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スーパーRPG大戦α
298
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:12:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、インドでは…
広場には殺気が漲っていた。
大勢の観衆に囲まれた2人の格闘家が、互いに相手を牽制しながら対峙している。
一人は、顔に歌舞伎の隈取りの化粧をしたエドモンド本田。
相手の一人は首に髑髏をぶらさげたヨガの行者のような男ダルシムだった。
観客A「俺はあの大男に賭けるぜ」
観客B「俺もだ」
観客C「バッキャロ〜! あいつは図体がでかいだけだ。負けるに決まってら」
観客D「そうだ。あのダルシムって奴はインドヨガの究極の達人といわれている男だ」
観客E「勝つのはダルシムだ」
観衆は、口々に勝手なことを言いルピー札をふり回している。
賭けに熱狂する観衆の異様な興奮が、周囲に渦巻いていた。
リュウは路地を曲がって広場に出た。
始めに、エドモンド本田と呼ばれる大男の姿が目に入った。
素っ裸の身体にまわしを巻いた、まさに相撲取りの出で立ちだ。
だが、ただの相撲取りの格好ではない。
顔に歌舞伎の隈取りを描いているのが異様だった。
一方のダルシムも腰にわずかばかりの布を身に着けただけの男だった。
首には3つの骸骨をぶらさげている。
顔も骸骨に似て不気味だ。
身体は痩せて骨と皮だけのようだが、筋肉は引き締まっている上に鞭のようなしなやかさを持っているように見える。
無駄な栄養は一切取らず、ひたすら厳しい訓練に耐えてきた修行者とわかる。
が、その異相にもましてリュウの心を引いたのは、ダルシムの眼であった。
闘気が、かけらも感じられないのだ。
瞳には本田の姿を映しているが、その視線は、遙か彼方を見据えている。
しかも、その姿勢には全くスキがない。
リュウにはダルシムが深い知恵の完成を成し遂げた男のように思えた。
299
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:13:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ダルシム「西洋のわからず屋どもは、ヨガの力を頭から認めようとしない……エドモンド本田、お前は東洋人だ。ヨガの力がわかるだろう」
エドモンド本田「日本は東洋だ。だが、自分は東洋人と言いたくない。自分は日本人でごわす」
ダルシムが言おうとしている意味がわかっていない。
エドモンド本田という男は何事においても自己中心的に考えるタイプだった。
だから、他人の考えることを理解しようとしない。
すべてにおいて勘違いをして、それが正しいと思ってしまう類の男なのだ。
―――日本の力士から世界のスモウレスラーになる。
―――スモウレスラーの強さを世界の格闘家に知らせてやりたい。
そう思い、世界各地を回るために日本を離れる時も彼は大きな誤解をした。
町の人々はこの男の思い込みの激しさに、昔からキリキリ舞いさせられてきたのである。
だから、エドモンド本田が突如として世界を巡る旅に出ると言いだした時、『ついに救われる時がきた』と、ばかり、町の人々は大喜びをしたのである。
町の人々は一刻も早く町から出ていってもらおうと餞別を出した。
そうとは露知らぬエドモンド本田は感涙に咽び泣いた。
エドモンド本田『そんなにもワシのことを……皆さんの気持ちはよ〜く分かりもうした! ワールドにスモーの素晴らしさを認めてもらった時には、再びこの町に戻ってくることを約束するでごわす。そして、更なる研鑽に励むでごわす』
そう言って道場を後にしたのである。
一事が万事、このようにエドモンド本田は勘違いや錯覚の連続だった。
ダルシム「私のヨガの奥義をご覧になれば認めざるをえまい」
何度も何度も四肢を踏むエドモンド本田に、ダルシムは言った。
ダルシム「何なら5m先のリンゴを取ってご覧に入れようか? 口から火の玉を吐いて見せようか! 何の仕掛けもありゃしない。インドの火の神アグニの力を借りて悪を焼き尽くす炎は西洋の科学などでは理解できまい」
そう言った途端、ダルシムは口から火を吹いてみせた。
ダルシム「ヨガファイアー」
紅蓮の炎はエドモンド本田の前に吹き荒れた。
観客たち「うおぉぉぉぉ〜っ!」
周囲にいた観客たちが一斉に歓声をあげた。
観客はダルシムが口から火を吹いたことを驚いたのではない。
格闘に臨んで、闘う相手の前で火を吹くというショーを喜んだのである
ダルシムにとって口から火を吹くなど簡単なことであった。
口にアルコールを含み、歯と歯を火打ち石のように擦り、息を吹けば火は噴射する。
これも修業の最中に身に着けた技のひとつだ。
森で修業している際、獣に襲われそうになった時、この技を編み出した。
獣を殺すのが忍びないので、火を吹いて追い払ったのである。
朝から晩まで瞑想に入っていれば、それで1日は過ぎていく。
だからお金などほとんど必要としない。
必要最低限のお金は托鉢で十分間に合うのだ。
それゆえダルシムは金儲けのことなどまったく考えず、毎日、修業に励んでいた。
しかし、それは1つの小さな生命によって大きく覆された。
300
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:14:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
彼と彼の妻の間に子供が生まれたのだ。
ダルシムは神が与えてくれた子供を命に代えても守っていくことを誓った。
そして、神に感謝した。
ところが赤ん坊は毎日、泣き続けた。
なぜ泣くのか、ダルシムは始めわからなかった。
―――暇さえあったら泣いているような気さえする。なぜだ?
―――こんなにお前を愛しているのに?
ダルシムは悩んだ。
そして、やっと気付いたのである。
―――そうなのだ。この息子は私と違って腹が減るのだ。
ミルクを飲んでいるうちはよかったが、成長するにつれて食料が必要になった。
それでダルシムは妻に食料を買ってくるように言った。
ダルシムの妻『あなた、お金がありませんわ』
妻に言われてダルシムは改めて気づいた。
―――何とういうことだ。
―――私の家庭には必要ないと思っていた金がこんな形で必要になってくるとは!
わずかな托鉢の金ではとうてい間に合いそうもない。
もう少し多くのお金が必要だった。
しかし、ダルシムは働いたことがない。金を稼いでくる方法がわからなかった。
―――いったいどうしたらいいのだ?
途方に暮れていたダルシムの脳裏に、ヨガの仲間の話がよみがえった。
『格闘技世界戦に優勝すれば、インドで一生遊んで暮らせる賞金が手に入るらしい』
―――これだ、これしかない。
―――私のヨガをもってすれば野蛮な格闘家など恐るるに足らぬ。
―――だが、私は今日まで暴力をふるったことなど一度もない。
―――人を傷つけるというのは、神様の教えに反する野蛮な行為だ。
―――ここはひとつ、必要悪ということで神様には目をつぶってもらうとしよう。
―――息子よ、待っていろ。私が帰ってきたらカレーをたらふく食わせてやろう。
ダルシムはこうして金を稼ぐために格闘技の旅に出た。
301
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:14:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エドモンド本田「火など吹いて脅かそうとしても自分には通用しないでごわす」
ダルシムのパフォーマンスをエドモンド本田は苦々しげに見てエドモンド本田は言った。
エドモンド本田「卑怯な手はやめるでごわす」
ダルシム「卑怯? 私はインドの軍神スカンダに誓っても卑怯な真似などしてはいない。私が口から火を吹くのも厳しい修行の賜物。そして、手足が伸びるのも厳しい修行の賜物だ」
そういうやいなや、ダルシムの両手両足がスルスルと伸びた。
エドモンド本田はそれを見ながら大地に両手をついて相撲の仕切りの体勢を取った。
エドモンド本田「ハッケヨイ!」
エドモンド本田は気合いを入れて突進し、百裂張り手を繰り出した。
百裂張り手は彼の三大必殺技のひとつだ。
身体の細いダルシムがまともに食らってはひとたまりもない。
エドモンド本田「朝の稽古より楽勝でごわす」
エドモンド本田は百裂張り手を出しながら突進した。
エドモンド本田「わしの張り手は世界一じゃ! がっははは……」
移動のスピードは遅かったが、その勢いはダルシムを追いつめる迫力が充分にあった。
まさに『重戦車』だ。
接近戦に持ち込めば破壊力の強いエドモンド本田が有利になる。
ダルシム「ヨガファイアー!」
裏の裏をかくダルシムはわざと奇声を発し、フェイントをかけた。
相手を跳ばせてスキを作り出す戦法だ。
エドモンド本田はひるむ様子もなく、スーパー頭突きを出して突進する。
エドモンド本田「力だけが正義でごわす」
スーパー頭突きはヒットすると必ず相手をダウンさせる必殺技だ。
ダルシムはジャンプして頭突きをかわし、すぐにドリルキックを見舞った。
垂直や逃げジャンプから、突如として相手の足元に攻撃を仕掛けるのである。
互いがそれぞれの技を出し、披露したところから闘いは一気に激烈になった。
ダルシムは常に無表情だ。
逆に猛然と攻撃をかけるエドモンド本田の顔はさまざまに変化した。
顔に描かれた歌舞伎の隈取りが、興奮の度合いによって次々と模様を変えていく。
まさに鬼のようだ。
観客は興奮した。
誰もが2人の一進一退の攻防に眼を見張っている。
その観衆の中にモニターサイボーグがいた。
モニターサイボーグのレンズの眼はダルシムとエドモンド本田を的確に追っている。
コンピューター画像がインサートされ、ダルシムとエドモンド本田のデータが次々と打ち出されていく。
ベガが必要とする優れた格闘家かどうかを調べているのだ。
302
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:15:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エドモンド本田はスーパー百貫落とし、折檻蹴り、俵投げを次々に繰り出す。
―――ムチャクチャなスモウ・ファイトだ。
リュウはエドモンド本田のパワーを認めた。
だが、この勝負の決着はすでについていると悟った。
リュウの予測どおり、優勢だったエドモンド本田が次第にダルシムに体力を吸い取られるようにパワーが落ち始めた。
ダルシムのヨガスマッシュで体力を削られただけではない。
何か不思議な暗示をかけられているようだった。
ダルシムの眼はあきらかにエドモンド本田の眼をとらえて離さない。
―――一種の催眠術か……
―――恐ろしい奴だ。
リュウはダルシムを凝視してつぶやいた。
エドモンド本田「な、なんだ? 体が重い。思うように動かねえでごわす?」
突然、エドモンド本田の動きがギクシャクとしはじめた。
懸命に身体を動かそうとするが、思い通りに動かないようなのだ。
エドモンド本田は明らかに焦りの色を見せはじめた。
顔の隈取りが青一色に変わっていく。
エドモンド本田「くそ……なんだって身体が思うように動かねえんだ?」
エドモンド本田は敗北感を抱いた。
この状態でダルシムに襲われれば避けることは出来ない。
負けることは確かだと知った。
ダルシムは、エドモンド本田にドリルキックを浴びせようとジャンプした。
303
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:15:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、ダルシムに変化が起こった。
ダルシムの眼が異様に光った。
その視線はエドモンド本田ではなく別の方に向けられた。
明らかに観衆の中の一点を見据えている。
ダルシム「力を感じる……得体の知れぬ物凄い闘気エネルギーだ……」
ダルシムはひとりの男の凄まじい闘気を感じ取ったのだ。
そのパワーを発しているのは2人の格闘を観ているリュウだった。
―――誰も気づかぬような、そこはかとない波動だが……
―――圧倒的な力を奥底に感じる強い闘気エネルギー!
―――あいつは誰だ?
ダルシムは群衆の中にいたリュウを見た。
モニターサイボーグは突然のダルシムの変化に反応した。
そして、ダルシムの見つめる視線の先にレンズの眼を向けた時、すでにリュウの姿はなかった。
観客たち「うおぉぉぉぉ〜っ!」
再び、群衆が歓声をあげた。
モニターサイボーグはハッとなって、格闘する2人に視線を移した。
その直後、エドモンド本田の払い蹴りがダルシムの顎を捉えた。
ダルシム「ウグッ!」
ダルシムの呻きが聞こえた。
直後、ダルシムはバッタリと地に倒れた。
リュウに注意を払ったダルシムの隙を付いたエドモンド本田の勝利だった。
エドモンド本田「とどめでごわす!」
フライングスモウプレスを浴びせようと身構えた。
ダルシム「待った!」
攻撃される直前、ダルシムが制した。
ダルシム「この勝負。私の負けにしよう」
エドモンド本田「『しよう』だと? 『しよう』とは何だ?」
ダルシム「今まで感じたことのないパワーを背中に感じた。それで私は隙を見せてしまった」
エドモンド本田「この野郎、わけのわからねえ事を言って試合を放棄する気かよ」
ダルシム「そうじゃない、試合は私の負けでいい」
観衆が騒ぎだす。
観客A「ダルシム、いいわけは見苦しいぞ」
観客B「そうだ、そうだ。エドモンド本田の勝ちだ」
観衆の声にエドモンド本田はニヤリと笑って言った。
エドモンド本田「それじゃ賞金はいただくぜ」
ダルシムはもうそのことに興味はないかのように頷き、ポツリと呟いた。
ダルシム「あんなに強い闘気を感じたことはない……」
304
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/29(木) 14:42:03 HOST:p2085-ipad28okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ちなみに・・
=日本・とある通路=
女性「あ・・ああ・・。」
OLらしき服をきた女性は、先ほど目の前で見た現象に恐怖していた。
会社が早めに終わったのでさっさと帰宅しようといつもの道を歩いていたら、どこかの男性がどこかの女性に襲われてる場面を見たのだ。
いや、正確にいうならば、その女性は「異形の怪物」というのがぴったりな姿に変身し、男性に触手のようなものを口から通して、男性を灰にしてしまったのだ・・。
そして、その場面を見て思わず悲鳴をあげてしまい、その化け物に気づかれてしまった・・。
女性(だ・・、だれか・・、誰か助けて!!)
女性は思わずそう願った。しかし、化け物はもう自分のすぐそこまで迫っていた・・。
化け物「ふう・・、仕方ないわね。悪いけど、目撃者がいると面倒になるから。」
そういって、化け物は女性を襲おうとしたのだが・・。
雄介「おりゃああああ!!!」
化け物「ぐぁ・・!?」
突然、雄介が化け物に空中キックをしかけて、ある程度化け物をふっとばした。
女性「あ・・?」
女性は、雄介に対して、ある意味驚いてしまった・・。すると、雄介はこう応えた。
雄介「・・逃げて、早く!!」
女性「あ!・・は、はい!!」
そういわれて、女性は元来た道を走って逃げた。それを見た雄介はほっとして、あらためて目の前の化け物を見つめた。よく見ると、その化け物は全身銀色の姿をしていた。
雄介(・・『未確認』じゃない・・。一体、こいつは・・?)
かつて自分が闘っていた奴らとは違うタイプの奴だということを認識した雄介。すると、化け物が立ち上がった。
化け物「こ・・こんのぉ・・、たかが人間の分際でぇ!」
どうやら、先ほどの雄介の奇襲に怒り心頭の様子だった。
雄介「!しゃべった!!」
化け物「ふん・・、当然よ。私は人類の進化した存在、『オルフェノク』の一員なのよ?しゃべれて当たり前よ。」
雄介「オル・・フェノク・・?」
聞きなれない言葉に首をかしげる雄介。ちなみにこのオルフェノクは蝶をモチーフとした奴で、『バタフライオルフェノク』という名称である。
バタフライオルフェノク「そう。あんたたち人間は、私たちの仲間として覚醒するか、死ぬしかないだけなのよ。」
雄介「!」
バタフライオルフェノク「は〜あ、それにしても、よくもさっきの女を逃がしてくれたわね?・・まあいいわ、あんたをとっとと灰にしてでも、あいつを始末しにいくから。」
余裕があるようにしゃべるバタフライオルフェノク・・。しかし、突然彼女はビクッ、とした。それは、目の前の青年、五代雄介が並並ならぬ『怒り』を発しているからだ・・。
雄介「・・そんな事・・、絶対に・・、させない!!」
そして、雄介は両手を自分の腹の部分にかざした。するとそこに、ベルトのようなものが突如出現した。
これこそ、遥か昔、戦闘種族グロンギを封印した人物が残した「戦士」となるため、霊石『アマダム』の力で変身するベルト、『アークル』。そして五代雄介は、そのベルトを受け継ぎ、闘ったことがある。
バタフライオルフェノク「な・・何!?何なの、これは!??」
わけが分からず困惑するバタフライオルフェノク。しかし雄介はそんな事おかまいなしに、即座にポーズをとった。すると、アークルの中央の丸い部分が、赤くなった。
雄介「・・・、『変・身』!!」
そう叫んだ瞬間、彼の体に赤と黒の強化スーツのようなものが装着され、五代雄介は、再び『戦士』となった・・。
バタフライオルフェノク「お・・、お前、一体何者なの!?」
雄介「・・俺は・・、『クウガ』。戦士、クウガだ!」
そう・・、彼のこの姿こそ、かつて封印が解かれたグロンギたちをすべて倒し、みんなの笑顔のために戦った超戦士、『仮面ライダークウガ』である・・。
305
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:01:05 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=インド=
リュウはモニターサイボーグの監視を感じ、素早く広場を立ち去っていた。
―――あの不気味な視線はなんだ。
リュウはまだモニターサイボーグの存在を知らない。
だが、自分にとって何か不利益な事態を引き起こすであろうことを事前に予知した。
数多くの修羅場を体験したリュウならではの勘だった。
ギラギラと照りつける太陽で道は白く光っている。
さきほど一台の黒塗りのベンツが駆け抜けて行った道だ。
リュウはなぜか場違いな感じのピカピカの高級車が気になっていた。
気になる理由は取りたててない。
だが、歯の間に食物のカスが挟まっているかのように心の隅にこびりついて離れない。
車の後部座席にサングラスを掛けた男。
ベンツに似つかわしくない服装の筋肉質の男。
乱暴な運転。
それらが記憶の断片となって浮かび上がってくる。
―――俺には関係のないことなのにな。
そう思いながら寺院の前まで来た。
そこは僧侶のような服装の男が岩の上に立って演説をしていた寺院だ。
相変わらず周辺を警護しているSPの姿が見えた。
政治家か、思想家か、演説していた中年の紳士の周辺に人々が群がっている。
人A「ジャハーンさん、すばらしい演説でしたよ」
人B「あなたは勇気のある人だ」
人C「我々はあなたの考えに賛成です」
人D「この世界から麻薬を撲滅しましょう」
人E「ジャハーンさん、みんなの力で麻薬組織を倒しましょう!」
演説の内容に感動した人々が取り囲んで握手をしている。
ジャハーンという紳士は、1人1人に丁寧に握手を返している。
壊れた塀の一角からその光景を眺めることができた。
306
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:17:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、リュウは殺気を感じた。
殺気の発信源はどこかと周囲を見回す。
すると、寺院の建物の陰に停められた黒塗りのベンツから降りる筋肉質の男が見えた。
―――あぶない。
―――誰かが狙われている。
リュウは咄嗟に感じた。
ズキュッ!
その直後、銃を発する鈍い声がした。
ジャハーン「ウッ!」
同時にジャハーンと呼ばれていた紳士が倒れた。
紳士を取り囲んでいた人々が騒ぎ、寺院の庭は騒然となった。
人A「あそこだ!」
凶弾の出所が黒塗りのベンツとわかり、SPたちが走り出した。
SP1「あの車の中に犯人がいるぞ!」
SPたちがバラバラッと駆け寄った。
すると、例の筋肉質の男がいきなり飛び出し、瞬く間に3人のSPを倒した。
その動きは素早い。
―――並の格闘家の技ではない。
リュウは反射的に黒塗りのベンツの方に走り出した。
紳士を狙撃した犯人を捕らえようと思ったのだ。
だが、距離がありすぎた。
筋肉質の男は物凄い勢いで走り、みるみるベンツに近づいて行った。
SP2「奴を撃て!」
SP3「急所を外して狙え!」
SP4「生け捕りにしろ!」
SPたちが筋肉質の男に銃を構えた。
その時、ベンツの中にサングラスの男たちがマシンガンを乱射した。
その照準はSPに向けられたのではなかった。
男「うわぁぁぁ〜っ!」
マシンガンの銃弾を浴びて倒れたのは仲間の所に逃げようとした筋肉質の男だった。
サングラスの男たちは筋肉質の男を撃ち殺したのだ。
さらにサングラスの男達はSPや群衆に向けてもマシンガンを撃ちまくった。
リュウは黒塗りのベンツに向かって尚も走った。
だが、黒塗りのベンツはリュウが飛びつく前に発進してしまった。
リュウ「間に合わなかったか!」
リュウが歯噛みしたその時だった。
307
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:29:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
寺院内の近くにミルクをこぼした少女の姿が見えた。
少女もリュウを見つけ、手に持ったルピー札を振ってリュウの方に走りかけた。
リュウ「危ない!」
黒塗りのベンツが少女に向かって物凄いスピードで突っ込んでいったのだ。
リュウは大地を蹴って跳んだ。
ガガガガ〜ッ!
黒塗りのベンツが少女に迫った。
運転者はSPから逃げることだけを考え、ブレーキをかけて少女を避けようとする気持ちなど微塵もないようだ。
少女「アアッ!」
間近に迫り来た黒塗りのベンツを見て少女は悲鳴をあげた。
少女がまさに轢かれそうになったその直前、リュウは少女の身体に飛びついた。
ガガガガ〜ッ!
黒塗りのベンツはスピードを落とすことなくリュウの脇をすり抜けて走り去っていく。
リュウ「大丈夫か?」
リュウが顔を見ると、少女は蒼白となり、歯をガチガチと鳴らし、ワナワナと身体を震わせていた。
だが、リュウを見て気丈にコクリと頷いた。
少女「ミルクを買ったお金、あまったの……」
リュウ「わかった……ありがとう」
リュウは少女が差し出したおつりのコインを手に握らせてやった。
リュウ「命は尊い。たったひとつしかないんだ。大切にするんだぞ」
少女は再び、コクリと頷き、頭を下げて走り去って行った。
308
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:38:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、背後からリュウの背を叩いた者がいる。
エドモンド本田「ヨウッ!」
振り向くと、広場で闘っていたエドモンド本田が立っていた。
エドモンド本田「この金、半分はお前の分でごわす」
エドモンド本田は人懐っこい笑みを浮かべ、分厚いルピー札の束を差し出した。
リュウ「金?」
エドモンド本田「ダルシムとの戦闘で得た懸賞金でごわす」
リュウ「それを半分、俺にくれるとは……どういうことかな」
エドモンド本田「さっきの勝負はお前がいなきゃ、負けてたかも知れねえでごわす。とっときな」
リュウ「よくわからないが?」
リュウが惚けると、エドモンド本田はニヤリと笑った。
エドモンド本田「お前がおびただしい闘気エネルギーを発散していたから、ダルシムは注意を奪われたんだ」
―――エドモンド本田は俺に気付いたいたのか?
リュウはあっけに取られた。
エドモンド本田「お前は日本人だろ?」
リュウ「ああ…」
エドモンド本田「お互い日本の格闘家だ。遠慮するな、ガッハッハッハッ」
エドモンド本田はルピー札を持った手でリュウの胸を叩き、高笑いした。
309
:
暗闇
:2005/12/30(金) 19:07:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド=
日はすでに高く昇っていたが、手入れの行き届いた墓石のまわりには、まだひんやりとした朝靄の名残りがあった。
ロイドは、家の裏庭にある母親の墓前に静かにひざまついていた。
珍しく早起きをした、というよりは興奮のためによく眠れなかったといいったほうが正しいのだが、少しも眠気を感じない。
ロイド「母さん……しばらく留守にするけど、心配しないでくれよな。俺、知らなかったんだ。母さんがディザイアンの連中に殺されちまったなんて……きっと、きっとあいつらを滅ぼしてやるから!」
ロイドは握りしめた拳をほどくと、胸に手を当てた。服の内ポケットには、昨夜遅くまでかかって完成させたコレットの首飾りが入っている。
ロイド「俺、コレットと一緒に旅に出るんだぜ。世界を再生したら、きっと戻ってくるから」
ロイドはそこでハッと立ち上がる。
ロイド「お、おはよう、親父」
ダイクは黙って、墓石とロイドを見比べた。
ロイドは拾ってすぐ、亡くなった母親をここへ葬り、墓を造ったのもダイクだった。
ロイド「あのさ、親父……」
ダイク「ほらよ。要の紋だ」
ダイクは息子の手の平に、見事な細工を施した腕輪を載せた。
ダイク「俺は止めたんだぞ。ま、どう使うかはお前の自由だ。なあに、ドワーフの誓い、第2番!『困っている人を見かけたら、必ず力を貸そう』、これを実践しただけでぇ」
ロイド「親父……ありがとう!」
ロイドは、この愛情深い養父のそばをまもなく離れるのだと思うと、胸が熱くなった。
ロイド「話があるんだ。俺、これから旅に出る。コレットたちと一緒に世界を再生して、母さんの―――仇をとる。絶対に」
ダイクは一瞬、なんともいえない表情を浮かべたが、
ダイク「そういうと思ったわい」
と、軽いため息をついた。
ダイク「けどな、ロイド。忘れるんじゃねえぞ。ここはおめぇの家だ。血が繋がってなくても、おめぇは俺の息子だ。いつでも帰ってこいよ」
ロイド「……ああ」
ダイク「ノイシュは連れて行くんだろ。まだ小屋にいるぜ」
ロイド(親父、今日からひとりぼっちなっちまうんだな―――)
が、ロイドはその考えを振り払うかのように、声を張った。
ロイド「ノイシュ、来い! 世界再生の始まりだ!」
310
:
暗闇
:2005/12/30(金) 19:08:25 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
クゥ〜ン、と鼻を鳴らしてノイシュが走ってくる。
が、ノイシュより先に現れたのは、ジーニアスだった。
ロイド「あれっ!? なんだよ。なんでお前が出てくるんだよ」
ジーニアス「ロイド! ま、まだこんなところにいたの……はぁ」
肩で息をしているジーニアスは、そこにいるダイクに気づくと、あわてて「こんにちは」と挨拶する。
ロイド「そうだ、ちょうどいいや。親父にはマーブルばあさんの要の紋、作ってもらったぜ」
ジーニアス「ほんと? うれしいよ。けどロイド、そんなことよりどうしてコレットの見送り来なかったのさ!」
ロイド「へ?」
ロイドは。ぽかんとしてジーニアスを見た。
ロイド「だって、出発は昼だろ? 実は俺も一緒に行くことになったんだよ」
ジーニアス「なに寝ぼけてるんだよっ! コレットも姉さんもとっくに出発しちゃったよ。
いつまでたってもロイドが来ないから僕がこうやって様子を見にきたんじゃないかっ!」
ジーニアスは、ほとんど涙ぐみそうになりながら訴える。
ようやくロイドにも事情が飲み込めてきた。
ロイド(置いて、いかれた―――)
ロイド「そ、そんなバカな!」
ダイク「ロイド。急いで村へ行くんだ」
ダイクがロイドの背中を押した。
ロイド「けど親父……」
ジーニアス「そうだよ。ロイド、早く行こうよ」
ふたりの剣幕に、ロイドはすぐそばで耳をパタパタさせているノイシュの首に手をかける。
ロイド「わかった。ジーニアスも乗れよ。急ごう」
ジーニアス「えっ。う、うん。乗れるかな、僕……」
ダイクはジーニアスをひょいと抱き上げると、ノイシュの背に放り上げる。
ジーニアス「ありがとう、ダイクおじさん」
ロイド「じゃな、親父。あわただしくてごめんな!」
ダイクは、無言のまま何度も頷いてみせた。
ロイドが背中にまたがるやいなや、ノイシュは普段ののんびりとした様子とは打って変わり、全速力で村に向かって駆け出した。
311
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 20:17:39 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=アーカムシティ=
九郎「はあ・・、鬱だ・・。」
そんなセリフを思わずはきながら、大十字九郎は歩いていた・・。探偵らしく足で稼いで魔道書探しをしていたが、さすがにそんな簡単に見つかる訳がなかった・・。
そんな時もう今日は帰ろうと元来た道戻ろうをしたら、とある古書店が眼に入った。あまりにも小さかったので、最初通った時は気づかなかったが・・。
九郎「・・しょうがねえ、あそこに入ってみるか・・。」
対して期待もしないまま、その古書店へと足を運ぶ九郎であった・・。
=古書店=
その古書店の中は、奥行きがあるせいか意外に広く、蔵書数も多い。しかも、本棚に生前と納められた書籍は、大学の図書館でしかお目にかかれない代物ばかり、と言った感じであった。
九郎(こいつは・・、すげえな・・)
思わず感心する九郎。すると・・
?「探し物でも?」
突然、後ろから声がした。九郎が振り返ってみると、そこには店主らしき長身の女性が立っていた。歳は九郎よりも若干上、といったところ。大人の女性が発する妖艶な気配、それに胸元が盛大に開いたスーツがやけに印象的であった・・。
?「なかなかの品揃えだろ?ただ、ちょっと無節操かもしれないね。」
そういって女性は軽く肩をすくめ、九郎に向けて微笑みかけた。その瞬間、九郎の背筋に『ゾクッ!』、という寒気のような物が走り抜けた。
?「それより、こんなに多くちゃ、探すのも大変だろ?僕でよければ、協力するよ。」
女性は九郎の肩を軽く叩くと、少し考えるそぶりをしながらこういった。
?「おっと、失礼。挨拶がまだだったね。僕は・・、そうだな、『ナイア』って読んでくれればいいよ。」
九郎「ど・・、どうも。俺、大十字九郎です・・。」
とりあえず、九郎も軽めに自己紹介をした・・。
312
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 20:38:22 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ナイア「ふぅん・・、九郎君、かぁ・・。」
九郎が名前を告げると、ナイアはそう呟きながら、しげしげと九郎を眺めた。
ナイア「・・で、九郎君が探してるという本は?」
九郎「ああ・・それが、ちょっと特殊な代物で・・。」
ナイア「ふうん・・。例えば、『力ある魔導書』のような?」
九郎「!??」
ナイアが鼻先までずれた眼鏡を指先で押し戻すし、しれっと先ほどのセリフをいうと、九郎は思わず警戒心をあらわにし、ナイアを睨めつけた。
ナイア「そんな眼で見ないでくれよ。こんな商売をやってるせいか、なんとなく解かるのさ。客が求めている本がね。ましてや、君のように特殊な本を求めている客となれば、なおさらさ。」
ナイアはくすりと笑う。
ナイア「それにね、僕は思うんだよ。魔導書を求める物は、実のところ『魔導書に引き寄せられているんじゃないか』、ってね。つまり人が魔導書を選ぶのではなく、魔導書が自らの主を選ぶってわけさ。」
そう言い終えると、ナイアは本棚から手近な所にある一冊の本を引き抜いた。分厚く堅牢な装丁のその本には、『エノクの書』と書かれている。それは紛れもなく、魔導書であった。
ナイア「魔導書は魔術師に力を与え、彼らはそれを行使して奇跡を起こす。このエノクの書もそうさ。矮小たる人間が逆立ちしたところで遠く及ばない智の結晶。陣地を超越した奇跡の産物。魂が宿っていたとしても、不思議ではないだろう?」
なるほど、と九郎は得心する。心を惑わし、正気を失わせるような狂気に近い何かがこの本にはある。実際、毒気にさらされているのか、めまいと吐き気がしていた。
ナイア「おやおや、大丈夫かい?こいつに精気でもすわれちゃったかな?!」
おどけるような口調でたずねてくるナイアに対し、九郎は疑問を抱かずにいられなかった。
九郎(この人・・、なんで平然としていられるんだ?)
しかし、体の不調が、九郎から思考能力を奪い去っていった・・。そして、とりあえず九郎はナイアに対して、「それ、譲ってくれないかな?」と尋ねた。しかし、帰って来たのはこんな返答であった・・。
ナイア「申し訳ないけど、それはできない。」
313
:
疾風
:2005/12/30(金) 23:47:33 HOST:z215.61-205-223.ppp.wakwak.ne.jp
=とある商店街=
ショルダーバックを下げ周りの店を見ながら歩く少女・・・・・
時音「レイスの修理パーツ買えて良かったね〜」
レイス「うん、そろそろ動きが鈍くなってきたからね〜」
バックから首を出す時音のパートナーである時空勇者レイス・・・・
前回の戦いでレイスの装甲に不備が出た為、急遽修理用のパーツを探していた・・・・
それに合うプラモのパーツを購入し帰る所であった・・・・・
時音「ふにゅ?」
レイス「時音・・・・何だか様子が変みたい・・・」
それもその筈、前方に良くない気配を漂わせた者達が彷徨っていた・・・・
その者達の名は冥府兵ソビル・・・・・
この世界での敵勢力の一つインフェルシア・・・・・
その勢力の兵士である事をこの時点で時音達はまだ知らなかった・・・
そしてその兵士達は何故か時音達に襲いかかろうとしていた・・・・
時音「襲うつもりなら本気でやらないと私達を倒せないよ・・・・・」
何処からかヨーヨーを取り出し、戦闘状態に入る・・・・・
314
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 23:48:20 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・とある道路=
クウガ「おりゃあ!!」
バタフライオルフェノク「ぐはぁ・・!?」
クウガに変身した雄介は、圧倒的な実力の差もあってか、バタフライオルフェノクを優勢的に攻撃していた。
バタフライオルフェノク「くっ・・このぉ!!」
怒り心頭のようで、バタフライオルフェノクはクウガに対してキックを放つが、軽々とよけられて、カウンターを喰らう。
バタフライオルフェノク(そ・・、そんな、バカな!?私は、オルフェノクなのよ!?それなのに、こんな訳の解らない奴に、押されてるだなんて!??)
彼女にとっては、認めたくなかった。せっかく人類の進化系という体を手に入れたのに、目の前にいる、人間を救おうとしてる奴に、こんな風にこけにされているのが・・。
バタフライオルフェノク「こ・・こんのぉぉ!!!」
クウガ「!!」
突然、バタフライオルフェノクが攻めに回った。突然のことで、クウガも防戦一方になる・・。
クウガ(このままじゃまずい!どうすれば・・・、!あれだ!!)
クウガは眼の先にある鉄パイプを見つけて、バタフライオルフェノクのバランスをくずし、一気に鉄パイプの所までジャンプし、鉄パイプを握った。すると、アークルの中央の部分が、赤い色から青い色へと変わった。
クウガ「よし・・、『超変身』!!」
クウガがそう叫ぶと、クウガの装甲などの紅い部分が青い色へと変わり、どこかすっきりとしたフォームになった。鉄パイプも、瞬時に伸縮自在のロッドへと変化した。
バタフライオルフェノク「ま・・、また変身した!?」
そう、これこそがクウガの超変身の一つ、『ドラゴンフォーム』である。
クウガ「・・おりゃあ!」
クウガはすかさず、手に持ってる『ドラゴンロッド』でバタフライオルフェノクを攻撃した。これには、さすがにバタフライオルフェノクも反撃できなかった。
バタフライオルフェノク「ぐぅぅ!??」
そして、それを好機と見たクウガは、すかさず必殺技『スプラッシュドラゴン』を使った。
クウガ「うぉりゃああああ!!!」
バタフライオルフェノク「あああああ!??」
そして、もろに必殺技を喰らって、盛大に倒れるバタフライオルフェノク。
バタフライオルフェノク「あ・・ああ・・。」
クウガ「!?」
すると、次の瞬間、バタフライオルフェノクの体は灰になってくずれていき、瞬時に全身が灰となってしまった・・。
クウガ(・・オルフェノク、か・・。一体、何が起ってるんだ・・?)
もはや灰となって消えてしまったバタフライオルフェノクのやられた場所を見ながらそんな事を考える、クウガこと五代雄介であった・・。
315
:
暗闇
:2005/12/31(土) 15:58:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド・イセリア村=
村の近くに茂みにノイシュを待たせると、ロイドとジーニアスは南門からイセリアへ入った。
神子の旅立ちのときを、村人は総出で見送ったらしい。彼らはそこに集まって、まだ興奮冷めやらぬ面持ちで、お喋りに余念がない様子だった。
ジーニアス「とにかくフランクおじさんのところへ行ってみようよ」
ロイド「ああ。なあ、ジーニアス。おまえも先生を見送ったんだろ? そのとき、コレットの様子はどんなだった?」
コレットの家に向かって歩きながら、ロイドは訊ねた。
ジーニアス「どうって、そういえば妙に明るかったかな。『がんばりまーす』とか言っちゃって。僕、ロイドが来てないのに、なんでこんなにニコニコしてるんだろうって、ちょっと思ったんだ」
ロイド「そっか……(あいつ、チビの頃から何か無理してることがあると、やけに明るく振る舞うくせがあったっけ……)」
コレットの家に入ると、フランクとファイドラが居間のテーブルについていた。
ロイド「おじさん! コレットのことなんだけど」
フランク「ああ、ロイド。待っていたよ」
フランクがファイドラの方を見ると、老婆は一通の手紙をロイドに渡した。
ファイドラ「これを神子から預かっておる」
ロイド「コレットから?」
ロイドは神妙な面持ちで便箋を開いた。
そこにはコレットのちょっと癖のある、懐かしい小さな文字が並んでいた。
『 親愛なるロイドへ
これをロイドが読むころには、私はもう旅に出ています。
嘘をついてごめんなさい。でも、世界再生の旅は、いままで大勢の神子たちが失敗してきた、とても危険な旅なのです。
大好きなロイドを、巻き込みたくはなかった―――。
私ががんばって魔物やディザイアンを鎮めるから、ロイドは再生された世界で平和に暮らしてください。
いままで仲良くしてくれて、本当にありがとう。
ロイドにめぐりあえて、私は幸せでした。
さようなら。
コレット』
ロイド「さようなら、だって?」
ロイドは呆然と便箋を持った手を下ろした。
ロイド(そういえば、昨日もあいつ、「さよなら」って俺に言ったよな。あれはこういう意味だったのか……)
ジーニアス「ロイド、大丈夫? 顔色悪いよ」
心配したジーニアスが訊ねたときだった。
幾人もの悲鳴があがり、続いてバリバリと何かが壊れるような、ものすごい音が外から響いてきた。
ロイド「なっ、なんだ!?」
ジーニアス「行ってみよう!」
二人はコレットの家を飛び出し、広場へと向かった。
316
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:34:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
広場の向こう側は、一面火の海だった。体に火がついたまま逃げ惑う人々に鞭を当て、容赦なく剣で突いている男達は、あのディザイアンの制服に身を包んでいた。
ロイド「家が燃やされてる……なんてことを」
ロイドが唇を噛んだとき、転がるようにして村長が出てきた。
村長「やっ、やめてくれぇ! これではみんな死んでしまう!」
が、そこにいたディザイアンの男は、すがりつく村長を突き倒すと、叫んだ。
ディザイアンA「ロイド・アーヴィング、出てこい!」
崩れ落ちる家屋の中で、新たな悲鳴が響きわたる。
ロイド「くそっ」
ロイドは、たまらずに飛び出した。
ディザイアンたちが十数人かたまっているその前で、彼は叫ぶ。
ロイド「やめろぉっ! 俺はここにいる。また村を襲いに来たのか?」
ディザイアンA「“また”、だと?」
下っ端のひとりが、鼻で笑った。
???「ふふふ。戯言を……どけ」
制服のディザイアンたちを肩でかきわけるようにして現れたのは、片目に眼帯をし、腕にごつい戦闘用機械を装備した大男だった。
ロイド(こいつがボスか……?)
ロイドは油断なくかまえた。背後にはジーニアスがいる。
フォシテス「聞け、劣悪種ども! 我が名はフォシテス。ディザイアンが五聖刃のひとり」
フォシテスは村中に響くような大声をあげた。
フォシテス「優良種たるハーフエルフとして、愚劣な人間どもを培養する牧場の主!」
ジーニアス「ハーフエルフ……優良、種……」
ジーニアスが低くつぶやく。
フォシテス「ロイドよ! お前は人間でありながら不可侵契約を破る罪を犯した。貴様が培養体F192に接触し、我らの同志を消滅させたことは、すでに記録装置によって照会ずみだ!」
村長「おお、なんということを!」
村長は地に伏した頭を抱えた。
フォシテス「よってロイド、我らディザイアンは貴様とこの村に制裁を与える」
ジーニアス「待ってよ!」
ジーニアスがロイドの前に立ちはだかった。
ジーニアス「け、契約違反はそっちも同じだろ? 昨日、神子の命を狙ったくせに」
フォシテス「我々が神子を? ははは、これはおかしい。奴らは神子を狙っているのか」
ロイド「奴ら?」
ロイドは聞きとがめた。
ロイド「昨日コレットを襲った連中とお前たちは違うっていうのか」
フォシテス「さあな。劣悪種に語ることなどなにもない」
フォシテスの横で、ようやく体を起こした村長がロイドを睨みつけた。
村長「ロイド。牧場には関わるなといつもあれほど念を押していたのに……!」
ロイド「……ごめん……」
返す言葉はなかった。ロイドが頭を垂れた、その時。
不気味な震動がブーツの底から伝わってきた。
317
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:34:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「な、なんだ」
フォシテス「ロイド! 貴様の罪にふさわしい相手を用意した。引き裂かれるがいい!」
ロイドは自分に近づいてくる、これまで見たこともない怪物の姿に絶句した。
二足歩行はしているが、醜く膨張した頭部のためにバランスが悪いのだろう。歩くたびに全身がゆらゆらと揺れている。灰色の衣服から突き出た、赤い大きな爪を持った手足の関節は、不自然に曲がっていた。
ロイドは怪物の、目鼻のない顔の中央に何かが埋まっているのを見ながら、剣の柄に手をかける。
ロイド(なんだあれは……エクスフィアによく似てるけど)
ディザイアンの一人が叫んだのは、彼が剣を抜いた瞬間だった。左手にいつも巻いている布がはらりと落ち、エクスフィアが光ったのだ。
ディザイアンA「フォシテス様! あの小僧、エクスフィアを装備しています!」
うむ、とフォシテスが頷く。
フォシテス「やはり、我々が探していたエンジェルス計画のものかっ! それをよこせ、ロイド!」
振り上げた腕が、唸りをあげた。
ロイドは咄嗟に後ろに跳びさりながら。左手を後ろに隠す。
ロイド「イ、イヤだ! これは母さんの形見だ……お前らが殺したんだ!」
フォシテス「何を言う。お前の母はな……」
フォシテスは怒りに燃えた片目でロイドを睨めつけると、再び腕を振りかざす。
と、足を引きずるようにして、怪物が動いた。
ロイド「くそっ。こっちが先か」
ジーニアス「ロイド! 僕も戦うよ」
ジーニアスの声を聞きながら、ロイドは威嚇するように剣を突き出した。
だが、怪物に怯む様子はない。くぐもった唸り声をあげながら襲いかかってくる。
ロイド「やああっ!」
ロイドは続けざまに剣を振るい、怪物の胸や腹に斬りつけた。
ジーニアス「ストーンブラスト!」
ジーニアスがけんだまを使うと、地面から勢いよく石つぶてが噴出する。
それをまともに頭部に食らった怪物は、自分をかばうために両腕を上げる。
ロイドは魔神剣で追い討ちをかけると、間を置かずに怪物が倒れ込むまで斬り続けた。
ロイド「はっ、どうだ。今度はそっちだぜ」
だが、彼の剣がフォシテスに向けられるより早く、怪物はフラフラと立ち上がる。
ジーニアス「ロイドっ」
ジーニアスが注意を促したその時、ふたりは信じられない声を耳にした。
???『逃げなさ……い……、ジーニアス……ロイ、ド……』
318
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:35:16 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジーニアス「え!? なに、今の。聞こえたでしょ、ロイド」
ロイド「ああ」
ふたりは驚いて怪物を見上げた
???『早く……逃げ、て』
間違いない。くぐもってはいるが、この優しい響きには聞き覚えがある。
ジーニアス「ま……まさか……マーブルさん!? ウソでしょ」
マーブル『うっ、うううう……ぐぐぅ……は離れて、早く、ジーニア、ス』
怪物は苦しそうに身をよじりながら、
マーブル『新しい孫ができたみたいで……嬉しかったわ。さよう、な……ら』
そのままフォシテスに近づき、抱きついた。
フォシテス「うわぁっ、やめろぉっ!」
激しい爆発音が響いた。怪物の体が粉々に砕け散る。
ジーニアス「ああああっ! マーブルさぁぁぁんっっっ!!」
ロイド「危ないぞ、ジーニアスっ」
ロイドは、絶叫し、いまはもう形もなくなったマーブルに駆け寄ろうとするジーニアスを羽交い締めにするのが精一杯だった。
ようやく爆発音が途絶えると、ディザイアンたちは口々にその名を呼びながら、倒れているフォシテスに近寄り、抱き起こした。
フォシテスは怪我を負い、額に傷を作っていた。この場でこれ以上闘うのは不利だと判断したのだろう。
フォシテス「ロイド。その左腕のエクスフィアがある限り、我々はお前をどこまでも追いかけてやる。よく覚えておくのだな」
そう言い捨てるなり、部下たちと共に走り去った。
ロイド「あいつら……」
ロイドはふと、何かが地面を転がってくるのに気付いた。それは意志を持つもののようにジーニアスの足元でピタリと止まる。
ロイド「エクスフィア……マーブルばあさんの、エクスフィアだ。俺達を守るために、自爆を……」
ロイドはエクスフィアを拾い上げると、涙をポタポタこぼしている親友に握らせてやった。
ディザイアンが出て行ったので、生き残った村人たちは必死に消火活動を始めているが、火をかけられた家のほとんどは、既に跡形もなく焼失していた。
319
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:35:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
村長「ロイド。出て行ってくれ」
村長の声は憤りのせいで、ほとんど掠れてしまっていた。
村長「ディザイアンはお前を敵と認定した。お前がいる限り、この村に平和はない……すでに大勢の人々が命を落とし、家を失った。これ以上……」
ジーニアス「ちょっと待ってよ!」
ジーニアスは、濡れた顔を拭おうともせずにロイドの前に立ち、親友を守ろうと両腕を広げた。
ジーニアス「なんでロイドを追い出すんだ。ロイドは悪くない。そりゃ牧場へは行ったけど、ロイドはマーブルさんを助けただけだよ」
村長「事情は知らん。しかし牧場に関わるすべてが禁忌なのだ。例外はない」
ジーニアスの顔が、微かに歪んだ。
ジーニアス「じゃあ聞くけど。村を守るためなら、牧場の人は死んでもいいの!?」
すると、ひとりの村人がすぐさま答えた。
村人「当たり前じゃないか。どうせ牧場の人間なんて、あそこで朽ち果てる運命なんだから」
その通り、と村長は頷いた。
村長「余計なことをしなければ、死ぬのはその怪物だけですんだのに! ロイドなど元々この村の人間でもないくせに……ドワーフに拾われたよそ者じゃないか」
ジーニアスは俯き、唇を噛みしめる。
ジーニアス「人間って……汚い。人間なんか……!」
ロイド「もうよせ、ジーニアス。俺が悪かったんだ」
ロイドは親友の肩を叩くと、村長の前に進み出た。
ロイド「ご迷惑をかけました。出て行きます」
ジーニアス「だったら僕も出て行くよ! 僕だって同罪……ううん、もとはといえば僕のせいなんだ。僕がロイドを誘ったから」
村長は、ジーニアスの処遇をじっと考えているようだった。
村いちばんの秀才で、教師の弟―――。ディザイアンも彼を敵視しているわけではない。リフィルがまだここにいたら、事情は変わっていただろう。
村長「……よし、決定だ。ただいまをもって、ロイドとジーニアスを追放処分とする。ふたりともただちに村から出て行くように」
どよめきが起こった。出て行け、という叫びがあちこちから聞こえる。
ロイド「ジーニアス、おまえ……」
ジーニアス「いいんだ。行こう、ロイド」
憎悪の空気から逃れるように、ふたりは足早に歩き出す。
ようやく人がまばらになったところで、ロイドは口を開いた。
ロイド「なあ、ジーニアス。さっきのエクスフィアはお前が使えよ。要の紋もあるし」
ジーニアス「……僕が?」
ロイド「マーブルさんの形見じゃないか」
ジーニアス「そうか。そうだね」
ジーニアスは頷いた。
その時、誰かがロイドを呼ぶ声がした。
ロイドが顔を上げると、そこにはファイドラとフランクが立っていた。難を逃れ、ここでふたりを待っていたらしい。
ファイドラ「ロイド。神子さまたちは南に広がるトリエット砂漠に向かったはずじゃ」
ロイド「ばあさん……いろいろすまなかった」
ファイドラは微笑んだ。
ファイドラ「お前にその気持ちがあるのなら、どうか神子さまを追いかけて守ってやっておくれ。そうして世界が救われれば、みんなの気持ちもまた変わるじゃろう」
ロイド「ああ……、償いはする。そして、コレットは俺の命にかえても必ず守る」
フランク「ロイド。ジーニアス。きみたちにマーテルさまのご加護があるよう、祈っているよ」
フランクの言葉に、ふたりは「ありがとう」と精一杯の笑顔を作ってみせた。
320
:
疾風
:2006/01/01(日) 01:49:40 HOST:z215.61-205-223.ppp.wakwak.ne.jp
その頃・・・・・
インフェルシアの放った冥府兵と戦っていた時音・・・・
時音「ストリングスも切れちゃった・・・・後は・・・」
先程武器で使っていたヨーヨーの紐が千切れ使い物にならない為・・・・
本来ならば使う事を禁じられていた刀を引き抜き戦おうとしていた・・・・
時音「来れば・・・・もっとも痛い目に会うけどね・・・」
刀を構え冥府兵に刃を向ける・・・・
ゾビル「・・・・・・・」
不気味な動きで再び時音に襲い掛かるが・・・・・
時音「行くよ・・・・・・・」
間合いを取り、1体のゾビルを切り捨てていく・・・・・・
時音「次・・・・来れば?」
挑発した様な言い方で敵の視線を自分に向けさせる・・・・・
そしてバックの中でレイスは動けずに黙って見ているしかなかった・・・・
321
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/01(日) 16:55:58 HOST:p6203-ipad11okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
時は戦国時代・・、日本の各地で天下盗りの戦が繰り広げられていた。しかしその頃、遥か彼方の星からやってきた宇宙制覇をもくろむ悪の宇宙人、『カイザーハデス』なるものが、地球を侵攻すべく襲来したのであった。
しかし、そんなハデスの軍勢に立ち向かうものがいた。地球から遠く離れた星『ライザー星』からやってきた宇宙人、ライザー星人『ノルン』。地球を守る為、ノルンはハデスと戦い、どうにか地球の大地に封印する事に成功した。
だが、現在にいたって、その封印は弱まりかけていたのであった・・・。
=現代・???=
???「・・・・。」
何やら薄暗く、怪しげなオーラが立ち込めている部屋の中央に、妙に大きな物があった。それはまるで、何かを厳重に『封印』しているかのようにも見えた・・。
これこそ、かつてノルンが封印した、悪の宇宙人、カイザーハデスである。さすがに身動きが取れないのか微動だにしないが、そのすさまじい悪のオーラは健在であった・・。
ハデスは憎かった。自分にこのような忌まわしき封印を仕掛けたライザー星人のノルンが。・・しかし、その呪縛も今や弱まっている。それに、手持ちの『部下』もとっくに蘇っていた。部下どもに任せれば、軟弱者ぞろいな地球を制圧することなどたやすい。ハデスには、そんなゆるぎない自身があった・・。
しかしこの時、ハデスはまだ知らなかった。今の地球は昔と違い、たやすく侵攻を許さない状態であることを。そして、自分の願望の妨げとなる、ノルンに選ばれし『勇』・『仁』・『智』の、三人の戦士たちのことを・・。
322
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:56:35 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
=スペンサーレイン号=
薬品会社アンブレラの銘が書かれたボディが壮観に見える豪華客船の甲板の手摺りもたれながら、その男は立っていた。
黒いシャツの上に、ライダースPコートのディースクエアードを羽織った金髪の男が居た。春先だというのに寒い潮風を身にうけながらも、男は約束していた女性を待っていた。
???「ったく・・・・一体、何の用なのかねぇ・・・・逢引ならもちっと洒落た連絡方法取れっつぅの・・」
愚痴と共に無精髭に顎に手をやりながらブルース=マッギャヴァンは待ちぼうけする予定だった。
???「んなわけ無いでしょうが!・・」
前言撤回。待ちぼうけはしなくとも良くなったようだ。その約束してきた人間が隣からひょっこりと顔を覗かせてきたからだ。
ブルース「よぉ、鳳鈴。元気にしてたか?」
鳳鈴「・・・・見ての通りよ・・にしても、貴方の方も元気そうね?」
ブルース「そりゃあ、そうだろ?何せ俺は”Donn−ga”だからな?」
意味を分かって言ってるとは思う。あれからブルース並びに米戦略統合軍の大半は各国へと飛ばされている事が多く、それに比例して活躍する事も多くその猛者振りは中国保安部の耳にも聞こえる程である。
海外へと渡る、という事はそれだけ現地の言葉も達者にならなければ色々と不都合が生じる。
遵って、否応無しに統合軍の一員である彼も少なくとも社交的レベルの会話が出来るようになる事を迫られるという事になる。
そして、意味有り気に薄ら笑いを浮かべている辺りを見れば知っててその単語を述べてるかどうかは一目瞭然である。
ブルース「・・・・んで・・・・それはともかく、今更の時代に電報なんざ時代遅れの伝達方法で俺に連絡寄越して来て、いきなり合流できないか?ってのは、一体全体どういう事ったよ?」
FRONTIER(フロンティア)・・・新天地の名を冠する煙草を口に咥え、胸いっぱいに煙を吸い込んで一息ついてから、ブルースはそう切り出した。
鳳鈴「・・・そういえば、電報には「遭えないか」としか、書いていなかったわね。そうね・・・・この船で起きたあの<忌まわしい事件>に関する事で伝えておきたい事があったのよ」
途端、ブルースの目つきが変わった。瞳に霜がおり、先程よりも硬質さの増した声で尋ねた。
ブルース「おい、鳳鈴?今ならジョークとして笑い飛ばしてやれるぞ?・・・・この船で起きた事件で、忌まわしいだぁ?・・・・それは、あの事件か?化物が徘徊し回って俺達が地獄を見たあの・・」
???「他にあると思えるのかな、Bruce=McGivern?」
323
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:57:25 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
ブルース「ッ!?」
背後から突然聞こえた声が只者ではないと直感したブルースは振り向き様に迷わず、腰に提げていた銃を声のする方へと構えた。
そして銃を突きつけられた漆黒のトレンチコートを着こなしている男も躊躇わず、ブルースへと銃を突き返していた。
M1911A1・・・長年に渡って米軍の制式拳銃を務めた歴史的拳銃。
使用弾丸は、マグナム弾よりもやや大きめの45ACP(11.23mm×23mm)。
装弾数は、衝撃、反動の事も踏まえて7発。
1911年に制式採用されたM1911をマイナーチェンジしたもので、ベトナム戦争でも実践投入される程の高性能な銃である。
一般向け市場では、<コルト・ガバメント>の名称で親しまれており、1991年に復刻版なるM199A1が発売されたとの事である。
そして、1985年に制式拳銃の座をベレッタ”M9”に譲るまでの実に半世紀以上の間、、軍事大国アメリカの制式拳銃として君臨した。
対する男の方もまた、銃を構えていた。何の因果かそれは、先程述べたその”くだん”の『M9』である。
ベレッタM92F・・・それがM9の正式名称である。
イタリアのベレッタ社が同社のM951をベースに1975年に開発した中型自動拳銃。
1985年に当時最新モデルだったM92FがコルトM1911に代わるアメリカ陸軍制式拳銃として『M9』の略称名で採用されたものである。
だがM92Fはスライドの耐久性に問題があり、強装弾(通常より火薬量が多い弾丸)等を使用するとスライドが破損し、 ブローバック時に後方に飛び出して射手に当たると云う事件が多発した為、ハンマーピンを大型化して事故対応し、銃としての完成度を極めつつあるM92FSが制式採用されている。
ところが・・・・ところがである。
そのベレッタには奇妙な刻印が施されていた。
星を象った刻印がフレームに施されていたのである。
しかもところどころ、綿密な改良を施してある。
弾倉が通常の物よりも縦に長く伸びており、銃口もロングバレル仕様となっている。
そして、それは何処かで見覚えのある代物であった。ブルースは引金に力を込めつつ、必死になって記憶の箱の中を逆さにしていた。
???「銃口を下ろして頂けないかな、ブルース・・」
そう言われ、幾分か毒気を抜き取られてしまった。
というのも、鳳鈴が落ち着いた様子で事の成り行きを見守っているからである。
察するに彼は鳳鈴の仲間であろう、そう結論づけたブルースは溜息をつきながら銃を腰のホルダーへと押し込めた。
ブルース「・・お宅は?」
鳳鈴「仲間よ、ブルース。彼の名は・・」
古ぼけたトレンチコートの裾を翠色の潮風にはためかせながら、男は鳳鈴を制した。
???「構わないよ、鳳鈴。自己紹介くらいはね・・・俺の名はアーク。アーク=トンプソン・・・・元・私立探偵だ」
ブルース「・・・・もと、だ?」
324
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:58:30 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
???「そう。今はFBI怪異事件捜査課に籍を置いており、同時に・・・・俺達、STRASの大切なメンバーの一員だ」
今度は銃口を向けようとはしなかった。確かに今度も声色からして、只者ではないとは思えたがさりげなく鼓膜を叩いた単語の方に意識してしまったからだ。
ブルース「おいおい、STRASって・・・あの、STARSか!?」
「洋館事件」、「ラクーンシティの凶災」、それらの2大事件の影に活躍したと言われる伝説の猛者達・・・何処の組織にも服従するわけでも援助を受けるわけでもなく、単独で活動していながら”とある事件”を解決しているというのがブルースの耳に届く限りの情報である。
尤も、その情報も巨像の体毛一本程度にしか過ぎないのだが・・・それはまた別の話しである。
???「その通り・・・・といっても、大企業を相手に出来る事なんてたかが知れてるかもしれないがな・・・」
漆黒の影の中からぬぅっと現れたのは、複数の男女であった。
集団のリーダーと思われし先程の声の主である青年。
にこにこ笑いながらやってくる少し小柄の可愛らしい少女。
眼光は鋭いものの、それがより一層完成度の高い美貌の女性。
アークと名乗った男性に肩を回し、だべっている30過ぎ前後の大柄な男性。
他にも後ろにぞろぞろとついている者も居るのだが、ブルースの意識はリーダー格の青年へ向いていた。
というのも、その顔はそっちの世界ではかなりの御高名な人物だったからである。
ブルース「レ、レオン?レオン・S・ケネディ!?ブレイブ・イーグルの?・・」
勇敢なる鷹・・・STRAS実働部隊総指揮官で有り、同時にSTARSの総司令を勤めている大人物の通り名である。
レオン「ブレイブ・イーグル<勇敢なる鷹>・・・・そんな二つ名、欲しくてSTRASを結成したワケじゃないんだけどな・・」
肩を竦めながら、威風堂々たる貫禄を纏いし有名人は苦々しげに吐いた。
ブルース「そうか・・・道理でアークの持ってた銃を何処かで見たような錯覚を起こしたと思ったら・・・・鳳鈴が前に使ってた奴・・サムライエッジだったワケだ」
サムライエッジ
STARSにおいて標準装備されており、尚且つ高い戦闘能力を誇るベレッタを更に改良を加えていき、星の刻印をされたカスタム銃の事はそう呼ばれている。
LAMやら消音器、ロングバレル、弾倉増量等等の様々な改良が自在に出来るという使い勝手の良さからもSTRAS内では実に愛着のある装備なのである。
ちなみに鳳鈴の使用していたものは消音機と弾倉増量が施されたもの。
一通りの簡素な自己紹介を済ませた後、ブルースは目前に集合している猛者達にこう切り出した。
ブルース「・・・で、例のウィルスの”世界”に首を突っ込んだついでに棺桶にも両足いれかけてるような人間達の雁首揃えるなんて・・・・何するつもりだよ?」
この場合、世界という単語は適切でありながら適切ではない事を突っ込む人間は居なかった。
鳳鈴「・・・・貴方にも協力して欲しいからよ。ブルース・・」
325
:
飛燕
:2006/01/03(火) 22:00:16 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
ブルース「冗談言うなら他所に言ってくれ、鳳鈴。悪いが、俺はあの事件に遭ったから部署を変更してだな・・・・」
2本目の煙草に手をつけながらブルースは鳳鈴の願いを真っ向から却下してくれてやった。が、生憎とその願いを拾い、またブルースに叩きつける人物が横からやってきた。
ジル「残念ながらそうもいかない・・・いえ、上がそうさせてはくれていないのを分かっているかしら?」
意味深な言葉にブルースの動きが硬直した。油の足りないロボットのようにギ・ギ・ギと動かしながらジルの方へと振り返った。
ブルース「・・どういう・・・・意味だ?」
鳳鈴「今回、日本のエージェントと合流して現地に下る帰還命令が下るまで、そのエージェントの行動を共にし、現地命令に従え・・・・そう言われたのじゃなかったかしら?」
黙って頷くブルースにSTARS副司令官的存在のクリスが鳳鈴と交代した。
クリス「その現地での仕事が・・・・某事件解決の為にお前が抜擢された、って言ったらどうする?」
ブルース「・・・クソッ!まんまと一杯食わされたってワケかよ・・」
カルロス「まっwそういうワケだv・・・・ちなみに俺達はそのエージェントの上司って人間から情報提供されてそこに向かう途中なワケ。お分かり?」
クレア「更に言うなら私達もおそらく、貴方と合流してそこに向かう手筈になるだろうから・・」
ブルース「最初っから合流してた方が手間が省ける、ってワケかよ・・」
レオン「そういう事だ。だが・・・・少し状況が違ってきた」
ブルース「あ゛?何が?」
鳳鈴「・・・・Tyrant ledyの姿を目撃したのよ、日本で・・」
とんでもない程の爆弾発言だった。
ノイズが走りながら茸雲がもうもうと上がる映像が流れかけ、慌てて否定しようとしたブルースだったがその前にレベッカがブルースに一枚の紙切れ・・・写真を渡してきた。
レベッカ「英国の人工衛星で撮影したものよ・・・・目一杯引き伸ばしたからちょっと画がブレてるけど・・」
これで何度目であろうか。ブルースは別の意味で固まった。明らかな怒りを孕んだ表情で食い入るように写真を睨み付けた。
そこに映っていたのは右肩から爪先まで赤黒くグロテスクな造りで、そこを除けば全身が白に染まった珍妙な人間がそこに映っていた。
フランス人形のような彫の深い顔で、生気が無いにも関わらず何故か爛々と輝いて見えるダークブルーの瞳、ブルースは確信した。
ブルース「あんで・・・・こいつが生きてやがる・・・・」
それは確かに自分がこの手で倒した筈のゾンビであった。尤も、知性や意思、理性すらも残したままゾンビ化した人間である。
鳳鈴「だから、貴方に声をかけたのよ。ブルース・・・・」
鳳鈴&ブルース「「今度こそ、決着をつける為に(だろ?)」」
手摺りに凭れながら一服していたブルースは黒海に小さな灯火を放り捨てた。そして悪戯っぽい笑みを浮かべたブルースに対し、鳳鈴は穏かにそして包み込むような慈愛に満ちた微笑みを向けた。
鳳鈴「そう、ね・・・・」
レベッカ「へへんw分かってるじゃない?」
レオン「それくらいの理解力を持ってない人間でなければ、あの戦いは生きていけないだろうが?」
ブルース「へっ!言ってくれる連中だぜ・・」
326
:
飛燕
:2006/01/04(水) 00:12:30 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
その頃、異邦者たる幼な子達はというと・・・
=ジェナスユニット移動用トレーラー・内部=
チームジェナスユニット・・・アムドライバーの中では存ぜぬ者などおらぬ、良い意味でも悪い意味でも有名なチームである。
そのトレーラーの中、居住ブロックに2人の男女がパソコンの前に居座っていた。叢魔と天美である。
此方の世界に来て間も無い彼等にとって、この世界における情報は無いと言い切っても良い。
その為、こうしてこっそり忍び込んでPCを無断拝借、そこからハッキングをかけているわけである。
天美「スキャン完了・・・・データロード終了」
夥しい量の文字文字文字文字文字文字数字数字数字数字数字・・・それらを目で追いかけながら天美は隣の少年へ声をかけた。
天美「検索終了・・・政治、経済学、歴史のデータの収集は終わったよ?そっちは?」
叢魔「戦争、武器の発達度合、書籍販売・・・・明らかに俺達の居た世界のものじゃあないな・・」
苦虫を噛んだような表情で叢魔は首を横に振った。
天美「や、やっぱりそう?・・・・こっちも駄目。ラヴォス・ネレイド戦役すら無いし・・・・まさか本当に異世界に来ちゃったのかな?どうしよう?」
顔をくしゃくしゃにして今にも泣きそうな表情で天美は叢魔に詰め寄った。だが、詰め寄られた側の叢魔は年齢には不釣合い過ぎる落ち着きある態度で接した。
叢魔「どうするもこうするもない。俺達の力を以ってして、無事に元の世界に帰るだけだ・・・・それ以外の何が出来る?」
天美「そ、それは・・・そうだけど・・・・」
叢魔「なら、何の問題があるというんだ?愚民はこれだから・・・・下劣な満天ですら、こんな事はめったに起きないから楽しんどこう〜・・・とか戯言も甚だしい事を抜かしていたんだぞ?もう少し楽観的、客観的に物事を見ようとしろ。でなければ、物事を把握する事が出来ないままだ」
ずけずけとよくもまぁ、これだけの非道なる暴言がぽんぽんと出るものだと、別の意味で天美は感心した。
しかも、嫌味を込めているどころか感情すらこもっていない抑制され過ぎな声で、である。
尤も、件のその下劣なる人物は勿論、攻撃的な太陽がこの場に居なかったのがせめてもの救いである。
だが、少なくとも後半の話しは分かる。自分の事なのに客観的に見られる等の冷静さが無ければ、何をなしてもしなくても良い失敗や無駄が省ける事が多いからである。
天美が思いつめかけたその矢先、玄関のチャイムのような甲高い音がパソコンに内臓されたスピーカーから流れた。
叢魔「ん?・・・・どうやら、情報”源”とでも言うべき場所に当たったようだな・・・・・・場所は・・・・驚いたな」
画面に食い入るように見入っていた叢魔は、あらかじめ最近の情報が逐一に収集されている場所を検索しておいたのである。そして、結果が出た時、叢魔は感嘆の溜息を漏らした。
天美「え?ど、何処に当たったの?」
慌てて、ディスプレイへと走ってきた天美を宥めながら画面をぐいっと天美の方へと向けた。
天美「日、本?・・・・」
―― JAPAN the National Police Agency ――
最初の単語はジャパンなので、日本と直ぐに分かる。
だが、後半の「イーズンスィー」という見慣れない単語に天美は止まってしまった。
これは、〜局・・・郵便局やTV局の『局』を表す単語で、その前の単語の意味は警察。
更にその前の単語の意味はナショナル。つまり国民。
全部纏めてひっくるめた言い方をすると、こうなる。
叢魔「そうだ。・・・・日本の”警察庁”だそうだ?」
たかが一国家の・・・しかも発展途上国に過ぎぬ国の狗が逐一、世界中のほとんどの分野のマスメディアを牛耳って情報を集めているというのである。
327
:
疾風
:2006/01/05(木) 23:09:23 HOST:z158.220-213-6.ppp.wakwak.ne.jp
一方・・・・・
時音「ふに・・・・・結構頑張るね〜」
後ろにゾビルの残骸を山積みにしながら時音は言う・・・・・
時音「それじゃとっておき・・・・いってみよ〜」
時音は刀を鞘に収め、地面に手を置く・・・・
時音「結構痛いよ・・・・ドリアードバイパー!」
地面から棘の付いた植物が勢いをつけて這い出してくる・・・・・
時音「私の友達は気性が荒いから気をつけてね♪」
ゾビルは植物に締め付けられ身動きが取れなくなっていた・・・・
時音「ちなみにその子はあなた達を餌にする事があるから・・・・」
そのまま植物達は捕まえた獲物を地面に引きずっていく・・・・・
時音「バイバ〜イ・・・・」
???「やるな・・・・異世界の少女よ・・・」
328
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/05(木) 23:30:53 HOST:p6073-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
時音「えっ・・?」
不意に後ろから声がしたので振り返ると、そこには全身紫色の甲冑を着込んだ、何やら怪しい人物がいた・・。
時音「・・、おじさん、誰?」
とりあえず、先ほど聞こえた声で相手を『おじさん』と呼んでみる時音・・。
???「ふっ、自己紹介がまだだったな・・、俺の名は『ウルザード』。魔導騎士、ウルザードだ。」
時音「・・ふ〜ん。それで、私に何の用??」
ウルザード「知れた事を・・。お前の実力の程をためさせてもらう。お前が異世界からやってきたことは当に承知している。無論、それなりの力があることもな・・。」
時音「!?(このおじさん、どうして私のことを!??)」
ウルザード「・・おっと。先にいっておくが、これは俺とお前の一対一の勝負だ。もっとも、お前のそのバッグに入れてる奴は、ろくに闘えんだろうがな・・。」
時音「!?(レイスのことまで、バレてる!?)」
ウルザード「・・さあ、とっとと刀を構えろ。」
時音「・・、おじさん、せっかちだよね。そんなに急ぐ必要、ないんじゃないの?」
ウルザード「・・ふっ、そうだな。ならばとっとと準備しろ。それぐらいは待ってやる・・。」
そういいながら、その場からぴくりとも動こうとしないウルザードであった・・。
そして、改めて刀を握る時音・・。
時音「悪いけど、これ以上付き合ってられないから、とっとと倒させてもらうね、変な格好のおじさん♪」
ウルザード「・・ふ、なめられたものだな・・。」
そして、ウルザードも左手にもつ『ジャガンシールド』に収められていた自分の剣、『ウルサーベル』を右手でとりだし、戦闘体勢に入るのだった・・。
329
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/05(木) 23:53:40 HOST:p6073-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
そして、数分ほど沈黙が続いたあと、勝負が始まった。先に動いたのは時音のほうである。
時音(本当に悪いけど、さっさと終わらせてもらうから!)
そう考えながら、瞬時にウルザードの後ろをとり、手に握る刀で斬りつけた、『はず』だった。
「きぃぃぃん!!」という音をたてながら、時音の刀を左手のジャガンシールドで、余裕の様子で防ぐウルザード。
時音「えっ・・?(そんな・・、後ろをとったはずなのに!?)」
ウルザード「ふん・・。そんなものか?」
そういいながら、左手のジャガンシールドで時音ごと刀を押し返すウルザード。時音は何回転かして、地面に着地した。
時音「へ〜・・。おじさん、変な格好してるわりに、結構やるね♪」
挑発まじりにそんなセリフをいう時音だが、内心はあせっていた。
時音(このおじさん・・、強い。でも、私だって、負けられないもん!!)
そう思いながら、再度ウルザードに斬りかかろうと近づこうとするが・・。
ウルザード「ふん。・・ぬるいな。」
いつのまにか、時音との距離を縮めたウルザードであった。
時音「!?(い、いつの間に!?)」
ウルザード「・・はあっ!!」
時音「くぅ・・!!」
ウルザードの力の入った一撃を、手に持つ刀で何とか耐えようとする時音だが、少し吹っ飛ばされてしまう・・。
時音「あぅ・・!?」
体に痛みが走るが、それを何とかこらえて立ち上がる時音・・。
ウルザード「・・ほう。いい度胸だな・・。」
時音「まあね・・。おじさんみたいな、変な格好をした人なんかに負けたら、皆の笑いものだもん・・。」
ウルザード「ふっ・・、苦し紛れの皮肉、だな・・。・・いいだろう。お前にこれが耐えられるか?」
そういうと、ジャガンシールドが少しスライドして、気味の悪い目玉のようなものが現れた。
ウルザード「・・『ドーザ・ウル・ザザードン』!!」
ウルザードがそう唱えた瞬間、ジャガンシールドの目玉のような部分から、すさまじい衝撃波が発生し、時音を襲った・・。
時音「きゃあああ!??」
衝撃波をもろに喰らった時音はふっとばされ、壁に思いっきり激突し、倒れてしまった・・。
330
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/06(金) 13:00:20 HOST:p2088-ipad31okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
329においての訂正です・・(汗)。
×ドーザ・ウル・ザザードン→○ドーザ・ウル・ザザード
すいませんでした・・(汗)。それでは、続きをどうぞ・・。
時音「ふ・・ふにぃ・・。」
かろうじて意識があった時音だが、いつ気絶してもおかしくない状態だった・・。
そして、ゆっくりと歩いて、時音の目の前にやってきたウルザード。
時音「・・、へへ、おじさん、強いね・・。」
ウルザード「・・、何を甘ったれたことを言っている?貴様が弱すぎるだけだ。」
時音「!」
時音はその一言が悔しかった。しかし、ぼろぼろにやられてるため、言い返すことができない・・。
ウルザード「確かに力があることは認めてやろう。しかし、貴様はまるでなっていない。これならば、『五色の魔法使いども』と闘った方が楽しめる・・。」
なぜか心底いらだったように言うウルザード。時音はもうすごし歯ごたえがある方だと思っていたのだろう・・。
時音「(五色の・・、魔法使い・・?)・・ねえ、おじさん。また、私と戦ってくれる・・?」
もはや視界もぐらぐらと揺れていながらも、とりあえず聞いてみる時音。しかし、返答は非情なものであった・・。
ウルザード「ふん・・。何を甘ったれた事を言っている?俺は相手が子供だろうが女だろうが、勝負をする相手には、一切手加減はせん。無論、見逃す事もな・・。(もっとも、あの『赤の魔法使い』などの例外もいるがな・・)」
そういいながら、右手のウルサーベルで時音にとどめをさそうとする・・。
時音「ふ・・に・・・。」
そして、時音はとうとう気絶した・・。その直後、ウルザードは止めをさそうとウルサーベルを時音に向けて振り下ろしたのだが・・
『きぃぃぃん!!』
ウルザード「!?何!??」
突然、時音の周りに見えない壁のようなものが現れ、ウルサーベルがはじかれてしまった・・。
ウルザード「こ・・これはまさか・・、『闇の加護』か!?」
少し驚いた状態で述べるウルザード。しかし、すぐに冷静になる・・。
ウルザード(こいつも『赤の魔法使い』同様、未知なる力を秘めているということか・・。ふっ、面白い・・。)
そう思いながら、ウルザードはウルサーベルをジャガンシールドにしまい、後ろを向いて歩き出した・・。
ウルザード「・・今回は特別に生かしておいてやろう。今度闘うときまでに、少しはましになっておけ・・。」
そして、ウルザードは転移魔法を使い、インフェルシアへと帰還するのであった・・。
331
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/06(金) 13:17:18 HOST:p2088-ipad31okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
数分後・・・
魁「はあ、はあ・・、チー兄、チー姉、早くしろよ!!」
?「うっせーぞ、魁!こっちはジム通いで帰ったばっかなんだぞ!?」
?2「魁こそ、もうちょっとこっちのペースに合わせなさいよ!!」
魁「あ〜、も〜!!何でこんな時までお説教なんだよ!?」
そう嘆きながら走る小津魁・・。ちなみに彼が『チー兄』と呼んでるのは小津家の次男である『小津翼(おづ つばさ)』、『チー姉』と呼んでるのは小津家の次女である『小津麗(おづ うらら)』であった・・。
彼らは『インフェルシア』がこの付近に現れたことを知り、急遽かけつけたのだが・・。
翼「・・それにしても、全然見かけねえな・・。」
麗「うん・・、もう撤退しちゃったのかな・・?」
『冥獣』どころか、下っ端のゾビルまで見当たらないため、首をかしげる二人。すると・・、
魁「!兄ちゃん、姉ちゃん!!あれ!!」
翼「どうしたんだよ?・・って、げっ!?」
麗「うそぉ・・。」
魁が見つけたものは、時音がやっつけたゾビルの残骸の山である。これには、さすがに翼や麗も驚いた・・。
と、そんな時・・
蒔人「お〜い、魁、翼、麗!!」
芳香「三人とも、遅すぎ〜!!」
魁「蒔人兄ちゃん、芳香姉ちゃん!!」
小津家の長男と長女がやってきた。これで、小津兄弟が勢ぞろいである。
翼「なんだよ・・、蒔人兄達がやったのかよ・・。」
蒔人「いや・・、俺達もついさっき来たんだが、その時からこいつらの残骸があったんだ・・。」
麗「ええっ!?じゃあ、一体だれが・・?」
芳香「ぜーんぜんわかんない・・。」
もうお手上げ、といった感じのリアクションを取る芳香であった・・。
332
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/07(土) 19:09:08 HOST:p4129-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
?「・・きて!時音、起きて!!」
魁「・・?」
魁はふと、近くから女の子っぽい声が聞こえた気がした。
蒔人「?どうした、魁??」
魁「いや、今女の子の声が聞こえた気がしたんだけど・・。」
翼「はあ?空耳じゃないのか?どこにもそんな・・。」
そういいかけた翼だったが・・。
?「・・きてよ、時音!起きてってばぁ・・!」
今度は翼たちの耳にも声が届いた・・。
麗「!芳香ちゃん、聞こえた!?」
芳香「う、うん!!ばっちり!!!」
翼「まじかよ・・?」
蒔人「とにかく・・、行ってみよう!」
魁「おう!!」
そして、声がした方向に走っていくと、そこにはウルザードによってぼこぼこにされた時音と、時音を起こそうとする人形サイズのレイスがいた・・。
翼「お・・、おい・・、あの人形、動いてしゃべってねえか・・?(汗)」
蒔人「魔法・・、ってわけじゃなさそうだけどな・・(汗)。」
ちょっと唖然として遠くから覗く小津兄弟・・。と、そんな時・・。
?「ふぅ〜ん・・、珍しい奴もいるもんねえ・・。」
?2「いるもんねぇ〜。」
レイス「!?」
と、そんな時、俗に言うゴスロリ衣装を纏った、どこか得体の知れない二人の女が出現した。
魁「!あいつら、『ナイ』、『メア』!!」
思わず飛び出そうとする魁だが、蒔人が慌てて止める。
蒔人「落ち着け、魁!今出るのはまずい!!」
魁「蒔人兄ちゃん!だけどよ!!」
翼「あせるなっての。今は隙をうかがうことしかできねえよ・・。」
魁「ぐっ・・!」
魁は拳を強く握り締めながら、我慢する事にした・・。
レイス「・・、誰?普通の人間じゃないのくらいは、私だってわかるよ?」
時音を護るように気絶してる時音の前に立ちながら質問するレイス。
ナイ「人間〜?・・ぷっ!あっはっはっは!!人間なわけないじゃ〜ん♪」
メア「ないじゃ〜ん♪」
レイス「・・、悪いけど、時音に手を出させはしないから・・!」
そんなレイスの様子を見て、なぜか「むかっ」とした様子のナイとメア。
ナイ「・・、メア、こいつむかつかない?」
メア「むかつくむかつく。」
ナイ&メア「「じゃ・・、やっちゃおっか!!」」
互いの意見が一致したのを確かめると、二人の女は溶け込みあい、一つの化け物へと姿を変えた・・。
レイス「!??」
バンキュリア「初めまして、お人形ちゃん。あたしは地底冥府『インフェルシア』で『冥獣帝ン・マ様』に使えし『妖幻密使バンキュリア』よ・・。」
レイス「イン・・フェルシア?」
バンキュリア「あら、ごめんなさいね。あんたとそこのがきんちょも、こことは別世界から来た奴らの一人だったんだっけね。じゃ、知る由もないわけだ。」
レイス「!?(な、なんで・・)」
バンキュリア「ふん、あたしをなめないでほしいね。ここ数日、人間世界に別の世界からやってきた奴らがいることぐらい、あたしには手に取るように分かったよ。」
何だか偉そうに言うバンキュリア。
バンキュリア「・・ま、とにかく、あんたもそこで寝転がってるがきんちょも、あたしらにとっちゃ邪魔者以外の何者でもないのよ。悪いけど、とっととくたばってもらうよ。」
レイス「・・やってみれば、おばさん。」
バンキュリア「(ぴくっ!)・・、何だって?」
レイス「聞こえなかったの?そんなに耳が遠くて、私をやっつけられるの?お、ば、さ、ん♪」
バンキュリア「・・、こんのぉ・・、ふざけんじゃないよぉぉ!!!」
即座に、バンキュリアはレイスたちに対して攻撃を仕掛けた。そして、レイスはそれを防ごうとしたのだが・・。
魁「・・、させるかぁ!!『ジルマ・マジーロ』!!!」
レイス「えっ・・?」
バンキュリア「何!??」
突然、レイスの目の前に壁のような物が出現し、バンキュリアの攻撃を防いだ。そして、レイスは気づいた。いつの間にか隣にいる人間の青年を・・。
魁「・・大丈夫か?・・たく、あいつにあんな事いったら、怒るに決まってんだろうが・・。」
レイス「あなたは・・?」
魁「・・ま、『正義の魔法使い』、ってとこだな♪」
ウィンクしながらレイスにそう告げる小津魁であった・・。
333
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/08(日) 01:42:44 HOST:p1212-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
と、魁は「あてっ!?」と言いながら頭を抑える。よく見ると、後ろに翼が立っていた。恐らく、魁の頭をかるく殴ったのだろう・・。
翼「・・たく、このばか!無茶もいいところだぜ・・。」
魁「馬鹿っていうなよ、馬鹿って!!」
翼「本当のことだろうが!?」
魁「なんだとぉ〜!?」
とまあ、兄弟喧嘩に発展しかねない勢いだったが、それを諌めるものがいた・・。
蒔人「・・お前ら、いい加減にしろ!!そんな場合じゃないだろ!?」
魁「うっ・・。」
翼「・・、分かったよ・・。」
そして、おとなしく喧嘩をやめる二人・・。
レイス「あ・・、あなたたち、一体・・?」
状況がよく分からず、呆然とするレイス。と、麗と芳香が、微笑みながらレイスに話しかけた。
麗「・・事情は良くわかんないけど・・、あなたたちは、私たちが護って見せるから。」
芳香「そうそう、私たちに、ま、か、せ、て♪」
レイス「・・・。」
とまあ、そんな会話をしていたのだが、バンキュリアは一人かやの外に出されてるため、面白くなかった・・。
バンキュリア「・・たく、またあんたたちかい。いっつもいっつも邪魔して・・、今日こそ倒させてもらうよ!!」
そういって、指をパチン!と鳴らすと、ゾビルたちが続々現れた。時音を襲った時よりも数が多い様子・・。
蒔人「悪いが、俺達兄弟は、お前ら『インフェルシア』を倒すために闘う!!」
魁「ああ!・・兄ちゃん、姉ちゃん、『魔法変身』!!!」
翼・蒔人、麗、芳香「「「「おう!!!!」」」」
魁の掛け声と共に、五人はそれぞれ携帯電話型の変身アイテム『マージフォン』を取り出した。そして、全員一定のダイヤルを押しながら、こう叫んだ。
小津兄弟「「「「「「天空聖者よ!我らに魔法の力を!魔法変身!!『マージ・マジ・マジーロ』!!!」」」」」
その言葉を言い終えると同時にエンターキーを押すと、五人の持つマージフォンのアンテナから『何か』が上空へと送られ、空にある魔方陣が浮かび上がる。
そして、五人の足元にも上空にあるのと同じ形の魔方陣が出現し、彼らはそれぞれ違った色の同型の戦闘服を身にまとった・・。
蒔人「唸る大地のエレメント!緑の魔法使い、『マジグリーン』!!」
翼「走る雷(いかづち)のエレメント!黄色の魔法使い、『マジイエロー』!!」
麗「たゆたう水のエレメント!青の魔法使い、『マジブルー』!!」
芳香「吹き行く風のエレメント!桃色の魔法使い、『マジピンク』!!」
魁「燃える炎のエレメント!赤の魔法使い、『マジレッド』!!」
五人は一斉に、変身した自分達の名称を述べた、そして次の瞬間、自分達が何者か、その口上を述べた・・。
魁「・・溢れる勇気を、魔法に変える!!」
五人「「「「「魔法戦隊!・・マジレンジャー!!!!!」」」」」
レイス「・・ふわぁ・・、なんだか、すごぉい・・。」
率直な意見を述べるレイスだった・・。
魔法、それは聖なる力。
魔法、それは未知への冒険。
魔法、そしてそれは・・、『勇気』の証!!
そして、その勇気の心で魔法を駆使し、インフェルシアに戦いを挑むのが彼ら、『魔法戦隊マジレンジャー』である!!!!
334
:
飛燕
:2006/01/08(日) 14:52:34 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
=移動用トレーラー・居住ブロック一室=
叢魔「さぁ・・・・泣き言を言うよりもよっぽど建設的行動に移すぞ、天美?」
今度は先程と一変、急にやんわりとした口調で天美に作業に移るよう穏かに催促した。
尤も、それも巧妙に使った掌握術なのだが天美は知らなかった。
突き放しておいてから、急に優しくする。そうするとされた人はした人間が本当は優しい人間なのだと心理学的に誤認してしまうのだ。
そしてこのケースの場合、天美に自分は期待されているのだという事を認識させて作業能率を上げる、というのがこの少年の腹の中の声であろう。
天美「う、うんv・・・」
だが、哀しいかな。疑心暗鬼という単語とは無縁なる彼女はそこまで腹黒い考えに至る事に気付かない。
純真無垢なる満開の桜の華のような微笑みを浮かべながら、鼻歌交じりに天美はキーボードへと向かった。
天美「炎の壁・・・・見た事ない機種だね?」
叢魔「それはそうだろう。異世界なのだから・・・」
プロテクトウォールに僅かな穴を作り、そこからさっと侵入して次の壁の侵食を始めつつある叢魔は天美の問いかけに興味なさげに答えた。
叢魔「にしても・・・・良くもまぁ、こんな旧式でここまで来れるものだな。天美、お前・・・また何かツールを使ったのか?」
天美「ふぁい?新しく造ったゲイザー(注意 ハッキングツール)だけど・・・・」
前言撤回。純真無垢どころか、思いっきり犯罪の道に染まってた。というか、これも先程の満開笑顔で言ってくれちゃってたりするのだから、ある意味怖い。
叢魔「・・・・とりあえず、ハックした跡は残さないでくれよ?」
天美「大丈夫だよ、叢魔君。CIAでも痕跡が残らなかった奴だから問題ないと思うよ?・・・・っと、早速 < 当たった > みたいv何々・・・・」
宇宙警察機構署内ファイル A級F
異星人犯罪組織:アリエナイザーの活動報告暦 新履歴
報告者:戸増 宝児
×月○日
自分の判断ミスで星を消滅させるほどの力を持つウェルネストーン及び王女・衛里香を
異星人犯罪組織の一員ケバキーアに奪われてしまうも我々の努力により、
なんとか王女、ウェルネストーンを奪還する事に成功。
尚、その肝心のケバキーアだが、既にデリート許可を得て消去を行なっている。
天美「なに、これ?・・・・・」
叢魔「分からん。が・・・・この世界の事もおおよそだが分かった」
天美「と、いうと?」
叢魔「第一に、この地球と思われる星は異星同士の交流がある。でなければ、犯罪組織などとは名称しないだろう?」
天美「・・そうか。組織という事は、他の異星人との区別をするため!」
叢魔「That’s right。それならば、この宇宙警察という単語にも説明がつく。そもそもA級クラスの機密書類を警察の中心核とも呼べる場所がこんな法螺を書くとは到底思えないしな」
無造作にそこに転がっていたチョコバーを頬張りながら叢魔は相槌をうった。ふと、そこで天美は自分も空腹だったという事に気付いた。業魔殿を不可抗力で発ってから何も口にしていない異を思い出したからである。
それに気付いたのか、叢魔はテーブルの上に転がっていたカロリーメイトを天美に放り投げた。
天美「あ、有難う、叢魔く・・」
慌てて御礼を述べようとした天美であったが、叢魔がそれを遮った。
叢魔「いいからさっさと作業に移れ。両手が塞がるような食物は渡していないはずだが?」
年齢に不相応な眼光で睨まれ、思わずたじろぎかけた。が、なんとか踏み止まれたのは、やはり彼との付き合いが長いお陰だからであろう。
天美「あ・・う、うん・・・・あ、別のが出たみたい」
なんとなく気まずくどろどろとした空気になりかけ、居心地が悪かった天美にとって報告のチャイムは救いの手を差し伸べているようにも思えた。
335
:
飛燕
:2006/01/08(日) 14:57:48 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
裏稼業者リスト A級F
昨今から増える犯罪や組織の戦いに一枚噛んでいると思われる一般的に呼称される裏稼業と呼ばれる
職業についた人間を我々が独自のルートで調べ上げ、要注意人物としてここに明記しておく。
作成者:胡堂 小梅
スミス・J・ウィリアムズ
リンスレット・W
ストーン・ミストレス
小早川 奈津子
T・ハーミット
・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
天美「うっへぇ・・・これまた数の多いこと・・」
叢魔「致し方あるまい。それだけ、此方の世界ではそっちの仕事が多いという事だろう。異世界どころか異星とも、となるとその活動規模だって尋常じゃあるまいて?」
何時の間にか自分だけちゃっかりインスタントではあるが珈琲を啜っていたが、画面に釘付け状態の天美にとってそれは、さして問題視するところではなかった。
問題視する点は・・・別にあった。というか、画面の端にあった。
天美「あっ」
それは良く見覚えのあるものだった、というか毎年、自分の生活する金も無いのにちゃんと御年玉を送ってくれる人物達の名前である。
そんな人物の名前がこのようなリストにあったのが意外過ぎたので、思わず天美は小さく叫んだのである。
叢魔「?、どうかしたのか。天美?」
天美「美堂さんの名前がある」
叢魔「・・・・何?」
今度ばかりは流石の叢魔も眉を顰めた。何ゆえに彼の名前がそこで出るのか?彼もまた自分達と同じく異世界に跳んだというのであろうか。考え込む前に天美がまた声を上げた。
天美「それだけじゃない、卑弥呼さんに、銀次さんに、MAKUBEXも・・・あ、赤屍さんの名前まである・・」
叢魔「・・・・どうもここは異世界ではなくて、平行世界<パラレル・ワールド>という可能性も上がってきたな・・」
知った人間の名前があるという時点でそれを決め付けるワケにもいかないが、かといって可能性は捨て切れなかった。美堂 蛮、天野 銀次達を含めた彼等の職業が自分達の知ってる<彼等>と全く同じなのである。
天美「とにかく・・・これも複写(コピー)しておくよ?」
叢魔「頼む」
間髪入れずに叢魔は答えた。杞憂かもしれない・・・だが、万一も有り得る。そう判断したからである。
天美「次の情報は・・・・何だろ、これ?」
急に素っ頓狂な声を出すものだから、コピーされたリストに目を通していた叢魔はちらりと天美を見た。
叢魔「どうしたっていうんだ、天美?急に変な声を出し・・」
天美「AAA級(連盟国間重要機密レベル)クラスのファイルらしいんだけど・・・変なの」
連盟国家の機密程度で声を出すほど天美のハッキング歴は決して短いものではない筈だが・・・訝しげに叢魔は画面に近寄った。
336
:
飛燕
:2006/01/08(日) 15:01:18 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
検索結果 AAA級機密ファイル
19××年 10月 ○日
事件現場:米国某州R・City
報告者:
叢魔「・・・・何処が変だって言うんだ、天美?」
一見、別段おかしな点など見当たらなかったのだが天美は首を横に振った。
天美「これ・・・・報告者の名前が無いの・・・・」
叢魔「そんなの別におかしくは無いだろうが?後で消したりした・・」
天美「重要ファイル・・・ましてや、連盟国内で密かに交わされたものだとしたら、イニシャルくらい入れるものじゃないかな?」
叢魔「ッ!」
確かにそうだ。報告者がいるということは匿名だろうが何だろうが、明記されてる筈である。だが、更に天美はとんでもない事を口にした。
天美「・・・・それに・・これ・・・・改ざんされた後がある」
叢魔「何?それは・・」
叢魔が目を見開くのも無理は無かった。
AAA級のファイルに名前が無いという事態そもそも有り得ないのである。
天美の言う通り、報告者の欄にイニシャルくらいは入るものだ。
だが、もしそれが改ざんされて名前が消されたというのならば話しは通る。
何者かが自分達よりも早くここに来て、情報が外部に漏れても大した情報しか漏れないぐらいに改ざんしてしまったのである。
ファイルを消さなかったのは、ファイルが存在していると警察側に誤認させて跡が残らないようにするため。
それならば、このファイルが年歴と事件現場、不明の報告者しか書かれていないのも道理が通る。
天美「誰がこのファイルの改ざんを・・」
叢魔「さぁな、だが、可能性は提示出来る。一つは、簡単。警察署内で情報隠蔽をするために改ざんしたか・・・」
天美「もう一つは・・・・私達みたいにクラッカー(ハッキング行為をしたり情報をウィルスで破壊したりする人間の事)行為をした人間が居る・・でも、それだと一つの結論に達しない?」
叢魔「・・・・ああ、そうだな。一つの結論は出る・・」
叢魔「ここまでのハッキングが出来る人間を持ち、且つ国家を敵に回そうが恐れはしない奴の仕業だって事・・・」
ふと、そこで叢魔は視界の端に何かあるのに気付いた。
食料や飲料水がてんこもりになったテーブルの上にある薬・・・胃腸薬の瓶である。
が、直ぐにかぶりを振って、リストに目を通す作業に戻った。馬鹿馬鹿しい。何を薬瓶ぐらいに時間をかけているのだ、そう思ったからである。
その時、何故、たかだか薬瓶一本如きに気を取られたのか叢魔は結局、最後まで分からなかった。
ぽつんと突っ立っている薬瓶・・・そのラベルに自分を誇示するかのように大きく書かれた文字と赤と白の傘のマークがあった。
――― Umbrella ―――と。
337
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/08(日) 19:49:07 HOST:p4168-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=某国・高級レストラン=
?「・・。」
何やら一人の女性が、礼儀正しく食事をとっていた。黒いコートを羽織っており、どことなく清楚な感じのする女性である・・。すると・・
?2「すまんな、『セフィリア』。呼び出しに遅れてしまって・・。」
女性と同じような黒いコートの男性がやってきた。少し恐い感じの表情である・・。
?「いいえ、構いません。急に呼び出したのは、私の方ですし・・。」
セフィリアと呼ばれる女性は、にっこりとした表情で告げた・・。そして男性は少し苦笑いしながら、女性と同じテーブルに腰をかけた・・。
?2「・・それで、今度の任務は?」
セフィリア「・・いえ、任務ではありません。実は、とある情報が入ったので、お伝えしておこうと思いまして・・。」
?2「情報・・?」
セフィリアと呼ばれる女性は先ほどとはうってかわって真剣な表情で、対面する男性に告げていく・・。
セフィリア「・・覚えていますか、『ベルゼー』。『バグシーン』のことを・・。」
セフィリアは、男性のことを『ベルゼー』と呼びながら、真剣な表情で質問する・・。
ベルゼー「・・、忘れるはずがない。あの化け物どもには、我ら『クロノス』ですら散々煮え湯を飲まされたのだからな・・。」
セフィリア「・・はい。実は、数時間ほどまえに連絡があったのです。あの『バグシーン』の残党を、『生身で』倒した正体不明の人間と、その人間と行動する正体不明の集団に関する・・。」
ベルゼー「何・・?」
ベルゼーは思わず眉を顰めた。対バグシーン用の装備を揃えたヒーローともいうべき存在、『アムドライバー』ならいざしらず、生身であのバグシーンと戦って倒したとなると、よほどそいつは人間離れした能力を持っていることになる。しかも、今や世界の3分の1を影で操るほどの力をもった『クロノス』の情報網で調べても『正体不明』というのは、どう考えても怪しい。ベルゼーはそう思った・・。
ベルゼー「・・それで、そいつらの動向は?」
セフィリア「・・どうやら、あの『ジェナスユニット』のメンバーと遭遇し、今のところ、彼らと行動を共にしてる、とのことです・・。」
ベルゼー「・・、そう、か。それで、長老たちは何と?」
セフィリア「・・、『現状維持』、だそうです。しかし、『もし不穏な行動を取ろうと言うのならば、即刻排除しろ』、とのことです・・。」
ベルゼー「・・、了解した。わざわざすまんな、セフィリア。」
セフィリア「いえ、お気になさらずに・・。」
その後、ベルゼーもセフィリアと共に食事をしだした・・。
セフィリア「・・それにしても、この世界は平穏そうで、平和とは程遠いですね・・。」
悲痛な面持ちで、外の風景を見ながらぽつりともらすセフィリア・・。
ベルゼー「・・確かにな。しかし、その世界を安定させるために『クロノス』があり、我々『クロノ・ナンバーズ』がいる。・・違うか?」
セフィリア「・・、そう、ですね。すみません、ベルゼー。愚痴をもらしてしまって・・。」
ベルゼー「構わん・・。」
思わず苦笑いするセフィリアに対し、ベルゼーは相変わらず表情をあまり変えずに答えるのであった・・。
338
:
暗闇
:2006/01/12(木) 01:44:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=野原=
界魔(ここなら、ゆっくり一人で考えられるか…)
界魔は皆をクラウスに任せ、一人誰もいない野原へと足を運んでいた。
今日は色々なことが起こりすぎた、これまでの情報を自分なりに整理する為にも一番集中できるこういう場所が好都合だったのだ。
この世界でまだ手に入っていない情報を収集する役目は界魔と天美の二人に任せてある。あの二人ならこの世界の表の一面はほぼ全て知ることが出来よう。
ただ、いなくなった自分にいち早く気付いた輪廻を撒くのに手間がかかり、やむなく『移』空呪を用いて強制的に皆の居る場所に戻したのだった。
界魔「ああでもしないと、追われている状態で逃れるのは厳しいからな…」
自分を心配してくれているのは嬉しいが、一人でじっくりと考えたいこともある…だが強引な手を使ってしまったのも事実なのでちゃんと謝っておこう。と界魔は考え、野原に膝を下ろした。
界魔(さて…悪魔召喚プログラムの起動の失敗の結果により俺達はこの世界に飛ばされた、その後に激しい“ゆらぎ”を感じてこちらの世界にやってきたクラウスさんと再会…そしてバグシーンとかいう機械生物を操る沙耶とかいう化け狐とそれに協力している源氏の亡霊…そして、あの銀のスライム…)
今までのことを振り返りながら、あの銀のスライムが11年前に自分は奴と面識のあるはずだと…界魔は懸命に11年前の記憶を辿った。
界魔(確か…あれは真さんを探しにパラレルワールドに飛んで…)
界魔の脳裏に段々当時の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
界魔(そして…同じ世界にやって来ていた直兄さんと啓兄たちとも協力して…どうにかバルマーの一部隊や宇宙怪獣を退いて…そして…!!)
脳裏に浮かび上がってくる銀の怪物、そしてその中心に存在する金の一つ目は自分を見つめ…
その時、
界魔「っ!」
界魔は素早く、横に転げるとほんの数秒前座っていた場所が小規模の爆発を起こしたのだ。
界魔はすぐに立ち上がると、辺りを見まわす。
界魔(誰だ!? 気配が全くな…)
???「上にいるよ」
界魔「!」
界魔は上を見上げると、そこには自分と同じ背丈の人がいた。
しかし、顔は真っ白な布で眼以外を覆っており、全く分からない。
???「いや〜さすがだね。さすがは天上家の長男にして、あの人の血を引く息子。他の子たちなら気づけなかっただろうね」
界魔「誰だ、お前は?」
???「あ〜ごめん。今は名乗りたくても名乗れないんだ。でも、これだけ教えてあげる…君と対なす存在だよ」
339
:
暗闇
:2006/01/13(金) 01:06:26 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
界魔「俺と対なす存在?」
界魔が首を傾げて言葉を返すと、宙に立つ少年はこくりと頷く。
???「君は僕のことを知らないと思うけど、僕は君のことをよく知っている。
とは言っても、それは君が8歳以降のことだし…それより前の君のことはあの人から聞いただけだからね」
界魔「俺のことを知っている…それに“あの人”?」
???「残念だけど…それもまだ言えないんだ。でも、なんで僕が君のことをよく知っているかのワケのヒントはあげるよ…君と僕は2つでひとつの存在」
界魔「二つで一つの存在?……!」
???「うすうすだけど分かったみたいだね。じゃあ、近い内に名乗るくらいはできるかも…
っと、そろそろ行かなきゃ…また近い内に」
その少年が指を鳴らした瞬間、その少年はフッとその場所から消えてなくなった。
界魔「空間転移か…それにしても…あいつは…まさか…な」
界魔はしばらくの間、呆然と少年のいた空を黙って見つめていた。
340
:
暗闇
:2006/01/15(日) 03:04:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アンブレラ・アーカム支部=
現在の世界の中心都市たるアーカムシティ、世界各地の企業や団体の活動の本部またはそれに匹敵する支部は現在はここに集中して設置される。
しかし、そのどの企業もこの街を支配する覇道財閥と比べると小者に過ぎない…だが、唯一この都市で覇道財閥と肩を並べることのできるある企業の支部がある…
それが製薬会社を母胎とする国際的規模の巨大コンツェルン…アンブレラ。
本社はヨーロッパにあり、世界各国に支部、研究所、工場などを持ち、独自の軍隊まで所有している。社名は「人々の健康を庇護する」という社訓に由来しており、表向きはウイルス治療の権威として社会への奉仕をアピールしているが、裏ではウイルスを用いた生物兵器の開発・製造を行っている。
あの「洋館事件」と「ラクーンシティの凶災」…この2つの事件の原因はアンブレラの開発した生物兵器によるものだった。
しかし、これらの事件の真相はアンブレラの“力”によりことごとく揉み消され、真相を知ろうとする者は次々と闇に葬られていった。
ここはそのアンブレラの支部のなかでも最大規模を誇るアーカム支部だ。
そして、その一室に一人の少年が机の書類にペンを走らせていた。
金髪で整った顔立ちをしたまだ年端もいかない少年だ。
しかし、この少年こそ…アンブレラ社で会長に次ぐ権限を有する社長にしてこのアーカム支部の支部長を務めるアゼル・V・スペンサーである。
そこに、脇に置いてある一本の電話が音を立てる。
アゼルはペンを置くと、受話器を耳に当てた。
アゼル「はい、何か御用ですか?」
社員「お忙しい所を申し訳ありません社長…社長と話をしたいという方からお電話がございます」
この社長室の電話に繋げるには、受付を経由しなければならない…アゼルは無駄な時間はとらない主義だ。普通は受付にいつものように適当な理由を付けて門前払いをさせるのだが、それをしないということは相手は余程の人物らしい
アゼル「誰です?」
社員「女性のようですが…名前を聞いても答えません。ただ、こう言えば分かると…私はただの可愛い狐さんよv…と」
その時、社員は受話器を通してまだ子供の社長がため息をつく音を聞いた気がした。
アゼル「繋いで下さい」
341
:
アーク
:2006/01/15(日) 11:47:36 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=???=
???「今の話は本当なんですか陛下」
ホログラムとして立っている天皇こと聖夜に背中に六枚の羽を持つ青年が質問した
天皇「先程暗黒王から得た情報なんだ。ロザリエルは無事みたいだよ」
天皇の答えにロイヤルナイツの長セラフィムはホッと息を出した
ロイヤルナイツとは天界で最も徳の高い聖騎士や大天使が集まる最強集団の事である
誰にでも慈悲深く弱き者は守ると言う事を心がけている
セラフィム「ロザリーは無事なんですね。あの子が魔界の魔王と駆け落ちをした時は驚いたものですから
しかし何で私にだけ伝えるのですか?彼女の事を最も心配しているオファニにも伝えた方がよろしいかと思うのですが」
天皇「確かに僕もそう思ったんだけど実はそう簡単にはいかないんだ」
セラフィム「何かやばい事でも?」
天皇「そうなんだ。実はロザリエルは子を宿したんだよ」
セラフィム「何ですって!ま、まさか魔族との間に出来た子供だと言うのですか?!」
天皇「そう、天界と魔界に災いを呼ぶアルティメットハザードが生まれたんだ」
セラフィム「………確かに彼女には伝えない方がいいでしょうね。妹が魔族との間に子供を作ったのですから」
???「何の話をしているのだセラフィム」
声の主に驚いて振り向くとそこにはロイヤルナイツの一人オメガが立っていた
セラフィム「オメガか驚かすな。一瞬オファニかと思ったぞ」
オメガ「そんなに驚く事ではないと思うが…ところで先程の話は本当なのかセラフィム?」
セラフィム「聞いていたのか?………ああ、先程の話は本当の事だ。オファニの妹ロザリエルは
魔界の魔王の一人アスタロトとの間に子を宿したそうだ」
オメガ「そうであったか。オファニ殿にはこの事は?」
セラフィム「話してはいない。駆け落ちの話を聞いて倒れたんだこの話を聞いたら余計ショックを受けるだろ」
オファニに対するセラフィムの優しさにオメガは一瞬笑みを浮かべた
彼は知っていたセラフィムがオファニに恋心を抱いているのを
オメガ「愛する者が悲しむのを見たくないと言う事か」
セラフィム「う、うるさい。当然の事を私はしたまでの事だ(///)」
少しだけ顔を赤らむセラフィムを見てオメガは少しだけ笑い声を出した
天皇「あまりセラフィムをいじめないでよオメガ。インペリアルは元気?」
オメガ「今の所今の力を制御できる位にはなりました。ですが…まだ古代龍の力は無理ですね」
天皇「そうか。あの子も大変なんだなぁ」
セラフィムもインペリアルの事を知っている為同情せざるおえなかった
天皇はもう何もないと思い消えようとした時
セラフィムが重大な事を聞くのを思い出し踏み止まった
セラフィム「も、申し訳ありません。暗黒王はこの事は?」
天皇「知っているよ。今頃ムルクスに伝えているだろう」
そう言って天皇は姿を消した
=???=
???「また生まれたと言うのかアルティメットハザードが」
魔界の中心部でナイトメアソルジャーズの長ムルクスは暗黒王の情報に溜息を出した
暗黒王「これで三人目だな。お前の部下のカオスと天界のデュークを含めてな」
???「ちょっとまずいんとちゃいまっか?アルティメットハザードが三人もいるちゅう事は」
ムルクス「ジョーカーの言うとおりです。禁忌を犯したのは私だけで十分なのに…まさか甥のアスタロトが
私と同じ事をしようとは」
ジョーカー「血は争えん事やな。ムルクスはんと同じ過ちを起こしたんやから」
暗黒王「ムルクス……お前は禁忌を犯し自ら魔界に堕ちて来た。だがアスタロトはロザリエルと共に姿を消した
そこまで愛していたのだろう大天使ロザリエルを」
ムルクス「私と同じ行動をするとはアースの奴もやるようになったものです」
ジョーカー「何やてっきり心配していると思うたら全然してないやんか」
ジョーカーの言葉にムルクスは少しだけ吹き出した
ムルクス「少しは心配したが愛する人を守る為共に姿を消した事がとても嬉しかった」
暗黒王「それともう一つムルクスには嬉しい事かも知れない」
暗黒王の言葉にムルクスとジョーカーは耳を傾けた
暗黒王「その子供の名前がルシュファードと言うのだ」
ムルクス「な?!」
ジョーカー「な、何やて!ルシュファードって確かムルクスはんの昔の名前やないか」
ムルクス「アースの奴大天使だった頃の私の名前を使うとは」
アスタロトの子供の名前を聞いてムルクスは大きい溜息を出した
342
:
暗闇
:2006/01/16(月) 01:00:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アンブレラ・アーカム支部=
沙耶「はぁ〜いvアゼル君元気してたぁ♪ 可愛い狐のお姉さんはこの通り元気よ〜v」
アゼル「……ご用件は何でしょうか?」
沙耶「あらま、単刀直入? もう少し明るく振る舞わなきゃ女の子にモテないわよv」
アゼル「別に良いですよ…」
沙耶「あいかわらず、暗いわね〜。お姉さんは悲しいわ」
アゼル「…まさか僕をからかう為に連絡したんじゃありませんよね?」
沙耶「あのね〜、たまには笑顔ぐらい震う舞わないと、大人になって眉間に皺が残るように……冗談は此処までにするから切らないで」
電話の向こう沙耶はどうやって察したのか、アゼルが受話器から耳を放そうとした直前で、そう言った。
沙耶「実はこの都市にある宝物が落ちたの。それを回収する為に今からブラックロッジと共同作戦をとることになったのよ。
でも、そのブラックロッジから派遣されてきたのが……ちょっと“アレ”で…」
アゼル「アレ?」
饒舌の彼女の言葉が後半珍しく歯切れが悪くなり、アゼルは思わず首を傾げながら返した。
沙耶「ともかく、不安要素が大の人を何のつもりかあっちが送ってきたのよ…だから、万が一の保険としてB.O.Wをいくつか送って欲しいのよね」
アゼル「そうですか…わかりました。ハンターⅢを6品とタイラントⅡを1品送りますから」
沙耶「助かるわ〜v いい子、いい子…」
アゼル「幼児クラスの子供扱いは流石に止めてほしいのですが…」
沙耶「え? そんなこと言ったて、私たちから見れば…はい、はい、ごめんなさい」
アゼルの怒りで受話器が震えだしたのをまたもどう察知したのか、沙耶は彼に謝罪した。
アゼル「まあ、いいでしょう…ところでこの都市に落ちた宝物とはなんです?」
沙耶「ああ、それはね…」
沙耶の次の言葉を聞いたアゼルは眉をピクリと動かした。
アゼル「何ですって?」
沙耶「だから、今回はなるべく失敗したくないのよ…その宝物はこの町中を逃げ回ってるから、捕まえるのにちょっと骨が折れるのよね…
相手があの“魔導書”じゃ、あのキ○ガイじゃ不安なのよ。これならまだ源氏の武士と組む方がマシだわ」
アゼル「なるほど…」
沙耶「それじゃ、プレゼントを楽しみにしてるわよ。じゃ〜ね〜v」
その言葉を最後に、沙耶の声は受話器から聞こえなくなった。
343
:
飛燕
:2006/01/16(月) 20:03:04 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
=スペンサー・レイン号 船底倉庫内=
○月■日 8:05(ハチマルゴ)
この船に密航してから1日と9時間21分。
SEに関するDがこの船底倉庫内か船長室に存在する事がようやく判明。
これから、船底倉庫内を調査する。
尚、次からの定時連絡は10分ずつ延長させて頂く事を進言・・・。
ガチャ・・・
鉄の塊とでも称すべき分厚い扉が開く音がしたと同時に彼女は、素早く通信を切った。
コンテナの陰にさっと隠れると、彼女は腰の獲物を抜きながら侵入者の姿をゆっくりと顔を覗かせて確認した。
侵入者は40代そこそこの、中々体躯に恵まれた米人であった。口髭と見事なまでに伸ばした顎鬚、丸刈りに近い髪型の男性で、赤いケブラーのジャケットを羽織った姿は彼を加齢臭漂うただのオジサンから、戦場を渡り歩く戦士に見えてしまうのは彼女の錯覚ではなかった。
現に彼は地獄を何度も経験し、その度に仲間達の助け合いで生き延びてきた猛者であるから・・・。
彼が只者ではないと直感した彼女は、自銃に携帯型のサプレッサーを気付かれぬように着けた。
P226
SIG/ザウエル P226、それが彼女の銃の正式名称である。
SIg/ザウエル社の中枢をなす代表的な大型ピストルP220の後継銃。
P220の売りである高い命中率を損なわずに小型化、軽量化に成功したのがこのP226である。
SIG/ザウエル社の社名は、ヨーロッパ諸国でもとりわけメジャーな2つの銃器メーカーが合併した事によるもので、SIGとは『Schweiz Industrie Gesellschaft(スイス工業社)』という意味を持つ。
同社のP220シリーズは、どれも直線的デザインでまとめられ、その外観は着実、堅牢な雰囲気を漂わせているのが特徴的である。
自分の存在に感づいたのかもしれないと思った彼女は、マガジンに15発、慎重な手つきで最大装弾(フルリロード)を行なうと彼の隙を伺った。
仮に違うとしても、腰元にあるモデルガンにしては出来過ぎている44マグナムとケブラー(特殊防弾繊維)ジャケットなんぞを着ている人間が怪しくないワケが無い。
自分の任務の妨げになる者は早めに始末しようと考えたのである。
銃口をゆっくりと、持ち上げて男の頭部へと照準を合わせた。
幸いにも彼は気付いていないようだ。当然である。此方は感付かれないように殺意は出来る限り消して、行動を起こしているのだから。
引金に手をかけ、中年の男の後頭部に弾丸が直撃する様を想像しようとした瞬間、いきなり、またもや扉が開かれたのである。
「ッ!?・・」
声を押し殺したまま、驚きを隠せなかった彼女は素早くコンテナの陰に隠れた。
扉を開け放った金髪の米国人もまた、ショルダーホルスターにこれまた良く出来ているモデルガンよりも本物に見えるコルトガバメントの鈍い輝きが見えたからである。
344
:
飛燕
:2006/01/16(月) 20:26:41 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
バリー「よぉ、起きたみてぇだな。ブルース?」
食堂でベーコンエッグとフランスパン3切れ、フレンチサラダを食べ終えた後に倉庫へとやって来たブルースは、先客のSTARS大先輩と出くわした。
ブルース「まぁなvにしても、流石は豪華客船だな。たかが、粗末な朝食と侮ってたけど、中々美味かったぜw」
バリー「だろ?・・・・ところで、今、何時だ?」
昨夜、レオンとクリスから明日の朝9時に、最下層倉庫にて会議を開くとの言葉を聞いて2人はここに居るわけである。
そして、生憎とバリーは時計を持っておらず今、何時何分何秒という正確な時間が判らない。
右手をさっと持ち上げ、文字盤を見た。
ちなみにブルースの右手首に巻きついているものは、コグモことCOGU(Cosimo Gucci)という有名ブランドのSTK−CLモデルである。
銀一色で飾られた指針と盤、カートゥンに出てきそうなカラフル過ぎる文字が特徴的である。
ブルース「・・・・ちと早く来過ぎたみてぇだな、今、8時19分だな」
やれやれ、と軽くぼやきながら自分の勘の良さを呪った。
以前、乗船した事のあったブルースだったが、甲板やブリッジより下の3〜4階は、作りが全く違うものなのである。
だから、迷うだろうと高をくくって早めに行動を起こしたのだが、幸いにもB4階以降は以前見たものと全く同一のものだったので、あっさりとここまで来れたのである。
バリー「いや、多分、そろそろだと思うぜ?あいつら、あの事件に巻き込まれてから行動がいやに早くなったからな」
愛銃である44マグナムの調子を確かめつつ、バリーは回れ右して退出しようとするブルースを止めた。
ブルース「そうなのか?へっ・・折角、もう一眠り出来ると思ったのによぉ?」
憎まれ口を叩きつつ、ブルースはバリーの元へと戻ってきた。
ふと、そこでバリーはある事に気付いた。
バリー「なぁ?何だ、あのコンテナ?」
ブルース「うん?」
バリーが顎で指すその方角には、奇妙な鉄の箱があった。
345
:
飛燕
:2006/01/16(月) 22:04:45 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
周囲のコンテナとは明らかに浮いた水色一色のカラーリングで、何やら変な凹みがところどころに見受けられるものであった。
まるで、内側から強大な力で凹んだような・・・明らかな人為的な凹みのあるコンテナが静かにそこにたたずんでいた。
よく見ると、中に何が入っているか書かれたプレートもあったが8割方が錆が占めており、結局何が書いてあったか全く読めず終いとなったのは後の話である。
無言でブルースはバリーに合図を送った。手早く2人は44マグナムとコルトガバメントの安全装置を解除すると、摺足でそのコンテナへ近寄った。
そして、そっと、プレートの表面をなぞって中に何が入ってあるのか探ろうとブルースが表面を指でなぞってみた刹那、何やら軽い音がコンテナの中でした。
その時、2人はこの時ほど野生の勘に感謝した事は無かったらしい。
素早く、バックステップでそこから離れた2人は、先程まで自分達の居た場所に何か鋭利な物が突き刺さっている事に気付いた。
コンテナ毎、切断したその異形の者を2人は良く知っていた。
アンブレラの生体実験による変態の結果骨格そのものが異常に変形し4足歩行や脳のグリア細胞質露出等の身体的特徴を有するに至った亜種ともいえるゾンビ。
全身の皮膚が剥離し内部から新たな筋肉組織が形成されておりその結果筋力・瞬発力が凄まじく向上する事に成功した。
が、剥離し切ったせいか眼球も腐り落ち、視力を失い、代わりに異常発達した聴力で獲物の位置を割り当てる事が可能という死体。
また手足に吸盤が形成され壁や天井を自在に這い回ることもできる生ける屍。
主な武器は伸縮自在で強靭な舌と巨大で鋭利な両腕部の爪という異形の者・・・。
バリー&ブルース「「リッカーだと!?」」
思わず、顔を見合わせ口調をそろえてしまった。
男同士で気色悪いとか読者の皆様は能天気な事を考えてしまうかもしれないが、この場合2人は敢えて問題視しなかった。
というよりもそこまでの考えにいきつかなかった。
速度を武器とする愚鈍さが売りのゾンビとは全く対照的な出鱈目ゾンビが相手では、一瞬の油断も出来ないからである。
ブルース「ちぃっ!まさかたぁ、思うが・・・」
バリー「ああ・・・・どうやら、クリス達が来ないのは・・」
こいつらのせい、そう口を動かす前にリッカーと呼ばれた者は天井高く跳躍した。
ブルース「来るぞ!」
飲み込みかけた言葉をバリーが言う前にブルースは、真っ直ぐ此方へ伸びてくる舌目掛けて大口径銃弾をプレゼントした。
346
:
飛燕
:2006/01/16(月) 22:08:32 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
ヒト?いえ、それにしたって不気味過ぎる・・・。
もしかして、ゾンビ?
・・・馬鹿馬鹿しい。B級映画じゃあるまいし、そんな事ある筈が無い。
だが、見た目のグロテスク加減に、あの2人の慌てっぷり・・・完全に否定というワケにもいくまい。
バリー「コンテナの中にリッカーなんざ入れるなんて、この送り主は一体、何考えてやがるんだよ!!」
ブルース「知るか!それよりも・・うおっと!?」
ゾンビ(仮)の方の攻撃力・・・侮れないわね。
あれだけ分厚い壁を内側からあの爪だけで切り裂くなんて、恐竜も顔負けね。
自嘲しながらも彼女は2人と一匹(?)の先頭の様子を逐一記録していた。
そして、記録に夢中になっており・・・背後からゆっくりと近づく気配に彼女は気付かなかった。
――― あ゛ あ゛ あ゛ ぁ゛ ぁ゛ ―――
「なっ!?」
背後を振り向いた時には時既に遅し。
作業員のツナギを着た腐乱死体が彼女の首筋目掛けて噛み付こうと圧し掛かってきたのだ。
「くっ!・・・・」
完全に虚を突かれた彼女はなんとか防ぐ事には成功した。
ガチッ・・・ガリッ・・・
苦肉の策であったが、P226を口の中に押し込みなんとか食い止めているような状態である。
「不味い・・・わね・・」
意外に、この生ける屍、馬鹿力が尋常なレベルではない事を彼女は身を以って知った。
否、知りたくもないのだが知ってしまった、とでも言うべきか。
とにかく、この方法も大した時間稼ぎにしかならない事を彼女が一番知っていた。
どう行動すればこの壊滅的状況を打破出来るか、彼女は追い詰められながらもなんとか考えようとした。
今、戦っている2人に助けを求める・・・NO。
彼等の正体が分からないこの状況で、助けを求めて必ずしも状況が打開出来るとは思えない。
下手すると、この化物諸共撃ち殺される可能性も捨て切れないからだ。
「どうしたものかしら・・・・」
蚊の鳴くような声でぼやいたその時、作業員の首が文字通り飛んだ。
「そんな時は正義のヒーローにでも助けを求めちゃあ、どうだい?お譲ちゃん?」
ようやっと力なく倒れかけたゾンビをのけながら、小さな声でこっそりと話しかけてきた救世主の顔を彼女は直視した。
荷物の中から拝借したのであろう、先端に血と肉片を乗っけたゴルフクラブのアイアンを片手にボロボロになったジーンズと無地のTシャツというラフ過ぎる格好をした男性の姿がそこにあった。
「・・・・貴方は?」
「見ての通りのただの密航者だ。あんたと同じな?・・・・しっかし、何で俺が行く先々でBHは起きるのかねぇ・・」
もう動かなくなった骸の前で軽く十字を切りながら、男はぶつぶつと愚痴をこぼした。
「行く、先々?・・・貴方、何者?」
「言ったろう?密航者だって・・・・名前は・・いいや、偽名使うのも面倒臭ぇ。俺の名前はビリー。ビリー・コーエンだ」
「・・・・レジーナよ、よろしく、ビリー・・・悪いけど、此方は本名じゃなくてコードネームよ」
「構わないさ。ゾンビ以外の美女ならペンネームですら分かったら、儲けもんだからなw」
屈託の無い笑みを浮かべながら、密かに、そしてこっそりと蚊の鳴くような声で2人は自己紹介と挨拶を交わした。
347
:
飛燕
:2006/01/31(火) 23:40:09 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.241]
=貨物区= 〜レッドフィールド兄妹〜
クリス「ちぃっ!何だって、こんな所で・・・」
サムライエッジのマズルフラッシュがクリスの顔を照らし出した。
放たれたパラベラムは的確にクリスに襲い掛かろうとした生物・・・否。最早、生ける者ではなくなったものの頭蓋を打ち貫いていった。
クレア「分からない!・・・・それよりも皆は大丈夫なのかな?」
素早くカートリッジポケットからパラベラムマガジンを取り出すと、兄と自分に一つずつ手渡すと再装填しながらクレアは答えた。
クリス「それこそさぁな、だな!だけど・・・あいつらは、そう簡単にくたばるような連中じゃねぇのは確かだな」
足元で首と胴を真っ二つにされ、ピクリとも動かないゾンビの首元に転がっている山刀の斬れ味を確かめつつ、クリス達は最下層へと向かった。
そして、ようやく下層へ降りるための非常階段を見つけた。
クリス「まぁ、とにかくだ。合流するのが早いことに越した事は無いだろうからな。甲板でもたついちまってたジル達と合流しに向かったレオン達も今頃、無事に着いた頃だろうからな?」
苦笑しながらクレアは頷きながら階段の手摺りに手をかけようとした正にその時。
―――ポトッ―――
奇妙な落下音がした。かなりの粘着量を持った物体が、クレアが今まさに手をかけようとした手摺りの上に落下して来たのである。
思わず身じろぎし、本能的にクレアは飛び退いた。だが、それは正しかった。
―――ポタタタッ!―――
クレア「ひぃっ!?」
小さな悲鳴が上がった。
グロテスクな粘々とした奇怪な小生物が一気に落下して来たのである。
良く見るとそれは、一匹一匹が大人の拳ほどもある肥大化した蛭であった。
この粘性のある肉体はおそらくT−ウィルスの影響であろう。
クレア「ヒル?」
クリス「・・こんなのまで居やが・・」
しかめっ面でクリスはとっととその場から逃げ去ろうとしたその刹那、今度は開いた口が塞がらない事態が起きた。
348
:
飛燕
:2006/02/01(水) 00:03:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.241]
なんと、蛭が収縮・合体し始めたのである。否、どちらかというと融合とよべば良いだろう。
あっという間に人の型を成した巨大な蛭が階段の踊り場に出現した。
クリス「った・・」
クレア「嘘・・・・」
クリス「あ・・あんなの有りかよッ!?」
不快感を催す足音をたてながら蛭人間はゆっくりと此方へ振り返ると、声帯の出来ていない喉から雄叫びをあげながら跳躍してきた。
クリス「来るぞッ!」
片手にルガーB・ホーク、サムライエッジ。フルUZを夫々構えた2人は空中で迎撃出来るよう臨戦態勢に突入した。
=客室区= 〜レオンチーム〜
鷲の名を馳させた45ACP弾採用のコルト・ダブル・イーグルが咆哮を上げた。
炸薬がレオンの前髪を焦がしたのだが然して気にも留めずに、そのまま前方に群がる元船員達の額を撃ち抜いていった。
レベッカ「♪〜〜〜、レオンさん凄いw」
ピンヘッドと呼んでもおかしくないその洗練された俊敏なる狙い撃ちを、感嘆の口笛を鳴らしながらレベッカが軽く拍手をした。
が、レオンはレベッカを一瞥すると周囲の警戒に戻った。
レベッカ「あ、あれ?何か、気に障るような事を言った?」
焦るレベッカに対して一言。
レオン「・・・・特には」
レベッカ「あ、そ、そう、ですか?・・・・」
それから全く会話が続かなかった。
どうにも彼は機嫌が悪いのか、はたまた彼自身乗りが悪いのか定かではないが、一つ言える事は彼がかなりの無愛想だという事である。
349
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:09:18 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…別の平行世界では…
エジプトから帰ってきたばかりの鷲士が病み上がりの体を、なかば引き摺りながら大学に出ると、好奇の視線がまとわりついてきた。
友人A「おお、草刈か。おまえ、エジプトでバイトしてたんだって?」
友人B「いくら金欠だからって、よく行くよなぁ」
友人C「すっかり焼けてんじゃん。でも、疲労で入院してたらしいな」
友人D「戻った当日に点滴打ちながら追試だろ? よくやるよ、お前も」
そして感心と呆れがミックスされた言葉を聞くたび、彼はトレードマークと化した瞳のない笑顔を浮かべ、こう答えるのだ。
鷲士「ハハハ……ちょっと違うけどね」
ボケ青年は、結局その日も、気弱な笑いで真実を隠し通した。最後の授業が終わり、教諭が去ると同時に、机がバタン。
鷲士(……ううっ、そのうちホントに死んじゃうよ〜)
眼鏡の奥から流れた涙が、合板に水溜まりを作った。
―――草刈 鷲士。一言で言うと―――いや―――今や一言で表せるほど、彼を“蝕む”事情は単純ではなくなっていた。書き示すのも面倒なほどだ。
松井「ダーティ・フェイス? なんだい、そりゃ?」
背後から聞こえた会話の一端が、突っ伏すヘロヘロ青年の脊髄を貫いた。慌てて振り返った鷲士の瞳に映ったのは、見覚えのない人物だった。
???「……詳しくは言えないわ。ただ、聞いたことがあるかどうか教えて欲しいの」
少しハスキーな声が、淡々と訊いた。
―――白人の美女である。
背は170㎝前後。腰まであるブロンドの髪をまとめるのは、白いヘアバンドだ。髪と肌の色、上背のせいで、異様に目立つ。おまけに―――目鼻立ちもすっきりとした美人だ。同じ場所白人が何人いても、目に止まるのは、まず彼女だろう。
鷲士(……誰だろ? 留学生?)
松井「いきなり訊かれても……化粧品? あ、映画のタイトル」
困ったように顔を掻いたのは、写真部の松井。シャッターチャンスをものにするため、テニス同好会にも籍を置く強者だ。彼の狙うショットとは―――二回生以上は誰でも知っている。ゆえに、特に女性には近づこうとしない。
白人女性はイライラしたように腕組みし、
???「ある男のニックネームよ。知ってるの? 知らないの?」
松井「ニックネーム? さあ、聞いたことのないなぁ。悪いけど」
???「……そう。ありがとう」
美女はため息混じりに出口へ消え、鷲士もホッと胸を撫で下ろした。荷物をまとめて、大きめの黒いボストンバッグに放り込み、自分も廊下へと続く。
鷲士(……まいったなぁ、大学でもフェイスの名前を聞くなんて。以前、図書館メッチャクチャにしちゃったからなぁ)
背中を丸めて、ガックリ。
しかし、そのまま校舎を出てすぐ―――正門の前にいる人物に彼は顔を上げる羽目になった。
350
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:10:34 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
普通じゃない人だかり、その割に静まり返った雰囲気、中心に佇む袴姿の女性―――。相模大でこの組み合わせが意味する所は一つ。
―――麻当美貴だ。
鷲士の位置から見えたのは背中だが、前に回るまでもなかった。モデル並みの長身、腰位置の高さ―――影だけでも彼女だと分かる。体形が日本人離れしているのだ。これで顔がトホホならただのサギだが、その美貌は見る者の心を鷲掴みにして離さないから凄まじい。誰もが認める相模大のカリスマだ。
鷲士「ちょ、ちょっとごめん」
鷲士が足を踏み出したと同時に、人だかりに波が生じた。またあいつか、許せねえ、いつか殺してやる―――嫉妬の視線が背中に突き刺さる。いかにほえほえしているとは言え、自分がどう思われているか見当はつく。鷲士は身を縮めながら、前に進んだ。そして―――なんとか美貴と肩を並べたときである。
ブロロロロ……。
唐突に校門の前を、黒いリムジンがよぎった。
鷲士(……あれ?)
車影が見えたのは、ほんの一瞬―――しかし窓に映っていた影に、鷲士は眉をひそめた。よく知っている人物だったからである。
鷲士「い、今の……樫緒くん?」
美貴「うん……」
ぼんやり前を見つめながら、美貴はため息。髪に手をやった。彼女お決まりのポーズ―――この場合は、まいったなぁ、だ。
“事情”を知らない鷲士が青ざめたのは言うまでもない。
鷲士「あ、あの……どうして彼と美貴ちゃんが……?」
美貴「ん……わたし、ちょっと国を離れるんだ」
鷲士「そうなんだ? 旅行?」
美貴「……うん。麗華とね。憶えてる」
鷲士「も、もちろん。カト女時代からの美貴ちゃんの親友でしょ? 懐かしい名前だなぁ、ファミレスのバイトやめてから会ってないんだよね、ぼく」
美貴「その麗華が、面白い祭りがあるから見に行こうって。まあ、詳しいことはまだ訊いてないけどね。とにかく海外に出るから、身の回りのこととか……いろいろと注意しておこうと思って、それで樫緒を呼んだんだ。なのに……」
鷲士「なのに?」
美貴「あの子ったら……あなたはすぐに道に迷うから気を付けて、とか、水が違うから胃腸には注意しろ、とか、短気だから余計な揉め事に首を突っ込むな、とか、それはもうネチネチひどいんだよ。どっちが注意されてるんだか分からないって言うか」
鷲士「は、ははは……か、彼、心配性だから」
美貴「“片割れ”に至っては、ウザイから電話でいいよって、顔すら見せようとしないし。毎日ここに来てるくせに、もう」
と美貴は大きなため息をついた。鷲士の冷や汗が、止まるはずもない。
鷲士「あの……だからどうして2人が美貴ちゃんと?」
美貴「どうして?」
麗女の眉間に、シワが寄った。
美貴「なに言ってるんだ、決まっているじゃないか。わたしはあの子たちの母―――」
振り向いた美貴だったが、声を失った。
幽霊みたいに景気の悪い顔と、視線が重なったからである。
351
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:11:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美貴「う……うわわっ! 鷲士っ!?」
美貴はたっぷり3mは後退った。やっと気付いたらしい。
美貴「ど、どうしたんだ、こんなところで! なにか用!?」
鷲士「えっ? いや、たまたま偶然見かけたものだから…それより、あの……やっぱりあの子達とは知り合い……?」
美貴「えっ? いや、あの、その……ほら、たまに来るし!」
鷲士「そ、それだけ?実は前から知ってたんじゃないのかい? だってあの子たち、ただの知り合いに呼ばれたからって、わざわざ来るような性格じゃ……!」
美貴「そ、そんなこと言われてもっ……!」
鷲士は青ざめたまま、一方の美貴は赤くなった。強風が吹けば、キスもアクシデントにしてしまえる距離である。
やがて、ギャラリーの視線に、殺意に近いものが混じり始めた矢先、
鷲士「あ、あの……美貴ちゃんって、ひょっとして、僕があの子たちの―――」
美貴「うっ、うるさーーーーーーいっっっ!」
例によって美貴の逆ギレ爆弾が、中庭に炸裂した。目線の位置にある鷲士の襟元を、弓懸そのまま引っ掴み、
美貴「鷲士っ、キミね、いちいち細かいぞっ! 女のプライバシーを根掘り葉掘り―――感心しないな! そういうの、男らしくないんだよ!」
すると外野の1人が青い顔で、
学生「オイオイ、今の……根掘り葉掘りって言うほどのもんか?」
美貴「そこっ、うるさいっ!」
噛みつきかねない形相で喚くと、美貴は鷲士に向き直った。
美貴「男はね、黙って構えてればいいんだ! それを細々……情けない! 答えろ、草刈鷲士、そんなに女の過去が知りたい!?」
鷲士「いや、そのっ……! 僕が知りたいのは、美貴ちゃんのことより、あの子たちとの繋がりって言うか……」
これがちょっとまずかった。麗女の美貌から、完全に照れが引いた。代わりに―――青筋が。
美貴「……ちょっと待って。今の、聞き捨てならないな」
鷲士「は?」
美貴「美貴ちゃんのことって言うより、あの子たち……? なにそれ? じゃあわたしって、あの子たち以外の存在でしかないってこと……?」
陰鬱に睨み上げられ、鷲士は、ひぃ、と身をよじった。
鷲士「い、いやっ、ぼくっ、そんな恐ろしいことを言うつもりは!」
美貴「お、恐ろしい!? もう許せない!」
と鷲士の首をギュー。もうメチャメチャだった。
352
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:33:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…その平行世界でのヨーロッパでは…
=コナヴリ村=
重い扉を押し開けた瞬間、濃密な血の香りが押し寄せてきた。
礼拝堂の奥から吹き付けてくる腥い風に顔をしかめながらも、サーシャは手にした銀の燭台をもう一度握り直すことを忘れなかった。掌の汗が、じっとりと気持ち悪い。
頼りなく揺れる燭台の炎は、そこかしこにわだかまった邪悪な闇を浮き出させ、濃密な瘴気にも似た影は、意志ある者の如く、勇敢な少女を見下ろしている。
ここは、サーシャにとって、洗礼式から15の年になるまで、毎週のように足を運んでいた場所である。にも拘らず、今夜の礼拝堂は少女が始めて見る顔で闇の中に沈んでいた。
サーシャ「聖母さま、お守り下さい。お守り下さい。聖母さま……」
サーシャは、兄を除けば、村一番の勇者だった。
臆病者な村人どもは、“奴ら”が現れるや全てを諦めて家に閉じこもってしまった。村長である父も、ニンニクやサンザシを撒いた屋敷に籠もって息をひそめている。“奴ら”にさらわれた婚約者を奪回しようとする兄に助勢を申し出る者もいなかった。
3日前、“奴ら”の居座る教会に乗り込もうとした兄にサーシャも同行しようとしたのだ。だが、兄はそれを静かに拒んだ。自分の留守中、両親を守るように言い置いて、単身出発し―――そして、戻らなかった。
サーシャ「主よ、私をお守り下さい。聖母さま、私をお守り下さい……」
礼拝堂の闇を慎重に透かし見ながら、サーシャは一歩一歩足を進めていった。不吉な創造の中から伸びてきた冷たい手が肩を叩く。瞬きすることを忘れた目はちかちかと痛む。
床板の軋る音がすぐ側で聞こえたのは、サーシャがからからに乾いた唇を舐めた時だった。
サーシャ「だ、だれっ……?」
突き付けた燭台の光にゆらりと浮かび上がった巨大な女の影に、サーシャは危うく腰を抜かすところだった。思わず3歩後退ったところで、その女性が腕に幼子を抱えていることと、優しげな微笑みを浮かべた顔が白大理石で造られていることをようやく見てとる。
サーシャの口から安堵の吐息が漏れた。
サーシャ「び、びっくりした……おどかさないでください、聖母さま」
まだ心臓は動悸を打っていたが、膝の震えはかろうじて抑えることに成功して、サーシャは額の冷や汗を拭った。村の守り神でもある聖母像に軽口叩いてから、ふと背後に向き直る―――今度こそ、サーシャの心臓は止まりそうになった。
ベンチに2つの影が座っていた。
マリス「おや、誰かいらっしゃったようよ、ミリス」
ミリス「マリス、紛れ込んだのは可愛い小鳥」
顔を見合わせて微笑んでいたのは、2人の女だった。
女たちは、まったく同一人物に見えた。雪華石膏<アラバスター>のような白い美貌も腰までもある長い金髪もまったく同じ。そろそろ雪が降り始める季節というのに、これまた揃いの薄いシルクのドレスを纏っている、違いと言えば、唇に引いたルージュの色が、片方が薄桃色であることに対し、もう一方が紺色であることぐらいだ。
琥珀色の瞳を閃かせて、薄桃色の唇が囁いた。
マリス「ミリス、弱ったわね。せっかくのお客様なのにお茶の準備も出来ていない。サモワールはどこに置いたかしら?」
クスクスと笑いながら、わざとらしく周囲を見回す女に向かって、サーシャはぶんと燭台を振り回した。
サーシャ「あ、あ、兄上をどうした、この化け物ども!」
揺れたロウソクの炎にあわせて、3つの影が奇怪な生き物のように踊る。内心、それに怯えながらも、少女は渾身の力をふるって叫んだ。
サーシャ「私はコナヴリ村郷士カスパレクの娘サーシャ! 兄上の仇討ちに来た! いざ、尋常に勝負しろ!」
353
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:34:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ミリス「兄上? ひょっとして、この小鳥ちゃんが言っているのは、あの勇敢な雄鶏くんのことなのかしら、マリス?」
蠱惑的に蠢く薄桃色のルージュが囁いた。
マリス「ああ、3日前に私たちに聖書を読んでくれたあの雄鶏くんね」
サーシャ「せ、聖書ならここにもあるぞ! 十字架も!」
左手に持った聖典と首にかけたロザリオを示して、サーシャは怒鳴った。その間も、激しい恐怖に膝が笑っている―――怖い。心臓が凍り付きそうに怖い。
婉然と微笑んだまま、謳うように会話を交わす女たちの姿は闇の精霊のように美しかったが、サーシャはその姿に惑わされなどはしなかった。この美しい女たちは“奴ら”なのだ。数日前に、この村に突如出現した人類の天敵。“影這う者ども”、“夜の眷属”、“闇の住人”等々、数多くの異名をもって呼ばれるおぞましい魔物。中でも最も知られた名は―――
サーシャ「吸血鬼<ヴァンパイア>ども! さあ、覚悟して、その首を差し出せ!」
ミリス&マリス「あなたのお兄さんはとっても美味しかったわ、小鳥ちゃん」
甘い声は、直接、両耳の耳朶に吹き込まれた。
2つの手に両肩を掴まれ、サーシャの顔は霜でも降りたかのように真っ白になった。確かにベンチに座っていた筈の影が、目の前から消えている。まるで瞬間移動でもしたかのように、2人の化け物たちは勇敢な少女の背後に立っていた。
マリス「一生懸命、聖書を読んで……」
ミリス「十字架を突き付け……」
マリス「それから泣いて命乞いして……」
ミリス「結局、私達のご飯になった」
かわるがわる囁かれる声に、サーシャは答えることすらできなかった。凍り付いたように立ち尽くす少女の手に氷のように冷たい指が巻き付き、銀の燭台を床に落とす。
マリス「この小鳥ちゃん、兄よりは賢かったわね、ミリス。用意がいい」
ミリス「そうね、マリス。忌々しい銀……私達は太陽の次にこれが嫌い」
紺色のルージュの女は見るのも汚らわしいといった顔で、落ちた燭台を礼拝堂の隅に蹴り飛ばした。床に倒れた蝋燭が消え、あたりに闇が戻ってくる。
マリス「怖がらなくてもいいわ、小鳥ちゃん。あなたも愛しい兄さまのところに行くのだから」
裂けた薄桃色の唇から、八重歯にしては長過ぎる輝きと、ねっとり甘い声がこぼれた。
ミリス「さあ、小鳥ちゃん、あなたのお味はどうかしら」
窓から射し込む微かな月明かりの中、紺色の唇が、そっと少女の首筋に重なった。白々と光る牙が、初々しい柔肌にゆっくりと埋められる―――
氷のような輝きが、闇を裂いたのはそのときだった。
354
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:34:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ミリス「!」
紺色のルージュの吸血鬼<ヴァンパイア>が、この世のものとは思えぬ悲鳴とともにのけぞった。その手に深々と突き立っていたのは、何の変哲もないロザリオだ。いかなる力で投げつけられたものか、別段鋭いとも思えぬ十字架が、手の甲を貫いて掌まで抜けている。
マリス「ミ、ミリス」
苦鳴をあげる妹を抱きかかえながら、薄桃色ルージュの吸血鬼―――マリスがきっと振り返った。瞬かない瞳が、底知れぬ悪意を込めて細められる。
マリス「誰、そこにいるのは? 私達の食事の邪魔をする愚か者が、まだこの村にもいたのね……」
天窓の向こうには、青い夜空が見える。その南天から地上を見下ろす月の光の下、忽然と佇んでいたのは背の高い影だ。
???「……あいにくと、私は村の人間ではありません」
影の声は静かだった。
???「吸血鬼マリス・ザドロフシュカ、同ミリス・ザドロフシュカ……父と子と聖霊の御名においてあなたたちをコナヴリ村における22件の殺人および血液強奪容疑で逮捕いたします」
ミリス「誰だ、貴様は―――!」
月光に照らしだした影にミリスが牙を剥いた。影―――背の高い男のまとう黒い僧衣に同色のケープ。そして、その胸に輝いていたのは金色のロザリオだ。
ミリス「神父…?」
???「ああ、申し遅れました。私はあなた達を取り締まるために存在する某組織より派遣されて参りました……」
場違いなほど丁寧な自己紹介は、何かが肉を穿つ湿った音に遮られた。
男の背中に深々と突き立っていたのは、最前、吸血鬼の手を貫いたロザリオだ。いつの間に移動したものか、その背後に立っていたミリスが毒々しい怒りを含んで吐き捨てた。
ミリス「人間の分際で、よくも私の体に傷を……死んで償え、イヌ!」
ヒグマ以上の怪力を誇る繊手が優雅に動くと、ロザリオは根本まで埋まった。心臓の筋肉が弾ける不気味な音が響くと同時に、長身の男の膝ががっくりと折れる。青い月光の中に吹きあがった血飛沫を白い美貌に受け、満足げにミリスは微笑んだ。
ミリス「他愛もない……この前の雄鶏くんといい、こいつといい、身の程知らずのお馬鹿さんたちは人間<自分>と吸血鬼<相手>の力量差ぐらい計ることができないのかしらね、マリス」
マリス「どうでもいいけど、そんなに床を汚さないで頂戴、ミリス。責任取って、そっちの血はあなたが処分するのよ」
復讐と血の香りに酔いしれる妹にさりげなく後始末を押し付け、マリスは腕の中の少女に目を落とした。勇敢な小鳥は、目前に展開された惨劇に白目を向いて失神していた。
マリス「さて、私はこちらの小鳥ちゃんをいただくことにするわ」
白い顔にこぼれた髪をそっと書き上げて、マリスは笑った。人間にしてはまあまあの美形だ。さぞや、血の方も美味だろう。
戸口の方からも、牙が肉を抉る響きに続いて甘美な命の水に妹が喉を鳴らしている音が聞こえてきた。獲物の血がよほどに美味だったのか、熱い吐息さえこぼれてくる。
マリス「半分は私に残しておいて頂戴、ミリス」
こちらも少女の首筋から髪を払いのけながら、マリス妹に提案した。
マリス「こっちの小鳥の血も半分残しておいてあげる。公平に交換しましょう」
???「……いや、それはできませんね」
静かに聞こえてきた声は、妹<ミリス>のものではなかった。
???「私は偏食家でしてね……その娘さんの血はいただけません」
マリス「!?」
とっさに振り返ったとき、マリスの目に飛び込んできたのは、まるで人間のように恐怖に目を開いた妹の姿だった。悲鳴をあげる形に開かれた紺色の唇からはか細い吐息がこぼれ、ただでさえ白い顔は紙のように白ちゃけてしまっている。だが、吸血鬼を驚愕させたのは、妹の姿ではなかった。彼女の喉に覆い被さった長身の影は―――
マリス「ば、馬鹿な……なんだ、こいつは!?」
接吻するかのようにミリスの首筋に重ねられたそいつの唇から、赤い液体が糸を引いていた。それは、マリスにとってはごくごく見慣れた光景だった。だが、こいつが吸っているのは―――
マリス「馬鹿な! こ、こいつは、血を……我等の血を!」
???「……さて、こういうことを考えられたことはありませんか?」
失血と恐怖で力を失ったミリスの体を床におろしながら、それはどこか哀しげに笑った。だが、三日月形に割れた唇から覗いたのは、紛れもなく鋭い牙だ。
???「牛や鶏を人間が食べる。その人間の血をあなたたちが吸う。だったら、あなたたちを……」
マリス「そうか、噂に聞いたことがある……最近、人間でも吸血鬼でもない化け物が我々を狩っていると。そいつは、よりによって我等の血を……」
恐怖に牙を震わせる吸血鬼に向けて歩み寄りながら、それは少しだけ悲しげな声で名乗った。
???「私は…………。吸血鬼<ヴァンパイア>の血を吸う吸血鬼<ヴァンパイア>です」
355
:
飛燕
:2006/02/05(日) 22:30:19 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.104]
時間軸は再び、此方の世界へ戻って・・・。
=客室区= 〜レオンチーム〜
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「あ、あの・・・」
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「す、スミマセンが・・・・」
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「あの・・もしもし?」
先程から鉄鉱石のように堅い口が微動だにしないので、言葉のキャッチボールが続かずこの気まずい雰囲気をどうしようと真剣に悩んでいたレベッカだったが、その件の”岩”が言葉を発してきた。
レオン「・・・レベッカ」
レベッカ「は、はい?!」
レオン「・・・・何か・・・・聞こえないか?」
何時の間にか耳に手を当て周囲を見回すレオンに倣い、自分も耳をすませてみた。
すると下から何か聞こえてくるではないか。
ズル・・・・ズルルル・・・・・
何か巨大な物を引き摺っている音が足元から聞こえた。
しかも、この音・・・レベッカには聞き覚えがあった。
この鱗を壁や床に擦り付けて移動する異音・・・。
以前の洋館事件において、その圧倒的な巨体でジル達を苦しめてきた爬虫類系の異形の化物。
レベッカ「こ、これは・・・・もしかして・・」
レオン「?知っているのか?」
レベッカ「・・・・レオンさん、爬虫類は大丈夫ですか?」
冷ややかな表情の堅物が答える直前、レオン達の前方の床が爆発した。
否、強力な力で無理矢理したから押し出したので弾けた、という方が言葉として正しいだろう。
毒ヘビ特有の三角にとがった頭。
妙な光沢がある意味で栄えて見える爬虫類特有の鱗。
そして巨大過ぎる体躯。
洋館事件においてジル達を苦しめた毒蛇のB.O.W.。
ヨーンと呼称された巨大蛇が舌を鳴らしながら獲物を探していた。
レオン「・・・・そういう事か」
レベッカ「・・・そういう意味です・・・・」
狭い廊下という圧倒的不利な体制での人間対巨大毒蛇の戦いの幕が今、切り落とされた。
356
:
飛燕
:2006/02/05(日) 22:31:42 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.104]
=甲板= 〜ジルチーム〜
がらんどうとした甲板に脳天を撃ち抜かれた死体と、3人の男女の姿があった。
彼等こそ、レオン達が合流すべき人物達である。
鳳鈴「でも・・・・まさか、船長室まで駄目だったとはね・・」
カルロス「こうなると・・・・生き残りは俺達だけだと考えるべきだろうな」
ジル「そうなると・・・・やっぱり船操室に向かうしかないわね」
船長も船員すらも蠢く幽鬼と化している今、このまま船を放置しておくわけには行かない。
港町に突っ込むとかならまだしも、コンビナートなんかに突っ込まれたら洒落にもならない。
カルロス「まぁ、船が操作出来るかどうかは、合流して来るだろう皆に尋ねりゃ良いだろ?とりあえず、こんな所でだべってないでさっさと先に進もうぜ?」
ジル「そうね・・・・行きましょう、鳳鈴」
先程から上をじっと見つめている女性に声をかけた。だが、何時まで経っても返事が来ない。
不審に思ったジルが再度、声をかける前に鳳鈴の口が開いた。
鳳鈴「・・・2人共、あのメインマストのところの・・・・何に見える?」
カルロス「・・・・剣、か?」
ジル「・・・・剣、ね?」
メインマストの手前辺りに<浮いて>存在する凶々しき姿をした大両刃剣が目にとまった2人は、訝しげな視線を送った。
それこそ、時空を飛び回り、そして自らの下僕を増やす為にこの場所、この時間を選んで空間転移して来たツルギ。
この世界において10世紀末まで語り継がれてきた魂喰らいの邪剣、ソウルエッジであった。
カルロス「おいおい、近代RPGの次はいよいよ勇者様のご登場ってワケか?」
何故か自分達の向かう所、謎解きやら仕掛け有りが多いのでRPGに見立てているのだろう。
鳳鈴「少なくとも、勇者が使うような剣じゃないのは確かね・・・・」
無表情に鳳鈴が邪剣に対する意見とカルロスへの突っ込みを述べた。
ジル「そうね・・・・何か、邪々し過ぎるもの」
カルロス「そいつぁ、言えてるな。どちらかというと、ありゃぁ魔王とかそういうのが使ってそうなものだな」
鳳鈴の鋭い視線を苦笑いで緩和させながら、カルロス達は何気なく視線を剣に視線を戻そうとした刹那、赤い何かがジルの前髪を掠めた。
ジル「!?」
カルロス「ジルッ!」
第2撃が来る寸前、カルロスがジルの脇腹に手をかけて一気に引き寄せた。と、同時に鳳鈴の手元でマズルフラッシュが奔った。
鳳鈴「赤いゾンビなんて・・・・見た事無いわね?」
それは全身の皮膚の染色体が赤色化しきり、爪が異様に長い腐乱死体であった。
但し、動きは並みのゾンビの動きよりも明らかに早いものだったが。
現に、鳳鈴のパラベラムは全弾が空を切り裂いて後方のブリッジの硝子に虚しく激突し、当たる筈のゾンビには一発も掠りもしなかったのである。
ジル「クリムゾンヘッドっ!?何だってこんな場所で・・」
カルロス「気をつけろ、鳳鈴!そいつぁ、リッカー並みにすばしっこいぞ!」
口から硫黄臭のような臭い黄色い吐息を出している化物の存在を知っていた2人は思わず顔を見合わせた。
鳳鈴「ご忠告どうも・・・・で、何時まで見せつけているつもり?」
ジル「へっ?」
言われて自身の今の状況を改めて確認してみた。
ジルを抱き寄せるように引っ張ったカルロスだったが、勢いが強すぎてそのまま転倒してしまったところまでは覚えている。
それは丁度、ジルがカルロスを押し倒したような状態に見えなくもなかった。
カルロス「・・・・ジル、幾らなんでも朝っぱらからヤろうなんて・・」
真面目な顔で中々質の悪いジョークを飛ばすのだから、された方にしてみれば怒らないほうがおかしいものである。
ジル「何を言ってるのよ!馬鹿っ!」
頬をやや赤らめながら、自分の持つサムライエッジのグリップでカルロスの横っ面を思いっきり引っ叩いた。
カルロス「ぐおっ・・・・・き、凶器は無しだろ?・・」
鳳鈴「漫才してる暇が有るのなら、こっちを手伝いなさい!」
爪を滅茶苦茶に振り回し、周囲のコンテナやら手摺りをバターのように切り裂いていく紅の幽鬼に銃弾を叩き込みながら鳳鈴が一喝した。
357
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:52:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…
=上空=
ヘリが爆音を撒き散らしながらスペンサーレイン号を目指して飛んでくる。このヘリに刻まれた赤と白の傘のマークそして、機内にはある部隊が乗っている。
その名はオメガチーム、U.B.S.S.<アンブレラセキュリティサービス>の特殊工作部隊である。その主な目的は、アンブレラの幹部クラスの警護またはアンブレラに仇なす企業や組織の壊滅などである。
パイロット「あと3分で目標地点だ。」
パイロットが指示する、オメガチームの今回の任務はスペンサーレイン号に集結するS.T.A.R.Sの殲滅と『ソウルエッジ』とかいう剣の回収だ。
今まで、アンブレラを手を焼いてきた存在の一つであるS.T.A.R.S…今までB.O.W.や他の工作員を送り込んで何度も始末を試みたが、それも失敗に終わっている。
そして、そのS.T.A.R.Sの中でもレオン・Sケネディを初めとする主要メンバーが、この船に乗り込んだことを掴んだ上層部は、現会長レイリーの承諾を得て、U.B.S.S最強部隊のオメガチームの派遣を決定した。
しかし、一つだけ疑問の残る命令も共に下された。それは、『ソウルエッジ』という邪剣の回収である。それは前代未聞の命令だった…自分たちが今まで受けてきた命令は、敵対組織の要人の始末や会長を初めとする幹部達の警護のみ…そのような訳の分からない剣の回収しろなどと、上層部は一体何を考えているのか?
そのことに関する疑問は、あとで会長か社長のどちらかに直に問いただすしかあるまい…そう判断して、彼らは黙って任務を引き受けたのである。
そして…その部隊を取り仕切る男…『死神』の異名を持ち、仲間からも一目置かれ、恐れられる者…オメガチーム隊長ハンクがメンバーたちに向かって今回の作戦の確認をしている所だった。
ハンク「いいか。今回は我々にとっては史上初の海上での任務だ。作戦をもう一度確認する。
いまからちょうど2分後開始。俺とⅠⅩとレムレス、クラウドはスペンサーレイン号に潜入。目標はあくまでS.T.A.R.Sだ。B.O.Wとは極力戦闘を避け、船内の何処かにある『ソウルエッジ』を回収する。マタイとディートリッヒは上空に待機、甲板にS.T.A.R.S隊員を一人でもいれば即座に上空から攻撃し、射殺すること。
そして、我々の方は船内のS.T.A.R.S隊員を殲滅とソウルエッジを回収次第、謎のバイオハザードが発生しているスペンサーレイン号に爆弾を設置。5分以内に船内に格納されているボートを使い離脱。離脱した我々をマタイたちが回収する。以上だ。なにか質問は!?」
その時、この場にいる者たちの中で一際美しい顔をした青年……ディートリッヒと身の丈程ある大剣を抱えた金髪の兵士……クラウドが手を挙げた。
358
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:55:42 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ディートリッヒ「船内のバイオハザードレベルは?」
ハンク「船に発生した今回のバイオハザードは発生したばかりだが、船員は全てクリーチャーの餌食にされたらしく連絡がない。したがって詳しいレベルは不明なままだ。」
ディートリッヒ「了解。まったく、この前敵対勢力の一つを潰したばかりだってのに……僕達に休みはないのですか?隊長さん」
ハンク「S.T.A.R.Sやハイブのような敵対勢力の動きが活発になっている現状では、それはしばらく望めないだろう」
ディートリッヒ「そうですか」
ディートリッヒは肩をすくめ、ため息をつく。
ハンク「クラウド、お前は?」
クラウド「この任務の目的の一つであるソウルエッジ…俺達はそれに関する説明をほとんど受けていない……あんたは何か聞かされているのか?」
ハンクに対して、二人の態度はまるで人を舐めたような口の利き方に近かった。それは無理もない、オメガチームの隊員たちはハンクとレムレスとⅠⅩ<ウーヌス・イクス>、マタイを覗けば、実力を買われて雇われた傭兵のようなもの…特にディートリッヒ、クラウドの2人は前会長のオズウェルに特別な契約をして、関係上はあくまで対等な立場であることが条件とされているからである。
ハンク「俺もお前と似たようなものだ……ただ、今まで検出されたことのない特殊なエネルギーの源であり、それをものにできれば強力なB.O.Wの開発を安易に行えるようになるという以外の説明はされていない」
ハンク「他には?…よし、もう少しで到着する。降下準備!」
一同「了解」
ハンク (S.T.A.R.Sか…連中と直接やり合うのは初めてだが、アンブレラが何度も仕留め損なっている連中…そしてあのニコライが舐めてかかるなと言っていた程だ……果たしてどれほどのものか……)
ハンクは無意識のうちだが、この時既に予感していた。それは自分が今まで経験してきた闘いよりも大きな戦いの始まりであることも…
359
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:56:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、あの平行世界では…
陽は落ちて―――夜。中央駅のガード下にある居酒屋『あばんぎゃるど』からは、相模大生たちの笑い声が盛大に漏れ聞こえていた。
学生「はーい、注目! つーワケで―――ドイツから相模大の教育学部にやってきた、ノイエ・シュライヒャーさんでーす!」
奥の座敷でトレーナーのロン毛が言うと同時に、金髪の美女が立ち上がった。高い鼻にはバンドエイド。実は先刻、鷲士がなんとか怒りが静まった美貴と別れた直後、その鷲士の前を通りかかっていた彼女に、友人の学生から声をかけられた鷲士が振り返った際に、手に持っていたバッグを顔面に叩きつけてしまったのである。
ノイエ「……ノイエです。19歳です。お酒は飲めないので、よろしく」
メチャメチャ不機嫌そうに低頭すると、すぐに腰を下ろす。
鷲士「あの、ごめんね、ホントに。大丈夫?」
心配そうに声をかけた鷲士を、青い双眸がねめつけた。
ノイエ「……大丈夫じゃなかったわよ! いったいなんなのよ! この国の人間は前見がないの!? 大人も子供もガチンガチン―――それになに入れてるの、そのバッグ!? 鉛の塊!? すっごく痛かった―――当たり所が悪かったら、死んでたわよ!?」
鷲士「アハハ……ちょ、ちょっと知り合いの預かりもの入れてて!」
この気弱な笑いがまずかった。
留学生は青筋をクッキリ浮かべて、鷲士の襟を掴み、
ノイエ「アハハって……人にぶつかってなにヘラヘラしてるのよ……! 悪いことをしたって自覚がないの……!? これだから腹が立つのよ、日本人って……! 言いなさい、おかしいのは私の顔……!? それともあなたの頭かしら……!?」
鷲士「ぼぼぼ、ぼくの頭です、はい!」
殺意も露骨な剣幕に、鷲士は青ざめた。歓迎コンパやるからメンツを揃えよう―――そう呼び止められたのに、メインゲスト本人をブチのめしてしまったのだから、立場がない。ずっとこの調子である。
―――ノイエ・シュライヒャー。
それが、碧眼猛女の名前だった。
ベルリン大で神学と教育学を専攻。既に卒業資格を得ているというから、ある種の天才である。しかし机上の知識だけでは意味がないと、大学に籍を置いたまま、ボランティアや施設での活動に従事。日本にやってきたのも、この国のすさんだ教育の様子を実施で研究するのが目的だとか。確かに美貴が心配するほどの美女だが―――出会いがこれでは、万が一にも、いい関係になることはあるまい。手を握ろうとしただけで殺されるのがオチだ。
360
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:57:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
やがて身内の会話も落ち着いた頃、今日の幹事・青木が、
青木「でもさ、ノイエちゃんって、ホントに日本語うまいよな!」
ノイエ「……祖母が戦後の混乱期に、この国にいたので」
目を閉じ、淡々と、ノイエ。人を寄せ付けぬ雰囲気だ。
今度はパソ研の後藤が、汗を拭きつつ、
後藤「あの、ノイエさん、雪肌つーかさ、ホントに真っ白だよね!」
ノイエ「……白人だから」
さらにさらに相撲部の三船が、慎重に言葉を選んで、
三船「えっと……だから、その……目が青いよな、うん!」
ノイエ「……黒い方が良かったかしら?」
そして最後に鷲士が、きわめて遠慮がちに、
鷲士「アハハ……でも、奇麗だね、その髪飾り。バレッタって言うんだっけ?」
ノイエ「……あなたには絶対にあげないわよ」
―――ヒュ〜
飲み屋の中だというのに、妙に薄ら寒い風が、彼らの間を横切った。場が凍てつくとは、まさにこのことである。
やがてノイエがため息混じりに、
ノイエ「……アオキさん? そろそろ話を聞かせてもらえる?」
青木「えっ? な、なんのことだっけか?」
ノイエ「……フェイスよ。ダーティ・フェイス、顔のない男。あなた、彼についてなにか知ってるんでしょう?」
この言葉に、二人の男が凍り付いた。
1人は、草刈鷲士。もう1人は―――当の青木だ。
青木「う、ご―――ごめん! へへへ、実は俺も大したネタ持ってるワケじゃなくてさ!」
ノイエ「……なんですって?」
青木「えっと……ほら、ウチの図書館って、妙に新しいだろ? あれってちょっと前に、深夜にサイコ野郎が車で突っ込んできて、銃やバズーカ撃ちまくって粉々にしちまったからなんだけどさ。海外じゃ有名な連中の抗争って話もあって、あとでケーサツが聞き込みに来て。その時に刑事の口から出たのが―――」
ノイエ「……ダーティ・フェイス? 改造された黒いランボルに、背の高い男? その話なら知ってるって言ったはずだけど? まさか、それだけ?」
怒りを押し殺した眼差しで、ノイエは言った。
ああっ、すいません、僕が私本を持ち出したのがいけないんです―――と小声で煩悶する鷲士の横で、青木ははぐらかすように、
青木「ご、ごめん! でもさ、そうでも言わないと、来てくれなかったろ? とりあえず、今はンなことどうでもいいじゃん。パーッと―――」
静かに言うと、ノイエ・シュライヒャーは立ち上がった。
美貌が怒りと軽蔑で染まっている。
「……連日のバカ騒ぎに、意味があるとは思えない会話。平気でウソをつくその軽薄さ。あなたたち、本当に大学生? いつもヘラヘラ笑ってるのはなに? 民族的な画面神経痛? 日本人はそれでいいかも知れないけど、わたしはお断り。 1秒たりともこんな場所にはいたくないわ。さよなら」
吐き捨てると、パンプスを履き出し、出口へ。
ガラガラガラ―――ピシャ!
これには、残された全員が呆気にとられた。
361
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:57:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
青木「……す、すげえな。麻当を越えてるぜ、ありゃ」
後藤「麻当は普段はクール―――不条理攻撃は草刈相手のときだけだからな〜。しっかしウチのガッコのいい女って、なんで尖ってるのばっかなんだろーね?」
三船「あれは露骨に日本人に偏見持っているよなぁ」
揃ってため息である。
だが、すぐに顔を上げることになった。
―――ガラガラガラ。
引き戸を開け、ノイエが戻ってきたのだ。碧眼の美女は、やはり露骨に不機嫌そうに、
ノイエ「ちょっと、あなた―――シュージって言ったかしら?」
鷲士「ぼ、ぼく?」
青い顔で立ち上がる青年に、ノイエは重々しく頷いてみせた。
362
:
藍三郎
:2006/02/11(土) 14:46:07 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
・・・ここで時は、昨日の深夜へと遡る・・・
女「はぁ・・・はぁ・・・」
人気の無い夜の通りを、息を切らせて走る人影がいた。
年齢20代後半程度のOLらしき女性である。
彼女は何かから逃げるように、絶えず背後を気にしながら夜道を駆け下っていた。
その顔はいびつに歪んでおり、何か尋常ならざる物への恐怖で満ち満ちていた。
残業で遅くなった彼女は、家への近道であるこの人気の少ない通りを歩いていたのだが・・・
そこで彼女は、“恐るべきモノ”を目撃してしまった。
この現代に生まれ出でるはずが無い、異形の存在。
“それ”は、明確な殺意を持って、彼女に襲いかかって来た。
今彼女は、その“恐怖”から必死で逃げているのである。
女「・・・?」
無我夢中で走っていた彼女だが、ふとここで違和感を覚えた。
先ほどまで自分を追っていた者の足音が、聞こえなくなったのだ。
ここまで逃げればもう大丈夫か?心の中にかすかな安心感が芽生えたその時―――
???「グォォォォォ!!!」
獣じみた唸り声と共に、“それ”は女の正面に飛び降りてきた。
うまく逃げおおせたつもりだったが、どうやら回り込まれたらしい。
女「きゃぁぁあぁぁぁあああぁぁ!!!」
追跡者の姿を再度目にした女性は、あらん限りの悲鳴を上げる。
“それ”は、蝙蝠を人間サイズにしたような化け物だった。
この怪物こそ、4年前に世界を危機に陥れ、
今また現代に蘇った不死生物・アンデッドの一体、『バットアンデッド』だった。
腰を抜かした女性を標的に定め、バッドアンデッドは一歩一歩近づいていく。
女は逃げようと思うも、全身を包む恐怖で身動き一つ取れない。
新たな犠牲者が生まれようとしたその時・・・
バァン!!
静寂の夜に、一発の銃声が鳴り響いた。
それと同時に、バットアンデッドの体に火花が散り、肉の一部が弾け飛ぶ。
バッドアンデッド「!!?」
予期せぬダメージを喰らい、うろたえるバットアンデッド。
銃声がさらに三発轟く。
銃弾は、性格無比にアンデッドの頭部、胸、翼を射抜いていく。
さすがの不死生物でも、耐えきれぬほどのダメージを受け、バットアンデッドは大きくよろめく。
一陣の強風が、あたりを駆け抜ける。
それと同時に、女性とアンデッドの間に“何か”が割って入ってきた。
それは、血のように赤い、真紅の布のような物体・・・
いや、正確には紅いマントを身に纏った“何者か”だった。
俊敏な動きと共に、マント風がなびく様は、
闇夜に彷徨する幽霊(ファントム)を彷彿とさせる。先ほどアンデッドを銃で狙撃したのは、この“紅い幽霊”である。
紅い幽霊は、身に纏ったマントの隙間から、再度数発銃を発射する。
追撃の銃弾を浴びせ、アンデッドの動きを完全に封じる。
そして、幻影のようにアンデッドに殺到すると、
真紅のヴェールで敵の体を包み込む。
そして、敵手を包んだまま、月が昇る夜空へと飛翔して行った。
二つの怪奇なる者たちが去って行った後・・・
この場には、恐怖と驚愕で緊張の糸が切れたままへたりこんでいる女性と、静寂だけが残された。
363
:
藍三郎
:2006/02/11(土) 14:47:12 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
そして、この事件の数分ほど後・・・
とある建物の屋上に、一人の男が立って夜風をその身に受けていた。
肩まで伸ばした黒い髪と、身に纏った真紅のマントが風になびく。
年は20代ごろ。まず美男子と呼べる顔つきをしていたが、
その瞳は血のように赤く、人を寄せつけない冷たい雰囲気を身にまとっていた。
男は先ほどからずっと、手にした一枚のカードを目にしていた。
表面に絵が描かれた、トランプ大のカードである。
不気味な蝙蝠の絵が描かれており、スートはダイヤの8である。
やがて、男はカードを懐にしまい、代わりに携帯電話を取り出す。
???「タチバナか・・・私だ。
指示通り、ダイヤのカテゴリー8“バットアンデッド”を捕捉・・・再封印に成功した。
これより回収したラウズカードをお前の元に送り届ける」
“ターゲット”撃破の報告を、電話の向こう側の相手に送る。
???『ご苦労。夜分遅くにすまなかったな。
位置的に、志村たちを向かわせるより、お前に動いてもらう方が確実だったのでな』
???「気にするな。これも契約の範囲内・・・
私としては、報酬さえ支払ってくれれば何も問題ない」
???『ああ。約束の報酬はすぐに、指定の口座に振りこんでおく』
???「わかった・・・」
簡潔に要件のみを伝えた後、電話を切る。
そして、夜の闇へ包まれた街なみへと目をやる。
夜はいい。ほどよい闇と静寂が、自分の心を落ち着けてくれる。
しばし夜風に当たっていたかったが、回収したカードを依頼主の元へと届ける仕事がまだ残っている。
携帯電話をカード同様懐にしまいこむと、
謎の傭兵・・・『ヴィンセント・ヴァレンタイン』は
真紅のマントを翻し、月明かりが残る夜空へと飛び立って行った。
364
:
ゲロロ軍曹
:2006/02/11(土) 15:53:19 HOST:p4173-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ちなみに・・・
=小津家・魔法部屋=
時音「う・・・、ん・・・。」
頭を抑えながら、ゆっくりと起きる時音。
時音「私・・、どうしてたんだっけ・・?」
そう言いながら、今日の出来事をゆっくりと思い出す。そして、思い出した。あの紫色の甲冑の魔導騎士『ウルザード』という奴に完膚なきまでに敗北した事を・・。
時音「!そう・・だったよね・・。でも・・、ここは・・??」
周りを見渡すと、どことなく洋風な感じの部屋だった。多くの本棚に、年代物の机。しまいには、5つの箒まである。と、その時・・・
?「おっ、ようやくお目覚めでござりますですか〜?」
時音「・・?」
後ろから声がしたので振り返ると、顔のある奇妙な植物がしゃべってた・・。
365
:
ゲロロ軍曹
:2006/02/11(土) 16:21:23 HOST:p4173-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=藤堂家・立花の部屋=
藤堂家の長女で、優秀な頭脳の持ち主である女子中学生の立花。そんな彼女は、ふと眼鏡を外して、ため息をついていた・・。
立花「・・まさか、いつもの通学路を歩いてて、『あんた』みたいな非常識極まりない奴と出会うなんてね・・。正直、驚いたわ。」
?「(むかっ)どういう意味だよ、それは?まるで俺が厄病神みたいな言い方じゃねえか。」
立花「あら?自覚があるわけ??」
?「・・けっ。悪かったな・・。・・だがまあ、確かにすまねえとは思ってるよ・・。」
立花「・・・?」
?「・・俺達の勝手な都合で、お前ら人間を巻き込んでる、ってことをだよ・・。まったく、何で『王を決める戦い』が、こんなシステムなんだよ・・。」
そういいながら愚痴るのは、鳥かごに入ってる鳥であった・・。
立花「・・確かに、ね。でも、驚いたわ。『バル』がそーいう事を考えてたなんて。」
意地悪な笑みで立花はその鳥に向かって言った。
?「(かちん!)てめえ!バルっていうんじゃねえ!!俺の名前は『バルモース』だっ!!(怒)」
立花「いいじゃない。バルモースなんて名前、はっきりいってダサいわよ?」
バルモース「!??」
『が〜ん!!』というBGMが流れながら、立花の言葉にショックを受けて一人へこむバルモース・・(汗)。
立花(・・やれやれ。こーいうのも、『運命のめぐり合わせ』・・っていうものかしら?)
立花はそう考えながら、手に持ってるエメラルドグリーンの色をした変わった『本』を見つめ、今日の帰りでの出来事を思い出した・・。
366
:
暗闇
:2006/02/21(火) 22:53:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、
=スペンサーレイン号・甲板=
鳳鈴「……次から次に…しつこいわね」
鳳鈴が舌打ちして、散弾銃<ショットガン>の引き金を引くと、目の前の紅き幽鬼<クリムゾン・ヘッド>の頭が盛大に脳髄をぶちまけながら吹き飛ぶ。
飛び散ってきた肉片の一部が服に着いており、払い落としたいのだが、数匹現れた新手のクリムゾン・ヘッドが素早い動きで迫ってくるので、そんな暇もない。
素早い動きを武器とするこの紅きゾンビには拳銃<ハンドガン>などから放たれる単発の銃弾ではまず命中しない。しかし、散弾銃は、その実包<ショットシェル>がプラスチック製のケースと金属製のリムで構成され、ケースの中にはあらかじめ多数の小さな弾丸(散弾)が封入されており、銃口より種々の角度をもって放射状に発射される。その為、攻撃範囲が非常に広く、クリムゾン・ヘッドのような素早い動きを誇る敵にも命中しやすく、至近距離から撃てば人間の一部分を完全に木っ端微塵にしてしまう程の威力がある。このようなゾンビたちの活動を完全停止させるには、体の大部分の重要器官を破壊し尽くすか、頭…即ち思考の源である脳吹き飛ばしたりをしなければならないので、有効武器の1つなのである。
ジルたちはそれを用いて、また一匹、また一匹と確実に赤い腐乱死体を仕留めていく、そしてクリムゾン・ヘッドが散弾銃によって大きな銃撃音と共に粉砕された。
カルロス「まったく人気者はつらいねぇ……あちらさんもなかなか休む暇も…」
カルロスが愚痴りながら、引き金から指を放そうとした時、
ジル「休憩はまだ先みたいよ」
ジルの一声と共に、銃を構え直すと鈍い動きながらこちらに迫ってくる腐乱死体の群れが…
「もう勘弁してくれよな」とカルロスが一発ぶちかまそうとしたその時、
ババババババババ
爆音と共に、自分たちの頭上を影が覆った…上を見上げると一機のヘリが頭上を旋回していた。
しかも、それは民間用ではなく、明らかに軍用の代物だ。ということはここで何が起きているかと察知しているのか?いや、ここで何が起きていると分かっているということはまさか…と悟りきる前にヘリに描かれた赤と白の傘のマークが教えてくれた。
カルロス「ずらかれっ!!」
カルロスの一喝を訊くまでもなく、二人の女たちも走り出したその瞬間に、ヘリに搭載されたバルカン砲が火を吹いた。
それは腐乱死体共を人が瞬きするほどの時間の内に肉塊に変え、放たれる弾丸はそのまま3人の男女に放たれようとしたが、既に彼らはバルカン砲では射殺不能の船内に逃げ込んでいた。
367
:
暗闇
:2006/02/22(水) 00:36:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=ヘリ・機内=
ハンク「仕留め損なったか…」
ヘリの助手席から甲板を見下ろしているハンクは舌打ちした。
パイロットは申し訳ないと謝罪するが、敵を仕留め損なった彼を責めもせず、ハンクは次の指示を出した。
ハンク「いい、どうせ作戦は変更だ。船に乗り込む執拗が無くなったからな。」
ハンクはメインマストの手前辺りに堂々と浮いて存在する凶々しき姿をした大両刃剣に目を向けていた。その剣の姿形は渡された資料の内容にピッタリと一致している。間違いない…あれがソウルエッジだ。
ハンク「メインマストにヘリを寄せろ。ソウルエッジを回収する。
その後、ミサイルで船ごとS.T.A.R.Sを葬る。以上だ」
パイロットは肯定すると…ハンクは助手席から離れてメンバーたちと顔を合わせる。
ディートリッヒ「まさか、お偉方の欲しがっている物があんな目立つ所にね、気が抜けちゃったよ」
クラウド「しかし、得体の知れない剣だな。直接触れるのは危険か…」
???「肯定<ポジティブ>。 あの剣からは今まで検出されたことのない未知の高エネルギーが発生していることはセンサーにも感知されています。直に触れれば、人体に深刻な影響を及ぼす可能性は極めて高いとされます」
アンブレラのマークが刻まれている軍服を着た小柄の青年……ⅠⅩという男が無表情で答えた。
???「となると、隊長…あれをどうやって回収するつもりで?」
穏和な声で、訊ねてきた同じ軍服を着た青年であるマタイにハンクは近くに置いてあったアタッシュケースを手に持って、それを開くとその中身にある物を彼らに見せた。
一同の視線が集中するその先には2丁のグレネードランチャーと、弾頭が青く塗られた擲弾が6つ収められていた。
ハンク「この2丁の銃は唯のライフルグレネードランチャー(小銃の銃身下部に装着し、専用の擲弾を発射する。)だ。しかし、重要なのはこの弾だ。これは元々、宇宙警察がエネルギー生命体のアリエナイザーを捕獲する為にアーカムシティの魔術理論を応用して開発されたものだとのことだ。詳しい原理は俺もよくわからないが、目標のエネルギーに触れると、弾丸が破裂し、詰め込まれていた術式のエネルギーがそのまま目標を固体化し、氷のように固めてしまうらしい」
ディートリッヒ「ほう…それはすごい。そんなものよく手に入れられますね」
ハンク「入手経路に関しては、極秘だそうだ。我々はただ任務をこなすだけだ」
だから余計な詮索はしないようにと、ハンクは部下達に釘を刺して話を再開する。
ハンク「これは本来、船に乗り込んだ俺とクラウド、ⅠⅩ、レムレスが2チームに別れ、手分けしてソウルエッジを捜索する為に2丁、6発用意された物だが……もはや知っての通り、そうする必要はなくなった。Ⅰ<ウーヌス>」
ハンクはそのⅠⅩを呼ぶと、彼がアタッシュケース内のグレネードランチャーを黙って手に取り、それに擲弾を込める。
ハンク「1発でやれ。いいな」
ⅠⅩ「肯定<ポジティブ>」
ⅠⅩはドアを開けると、十数m先のメインマストに浮く邪剣が姿を現す。
ⅠⅩは邪剣に銃口を向け、
ⅠⅩ「ターゲットロック…ファイ…」
その瞬間<とき>だった。邪剣が突然光り輝きだし、一同の視界に歪みが生じたのは……
368
:
飛燕
:2006/02/24(金) 23:07:55 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
=異世界 某宇宙空間=
空は星々で埋め尽くされていた。
と、いうより星と星との間隔にかろうじて空が残されている。
そういいたくなるほど、宇宙は星々の明光で満ちていた。
それらの降りそそぐ中に少女がひとり佇んでいた。
黒と白をベースにしたケープを身に纏い、桜の花びらのように淡いピンク色の髪と紅玉をはめ込んだ髪飾りをつけた12〜3歳頃の少女である。
まだ、あどけなさと歳相応の初々しさが残った可愛いらしい容姿の彼女は、ここ星団連邦ミルチア州を拠点とする特殊財団の所有する巨艦「クーカイ・ファウンデーション」に居た。
一応、武装はしているが決して戦闘を専門とした戦艦ではない。
財団なだけに倉庫ブロックを主体としており、兵装したAnti Gnosis Wepon Systemこと通称A.G.W.Sも余り積み込んでいない。むしろ、居住区の方が多いくらいである。
ちなみに彼女が居るのは、その居住区の中にある大きな公園。
遊具は余りないものの、その無駄にだだっ広い草原は人工の芝とはいえ何処か懐かしさすら感じさせる。
更に特筆すべきは、ここの真上がちょうどこの船の天窓に位置するのである。
大きな草原と対称的に大きな天窓は、本当に吸い込まれそうなほど美しい情景を見せてくれる。
天窓から見える広大なる闇と鏤められた煌びやかに輝る金平糖を彼女が眺めてから5分も経過していない、そんな頃である。
???「あら?おはよう、MOMOちゃん。どうかしたの?」
背後から聞き慣れた声がした。滑らかで、同時に音律ゆたかな声の女性特有のモノである。
振り返ってみると、栗色の髪の毛と黄土を基調とした服が実に良く合う眼鏡をかけた知的な女性と晴蒼な髪と大きめのバイザーをつけた紅蓮の瞳を持つ女性がそこに立っていた。
MOMO「あ、お早う御座います。シオンさん、KOS−MOSさん」
KOS−MOS「お早う御座います、MOMO」
無表情で機械的な返事と軽い会釈で挨拶を交わしたアンドロイドは、再び口を閉口した。
シオン「お早う、MOMOちゃん。それで・・・・どうかしたの?こんな所で星空なんか見て?」
MOMO「あ、いえ・・・・なんとなく、見たかったから来てみただけです」
なんとなく余所余所しくて何か隠してるような気がしたが、直ぐに気のせいだと考えたシオンは問い詰めようとはしなかった。
が、アンドロイドは機械的論理に追従な為か、その曖昧な箇所への突っ込みは厳しかった。
KOS−MOS「MOMO。先程、シオンと挨拶を交わされた際よりも明らかに心拍、脈拍共に14〜5ずつ上昇しています。体温の僅かな上昇も見受けられており、これは動物学的用語によれば典型的な嘘をついている人間と断定・・」
シオン「KOS−MOS!」
それ以上の言及を許さなかったシオンは直ぐに止めに入った。
KOS−MOS「?・・・シオン、何ゆえに止めるのですか?この場合、言い渋るMOMOに非があるかと思えますが?」
MOMO「あ、あの!しゃ、喋りますから・・・・KOS−MOSさん、あんまりシオンさんを責めないで下さい」
慌ててMOMOは、2人の間に割って入った。
と、いっても、一方的な会話なのだが・・・。
シオン「そ、そう?・・・・それで、MOMOちゃん?改めて聞くけど、何かあったの?」
MOMO「・・・・上手く言えないんですけど・・・・誰かに呼ばれた気がしたんです・・」
KOS−MOS「誰か、とは曖昧な発言ですが・・・・声紋的に判断して、このクルーの者では無いのですか?」
MOMO「多分・・・・違うと思います・・」
やや自信なさげにMOMOは答えた。
鮮明な答えが出難く、歯痒い思いをしているのだろう。
言い喩えれぬ苛立ちに顔を歪めているのがその証拠である。
369
:
飛燕
:2006/02/27(月) 22:35:06 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.157]
――なんてこった!――
平静になれ、と頭の中で思い続けているのだが、どうにも心臓の方はそんな命令聞く耳持たぬらしい。
段々とテンポ良かった律動が徐々に速くなりつつある。
――これは・・・やっぱり、俺の常日頃の行いが良いから神様がご褒美をくれたに違いない――
一方で、また「ちび様、まぁた無駄遣いしてはって!」と言われるのが落ちだ、だから今回はやめておけという自分も居る。
だが、今ここで退いてしまっては何時また巡り逢えるか分からないぞ、という自分も居るのだ。
立体映像から繰り出される実寸大の映像を掴もうとしたり、そうかと思えばいやいやと踏み止まる事の繰り返しをさっきから20分も続けてしまっている。
人が見れば、なんとも滑稽に見えるだろうか。
だが、なんと思われようがこればっかりは譲れない。
譲れないのだが・・・。
しばらく腕組みを続けていた。
そして、清水から飛び降りるつもりで俺は操作パネルに手を伸ばした。
自分のIDとパスを入力し、躊躇いながらも押した。
Jr.「購入、と・・・・」
材質はステンレス。
弾薬は44マグナム弾のそれよりも巨大な454カスール。
圧倒的破壊力を生み出す分、それに合うシリンダーの強度がなくてはならない。
よって、装弾数が5発までとなっているが、断然威力が並みの古式銃の比ではない。
大型拳銃の代名詞、フリーダム・アームス・カスールの映像の下に小さな文字で「購入しました」というJr.を喜ばせる文字があった。
Jr.「ひゃっほぅ!とうとう買っちまったぜ!」
やったやったと小躍りし、大きくガッツポーズをとった。
誰が見ても嬉しそうなジェスチャーを、クーカイ・ファウンデーションの某居住区ブロックのど真ん中で恥じらいもなく行なえるのは余程、嬉しかったからだろう。
周囲の人々も思わず、苦笑してそのまま通り過ぎて行った。
約一名を除いて。
???「あれ?Jr.君?・・・何をしてるの?」
ふと、背後からなんとも頼りなさ気な声がかけられた。
振り返ってみるとそこには、なんとも弱弱しくおどおどしていて、挙動不審という言葉に足が生えたような知り合いが立っていた。
Jr.「お、アレンか?聞いてくれよ・・・・遂に、俺のコレクションに大型拳銃が加わるんだよ♪」
物凄く機嫌良く話しかけてくるJr.に愛想笑いを浮かべつつ、アレンは話を切り出した。
アレン「そ、そういえば・・・・Jr.君。主任を見かけなかったかい?」
彼が主任と呼ぶ人物は2人とて居ない。とりあえず、今日はまだ見ていない、という事実を伝える事にした。
370
:
飛燕
:2006/03/06(月) 23:20:37 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.157]
アレン「そ、そうかぁ・・・・あ、それじゃあ、僕はこれで・・」
大した収穫もなかったし、彼と話す話題も無かったのでアレンは早々に話を終わらせた。
小走りにその場を去ろうとしたアレンであったが、直ぐにJr.が制止した。
Jr.「え、あ、おい!アレン、前っ!?」
走ろうとした寸前で止められたので、ついつい顔だけJr.の方に向けて止まろうとはしなかった・・・否。
所詮は普通の人間、というか大抵の人間は物理法則に則って行動を制限されている。
無論、アレンとてその範疇を逸してはいない。
前方から、アレン達の姿を見つけて此方も小走りでやって来た人物と顔を合わせる前に正面衝突してしまった。
アレン「おわっ!?」
???「っ!?」
一瞬、何が起きたか理解できなかったアレンだが、ぶつかった拍子に来る筈の衝撃が何時まで経っても来ない事だけは分かった。
???「・・・大丈夫かい、アレン?」
次に、分かった事はその理由がぶつかった相手がアレンの手を強く引っ張っていたからだと言う事である。
アレン「え?あ、いや・・・・あ、うん」
その次にようやく、自分に非がある事と助けてくれた相手が知人だという事、自分の後方でJr.の溜息が聞こえた事を理解した。
アレン「あ、有難う・・・・ケイオス君」
自分より背の低い男の子に、引っ張り起こされるというのは大抵の男なら腹を立て、怒りだすだろう。
が、そこまでの度胸と考えに行き着く程、アレンの性格は荒れたものでもなく、また複雑な思考回路を持ち合わせていなかった。
Jr.「ったく・・・だから、前っつったのに・・・」
アレン「い、いや・・・おい!って言うから、てっきり呼び止められたと思ったから・・・ぶつぶつ・・」
ケイオス「まぁまぁ、Jr.・・・幸い、大した怪我も無かったから、良いじゃないか?」
何処かミステリアスな雰囲気をかもちだす、褐色の肌の少年はころころと笑いながら割って入った。
371
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:51:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
鷲士「ハハハ、漢字読めないなら、最初にそう言ってくれればいいのに。あのね、寮のある三鷹駅は、3番線の電車に乗って、3分ほどで―――」
と券売機から切符を抜いた鷲士だったが、振り返って凍り付いた。怒りで血走った青い双眸と、目が合ったからだ。ノイエは切符を受け取りながら、唇をひん曲げ、
ノイエ「だから、なにがおかしいのよっ……!」
鷲士「いやっ、別にきみを嘲笑ったワケじゃなくて……!」
ノイエ「漢字が読めないと、そんなに変なの……!? だいたいヒラガナとかカタカナとか……どうして表記がこんなにいくつもあるのよ! 英語もカタカナにコンバートして使うし! 先進国なら、文字くらい統一したらどうなの!」
鷲士「ごごごっ、ごめんなさい! 許してください!」
―――総武中央線・風苅町駅構内。
ノイエは、改札を顎でしゃくると、
ノイエ「ヒトの鼻を折りかけた罰―――最後までエスコートしてもらうわよ!」
鷲士「う、うん。こっちだよ。あ、これは自動改札って言って―――」
ノイエ「分かってるわよ、それぐらい! バカにしないで!」
万事がこの調子―――かけた言葉にすべて食らいつくので、たまったものではない。さすがのお人好しも口をつぐみ、黙々とホームへの階段をのぼった。
だが―――階段を上りきる寸前、鷲士は唐突に立ち止まり、
ノイエ「キャッ!」
しゃがみ込んだノイエの頭上を、鷲士の抱える黒いボストンバッグの角がよぎった。妙に辺りが静かだったせいで、風を切る音がしっかり聞こえたほどだ。
鷲士の額から汗が一筋―――ノイエは目を細めて一段ほど後退り、
ノイエ「あなた……まさか……事故に見せかけてわたしを殺す気……?」
鷲士「ごっ、誤解だよ、誤解! なんていうか、その、知り合いに、護身用にって無理やり持たされてて! 悪意はないんだ!」
ノイエ「ご、護身用? まあ、確かに撲殺できそうな感じだったけど……でも近寄らないでっ。あなたと関わってると、ひどい目にあいそうだわ……!」
不審そうな眼差しで言い、ノイエは鷲士を避けるように前に回った。青年も刺激しないようにと、慎重にあとに続く。
夜のホームに、人影はなかった。
風苅町駅は2ホーム構成である。東京・御茶ノ水方面の1番線2番線、三鷹・国分寺方面の3番線4番線という具合だ。そして2人は気まずいまま、3番線のホームに立った。おだやかな微風が、構内を横切っていく。
やがて鷲士が、恐る恐る、
鷲士「あのぉ……」
ノイエ「……なによ」
鷲士「いえ、なんでも……」
ボケ青年は、冷や汗タラタラで、顔を戻した。
―――彼はすぐに眉をひそめ、左右を見渡した。
他に客の影がない。しかしホームの時計は午後9時を指していた。風苅町は、大学と飲み屋を除けば、事実上のベッドダウン―――この時間なら降りる客の方が多いとは言え、むしろそれだけに、本来は騒がしいはずである。
……まさか、ね。
嫌な予感を拭い去るように、鷲士は今度こそ、
鷲士「あ、あのさ、訊いていいかな?」
ノイエ「……なによ、さっきから」
鷲士「いや、その……だからね、さっきから青木たちにさ、ダーティ・フェイ―――」
ホーム両端の証明が、唐突に消えた。
ノイエ「え……?」
ノイエが目を細め、顔を上げた。
それが合図になったかのように、動揺する金髪の美女を尻目に、ライトは次々に消え始めた。階段脇、自販機の傍―――闇が周りを取り込んでいく。
最後まで残ったのは、2人の頭上の蛍光灯だけであった。
―――意図的なライトアップ。誰かの仕業だ。
372
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:52:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「プシュー」
またも擬音を口にしながら、暗がりから人影が浮かび上がった。
音ではない。闇が言ったのだ。高めの声だった。
鷲士、ノイエ、2人の顔から、血の気が引いた。
???「プシュー」
またも擬音を口にしながら、暗がりから人影が浮かび上がった。
―――赤いニットキャップの若者である。
少しくすんだパーカー、厚いバスケットシューズ―――渋谷や上野の駅前には、掃いて捨てるほどいるタイプだ。背は170半ば。顔もこれといった特徴がない。手にしているのは、汚れた鉄パイプである。
???「プシュー」
立ち止まると、表情を変えず、若者は言った。
スプレイ「おれ、スプレイ」
鷲士「は、はあ」
スプレイ「プシューっつーのが口癖でさ。まあ、スプレー・アートやってるってのもあって。ほら、廃ビルや倉庫の壁とかに、ガーッて感じで文字がペイントされていることもあるだろ?あれさ。あだ名ってワケ。名前を訊くには、まずは自分からって言うし」
親しげな口調で一方的に告げると、スプレイとやらはノイエを見た。
スプレイ「あんた、ノイエ・シュライヒャーさん?」
ノイエ「……そ、そうだけど?」
スプレイ「そっか。じゃあ、死ねよ」
―――スプレイの背後で、いくつものマズルフラッシュが炸裂した。
雨あられと弾丸を受け、一帯の構造物が粉々に砕けた。アルミ製のゴミ箱、柱は言うに及ばず、床のコンクリ自体が削り抉られていく。手前の自販機は穴だらけになり、盗難防止用ブザーが悲鳴を上げた。鉄板の隙間から、炭酸水が漏れ広がる。
闇に浮かぶ黒ずくめの戦闘員たちの姿―――彼らの仕業である。
スプレイ「……やるじゃんか。すっげー反射神経。冗談みてー」
呟いたスプレイの視界に、鷲士たちはいなかった。
2人がいたのは、少し脇に逸れたベンチの陰である。
気違い沙汰の銃声の中、呆気にとられたように、ノイエは敵の軍団と、自分を抱えてここまで瞬時に跳躍したボケ青年―――鷲士を見比べた。
ノイエ「シュ、シュージ……あなた……いったい何者」
鷲士「そ、そんなことよりさ、あいつらってやっぱり―――」
―――プルルル!
鷲士の懐で、突然、携帯が騒いだ。どこぞのハイテクちび魔王に貰った―――もとい無理やり持たされた―――ものだ。慌てて引き抜き、スイッチを入れる。
鷲士「もっ、もしもしっ?」
美沙『あ、鷲士くん? わったしっだよォ〜!』
小さなモニタに顔が映ったものの、映像は一瞬で掻き消えた。雰囲気をブチ壊すほどコロコロした声が、ノイズ混じりに聞こえただけだ。
鷲士「み、美沙ちゃん? あのね今―――」
美沙『あれれ、電波状態悪いのかな。ま、いいや―――えっと、わたしね、今タカちゃんちからの帰りなの。でぇ、ついでにコンビニ寄ろうと思って。何か買ってく?』
鷲士「えっ? ど、どうしたの、急に?」
美沙『だってぇ、鷲士くんいろいろ忙しそうだし。エジプトの件では入院もさせちゃったし……罪滅ぼしってワケじゃないけどさ。悪かったと思って。だからね、わたしもね、ちょっとは家のこと手伝おうかなー、なんてさ。テヘヘ』
……じぃ〜ん。
なんていいコなんだ……!
鷲士は心の中で泣いた。いや、本当に泣いていた。
373
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:53:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「じゃ、じゃあね、タマゴ1パック―――」
ノイエ「なに頼んでるのよ、こんなときに!? シュージ、あなた頭おかしいんじゃないの!?」
ノイエの怒号と共に、銃撃も勢いを増した。
しかし怒ったのは、金髪の美女だけではなかった。
美沙『ちょっ―――なによぉ、今の!? 女!? 美貴ちゃん以外はダメって言ったのに―――しかもシュージって呼び捨て!? こらあっ、どーゆーことォ!?』
鷲士「は? いや、今、妙な連中に囲まれてて―――」
美沙『場所は叢雲で―――よぉーし、分かった! 待ってなさいよぉ、今行くから! 待ってないとひどいんだからね、鷲士くん!』
鷲士「いや、ちょっと聞いてよ! だから誤解だって―――」
―――ブツッ。
鷲士は青ざめた。じきに起こるであろう、メチャメチャな破壊劇に。
そして―――唐突に銃撃がやんだ。
スプレイ「……出てきなよ、ノイエ。それとも、そのおかしな兄ちゃんも一緒に殺しとくか? あ、言い忘れたけど、おれ、ミュージアムだから。そのつもりよろしく」
スプレイの茫洋とした台詞が、ノイエを動かした。
金髪の美女は、きっかり深呼吸を3回。おもむろに立ち上がると、
ノイエ「シュージ、あなたは逃げてっ……!」
鷲士「え……ええっ!? ちょ、ちょっと、ノイエ!?」
ノイエ「こいつらはね、一片の土器のために都市をも滅ぼす、狂的な歴史遺産回収集団……その名をミュージアム……! さっきのは礼を言うけど……まぐれは二度も続かないわ……! 鼻の貸しは返してもらったから、あんたは逃げなさいっ……!」
敵を睨みながらの言葉だった。本気で自分が犠牲になるつもりなのだ。
―――不可解なことが起こった。
スプレイ「そうだな。いいよ、あんた行っても」
スプレイは頷くと、鉄パイプで奥の闇を指したのである。
経験上、鷲士は眉をひそめた。ミュージアムが、こんなまともなことを言うはずがないからである。しかし彼の疑問を、敵が勝手に解消した。
スプレイ「あのさ、おれらのホントの目的って、金髪の命じゃなくて、頭に付けてるそのバレッタなんだよ」
鷲士「バレッ……タ? ノイエの?」
スプレイ「まーね。でもさ、渡してくれそうにないし。交渉って手もあるけど面倒くさいじゃん? おれって、面倒なのキライなんだ。だからさ、あんた言ってもいいよ。人間1人殺すのって、けっこー手間かかるしさ」
生と死は等価値―――あとは手間の問題。本当に命を軽んじているからこそ、口にできる台詞である。2人は青ざめた。
しかしここで足を踏み出したから、ノイエの気の強さも凄まじい。
ノイエ「……好きにするがいいわ!」
スプレイ「素直じゃん。日本まで逃げた割にさ」
ノイエ「でも覚悟するのね! わたしを殺してバレッタを奪ったとしても、顔のない男が―――史上最強のトレジャー・ハンターが、絶対にあなた達を倒す!」
スプレイ「……プシュー。ダーティ・フェイス? 生ける伝説か?」
スプレイが目を細めた。
ノイエ「私は、故意に目立つように動いた……! フェイスは、あなたたちより遙かに優れた情報網を持つと言うわ……! 彼はミュージアムにとっての最強の敵対者、そして唯一拮抗する存在……! このことを見逃すはずがないものね……!」
これを聞いてガックリきたのが、鷲士である。ボケ青年は大きなため息をついて、黒い手袋を両手にはめた。例のボストンバッグに腕を突っ込む。
ゴソゴソやり始めた鷲士を尻目に、スプレイは、
スプレイ「言いたいことは分かるけど、それはどうかなー。7日ほど前に、あいつは俺の下についているデブ―――ヴァッテンって名前だ―――とエジプトでやり合ってる。退路作るために、また1つ遺跡をオシャカにしやがったらしい。ま、あのデブが無事だったぐらいだ、フェイスが死んだとは思えねーけど、今頃はズタボロのはずだぜ?」
ノイエ「ズ、ズタボロ……!? で、でも!」
スプレイ「しぶといね。じゃあ、どこにいんだよ、ダーティ・フェイスは?」
茫洋と、ミュージアムの使徒は訊いた。
―――返事は、ノイエの肩越しに現れた、銃のマズルがした。
鷲士「ううっ、違うけど、ホントは違うけど―――いますよ〜、ここに〜」
情けない声と共に、マズルフラッシュが炸裂した。
銃身は凄まじい速度で、辺りに弾丸をバラ撒きまくった。遠くの床、ホームの屋根、脇の線路―――ハッキリ言うと、ムチャクチャな狙いだ。腕の問題である。しかし単なる偶然か、それとも敵の多さに原因があるのか、跳弾したブリットの大多数は、戦闘員たちに次々に襲いかかっていった。
戦闘員「うぐっ!」
戦闘員「ごふっ!」
呻きながら倒れていく部下達を、スプレイはぼんやりと見つめた。
374
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:53:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……え? マジ?」
淡々と呟いて、再び前を向く。
敵の目に映ったのは、右手にMP5K、左手にWz63―――カービン型アサルトライフルとSMG―――を構えた鷲士だった。ただし、逆襲に転じたというのに、思いっきり泣いているから気持ち悪い。
鷲士「ううっ、すいませ〜ん。ぼく銃とかぜんぜんダメで、当てるつもりはなかったんです〜。なのに弾が勝手に〜」
●無敵パパ育成計画・レベル1
・銃は常に持ち歩くこと!
もともと携帯電話とも無縁だったような人間である、そんなムチャクチャな、と鷲士も抗議はした。まあ、受け入れられていたら、こんなもの持ち歩いているわけがない。つまりそういうことである。
救われたノイエは、ポカンと口を開け、
ノイエ「えっ? えっ?」
大学で自分の鼻を直撃したボストンバッグの中身が、この2挺の銃―――それどころか、目の前で起きた事態すら呑み込めてないようだ。
スプレイが目を細め、足を踏み出した。
スプレイ「……なるほどね。身長180半ば、痩せ形、東洋人。完璧なカモフラージュで、社会に溶け込んでいるものと思われる……か。資料の通りだな。驚いたよ、どこに出てくるか分かったもんじゃない。上層部が殺そうと躍起になるのもムリねーって感じ。あんた、本物のダーティ・フェイスなんだ?」
ノイエ「なっ……なんですって……!?」
と振り向いたノイエの腰に腕を回すと、鷲士は腰を折り、
鷲士「ちょ、ちょっとごめん! 飛ぶから!」
2人の眼前に広がっていたのは―――対岸のホームだ。二車線分、7〜8メートルはある。
ノイエ「あ―――あなた、本気!? 冗談でしょう、あっちまで何mあると―――」
鷲士「ああっ、ノイエ、体重は!?」
ノイエ「え、ええっ!? ご、ごじゅう―――」
鷲士「100㎏以下なら大丈夫! 行くよ!」
言うが早いか、重なった影が、路線の上空に舞った。戦闘員たちの銃が再び唸ったが、掠りこそすれ、当たることはなかった。鷲士がノイエを抱えたまま、空中で1回転+体をひねったからである。さらに牽制として、MP5Kをフルオート連射した。
美しい構図―――青年が泣いていなければの話だが。
鷲士「ううっ、どうして毎回こんなことにー!」
ノイエ「キャーッ、おっ、落ちるー!」
しかし―――ノイエの絶叫とは裏腹に、2人はタッチ・ダウン。目を閉じたままの美女を引っ張って、鷲士は会談に向かった。
―――が。
スプレイ「甘いぜ、フェイス。この駅、占拠済みだから」
スプレイの言葉を、前方の闇から現れた別部隊が証明した。
―――ババババババ
鷲士「わわわっ!」
ノイエ「キャーッ!」
腰を落とした2人の頭上を、何百発もの銃弾が掠めた。無駄口をきく余裕もなく、慌ててとって返す。だが反対側の階段も既に押さえられていた。ホームの半ばまで戻ったところで、やはり乱射を受けたのだ。2人は青ざめた、中央のベンチの陰に隠れた。鉛弾を受けてプラスチックの合板が吹っ飛び、金属のフレームが顔を出す。しょせん文字通りの腰かけ用―――粉々になるのは時間の問題だ。
375
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:54:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ノイエ「ちょ、ちょっとシュージ、どういうこと!? あなたがダーティ・フェイスなの!? しかも簡単にあんな距離を―――どうなってるワケ!?」
鷲士「ちっ、違う違う、フェイスなんて人間は実在しないんだから! それより―――どうして君があいつらに!? そのバレッタっていったいなんなの?」
急に、夜の駅に静寂が訪れた。
対岸のスプレイが腕を上げたからだ。撃つのはやめろ、の合図だ。
スプレイ「道標さ―――禁断の井戸とやらへ、のな」
鷲士「禁断の……井戸?」
ノイエはここで沈黙し、訊いた鷲士は眉をひそめた。禁断と井戸―――結びつくような言葉ではないからである。
スプレイ「あんたさ、回る水って知ってる?」
鷲士「え……健康飲料水かなにかですか?」
スプレイ「そう思うよな。でも違う。なんでもさぁ、見る者の望む人間の顔を映し出すっつー、ふざけた水らしいんだ。ほっといても勝手にクルクル回ってるから、そんなおかしな名前がついてるらしいんだけどさ。んで、ドイツのド田舎に、その水が沸いて出るって奇妙な古井戸があるって話なんだが、正確な場所が分かんねー」
鷲士「それを指し示すのが、ノイエのバレッタ……? でも望む……顔? どうして、そんなものをわざわざミュージアムが?」
スプレイ「さあ? 上ってのは、マク○ナルドもウチも大差ねえ―――なに考えてるか分かりゃしねーからな。しかもおれのボスはハイ・キュレーターっつって、けっこーヤバイ系でさ。そのバレッタ持って帰んないと、まずいんだ」
しかし―――鷲士は青ざめた。
鷲士「あの……どうして、そんなこと教えてくれるんです?」
スプレイ「だってさ、あんたフェイスじゃん。だったら生かして帰せるワケねーだろ」
彼の言葉を待っていたかのように、戦闘員が、一斉に銃を構えた。万事休す―――退路を完全に断たれている以上、2人にもはや逃げ場はない。
そしてスプレイは、手を振り上げた。
スプレイ「じゃ、そういうことだから―――」
―――ボボボボボン。
鈍いエンジン音と共に、折り重なった男共の悲鳴が聞こえ、スプレイの腕が止まった。音源は直下―――駅の構内だ。
スプレイ「……なんだ、今の?」
と無表情男が、足下を覗いたときである。
とんでもないものが、鷲士側のホーム―――その北側階段から、飛び出してきた。
―――黒いカウンタック・LP500改。
ノイエ「なっ……!」
絶句したノイエの目の前で、イタリア製の暴れ馬は、階段手前の戦闘員たちを押し潰して接地。夜のホームにランボルギーニ―――マニアが見たら激怒しそうな光景である。シャーシとコンクリの隙間からくぐもった悲鳴が聞こえたが、LP500はおかまいなしに突き進んだ。意図的にヒトを轢いているのだ。
鷲士「ああっ、またムチャクチャを! ノイエ、伏せて伏せて!」
と言い合いながらも伏せた2人の鼻先で、車輌は停止。しかし破壊は、むしろそこから始まった。リア・フェンダー近辺の装甲が沈み、4連装ガトリング・ガンが、計2門、出現したのである。
―――ファイア。
機関銃の一種とは言え、ガンシップ搭載型の旋回砲―――その威力は小銃の比ではない。装甲車程度なら木っ端にできる大口径徹甲弾の洗礼を受け、今度は南側階段の敵たちが次々に倒れた。背後の柱、屋根までが、音を立てて崩れていく。さらに2門の砲は、狙いを対岸のホームに定めた。少し離れた暗闇で火花が飛び散り、車体両脇から排出された巨大カートリッジが、床で硬い音と共に跳ね返る。
実際には、破壊はものの数秒で終了した。
376
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:17:30 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……マジ?」
とスプレイが見上げた瞬間、支えを失い、ホームの屋根が崩れた。ミュージアムの奇怪な若者など、膨大な質量の前には、ひとたまりもなかった。一瞬でブッ潰れ―――あとに残ったのは瓦礫の山のみだった。
粉塵が辺りを覆い尽くす中、2人は咳き込みながら立ち上がった。
ノイエ「コホッコホッ―――い、いったいなんなのよ……!」
鷲士「ああっ、なんてことを、駅が、ぼくらの駅が……!」
と鷲士が頭を抱えたと同時に、ドアが跳ね上がった。下でもがく戦闘員の後頭部を、学校指定の小さな革靴が踏んづける。
美沙「フッ……ま、ざっとこんなもんでしょ!」
鈴を転がすような声で言い放つと、人影は、肩にかかる髪を弾いた。
カトレア女学館の制服―――中等部のブレザーのままである。学校帰りに悪党をブッ潰しに立ち寄った―――電話の様子では、そういうことだ。ただしまともなのは服だけで、右手にはプラスチック製拳銃グロック17、肩には手榴弾が見え隠れするリュックと、おかしな形のカービン型アサルトライフルという武装ぶりである。
美沙「鷲士くーん、大丈夫だったぁ?」
鷲士「ぼ、ぼくたちはね、ありがとう! でも……ああっ、駅こんなにしちゃって! どーしてここまでやるの、きみは!」
泣きそうな鷲士に、しかし美沙はウインクして親指を立て、
美沙「だいじょーぶ! どーせこうなると思って、さっき駅、買っといたから!」
ペロッ、と舌を出してニッコリ。
―――シーン。
鷲士「……は? 買った? なにを?」
美沙「だからぁ……駅よぅ、この駅! 買ったの!」
実は誉めてもらえると思っていたのか、不満そうに、美沙。
ピンと来なかったらしく、鷲士は瞬き。右見て、左見て―――やっとアングリ。その顔が土気色に変わるまで、さほど時間はかからなかった。
鷲士「え……ええっ!? 買ったぁ!? 駅を!?」
美沙「そぉーよ、JRから! 運輸省にも認可させたし―――だから壊してもいいんだもん! もぉここ、わたしのだもん!」
和製の一流アイドルなど余裕で蹴散らす幼い美貌が、ムチャクチャなことを言った。世の中カネと権力―――普段は悪態として使われる言葉だが、ここまでくると表彰ものだ。そこらのゴミ政治家どもとは、やることの次元が違う。
額を押さえて、小市民はクラクラ。無理もない。
鷲士「か、買った……駅を買った……なんてことを……!」
美沙「そっ。だから問題なぁーし!」
鷲士「……ああっ、もうっ、きみは! いくらワケ分かんないぐらいのお金持ちだからって、限度があるよ! 駅なんて買っちゃいけません!」
うわーん、と両腕を振り乱す鷲士だったが、美沙は瞬き。首を傾げて、
美沙「はえ? なんで?」
鷲士「は? いや、なんでって言われても……」
美沙「法律で禁止されてるワケ? 違うでしょ? だったらいいじゃん。 買う人間がいて、売る奴もいる。これって経済原理! 問題ナッシン!」
と腰に手を当て、エッヘン。
ここで反論してこそ大学生。ところがどっこい、
鷲士「え……そ、そうなのかな。確かに売春とかとは違うし、暴力団の地上げとも……」
だが、異変はさらに続いた。
鷲士、ノイエ―――2人の頭上を影が覆ったのである。
スプレイ「悪い。まだ死んでない」
377
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:17:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「なっ―――!?」
くすんだ鉄柱が打ち下ろされるのと、振り返った鷲士が両腕でブロックするのが同時。その衝撃がいかに凄まじかったか―――眼鏡青年の足下で、コンクリの床が砕けた。亀裂が生き物のように走り、鷲士の足首を呑み込む。
さらに―――ボケ青年の体は、今度は背後に吹っ飛んだ。あまりの衝撃に、彼を受け止めたホームの壁が、あっさり陥落。乗用車に撥ね飛ばされても、こうはなるまい。砕かれたコンクリの破片が、ボロボロと鷲士に落下する。
そして―――ハイキックのポーズをとったスプレイが、
スプレイ「あの状態で受け身? フェイスは飛んでる弾丸が見えてるって話はマジだったらしいな、よく反応できたもんだ。ホントなら上半身と下半身がバイバイしてるとこなのにさ。やっぱあんたスゲーよ。フツーじゃねー」
と眉一つ動かさず、足を下ろす。
―――車の弾丸でズタズタされたパーカーの奥から、火花が飛び散った。本来噴き出す血肉はそこになく、青味がかかった金属が、無気味な光を放っている。中でカリカリと音を立てながら回っているのは、なんと原始的な歯車だった。
美沙「みょ、妙に特徴のない奴だと思ってたら―――チューン・マン!? 馬鹿力タイプとは何度かやり合ったことあるけど、そんなに速く動けるなんて……!」
スプレイ「地中海―――クレタ海底の裂溝から、タロスの試作品らしいのが引き上げられてさ。サイズが合ったんで、ドラッグでボロボロんなって体の代わりに使ってる。よく動くんだが、原理の方も分かんねーってさ」
美沙「こぉのローテク野郎ォ! よくも鷲士くんを!」
叫んで、美沙はグロックのトリガーに指をかけた。
―――しかし相手はミュージアムである。
スプレイ「燃えてんじゃん。でもクールにいこうぜ」
淡々と言う否や、スプレイは呆然と立ちすくむノイエを羽交い締めにした。喉元を押さえ、自分の盾にする。
鷲士「つつつ……ノ、ノイエ……」
口の血を拭いながら、鷲士もヨロヨロと立ち上がった。
スプレイは摺り足で横に移動しながら、
スプレイ「プシュー。定番で悪いんだけど……じっとしててくれよ。特にそっちの気合い爆発してるロリポップ、マジで頼むぜ。さもないと―――」
美沙「フン、さもないとぉ」
スプレイ「この金髪女、殺すってこと」
美沙「あっそ」
つまんなそうに言うと、美沙はトリガーを引いた。
―――バン!
鷲士の目が点になったと同時に、スプレイのニットが吹っ飛んだ。慌てて帽子を掴んだのはいいが、こめかみから鮮血が滴り落ちる。特殊素材で骨格補強はされているようだが、頭部の構造はどうやら生身のままらしい。
傷口に手を当て、敵は呆気にとられたように、
スプレイ「……驚いたな。クールなのはおチビちゃんの方だったってか。躊躇ぐらいしろよ、こんなの聞いたことねーぜ」
鷲士「こっ、こらーっ、なんてことを! ノイエが人質なんだぞ!?」
美沙「あまぁーい、鷲士くん。前ので懲りてるでしょ? こいつらが人質なんか生かしとくワケないじゃん。なんてゆーか―――そっちの人には悪いけど、人質にされちゃった時点で、既に屍も同じなのよね、うん!」
ニヤリと笑うと、グロックをポッケに突っ込み、今度はライフルを構えた。コッキング・レバーのスライド音が、構内に響き渡る。
美沙「てなワケでェ、覚悟よろしく!」
378
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:18:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「くそっ、ムチャクチャだぜ、セオリー通りにやってくれよ……!」
とスプレイがノイエを抱えて床を蹴ったと同時に、美沙の手元で、マズルフラッシュが炸裂した。問答無用である。
鷲士「う、うわーっ! 彼女、まだ生きてるのに!」
鷲士は頭を抱えた。
―――すぐに眉をひそめた。2人をまとめて穴だらけにすると思われたブリットの雨が、しかしミサイルのようにカーブを描き、一斉にスプレイの背後に回ったのだ。
スプレイ「……うっそ」
空中でスプレイが振り返った刹那、弾丸は揃って爆散した。衝撃波が背中からチューン・マンの肺腑を貫き、その腕の中からノイエが離れる。
鷲士「うわ、ノ、ノイエ!」
慌てて路線に飛び降りた鷲士が、なんとか留学生をキャッチ。対するスプレイは自分の驚異的な跳躍力が逆に働き、頭から対岸ホームの瓦礫に突っ込んだ。コンクリの破片をいくつも弾き飛ばし、柱の残骸に激突した時点で、ようやく停止する。頭を軽く振っただけで立ち上がれたのは、やはり改造人間ゆえだろう。
スプレイ「ウググ……今のは……OICWってヤツか……? なんだそりゃ、実用化されたなんて話は聞いてねーぞ……!」
美沙「アハハハッ、ばーか! 古代サイバネ野郎なんかに、私のハイテクウェポンが負けるワケないでしょー! 思い知ったかぁ!」
コロコロ声の嘲笑が、夜のホームに響き渡った。小さな手で構えたカービンは、銃器の形はしているものの、あちこちから電子の光を放っている。
OICW―――Objective−Individual−Combat−Weapon<オブジェクティブ−インビジュアル−コンバット−ウェポン>。
弾丸自体にある程度の軌道変更能力を持たせて、それを銃のレーザーで誘導する装置の事を指す略称名。
未来銃の代名詞とも言われるレーザー・ガンも既に実用化の段階に入っているが、実働部隊自体は導入に難色を示していると言われる。なぜなら強力でも、その攻撃範囲は光だけに、常に直線上に限定されるからだ。このような兵器は、正面からの白兵戦でこそ効果はあるが、現代ではそんな場面は皆無に等しい。それならば、爆撃で敵戦力を一気に奪う方が遙かに効率が良い。
そこで―――より効率的に敵兵を殺すために開発されたのが、OICWである。ミサイルと違って自動性はないので、どうしても命中精度は下がるが、弾頭を空中爆裂型にすることによって、敵をより確実にしとめるという恐ろしい仕組みだ。敵が塹壕の中にいても、銃の誘導で弾道が歪曲し、敵の背中で炸裂するのである。逃げ場など無い。
現在試作されているのは、かなり大型だ。口径は20㎜と、アサルトライフルの約4倍。しかし美沙の使っているのは、完全に小型化されていた。口径も大きさも普通の小銃と変わらないのだ。実体を持たずネットワークのみで構成されるフォーチュン・テラーの天才集団だからこそなせる業である。
379
:
暗闇
:2006/03/17(金) 22:28:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……人質を無視するチビに、ぜってー当たる弾丸か。こりゃ出直した方がよさそうだ」
フラフラしながら、スプレイが呻いた。
一方、やっと一息ついたのが鷲士である。
鷲士「無事でよかった……ノイエ、大丈夫?」
ノイエ「シュ、シュージ、それより、バレッタが……! 母の形見なのよっ……!」
目を潤ませてシャツにしがみつくノイエの頭に、黄金の髪飾りはなかった。蒼然として振り向いた鷲士の目に映ったのは―――スプレイが握るバレッタだ。
鷲士「み、美沙ちゃん!」
美沙「はぁーい! ここは美沙におっまかせ!」
マガジンを入れ換え、再びトリガー・オン。
究極の命中率を誇るエア・バーン・ブリットは、廃墟と化した駅で、その力を存分に発揮した。瓦礫の隙間をかいくぐり、柱を避けて、蜂のように敵サイボーグに襲いかかる。背中の数㎝手前で爆散し、力を解放した。
―――ドンドンバン!
スプレイ「ぐわっ!」
痩せたスプレイの体が、衝撃で跳ねたが、銃撃は止まらなかった。続いて爆炎の中から、残りの弾頭が一斉に出現し、揃って炸裂。
ところが、これがまずかった。
スプレイ「ひでえ!」
短い叫びと共に、スプレイの姿が、完全に消えた。爆発の威力が強すぎてホームから吹っ飛ばされ、ガード下に転落してしまった。
美沙「あ……やっちゃった」
ぼんやりと、美沙。
リボンのツインテールが、いきなり風にさらわれた。サイボーグが消えた駅の下方から、巨大ななにかが、騒音と共に現れたのだ。
―――戦闘ヘリ・AH64アパッチ。
ウェポンランチに足をかけたスプレイが、片手でバレッタを弄びながら、
スプレイ「やるじゃん、ロリポップ。だけど、ここは俺の勝ちみたいだな。悪く思わないでくれ、これも妹のためでさ。ま、子供は殺さない主義だから安心しな」
美沙「妹のためぇ? 子供は殺さない? ドロボーがなにカッコつけてんの? それに―――おれの勝ちぃ? 夢見るなら、寝てからにしなさいよねー」
顔をしかめて、鼻を鳴らす美沙だ。
スプレイ「……おい、まだなんかあんのか」
美沙「知りたいでしょ。実験中だけど―――見せてあげる」
言う早いか、美沙はブレザーの袖を、ブラウスごとくめくった。露出するはずの肌の代わりに現れたのは、黒い長めのリストバンド―――例の着衣型PCだ。外気に触れると同時に現れた3次元映像に、美沙はお澄まし調で告げた。
美沙「システム起動、声紋確認モード。えっとぉ、ログオン権限はアドミニストレーター。セイフティ解除。狙いは―――前方のガンシップAH64に固定」
スプレイ「監視衛星にでもアクセスしてんのか? 巡航ミサイルでも使う気なら、遅すぎだ」
美沙「余裕だニャン―――光とほぼ等速だから」
スプレイ「……なに?」
瞬きしたスプレイだが、すぐに察してコックピットの窓を叩いた。
スプレイ「くそっ、逃げろ! なんてチビだ、キラー衛星にロックされちまった!」
美沙「アハハハハッ! ばーか、死んじゃえ〜!」
甲高い嘲笑と共に、空が光った。
夜の雲を突き抜けて、一本の細く赤い線が、ホームと空を繋ぐように出現した。
本当は衛星軌道上から照射されたものだが、光速を肉眼で追えるはずもない。音は―――なかった。ノイズする聞こえなかった。
一拍ほど置いて、対岸のホームが大爆発を起こした。
想像を絶する高熱により、コンクリが沸騰。その気泡が飛び散ったのだ。送電用の電線がバタバタと倒れ、マグマ化した構材と共に駅構内に沈んでいく。
ヘリはと言うと―――リアローターを切断されただけで済んでいた。
380
:
暗闇
:2006/03/17(金) 22:29:07 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美沙「あ……まだ照準システムが甘いんだなぁ。むー」
と不満そうな美沙だが、ヘリの後部ローターは、姿勢制御と舵の役割を担う。ある意味でメインローターより重要な機関を失ったアパッチは、バランスを崩し、グルグルと回転しながら、落下し始めた。
そして200mほど漂った頃だろうか。
―――ドカーン!
前方の市街地から火柱が突き上げ、辺りを照らした。墜落したのである。
美沙「フッ……ザコの消え方にしちゃ、まずまずかな」
髪を弾いて体を戻した美沙を、青白い顔の鷲士が見つめ、
鷲士「あの……なんなんですか、今の」
美沙「ああ、草薙のこと? あのね、鷲士くんね、スターウォーズ計画って知ってる? TMD計画の元祖みたいなシステムのことなんだけど」
鷲士「……レーガン政権の? 大陸間弾道弾で撃ち落とすって、アレ?」
美沙「そっ。当時はバッテリと照準装置―――さらに予算の問題で、結局実用化には至らなかったんだけどね。設計図ウチで買い取ってぇ、ダメな部分を作り直して、宇宙に上げたの。どお? けっこー使えそうな感じするでしょ」
鷲士「……ははは。そ、そうだね」
もはや、そう答えるしかなかった鷲士であった。
381
:
暗闇
:2006/03/22(水) 13:59:08 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
時は遡り1604年……
=日本・江戸時代=
まだ現代のような開発による環境破壊は行われていない美しい自然が至る所に満ちあふれている世の中だった頃…
そして、4年前の関ヶ原の戦いで石田三成率いる西軍と徳川家康率いる東軍が勝利を収めたことにより以後200年以上も続く江戸時代がまだ始まったばかりである。
まだ戦の痕跡が各地にいくつも残っており、復興の進んでいない村々が多く、貧しい生活をしている者が多い……
そんな時代の山道を西洋の甲冑を着た異国の剣士が通っていた。
巨大な剣と布で刳るんだ何か異様な荷物を背負った金の髪の青年剣士に度々通りすがる人の視線が注げられるが、本人は気にしていないのか、目もくれずに前を歩いている。
その時、それまでは周りことを無視同然で歩いていた彼が目の前の存在を見て足を止めてしまった。
なんと小山ほどもある大量の薪を運んでくる青年が通りかかったのだ。ある意味、異人の自分より目立つ滑稽さだ。
その青年はまさに頼りない優男を絵に描いて実体化させたとも言える男だ。ぶつぶつと文句を言いながらも懸命に薪を運ぶその姿に誉めるべきなのか呆れるべきなのか……
???A「女の人ってのはなんでこう人使いが荒いんだろ? ゆやさんもあのばあちゃんも、人の優しさにつけ込んで……なんで最近僕と出逢う女の人ってみんな怖い人ばっかりなんだろ……」
どうやら彼は女の尻に敷かれて相当こき使われているらしい……その愚痴を聞かされる度になんか彼が哀れに思えてくる……大剣の騎士はそれ以外の感情は持たずに止めていた足を動かした。
だがその瞬間、何らかの拍子か大量の薪の重さに耐えきれなくなったのか遂にバランスを崩した青年が大剣の騎士に寄りかかってきた。
???A「おわわっ! 危ない!!」
薪の塊がこちらに目がけて迫ってくる。大剣の騎士はすばやく片腕を突き出してそれを受け止めてやった。
???A「ふ〜、いや〜どうもすみません。どなたか存じませんが……ん?」
そこで青年はようやく異人の騎士に気付いたようだ。どうやら、薪を運ぶのに一生懸命になっており、周りが見えてなかったらしい。
???A「異国の剣士の方ですか? どうして日本<ここ>に?」
青年が目を丸くして聞いてきた。4年以上前までは戦国時代であったこの国は、度々戦国大名と協力している外国人も見られたが、それも終わった今となってはほとんどが祖国へと帰ってしまい、見かけられなくなってしまったが、
それに対して、騎士がようやく口を開いてきた。
???B「ソウルエッジという邪剣を知っているか?」
???A「そうるえっじ? まあ、噂程度は……」
それは、先の戦国時代に大名達が追い求めて止まなかったと言われる最強の剣だ。
それさえ手にすれば天下など容易に手にすることが出来るとされ、大名たちは世界各地に使いを送ってその剣を捜索させたらしいが、遂に見つからずじまいだったという。
平和となった今となっては、それが本当に実在するかどうか怪しいという者がいるくらいだ。
???A「ひょっとして、貴方はその『そうるえっじ』を探してここまで来たので?
あんなホラ話に近い……」
???B「邪剣は実在する……俺はこの目でそれを確かめた奴だ」
騎士は剣呑な目つきになってそう断言した、青年は気圧されたが、なんとか口を開いて言い返す。
???A「その剣を手に入れて、あなたは一体何を……まさか世界征…」
???B「封印するんだ。二度と人の手に渡らないようにな」
騎士はそう言うと、歩みを再開しようとする。
???B「一つ言っておくが、邪剣には絶対に関わるな。人としての道を外したくなければな……」
382
:
暗闇
:2006/03/22(水) 16:47:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「人の道ですか……」
騎士の言葉を聞いた青年がポツリと呟いた。
???A「では、なぜあなたは人の道を踏み外す覚悟で、邪剣を封印しようと?」
騎士は驚いたように目を見張っていた。これは先程の優男の目とは違う……突然雰囲気が変わったような。
それに呑まれたのか騎士は口を開いていた。
???B「罪を償う為だ」
???A「……」
???B「俺は邪剣に関わりを持ったがために、罪を犯した。それを償う為にこの島国で新たに誕生したソウルエッジを永遠に封印する為にやってきた。それだけだ……しかし、例えソウルエッジを葬れたとしても俺は永遠に許されないだろがな」
騎士はそこで話は終わりだと言わんばかりに立ち去ろうとした時、
???A「たとえ、誰にも許されなくても……何もしないよりはいいじゃないのでしょうか?」
???B「!」
???A「許されない償いとは言っても、何もしないで死を選んだりするよりかは何かしてから死を選ぶ方がいいと僕は思いますよ」
騎士は背を向けたままで表情は伺えなかった。しかし、今の青年の言葉は罪の意識に縛られる騎士を少しは励ませたのか、彼は言ってきた。
???B「お前の名前は?」
京四郎「京四郎……壬生 京四郎と言います。愛と平和の薬売りです♪」
京四郎という青年は笑顔で名乗ると、騎士も
ジークフリート「ジークフリート・シュタウフェン」
京四郎「?」
ジークフリート「俺の名前だ」
大剣の騎士…ジークフリートは久しぶりに他者に対して名乗った。
そういえば邪縛から解放されてからここ数ヶ月、人とまともに話していなかったか。
名乗ったジークフリートは京四郎の目の前から立ち去っていった。
しかし、またこの男とは何処かで会うかもしれない……そんな気がしてならなかった。
383
:
暗闇
:2006/03/23(木) 09:13:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして…現代……
=アーカムシティ=
九郎「いったいなんだったんだ? あの店は?」
首を傾げながら、裏路地をトボトボ歩く九郎……その胸中にはあの本屋のことで占められていた。
それを説明するにはまた時間を少し遡らなければならない。
〜数時間前〜
九郎「どうしてだ?
もし値段の問題なら気にしなくて良いと思うぜ?
多分そっちの言い値で買い取ることが出来る」
ナイア「そういうことじゃないんだ。この店には、君が必要とするような魔導書を置いてないんだよ」
九郎「置いてないって……あんた、その手に持っているものは何だよ? だいたい自分でそれは魔導書だって説明してたじゃないか」
ナイア「それはそうなんだけど、この魔導書は君には合わないのさ。君にはもっと君に相応しい魔導書があるはずだ」
あれ?
何かまた変な方向に流れ始めたような……
だいたい誤解されているようだし。
九郎「あっ……いや、魔導書を必要としているのは俺じゃなくて、俺はただ依頼主に頼まれて……」
ナイア「いやいや!
君はまだ気付いてないだけさ。
君は近い将来、必要とするはずだ! 最高の力を持った魔導書……そう、『神』をも招喚できる窮極の魔導書を!」
九郎「え……あ……えーと……」
いかん……なんか盛り上がっている、この人。
こっちの話はまったく聞かずにどんどん進めてしまっている。
ナイア「あるんだよ。最高位の魔導書の中に『神』を招喚できるヤツがね
しかもその魔導書の所有者たる魔術師達は、何とその『神』を自在に操ることが可能なんだ……まあ、正しくは神の模造品なんだけど。
とにかく君が必要とするのは、きっとそういう魔導書なんだと思うよ」
もう何が何だかさっぱりだ。俺は完全に店長のペースに飲み込まれてしまい、言葉も出ない。
ナイア「嗚呼、楽しみだ、楽しみだね。君が手に入れる魔導書はどんなのだろう?
もしかしたら、それはかの『死霊秘法<ネクロノミコン>』だったりするかもしれないね――」
〜回想終了〜
結局あのまま店長の勢いに流されてしまい、気付いた時は店の外に出て閉まっていた。
九郎「なんつーか……狐にでも化かされた気分だ」
とにかく、もう日もすっかり暮れてしまった。
仕方ない、今日はもう終わりにしよう。
明日はもっと奥の方にまで足を運んでみるか……
そこに……
384
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:29:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「ちょいと、そこの兄ちゃん」
九郎「はい?」
九郎は呼ばれた方へ振り返ると、何やら侵入者は40代そこそこの、中々体躯に恵まれた中年米人と無精髭を生やした金髪の男性の姿があった。
???B「わりぃけど、ここは何処か知りてえんだけどよ。ここはどこだい?」
九郎「はぁ? あんたらこの街知らないの?」
2人の男性は「街ぃ?」と同じ言葉を同タイミングで吐く。
それに九郎はため息をつきながら、正直に答えてやった。
九郎「ここはアーカムシティ。現代世界の中心都市だ」
九郎の答えを聞いた2人の男の目が点になった。
その表情のまま、2人は九郎に訊ねてくる。
???A「失礼だけどよ、兄ちゃん……今、何つった?」
九郎「……アーカムシティ……」
???B「かの有名な悪の秘密結社が蔓延り、巨大ロボットが暴れる非常識が当たり前の日常の都市……そのアーカムシティかい?」
九郎「イエスです……」
???A「ということはこの街がある国はアメリカかい?」
九郎「少なくともその国以外に、アーカムシティという街が存在するなど聞いたこともございません」
そこまで言って、沈黙が支配した。
???A「こりゃ、俺達まだ夢の中にいるんじゃなかろうかな? なぁ、ブルース」
ブルース「そう思いたいんだけどさ……2人同時に同じ夢を見てるってこと有り得ないと思うぜ、バリー。それに、リッカーの爪を避ける時に転んで打っちまった後頭部がヤケに痛いんだよな……それもリアルによ」
バリー「やっぱりか?」
九郎「あのぅ〜」
バリー&ブルース「なんだい?」
九郎「さっきから、ワケの分かんないことばかりと話していらっしゃるが……あんたら……」
置いてけぼり状態にされかけた九郎が質問しようとしたその時だった。
カァー、カァー
一同「?」
一同が上を見上げると、そこには鴉の群れが。
別段珍しくないが、ヤケに鳴き声が激しい……興奮しているのだろうか?
やがて、鴉がこちらに向かって飛んでくる。何羽も何羽も……まるでこちらを敵と見なして攻撃してくるような……
バリー「伏せろ!!」
385
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:44:07 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
伏せた九郎達の頭スレスレを急降下してきた鴉が通っていく。
しかし、鴉は旋回してまた襲ってきたのだ。
ブルース「おい、この鴉もまさか……」
バリー「ああ、感染済みと見ていい!!」
バリーが鴉を手で思いっきり払いのけると、その鴉は一端上空へと逃げていく。
九郎「さっきから、なんだんだよ。感染済みとは言っても、病気にでも何かなってんのか? あの元気良く飛び回って人に猛烈アタックしてくる鴉さん達が!?」
バリー「そのまさかだよ」
バリーが真面目な顔してそう言う。しかし、その間にも……
ブルース「話はその辺にして、ここは逃げた方が良いんじゃないかい?」
ブルースが人差し指を上空やったので、見上げると……狭い裏路地から見える微かな夜空を覆い尽くしてしまうほどの鴉たちがいた。
九郎「何か悪いことが起こりますよって、暗示すか? こりゃ?」
バリー「ああ、おそらくそれも今からな」
カァァァァ!!
一匹の群れが鳴くと、それがスイッチだったかのように、仲間の鴉たちが一斉に急降下してきた。
ブルース「ここじゃ思いっきし不利だ。少なくとも路地からは出た方がいいな」
バリー「同意見だ。死体の次は鳥か……」
九郎「冷静に言ってないで、もっと慌てろよ!!」
386
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:46:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その一方……
儚い街灯の光に照らされ、数多の影が踊る。
慌しく駆け抜ける幾つもの靴音。
時折聞こえる怒声。そして――銃声。
少女は疾駆する。
猫科の肉食獣を思わせる俊敏な動き。
風を裂くような疾走。
銀の髪を靡かせ、白い肌を照らし出しながら走る。その姿は、喩えるなら白い雷光。疾く鋭く闇を刻む。
明らかに人間の規格を越えた身体能力。
――それでも少女は毒づいていた。
なんて、なんて不憫な躰。
まるで自由の利かない、矮小で脆弱なこの躰。
纏わりつく夜の空気すら重い。
水の中を走る気分だ。
力を失った今、我が身を縛る制約の何と大きいことか。なんとも、なんとも情けない。
路地の角から数名の覆面の男が姿を現した。全員がドラムマガジンのマシンガンを手にしている。
男達は躊躇うことなく銃口を少女に向けた。
マシンガンが一斉に吼える。
少女の姿はもう其処にはない。
すぐ横の角に、靡く銀の髪だけが一瞬だけ通り過ぎた。弾丸は虚しくコンクリートの地面のみを砕く。
男達は少女を追って、同じ角を曲がる。
そこで気付いた。
覆面の下で男達は笑う。
袋小路だ。
しかし、少女は止まらない。速度を落とすことなく通路を駆け、行き止まりのすれすれにまで……男達は目をむいた。
少女は重力の法則を無視し、壁に対して垂直に走ったのだ。慌てる男達。だがもう遅い。
ビルの壁を一気に駆け上がった少女は既に屋上に。
そこから跳躍。
少女の身体が月光を浴びて、摩天楼の空に舞う。
――その時、少女は誤算に気づいた。
落ちる少女の真下。
着地地点にせっせと走る男がいる。
慌てる少女。
しかし気付くのが遅すぎた。
間に合わない。
387
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:52:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「ちっくしょ…なんかややこしいことに巻き込まれちまったみたいだな」
あんな狭い所で、同じ道を逃げるのは無理だったので、とにかく路地の外で落ち合おうとなり、バラバラに逃げたのだ。
今のところ、こちらの方は鴉は追ってきていない……そろそろ歩いても大丈夫か?
???「……退け! 避けるのだ!」
んっ……?
突然、叫び声が聞こえてきた。
足を止めて周囲を見渡してみる。が、それらしき人はいない。
いったい何処から……?
???「さっさと避けろと言っておる! うつけがぁぁぁぁ!」
……真上?
ドスン
九郎「ぬあああああ! ぐげふぶぐぶはあっ!」
???「痛ぅ……」
――女? いやこの年頃なら女の子か。華奢ながら女性特有の柔らかい感触が伝わっている。
な、なんでいきなり女の子が降ってくるんだ……?
少女と目の合う――翡翠色の、吸い込まれるほどに澄んだ瞳
???「こ、この……! 何をボケっとしておった!? うつけうつけうつけ! 大うつけ!」
――メチャクチャ口悪ィ。
九郎「いや、普通、空から人間が降ってくるような事態を想定できる奴はいないと思うがっ!? つーかあんたこそ早く上から退いてくれっ!」
何が何だか全然分からないが、とにかく現状を何とかしなければならない。俺は少女を除けようとした。
そのとき。
物凄いスピードで走ってきたリムジンが俺達の前で止まった。その中からゾロゾロと覆面の男達が現れる。
妖しさ大爆発なその覆面、この町に住む者で知らない人間はいない。
九郎「『ブラックロッジ』!? なんで……」
???「ちぃ! 汝のせいで追いつかれたではないか!」
覆面男達は皆マシンガンを構えている。
銃口は……こっちに。
お、おいおい! 冗談じゃねえぞ!
無駄だと分かっていても、反射的に少女を庇った。
……銃声はいまだに鳴り響いている。だが、いつまで経っても銃弾が俺に降り注がれることはなかった。
不審に思って、恐る恐る顔を上げる。
――俺と覆面男たちとの間に、うっすらと光り輝く透明の障壁があった。
銃弾は全てその障壁に弾かれて、こっちに届くことはない。障壁の表面にはびっしりと魔術文字らしい紋様が刻まれていた。
はっと思い、少女を見た。
少女は冷たい瞳で覆面男たちを見つめ、手をかざしている。彼女の手もまた淡い光に包まれていた。
――こいつ、魔術師か!?
???「吹き飛べ、外道が!」
まるで巨大な手に薙ぎ払われたかのように覆面男たちは吹き飛ばされた。
これが魔術師の力か……初めて見た。
だけど……
???「くっ……
無駄に力を使いすぎたか……」
少女の息が荒いことに気付く。
よく見れば顔色も悪く全身に冷や汗をかいていた。
九郎「お、おい!? 大丈夫か?」
???「やはり術者なしでは……うっ……」
……気絶してしまった。
で、俺にどうしろと?
途方に暮れたその時だった。爆音と呼んだ方がいいような騒音と共にそれは現れた。
388
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:57:45 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???B「へぇ〜い! そこな若者! 大人しくその娘を我輩に渡すであるっ!」
現状認識及び思考回路の整理。
Q:
それとは何ですか?
A:
暴走族仕様な大型バイクに乗った、白衣着ていてエレキギターを掻き鳴らす何か変なの。(見たまんま)
俺の脳、なおさら大混乱。
いや……分かっている。分かっているんだ。
こういう輩は相手にしないで、とっととこの場から逃げ去るのがベストなのだと。
だが思考能力が完璧に鈍っていた俺は、うっかり声をかけてしまった。
九郎「……あの、どちら様でしょうか?」
ウェスト「なななななななななぁぁぁぁぁんと!? 我輩を! 一億年に一度と呼ばれた天才科学者たる、このドクターウェストを知らないとっ!?
なななななな何たる無知! 無知とは罪! 無知とは悲劇!
悲しみと絶望に彩られた君の人生を喩えるならばこの掌に舞い降りた儚い淡雪……雪が全てを白く埋め尽くす……僕の悲しみも何もかも……ゴゴゴゴゴゴ……何? 何が起こったの? な、雪崩れ!? ギャーーーー!!!」」
――やべぇ。電波だ。
えらいのに関わっちまった……どうするよ?
ウェスト「ともあれ若者!どうしても我輩の邪魔をするなら、死して我輩と『ブラックロッジ』の糧となるがモアベターな選択と言えよう!
貴様の死を乗り越えて我輩はまた少し大人になった!
さらば、少年時代!
一夏だけの淡い恋心!
アイム・ロックンロール!」
一通り叫ぶと白衣の変態は何を考えているのか、バイクに積んでいたギターケースを肩に担いだ。
ウェスト「レッツ・プレイ!」
ギターケースに何やら『穴』らしき物が開いた。担いでいる姿といい、これではまるでロケット砲の構えているような、『穴』は砲門に見えなくも……
……ちょっと待て。
九郎「何じゃそりゃぁぁぁぁ!」
少女を抱えて、大急ぎで逃げ出す。
穴から飛び出したロケット弾。言うまでもないが、人間の足でそれから完全に逃げ切れるわけはなく、やがて……
ズドォォン
九郎「だああああああああああっ!?」
爆発の衝撃と爆風に煽られて俺の身体は宙を舞う。
腕の中の少女を抱え込むように庇って、俺は地面を転がった。
九郎「い痛つつつ……って、だあああああ!?」
変態の横に控えていた覆面男たちがマシンガンを掃射してくる。もはや辺り一帯、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。通行人は悲鳴を上げながら逃げていく。
ボケッとしている暇はない。
少女を抱きかかえたまま俺も必死で逃げる。
ウェスト「追え! 追うのであるっ!
総ては! 総ては我らが『ブラックロッジ』の栄光と、そしてこのドクター・ウェストの偉業の為であーる!」
何ですか!? っていうことはアレも『ブラックロッジ』の一員ですか!? 裏社会の人材不足はそれほどまでに深刻化していやがりますか!?
とりあえず職安に求人募集を出すことを当方としてはオススメしたいっ!
九郎「つーか、俺が何をしたぁぁぁぁーーーーっ!?」
鴉、変態……何故こんなものに追われなければならないのか!?
神よ、俺は何か悪いことでもしたのでありましょうか!?
これはその罰でなのでございましょうか!?
などと、叫びながら、九郎は必死で突っ走っていった。
389
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:16:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、町中では……
レオン「それで、ここは…」
???A「アーカムシティだよ。かの有名な悪の秘密結社が暴れる世界の中心都市だ」
かったるげな口調で警官がそう言った。
レベッカ「レオンさん、どうやら私たちアメリカに逆戻りしちゃったみたいですね……」
レオンの隣にいるレベッカがガックリと肩を落とす。
真っ白な光に包まれたと思ったら、いきなりこの街に飛んでいたのだ。
人外の化け物たちを相手にしてきた自分たちはもう何があっても驚かないだろうと、思っていたが……
レオン「……そうだな。また便を手配しなければいけないな……」
レベッカ「ジルさんたち、大丈夫だといいですけど」
???A「ところで、おたくらもう他に質問はないか……」
そこに。
???B「ネス警部ぅーーー!!」
怒鳴り声に振り返ると、そこには如何にも暑苦しい感じの男性警官の姿があった。
ネス「何だいストーン君? また“アレ”かい?」
ストーン「いいえ、“アレ”でしたらもうとっくにここら一帯までがパニックになってますよ!
ですが、ブラックロッジが絡んでいるとみて間違いはありません」
ネス「いいから何が起こったワケ?」
ストーン「裏路地の方で……実は蛇のような化け物が出たと…流石に私も最初はホラ話かと思いましたが……送られてきた画像にはしっかりとその化け物が……」
2人の警官の話を聞いていたレオンとレベッカは既に顔色を変えていた。
390
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:18:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=九郎&謎の少女サイド=
九郎「ハア……ハア……ハア……とりあえずは撒いたか」
俺は少女を降ろし、息をつく。
しかし……何で俺がこんな目に遭わなくきゃならんのだ?
九郎「……この娘を追っていたみたいだけどな」
九郎はしゃがみこみ、少女の様子を見る。
相変わらず冷や汗は止まらないが、呼吸の方がさっきより落ち着いている。
しかし闇にも映えるような肌の白さが少女を酷く儚げなものに感じさせた。どこか浮世離れした、神秘的な雰囲気を漂わせる少女だ。
先程の少女の行動を思い出す。
いきなり空から降ってきたり、銃弾を防いだり、覆面男たち見えない力で薙ぎ倒したり……あれは魔術の力に間違いない。
九郎「魔術師か……」
それならこの雰囲気も、『ブラックロッジ』追われているのもそれなりに納得できる。納得できるだけでワケが分からないのに変わりないが。
???「ん……」
小さな呻きを洩らして、少女がゆっくりと瞳を開いた。
九郎「おう……気付いたかい?」
???「此処は……?」
九郎「さあ……ひたすら逃げ回ったからな。
だいぶ奥の方まで来ちまった」
???「……汝が、妾を?」
九郎「ほっとくワケにはいかねぇだろ。あんなヤバイ奴らの中に置き去りにしたら、いくら何でも後味が悪すぎる」
???「……そうか……礼を言おう……くっ」
九郎「おい、大丈夫か?
さっきからメチャクチャ調子悪そうじゃないか」
???「……術者無しで無茶をしたからな。構成を維持できなくなっているようだ。
ふふっ、そのうえアイオーンまで失っては不様としか言いようがない……」
九郎「んあー、何だかはよく分からないけど、このままだとマズイだろ? 今、病院にでも……」
???「無駄だ……妾なら大丈夫だ。世話をかけさせたな……んっ?」
背中に浮いている羽――何かの魔術装置だろうか――をパタパタさせながら怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
まただ。
また、あの吸い込まれるような翡翠の瞳。
何故か心臓が早鐘を打った。
???「汝……冥い闇の匂いがする。魔術師か?」
正直、驚いた。
魔術師ってのはそんなことまでわかるのか?
九郎「いや、残念ながら違う。軽くかじったことがあるだけだよ。そういうあんたこそ魔術師だろ? さっきの力見たよ」
???「違う」
九郎「違うって……あんな真似が出来るのは魔術師以外……」
???「そうか……魔術師でないということは『本』を持っていないという事か。
それは良い。見たところ、かなりの素質を秘めておる。何とも僥倖だ
まあ、ここまで都合が良いと何者かに踊らされている気がしないでもないが……構うまい」
……今日の俺って、なんか全力で置き去りにされっぱなしだよなあ。
九郎「あー、えーとな。俺にも分かるように話してほし……」
その時、ギターを掻き鳴らす音がその場所に響き渡った。
九郎&???「…………………」
ウェスト「ふはははははは! うまく隠れたつもりでも、この! 大!・天!・才!・たる吾輩ドクタァァァァァウェェェェストォォォォォ!……の目を欺くことなどインポッシブルなのである!
己の愚劣さ加減と無力さ加減を絶妙なさじ匙加減でミックスされた後悔に涙しつつ、神妙にお縄につけい!」
九郎「……確かに俺の人生において、今この瞬間に勝る後悔を味わった試しはねぇ」
確か――ドクター・ウェストとか言ってたか、その他にもそろぞろと覆面男たち現れる。
完全に囲まれている。絶体絶命だ。
こんなとき、俺が最強組織の殺し屋でケダモノだったら。
???「時に人間。汝、名前を何と申す?」
だがそんな状況もお構いなく、少女は呑気にもそう尋ねてきた。
391
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:23:30 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「こんな時に何だよ、あんたは!? それよりこの状況なんとかしないと、2人とも蜂の巣だぜ!?」
???「良いから答えよ、人間。名前は大切なことだ」
九郎「だからそんな場合じゃねえって!
あんた、魔術師だろ!? 何とかならねえのかよ!?」
ウェスト「『本』さえ回収できれば良い! やってしまうがいい!」
ウェストが合図すると覆面男たちが一斉にマシンガンを構える。
ちぃぃぃぃ!? もう駄目か!?
???「答えよ! 人間ッ!」
九郎「……ああああ! もう何なんだよ!?
――九郎! 大十字九郎だ!! 魔術師でもなければ正義のヒーローでもないぞ! ただの探偵だ!
こんな状況どーにも出来ねえぞ、チクショウッ!」
???「そうか。ならば大十字九郎。妾は汝と契約する」
不意に少女が俺の顔を、自分の目の前に寄せた。
儚くて、柔らかな、感触。
触れ合う唇と、唇。
その瞬間、俺達は眩い光に包まれた。
九郎「なっ……!?」
ウェスト「な、何であるか、あの光は!? くっ――!」
光の洪水が辺り一面を白く染め上げる。
目を開けていられないほどの閃光。白い闇。
その中で俺は、少女の声を聞いた。
アル「大十字九郎。我が名をしかと心に刻み込め。我が名は『アル・アジフ』! アブドゥル・アルハザードによって記された世界最強の魔道書なり!」
――久遠に臥したるもの死する事なく怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――
ウェスト「な、なんであるか? 彼奴の格好は……?」
俺は、ぴったりとフィットした黒いボディスーツに全身を包まれていた。それはこれは……マント? いや翼?
よく見ると本のページを束ねたような構造になっている……と言うか、そこにはびっしりと魔術文字が書かれている。魔導書のページそのものだ。
自分の置かれている状況が全然理解できない。
いったい何が……ってそうだ! あの少女は!?
周りを見渡す……だが少女の姿はどこにもない。
アル「此処だ。此処」
声は聞こえど姿は見えず。
アル「肩だ。己の肩を見ろ」
言われて、恐る恐る肩に目を向ける。
……いた。確かにいた。
妙に小さくなった……と言うか、デフォルメされた少女が俺の肩をの上にちょこんと腰かけている。
九郎「ず、ずいぶん縮んだな……」
アル「ふっ……その代わり、汝の魔力は爆発的に増幅したぞ。
そう、この妾――魔道書『アル・アジフ』の所有者に選ばれた今の汝は魔術師<マギウス>だ。さあ、共に戦おうぞ」
九郎「――って、さらりとトンでもないことが俺の意志とは関係なく決定されてないか、それ!?」
ウェスト「なっ……馬鹿な!? あの『アル・アジフ』が、あんな若造をマスターに選んだだと!?
有り得ん! 有り得んのである! 撃てぇぇぇぇぇぇ!」
ドクター・ウェストの命令で、覆面男たちが我に返る。
そして、覆面男たちはその引き金を引いた。
ダダダダダダダ
九郎「どわああああああああ!?」
アル「落ち着け九郎! かのような玩具、もはや汝には通用せん!」
少女が宣言すると同時、黒い翼が俺を護った。
銃弾はすべて翼に弾かれ、地面に転がる。
弾丸が止むと同時、翼が大きく羽ばたいた。
羽ばたきが凄まじい旋風が生み、覆面男たちを吹き飛ばした。
392
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:25:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウェスト「なんとっ!? おのれぇぇぇぇぇ!」
ウェストがあのギターケースを再び構えた。
ウェスト「レッツ・プレイ!!」
ドシュッ
ドクター・ウェストのロケット弾が再び迫る……ッ!
九郎「お、おい! アレはいくらなんでも……!」
アル「右手に魔力集中!」
どうすれば良いのか分からなかったが、なんとなく力を右手に集めるようなイメージを思い浮かべた。
果たしてどうだろうか、右手に魔術文字が浮かび上げる。
アル「掴め!」
言われるがままに飛んでくるロケット砲をその手で受け止めた。ロケット弾の勢いに押され、摩擦熱によって焦げた足跡をアスファルトに刻みながら後退する。
だが、それだけだった。
俺は脚を踏ん張って、ピタリと制止する。
ウェスト「は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
九郎「こ、これは凄いな……」
手の中で、炎の尻尾を振りまきながらなおも暴れるロケット弾を見て、思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう。
少女は意地悪の笑みを浮かべた。
アル「さあ九郎……それは持ち主に返してやれ」
――なるほど。
俺もまた、にやりと笑って応えた。
ウェスト「ちょっ! ちょっと待ったァァァァ!? そ、それはマズイのである!」
こっちの意図を察したのだろう。慌ててバイクに乗り、急速Uターンで逃げようとする。
だが、遅い!
九郎「ほぉぉぉぉら、忘れ物だっ! 受け取れぇぇぇぇ!」
手に持ったロケット弾を槍投げの感覚で、遠ざかるドクター・ウェストの背中目がけて、思いっきり投げつけた。
ウェスト「ノォォォォ! ノオオオォォォォッッ! のあああああああっっ!?」
ヤケクソ気味に盛大な爆炎と爆音が夜闇を吹き飛ばす。爆風に舞い上げられたドクター・ウェストは、そのまま向かい先のビル壁に激突し、ベチャという音を立ててその身体は地に崩れ落ちた。
ドクター・ウェストをぶち倒して、ようやく辺りは静けさを取り戻した。肩の上の少女が満足そうに頷く。
アル「うむ……初めてにしてはなかなかの手際だったな。どうやら妾と汝、魔力の波長が合っているらしい」
九郎「……って、俺は相変わらず状況を把握出来てないんだが」
アル「ふむ、まだ混乱しておるか。まあ、無理もない。
先程も名乗ったが、妾は魔導書『アル・アジフ』。魔術をかじっていたのなら名前くらいは聞いたことがないか?
それとも『死霊秘法』<ネクロノミコン>と名乗った方が聞こえが良いか」
『ネクロノミコン』
偉業の神々について書かれている魔導書の中で、最も有名な本だ。
ただし現存しているのは写本も含めて、ごくごくわずかしかないと言う。はっきり言って伝説に近い存在だ。
しかも、『アル・アジル』と言ったら……
???「そうかの有名なネクロノミコンのオリジナルよv」
393
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:41:45 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「だ、誰だ!?」
九郎が声のする方を振り向くと、そこには界魔たちにバグシーンを仕向けたあの女性の姿があった。
沙耶「私は沙耶……よろしくね、新しいマスター・オブ・ネクロノミコンさん。以外といい男でよかったわ」
九郎「マスター・オブ・ネクロノミコンって……俺はまだ魔術師になると了承してねえんだけど!! それにあんたまさかあの変態の……」
沙耶「お願いだから、アレとだけは一緒にしないで……」
頭を抱えながら、彼女は言った。
その時……
ウェスト「ぐぬぬぬぬ……おのれぃ……」
なんと、そこにはボロボロになりながらも立ち上がってきたウェストが…とはいってもかなりフラフラだが……
ウェスト「よくも我輩にこんな仕打ちを……我輩を起こらせるとどうなるか……おうっ」
無理に身体を動かすたびに、ピューと血が至るとこから吹き出る。
沙耶「全くもう、あなたまだ生きてたの?」
ウェスト「貴様は妖怪狐ではないか? 邪魔だからそこを退くのである……彼奴は我輩の獲物であ…うっ!」
バランスを崩す、変態科学者はどうにか根性で踏みとどまっている。
沙耶「そんなんじゃ、邪魔になるだけだわ。 早くお帰りなさい」
ウェスト「黙るのである。如何に逢魔といっても今回の任務を任されたのは我輩である。勝手な真似は許さないである!」
沙耶「あら、そう……でもこの状況じゃ作戦妨害はどちらかしらね? そんな有り様じゃ、あなたの方に責任が問われると思うけど……最悪の場合、大導士様を怒らせちゃうかもね。
ブラックロッジきっての天才科学者はただの足手まといな変態だったということかしらね?」
ウェスト「!!」
ウェストはワナワナと身体を震わせながら、
ウェスト「ちょっとそこで待っているのである……今から我輩の本気を見せてやるのである……この大・天・才ドクター・ウェストの真の実力を!!」
ウェストは人差し指を上げながら、
ウェスト「アイシャルリターン!!」
ウェストは蹌踉けながら、九郎達の視界から消え去った。
沙耶「さてと、変態さんも居なくなったことだし……ちょっとお姉さんと遊んでくれないかしらv」
沙耶が微笑みを貌に浮かべると、その隣には数体の鎌鼬が姿を見せた。
394
:
ゲロロ軍曹
:2006/03/31(金) 20:40:36 HOST:p3174-ipad30okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
九郎「お、おい!?どうすんだよこれ!??なんか、さりげなく状況が悪化した気がするぞ!??」
自分の肩にいる小さくなったアルに対してそう告げる九郎。
アル「ふん、案ずるな。あのような物の怪の類、今の汝ならばたやすく仕留められる。」
九郎「だぁあ!!お前俺の話聞いてないのか!?聞いてないだろ!??俺が言いたいのは、お前のせいで今の状況が成り立ったんじゃないか、ってことだよ!!!」
アル「・・・ならば問う。妾の力もなしに、先の状況が打破できたとでも?」
九郎「うっ・・。(汗)」
アル「銃弾の雨霰の中、ミンチにならずにすんだのは誰がいたからだ?」
九郎「うっ・・・・。(大汗)」
アルの告げる事実に対して、反論する術がない九郎・・。
アル「魔術を齧ったとは言え、汝はただの人間だ。そして妾は力を使い果たしておった。ならば、汝と妾が契約するのが双方にとって最良の選択ではないか。うむ。何の問題もない。」
そういいながら、アルは不敵な笑いを見せた。そう、まるで自分が勝ち誇ったことを見せつけているような笑みだった・・(汗)。
九郎「ひでぇ・・。」
アル「運命だ。」
思わず泣きそうになった九郎に対し、あっさりと告げるアル・・・。
九郎「ひ、一言で片付けやがったな?ちくしょう、俺は認めねーぞ!!」
アル「・・往生際の悪い人間だ。まぁよい。」
九郎「よくないっ!」
沙耶「・・余裕ねぇ、あなたたち。こんな不利すぎる状況の中で・・。」
九郎「あ・・・(大汗)。」
沙耶の一言で、改めて自分がめちゃくちゃピンチな状態ということを再確認した九郎・・(汗)。
395
:
ゲロロ軍曹
:2006/04/03(月) 18:54:02 HOST:p6068-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・とある公園=
剣崎「・・・。」
とある公園のベンチに座りながら、剣崎一真は一人、悩んでいた。それは、この間現れた復活したアンデッド、そして新しい三人のライダーたちのことである・・。
剣崎(一体、何がどうなってるんだ・・?烏丸所長や橘さんなら、何かしってるかもしれないけど・・。)
だが、それは到底無理だった。なぜならここ数年、彼らとは音信不通で、どこにいるのかすら分からなかったからだ・・。
剣崎(・・くそ!!こんな時、何もできないなんて・・!!)
剣崎は、今の自分が歯がゆかった。昔のようにブレイドとなって闘うことができない、今の自分が・・・。と、その時・・・
?「・・あのう、どうしたんですか・・?」
剣崎「え・・?」
剣崎は声に反応して、うつむいていた顔を上げた。するとそこに、優しそうな雰囲気の女の子がいた・・。右手には買い物袋をもっている。おそらく買い物から帰ってたところなのだろう・・。
剣崎「えっと・・、君は?」
?「あ、私、『五代みのり』っていいます。どうぞよろしく♪」
剣崎「あ・・、うん。俺は剣崎。剣崎一真・・。」
とりあえず、軽く自己紹介をする二人だった・・。
396
:
暗闇
:2006/04/04(火) 17:36:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
ノイエ「え……ええーっ!? 実の……実の親子ですって!?」
大学から坂を下って数分の場所――ボロアパートの2階部屋から悲鳴が上がり、深夜の静寂を切り裂いた。辺り一帯の民家に立て続けに明かりが灯り、ワンワン、ニャーニャー――犬猫までが喚き出す。
美沙「こらっ、しーっ。落ち着きなさいよ、ここドイツじゃないんだからっ。わたしこのボロ屋けっこー気に入っているの、追い出されたらどーすんのよっ」
ノイエの口を押さえながら、美沙が耳元で喚いた。
――鷲士のアパートでの出来事である。2部屋ある中で、こっちはハイテクとヌイグルミが同居する角側。美沙さまの居城だ。
茫然自失のノイエは、白茶けた顔でぼんやりと、
ノイエ「ミ、ミサは中学校で……シュージは大学生……! 年齢差は……たった9歳? 小学4年生のときにできた子供……? 神よ、なんてことなの……! 確かに本国にも、大学に赤ちゃんを連れてくるヒトはいたけれど……」
美沙「エッチしたのは8歳のときみたいだけどねー。 小学3年生かな? ちなみに美貴ちゃ――あわわ――じゃなくて、ママはもう1歳下だよ」
パパに作ってもらったサンドイッチをつっつきながら、ゲホンゲホン、と美沙だ。
ノイエ「じゃ、じゃあ、そのお母さまは……? どうなっている……? 教育研究のためにも、お話しを伺っておきたいわ……」
美沙「え、えっとね……し、死んだの。風邪で。うん、そう」
ノイエ「……か、風邪?」
ノイエが片眉を上げた。
ノイエ「ま、待って、シュージはともかく……あなた、あの超巨大コングロマリットを率いるユウキの直系なんでしょう? あなたにとっての祖父母がお亡くなりになったのなら、その一人娘であるお母さんは、一族の未来を左右する重要人物のはずよ? 100人の医師団がついてても不思議じゃないわ。それが……風邪?」
美沙「う、うるさいなぁ。カンケーないでしょ、そんなこと。だいたい、今はもう結城とわたしは切れてるんだし。鷲士くん、なんか言ってよー」
と振り向いた美沙だが、大学パパの反応はなかった。
鷲士はエプロン姿。大型TVの前で、先ほどから正座したまま動かない。
映像は深夜の特番だった。緊急報道である。6時のニュースの女性キャスターが、今はリポーターだ。背にしているのは――相模大らしい。
リポーター『ご覧下さい! AH64、通称アパッチと呼ばれる戦闘ヘリの残骸です! 今、この日本でなにが起こっているのでしょう!? 先日もこの大学は図書館を爆破される事件があり、テロの憶測も飛び交いましたが、今回は次元が違います! AH64というと、横須賀基地にも配備されている米軍のヘリコプターですが、外務省が先程確認をとったところ、在日米軍の部隊から失われた機体は一機も存在せず、その出所は全く不明のまま! さらに風苅町駅の大破壊は、なんと宇宙兵器が使われた形跡もあり――』
興奮気味のリポートが、延々と続く。
魂を抜かれたように、鷲士は前のめりにパタッ。動かなくなってしまった。
鷲士「た、大変名ことになってしまった……!」
美沙「しっかりしてよ――発見されたのは、頭を打ち抜かれたパイロットの死体だけかぁ。あのおかしなチューン・マンの仕業ね、きっと」
画面を見ながら、美沙。神経の太さが違う。
――スプレイの行方は、ようとして知れなかった。
美沙の“命令”で動いた治安・公安局だが、未だに発見できずにいる。フォーチュン・テラーが誇る監視衛星・叢雲でさえ、追尾は不可能だったのである。熱源などの反応が普通の人間と違っていたのが、主な原因だ。直後にモードを動的に切り替えて探索を行ったが、初動の遅れが、致命的な隙を与えてしまった。
疲労の濃い様子で、ノイエはかぶりを振った。
ノイエ「ああ……なんてこと……! わざわざ極東までやってきたのに、肝心のバレッタをミュージアムに奪われてしまった……!」
美沙「んじゃ、本題に入りましょーか」
ニヤリ、と美沙が笑い、鷲士も弾かれたように居住まいを正した。
397
:
暗闇
:2006/04/04(火) 17:37:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「そ、そうだね、まずはそれを聞いたとかなきゃ。あのバレッタはいったいなんなのか、禁断の井戸……回る水だっけ……を、どうしてミュージアムが狙ってるのか……あいつらを防ぐために、きみは日本に来たんだろう?」
ノイエは真剣な眼差しで、父娘を交互に見た。
――すぐにこめかみを押さえた。
ノイエ「本物は最初から存在せずに、あなたたちが事実上のダーティ・フェイスだなんて……! これはこれで問題だわ……! 任せて大丈夫なのかしら……?」
美沙「ふ〜ん、そぉ。んじゃやめる」
ノイエ「あっ、うそよ、うそ! ちゃんと話すから!」
そして夜はさらに更け――小一時間ほどのち。
腕組みした鷲士は、重々しく頷いた。
鷲士「……分かった。あ、いや、細かい部分は正直よく呑み込めてないところもあるけど、少なくともノイエの言いたいことは理解したつもりだよ」
ノイエ「そ、それじゃあ!?」
ノイエは希望に目を輝かせ、身を乗り出した。
が――。
鷲士「あの……悪いけど、1日ほど考えさせてくれないかな」
あちゃー、と美沙が顔をしかめ、ノイエはテーブルをブッ叩いた。
ノイエ「なっ――ど、どうしてなの!? 連中は既に部隊をミュンヘンに送り込んでる! 今回の現場指揮官であるハイ・キュレーター、ディーン・タウンゼントも、今頃は間違いなく合流しているはずだわ!」
美沙「ゲ……! ディーン・タウンゼント? 同じハイキュレーターって言っても、この前のヘボ桐古とかよりは遙かに格上じゃん。あっちも本気みたいねー」
ノイエ「そして井戸を開く鍵は、彼らの手に! 一分一秒でも惜しい――本当ならこれも帰りのジェットの中で話すべきようなことなのよ!? どうして!?」
鷲士「ど、どうしてって……ノイエはなにか誤解してるよ。ぼくたちは警察じゃない。ましてやヒーローでもなんでもない。きみの話を聞いてると、今回は宝探しっていうより、最初から戦いが前提みたいだ。簡単には引き受けられないよ」
ノイエ「既に被害者は出てるのよ! 放っておくと言うの!?」
鷲士「……あのね、ぼくは父親なんだよ。自覚、あまりないけど」
ため息混じりの、鷲士の言葉だった。
ノイエはハッとして、美沙を見た。12歳の少女は肩をすくめるだけだが、ダーティ・フェイスを駆り出すということは、彼女の出撃をも意味する。
碧眼の美女は、唇を噛んで顔を上げた。
ノイエ「じゃ、じゃあ、どうすればっ……!」
鷲士「……だから、考えさせてよ。その……悪いとは思うけどさ」
重い沈黙を破ったのは、やはり美沙だった。少女は両腕を後ろ手に組むと、肩を若いパパにこすりつけながら、猫なで声で、
美沙「ねえねえ、鷲士くぅん。美沙ぁ、行っきたいなぁ。井戸にもぉ、興味あるしぃ♪」
鷲士「ねえねえって……ぼくに色目使ってどうするのさ」
呆れる鷲士だが、すぐに真顔になった。
鷲士「……あのね、美沙ちゃん。ぼくは宝探し自体は反対じゃないんだ。ぼくも施設の出だから、自分のルーツを探そうっていう気持ちは、凄くよく分かる。だけどさ、戦いはよくないよ。ケガしたら大変だろう? カタいこと言うようだけど、やっぱり――」
すると美沙は、小さな手で、鷲士の腕を取り、
美沙「わたしのコト、キライ……?」
鷲士「まさか〜。うん、分かった、行く――」
笑顔で言う鷲士だったが、急に我に返り、
鷲士「――あわわ、きみは好きだけど、行かない! いや、行かないとまでは言わないけど、こんなことでいい返事なんかしないぞ!」
美沙「ちぇーっ。やっぱり本物じゃないとダメかぁ。半分は血を引いてるんだけどなぁ、なにが違うんだろ? これは要研究ね」
舌打ちし、指を鳴らす美沙である。
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