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( ^ω^)は嘘をついていたようです

252第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/08(木) 23:53:09 ID:gvME6E7E0
がしっと、腕を掴まれた。

モララーはびくっとして、掴まれた腕を見て、掴んだ人物を見る。

( ・∀・)「ブーン……?」

何故ここに、という疑問が最初に浮かんだ。
しかし、ブーンの表情を見て、その疑問は消えて、次の疑問が強烈に浮かび上がった。
ブーンの顔つきから、ひどい違和感がしたからである。

強張ったその顔は、モララーの知っているあの顔にとてもそぐわなかった。
こんな表情を彼がするところを初めて目にしたのである。

モララーの知っているブーンは、いつも笑顔だった。
笑顔を絶やすことはない、温和で、優しい少年。
今目の前にいる少年は、笑ってこそいるものの、どこか今までと違う。
そう、まるで無理やりにでも笑っているかのような、そんな印象をモララーは受けた。

(  ω )「モララー。
       ここでなにしていたお?」

253第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/08(木) 23:55:09 ID:gvME6E7E0
ブーンの問に、どう答えていいのか、モララーは躊躇した。
いったい何のことだろう。
先程の少女と話していたことを言っているのだろうか。

だとしたら――モララーは説明しようとして、思いとどまる。

少女のことは、モララーもよく知らない。
モララーの父親の隠し子であるということだけ。
そしてそのことを説明すれば、自分が暗くなり、ブーンと疎遠になった理由も離さなければならない。

まだ、打ち明けたくはなかった。
簡単に説明できることではない。ましてブーンには、もっとちゃんと、後で説明してあげたい。
そんな想いがモララーにはあったのだ。

だから、首を横に振った。

( ・∀・)「ごめんな。今は説明できないんだ。
       後でちゃんと説明するから、な?」

それから、モララーは自分の家の玄関を振り向いた。
一旦家に入るだけ、ただそれだけだった。

直後、頭に強い衝撃を受けて、モララーの意識は飛んでしまった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

254第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/08(木) 23:57:08 ID:gvME6E7E0
( ・∀・)「ここからはもう、覚えてねえよ。
       気付いたら俺は川の上に浮かんで夜空を見上げていた。
       あのとき殴ってきたのはブーンだってことだけは、なんとなくわかるんだけどな」

モララーは長い昔話を終えた。
ドクオもジョルジュも黙っている。
いったい二人はどんな言葉を返してくるのか、モララーはそれをじっと待っていた。
 _
( ゚∀゚)「俺は、ブーンさんからも昔話を聴いているんだ」

ジョルジュが言う。
 _
( ゚∀゚)「あんたの話を補完できるだけ、知っているぞ。モララー。
      あんたはどうやら、どうして自分が殴られたのかわかっていないみたいだからな」

モララーは肩をすくめた。

( ・∀・)「ブーンの息子を称すお前さんには悪いが、その通りだ。
       ブーンが何を感じていたのか、俺にはわからねえ。疎遠になり過ぎていた。
       説明してくれるとありがたいね。俺としても」

ジョルジュは舌打ちをした。
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんの気持ちをわかってあげようとしなかった、あんたの責任さ」

それから、ジョルジュの話が始まった。

255第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/08(木) 23:59:12 ID:gvME6E7E0
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは小さい頃からお前と、ツンと友達だった。
      ブーンさんにとってもその関係は大切で、大事にしたかったんだ。
      性別を超えた友達としての関係をな」
 _
( ゚∀゚)「お前が何かを抱え込んでいることにはブーンさんも気付いていた。
      それでも話せなかったのは、部活が忙しかったからってのが一番にある。
      でもな、ある日のことだ」
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんはある日突然、お前から、お前がツンと付き合っていることを聴かされた。
      そのとき、ブーンさんは一瞬頭が真っ白になったらしい。
      それでもすぐに正気になって、お前を祝福する言葉をかけた。お前の話通りにな」
 _
( ゚∀゚)「だけどそれから、ブーンさんは不思議な感覚にとらわれるようになった」

ジョルジュはそこで一息つく。
頭の中で、文章を確かめているかのような仕草だ。
この話はジョルジュがブーンから聞いたものなのだろう。
その話を正確に伝えようとしているのだろう。
 _
( ゚∀゚)「繰り返すことになるが、ブーンさんはお前たちとの交友関係を続けたかった。
      そして、お前とツンが付き合うなら、その関係をちゃんと祝福してやろうという気になった。
      そうするのが本当の友達だろうとブーンさんは思っていて、実行しようとしていた。
      だけどな……どうしてか、ブーンさんの頭の中にツンのことが思い浮かぶようになってしまったんだ」

256第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:01:04 ID:VYI7AA360
(;・∀・)「……」

モララーは少しだけ、察してしまった。
ジョルジュの言い出す言葉を。
その様子に気づいているのかはわからなかったが、ジョルジュは話を続ける。
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは、今までツンを女性として見る気は全くなかった。
      だけど、お前とツンが付き合うことを知ってから、無性にそのことが気になるようになってしまった。
      そこには、関係が継続しにくいとか、どことなくおいてかれた気分とか、いろいろ混ざっていたのかもしれない。
      ブーンさんはずっとそんな自分を責めていた。責めていて、それでもお前を羨ましく思うのをやめられなかった」
 _
( ゚∀゚)「わかるか、モララー。
      ブーンさんはお前の行動のせいで、ツンのことを好きになってしまったんだ」

モララーは何も答えなかった。
ただじっと、ジョルジュの言葉を促した。
ジョルジュとしても、まだ話が終わっていなかったのだろう。言葉が続く。
 _
( ゚∀゚)「それでもブーンさんは耐えた。
      お前がツンと付き合っているのをちゃんと応援する気持ちもあったんだ。
      だからちょっとずつ距離を作っていった。元々部活が忙しいのもあったからな、作りやすかったらしい」
 _
( ゚∀゚)「だけど……ある日」

257第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:02:50 ID:VYI7AA360
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは下校中に見たんだ。
      モララーと一緒に帰っていったツンが、泣きながら道を走って戻ってくるのを」

(;・∀・)「あぁ……」

それは、先程の話の中の最後の日のことなのだろう。
モララーはそれに気付いた。
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは、お前とツンとの間に何かあったんじゃないかと思った。
      それで、ツンを呼びとめた。もうすれちがっていて、結構距離があったけど、止まってくれたらしい。
      そして聞いたんだ。『モララーと何かあったのか』って」
 _
( ゚∀゚)「ツンは泣きながら、怒っているようだった。
      ただ一言、『もう別れたから知らない』とだけ、言ったらしい。
      そして、ツンが行ってしまったあと、ブーンさんはお前のことを追いかけた」
 _
( ゚∀゚)「そのときのブーンさんの感情は、いろんなものが混じり合っていたらしい。
      お前とツンとの関係が壊れたことは知った。そこからいろんなものを感じたんだ」
 _
( ゚∀゚)「まず今までどおりの関係が続けられないかもしれないことを嘆いた。
      ただお前らが別れるだけならまだしも、ツンの様子を見て内藤は、二人の喧嘩別れを予想した。
      もしそうなら、もとの交友関係が戻るのは絶望的だ。ブーンさんは板挟みの状況で、苦しい思いをしなきゃになるかもしれない。
      そんなことになるのがたまらなく嫌だった」
 _
( ゚∀゚)「それから、ツンを泣かせたお前が許せなかった。
      その頃にはブーンはかなりツンのことが気になっていて、ツンのことが好きであることも自覚していた。
      だから、理由はどうであれ、お前のことが許せなかった」

258第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:04:50 ID:VYI7AA360
 _
( ゚∀゚)「いろいろな負の感情が入り混じっていて、ブーンさんはとても気持ちが悪かったらしい。
      今まで我慢していたこと、言ってはならない、考えてはならないと自制していた想いが噴き出した。
      せっかく、自分はお前らの関係を守ろうとしていたのに、お前らはそうやって平気で壊すのか、って」
 _
( ゚∀゚)「それでもまだブーンさんはお前のことを信じていたのかもしれない。
      少なくとも、このときはお前と話をしようと考えていた。
      いろんなことを話してくれれば、それが間に合っていれば、ブーンさんの行動は防げたかもしれない」
 _
( ゚∀゚)「だけど家の前で、お前が女の子と会っているのを目撃してしまった。
      額にキスをする瞬間もな、しっかり見てしまった。
      そのときに、ブーンさんの中の何かが崩壊してしまった」

(;・∀・)「それは……それは俺が悪いんじゃない」

モララーは思わず口にした。
父親の隠し子が突然そのような行動に出たことは、自分に非があるわけじゃない。
 _
( ゚∀゚)「……わかってるさ」

そのジョルジュの言葉は、モララーにとって意外だった。
ジョルジュはそのことを自覚している。自覚して、なおもこの話をしているというのか。

(;・∀・)「だったら、なんで」
 _
( ゚∀゚)「話を続けさせてもらおうか」

ジョルジュの強い口調。
モララーは口を閉じざるをえなかった。

259第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:07:01 ID:VYI7AA360
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは、部活帰りだから持っていた金属バットで、お前を殴った。
      お前は倒れこみ、動かなくなった。
      まさか死んだのではないか、一気に冷静になったブーンさんはお前のことを心配した。
      だけど、声を掛けられ、びくついて、声の方を見た」
 _
( ゚∀゚)「出会ってしまったんだ。ニダーに」

(; ∀ )「!!」

モララーの頭の中で、物事が整理される。
完成図が頭に浮かび、この事件のシナリオが急速に、モララーに理解される。
その時になって初めて、モララーはジョルジュたちの狙いに気付いた。
それがとても虚しいものであることも。
 _
( ゚∀゚)「後は、お前の話の中で出て来たニダーの所業と同じさ。
      ニダーはブーンさんの弱みを握った。そしてブーンさんの家にまで押し掛けた。
      奴は、ブーンさんの家から搾取をするようになったんだ」
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんの家は逃げるように引っ越した。
      ブーンさんも転校した。そして新しい場所で暮らすようになった。
      最初に行ったのがC市の市街地、その後がB市。そこにいるドクオがいた街さ」

260第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:09:17 ID:VYI7AA360
(; ∀ )「ブーンは、逃げたのか。
       ずっとずっと、ニダーの搾取から逃げ続けたというのか」

C市に逃げたときに、つーと出会ったのだろう。
きっとつーを助けたのは、自ら身を売って搾取されるつーのことを悲しんだからだ。
モララーはそう感じた。自分は搾取を強制されているのに、わざわざ自分から搾取されにいくつーが見ていられなかった。

(; ∀ )「君がつーさんの息子であることは、知っているよ」
 _
( ゚∀゚)「ほう、じゃあ理解しているんだろうな。
      俺はC市でブーンさんに救われたつーの息子。そして数年だけだが、ブーンさんと同棲していた。
      俺は、ブーンさんから愛情を受けて育った。つーもそれを嬉しがっていた」
 _
( ゚∀゚)「だけど、ある日、ニダーがブーンさんを見つけてしまった。
      ブーンさんは俺らに言ったよ。『君らに迷惑をかけるわけにはいかない』
      俺はよくわかってなかったんだけどな。つーはずっと泣いていた。
      そんなつーを尻目に、ブーンさんは行ってしまった。どこへいくか、告げもせずに」

 _
( ゚∀゚)「俺達親子は、ブーンさんを探した。ブーンさんの言葉に反しちまうけど、でも探したかったんだ。
      そして、県内ニュースとして、B市の少女の自殺を食い止めた少年の話が揚げられていた。
      その少年こそが、そこにいるドクオだ」

(;'A`)「!!」

突如名前を出され、ドクオは驚く。

(;・∀・)「ショボンから聞いていたが……
      人は思いもよらねえな。全くよ」

261第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:12:03 ID:VYI7AA360
 _
( ゚∀゚)「俺達はドクオの家族に接触を試みた。
      ま、俺だけがドクオと接触したんだがな。ドクオはブーンさんのことを良く知っていた。
      だけど、どうやらブーンさんはもう事件を起こしてしまっていた」

(;'A`)「ああ……」

ドクオが口を開く。

(;'A`)「ブーンさんは、ただ『見つかった』とだけ言っていた。
    今思えばあれはニダーに見つかったっていう意味だったんだ」
 _
( ゚∀゚)「そう、そして今度は逃げなかった。
      2005年のあの日、ブーンさんはニダーに呼び出された。
      ショボンから聞いてるぜ? 謎の金属バットがあるってな」

(;・∀・)「はっ、そんなこと、上にばれたらショボンの首も危うくなりそうだな」
 _
( ゚∀゚)「おっさんはちょろかったぜ? きっと妻子に逃げられたのが寂しかったんだろうな」

モララーは自嘲気味にほほ笑んだ。もっとも強がりながらの笑みだったが。
 _
( ゚∀゚)「ブーンはあの日、あのときの金属バットを見せられて、さらにゆすられたんだろう。
      そして隙をついて一家を殺した。ニダーと、その妻を。二度と自分についてこないようにするために」

ジョルジュは話を終えた。モララーの様子をうかがっているようだ。
モララーから何も言うことがないとわかると、ドクオを向く。
 _
( ゚∀゚)「ドクオ、構えろ」

やはりびくつきながら、ドクオは腕に持ったそれをモララーに向ける。
まごうことなき拳銃が握られていた。

262第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:14:03 ID:VYI7AA360
(;・∀・)「普通の人はそんなもの持ち歩かねえんだぜ?」

モララーは銃を傍目に、ジョルジュに言う。
ジョルジュはただにやにやと笑っているだけだった。

(;・∀・)「そんで、俺をどういうわけで殺すんだ?
       ブーンをあの殺人に駆り立てた原因はニダー、つまりは、俺の家とニダーの関係だ。
       ニダーはもういない。だから残っている俺を、お前が殺すってことなのか?」
 _
( ゚∀゚)「その通りだよ。
      俺はブーンの息子も同然。そして、ブーンが為せなかったことを俺はする」

(;・∀・)「へ、ばっかじゃねえのか。
       ブーンは俺を殺そうと思ったんじゃない。かっとなっちまっただけだ。
       そんなものを掘り下げて俺の命を奪うなんて、ブーンの気持ちを考えてないのはお前の方じゃねえのかよ」
 _
( ゚∀゚)「……お前を殺すことに意味があるんじゃないさ。
      ブーンさんをあそこまで追い込んでしまった状況が、俺には憎いんだ。
      ブーンさんはよぉ、つーと出会ったときも、ドクオと出会ったときも、ずっと笑顔だったらしいぜ。
      俺も微かに覚えているんだ。ブーンはずっとずっと、にこにこしていて、笑顔そのものだった」
 _
( ゚∀゚)「だけど、はるか昔に、その笑顔を取り繕わなければならない事態が生まれ、それが最悪の結末を迎えた。
      それからブーンさんは笑顔の裏にいろんな感情を隠して、生きて、そして死んでしまった。
      笑顔の裏にたくさんの嘘を隠しながら生きていく、そんな生き方をせざるを得なかったブーンさん。
      それが人間の生き方か? あそこまで優しい人間が、どうしてそんな仕打ちを受けなきゃならないんだ」
 _
( ゚∀゚)「俺の記憶の中に、ブーンの言葉がある。俺は小さな子どもだったけど、その言葉だけは覚えている」

263第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:16:03 ID:VYI7AA360



『嘘なんだお』





『笑顔なんて嘘なんだお。
 人間が、他の人間と何の争いもすることなく過ごすための手段にすぎないんだお』





『僕はもうずっと後悔しているんだお。
 嘘を続けて、これまで生きてきてしまったことに――』

264第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:18:03 ID:VYI7AA360
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんは、嘘をつく前のブーンさんは、きっと願っていたはずさ。
      嘘をつく人生なんて嫌だ。できれば潔白でいたい。
      俺は、そんなブーンさんの存在を信じる。そしてその存在をありえなくさせたお前を、殺す」

ジョルジュは断言した。
まっすぐにモララーを見つめる。
その口はにやりと、不気味に持ち上がっている。狂信的な信者のような顔。


(;・∀・)「狂ってるぜ、お前」

モララーはぼそりと言う。

(;・∀・)「お前のやってることはただの独りよがりだ。
       お前は自分勝手なブーンの人物像を拵えて、それに従って自分の欲望を正当化しているだけだ。
       ただ単に悲しいだけなんだろ、ブーンがいなくなって。どうしてそれで終われない。諦められないんだ」

ジョルジュは目を閉じ、それから、言葉を発する。
 _
( ゚∀゚)「ブーンさんのことが、大好きだったから。それだけだ」

正気でない眼が、モララーに向けられた。
 _
( ゚∀゚)「ドクオ! もういいぞ」

ジョルジュの呼びかけ。
モララーを始末しろという命令。

学校の森が、風にあおられたのか、急にざわめく。
おどろおどろしい雰囲気をモララーは感じた。
自分の鼓動が速くなっていることも、はっきりと。

265第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:20:03 ID:VYI7AA360
(;'A`)「くぅ……」

ドクオはモララーに銃を構えながら、呻く。
明らかに迷っている。

(;・∀・)「なあ、ドクオ」

モララーは呼びかけてみる。
ドクオの顔がさらにひきつった。
 _
( ゚∀゚)「おっと、ドクオと交渉でもするつもりか?
      やめておいたほうがいいぜ。こいつだってそれなりにブーンさんに感謝している。
      暗い引きこもりがちな少年だったこいつを変えてくれたのが、ブーンさんだったからな」

(;・∀・)「シュールを助けた、あの事件か」

森のざわめきが一層激しくなった気がする。
山が近いせいか、強い風が吹いてくるようになった。
木々の揺れ、擦れる音が大きくなっていく。
 _
( ゚∀゚)「そう、こいつは中学生のときにブーンさんの助けを借りてシュールを救った。
      だけどそのうちにブーンさんはいなくなった。悲しみも相当だったはずだ。
      俺はちゃんとこの耳できいた。そして、俺のこの考えに協力してくれるとも言ったんだ」

モララーは確かめるようにドクオを見つめる。
ドクオはただおどおどと、その視線を避けるだけ。

266第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:22:07 ID:VYI7AA360
(;・∀・)「ドクオ、きこえているんだろ」

再び声をかけるが、返事はない。
ただひたすらに困っている、そんな印象だ。

(;・∀・)「よお、お前はどうしたいんだ?」
 _
( ゚∀゚)「何を無駄なことをやっているんだ。
      さっきもいったようにドクオは協力者。お前の敵だぜモララー」

ジョルジュが煽るが、モララーは諦めきれなかった。

森の木々のざわめきが嫌に耳に残る。
まるでどこか遠くで誰かが叫んでいるような気がした。

(;・∀・)「ドクオ、いい加減自分に素直になれ。
       ジョルジュのいいなりになって、ホントにいいのかお前。
       お前にはお前なりの考えがあるんじゃないのか?」
 _
( ゚∀゚)「そいつに考えなんてあるもんかよ。
      こいつは言われなきゃ動かないタイプの人間だ。俺に対しても、ブーンに対しても。
      だから俺がこうしてこいつに――」

(♯ ∀ )「俺はドクオに質問しているんだ!!」

モララーの怒鳴り声が響いた。
ドクオは肩を震わせ、ジョルジュはバツが悪そうに口を紡ぐ。

(  ∀ )「なあ……ドクオ」

267第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:24:03 ID:VYI7AA360
(;'A`)「ぼ、僕は……」

ドクオは依然として眼を泳がせている。
どうしてもまとまらない答えを抱え込んでいるように。

(;'A`)「僕は、確かにブーンさんにも感謝している」

その言葉を聴いて、ジョルジュは満足そうな笑みを浮かべ、モララーを一瞥した。
モララーはその視線に眼もくれずにドクオを見据える。

(;'A`)「でも……
    僕は、モララーさんもとてもいい人だと思う」

('A`)「僕は、いつも喋ることが苦手で、それがコンプレックスというか、人と接することが苦手で。
   ブーンさんはそこに気付いて、優しく接してくれた。僕を強くしてくれた。
   そこは感謝していて、ブーンさんのことが大好きで、だから殺人のときにすごく悲しかった」

ドクオはそこで一呼吸置く。
森のざわめきは未だに大きくなる一方だ。

('A`)「そして……モララーさんは、ちゃんとブーンさんのことを調査してくれたんだ。
   ブーンさんのことはこの国の人はみんな知っている。もう死んじゃったってことも。
   そしてそんな人間の調査をしてほしいなんて奴を信じてくれる人はそうそういないと思う。
   だけどモララーさんは僕を信じて調査してくれた。ブーンさんのことを。それはすごいありがたいことで」

('A`)「たった一日しか一緒に行動しなかったけど、モララーさんが誠実に調査していることはよくわかった。
   少なくともその時点では見ず知らずだったのに、こんなに頑張ってくれる人がいるのかって、思った。
   そして、僕のことも心配してくれた」

268第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:26:08 ID:VYI7AA360
('A`)「俺は、俺はだから……」

ドクオは一人称が変わっていることに気付いていない様子だった。

('A`)「この人を殺したくない」

それがドクオの正直な感想のようである。

湿っぽい風が抜けていく。
ドクオの青白い顔は、口を閉じて、頑なな態度を示していた。
 _
( ゚∀゚)「正気か、ドクオ」

ジョルジュの言葉。
それに乗ずるように、揺れる木々。吹き荒れる強風。

ドクオは答える代わりに、銃を下した。
 _
( ゚∀゚)「てめえ……」

ジョルジュはそう言うと、ドクオに接近していく。

269第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:28:03 ID:VYI7AA360
モララーは嫌な予感を感じ、とっさに口を出した。

( ・∀・)「そういえば、ジョルジュよぉ」

ジョルジュは歩みを止めて、モララーに向き直る。

( ・∀・)「ひょっとしてお前、アパートのこと、ちゃんとしたことをドクオに伝えていないんじゃないか?」

それは単なる閃きだった。
もしあの事件のことをドクオが知らないならば、こんな態度に出るはずがないのではないか。
母親を傷つけたあの火災、その原因を知っていれば、ジョルジュに従うこともなかったのではないか。

ジョルジュの顔に明らかな動揺が浮かぶ。
 _
(;゚∀゚)「な、なんのことを言ってんだ。あれはただの事故だぜ?」

予想は的中したらしい。
モララーはジョルジュを睨みつける。

( ・∀・)「警察を舐めるんじゃないぜ。明日になったら、きっともうすべてがわかっているはずだ。
       あの火災は誰かがしくんだものだってことくらいな。
       だいたい、お前とショボンがいなくなった直後に起こる、そしてそれでけがを負ったツンが、ブーンと関わりを持っている。
       この状況から、その火災がただの偶然だったなんて、不思議じゃねえか」

('A`)「……事故じゃ、ない?」

ドクオの眼に、違った色の生気が出てくる。
あまり快くない色合いだった。

( ・∀・)「なあジョルジュ、よくよく考えてみたらよ。
       ブーンが俺を殺そうとした原因は、ツンにあるとも言えるんじゃないか?
       俺とツンが喧嘩別れしたと考えたなら、両方に責任があるともとれる。
       実際ツンがはっきり言わないことが、ブーンの行動につながったんだからな」

270第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:30:06 ID:VYI7AA360
 _
(;゚∀゚)「し、知らない!
      あれは俺がやったことじゃないんだ」

( ・∀・)「ほーぉ、どうやらお前の裏にいる誰かさんの仕業なんだな。
       どうやらショボンと一緒に考えたのであってるみたいだな。
       俺を殺そうとしたのはお前、そして俺からブーンの過去をきこうとしたのはそいつ。
       お前は俺を殺そうとして失敗して、その後そいつから助言を得て俺の過去を探る方向にシフトした」
 _
(;゚∀゚)「なんのことだかわからんといって――」

ジョルジュの言葉は途切れる。
構えられた拳銃。
その腕は、ドクオのものだった。

('A`)「お前は、あの火災は事故だと言った。あのとき、電話口で」
 _
(;゜∀゜)「ああ、事故かもしれないと言った。
      そもそも俺は何も知らないから、あいつが勝手にやったことだから、俺は関係が」

('A`)「その誰かのことを、俺は知らない。
   お前はその存在を俺に隠していたんだな。俺のことを有効に利用するために。
   もし母さんを殺害しようとしている人物がいるなんて知れたら、俺が協力しなくなるかもしれないから」

ジョルジュは返答に詰まる。
ドクオの言った言葉は、的を射ていたようだ。
ドクオは何も知らされていなかった。ジョルジュに利用されていただけ。

271第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:32:04 ID:VYI7AA360
('A`)「俺はようやく決心がついたよ」

ドクオはジョルジュをしっかりと見据える。
銃口も揺るがない。
さきほど、モララーに向かっていたときとは違い、明らかにジョルジュを狙っている。

('A`)「俺だって、ブーンさんのことは大好きだ。
   ブーンさんのおかげで、今の俺があるんだから」

('A`)「俺は、ブーンさんが生きていたとして、もしモララーさんに出会っても
   こんなことは絶対にしないと思う。
   あの人なら、モララーさんと出会っても、すぐに笑顔になって再会を喜ぶさ」

('A`)「あの人はそういう人だった」

森のざわめきはこれまで以上に激しい。
叫び声、うめき声、まるでどこからかそんな声が聞こえてきているかのようだ。
風は相変わらず強い。吹きすさぶ校庭、男が三人、睨みあっている。

('A`)「いつの頃だったか、母さんがこっそり泣いていたことがあるんだ」

ドクオは唐突に語りだした。

272第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:34:05 ID:VYI7AA360
('A`)「母さんはどこへいったのか教えてくれなかったけど
   俺はなんとなく、母さんはブーンさんのところへ行っていたんだと感じた。
   そこで何を言われたかは知らない。でもそれから、母さんは表ではブーンさんを避けるようになった」

('A`)「だけど家の中ではちょっと違った。
   もちろん直截的ではなかったけど、俺に対してよくブーンさんのことを質問してきたんだ。
   何度も何度も。ブーンさんとホントはちゃんと話したいけど、話せないときであるかのように」

('A`)「きっと母さんはブーンさんに口止めされたのかもしれない。
   もうあんまり会わない方がいい、とかそんなことを。
   母さんは芯が強いからちゃんとそれを守っていた。一方で心ではちゃんと繋がっていた」

('A`)「俺はそんな母さんの様子を見て、思ったんだ。
   こんな友達関係が、いつか自分も作れたらいいなって。
   そしてこうも思う。モララーさんもきっとこの友達関係がつくれたのだろう、
   だけど、スレ違ってしまったから、できなかった。本当は一番悲しいのはモララーさんなんだって」

('A`)「だから俺は、モララーさんとブーンさんの関係を壊したくない。
   そして母さんをも殺そうとしたお前を許すわけにはいかない」

ドクオは口を結び、拳銃を握る。

273第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:36:05 ID:VYI7AA360
 _
(;゚∀゚)「へ、言っておくけどな。
     俺がこんなひょろい奴一人でお前をしとめようとしていたなんて考えるなよ、モララー」

ジョルジュは今なおにやりと口の端を引き上げる。
 _
(;゚∀゚)「この校舎の周りの森のなかにはなあ
      俺の味方してくれる奴らがたくさんいるんだよ。
      まあ全員あいつの繋がりなんだけどな。とにかく、お前らがこんなところで俺を始末したところで
      お前らはその怪しげな奴らにつかまって、やられちまうんだぜ」

ジョルジュは叫ぶように言い放ち、モララーを指差した。
モララーは眉を顰め、ジョルジュを見つめる。

口を開いて、思っていることを言ってやろうとしたときだった。

森が叫んだ。
いや、叫び声がはっきりと聞こえてきた。

幻聴でも何でもない。
確かな人間の声である。

274第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:38:05 ID:VYI7AA360

その声は一つじゃない。
何人もの声が、そこかしこから聞こえてくる。
誰かが誰かに襲われている、そんな声だ。

( ・∀・)「お前こそ
       俺が一人で来るなんて思っていたんじゃないだろうな」
 _
(;゚∀゚)「は!?」

モララーはそのジョルジュの驚きようを見て、思わず吹き出してしまった。
よほど予想外だったのだろう、ジョルジュの眼は同様をあらわにしている。

( ・∀・)「てめえがバカにしたおっさんは、確かにバカみたいに暗い奴だが
       やることはちゃんとやってくれる良い奴なんだぜ」
 _
(;゚∀゚)「おい、おいおいおい
      まさか機動隊でも呼んだなんでふざけたこと言うんじゃないだろうな?」

喧しいほどの叫びが三人を包んでいく。

( ・∀・)「んなわけあるか。もっと現実的な話だ。
       ちょっとこの前な、お前さんのおばさんの家に厄介になったとき
       いろいろと懇意にさせてもらってな、モナーさんの連絡先ももらっておいたんだ」

( ・∀・)「で、きっとお前は俺を殺すためにいろいろ策を練ってくるだろうと思ったから
       俺としてもなんとか殺されないように仲間を呼ばなきゃだなって思った。
       だから、モナーさんに連絡したんだ」

( ・∀・)「モナーさんは射撃が趣味だという話をたまたま耳にしていてな。
       しかもあれだけの見栄っ張りだ。きっと優秀な射撃の選手たちとも交流があったに違いない。
       射撃の選手ってのは、自衛隊とか、警察官とか、その筋の人たちがなることが結構ある。
       だから、その気になればモナーさんのコネで強力な助っ人を呼べると踏んだ。かなりの賭けだが、うまくいったようだ」

275第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:40:05 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「ほら、子どもを叱るのは親の役目ってよく言うだろ。
       それにあやかったっつーわけだ」
 _
(;゚∀゚)「……あれ、親じゃないんだけど」

( ・∀・)「親族なら似たようなもんだろ」
 _
(;゚∀゚)「い、いつだ! いつあんなの呼んだんだ」

( ・∀・)「お前らと会う少し前。
       ショボンが、機動隊なんてだせないよーなんて言うもんだから、モナーさんの連絡先を教えたんだ」

強い強い風が吹く。
その風から、嫌な雰囲気を感じたのだろう。
ジョルジュは上を見上げ、きょろきょろする。
 _
(;゚∀゚)「な……な、な……」

黒いシルエットがはっきり眼に浮かんだようだ。
モララーにとっては、これもまた予想外だったのだが。
いつの間にか接近していたのは、ヘリだった。

276第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:42:08 ID:VYI7AA360
(´・ω・`)

到着したヘリから、下りてくる男。

( ・∀・)「うわ、空飛ぶおっさんだ」

(´・ω・`)「くたばれ40代」

( ・∀・)「いつヘリなんて持ったんですか? つかなんでヘリで来たんすか。憧れですか」

(´・ω・`)「ふふ、羨ましいだろ。貸してくれたんだ」

( ・∀・)「……ガチかよ」

モララーとショボンのやりとりが交わされる。
その軽妙な言葉の応酬に、ジョルジュもドクオも面食らったようだ。

( ・∀・)「や、悪いねお二人さん。
       特にジョルジュ君は、せっかく張った俺包囲網を崩壊させちゃってもうしわけないね」

277第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:44:05 ID:VYI7AA360
 _
(; ∀ )「……ざっけんな」

ジョルジュは声を震わせる。
拳をわなわなさせて、モララーを睨みつける。
 _
( #゚∀゚)「ふざけんなよこのやろぉ!!」

ジョルジュの叫び。そしてモララーへと歩んで、拳を振り上げる。

だが、その拳にするどく、黒い物体がぶつかる。
投げたのは、ドクオ。

('A`)「観念しろ。ジョルジュ。
   もうお前の望みは終わりだ。次に何か、モララーさんにしようもんなら、俺が黙っちゃいない」
 _
( #゚∀゚)「この……腰ぬけの癖にッ」

('A`)「……なんで俺、お前なんかを信じちゃったんだろうな」

ドクオが、自分に呟くように言う。

('A`)「もう終わりなんだよ。ジョルジュ。
   始まるべきでもなかったんだ。こんな虚しい弔いなんて」

278第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:46:05 ID:VYI7AA360
 _
(; ∀ )「わかってるよ」

ジョルジュは、少しずつ力が抜けていったようだった。
しぼんでいく声。

モララーもショボンも、その様子を見守っていた。
 _
(; ∀ )「わかってんだよ。そんなこと。
      でもよ、やり場のないこの想いを、いったいどうしたらいいって言うんだよ。
      俺は……俺は……」

ジョルジュは一度、大きく息を吐いた。
それから、思いっきり歯を噛みしめる。

吐きだしたい気持ちがいっぱいあるのだろう。
恐らく小さい頃から抱え込んだ、とても大きい感情が。

その感情をこめて、ジョルジュは再び、モララーを睨みつけていた。

モララーはまっすぐに、それを睨みかえす。

279第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:48:07 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「ジョルジュ、頭を冷やしてこい。
       お前はまだまだやり直せるんだ。まだ若いしな」

モララーは冷静に言った。
それでもジョルジュは、食い下がらない。
 _
( ゚∀゚)「俺の考えは、さっき言った通りだぜ。
      変える気なんてない。ブーンに嘘をつく一生を負わせたのはお前だ。
      だから俺は、お前を許す気なんてない」

(  ∀ )「おい、よく聴けよ、クソガキ」

モララーはずいっとジョルジュの前に立つ。
ジョルジュは一瞬たじろいたが、それでも眼はモララーを睨んだままだ。
 _
( ゚∀゚)「なんだよ、説教でも垂れるつもりかよ」

吐き捨てるように言い放つジョルジュ。
モララーは動じない。

やや沈黙があった。
ジョルジュは少しだけ、身を引いた。
モララーは俯き、それからジョルジュの顔を見る。

280名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 00:49:14 ID:sWZVRGP.0
…ゴクリ。

281第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:50:06 ID:VYI7AA360
(  ∀ )「俺の考えも変わらねえよ。
       てめえはただの独りよがりだ。独善的なだけのあほだ。
       そして、そんな考えに縛り付けられて一生を棒に振るのを辛くも逃れられただけの野郎だよ」




(  ∀ )「人の気持ちってもんがなあ
       そんなに簡単に他人によって代弁することが、できてたまるかってんだ。バカ野郎。
       代弁出来ねえ言葉を必死こいて紡ぐために、俺は探偵やってんだ」




眼が潤むのを、モララーは感じた。
アホか、俺は。何泣いてんだ――情けねえな――
そう心に釘を刺し、目を閉じる。歯をかみしめながら。

(  ∀ )「連れてけショボン。もう言うことはねえよ、そんな奴」

282第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:52:13 ID:VYI7AA360
(´・ω・`)「手錠はないが、大人しくついてきてくれるかな」

ショボンの言葉がジョルジュに届いているはずだが、ジョルジュはあまり反応しない。
ジョルジュが不審そうな顔を向けてきているようだ。
どうやら眼がうるんでいるのを見られたのかもしれない。

それは恥ずかしいが、まあ仕方のないことだ。
自分の心はまだとらわれているのだろう。

モララーは自嘲気味に、自分に言い聞かせた。

(´・ω・`)「おい、のってくか?」

ショボンがモララーに声をかける。

(  ∀ )「いいよ、電車くらいあるだろ」

(´・ω・`)「……そうか」

その後、ショボンはドクオを誘った。
ドクオはショボンの乗ってきたヘリに同乗することに決めたようだ。

ジョルジュと、ドクオを先に乗せて、ショボンが少しだけモララーに近づく。

(´・ω・`)「余計なお世話だったら、聞き流してくれ。
      お前も、逃れられるといいな」

余計なお世話だよ、おっさん。

283第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:54:13 ID:VYI7AA360
長岡ジョルジュは逮捕された。
この事件は、終わりを迎える。
あと少し、残されたものを回収すれば。

だけど、このときモララーは気付いていなかった。
自分の心に抱いている違和感が何なのか。

そしてそれは、たとえ気付いていたとしても、どうにもならないことだったのである。







〜〜第七話へ続く〜〜

284第六話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 00:56:09 ID:VYI7AA360
本日の投下は以上です。

次回で最終回、第七話となります。
次の夜に投下する予定です。

もうしばらく、この物語にお付き合いください。

質問等ありましたらどうぞ言ってください。

285名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 00:58:53 ID:wy9ljxcAO
今すぐ続き読みたい気分だよ 
まあ明日まで我慢して待つことにする

286 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 20:34:27 ID:VYI7AA360
9時から投下始めます。

287 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:00:03 ID:VYI7AA360
東京 23時を過ぎたあたり――

(*゚∀゚)「夜中に連絡してくるなんてね」

会社の就業時間はもう終わっており、つーは自宅にいた。
連絡があったのは、21時頃だ。
ジョルジュが逮捕されたことについてとあれば、夜中であろうとも、会わなければならないだろう。

(´・ω・`)「もうわかっているのでしょう?」

つーの自宅の玄関に、ショボンは立っていた。
ジョルジュとドクオを警察署に届け、自らはつーに連絡をした。
息子のジョルジュが逮捕されたことについて、お話をするために。

そして、ショボンはもう確信していた。

(´・ω・`)「あなたが、ジョルジュに加担していた。そうなのでしょう?」

(*゚∀゚)「否定する気にもなれないね。
    どうせすぐにばれちゃうさ。あたしがやっていたことは。
    だから認めるよ。あたしはジョルジュの犯行に加担した」

つーはやれやれと、肩を竦める。

(*゚∀゚)「もっとも、最初にブーンの恨みを晴らすなんて考えたのはあいつだけどね。
    あたしの知らないところで、ツンの息子と出会い、勝手にことを進めていた。
    あたしがジョルジュのやろうとしていることをはっきりと知ったのは、つい昨日のことだよ」

288第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:02:04 ID:VYI7AA360
(´・ω・`)「モララー殺害の為に警備員を使わせるまで、知らなかったのですか」

(*゚∀゚)「どうやら、勝手にあたしの名前を使って、そっちの世界の人たちと連絡を交わしていたみたいだよ。
    あたしはあいつがモララーを殺そうとするなんてことはまったく知らなかったね」

(´・ω・`)「ずいぶん自由に育てていたんですね」

(*゚∀゚)「うちは放任主義だからね。
    息子を縛り付ける気なんてさらさらない」

ショボンは「なるほど」と、顔を俯かせる。
そのまま話を進めることにした。

(´・ω・`)「ツンの住んでいるアパートが爆破されていたことはもう調査でわかりました。
      さて、教えていただけますか。
      我々が立ち退いた後で、あそこを爆破した理由を」

(*゚∀゚)「そうだね。長話をするとしようか」

つーは一息ついて、目を細める。
笑顔というには、あまりにも遠くを見過ぎた眼。
ショボンのずっと後ろを見ているかのような表情だった。

289第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:04:04 ID:VYI7AA360
(*゚∀゚)「放任主義とは言ったが、あいつがブーンのために何かしようとしていることは知っていた。
    あいつは勝手にあたしの友人と連絡を取って作戦を立てていたんだ。
    その気になれば、あたしには簡単にあいつのやろうとしていることがわかったよ」

(*゚∀゚)「あいつがアパートに赴くことは知っていた。
    なんでそこに行ったのかはその時は知らなかったがね。
    あたしはそれを利用させてもらった」


(*゚∀゚)「あんたたちはどう思ったか知らないが、あの爆発は、本来誰も傷つけるつもりはなかった。
    あたしは、警告のつもりだったんだよ。
    ツンへのつもりもあったが、本当はジョルジュへの警告だったんだ。あいつに見える形で爆破させたかった。
    それが思った以上に威力が大きくなってしまった。細かいところは専門家にまかせっきりだったから、こんなことになったのかもね」

(´・ω・`)「ジョルジュへの……ですか」

(*゚∀゚)「そう、あいつが誰かを殺そうとしているのはわかっていた。
    だから殺す前に、何かしら示してやりたかったんだ。
    それであいつにどんな変化が生じるかを見たかった」

290第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:06:04 ID:VYI7AA360
(*゚∀゚)「その日の夜。
    あたしはあいつから話を正式にきいた。
    あいつがモララーの命を狙っていることを」

(*゚∀゚)「あのアパートに行った理由は、ツンのことを調べたかったそうだよ。
    ツンの息子とは連絡が取れて、取り入ることができたが、ツンの話はまだ聞いていない。
    だから少しでもブーンの話をして、昔のことをどう思っているのか探りたかったらしい」

(*゚∀゚)「ブーンの話をあたしから聞いていたから、ツンにもブーンの行動の非があることは知っていたんだ。
    だけどあんまり話を聞けなかったから、保留って言ってたね。今は話せないし、なんて言ってた。
    それから、今はモララーを殺すことに専念する、なんて言い出したんだよ」

(*゚∀゚)「そこであたしはジョルジュに少しだけ待ったを掛けた。
    モララーの話もきいてみたらどうだ。あいつにもツンと同じことをするべきじゃないかってね。
    あいつは渋々あたしの考えを飲んだ。それで今日、モララーを呼び出して何かやったのだろう」

(´・ω・`)「……失礼ですが
      何故あなたはジョルジュの犯行を止めなかったのですか。
      それだけ多くの話をしたというからには、時間はあったのでしょう」

(´・ω・`)「それなのにどうして、ジョルジュの犯行を止めもせず、あろうことか援助したのですか」

291第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:08:05 ID:VYI7AA360
(*゚∀゚)「親らしくない、ってあんたは思っているんだろうね」

(´・ω・`)「……平たく言えば」

(*゚∀゚)「あんたは、子持ちかい?」

(´・ω・`)「今は、離れて暮らしています」

(*゚∀゚)「そうかい。悪いことを聞いたね」

一息つく、つー。
また遠い目をしている。

それは愛おしそうな顔だ。ショボンにはようやくわかった。
親の顔だ――ショボンはそんな感想を抱く。自分にはできなかった顔。

(*゚∀゚)「……あたしは、子どもを束縛するのが嫌いなんだ。
    だからジョルジュがやりたいって思っていることを通してあげたくなった。
    実際モララーのことを憎く思っていた面もあった。そこしか怒りのやり場が無かったから。
    心のどこかで、ジョルジュを応援してしまっていた、ただのとてつもない親ばかさ」

292第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:10:05 ID:VYI7AA360
つーはショボンに近づいた。
ほほ笑んでいる、今度のその顔は、もう何もかも諦めた顔。

(*゚∀゚)「さあ刑事さん、もうあたしを逮捕してくれよ。
    あたしももうおかしかったんだ。あたしも、ジョルジュも、感情がおかしなことになっちまった」

(´・ω・`)「私はもう警部ですよ。
     それに、今日は休みです。交番まで行きましょう」

そう言って、ショボンはつーを連れ出した。

もう夜中、雲は出ているが、星がちらほら見える。
その淡い光の下、ショボンは車を操り、つーは助手席に座って、交番へと向かっていた。

(´・ω・`)「結局あなたは、足を洗わなかったのですね」

(*゚∀゚)「洗いきれなかった。正直に言うとそうなるね。
    ま、立場が違うよ。前はやられる側、今はやれる側だ。
    金があるがどうかで、人間はどっち側にでもなれるもんなのさ」

(´・ω・`)「内藤ホライゾンは、あなたに足を洗ってほしかった。違いますか」

(*゚∀゚)「そのはずさ。でもね。
    そのためには、あたしの脚はあまりにも汚れていて、ブーンと共にいた期間はあまりにも短かったんだ。
    元々お父様とはそりが合わなかったしね」

(* ∀ )「それでも、あんな事件をブーンが起こさなかったら
    もうちょいマシな人生を送れたのかもしれないねえ」

293第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:12:05 ID:VYI7AA360
(´・ω・`)「早すぎますよ。諦めるのが。
     あなたがたはまだ誰も殺していない。第二の人生が始まる余地は十分にある。
     人が人を想うのを止めることはできませんよ。誰にだってね」

フロントガラスの向こう側に、交番の明かりが見える。
もうすぐ到着する。

(* ∀ )「……ブーンが自殺する前に、いや、死刑が決まる前に。
    あたしとジョルジュはね、ブーンと面会したんだ」

ショボンの言葉が聞こえたのか、どうか、わからないが、つーは話しだした。

(* ∀ )「あいつは、『そろそろする』と言っていた。
    見張りの警備員に感づかれないように、そんな言い方をしたんだ。でもあたしにはわかった。
    ブーンはもうすぐ死ぬつもりなんだって」

(* ∀ )「あたしには、あいつを止めることが出来なかった。
    あいつは死にたいと思っていた。もし、それを止める言葉をかけていたら、あいつは救われたのかい。
    嘘をつくことに絶望したあいつを、どうやったら止められたんだい」

(* ∀ )「あたしらは、嘘をつかなきゃいけないんだよ、生きていくためには。
    あいつは純粋すぎて、あたしらにも、その純粋さがうつっちまったのさ。迷惑な話だ」

交番の前に到着した。ショボンはドアを開けて、外に出る。
下りて来たつー。ショボンはその耳に声をかけようとして、やめた。
もうつーは心の中が整理できているようだ。この人には休息が必要なのだ。

ショボンはゆっくり、つーとともに交番へと歩んでいった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

294第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:14:05 ID:VYI7AA360
2010年 8月21日(土)――――

この一週間の間、世間は揺れた。

長岡商社社長、長岡つーが逮捕されたからだ。
長岡グループというこの国でも指折りの資産家一族から、逮捕者が出現したこと。
それは世間にも大きな影響力を有していた。

長岡グループの評判は低下していった。
一週間とはいえ、その勢いは大きかった。
長岡モナー会長は各方面で頭を下げることとなった。

ただ、肝心の事件の詳細については、あまり広まらなかった。
というのも、つーは、自分が火災を引き起こしたことしか伝えなかったのだ。
その理由についても、気の迷いでやったとだけしか、言うことはなかった。

恐らく彼女は、ブーンについて言及されるのを嫌がったのだ。
もし火災の詳細を伝えようとすれば、どうしてもブーンのことも離さなければならない。
世間の人々がようやく関心を反らしてくれたあの忌まわしい事件に、再び触れなければならない。
つーはそれが嫌だったのだろう。だから、黙秘した。

そして、彼女の裏で、ジョルジュは逮捕されていたが、こちらの情報は最初から小さい扱いだった。
ジョルジュ自身は直接モララー殺害に手を下していたわけではない。
責めるにしても、銃器を所持していたことくらいだったのだろう。
何より、ジョルジュの更生に一番の重きを置いた末の判断ではないだろうか。

295第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:16:04 ID:VYI7AA360
(;´∀`)「思い当たる節がないわけではないモナ。
       私は少し、彼女を縛り付け過ぎていたのかもしれないモナ。
       この件で、私としてももっと彼女と親身に接したいモナ」

テレビの中で、モナーが謝罪の言葉に織り交ぜて、こう発言していた。
彼も根が悪いわけではないのだろう。
ただ懐が大きいから、少しだけ気が大きくなり過ぎていたのではないか。

そんなふうに、モララーは考えていた。

( ・∀・)「……もうお昼回っているのか」

探偵事務所の中で、ぼやく。
朝起きて、開業し、それからぼーっとテレビを見る。
顧客は今のところ無し。数日もすれば約束くらいはあるものの、基本的に暇な日々だった。

あの事件の後、モララーはとくに変わることがなかった。
何度か県警に赴いて、事件の後処理をしたり、たまにドクオから電話が掛かってきて、ツンの無事を聴かされたり。

そういえば、ツンの火傷はだいぶ処置が完了したらしい。
幸い顔などには目立つ傷は残らずに住むそうだ。
すででに爆発の目的はショボンから聞いていた。
だからこの程度で済んだのだろう。

296第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:18:05 ID:VYI7AA360
あとでツンにも会わなきゃなー、モララーはぼんやり考える。
どうせドクオが、一緒に行きましょうとか言ってくるはずだ。そのときでいいや。

ブーンの墓参りとかもしたい。
せっかく記憶が戻ったのに、それはもうブーンがいなくなった後だった。
こんな言葉にすると、どこかの切ない物語のようだが、モララーにとっては妙に合わない。

感動するには年をとり過ぎたのか。
モララーはあまりブーンのいないことを悲しむ気になれなかった。
殺されかけた相手だから、というのもあるのかもしれないが。
ちょっと薄情じゃないか、モララーはそんな言葉を自分に浴びせてみたりする。

ふと、自分の携帯が鳴っていることに気付く。
表示された名前を見て、モララーはにやっとする。
考えていたそいつが、かけてきたのだから。

( ・∀・)「もしもーし」

('A`)「もしもし、モララーさん?」

( ・∀・)「ふふ、やっぱりなー」

けたけた笑うモララーを、ドクオは不審がっているようだ。

(;'A`)「ど、どうしました?」

( ・∀・)「いやあ、的中すると気持ちいいもんなんだよ」

はあ、といった声が電話越しに聞こえてくる。

297上げたらダメなの?:2012/03/09(金) 21:18:55 ID:wy9ljxcAO
最終回支援

298第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:20:05 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「んで、要件はなんだ?」

そうそう、とドクオが言う。

('A`)「実は、B市で花火大会があるんです。
   僕とシュールは行くのですが、モララーさんも来たいかなと思いまして」

(;・∀・)「……お前ら付き合ってんだよな?」

('A`)「ええ、一応」

(;・∀・)「いいの? 40歳のおっさんがそんなのに混ざっちゃっていいの?」

('A`)「ああ……まあ変ですね」

(;・∀・)「…………」

('A`)「じゃあ一緒に母さんの病室いきませんか?
   僕らはそのあと花火大会の方に行くんで、モララーさんは母さんといれば、知り合いみたいだし」

( ・∀・)「あ、それはいいかもな!」

('A`)「じゃあ今日の夕方5時くらいに、B駅にきてください。
   僕、迎えに行きますんで」

299第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:22:05 ID:VYI7AA360
17時 B駅前――

モララーは久しぶりにB市に降り立った。
どことなく、街から浮足立ったムードを感じた。
花火大会の影響なのだろう、それらしい飾りをいくつも見かける。
暗いことが続いたモララーにとって、それは心地よかった。

('A`)「モララーさーん」

( ・∀・)「おー、ドクオー。
       実際に会うのは久しぶりだなー」

待ち合わせに選んだ銅像の前で、二人は出くわした。

('A`)「そうですね。なんだかもう懐かしい感じです」

( ・∀・)「そんな懐かしむほどか。
       忘れてるかもしれないが、俺、お前に殺されかけてるんだからな」

(;'A`)「いやはや、あんまり思い出したくないですね。
    あのときはもう頭の中真っ白で、気付いたら……ああなってました」

( ・∀・)「とにかく、ありがとよ。
       俺の言葉ちゃんと届いてたみたいでよかった」

('A`)「あ……はい!」

300名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 21:23:07 ID:wy9ljxcAO
ツンとモララーの顔合わせはまだだったな

301第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:24:05 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「シュールって子もくるんだよな」

('A`)「ええ、元々僕らの約束ですし」

( ・∀・)「ほんと、なんで俺呼んだんだか。
       なんだかんだで俺は会ったことないんだよなー」

('A`)「モララーさんなら大丈夫ですよ。
   ブーンさんの友達ですし、きっと打ち解けます」

( ・∀・)「お前にそんなこと言われるとはね。
       じゃ、来る前に馴れ初めでも教えてもらおうか」

(;'A`)「え、えぇぇえぅひゃぅぇ?」

( ・∀・)「いいじゃないか暇なんだから」

(;'A`)「いやいやいや、大したことないですよホント。
    あの時も頭真っ白だったんです。ブーンさんが気になってたから僕も注目してて
    いつの間にか助けちゃって、いつの間にか付き合ってました」

(;・∀・)「それもまたすげえ話だな」

('A`)「でしょう? 僕頭真っ白になってるといろいろできるんです」

( ・∀・)「ほめてねえよ」

lw´‐ _‐ノv「あ」

302第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:26:06 ID:VYI7AA360
小さな声が聞こえて、モララーとドクオは振り向く。
銅像に歩んでくるその少女。体は小さいが、ドクオと同じくらいの年頃のようだ。
すると、この子がシュールなのだろう。

lw´‐ _‐ノv「やあ、変態」

('A`)「やあ、シュール」

何事もないようにかわされる会話。
モララーは反応に困ってしまう。

(;・∀・)「え、何お前そういう風に呼ばれてるの?」

('A`)「ええ。
   なんか、いきなり部屋に飛び込まれたとき、とっさに変態だと思ったらしく
   以降僕に対して真っ先にそのイメージが浮かんでしまうようなんです。
   まあ、挨拶のときだけですよ、言ってくるのは」

少女は大きく頷いている。ドクオの話は本当のようだ。
いろいろな付き合いがあるものだと、ある意味感心するモララー。

303名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 21:26:52 ID:3iBCrB9.0
変態か、なるほど

304第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:28:04 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「シュールさん、かな?」

lw´‐ _‐ノv「はい」

( ・∀・)「はじめまして、モララーです。
       ブーンの友達だったといえば、大丈夫かな」

lw´‐ _‐ノv「ちょっとだけ、ドクオから聞いてるから」

lw´‐ _‐ノv「私にとっても、ブーンさんは大切な人だった。
       私が人と接することが出来るようになったのは、あの人のおかげでもあるのだから」

そっか、とモララーは頷く。
思えばブーンはそこかしこで人を救っている。
きっと彼は元来そんな性格で、このシュールもまた、その性格に助けられたのだ。

( ・∀・)「あいつのことを大切に思ってくれてありがとう。
       世間ではいろいろ言われているけど、あいつは、ほら、ちょっとだけ不器用なだけだから」

lw´‐ _‐ノv「うん。そんな気がする」

('A`)「さて、それじゃ最初に母さんの病室行きましょうか」

305第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:30:03 ID:VYI7AA360

ドクオもシュールがいるところでは張り切るようだ。
自ら話を切り出す姿を、モララーは初めて見た気がした。

シュールはあの事件のあと、ショボンから事件の粗筋を聞いたらしい。
このことはショボンから聞いたので詳しくは分からないが、彼女もまたブーンのことが好きだったのだろう。
自分とドクオを引き合わせてくれたブーンのことを。

横で年若いカップルが話しているのもなかなか無い機会だが
モララーは横やりを入れることもせず、ツンのことを考えていた。
思えば自分らもはるか昔に付き合っていた仲だ。自分が弱り過ぎていたせいだったとはいえ
やはり会うのは恥ずかしい気もする。さすがに会えないこともないが。

病院はそこまで駅から遠くなく、すぐに辿り着いた。
ツンの病室まで、ドクオたちにいざなわれて、向かって行く。

モララーの頭は中途半端で、言葉を準備するのは諦めた。
何せ今まで失っていた記憶。それも決してよくない記憶の中で会っていただけ。
言葉がすらすら思い浮かぶものではない。

306第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:32:05 ID:VYI7AA360
病室のドアが開けられる。
一番窓際のベッド。

ξ゚⊿゚)ξ

一目見ただけでわかった。
ツンがベッドに横たわっていた。
歳はとっているものの、特徴的な髪と顔立ちから、わかる。
不思議な感覚だった。頭の中のツンは高校生で止まっている。それが成長したら、こうなるのか。

ドクオとシュールはもう何度かこの部屋に来ているのだろう。
二人はツンに挨拶をして、ツンもまた、挨拶を返す。
それから、ドクオは振りかえり、モララーを示す。
普段なら絶対そんなことしないのに、こんなときだけ、厄介な奴だ。

('A`)「ほら、母さん。わかる?
   モララーさんだよ。母さんの昔の友達の」

ツンが眼を見開いて、マジマジと自分を見つめているのがわかる。

ξ゚⊿゚)ξ「…………あ」

ξ゚⊿゚)ξ「あぁ、あぁぁあぁぁ」

声が波のように揺れる。
それとともに、ツンは大きく首を縦に振る。
まるで大きく納得しているように。

307第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:34:04 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「このヘタレ!」

(;・∀・)「なっ、この……!!」

いきなりの罵倒に、モララーは返事に窮した。

ξ゚⊿゚)ξ「昔からそう呼んでたでしょ」

こともなげにツンが言い放つ。

lw´‐ _‐ノv「ウワー」「ヘンナヨビナ」('A`)

( ・∀・)「おいまてや変態とそのツレ」

lw´‐ _‐ノv「キャー」「コワー」('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、ドクオたちはもういったらいいわ。
      こいつはあたしと話がしたいんだろうし」

('A`)「あ、ちょっと待って母さん」

ドクオはモララーに向き直る。

('A`)「モララーさん、今更ながら、今回は本当にありがとうございました」

308第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:36:05 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「おー、どした。急に改まって」

('A`)「いやあ、ほら、事件の後ってバタバタしてて、時間が無くて
   ちゃんと謝ったことなかったなと思ったから。
   今のうちにいっておこうと思ったんです」

( ・∀・)「お前シュールちゃんの前だと強気だからな」

(;'A`)「そ、そうなんですかね。はは」

('A`)「とにかく、僕は僕なりにいろいろな決心がつきました。
   ブーンさんも、昔のことをいろいろ知ってしまったけど
   僕としては十分だし、それでブーンさんを嫌いになることはありません。
   やはり僕にとっては大切な人で、感謝してもしきれない人であることには変わりありませんから」

('A`)それじゃ、そろそろ僕らは行きますので」

ドクオとシュールは、頭を下げ、病室を後にする。

残されたのは、ツンと、モララーだけ。

( ・∀・)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「……記憶、無かったんだってね」

309第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:38:01 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「ああ、つい最近戻ったばっかりだ」

ξ゚⊿゚)ξ「まったく、どうして忘れてくれてんだか。
      あたしら付き合っていたのにさ」

(;・∀・)「その件は、ホントごめんな。
       でも、あの付き合いは俺が弱り過ぎてたからで」

ξ゚⊿゚)ξ「うわ、変わってない」

(;・∀・)「な、なにが?」

ξ゚⊿゚)ξ「ヘタレが」

(;・∀・)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「まあうちのドクオも似たようなものだけどねー」

(;・∀・)「あ、あそこまで変じゃねえよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、うちの子どもにけち付ける気?」

(;・∀・)「……お前も変わんねえな」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ、ありがと」

310第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:40:03 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「息子、いるんだな」

ξ゚⊿゚)ξ「なーによ、今更。
      随分とかわいがってくれたみたいじゃない」

( ・∀・)「いやー、知ってる奴が子どももつってのは、変な気分だよ」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる奴が失踪したり、殺人起こしたりしている気分もすごいわよ?」

( ・∀・)「はは、そうだろうな。
       ……ドクオ、誰の子なんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「あれー、気になるの?」

( ・∀・)「そりゃあ……ちょっとは」

ξ゚⊿゚)ξ「本気じゃなかったのに?」

(;・∀・)「……友達として、だよ」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ」

(;・∀・)「んだよ、笑うなよ」

ξ゚ー゚)ξ「いやね、友達なんて、久しぶりに言われたからよ。
      大人になると、妙に言いづらいのよね、『友達』って」

( ・∀・)「……そういえばそうだなあ」

ξ゚ー゚)ξ「うん」

311第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:42:03 ID:VYI7AA360
ξ゚ー゚)ξ「ちなみにドクオは普通の子です」

( ・∀・)「普通?」

ξ゚ー゚)ξ「そうそう、何の変哲もない、普通の子」

( ・∀・)「んー、なんというか、その……若くね?」

ξ゚⊿゚)ξ「何が?」

( ・∀・)「お前の産んだ歳」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、うん。まあね。
      産んじゃって、逃げられちゃったから」

ξ゚⊿゚)ξ「普通のシングルマザーの子」

( ・∀・)「そりゃあ大変だったろうに」

ξ゚ー゚)ξ「そうね。でも親が助けてくれてる。うちの親も普通よりちょっと若いからまだまだ元気なのよ。
     だからあたしは長年パートを掛け持ちすることで生きることが出来てるの。ドクオも大学に送れたし
     あとはドクオが就職してくれれば安泰」

( ・∀・)「しかし、どこんちも大変なんだなあ」

ξ゚ー゚)ξ「あたしらの場合は特にね」

312名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 21:43:52 ID:wy9ljxcAO
④だよ

313第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:44:03 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「あたしもね、あんたたちがいなくなってから、荒れたんだよ」

( ・∀・)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「いきなり友達が二人消えた。
      もう知ってるかな? あんたがいなくなったあと、すぐにブーンは転校しちゃったから。
      あたしは凄く寂しくなっちゃった。寂しくなると、人はおかしくなるものよ」

ξ゚⊿゚)ξ「で、大学入ったらいろいろ暴れちゃった。
      気がついたらお腹に子どもがいて、相手はおろしてほしかったみたいだけど、あたしは拒んだ。
      お腹の中には確かに人がいたんだから。
      どんな境遇だろうと、生きていくべきなんだから、人ってのは」

( ・∀・)「……それが、ドクオ」

ξ゚ー゚)ξ「そうよ。
      あたしの自慢の子。
      泣かせたら承知しないわよ?」

( ・∀・)「それ結構難しいぞ?」

ξ゚ー゚)ξ「あたしもそう思う」

314第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:46:03 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「それから数年たって、お前はブーンに再会したわけか」

ξ゚⊿゚)ξ「そう」

( ・∀・)「ショボンに話したのは嘘なんだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの警察官のこと?」

( ・∀・)「ああ」

ξ゜⊿゜)ξ「もちろん。
      というか、いきなりブーンのこと聞かれて、いらっとしちゃった。
      あたしだって、あのニュース聞いて、いろいろ考えていたのにさ。
      思い出したくない気持ちがあった。だから知らない振りをした」

( ・∀・)「あのなあ、あんまりそういうのよくないんだぜ?」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、あんたは怒る?」

( ・∀・)「いや、いいよ。ショボンだし。
      俺あいつ嫌いだし」

ξ゚ー゚)ξ「なによ、それ」

ξ゚⊿゚)ξ「それに……言わなかったのはそれだけが理由じゃないわよ」

( ・∀・)「ブーンが逃げてたから?」

ξ゚⊿゚)ξ「惜しい」

315第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:48:05 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「最初にブーンに会ったのは、ドクオと一緒にいるときだった。
      それから、あたしは一人で、ブーンの住んでいる部屋に赴いた。
      そこで、聞いちゃったんだ。いろいろと」

( ・∀・)「……ひょっとして、俺が殴られたことも?」

ξ゚ー゚)ξ「……ふふ」

(;・∀・)「言ってくれよー」

ξ゚ー゚)ξ「そもそもあんたが生きているかは知らないし」

ξ゚⊿゚)ξ「で、ブーンは言っていたの。
      自分のことは言わないでほしい。自分が逃げるためでもあるけど
      それ以上に、自分はもう内藤ホライゾンの名前を捨てたいから。
      辛いことを思い出したくないからって」

( ・∀・)「……向き合えなかったんだな。そのときは」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが、自分の過去にってこと?」

( ・∀・)「そう。向き合えなかったから、逃げていた。
       向き合ったから、立ち向かった。それがあの事件」

ξ゚⊿゚)ξ「嫌な話。
      ひとりよがりよ。そんなの」

316第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:50:02 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「それで満足しちゃう人もいるってことさ」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは、そうだったのかな」

( ・∀・)「多分」

ξ゚⊿゚)ξ「……もっと話してあげればよかったのかな」

( ・∀・)「お前が?」

( ・∀・)「一旦家に行ったんだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、それで、さっき言った通り。
     もっとあたしの意見をちゃんと言ってあげればよかったのかなって」

( ・∀・)「それでも言わなかった」

ξ゚⊿゚)ξ「思いだしたくないなんて言われたらね」

( ・∀・)「それで泣いた、と」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……ん?」

317第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:52:03 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「なんで知ってるの?」

( ・∀・)「何を?」

ξ゚⊿゚)ξ「泣いたってこと」

( ・∀・)「ああ
       ドクオが見てたらしいぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「……やろぉ」

(;・∀・)「おいおい、いいじゃねえかそれくらい」

ξ゚⊿゚)ξ「別にドクオに怒っているわけじゃないの。
     あんまり子どもには見られたくないものなのよ」

( ・∀・)「そうなのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そういうものなのよ。
     あんたも子どもができたらわかるわ」

( ・∀・)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「ん? どうかした?」

( ・∀・)「いや、何でもねえよ」

318第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:54:02 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「……モララー」

( ・∀・)「おう、何だ」

ξ゚⊿゚)ξ「今度、さ。ブーンの墓参りしよ?」

( ・∀・)「……ああ」

ξ゚⊿゚)ξ「そして、仲直りしなさいね」

(;・∀・)「……死んでるのに?」

ξ#゚⊿゚)ξ「当たり前でしょ!」

(;・∀・)「まぁ、だよなあ。
       殴られるくらいだものなあ」

ξ゚⊿゚)ξ「それが回りまわって、ここまで来ちゃった」

( ・∀・)「うん。謝ろう」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしも」

319第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:56:06 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「……俺、恨まれてるかな」

ξ゚⊿゚)ξ「なんとも言えない気持ちでしょうね」

( ・∀・)「なんだよ、それ」

ξ゚⊿゚)ξ「ただ単に、元に戻りたかっただけなのよ」

( ・∀・)「元に?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、友達に」

( ・∀・)「ああ……」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

( ・∀・)「…………」

(  ∀ )「ごめん」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしに言ってどうするの」

(  ∀ )「ホントにな」

320第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 21:58:08 ID:VYI7AA360
ξ゚⊿゚)ξ「あたしも、同じ」

(  ∀ )「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「元に、戻りたかっただけ。
     友達として再会したかった」

(  ∀ )「…………あぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「せっかく、ブーンにも会っていたのに。
     あたしは、素直にブーンの言うことを聞いちゃった」

(  ∀ )「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「本当は」

ξ ⊿ )ξ「本当はどうするべきだったのかな。
     あたしはブーンの言うとおりに、ブーンの存在を知らない者として過ごさなきゃだったのかな。
     そのときは、それが一番ブーンのためだと思っていたけど、でも」

321第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:00:09 ID:VYI7AA360
(  ∀ )「…………」


ξ ⊿ )ξ「…………」


(  ∀ )「…………」


ξ ⊿ )ξ「…………モララー」


(  ∀ )「…………」


ξ ⊿ )ξ「……きこえてんでしょ」


(  ∀ )「あぁ」


ξ ⊿ )ξ「ったく」

322第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:02:09 ID:VYI7AA360










ξ ⊿ )ξ「帰ってくるの、遅過ぎなんだよ。このヘタレ」

323第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:04:08 ID:VYI7AA360



モララーが、何か言おうとしたときだ。
テレビのニュースが、異様な雰囲気に包まれたのは。

速報が入ったらしい。

モララーも、ツンも、一旦はテレビに注目する。

何故か、ブーンの顔があらわれていた。

(;・∀・)「なっ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「何よ……これ」

ニュースキャスターの声はひどく冷静に感じられた。
そのことが、モララーに強烈な違和感を覚えさせる。

何故、世間が再びブーンに注目する事態が生じてしまったのか。
固唾を飲んで見守る二人の前で、説明がなされた。


つーが、ブーンの過去を自供したようだ。

324第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:06:09 ID:VYI7AA360
ブーンの殺人には、ニダーの行動が関係している。
つーはそのことを暴露し、自らがブーンと関わりを持つことを伝えた。

これだけにとどめていたのはあまり多くの人々を巻き込む気にはならなかったからなのだろう。
ツンやドクオ、シュール、モララーにまで説明が及んでしまうかもしれない。
だけどつーはそこまでは話を拡大したくなかったようだ。

(;・∀・)「……きっと、ニダーだけは許せなかったんだ。
       そしてせめてその部分だけ、ブーンの行動の理由を言いたかった。
       そこだけでいいから、立ち向かいたかったんだ」

モララーはつーの心情を推察した。

つーは、耐えられなかったのだろう。
世の中の大勢の人々が、ブーンをただの悪人として記憶してしまうことが。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

(;・∀・)「あ、いや……」

ξ゚⊿゚)ξ「……この人は、満足できない人だった。
     そういうことね」

(;・∀・)「ああ」

325第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:08:09 ID:VYI7AA360
( ・∀・)「あ」

ニダーとその妻の写真が公開される。

もちろん、ツンもモララーも、それを見たことがあった。
だから、今更驚くことはなかったのかもしれない。

でも、モララーは気付いてしまった。

ニダーの妻の顔。
その顔に見覚えがあることに。

何故今まで疑問に思わなかったのだろう。
ブーンがあんなにも残酷な殺人事件を起こしたことに。

記憶を取り戻し、ジョルジュの話を聞いた時
ブーンがニダーを恨む理由はわかった。

だけど、よくよく考えればそれだけだ。
ニダーを殺したブーンに、それ以上、何も想いは無かったはず。

ならば、何故

ブーンはニダーの妻をも殺したのか。

326第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:10:13 ID:VYI7AA360


从'ー'从






もはや何度もなされたであろう事件の説明。
小里安ニダーが、そしてその妻である小里安ワタナベが殺されたこと。

この国の多くの人々がすでに聞き飽きていたそのフレーズは
今更、モララーの頭脳に衝撃を与えることとなった。

そしてそれと同時に、様々な思考が駆け巡り
頭の中で、ブーンの心の動きが急速に理解された。

(  ∀ )「そういう、ことだったのか」


眼が潤んでいく。

自分の感情はまだ枯れていなかった。

それはただ、腑に落ちない点によって、止められていただけだったのだ。

どうしてブーンはニダーとワタナベを殺さなければならなかったのか、という、一点の疑問。

目の前の画像が、その理由を示していた。

327名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 22:10:21 ID:3iBCrB9.0
おお?

328第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:12:11 ID:VYI7AA360
(  ∀ )「これが……あいつの原因だったのか」

ξ゚⊿゚)ξ「……モララー?」

(  ∀ )「ツン、この女なんだ」

モララーは、テレビに映るニダーの妻を指し示す。

(  ∀ )「ブーンが、俺の家の前で観たのは」

ξ;゚⊿゚)ξ「!!……じゃあ」

(  ∀ )「この女が、あのとき俺の家の前にいなければ
       いや、ニダーの妻になんかなっていなければ」

ブーンは、ニダーを殺した。
そしてそのあと、妻をも殺している。

ブーンは見てしまったのだ。
ニダーの妻の姿を、自分の記憶にあるあの少女の姿を。

なぜこの少女がニダーの妻になったのかはモララーにはわからない。
だけど、それでもモララーは、歯噛みした。

329名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 22:13:22 ID:wy9ljxcAO
ニダーの妻…… 
 
ここまで設定考えてたのか

330第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:14:10 ID:VYI7AA360
  ∀ )「あの事件の時、ブーンはきっと、ニダーを突発的に殺してしまった。
       そしてその直後に、この女を見てしまったんだ」

(  ∀ )「自分の記憶の中で、ブーンもまた思ったんだろう。
       この女のせいで自分はニダーから逃げなければならない身となった。
       自分が、あの時、俺を殴らなければ……自分は何もなかった」

(  ∀ )「きっと冷静になれば押さえられたんだろう。
       でも状況が状況だから、ブーンは、この女を殺してしまった」

(  ∀ )「ばかだなぁ、ニダーだけに抑えておけば、せめて死刑にはならなかったのに」

ξ;゚⊿゚)ξ「……でも、元からブーンは死のうとしていたんでしょ?」

(  ∀ )「それは、そうだが……」

考えが、止まらなかった。
今まで無視してきた後悔の念が、怒涛のごとく押し寄せてきていた。
モララーは寸でのところで嗚咽を堪えた。

331第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:16:10 ID:VYI7AA360
ブーンは、よく自分を嘘つきだと言っていたらしい。


ドクオたちが言っていた。


それは、元々はモララーを殺してしまったことについてだったのだろう。


いや、ひょっとしたら高校生の時に
自分のツンに対する感情をひた隠しにしていたことについてだったのかもしれない。


あるいは、つーやドクオ達に、自分を尊敬させてしまったことについて言っていたとも思われる。


とにかくブーンは嘘をつくことに疲れて、この世界に生きていく気力を失ってしまった。


だけど、モララーは気付いてしまった。

332第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:18:09 ID:VYI7AA360
もし、自分が家の事情を話していたら、どうなっていた?



ブーンもツンもきっと味方になってくれただろう。



自分がブーンに殺される過去は無かった。



ブーンが死ぬことは無かった。





本当の嘘つきは、自分だったのではないか。

333第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:20:07 ID:VYI7AA360
強く、強く、歯噛みした。
あまりにも悔しく、悲しい。

ツンが自分を心配して声を掛けてくれている。

でも、自分はなかなかそれに応じていられない。
まともな顔で返事するには、時間が掛かる。

止めどない、混濁した感情が押し寄せ、口から荒い吐息となって漏れる。
久しぶりに思いだしたこの感覚。
記憶があるからこそ実感できる、その暗い想い。

(  ∀ )「ブーン。本当に……本当に、すまなかった」

ひねり出した言葉は、かすれていた。
今はどうしても、それしか言えなかった。

『友達』という感情が希薄になった、この歳になって初めて
モララーはその言葉の重みを知った。

心の中で、何度も何度も懺悔する。
口に出すことでは決して言い尽くせない想いの数々を、親友に捧げる。
優しく朗らかで、いつも笑顔で、どこまでも他人思いで、大好きだった親友へ。

334第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:22:01 ID:VYI7AA360
B市の花火大会は盛況のようだ。
病室の窓からでも、それは綺麗に見えたことだろう。

モララーは霞んだ眼で、それを見た。
弾ける花火は、空に手向けられた花束のようだ。

花火は燃え尽きる。
空に届くことは無い。

想いにしても、懺悔にしても、それは同じ。
届くことなど無い。
それでも、向かわせずにはいられない。
いつまでも、いつまでも、忘れないで送りつづける。

それが自分のすべきことだ。

亡きブーンへ向けて、自分ができることなのだ。

335第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:24:01 ID:VYI7AA360
堪え切れなくなったモララーの慟哭は、ツンにだけ届いていた。
体を屈ませ、ツンの横でしゃがみ込むモララーを、ツンは潤んだ瞳で見つめていた。
いつまでも。











これは、とある探偵の心に秘めた物語。












〜〜( ^ω^)は嘘をついていたようです おわり〜〜

336第七話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:26:48 ID:VYI7AA360
以上で、『( ^ω^)は嘘をついていたようです』は終わりです。

実のところ、この作品を書きだしたのは2年以上前の話です。
2010年の2月頃にばーっと第五話まで書きました。

それからあと少しで書き終えることはわかっていたけれど、なかなか忙しくて
そもそもブーン系のこともすっかり忘れていたというのが正直なところです。

で、最近になってパソコンの中に眠っていたテキストファイルを発見。
中身を見て、ああこんなの書いていたなあと。
読み返してみたら、とんでもない数の突っ込みどころが見つかりました。
ですが話の筋は覚えていたので、記憶を頼りに修復。

修復していくうちに、だんだんと投下してみたいという思いが募り
この際だから最後まで書き終えてしまおうと。

しかしまあ最後の二話がすごく苦戦しました。設定資料も無くなっていたのですが
それと関係なしに、やはりまとめる作業っていうのは一番骨が折れましたね。
恐らくこれを書きだした頃の僕はあまりそういうのを気にしていなかったようで、手直しした個所は多いです。

まとめ方も悩みどころでした。
あまり暗い話は書きたくないけど、ハッピーエンドで終わってしまうには重すぎる題材。
悩んだ末に出来たのがあの結末です。

ようやく書き終えたのが3月に入ってすぐのこと。
軽く推敲して、毎日投下して、ようやくの完結です。

みなさんお付き合いありがとうございました。
質問等ありましたらどうぞ言ってください。

337名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 22:28:45 ID:wy9ljxcAO
終わったか、途中少しは救いあったと思ったんだが… 
( ^ω^)は強いやつだな

338名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 22:32:51 ID:3iBCrB9.0

すごい面白かった

339名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 22:36:11 ID:wy9ljxcAO
七話のラストは最初から考えてたの? 
と質問しようと思ったけど前レスで書いてあった

340 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:37:05 ID:VYI7AA360
>>337 支援ありがとうございました。

一度は思いっきり明るいエンディングでまとめていたんですが
ブーンへの想いをこんなあっさりしたものにしていいのかな、と迷った上で、こうまとめました。
ただ、そう暗い重いだけの話というわけでもない、そうしたくなかったんです。

341 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:38:48 ID:VYI7AA360
>>338

支援ありがとうございました。
他の支援してくださった方々も、自分にとってとても励みになりました。
ホントにありがとうございます。

342 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 22:42:05 ID:VYI7AA360
>>339
最初に頭にあったのは
( ^ω^)←こいつが出てこない物語
そして『内藤ホライゾン』と『ブーン』という二つの名前が出てくる物語。

その後、ブーンの過去を考えて、モララーというキャラクターが思い浮かび
ワタナベについてはそのあたりで思いついたような気がします。

343名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 23:25:06 ID:wy9ljxcAO
この題材でおもいっきり明るい結末はおかしいと思う 
 
せめて、ツンとモララーの病室のやりとりの前半部で終了では 
 
ところで二年くらい書いてなかったということですが 
 
それまでは何か書いてた作品あるのでは? 
 
この題材は長編で読みたかった気がちょっとします 
 
文章の雰囲気的には歩くようです、アルファ 
 
伏線回収の巧みさではアルファ、穴本を思わせる 
 
多分新人の人ではないと思うけど 
 
久々に次作品を期待できる作者がでてきたなという想いです 
 
こんだけ面白いのを書けるのですから 
 
リアルが許すならこの作品だけで終わりではなく 
 
今後も作品を書いていってほしいな

344 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 23:27:00 ID:VYI7AA360
さて、連投になってしまいますが
区切りがついたようなので最後に一つ言っておかなくてはならないことが。

個人的にモララーの過去を絡めた話をもう一つ書こうと思っているのですが
忙しいため投下するのはだいぶ後のことになってしまいそうです。きっと来年になります。
設定資料という名の恥ずかしいノートも無くなってしまいましたし。

ですので、もし覚えていてくれている方がいたら、気長に待ってもらえると嬉しいです。
僕ものんびりと、書いていこうと思いますので。
ひょっとしたら短編くらいなら何か書いているかもしれませんが。

それでは長々とありがとうございました。

345 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/09(金) 23:41:09 ID:VYI7AA360
あわわ、書いている間に長文が……

>>343
物語を書くということは本当にやっていませんでした。
ただ、本当は二年前にちょっとだけ短編を書きました。
総合で書いた、ブーンが遺言を渡される話なのですが、憶えている人ははたしているのだろうか。
ここ二年間は何にも書いていませんね。ただ自分の環境が大きく変わる時期だったので
忙しくて、それでいていろんな面で成長した時期でもありました。


長編については、自分の中で違いがよくわかっていないのでなんとも言えないです。

『歩くようです』は自分が初めて読んで、心打たれたブーン系小説です!
ここでその名前を見るとは。
僕にとってあの作品は憧れですし、影響はあったのかもしれません。
もちろんアルファさん等も知っていますし、文章や伏線の巧みさは尊敬しています。
それもあんなに長編でやってのける点が凄いです。

そして、さきほどのレスにも書いたとおり、長編は早くても来年。
短編だったらときどき書きに来るかもしれません。

このような賛辞を送っていただき、ありがとうございます。

346名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 01:18:34 ID:reZfe.g2O
ω・`∩なんな二時間ドラマみたいだな。けっこうそれぞれの葛藤がよく描かれてて良かったぞ。


ω・`)珍しく葛藤して答えをだしたいいモララーだった。

347名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:32:44 ID:G0lCLIyY0
ブーンがわざわざ五年後に自殺した理由って書かれてたっけ

348 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/11(日) 00:28:27 ID:atY4S5wY0
>>347 そういえば、明示していなかった気がします……
せっかくなのでそのうちそのあたりの話を含めた番外編を書こうと思います。
いろいろ書き足りないなと思う箇所もあるので。

349 ◆cPUZU5OGFs:2012/03/11(日) 19:00:44 ID:ROqtBxmY0
http://boonboonmatome.web.fc2.com/index.html

350 ◆cPUZU5OGFs:2012/03/11(日) 19:02:14 ID:ROqtBxmY0
http://boonboonmatome.web.fc2.com/001/top.html

351名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 20:13:57 ID:6eG89uCkO
毎日の楽しみだったよ。乙!
こういう、何人もの関係が交錯しあう人間ドラマはすごい好きだ
どこか「話す」が「離す」になってたけど途中で忘れちゃったくらい夢中で読み耽ってた

次回作投下するときは是非「嘘をついていたの作者だった」って晒してほしい


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