分に無理させすぎていると感じるよ」

(;メωФ)「だったら……」

ζ(゚ー゚*ζ「それでも、信じるしかないんじゃないかな。
      モララーくんなら、きっと出来るって。
      この終わりの見えない戦いを、終わらせる光になってくれる、って」

ζ(゚ー゚*ζ「その為に……殻を破るためには必要なことなんだと思う」

(;メω-)「…………残酷であるな」

川 ゚ -゚)「だがロマネも、薄々同じことを思っているんだろう?」

(;メω-)「……だから、言ったのである」

(;メωФ)「残酷であるな、と」


ロマネスクもデレも、直接モララーの人となりを知ってきた身だ。
今、どんな気持ちで戦っているのか。
想像に難くない。

414 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:35:20 ID:OsElsdq60
だけど、それを止めることはきっともう出来ない。
止めてしまえば、彼はもう戦士になることはないから。

取り返しのつかない現実と、向き合う強さを手に入れなくてはならないのだ。

掛けられたシーツを力一杯ロマネスクは握りしめた。
遠く壁の向こうを見つめているデレも、同じような心境だろう。

座して待つしか出来ない、この歯がゆさは激しい雨音の中に溶けていった。












从 ゚∀从「チィッ!」

手で地面を抉り、吹き飛ぶ勢いを殺しながら、ハインリッヒが舌打ちをする。

相変わらずの殺気と鋭い目で、モララーはひたすらに攻撃を続けていた。

いつの間にか、周囲は殺風景になっていた。
何度も何度も強力な魔法が叩きつけられたせいで、岩肌がいくつも露出している。

415 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:36:56 ID:OsElsdq60
豪雨に揺れる草も、雷で焼かれた木々も既に何もない。

モララーの足元、彼の半径数センチのみ自然が残っているだけ。

そう、それは余りにも奇妙で不愉快な状態。
ハインリッヒはとっくに気付いており、苛立ちを覚えていた。


从 ゚∀从(このガキ……さっきから一歩も動いてやがらねェ!!)

圧倒的な差を見せつける為なのか。
手を抜いているのか。

真意はわからないが、一つだけ受け取れる意思がある。

从#゚∀从「てめェ……オレをナメてんのか!?」

( ・∀・)「バカを言うな。手を抜いているつもりはない」

冗談ではないトーンで返事をする。
すっかりモララーは落ち着きを取り戻していた。
その異様な静けさに、ハインリッヒは焦燥感を覚える。


じゃあ、一体なんのつもりなのだ。


殺す気なのはわかっている。
だが、出し惜しみをされるのは、腹が立つ以外のなにものでもない。


ハインリッヒは青筋を立てながら、あえてその意向を砕こうと魔法を放った。

416 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:38:45 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「ガイアクラッシャー!!」

大地にひびが入る。
数舜後、地面が割れて万物を飲み込む岩壁となる。

再び閉じると圧迫し潰し、対象ごと土へと還す『大魔法』だ。

以前と同様、詠唱を破棄しての発動。
普通なら生まれる隙も無く、それは発揮される。


( ・∀・)「もう少しなんだ。大人しくしていろ」


モララーが不機嫌そうに足を踏み込んだ。
破裂する音が鳴り響き、ガイアクラッシャーが打ち消される。

从;゚∀从「なッ……!?」

容易ではないはずだ。
詠唱破棄は工程を飛ばす分、威力が落ちる。安定性も非常に悪い。

だが、ハインリッヒはその問題を禁術の行使で解決していた。


なのに、かき消された?
当然だが、モララーは禁術など使えない。
破った方法は一つ。

スペルキャンセラーだろう。
つまり、純粋な力の差で覆したわけとなる。


从;゚∀从(……まさか……そんなわけが……!!)

417 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:40:56 ID:OsElsdq60
その才に、ようやく畏怖の念を抱き始めたハインリッヒ。
先ほどから、禁術を用いても動かない戦況に、焦りを感じなかったわけではない。


だが、認めたくなかった。


自分の方が、上のはずだ。
経験も知識も、こんな小僧より勝っているはず。

理解できない。したくもない。


だって、だって。
オレ様は、世界一の魔術師だったんじゃないのか?


大魔法も、禁術も使いこなした。

誰にも負けない、絶対無二の存在なんじゃないのか。


もしかして……。


この小僧は……そんな領域の更に外にいる……

正真正銘の『真っ当な怪物』だって言うのか……!?


理性がようやく、その危険性を理解した。


だが、全て遅かった。

418 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:43:59 ID:OsElsdq60


モララーの準備は既に整ってしまっていたから。



( ・∀・)「……よし、これならいける」


モララーが、小さく頷き魔力を高めた。
足元には、虹色に輝く魔法陣が浮かび上がっている。

動かないのではなく、動けなかったのはすべてこの行為のため。
力を、魔力を溜め、集中するにはその場に留まるしかなかった。



吹き荒れる暴風と雨に晒される黒いマント。
ちぎれそうなほど、長い髪がはためく。




( ・∀・)「行くぞ、ハインリッヒ。覚悟しろ」


キッと目の前にいるハインリッヒを睨みつける。
光を宿さない、吸い込むような暗い双眸が、動揺する禁術使いの眼を捉えた。





( ・∀・)「……八重連唱(エイツスペル)」

419 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:45:34 ID:OsElsdq60
从;゚∀从「は……!?」


何を言ったのか、何も理解できなかった。
二重詠唱(デュアルスペル)ですら、習得は容易ではない。
だが、この若き大魔術師はまさかの『八重』と口にした。

ハッタリだ。そんなこと、出来るわけがない。

何をしてくるのか、身構えるハインリッヒ。
そこから先の行動は、例え彼が世の理から外れた魔術師であろうと
到底理解できず、到達できない領域の神業だった。


( ・∀・)「プロファウンドバスター!」

突き出し開いた右腕を、左手で支える。
紺碧の魔法陣から解き放たれるは、水の『大魔法』。

しかもハインリッヒがやってみせたのを、見よう見まねで覚えた詠唱破棄で、だ。


从;゚∀从「ぐォおおおお!?」


瞬時に発射されるのは、超高圧縮された水の収束砲。
圧縮されたとはいえ、その半径は数メートルに及ぶ。

噴出の勢いで、粉々にするか
そのまま流されて、何かに衝突して死ぬか。

何にせよ、まともに直撃すれば命の保証はない強力な魔術だ。

420 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:47:13 ID:OsElsdq60
ハインリッヒはとっさに、前方に禁術のバリアを張って防いでいた。
カウンターもキャンセルも、間に合わないと判断したためだ。

しかし、それが悪手であることは気付いている。
押さえつけている間に、すぐさま反撃に出ないと危険なのだ。


从;゚∀从「これは……アブソリュートゼロか!」

周囲の水が、みるみるうちに凍結していく。
激流の隙間からわずかに見える景色も、既に氷の壁になっていた。


対象を挟むようにして、氷山を形成。
その合間を、凄まじい速度で氷柱が往復して着弾と共に芯まで凍結させる。

それが氷の大魔法、アブソリュートゼロだ。

从;゚∀从(連続詠唱……しかも『大魔法』のだと……?)

出来るわけがない。
大魔法はそもそも、手練れの魔術師以外は発動することすら
まともに出来ない最高等魔法だ。

ハインリッヒが禁術を用いたとして、どのように組み込めば実現できるのか。
見当もつかない。

从;゚∀从(とにかく、この状況を抜け出さねえと!)

気温が下がり、息が白くなってきた。

足元にひびが入る。
魔力により氷が溶けているわけではない。
これは、土の大魔法ガイアクラッシャーが発動する予兆だ。

421 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:48:40 ID:OsElsdq60
防護壁を保ったまま、ハインリッヒは別の魔法を急いで唱える。

青色の魔法陣を足元に発動させ、空間転移魔法で脱出を試みた。


意識が消える直前、空が白んでいたのが視界の端に映る

遠くにかすかに輝いていたのは、金色の魔法陣。
上空から降り注ぐ強烈な雷の大魔法『ルーミナスブリッツ』は、寸でのところで回避できたようだ。


从;゚∀从「くそっ!」

普段の空間転移魔法であれば、遠く遥か彼方まで飛べただろう。
だが、それは叶わない。

中空に浮かび上がり、ある程度の距離を稼いだと思ったときだった。
より強力な魔法によって足止めされてしまったのだ。
光球になった身体が、人体へ強制変換される。

原因は、竜巻による乱気流だ。


天候が突然悪化したわけではない。
モララーが放った風の大魔法、アイオロスストームによるもの。

大地を抉り空を裂くほどの威力を持つ、巨大な旋風を放つ魔法。

422 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:49:59 ID:OsElsdq60
空中に放り出されたハインリッヒは、すぐさま態勢を整える。

从;゚∀从「!!」

その動作すら既に遅い。
竜巻を横断するように、無数のオレンジ色の光が空を覆う。
円形の陣を描くそれは、途端に爆発の連鎖を巻き起こし巨大な破壊空間へと変貌した。


( ・∀・)「……」

爆風で激しくはためく、外套と長髪。
強い発光と放射熱の降り注ぐ中、モララーは目を細めず
じっと、無属性大魔法の発生源を見据える。

そして気配を感じ取ると、息を一つ強く吸った。



( ・∀・)「「バーンプロミネンス!!」」从∀゚#从



巨大な火の玉が、太陽のような輝きで強烈に拮抗する。
降り注ぐ雨すら、近づく前に蒸発して消え去るほどの高熱空間が生まれ
燃ゆるべきはずの草木すら既に無い。
枯れた大地も、熱せられた鉄のようにゆっくり軟化してゆく。


从#゚∀从(んなわけがあるか……!!)


ハインリッヒが憤ったのは、彼が完全詠唱でバーンプロミネンスを放ったからだ。
詠唱破棄の場合と違い、安定性も魔力量も増大する。

そのはずなのに……なぜ、互角になる……?

423 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:51:48 ID:OsElsdq60
押しても押しても、込められる限界の魔力を撃っても

手順を省き、なおかつ連続で詠唱している最中という不安定な状態の!
片手間のような大魔法相手に、なぜ勝負がつかない!?

これが、本気の大魔術師の力だというのか……!?


从#゚∀从「だったらァ!!」


使うのは禁術。
ハインリッヒは自らの身体へ、過剰に回復する魔法を使った。
通常なら、すぐに組織が壊死してしまう危険な治癒魔法。

だが、それを上回る破壊が起これば話は別。


从#゚∀从「グランツプロメテウス!!」

両手を掲げ、魔力を込める。
深紅の魔法陣が浮かび上がり、その先に生まれたのは太陽だった。

正しくは、太陽のような火炎球。
バーンプロミネンスをも超える、赤を超え白く輝く光の塊。

触れるどころか、近づくだけで骨も焼け散るほどの熱量と
一帯を焦土にするには容易い範囲を持つ、危険な魔法。

下手な術者であれば、コントロールすら出来ずに燃え尽きてしまうほど。
禁術を使い、強制的に魔力を隷属化し、肉体を再生し続けなくては使えない、まさに秘術だ。

424 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:53:10 ID:OsElsdq60
从#゚∀从「こいつで終わりだァああッッッ!!」

まだ消えていない、目の前の熱エネルギーフィールドに向かって
ハインリッヒは、思い切り投げつけた。



从;゚∀从「!?」



はずだった。


竜巻の乱気流は、グランドエクスプロードで晴れていた。
姿勢を保つための魔術は、空中浮遊と無反動化のみで良かったはずだ。

それなのに、なぜ自分は未だに遠くに向かうような『流れ』に抗っている?


从;゚∀从「ネインエスパルダかよ……!」


周りを見渡すと、真っ黒な空間に居るようだった。
悪天候を上手く利用されたみたいで、気付くのに遅れてしまったのだ。

一体いつから?
グランツプロメテウスは、発動すら出来なかったのか?

考える暇もない。
居るだけで、精神が摩耗する場所な上に
次、いつ追撃が来るかわからないのだから。

今は急いで、この空間から脱出を……。


从 ゚∀从「……待てよ」

425 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:55:14 ID:OsElsdq60
スペルキャンセラーを倍加して放とうとしたハインリッヒは、魔力の発生を止める。

猛攻撃が始まる前、モララーが口にしていた言葉。


八重連唱(エイツスペル)


何を連続詠唱するのか、気にする隙もなかったが。


何故、八つなのだ?


大魔法の連発を全属性行うなら、『九つ』のはず。

炎、水、氷、風、雷、土、光、闇。
この世に存在している属性はこれだけ。
無属性の魔法形態もあるので、加えれば九個あるはずなのだ。

モララーは既に、八つ使っている。無属性を使用したのならば、残りの属性は一つだ。


从 ゚∀从「こいつァ、都合が良いじゃねーか」

度重なる禁術と攻撃のせいで、既に心身ともに限界が近いハインリッヒ。
だが、それでも彼は笑った。

殺し合いの最中、勝てる算段が見つけられた快楽。
自分より上位の存在を、自らの術で殺せる喜び。

今、これからやる方法を使えば実現が出来る。

光明に希望を賭したハインリッヒは、手をかざし魔力を込めた。

426 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:56:41 ID:OsElsdq60




( ・∀・)「我は刻もう汝の名を」



真っ黒な半円状の空間が目の前にあった。
発動と同時に地表に降り立った闇の大魔法の中には、ハインリッヒが居るはず。

火炎の禁術は既に相殺し終えており、その場にはもうない。

モララーは最後の止めを刺すために大魔法の詠唱を行っていた。




( ・∀・)「神は下そう聖なる裁き」



左手を広げて、前に突き出し言葉を繋ぐ。

足元には銀色の魔法陣が。
そして周囲には、地面からいくつもの光の柱がそびえたっている。



( ・∀・)「根源へ還れ」



( ・∀・)「シャイニースティングレイ……!」



一帯に発生していた光が、帯となりモララーの左手へ収束する。
凝縮され小さな球になると、モララーはそれを握りしめた。

それは、光の弓に変化する。
激しくエネルギーの噴出する弓弭。
右手で弓柄を握ると、同じような波動の矢が形成された。

427 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:58:14 ID:OsElsdq60
水の大魔法、プロファウンドバスターほどの範囲はないが
逆に収斂されたことで、破壊力を増大させた光の大魔法。


最後の決め手だけは、詠唱を行い完全な威力で放とうと決めていた。


だから、モララーはわかっていたのだ。
ネインエスパルダでは、ハインリッヒが死にはしないことを。

次に姿が見えた時、その時こそ全力全霊の魔法で殺す。

決意を込めて、出方を待った。




( ・∀・)「……!」


どれだけの時間を待っただろうか。
息を吸って、吐いて。

次の一撃で、確実に仕留める。
決意を持つには十分な時間。

突如、ネインエスパルダが破られた。
紙を引き裂くように、大きく手を振りかぶり漆黒を消し飛ばしていく。

428 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:59:42 ID:OsElsdq60




从 ∀从




禁術使いは、まだ頭の中が安定しないのか。
その行動だけで手いっぱいなのか。


あまりにも、隙だらけだった。


( -∀-)「……」


( ・∀・)「終わりだ!」


少しだけ震える手を、矢に番えた指を。
覚悟を持って振り切った。


光の弓矢が、一直線に飛んでいく。
衝撃でモララーの足元に唯一残っていた、最後の草原が土に還る。

雨水を寄せ付けることなく、何にも阻まれることなく真っすぐに。


ハインリッヒの、項垂れた脳天に飛んでいき
強い衝撃波を放ちながら、激突した。

429 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:01:25 ID:OsElsdq60









(;・∀・)「!?」


すぐに異変に気付く。

……衝撃波が出るわけがない。

命中すれば、抵抗もなく彼方へ光矢は飛んでいく。
武器では決して作りえないほどの、鋭利な痕を残すだけのはず。


ハインリッヒは、手を突き出して受け止めたのだ。


異変はもう一つある。

ネインエスパルダを破り裂いた手に、暗黒の球体が握られていたのだ。





从 ∀从「クク……ハッハッハッ!」

430 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:03:06 ID:OsElsdq60

从 ゚∀从「なァ、モララー。お前、疑問に思ったことァねえか?」

从 ゚∀从「なんで、この圧縮(コンプレス)なんて、単純な魔法が
      禁術に指定されているのか、ってよォ……?」


停止したシャイニースティングレイが、徐々に丸みを帯びていく。
あっという間にそれは、反対の手に握った黒球と同じサイズに変貌する。


高らかに笑うハインリッヒは、興奮しっぱなしだった。

こんなこと、普通はできるはずがない。
出来るわけもない禁術だと思っていた。


从 ゚∀从「コンプレス自体は、なんてこたァねえ魔法だ。
      当然だよな。これは、ある魔法の一過程にすぎねえんだからよ」

高純度で、高密度の魔力。
それが生み出す、ハインリッヒすら目で見るのは初めての大禁術が
今完成しようとしていた。


从 ゚∀从「こいつは、魔力同士を合成するためにある禁術でなァ……」


両手に込めた、大魔法の圧縮体をハインリッヒは合わせていく。


从 ゚∀从「相反する属性を重ねると出来る、とんでもねェ破滅魔法が、この……!!」



从 ゚∀从「ディアブロニューケルンだ!」

431 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:04:58 ID:OsElsdq60
発動してしまえば、それはまさに悪魔(ディアブロ)の如き効果をもたらす。

小さな村一つなら、容易に消し飛ばせる殲滅力。
それだけなら、グランドエクスプロードでも事足りるだろう。

この禁術の恐ろしい所は、凄惨な爪痕を残すこと。
余波だけでも、皮膚は焼けおち治癒魔法すら受け付けなくなる。
少しずつ身体を蝕み、やがて確実に死に至る。

植物や土壌も同じだ。
魔力残滓がある限り、育つことも植えることもない。

『死』という概念そのものを顕現するような、恐ろしい禁術。
使おうと考える者もほとんどおらず
実現に至る威力を生み出せるほど強い魔力を持つ者も、過去に居なかった。


それが今、ここにある。


从 ゚∀从「さあ、覚悟しろよモララー……!!
      てめェの魔法で、この大地もろとも!」




从#゚∀从「消えてなくなれェーーーー!!」

432 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:06:41 ID:OsElsdq60
















次の瞬間。


ハインリッヒは無手になっていた。

433 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:08:05 ID:OsElsdq60
从;゚∀从(……な……に……?)

さっきまで抱えていた、モララーの大魔法。
圧縮されたそれは、既にない。

どこにも、ない。

空の手を見てみるが、わずかな魔力があるだけ。
逆にそれが、本当に消失したことを実感させる。

从;゚∀从「!」


焦ったハインリッヒは、次に目の前にいるモララーを見た。


何かをしたはずだ。

そう思い視線を動かす。


从;゚∀从(ちげェ!)


視界に捉えた場所に、モララーの姿はあった。

だが、そこには居ない。
見えているのは幻影。

ずっとその場を動こうとしなかったモララーが、どこにも居ないのだ。


一体どこへ……!?

434 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:10:00 ID:OsElsdq60
脳内をフル稼働させてハインリッヒは魔法で探る。

そして見つけた。


从;゚∀从(後ろか!!)



ハインリッヒは振り返ることは出来なかった。


風景が傾く。
全く力の入らない首へ、懸命に力を込める。

ダメだ。

無理なのだ。






彼の、その首は既に…………。

435 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:11:46 ID:OsElsdq60






(  ∀ )


ハインリッヒが、自分の事態に気付く数舜前。

スペルカウンターを微小に放ち、ディアブロニューケルンを阻止した。
融合する魔力が均等でなければ発動できない魔法。
モララーは瞬時に見切り、対処した。

均衡の崩れた魔法は、目論見通り雲散したようだ。


そして、必殺の一撃を放つ時こそが最大の隙が生まれる。


今まで動かずに、八重連唱の為に蓄えた力はもう必要ない。

得意の幻影魔法で、最後の一手を打ち。

得意の移動魔法で、足音もなく背後に回り込む。


モララーの手には、光の刃が伸びていた。
残り少ない魔力で使える、絶対致死の攻撃魔法。

手刀の形で、全力を込めて交差するように構える。

436 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:12:48 ID:OsElsdq60



この手を振りぬけば。



ハインリッヒは確実に死ぬだろう。


細い首を、撫でる様に水平に薙ぐことで、生命を奪える。



だが。


それは……殺すということは。


モララーにとっては、重く深く根強い障壁。



でも……!




モララーは歯を食いしばる。


したくない。できれば穏便に済ませたい。


しかし、それは出来ない。


この人間は、たくさんの人を殺してきた。
これからも、ずっとそうあり続けるだろう。

437 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:14:25 ID:OsElsdq60
いつか、シャキンに言われたことが脳裏に浮かぶ。


このまま野放しにすれば、自分の大好きな人たちを失うことになるだろう。



それだけは、嫌だ。



(  ∀ )(ボクは……!!)




足を踏み込む。
ぬかるんだ土砂に負けないよう、懸命に力を込めた。



(  ∀ )(もう、大好きな人たちを失わないように……)



(  ∀ )(大好きな人たちを守るために……!!)




(  ∀ )(大好きな『人間』を……!!)

438 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:16:22 ID:OsElsdq60








――――――殺す!!!







.

439 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:18:08 ID:OsElsdq60







甲高い音が鳴り響いた。


寸分狂わずに放たれた一閃。


衝撃で一帯の雨が瞬間的に晴れる。


遅れて起こった現実から。


モララーは懸命に目をそらさず、見続けた。




从 ゚∀从「…………ア?」




ハインリッヒの景色が傾いた。
何事かと抗うが、どうしようもない。


視界がぐるりと回転していく。


見えるのは、自分の身体。
首だけがない、自身の胴体。

440 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:20:05 ID:OsElsdq60


从 ゚∀从(あァ……なんだ……やられちまったのかよ……)



やけに冷静な自分に驚きつつも、意識が薄れていくことを実感する。
再生魔法を唱えようとしたが、もうそれすら追いつかない。

色々と思うことがあった。
負けた悔しさ、勝てなかった怒り、抗えなかった恐怖。

ハインリッヒの人生の始まりから、今のこの時までが一瞬にして脳裏に駆け巡った。

その思考も、徐々に霞んでいく。


从  ∀从(これでようやく、お前も……オレ達の『仲間』だな……)



死にゆく瞬間。


ハインリッヒはニヤリとしながら、最期の言葉を口にした。





从 ゚∀从「地獄で、待ってるぜ」

441 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:21:50 ID:OsElsdq60





( ・∀・)






(  ∀ )






(  ∀ )「……ああ。またな」

442 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:23:37 ID:OsElsdq60
重たい着地音が鳴る。

余波で晴れていた周囲に豪雨が再び降り注いだ。
同時に、ハインリッヒだったものから重力に逆らうように
多量の赤い液体が噴出される。


立ったまま動かないモララーは、その血と雨を一身に浴び続ける。


力が抜けて、死体が地面へ。泥を打ち上げながら倒れこんだ。



遅れて、モララーも膝から崩れ落ちる。


(; ∀ )「はぁ……はぁ……」

呼吸が浅い。
懸命に息を吸っているのに、肺の奥まで酸素が届かない。

こみ上げてくるものがあり、我慢できず吐き出す。

血だった。

大魔法を連発した反動だろう。
せき込みながら溢れてくる体液を、手で抑え込む。

443 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:27:22 ID:OsElsdq60
咳き終え、ガンガンと痛む頭と朦朧とする視界。

そこに映るのは、雨に流れていく二人の赤い液体。


現実に起こった、自分自身の決着を痛感する。


拳を握りしめると、モララーは天を仰いだ。






( ;∀;)






もう雨なのか、涙なのかわからない。

思わず作った握りこぶしを、モララーは地面にたたきつけた。

444 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:29:29 ID:OsElsdq60
砂利で皮が裂けようと

その行為に何の意味が無いと知りつつも

何度も

何度も。



入り混じった複雑な感情を


ぶつけようのない心の内を


流れる雨と血に身を任せるように


ただただ、頭を垂れたまま大地にぶつけながら


仄暗い心に溶かしていくのであった。







つづく

445 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 22:31:12 ID:OsElsdq60
次回で最終回です。
結構かかるなぁ、と思ってたのですが意外とあっという間でしたね。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

446名も無きAAのようです:2021/04/10(土) 22:45:56 ID:L4zEoQWc0
乙です!モララーくんついにあちら側の住人になっちゃったか

447名も無きAAのようです:2021/04/11(日) 00:36:10 ID:3oQQM0P60
ハイン出てきてからの展開特に熱い

448名も無きAAのようです:2021/04/11(日) 10:24:33 ID:cRjnxFDA0
otsu

449 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:01:28 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……む?」

遠くで鳴り響く轟雷が止まった。
作戦室の窓を開き、外を見る。

降り続いていた雨は止み、空からは幾筋もの光が差し込んでいた。

窓の淵からしたたり落ちる水滴を見ていると、国王は何かに気付いた。


/ ,' 3「……まさか」


その原因と理由はすぐに理解できることとなる。
彼の背後が、緑色に輝いたからだ。

この魔法を使える人間を、スカルチノフは一人しか知らない。
事の顛末を見守りながら、深く唾を嚥下すると
次の瞬間には、想像通りの景色が目の前に広がった。


(  ∀ )


びしょ濡れの少年が立っていた。
身体をなぞる雨粒すら気にも止めず、俯いたまま。
結んだ長い髪は、絞れそうなほど水分を含んでいる。


/ ,' 3「モララーくん……」


少年の名を呼びかけると、彼は徐に、後ろに手にしたものを見せてきた。

450 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:05:12 ID:f.Pjzmts0



从 ∀从



それは、白炎ハインリッヒ=ボンデリンクの首だった。
背後には、繋がれるべき胴体もある。


/ ,' 3「よくやった。よくやったな、大魔術師よ……!」

孫にも等しい子の肩を抱こうと、スカルチノフは近寄った。
だが、その行為は果たされることはなく。

ゆっくり髪を手放すと、一礼をしてからモララーは作戦室を黙って出ていった。


/ ,' 3「……」


言いようのない感情で、スカルチノフは涙を流してしまいそうだった。
歯を食いしばり、まだ作戦会議中であったことを糧に気を取り直し
遺体の処理を迅速に命令した後、国王は仕事へ身を費やすこととした。








――――。


次の日の朝であった。

スカルチノフは隈の出来た顔で、朝食を取りに食堂へ向かっていた。
次々に舞い起こる問題の数々。
最重要地区のニメアが陥落したことで、敵陣営の動きが活発になっていた。

451 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:06:49 ID:f.Pjzmts0
ここで、最善の手を打たないと下手をすれば王都にまで被害が及ぶ。
どうにか出来ないかと策を張り巡らせていたら、いつの間にか朝だったというわけだ。

大きなあくびをし、重たい身体で窓から除く日光を浴びる。

/ ,' 3(……あの子が、早く元気を出してくれればよいが)

戻ってきてから、一度も会話をしていない。
部屋に戻ったことだけは知っているが、何かを話せば
そのガラスのような心を割ってしまいそうで。

本人には伝えていないが、落ち着くまで休暇を与えるように通達していた。

不満を漏らすものも当然いたが、大半は納得してくれたようだ。
部下たちの心遣いに甘え、この問題は一旦保留。





( ・∀・)「国王陛下」


にする、はずだった。


落ちそうな目玉を瞬きでなんとかひっこめ、スカルチノフは狼狽しつつ問う。

/ ,' 3「も、モララーくん。……もう平気なのかの……?」

( ・∀・)「ええ。ご心配おかけました。魔力もすっかり元通りです」

452 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。

だが、その命令にモララーは首を横に振る。

( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」


( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」


震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。


( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」


( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」



( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
       必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」




( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」


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