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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

304 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:00:48 ID:xNGrs6b20




―――――聖魔術師は、既に違和感に気付いていた。

それは、戦闘を行ったのであれば、一つや二つはあっておかしくないもの。
戦士ならば、軍人ならば、誰であろうと作れるもの。


しかし、ここには一つもない。


繊細な動作、気遣いをすれば不可能ではない。


だが、それは……戦争においては、あまりに『無駄』な行為。




(`・ω・´)「!」

(;=゚д゚) 「ッ!!」

息を潜め、気配を殺し。
僅かな呪力で、音を消し。

一切の迷いなく、冷たい刃が首筋を襲う。

部屋の死角に隠れていた、敵兵の一人がシャキンへ奇襲を仕掛けてきたのだ。

305 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:02:09 ID:xNGrs6b20
並の戦士ならばやられていただろう。

だが、そこは聖魔術師。
動きに出る前の、微細な殺気を探知し迎撃行動に入っていた。

瞬時に繰り出せる得意の氷魔法。
動きを予測し、回避のために一歩だけ下がり。

凍てついた刃をもって、確実にその頸動脈を切り裂く!


(;=゚д゚)「がっ!?」


次の瞬間、敵兵は意識を失い泡を吹いて倒れた。
手に持っていた武器は、凄まじい力で掴まれたせいで
骨の砕けた腕と共に、重力に引かれる。


(`・ω・´)「なんのつもりだ」


(;-∀-)「……」


氷の刃は、斜めに敷かれたスペルカウンターで弾かれ、天井に突き刺さっていた。

問いに対し、焦りながらも間に割り入っていたモララーが答える。


(;・∀・)「そこまでする必要はないでしょう」

(`・ω・´)「……こいつは私を殺す気だったぞ」

306 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:03:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「ですから、ぼくが制しました。ぼくの不始末です」

(`・ω・´)「……」

その怯えるような、まだ光を秘めた純粋な瞳。
シャキンの邪魔をしたことを叱責されると、恐れているのではない。


原因はもっと別の……。


(`・ω・´)「お前は先ほど、拠点を制したと言ったな」

(;・∀・)「ええ、その通りだったでしょう。
      多少、詰めが甘かったのは認めます」

(`・ω・´)「お前が言う『制する』とはなんだ?」

(;・∀・)「敵兵を屈服させ、再度戦闘行動を起させない状態にすることです」


(`・ω・´)「……」


(`・ω・´)「…………クク。はっはっはっ!!
      なんだ、所詮はガキだったか!!」


モララーの答えに、シャキンは大きな口を開いて笑った。
周囲の人間も、堪らずその言葉に失笑する。

307 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:04:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「な、何が……!」

味方のはずの人間たちが、まるで途端に敵になったかのよう。
自分がおかしいはずもないのに、咎められる理不尽な感覚。
四面楚歌の状況が呑み込めないモララーの胸元を、シャキンは思い切り掴み引き寄せた。


(`・ω・´)「いいか、小僧。ここは戦場だ。
      私たちは、戦争をやっているんだ。子どもの遊びではない!」

(`・ω・´)「お前の戦闘能力の高さには驚かされたよ。
      残った魔力を見ても、間違いなくお前は我々の誰より手練れの魔術師だ」

(`・ω・´)「だが……この場において、お前を『強い』とは言わん。
      何故だかわかるか?」

(;・∀・)「……」




(`・ω・´)「お前……『一人も殺していない』だろう?」




(;・∀・)「……!」

308 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:05:43 ID:xNGrs6b20
シャキンが言う前に、モララーは既に予感していた。
その核心を突かれることを。

彼の使った強力な火炎魔術も、激しい雷撃も、鋭い風の刃も。
全て、致命傷には至っていない。
気を失わせたり、腕を折ったり足を折ったりしただけだ。

確かに、即座に戦闘行動をすることは難しいかもしれない。
だが、確実な『とどめ』は一人として実行していなかった。


(`・ω・´)「そんな甘っちょろい心構えで戦場に出てくるとはな。
      国王も盲目になったものよ。訓練のつもりだったか? えぇ?」

(;・∀・)「お……国王陛下は関係ない!」

(`・ω・´)「ある。王が気付いていなかったわけあるまい。
      それでも、淡い期待を込めて送り出したのだろう。責任が伴う行為だ」

(`・ω・´)「だが、結果はどうだ? 私は今、殺されたかもしれないのだぞ?」

(`・ω・´)「私ではなく、別の人間であったなら死んでいたかもしれない。
      そうなれば大きな喪失だ。鍛えた戦士を失うのだからな」

(`・ω・´)「わかるか? お前の言う『制圧』が招く結果がこれなのだ!
      こんなものが、制圧行動になるわけがあるまい!」

(`・ω・´)「最も簡素でわかりやすい制圧とは、『敵の息の根を止めること』だ。
      何故そんな簡単なことができん!?」

309 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:07:15 ID:xNGrs6b20
(;-∀-)「………………ぼくは」

(`・ω・´)「なんだ?」

(;・∀・)「…………」

言葉が出なかった。

何を言っても、きっと返される。
それは、モララー自身が誰よりわかっている。

(`・ω・´)「聞いてやる。言え。何故なんだ? あ?」

(;-∀-)「…………」

詰め寄られた顔をそっと押しのけ。
懸命の魔力で、掴まれた胸元の手を解く。

(`・ω・´)「はっ、言い返せもしないか。臆病者め!」

感情による反論をぐっとこらえ、モララーはマントを翻して歩き出す。

(`・ω・´)「このことは王にも報告するぞ。さぞや残念な顔をするだろうがな」

(`・ω・´)「はっはっはっはっ!」


(; ∀ )(…………くっ!)



モララーは逃げるように、青い色の魔法陣を発動させた。

光に体が消えていくその間も
周囲からの嘲笑だけは、ずっと耳に残っていた。





つづく

310 ◆mGwfd747EA:2021/03/06(土) 22:08:00 ID:xNGrs6b20
中々、こいつマジでむかつくな……っていうキャラクターが作れなくて四苦八苦してます。

次回も予定通りに投下しますので、よろしくお願いします。

311名も無きAAのようです:2021/03/06(土) 22:40:41 ID:oNBg8PhE0
otu

312 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:26:01 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」


その夜。
モララーは星の煌めく空を眺めていた。

風が強く、空気も薄い。
誰にも邪魔されることのない、自分だけしか居ないと思える空間。

そこは、城の最上部である、見張り台の更に上部。
屋根の上で風ではためく、NEET国の旗が飾られたポールの先に少年の姿はあった。

浮遊と足場固定の魔法を上手に使い、横なぎの激しい気流を物ともせず
ただただ座って虚空を眺めている。

彼の頭に反芻されるのは、戦場での出来事。

自分の甘さが招いた結果と、それを咎められたこと。
シャキンの態度に腹を立てたわけではない。
あの時、あの場においては彼の言動は正しかったと言えよう。

なのに、何故こんなにもやもやするのだろう。
お腹を摩ってみても、答えは見つからない。

( -∀-)=3「……はぁ」

悩んだところで、意味はない。
それを解消する手立てはあるのだが、踏み切れないのは自分の弱さ。

313 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:27:35 ID:2vfxdqwE0
沈む気持ちをため息に出してみたものの、わだかまりは解けない。
頭を思い切りかきむしり、髪がぼさぼさになるまで力を籠め続けた。

自傷行為で少しだけ落ち着いた心を取り戻すと、モララーは立ち上がる。

そして気配の遮断魔術を自分にかけた。

トンッとポールを蹴ると、甲高い金属音が空に溶ける。

見張りの人へ無駄な心配をかけぬように、真っすぐ急降下。
地面に向いていた頭をぐるんと回転させ、足を伸ばし
風魔法で重力と落下速度を相殺させ、ゆっくり着地した。

場所は、自室の窓枠。
施錠せずに出かけたので、そのまま楽に開けられた。

身体を屈ませて、柔らかなカーペットに足を落とす。
埃一つ立てずに受け入れた高級絨毯は、未だに彼の足には馴染まない。


モララーの自室は、城の一角に与えられた。
古い客室を、彼専用に仕立ててもらったのだ。

唯一の身内である親戚は、別に裕福ではなかった。
最低限の生活は保障されていたが、余裕とは無縁の世界。

だからこそ、落ち着かない。

無駄に装飾のされた部屋の照明も、艶やかに磨き上げられたテーブルも。
全身が溶けていってしまいそうなほど、ふかふかのベッドで眠ったことはまだない。

頭から肩まで覆える大きな羽毛枕と、薄いシーツを被って地面で眠るのがいつもの彼の就寝スタイル。

少しでも混乱した脳をすっきりさせようと、煩雑に置かれた寝具に手を伸ばした時だった。

314 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:28:41 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)(ん……?)

部屋の外に、誰かの気配がある。
それも二つ。

こんな夜更けに来る人物には、心当たりがない。
国王ならば『呼び出し』をするはず。

他にあるとすれば、清掃係の人だが……。
どうにも妙だ。

扉を跨いだ先に、じっと佇んでいる。
待ちくたびれているのか、爪先で地を叩く音も聞こえる。

何だろう、と思いつつ、敵意がないことだけは理解できる。
襲ってくるのであれば、もう少し上手に隠れるはずだから。


( ・∀・)(あ、そうだった)

忘れていた気配遮断の魔法を解いてみる。
すると、すぐにリアクションがあった。

「あれ? もしかして、もう部屋に居るのかな?」

「む? しかし、誰も通らなかったであるぞ?」

315 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:30:12 ID:2vfxdqwE0
「そうだけど……。うーん……。いや。やっぱり居るよ」

「おーい、レンデセイバーくーん! いるー?」

高い声と低い声。軽く戸をノックで叩く音もする。

障害物を挟んでいるため、くぐもって聞こえるそれには聞き覚えがあった。


( ・∀・)「どうしたんですか、こんな夜更けに」

ζ(゚ー゚*ζ「おお、やっぱり居た。
      やあやあ、こんばんは。いつの間に帰ってきてたの?」

( ФωФ)「……こんばんは、である」

そこに居たのは、白魔術師のデレと聖騎士のロマネスクだった。








嘗六話「戦う理由」

316 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:31:15 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ。お茶が好きって聞いたから。私と旦那からね。
       初陣お疲れ様の労いの品です!」

( ФωФ)「……こっちは、衣類である。あまり替えを持っていないと聞いたので」

( ・∀・)「はあ、ご丁寧にどうも……」

香りの高い茶葉の詰め合わせと、仕立ての良いシャツを受け取りながら
モララーは戸惑いつつも、二人を迎え入れる。

何度か声をかけてもらったことがあるが、こうして面と向かって話すのは初めてだ。


部屋に客なんて招くこともなかったので、モララーは魔法で簡易ソファーを作った。

普段は使わない羽毛布団に、防水の魔術をかけて、水球を中に閉じ込める。
座れるように形成したそれは、柔らかく二人の腰を受け止めていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あれ、何か飲んでたの?」

テーブルの上に置かれた、飲みかけの飲料物を見てデレが問う。

( ・∀・)「ああ、すみません。これは今朝のもので……。片付け忘れていました」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。何を飲んでたの?」

317 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:32:54 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「クレスト草の薬茶です」

( ФωФ)「クレスト草?」

( ・∀・)「はい、そうです」

ζ(゚ー゚*ζ「塗るのは聞いたことあるけど……飲むのは初めて聞いたなぁ」

( ・∀・)「すり潰して、高い温度で煎ずれば飲めるんですよ。
      一種の着付け薬ですね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだぁ。今度試してみようかなぁ」

( ・∀・)「ええ。ちょっとコツが要りますけど、簡単ですよ」


( ФωФ)「……」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ・∀・)「……おっと。おもてなしもせず失礼。
      頂いたお茶、煎れますね」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、どうも」

( ФωФ)「かたじけないのである」


ポットを瞬時に洗い、お湯で満たす。
統一感のないカップを人数分揃え、お茶を濾す。

318 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:33:52 ID:2vfxdqwE0
ピーベリーという、柔らかく甘い桃のような香りの茶葉だった。
舌に触れれば、踊るような甘味が口全体に広がる。




( ・∀・)「……」

( ФωФ)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」


普段口にしない茶に舌鼓を打っているが、会話は弾まない。


再び沈黙が訪れる。
薄暗い部屋の中で、時計の音だけがただ規則的に鳴り続けていた。

他愛もない会話をしに来たわけではあるまい。

遅い時間。
初陣の後。
報告内容は既に、城内へ知れ渡っていることだろう。
『期待の大魔術師』の戦果だ。誰もが興味を持ったに違いない。


普段では起こりえない、普通じゃない出来事。

関連付けるには、充分な理由だ。



ζ(-ー-*ζ「……ふぅ」

319 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:35:03 ID:2vfxdqwE0
デレが小さくため息をつく。
この均衡状態に、意味がないことはわかっていた。
最初から変な探りを入れる必要もあるまい。

目の前に座る少年の、何かを伺うような目線に観念したのだ。


ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、レンデセイバーくん」

( ・∀・)「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「今日、初めての実戦だったよね」

カップを両手で抱えるように持ちながら、優しい口調で話す。

( ・∀・)「……はい」

ζ(゚ー゚*ζ「どうだった?」

( ・∀・)「どう、とは?」

ζ(゚ー゚*ζ「そのまんまの意味だよ。
      人生の初体験だもん、何も感じなかったわけじゃないでしょう?」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「よかったら、聞いてみたいな」

( ФωФ)「……」

聖騎士の団長も、表情を変えずに聞きに徹している。

320 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:36:51 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……そうですね」

予想から遠くない内容の質問が出てきたので、モララーは動揺していなかった。

適当な嘘を述べることもできる。
大げさに話を盛って、落胆させることもできるだろう。


でも、何故だろう。
この人たちの前で、そんなことをするのは間違っている。

特別親しい間柄でもないはずなのに。

どうしてか、モララーは取り繕わずに口を開くことが出来た。


( ・∀・)「はじめ、国王陛下に命を下された時は、胸が躍りました」


( -∀-)「ああ、ぼくも遂に戦いの役に立てる時が来た、って」


( ・∀・)「学校での訓練とは違う。自分の意思、行動で全てが左右される戦の場。
       そんな所に、自分も足を踏み入れるんだと思うと……」

( -∀-)「……なんだろう。ワクワク……うぅん……。ドキドキしていたのかな」


ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」


( ・∀・)「一人で、拠点を制圧するように言われた時は、ちょっと驚きました。
       そこまで任せてもらって、いいのだろうかって」

321 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:38:18 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「それはシャキンの独断なのである。
        力量があれど、新兵を一人で戦場に送り出すなんて、あってはならないのである」


( ・∀・)「ですよね。……でも、ぼくは抗議をしなかった」


( ・∀・)「だって、出来ると思ってしまったから」


ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ・∀・)「敵の拠点を見つけ、どう攻め入ろうか考えました。
       奇襲するのか、正面突破なのか」

( ・∀・)「探知魔術で、敵の数が思ったより多くないことがわかったので
       結局、正面突破で行こうと決めました」

( ФωФ)(……報告書の通りなら
        普通はあの人数を、多くないとは言わないのである)


( ・∀・)「相手が何をしてこようと、勝てる自信がありました」


( ・∀・)「見たことない剣術だったけど。知らない武器だったけど。
       魔法……いえ、呪文ですら、ぼくより何もかも劣る連中だった。
       だから、怖くなかったんです」


( -∀-)「……でも」

モララーは思い出す。


それは、初めて相まみえた『敵』の姿。

322 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:39:45 ID:2vfxdqwE0
必死の形相で、自分を殺しに来る異国の人間。

気が遠くなるほど積んだ研鑽の時間。いや、毎日サボってたかもしれない。
若い男性だけど、故郷には誰か好い人でも居るのだろうか。
そうでなくても、大事な家族が居たりするかもしれない。

共に汗を流し、涙を飲んだ盟友達と晩酌を交わす約束もしただろう。
ああ、何でもいいから早く戦いが終わらないかな。
何もかも面倒くさい、逃げてしまうか。


一人ひとり、背負う人生がそこにはある。


ぼくは今から、そんな『人間』たちの今日を終わらせるんだ。



( ・∀・)「そんな権利が、ぼくにあるのだろうか」


( ・∀・)「たかだか15の子供が、他人の人生を左右しても良いのか」



( -∀-)「覚悟をしてきたつもりだったけれど……」



( ・∀・)「そう思ったら、魔力を強く込められませんでした」

323 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:41:26 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「結局、ぼくに出来るのは、敵を地に伏せることだけだったんです」


( ・∀・)「情けない話ですよね。
      やろうと思えば、出来るはずのことをしないで。勝手にやり遂げた気になってたのに。
       結果的に……誰も殺すことは出来なかった」


( -∀-)「殺すことが……怖かった」



それ以上の言葉を紡げなかった。
何を言っても、もう自分を庇護することしかできない。


( ФωФ)「なんとも、甘えた思想であるな」


だから、そう言われても納得しかできなかった。、
数多の戦を勝ち抜き、首を切り落としてきた聖騎士は続ける。


( ФωФ)「情けが仇。自分の逃した敵兵は、いずれ力をもって反逆してくるかもしれない」

( ФωФ)「戦場では死ななかった者が強者である。
        運よく生き延び、それを繰り返すうちに強大な力を蓄えるやもしれないのである」

( ФωФ)「だから、反逆の機会を与えぬよう、敵意を持った戦士は余さず殲滅すべし」

( ФωФ)「闘技学校の出自ならば、当然習ってきたはずである」


( ・∀・)「……ええ、もちろん。習いました」

324 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:42:48 ID:2vfxdqwE0
拳を握りしめる。
当たり前のことだ。

我々は戦争をしている。
幼稚な陣取り合戦ではない。

殺せば勝てるし、殺さねば負ける。

戦場に身を置くものならば、誰もがわきまえている心構え。


けど……それでも。



( ・∀・)「学生時代に疎まれている時でも。
       こうして皆さんに受け入れてもらえて、お城で暮らしている時でも」



( ・∀・)「ぼくは不思議と、誰かの姿を目で追ってしまう」


( ・∀・)「楽しそうにしている姿、泣いている顔。怒っている背中。楽しそうな足取り。
      どんな背景があるのか、いつだって興味がわいてしまう」




( ・∀・)「……人間が、どうしても大好きなんです」

325 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:43:51 ID:2vfxdqwE0
(  ∀ )「だから……」


人間一人だけで、どれほどの歴史があるのだろう。
誰と会って、誰と別れたのだろう。
何が好きで、何がきっかけでそれに興味を持ったんだろう。

色んな人の、色んな人生を考えるのが好きだ。


そんな色づく明日を止めてしまうような自分は……堪らなく嫌だ。






ζ(-ー-*ζ「……なぁんだ、そんなこと悩んでたんだね」


( ・∀・)

相槌を打って、子供をあやすように聞いていたデレが鋭い言葉を放った。

少年が抱える、一つの、大きな悩み。

『そんなこと』なんて片付けられるなんて、酷く失望する。
真剣に悩んでいることを、大人は馬鹿にしたがるかもしれない。

幼稚な問題なら、なおさらだ。

それでも、決定的な何かに踏み出せない障壁に変わりはない。

簡単にあしらわれるのは、いくらなんでも。

326 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:45:27 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私だって、誰かを殺すことは今でも怖いよ」

( ・∀・)「え?」

( ФωФ)「吾輩もである」

(;・∀・)「え? え?」

予想しなかった言葉に、モララーは挙動不審になる。
そのまま、正論で言いくるめられるものだと思っていたから。

まさか、肯定されるとは思わなかった。
白魔術師のデレでも、武勲のある勇士ロマネスクでも。

殺人には抵抗がある……?


ζ(゚ー゚*ζ「いくら敵でも、殺す行為に何も感じないなんて。
       そんな人は、滅多に居ないよ」

( ФωФ)「いるとすれば、頭のねじが外れた戦闘狂か。
        もしくは、大義名分で感情を押し殺せる大英雄ぐらいなものである」

ζ(゚ー゚*ζ「多少の慣れはあるけどさ。何も感じないって言えば嘘になっちゃうかな」


(;・∀・)「……そう……なんですか」

ζ(゚ー゚*ζ「私ね、今年で3歳になる娘がいるの」

( ФωФ)「吾輩は息子が」

327 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:47:12 ID:2vfxdqwE0
それぞれが、大事そうに持っていたロケットペンダントを見せてくれる。
ぷっくりとした顔の幼児、無邪気に笑う女の子。
二人とも、どこか親の面影がある。

ζ(゚ー゚*ζ「戦いがつらくなった時は、いつもこの子のこと思い出すの。
       私がここで踏ん張らなきゃ、この子たちの未来が無くなってしまう、って」

( ФωФ)「相手も、同じことを抱えているかもしれないのである。
        けれど、それを考え始めてしまえばキリがないのである」


( ФωФ)「そうなると、もう後に残るのは己が掲げる『正義』のみ」


( ФωФ)「生き残った方が、正しいと証明する」


( ФωФ)「誰かの為ではなく、自分自身の為に。我々は戦うのである」


( ФωФ)「自分たちの未来は、そうやって築いていくしかないのであるよ」


ζ(-ー゚*ζ「ま、うちの旦那みたいに、難しく考えるのをやめる人も居るけどね〜」

( ФωФ)「ミルナは、先ほど言った戦闘狂に片足を突っ込んでいるのである」

ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。だから不用意に敵陣へ突っ込んでケガしちゃったんだけど」

( ФωФ)「間抜けなのである。この場に居ないことを後悔すべきなのである」

328 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:48:46 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」


(  ∀ )


ああ、凄いな。この人たちは。


きっと、本当にたくさんの死体の山を作ってきたんだろう。
その度に、悩んだに違いない。

でも、守るべきものがあって、
それを失いたくない。
だから、戦う。


強い信念を持って生きている、本物の『戦士』なんだ。


モララーの視界が薄く滲む。

感銘を受けただけではない。



……悔しい。


自分も、その領域に入れるだろうか。
不安だらけだ。
今でも相手のことを考えないなんて、出来る気がしない。

理性の箍を外す器用な真似も出来るはずもない。

329 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:50:20 ID:2vfxdqwE0
けど。


それでも。


誰かのためじゃない。


自分の為に……!




(  ∀ )「……ぼくも」


ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

( ФωФ)「なんであるか?」



( ・∀・)「ぼくも、あなた達みたいな……立派な戦士になれるでしょうか?」


月明かりが部屋を照らす。
深く沈んだ気持ちを払拭するように、瞳に光が灯る。

330 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:51:32 ID:2vfxdqwE0
まだ年若い少年。

背負うには重すぎるかもしれない。
いつか重責に潰されるかもしれない。

しかし、それでも大人たちはあえて言う。


ζ(^ー^*ζ( ФωФ)「もちろん(である)」


少しでも先達の威厳を、若者の未来を明るく照らすため。
大きく頷きながら、返事をしてくれた。









つづく

331 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:52:51 ID:2vfxdqwE0
おまけ



ζ(゚ー゚*ζ「というか、モララーくんなら私たちより、ずっと凄い魔術師になるよ」

( ФωФ)「間違いないのである。
        現時点でモララー殿の魔術は、近衛階位の人たちですら恐れているのである」

(* ・∀・)「そ……そうです……か?」

ζ(^ー^*ζ「やだー、照れちゃって。可愛い!
      よーし、元気出てきたなら、もうちょっとお話しようか!」

( ФωФ)「では、今後のことを考えて海上決戦の戦術理論でも……」

ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君、そんなクソつまんない話で夜を更けさせるつもり?」

(;ФωФ)「クソつまんないとは失礼である! 大事な知識なのであるぞ!?」

( ・∀・)「……そういえば、お二人はやけに仲が良いですよね」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、うん。幼馴染だからね」

( ФωФ)「実家は共にVIP街なのである」

( ・∀・)「へー……どの辺ですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うわ、地図も投影できるんだ? キミ、本当に凄いね」

( ФωФ)「吾輩の家は……ああ、そこ。その家である」

332 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:53:49 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私の家はそっちの方。ね、結構近いでしょう?」

( ・∀・)「凄いなぁ、お二人とも一等地じゃないですか」

ζ(゚ー゚*ζ「でしょう? 頑張ってるんだよ、これでもね。
       そうだ。モララーくんのおうちはどこなの?」

(;-∀-)「……あぁ……ぼくは……えー……」

( ФωФ)「……デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。ね、ね。
       ロマネ君の奥さんって、どんな人だと思う?」

( ・∀・)「え? うーん…………何となくでいいですか?」

( ФωФ)「言ってみるのである」

( ・∀・)「背が高くて……髪が長くて……ちょっと冷たい感じの綺麗な人……?」

ζ(゚ー゚;ζ「え、もしかしてモララーくんてば、読心魔法使えるの?」

( ・∀・)「あはは、まさか」(今は使ってないですけどね)

( ФωФ)「まさに、そのまんまの人である」

ζ(゚ー゚*ζ「今は休暇を取って、お子さんの世話してるんだって。
       いずれは、どこかで会えるかもね」

( ФωФ)「……いずれ、であるか」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ロマネ君」

333 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:54:53 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「いずれの話であれば。このまま戦争が長引けば
        いつか吾輩たちの息子たちも、戦に出なくてはならないのかもしれない」

( ФωФ)「そんな時……吾輩たちは何が出来るのか……少し不安である」

ζ(-ー-*ζ「……そうだね。まともでいられるか、自信がないね」





( ・∀・)「……ぼく、お二人のお子さんたちと、いつか話をしてみたいです」


( ・∀・)「お二人の住む、VIP街で」


( ФωФ)「!」

ζ(゚ー゚*ζ「!」


ζ(^ー^*ζ「そうね。あなたみたいな子なら、ぜひ友達になってあげて欲しいな」

( ФωФ)「吾輩も同じ気持ちである」


( ・∀・)「ええ、楽しみにしてます」



( -∀-)(……そのために。ぼくは、もっと頑張ろう)

冷めたお茶を一気に飲み干したモララーは、心の中で強く誓った。

334 ◆mGwfd747EA:2021/03/13(土) 21:56:00 ID:2vfxdqwE0
以上です。
花粉と忙しさで最近は時間がとりにくいので、書き溜めしておいてよかったと心の底から思いました。
次回もまた土曜日を目途に投下します。

335名も無きAAのようです:2021/03/14(日) 00:50:25 ID:UxSEJL/U0
乙です

336 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 20:57:47 ID:eAJ/Jxuk0
嘗五話「城の地下深く」




(;-∀-)「……ッ!」

手が止まる。
高速で突き付けた貫き手。
魔力による硬度の上昇、鋭利さの増幅。

一たび触れれば、絶命は免れない必殺の一撃。

あと少し肘を伸ばせば。あと少し膝を踏み込めば。

その絶対的破壊力を持つ複合魔術攻撃は意味を成すはずだった。


だが……出来ない。


あるの夜、デレやロマネスク達から、戦士の本当の声を聞いた。
誰だって、悩んで、苦しんで、それでも尚歩んでいる。
自分も、そうなりたい。そうありたいと望んだ。

踏ん切りのつかない覚悟は、一瞬の隙を生み出す。

ラウンジ大陸の戦士は、生への諦念を瞬時に切り替える。
握っていた刀の柄をより一層強く持ち、敵呪術師の首を撥ねるため
決死の形相で挑んだ。

しかし、そこで意識は途絶える。
貫き手から、掌底へ変化していたモララーの手。
胴に突き付けられた途端、圧縮された風の魔法が背まで貫通するほど
激しく穿たれたのだ。

337 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 20:58:45 ID:eAJ/Jxuk0
(;・∀・)「はぁ……はぁ……」


いつもそうだ。

もう今日で、何度目の前線だろう。
季節は既に夏を迎えていた。

戦闘力の高さだけは、間違いなく認められている。
故に、彼が拠点や敵の急襲を防ぐ場合、常に一人で実行していた。

実際、他の魔術師が居たところで連携が取れるわけでもない。
モララーに協調性がないわけではなく、比肩する人間が居ないからだ。

合わせようとすれば、それだけ能力を落とさなくてはならない。
モララー=レンデセイバーという、唯一無二の切り札を十分に使うにはそれしかなかった。





/ ,' 3「ふぅむ……」

戦果報告を聞いていたスカルチノフ国王は、小さく唸った。


これ以上は、もう危険だ。
そう判断しかけている。

338 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 20:59:46 ID:eAJ/Jxuk0
初陣後から今まで、それなりの時間が経った。

しかし、戦況は変わっていない。
迎撃ばかりで、水際の戦いを制しているだけ。

攻めの一手を、決めあぐねている。


もうそろそろ、ラウンジ側も気付いているだろう。


敵大陸に、異様なほど強力な呪術師が居る、と。

戦後処理を行ってはいるが、モララーの現状であれば
生き残りが居てもおかしくはない。

大陸中に知れ渡っている可能性もある。


/ ,' 3(彼が後れを取るとは思えぬが……)

力を持たない蜂が、強大な敵に向かって群れで襲い掛かることがある。
たった一匹の害虫を倒すためだけに、無数の命を賭して勝利をつかむ。

これは飽くまで昆虫の話だが。
ラウンジ大陸の人間たちに、似たきらいがあるのは良く知っていた。

もしかすると、もしかするかもしれない。

339 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:00:58 ID:eAJ/Jxuk0
モララーを、ただ処分するためだけに想像を絶する軍を率いるかもしれない。
絡め手の可能性もある。


打開する方法としては、ただ一つ。



モララーを主軸に、一点突破でラウンジ大陸の中枢を目指す。
迎撃部隊をすべて殲滅し、戦力を大幅に低下。
そして、大陸の中心人物であるラウンジ王を降伏させる。


それだけだ。


/ ,' 3(しかし、今のモララーくんでは絶対に出来ぬ作戦じゃな)


一点突破までは良い。
だが、問題はその後だ。


彼の進む先進む先で、兵をいちいち捕縛していてはキリがない。
反逆でもされれば、懐から痛手を受けてしまう。

340 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:02:15 ID:eAJ/Jxuk0
また、消耗の多さも問題だ。
敵を殺さないというのは、繊細な手加減が必要な行為。
若さゆえの回復力をもってしても、連戦の期間はどうしても長くなってしまう。


/ ,' 3(…………)


出来るならモララーの意思を尊重したい。
まだ大人になれていない少年の、白いキャンバスを汚す行為を
大人たちが勝手にしていいわけがない。

だが、このままでは意味がなくなる可能性もある。
せっかく掴んだ好機を、いつ再来するかわからないこの時を
手放して良いものなのか。


(;`_L')「国王陛下!」

自室に慌てた様子で、近衛騎士フィレンクトが入ってきた。

/ ,' 3「どうした」

ノックすらせず入ってきたことで、火急の用であることがわかる。
無礼を咎めもせず王は先を促す。

(;`_L')「ニメア地区が陥落しました」

/ ,' 3「なに?」

341 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:03:39 ID:eAJ/Jxuk0
それは、大陸の海岸部の一つ。
攻め入られれば、敵側にとってかなりの優位を取れる拠点。

だからこそ、過剰なほど強力な部隊を編制していた。
白や黒の階位は当然、聖の階位級の騎士と魔術師を
通常の部隊の数倍は揃えていた、強固な守りの最前線が。

/ ,' 3「……生き残りは?」

(;`_L')「小隊の被害は未だ完全に把握できていません。
      推定では六割ほど死傷者がいるそうです」

/ ,' 3「六……!?」

部隊の全滅を優に超える数だ。
そこまでしてでも食らいついた彼らを褒めてやりたい。

逆に、そこまでするほど恐ろしく強い敵がいる証明にもなっている。


/ ,' 3「聖騎士と聖魔術師は誰が残った?」

(`_L')「ロマネスク団長のみです。
     ただ、彼も重傷を負っていまして……」

/ ,' 3「ふぅむ……参ったのう」

次から次へと問題ばかり。
スカルチノフ国王は頭を抱えて、目を閉じた。

342 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:05:00 ID:eAJ/Jxuk0


/ ,' 3(……やはり……荒療治しかないかの)


やりたくない、やらせたくない、奥の手。

望まないことだろう。
だが誰かが手ほどきをするのであれば、責任を擦り付けられるかもしれない。

それで、彼の心が少しでも軽くなるのであれば僥倖だ。


/ ,' 3「フィレンクトよ」

(`_L')「はっ」

/ ,' 3「近衛の者たちを集めてくれ。完全武装をさせてな。
    準備が整ったら……『常闇の間』へ行くぞ」

(;`_L')「は? な、なぜ今……?」

/ ,' 3「理由は追って話す。
    あまり時間がなさそうじゃ。やるしかない時が来たんじゃよ」

(;`_L')「……かしこまりました。通達致します」

343 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:06:00 ID:eAJ/Jxuk0
反論しようとした近衛騎士フィレンクトは、それを黙って飲んだ。
国王がここまで決意をもって命を下すのだ。
よほどの理由がなければしない。

信頼と不安の入り混じった感情を抱え、騎士は部屋を足早に立ち去った。




――。


(;メω-)「……」

(;・∀・)「ロマネスクさん……」

医務室。

激しく負傷した聖騎士団長が、ベッドで浅い息をしたまま眠っている。
いつもは巨大な体も、小さく見えてしまう。
無数の切り傷は包帯とクレスト草の薬液で手当てされているが
癒えるのには時間を要するだろう。

ここまで酷い状態だと、回復魔法を使う方が危険だ。
あれは飽くまで、自身の代謝を促進させて行うもの。
低下した体力の相手に使えば、生命そのものを脅かしかねない。

344 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:07:07 ID:eAJ/Jxuk0
何も出来ないことに、モララーは歯がゆさを覚えながらも
にじみ出ているロマネスクの脂汗を拭った。


たまに、うわ言のように何かを呟いている。
直前の戦闘の状況が、フラッシュバックしているのだろうか。

(;メω-)「ぶすだ……どく……お……ヤツは……吾輩が……」

(;・∀・)「ぶすだドクオ……?」

ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことあるよ。『悪鬼』って呼ばれているラウンジの武士だね」


武士とは、VIP大陸で言う騎士の階級。
少し前から話題になっていた、『悪鬼』の通称。

一振りで幾人もの人間を切り伏せる、恐ろしい腕力と技術。
血の海と死体の山を、怯みもせず歩み続ける恐ろしい形相と姿から
そんな通り名で呼ばれるようになったそうだ。


( ・∀・)「そんな危険な敵が……」

看病に来ていたデレが、額に被せていた濡れタオルを取り換える。
ラウンジ側にも、恐ろしい殲滅能力を持った戦士がいるのか。

モララーは少し恐怖を覚えた。

345 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:08:03 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「モララーくん」

ζ(゚ー゚*ζ「国王陛下!」

医務室に突如現れたスカルチノフに、周囲の人間は驚く。
後ろには護衛の近衛騎士と魔術師が、仰々しく武装して立っていた。

( ・∀・)「どこかへ向かうのですか?」

/ ,' 3「うむ。城の地下へ行くんじゃ。キミもな」

( ・∀・)「ぼくも?」

言っていることがさっぱりわからない。
状況を鑑みても答えが出ないが、敬愛する王の命令だ。

モララーはおずおずと、強張っている王の顔を見て頷いた。



―――――NEET城の地下。

城の地下には、食糧の保管庫や訓練所、牢獄などがある。
暴徒が拘留されている危険地域を除き、誰もが行き来できる場所。

大陸最大の規模を誇る、NEETであっても特に他所との変わりはない。

346 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:09:18 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「というのは、建前じゃ」

近衛騎士の鎧が擦れる金属音の響く地下階段を下りながら
スカルチノフは続ける。

灯りを持たなければ、足元も覚束ない螺旋状の階段の先には何があるのか。

/ ,' 3「キミが生まれる前のことじゃ。
    王都に、一人の魔術師が現れた」

/ ,' 3「その男は、あらゆる魔術を使いこなし
    誰にも負けないほど強大な魔力を内包していた」

/ ,' 3「まるで、誰かさんのようじゃな」

( ・∀・)「……」


/ ,' 3「じゃがの……キミとの大きな違いが一つあったんじゃ」


/ ,' 3「その男は、『禁術』に狂っておったんじゃ」

( ・∀・)「禁術……?」

魔術師ならば知らないわけがなかった。

禁術とは、過去の偉人たちが生み出し、そして封印した特殊な魔術のこと。

347 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:10:40 ID:eAJ/Jxuk0
何故そんなことをしたかと言えば、それは世界の均衡を崩しかねない力を持つから。
また、他でもない術者本人に多大な影響を及ぼすものが大半なのだ。

/ ,' 3「魔力増幅、精神操作。まさに、何でも有りじゃった」


たまたま、スカルチノフがその脅威を看破できた。
周りの人間には、その狂気が何も見えていない状態だったらしい。

放置すれば、国家そのものが転覆していた可能性すらある。

/ ,' 3「ワシらは処刑を試みたんじゃが……結局できたのは、捕縛のみ。
    殺すことすら適わぬほど、ヤツはあまりに強大で……狂気に満ちておった」

( ・∀・)「……つまり」



地下牢の更に奥。
封印魔術で隠蔽された扉の先。
誰もが知っている場所の、誰も知らない場所。

今歩いている、この階段の先にあるもの……いや、居る人物。


/ ,' 3「そやつの名は、ハインリッヒ=ボンデリンク。『白炎(ばくえん)』とも呼ばれておった」


/ ,' 3「長いVIPの歴史の中でも、おそらく最大にして最恐の魔術師じゃ」

348 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:12:49 ID:eAJ/Jxuk0
スカルチノフの魔力にのみ反応する、重く硬い鉄の扉が開く。

大声を発しても吸い込まれそうなほど、広大な空間が目の前に飛び込んできた。

淡く黄色い魔法陣が、石畳の上に描かれている。
光源はそれだけ。
天井は暗くて何も見えない闇だ。
『常闇の間』と呼ばれる所以だろう。



そんな無駄ともいえるほど広い部屋に一つ。


ぽつんと、一つだけおいてある椅子があった。



从三//从


座っているのは、やけに細身の男性。

全身を包帯のようなもので捕縛されていて、顔どころか足の指すら見えない。
衣服を纏っているが、経年劣化でボロボロになっていた。


( ・∀・)「この人が……ハインリッヒ=ボンデリンク」

/ ,' 3「第零式帯状封印装具で押さえつけておるが……。
    この数十年、水すら与えておらぬのに、こやつはまだ生きておる」

349 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:14:07 ID:eAJ/Jxuk0
第零式帯状封印装具とは
ありとあらゆる魔力や魔法を封じ込める帯の形をした、魔術装具だ。

通常の魔術師ならば、何も出来なくなる。
魔法を使うどころか、魔力そのものを吸い上げるので、戦うことすらままならなくなる。

そのはずなのだが……。

/ ,' 3「何かしらの禁術を使っておるんじゃろう」

呼吸をしている様子もない。
だが、その体に触れるとわずかに温かみがある。

このまま処刑をしようにも、第零式帯状封印装具は魔法を受け付けない。
かといって、物理的に攻撃し、装具が損傷すれば封印効力が無くなってしまう。
その隙に、何かしらの手段で逃げ出すかもしれない。


結局のところ、捉えたまま寿命で死ぬのを待つしかなかった。
それがいつになるのか、皆目見当もつかぬまま、今日を迎えているわけである。

( ・∀・)「国王陛下」

モララーがスカルチノフに向き合う。

( ・∀・)「ぼくを連れてきた理由を教えてください」

わかっている。
予測は出来ている。

それでも、口にしてもらうまでは、逃げたかった。

350 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:15:27 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「うむ」


/ ,' 3「大魔術師、モララー=レンデセイバーよ」


国王はモララーの目を見た。
恐怖と不安、けれど希望を忘れていない純粋な瞳。


この真っすぐな少年の顔を、自分が曇らせることになる。


負い目と申し訳なさと。

やらなくてはならない責任を込めて、告げる。


/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの『処刑』をお主に命ずる」


モララーの胸に、鉛のような重さが圧し掛かった。






つづく

351 ◆mGwfd747EA:2021/03/20(土) 21:16:53 ID:eAJ/Jxuk0
思ったより短くなってしまいましたが
ここらへんがちょうど区切りが良かったので今週はここまです。
また来週も忘れず更新したいです。モンハンの誘惑に負けないように

352名も無きAAのようです:2021/03/20(土) 21:52:03 ID:/NdRoR5I0
おつでさ

353 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」

脂汗を流しながらモララーが聞く。

/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」

逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。

(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」

/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」

ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。

実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。


他に出来る人はいない。だから、一任する、と。


(;・∀・)「なぜ、今ここで?」

/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」


/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」

354 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
    じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」


/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」


/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
    戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」

/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」


(;-∀-)


モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。

結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。

戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。


/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
    こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
    災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」

/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
    ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」

/ ,' 3「出来るな?」

355 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。

優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。

でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。




わかってる。

ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。


重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。



(; ∀ )「はい」








――――。


部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。

356 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』

(  ∀ )『……いつでも』


戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。

それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。

もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?

想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。

/ ,' 3『では、始めよ!』


部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。

( ・∀・)「……!」

遅れて起こった変化は、上空からだった。

何かが落下してきている。

鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。

それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。

357 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)


モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。



異常は既に始まっている。

椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。

ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。


从三//从


从 ゚//从「…………あ?」


(;・∀・)「ッ!!!」


スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。

目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。


从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」

358 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。

対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。

かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。


从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」

口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。










/ ,' 3「始まったか……」


近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。

常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。

359 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。

中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。


どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。

魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。

下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。

スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。





从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」

( >∀・)「ぐっ!?」

無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。

だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。

目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。

360 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」

( ・∀・)「プロミネンス!」

高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。

从 ゚∀从「ふゥむ」

ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。

从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」

(;・∀・)「……」

从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」

(;・∀・)「……な!?」

言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。

从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
      一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」

クハハ、と楽し気に笑う。

从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」

361 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」


振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。

火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。


(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」

空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。

モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。

敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。

从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」

从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
      だから、攻め方もワンパターンなんだ。
      つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
      そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」

( ・∀・)「!」

いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。


从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
      理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
      そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」

362 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。

しばらくは動けないはずだ。

魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。

( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」

足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。

( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」

掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。

( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」


発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。

これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。

あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。


炸裂すれば、塵一つ残らない。

363 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」


はずなのに。


(;・∀・)「な……!?」


めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。

何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。

(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」

从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」

( ・∀・)「なんだって……?」

指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。

从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」

从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」

(;・∀・)「!」

从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」

从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
      スカルチノフは、イカれちまってんのか?」

364 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」

語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。

从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
      自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」

(; ∀ )「それは……!!」


呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。


从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」

片手で闇の波動魔術を放つ。

モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。

从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
      おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」

更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。

从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」

从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」

(;・∀・)「ぐぅうう……!!」

モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。

365 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。


理由はただ一つ。


この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。

当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。

だが、モララーは違った。

手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。


何故、今になっても尚そうするのか。

相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。


(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)


幾度も出た戦場の最中。

敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。

ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。

366 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。


何度も自問した。

回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。

いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。

習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。

怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。

そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。

でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。

時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。


ずっと。




(;・∀・)「うあぁあッ!!」

思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。

367 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从


从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」


飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。


从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」






从 -∀从



从 ゚∀从「バーンプロミネンス」


(;・∀・)「は!?」


片手をちょいと翳しただけだった。


そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』

上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。

368 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」


不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。


まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。

そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。

どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。


それなのに……!

(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)

スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。


(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」

落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。

十分、バーンプロミネンスに対抗できる。





从 ∀从「そこだよ」

369 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」



ハインリッヒの声だけが聞こえた。

モララーは辺りを伺う。

どこにも居ない。

……否。


どこにも居ないのではない。


何も見えなくなっている。


バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。


灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。


从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
      スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」



(;・∀・)「どこだ!」


从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
      お前さんは」

370 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。

从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
      目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」


(;・∀・)「ハインリッヒ!!」


膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。

伏せる彼の意識は既になかった。


从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」

モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。

本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。

少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。


目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。

371 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。

ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。



从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」



从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」



从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」



高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。




そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。



まるで当たり前のように、施錠を破壊した。








嘗四話「その扉を開く者」

372 ◆mGwfd747EA:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます

373名も無きAAのようです:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0


374名も無きAAのようです:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね

375名も無きAAのようです:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね

376 ◆mGwfd747EA:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください

377名も無きAAのようです:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk

378 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」





(;-∀-)



(;-∀・)




(;・∀・)




(;・∀・)「!!」



急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。

そこは自室だった。

379 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。



だからこそ焦る。


何故、自室に……!?


モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。


気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。

いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。



(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」

肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。

380 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。


何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。


それこそが最も大きな原因。




探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。

もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。


そうに違いない。


そう思いたい、



(;-∀-)




(; ∀ )「……………………あぁ。」

381 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。

風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。


それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。



探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。




城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。

意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。

辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。

医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。

不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。

ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。


何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。

382 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0

(;・∀・)「……! おじい様は!?」


動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。

捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。


(;-∀-)「……」


とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。

壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。

混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。

思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。

場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。


それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。


口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。

383 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)

いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。

それを手繰れば……!!

切り、貼り、伸ばし、繋げる。

空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。

(;・∀・)「……ここだ!」


魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。

予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。





/ ,' 3「待て」

(;・∀・)「国王陛下!」

手をあげて、降伏の仕草をするモララー。

いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。

384 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」

(;・∀・)「ご無事ですか!?」

場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。


だが、決定的な違和感がある。



/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」




(;・∀・)




(;-∀-)


言葉だけで、その意図は伝わった。

モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。

385 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。



数名、減っていた。



いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。


そこに居ない。

収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。


状況と、結果。


照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。


出てしまっていた。



彼らは、王を庇い殉職したのだと。



/ ,' 3「モララーくん」


(; ∀ )

386 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」



(; ∀ )



/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」



(;・∀・)「は、はい!」


気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。


/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」


/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」


/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」


/ ,' 3「……良いな?」

387 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)


(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」



顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。

残された部屋で、国王は思う。


未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。

けれど、やはりまだ少年なのだ。

怖かったはず。
辛かったはず。


ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。

見当はつかない。

だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。

頼れるのは彼だけだ。


自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。

388 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。

することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。


願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。







( ・∀・)「……」

暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。

俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。

初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。

今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。

綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。

意図を理解できていなかった。

389 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。

多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。

『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。


ああ。

結局、そんな決意も覚悟もなく。


ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。



(  ∀ )「……ごめんなさい」

謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。

苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。

どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。

深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。

390 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。

そもそも、その考え方が間違っている。


自分だけじゃないんだ。


ここにきて、世話になった人たち。

関わった以上、もう他人ではない。

そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。

心底、腹が立つ。


甘い。甘すぎる。甘っちょろい。


何度も言われていた気がする。思われていた気がする。

見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。



(  ∀ )「……はぁぁ……」



震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。

391 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。

冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。


こうなったのは、誰のせいだ。


自分だ。



……だが、やったのは誰だ。



あいつだ。



あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?


心臓が高鳴る。


今までの、緊張とは違う。

熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。

392 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0


そうだ。

そうだ。


あいつを世に放ったのが自分の責任なら。


自分自身で、始末をつけなくてはならない。


国王の命令だけじゃない。


今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。



――――憎い。



この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!



手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。



再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。


闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。

393 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0









从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」





そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。


どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。


被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。



( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」


( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」


从 ゚∀从「おォ、なんだ?」

394 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。


( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」

从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」


彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。


从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」


从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」


从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
      生きてても意味がねェんだ。だから殺す」


从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」

395 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0


( ・∀・)



( -∀-)



( ・∀・)「……ああ、良かった」



( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
       悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
       ぼくは少しは躊躇したかもしれない」


( ・∀・)「でも、違うんだな」


( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」


从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」



( -∀-)「いいや、助かった。
       おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」

396 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0






( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」





.

397 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。


从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)




凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。

全力を賭して、気兼ねなく殺せる。

最高だ。

その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。

それこそが、自分自身の生きている意味。

おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。



ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。



从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」





つづく

398 ◆mGwfd747EA:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。

399名も無きAAのようです:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー

400 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」



ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。


凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。


闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。


当然、彼のやるべきことは決まっていた。


溢れる魔力、強大な魔術。

多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。


若さゆえ、魔法力の回復は早い。


彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。

血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。

401 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60




从 ゚∀从(つまんねェな)

死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。

風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。


从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)


魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。

今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。


从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)


封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。

人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。

どれも簡単だ。


从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)

402 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。

他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。

研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。

圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。

その征服感が、最高に生を実感させていた。




……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。

不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。

最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。

専用の地下牢に投獄されることとなった。


本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い


いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。

403 ◆mGwfd747EA:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60


从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)


激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。

前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか

興味しかなかった。


( ・∀・)「……」

望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。


从 ゚∀从「!」


瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。

圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。


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