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スーパーRPG大戦α

198暗闇:2005/11/19(土) 01:45:35 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
―――何?
完全に虚をつかれたケンは、受け身もできずに背中から地面に激突した。
跳ねるようにして起き上がるケンに向かって、リュウは竜巻旋風脚を放った。
白い空手着の足が風を切り、低い唸りを上げる。
ケンは両腕を組んで盾とし、リュウが繰り出した技を必死に受けとめた。
その衝撃は痛いと言うよりも、体全体に響くほど、ずっしりと重かった。
恐怖はない。
しかし、負けるかもしれないという不安を抱いたことは確かだった。
ケン「喰らえ、昇龍拳!」
リュウが着地するのと同時に、ケンは立て続けに昇龍拳を繰り出した。
―――クッ!
最初の一撃をガードしながら、リュウは反射的に身を引いた。
ケンは技と技をコンビネーションにして攻撃することを好む。一発入れば、反撃のチャンスを見いだせないまま連続で攻撃されかねない。
それゆえ、リュウは迂闊にケンの懐に留まることができなかった。
しかし、昇龍拳に気を取られたリュウの足下に僅かな隙が生じた。
ケン「逃がすか!」
ケンの放ったローキックが、リュウの足にヒットした。
その衝撃で、上半身のガードが手薄になる。
すかさずケンはキックの軸とした右足で大地を蹴りながら、渾身の力で体を回転させた。
リュウを遥に凌ぐスピードである。
一撃の威力はリュウほど強くないが、ケンはあえて回転を速くすることで威力を抑え、最後の一発まで相手を倒すことなく、連続で打撃を加えているのである。
ケンの精神の根底には目立ちたい、注目されたい、という自己主張があった。
そこに天性の才能が加わったことで、ケンの技は『いかに相手をびびらせるか』という妖気すら感じられるものとなったのである。
―――ケンの竜巻旋風脚は疾手の如し。
リュウは常々、そう思っていた。
互いに凄まじい技の持ち主であることを熟知している。
その相手の技を凌駕して初めて格闘家としての誉れが得られるのだ。
リュウとケンは、再び間合いを開けて対峙していた。
2人とも肩で息をしている。
―――次の一撃で、すべてを決める。
―――今を逃せば、チャンスはない。
互いに、戦いの集結が近いことを感じていた。
最強の技で相手を撃ち、最良の決着をつけるためには、これ以上体力を消耗させることができなかったのである。
そして、唐突に最後の決戦が始まった。

199暗闇:2005/11/19(土) 02:06:19 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
相手に駆け寄りながら、残った力を振り絞る。
どの技で来るのか?それは、互いに分からなかった。だが、もはや2人ともそんなことを考えようとは思わなかった。
いかなる技を出してこようとも、優れた方が勝つ。簡単なことだった。
相手が必殺の間合いに突入したことを察知すると、2人は同時に攻撃を開始する。
リュウ&ケン「昇龍拳!」
互いの口から発せられた言葉に、2人は一瞬の恐慌にとらわれた。
―――何ぃッ?
―――同じ技を出してきたのか?
ガキッ! スボォ!
鈍い音が谺した。
同時に周囲の風がやんだ。
森の中が森閑とし、静謐が訪れた。
直後、リュウは顔に浅い傷を負い、ケンは左肩の一部を抉られた。
リュウがわずかに顔を振って、致命傷を避けることが出来たのは、数限りない訓練と修業のたまものであった。
ケンが左肩の一部を抉られただけで済んだのも同様に鍛錬と汗のたまものであった。
もはや一歩たりとも動けない。
結局、2人の間に白黒をつけることはできなかった。
完全に力尽き、もはやどちらにも立つ気力さえ残らなかったからである。
その時、森の茂みの中から声がした。
???「力は互角だ」
2人がハッとなって茂みの中を見ると、師匠の剛拳が現れた。
剛拳「相手を撃破できぬのは互いに未熟と思え」
師匠の声にはリュウとケンの意志を確固たるものにする。その狙いが感じられた。
剛拳「お前たちは闘いの中に生きる男だ。真の格闘家を目指して常に世界をさすらい歩け」
剛拳は2人を見つめて言った。
リュウとケンは10年以上も寝食を共にしてきた無二の親友だった。
だが、格闘技に関してはライバル同士である。
ケン「修業を終えてきた暁には、今日の決着をつけよう」
ケンの言葉にリュウは頷き、新たな技を究める修業の旅に出ることを決意した。
リュウ「互いに強くなったころに再び会おう」
2人には奇妙な満足感があった。胸に滲み通るような爽快感があった。

200暗闇:2005/11/19(土) 02:22:52 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
=中国・上海=
リュウ(あれからもうだいぶ経つな…)
中国の魔都と言われる上海は黄浦江<ワンフコン>の北と西に広がった都市だ。
リュウは夕陽に照らされた黄浦江を眺めながら、修業の旅に出るきっかけとなったあの時のことを振り返っていた。
額に巻いた赤いバンダナが夕陽に映えてさらに真っ赤に染まっている。
リュウの修業は最近は取り立てて成果があがっていない。
新たな技を開発することが出来ず、リュウは無為な日々を費やしていた。
―――時が無駄に過ぎていく。
自嘲気味につぶやいた。
河から吹く風さえ澱んでいるようにリュウには感じられた。
上海は噂通り、確かに猥雑な街に思えた。
だが、活気のある街でもあった。
―――俺はこんな街が好きだ。
そしてリュウは雑踏の中を歩き出した。

201暗闇:2005/11/19(土) 22:42:28 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その時、背後に殺気を感じた。いや、背後だけではない。
瞬く間に殺気がリュウの周囲に漂い始めたのだ。
その殺気に気付かないのか、路上を行き交う人々は何事もないかのように歩いている。
動物特有の勘なのだろう。
路上で餌をついばんでいた鳩の群れが一斉にバタバタと舞い上がった。
シュッ!
その刹那、リュウの背後に微かな音を聞いた。
気合いを入れる際の、格闘家特有の鋭い吐息だ。
―――来たな!
咄嗟に振り向いたリュウは、太陽を背にして舞い上がる襲撃者のシルエットを見た。
ジャンプの頂点に達すると、黒い影は蹴りの体勢を整えた。徐々に速さを増す体の落下にあわせ、長い髪が風をはらんで広がる。
―――女?
蹴撃の直前、リュウは身を翻して、真横に跳んだ。
襲いかかってきた相手はリュウが移動したので、目標物を失い、バランスを崩した。
近くにいた人々は何事が起きたのかとばかり眼を見張った。
直後、反転したリュウの蹴りが狙撃者の胴部を撃った。
狙撃者A「!」
狙撃者が数歩、後方にのめった。そのまま、声も上げずに崩れ落ちる。
アアッ!と、街の人々が叫んだ。
驚いて転んだ老人がいた。突然の出来事にあっけに取られているジーンズ姿の若者たち。
さらに喧嘩だと錯覚し、恐怖にわなわなと震える買物袋を下げた婦人もいた。
軍服を模したような戦闘服に身を包んだ若い女が、街路に横たわっている。
見開いたままの眼が。あらぬ方向を見つめていた。
その瞳には輝きがなく、魔物に憑依されているかのように虚ろだ。
あきらかに自らの思考能力を失っていた。
―――誰かに洗脳でもされているのか?
リュウは一瞬、そう思った。
リュウ「女と闘うのは俺の趣味じゃない」
リュウは狙撃者を睨み付けた。
狙撃者A「ククク……」
狙撃者は不気味な笑い声を発しながら立ち上がり、再びリュウに挑もうと身構えた。
格闘能力はあきらかにリュウが勝っている。
だが、狙撃者は懲りることなくリュウに挑もうとしている。
―――おかしい……痛みすら感じていない。
常識の通用しない相手だとリュウは感じた。
リュウ「なぜ、俺を狙った?」
狙撃者との間合いを計りながらリュウは聞いた。
通常の格闘家ならばこのまま一気に相手の懐に跳び、体を組み伏せたに違いない。
しかし、リュウはそうしなかった。
このまま女を組み伏せる行動に出たなら背中に隙が出来てしまう。
その一瞬の隙を突かれて周囲にいる別の狙撃者に背後から襲われて倒されてしまう。
リュウにはそのことがわかっていた。
リュウ「4人……いや、5人はいるな。やるなら一気に襲ってくるがいい」
リュウは周囲で遠巻きに見る街の人々を見回した。
見物人たちにはリュウの言った意味が理解できていない。
誰もがリュウの言葉に対して訝しげにしている。
リュウ「隠れていないで出てこい」
抑揚のない声でリュウが言った途端、人々の群れからズイ、ズイ、ズイッと、5人の若い女が進み出た。皆、一様に戦闘服で身を固めていた。

202暗闇:2005/11/19(土) 22:57:39 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
狙撃者リーダー「サスガハ噂ノ格闘家ダワネ。私達ガ5人イルコトヲ、ヨク見破ッタワ」
リーダー格と思われる女が抑揚のない声で言った。
アッという間にリュウを取り囲む。
初めの狙撃者と同じように全員、虚ろな眼をしている。
同じように全員、虚ろな眼をしている。
同じように魔物に憑依されたか、誰かに洗脳されたとしか思えない。
だが、虚ろな眼に反して、明らかにリュウを倒そうという殺気が漲っている。
巻き添えを食ってはかなわないと思ったのだろう。周囲で遠巻きに見ていた人々が見物の輪を広げた。
殺気が渦巻く。
リュウ「俺は機嫌が悪いんだ。女と戦うのは趣味ではないが……」
リュウはジリッと間合いを計りながらリーダー格の女闘士を見た。
狙撃者リーダー「ソレハ正シイ考エネ。格闘家ニ男ト女ノ区別ハナイモノ」
リーダー格の女が低い声で応える。
それが、戦闘を再開する合図となった。
5人が同時に素早い動きで蹴りを入れてくる。
見物人たち「うわぁぁ〜っ!」
見物人の多くが、脅えたような叫びを発した。
それほど女たちの攻撃は鋭かった。
が、リュウは頭を左右に振りながら女たちの蹴りを避け、横に移動した。
見物人A「速い!」
見物人の誰かが叫んだ。
直後、見物人の多くは眼を見張り、呆気に取られた。
防御にまわっていたリュウが体勢を整え、一気に攻撃に転じたのだ。
その迅速な動きを的確に捉えることが出来た見物人はいない。
狙撃者B「ガッ!」
狙撃者C「ウグッ!」
女たちの口から低い悲鳴が漏れた。
見物人が瞬きする間もなく、女達は次々と倒れる。
見物人B「な、なんだ?何が起きた?」
見物人は一様に眼をしばたかせた。
気が付くと、女5人が地に倒れ、呻いている。
その前に息ひとつ荒げることなくリュウが立っていた。

203暗闇:2005/11/19(土) 23:09:05 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
見物人C「す、すげえ?」
黒い長衣を着た色白な若者が驚きの声をあげた。
しかし、周囲の人々はさらなる驚きの声をあげた。
地に倒れた女達が再び、モゾモゾと起き出してリュウを取り囲んだのである。
見物人C「な、なんだ?まるでゾンビのようだぜ!」
先程の若者がもう一度、驚きの声をあげた。
リュウ「何のために俺を襲う?」
リュウは女の1人に聞いた。
狙撃者たち「キエェェェェ〜イ!」
リュウの質問には応えず、奇声を発しながら女達は襲いかかった。
先程と同様に5人が同時に素早い動きで蹴りを入れてくる。
全く別の角度と方向から、しかも完全に同時にリュウの頭を狙っていた。
だが、今度もリュウの迅速な動きを的確に捉えることができた見物人はいなかった。
常人の動体視力では、軽い跳躍とともに片足を広げつつ、体に回転をかけるリュウの姿が網膜に映っただけだろう。
見物人が気付いた時、5人の女はまたも地に倒れていた。全員が気絶しているようだ。
リュウ「……何の為に……ここまでしつこく……俺を襲う?」
リュウはわけがわからず、その場に立ち尽くした。
―――単なる物盗りの仕業とも思えないが……
そう思いながら荷物を背負ってリュウは再び歩き出した。
見物人たちはただ呆然とそこから去っていくリュウの後ろ姿を黙って見つめていた。

204暗闇:2005/11/20(日) 01:44:36 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その頃、ジャングルの上空を、戦闘機とも輸送機ともつかない異形の飛行物体が旋回した。
犯罪組織シャドルーのVTOL(垂直離着)機だ。
ジャングルの向こうには幾つもの岩山がそびえている。
その中央に、ひときわ高くそそり立つ岩山があった。
VTOL機は周囲に注意を払うかのように旋回を繰り返しながらその岩山に向かった。
その中腹には仏像のような顔の石の彫刻が施されていた。
大昔に造られた寺院のようだ。
夕暮れの中に浮かび上がるそれは、慈悲深い救い主のように思え、また禍々しい悪魔のようにも見えた。
やがて石仏の顔の一部が左右にゆっくりとスライドして開いていく。
VTOL機は轟音を上げながらその中に吸い込まれていった。
中には最新機器を備えたヘリポートがある。
シャドルー本部だ。
幾筋ものライトに照らされたヘリポートは外見とはあまりにもかけ離れていた。
VTOL機がゆっくりと降下する。
ヘリポートに待機していた軍服姿の数人の警備兵士たちがそれを出迎えた。
VTOL機のハッチが開くと、周囲を威圧するような大男が現れた。
鋭い眼を炯々と光らせている。
暗黒の格闘王といわれた男ベガだ。
警備兵士たちがベガに向かって一斉に敬礼する。
ベガは周囲を威圧するように見た。
それからいきなりマントを翻し、速い歩調でズンズンと歩きだす。
その後ろから3人の男が現れた。
胸に大きな傷を持つ長身の格闘家サガット。次に無敵のボクサーの異名を取るバイソン。
そして、少年のように優しく甘い雰囲気を持ったバルログだ。
3人の中でもとりわけ奇異なのはバルログだった。
顔に仮面を被ったバルログは格闘家らしからぬ風情を漂わせていた。
肩から背に垂らした長くしなやかなブロンド。ほっそりとしているものの弾力に富み、それでいて引き締まった無駄のない肉体。
その優雅な身振りはまさに女性にも見粉うような男である。
通りすがりの人がバルログを見たならば、いざ闘いに入ると別人のように変わるのを誰が予想しようか。
3人は大股でズンズンと歩くベガについて進んでいく。
警備兵士たちはベガたちの行く手をあわてて開けた。
ベガと3人の男は青白い間接照明に浮かぶ超近代的な廊下をズンズンと進んでいった。
時折、通過するガラス張りの部屋の内部は何処も最新のコンピュータやモニターで埋め尽くされている。
その通路の突きあたりにシャドルーの中央司令室があった。
自動ドアが開く。
奥はオフィスのような中央司令室だ。
ベガは司令室に入るなり、大小のモニターやコンピュータに囲まれた中央のデスクにズンと座り込んだ。
その傍らにベガをガードするように3人の格闘家が立った。

205暗闇:2005/11/20(日) 02:22:41 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
直後、一方のドアが開いて、白衣姿の小柄な老人が姿を現した。麻薬の影響か、痩せこけて顔色が悪く、眼だけが異様な光を帯びている。
しかし、白衣の下から覗く高級ブランドもののスーツは、この人物がシャドルーの研究開発部門で相当の地位に立っていることを示している。
老人「お待ちしておりました」
老人がしわがれた声で言い、頭を下げた。
ベガ「早く見せろ」
ベガが居丈高に言う。
老人はニヤッと笑って反対側の扉を見る。
すると、ドアが開いて顔半分を特殊合金のマスクで隠された戦闘服の男が立っていた。
老人「新たに改良しましたモニター・サイボーグです」
ベガと3人が戦闘服の男を見る。
老人「超高性能コンピュータ制御を装備させております」
ギギギ〜ッ!
戦闘服を身につけたサイボーグがゆっくりとベガの前に歩み寄った。
ベガ「うむ……」
ベガが満足気にサイボーグを見た。
サイボーグがベガの数歩手前でピタッと立ち止まった。
老人「このサイボーグを世界中にばらまきました」
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ!
微かな軋み音を発し、サイボーグのマスクに付けられた片目のオートフォーカスレンズの眼がベガに向けられる。
老人「こいつに世界各地にいる有能な格闘家をキャッチさせます。そして、その情報をいち早く報告させます。我がシャドルーの通信衛星を通じて、世界のどんな辺境の地にいても、この本部からの指揮が可能です」
老人が得意気に話した。
だが、ベガは表情ひとつ変えずに聞いた。
ベガ「以前にばら蒔いた旧型のモニターロボットは?」
老人「はい、既に世界各地の旧型モニターロボットは回収し、この型のサイボーグに交換する手筈は済んでおります」
ベガ「うむ……いいだろう」
ベガは初めて鋭い眼を和らげ、老人に訊ねた。
ベガ「ところで、例の男は見つかったか?」
老人「リュウのことでございますな」
老人が応えると、側にいたサガットの眼がキラリと光った。
老人「中国の上海、黄浦江<ワンフコン>近くで見つけました。すぐに捕獲作戦を実行しましたが……残念ながら取り逃がしました」
サガット「逃がしただと?」
サガットが声を荒らげ、老人を睨み付けた。
老人「その後、行方を追っていますが、まだ見つかりません」
サガットが歯ぎしりする。
ベガ「リュウは昔、このサガットを倒し…そして俺をも倒してこのシャドルーを一度壊滅させたほどの男の一人でもある。簡単に捕らえられるとは最初から思っておらん。以前の物とは桁違いの戦闘力を持つ刺客だ。かつてのリュウならば1人ならともかく5人もの数でかかられれば一溜まりもないほどのな。
現在のリュウの力を過小評価したか……甘く見たようだな」
ベガが老人を見据えた
老人「も、もうしわけありません。早急に居所をつきとめます。大都市にいないとなると、何処かの奥地にでも潜んでいるとしか考えられません……」
老人が言い訳めいた口調で言った。
ベガ「リュウは桁外れの強さを秘めている。奴とケン・マスターズが我々シャドルーの再結成を知るのは時間の問題だろう。一刻も早く探し出すのだ。ヒマラヤの奥でも何でもサイボーグを飛ばせ!」
老人「は、はっ!」
ベガの言葉に老人は卑屈な態度で頭を下げた。
サガット「リュウ、どこにいる?見つけ次第、この俺がひねり潰してやる!」
ベガと老人のやりとりを聞きながら、サガットは再燃する復讐心を感じた。

206暗闇:2005/11/21(月) 00:28:58 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
一方、アメリカ北部の小さな漁港は激しい暴風雨にみまわれていた。
満潮の海は荒れ、港に繋がれている数々の漁船の群れが激しく揺れている。
その漁船のデッキに黒い人影があった。
黒い人影は先程から豪雨に叩かれながらずぶ濡れでジッと佇んでいる。
ピカッ!
夜の闇に稲光が走り、黒い人影を照らしだした。
それはベガが全世界にばらまいたモニターサイボーグだった。
稲光を浴びて、モニターサイボーグの眼が異様に光る。
光る眼から一条の光線が走り、港を照らした。
その眼には特殊レンズが設置されているのだ。
やがて、光線が一点を照らし、静止した。
埠頭に真っ赤なポルシェが停まっている。
光線はそれを捉える。
続いて、一条の光線は新たな1台の車を捉えた。
4WDの小型トラックだ。
それは真っ赤なポルシェの行く手を遮るかのように停まっていた。
モニターサイボーグは2台の車を照らしたまま嵐の中でジッと動かずにいた。
ポルシェと4WDの小型トラックの向こうには倉庫が見えた。
再び、周囲は激しい雷鳴と豪雨と怒涛の音が入り混じり、騒然となった。
その渦巻くような音を突き裂くように、どこからか叫び声がする。
いや、それは単なる叫び声ではない。
生と死の狭間で生命を燃やす格闘家の、気合いの雄叫びだった。
雄叫びは倉庫の中から聞こえてきた。
中で格闘家が激しく闘っていることは明らかだ。
モニターサイボーグはあたかもそれを透視するかのように倉庫に眼を移した。
倉庫の中は厚い壁で密封されている。
雷鳴や豪雨や波しぶきの音はかすかにしか聞こえない。
だが、それ以上に殺気が激しく充満していた。

207暗闇:2005/11/21(月) 00:56:34 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
???「闘え!ケン!」
隆々とした筋肉の大男が吠えた。
身長は2m30㎝はあるだろう。
額には幾何学的な模様を編んだ、部族の羽飾りをつけている。
上半身の素肌にジーンズのチョッキを着込み、同じくジーンズのパンツを覆うように仔牛の革で作られたと思われるブーツを履いている。
アメリカインディアンだ。
???「俺はお前と闘うためにわざわざやって来たんだ!」
ケン「サンダーホークとか、言ったな。俺は闘う気などはない!」
倉庫の片隅にケンがいた。
ケンはサンダーホークを睨みつけていた。
サンダーホーク「なぜだ?なぜ、闘わない!?」
サンダーホークの162㎏の体重に比べ、ケンの体重は76㎏だ。
約2倍以上もでかい相手に対し、ケンはゆとりの口調で応えた。
ケン「わからねえ奴だな。俺はもうストリートファイトはやらねえんだ!」
ケンは無益なストリートファイトはやらないと心に誓っていた。
公式大会に出ることが自分の修業になると思っていた。
ケン「ストリートファイトをやらないだと?ハハハ……」
サンダーホークは笑い、鋭い眼を光らせた。
サンダーホーク「だからこの倉庫で闘おうってんだ。格闘家は何処で闘おうと同じことだ」
ケン「くだらねえ」
サンダーホーク「ナニ……!」
ケン「くだらねえって言ってんだよ。闘って何になるんだ?」
サンダーホークは胸を張って応えた。
闘いに誇りを持つ格闘家ならではの態度だ。
それと同時に格闘家として目立ち、シャドルーに入りたいと考えていた。
サンダーホーク「湧きあがるこの力、尽きることはない。我が聖地を取り戻すその日まで!」
サンダーホークはかつて、メキシコ近辺に位置するインディアンの聖地で平和に暮らしていた。その、愛すべき自然や動物たちに囲まれた生活を奪ったのが再結成を完了し、再び暗躍を始めたシャドルーであった。
緑なす聖地は麻薬製造の拠点となり、かけがえのない肉親はこの世を去った。
この憎むべき組織を壊滅し、聖地を取り戻す。そのためには、組織に認められることで内部に潜入し、根本から叩き潰すしかない。
その思いが強かった。
サンダーホーク「ケン、お前は格闘家として高いタイトルを獲得している」
ケン「それほどでもないがな」
サンダーホーク「黙れ、そう言う男を倒して行くのは……格闘家としての名誉あることだ」
ケン「フッ、そういうのがくだらねって言ってんだよ」
サンダーホーク「黙れ!怖じ気づいたのか?」
ケン「そんなんじゃないよ」
サンダーホーク「だったら、いさぎよく闘え!」
ケン「嫌だね……それに……お前じゃ……俺は……倒せないぜ」
サンダーホーク「なんだと!」
ケン「お前が何人たばになろうとも、俺の敵ではない」
ケンは真顔で言った。
ケン「たとえどんな奴が現れたって俺を倒せやしない……リュウ以外はな」
サンダーホーク「リュウ……?」
ケン「そうだ。この世に生まれた真の格闘家だ」

208暗闇:2005/11/21(月) 02:15:18 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
サンダーホーク「噂は聞いたことがある。行方知れずの放浪格闘家らしいな」
サンダーホークは話ながら次第に間合いを詰めてくる。
サンダーホーク「私は一瞬の隙も見逃さぬ」
ケンが隙を見せれば、瞬く間に襲いかかる体勢でいる。
しかし、たとえケンが隙を見せようともサンダーホークは襲いかかりはしなかった。
格闘家としてのプライドが許さないからだ。
不意打ちや卑怯な手を使って倒したところで意味はない。
相手をただ倒しさえすればよいというのではなかった。
正々堂々と真正面から激突して倒す。
それが真の格闘家としての誇りなのだ。
サンダーホーク「では知っているか?リュウという男、とある世界規模の組織にマークされているという噂を」
ジリッ!と、サンダーホークはさらに間合いを詰めながら言った。
サンダーホーク「今頃その組織とやらに捕らえられているのではないか?そんな奴と私を比べないでほしいな」
サンダーホークはシャドルーの名を口には出さなかった。シャドルーが再結成したことはまだ表はおろか裏の世界にもあまり知られてはいない…直接の被害にあったサンダーホークは再結成を遂げ、以前とは比較にならない程の邪悪さと力を付けてきたシャドルーの恐ろしさを聖地が奪われたあの日に嫌という程思い知らされていた。
闘いたくないと言っている目の前の格闘家に対して無闇にシャドルーの名を口に出して、他人を自分の闘いに巻き込むのは流石に本意ではない。
が、目の前の格闘家…ケン・マスターズ…そして彼を奮い立たせる為の挑発の材料に使ったリュウがかつてシャドルーを壊滅させた男たちであるということを彼は知らなかった。
そして、そのサンダーホークの言葉を聞いた途端、ケンの身体から闘士が湧き上がった。
ケンは出来れば無益な格闘などしたくなかった。初めから闘う気などなかった。
初めは豪雨のために視界が悪く、運転を誤ったのかと思った。
しかし、違った。
相手はケンにストリートファイトを挑んできたのだ。
ケンは闘う意志のないことを告げた。
しかし、サンダーホークは承知しない。
それで近くの倉庫に入って腹を割って話そうと考えたのだが、無駄だった。
サンダーホークはどうあっても闘う気でいた。
―――俺がもっとも尊敬し、友と慕う男をけなす奴は……
ケンは憤った。
闘いをずっと拒み続けてきた心の糸がプツリと切れた。
親友であると同時に優れた格闘家。ライバルであると同時に師とも思える存在。
そのリュウを小馬鹿にするような言動は許せなかった。
ケン「断って置くが……リュウは……必ず現れる」
ケンはサンダーホークに対し、ついにファイティングポーズを取った。

209暗闇:2005/11/21(月) 02:16:10 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
サンダーホーク「やる気になったか!」
サンダーホークは身構え、さらに間合いを詰めてきた。
巨体に似合わず素早い動きだ。
サンダーホーク「そうだ。ケン、執念なくして勝てるほど甘くはないぞ」
ケンは壁際に追いつめられて逃げ場がなくなった。
その直後、サンダーホークは片手でケンの頭を掴んだ。渾身の力でケンの体を振り回しながら、巨体に似合わぬ身軽さで飛び上がる。
メキシカンタイフーンだ。
ケン「あっ!」
たじろぎの声をあげた刹那、ケンの頭に激痛が走った。
みしりと不気味な音を立てて頭蓋骨が軋み、鼻の奥からキナ臭い匂いがこみ上げる。口の中に血の味が広がった。
サンダーホークの全体重と共に、頭から地面に激突したのである。
ケン「なるほど、結構できるじゃねえか」
ショック状態による震えと脱力感にさいなまれる足を両手で支え、ケンは立ち上がった。
サンダーホーク見据えるとその表情には、燃えるような闘志がみなぎっている。
サンダーホークが宙を飛んだ。
サンダーホーク「ハッ!」
次の瞬間、空中で器用に姿勢を変え、急降下で体当たりを浴びせてきた。
コンドルダイブである。
ケンは背後にステップして、それを素早くかわした。
サンダーホークは膝をすりかえながら着地すると、間髪入れずに地を蹴った。巨体が、今度はケンの顔面を狙って急降下してくる。
トマホークバスターだ。
立て続けの連続攻撃を辛くも避けたケンは体勢を立て直し、反撃に出た。
サンダーホークの着地時に生じた一瞬の隙を突いて、ケンの竜巻旋風脚が炸裂した。
サンダーホーク「ぐわぁぁぁ〜っ!」
サンダーホークの叫び声が倉庫内に響き渡った。
次の瞬間、スローモーションの映像を見るかのようにサンダーホークの身体がゆっくりと傾き、それから床にドサッと、倒れた。
ケン「リュウはどこにも属さない。今もどこかで修業をしている。迂闊に非難をしないでくれ」
ケンは倒れたサンダーホークにその言葉だけを残し、倉庫の扉を開けた。
外は相変わらず激しい暴風雨みまわれていた。
海は荒れ、港に停泊した多くの漁船は揺れている。
ケンは豪雨と突風を浴びながら真っ赤なポルシェに向かう。
一艘の漁船のデッキにいた黒い人影がケンの姿を的確に捉えている。
先程から豪雨に叩かれながらずぶ濡れで佇んでいたモニターサイボーグだ。
ピカッ!
夜の闇に稲光が走り、ポルシェの運転席に乗るケンの姿を照らしだした。
ギアを入れてポルシェを走らせるケンの姿がクッキリと映る。
モニターサイボーグ「ケンノ居場所ヲ捉エマシタ」
モニターサイボーグが金属音の声で通信機に報告した。

210藍三郎:2005/11/21(月) 12:08:31 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net
=トゥアハー・デ・ダナン=

マデューカス「艦長。スペシャルポリスの人員を乗せた輸送機が、
       こちらに到着したそうです」
テッサ「わかりました。では、私たちも会議室に行きましょうか」
カリーニン「は。若きスペシャルポリスの諸君と、ご対面と参りましょう」
 そう言ってテッサとカリーニンはブリッジを後にする。

バン「うぉぉぉぉ〜〜これが潜水艦ってやつか!中はこんな風になってんだなぁ!」
ウメコ「窓とか無いのかな〜〜海底のお魚さんとか見たいのに〜〜」
ホージー「はしゃぐな!!」
 生まれて始めて乗った潜水艦に、
 やたらと騒ぐバンとウメコに釘を刺すホージー。
ホージー「我々は宇宙警察の代表としてここに来ているんだ。
     その人格を疑われるような行動は慎めよ!」
バン「へいへい、わかってます!」
ホージー「本当だろうな・・・失礼します」
 会議室のドアを開け、中に入る。

 会議室には2人の人物が、デカレンジャーの到着を待っていた。
 一人は灰色の髪をした大柄な軍人、もう一人はまだ若い銀髪の少女である。
 
ホージー「宇宙警察地球署・戸増宝児以下5名、ただいま到着いたしました」
 5人を代表して挨拶するホージー。
カリーニン「私はミスリルのアンドレイ・カリーニン。階級は少佐だ。
      今回の救出作戦の作戦指揮官を務めることになっている。よろしく頼む」
ホージー「は、こちらこそ、よろしくお願いします。カリーニン少佐」
 いかにも軍人らしい風格を漂わせるカリーニンに、ホージーも多少は緊張していた。
カリーニン「此度は我々の救援要請を快く引き受けてくれたこと、大変感謝する」
ホージー「いえ、この地球に住む人々の平和と安全を守るのが、
     我々宇宙警察の使命ですから」
 ホージーは姿勢を正して、直立したまま答える。
カリーニン「ゆっくりしていってくれ・・・と言いたいが、
      もうまもなく作戦会議が始まる。
      今回の作戦の成否は君たちにかかっている。頼んだぞ」
ホージー「はい!プロのスペシャルポリスとして、
     必ずや、ご期待に添える働きをしてみせます!」

211藍三郎:2005/11/21(月) 12:10:53 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net

カリーニン「そして、こちらが・・・」
 傍らに座っているテッサを紹介しようとするカリーニン。
 だが、その前にテッサは自ら立ち上がり、挨拶をする。
テッサ「お初にお目にかかります。宇宙警察の皆さん」

バン(うわ〜〜可愛い子だな〜〜)
ジャスミン(あんな若い子も、ミスリルで働いているのね)
ウメコ(あのおじさんの、秘書か何かかな?)
セン(ん・・・でもあの子の襟にあるのは・・・)
 それぞれ思いをめぐらす4人。
 そして、テッサの自己紹介を聞いた時、一同は度肝を抜かれることになる。
テッサ「私はテレサ・テスタロッサ。ミスリルの大佐で、
    ここトゥアハー・デ・ダナンの艦長を務めています」

バン「えええ!?ウソぉ!!」
 驚きに思わず声を上げるバン。
 後方のウメコもジャスミンも、すっかり呆気にとられている。
 ただ、センちゃんだけは「やっぱりね・・・」と言った表情で、
 あごに手を当てている。彼は早くから彼女の襟にある階級章に気づいていたからだ。

ホージー「こら!バン!!大声を出すな!」
バン「だって、こんな女の子がこの潜水艦の艦長で、しかも大佐!?
   多分ウメコより年下だぜ?ありえねぇって!」
ホージー「失礼なことを言うな!!」
 そう言いつつも、ホージーは内心ではバンと同じく、
 「ありえない」・・・と思っていたのだが・・・
ホージー「申し訳ありません!テスタロッサ大佐!この馬鹿が失礼なことを!」
バン「痛ててて!髪をつかむな髪を!!」
 バンの頭をつかみ、侘びを入れさせるホージー。
テッサ「いえいえ、ある意味それが当然の反応でしょうから・・・」
 くすりと笑うテッサ。
どうやら、彼女はデカレンジャーたちのこの反応を楽しんでいるようだ。
テッサ「呼びにくいようでしたら、
    私のことは「テッサ」と呼んでくださってかまいませんよ。
    あなた方はミスリルの一員ではありませんし・・・」
バン「テッサちゃんかあ〜♪
   あ、俺の名前は赤座伴番。「バン」って呼んでくれよな!」
ホージー「馴れ馴れしい口を利くなぁ!!」
 再びバンの頭をつかみ、上下に揺するホージー。

カリーニン「・・・・・・」
 バンとホージーのやりとりを、若干呆れのこもった視線で見つめるカリーニン。
テッサ「うふふ・・・賑やかな人たちね」
カリーニン「まぁ、我々の部下も大体似たようなものですからな・・・」
 遺憾ながら、カリーニンはそう認めざるを得なかった。
テッサ「それに、下手に縛るより、これぐらいのびのびとやってもらえた方が、
    彼らのいつものペースを乱さない分、
    よい結果を生むかもしれませんよ?」
カリーニン「ふむ・・・一理ありますな」

212暗闇:2005/11/21(月) 18:36:07 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その頃…平行世界のエジプトでは…
頭上を覆う質量に圧倒され、鷲士は思わず口を半開きにした。
太陽の船―――約4500年前、クフ王が死後太陽の国に渡るために作らせたという。レバノン杉製の船である。1987年には日本の調査隊が対となるもう一隻を発見。前者は現在博物館に異なるが、歴史的価値ははかり知れない代物だ。
ただ、視界を塞ぐ巨大船の形は、鷲士の記憶とは少し違う。船腹には、ヨットのキールを思わせる舵。さらに後部には、ツボを思わせる構造の穴がいくつか。オールも、アンテナに見えなくもない。
さらに―――驚くことに、支柱はおろかワイヤーもない。つまり、この巨大構造物は、重力に逆らって浮いているのだ。
美沙の事前説明によると―――“来訪者”の残した宇宙船。
鷲士「す、凄いね!大発見じゃないか!これだったら―――」
と口をほころばせて顔を戻した鷲士だが、瞬き。
美沙「ハ、ハズレ……!」
鷲士「……は?ハズレ?」
美沙「……ううっ、ミニチュアなのよ、これ。でっかいから、そうは見えないけどさ」
鷲士「こっ、これが……ミニチュアぁ!?」
後退る鷲士を、美沙が幽霊みたいな顔つきで見上げ、
美沙「……同じ型のを、もう回収しているんだよぅ。去年、ナイル東岸でね。浮きはするけど、進まないの。構造も再現できなくて、今は品川の倉庫に放り込んでる」
鷲士「し、品川……!こ、これをですか……!」
美沙「うう、やられたぁ……久々のスカって感じ。ナルメルが死ぬ前に、アトゥン神は……来訪者は引き上げてたんだわ。ここだったら、って思ってたのにィ〜」
鷲士「ハハハ……もうぼくにはついていけないです……」
虚ろに笑う鷲士だったが、すぐに、
鷲士「……で、でもさ、どうして来訪者っていつもどこか行っちゃうの?物凄いテクノロジー持ってたのにさ」
突っ伏した美沙がため息混じりに、口を開けた。

213暗闇:2005/11/21(月) 20:55:59 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
美沙「……あのさ、鷲士くん、マヤ・オルメカ滅亡の256年周期説って知ってる?」
鷲士「マヤ……?ご、ごめん、分かんないや」
美沙「マヤってね、昔から優れた天文学を持ってたの。たとえば―――金星の公転周期は、正確に583.94日。んでもってマヤ人の計算では、548日。天文学って、高校生レベルの数学は必須だから、ある種の算術方法を編み出してたワケね。で、マヤにはカトゥン、ツォルキンって暦があって―――面倒だからどんなものかは、はしょるけどぉ―――その最小公倍数が、256年なのよ。で、問題はここから」
鷲士「う、うん」
美沙「マヤ都市には、チチェン・イツァーってのがあるの。で、西暦692年、一度、そこから人がごっそり消えた」
鷲士「やっぱり疫病?それとも戦争かい?」
美沙「はいはい、結論をあせらないの。それからチャカンプトンって都市が栄えたんだけどォ、なぜかこれまた948年、滅亡」
鷲士「はぁ」
美沙「そしてまた、チチェン・イツァーが繁栄するんだけどね、1204年に今度こそ完全に滅んじゃった」
鷲士「……256年周期だね。だったら1461年にも?」
美沙「はーい、大正解。今度は、マヤパンってトコが消えました」
鷲士「じゃあ、1697年は?でも確かコルテスのアステカ上陸は、1519年だよね?周期の前になくなっちゃった?」
美沙「ブー。アステカはマヤ族じゃありませーん。チチメカ・トルテカ族でーす。日本人的感覚だと同じものだけど、フランスとイギリス並みに違うから要注意よ。結局、マヤがスペインに征服されたのは、ジャスト1967年。同年にオルメカ系文明は完全に滅亡。ま、最後のは偶然ぽいけどね。でもコルテス上陸の1519年ってのは、アステカ族の滅びの暦・セーアカトルの968年周期にはヒットしてるんだよ」
鷲士「うわ、な、なんかもう頭おかしくなりそうだ。美沙ちゃん中一なのによく知ってるなぁ、そんなこと」
呆れと感心が入り交じった表情で、鷲士は言った。
普段なら、凄いでしょ、もっと誉めて―――を連発するところだが、ショックから立ち直れてないらしく、美沙は床に這いつくばったまま、
美沙「……マヤはどうやら、自分たちの作り出した運命暦に、完璧に従ってたみたいなのね。逆説的ってゆーかさ、滅んだのが、たまたま256年周期ってコトじゃなくて、滅ぶ時期がやってきたから、じゃあそろそろ滅ぼうか、みたいな」
鷲士「だから……都市を捨てて?住みやすいところを、わざわざ?」
美沙「腐敗と停滞を恐れたんじゃないのかなァ?まあ、なにかに対する考えって、民族や文化によって、それほど違うってこと。ましてやわたしたちの相手は、正確には人間かどうかも分かんない連中だからね〜」
鷲士「どうして行っちゃったのかは、分からない……か」
美沙「……そゆこと。は〜、むなし〜。結局は収穫ナシか。帰りにアレキサンドリア図書館でも攻めてみよっかなぁ?」
青息吐息で、床から膝を離した。
―――すぐに四つん這いになった。
何かを見つけたらしい。眉をひそめ、床に目を走らせる。
美沙「もっとも……偉大なる船の……一隻?かの地にあり……?なによ、これ……?」
―――世界地図が、いくつもの床のブロックにわたって浮き彫りにされていた。各地域の注釈なのか、ヒエログリフも刻まれている。
鷲士「5000年前の遺跡に……世界地図!?」
鷲士は唖然として呟いた。エジプトを中心にしているので違和感があるが、明かななメルカトル図法だ。ただ、現在のものとは、少し陸の形などが違う。諸大陸はそのままだが、太平洋には、見たこともない大きな島などもあった。

214ゲロロ軍曹:2005/11/22(火) 00:00:18 HOST:p4245-ipad34okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=???=
こつ・・こつ・・。
そんな足音をたてながら、覆面の兵士は周りを見回っていた。もっとも、彼らからすれば、こんなどこにでもありふれてる普通の高校に、刃向かえる様な居ないだろうとタカをくくっていた・・。だが、それは間違いだった。
覆面兵士「『バキィ!』ぐぉ・・!?」
突如後ろから何者かが兵士の頭を殴ってきた。それにより、地面に倒れる兵士。そして、その何者かは素早く兵士の腕を拘束した・・。どこのどいつがやらかしたのかと覆面兵士が相手の顔を見てみると、兵士は驚愕した・・。
覆面兵士「こ・・、高校生のガキだとぉ・・?!」
そう、彼を拘束してるのは、ざんばら髪で左頬に十字の傷を持ってる、むっつり顔の高校生、『相良宗介(さがら そうすけ)』だった。
宗介「動くな、貴様に聞きたいことがある。だが、もし大声を出そうものなら・・。」
そういいながら、宗介は兵士の腕を力強くひっぱった・・。それこそ、腕の間接があらぬ方向に曲がってしまうかのように・・。
覆面兵士「ぐぁぁ!?わ・・、分かった、しゃべる、何でもしゃべる!!」
宗介「・・よし。では聞こう。貴様ら、千鳥かなめをどこにやった?」
覆面兵士「だ・・、誰の事だよ?」
宗介「とぼけるのもいい加減にしろ。貴様らがマスコミに向けての撮影だのと抜かして連れて行った、この高校の女生徒のことだ。」
覆面兵士「あ・・、あのガキのことか・・。」
宗介「やはり知っていたな。さあ、とっとと吐いてもらおうか。さもなくば・・。」
覆面兵士「わ・・、分かった、しゃべるよ!!」
その後、覆面兵士はかなめが連れて行かれた場所と、そこへ行くまでの経路を説明した。
宗介「・・なるほど。ご苦労だったな。」
そう言った瞬間、宗介は隠し持ってたスタンガンを覆面兵士に当て、瞬時に気絶させた・・。
宗介(・・、急いだ方がいいな。)
そう思いながら、宗介は急ぎかなめの元へと向かった・・。

215暗闇:2005/11/22(火) 00:37:13 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
さらに―――美沙が凝視する地点には、おかしなものが。
―――樹、である。
ユダヤ教の曼陀羅にたとえられる。“セフィロートの樹”にも似た図が、この奇怪な世界地図に描かれていたのだ。円錐状に広がる枝葉、ジャガイモを思わせる巨大な塊茎―――。高木の根っこに塊茎というのも妙な話だが、そうなのだから仕方がない。描かれた場所は、ヨーロッパの中央より、やや西寄り―――今で言うドイツ辺りだ。
鷲士「な、なんなの、この木?昔の食べ物?」
美沙「船……だってさ。最大クラスの」
鷲士「ふ、船ぇ?だってこれ、誰がどう見たって……」
美沙「……だよね。おっかしいなぁ、解読間違ってんのかなぁ?シャンポリオンの用法とはずいぶん違うのは元から分かってたんだけど……大きさもヘン」
頬をポリポリやりながら、美沙だ。
鷲士「ヘン?おっきいんだ?」
美沙「うん。山を3つ重ねたよりでっかいって」
鷲士「……はぁ〜?山を3つぅ〜?」
美沙「ちょっと待ってね、えーっと……なになに?大切なのは……船そのものではなく……吐き出される水である……?水が……入り口に……?」
そして美沙が立ち上がり、
美沙「……なんのこっちゃ。船が水出してどーすんのよ?」
と首を傾げた。専門家がこれなのだから、鷲士にはサッパリである。
美沙はため息をつくと、肩のカメラを作動させ、
美沙「ま、いいや。なんだかサッパリだけど、これはこれで収穫だわ。記録記録、っとぉ」
鷲士「あの……太陽の船は?」
美沙「いらないわよ、そんなもん」
新たな声は、そのときにかかった。
???「そっか。じゃ、おれたちがいただいていくぜ」
鷲士は蒼然と振り返った。美沙が慌ててカービン型アサルトライフル・MP5Kを構え、声の方に向ける。
―――中背の肥満漢が、自動小銃で武装した戦闘員たちに囲まれて立っていた。
美沙が呆れたように、
美沙「……またミュージアム?ったく、どこにでも出てくるんだから」
???「へっへっへ、ナルメル王のピラミッドを追ってたら、こんな場面に出くわすなんて―――俺はついているぜ。身長180半ば、痩せ形、東洋人―――か。なるほどね。てめえがダーティ・フェイスだな?」
デブは鷲士を目にし、厚い唇を笑いに歪めた。
―――ここにもまた、新たな勘違い野郎が1人。
鷲士「ちっ、違いますよ!絶対に違います!」
泡を食って否定する鷲士だったが、デブは訳知り顔に何度も頷き、
???「うんうん、分かるぜ。てめえ、正体不明ってのが売りだからなぁ。顔バレちゃ、立場ねえからなぁ。メンツってやつもあるし」
鷲士「はぁ?いや、そうじゃなくて!あなたたちは根本的に―――」
と喚く鷲士だったが、一斉に銃口を向けられ、押し黙る。
美沙「チッ、ちょっと相手が多すぎるわね、退路はあいつらの後ろだし……」
???「へっへっへっ、悪いな、ダーティ・フェイス。この遺跡も太陽の船も、ぜーんぶ、俺達が頂く。もちろん―――てめぇの命もだ」
デブが部下に合図を送るべく、腕を振り上げた。
そしてせっぱ詰まって、鷲士が足を踏み出し、
鷲士「ああっ、もう!だから、最初から誤解しているんですってば!いいですか、ダーティ・フェイスなんて宝探しは、この世には最初から―――」
―――カチ。

216暗闇:2005/11/22(火) 00:49:38 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
鷲士「は?」
ボケ青年の目が、点になった。音源は自分の足の裏―――床下である。なにかスイッチを踏んづけてしまったらしい。美沙、肥満漢も、同時に青ざめる。
美沙「ちょっ……鷲士くん……マジ?」
―――ゴゴゴ!
即座に震動が、足下から沸き上がった。
建物全体が揺れ始めた中、デブが呆気にとられたように、
???「トラップを……発動させた?なに考えてんだ、てめえ……!地下500だぞ、どーなるか分かってんのか……!?噂通りムチャクチャな野郎だな、そーゆー破れかぶれ、もっと切羽詰まった状態でやってくれよ……!」
鷲士「いやっ、これはですね、なんと言うか、よくある事故と言うか―――ああっ!」
と鷲士が頭を抱えたが、時既に遅し。
―――足下が、呆気なく陥没した。
広間と床と壁を構成するブロックの結合が、解けてしまったのである。鷲士、美沙は言うに及ばず、敵の一団までブロックと共に落下を開始した。
下には、何も見えなかった。文字通りの底なしだった。
美沙「やーん、もう、鷲士くんのドジィ!だから変なトコ踏むなって言ったのにィ!」
鷲士「ああっ、追試が、単位がー!ぼくの大学生活がー!」
間の抜けた絶叫を残し、若い親娘が、地下の闇に飲み込まれた―――。

217藍三郎:2005/11/22(火) 10:36:54 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco2.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=トゥアハー・デ・ダナン=

バン「いや〜〜しっかし驚いたよな〜〜」
 会議室を後にしたデカレンジャーたちは、
 先ほど対面したテッサやカリーニンのことについて話していた。
バン「まさかあんな女の子がこの艦の艦長で、しかも大佐なんだからよ〜」
セン「階級的には、あのカリーニン少佐より上ってことになるんだよね」
バン「だよな。全くスゲーよなぁ・・・」
ウメコ「でも、テッサちゃんもカリーニンさんもいい人そうでよかったね♪
    軍隊って聞いてたから、
    あたしどんな怖い人が出てくるかとビクビクしてたんだ〜」
 テッサもカリーニンも、想像していたのと違い、
 温厚で優しそうな人物であったことに、ウメコは安堵していた。
ホージー「いくらあのお二方が寛容とはいえ・・・
     お前達は気を抜きすぎだ。
     もっと宇宙警察にふさわしい態度というものをだな・・・」

 そんな事を話していると、通路の曲がり角から、
 一人の金髪の青年が五人の前に姿を現す。
クルツ「よ!あんたらが噂のスーパー・ポリス・ヒーロー、
    デカレンジャーかい?ようこそデ・ダナンへ!」
セン「君は?」
クルツ「俺はクルツ・ウェーバー。
    ミスリル(ここ)で戦闘要員やってるもんさ。よろしくな!」
バン「おう!俺の名は赤座ばんば・・・」
クルツ「あ、野郎はどうでもいい」
 バンの自己紹介を、冷たい言葉で切って捨てると、
 クルツは電光石火の素早さでジャスミンとウメコの側に近寄る。
クルツ「いやぁ〜〜こんなカワイイ子たちがデカレンジャーの
    メンバーだなんて♪お会いできて嬉しいよ!ピンクちゃん、イエローちゃん♪」
ウメコ「ピンクちゃん?」
ジャスミン「はぁ・・・?」
 いきなり凄い勢いで口説き文句をまくし立てるクルツに、
 呆気にとられる女2人。
クルツ「ピンクちゃんは、小柄でキュートで本当に可愛いね〜♪
    こちらのイエローちゃんは、才色兼備、クールビューティーって感じが実に素敵だ♪
    これから作戦を共にするわけだけど、是非ともプライヴェートでも・・・がっ!!」
 その時、クルツの足に強烈なローキックが飛んできた。
マオ「何馬鹿やってんだい!
   お客さん相手に恥さらしてんじゃないよ!!」
 曲がり角からショートの黒髪をした女性が姿を見せていた。
 彼女の名はメリッサ・マオ。クルツ同様、ミスリルのAS乗りである。
クルツ「す、すまねぇマオ姐!!おー痛てて・・・」
 ずきずきと痛む足をさすりながら、クルツは小声でこう呟く。
クルツ「たく、この暴力女が・・・」
 だが、マオはその一言を聞き逃さなかった。
 素早くクルツのほっぺたをつかみ、強く引っ張った。
クルツ「ひ、ひへえよ(痛えよ)」
マオ「『この』、なんだって?ん?ん?」
クルツ「うつくひふ(美しく)、ほーめー(聡明)で、
    はより(頼り)になるほーちょー(曹長)ども、でありまふ」
マオ「ならよろしい」
 そう言ってマオはクルツのほっぺたから手を離す。
 そして、デカレンジャー達の方に向き直り自己紹介をする。
マオ「あたしはメリッサ・マオ。階級は曹長。
   こいつと同じアームスレイブ乗りさね。
   さっきは、この馬鹿がふざけた事を抜かしたようで・・・
   こいつの存在ごと、さっさと忘れといてくれ」
ジャスミン「いえ、マオ曹長・・・」
マオ「マオでいいよ。これから一緒に戦おうって仲だ。
   かたっ苦しいのは抜きでいこうよ」
ウメコ「さんせ〜〜い♪あたしは胡堂小梅。「ウメコ」て呼んでね♪」
ジャスミン「私の名前は礼紋茉莉花。ニックネームは、「ジャスミン」よ」
マオ「わかった。これからもよろしく頼むよ。ジャスミン、ウメコ」
 三人の女性は、早くも打ち解けだしたようだ。

218藍三郎:2005/11/22(火) 21:05:13 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco20.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=トゥアハー・デ・ダナン 状況説明室=

カリーニン「すべてを迅速に進める」
 大型スクリーンを背にして、カリーニン少佐は言った。
 状況説明室には、救出作戦に参加するミスリルの兵士たちに加え、
 デカレンジャー五人も顔を揃えていた。
カリーニン「敵基地の位置は東京湾沖に存在する無人島だ。
      現在当艦はその島に向けて運航している」
 カリーニンはスクリーン上に映された地図にある、小さな点を指し示す。
カリーニン「まず本艦が目標地点に到達し次第、
      運搬用の大型輸送機を発進させる。
      その輸送機には、スペシャルポリスの諸君も同乗してもらう」
 そう言ってカリーニンは座っている五人に目をやる。
ホージー「了解です」
カリーニン「続けて、強襲機兵(AS)チームの出撃だ。
      ASは本艦から直接、XL−緊急展開ブースターで射出する。
      過去八時間以内にアルコールを摂取した操縦兵は申し出ろ」
 緊急展開ブースターとは、AS一機を40キロまで飛ばす能力を持つ
 片道オンリーの使い捨てロケットのことだった。
 とにかく素早く、作戦地域にASを飛ばす時に使われる。
マオ(アルコール・・・か)
クルツ(10時間以内ならセーフだよな)
 アルコールのくだりで、2人は顔を見合わせる。

カリーニン「先発部隊の主な任務は陽動とかく乱だ。
      敵基地の要所を破壊しつつ、敵部隊をなるべく校舎から引き離せ」
 さらにカリーニンは、敵基地の地図を示し、
 施設の位置や敵兵力のくわしい配置を指示していった。
カリーニン「そして、敵がこちらの奇襲でひるんだところで、
      スペシャルポリスの諸君の出番だ。
      君たち五人は校舎上空に移動した輸送機から直接校舎に“降下”し、
      敵部隊の掃討および、人質の誘導、脱出経路の確保を行ってもらいたい」
セン「わかりました」
ウメコ(空中からダイブか・・・なんかハラハラするね〜〜)
ジャスミン(こらこら、先生が喋っている時にお喋りしちゃ駄目よ)

カリーニン「人質の捕らわれている区画は、すでに割り出されている。
      可能な限り短時間で、人質の脱出を遂行してもらいたい」
ホージー「具体的な最低所要時間は?」
カリーニン「5分だ。5分以内に全ての人質を救出し、
      輸送機を島から離陸させなければならない」
 カリーニンの「5分」という発言に場の兵士たちがざわつく。
 「たったの5分?」「短すぎる」と言った言葉がその場を飛び交う。
カリーニン「その最大の理由は、敵が所有している怪重機だ。
      時間をかければ敵は確実に怪重機を持ち出してくる。
      そうなれば、戦力差は歴然・・・
      人質を無事運び出すことも不可能となるであろう」
 いかにミスリルが最新鋭の装備を揃えているとはいえ、怪重機の相手は苦しすぎる。
 それに、あの巨体で暴れられたら、人質の生命の危機に繋がることは明白だった。
 カリーニンの説明に、誰もが今回の任務の困難さを感じ取り始めていた。

 しかし、当のデカレンジャーたちはそれを聞いても特に動揺した様子はない。
 やがて、バンが勢いよく立ち上がると、自信満々にこう叫ぶ。
バン「オッケーです!!俺たちデカレンジャーに、任せて下さい!!」
セン「5分なら、ギリギリクリアできる時間だね」
ジャスミン「ぱぱっと救出、ぱぱっと脱出!いいんじゃないの?」
 五人は皆一様に「やってやろう!」と言った表情である。
 普段はおちゃらけたり、のん気に構えていたりする彼らだが、
 これまで不可能とも思われる怪事件の数々を解決してきた、
 スペシャルポリスの第1線で戦うプロフェッショナルである。
 これぐらいの任務に、尻ごみする事は無かった。
カリーニン(フ・・・さすがはスペシャルポリス・・・
      あのドギー・クルーガーの部下だけのことはあるな)
 カリーニンは、かなり前に出会った、
 異星の“戦友”のことを思い出していた。

カリーニン「既に理解していると思うが、
      この作戦において、わずかな失敗は致命的な損害をもたらす。
      だが、我々には、この任務を遂行できるだけの能力はある。
      各員の働きに期待する・・・以上」
 カリーニンが締めくくりの言葉を述べると、一同は持ち場につくべく、
 席からわらわらと立ちあがった。

219アーク:2005/11/23(水) 10:32:37 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
=トゥアハー・デ・ダナン格納庫=
しんと静まり返った格納庫に動く二人の影
一人は黒マントを羽織、もう一人は白いマントを羽織っていた
先程デカベースの上空で話しを聞いていた天皇こと聖夜と暗黒王こと無明だった
聖夜「侵入行動成功だね無明」
無明「簡単と言えば簡単だったな。しかし、ここの整備は見事なものだ」
無明はそう言いながら格納庫にあったASを見つめ触れていた
無明「どこも異常もない。人間達はこのような技術は褒めていいものだな」
聖夜「そうだね。人の努力の賜物って凄いねぇ」
ASを見終わると二人はマントを靡かせた
それと同時にマントが見る見るの内に変化しミスリルの軍服へと早変りした
無明「常にばれない様に手配をせねばな。念には念を」
そう言って二人は格納庫を出た

220藍三郎:2005/11/23(水) 21:20:14 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=

 すでに日は落ち、基地内は夜の闇に閉ざされていた。
 その闇の中で、相良宗介はじっと息を潜めていた。
 先ほど、敵の兵士から得た情報で
 千鳥かなめの捕らわれているという研究施設まで辿りついていた。
 研究施設は、陣代高校がある基地からかなり離れた場所に存在していた。
 宗介は、移動する敵の運搬車両に飛び乗って、
 ようやくここまで移動してきたところである。
宗介(さて・・・どうしたものか)
 見張りは見える範囲で、
 マシンガンを携帯した人間の兵士が一人と、ドロイドが2体いる。
 不意をつけば、倒せない数ではない。
 だが、その後が問題だ。たとえかなめを救い出す事が出来ても、
 彼女を連れたまま敵だらけの基地内を無事に脱出できるかどうかは難しい。
 まして現時点では、味方は自分ただ一人。孤立無援の状況なのだ。
宗介(まだ早い・・・まもなくカリーニン少佐が救出作戦を展開する。
   その時に味方と合流して、彼女を救出するのが最良の選択だ。
   こらえろ・・・今下手な行動を起こせば、
   味方の救出作戦にまで支障が出る怖れがある)
 ここで出て行くような奴は、大馬鹿のアマチュアだ。自分は違う。
 しかし・・・

 研究施設の方で、女の叫び声と、物が倒れるような音が立て続けに聞こえてきた。
宗介(千鳥・・・!)
 その直後、宗介は暗陰から飛び出していた。
 彼は生まれて初めて、任務の優先順位を無視した。

 そして、ここから遠く離れた
 校舎のある基地で爆発音が鳴り響いたのは、それから数分後のことだった。

221藍三郎:2005/11/23(水) 21:20:38 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]

 基地内は混乱に陥っていた。突如、数機のASが基地内に出現したからだ。
 敵襲を告げるのサイレンが鳴り響き、慌しく防衛用の戦力が動き始める。
マオ「さあ・・・パーティーの始まりだよ!」
 コクピットの中で、マオは上唇を舐めた。
 デ・ダナンから直接射出されてきた彼女のM9ガーンズバックは、
 着地直後、周囲にいる敵のサベージに40mmアサルトライフルの弾を叩きこむ。
 完全に不意をつかれた敵軍は、満足に反撃する事もできず撃破されていく。
マオ「さて、人質の方はまかせたよ・・・デカレンジャー!」

 陣代高校の校舎上空に、巨大なシルエットが覆い被さる。
 人質収容のため、ミスリルが派遣したジャンボ輸送機だ。
 その中には、スペシャルポリスの五人も同乗していた。
ホージー「タイムリミットは5分!必ず成功させるぞ!」
四人「ロジャー!!」
 そう言ってSPライセンスを前に突き出す五人。
五人「「「「「エマージェンシー!デカレンジャー!!」」」」」
 デカスーツを装着し、五人はデカレンジャーへと変身を遂げる。
デカレッド「よっしゃ、行くぜ!!」
 そのまま輸送機から校舎屋上に向けて飛び降りる五人。
 無事着地すると、人質がいる教室に向かって駆け出して行った。

222藍三郎:2005/11/23(水) 21:21:22 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=二年四組=

 ガシャァァァン!!!

 教室のガラス窓が砕け散る。中にいた生徒たちは、一斉に窓の方を振り向く。
 その直後、窓の外から、ロープでぶらさがった
 デカイエローとデカピンクが内部に突入してくる。
アーナロイド「ウィー!ウィー!」
 見張りのドロイドは突然の闖入者に反応し、迎撃に移ろうとするが・・・
デカイエロー「お痛はダメよ!」
 ピンクとイエローは、素早くディーショットを撃ち、
 瞬時に教室にいたアーナロイド五体を沈黙させる。
 教室に入ってからただちに敵を全滅・・・この間わずか0,5秒である。
 選び抜かれたスペシャルポリスの精鋭ならばこそ、できる芸当と言えた。

デカイエロー「皆さん!我々はスペシャルポリスの者です!」
       あなた方を救助に来ました!」
デカピンク「みんな!私たちが来たからには、もう大丈夫よ!」
 生徒たちを安心させるように言葉をかけるイエローとピンク。
 それに対し生徒たちは・・・
生徒「あ!あれって、デカレンジャー!」
生徒「ああ!本物だ!!」
恭子「嘘・・・あのデカレンジャーが、私たち助けに来てくれるなんて!」
 突然現われた2人のデカレンジャーに、生徒たちは一斉に騒ぎ出す。
生徒「本物だ!」
生徒「本物だ!」
 好奇心に眼を輝かせた生徒たちが大挙して押し寄せてくる。
デカイエロー「ちょ、ちょっとあなた達!?」
 てっきり彼女は、人質の生徒たちは
 捕らわれの恐怖にぶるぶる震えているものと思っていた。
 しかし、目の前の生徒たちからはそう言った様子は全く感じられない。
 初めて目にする世界のヒーロー、デカレンジャーにすっかり目を輝かせている。
デカピンク「えへへ♪私たち人気者だね〜〜♪」
 まんざらでもない様子のピンク。
デカイエロー「そんな事言っている場合!
       あ、そちらの方!あなたがこのクラスの担任ですね?」
神楽坂「あ、はい!!」
 突然呼ばれて、慌てて答える神楽坂。
デカイエロー「今から私たちの誘導に従って、この校舎から脱出します!
       その後、外に待機している輸送機に乗りこんで、
       島外へ出る手筈になっています!」
神楽坂「わ、わかりました!」
 はきはきと言葉を返す神楽坂。
 もっとも彼女も、「あのデカレンジャーに直に会えるなんて・・・」
 と心の中では興奮していたのだが。

223藍三郎:2005/11/24(木) 21:06:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco22.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地 司令室=

伊坂「してやられたな」
 あちこちで起こる爆発の光景を目にしながら、伊坂はそう呟く。
伊坂「まさか奴らがここまで早く行動を起こすとは・・・
   怪重機はまだ出せんのか」
兵士「ハッ!『エンバーンズ』ならば、あと少しで発進できるかと・・・」
伊坂「急がせろ」
 伊坂の言葉を聞き、その場を後にする兵士。
アブレラ「だが、残念ながら空出撃に終わるだろうな」
伊坂「ああ、ここまで鮮やかに奇襲をかけてくる奴らだ。
   当然こちらが反撃に出る前に、逃げる方策も立てているに違いない」
 伊坂は忌々しげに吐き捨てる。
アブレラ「しかし、事件発生から半日も経たぬ内にこの島の位置を割り出し、
     ただちに救出作戦を展開してくるとは・・・」
伊坂「それに、あれだけの見事な奇襲・・・
   この島の地理や施設の位置などを、熟知していなければできない芸当だ」
アブレラ「どうやら、島にネズミが紛れこんでいたようだな・・・」
伊坂「ああ、内部に既に敵が入りこんで、
   基地の情報を本隊に流していた・・・それ以外考えられん」
アブレラ「それだけではない。
     あのASは、最新型のM9ガーンズバック。
     となると、敵は<ミスリル>・・・現在、地球では最高峰と思われる
     対テロ事件のスペシャリストたちだ」
 武器商人としての立場上、アブレラもASやミスリルについての情報は多く持っていた。
アブレラ「奴らが<ウィスパード>を保護していることは知っていたが・・・
     まさか宇宙警察と連携をとってくるとはな・・・完全に計算外だ」
伊坂「ふん・・・まぁいい」
 これだけの非常事態になろうとも、伊坂とアブレラはすでに落ちつきを取り戻していた。
伊坂「人質など、我々にとっては何の価値も無い。
   娘はすでに、ここから遠く離れた別の施設に隔離してある。
   いくら奴らとて、たった一人の小娘に構って脱出を遅らせるわけにもいくまい」
 そう、人質が救出されようがされまいが、彼らにとってはどうでもいいことであった。
 今回の作戦において、重要なのは千鳥かなめただ一人である。
 人質をとったのは、あくまで敵の陽動のため・・・
 500名以上の人質がいては、宇宙警察も動きを鈍らせざると得ないと踏んだからだ。
 そして、その目論見は成功したといえた。
アブレラ「だが、この島の位置を奴らに知られた以上、
     娘は早い内に別の場所に移さねばならんな。
     ミスリルの部隊が一時撤収した隙を見計らって・・・」
 2人が今後の対策を協議している、その時だった。
 司令室内のモニターに、血相を変えた兵士の顔が映し出されたのだ。
兵士『い、伊坂様!大変です!』
伊坂「どうした?」
兵士『緊急事態が発生しました。
   こちらの第4研究施設が何者かの襲撃を受け、被験体の少女を強奪されました!』
伊坂「何ぃ!!」
 報告を聞いた直後、伊坂は大声をあげた。
兵士『現在敵兵士は我が軍のジープを奪い基地内を逃走中・・・
   ただちに追撃を駆けようかと・・・』
伊坂「侵入者は確実に始末しろ。
   だが、何としても娘は生かして取り返せ!」
兵士『ハッ!』
 その後通信は切られた。

アブレラ「“窮鼠猫を噛む”・・・か。
     地球人のことわざだが、知っているかね?」
伊坂「ああ」
 伊坂は、一万年の永き眠りから覚めたアンデッドだが、
 地球人の文化についてはほぼ完璧に学習していた。
アブレラ「先ほど話したネズミの仕業だったようだな。
     見事に噛まれてしまったというわけだ」
伊坂「しかし、ああやすやすと小娘を奪回されるとは・・・
   これだから人間は使えん!!」
 伊坂は憤怒の表情を浮かべ、拳を机に叩きつける。
アブレラ「そういえば、あの地区にはガウルンがいたな。
     奴にも出撃するよう指示しておこう・・・
     おや、どこへ行くつもりだ?」
 部屋を後にしようとする伊坂を見て、呼び止めるアブレラ。
伊坂「俺が自ら出る。これ以上、人間どもには任せておけん」
 そう言い残し、ドアを空けて外に出る伊坂。
伊坂(<ウィスパード>の脳内には、
   失われた古代のブラック・テクノロジーが眠っているという・・・
   その中には、古の<バトルファイト>の秘密についての記述が存在しているやもしれん…
   その謎を解き明かせば、バトルファイトの勝利者に近づく事ができるだろう。
   何としても、<ウィスパード>を我が手中に収めねば・・・)
 伊坂の足が、地面から離れ宙に浮く。
 秘めたる思惑を胸に、伊坂の体は漆黒の夜空に向けて飛んでいった。

224藍三郎:2005/11/24(木) 21:07:44 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco22.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地 別地区=

かなめ「もう、なんなのよ――――――っ!!」
 爆走するジープの助手席で、かなめは絶叫を上げる。
 無理も無かった。
 研究所みたいな場所に連れてこられ、
 意味不明な機械に繋がれて、これまた意味不明な幻覚を見せられていると、
 今運転席に座っている相良宗介が研究室内に乱入。
 そのまま研究所から連れ出されたと思ったら、
 近くのジープに乗り緊急発進。発砲してくる兵士を後にして、
 現在基地内の道路を爆走中、というわけである。

かなめ「あんた何者?どこへ行くの?これから一体どうする気?説明してよっ!!」
 かなめの頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。
 宗介はそれに対し、落ちついた調子でこう答える。
宗介「・・・実は転校してきて以来、ずっと君をつけていた」
かなめ「なにをいまさら。んなこたー、わかってるわよ!
    だからその辺の事情を聞かせなさいよっ!?」
宗介「実は俺も詳しい事情を知らない。
   君が何か特殊な存在で、ある組織が生体実験に使おうとしていたぐらいだ」
かなめ「セイタイジッケン!?」
 かなめは施設で研究員らしき人物がそんなことを話していたのを思い出した。
宗介「そうだ。それを未然に防ぐため、護衛として派遣されてきた兵士・・・それが俺だ」
かなめ「兵士ぃ・・・自衛隊?」
宗介「違う、<ミスリル>だ」
かなめ「みすりる?」
宗介「どこの国にも属さない、秘密の軍事組織だ。
   各国の利害を超えて地域紛争を防ぎ、対テロ戦争を遂行する精鋭部隊。
   俺はそのSRT――特別対応班(スペシャル・リスポンス・チーム)に所属している。
   専門分野は偵察作戦とサボタージュ、そしてASの操縦だ。
   階級は軍曹。コールサインはウルズ7。認識番号、B−3128」
 宗介は一片の淀みもなくすらすらと答えた。
 だが、聞いていたかなめは・・・相手を本気で心配している様子でこう言う。
かなめ「ちょ、ちょっとあなた・・・マジでヤバイんじゃない?」
宗介「?何故だ」
かなめ「そうだわ・・・あなたは今錯乱してるのよ。
    あまりの異常事態に自分を見失っちゃって、
    日頃の妄想が現実だと思いこんでいるんだわ!」
 どうみても錯乱しているのはかなめの方なのだが、彼女はさらにこう続ける。
かなめ「とりあえず、落ちつきましょ?まずは一緒に深呼吸を――――」
 そこまで言ったとき、宗介はハンドルを大きく切った。
かなめ「きゃぁぁぁぁ!!い、いきなり曲がらないでよう!!」
宗介「ふせていろ」
かなめ「な、なんで?」
宗介「突っ込むからだ」
 「は!?」といい返そうとしたが、その時彼女は愕然とした。
 2人の乗っているジープの進行方向には、格納庫のシャッターが道を塞いでいたからだ。

 かなめの声にならない叫びと共に、
 ジープはシャッターを破壊し、格納庫へと突入して行った。

宗介「千鳥、動けるか?」
かなめ「・・・もう死ぬ」
宗介「立つんだ。敵が来る」
 何とか立ちあがって周囲を見ると、
 正面の壁に、三機のアーム・スレイブが並んでいた。
 カーキ色の機体色に、カエルのような頭部をしたこのASは、
 『Rk−92サベージ』。旧ソ連で開発された機体で、
 多くの国や傭兵部隊で使われているASであった。

宗介「少しそこで待っていろ」
 ASの存在を確認すると、
 宗介は一番近くの機体の足下に駆けより、コクピットへの梯子を上り始めた。
かなめ「ま、まさかあれに乗る気じゃないでしょうね?」
宗介「そうだ。乗る」
 この男、正気か?かなめはそう思った。
かなめ「やめてよ!シロウトがそんなロボット、動かせるわけないでしょ!?」
 いくら軍事マニアとはいえ、本物の軍人が使うASを操縦できるわけがない。
 かなめは宗介の突飛な行動に、本気で危機感を覚えはじめていた。
 しかし・・・
宗介「素人・・・?」
 彼の顔は暗がりでよく見えなかった。
 ただ、彼女には、瞬間彼の目がぎらりと光ったように見えた。
 そして、ぞっとするような笑みを浮かべたような気も・・・
宗介「俺は素人ではない。専門家(スペシャリスト)だ」

225藍三郎:2005/11/26(土) 20:40:44 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net

 敵軍のサベージを奪った宗介は、格納庫から外にでる。
 外にはすでに3,4機の同型のASや装甲車がこちらを包囲していた。
宗介「戦闘開始だ」
 しかし、宗介に表情に焦りの色は無い。
 ためらいもなくサベージを、近くにいるASに突進させる。
傭兵「うぉっ!?」
 体当たりを喰らい、大きくよろけるサベージ。
 宗介は素早く敵機が取り落としたライフルを拾い、
 身を起こそうとするサベージに銃弾を撃ちこむ。
 宗介機の機敏な動作に、他の兵士たちも動揺する。
 その隙を彼は見逃さなかった。
 周囲にいるASに銃口を向けると、三発トリガーを引いた。

かなめ「うそ・・・」
 格納庫の陰からこっそりと宗介の戦いぶりをみていたかなめは、思わず声をもらす。
 宗介はわずか一秒足らずで、敵AS群を沈黙させてしまった。まさに電光石火の早業である。
 今も、周囲にいる装甲車を次々と爆炎に包んでいる。

 軍事兵器であるアーム・スレイブをやすやすと操縦し、あまつさえこの圧倒的な強さ。
 こうなってくると、宗介の言った事を認めざるを得ない。
 彼は妄想にとりつかれた軍事マニアなどでは無く、本当に秘密組織の兵士だったのだ。
 かなめは呆然とした表情で、彼の戦いを見守っていた。

宗介『千鳥!!』
かなめ「!!」
 宗介に呼びかけられ、かなめの意識は現実へと引き戻された。
 見ると、宗介の乗るサベージが格納庫の近くに戻っている。
かなめ「やっつけたの・・・」
宗介『当面の敵は退けた。
   だが、すぐに増援部隊が出てくるだろう。
   その前に基地の外に脱出する。捕まれ』
 外部スピーカーで語りかける宗介。そして、かなめの元にサベージの手を差し伸べる。
かなめ「こ、これに乗るの?」
宗介『そうだ。手のひらに腰掛けるように。さあ』
かなめ「でも・・・」
宗介『急げっ!!』
 宗介に怒鳴られると、彼女は恐る恐るASの手に乗る。
宗介(相当揺れるだろうが・・・今はこれで我慢してもらうしかない)
 サベージは手のひらにかなめを乗せたまま、基地の外へと逃走していった。

226飛燕:2005/11/28(月) 22:22:53 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
=渋谷 明治通り=

零児達の戦いを傍観していた者達が実は居た。しかも3人・・・だが、その3人は、今、とある人物に追われている。
そして、かつて人通りの多かったとされる<明治通り>と呼ばれる場所まで逃げてきたのだが、追っ手は一向に振り切れる様子が無い。



春麗「待ちなさい!」
青いチャイナ服が一際目立つ女性が、紺のレオタード・・・おそらく、身軽さを追求した格好なのだろう。その3人を追いかけるのは、中国局ICPO捜査官 春麗(チュンリー)である。
キャミィ「・・・目標、高確率で中華人民共和国インターポール捜査官 春麗(チュンリー)・・・ちっ」
機械のような冷徹さを兼ね備え、どのような状況下にも冷静に対応するべく<洗脳>された彼女の口から珍しく、舌の鳴る音がした。当然である。彼女には何かと手を焼いているのである。
ユーニ「状況からして無用な戦闘は避けるべきと断定・・・・このまま、逃走を推挙する」
キャミィ「否・・・おそらくは、この女は逃がさないだろう・・・・ならば、少しずつ弱らせ 完全に 追跡が出来ないようにするだけだ」
とどのつまり、ここで目前のチャイナ服を着たICPO捜査官を始末しようというわけである。
ユーリ「成功確立演算中・・・・確率、84%と判定・・・・了解、その命令に従う」
ユーニ「了解・・・・地理的状況から戦略<コンビネーション27>を推奨する」
ユーニの提案に、残る2名は無言で頷きあった。
春麗「ようやっと止まってくれたわね・・・・さぁ、言いなさい!あの”男”は何処に居るの!そして、貴方達は何が目的でここに来たの!」
キャミィ「答える義務及び教義する必要は無い」
そう吐き捨てると、彼女は身体の重心を低くし、回転を加えた特殊な低空ドロップキック・・・スパイラルアローで、春麗を地上から追い出した。
春麗「ならば、力ずくでも聞き出すわよ!・・気攻拳ッ!!」
足元を滑り込むようにして襲って来たキャミィの攻撃を寸でのところでかわすと彼女が放てる攻撃の中で最大級の破壊力を誇る大技をいきなり出した。
気攻拳、文字通り気攻を相手に放つ溜めを要する技だ。その破壊力は軽自動車を一撃でスクラップにするほどである。だが、それはあくまで地上で放った場合である。
反動が強いので地上で踏ん張って、この攻撃を放って始めてフルの威力が弾き出せるのだ。空中なんかでやれば、当然、威力は半減してしまう。
だが、相手を気絶させる場合となると、話しは別である。反動が空中で分散しきってしまうので、使用者の負担も抑えられるし、何より彼女達を最初からしょっぴいで行くつもりだったので、気絶してくれれば御の字というワケなのである。
だが、キャミィの胸部目掛けて放たれる筈の一撃は大きく軌道を逸らす事となってしまった。
ユーニ「キャノンスパイク」
視界の端から俊敏な動きで繰り出される対空迎撃用の蹴りが春麗の腕目掛けて飛んできたのである。
反射的に手を引き、顔の前で腕を十字に構えた対一転集中攻撃用防御方法<クロスアームブロック>によりユーニの一撃をなんとか弾き飛ばすと、春麗はそのまま両手を着いて着地。
両足を器用に空中で開脚するとそのまま、独楽が軸を中心に回転するように両の手を中心にした遠心力だけの回転による驚異的破壊力の連続逆回し蹴り・・・スピニングバードキックを逆に宙に浮いたままの2人に向かって放った。
今度はユーリが妨害に入ろうとしたが、春麗の一瞬の判断の方が早かった。防御していたにも関わらず2人は、手すりまで吹き飛ばされた。それを確認する前に、春麗は次の目標へと照準を定めた。
春麗「行くわよ!」

227飛燕:2005/11/28(月) 22:23:18 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
体勢を立て直し、春麗の猛反撃が始まる・・・かと思いきや、突然、春麗の視界からユーリの姿が消えた。ユーリの速度が春麗の反応速度よりも一瞬だけ上回った結果である。
この驚くべき事態に思わず、春麗の動きがつい止まってしまった。
春麗「しまっ・・」
ユーリ「エアスパイラルアロー」
振り向く間も無く、春麗の背中が弾けた。ユーリの一撃がもろに決まったのである。
春麗「かはっ!?・・・」
そのまま、体勢を戻す間も無く壁面に華奢な身体が叩きつけられた。
大きく壁面に亀裂が走り、力なく春麗の身体が崩れ落ちた。苦悶の表情を浮かべ、なんとか立ち上がろうとした。だが、神経が言う事を聞かない。
おそらく、大きな衝撃を受けすぎた為に一時的に身体の神経が麻痺を起こしているのだろう。それでも、なんとかほふくしながら壁に寄りかかり、立ち上がろうとした。
朦朧とする意識をなんとか保とうとする春麗の目に、更に追い討ちをかけるような光景が入ってきた。背中を鉄の塊で出来た手すりに目一杯強かに打ち付けられたにも関わらず、平然とした素振りでキャミィとユーニが立ち上がったのである。
ユーリ「援護が予定より1.64秒遅れた。すまない」
ユーニ「構わん。2人が囮になって一人が隙を突いて仕留める・・・・その為のコンビネーション27の筈だ」
キャミィ「そうだな。それに作戦としては、結果は良好と言えるだろう」
服についた汚れと埃を払い落としながら”キラービー”達は、呻き声を上げる目前の女性を見下した。冷徹なその目つきは明らかに氷のように凍てつく殺意がそこにあった。
キャミィ「それでは、殲滅を開始する」
ユーニ「了解」
ユーリ「了解」
キャミィの言葉を合図に、ユーリ達は春麗の前後の方向へそれぞれ走っていくと、そのまま這い蹲っている春麗目掛けて同時にスパイラルアローを放った。
よく見ると、ユーリ達の位置が微妙にずれていたりする。これはおそらく、同士討ちを避ける事と、相手を確実に”浮かせる”為であろう。
そして、四肢の神経が麻痺している春麗がこの妙技を避けられる筈がなかった。まるで、犬か何か小動物が車に撥ね飛ばされたかのように春麗の身体は2人の頭上を一気に飛んでいった。
春麗「ひぐぅっ!・・・・」

 呼吸が出来ない

最悪だ。かなり打ち所の悪い一撃を貰ったらしい。余りの痛みに激痛が全身を襲い、春麗の呼吸が止まり掛けている。そして、留めと言わんばかりに、キャミィの身体が空高く飛んだ彼女目掛けて、実に軽捷な動きで迫ってきた。こういう狭い路地でこそ生かせるキャミィの必殺技。
壁から壁へと蹴った反動で、そのまま水平に移動。そして、その直線状に打ち上げられた相手を、蹴りの応酬を浴びせる、言わばデンプシーロールの変則蹴りver.。それが、この技・・・。
キャミィ「キラービー・アサルトッ!」

3,4・・・6.7と無残にも、成す術も無い春麗の身体がどんどんと打ち上げられていき、最後に、止めとばかりに踵落しを腹部に叩き込んだ・・・その筈だった。

  ―― ズドォオオオオオォォォ・・・・ ――

突如、する筈のない大音響・・・銃声にキャミィが驚き、攻撃の手を止めたのである。そのまま、身体を丸めながら着地。続けて、ユーニとユーリが銃声のした方向へと顔を向け、臨戦態勢を整えた。
そこには、仁王立ちの姿勢且つ片手で散弾銃を構えた赤いジャケットを着た男。
その男の蔭からひょっこりと顔を覗かせた赤いチャイナの少女。
ブルーのラインが入ったローブと珍しい格好をした少女。
袖の長い青色のクロスと短めのスカートと結構栄える格好をした20代頃の女性。
以上の4名がそこに立っていた。
零児「銃声で聞こえなかったかもしれないが、もう一度だけ聞く。貴様等は、何者だ?」
小牟「先程の動きに、あの速度・・・・並みならぬ人間としか言えぬぞ?」
慌てて、ドリス達が地面に横たわる春麗へと走っていったのを横目で確認しながらも、零児の声からは一瞬の隙さえも無かった。
キャミィ「目標、誘拐対象人物。 アリス レイジ と認識・・・・」
ユーリ「染色体情報確認・・・・97%の確率で目標と認証・・・・」
ユーニ「他の3名の女はどうする?」
キャミィ「・・・・ついでだ。これ等も、捕捉する事を推奨する」
ユーニ「異存はない。了解・・」
ユーリ「同じく異存はない、了解・・」

228藍三郎:2005/11/29(火) 21:04:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
 かなめを連れて基地を脱出した宗介のサベージは、
 森林地帯にある川に差しかかっていた。
宗介(そろそろ救出作戦が開始される時刻だ。
   このまま森を抜けて、味方部隊と合流できればいいが・・・)
 周囲に注意を払いつつ、川を渡ろうとしたその時・・・
 森から一発の弾丸が飛んできた。
 それを見て宗介は戦慄した。
 あの弾頭はグレネード弾・・・半径数十メートルを焼き払う高性能の爆弾である。
 あれが炸裂したら、この機体はともかく手に乗っているかなめはひとたまりも無い。
宗介「しまっ・・・!」
 グレネード弾はサベージの目前に落ちた。
 爆発からかなめを庇おうと、機体の背を向ける。

 その直後、機体の右足、膝から下が吹き飛ばされた。
 それによってサベージは川に倒れこみ、その手からかなめは放り出され川に落ちる。
かなめ「きゃっ!!」
宗介「千鳥っ!」
 残った手足で機体を起こす宗介。そして、彼は気づいた。
 グレネード弾は爆発していない。右足を撃ちぬいたのは敵の狙撃によるものである。
 つまりグレネードは、こちらの動きを止めるための囮…

 闇に潜む狙撃手に対し、抵抗を試みる宗介だったが、
 敵はそれよりも早く正確無比な射撃を見舞ってきた。
 右腕と脇腹を吹き飛ばし、胸部の電子装置と腹部のジェネレーターをえぐりとる。
 あっという間に戦闘不能においやられ、大破したサベージは、川の中に倒れこむ。
宗介「ぐ・・・」
 装甲板を破壊され、露出したコクピットの中にいる宗介も、激しい負傷を負っていた。
 額からは血が流れており、脇腹には深い傷が口を開けている。
かなめ「さ、相良くん?」
宗介「来るな!下がっていろ!」
 川を泳いでくるかなめに対し、宗介は叫ぶ。

 やがて、暗闇の中から、狙撃手が姿を見せる。
 スマートなデザインをした、銀色のASが宗介の前に立ちはだかる。
 これまでにまったく見たことも機種だった。

ガウルン『川に来るまではいい動きだったな』
 スピーカーから声がした。ガウルンのものである。
ガウルン『しかし、そこから先がいただけない。こちらが欲しいのはその娘だ。
     本気でグレネードなどブチこむと思ったか?』
宗介「・・・もっともだ」
ガウルン『はん、あのときの生徒か。まさか高校生のエージェントとはな。
     さすがに俺も騙されたよ。お前も“ミスリル”の・・・ん?』
 サベージから見える宗介の顔を見ていたガウルンは、ここで何かに気づく。
 そして、肩をこ刻みに振るわせると突然笑いはじめた。
ガウルン『ははは・・・くははははは!!』
     これはたまげた・・・!おまえ、“カシム”か!』
 “カシム”とは、かつでの宗介の呼び名である。
ガウルン『まるで気づかなかったぞ。お前が“ミスリル”にいたとはな・・・!
     カリーニン“大尉”はどうした?あの腰抜けも元気か!?』
 宗介はそれには答えず、不快な表情で問いかける。
宗介「なぜ貴様が生きている」
ガウルン『くくっ。昔の負傷で頭蓋骨にチタンの板を埋めこんであったもんでね。
     角度も浅くて俺は助かった。しかし・・・うれしいね。
     こんな形で再会できるとは。イイよ、最高だ』
宗介「随分と陽気になったな。ガウルン」
ガウルン『おかげでなぁ!あれからいろいろあったんだよ。
     くっく。聞かせてやりたいことは山ほどあるが、時間も無い。
     てめぇを始末してその娘の脳みそをいじり回す仕事があるんでな。
     ちょっとした宝探しだよ』
 憎悪の混じった懐かしさからか、ガウルンは饒舌になっていた。
宗介「何の話だ」
ガウルン『その娘の頭には<存在しない技術(ブラック・テクノロジー)>が詰まっているのさ。
     ラムダ・ドライバの応用理論とかな。
     完成すれば、核兵器さえ無意味になるかもしれんそうだ』
宗介「なに?」
ガウルン『知らないみたいだな。なら、知らないままあの世に逝くといい。じゃあな』
 そう言ってガウルンはカービン・ライフルの引き金を引こうとする。
かなめ「やめ・・・」
 かなめが叫ぼうとした瞬間、爆音が鳴り響いた。
 だがそれは、ライフルの発射音ではない。
 ガウルンのライフルが、どこからか飛んできた射撃によって真っ二つに折られた音だった。

229藍三郎:2005/11/29(火) 21:07:15 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=

セン「さぁ皆!走って走って!!」
 デカレンジャーやミスリル兵士達の陽動に従い、
 陣代高校の生徒たちは次々に輸送機の中に入っていく。
 電撃攻撃を食らった基地の敵勢力はほぼ壊滅状態になっており、
 救出作戦は順調に進行していた。
バン(この調子ならタイムリミットぎりぎりには間に合いそうだな・・・)
 その時、ふとバンの目に互いに何か話をしている二人の姿が映った。
 ジャスミンと二十代ぐらいの若い女性、恐らくは教員の一人だろう。
 この急いでいる時に何を話しているのか?気になったバンは彼女らの側に向かう。
バン「おい、どうしたんだジャスミン」
ジャスミン「バン、実はこの先生のクラスの・・・」
 ジャスミンが説明しようとすると、それに代わって神楽坂恵里が必死の態度で訴えた。
神楽坂「生徒がふたり、まだこの島に残っているんです!
    一人は犯人たちに連れ去られちゃって、
    もう一人はいつの間にか教室からいなくなったきりそのままで・・・」
バン「何だって!?」
 バンはその事実に衝撃を受ける。この場にいない生徒がまだいるという。
 しかし、だからといってその2人の救助を待ち、
 輸送機の発着を遅らせることはできない。
 ことは500名の人命に関わる大事なのだ。
 わずかな時間の遅れも深刻な事態へと繋がる。
 数秒黙考した後、バンが出した答えは・・・
バン「わかりました。俺がその生徒2人を探しに行きます!」
神楽坂「え!?」
バン「ですから、先生は早く飛行機に乗ってください!
   俺が必ず2人を助けてきますから!」
ジャスミン「ちょっと、バン!輸送機はもう1分足らずで出発しちゃうのよ!
      敵の増援も来るでしょうし、再び救助が来る保証なんて・・・」
バン「だからってほっとけねぇだろ!俺はスペシャルポリスだ!
   たとえ2人でも、助けを求めている人がいる限り、俺は行くぜ!」
 今にも駆け出そうするバンに対し、後ろから声をかける者がいた。
ホージー「待て、バン!」
バン「何だよ!このまま見捨てろっていうのかよ!!」
ホージー「誰がそんなことを言った!俺も島に残る」
バン「え・・・!?」
 ホージーの意外な言葉に面食らうバン。
ホージー「スペシャルポリスは、常に任務をパーフェクトに遂行しなければならない。
     俺達がボスから課せられた使命は、人質全員の救出・・・
     救助者を一人でも残せば、任務をコンプリートできたとは言えん
     お前一人にその大事な任務を任せるのは、少々心もとないからな」
 皮肉をこめた言い方だが、ホージーの心もバンと同じだった。
 普段クールに構えているホージーも、
 バンと同じく助けを求める人を見捨てられない、熱いデカ魂の持ち主なのである。
バン「へ・・・そうこなくっちゃな!相棒!」
ホージー「相棒って言うな!」
 いつも通りの返事を返すホージー。
ホージー「そういうことだ。輸送機の方は任せたぞ」
 残った3人に語りかけるホージー。
 人質全員を収容し、輸送機はすでに離陸寸前の状態にあった。
セン「ああ、みんなを本土に返し次第、すぐに助けに行くよ」
ジャスミン「2人とも、無事でね」
 そう言い残し、輸送機に乗りこむ3人。
 轟音を立てて、輸送機が島から離陸したのはそれからすぐのことであった。

230飛燕:2005/11/29(火) 21:20:45 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
その頃、北欧大陸の廃屋街の地下では・・・

クラウス「成程・・・・過去の亡霊と手を繋いでいるとは・・・そこの義仲さんが言うように、貴方は”狐”なのかもしれないですね」
不利な状況にどんどん追いやられてゆく・・・こうなっては、一時撤退が相場なのだが、生憎とあちらさんはどうにも自分を素直に逃がしてくれそうも無かった。
義仲「”さん”付けなどせずとも良い・・・・どうせ、これから命を狩られる者の言葉なのだからな!」
どうやら、この目前の生ける死者はサディスティックな性格らしい。言葉によって相手を怒らせ、時には動揺させて、次に暴力によって甚振るのが彼の流儀だった。
だが、杖を構えた青年はさして、気にも止めなかった様子で切り返してきた。
クラウス「成程・・・・”三途の川に送り返される”のだから、丁寧な言葉遣いをせずとも良いという事ですね?ならば、そのお言葉に甘えさせてもらいましょうか?」
少し、義仲の眉が吊り上がったのがクラウスの瞳にはっきりと映った。
義仲「若輩者めが・・・・甚振りながら殺してくれようかと思うたが、貴様はもっと傷めつける必要があるみたいだな。貴様から先に地獄の特等席へと招いて進ぜよう!」
奇声を上げながら義仲の刀がクラウスの首を刎ね飛ばす為に逆袈裟斬りを見舞ったつもりだったが、刀身はクラウスの髪の毛先すらも当たることなく、空を斬った。軽やかなバックステップで回避してのけたのである。間を置かず義仲が第2撃を振るおうとしたが、それよりも早くほぼ一息で詠唱を終えていたクラウスの姿が義仲の目に映った。


< 猛き焔よ 凍原の霜ですら溶かす、その狂暴なる獄炎よ 我が命に従いたまえ >


嫌な予感が義仲の本能へと警告を告げた。刀を攻撃のために振るうのではなく防衛の為に、後退しながら目の前で円月の形に空を切り裂いていった。
瞬間、クラウスの命により生み出された獅子の形をした炎の塊が義仲目掛けて狂い襲いかかろうとした。
だが、義仲の防衛の方が早かった。真っ直ぐ突っ込んで行った炎獅子は、真空状態の『輪』に捉まったかと思うと、そこでふっと消えてしまったのである。
クラウス「なっ!?」
クラウスが驚くのも無理は無い。そもそも真空状態となると当然、酸素等も無い空間の事を指す。
少し補足という点で発火現象についても述べよう。発火現象とは、着火源と燃料又は燃焼物、そして『酸素』が必要となる。このどれか一つでも欠けてしまうと、物質の定理における炎や火炎は存在出来なくなってしまうのだ。
着火源と燃焼物の問題を魔力によって解決させるという非科学的方法での攻撃であったが、燃焼を助ける存在の酸素が無ければ、二酸化炭素の塊になるのが関の山である。
義仲「危うい危うい・・・・流石に骸とはいえ、焼き殺されるのは勘弁願いたいからな」
クラウス「そうですか、ならば!・・」
詠唱をする直前、クラウスの鼻先を何かが高速で走り過ぎて行った。沙耶の持つショットガンから発射された散弾丸である。
沙耶「あらん?私の事をお忘れじゃなくて?」
クラウス「そういえば、忘れていましたよ・・・・出来れば静観して欲しかったのですけどね?」
義仲「フン!世の中、そんなに甘くは無いという事だ!面妖な術を使う奇術師よ!!」
源氏の武士の咆哮が仄暗いホームに響いて間も無く、いきなり上から凛とした声が響いてきた。
???「・・・・それはこっちの台詞だ」

231飛燕:2005/11/29(火) 21:21:34 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]



 ―― 粉砕 ――




人が大の字になってもまだ此方の字の方が大きく見える。そんな文字が突如、天井に白い光りと共に浮かび上がった瞬間、天井を覆っていた暗黒が眩い地上の光りで埋め尽くされていった。
そして、落ちてくる僅かな塵と同時に2人の男女が降りてきた。天上家の現家長と、長女である。
クラウス「界魔君、輪廻ちゃん!どうしてここが・・・」
界魔「普通、トイレになんか行くのに”なるべく”なんて言葉は使わないからね。なんとなく、嫌な予感はしていたんですよね・・・・」
右手に持ったかなり草臥れた古筆を構え、既に臨戦態勢に突入している界魔はクラウスの言い残した歯切れの悪い言葉を摘発した。
クラウス「そういえば・・・・そうでしたかね?」
そういえば、そんな事も言ったような気がするが、この状況下での増援は有難い。勝てない事も無いのだが、こう詠唱を一々中断させられては決着の着く勝負も着かないというものである。
輪廻「追求するのは・・・後。それよりも・・・・貴方達、何者?」
そうである。今、このように話している間にも、目前の白髪鬼はじりじりと距離と間合いを整えつつある。おそらく強い・・・それも油断がならない程にである。
余り、悠長に事を構えるのは得策ではないと判断した輪廻は沙耶に呪符を突きつけながら詰問した。
沙耶「あんw自己紹介ね?私の名前は・・」
輪廻「却下。私が欲するのはお義兄ちゃんをどうやったら、オトせるかの情報のみだから・・」
即答だった。0・コンマあるかないかというぐらいの即答であった。しかも、目が据わっているから余り笑い事ではない。
界魔「一寸待て、輪廻?」
こんな状況でそれを言うか?天然なのか、それともわざとか・・・いや、今更それを聞くまいて。頭を抱えながら、界魔は輪廻を止めた。
界魔「目的の趣旨が変わってる。ちゃんと元に戻してくれ・・・・」
クラウスが意地悪そうな笑みを向けているのを背中越しにちゃんと分かっている界魔は輪廻に懇願した。
輪廻「冗談に決まってるじゃない・・・・お義兄ちゃんw」
とても冗談を言ってる顔に見えなかった、とは誰も言わなかった。俗に言う、「流された」である。
クラウス「そういえば、あの化物・・・バグシーンとか言いましたけど、もう一度尋ねます。襲撃を止めてはくれませんか?」
沙耶が答えるより先に、鎧甲冑を纏った”白鬼”が口を開いた。
義仲「くどい。貴様等は我が刀の錆となるか、あの面妖な怪物共 ばぐしぃん とやらの餌食となるかのどちらかしか道は無いのだ」
好戦的な態度で挑んできた男に対し、既に筆を構えた界魔との間にソレが割り込んできたのは直ぐの事であった。
ブーメランのような形状をしたソレはいきなり現れて、跳び上がり界魔に斬りかかろうとした義仲を刀もろとも弾き飛ばしたのである。
クラウス「・・・・どうやら、乱入者はまだ増えそうですねぇ」
界魔がぶち開けたホームの天上を見上げながら、クラウスは溜息を漏らした。
そこに立っていたのは、先程のブーメランと非常に良く似た物を3つ所持した、何か特撮のスーツを着たような女性であった。だが、なんとなくそれと似たような物を着た格好に変身し、戦う漢達をその真っ直ぐな瞳に焼き付けた事のある界魔はぽつりと呟いた。
界魔「仮面・・・・ライダー?・・・」
だが、そこに立っているのは似ているようで全く違うものだった。人々の為に闘い続けたという点だけは、一致しているのだが、それをこの時点で彼らが知る由も無かった。
セラ「そこのジャパニーズサムライ?・・・・今、言った言葉をもう一回言ってみなさい? バグシーンが何ですって?」

232藍三郎:2005/11/29(火) 21:30:06 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=森林地帯=

クルツ『イィィィィ・・・ヤッホ――――ッ!!』
 クルツのAS・M9ガーンズバックは、
 大型ライフルを乱れ撃ちしながら宗介たちの目前に着地する。
クルツ『ウルズ6、着地成功!7と天使もここにいるぜ!』
 言うなり、目前のガウルン機に向けて発砲。
 ガウルンの駆るAS“コダール”は、回避運動をとりつつ後退する。
宗介「クルツ!」
クルツ『ソースケぇ、動けるか!?』
宗介「何とかな・・・お前がここに来たということは・・・」
 苦痛をこらえ、宗介はコクピットから這い出す。
クルツ『ああ、もう救出作戦は始まってる!
    いいかソースケ。カナメを連れて基地へ走れ!こっから南の方角だ!』
宗介「基地へ?」
クルツ『後少しで、AS部隊用の輸送ヘリが離陸する。
    待ち時間は5分だ。ここは俺にあずけろ。後で拾ってやる』
宗介「わかった。銀色のASに気をつけろ。機体もオペレーターのケタ違いだ」
クルツ『心配すんなって。ケツを蹴飛ばしてやるぜ』
 そう意気込みながら、敵機と対峙するクルツ。
 宗介はそれを横目に、川にいるかなめと合流して森の中に入っていった。

233アーク:2005/11/30(水) 15:49:28 HOST:aa2005060632061.userreverse.dion.ne.jp
=北欧大陸の廃屋街付近=
精霊の導きにより時空を超えた人達がどこにいるか分かったマグナスは廃屋になった街を眺めていた
マグナス「何とまぁ凄い状況のようですねぇ。地上の方は申し分ありませんが地下の方は少し厄介ですね
     何処の何方かは知りませんが争いは止めた方がいいのに」
そう言いながらマグナスは独り言のように言いながら廃屋の街へと歩いた
???『この邪な気配は何だ水の』
謎の声を聞いたマグナスは慌てる事もなく答えた
マグナス「さぁ?私には分かりませんよクロノス。大体興味がなかったのでは?」
クロノス『それはこの地に住む者達の事だ。だが異界から来た者達は興味深い
     そいつらと一緒にいる邪の心を持つ者達もな」
マグナス「貴方が興味を得るとは相当の手誰達のようですね。これは私も退屈せずにすみますよ」
クロノス『そう言うわけで体を俺に渡してくれないか?』
クロノスの言葉にマグナスは一瞬足を止めたがまた歩き始めた
マグナス「冗談はよして下さい。この体は今は私の物ですよ。いざと言う時は呼びますから
     それまでは皆と一緒に静かに待ってて下さいね」
クロノス『ちっ、止む終えまい。だが忘れるなよ邪の心を持つ者は俺の獲物だからな』
マグナス「はいはい、分かっていますよ天のクロノスさん」
クロノス『分かればよい水のマグナス』
謎の会話を終了したマグナスは一瞬にして姿を消した

234ゲロロ軍曹:2005/12/01(木) 18:59:41 HOST:p4054-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=トレジャーベース・ムサシの部屋=
チームEYES(アイズ)。それは、国際的化学調査組織『SRC』の精鋭メンバーたちで構成された、救助活動、怪獣の捕獲、または保護、超常現象の調査に至るまで幅広い活躍をする、エキスパートチームのことである。
そして最近、チームEYESの一員として新しく配属された青年がいた。彼の名は『春野ムサシ』。そんな彼は今のところ、SRC本部として製造された人工島、『トレジャーベース』の自分の個室で・・。
ムサシ「・・zzz・・。」
・・・、すやすやと寝ていた。(汗)・・しかし、それも仕方ないことである。日頃から調査やら何やらで忙しいのがチームEYESであり、ムサシはまだ入ってから間もない。疲れがたまりやすいのは当然というものであった・・。さて、そんな彼に、夢の中で語りかける者がいた・・。
=ムサシの夢の中=
ムサシ「・・、あれ?どこだ、ここ??」
なぜか急に周りが真っ暗な空間にいることに、戸惑いを隠せないムサシ・・。すると・・
?『・・、ムサシ。』
ムサシ「!この声・・、『コスモス』?」
ムサシがそうつぶやくと、ムサシの目の前に、青き巨人が現れた。この巨人こそが、『優しさ』と『強さ』を兼ね備えた勇者、『ウルトラマンコスモス』である。そしてムサシは、幼い頃にコスモスと友達になり、今ではふとしたことから彼の力を借りて、様々な事件を解決してきたのである・・。
コスモス『すまない、ムサシ。君が眠っている最中に・・。だが、どうしても君に伝えたいことがあるのだ・・。』
ムサシ「伝えたい・・、こと?」
ムサシがそうつぶやくと、コスモスは小さくうなずいた。
コスモス『・・実は、少し前から、この世界とは別の世界から来た人々がいるようなんだ・・。』
ムサシ「べ・・、別の世界・・?」
コスモス『ああ・・。私はわずかだが、ここ数日、時空の乱れを感じた。恐らく、次元を跳躍した者達がやってきたために起きたのだろう・・。』
ムサシ「へ〜・・、異次元の世界の人たち、か・・。どんな人たちなのかな?」
コスモス『それは私にも分からない・・。ただ、なぜか嫌な予感がするんだ・・。』
ムサシ「いやな・・、予感?」
コスモス『そうだ。何かとてつもない事が起きる、その前兆のような感じがするのだ・・。私の勘違いだったらいいのだが・・。』
ムサシ「・・、コスモス・・。」
コスモス『・・、すまない、ムサシ。こんな話をして。』
ムサシ「あ・・、ううん、いいって。気にしないでよ。」
コスモス『・・、ありがとう。じゃあ、私はそろそろ・・。』
そういいながら、コスモスは一瞬で姿を消した・・。
ムサシ(・・、コスモスがあんなに不安になるなんて・・。『何かとてつもない事』、か・・。)
夢の中で、ムサシは真剣に考えるのであった・・。

235ゲロロ軍曹:2005/12/03(土) 03:24:57 HOST:p1062-ipad02okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=モチノキ中学校・廊下=
?「・・?清麿?どうしたのだ〜??廊下に仰向けに寝てたら風邪を引くのではないか〜??」
とりあえず、清麿の頬をぺし、ぺしと軽く叩くバッグを着ている金髪の男の子・・。
立花(な・・、何なの、この子は?高嶺先輩の知り合いみたいだけど・・(汗))
先ほどのあまりに登場で、気持ちをクールにできず混乱気味の立花・・。その後、何とか落ち着かせて、金髪の男の子に質問した・・。
立花「・・ねえ、あなた、名前は??高嶺先輩の知り合いみたいだけど・・。」
?「ぬ・・?お主は誰なのだ??」
立花の呼びかけに反応した金髪の男の子。その反応を見て、相手が子どもとあってか、立花はすこし微笑みながら自己紹介をした。
立花「あたしは藤堂立花っていうものよ。高嶺先輩より一つ年下の後輩、ってところね・・。」
?「うぬ・・、立花殿か。私の名前は『ガッシュ・ベル』と申す。清麿の友達なのだ!!」
金髪の男の子、ガッシュは元気そうに立花に対して答えた。すると、なにやら恐ろしいオーラを感じる二人・・(汗)。
清麿「・・ぐぁ〜っしゅぅぅ・・・(ガッシュ〜・・・)。」
それは、先ほどのガッシュの体当たりでしばし気絶させられ、怒りが頂点に達した清麿であった・・。
そして清麿は、きっつーいゲンコツをガッシュにお見舞いした・・。
ガッシュ「ぬぉぉ!?い、痛いではないか、清麿ぉ!!」
清麿「やかましい!!何でまた勝手に学校に来てるんだよ!?」
ガッシュ「よいではないか、公園はナオミちゃんがいて遊ばせてくれないのだ〜!!(泣)」
清麿「ええ〜い、だからって、学校に来るなって、いつも言ってるだろうが〜!!」
ガッシュ「うぬう!清麿の白状者ぉ!!」
清麿「あほか!?なんで白状者呼ばわりするんだよ!!」
そういいながら、二人は取っ組み合っていた・・(汗)。

236ゲロロ軍曹:2005/12/03(土) 03:35:01 HOST:p1062-ipad02okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
立花は最初あっけに取られていたが・・、二人の光景を見ていて思わず止めに入った。
立花「ま・・、まあまあ、高嶺先輩。少しは落ち着いてください。ガッシュ・・、だったわね。あなたもあなたよ。」
清麿「・・、わりいな、藤堂。つい、興奮しちまって・・。」
ガッシュ「うぬう・・、私も、ちょっと悪かったのだ・・。」
とりあえず、何とか騒動は収まった・・。その後、きちんと帰るよう清麿はガッシュにきつ〜く言って、その言葉にしぶしぶながら従って帰っていくガッシュ・・。
清麿「・・やれやれ。あいつには困ったもんだぜ・・。」
ため息をつきながらそうつぶやく清麿。
立花「・・、あたしの家にも、あの子みたいな元気がとりえの妹がいるから、気持ち、わかりますね・・(汗)。」
何だか清麿が自分みたいな苦労をしてるのを想像して、『この人も大変そうだ』と感じる立花であった。
清麿「そっか・・。あ、そうだ、これ。一応、全部集めたから。」
そういって、散らばった資料を立花に渡す清麿。
立花「どうもすいません、高嶺先輩。」
清麿「いいって。・・んじゃな!」
そういいながら、清麿は廊下を走っていった・・。
立花「・・、高嶺先輩、何だか、あのガッシュって子のおかげで、前向きになれたっぽいみたい・・。」
なぜかふと、そう感じる立花であった。

237藍三郎:2005/12/03(土) 09:15:38 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=

マオ「いちばんの厄介事は片付いたね・・・」
 離陸していくジャンボ輸送機を見上げるマオ。
 まだ油断はできないが、とりあえず作戦の主目的は達成できそうだ。
 あとは自分たちAS部隊もAS輸送用のヘリに乗りこみ、
 速やかにこの島から撤収すればいい。
マオ「ウルズ6、まだなの?早くソースケたちを連れてきな」
 マオは単機でかなめと宗介の救援に向かったクルツのガーンズバックに通信回線を開く。
 もうまもなく敵の援軍が現われるだろう。
 そうなる前に、も島を離れなくてはならないのだ。
 だが、クルツからの応答は無かった。
マオ「ウルズ6、応答せよ。ウルズ6」
 何度も呼びかけるマオ。それでも返事は無い。
マオ「クルツ、こんな時にふざけてんの!?怒るよ!」
 それでも、クルツは応えなかった。
 そして無情にも、マオ機の元に敵増援部隊出現を告げる報がもたらされた。

238ゲロロ軍曹:2005/12/04(日) 12:13:08 HOST:p3243-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
マオ「待って。ウルズ6からの連絡がないわ。ソースケとエンジェルも・・」
エンジェル(天使)とは、ミスリルが定めた『千鳥かなめ』に対してのコードである。
増援の知らせを受けながらも、もう少し留まっていたいマオ。だが、そんな彼女に最悪ともいえる知らせが届く・・。上空を警戒していた攻撃ヘリのパイロットからの通信だ。
パイロット『・・、こちらテイワズ12。今、M9の残骸を発見した。ウルズ6のものと思われる。基地の北の川だ。』
マオ「・・・、なんだって・・?」
それを聞いて、マオは青ざめた。確かに普段のクルツはお調子者の女好きで、黙ってれば美形のクセに何かと言う事が下品な奴だが、彼とてミスリルSRC班の一員。ASの操縦だって並外れたものである。そして、乗っている機体は通常のASを遥かに凌ぐ性能を有する、最新鋭の機体、M9だ。よほどの油断がないかぎり、やられるなんて、考えられたものではない。
パイロット『見るからにバラバラだ。胴体も真っ二つになっている・・。』
胴体・・、つまり、コックピットの部分だ。
マオ「お・・、オペレーターは無事なの!?」
思わず少し興奮気味で質問するマオ。
パイロット『確認できない。視界がひどくて・・・』
マオ「オペレーターを探して、ウルズ6を。ソースケは?」
パイロット『・・、マオ。俺もそうしたいが、クルツやソースケを捜索している時間はない・・。』
マオ「一分でいい。あたしもそっちに・・」
クルツ達の探索に行こうとしたマオだが、それをさえぎる声があった・・。
カリーニン『捜索は厳禁する。ただちに撤退せよ。』
マオ「少佐!?」
マオたちの上官である、カリーニン少佐からの通信であった・・。

239飛燕:2005/12/04(日) 22:39:43 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
=廃屋街・地下=

義仲「おなご・・・か?面妖な格好をしておるが?・・・」
眩い陽光が差し込んできて目が慣れるのに多少時間を要したが、降りてきた人間が女性である事をようやく認識した。一同の中で、逸早くその事に義仲が気付けたのは、やはり死人だからであろうか。
続いて、男性にしては胸の不自然な膨らみと、清んだ声色からして女性と沙耶が認識出来たのは彼女が此方へ自動拳銃の照準を向けてからである。
沙耶「あらあらv貴方が言えた義理かしら?悪いけど貴方が、三途の川でお寝んねしている間にどれだけの歳月が流れたと思うの?」
だが、銃口を向けられても平然と沙耶は義仲へと言葉を返した。普通に人間の頭を・・・脳漿と大半の頭蓋骨を辺りに四散させるだけの破壊力を持つ、銃を突きつけられても、けろっとしている沙耶の態度が癪に障ったのであろう。
バイザー越しの警告が先程のものよりも大きくなって、ホームに響いた。
セラ「質問に答えなさいッ!最近のバグシーン騒ぎは貴方達が原因なの!?」
本来、ピープル達に銃器を・・・対バグシーン用の物を向けるのは御法度(先保の義仲への攻撃は界魔が斬られるのを防ぐためなので例外)であるが・・・彼等は『人間』ではないと、セラの本能が叫んでいた。
そして、問い掛けの答えが返って来るのにそう時間はかからなかった。まぁ、答えたのが口が堅ければ頭も固い源氏の侍ではなく、口が軽い沙耶だったからというのが最大の理由だろう。
沙耶「ええ、そうよ?今月の頭から、計71件。そして、実際に見つかっちゃってメディアに報道までされたのは20件弱・・・・私がやった事よ?彼は・・・そうねぇ、さしずめ私の助手かしら?」
最後の言葉に憤慨な態度で開口しようとした義仲であったが、沙耶が先に「大体、貴方の身の上話なんかしたって彼女が信じると思って?なら、嘘でも、そういう情報をくれてやった方が話す手間が省けてよいと思うけど?」
実にごもっともな意見である。クラウスに名乗ってから述べ10分も掛かっていない。一々、新しい乱入者が来る度に名乗っていたのでは面倒である。
それに、彼女に自分達の姿を見られた以上、なるべくならば<始末するべき>である。目前の、少年少女と魔術師諸共、屠るだけ。変わった事といえば、血塗れの肉達磨が1体増えるだけの話しである。
義仲が不適な嘲笑を浮かべるのと同時に界魔が前方へ跳躍。セラの横へ並びながら声をかけた。
界魔「誰かは知らないけど・・・・下がった方が良い。こいつらの殺気、貴方でも分かるだろう?」
沙耶はともかく、背中が焼けるように熱い殺意に思わず嫌な汗が流れてきたが、それを拭おうともせずに界魔は忠告をした。だが、界魔に返ってきた言葉は彼の予想通りであったと同時に苛立ちのあるものだった。
セラ「それはこっちの台詞よ。ピープルは早く逃げて!幾ら、アムドライバーといっても、貴方達3人を庇いながら戦っていたのでは・・」
叱咤するような声が界魔達にかけられたが、彼等は少しも身動ぎしなかった。
界魔「やっぱり・・・・ライダーっていうのは、他人の事を第一においているな」
輪廻「・・・お義兄ちゃん?」
界魔「何でもないよ、輪廻。生憎と無用な闘いはしたくないけど・・・あちらさんはそうもいかないみたいなんでね」
散弾銃を再装填(リロード)しつつある沙耶と、先程から刀を不動の構えで止めている義仲の姿を顎でやりながら界魔はセラの勧告を無碍にした。
セラ「な、いいから!早く行って!」
クラウス「ご心配なく、お嬢さん。生憎ついでに、私達も普通の人間とはちょっと身体能力は強い方ですからね・・」

240飛燕:2005/12/04(日) 22:40:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]



< 咎人の罪状を清算せし稲妻よ 目前に控えし悪鬼共の罪を焼き尽くせ >
クラウスの謳うような律の整った声がホームの中で反響し合った。それに続いて、輪廻も声を揃えるように唱えた。
< 天心伍雷正法創始者 伏羲とその弟子、天上 輪廻の意に従え 呪符達よ >



ぶわっ! 輪廻の細い指の間から紙切れが突然、羽ばたいた。白鳥が羽ばたいた瞬間、飛び散る数本の羽毛のように、セラの目には映った。
クラウス&輪廻「「 散・雷・撃ッ!!(弾火ッ! 砲水ッ! 斬金ッ!行ってぇ!!)」」
2人の声が重なった瞬間、何かの分子が急速に集束していき形作っていくのがセラには見えた。間も無く、ホームは大音量の雷電と水道管が破裂したような水の破裂音と水が急激に蒸発する音だけがホームを制した。
濃霧のような蒸気に包まれ、鋭利な金属と化した紙切れと無数の横にのびる稲妻に遭いながらも沙耶は焔と呼ばれる刀一本がお釈迦。義仲は両の具足を肩当を失っただけに終わるだけだった。
義仲「フッ・・・霧に乗じて、我らを襲おう等とはな・・・考えは良かったがな!」
もやと粉塵がその場を制していた。にも、関わらず、義仲は一人の人間へとその刃の照準を定めた。セラの隣に動いてから、全く動いていない青年へである。
義仲「・・・死人(しびと)には通用せぬわぁッ!!」
取った――。血飛沫が、粉塵を赤く染めると確信していた義仲であったが、次の瞬間それは驚愕へと変貌した。
大気の掠れたような悲鳴と共に狂喜している不吉な影が落下し、鈍く輝く日本刀が界魔の頭部を西瓜のように真っ二つにしようとした、正に寸前。界魔の口と両手が動いた。
界魔「先刻、承知済みだ。そんなのはな・・・・」
義仲「ッ!?」
ゆっくりと落ちついた動作にしか見えなかったのだが、界魔の両手は義仲の兇刃を捉えていた。否・・・捉えた、というよりも挟んだと言った方が正しいだろう。
義仲が界魔の位置を捉える前から瞑っていた目をゆっくりと開くと、界魔は口を開いた。
界魔「あんたからは死体の独特の腐臭が漂ってる・・・・微かにだけどね。だからこうやって”あらざる者”に対する対応をしているわけだ」
義仲「ぐぬ・・・・ぬぬぬ・・・・」
動かない。無刀取り・・・別名、真剣白刃取りをされており両手が塞がってるので脚を使った攻撃をすればよいのだが、義仲の頭はこの時点ではそこまで回らなかった。
押したり引いたりなんとか、この小童の手中に納まった刀身をなんとか脱出させようと必死になっていた。
界魔「家訓、曰く ―― 恩は2倍、又は出来る限り そして怨みは十倍にして返せ ――ってね!」
刀身を捕縛したまま界魔は器用に上半身だけを捻った。旋回しつつ、左足でしっかりと地面を踏み付けながら、投げつける。
無論、慌てて手を離そうと試みた義仲であったが果たしてその願いは叶う事無かった。右腕の奇妙な苦痛に何事かと視線だけ動かしてみると、何時の間にか界魔の右腕ががっちりとホールドしているのが見えた。
そして、次に見えたのは赤錆まみれの廃棄確定のレールと自分の八重歯数本であった。
義仲「ぐぶっ!・・」
一本背負いと日本では呼ばれている独特の投げを刀もろとも朽ち果てたレールへと顔面から叩き付けられた義仲はこみ上げて来る怒りを抑えながら、ふらふらと立ち上がった。
義仲「お、おのれ・・・・童如きが、味な真似を・・」
界魔「流石に甲冑を身にまとってるだけの事はあるな。だが、その低脳を冷やす為にも、烏帽子じゃなくて良ぉく冷えた金属で作った兜を頭につけた方が良いんじゃないの?」
我ながら安い挑発をしてしまったものだと、思わずかぶりを横に振った界魔であったが、そのあきれた様子が気に喰わないらしかった。
義仲「小童が粋がりおってからに・・・・余程、死にたいらしいな!」
界魔「そっちこそ、万博か源氏博物館に<滑稽な死に様な木曽義仲>という題名で飾られないようにせいぜい頑張ったら?・・・・クラウスさんは、そっちの彼女と一緒にその妖女を・・・俺は輪廻とで、こいつを張り倒す!」
濛々と立ち込める粉塵の中、義兄の匂いを頼りに見つけた義妹が背中から飛びついてくるのを無視しながら、界魔はクラウスとセラにもう一方の相手を頼んだ。
クラウス「分かりました、界魔君・・・ですが、油断はしないようにして下さいね?」
界魔「大丈夫、家長が居ない今、俺がしっかりしなきゃ駄目なんだから・・・・死ぬようなヘマはしないように努力はするよ。クラウスさんこそ、無茶はしないでくれよ?」
ようやく薄れてきた粉塵越しに双方は実に頼もしげな笑いを返し合った。

241飛燕:2005/12/04(日) 23:00:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
沙耶「あらんvそれじゃあ・・・・話しからして、私がこのハンサムボーイと堅物お姉ちゃんの相手をすれば良いのかしらん?」
セラ「誰が堅物ですって?・・・・そういえばさっきのって?・・」
余りにも非日常現象過ぎる事が起きたので、気付くのが遅れたが急遽ペアを組む事となったと聞いてようやく気付いた。彼と、義兄v義兄vと連呼する少女が起こした超常現象はとても科学的には説明がつかないような現象だからである。
クラウス「自然界に於ける様々な事象等を意のままに操り、使役する術・・・魔術と呼ばれるものと、それを何時でも常用出来るように開発された符術という東洋における術の一つですよ。ただ、この符術は神仏の力を込めた呪符を使役するという物も存在しますで一概に魔術とは割り切り難いんですよ・・・宜しければ、この符術について簡素ながら講義しましょうか?おおよそ1時間42分56秒程度、必要ですが?」
無論、そこまできっかり計って講義するわけではない。ようは、2時間近い説明が必要だという事を述べたのである。無論、この状況下で話してもらっても全然、耳に入らないのは当たり前なので当然、返事はNOであった。
セラ「・・・・遠慮しておくわ」
沙耶「へぇ〜〜・・・・確かに、符術には日本と大陸とでの使い道が大きく違うのよねwあなた、中々博識じゃない?」
クラウス「お褒めに預かり光栄の極まり・・・・」
沙耶「でもね。悪いけど、そろそろ時間なのよね?貴方達の相手をしている時間も無い事だし・・・・」
瞬間、沙耶の周囲の空間が捩れた。そして、10歳児程の大きさの狢とも鼬とも区別がつかないような生物がわらわらと出現して来た。良く見ると、その鼬達の尻尾は鋭利な刃物のような金物独特の鋭い逆光がある。
クラウス「これは?・・・・」
魔術師の疑問に沙耶は肩を竦めながら答えた。
沙耶「鎌鼬(カマイタチ)。知ってるでしょ、日本の妖怪の?」
クラウス「ええ。ですが・・・・これだけ多いと流石にうんざりしますねぇ・・・・」
セラ「能天気な事を言わないで!・・・・この生物、強いの?」
クラウス「少なくとも、彼等の刃にさえ触れなければ問題は無いのでそんなには強くないですが・・・・時間稼ぎにはうってつけ、とは言えますね」
時空を渡っての広大な旅をしている彼は幾度かこのような”異形の者達”と一戦を交えた事があった。
個々の戦闘能力はそんなには無いものの、彼等の実力は集団でのコンビネーションが本当の実力といえよう。尾の刃はそこらの業物の刀ですら簡単に両断してしまう程である。そんな刃達は元来から徒党を組んでの狩りを好んでいた。ようは、ハイエナと同じである。
セラ「群がって来る前に撃破・・・・というわけね?」
クラウス「ええ・・ですから、倒す時は一気に倒すべきですね。でなければ、私達が刺身にされかねませんからね」
ジョークにしてはあんまり笑えないのだが、やはり踏んだ場数は伊達じゃなし。クラウスにつられて、セラも苦笑し出した。
セラ「全く・・・それは願い下げね。悪いけど、こんな所でこんなのに食べてもらう予定は私の人生には無いもの」
クラウス「それは全く賛同すべきですね。私もこんなところで胃袋に収まって朽ち果てるつもりはさらさら無いですから・・」
2人が詠唱とブーメランの安全装置を解除しようとした刹那、またもや聞き覚えの無い声が響いてきた。
???「ほぉ・・・・やはり、此方が正解らしいですね」
気配が消えていた、というしか無かった。訝しげな視線でセラが、薄ら笑いを浮かべながら沙耶が、眉を顰め厳しい表情でクラウスが、そして突然の来訪者に明らかな敵意を向けている鎌鼬達が一斉に後ろを振り返った。
一同の視線の先に居た者は、妙な気配を漂わせている男であった。なんとなく複数の気配はするのだが・・・何処をどう見ても一人しか居ないように見える。
???「おっとv自己紹介が遅れましたね・・・・私の名は、マグナス。以後、お見知り置きを」
丁寧な物言いの男が深々と頭を下げながら簡素な自己紹介をし終えたと同時に、沙耶の溜息が一同の耳に聞こえた。
沙耶「本当に今日は、珍客が・・・・多いわねぇ」

242ゲロロ軍曹:2005/12/05(月) 00:57:15 HOST:p2065-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=地底冥府・インフェルシア=
かつて、数名の天空聖者により、地上世界への進出を阻まれてしまった、『地底冥府インフェルシア』の軍勢・・。しかし、数年の時を経て、彼らは再び地上を支配しようと企んでいた・・。だが、そんな彼らに毎度の如く『邪魔者』が現れ、それに苛立つものがいた・・。
?「ぐぬぅぅぅ・・、ええい!忌々しい、忌々しいぃぃぃ!!!」
そういいながら、右手に持ってる剣を乱暴に振り回して暴れる者がいた・・。何だか機械的な部分も目立つ、まさしく『化け物』っぽい見かけであった。
この者の名は『凱力大将ブランケン』。インフェルシアの絶対的な権力者『冥獣帝ン・マ』に忠誠を誓ってる者である。ご覧の通り、少しの事で切れてしまう性格・・。
そんなブランケンの姿に、何かと怯えている下っ端のゾンビらしき者たち・・。
ブランケン「ちぃぃ・・、忌々しい『魔法使いのガキども』めぇ・・、『門の鍵』さえあらば、あんな奴らなどすぐに片付けられるというものを〜・・!!」
そう、確かに彼は強い。しかし、色々と事情があり、彼は地上へは行く事ができなかった。そして、自由に地上へいけるために、手下共に『門の鍵』という物を探させている・・。
?2「ふん・・、相変わらずやかましいぞ、ブランケン・・。」
ブランケン「!『ウルザード』!!貴様、俺をバカにしに来たのか!??」
ウルザードと呼ばれるものは、何やら全身を紫色を基調とした鎧で纏っており、右手と左手にはそれぞれ彼専用の剣と盾が握られていた。
ウルザード「・・そんなつもりは毛頭ない。時間の無駄というものだ・・。」
ブランケン「!!!き・・、貴様ぁぁ!!」
思わず凄いスピードで斬りかかりにいくブランケン。しかし、ウルザードはさも当たり前のごとくブランケンの剣を自分の盾で防いだ・・。
ブランケン「・・大体貴様、なぜ最近地上で行動をしない!?ン・マ様に逆らうつもりではあるまいな!??」
ウルザード「俺とて、それなりに休養が必要だ・・。そんなことも分からんのか、貴様は?」
ふん、と鼻で笑いながら答えるウルザード。
ブランケン「こぉんのぉ・・!!(怒)」
そういいながら、怒ってさらに斬りかかろうとしたブランケンだが、突然やめた・・。
ブランケン「・・ちっ。まあいい。だが、もうそろそろ出ろ!!そうしなくば、俺が貴様を・・叩き斬る!!」
ウルザードの喉元に自分の刃を近づけながら言うブランケン・・。
ウルザード「・・、いいだろう。だが、俺にも準備がある。冥獣も1匹連れて行くぞ。」
ブランケン「・・勝手にしろ!!!」
怒った様子で、その場を離れていくブランケン・・。
?3「あ〜らら・・、あんたって、相変わらず恐いもんしらずだねえ・・、ウルザード?」
そういって、上空から一匹の化け物が降りてきた。前身黒色で、女性のような体型だった。
ウルザード「・・『バンキュリア』か。貴様に構っている暇はないぞ。」
この女性型の化け物は『妖幻密使バンキュリア』。いわゆる吸血鬼の一種であり、不死の能力を有している。何かと残忍な性格をしてる・・。
バンキュリア「お待ちよ。あんたに面白い情報を教えてやろうと思ってね・・♪」
ウルザード「面白い情報・・、だと?」
バンキュリア「そうさ・・。どうやら、この世界とは違う世界の人間共が、それぞれ別の場所に現れたみたいなのさ♪」
ウルザード「・・ほう?詳しく聞かせてもらおうか・・。」
『異世界から来た人間達』・・、それを聞いて、どことなく興味を持つウルザードであった・・。

243藍三郎:2005/12/05(月) 21:11:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco34.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=森林地帯=

宗介(遅かったか・・・)
 離脱していくミスリルの輸送ヘリを見て、宗介は苦い顔つきになる。
 クルツの援護で何とかガウルンの追撃から逃れた宗介とかなめは、
 やっと遠目で基地が見える場所までたどりつけたが、
 その時にはすでにミスリルの部隊は島から撤収を開始した後だった。
宗介(クルツが追いついてこない・・・何かあったな)
 クルツはすぐに片付ける、と言っていたが、
 ガウルンと彼の駆る銀のASの性能はハンパなものではない。
 苦戦をしていても不思議ではなかった。

かなめ「さ、相良くん・・・大丈夫なの?」
 心配そうなかなめの表情を見た宗介は、安心させるべくとりあえずの善後策を口にする。
宗介「こうなっては仕方が無い・・・一旦ここを離れて海岸に向かおう。
   俺の所属している艦がまだ残っている可能性もある。
   何とかコンタクトをとることができれば・・・」
かなめ「そうじゃなくて、あなたのことよ。
あんな怪我して、血だらけで、顔色も・・・」
 宗介は全身泥まみれで、ワイシャツは流れた血によって赤く染まっている。
 額の傷はそれほどでもないようだが、脇腹の負傷がひどい。
宗介「応急処置は済ませた。問題無い」
 まるで意に介していないように淡々と答える宗介。
 しかし、どう見ても深刻な負傷であるのは間違い無かった。
 見ている方が痛々しく感じるほどである。
かなめ「でも、血が止まってないんじゃ・・・どこかで一旦休んだ方が・・・」
宗介「敵が来る。足を止めるわけにはいかない。いくぞ」
 そう言って歩き始める宗介。
かなめ(なに、なんなのこの人・・・)
 その後ろ姿を見ながら、かなめは目の前のクラスメイトに対し、
 言い知れぬ恐怖を感じはじめていた。
かなめ(あんなにひどい怪我をして、真っ青な顔をしているのに、敵、敵、敵、敵・・・)
 相良宗介という人間が、かなめには全く理解できなかった。
 自分達とはまるで違う、別世界の生き物のように思えるほどに・・・
 
宗介「どうした、千鳥?」
 かなめが棒立ちしたままでいると、宗介が振り返った。
宗介「具合が悪いのか?」
 宗介が近づこうとすると、かなめは逃れるように後ずさる。
かなめ「こ、来ないで」

244アーク:2005/12/05(月) 23:58:01 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
=廃屋街・地下=
マグナス「ふむふむ、状況の説明は結構ですのであしからず」
そう言ってまた頭を下げた
クラウス「貴方は何者ですか?見た所普通の人間ではないようですね」
マグナス「痛い所を掴みますねミスタークラウス。確かに私は普通の人間ではありません
     ちょっとだけ異常なだけなのでお気になさらずに」
そう言うと一歩進んだ。それと同時に鎌鼬の何匹かが襲い掛かった
マグナス「あまり手荒い事は無しで行きたい所ですが無理ですか。止む終えませんね」
     出来るだけ被害は最小限にお願いしますね」
???『分かっている案ずるな水のマグナスよ』
なぞの声と同時に鎌鼬がマグナスに襲い掛かった
それと同時にマグナスは両手を突き出していた。その両手には白く輝く指輪があった
???「雑魚がこの冥王に手を出せると思うな!!」
白く輝く指輪から放たれた光に触れた鎌鼬達の半分は右腕だけを残し消滅した
クラウス・セラ・輪廻・界魔「!!!!!!」
???「ふん!妖怪風情が俺に触れるとは恐れ多い事だ。しかし実に見事だ
    こんな数の実力者に出会えるとはこんなに嬉しい事はない」
義仲「貴様は何者だ!先程の奴とは比べ物にならないほどの殺気を放つとは」
???「俺の名はレイフェル。天のレイフェルだ!水の奴とは違うから手加減はせぬ!」

245ゲロロ軍曹:2005/12/06(火) 17:33:57 HOST:p5072-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=森林地帯=
かなめ「あたしに、近づかないで・・。」
かなめのその台詞を聞いて、宗介はひたと立ち止まった。そして、しばしの沈黙・・。
宗介「俺の事が・・、恐いのか・・?」
かなめ「!・・・・」
かなめは、彼の問いに答える事ができなかった・・。
宗介「多分、自然な反応だ。君から見れば、確かに俺は・・。」
そうつぶやく宗介の顔は、血に汚れた横顔に、癒しがたい帆ドン深い孤独の影が差した。少なくとも、その時のかなめにはそう見えた。
かなめ(えっ・・?)
かなめは、どきっとした。
かなめ(どうして?どうして、そんな顔をするの・・?)
今の宗介は、憧憬の対象に拒絶され、それを自分でも納得していて、寂しげにため息をつく・・そんな、人間に共通の顔。身体の傷ではなく、『別の何か』が痛いはずなのに、悲しいかな、それに耐えるだけの強さを持ってしまった人間の顔。そういう感じの顔だった。
宗介「・・だが、今は我慢して欲しい。今の俺が考えているのは、君を無事に、元の生活に帰すことだけだ。逃げ切る保障はできないが・・俺を、信じてくれないか・・?」
うずくまるように痛むわき腹を押さえながら、そして、目線はそらしたまま、どこか弱々しい声で言う宗介。その今の彼の姿からは、無機質な戦闘機械の面影は消えていた・・。
かなめ(そ・・、そんな・・。)
戦闘に傷つき、ぼろぼろになって、それでも自分を助けようとしている、ひたむきな少年。その相手を『来ないで』などと拒んだことに、かなめは、強い罪悪感を覚えた・・。
かなめ(彼は、一生懸命あたしを助けようとしていたんだ・・。今、こうして痛いのを我慢するのも。ひどく『敵』を警戒するのも。何から何まで機械的・合理的に考えるのも・・。全部、あたしを助けたいから。そうしないと、助けられないから。)
そのことに気づいたかなめは、宗介の学校で巻き起こした騒動にも、自然と納得がいった・・。
転校初日から彼女をしつこく尾けまわしたのも、どれだけ迷惑顔されようと学校でドタバタ暴れまわったのも・・、敵の恐さを、彼はよく知っているからなのだ、と・・。

246ゲロロ軍曹:2005/12/06(火) 18:08:45 HOST:p5072-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
・・、すいません。245において一部間違いがあったので訂正します・・(汗)。
×癒しがたい帆ドン → ○癒しがたいほど

247藍三郎:2005/12/07(水) 21:06:17 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
かなめ(そうだったんだ・・・)
 切なさに愛しさ・・・理屈では説明できない感情の渦が、彼女の中で溢れていった。
 この気持ちをどう表現したらいいか分からずに、ただ一言答えた。
かなめ「うん・・・」
宗介「助かる。では行こう」
 それから二人は、森の中を再び歩き出した。

宗介「・・・?」
 十分ほど山中を歩いたところで、突然宗介が足を止めた。
かなめ「どうし・・・」
宗介「静かに」
 右手でサブマシンガンを構えると、その銃口を先の茂みに走らせる。
 闇の中に、人の気配を感じたからだ。
 十分に警戒しながら、マグライトを点けると・・・

 茂みの奥の低木に寄りかかっていたのは、軍服を着た金髪の青年だった。
 全身ずぶぬれで、体のあちこちに泥や血がこびりついている。
 彼は宗介の姿を見止めると、力なくこう呟いた。
クルツ「よぉ・・・遅かったじゃん」

=トゥアハー・デ・ダナン=

 発令所への通路を急ぐカリーニンの元に、
 帰還したばかりのマオが追いすがってくる。
 要件はもちろん、島に取り残されている彼女の部下のことだ。
カリーニン「マオ曹長、君は格納庫で待機のはずだ」
 歩調を緩めることなく告げるカリーニン。
マオ「このまま撤退するんですか?」
カリーニン「そうだ」
マオ「クルツと同じに、ソースケも見捨てて?」
カリーニン「入隊契約の範疇だ」
マオ「彼らは私の部下です。私に行かせてください。
   二時間・・・いえ、一時間あれば結構です。それまでに見つけて戻ります。お願いです」
カリーニン「50億ドルの艦と、250名の乗員を一時間危険に晒すのかね?
      『お願いです』の一言で?」
 冷たいようだが、正論である。マオはしばし口篭もるしかなかった。
 やがて、カリーニンは発令所へと続く頑丈な防水扉の前で立ち止まる。
カリーニン「ここから先は発令所要員の区画だ」
マオ「いつもそうなのね・・・どうしてそこまで冷淡でいられるんです?」
カリーニン「そうなることが必要だからだ」
 そう言うと、マオに背を向けて発令所への扉を潜り抜けて行った。

=トゥアハー・デ・ダナン 発令所=

テッサ「どれだけ待てるか聞きに来たんでしょう?」
 発令所に入ってきたカリーニンに、テッサは振り返りもせずにそう告げた。
 この娘にはかなわん、とカリーニンは本気で思った。
テッサ「今は一分たりとも待てません。潜水型の怪重機一体と、
    機雷を満載した武装哨戒艇が二隻、こちらに接近しています。
    大至急、ここから50キロ以上離れなければ」
 正面スクリーンに映るサメのような形をした怪重機のシルエットを見ながら、
 テッサはそう告げる。いかにダナンといえど所詮は動きの鈍い潜水艦。
 海中を自在に泳ぎ回る怪重機に襲われてはひとたまりもない。
カリーニン「ごもっともです」
 しかし、テッサの顔つきは言葉とは裏腹に不機嫌だった。
テッサ「でも、サガラさん達は助けたいわ」
カリーニン「はい。まだウェーバー軍曹にも生存の可能性があります」
 あれで死ぬような男なら、カリーニンはクルツをSRTの一員に選んではいない。

 スクリーンを見ながら、テッサはついさっき入った情報をカリーニンに告げる。
テッサ「先ほど宇宙警察から連絡がありました。
    現在、脱出できなかった生徒の救出のため、
    バンさんとホージーさんが島に残っているそうですよ」
カリーニン「なんと・・・あの二人が」
テッサ「彼らがここまでしてくれているというのに、
    私たちは何もせずただ見捨てるというのは無しですね」
 テッサは海図を見ながら、これからのプランを説明する。
テッサ「敵海中部隊の索敵をかわしつつ、夜明け前に沿岸部で数分間浮上します。
    その際に皆を収容、全速力でこの海域を離脱します」
カリーニン「可能なのですか」
テッサ「普通の潜水艦なら無理でしょうね」
 テッサは強気な笑みを見せた。まるで自分の息子を誇る母親のようだ。
カリーニン「・・・ウェーバーのM9が撃破された件が気になります。
      私の考えが正しければ、“あれ”を使う必要がでてくるかもしれません」
テッサ「あれ?どのあれですか?」
カリーニン「ARX−7。<アーバレスト>です」

248アーク:2005/12/08(木) 00:19:12 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
クラウス「天のレイフェル?ですがさっき貴方はマグナス・ガラントと言いましたよね?」
レイフェル「それは水の奴の名だ。俺の名はレイフェルだ覚えておけウィザード・クラウス」
先程までマグナスと名乗った青年とは違いレイフェルと名乗る青年は
髪はとても黒く眼は漆黒の色をしていた
レイフェル「さて、源氏の死人の相手をしたいのだその場を引け小僧」
界魔「そう言ってはいそうですかと言える?」
レイフェル「小僧風情が冥王に逆らうのか?水の奴が手を出すなと言っているから手は出さぬが
      俺の邪魔をするのなら時限を越えた人間でも塵一つなく消してやるぞ」
レイフェルの言葉と一緒に放たれた殺気が脅しでない事に界魔は気づいた
先程の鎌鼬の半分を消滅させた技を思い出し界魔はその場から少しだけ遠ざかった
レイフェル「分かればいいのだ。さて、源氏の死人よお前の相手は俺がしよう」
義仲「くっ、いくら死人である俺でもあの技を食らったらひとたまりもない」
ゆっくりと迫るレイフェルに義仲は後ずさりを始めた
その時残りの鎌鼬達がレイフェルに襲い掛かった
仲間を殺された事に怒り狂ったかのようにレイフェルに切りかかった
レイフェル「ふん、半分ぐらい殺せば大人しくすると思えば所詮は下等種族の妖怪か」
そう言って右腕の指輪が光り出しそこから白の剣を出した
レイフェルは剣を取り襲い掛かった鎌鼬の二匹を真っ二つに切り裂いた
レイフェル「光栄に思うのだなこの冥王直々に殺されるのだからな」
恐ろしい笑みを浮かべたレイフェルは中に浮かび上がり始めた
ある程度浮かぶとそこで停止し両腕をゆっくりと前にかざした
残りの鎌鼬は攻撃をされる前に切りかかろうと思い飛び掛った
レイフェル「ふっ、消え失せろ天の力の前にな!!」
その声と同時に両手から巨大な光が放たれた
その光を浴びた鎌鼬は断末魔を上げる間もなく消滅した
レイフェル「フッフッフッフ、ハッハッハッハ、アッハッハッハ!」
そこに浮かんだままレイフェルは笑みを浮かべ高笑いをした

249暗闇:2005/12/09(金) 19:19:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
レイフェルの高笑いが響いていた時、
界魔「ん?」
足下に変な感触を感じて見下ろしてみると、そこには銀の液体が足にまとわりついていた。
界魔「なんだ、これは…」
輪廻「どうしたの?お兄ちゃ…」
その瞬間だった、突然銀の液体がそこからあふれ出し、その場にいた全員を飲み込んだのだ。
沙耶「なっ!?」
レイフェル「なにご…」
義仲「うおおお!!」
セラ「キャッ!!」
銀の液体に物凄い勢いで押し流される界魔たち…それはやがて廃屋から勢いよくあふれ出した。
叢魔「ん?」
降真「どうしたの?叢魔兄さん」
叢魔「どうやら事態はさらにややこしい方向に向かっているようだ。あれを見ろ」
叢魔に促されて、現在戦闘中の太陽を除く子供達がそれを見やる。
研也「なんだあれ…」
研也が呆然と呟く、その現象…それは何百メートルにも及ぶ銀の噴水が吹き上がっていたのだ。
そして、しばらくすると…その銀の噴水はゆっくりと止んでいき…やがてそれは収まった。

界魔「いったい……なんだった……んだ」
突然の銀の洪水に押し流された界魔は外に放り出されていた。辺りを見まわしてみると、となりには輪廻が後ろにはクラウスが気を失っていた。
二人の無事を確認し、ホッと胸をなで下ろした時、
???「久しいな…異邦の子供よ」
界魔「!」
界魔が視線を前に戻すと、そこには先程の銀の液体が一箇所に集まっていた。
そして、そのスライムは念話で直接界魔の頭の中に声を送ってきた。
界魔「銀のスライム…?」
???「この姿を見るのは初めてか…お前の時間で言って11年前…お前が初めて我を目にした時はこのような姿ではなかったから無理もあるまい…」
界魔「11年前…?」
???「今は思い出さずとも良い…あ奴の血を引いているだけでなく、良き男に拾われたものだ…お前は運の良い子よ…
今の我にあの時程の力はない…今は追われる身のゆえでな、何処かで身を潜めるとしよう」
その銀のスライムはそれだけ言うと近くにあったマンホールに潜っていく。そこに…
沙耶「あら、あなた達生きてたの?」
界魔「なっ!?」
瓦礫の山にはいつの間にか沙耶と義仲の姿があった。
界魔は立ち上がって、構えようとするとそれを沙耶が片手で制した。
沙耶「安心なさい、あなたたちと闘っている場合じゃ無くなったから…」
界魔「何…?」
義仲「その位にしておけ雌狐や、早くせねばアレが逃げるぞい」
沙耶「そうね、急がなくっちゃ。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう」
沙耶と義仲が銀のスライムが逃げ込んで行ったマンホールの中へと姿を消していった。

250暗闇:2005/12/10(土) 18:09:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド=
ロイド「ただいま」
森の中にある小さな家に入ると、ダイクはいつものように作業台に向かっていた。注文を受けた細工ものを作っているのだ。
ダイク「おう」
養父は上目遣いにチラリと息子を見る。ロイドはドキリとした。
ロイド「あ、あのさ、親父。ちょっと聞きたいんだけど。要の紋なしのエクスフィアってのは、いったん装備したらもう手遅れなのか?」
ダイク「なんでぇ、帰ってくるなり藪から棒に」
ダイクは作業の手を休め、椅子から立ちあがって伸びをした。
ダイク「んー、そんなこたねえが……ただ、そんなエクスフィアは、はずすだけでも危険だからな。抑制鉱石でなんかしらのアクセサリーを作ってよ、まじないを刻むことで要の紋にするしかねぇなあ」
ロイド「そうか、それで大丈夫なんだ。じゃあ、腕輪でいいからさ。急いで作ってくれよ」
ダイク「ああ?」
ダイクはギロリとロイドを睨んだ。ドワーフなので小柄ではあるが、濃い髭面の彼の眼光は鋭かった。
ダイク「ちょっと待て。そいつはどこの誰が身につけるんでぇ」
ロイド「えっ、と。旅の人。そう、旅の傭兵」
ロイドは、とっさにクラトスを思い出して、答えた。
ダイク「嘘つけ。エクスフィアってのは、ディザイアンどもしか使ってねえんだよ。奴らから奪ったんだとしたら、要の紋はちゃーんとくっついてるはずでぇ」
まずい、とロイドは思った。
ダイク「ドワーフの誓い11番! 『ウソつきは泥棒の始まり』でぇ。ロイド! 正直に話さねえと……」
ロイド「わ、わかったよ」
ロイドは観念して、牧場で会ったマーブルの話をした。
ダイク「なんだとぉ、牧場に行ったってぇ? あ、あいつらにエクスフィアを見られなかったろうなあ」
ロイド「大丈夫だよ。でも、前から不思議だったんだけど、こんなことまでしてなんで隠すんだよ。きょう村で会った傭兵だって、堂々と装備してたぜ」
ロイドは幼い頃からダイクに命じられて布を巻いている左手を、養父の鼻先に突きつける。
ダイク「このバカ!」
突然、ダイクはロイドの胸倉を掴んだ。
ダイク「よく聞け。お前のエクスフィアは……特別なんだ。実の母親の形見なんだぞ? あの日、牧場近くの崖でお前を拾ったとき……お前の母親が息も絶えだえにいったんでぇ」
ロイド「なっ、なんだよ、それ」
ダイク「ディザイアンにやられたってな。奴らはこれを奪う為に、お前の母親を殺したんだ!」
ロイド「!」
ロイドは驚きのあまり、養父の手を振り払うのも忘れて目を見張った。

251暗闇:2005/12/10(土) 18:28:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ダイク「……隠してたのは悪かった。だが、言えばお前のことだ。ディザイアンに突っ込んでいったろう。そしたらいまごろ命はあるめぇ」
ダイクはようやく息子を離すと、荒げた口調を恥じるように続けた。
ダイク「救いの塔が現れたな……あとはコレット嬢ちゃんに任せるんだ。そうすりゃエクスフィアと共にな」
ロイド「親父」
ダイクは、息子の目をジッと見つめる。
ダイク「おまえ自身を大切にするんだ。母親が命をかけて守った、そのエクスフィアと共にな」
ああ、とロイドは頷きかけ、焦れったそうに聞いた。
ロイド「で、要の紋は作ってくれるのか?」
ダイク「バカっ!」
ダイクの拳がロイドの頭にめり込む。ロイドの体はやすやすと吹っ飛んだ。
ダイク「話を聞いてなかったのか!」
ロイド「いてーなっ。殴ることねえだろ。なんだよっ」
すばやく立ち上がると、彼はふてくされ、玄関のドアから飛び出した。
ロイド「あ……!」
後ろ手でドアを閉めながら、ロイドは薄闇の中に見慣れた顔を見つけて、唇をひくつかせた。
ロイド「コレット……ジーニアス」
ロイドを訊ねてきたらしい。ふたりの後ろには、リフィルとクラトスの姿もある。
ロイド「もしかして、みんなして聞いてたのか?いまの……」
リフィル「ロイド」
それには答えず、リフィルが進み出る。
リフィル「私、世界再生の旅に神子の護衛として一緒に行くことになったの」
ロイド「ああ、知ってるよ、先生」
ロイドは答えながら、クラトスを見た。
が、彼がそっけなく視線をはずしたので、ロイドはムッとなる。
ロイド「コレットと2人でお別れをしたら? 私たちはダイクさんにご挨拶に行ってきます」
ロイド「ああ……」
リフィルの言葉に、ロイドはやっとコレットは明日いなくなってしまうのだと思い出した。
コレット「ロイド、あっちに行こ」
コレットはロイドの腕をとると、庭の片隅に置かれている古いベンチへと引っ張っていった。

252暗闇:2005/12/10(土) 22:31:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
コレット「なつかしいねー、このベンチ。ちっちゃいころ、ここから飛び降りて足くじいちゃったんだよね、私」
ロイド「そうだったな。おまえってチビの頃から……」
コレットは、ふいに口をつぐんだロイドに首を傾げ、
コレット「どうしたの? おなかすいた? これ、ジーニアスに貰った誕生日プレゼントのクッキーだけど、食べる?」
と、レースペーパーの包みを取り出した。
ロイド「あ……ごめん! 俺、首飾り作ってやるっていって、まだ…」
コレット「いいの、そんなのいつでもいいよぉ」
コレットはニコニコしながらベンチに腰を下ろす。
コレット「よかった。今日まで生きてこれて。ロイドがそばにいてくれて」
ロイド「コレット……なんだよ、それ。お前はこの先もずーっと生き抜いて、世界を再生するんだろ?」
コレット「そだね」
コレットはぴったりとつけた両膝の上で、指を組む。
コレット「封印を解放して、天使になって、それから……」
ちいさな唇は動き続けたが、ロイドには聞きとれなかった。
なんとなく聞き返すのもためらわれ、彼は空を見上げる。
昇ったばかりの若い月が、白く霞んでいた。
これまで何度も2人でこの月を眺めたな、とロイドは思う。
ロイド「……なあ。やっぱりついていったらダメかな、再生の旅に」
コレット「ダメっていうか、ディザイアンに狙われたりして危ない旅になるんだよ?」
ロイドはため息をつく。
ロイド「聞いてたろ、さっきの。俺の母さんはディザイアンに殺されたんだ! このままここで暮らすなんて、できないよ」
コレット「ロイド……」
コレットはしばらく考えていたが、
コレット「そだね。わかった。私たち、明日のお昼に旅立つの。だからそのころ村に来てくれる?」
ロイド「ほんとか? もちろん行くさ!」
ロイドの顔がパッと輝いた。
ロイド「これで、お前が天使になるのを見届けられるんだな」
コレット「うん……」
そのとき、ドアが開き、リフィルたちが出てくるのが見えた。
リフィル「そろそろよろしい?」
コレット「あ、はい、先生。いま行きます」
コレットはあわてて立ち上がると、ロイドに向き直った。
コレット「じゃあね、ロイド」
ロイド「明日な」
コレット「うん。さよなら」
コレットの白い顔が微笑み、すっかり暗くなったあたりの空気にとけ込んでゆく。
ロイド「さあて、と。首飾りは明日渡すか。今夜のうちに作っちまおう」
世界再生の旅に同行できるという思いが、ロイドをわくわくさせていた。
彼はダイクに殴られたのも忘れて、弾む足どりで家に戻った。

253藍三郎:2005/12/11(日) 10:10:15 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
=森林地帯=

クルツ「痛ててて・・・俺はけが人だぜ?もっとていねいに歩いてくれよ」
 宗介とかなめに支えられながら、クルツは苦しそうに呟いた。
クルツ「しっかし・・・今思い返してもまるでわけがわからねぇ・・・
    一体何であんなことになっちまったのか・・・」
 クルツは、つい先ほど、自身の機体が撃破された事を思い出していた。
宗介「あの銀色のASのことか」
クルツ「ああ。こっちは至近距離に誘い込んで、57ミリをぶち込んでやったんだ。
    ところが、仕留めたと思ったら、次の瞬間にはこっちがバラバラになっていた」
宗介「指向性の散弾地雷でも使われたのか?」
クルツ「いや、そういうモンとも思えねぇ。
    見えないハンマーで、ぶん殴られたみたいな感じだった・・・っ・・・うっ・・・」
宗介「もういい、しゃべるな」

 やがて彼ら3人は、森林地帯を抜け平野の広がる場所へとたどりついた。
 それを見て、かなめは目を細める。
かなめ「あんな見晴らしのいいとこ、ノコノコ歩いていったら・・・」
宗介「ああ、敵に発見される可能性が高いな」
 宗介はクルツの体を地面に横たえた。
 応急処置に使ったモルヒネが効いてきたのか、やがて寝息を立て始めた。

宗介(さて・・・どうするか・・・)
 海岸まであと二十キロ少しだが、
 敵の警戒をすり抜け、あの平野を進むのは不可能に思えた。
 まして、手負いの兵2人と民間人の少女1人では・・・
 宗介はしばし考えた後、一つの結論を出した。
宗介「千鳥、よく聞いてくれ」
かなめ「なに?」
宗介「これから俺たち3人が海岸までたどり着ける可能性は限りなくゼロに近い。 
   だから、こうしようと思う。
   俺とクルツがこの場に残り、派手に暴れて敵の注意を引く。
   可能な限り時間を稼ぐつもりだ。その間に君は一人で西に走れ」
かなめ「何ですって・・・!」
宗介「この通信機を持って海岸まで走るんだ。
もし味方が迎えに来ていれば、そのチャンネルに呼びかけてくれるはずだ」
 彼女が無事海岸までたどり着けるか、
 味方が救援に来てくれるかどうかは賭けだった。
 だが、このまま手をこまねいているよりは・・・
かなめ「だって、そしたら相良くんたちは・・・」
宗介「気にする必要は無い。俺たちの仕事は君を守ることだ。
それに三人そろって捕まるより、一人でも生き延びたほうがましだ」
かなめ「そんな・・・私だけ・・・」
 自分はいい。自分の人生は、こんな結末だろうと前から予想していた。
 クルツも同じであろう。だが、彼女は・・・
宗介「君には生き延びる資格がある。いくんだ」
 とにかく今は、彼女を無事元の生活に帰してやりたい。
 任務や作戦といった名目ではなく、宗介は純粋にそう思った。

254飛燕:2005/12/14(水) 23:22:20 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.41]
不可思議な銀色のスライム状の”それ”を沙耶達が追いかけようとする少し前まで時間は遡る・・・

=廃屋街・中心地=

太陽「これでぇ・・・・最後でぇぃッ!」
弾丸の如く疾駆する韋駄天小僧・・・もとい、韋駄天少年のキレのある蹴りが聳え立つバグシーンのこめかみにクリーンヒットした頃でもあった。
慣性の法則に従い、超絶的な蹴りは最後に立っていたバグシーンの意識を確実に仕留めきったらしく、瓦礫の山に頭から突っ込んだにも関わらず、ピクリとも動こうとはしなかった。
太陽「へっ!楽勝、楽勝ぉ〜♪」
肩を回し、余裕綽々な顔付きで太陽は一同の元へと戻っていた。何時の間にだろうか。一同は、既に階下を降りており、太陽の戦神の如き戦を賞賛していた。
研也「流石は切り込み隊長vやっぱり、速いなぁ〜・・」
太陽「へっwそうだろそうだろ?」
八雲「うん・・・・やっぱり、馬力が違うね?」
太陽「人間に馬力っちゅう言葉は使わねぇんだけど・・・・まぁ、許してやるよw俺は心が広いからなv」
叢魔「4分27秒、か・・・正体不明の相手とはいえ、随分と手抜きが多い戦いじゃないのか?時間がかかり過ぎだな。何時もの貴様なら2分半程度で片はつくんじゃないのか?」
太陽「どこぞの馬ぁ鹿のせいでストレス指数が溜まってよぉ?実力がてんで出せなかったんだけど、どうしてくれるのかねぇ?」
叢魔「そんな事を言うのなら、前言撤回しろ。心の広い人間が、人の傷口を穿り返すような発言をするとはとても思えないのだが?」
何時の間にか、反省会どころか第2ラウンドが開始しかねない空気になりかけているのを一同が感じた時、年少組の中では一際目立つ陽気な声が陰険な空気を吹き飛ばした。
ラグナ「HEI!ピープル、喧嘩は良くないぜ?」
声の主はセラと一旦別れ、ピープルの救出に来たラグナである。尤も、暴風のように荒れ狂う韋駄天少年の戦いっぷりに見入り、現実に戻ってくるのに少々の時間を費やしたりしたのは別の話しである。
満天「そそv『Let`s Positive Thinking♪』何事も前向きに考えやしょってねw」
ラグナ「おっ!気が合うな、少年!」
波長が合ったのかどうかは分からないが、どうもこの少年の明るさにラグナは共感したらしい。豪快に笑いあう2人に毒気を抜かれたらしく、太陽はシーソーと共に溜息を、叢魔は肩を竦めて「やれやれ」とだけ呟いた。
天美「あ、そ、そういえば・・・・遅れてしまいましたが、助けていただいて、本当に有難う御座いました」
ほのぼのとした空気に危うく、自分達を援護、そして参戦してくれた戦士に礼を言い損なうところだった。この辺りは、やはり両親の教育が行き届いている証拠だろう。
普段からぐだぐだしているような両親だが、ことさら礼儀に関しては口を酸っぱくしてでも言うような親だったし、何より天美自身が礼節を重んじる性格だったのが幸いした。
天美の態度に気を良くしたのか、満足そうな表情を浮かべながらラグナは頷いた。
ラグナ「いやいや、ピープルを護るのは俺達の使命だからなw気にしないでくれよ、お嬢ちゃん!」
機嫌良さげに笑っているが、そこでとある単語を耳にして叢魔はラグナの言葉を聞き咎めた。
叢魔「ちょっと待ってもらえるか?・・・・今、”俺達”って言わなかったか?という事は・・・他にも仲間がここに居るという事か?」
ラグナ「うん?ああ・・・そういや、セラに調査を任せたままだったな。よし、お前ら、ついてきてくれないか?・・・・どのみち、ここで長話するというのも辛気臭ぇしな?」
情報を得るにしても、瓦礫と廃屋以外にこれ以上のものは期待出来そうもない場所に居たって現状が良くなるとは考え難い。なら、そのセラという人物と合流し、情報を得る方が良いに決まっている。クラウスと、追いかけて行った界魔達の事が、脳裏を掠めたが杞憂に終わると叢魔は確信した。
この廃屋だらけの街並みで人の気配がそんなに無い。気配を辿っていく事など朝飯前の、天上家の長男の顔が直ぐに頭に思い浮かんだからである。

255暗闇:2005/12/15(木) 17:34:10 HOST:kvc.iuk.ac.jp
そして、渋谷でも……
ゴゴゴゴゴ
零児「ん?」
キャミー「!」
突然の地響きに戦いを繰り広げていた零児たちとキャミーらが戦闘を中断した。
小牟「今度はなんじゃ!?」
ドリス「あ、あれ…」
ドリスが指差す方向には突然、空間に裂け目が発生している。
その時、空間から閃光が迸った。あまりの光に一同の視界がになるやがて、閃光が収まるとそこには銀のスライムの姿が…
オズー「あれは……?」
零児「スライム…あれが空間を突き破ってきたというのか?」
???「残された力で空間転移し、女狐と亡者を振り切ってみればここにも彼奴らの協力者がいたか……
しかし、先程とは違いこれらはどうにでもなるか」
ドリス「喋った!?」
零児「いや、少し違う…頭の中に直接声を送り込んできている…念話<テレパシー>と言ったところだろう。
しかし、スライムは本来低級の魔物のはず…念話はもちろんましてや空間転移のような芸当は本来はできないはず、こいつはいったい…」
零児たちがそのスライムを凝視している中、キャミーたちが動いた。
キャミー「最優先目標出現……捕獲対象機械生命体……コードネームGT」
ユーリ「成功確立演算中・・・・確率、現状では0%と判定」
ユーニ「先程までの戦闘で消耗しきっている現在の状態ではアレを捕らえるのは不可能……このまま、撤退を推挙する」
キャミー「そうだな…これは予定外だったか……」
キャミーたちはつい先程まで春麗と零児たちと戦闘を繰り広げていたために、体中のいたるところにダメージを負っていた。
それは零児たちも同様で、雑魚的ならまだしも空間を自らの力で突き破ってきたアレほどのものを相手にする余力はない。
キャミー「撤退する」
ユーリ&ユーニ「了解」
キャミーたちが零児やそのスライムとは別方向に走り出し、その場を去っていく。
春麗「待ちなさい!」
春麗が慌てて追おうとしたその矢先、
春麗「!!」
突然、銀のスライムが銀の高波とかして迫ってきたのだ…それは高さ30数mにまで及んでおり、人間など軽く飲み込んでしまうだろう。
零児「建物の影に隠れろ!」
零児に促され、一同はそれぞれお自分の位置から一番近い建物の影に隠れて銀の高波をやり過ごす。
やがて、銀の高波がそれらの後方に去ると、その波は収縮し5、6mくらいのスライム状になると、近くの排水溝に流れ込んでいった。
小牟「なんだったじゃアレは…」
零児「さあな…しかし、どちらにも逃げられたようだ」

256暗闇:2005/12/18(日) 13:34:48 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冷たく、重く流れる沈黙。そして―――
かなめ「いやよ!」
宗介「!・・・千鳥!」
かなめ「イヤだって言ったの!相良くん、やっぱりあんたバカよ!
あんたひょっとして自分がいつ死んだって構わないとかそんなナメたこと考えてんじゃないでしょうね?」
宗介「・・・・」
かなめ「そういうのカッコいいと思っているわけ?こっちの気持ちなんて考えずに勝手に自己満足でおっちんで!
アタシはねあんたみたいな軍事オタクのネクラバカに命、助けられたってちぃ〜〜とも嬉しかないわよ!
えぇ!わかってんの!?」
凄まじい勢いでたてしまくるかなめに宗介は呆然としてしまった。
かなめ「・・・まだわかってないようね?そうするになんでみんなで助かる方法を考えないのって言ってるのよ!
簡単にギブアップするんじゃないわよ!」
宗介「ないんだ。他に手はない」
かなめ「考えればいいじゃないの!例えばこのあたりに火をつけて山火事起こして
そのドサクサで逃げるとか・・・とにかく、なにかあるわよ」
宗介「千鳥、聞け。俺は専門家だ。様々な状況を想定し、その中で最善と思われる策を選んだ」
かなめ「何べん言わせるの!あたしはいやだって言ってんのよ!!」
宗介「駄目だ!行け!一人で逃げるんだ!!」
かなめ「!!!」
叫んだ宗介はかなめの顔に銃口を真っ直ぐ向けていた。

257暗闇:2005/12/18(日) 13:35:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
かなめ「いかないと、撃つの?」
彼女はなぜか、哀れむように言った。
宗介「……そうだ。敵に捕まって廃人にされるより、ここで死んだ方がマシだろう」
かなめ「そんな。苦しい理屈」
かなめは微笑んで、宗介に一歩、近付いた。
なぜ脅えない?宗介はひどく焦った。そして漠然と、もはや彼女を従わせる手段がないことを感じ取り、絶望的な気分になった。
かなめ「どうして怖がらないんだろう、って思ってるんでしょ?」
宗介「うっ……」
かなめ「理由は簡単だよ」
彼女は優しく言うと、銃を押しのけ、ゆっくりと、宗介を抱きしめた。固くも強くもない、やわらかな抱擁。両腕を背中に回し、血の滲む肩に頬を寄せる。
かなめ「あたしはね、もう、貴方を信じたの。さっき、あなたが望んだ通りに……」
胸から彼女の体温が伝わってくる。怪我の痛みなど吹き飛んで、頭の中が真っ白になった。全身の血が逆流し、体中の筋肉がひきつった。手にした銃を取り落としたことさえ、彼は気付かなかった。
かなめ「だから……だからこそ、あたしがあなたを見捨てるのは嫌なの」
彼女の濡れた前髪が、宗介の鼻先をくすぐった。
宗介「千鳥……」
かなめ「あたしね……確かに、さっきまで相良くんのことが怖かった。ただのクラスメートが、別の誰かに変わっちゃったみたいに思えて。すごく強くて、あんな風に……」
彼女はしばらく口籠もったが、迷いを打ち払うように、
かなめ「でも……あなた、「信じてくれ」って言ったでしょう?だから自分に言い聞かせたの。彼は一生懸命なんだ、あたしを助けようとしてくれてるんだ、って。だから恐れずに、彼を信じよう……って。立派だと思わない?」
宗介「……思う。立派だ」
かなめ「でしょう?ただの高校生が、ここまで譲歩してあげてるんだよ?だから、あなたももう少し頑張って。『自分は死んでもかまわない』なんて、そんな寂しいこと、考えないで。一緒に帰ろうよ……」
一緒に帰る。彼女と。
それはとても魅力的に聞こえた。そんな方法があるのなら、ぜひとも試してみたい、と思った。朝の光の中で、彼女を助けるのか。だれのために助けようとしているのか。
それがはっきりとわかった。
俺自身のためだ。俺は彼女と一緒に帰りたい。この子とずっと……
もっと生きたい。
自分がこれほど強く、なにかを望んだことがなかったのに気付いた。そして、傷つき疲れきった身体の奥から、新しい圧倒的な力が湧きあがるのを感じた。
宗介「千鳥……」
かなめ「相良くん……」
2人がぎこちなく見つめあったところで……
クルツ「……あー。ん。ごほん」
そばに横たわっていたクルツが、申し訳なさそうに咳払いをした。宗介とかなめはハッとして、飛びすさるように互いから離れた。

258暗闇:2005/12/18(日) 13:37:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介「お……起きていたのか?」
クルツ「そりゃ、起きるだろーが……。あんな大声で言い合いしてたら」
かなめ「ひどい。なんで黙ってたのよ!?」
クルツ「そりゃ、黙ってるしかないだろーが……」
クルツはこめかみのあたりをポリポリと掻いた。それから意地の悪い顔で、
クルツ「いや。でも、もうすこし黙ってた方が良かったかな?悪いことをしちまったな。しっかし、まあ……君らがねえ……。へえー」
かなめは耳まで真っ赤になって、
かなめ「ち、違うわよ!?ちょっと雰囲気に流されてただけで、あたしは別に、彼となにかする気とか、そーいう気持ちは全然なくって、その……本当よ!?」
宗介(そ、そういうものなのか……?)
彼女が躍起になって否定するのを見て、宗介は内心で愕然とした。一方、クルツはこらえきれなくなった様子で、くぐもった笑いを洩らし、
クルツ「くっくっく。って、痛え。お前の負けだよ、宗介。とにかく彼女が『嫌だ』って言ってるんだ。お前のプランは却下だね。むしろ、かなめちゃんの言ってた作戦の方がいいかもしれないぜ」
宗介「何?」
クルツ「山火事とかさ。いい考えだ。このままくたばるよりかは、ずっとマシだな。まあ、この雨じゃあ、放火なんて無理だが。ガソリンでも調達するか?いや、それでもボヤで終わりだな」
宗介「そうだ。敵にこちらの位置を知らせるだけだ」
かなめ「わかんないわよ。味方の飛行機がこの辺を飛んでて、空から見つけてくれるかも」
宗介「ここは敵の制空圏だ。味方が飛んでいるわけがない」
かなめ「……じゃあ、もっと上は?スパイ衛星とかあるでしょ?」
宗介はミスリルの偵察衛星『スティング』の存在を、部外者に話してもいいものかどうか迷った。だがすぐに思い直して、
宗介「ある。しかし、都合よくここの上を飛んでいるわけがない。偵察衛星の軌道は機密事項だ。俺達のような下士官には知らされていない」
クルツ「……いや」
クルツがポツリと呟いた。
クルツ「俺は出撃前、ブリーフィングで衛星写真を見させられた。昨日の一五三〇時の、あの基地の映像だ。……いま時間は?」
宗介はなにかに打たれたようになって、腕時計を見た。
宗介「〇二八四時。あと少しで半日が経つ。……ということは」
通常、偵察衛星は90分で地球を一周する。地球の自転から計算すると、偵察衛星が同じ場所の上空にやってくるのは、約12時間おきだ。昨日の一五三〇時この地域の上空を通ったのならば……
『スティング』が、もうすぐ上空を通過する。
ほぼ正確な時間がわかっているだから、地上から火文字で存在を知らせれば……?
宗介とクルツは顔を見合わせた。『熱源の目印』と『偵察衛星』。この2つのキーワード、生死を分けるほどの重要なヒントが、はからずも素人の彼女の口から出てきたのだ。
かなめ「どうしたの?」
宗介「こんな盲点があったとは……」
クルツ「かなめちゃん、君って最高だ……!」
かなめ「な、なによ、いきなり」
宗介「ともかく実行してくる。ここにいてくれ」
かなめ「……わかった。……無茶は……いや、どうせだから無茶してこい」
宗介「そうだな」
かなめ「一人で行くの?怪我は?」
宗介「忍び歩く程度なら問題ない。それに……力も湧いてきたのでな」
それだけ言って宗介は闇の中に消えた。

259暗闇:2005/12/18(日) 16:01:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介が山を下りると、集団農場が見えた。
彼はそこに忍び込み、古ぼけたトラクターからエンジンオイルを抜き取った。
オイルの詰まったポリタンクを抱え、農場の休耕地へと走る。脇腹の傷が痛んだが、我慢できないほどではなかった。
荒れた農地に、オイルをドボドボと振りまいていく。時計を見ると〇三二八時だった。
宗介(よし……)
ポケットからサバイバル・キットを取り出し、消毒用に使う過マンガン酸の錠剤を砕く。それをオイルの上にばらまき、ジッポーライターで火を点けた。
やがてオイルが引火して、ゆっくりと炎が広がっていった。
偵察衛星<スティング>の解像度は非常に高い。晴れた日の昼間ならば、新聞の見出し文字さえ楽に読める。しかし、こんな霧雨の夜では、敵の兵士と彼らとを識別するのは困難だ。だから彼は火文字を作った。
だが、すでにワールドエデンらが撤退しているのだが…基地から離れていた宗介達はそんなこと知る由もない。
『A67ALIVE』
『A』はかなめの暗号名『天使』<エンジェル>を表す。『6』はクルツの『ウルズ6』、『7』は宗介の『ウルズ7』。
千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー、相良宗介の3名は健在なり。
宗介は足跡に用心しながら、かなめとクルツの場所に引き返した。
かなめたちの待っている位置を知らせる必要はない。<スティング>があの火文字を捉えることができれば、あとは火を点けた宗介自身のシルエットを、宇宙から追跡していくだけでいいはずだった。
オイルの火は、数分もしないうちに消えてしまうだろう。それに敵が気付くか、味方が気付くかはわからない。これはあくまで、賭けなのだ。

260暗闇:2005/12/18(日) 16:04:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
(No259に間違いがあったので修正しておきます)
宗介が山を下りると、集団農場が見えた。
彼はそこに忍び込み、古ぼけたトラクターからエンジンオイルを抜き取った。
オイルの詰まったポリタンクを抱え、農場の休耕地へと走る。脇腹の傷が痛んだが、我慢できないほどではなかった。
荒れた農地に、オイルをドボドボと振りまいていく。時計を見ると〇三二八時だった。
宗介(よし……)
ポケットからサバイバル・キットを取り出し、消毒用に使う過マンガン酸の錠剤を砕く。それをオイルの上にばらまき、ジッポーライターで火を点けた。
やがてオイルが引火して、ゆっくりと炎が広がっていった。
偵察衛星<スティング>の解像度は非常に高い。晴れた日の昼間ならば、新聞の見出し文字さえ楽に読める。しかし、こんな霧雨の夜では、敵の兵士と彼らとを識別するのは困難だ。だから彼は火文字を作った。
『A67ALIVE』
『A』はかなめの暗号名『天使』<エンジェル>を表す。『6』はクルツの『ウルズ6』、『7』は宗介の『ウルズ7』。
千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー、相良宗介の3名は健在なり。
宗介は足跡に用心しながら、かなめとクルツの場所に引き返した。
かなめたちの待っている位置を知らせる必要はない。<スティング>があの火文字を捉えることができれば、あとは火を点けた宗介自身のシルエットを、宇宙から追跡していくだけでいいはずだった。
オイルの火は、数分もしないうちに消えてしまうだろう。それに敵が気付くか、味方が気付くかはわからない。これはあくまで、賭けなのだ。

261暗闇:2005/12/18(日) 16:25:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、その宇宙では…宗介たちの知られざる闘いが起こっていたのであった。
宇宙空間を包む激しい閃光と、同時に起こる衝撃波。その閃光の中から、一体のロボットが飛び出し来た。
それは、機械仕掛けの神、魔導書によって呼び出される『鬼械神<デウス・マキナ>』と呼ばれるものだ。
名をアイオーンというその機体は、背中の翼をはためかせ、虚空を睨みつけた。
そして、右手に魔力を集中し、魔力を顕在<マテリアライズ>化し、銃を生み出して、虚空に向かって一発撃った。
再び、閃光が宇宙<そら>を灼く。
そして、それはその閃光の中に浮かび上がった。
黒い、鋼を纏う恐るべき悪魔の姿が…
???A「諦めよ……いかに最強を誇る貴公とて、術者無しでこのリベル・レギスにかなう道理はあるまい」
そう…その機体の名はリベル・レギス。『法の書』の名を冠する鬼械神。ブラックロッジの大導師<グランドマスター>、マスターテリオンの乗機である。
アイオーンはそれにも関わらず、銃をフルオートで発射した。だが、リベル・レギスの防御結界によって全て阻まれる。
マスターテリオン「無駄な事を…『ン・カイの闇』よ……」
リベル・レギスの腕部の装甲の一部が展開し、無数の重力弾を形成する。
その全てが、高速でアイオーンに飛来する。
翼をはためかせ、ン・カイの闇を避け続けるアイオーン。避けきれないものが迫ってきたので、咄嗟に持っていた銃を投げつけて身代わりにする。
その後も、何とか防御結界を張ってン・カイの闇を防ぐが、一発が片足をもぎ取り、もう一発が胸部に命中し、装甲を抉り取られた。
最早限界を感じたのか、アイオーンはリベル・レギスに捨て身の特攻を掛け、共に大気圏へと落ちて行った。
マスターテリオン「クッ!!貴公、世を道連れにする気か!!往生際が悪いぞ!!」
リベル・レギスは容赦なくアイオーンの頭を鷲掴みにすると、ン・カイの闇を放ってアイオーンを引き剥がした。
マスターテリオン「堕ちろ」
そのまま落ち行くアイオーンに止めのン・カイの闇を放つ。そこでアイオーンの反応は消失した。
???B「……追わないのですか?マスター」
マスターテリオン「構わん。どの道彼奴は、間違いなくあの街に落ちる」
前の席に座る黒いドレスを身に纏った、12,3歳ほどの少女にそう答えると、彼はゆっくりとリベル・レギスの高度を落とし、そのコックピット内から眼下の街を見下ろす。そこにあるのは、現在、大黄金時代にして大暗黒時代にして大混乱時代の世界の中心と呼ぶべき大都市。アーカムシティであった。
マスターテリオン(さぁ、今回はもっと楽しませてもらうぞ。死霊秘宝<ネクロノミコン>よ……そして……)
リベル・レギスのコックピットの中で陰鬱な笑みを浮かべ、アーカムシティを見下ろすマスターテリオン。
その姿は、その名が示す通り、『聖書の獣』または『大いなる獣』そのまたは『七頭十角の獣』…今の彼は正にそのものであった。

262暗闇:2005/12/18(日) 17:21:25 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
どんなに街の灯りが夜を照らしても、どんなに科学が迷信の闇を暴いても、人が神様を捨てることなんて出来やしない。
なぜかって?科学の光ってのは人の心の空洞を暴いてしまうからだ。
空っぽでスカスカな自分を何とか埋め合わそうと、人は宗教をその空洞に詰め込もうとする。何とも調子のいい話だ。
人は神様を潔癖をうとんじて、それから逃れようとしてこの傲慢の塊のような街を築いたけれど、それでもやっぱり駄目だったから、また神様にすがる。
尽きせぬ神への愛につけ込んで、だ。
俺こと大十字九朗とて人の事が言えた義理じゃない。
いや、むしろその典型だ。不敬で不遜で自堕落で……それでも困ったときはここぞとばかりに神にすがる。
祈りの言葉も聖書の一説も覚えちゃいないってのにホント調子がいい。
だけどそんな不様をさらしたって俺にはもう神様ぐらいしか頼るものはないんだ。
それほどまで俺の空洞は致命的に俺を侵しつつある。
虚ろだ。空っぽだ。がらんどうだ。
それほどまでに切実で、そして確実に直面している危機なのだ。
―――ぶっちゃけた話、ここ一週間ばかし何も喰っちゃいねぇ。
ここ一週間で口にしたのは塩と水だけだ。ちなみにその前日はパンの耳だけだったりするが。
まだしも路地裏の野良犬の方がよっぽど上等な食生活をしているのに相違あるまい。
―――そして塩の備蓄も昨日尽きた。
限りなく100に近付いていたエンゲル係数は今日に至って0に大暴落。計算式の裏を書く、前代未聞の経済大恐慌だ。
無論、俺とてただ手をこまねいて死を待っているワケではない。
この教会に来たのだって、恥を忍んで飯をたかろうという非常に前向きな人生プランに基づいたがゆえだ。
唯一の誤算は―――そのたかる相手が留守だったってことだけだ。
九朗(ははっ……死ぬしかないなぁ。)
倒れた俺の周りに、白い鳩がやたらと集まってきているのは、俺の屍を啄(ついば)み貪り尽くそうという、そんな『ニーチェが超人思想を語った著書に出てくる某人物が広めた某教え』の埋葬法的魂胆ゆえか?
ああ……どーでも良いや。俺はもう疲れたよ……
そしてなんだかとっても眠たいがゆえにルーベンスの『キリスト降架』『キリスト昇架』の絵の下、鏖殺(おうさつ)の雄叫びをあげるブービエ・デ・フランダースの犬そりに乗せられ、我が魂はヴァルハラへと導かれる。
……まずい。ついに幻覚まで見え始めてきた、そんな絶望的で麗らかな昼下がりの午後。
エンディングテーマまで流れ始めました。このまま俺の人生はスタッフロールに突入。
そして閉幕と共に観客総立ち、大喝采。世界中で感動の嵐。興行成績連続一位。
「そのとき、世界中が泣いた!」
「我々は歴史的瞬間に立ち会おうとしている」
「騙されたと思ってみて見なさい!」
「ママ、切り刻むほどに愛してる」

263暗闇:2005/12/18(日) 17:37:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ・教会=
ジョージ「あー、九朗が倒れてるぞ」
コリン「わ〜い、行き倒れ〜〜」
アリスン「(おろおろおろ)」
真剣に死に掛けている九朗の下に、この教会で引き取られている孤児の三人が寄って来た。
ジョージ「お〜い、九郎ー。生きてるかー?つんつん」
コリン「あはははははっ」
アリスン「(おろおろ)」
九郎「……」
ジョージ「ラクガキしちゃえー!」
アリスン「(おろおろおろ)」
九郎「………」
コリン「九朗、ミミズだよ〜、トカゲだよ〜、クモだよ〜、ヘビだよ〜」
アリスン「(おろおろおろおろおろ)」
悪戯盛りであるジョージとコリンは死体と化しつつある九朗に際限りなく悪戯を敢行。一方で気の弱い女の子であるアリスンはただおろおろしているだけであった。
九朗「だぁぁぁぁ!!クソガキどもが!!」
ジョージ「わ〜!行き倒れが甦った〜」
コリン「ゾンビ〜ゾンビ〜〜!!」
アリスン「………っ!!」
九郎「世界中では今日もどれだけの人間が飢えで苦しんでいるかを考えた事があるか、この冷血感どもっ!!」
全員そこに直れぃ!今日こそは、地球を救う愛の偉大さ加減を直接身体に叩きこんでやる!!」
ジョージ「わーい、九郎が怒ったぞーっ」
コリン「逃げろー逃げろー」
アリスン「………っ」
蜘蛛の子散らして逃げる子供達と九朗(本気)の追いかけっこが始まった。
とそこに、丁度この教会のシスターであり子供達の保護者であるライカが帰宅した。
ライカ「あらあらあら……哀れなる子羊たる九朗ちゃんが、子供達に毒牙を伸ばしてるぅ〜!!九朗ちゃぁぁん!早まっちゃ駄目〜!神様は哀しんでおられますよー!!」
コリン「あははははっ、殺される〜、助けて〜」
九朗「シスターか、このガキどもを無事に返して欲しくば、飯を用意しろ!今すぐだっ!つーか、急がないと俺が死ぬから!ああー!チクショウ!動き回ったから、尚の事意識が朦朧として来やがった!死ぬのか!?ここでスッタッフロールか!?」
ライカ「ああ、九朗ちゃんったらすっかり向こう岸に渡り掛けて…こらー、九朗ちゃぁぁん、帰って来ぉぉ〜〜い!お〜い!」

264暗闇:2005/12/18(日) 18:21:32 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後…
=大十字九郎 探偵事務所=
九郎「ふぅ・・・」
あの後、結局、ライカの厚意により夕食をごちそうになった九郎。
事務所とは名ばかりのボロアパートに戻り、ソファーに寝転がり、毛布にくるまる。
横を見やれば、窓から街が見て下ろせた。
夜空を貫くようにそびえる摩天楼。
眠ることを知らない街。
アーカムシティ。
魔術理論の最先端にして、人類の繁栄の最頂点。
―――魔術。
物理法則すら捻じ曲げ、意図的に奇跡を実現させるシステムを人類は手に入れた。
さらにこの街ではその神秘を科学的に解明、応用する段階にまで達している。
情報単位『字祷子』<アザトース>によってエネルギーを生み出す魔力炉。結界内部の物理法則を改変することによって行われる環境コントロール。心霊医療。そして魔術兵器としての軍事利用―――
科学の進歩と錬金術の復古は人々の生活を格段に向上させた。様々な分野でそれはビジネスチャンスを生み、経済は未だかつてないほど潤っている。
繁栄は多種多様の人種を呼び、集まった人々がまた新たな流れを作り出す。一夜にして巨万の富を掴む者もいれば、一夜にして全てを失う者もいる。
良きにしろ悪しきにしろ、この街は活気に満ちている。満ち満ちている。有り余っている。
アーカムシティは今、間違いなく世界の中心だ。
だがこの街で発展しているそれらの技術は全て外に持ち出すことは法的にも厳しく禁じられており、街を出る時には必ずそれを防ぐ為の監視を初めとするあらゆる処置が行われる、さらに治安も悪化の一途を辿っている。

265暗闇:2005/12/18(日) 18:31:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
光と影がそうであるように繁栄と腐敗もまた表裏一体だ。浮浪者は増えスラムは広がり、暴力と新興宗教が道徳を追いやり幅を利かせている。
そして更に最悪なことに
―――この街には『悪の秘密結社』まで存在する。
魔術師を首領に揚げる彼らは実戦こそを魔術の本質と説き、その欲望の赴くまま犯罪に手を染めていく。
この街の凶悪犯罪のほとんどが、何らかの形で彼らに繋がっていると考えて間違いない。
何にせよ、この街は激動しているのだ。
大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。
それがこのアーカムシティだ。
富豪も貧民も賢者も愚者も聖人も悪人も分け隔てなく受け入れ、生かし殺す。
そんな街だからこそ九郎も生きることが出来る。
だけれども…
九郎「……足りない」
足りない。
そう、何かが致命的なまでに足りない。
虚しい。
その理由が分からないままに、そしてその理由を考える暇もないままに、今日は過ぎ去り明日が来る。
九郎「それも……仕方ないか」
虚ろ。
空っぽ。
がらんどう――
独り呟き、九郎はまぶたを閉じた。
その翌日に…彼が目を覚ますその時に…彼の運命が大きく変動することを知らずに…

266藍三郎:2005/12/18(日) 20:18:06 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
=森林地帯=

かなめ「どう?うまくいきそう?」
 戻ってきた宗介にかなめは声をかける。
宗介「わからん。もともと分の悪い賭けだ。
   君一人で逃げた方が、まだ見込みはあっただろう」
かなめ「もう手遅れよ。考え直す気もないから」
宗介「それはよくわかった。もう君に命令はしない」
かなめ「ありがと」
 かなめの言うとおり、もはや別の選択を選ぶ余裕はない。
 やるべきことはやった。あとは作戦の成功を信じるだけだ。
かなめ「ねぇ・・・もし無事に帰れたら、相良くんはどうなるの?」
宗介「次の任務に就くだけだ」
かなめ「どこか別のとこにいっちゃうわけ?学校にはもう来ないの?」
宗介「そうなるだろうな。あの学校の生徒という立場は、あくまで仮のものだ。
   別の任務では邪魔になる。俺はただ、君たちの場所から消え去るだけだ」
かなめ「そう・・・」
 かなめが寂しげに漏らした、その時だった。
宗介「・・・・・・!」
 複数の足音が、彼の耳に入った。位置はここからかなり近い。
かなめ「どうし・・・」
宗介「静かに」
 宗介は、銃を手に取ると、音を立てぬよう立ち上がり、
木々の隙間を通して遠くの様子を伺う。
 悪い予感が当たった。
4,5体のアーナロイドが隊列を組み、こちらに向かってくるのが見えたのだ。
クルツ(つけられたな、このバカ!)
 いつの間にか隣に来ていたクルツが、小声で罵る。
宗介(時間の問題だった。仕方がない)
 そう返しつつ、銃の標準を定め、ドロイド部隊に向けて発砲する。
アーナロイド「ウィー!?」
 頭部に銃弾を食らったアーナロイドは、断末魔の機械音と共にその場に倒れ伏す。
 しかし、これで安心はできなかった。さらに多くの足音が、あたり一面から聞こえてくる。
 次から次へと、増援が駆けつけてくるのだろう。
宗介(あと十発・・・)
 残った弾数を確認する宗介。
たったこれだけの銃弾では、敵の大部隊を相手にたちまち尽きてしまうのは明白だった。
クルツ「いよいよかい・・・くはは・・・」
 絶望的な状況に、とうとうクルツは笑い出した。
かなめ「やっぱり、駄目だったみたいね・・・」
宗介「そのようだな。すまない・・・」
かなめ「でもあたし、後悔してないよ。相良くんと会えて、よかった」
宗介「・・・ああ」
 暗い声で答える宗介。

267藍三郎:2005/12/18(日) 20:20:30 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
 その直後、目の前の森をかき分けて、無数のドロイド部隊が姿を現す。
 数は優に10を越えていた。
バーツロイド「○×▼♪△■×?$」
 先頭にいたアーナロイドの上位型ドロイド『バーツロイド』は、
 意味不明な擬音を上げると、手に装着されたレーザー銃を3人に向ける。
 その時・・・

「まぁてぇぇぇぇっ!!!」
 この暗い森に似合わぬ、空を切り裂くような雄叫びが、周囲に轟いた。
 次の瞬間、いくつもの銃弾の雨がドロイド部隊を見舞う。
バーツロイド「●▽×&%◇$??」
 突然の襲撃者に、バーツロイドは手のレーザー銃を向ける。
 だが、その銃口から光線が吐き出されることはなかった。
 森を縫って飛んできた閃光が、バーツロイドの頭部を先に撃ちぬいたからだ。

 赤と青の影が姿を現す。一人は2丁拳銃を、もう一人はスナイパーライフルを携え、
 瞬く間にドロイドを蹴散らしていく。
 そして、わずか数秒の後・・・全てのドロイドは機能を停止し、地面に倒れていた。

かなめ「・・・・・・」
 眼前で起こった出来事に、かなめは呆気にとられていた。
 だが、自分たちを救ってくれた者たちの姿には見覚えがあった。
デカレッド「ふぅ〜〜・・・なぁんとかギリギリ間に合ったみてーだな!相棒!」
デカブルー「相棒って言うな!全く・・・」
 銃を腰にしまう2人に、かなめは驚きの混じった声をあげる。
かなめ「あ、あなた達、デ、デカレンジャー!?」
 目の前の2人は、日ごろ新聞やテレビで取りざたされている地球のヒーロー、
 デカレンジャーに間違いなかった。
バン「その通り♪俺は宇宙警察地球署刑事、デカレッドこと赤座伴番だ!
   君たちを、ここから助けに来たぜ!」
 変身を解き、屈託のない笑顔で挨拶するバン。
ホージー「君が、テロリストに連れ出されたという女生徒だね。それに・・・!!」
 かなめに話しかけていたホージーは、とっさにDショットを抜く。
 傍らにいた宗介が、バンとホージーに銃を向けたからだ。
バン「おいおい!何しやがんだよ!」
ホージー(島に残されたもう一人の生徒か?だが、それにしては・・・)
宗介「お前たち・・・何者だ」
 瞳に警戒の色を浮かべ、強張った口調で問いかける宗介。
 彼にとって、デカレンジャーの2人は得体の知れない謎の闖入者だったからだ。
クルツ「待て、ソースケ。こいつらは敵じゃねぇよ」
 既に2人と顔見知りだったクルツは、手を出して宗介の行動を制する。
クルツ「この2人はスペシャルポリスのメンバーで、今回の救出作戦の協力者だ。
    だから、その銃は下ろしとけ」
宗介「・・・・・・」
 クルツにそう言われ、宗介は銃を下ろす。

バン「クルツ!お前も島に残ってたのか!」
 クルツの姿を見たバンは、意外そうな声をあげる。
クルツ「ちっとドジ踏んじまってな・・・だが、その台詞そのまま返すぜ。
    お前ら人質搬送用の輸送機で先に脱出する手筈じゃなかったのか?」
ホージー「まだ島に要救助者が取り残されているという話を聞いてな・・・
     その救出のため、俺とバンは島に残って捜索を続けることにしたんだ」
クルツ「エライこったねぇ・・・とにかく、恩に着るぜ。
    どーせならウメコちゃんかジャスミンちゃんが
    来てくれた方が良かったけどな♪」
バン「へっ、そんな軽口を叩けるぐらいの元気は、まだ残っているみたいだな!」
クルツ「ははは・・・かろうじてだがな・・・」

268藍三郎:2005/12/18(日) 21:00:40 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

クルツ「しかし、お前ら、グッドタイミングなのは結構だが、
    どうして俺らのいる場所がわかったんだ?」
 もっともな疑問を口にするクルツ。
ホージー「最初は闇雲に探すしかなかったが、
     途中で森から煙が上がっているのが確認できたんだ」
バン「何か怪しいってことで、煙が出ているあたりを探してみたら、
   見事ビンゴ!ってわけ」
クルツ「そうだったのか・・・おっと、紹介が遅れたな」
 クルツは隣にいる宗介を紹介する。
クルツ「こいつは相良宗介。ミスリルのSRTで俺の同僚だ。
    実は、こいつ今まで身分を隠してあの高校に潜入していてな・・・
 そのせいで今回の一件に巻き込まれ、最初から島に居合わせていたのさ」
バン「へぇ〜こいつもミスリルの・・・」
 ならば、銃を持っていたのも不思議ではない。
 さらに、ミスリルがあれほど迅速に作戦を展開できたのも頷ける。
 彼らは最初から島に潜入していた宗介によって、
 敵の内部事情を詳しく知ることができたのだ。
ホージー「さて、おしゃべりはここまでにしておいた方がいいな。
 この周囲にいた敵はあらかた片付けたが、また増援が来る可能性もある」
 移動を提案するホージー。一同が同意しようとした、その時だった。

バン「・・・!危ない!!」
 突然声をあげるバン。
 見ると、夜空を照らし、ボール状の炎の塊がまっすぐこちらに落ちてくる。
 バンは素早くディーショットを抜くと火炎弾を撃ち落とす。
ホージー「敵かっ!!」

伊坂「ようやく見つけたぞ・・・<ウィスパード>!」
 火炎弾を放った襲撃者は、サングラスをかけた黒コートの男だった。
 それだけなら驚くには値しない。だが、彼には異常な点が一つあった。
 彼の体は地上から離れ、宙に浮いていたのだ。

かなめ「嘘・・・人間が・・・空を?」
 信じられぬといった口調で呟くかなめ。
伊坂「フン、報告では娘を奪取したのは一人という話だったが・・・
   いつの間にか取り巻きが増えている・・・
   しかもスペシャルポリスの奴らまでいるとは・・・」
 スペシャルポリスの制服に身を包んだ2人を見て、そう呟く伊坂。
伊坂「まぁよい。所詮俺の敵ではない。すぐに終わらせるとしよう」
 伊坂の体は徐々に地上へと降下していく。
 やがて着地すると、ゆっくりと5人の下へ歩み寄ってくる。

バン「お前、何者だ!!」
 ディーショットを向け、声を荒げるバン。
伊坂「下等種族ごときに、名乗る必要はない」
バン「何ぃ!?」
ホージー(下等“種族”・・・?どういう意味だ?)
 伊坂の言い回しにホージーは疑問を抱く。
伊坂「用件は一つだ。その小娘をこちらに引き渡してもらおう」
かなめ「あ、あたし!?」
宗介(千鳥を・・・やはりガウルンの言っていた、ブラック・テクノロジーとやらが目的か?)
 ガウルンが戦闘中に口走っていたことを思い出す。

伊坂「おっと、勘違いする前に言っておくが、別に貴様らと交渉をするつもりはないぞ。
   小娘以外のお前たち4人をこの場で殺せばそれで済むことだからな」
ホージー「何・・・!」
伊坂「とはいえ、相手はスペシャルポリス・・・
   虫けらを潰すようにはいくまい。俺も真の姿で戦うとしよう・・・」
 伊坂がそう呟いた直後、彼の体が青い炎に包まれる。
 やがて、伊坂の体は人間のものから、異形の姿へと変貌していく。

かなめ「ば、化け物・・・」
 変身・・・否、“本来の姿”に戻った伊坂を見て、かなめはおびえた声を漏らす。
 伊坂の正体・・・孔雀の祖たる不死生物“ピーコックアンデッド”が、5人の眼前に降臨していた。

269藍三郎:2005/12/19(月) 21:10:56 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 アンデッドとしての本性を現した伊坂を前にして、バン達五人は皆凍りついたように固まっていた。
 頭部は鳥のような形をしており、無数の孔雀の羽根が両肩から伸びている。
 身に纏っている黒いコートが、人間体時の面影を残していた。
 やがて、おもむろにピーコックアンデッドは手を前方にかざす。
 そして、爆音と共に火の玉が掌から放たれ、5人の元へと飛んでいく。
バン「やばい!!」
 危機を感じたバンとホージーはとっさにSPライセンスの変身ボタンを押す。
「「エマージェンシー!」」
 瞬時に変身を遂げたデカレッド、デカブルーの二人は、それぞれ銃を抜き、
 襲撃を受けた時と同じようにして火炎弾を打ち落とす。
デカブルー「3人とも!できるだけ後ろに下がっていろ!!」
クルツ「あ、ああ!!」
 ブルーにそう言われ、宗介とクルツはかなめを連れて後方へと下がる。
デカレッド「てめぇ、一体何なんだその姿は!お前もアリエナイザーなのか!?」
 異形と化した伊坂に対し、もっともな疑問をぶつけるバン。
ピーコックアンデッド「アリエナイザー?フッ、違うな・・・
  俺はお前たち人間と同様、れっきとしたこの地球の生物だ」
デカブルー「地球の生物だと…」
ピーコックアンデッド「そうだ。もっとも、我々は貴様ら人類が誕生する以前・・・
  一万年以上前より存在していたがな」
デカブルー「一万年前…ま、まさか!!」
 ホージーは、何か思い至ったような声を上げる。
デカレッド「どうした相棒!何か心当たりでもあんのか!」
デカブルー「ああ、貴様の正体は、“アンデッド”だったのか・・・」
デカレッド「アンデッド・・・?」
 聞きなれぬ単語にバンは首を傾げる。
デカブルー「お前は少し前に地球署に来たばかりだから知らないだろうが・・・
今を遡ること4年前、日本で正体不明の怪物による連続猟奇殺人事件が発生した。
その怪物どもは、あらゆる兵器による攻撃を受けつけず、
決して死すことがない不死の肉体を持つことから、
不死生物“アンデッド”と呼ばれたという・・・」
デカレッド「そのアンデッドってのが、こいつなのか・・・」
かなめ「あ・・・あたしもその話知ってる・・・本で読んだことあるわ・・・」
 かなめは、以前読んだある本のことを思い出した。
 その本には、4年前に起こったアンデッドによる事件・・・
 そして、アンデッドに対抗するために
 生み出された“仮面ライダー”と呼ばれる者たちの戦いの記録が記されていた。
 かなめも最初読んだ時はあまりに荒唐無稽で到底信じられない内容だったが、
 異常事態が次々と起こっている現在の状況では、真実でもおかしくない・・・という気になっていた。
かなめ「でも、その本じゃ“仮面ライダー”ってのに、
    アンデッドは全部倒されたはずじゃ・・・」
デカブルー「ああ、確かにアンデッドはボードと呼ばれる研究機関が創り出した、
“仮面ライダー”によって全て封印された・・・
だが最近、封印されたはずのアンデッドが再び現われたという情報を聞いたことがある。
まさかと思っていたが・・・本当に復活していたとは・・・」
デカレッド「でも何でアンデッドがこの女の子を狙うんだ!?」
ピーコックアンデッド「フン、正確には小娘ではなくその脳に詰まっているモノだ。
今度こそ我が種族が、この星の支配者として君臨するためには、
その小娘の中にある“情報”が役に立つのでな」
宗介(情報・・・!やはりこいつも・・・!)
デカブルー(千鳥かなめ・・・この子はただの高校生ではなく、
アンデッドやアリエナイザーが狙う何かがあるというのか!?)
 
デカレッド「訳のわからねぇ事を!どういう意味・・・」
ピーコックアンデッド「お喋りはここまでだ。
目障りな貴様らは、今すぐ消えてもらおう!!」
 そう宣告すると、ピーコックアンデッドは手に一振りの諸刃の剣を具現化させる。
 それを持って、デカレッドとデカブルーの元へと駆けていく。
デカレッド「来るか!いくぜ相棒!!」
デカブルー「相棒って言うな!!」
 2人のデカレンジャーも、それぞれ武器を取り出し、
 ピーコックアンデッドを迎え撃つ。

270藍三郎:2005/12/19(月) 21:43:39 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

デカレッド「食らえ!!」
 迫り来るピーコックアンデッドに向けて、ディーマグナムを連射する。
 しかし、ピーコックアンデッドは全身に銃弾を浴びても、意に介することなく突っ込んでくる。
ピーコックアンデッド「無駄だ!いかに宇宙警察の最新鋭装備といえど、
我が不死の肉体には通用せん!!」
 ピーコックは手にした剣を勢いよく振り下ろす。
デカレッド「ぐあぁぁぁぁっ!!」
 袈裟懸けに斬られ、手痛いダメージを負うバン。
 さらなる攻撃に出ようとするピーコックだったが、別方向からデカブルーが飛んでくるのが目に入った。
デカブルー「たぁっ!!」
 電磁警棒ディーロッドで、突きを放つデカブルー。
だが、この攻撃はピーコックの振った剣によって阻まれた。
 ピーコックは掌から火炎弾を発射する。デカブルーは腹部にそれを食らい、後方へと吹っ飛ばされてしまう。
デカブルー「ぐぉぉっ!!」
デカレッド「相棒・・・くっ!」
 大きなダメージを食らいながらも、何とか立ち上がる2人。
デカレッド「これ以上・・・好きにさせるかよ!!」
ピーコックアンデッド「無駄なあがきを・・・ならば一思いに葬ってくれる!」
 ピーコックの両肩に生えた、孔雀の羽根が肩から抜けて宙に浮き始めた。
 そして、それらの羽根は、一斉にデカレンジャー2人に向けて飛んでいった。
 無数の羽根は、まるで木の葉のように宙を舞い、その鋭利な刃で2人の体を傷つけていく。
2人「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
ピーコックアンデッド「話にならん!
噂に名高いスペシャルポリスとはいえ、所詮は人間、この俺の敵ではない!!」
 倒れる2人を見てあざ笑うピーコック。
ピーコックアンデッド「だが、貴様ら宇宙警察の持つ技術には大いに興味があるぞ。
貴様らの息の根を止めたら、じっくりとその装備を解析させてもらおう」
ピーコックアンデッド(そして、俺が作る“最強のライダー”の礎となるがいい・・・)

271藍三郎:2005/12/23(金) 14:46:45 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 ピーコックアンデッドの驚異的な強さの前に、
 バンとホージーは絶体絶命の危機を迎えていた。
クルツ「嘘だろ・・・デカレンジャーでも歯が立たないのかよ・・・」
 後方でその様子を見ていたクルツは、うめき声を漏らす。
宗介「クルツ、千鳥、すぐにここを離れるぞ。
   彼らがあの未確認生物を引きつけている間に、安全な場所へと退避する」
かなめ「ちょっと!あの人達を置いていくの!?私たちのために戦ってくれてるのに!」
 デカレンジャー2人に足止めを任せ、その間に自分達は逃げようというのだ。
 宗介の非情な提案をかなめは難色をしめした。
宗介「だからこそだ。彼らは敵を引きつけ、時間を稼ぐ役目を自ら選んだ。
   俺たちがそれに答えなくては、彼らの行動が無駄になる」
 宗介は、デカレンジャーについて詳しく知らないが、
 彼らの態度や戦いぶりから、自分と同じように
 任務のためには己を捨てられる真のプロであると察していた。
 ここにいる4人のプロフェッショナルに託された目的は、千鳥かなめの護衛。
 それを果たすために、宗介もその一人として、
 自分にできる事をやらねばならないと感じていた。
クルツ「口惜しいが・・・あのバケモンは俺たちじゃ手に負えねぇ。
    まして銃弾はとうに尽きかけてやがる。
    宗介の言う通り、あいつが追って来れないところまで逃げるしかないな」
かなめ「・・・わかったわ」
 やむなく同意したかなめを連れ、その場から離れようとする3人。

 だが、その動きをピーコックアンデッドは見逃さなかった。
ピーコックアンデッド「む、逃げるつもりか…そうはさせん」
 ピーコックにある無数の瞳が光った直後、両肩の羽根が再度宙へと放たれる。
ピーコックアンデッド「どうせすぐに見つけられるだろうが…
  余計な手間がかかるのも面倒だ。動けぬように足を殺しておくか」
 羽根がかなめ達の元に向けて飛ぶ。かなめの足を撃ちぬいて動けない様にするつもりだ。
デカレッド「させるかぁ!!」
 それを阻止したのは、何とか起き上がったデカレッドだった。
 二丁のディーマグナムが火を吹く。
 放たれた銃弾は、正確に孔雀の羽根に命中し撃ち落とした。
ピーコックアンデッド「む・・・!」
デカレッド「今のうちだ!速く逃げろ!!」
かなめ「え、ええ!」
 デカレッドに促され、足を速めるかなめたち。
ピーコックアンデッド「いかせん!!」
デカブルー「それはこっちのセリフだ!!」
 同じく起き上がったデカブルーのディースナイパーのレーザー光が、闇夜を照らす。
 伸びる火線は、ピーコックアンデッドの体を貫き、わずかながら負傷させる。
ピーコックアンデッド「くっ・・・目障りな奴らめ。
  おとなしくたばっていればいいものを・・・今すぐ引導を渡してやる!」
 手にした剣を大きく振るうピーコック。
レッド&ブルー「ぐわぁぁぁぁっ!!」
 胸を切り裂かれ、2人は再び倒れてしまう。
ピーコックアンデッド「とどめだ!!」
 発した宣告どおり、とどめを刺さんと剣を振り下ろすピーコック。
 だがその時・・・

ゴォォォォォォォ・・・・・・

ピーコックアンデッド「む!?」
 どこからか聞こえてくる轟音を耳にして、伊坂は手の動きを止める。
かなめ「何・・・?あの音・・・」
クルツ「空から・・・何か来る!!」

 それは、巨大な質量を持った複数の物体が、はるか上空から落下してくる音だった。
 やがて、轟音と粉塵を巻き上げ、5色の戦闘車両が着地する。
デカレッド「あ、あれは・・・!」
デカブルー「デカマシーン!!」
 窮地の彼らの元に現れたのは、
スペシャルポリスが保有するデカレンジャー専用の大型戦闘車両“デカマシーン”だった。

???「アウーン!!」
 皆があっけにとられる中、車両の中から犬のシルエットをした何かが、咆哮と共に飛び出てくる。
 それはピーコックアンデッドに飛びかかると、その腕に噛みつく。
ピーコックアンデッド「ぐぅっ!!」
 さらに、それに続けて緑、黄、桃の三つの影が夜空に舞う。
 3人は手にした棒状の武器で、タイミングを合わせてピーコックに突きを放つ。
 その攻撃は見事に炸裂し、アンデッドの肉体に火花を散らす。
 その後、3人と1匹は素早く身を翻し、敵手から離れバンとホージーの元へと着地する。

272藍三郎:2005/12/23(金) 14:47:36 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

デカイエロー「バン、ホージー!!」
デカレッド「ジャスミン!センちゃんにウメコ・・・それに、マーフィー!」
マーフィー「アウーン!」
 駆けつけたのは残る3人のデカレンジャーと、ロボット警察犬マーフィーK9だった。
デカグリーン「2人とも大丈夫かい?」
デカブルー「ああ、何とかな・・・」
デカレッド「だけど、こんなに早く来てくれるとは思わなかったぜ」
デカピンク「もう大変だったのよ〜〜
      人質のみんなをミスリルの基地近くに降ろした後、
      休む間もなく5人分のデカマシーンを
      あたし達ごとロケットブースターで射出してここまで来たんだから」
デカイエロー「かなりスリル万点だったわよ♪」
デカブルー「だが、どうして俺達のいる場所に正確に着地できたんだ?」
デカグリーン「ミスリルから情報があってね・・・
       なんでも、あちらの衛星がこの島からSOS信号を受信したそうなんだ。
       信号をキャッチした地点に救助者と、捜索中のバン達がいると考えて、
       デカマシーンと僕らを送ることになったのさ」
宗介(衛星・・・そうか、“スティング”があの狼煙をキャッチしたのか)
かなめ(うまくいったみたいだね、あたし達のアイデア)
宗介(ああ・・・)

デカイエロー「さ、お喋りはこの辺にして、まずはあの敵を何とかしましょう!」
デカピンク「そういや、とっさに攻撃したけど、
      あのケバケバした鳥みたいなのって何者なの?」
デカブルー「詳しい説明は後だ。ジャスミンの言う通り、まずは敵を撃退する!」
ピーコックアンデッド「俺を倒すだと?下等種族風情が、奢った口を叩くな!」
デカレッド「そいつはどうかな!?
      デカレンジャーが五人揃えば、もう怖いもんなしだ!!行くぜ鳥野郎!!」
 
ピーコックアンデッド「5人まとめて葬ってくれる!!散れ!!」
 両肩から羽根を飛ばして攻撃するピーコック。
デカレッド「その攻撃は、既に見きってるぜ!!」
 ディーマグナムを連射し、バンは羽根を撃ち落して行く。
デカイエロー「今よ、ウメコ!」
デカピンク「おっけ〜〜♪」
 バンが羽根を撃ち落とした隙を縫って、上空へと飛びあがるイエローとピンク。
 ディースティックで伊坂に突きを放つ。
ピーコックアンデッド「小癪な!!」
 両刃剣を振るい、2人を切り落とそうとする。
 だが、剣を振るう前に、前方から飛んできた光が剣を持った手を貫いた。
 デカブルーが、伊坂の掌を狙ってスナイパーライフルを放ったのだ。
ピーコックアンデッド「ぐ!!」
 剣を落としてしまったピーコックはイエローとピンクの直接攻撃を受けてしまう。
デカグリーン「まだまだ!!」
デカブルー「隙は逃さん!!」
デカレッド「行っくぜぇぇぇぇっ!!!」
 2人による同時射撃が、ピーコックの体を見舞う。
 さすがのアンデッドとはいえこれにはたまらず仰け反る。
ピーコックアンデッド「くっ・・・信じられん。
  こいつらの個々の戦闘力は俺の足下にも及ばぬはず。
  なのに数が増えただけでこれほどの力を発揮するとは・・・」
 予想外のダメージを負った事に、伊坂は動揺する。
デカブルー「教えてやる!デカレンジャーの力は、単なる個々の力の足し算じゃない!」
デカグリーン「俺達のコンビネーションは、互いの力を二倍三倍へと上げていくんだ!」
デカレッド「そういうこった!このまま一気にキメるぜ!!マーフィー!!」
マーフィー「ワン!!」
 飛びあがったマーフィーに、デカレッドはキーボーンを投げる。
 キーボーンを咥えたマーフィーは、ディーバズーカへと変形を遂げた。
 デカレンジャーはディーバズーカを構え、目前の敵に照準を定める。
デカレッド「ターゲットロック!!」
5人「「「「「ストライクアウト!!」」」」」
 5人が叫ぶと同時に、ディーバズーカから二つの火球が轟音と共に放たれる。
ピーコックアンデッド「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 ディーバズーカの直撃を食らったピーコックアンデッドの体は、
 遥か後方へと吹っ飛んでいった。

クルツ「ひゅ〜〜♪すっげえな。あのバケモンをぶっ飛ばしちまいやがったぜ!」
宗介「あれが、宇宙警察の力か・・・」
 デカレンジャーの戦いを目の当たりにした宗介の顔に、かすかな驚嘆の色が浮かぶ。
 特に驚かされたのは伊坂を撃退したディーバズーカなる武器の威力だ。
 あの破壊力なら、装甲車両はおろかASでさえ木っ端微塵にしてしまうかもしれない。
 軍兵器に携わる者として、その凄まじさに宗介は戦慄を禁じえなかった。

273藍三郎:2005/12/23(金) 15:32:25 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 伊坂を倒し、何とか危難を退けた一行。
 だが、さらなる脅威は、休む間もなく彼らの元へと訪れた。
 激しい地面の揺れが、彼らを襲ったのだ。
かなめ「じ、地震!?」
宗介「いや・・・あれを見ろ!」
 宗介が振り向いた方向から、40メートル近い大きさの
 巨大な影が立ち昇ってくるのが見えた。
 あのシルエットには見覚えがある。
 昼間校庭に現われ、校舎を消し去りかなめ達を誘拐した張本人・・・
 テロリスト達が所有する怪重機『エンバーンズ』だった。
バーツロイド「☆●×$%♪○」
 エンバーンズのコクピットには、
主に怪重機の操縦を担当するドロイド兵、バーツロイドが搭乗していた。

デカレッド「出やがったな、怪重機!!」
デカグリーン「一難去ってまた一難だね」
デカイエロー「もう五難ぐらい来てる気もするけど・・・」
 それだけではない。怪重機に随伴するようにして、多数のAS部隊も現われる。
デカレッド「向こうがマシンで来るなら、こっちもマシンで応戦だ!
      みんな、デカマシーンで行くぜ!!」
デカピンク「ロジャー♪」
デカブルー「マーフィー!そちらの3人は任せたぞ!」
マーフィー「ワン!!」
 かなめ達の警護をマーフィーに任せ、5人はそれぞれのデカマシーンへと散らばって行く。

 赤色の六輪高速戦闘車『パトストライカー』にはバンが、
 青色のホバージェット『パトジャイラー』にはホージーが、
 緑色の巨大トレーラー『パトレイラー』にはセンが、
 黄色の装甲車『パトアーマー』にはジャスミンが、
 桃色の広報車『パトシグナー』にはウメコが、それぞれ乗りこむ。
デカレッド「デカマシーン、発進だぜ!!」
 号令と共に、怪重機とAS部隊に向かっていく5台のデカマシーン。

デカピンク「そこの怪重機、止まりなさい!!」
 天板にあるサイドボードを赤く点灯させ、停止のシグナルを送るパトシグナー。
 だが、もちろん怪重機もAS部隊もそれを聞くことなく進軍を続ける。
デカピンク「あーん無視〜〜ひっど〜〜い!!」
デカグリーン「ま、今更聞くわけ無いよね。とりあえず、動きを止めさせてもらうよ!」
 パトレイラーはコンテナに内蔵されているシグナルキャノンを展開し、黄色のワイヤーをエンバーンズに向けて発射する。
 ワイヤーはエンバーンズをぐるぐる巻きにするが、すぐに振りほどかれてしまう。
デカイエロー「どーんといってみよー!どーんと!!」
デカブルー「ジャイロバルカン、発射!!」
 パトアーマーは体当たりで、パトジャイラーは
 上空からのバルカンでそれぞれ攻撃するも、エンバーンズには大して効いていないようだ。

デカグリーン「やはりデカマシーン単体の力では歯が立たないか・・・!」
デカピンク「だったらやることは一つだね!」
デカブルー「ああ、相手は怪重機・・・『特捜合体』で一気に倒すぞ!」
デカレッド「おっしゃ!真実一路、一発必中!行くぜ、特捜合体!!」
 5台のデカマシーンは合体のフォーメーションを開始する。
 パトアーマー、パトシグナーは両腕、
 パトジャイラー、パトレイラーが両足、パトストライカーが胴体となり、
 人型ロボへと合体していく。
5人「「「「「ビルドアップ!デカレンジャーロボ!!」」」」」
 5台のデカマシーンが合体することで完成する全長45メートルの巨大ロボ、
 地球署の切り札『デカレンジャーロボ』が、闇夜の森林に姿を現した。

274藍三郎:2005/12/23(金) 15:59:55 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

かなめ「ほ、ホントに合体しちゃった・・・」
クルツ「話には聞いてたが・・・信じられねぇ・・・」
 合体を遂げたデカレンジャーロボの姿にかなめはおろか、クルツも唖然となる。
 複数のメカが合体し、一体の巨大ロボになる・・・
 アニメや特撮ではありふれた設定ではあるが、
 こうして目の前で実際にやられては目の玉を飛び出さずにはいられない。
 この日、散々非現実的な出来事を体験してきたかなめだったが、
 『合体ロボ』の衝撃はこれまでで最高のものといえた。

宗介「・・・・・・」
 一方、宗介は特に驚いた様子は無い。
 宗介の中で、ある“強い思い”が湧き上がっていたからだ。
 
 自分はミスリルの兵士・・・襲ってくる敵と戦い、任務を遂行するのが自分の仕事である。
 だが、装備もASも失った今の自分は迫り来る敵に対してはあまりに無力な存在だった。
 本来なら自分も戦うべきであるはずなのに、
 現実はデカレンジャーたちに守られているだけ・・・
 これでは、民間人と大して変わらない。歯がゆい思いが宗介の全身を支配していく。
宗介(俺は千鳥を守るために、何もすることができないのか・・・
   力が・・・彼女を守るために戦える、力があれば・・・!)
 宗介が強く願ったその時・・・
 彼の願いが天に届いたのか・・・闇夜に覆われた空から、
 彼らの元に思わぬ“援軍”が降ってきた。

275藍三郎:2005/12/23(金) 16:37:21 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 上空100メートルほどで、パラシュートつきのカプセルが弾けた。
 その中から白いボディを持ったASが、躍り出て、宗介たちの近くの地面に着地する。
宗介「これは・・・?」
 このASは、宗介やクルツが全く見たことの無い機体だった。
 骨格の造りはM9に似ていたが、装甲の形がかなり異なっていた。
クルツ「誰が乗っているんだ・・・マオか?」
 その疑問に答えるかのように、白いASのコクピットハッチが開放される。
 意外にも、その中には人の姿は無かった。
宗介「無人か」
 誰もいないことを確認すると、宗介は素早くASのコクピットに入り込む。
 それと同時に、機体のAIが低い声で語りかけてくる。
<声紋チェック開始。姓名、階級、認識番号を>
宗介「相良宗介軍曹。B−3128」
<ラジャー。ラン、モード4。BMSA、3・5。コンプリート>
 AIがそう答えた直後、コクピットハッチが閉じられ、
 セミ・マスター・スレイブの操縦システムが起動した。
 これで宗介は、このASを手足のように動かせる。
 
 システム起動に成功すると同時に、録音された音声データが再生される。
 その声は、カリーニンのものだった。
カリーニン『サガラ軍曹。君がこの録音を聞いているなら、
      このASとの合流に成功したということだろう。以後はその前提で話を進める。
      偵察衛星<スティング>で諸君らを発見した時、<デ・ダナン>は沿岸から60キロ離れた地点にいた。
      通常の救出隊を派遣するには距離が遠すぎるため、
      弾道ミサイルでこのASを射出した。無人なのはそのためだ』
宗介「そうか・・・」
 弾道ミサイル射出時のGは、
 デカスーツを身にまとったスペシャルポリスたちならともかく、
 普通の人体には過酷過ぎる。無人なのも頷けた。
カリーニン『すでに宇宙警察の特殊車両隊が到着しているだろう。
      彼らと協力して敵部隊を退け、これから指定するポイントへ急行せよ』
 その後カリーニンは、スクリーンに映し出された地図で、ダナンが到着するポイントを示す。
 到着後、ただちにダナンに宗介たちを回収し、全速で島を離れる手はずだ。
カリーニン『―――なお、このASは“ARX−7<アーバレスト>”と呼ばれている。
      AIのコールサインは“アル”だ。
      高価な実験機なので、必ず持ち帰るように。以上。幸運を』
 それを最後に、録音のメッセージは途絶えた。
宗介「アーバレスト・・・それがこの機体の呼び名か」
 宗介は機体の具合を確かめてみた。少しの動作だけでも、このASの持つ卓越したパワーがはっきりと感じ取れた。
アル<敵AS、推定五機、接近中>
 “アル”が警告する。
見ると、怪重機と共に現れたASのうち何機かが、こっちに向かってくる。
宗介「アル・・・と言ったな」
アル<はい(イエス)、軍曹殿(サージェント)>
宗介「一分で片付けるぞ」
アル<ラジャー>
 迫り来る敵軍に向けて、アーバレストは跳躍した。

276藍三郎:2005/12/23(金) 21:34:30 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 電光石火の速さで敵AS群に躍り出たアーバレストは、
 敵に発砲の暇すら与えず、アサルトライフルの引き金を引く。
 瞬く間に5機ものサベージは、アーバレストによって沈黙させられた。
 桁外れの性能だ。操作方法はM9と全く同じシステムだが、
 そのスペックはガーンズバックを遥かに上回っている。
 これならば、たとえ数で押されていようと問題ではない。

 デカレンジャーロボに乗る5人にもアーバレストの姿は目に入った。
デカブルー「あのアームスレイブは・・・?」
 やや困惑するデカレンジャーに、アーバレストから通信が入る。
宗介『こちらウルズ6・相良宗介だ。ミスリルからこの機体を受け取った。
これよりこちらも戦闘に参加する』
デカレッド「ああ!あの軍人高校生か!」
 アーバレストはライフルを撃ち、眼前にいるサベージを蹴散らしていく。
デカレッド「おっし、そんじゃ、うじゃうじゃいるカエル頭どもは任せたぜ!」
宗介『了解した。そちらは怪重機の撃破を頼む』
デカピンク「ロジャ〜〜♪」

バーツロイド「×○&$♪■!」
 額から怪光線を放つエンバーンズ。
デカグリーン「おっと!!」
デカレンジャーロボは素早く横に飛び跳ねて、その攻撃をかわす。
 しかも、ただかわしただけではなく、跳躍と同時に専用銃『シグナルキャノン』を放つ。
バーツロイド「▲%○&#!!!」
 シグナルキャノンの弾は全弾命中し、エンバーンズは大きくダメージを負う。
 さらにデカレンジャーロボは
 近接戦用武器『ジャッジメントソード』を取り出し、エンバーンズに向かっていく。
 鋭い剣撃が2度3度、エンバーンズに炸裂する。
デカイエロー「データスキャン完了!
敵のパイロットはアリエナイザーじゃない、ドロイド兵よ!」
デカレッド「なら遠慮はいらねぇな!一気に決めるぜ!」
 ジャッジメントを省いて、シグナルキャノンを構えるデカレンジャーロボ。

 脚、胸、肩、頭のパトランプが点灯する。
 デカレンジャーロボの全身に流れるパトエネルギーが、
 シグナルキャノンへと収束していく。
5人「「「「「パトエネルギー全開!!ジャスティスフラッシャー!!!」」」」」
デカピンク「5!」
デカイエロー「4!!」
デカグリーン「3!!!」
デカブルー「2!!!!」
デカレッド「1!!!!!」
5人「「「「「ストライクアウト!!!」」」」」
 カウントダウンの後、デカレンジャーロボはシグナルキャノンの引き金を引く。
銃声が数発鳴り響き、吐き出された弾はエンバーンズに向かっていく。
バーツロイド「○$&■#▽×!!!」
 エンバーンズの胸部で、激しい火花が舞い上がる。
全身に電流が走り、地面に向けて倒れ伏す。
5人「「「「「ゴッチュー」」」」」
 決め台詞を言うと同時に、エンバーンズの巨体は大爆発を起こして塵となる。

277藍三郎:2005/12/24(土) 08:27:47 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
えっと、MSG276の宗介のセリフにある
ウルズ6はウルズ7の間違いでした。すみません(汗

278藍三郎:2005/12/24(土) 09:19:38 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

宗介「怪重機を撃破したか・・・」
 デカレンジャーロボが怪重機をジャスティスフラッシャーで倒したその頃・・・
 宗介の駆るアーバレストも順調にサベージの数を減らしていた。
宗介「残り一機・・・!」
 低い声でそう呟くと、単分子カッターをサベージの頭部に突き刺す。
 これでAS部隊も全て片付けた。伏兵を警戒するが、特に気配はない。
 踵を返してかなめたちの下に戻ろうとしたその時・・・

 左の山陰から、カービン・ライフルの銃弾が、アーバレストを見舞った。
宗介「・・・っ!」
 前転することで何とか銃撃をかわす宗介。
 現れたのは、つい先ほど戦った銀色のAS、ガウルンの駆る『コダール』だった。
ガウルン「よくかわしたな!カシムゥ!!」
宗介「ガウルン!!」
 コダールは間髪いれず、さらにカービン・ライフルを3連射する。
 宗介はさらに前転を繰り返し、致命傷を避ける。

デカブルー「相良軍曹!加勢するぞ!!」
 怪重機を撃破し終えたデカレンジャーロボは、コダールと交戦するアーバレストの援護に現れる。
ガウルン「ちっ、宇宙警察の“組み立てロボ”か!」
 シグナルキャノンを構え、3発引き金を引く。コダールは素早く飛びのけて
デカグリーン「あのAS、これまで見たこともないタイプだね」
デカレッド「妙なおさげ垂らして・・・まるでウメコの髪型だな」
 コダールのポニーテール(?)みたいなものを見て、バンはそんな感想を抱く。
デカピンク「ぶー!あんなのと一緒にしないでよ〜〜」

 そう言いつつも、デカレンジャーロボは銃撃を続ける。
 コダールはそれを間一髪のところでかわしていた。
ガウルン「デカブツの割にゃあいい狙いじゃねぇの。
 よほど腕のいいスナイパーが乗っているらしいな・・・」
 デカレンジャーロボの狙撃手(ホージーのこと)の、射撃技能の高さにガウルンは舌を巻く。
ガウルン(それに、カシムの奴もいやがる。
 ここは、“アレ”を使ってさっさとケリをつけるか・・・!)
 2対1の不利な状況・・・しかも、一体は全長45メートルという巨大ロボだ。
 ガウルンは“秘密兵器”の使用を、早々に決断した。

デカブルー「フリーズ!動きを止めて投降しろ!!テロリスト!」
ガウルン「やなこった。ワッパかけられてムショ送りはご免だね。“おまわりさん”!」
デカブルー「ならばやむを得ない・・・強制的に行動不能になってもらう!」
 デカレンジャーロボはさらに数発、シグナルキャノンを発射する。
 狙いは脚部とライフルを携えている腕部だ。
 命中すれば、敵機の機能は完全に沈黙する。
 だが、何故かガウルンは避けようともせずその場に突っ立っていたままだった。
 
 銃弾がコダールの影を撃ちぬかんとしたその時・・・
 異変は起こった。当たるはずの銃弾は、コダールの直前ですべて弾けとんだのだ。

デカブルー「な!?」
デカピンク「シグナルキャノンの弾が・・・消えた?」
デカイエロー「いいえ、弾かれたのよ!まるで、見えない壁に当たったみたいに・・・」
 “見えない壁”・・・ジャスミンの形容は実に的を射ていた。
 そう、あの時、目には見えない謎の障壁がコダールの周囲に出現し、
 シグナルキャノンの弾を防いだのだ。
ガウルン「ククッ、それだけじゃないぜぇ・・・」
 ガウルンはそう言って、コダールの手をデカレンジャーロボに向けてかざす。
ガウルン「ばぁーーん!!」
5人「!!!!!」
 その直後、想像を絶するすさまじい衝撃が、デカレンジャーロボを襲った。
デカレッド「う、うわぁぁぁぁっ!!」
 あるはずのない出来事が、目の前で繰り広げられた。
 全長45メートル、総重量は4600トンにいたるデカレンジャーロボが、
 たった8メートル程度のASの放つ謎の力によって、後方へと吹き飛ばされたのだ。
 それはまるで、魔法使いが自分の何倍の大きさもあるドラゴンを、
 呪文で打ち倒す光景に似ていた。
ガウルン「覚えとけ・・・
     非常識科学は、宇宙警察(てめえら)の専売特許じゃねぇってことをな」

279藍三郎:2005/12/24(土) 09:51:48 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 轟音と共に、仰向けに倒れるデカレンジャーロボ。
デカレッド「痛っ〜〜〜」
 したたかに背中をうち、苦痛の声をあげるバン。
デカブルー「ホワットハップン!!何が起こったんだ!?」
デカグリーン「わからない。ただ、強烈な衝撃がデカレンジャーロボを襲ったということぐらいしか・・・」
 あまりに予想外の出来事に、皆が動揺していた。
デカブルー「被害状況はどうなっている!?」
デカイエロー「まずいわね。今ので回路の一部がショートしたみたい。
       しばらく動けそうもないわ・・・」
 どんどん出力が低下しているのを見て、ジャスミンは暗い口調でそう呟く。

クルツ「あれだ!俺はあの力にやられたんだ!!」
 こうして遠くから見ても、まるで理解できない現象である。
 散弾地雷でもない。炸裂装甲でもない。
 何かの衝撃波・・・そうとしか表現できなかった。
クルツ「ちくしょう、いったいどんな手品を使いやがった・・・」
かなめ「手品・・・じゃない。ギジュツ・・・」
クルツ「え・・・?」
かなめ「このままじゃ、負けちゃうわ・・・デカレンジャーも・・・彼も・・・」

ガウルン「はっ、でかい図体が幸いしたな。一撃でバラバラになるのは免れたらしい」
 動けなくなったデカレンジャーロボに、
 とどめを刺そうとカービン・ライフルを構えるガウルン。
 だがそこに、側面から数発の銃弾が飛んできた。
ガウルン「カシムか。お前にも見せてやるよ!<ラムダ・ドライバ>の力をなぁ!!」
 デカレンジャーロボの時と同様、アーバレストの放った銃弾は、見えない壁によって阻まれた。
宗介「・・・!?」
ガウルン「潰れろ」
 すこし遅れて、猛烈な衝撃がアーバレストを襲った。
 デカレンジャーロボ同様、激しい勢いで吹っ飛ばされる。

宗介「・・・っ!」
 宗介は激痛をこらえながら、クルツのいった言葉を思い出していた。
『ハンマーにぶん殴られたみたいな』
 そしてその後、クルツの機体はばらばらにされた。
 恐らくこの機体もそうなっているだろう。
 デカレンジャーロボならともかく、軽量のASが耐えられる衝撃とは思えない。
 だが、予想に反して正面のモニターには、こんなメッセージが映し出されていた。
<ダメージ軽微――戦闘に支障なし>

ガウルン「バカな・・・」
 アーバレストが立ち上がるのを見て、ガウルンは目を疑った。
 前に戦ったミスリルのASは、木っ端微塵にすることができたというのに・・・
ガウルン「なぜ利かん?」
 不発か?なにしろ未完成の機能だ。思うとおりに作用しないこともある。
ガウルン「よぉし、くっくっく・・・」
 もう一度、ラムダ・ドライバの斥力場をぶつけてやる。
 それで今度こそ、しとめられるだろう。

宗介「どうなってる・・・?」
 スクリーンの損害報告を眺め、宗介はつぶやいた。
 あれだけの衝撃を食らいながらも、アーバレストはほぼ無傷だった。これは一体・・・
アル<ラムダ・ドライバ、イニシャライズ完了>
 聞きなれぬ言葉が、アルから突如発せられた。
宗介「なに?なんのことだ?」
アル<回答不能。戦闘の続行を>
宗介「答えろ、アル」
アル<回答不能>

280藍三郎:2005/12/24(土) 10:39:00 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

クルツ「生きてる・・・あいつ、一体・・・」
 なぜ宗介は無事なのか。自分の時は、機体がばらばらになったのに。
かなめ「・・・なるほど。な・・・なんとなく・・・わかる」
 右手をこめかみに当てて、かなめは重たげに呟く。その表情は、どこか気分が悪そうだった。
クルツ「カナメ・・・?大丈夫か、おい」
マーフィー「アウーン・・・」
かなめ「気持ち悪い・・・TAROS・・・。彼は・・使い方をわかってない。
    せいぜい相手の・・・相殺する・・・くく、くらい・・・?
    つつつ、強い防衛衝動が・・・」
 ぶつぶつと、弱々しい声を出すかなめ。その目は、とても正気には思えない。
クルツ「やめろカナメ、正気に戻れ」
 だが、クルツの呼びかけもむなしく、かなめの言動はさらに支離滅裂なものとなっていた。
かなめ「ぎぎ擬似的なちち・・・ノらむ・・・きょ、きょきょ。
    い、いそウ干渉ハこーしあ、たタたろス・・・」
 狂気の発露を目の前にして、クルツはさすがに背筋が寒くなった。
クルツ「おい・・・!」
 恐る恐る呼びかけるクルツだが、かなめはそれに答えず、
かなめ「ま・・・っけるもんかぁ!!」
 いきなり寄りかかった樹木の幹に頭を打ちつける。
 とうとう行動までおかしくなってきた。
クルツはどうしていいのかさっぱり分からず、自分まで錯乱しそうになる。
クルツ「か、カナメ・・・!」
かなめ「はぁ・・・はぁ・・・。くくる・・・つつ、くく?」
 呂律の回らぬ言葉で、何か言おうとする。
かなめ「くぃ・・・クルツくん。つ・・・通信機を貸して!」
クルツ「構わねぇけど、一体・・・」
かなめ「はやく彼に教えないと・・・」
クルツ「教える?なにを」
かなめ「いいから、早く!!」

 アーバレストのAIは、どうあっても宗介の質問に答えなかった。
 そうしている間に、ガウルンのコダールは単分子カッターを抜いて、こちらに迫ってくる。
宗介(どうする?もう一度あれをやられては・・・)
 次も無事という保障はどこにもない。
 よしんば機体が無事だとしても、自分の身があの衝撃には耐えられそうもない。
 体中が汗ばむのを感じた、その時・・・

かなめ『相良くん、聞こえる!?』
宗介「千鳥か?」
 外部からの短距離通信が入った。声はかなめのものだ。
かなめ『よく聞いて!あなたの敵は、特別な装置を積んでいるの!
    搭乗者の攻撃衝動を、物理的な力に変換する機械よ!』
宗介「搭乗者の攻撃衝動を・・・だと?」
かなめ『それっ・・・でぇ!ここからが重要なんだけど、
    あなたのASにも、それが・・・<ラムダ・ドライバ>が積んであるの!
    だから無事だったのよ!』
宗介(同じ装置が?このアーバレストに?)
かなめ『あなたはさっき、自分の身を守ろうと思ったでしょ?
    それに装置が反応したの!あなたの心の中の、強いイメージがカタチになるのよ!』
宗介「イメージ?心?そんな兵器があるわけ・・・」
 話している間にも、コダールはすでに数十メートルの距離に到達していた。
 機体周辺の大気がぐにゃりとゆがむ。例の衝撃波による攻撃だ。
 抗いようもなく、アーバレストの機体は大きくのけぞる・・・

 だが、それだけだった。今度は吹っ飛ばされることはなく、
 数歩後ずさっただけですぐに体勢を立て直せた。
宗介「これは・・・!?」
かなめ『そうよ。相手は今、あなたをバラバラにしてやるつもりだった。けど、できなかった。逆襲だってできるわ。強く念じて!』
宗介「念じる、なにを」
かなめ『相手をやっつけてやる、って思うの!
    気合いを入れて、一瞬にこめて!カメハメ波とか、そーいうのみたいに!』
宗介「カメハ・・・なんだと?」
アル<接近警報!!>
 聞いたこともない単語に戸惑う暇もなく、
 敵のASは一気に踏み込み、ナイフを突き出してきた。

281アーク:2005/12/24(土) 10:55:01 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
無明「ラムダ・ドライバ……か。人間もやるようだな」
聖夜「そうだね無明。人間もやれば出来るって言う事だね」
宗介が乗るASの能力に二人は感心していた
彼らは知っているラムダ・ドライバがどういう物か
無明「しかし宇宙警察も情けないものだ。あの程の力を持ちながらラムダ・ドライバに負けるとはな
   奴らの司令官は俺が認めるほどの武人なのに」
聖夜「落ち込む暇があったら助けに行こうよ。当分は動けないようだしね」
無明「そうだな」
そう言うと二人は倒れているデカレンジャーロボまで一瞬にして移動した

=デカレンジャーロボ操縦席=
デカグリーン「ん、何だ?……って何であんなところに人が?!」
モニターで確認したのだろうか黒と白のマントを羽織ったのがやって来るのが確認した
デカブルー「民間人か!全部非難させたはずだろ!」
デカレッド「兎に角こっちに近づいてくるぜ。やばいんじゃないか?」
その時センサーに反応があった
もの凄い数のドロイド兵がやって来るのが確認した
デカピンク「危ない!そこの二人逃げて!!」
スピーカーから声が聞こえた二人は立ち止まり後ろを振り向いた
後ろから大量のドロイド兵がやって来るのがわかった
デカレンジャー達はすぐ逃げると思ったが二人はドロイド兵の方に走り出した
デカイエロー「ちょっとあの二人死ぬ気?!」
デカレッド「くそ!動け、動いてくれぇ!!」
デカレッドが叫びながらレバーを動かすが反応は空しく動かなかった
それと同時に小さな地響きが起こった
モニターを見ると数体のドロイド兵が吹き飛ばされ破壊されている姿を見た

=戦闘区域=
聖夜「まったく人は良い行いをしようとしているのに邪魔するなんて……悪い子にはお仕置きだね!」
ドロイド兵の攻撃を避けながら聖夜はブツブツと何かを唱え始めた
聖夜「大地に眠りし地の巨人よ、我が周りにいし魂無き者達を吹き飛ばせ!!」
聖夜が叫ぶと大地に異変が起こった
徐々に揺れ始めゆっくりと盛り上がっていった
聖夜「本日は晴天なり!吹っ飛ばせ大地の怒り!!」
地面が盛り上がり巨大な拳となってドロイド兵を吹き飛ばした
無明「後は俺は始末しよう。黄泉に眠りし邪悪なる者達よ。暗黒王が命ずる!
   常世の者達を冥世に引きずり込め!!黄泉沼!!」
ドロイド兵達が立っている場所が黒く染まりそこから何本ものの手が現れドロイド兵の足を掴み
ゆっくりと引きずり込んだ。ドロイド兵はもがいたが無意味のように引きずり込まれた
無明「所詮は器だけの存在か……無力に等しい」
そう言って二人は改めてデカレンジャーロボに向かっていった

282藍三郎:2005/12/24(土) 10:59:05 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

 アーバレストも単分子カッターを前に出し、その一撃を切り払う。
ガウルン「はっはっ!なるほど、そりゃあ、そうかもしれん!」
 アーバレストとコダールの間で、目まぐるしいナイフ・コンバットが始まった。
ガウルン「<ウィスパード>を守っていたお前らだ!
持っていても不思議はない。なぁ・・・!?」
宗介「なにを・・・」
ガウルン「で、俺の得意分野は知ってたか?そう、ナイフだぁ!」
 突き、払い、薙ぎ、打ち、誘いをかけて、それを凌ぐ。
ガウルンの凄まじいナイフさばきに、宗介は次第に圧倒されていった。
ガウルン「覚えているかカシム!あの村の連中も切り刻んでやったぞ!こんな風にな!!」
 コダールの単分子カッターが、アーバレストの胸部装甲を切り裂いた。
かなめ『何やってるの!気合いよ、気合い!!』
宗介「さっきからやってる。力場など出んぞ」
ガウルン「こう使うんだっ!!」
 ガウルンが叫ぶと同時に、3度例の衝撃波が宗介を見舞った。
 今度は背中から倒れ、2回3回と地面を転がった。
 これで2機の間に大きく距離が開いた。
 アーバレストはとっさにアサルトライフルをコダールに向ける。
ガウルン「ほぉ?それでどうする気だい?撃つのか?俺を」
宗介「くっ・・・!」
 宗介は歯噛みする。
 銃弾による攻撃は、例の力場で難なく弾かれてしまうのは目に見えていた。
ガウルン「馬鹿げた戦いだよ。
     大の男2人が、ロクに使い方も知らないオモチャで殺しあってるなんてよ。
     だが、装置の使い方がまるでわかってないてめぇよりは、俺の方が有利だよな?」
 ガウルンの言うとおりだった。
 彼はシステムの原理をある程度理解し、それを使いこなす訓練を受けているのだろう。
 それに比べて、こちらはついさっきこのシステムの存在を知ったばかり・・・
 これでは・・・いずれ負ける。

かなめ『いい、相良くん?大切なのは、瞬間的な集中力なの!』
 かなめの切迫した声が告げた。
かなめ『ゆっくりと息を吸って、一気に吐く。その瞬間、砲弾に、自分の気合いを注ぎ込むイメージで!』
宗介「そうは言っても・・・」
 できない。彼女の言葉の意味が、宗介にはどうしてもわからなかった。
かなめ『じゃあ、想像して。あなたが負けたら、あたしは捕まって、裸にひん剥かれて、
    散々体を弄り回されて殺されちゃうのよ!その光景を思い浮かべて!!」
宗介「なんだと・・・!」
 じっくり想像するまでもなく、それは最悪の光景だった。
かなめ『イヤでしょ?』
宗介「ああ・・・」
かなめ『頭にくる?』
宗介「そうだな・・・」
かなめ『あいつはそうしようとしてるの。そんな事が許せるの、あんたは!!』
宗介「・・・許せん」
 宗介の中で、沸々と怒りが湧き上がってきた。
かなめ『じゃあ、あいつに銃を向けて!』
 宗介はいわれるままに、銃口を敵手に向けた。
 それが無駄な行為だとは考えなかった。
 自分を信じてくれた彼女――それを、今度は俺が信じるだけだ。
ガウルン「とうとうヤケクソか?がっかりだぜ。そろそろ死んじまいなぁっ!!」
 ナイフを振りかぶり、突進してくるコダール。
かなめ『イメージを頭の中に描いて。あなたはこれからアイツを素手でブン殴るの!』
宗介「・・・・・」
かなめ『そしたら息を吸って・・・』
 大きく息を吸いこみ・・・
かなめ『イメージを・・・』
 砲弾に、意志を注ぎ込むイメージで・・・
かなめ『今!!!』
宗介「っ!!」
 至近距離で、アサルトライフルから砲弾が吐き出された。

ガウルン「無駄だぁぁっ!!」
 ガウルン機は砲弾を防ごうと、例の衝撃波を発生させる。
 だが、その現象は、アーバレストの方でも起こっていた。
 同時に発生した衝撃波がぶつかり合い、大気をいびつにゆがませる。
 宗介の放った砲弾は、それによって生じた力場の断層を縫い、コダールに直撃した。
ガウルン「なにっ・・・!」
 被弾したコダールの機体は、思いっきりのけぞった後、爆炎を上げて大破した。
 爆風に煽られ、アーバレストも地面の上を転がる。
 何とか機体を起こし、バラバラの残骸と化したコダールを見る宗介。
 この有様では、ガウルンは即死しているだろう。
かなめ『相良くん・・・無事?』
 無線からかなめの声が聞こえる。それに対し、いつもの抑えた口調で彼はこう答えた。
宗介「・・・肯定だ」

283暗闇:2005/12/26(月) 23:13:48 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後…宗介たちはデカレンジャーと共に救援の到着ポイントに向かい、そしてそこに海底から浮上したトゥアハー・デ・ダナンに回収されると、ダナンは全速で島を離れた。
無明と聖夜はそれを見届けると、何処かへと立ち去っていった。

=トゥアハー・デ・ダナン 格納庫=
医務室で手当を受けてから、宗介は格納庫へと戻ってきた。
かなめとクルツは、医務室に…怪我の軽かったデカレンジャーの方は重傷を負った部下たちの代わりにあの場所で起こっていた出来事について詳しく聞かせて欲しいときたテッサとマデューカスのいる中央発令所にいる。
格納庫は静かだった。艦内に騒音規制が敷かれているため、整備班の姿も見えない。
包帯だらけになった彼は、ひざまずいたままのアーバレストを見上げた。
白かった機体は泥まみれで、草の汁があちこちにこびりついていた。装甲も傷だらけである。
こうして見るぶんには、ただのASだ。M9をベースにした、風変わりな試作機。しかし、いったいあれは……
カリーニン「ひどい有り様だな」
背後の声に振り向くと、カリーニン少佐が歩いてくる所だった。
カリーニン「ガウルンはどうなった」
宗介「死にました。今度こそ間違いなく」
カリーニン「そうか。私も、その場に立ち会いたかったものだ」
カリーニンは感想を洩らし、
カリーニン「それ以外に、なにか言いたそうな顔をしているな」
宗介「はい。“ラムダ・ドライバ”とは、いったい?」
単刀直入な質問だったが、カリーニンはそれを予想していたようだった。
カリーニン「やはりガウルンが持っていたか」
宗介「そうです。そしてこのASにも装備されていた。違いますか」
カリーニン「そうだ。ウェーバーのM9が撃破されたと聞いた時、『あるいは』と思った。だからこのアーバレストを送り込んだ。あれに対抗するにはこっちもラムダ・ドライバを用いなければならない。現にデカレンジャーロボでさえ、あの通りだ」
高価な実験機を、わざわざ危険な敵地に無人で投げ込んだ理由がこれでわかった。
しかし――
宗介「最初の質問の答えを聞いていません。ラムダ・ドライバとは?」
カリーニン「君には知る必要がない。今の段階では」
宗介「少佐。俺だって初歩的な物理ぐらい知っています。あんな力を操る装置など、聞いたことがない」
カリーニン「当然だ。あれを考えた人間は、この世界には一人もいない」

284暗闇:2005/12/26(月) 23:39:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介「? どういう意味です」
カリーニン「おまえの世代では実感がないだろうが――」
カリーニンの口は重たげだった。
カリーニン「今の兵器テクノロジーは異常なのだ。いくら異星との交流が行われるようになったとはいえ、それはまだ10年も経っていないというのにASやこの艦…中枢となるシステムにコンピュータ等…そして現在の世界の中心ともいえる大都市アーカムシティのみで発達しているという魔術理論…そのどれもが異常に発達した技術だ。
さすがに不自然とは思わんかね?ここまで以上発達した兵器類を……」
日頃、当然のように強襲兵器部隊を指揮・運用しているカリーニンが、こんなことを言うのは驚きだった。
宗介「自分は―――今日、初めてそう思いました」
カリーニン「私はすいぶん前から、この疑問を抱いていた。これらの物はある筈が無い、と。しかし、現にあるのだ。ASなどの現用兵器を支える技術体系。誰が考えたのかはわからないが、理論と技術も存在する。そして、それは社会に受け入れられた」
宗介「………」
カリーニン「だが繰り返しておこう。“こんなものは、あるはずないのだ”」
カリーニンは目線でアーバレストをさした。頼りになる味方だったアーバレストが、今ではどこかグロテスクに見えた。
カリーニン「これらの現用兵器を支える技術体系―――ブラックテクノロジーは一体誰が生み出したのか?というより、どこから来たのか?・・・それが分かるかね?」
宗介「千鳥のような人間ですか?ウィスパードとか呼ばれる……」
カリーニン「それは私の口からは言えん。だが、頭の中には留めておけ」
宗介「・・・ハッ」
カリーニン(もっとも、『ウィスパード』だけではないがな…)
宗介「少佐……?」
カリーニン「……それで、千鳥に関してだが情報部が偽情報を流す事になった。ガウルン達が千鳥かなめを調べたが彼女はウィスパードではなかったと。当面、彼女は安全の筈だ」
宗介「……」
カリーニン「ただし、保険はかけておく必要がある」
宗介「保険?」

285暗闇:2005/12/26(月) 23:45:42 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
翌日
=とある病院=
かなめ「あれ……?」
次に目を覚ますと、かなめは白い枕に顔を埋めていた。
マオ「お。やっと目を覚ましたみたいね」
かなめの横たわるベッドの脇に、看護婦姿のマオが座っていた。
かなめ「ここは……?」
マオ「病院よ。あなたは丸一日も眠ってたの。素性不明の救急車が、あなたを運び込んだのが昨日。打ち身とねんざはあるけど骨折はないわよ」
かなめ「一日も……ところで、あなたは?」
マオ「はは。やっぱり看護婦には見えない?肩凝るのよねー、この制服。まったく、宗介が乱暴なマネするから、あなたに余計な仕事が」
かなめ「宗介?相良君とクルツ君の仲間なの?」
マオ「まあね。……で、とにかく起きたから助言を。いい、かなめ?あなたはあの基地で悪党共に薬をうたれて、そのまま意識を失ったの。次に目を覚ましたら、この病院。その間のことは、なにも覚えていない。ソースケのこともクルツのことも、あの白いASのことも、すべて忘れてちょうだい。
もし、デカレンジャーはともかくあたしたちや“あなたのこと”が表に出たら、警察は当分あなたを家に帰してくれないだろうから」
かなめ「つまりその……『ミスリル』のことは秘密にしろ、と?」
マオ「それぐらいは自由よ。名前くらいなら、日本の軍事関係者でも知ってるだろうから。それより、あなたにお礼が言いたいの」
かなめ「お礼?」
マオ「そう、千鳥かなめさん。あなたは、私の部下とデカレンジャーの命の恩人よ」
いきなり真顔で握手を求められたので、かなめはうろたえた。
かなめ「あ、あたしは別に……」
マオ「いいえ、話はクルツから聞いているわ。あなたがいたから助かったって……」
かなめ「そ、そんな。お互い様ですって…」
かなめはおずおずとマオの手を握った。
マオ「じゃあ、あたしはこれで」
かなめ「あの……!相良君は今何処に…?」
マオ「ソースケの方はもう次の任務に就いたわ」
かなめ「そう……」
マオ「じゃ、さようなら」
マオは部屋を出て行った。

286暗闇:2005/12/26(月) 23:55:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、5分後、学校のクラスメートの面々が病院にどっとなだれ込んできた。
恭子を中心としたクラスの男女10人程と担任の神楽坂先生だ。
恭子「カナちゃん!」
恭子がまっしぐらに飛んできて、かなめに思いきり抱きついた。他の友人たちも殺到して、口々に無事を喜び、集中砲火を浴びせた。
恭子「ほんと、心配したんだよ!?」
風間「僕たちはあのあとデカレンジャーたちに助け出された後、彼らに協力している救出部隊に日本の空港まで運んでもらったんだ」
恭子「で、カナちゃんがここの病院に運び込まれたって聞いて、来たんだよ!」
恵理「ごめんなさい千鳥さん!私があの時、代わりに連れて行かれるべきだったのよ」
恭子に続き恵理先生も抱きついて泣き始める。
かなめ「ちょ……ちょっと、もう。あたし一応病人なんだよ」
???「そうだ。軽い打撲とはいえ安静にするべきだ」
かなめ「そうよ大切にしてよ」
???「デカレンジャーとあの救出部隊に感謝すべきだな」
かなめ「そうね。でも昨日マジでいろいろなことがありすぎて…頭が混乱ぎみに…」
???「命あっての物種だ。問題無い」
かなめ「そうそう。命あってのものだね……ん?」
かなめはそこで気づいた。
聞き覚えのある声。
そしてもう聞けないと思っていた声が確かに聞こえてきた。
かなめ「相良君!!」
そう、相良宗介は確かにそこにいた。
何気なくごく自然な様子で……
宗介「なんだ千鳥?」
かなめ「あ、あんたどうしてココに!?」
宗介「どうしてと言われてもだな……オレは見舞いに来たんだ。土産もほらこのとおり」
宗介はかなめに博多名物『辛子めんたいこ』をかなめの前へ差し出した。
かなめ「一体……どーゆう……」
疑問符だらけのかなめに宗介が顔を近づけ小さな声で囁いた。
宗介「保険だオレは。当分の間のな……」

287暗闇:2005/12/27(火) 11:15:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
一方…アーカムシティでは…
=大十字九郎 探偵事務所=

コンコン

九郎「ん・・・」
ようやく日が昇り始めた早朝…夢うつつである九郎はノックがしたことに気づいたが出ようとはしない。

コンコン

九郎「うぅ〜、今日はもう閉店ですよ〜」

コンコン

それでもなおノックはなり続ける。
九郎「あぁ、もう!しつこいなぁ!」

コンコン

九郎「はいはい、今、出ますよ〜」
観念した九郎がドアを開ける。
九郎「どちら様で?」
ウィンフィールド「失礼します。大十字九郎様であられますね」
九郎「あぁ、はい。あんたたちは?」
長身で眼鏡をかけた男と赤いドレスの少女。
この辺りでは見たことのない組み合わせである。
瑠璃「仕事の依頼です。大十字九郎さん」
そう言ったのは少女の方である。
瑠璃「あなたにこそ相応しい……いえ、あなたにしかできない仕事です」
九郎「オレにしか……とにかく話は中で聞かせてもらうよ。狭くて汚い犬小屋みたいなところで恐縮だけど……」
九郎はそう言って二人を部屋に招きいれた。
当然貧困極まりない九郎はせっかく来た客人にもてなす茶もない。
だが当の二人はそれを気にする必要もなく話を進めた。
瑠璃「わたくしは覇道瑠璃。後ろに控えている者は執事のウィンフィールドです」
瑠璃がそう紹介した後、九郎の思考が一瞬ストップした。
九郎「・・・・・覇・・・道?・・・覇道ってまさか・・・」
瑠璃「はい、おそらくは大十字さんがご想像されている通りの覇道です」
その言葉にさらに呆け顔を見せている九郎。
瑠璃はさらに続けた。
瑠璃「覇道財閥総帥、覇道瑠璃。こう申し上げたほうがよろしかったでしょうか?」
九郎「えぇえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!あ、あ、あ、あなたがあの覇道財閥のぉぉぉぉ!!そ、それで・・・あなたのような高貴で完璧超人のお方がわ、わ、わ、わたくしのようなボウフラにも劣る社会の屑でゴミで塵芥で、むしろ生まれてきてすみませんって遺書書き残して首くくって死ね……な人間に仕事を依頼するですと?」
瑠璃「……謙遜しているのか卑屈なのか皮肉なのか判断に迷う言い方ですね……」
九郎の言葉に呆れつつも瑠璃は一呼吸置いて続けた。
瑠璃「それはともかく、先程も申し上げましたよね。あなたにしかできない仕事だと」
九郎「そ、それは一体……」
瑠璃「魔道書です。魔道書を探して頂きたいのです。それも力のある魔道書を!」

288暗闇:2005/12/27(火) 11:22:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
瑠璃の口調はどこか静かで……だが、熱い何かを秘めているようで……。
九郎も、それを理解できないわけではなかった。なかったのだが……
九郎「ま、魔道書〜?そ……そんな、怪しげなもん、探せるわけないだろ?第一……そう!俺じゃなきゃって理由にもならない……」
彼の顔は、心なしか引きつっていた。
それが、関わるべきではない事を彼は知っている。
嫌に大きな声で、彼は瑠璃に言った。
すると、瑠璃と共にいた執事、「ウンフィールド」が、スーツから手帳を取り出した。
そして、それに目を通しながら、おだやかな口調で言う。
ウンフィールド「誠に恐縮ではございますが、失礼を承知で少し調べさせていただきました」
九郎「調べたって……俺のことを?」
ウンフィールド「左様……。大十字九郎、ミスカトニック大学に入学するも、二年で中退。当時の記録によると専攻は、『考古学』となっておりますが、それは事実ではありません」
九郎「!!?」
瑠璃「大十字さん。貴方が学んでいたのは陰秘学。すなわち、魔術の理論についてです」
九郎は思わず目を見開いて、二人をにらみつけた。
それもそのはずである。確かに、九郎の通っていたミスカトニック大学には、『陰秘学』というものが存在する。
だが、大学側は、その存在を公にしていない、隠しているのだ。
大学関係者ですら、その学科を知らないものがいるくらいだ。
……しかし、少なくとも目の前の二人は、それを知っている。
いくら、一財閥の総帥だからといって、それを見つけ出すとは……。
瑠璃「魔術を識る者にしか、魔道書を探し出せないと聞きます。わたくしたちには不可能なのです。これが、貴方にしか出来ない……」
九郎「ちょっと待った!!」
慌てて、九郎は瑠璃の口をふさいだ。
九郎「俺のことを調べたんなら話は早い!見ての通り、俺は落ちこぼれで、初歩的な魔術ですら使えやしない!!さっきも言ったが、なんで俺なんだ?陰秘学科には、俺よりも優秀なヤツがいるだろう?」
言いたい事を、九郎は全部ぶちまけた。
そして、一息ついてから、再び口を動かす。
九郎「アーミティッジの爺さんにでも、紹介してもらえばいいじゃないか?」
次第に、九郎は冷静になっていく。
だが、瑠璃たちは引こうとはしない。
ウンフィールド「大十字様は、魔導書を閲覧できる位階(クラス)になっていたはずですが?」
瑠璃「今更隠し事など、意味をなしません」
的を得た……というか、事実を言われ、九郎はさらに顔をしかめた。
九郎「あんたら……一体、どこまで俺のことを……?目的はなんだ?なぜ、覇道が魔導書を探す!?」
瑠璃「………」
九郎「後学のために教えてやる!魔導書ってのは外道の知識の集大成だ……素人が、手を出す代物じゃない!!」
怒りというか、焦りというか……九郎の口調は、何か特別な感情を感じさせる。
瑠璃も一瞬黙りこくってしまい、うつむいてしまう。
……が、それは九郎の口調にある、感情を感じ取ったからではなく、何かを考え、迷っているような……そんな感じであった。
そして、俯かせていた顔を再び九郎に向けると、瑠璃は意を決したように言う。
瑠璃「……デモンベイン……」

289アーク:2005/12/27(火) 12:04:25 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=デカベースブリーフィングルーム=
ドギー「久しぶりと言えばいいのだろうか。あれから何年も経っているのに
    貴方方は一つも変わらない。これも……成せる技ですか?」
無明「成せる技ではない。汝らと我らの時間の過ごし方が違うだけだ」
聖夜「でも驚いたよ。あの時の君が今では部下を持つ様になっていたなんて」
ドギーの前に座っている聖夜と無明は懐かしむかのように語っていた
ドギー「あなた方が現れたと言う事は状況は厄介のようですね」
無明「他にも理由はあるが大体はそうだな。今の状況は汝らでも抑え切れる状況ではない
   以前はミスリルと協力をし何とか終えたが次の厄はそれでは収まらぬ」
ドギー「ミスリル以外の者達とも協力が必要と言いたいようですね」
聖夜「その通り。君も知っているね?五人の魔法使いの話を」
ドギー「存じております。だが本当に実在するとは」
無明「魔法使いなど普通は信じる者達ではないからな。だが彼らの協力も必要な時も来る
   中には幼子達の力も必要な時が来る」
ドギー「これからミスリルの所へ向かうのか?」
無明「奴らにも伝えなければならぬ。我らの存在を、そしてこの地にやって来る災厄の存在をな」
無明と聖夜はドギーにそう伝えると姿を消した
ドギーは二人から伝えられた事を含めて今後の動きを考えた

290暗闇:2005/12/27(火) 14:02:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=大十字九郎 探偵事務所=
九郎「デモン?・・・なんだそりゃ?」
瑠璃「デモンベイン。祖父がわたくし・・・いや、アーカムシティに遺された『ブラックロッジ』に対抗しうる最後の切り札です。
『ブラックロッジ』については詳しく説明する必要はありませんね?」
九郎「ああ」
『ブラックロッジ』
主にアーカムシティを中心に暴れる現在の地球で最大最悪の犯罪組織。
その性質はギャングというより、テロリストに近い……しかし普通のテロリストとは違って政治的主張など持ち合わせていないが。
彼らはただ自らの邪悪な欲望のみに従う。
存在自体が冗談のような『悪の秘密結社』。
それが『ブラックロッジ』だ
瑠璃「ブラックロッジが破壊活動の為に用いる巨大ロボットは、科学と錬金術が生み出した脅威。既に治安警察の対応能力を超えています。
加えて、ブラックロッジの頂点に立つマスターテリオンと、幹部達……彼らは本物の魔術師です。
本物の魔術師の恐ろしさは大十字さんの方が詳しいのではないでしょうか」
九郎「……直接お目にかかったことはないけどね。想像はつくよ」
そう、ブラックロッジの恐ろしさはそこにある。
奴らは治安警察、もしかしたら軍の武装をも上回る戦闘力をもった巨大ロボットを用いて、世界を…特にこのアーカムシティを脅かしている。
治安警察の戦力ではそれを追っ払うのが関の山、現在ブラックロッジの巨大ロボットに対抗できるのはデカレンジャーが用いているデカマシーンぐらいである。
しかし、怪重機というブラックロッジの巨大ロボットに勝るとも劣らないロボットを用いるテロリストたちが急増している現在、とてもブラックロッジにまで手を回せる状態ではない。
それでも、アーカムシティがギリギリの線で秩序を守っているのは、覇道財閥が治安維持に関して多額の出費していることともう一つ、デカレンジャーと同等レベルの知名度を誇る程の『正義の味方』がこの街にいる御陰だったりする。
だが、そんな破壊ロボよりさらに恐ろしい存在がいる。ブラックロッジを束ねる魔術師たちだ。
彼らは表立った活動をしておらずその実体は謎に包まれたままだが、彼らに関わった者で生き残った者は一人もいない。
九郎も魔術を多少なりともかじった身であるから分かる魔術師はある意味、軍隊や宇宙警察にも匹敵する脅威なのだ。
彼らが本格的に動き出したら、どうなってしまうのか……これはブラックロッジの恐ろしさをよく知るアーカムシティに住む全ての人間の不安だった。

291暗闇:2005/12/27(火) 14:03:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
瑠璃「アーカムシティはブラックロッジの犠牲者が増えつつあります。覇道としてはこれ以上、彼らの暴挙を許すわけにはいきません。
ですが彼らに対抗できる勢力を我々は保持していません。デモンベインを除いては……ですが」
九郎「それがそのデモンなんたら……?」
瑠璃「その通りです。魔術に対抗できるのは魔術だけ……デモンベインは覇道が持つ技術の粋の結晶。そして祖父、覇道鋼造が導入した魔術理論は必ずやブラックロッジの魔術師たちを討つことでしょう。
しかしデモンベイン起動には魔道書が必要なのです。魔術師が魔道書を用いて魔術を行使するように魔術理論を組み込んだデモンベインの起動には魔道書が必要不可欠なのです」
九郎「なるほど…」
話は理解できた。
だが……どうしたものかと九郎は額に手を当てる。
九郎が大学で落ちこぼれたのは、要するに魔導書の内容についていけなかったからだ。
内容の難解さに、じゃあない。
内容のおぞましさに、だ。
異形の神がどうとか、そういうことが書いてあったと思う。よく覚えちゃいない。むしろ忘れようとしていた。
自分は――恐れたのだ。
魔術の知識を恐れて大学を辞めた自分だ。それなのにもう一度、魔導書と関わりを持つのは気が重い。
瑠璃「デモンベインは祖父の形見であり、希望なのです。わたくしはそれを無駄にしたくない」
澄んだ瞳が九郎を見据える。
九郎(といってもな……あんまりもう魔術とかに関わりたくないんだけどな……後味悪ぃけどここは……)
依頼を断ろうと思ったその矢先、瑠璃はウィンフィールドに指示を送った。
瑠璃「ウィンフィールド、例のモノを・・・」
そう言われて、ウィンフィールドはジュラルミン製のアタッシュケースをテーブルに置いた。
瑠璃「いかに大変かは承知しております。ですから報酬もそれに見合った額をご用意しました」
瑠璃が言い終わってからウィンフィールドはアタッシュケースを開いた。
そこにあるのはビッシリと詰まった札束。
瑠璃「依頼料と必要経費です。お納めください」
九郎の視線は札束に集中している。追い討ちをかけるように瑠璃は続ける。
瑠璃「もちろん、魔道書を発見したあかつきには成功報酬としてさらに倍額を用意します。引き受けてくださいますよね?大十字さん」
九郎「引き受けましょう!」
0.2秒の速さで九郎は即答した。

292暗闇:2005/12/27(火) 14:46:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃、シアトルにあるワシントンレーク湖畔の道を、赤いポルシェが疾走していた。
運転するのはケンだ。
湖面を渡る涼やかな風に、金色の長髪が躍っていた。
サングラスをかけてラフなジーンズ姿だが、清潔感が漂っている。
お洒落を知っている雰囲気を匂わせている。
湖畔のカフェの前に車を止めると、軽快な足取りで湖を見下ろすテラスに向かった。
テラスには、真っ白なテーブルが並んでいる。
その片隅でマガジンを見ていた金髪の女性が顔をあげた。
細面の知的な女性だ。
ケン「イライザ、遅れてゴメン」
ケンは金髪の女性に対し、気軽な感じで手を上げ、挨拶を送る。
昨夜、倉庫の中で厳しい闘いを繰り広げた男には思えない軽い調子であった。
イライザが澄んだ瞳で微笑んだ。
すばやい動作でテーブルまでやってきたケンはイライザの頬に軽くキスした。
ケン「途中でやっかいなことに巻き込まれてね」
イライザ「交通事故?」
ケン「ううん、ちょっと可愛い子と知り合いになってね」
ケンはイライザのとなりの椅子に腰掛けた。
ケン「付き合ってくれって頼まれてさ、断るのにいろいろ手間取った」
イライザ「それで?」
イライザはすでにケンが冗談を言っているのを知っている。
ケン「相手が結構しぶとい奴でさ、予定より時間がかかちゃった。ごめん」
イライザ「そう……」
イライザはケンが格闘家とストリートファイトをしてきたのだと確信した。
イライザ「で、どうだったの?」
ケン「いや、結局は冷たくして泣かせちゃったよ」
ケンは悪戯っぽく微笑んだ。その笑顔はさわやかだ。
イライザは少し悲しげに俯いた。
イライザ「昨夜、連絡が来ないから心配したのよ……こんな心配をまた続けなくてはいけないの?」
イライザの言葉にケンは何も言えない。
「あなたがいつ大怪我をするんじゃないかって……毎日、毎日、気を揉まなくてはいけない。つらいわ……」
なじる口調ではない。心配するあまり、思わず口に出た愚痴だ。
ケンにはそれが痛いほどわかっている。
無闇にストリートファイトをしない。
ケンがそう心に決めたのはイライザと出会ってからだった。

293暗闇:2005/12/27(火) 15:12:37 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
初めてシアトルに来た時、ケンはイライザと出逢った。
暴漢に襲われているところを助けるという、よくある陳腐な出会いだった。
安くて品数の多いスーパーや衣料店などを紹介してくれた。
言葉に不自由なケンに、すすんで快く英語の教師を申し出てくれたのも彼女だ。
ケンの人懐っこさにイライザはすぐに心を開いてくれた。
お礼のつもりでケンはレストランに招待した。
深いつきあいが始まったのはその夜からだった。
イライザは安らぎと温もりを与えてくれた。
格闘技に明け暮れる殺伐とした気持ちを忘れさせてくれる女性だった。
次第にケンの心がイライザに傾いていった。
そして、ケンは少しずつストリートファイトの虚しさを感じだしたのだ。
イライザ「この頃、無益な闘いはしなくなったのに……あなたを毎日のようにつけ狙っていたシャドルーだってもう壊滅したんでしょ、どうして受けて立ったの?」
イライザは潤んだ瞳でケンを見た。
ケン「俺の親友を貶されてな。ついカッとなっちまった」
イライザ「親友ってリュウのことよね。あなたって、いつもリュウのことばかりなのね?」
ケン「そんなことないさ。この頃は別の人のことで頭がいっぱいになってる」
イライザ「え?」
ケン「君のことさ」
ケンはイライザに額をツンと指で突いた。
イライザ「まあ、上手なんだから……」
イライザがプッとふくれた顔をしてケンを睨んだ。
愛する者に対する甘えの仕種だ。
ケンはイライザの怒った顔を可愛いと思った。
―――イライザが望むままに……
―――ストリートファイトをやらずに大会に出場することだけで技を磨いていく。
―――本当にそれでいいのか?
―――再会した時は互いに技を磨いて優劣を決しようと誓い合ったリュウとの約束。
―――その時にリュウに勝てる腕を磨いておけるのか?
ケンの心は乱れた。
―――まっ、いいか、それはそれ、これはこれかもな。
物事にこだわらない性格のケンは心の中でそうつぶやいてイライザの肩に手を回した。

294暗闇:2005/12/27(火) 18:11:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、そのリュウはというと……
=インド・カルカッタ=
埃っぽい駅舎の壁に幾つもの広告が雑然と重ねられて貼られている。
路上に直にしゃがみこんで何やら話している老人がいる。
トラックから粉袋を降ろしている男達の姿が見える。
石のベンチの上で寝ている男はもう何日もそうしているかのようだ。
さらに、路上の風景を隠してしまう程、多くの人々。
―――カルカッタの街は猥雑でゴミゴミしている。
リュウがインドに来て始めに感じた印象だ。
白い空手着姿で背中にザックを背負ったリュウの姿は街に溶け込んでいた。
路地に入ると、人通りは急に少なくなる。
道の隅の方にはテントの布地にくるまった人々がいる。
みんな一様にカネの水さしや器を並べて石段にうずくまっている。
そこを住まいとしているらしい。
日本では珍しい路上生活者だが、こちらでは当たり前の風景だ。
その路地を一台の黒塗りのベンツが駆け抜けて行った。
場違いな感じのピカピカの高級車だ。
車の後部座席にサングラスを掛けた男がチラッと見えた。
ベンツには似つかわしくない服装の筋肉質の男だった。
路上に並べられた水さしのひとつがタイヤに飛ばされ、コロコロと転がる。
―――乱暴な運転だ。
リュウは黒塗りベンツを見送りながらつぶやいた。
ベンツが走り去った奥に石造りの寺院が見える。
そこから男の声が聞こえてくる。
僧侶のような服装の男が石造りの寺院の岩の上に立って演説していた。
周辺をSPが警護している。
政治家か、あるいは思想家であろう。
男の回りにはかなりの群衆が集まって話を真剣に聴いていた。
石造りの寺院の入り口で、SPが入ってくる人々を入念にチェックしている。
―――大物なんだな……
リュウは横目でチラッと眺めながら埃っぽい路地を進んだ。
その時、水さしを抱えた幼い少女が路地の横道から飛び出してきた。
リュウは反射的に身をかわし、少女とぶつかるのを避けた。
少女「わっ!」
少女は驚いた拍子に道の小石につまづいて転んだ。
バシャ!
少女の抱えていた水さしが高い音をたてて転がり、中に入っていたミルクがトクトクと、道にこぼれはじめた。

295暗闇:2005/12/27(火) 18:12:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
リュウ「大丈夫か?」
リュウは急いで転んだ少女を抱き起こした。
ところが少女は返事をしない。
リュウを見ようともせず、地面に飛び散ったミルクをジッと見つめている。
その瞳に涙が滲んでいた。
だが、リュウを非難したり、わめいたりはしなかった。
口元をキュッとしめ、道にこぼれたミルクをただ黙って見つめているだけだ。
声を荒げて泣くという素振りは微塵も見せない。
幼い頃からあらゆる不幸という不幸を体験した者だけが知る虚無感。
ほんの些細な悲しみでは泣いたりしない数々の悲惨な体験。
泣くという行為の虚しさを知りつくしているかのようだ。
それは数限りない辛酸を味わった者だけが示す態度だった。
リュウは一瞬、少女の気丈な態度に圧倒されかかった。
リュウ「まいったなあ……」
リュウは不器用に髪を掻いた。
少女はリュウのその言葉にも反応せずに路地の前方に眼を移した。
少女の視線の向こうに石段にうずくまる中年の女がいた。
病気なのか、うずくまったまま動こうとしない。
リュウ「そうか、お母さんのミルクか」
少女は転がっている水さしを拾い、その中に覗き込んだ。
リュウはザックの中に手を突っ込んだ。
リュウ「悪かったな。これでもう一度ミルクを買ってきてくれるか」
ザックの中からクシャクシャのルピー札を取り出し、少女に手渡した。
少女「……?」
少女の瞳に一瞬、戸惑いの色が浮かんだ。
リュウ「お母さんにミルクを……」
少女は初めてリュウの眼を見て、はにかむように笑みを浮かべた。
リュウ「さあ、急いで!」
リュウに促され、少女はコクリとうなずくと来た道を戻っていく。
その後ろ姿は普通の少女にしか見えない。
リュウは石段にうずくまったままの女に頭を下げた。
女はリュウの後ろ姿に感謝の眼を投げかけ、力無く何度か頷いた。
その時、近くの西の方角にある広場からどよめきが起こった。
男「格闘だ! 大男とヨガの行者が闘い始めるぞ!」
バラバラに西の広場の方に走り出す人々の姿が見える。
リュウ「格闘……?」
リュウは興味を抱き、広場の方に進んで行った。

296ゲロロ軍曹:2005/12/27(火) 19:37:27 HOST:p0018-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・病院=
かなめ(ほ・・、保険?)
宗介の言葉を聞いて、少し呆けたかなめだったが、すぐにその意味を理解した。つまり、相良宗介軍曹は、『このまま自分と一緒に学校に通い、万が一の危険から自分を護ってくれる』、ということを・・。
かなめ「・・って、よくもまあ・・。」
普通こういう場面では、『ありがとう』とか、『迷惑をかけた』とか、『これからよろしく』とかいうべきなのに、そんな言葉もなく、いつもどおりの何の飾りもない口ぶりが、無性に腹立だしかったが・・、なぜかそれが、今の彼女にはとても、心地がよかった・・。
そして、かなめは大きく息を吸い込んで、宗介にお説教をしだした・・。
かなめ「・・やい、『ソースケ』!あんたには色々と文句が言いたかったのよ!!よっくもあの時・・(ガミガミ・・)」
突然怒り出したかなめに対して、宗介も、クラスメートや担任の恵理先生も驚いた。しかし、彼らはふと気がついた。彼女、千鳥かなめの相良宗介という青年に対しての呼び方が、『相良君』から『ソースケ』に変わったことを・・・。

297ゲロロ軍曹:2005/12/27(火) 20:04:35 HOST:p0018-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=新東京国際空港=
???「ん〜〜!!久しぶりの日本だなぁ・・。」
背中に重そうなリュックを背負った、どこか不思議な感じのする青年が背伸びをしながら言った。
彼の名前は『五代雄介(ごだい ゆうすけ)』。世界のいろんな所を旅する、冒険が大好きな青年。飄々とした性格をしており、その内には強い意志と正義感を秘めている・・。
そして、彼にはもう一つ秘密があるのだが、ここではあえて伏せておく・・・。
雄介「さて、と・・。おやっさんやみのり、元気にしてるかな?」
しばらく会っていない、自分の妹やお世話になってる喫茶店のマスターのことを思い出しながら、彼は空港を出て、とりあえず彼らのいる喫茶店『ポレポレ』へと向かおうとしていた。しかし・・
?「きゃあああああ!?」
雄介「!?」
突然、どこからか女性の悲鳴らしきが聞こえた。そして、それを聞いて、五代雄介は無視をすることが出来ず、次の瞬間には、声のした方向へと全速力で走っていった・・。


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