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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

452 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。

だが、その命令にモララーは首を横に振る。

( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」


( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」


震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。


( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」


( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」



( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
       必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」




( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」

453 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:10:11 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……モララーくん」


悩んだのだろう。
悔やんだのだろう。

人殺しを、あれほど拒んでいた以上
最初の感覚は、きっと忘れない。

もう少し時間が掛かると思っていた。
だが、想像する以上に彼は強靭な精神を培っていたのだ。


初めて見せてくれた、自ら戦場へ出るという意志。


それがどういうことを意味するのか。

スカルチノフは頷くと、まだ震えている少年の肩に手を置き。

/ ,' 3「精一杯、頑張りなさい。我らがVIPの為に」

激励の言葉をかけることで、その背中を押した。






――――。



( ´_ゝ`)「なあ、弟者」

(´<_` )「なんだ兄者」

454 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:11:33 ID:f.Pjzmts0
騎士と魔術師の兄弟が馬を率いて、戦場へ駆けていた。
数名の戦士達と共に向かう先は、シャトワという地域。

激戦区であり、陥落してしまったニメア地区から遠く離れた戦場だ。
VIP大陸にある数少ないラウンジ側の拠点なのだが
奪還しても、大きなアドバンテージにはならないと放置されていた箇所。

場所も王都から遠く、兵を出そうにも中々出しにくいので
ニメア地区陥落からは、完全に後回しにされていたのだが……。

( ´_ゝ`)「俺達、今から戦後処理に行く……んだよな?」

(´<_` )「そうだな」

( ´_ゝ`)「何やら先行部隊が居るそうだが……。
       戦闘開始から、まだ1時間ぐらいだと思うが」

(´<_` )「ああ、そう聞いている」

( ´_ゝ`)「いくらなんでも、早すぎやしないか?
      増援じゃなく、戦後処理だろ?」

(´<_` )「ああ、そうだな。だが、間違いはないぞ」

( ´_ゝ`)「本当か?」

(´<_` )「本当だ。おれにとっては、ようやくなのかとしか思えないが……」


(´<_` )「どうやら、噂の『大魔術師』さんが本気になってくれたらしいからな」

455 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:13:10 ID:f.Pjzmts0
( ´_ゝ`)「近衛魔術師を片手で捻るという、あの噂の……?」

(´<_` )「城で見かけたことがあるが、普通の少年に見えたがな」

( ´_ゝ`)「……いや、なるほど。確かに、本物だ」

(´<_` )「うん?」

( ´_ゝ`)「見えてきたぞ、弟者」



黒煙が空にあがっていた。
強大な魔力の余波を感じながら、戦士たちは戦場へ到達する。


( ・∀・)「ああ、お待ちしてましたよ。ご苦労様です」

出迎えたのは、黒衣から埃を叩き落とす少年。
優し気な笑顔の後ろに広がる光景を見て、戦士たちは青ざめた。


(´<_`;)(何をどうしたら……)

(;´_ゝ`)(これほどの魔術師がこの世に存在するとは……)


居合わせた数名の戦士は、皆が同じような感想を抱いていた。

456 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:14:20 ID:f.Pjzmts0
少年の背後にあるのは、恐ろしいまでの殺風景。


家屋も、木々も、草花も。

人間も。


等しく同じように、消し飛ばされている。
僅かに見え残る、武具や家屋の破片を見て
ようやく、ここには生き物が居たのだろうと理解できるぐらいだ。


( ・∀・)「少し手間取りましたが。これで問題ないでしょう。
       逃げ遅れた敵は居ないと思いますが。念のため、索敵をお願いします」

( ´_ゝ`)「……かしこまりました」


戦後処理など必要ないぐらい。

完璧なまでの『制圧行動』


大魔術師モララー=レンデセイバーの、真の初陣はここから始まる。





/ ,' 3「……次はモーケン。その次は、トゲンネ……。その次は……」


会議室で、まるで盤上遊戯のように
スカルチノフは地図の上で駒を動かしていく。

457 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:15:23 ID:f.Pjzmts0
駒の能力は、ゲームにおいては揺らぐことはない。
真っすぐ進む駒は、必ず真っすぐ。
縦横無尽に動ける駒は、どこまでも。

しかし、スカルチノフが今動かしているのは実際の地図。

そこに駒を動かしたとて、普通は実現しない。

何かの理由があって進行が止まったり
そもそも、相手側の『駒』が自分の動かした駒より
優れているため奪えない、など。局面は思うようにいかない。


いかないはず……なのだが。


スカルチノフが手に持っている、最強の駒。

それが授けてくれる情報は、いつだって遊戯のように正確だった。

真っすぐ進めば、必ず進む。
斜めに動かしても、絶対に留まることはない。

/ ,' 3「まるで……風が地を薙ぐようじゃな」


大魔術師を模した黒い駒を眺めながら、スカルチノフは思う。

彼の黒衣と、恐ろしく、神がかった制圧能力。


いつしか、モララーは『黒風』という異名で呼ばれるようになっていた。

458 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:16:55 ID:f.Pjzmts0






ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」

それはとある日の野営だった。


VIP大陸の沿岸部に位置する土地で、ラウンジ大陸へ強制的に乗り込むための
準備をしていた時のこと。

衛生兵として来ていたデレが、モララーの姿を見つけた。


(  ∀ )


他を寄せ付けない圧倒的な雰囲気。
まるで触れることを拒むかのように、何か内から威圧的な闘気を発している。

今は戦後処理も終わり、小休憩中だ。
何もそこまで構える必要はあるまい。

声をかけようとしたが、手いっぱいで中々話しにいけず。

ようやく時間が作れたのは、夜も更けてからだった。

459 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:18:42 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ(モララーくん、どこ行ったんだろう?)

本来いるはずのテントに姿はなかった。
知っていそうな人に声をかけたが、首を振るばかり。

最近、よく戦場を共にするという魔術師の一人曰く
夜になると、決まってふらりと外へ出て、朝には戻ってきているとのこと。
移動時はせず、戦闘行動の後にのみ、そういう不思議な行動をするらしい。

階級的には彼は国王に匹敵するうえ、作戦行動には支障がないため
いつしか誰も口出しすることはなくなったのだが……。



ζ(゚ー゚*ζ(大活躍してるし、何か一言声かけてあげたいんだけどな〜)

あの一件以来、モララーが出る戦場は負けなしだ。
ラウンジ側も流石に気付いたのだが、打つ手がないらしい。


というのも、一個師団レベルの能力を個人が有しているというのが
対策を無理にさせているのだ。

そこまで凄まじい制圧力を持つのであれば、一点集中してでも壊滅しに向かうだろう。

だが、ほぼすべての戦場を覆しているのはモララー単身の力。
機動力が常軌を逸しているため、造兵や精鋭を送ろうにも既にモララーは居ない。

地図上の地域の話のはずなのに、まるで闇討ちをされるように
次々に、自分たちの進行や拠点にしていた場所が落とされる。

ラウンジ側からすれば、考えたくもないほどの脅威だ。
着実に戦況が悪化している。懐に攻め込まれるのも時間の問題だろう。

460 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:20:24 ID:f.Pjzmts0


そんな『黒風』は、果たして夜な夜な何をしているのだろうか。


デレは持ち前の探知能力を駆使し、モララーの痕跡を探す。

僅かに残る、魔力の残り香を探して着いた場所は川辺だった。


月夜に照らされる清流の前に、黒衣を纏ったままの少年の姿がある。
顔でも洗っているのだろうか。屈んだ姿勢で水面を見つめているようだ。


ζ(゚ー゚*ζ「モララーく……」


声をかけようとしたデレは、言葉を詰まらせる。
秋の虫が鳴いているせいで、運よくかき消されて良かった。









(  ∀ )「……う……うぅっ……」

461 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:21:27 ID:f.Pjzmts0
夜闇に響くのは、少年の嗚咽。
具合が悪いわけではない。

辛そうに、ただただ咽び泣く子どもの声。


ζ(---*ζ(あぁ……私、なんて馬鹿なんだろう)


元々強かった少年。
誰よりも優しかった少年。


死刑囚を手にかけたことで、気持ちが吹っ切れて
そこから快進撃を生み出した少年。



でも、変わったわけじゃない。


彼は、優しい彼のまま。


心を押し殺して、ここまで来たのだろう。


人を殺すことが、辛くないわけがない。

人を殺すことが、悲しくないわけがない。


それでも。

462 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:22:33 ID:f.Pjzmts0
彼は、ただの欠陥品にならないように。



一度踏み出したその道から逸れないように。


懸命に懸命に、戦っているのだ。




普段から放っている、あの無駄にすら思える闘気は
そんな心の内を守るための虚勢なのだろう。


気張ってばかりでは、いずれは疲れ果ててしまう。


だから、時折こうして弱い自分を曝け出しているのだ。




ζ(゚ー゚*ζ(ごめんね、モララーくん。
      戦いが終わったら、たくさんお話しようね)



彼のその姿勢に、決意に、水を差すわけにはいかない。

ここで優しくしてしまっては、油断が生まれてしまうことだろう。

最大限に心の内をくみ取るならば
見なかったことにして、明日も同じようにふるまってもらうだけ。


何もできない、してやれない歯がゆさに唇をかみしめつつ
デレは、自分の持ち場へ戻っていった。

463 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:23:53 ID:f.Pjzmts0






( ・∀・)「……ふぅ」


鼻をすすり、川の水で顔を洗う。
精神のリセットを行ったモララーは、頬をぴしゃりと両手で挟んだ。



( -∀-)(もうすぐ……もうすぐなんだ……)



まだ日差しの厳しい時期から続けている進軍。
秋になり、目の前に広がるのは敵の本拠地。

ラウンジ王国のラウンジ城。


ラウンジ城に攻め入り、総大将……つまり国王に降伏宣言をさせれば我々の勝利だ。

最大の軍事国家が白旗をあげてしまえば、終戦は揺るぎない。


( ・∀・)(その為に……ボクはここまで来たんだ)



黒衣をぎゅっと握る。
何度も洗っているはずなのに、決して消えない血の匂い。

464 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。


戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。

余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。

モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。

使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。

いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。






( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)


ラウンジの大群が目の前に広がっている。

呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。

止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。

465 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)


ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。


( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)


真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。


数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。

それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。


( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)


ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。


必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。


怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。

466 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0








( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」







.

467 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」



歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。




長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。










嘗壱話「零落の黒き風」

468 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0




                   つづく

469 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0








第零話「モララー=レンデセイバー」








.

470 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。

背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。

道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。


それこそ、彼の最大の功績。

身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。

ようやくつかんだ、終戦の証。

赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。





ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。

難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。



彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。



(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」

471 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。

( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
       これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」

(;ФωФ)「そんなことはないのである!
        お主程の功労者、誰も咎めないのである」

( ・∀・)「……そうでしょうか。
       世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」

( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
       自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
       自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」

(;ФωФ)「そっ……!」


否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。

特に、王都なんて権力に近い場所では。


(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」

472 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」


(;ФωФ)「……」


突き放したわけではないだろう。

言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。

彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。

だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら

後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。


それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。


モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。

その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。

473 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」

( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」

ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。


( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」

( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」

( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
        キミと話したいことがたくさんある、と」

( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
       ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」

( ФωФ)「……モララー殿」


( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」


( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」


( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」



引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。

474 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」


覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。

上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。


( ФωФ)「……」


残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。











( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)

475 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。

王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。

行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。

生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。


モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。

いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。


だから、一生懸命生きなくては。





――――でも、何のために?





罪を償うって、どうすればいいのだろう。

476 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。



新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。



考えても考えてもわからないが、一つだけ。


旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。



( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)


戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。

その為、野菜を主に食しているわけだが……。

それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。

いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。



( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)

477 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0

歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。

ふと、来た道を振り返ってみた。



足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。

視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。


まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。






( ・∀・)


( ・∀・) !

478 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。

そして防寒具の帽子を一度外すと


長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。


逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが




何かを決意すると。




魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き

刃を束ねた髪先にあてがうと


一思いに、根元から切った。

479 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。



すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると




モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し


前を向いて、再び歩き出すのだった。








どこへ行くのか、どこへ着くのか。



彼自身も、まだ知りもしないままに。

480 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。

                 【零落の黒き風】




            おわり

481 ◆mGwfd747EA:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。

本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。


本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。

思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。

それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

482名も無きAAのようです:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!

483名も無きAAのようです:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!

484名も無きAAのようです:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした


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