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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
1
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:47:16 ID:U5Z4bAHs0
潮の香る港に、日本人とはかけ離れた二人の男が降り立った。
ここ、小樽の港には日本人以外にも出稼ぎにきたロシア人も多く、
外国人はそう珍しいものでもなかったのだが、
二人の異色は際立っている。
( ´_ゝ`) 「いやー気持ち悪かったなー。揺れる揺れる。
船旅ってのはどうにもすかんね、俺は」
2月末とはいえ雪のまだ積もるこの土地で、
極彩色の派手なアロハシャツを羽織り、麦わら帽子を被った短パンの男と、
(´<_` ) 「アニジャ、静かにしろ。任務中だ。目立つ様な真似はするな」
対照的に、どこに売っているのかもわからない、
足首まで丈がある、フード付きの真っ青なローブをきた男の二人組。
( ´_ゝ`) 「はいはーい、わかってますよオトジャくん。
そんじゃ、粛々と静かーに会話もなく黙々と目的地目指しますか」
アニジャ、と呼ばれたアロハ男は軽く手を振るだけで、
なんら悪びれもせずに歩き出す。
その背をオトジャというローブの男が追い、
(´<_` ) 「分かったのなら行動で示してくれ」
愛想の無い口調でそうたしなめた。
目を引く二人ではあるが、港を少し離れていくと車道を走る車ばかりで、
人通りは少なくなっていき、彼らを気に掛けるものはいなくなった。
2
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:48:55 ID:U5Z4bAHs0
( ´_ゝ`) 「なぁ、もう口開いていい?」
(´<_` ) 「あぁ、ここらへんでいいだろう」
倉庫や工場に挟まれた路地に辿りつくと、二人は立ち止まる。
座る場所はなどないが、アニジャは地面の汚さに構わず座り込む。
( ´_ゝ`) 「あー雪がひんやりして気持ちいい。
なんだか目覚めちゃいそう」
(´<_` ) 「勝手に目覚めて貰っても構わんがもう少し緊張しろ。
聖杯戦争は、これから始まるんだぞ」
( ´_ゝ`) 「まーまー、肩の力抜けよ。今のとこ俺達が一番乗りだ」
( ´_ゝ`) 「聖杯戦争に参加するであろう内藤も津出も、
まだサーヴァントを召喚したとの報告は受けていない。
始まってもいないのに殺し合うメリットなんて無いだろ?」
(´<_` ) 「楽観的すぎるんだ、アニジャは。どこに"アサシン"がいるのかもわからないんだぞ?」
( ´_ゝ`) 「だから、サーヴァントは召喚されていないって。
気配遮断スキルを持つとはいっても、召喚されればわかるようになってんの」
(´<_` ) 「違う、そいつじゃない。だからアニジャは楽観的だと言ったんだ」
3
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:51:39 ID:U5Z4bAHs0
( ´_ゝ`) 「……あぁ、"あいつ"か。"あいつ"のことか」
"あいつ"、と口にした途端、アニジャは表情を変えた。
憎しみにも近い、嫌悪感を隠しもしない口振りで、
( ´_ゝ`) 「例え"あいつ"が出てきたとしても"双璧の全属性"が相手だ。
あんな畜生なんぞに負けるはずはあるまいよ。
俺の炎と風、オトジャの水と地の魔術、そして互いの空があれば奴が敵うはずはないんだ」
(´<_` ) 「で、あればいいんだがな。"あいつ"の為に一体どれほどの魔術師が犠牲になったかしれん。
用心しておくことだ、アニジャ。だからこそ、俺達が魔術協会から選ばれたんだからな」
( ´_ゝ`) 「わかっているよ、オトジャ。七騎のサーヴァントが揃う前に死んだとなれば、末代までのお笑い草だ」
(´<_` ) 「気をつけてくれればいいんだ。頼んだぞ、アニジャ」
言いつつ、弟者は長いローブの袖を巻くって腕時計を見た。
時刻は9時を示しており、予定通りにことは運んでいるようで、
弟者は薄っすらと笑みを浮かべると、
(´<_` ) 「そろそろ迎えが来る頃だな。兄者、手筈通り札幌には一人で向かうんだぞ。
俺も全サーヴァントが召喚され次第向かう。
令呪がお互いに現われて、敵同士になってはかなわんからな」
遅刻すんなよ、とアニジャはからかおうとしたが、
それよりも速く車が二人の前に停車し、言葉を止めた。
4
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:53:03 ID:U5Z4bAHs0
从・∀・ノ!リ人 「おっきい兄者、ちっちゃい兄者、迎えにきたのじゃ」
(´<_` ) 「イモジャはかしこいなぁ。時間ばっちりだ」
後部座席が自動で開くと、アニジャは乗り込んでいく。
( ´_ゝ`) 「お前も、遅刻するなよ。
サスガファミリー総がかりでも、サーヴァントで襲われては刃が立たん」
そこで、ようやくからかうタイミングが出来て、
麦わら帽子を手に取ったアニジャは満足げな表情で弟者を見た。
(´<_` ) 「アニジャが言うなよ」
( ´_ゝ`) 「……この帽子をお前に預ける。
俺の大切な帽子だ、いつかきっと返しに来い。立派な魔術師になってな」
その帽子を、オトジャに被せるとアニジャはそのままドアを閉める。
苦笑いを浮かべ、弟者は二人の乗った車が発進していくのを見送り……。
まず感じた物は音だった。聴覚を殴りつける轟音。
次いで、身を吹き飛ばす熱風と衝撃波。
それらをオトジャが感じたのは一瞬のことだ。
車の下部に取り付けられたプラスチック爆薬から引き起こされた炎は、
ガソリンに引火すると酸素を次から次へと求めて大炎上となり、
恐るべきその運動は爆発と爆風となって二人を飲み込み、オトジャを弾き飛ばした。
5
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:54:11 ID:U5Z4bAHs0
( <_ メ;) 「―――――」
アスファルトの上を10メートル近く転がったオトジャは、
声を出すが、肺を焼かれてしまった為にそれは言葉にはならなかった。
考える間も無い、あまりにも唐突で残酷な出来ごとに、
思考が追いつかずパニックに陥ることも出来ない。
そんな中で彼が取った行動は本能的なもので、うつ伏せになった身を返し、
損傷した臓器への負担を軽減して苦痛を和らげるというものだ。
仰向けになると青い空が見えた。空気は乾燥していて、寒い風が吹いてはいるものの太陽は眩しい。
( <_ メ;) 「……?」
( )
冷静に、落ちついて事態を把握しようとしていたオトジャの目に、太陽を遮る物が現れる。
人だった。
顔はフードを被っていてわからないが、
濃緑色のモッズコートに身を包む、170cm程の小柄な男だ。
小柄、とは言っても弟者の住む国からすれば、という意味で、
この国の平均的な体格ではあり、コートの上からでもわかる鍛え抜かれた肉体が、
一口に小柄とは言い切れない逞しさを放っている。
6
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:56:46 ID:U5Z4bAHs0
( <_ メ;) 「……ッ! ギザ……マ……!!」
フードの奥にある顔に目を凝らせば、見覚えのある顔をしていた。
多くの魔術師達を暗殺し、魔術協会と真っ向から敵対する、
魔術師界隈では指名手配をされ、オトジャが危険視していた男の顔である。
その男が、その"魔術師"こそが……。
( ) 「聖杯は俺を選んだ。この土地に着いてから、すぐさま令呪が俺には刻まれた」
この惨事の中でも淡々とした口調で語れることからも、
この男がアニジャとイモジャの二人の命を奪ったことは明白であった。
そして彼はこれから、オトジャの命をも奪う。
魔術師達が嫌う近代科学によって生み出された、
ハンドガンの9mmパラベラム弾に眉間を撃ち抜かれることで。
銃声はグロック26の銃口から伸びる、サプレッサーによって減少され、
肉と頭蓋を穿つ生々しい音が響くのみであった。
魔術師と言えども人間であり、頭を撃たれれば血と脳を地面にこぼして死んでしまう。
( <_ メ) 「 」
爆破によって身体機能を著しく低下させられ、
尚且つ冷静な判断力を欠いたオトジャには魔術を使う間もなかった。
魔術師といえども、実際に命を奪い合う戦闘を経験した者は稀である。
それが、それこそがこの男との決定的な力量の差であった。
濃緑色のコートを羽織った男は、ジーンズからケータイを取り出すと発信し、
7
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:58:00 ID:U5Z4bAHs0
( ) 『作戦完了、これより目標地点へ向かう。
起爆装置は問題なく作動した。よくやった』
通話相手にそう告げる。
淀みない、機械的なやりとりの中でも、
最後の一言には微かに相手を労う気持ちが込められていた。
『お疲れ様。みんなお待ちかねよ。船旅はどうだった?』
彼のケータイから聞こえる声は、
落ち着きがある中にも陽気さを感じさせる女の声だ。
( )『問題は無い。誰も俺に気付きやしなかった』
『あんた、目立たないもんね。懸賞金も掛けられてるのに、
今まで生き残ってこられたのはその存在感の薄さのおかげかしら』
( )『俺の魔術のおかげだ。万が一ということもある。
無駄話はやめて、作戦に移るぞ』
『はいはい、了解ですボス。じゃあ開始しましょ』
( )『あぁ―――聖杯戦争を開始するぞ』
男はケータイを切ると駅へと向かって歩き出す。
フードを外すと隠されていた無表情が露わとなり、涼やかな眼の奥からは切なる願いの火と、
大いなる野望の火が、炎となって燃え盛っているような輝きが放たれていた。
8
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:58:55 ID:U5Z4bAHs0
******
札幌市東区。
中央区よりの位置にある東区役所方面を南下し、
VIP高校へ登校する生徒達は皆、春の近づきを感じながらも、
冬の寒気の入り混じる複雑な気候から身を護る為、それぞれ防寒着で身を固めている。
VIP高の生徒達の中で、垂れ眉のショボクレた顔をした少年、
ショボンは雪溶けで濡れた歩道に眉をひそめながら、
水溜りを避けるようにして歩いていく。
(´・ω・`) 「最近になって雪が溶けてきたね」
( ^ω^) 「暖かくなってきたからだお。
まだ2月の末だけど、徐々に春は近付いてきてるんだお」
その隣を歩く大柄の少年ブーンは、
雲一つない青空を一度見やると、丸顔をショボンへと向ける。
(´・ω・`) 「暖かいのはいいことだけど、これじゃ靴がビチャビチャになっちゃうよ。
僕も君みたいに安全靴を履いてくれば良かったかな。見た目は悪いけど」
( ^ω^) 「機能性はいいお。冬でもスニーカーじゃ、濡れちゃうのは当然だおね」
細い、笑みを作ったかのような目でショボンの足元を見て、
染みの出来た白のスニーカーを指して言う。
9
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:59:36 ID:U5Z4bAHs0
(´・ω・`) 「僕はスニーカーが好きだからさ」
こんなに暖かいのなら、道がびちゃ濡れになっているのはわかりきっていただろうに。
あえてスニーカーを履くという選択はショボンの洒落っ気ではあったのだが、
機能性を優先するブーンには理解し難い奇行でしかない。
(´・ω・`)σ 「どうやらツンも雪解けに苦戦しているみたいだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ
指を差す先には金髪を縦にロールした、
色白の女生徒ツンがおり、水溜りを避けるようにして進む姿から、
どうやら彼女もこの道に苦戦を強いられているようであった。
(* ^ω^) 「おっ! ツン、おはようだお!!」
ξ゚⊿゚)ξ 「あ……おはよう、ブーン……」
(´・ω・`) 「おはよう。元気が無いみたいだけど、水溜まりにでも突っ込んだかい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ……別に、何でもないわ」
(; ^ω^) 「大丈夫かお? 体調悪いのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「何でも無いって。それより、ブーン。
今日の放課後、時間を頂けるかしら?」
(* ^ω^) 「わかったお! ツンの為ならいつだって暇にするお!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……そう。じゃあ放課後に、ね」
10
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:01:02 ID:U5Z4bAHs0
ξ゚⊿゚)ξノシ
( ^ω^)ノシ
(´・ω・`) 「……なんだ、付き合いの悪い。
クラスが同じなんだから一緒に登校してもいいのに」
( ^ω^) 「ツンは、やっぱり体調が悪いんだお。
だから心配させまいと、一人で行っちゃったんだお」
(´・ω・`) 「そうかな? 確かに顔色はあまり良くなかったけど。
それに、急に呼びだしてなんなんだろうね。
もしかして、ブーンに告白するとか?」
(;^ω^) 「いやいやいや! それはないお。ツンに限っては、絶対!!」
(´・ω・`) 「幼馴染属性とか羨ましいよ」
(;^ω^) 「エロゲに限る話だお、そういうのは」
(´・ω・`) 「そうかい? もしかしたら、緊張のあまりに体調悪くしてるとか、
ツンのことだし、あると思うんだけどなー」
( ^ω^) 「うーん……たしかに、何か悩みがあるかもってのは頷けるお」
(´・ω・`) 「……」
( ^ω^) 「うーん……」
11
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:01:49 ID:U5Z4bAHs0
(´・ω・`) 「まさか……」
( ^ω^) 「まさか、なんだお?」
(´・ω・`) 「僕達の関係に気付いたっていうわけじゃ……ないかな」
(;^ω^) 「え……?」
突然、僕達の関係、と言われてブーンは戸惑った。
普通の何一つ変わらない友人との関係の何を気付いたというのか。
ツンは何に合点がいったと言うのか、真剣に思考していくが、
(´・ω・`) 「うん、それなら僕らと登校しないというのも合点がいく。
二人の邪魔をしちゃあ悪いと、ツンもそう思ったんだろう。
カップルが二人で登校、というイベントを妨害してはいけないからね」
_, ,_
( ^ω^) 「は? カップル?」
予想外の答えにブーンは戸惑いを通り越えて呆れた。
ただ、呆れた。呆れ果てた。
(´・ω・`) 「さぁ、手でも繋ごうか、ブーン。
気を使ってくれたツンにも悪いし……さぁ」
( ^ω^) 「ショボンは、そっち系のエロゲ脳だったかお……勘弁してくれお」
手を繋ぐことを強要してくる友人に、気色悪さを感じたブーンは、
彼を無視して足早に学校へと一人で向かっていった。
12
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:02:51 ID:U5Z4bAHs0
******
学校に到着し、ツンに何の用事か問いただしては見たものの、
結局答えては貰えず、幼馴染の勘からいくら聞いても答えてはくれないと、
ブーンは諦めることにした。
ツンの申し出のことが頭に引っかかったまま最後の授業を受けていると、
終業のベルが校内に鳴り響き、ホームルームが始まる。
( ´ー`)「今日は小樽のほうで自動車の爆発事故があったようだ。
整備不良が原因らしいけど、お前らも駐車している車を見かけたら、
爆発しないかどうか気をつけながら帰宅しろヨ」
担任のシラネーヨの言葉は生徒の身を気遣っているのだろうが、
どこか冗談めかしたもののような響きを持っている。、
しかし、今のブーンの耳に届いてはいなかった。
( ´ー`)「最近物騒なんだからな〜。寄り道も程ほどにしておけよ〜。
じゃあ、ホームルーム終わりだーヨ……散!」
「きりーつ、礼〜」
今度は完全に受けを狙いにいった発言であったが、
日直である女生徒は冷たい目を担任へ突き刺すと、
号令を終えた途端にそそくさと帰っていってしまう。
13
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:04:19 ID:U5Z4bAHs0
(;´ー`) 「……さようなら」
教室内にはまだ生徒が大勢残っていたが、
シラネーヨは居心地の悪さを感じたのかすぐさま退散し、
その背中をネタに一部の生徒達は会話に花を咲かせていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、ちょっといいかしら?」
そんな中で、ブーンにとってツンの声がやけにクリアに聞こえた。
やっときたか、という思いを胸に秘めたまま彼は振り返る。
( ^ω^) 「お、早速かお」
(´・ω・`) 「僕もいい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……来ないで。大事な話があるの、ブーンに」
(´゚ω゚`) 「大事な話……やはり!」
(;^ω^) 「すまんお、ショボン……」
(´゚ω゚`) 「ぶ、ブーン……」
ξ゚⊿゚)ξノシ 「じゃあね、諸本くん」
(;^ω^)ノシ「じゃ、じゃあ……また明日だお」
14
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:05:25 ID:U5Z4bAHs0
(´゚ω゚`) 「ブーン……君は、大人の階段をこうして登っていくんだね……」
呪詛のようなものが浴びせられながらも、
ブーンの背中はツンに率いられるまま教室を出ていき、
外気に備える為二人は手袋をつけ、校門をくぐっていった。
( ^ω^) 「ツン、話しってなんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
道中、彼がそう問いかけても、
ツンは口を固く閉ざして何も語ることは無かったのだが、
住宅の多い地帯を進み、路地へと入って人気が少ないのを確認すると、
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーン、貴方……聖杯戦争に参加するの?」
西洋系の血の混じった彼女の碧眼が、語気と共に鋭さを増した。
( ^ω^) 「……そうじゃないかと、薄々思っていたお。
そうであって欲しくないとも、思っていたけど……」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうなの?」
( ^ω^) 「ツンはどうなんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「質問に質問で返さないでくれるかしら?」
( ^ω^) 「まだ、決めかねているお」
15
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:06:56 ID:U5Z4bAHs0
ξ゚⊿゚)ξ 「呆れたわ。おばさまも、同じ気持ちでしょうね。
せっかく貴方にはおじさまの権利も、魔術刻印も継承されたというのに」
( ^ω^) 「ツンのお母さんはなんて言ってるんだお?
願い事の為に、魔術師7人も集めて殺し合うことに賛成なのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「当たり前じゃない魔術師なら。
これは根源への到達を……魔術師達の、
お父様達の長年の悲願を達成出来るかもしれないのよ」
( ^ω^) 「御三家が勝手に始めたことだお。
僕達は彼らとは違う。それにとーちゃんとモララーおじさんは、
僕やツンが殺し合いに参加することを良しとすると思うかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうに決まっているじゃない。根源への到達は偉業も偉業。
私達の後の世代にまでそれは語り継がれ、魔術師として最高の栄誉を手に出来る。
魔術師ならそんなこと、迷うはずないじゃない」
( ^ω^) 「僕は、とーちゃんが戦争で死んだ時から、ずっと考えてきたお。
どんな気持ちで、どんな願いを抱いて死んでいったのだろうかって」
( ^ω^) 「僕なら……そんな血塗れの名声よりも、
美味いもん食って好きな人達に囲われて死んでくれたほうが、
親としては嬉しいことなんじゃないかなって、今はそう考えているお」
ξ゚⊿゚)ξ 「逃げるの? ブーン」
16
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:08:15 ID:U5Z4bAHs0
( ^ω^) 「……逃げる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、そんなもの逃げているだけじゃない。
貴方は怖いだけじゃない。戦う事を怖がって自分に都合の良いこと言って、
逃げようとしてるだけじゃない」
(;^ω^) 「そんなことはないお!!」
思わず、ブーンは声を荒げた。
自分なりに父の気持ちをずっと考えてきて出した結論なのに、
逃げる言い訳だと吐き捨てられてはたまったものではない。
ξ゚⊿゚)ξ 「いいえ、それは本当に単なる逃げなのよ。魔術師がそんな口を叩くはずがないもの。
いい? 例え相手がどんな魔術師で、どんなサーヴァントを召喚してきたとしても、
根源への到達を成し遂げてみせる。それが父から託された私達子の宿命ってものじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんな普通の、何も成し遂げることが出来ずに死んでいくような生き方のほうが、
何倍も怖いじゃない。ブーンはただの臆病者よ。自分には出来ないと諦めてしまった愚か者」
( ^ω^) 「違うんだお、ツン。それは誤解だお。絶対に違うんだお、それだけは」
ξ-⊿-)ξ 「ふん……じゃあ貴方は聖杯戦争には出ないのね?」
(;^ω^) 「うっ……それは、まだ決まっては……」
ξ゚⊿゚)ξ 「監督役のロマネスクおじさんから連絡が来てると思うけど、
今日くる連絡が最後通告になるわよ」
(;^ω^) 「……」
17
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:09:16 ID:U5Z4bAHs0
ξ゚⊿゚)ξ 「続々とこの札幌に、魔術師達がやってくるわ。
内藤と津出がこの土地で聖杯を発見したことで得た、この令呪」
ツンが制服の右の袖を巻くっていくと白く細い腕が現れ、
その二の腕には赤々とした紋章が刻まれていた。
そして、ブーンはそれに応えるように手袋を脱いでいくと、
包帯の巻かれた右手が現われ、それを解いていくと似たような紋章が掲げられる。
一月前、痛みと共に"いきなり"刻まれた紋章。
ξ゚⊿゚)ξ 「貴方も間違いなく聖杯に選ばれた魔術師の一人。
戦わないというのなら"内藤"は早く放棄することね」
それが、それこそが聖杯に認められた魔術師の証。
聖杯戦争に挑む為のチケットであり、サーヴァントを制御する三つの刻印。
サーヴァントを使役する"マスター"の"令呪"である。
( ^ω^) 「僕に諦めろというのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「既に、諦めているじゃない」
( ^ω^) 「諦めたわけじゃないお……」
諦めたわけじゃないが、二つだけ懸念することが彼にはあった。
一つは、自分の願いである。
万能の願望機と呼ばれる聖杯に託す願いが、果たして根源への到達などで良いのだろうか?
たしかにそれは父達の願いでもあり、究極の知識を求める魔術師達の悲願。
きっととてつもない力を手に入れることが出来るのだろうと、漠然とではあるが想像がつく。
18
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:10:34 ID:U5Z4bAHs0
しかし、そんなもので幸福になれるのかと問われれば、ブーンにはわからなかった。
あらゆる願いを叶えられると言うのに、そんな願いを果たしていいのだろうか。
これはまだ、解決できる問題かもしれない。
だが、どうしても避けられない問題というものもある。
それが、二つ目だ。
願いを諦めてでも、戦いを避けてでも直面したくない問題。
ξ゚⊿゚)ξ 「まぁ、いいわ。貴方が棄権しようが参戦しようが、
私にとって敵の一人に貴方が加わるか、
別の誰かが敵になるかの違いでしかないから」
そう、この少女と戦うことだけは、ブーンにはどうしても許容出来なかった。
幼いころより、父達が古い友人ということで付き合いのあった、
この幼馴染と魔術を競い合うことが彼にとって、一番怖いことだった。
ξ゚⊿゚)ξ 「貴方が戦うというのなら、共闘を申し出ようかとも思ったんだけど……。
仕方、ないわよね……それじゃあさようなら、魔術師内藤ホライゾンくん。
戦場になるこの土地で、せいぜい巻き添えを食わないようにすることね」
手を振ることもせず、冷たい態度と言葉で突き放したツンは、
踵を返すとそのままブーンの目の前から立ち去っていってしまった。
( ^ω^) 「……さようならだお、ツン」
大柄の彼と比べると少女の小さすぎる背中は華奢ではあったが、
身に纏う雰囲気はれっきとした魔術師のそれであった。
ブーンには、その遠くなっていく彼女の後姿を引き留めることは、出来なかった。
19
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:11:26 ID:U5Z4bAHs0
******
真っ白なダウンジャケットの前を閉じ、
薄ピンクのニット帽から栗色のショートカットを覗かせた女性は、
新千歳空港に降り立つと頬を赤らめさせた。
彼女の住むロンドンよりもこの土地が冷え込む証拠であり、
身体は正直にその温度差に反応する。
キャリケースを受け取り出口を目指すと、まずはバスを探した。
(*゚ー゚) 「ここが、日本の北海道……」
外に出ると空からは広大に見えた大地も呆気ないものだが、
陸から見る白銀の世界は彼女、シィを感嘆させるに足るものだった。
どこまでも続くような真っ直ぐに伸びた道路は氷に覆われ、
建築物の屋根には例外なく分厚い雪を被せられた、雪景色。
0度を下回る氷点下に吹く風は冷たさを痛みへと変える。
(*゚ー゚) 「こんなところで貴方は戦うというのね、ギコくん……」
ギコ、彼はシィのかつての恋人だ。
時計塔と呼ばれる、魔術協会の総本山で学びあった魔術師同士の恋人。
――――数年前に突然別れを切り出され、ギコが姿を消すことで破局してしまった。
が、シィは未だに諦めがつかず、消息不明だった彼が札幌に現われると聞き遥々やってきたのだ。
その彼がこんな極東の島国にやってくる目的とは――――
20
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:13:00 ID:U5Z4bAHs0
(*゚ー゚) (聖杯戦争……まだ、夢を諦めていないの? ギコくんは。
797番目の聖杯。聖堂協会は贋作だと言っていたけど、
それが集めてきた高度な魔力だけは本物)
(*-ー-) (魔術協会の調べたデータによれば、あらゆる願いを叶える願望機としての性能は確実にある。
貴方の願いは、これを手にすれば確実に叶えられるはず……)
でも、とシィは思う。
ギコの想いを知るが故に彼女は思うのだ。
(*-ー-) (それは貴方にとって、私を捨ててまで手にするべきものだったの……?)
その願いとは、自分よりも大事なものなのだろうか、
自分は彼にとってどのような存在であったのだろうか、と。
聖杯戦争はシィにとってどうでもいいものだ。
参戦するつもりはもとよりない。
ギコと再会することだけが彼女の目的なのだ。
そして問いただす。
ギコにとって己の存在とは何であるのか?―――と。
(*゚ー゚) (聖杯を求めてやってきた魔術師に会うかもしれない。
戦場になる札幌で戦いに巻き込まれることもあるかもしれない。
でも、私は……貴方にもう一度会いたいの……ギコくん)
シィの家系は魔術師としてまだ四代ほどしか続いていない。
魔術師としてはまだ幼く、世代を重ねていくことで強力になっていく、
魔術師の力の証とも呼べる魔術刻印は大した力を持ち合わせていない。
21
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 22:13:47 ID:U5Z4bAHs0
腕に自信のある魔術師が集うことになる聖杯戦争に、
巻き添えを食らってしまった場合心許ない力ではあるが、
シィには磨いてきた技と魔術の知識で切り抜ける、自信があった。
ましてやこの力に不満を持ったことなどない。
その未熟さで時計塔では迫害され、疎んじられ、嘲笑されもしたが、
だからこそ彼との出会いを果たせたのだから。
(*゚ー゚) (ギコくん、私、強くなったんだよ?
貴方と別れてから、ずっと、ずっと私は一人で戦ってきたの。
私は、家柄を鼻にかけてふんぞり返る連中より……ずっと強くなったわ)
その想いが故に、切磋琢磨してきた経験による自信が故に、
戦場へと足を踏み入れることを、彼女は躊躇わなかった。
札幌行きのバスを見つけると荷物を預けて乗り込み、2分後に発車した。
最後部にはまだ空いている席があるのを見つけ、窓際のそこへ腰かける。
離れていく空港を眺めながら、徐々に前へと視線を移していった。
前には街が広がっている。雪に塗れた千歳の街が。
そしてこのバスが進む先には札幌があり、そこにギコもいるはずだ。
シィは逸る気持ちを抑えながら、瞼を閉じて仮眠をとっていく。
時間はまだまだかかる。休める時に休んでおこう、といった考えからだった。
座席にまで伝わるエンジンの振動と暖房が心地よく、
興奮した心にリラックスをもたらし、やがて眠りへと落ちていくが……。
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