[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
( ^ω^)は嘘をついていたようです
152
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:04:05 ID:o8KVL1jo0
(*゚∀゚) 「あたしには一人の子どもが、腹の中にいたんだ。
相手がどこぞの誰ともわからない。きっとあのお店で働いていたときに、調子こいて孕まされたんだ。
お店を訴えようにも、気がついた時にはもうそこは潰れていたよ。どうやら裏の組が結構危険なことをしていたらしくてね。
あたしはよく知らないけど、警察が大挙して組を潰したらしい」
(*゚∀゚) 「ま、あそこがどうなろうとあたしには関係ない。訴えることが出来なくなっただけさ。
それからは悩んだよ。誰ともわからない子どもを育てるのかってね。
けれど中絶もしたくなかった。家出して散々家族に迷惑掛けて、反省してるのに、自分から迷惑を被ろうとしていたんだ」
(*゚∀゚) 「それだけじゃない。内藤ホライゾンもまたあたしに、その子を育ててほしいと言ってきた。
それからいつものように綺麗事を並べていったんだ。何度も何度も。
だけど……なんでだろうね、今度はちゃんと効いてしまったんだ。綺麗事が、あたしの心に」
(*゚∀゚) 「あるいは、そのときもうあたしの気持ちは内藤ホライゾンに傾いていたのかもしれないね。
どうしたんだい、探偵さん? さっきからいやに静かじゃないか」
急に言葉を掛けられたので、モララーはハッとしてつーに顔を向ける。
意味をなさない言葉の欠片をいくつか出して、額に流れる汗を拭った。
(;・∀・)「すいません。まさか内藤ホライゾンに妻がいただなんて。
聞いたことも無かったものですから」
そこではなかった――気になっていたのは。でも今は打ち明けない。
つーはまた乾いた笑い声を響かせる。
153
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:06:05 ID:o8KVL1jo0
(*゚∀゚) 「妻じゃないよ、同棲さ。
結局最後まで結婚することは無かったんだ」
落ち着きを取り戻しつつあったモララーは、その言葉に首を傾げた。
( ・∀・)「同棲をしていた……いったいどれくらいの期間です? 」
(*゚∀゚) 「子どもが産まれて、4年ほど経つまでだよ。
どうにも内藤は結婚することを拒んでいたんだ。断固としてね。
それでも子どもには悪い影響があるかもしれないと考えて、あたしたちは子どもが小学生に上がる頃に結婚する予定ではいたよ」
(*゚∀゚) 「でも、あいつは消えちまった。
1995年の話さ。あいつはあたしらを置いてどっかに逃げてしまった。
連絡を取ろうと思えばできたんだろうけどね、あいつの置き手紙にそれを拒む記述があったから、手をつけないでおいたよ」
つーの発した言葉はしっかりとモララーに届いた。
今から15年前の話、突然のブーンの失踪。
それから10年経って、ブーンは殺人鬼となってテレビに映り、それから5年後には死んだ。
( ・∀・)「理由は言ってないのですか。
何故いなくなってしまったのか」
(*゚∀゚) 「言ってないよ。ふっと消えちまったんだ。
それからあたしはモナーの家に帰り、そこから就職を勧められて、今に至るわけさ」
口早につーは自分の状況を述べる。
もちろんモララーの耳には届いていた。
154
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:08:06 ID:o8KVL1jo0
約束の時間が迫ろうとしていた。
つーが話してくれたのはここまでであり、それ以上知っていることは無いようである。
( ・∀・)「そろそろ帰ることにします。
話していただき、ありがとうございました」
(*゚∀゚) 「あたしの話が何かの役に立てるなら、それで十分だよ。
今では人の為になりたい気持ちでいっぱいなんだ。
昔荒れていたことに対する反動ってやつかもしれないね」
モララーは立ちあがって、出口へ向かっていく。
つーも立って、モララーを見送ろうとし始めていた。
だが、モララーは突然踵を返す。
あまりにも唐突だったために、つーは動きを止めた。
( ・∀・)「一つ聞き忘れていました。
その産んだ息子の名前、聞かせてもらえないですか? 」
つーの目がじっと自分を捉えていることに、モララーは気付いていた。
いったい何を見つめているのか、それはわからないが、良い気持ちでは無い。
(*゚∀゚) 「ジョルジュっていう名前だよ」
155
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:10:03 ID:o8KVL1jo0
外に出ると、温かい南風が頬を擦っていくのをモララーは感じた。
湿り気のある空気に一際圧迫感を感じる。ビルの中の冷房が強かったせいでもあるのだろうが。
長岡商事――ビルに掲げられている看板をモララーは何ともなしに見上げていた。
それは長岡グループ会長、長岡モナー氏の有する一会社の名前であり、社長の名前は長岡つーという。
今しがたモララーが会話してきた人物である。
長岡ジョルジュという男――それが、先のつーとの会話で挙げられた名前である。
血は繋がっていないものの、ブーンとつーによって息子同然に育てられた人物。
『ブーンの息子』というフレーズははっきりと憶えていた。
ギコを雇い、事件を起こさせた人物だ。
会ってみる価値はあるだろうとモララーは思っていた。
そして、収穫はそれだけではない。
つーはもう一つ、ヒントを与えてくれた。恐らくは無意識に。
『あいつはあたしらを置いてどっかに逃げてしまった』
( ・∀・)「逃げる、か……」
それがただの比喩だとは、モララーにはとても思えなかった。
ブーンは何者かに追われていたのか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
156
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:12:11 ID:o8KVL1jo0
2010年8月13日(土)、午後3時、C市――
ドクオは河原で一人佇んでいた。
この川はD市の水源から県北部の県境を迂回している川であり、ドクオがいる岸の向こう岸は他県である。
流れが荒く、渡るのには不向きなために、もしあちらの県に行きたければ鉄橋を越えなければならない。
そしてその鉄橋の下で、なるべく斜陽を避けて日陰の部分で、ドクオはじっと川を眺めていた。
鴨が何匹か泳いでいる。数年前には下流の方でアザラシが見つかったらしいが
ドクオが見つめる場所は起伏が激しいので魚類であろうとも進みにくいのであろう。
鮭のことについて――急にドクオの頭の中に浮かんだ命題だ。
鮭の川上りの話を小学生の時に聞いた。
ぼんやりと思い出してみた。
あの魚は産卵の時期になると、一斉に川を遡上してくる。
たとえその道がどんなに荒れていようと、汚かろうと、罠が仕掛けられていようと。
鮭は構うことなく川の上流を目指していく。産卵場所を探し、子孫を残すというそれだけの理由で。
ようやく適当な場所を見つけることができた鮭は、卵を産み、そして果てる。
もはや命を残す必要はない。子孫繁栄という目的は達成することができたのだ。
鮭はただそのためだけに、その時まで生きていたのだ。
昔、ドクオはそれをとても悲しいことだと思った。死というのはそれほどまでに彼にとって恐ろしいものだった。
だけど今、彼はそうは思わない。
目的がある。鮭として生きて、鮭として死んでいくその生涯をドクオは、遥か遠くにある理想のように感じていた。
157
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:14:05 ID:o8KVL1jo0
ドクオは産まれたときから父親がいなかった。
母親に聞いてみる気にはなれなかった。母はその質問を極端に避けている、そんな気がしたのだ。
そしてその結果彼に訪れたのは、どうしても埋まることのない心の穴だった。
普通の人が当然有しているものがないということ、それは抗いようも無い喪失感をもたらしていた。
そしてその感覚が、普通の人から自分を遠ざけているのだとドクオは感じていた。
どうしても人と上手く接することができない。理由のない劣等感、同じ場所に立っていないという思い込み。
そこには、母を悲しませたくないという気持ちも作用していた。
経験がなければ力はつかない。
コミュニケーションの不足は、他者との会話、接触を避けることに繋がった。
いつしかドクオは孤立するようになった。中学生を前にして、独りとはどういうものかを悟っていた。
そして誰とも触れ合わないうちに、自分という存在が不安定になっていった。
本来ならば他者との関わりの中で確立していく自分の立場を得ることができなかった。
無目的。
つまり自分は鮭にも劣るのか、そんなふうに考えることもあった。
だけど、そのたびにそこに誤りがあることにもすぐに気付いた。
たった一人、心を開いている人物がいたということを。
それがブーンさんである。
158
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:16:03 ID:o8KVL1jo0
ブーンさんはドクオが小学生に上がる直前に、ドクオの近所のアパートに引っ越してきた。
初めて見たのは、少し遠くの街のデパートにランドセルを買いに行った日の帰りのことである。
母は車を持っていなかったので、二人は歩いてそのデパートから帰って来ていた。
ブーンさんはアパートの前でぼーっとしていて、ドクオと母の方に目をやるとあからさまに驚いた。
ドクオは不審者じゃないかと思って母の腕を強く握りしめたことを覚えている。
その母親の腕はやけに震えていたことも、未だに覚えていた。
その日、ドクオの母親がこっそり出かけた。ドクオを寝かしつけた後である。
もっともドクオは寝付けなくて、その母の行動に気付いていたのだが。
ドクオはトイレに行くために起きようとした時、母が帰ってきたことがわかった。
話しかけようとする前に、母が泣く音を聞いた。
母はブーンさんの家に赴いたのだ、子ども心ながらにそう感じた。
きっと、この二人の間には何かがあった。それが母の涙に現れている。
その声にならない嗚咽を聞いて、ドクオは何もできないまま、隠れて自室へと戻っていった。
それから母がよくブーンさんの家に連れて行ってくれた、
初日だけ、ブーンさんは警戒していた様子だったが、その日母と外出して、帰って来たときにはもう蟠りが無くなったようであった。
ドクオは学校では孤独を感じながら、度々ブーンさんと会えることを楽しみにしていた。
ブーンさんはいつも笑顔で、明るくて、遊び相手になってくれた。
呼び方はそもそもブーンだったし、ドクオは内藤ホライゾンという名前すら知らなかったんだけれども。
ドクオは一緒にいるときにとても気持ちが晴れやかになった。苦しいことは全て忘れられた。
ブーンさんはドクオにとってかけがえのない存在になっていった。
中学生になってからもそれは相変わらずであり、むしろ一緒に街を歩いたりもするようになった。
一緒に市の街を散策して、いろいろなものを見つけて、笑い合った。
ブーンさんの笑顔はドクオの意識に鮮明に残っていた。
そのブーンさんが、あるマンションに目を付けたのは、2004年10月のことだった。
159
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:18:04 ID:o8KVL1jo0
「あの子……」そうブーンさんが呟いたので、ドクオも意識を向けた。
マンションの入り口に一人の少女が見えた。
同じクラスだったので、ドクオはその名前を知っていた。シュールであった。
ドクオはブーンさんに、シュールがいじめられっ子であり、クラスでも浮いていること、不登校気味であることを説明した。
ブーンさんはしばらく考えたあと、言葉を発した。
「あの子、もうすぐ死ぬかもしれないお」
それから気がついたらドクオはシュールの部屋にいた。
ブーンさんに言われるがまま、主体性の欠片もなしに行動していた結果である。
きっと自分の顔は恐怖で歪んでいたに違いないとドクオは今でも思っている。
その日からシュールとも仲良くなった。
もう孤独は感じなくなった。感情表現は苦手だが、内心では心が晴れ晴れしていた。
シュールとはよくブーンさんの話をした。というかそれしか話題が無かったのだ。
ブーンさんと一緒に街を散策したこと、一緒に遊んだこと。
小さい頃から今まで、自分がどれほどブーンさんに感謝しているか、彼は必死にシュールに伝えた。
自分はブーンさんの為に生きたいと思っていた。
それだけが自分の目的だ――不安定な思春期の精神状態で、ドクオはそう信じることで平静を保っていた。
だけど、ブーンさんの表情が変わり始めていた。
笑顔がだんだんと失われていった。
160
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:20:01 ID:o8KVL1jo0
ブーンさんに元気が無くなっていったのをドクオは薄々感じていた。
依然として笑顔ではいるが、心から笑っているわけではないとわかった。
長いことその笑顔に支えられていたから、なおさら。
でも質問することはできなかった。そんな勇気は持ち合わせていなかった。
だから遠まわしに聞いた。
どうしていつも笑顔でいるのか、と。
ブーンさんが一層笑顔になったのをよく覚えていた。
心で全く笑っていなかったのをよく覚えていた。
「嘘なんだお。
笑顔なんて嘘なんだお。
人間が、他の人間と何の争いもすることなく過ごすための手段にすぎないんだお」
「僕はもうずっと後悔しているんだお。
嘘を続けて、これまで生きてきてしまったことに――」
「僕はずっと昔とても大変なことをしてしまったんだお。
そのことでずっと嘘をついているんだお。誰に対しても。
君のお母さん、ツンに対しても、真実を話したことは無いんだお」
「僕は必ずなんらかの形で償いをしなければならないんだお。
罪に対して罰を受けるのは当たり前のことなんだお。
これまでずっと、笑顔で乗り切っていけると考えていた自分がバカだったんだお」
161
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:21:03 ID:o8KVL1jo0
ちなみにここのツンはこれで良いです。念のため。
162
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:22:01 ID:o8KVL1jo0
ドクオはその言葉を思い出すと、今でも寒気がした。
あれはドクオの知っているブーンさんじゃなかった。
でも、もしブーンさんの言っている言葉が本当だとしたら、その恐ろしい言葉を発したブーンさんこそが真実なのだ。
それから数日後、ブーンさんはニダー一家を惨殺した。
ドクオは確信していた。殺したのはあの恐ろしいブーンさんである、と。
だからどうしてあのブーンさんが殺人を犯したのか、とても気になっていた。
ずっと偽りの笑顔を続けていたブーンさんが、どうしてあの事件を引き起こしたのか。
ひょっとしたらニダーは何らかの秘密を握っていたのではないか。
ブーンさんの知られたくない過去を――
斜陽が顔に当たったので、ドクオはハッとする。
かなり時間が経っていたようだ。
もう空が紅い。晴れ渡ったいい空だ。
背後で足音が聞こえたので、ドクオは振り返る。
誰が来たのかは大方察しがついた。
('A`)「遅かったな」
挨拶も何もなしにドクオは言う。
つっけどんな言い方だが、特に問題はない。
_
( ゚∀゚)「お前が早すぎんだよ」
163
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:24:07 ID:o8KVL1jo0
('A`)「お前に言われて、俺はずっと行動してきた。
8月10日にお前が携帯で連絡をよこしてきてからな、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「ああ、その通りだ。間違いは無い。
俺は10日にお前に電話した。モララーという私立探偵に、内藤ホライゾンについての調査依頼をしろってな」
_
( ゚∀゚)「『内藤ホライゾンの知り合いなんですが、内藤の死が気になるので調べてほしいんです』
要旨はこれだ。あとは上手くA市の跡地へいけば、お前はしぃに出会い、金持ちの女の家に連れて行ってもらえるだろう。
あの時のその女が12日に跡地へ向かうという連絡は、俺の仲間の警備員が知らせておいてくれたからわかったことだ。
その男とこまめに連絡して、しぃの行動時間もおおよそ操れた」
('A`)「警備員……あの発砲したギコって奴か? 」
_
( ゚∀゚)「そうだ。ああ、どうして知り合ったのかまでは聞かないでくれ。
なかなか面倒なことと結びついているんでな。言うわけにはいかない」
('A`)「俺の興味はその男じゃない。
何故発砲したか、それだけだ。
狙いはモララーさんだったんだろ? 」
_
( ゚∀゚)「その通り。
お前の行動のおかげでモララーはあの家に行った。そして発砲されたというわけだ」
('A`)「気に食わない言い方だな」
_
( ゚∀゚)「これから人を殺す、協力しろと言われて気分を良くする人はそういないだろうからな」
164
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:26:07 ID:o8KVL1jo0
('A`)「あの警備員が『ブーンの息子』と言ったから良かったものの
そうでなかったら俺も気が狂いそうだった」
_
( ゚∀゚)「あれか、そのセリフは言わせたんだよ。
お前に事件の裏に俺が居ることを知らせるためにな」
('A`)「殺すつもりが無かったのか? 」
_
( ゚∀゚)「むしろあの程度では死なない男だと思ったよ。
あのモララーって野郎はな」
('A`)「捨て駒か」
_
( ゚∀゚)「ギコのことか? 安心しろ。
どうせどっかの組に見捨てられたところを拾ってやっただけ。
元々表の世界では生きていられなかったような人間だよ」
('A`)「まるでヤクザの親分にでもなったかのようだな」
_
( ゚∀゚)「カッコつけただけだ。俺はそんな凶悪な背景持っちゃいねえよ」
('A`)「……んで、そろそろ教えてくれないか?
モララーってのは何者で、どうしてお前は奴を狙っているんだ」
165
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:28:02 ID:o8KVL1jo0
_
( ゚∀゚)「その前に少し昔話をしようじゃないか」
ジョルジュは一歩、ドクオに近づいた。
('A`)「そんなに長い歴史をお前と共有したつもりはないが」
_
( ゚∀゚)「出会ったときは意外と古いだろ。
5年前だ。ブーンさんがニダー一家を惨殺した年の6月、俺とお前は会った」
('A`)「……お前はブーンという呼び名を知っていた。
俺がブーンさんのいたアパートの前でそう呟くのをお前は耳にした。
だから俺に話しかけた。俺は『ブーンの息子』だ、なんて言ってな」
_
( ゚∀゚)「そう、それが最初の出会いだ。
俺は昔ブーンさんに育てられた子だってことを、お前に伝えた。
そしたらお前は俺と交流を持ちたいと言ってきたな」
('A`)「ただのメアド交換だ。よくあることだろ」
_
( ゚∀゚)「とてもそういう顔つきには見えないがな。今も昔も」
('A`)「…………まあな」
166
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:30:02 ID:o8KVL1jo0
('A`)「でもお前は全く連絡をよこさなかった。
俺が大学生になった後も、さっぱりだった。
ようやく来たのが10日。あのブーンが死んだ日だ」
_
( ゚∀゚)「それまでいろいろ調査していたんだよ。
モララーの存在を確信したのはその期間だった」
('A`)「不思議な言い方だな。ようやく本題に入るってわけか」
_
( ゚∀゚)「その通りだ。実はな、モララーは――」
突風が二人に吹き付けてきた。
夏の温まった空気は突如として空間を駆け巡ることがある。
轟音を鳴らしながら。
ドクオは身を竦ませた。
だけど、ジョルジュの言葉はしっかりと届いていた。
だからこそ目を見開いた。
符号が繋がったからだ。
そのとき初めて、ドクオはブーンさんの言葉の真意を理解した。
ブーンのついていた嘘について。
そこから生じた大きな過ちについて。
167
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:32:04 ID:o8KVL1jo0
(;'A`)「……おい、お前」
ドクオは思わず声を出して呼びかける。
(;'A`)「何をするんだ。これから」
_
( ゚∀゚)「D市へ向かう。
お前もだぞ、ドクオ」
ジョルジュは口の端を大きく釣り上げる。
企みがあるに違いない。そういう顔つきだった。
_
( ゚∀゚)「俺がずっと一緒に行動していたおっさんは、今日を逃したらだいぶ長いこと暇がないらしい。
だから絶対に今日動く。そしてモララーもきっと来る。俺にはわかるんだ」
何か絶対の自信があるのだろう、ジョルジュの力強く頷いていた。
_
( ゚∀゚)「そんでもって奴を、モララーを殺す」
それが当たり前のことであるかのように、ジョルジュは決意を表明した。
意味はもうドクオにはわかっている。この殺人の理由は、とても空しいものだということも。
でも自分からは何も言いだせなかった。
そのような資格があるなんて思いもよらなかったから。
168
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:34:07 ID:o8KVL1jo0
自分にはブーンさんのことはよくわからない。
前にどこかで思ったが、自分以上にブーンさんのことをわかっているのは、きっとこのジョルジュだけだ。
ブーンさんの息子として育てられた彼に尽くすのは、ブーンさんに尽くしたいと思った男のすることではないのか。
それこそまさに自分の生きる目的ではなかったのか。
また一歩、ジョルジュはドクオに近づく。
手が届く距離となり、ジョルジュは腰のポケットから物体を取り出した。
黒く、光沢のあるそれは、新品に違いない。
昨日の晩、ドクオはそれを初めて見た。危機的状況の中で。
_
( ゚∀゚)「お前が持っているべきだ。
モララーはお前に対して、油断しているはずだからな。初対面の俺よりも」
ドクオの手に握られたのは、拳銃だった。
持つのは初めてであり、そして今、今晩それを用いることを命令されているのだ。
_
( ゚∀゚)「至近距離なら猿でもはずさねえし、ゴリラだろうと死ぬだろうな」
楽しそうに言い放つジョルジュからは、毒々しい悪意が伝わってきた。
ドクオはとても顔を上げて、その様子を見ることはできなかった。
正直に言って、殺したくは無かった。
モララーに抱いていた好意は本当のものであったから。
169
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:36:09 ID:o8KVL1jo0
様々な光景が交錯していった。
母親であるツンが泣いている姿、シュールが自分の話をじっと聞いている姿。
初めて出会ったときのジョルジュ、悲しい思いを裏に秘めたブーン。
そして、昨日一緒に行動していたモララー。
殺さなくてはならない。
そういう指令だ。
これは指令なのだ。
病院のベッドで再開したシュール。
重傷を負っているのでツンとは面会できないと伝えて来た看護師。
そして、昨日の晩のモララー。
『無茶するなよ』
その言葉が、心の奥に傷をつけていた。
自分の身を案じてくれている人を殺さなくてはならない。
まるで何かが狂ってしまったように、ドクオは感じていた。
170
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:38:09 ID:o8KVL1jo0
午後4時、B市総合病院――
ドクオはツンの容態を確かめるために、再びここへ来た。
受付に話をして、ツンのことを質問する。
大して期待はしていなかった。
まだ前回来たときからあまり時間が経っていない。
気落ちして入口から出て来たドクオに、ジョルジュが缶コーヒーを与えた。
_
( ゚∀゚)「面会は? 」
ジョルジュは話しかけてみる。
ドクオは小さく、首を横に振った。
_
( ゚∀゚)「そっか……
ま、アパート火災の中生きていただけでも幸せってものだろ
こわいよなあ、突然の事故だなんて」
今度は小さく頷くドクオ。
缶コーヒーを開けて、ちびちびと飲み始める。
('A`)「もういいさ。気は済んだよ」
思ってもいないことを口にする。
171
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:40:07 ID:o8KVL1jo0
本当は確かめたかった。
子どもの頃は怖くて言えなかった、あの涙のわけを。
ブーンさんの正体がわかった今なら、聞く資格があるように感じた。
でも、まだ回復していない。まだ話をすることはできない。
つまりまだその時期じゃないんだ。ドクオはそう考える。
この計画を無事成功することができてから聞こう――ドクオはそう誓った。
缶コーヒーをゴミ箱に入れる。
まだ奥の方に残っていたが、気にしなくなっていた。
いや、それだけじゃない。
いろんな物事に対して、意識が及ばなくなっていった。
今はただ、殺人のことしか頭に残されてはいないような気がする。
それしか考えてはいけないような、そんな気分がドクオを取り囲んでいた。
ジョルジュが車を用意していたことにも、さほど驚かなかった。
車で向かえば、1時間ほどでD市には到着する。
それまでずっと、ドクオは頭の中でイメージを働かせていた。
モララーの頭を撃ち抜く瞬間を。
172
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:42:20 ID:o8KVL1jo0
2010年8月14日
この日、ドクオは拳銃を握り締めながら、犯行現場となるであろう場所へと向かっていた。
同じ日、この事件に関わる別の人間はまた違う方法でD市へ向かうことになる。
彼らは日中それぞれの意志で行動していた。
ブーンの過去の過ち。
それが生み出すものとは、なんなのか。
そしてどのような結果をもたらすのか。
まだ誰にもわからない。
〜〜第五話へ続く〜〜
173
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:44:16 ID:o8KVL1jo0
というわけで本日の投下終了です。
スマホだとID変わんないんですかね。wifiだからかな。
誤字脱字、質問等あったらどうぞ言ってください。
174
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/06(火) 22:45:20 ID:o8KVL1jo0
遅くなりましたが支援ありがとうございました!
175
:
名も無きAAのようです
:2012/03/06(火) 23:36:06 ID:AQ1UzoBoO
登場人物の過去、相関関係色々とワケアリみたいだ
ジョルジュに関しては全く予想もしてなかった
これからの種明かしが楽しみ
176
:
名も無きAAのようです
:2012/03/06(火) 23:44:42 ID:vBxvf6x.0
どんどん繋がっていくな、面白い
しかしレスをコメントというのはどうかと思う
177
:
名も無きAAのようです
:2012/03/07(水) 11:09:53 ID:kJqNaWJYO
かなりおもしろいし好きなジャンルだが、気になった事が。
ショボンがシュールと会った時に警察手帳を見せていたが、非番の刑事は警察手帳を所持できないんじゃないか?
あと、ショボンがクックルに金属バットの血痕を調べさせた時、照合の結果モララーが出てきたらしいけど、
警察に、過去に警察に厄介になってない人のファイルは無い筈だったと思う。指紋だけだっけか覚えてないけど
まあ、これらが何らかの伏線だったら謝る
あと、
>>49
で
>しぃが献花した後、三人はしぃに連れられた。
ってあるけど、ドクオとモララーともう一人誰?
178
:
第四話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 20:07:52 ID:V5c4ibMQ0
>>177
警察手帳については、現在千葉県警と兵庫県警にて、相当の注意の下で常時携帯可能となっています。
とはいえ、この作品は、特に県を限定する気もないからこそ、「某県」といった表示になっていますし
市などの描写も実際の場所と合致するようには書かれていません。
ここは、警察だという証拠も無いのにシュールが知らない人たちを勝手に家に上がらせたら変かなと思って入れただけの描写なのです。
ですから、警察手帳を常時携帯することができるどこか、程度の認識でいいと思います。
血痕の件ですが、
>>122
にてショボンたちが軽く触れているように
モララーは1994年12月にとある事件に巻き込まれているのです。その際に血液を採取されました。
とはいえどこまでがファイルとして残されているのかはイメージで書いてしまっていますが。
この事件についてはこの作品の中では完全には説明されません。
だいぶ先のことになるとは思いますが、いつの日かモララーの過去を絡めた話を書こうと思っております。気長にどうぞ。
>>49
については堂々としたミスですね。
誤:しぃが献花した後、三人はしぃに連れられた。
正:しぃが献花した後、二人はしぃに連れられた。
でお願いします。ご指摘ありがとうございました。
投下は今夜中に行います。
前にも言いましたが、全七話構成。毎日投下でいきます。
179
:
名も無きAAのようです
:2012/03/07(水) 20:33:16 ID:kJqNaWJYO
把握
起きてたら常時張り付いとくから頑張ってくれ
180
:
名も無きAAのようです
:2012/03/07(水) 22:13:07 ID:g0dceRdAO
そろそろかな
それが真実だった終わったあとはこの作品待ち
181
:
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:39:58 ID:V5c4ibMQ0
待機感謝です。
それでは本日の投下を始めます。
182
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:42:04 ID:V5c4ibMQ0
2010年8月14日(土)、午後2時頃――
旧G村は現在D市の内部にあり、山脈の中腹に位置する村落であった。
現在はG地区と呼ばれているその村落とD市街地との間にはロープウェイが繋がれており、そこを使う人は大勢いる。
もちろん道路も繋がってはいるが、いつも薄暗い山の森の中を通ることを好まない人も多く、交通量は多くない。
しかしショボンはそのどちらも使わず、山の裾で車を降りて川沿いを歩くことでG村へと向かっていた。
いや、正確には市街地とG村の間にある民家を訪ねようとしていたのだ。
山の中でひっそりと佇んでいるその建物、ほとんど自給自足の生活を営んでいる一家が暮らしていた。
そしてそこは、モララーの暮らしていた場所でもあった。
川沿いに大掛かりな装置を発見して、ショボンは立ち止まる。
川で泳いでいる魚を捕獲するために用いるものに違いない。
この時期に獲れる魚のことはよくわからないが、それでも一つ気付くことがある。
この近くに人間がいるということだ。
ショボンはその装置の傍で待っていた。
太陽の光が川面に反射されて映るキラキラとした輝き。岩にぶつかって上がる水しぶき。
川の音が聞こえてくる。歩いている途中には気にもしなかった音だが、耳を澄ましていると疲れが取れていくようだ。
自分が疲れていることを今更思い出していた。
昨日は一日調査をして、その晩には事故に巻き込まれたのだ。
そして一応入院だってした。たった半日の入院だが、間違ってはいない。
183
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:44:03 ID:V5c4ibMQ0
火事――そういえばあれは何だったのだろうか、ショボンはふと考える。
何故起きた事故なのかは聞いていなかった。むしろまだ特定するには早すぎる。
今頃は消防隊員がアパートの燃えた残骸を調べて、その出火元を考えているところだろう。
あの火事で失われたものと言えば、それはアパートだ。ツンとシュールの住む場所。
それもまた大きな損失だが、他にもある。
ツンさんが証言できなくなったということだ。
二階に住んでいるツンが重傷で、一階に住んでいるシュールは軽傷だった。
ここから導かれる一番簡単な推測は、出火元が二階だったというものである。
しかもなるべくツンさんに近いところで起きたのだろう。あの火災の直後に大雨が降りだしたため、火は予想以上に速く消えたから。
ひょっとしたらツンの部屋で起きたのかもしれない、そう考えてショボンに別の思考が展開する。
それは違和感ではなく、あえて言うなら奇妙な整合感である。
些かタイミングが良すぎるのではないか。
ツンが嘘をついているとわかり、もう一度問い詰めれば大丈夫だと思っていた矢先にあの事故である。
亡くなったわけではないが、証言を得ることが引き延ばされてしまった。自分もそう軽々と行動できるわけではないのに。
もしあの事故が事件だとしたら、それこそが犯人の狙いということになる。
しかしそこに至るためには一つ、重要事項が必要であることもショボンは同時に気付いていた。
考えることに疲れたので、ショボンは空を見上げた。
快晴はこの地域にも広まっている。吹き抜ける山からの風が心地よい。
184
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:46:04 ID:V5c4ibMQ0
( <●><●>)「誰でしょう? 」
突然声を掛けられたので、ショボンはその方向を見る。
ギョロっとした目が印象的な、ややがっしりとした体躯の男がじっとショボンを見つめていた。
その目がさらに驚きで見開かれる。
(;<●><●>)「あ、あなた……ひょっとしてショボン刑事ですか? 」
(´・ω・`)「その通りだが、君は? 」
ショボン刑事というのは懐かしい呼ばれ方だ。
自分が警部に上がってからはもっぱら『ショボン警部』と呼ばれるようになっていた。
よってこの男は昔のショボンの知り合いということになるのだが、ショボンには咄嗟にわからなかった。
だが、その黒々とした瞳を見ているうちに記憶が蘇ってくる。
(;´・ω・`)「分手マス君か。モララーと一緒にいたあの」
かなり昔の記憶だった。
まだショボンは20代であり、世間はまだ20世紀だった。
モララーに初めて出会ったとき、彼は分手マスと一緒に探偵事務所を開いていたのである。
( <●><●>)「今、モララーはいませんよ。
もう何年も帰ってきてません」
185
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:47:21 ID:V5c4ibMQ0
>>184
ちょっとミス
誤:まだショボンは20代であり、世間はまだ20世紀だった。
正:まだショボンは30代であり、世間はまだ20世紀だった。
186
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:48:07 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「わかっている。彼はまだF市で探偵事務所を開いているようだよ」
( <●><●>)「らしいですね。それしかやっていけないということはわかってますが、不安です。
未だに生活に必要なお金は全て私頼みなのですから」
それから分手マスは話を始めた。
彼はモララーと離れて自分で事業を興し、成功を収めたのだという。
当時はまだ情報化社会の開拓時代であり、チャンスはいくつも転がっていたのだ。
モララーとは随分長いこと連絡を取っていないらしい。
お金だけはきっちり払うように要求して、それ以外の話を振ろうとするとすぐに逃げてしまう。
それなのによくお金を与え続けていられるね、とショボンが質問すると、分手マスは苦笑いする。
( <●><●>)「これでも数年間同じ場所でくらしていたのです。
彼が十分につらい思いをしているのはわかってます」
ショボンも頷いて、それからはまた話を聞く側に徹した。
現在、分手マスは実家に帰省している最中であった。
数年ぶりの帰郷で、昔のことが懐かしく、こうして父親が仕掛けた装置を見て回っていたのだという。
ショボンは分手マスに実家へ案内してほしいと頼んだ。
どうしても言って、聞きたいことがあるから。
分手マスは承諾して、ショボンを連れて森の中へ入っていった。
187
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:50:01 ID:V5c4ibMQ0
いくらか歩くと、森の中で光が差し込む開けた場所が見えてくる。
かなり広い空間であり、外の世界とは森によって隔てられた別の世界であるように感じられた。
広場の中央には二階建てのログハウスがあり、そこがモララーの父親であるビロードの家であることはすぐにわかった。
( <●><●>)「では、私はこれで」
(´・ω・`)「どこかへいくのかい? 」
( <●><●>)「山の方でキノコを採る仕事が残っているのです」
分手マスはそういって、ショボンに背を向ける。
ショボンの記憶とはかなり変わっていたその背中を見つめて、ショボンは言う。
(´・ω・`)「随分とたくましくなったじゃないか」
足を止める分手マス。
言葉は確かに届いていたはずだ。
彼は振り返って、ショボンと向き合った。
( <●><●>)「その言葉、いつかモララーにも言ってやりたいです。
彼が未だに過去に捉われていることはわかってますから」
そう言い残して、彼は森の奥へと行ってしまった。
188
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:52:03 ID:V5c4ibMQ0
ショボンは踵を返して、ログハウスに向かった。
傍にいくつか畑があることに気付き、その自給自足の生活の一端が垣間見える。
分手マスがいなければ、ビロードは自分一人で川魚を捕え、キノコを採集していたのだろう。
そう考えて、数年間連絡を寄越さないモララーに苛立ちを感じた。
ドアをノックして、返事を待つ。
「はいっていいんです」
窪みに手を掛けて、開く。
鍵すら無い、簡素なドアだった。
( ><)「…………? 」
白髪の男がショボンを見て、頭の上にはてなを浮かべる。
( ><)「誰なんですか?
わからないんです」
ショボンは面識がなかったことを思い出し、ビロードに頭を下げる。
(´・ω・`)「申し遅れました。私は県警の警部であるショボンです。
お宅のモララーさんと分手マスさんとは何度かお会いしたことはあるのですが」
189
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:54:49 ID:V5c4ibMQ0
警察手帳を出す必要もなく、ビロードは信用してくれたようだ。
( ><)「ほえ、それじゃあ15年ほど前にあの二人が事件に巻き込まれたときですか? 」
ショボンが肯定すると、ビロードは小刻みに首を上下させる。
( ><)「わかったんです。
どうぞ、中に入ってほしいんです」
ビロードに勧められて、ショボンは足を踏み入れる。
リビングに連れていかれて、木製の横長の椅子に腰かけた。
落ち着いた雰囲気のする家だ。ほとんど全てのものが木でできていることも影響しているのかもしれない。
視覚から、質素で温かい感覚が伝わってくる。夏の暑さとは違う、精神的な温かさ。
開けられた窓から入ってくる風が、気持ちよく肌に当たる。
自分も老後はこんな家で暮らすのも悪くない、ショボンは心の隅でそんなことを考えていた。
自給自足、晴耕雨読――その言葉の意味は昔から知ってはいたが、今では真意まで伝わってくる。
何にも煩わされない生活は、ショボンにはとても魅力的なものだった。
晴耕雨読という言葉が思い浮かんだので、ショボンはどこかに本棚でもあるかなと思った。
ビロードがコーヒーを注いで持って来てから、そのことを質問する。
( ><)「本棚ですか。
二階の部屋はほとんどが本で埋まっていますよ」
二階に赴くと、予想以上に大量にあったので、ショボンは素直に感嘆を漏らした。
190
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:56:04 ID:V5c4ibMQ0
( ><)「妻も私も読書好きだったんです。
たくさん買って、二人で読んで……息子たちもたくさん読ませました」
息子たち――その言葉に意識が集中する。
(´・ω・`)「分手マスとモララーですか」
( ><)「そうなんです。
彼らは昔から本を読み、山で遊んで暮らしていました」
ショボンはあまりにもはっきり言うビロードを見つめた。
コーヒーを一口運んで、口を湿らせる。
(´・ω・`)「失礼なのはわかっているのですが、モララーさんは拾い子ですよね? 」
ビロードは静かに目を閉じる。
本人は何を思ったのかわからないが、ショボンにとっては嫌な沈黙だった。
あまり長くは続いてほしくない。自分の発言が気に障ったのなら申し訳ないからだ。
(;´・ω・`)「あの……やはり気に障ったでしょうか」
( ><)「え、あ、いえいえ」
ビロードは首を横に振る。
191
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 22:58:03 ID:V5c4ibMQ0
><)「少し思い出していただけなんです。
モララーのことを」
ビロードの視線がテーブルの上の、額に入った写真に向けられる。
ショボンもつられてそれに目を向けた
(*‘ω‘ *)( ><)
ビロードと、頬の赤い女性が手をつないでいる写真。
きっとどこか正式な写真屋で、記念として撮ってもらったものなのだろう。
二人はまだ若い。20代半ばと見受けられた。
( ><)「今からもう40年以上前の写真なんです。
映っているのは私と妻なんです」
ビロードの目が愛おしそうになるのがショボンにはわかった。
よほど愛していた女性なのだろう。二人が恋仲であることはなんとなく理解できた。
( ><)「妻はマスを産んで、すぐに亡くなったんです。
交通事故で、即死だったんです。
治療する術もありませんでした」
静かに、心に直接語りかけるように、ビロードは話し始めた。
ショボンは黙って、耳を傾ける。
192
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:00:01 ID:V5c4ibMQ0
( ><)「マスを残された私は、現実から逃げだしたくなりました。
それでこのログハウスを建てて、自分の手で生活を営むことにしたんです。
人と触れ合いたくなかったんです。今思えばものすごく情けないことなんです」
( ><)「義務教育は受けさせました。マスは中学校卒業まで親戚の家に預けたんです。
だけど高校に上がる前に、突然私のところにやってきて一緒に暮らしたいと言ってきました。
彼はまた別の理由で、高校生活から逃れたかったのです」
(´・ω・`)「別の理由……といいますと? 」
ショボンが口を挟むと、ビロードの顔に苦笑いが浮かぶ。
その笑い方は、先程マスが顔に浮かべた苦笑いとあまりにも似通っていた。
( ><)「頭が良すぎたんです。
親がこんなことを言うのは少し気が引けるのですが、彼には高校課程の授業は必要ありませんでした。
残りの大切な知識はこの家の本で全て習得したのです」
( ><)「彼は私の生活を全面的にサポートしてくれました。
畑の耕し方や、魚を捕まえる方法、野生の草花の情報まで教えてくれました。
生きるのに必要な知識を得て、それを用いて私を助けてくれた……それはいくら感謝してもしきれないことなんです」
( ><)「といっても、マスはあまり行動する人ではなかったんです。
彼に言われたことを私が実践する、そのようにしてここでの生活はなりたっていたんです」
193
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:02:02 ID:V5c4ibMQ0
ビロードの言葉を聞いて、ショボンは納得する。
ショボンの記憶にある分手マスはひょろっとした痩躯の青年だった。
だからこそ、がっしりとした体型になっていたのを見たときに、誰だかわかるまで時間が掛かったのだ。
(´・ω・`)「優秀なお子さんで」
( ><)「ええ、しかしその頃私は危惧もしていました。
たまに街へ工具などを買いに行くときに、彼は絶対外へ出ていかないんです。
これでは私がもし死んでしまったときに困るのではないか、そんな不安が常に私の胸の奥にありました」
( ><)「けど、彼は変わりました」
ビロードの顔つきが変わる。嬉しそうに目元が緩んだ。
そして視線がショボンの方に向けられたので、ショボンは彼が言わんとしていることを察した。
(´・ω・`)「モララー……ですか」
( ><)「そうなんです。
1987年の冬に、モララーが川を流れてくるのをワカッテマスと私が発見し、この家に連れてきました。
モララーは頭にひどい怪我がありましたが、応急処置をして麓の街の病院に連れていきました」
ビロードは思い出しているらしい。言葉を少しずつ紡ぎだしていく。
ショボンはいよいよ本腰を入れて話を聞きていた。
194
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:04:03 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「川の上流から流れて来たとなると……旧G村ではないですか?
あの村の端でも川は流れていますし、それより上流から流れて来たのなら村の誰かに見つかるはずです」
( ><)「私もそのことはわかっていました。
だからモララーの意識が戻ったら、元の家に帰す気ではいたんです。
病室で、彼の意識が回復するまでは保護者として見守っていよう。それから後は預けよう、本当の親の元へ」
(´・ω・`)「しかし戻らなかった……彼は記憶喪失だ。少なくとも私の会った頃の彼は」
ビロードも「その通り」というように首を動かす
( ><)「私は仕方なくモララーを引き取りました。
施設に預けることもできたのですが、私はそういったところに子どもを渡すことに抵抗を感じたんです。
それに、マスのことがありました。彼にはもっと人と触れ合ってほしいと、私は思ったんです」
( ><)「モララーは、元からそうなのかは知りませんが、とても行動的で、山が大好きな青年でした。
そしてマスに誘われて、本もたくさん読み、知識も得ていたようです。今思うと、彼の言動は機知に富んでいた。
何事にも考えを膨らませることができたように見受けられたんです。マスと一緒にいて、モララーにはそういう能力が身についたんです」
( ><)「マスもまた、近い年代の友達ができて嬉しかったようなんです。初めこそ避けてはいましたが、モララーが積極的だったんです。
コミュニケーションが苦手なマスの気持ちを理解して、いくつもの話を振り、討論もしていたんです。
マスは変わりました。モララーのおかげなんです。一番の親友ができた、いや、双子の兄弟が出来たようなものだったんです」
(´・ω・`)「あなたにとってモララ―は息子同然というわけですか」
195
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:06:02 ID:V5c4ibMQ0
ショボンの言葉に、ビロードは力強く頷いた。
( ><)「彼らは……私にはもったいないくらいに優秀な子どもだったんです。
そして二人とも、私のことを父親として扱ってくれた。こんな山奥にひっそり暮らしている世捨て人を」
誇らしそうな表情が、ビロードの目に浮かんだ。
優しい柔らかな顔だった。
ショボンはモララーの身の上を考えていた。
あの生意気な探偵の過去をこのような形で知るとは思いもよらなかった。
(´・ω・`)「水を差すようで悪いのですが、しかし気になるので質問させてください。
モララーの両親はどうして彼を探さないのでしょう?
何年もほったらかしにしておくなんて、いったいどういう親だったのでしょうか」
すると、ビロードは今度は力なくその言葉を否定する。
表情は途端に翳りが見えた。
( ><)「会いました」
すぐには意味がわからなかった。
ショボンは思わずその意味を聞きなおした。
( ><)「会ったんです。モララーの両親に。
彼の所持品から、名前だけはわかっていたのですからね。G村に目星をつけて、すぐ見つかりました。
彼を拾ってから10日後のことです」
196
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:07:58 ID:V5c4ibMQ0
( ><)「さて、会ったのに何故私が育てていたのか。
どうして未だにモララーに連絡を取ろうとしないのか。
わかるでしょう? 」
ビロードの問いかけに答えることを躊躇うショボン。
答えはたった一つしか考えられなかった。
(;´・ω・`)「モララーを、捨てたのですか」
質問されたのでなければ、とてもじゃないけど聞けなかっただろう。
いくら他人のことを詮索する職業に就いていると自嘲しても、他人の傷を抉るような言葉は掛けたくないものである。
ビロードは肯定する。
( ><)「聞こえよく言えば、私に養子をくれたということになるんです。
モララーは私の養子なんです。だから息子なんです。
彼は私の息子であり、分手マスの兄弟なんです」
段々と、ビロードの語気が強くなっていった。
本人がそれに気付いているのかはわからない。おそらく癖なのだろう。
( ><)「驚いたことにモララーの年齢がマスと同じであり、1970年生まれだったんです。
彼らはやはり双子と呼んでも差し支えなかったのかもしれません」
ビロードはそう言って、コーヒーを飲みほした。
かなり長いこと喋っていたために喉が渇いたのだろう。
197
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:09:58 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「モララーの出身はG村であることは間違いないんですね」
ショボンは自分から話を始めた。
( ><)「そうなんです
彼の両親もG村の出身、現在のG地区です。
もっとも両親ともに既に離婚して他県にいます。モララーを養子に出したのも離婚しやすくするためだったんです」
ショボンは小さく唸り、思考していた。
頭に浮かんでいたのは内藤ホライゾンのことである。
金属バッドと、それに付着していたモララーの血痕。
それがニダー殺害現場にあった。
ショボンは、ニダーがそれを見せたから内藤は殺人を犯したのではないかと思っていた。
(´・ω・`)「モララーをG地区へ連れていきます」
否定の言葉はなかった。
ビロードは口を開かず、ショボンを見つめていた。
( ><)「何をするつもりなんです? 」
ようやく開いて出てきた問いかけ。
ショボンは間をおいてから、答えを出す。
(´・ω・`)「彼の記憶を蘇らせます。きっと上手くいく気がするので」
198
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:11:58 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「この事件にはモララーの記憶が必要であるように私には思われるのです。どうしても、昔の記憶が。
彼の少年時代に起きた出来事が大きく絡んでいる、そんな気がしてならないのです」
ショボンはコーヒーを一気に飲み込んで、口の動きを滑らかにした。
(´・ω・`)「言うのが遅れましたが、私は先日亡くなった内藤ホライゾンという男について調査しているのです」
ビロードは訝しげに眉を寄せる。
( ><)「それは……確か数年前に小里安一家を殺害した人の名前だったはずなんです
その人が亡くなって……それでどうしてモララーが関わっているんですか? 」
(´・ω・`)「モララーはもっと小さいときから内藤ホライゾンと関わっている、そんな気がするんです。
実は内藤ホライゾンの故郷もまた、G村なのです。
このことを知らせ、G村へ行けば、モララーは忘れてしまった過去について何か思い出すかもしれない」
ビロードの動きが止まる。彼もまた思考を巡らせているようだ。
( ><)「つらいことを思い出してしまうかもしれないんです。
でも、モララーは過去を知らないことで、今まで散々つらい思いをしてきた。
だからこれは、いいことだと思うんです」
途切れ途切れに、ビロードはショボンの意見を受けた。
ショボンはビロードに深々と頭を下げる。
ログハウスを後にして、ショボンは一度麓の街まで下りた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
199
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:14:00 ID:V5c4ibMQ0
2010年8月14日(土)、午後3時、某県のとある駅のホーム――
突然携帯電話に着信があったとき、モララーはドキリとした。
だいたい電話があるときはどこの誰が掛けて来たのかわかる。
しかしこの電話は唐突だった。故に不安だった。
恐る恐る携帯を開く。知らない番号だ。
とにかく出てみた。
( ・∀・)「もしもし? 」
どうも電波が悪いらしく、相手の言葉は上手く聞こえない。
モララーも受信しやすいところを探すために歩きまわった。
もともと遅い昼食というか、間食をとるために寄った駅である。
急いでいるわけではないから余裕があった。
( ・∀・)「もしもし? もしもーーし」
思えば間違い電話かもしれないのだから、切っても差し支えなかったはずだ。
でもその発想が無かった。
(´・ω・`)「私だとさっきから言っているんだが」
ようやく言葉をキャッチしたとき、モララーは発想の枯渇を心底後悔した。
200
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:16:00 ID:V5c4ibMQ0
(;・∀・)「そ、その人生諦めきったムード漂う声の主はショボンか? 」
(´・ω・`)「ようやく返してきた返事がそれか。昔から相変わらず失礼な奴だ」
(;・∀・)「お前も相変わらずな暗さだな。つーかどうして俺の携帯の番号知ってんだよ」
(´・ω・`)「ビロードから聞いた。いろいろと話があったからな」
( ・∀・)「は? なんでうちの実家行ったの? 」
(´・ω・`)「その日本語はおかしい」
( ・∀・)「うるせえな、質問に答えろ」
(´・ω・`)「おかしいものはおかしいんだ。
うちというのは家のことだ。そして実家というのも家のことだ。
故にお前は今『家の家行ったの』と聞いたことになる。これは間違っている。馬から落ちて落馬したとか、溺れて死んで溺死したとかそのくらい」
(#・∀・)「だー、もうしつこいな。正しさなんて気にするなよ。
お前はそんな生き方して楽しいのか? 40代のおっさんの言語能力を虐げて楽しいのか」
(´・ω・`)「むしろ40代なのになぜお前はそんなに活き活きしているんだ。妬ましい。もっと絶望しろ」
201
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:18:00 ID:V5c4ibMQ0
(#・∀・)「絶望なんかしねえよ。絶対お前みたいになるものか」
(´・ω・`)「そのセリフは15年前にも聞いた。よかったな、全然私に似ることがなくて」
( ・∀・)「全くだ。
話戻すぞ。どうして俺の家に来たんだ」
(´・ω・`)「お前の故郷について質問してた」
( ・∀・)「ああ、G村のことか」
(´・ω・`)「…………」
(;´・ω・`)「え!!? どうして知ってるの? 」
( ・∀・)「あほか。そのくらい予想つくわ。
もう随分大人びてから川流れてたんでな」
(´・ω・`)「つまんねーやつ。
感動を返せ」
( ・∀・)「どんな話したんだよ、あのじじい」
(´・ω・`)「これが現実、か……」
202
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:20:00 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「ぼやぼや呟いてるなよ。
話終わってないぞ。なんで俺の実家で俺の故郷の話なんか聞くんだ」
(´・ω・`)「ふむ、その前に話しておかなければならないことがあるな。
内藤ホライゾンという男を知ってるか? 」
( ・∀・)「…………知ってる」
(´・ω・`)「それは良かった。実は私はそいつの調査を」
(;・∀・)「お、おいちょっと待て待て」
( ・∀・)「まさか『内藤ホライゾンの死に疑問を感じて調査している』だなんていうんじゃないだろうな」
(´・ω・`)「……その通りなわけだが」
( ・∀・)「はあ? 」
(;´・ω・`)「なんだいきなり。人の話の腰を折ってまで聞いて何不満そうな声出してるんだ」
( ・∀・)「何なの? 故人の調査するのが流行りなの、今? 」
(´・ω・`)「落ち着きを取り戻してくれ。私の調査は興味本位なものだ。
決して流行りではない」
203
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:22:00 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「ああ、そう。悪いな。
何せ俺もそう言われて調査していたところなんだ」
(´・ω・`)「なんと! それじゃあ私と同じじゃないか」
( ・∀・)「嫌な巡り合わせだな」
(´・ω・`)「さて、『言われて』ということは調査依頼でもあったのか? 」
( ・∀・)「ああ、冴えない面した大学生から相談を受けたんだよ。ドクオっていう青年だった」
(´・ω・`)「ドk――え? 」
(;´・ω・`)「えぇええぇえええぇぇえええ!!! 」
(;・∀・)「おっさんがバカでかい声出そうとするんじゃねえよ、うるせえな。
んで、そっちはなんで調査したんだ」
(;´・ω・`)「あ、ああそうだな。悪かった。年甲斐も無く。
私は内藤ホライゾンの事件のときの笑顔と、死んだときの安らかな表情が気にかかっていた。
それと、ある青年の助言で殺人の動機にも興味が湧いたんだ。その青年はジョルジュといってな」
( ・∀・)「ジョr――え? 」
(;・∀・)「なあぁにぃいいいいいいい!!? 」
(´・ω・`)「うるさいな、年甲斐を考えろバカ野郎」
204
:
名も無きAAのようです
:2012/03/07(水) 23:22:44 ID:g0dceRdAO
ちょっと支援しとく
205
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:24:00 ID:V5c4ibMQ0
それから二人はお互いに知っていることを話し合い、情報を交換した。
モララーは周りから怪しげな視線を受けながらも、それを無視して話に没頭していた。
午後5時、D市の山の麓――
指定された駐車場で、モララーはショボンを探していた。
ようやく見つけたとき、ショボンは不機嫌そうな顔つきだった。
(´・ω・`)「話したことは本当なんだろうな? 」
( ・∀・)「そっちこそ」
モララーは車に乗り込んだ
( ・∀・)「G村か……」
モララーは誰に向けたわけでもなくそう呟いた。
(´・ω・`)「そういえばお前、G村に行ったことはないのか? 」
( ・∀・)「行って何になるんだ。
気付いた時にはもう20過ぎてたんだ。誰も待ってねえよ」
(´・ω・`)「それもそうだが、少しぐらい気になるものじゃないのか」
206
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:26:02 ID:V5c4ibMQ0
モララーは言葉を発しなかった。
ショボンも黙っていた。
傾きつつある夕日を浴びて、男二人が乗った車は未だ動く気配を見せなかった。
( ・∀・)「怖かったんだ。ずっとな」
長い沈黙の後、とうとうモララーが口を開いた。
(´・ω・`)「G村が、か? 」
( ・∀・)「そうだ」
モララーは本心から言っていた。
昔から、川の上流に行くことを極端に恐れていた。
自分が見てはいけないなにかがある、ずっとそんな気持ちがしていた。
( ・∀・)「でもな、今は大丈夫だ」
(´・ω・`)「ほう、それはまたどうしてだ? 」
その言葉を聞いて、モララーはあっけらかんとした声を出して笑う。
( ・∀・)「この歳になって、怖いとかそんなこと言ってられねえよ
行こうぜ、G村。そして記憶を取り戻そうじゃないか」
207
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:28:04 ID:V5c4ibMQ0
本当は怖かった。
今でも相変わらず、モララーはG村、現在のG地区へ行くことを拒みたかった。
あの村落は訪れたくない。自分はあの村を恐れているし、あの村は自分を拒んでいる。ずっとそんな気がしていた。
でも、もうショボンから話は聞いた。バッドのこと、自分とブーンとの繋がりの可能性。
ショボンが提示したその話を電話越しに耳にしたときは、正直疑いの気持ちしか抱けなかった。
だけど、希望はあった。記憶が戻ればわかるかもしれない。
自分が襲われた理由。もちろん不明の部分は多分にあるのだが。
それから二人は、ドクオとジョルジュの話も交換し合った。
あの二人の青年について、二人ともブーンと重要な関わりを持つ人物であるのだ。
ブーンと共に暮らしながら、失踪されたジョルジュ。
そしてブーンと親しく接していたドクオ。
ブーンの息子のことも考えた。
二人のうちのどちらかが、この名前を冠していたに違いない、モララーとショボンはそう結論付けていた。
山を登っている最中に、モララーの携帯電話が鳴る。
またも予想してない連絡。モララーの不安は募った。
ショボンと目線を交わして、それから電話に出る。
掛けて来たのは、ドクオだった。
208
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:30:05 ID:V5c4ibMQ0
('A`)「モララーさん、ですか」
弱々しい声が聞こえてくる。
ドクオの声に違いなかった。
( ・∀・)「おお、ドクオか
どうしたんだ、何かあったのか」
('A`)「実はお話したいことがありまして、G地区に来てほしいのです」
( ・∀・)「へえ、わかった。じゃあ今から行くよ」
('A`)「ありがとうございます。
お願いします」
それだけだった。たったこれだけの会話で、電話は切れてしまった。
あまりにも簡潔で、あまりにもひどい――モララーは思わず大声で笑ってしまった。
(´・ω・`)「どうした、急に笑い出して
本当に感情豊かな中年だなお前は」
ハンドルを捌きながら、ショボンが非難する。
モララーは腹を抱えながら、運転席のシートに手を掛けた。
209
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:32:03 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「だってさ、何も前触れなしに『G地区に来てくれ』って言うんだぜ?
D市に少しでも行ったことがなきゃわからないのに、地区名なんてよお。
しかも俺のことについては何も質問しないんだ。今どこにいるのか、とかそんなことすらなし。
これじゃ何時頃に到着するのかすらわからねえよ」
大口開けて笑いを溢れさせているモララーの腰の上で、再び携帯電話が鳴る。
( ・∀・)「もしもし? 」
(;'A`)「あ、あのすいません。モララーさん。
いったいどれくらいしたら到着しますか」
モララーの顔から笑いは消えた。
( ・∀・)「……2時間くらいだ」
咄嗟にその制限をだす。
現在時刻は5時30分を周ろうとしていた
('A`)「あ、じゃあそのくらいになったらまた電話します」
そういって、ドクオは通信を切った。
モララーはその携帯電話をじっと見つめていた。
210
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:34:00 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「誰かいるな」
(´・ω・`)「ドクオ君と一緒にってことかい? 」
( ・∀・)「ああ」
(´・ω・`)「何だか信頼が無いんだな」
( ・∀・)「信頼しているからこそだよ
間違いない。あいつは誰かに言わされている」
断言するモララー。
カーブに注意しながら、ショボンは口を開いた。
(´・ω・`)「じゃあ、考えがまとまっただろ」
( ・∀・)「もちろんだ。
ブーンの息子、そうだろうな」
モララーにはもう、ドクオを疑う気持ちは微塵も残っていなかった。
( ・∀・)「ジョルジュだ。奴がブーンの息子だ」
211
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:36:05 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「……一旦考えを整理しようか」
運転しつつ、ショボンが切り出した。
(´・ω・`)「もし彼がブーン、内藤の息子だとする。
ならば、私のところにきたのは最初から計画のうちだったということか?」
( ・∀・)「多分な。お前のことだ、事件の話でもしたことはあるんじゃないか?」
(´・ω・`)「ああ、したよ。警察内部のことまで喋るわけにはいかないから、事件の概要をだけどね。
当然、お前が関わる事件の話もした。これが、あいつの狙いだったんだな」
( ・∀・)「そう、ジョルジュの狙いは俺。
さっき教えたように、俺はしぃの屋敷で命を狙われている。
狙った者は『ブーンの息子』が首謀者だといったから、まずジョルジュが仕組んだものとみていいだろう」
(´・ω・`)「だが、それなら私の方で起きた火災はなんなんだ?
私はあのときジョルジュと一緒に行動していたし、それに火災は私たちがアパートから離れた直後に発生した。
なかなか危険じゃないか。最初からジョルジュが仕組んだものだとしても、気になるな」
(´・ω・`)「それから、昨日お前を殺すつもりだったということは
ジョルジュは元々お前に会わなくてもいいと考えていたということだ。
それなのにどうして今日は呼びだした? 突然何かいいたいことでもできたというのか?」
( ・∀・)「……なんだろうな」
モララーは実際その場で考えた。二つの謎について。
ショボンの方で起きた火災。そして、自分が呼び出される理由。
212
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:38:03 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「まず火災について、もしかしたらだがな」
モララーは自説を展開する。
( ・∀・)「火災の規模はそこまで大きくなかったと聞いている。死者はいなかったみたいだしな。
とはいえ、偶然起きた事故として処理するのはちょっと怪しい。
まるでお前とジョルジュが去るのを見計らってから発生したような気がするからな」
( ・∀・)「そこで、だ。誰かがお前らを見張っていた。
そしてアパートから出て来たあとに、出火した。これでどうだ。
出火原因なんかはそろそろ検出されているんじゃないか? あとで問い合わせてみてくれよ」
(´・ω・`)「私たちを殺すつもりではなかった、と?」
( ・∀・)「そうなる。アパートの住人とか、そのあたりに狙いの人物がいたんじゃないか?」
(´・ω・`)「そういえば……
あの火災、一階の住人は軽傷、二階の住人は重傷の割合が高かったぞ」
( ・∀・)「じゃあ、二階の誰かが狙われてたんじゃねえか? どうよ」
(´・ω・`)「ツンだ」
モララーはバックミラー越しに、ショボンの閃いた顔を見た。
(´・ω・`)「鬱田ツン。鬱田ドクオの母親は二階に住んでいた。
私も朝考えていたんだけどね、ブーンに関わりのある彼女が狙われていた可能性はあるんじゃないか?」
213
:
名も無きAAのようです
:2012/03/07(水) 23:39:36 ID:kJqNaWJYO
推理(これは人間模様か?)の短期間投下は嬉しい
内容を忘れないで続きを待てる
支援
214
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:40:05 ID:V5c4ibMQ0
(;・∀・)「で、でもよお」
モララーは頭を掻く。
(;・∀・)「じゃあなにか、ドクオは自分の母親を殺そうとした奴と協力しているのか?
いくらあいつがしゃきっとしてない奴だからって、そこまで薄情とは思えないが」
二人の唸り声が車内に広がる。
この疑問点は、不可解だった。果たしてドクオは何を考えてジョルジュと協力しているのか。
ややあって、ショボンは口を開く。
(´・ω・`)「ジョルジュにとっても予想外だとしたら?」
( ・∀・)「ん、さっきの俺の仮説を前提として
お前らを見張っていた誰かが勝手にやったということか?」
(´・ω・`)「あるいは……見張っていることすらジョルジュが知らなかった」
ショボンの一言が、モララーの考えに刺激を与えた。
( ・∀・)「……ジョルジュの裏にも誰かがいる?
ジョルジュ以外にも動いていた人間がいる?
そう仮定すれば、なるほど」
( ・∀・)「その動いている人物と昨日か今日出会って、ジョルジュが俺と会うことに決めたとも考えられるな」
モララーの放った言葉で、車内は沈黙する。
お互いに自分に考えを整理しているのだろう。
215
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:42:04 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「なあ、お前。この考えを提示したのには、それなりの理由があるんじゃないか?」
ふとモララーは思いついて、発言する。
ここまで続いてくると、この話を裏づける何かがほしいと考えたのだ。
(´・ω・`)「前々からちょっと気になっていたことがあるんだ。
ジョルジュの資金源はどこからきているのか」
なるほど、とモララーは頷いた。
確かに、自分を襲った警備員も、アパートでの火災も、普通の人間が行える代物じゃない。
資金源がある、裏で大きな力を持った人物が動いている、そう考えると自然なのではないか。
そして同時に、モララーの脳内にはその人物像が思い浮かんでいた。
( ・∀・)「なあ、ショボンさんよ」
(´・ω・`)「なんだいきなり改まって『さん』づけなど。不吉だな」
( ・∀・)「俺をG村に送ってから、動ける?」
(;´・ω・`)「……ほれみろ」
( ・∀・)「頼む! 電話番号だけでも教えるから!」
(;´・ω・`)「いや、明日は普通に出勤なんだけど……動きたくないんだけど」
216
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:44:06 ID:V5c4ibMQ0
( ・∀・)「……ま、どうせジョルジュからきくことになるだろうし、落ち着こうか」
ショボンがほっとしているのがよくわかった。
( ・∀・)「ただちょっと、俺の方にも警戒が必要なことを留保していてくれよ」
(´・ω・`)「裏にいる人物が危ないからか?」
( ・∀・)「そだなー。なんかきな臭いからなー。
ジョルジュがどうしても俺を殺すっていうのなら、その裏の人物と協力して
必ず俺をしとめる方法でも編み出してそうだしな。
単純に物量で襲ってくるかもしれない。そうなったら逃げきれるかどうかわからん」
(´・ω・`)「お前それ、私が警察官だからって、言ってきてるんじゃないだろうな。
機動隊とか用意してくれよー、的な」
( ・∀・)「え、無理なの?」
(´・ω・`)「できるか、ボケ」
(;・∀・)「……俺やばくね? おい誰だよ裏になんかいるとか言い出した奴」
(´・ω・`)「私だが、会うと言っちゃったのはお前だしな。
呼び出されたのに素直に従っちゃうんだもんなー、かっこつけて」
(;・∀・)「なあ、ちょっと、俺に策があるんだよ。耳貸してくれよ」
車は徐々に徐々に、G地区へと接近していった。
217
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:46:04 ID:V5c4ibMQ0
G地区――
モララーとショボンは河原に立っていた。
車は堤防の上に停めてある。都会なら車上荒らしの危険があるが、この山間の村なら多少注意を怠っても大丈夫だろう。
ショボンの考えが甘すぎるのではないかとモララーは思ったが、本人が大丈夫と言っているので気にしないことにした。
(´・ω・`)「気分はどうだ?」
(;・∀・)「よくねぇ、よ……」
モララーの気分は悪くなっていた。
村の中に入ったときから、言いようのない吐き気を感じ、手や額から冷や汗が流れ始めていた。
静かな音を立てて流れる川を眺めながら、何度もハンカチで汗を拭い、意識を保とうとする。
約束よりだいぶ早い時間から、彼らはここで歩いていた。
もし記憶が戻らなかったらしかたないからブーンの息子とやらから聞く、そのつもりだった。
およそ20年前、モララーはこの川を流れて、下流の森で隠遁生活を送っていたビロードに拾われ、一命を取り留めた。
モララーの記憶は病院で意識を回復させたときから始まっており、それ以前のものは深い闇の中に沈んでいる。
だけど、その闇の底からいくつもの泡が出てきていた。
(;・∀・)「なんなんだろうなぁ、この気持ち。
この川、なんか縁起でもない気持ちにさせるんだよなあ」
この川を知っている――モララーはそう確信した。
脳内にイメージが浮かぶ。
それは、実際に体験したことのある景色なのだろう。
昔から、そんな気分はしていた。
こうして至近距離で川沿いで眺めているとそれがよくわかる。
218
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:48:00 ID:V5c4ibMQ0
頭の中のイメージが固まっていく。
思い出せる。
自分が流れていたことを思い出せる。
夜だ。都会では決して見ることができないほどの幾つもの星が天上を覆っている。
深い深い夜に自分はこの川を流れていた。
鉄の味を口の中で感じながら。
記憶が闇の底から現れようとしている。
20年間眠っていた忌々しい過去が、失われていた欠片が手に入ろうとしている。
目眩がして、モララーはよろける。
ショボンが慌ててその体を手でつかみ、支えた。
(;´・ω・`)「お、おいモララー」
危惧の言葉が聞こえた気がした。
恐らくショボンが掛けたものだとはわかったが、モララーは反応することができなかった。
意識は現実から離れていった。
219
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:50:03 ID:V5c4ibMQ0
気持ちが悪かった。
自分に何年も無かったものが、自分を苛み続けていたものが手に入るというのに。
長い間、心のどこかではその復活を願っていたというのに、今はどうすることもできない恐れを感じていた。
世界が暗転する。
夏と、冬が、頭の中で何度も訪れる。
自分はまだ幼い。
モララーも、ツンも、ブーンも幼い。
何故その名前を知っているのか、だんだんとわかってくる。
懐かしいものだ。たとえ失われていたものであったとしても、昔の記憶はかくも甘美で、感慨深い。
彼らは幼馴染だった。
そしてとうとう、その日の記憶が蘇る。
全てがわかる。
濁流のように、時系列を無視した混沌が脳の中に流れ込み、整理が追いつかない。
様々な感情が交錯し、何が正しくて何が嘘なのかもわからない。何故自分は怖がっているのかも。
( ・∀・)ξ゚⊿゚)ξ( ^ω^)从'ー'从 <ヽ`∀´>
人々の顔が頭の中で浮かび、その意味が後からついてくる。
220
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:52:02 ID:V5c4ibMQ0
(;・∀・)「わかった」
気息奄奄の状態で、ようやく絞り出したか細い声でモララーは呟いた。
自分が膝立ちになっていることに気付く。気がつかないうちに体が動いたのか、ショボンがそうさせたのか。
(´・ω・`)「大丈夫なのか? ひどい汗だ。
それにかなり疲労しているみたいだが」
ショボンがモララーの顔を覗き込んだ。
(;・∀・)「記憶ってのは、疲れるものみたいだ。
とりあえず、ショボン。俺らの予想と結構近かったぜ」
体を支えるショボンの腕を軽く払いのけて、川を見つめる。
遠い昔、自分はあの川を流れていた。
目を離すことができなかった。
自分の憶えていることが、取り戻した記憶があまりにも衝撃的なものであったから。
(;・∀・)「俺はブーンに殺された」
ようやくモララーは自分の思い出したことをはっきりと認識できた。
221
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:54:04 ID:V5c4ibMQ0
電話が鳴る。ドクオからだ。
気がつけばもう約束の時間だった。
モララーの身を案じてショボンが携帯電話を取ろうとするが、モララーはそれを制する。
( ・∀・)「さすがにそこまでバカじゃねえよ」
携帯のボタンを押して、通話を開始する。
('A`)「モララーさんですか? 」
肯定するモララー。
('A`)「もうG地区にいますね?
今すぐ、廃校になったG高校の校庭の、ケヤキの木の下に来てください」
了解し、モララーは携帯電話をポケットにしまう。
( ・∀・)「お呼び出しだ。
G高校の校庭だってよ」
ショボンの方は向かずに、そう伝えた。
( ・∀・)「……いくのは俺一人でいい」
222
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:56:02 ID:V5c4ibMQ0
(´・ω・`)「もう行くのかい?
まだわかっていなかっただろ。君が狙われている理由」
モララーは肩を竦めて苦笑いしながら、ショボンの方を振り向く。
( ・∀・)「さあな、でもこんな面倒なことをするくらいだ
何か面白い理由でもあるのかもしれねえな」
ショボンはがっかりしたように溜息をついた。
(´・ω・`)「記憶を取り戻しても、その理由はわからなかったんだね」
( ・∀・)「そういうこと」
軽々と返答するモララー。ショボンはその飄々とした姿をじっと見つめた。
(´・ω・`)「もし犯人がその理由を話してくれたなら、教えてくれよ。
私も気になっているんだ。だから」
( ・∀・)「わかってる。だから死なないし、死なせない」
言葉を中断させられたショボンは「やれやれ」とぼやいて堤防の上に向かった。
自分の車に乗って、待っているということなのだろう。モララーはその後ろ姿を見て思った。
223
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/07(水) 23:58:02 ID:V5c4ibMQ0
G高校が自分の母校であったことも思い出していた。
そのことも少しは感慨があった。ついさっきまですっかり忘れていたというのに。
( ・∀・)「行くか」
記憶を頼りに、モララーは河原を歩いていく。
そこはG高校までの近道でもあったから。
歩きながらモララーは自分の過去をもう一度思い返してみた。
取り戻す前にあれほど怖がっていたものだ。思っていた通り、気持ちのいいものではない。
それでもここに犯人の鍵はあるはずだ。
せめて予習でもしておくことが礼儀だろうとモララーは思っていた。
G高校に到着したのは、夜の7時45分だった
〜〜第六話へ続く〜〜
224
:
第五話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 00:00:40 ID:gvME6E7E0
本日の投下は終了です。
>>213
どちらかといえば人間関係の方に重点が置かれていますね。
書きたいのがそっちというのもあります。
支援ありがとうございました。
質問や誤字脱字の指摘などがありましたらどうぞ。
225
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 00:08:49 ID:OGhVRyUAO
モララー、キーパーソンだったのね
三人がどんな人間関係だったか気になる
また明日待ってます
それではいまからゴアにいきます
226
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 00:20:49 ID:vzcbSGkIO
乙
とりあえず明日が暇だからゆっくり読んどくわ
227
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 16:48:14 ID:vzcbSGkIO
そうか、ショボンとモララーが組んでるから視点切り替えはないのか
あと、「うち」って「自分の家」って意味以外に
一人称として用いる事があるよってだけ
関西人として気になっただけだから無視してていいけど
228
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 21:42:36 ID:OGhVRyUAO
今日も来るのかな
229
:
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:11:17 ID:gvME6E7E0
>>227
モララー視点に移行しました。指摘どうもありがとうございます。
多少遅くなりましたが、投下を始めますね。
230
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:13:02 ID:gvME6E7E0
G高校――
ケヤキの木は、この高校のシンボルだった。
モララーは今となって思い出せる。この廃校に自分は通っていた。
高校2年生のときまで。
夏の夜、風は少しだけ熱気を帯びている。
とはいえ都会のそれと比べたら、幾分か冷ややかだ。
心地よい冷気が辺りに微かに感じられる。
ケヤキの前に、青年はいた。
モララーは校庭の端からその人影を見つけていた。
月が煌々と照らしているので、確認するのは容易い。
('A`)「……」
青白い顔は元々だったが、月の光のせいでいつもより一層際立っている。
とはいえ、まだ今日で会うのは三回目なんだけどね――モララーはそんなことを思った。
そのたった数日間で、モララーはドクオの人物像をある程度特定していた。
人づきあいが苦手で、ちょっと配慮が足らなくて、どことなく自信が無くて
そして、ブーンのことが気になって仕方がない、そんな人物だ。
ブーンの息子と何らかの関わりがあったのだろう。
だから、ブーンの息子と協力して何かを行っている。
そうまでして、何を成し遂げたいというのか、それをこれから聞くのである。
231
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:15:06 ID:gvME6E7E0
('A`)「遅かったですね」
( ・∀・)「細けえよ。
30分以内はギリセーフだ」
モララーは徐々に歩んで、ドクオに接近する。
ドクオは引かなかった。
なおも顔は暗いが、足は動かず、じっとモララーを見据えている。
( ・∀・)「話ってのは、なんだ?」
わかりきっていはいたものの、モララーは一応きいた。
このほうがドクオも喋りやすいのだ。
('A`)「ブーンさんのことについて、です」
( ・∀・)「なんか、最初に会った時みたいだな」
その言葉で、ドクオの頬がやや緩むのをモララーは見た。
だがすぐにドクオの顔は無表情に近い暗いものに戻ってしまう。
('A`)「モララーさん、ブーンさんのことを知っていたんですね」
( ・∀・)「ああ、知っていたというか、さっき思い出したんだ。
今はきっと、いろいろと答えられることが増えていると思うぜ」
「へー、じゃあ教えてもらおうか」
突然聞こえて来た声に、モララーは首をかしげ、ドクオはびくっと反応する。
ケヤキの裏から、人影がもう一人分。
_
( ゚∀゚)「ブーンはどうして、自殺しなければならなかったのか」
232
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:17:03 ID:gvME6E7E0
( ・∀・)「おでましかい、ブーンの息子さん」
_
( ゚∀゚)「よくご存じで」
( ・∀・)「は、殺そうとしてて何言ってんだか」
_
( ゚∀゚)「知らない人に殺されるってこともありうるんじゃないですかねえ?
こんな世の中だしね。大切な人は死んで、どうでもいい人は生きていく」
( ・∀・)「ずいぶんふわふわしたことを言うね、君」
_
( ゚∀゚)「そっちこそ飄々として、いけすかないな。
さっさと話してもらおうか」
( ・∀・)「ブーンの過去、か。いいだろう」
モララーはひとつ咳をして、喉を整える。
さっき思い出したばかりの過去を口で説明するというのも、ちょっとばかり不思議な話だ。
その体験は自分のものだけど、長年連れ添ったわけじゃない。
それでも大事な、記憶。モララーはなるべく正確に伝えるつもりだった。
( ・∀・)「もうずっと昔の話さ」
233
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 23:17:52 ID:vzcbSGkIO
きたか
支援
234
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:19:05 ID:gvME6E7E0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1970年 G村――
モララーは産まれた。
内藤ホライゾン、鬱田ツンは近所に住んでおり
親同士の付き合いから、三人は仲の良い友達としての付き合いへと発展していった。
内藤の『ブーン』というあだ名は、彼の口癖から来たものだった。
乗り物、特に飛行機が好きだった内藤は、事あるごとに手を広げてその真似をしたのだ。
ツンとモララーは面白がって彼に『ブーン』という愛称を与えた。
ブーンは野球も好きで、モララーとツンも一緒によくテレビや球場で観戦していた。
ブーン自身も草野球チームに参加し、格別うまいわけではなかったが、目いっぱい練習をしていた。
その姿を応援するのも、モララーとツンの日常の一つだった。
小学校、中学校と進学していく最中も、三人は交友関係を続けていた。
徐々に性別の違いを認識してきてはいたものの、昔からの付き合いであるので、さして気にすることもなかった。
三人の関係は性別関係ないものだったのである。
いつでも笑っているブーン。
いつでもどこか飄々としているモララー。
そのどちらに対してもいさめる言葉を掛けることが出来たツン。
この三人の組み合わせは、ぴったりだったのだろう。
235
:
名も無きAAのようです
:2012/03/08(木) 23:19:56 ID:OGhVRyUAO
過去話始まった
④
236
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:21:05 ID:gvME6E7E0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「でも、高校生になったころからかな。
ちょっとばかし状況が変わっちまった」
( ・∀・)「俺の家がゴタゴタしだしてな。細かく説明するのは辛いとこだが。
俺の親父がずっと昔に借りを作っちまった奴がいてな。
そいつがよく俺の家に押しかけて来るようになったんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それがニダーだった。
ニダーはモララーの弱みを握っていた。
そのことをネタに、モララーの家の財産を絞り取ろうとしていたのだ。
モララーの父親は率直に言って優しすぎた。
借りをつくったのは事実であり
ニダーのことを完全に嫌がることができなかったのである。
237
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:23:02 ID:gvME6E7E0
モララーの母親はいらだちを増していった。
何度も何度も、モララーの父親に取り入り、ニダーを突き離すように懇願した。
だけども、モララーの父親はできなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「詳しいことは俺も知らねえんだけどな。
まだ俺は子どもだったし、そういうことはあんまりききたくなかった。
どのみち俺はすぐ会えなくなっちまったし、いいんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モララーはだんだんと家の暗い雰囲気を感じて、学校でもあまり明るくふるまえなくなっていった。
ブーンやツンもそのことに気付いて、モララーの話をきこうとした。
だけど、二人まで暗くなってほしくないと思い、モララーはその話をしなかった。
毎日、なんとか理由をつくってごまかしていたのであった。
238
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:25:04 ID:gvME6E7E0
1987年――
モララーたちは高校二年生となった。
この頃になると、ブーンは野球部の活動が忙しくて、あまりモララーと接することはなくなった。
当時は携帯電話も無かったし、特別に連絡することもなかったから、なんとなく疎遠になっていった。
それでも、ブーンがモララーのことを心配していたのは、モララーも知っていた。
そしてそれはツンも同じことであった。
ツンも同じように、モララーのことを心配してくれている。
モララーはそれを感じて、言えないにしても、そのことが嬉しかった。
ある日の夜のことである。
いつものように、ニダーがモララーの家に押しかけた。
母親も父親もいる時間であった。
モララーの母親はいつも以上に苛立ち、ニダーを追い出すべく罵詈雑言を並べた。
モララーはその様子を廊下から隠れて見ていた。怒る母親の姿をあまり見たくなかったのである。
<ヽ`∀´>「ホルホル、そんな強気な態度が示せるのも今のうちニダ」
その日はニダーもどこか苛立っていたのだろうか。
怒っている母親をからかいたかったのであろうか。
とにかくニダーは、いつもとは違う行動に出た。
ニダーが見せたのは一枚の写真だった。
从'ー'从
遠くからなんとか見えたその少女は、モララーの運命を変えることになる。
239
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:27:04 ID:gvME6E7E0
一旦青ざめて、父親と母親は激しい言葉を交わし合うことになる。
その怒声の中で、モララーはなんとか状況を把握した。
どうやら写真の少女はモララーの父親の隠し子であるらしい。
いうなれば、モララーの姉のような存在なのだろう。
どうしてそんな存在がいるのか、詳しい事情はモララーにはわからなかったが
それがニダーの握っている父親の弱みであることは明らかだった。
翌日、モララーの母親は家を出ていった。
唐突だったが、昨晩の様子から、モララーは母親の家出を察した。
母親は、隠し子の存在を知らなかったのだ。父親もどうしてもそれを言うことが出来なかった。
それが昨日になってばれて、母親の怒りの矛先は父親へと向けられたのだ。
父親とモララーの家庭は、どん底だった。
父親は日に日に荒れていき、モララーに暴力をふるうようになった。
身体こそ大人に近づいていたモララーだが、反抗することはできなかった。
その態度の豹変っぷりに、ショックのあまり動けなかったのである。
モララーは暗い顔を学校で必死に隠した。
あからさまに暗い様子なんて、示したくない。
もしそんなことがばれたら、自分は今までどおりの生活が送れないかもしれない。
このG村で、ツンやブーンと一緒に過ごす日々が壊れてしまうかもしれない。
240
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:29:04 ID:gvME6E7E0
ブーンと疎遠になったことは、よかったのかもしれない。
ブーンにはその辛い様子が伝わらなかったのだから。
だけど、ツンは違った。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ」
ある日の下校中に、ツンとばったり出くわした。
うっかり暗い顔をしていたモララーは、慌てて笑顔を取り繕った。
(;・∀・)「な、なんだよツン。
お前の家、こっちじゃないだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたに会いに来たのよ。
あんた、最近今にも死にそうな顔してたから」
ツンはモララーの様子に前から気付いていた。
そしてずっと心配していた。
モララーの身に何かあったのではないか、だとしたら自分ができることはないのか。
そんな想いから、モララーに話しかけたのだという。
G村の中央を流れる川沿いで、二人は話しあった。
ツンのかけてくれる言葉が、モララーには優しく、温かかった。
暗くふさがれたモララーの心は、徐々に開かれていった。
241
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:31:03 ID:gvME6E7E0
モララーはそのぬくもりをずっと欲していたと気づいた。
自ら拒絶していたそれは、唐突に奪われた母親のぬくもりと似ていた。
自分の元から突然いなくなってしまったぬくもり。自分を支えてくれるもの。
それが、ツンからもたらされた。
その事実に気付いた時、モララーは欲してしまったのである。
(; ∀ )「ツン……」
ひとしきり自分の話を終えたモララーは、夕暮れのせいか火照りを感じながら、ツンに顔を向けた。
(; ∀ )「俺と……俺と付き合ってくれないか?
俺には誰かが必要なんだ。ツンみたいに、俺のことを支えてくれる誰かが」
ツンはすぐには答えなかった。
モララーは気まずい沈黙を感じていた。
あまりにもいきなりだ、モララー自身もそう感じていた。
やっぱり撤回しようか、なんてことを考えた頃、ツンが口を開いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あんたやブーンとは友達のつもりだったんだけどなあ」
妙に鈍い衝撃が、モララーの頭に訪れた。
必死で応える言葉を探すモララーだが、その言葉を見つける前に、ツンが口を開く。
ξ゚⊿゚)ξ「ま、どうしてもというなら何度かデートしてあげてもいいわよ。
その思いっきりヘタレな性格も見直してあげてもいいかもね」
242
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:33:05 ID:gvME6E7E0
その日の夜は浮足立っていたのをモララーは今でもよく思い出せる。
思えば思春期真っただ中で、彼女がほしいと心のどこかで思っていたのかもしれない。
モララー自身、ツンのことは確かに友達と思っていた。ちょっと前まではそうだった。
でも言ってしまった。そしてデートの約束までこぎつけた。
心のどこかでそんな欲求があったのだろうか、考えれば考えるほど、そうだったように思えてくる。
自分はツンのことが好きだ。
それは錯覚かもしれないけど、それでもそのときのモララーの頭はツンのことでいっぱいになっていた。
今まで普通に友達でいたのが不思議なくらいである。
その日は、父親から飛ばされる罵声も耳から耳へと抜けていった。
そうして夜は更けていったのである。
その数日後のことである。
( ・∀・)「あ」
( ^ω^)「お」
モララーが普段より遅くまで学校にいたからだろうか。
野球部の部活が早めに終わったのだろうか。
モララーは帰り道でブーンと遭遇した。
243
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:35:06 ID:gvME6E7E0
久しぶりに、二人は話すこととなった。
しかし、一旦疎遠になっていたため、会話は長くは続かない。
ブーンも野球部での成績が振るわないらしく、どこか辛そうな顔をしていた。
だからモララーはあまり長いこと野球の話をするわけにもいかなかった。
夕暮れが二人を照らしている。
季節は夏で、蝉の声が喧しかった。
( ・∀・)「なあ、ブーン」
ふと、モララーは思いついた。
ブーンにまだ言っていなかったことを。
蝉の声がその気持ちに拍車をかけたようだ。
( ^ω^)「ん? なんだお」
ブーンはそばを流れる川の方を見ていて、モララーからはその表情は見えなかった。
( ・∀・)「俺さあ、ツンと付き合うことになるかもしれねえんだ」
不思議な間があった。少なくとも、モララーはそう感じた。
でもそれを深く考える前に、ブーンはモララーの方を向いた。
大きな笑みを浮かべて。
( ^ω^)「それはおめでとうだお。お幸せにだお」
モララーはブーンの言葉と笑みを真に受けた。
ブーンも祝福してくれている、その考えが頭の中で浮かび、嬉しかった。
ただそれだけしか感じないほどに、モララーはのぼせていたのであった。
244
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:37:04 ID:gvME6E7E0
夏休みに入った。
ブーンは相変わらず野球部で忙しい。
今までのように、三人で遊ぶということは、もう随分前から無くなっていた。
モララーはツンと会うようになった。
高校生になってからはあまり遊ばなくなったが、感覚としては中学までのそれに近かった。
遊びが延長したようなもの。恋人同士じゃなくてもできるもの。
だいたい、モララーは言いだしたものの、恋人というのをよくわかっていなかった。
遊び以上のことをする勇気もなかったし、必要性も感じなかった。
ただなんとなく、ツンと一緒にいるとほっとした。家にいても気が滅入るだけだったからだ。
だからモララーはツンと会いたかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「まー、あれだな。今だから言えるけど
こんなの全然付き合ってるって感覚じゃねえよ。
浮足立っていたんだろうな。家が辛かったってのもあるし、恥ずかしい話だ」
( ・∀・)「そして夏休みが過ぎ、秋が来て、年が変わるかなって頃
俺はそのことに気づいてしまったんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
きっかけはツンの一言だった。
ξ゚⊿゚)ξ「あのさ……あたしたちって付き合ってるのかな?」
その言葉がモララーには突き刺さった。
今まで何の気なしに信じていたことなのに、急に信じられなくなった。
245
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:39:25 ID:gvME6E7E0
ツンは実際モララーにとても優しくしてくれた。
性格上、優しさ一辺倒ではなかったのだが
つきはなしては、後から温かく接してくれる、そんな態度がモララーの心の栄養となっていた。
でも、ツンの一言から、疑問が生じた。
どうして俺たちは恋人なのだろう。
別に恋人じゃなくても、俺たちはこの関係を保てたのではないか。
ツンの優しさを感じることは可能なのではないか。
冬休みに入る頃のことである。
モララーはまた川辺で、ツンと会っていた。
( ・∀・)「半年間、ありがとな」
それが別れの、いや、元の関係に戻ろうという意思表示だった。
ξ゚⊿゚)ξ「結局そこまでヘタレは治らなかったけどねー」
(;・∀・)「はは、どうだかな。
こののらりくらりとした性格はこの先ずっとついてまわってくるかもしんねえなあ」
ξ゚⊿゚)ξ「治す気ゼロか。どうしようもないわね。
とにかく、新年になったらブーンもさすがに暇が出来るでしょ。
そのときちゃんと言いなさいよ。自分の家のこと。ブーンも心配していたんだから」
モララーは笑ったが、ここ最近さっぱりブーンと会っていなかったので、うまく打ち明けられるか不安だった。
実際会っていないから伝えられなかったという面もあった。
モララーのことをブーンが心配していたということが確かなのは、はもう半年以上前のことなのだから。
246
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:41:02 ID:gvME6E7E0
ところが、その日の夜のことである。
モララーは家に帰ってきて、異変に気付いた。
母親がいた。
半年間家を出たままだった母親が、父親と口論していた。
モララーはそっと、廊下からその様子を見た。
どうやら、母親は離婚を切り出したらしい。
父親もそれには同意だったようだ。
ただ一つ、迷っていたことがあった。
モララーの親権はどちらが持つかということだ。
両者ともに、モララーの親権を争っていた。
そして、モララーにとって残念なことに、二人はモララーの親権を欲していたのではない。
どちらかといえば、モララーを互いに押し付け合っていた。
母親にしてみれば、自分がいるにもかかわらず他の女と交流していた男性の子どもなんて、欲しくはない。
父親にしてみれば、モララーを抜きにして新しい生活を営みたい。
両者の言い分はこんな感じで、モララーはどちらにとってもいらない子どもであるようだった。
( ・∀・)「……」
モララーは二人の怒声を聴きながら、自室へと向かった。
話の流れからして、自分はどこか遠縁の家に送られるらしい。
モララーの頭の中には、ツンの別れ際の言葉だけ、残っていた。
247
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:43:02 ID:gvME6E7E0
ξ;゚⊿゚)ξ「嘘……」
修了式の日、モララーは帰り道でツンに打ち明けた。
自分が近々、遠縁の家に行くことを。
きっと年が明ける頃、自分はもうG村にいないことを。
( ・∀・)「両親の方が、な。もうダメみたいだ。
俺は遠くにいた方が、都合がいいみたいなんだ」
冬の寒い風を感じながら、二人は歩いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「だってそんな、急に。
ブーンにだってまだ言ってないのに」
( ・∀・)「そのへんはまあ、なんとか言っておいてくれ。
もともとあんまり話さなくなっていたんだし、言いづらいんだよな」
ξ゚⊿゚)ξ「……このヘタレ」
( ・∀・)「知ってるさ」
二人はなおも歩き続ける。
いつもの川沿いが見えてくる。
( ・∀・)「川沿い、行くか?」
ξ゚⊿゚)ξ「寒いでしょ」
( ・∀・)「だよなあ」
モララーにしてみたら、家の方向は違うのに、この方角に歩いてくるツンは不思議だった。
248
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:45:07 ID:gvME6E7E0
ξ ⊿ )ξ「あのさ」
ツンが、そっと発言する。
ξ ⊿ )ξ「あたし、もっとあんたに優しくすべきだったかな」
(;・∀・)「は?」
そんな言葉が出てくるなんて思いもよらなかったから、驚いた。
ツンの方を向くが、髪でどんな表情をしているのかよくわからない。
ξ ⊿ )ξ「じゃあさ、もっと早くあんたに話しかけてあげたらいいとか、そう思わない?」
(;・∀・)「いや、いやいや、どうしたんだよ急に」
わけがわからず、モララーはツンの前に立つ。
そして、気付いてしまった。
ツンが泣いていることに。
(;・∀・)「な……なんで……」
ツンはくるりと後ろを振り返る。今まで歩いてきた道のりを。
ξ ⊿ )ξ「あたしはね、あんたとブーンが元のように仲良くなってくれたらいいなって思ってたのよ」
ξ ⊿ )ξ「あんたとブーンが疎遠になったのは気付いていた。
そしてその原因は、ブーンが忙しいのもあったけど、あんたが暗くなったのもあった。
だからあたしは半年前のあの日、あんたを元気づけようと帰り道で声をかけた」
249
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:47:08 ID:gvME6E7E0
ξ ⊿ )ξ「でも、あんたは『付き合おう』なんて言ってきた。
あたしは……あんたを元気づけるためなら、って考えた。
だから、デートみたいなことをしてみた。
付き合ってるのかな、なんて言っておきながら、そのことに疑問を感じていたのは、あたしだったの」
ξ ⊿ )ξ「今までどおりの友達同士の付き合いでもあんたが明るくなってくれるって、この前気付いてちょっと嬉しかった。
でも、結局あんたは行っちゃう。だったら、あたしのやったことって無駄だったのかなって。
だったらもっと早く、あんたに気付いて、声かけてあげてれば良かったなって、そう思ったの」
ツンの告白が、モララーの動きを止めた。
ツンの行動の裏にそんな感情が合ったことを、モララーは知らなかった。
もちろんそれを咎める気は無い。疑問が生じたのは自分も同じことだったから。
気まずい沈黙が流れる。
(;・∀・)「でも、さ。いつか会えるかも知れないじゃねえか。
ずっと友達でいれば、そのうち連絡とかとれるんじゃねえの? だったらそのときさ」
ξ# ⊿ )ξ「あたしは、今あんたとブーンを仲良くさせてあげられなかった自分に腹を立ててるの!」
ツンの怒声がピリピリと乾燥した空気に響く。
それから、ツンは走り出した。
モララーの家とは反対の方向に。
モララーはどうしても、その背中を追いかけることができなかった。
自分にその資格があるとは思えなかった。
250
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:49:09 ID:gvME6E7E0
夜が訪れて、モララーは自分の家の前を見た。
誰かがいた。
月明かりは弱かったが、街灯によってその姿はだんだんはっきりと見えて来た。
从'ー'从
モララーよりいくらか年上な少女は、見覚えがあった。
写真のあの少女だ。
普通は驚くのだろうが、モララーは何故か冷静に状況を把握していた。
( ・∀・)「あんたは……」
モララーはじりじりと、少女に寄る。
( ・∀・)「なんであんたが俺の家に来てるんだ?」
从'ー'从「一応、私の父親の家らしいからね。
もっとも、今は留守のようだけど」
モララーは今父親が不在なことを知っていた。
そのため、鍵をしっかりともっていた。
( ・∀・)「親父は仕事だよ。
で、あんたの用は何だ」
从'ー'从「……同じようだね」
モララーには、彼女の発言の真意がわからなかった。
从'ー'从「あなたも、私と同じ。
家が面倒だと、お互い辛いね」
251
:
第六話
◆GIfZM2iQHE
:2012/03/08(木) 23:51:09 ID:gvME6E7E0
何故だか、モララーはいらついた。
自分のことを見透かされているような感覚が辛かったのかもしれない。
( ・∀・)「うるさいな。
用が無いなら帰ってくれよ。
俺は別の腹から出て来た姉なんてのに興味は無いんだ」
そう吐き捨てたが、少女は動こうとしない。
モララーはさらに少女に詰め寄った、そのときだった。
少女はモララーに歩み寄り、ひょいと飛んで、モララーの額にキスをした。
(;・∀・)「なぁ!?」
モララーは驚いて飛び退く。
(;・∀・)「なにすんだよ!」
从'ー'从「ふふ、一度だけ、お姉さんみたいなことしてみたかったの。
ごめんね、迷惑かけて。じゃあね〜」
最初から不思議な雰囲気を醸し出していた少女は、結局そのまま走り去ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、モララーは考えた。
彼女は、自分が同じと言っていた。
彼女もまた、どこかにぬくもりを求めたのではないか。
そのせめてもの表現が、自分を弟のように扱うという行為に表れたのではないか。
とはいえ、そのような温もりを他人に与える余裕は、モララーには無かった。
だから、頭を振るい、鍵を取り出して自宅に入ろうとした。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板