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スーパーRPG大戦α

398暗闇:2006/04/04(火) 17:38:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「こら、もうっ、それ美貴ちゃんに教えちゃっただろう? ぼく、困ってるんだぞ」
美沙「えー、そりゃそうでしょ。だって元祖はあっち――」
と、今度はおチビさまが、あわわ。
大学パパは、不審な眼差しで顔を寄せ、
鷲士「……やっぱり昔からの知り合い? 彼女のこと話してる時は、な〜んかきみも樫緒くんも様子がおかしいんだよね。どういう関係なの?」
美沙「う、うるさいなぁ。女のプライドを訊くなんて、男らしくないよ、鷲士くん!」
鷲士「……言い訳の仕方まで似てるんですけど」
美沙「うっ、だからその、あれよ、あれなのよ、うん! ま、難しい話はおいといて――今日はごくろーさま。とりあえず、これでも飲んで。ねっ」
アハハ、と彼女は背後からドリンク剤を出すと、鷲士の前に置いた。
鷲士「あ……う、うん。美沙ちゃん、ありがとう」
ノイエを見ながら、ゴクッと一飲み。
――鷲士は、あっさりひっくり返った。
寝息を立て始めたパパを、娘は、フッ、と冷笑して見下ろし、
美沙「まだまだ甘いわね、鷲士くん。なんだろーと、ミュージアムに好き勝手させるワケにはいかないの。連中の目的にも興味あるし」
ノイエ「ちょ……ちょっと、大丈夫なの?」
しかし美沙は、少し不安そうに鷲士のもとにしゃがみ込むと、
美沙「ヤダ、でも心配になってきちゃった。どーしてこんなに簡単に引っかかるんだろ? ちゃんと大学卒業できるのかなぁ」
ノイエ「……ミサ、あなたは本当に娘?」

399暗闇:2006/04/07(金) 14:22:41 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=1604年・日本=
ここは名も無き農村。豊かとは言えないが、かつてこの国が戦国の世に晒されていた中も村の人々は互いに助け合い、それを乗りきってきた。
今年は幸いなことに天候にも恵まれ、豊作であろう。村の子供達も餓えさせずに済む……そんな時だった。
村の若者の一人が、血相を変えて村の長老の家に駆け込んできた。
何事かと思った長老は若者に聞くと、若者は「すぐに村から逃げろ。女子供を優先させて逃がせ」と言ってきた。
どういうことだ?と長老は若者に何があったのかを詳しく話させようとした時、悲鳴が上がった。
それを聞いた長老と若者が外に出ると、村の家々がばっさりと切断され、大多数の村人たちが鮮血と共に、その体を宙に舞わせていた。
その惨劇が信じられない長老は呆然とするなか、若者は「遅かったかと」その心は絶望の感情に支配されていた。
何が、何が起こっていると…長老が老いた体に鞭を打って騒ぎの中心へと足を運ぶ。
そして、老人は見た。
蒼い……蒼い鬼が、村を……村を襲っている。
老人の瞳に映る蒼い鬼……それは蒼一色の甲冑を身に纏い、その腕に握られた異形の大剣を持って、村人達を一振りで薙ぎ払っている。
蒼い鬼は、たった今家族を護ろうと立ちはだかった男を剣を持って一刀両断する。
男の後ろに立っていた彼の妻もその余波によって体が左右に分かれ、粉々に吹き飛ぶ。
そのあまりの光景に失禁していた子供が無惨に殺された父と母の名を叫ぶと、しかしその蒼い鬼は子供目がかけて大剣を突き刺し、それを振り払うように中へと投げつけた。
物凄い力によって吹っ飛ばされたその子供の体は、やがて近くの木に叩きつけられ、華奢な体はグシャッと嫌な音を立てた。
昨日まで笑って村中を走り回っていたその子供の頭は激突の衝撃で粉々になり、腕は引きちぎれ…もはや原形を留めていない。
始末を終えた蒼い鬼は…長老の方へと体を向ける。
老人が悲鳴を上げるその前に、自分の目に見える景色が真紅に染まる。それが老人の目に映った最後の色であった。
???「もっとだ…もっとだ……!」
その鬼は、そう言うと次の獲物を求めて剣を振りかざすのだった。

その様子を白いローブに身を包み、大鎌を携えた長身の男が見ていた。濃い褐色の肌、逞しい顔立ち、片方の金の眼を光らせてその村の悲劇を眺めている。
???「悪夢の名を冠す蒼い騎士……豊潤な魂を求め、全ての生命<いのち>を絶望の淵へと落としつくすか……」
その男……ザサラメールは呟いた。
今、村人達が蒼き鬼と呼び恐れる者の正体……ヨーロッパでは蒼騎士と恐れられたナイトメアはこの東の果ての島国に来て最初に立ち寄ったこの村を見つけるとすぐさま襲いかかり現在の虐殺劇を展開していた。
島国であるこの国はヨーロッパと比べると村も少なく、最近は通りかかる旅人などを襲ってその魂を喰らうという小規模な“食事”しか取れなかった蒼騎士は餓えていた。
それ故に、このような小さな村でもアレにとっては久々のご馳走なのだ。
ザサラメール「暴れ狂え、そして魂を喰らい続けるがいい……全ては我が呪われた運命を断ち切る為に……」

400暗闇:2006/04/08(土) 14:55:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジークフリート「!!」
同じ頃、ジークフリートの右腕になにやら疼きのような物が奔った。
かつて、邪剣を握っていたこの腕が自分の意志に反して、襲いかかってくるような感覚が邪剣から解放された後から度々あった。
ジークフリートは右腕を押さえつけると、必死で言い聞かせる。
ジークフリート「オレはジークフリート・シュタウフェンだ。ナイトメアじゃない……ナイトメアじゃない……」
言い聞かせると共に、腕のそれはやがて収まっていき、先程の疼きは嘘のように消え失せる。
ジークフリート「ここの所……ヤケに疼くな」
最近は、この疼きが前にも増して多くなった気がしていた。
新たな邪剣が産まれたこの国に来たせいなのか、それとも……
ジークフリートはそこで頭を振りかぶり、答えは前者の方だろうと考えた。
後者の方は考えられない……奴はあの時に……
???「ほぉ、こんな所に異人か……珍しいこともあるのだな」
振り向いた先には、褐色の肌が特徴的の無気味な大男が居た。

401暗闇:2006/04/29(土) 23:44:08 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジークフリート「なんだ、貴様は?」
黒蠍「おっと申し遅れた。我が名は鬼道ファミリー、三彩衆が1人黒蠍……この国最強の殺し屋よ」
ジークフリート「それがどうした?」
ジークフリートの明らかに興味なさげの感情を孕んだ即答に、プライドの高い黒蠍のこめかみを引きつらせた。
黒蠍「まあ、この国に来たばかりであろう……拙者の凄さがいまいち理解できんかもしれんのもわかる……
が、もう少し口に気を付けた方がいいぞ……本来なら先の一言で貴様を殺している所だが拙者は今はとても機嫌が……ってどこへ行くか!!」
話の最中に立ち去ろうとしていた大剣の騎士を怒鳴りつける黒蠍。
一方、呼び止められた当の騎士は迷惑極まり無さそうな目つきで相手を睨み、
ジークフリート「俺は今は機嫌が悪いんだ。さっさと失せろ」
黒蠍「貴様……ここで死にたいようだな」
黒蠍はどこから出したのかは不明だが、その手に針を握る……ついにその怒りが頂点に達したのだ。
黒蠍「我が鋼鉄尖の餌食になるがよい!!」
黒蠍が両手から複数の鋼鉄尖を素早く投げつける、それは人間の知覚能力では見切る事は不可能であろう……しかし、それはあくまで常人ならでの話である。
キン、カキン、カキン…
黒蠍「な!?」
ジークフリートは黒蠍のそれを上回る速さで鎮魂歌<レクイエム>の名を冠した愛用の大剣<ツヴァイハンダー>で鋼鉄尖全てを容易く弾いていたのだ。
黒蠍「なんと……鬼眼の狂以外で我が鋼鉄尖を防げる者がいようとは……」
ジークフリート「最初で最後の警告だ……俺の目の前から今すぐ消えろ」
黒蠍「なにぃ!?」
ジークフリート「今はなるべく人間を殺めないようにしているが……貴様のような救う価値のない人間は怒りの弾みで殺してしまいかねないからな……もっとも生きていられたとしても二度とその針が握れないようになるだろうな」
黒蠍「舐めるな!! 我が奥義をもって仕留めてくれる!! 貴様がどれほどの使い手であろうと、数百の鋼鉄尖は防げまい!!」
その瞬間、黒蠍が唸り声を上げ、なにやら闘気のようなものを沸き上がらせる。
やがて、その喉が風船のように大きく膨らんだかと思うと、同時に黒蠍の口が開いた。

――秘奥義 数多死極!!!――

黒蠍の口から機関銃の如く、大量の鋼鉄尖が発射され、それがジークフリートに目がけて襲いかかっていく。
が、ジークフリートは全く動じた様子もなく、手にした愛剣を針の嵐に目がけて振りかぶった。
すると、針の嵐は瞬く間に薙ぎ払われ、黒蠍も深い斬撃を刻まれると共に吹っ飛ばされた。
黒蠍「があああああ!!」
ジークフリート「だから言っただろう、俺の前から消えろとな」
ジークフリートはそう吐き捨てると、黒蠍には目もくれずに背を向けて、その場から立ち去った。

402暗闇:2006/04/30(日) 01:24:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=異世界 某宇宙空間=
かつて、この世界の人類がゾハルという謎のエネルギー機関を発掘したとき、それと同時に十数基の奇妙な物体が見つかった。それは全長数メートルにも及ぶ巨大な脳髄の形をしていた。この構造体のことを<アニマの器>と呼ぶ。
人類は長い研究の結果、この遺物を巨大機動兵器に組み込み、その構造体に潜在する膨大な力を引き出す方法を発見したのだ。
この機構を組み込んだ機体は、もはやA.M.W.Sとは別格の兵器と見なされ、畏怖の対象をこめてE.S.と称される。その性能はE.S.一機で一星系の軍隊とゆうに匹敵するとまで言われた。
そして、そのE.S.シメオン(Simeon)のコックピットで、乳白色の髪の男が狂気を湛えた紫の目を見開いていた。
14年前、U.R.T.V.も精神連鎖でウ・ドゥに相対したあの日、自分を包み込んだあの感覚――生きながら進化していくような激痛と快楽を己の内に想像しようとし、しかし、今はまだかなわなかった。
スクリーンに映る外は漆黒の宇宙だった。眼下に遠く巨艦……クーカイ・ファウンデーションの姿が浮かんでいた
その男、アルベド・ピアソラは愉悦の笑みを浮かべ、それを眺めていた。
アルベド「ネズミ共は網からすり抜けたか……」
先程、U−TIC機関が作戦でクーカイ・ファウンデーションが星団連邦所属艦ヴォークリンデへ攻撃を行ったという偽装工作映像を流し、無実の罪を着せる事によってペシェ(MOMOのこと)を掌握しようとしたが、向こう側にある対グノーシス用アンドロイド、KOS−MOSのメモリーデータにより結局その冤罪は晴らされてしまった。
もはや、強硬手段に出るしかないと踏んだU−TIC機関は“あるもの”を使用することを決定した。
アルベド「遂に聞くかあれを……あの“歌声”を……見物だぞ、フハハハハハハ!!」
コックピット内でアルベドが哄笑を上げる、狂気に満ちたその姿を前部座席ナビシートに座る肌の浅黒い白髪の少女が不安そうに見つめていた。
アルベド(さあ、喜劇の始まりだ……)

=クーカイ・ファウンデーション=
Jr.「これは!?」
Jr.の頭の中に、甲高い悲鳴のような声が聞こえた。神経がきしむ。頭の中に響き渡る声は穏やかに調子を上下し、雑音がその主旋律をくるんでいる。
この音、否…この歌は14年前の……

ケイオス「いけない! 歌わせちゃダメなんだ! その歌は!!」
そう、それはネピリムの歌声。かつて人々を恐怖の底へ叩き落とした悪魔の歌声。

そして、宇宙空間ではある異変が起こり始めていた。
歌声に導かれ、暗い宇宙に光の穴が生じる。その穴が爆発的な速度でその数を増やして行き、そして穴からは半透明の怪物たちがその姿を現した。
その怪物は魚類のようなものや人型に近いものやら、鳥類に近いものやらと様々だ。
その怪物郡、この世界の人類を脅かす謎の存在……グノーシスはクーカイ・ファウンデーションをめざし進行を開始した。

403飛燕:2006/05/04(木) 23:44:36 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.67]
=クーカイファウンデーション=

シオン達の居た公園へと舞台は戻る。

虚数空間に存在するグノーシスにとって、壁や遮蔽物など無いに等しい。
侵入は正に容易といえたであろう。
だが、彼等は知らなかった。いや、アルベドから教えられていなかった。
自分達の存在を確実なものへとさせるシステムを持ったアンドロイドや人造人間達が居ようとは・・・。

KOS−MOS「R・SPAINE」
右腕をハンマー状へと形状変化させると、跳躍。
敵の懐に飛び込み、その体形からは信じられない様な力で一瞬にしてゴーレムの頭部を潰した。
耳障りな悲鳴が上がる、と同時に悲鳴の主は塩化ナトリウム・・・粉塵と化した塩に成り果てた。
が、それには目もくれずに彼女は目前に控える20体以上のグノーシス<トロール>の軍勢へと2つの赤外線カメラを向けた。
KOS−MOS「・・出力、60%を維持。高速機動状態<ブースト・モード>、起動」
チュイン、と何かが作動する音と共に彼女は全身の駆動モーターと小型ブースターの制限を解除した。
その瞬間―――。
ぐん、と周囲の時間が遅くなったように感じる。
繰り出される巨腕の攻撃も、小型のグノーシスの口から発射されるレーザーの発射角度もはっきりと、まるで止まっているかのように見える。
その下を潜り抜け、上へと跳躍して、接近し肉薄する。
KOS−MOS「R−BLADE」
ぼそりと呟き、両の腕をブレードへと形状変化させるとその腕を振るった。
斬―――。

切る。
斬る。
切る、斬る。
切る、斬る、斬る。

腕を。
足を。
項を。
顎を。
脇腹を。
胸殻を。
肩を。
背中を。
腿を。
首を。
顔を。

ただ只管に断つ。

404飛燕:2006/05/04(木) 23:47:39 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.67]
裂傷から白い結晶が噴出し、たちまち辺りは白く変わっていく。
雪の中を舞うように切り裂くその姿は機械的な美があった。
抑制され、いかに無駄に動かずに標的を倒すかという思考<プログラム>を優先して行なうのだから、動きに無駄が無さ過ぎて逆にパターン的とも言える。
だが、それを考える間も無く次々とグノーシスは塩の塊となり、四散していった。
冷却の為に脚部の冷却液が蒸発し、大量の蒸気が巻き上がった。
全身各所の制限解除を解いたからである。

KOS−MOS「シオン、目標勢の76%の消滅に成功しました。次の標的へと移行します」
事務的な物言いとは裏腹に白煙漂う中、既に彼女の両腕にはヴェクター社製の27ミリガトリング砲という凶暴な物へと装備変換されていた。
シオン「わかったわ、KOS−MOS!こっちは大丈夫だから!」
後輩のミユキ・イツミが開発した個人携行型多用途兵器システムM.W.S.と呼称される手甲型の兵器が、地面から湧き出てくるグノーシスを捉えた。
シオン「ゴブリン!?・・くっ、熱攻撃は余り有効的じゃないんだけど・・仕方ない!」
M.W.Sに搭載されている穿熱爆薬を用いた一点爆撃兵器。クラッカーを”固着”させたグノーシス<ゴブリン>の腹目掛けて放った。
派手な爆音と共に、シオンの身体がに後退した。
力の限り踏ん張っているにも係わらず微動だするという事は反動がそれだけデカイという事である。
そして、圧倒的火力を凝固、光弾へと変じさせた”それ”は容易くゴブリンの腹に大きな風穴を開けてみせた。
ロケット弾3発連続発射並みの威力を正面から受け止めたのだから、完全によろけてしまっていた。
クラッカーを発射した際の硝煙によって前髪がやや焦げたらしく、額の辺りからなんともいえない焦げ臭いにおいが鼻孔を刺してくる。
が、それに我慢しつつシオンは可愛らしくそして頼もしい援護部隊の名前を呼んだ。
シオン「今よ、MOMOちゃん!」
ふらついて隙だらけなゴブリンの背後に回った小さな少女はエーテルサーキットと呼ばれる、一種の魔方陣を作り出した瞬間、その魔方陣はゴブリンの足元へと空間転移した。
MOMO「ミラクルスター!」
最後の詠唱文を唱えた瞬間、魔方陣が巨大化。そしてそのままゴブリンを飲み込むと四方八方から魔力の爆発が起き、最後には星型の巨大な魔力の塊がゴブリンを包みそのまま四散した。

405飛燕:2006/05/29(月) 23:34:50 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.224]
=クーカイ・ファウンデーション=

巡礼船団を触れるだけで塩に戻す。



そんな奇想天外破天荒な特技を持った人間など、果たしてこの世に居るのであろうか?

いや、修練を積み、術を極めれば或いは可能やもしれない。

もしくは、エーテル技術が後、0.5万年分ほど進歩すれば、一般人でも出来ない事は無いだろう。

しかし、世の中は広い。

それが銀河単位ともなれば、一人くらいは居たりするのである。

尤も、それが果たして、筋骨隆々の男でも、仙人みたいな人間でも無かったりする。

例えば・・・小麦色の肌と童顔が特徴的で大人しそうな少年とか―――。



少年に覆いかぶさるように漆喰色のグノーシスが腰を屈め、飛び上がった。
だがそれ以降、彼等は全く動こうとはしなかった。
約、半泊ほど経過したその時。
積み木が崩れるように地面にグノーシスは床に倒れた。
倒れた瞬間、皮膚が弾けて、肉があるであろう部分が剥がれ落ちた。
否、それは肉の形状をとどめておらず、砂状になって朽ち果てていた。
そして、白い結晶の粒子の中から少年が何事もなかったかのように、肩に乗っている塩を払った。

そして、少年の前方では奇妙な現象が起こっていた。
大量のコインが他のグノーシスらを取り囲むように宙を舞っていたかと思うと、一斉にコインの表面が弾けたのである。
更に奇妙なのは、その弾けた箇所の直前上にあった物全てが一斉に見えない手で殴られたかのように吹き飛んだのである。
否、直線状にあった地面には何かによって穿たれた痕があった。

嵐の円舞曲

そんな呟きが辺りに響き渡ったと同時に、不条理な方法で全身蜂の巣にされたグノーシス達は一斉にざぁっと崩れ落ちた。
ケイオス「Jr.大丈夫かい?」
先ほどグノーシスを塩化ナトリウムに変えてのけた少年は、この奇妙な現象を引き起こした者の名前を呼んだ。
直後、少年の隣にあった建物のドアが勢い良く開いた。
Jr.「あったりまえだって、ケイオス・・・・にしても、ここのコイン駄目だな。一発でお釈迦になっちまう・・」
『CASINO』と小さく書かれたコインを一枚、ケイオスに放りながらぼやいた。
Jr.と呼ばれた少年の腰には2丁の拳銃がベルトに差し込まれていた。
一方は、レシーバーの下部にある筈のLAMを除去し、代わりに拳銃用のストックを装着させ、インディゴブルーのフレームを基とし、金縁で象った鼠のエングレービングが中々お洒落な拳銃・・・アングリーキャンベリー。
もう一方は、トカレフと称されていた古式銃である。
一度だけJr.は、それの模造品で<54式拳銃>と呼ばれる物を購入した事があったが、直ぐに返品した事がある。
工作精度がすこぶる悪く、1,2発ほど試し撃ちをしてみただけで、弾詰まり。
しかも、少しの衝撃で暴発してしまったのだから始末に終えない。
安物買いは銭失いという事を学ばせて貰ったのは、言うまでも無い。

406飛燕:2006/05/29(月) 23:35:51 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.224]
ケイオス「そういえば、アレンは大丈夫かな?避難したそうだけど・・」
Jr.「あいつなら大丈夫だろ?若干、ヘナチョコだけど逃げ足だけは俺達でも勝てないぜ?」
全然フォローになってない気がする、とは口にはしなかった。
やんわり愛想笑いを浮かべた。
つられて頬を綻ばせたJr.だったが、直ぐに真剣な表情に変わり、2門の銃口をケイオスの顔の前につきつけた。
と、同時にケイオスは横っ飛びに跳躍した。
足元で、何かが爆発する音が聞こえたが、ケイオスは正体を知っていたし、Jr.が乱心したとも思ってもいなかった。
前転して、体勢を整えて後ろを振り向くと、見えない手で殴られたかのように頭から地面に叩きつけられているゴブリンの姿があった。
Jr.「ちぃっ!まだ居やがったのか!」
舌打ちする少年の視線を追ってみて、ケイオスは顔には出さなかったものの少しだけ狼狽した。
ケイオス「これは・・・ちょっと、弱ったね・・」
律儀にも、ケイオスとJr.の会話が終わるのを待っていたらしく、2人の後方を除いてぐるりとゴーレムやグレムリン達が取り囲んでいた。
Jr.「・・装填させてくれる暇くらいは、くれねぇかな・・」
ケイオス「うん・・・これは、一旦引いた方が良いかな」
逃げる算段をつけない?と、さりげなくケイオスが誘ったその時であった。
???「Jr.、ケイオス、下がっていろ!」
突如、野太い声が2人を逃げるよう声をかけた。
拡声器越しから言ったらしく、微妙にエコーがかっていた。
だが2人は言われた通り、素直にその場から引き下がった。
直後、2人の居た場所から3歩前の床が突然、爆発した。
否、膨大な熱量により、床に用いられている金属が融解、蒸発した為に爆発したかのように見えたのである。
不条理な方法で蒸発していく金属と共に、吹き飛んでいったグノーシスの残骸と黒煙の中、ゆらりと影が動いた。
ケイオス「・・助かったよ。正直、僕は一対一なら大丈夫なんだけど・・」
やんわりとケイオスは影にお礼を述べた。
???「気にするな。それに”遅刻”した俺が悪いのだからな」
Jr.「そうだぜ、オッサン。幾ら、調整に時間がかかるからって遅刻してきてもいいってワケじゃないぜ?」
オッサンと呼ばれ機嫌を悪くしたのか、仏頂面のオッサンはこめかみをひくつかせながらJr.を睨んだ。
???「Jr.・・・俺はまだ30代・・いや、正確にいうと、もっと歳を重ねていたな・・」
Jr.「下手したらもっとじゃん」
肩をすくめ、大して詫びた様子もなく言ってのけた。
ふと、そこで何かの遠吠えらしきものが3人の耳に聞こえた。
ケイオス「・・ジギー、ケイオス、2人共・・・・どうも次が来たみたいだよ・・」
気を引き締めるかのように唇をやや噛み締めつつ、ケイオスは黒いライダーグローブの裾をきゅっと締めた。
直後、崩壊音と共に崩れ落ちるビルの向こう側からゴーレムの腕が突き出されていた。
Jr.「ちっ!・・慰謝料と修繕費はたっぷり請求するぜ!!」
呼びもしない傍迷惑な珍客達に悪態をつきながらもJr.は手中の拳銃の空薬莢をきっちりと廃莢し、次の弾丸を装填し終えた。
ジギー「そう言いながら、趣味に回すなよ」
先ほどのオッサンの仕返しとばかりに、ジギーはJr.の手中の物へと視線を向けた。
ぐっ、と忌々しそうな目でJr.は、先行していったジギーの背中を睨んだ。
Jr.「へっ!誤射しても、謝らねぇからな!」
そう悪態をついた直後、ジギーの”重過ぎる”ミドルキックで吹き飛ばし、上体を宙に舞わせつつあったグノーシスの目が突然、破裂した。
背後から火薬の炸裂する音と、耳元で風が逆巻きながら何かが走りぬけたがジギーはそれが何なのか熟知していた。
なのでジギーは別段驚いた様子もなく、冷静に次の相手に移行していた。
今の風の正体は、Jr.の手に収まった古式拳銃から放たれた弾丸である。
ジギーと比べ、一撃一撃が威力は低いが、彼のその一撃は正確無比にまでグノーシスの頭蓋を貫き、頭だけ一足お先に塩の塊と化した。
一秒遅れで、体の方もようやっと認めたらしく、地面に崩れ落ちた。
ジギー「誤射する程の腕前ではないだろう?」
信頼しているからこその、悪態の付きあいであった。
でなくばこうして、今更にのんびりと野暮な皮肉を言ってのけたりする筈がなかった。

407暗闇:2006/06/02(金) 15:03:14 HOST:kvc.iuk.ac.jp
グノーシスとシオンたちの激闘が続く中、クーカイ・ファウンデーション内ではある異変がおき始めていた。
この安定された世界の背景が歪みだし、蜃気楼のごとく揺れ始める。
あまりにも微弱なそれは徐々に大きくなりつつあり、やがて……
MOMO「何これ……?」
シオン「どうしたの? MOMOちゃん」
KOS−MOS「シオン、現在謎の空間歪曲が発生し始めております。早急に戦闘を終わらせ……」
KOS−MOSの警告を発するも次の瞬間、その“ゆらぎ”は彼女たち、ここから離れた位置にいるケイオスたちをグノーシスごと包み込んだ。
全てが白に染まり、それが晴れる頃には……そこはまるで最初から誰もいなかったかのように静かで、そこにいた者たちの気配も欠片もなく消え去っていた。

408暗闇:2006/06/02(金) 15:21:33 HOST:kvc.iuk.ac.jp
=アーカムシティ=
沙耶「成り立てホヤホヤだってのに、よくここまでできたわね。感心しちゃうわ」
九郎「そのホヤホヤに対してどうしてここまでされなきゃいかんわけ?」
九郎はアルからの助言に従いつつなんとか撃破した鎌鼬が地に付している。
沙耶「では、次のはどうかし……ん?」
九郎「おい、なにいきなり黙って……」
アル「――待て。何か聴こえないか?」

……

アル「――地響きか。こっちに近づいてくるぞ」
九郎「へっ? いや、俺には何も……」
そう言った矢先だった。
……確かに聴こえてくる。
しかもだんだん大きくなってる。
地面が地響きに合わせて、揺れ出し始めた。
近くに転がるアスファルトの破片やら、マシンガンの空薬莢やらがカタカタ振るえている。
まるで巨大な大質量の何かが、こっちに向かって歩いているような――
九郎「……本当だ。今度は何だ?」

409暗闇:2006/06/02(金) 15:23:52 HOST:kvc.iuk.ac.jp
逃げ惑う人々の悲鳴と絶え間なく続く地響きと時折聞こえる砲声、爆音の混声合唱。
阿鼻叫喚の――それは決して、この街において珍しいことではないのだが――人々の波を掻き分けるように治安警察の部隊員は動き回り、大声を張り上げ、指示を飛ばしている。
ストーン「目標は建築物を破壊しながら、スラムの方角へ進行中!
くそっ、『ブラックロッジ』め! これ以上、この街で好き勝手やらせるものか!」
ネス「ストーン君、気張ったところで俺らじゃ奴らをどーすることも出来んてって。
デカレンジャーやGGGもそれぞれの大事件で今回もここまで手は回せないそうだから。ここは例の『正義の味方』に任せて、俺らはさっさとトンズラしようや」
ストーン「ネス警部! 貴方は市民の財産が理不尽にも破壊されているのを見て、何の憤りも感じないのですか!?
あまつさえ、どこの馬の骨とも知れぬ輩を頼りにするなんて、なんと嘆かわしい!
本官は警察の使命に命を捧げた身! たとえ、この身が砕けようとも正義を遂行するのが本懐であります!」
ネス「心意気は立派だけどさ……無駄死にしたって誰も喜ばんよ。
俺も今月レースでスっちまってさ、香典払う余裕ないのよ」
ストーン「ネス警部! 貴方という人は――」
ストーンの怒鳴り声は爆音に遮られた。遠くで高層ビルが土煙を上げながら、崩れ落ちてゆく。
土煙と飛び散る瓦礫の向こう、立ち並ぶ高層ビルよりもなお巨大な威容が聳え立っていた。
ストーン「来たか! 『ブラックロッジ』の破壊ロボ!」

410暗闇:2006/06/02(金) 15:24:54 HOST:kvc.iuk.ac.jp
――もし、アーカムシティに暮らす者以外の誰かがこの光景を目の当たりにしたら、何の悪い冗談だろうと思うだろう。
自分は夢を見ているのではないかと疑い、次には自分の正気を疑うだろう。
それくらいに出鱈目な、滅茶苦茶な、荒唐無稽ここに極まる大事件の光景だった。
倒れるビルの向こう、今も進路上のあらゆる障害物を押し潰し、倒壊させ、行進する破壊の使者。その威容の正体は――途方もなくドデカいドラム缶というべきか。
ズングリした、その途方もなくドデカいドラム缶の下には不格好な脚が生えている。
どう考えても自重を支えられそうにない短足だ。
どう考えても自重を支えられそうにない短足だが……ちゃんと立っていた。あまつさえ歩いていた。
もう、笑うしかなかった。
重い腕を振り回す。
ドリルが唸り、砲口が火を噴く。
そのたびにビルは粉砕され、爆発する。
そう。それは出鱈目で滅茶苦茶で荒唐無稽であまつさえ不格好だったが――確かに破壊の権化であった。
そう。この驚嘆すべき巨体こそ、この戦慄すべき破壊力こそ、悪名高き『ブラックロッジ』の象徴、比肩するもの無き『力』そのもの。
――破壊ロボ。
そして破壊ロボを生み出し破滅と恐怖をばら撒く、呪われた頭脳。
そう。彼こそ、彼こそが、かの天才! 悪の天才! その名も轟く――
ウェスト「ドクタァァァァァァァァーーッ・ウェェェェェェェェストッッッッ!
ふはははは! 恐れ入ったか! これこそ吾輩の本当の実力である!
先程はちょっぴり油断しただけであり、まあ、そんなドジッ娘なところが萌えと言うか
だけど、とっても努力家で、ひたむきにガムシャラで真っ直ぐなそんな吾輩が好き。これが若さか」
恍惚に浸るドクター・ウェストの瞳に炎が宿った。
ウェスト「大十字 九郎とか言っておったな! この天才! ドクター・ウェストが味わった屈辱! 倍返しにしたうえにお釣りは取っといてもらうとしよう!
レッツ、JAM!」
無数の砲口が唄うが如く吼える。
ギターの音色に乗って破壊が広がっていく。
ストーン「おのれ! 本官が相手だ、破壊ロボ! たとえ街は破壊できても、治安警察の正義は壊すことはできないぞ!
征くであります!」
ネス「おいおい、装甲車を勝手に……早まるなよ。ストーン君ーっ」
ストーン「うぉぉぉぉぉぉ! 治安警察万歳ーーーーっ!」
ベギャ
ネス「あー……ありゃ死んだかな?」

411暗闇:2006/06/02(金) 15:30:03 HOST:kvc.iuk.ac.jp
地響きの正体は、すぐに判明した。
空も覆い尽くしそうな巨体――まるでブリキのオモチャを何の酔狂か、まんま巨大化した、人をバカにしたようなシルエット。
九郎「『ブラックロッジ』の破壊ロボ!」
しかも……何だ。建物をぶっ壊しながら、明らかにこっちに向かって突っ込んで来ている。
沙耶「あ〜もう!! だからアレと組まされるのだけは嫌だったのに……」
珍しく頭を抱えて本心から愚痴る沙耶。
九郎「……あれはやっぱり俺達が標的なのか?」
アル「であろうな」
九郎「さすがにアレを相手するのは無理がねえか?」
アル「無理があるな」
九郎「だったらお前、どーしろと……」
ウェスト「大十字 九郎! そしてアル・アジフ! どーだ、見たか!
これが吾輩の最高傑作! 『スーパーウェスト無敵ロボット28號スペシャル』であるっ!
如何に最強の魔導書と言えど所詮、この世紀の天才たる我輩の敵ではないのである!」
九郎「……って、乗っているのはヤツかい!?」
最悪にしぶとかった。
ウェスト「ふはははははははは! さあ塵と消えるがいいっ! ファイアァァァァァァァ!」
九郎「つぅああああぁぁぁぁぁっ!?」
沙耶「きゃっ!!?」
爆炎で沙耶の姿は炎に隠れ、見えなくなる。
九郎「うおおおおっ!? くそっ、メチャクチャだっ!」
アル「うむ……やはり、今の我等が正面切って戦える相手ではないな」
九郎「つーことは」
アル「脇目も振らず逃げろ」
九郎「結局そうなるのかよぉぉぉぉぉぉぉぉ! どわったぁぁっ!?」
間一髪で飛び退く。爆風に背中を押されるままに、俺は脱兎の如く逃げ出した。
ウェスト「ぬぬっ! 待てえ! 待つのであるー! 敵前逃亡は士道不覚悟であぁぁぁぁるっ!」
冗談じゃない!
こんなんじゃ切腹以前に、肉片だって残りゃしねえ。
九郎「うわぁぁぁぁぁぁんっ! 助けて、ママーーーーっ!」
ウェスト「HAHAHA! 貴様に大砲ブチ込んでやるのであぁぁぁる!」

412暗闇:2006/06/02(金) 15:31:08 HOST:kvc.iuk.ac.jp
ネス「おーい、ストーン君ー大丈夫かー」
破壊ロボに踏みつぶされた装甲車にネスはそれに乗るストーンの名を呼んでいる。
ネス「あーあ、ここまでひん曲がっちまったら、簡単には開かんなあ。ったく面倒ばっかり増えるよなー…………んっ?」
毒つきながら部下を助け出そうとするネスの上空、風を引き裂くような轟音が接近していた。
ネス「おおっとっ」
突風に吹き飛ばされそうな帽子を慌てて押さえた。
頭上を見上げる。一瞬、視界をかすめる何か。
摩天楼の合間を縫って飛翔する白い影。
あまりのスピードにビルの窓ガラスが全てひび割れた。
硝子の破片を散らし、
月光を浴びて、夜闇に白い奇跡を刻む。
その姿を認めた人々の間から歓声が巻き起こった。
ネス「おっ、来た来た。我等がヒーロー、天使様のご登場だ」

413暗闇:2006/06/02(金) 15:35:50 HOST:kvc.iuk.ac.jp
九朗「ちっ、これじゃ埒があかねえ! おい、自称『最強』の魔導書!!何か手はないのかよ!?」
アル「ふん! 我が鬼械神アイオーンさえあればこんな瓦落多なぞ取るに足らんと云うのに」
九郎「よく分からんけど、そのアイオーンとやらはどうした!?」
アル「ものの見事完膚なく大破した!悪かったな!」
九朗「つまりはどーしょーもないのかい! 当てにならねえなあ、最強!」
俺の目の前でビームが一閃した。
行く先が爆発、炎上し、俺を阻む。
九郎「しまった!」
ウェスト「ふははははは! 捉えたのであるっ!」
足を止めた俺に、破壊ロボのドリルが唸りを上げながら振り下ろされる!
九郎「ぬおおーーーーっ!?」
その時、突然、猛烈なGがかかった。
足が地面から離れ。もの凄いスピードで破壊ロボから空へと運ばれる。
目標を失った破壊ロボのドリルは虚しく地面を穿った。
ウェスト「何!?」
俺は誰かに抱きかかえていた。
そいつは破壊ロボから充分に離れたところで、俺を降ろしてくれた。
???「――大丈夫か?」
九郎「……あんたはっ!?」
顔を見合わせてビックリした。
白い仮面と被り、白い装甲を纏った、白尽くめの戦士。
よく知っている顔だった……と言うより、アーカムシティでこの人のことを知らない奴はいない。
ウェスト「くっ……また貴様であるか、メタトロン! 我輩の邪魔ばかりしおって!」
メタトロン「ここは私に任せて逃げるんだ」
言って、白仮面――メタトロンは破壊ロボと対峙する。
突き出した右腕が光り輝き、驚異的な変化<メタモルフォーゼ>始める。
右腕から溢れ出す光の文字。魔術文字。
遺伝子にも似た螺旋を描き、容<かたち>を編み上げていく。螺旋の中央でメタトロンの拳が眩く輝いていた。
生まれ変わった右腕は、魔術文字で編まれた砲身をまとっていた。砲口の中心で、光が輝きを増し膨れてゆく。
ウェスト「ぐおおおおおおおおおおっ!?」
光が炸裂した。
眩い爆光が夜を照らす。
メタトロン攻撃を受けた破壊ロボは、確かに傾いだ。
効いている!
アル「……何だ、彼奴は?」
九郎「ああ、あの人はメタトロン。
『ブラックロッジ』と戦う、この街のヒーローさ」
治安警察でも手が出せない『ブラックロッジ』の破壊ロボ。
それらと互角に戦えるのが、メタトロン――アーカムシティの守護天使。
その正体はまったくの謎に包まれているが、暴れる『ブラックロッジ』の前に颯爽と登場し、敵を倒して去っていく。
まさに正義に味方だ。
ウェスト「おのれっ! 今日という今日は貴様を葬ってやる! 死ねえい!」
破壊ロボの全砲門が一斉に火を噴いた。
連続して轟く砲撃の爆音。
だが、メタトロンはそれより速く。飛翔し、その全てをかわし切る。
背中から広がる板状の翼。機械の翼からフレアを迸らせつつ翔ぶその姿は、まさに天使<メタトロン>の名に相応しい。
ウェスト「うぎゃああああああああぁぁぁっ!」
2撃目。
破壊ロボの巨体が大きく揺らいだ。
さらに激化する破壊ロボの攻撃。
しかしメタトロンのスピードは、掠ることすら許しはしなかった。
ウェスト「ええい、ちょこまかと! この蚊トンボがぁぁぁぁ!」
九郎「すげえ……カンペキ手玉に取っているぜ」
アル「見ほれておる場合ではない! 今の内だ、逃げるぞ九郎!」
九郎「ああ、分かった! 悪いな、メタトロン!」
破壊ロボをメタトロンに任せて、俺達は全力で逃げ出した。

414暗闇:2006/06/02(金) 15:36:38 HOST:kvc.iuk.ac.jp
メタトロンの動きに全長80mの巨体は完全に翻弄されていた。
攻撃はことごとく避けられ、四方八方からメタトロンの攻撃を受ける。
分厚い装甲に護られ、いまだに致命傷は受けていないが、戦況は圧倒的に不利だった。
ウェスト「くぅぅぅぅ! このままでは……! ぐおっ!」
また被弾。
連続する爆音。
ついに装甲の一部が破壊され内部へダメージが及んだ。
爆煙を噴き、紫電を迸らせながら破壊ロボの動きが止まる。
ウェスト「しまったぁぁぁぁぁぁっ!」
メタトロン「――トドメだ」
一閃。二筋の光が疾る。
メタトロンの両手から真っ直ぐに伸びる光。
光の刃。
2本のビームセイバーを直角に交叉させ、メタトロンは破壊ロボ目がけて急降下する。
ウェスト「――――ッ!?」
メタトロン「十字・断罪<スラッシュ・クロス>」
これまでいくつもの破壊ロボを葬ってきたメタトロンの大技である。
メタトロン「……何!?」
斬撃は破壊ロボに届かなかった。
突如、割り込んだ黒い影が、2本のビームセイバーを素手で防いでいた。
黒い影。
それはメタトロン同様、黒い装甲で身を包んだ仮面の戦士。
その姿はまさに黒いメタトロン。
――黒の天使。
???「久しいな。メタトロン」
メタトロン「お前は――! ……チィッ!」
メタトロンの蹴りが、黒天使の頭部を襲った。
吹き飛ぶ黒天使。
メタトロンは蹴りの反動で背後に飛び退く。
双翼から噴き出るフレアの出力を調整して、空中に停止。
蹴り飛ばされた黒天使も鮮やかに宙返りし、破壊ロボの上に降り立った。
対峙する白と黒。
ウェスト「うぬぬっ! 貴様であるか、サンダルフォン! ええい、我輩の戦いの邪魔しおってからに!」
サンダルフォン「随分と手こずっていた様だが?」
ウェスト「なぁぁぁにを言うか、この小僧っ子っ! これからが、反撃に次ぐ反撃の、怒濤の逆襲タイムだったのであるッ!」
サンダルフォン「まあ、構わん。ウェスト、お前は『アル・アジフ』を追え。――此処は己が引き受ける」
ウェスト「何だと!? 貴様、勝手に……」
サンダルフォン「お前の任務はアル・アジフ回収だ。それとも大導師<グラウンドマスター>の意思に逆らうつもりか?」
ウェスト「くっ……よかろう、ならばここは任せたのである。貴様こそ醜態を晒すようになっ!」
大導師の名前を出されてはウェストも従うしかない。
サンダルフォンにそう告げて九郎たちを追う。
メタトロン「……っ! 待て!」
追いかけようとするメタトロンだったが、サンダルフォンが立ち塞がる。
メタトロン「――――ッ!」
サンダルフォン「さっきのお返しだ」
メタトロン「くぅあぁっ!」
雷光の蹴りがメタトロンの脇腹に炸裂する。
弾丸の如く吹き飛びメタトロンはビルに激突した。
メタトロン「くっ……!」
コンクリートにめり込んだ身体を引き抜き、腕を突き出す。
再び砲身へと変貌する右腕。
大気を灼いて、光の砲弾がサンダルフォン目がけて飛翔する。
サンダルフォンは避ける気配を見せない。
その場に停止し、ゆっくりと身構える。
サンダルフォン「綻ッ! 破ッ!」
裂帛の気合いと共に、正拳を突き出す。
拳は飛来するビーム弾を正確に捉えた。
正拳に撃たれたビーム弾はたちまち四散し、威力を失う。まだ消えぬ光の残像の向こう、拳を突き出したままの姿勢で黒い天使は滞空している。
サンダルフォン「ハハッ」
メタトロン「……………」
再び2人の天使は、正面から睨み合った。
周囲を震撼させる気配は、闘気か殺意か。
サンダルフォン「さあ……付き合ってもらうぞ、メタトロン」
メタトロン「お前と言う奴は……!」
白い天使が、夜を裂く光刃を十字に構える。
黒の天使が。夜より昏い拳を天地上下に構える。
ぶつかり合い、昴まる気迫と気迫。
メタトロン「シィィ――――――!」
サンダルフォン「殺ァァァーーーー!」
アーカムシティの夜空を2人の天使が翔ける――

415暗闇:2006/06/02(金) 15:37:37 HOST:kvc.iuk.ac.jp
ウェスト「ふはははははははは!
こらぁ、待て、待てったらー☆」
逃れたと思った束の間、破壊ロボは再び自分たちを追いかけてきた。
脳の方も今まで以上に、必要以上にトランスしているようだ。砂浜で恋人を追いかけてます敵に。
九郎「くそっ、メタトロンはどうしたんだ!? まさか、やられちまったのか!?」
アル「さあな。何かあったのは間違いないだろう」
振り出しに戻っちまったか!
何とかこの状況を打破する方法はないのか?
ウェスト「ふははははは! ほら、ミサイルのシャワーである!」
降り注ぐミサイルの直撃を受け、九郎はジャンプする。
魔法障壁で爆風から身を守り……そこで誤算が生じた。
地盤が脆かったのか、ミサイルによって着地地点が崩れ落ちた。
そしてそこにぽっかりと地の底にまで続いていそうな巨大な――
九郎「穴ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
反応する暇さえなく、九郎たちは地下の深淵へと落ちていった……!

416ゲロロ軍曹(別パソ):2006/06/20(火) 17:35:57 HOST:proxy02.std.ous.ac.jp[pc3f060.std.ous.ac.jp]
その頃・・・
=東京・フェリー乗り場=
?「・・ったく、ようやく到着かよ・・。」
先ほど到着したばかりのフェリーから次々と人が降りていく中で、何やらむっつりした顔の茶髪の青年がいった・・。
?2「ちょっと、『巧(たくみ)』!何着いた途端に文句言ってんのよ!?」
そんな彼の言動に少しカチンときた様子で反論する、勝気そうな一人の少女・・。
?「うるせーなあ・・、何言おうが俺の勝手だろうが?」
?2「だからって、限度ってもんがあるでしょう!?あ〜もう、何であんたはいっつもそう嫌な態度しかとれないのよ?」
?「うるせー!ったく・・、相変わらずおせっかいな女だな・・。」
?2「何ですってぇ!?(怒)」
・・と、何やら険悪な雰囲気になっていく二人・・(汗)。
?3「ちょ、ちょっと『真理(まり)』ちゃん!『たっくん』も!!こんなとこで喧嘩してちゃまずいよ〜!!(汗)」
そんな二人の様子を見て、あわてて止めに入る気が弱そうな青年・・。
茶髪の青年の名前は『乾巧(いぬい たくみ)』。勝気そうな少女は『園田真理(そのだ まり)』。そして最後の気弱そうな青年は『菊池啓太郎(きくち けいたろう)』という名前である。
彼らはまだ知り合って間もなかったりするのだが、いろいろあってこうして三人で行動することになったのだ・・。
しかし、ごらんのとおり、まだ色々と問題があったりもする・・(汗)。
その後、何とか喧嘩をやめた巧と真理。そして三人はある目的のため、東京にある『スマートブレイン本社』へと向かうのだった・・。

417暗闇:2006/07/16(日) 13:38:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
どうにか鴉を撒いたバリーとブルースは街中で猛威を振るう破壊ロボの様子を呆然と見上げていた。
バリー「おい、ブルース……改めて実感してしまったが、俺達の知るような日常は完全木っ端微塵になっちまたようだな……」
ブルース「ああ、あんたはあれ見るのは初めてだったな……あのドラム缶はブラックロッジの破壊ロボだ。
このアーカムシティを中心にアメリカ大陸で幅を利かせている一般人にも知られているほどの知名度のあの悪党共の傀儡さ」
バリー「ブラックロッジくらいのことは俺だって知ってる。ただ……あのロボはあんな出鱈目の構造をしてるにも拘わらずなんでああまともに動く事ができんだ?」
ブルース「……確かに言われてみれば……」
今まで破壊ロボの起こす騒ぎが大きい為に気にも留めていなかったが、あんな手抜きとしか言いようのない足でどうやってあの自重を支えているのだろうか?
そんなしょうもないこと考えていた矢先……
カサカサ……
バリー「?」
ブルース「どうした?」
破壊ロボが九郎たちを見失ってために破壊劇が一時中断された為、少し静けさを取り戻した無人の街路に響いた微かな音……あの事件以来、こういう僅かな音でさえも敏感に反応するようになってしまったバリーは辺りを見渡す。
やがて、家と家の間に蜘蛛の巣らしきものを見つけた。
その巣は一般に知られているものより遙かに大きい……そういえばあの事件の時にも似たような事が……
バリー「!まずい、銃を持てブルース!あれが来る!!」
ブルース「あれって……おい、まさか」
同じく巣を見つけたブルースも察してハンドガンを抜いた矢先、壁に張り付いていたそれが姿を見せた。
それは8本の足を器用に動かして狙いを定めるそれは2人に飛びかかる。
ブルース「久しぶりの大蜘蛛様のご登場だ」
2人の前には人間を喰えるサイズにまで大型化した蜘蛛の姿……T−ウィルスに感染した蜘蛛の辿った姿だった。

418暗闇:2006/07/16(日) 13:40:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ・地下=
どれぐらい落ち続けたであろうか……不意に激しい衝撃が全身を襲い、ようやく穴の底に叩きつけられたのが分かった。
九郎「〜〜〜〜〜〜〜っ」
……声も出ないくらい痛い。
アル「安心せい。
魔術で保護してやったからな。大した怪我はしておらん筈だ」
九郎「う……ぐ……どこまで落ちたんだ、俺ら?」
どうも、とんでもない距離を落ちたらしい。
魔術で護られていなかったら、疑う余地なく即死だ。
周りを見回してみる。
工事中かもしくは途中で廃棄されたのか造りかけといった感じの空間だった。
しかし、何でだ?
地下鉄やら非難シェルターの開発にしてはあまりにも深すぎる。そもそも、ここらの区画で地下開発があるなんて話自体聞いたこともない。
アル「九郎。向こうの方に通路がある」
精霊が指差す方角に、確かに通路はあった。
どこに繋がっているのだろうか?
……まあ、何にせよ。
九郎「ここに居ても仕方ないし……進むしかないか」
冷え冷えとした薄暗闇の中を進む。
靴音が通路に響き渡る。
前方から、わずかに差し込む光。
通路の出口だ。
通路を抜けると、広大な空間に出た。
……広い。本当に広い。やたら広い。
天上も馬鹿みたいに高い。
あまりにも広大すぎるので、たくさんある照明は空間にわだかまる闇を照らし切れない。
見た感じ格納庫と言ったところだが……
こんな広い空間、しかもこんな地下にいったい何を格納するってんだ……?
九郎「……え?」
そこで九郎はようやくソレの存在に気づいた。
見つかり辛かったり、隠されていたワケではない。というよりこんなモノ隠しようがない。
それなのに、ソレを認識できなかったのは……
ただただソレが、あまりにも巨大すぎたからだ。
九郎「何だ……これは?」

419暗闇:2006/07/16(日) 13:42:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
最初、ソレの全貌がまったく掴めなかった。
そのくらいに巨大な――ソレは鉄の塊だった。
鉄は何らかの意志によって鍛えた、ソレは巨大な鋼鉄だった。
空間の広さに、鋼鉄の大きさに慣れた脳がようやくソレの容<かたち>を捉え始める。
九郎「こ、これは……ロボット!?」
今まで見たことのないタイプのロボットだった。
『ブラックロッジ』の破壊ロボと違って、軍のASやガオファイガーを初めとするGGGの機動メカやデカレンジャーの使うデカレンジャーロボのようなスラリとしたフォルムの人型に近いロボットだ。
でも、何でそんなロボットがここに?
まさかこいつは『ブラックロッジ』の新型で、ここは連中の秘密基地ってことはないだろうな……
アル「ほう! この感じ……鬼械神<デウス・マキナ>か!
術者とアイオーン代わりを同時に見つけるとはな……まるで誰かが妾の運命に介入しているようだ」
九郎「機械仕掛けの神<デウス・マキナ>?」
アル「知らぬのか? 魔導書の中には、妾のように鬼械神を招喚できるものがある。
妾の場合、鬼械神はアイオーンなのだ。術者は魔導書を通じて、鬼械神を自在に操る事が出来る……」

ナイア『あるんだよ。最高位の魔導書の中には、『神』を召喚できるヤツがね。しかもその魔導書の所有者たる魔術師達は、何とその『神』を自在に操ることが可能なんだ……まあ、正しくは神の模造品なんだけど。
とにかく君が必要とするのは、きっとそういう魔導書なんだと思うよ』

そう言えば、あの古書店の店長がそんなこと言っていた……
九郎「『神』の模造品とかいうヤツか……?」
アル「なんだ、やはり識っておるではないか。如何にも鬼械神とは、魔術の力を用いて造られた神々だ。
鬼械神には動力部や至る所に魔術回路が組み込まれている。
ふむ? ただ、此奴は少々強引な構造となっているな。魔術理論と科学の混血児とでも言呼ぶべきか。
正式な鬼械神ではないが構うまい。ありがたく使わせてもらうとしよう」
九郎「……って、お前勝手に!」
アル「我等が見つけたのなら、すなわちこの鬼械神は我らのものということだ。これも運命ということだ」
九郎「いや……何かさっきから随分と都合良く解釈されまくっているな、運命」
アル「どのみち、上で暴れておる粗大ゴミを放置しておくわけにもいくまい?
ならば、此奴を使って戦うしかあるまいて」
九郎「……戦う?」
……またトンでもないことをさらりと言った気がする。
戦う? 何が? 何と?
このロボットが、『ブラックロッジ』の破壊ロボと。
ロボットと使わせてもらう?
誰が?
こいつが? ……こいつだけが?
我『等』とか言ってなかったか。今さっき?
……うん。ものすっげえ嫌な予感がする。
アル「安心しろ。妾がついておる。それに、魔術師と魔導書、そして鬼械神は三位一体。
   騎士が軍馬を乗りこなすように、汝はそれを為すことができよう。往くぞ」
九郎「……って、待てぇぇーーっ!
まさかコレに乗って戦えっつーのか!?
この俺にっ!?」
アル「当然だ」
予感的中。

420暗闇:2006/07/16(日) 13:42:53 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「なっ、なっ……じょ、冗談じゃねえよっ!
何で俺がそんなことをっ!?」
アル「我等がやらねば、誰がやると云うのだ?」
九郎「ふざけんなっ! 俺がそこまでやらにゃいかん理由が……」
その時、ロボットが唸った。
重い駆動音が幾重にも木霊し、広大な格納庫の空気を震わせる。
ロボットの眸。
人間そのままにしっかり2つ存在する眸が、薄闇を払うように光る。
それだけではない、貌の表面にも、装甲にも、淡い光のラインが複雑な紋様を描きながら走り始める。
鋼鉄の躰の下、途方もなく大掛かりな機関が静かに胎動していた。途方もなく強大な力を内に秘めたまま。
九郎「……動き出した?」
アル「見よ。デウス・マキナも汝を認めている」
んな一方的に忠誠を誓われても。
迷惑千万な話だ。
だけど……何だ?
心の奥底から燃え立つような、この昂揚感は。
ロボットはじっと俺を見つめている。
何かをじっと待っているようにも見える。
何の意志も無い単なる機械の瞳――それなのに何故だろう。どうしてこんなに胸が高鳴るんだ?
んなアホな……ロボットなんかに憧れるようなガキの時分でもあるまいし。
アル「ふふふんっ」
耳元で囁いた精霊の笑い声。
……しまった。
アル「汝の方も、此奴を気に入った様だな」
九郎「……馬鹿言え」
アル「馬鹿な事かどうかはこれから判るだろうさ。
――接続<アクセス>!」
彼女は巨人の方を向いて、言葉を解き放った。
アル「識を伝え識を編む我、魔物の咆吼たる我、死を超ゆる、あらゆる写本<こ>の原本<はは>たる我、『アル・アジフ』の名において問う。
鋼鉄を鎧い刃金を纏う神。人が造りし神。鬼械の神よ。汝は何者ぞ」
『アル・アジフ』の精霊は、朗々と詠い上げる。
ロボットに走る光が、その輝きを増した。
九郎「うわわわっ! うわあああっ!? 何だ何だ何だぁぁぁぁぁっ!?」
光が九郎達を包み込んだ。
白く染まる身体が、輝く粒子になって崩れてゆく。
まるで揮発するみたいに、身体が消えてゆく――!
九郎「消え……! きききき消えっ!」
アル「内部<なか>に入るぞ!」
九郎「えっ? ええええっ? う、うわああああああっ!?」
崩れ、揮発して、身体も意識も光の粒子に変わる。
そして――奔る。
文字通り、光の速度で奔る。
光に乗った意識は、ロボットの輝きの中へと吸い込まれ、融け合った。

421暗闇:2006/07/16(日) 13:43:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
 I'm innocent rage.
 I'm innocent hatred.
 I'm innocent sword.
 I'm DEMONBANE.

九郎「――え?」
気づけば、目の前に光り輝く文字。
網膜に直接、灼きつくような文字。
九郎「DEMONBANE……デモンベインだって!?」

瑠璃「――デモンベイン。
私の祖父が遺した、『ブラックロッジ』に対抗する為の手段です」

あの時、覇道財閥のお姫様が言った、あの言葉。
アル「汝は、憎悪に燃える空より生れ落ちた涙
   汝は、流された血を舐める炎に宿りし正しき怒り
   汝は、無垢なる刃
   汝は、魔を断つ者-デモンベイン-
   ――善い名だ!気に入った!」
精霊の声が少し離れた場所から聞こえた、
九郎は、どうも淡く輝く球体の中に居るようだった。
光に目を凝らせば、魔術文字。これは……魔法陣の内部なのか?
九郎を360°囲む魔法陣の向こう、計器類に囲まれたシートが見える。元の姿に戻った精霊の少女が腰かけていた。
九郎の目の前で、背中の羽みたいのが紙片にバラけて頭の上で再構成――猫耳みたいな形状ヘルメットになる。
九郎「お、おい、魔導書。ここはいったい……」
アル「鈍い奴だな。内装を見て判らぬか?
鬼械神の内部に決まっておるだろう」
九郎「デウス・マキナ? あのロボットのか?
それにデモンベインって……」
アル「それくらい想像つくであろう? 此奴の名だ」
デモンベイン。
このロボットの名前。
そして、覇道のお嬢様が言っていた『ブラックロッジ』への対抗手段。
九郎「じゃあこのロボットが覇道の……!」
アル「操作系に干渉<アクセス>するぞ」
九郎「はぁ? ……うわああっ!?」
ボディスーツの背中から生える黒翼が、魔導書のページになって解けた。球体は緑に沿って九郎を取り囲むように浮遊している。まるで土星の輪だ。
輪を構成する紙片が輝き出した。みるみる容<かたち>を変えてゆく……あるものはモニターに、あるものはコンソールパネルに、あるものは計器に。あるものは操縦桿に変化して、淡く輝く魔法陣を飾ってゆく。
操縦に関連するありとあらゆる機器が俺の周りに浮かんでいた。
九郎(ははは……こいつはなんちゅー不思議科学的な)
向こうのパイロットシート――あっちは、まだしもメカニカルでマトモっぽい――に座るアルが不敵な笑い声を漏らした。
アル「ふふんっ……良し、征ける! 九郎、デモンベイン出動だ!」
九郎「だあああああああ! だから状況でムリヤリ押し流そうとするんじゃねえええぇぇぇぇ!」
アル「毒喰らわば皿まで」
九郎「毒自身がその格言<セリフ>を吐くかっ!?」
アル「ふむ。ならば無理にでも皿を喰らってもらうか」
九郎「てめえぇっ! ぐおわあああっ!?」
もはやアルの思うがままに事は運ばされ、九郎はそれに翻弄されるしかなかった。

422暗闇:2006/08/03(木) 12:14:34 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸=
覇道財閥総帥の執務室。
世界経済の表を牛耳る、覇王の間。
玉座たる総帥の椅子に座るのは、若くして先代より総てを引き継いだ女王、覇道瑠璃である。
机に積み上がった膨大な書類、絶妙なバランスの元で成り立つ山々を危うく崩しかねない音量で、電話の呼び鈴が鳴り響いた。
瑠璃「…………」
執務室の電話が鳴る事態はそうそう起こらない。
手に持った書類から目を離し、瑠璃は受話器を取った。
瑠璃「わたくしです。何が起こりました?」
???「お嬢様、破壊ロボです!
『ブラックロッジ』の破壊ロボが現れました!」
瑠璃は苛立たしげに眉をひそめ、歯噛みする。
――またか。
忌々しいテロリストどもめ。
今は対抗手段を持たない自分たちが苛立たしい。
デモンベインさえ動けば……あんな連中を、のさばらせたりはしないのに。
???「それと……もう一つ大変なことがっ!」
瑠璃「まだ?……他に何が?」
受話器の向こうから返ってきた言葉。
その意味の重大さに瑠璃が凍った。
緊張の張り詰めた厳しい顔で頷く。
瑠璃「分かりました。すぐに向かいます」
電話を切り、執務室の椅子に深く身を預ける。
椅子が独りでに回転した。
カチリと何かが合わさる音。続けて機械の駆動音。
低い駆動音は、執務室の空気をしばらく震わし続け――突然、総帥の椅子が、覇王の玉座が床に沈んだ。
椅子に座った瑠璃が床の下へと完全に姿を消してしまう。
執務室には、ただ無人の静寂とがらんどうが支配するだけ。

423暗闇:2006/08/03(木) 13:15:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
総帥の椅子が、シャフトの中を高速で降っていく。
覇道邸とその真下、地下に広がる『秘密基地』とを繋ぐ、総帥専用の直通エレベーター。
その向かう先は――
瑠璃は立ち上がる。
身に纏ったドレスを乱暴に鷲掴み……そのまま引き裂くような勢いで、一気に脱ぎ捨てた。
空間に躍る、豪奢なドレス。
ドレスを脱いだ瑠璃の格好は、今までと一変していた。
ドレス姿とは正反対の、機動性を重視した制服姿が瑠璃に総帥としてのものとは違う、戦う者の威厳を醸し出していた。
即ち、それは覇道瑠璃のもう一つの貌。
『ブラックロッジ』に対する勢力の『司令』としての貌だ。
目的の場所。
秘密施設――覇道財閥の枠を結集して築かれた、巨大な地下基地。
その中心部。地下最奥、アーカムシティ最下層にむけてエレベーターは下降していく。
眼下に広がる、広大な空間。
瑠璃の降りた場所は周囲よりも一段高く、広間の全体を見渡すことが出来た。
大小、無数のモニターから発せられる光が、壁面や空間を走る無数の魔法文字、紋様が、薄暗闇を灼いて輝いている。
視界の下方、メイド服をまとった3人のオペレーター達が主方に展開し、それぞれこの緊急事態への対応に追われていた。
天井より降りてきた瑠璃に気付き、オペレーターの1人であるソーニャが顔を上げた。
ソーニャ「お嬢様」
瑠璃「ここでは司令と呼びなさい」
ソーニャ「は、はいです! 司令!」
瑠璃「それで……格納庫に異常事態が発生したと聞きましたが」
ウィンフィールド「はい。虚数展開カタパルトが稼働を始めています」
瑠璃「……何故? まさか侵入者?」
マコト「――不明です。施設のコントロールは完全に奪取されています。
こちらからではモニタするのが精一杯です」
もう一方のオペレーターの1人であるマコトが淡々と状況を告げる。
瑠璃「電力を遮断しなさい。
魔力炉の緊急停止を許可します」
チアキ「既にブレーカーが作動しとります。しかし、その……カタパルトは格納庫の、まったく独立した動力源から電力の供給を受けとるんですわ」
罰の悪そうにオペレーターの最後の1人であるチアキが言った。
瑠璃「あ、有り得ないですわ!
そんな大電力、一体何処から……」
チアキ「……デモンベイン本体です」
瑠璃「!?」
ウィンフィールド「魔術回路を、補足しきれないほどの高密度情報が循環しています。機体が……稼働しているのです」
瑠璃「そ、そんな……デモンベインは魔導書が無ければ動かないのに、誰がどうやって……」
ソーニャ「虚数展開カタパルト、作動します!」
その表面に刻まれた魔法陣が輝き、やがて全体が眩い閃光が発した。
マコト「――全ての構成元素が無限速度に到達しました。デモンベイン、偏在化します」
瑠璃「反応が……消えた?」
チアキ「消えたのとは違います。虚数展開された物質は確率上の概念として、あらゆる空間に存在している状態でして……
ほら! 箱の中の猫と同じで」
瑠璃「それで! 何処に行ったのですか!?」
ソーニャ「あっ、タキオンカウンター作動しましたです!」
マコト「――選択された確率事象から出現位置が逆算出来ます。少々お待ちを」
瑠璃「……くっ」

424暗闇:2006/08/03(木) 13:16:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その一方、
九郎「うわぁぁぁぁぁっ!?
ななな、何!? 何が起こってんだ!?」
空間が、歪んでいた。
目に映るものが全てが、捩れ、波打ち、渦を巻く。
立っている感覚が怪しい。揺れているようでもあり、回転しているようでもあり、はたまた逆さまに立っているようでもある。
自分の声すら近くから、遠くから、四方八方から聞こえてくる感じ。五感の全てがアベコベでデタラメで、確かな手がかりがない。
アル「えぇい、狼狽えるな見苦しい。ただの空間転移だ」
九郎「はい?」
……空間転移だって?
確かにコレ、古典的なワープ描写っぽい感じがあるが。
アル「なんと! 空間転移も知らぬのか?」
九郎「ワープの類とは違うのか?」
アル「違う。ワープは瞬間移動といい、自分の居る空間と居ない空間を直接繋げることによって長距離を移動するものだが、この空間転移というのは、今『居る』我等を『居るかもしれなかった』空間に広げたあと、指定した座標に『居た』ことにする。つまりは、そういう意味だ」
九郎「はあぁぁぁ? 何だそりゃ?
全然、ワケ分かんねえよっ!?」
アル「今の汝の脳味噌では考えるだけ無駄だ」
九郎「ふざけんな。ちゃんと説明しやがれ」
アル「む。お喋りは此処までだ。実空間に顕現するぞ」
九郎「だから、もうちと分かりやすく……うおおおおおっ!?」
突然、五感が正常化し、歪んだ世界が元に戻り始めた。

425暗闇:2006/08/03(木) 18:16:01 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
ネス「よぉぉぉぉいっしょっと!
……ふー、よーやくハッチが開いたよ。
おーい、ストーン君。無事かぁぁぁい?」
ネスの呼びかけに答えるが如く、ハッチの中からガラガラと音を立てながら血だらけになったストーンが這いだしてきた。
ネス「……おお、生きていた生きていた。まったく頑丈だねぇ、君は」
ストーン「……伊達に鍛えてはおりませんので。それより、ネス警部! 破壊ロボはどうしたのでありますか!?」
ネス「あー、さっきまではメタトロンと戦ってたみたいだが……今はどーしてるんだ?
何かを追っていたみたいだったが……ん?」
ゴゴゴゴ
ネス「何だぁ? また地響きがしやがる」
ストーン「……っ? 耳鳴りがしますが……」
ネス「んんん……?」

バリー「おい、一体どうしたんだ?」
アーカムシティに起きつつある異変にはバリーたちも気付いていた。
そして、彼らよりも異変に敏感である大蜘蛛はそれを察知したのか彼らとの戦いを止めて逃げ去ってしまう。変わり果てた今でも自然に属するもの故にこれから何が起こるのかをその本能感じ取っているのであろう。
ブルース「わからんが、何かやばいことが起こるってのは確かだ。俺達も離れた方がよさそうだぜ」

一方、
レオン「!?」
レオンの銃口の先にいた巨大蛇が起こりつつある異変を感じ取り震え上がったかと思うと、地中深くに潜ってしまう。
レベッカ「逃げた?」
レオン「生物兵器になってもこうこと関してには人間より敏感な所は変わりないというわけなのか」

=覇道邸 司令室=
チアキ「逆算結果、来たで! デモンベインの出現地点は、シティ58番区画上空600m……って破壊ロボットの間近やないか!?」
瑠璃「えっ!?」
ソーニャ「何をするつもりなんですかぁぁぁ!?」

426暗闇:2006/08/03(木) 18:18:04 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
何もないはずの虚空に、たった今、途方もない質量の気配が生じた。
天を仰げば分かるだろう。
蜃気楼の如く、揺らめく月と――巨大な影。
揺らぐ影は徐々に色を増し、厚みを得て、存在を確固たるものにする。
ネス「おおおおっ!?」
ストーン「何が起こっているのでありますか!?」
其処に在り得べからざる物質が、存在する無限小の可能性。限りなく『0』に近い確立が集積され、完全なる『1』を実現する。
巨大な何かが、巨大な力を秘めた何かが、今、顕現しようとしていた。

=覇道邸 司令室=
ソーニャ「デモンベイン、実空間に事象固定化……衝撃波、来ますっ!」
瑠璃「――――っ!」

=アーカムシティ=
空間が圧倒的質量に弾き飛ばされ、爆砕した。
急激な気圧の変動が、突風となり稲妻を伴って吹き荒れる。路上に散らばる瓦礫や廃車が煽られ、木の葉の如く飛ばされていく。
人々は逃げる事すら忘れて、魂を抜かれたように見上げるしかなかった。
燃える空に飛翔する、圧倒的なその威容。
破壊を纏いて降臨する、鋼鉄の巨人を。
ストーン「あ……あれは、いったい何なのでありますか?」
ネス「『ブラックロッジ』の新手か? いや……」

=アーカムシティ・上空=
九郎「と、飛んでる!? つーか落ちてるぅぅ!?」
歪んだ世界から戻ったかと思うと、眼下に灯る街の明かり。繁華街から少し離れた位置で火柱が上がっている。その中心にはドラム缶に手足が生えた不細工な破壊ロボの姿が見えた。しかし、デモンベインが出現した位置はいささか問題だった。ガクンと機体が揺れたかと思うと、デモンベインは急降下―――ではなく、落下し始めたのだ。
アル「このまま敵に飛びかかる。着地の衝撃に備えろ」
九郎「飛びかかるってお前……ぐぅぅあああっ!」
急激に遅いくる横Gに、脳味噌が揺さぶられた。
破壊ロボの姿が、みるみる大きくなる。
もうどう考えても後戻りできないスピードで、この機体は落下していた。
……ええい、くそっ!
九郎「もうどうにでもなれ! こうなったらトコトンまでやってやるッ!」
九郎が言うまでもなく、デモンベインは破壊ロボへと向かって急降下した。

427暗闇:2006/08/03(木) 18:18:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウェスト「ぬぬぬ……彼奴ら、どうしてしまったのであるか?」
標的を見失い、破壊ロボの計器を使って索敵するウェストの上空。
デモンベインに無理矢理乗せられ、ヤケクソ気味の覚悟を決めた九郎が、下の破壊ロボ目がけて蹴りを入れるイメージを浮かべる。
気持ちだけは前向きに戦っている九郎に応えようとしたのか、デモンベインは脚を伸ばし、破壊ロボに渾身のドロップキックを炸裂させた。
九郎「でやあああああああああっ!」
全長80mに及ぶほどの馬鹿げた大きさ、これまた馬鹿げた質量を持つ巨大なドラム缶が軽々と宙へと舞っていく。
ウェスト「ぬおおおおおおおおっ! な、何事であるかぁぁぁぁぁぁっ!?」
未だかつて無い衝撃と浮遊感を味わされながらドクター・ウェストは見た。
破壊ロボにドロップキックを浴びせた、もう一つの巨体。
馬鹿げた大きさと質量を持った人型の鋼鉄。
ウェスト「わ、我輩の知らない巨大ロボットだとぉぉぉぉっ!?」
落下の勢いを利用した跳び蹴りの威力もまた、馬鹿げていた。
やがて落下したそれは、地面に激突し、周囲のビルを巻き込み、倒壊させながら、それでも転がり続け、破壊の傷痕を広げていく。
みるみる遠ざかる人型の鋼鉄。
そいつは大地に膝を突き着地した後、ゆっくり起き上がる。
輝く2つの眸が、転がる破壊ロボを見据えている。
その眸の輝きは、まるで意志を宿しているようで―――それは果たして、ドクター・ウェストの錯覚と言い切れるだろうか。

428暗闇:2006/08/03(木) 18:19:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=デモンベイン・コックピット=
渾身の跳び蹴りを喰らい、破壊ロボはどこまでも転がっていく。
ケッ、ざまあみろ!
――と言いたいところなんだが……
九郎「ううっ……脳味噌が良い感じにシェイクされまくって、いささか意識が混濁しまくっているパンチドランカー状態なのだが」
アル「我慢しろ。それより見よ、九郎。彼奴は動けぬ。止めを刺すぞ!」
九郎「トドメつっても……じゃあ何だ、お前。このロボットにどんな武器があるか知ってるのか?」
アル「……ふむ」
もの凄く気まずい沈黙。
少女は素知らぬ顔でそっぽを向いた。
九郎「知らねぇんだな!?
全然からきし微塵にも露ほどにも知らねぇんだな!?
てめぇの勢いだけで飛び出しやがって、チクショウっ!」
アル「あああっ! 煩い! 黙れ! 今から調べようと思っていたところだ! 悪かったな!」
九郎「ああ、悪いさ。悪いとも。この責任、キッチリとつけてもらうからな」

429暗闇:2006/08/03(木) 18:24:18 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
ネス「あー、破壊ロボと戦っているってぇことは味方……なのかなあ?
……応援するべきか?」
ストーン「な、なぁぁぁにを言っておるのでありますか、ネス警部!
見てください! 被害がメチャクチャ広がっているではありませんか!
巨大ロボット同士の戦闘なんて……GGGが所有しているディバイなんとかというものを使わずにやられてしまったらアーカムシティ全部、瓦礫の山になってしまうであります!以前デカレンジャーが破壊ロボや怪重機をここで撃退した時も……」
ネス「んなこと言ったって……あの戦いの間に割り込んでみろよ。んなの木っ端微塵に粉砕されるどころか塵ひとつ残りゃしねえよ。
オレらに出来ることっつったら、神様にお祈りすることくらいだなぁ」
ストーン「そんな無責任な!ネス警部ーーーーっ!!」

ブルース「蜘蛛が逃げた原因はあれか?」
バリー「他に考えられないだろ、特撮の撮影にしちゃこれは無理がありすぎる」
ブルース「他の連中は大丈夫だろうかね、ちゃんとずらかってくれてるといんだけど」

熾烈な戦いを繰り広げていた2人の天使も、突如として出現した謎のロボットに気付いていた。
戦いを止め、呆然と両機の戦いを見守っている。
サンダルフォン「あのロボット。まさか、噂の……」
メタトロン(……覇道綱造が作った対魔術師用の秘密兵器!)

ウェスト「このスーパーウェスト無敵ロボ28號を上回るパワーだと? 馬鹿な……そんなはずないのである!」
ぎこちない動きで破壊ロボが立ち上がる。
ダメージは深刻。特に駆動系への被害は68%に及んでいた。
慄くドクター・ウェストを怒りと屈辱が支える。
ウェスト「認めん!認めんであーる!! 我輩のロボこそ史上最強で地上最強!! そんなわけで粉微塵に吹き飛ぶのである。喰らえ、最終兵器!ジェノサイド・クロスファイアァァァァ!!」
九郎「おい……敵が!」
九郎たちがデモンベインの中で口論している間に、破壊ロボの外殻が開き変形し始めた。
機体のいたる箇所から出現するバルカン砲、ミサイルランチャー、大口径ビーム砲、キャノン砲……大小さまざま、おびただしい数の重火器類の全てが、デモンベインへと向けられていた。
九郎「おいおいおいおいっ! 何かヤベぇことになってるぞ!?
魔導書! 早くなんとかしろっ!」
アル「ええい、急かすな! 言われるまでもなく、やっておるわ。だがしかし……何だこの機体内を走る術式は。いくら何でも独特すぎるぞ。
こんなもの、いちいち調べている暇があるか……!」
九郎「何だか穏やかじゃねえ言い草だなぁぁぁぁ!?」
ウェスト「塵と消えるがよいわ! 死ねぇぇぇぇいっ!」
アル「くっ――!?」
破壊ロボの砲門がそこで一斉に火を噴いた。それは確実にデモンベインにヒットしていった。

430暗闇:2006/08/03(木) 18:25:35 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸・司令室=
瑠璃「デモンベインが! お爺様の形見が!」
ウィンフィールド「落ち着いて下さい、お嬢……いえ、司令。あの程度で破壊されるデモンベインではございません」
瑠璃「でも……!」

―――そうあって欲しいな。妾としても

一同「!?」
司令室に座る全員が目を見張った。中央モニタ―――淡い光を放つ水晶球の中に、見知らぬ少女が映っている。
チアキ「アホなっ!? 電子的呪術的に暗号化されている基地に、どうやって割り込んだんや!?」
瑠璃「な……何者ですか、この娘は……?」
マコト「発信場所、特定出来ました……デモンベインからの通信です」
瑠璃「何ですって!?」
ウィンフィールド「では、この少女がデモンベインを―――」
瑠璃「貴女! デモンベインを勝手に持ち出して、どういうつもりです!?
その機体は我々、覇道財閥の所有物です!」
アル『うむ、そうであろうと思って質問に来た。
このデモンベインとやら……紛い物だけあって、操作系統の索引がまるでなっておらん。特に兵装項目が未分化でな。妾が解読して編纂してもよいのだが―――』
瑠璃「待ちなさい! 貴女、人の話はちゃんと聞いているのですか!?」
アル『そんな大声を出さんでも聞こえておるわ、小娘。
何でも良い。適当な攻撃呪法を一つ選んで呼称を教えろ。後の検索はこちらでやる』
瑠璃「〜〜〜〜〜ッッ!!」
堪えきれない憤りが怒声になって爆発する寸前、ウィンフィールドが割り込んだ。
ウィンフィールド「どなたか存じませんが、それであの破壊ロボに反撃が可能なのですね?」
瑠璃「ウィンフィールド!?」
ウィンフィールド「司令、火急の事態です。この場はこの少女に託してみましょう」
瑠璃「勝手なことは許しません! デモンベインはお爺様が全てを賭したロボットなのですよ! もし何かあったら……!」
ウィンフィールド「瑠璃お嬢様」
ウィンフィールドの瞳の奥、鋭い光が走った。
真摯な視線が主を見上げている。
その雰囲気に瑠璃は気圧された。
ウィンフィールドは。口調こそ静かなまま、だが確固たる自信を込めて断言した。
ウィンフィールド「ならばこそ、デモンベインを信じて下さい。
あの大旦那様がお造りになられたロボットです。ブラックロッジの鉄屑如きに敗れる道理はございません」
アル『あのな汝等、悠長に口論するのは勝手だが―――』
モニタでは、デモンベインが一際激しい爆炎に包まれた。
その巨体がグラリと傾く。
アル『……そうして呑気に構えていられる程度には、このデウス・マキナ、頑丈に作られておるのだな?』
瑠璃「……くっ」
歯噛みする瑠璃。奥歯がキリキリと軋んだ。
その相貌には苦悩がありありと浮かんでいる。
その間にもオペレーターの1人が、調査結果を報告する。
チアキ「該当するデータが1つありました……例のアレですわ。
つまり、第一近接昇華呪法―――」
ウィンフィールド「……『レムリア・インパクト』ですか!」

431暗闇:2006/08/03(木) 18:26:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
司令室に居る全員に動揺が走った。ただ1人、モニターの向こうの少女だけが訝しげな顔をしている。
アル『キツネザル<レムール>のぅ……いまいち頼りない名前ではあるが。そいつで良いのか?』
ウィンフィールド「いえ。『レムリア・インパクト』はその危険性から、二重の封印<ロック>が施されております。
発動には司令の決断が必要―――」
アル『全く……面倒な』
ウィンフィールド「司令! ご決断を!」
瑠璃「…………ッ」
ソーニャ「待っ……待ってくださいっ!
『レムリア・インパクト』は、こちら側からの制御も必要ですし……だ、第一! まだ1回も起動テストもしていないじゃないですかぁっ!」
マコト「―――制御に失敗した場合、最悪、アーカムシティが消滅する危険もあります」
ソーニャ「ね、ね、ねっ!? やっぱり危険すぎますよぉ!」
モニターの向こうで再び爆音が響き渡る。
遂にデモンベインが膝を突いた。
アル『汝等、いい加減にしろ! 決めるならさっさと決めぬか!』
ウィンフィールド「……総ては司令の決断一つです。我々はそれに従います」
瑠璃「――――――」
瑠璃は静かに瞳を閉じる。
全く無抵抗のまま、爆炎に煽られ続けるデモンベイン。その巨体に亡き祖父が託した意志は―――

―――誅すべし『ブラックロッジ』。汝、魔を断つ剣と為れ―――

瑠璃「……わかりました。お爺様」
面を上げた瑠璃に、もう迷いは無かった。
司令としての、祖父の意志を継ぐ者としての、戦士としての瞳が静かに燃えていた。
瑠璃「ヒラニプラ・システムを発動。言霊を暗号化。ナアカル・コードを構成せよ」
ソーニャ「えええええええっ!?」
チアキ「ぼやくなソーニャ、覚悟を決めぃ! 実戦こそが最大のテストってなぁ!
さあ、やるでぇぇぇ!」
ナアカル・コード。
司令であり総ての決定権を持つ覇道瑠璃の言霊を鍵として、禁断の奥義を解放する。
デモンベインは今、真の威力を発揮しようとしていた。
瑠璃「では、見知らぬ人……『レムリア・インパクト』確かに承認します。後は任せますよ……!」
アル『ふっ……承知した! 聞いての通りだ! 往くぞ、九郎!』
九郎『ええっ!? 往くつったて、ちょっと―――』
通信が切れる一瞬、聞き覚えのある青年の声が耳に届いた。瑠璃とウィンフィールドは同時に眉をひそめる。
瑠璃(九郎?……九郎ってまさか。でもどうして……?)
ウィンフィールド(……確かに今のは大十字様の声。何があったのでしょうか?)
そんな2人の思考を打ち消すように、オペレーターの声が司令室に響く。
チアキ「―――言霊のナアカル・コード変換、完了! いつでも行けるでぇ!」

432暗闇:2006/08/03(木) 18:28:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
デモンベインの姿は爆炎の向こうへと消えた。
勝ち誇るドクター・ウェストの哄笑が、燃えるアーカムシティに響き渡る。
ウェスト「ふはっ……はははははっ!
ふはははははははははははははははっ!
どうだ、思い知ったであるか!
やはり最強は、このスーパーウェスト無敵ロボ28號スペシャル!
この大天才! ドクター・ウェストが造った、破壊ロボなのでぁぁぁるッ!」
デモンベインを飲み込んだ爆煙が少しずつ晴れる―――
前方の視界が開け、薄れた爆煙の中で揺らぐ巨大な影。
ウェスト「ふははははは……………はい?」
爆煙の向こうにドクター・ウェストは確かに認めた。
街を燃やす炎を背景にして、雄々しくも立ち上がる巨大な姿。
圧倒的な存在力を放つ、巨大な刃金の存在を。
ウェスト「な……なななななっ!? 何ぃぃぃぃーーーーー!?」
紅の炎に染められ、銀色の月光に照らされ、何ら一つ傷を負うことなく、ソレは悠然と立っていた。
―――デモンベイン。
ブラックロッジへの対抗手段。
九郎「すげえ……まったくの無傷かよ」
アル「ふふっ……ますます気に入ったぞ、デモンベイン!
―――さあ! 今度こそ、こちらの番だ! 九郎!」
九郎「ああ……って、いや、だから俺は操縦なんて……!」
アル「何でも良いから言霊を吐け! あとはこちらで意訳する!」
九郎「言霊なんか吐いたことないぞ」
アル「彼奴に言ってやりたいことがあるだろう。それをぶつけてやればよい」
ええい、クソッ!
何だってんだ……
ああっ、もう良い! 分かったよ!
もう、なるようになりやがれ! 往くぞ……ッ!
九郎「奴をぶっちめて、奥歯ガタガタ言わせてやれぇ! デモンベイン!」
九郎が叫んだ、次の瞬間だった。

433暗闇:2006/08/03(木) 18:29:15 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「ぐおぉぉぉぉぉっ!」
超高密度に圧縮された情報が、九郎の脳内を駆け巡る。その膨大な情報は、彼の意志とは関係なく脳へと刻み込まれていく。圧縮された情報が脳内で展開され、一つの情報が十、百、千の情報へと膨張していく。脳細胞に激しいパルスが走り、焼き切れるような衝撃に九郎の顔が苦痛に歪む。
九郎「こいつはいったい……」
アル「汝の頭の中を駆け巡っているのは、『レムリア・インパクト』の術式だ」
九郎「術式? プログラムみたいなもんか?」
右手でこめかみの辺りを押さえつけながら九郎が問うと、アルは「そのようなものだ」と答えた。
九郎とアルの体内を駆け巡っていた術式が、デモンベインの魔術回路を疾走していく、
術者と魔導書、鬼械神を駆け巡っていた術式が三者をつないだ。その瞬間、九郎の脳で暴れまくっていた情報の洪水がピタリと止んだ。
視界が、世界が拡大していく。広大に、無限に、世界の果てまでも研ぎ澄まされた超感覚が九郎を包み込む。
肉体から意識が遊離し、個であったものが世界へと浸透し始める。意識が熱を帯びていた。
熱した鉄のように熱い。そのくせ中心はひどく冷めており、冷静だった。
九郎は人差し指と中指で剣指を作り、印を結んだ。習ったわけではない。体が自然に反応していく。それと同時に、デモンベインの光り輝く指先が夜闇を切り裂き、中空に光の軌跡を刻み込んでいく。それは複雑な紋様を形成し、それに応じて内部の各種機関が活性化する。動力部が無限とも思えるエネルギーを汲み上げ始めた。
九郎「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
九郎が吠え、デモンベインは凶暴な咆哮を上げた。
重ね合わせた両腕を天に掲げると、拳から光がほとばしる。それを左右に広げながら振り下ろし、両脚を大地に食い込ませながら踏ん張る。九郎の体が、そしてデモンベインが光に包まれていく。その背には、後光のごとく光り輝く五芒星の印が浮かび上がっていた。旧き印<エルダー・サイン>。邪悪を祓う結印である。
ウェスト「ぬおぉぉぉぉ! それは、なんであるかっ!?」
コックピット内をオーバーロードした魔力がほとばしり、暴れ狂う。だが、九郎とアルは集中力を途切れさせることなく、冷静にそれをさばいていく。九郎は右腕を天高く掲げた。
九郎「光射す世界に、汝ら暗黒、棲まう場所なし!!」
デモンベインの右の掌に組み込まれた機関に、高密度の術式が駆け抜けていく。必滅の威力を封じ込めた機関が覚醒した。
九郎「渇かず、飢えず、無に還れぇぇぇぇ!」
デモンベインが地を蹴り、アーカムシティを疾駆する。掌から溢れ出す閃光がデモンベインを、破壊ロボを、そして街を白い闇の中へと包み込んでいく。
ウェスト「ぬおああああああああああーーーーっっっっ!!」
デモンベインは一瞬にして破壊ロボとの距離を詰めると、右手を振りかぶった。掌が獣の如き咆哮を上げる。それを心地よく感じながら、九郎が叫ぶ。
九郎「レムリア・インパクトォォォォォォォォォォーーーーーッ!!」
掌が爆発的な光に包まれ、導かれるかのように破壊ロボへと吸い込まれていく。同時に、必滅の術式がその内部へと浸透していく。
ウェスト「ノォォォォォォォォォォォ!」
ウェストが断末魔の叫びを上げる。
アル「昇華!」
アルの声が世界に響き渡る。
デモンベインの掌から発せられた光が、世界を白い闇の中に閉ざした

434暗闇:2006/08/03(木) 18:30:09 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
サンダルフォン「何という威力……これではまるで鬼械神ではないか!?」
デモンベインが破壊ロボを昇滅させるその瞬間を、メタトロンとサンダルフォンはしかと見た。
2人とも己の身体を震わせる戦慄を隠しきれない。
慄くサンダルフォンの脳内に響き渡る。
冷たく澄んだ、少年の声。
間違えるべくもない。
サンダルフォンのよく知る声だった。
マスターテリオン「―――ドクターは敗北したようだな。サンダルフォン、撤退せよ」
サンダルフォン「―――大導師<グランドマスター>。しかし、まだメタトロンが」
マスターテリオン「命令だ」
サンダルフォン「……了解。メタトロン―――貴様の命、預けておく」
白の天使に一瞥だけくれて、サンダルフォンは昏い闇の軌跡を描き、翔び去っていた。
メタトロンは追わなかった。
ただ取り憑かれたように、昇滅の焔を前に佇むデモンベインを見つめ続ける。
メタトロン「デモンベイン……これほどまでとは。
いや、これ程までの化物でなければブラックロッジと互角に渡り合えない。そう言いたいのか、覇道綱造―――」

435暗闇:2006/08/03(木) 18:30:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸・司令室=
チアキ「―――レムリア・インパクト。
敵の字祷子構成を崩壊させる、必滅の術式。
存在崩壊を喚起させられた敵対象の内宇宙に特異点を発現させ、質量零、重力無限大、熱量無限大の状況を生み出し、昇滅せしめる究極の奥義……ってまあ理屈は一応解るんやけど……何ちゅーか、実際、目の当たりにすると何とも言えんわ……」
ソーニャ「す、すごい……」
マコト「―――昇華術式の対昇滅を確認。若干の制御誤差がありましたが、被害は予測範囲内です」
ソーニャ「若干って! で、でもアレ……!」
マコト「―――だから、予測範囲内。あの区画は避難済みだから死傷者もいない」
ウィンフィールド「ヒラニプラ・システムの再調整が必要ですね。ですが期待以上の戦果です」
瑠璃「…………」

436暗闇:2006/08/03(木) 18:31:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
九郎「…………」
九郎は……ただ呆然と、その光景を眺め続けるしかなかった。
心は完全に麻痺していて頭の中も完全に混乱している。
目の前の現実を受け入れる事が出来なかった。
アル「ふっ……まあ、最初にしては上出来か。のう、九郎?」
人外娘はしれっとした口調で、そう語りかける。
九郎は何も答えられなかった。ただ口をポカンと開けたマヌケづらをぶらさげるばかりだ。
九郎(だって……これって……洒落になってねえぞ?)
……何なんだよ、このロボット?
ブラックロッジの破壊ロボやアリエナイザーの怪重機とかなんかよりこいつの方がよっぽど危険じゃないか!
どうしようってんだよ、こんな……
―――こんな破壊神!
九郎「冗談じゃねえよ……ったく」
思えば、この時総ては決定されたのだろう。
自分がアル・アジフと出会ったことも。
地下でデモンベインを見つけたことも。
全部―――この少女に言わせるなら、運命が自分に戦うべき道を指し示したからだ。
そう、それはこのアーカムシティの命運を賭けた―――いや、この地球の、もしかしたら全宇宙、最悪の場合は他の異世界や平行世界を含む全次元の命運をも決定するような、大きな戦いの道。
だが、このときの九郎はまだそのことを知らない―――

437ゲロロ軍曹(別パソ):2006/08/03(木) 21:06:37 HOST:219.127.111.248
=東京=
?「はあ・・、まただめかぁ・・。」
なにやらため息をつきながら道をとぼとぼ歩く、スーツ姿の青年がいた・・。
彼の名前は『上条睦月(かみじょう むつき)』。4年前、アンデッドたちと戦っていた戦士の一人『仮面ライダーレンゲル』に変身していた青年である。
当時高校生だった彼も、いまや立派な社会人となるために就職活動に励んでいるのだが、なかなかうまくいかないようだ・・。
睦月(・・普通のサラリーマンになって、普通の生活を楽しみたいのに・・、なんだってこううまくいかない世の中なんだろ・・?)
心の中で思わず愚痴る睦月。と、そのときだった・・。
?「う、うぎゃああああ〜!??」
睦月「?!」
突然、男の悲鳴が聞こえた。最初睦月は行こうとはしなかった。だが、やはり気になって仕方がなくなったため、思わず駆け出しながら悲鳴の方へと向かった・・。すると、そこには・・
?2「・・ふん、また『はずれ』か・・。やれやれ、毎度の事だが、中々『オルフェノク』に覚醒する奴は現れないな・・。」
全身が灰となって崩れてしまっていく、悲鳴をあげたらしき男性と、男性を襲ったと思われる全身が灰色のライオンをモチーフとした怪人、『ライオンオルフェノク』が立っていた・・。
睦月「な・・・!?(なんだ、あいつ!?アンデッドじゃない・・!??)」
一応物陰に隠れて様子を伺ってる睦月。だが、近くにあった缶コーヒーの空き缶に足が当たってしまい、「カラン!!」という音がその場で響いた・・。
睦月「!??(や、やばっ・・!?)」
ライオンオルフェノク「!・・ちっ、目撃者か。・・まあいい。獲物が増えただけの話だ・・。」
睦月は慌てて逃げる。だが、ライオンオルフェノクもまた、狩りを楽しむ獣のように、睦月を追っていくのだった・・。

438暗闇:2006/08/04(金) 18:09:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
沙耶「あれが魔を断つ剣か……これは予想以上ね」
街に出来たクレーターを目にしがら沙耶は呟く。
力は衰えていても死霊秘法は最強の魔導書……一端でこれだけの力を誇っていてもなんら不思議はない。
それより、今は気になることがある。
沙耶「これが貴女の言う筋書きかしら?」
沙耶の後ろにいる女性……妖艶な笑みを浮かべる長身の美女、ナイアは答えた。
ナイア「もちろんこれは細かな所を除けば何度も変わらない始まりさ、この後は……おっとネタバレばかりしちゃ面白くないか」
沙耶「それもそうね……でも、注意しなきゃならないポイントも聞き逃すわけにはいかないし迷うものだわ」
ナイア「僕は僕の目的を達したいだけさ。君たちは君たちの目的を果たすために頑張らないとね」
沙耶「あいかわらず喰えない性格ね……あなたは」
ナイア「僕にはそれは良い褒め言葉だよ。それじゃ、また今度……」
ナイアはそう言って闇に紛れて姿を消していく……同時に沙耶も姿を消した。

一部始終を、少年は見届けていた。
=アーカムシティ上空・高度1000m=
少年は月を背負い、夜空に浮いていた。
強風が少年を叩きつける。
長い金色の髪が、月の光に照り返しながら靡いていた。
それでも少年は、微塵にも揺らがない。
口元には冷たく凄惨な、亀裂の様な微笑を浮かべて。
金色の眸で―――金色でありながら一切の光を放たない闇色の眸で、街に穿たれた穴を見下ろしながら。
少年の名はマスターテリオン。
ブラックロッジを束ねる大導師。
マスターテリオン「やはり今回もこうなったか。そうだ、総ては運命の輪の内に。
さあ、踊ろうではないか。あの忌まわしきフルートが奏でる狂った輪舞曲<ロンド>の調べに乗って」
マスターテリオンは囁くと、街に背を向け姿を消した。
マスターテリオン「ヒロインは貴公だ―――アル・アジフ」

439暗闇:2006/08/04(金) 19:01:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
―――人生最大の災難だ。
魔導書を探す仕事のはずが、何故かブラックロッジに終われる羽目になり。
探していた魔導書はなんとクソ生意気な娘っこだったり。
しまいにはロボットに乗って戦う羽目になったり……
メチャクチャにも程がある。
一介の善良な私立探偵であるこの大十字九郎の穏やかな日常は、いったいどこで狂ってしまったのか?
神はこの誠実な青年にどれほどの試練を課すというのか?
とにもかくにも……

瑠璃「さて……大十字九郎さん。
どういうことか説明してもらえますね?」

―――人生最大の災難は続く。

マコト「―――デモンベイン、固定しました」
チアキ「そのまま運び出すで。『トイ・リアニメーター』システムを起動させとき。
うちが機体のチェックに入る」
ソーニャ「了解しましたです」
破壊ロボを倒した後、九郎はウィンフィールドの通信に従って廃墟区画まで撤退。
そこには巨大な回収口が隠されていたことに驚いた。
どうやらアーカムシティには、こういう仕掛けがあちこちに存在するらしい。
デモンベインを載せた昇降機は、地下を深く深く降下し、再び元の格納庫らしき場所へと戻った。
戻った彼らを待っていたのはウィンフィールドと、それからまさに怒り心頭といった様子の瑠璃だった。無理もない事だが……
こうして九郎は今、厳しく詰問されている。
さて、困った。
ウィンフィールド「やはりあの時の声は大十字様でしたか。しかし何故―――」
瑠璃「何故、大十字さんがデモンベインの中に?
動かないはずのデモンベインをどうやって動かしたのですか?
その少女はいったい?
……分からない事だらけなのですが」
九郎(そんな、いっぺんに言われても)
分からない事だらけなのは正直、自分も似たようなものなのだが。
九郎「何から説明すればいいのやら……あっ、とりあえず」
九郎はアルの首根っこを掴むと、瑠璃の前に差し出した。
九郎「ご依頼の品です」
アル「にゃ?」
瑠璃&ウィンフィールド「……………」
九郎「ちょっと生意気なところはありますが、意外に使える凄い奴です」
アル「にゃ、にゃにをする!妾は猫ではないぞ!」
アルの苦情を無視して九郎は愛想笑いで差し出す。
そんな様子に瑠璃の心が穏やかになるはずもない。
瑠璃「困ったわ……もしかしてわたくし、馬鹿にされているのかしら?」
瑠璃は目の前でジタバタしているアル・アジフを眺めながら、にこやかな笑みを九郎へと向けた。もちろん、その笑みの裏には般若の面が隠されている。
九郎「いや……大真面目です。魔道書です、これ」
瑠璃「まぁ、大変。ウィンフィールド、どうやら大十字さんは先の戦いで頭を打たれたみたい。お医者様を呼んできて」
九郎「いや、だからですね。これは魔道書で……(つーか、あなたの仰ってる通りに頭がおかしくなっていたのなら、どんなに楽だったことか)」
瑠璃「お医者様はまだかしら?」
まともに話を取り合おうとしない様子の瑠璃にアルがキレた。
アル「えぇい!人間の小娘が何をさっきから偉そうに!とくと見よ!」
その瞬間、アルの半身が魔道書のページとなって捲れていく。
それは突風に乗って舞い上がった。
アル「妾はアル・アジフ!アブドゥル・アルハザードにより記された世界最強の魔道書なり!
汝のような貧弱な想像力しか持ちあわせておらぬ哀れな小娘には理解できぬであろうが、魔道書とは何も必ずしも『本』という形態を取る必要はない。
妾ほどの魔導書となれば、命を持ち、魂の器たる肉体を持つものなのだ!汝の狭い常識に妾を当てはめられては不愉快だ!」
ばらけた魔道書のページがアルの身体へ吸い込まれ、再び元の姿へと戻っていく。
瑠璃「……ッ! 小娘小娘って! いったいどっちが小娘ですか!?」
アル「だからそれが貧弱な想像力と狭い常識だというのだ!見た目ばかりに惑わされおって!
汝のような20年も生きておらなそうな汝なぞ、千年以上もの悠久を生きた妾にとっては小娘以外の何者でもない!」
瑠璃「この……!!」
ウィンフィールド「……デモンベインが起動したという事実は彼女の主張を裏付けております。大十字様、詳しいお話をお聞かせ願えますでしょうか?」
アルと瑠璃の口争いが火蓋を切って落とされようとしていたが、そこにウィンフィールドが割り込むように九郎に尋ねてきた。これぞナイスフォローであろう。
大金のかかった依頼に飛びつく時に匹敵する速度で九郎は頷くのであった。
九郎「そうだな……とりあえず順番に話させてもらうわ」

440暗闇:2006/08/05(土) 01:18:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後、九郎は時間をかけ、一つ一つを丁寧に説明していった。
古書店での調査、凶暴化した鴉との遭遇、ウェストとの対決、アルとの出会い、そしてデモンベインの発見についてである。覇道の秘密基地への侵入は不可抗力であり、デモンベインを勝手に乗り回したことについては成り行き上であることを付け加えた。
ウィンフィールド「なるほど。それでは大十字様が彼女の所有者というわけですか」
ウィンフィールドは、ごく自然に事実を受け止めているようだ。
アル「九郎と妾は相性がよいようでな。魔術師としてはからっきしだが、妾は此奴を気に入っておる」
九郎「いっとくが、俺は認めてないからな」
アル「汝も諦めの悪い男よの」
アルは「やれやれ」と呟きながら、肩をすくめた。
九郎はムカつきながらも口には出さず、ウィンフィールドとの会話を再開する。
九郎「あれがモンベインだったんだな……まさかロボットとは」
ウィンフィールド「左様です。あれこそ大旦那様が開発したブラックロッジに対抗する手段であり、覇道財閥の英知を結集させた最強のロボットなのです」
九郎「最強、か……」
まさに最強の名に相応しいと九郎も思う。だがいかんせん、強力すぎた。デモンベインが放った必滅の一撃―――レムリア・インパクト。右手から発生した無限熱量が、ドクター・ウェストの破壊ロボだけでなく、爆心地を中心とした周囲の建物までを吹き飛ばしてし、月面を思わせる巨大クレーターを作ってしまうあの力はアーカムシティの守護神どころか破壊神なのではないかと思わざるをえない。
瑠璃の怒りには間違いなく初戦で出したあの被害のことも入っているのだろう。
しかしアルは、そのことは気にもとめてないようだ。
アル「鬼械神と呼ぶには不完全すぎるが、なかなかどうしてたいしたものだ。デモンベインは妾が存分に使ってやるとしよう。光栄に思うがよい」
アルの言葉に、さっそく瑠璃の頬が引きつった。
瑠璃「そこの貴女ッ! 勝手に決めてもらっては困ります。そもそもデモンベインはお爺様の―――覇道財閥の所有物。貴女のような魔女に渡してなるものですかっ!」
一喝するような瑠璃の声が、格納庫内に響き渡る。
だが臆したのは九郎だけで、アルは平然としていた。
アル「では小娘、此奴をどうするつもりだ?」
アルは両腕を組んでいかにも傲岸不遜な性格を示すように瑠璃に問いかけた。
アル「鬼械神は戦うために生まれし存在。ならばデモンベインも最強の魔導書である妾とともに戦いたいと願うはず。解るか? デモンベインは汝の大きな玩具ではないのだぞ?」
瑠璃「あんな乱暴に扱っておいて、よくもまあぬけぬけと。壊れてしまっては元も子もありませんわ」
アル「それは九郎が未熟なだけであって、妾の責任ではない」
突然、話を振られた九郎は目をむいた。
九郎「ば、バカヤロウ! そんなところで話を振るやつがあるかっ!」
そして当然のように瑠璃の目は、彼へと向けられた。
気のせいか彼女の目は血走っており、あからさまな殺意すら感じられた。
九郎「と、とにかく。こうして無事に魔導書が見つかったわけだし、めでたしめでたしと」
瑠璃「認めると思って?」
九郎(思ってませんです。はい…)
瑠璃「大十字さん! こんな下品な魔導書ではなく、もっと品の良い魔導書を探してくださいまし」
瑠璃の言葉に、さっそくアルは目くじらを立てた。
アル「ふん! 汝は魔導書さえあれば、アレが起動すると思っていたようだが浅はかだったな。
アレは魔導書とそれを操る術者……魔術師でなくては動かす事は出来ぬ。
さてさて、ならばその魔術師を何処から捜してくるつもりだ?」
瑠璃「貴女が気にすることではありません! とにかく大十字さん!」
九郎「は、は、はいっ!」
思わず、背筋を伸ばして直立してしまう俺。
瑠璃「事と次第によっては、いくら成り行きとはいえ勝手にデモンベインを動かした責任を追及することになります! それが嫌ならすみやかに今度こそちゃんとした魔導書を見つけて下さいましねっ!」
九郎(それは脅しですか。脅しですね。考えるまでもねえか……)
九郎は頷くしかなかった。
九郎「了解……」

441藍三郎:2006/08/05(土) 15:07:08 HOST:softbank219060041115.bbtec.net

=夢幻心母=

 アーカムシティの一角で密かに建造されたブラックロッジの本拠地・夢幻心母。
 めったに部外者の立ち入らぬその“黒い聖域”に、足を踏み入れる者がいた。
アウグストゥス「来たか・・・」
 暗く、広い室内で一人佇む色黒の男・・・
 ブラックロッジの幹部・アンチクロスが一人、アウグストゥスは、天井を見上げて呟く。
 天井には、室内を覆う闇に紛れて、黒い影がぶら下がっていた。
 蝙蝠のように逆さにぶら下がっている影こそ、
 宇宙をまたにかける闇商人、エージェント・アブレラである。
アブレラ「ご依頼の品を用意してきた。怪重機が10体、ドロイドが100体・・・だったな」
 アブレラはそう言って、手にした目録らしくファイルを放り投げ、アウグストゥスに渡した。
アブレラ「品物は夢幻心母に運び入れてある。後で確認するが良い」
アウグストゥス「使えるのだろうな?
 どこぞの似非天才科学者のような、役立たずのスクラップは御免だぞ」
アブレラ「フフフ・・・安心するがいい。“代金分の働き”はしてくれるはずだ」
アウグストゥス「代金分の働き・・・か」
 つまりそれは、より高度なマシンが欲しければさらに金を積め、と言う事である。
 まぁ、今は“計画”のための駒を揃える事のほうが重要である。
 重要なのは質より量・・・アブレラの売りこみに乗って金をばら撒くつもりは無かった。
アブレラ「さて、要件も済んだ事だし、私はそろそろ失礼させてもらおう。
 やるべき問題が山積しているのでな・・・
 また商品が欲しくなったら、いつでも連絡してくれたまえ」
 アブレラはそう言い残すと、体を包んでいた黒いマントを開き、
 蝙蝠のように滑空してその場を去って行った。

442ゲロロ軍曹(別パソ):2006/08/08(火) 20:01:55 HOST:host162.ip106.stnet.ne.jp
その頃・・・
=日本=
睦月「はあ、はあ・・!!」
睦月は全速力で逃げていた。しかし、ライオンオフフェノクは徐々に睦月に追いついていく・・。そして・・
ライオンオルフェノク「・・はぁ!!」
睦月「うわぁ!?」
超人的なジャンプをして、睦月の前に立ちはだかった・・。その事態に、思わず腰をぬかす睦月・・。
ライオンオルフェノク「ふん、よくもまあここまで頑張れたものだが・・、これでゲームオーバーだ。あきらめるんだな・・。」
そういいながら、距離を少しずつつめる様に歩くライオンオルフェノク。睦月も後ずさりはするものの、もう助かるとは思っていなかった・・。
睦月(くそ・・!?なんだってこんな事に・・!??)
そして、ライオンオルフェノクが睦月の首に手をかけようとした、そのときだった・・!
『ブォォォン!!!』
ライオンオルフェノク「!?(ばきぃぃ!!)ぐぁああ!??」
突如銀色のバイクが飛び出してきて、ライオンオルフェノクをはじき飛ばしたのだった・・。
睦月「あ・・・?」
その光景に、少し唖然とする睦月。すると、銀色のバイクのドライバーの仲間と思われる男女二人がやってきた。啓太郎と真理である。
啓太郎「あ、あの、大丈夫ですか!?」
睦月「え?あ・・、ああ。何とか・・。」
?「・・おい、啓太郎、真理。そいつ連れて下がってろ・・。」
すると、銀色のバイクのドライバーはヘルメットをはずし、その素顔を現した。それは、茶髪の青年、『乾巧』であった・・。
真理「う、うん、わかった!巧、気をつけてよ!!」
巧「わーってるよ。」
睦月「ちょ・・、ちょっと待てよ!?あんた、もしかして、あいつと・・!?」
巧「・・まーな。」
睦月「な、何考えてるんだ!?あんな化け物みたいな奴、普通の人間じゃとても・・!!」
巧の行動を無謀と考えてとめようとする睦月。しかし、啓太郎があわててフォローした・・。
啓太郎「あ、だ、大丈夫ですよ!!タックンなら、きっとあいつを倒せますから!!」
睦月「た・・、タックン・・??」
巧「をぃ、啓太郎!いい加減その呼び方やめろっつーの!!」
さすがに『タックン』と呼ばれるのは恥ずかしいのか、少し怒ってる感じの巧。すると、倒れていたライオンオルフェノクが立ち上がった・・。
ライオンオルフェノク「き・・、貴様ぁ・・・!たかが人間の分際で、なめた真似を・・、ぶっ殺してやる!!」
巧「そいつは悪かったな・・。・・だがよ、悪いがお前に殺されるつもりは毛頭ねーんだよ・・。」
そういいながら、巧は自分の乗ってるバイクにくくりつけてある銀色のトランクの中を開けた。するとそこには、少し変わったデジタルカメラやデジタルトーチライト、携帯電話、そして、『ベルト』が入っていた・・。
睦月「!?(べ、ベルト・・!?)」
その中身をみて少々驚く睦月。だが、彼の驚きはまだ続く・・。
巧はトランクに入っていたベルト『ファイズドライバー』を即座に腰に巻きつけ、携帯電話『ファイズフォン』を開き、あるコードを入力した。そう、『5,5,5,ENTER』と・・。
ファイズフォン『Standing by』
ライオンオルフェノク「!!そ、そのベルト・・、貴様、まさか!?」
ライオンオルフェノクが驚きをあげる中、巧は黙ってファイズフォンを閉じ、ポーズをつけながら持ち上げ、こう叫んだ・・。
巧「・・『変身』!!!」
そして、その言葉を叫んだ後、ファイズフォンをファイズドライバーへと装填する・・。
ファイズフォン『Complete』
ファイズフォンからそのような機械音が聞こえた瞬間、巧の体を赤色の線、『フォトンフレーム』が包み込み、彼の姿は『変わった』・・。
胸や肩などに銀色の装甲、ギリシア記号のΦ(ファイ)のような形の変わったマスクをした、強化スーツのような姿へと・・。
睦月「!?か・・、仮面、ライダー・・・?!」
睦月は変身した巧の姿に驚いた・・。彼の体はまるで昔自分が変身して戦っていた『仮面ライダー』の姿に、どこか似ていたからだ・・。
ライオンオルフェノク「ちぃ・・、やはり貴様・・、『ファイズ』か・・!!」
睦月「?ふぁ、い、ず・・・??」
そう、今の巧の姿の正式な名称は『ファイズ』。オルフェノクと戦う戦士、『仮面ライダーファイズ』である・・!
ファイズ「・・悪いな。俺たちは急いでんだよ。とっとと片付けさせてもらうぜ・・!」
そういって、巧ことファイズは、右手を軽くスナップさせ、ライオンオルフェノクに向かって走りだした・・!!

443アーク:2006/08/10(木) 10:10:40 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=情報屋リローデット=
ライラ「学校の教師を順調だし、仕事もはかどるのはいいんだけど」
ルシュファー「確かに楽なのはいいけどよ。ここにいていいのか?あんたは」
二人の目の前でルシュファーが作った朝ご飯を食べている魔界四大侯爵の一人
剣豪スパーダはお茶を飲み干すと答えた
スパーダ「仕方ないだろう。俺の任務は君を魔界に連れて行く事だ。
     ま、君は断じてお断りだろ?」
ルシュファー「まぁな。俺はこの生活で満足しているしな」
スパーダ「私とあと一人の侯爵は君を連れ戻すまで人間界にいろと命令されたんだ
     その場合困るのは住む所なんでね」
ルシュファー「ま、まさか・・・・・ここに住むつもりか?」
スパーダ「他に住む場所がないのだ。構わんだろルシュファード?」
スパーダの確信の笑顔を見てルシュファードは溜息を出すばかりだった

444ゲロロ軍曹(別パソ):2006/08/10(木) 21:03:46 HOST:host162.ip106.stnet.ne.jp
その頃・・・
ファイズ「はあ!!(ばしぃ!ばしぃぃ!!)」
ライオンオルフェノク「ぐぅお!?」
ファイズとライオンオルフェノクとの戦いは、ファイズが優勢の状態・・。
ライオンオルフェノクはファイズに殴りかかろうとパンチを放つのだが、ファイズは余裕の状態でパンチをよけ、カウンターとしてライオンオルフェノクのボディに2発のパンチを叩き込んだ・・。その攻撃に、思わずよろめくライオンオルフェノク・・。
ライオンオルフェノク「ぐぅ・・、お、おのれぇ・・!」
ファイズ「・・どうした?もう終わりか?」
ライオンオルフェノク「ふん・・、ほざけぇぇ!!」
そう叫んだライオンオルフェノクは、今までのお返しとばかり、猛攻撃を始めた。ファイズも何とかガードをしたりするのだが、ライオンオルフェノクのキックがまともに決まり、近くの壁まで吹っ飛ばされてしまう・・。
真理「!巧!!」
啓太郎「タックン!?」
二人がファイズに変身した巧の事を心配して叫ぶも、ライオンオルフェノクはチャンスとばかりに少しよろめくファイズに向かって走り出した。だが、当のファイズこと巧はそれほどダメージが大きくなかったようで、あわてずファイズドライバーにセットされていたファイズフォンを取り出し、『フォンブラスター』という銃形態へと変形させた。
ファイズフォン『(1,0,6,ENTER)Burst mode』
そしてすかさずコードを入力し、フォンブラスター形態となったファイズフォンの銃口をこちらへ襲い掛かろうとするライオンオルフェノクへと向け、トリガーを引く・・!
ライオンオルフェノク「(ダダダン、ダン!!)!?ぐぁあああ!??」
ファイズフォンからフォトンエネルギーでできた光弾が3連続で発射され、見事ライオンオルフェノクに命中。今度はライオンオルフェノクがよろめいてしまう・・。
それを好機と見たファイズは、すかさずファイズフォンを元の携帯の状態へと戻しファイズドライバーに再び装填。そして今度は、ファイズドライバーの右腰にセットされているデジタルトーチライト型ツール『ファイズポインター』を取り出した。
ライオンオルフェノク「ちぃ・・、させるかぁ!!」
そういって再び襲い掛かるライオンオルフェノク。だが・・
ファイズ「いちいちうるせーんだ・・、よぉ!!(ずばぁん!)」
ライオンオルフェノク「うぉおお!?」
ファイズは強烈なカウンターキックを放ち、ライオンオルフェノクを少し吹っ飛ばした。そして、ファイズフォンから『ミッションメモリー』と呼ばれる小型チップを取り出し、ファイズポインターにセットする。
ファイズポインター『(かちっ!)Ready』
ファイズポインターのライト部分が伸び、『ポインティングマーカーモード』になる。そのままファイズはポインターを右足のホルスター部分にセットする。最後に、低く構える姿勢を取り、ファイズフォンを開き、『ENTER』と書かれているボタンを押した・・。
ファイズフォン『Exceed charge』
そのような機械音がファイズフォンから流れた直後、ベルトからフォトンフレームを伝わって赤いフォトンエネルギーが右足のポインターへと送り込まれる・・。
ファイズ「・・はあ!」
そう言ってファイズは勢いよくジャンプ!くるりと一回転しながら、ライオンオルフェノクに向かってポインターから赤い光『ポインターマーカー』を発射させる。すると、ライオンオルフェノクの眼前に、赤い円錐状のエネルギー光が出現した・・!!
ライオンオルフェノク「ぐぉぉおお!?」
ファイズ「たぁああああああ!!!」
そのままファイズは赤いエネルギー光へとキックの態勢で突っ込んだ!これがファイズの必殺技の一つにして、最大の威力を誇る技『クリムゾンスマッシュ』だ・・!!
そして、ファイズは体ごと粒子化し、赤いエネルギー光はドリルのごとくライオンオルフェノクを貫く!!
ライオンオルフェノク「ぐぁああああああ〜〜!??」
そして、ファイズが再び姿を現し着地したその直後、ライオンオルフェノクは青白い炎を出しながら、その体は灰となり崩れていった・・。
睦月「す・・・、すごい・・。」
あまりの出来事に、ただただ呆然とファイズの姿を見る睦月であった・・。

445暗闇:2006/08/17(木) 21:06:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
13年前の、とある日――
青葉学園の廊下を歩いていた鷲士は、いきなり背中に軽い衝撃を感じた。
振り返ると、松葉杖を抱いたニコニコ少女と、目が合った。指には少し大きめの、おもちゃの指輪が光っている。
『エヘヘ……しゅーくんっ♪』
『な、なんだぁ、ゆうちゃんかぁ。こまるよ、返してよ』
『ダーメ』
『もう、また〜。ゆうちゃんは、どうしてぼくにそんなにいじわるするの?』
『い、いじわるじゃないよ。ミキ、いじわるなんてしてないもん』
少しフクれたものの、少女はすぐに笑い、
『あのね、わたしね、いいこと思いついたの』
『いいこと?なあに?』
『えっとね、しゅーくんはね、わたしのだんなさまになってくれるんだよね?』
『え……あ……う、うん……』
真っ赤になって、俯いてしまう鷲士だった。
すると少女は、耳元で囁くように、
『だったら、わたしのヒミツ、お・し・え・て・あ・げ・る♪』
その瞬間、鷲士の足は床から離れた。
ただでさえ軽め――加えて半年にわたる入院生活で体重が落ちていた少年の肉体は、あらざる力を受けて、風船のように宙に浮かび上がった。
『えっ?わっ!な、なにやったの、ゆうちゃん!?』
『エヘヘ。あのね、うちの一族ってね、みんなこんなコトできるんだって。ママもできたんだけど、だんなさまになるヒト以外には教えちゃいけませんって。だまってなさいって。でも、しゅーくんはわたしとケッコンしてくれるから、いいの』
嬉しいそうに笑い、少女は続けた。
『わたしたち、ずっといっしょでしょ。だからね、わたしがね、死ぬまでこうやって、しゅーくんを動かしてあげる。だったら松葉杖、いらないでしょ?』
ひまわりのような笑顔に、しかし少年は震え上がった。究極の無邪気さとは、時として究極の悪意よりも恐ろしいものだ。
『お、おろして! おろしてよー!』
ジタバタ暴れ出す鷲士の下で、少女は不思議そうに首を傾げた。
『ええ〜? どうしてぇ〜?』

鷲士「う、うわーっ!」
鼻腔にに刺激臭を感じ、鷲士は弾かれたように体を起こした。肩を上下させながら、思い切り新鮮な空気を肺に送り込む。
鷲士「ゆ、夢か……!」
こめかみを押さえ、大きくため息をついた。

『い、いじわるじゃないよ。ミキ、いじわるなんてしないもん』

唐突に夢の映像がフラッシュバックした。
……ミキ……だって?
青年は眉をひそめた。
ゆうちゃんのゆうは結城のゆう。しかし自分は、下の名前を知らないのだ。いつも一緒にいたせいで、肝心な部分をちゃんと訊いた記憶がない。これが、今に至るまで二十余年の人生の中で、鷲士が抱える最大の後悔となっていた。姓すらも、美沙の登場によって初めて明らかにされたほどである。自分はなにも知らない。
くそっ……どうしてもっと明確に思い出せないんだ……!
拳の腹で、額を叩いた。

446暗闇:2006/08/17(木) 21:08:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「悪夢でも見ましたの?」
落ち着いた澄んだ声と共に、目の前にコーヒーカップが出現した。
???「あ……ど、どうも。いい夢というか悪い夢というか……ははは……でも久しぶりに彼女にも会えたから……いい夢かな?」
目覚めの原因は、恐らくこの香り――鷲士は受け取り、口を付けた。火傷しないように飲み込みながら、顔を上げる。
薄らとシャドウの入った切れ長の双眸と、視線が重なった。
鷲士「さっ、さささ、冴葉さん」
冴葉「おはようございます、ミスター・ダーティ・フェイス」
鷲士「ちょ、ちょっと!?か、勘弁してくださいよ!」
冴葉「分かりました――では鷲士さんと」
メリハリのきいた美貌が、しかし抑揚なく頷いた。
後ろへ流した長い髪、大きなイヤリング、黒いスーツの上下――いつも姿。どちらかと言うと派手な装いの部類に入るはずだが、雰囲気は澄んだ湖面を連装させた。少女っぽさが残る美貴、ノイエと違って、こちらは完全な大人である。
――片桐冴葉。フォーチュン・テラーの会長秘書だ。
ただ、彼女は先端企業にいながら、実質的には政治家の秘書と同等レベルにある。決定権を持つのが美沙なら、冴葉は細かな部分を指揮する立場だ。会長の美沙、まだ面識がない謎のCEOに次ぐ、ナンバー3が、この片桐冴葉なのである。
緊張のせいだろうか、妙に寒気を感じて、鷲士は体を揺すった。
鷲士「な、なんか寒くありません?」
冴葉「そうですね、少し緯度が北寄りですので」
淡々と言うと、壁を指した。
エナメル地のような黒いロングコートが引っかけてある。
冴葉「耳を押さえていただけます?」
鷲士「は?さ、冴葉さんのですか?」
冴葉「……いえ。ご自分の」
鷲士「すすす、すいません!」
と謝ったと同時に、冴葉がとんでもないものを手に持った。
――SPAS12。イタリアのルイジ・フランキ社が開発した、ポンプ及びセミオートマチックの二重作動方式を持つ軍事用のショットガンである。
鷲士「は?」
冴葉「――失礼」
軽く低頭すると、ポンプをスライドさせ、冴葉はSPASを構えた。
――バン、ガシャン、バン、ガシャン、バン!
きっかり三発分の散弾が、黒いコートに吸い込まれた。ただ、貫通することがなかった。いくつものベアリング弾が、床で跳ね返る。
最後に1回ポンプをスライドさせて空薬莢を排出し、冴葉は銃を下ろした。
鷲士「み、耳が〜!」
と目を白黒させる鷲士に、冴葉は淡々と、
冴葉「地球で最高の強度を誇る構造分子、カーボン・ナノチューブに特殊コーティングを施し、繊維化したものを素材に使用しました。極地戦用の生命維持電装を織り込んであります。右手首のボリュームを右に回せば、電熱によってインナーの温度を上昇――左に回せばベルチェ素子によって逆に作用します。ただ、後者は少し強力なので、使用にはご注意を。実験では被験者の3人が全員凍傷にかかってしまいました」
鷲士「は、はぁ」
冴葉「服の発電は、超薄型シリンダーと、静電気吸収によって行われています。鷲士さんが常に動いていれば、半永久的にバッテリが落ちることはありません。南極でも赤道直下でも、体感的には常春のはずですわ。ただ、機構の性質上、意図的に静電気を発生しやすいようにしてありますので、ヒトや電子部品に触れる際には、十分注意してください。左前腕部は、ウェアラブルPC化されていますが、これはあくまで緊急用だと思っていただいてけっこうです。服の電子部品と電波干渉するので、有効通信範囲を大幅に縮小せざるをえませんでした。ハッキリ言うと携帯以下です。どうぞ、袖を通してみてください」
鷲士「あ、はい。わあ、ちょっと重いけど、確かにあったかいですね。凄いなぁ。コタツが服になったみたいですねぇ」
冴葉「次に――これをどうぞ」
と脇にはさんでいたものを、鷲士に放った。
手袋である。裏側の部分に、指先から甲にかけて、関節ごとに、板のようなものが張りつけであった。甲虫の背中のように見えなくもない。
鷲士「あの、これは?」
冴葉「機能的にただの手袋です。やはりカーボン・ナノチューブ製ですが、甲のタイル部分はダイヤモンドを織り混ぜた衝撃吸収素材にしました。意図的に滑りやすくしてあります。これは完全にあなた専用です。手で弾丸を弾くときに使用してください」

447暗闇:2006/08/17(木) 21:09:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「……あ、あの、冴葉さん、ちょっと?」
冴葉「なんでしょう?」
鷲士「動きを止め、冴葉さんが来たってことは、フォーチュン・テラーが全面的に動き出したってことなんでしょうけど……ぼく、まだ行くとは言ってませんからね」
冴葉「おっしゃる意味がよく分かりませんが」
鷲士「だってドイツですよ、ドイツ?僕、パスポートも持ってないし――」
冴葉「ご安心ください。移民局には話を通しました。既にあなたは、ドイツ連邦共和国の市民権を持ってますわ。パスポートは不要です」
鷲士「し、しみんけん〜?いつの間に……!」
冴葉「選挙にも行けます。それに――」
鷲士「そ、それに?」
冴葉は、壁のボタン――こんなボタンはなかった――をグーで殴った。
ガコン、と派手な音を立てて、壁が裂けた。正確にはカーゴ・ハッチが開いたのだが、事情が分かってない鷲士にはそう思えたのだ。
冴葉「――もう着いてますので」
鷲士「……は?」
当初、鷲士はボケ面で首を傾げた。
が――間抜けた顔が青く染まるまで、さほど時間はかからなかった。長身痩躯の青年は、慌てて外に飛び出した。
視界全体を、だだっ広い空間が埋めた。
足下の白線を見るまでもなく、滑走路だった。遥か前方にランチと連結されたジャンボ旅客機が、数機ほど見える。横の建物はターミナルだろう。上部に繋がっているのは電車の高架らしい。行き来する車両が目に入った。
蒼然と、鷲士は振り返った。
自分の部屋だと思っていたのは、巨大な輸送機だった。
全幅67.88、全長75.54m、空重量で約170t。空飛ぶ兵器庫の異名を持ち、無着陸で地球を四分の一周できる鋼鉄クジラ。
――ロッキード・マーチン・C5ギャラクシー。
鷲士「なっ……!」
さらにもう一度振り向いて、鷲士は手近な大きな建物に目をやった。
庇のところには、次のようにあった。

FLUGHAFEN−FRANKFURT−MAIN

フランクフルト・マイン国際空港である。
腰砕けになり、鷲士は膝を突いた。
鷲士「そ、そりゃないよぉー!」
コート姿の青年の哀れな悲鳴が、滑走路にこだました――。

448暗闇:2006/08/17(木) 22:40:28 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
フランクフルトから南南東に250㎞ほど下がった地点には、アルプスをまたがって、ドイツの最高峰・ツークシュピッツェがそびえている。
海抜296mと、火山国の日本人には少し拍子抜けする高さだが、目にした者は山の禍々しさに圧倒され、まず畏怖と感嘆の声を洩らすという。富士山のように、なだらかなコニーデ――円錐型火山――ではなく、ツークシュピッツェは絶壁の複合体だからである。足腰にかかる疲労以外には高さを認識する手段がない火山とは違い、麓に行けば天然の崖が垂直に頭上を覆うのだ。視覚的な高度は、富士山を遙かに上回る。
さらに西側の中腹――切り立った崖の端には、観光客も滅多に訪れぬ古ぼけた修道院が、ポツンと建っていた。
――グランツホルン修道院。
そして建物の傍には、一風変わった人物がいた。
イーゼルを置き、黙々と絵筆を走らせる、画家らしき男がそうである。
――妙に痩せこけた男だった。
彼の横には40も半ばの眼鏡をかけた修道女がいたが、笑顔で話しかけられているというのに、見ようともしない。眼前のアルプスから目を離さず、黙々と絵を描き続ける。
一方、修道院の窓からは、小さな顔が見え隠れしていた。
犯人はまだ幼い修道女――背が低いせいで、爪先立ちしても、やっと窓に顔が出せる程度なのである。顎を窓枠にひっかけるようにして、少女は画家をじっと見つめた。その口元がほころんでいる。
「ルイーゼ」
声をかけられ、慌てて少女は体を戻した。
20歳ぐらいのシスターが、廊下の奥からやってきて、
シスター「あらあら、またなの。窓拭きの途中で――おさぼりさんなのね、ルイーゼは」
ルイーゼ「あ……いえ……その……」
シスター「フフフ、そんなに、あの絵描きさんが気になる?」
クスクス笑いながら、シスター。ルイーゼと呼ばれた少女は真っ赤になると、俯いてしまった。小さな仲間の頭を撫でながら、しかし修道女は微笑み、
シスター「……いいのよ。お亡くなりなったお父さまも、仕事の合間に絵を描いておられたんでしょう?本当は画家志望だったと聞いているわ」
すると少女は、嬉しそうに顔を上げた。
ルイーゼ「あ、あのっ……イーゼルに向かってたのを覚えてて……背中がよく……それでお父さんって呼ぶと……だっこしてくれて……」
シスター「フフッ、じゃあ、わたしから頼んであげましょうか?ルイーゼをだっこしてあげてくださいって、あそこの画家さんに?」
ルイーゼ「そっ、そんなことっ……」
とまたまた赤面し、プシュー。俯いてしまった。
苦笑するシスターだったが、外を見ると汗ジトになり、
シスター「……でも、よく平気でいられるわね、あの絵描きさん。近年の異常気象で、九月にしては下でもかなり肌寒い――しかもここは山だというのに。やっぱりあれなのかしら?芸術家には変人が多いって言うけど、彼もそうなのかしら?」
と何気なく、顔を戻した。
ふくれっ面のルイーゼと、目が合った。
シスター「あ、ウソよ、ウソ。画家に悪い人はいないわ」
すると――少女はニッコリ。
年上のシスターは、ため息混じりに苦笑した。
シスター「……エルネストさんが持ってきてくださったお紅茶、まだ残ってたでしょう?いれて持っていっておあげなさいな。もちろん、副院長の分も忘れずに、ね」
ルイーゼ「は、はいっ!」
ルイーゼは、嬉しそうに頷くと、パタパタと足音を立てて廊下に消えた。

449暗闇:2006/08/17(木) 22:41:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして外では副院長が、笑顔を崩さず、
副院長「……あの、聞いておられます?繰り返すようですが、ここは立ち入り禁止になっておりまして。遠慮していただきたいのですが?」
額からは、冷や汗が滴っている。ただの作り笑いだったようだ。
男の方は、やはり筆を止めなかったが、やっと口を開いた。
???「……近い内に消えてなくなる定めの風景。描き留めておきたくてね」
副院長「消えて……なくなるですって?なんのことですの……?」
???「それに……この山は国有地のはず。ならば、君達には来客を拒む権利はないはずだ。敷地内部ならいざ知らず……少し黙っていてくれないか」
副院長「な……!で、ですが、私たちは……」
???「……禁断の井戸と、フレイア異伝を守る義務がある……かね?」
淡々と言い、画家は副院長のシスターを一瞥した。
副院長「い、井戸……ですって?どうしてそれを……!」
修道女の顔を、旋律が駆け抜けた。画家の腕を掴むと、彼女はムリヤリ引き摺り立てるように、
副院長「い、行って!行ってください!ここはあなたたちの来るようなところでは――」
しかしシスターは手を止めた。
――画家の頬に、赤い筋が走ったからだ。
修道女の胸のロザリオが、男の顔に引っかかったのである。画家の痩せこけた頬から、先決が滴った。
副院長「あ……!」
副院長が口元を押さえ、絵描きは無言で、傷口に指を伸ばした。
指先に付着した真っ赤な液体を目にするなり、男の顔を、衝撃が駆け抜けた。
――男のパレットナイフが、空気を切り裂いた。
中年のシスターの喉から噴き出した鮮血は、空中で弧を描いた。
くずれおちる中年の修道女などには目もくれず、画家は自分の血を指で口元に運んだ。
筋が浮かぶ喉が、静かに上下する。
そして――男は呟いた。
???「……うん。血だ。血の味だ。私は人間だ」

450暗闇:2006/08/17(木) 22:41:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ルイーゼ「ひ……!」
正門前で立ちすくむルイーゼの手から、トレイが落ちた。ポットと3つのティーカップが地面で砕け散る。一つは一緒に飲もうと思って用意した自分のカップだった。
やってきた若いシスターも、硬直した。
シスター「まさか……あれがノイエの言ってた……!?」
中年のシスター痙攣が終わるのと同時に、ゴツゴツした岩の陰から一斉に人影が立ち上った。揃って黒い戦闘機姿――手に持っているのは自動小銃である。彼らの中心にいたのは、美沙と鷲士がエジプトで戦った、例の肥満漢だ。
ヴァッテン「へっへっへ……タウンゼントさん?」
タウンゼント「……回る水を確保しろ、ヴァッテン」
呼応して、ヴァッテン――黒豚――がニヤリと笑った。
呆然と、ルイーゼは後退った。
ルイーゼ「そ、そんな……!画家さんなのに……画家さんなのに……!」
ボロボロと、涙が落ちていく。ささやかな夢を壊された少女の涙であった。
シスター「……来なさい、ルイーゼ」
幼い修道女の腕を取ると、シスターは大聖堂に向かった。回る水が封入された装置の横を通り、教壇に立つ。後ろを向くと、右脇の壁にかかる蝋燭立てを引っ張った。
ゴゴゴゴ……
鈍い音を立てて、壁が裂けた。隠し扉だった。
暗い空間が現れたと同時に、冷たい風が、ルイーゼの頬を叩いた。
シスターは首飾りを外すと、ルイーゼの手を取り、強く握らせた。
シスター「あなたはお行きなさい、ルイーゼ!」
ルイーゼ「で、でもっ、わたしっ……!」
シスター「この“フレイアの小鍵”を奪われたら、世界はあいつらの思い通りになってしまう!リッター村の惨劇を繰り返させるわけにはいかないの!外に出れば、ロープウェイの傍――街に下りたら、エルネストのお爺さんを頼りなさい!さあ!」
ルイーゼ「で、でも……シスターっ……」
口をパクパクさせるルイーゼだ。
すると――年上の修道女は、緊張の汗にまみれた顔で、微笑んだ。
シスター「本当の妹ができたようで嬉しかったわ、ルイーゼ。あなたも大人になれば分かる――未来へなにかを繋ぐということが、いかに難しくて面倒なことか。だけど――同時にないよりも大切だということが」
1人の人間としての正直な言葉だった。
それを最後に、壁は閉まった。幼い少女がなにか言おうとした刹那、壁越しに銃声が聞こえた。爆音の中に混じる悲鳴はシスターのものに間違いなかった。ルイーゼは動かなかった。動けなかった。
やがて――辺りが静まり返った頃、少女は背を向けた。歩き出したルイーゼの顔は、涙でクシャクシャになっていた――

451ゲロロ軍曹(別パソ):2006/08/30(水) 17:08:21 HOST:i219-167-180-103.s06.a033.ap.plala.or.jp
一方・・・
=日本=
ライオンオルフェノクを撃破したのを確認した巧は、すぐさまファイズドライバーからファイズフォンを取り外し、変身を解除するボタンをおす。それにより、元の生身の姿へと即座に戻った・・。
真理「巧、おつかれさま。」
啓太郎「たっくん、大丈夫?さっきので怪我とかしてない?」
巧「別にどーってことねーよ、あのくらい・・。」
そういってぶっきらぼうに答えながら、ファイズフォンなどの変身ツールをトランクにしまい、銀色のバイクに乗ろうとする巧・・。すると・・
睦月「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
慌てて彼を呼び止めるものがいた。それは、先ほどまでライオンオルフェノクとファイズになった巧の戦いを見ていた、睦月だった・・。
巧「・・なんだよ?わりーけど、俺たち急いでるんだよ・・・。」
睦月「・・それは、わかってる。けど、俺知りたいだ!あの化け物が一体何なのか、それに、あんたがさっき変身した、ファイズっていう仮面ライダーの事を・・!」
巧「・・仮面、ライダー・・?」
睦月のその言葉に、少し反応する巧・・。
真理「それってもしかして・・、ノンフィクション作家の白井虎太郎さんが書いた、あの本の・・?」
啓太郎「あ、あの本なら、俺も読んだことあるよ。・・でも、なんでファイズのことを『仮面ライダー』って呼ぶんですか?」
啓太郎の言葉に、睦月は「はっ!」となりながらも、答えることにした・・。
睦月「・・姿が、結構似てるからさ。・・4年前、俺もその、『仮面ライダー』の一人だったし・・。」
睦月のその言葉に、3人は「えっ!?」という驚きの表情を浮かべるのだった・・。そして、このままでは拉致があかないと思い、近くのファミレスに立ち寄ることにした・・。

452暗闇:2006/08/31(木) 17:50:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド・トリエット=
トリエットには、ひどい風が吹き荒れていた。
砂漠の花と呼ばれるこの街の半分は砂でできているのではないかと思えるくらい、いたるところに黄味を帯びた細かい砂が舞っている。
ジーニアス「止まって、ロイド!」
ひと通り街の中を歩いてみようと、砂の積もった小道を曲がろうとしたときだった。
ロイド「なんだよ、急に」
ジーニアス「ディザイアンがいる!」
ロイド「なんだって」
ふたりは曲がり角からそっと様子を窺った。
鞭を持ったディザイアンが4人、その場に立てられた掲示板の前で声高に話している。
ディザイアンA「フォシテス様からの緊急命令だ。ロイドという人間がエクスフィアを持って逃走中」
ディザイアンB「認識番号は?」
ディザイアンA「不明だ。至急全土に非常線を張れ!詳細はこの手配所にある」
ディザイアンB「はっ!」
彼らはあっという間に四方に散った。
用心深く掲示板に近づいたジーニアスは、ロイドを手招きする。
ジーニアス「手配書だ。ははっ、似顔絵までついているよ」
ロイドは、自分の顔だというその絵を一目見て絶句した。
ぼさぼさの髪、ひしゃげた顎のライン。目つきが悪いのも気に入らないが、全体の印象が間抜けっぽいのが一番カンに触る。
ジーニアス「ね。ロイドでしょ。すごいデフォルメなりに、けっこう特徴をとらえて……」
ロイド「……俺、こんな不細工じゃねえよなあ」
ジーニアス「え?そ、そうだね。これなら絶対捕まらないよ。よかったじゃない」
ジーニアスは、あわてて笑ってみせた。
ジーニアス「とにかく用心だけはしながら、早くコレットを探さないと」
ロイド「ああ。誰かに聞いてみよう」
ロイドは辺りをキョロキョロと見回した。
ロイド「あそこがいいかな」
彼は、ボロボロの小屋を修理している男を見つけると、熱い砂の上を歩いて行った。
ロイド「おじさん」
男「ああん?店なら今日は休みだぞ。昨日の砂嵐で屋根が飛んじまってなあ。やっといま直したとこだよ」
ロイド「ちょうどいいや。ふたつ頼まれてくれないか?」
男「なんだい?」
男は金槌を持つ手を休め、日に焼けた人のよさそうな顔をロイドに向けた。
ロイド「世界再生の旅をしている神子について、知ってることがあったら教えてくれないか」
男「神子様だって?ああ、それならちょっと前に占い師のところに来てたそうだ。俺はあいにくそれどころじゃなかったから、見てないがね。いろいろ聞いていったらしい」
ロイド「ほんとか?」
ロイドは、パッと顔を輝かす。
男「占い師はテントにいるはずだから行ってみな。で、ふたつ目はなんだい?」
ロイド「こいつをちょっと預かっててほしいんだ」
男「うわっ。でけー犬だな」
走ってきたノイシュに、男は金槌を取り落としそうになる。
ロイド「話がわかるな、おっさん。人見知りがちょっと激しいかもしれないけど大人しい奴だし、日陰にいさせてやってよ。じゃ、よろしく」
男「あ、ああ」
おっかなびっくりの男を残し、ロイドはジーニアスの元へと戻った。

453暗闇:2006/09/01(金) 18:05:05 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
占い師はすぐに見つかった。
この街の貴重な水源であるオアシスの岸に沿って歩いたいちばん奥に椰子の林がある。彼女はその中にテントを張り、客を待っていた。
占い師「いらっしゃい。なにを占いましょう?」
まだ若い占い師は、テントの中央に置いた大きな水晶玉の前で、ニッコリと微笑んだ。
ジーニアス「ごめんなさい。お客じゃないんです。僕達、神子様のことを知りたくて」
占い師「あら、可愛い子ね」
占い師はジーニアスが気に入ったらしい。
占い師「いいですよ。一件につき100ガルドいただくのですけど」
ロイド「ひえっ、たけーよ」
ロイドの言葉を無視して、彼女は水晶を覗き込み、厳かに続けた。
占い師「見えました――神子様たちは、イフリートの暴走で滅んだというオアシスへ向かっています」
ロイド「本当か?そのガラス玉に映ってるってのか?」
ロイドが笑うと、彼女はキッとなった。
占い師「疑ってますのね?神子様のお供の方に聞いたのだから間違いありません!」
ジーニアス「占いじゃないじゃないか。それで100ガルドも取るの?」
ジーニアスが唇を尖らせると、
占い師「いいえ、特別にタダにしてさしあげます。今度はぜひ恋愛相談でいらっしゃっいね」
占い師は、ニッコリしながら2人を送り出した。
ジーニアス「……大丈夫かな、あの人。なんかインチキくさいよねー」
ロイド「まあ、いいじゃねえか。コレットのお供って、きっと先生のことだよ。先生の言うことなら間違いないだろうから、そのオアシスへ行ってみよう」
ジーニアス「そうだね。うまく追いつけるといいね」
ロイドとジーニアスが話ながら、街の出口近くまで来たときだった。
突然、目の前にディザイアンが3人現れた。巡回中らしい。
ジーニアス「知らん顔しよう、ロイド」
ジーニアスが呟く。
ジーニアス「ここのディザイアンはロイドの顔を知らないんだから、大丈夫だよ」
ロイド「ああ」
だが、1人のディザイアンが、すれ違いざまロイドを見るなり大声を上げた。
ディザイアンC「おい、手配書とそっくりな奴がいるぞ!」
ディザイアンD「本当だ。似顔絵と瓜二つだ。貴様、ロイドだな!」
3人が頷き合うのに、ロイドはムッとなった。
ロイド「なんだとぅ!?俺はあんなに不細工じゃねえぞ!」
彼はブツブツ言いながら、人気のない街の外まで走り、ディザイアンを引きつけた。
できるだけ広い場所で戦いたいという思いの他に、イセリアでの苦い記憶が、無意識の内に街の人々から自分を遠ざけているようだった。
ロイド「行くぞっ!」
ロイドは、丸く取り巻いていた鞭をまるで槍のように真っ直ぐ的確に繰り出してくるディザイアンの脇へ回り込むと、鋭い突きを浴びせる。
ディザイアンC「ぐううっ」
ジーニアス「こっちは僕に任せて!」
一人が倒れると、ジーニアスはけん玉を構えた。
ジーニアス「ウィンドカッター!」
ビュウッと空気が唸り、風の刃が次のディザイアンを宙に巻き上げる。
ロイドはディザイアンが地上に落下する前にそれを左腕で斬り捨てると、ちょうど最後のディザイアンが放ったボウガンの矢――すんでのところで肩口に突き刺さるところだった――を右手の剣で払いのけた。そのまま男に突進し、返す刀で切り倒す。
ロイド「ふっ、残念だったな」
ジーニアス「ロイド、油断したね」
ロイドの横に立ったジーニアスが、肩をすくめた。
ロイド「けど、こいつら相手だと負ける気がしないよなあ」
ジーニアス「いいの?そんなこと言って。そのうち痛い目にあっても知らな……!」
背後に異様な気配を感じたジーニアスは、振り向きざま悲鳴をあげそうになる。
新たなディザイアンたちが4、5人、立っていたからだった。

454暗闇:2006/09/01(金) 18:06:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「……!?あ、ああ……っ」
ジーニアス「ロイド!」
ジーニアスは、ロイドの体が丸く薄い膜に包まれ、発光するのを見た。
ジーニアス(なにこれ!?光る玉みたいだ……こんな武器、見たことないよ!)
ロイドはそれ以上声を出すこともできず、バッタリとその場に倒れてしまう。
ジーニアス「うわああ。僕、怖いっ!」
ジーニアスはとっさに鳴き声をあげた。
ディザイアンのひとりが、意識を失ったロイドを肩に担ぎ上げる。
ジーニアス「ねえ。おとなしくするからぶたないで!お願いだよ!」
男達はうるさそうにジーニアスを一瞥すると、
ディザイアンE「どうする?この子供。仲間のようだが」
ディザイアンF「連れてくのも面倒だ」
と、相談を始めた。
ジーニアス「わああん!僕、ロイドに無理矢理ここまで連れてこられただけなんだ。なんにもわかんないよぉぉ!」
ジーニアスは顔を覆い、ここぞとばかりに嘘泣きをしてみせる。
ディザイアンE「泣くな、ガキっ。あああ、うるさい!」
ディザイアンF「リーダーが欲しがっているのはロイドだけだろう?必要ない」
ディザイアンたちは厄介なものから逃れるように、足早に去って行った。
ジーニアス「……行っちゃった……ロイド、何処へ連れて行かれるんだろう?」
ジーニアスが顔を上げた時、
ノイシュ「クゥ、クゥゥ〜ン、ワウウゥ」
悲しげな声が聞こえてきた。
ジーニアス「ノイシュ!?」
ジーニアスは、近づいてきたノイシュに駆け寄った。
ジーニアス「勝手に来ちゃダメじゃないか……いや、そうじゃないよね」
ロイドの危険を感じ取ってあの小屋から飛び出してきたのかもしれない、とジーニアスは思う。
ジーニアス「よし。まずはロイドの行き先を一緒に確かめよう。何とか助けなくちゃ!」
ノイシュ「ウオオォ〜ン!」
ジーニアス「しっ。奴らに気付かれちゃうよ。当分、吠えるのは禁止。いいね?」
ジーニアスは慌ててノイシュの口を両手で押さえた。

455暗闇:2006/09/27(水) 18:38:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=夢幻心母=

ブラックロッジの本拠地、夢幻心母の中心部にある玉座で、ドクター・ウェストは冷や汗を流していた。
傲岸不遜で恐れる物など何も無い彼であるが、目の前の少年だけは別である。
ブラックロッジの大導師<グランドマスター>・マスターテリオン。
彼は床に跪くウェストの姿が目に入らないのか、憂いを帯びた目でどこかを見つめていた。
それは現世ではなく、どこか別の次元を見つめているかのようだ。
ウェスト「……というわけで、我輩の報告は以上であります」
滝のような汗を流しながら、ウェストは報告を終えた。
内容はもちろん先程のデモンベインとの戦闘とその顛末である。
任務の失敗を報告するにあたり、ウェストは極度に緊張していたがマスターテリオンは聞いているのかいないのか、退屈そうに枝毛をちぎっている。
そんな主に代わり、横から口を出す者がいた。
アウグストゥス「つまり、アル・アジフの回収に失敗した挙句、逃げ帰ってきたわけですな、ドクター」
玉座の横に立つ褐色肌が特徴の長身の男性・アウグストゥスは、目鼻立ちのハッキリとした精悍な顔にあからさまな冷笑を貼りつけ、ウェストを見下ろしている。酷く冷たい切れ長の目は侮蔑の色に染まっており、気品すら与えてくれる仕立ての良いスーツも、その前では色褪せて見えた。
アウグストゥス「全く持って情けない有様ですな。大天才の名が聞いて呆れますぞ」
アウグストゥスの鋭く冷ややかな視線を受け、ウェストの顔は苦痛に歪む。
ウェスト「それは不意打ちを突かれたからで、我輩は負けたなどとは思っていないのである」
不意打ちを食らったのは事実であり、万全の状態であれば負けるわけがない。少なくともウェストはそう考えていたし、負けを認めるなどというのは彼のプライドが許さなかった。
だが、そんな彼の自尊心を踏みにじろうとでもいうのか、アウグストゥスは容赦ない嫌味を浴びせた。
アウグストゥス「ほう。ご自慢の破壊ロボは素性も知れないロボットに歯が立たなかったと?」
アウグストゥスはスーツを正すと、口元に皮肉な笑みをウェストに向けた。
ウェスト「貴様ぁ、言わせておけば!」
両者の間に不協和音が流れる中、ずっと黙っていたマスターテリオンが突然口を開いた。
マスターテリオン「――――やめろ、2人とも。気が滅入る」
マスターテリオンから静かな口調で咎めの言葉を告げられた2人はそれだけで気勢が削がれ、熱した身体は一気に冷え切ってしまった。
マスターテリオン「ドクター、余が貴公を咎めるつもりはない。あのロボットがどのような理論で造られているのかは知らぬが、破壊ロボットとは違う理論に基づいているのであろう。遅れをとるのも無理からぬこと」
ウェスト「お言葉ではありますが、大導師……我輩の破壊ロボットが遅れをとるなどとは……」
おずおずと進言するが、すぐに口をつぐんだ。マスターテリオンが見据えていたからだ。
アウグストゥス「大導師。あのロボット、おそらくは覇道財閥が極秘裏に開発を進めていたロボットではないかと」
アウグストゥスは腰を屈め、マスターテリオンに耳打ちする。
ウェスト(あやつめ、あれが覇道のロボットだと知っていたのであるな!)
ウェストが食って掛かろうとしたその時だ。
???「そのとおり、あれは覇道が造りし鬼械神・デモンベインさ」
ウェストは目を疑った。どこから現われたのか、胸元が開いたスーツを身に纏った、長身の女性が玉座の脇に控えていた。
突然の出来事に驚いたのはウェストだけではない。アウグストゥスは表情を凍らせ、身体をわななかせていた。
アウグストゥス「き、貴様ッ!」
アウグストゥスは声を裏返すと、戸惑う表情を見せながらも素早く身構えた。
次の瞬間、彼の指先から輝く光の糸のようなものが現われる。
アウグストゥスが巧みな指さばきでそれを編み上げていくと、やがてそれは一冊の書物と化した。
魔導書『金枝篇』である。

456暗闇:2006/09/27(水) 18:38:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
マスターテリオン「よい、アウグストゥス。古い友人だ」
マスターテリオンは手でアウグストゥスを制し、謎の女性に目を向ける。
マスターテリオン「久しいな。“今回は”なんと名乗っている?」
ナイア「ナイアでいいよ。今回はそう名乗ってる」
マスターテリオン「ナイアとは、なんとも捻りの無い名前ではないか」
ナイア「どうもセンスがなくってね。次回があれば、君がつけてくれてもいいんだよ?」
マスターテリオン「次回とは。心にもないことを」
マスターテリオンはつまらなさそうにつぶやく。
ウェスト(あの女、何者であるか?それに今回とは一体?)
断片的に語られる奇妙な言葉に、ウェストは不安感を覚えた。
マスターテリオン「して、何用か?」
ナイア「おっとっと。僕としたことが、肝心なことを忘れてしまうところだったよ」
ナイアは頭をコツンと叩いて、軽く舌を出すと、マスターテリオンに向き直った。
ナイア「アル・アジフとデモンベインの搭乗者について、知りたくはないかい?」
「――――ッ!」
ナイアの話に反応したのはマスターテリオンではなく、ウェストとアウグストゥスである。
ウェスト(訊きたい、訊きたいのであるっ!)
名誉挽回のために、そしてボロ雑巾のようになってしまったプライドを修復するためにも、デモンベインにリベンジする必要があった。
ナイア「大十字九郎。うだつのあがらない、三流の探偵さ」
マスターテリオン「探偵?ミスカトニックの魔術師ではないのか?」
マスターテリオンはほんの少しだけ意外そうな顔をした。
ナイア「あの、アル・アジフが選んだのだから、間違いはないと思うけどね」
マスターテリオン「ふむ」
ナイア「どうだい?面白そうだろう?」
マスターテリオン「……今回はずいぶん向こうに肩入れしているではないか。――で、実際のところ、どうなのだ?」
ナイア「今までに比べたら力は劣るやね。だけど大導師殿?そんなものは関係ないだろう?」
マスターテリオン「ふむ」
しばし熟考していたマスターテリオンは、玉座から緩慢な仕草で立ちあがった。
マスターテリオン「アウグストゥス、留守を頼む」
突然のことに、アウグストゥスは惚けた表情をする。
ナイア「おやおや、大導師殿、自らご出陣で?」
とぼけた口調のナイアに対し、マスターテリオンは薄く笑って答える。
マスターテリオン「挨拶せねばなるまい?それに、余とて遊びに興じたくなる時もある」
マスターテリオンは言い終わると同時にその姿をかき消した。

457暗闇:2006/10/01(日) 18:12:31 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァラントベース=
ロイド「くそうっ。なんなんだ、ここは。出せよ!」
牢の中で目覚めたロイドは、鉄格子を掴み、先刻から叫び続けていた。
トリエットの出口で襲われ、意識を失いかけたところまでは覚えている。
目の前を行ったり来たりしている見張りが制服を着ていることからも、ここがディザイアンの施設の中であるだけは理解できた。
ディザイアン「やかましいぞ。どうせお前は事と次第によっちゃあ、見せしめのために公開処刑になるんだ。おとなしくしていろ」
見張りの男の言葉に、ロイドは愕然となった。
ロイド(処刑!?や、やべぇ。グズグズしてたら殺されちまう)
剣は取り上げられてしまっている。彼は、なにか武器になるものはないかと、ポケットを探った。
ロイド(あ、これは……)
指先に当たったのは、マーテル教会聖堂から持ってきたソーサラーリングだった。
ロイドはリングを指先にはめると、見張りに向ける。
ロイド「ようし、当たれっ!」
リングの石と同じ赤い光が発射された。それを首筋に受けたディザイアンがあっけなく倒れたと思うと、ほとんど同時に鉄格子が音もなく開いた。
ロイドは通路に投げ出されていた自分の剣を拾い上げる。そして、急いでその場から逃れた。

458暗闇:2006/10/17(火) 01:52:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
出口を探して施設の中を歩き回るうち、ロイドは不思議な気分になった。
とにかく広いのだ。しかし、複雑な造りでは決してない。
開放感のある通路には、ひとりでに開くいくつもの扉やチカチカと瞬いている明かりなどが、すっきりと組み込まれている。
ディザイアンと鉢合わせしそうになるたび、彼は今まで見たこともない機械類の陰に隠れてやり過ごし、観察してみたが、彼らがこの施設のシステムを自在に使いこなしていることは間違いなかった。
ロイド(ここは、どういう技術で建てられたものなんだ?ディザイアンの奴らっていったい……。とにかく早く外へ出ないと)
ロイドは、自分がここで時間を食っているせいで、ますますコレットとの距離が開いてしますことに苛立ちを覚える。
その時だった。てっきり据え置きの機械だと思っていた金属の塊が2体、いきなり動き出すと襲いかかってきた。
ロイド「なにっ、こいつらモンスターかよ!?」
ロイドはとっさに抜いた剣で金色に輝くモンスターの頭部を斬りつけたが、刃がたつ固さではなかった。
ロイド「くそっ!」
今頃はもう、牢から脱走したことがディザイアンたちに知れ渡っているに違いない。
グズグズ戦っている暇はなかった。
ロイドは一番近い所にある扉めがけて突進した。自動的に開いたそれは、モンスターの侵入を許さない速度で再び閉まった。
ロイド「ふう。危ないところだったぜ」
ロイドは、自分が飛び込んだ場所が、誰かの私室らしいことに気が付いた。
いくらかの機械類とは別に、本棚やソファが置かれている。
???「何者だ!?」
ロイドは驚き、声のする方へ顔を向けた。
長身の男が立っていた。まだ若く、端正な顔立ちをしている。イセリアの空の色に似た青い長髪を後ろで一つに束ねており、長いマントを羽織っていた。
男はロイドをまっすぐに見据えると、スッと拳を上げる。そこから滲むように光が溢れ出すのを見て、ロイドは咄嗟にグローブで顔を庇った。
???「そ、それは、エクスフィア!」
男が驚愕の声をあげる。彼の視線はロイドの左手に注がれていた。
???「まさか、貴様がロイドか」
ロイド「……だったら?」
ロイドは、男の強い視線に負けまいと、睨み返す。
ロイド(なんだ?こいつ。人の顔をジロジロ見やがって)
???「……なるほど。面影はあるな」
ロイド「面影はある?なんのことだよ」
ロイドがオウム返しに聞いた時、甲高い音が響き渡った。警報装置らしい。
続いて扉が開き、数人の男が駆け込んできた。

459暗闇:2006/10/17(火) 01:53:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ボータ「リーダー!神子たちが侵入してきた模様ですぞ!」
ロイド「コレットが?」
思わずそう口にしたロイドは、聞き覚えのある声にハッとする。
ロイド「お前……マーテル教会聖堂で襲ってきた……あの時のディザイアンじゃないか!」
確か、ボータと呼ばれていた男だ。
ボータ「ん?そうか、お前がロイドだったのか。ははは、これは傑作だ!」
???「ボータ、私はいったん退く。ここで“奴”に私のことを知られてはせっかくの計画が水の泡だ。後のことは頼んだぞ」
おかしそうに笑っていたボータは、慌てて表情を引き締めると、
ボータ「はっ、リーダー。それでは神子の処遇はいかが致しますか?」
と、訊ねた。
???「……お前に任せる」
青い髪の男は、再びロイドに視線を注いだ。
???「ロイドよ。次こそは無事ですむと思うな。必ず貴様を……覚悟しておくのだな!」
ロイド「なんだとっ!?」
気色ばむロイドを睨み付けると、男は奥の扉の向こうに姿を消した。
と、まるで入れ違いのようにジーニアスが転げ込んできた。
ジーニアス「ロイド!よかったぁ、生きてる?」
続いてコレットとクラトスも入ってくる。
ここへ到達するまでにかなりの数のディザイアンとモンスターに遭遇したのだろう、クラトスは抜き身の剣を握ったままだ。
コレット「ロイド、大丈夫?ケガしてない?手は大丈夫そう、足も大丈夫そう?」
コレットは、ボータたちが目をギラつかせていることなどお構いなしで、ロイドの身体を気遣った。
クラトス「無事のようだな」
その様子を見て、クラトスが短く呟いた。
ロイド「……みんな。来てくれたんだな。俺の方から捜しに行こうと思ってたのに」
ジーニアス「僕一人でコレットたちを見つけるの、大変だったんだからね」
ジーニアスは自慢げに胸をそらした。
ボータ「仲間がみんな勢揃いか。ちょうどいい、神子もろとも始末してくれる!」
クラトスは、古めかしい大刀を構えるボータと対峙する。
ロイド「ジーニアス!コレットを頼む!」
ロイドは剣の切っ先をユラユラさせながら、
ロイド「ほら、こっちだ。来いよ」
と、からかうようにディザイアンを誘った。
ディザイアンA「くそう、小僧、行くぞ!」

460暗闇:2006/10/17(火) 01:54:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
コレット「レイトラスト!」
そこへ突っ込んできたうちの一人の背にコレットのチャクラムが命中する。
ディザイアンA「ぐわぅ!」
バランスを失い、一人が倒れた。残った一方をすかさずロイドが斬り捨てる。
それを見届けたジーニアスは、クラトスの援護に向かおうと絨毯を蹴った。
ジーニアス「ストーンブラスト!」
ボータの足許から、次々に石つぶてが飛び出した。大刀を振りかざしていたボータに一瞬の隙が出来る。
クラトスはそれを逃さず、瞬迅剣を繰り出した。
ボータは激しい突きを必死にかわしていたが、何度か右腕に刃を受け、低く呻く。ロイドが迫ってくるのを見てこれ以上は無理だと踏んだらしかった。
ゴトリ、と大刀が落ちる。
ボータ「き、貴様……やはり、さすがというべきか」
ボータは怒りに燃えた目でクラトスを睨み付けると、血の滴る腕を押さえながら、先程リーダーと呼ばれる男がくぐった扉の方へヨロヨロと近づいて行く。
ロイド「いいのか?」
ロイドの問いに、クラトスは答えない。ボータはそのまま、消えた。
と、その時、リフィルが入ってきた。
ロイド「先生!」
リフィル「あら、それは確か……!」
彼女は、ロイドの声も耳に入らない様子で、ボータが落としていった古めかしい大刀を拾い上げ、食い入るように見つめている。
リフィル「……うーん。そうかもしれない……!」
ロイドは、なぜ彼女だけここに来るのが遅れたのだろう、と疑問に思った。
ロイド「先生ってば。俺だよ、ロ・イ・ド」
リフィル「やっと顔を上げたリフィルは、ジーニアスをチラリと見てから、ロイドに言った。
リフィル「ここに案内される途中、あの子からいろいろ聞いたわ。迷惑をかけたそうね」
ロイド「そんなことない!巻き込んだのはむしろ俺の方だ。先生の弟なのに……ごめん」
クラトス「2人とも」
クラトスが割って入る。
クラトス「話は後にしろ。こんなところに長居は無用だ」

461暗闇:2006/10/18(水) 15:07:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「こんなところって、ここはディザイアンの……」
クラトス「シルヴァランドベース。奴らの基地といったところだな」
クラトスは答え、リフィルに水を向けた。
クラトス「どうだ、うまくいったか?」
水を向けられたリフィルは頷いた。
リフィル「ええ、もちろんよ。たったいま脱出口を開いてきたところ。さ、行きましょう」

462暗闇:2006/10/18(水) 18:40:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある異世界=
雪をかぶった山々が防壁のように空を狭めていた。アメストリス北の終わりの街、ヴァルドラ。天嶮ブリッグズ山の麓に抱かれたこの街では、1年のどの季節でも、街のどこにいても、白い峰を望むことができる。
大気の状態や雲のかかり具合によって、山が白いドレスの裾を引く女の姿に見えることもあるという。だからヴァルドラの新しい住人の多くは、この地方に昔から伝わっているある魔女の伝説はそこから生まれたと勘違いしている。白き魔女はおとぎ話の中の存在にすぎない、と。
しかし、古くからの住人達は知っている。白き衣を纏いし魔女は実在した。遠い昔、その魔力の巨大さゆえに地の底深く封印されたことを。
目覚めさせてはならない、と少女は小さな声で呟いた。ヴァルドラの中心部に建てられた魔女の像を見上げながら。
その像は、恐ろしい魔女とは思えないほど、やさしく慈愛に満ちた顔をしていた。いつの時代に造られたのかはわからないが、魔女がおとぎ話の中の存在だと思いこんでいる者の手によるものだろうと、少女は考えた。
それは、全てを滅ぼす大いなる力。
古くからの住人達の間で語り伝えられている言葉だ。それを知っている者が、このように穏やかな微笑をたたえた魔女の像を造るはずがない。

『彼女の力は人の手に負えるものではないのだよ。たとえ彼女の一族である私達であっても』

父の言葉が少女の耳元に蘇った。
???「お父さん……」
少女は俯いた。父の死から1年。もう泣かないと決めたのに、鼻の奥がつんと痛くなる。久しぶりにヴァルドラに帰ってきたせいだろうか。いや、この街を離れたのは物心つく前。思い出など一つもないのだから、感傷的になる理由などない。
もう一度、魔女の像を見上げる。
きっとこの像のせいだ、いつになく涙もろくなっているのは。だって、こんなに優しげな像だとは思わなかった。まるで……お母さんのよう。……何を考えているの、私ったら。お母さんの顔なんて覚えていないのに。
もともと体の弱かった母は、自分を産むとすぐに死んでしまったと聞いている。父にとってもつらい思い出だったのだろう、決して多くを教えてくれたわけではないが。それでも言葉の端々から、母の人柄を推し量ることはできた。
母の名――イルゼ――は、北の国の言葉で「神は我が誓い」の意味だという。その名に相応しく、信仰心に厚い女性だったと、父は語った。

『お前はお母さんにとっても、お父さんにとっても大切な宝物なんだよ』

だから何としてでも逃げ延びて、生き続けるようにと父は言った。底冷えのする晩だった。あれが、父とすごした最後の日となった。

『おまえこそが……希望の光』

父はそう言って微笑むと、少女の身体を隠し通路へと押し込んだ。追っ手が迫っていた。物心ついたときからずっと逃亡生活を続けてきたのだ。父が何をしようとしているのか、わからない少女ではなかった。
声を上げて泣きたくなるのを我慢して、少女は隠し通路の奥で息を殺していた。荒々しい足音や言い争う声が聞こえ、やがて大きな物音がした。それでも少女はじっとしていた。自分が捕まれば、父の死が無駄になる。
絶対に生き延びる、そう誓った。父の願いを叶える為に。

463暗闇:2006/10/18(水) 18:41:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「私が必ず……」
止めてみせる、魔女を決して目覚めさせたりしない、と心の中で呟く。
時計台の鐘が正午を告げた。広場の噴水がひときわ高く上がり、陽光を受けてきらめく。噴水の周りで子供達が歓声を上げている。
ヴァルドラへ来るのはまだ早かったかもしれない。のどかな光景を眺めながら、少女は不安になった。もう少し、追ってから隠れて時期を待った方がよかったのではないだろうか。この街へ来るということは、敵の真っただ中へ飛び込むということなのだ。
でも、と少女は小さく頭を振る。夢の中で母に呼ばれた。はっきりとした言葉ではなかったけれども、その声は確かに自分を呼んでいた。あれは母の声だ。少女はそう感じた。声どころか、顔すら覚えていないけれども、間違いないと思った。
北の地に葬られた母が教えてくれたのだ。時期がきた、と。その予感を信じて、少女はヴァルド行きを決めた。
とはいえ、平和そのものといった光景を目にすると、予感などあてにならないのではないかという疑念が湧き上がってくる。何かが起きると思ったのは錯覚にすぎなかったとしたら。
その時だった。不意に地面が小刻みに揺れ動いた。
???「地震?」
違う。魔女の像が地面とは異なる揺れを示していた。足許から伝わる揺れよりも、ずっと長く、不規則な間隔。あたかも像が自ら動き出そうとしているかのように。やがて、地鳴りにも似た音が聞こえた。立て続けに3回、それぞれ別の方角からだ。
予感は、母の声は、正しかった。始まったのだ。
少女は魔女の像に背を向け、走り出す。既に行き先はわかっていた。

464暗闇:2006/10/18(水) 18:42:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
子供A「うわあ、でっかい!」
子供B「ヘンな鎧!」
子供達が無遠慮に指をさしてくる。平均的な大人より頭ふたつ分は大きい鎧が、わずかに低くなった。これでも本人は思いきり身を縮めているつもりだったが、そこは鎧である。これ以上、背中を丸めることも首をすくめることもできなかった。
ウィンリィ「アル、ごめんね。ずっと人混みばっかで」
アル(以後、鋼)「いいんだ、ウィンリィ。慣れてるから」
ため息のつける身体であれば、間違いなく最大級のため息が吐き出されていたに違いない。しかし、彼、アルフォンス・エルリックは肉体がなかった。空っぽの鎧に魂だけを定着させた姿は、初めて見る人を九割九分九厘驚かせ、この世のものとは思えぬ悲鳴を上げさせる。
ウィンリィ「裏通りが分かってれば、そっちを通るんだけど」
ウィンリィと呼ばれた少女が、すまなそうに周囲を見回した。石畳の歩道には、肩が触れ合いそうなほどの人数が行き交っていた。
ヴァルドラはアメストリス北方では人口の多い街である。古くからの城塞都市で、中心部から広い道路が何本も放射線状に校外へと延びている。それらの大通りをつないでいるのが細い裏通りだったが、こちらは計画的に敷かれた道路ではない。ゆえに、おかしな具合に曲がりくねっていたり、袋小路になっていたりして、土地勘がない者には迷路に等しい。どうしても大通りに人が集中することになる。
ウィンリィ「ヴァルドラは道がややこしいから、表通りを行くようにってガーフィルさんが……」
不意にウィンリィの言葉を不機嫌な少年の声が遮った。
???「あー、鬱陶しいったらねえ。これだから人混みはヤなんだよ」
小柄な少年が顔をしかめながら背伸びをした。
ウィンリィ「ちょっと見通しが悪いくらいで文句を言わないの」
金の瞳が剣呑な色を帯びる。せっかく鬱陶しいという遠回しな表現を使っていたのに、直接的な言い方をされたせいだった。
ウィンリィ「アルと違って、エドのは気の持ちようってやつなんだから」
エド「ウィンリィ、てめ……」
異を唱えようとしたその時、エドことエドワード・エルリックの後頭部を何かが直撃した。ごつ、という鈍い音とともに、星とも花火ともつかないものが目の前で弾ける。
???A「ああ、悪ぃ」
痛む後頭部をさすりながら見上げると、人の好さそうな青年がエドを見下ろしている。そして、その青年の隣にいる男が彼に気をつけろと諫めるような表情――どうやら友人同士のようだ――をしていた。2人ともこの街の人間ではなく旅行者なのだろう、その内の1人は首からカメラをぶら下げている。たった今、ウィンリィのスパナに匹敵する打撃を放ってきたのは、そのカメラだった。彼が友人と話している時に振り向いた矢先、位置が悪かったせいで軽い遠心力で振られたカメラがエドの頭に命中したのだ。
しかし、誰にでも不注意はある。相手も反省しているようだしここはひとつ、大人の対応というやつをするべきだろうと、エドは右手を挙げ、応用に構えてみせる。
エド「いや、大丈……」
???A「悪かったな、坊主」
口を開きかけたまま、エドはその場に固まった。男はエドの頭をなでると、にっこりと笑って友人の男と共に歩み去っていく。
エド「ぼ、坊主?」
ウィンリィは口元を両手で押さえ、クルリと回れ右をした。肩が小刻みに震えている。アルがその隣に並ぶ。正面に回ってみるまでもなく、2人が笑いをこらえているのは明らかだった。
酸素不足の魚のように口をパクパクさせるばかりのエドだったが、すぐに両腕を振り上げて叫んだ。大人の対応、という文字が跡形もなく吹っ飛ぶ。
エド「待ちやがれーっ!オレにケンカ売るたぁ上等だっ!」
アル(鋼)「兄さん、落ち着いて」
エド「だ〜れ〜が〜就学前のお子様サイズのミニマムどチビだ〜ッ!」
アル(鋼)「そこまで言っていない……っていうか、そんなこと全然言ってないでしょ」
呆れたというよりは諦めた様子で、アルが暴れるエドを押さえつける。慣れた動作だった。
ウィンリィ「これじゃ、どっちが兄なんだか」
ウィンリィが肩をすくめる。
エド「オレが兄!」
エドが「オレが」の部分を強調して答える。大きな鎧という外見に惑わされて、アルが兄だと勘違いする者も少なくない。だが、実際にはアルは14歳、小柄なエドが15歳だった。
エド「ったく。あのクソ大佐!これで何も出てこなかったら、ただじゃおかねえ」
アル(鋼)「何も出てこないってことはないと思うよ。わざわざ手紙で知らせてきたんだから」
エドがロイ・マスタング大佐からの手紙を受け取ったのは、ラッシュバレーだった。ほんの数日前である。機械鎧<オートメイル>の修理の為に、幼馴染みであり機械鎧技師であるウィンリィの許を訊ねたときのことだった。

465暗闇:2006/10/18(水) 18:43:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウィンリィ『そういえば、エドに手紙が届いてたんだっけ』
機械鎧の扱いが雑すぎる、なぜもっと丁寧に使わないのかと、いつものようにひとしきり説教した<ボコった>後だった。ウィンリィは思い出したように立ち上がり、手紙を出してきた。
エド『オレに手紙?』
アメストリス国内を転々と旅しているエドたちに手紙を届けるには、これが最も早く確実な方法だと踏んだのだろう。差出人の読みはどうやら正しかった。
ウィンリィ『一昨日届いたばかりなの。まさか、こんなに早く渡せるとは思わなかった』
エド『手紙なんて、いったい誰が……げっ!』
差出人の名前を見るなり、エドはのけぞった。
アル(鋼)『兄さんがそういう反応を示すってことは、大佐からだね。何かあったの?』
エド『こっちが訊きてえ』
エドが顔をしかめて、開封した手紙をアルに手渡した。
アル(鋼)『え?たったこれだけ?』
軍の紋章入りの便箋には、見覚えのある文字でたった一行、こう書かれていた。ヴァルドラに君達の求めるものがあるかもしれない、と。
エド『何のことだかさっぱりだろ?』
アル(鋼)『うん……せめて、もうちょっと具体的に書いてくれればいいのに』
裏に追伸文が書かれていないか、或いは透かしでも入っているのではないかと、アルが手紙をためつすがめして見ている。
エド『具体的なことを書くと、ヤバいってことかもな』
自分たちが求めているものを思えば、ありえない話ではない。過去に多くの錬金術師たちが探し求めてきた術法増幅装置である賢者の石。そして、それは関わった者を不幸にするとも言われていた。実際、賢者の石に関わったがために、命を落とした者たちを知っている。
エド『ちょっくら行ってみっか』
ヴァルドラとやらへ、とエドが言ったときだった。
???『あら、あんたたち、ヴァルドラへ行くの?』
ウィンリィの師匠であり、この攻防の主でもあるガーフィールが奥から顔を出した。外見こそむくつけき男であるガーフィールだったが、言葉づかいや物腰は極めて“女らしい”。それは繊細にして豪快という、機械鎧技師として彼の技術を体現していた。
ガーフィール『ちょうどよかったわ。頼まれてくれないかしら。あたしの昔なじみがヴァルドラにいるんだけど、届けて欲しいものがあるのよ』
エド『オレたちなら、いいけど?』
ロイからの短い手紙では、ヴァルドラという地名以外に何も手がかりがない。ガーフィールの申し出は渡りに船だった。地元の人間につてができれば、情報収集に役立つ。
ガーフィール『助かるわぁ。そうね……』
ガーフィールはチラリとウィンリィを振り返った。
ガーフィール『ウィンリィちゃんも行ってきてくれない?金ヅルもいることだし』
エド『費用はオレ持ちかよ!』
エドの抗議をあっさり聞き流し、ガーフィールはにっこりと笑った。
ガーフィール『ついでに彼の工房を見学してらっしゃいな。彼の技術はすごいわよぉ。きっとウィンリィちゃんと話が合うと思うわ』
ウィンリィと話が合うと聞いて、機関銃を仕込んだ義手だの、キャタピラ付きの義足などを思い浮かべたエドだったが、口には出さなかった。不吉な予感がしたのだ。ガーフィールにあっさり肯定されるのではないかという……

466暗闇:2006/10/18(水) 18:43:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そういう次第で、ウィンリィが同行してヴァルドラ行きは3人の旅となった。南部の街ラッシュバレーから北方都市ヴァルドラまで、汽車を乗り継いで数日。旅の疲れをものともせず、ウィンリィはホテルに荷物を置くなり出かけると言い出した。ガーフィールの行っていた「すごい技術」とやらが見たくて居ても立ってもいられなかったらしい。
フロントで市街地の地図をもらい、勇んでホテルを出たまでは良かったが、大通りをいくらも進まないうちにエドとアルは意気阻喪した。もともと人混みが極端に苦手な2人である。
エド「なんなんだよ、この人の多さは」
アル(鋼)「お祭り……なんてことはないよね」
確かに風船売りや露天の類が所々に出ていたが、それに対する人々の反応は鈍い。おそらく、大通りの人の多さを当てこんで店を出しているだけで、祭りや祝典というわけではないのだろう。
ウィンリィ「はいはいはい、文句言わないの。さっさと歩く!」
ウィンリィ一人が気を吐いている。
アル(鋼)「しょうがないね。がんばって歩こうよ」
エド「だな」
気を取り直して再び人混みへと突撃を開始したときだった。足許に揺れを感じた。
エド「ん?地震か?」
小刻みな揺れがいきなり突き上げるような衝撃に変わった。あちこちで悲鳴が上がる。遅れて何かが爆発したような音が聞こえてくる。かなり近い。あれは何だ、と誰かが叫ぶ。何のことを言っているのだろう?
アル(鋼)「兄さん、あれ!」
アルが指さす方向に目をやる。積み木のように並ぶ建物の向こうに、奇妙な形の塔が見えた。いや、塔なのか、石像の一部なのか、或いは全く別のものなのかは定かではない。ただ、一番高い建物よりもさらに高い位置に見えることと、その形状から塔ではないかと思っただけだ。
元からあったものではない。あれだけの高さなら、大通りを歩いていればいやでも目につく。今の振動は、あれが地面を突き破って生えてきたことによるものだろうか。が、それ以上、考えることはできなかった。
不意に人の群れが動き始めたのである。たちまちそれは速度を上げ、エドたちを呑みこみかける。パニックだ。
エド「アル!ウィンリィ!離れるなっ!」
とっさに近くにいたウィンリィの腕をつかむ。人の流れに押されてはぐれてしまったら、おそらく互いの安否を確認することすらできなくなる。ここは見知らぬ土地なのだ。
銃声が聞こえた。今度もまた近い。それがさらに群衆の不安を煽った。怒号と悲鳴とが飛び交い、押し流す力が勢いを増す。
石畳に足を取られた。身体が前のめりになる。体勢を立て直そうにも、人の流れが速すぎる。パニック状態の人混みで転倒することが何を意味するか。エドは焦った。まずい。せめて、ウィンリィを巻き込まないように手を放して……
アル(鋼)「兄さん」
襟首をつかまれた。鎧の腕がエドとウィンリィを人混みから引きずり出す。
アルの身体を盾にしながら、流れから抜け出し、裏通りへと飛び込んだ。ガーフィールにも、ホテルのフロントでも、不用意に裏通りに入るなと言われていたが、
あのパニックに比べれば道に迷うほうがマシだった。
エド「アルの御陰で助かった」
エドは大きく息を吐いた。もう少し遅かったら、あの怒濤の人混みに踏みつぶされていたかもしれない。
ウィンリィ「いったい何が起きたの?」
ウィンリィが不安そうに大通りに目をやった。雷鳴を短く区切ったような音にエドは口をつぐんだ。
アル(鋼)「兄さん、あれってもしかして……砲弾?」
もしかしなくても砲弾だ。間違いない。
エド「おいおい、冗談じゃねえ。街中で戦争おっ始めやがったってか」
内乱という言葉が脳裏をよぎった。この国では決してとっぴな連想ではない。急速に軍事化したアメストリスは、お世辞にも国家として安定しているとは言いがたい。中央から遠い地方、つまり国境周辺は軍の力が及びにくいために、常に内乱の火種がくすぶっている。数年前には、少数民族であるイシュヴァール人が内乱を起こしていた。
エド「とにかくホテルに戻ろう」
もしも内乱が勃発したのであれば、ホテルに戻ったからといっても安全とは言えないわけだが、何が起きているかくらいはわかるだろう。そう判断したエドはウィンリィとアルに提案すると、2人も頷き裏通りを歩み出した。

467アーク:2006/10/19(木) 20:23:07 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
マグナス「地震の次は砲弾か・・・・この世界は面白いなぁ」
クラウス達と別れて次元を渡っていたマグナスは奇妙な気配に引かれ
この世界に降り立っていたのだった
この世界は一度来た事がありその時に聞いていたエルリック兄弟を見つけ
後を追っていたのだ
マグナス「最近時空のバランスが保っていないな。念の為彼らを追いながら
     この世界を調査するか。この錬金術が発展したこの世界を」
三人に気づかれないようにマグナスは後を追った

468暗闇:2006/10/22(日) 23:14:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃、此方の世界では……
界魔「相変わらず、お前たちには恐れ入るよ……」
叢魔「そういうものか?父も言っているが、生まれつきの障害あったりする者等を除けば、本来人間のスペックはさほど……」
界魔「それは確かにそうだが……お前たちと一般人をあまり一緒に考えない方が良いぞ」
これまで数え切れないほど聞かされている台詞を界魔はサラリと流すと、周りを見渡していた。
如何にも豪華な席に座って満足気味になっている子供らを見て、彼はため息をつく。
日本に向かうべく、辿り着いた空港でジェナスたちと別れた彼らは叢魔と天美に偽造して貰ったパスポートを用いて飛行機に乗っていた。
あれほど短時間でこの世界には存在しないはずの自分たちのことをでっち上げた2人の才能には驚嘆するが、まさかファーストクラスの席まで手に入れるとは……
界魔自身は小さい頃から義父とは犬猿の仲である叢魔の父の元へ遊びに行ったりしていたので、豪華な待遇にもあまり気を引くこともないが……
界魔(昨日のあいつは……一体……)
界魔が昨日の夜中に出会った謎の人物のことはまだ誰にも言っていない。
余計なことを言って混乱を広げるのもいけないということもあるのだが、それ以上に気になることがあった。
界魔(あいつも……あのスライムも言っていたが……俺のことを知っているのか?)
界魔は元々天上家の人間ではない……身寄りのない子供だった彼を現在の天上夫妻が引き取ったのだ。
最初は養父とはウマが合わないこともあってか散々ケンカしたりして、一度はそれが原因で家を飛び出してしまったこともある。
だが、その直後に起こったある出来事によって養父と仲直りし、それまでと比べ衝突することは減った。
しかし、その出来事のさいに初めて自分に関する出生を界魔は知ることになった。
界魔は元いた世界の人間ではない……違う世界から流れ着いた人間だということだ。
しかも、自分は特別な存在らしい。
その事実を知った彼も最初は戸惑ったものの、幼い頃から非常識を経験していたこともありそれは結構早く受け入れ、割り切ることが出来た。
それでも、自分の出生が度々気になり、情報を集めようかと思ったこともあったが、そのことを詳しく知ると思われるある者たちとはまず出会うことがない為、諦めていた。
その者たちは基本的に界魔しか、まともな接触をあまりしておらず、おまけに敵として立ちはだかってきたこともあるので養父たちからは不信の目で見られている。
その者たちは11年前の戦い以来、自分の目の前に姿を現していない。
まあ、あれから大きな戦いも無かったのでそれはそうだろうが……
が、これは自分のあくまでも直感にすぎないが、今回の件はあの時の戦いと同じかそれ以上のものになるだろう……界魔自身はそれを薄々と察していた。
もしそうなら、彼らもまた自分達の目の前に姿を現してくるはず……今は当時と違って界魔も心身共に成長した。
今の自分なら彼らから自分に関する真実を聞き出すことはできるはずだ。
考えを纏めた界魔は目を閉じた。
実はあの後、輪廻に捕まりまともな睡眠が取れず、少し疲れが溜まっていたので、日本に着くまでの間少し寝ることにした。

469暗闇:2006/11/27(月) 02:25:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=ヴァルドラ=
あれからエドたちは地図を頼りに歩き始めたものの、すぐに方向を見失ってしまった。裏通りには、目印になるようなものが何もないのである。建物はどれも似たようなアパートばかり、看板の類もなければ標識さえもない。さらに間の悪いことに、にわかに広がりを始めた雨雲が太陽を覆い隠してしまった。これでは方角が全く分からない。
ウィンリィ「ねえ、もしかして……」
アル(鋼)「僕達って迷子になってない?」
アル(鋼)とウィンリィが顔を見合わせる。もしかしなくても迷子だとエドが答えようとしたときだった。
奇妙な服装の男達が行く手を阻んできた。おかしな模様を描いた仮面をかぶり、銃を手に武装している。その銃も、白っぽい衣服も、明らかに軍のものではない。もっとも、装備を見るまでもなく敵か味方かの判別はついた。彼らが一斉に銃口を向けてきたからである。
エド「問答無用かよ」
エドが両手の平を合わせながら、アル(鋼)にチラリと視線を投げかける。同じように手を合わせながら、アル(鋼)が頷いた。
アル(鋼)「ウィンリィ、下がって!」
2人同時に両手を地面に押し付ける。練成反応特有の光が弾け、石畳から無数のトゲが飛び出した。男達が銃を持ったまま跳ね飛んだ。が、彼らは怯むことなく起き上がってくる。
再び2人そろって石畳に両手を押し付ける。またトゲが練成されると思ったのだろう、男達が一斉に飛び退った。が、トゲではなかった。彼らの足許から迫り上がってきたのは、分厚い石の壁である。壁はみるみる高さを増し、エドたちと彼らとを完全に分断した。
3人そろって回れ右をして走る。これで、連中が壁をよじ登るなり、壊すなりする間に逃げられる。
アル(鋼)「狭い道でよかった」
全力で走りながら、アル(鋼)がつぶやく。練成速度は、練成物の質量に大きく左右される。狭い道幅に合わせた壁なら一瞬で練成できるが、大通りではこうはいかなかっただろう。
しばらく走った後、エドたちは足を止めた。これ以上、走ろうにも息が続かなくなったのだ。鎧戸を下ろした建物にもたれながら、エドとウィンリィはただただ荒い息をついていた。
動けない2人の代わりに、アル(鋼)は怪しい者が潜んでいないか、周囲を点検しに回った。肉体を持たないアル(鋼)だけはどれだけ走っても疲労を感じることがない。
それにしても、ここヴァルドラは最悪の事態に陥ってしまったらしい。やはり内乱が勃発したのだ。さっきの男達は単なる民間人ではない。あの統率のとれた動きは、一般軍人並みの訓練を経て初めて身につくレベルのものだった。
ウィンリィ「ねえ、エド……これからどうする?」
エド「とりあえず大通りに出る」
あんな連中がうろついているのでは、危なくて裏通りを歩けない。大通り沿いに歩きながら、街を脱出する方法を考えるしかなかった。内乱である以上、汽車は動いていないだろう。公共の交通手段に頼らずに街を出ることができるかどうか。しかし、グズグズしているうちに街が封鎖される恐れもある……

470暗闇:2006/11/27(月) 02:26:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
アル(鋼)「さっきの人たちが!」
アル(鋼)の鋭い叫びで我に返った。あの物騒な連中がまだいたらしい。
エド「おい、そんな大声出したら、連中に見つかって……」
アル(鋼)「違うよ。助けなきゃ!」
アル(鋼)が駆け出した。どうやら誰かが襲われているらしい。慌ててエドもその後を追う。ここでアル(鋼)とはぐれるわけにはいかない。
アル(鋼)「あっちの角を曲がってった!先に行くよ、兄さん」
ウィンリィがついてきているのを確かめ、さらにアル(鋼)を追いかける。幸いなことに追跡は短かった。
アル(鋼)「いた!」
アル(鋼)の指さす先、袋小路に誰かが追いつめられているのが見える。追いつめているのはさっき見たのと同じ服に身を包んだ男達だ。いや、もう一人いる。白ずくめの連中に交じって、一人だけ灰色のコートを着た男がいる。濃紺とも青紫ともつかない髪の色が遠くからでもよく目立つ。
男がゆっくり歩いている。いや、女かもしれない。背の高さから男だと思ったが、歩き方や身のこなしは遠目に見てもわかるほど女性的だった。さらに
近づいてみると、襟と袖に毛皮をあしらったコートも、男物というより女物に見える。
女はこの上なく優雅なしぐさで紫の髪をかき上げた。が、次の瞬間。エドは最初の判断こそが正しかったのだと悟った。
???A「さあて……どうしようかねえ」
その声ははっきりと男のものだった。過剰に女であることを強調しようとしている裏返った声色をもってしても、彼本来の性別はごまかしようがない。
???A「これ以上手間をとらせるようなら」
そして、壁際に追いつめられているのは、ちょうどウィンリィと同じくらいの少女だった。男がじりじりと少女に歩み寄る。その掌が光っているのをエドは見た。
練成反応の光に似ているが、この距離では断定できない。
アル(鋼)「やめろ!」
アル(鋼)の叫び声に、男が振り向く。きっちりと化粧が施されてはいたものの、あの顔立ちはまぎれもなく男である。

471暗闇:2006/11/27(月) 02:28:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「あら。何か御用?」
からかうように男が言った。が、その灰色の瞳は全く笑っていない。ここに至ってエドも確信を持った。この男は少女に危害を加えようとしている。
男の口許に嘲笑の色が浮かんだ。が、すぐにそれは消え、退屈そうな表情に取って代わる。鬱陶しげに、男が片手を挙げる。光を帯びているほうの手だった。男が何かを投げつけてくる。
光だ。太陽をそのまま地上に持ってきたかのような、真っ白な光の玉。それがエドとアル(鋼)に向かって飛んでくる。と、それは無数の氷に、次の瞬間にその氷は矢に転じた。とっさに後ろへ跳ぶ。石畳が砕ける音。
2人が立っていた場所に何本もの氷の矢が突き刺さった。氷の矢はガラスのように透き通っていたが、強度の方はガラスとは桁違いらしい。
エド「野郎……ッ!」
エドは男に向かって跳んだ。すでに右手は甲剣へと形を変えている。同じ術師ならばその練成速度が並のものでないとわかるはずだ。が、男は相変わらず嘲りの表情を崩さない。
男の利き腕めがけて甲剣を突き出す。避けようとするかと思いきや、男はまっすぐに前へと足を踏み出した。エドの甲剣と男の手とがぶつかった。
鈍い音とともに甲剣が止まる。生身の手が鋼鉄製の機械鎧で練成した剣を止めている。
エド「な……」
次の瞬間。身体が浮いた。男は甲剣を受け止めたばかりか、同時にエドを蹴り飛ばすという荒技をやってのけたのだ。とっさに受け身をとったものの、衝撃を殺しきれなかった。背中を走り抜ける痛みに、エドは顔をしかめる。どうにか上体を起こしたものの、すぐには立ち上がれない。
???B「やめて!その人たちは関係ないわ!」
絶叫する少女を、白ずくめの連中が押さえつけられる。
???A「黙って見てなさい。すぐに終わらせるから」
紫の髪の男は笑い含みに告げると、再び掌を払った。さっきと同じ光の玉がエドめがけて飛んでくる。
無理だ。避けきれない。光球が無数の氷の矢へと変じる。思わず目をつぶる。
突然、鼓膜に衝撃がきた。鉄板の上に砂利を勢いよくばらまいたかのような音。エドは目を見開く。アル(鋼)が立ちはだかり、盾となってエドを守っていた。あのけたたましい音は、無数の氷の矢が鎧めがけて降り注いでいたせいだった。
しかし、石畳に突き刺さる氷の矢である。その威力はすさまじいらしく、アルがジリジリと押され始める。
ついに耐えきれなくなったのか、アルが仰向けにひっくり返った。
エド&アル(鋼)「うわあっ!」
2人分の悲鳴が響き渡る。アル(鋼)の倒れた先にはエドがいた。
エド「アル〜!どけ〜!重いぃぃぃ!」
鎧の下敷きになったエドがはみ出した足をばたつかせてわめく。不自然な体勢でひっくり返ったせいか、アル(鋼)もすぐには起き上がれずに、同じように足をばたつかせている。

472暗闇:2006/11/27(月) 02:28:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「あら、以外としぶといわね」
紫の髪の男が声をたてて笑うのが聞こえた。いつの間にか、降り注ぐ矢は止んでいた。
???A「子供だと思ってなめてたわ。今度はもっと……」
???B「やめてっ!」
悲鳴にも似た声で少女が叫ぶ。
???B「お願い……やめて……やめ…て……ッ!」
少女の声がどこかおかしい。どうしたのだろう?が、鎧の下敷きになっているエドにはそれを確かめる術がない。
???B「だめえええええっ!」
衝撃はいきなりやってきた。突風なのか、爆風なのか、それとも別の何かのか定かではないが、激しい力の奔流を感じた。アル(鋼)もろとも弾き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。ウィンリィの悲鳴が遠くで聞こえる。
何が起きているのか、さっぱりわからない。ただただ視界が白い。それでも、正体不明の力は少しも衰えることなく押し寄せてきている。
きつく閉じてしまいそうになる瞼をこじ開けると、少女が見えた、その身体が光っている。視界が白いのは、そのまばゆい光のせいだったのだと気づく。
???A「なるほど恐ろしい力ね」
光の中で、男が苦しげに身体を曲げるのが見えた。
???A「また……会いましょう」
男が消えた。本当に消滅したのか、単にどこかへ駆け去っただけなのかはわからない。それ以上、目を開けていられなかったのだ。
もう視神経が限界だ、と思った瞬間、辺りが暗くなった。不意に手足に自由が戻る。静かだ。耳までおかしくなったのではないかと思うほど。
いつの間にか、少女の身体から光が消えている。ドサリ、という音が沈黙を破った。少女がその場に倒れ伏したのである。
エド「おい!大丈夫か!」
跳ね起きながら叫ぶ。返事はない。エドは慌てて駆け寄った。アル(鋼)が少女を抱き起こす。
アル(鋼)「しっかりして!」
が、彼女はふったりとして動かない。その手の甲が淡く光っている。
アル(鋼)「兄さん、この光……」
さっきのまばゆい光と同一のものにしては、あまりにもかすかで弱々しい。やがて、残り火が消えるようにその光は消えた。
エド「アザ?」
少女の手の甲には、赤紫色のアザがあった。いや、アザではなく、人の手によって描かれたものだろう。自然に出来たものにしては整いすぎていた。形は花によく似ている。入れ墨だろうか。
ウィンリィ「何がどうなってんのよ。まったくもう」
咳き込みながらウィンリィが歩み寄ってくる。が、意識を失っている少女を見るなり、ほとんど飛びつくようにして彼女の首を掴んだ。まず脈を確かめようとするあたりは、医者の家系に生まれたウィンリィらしい。
ウィンリィ「よかった……脈は異常ないわ」
アル(鋼)「でも、目を覚まさないよ。どうしよう」
エド「どこか横になれる場所を探さないと」
確かに、ここではいつまた白ずくめの連中が襲いかかってくるかわからない。
エド「横になれる場所って言っても、こんな裏通りじゃなあ」
ウィンリィ「近くに病院があればいいんだけど……あ!」
周囲を見回していたウィンリィが、ピタリと視線を止めた。
エド「どうした?」
ウィンリィ「あそこ。教会があるわ」
教会ならば、応急手当くらいしてもらえるかもしれない。少なくとも、少女を休ませる場所は提供してもらえるはずだ。誰からともなく頷き合う。
アル(鋼)が少女を抱えて立ち上がった。

473暗闇:2006/11/27(月) 23:32:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
間近に見ると、古い教会だった。扉を開けて中を覗いても、人の気配は全くない。
アル(鋼)「もう使われていないのかな。それとも、出かけてるだけだとか?」
エド「鍵もかけずに外出ってことはないだろ」
建物の中はたいして埃くさくもなく、蜘蛛の巣が張っていたりsることもなかった。使われなくなったとしても、最近のことなのだろう。いずれにしても好都合だった。
礼拝堂を抜け、2階に上がると、小さいながらも客室があった。こちらはうっすらと埃をかぶっていたものの、カーテンもベッドもそのまま残されている。もしかしたら、近い内に何かの施設として再利用される予定でもあるのかもしれない。
ベッドカバーを剥がすと、枕やシーツは実用に耐える程度の清潔さが保たれていた。アル(鋼)が少女をそっと下ろす。
アル(鋼)「いいよね、勝手に使っちゃっても」
エド「ったり前だ。この非常時に文句は言わせねえ」
アル(鋼)「当たり前っていうのは、いくらなんでも……」
何か言いたげなアル(鋼)をとりあえず黙殺し、エドは改めて少女の手の甲を覗き込んだ。
エド「この模様、さっきの光と関係があるのか?」
練成反応を何十倍にも強めたような光だった。手の甲に描かれているのが錬成陣ならば、少女の使った力は錬金術の一種ということになる。だが、この単純な模様はどう見ても錬成陣とは思えなかった。
いやな夢でも見ているのか、少女が顔をしかめた。汗ばんだ額に銀色の髪が貼りついている。ウィンリィがハンカチを取り出し、少女の顔をそっと拭う。と、少女の瞼が動いた。
???「お…とうさ…ん……」
ハッとしたように、少女が目を見開いた。瞳に戸惑いの色が浮かぶ。
ウィンリィ「気がついた?」
???「ここは……」
飛び起きようとする少女をウィンリィが手で制した。
ウィンリィ「まだ寝てなきゃだめ。ここは教会よ」
少女の視線がウィンリィからエド、そしてアル(鋼)へと移る。
エド「もう心配しなくていい。さっきの奴らはいなくなった。ここなら安全だろう」
安全という言葉を出しても、少女は固い表情を崩そうとしない。警戒しているのだ。辺りの様子を確かめるかのように視線が室内をさまよう。少女がゆっくりと起き上がる。ウィンリィも今度は止めなかった。
エド「俺はエドワード・エルリック」
アル(鋼)「ボクは弟のアルフォンス・エルリックです」
少女は無言のまま、エドとアル(鋼)を見比べている。
ウィンリィ「ウィンリィ・ロックベルよ。よろしくね」
同じ年頃のウィンリィに対してなら警戒心も解けるかと思ったが、少女の表情は相変わらずだった。

474暗闇:2006/11/27(月) 23:33:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エド「で、あんたは何者なんだ?」
何か妙な力を使ってはいたが、錬金術師には見えない。いったい何者なのだろう。が、少女はエドの疑問に答えてくれなかった。名乗れない事情でもあるのだろうか。エドは質問を変えることにした。
エド「さっきの白ずくめの連中、何者なんだ。あんた、何か事情を知ってるんだろ?教えてくれないか」
あの紫の髪の男は、はっきりと少女を狙っていた。手近にいた者を無差別に襲っているという様子ではなかった。何より彼女自身の言葉がそれを裏付けている。あの男がエドたちを攻撃しようとした時、彼女は言った。その人たちは関係ないわ、と。裏を返せば、彼女自身は関係者であり、自分が襲われる理由を知っていたということになる。
エド「おい、なんで黙ってるんだよ」
いっこうに答えようとしない少女に、エドは苛立った。
???「助けてくれたことには感謝してる」
俯いたまま、やっと少女が口を開いた。
???「でも、これ以上このことには……私には関わらないほうがいいわ」
エド「なんだって?」
少女が顔を上げた。その瞳には、うって変わって強い光が宿っている。
???「それより、早くここから逃げて。このヴァルドラを離れて。まだ間に合うから」
エド「ちょっと待った!オレたちは事情を知りたいんだ。今、この街で何が起きているのか」
間違いなく、少女は何かを知っている。
エド「それくらい話してもいいだろ」
???「事情を知ったところで……あなたたちじゃ、どうすることもできないわ」
ひどくカンにさわる物言いだった。つい、エドもとげとげしい言葉を返してしまった。
エド「別にどうこうしようとは言ってねえだろ。事情を教えてくれって言ってるだけで」
少女が黙って目を逸らす。薄い色の唇をきつく引き結んだまま。
ウィンリィ「ねえ、話だけでもしてみてくれないかな」
ウィンリィが少女の肩に手を置いた。
ウィンリィ「話すだけでも気が楽になるってこと、あるでしょう?」
少女の視線が迷うように揺れた。ウィンリィはここぞとばかりにたたみかける。
ウィンリィ「こいつ、見た目は小さいけど、以外と頼りになるのよ」
エド「そうそう。小さいけど意外と頼りに……って、おい!誰が小さいってっ?」
エドの抗議をウィンリィがあっさりと受け流す。
ウィンリィ「せっかく褒めてあげてんのに、いちいち絡んでこないでよ。すぐ小さいことにこだわるんだから」
エド「小さい言うなっ!」
ウィンリィ「実際、小さいんだから、小さいって言って何が悪いのよ」
エド「あーっ!2回も言いやがったっ!」
ウィンリィ「まったくもう。身体が小さいと心まで小さくなるのかしらね。さすが史上最小国家錬金術師だわ」
エド「史・上・最・年・少だーっ!」
エドの絶叫が辺りに響き渡った。古い窓ガラスがビリビリと震え、窓枠が軋む。
ウィンリィ「ちょっとエド!もう少し小さい声で話してくれない」
エド「だから、ちっさい言うな〜ッ!」
ぜいぜいと肩で息をしているエドのかたわらで、クスッと笑う声がした。アル(鋼)ではない。いつの間にか、少女が笑っていたのだ。
ソフィ「私の名前はソフィ。ソフィ・ベルクマン」
ひとしきり笑うと、少女はようやく名乗った。
ソフィ「いいわ。事情を説明する。助けてもらったお礼もあるし」
ソフィが再び真顔に戻った。

475暗闇:2006/11/27(月) 23:34:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ソフィ「さっき襲ってきたのは……この街を襲っているのは、ヴェルザの一族と呼ばれる者達」
エド&アル(鋼)&ウィンリィ「ヴェルザ……?」
エドたちが顔を見合わせる。どこかで聞いた名だ。
ソフィ「私は彼らの計画を防ぐためにヴァルドラへきたの」
アル(鋼)「計画って?」
それには答えず、ソフィは小さく息を吸い込んだ。
ソフィ「かつて、白き衣を纏いし魔女がいた」
目を閉じ、一語一語確かめるようにソフィは言葉を紡いでいく。
ソフィ「魔女は怪しい術で人々を惑わせた
    魔女は怒った王に討たれた
    魔女は死なず復讐を誓った
    魔女は赤き悪魔の力を借りた」
赤き悪魔、という言葉にエドは思わずアル(鋼)を見る。アル(鋼)もまたエドのほうを見ている。全く同じものを連想したのだろう。
ソフィ「魔女が一度手を打ち鳴らすと、魔女を罵る者たちが死んだ
    魔女が二度手を打ち鳴らすと、城は崩れて王が死んだ
    魔女が三度手を打ち鳴らすと、怪物たちがこの地を襲った
魔女はますます荒れ狂い、許しを請う人々を苦しめた
魔女は人々を殺し続け、国は滅びた
やがて勇気ある者たちが現れた
やがて戦いが始まった。
やがて魔女は眠りについた
やがてこの地に城が建ち
ついに魔女は封印された」
アル(鋼)「ソフィ、その歌はいったい……?」
ソフィ「これがヴァルドラに伝わる魔女の伝承。その魔女の名はヴェルザ」
ウィンリィ「あ、思い出した!」
ウィンリィが指を鳴らした。
ウィンリィ「地図にあったじゃない。ヴェルザ像って」
さっき、どこかで聞いたことがあるような気がしたはずだ。ホテルで道を教えてもらったときに、ヴェルザ像のある広場が出てきた。
エド「そういや、その近くに遺跡か何かがあったよな。ってことは、この地に城が建ちって、それのことか?」
アル(鋼)「でも、言い伝えなんでしょ。ほんとにあったことじゃなくて」
いいえ、とソフィが首を左右に振った。
ソフィ「単なる言い伝えじゃないわ。街の人たちはおとぎ話だって思ってるけど、これは事実を基にした伝承なの」
アル(鋼)「じゃあ、魔女も実在した?」
ソフィは大きく頷いた。
ソフィ「ヴェルザの一族は、魔女ヴェルザを祀り、自分たちの神として信仰している一族。彼らはヴェルザを目覚めさせて、世界を滅ぼそうとしているの」
エド「世界を……滅ぼす?」
突拍子もないことを言われて、エドたちは面食らった。おとぎ話が一転して世界の命運に関わる話である。が、ソフィは構わず言葉を継いだ。
ソフィ「この伝承には続きがあるの。ヴェルザの一族だけに伝えられてきた続きが」
おごそかな口調でソフィは続けた。
ソフィ「それはすべてを滅ぼす大いなる力。決して目覚めさせてはならない」
沈黙が訪れた。はいそうですかと信じられるような話ではないが、かといって絵空事と切り捨てるのもはばかられた。何より、それを語るソフィが真剣そのものなのだ。
ソフィ「封印を解いてヴェルザを復活させるには、たくさんの生贄が、人の命のエネルギーが必要になる。だから、彼らはオベリスクと呼ばれる尖塔を造り、それを集めようとしているの。私はそれを阻止するためにこの街へ来た……」
エド「もしかして、それで追われていたのか?」
ソフィ「ええ、紫色の髪の男がいたでしょう。彼はヴェルザの四神官の一人、氷塵のレオニードと呼ばれる男だと思うわ。氷の矢を操っていたから」
大いなる力、オベリスクと呼ばれる尖塔、人の命のエネルギー。やはり突拍子もない話だが、引き込まれずにいられない。細部は違っているのだが、大筋の部分がエドたちの知っているあるものを連想させるからだ。
アル(鋼)「どう思う、兄さん」
エド「どうもこうも、いきなり世界を滅ぼす云々だろ?ただ……」
常識で考えれば、話半分に聞いておくべきなのだろう。が、エドたちがヴァルドラにきた目的自体が同じように雲をつかむような話なのである。生きた人間を材料として精製する「賢者の石」。それを思えば、ソフィの話をただ聞き流すなどできようはずがなかった。

476暗闇:2006/11/27(月) 23:34:52 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ソフィ「信じられないのも無理ないわ」
エドが黙り込んだのを否定的な反応だと勘違いしたらしい。ソフィが立ち上がった。
ソフィ「私、もう行くわね。これで事情は話したから」
エド「おい、ちょっと待てよ。そういう意味じゃなくて……」
引き留めようと伸ばした手が空をつかんだ。
ソフィ「あ……」
ソフィの身体が大きく傾いだ。エドは慌てて立ち上がると、今度こそ彼女の腕をつかんだ。そのまま身体を支え、ベッドに座らせる。
エド「大丈夫か?」
ソフィ「ええ。ちょっと目眩がしただけ」
ソフィは笑おうとしているようだったが、その唇には血の気がなく、頬は紙のように白い。ウィンリィとアル(鋼)が口々にソフィを引き留めにかかる。
ウィンリィ「まだ無理しちゃダメよ」
アル(鋼)「そうだよ。もう少し休まないと」
ソフィ「いいえ!」
ソフィが叫んだ。3人が思わず黙りこむほどの強い声だった。
ソフィ「そんなこと言っていられない。早くしないと、ヴェルザが復活してしまう!」
悲痛な声だった。ソフィをベッドに寝かせようとしていたウィンリィも手が止まる。
アル(鋼)「兄さん」
アル(鋼)がエドを振り返った。わかっているよね、と言いたげに。そして、再びソフィのほうへと向き直る。
アル(鋼)「ヴェルザの復活を止める方法をボクたちに教えて!」
ソフィ「え?」
アル(鋼)「こんなに弱ってる人をほっておけないよ」
ソフィ「な、何を言ってるの」
ソフィがうろたえたようにアル(鋼)を見上げる。
エド「別にあんたのためってわけじゃない」
エドは2人の会話に割って入った。
エド「オレたちはオレたちなりの思惑があって、ヴァルドラに来た。だから、さっきも事情を教えてくれって言ったんだ」
ソフィ「あ……」
エド「で、その事情を聞いてみると、だ。そのヴェルザとやらが、オレたちの探し物と関係があるんじゃねえかと」
アル(鋼)「赤き悪魔、だね」
アル(鋼)が言葉をはさんだ。さっき、あの歌の同じ言葉にアル(鋼)も反応していた。自分だけではない。
エド「魔女が赤き悪魔の力を借りたってのが、どうしても引っかかる」
伝説に聞く賢者の石の色は赤。もしもヴェルザが賢者の石を使って術を増幅させていたとしたら、錬金術を知らない人々には、「赤き悪魔の力を借りて」いるように見えたのではないか。
エド「さっき、ヴェルザの復活には人の命のエネルギーが必要だって言ったよな」
アル(鋼)「やっぱり、それって……」
エドはアル(鋼)に頷いてみせる。賢者の石は生きた人間を材料にして造られる。これもまた、賢者の石とヴェルザの共通項だった。
エド「とにかく、オレたちがあんたの代わりにやってやる」
ヴェルザをたどっていけば、賢者の石にたどりつけるかもしれない。いや、その可能性は極めて高い。ロイの手紙にあった「君達の求めるもの」とは、おそらくこれだ。
エド「ヴェルザの復活を防ぐ方法を教えてくれ。半病人みたいなあんたより、オレたちがやったほうが早い」
ソフィ「あなたたちには関係ないのよ。代わりだなんて……」
アル(鋼)「関係なくないよ!」
アル(鋼)が強く頭を振った。
アル(鋼)「ヴェルザの復活で世界が滅んじゃうなら、ボクたちだって無関係じゃいられない」
ソフィ「だめよ!これは私がやらなきゃいけないことなの!あなたたちを巻き込むわけにはいかないわ」
エド「だーかーらー!あんたのためじゃないって言ってんだろーがっ!」
思わずエドが怒鳴った。話がちっとも進まない。と、不意に頭が後ろに引っ張られた。ウィンリィだった。下がってなさい、と言いたげな視線をエドに投げてよこすと、ウィンリィはソフィの肩に手を置いた。

477暗闇:2006/11/27(月) 23:35:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウィンリィ「ねえ、ソフィ。誰かを巻き込みたくないくらい大変なことなら、それこそ仲間と協力したほうがうまくいくんじゃない」
ソフィ「仲間……」
ソフィの口許がそのままの形で固まった。まるで仲間という言葉を初めて聞いて戸惑っているかのように。
ウィンリィ「それに、この2人って、すっごくガンコだからね。一度言い出したら引かないわよ」
ウィンリィが冗談めかして言う。
ソフィ「そういえば、さっき国家錬金術師って……」
ウィンリィ「それはエドのほうね。国家資格はとってないけど、アル(鋼)も錬金術師よ」
ソフィはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
ソフィ「わかった。あなたたちにお願いするわ」
錬金術が使えるのなら、とソフィが呟いた。
ソフィ「エド、アル(鋼)、ウィンリィ。よろしくお願いします」
改まって挨拶されると、照れが先に立つ。エドとアル(鋼)は、ギクシャクと頭を下げた。
ウィンリィ「ほらほら、堅っ苦しい挨拶なんて抜きにして」
ウィンリィに言われて、3人はそろって頭を上げ、噴き出した。
エド「ウィンリィの言うとおりだよな。早いとこ片付けようぜ。で、どうすればいいんだ?」
ソフィ「ヴェルザの復活には人の命のエネルギーを集める必要がある。これはさっき言ったわね」
エドとアル(鋼)が頷いた。
ソフィ「だから、エネルギーを集めているオベリスクの動きを止めればいい」
エド「どうやって?」
ソフィ「今からあなたたちに聖印を渡すわ。それがあれば、オベリスクを封印することができる」
利き手を出して、と言われてエドは機械鎧の右手を差し出した。
エド「これで……いいのか?」
ソフィは頷くと、エドの腕に両の手のひらをかざした。やがて機械鎧の手の甲に、ソフィと同じ模様が浮かび上がってくる。練成されているといった感触はない。陽の光や街灯に手をかざしているのと変わらなかった。
エドが終わると、アル(鋼)にも同じようにソフィが手をかざした。ただ、その模様は手をかざした場所に現れるというわけではないらしい。アル(鋼)の場合、模様が現れたのは肩だった。
ソフィ「あなたたちに聖印を渡したわ。これであなたたちもオベリスクを封印できるはず」
エド「これ、どうやって使えばいいんだ?」
赤紫色の模様を指先でつついてみる。特に何かが変わったとも思えない。何なのだろう、これは。
ソフィ「オベリスクに手を触れて、術を使えばいいの。あとはその聖印が力を必要な方向へ増幅してくれるわ」
アル(鋼)「これ、さっきの力の?」
ソフィ「ええ。聖印は私の力の源。オベリスクの封印だけじゃなくて、神兵たちと対等に戦うこともできるはずよ」
エド「神兵?」
ソフィ「白い服の兵士達がいたでしょう?彼らのことよ」
見た目にはただの模様だが、錬成陣と似たような効果を持つものなのだろう。レオニードという名の男も、さっきの戦いで錬金術らしき力を使った。ヴェルザと錬金術との間にこれほど明白な関連性があるのだから、賢者の石とも必ず繋がっているはずだ。
ソフィ「3つのオベリスクのうち、西にあるのは私が封印したから残りはふたつ。そのひとつは街の北にあるわ。病院前の広場に」
エド「病院前だな。……って、オレたち、今どの辺にいるんだっけ?」
裏通りで迷子になったあげく、妙な連中に遭遇して、わけもわからずに走った。おかげで、現在位置がさっぱりわからなくなってしまった。ここが自分たちの泊まるはずだったホテルから近いのか、遠いのかさえも。ウィンリィが地図を広げる。
ウィンリィ「ソフィ、この教会がどの辺にあるのか、わかる?」
ソフィ「たぶん。ちょっと見せて」
地図を覗き込んだソフィは、指先で複雑に入り組んだ道をたどっていたが、すぐに顔を上げた。
ソフィ「ここよ。教会の記号があるでしょう。そして、ここが病院前広場」
ウィンリィ「見て!すぐ近くまで鉄道が通ってる」
ウィンリィが地図を指さした。
ウィンリィ「これって、ガーフィールさんが言ってた汽車のことじゃない?」
ヴァルドラの市街地には、地下遺跡を利用した鉄道が敷かれているという。それは市街地をグルリと一周していて、ヴァルドラの住人にとっても、旅行者にとっても、なかなかに便利な乗り物らしい。
エド「地下遺跡の中を走る汽車……か。使えるかもしれねえな」
アル(鋼)「線路に沿って歩いていけば道にも迷わないし、さっきの人たちにも見つからずにすむよ」
幸い、その鉄道の駅ならこの教会の近くにもある。この状況では汽車そのものは走っていないだろうが、線路沿いに歩くことくらいできるはずだ。

478暗闇:2006/11/27(月) 23:36:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エド「ソフィはヴァルドラにくわしいんだな。もしかして、昔、住んでいたとか?」
ソフィ「ええ……でも、物心つく前だから、全然覚えてないけど。ヴァルドラの市街を知っているのは、父が地図を見ながら何度も説明してくれたから。父には分かっていたんだわ。いつかこんな日がくるって」
エド「お父さん?」
ソフィ「ええ。父は1年前に亡くなったの」
悪いことを聞いてしまったかもしれない。気まずく黙り込むと、ソフィは静かに首を左右に振った。
ソフィ「いいのよ」
ソフィの細い指先が地図を元通りに折りたたむ。平静を保とうとしている姿が痛々しい。
ソフィ「あとは……お願い」
ソフィの身体がグラリと揺れた。
エド「おい!」
エドとアル(鋼)は慌てて両側からソフィを支える。
ソフィ「ごめんなさい。緊張が解けたら、急に……安心して気がゆるんだみたい」
穏やかな表情を浮かべているが、ソフィの顔色がますます悪くなったように思える。
ウィンリィ「少し眠ったほうがいいわ」
ソフィ「……ええ。ありがとう」
ウィンリィが抱きかかえるようにしてベッドに寝かせると、ソフィは目を閉じた。疲れと緊張もあるのかもしれないが、一番の理由はさっきの戦闘で消耗したためであろう。気丈に振る舞っていたものの、やはり回復にはほど遠い状態だったのだ。
エド「ウィンリィ、ソフィのことは頼んだ」
ソフィ「まかせといて」
エドとアル(鋼)は互いに頷き合う。気をつけて、と消え入りそうなソフィの声に送り出されて、2人は部屋を後にした。

479暗闇:2007/02/28(水) 19:21:37 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界・ドイツ=
冴葉「――以上の理由により、まずはガルミッシュ・パルテンキルヒェン――ここから30kmほど南下したところにある街です――に行き、ツークシュピッツェ山の中腹へ。回る水とフレイア異伝を今に伝えているという、グランツホルン修道院に向かいます。修道女たちの身の安全を確保したあとに、水のサンプリングを行い、可能ならば現地で性質を分析。その後、禁断の井戸本体の情報を追ってください」
地形図のホログラフィを背に、片桐冴葉は言葉を切った。
冴葉「ここまででご質問は?」
美沙とノイエは、冴葉の視線を追って振り返った。肝心の鷲士はガックリと肩を落とし、ぼんやりと窓から湖を眺めている。

ああ、こんなことになるなんて……

鷲士はうなだれ、ため息をついた。
ここはフランクフルトから200kmほど南東に進んだ地点――シュタインベルガー湖の傍に建つキャビンのリビングだった。澄んだ湖面に、写真でも見たことのない美しい山並みが映り込んだが、心を晴らすには至らない。
これからこのドイツで彼らは大波乱に巻き込まれていくのだが、その前に話を少し遡ることにする。

480暗闇:2007/02/28(水) 20:46:35 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士『北欧神話の……フレイア異伝だって?』
昨晩のボロアパート――眉を潜める鷲士に、ノイエは頷いてみせた。
彼女は、次いでポテチをつっつく美沙に目を見やり、
ノイエ『あなたは北欧神話って……分かる』
美沙は鼻を鳴らした。
美沙『はん、誰にそんなくだんないこと訊いてるわけ? 要は“散文のエッダでしょ?』
ノイエ『まあ、その歳でそんなことまで!あなた、偉いわ!』
と嬉しそうに、ナデナデ。日本はボロクソにけなすくせに、ヨーロッパの文化が浸透しているのは嬉しいらしい。
鷲士『神話はともかく……あの……なんなんですか、それ?』
ノイエ『……シュージ、あなたそんなことも分からないの?それでも大学生?』
鷲士『い、いや、文学部ってワケじゃないんで……』
凄い差別を感じたが、鷲士は引きつった笑みで誤魔化した。
ノイエ『仕方ないヒトね。じゃあ最初から話すわ。そもそも現在、一般的に北欧神話と呼ばれているものは、12世紀中頃に――』
そしてノイエは語り始めた。

481暗闇:2007/02/28(水) 21:26:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冷徹な隻眼の魔神オーディン、酒飲みバイキングの化身とも言える雷神トール、ピエロ同然のトリックスター・ロキ、豊穣を司る双子のフレイ・フレイア兄妹神――彼らの名は、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。強烈な個性を持つ神々が衝突や旅を享楽的に繰り返し、巨人族と戦う物語――これが俗にアスガルド神話、アース神話などと呼ばれる、北欧神話の概略だ。
起源をたどれば、紀元前のスカンジナビアにまで遡るという。神々の性格が一人一人ハッキリ差別化がなされているのは、各部族の神を、当時にしては珍しく、ほぼそのままの形で取り込んだからだと思われている。神話の骨格が成立したのは、13世紀。サクソ・グラマティクスが記した9冊にわたるデンマークの歴史書『デーン人の事跡』と、詩人であり政治家でもあったスノリ・ストルルソンが著した教本『散文のエッダ』――この2作が完成した。
北欧神話の中では、神々は2つの神族に大別される。オーディン、トール等をはじめとしたアース神族と、フレイ・フレイアの双子を主神にいただくヴァン神族だ。前者は天神の直径とされ、後者はむしろ巨人族よりの一族だった。
アースとヴァン、これらの二大神族は、共同で巨人族にあたることが多いため、時として混同されるが、あくまで政治的な同盟関係にすぎなかったようだ。アース神族が始めた侵略によってヴァンの領土は奪われ、フレイアはオーディンに人質に捕られている。もっとも、神話が高度な政治的部分を含むのは、北欧神話だけではない。この神話の珍しさは、極端に退廃的な部分がある。
まず主役級のオーディン。彼からして、知識と色と死を追求する貴族の神である。彼は冥界の言語であるルーン文字を読み解くため、物語の主な舞台で天空と地上を繋ぐ世界樹ユグドラシルに、自らの体を槍で貫いた状態で9日9晩も吊した。欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばないのだ。さらに暇になると、己のヴァルハラ宮殿で、不死の戦士エインヘルヤル同士を戦わせ、酒宴に酔う。飽きてくると、使いである鷲とワタリガラス、そしてヴァルキューリ同士の娘たちを派遣し、勇敢な戦士を連れてこさせ、また戦わせる。
雷神トールのような一部の例外を除けば、北欧神話の神々には常に死の影が付きまとう。ロキに至っては、意図的に仲間内で揉め事を起こし、神々の殺し合いを見物と洒落込む。幻想的に語られる叙事詩の側面を持つ一方で、ヒトはまるでゴミのように扱われ、そして神々の退屈しのぎに殺されるのだ。
このような退廃思考は、北欧神話の究極的な終末思想が原因であるとされる。神々は最後の戦い・ラグナロクにおいて滅亡は免れないことを悟っており、死を少しでも有利に迎えるために、日夜通して体を鍛えたり、勇敢な兵士を徴兵しているという。しかし死が確実なことが分かっていれば、あとは刹那的に楽しむしかあるまい。
結局、神話の中で、彼らは強大な邪狼フェンリルと世界蛇ヨムンガルド、そして炎の国からやってきた謎の死神・スルトによって、皆殺しにされてしまう。天と地は滅び、最後に残ったのは、スルトと世界樹だけだったのだ――

482暗闇:2007/03/16(金) 00:54:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ノイエ『ただ、世界樹の中には、リーヴとリーヴスラシルという一組の男女がいたの。彼らはスルトが去り、再生された世界で、新たな生活を始めた。彼らはの子供たちは、やがて全世界に広がり、今の人類は、みんな彼らの子孫だと言われてるわ』
美沙『はーい、ちょっと補足ね』
と美沙が投げやりに手を挙げ、
美沙『スルトによって滅ぼされた大地は、結局、海の中に沈んじゃうワケ。でも、スルトの放った炎は決して消えなくて、海底でも燃え続けて悪しきものを完全に焼き尽くした。で、海水が引いて、一組の男女が世界の始祖となる、と。まあ、この辺りはよくある洪水伝説の一つとも言えるかな?』
鷲士『あ、ノアの方舟とか、その辺りだね。なるほどー』
ノイエは驚いたように、
ノイエ『ミ、ミサ……あなた、本当に博学ね。ラグナロクは知ってても、その結末まで知っている人間は、意外と少ないのに。ヨーロッパでさえも、世界が滅んで終わりだと思ってるヒトが多いものよ。素晴らしいわ』
美沙『ま、フツーはそんなもんでしょ。日本人だって、浦島太郎は玉手箱開けてジジイになって終わりだと思ってる奴がほとんどだし』
鷲士『ええっ!?続きがあったのかい!?』
しかし鷲士の発言は無視された。美沙は肩をすくめて、
美沙『とにかく、そのフレイア異伝ってのぉ、聞かせてよ。話はそれからね』
鷲士『あの……浦島……』
ノイエ『そうね、ミサ。あなたの言う通りだわ』
ノイエは真面目な顔で頷いた。
ノイエ『……これから言う話は、バイエルン州の中でも、一部の地域で口伝として知られているにすぎないわ。草の根の民間伝承とでも言うべきで……わたしの歳で知っている人間は珍しいぐらいね』
美沙『ふーん。続けて』
ノイエ『物語は、フレイアという人間の奴隷の少女の視点で語られているわ。そしてこの異伝の中では、世界を滅ぼした死神スルトは、救国の大英雄なのよ――』

483暗闇:2007/03/16(金) 02:56:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
“ヴァン神族は、ただの人間だった”

これがフレイア異伝の中核である。二大神族の片翼を、いきなりただの人間に貶めているのも珍しい。しかも、実質的な奴隷だったようである。ただ、異伝と言っても、本のような形で存在するわけでなく、ある種の詩編として今に残っているだけで、細部は曖昧を極めるという。ノイエの話では、遡ることを約3500年ほど前――紀元前15世紀頃。ゲルマン人どころか、その大元であるガリアの支配さえ及んでいない時代――ケルト人が住んでいたとされる頃よりも、数世紀も前の話である。
――とにかく詩編を解釈すると、次のようになる。
フレイとフレイヤ――双子の兄妹は、ヴァンと呼ばれる農耕民族として生まれた。有力者の子供だったそうだ。しかし物心つく前に、国――理由を伏しながらも、なぜかノイエは現在のドイツ南端だと言い切った――はアスガルドの神々によって制圧され、双子は奴隷たちのまとめ役的な存在にさせられた。ただ課せられる労役は全く一緒だったというから、見せしめのように扱われていたのだろう。
“神は昔、空の砦から来たれり――”

空の砦――この言葉がどこを指すのかわからない。アスガルドとは本来アースの砦という意味だが、ではアースはどこかというと、それは世界樹ユグドラシルの麓というだけで、やはり場所の特定などできはしないのである。起源を遡れば、スカンジナビア周辺のどこかなのかも知れないが、異伝は北欧神話起源の定説をも覆す古さだ。とにかく空の砦からやってきた神々から、ヴァン族が受けた仕打ちは、常軌を逸したものだった。
このときの様子を、ノイエはアウシュビッツにたとえている。
神々はたまに奴隷を連れていき、体に手を加えたというのだ。四肢を切られたり、逆に加えられたり――は日常茶飯事。全く別の怪物に変えられることも少なくなかった。年端もいかない子供すらも巨大なキマイラにされ、仲間の元へ戻される。彼らは皆、長く生きることはなかった。失意のうちに死んだ。
神々は己の魔術――これがどういったものか、今となっては知る由もないが――を、ヒトで試していたらしい。神は時には病疫の種を故意に蒔き、冷静な目で、ヒトが死ぬ様を観測した。逆らえば、魔術の武器によって殺される。労役と病疫が重なり、奴隷は健康な者を探すのが難しいほどになった。
やがて真の悲劇が、ヴァン全体を覆った。
――子供が生まれなくなったのである。
直接的ではなかったが、神の行いの影響だった。しかし神々は嘲笑った。おまえたちは増えすぎる、だからちょうどいい、と。
我慢の限界を超えた兄のフレイが、怒り狂って剣を取った。しかしオーディンの霊槍グングニルによって胸を刺し貫かれ、息絶えた。
ヒトは家畜も同然だった。いや、牛や豚の方が、まだマシに扱われる。
希望もなにもなく、むしろ死を願う日々。
涙など、既に涸れていた。フレイアはぼんやりと生きた。

484暗闇:2007/03/16(金) 02:57:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして蹂躙されて十何度目かの冬が訪れた。
――そんな中に、男はやってきた。
いや、正確には運ばれてきたのだ。雪の中に、男は倒れていたという。
助けるように命じたのは、フレイアだった。情けではない。単に労働力の確保と、子を作る能力を持つ新しい血を求めたのだ。しかし期待してはいなかった。投げやりな意向だった。男は虫の息だったが、解放の甲斐あって、やがて立ち上がれるようになった。
男は筋骨隆々とした、見上げるような大男だった。髪は伸びるがままに任せ、背には巨大な黒い大剣、腰にも優雅な曲線を描く真紅の剣。異国の人間らしく、見たこともないような飾りを、マントの下に色々と身につけていた。
剣を除けば、ほとんど黒ずくめ――フレイアは便宜上、男をスルトと呼ぶことにした。黒き者という意味である。男も、嫌がりはしなかった。
しかし――彼がフレイアの期待に応えることはなかった。
スルトの目は、半ば死んでいた。村人が歩く死人とたとえたほどである。さらにありとあらゆる部族の言葉を話すにも拘らず、無口。必要なこと以外、ほとんど喋ることがない。彼が村の女を抱くこともなかった。触れようともしない。
物珍しさでスルトに近付く者も、やがていなくなった。男は孤独になった。しかし困っている様子もなかった。
フレイアがスルトに興味を抱くようになったのは、さる事件がきっかけだったという。ある日――川の傍で一組の若い夫婦がケンカを始めた。最初は言葉でなじり合い、やがて掴み合いにまで発展した。しかしどちらともなく謝り、最後には肩を寄せ合った。それを見ていたスルトの口元に、薄らと笑みがよぎったのだ。
フレイアは謎の男に話しかけるようになった。スルトは完全には復調しておらず、無口なのは相変わらずだったが、次第に彼のことも明らかになった。
スルトは死の国――北方――の果てからやってきたという。ヒトの住める場所ではないはずである。さらに、彼はいくつかの魔術も使った。身につけた道具で、指も触れず呪文も唱えずに火を起こす。とにかく不思議な男だった。
彼から感じる潜在的な力強さに、何か期待していたのかも知れない。それとも純粋な恋だったのかもしれない。とにかくフレイアは、男に抱くように頼んだ。
しかし――彼は断った。
辱められたフレイアは怒り、口をきかなくなった。ノイエは、単に痴話喧嘩のレベルだったのだろう、と言っている。村から放り出せばいいのに、そうしなかったからだ。しかしスルトの体も癒え、彼は村を出ることに決めた。

485暗闇:2007/03/16(金) 02:58:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
事件が起きたのは、男が旅支度を整えていたときだったという。
神々の使い――エインヘルヤルの戦士たちが、銅の馬――ある種の機械のことらしい――に乗り、アスガルドで使う奴隷を狩りに来たのである。
事情を知らない男は通り過ぎようとした。
その時、ある女が斬られた。かつて川でケンカしていた、例の妻であった。病気を患っていた夫を、連れて行かないようにと、戦士たちに頼んだからである。
呆然と立ちすくむ男の腕を、駆けつけたフレイアが引っ張った。早く逃げなさい、神々の使いに勝てるはずがない――と。
――なぜかこの一言が、スルトを豹変させた。黒衣の剣士はエインヘルヤルどもの前に出ると。腰の剣を抜いた。
勝負は一瞬でついた。
絶命したのは、髪の戦士の方であった。馬上に槍という圧倒的優位な状態にも拘らず、エインヘルヤルどもは鎧ごと叩き斬られた。100本の槍を使っても貫けぬはずの鎧であった。さらに逃げた残りの兵士たちは、天から降った炎に、生きたまま焼かれた。スルトの呪文の叫びに呼応し、空が裂けたのだという。
フレイヤは、スルトを激しく避難した。殺せぬはずの戦士たちを殺した。このままでは、きっと神々がやってくる――と。しかし事情を知ったスルトの怒り狂いようは、言葉にならないほどだったという。彼は村人を集めさせると、威圧的に言い放った。

“これから半日の間、家に籠もり、戸を閉じよ!さもなければ汝等の身にも災いがふりかかるであろう――”

この旅の男は、自分たちとは根本的に違う存在である――そう感じたヴァンの人々は、震え上がって、言う通りにした。スルトは馬にも乗らず、たった一人でアスガルドへ向かった。フレイアも家に戻り、戸締まりを終え、さらに耳を塞いだ。
間を置かず地が震え始め、天も唸り声を上げた。まるで天地創造のようだったという。そしてその状態は、スルトの言った通り、半日続いた。
人々は、不安の時を過ごし――やがて静寂が訪れた。
最初にフレイアが外に出たとき、世界は破滅していた。
異伝のこの部分は、論理的に成立しえない。世界が滅亡したのなら、内も外もないはずだが、ノイエは、世界の解釈が今とは全く違ったのだろうと言った。とにかくアスガルドと支える大木ユグドラシル――それらは地に落ち、倒れ、燃え上がっていた。
突き上げる炎は、空の雲すら焼いたという。呆然と立ちすくむフレイアの前に戻ってきたスルトは、足下に2つの首級を放り投げた。
魔神オーディンと、雷神トールの首であった。
神々を滅ぼしたスルトは、川に薬を流した。水を飲んだ人々の体からは、毒素が消え、みんな元気を取り戻したという。
圧政から解放されたフレイアたちだが、途方に暮れた。神々の消滅――それは社会体制の完全な崩壊を意味する。特に紀元前である、不安が広がったという、ただそれだけの理由で即滅亡に繋がりかねない。
しかし、スルトは言った。

“おまえたちで新しき世をつくり、広げるがいい。この世には果てなどない――”

彼の言葉が、どこまでの意味を含むのかは知る由もないが、やがてスルトの旅立ちの時がきた。フレイアは泣き喚いて、とどまってくれるよう頼んだが、彼が頷くことはなかった。どうやら、何か大きな目的があって、旅を続けているようだった。しかし――地を耕して一緒に暮らそうと頼んだとき、スルトは初めて笑った。人々を極限の圧政から救った大剣士は、礼を言われる立場にありながら、なぜか何度も頭を下げたという。
そしてスルトは村を後にした。やがて――スルトが去り、3回目の春が来た頃、人々に新たな希望が芽生えた。
――若夫婦の間に、双子の子供が生まれたのである。
人々は2人に、リーヴとリーヴスラシルと名付けた。スルトの教えを守ったヴァン民族は再び繁栄し、人々は永久に平和に暮らしたという――

486暗闇:2007/03/16(金) 21:12:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美沙『……なんか単なる英雄譚って感じ。で、回る水ってのは、どこに出てくるワケ?』
美沙が白い目をノイエに向け、鷲士もうんうん頷いた。
ノイエはため息混じりに、続けた。
ノイエ『……最後まで聞いて。スルトを忘れられなかった。フレイアは、彼の思い出を追い求めるあまりに、アスガルドの跡地にまで踏み入れたの』
美沙『おー、新展開。んでんで?』
ノイエ『そこは壊れた神々の道具が転がっていたけど、彼女には使い方が分からなかった。でも廃墟の中に1つの井戸があった。回る水の井戸ね。フレイアが覗き込むと、水は彼女の想いを反映し、スルトを映し出したというわ』
美沙『望む者の顔を、水が?でもなんかイマイチねぇ。北欧神話の方にも、そんなおかしな水のコト、出てないし。ま、こっちもハンターだからさ、ザルな情報でも信憑性があれば乗り出すけど……これはちょっとなぁ』
と、美沙は、少し不満顔だった。
うっ、と引いたノイエだが、すぐに身を乗り出した。
ノイエ『と、とにかく!フレイアはスルト見たさに井戸の近くに村を作り、毎日のように覗き込んだ。そこに映るスルトが、今どうしているかを思い浮かべながらね。結局、フレイアは一生独り身だったそうよ。フレイア異伝は、これでおしまい』
鷲士『結ばれないのか、ちょっと哀しいお話だなぁ。で、その井戸の鍵になるのが、バレッタってワケだね?でも、どうして水をミュージアムが狙うの?』
今度は鷲士が首を傾げ、美沙もうんうん頷いた。
するとノイエは、少しでも慌てたように、
ノイエ『そ、そんなこと、知らないわ!あいつらは狂的な歴史遺産回収集団――伝説上のものなら何でもいいんでしょ!それにミュージアムは、かなりの人数を投入してるわ!今分かっているだけで、500人もの工作員が既にドイツ入りしてるもの!』
美沙『ご、ごひゃくにん〜!顔を映す水に!?』
ノイエ『と、とにかく!わたしは話したわ!あなたたちの返事を聞かせて!』

487暗闇:2007/03/17(土) 04:45:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして睡眠薬を経て――現在に至る。回る水のことも分かった。しかしミュージアムの動きが大袈裟すぎる。どうも裏があるような気がしてならないのだ。
ノイエは、何かを隠している。それが気にかかる。
冴葉「……鷲士さん、ここまででご質問は?」
冴葉が重ね訊き、ボケ青年を我に返らせた。
鷲士「あ――すすす、すみません!聞いてませんでした!」
冴葉「ガルミッシュ・パルテンキルヒェンからグランツホルン修道院へ、です」
鷲士「グ、グランツホルン修道院って? そこにも水があるんですか?」
冴葉「その件に関しては、ノイエさんから」
頷いて、碧眼の麗女が口を開いた。
ノイエ「なんと言えばいいのか……グランツホルンは、異伝を伝える小さな組織の中心地のような者で……水の一部が貯えられているわ。ミュージアムの動きを察知したのも、彼等よ。わたしも……関係者ということになるのかしら」
鷲士「異伝を伝える組織……?じゃ、じゃあさ、どうしてバレたの?ミュージアムに、水の存在がさ?関係者に、内通者がいたってことかい?」
するとノイエはため息混じりに、
ノイエ「……山で遭難しかけてた2人のイギリス人を泊めたのよ。そこから、ね。わたしのおばあさまが、揉み消しをはかろうとしたんだけど、その……院長が、やけに潔癖な方で。お金の力に頼るのはよくないし、沈黙を誓った彼等の言葉を信じよう、と」
美沙「はぁ。でも裏切られちゃったっての?あっまーい」
冴葉「権力は使うべきときに使うものなのですが――ちなみにシュライヒャー一族はバイエルンでは名の知れた富豪です。デパート経営――大地主でもありますね。昔から、ある日本の企業とも繋がりがあります」
鷲士「へー。確かに、ノイエってお嬢様っぽいとこあるしね。そうだったのか」
美沙「企業ねえ。どこ?名前は?」
冴葉「お聞きにならない方がよろしいかと」
美沙「……なによぉ、言いなさいよ。わたしフォーチュン・テラーの会長だぞぉ〜」
うがぁ〜、と両手を振り上げる美沙に、秘書は咳払いをしてみせ、
冴葉「結城グループ――しかもその中心母体である結城海運です。100年以上前から一族の長レベルでの交流があります。現在、結城側の代表を務めているのは――」
美沙「……次期総帥」
冴葉「ご賢察」
美沙「では次に、我々の真の目標である井戸の位置ですが、これはノイエさんもご存じではありません。ただ、昔、リッターと呼ばれた村のどこかに存在するという話があるだけです。そのリッター村の所在はというと――」
――異変が起こった。
冴葉のスーツが、けたたましく鳴ったのだ。携帯のコール音だった。冴葉は例によって淡々と電話を抜き、耳に押し当てた。

488暗闇:2007/03/17(土) 04:45:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冴葉「わたしよ。……ええ。……タイフーン?ドイツ空軍もなの?」
目を細めると、冴葉は顔を上げた。
冴葉「ボス」
美沙「なぁに?またミュージアムに動き?」
冴葉「ええ。視力が一番いいのはあなた――外に何が見えます?」
美沙「外ぉ?」
ヒョイ、と立ち上がり、トコトコトコ、と美沙はベランダに出た。
――すぐに振り返った。
美沙「タタタ、タイフーン!タイフーン戦闘機!突っ込んでくる!」
と血相を変えて、全力疾走。ソファの前で止まると、足踏みしながら、脇のリュックと銃に腕を通す。
鷲士「えっえっ?」
呆然とする鷲士の前で、彼等は、
美沙「敵にこの場所はバレてたってワケね!ここは別行動ってパターンでしょ!」
ノイエ「分かったわ!じゃあ、合流場所は、ガルミッシュの登山鉄道駅!ミサ、シュージ、場所は知ってるわね!」
美沙「OK!じゃ、登山鉄道駅で!」
と女性3人は、頷き合うと、部屋を飛び出した。
鷲士「待ってよ!?いったい何が――」
と振り返った鷲士の目にはとんでもないものが飛び込んできた。
――ユーロファイター2000・タイフーン。
ヨーロピアン・ファイター・エアークラフト計画のもと、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリアが共同で開発した、クローズド・カップル・デルタ翼の全天候型戦闘機だ。美沙の愛機F22ラプターと並ぶ性能を持つが、現在は試作機を調整中で、実戦配備はされてない。機体は湖面スレスレを飛び、一直線にキャビンに突っ込んできた。
鷲士「なっ――」
鷲士が背を向けたのと、機体ノーズがベランダの手すりを吹き飛ばしたのが同時。
爆発は、すぐに訪れた。
まず窓という窓が一斉に吹っ飛び、縛圧に耐えきれず壁そのものが炸裂した。吹き出してきたのは、生き物のように蠢く、火柱だった。地響きを思わせる衝撃と轟音は、そのあとでアルプスを走り抜けた。
炎が湖面に反射し、映り込む月を掻き消した。
禁断の井戸を巡る戦いは、始まったばかりだった――

489暗闇:2007/03/18(日) 00:40:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
同時刻――ミュンヘン郊外。ローゼンヘイム市へ続く街道から、山側に逸れた場所――杉に囲まれた場所には、寂れた一軒家が建っていた。
――リリリン
昔ながらのベル音が廷内に鳴り響き、リビングから家政婦が顔を出した。エプロンで手を拭き、階段傍の電話を取る。
家政婦「はいはい、もしもし、こちらエルネスト先生の――あらあら!久しぶりね〜!分かったわ、ちょっと待って」
おばさんは耳を離すと顔を上げ、思い切り息を吸い込んだ。
家政婦「せんせー!電話ですよ〜!」
しばらく、間があった。
???「やかましいわ!急患なら、街の病院に頼むように言え!シトロエンの機嫌が悪くて話にならん!ダメじゃダメじゃ!」
――2階から声はすれど、顔は見えず。
家政婦は呆れたように、
家政婦「違いますよ、グランツホルンからです!ルイーゼちゃんですよ、ルイーズ!」
???「……なぁにィ?」
ドタドタドタ、と足音を響かせ、2階手すりの隙間から、老人が顔を出した。
――頭頂部が禿げ上がり、頬もこけている。
???「ルイーゼ?本当か!」
家政婦「公衆電話からだそうです!切れても知りませんよ!」
老人――エルネストは、弾かれたように階段を駆け下りた。ガウン姿である。家政婦の前で立ち止まり、慌てて受話器を奪い取る。
エルネスト「もしもし、ルイーゼかい?わしじゃ、エルネストのおじいちゃんじゃよ〜」
声をかけたときには、好々爺の顔つきだった。

夜の街――とある通りに面した電話ボックス。幼い修道女が、しゃがみ込んで電話に囁いた。
ルイーゼ「……あ、あのっ、わたし……です」
大きな瞳で、不安そうに周りを見回す。

エルネスト「なに……!?そうか、みんなは……?そ、そうか……!」
エルネストの顔に、不安の影が広がっていく。
少し考え込む素振りを見せた後、老医師は再び受話器に口を寄せ、
エルネスト「とにかく、ガルミッシュは危険じゃ!あの連中は、既にその街に大量の人員を送り込んだ可能性がある!ルイーゼ、カネは……?そうか!わしのことは既にバレとると考えた方がいい、こっちから動くのは……そうじゃな、ミュンヘンに来れるか?よし!今はオクトーバー・フェストの最中じゃ、明日、ヴァイエンシュテファンのテントで――そうじゃそうじゃ、ルイーゼは賢いな!うむ、気をつけるのじゃぞ!」
言うと、老人は受話器を置いた。
しかし――エルネストは動かない。
家政婦「あの……先生?」
エルネスト「……明日からは来んでええぞ。しばらく家を空けることになりそうじゃ。戻ってきたら、わしの方から電話するよ」
短く言うと、老人は階段をのぼった。重い足取りで自分の部屋に戻ると、机の前で立ち止まり、引き出しを開けた。汗を流しつつ、中のものを掴む。
――銀色のリボルバーだ。
エルネスト「50年前の悲劇……繰り返させるわけにはいかんのじゃ……!」
呻くように言うと、老医師は、銃を机に置いた。
エルネスト「ノイエよ、ダーティ・フェイスはまだ来んのか……?」

490暗闇:2007/03/18(日) 01:58:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
さらに深夜を回った頃――グランツホルン。
占領された修道院前の敷地には、異様な光景が現出していた。
――磔である。
手足を縛られた5人の修道女が、金属の杭に括りつけられていた。少し離れた位置から彼女たちを照らすのは、4柱の巨大なライトだ。地肌を埋めるように、パイプやケーブルが走っており、それらはすべて中央コンピューターに繋がっている。
事情を知らない人間なら、映画の撮影だと思ったかもしれない。あちこちに銃を持った見張りや、白衣を着た科学者の男たちまでいたからである。さらには、赤いコートで身を包んだ者が複数いる。
院長「わ、わたしたちをどうするおつもり?」
中央の杭に縛られた老シスターが、震えながら声を放った。
呼応するように、逆光の中から、やせ細った影が浮かび上がった。
――ディーン・タウンゼント。
タウンゼント「……これは院長。なに、ちょっとした実験に付き合ってもらうだけだ。回る水の有効性に関する実験をね。被験者は……あなたたちだが」
院長「なっ……!」
老女の顔を、旋律が走り抜けた。
タウンゼントは目を細め、笑みを浮かべた。冷たい笑いだった。
タウンゼント「どうした?ヒトの顔を映すだけの水……恐れることはないはずだ」
シスター「それは……その……」
タウンゼント「もっとも、我々の質問に答えていただければ、その限りではない。わたしが訊きたいのは、フレイアの子鍵を持ち出した、少女の行方についてだ」
ミュージアムの絵師は、言葉を切った。老女は汗まみれになりながらも、視線を背けた。タウンゼントは苦笑して背を向けた。
タウンゼント「いいかね?実験はなにもあなた方でやる必要はないのだ。ミュージアムには、死を恐れぬ者はいくらでもいる。たとえば、そう――そこの男、前に出ろ」
戦闘員「アイ、サー!」
戦闘員の一人が、前に出て不動の姿勢を取った。
タウンゼント「ミュージアムのために死ねるか」
戦闘員「アイ、サー!」
タウンゼント「それが無益なものであっても?」
戦闘員「もちろんであります、サー!」
タウンゼント「よし。では自分の足を撃て」
戦闘員「どちらの足でしょうか、サー!」
タウンゼント「左にしよう」
タウンゼント「イエッサー!」
叫ぶなり、男は片付けに自動小銃を構えた。マズルを向けた先は、己の左足――その大腿部であった。
――ドドドドド!
フルオートで発射された弾丸は、戦闘員の大腿部を木っ端みじんに粉砕した。筋肉繊維が細切れになったのは言うまでもない。左足は切断されて、宙に舞った。
戦闘員「ウギャアアアアッッッ!」
吹き出す鮮血が、闇夜で弧を描いた。バランスを崩して倒れた男の腿からは血がビュウビュウと流れ続け、シスターたちの顔面は蒼白になった。狂気の沙汰であった。
タウンゼント「押さえつけろ」
タウンゼントの指図によって、別の戦闘員らに、男は手足を掴まれた。そして続いて画家の行動は、奇妙という他はなかった。彼はコートの胸元を広げると、なぜか一本の小筆を抜いたのである。インナーに挿してあったのは、数十本もの絵筆だった。
タウンゼント「第27番筆……銘はトルキアの乙女……これにしよう」
呟くと、彼は毛先を、もがく男の足に押しつけた。
血を吸った刹那、毛先が光った。ホタルのようだった。
膝をつくと、タウンゼントは目を細めた。画家の顔であった。
タウンゼント「とくとご覧あれ――我がハイアート」

491暗闇:2007/03/18(日) 02:00:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その瞬間、腕が霞んだ。
――恐ろしいことが起こった。
タウンゼントの筆先は凄まじい速度で動き、次第に空中に像を作っていった。足の絵だ。なぜか絵の具――鮮血――は、空中から垂れることはなかった。そしてそれは、傷口に癒着し始めたのである。
院長「なっ、なんてことなの……!その筆は、まさか……!?」
呆然と呟く院長の目先で、奇妙な“創作”は完了した。
画家の腕が制止したとき、筆の下に存在したのは、血まみれの新たな足であった。
自らの偉業を誇ることもせず、妖画家は老婆を見た。
タウンゼント「……19世紀末のロンドンに、ヴィタリスという名の画家がいた。吃る癖がある気弱な青年だったそうだ。彼が描く絵は、構図といいデッサンといい取るに足らないもので――実際に一枚の絵も残っていなければ、正確な名も分かっていない――しかし、ある特徴があった。彼が描いた絵は、すべて厚みを有し、生き物は魂を持ったというのだ」
タウンゼントはコートに絵筆を収めながら続けた。
タウンゼント「彼は食事に事欠くほどだったので、請われれば何でも――しかも安価で描いた。肉屋の看板がクックルーと鳴き、酒場の壁から抜け出た女が踊り出す。おかげで彼は有名になったが、不幸なことに、そのスピードが速すぎた。財と名声、そしてそれらを使う知性を築く前に、宮廷に呼ばれてしまったのだ」
冷たい風が、痩せ細った画家の髪を揺らした。
タウンゼント「ヴィタリスは王女に命じられ、御前で虎を描いた。ただ、学のない青年は虎というものを知らなかった。そこで彼は“想像の虎”を描いた。目が4つで足が6本、尻尾が2本で背中には翼が2枚――まあ、キマイラだな。見かけは狂獣だが、ただ、性質は大人しかったそうだ。しかし、ここで問題が起きた。王女のスピッツが、虎に噛みついたのだ。虎が軽く足を振っただけで、スピッツは頭を吹き飛ばされて死んだ」
淡々と言いながら、タウンゼントは、院長の前で止まった。
老齢のシスターの体は、小刻みに震えていた。
タウンゼント「気弱な青年はすくみ上がった。処刑されると思ったのだろう。頭も弱かったというから、彼が感じた恐怖は察するに余りある。そしてヴィタリスは意外な行動に出た」
院長「な……何をしたのです……?」
タウンゼント「壁に描いたのだよ。一枚の扉をな」
タウンゼントの口元に、陰鬱な笑みがよぎった。
タウンゼント「扉の向こうには2つの太陽と石の山並み、草木も一本も生えぬ荒野が広がっていたという。そして彼は、自分のお気に入りの筆を一本だけ掴み、扉の中に逃げ込んだ。ご丁寧に、扉を閉める間際に、ノブを白く塗りつぶしてな。それがヴィタリスの目撃された最後の姿となった。戻ってくるほどの度胸がなかったのだろうな」
院長「で、ではその筆は、やはり……!」
タウンゼント「ヴィタリスの魔筆――彼がこの世界に遺した57本に及ぶ筆のセットさ。日記によると、灌漑工事の手伝いをしていた時に、貝塚の中からケースと共に出土したそうだ。もっとも、魔筆と言えど長いときには勝てないのか、今では描いたものが著しい速度で劣化するようになってしまっているがな。オーパーツというにはオカルトじみているうえ、なぜかこの筆は、自分とヴィタリスにしか使えない――わたしがハイ・キュレーターの中でも異端派と呼ばれる由縁だよ。ちなみに虎の方は48年後に天寿をまっとうしたらしい。骨は現在、我々ミュージアムの所蔵になっているがね」
タウンゼントは淡々と頷くと、部下に命じた。
タウンゼント「痛みが取れるわけではない、時が来れば加筆した足も消える。騒ぐようなら彼等に献上し、吸血鬼<ヴァンピール>か喰屍鬼<グール>にでも変えてもらえ」
戦闘員たち「はっ!」
タウンゼントは赤いコートの集団に向き直り、
タウンゼント「というわけで、あの男を処理はあなた方に任せてよろしいな、ミスタージェンス」
赤いコートの男たちの中心にいたスーツ姿の男に妖画家の声がかかる。整った顔立ちはその辺のタレントや芸能人等と比べても遜色ない美貌の持ち主――ジェンスと呼ばれた男は取り巻きの赤コートたちに首を振って促すと、彼等は揃って首肯し、戦闘員たちと共に男を連れて行った。

492暗闇:2007/03/18(日) 02:01:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
タウンゼント「――というわけで、無理にあなたたちを使う必要はないわけだ。幸か不幸か、我々にとって修道女の命など、ゴミクズも同然――生死などどうでもいい。小鍵を持つ少女も、時間をかければ探し出せる。ただ、無駄な手間は省くにこしたことはないのでね。わたしとしては、合理的な提案をしているつもりなのだが」
しかし院長は答えず、呆然と、
院長「……ああ、エルネストさんの話を信じていればよかった……!ではやはりあなたが無から有を作り出すと言われ……ザ・クリエイターの異名を持つハイ・キュレーター……」
タウンゼント「ディーン・タウンゼントと申します、シスター」
丁寧に画家はお辞儀した。
院長「でもどうして……!私がその名を初めて聞いたのは、子供の頃よ……!それなのにあなたは……まるで青年のよう……!」
タウンゼント「……お喋りがすぎたようだ」
髪を下ろすと、妖画家は向き直って目を細めた。
タウンゼント「……答えを聞こう。さもなければ、あなたたちは己の願いを叶える代わりに、最も大切なものを失うことになるが?」
院長「ああ……!ではすべて知っていて……!」
俯いた老シスターの顔に、絶望の陰が差した。
タウンゼント「断っておくが“ミーミルの井戸”はいずれ探し出す。少女の行方は?」
院長「……お好きになさい」
顔を上げ、苦渋に満ちた表情で、院長は言った。
院長「……ある者の願いを受けて井戸からあふれ出した水は、かつてリッターの村を襲い、全住民をこの世から消し去った。その悲劇を、再び繰り返させるわけにはいきません。それにわたしたちには、まだ希望がある」
スプレイ「希望ってさ、こいつのこと?」
茫洋とした声と共に、あるものが、タウンゼントの足下に転がった。
――黄金のバレッタだ。
闇から現れたのは、部下の肩を借りたスプレイだった。

493暗闇:2007/03/18(日) 02:02:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
タウンゼント「……お前か。遅かったな」
スプレイ「ども。ちょっと心臓潰されてるもんで」
と半壊した自分の胸を指す。
院長「そ、そんな、バレッタが……!では、ノイエは……!」
スプレイ「安心しなよ。キンパツはフェイスの野郎と一緒だ。この国に戻ってる。明日には、ガルミッシュの方に着いてるはずだ」
タウンゼント「戦闘機一機突っ込ませた程度ではどうにもならんか。小鍵が奴の手に渡っている可能性を考えると、全力で叩くこともできん」
忌々しげに吐き捨てると、タウンゼントは再び老シスターを見た。
院長は青い顔をしていたが、言葉を翻すことはなかった。
院長「……答えは同じで。わたしたちは、秘密を守るために存在しているのですから。少し希望が残っている限り……いえ、たとえ残っていなくとも、手助けになるようなことはいたしません」
タウンゼント「結構だ。では水の実用性を、あなたたちで検証させていただくとしよう」
頷くと、タウンゼントは指を鳴らした。
白衣の男が頷き、コンソールのスイッチを押した。
ガラス筒に繋がる装置の底部から、泡が生じた。接続されたパイプに無色透明の液体が流れ出す。水は分配器を通ると、8本のホースに分かれ、シスターたちを括りつけた鉄柱へと突き進んだ。
シスターA「ああっ、院長!水が、水がこっちに!」
院長「主のことを考えるのです、シスター・アマンダ!主とその御国のことを!」
老シスターが叫んだ瞬間だった。
――金属柱の先端が開き、水が噴き出した。
シスターたちの変化は、水を浴びたと同時に始まった。体全体が、ぼんやりと光り始めたのである。蛍光色のペンキをかけられたようだった。
見つめるタウンゼントの顔は、やはり画家のそれだった。
タウンゼント「水の成分に変化は?」
研究員「H2O――やはりただ水です。センサーの数値上は全く差異がありません」
後ろの白衣が、モニターを見ながら答えた。
タウンゼント「……光っているのにか?ミスタージェンス、あなたも何も感じませんかな?」
冷笑して、タウンゼントは額にかかる髪を払った。
ジェンス「確かに魔力や霊力、気などといった霊的エネルギーは何も感じない。だが――」
シスターB「主よ、主よ……!」
シスターC「天にまします我らが神よ、願わくば、我らの子羊の魂を――」
――異変は、一瞬で起こった。
シスターたちの体が、目が眩むような閃光を放ったのである。
次の瞬間には、修道女たちは消えていた。いなくなったのである。縛めるべきものを失った柱のベルトが、少し遅れて、地面に落ちた。
ただ、例外が一人。
ソバカスの残る右端のシスターがそうだ。
シスターD「そ、そんな!ではわたしの信仰は……!」
戸惑ったように辺りを見回す彼女の前に、おかしなものが降ってきた。
―――1枚のエプロン・ドレス。
ジェンス「やはりな、一人だけ無意識下から微かな願望の波長を感じてはいたが――」
タウンゼント「ハハハ!信仰の砦グランツホルンと言えど、例外はいるか!しかしドレスの対価に、君は何を支払った?」
タウンゼントが嘲笑した直後だった。
シスターの口から、血が噴き出した。
壊れた人形のようだった。呻く間もなくシスターはうなだれ、動かなくなった。
処刑場を、悽愴の風が吹き抜けた。
やがて――タウンゼントは肩越しに振り返り、
タウンゼント「そちらの見解は?」
ジェンス「さっきも言った通り、魔力等の霊的エネルギーはいっさい感じられなかった。即ちこれは純粋な科学技術による産物だろう。しかし、あのシスターの無意識下にある僅かな欲求を叶える際に、その精神の波長に干渉する謎の力の動きは感じられた。消えた他のシスターに関してもそれは同様だ。」
タウンゼント「ふむ。そっちはどうだ?」
研究員「7人については揃って特異点の発生を。別の次元に飛ばされたようですね。最後の1人については空中の原子変換を確認しました。ただ、厳密に測定するためには、密室での再実験が必要かと思われます」
タウンゼント「やはり源は水か」
研究員「ええ。推測にすぎませんが――原子間に存在する素粒子という形で、水分子に特殊な機能を持たせているのかも知れません。物質の形で性質を与えてしまうと、毒性を持つのかも。こればかりは観測不可能です」
ジェンス「こちらもほぼ同文だ。強力な解析能力を持つ魔眼や心眼の類を用いればまだ何か分かるかもしれんがな」
タウンゼント「……しかし識閾下の願望までも顕在化させてしまうとなれば、実用性には疑問を抱かざるをえんな。現状では使い物にならない……か」
妖画家は目を細めて呟くと、スプレイに振り返り、
タウンゼント「……時間の無駄は避けよう。寝ろ、心臓を書き直してやる」

494暗闇:2007/03/18(日) 02:02:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「どーも」
スプレイは軽く頭を下げると、パーカーを脱いで横たわった。歯車や青味がかった液体が行き来するガラスパイプ、駆動ベルト――不条理なほど原始的な構造が露わになる。
タウンゼントは、やはりコートを開くと、
タウンゼント「第14番筆――銘はドワーフのヒゲでいくか」
スプレイ「ふざけた名前ッスね。マジに大丈夫ッスか?」
その首を、タウンゼントの骨張った長い指が掴んだ。
呻く改造人間を、画家は陰鬱な相貌で睨み、
タウンゼント「……いいか、忘れるな。今やお前の体となっているプロトタイプ・タロスだが、サルベージされたときには頭部と心臓がなかった。本来なら、高さ2m、幅5mに達する外部動力源を引き摺らねば、お前は寝返りすら打てんのだ――ミュージアムのロスト・テクノロジーを持ってしてもな。それを動けるようにしてやったいるのは、このわたしだ。侮辱は許さん」
スプレイ「ぐぐ……すいません、タウンゼントさん……」
呻いて、スプレイは押し黙った。
タウンゼントは無言で筆を取った。壊れた胸部に満ちる液体を絵の具に、自分の手のひらの上で、またもや筆を霞ませた。
数秒後――出来上がったのは、膨伸縮を繰り返す、機械仕掛けのリンゴを思わせる代物だった。まさにザ・クリエイター。創造主の異名を持つだけはある。
スプレイ「……ども」
既存の心臓を外し、スプレイは新品を受け取った。素早くパイプを繋ぎ直して蓋を閉め、パーカーに頭を通して立ち上がる。
妖画家は数歩進むと、腰を屈めてバレッタに指を伸ばし、
タウンゼント「おまえの装甲を破壊したのは、最新兵器を駆使する小娘の方か」
スプレイ「あ、いや。やっぱフェイスです」
タウンゼント「……なに?」
黄金の髪飾りに指が触れる直前、タウンゼントの動きが止まった。彼は眉をひそめて、肩越しに振り返った。
タウンゼント「どういう状況だった」
スプレイ「いや、まあ。頭上から鉄パイプ攻撃で動き固めて、着地と同時に腹に蹴りを入れたんス。たぶん、そのときに。実はこっちもワンパン食らってたみたいで」
タウンゼント「……おまえの拳と足、そして胸部の装甲は、チタン合金で作り直したはずだ。素手でチタンを砕く、生身の人間が存在するというのか?」
スプレイ「ヘロヘロな感じの野郎だったんですけどね。近寄らせたら、ヤバいのはチビじゃなくて、あっちの方ですよ」
タウンゼント「厄介な男め……!九頭竜という古武道、一筋縄ではいかんようだな……!」
顔をしかめて、タウンゼントは吐き捨てた。
ジェンス(フェイスをまだ個の存在と見ているのか――情報操作に惑わされおって……しかし、それをまだ話してやるわけにはいかんが、こちらにも都合があるのでな。伯爵様とあやつらにもすぐに連絡を入れておくか)
そこで突然、部下の一人がやってきて、画家の耳元で、何か囁いた。
タウンゼントは頷いてバレッタを拾い直すと、
タウンゼント「ヴァッテン!」
呼ばれて建物の方から、慌てて肥満漢がやってきた。脂ぎった顔に下卑た笑いを浮かべ、
ヴァッテン「は、はい、タウンゼントさん、なんでしょう?」
タウンゼント「おまえは手勢を連れ、街に下りろ。残った地区の選挙だ」
ヴァッテン「へへへ……任してください!」
小走りで去っていく肥満漢を尻目に、妖画家は改造人間に向き直り、
タウンゼント「……ミュンヘン行きの列車に、修道女らしき姿の子供が乗り込んだらしい。あのブタでは話にならん、スプレイ、お前が“彼等”と合流し共に後を追え。伯爵の了解はミスタージェンスを通して得ておく、小鍵は任せる」
スプレイ「え……でも、フェイスはこっちに近付いているんでしょ?」
タウンゼント「わたしがあいてをするさ。どちらにせよ、今度はリッター大惨事を引き起こした老婆も探さねばならん。それに……妹のためを思うなら、功を上げておくことだ」
スプレイは束の間、目を細めた。妹という言葉に反応したのだ。
スプレイ「……分かったッス。じゃ」
軽く頷くと、青年は山道を下る道へと歩き始めた。
が――途中、突然立ち止まると、
スプレイ「おれの元の体をボロボロにしやがったのは、てめえだろうが……!ええ?ガリガリな絵描きのおっさんよ……!ユーリのためじゃなきゃ、誰がこんなこと……」
のっぺりした顔に、初めて感情が生じた。

495暗闇:2007/03/18(日) 02:03:31 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
場所は戻って――シュタインベルガー湖の湖畔。
細々と燃え続けるキャビンの残骸から、人影が飛び出してきた。
鷲士「あちゃちゃちゃちゃ!」
鷲士である。彼は飛び跳ねながら、体を被う火の粉をはたき落とした。最新技術が投入された機械式コートでも、全身をパックしてくれるわけではないようだ。
やがて一息ついて中腰になると、顔を上げ、
鷲士「美沙ちゃ〜ん?」
――シーン。
鷲士「ノイエ〜?冴葉さぁ〜ん?」
返事はない。先に行ってしまったのだろう。冴葉やノイエはともかく、美沙が大人しくやられるはずがない。ため息混じりに鷲士は惨状に目を戻した。
疲労の濃い顔が、さらに青くなった。
鷲士「……ああっ、ダメだダメだ。やっぱりやめさせなくちゃ、宝探しなんて。こんなことを続けてたらそのうちあの子、大ケガしちゃうよ」
が、視線を落とし、
鷲士「……でもなー、あっさり言いくるめられちゃうんだよなー。なんでなんだろ?12歳で宝探しやってる子を説得する本って、どこかに売ってないかなー」
ある意味、見上げた親バカぶりだが、さすがに今は事情が事情だ。肌寒さに震えると、彼はコートの襟を合わせた。
鷲士「と、とにかく――登山鉄道駅だっけ?に向かわないと」
顔を引き締めて、左右を見渡す。
鷲士「えっと……ガルミッシュなんとかって……どっち?」
あっけなく、鷲士は途方に暮れた。
“場所がぜんぜん分からない!”
何の予備知識もなく、眠らされて連れてこられたのである。秘宝や登山鉄道駅がどうとかいう以前に、自分の居場所すらも分かっていなかった。
鷲士「思い出せ、思い出すんだ、鷲士……!ドイツについて、なんでもいいから……」
ドイツ……正式国名、ドイツ連邦共和国。
人工は……ええっと……首都がベルリン。
……
鷲士「ああっ、ぜんぜんダメだ!」
鷲士は身悶えた。大学生と言っても、しょせんはこんなもんである。
……あ、でも待てよ?確か、南下するって、冴葉さんが……!
さんざん左右を見回した挙げ句、鷲士は、足を踏み出した。とにかく、ここにいては始まる者も始まらない。
――3歩進まないところで、鷲士は急に腹を押さえた。顔をしかめながら、あてた手を目の前に持ってくる。
指先に付着するのは、ぬるりとした液体だった。
――鮮血だ。

496ゲロロ軍曹(別パソ):2008/01/29(火) 22:04:03 HOST:i219-167-180-50.s06.a033.ap.plala.or.jp
>395の続き
その後、みのりから夜も遅いこともあってか『こんな所に居続けたら、風邪を引くかもしれない』…という事をいわれ、一応は断りを入れたものの、半ば強引な形で、彼女が時々お手伝いをしてる喫茶店へと連れて行かれる剣崎だった…。

=喫茶『ポレポレ』・店内=
みのり「こんばんは〜♪」
?「はーい、いらっしゃ…、な〜んだ、みのりっちか。どしたの、こんな遅くに?…って、あれ?そちらさん、どなた??」

この店のマスターらしき中年の男性が、みのりに少し遅れて店に入ってきた剣崎の姿をみて、みのりに尋ねてくる。

みのり「えっと…、この人は剣崎一真さん。さっき、公園でちょっと知り合って。…あ、剣崎さん。この人はこの店のマスターの『飾玉三郎(かざり たまさぶろう)』さん。皆からは『おやっさん』て呼ばれてるの」
剣崎「へぇ…、そう、なんだ。あ、初めまして、剣崎一真です。えっと…飾さんって、呼んだ方がいいですよね?」

みのりの説明を聞いた後、一応丁寧に頭を下げて挨拶する剣崎…。

おやっさん「あ〜、気にすんなって。おやっさんでいーよ、おやっさんで。そー呼ばれた方が落ち着キングコング…、なぁ〜んてな!はっはっはっは!!」
剣崎「…ぇ??」

何でか急に寒い駄洒落(?)らしき事を言ってきたおやっさんに対し、思わず固まる剣崎。すると、みのりは慌てて剣崎に小声で説明する。

みのり「ご、ごめんなさい。おやっさんって、あーゆーギャグを言うのが大好きでして…」
剣崎「そ、そうなんだ…」

みのりの説明を聞き、「変わった人もいるもんだなぁ…」と、心の中で思う剣崎であった…。

497ことは:2012/04/13(金) 23:03:23 HOST:p852a7d.tokynt01.ap.so-net.ne.jp
麗「ねぇ、見てよこれ。」
と、麗が、指をさした所には


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