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[SS]壊れた大学生の追憶

412ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:12:32 ID:oJYj8oY.00


ドドドドドドドド!!!!


アーウィンは一斉にドルボリドルを射撃する。

ドルボ「無駄だ。今の私に形はない。弾は全て通り抜けるだけだ」

???「お前は何者だ?」

アーウィンに乗っていた緑フォックスの一人が問う。

ドルボ「知って何になる」

ギンッ!!

ドルボリドルが睨むが。

ドルボ(催眠が効かぬ…大した魔力は感じられんが、基礎程度はできるか)

???「お前には生体反応がない。だが魔力反応は検知されている。通常ではあり得ない事だ」

ドルボ「当然だな。私は肉体を捨てた。この体は思念と魔力のみによって構成されているのだ」

???「生け捕りにする」


ドドドドドドドド!!!!


またアーウィンは集中砲火を始める。

が、やはりドルボリドルにダメージは通らない。

???「物理攻撃は完全に無効か。だが、魔力による攻撃ならどうだ?」

フォックスたちはアーウィンのコックピットを開き、立ち上がると。


ゴゴゴゴゴゴ…


全身から炎を放ち始める。

???「ファイヤーッ!!」


ドガガガガッ!!!!


そして一斉にファイアフォックスを放った。

413ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:13:38 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「フン、正解だ。魔力による攻撃のみが私にダメージを与えられる。だが当たらなければ意味などない!」

ドルボリドルはジャンプしてファイアフォックスをかわしていた。

さらに。

パチンッ!

指を鳴らし、ピーナッツ・ポップガンを召喚。

ドルボ「従わぬなら消すまでだ!ハハハハハハハハハ!!」


ドドドドドドドド!!!!


ピーナッツ弾を撃ちまくり、フォックスたちを次々に吹き飛ばす。

ドルボ「残り三匹…催眠状態でどれ程の力を出せるか、試しておくか。やれ、しもべ共!」

ダッ!!!

今まで動かなかった黒猫、ベンベ、ティーダの三人が一斉に動き出し、フォックスたちに襲いかかった。


ドガガガッ!!

バキッ!!

ズドドッ!!


三人はフォックスたちと互角の戦いを繰り広げる。

ドルボ「…この程度の雑魚と互角か。やはり催眠状態で真の力を引き出すには、催眠魔法の改良が必要だな」

414ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:14:53 ID:oJYj8oY.00


昼間「魔法の改良?そんなことをする前に、自分の魔法の精度を上げてはどうです?」


ドルボ「!?」

ドルボリドルの後ろに、突如、昼間の召喚士が現れた。

???「無関係の人間に見られるのは面倒だ。退却するぞ」

???「ああ」

キィィィィン…

残ったフォックスたち三人はすぐにアーウィンに乗り込み、飛び去った。

昼間(あれは…フォックス族のアーウィン…?)

一瞬だけそっちに目をやったが、すぐにドルボリドルを視界に戻す。

ドルボ「クク…昼間の召喚士、よくここが分かったな」

昼間「君は無用心すぎます。どれだけ空間魔法を使おうと、どれだけ魔力を隠そうと、そんなドロドロの目立つ格好でいろんな場所に現れていては、目撃情報を照らし合わせて簡単に特定できますよ」


パチンッ!


ドルボ「なっ…!」

召喚士が指を鳴らすと、ドルボリドルは透明な箱の中に閉じ込められた。

昼間「申し訳ないですが、お喋りしに来たわけではないんですよ私は。速攻で君を捕えます」

召喚士は片手に分厚い魔法書を開き、そのページには魔法陣が描かれている。

415ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:16:14 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「結界か…だが今の私にはこの程度!」

昼間「でしょうね。ですから更に重ね掛けさせてもらいます」

ドルボ「!」

パチンッ!

パチンッ!

パチンッ!

召喚士は何度も指パッチンし、そのたびにドルボリドルを囲む結界は分厚くなっていく。


ドンッ!!!!


ドルボリドルはピーナッツ・ポップガンを撃つが。

ドルボ「チッ、効かぬか」

結界は表面に少しヒビが入るだけだった。

昼間「このまま君を魔法学校へ連れて帰る、と言いたいところですが、結界を張ったままでは飛べません。ここで封印します」

ドルボ「阻止せよ、しもべ共!」

ダッ!!

フォックスたちに逃げられてボーっと突っ立っていた黒猫たちが、今度は召喚士を襲う。

パラパラパラパラ…

召喚士は魔法書の別のページを開き。

昼間「㌦くん!」


ボフンッ!


そこに描かれた魔法陣から、㌦ポッターが召喚された。

㌦「はっ!!」


ドガガッ!!


㌦ポッターはすぐさま足払いで三人を弾く。

昼間「ありがとうございます」

㌦「こっちは任せてください!それより先生は封印を!」

昼間「ええ」

召喚士はドルボリドルに向けて手をかざし、呪文をブツブツ唱え始める。

416ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:17:35 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「フン、詠唱が終わる前にこの結界を破壊してくれるわ」


ドドドドドドドド!!!!


ドルボリドルはピーナッツを全方向に撃ちまくり、結界をヒビだらけにしていく。


ビキビキ…


パリィィン!!!


そして結界は砕かれた。

ドルボ「ハハハハハ!!残念だったな昼間の召喚士!!」

昼間「こちらの台詞です」


フュオオーッ!!


ドルボ「!?」

ドルボリドルは後ろから何かに吸い込まれた。

昼間「物理攻撃が効かないであろうことは予測していました。それならば、彼の出番だ」

おこめ「ン!!」

ドルボリドルを吸い込んだのはおこめだった。

昼間「さて、仕上げです」

パチンッ!

召喚士が指を鳴らすと、おこめの前に巨大なカプセルのようなものが召喚された。

昼間「はあああっ!!」

パカッ!

召喚士が手をかざして魔力を込めると、カプセルが開いた。

昼間「準備は整いました!おこめくん、ドルボリドルを吐き出してください!せーのッ!」

おこめ「オエッ!」

合図とともに、おこめがドルボリドルを勢いよく吐き出す。

ドルボ「くっ!!」

昼間「うおおおおおおお!!」


バシュウッ!!!!


完璧なタイミングでカプセルが閉じ、ドルボリドルを捕らえた。

おこめ「やった!?」

㌦「いや、まだだよ!」

417ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:18:28 ID:oJYj8oY.00

ガタガタガタガタ!!

カプセルが激しく揺れる。

㌦「ドルボリドルが中から抵抗しているんだっ!」

おこめ「セ、センセー!」

昼間「大丈夫!」

パチンッ!

召喚士は黒い封印布をいくつも召喚する。

ギュルルルル!!

そしてカプセルの上から封印布を巻きつけていった。

ガタガタガタッ!

ガタガタッ!

ガタッ!



そしてカプセルは動かなくなった。

昼間「……封印成功」

㌦「やった!!」

おこめ「ドルボリドル…安らかにねむれ。おまえと過ごした日々は忘れない」

418ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:19:57 ID:oJYj8oY.00

ベンベ「はっ…!?」

黒猫「ん?あれ、オイラにゃにしてたんだっけ?」

ティーダ「ウホ…」

おしり「…一体何が…」

ドルボリドルが封印されたことにより、操られていた四人が目を覚ます。

昼間「初めまして。私たちはドルボリドルを封印するべく、遠く離れた国の魔法学校から来ました」

黒猫「まほーがっこー?にゃんだそれ?うまいのか?」

ベンベ「学校っていうのは人間の子どもが勉強するために通うとこだべ」

おしり「つまり魔法を学ぶ場所か…ドルボリドルも魔法というのを使っていた…まさかお前たちも奴の仲間なのか…」

昼間「仲間…まあそうとも言えますね。彼は私たちの施設から逃走したのです」

㌦「先生、いいんですか?そんなにいろいろ喋っちゃって。無関係の人に魔法学校のこと話しちゃダメなんじゃ…」

昼間「ドルボリドルに操られていたんですよ。無関係とは言えません。それにそこのファルコン族の魔力は、間違いなく魔族のものです」

黒猫「ん?オイラ?そうだけど」

おしり「俺も一応魔の一族だ…弱いが…」

ベンベ「そういえばマカイとか言ってたな。なんだべ?そのマノイチゾクとかいうのは」

おこめ「魔界にすんでるコワイやつらだよ。ぼくもはじめて見るけど」

419ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:21:22 ID:oJYj8oY.00

昼間「あなたたちはなぜ地上に?」

おしり「来るつもりはなかった…なぜか知らんが、ここに繋がる穴が開いていたのだ…そして気づいたらその穴が閉じていてな…帰ることもできん…」

昼間「あなたたちが開けたのではなく?」

おしり「そうだ…そもそも俺たちは魔力の操作が下手だからな…」

昼間「だとしたら…」

㌦「もしかしたら他にも魔族が来ているかもしれませんね」

昼間「ええ。お二人はこの辺で他に誰か見かけませんでしたか?」

ベンベとティーダのほうに問いかける。

ベンベ「へんなキツネのヤツらなら何度も来たけども…」

昼間「先程のフォックス族ですか?そういえば私が来た途端すぐいなくなりましたが…」

おしり「何に使うのかは知らんが、ジャングル固有種の樹脂が欲しかったらしい…昨日俺たちも襲われた…黒猫の怪我もその時のものだ…」

昼間「樹脂…?魔族である君たちや、ドルボリドルを討伐するために来たわけではないのですか?」

ベンベ「コイツらが来る前から、ヤツらは来てたべよ。縄張り荒らされるのイヤだったから追い返してたけど、すぐ仲間を呼んできて、ホント面倒なヤツらだったべ」

昼間「そうですか…フォックス族がそんな強引な手段を取るとは思えませんが…」

㌦「フォックス族の村は宇宙生物に壊滅させられたってニュースもありましたし、なんかおかしくないですか?」

昼間「ええ。少し調べてみますか…二人とも、帰りますよ」

おこめ「ハーイ」

召喚士は魔法書を開き、おこめと㌦ポッターはそこへ集まる。

420ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:22:29 ID:oJYj8oY.00


ドッ…


突如、三人は倒れた。

黒猫「アレ?にゃんだ?急に眠ったぞコイツら」

ベンベ「よく見るべ!頭になんか跡がついてるべ!」

おしり「そ、狙撃されたということか…?だが銃声などしなかったぞ…」

ティーダ「ウホ…」

黒猫「どういうことにゃ?」

おしり「少なくともジャングルのどこかに…まだ敵が潜んでいる…」

次の瞬間。


ドッ…


四人も倒れる。


???「…我々の記憶を持つ七名の記憶消去完了。魔法使いにも感知されなかった。魔力遮断着の性能実験も成功と言っていいだろう」

スナイパーライフルのような形状をしたブラスターを持ち、黒いローブを纏ったフォックス族が、ジャングルの中に潜んでいた。

???『そうか。目覚めないうちに離脱しろ』

???「了解」

黒猫「にゃにしてんだ?オマエ」

???「!!」

黒猫がフォックス族の目の前まで近づいていた。

ベンベたち三人は倒れたが、黒猫だけは、姿勢を低くして狙撃をかわしていたのだ。

421ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:23:13 ID:oJYj8oY.00


ドゴォ!!


黒猫「にゃにすんだ」

フォックス族は咄嗟に蹴りを放つも、黒猫はそれを片手で受け止める。

???「訂正する…一人、記憶消去に失敗した」

黒猫「誰としゃべってんだ!」


バキィッ!!


???「がはっ!」

黒猫に蹴り返され、フォックス族は吹っ飛んで木に激突した。

???「く…貴様…どうやって…」

黒猫「鼻!オイラは犬みたいに鼻が効くんだ!昨日のアイツらと同じニオイがした!」

???「…そういうことか…」

???『簡易式次元分離システムを起動しろ』

???「しかしそれでは魔力遮断着の完成品が…」

???『問題無い。データは取れた』

???「…了解」

黒猫「にゃに一人でブツブツしゃべってんだっ!!」

ダッ!!

黒猫がさらに攻撃を仕掛けようと踏み込む。


カチッ


フォックス族がローブの内部に仕込まれたスイッチを起動。

黒猫「にゃっ!?」


ゴォォォ…


球状に拡がる黒い閃光が、フォックス族もろとも黒猫を呑み込んだ。

422ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:24:39 ID:oJYj8oY.00



数十分後。

おこめ「おーい、㌦ー?」

ぺしぺし

おこめは眠っている㌦ポッターの頬をぺしぺしする。

㌦「はっ…ここは…」

昼間「コンゴジャングルですよ。何者かに私たちは眠らされていたようです」

と、召喚士は自分の額についた何かがぶつかったような跡を指差す。

㌦「眠らされていたって…誰に…?」

おこめ「ドルボリドル?」

昼間「分かりません。ただドルボリドルの封印に成功した時点で催眠は解ける筈ですから、その後で他の手駒を操って我々を攻撃したとは考えにくいでしょう」

㌦「でもだとしたら…」

おしり「…いつの間に寝ていたんだ……ん…?黒猫は…?」

おしりが目を覚まし、周りをキョロキョロ見回す。

昼間「そう、不可解なのは、あのファルコン族が消えていること」

おしり「き、消えている…!?」

㌦「ホントだ…じゃあ…」

おこめ「それが犯人じゃん!」

昼間「そうと決まったわけではありませんが、可能性は高いでしょうね。彼は魔の一族です。我々を魔力によって眠らせるような手段を持っていても不思議ではありません」

423ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:25:53 ID:oJYj8oY.00

おしり「ま、待て…勘違いだ…」

昼間「どういうことです?」

おしり「言っただろう…俺たちは魔力の操作が下手なのだ…黒猫がそんな技を使える訳がない…」

昼間「あなたにも隠していたというだけでは?あなたは彼と違って魔力が弱い。初めから利用するだけ利用して捨てるつもりだったのかもしれない」

おしり「そんな馬鹿な…奴はそこまで頭の良い奴ではない…」

おこめ「おまえもだまされてたんだよ。魔の一族って、めちゃくちゃ狡猾らしいぜ」

㌦「懐いてたのに裏切られる気持ち、よく分かるよ。信じられないよね。僕たちもドルボリドルで味わったから…」

おこめ「㌦には別になついてなかったけどな。ていうか全然世話してなかったじゃん」

㌦「いやしてたよ!おこめくんとは時間が被らなかっただけで、結構顔出してたから!」

おこめ「えー?ほんとかよー」

㌦「ホントだよ!」

おしり「…魔の一族に信用などないか…それが正常なのかもな…」

ベンベ「オラは信じるべよ!」

ティーダ「ウホ!」

おしり「ベンベ…ティーダ…」

ベンベ「黒猫はオラたちを助けてくれたしな。それにオラも、アイツにそんな頭良さそうことできないと思うべ」

おしり「ありがとう…」

昼間「ふむ…彼を庇いますか」

ベンベ「なんだべ?やんのか?」

ティーダ「ウホ!」

ベンベとティーダはヤンキーのごとくガンを飛ばす。

昼間「いえ。もう一つの可能性について考えていました」

おしり「もう一つの可能性…?」

424ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:28:47 ID:oJYj8oY.00

昼間「あれを見てください」

召喚士が指した先には、直径五メートル程の空間が丸く抉り取られたような跡が残っていた。

ベンベ「な、なんだべ?アレ…」

昼間「分かりませんが、恐らく空間魔法を使用した跡です。この場所で黒猫さんの魔力の痕跡が途絶えていますから、ここでゲートを開き、魔界かどこかへ移動したと考えるのが普通でしょう」

おしり「だから奴にそんなことができる訳が…」

昼間「しかしゲートを開いたという痕跡がないのです。本来空間魔法を使った際に生じる空間の歪みがない…つまり、魔力を使わずに空間を移動したと考えられます」

おしり「…??」

おこめ「どゆこと?」

㌦「おかしいですよ先生。魔力を使わずにどうやって…?」

昼間「それは分かりませんが、天界に住むという神や天使は、魔力以外の力を持っているとされています。そういった我々の知らない方法でゲートを開いたとしたら…」

おしり「つまり…黒猫は何者かによって、連れ去られたと…?」

昼間「そういうことになりますかね」

㌦「そ、それこそおかしいですよ!魔の一族を連れ去るなんて、何の意味があるんですか?」

昼間「そうですね…ですからあくまで可能性の話です。私も黒猫さん自身の意思で逃走した説が濃厚だと思っています。魔力の痕跡を隠す方法も存在しないわけではありませんしね」

おしり「……」

ベンベ「おしり!オラたちで黒猫を助けるべ!」

おしり「え…?」

ベンベ「黒猫が誰かにさらわれたなら、きっと腹を空かせてるに違いないべ。オラたちで見つけて、たらふくバナナ食わせてやるべよ!」

ティーダ「ウホホ!」

おしり「ベンベ…!ティーダ…!ありがとう…!」

珍獣たちによる新たな冒険が始まろうとしていた。

昼間「さて、私たちはもう帰りましょう」

㌦「アレ放っといていいんですか?」

昼間「ベンベさんとティーダさんは民間人に危害を加えるような人たちには見えませんし、おしりさんは危害を加えられるほど強くもないでしょう。魔の一族にもあんな人がいるとは驚きですが…まあ旅に出るくらい自由にさせてもいいんじゃないですか」

㌦「そうですけど…」

おこめ「なにが心配?」

㌦「いや、別の空間に行ったんならこの世界をどれだけ旅しても見つからないんじゃないかなって…」

おこめ「なるほど。かしこいな、㌦」

昼間「しかし私たちにはどうしようもないですよ。空間の歪みが消えている以上、私たちにも見つけ出すのは困難です」

おこめ「空間探査魔法は?」

昼間「教えても彼らでは使いこなせないかと。それとも君たちが彼らの旅についていきますか?どれだけの時間がかかるか分かりませんが」

おこめ「それは…ムリだ。ぼくにもやらなきゃいけないことあるし」

㌦「…………まあ…帰りましょうか…」

昼間「はい」

三人は魔法書の魔法陣に魔力を込め、空間魔法を使って魔法学校へ帰った。

425ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:18:22 ID:D75EisdA00





とある町の一軒家では。

???「晩ご飯よ。戻っておいで」

???『了解。この敵を倒したら帰還します』

???「堅苦しいわね相変わらず」

狼の顔を持つ女が誰かと通信で話している。

???『私は居候の身…貴女に失礼な態度は取れませんので』

???「ハハ!アタシはアナタが気に入ったから匿ってあげただけって言ってるでしょ?まあいいわ。冷めないうちに帰りなさい、リカエリス」

リカエ『ありがとうございます、村田さん』

プツッ…


村田「さてと、リカエリスが帰ってくる前に…表の掃除をしないとね」

ガチャリ

村田と呼ばれる狼女は、家の外に出る。

???「ヒャッホーゥ!!遊びに来たぜウルフ村田ァ!!」

いきなりピンクのイカが飛びかかってきた。

426ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:19:07 ID:D75EisdA00


ドガァッ!!


村田はそれを蹴り返す。

村田「何度も何度もウチに押しかけて来ないでって言ってるでしょう?陛下」

ズザザザザ…!

陛下「やっぱやるねェ村田!こうでなくちゃ面白くない!」

陛下と呼ばれるイカは、学生服を着た幼女へと姿を変えた。

村田「アナタは気軽に出歩いていい人じゃないのよ?わかる?」

陛下「わかんない!」


ドババババババ!!


今度は持っていた水鉄砲のようなブキでインクを大量に発射。

村田「あーもう!汚れるでしょ!だからヤなのよアナタと戦うの!」

陛下「ヒャッホー!!楽しーっ!!」

村田「掃除するこっちの身にもなりなさい!」


ズバッ!!


陛下「ぎゃーっ!!」

村田は一瞬で陛下に近寄りひっかき攻撃をくらわせた。

427ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:20:07 ID:D75EisdA00

村田「痛い目に遭いたくなかったら早く帰んなさい!」

陛下「やだよーだ!!」

ガシッ

アッカンベーをする陛下の手を、後ろから来た何者かが掴む。

???「見つけましたよ陛下」

陛下「げぇっ!!エンコード!!」

エンコード「村田さん、ご無沙汰している」

エンコードと呼ばれる赤髪褐色肌の屈強な男が、村田に頭を下げる。

村田「エンコードさん、もっとしっかり見張っとかないとダメよ。この子すぐ飛び出すんだから」

エンコード「おっしゃる通りだ。以後気をつける。済まなかった」

陛下「クソッ!!離しやがれテメー!!」

エンコード「ところであの妙なフォックス族はいないのか?」

エンコードは陛下を無視して話を進める。

村田「今はちょっと出てるわ」

エンコード「そうか。様子を見ておきたかったが」

村田「もうすぐ帰ってくると思うけど、上がってく?」

エンコード「いや、いい。これ以上迷惑は掛けられん。村田さんが見張ってくれているなら問題ないだろう」

村田「見張ってるってわけじゃないけどね。リカエリスはそんな悪いヤツじゃないわよ?」

エンコード「それは分かっているが、謎が多いのも事実だ」

村田「まあねぇ…不思議な存在ではあるかも」

エンコード「新たに何か分かればすぐに連絡をくれ。今日のところは失礼する。さあ帰りますよ陛下。お勉強の続きです」

陛下「オイッ!!助けろ村田ァ!!」

陛下はそのまま引きずられていった。

村田「ふぅ、まったく。困ったものね、あの悪ガキには」

428ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:21:47 ID:D75EisdA00


それから村田がインクを掃除していると。

キィィィィン…

ゴゴゴゴゴ…

ガシィン…

アーウィンが着陸。

リカエ「ただ今帰りました」

村田「おかえり。どうだった?こっちでの任務は」

リカエ「やはりこの世界の生物はどれもこれもレベルが高いですが、その分こちらも得るものがあります」

村田「そっか。ま、話はご飯食べながらでも…」

リカエ「すみません。その前に一ついいでしょうか村田さん」

村田「ん?何?」

リカエ「これを…」

ドサッ…

リカエリスはアーウィンの中から、一人の黒ファルコンを持ってきた。

犬のような黒猫である。

村田「え…?」

リカエ「倒れていたのを見つけ、拾いました」

429ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:22:31 ID:D75EisdA00

村田「こ、これって…」

リカエ「はい。この世界の住人と比べて少しカクカクとしたフォルム…恐らく、私と同じ世界の住人かと」

村田「えぇぇ…?」

430はいどうも名無しです (ワッチョイ 3749-78b2):2022/07/17(日) 22:12:22 ID:kf8iRFYk00
カクカク言っちゃうのかw

431ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:47:01 ID:SqW6gzFU00



数十分後。

黒猫「にゃにゃっ!?」

黒猫はベッドで目を覚ました。

リカエ「目覚めたか」

黒猫「にゃっ!?オマエ!!にゃにしたんだ!!」

バフォッ!!

黒猫は飛び起きていきなりリカエリスに殴りかかる。

リカエ「むっ!」


ドガァッ!!


リカエリスも咄嗟に蹴りを繰り出して相殺した。

432ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:48:38 ID:SqW6gzFU00

村田「うるさいわね。何の騒ぎ?」

部屋の外からウルフ村田も駆けつける。

黒猫「にゃぁ!?ぐちゃぐちゃだっ!!」

村田を見た途端、黒猫は飛びのく。

リカエ「落ち着け。ここは我々の世界よりも解像度の高い世界だ」

黒猫「カ…カイゾード…?」

リカエ「ああ。より高次元の世界と言った方が分かりやすいか。目に映る全てが我々の世界よりも鮮明で微細…ゆえに、脳の処理が追いつかないのだろう。しばらくすれば慣れる」

黒猫「にゃに言ってんだオマエ…」

村田「人の顔見て"ぐちゃぐちゃ"は酷いと思わない?」

リカエ「仕方ありませんよ…私も最初は驚いたものです。お前、名は何と言う?」

黒猫「い…犬のような黒猫…」

村田「何よその名前」

リカエ「では黒猫、聞きたいことがある」

村田「スルーなんだ…」

黒猫「聞きたいのはコッチだ!」

リカエ「ああ、すまない。分からないことだらけだろうが、後で教える。お前、私を見てすぐに殴りかかっただろう。何故だ?」

黒猫「当たり前だ!オマエがへんなワザ使ってオイラをここに連れてきたんだろ!」

リカエ「……やはりそうか」

黒猫「はあ!?」

433ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:50:03 ID:SqW6gzFU00

リカエ「それは私ではない。別人だ」

黒猫「そんなわけにゃいだろ!おんなじカオしてるじゃにゃいか!」

リカエ「それは同じ種族だからだ。お前をこの世界へ飛ばしたのは、私と同じフォックス族…ロハスだ」

黒猫「ロハス?…クンクン……言われてみればたしかにニオイが違う…」

村田「鼻が良いのね。見た目人間なのにホントに犬みたい」

リカエ「私もロハスとの戦闘中に次元分離システムを起動され、ここへ来た」

黒猫「!!そのジゲンにゃんとかって…聞いた気がするぞ!」

リカエ「そうだろうな。ロハスは恐らくこの現象に気づいていない。不完全なまま実用化してしまっているのだ」

村田「次元を粉々に分離して殺した気でいるのね。でも実際には、次元分離システムはこの世界への穴をこじ開けて、範囲内のものを移動させただけだった」

リカエ「はい。我々も、そして我々を道連れにしたロハスたちも。黒猫、お前もロハスと共にこの世界へ来たはずだ」

黒猫「一緒に来たかはわからにゃいけど、道連れにはされたにゃ」

リカエ「だがお前が倒れていた場所に奴はいなかった。つまりお前より先に目を覚まし、どこかに身を潜めているということだ。私と共にこの世界へ来たはずのロハスたちも、まだ全ては見つかっていない」

村田「ロハスがもう一度次元分離システムを使って元の世界に戻ったとは考えられない?」

リカエ「可能性はありますが…そんな簡単なものでもないでしょう。実際私をこの世界へ飛ばしたシステムは、次元を超えた影響か、完全に壊れていました」

村田「そういえばそうだったわね」

リカエ「そうでなくとも、もう一度使ったからと言って元の世界へ戻れる保証もないでしょう」

村田「そうね」

434ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:51:35 ID:SqW6gzFU00

リカエ「黒猫、お前をここへ飛ばしたロハスは、次元分離システムをどうやって起動していた?」

黒猫「んー…服ん中でカチッてにゃんか押したら、そっからぐわーって黒い光が出たぞ」

リカエ「そうか」

村田「リカエリスのとは違うわね」

リカエ「はい。私の時は遠隔操作によって起動し、基地全体を包み込む程の大きさの光が発生した。しかし黒猫の場合はかなり規模が小さい上、その場で光を発生させている。つまり奴等はシステムの小型化に成功しているのです」

村田「だとしたら、前のより丈夫になってる可能性もあるわよね。もう一度起動できるくらい」

リカエ「はい。とは言えやはり元の世界へ戻れる保証がない以上は、もう一度起動したという可能性は低いと思われます」

村田「うーん…でも、また別の次元分離システムを作ってる可能性はあるわよね」

リカエ「…なるほど…あのシステムを作ったのもロハスなら、元の世界へ戻れるシステムを新たに作れても不思議ではないか…」

村田「現状この世界からアナタたちの世界へ行く方法はないけど、ロハスがそれを作ってるとしたら…ラッキーよね」

リカエ「ラ、ラッキー…ですか?」

村田「だってそれ奪えばアナタたちも帰れるわよ」

リカエ「なっ…たしかにそうですが、そう簡単には…」

村田「まあアナタ一人じゃね。でも黒猫くんもいるし、私だって協力するわよ?」

リカエ「村田さんも…!?それは心強いですが、いいんですか?」

村田「何よ、私がそんな薄情な人に見える?」

リカエ「いえ、そういうわけでは…しかし住まわせてもらっているだけでもありがたいので、そこまで手伝ってもらうのは…」

村田「気にしなくていいの!私がやりたいのよ。それにアナタが元の世界に帰れないと、ずっと住まわせ続けなきゃならないんだからね」

リカエ「たしかに……分かりました。ではお言葉に甘えさせてもらいます、村田さん」

村田「ええ。兎にも角にも、まずはロハスたちの居場所を突き止めないとね!」

リカエ「はい!」

435ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:52:34 ID:SqW6gzFU00

ぐうううううううう…

と退屈そうに聞いていた黒猫のお腹が鳴った。

黒猫「にゃー、ゴハンにゃいの?」

村田「あ、そうね。すぐ用意するわ。ここで待ってなさい。アナタ全身ボロボロなんだから、動いちゃダメよ!」

黒猫「おー!ありがとう!」

村田は部屋から出て行った。

リカエ「…時に黒猫、もう一つ聞きたいことがある」

黒猫「ん?にゃんだ?」

リカエ「お前の出身はどこだ?」

黒猫「腐敗」

リカエ「フハイ…そんな国あったか…?」

黒猫「クニ?よくわかんにゃいけど、魔界だぞ!」

リカエ「!!」

リカエリスはそれを聞いた瞬間大きく目を見開き、次の瞬間。


ドガァッ!!


黒猫「にゃぁ!?」

リカエリスは黒猫の顔面を掴んで押さえつけた。

リカエ「…ハァ…ハァ…そうか…貴様か…!」

黒猫「は!?にゃにすんだ!?」

436ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:54:08 ID:SqW6gzFU00

リカエ「魔界…黒いファルコン族…そして特徴的な喋り方…!貴様が……貴様がギルティースを殺したんだな…!!」

黒猫「誰だよ!」

リカエ「ハァ…なんという運命の悪戯か…こんなところで出会えるとは思いもよらなかった……ギルティースが死んだあの日…私は誓ったのだ。必ず仇を討つと…!!」

黒猫「ひっ…!」

豹変したリカエリスの目に篭る殺意を感じ取り、黒猫はバタバタと暴れる。

リカエ「無駄だ。獣風情が私から逃れられると思うな」

リカエリスはブラスターの銃口を黒猫の腹に押し当て。


チュンッ!チュンッ!チュンッ!


黒猫「ぎゃああっ…!」

そのまま何度も弾を撃った。

村田「ちょっと何してるの!?」

リカエ「村田さん、止めないでいただきたい。此奴は私の友を殺した…」

村田「外でやってくれる!?家の中が壊れるでしょ!」

リカエ「すみません」

437ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:55:18 ID:SqW6gzFU00

ガシッ!

黒猫「グエッ!」

リカエリスは黒猫の首根っこを掴み上げると。


ドガッ!!

パリィン!!


黒猫「ぎゃっ!!」

窓の外へと蹴り飛ばした。

村田「窓も壊すな!」

リカエ「後で弁償します」

リカエリスはぺこりと頭を下げ、割れた窓から外へ出た。

村田「まったく…ご飯までには終わらせなさいよー」

438ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:56:11 ID:SqW6gzFU00


黒猫「ゲホッ、ゲホッ…もう怒ったぞ!!いきにゃり怒りやがって!!」

リカエ「貴様だけはこの手で殺す…」


ダンッ!!


両者ともに地面を蹴る。


ドガァッ!!!


リカエリスの蹴りと黒猫のパンチがぶつかり合う。

ダンッ!

黒猫は高く跳び上がり。

黒猫「ファルコン・キック!!」

リカエ「はっ!!」


ドゴォ!!!


黒猫のキックとリカエリスの蹴り上げがまたもぶつかり合う。

村田「んー、実力は互角ってとこね。黒猫くんあんなボロボロなのにあそこまで動けるなんてすごいわ。リカエリスは冷静さを欠いてるわねぇ。これは黒猫くんの勝ちかしら」

と割れた窓から少し戦いを眺めた後、ウルフ村田はまたご飯の準備に戻った。

439ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:57:12 ID:SqW6gzFU00



数分後。

黒猫「ハァ…こんにゃにオイラと戦えるヤツ…久しぶりだぞ…!」

リカエ「…くそっ…!」

戦況は村田の予想通り、黒猫の優勢になっていた。

リカエ(重い攻撃に圧倒的なスピード…そして獣のように読めない動き……ギルティースの言っていた通りだ…!)

黒猫「ととととととと!!」


ズガガガガガガガ!!


連続パンチでリカエリスを弾く。

リカエ「くっ…」

ダンッ!!

黒猫はすかさず跳び上がり、リカエリスの真上へ行くと。

黒猫「とおっ!」


バゴッ!!!


両脚で蹴り落とし、リカエリスを地面に叩きつける。

リカエ「ぐ…!」

黒猫「ファルコン・パ…」

村田「はいそこまでー」

ビシッ!

黒猫「うにゃ!?」

村田が黒猫の拳を片手で払い落とし、パンチを止めた。

リカエ「む、村田さん…」

440ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:57:48 ID:SqW6gzFU00

村田「ご飯できたわよ。食べなさい」

黒猫「やったー!!ごっはん!ごっはん!」

黒猫は今まで殺し合っていたのが嘘のように、すぐに家の中へ入った。

村田「ほら何してるの。アナタも食べなさい。新しい仲間ができたことだし、今日は腕によりをかけて作ったんだからね!」

リカエ「…彼奴を仲間だなどとは思えません…そんな相手と食卓を囲むなど…」

村田「ふーん。でもアナタ、私が黒猫くん止めなかったら負けてたわよ」

リカエ「…はい」

村田「というわけで負け犬は大人しく言うこと聞きなさい。ご飯食べなさい」

リカエ「…手厳しいですね」

村田「まあここ私んちだし。私がルールよ」

リカエ「はい…」

村田「頭に血が昇りすぎ。あんなんじゃ勝てるものも勝てないわよ」

リカエ「え…」

村田「因縁のある相手じゃしょうがないかもしれないけどね。冷静沈着はアナタの武器なんだから、生かさなきゃ」

リカエ「…ありがとうございます。少し頭が冷えました」

村田「そう、よかったわ」

リカエ「でも諦めたわけではありません。黒猫はこの手で必ず倒します」

村田「ふふっ、はいはい」

441ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:50:51 ID:Ylq.mX5200





ヨシオ族の里。

その門の前に、謎の黒服たちが集まっていた。

黒服「撃て!撃てー!」

ドドドドドドドド!!

???「くそっ!数多すぎ!一人じゃキツイよこれ!」

黒服たちが、一人の青リボンのヨシオ族に向かって銃を撃ちまくる。


ミカ「デガワァ!!」


ビシャァン!!!!


黒服たち「ぐああああっ!!」

そこに味方殺しが現れ、かみなりで黒服たちを一気に吹っ飛ばした。

黒服「な、なんだアイツは!」
黒服「ピカチュウ族がなぜここに!」
黒服「退散!退散だー!」

黒服たちは逃げていった。

442ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:51:39 ID:Ylq.mX5200

???「た、助けてくれてありがとう!君は…」

ミカ「初めまして、オレはミカ。困ってる人を放っておけない性格でね」

???「そうかミカ。僕は勇気のヨシオだよ。よろしく!」

ミカ「よろしく。さっきの奴らは一体何者だ?」

勇気「さあ…最近よく来てたみたいなんだよね。でもここ一ヶ月くらいは来てなくて、安心した矢先にこれだよ…」

ミカ「やっぱり、この里に隠されてる何かを狙ってるんだろうか」

勇気「隠されてるって…何が?」

勇気のヨシオは首を傾げる。

ミカ「さあ?それは知らないが、噂になってるよ。ヨシオ族は絶対よそ者を里の中に入れないから、きっと何かを隠してるってな」

勇気「そんなことになってたんだ…ただヨシオ族は弱いから自衛してるだけなんだけどな…」

ミカ「はは、そんなことだろうと思ったよ。じゃあオレはもう行くよ」

勇気「あ、待って!」

ミカ「ん?」

勇気「お礼がしたいんだ。里には入れられないけど、少し待っててくれないか」

ミカ「礼なんかいいよ。オレはやりたくてやっただけだ」

勇気「そういうわけにはいかないよ。僕一人じゃ本当に危なかった。すぐ戻るから少しだけ時間をくれ」

ミカ「…しょうがないな。少しだけだぞ」

勇気「ああ!ありがとう!」

勇気のヨシオは里の中へ入っていった。

ミカ(さて、ここまでは計画通りだ。組織のカスどもを定期的に送り込んで里の番兵を調査し、週ごとに交代している当番制だと分かった。その中で最も弱い当番の時を狙って襲撃させ、オレが助けに入ることで信頼を得る。あとは時間を掛けてさらに深い信頼を築き、里へ潜入する)

443ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:52:23 ID:Ylq.mX5200


数分後。

勇気「ごめんなさい!お待たせしちゃって!」

勇気のヨシオが走ってきた。

その手には丸いものを持っている。

ミカ「なんだ?それは」

勇気「爆弾だよ!」

ミカ「は!?」

思わず飛び退き、体中の毛を逆立て、電気をバチバチと鳴らす。

勇気「わっ、ち、違うよ!プレゼント!ミカはすごく強いけど、一人旅じゃもしかしたらピンチになることもあるかもしれない。そんな時に使ってほしいんだ」

ミカ「…しかしなんで爆弾なんだ?」

勇気「うちは爆弾使いの家系なんだ」

ミカ「そうか。じゃあありがたくもらっていく。またな、勇気のヨシオ」

勇気「うん!お元気で!」

そうして味方殺しはヨシオ族の里から離れていった。

444ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:53:01 ID:Ylq.mX5200



里が見えなくなるくらい離れたところで。

黒服「これで本当に上手くいくのか?」

黒服の中で一番偉そうな男が、味方殺しと話す。

ミカ「恐らくな」

黒服「あとは明日また襲撃すればいいんだな?」

ミカ「ああ」

黒服「しかし今日あれだけピンチになったんだ。人員が補強される可能性もあるんじゃないか?」

ミカ「問題ない。今までの襲撃後も一向に人員を増やす気配はなかっただろ。アイツらは馬鹿だ」

黒服「こっちは何人も病院送りにされてる上、お前にはとんでもない額の依頼料を払ってるんだ。絶対にミスは許されないぞ」

ミカ「当然だ。報酬金も忘れるなよ」

黒服「…勿論」

黒服「本当に大丈夫かよ…」
黒服「ファイターとはいえあんな子供、信用できるのか?」
黒服「馬鹿、聞こえるぞ…」

部下の黒服たちは不安そうに味方殺しを見る。

ミカ「ハッ、信用なんざしなくていい」

黒服たち「!」

ミカ「オレも誰一人信用してない。ただ金を貰ってるんなら仕事はきっちりこなせ」

黒服「あ、ああ…」

黒服たちは目線を逸らす。

ミカ(…しかし…勇気のヨシオの口振りには微塵も違和感がなかった。奴は何も知らないだろう。まあ末端の兵士が重要機密なんざ知ってる筈もないが…そもそも存在するかも分からないモンを調べなきゃならないってのが、今回の一番の問題点だな…)

445ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:24:02 ID:3Gza5VhY00




翌日。

勇気「むっ!また来たな!」

里の入り口で勇気のヨシオが待ち構える。

黒服「やれ!ぶち殺せ!」

勇気「さらに人数を増やしてきたか…でも今日は爆弾を持ってきたんだ!そう簡単にはやられないぞ!」

勇気は袋から爆弾を取り出す。


バンッ!バンッ!バンッ!


勇気「えっ!?」

黒服たちの放った銃弾が、勇気の持った爆弾を貫く。


ドドォォォン!!!


そして手に持ったまま爆発した。

勇気「…ケホッ…」

勇気は黒コゲになった。

黒服「やっぱバカだコイツ!!」

446ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:26:30 ID:3Gza5VhY00


ドババババババ!!


黒服たちは勢いづいてさらに銃を撃ちまくる。

勇気「くっ…!」

黒服「いけるぞ!このまま潰せ!!」


ドドドドドドドド!!!


勇気は必死に弾をかわすが、どんどん傷だらけになっていく。

勇気「ぐあっ…!」

ガクッ…

勇気はとうとう膝をついた。

黒服「トドメだ!!脳天をブチ抜け!!」

そこへ。


ドガガガガガ!!!


味方殺しが現れ、黒服数人を一気に吹っ飛ばした。

ミカ「大丈夫か!勇気!」

勇気「ミ、ミカ…!」

黒服「ま…またアイツだ!逃げろ!」

黒服たちは去っていった。

ミカ「まったくアイツら、懲りないな…」

447ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:28:07 ID:3Gza5VhY00

勇気「どうしてここに…」

ミカ「爆発音を聞いて駆けつけたんだ」

勇気「そっか…はは、爆弾も無駄じゃなかったな…」

ミカ「立てるか?」

勇気「ああ、大丈夫さ…」

ガクッ…

勇気は立ち上がろうとするが、すぐにコケた。

ミカ「無理するな勇気。肩を貸すよ」

勇気「ごめん、ありがとうミカ…」

ミカ「さあ、行くぞ」

勇気「えっ、ちょっと待って…!里の中に入るのはマズいよ…!いくらミカでも…」

ミカ「だからって放っておけるか。里の中に病院くらいあるだろ?そこまで連れていったらすぐに出るからさ」

勇気「わ、分かったよ。皆には僕から説明しよう…」

ミカ「まったく、自分がボロボロなのに人のことばかりだなお前は」

勇気「ははは、たしかに…でもお人好しはお互い様でしょ?」

ミカ「ふっ、まあな」

そして二人は里の中へ入った。

ミカ(潜入成功…まずは第一関門突破ってところだな)

448ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:29:32 ID:3Gza5VhY00


???「おい、誰だ?お前」


ミカ「!!」

二人の前に立ちはだかったのは、赤いリボンのヨシオ族。

ミカ(コイツ…里で最強のヨシオ族…一番面倒なのに見つかったな…)

勇気「殺意くん。彼はミカ…僕を二度も助けてくれた」

殺意「助けられたってことはお前、負けたのか。使えないな」

勇気「う…ごめん…」

ミカ「よせ。仲間同士で何を争ってるんだ」

殺意「余所者は黙ってろ。殺すぞ」

ミカ「なっ…」

殺意は味方殺しを睨む。

勇気「待ってよ殺意くん…!彼は本当に良い人なんだ。彼がいなければもっと多くの人間がこの里に侵入してきたかもしれない…」

殺意「それはお前が弱いからだろ」

勇気「そ、そうだけど…」

???「なんだなんだ。随分揉めてんな」

???「きゃは☆奇跡ちゃんの可愛さに免じて許してあげてほしいな、殺意クン♪」

そこへ緑と青のヨシオ族が現れた。

勇気「鳴りやまぬくん、奇跡ちゃん」

殺意「雑魚は黙ってろ。お前らから殺されたいのか?」

鳴りやま「雑魚とは聞き捨てならねえな!俺だって里の中じゃけっこう才能あるほうだって言われてるんだぜ?つうか殺意だって一人で二十四時間三百六十五日、年中無休で里を守れるわけじゃねえだろ!だから当番制でやってんだからよ!全員がお前みたいにすごいわけじゃないんだ!つまり何が言いたいかというとだな、もうちょっと心を広く持てよ!誰にでもミスくらいあるだろ!」

殺意「黙れ」

鳴りやま「はい…」

449ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:30:17 ID:3Gza5VhY00

奇跡「きゃははっ☆鳴りやんじゃった♪でも一理あると思うなぁ♪」

殺意「お前もだ奇跡」

奇跡「やだこわぁい☆でも奇跡ちゃん知ってるよ♪殺意クンホントはすっごく仲間思いで、だからこそ外から来た人を警戒してるんだよねぇ♪」

ボゴッ!!

殺意のキックが奇跡の顔面にめり込んだ。

殺意「黙れって言っただろ…」

???「そこまでじゃ、殺意」

年老いたヨシオ族が現れた。

殺意「…里長」

勇気「里長、ごめんなさい、勝手に部外者を里に入れてしまって…ですが彼は…」

里長「分かっておる。お主が信じておるということは、そやつは信用できるということじゃ」

殺意「はぁ?」

里長「勇気は昔から賢い子じゃったからのぅ。殺意も見習うんじゃぞ〜」

殺意「ダメだこのジジイ、完全ボケてる」

鳴りやま「ま、里長が言うならしょうがないだろ。諦めろ殺意」

奇跡「そうそう♪とりあえず矛を収めよっか♪」

殺意「チッ」

ボゴゴッ!!

殺意は二人の顔面を凹ませてから去っていった。

ミカ(…助かったか。最悪ヤツと戦うことも考えたが…戦わずに済むなら都合がいい。いきなり里長に会えたのもかなりツイてるな)

450ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:51:33 ID:ySe14y8Y00



そして味方殺しは里の中にある病院へと勇気を運んだ。

勇気「ありがとうミカ」

ミカ「気にするな。それじゃあオレはもう行くよ。部外者があまり長居してもみんな戸惑うだろう」

奇跡「えっ!もう行っちゃうのぉ?」

鳴りやま「オイオイ殺意にビビっちまったのか?もうちょっといりゃあいいじゃねえか!里長の許しも出たことだしな!俺たちはまだ里の外に出たことないんだわ!外の話聞かせてくれよ!」

勇気「そうだね。僕からもお願いしたい」

ミカ「しかし…」

勇気「見てよ、この子たちのキラキラした目。この目を裏切るわけにはいかないだろ?人助けだと思ってさ」

ミカ「…はは、仕方ないな。分かったよ」

それから勇気が治療を受けている間、病院前のベンチに座り込み、ミカはヨシオ族の子供たちに里の外での話をした。

451ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:52:44 ID:ySe14y8Y00



数十分後。

ミカの話すベンチには人だかり、もといヨシオだかりができていた。

ミカ「ははは!だから違うって。ドンキーは雑魚!一番ヤバいのはリンクだ。アイツらただでさえ強いのに武器まで使うんだ。しかも武器使いが上手いのなんのって…」

勇気「盛り上がってるね。何の話?」

鳴りやま「おっ、勇気さん治療終わったのか!いやあ聞いてくれよ!ミカさんすげえんだ!これまで三十ヶ国以上も旅していろんな人たちを救ってきたんだと!その中でとんでもなく強いヤツらと出会ったらしくて、その話をしてたんだよ!」

奇跡「ほんとワクワクするよねぇ♪まるで本の中の物語みたい♪」

勇気「へぇ、僕にも聞かせてよ」

ミカ「ああ。じゃあ今までで一番ピンチになった時の話でもしようか」

奇跡「ミカさんでもピンチになるの?」

ミカ「オレだってただの一匹のネズミだ。ネズミ取りにかかることもあるさ」

鳴りやま「ネズミ取りってまさか罠にでもかかったのかよ!?ミカさんがそんなモンにかかるなんて思えねえけどな!一体どんなヤツが相手だったんだ!?」

ミカ「ある国の資産家だ。ヤツは金で雇ったファイターたちを使って町を支配していたんだ。住民を使ってオレを誘き出し、ファイター百人ぐらいでオレを囲んだ」

勇気「百人!?」

奇跡「凄いね☆そんな数でも返り討ちにしちゃうんだぁ♪」

ミカ「はは、まさか。さすがのオレでも百人相手に真っ正面からやり合うのは無理だよ」

鳴りやま「てことは何かスゴい戦略を使ってそれを乗り切ったんだな!?それはそれでかっけえ!」

ミカ「かっこよくなんかないさ。オレの作戦は人質を取ることだった」

鳴りやま「ぬぇ!?」

452ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:53:41 ID:ySe14y8Y00

ミカ「ファイターたちの一人を倒して、ソイツを盾にしたんだ。と言っても向こうは金で雇われたヤツらだから、仲間意識なんかありゃしない。普通に攻撃された」

鳴りやま「じゃあどうやって乗り切ったんだよ!?」

ミカ「盾を増やした。オレの周りに四人ぐらい並べて、鉄壁の防御ってな」

勇気「それじゃあジリ貧じゃないか。敵は百人もいたんでしょ?視界も狭まるし、盾ごと押し潰されたり、かえって邪魔になると思うけど…」

ミカ「いや、盾はすぐに離した。そしてこう言ったんだよ。"作戦通りに頼むぞ"ってな」

奇跡「どういうこと?仲間がいたの?」

ミカ「いや?」

勇気「そうか!集まったファイターたちの中に、仲間が潜んでいると思わせたんだ!」

鳴りやま「おおお!!仲間割れさせたんだな!仲間にも平気で攻撃できるようなヤツらだし、疑心暗鬼にさせるのもカンタンってわけだ!さっすがミカさんだ!それでその後はどうなったんだ!?」

ミカ「まあもちろんそれだけで全員倒せるほどファイターも甘くはないからな。残ったヤツらは力技で倒した。それから資産家の屋敷に突入し、悪事を暴いて捕まえた。完全に元通りとはいかないが、町もある程度は平和に戻ったよ」

鳴りやま「くぅーっ!!かっけえぜ!!俺も早く里を出てミカさんみてえなヒーローになりてえ!!」

ミカ「はは、オレはヒーローなんかじゃないよ。ただ人が困ってたら見捨てられないだけだ」

鳴りやま「それをヒーローって言うんじゃねえか!分かってねえなぁミカさんは!自分がどんなにピンチになろうとも悪に立ち向かう!一本筋の通った自己犠牲の精神ってのがアツイ!!俺も鳴りやまないっつう筋を生涯貫く所存ではあるけどよ、口では簡単に言えてもやっぱなかなか実践できるモンじゃねえよな!」

奇跡「すぐ鳴りやむしねぇ♪きゃは☆」

鳴りやま「うるせぇっ!」

ミカ「そんな大したモンじゃないんだけどな…」

453ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:54:23 ID:ySe14y8Y00

勇気「謙遜しなくていいさ。僕もミカには助けられた。改めて礼を言うよ。ありがとう」

ミカ「はは、大袈裟な…」

鳴りやま「ヒーローと言えば、勇気さんちの子もたしか勇者って名前だったよな!」

勇気「うん。ヒーローみたいに勇敢で強い人になってほしいっていう願いを込めてるんだ」

ミカ「子供がいたのか」

勇気「うん。いつか大きくなったらミカにヒーローの何たるかをご教授願いたいな」

ミカ「やめてくれよ。オレに教えられることなんかない。本人が困ってる人を助けたいと思うならそうすればいいし、思わないならしなくていいんだ。変な使命感に取り憑かれて無茶して、もし取り返しのつかないことになってもオレは責任取れないぞ」

勇気「たしかにそうだね。やっぱりミカはしっかりしてるなぁ」

鳴りやま「そういやミカさんって今何歳なんだ?」

ミカ「十七だ」

勇気「えぇっ!?若っ!てっきり僕と同い年くらいかと…」

ミカ「老けてるって言いたいのか」

勇気「いやいやいや!すごいしっかりしてるからさ!」

鳴りやま「種族違うと全然分かんねえよなー!ホント外の世界はいろんな種族がいて面白そうだ!もっといろんなヤツらに会ってみてえ!さっきの話に出たリンク族とかドンキー族とか!」

奇跡「きっと鳴りやまぬクンは弱いから外出許可出ないよぉ♪」

鳴りやま「なにィ!?お前も人のこと言えねえだろがっ!つうかこれから超鍛えまくって殺意にも負けねえ戦士になるんだよ俺は!楽しみにしとけよな!」

奇跡「気長に待ってるよぉ♪きゃはっ☆」

その後もしばらく談笑は続いた。

454ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:55:00 ID:ySe14y8Y00



ミカ「もう暗くなってきたな。そろそろ行くよ」

奇跡「えぇ〜!」

鳴りやま「ミカさん一日くらい泊まってけよ!」

ミカ「泊まると言っても、この里に宿屋なんかないんじゃないのか?」

勇気「じゃあ僕の家に泊まる?子供が大きくなった時のために空けてる部屋が一つあるんだ」

鳴りやま「勇気さんナイス!!それでいいだろミカさん!」

ミカ「やれやれ、分かったよ」

そしてヨシオ族たちは病院前のベンチから解散し、ミカは勇気の家に招かれた。

455ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:57:11 ID:ySe14y8Y00



勇気「ただいまー!」

勇気たちが家に着くと、勇気と同じ青のヨシオ族が出迎えた。

勇気妻「おかえりー…ってどうしたのその怪我!」

勇気「例の変なヤツらにやられてね…」

勇気妻「またなの!?しつこいねー…あれ、その人は?」

勇気「この前話したミカだよ。今日も彼に救われてね。今日はウチに泊めることになったんだよ」

勇気妻「あなたがミカさん!?夫を救っていただきありがとうございます!!」

勇気の妻はミカの両手を握り、何度も頭を下げた。

ミカ「気にするな。それより本当にこの家に世話になってもいいのか?」

勇気妻「どうぞどうぞ!何日でも泊まっていってください!」

勇気「ほらね、言ったでしょ。ウチの妻は恩人を無碍にしたりしないさ」

ミカ「ああ、それじゃあよろしく頼む」

勇気「うん。勇者にも紹介しなきゃね」

勇気妻「勇者ー!ちょっと来てー!」

妻が家の中に向かって叫ぶと、トタトタと軽い足音を立てて小さなヨシオが出てきた。

勇者「なに?おかあさん。あ、おとうさん!おかえりなさい!」

勇気「ただいま勇者。いい子にしてた?」

勇者「うん!」

ミカ「へえ、この子が勇者か。勇気によく似てるな」

勇者「…だれ?」

ミカ「ミカだ。よろしくな」

ミカは勇者の頭をポンポンと叩く。

勇者はミカの顔を不思議そうに見つめていた。

それから勇気一家と雑談を交えながら、ご飯を食べ風呂に入って就寝した。

456ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:29:43 ID:BcgIpGnM00



翌朝。

ミカ(さて…信頼はかなり得ているが…長居はできない。今日にでも里長に近づき、真相を確かめる)

ミカは布団から出て居間へ。

勇気妻「ミカさん、おはようございます」

ミカ「ああ、おはよう」

勇気「おはよう。よく眠れた?」

ミカ「ああ、ありがとう。勇気は今日も見張りか?」

勇気「うん。当番だからね」

ミカ「そんな怪我してるのに大丈夫か?」

勇気「大丈夫大丈夫!今日はふやけるさんも手伝ってくれるみたいだし」

ミカ「ふやける?」

勇気「ご近所さんだよ。強さは僕と同じくらいだけど、二人がかりならもし昨日のヤツらが来てもきっと勝てる」

勇気妻「ミカさんもいるしね!」

勇気「ダメだよミカに頼っちゃ。いつまでも里に居続けるわけにはいかないんだから。僕たちだけでしっかり里を守れるようにしなくちゃ!」

ミカ「ああ。お前たちならきっと大丈夫だ」

勇気「ありがとうミカ」

457ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:30:29 ID:BcgIpGnM00

ミカ「…そう言えば、昨日の子供は当番に入ってないのか?」

勇気「昨日のって…ああ、殺意くんのこと?もちろん入ってるよ。たしか来週が殺意くんの当番かな。あの若さにして里で一番の強者だよ」

ミカ「へえ。オレも手合わせしてみたいな」

勇気「えっ!?いや、いくら殺意くんが強いって言っても、さすがにミカには敵わないんじゃないかなぁ」

ミカ「勝ち負けはどうでもいいさ。ただ里一番のその強さを見てみたい」

勇気「ふぅん。じゃあ頼んでみよう。殺意くんも戦うのは好きみたいだし、たぶん承諾してくれると思うよ」

ミカ「そうか、ありがとう勇気」

それから勇気は殺意に電話を掛け、手合わせすることが決まった。

458ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:31:12 ID:BcgIpGnM00



それから数時間後の昼過ぎ。

殺意とミカは里の中央にある広場で対峙する。

ざわざわ…

その周りに数十人のヨシオ族が集まり、二人の戦いを見守る。

殺意「僕に挑んでくるとはね。昨日はビビってたように見えたけど…どういう風の吹き回しだ?」

ミカ「ただの力試しさ。さあ、始めようか」

殺意「手加減はしないぞ」

ミカ「勿論」


ドドドドドドドド…


そして二人は戦い始めた。

鳴りやま「うおお!!すげえな二人とも!」

奇跡「奇跡ちゃん、レベル高すぎて何やってるのかわかんない☆」

鳴りやま「俺も」

459ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:32:50 ID:BcgIpGnM00



そして十数分後。

殺意「はぁ……はぁ……」

ミカ「ふぅ……やるな…」

殺意「お前こそ…」

ドサッ…

二人は同時に力尽きて倒れた。

モブオ「さ、殺意と引き分けただと!?」
モブオ「すごかった…」
モブオ「二人とも化け物すぎ…」

鳴りやま「わははは!やっぱすげえや!殺意と引き分けるミカさんもすげえし、ミカさんと引き分ける殺意もすげえ!」

奇跡「奇跡ちゃんもすごい?」

鳴りやま「なんでだよ!すごくねえよ!それより二人をベッドに運ぶぞ!」

奇跡「そうだね♪」

鳴りやまぬと奇跡は倒れた二人の元へ駆け寄る。

鳴りやま「大丈夫かー?殺意」

バチンッ!

倒れた殺意の顔を覗き込んだ鳴り止まぬの頬を、強烈なビンタが襲った。

鳴りやま「な、何すんじゃーい!!」

殺意「大丈夫に決まってるだろ。僕を誰だと思ってるんだ」

ミカ「まったく、本当に血気盛んだなお前」

ミカと殺意はけろっとした顔で起き上がる。

460ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:34:16 ID:BcgIpGnM00

奇跡「二人とも平気なの?」

ミカ「ああ。ちょっと休んでただけさ。殺意はまだ全力を隠してるみたいだしな」

殺意「それはお前も同じだろ」

ミカ「はは、本気でやり合ったらどっちか死ぬんじゃないかと思ったんでな」

殺意「フン、死ぬのはお前だ」

殺意はそう言い残して去っていった。

鳴りやま「か、かっけぇー…!!俺もいつか言いてえぜ!俺たちが全力でやり合えば、どちらかが死ぬことになるだろう…的な!」

ミカ「はは、茶化すなよ」

鳴りやま「いやいやマジだって!それにしてもあれで本気じゃなかったなら二人ともどんだけ強いんだよ!俺たちまったくついていけなかったぜ!」

奇跡「ホントすごいねぇミカさん♪どうしたらそこまで強くなれるのぉ?」

ミカ「そりゃあ特訓するしかないだろうな。うちは結構厳しい家庭で育ったから、チビの頃から英才教育を施されてな。お前たちぐらいの歳の頃にはもう戦闘の基礎は大体できてた」

鳴りやま「マジかよ!?」

ミカ「ああ。旅の出たのもその頃だからな。そこらのファイターじゃ相手にならないレベルではあっただろう。まあ、殺意に比べれば可愛いもんだ」

鳴りやま「たしかに…俺らと同世代で今のミカさんと互角ってやっぱヤベーなアイツ…逆らわないようにしないと…」

奇跡「それはいつものことだけどねぇ♪」

???「ミカ殿、お初にお目にかかる」

そこへリボン無しのヨシオが近づいてきた。

ミカ「お前は?」

461ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:35:15 ID:BcgIpGnM00

???「私は㍑ヨシオ。この里の平和を保つため日々見廻りをしている、聖騎士の一族だ」

ミカ「聖騎士…」

㍑「ああ。そうは言っても実力はダメダメなのだ。里の見廻りを任されるということは、外からの敵とは戦わせてもらえないということでもある。ヨシオ同士の喧嘩を止めに入ったり、迷子を親元に届けたりするのが関の山だ」

ミカ「いいじゃないか。立派な仕事だ」

㍑「だが私はもっと強くなりたいのだ。最近は将来有望な若いヨシオ族も増えてきている。今のままではろくに見廻りすらこなせなくなるだろう…」

鳴りやま「そりゃずるいぜ㍑さん!俺にも教えてくれよミカさん!強くなる特訓の方法!」

奇跡「奇跡ちゃんはパスかなぁ♪だって奇跡ちゃんは可愛さっていう最強のチカラを持ってるから☆」

ミカ「…まあいいが、一朝一夕で強くなれるとは思うなよ?特訓は毎日コツコツ続けてようやく形になるんだ」

鳴りやま「はははは!分かってるよ!」

㍑「望むところだ」

ミカ「分かった。他に教わりたいヤツはいるか?オレは今日中にはここを発つ。チャンスは今だけだぞ」

ミカが周りのヨシオたちに言うと、ゾロゾロと集まってきた。

鳴りやま「ははは!まるで学校の先生みたいだな!ミカ先生!」

ミカ「よし、じゃあ始めるぞ」

そしてミカは特訓方法をヨシオたちに伝えた。

462ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:35:59 ID:BcgIpGnM00



数十分後。

鳴りやま「こ…こんなことミカさんは毎日やってんのか…すごすぎる…」

ミカ「いや、オレの特訓はこんなもんじゃないぞ。いきなり厳しすぎる特訓は危険だからな。お前たちに合わせた内容を教えた」

㍑「ありがとうミカ殿。早速今日からこの特訓を試させていただく」

ミカ「ああ」

モブオ「ミカさん、ちょっといいですか?」

一人のヨシオ族がミカの前に現れた。

ミカ「なんだ?」

モブオ「わたくし、里長の世話をしている者です。あなたに里長から話があるとのことで、里長の家まで来ていただきたいのです」

鳴りやま「なんだなんだ、里長から呼び出し?ミカさん一体何やらかしたんだ?里長、ああ見えても怒ると結構怖いぞ!俺も昔里長の頭のクルクルを引っ張ってめちゃくちゃ怒られたんだよなぁ!いやぁ、あん時はマジで里を追い出されるかと思ったぜ!」

奇跡「奇跡ちゃんは怒られたことないけどなぁ♪鳴り止まぬクンが嫌われてるだけじゃないかな?」

鳴りやま「ひでぇ事言うな!」

463ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:39:56 ID:BcgIpGnM00



数分後。

ミカは里長の家に来た。

里長「ふぉっふぉっふぉ、ずいぶんと里の者たちが世話になったようじゃのう」

ミカ「何、ちょっと世間話をしただけだ。世話になったのはこっちの方だよ」

二人は机を挟んで向かい合って座っている。

ミカ「で、話ってのは?」

里長「ああ。勇気から詳しい話を聞いたのじゃ。お主がいなければ里に大きな被害が出ていたかもしれんとな」

ミカ「大袈裟な…あの殺意って子供がいれば大抵の敵はなんとかなると思うぞ」

里長「ふぉふぉふぉ、たしかにのう。じゃが礼はさせてくれ」

ミカ「礼?」

里長「礼と言ったらもちろんこれじゃ!」

どんっ!!

里長は机の上に紙の束を置いた。

紙には不思議な模様が描かれている。

ミカ「なんだこれは?」

里長「見れば分かろう、金じゃ。百五十万ある」

ミカ「…この里の通貨か?……悪いが、これは里の外じゃ紙切れだぞ」

里長「…なぬ!?」

モブオ「だから言ったじゃないですか!」

里長の後ろで待機していた側近のヨシオが言う。

里長「だってワシも里の外に出たことないんじゃもん!」

モブオ「ないのかよ!?昔は外出許可とか必要なくて普通に出歩いてたって聞きましたけど!?アンタよく里長になれたな!?」

里長「それでヨシオ族は外で危険な目にあったんじゃもん!だからワシがこのルール作ったんじゃもん!偉いんじゃもん!」

ミカ(なるほど…ある程度強いヨシオ族しか外に出れないのに"ヨシオ族は弱い"と広く知られてるのはそういうカラクリか)

464ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:41:00 ID:BcgIpGnM00

モブオ「はぁ…すみませんミカさん、何か他にできることはないでしょうか」

ミカ「いいよ礼なんて。もし何か渡されても初めから断るつもりだった」

モブオ「しかしそれでは示しがつきません」

ミカ「言っただろ、世話になったのはこっちだってな。一晩泊めてもらって飯も食わせてもらった。それでチャラだ」

里長「なんと良い人なんじゃ…感動した…」

モブオ「感動してる場合かジジイ」

里長「…そうじゃ、ならば一つとっておきの話をしよう!」

ミカ「話?」

モブオ「ちょっと里長、それは…」

里長「よいのじゃ。こやつならば里の外に情報を洩らすこともあるまい。よいか、ミカ殿。これは里の秘密の話じゃ」

ミカ(来たか…)

里長「絶対に里の外で話してはならんぞ…」

そう前置きしてから、里長は話し始めた。

465ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:42:15 ID:BcgIpGnM00




ミカ「……本気で言ってるのか…?」

里長「そうじゃ。この事実は里の中でも一部の選ばれしヨシオにしか伝えられておらん」

ミカ「なんでそれをオレに…?」

里長「ふぉっふぉっふぉ、お主が世界の平和を守るヒーローならば、この事を知っておいた方がよいと思ってのう」

ミカ「そんな大したもんじゃないが……そうか…確かにそれが事実ならオレのこれからの活動もいろいろと考えていかなきゃならないかもな…」

里長「どうするかはお主自身が決めるのじゃ。来たるべき時に備えるもよし、ただの鎖された里の言い伝えと切り捨てるもよし」

ミカ「切り捨てやしない。だが、しばらく考えることにするよ」

里長「ああ。それでよい」

ミカ「ありがとう。この里に来れて良かった」

そう言ってミカは立ち上がる。

里長「もうゆくのか?それならば皆を集めて見送ろう」

ミカ「ハハ、だからいちいち大袈裟なんだよ。今日も勇気が見張りやってるんだろ?見送りならアイツだけで十分さ」

里長「そうか。お主らしいのう。それもよかろう。それとその金はやはりお主が持っておれ」

ミカ「ん?いや、だがこれは…」

里長「ふぉっふぉっふぉ、外では使えずとも里では使えるじゃろう。またいつでも遊びに来てよいからの」

ミカ「そういうことか。フッ、じゃあありがたく貰っておくよ」

里長「お主ならいつでも大歓迎じゃ」

ミカ「ああ、じゃあ、元気でな」

そしてミカは里長の家を去った。

466ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:43:40 ID:BcgIpGnM00



里の門にて。

勇気「あ、ミカ!もう行くの?」

ミカ「ああ。世話になったな、勇気」

勇気「こっちのセリフさ!あ、そうそう、彼がふやけるさんだ」

ふやける「どうも」

勇気の隣に立っていた緑のヨシオ族が軽く会釈した。

ミカ「オレはミカ。よろしくな、つってももう出るんだが」

ふやける「うん。またいつか来た時はゆっくり話を聞きたいものだねぇ」

ミカ「ああ、そうだな。それじゃあ二人ともまた会おう」

勇気「ああ!またいつか!」

ミカは里を去った。

467ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:46:38 ID:BcgIpGnM00




翌日。

同国内都市部の路地裏で、ミカと黒服は話していた。

黒服「何だと!?」

ミカ「報酬金はいらねえ。じゃあな」

黒服「ふざけるな貴様!!こちらに何人の犠牲が出たと思っている!?」

ミカ「犠牲って…死者は出てないだろ。浮いた報酬金分を治療費に充ててやれ」

黒服「そういう話ではない!!貴様、我々を裏切るつもりか!!」

ミカ「元々仲間でもなんでもねえ。報酬金取らねえだけありがたく思えよ」

黒服「失敗しておいて何を上から…!!」

ミカ「失敗?オレがいつ失敗した?」

黒服「とぼけるな!ヨシオ族を皆殺しにするという契約だろう!!それを貴様は一人も殺さずにノコノコと…!」

ミカ「だから…その契約を破棄するっつったろ」

黒服「そんな勝手が許されるわけ…」

ミカ「最初からそういう契約だった筈だ。里が隠している秘密なんてのはお前らの勝手な妄想だ。こういう類の依頼は珍しくもないが、その目的自体が存在しなかった場合、契約は破棄される。味方殺しの鉄則だ。別にオレは快楽殺人者じゃあない。無駄に殺しはしねえ」

黒服「じゃああの里には何も存在しなかったとでも言うのか!?」

ミカ「しつこいな。そう言ってるんだ」

468ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:47:32 ID:BcgIpGnM00

黒服「……!!…フ…フハハ!そうか…どうやらこちらのミスだったらしい…」

ミカ「やっと分かったか」

黒服「ああ…こちらの人選ミスだ…!」

ミカ「あ?」

黒服「あんな小さな里の秘密一つ持って来れない馬鹿だとは、見抜けなかったよ!!」

バッ!!

黒服が突然手を上げる。

ミカ「!」

同時にその路地を囲む建物のあらゆる窓から、銃口が突き出し、ミカへと向けられた。

さらに逃げ道を塞ぐように、大量の黒服たちが現れた。

黒服「やれ!!」

バッ!!

黒服が上げた手を下ろすと同時に。


ドドドドドドドド!!!!


一斉射撃が始まる。

ミカ「ったく、随分手荒い真似をしやがる」

ミカは当然のように銃撃をかわしながらぼやく。

黒服「ろくに仕事もできない裏社会のゴミなど、消されて当然!!」

ミカ「オレに勝てると思ってるのか?」

黒服「フン!貴様の力は二度も見ている!今貴様を囲んでいるのは、あの時の三倍の戦力だ!」

ミカ「…正気か?殺さないよう手加減してたに決まってるだろ…」

それからミカは黒服を全員戦闘不能にし、都市を発った。

469ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:49:42 ID:BcgIpGnM00



ミカ(…しかしまさか、あんなものが里の秘密だったとはな。くだらねえ話だ)

ミカは歩きながら、里長との話を回想する。



里長「あれを持ってきてくれ」

モブオ「は、はい…」

すると側近は少し厚みのある黒い板のようなものを持ってきた。

その上部には更に小さな灰色の板が刺さっている。

ミカ「なんだそりゃ?何の機械だ?」

里長「ゲーム機だ。"ニンテンドウ64"と言う」

ミカ「…はあ?」

里長「そしてここに刺さっているカセット…これこそが、"大乱闘スマッシュブラザーズ"じゃ」

ミカ「待て待て、なんで急にゲーム機を?」

里長「実はこれはこの世界にたったの一台しか存在しないのじゃよ」

ミカ「…自慢のコレクションでも見せてくれたのか…?」

里長「そうではない。信じろという方が無理やもしれんが…」



回想を終えたミカは。

ミカ(…本当に馬鹿げた言い伝えだ。誰があんなもん信じる?それが事実だとしても、知ったところでどうすりゃいいってんだ?)

ハッ、と思わず笑いをこぼす。


ミカ("この世界がゲームの中の世界"だなんてな…)

470はいどうも名無しです (アウアウ 1c71-3fbb):2022/07/30(土) 22:16:21 ID:wU3FdC7wSa
さらっととんでもない爆弾残しやがった!?

471ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:08:05 ID:ciPArYfsSd





極道の町。


???「さあ…ショータイムだよ!お前たち!」


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドド!!


リーダーと思しき人物の号令とともに、謎の軍団が闇夜の町に散らばっていく。

472ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:10:16 ID:ciPArYfsSd



須磨武羅組事務所では。

人間「あ!?町じゅうで不良どもが暴れてる!?」

須磨組員1「はい!やべえっすよ!一人一人はただのガキっすけど、問題は数っす!こりゃウチだけじゃとても対処しきれねえ!」

人間「対処しきれねえっつったって、ウチはどこの組からも敵視されてんだ!協力は仰げねえぞ!」

須磨組員2「じゃ、じゃあどうしますか!?」

人間「どうってお前、とにかく行くしかねえだろ!須磨武羅組総動員で馬鹿どもを止めるぞ!」

須磨組員たち「はい!」


ダッ!

人間たちは外へ出る。


「ぎゃはははははは!」
「やっちまえー!」
「こんな町潰れちまえばいいんだ!」
「うぇーい!壊すの気持ちいいーっ!」


人間「な…!地獄絵図じゃねえか…!」

凶器を持った若者たちが、人を襲い、建物や車を破壊し、物を盗んでいた。

住民「いやぁぁっ!」

不良「ぎゃははは!泣き叫べー!」

人間「やめろボケ!」


ドガッ!!


人間は不良を殴り飛ばす。

人間「何が起こってやがるんだ…!!」

473ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:11:18 ID:ciPArYfsSd

須磨組員1「人間さん…じゃなくて親分!」

人間「別に人間でいいっていつも言ってんだろ!どうした!」

須磨組員1「奴らが暴れてる原因が分かりました!」

人間「何!?」

須磨組員1「これ見てください!」

組員は持っていたノートパソコンの画面を見せる。

人間「これは…」

須磨組員1「匿名掲示板の書き込みっす…!なんかネット上で盛り上がってるグループがあって、ソイツらが今日この町でオフ会で集まったらしいんですけど…」

須磨組員2「聞いたことあるな…しかしこの書き込みは一体なんだ?くせぇだの、煙たいだの…」

人間「煙…コイツらのブッ飛んだ行動…それにあのキマッた顔…」

須磨組員1「ええ…おそらく会場でクスリを撒きやがったんですよ…!!」

須磨組員2「なっ!?な、なんてことしやがる!」

人間「だとしたら…おそらく犯人はそのオフ会を仕込んだ奴か!」

ダッ!!

人間はその会場の方向へ走り出す。

組員もそれを追う。

人間「てめえらは暴れてるヤツらを抑えてくれ!少しでも被害を止めるんだ!」

須磨組員2「ウス!!」

474ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:11:54 ID:ciPArYfsSd

須磨組員1「あ!待ってください親分!仕込んだのはこの"古の八羽鴉"ってヤツっす!」

組員はそう言ってパソコンの画面を見せる。

須磨組員2「八羽鴉!?八人もいやがるのか!?」

人間「チッ、たしかにこれだけの人数にクスリ吸わせたんなら、数人がグルになってる可能性も高えな…!」

須磨組員1「ファイターもいるかもしれません!片割れを呼びましょう!」

人間「ああ。本当は頼りたくねえが…こりゃそんな悠長なことも言ってられねえ!」

須磨組員1「すぐに連絡します!」

そして組員たちは暴徒の対処に当たり、人間はそのオフ会会場へと走った。

475ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:13:21 ID:ciPArYfsSd



数分後。

人間「おう片割れ!」

会場へ向かう途中、片割れと合流。

片割れ「何が起きてんねんコレ?」

人間「かくかくしかじかでな。一応犯人の目星は付いちゃいるが、まだ会場にいるかどうか…とにかくとっとと調べるぞ!」

と片割れに説明している間に、二人は会場前まで来た。


バンッ!!!


人間は走ってきた勢いのままに会場の扉を開ける。

人間「出てこいクソ野郎!!」

???「クク…そう怒鳴るなよ人間。あたしは逃げも隠れもしねえさ」

そこには一人の緑サムスが立っていた。

片割れ「何や、普通におるやんけ」

人間「サムス族…俺を知ってるってこたあ、須磨武羅組に何か恨みでも持ってんのか!?」

???「さあ?どうだろうね」

人間「チッ、めんどくせえ。これだけのことをやらかしたテメェは問答無用でムショ行きだぜ」

???「ククク…」

人間「何を笑ってやがる。言っておくがテメェが一人じゃねえことぐらい分かってんだ、古の八羽鴉!!不意打ちしようったって無駄だぜ!」

???「…一人さ。あたしにゃもう仲間なんざいねえ」

人間「何?」

???「お前も見ただろ?あん時の、アイツらがあたしを見る目…ひでえモンだったぜ…クク…」

人間「テメェ…一体誰なんだ…!?」

???「寂しいねえ。まだわかんねえか?」

カランッ…

緑サムスは頭部装甲を脱ぎ捨てた。

476ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:14:41 ID:ciPArYfsSd

人間「…テメェは……フルパワー…!?」

フルパワー「その通り!覚えててくれたのか!嬉しいね!!ククク…」

片割れ「おお、古(ふる)八(ぱ)羽(わ)鴉(あ)って、そういうことか!…ところでコイツ誰やねん」

人間「レディースの元総長だ…昔クスリと強盗やって、俺が捕まえたんだが…テメェいつの間にムショから出てやがったんだ?」

フルパワー「つい先月さ。そしてムショの中でずっと考えてた計画をすぐに実行した」

人間「チッ…何の反省もしてませんってか」

フルパワー「会場のセッティング、大変だったんだぜ?クク…まあその甲斐あって町は大混乱、そしてお前たちはここに来た!何もかもあたしの思惑通りに事が進んでる!!クククク、最高の気分だよ!」

人間「ケッ、気分が良いのはクスリのせいだろ!」

フルパワー「そうかもなァ!!」


ドウッ!!!


フルパワーはいきなりチャージショットをぶっ放した。

人間「うおっ!」

人間は素早くかわす。

フルパワー「クク、さすが"使える人間"だな!」

人間「俺がここへ来るのも予想済みだったってこたぁ、復讐が目的なんだろうが…タイマン張ってやる筋合いはねえ。片割れ、速攻で潰すぞ!」

片割れ「誰に命令しとんねん!」


ドガガガッ!!!!

バチバチバチ!!!!

ズドォーン!!!!


そして二人は瞬く間にフルパワーを戦闘不能にし、地面に押さえつけた。

477ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:16:17 ID:ciPArYfsSd

フルパワー「はぁ…はぁ…さすがに二人相手じゃ歯が立たねえか…ククク…」

片割れ「何わろてんねん」

人間「クスリでイカれてるだけだ。そろそろサツも来る頃だぜ。今度はしっかり反省してこい」

フルパワー「…お前ほどのモンが…おかしいとは思わなかったのか?クク…」

人間「何…?」

フルパワー「上を見てみな」

人間と片割れは罠かと警戒しながらも、ちらっと見て確認する。

人間「なっ!?」

片割れ「ナイフ!!」

そこにはナイフと、人間の息子、そして元親分の息子の三人が眠らされ、縛られていた。

そしてその足元には爆弾のようなものが設置されている。

人間「テ…テメェ!!」

人間は激昂し拳を振り上げる。

フルパワー「おっと…いいのか?人間。あたしの指先一つでアイツらは木っ端微塵になるんだぜ?クク…」

人間「クソッ!!」

478ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:17:46 ID:ciPArYfsSd

片割れ「…なんで今更言うねん。脅しならワシらと戦う前からやっときゃええやろ」

フルパワー「なぁに、念のための足止めさ…本当のテストを始める前に速攻で潰される可能性もあったからな…」

片割れ「テスト?」

フルパワー「事実、歯が立たなかったワケだ…用意しておいて正解だった…クク…」

片割れ「いやちょい待てや。テストて何やねん」

フルパワー「すぐに分かるさ。お前たちがコイツの力を試すに相応しいかどうかのテストは終わった…申し分ねえ強さだ…!そしてここからが…本当のテストだ…!!」

その瞬間、フルパワーの体がビクンと跳ねた。

片割れ「何や…!?」

二人は咄嗟にフルパワーから離れる。

フルパワー「う…あああああ…!!」

フルパワーはもがき始め、その顔には血管が浮き出る。

人間「な…なんかヤベェクスリ打ちやがったのか!?スーツん中に仕込んでたのか!」

片割れ「クスリの性能テストっちゅう訳かい…」

フルパワー「フゥゥ……クク…その通り…お前たちのような、ファイターの中でも最上位の連中を超えるために作った、最強の薬…その名も"フルパワー薬"さ!!」


ダンッ!!!!


フルパワーは倒れた状態のまま、両手足を使って人間に飛びかかった。


ドゴォ!!!


人間「ぐはっ…!!」

そのタックルを受けて人間は吹っ飛ばされ、壁に激突。

片割れ「人間!」

479ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:18:58 ID:ciPArYfsSd

フルパワー「ウオオオォ!!」


ブンッ!!!


片割れ「うおっ!?」

フルパワーはアームキャノンを振り回し、今度は片割れを襲う。


ズドォッ!!!!


片割れ「ごはっ…」

そして片割れも簡単に吹っ飛ばされる。

フルパワー「クク…クククク…遅い…!全てが止まって見えるぜ…!最強だ…!!人間も片割れも…あたしには敵わない!!」

片割れ「待て待て…ワシはまだやられとらんぞ…」

片割れはフラつきながらも立ち上がる。

人間「…く…俺も…まだ…やれる…!」

人間も意地を見せて立ち上がる。

片割れ「ハハハ!死にそうやんけ!」

人間「うっせぇな…」

フルパワー「ククク…一撃だぜ!?たった一撃でそのダメージだ!!」

人間「テメェはもっとうっせぇ…!」

片割れ「あのボケ、パワーは一丁前やが、動きは単調や。冷静に立ち回りゃあワシらの敵やない」

人間「へへ……俺もちょうど…そう思ってたとこだ…」

フルパワー「何ブツブツ言ってやがる!!」


ダンッ!!


フルパワーはまた人間に向かって突撃する。

人間「くっ!」

人間はギリギリでかわす。

片割れ「ピカチュゥ!」


バチッ!!


フルパワー「ぐぅッ!」

人間「ほっ!」


ボフッ!!


フルパワー「あっつ!!クソッ!ちょこまかと…!!」

電撃とファイアボールを駆使して二人は慎重に反撃していく。

480ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:19:45 ID:ciPArYfsSd



そして数十分間の攻防が続いた末。

フルパワー「がはっ…!?」

ガクッ!

フルパワーは膝をつき、苦しそうに胸を押さえる。

人間「はぁ……はぁ……ようやくくたばりやがったか…」

片割れ「…ワシらが倒したっつうより、クスリ切れって感じに見えるけどな…」

人間「どっちでもいいだろ…戦闘不能にゃ変わりねえ…」

フルパワー「…はぁっ…はぁっ……くそっ……クソッ!…これでも足りねえってのか…!!なら……!!」

片割れ「オイオイさらに打つ気か!?やめとけやめとけ!意味ない!死ぬで!」

人間「スピードやパワーの問題じゃねえことくらい…分かるだろ…」

フルパワー「うるせぇぇェェェェ!!」


ビクンッ!!


フルパワーの体が跳ねる。

片割れ「う、打ちよった…!!」

人間「お…おい…大丈夫か…」

フルパワー「…ぉあぁぁ……あ……」

人間「ダメだ、トんでやがる…」

フルパワーは意識を完全に失い、全身から汗を流しビクビクと震えていた。

片割れ「ったく…とっととアイツら解放して帰るで」

人間「ああ」

481ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:21:33 ID:yr/mznqA00


それから二人は会場の上部に捕らわれていたナイフたちを助け出し、人間の手によって爆弾も解除した。

片割れ「ハハ、さすが"使える人間"サマやなぁ。爆弾解除もお手のもんや」

人間「ま、これくらいはな…」

片割れ「そろそろサツも来るやろ。ワシはずらかるで。ナイフ頼むわ」

人間「おう…って俺も休んでる場合じゃねえよ!町の暴徒を止めねえと…!」

片割れ「ボケ、そんな体で無茶すなや。ワシに任しとけ」

人間「…ったく、分かったよ…組のモンでもねえのに偉そうに命令しやがって」

片割れ「組に入ったらお前の子分やぞ。むしろ命令できんやろ」

人間「はは、確かにな…」

そんな軽口を叩いて、片割れは町へと向かった。

ナイフ「ウンン…?」

人間「お、ナイフ、目が覚めたか」

ナイフ「あれ…?親分…俺は一体…」

人間「ちょっと事件に巻き込まれてな。眠らされてた」

ナイフ「……ハッ!?そうだ…若たちと出掛けてたら後ろからいきなり…!す、すまねえ親分!!俺がついていながら…!!」

人間「大丈夫だ。もう終わったよ。若もウチのせがれも無事だ。横見てみろ」

そこには子供たちが眠っていた。

ナイフ「よ、良かった…」

人間「あとは町で暴れてる奴らが正気に戻ってくれりゃあ一件落着…とはいかねえか。これだけ被害が出ちまったら」

482ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:23:01 ID:yr/mznqA00


ファンファンファンファン…


そこへパトカーのサイレンが近づいてきた。

人間「お、ようやく来たみてえだな…」


ダダダダダダ…


警察「警察だっ!フルパワー、ここにいることは分かっている!薬物を散布した容疑により逮捕する!」

十数人の警察が駆けつけた。

人間「遅えぞ。フルパワーなら捕まえといたぜ。とっとと持って帰んな」

人間はパワードスーツを脱がして縄で縛ったフルパワーを指差す。

警察「…に、人間か…ってどうしたその怪我は…!?いくらフルパワーがファイターとはいえ、お前がボロボロになるほどの強さじゃあないはずだろう!?」

人間「さっきてめえで言ってたろ…クスリだ。身体能力を大幅アップしやがった」

警察「クスリ…!?そ、そうか…しかしこいつどうやって釈放から一ヶ月でここまで…」

人間「どっかの組と繋がってんじゃねえか?クスリなんて再犯率めちゃくちゃ高えんだから、ちゃんと見張っとけよ」

警察「面目ない…」

それから数人の警察はフルパワーをちゃんとした拘束具で拘束し、収容所へと連行した。

残った警察たちは会場に他に危険物がないかや、フルパワーに協力者がいなかったかなどの捜査を始めた。

483ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:23:58 ID:yr/mznqA00

ナイフ「…クスリ吸わされちまったヤツらはどうなるんだ?」

人間「故意に吸ったわけじゃねえし、病院で一旦様子見して解放されんじゃねえか?モノとか人に加えた危害がデカすぎるヤツはそう簡単にはいかねえだろうがな」

ナイフ「そうか…なんか可哀想だな。やりたくてやったわけじゃねえのにさ」

ピピピピピピ…

人間「まあな。元々アイツらは世間に不満があって集まった連中だ。ただでさえイベントで舞い上がってるとこにクスリなんか吸わされたら、ああなっちまうのも無理はねえ」

ナイフ「ホントひでえことしやがって…許せねえよ…」

人間「…ところでなんか変な音しねえか…?」

ナイフ「…うん。俺も思ってたとこ」

ピピピピピピ…

人間「どっから聞こえてんだこれ」

ナイフ「すげえ近い気がするんだけど…」

ナイフがなんとなく頭を触ると。

ポロッ

ナイフ「え?」

人間「え?」

いつも被っている赤い帽子が落ち、その中から小さな丸い機械が転がり出てきた。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


人間「伏せろっ!!」


ドガッ!!


人間はすぐにその機械を人のいない方へ蹴り飛ばした。

その瞬間。


カッ!!!!


機械から黒い閃光が放たれた。

人間「!!」


ドガッ!!


ナイフ「あだっ!?な、何すん…」

人間はナイフを突き飛ばし、一人、閃光に呑み込まれた。

ナイフ「お、親分ーーっ!!」

484ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:24:46 ID:yr/mznqA00



片割れ「ふうっ、こんなモンか」

その頃片割れは、警察や須磨武羅組と協力し、町の暴徒たちを捕らえていた。

須磨組員1「助かったぜ片割れ」

片割れ「ケッ、役に立たんのォお前ら」

須磨組員2「うるせえよ!てめえが人間さんの応援に行ってる間は俺らがコイツら止めてたんだぞ!」

片割れ「そらごくろーさん。ほなワシは帰るで」

須磨組員2「ちょっと待て!話はまだ…」

プルルルル…

須磨組員1「おう、どうしたナイフ……何!?」

片割れ「なんや、どうした?」

須磨組員1「に、人間さんが…消えたって…」

須磨組員2「消えた!?」

片割れ「どういうこっちゃ…」

ナイフ『お、俺もわかんねえよ!Y!いきなり俺の帽子から変なボールが出てきたと思ったら、ピカッて光って消えたんだよ!』

片割れ「フルパワーのヤツ、まだ何か仕込んどったんか…!」

ナイフ『くそっ…!本当に情けねえっ…!!目の前にいたのに俺は…ただ親分に助けられることしかできなかった…!』

485ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:25:35 ID:yr/mznqA00




そして後日、人間の葬儀が執り行われた。

警察によってフルパワーへの取り調べが行われるも、心神喪失により受け答えもままならず、人間を消した球状の機械は、新たに開発された爆弾ということで処理された。

ナイフ「クソッ…なんで親分があんな目に遭わなきゃならねえんだ…!俺が親分の代わりに死ねばよかったんだ…!」

片割れ「何言うてんねんボケ。所詮ヤクザなんかそんなモンやろ」

須磨組員2「ああ!?」

片割れ「ヤクザは簡単に命奪ったり奪われたり、そういう世界やろ。くだらん。ワシはずっとそう言っとったハズやぞ」

須磨組員2「てめぇ…!」

須磨組員1「よせ…まあ人間さんは最初ッから覚悟できてたんだろうな…足りてねえのは俺たちの方だった…この世界に足踏み入れた時点で、命なんてあってないようなもんだ。人間さんもそう言ってた」

ナイフ「くっ…」

迫力「人間は最後まで自分の意志を貫いた。守りてえと思ったモンをしっかり守って死ねたんだ。本望だろうぜ」

須磨組員1「そうっすね…」

須磨組員2「く…だからってそんなすぐ飲み込めねえっすよ…!」

迫力「ま、時間が解決するだろうよ。で、片割れ、そろそろ決心がついたか?」

片割れ「あ?」

迫力「組で開いた葬儀に参列したんだ。そのつもりなんだろう?」

片割れ「……ああ」

486ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:26:07 ID:yr/mznqA00

ナイフ「決心って…お前、まさか…」

片割れ「フン、人間も消えて、もはや須磨武羅組は最強のヤクザなんて言えるレベルやないやろ。そんなトコにナイフを一人で入れとくわけにゃいかん」

ナイフ「お、俺なんかのためにお前が入る必要は…」

迫力「くくっ、馬鹿野郎、ただ理由が欲しいのさコイツは」

片割れ「うっさいのぉジジイ。分かった気になっとんちゃうぞ」

須磨組員1「か、片割れ…」

片割れ「安心せえ、お前らを憐れんどるんやない。全部ワシの意思や」

迫力「いい目だ。だったらこの場で交わしちまおう」

片割れ「ああ」

迫力は酒と盃を取り出し、片割れは盃を受け取る。

そして迫力はそこへ酒を注いだ。

迫力「コイツを呑めばてめえはウチの子分として極道に入る」

片割れ「おう」

ゴクッ…

組員たちが見守る中、片割れはあっさりと酒を飲み干した。

片割れ「この数年間、人間とはそこそこ仲ようさせてもらった!須磨武羅組は他の腐った組織とは違うっちゅうことも分かっとる!はっきり言う!ワシは須磨武羅組が好きや!」

ナイフ「片割れ…!」

片割れ「この盃をもって、ワシはこれより、"極道の片割れ"を名乗らせていただく!!よろしくお願い申し上げるッ!!」

こうして片割れは極道の世界へ足を踏み入れた。

487ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:27:06 ID:yr/mznqA00





どこかの基地。

いくつも並んだコンピュータを緑フォックスたちが操作している。

???「オリジナル、あのサムス族に渡した新型次元分離システムは上手く作動したようだ」

???『そうか』

???「こちらの基地で開発した肉体強化薬の方も成功と言っていいだろう。限界量を超えて摂取したことにより結果的には自滅していたが、薬の効力そのものは問題なく発揮されていた」

???『分かった。ではその薬をCR-250以降に投与して経過を見ろ』

???「了解」

488ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:02:51 ID:lUDSdzGA00






月日は流れ。

魔法学校では。

昼間「本当に高等部へ上がらなくていいんですか?おこめくん」

おこめ「うん!ぼくの夢は達成したから!中等部卒業したらぼくも魔法学校出て、表の空間でたくさんの人におこめを届けたい!」

昼間「そうですか。寂しいですが、君が選んだ道なら止めはしません。頑張ってください」

おこめ「うん!」

昼間「そう言えば決まったんですか?あの米のブランド名は」

おこめ「もちろん!おこめブランドのおこめ、その名も"おこめ"!!」

昼間「そのまんま…」

おこめ「変か?」

昼間「いえ、まあ、いいと思います。自分の名前を付けるくらいに愛情を注いでいたのは私も知っていますからね。ただ商標に通るかどうか…」

おこめ「あーたのしみだ!きっとバクウレ間違いなしだ!」

昼間「…やれやれ…」

おこめ「ふっふっふー!どうだ、ぼくはもう夢を叶えつつあるぞ!このままじゃ勝負はぼくの勝ちだな!」

おこめは空に向かって叫ぶ。

489ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:04:10 ID:lUDSdzGA00





中学生「ふぇっくしょん!!」

その頃、中学生はとある国で旅を続けていた。

中学生「なんだぁ?誰かウワサでもしてんのか?ってこんなベタなセリフ言う日が来るとは…いや俺結構ベタなセリフ言ってるかも…」

と一人でツッコミをしていると。


ドガァァァン!!!!


中学生「な、なんだぁ!?」

いきなり目の前に、十メートル程度のクレーターができた。

目撃者や野次馬によって街がざわつき始める。

中学生「!!…この魔力…魔物か!?…いや、違う…!魔力がデカすぎる…まさか…」

???「フン…地上に出るのも千余年ぶりか…随分と様変わりしたものだな」

クレーターの中心には、西洋風の赤い鎧を纏った人物が立っていた。

中学生「おいてめー!まさか魔の一族か!?」

???「…リンク族か。フン、最初の相手としては悪くない」

中学生「質問に答えろや!」

???「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

中学生「はぁ?」

???「フン…敵を前に、随分と余裕だな」

ギッ…

赤鎧はしゃがみ込むと、

ダンッ!!

一気に踏み込み、中学生に近づいた。

中学生「!!」


ドゴォッ!!!

490ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:04:53 ID:lUDSdzGA00


???「…ほう、よく反応した」

中学生はそのパンチを盾でガードしていた。

中学生「たりめーだ!舐めんな!つーか…」

???「フンッ!」


ドガガガガガッ!!


赤鎧は更に連続攻撃を叩き込む。

???「…全て防いだか。面白い」

中学生「いや、つーか!!お前そんな鎧着てんのに肉弾戦すんのかよ!?」

???「些細なことに拘るんだな」

中学生「まあまあ衝撃的だよ!!」

???「ならば受けてみよ」


ボッ!!


中学生「熱っ!」

赤鎧は右掌から緑色の火球を放った。

???「フン、あえてこの技は封印していたまでだ。簡単に決着が着いては面白くないからな」

中学生「今の…ファイアボールか…!?マリオ族の…」

???「マリオではない!!!!ルイージだ!!!!」

中学生「うお!?すまん!なんか地雷踏んだ!?」

491ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:05:59 ID:lUDSdzGA00

???「……まあいい。もう終わらせるとしよう。貴様の力も大体分かった」

中学生「え、まだ俺攻撃すらしてないんだけど…」

???「問答無用!どの道貴様の剣など私の鎧には通じぬ!」


ドガァッ!!


中学生「だから遅いんだってば」

???「何…!?」

中学生は普通に赤鎧のパンチをかわした。

中学生「そんな鎧着てるからだろ。めちゃくちゃ動きにくそうだもん」

???「き、貴様…!我が鎧を愚弄するか!」

中学生「いや鎧じゃなくてお前に言ってるんだよ…肉弾戦すんなら絶対もっと動きやすい格好したほうがいいって…」

中学生はひらりひらりと攻撃をかわしながら言う。

???「クソッ…ちょこまかと…!ならばファイアボールを受けよ!」

ボボボッ!!

中学生「とうっ!」


ブンッ!!


中学生はブーメランを投げ、ファイアボールをかき消す。

???「なっ!?馬鹿な…!」

ダンッ!

赤鎧が驚いている隙に距離を詰める。

そして。

中学生「でやぁっ!!」

渾身の回転斬りを放つ。


ズギャァッ!!!!


???「ぐあああっ…!!」

ドサッ…

赤鎧は粉々に砕け散り、倒れた。

492ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:07:11 ID:lUDSdzGA00

中学生「ふぅ…魔の一族、意外と大したことなかったな。召喚士先生のほうが断然つえーや」

???「き…貴様…!」

中学生「!まだ意識があったか」

???「わ…我が鎧を…よくも…!」

中学生「着てんのが悪いだろ。そんなに大事ならどっかにしまっとけ」

???「くっ…」

中学生「しっかしルイージ族かー。パジャマのヤツに似てんなー。あと湖のヤツも…あ、あれは言っちゃマズイんだったっけ」

鎧が壊れたことであらわになった素顔を見て、中学生は今までに出会ったルイージ族たちを思い出す。

???「み…湖……だと…?」

中学生「え?」

???「そいつは…ま、まさか…水色の帽子のルイージか…!?」

中学生「え、うん。そうだけど…」

???「まだ…生きていたのか…湖…!」

中学生「何?知り合い…?」

???「…かつて…地上にいた頃…私は…奴に育てられたのだ…」

中学生「かつて地上にいたって…何言ってんだ?お前は魔の一族だろ?」

???「言っただろう…魔の一族かと問われれば…そうともそうでないとも言える…私は元々…この世界で生まれたのだ…」

中学生「どういうことだ?」

493ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:09:05 ID:lUDSdzGA00

???「我が名は…Lancelot…紅き鎧を持つことから、魔界では"紅のLancelot"と呼ばれるが…かつては"湖の騎士"という異名を持っていた…」

中学生「ちょ、ちょっと待て!なんか聞いたことある気がするぞ!?」

Lance「フン…だろうな…私は…Arthur王に仕えた騎士だったのだ…」

中学生「あの伝説の…!?マジで…!?」

Lance「事実だ」

中学生「マジかよ…!でもなんで魔界に?」

Lance「…色々あってな…私はArthurと決別し…Arthurと戦う力を求め…魔の力に手を染めた…そして最後の戦いに挑んだ日…突如、私の体に天から光が降り注いだ…それは神による裁きだったのかもしれない…気づけば私は…魔界の奥地に立っていた…」

中学生「神…そういや魔法学校で言ってたな。天界には天使とか神様がいるって」

Lance「魔法学校…地上にはそんなものがあるのか…?」

中学生「ああ。地上っつっても裏の空間だけどな。湖の精霊もそこにいる」

Lance「何…!?どこだ…どうすれば会える…?」

中学生「…そんなに会いたいのか?」

Lance「当たり前だ…!奴は私の…唯一の家族だ…だが…別れの言葉も…何も言えないまま…私は魔界に堕ちた…千年以上…ずっと後悔していた…」

中学生「そうか…もう暴れないって約束できるか?できるなら教えてやる」

Lance「約束する」

494ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:09:39 ID:lUDSdzGA00

中学生「…分かった。嘘はついてなさそうだ」

そして中学生は魔法学校への行き方を教えた。

Lance「恩に着る…」

中学生「そうだ、魔法学校に着いたらたぶん、てか確実に、昼間の召喚士っていうめちゃくちゃ強い人が攻撃してくると思うから注意しろ。俺の名前出せばなんとか説得できると思う」

Lance「分かった…しかしお前ほどの男が強いというそいつは…一体何者だ?」

中学生「先生だよ。最強の魔法使いで、マリオ族…ってそういや、お前なんであんなにマリオにキレたんだ?」

Lance「…Arthurがマリオ族だったからだ」

中学生「あー、なるほど…」

Lance「…すまなかったな…もう行ってくれ。私は回復するまで休みたい」

中学生「そうか。んじゃ、ちょっと運ぶわ」

Lance「は…?」

中学生「野次馬が集まってきたしな。これじゃ魔法学校行く前に捕まっちまうだろ?」

中学生はLancelotを肩に担ぎ、その場を離れた。

495ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:11:32 ID:lUDSdzGA00



数分後。

中学生「ここまで来りゃ大丈夫だろ」

中学生はLancelotを下ろす。

Lance「すまない…それと運ばれている間に一つ…思い出したよ…」

中学生「何を?」

Lance「フン…あの鎧を…大事にしていた理由…すっかり忘れていたが…あれは私がArthurに仕えた時に貰ったのだ…」

中学生「ふーん。じゃあいつか仲直りできるといいな」

Lance「フン…できる訳あるまい…奴はとっくの昔に死んでいる…」

中学生「わかんねーだろ。もしかしたらお前みたいに長生きしてるかもしんねーぜ」

Lance「……フッ…そうだな…」

中学生「んじゃ達者でな。先生によろしく言っといてくれ」

Lance「ああ」

そして中学生は再び歩き始める。

歩き出した途端。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


???「★気持ちいいいいいいいい!!」


良い感じな雰囲気をかき消すかのように、赤い帽子の少年が叫びながらすごいスピードで通り過ぎた。

中学生「こ、今度はなんだぁ…?」


ドゴォォン!!


少年はそのままゴミ捨て場のゴミ袋の山に突っ込んだ。

中学生「……マジで何なんだ…」

496ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:12:14 ID:lUDSdzGA00

中学生は駆け寄る。

中学生「おーい!大丈夫かー?」

ゴミ袋に埋もれた少年に手を差し伸べる。

???「★いてて…ありがとう。ところで君は誰?」

中学生「こっちのセリフだよ!街中ですげえ速度で爆走しやがって!」

???「★ごめんよ。生まれて初めて外を走り回れるから、舞い上がっちゃって」

中学生「え…病気か何かで入院してたとかか…?」

???「★いや、別に」

中学生「…まあなんか事情があんだな。でももうちょっと周り見ろよな。ゴミ捨て場だったからよかったけど、もし人にぶつかったら大変だぞ」

???「★そうだね、気をつけるよ」

中学生「おう。んじゃな」

そして二人は別れた。

中学生「…変なヤツだったな。あんな速さ普通の人じゃありえないし、アイツもファイターなのかもな」

497ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:14:29 ID:lUDSdzGA00



その様子を、街に設置された防犯カメラが捉えていた。


そしてそのカメラを通して、赤い帽子の少年の正体に気づいた者がいた。

エロマス「…これはまさか……ネスか……?」

エロ過ぎるマスターである。

バーのマスターをやりながら情報屋もしているエロマスは、世界各地のカメラをハッキングし、日々情報を集めているのだ。

エロマス「フッ…存在するはずのない種族…非常に興味深いな…」

エロマスはニヤリと笑った。





第二章 完

498ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:18:22 ID:lUDSdzGA00
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!!
以上、第二章・中学生編でした
また書き溜めたいのでしばらく更新を休みます

499はいどうも名無しです (ワッチョイ 23ed-5e3d):2022/08/22(月) 21:38:22 ID:l/opKTFM00
更新お疲れ様です!!波乱の展開が続いてハラハラしながらよんでました!続きも楽しみに待ってます!!

500ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 22:56:57 ID:lUDSdzGA00
>>499
ありがとうございます!頑張ります!

501はいどうも名無しです (ワッチョイ e02f-d9d6):2022/08/23(火) 23:14:52 ID:6PPswkU200
お疲れ様です。
次も楽しみにしてます。

502ハイドンピー (スプー 587f-e066):2022/08/26(金) 13:57:17 ID:4wqCEPcYSd
>>501
ありがとうございます!

503ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:03:02 ID:4B4Kcy/I00
第一章のあらすじ>>348

〜ここまでのあらすじ2〜

中学生(大学生)は、途中、"熱望ブラザーズ"やムッコロズ・ムッコロスなどとすれ違いながら、旅を続けていた。
パジャマの革命家と一悶着あり、少女の情報を手に入れ、王国へ。
王国では、少女を知るヒーローの母と会い、少女を連れ戻すと約束した。

魔法学校では、中学生たちが名付けたサル"ドルボリドル"が覚醒。
魔物たちを操るドルボリドルと召喚士たちが戦う。
封印一歩手前まで追い詰めたものの、ドルボリドルは肉体を捨て、魔物と化して逃亡。

魔界では犬のような黒猫と腫れたおしりが食べ物を求めて、謎の穴に突入。
穴の奥はなぜか地上のコンゴジャングルと繋がっており、バナナをめぐってモケーレムベンベ、ティーダと戦闘。
さらにジャングルの素材を狙って現れた謎のフォックスや、魔法学校から逃げてきたドルボリドルも現れ、黒猫たちは大ピンチに。
召喚士たちがそこに駆けつけ、ドルボリドルの封印は成功した。
しかし潜んでいた謎のフォックスは記憶を消す弾を使って、その場のファイターたちから、フォックスたちに関する記憶を消去。
唯一その弾をかわした黒猫だったが、次元分離システムによって消滅した…

かに思われたが、黒猫は次に目覚めると別の世界にいた。
かつて謎のフォックスたちと戦い、同じく次元分離によって消滅したリカエリスもこの世界に来ており、ウルフ村田という女性と暮らし、元の世界に帰る方法を模索していた。
リカエリスは倒れていた黒猫を村田家へ運んでくれた。
が、黒猫はかつて<魔炎師ヤミノツルギ†の叛逆>にてリカエリスの親友であった初代"幻のギルティース"を死に追いやった張本人だった。
リカエリスは攻撃を仕掛けるも実力で上回る黒猫に上手く捌かれ、ウルフ村田に制止される。
その場では矛を収めたが、リカエリスはこの手で必ず黒猫を倒すと誓う。

その頃味方殺しは、国の暗部の依頼によってヨシオ族の里に侵入。
ヨシオ族たちと交流を深める。
そしてその目的である"里の秘密"をゲット。
その秘密とは"この世界がゲームである"という馬鹿げた話だった。

極道の街では、フルパワーという前科者が薬物を撒いて町中で大パニックを起こし、須磨武羅組や警察が対処にあたった。
薬物で肉体を強化し文字通りフルパワーとなったフルパワーだったが、片割れと人間の協力により鎮圧。
しかしフルパワーが仕込んでいた次元分離により、人間はナイフをかばって消滅させられた。
片割れはそれを受けて、ついに極道の世界に足を踏み入れる決心をする。

月日が経ち、おこめは夢であった最高のおこめ魔法をついに完成させる。

一方中学生は未だ少女の手掛かりはなく、アテのない旅をしていたところ、魔界から紅のLancelotが出現。
中学生はそれを難なく撃破。
かつて魔法学校で会った湖の精霊の関係者であることを知り、魔法学校を紹介してあげた。
直後、爆走する少年がゴミ捨て場に突っ込んだので助けてあげた。
特に前進もなく、中学生の旅は続いていく。

504ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:10:35 ID:4B4Kcy/I00
第三章



中学生は高校生となっていた。

ただ勿論、高校に通っている訳ではない。

少女を探す旅を続けながら、時々、通信制の授業を受けている。

高校生「父ちゃんと母ちゃんには感謝しねーとな…この旅でアイツを見つけた後の事も、ちゃんと考えてくれてる。俺は目の前のことしか見えねーから…」

講師『ちょっと!?ちゃんと聞いてますかっ!?』

高校生「あっ、すんません!」

それから数十分。

授業を受け終わり、宿のベッドで眠りにつこうとしたが。


ピンポーン


高校生「あれ?誰だよこんな時間に……はーい」

ガチャッ

505ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:12:10 ID:4B4Kcy/I00

おこめ「よ!」

高校生「おこめ!?お前、なんでこんなとこに…!」

おこめ「ふっふっふ、バカな奴め。ぼくはもう夢を叶えたのだよ」

高校生「何!?」

おこめ「ジャーン!みろ!これがおこめ魔法によって作り上げた、最強のおこめ、その名も"おこめ印のおこめ"だ!」

おこめは袋に詰まった米を自慢げに見せつけた。

高校生「すげえじゃん!!おめでとうおこめ!!」

おこめ「エッヘン!夢バトルはぼくの勝ちだな!」

高校生「夢バトル?ああ、どっちが先に叶えるかってヤツか。そういやそんなんあったな…」

おこめ「オイ!!!」

高校生「いや、正直俺のは夢っつーか、アレだからな…」

おこめ「アレってなんだよ!てか結局やらなきゃいけねーコトってなんだよ!」

高校生「そりゃ…まだ言えねーよ。…んで、何でこんなとこにいるんだ?」

おこめ「…ま、エーギョーってやつだ。ぼくのおこめがいくら史上最強にうまいとは言っても、知ってもらわなきゃイミないからな。各地を巡って宣伝してるのだ」

高校生「なるほど」

おこめ「そんでたまたまこの辺に来たらオマエの魔力を感じたから、勝ち誇りにきたってワケだ!なのにオマエときたら…」

高校生「それは本当スマン。悔しがるどころか勝負自体忘れててスマン」

506ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:12:40 ID:4B4Kcy/I00

おこめ「ふん!まあいいさ。とりあえず、コイツを食え!!」

それからおこめは自前の炊飯器を使って米を炊いた。

二人は米が炊き上がるのを待ちながら、小学生時代の思い出話や、その後のいろんな事を話した。

そして。

おこめ「ジャーン!!これがおこめ印のおこめだっ!食え!」

高校生「うおっ!マジで美味そう!」

おこめ「トーゼンだ!」

高校生「いただきまーす!」

もぐもぐ…

高校生「うんめ〜〜〜〜!!!」

おこめ「だろ!!」

高校生「こりゃ売れるなマジで!!」

おこめ「そうだろ!!」

そして高校生は茶碗にたっぷりと盛られた米を、オカズもなしに何度もおかわりし、完食した。

507ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:13:14 ID:4B4Kcy/I00

高校生「ごちそうさま!」

おこめ「いい食いっぷりだった!」

高校生「ハハ、ほんとすげーよお前。正直な、俺、すげー疲れてたんだ…」

おこめ「うん、カオ見りゃわかる」

高校生「どんだけ頑張っても、俺の目的には辿り着けなくてよ…もう無理なんじゃねーかって、何度も思ったよ。折れかけてた。けど、お前の米食ったら元気出たわ!」

おこめ「だろ!」

高校生「ああ、ありがとな!俺も頑張るからさ、おこめもこの米、マジでめちゃくちゃ売りまくれよな!」

おこめ「言われなくてもだ!㌦ポッターが嫉妬するくらいの大金持ちになったるぞ!」

高校生「おう!その意気だぜ!」

二人は握手を交わし、笑い合う。

おこめ「じゃあ、そろそろいく」

高校生「そうか、また会おうぜ親友!」

おこめ「うん!またな親友!」

508ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:14:07 ID:4B4Kcy/I00



翌朝。

高校生「さて!行くか!」

高校生は宿を発ち、空間探査魔法の魔法陣が刻まれたブーメランを投げながら、あてもなく進む。

高校生「あっちの方、まだ見てなかったな」

町外れの山の方へと向かっていく。

すると。

おっさん「おい、おめえさんどこ行くんだ?あの山に入ろうってんじゃねえだろうな」

すれ違ったおっさんが声を掛けてきた。

高校生「え?そうだけど…なんかまずいんですか?」

おっさん「ああ。あそこにゃあクマとかイノシシとかいろいろ出るんさ。つい先週も山に入ったヤツが襲われてな」

高校生「そうなんすね…まあ俺なら心配ないですよ、ファイターなんで!」

おっさん「ホントかあ?立派な剣は持ってるが…」

高校生「本当ですよ!ほら耳!リンク族の特徴!」

おっさん「うーむ…聞いたことはある…しかし、野生動物を舐めちゃいかんぞ」

高校生「気をつけます!ありがとうございます!」

509ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:14:50 ID:4B4Kcy/I00

高校生は山に足を踏み入れる。

高校生「野生動物ねぇ…魔物なら何度も倒したが、そういやクマとは戦ったことねえな…魔物とどっちが強いんだ?」

そんな独り言をこぼしながらブーメランを投げる。

と。

キュルキュルキュルキュル…

高校生「…え?」

ブーメランはいつもとは異なる軌道を描く。

一定の場所で何度も円を描くように回り始めたのだ。

そう、それは隠された空間に反応を示している時の動きである。

高校生「ま…まさか…!!」


ボフッ!!


ブーメランが描いた円の中で小さな爆発が起き、空間に穴が開いた。

高校生「……!!」

510ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:16:06 ID:4B4Kcy/I00

高校生は驚きやら嬉しさやら、様々な感情が混じり合い、声すら出ない。

しかし体はすぐに動いた。

その穴へと、一直線に走る。

タッ!

そして穴の中へ飛び込んだ。


???「アゥ…?」


高校生「……は……??」


そこには、ボロボロの黄色い服を着た少年がいた。

周りには木々が生い茂り、深いジャングルのような場所になっている。

???「ウァァ…」

高校生「な…なんだ…コイツら…」

少年は一人ではなかった。

数十人の少年が木々の奥から現れ、正気を失った顔で高校生を見ていた。

高校生「み…みんな同じカオしてやがる……それに、どっかで見たような…」

511ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:17:01 ID:4B4Kcy/I00

???「ガァウゥゥ!!」

高校生「うお!?」

突然、少年の一人が高校生に向かって突撃してきた。

高校生「なんだ!?」

すると他の少年たちもそれに続いて、高校生に襲いかかる。

高校生「な、何なんだよ!?コイツら一体何モンだ!?」

高校生は突撃を交わしながら、少年たちを観察する。

高校生「動きは遅い…強くはなさそうだが…」

グシャァ!

???「アウゥ…」

少年の一人が、勢い余って木にぶつかる。

高校生「おいおい大丈夫か…?って、なんかこの感じ、前にも……そうだ、あの時の…ゴミ捨て場に突っ込んだアイツ…!」

???「ウアァァァ!!」

高校生「くっ!」

少年たちは無限に突進してくる。

512ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:17:35 ID:4B4Kcy/I00

高校生「おいっ!落ち着けよお前ら!俺は敵じゃねえ!」

???「ガウゥゥゥ!!」

高校生「クソッ、埒があかねえな…!まるで"バーサーカー"だ…コイツらが何なのかもわかんねーし、なんで襲ってくんのかもわかんねー…言葉も通じないみてえだし…」

高校生は通ってきた穴に視線を向ける。

高校生「……でも、この空間にアイツがいるかもしれねー……やっと…やっと見つけた空間だ…!ここにいないとしても、何か手掛かりがあるかもしんねえ…!」

ドスッ!!

高校生は地面に棒を突き刺した。

高校生「魔力棒…召喚士先生に貰っといて良かった。コイツを刺しときゃ、ゲートを離れても魔力を辿って帰れる」

そして高校生は、ジャングルの中を進んで行った。

バーサーカー「ガウウゥゥ!」

後ろから追ってくる声が聞こえ、振り返るが。

高校生「…遅すぎて全然ついて来れてねーや。これならじっくり調べられそうだな」

513ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:18:56 ID:4B4Kcy/I00




とある星の基地にて。

ピコン…ピコン…

ポチッ

???「どうした」

年老いた緑フォックスが、大きなモニターの前の席に座り、通信を受ける。

???『こちら第三基地。モルダー細胞のミスクローン廃棄エリアに、何者かが侵入した模様』

???「何…?あの空間は完全に閉鎖してあった筈…我々以外に、閉ざされた空間を開く技術を持った者がいるとすれば…あのドンキー族か?」

???『いや、侵入者はリンク族だ。何者かは不明…どうする』

???「…監視を続け、侵入者の素性と、侵入した方法を探れ。廃棄エリアから離脱した場合、記憶を抹消して様子を見ろ。その後、万一我々について嗅ぎ回るようなら、消せ」

???『了解』

プツッ

???「…さて…それでは実験の続きだ。ゲートを開け」

???「了解。魔界ゲート起動」

カタカタカタカタ…

ポチッ

若いフォックスがコンピュータを操作し、起動スイッチを押す。


ヴィィン…!


大きな装置の中の空間に、穴が開く。

???「被験体・クリーンを送り込め」

514ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:19:41 ID:4B4Kcy/I00

すると一人のフォックスが、眠った少年を抱えて穴の中へ入った。

その少年の顔は、先ほど高校生が出会った少年たちと同じものだ。

そしてフォックスは少年だけを穴の中に置いて、戻ってきた。

???「完了。問題無し。ゲートを閉鎖する」

バシュッ…

また若フォックスがスイッチを押すと、穴は閉じた。

???「これで魔力を持ったクローンネスが誕生すれば、我らの野望に大きく近付くだろう…」

???「しかしオリジナル、魔の一族となった場合、自我が肥大化し感情が制御できなくなるというデータがある。生体チップを埋め込んでいるとはいえ、我々のコントロール可能な範囲を逸脱するかもしれない」

一人のフォックスが言う。

???「その時は処分すればいい。元々ネスのPSIという力には、電気を扱うものもある。その影響によってチップを無効化される可能性も想定済みだ」

老フォックスが答える前に、また別のフォックスが答える。

???「ああ。他のクローンネスに関しても同じことが言える。仮にチップが無効化されたとしても常に監視は付けているし、子供の姿のまま成長が止まるというあの性質上、我らの手で消す事は容易だ」

少し大人のフォックスが更に付け加えた。

???「そういうことだ。CR-220、エルバンとウォーカーに関して、何か変化はあるか?」

老フォックスが、コンピュータを操作するフォックスに問う。

???「いや、エルバンは相変わらず爆走している。ウォーカーの方は、ようやく立って歩き始めた段階だ。まだPSIにも目覚めていない」

???「そうか。引き続き監視しろ」

515ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:20:11 ID:4B4Kcy/I00

???「そう言えばオリジナル、先程、第三基地からもう一つ報告があったようだ」

???「何?何故通信で言わなかった」

???「重要事項ではないからだろう。第二基地跡地で拾った、フトゥ・ブラッド及びムメイ・ブラッドの赤子についてだ。培養液の中で成長を促し、二足歩行まで可能となったようだ」

???「…そうか。身体機能に異常は?」

???「確認されていない。自我を持ち始め、現在はCR-170が教育を施している。発見時は数グラムの胎児であった事から、㌘と呼称している」

???「分かった。しかしあれはクローンとは勝手が違う。扱いには気を付けろ。少しでも我々に敵対する兆しを見せた場合、即刻処分できるようにしておけ」

???「了解」

516ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:21:22 ID:4B4Kcy/I00




三日後。

高校生「クッソォ…やっぱこの空間はアイツとは全然関係なさそうだ…はぁぁ…」

高校生は空間の中を隅々まで見て回ったが、何の手がかりも掴めず。

がっくりと肩を落としながら、通ってきたゲートへと引き返していた。

バーサーカー「ガウゥゥゥ!」

高校生「うわ!バーサーカー!忘れてた!まだいた!」

バーサーカー「グガァァァ!」

高校生「わりーけどてめーらの相手してるヒマねーんだよ!じゃあな!」

バーサーカーの群れをかわし、走り抜ける。

そしてゲートを通り、空間の外へ出た。

バーサーカー「グォォオオ!!」

高校生「うおっ!?こっちまで来てんじゃねーよ!閉じろ!」

バツン!!

高校生が手を合わせると、ゲートは閉じた。

517ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:23:02 ID:4B4Kcy/I00

高校生「ふぅ…なんだったんだ?結局…まぁいいや…」

タッ!

高校生は突然ジャンプする。

高校生「誰だ?」

何者かの僅かな魔力を感じ取り、その攻撃をかわしたのだ。

しかしその気配はすでに消えていた。

高校生「…ちっ、逃げやがったか。さすがに魔力が小さすぎて追えねーな……ん?」

そして木に残った弾痕を見つける。

高校生「銃弾…?にしては小せーか…銃のことはよく知らんけど…弾自体はないっぽいし、光線銃的なやつか。なんで俺を狙った…?さっきの空間と関係ないわけねーよな」

少し考え込む。

高校生「…ってこんなことしてるヒマねーや。面倒ごとに巻き込まれねーうちにずらかろう…」

高校生はすぐにこの山を降りた。

518ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:23:44 ID:4B4Kcy/I00



少し離れた上空にて。

???「何者だ…?発する魔力を三パーセント以下にまで減少させる魔力遮断具を身に付けた状態で、魔力を感知された」

ステルスアーウィンに乗った緑フォックスが、基地と通信している。

???『ありえん。そこらの虫や植物と変わらない程度の魔力だぞ…』

???『調査によれば奴は魔法学校の出だ。感知力に関しては個人差があるからな。魔力量は同じでも、人と他の生物とではその質が異なるし、個体ごとにも差がある。それを嗅ぎ分けられたのかもしれん』

???『我々はまだその域には至っていないが…奴はそれ程に優れた感知力を持っているということか』

???「そうか…半端な戦力では奴には通用しなさそうだな。次は第三基地全隊を出動させ、確実に記憶を消す必要がある」

???『ああ。しかし奴の今いる場所は人目につく。しばらく様子見だ。オリジナルに報告しておけ』

???『了解』

519はいどうも名無しです (ワッチョイ 3a82-05f3):2023/06/30(金) 21:50:01 ID:tji/2LLY00
うおおおおお続きじゃー!!!待ってたぜぇ!!

520ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:10:09 ID:McfE2eQc00





とある国の北部に位置する、小さな村。

ここには、いろんな動物たちが住んでいる。

ねこ「ふーんふーんふふっふーん♪」

一匹の黄色いねこが、鼻歌を歌いながら歩く。

ゾウ「おう!ねこ!今日も幸せそうだな!」

ねこ「はい。朝トマト食べてきたので」

ウサギ「うちの畑で採れたミニトマトあげるね」

ねこ「ありがとうございます!!」

クマ「今日はどこいくんだ?」

ねこ「トモダチんちです」

キツネ「気を付けてな!」

ねこ「はい」

このねこは、歩いているだけで何度も動物たちに声を掛けれられた。

ゾウ「ありがたや〜」

ウサギ「今日も幸福オーラ分けてもらえてよかったわ」

クマ「こないだ出てきたバケモンもアイツのおかげで消えてくれたし、この村も安泰だな」

キツネ「ああ、ねこさまさまだ。あの子は俺たち大人が全力で守ってやらねば」

521ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:12:17 ID:McfE2eQc00



数日前。

ドカァァァン!!

下半身「ワーッハッハッハ!!この村はこの下半身虚弱体質サマが頂く!!」

ワー!

キャー!

村に突然魔の一族と思しきドンキーが現れ、破壊活動を始めた。

ねこ「ん?ゴリラなんて村にいましたかね」

そこに、ねこがトマトを食べながら偶然通りかかった。

下半身「あぁ?なんだ貴様はぁ!」

ねこ「ねこです。よろしくお願いします」

下半身「ああ、よろしく。ってバカ野郎!」

ドガッ!!

ねこ「うわ危な!なにするんですか!ねこを殴るなんて動物虐待ですよ!」

下半身「知るか!魔界にゃ法律なんてないんだよ!」

ねこ「わわわわわ!」

下半身虚弱体質がブンブンと振り回す拳を、ねこは必死にかわす。

ネズミ「おい何やってんだ!早く逃げろ!」

ムササビ「あなたの足の速さなら逃げられるわ!」

ワニ「そんなヤバそうなヤツに関わっちゃダメだ!」

ねこ「は、はい…」

522ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:12:44 ID:McfE2eQc00

ベチャッ!

ねこ「ああっ!トマトが!」

ねこは攻撃を回避する時に、トマトを落としてしまった。

ビーバー「今トマトなんてどうでもいいだろ!」

下半身「ワッハッハ!!よそ見とはバカなヤツだ!!これでトドメだァ!!」

ずるんっ!!

ゴチーン!!

下半身虚弱体質は下半身が虚弱だったためか、潰れたトマトの汁で勢いよく滑って転んで、後頭部を強打した。

クマ「えっ」

下半身「くぅ…お、覚えてやがれーっ!」

そう言い残し、下半身虚弱体質は去った。

ねこ「おお、トマトが助けてくれました…さすが、トマト」

523ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:13:53 ID:McfE2eQc00



そんな出来事があって以来、ねこは幸運を呼ぶ招きねことして人気者になったのだ。

ねこ「遊びにきました、猫又くん」

猫又「オウ、待ってたゼ」

ねこが訪ねた家から出てきたのは、水色のねこだった。

猫又という名前の通り、その尻尾は二股に分かれている。

猫又「ってウワッ!なんだそのトマトの数は!」

ねこ「来る時にいろんな人から渡されました。にひひひ…」

猫又「嬉しそうな顔しやがって。偶然ゴリラ転ばせただけのクセによぉ」

ねこ「ま、これもボクの運がなせる技ですよ。一つくらいなら分けてあげてもいいですよ」

猫又「そういうことなら貰っといてやるよ」

猫又はねこの手からトマトをぶんどると、冷蔵庫の野菜室に入れた。

ねこ「それで、今日は何して遊ぶんですか?」

猫又「トランプ」

ねこ「えー、またですか?天気いいし、たまには外で遊びませんか?」

猫又「バッキャロー、外でなんか遊んだら汚れてオフロ入らなきゃいけないだろ」

ねこ「入ればいいじゃないですか」

猫又「水道代がかかるだろ。まったく、これだからシロートは」

ねこ「えー…じゃあゲームしませんか?」

猫又「バッキャロー、電気代がかかるだろ。トランプはこのカードだけでできる最高の遊びだゼ」

ねこ「はー…相変わらずですね。まあいいですけど」

524ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:14:57 ID:McfE2eQc00



そして、夕方。

ねこ「じゃあ、さようなら」

猫又「オウ、またな」

ねこが猫又の家を出る。

と。

???「え…?ねこ?」

そこに現れたのは、一人の赤ヨッシーだ。

ねこ「あ!どうも!」

ピカーン!!

すると、ねこの体が光る。

そして数秒後に光が収まると、ねこは黄色いヨッシーになった。

ねこ「ねこです!」

赤YO「久しぶりだなぁ!その姿、懐かしいなぁ」

ねこ「そっちこそ、元気でしたか?村の外に旅に出たって、妹ちゃんから聞きましたけど」

赤YO「ああ、すごい面白かったよ!ついこの前帰ってきたんだ。ねこは何してんだ?」

ねこ「トモダチと遊んでました」

赤YO「友達?そっか。ねこ…今この家から出てきたよな?」

ねこ「え?はい。そうですけど」

赤YO「…本当に友達なのか?」

ねこ「どういうことですか?」

525ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:15:32 ID:McfE2eQc00

赤YO「いや、ここの家、誰か住んでんのかと思ってさ。俺もこの道はよく通ってたけど、昔っから人の気配ないんだよな。ほらツタも生えっぱなしだし…」

その家にはツタがびっしりと巻き付いて、元の壁面がほぼ隠れてしまうほどだった。

庭も雑草が大量に生い茂り、とても人が住んでいるとは思えない外観になっている。

ねこ「あれ?さっきまでこんな感じだったっけ…よく見てなかったかも…でも、ちゃんと住んでますよ。猫又くん」

赤YO「猫又?それって妖怪の?」

ねこ「よ、妖怪?猫又って妖怪なんですか?普通にねこの一種かと思ってました」

赤YO「えぇ…なんか怪しいぞ。どうやって知り合ったんだ?」

ねこ「この前、お腹がへって倒れていたので、トマトあげました」

赤YO「だ、大丈夫かよそれ…妖怪に取り憑かれたんじゃないのか…?」

ねこ「失礼な。まったくもう、だったら会ってみたらいいですよ。ちょっと待っててください」

コンコンコン!

ねこはドアをノックする。

ねこ「ねこです!忘れ物しました!」

赤YO「………」

ねこ「………」

赤YO「…………」

ねこ「……………あれ?おかしいですね。いつもならすぐ出てくるのに」

赤YO「やっぱ妖怪じゃん!まずいって!お祓い行こう!」

ねこ「いやいや、そんなはずありません。入りますよ!」

ガラガラッ

ねこはドアを開ける。

ねこ「…え…」

その瞬間、二人の記憶は途絶えた。

526ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:16:42 ID:McfE2eQc00



ねこ「ハッ!」

ねこが目を覚ます。

ブタ「あ、起きた」

ウサギ「ねこくん大丈夫?」

ねこ「ブタさん…ウサギさん…ボクは一体何を…」

ウサギ「道の真ん中で倒れてたの。ここはタヌキさんの病院よ」

ねこ「運んでくれたんですか?ありがとうございます」

ブタ「なあに、キミには感謝しているからね」

ウサギ「あ、おうちの人にはもう連絡してあるからね。もうすぐ来るはずよ。あなたのお友達にも連絡したかったけど、誰かわからなくって…」

ねこ「おトモダチ…?」

ウサギ「うん。お友達の家に行ってたんでしょ?」

ねこ「トモダチ……うぅ、頭が…」

ウサギ「だ、大丈夫!?」

ねこ「お…思い出せない…トモダチって誰…?」

ブタ「記憶が混乱してるようだ。大丈夫。タヌキさんが検査して、どこにも別状なかったそうだからね」

ウサギ「きっとじきに思い出すわよ」

ねこ「…そうですか」

527ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:17:36 ID:McfE2eQc00

ウサギ「それにしてもよっぽど仲がいいのね。真の姿で会うなんて」

ねこ「え?うわ、本当だ!なんでこのすがたに…!やばっ!」

ピカーン!!

ねこは自分がヨッシーの姿になっていることに気付くと、すぐにねこの姿に戻った。

ブタ「ブフフ、気にするな。誰も責めやしないさ」

ねこ「でも村の掟で、不特定多数に本当のすがたを晒しちゃダメなんですよね。小さい頃に習いましたけど」

ブタ「この村はいろんな種族が集まってできた村だからね。昔はひどい差別問題があったんだ。だからこうして全員動物になることで格差をなくしてるってわけさ」

ねこ「そんな深い理由があったんですか」

ウサギ「でも掟とは言っても、今は罰則があるわけじゃないわ。昔の人の差別をなくそうという願いが受け継がれているだけ。それに、動物になれない人もいるしね」

ねこ「ああ、そういえば赤ヨッシーの一家とか…」

ブタ「そうそう。まあヨッシーも動物に見えるっちゃ見えるし、差別されてるわけでもない。やっぱり今の時代に掟なんて気にしてる人はあんまりいないと思うな」

ウサギ「あの一家、本当に仲がよくて微笑ましいのよねぇ。旅に出ちゃったお兄ちゃんとは、ねこくんもよく遊んでたわよね」

ねこ「あ…はい」

ブタ「えっ、そうなのか?あの家の兄ちゃん、つい最近帰ってきたって聞いたぞ」

ウサギ「あら?そうなの?それじゃあもしかして、遊んでた友達って彼のことじゃない?」

ねこ「…そ、そうだ…!なんで忘れてたんだ!全部思い出しました!」

ブタ「おお、やっぱりそうだったんだな」

ねこ「違います!」

ウサギ「違うの!?」

528ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:18:49 ID:McfE2eQc00

ねこ「でも帰りに会ったんです!そしてボクも彼と会う時は、いつも彼に合わせて真のすがたになってたんです!」

ウサギ「ああ、なるほど…」

ブタ「ってことは、ねこは兄ちゃんと会ってる最中に倒れちゃったのか?でもだとしたら、ねこを置いていったとは考えづらいし…」

ねこ「彼はどこにいますか!?」

ブタ「えっ、いや、分からないけど…家じゃないか?」

ねこ「ボクと一緒に倒れてたわけじゃないんですね…?だとしたらまさか、猫又くんの家に…?」

ブタ「猫又くん?」

ねこ「ボクが遊んでたのは、猫又くんだったのです」

ブタ「聞いたことある?」

ウサギ「いえ…」

ねこ「猫又くんは、妖怪だったのです!」

ウサギ「妖怪!?」

ねこ「取り憑かれてるかもしれません!」

ウサギ「あっ!ちょっと!」

ダダダダダダダ……!!

ねこはベッドから飛び起きて、猫又の家へと走り出した。

529ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:20:11 ID:McfE2eQc00



一方、赤ヨッシーは。

赤YO「ん…?どこだここ…」

目を覚ますと、古い建物の中にいた。

猫又「オウ、目が覚めたか」

赤YO「誰!?」

猫又「猫又だゼ。よろしく」

赤YO「猫又…!?キミが、ねこが言ってた友達か?確かに、尻尾が二股に分かれている…」

猫又「ヘヘヘ…待ってたのさ俺は、この時をよォ」

赤YO「待ってた…?」

猫又「お前のようなフツーのヤツが来てくれるのをだ。この村の住人はどいつもこいつも、変なパワーで守られてやがる。動物に変身する能力もソイツが関係してやがるんだろうな…メンドくせえゼまったくよォ…」

赤YO「俺は変身できない…ま、まさか…」

猫又「クククク…ようやく取り憑けるゼ…!」

猫又は大口を開け、長い舌を赤ヨッシーに向けて伸ばす。

赤YO「や、やめろっ…来るなっ!うわあああああああ!!」

530ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:21:08 ID:McfE2eQc00


ドゴォ!!


猫又「く……効いた………ゼ……」

バタッ…

猫又は赤ヨッシーの蹴りをくらい、倒れた。

赤YO「…あれ…?…よわ…」

ガラガラッ!

ねこ「ぶじですか!!?」

そこにねこが駆けつける。

赤YO「あ、うん…」

ねこ「あれ?猫又くん倒れてる…」

赤YO「えっと…襲われたから咄嗟に蹴ったら、普通に勝っちゃった…」

ねこ「な、なるほど…」

ジュワァァ…

ねこ「ウワッ!?」

猫又の体から蒸気が噴き出した。

赤YO「なんだ!?」

するとその体が変化していき、猫又は水色のヨッシーとなった。

ねこ「ヨッシー!?」

赤YO「こ、これが猫又の正体…!?」

531ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:21:52 ID:McfE2eQc00

ねこ「ボクたちと同じですね…変身する時にピカーンって光らないから、原理が違うかもしれないですけど」

赤YO「まあ妖怪だからな…化けるのもありうる話だ…しかしコイツを野放しにはしておけないな。捕まえておこう」

ねこ「妖怪なんて捕まえられるんですかね」

赤YO「フッ。ずっとねこの姿でいるもんだから、俺たちヨッシーにはこの能力があるってことを忘れちゃったのか?」

ぺろんっ

赤ヨッシーは倒れている妖怪を丸呑みにした。

すぽんっ

と次の瞬間にはタマゴを産んだ。

ねこ「おお、その手がありましたか!」

赤YO「これでヤツはタマゴに封じ込めた!でも中で暴れられたらすぐ割れてしまうから、今のうちにこのタマゴを頑丈な箱に入れよう」

ねこ「箱なんてどこにあるんですか?」

赤YO「実はこんなこともあろうかと、旅の途中で買っておいたんだ」

赤ヨッシーは木箱を取り出して、タマゴを入れた。

赤YO「よし!」

532ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:22:13 ID:McfE2eQc00

ねこ「おお…一人で全部やっちゃった…ボク駆けつける必要なかったですね」

赤YO「はは、そりゃ結果論さ。来てくれてありがとう。妖怪が思ったより弱かったから良かったけど、強かったらヤバかった」

ねこ「まあそうですね。無事で何よりです。それで、その箱はどうするんですか?」

赤YO「うーん…ここに置きっぱなしにするのも怖いし、一旦うちに持って帰るよ。そんでお祓いとかできる神社に引き渡す」

ねこ「そんなの、この村にはないですよね」

赤YO「ああ。実は旅の途中で立ち寄った神社があるんだ。そこに頼もうかと思う」

ねこ「そうですか。アテがあるなら良かったです」

赤YO「それじゃあもう暗いし、今日はお別れだ。妹も待ってるだろうしな…」

ねこ「はい、また今度。旅の話も聞きたいですし」

赤YO「そうだな。メシでも食いながらゆっくり話そう。またな」

そして二人は別れた。

533ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:23:00 ID:McfE2eQc00



赤YO「ただいま」

妹「おかえりお兄ちゃぁぁん!!」

ムギュウウウウ!!

赤ヨッシーが帰宅するやいなや、小さな仔ヨッシーが全力で抱きついてきた。

赤YO「ぐえっ!ちょ、苦しいって!」

妹「あっ、ごめんね?だって、ちょっと買い物行くだけって言ってたのに、あんまりにも遅いから心配で…!」

赤YO「すまんすまん…いろいろあってな」

妹「ん?何その箱…」

赤YO「これはえーと、その…ヤバい箱だ。絶対に開けちゃダメ系のヤツ…」

妹「何それ…なんでそんなの買ってきたの?」

赤YO「いや別にコレ買いに行ったわけじゃないぞ!?買い物はこっち!」

赤ヨッシーは買い物袋に入ったアイスを見せた。

妹「あ!アイス!あたしの好きなやつだ!」

赤YO「うん。でもちょっと時間経ってるから溶けてるかも」

妹「冷凍庫に入れとけば固まるよ。あとで一緒に食べよ!」

赤YO「…え?なんで?」

妹「へ?」

534ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:24:04 ID:McfE2eQc00

赤YO「俺の金で買ったんだぞ。おまえにやるわけないじゃん」

妹「えぇっ!?」

赤YO「それより夜ごはん食べようぜ。腹へったー」

妹「え…あ…うん…ママー、ごはんー」

ママ「はいはい、できてますよ」

食卓にはたくさんの料理が並んでいた。

妹「わ、美味しそう!」

赤YO「ちょっと多過ぎじゃないか?もったいない…」

ママ「ふふ、あなたが帰ってきたから、ママちょっと頑張っちゃいました」

赤YO「頑張っちゃいましたじゃないよ!量が多いと洗い物も増えるんだぞ !水道代もかかるし時間もかかるし、良いことないだろ!」

ママ「えっ…ごめんなさい…」

赤YO「まったく…あ!何してるんだ!?テレビつけっぱじゃないか!見てないなら消しとけよ!もったいな!げっ、クーラーもつけてんのか!?ダメダメ!窓開けりゃ涼しいでしょ!」

ピッ!

赤ヨッシーは速攻でリモコンを取り、テレビとクーラーを消した。

ママ「……」

535ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:25:08 ID:McfE2eQc00

妹「…お、お兄ちゃん…なんか変だよ…?」

赤YO「何が?」

妹「なんでそんなイライラしてるの?あたしのお兄ちゃんはもっとカッコいいはずだよ…」

赤YO「そうか…?…まあ、そうか…悪かったよ。それじゃ早く食べよう。冷めちゃうともっともったいないしな」

妹「う、うん…」

ガチャ

パパ「ただいまー」

そこへ村の外に出張していた父が帰ってきた。

父はヨッシー族ではなく普通の人間である。

ママ「あら、おかえりなさい」

妹「パパおかえりー!」

パパ「元気してたかー?てか、あの玄関にあったデカい箱なんだよ…おっ?今日の晩メシは豪華だなぁ!」

ママ「何言ってるの。これは子供達のために作ったのよ」

パパ「えっ」

ママ「あなたお金持ってるんだから自分で買ってきたらいいじゃない」

パパ「ええっ?すごい疲れて帰ってきたんだけどなぁ…それに毎月のお小遣いじゃ晩メシ分までは足りないよ…」

ママ「稼ぎが大した事ないのが悪いんじゃない。節約しなさい」

パパ「ど、どうしたの急に…俺なんかしたかな…」

妹「ママもおかしくなっちゃった…喧嘩はやめてよぉ…」

妹は涙目で両親に訴える。

536ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:26:18 ID:McfE2eQc00

赤YO「ほっとけほっとけ。夫婦喧嘩なんてよくあることだ。相手するだけ時間の無駄だ」

妹「そ、そんな…」

赤ヨッシーは両親を無視してバクバクとご飯を食べ進める。

パパ「……おい!何を呑気に食ってんだ!?」

赤YO「は?」

パパ「稼いだのは俺だぞ!お前が旅に出る時にも金出してやっただろ!誰の金だと思ってる!?」

父は赤ヨッシーの胸ぐらを掴む。

妹「ちょっと…パパまで…!やめてよみんな…!」

赤YO「うるさい!!」

ドガッ!!

赤ヨッシーは父の手を振り払い、蹴り飛ばした。

パパ「うぐぅ…っ!」

妹「パパ!」

赤YO「いつまで父親ヅラしてるんだか…」

パパ「な、なんだと!?」

赤YO「村の外に出てみて分かったが、俺たちファイターは一人でもいくらでも稼げるんだ。そういう運命の元に生まれてきた選ばれし者なんだよ。ただの人間が逆らうな!」

妹「お、お兄ちゃん!?」

ママ「な、なんてこと言うの!それだけは言っちゃダメでしょ!」

赤YO「もういい、分かったよ。だったらこんな家出ていってやるさ!元々近いうちに外で一人暮らしするつもりだったしちょうどいい!!」

パパ「おぅ出てけ出てけ!!そんなにイヤなら勝手にしたらいいさ!養う相手が一人減ってくれりゃこっちとしても大助かりだよ!!」

妹「二人とも落ち着いてよ!」

二人「うるさいっ!!お前は関係ないだろ!!」

妹「う…うわあああん!!」

妹は泣きながら、走ってリビングを出た。

537ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:27:06 ID:McfE2eQc00


妹「ぐすん…何が起きてるの…?お兄ちゃんがあんなこと言うはずない…!パパもママも変…!何が…」

その時、妹の視界にあるものが映る。

妹「この箱…!ヤバい箱とか言ってたヤツだ…!怪しい…!怪しすぎる…!」

ガタガタ…

妹「わっ!?動いた!?」

???「ククク…いいゾ…!ようやく力が集まってきた…!今の俺ならこんな箱…」

妹「何!?こわっ!!喋った!?」

???「あん?誰か近くにいやがったのか。まあいい。この家の住人はあの変なパワーは持ってねえからな。俺の邪念で狂えっ!」

すると箱の中から青白いオーラのようなものが溢れ出し、妹の体に迫ってきた。

妹「邪念!?何!?やっぱコレが原因でみんなおかしくなっちゃったわけ!?」

???「ククク、その通り…!!お前の兄貴はこんな箱で俺を捕らえた気になっているようだが…妖怪であるこの俺には関係ないんだゼ…!!」

妹「よ、妖怪…!?」

妖怪「そうさ、俺の真の名は"貧乏性の妖怪"!!近付くもの全てを、極度の貧乏性に変える!!」

バキバキバキバキ…!

妖怪は箱を破壊し、妹の前にその姿を現した。

妹「ひっ…!」

妖怪「クク…安心しろ…お前もすぐ、家族と同じになるゼ…!!」

538ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:27:35 ID:McfE2eQc00

妹「いやあああああ!!」

ぴょんっ!

妹は恐怖のあまり跳び上がる。


ドゴンッ!!!


そしてそのままヒップドロップをかました。

妖怪「ぐあああっ!!」

妖怪は吹っ飛ばされ、壁に激突。

そしてうつ伏せに倒れ、動かなくなった。

妹「あ、あれ…?弱い……これでお兄ちゃんたちも元に戻るかな…?」

妖怪「…ざ…残念だったな…」

妹「ぎゃあっ!!まだ生きてた!!」

妖怪「…ククク…たとえ俺が死んでも、俺の邪念は残り続ける…もはや貧乏性から逃れる術はないのさ…!」

妹「はあ!?ふざけんなっ!」

ドガッ!!

這いつくばる妖怪を、妹は蹴り飛ばす。

ブワワワッ…

すると妖怪の体は霧のように消えていく。

妖怪「クク…心残りがあるとすれば、お前を貧乏性にできなかったことだな…変なパワーに守られていなくとも、俺の力が及ぶには個人差がある…肉体的、精神的強さによって、貧乏性になりづらいヤツもいる…あと少しだったんだがな…」

妹「うるさいうるさい!!そんなのどうでもいい!!どうやったらみんなを元に戻せるの!?」

妹は霧散していく妖怪を両手で振り払いながら言う。

妖怪「さあな…ククク…この世に貧乏性ある限り…貧乏性の妖怪もまた不滅……さらばだ……またいずれ、俺が生まれるその時までな…」

妹「二度と見たくないっての!!!」

そして妖怪は完全に消滅した。

妹はすぐに家族の元へ戻ったが、そこに元の暖かな家族の姿は無かった。

539ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:28:25 ID:McfE2eQc00




数日後。

イノシシ「聞いた?あのヨッシー一家の夫婦、離婚したらしいわよ」

シカ「聞いた聞いた!怖いわねぇ。あんなに仲良さそうな家族だったのに…裏じゃ冷え切ってたなんて」

ウサギ「お兄ちゃんの方も、一人で村の外に出ていったんだってね。妹ちゃんがかわいそうだわ」

イノシシ「そうそう、両親二人とも養育費がもったいないとかなんとか言って雲隠れしちゃって、今は親戚の家にいるらしいわよ」

シカ「ひどい話ねぇ…」

ねこ「…」

ねこはその井戸端会議を通りすがりに聞いてしまった。

ねこ(…もしかしてあの妖怪のせい…?ぼくが猫又くんとトモダチになったせいで…?)

ねこはショックを受け、頭を抱える。

ねこ(何が幸運の招きねこだ…最悪だ…結局人生はプラマイゼロなんだ…ちょっとうまくいったからって、舞い上がって…ばかみたいだ…)

540ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:28:51 ID:McfE2eQc00

妹「ねこ兄ちゃん」

ねこ「にゃっ!?」

赤ヨッシーの妹が、ねこの後ろに立っていた。

妹「…えっと…ひさしぶり」

ねこ「あ…はい…」

妹「あたし知ってるの…ねこ兄ちゃん、実はけっこう強いって」

ねこ「えっ?」

妹「前に、お兄ちゃんに聞いたの…ねこ兄ちゃんと一回だけケンカしたことがあるって。まったく歯が立たなかったって…」

ねこ「それは…」

妹「お願いねこ兄ちゃん……あたしを強くしてほしいの…!」

ねこ「え…」

妹「お兄ちゃんも、パパもママも…みんないなくなっちゃった……だけどあたしは諦めてないから…!またお兄ちゃんたちと一緒に暮らしたい…!だから強くなって、みんなを探す旅に出るの!」

ねこ「妹ちゃん……わ、わかりました。ちゃんと強くできるかわかりませんが…ぼくが手伝えることがあるなら、なんでもやってやりますよ!」

妹「ありがとう!ねこ兄ちゃん!」

ねこは自分が原因で赤ヨッシーたちが狂ってしまったという責任から、その頼みを受け入れたのだった。

541ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/05(水) 22:40:17 ID:yDS1EqCY00





フォックスの村。

ギル「はぁ!?芸人になる!?」

ナザ「おう!だから任務はお前らに任せる。ガキどものこと、よろしく頼んだぜギル姐!」

ギル「ちょ、ちょっと待っ…」

ドドン「ぷっ、ハハハハ!!いいんじゃないか?体張った芸じゃ右に出る奴いないだろ!」

ポルス「ハハハハ!!そうだな!いつも崖に突っ込むしな!」

ギル「あんたたちねぇ…!」

アルバロ「フン、ふざけるな。突然我々を集めて何かと思えば…自分が何を言っているか分かっておるのか?」

ナザ「当たり前だ」

アルバロ「何?」

542ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/05(水) 22:41:09 ID:yDS1EqCY00

ナザ「もう随分前から決めてたことだ。治安の悪い地区や紛争地帯に行くたびに、思ってた。笑顔を失ったガキども…娯楽なんて何も知らねえようなガキどもが、この世界にゃいっぱいいるんだ。そいつらに笑顔を届けてえんだよ、俺は」

ギル「じゃあなんで今更…」

ナザ「今のお前らになら全部任せられると思っただけだ。天才のヤツももう任務に出始めてるし、あと五年もすりゃアイツは間違いなくフォックス全員を引っ張っていく存在になる」

ギル「待ってよ、だったらその五年経つまでは…」

アルバロ「フン、良かろう」

ギル「えっ…ちょっとアルバロ何言ってるの!?」

アルバロ「ナザレンコ、貴様はこれまでよく戦った。そろそろ休んでもバチは当たらん。そうだろ?ギルティース」

ギル「……!」

ギルティースはこれまでのナザレンコの働きを思い出し。

ギル「……そうね…」

ため息を吐きながらも、頷く。

ナザ「アルバロ…!ギル姐…!サンキューな!」

アルバロ「だが勘違いするなよ。完全に除隊するわけではない。後進も確かに育ってきているとは言え、いつか貴様の力が必要になる時が来るだろう。鍛錬は怠るな」

ナザ「へっ、当然だ。ドドンの言った通り、俺にゃあ体張った芸しかできねえからな。鍛錬続けなきゃ体がもたねえよ」

こうして、のちに伝説的コメディアンとなるナザレンコは、芸能界へと足を踏み入れた。

543ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:51:39 ID:DwKJmZMQ00





遠い星。

魔物「ギャオオオオオ!!」

人々「きゃあああ!!」

巨大な魔物が市街地に突如現れ、人々を襲い始めた。

ピロピロピロピロ…

シュタッ

エースパパ「エースパパ参上っ!」

ワープスターで駆け付けたのは黄色カービィだ。

エース「エースも参上っ!」

その後ろに息子のエースも乗っていた。

エースパパ「エース、緊張しているか?」

エース「ダ、ダイジョーブだよ…」

ブルブルと震えながらエースは言う。

エースパパ「フッ…初のミッションだ。怖くたって無理もないさ。でも大丈夫!厳しい修行を乗り越えてきた自分を信じるんだ!お前なら勝てる!」

エース「う、うん、パパ!」

544ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:52:17 ID:DwKJmZMQ00



それから数十分の戦闘を繰り広げ、二人は魔物を倒した。

エース「はぁ…はぁ…やったねパパ…!」

エースパパ「ああ、素晴らしい動きだったぞ!さすが俺の息子!」

ガシッ!

二人は熱く抱き合う。

アメリ「あーん!間に合わなかった!」

エースパパ「!!」

アメリーナがそこに駆け付けた。

エース「誰?」

エースパパ「君は確かアルザークと共にいた…」

アメリ「暗黒のアメリーナだよ!そういうあなたは誰だっけ?」

エースパパ「ここにいるエースのパパだ」

アメリ「わかんない」

エースパパ「数年前にほんの少し話しただけだからな。覚えてなくて当然だ。それで、何をしてるんだ?アメリーナ」

545ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:54:04 ID:DwKJmZMQ00

アメリ「魔物が出てきたの感じたから、助けに来たの!」

エース「同業者ってこと?」

エースパパ「いや…たぶん彼女はそういうのじゃない」

アメリ「そ!私が助けに来たのはこの星の人たちじゃなくて、魔物のほうだよ」

エース「魔物を!?敵なの!?」

エースパパ「やはりか…」

アメリ「んー、でも今日は戦う必要ないかな…間に合わなかった私が悪いし。ホントはブッ飛ばしてやりたいんだけどねー」

エース「こわっ!?」

エースパパ「魔物を助けると言うが、一体どうやって?あんな巨大なもの捕まえるのは不可能だし、魔界へ帰すにしても、君は魔力を失っていてゲートを開けないんだろう?アルザークから聞いている」

アメリ「そこなんだよね。ちっちゃい子ならなんとか運べるんだけど、おっきい子はホント大変。どうするのがいいと思う?」

エースパパ「さあな。しかしその口振りだと小型の魔物は捕まえているようだな。その魔物たちはどうしているんだ?」

アメリ「聞いちゃう?フフッ、誰もいない星に連れて行くの!いい感じの星見つけてさ!」

エースパパ「なるほど…それはどこだ?」

アメリ「いやいや言うわけないでしょ!」

エースパパ「…いや…自分の同胞を傷付けられて、怒る君の気持ちも分かるよ」

アメリ「はぁ?」

エースパパ「俺もずっと考えていた。かつて君と会ったあの日から、ずっとな。殺さずに済む方法があるなら、それに越したことはない」

546ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:55:15 ID:DwKJmZMQ00

アメリ「…えっと…それってつまり、協力してくれるってこと?」

エースパパ「ああ。もちろんその星が本当に安全かどうか確かめてからだがな。もしその星から魔物たちが飛びたち、宇宙に解き放たれるようなことがあったら大変だろう」

アメリ「それは大丈夫だと思うよ。飛べる魔物はあんまりいないし、もし星を出たとしても宇宙空間じゃさすがに生きてけないよ」

エースパパ「そう言われても現地を見ないことにはな…それにどうせ協力するなら場所は知っておかなきゃならない」

アメリ「…私だって二つ返事で信用するほどバカじゃないよ」

エースパパ「だろうな。そこで俺の息子を君に差し出したい」

エース「え?」

アメリ「どういうこと?」

エースパパ「この世で一番大切な、俺の宝物だ。その命を君の手に預ける。万が一、俺が君を裏切るようなことをしたならば、煮るなり焼くなり好きにしていい」

エース「えぇ!?」

アメリ「なんでそこまで…」

エースパパ「絶対に裏切らないという自信があるからだ。エースも安心しろ。俺が一度でもウソをついたことがあったか?」

エース「た、たぶんない…」

アメリ「んー…やっぱダメ!ついさっき魔物をその手で殺した人のことなんて信用できない!」

エースパパ「そうか…残念だ」

アメリ「魔物を倒すのやめてくれたら信用してあげるよ。魔物と戦うことになっても、私が駆けつけるまで抑えてくれれば、私が魔物の星に連れていく」

エースパパ「言っただろ。その星の安全性が確認できなければ、君の行為を認めることはできない。今のままでは君はただの、ミッションを阻害する敵でしかないんだ」

アメリ「…はぁ、しょうがないねー…あなたを生かしておいても魔物たちが殺されるばかり…だったら、やっぱりここで再起不能にしとこ!」

エースパパ「!!」

547ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:56:25 ID:DwKJmZMQ00


ドガァッ!!!!


二人の攻撃がぶつかり合う。

エースパパ「まったく…急に仕掛けてくるな、気分屋め…!」

エース「パパ!」

エースパパ「エースは下がっていろ!お前はまだこの戦いにはついてこれない!」

アメリ「フフ、私に勝てるつもり?別に二人がかりでもいいよ?」


ガガガガガッ!!!


アメリーナは次々と攻撃を仕掛け、エースパパはギリギリでそれを凌ぐ。

エースパパ「ナメるなよっ!俺はこれでも数十年、宇宙の平和を守るため戦ってきたんだっ!」

アメリ「宇宙の平和?"人間"の平和の間違いでしょ?魔族や宇宙生物は平気で殺すんだもん。他の命を軽く見ているあなたが、よくそんなこと言えるねっ」

パシュッ!

アメリーナは一瞬の隙を突いてグラップリングビームを出し、エースパパを捕縛。

エースパパ「くっ!?」

アメリ「えいっ!!」


ドゴッ!!


そしてそのまま地面に叩きつけた。

エースパパ「ぐぁっ…!」

エース「パパ!!」

アメリ「よーしもう一発っ!みんなが受けた痛みはこんなもんじゃないんだからねっ!」

ドガッ!!ドゴッ!!バゴッ!!

アメリーナはさらに何度も叩きつける。

エースパパ「くっ…強い…!ならば!」

548ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:57:27 ID:DwKJmZMQ00

ゴッ!!

エースパパは石に変身した。

アメリ「んっ!?重っ!」

アメリーナは思わずビームを解く。

ぼふっ!

エースパパはすぐに元の姿に戻ると。

エースパパ「やあっ!!」


バキッ!!


アメリーナを蹴り飛ばす。

アメリ「く…やるな〜!そういやカービィはそういう変なワザ使えるんだったね…!魔界にいた頃は下目使いによくやられたよ…もう!ヤなこと思い出させないでよっ!」

エースパパ「知らんがな!」

アメリ「でもいいもーん!下目使いみたいな化け物、こっちにはいないもん!」


ズドドドド!!!


アメリーナは再び攻めに転じ、エースパパを追い込む。

エースパパ「ぐぅっ…」

そしてうずくまったところへ。

549ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:59:10 ID:DwKJmZMQ00


アメリーナ「これで終わりっ!!」


ドウッ!!!!


最大チャージショットを放った。

エースパパ「ぐぁぁぁっ!!」

エース「パパーーっ!!」

エースパパは吹っ飛ばされ、さながらピンボールのように建物にぶつかりまくって、倒れた。

アメリ「それだけボロボロならもう戦えないでしょ。んじゃっ!」

アメリーナは嬉しそうに手を振り、去っていく。

エース「ま、待て!僕が相手だっ!」

アメリ「やだよめんどくさい!死んではないと思うから早くパパを助けてあげたら?」

アメリーナは自分の宇宙船に乗り、宇宙へと飛び立った。

エース「パパ…!そんな…パパが負けるなんて…!」

550ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 21:00:18 ID:DwKJmZMQ00



数時間後。

エースパパ「う…」

エース「パパ!」

エースパパ「…そうか…俺は彼女に負けたのか…すまんエース、心配かけたな…」

エース「お医者さんが言うには、全身ボロボロで戦闘なんてもってのほかで、しばらく絶対安静だって…」

エースパパ「そうだろうな…体が動かん。エース…今こそ…ワープスターをお前に託す」

エース「えっ!?」

エースパパ「今のお前になら、俺の後を任せられる。この宇宙を頼んだぞ…」

エース「ま、待ってよ!まだ心の準備が…」

エースパパ「フッ、甘えるなエース。パパのような戦士になりたいと昔から言ってたじゃないか」

エース「……分かった…!僕が宇宙の平和を守る…!」

エースは父に心配をかけまいと、震える声で言う。

エースパパ「フッ…よく言った。俺の端末を調べろ。知り合いの連絡先もたくさん入っているから、遠慮せず頼るといい」

エース「分かったよパパ…あとは僕に任せて、安心して眠ってて」

エースパパ「ああ…頼もしいな、息子よ…」

エースパパは安心した顔で眠りについた。

エース「…行こう…」

エースはすでに父の端末の中に入っていたとある情報を見つけ、動いていた。

551ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 21:01:58 ID:DwKJmZMQ00


病院を出ると。

キィィィィン…

ゴゴゴゴゴ…

ガシン…

そこへスターシップが着陸した。

㍍「貴方がエースさんですわね。お父上の面影がありますわ」

エース「アルザークさんですか?」

㍍「ええ。貴方のお父上の容体は?」

エース「…」

エースは無言で首を横に振る。

㍍「そうですか。アメリーナがそこまでやるとは…」

エース「パパがあの人と戦った時に、発信機をつけてたみたいです。これが位置情報です」

エースは端末の画面をアルザークに見せる。

㍍「さすが、抜け目ないですわね」

エース「これからは僕がパパの代わりになります…!だからどうか力を貸してください!」

㍍「勿論。その為に来たのですから」

エース「ありがとうございます…!」

552ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:17:17 ID:9sxXl.c.00




数週間後。

アメリ「はい、ここが君たちの新しいおうちだよー!」

ガコン!

アメリーナは宇宙船の中から檻を下ろし、その中に捕らえていた魔物たちを解き放った。

アメリ「フフフッ、みんなはしゃいじゃって。やっぱり自由っていいよね!私もこの世界に来てホントよかったー!」

魔物「グギャォォォ!!」

アメリ「さてとっ、次はどの星に行こうかなー」

アメリーナは宇宙のガイドブックを眺める。

アメリ「あ、そうだ!久しぶりにあの星に戻ってみるのもいいかも!あのヒゲオヤジもさすがにもう私のことなんて眼中にないだろうし…地上に来てすぐ宇宙に出たから、あの星は全然見て回れなかったもんなー」

ぱたん

アメリーナはガイドブックを閉じると、操縦席に乗り込む。

アメリ「それじゃ早速しゅっぱーつ!!」

ゴゴゴゴゴ…

ビューーーン!!

アメリーナの宇宙船は宇宙の彼方へと飛んでいった。

553ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:18:07 ID:9sxXl.c.00



そして数時間後。

魔物「グォォォォ!!」

魔物たちが上空を見上げて吠え始める。

ピロピロピロピロ… シュタッ

そこに、ワープスターに乗ったエースが現れたのだ。

エース「ここか…確かに魔物がたくさんいるな…」

ゴゴゴゴ… ガシィン…

続いてスターシップが着陸。

㍍「なるほど…連盟からの報告にあった魔物もいますわ。ここ数ヶ月の間、出現した魔物が行方を眩ませていたのは、やはり貴女の仕業でしたのね、アメリーナ」

魔物「グオオ…!」

あっという間に二人は魔物の群れに囲まれた。

エース「…本当にやるんですか?」

㍍「ええ。この数の魔物を放置はできませんわ」

エース「留守を狙って攻撃なんて、なんか卑怯な気もするけど…」

㍍「平和の為ですわ」


ドドドドドドドドドド…!!


アルザークは、アームキャノンで次々と魔物を焼き払っていく。

魔物「ギャァァァ!!」

エース「はあっ!」

バキッ!!ドガッ!!

エースも負けじと魔物を粉砕していく。

554ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:18:51 ID:9sxXl.c.00



さらに数十分後。

いよいよ魔物の数は残り十体を切った。

エース「はぁ…はぁ…よし、あと少しだ…!」

㍍「ええ。見える範囲には、ですがね。ここを片付けたら、すぐに星を周回して生き残りを探しますわよ」

エース「は、はーい…」

すると。


魔物「グオオオオオオオオ!!」


エース「な、何!?」

突如、残った魔物たちが一斉に雄叫びを上げた。

そして一箇所に集まり始める。

㍍「これは…一体…!」


グチュッ…

ベキョッ…


魔物たちは密集し、互いを押し潰す。

そして飛び散った緑色の血液が、魔物たちを包んでいく。

555ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:19:31 ID:9sxXl.c.00

エース「なんなの!?同族が討伐されて変になっちゃったの!?」

㍍「…いや…これは…!エネルギー反応があの一点に集まって…どんどん膨れ上がっていますわ…!何かが起ころうとしています…その前に…消し飛ばしますわっ!!」


ドウッ!!!!


アルザークはその中心に向かって、チャージショットを放った。

が、そのエネルギーは血溜まりの中に吸い込まれていく。

エース「吸収した!?」

㍍「く…今の状態では攻撃を受け付けないようですわね…エースさん、一旦離れますわよ」

エース「は、はい!」

二人はその血溜まりから距離を取り、様子を伺う。

するとその血液が固まり。

エース「タ…タマゴ…?」

その姿は大きなタマゴのように変化した。

そして。


ピキッ!

バキキッ!


㍍「何かが生まれる…!?」

556ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:20:12 ID:9sxXl.c.00


バゴォォン!!


タマゴが内側から勢いよく破壊され。


怪物「ギャオオオオオオオッ!!!!」


十数メートルはあろうかという巨大な怪物が、産声を上げた。

エース「うぐううっ…!」

㍍「く…!なんという音圧…!」

二人は咄嗟に耳を塞ぐ。

怪物「ギャオオオオオ!!」


ブワッ!!!!


怪物は八本の長い腕を振り回す。

エース「うわぁっ!」

エースはその風圧により吹っ飛ばされる。

㍍「エースさん!」


ビュワッ!


アルザークはグラップリングビームを出し、エースを引き戻した。

エース「あ、ありがとうございます。でもあんなのどうすれば…」

㍍「大丈夫ですわ。確かに見た目やパワーだけを見れば恐ろしいですが…あの程度の数の魔物が融合したところで、わたくしたち二人を超えるほどの強さになったとは思えませんもの。お父上によく言われていたのでしょう?自分の力を信じるのですわ」

エース「は、はい!」

557ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:20:47 ID:9sxXl.c.00

怪物「ギャオオオ!!」


ドガガガガガガッ!!!


怪物は腕を次々と振り下ろし、二人を潰しにかかる。

二人はそれを素早くかわし、懐に潜り込み。


ギュルルルルルルッ!


アルザークはスクリューアタックによって怪物にダメージを貯める。

エース「とおっ!!」


ドガッ!!


エースは右脚を蹴り飛ばし。

怪物「ギャオォォッ!」

ドシャァァン!!

怪物はバランスを崩して倒れた。

㍍「今ですわ!」

エース「はい!」


ドガガガガッ!!


その隙に二人は一気に技を叩き込む。

558ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:21:32 ID:9sxXl.c.00

アメリ「こらーーっ!!」

エース「!!」

そこへアメリーナの乗る宇宙船が猛スピードで戻ってきた。

㍍「アメリーナ…!勘付かれましたか…」

アメリーナは宇宙船の上に立ち、アームキャノンを構える。


ドウッ!!!


上空から放たれたチャージショットを二人はかわす。

エース「暗黒のアメリーナ…!パパの仇っ!」

アメリ「殺してないわー!!」

アメリーナは宇宙船から飛び降り、その勢いのままエースに向かって蹴りを繰り出す。


ドガァッ!!!


エースも応戦し、両者の蹴りがぶつかり合う。

ズザザザザ…

エースは一方的に弾き飛ばされる。

エース「ぐぅっ…!強い…!」

アメリ「ってあれ!?よく見たらアルザークさんじゃん!ひさしぶりっ!元気してたー!?」

㍍「ええ。お久しぶりですわ、アメリーナ」

アメリ「そっかぁ…あの時言った通りになっちゃったんだね。覚悟はしてたけどさ」

㍍「そうですわね。次会う時は敵同士…わたくしはずっと…この日を、楽しみにしていましたわ」

アルザークはニヤリと笑った。

頭部装甲で表情は隠れているものの、アメリーナもその声の高揚を感じ取り。

アメリ「ははっ!いいね!そう来なくっちゃ!!」

559ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:22:36 ID:9sxXl.c.00


ダンッ!!


二人は同時に飛びかかり。


ドガンッ!!!!


アームキャノンによる打撃がぶつかり合った。

ドギャギャギャギャギャ!!!

二人は途轍もない攻防を繰り広げる。

エース「す…すごい…とてもこの戦いには入れない…」

怪物「ギャオオオオオッ!!」

エース「うわっ!コイツもいたんだった!」


ブォンッ!!!!


怪物は立ち上がり、エースたちを尻尾で薙ぎ払う。

三人はジャンプでかわす。

エース「あ、危なかった…!」

㍍「もう一発来ますわ!」


ブォンッ!!

ブォンッ!!


怪物は何度も尻尾を振り回す。

アメリ「あははっ!なんかこれっ!縄跳びみたいでおもしろっ!」

㍍「しかしこれでは戦えませんわよ?」

アメリ「はっ!しまった!どうする!?」

㍍「こうしましょうか」

アメリ「!!」


ブンッッ!!


アルザークはアメリーナをグラップリングビームで捕らえ、後ろに投げ飛ばした。

560ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:23:30 ID:9sxXl.c.00

㍍「エースさん、そちらの魔物は任せますわ」

エース「ええっ!?これ僕一人でやるの!?」

㍍「貴方のお父上なら文句は言いませんわよ」

エース「…!わ、わかりましたよっ!人使い荒いな…」

㍍「フフ…大丈夫、幸運の女神はきっと貴方に微笑みますわ」

アルザークはそう言うと、投げ飛ばしたアメリーナを追いかけていった。

エース「女神って…まったく…どうしろって言うんだ…」

怪物「ギャオオオオオオオッ!!!!」

エース「うるさいってば!耳がキンキンしてつらい!」


ドガァッ!!


怪物の振り下ろす腕をなんとかかわし、エースはその腕に乗る。

タタタタタタタ…

そしてその腕を駆け上った。

エース「えいっ!!」


ズバッ!!


そして巨大なカッターを出し、顔面を斬りつけた。

怪物「グギャァァァァ!!」

エース「どわっ!」

ガシッ!

怪物は肩に乗ったエースを掴み。


グシャッ!!!


そのまま地面に叩きつけ、押し潰した。

561ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:24:17 ID:9sxXl.c.00


ドドドドドドドドドド!!!!


さらに八本の腕で何度も追撃する。

怪物「グオオオオオオオオ!!」

完全に手応えがなくなると怪物は攻撃をやめ、勝利の雄叫びを上げる。

エース「…あ、危なかったー…マジで死ぬかと思った」

怪物「グァ!?」

エースは押しつぶされる直前にストーン化し、なんとか耐えていた。

エース「ふぅ……耐えたはいいけど…僕のファイナルカッターもそんなに効いてなさそうだ…どうしよ…」


チュドドドドドドドド!!


怪物「グギャアアアア!!」

突如、上空から大量の光線弾が怪物に降り注いだ。

エース「な、何!?」

そこには一機のアーウィンが飛んでいた。

ギル「待たせたわね!」

エース「誰!?」

ギル「幻のギルティースMk Ⅱよ!アルザークさんに呼ばれて応援に来たわ!」

エース「あ、ありがとうございます!幻のギルティース…なんか聞いたことある…!」

ギル「たぶんそのギルティースはうちの姉さんのことね。私の名前はまだそんなに知られてないと思うから」

怪物「グオオオオオオオオ!!」

ギル「あら、まだ元気ね…それじゃ私は上空から攻めるわ!エースくんはそいつの足元を狙って!」

エース「はい!」

562ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:32:02 ID:9sxXl.c.00



一方、アルザークとアメリーナは。


ドォン!!

ドガガガ!!

ズドォ!!


激しい戦いを繰り広げていた。

㍍「ふぅ…やりますわね」

アメリ「へへ、アルザークさんこそ!」

㍍「貴女がもしまだ魔力を持っていたらと思うと恐ろしいですわ」

アメリ「それはどうかなー?魔力を使えば確かにパワーは上がるけど、それだけだよ。魔力操作が上手いヤミノツルギなんかは戦いの最中にも魔力で小細工したりしてたけどね。私、こっちに来てからめちゃくちゃ強くなったんだよ。アルザークさんの戦い方を真似したりしてね」

㍍「あら、それは一人の戦士として嬉しいですわね」

二人は技を打ち合いながら対話する。

アメリ「でも、だからこそ悲しいよ。尊敬してるアルザークさんがこんなことするなんてね」

㍍「貴女がいない隙に魔物を討伐したことですか?確かに、少々卑怯なやり方であるのは否めませんが、確実にミッションをこなすには仕方のないことですわ。貴女に邪魔されながらでは難しいでしょうから」

アメリ「そもそも魔物を討伐したことに怒ってんの!!」

㍍「当然でしょう。人を襲う魔物など、生かしておくのは危険ですわ」

アメリ「見ればわかるでしょ!?この星には魔物しかいないよ!」

㍍「魔物がこの星を出る可能性もありますわ」

アメリ「ないよ!前にカービィの人にも言ったけど、飛べる魔物はいないし、宇宙空間じゃ生きられない!」

㍍「進化する可能性は?先ほどの魔物のように、融合して姿を変えるものもいますし、宇宙空間に適応する種が現れてもおかしくはありません。可能性が少しでもあるならば、殲滅すべきなのですわ」

アメリ「そんなの人のエゴだよ!人を襲う動物がいたら、その種を全部狩り尽くすの?人を殺す人がいたら、人を滅ぼすの!?そうじゃないでしょ!?この星にいる子たちは、現状何もしてないのに…!」

㍍「誰よりも自由を求める貴女が、エゴを否定するのですね。まあ…それはその通りですわよ。エゴです。それが何か?」

アメリ「はあ!?」

563ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:33:21 ID:9sxXl.c.00

㍍「ただ一つ、魔物を殲滅する理由を述べるとするなら…この宇宙に存在しない、外来種だと言うことですわ。放置すれば生態系にどんな影響をもたらすか分からない」

アメリ「そんなの私だって一緒だよ!」

㍍「そうですわよ。本来なら貴女が魔界から来たことを打ち明けてくれたあの日に、わたくしは貴女を殺すべきでしたわ」

アメリ「!」

㍍「ですが同じサムス族であり、旅を共にした貴女には、わたくしも少なからず情が移っていましたから…そんなことはできなかった。しかし今、こうして貴女はわたくしの前に立ちはだかっている」

アメリ「…はは…そっか。そうだよね。アルザークさんはそういう人だった。まいいや!ごちゃごちゃ言い合ってもしょうがない!」

㍍「その通り。勝った方が自由を手にする。単純な話ですわ」


ドォォォッ!!!!


二人のチャージショットがぶつかり、打ち消し合う。

アメリ「シンプルイズ…ベストー!!」

アメリーナは掛け声とともに攻撃を仕掛ける。


ギュルルルルッ!!


アルザークはそこにスクリューアタックを合わせて弾き返す。

アメリ「うぐっ」

さらにアメリーナの落下点に潜り込むと。


ボボボボボッ!!!


アームキャノンを上に掲げ、炎の弾を連射。

アメリ「ぐああっ!!」

アメリーナはそれによって再び宙を舞う。

564ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:34:10 ID:9sxXl.c.00

タンッ!

アルザークは跳び上がり。


バゴッ!!!


ソバットを放つ。

アメリ「かはっ!」


ドカァァン!!


アメリーナは吹っ飛ばされ、岩に激突した。

ガチャッ…

うつ伏せで倒れ込んだアメリーナの後頭部に、アルザークはアームキャノンの砲口を突きつける。

㍍「チェックメイトですわ」

アメリ「…はぁ…私の負けかぁ…やっぱ強いなぁ……いいよ。アルザークさんに殺されるなら本望」

㍍「……わたくしに…貴女を殺すことなど、できませんわ」

アメリ「え?」

ガチャンッ

アルザークはアメリーナの後ろ手に手錠を掛けた。

㍍「貴女にとっては死よりもきつい拷問かもしれませんが…敗者に選択権はありませんので」

アメリ「あ…あはは、捕まるんだ私…まあそうだよね…」

㍍「貴女がわたくしの元を離れなければ…こんなことをしなくて済んだのに…なぜわたくしの言うことを聞いてくれないんですの…?」

アメリ「……言うまでもないでしょ?」

㍍「……そうですわね…」

アルザークはアメリーナのパワードスーツを脱がすと、さらに全身に拘束具をつけて身動きを取れなくした。

そしてアメリーナを担ぎ上げ、エースたちの元へと戻った。

565ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:36:01 ID:9sxXl.c.00



エース「はぁ…はぁ…やったー!」

ギル「上手く連携できたわね!ナイスよエースくん!」

エース「ありがとうございます!」

エースたちは怪物を仕留めていた。

㍍「ギルティースMk Ⅱさん、来ていましたのね」

そこにアルザークが到着。

ギル「㍍アルザークさん!初めまして!」

二人は握手を交わす。

㍍「初対面なのに、なんだか懐かしいですわ。駆け出しの頃、貴女のお姉様とは共に何度もミッションをこなしました」

ギル「私も姉さんから話はお聞きしてます。姉さん以上の凄腕だと…当時は信じられませんでしたが…今あなたを前にしてみると、納得できますね。フフ…」

㍍「お姉様のことは残念でしたわね…」

ギル「ええ。でも姉さんが自分の正義を貫いた結果ですから」

エース「あの、もしかして僕のパパのことも知ってますか?」

ギル「ええ勿論。確か、スペードさんだったかしら?姉さんに並ぶ優秀な戦士だったと聞いたわ」

エース「そうですか!でへへ…」

ギル「あなたもなかなか強かったわよ。経験を積めば、きっとお父さんのような戦士になれるわ」

エース「へへ、ありがとうございます!」

ギル「…それで、さっきからアルザークさんが抱えてるのは…」

アメリ「暗黒のアメリーナでーす。この星に魔物を集めた犯人でーす」

いじけた態度でアメリーナが言う。

㍍「…そういうことですわ」

566ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:36:41 ID:9sxXl.c.00

ギル「どこかの収容所に連れて行くんですか?」

㍍「ええ。処分は上に任せ…!」

ドサッ…

ギルティースとエースは突然倒れた。

㍍「…お久しぶりですわね…ロハス」

その後ろには、緑フォックスがブラスターを構えて立っていた。

???「㍍アルザーク…排除する」


ズドォッ!!


㍍「ぐっ…!」

フォックスは一瞬で距離を詰めて蹴りを放ち、アルザークはガードする。

㍍「速い…!」


バゴッッ!!


次の瞬間、フォックスの蹴りがアルザークの腹部の装甲を粉砕した。

㍍「がはっ…!?」

アルザークは膝をつく。


ダンッ!!


さらなる追撃の蹴りを、ギリギリで後ろに跳んで回避する。

㍍(重い…!なんというパワー…!それにこのエネルギー反応は…かつて戦ったクローンたちとはまるで別物ですわ…!)

???「もはや㍍アルザークでは力不足だ。一対一でも相手にならん」

㍍「それはどうでしょうね…パワーとスピードだけで倒せるのなら、わたくしはこの宇宙でここまで生き延びてはいませんわ」

???「お前に言ったのではない」

㍍「…どなたかと通信を?」

???「答える義務はない」

567ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:38:47 ID:9sxXl.c.00


ブンッ!!


フォックスの蹴りを、アルザークはかわす。


チュンッ!チュンッ!


さらにブラスターによる射撃をジャンプでかわし、フォックスの頭上へ。


ガンッ!!


アームキャノンによる打撃を放つも、蹴りによって相殺された。

㍍「くっ…」

???「無駄だ。その程度の動きは全て読めている」

㍍(しかし…見たところ通信機器を使っている様子はない…まさか、昔アメリーナの言っていた"念話"を…?超小型の通信機器の可能性もありますが……もし念話だとしたら、魔力をも身につけているということ……有り得ない話ではありませんわ…)


ビュゥン


アルザークはグラップリングビームを伸ばす。

フォックスは当然のようにそれをかわす。

アメリ「ぎゃっ!?」

???「!」

グラップリングビームはフォックスの後ろに転がっていたアメリーナを捕らえた。


ドガッ!!


そのままアルザークはアメリーナをフォックスにぶつける。

アメリ「痛っ!!ちょっとアルザークさん私の扱い雑すぎない!?」

フォックスはほとんど動じずアメリーナを叩き落とすが、その一瞬の隙をアルザークは見逃さない。


ボボボボッ!!


ジャンプで距離を詰め、アームキャノンから放った火球でフォックスを焼く。


ギュルルルルッ!!


さらにスクリューアタックで追撃。


ドガッ!!!


そしてアームキャノンでその辺の大岩を破壊し。


ドガガガガッ!!


その破片をフォックスに向かって弾き飛ばした。

568ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:40:13 ID:9sxXl.c.00

???「チッ…」

フォックスは岩に埋もれる。

㍍(わたくし一人では勝てない…ここは撤退するしかありませんわね)

アルザークは倒れているエースたちを担ぎ上げると、スターシップへと走る。

㍍「くっ…アメリーナまで回収する余裕はありませんわね…!」


ゴバァッ!!


岩はあっさりと弾き飛ばされ、フォックスが起き上がる。

???「相変わらず小賢しいな。その機転は賞賛に値する…だが、無意味だ」

㍍「なっ…!」

スターシップの前に着くと、そこには数人のフォックスが立っていた。

???「逃げ場はない」

㍍「くっ…ここまで…ですか…」

エース「…ん…」

アルザークに担がれていたエースが、揺れによって目を覚ます。

㍍「エースさん!ワープを!」

エース「!!わ…ワープスターーッ!!」

???「!!」

ピロピロピロピロ…!

エースの叫びに反応し、ワープスターが高速で飛んでくる。

エース「掴まって!」

㍍「はい!」

タッ!

そしてエースはワープスターに飛び乗った。

569ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:41:13 ID:9sxXl.c.00

???「逃がすな!」

エース「ワープスター!どこか違う星へ!」


ピロピロピロピロ…!



パッ!



エースたちの乗ったワープスターは消えた。

???「チッ…ワープか…」

???「カービィのワープスターだな。一つしか現存していない筈のものだ。奴が正統後継者ということか」

???「まあいい。我々の今の戦闘能力を測ることはできた。並のファイターに遅れをとることはない。そちらはどうだ?」

フォックスたちはスターシップに視線を向ける。

???「…ここには無いようだ」

スターシップの中を調べていたフォックスが首を振る。

???「㍍アルザーク…抜け目のない奴だ」

アメリ「ふふっ、あんたら、ロハスだっけ?まだアルザークさんの追っかけやってたんだ?」

拘束されたままのアメリーナが言った。

???「暗黒のアメリーナか。数年前にアルザークと別れ、宇宙中で魔物を助けて回っている狂人…」

アメリ「誰が狂人だバカ!」

???「雑魚に興味はない。消して行くか」

カチャッ…

フォックスはブラスターをアメリーナの額に突き付ける。

アメリ「ちょっとタンマ!私、魔の一族なんだけど!」

???「…それが何だ?」

アメリ「助けてくれたら、魔力の面白い使い方、教えてあげてもいいよ」

???「……」

570ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:42:02 ID:9sxXl.c.00




ピロピロピロピロ…

ピコンッ!

エースたちの乗ったワープスターは遠い星に墜落し、粉々になって消えた。

ズシャァァァァ…!

乗っていた三人は投げ出される。

エース「いててて…無事ですか?」

㍍「ええ…助かりましたわ。ありがとうございます」

エース「それにしてもさっきの状況って…」

㍍「…目撃してしまった以上、隠しても仕方がありませんわね…あれは、わたくしを追っているクローンフォックスたちですわ」

エース「クローン…!?なんでそんなのがアルザークさんを…」

㍍「わたくしが彼らの正体を知っていることと…このキューブを持っていることが原因でしょう」

アルザークはパワードスーツの中から、小さな白い箱を取り出す。

エース「それは?」

㍍「彼らと初めて遭遇した時、彼らの乗っていた車から見つけた物ですわ。何かの記録媒体のようです。数年に渡って解析しているのですが…未だプロテクトに阻まれて、中を見ることはできていません」

エース「専門の人に依頼したりしないんですか?」

㍍「できるはずありませんわ。彼らに狙われてしまう」

エース「あ、そっか…」

571ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:42:30 ID:9sxXl.c.00

㍍「裏を返せば、それ程にこのキューブが大事だということですわ。彼らはとてつもなく危険な研究を行っています。恐らくはその研究を、さらに大きく進めてしまうようなデータが眠っている…絶対にこれを渡すわけにはいきませんわ」

エース「そんなに危険なら、壊しちゃうのは?」

㍍「勿論それも考えましたが…解析することで彼らの情報や目的がわかるかもしれません」

エース「なるほど…っていうかこれもしかして僕も狙われるのでは?」

㍍「そうですわね。キューブを持っているわたくし程ではないにしても、彼らのターゲットの一人として認識される可能性は高いでしょう」

エース「う…ちょっと怖いけど、僕にはワープスターがついてるから大丈夫です!なんとかします!」

㍍「くれぐれも戦おうなどとは考えないことですわ。彼らはすでにこの世の生物のレベルを超えています。絶対に勝ち目はありません」

エース「わ、分かりました……っていうかギルティースさん、まだ寝てる…」

㍍「ふふ、さすがフォックス族、図太いですわ。ギルティースMk Ⅱさんは彼らの顔を見ていませんから、今話したことは黙っておきましょう。強力な魔物に不意を突かれたということにしておけばいいですわ」

エース「分かりました。その設定でいきましょう」

572ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:43:04 ID:9sxXl.c.00


それから二人はギルティースを起こし、嘘の事情を説明した。

ギル「えぇ!?じゃ、じゃあ私のアーウィンもあの星に置いてきちゃったんですか!?」

㍍「そうですわ。さすがに回収する余裕はありませんでしたので」

ギル「そっかぁ…また今度とりにいかなくちゃ…」

㍍「しばらくはあの星には近づかない方がいいですわね。あの魔物は強すぎましたわ」

エース「そ、そうですね!今行ってもゼッタイゼーッタイ返り討ちにあってしまうと思います!それにもしかしたらアーウィンも食べられちゃってるかもしれません!」

㍍(嘘が下手ですわ…)

ギル「うぅー…悲しみ…」

㍍(素直ですわ…)

その後ギルティースはアルバロに迎えに来てもらい、母星へと帰った。

573ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:58:27 ID:XXSsPR7600





とある樹海の洞窟。

女リンク「たくさん食べなさい。食べて力を付けるのよ」

子「はい、母さん!」

ここではリンクの親子が食事をしていた。

かつてリカエリスがクローンフォックスたちの基地から逃がした、女リンクとその子供だ。

女リンク「お前には才能がある」

子「はい、勿論です。僕は母さんの…リンク族の血を引いてますから」

採ってきた木の実やキノコ、狩りで仕留めたケモノ肉などを貪りながら、二人は話し始める。

女リンク「リンク族だけではないわ」

子「え?」

女「近頃の鍛錬で、お前はいよいよ私を超えるほどにまで成長した。もう話してもいい頃でしょう」

子「話すって、何をですか?」

女リンク「お前の父親についてよ」

574ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:59:18 ID:XXSsPR7600

子「父さん…!?父さんがいたんですか!?」

女リンク「いや…父と呼べるほどの存在ではないかもしれない。私もその男には会ったことがない。しかしお前がその血を引いているのは確かよ」

子「何者なんですか…?」

女リンク「煙草マスター…かつてこの星で起きた戦争で、何千人もの兵士を虐殺した、最強の戦士の一人」

子「た、煙草マスター…?煙草を使って戦うんですか?」

女リンク「いや、武器にしていたわけではないわ。とにかく煙草が好きで、戦場でも常に吸っていた。その煙草から撒き散らす副流煙によって、敵味方問わず大量の兵士の肺を破壊するという大事件を起こした程よ。その事件は現在では"受動喫煙事変"と呼ばれている」

子「でも、母さんはそんな人とどうやって知り…ってあれ?でも会ったことがないって言いましたよね?」

女リンク「煙草マスターは封印されているからな」

子「封印…!?」

女リンク「お前が生まれる前、私は悪の科学者に捕まっていた。その科学者は、封印されていた煙草マスターの細胞を盗み出した。そして研究の末、そのDNAを宿した子種を作り出したのよ。その子種は私の体に植え付けられ……お前が生まれた」

子「そんなことが…!じゃ、じゃあ…僕らがこうして身を隠して生きてきたのは…」

女リンク「そう。奴らに見つからないようにするためよ」

子「…!」

女リンク「だがこの生活ももう終わり」

子「え?」

女リンク「言ったでしょう。もうお前は私を超えていると。その歳でここまで開花するとは思わなかったが…もはや、私がお前に教えられることはない。今のお前なら、たとえ奴らに見つかり襲われるようなことがあっても、乗り越えられるはずよ」

子「じゃあ森の外へ出られるんですか?でも一体どこへ?」

女リンク「まずは街へ出て常識を身につけなさい。外の話は今までも知識として教えてきたが、実際に体験しなくては分からないこともあるでしょう。金ならあるわ」

女リンクはお金の入った袋を取り出し、子リンクに渡した。

子「え?えっと…母さんは行かないんですか…?」

女リンク「私は奴らに顔が割れているから、すぐに見つかってしまうわ。お前一人なら、一見ただの子供リンクよ」

子「でも僕一人じゃ…」

女リンク「大丈夫。お前なら一人でも生きていける。自分の力を信じるのよ」

子「…わかりました」

575ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:59:49 ID:XXSsPR7600

女リンク「それとお前には、外に出てやらなければならないことが二つある」

子「何ですか…?」

女リンク「一つは、スターロッドを手に入れること」

子「スターロッド…?」

女リンク「数千年前の英雄・カービィが使っていたという伝説の武器よ」

子「伝説の武器…?しかし母さん、僕にはこの剣があります。母さんから継いだ大事な剣が…」

女リンク「勿論その使い慣れた武器を手放す必要はないわ。しかしリンクと煙草マスター、二つの力を使いこなすには、剣とスターロッドという二種類の武器を使いこなせなくてはならない」

子「二刀流ということですか?」

女リンク「ああ。そのために二本の剣を持たせた鍛錬もさせてきたはずよ」

子「はい。あれはこのための鍛錬だったんですね…」

女リンク「スターロッドには対魔の力もあるという。必ずお前にとって大きな戦力となるわ」

子「分かりました…スターロッドというのは、どこにあるんですか?」

女リンク「それは私にも分からない…が、噂によると、この星のどこかに存在している。最後に確認されたのが、数百年前にこの星で起きた戦争の時。戦場の中で失われて以来、一度も見つかっていない」

子「そ、そんなの無茶ですよ…!」

女リンク「無茶でもやるしかないわ。お前がやるべきことを、やり遂げるためには」

子「やるべきこと…二つ目のことですか…?」

女リンク「そう。お前がやらなくてはならない二つ目のこと…それは、煙草マスターを倒すこと」

子「父さんを…倒す…!?でも、封印されてるって…」

女リンク「ああ。例の科学者によると、かつての大戦が行われた東の国のどこかの祠に封印されている。だがその封印が張られたのも遥か昔の話…今では劣化し、あと数年のうちに目覚めるらしい」

子「なっ…」

女リンク「煙草マスターが暴れ出せば、きっと世界中で大混乱が起こるわ。それを止められるのは、その血を引き、力を受け継いだお前だけ」

子「…!僕にしかできないこと…なんですね…!」

女リンク「ああ。だからスターロッドを手に入れ、煙草マスターの封印された祠を見つけ出すのよ。来るべき戦いに備えてな」

子「…分かりました……僕が、父さんを倒します…!」

こうして、煙草マスターの子は旅に出ることになった。

576ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 20:00:17 ID:XXSsPR7600



翌朝。

女リンク「準備はできたか?」

子「はい!母さん、今までありがとうございました!」

女リンク「……ああ…愛しているわ、息子よ…」

ギュッ…

女リンクは子リンクを強く抱きしめる。

子「か、母さん…?」

その体は震えていた。

最強のリンクを育て上げることに執着し、厳しく接してきた女リンクだったが。

自分の元を離れようとする今になって、母性とも呼ぶべき感情が込み上げてきたのだ。

女リンク「今まで…すまなかった…私は…お前を…」

子「謝らないでください母さん。分かってます。全てを終わらせて、必ず帰ってきます」

女リンク「…ああ」

そして子リンクは旅立った。

女リンクはその背中を見送り。

女リンク「…さて…そこに隠れているのは分かっているわ」

???「フン…」

岩陰から現れたのは、例の緑フォックスだった。

女リンク「あの子には指一本触れさせない」

女リンクは古びた剣を構え、フォックスに斬りかかる。

ドシャッ…

フォックスはそれを瞬殺した。

???「無駄なことを…初めからあれに手を出す気はない。煙草マスターのDNAを持った擬似クローン…問題なく成長しているようだな。我々の施設で教育とトレーニングを行っていればもっと早く成長できたことは否めないが……能力の継承まで進めば、実験は成功だ」

577ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:45:50 ID:08FQC6aY00





とある城。

その廊下で、ファイターたちが戦っていた。

村田「ふぅ…結構強かったわね。ニートの割には」

怠惰すぎた罰「…チッ……運動不足が…祟った…か…」

緑の道着を身に纏った格闘家が、ウルフ村田に敗北し仰向けに倒れる。

村田「リカエリス、加勢する?」

リカエ「いえ、こちらも終わったところです」

邪念侍「く…拙者が…敗れるとはな……不覚でござる…」

巨大な剣を持った黒服の剣士が、リカエリスの前に這いつくばる。

村田「黒猫は…そっちも大丈夫みたいね」

黒猫「にゃはは!オイラが虫にゃんかに負けるわけにゃいだろ!」

悪イナゴ「チクショー…」

黒猫にボコボコにされた子供姿のリンクが、城の外へ投げ捨てられる。

村田「よし、悪党は三人だったはずだから、あとはお姫様を救出して終わりね」

リカエ「はい」

三人の悪党が見張っていた奥の部屋へ、リカエリスたちは足を踏み入れる。

578ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:46:43 ID:08FQC6aY00

アーナ「きゃああああっ!!」

村田「アーナ姫!」

そこにはピンクの服を着た金髪の女性が鎖に繋がれて、邪悪なオーラに飲み込まれようとしていた。

黒猫「にゃんだぁ!?」

リカエ「この邪悪なオーラ…奴らにもあったが…一体何なのだ…?!」

先ほど倒した三人も、同様のオーラを纏っていたのだ。

アーナ「た…たす…けて…!意識が…もう……」

村田「すぐに!」

三人は駆け寄り、鎖を破壊しようとする。

しかし。


ドガッ!!


三人の前に何かが現れ、弾き飛ばした。

村田「くっ!?誰!?」

鬼神「ククク…私は鬼神だ!!」

そこに立っていたのは、緑の服を着たシーズー犬だった。

リカエ「何者だ…!獣人のようだが、フォックスともウルフとも違う…?」

村田「確か、しずえ族という種族ね…アナタの目的は何!?」

鬼神「貴様たちに教えてやる必要はない!何故ならここで消すからだ!!」

ブンッ!

黒猫「うわっ!?」

黒猫は鬼神の放った釣り竿に捕まり、引き寄せられた。

リカエ「とうっ!」

リカエリスは黒猫の影に隠れて距離を詰め、蹴りを放つ。

鬼神「馬鹿め!」


ドガッ!!


黒猫「ぐはっ!?」

鬼神は引き寄せた黒猫を盾にし、リカエリスの蹴りをかわした。

リカエ「チッ!邪魔だ黒猫!」

黒猫「はあ!?」

村田「喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

579ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:47:48 ID:08FQC6aY00


ズバァ!!


村田は一瞬で鬼神に近づき、鋭いツメで切り裂く。

鬼神「…少しはできるようだな。ククク…だが神の力の前には無力!」

鬼神は手にグローブをはめ、村田に殴りかかった。

リカエ「はぁっ !」


ドゴッ!!


鬼神「ぐっ…」

今度こそリカエリスの蹴りがヒットした。

黒猫「せい!!」


バキッ!!


さらに黒猫のオーバーヘッドが炸裂。

鬼神「チィッ…!鬱陶しい!三対一とは卑怯な…!」

村田「神の前では無力、じゃなかったのかしら?」

鬼神「黙れ!操った三人も役に立たんし!面倒だ!ここは一旦退散する!」

パリィン!!

鬼神は窓を割って城の外に出た。

リカエ「なっ!待て!」

リカエリスが追い、窓の外を見ると、鬼神は風船によって空を飛んで逃げていた。

リカエ「…落ちろ」

チュンッ!

リカエリスはブラスターを放つ。

パンッ!

鬼神「何!?」

その弾は風船を見事に撃ち抜き、鬼神は落ちていった。

580ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:49:20 ID:08FQC6aY00

村田「アーナ姫!ご無事ですか!?」

村田はすぐにアーナの元へ駆け寄る。

リカエ「意識を失っているようですね。しかしオーラは消えた…もう大丈夫でしょう」

村田「ええ。鬼神とかいうヤツ、さっきの三人も操ってたらしいし、アーナ姫も操ろうとしてたのね、きっと」

二人はアーナを繋いでいた鎖を解き、ベッドに寝かせた。

リカエ「ん?黒猫は…?」

村田「さっきアナタが撃ち落とした鬼神のとこに走って行ったわよ。まあアレで死んだとは思えないしね」

リカエ「我々も向かいましょう。黒猫一人では危険だ」

村田「そう?」

リカエ「恐らくあの単純バカは、洗脳などされたらすぐに堕ちてしまうでしょう」

村田「…それもそうね。行きましょう」

二人は黒猫を追い、城の外へ出る。

そして案の定というべきか。

リカエ「!!」

黒猫「ニャーオ…」

黒猫は邪悪なオーラを身に纏い、二人の前に立ち塞がった。

鬼神「ククク…バカなヤツめ!鬼神たる私の前に、ノコノコと一人で現れるとはな!」

村田「あちゃー…遅かった」

リカエ「まったく…どこまでも迷惑な奴だ」


???「そこまでだ、鬼神」


全員「!!!」

鬼神「この声は…!!」

???「我は名もなきただの神…」

二足歩行の青い体のケモノが、雲を裂き、空から降りてきた。

村田「まさか…だれ神様!?」

リカエ「知っているんですか?村田さん」

村田「だれ神様は、人々の窮地に現れて、救ってくださるのよ…でも絶対に名を名乗らず、人々はだれ神様と呼んでいるの」

鬼神「クソッ…!貴様はいつも私の邪魔をする…!」

だれ神「汝の行動は目に余る。同じ神として、我が動くのは道理である。裁きを受けるがよい」


パァァァン!!


だれ神が手をかざすと、すさまじい光がその場を包み込んだ。

581ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:50:33 ID:08FQC6aY00

リカエ「何だ…!?」

鬼神「ぐああああああっ!!」

黒猫「ほにゃああああっ!?」

鬼神は苦しみ、やがて倒れた。

同時に黒猫のオーラも浄化され、消え去った。

そして光が消えると、だれ神もいなくなっていた。

リカエ「す、すごい力だ…何が起きたのかは分からんが…全てを浄化したのか…さすが神…」

村田「黒猫、大丈夫?」

黒猫「うん…なんかすごくいい気分だぞ!」

鬼神「…あれ…?ここは…一体…」

リカエ「なっ!今のを受けてまだ意識が…!?」

村田「いや…様子が変よ」

鬼神「え?え?なんですか…?どうなってるんですかこれ…」

鬼神は普通の女の子のようになっていた。

???「ボクが説明しましょう…」

リカエ「!?」

いつの間にか黒い学生服を着たメガネの少年が後ろに立っていた。

長谷川「ボクは神々が作りし長谷川。つまり、神々によって作り出された……長谷川です」

村田「つまりどういうことよ…」

長谷川「今だれ神様により浄化されたのは、鬼神の魂なのです。かつて鬼神は神々の世界を追放され、人の体を乗っ取ることで生きながらえてきました。次の器として選ばれたのがあのアーナ姫です」

リカエ「操ろうとしていたのではなく、乗っ取ろうとしていたというのか…」

長谷川「そういうことです。つまり今そこにいるのは、かつて鬼神に乗っ取られた、ただのしずえ族の少女です」

村田「そうなのね。大丈夫?立てる?」

元鬼神「あ…はい…」

村田が手を貸し、鬼神、もとい元鬼神を立ち上がらせる。

村田「アナタ名前は?」

元鬼神「わ…わかりません…何も思い出せないんです…」

村田「そっか。それじゃ身元が分かるまで、ウチ来る?」

元鬼神「へ?」

村田「居候のいる生活も慣れちゃったし、もう二人も三人も変わんないわよ。アナタたちも、構わないでしょ?」

リカエ「勿論」

黒猫「おー!人多い方が楽しいよにゃー!」

村田「…だそうだけど、どう?アナタさえよければ」

元鬼神「あ…ありがとうございます…!じゃあお言葉に甘えさせてください…」

村田「うふふ、よろしくね」

黒猫「よろしくにゃ!」

582ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:51:52 ID:08FQC6aY00

リカエ「では、そろそろアーナ姫に話を聞きに行きましょう」

村田「ああ、そうだったわね。元々そのために来たんだった」

元鬼神「どういうことですか…?」

リカエ「私と黒猫は別の世界から来たのだ。ロハスというフォックス族たちと共にな。奴らはどこかに身を潜めている。元の世界に帰るためには、奴らの居場所を突き止めなくてはならない」

村田「アーナ姫には預言の能力が備わっているって聞いたから、もしかしたら何か分かるんじゃないかと思ってね。それでこの国を訪ねて来てみれば、悪党たちに城を占拠されてて…ほんともう驚いたわよ」

黒猫「ま、オイラたちにかかれば楽勝だったけどにゃ〜」

元鬼神「な、なるほど…」

リカエ「…む?さっきの長谷川という男がいないぞ…」

村田「あらほんと。まあ神様の使いみたいな人だったし、消えもするわよ。それよりさっさと行きましょ」

リカエ「…はい」

それから四人は、再びアーナの部屋へ。



アーナ「はっ…わたくしは、一体何を…」

村田「アーナ姫、目を覚ましたんですね。具合はどうですか?」

アーナ「特に…問題はありません。あなた方は、先ほどわたくしを助けに来てくださった…」

村田「アタシはウルフ村田です。こっちはリカエリスと、黒猫。そして…」

アーナ「ひっ…!」

アーナは元鬼神の顔を見て青ざめる。

村田「安心してください。彼女は鬼神に体を乗っ取られていただけです。もう鬼神の魂は祓われました」

アーナ「そ、そうなんですか…?」

元鬼神「は、はい…!わたしはただのしずえです…!」

アーナ「…そう…みたいね…」

ぱたっ

アーナはまた倒れた。

リカエ「アーナ姫!」

村田「さすがに疲れてるんじゃないかしら。しばらくそっとしておきましょ。ここはアタシが見ておくから、アナタたちは外に捕まえてる三人の通報をお願い。操られてたとはいえ、アイツら元々悪者だから」

リカエ「了解」

そしてリカエリスたちの通報により、怠惰すぎた罰、邪念侍、悪イナゴの三人は連行された。

結局この日アーナは目を覚まさず、ウルフ村田を護衛につけ、リカエリスたちは街の宿に泊まった。

583ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:53:23 ID:08FQC6aY00



翌日、再びアーナの元へ。

リカエ「村田さん、アーナ姫の容体は?」

村田「まだ目を覚まさないわ。さすがに遅すぎる。何か後遺症があるのかもしれない」

リカエ「後遺症?」

村田「考えてたの。鬼神自体は祓われたけど、アーナ姫の体を乗っ取ろうとしていた時に、包み込んでいたオーラ…もしあの時すでに鬼神の魂の一部が入っていたとしたら…」

リカエ「…確かに、だれ神が放った浄化の光は、この部屋で寝ていたアーナ姫には届いていなかったかもしれません…まだアーナ姫の中に鬼神の魂が残っている可能性はありますね」

元鬼神「な、なんかごめんなさい…」

村田「アナタが気にすることじゃないわ。それより、この仮説が正しいとしたら、アーナ姫を浄化する方法を探さなきゃ」

黒猫「ふぁ〜あ…よくわかんにゃいにゃ。オイラ寝てていいか?」

村田「それじゃあ黒猫はしずえさんと一緒にここで見張っててくれる?もしかしたら目覚めるかもしれないし。アタシとリカエリスは浄化について少し調べてみるわ」

黒猫「はいはい…」

元鬼神「分かりました…!」

そしてリカエリスたちは城の外に出る。

リカエ「浄化…お祓いというのであればやはり寺や教会でしょうか…この世界にありますか?」

村田「ええ。お祓いのできるところを調べてみるわ」

そう言うと村田は携帯端末を使って調べた。

村田「この街の南にあるみたいね。行ってみましょう」

584ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:54:24 ID:08FQC6aY00



そして二人はとある寺に来た。

しかし。

村田「えぇ…」

リカエ「これは…」

ゴォォォォ…

盛大に燃えていた。

ピーポーピーポー…

サイレンが忙しなく鳴り響く。

寺の周囲では消防車が消火活動を行い、野次馬も集まっている。

???「いやー…やっちゃったわ…」

ピンクの服に緑の髪を持った、女神のように美しい女性が、無の表情で寺を見つめていた。

リカエ「この寺の方ですか?」

???「あ、うん」

村田「この火事は一体…」

???「えっ、聞いちゃう?それはねー、まあ、なんというか…タバコ的な?アレを、まあね、寺の中で吸ってた人がいてね、うん。そしたら火がちゃんと消えてなかった的なやつでね?木造だからね、うん」

リカエ「火の不始末ですか…」

村田「それはご愁傷様です。ひどい人もいるものですね」

???「うっ…うーん、まあそれが、私なんだけど」

村田「何やってるんですかアナタは…」

???「てへぺろ⭐︎」

村田「てへぺろってる場合か」

リカエ「…さすがに今はお祓いを頼める状況ではありませんね。村田さん、他を当たりましょう」

村田「そうね…」

???「お祓い?それならお安い御用だよ!」

村田「えっ?でも…」

???「大丈夫だよ!火事はもうどうしようもないし!ここにいても私にできることは何もないし!」

リカエ「どこが大丈夫なんですか…」

???「ふっふん!私は念仏てへぺろ!生まれながらに神に愛された、天才僧侶だよ!」

585ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:54:59 ID:08FQC6aY00

村田「ア…アナタが…?」

念仏「何そのめちゃくちゃ疑った目は!」

村田「いやそりゃそうでしょ…」

念仏「そりゃそうか。てへぺろ⭐︎」

リカエ「……しかし、事実ならばすぐにお願いしたい。アーナ姫が危険なのだ」

念仏「え!?お姫様が!?」

村田「かくかくしかじか…というわけなの」

念仏「なるほど…そんなことが起きてたんだ…!すぐ行こう!お姫様心配!テレポート!」

念仏てへぺろは消えた。

村田「すごい…判断が早い…」

リカエ「テレポートとは…彼女もファイターなのでしょうか。ともかく、我々も戻りましょう」

村田「ええ」

586ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:56:31 ID:08FQC6aY00



リカエリスたちは城へ戻ってきた。

元鬼神「えっ?誰も来てないですけど…」

村田「嘘っ、なんで?」

リカエ「テレポートなど使えるなら、我々より先に来ていると思ったのだが…」

すると。

シュタッ…

部屋の中に念仏てへぺろが出現した。

念仏「ごめん!間違えて別の城にテレポートしちゃった!てへぺろ⭐︎」

村田「…アナタやっぱりものすごいアホ?」

念仏「失礼な!天然なだけ!」

リカエ「一緒なのでは…」

村田「とにかく、アーナ姫を見てみてくれる?」

念仏「あ、はい。わっ!やば!とんでもない邪念が取り憑いてるよ!さっき言ってた鬼神の仕業だねこれは!」

村田「そんな一目で分かるほどなの?」

念仏「んー、それはどうかな。さすがに鬼神っていうかぁ、うまいこと隠れようとしてるからね。並の僧侶なら見逃しちゃうかもしれないなー。でもほら、私ってすごい天才だから!私の種族はパルテナ族って言って、先祖のパルテナ様はなんと女神様なのだ!」

リカエ「神の子孫…この世界ではそんなこともあるのか」

村田「なんとかなりそう?」

念仏「任せてよっ!神の子孫である私を信じて!」

てへぺろはてへぺろしながら親指を立てる。

てへぺろ本人を除くその場の全員が不安しかない中、てへぺろはお祓いの念仏を唱え始めた。

587ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:57:32 ID:08FQC6aY00



それから数時間が過ぎ。

念仏「ふぅっ…終わった!」

リカエ「おお!」

村田「これで鬼神は完全に祓われたのね!やるじゃない!」

念仏「あ、いや、そのー、そうじゃなくてね…失敗しちゃった!てへぺろ⭐︎」

村田「はぁ!?」

念仏「いや、だって、邪念が強すぎて、お姫様の魂とがっちり結合しちゃってるんだよ!これもうどうしようもないやつだよ!」

村田「終わったってそういう意味!?」

リカエ「なんとかならないのか?」

念仏「無理無理カタツムリだね。念仏ごときじゃびくともしないよこれ」

村田「ごときとか言うな」

リカエ「しかし、どうしますか?放っておくわけにもいきませんし…」

村田「他にお祓いできる人がいないか探すしかないわね」

念仏「無理だってばー。私の念仏で祓えないやつが他の人に祓えるわけないよ」

村田「うーん…」

ばんっ!!

???「無事か!アーナ!」

白い布で顔を隠した、紫の忍者のような男が、扉を勢いよく開けて入ってきた。

リカエ「誰だ!?」

リカエリスは咄嗟にその男の前に立ち塞がった。

黒猫「にゃんだオマエ!」

寝ていた黒猫も起きて、戦闘態勢をとる。

???「貴様らこそ誰だ!俺は壊す合体!アーナの友人だ!」

リカエ「友人だと?」

合体「守衛から連絡があったぞ!悪党にアーナが捕まったと!貴様らがその悪党か!?」

村田「いや、悪党たちは昨日アタシたちが鎮圧しましたけど…」

合体「なんだと!?それはありがとう!」

元鬼神「素直…」

黒猫「にゃんだ…敵じゃにゃいのか…つまんねー…」

黒猫はまた寝た。

588ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:58:19 ID:08FQC6aY00

リカエ「しかし、かくかくしかじかで、困っているのだ」

合体「なっ…そ、それじゃあアーナはもう目覚めないと言うのか!?」

念仏「んー、たぶんね。目覚めるとしたら、鬼神に乗っ取られた時かも」

合体「何!?」

村田「乗っ取られるってどういうこと?鬼神の本体は消えたはず…」

念仏「いや、ほとんどないと思うよ?ないとは思うけど…鬼神の魂がお姫様の魂を吸収して、復活するみたいな展開あるあるじゃん?もし目覚めるパターンがあるとしたらそれかなって思っただけ」

村田「…要するに目覚めないってことね…」

合体「くっ…なぜアーナがこんな目に…!!神よ!なぜアーナを助けないのだ!」

念仏「神様がそう簡単に下界に降りてくるわけないでしょ!女神の子孫であるこの私ですら会ったことないのに!ケチ!村田さんたちずるい!」

リカエ(…そういう心持ちだから現れないのでは…)

村田「でも、確かに不思議ね。だれ神様はとても慈悲深い神様として有名だし、アーナ姫の中にいる鬼神の魂に気付かなかったとも思えない。どうしてあの時、一緒に祓ってくれなかったのかしら」

念仏「そりゃ神様だって万能じゃないよ。なんでもできるならこの世界はもっと平和なはずじゃん?」

リカエ「下界にいられる時間が限られているとか…?神のルールのようなもので」

元鬼神「…もしかしたら、あえて残したのかも…」

村田「あえて?」

元鬼神「あっ、いや、ただのわたしの考えですけど…神様って、人々に試練を与えるっていうじゃないですか。だから、これもそうなのかなって…」

合体「試練だと!?ふざけやがって!アーナの命がかかっているんだ!」

元鬼神「ご、ごめんなさい…!」

リカエ「しかし、こんな言葉がある。神は乗り越えられない試練は与えない」

村田「フフ、そうね。さ、無いものねだりしてる場合じゃないわ。他に方法がないか探しましょう!」

合体「チッ…貴様らはアーナと赤の他人だからって気楽なもんだな!!だが助けてくれたことには感謝してるし、解決に向けて前を向く姿勢はいい!怒鳴って悪かった!」

村田「すごい急カーブみたいな話し方するわねアナタ…」

リカエ「まあ名前からして急カーブしていますし…」

589ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:59:28 ID:08FQC6aY00




それから数日。

いろいろな場所でお祓いを頼んだが、そのほとんどは「念仏てへぺろでも祓えないなら、ウチでは無理だ」と断られた。

ごく僅かに依頼を受けてくれた者たちも、やはり祓うことはできなかった。

村田「アナタ…ホントにすごい僧侶だったのね…」

念仏「疑ってたの!?」

村田「いや、信じてたわよ?三割くらいは」

念仏「七割疑ってたの!?過半数!!」

リカエ「しかし困りましたね。ここまでアテが外れるとは…」

元鬼神「アーナさま、点滴で命は助かっていますけど…このまま一生寝たきりなんて、かわいそうです…」

黒猫「そうか?オイラは寝てるの幸せだけどにゃー」

村田「そういうこっちゃないでしょ…ごはんも食べられないのよ?」

黒猫「にゃにっ!?それはイヤだにゃ!早く助けてやろう!」

村田「うん、だからその方法を探してるわけで」

合体「貴様らッ!!」

村田「わぁっ!?何よいきなり」

合体「貴様らなぜ…なぜここまでしてくれるんだ!?元の世界に帰る手掛かりを探すだけなら、アーナでなくとも預言者や探偵はいるはずだ!」

村田「何言ってるの。困ってる人放っておけるわけないじゃない」

元鬼神「ですよね…!」

リカエ「フォックスの名の下に、私は正義を貫くだけだ」

黒猫「オイラは難しいことはわかんにゃいけど、みんなといっしょにいるのは楽しいぞ!ごはんくれるしにゃ!」

合体「き、貴様らっ…!なんていい奴らなんだ!!」

念仏「わ、私ももちろんそんな感じだよ!?決して寺に帰って叱られるのがイヤだからとかじゃないよ!?」

村田「そんなんだから疑われるのよアナタ…」

590ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:00:00 ID:08FQC6aY00

元鬼神「そう言えば、皆さんが外に出てる時に、てへぺろさんのお寺の方から連絡がありました。てへぺろのことをよろしくお願いします、って」

念仏「え?えーっとつまり…クビってコト!?」

リカエ「…まあ不思議ではない」

村田「そうね。故意じゃないとはいえ火災を起こした挙句、数日間サボってるんだもんね…」

念仏「そ、そんなぁ〜!」

元鬼神「いえ、違います」

念仏「ちがうんかい!」

元鬼神「てへぺろさん素行は悪いけど、その才能はお寺の皆さんも尊敬してるみたいですよ。迷惑をかけるかもしれませんが、しばらくよろしくお願いしますって言ってました」

村田「あら、さすがお坊さんねぇ。慈悲深い。これは謝りに帰らなくちゃね」

念仏「良かった〜!ビビって損したよまったくもう!そりゃこの天才を手放すわけないよね!」

リカエ「お前という奴は…」

念仏「てへぺろ⭐︎」

村田「ダメだこりゃ」

黒猫「でも天才なら鬼神祓えるんじゃにゃいのか?むにゃむにゃ…」

村田「だからそれができないから困ってるのよ…いいからアナタは寝てなさい」

黒猫「ん、そうか。おやすみ…」

念仏「…」

てへぺろは黒猫の顔を見て、急に何か考え込む。

村田「…?どうしたの?」

念仏「あっ、思い出した!!」

村田「何を?」

念仏「すごい人!いたんだよ!昔うちの寺にいたけど、いなくなっちゃった人!」

リカエ「すごい人…?」

念仏「お祓いって結局外から働きかけることしかできないでしょ?でもその人は精神を他の人の中に送り込むことで、内側からその魂を浄化するすごい技を持ってたんだ!」

合体「何だと!?そいつはどこにいるんだ!?」

念仏「いや、それは知らないけど」

リカエ「寺の人間なら知っているかもしれんな。行くぞ」

念仏「えっ!?行くの!?ちょっと待って、まだ心の準備が…!」

村田「さっきのてへぺろ精神はどうしたのよ。もうこの際開き直りでもなんでもいいからとにかく来なさい」

念仏「やだー!!」

リカエリスと村田は暴れるてへぺろの両脇を抱えて引きずっていった。

591ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:01:15 ID:08FQC6aY00



そして数十分後。

坊さん「…なるほど。確かに彼ならば可能性はあるかもしれません」

リカエ「本当ですか!その方は今どこに?」

坊さん「やるべきことがあると言ってこの寺を去り、別の星へ行きました。もう五年近く前のことです。それ以来連絡は取れていません」

村田「別の星って…じゃあその人は宇宙で活動してるの?」

坊さん「はい。なぜなら彼はファ…」

???「そう、俺は宇宙を股にかける、キャプテン・ファルコンの末裔だからさ!」

全員「!?」

そこに現れたのは、ファルコン族だった。

坊さん「お、おサルさん!」

おサル「久しぶりだな!」

村田「おサルさん…?人間じゃない、どう見ても…」

おサル「フッ、俺はガキの頃ケンカばかりしてた不良だったんだが、サルのようなアクロバティックな戦法から、"サル"と呼ばれていてな。他人の精神に共鳴し入り込む能力…通称"シンパシー"と合わせて、今じゃ"シンパシーおサルさん"と呼ばれてる」

リカエ「ファルコン族は動物の名前でなければならんルールでもあるのか…」

おサル「ちなみにこの寺に身を置いたのも更生のためだ。そして能力も修業の中で身につけた」

坊さん「一体今まで何をされてたんですか?」

おサル「ある星でずっと除霊をしていたのさ。失敗してしまったがな」

坊さん「おサルさんが失敗…!?いったいどんな霊だったんですか!?」

おサル「とてつもない邪念を持っていてな。そいつは伝染するんだ。取り憑かれた者は全員"死体を愛する呪い"にかかってしまい、そこらじゅうで殺し合いが始まった。さすがの俺も除霊が間に合わず、星から逃げ帰るしかなかった」

坊さん「ではその星は…」

おサル「ああ…今じゃ完全にあの邪念が支配し、"ネク◯フィリア星"と化しているだろう…」

村田「ごめんちょっといいかしら?」

おサル「ん?ああ、お前たち、アーナ姫を助けたいとか言ってたな」

村田「聞いてたのね。そう、アナタに力を貸して欲しいの」

おサル「いいが、俺の除霊は高くつくぞ?」

村田「アタシはそんなお金持ってないけど…まあアーナ姫はお姫様だし、ポンと出せるんじゃないかしら」

おサル「フッ、そりゃ確かに。ならば霊を祓った後で、しっかり頂戴するとしよう」

村田「受けてくれるのね!ありがとう!」

おサル「…時に、あの天才小娘はどうした?」

村田「てへぺろのこと?」

坊さん「今は反省のため滝に打たれてます」

おサル「フッ、また何かやらかしたのか?変わってないな、あいつも」

坊さん「タバコの不始末で火災を起こしました」

おサル「いや変わったな!さすがに行きすぎだろ!」

坊さん「幸い怪我人もなく寺もほとんど無事ではありますが…」

おサル「着いた時から若干焦げ臭いとは思っていたが、そういうことだったとは…」

リカエ「とりあえず彼奴は寺の皆さんに任せて、我々はアーナ姫のところへ戻りましょう」

村田「ええ」

592ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:02:12 ID:08FQC6aY00



それからリカエリスたちはおサルさんを引き連れ、再びアーナの部屋へ。

おサル「アーナ姫…本当にすごい邪念を感じるな。あのてへぺろが祓えなかったというのも頷ける」

村田「いけそう?」

おサル「さて、どうかな。外側から見るのは苦手でな。姫様には申し訳ないが、精神の中に入らせてもらう」

するとおサルさんは座禅を組み、手を合わせて念じる。


しばらくして。

おサル「はっ…!」

おサルさんは滝のような汗をかいて、目を開けた。

リカエ「やったのか!?」

おサル「いや…ダメだ。結びつきが強すぎる。このまま俺のパワーで攻撃すれば、恐らくアーナ姫の魂ごと壊してしまう…」

リカエ「なっ…」

合体「ふざけるな!貴様が頼みの綱だったんだぞ!」

おサル「…お前…アーナ姫の血縁か?」

合体「あ?!そうだが!?」

元鬼神「えっ?友人だって言ってましたけど…」

合体「はっ!しまった!!」

村田「何か事情がありそうね」

合体「チッ…そうだよ!!俺はアーナの双子の兄だ!!俺たちの一族は代々姫となり女王となる運命なのだ!だから男として生まれた俺の存在は隠蔽された!!それが何だ!俺には何もできないっ!!アーナを救う力のない俺には、貴様たち霊能者に縋るしかないんだ!!無力な自分への苛立ちをぶつけてしまった!すまない!!」

おサル「…いや…いけるかもしれんぞ」

合体「何!?」

村田「どういうこと?」

おサル「俺のシンパシー能力は基本的に自分しか入れないが、対象の血縁者ならば、共に入ることが可能なんだ」

合体「なるほど!だがそれでは何の解決にもならないんじゃないか!?俺なんかが入ったところで…」

おサル「いや、だからこそだ。俺のパワーでは強すぎて魂ごと破壊してしまうが…お前のパワーならば、上手く鬼神のみを攻撃できる!」

合体「そうか…!!俺にもできることがあったか!よし!早速やろう!」

おサル「ああ!」

おサルさんは壊す合体の手を握り、再び座禅を組む。

593ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:03:06 ID:08FQC6aY00



合体「…はっ…!こ、ここがアーナの中か…!?」

二人は真っ白な空間にポツンと現れた。

おサル「そうだ。そしてあそこに光っているのが、アーナ姫の魂だ」

合体「!!」

二人の少し先に、光の玉が浮いていた。

だがその魂の光はとても弱く、周りには黒い影がうごめいている。

おサル「あの影がアーナ姫に取り憑いた鬼神の魂…あれを消し去ることで除霊は完了する」

合体「消し去ると言っても、どうやって攻撃するんだ?あれはどう見てもただの影だ…普通の攻撃は通用しない」

おサル「フッ、そのための俺だろう」

おサルさんはその影に向かって右手をかざし、左手は祈りのポーズを取った。

そして念仏を唱え始める。


ズズズズズ……!


すると影は実体化し、アーナの魂に絡みつく手のような形になった。

合体「これを攻撃すればいいんだな!?よし、任せろ!アーナ、今助けてやるからな!!」

シャッシャッシャッ…

合体は腕を細かく振りながら、その指先に針を取り出していく。

合体「とうっ!」


ズダダダダダッ!!


掛け声と共にその針を撃ち出す。

影「ギャァァァァァ!!」

おサル「いいぞ!その調子だ!」

合体「はっ!」


ドガガガッ!!

ズダッ!!


さらに手技足技を連続で繰り出し、影にダメージを与えていく。

合体「トドメだ!!アーナの苦しみを、次は貴様が受ける番だっ!!」

おサル「はっ…!いかん!待て!」

おサルさんは何かに気付いて制止するも、忍者のごとき合体のスピードは止まらず。


ドゴォッ!!!


合体は壊した。

その蹴りの一撃は、影を貫通し、アーナの魂をも砕いたのだ。

594ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:03:53 ID:08FQC6aY00



アーナの外では。

元鬼神「えっ?」

村田「どうしたの?」

元鬼神「う、嘘……アーナさんの脈拍が…止まった…!息もしてません…!」

リカエ「何だと!?」

村田「ま、まさか失敗したの!?」

元鬼神「そ…そんな…」



合体「……!!お…俺は一体何を…!!」

おサル「…邪念に当てられたんだ…あれ程強い邪念に何度も触れ続ければ、精神にも影響を及ぼすことがある。すまなかった…!俺の考えが甘かった…!」

おサルさんは深く頭を下げる。

合体「…俺が…アーナを……こ、殺したのか……?」

粉々に散ったアーナの魂を、合体は呆然と見つめる。

おサル「くっ……なんてこった…本当に俺という男は…!こんなミスをするなんて!…魂が壊れたら俺たちも…ここから出ることもできん…!」

合体「ダメだ…!認めんぞ!!死ぬなアーナっ!!」

合体はその魂の欠片たちをかき集める。

おサル「無理だ…壊れた魂は、そんなことで戻りはしない…」

合体「勝手に決めるな!!俺は諦めん!!」

ズアッ!!

合体が叫ぶと、同時にその体から風が吹き出した。

おサル「ぐっ…!なっ…何だ…?この…エネルギーは…!?」

合体「俺は……"壊す合体"だァーーー!!」


ギュオオオオオッ!!!!


合体の両手が輝き、魂が一箇所に集まっていく。

パァァァッ!!

そして、アーナの魂は元の球体となり、眩い輝きを取り戻した。

おサル「馬鹿な…!魂が復活した…!」

合体「アーナ…!やった…のか…俺は…」

ガクッ…

おサル「おっと」

おサルさんは倒れかけた合体を咄嗟に支える。

おサル「とりあえず出るか」

おサルさんが手を合わせ、目を瞑り念じると、アーナの精神世界から消えた。

595ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:05:17 ID:08FQC6aY00



元鬼神「えっ?ア、アーナさんの脈が回復しました!」

村田「ホント!?良かった!」

合体「はっ!?」

現実世界の合体とおサルさんが目を開ける。

村田「あ、戻ってきた」

リカエ「アーナ姫の中で一体何が起きていたんだ?」

合体「それは…自分でもよく分からないんだ…」

おサル「驚いたぞ、本当に壊れた魂を合体させるとはな…!アーナ姫は特殊な能力の持ち主…その双子の兄であるお前にも、元々才能が眠っていたんだろう」

合体「俺の…能力…?」

おサル「壊す合体…その名の通り、壊したものを合体させる能力といったところか。言霊というのを知ってるか?言葉が持つ霊力のことだ。念仏もその一つ。その言霊の中でも、最も強い力を持つのが"名前"だと言われている。お前が自分の名前を叫ぶと同時に、アーナ姫の魂を合体させたいと強く願ったことで、言霊が呼応して、能力が覚醒したんだ」

村田「なになに、どういうことなの?ちゃんと説明しなさいよ、アーナ姫さっき脈止まってたんだから!」

おサル「ああ、すまん。実はかくかくしかじかで…」

合体「そんなことよりアーナは無事なのか!?」

と、その時。

アーナ「……うぅん……」

アーナが目を開けた。

合体「アーナ!!」

アーナ「が…合体…?それに…みなさん…?わたくしは何を…」

合体「もう大丈夫だ!全部終わったんだ!何も心配いらない!」

ギュウッ!

合体はアーナを抱き締める。

アーナ「えぇ?もう…何が何だか…」

おサル「アーナ姫にも説明しておこう。かくかくしかじかで…」

念仏「やっほー!どう!?上手いことお祓いできた!?」

そこに念仏てへぺろが入ってきた。

村田「ちょっとてへぺろ!ノックくらいしなさい!一応ここお姫様の部屋なのよ?」

リカエ「というか滝行はどうした?」

念仏「逃げてきちゃった。てへぺろ⭐︎」

村田「アナタねぇ…」

念仏「…え?何これ!?」

てへぺろはアーナを見て驚く。

村田「そうよ、除霊は成功したわ。おサルさんと壊す合体の力で…」

念仏「離れてっ!!」


バキッ!!


合体「ぐはっ!?」

てへぺろは突然杖を使って合体を弾き飛ばした。

596ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:06:00 ID:08FQC6aY00

村田「ちょ!何してんのアナタ!」

アーナ「が、合体!大丈夫ですか!?」

合体「あ、ああ…」

念仏「あれ?普通だ…」

おサル「何か感じたのか?」

念仏「お姫様の中にまだ鬼神の気配があるような気がして…うーん…?いや…違う?お姫様自体が…?」

おサル「鬼神の魂は確かに破壊されたはず…いや、まさか…」

合体「あ…あの時アーナの魂と共に壊した鬼神の魂が…混ざってしまったのか!?」

アーナ「え?…え?」

念仏「どういうこと?」

おサル「かくかくしかじかで…」

念仏「…なるほど…確かにそんな感じだ。取り憑いてるって言うより、アーナ姫自体から邪念が出てるみたい」

合体「は、祓えないのか!?」

念仏「まー無理だね。魂が完全に合体してるから」

合体「そんな…!!」

アーナ「まあまあ…わたくしは何も感じませんよ。特に体に違和感もありませんし」

おサル「だろうな。邪念はもはやアーナ姫の一部だ。アーナ姫が自らの意思で邪念を使おうとしない限り、奥底から出てくることはないだろう」

村田「良かったじゃない。アーナ姫はそんなことしないでしょ?」

アーナ「もちろんです。合体、助けてくれてありがとうございます」

アーナは合体の頭を優しく撫でる。

合体「アーナァァ…うぉぉ…き、貴様ら、あでぃがどう!!」

合体は安心し、号泣し始めた。

アーナ「皆さんも、本当にありがとうございました」

アーナは深々と頭を下げる。

おサル「気にするな。まあ除霊代は頂くがな」

アーナ「あ、はい。いくらでしょう?すぐにご用意します」

おサル「今回の場合だと…これくらいだな」

おサルさんは携帯端末の画面に金額を提示した。

アーナ「えっ?これだけでいいのですか?」

おサル「フッ、俺一人では成し得なかったからな。気が引けるというなら、そこで泣いてる兄貴に礼をしてやってくれ」

アーナ「…はい。ありがとうございます」

念仏「それって私ももらえるのかな?」

アーナ「あ、勿論…」

おサル「いや、結構だ。コイツにはお代はいらないと寺の者から言われてる」

念仏「えぇっ!?しょんなぁ〜!」

村田「アタシたちからもちょっといいですか?アーナ姫」

アーナ「はい、何でしょう?」

リカエ「あなたの力をお借りしたいのです」

アーナ「わたくしの力…預言のことですか?」

リカエ「はい。私と黒猫は別の世界から迷い込んだ存在。元の世界に帰るために、探して欲しい者がいるのです」

アーナ「…分かりました。すぐに準備しますね」

村田「あら話が早い」

アーナ「皆さんは命の恩人ですから。わたくしにできることならなんでもさせてください」

黒猫「じゃあごはんくれ!」

リカエ「何一つ協力しとらん奴がなぜ真っ先に…」

アーナ「ふふ、ぜひ。皆さんも食べていってください。大変だったのでしょう?」

合体「お前もだアーナ。ずっと寝たきりだったんだ。こいつらへのお礼なんかより、まずお前が元気になることだけ考えろ」

村田「フフ、そうね。アタシたちったら気が利かなくてごめんなさい」

アーナ「それでは食事にしましょう」

それから使用人たちが現れてリカエリスたちを広間へ案内した。

597ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:06:55 ID:08FQC6aY00



食事の後。

アーナ「皆さん、満足していただけましたか?」

黒猫「うん!めちゃくちゃ美味かったぞ!」

村田「さすがに王族に仕えるシェフが作っただけあるわね。こんなに美味しいもの食べたの初めて」

元鬼神「ごちそうさまでした…!」

アーナ「それではここで暫しお待ちください」

アーナは席を立ち、広間を出た。

黒猫「ん?まだにゃんかあるのか?」

念仏「デザートかな?」

合体「少しは遠慮しろ貴様ら!」

しばらくして。

アーナ「お待たせしました」

アーナは美しいドレスを身に纏って戻ってきた。

元鬼神「わ…キレイ…」

おサル「その衣装はもしかして…」

アーナ「はい。預言を行うための礼装です。リカエリスさん、こちらへ」

リカエ「はい」

リカエリスはアーナの前に立つ。

村田「預言の儀式が始まるのね」

アーナ「目を瞑って…あなたの探している人の顔を思い浮かべてください」

リカエリスは黙ってそれに従う。

アーナはリカエリスの目の前に手をかざし、自身も目を閉じる。

598ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:07:24 ID:08FQC6aY00


しばらくして。

アーナ「ひっ…!!」

小さく悲鳴を漏らした。

合体「どうしたアーナ!」

アーナ「だ、大丈夫です…!少し驚いただけ…」

リカエ「何が見えたのですか?」

アーナ「凄惨な光景です…これは…戦争…?激しい血飛沫と…地面には大量の遺体が横たわっています…」

おサル「どこかの紛争地帯に潜んでるってことか」

アーナ「…しかし…それにしては…正気ではないと言いますか…」

村田「戦いなんてそういうものですよお姫様」

アーナ「いえ、そうではなく…!この戦いからは、理由が見えないのです…国や組織ではない、個人単位の殺し合い…?敵も味方もなく、最後の一人になるまで…」

おサル「…もしかしてそれは別の星じゃないか?」

アーナ「…はい…場所は……東の空に見える星…!」

ガクッ…

合体「アーナ!」

膝から崩れ落ちたアーナを、合体が咄嗟に支える。

アーナ「大丈夫…少し疲れただけです」

リカエ「アーナ姫、ありがとうございます。ゆっくり休んでください」

アーナ「ええ…」

合体がアーナを部屋へ運んだ。

おサル「…やはりか」

村田「どういうこと?知ってるの?」

おサル「寺で話しただろう。俺が宇宙で何をしていたか」

リカエ「まさか…!」

おサル「ああ。アーナ姫は見たのは恐らく……"ネク◯フィリア星"だ」

599ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:41:35 ID:tAlMJrj200





極道の町。

その北にある、かつてナイフが大病を患っていた頃に入院していた大病院。

その一室で。

迫力「ゲホッ、ゲホッ…」

ナイフ「だ、大丈夫ですか迫力さん!」

迫力「おう…さすがにもう長くはねえな…」

半年ほど前から迫力は入院していたが、体調が悪化したとの連絡を受け、須磨武羅組の組員たちが集まっていた。

片割れ「ケッ、須磨武羅組の大親分ともあろうモンが情けないのォ」

組員「てめえ口に気ィ付けろ…」

迫力「よせよせ…ったく…こんな時まで生意気な野郎だぜ…片割れ…組のこと、頼むぜ」

片割れ「…おう」

迫力「玄孫のこともな…」

ナイフの隣に座る、十代中盤くらいの少年を見て言う。

片割れ「あぁ?ガキどもの世話はナイフの管轄やろ」

迫力「そうだったか…まあどっちにしろ、コイツらが危険な時、ナイフじゃ何もできやしねえ」

ナイフ「ちょ、そりゃ酷いっすよ…まあ事実ですけど…」

600ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:42:45 ID:tAlMJrj200

組員「大丈夫っす!若には俺らもついてます!」

傍らに立っていた他の組員が言う。

若「お前らじゃ頼りねえよ。俺も命預けるなら片割れさん以外ありえねえ」

組員「ええっ!?」

片割れ「てめえらももっと強くなるこったな。ワシも一生子守りなんざゴメンや」

組員「くっ、分かってるよ!」

若「…ジジイ、もうすぐ死ぬんだってな」

迫力「おう…ちゃんとナイフや片割れたちの言うこと聞くんだぞ」

若「チッ、俺もうそんな子供じゃねえぜ。人間にも空手じゃ負けなしだ」

迫力「人間って…あぁ、せがれの方か…アイツはファイターのくせに父親と違って全く才能ねぇからな」

ナイフ「俺よりはありますよ」

片割れ「黙っとれ」

若「とにかく、ジジイが死んだら俺はこの組を率いていくんだ。だから天国で…いや、地獄か?なんでもいい、とにかく俺を見守っとけよ。この極道の町を、過去最高に平和な町にしてやる」

迫力「ハハ…大きく出たな。こりゃ死ぬのが楽しみってもんだ…」


それから数時間後、組員たちに見守られながら、迫力は安らかに眠った。

601ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:56:03 ID:tAlMJrj200





その隣の国では、軍の入隊試験が行われていた。

バロン「ムッコロズさん、どうでしたか?」

卍「まあ余裕だ。普通の人間が受ける試験内容だからな。俺たちファイターにとっては朝飯前だろう」

バロン「マ、マジですか…僕めっちゃギリギリだと思います…」

バロンムッコロスと卍黒きムッコロズの二人は、試験を終えて共に帰っている。

卍「それにしても最近、魔物が本当に多いな」

バロン「はい…魔の一族とかいうボスキャラみたいなのまで現れてるらしいですよ。怖すぎる…」

卍「怖がっている場合か?俺たちはそいつらと戦わなきゃならないんだぞ。この国は戦争とは縁がないが、どちらにせよ俺たちファイターは国際法によって戦争には出られない。魔物と戦うのが主な仕事になるかもしれない」

バロン「そ、それは分かってますけど…」

卍「ならば特訓あるのみだ。ムッコロス、ジムへ行くぞ」

バロン「は、はい…!」

602ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:59:21 ID:tAlMJrj200


二人は近くにある行きつけのジムへ来た。

卍「なんだこれは…」

ドアが破壊されていた。

バロン「何かあったんでしょうか…」

卍「入るぞ」

中に入ると、客は全くいなかった。

が。

卍「ん?何だアイツは…知ってるか?」

バロン「いや、初めて見ました」

下半身「ふん!ふん!」

そこには懸命に下半身を鍛えるドンキー族がいた。

卍「ちょっと話を聞いてみるか」

バロン「えっ?ちょっとムッコロズさん!」

卍「初めまして。俺は卍黒きムッコロズだ」

下半身「なんだ貴様!この下半身虚弱体質サマに気安く話し掛けるな!」

卍「そうか、そりゃすまない。俺はここの常連だから、何か困ったことがあれば頼ってくれ。ところであのドアの件なんだが…」

下半身「知らん !邪魔だ!」

卍「そうか…」

バロンムッコロスのところへ戻る。

トレーナー「ム、ムッコロズさん…!」

ジムのトレーナーが恐る恐る話しかけてきた。

卍「ん?いたのかトレーナー。何があった?」

トレーナー「あ、あのゴリラ…さっきいきなりドアを殴り壊して入ってきたんです…!」

卍「アイツが…?」

トレーナー「はい…お金も持ってないっぽいし…でも怖くて追い出せなくて…!なんとかしてくれませんか…?」

卍「警察は呼んだのか?」

トレーナー「いえ、まだ…ムッコロズさんたちがいつも来てくれる時間が近かったし、たぶん警察もあれが相手じゃどうしようもないと思って…」

卍「そうか…確かにそれはそうだ。まあ任せておけ。よし、バロンムッコロス、行け」

バロン「ぼ、僕ですか!?」

卍「何事も経験だ。魔の一族はアレよりもっと手強いはず。度胸をつけろ」

バロン「わ、分かりました…でも危なくなったら助けてくださいよ!?」

卍「ああ」

603ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:06:42 ID:tAlMJrj200

バロンムッコロスは下半身虚弱体質のほうへ近づく。

バロン「あ…あのぉー…すいません…」

下半身「なんだ貴様はぁ!鬱陶しいぞ!」

バロン「ひっ!ごめんなさい!…じゃなくて…!あ、あなた何なんですか!?ドア壊して勝手にトレーニング器具使ってるそうじゃないですか…!ダメですよ!」

下半身「俺サマに指図する気か貴様ぁ!」

バロン「ダ、ダメなものはダメなんです!」

下半身「また法律とかいう下らんルールか!?魔界にそんなもんはないんだよ!そんなもんで自分で自分を締め付けるとは、地上の人間どもは余程の変態らしいな!」

バロン「魔界!?」

卍「まさかアイツ、魔の一族か!」

下半身「ワッハッハ!今更気付いてももう遅い!潰してくれるわァ!!」


バゴォ!!


下半身「ぬっ!?」

下半身の振り下ろした巨大な拳は、ムッコロズが受け止めていた。

バロン「ムッコロズさん!」

卍「下がってろムッコロス。ちょうどいい。魔の一族とやらの力を一度見ておきたかった」

下半身「そうか!最期に見れてよかったなクソガキがっ!!」


ズダダダダダ!!!


卍「ぐっ…!!」

下半身は地面に両手を叩きつけまくり、ジム全体が大きく揺れる。

バロン「なんてパワーだっ…!このままじゃジムが潰れちゃいます!」

卍「チッ!俺のジムを壊すな!!」

バロン「ムッコロズさんのではないです!」


ドガッ!!


ムッコロズは下半身をドロップキックで蹴り飛ばした。

下半身「ぐおぉっ…!」

ドゴォン!!

下半身は壁を突き破って外に投げ出された。

バロン「ムッコロズさん、ジム壊しちゃってますけど!」

卍「しょうがないだろ!全部崩壊するよりマシだと思え!」

ムッコロズもその穴を通って外へ出る。

604ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:10:03 ID:tAlMJrj200

下半身「少しはやるようだな!だがこの程度では俺サマにダメージは与えられんぞ!!」

下半身はすぐに立ち上がり、ブルブルと体を震わせて体に付いた瓦礫を落とす。

卍「ほう。耐久力は確かにあるか」

下半身「何を上から目線で分析している!人間など我ら魔の一族の力で簡単に捻り潰せるんだぞ!!」


ドガガガッ!!


卍「ぐあっ…!」

下半身は両腕を大きく振り回して突撃する。

バロン「ムッコロズさんっ!」

ガシッ!

さらに今度はムッコロズの胴を片手で掴んで持ち上げ。

下半身「ふんっ!」


ドガッ!!


地面に叩きつけた。

卍「かはっ…!!」

下半身「死ねっ!」


ブンッ!!


下半身が繰り出した大振りのビンタを、ムッコロズはギリギリで後ろに跳んでかわした。

卍「…フゥ…さすがにパワーでは勝てないか…」

バロン「だ、大丈夫ですか!?」

卍「ああ。大方強さは分かった。生身では分が悪い…全力で行く」

下半身「何?」

するとムッコロズは黒いボールを取り出し、真上に投げる。

バシュッ!

ガシャンッ!

ガコンッ!

ボールはパワードスーツへと変形。

下半身「何だ…!?」

ガチンッ!!

そしてムッコロズの体に装着された。

卍「…五分で終わらせる」

605ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:14:31 ID:tAlMJrj200


およそ五分後。

卍「ふぅ…十秒オーバーか。思った以上に手強かった」

ムッコロズは下半身虚弱体質を倒し、頭部の装甲を脱ぐ。

バロン「ムッコロズさん、大丈夫ですか?」

卍「問題ない。魔の一族が全員この程度の強さなら脅威にはならないな」

下半身「…ざ…残念だったな…」

卍「!…まだ意識があったか」

下半身「俺サマなど…平均的魔の一族に過ぎん…上位クラスや幹部の連中は…こんなもんじゃないぞ…」

卍「…だろうな。お前は下半身が虚弱だった。もっと鍛えておくべきだったな…あ、それでこのジムに来てたのか」

下半身「い…今更か…」ガクッ

そして下半身虚弱体質は気を失った。

バロン「この人どうするんですか?」

卍「確か近くにファイターの収容所があったはずだ。そこに入れておけばいいだろう。しかし…」

バロン「しかし?」

卍「このレベルでもまだ雑兵に過ぎないとしたら…魔の一族が本格的に攻めて来たら、今のままでは…この国は終わりだ」

バロン「ええ!?」

卍「だからこそ…もっと強くならなければ…!」

それからムッコロズは下半身を頑丈なワイヤーで縛り、収容所へ連行した。

606ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:05:44 ID:L5MYRj.A00





王国。

ヒーロー「やれやれ、今日も平和だな…」

城下町でヒーローはいつものようにパトロールしていた。

???「やあヒーロー、おつかれさま」

店の軒下から声を掛けてきたのは、赤い服の少年。

ヒーロー「ポイゾネサスくん。キミは店の手伝いか?」

ポイゾネ「うん。まったくこんな子供に店を手伝わせるなんて、うちのお父さんは人使いが荒いよ」

ヒーロー「ハハ、でもそのうちキミが店を継ぐんだろう?これも勉強さ」

ポイゾネ「はぁ…お父さんみたいなこと言って…マジメだなぁ…」

ヒーロー「自慢じゃあないが俺にはそれくらいしか取り柄がないからな!」

ポイゾネ「なんでそんな堂々と言えるんだ…取り柄があるっていいね。僕には何もないからさ」

ヒーロー「そんなことはないだろう」

ポイゾネ「じゃあ僕の取り柄って何?」

ヒーロー「え?それは…うーん…まあポイゾネサスくんとはまだそこまで深い仲でもないからな、急に言われても思いつかない!だがそのうち見つかるはずさ!それでは俺は見回りの続きをするので失礼する!」

ヒーローは走っていった。

ポイゾネ「逃げた…」

607ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:06:06 ID:L5MYRj.A00


それからしばらくして。

川沿いの道をパトロール中。

ヒーロー「あの橋…」

通りかかった橋を見て、数年前のことを思い出す。

ヒーロー「…少女…一体今どこにいるんだ…」

その橋は、記憶を失った少女を初めて見つけた場所だった。

ヒーロー「……?」

通り過ぎようとしたその時、橋の下にいる何かに気付き、ヒーローはすぐに駆け寄った。

ヒーロー「……少女……なのか……?」

そこには金髪の少女が倒れていた。

ヒーロー「少女!!おいっ!どうした!…くっ!」

ダッ!!

意識を失っている少女をヒーローは抱え上げ、あの時と同じ病院へと運んだ。

608ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:06:29 ID:L5MYRj.A00



数時間後。

少女「ん…」

ヒーロー「少女!!」

ヒー父「お!目が覚めたか!」

病室で目覚めた少女の前には、ヒーローとその両親がいた。

少女「…だ…れ…?」

ヒーロー「……!…あの時と一緒だな…」

ヒー母「また記憶を…?」

ヒー父「だが前と違って言葉は分かるみたいだぞ」

少女「……?」

ヒー母「あ、安心して…怪しい者じゃないわ」

ヒーロー「俺はヒーロー。こっちは俺の両親だ。俺たちはキミを知っている」

少女「ヒー…ロー…」

ヒーロー「昔、キミは俺たちと共に暮らしていた。今日と同じように、あの橋の下で倒れているところを見つけてな。その時もキミは記憶を失っていたんだ。それでキミの身元が分かるまで、うちで預かることになった」

少女「……そう…」

少女は何の感情も見えない表情で呟く。

ヒーロー「…そうだよな。急にこんなことを言われても分からないよな。いいんだ。また時間をかけて思い出そう」

少女「…ええ…ありがとう…」

ヒー父「そんじゃあもう遅いから俺たちは帰るよ。今日はここでゆっくり休んでいくといい」

ヒー母「病院の人にも伝えてあるからね。後のことは明日考えましょう」

少女「分かった…」

ヒーロー「じゃあ、また明日」

少女「…また明日…」

609ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:07:32 ID:L5MYRj.A00



翌日。

ヒーロー「おはよう少女!」

ヒー母「具合はどう?」

ヒーローとその母は朝一で少女の病室を訪れた。

父は仕事だ。

少女「悪くないわ…」

ヒーロー「そうか。何か思い出せたか?」

少女「……」

少女は無言で首を横に振る。

ヒーロー「そうか…じゃあなぜあの橋の下にいたのかも分からないんだな…」

少女「……いいえ」

ヒーロー「えっ?」

少女「その記憶はある…私の一番古い記憶は…真っ暗な岩場にいた記憶…」

ヒーロー「岩場…?」

少女「そして、獣のような何かに襲われた。私は必死で逃げて…気付いたら、空間に穴が開いてた」

ヒーロー「空間に穴…俺たちの前から姿を消した時みたいな移動方法を、無意識に使ったのか…?」

少女「…多分そう。その穴の奥にはジャングルがあったわ。お腹が空いてたから、生えてたバナナを頂こうとしたら、黒いゴリラと、黄色い恐竜みたいなUMAに追い回されて…また必死に走って、ジャングルから出た」

ヒーロー「ず、随分と冒険を繰り広げてたんだな」

少女「そうね…冒険と言えば冒険なのかもしれない…それから私は近くの街を訪ねた。ボロボロな私を見て、街のおじさんが声を掛けてくれたから、事情を話した。するとまた空間に穴が開いた」

ヒーロー「また!?その流れだと、おじさんに襲われて逃げようとしたのか!?」

少女「いいえ…おじさんが開いたのよ。そのゲートは、裏の空間に繋がっていた」

ヒーロー「裏の空間?」

少女「魔法学校という場所」

ヒーロー「魔法学校!?」

ヒー母「まさか…あの子の言っていたところ…?」

少女「あの子?」

ヒー母「あ、いえ、ごめんね。話を続けて」

少女「…おじさんは魔法学校への案内人だった。この世界と裏の空間を、行ったり来たりする名人と名乗ってたわ。名人さんは私の中の魔力が異常だと感じたらしく、魔法学校に連れてきた。そこで私は自分の体質について聞かされた」

610ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:08:18 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「魔力暴走体質…か…」

少女「ええ…知ってるのね。そう…そして暴走を未然に防ぐため隔離施設に入れられて、厳しい監視の中で数年を過ごした」

ヒーロー「なっ…!?」

ヒー母「そう言えば、彼も言ってたわ…本来その体質を持った人は隔離されるって…」

少女「ずっと一人きりで…極限の孤独の中で、私は精神がおかしくなるのを感じてた。そんな時、魔法学校は突然滅びた」

ヒーロー「!?」

少女「つい先日のこと…私も何が起きたのか分からなかった。黒い鎧の人が現れて、魔法学校を破壊し尽くしたの。私はその人と一瞬目が合った気がしたけど…なぜか見逃してくれた。どこか、懐かしい感じがした」

ゲン「それはサムス族だったんじゃないか?」

ヒーロー「ゲンさん!」

少女が見つかったとヒーローから連絡を受けていた[世界第1位]ゲンが病室に入ってきた。

少女「サムス…族…」

ゲン「はっはっは!久しぶりだな少女!と言っても記憶がないんだったな。改めて自己紹介しよう。俺は[世界第1位]ゲン!この王国で大人気のF-ZEROという競技において史上最速と謳われる男さ!」

少女「よ、よろしく…」

ゲン「ああ、よろしくな少女!…しかし少女と呼ぶにはもう随分と大人びているな、レディ」

ヒーロー「確かに…じゃあ俺もこれからは"女"と呼ぼう」

ヒー母「女ってあなたねぇ…」

女「…大丈夫…好きに…呼んでいい…わ…」

ヒーロー「ありがとう、女…って大丈夫か?目が虚ろになっているぞ。少し休むか?」

女「……いえ……こ…これは………記憶が…戻って…いる……?」

女は頭を抱える。

ヒーロー「記憶が…!?」

611ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:09:10 ID:L5MYRj.A00

ゲン「はっはっは!なんだ、まだ試してなかったのか?少女は前にサムスのことを聞いて、記憶が戻ったんだろう」

ヒーロー「そ、そうか!なぜ気付かなかったんだ!ありがとうゲンさん!」

ゲン「気にするな。それよりどうだ。何か思い出したか?」

女「……はぁ……はぁ……」

女は顔を覆っていた手を下ろし、ゆっくりと顔を上げる。

女「ええ…思い出したわ……ヒーロー…!」

そしてヒーローの顔を見て、涙を流した。

ヒーロー「ほ…本当に…思い出したのか!?俺のことも…!」

女「ええ…久しぶりね…」

ヒーロー「しょっ……少女ォ!!」

ヒーローも感極まって泣きながら女に抱きついた。

女「…女って呼ぶんじゃなかったの?ヒーロー」

ヒーロー「すまん!でもそれどころじゃあない!こ…こんなに嬉しいことはない…!」

女「大袈裟ね…」

ゲン「はっはっは!感動の再会、だな!」

ヒー母「ええ…!ぐすっ…本当に…良かったわ…!」

ヒーローの母も滝のように涙を流す。

612ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:11:02 ID:L5MYRj.A00


それからしばらくして、感動ムードが落ち着き、また話の続きを始めた。

ヒーロー「しかしゲンさん…なぜその黒い鎧がサムスだと思ったんだ?確か本来のサムスはオレンジ色だったはず」

ゲン「俺は宇宙で活躍していたキャプテン・ファルコンの末裔だからな。宇宙の情報もキャッチするようアンテナを張り巡らせている。その中に、とある黒いサムスの情報があったのさ」

ヒーロー「情報ってどんな?」

ゲン「ソイツは暗黒のアメリーナというサムスでな…なんでも、最近この星でもよく現れている魔物とやらに味方している、悪者だそうだ」

ヒーロー「魔物の味方を…?なるほど…確かに危険な奴だな」

ゲン「だがまあソイツは宇宙中いろんなところで活動しているようだから、魔法学校なんてものを襲うとも思えないがな。ただ悪者と黒い鎧から連想して、ソイツを思い浮かべたってだけだ。はっはっは!」

女「でも、合っているわ。確かにあの時魔法学校を襲ったのは、サムスだった」

ゲン「マジか」

女「ええ。その後のことを話すわ。裏の空間に取り残された私は、行ったり来たりする名人さんに助けられて、この世界へと戻ってきた。だけど結局、記憶の無い私には行く宛もなく…名人さんは優しかったから、私を引き取ってくれるとも言ってたけど…自分の体質を考えたら、断るしかなかった。それから私は、ただ彷徨い続けた」

ヒーロー「それからこの王国まで、歩いて来たのか?意外と近かったのか?」

女「いえ…ゲートを開いたの。自分の意思で」

ヒーロー「ゲートを…?できるのか?」

女「私も暴走状態じゃなきゃ無理だと思ってたけど…開く時の感覚は体に残ってたし、名人さんが目の前で開くのも見たから、難しくはなかった。ただ暴走していない私の魔力は多くないから…使い果たして、倒れたのよ」

ヒーロー「そういうことか…」

ゲン「だがこの国に来たのはなぜだ?記憶は無かったんだろう」

女「分からない…けど多分、無意識のうちに、大好きだったこの町を選んだのかも。ここは私の大切な居場所だったから」

ヒーロー「そうか。なんにしても本当に良かった…!これからはまた俺たちと一緒に…」

ヒー母「ちょっと待って」

ヒーロー「えっ?どうしたんだ母さん」

ヒー母「ヒーローは…もっと相手のことを見てあげなくちゃダメよ」

ヒーロー「どういうことだ?」

ヒー母「だって彼女…まだ一度も笑ってないもの」

ヒーロー「!!」

女「……」

ヒー母「記憶は戻っても、魔力暴走体質はまだ残ってるんでしょう?」

女「…ええ。だから…みんなとはいられない」

ヒーロー「な…!そんな…」

613ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:15:48 ID:L5MYRj.A00

女「ヒーロー…会えて嬉しかった。ありがとう。でもこのままじゃまた暴走してしまうから…」

ヒーロー「待ってくれ!俺もあれから随分強くなったんだ!」

女「無理よ」

ヒーロー「!」

女「全部…思い出しちゃったもの。私の暴走状態がどれほど危険なのか…」

ヒー母「じゃあ…彼のことも覚えてる?あなたが私たちに会う前に知り合ったリンク族の少年…」

女「!…なぜ知っているの?」

ヒー母「何年か前、うちを訪ねてきたの。あの子は今もあなたを探してる。あなたを見つけるためだけに、魔法学校に通って、あなたを探すための魔法まで開発して、ずっと…」

女「…そうか…それで私の体質のことなんかも彼に聞いたというわけね…」

ヒー母「ええ。あなたの名前も、生まれも…全部聞いたわ」

女「…だとしたら分かるはずよ。私と一緒にいることがどれ程危険なことか」

ヒーロー「……そうだな…俺は自分のことばかり考えていた。すまない。キミは、彼のところに帰るべきだ」

女「話聞いてた?彼だろうと誰だろうと、一緒にいるつもりはない…いてはいけないのよ…私は一人でいるべき存在なの」

ヒーロー「そんな筈はない!」

女「…!」

ヒーロー「彼が魔法を学んだのは、キミが暴走した時に止めるためだ。俺は彼と直接会ったわけじゃないが、間違いなく俺なんかより遥かに強くなっているだろう。彼がキミの居場所になってくれる」

女「…そうだとしても…私がそれに耐えられない…ヒーローたちにも、彼にも、私は攻撃なんてしたくないのよ…」

ヒーロー「…そうだよな…自分が愛する人を覚えていないうちに傷つけてしまう…その恐怖は、俺には計り知れない程だろう…だがそれでも…信じてほしい。俺たちのことを。俺たちは絶対にキミを見捨てない。キミが嫌だと言ってもだ」

ヒーローは力強い目で、真っ直ぐに女を見つめる。

女「…なぜ…そこまで…」

ヒーロー「俺は…ヒーローだからだ」

女「ヒー…ロー……そんなの理由になってないわ…」

ヒーロー「キミがとても人懐っこい性格で、孤独を嫌っていると知っている。記憶を失ったキミがうちに来た時も、いつもぴたりと後ろについてきていた」

ヒー母「そうね…懐かしいわ。それに彼も話してたわよ。あなた、孤独に耐えかねてペットを飼ってたそうじゃない。それで迷子のペットを探してるうちに彼と出会ったんでしょ?」

女「……!」

ヒーロー「大丈夫だ。絶対にキミを孤独にはさせない」

ヒーローは女の手を取り、両手で強く握る。

女「……ありがとう…皆…」

女はまた大粒の涙を零した。

ヒー母「良かった。やっと素直になってくれたわね、ウフフ」

614ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:16:39 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「はは、カッコつけたが、キミは彼の元で暮らすのがいいだろう?実は彼にももう母さんが連絡してくれている」

女「ふぇっ…?ま、まだそれは、心の準備が…!」

ヒー母「ふふ、近いうちに迎えに来てくれるわ」

女「ええっ…?!」

ヒーロー「…そういえば、キミが隔離されていたというのは彼の魔法学校とは別なのか?」

女「え、ええ…たぶん。彼の魔法学校は故郷の町にあるはずだから…」

ゲン「しかしヒーロー、残念なんじゃないか?キミはレディをこんなにも愛しているのに、他の男に渡さなきゃならないなんて」

ゲンはヒーローに肩を組んでウザ絡みしてくる。

ヒーロー「そ、そんなことはない!女自身の気持ちが第一だろう!俺はあくまでヒーローとして、女の幸せを願うだけだ!」

ゲン「はっはっは、そうかそうか!でも愛しているのは否定しないんだな?」

ヒーロー「う、うるさい!共に過ごした家族としての愛だ!」

女「…ヒーロー…」

ヒーロー「ん?」

女「…あ……駄目……」

ヒーロー「女…?」

女「ごめんなさい…」



カッ!!!!



その瞬間とてつもない光が部屋を包んだ。

ゲン「なっ!?なんだ!?」

ヒー母「これって…あの時の…!?」

かつて少女が消えた時のことが脳裏に浮かぶ。

ヒー母「いや!ダメよ!行かないでっ!!」

何も見えない光の中で必死に女を探し出そうともがく。

だが数秒後に光が収まると、女は消えていた。

ヒー母「ヒーロー…?」

ヒーローと共に。

615ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:17:20 ID:L5MYRj.A00




ヒーローが目を開けると、そこは薄暗い空間になっていた。

ヒーロー「なんだ…ここは…」

何者かに荒らされたような、ボロボロでグチャグチャな子供部屋だった。

女「私の部屋よ。どうして来ちゃったかな…」

女は壊れた椅子に座って言う。

女が光に包まれ消えようとした時、ヒーローは咄嗟にその腕を掴んでいたのだ。

ヒーロー「…キミの作り出した空間か。こんなところでずっと、たった一人で…寂しかったろう…」

女「…こんなところまで追いかけてくるなんて…」

ヒーロー「言っただろう?もうキミを孤独にはさせないさ」

女「本当…筋金入りのヒーローね…フフ…」

ヒーロー「女…!やっと笑っ…!」


ドゴォ!!!


突然殴りかかってきた女をヒーローはギリギリでかわす。

ヒーロー「……!?」

女「あはははっ!!なんで避けるの?受け止めてよ!私の愛を!!」

ヒーロー「くっ…これが暴走か…!」

女「フフフフッ、そっか!ヒーローは見たことなかったんだっけ!私の本当の姿!!」

616ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:18:06 ID:L5MYRj.A00


バゴォ!!!


今度は蹴りを繰り出し、それもヒーローはかわした。

ヒーロー「…本当の姿、か。確かにそうだな。普段のキミも、今のキミも、どちらもキミには変わりない」

女「違うよ!これが私の本性なんだ!!」


ガッ!!!


再び振りかざされた拳を、今度は両腕でガードするが。

ヒーロー「く…!誰にでも…色々な一面はある…!その一つに過ぎないさ…だからこそ…俺はキミの全てを受け入れよう…うおっ!?」


ドガッ!!


その途轍もない威力に耐えきれず、ヒーローは壁に叩きつけられた。

ヒーロー「がはっ…!」


ヒュンッ!!


ヒーロー「!!」

さらに女は一瞬で距離を詰め追撃する。


ドゴォン!!!


ヒーローはまたもギリギリでかわした。

女「あはっ、すごいすごい!よく避けるね!」

ヒーロー(なんだ…!?あれ程の力が何度もぶつけられているのに、壁が全く傷ついていない…?)

女「あぁ、これ?この外には"何もない"からね、壊れないの」

女は壁をコンコンと叩いて言う。

ヒーロー「何もない…そうか、この壁がこの空間の端っこなんだな…!」

女「そ!つまり、逃げ場はないってことだよ!」


ブンッ!!


女の裏拳を、ヒーローはしゃがんでかわす。


ズドッ!!!


が、その腹に女の蹴りが入った。

617ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:18:57 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「ごはっ…」

ヒーローは吐血する。

女「わっ、痛そー。大丈夫?フフフ」

ヒーロー「ゲホッ…フッ…気にするな女…これくらい…俺は何ともないさ…」

女「!!…あはははっ!面白いね!」


バチンッ!!


ヒーロー「ぶっ!」

女は強烈なビンタを放つ。


バチン!!

バチン!!

バチン!!


さらに何度も、往復ビンタを繰り返す。

女「ほっぺた腫れてしょーくんみたいになってるよ!かわい〜!ふふっ!」

ガシッ!

ヒーローはビンタする腕を掴む。

女「!」

ヒーロー「…大丈夫だ…俺が全部…受け止めてやる」

女「ホント!?嬉しいっ!!」


ギュウッ!!


女はヒーローを抱きしめる。

ヒーロー「ぐうっ…!」


メキメキメキ…!!


女「ふふふ…好きだよ、ヒーロー」

ヒーロー「…フッ……俺もだ…!しかしこのままでは…死んでしまうぞ…離してくれないか…?」

女「ええ!?ひどい!離れたくないよ!どうしてそんなこと言うの!?」

ヒーロー「俺が死んだら…また一人になってしまう…!」

女「やだ!!逃がさないよ!!」

ヒーロー(くっ…もはや会話が通じないか…!どうする…)

618ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:19:52 ID:L5MYRj.A00


ズッ!!!


ヒーロー「……!?」

女の貫手が、ヒーローの腹に刺さった。

女「あはっ!これで逃げられないでしょ!」

ヒーロー「ゴホッ…」

先程の比ではない大量の血を吐く。

女「血…真っ赤で綺麗だなぁ〜!宝石みたいで好きなんだよね!もっと見たいなぁ〜」


ブシュッ!!


女は腹に刺さった手を勢いよく引き抜くと、傷口から血が噴き出す。

ヒーロー「ぐぅっ…!!」

女「痛い?痛くないよね?私のこと好きなんだもんね?ウフフフ…!好きだったら痛みなんて感じないよね?嬉しいよね?」

ヒーロー「……ああ…痛くなど…ないさ…!女…キミに比べればな…!…ガフッ…」

女「…?」

ヒーロー「…キミは…こんなこと…望んでいない…!ゲホッ…俺よりも…キミの心の方が…痛いってことくらい…!分かっているさ…全て…!」

女「あはははっ!何言ってるの!?」


ドガァッ!!!


女はヒーローの頭を掴み上げ、壁に叩きつける。

ヒーロー「がっ…!…何…気にするな…キミが何をしようと…俺は見捨てない…!」

壁に押し付けられたまま、ヒーローは笑みを浮かべて言う。

女「……!」

ガシッ…

ヒーローは女の腕を弱々しい力で掴む。

ヒーロー「大丈夫…俺が…キミを…助ける…!」

女「意味わかんない…何言ってるの…?…何言ってるのぉぉおおおおお!!」


ドォォッ!!!!


女が叫ぶと、女の周りからすごい衝撃波が放たれる。

ヒーロー「ぐおっ…」

その瞬間ヒーローは全身が壁に張り付けられる。


ドドドドドドドドドドドド…!!!


空間内にあったものは全て吹き飛び、空間そのものが震動する。

女「いやあああああああああああ!!」


ドドドドドドドド…


衝撃波は収まらず、壁や天井に張り付けられたものが次々と潰れていく。

619ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:20:56 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「く……!俺は…諦めない…!女…!キミが本当の意味で…笑顔になれる…その時まで…!!」

ダンッ!!

ヒーローはその衝撃波に逆らい、力強く一歩を踏み出す。

身体中の傷口から血が噴き出し、全身を痙攣させながら。

さらに一歩、また一歩。


ギュッ…


そしてヒーローは女を抱き締めた。

ヒーロー「俺は…!!ここにいるぞ!!」

全ての力を振り絞って叫ぶ。

女「………!」

その瞬間、暴走は止まった。

ドサドサ…

衝撃波が収まり、壁や天井に張り付けられたものが落ちる。

ヒーロー「フッ……どうだ…?少しは…信じる気になったか…?」

女「…………ええ。信じる」

女は小さな声で答え、ヒーローを抱き返した。

ヒーロー「帰ろう。キミの居場所は…こんな寂しい場所じゃない…」

女は無言で頷き。

二人は元の世界へ帰った。

620ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:21:20 ID:L5MYRj.A00



ヒーロー「母さん、ゲンさん、ただいま…」

ヒー母「ヒーロー!」

ゲン「はっはっは!ボロボロだな!レディも無事か!」

女「し…心配かけて…ごめんなさい…」

バチーン!

女「うっ…」

ヒーローの母は全力で女の頬を引っ叩いた。

ヒー母「いった!!手ぇ痛!!」

ゲン「オイオイ大丈夫か…」

ヒー母「もう二度と…勝手にいなくなったりしないで…!約束よ…!」

女「…はい…ありがとう…」

ヒーロー「フッ…母さんが暴力なんて…めずら…」

ガクッ…

ドサッ…

ヒーローは倒れた。

ヒー母「ヒーロー!」

傷口から血が溢れて、瞬く間に血溜まりができていく。

女「ヒーロー…!」

621ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:22:09 ID:L5MYRj.A00




三日後。

ヒーローは病室にいた。

そのベッドの周りには、ヒーローの両親とゲン、女が見守っている。

ヒーロー「う、うおお…!すごい!まさかあの傷がたった三日で完治するとは…!!」

全身に巻かれていた包帯を取ると、傷は完全に消え去っていた。

ヒー両親「ありがとうございます!ありがとうございます!」

ヒーローの術後の経過を見に来たドクターに、両親は何度も頭を下げる。

ヒーロー「本当にありがとうございます!」

それに続いてヒーローも立ち上がり、礼を言う。

医者「お気になさらず」

ゲン「はっはっは!さすが、噂通りの超天才ドクターだな!」

ヒー父「うむ…!世界一と言っても過言じゃないんじゃないか!?」

医者「まあそうですね」

かつてとある国で死の淵にいたコンソメ顔を、神業で治療したドクター。

その話を耳にしていたゲンは、あの時連絡先を聞いておいたのだ。

女「本当に…ありがとうございます…!」

女も深々と頭を下げる。

医者「いえ、簡単な手術でしたから。じゃあ私はこれで」

そしてドクターは病院を去っていった。

女「ヒーロー…!」

ギュゥッ…!!

女はヒーローに抱きつく。

ヒーロー「女…心配かけたな。すまない。キミはもう大丈夫か?」

女「ええ…」

ゲン「確かレディは"愛"が原因で暴走するんだったよな?だが今していないということは、克服できたんじゃないか?」

女「それはまだ分からないけど…今は魔力が落ち着いてる…と思う。ヒーローが全部受け止めてくれたから…私の魔力が空っぽになるまで」

ヒーロー「俺には、女を攻撃してでも止めるという勇気も、力も無かった。ただそれだけだ。だが結果的には、それが暴走を止めるきっかけとなったのかもしれない」

ヒー父「ヒーローの鑑じゃないか!誰も傷つけず一人の女を救ったんだ!さすが我が息子!」

ヒー母「ええ!もちろん無茶はやめてほしいけど…!よくやったわ、ヒーロー!お手柄よ!」

ゲン「はっはっは!これにはさすがのヒーローも満たされたんじゃないか?」

ヒーロー「…そんなことはない」

ゲン「何!?」

ヒーロー「今回俺はただ家族を助けただけなんだ。しかも、誰も見ていないところでな……ヒーローとは民衆を分け隔てなく救い、どんな敵にも立ち向かう!俺のヒーロー活動はこれからだ!」

ゲン「はっはっは!そうか!ヒーローらしいな!」

女「私はちゃんと見てたわよ?」

ヒーロー「……」

ヒーローは、やはり笑顔を見せない女の顔を見つめる。

女「…?」

ヒーロー「…フッ…そうだな。キミの前でだけは、真のヒーローを名乗ってもいいのかもな…」

少し寂しげな笑みを浮かべ、ヒーローは言った。

622ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:22:35 ID:L5MYRj.A00

コンコン

病室のドアがノックされる。

ヒー母「はーい、どうぞ」

看護師「失礼します」

ヒー母「あら、どうしました?」

看護師「さっき少年が、これをあなたに渡して欲しいって」

看護師は手紙を渡す。

ヒー母「少年?私に?何かしら…手紙なら家に送ってくれたらいいのに…あれ?この名前…」

それは高校生からの手紙だった。



「挨拶もせず帰っちゃってすみません。

今の俺がソイツに会っても、何も言えねえと思います。

病室の外から一目見て、笑顔じゃなくてもなんか幸せそうな顔だってのは分かった。

俺はソイツが幸せなら、それで十分です。

ソイツの居場所は俺んとこじゃなくて、あなたたちのとこだと思います。

きっとあなたたちは本物の家族だから。

俺のことはソイツには話さないでください。

きっとその方が、俺もソイツも後腐れなくこれからの人生を生きていけると思う。

自分で言うのもなんだけど、ソイツ昔は俺のことも好きだったから、メンドくせーことになるかもしれねえし…。

とにかくそういうわけで、ソイツのこと、よろしく頼みます!

俺は国に帰って、勉強して、大学でも目指します!

じゃ、さようなら!」





第三章 完

623ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:28:11 ID:L5MYRj.A00
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!!!
第三章は高校生編でした!悲しい!
第四章は一体何編になるんだ…全く予想がつかない…!
また書き溜めたいのでしばらく更新を休みます
気長にお待ちいただければ幸いです

624ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 00:01:05 ID:EyQ0ctFM00
第一章のあらすじ>>348
第二章のあらすじ>>503

〜ここまでのあらすじ3〜

高校生(大学生)は長い旅で疲労困憊の中、親友おこめと再会し復活。
旅を続ける途中、謎の空間にてバーサーカー少年軍団と出会う。
結局その空間に少女の手がかりはなかった。
その空間は謎フォックスたちの管理する場所であったため高校生は目をつけられることになる。

動物の村では、ねこが友達の猫又と遊んでいた。
猫又の正体は"貧乏性の妖怪"であり、その呪いによってねこの友達であった赤ヨッシーの家庭は崩壊する。
ねこは残された赤ヨッシーの妹の特訓を手伝うことになった。

ナザレンコは部隊を引退して芸人に。

遠い宇宙ではアメリーナと魔物たち対エース・アルザークの戦いが繰り広げられる。
ギルティースの加勢もありアメリーナを倒したが、そこへ謎フォックスが乱入。
アルザークたちは逃げるしかなかった。

樹海の洞窟で密かに暮らしていた煙草マスターの子は、父である煙草マスターを倒すべく、スターロッドを探す旅に出た。

別世界へと飛ばされたリカエリスたちは元の世界へ帰るべく、預言の力を持つというアーナ姫の元を訪れた。
しかし城は悪党に占拠されており、悪党を倒すも、アーナは鬼神の邪念に取り憑かれていた。
てへぺろやおサルさん、アーナの兄である壊す合体の力によって、邪念はアーナの魂と合体し、事なきを得た。
その後アーナの預言により、リカエリスたちをこの世界へ飛ばしたフォックスたちはネク◯フィリア星にいると判明。

極道の町では、須磨武羅組の大親分こと迫力が老衰により逝去。
次の親分となるその玄孫の面倒を片割れが見ることになる。

ムッコロズ・ムッコロスは軍の入隊試験を受けたのち、行きつけのジムを訪れたところ、下半身虚弱体質と交戦。
ムッコロズは生身で戦い押されるも、パワードスーツを装着し倒した。

王国の城下町では、ヒーローがパトロール中、倒れている少女、もとい、女を発見。
女は魔力暴走体質によって魔法学校で数年間隔離施設に入れられていたが、その魔法学校は突然黒サムスにより破壊され、それから行く宛もなく彷徨い、この町へたどり着いたようだ。
女は再び暴走することを恐れ去ろうとするが、ヒーローはその手を離さず、女が作り出した異空間へ入り込む。
そこで女は暴走し、ヒーローはその魔力を出し切るまで全てを受け止めた。
女はようやくヒーローの元に残る決心をした。

ヒーローの母はそれを高校生にも報告し、高校生は町を訪れたが、幸せそうな女の顔を一目見て、女のことはヒーローに任せようと決心し、何も言わず去るのだった。

625ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:21:31 ID:EyQ0ctFM00

第四章




ある町の定食屋。

ナザ『バンジー無しバンジージャンプ!?何言ってんだ正気かこの番組!?アホか!そりゃ俺にしかできねえ芸じゃねえかよ!やるに決まってんだろ!』

破天荒な芸で最近人気を伸ばしてきている戦芸人ナザレンコがテレビに映る。

それをボーッと見ながら、孤独に飯を食べる青リンクがいた。

浪人生「はぁ…」

高校生は浪人生となっていた。

通信制の高校を卒業し、一応適当に大学を受けたが、学力が足りず普通に落ちた。

故郷の町へは、まだ帰っていない。

何年もかけて魔法を会得し、何年も旅を続けて、必ず連れ戻すと誓った少女が。

自分とは全く関係のないところで問題を解決し、他の男のところで幸せに暮らしていた。

女の無事を確認した時は素直に喜んだが。

少しずつ、少しずつ、イヤな気持ちが膨らんできていた。

いつの間にか、少女と出会うまでの人生よりも、連れ戻すための人生のほうが長くなっていた。

その結末があれだったのだ。

自分は何のために生きてきた?

そんな疑問が頭の中でグルグルと回っていた。

そんな自分の姿で、帰る勇気がなかった。

家族も仲間も皆優しく、何も言わずにまた受け入れてくれるだろう。
誰も責めたりするはずがない。

頭では分かっているが、浪人生はただただ自信を失い放浪していた。

浪人生「どうすっかなぁ…これから…」

626ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:23:28 ID:EyQ0ctFM00





浪人生の故郷にある、魔法学校では。

㌦「西の魔法学校が壊滅…!?」

昼間「はい…連絡が取れず調べてみたら、まさかこんなことになっていたとは…」

㌦「脱走したドルボリドルを捕まえる時にお世話になったところですよね…?」

昼間「ええ」

ここからドルボリドルの潜んでいたコンゴジャングルまでは遠く、空間移動で行くには膨大な魔力が必要となる。

そこで、コンゴジャングルの近くにあった魔法学校に協力を依頼し、学校同士を繋ぐゲートを開いてもらったのだ。

一方的な移動では届かない距離も、双方からならば繋ぐことができる。

㌦「一体どうして…」

昼間「分かりませんが…黒い鎧を着た何者かが侵入し、全てを破壊していったとのことです…」

㌦「そ、そんな災害みたいなヤツがいるんですか…?!」

昼間「黒い鎧…まさか…いえ、彼女がそんなことをする筈が…」

㌦「何か心当たりがあるんですか?」

昼間「君たちが入学する少し前…魔の一族が表の町に現れたのです」

㌦「魔の一族!?」

昼間「ええ、黒い鎧のサムス族です。しかし彼女から敵意は感じなかった。魔力阻害リングを装着させ、結局何事もなく一月が過ぎ彼女は魔力を失った…筈なのですが…」

㌦「考えすぎじゃないですか?さすがに魔力もない魔の一族が、魔法学校を滅ぼすなんてできっこないですよ」

昼間「…だといいのですが…」

627ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:24:19 ID:EyQ0ctFM00




その隣町では。

味方殺しが、路地裏で何やら通話をしていた。

ミカ「手続きは終わった。来季から潜入できる」

男『そうか。くれぐれも間違えるなよ。必要なのは無関係な魔法でも魔力の扱い方でもない。封印を解く方法だけだ。必ずあの中のどこかに、それが記された魔法書が存在している』

ミカ「ハッ、オレを誰だと思ってる。そんなヘマはしない」

男『ではよろしく頼むぞ』

ミカ「ああ」

ピッ

味方殺しは通信を切る。

ミカ「学校か…殺しの英才教育しか受けてこなかったオレには縁のなかった場所だ。たまにはこんな簡単な依頼も悪くねえ。学生気分でも味わってみるか……ハッ、まあ最後には全員殺すんだがな」

プルルル…

ミカ「あ?またか…」

ピッ

ミカ「誰だ?依頼なら先約がある。今は受け付けてない」

???『あ!ミカさん、お久しぶりです!』

ミカ「……お前…エーレヒトか?」

エーレ『はい!』

ミカ「…何の用だ」

エーレ『ええ!?久しぶりなのに冷たい!』

ミカ「用を言えよ。オレは忙しいんだ」

エーレ『嘘だあ、忙しい時は電源切ってましたよね』

ミカ「チッ、お前にはお見通しか。で、結局何なんだよ」

エーレ『実はこの前、戦地ですごい人と戦っちゃって…!』

ミカ「すごい人?」

628ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:24:46 ID:EyQ0ctFM00

エーレ『一般人ですよ一般人!』

ミカ「あ?」

エーレ『剣を持った一般人に負けたんです、僕!ファイターでもないのにあんな強い人、初めて見ましたよ!』

ミカ「お前が負けた…?」

エーレ『はい、僕嬉しくって…!』

ミカ「なんでだよ…」

エーレ『だってこんなこと滅多にないじゃないですか!面白いと思いませんか!?』

ミカ「思わねえな。教えたはずだぞ。俺たちは評価が全てだ。目の前の仕事を完璧にこなしてこそ、次の仕事に繋がる。それができない奴から消えていく」

エーレ『はは、相変わらずですね。ミカさん、"神剣"って知ってますか?』

ミカ「神が宿った剣の事か?別に詳しくはないが、そういう言い伝えは色々あるだろ」

エーレ『その人になんでそんなに強いのか聞いてみたら、この神剣のお陰だ、って』

ミカ「ヘェ…まあホームランバットや伝説のスターロッドみたいな、特異な能力を宿した武器ってのは実在してるからな。そういう剣があっても不思議じゃない」

エーレ『聞いたことないです』

ミカ「ハッ、相変わらずお前は世間知らずなままか。戦いだけじゃなく、少しは勉強したらどうだ」

エーレ『僕にそんな難しい事ができると思いますか!?』

ミカ「…ま、無理だな。その剣の名前は分からないのか?有名なモンなら調べりゃすぐ出てくるだろうよ」

エーレ『名前かぁ…言ってたような…なんだったかな…』

629ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:25:53 ID:EyQ0ctFM00





数年前。

エーレヒトを傭兵に雇い、空色十字軍との戦争に勝利した某国にて。

兵長「…此度の戦いはエーレヒトのお陰で勝てたが…奴がいなければ、我々はなす術もなくやられていた」

兵「そうですね…奴ら…ファイターには太刀打ちできませんでした」

兵長「もしまた奴らのような戦時法を無視した無法の集団が攻めてきたら、この国は終わりだ…早急に戦力の補強が必要だ」

兵「しかしどうやって…我が国にはファイターが少ない…ごく少数のファイター兵も、都市部の防衛に徹しています」

兵長「ああ。民間から普通に徴兵したところで大きな戦力にもなるまい…」

兵「ではどうするのですか?」

兵長「普通に徴兵すればの話だ。そこで、徴兵には神剣を使う」

兵「神剣を!?」

兵長「神剣に選ばれし者は究極の力を授かるという。たとえその身が凡人であろうとも、な。民間人を砦の地下に集め、あの時のように神剣を引き抜かせるのだ。もし引き抜ける者がいたなら、我が軍は最強となる」

兵「な、なるほど…!ファイターではない者が神剣を扱えれば、戦時法を素通りして他国との戦争にも投入できる…!」

兵長「ああ。では早速取り掛かれ!」

兵「はっ!」


それから兵たちは町の住民たちを順に砦の地下へ呼び出し、神剣を引き抜かせた。



そして数日後。

砦の地下室に突き立てられた剣の前に、住民たちが列をなす。

住民「ふんっ…!!」

先頭の男が剣の柄を握り引き抜こうとする。

住民「…ハア……ハア……ダメだ…びくともしませんよこれ…」

兵「次!」

住民「は、はい!」

次の男が柄を握る。

住民「ふんっ……!!……ダ……ダメですね…腕力には結構自信あったんすけど…」

兵「次!」

それから住民たちは剣を握っては交代し、列は進んでいく。

630ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:26:53 ID:EyQ0ctFM00



住民「はぁ…すいません、ダメです…」

最後に並んでいた男も引き抜けず、トボトボと帰っていく。

兵「兵長、今日召集した住民は以上です」

兵長「これで町の全住民の八割が終わったのか。未だ神剣が抜ける気配は無し……やはり普通の人間では駄目なのか…?」

青年「あのー…すいません、ちょっとトイレ行ってて…」

赤い服を着た金髪の青年が、申し訳なさそうに声をかける。

兵「ん?ああ、もう一人残ってたか。よし、やってみろ」

青年「はい。まあ僕なんかが引き抜けるわけないですけどね、はは…」

青年は剣の柄を握り。


ズッ…


青年「え?」

兵「え?」

兵長「え?」

剣はあっさりと持ち上がった。

兵「へ、兵長…これは…!」

兵長「引き抜けた…!ということは…お前がこの神剣に選ばれし者だ!!」

青年「……え…ええええええ!?」

???『お前からは可能性を感じる。よろしく頼むぞ』

青年「え!?誰!?」

兵「どうした?」

青年「いや、今よろしくって…」

兵長「ん?ああ、そうだな。これからお前には我が軍で働いてもらう。よろしくな」

青年「え、はい…いや、そうじゃなくて…」

???『私の声は他人には届かぬ』

青年「!?…ま…まさか…この剣が…?」

神剣『そうだ。私が持ち主と認めた者にのみ、私の声は聞こえる』

青年「し、神剣に宿った神様みたいな…?」

神剣『まあそんなところだ』

兵長「さっきから何を一人でブツブツと…大丈夫か?」

青年「い、いえ!なんでもないです!」

631ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:28:52 ID:EyQ0ctFM00



それからおよそ一年後。

青年は軍での訓練を経て、ついに実戦に投入された。

青年「戦場…空気が重い…僕こんなところで本当に戦えるのかな…」

兵長「ふむ、この一年で分かった事がある。お前に戦いの才能はないという事だ。だが、お前には神剣がある!さあ行け!」

青年「は、はい…!…って言っても…人斬ったことなんてないし…斬ったら痛そうだし…死ぬよね、たぶん…」

神剣『それが戦いだ』

青年「分かっちゃいるけども…」

敵兵「うおおおお!」

青年「うわこっち来た!」

神剣『構えろ!』

青年「う、うん!」


ズバッ!!


敵兵「ぐはっ…」

青年「え…?」

ドサッ…

敵兵はあっけなく倒れた。

青年「か、勝った…!」

敵兵「なんだアイツは!太刀筋がまるで見えなかったぞ!?」

兵長「やはり神剣…すさまじい力だ…!木刀での訓練とはまるで動きが違う!さあ、その力で存分に暴れてくるのだ!」

青年「は、はい!行くぞ…はあああっ!!」

ズババババッ!!

青年は神剣を振り回して敵兵の中へ突っ込んでいく。

敵兵「ぐああああっ!」

敵兵「くっ…強すぎる!」

ズダダダ!!

敵兵は銃を連射するが、青年は避けながら走り抜けていく。

敵兵「は、速い!弾が当たらん!まさかファイターか!?」

青年「違うよ!」

632ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:29:28 ID:EyQ0ctFM00


ズバァッ!!


敵兵「うわああっ!!」

敵兵は全く歯が立たず、青年一人に蹂躙されていく。

青年「はは…すごい…!まるで自分じゃないみたいだ…!」

???「そこまでだ!」

青年「!!」

青年の前に、一人のサムスが立ち塞がる。

青年「ファイター…!?」

???「私の名は逆キンタマ。この国の防衛を任されし者」

青年「逆キンタマ!?」

逆キン「生まれつきキンタマが生殖器の上についていたことから名付けられた。多少の不便はあるが、金的が効きづらいというメリットもある。案外いいものだ」

青年「そ、そうなんだ…」

逆キン「お前、一般人にしてはできるようだが、英雄サムスの血を引くこの私に勝てると思うな」

青年「やっぱりファイターだったー!ど、どうしよ!勝てっこないよ!」

神剣『案ずるな。私の力を信じろ』

青年「神剣…わ…分かったよ…」

青年は神剣を構える。

逆キン「ほう、ファイターと知ってなお向かってくるか。いい度胸…いや、いいキンタマだ」

ドガッ!!

ズババッ!!

ガキンッ!!

二人の攻撃が激しくぶつかり合う。

逆キン「バカな…!コイツ…強い!」

そして徐々に逆キンタマが押され始める。

青年「いける…!」

ガキィィ!!

逆キン「ぐおっ…!」

逆キンタマの攻撃を弾き、体勢を崩して無防備になった隙に。

ズバァッ!!

逆キン「ぐあああああっ!私のキンタマがああっ!」

ドサッ…

青年は神剣で逆キンタマを斬り伏せた。

青年「や、やった…!これが…神剣の力…!!」


神剣を持った青年の伝説は、ここから始まった。

その後さらに戦場に出ては勝ちまくり、近隣諸国を次々と領地にした。

さらにその勢いを恐れた国々、利用しようとした国々とも同盟を結び、巨大な勢力へと変貌を遂げる。

小国家だったこの国は、僅か数年の間に大国と呼ばれるまでに成長した。

633ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:30:21 ID:EyQ0ctFM00



そして……数日前。

敵国に攻め入った青年と、その国に雇われたエーレヒトがぶつかる。

ガキィン!!

エーレ「わっ!ファルコンパンチが防がれた!?」

青年「ヤバいよこの人…めちゃくちゃ強いよ…!どうしよ!」

エーレ「あなたファイターじゃないですよね!?」

青年「え、は、はい」

エーレ「すごいです!!普通の人でもそこまで強くなれるものなんですね!!」

青年「いや、神剣のお陰だし…」

エーレ「神剣って!?」

青年「コレですけど…」

エーレ「そんなのあるんですか!?だから普通の人なのに強いんですか!?」

エーレヒトは目を輝かせる。

青年「ちょ、ちょっとどうしよ神剣!なんかこの人めっちゃ話しかけてくるんだけど!」

エーレ「なんか剣に話しかけてる!?こわっ!!」

青年「そっちの方が怖いよ!なんで戦争中なのにそんな楽しそうなんですか!」

ドガッ!!

エーレ「楽しいんだからしょうがないじゃないですか!」

バキッ!!

青年「くっ…イカれてる…!今までファイターとも何度も戦ったけど…一番ヤバいタイプだよこの人…!」

エーレ「そんなに強いのになんで楽しくないんですか!?」

青年「い…命の取り合いが楽しいわけあるかっ!」


ズバァッ!!


エーレ「ぐあっ!?」

634ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:31:02 ID:EyQ0ctFM00

青年「…なんだ…?今、急に剣が軽くなったような…」

神剣『よく言った』

青年「神剣?力を貸してくれたの?」

神剣『ああ。戦いとは命の奪い合い…楽しむものではない。ゆえに私という凶器を使うこと、それ自体を恐れぬ者に、私を使うことはできない。だが…お前はこの力を使うことに慣れていた』

青年「うっ…だってめちゃくちゃ強いんだもん」

神剣『そうだな。だが今、お前の本音が聞けた。戦いを恐れる心、絶対に忘れるな』

青年「うん!」

神剣『ならば…今こそ教えよう、私の名を!』

青年「えっ?名前なんてあったの?」

エーレ「さっきから、何一人でブツブツと…言ってるんですかっ!!」

エーレヒトは起き上がり、飛びかかる。

神剣『名もなき剣などありはしない。さあ、敵が来るぞ!前を見ろ!そして聞けぃ!私の名は…』


ズバァッ!!!


エーレ「がはっ…!!」

青年の一振りでエーレヒトは大きく吹っ飛ばされ、気を失った。

青年「神剣…バスタード…!!」

神剣『そうだ。名を知ることで、お前は私の力をさらに引き出す事ができる』

青年「そっか…僕たちもう結構長い間一緒に戦ってきたけど、名前すら知らなかったんだな…」

神剣『これでお前は正真正銘、真の神剣使いとなったのだ。最早お前に敵うものはこの世界に存在すまい…だからこそ、その力を振るう事を恐れる心を、絶対に忘れてはならん。分かったな』

青年「うん!じゃあ、これからもよろしくね、バスタード!」

神剣『ああ』

青年「あ、それじゃあついでに聞いときたいんだけどさ…」

神剣『何だ?』

青年「バスタードって男?女?声も中性的だし、口調も分かりづらいし…ずっと気になってたんだよねー。いや、剣に性別とかないかもしれないけど」

神剣『男だ』


それから青年はバスタード♂とともに敵兵を全滅させ、この戦争も完全勝利で終結させるのであった。

635ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:32:06 ID:EyQ0ctFM00





魔界・第一階層"喧騒"。

???「チッ…随分と腕を上げたようだな…ゲイ」

茶色いゴリラが、緑の帽子の少年の前に倒れる。

ゲイ「ありがとう、ダーク内藤。フフ…」

ゲイと呼ばれる少年はニヤリと微笑む。

???「"腐敗"の辺境に現れたテメエを拾ってきてからまだ数年だ。魔力操作すらできなかったテメエがここまで成長するとはな」

青リンクが言う。

内藤「黒光…まったく、貴様がコイツを見つけなければこの俺がさらに地位を落とすことはなかったのだ」

黒光「そりゃテメエが弱いのが悪いだろ」

内藤「何だと!?ここで貴様を潰してやってもいいんだぞ!?」

黒光「クク、やってみろやデカブツが」

???「よせ内藤。お前じゃ無理だ」

黒ドンキーが口を挟む。

内藤「アルベルト、邪魔をするな!こいつは調子に乗りすぎだ!ここらで分からせておくべきだ!」

アルベ「だからお前じゃ分からされるだけだと言ってるんだ…」

黒光「その"お前じゃ"って言い方、まるでテメエなら俺に勝てるような言い草じゃねえか?オイ」

アルベ「よせ黒光。私はそんな挑発には乗らん」

黒光「ケッ、つまんねえヤツ。まいいわ。ゲイの実力も確認したし、帰るか」

黒光は去っていく。

636ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:32:42 ID:EyQ0ctFM00

ゲイ「フフ、彼らは相変わらず喧嘩っ早いね」

アルベ「まったくだ。もうすぐ地上への大規模侵攻が始まるかもしれんと言うのに、味方同士で争ってどうする」

ゲイ「地上か…フフ、楽しみだな…」

アルベ「そうだな。数十年生きてきた私も、まだ地上に出たことはない」

ゲイ「えっ、そうなの?」

内藤「フン、詳しくは知らんが、魔族は地上では神によって消される運命にあるらしいからな」

ゲイ「そうか…それで妖魔様は戦力を集めてるのか。その神とやらでも対応が間に合わないほどの侵攻で一気に攻め落とす。妖魔様らしいね…フフ」

アルベ「ああ。どうやらその神も弱っているらしいからな。我々が日の目を浴びる日も近いだろう」

ゲイ「それじゃあ僕たちも、それまでにもっと強くならなくちゃね」

???「クク…フハハハハッ!ならば我が貴様を鍛えてやろう、綺麗なゲイ!」

ゲイ「わぁっ!」

ボォッ!!

突然炎の中から現れたのは、赤ピカチュウの魔炎師ヤミノツルギ†であった。

内藤「ヤミノツルギ…!」

アルベ「また面倒なのが来たな…」

ヤミ「面倒とはなんだっ!頼まれたんだよ」

ゲイ「頼まれたって?」

ヤミ「君たちをもっと使える兵士に育てろって、妖魔様から直々にね」

アルベ「そうか…まあボスの命令ならば仕方あるまい。確かに我々はまだ、幹部格に比べると戦力として物足りないのも事実…」

ゲイ「フフ…期待してくれてるって事だね。嬉しい限りだよ」

内藤「さすがはキング・オブ・妖魔!この俺の才能を見抜いていたとはな!」

ヤミ「いや、内藤のことは別に頼まれてないよ」

内藤「ぬゎにぃ!?」

アルベ「残念だったな内藤。大丈夫だ、お前のことは私が守ってやるからな」

アルベルトはそう言って内藤の肩を抱く。

内藤「よせ気色悪い!」

ヤミ「強くなりたいなら教育係のとこにでも行ったら?どうせヒマでしょ」

内藤「チッ…分かった。ならば貴様らを超えて帰ってくる。せいぜい足を掬われんよう気を付けろ!」

内藤は去っていった。

ゲイ「フフ…なんだかんだ言いつつ内藤は物分かりがいいね」

アルベ「不器用だがイイ男なのだ、あいつは…フッ」

ゲイ「フフフ…」

ヤミ「さ…さて……始めるぞ!」

二人のなんだか男色めいた雰囲気に寒気を感じつつ、ヤミノツルギ†は特訓を開始した。

637ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:42:31 ID:EyQ0ctFM00





とある町はずれ。

アメリ「んー…変なとこ来ちゃったな。この子たち連れて帰らなきゃいけないのに」

魔物「グォォ…」

アメリーナは数匹の魔物たちを従えて、迷子になっていた。

アメリ「はあ…お腹すいたなぁ…」

ブタのような魔物を見ながら、アメリーナは呟く。

魔物「ブヒ!?」

アメリ「いやいや、食べないって…せっかく救い出したんだから。あの魔法学校…魔物使って変な実験してるっていうからブッ壊したけど、まさかあんな強い人がいるとは…」

アメリーナは数ヶ月前に滅ぼした魔法学校のことを思い出す。

アメリ「名人とか言ってたっけ…ただの案内人かと思ってたのに…!すごい追いかけてきたから全力で逃げてたら、自分がどこにいるか分からなくなるなんて……くっそ〜!思い出したら腹立ってきた!!…あ、そう言えばあのサムス族の子、元気にしてるかな〜?」

???「見つけたぜ…暗黒のアメリーナだな…?」

アメリ「誰っ!?」

アメリーナは即座に戦闘態勢をとり、アームキャノンを構える。

その先には一人の紫フォックスがいた。

???「俺はパターソン…悪いがお前を連行するぜ」

アメリ「もう!めんどくさいなぁ!今それどころじゃないの!」

パタ「めんどくさいって…悲しみ…迷子なんだろお前…」

アメリ「なぜそれを…」

パタ「お前の船が見つかったんだよ。お前が魔物を引き連れてウロついていたという目撃情報もな…だから来たんだ」

アメリ「ホント!?どこにあった!?私の宇宙船!」

パタ「北西の国の、森ン中…っつってももうとっくに連盟の雇った業者に解体されてるぜ。見つかったのは随分前だからな」

アメリ「ええーー!?なんてことするの!?私が自分でお金貯めて、初めて買った宇宙船なんだよ!?」

パタ「知るかよ…」

アメリ「許さない!!」

パタ「俺が何したっつうんだよ…悲しみ…どわっ!?」


ドガァッ!!!


アメリーナは問答無用で飛びかかり、パターソンはそれをガードする。

パタ「くっ…強えな!」

638ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:43:28 ID:EyQ0ctFM00

アメリ「はあっ!」

ギュルルルッ!!

ガードを解いた瞬間、至近距離でスクリューアタックを放つ。

パタ「ぐあっ!」

アメリ「せいっ!」

バキッ!!

さらに空中で蹴りを繰り出し、パターソンを吹っ飛ばした。

パタ「チッ!調子に…乗んな!」

パターソンは着地するとすぐさま態勢を立て直して飛び上がり。

ドゴッ!!

頭上のアメリーナを蹴り上げる。

アメリ「ぐっ…」

パタ「このままお手玉にしてやる」

ドゴッ!!

ドゴォッ!!

さらに何度も蹴り上げる。

アメリ「くっ…!痛いっつーのっ!!」

バゴッ!!

アメリーナはアームキャノンでパターソンをはたき落とした。

パタ「ぐおっ!?」

ビュゥン…

さらにグラップリングビームでパターソンを捕らえ。

パタ「なっ…クソッ!」

アメリ「ふんっ!」

ドガッ!!!

地面に叩きつける。

パタ「ぐあっ…!!」

パターソンが倒れたところに、アメリーナは馬乗りになって顔前に砲口を突きつける。

アメリ「はい終わりー」

639ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:44:23 ID:EyQ0ctFM00

パタ「クソッ…!」

アメリ「…んー…?なんかさ…弱くない?フォックスだよね?」

パタ「う、うっせぇよ!…悲しみ…」

アメリ「あれ?私フォックスと戦ったことあったっけ?」

パタ「知るか!……いや、ギル姐が任務でお前の拠点の星に行ったっつってたな、そういえば…」

アメリ「ギル姐?」

パタ「俺と同じ紫のジャケット着てる女フォックスだよ…」

アメリ「あー!思い出した!でもその人とは戦ってないよ?」

パタ「それは知らねえよ…」

アメリ「えーっと…たしか魔物たちがアルザークさんとカービィに襲われて…それでアルザークさんと戦って…負けて捕まって…その後そのフォックスにも会って……どうなったんだっけ?」

パタ「だから知らねえよ…人の上で考え込むなよ…悲しみ…」

アメリ「あ!そうそう!気付いたら別の星にいたんだ!」

パタ「何言ってんだお前…」

アメリ「うーん…なんだろこの違和感。なんか記憶がすっぽり抜けてるみたいな…」

パタ「……そういや、ギル姐もそうだったな…」

アメリ「どういうこと?」

パタ「あの時、背後から魔物にやられて気ィ失ったらしい…それで次目覚めた時には別の星だったんだと。仲間に助けてもらってその星に逃げたらしいが、アーウィンも食われたとかで、随分嘆いてたんだ……お前もそうなんじゃねえのか?」

アメリ「だったら私も食われてるよそん時に!完全に拘束されてたんだから!」

パタ「そ、そうか…」

アメリ「あ!そっか!襲われた拍子に拘束具も壊れたんだ!それで無意識のうちに逃げ切ったんだ!」

パタ「んなアホな…」

アメリ「さすが私!解決!」

パタ「まあお前がいいならいいけどよ…フォックスと戦ったかどうかって話はどこ行ったんだよ…」

アメリ「そうだった!忘れてた!」

パタ「すげえアホだ…俺はコレに負けたのか…悲しみ…」

アメリ「ん?なんか言った?」

パタ「いや、何も」

640ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:46:02 ID:EyQ0ctFM00

アメリ「誰がアホだっ!!」

パタ「聞こえてんじゃねえか!」


ドゴッ!!!


アメリーナはパターソンの顔面にアームキャノンを叩き込んだ。

アメリ「…あれ?」

しかし攻撃は空振り、地面に大きなヒビを入れただけだった。


???「ったく、何負けてんだパターソン」


アメリ「!!」

突如そこに現れた白フォックスが、脇に抱えたパターソンを下ろす。

パタ「すまん…助かった…」

アメリ「誰?」

天才「俺は15人目の天才!悪いがテメエの逃亡劇もここまでだぜ、暗黒のアメリーナ」


ゴッ!!


アメリ「ぎゃっ!?」

天才は一瞬で距離を詰め、飛び蹴りでアメリーナを吹っ飛ばす。

ドシャァ!!

さらにアメリーナを上から押さえつけ。

アメリ「速…!」

ガチャンッ!

両手足に拘束具をはめた。

天才「おし、一丁上がり!」

アメリ「えっ!?はっ!?う、嘘っ!動けない…っ」

パタ「…こ、こんなあっさりと…」

天才「んじゃ俺は次の任務があるから行くぞ。パターソン、コイツを収容所まで頼む」

パタ「あ、ああ…」

キィィィィン…

天才はアーウィンで飛び去っていった。

アメリ「ナ、ナニモンなのアイツ…!同じフォックスだとは思えないんだけど…!」

パタ「俺が聞きてえよ…同世代のハズなんだが、なんでこうも差が開いてんだか…悲しみ…」

641ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:46:52 ID:EyQ0ctFM00





とある星の基地。

???「暗黒のアメリーナが捕まったようだ」

コンピュータを操作する若いフォックスが報告する。

???「そうか。奴の記憶は抹消済み、我々に関する情報が漏れることはない」

老フォックスが答える。

???「ああ。奴の知る魔力の使い方も全て聞き出した。概ね既知の情報ではあったが…もはや奴に用はない。放っておけ」

また別のフォックスが言う。

???「了解」

???「魔力操作をさせるために奴に使った魔力増幅薬は勿体なかったな」

???「気にするな。今の我々には最早必要のない薬品だ」

???「オリジナル、マグヌスの監視に当たらせていたCR-315より報告。他のクローンネスと違う兆候が見られているようだ」

???「何?」

???「これまで送り込んだネスはいずれも性格に違いはあれど、人間に危害を加えるような事例はなかった。しかしマグヌスは悪意を持って人間に接する傾向にある」

???「悪意…?」

???「ああ。大きな事件こそ起こしていないが、他人を困らせる言動、イタズラや軽度の暴力を行った事例もある」

???「マグヌス…あれはたしか培養器による成長ではなく、普通の子供と同じく赤子から育て、保育園に預けて他人との関わりを重視した個体だったな」

???「ああ。保育士や同級生、果ては無関係な通行人にも危害を加えている。まだ幼く微弱なPSIしか使えないが、このまま成長させるのはまずい」

???「人間の悪意に影響を受けたのか?」

???「いや、遺伝子異常の可能性もある。廃棄したミスクローンたちのように暴力性が増しているのだろう?」

???「有り得ん。遺伝子検査は綿密に行なっている」

???「だが後天的に異常が発生した可能性もあるだろう」

???「幼少期に精神が不安定なのは一般人でも珍しい話ではあるまい。気にしすぎだ」

???「確かに…しかしネスを一般人と比較してよいものか…それに通行人にまで危害を加えるというのは行き過ぎではないか?」

基地内のフォックスたちがそれぞれの考察を口にする。

???「ふむ…取り敢えずかつて本物のネスが"英雄"と呼ばれたとされる年齢…十二歳までは様子を見ろ。余程危険な存在にならない限りはな」

???「了解」

???「重ねて報告だ。エルバンがファルコン族と接触した」

???「何者だ?」

???「今データを調べている……こいつだ。3億ドルの吐き気」

と、フォックスはモニターに赤ファルコンの画像を大きく映し出した。

???「特に変わった経歴はないようだな。幼少期から運動神経が高く、様々なスポーツで優秀な成績を収めているが…ファイターとしては別段珍しくもない。3億ドルというのはスポーツで稼いだ金額から取られた異名だな」

??? 「それがエルバンに一体何の用だ?わざわざ報告するということは、ただすれ違っただけではないんだろう」

???「ああ。しばらく行動を共にするようだ」

642ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:47:37 ID:EyQ0ctFM00





少し前、とある町。

住民「きゃあああああっ!!」

魔物「グオオオオオオッ!!」

モンゴリアンデスワームのような細長い魔物の群れが、住民たちを取り囲んでいる。


ドガガッ!!


???「大丈夫か?オエッ…」

そこに赤ファルコンが現れ、魔物たちを瞬殺した。

住民「あ、あなたは…3億ドルの吐き気さん!?」

住民「助かりました!ありがとうございます!」

吐き気「何、気にするな。うっぷ…け、怪我はないか?」

住民「はい!大丈夫です!」

住民「それより吐き気さんこそ大丈夫ですか?具合悪そうですけど…」

吐き気「問題ない…生まれつきだ」

住民「よかったらこれ飲んでください!この町で作られる漢方薬です!吐き気に効きますよ!」

吐き気「ありがとう…」

ゴク…ゴク…

吐き気は漢方薬を飲んだ。

住民「どうですか?楽になったでしょう」

吐き気「これは…すごいな。本当だ。今までの人生で一番効いたぞ」

吐き気は晴れやかな表情になった。

住民「それはよかった!」

吐き気「気に入ったぞ。この町を出てからも定期的に取り寄せさせてもらおう」

住民「ぜひぜひ!吐き気さんにならお安くさせていただきますよ!」

吐き気「ありがとう。それにしても…最近は本当に魔物が多いな。昨日訪れた町でも被害があった」

住民「この世界はどうなってしまうんでしょうか?」

吐き気「さあな…だが俺も手の届く範囲の人たちは救いたいと思っている。知ってくれているようだが、俺はもう一生暮らせるだけの金を稼いだ。それは応援してくれたみんなのお陰でもある。だから今、俺はその恩返しの旅をしているんだ」

住民「そうだったんですね!頼もしいです!」

住民「最近スポーツの試合で見かけないと思ったら、そういうことだったんですか」

643ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:48:50 ID:EyQ0ctFM00

???「おいおいおいおいおい!!にゃにもうおわっはひににゃっへんら!?まらうぉくあのほっへうぞ!!」

吐き気「!?」

そこに現れたのは、青リボンのヨシオ族だった。

住民「…なんて!?」

???「らからー!まらうぉくあのほっへうっへうっへんらよ!」

吐き気「…?」

???「オエッ…」

ビチャビチャッ!

住民「なんだ!?なんか吐いたぞ!」

住民「あれは…ミミズ…!?」

???「まだ僕が残ってるって言ってんだよ!!この口からミミズ出すくんがな!!」

吐き気「大丈夫か?この吐き気に効く漢方薬分けようか?」

出すくん「いらないよ!このミミズは僕のアイデンティティ一なんだ!ミミズ出せなくなったら終わりだ!」

吐き気「なんて悲しいアイデンティティ一なんだ」

出すくん「うるさい!!お前よくも僕の育てたミミズたちを殺してくれたな!!」

吐き気「ミミズ…さっきの魔物のことか?なるほど、あれはお前が吐き出したミミズの成長した姿というわけか」

出すくん「そうだ!!あそこまで育てるのに十年かかるんだぞ!絶対に許さない…!行け、ミミズたち!!ソイツを締め付けてやれ!!」

すると口から出てきたミミズたちがウネウネと吐き気の方へ向かっていった。

吐き気「遅い。たとえスポーツから離れても、そんな小さなミミズに捕まるほど俺は衰えてないぞ」

吐き気はミミズをかわし、そのまま口からミミズ出すくんの元へと走る。

出すくん「ふふふ、甘いな!」

ギュルン!

地面から飛び出したミミズが、吐き気の足首に絡み付いた。

吐き気「なっ!」

出すくん「プリ!!」

バチンッ!!

その隙に口からミミズ出すくんのビンタが炸裂。

吐き気「ぐはっ!」

住民「は、吐き気さんっ!」

出すくん「今だ!!ミミズたち!!」

シュルルル…!!

大量のミミズが一斉に吐き気に巻き付いていく。

644ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:50:20 ID:EyQ0ctFM00

吐き気「くっ…う、動けない…!」

出すくん「へっへっへ…たかがミミズと侮ったな!このままタコ殴りにしてやる!!」

ドガガガ…!!

吐き気「ぐおお…!」

住民「吐き気さーん!!」

吐き気(くっ…なんだこれは…!普段ならこんなもの引きちぎれる筈だが…思うように体が動かない…!いつもと勝手が違う…吐き気がなくなったからか…!?)

住民「今助けます吐き気さん!こんなミミズくらいなら俺たちでも倒せます!」

吐き気「ダ…ダメだ!来るな!」

住民「えっ!」

シュルルルッ!

住民「うわぁっ!なんだ!?」

住民たちの足元からもミミズが現れ、その足首に巻き付いた。

住民「くそっ、こんなもの…!」

出すくん「ふふふ…まらまららせるぞ!!」

ビチャビチャビチャ…!

口からミミズ出すくんはさらに口からミミズを出し、そのミミズたちは住民たちに向かっていく。

住民「うわっ!く、来るな…!」

ダダダダダ…


グシャァッ!!


出すくん「!?」

住民「えっ!?」

そこへ赤い帽子の少年が爆走して現れ、ミミズたちを踏み潰した。

エルバン「★うわ、なんか踏んだ…」

吐き気「な…なんだお前は…?」

エルバン「☆僕はエルバンだよ。君は?」

吐き気「3億ドルの吐き気…お前…強いのか?」

エルバン「★うーん、だいぶ」

吐き気「じゃあ頼む。このミミズをなんとかしてくれ」

エルバンはぐるりと見渡し、ようやく状況を把握する。

エルバン「☆うん、いいよ。PKファイヤー!」


ボォッ!!


エルバンは火球を放ち、ミミズに絡みつかれた吐き気ごと燃やした。

吐き気「熱ッ…!」

魔物「ぴゃぃぃ…」

ミミズたちは灰になって消えてゆく。

645ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:51:37 ID:EyQ0ctFM00

吐き気「くっ……ハァ…ハァ…た、助かった…!ありがとう!」

エルバン「☆どういたしまして」

出すくん「な、何なんだお前!!その見た目にさっきの技…ゲイの同族か…!?」

エルバン「★ゲイ?」

出すくん「知らないならいい!くそっ、ファイター二人相手はキツいな!!退散っ!!」

吐き気「逃がすか!」

ダッ!!

吐き気は逃げるミミズ出すくんを追う。

出すくん「オロロロロ…!こいつらの相手してろ!!」

魔物「ぴー!ぴー!」

出すくんはミミズを大量に吐き出し、吐き気たちの前にミミズの壁を作り出した。

吐き気「チッ…どけ!ファルコン・パンチ!!」

エルバン「★じゃあ僕も。はぁっ!!」


ドゴォッ!!!


魔物「ぴゃぁぁ…」

吐き気の繰り出した燃えるパンチと、エルバンの繰り出したヨーヨー攻撃により、ミミズの壁は一瞬にして消滅。

しかし、すでにミミズ出すくんの姿はなかった。

吐き気「くっ、逃がしたか…あの能力は厄介だ。仕留めておきたかったが…」

エルバン「★君強いね。今のパンチ、すごい威力だった」

吐き気「ファルコン・パンチ。俺たちファルコン族に伝わる必殺技だ。お前もファイターなんだろう?一体何族だ?」

エルバン「☆ネス族だよ」

吐き気「ネス…?聞いた事ないな」

エルバン「☆結構珍しいみたいだね。僕もまだお父さん以外のネス族に会った事ないもん。★いや、正確にはお父さんにも会った事ないんだけどね」

吐き気「複雑な事情があるのか。まあ深入りするつもりはない」

住民「お二人とも、また助けていただいてありがとうございます!」

住民たちも二人に駆け寄ってきて、何度も頭を下げた。

吐き気「気にするな。この辺りにどこか休める場所はあるか?」

住民「あ、それでしたらあちらのお店がおすすめです」

吐き気「ありがとう」

それから吐き気はエルバンを連れて店に入った。

646ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:52:12 ID:EyQ0ctFM00


吐き気「エルバン、お前の力を見込んで頼みがある」

エルバン「★なに?吐き気」

エルバンは奢ってもらったジュースをチューチューとストローで吸いながら聞く。

吐き気「俺は今人助けの旅をしているんだ。悪人や、さっきのような魔物から人々を守ったりな」

エルバン「☆へえー」

吐き気「だがしばらく旅をしてみて気付いたよ。一人じゃあどうしようもないこともあるんだと。よく考えりゃ当然のことだが、俺は自分を過信していた」

エルバン「★ふーん…それで?」

吐き気「お前の力が必要だ。俺とチームを組まないか?」

エルバン「☆いいよ」

吐き気「…ず、随分あっさりだな」

エルバン「☆ふふ、実は僕も君を気に入ったんだ、吐き気。強い人は好きだ。僕の爆走について来れる人はなかなかいないからね」

吐き気「…そう言えばお前、さっきもものすごい勢いで走ってきてたな。何か用があったのか?」

エルバン「☆走るの、好きなんだ!」

エルバンは屈託のない笑顔で言った。

吐き気「フ…そうか。ならば俺の旅に付き合ってもらう代わりに、俺もお前の爆走に付き合ってやるとするか」

エルバン「☆ホント!?やったー!」

吐き気「…それと…一人の大人として、お前には少々常識も教えてやらねばなるまい」

エルバン「☆常識って?」

吐き気「まず、町中では爆走しないことだ。他人に迷惑がかかるだろう。特にお前ほどの強さの奴が一般人にぶつかっては一大事だ」

エルバン「☆ふーん」

吐き気「ちゃんと聞けよ…うっぷ…」

エルバン「★大丈夫?吐き気」

吐き気「う…吐きそうだ…」

エルバン「★トイレ行ったら?」

吐き気「いや、問題ない…やっと漢方の効力が切れてきたか…オエッ…これでいいんだ。俺は吐き気がないと本来の力を発揮できないことがさっきの戦いで分かったからな…うっぷ…」

エルバン「☆へー。吐き気は変わってるね!」

吐き気「…とりあえず、目上にはさん付けで呼ぶところから始めようか」

エルバン「★さん付け?よくわかんないけど、よろしく吐き気!」

吐き気「…」

こうして二人は共に行動することになった。

647ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:19:55 ID:5cqEJ83g00





数ヶ月後。

北の町の魔法学校では。

昼間「じゃあ㌦、よろしくお願いしますね」

㌦「はい。でも本当に僕なんかが表の学校で教師なんて、大丈夫ですかね…」

昼間「試験は通ったんでしょう。何を怖がることがあるんですか」

㌦「そ、それはそうですけど…」

昼間「来季は稀に見るファイター世代で、表の先生方じゃ手に負えません」

㌦「だったら召喚士さんが行ってくださいよー」

昼間「まったく…わがままを言わないでください。私はこちらの授業で手一杯です。それとも㌦が私の仕事をしたいんですか?」

㌦ポッターは召喚士の机の上にできた書類の山を見て、召喚士の普段の仕事量を思い返す。

毎日朝から晩まで学校の仕事をしながら、自身の召喚魔法の研究も怠らず、さらに㌦ポッターや生徒たちの個人的な指導や相談も行っている。

最近は魔物の出現量が多いため、常に表の空間で異常が起きていないかのチェックも欠かせない。

㌦「…遠慮しときます」

昼間「じゃ、頑張ってください」

㌦「はい……あ、そう言えばこちらの方にも久々にファイターが入学するんでしたっけ」

昼間「ええ。ミカ君というピカチュウ族です」

㌦「ピカチュウ…だったら衝撃と仲良くなれるかもしれませんね」

昼間「どうでしょう…昔よりは遥かに大人しくなりましたが、言葉が喋れないのは変わりませんし」

㌦「喋れなくても同じピカチュウならピカチュウ語が理解できるんじゃないですか?」

昼間「そういうものですかね…」

648ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:20:53 ID:5cqEJ83g00




そしてさらに月日は流れ、春。

㌦(どうして…こうなった…)

初めて担任となったクラスの教室に㌦ポッターが入ると、そこには。

???「くくく…ここをボクのアジトにする!もんくあるやつは、コイツみたいになるぞ!」

黄色い服の少年が、机を何段にも積み重ねて要塞を築き。

???「ちょ、ちょっとやめてよマグヌスくん!たすけてー!」

その要塞の中に囚われているのは㌦ポッターと同じマリオ族の少女。

???「やれやれ…まったくくだらない…マグヌスもチェントゥリオーネも、もう小学生なんですよ?教室では静かにしなさい」

???「わー、インテリくん、すごいむずかしそーな本読んでるねー!」

メガネをクイっと上げながら読書する緑ヨッシーと、バカそうな赤ヨッシー。

???「す、すごいクラスに入っちゃったね、ソーセージ…」

???「ビビったら負けだぞ、幼き弟よ。小学校は幼稚園とは違うんだ。舐められたら終わりなんだ」

自分の股間に向かって話しかける桃カービィと、返事をする股間。

一般人の生徒たちはその異様な光景に怯えながら、離れて見ていることしかできなかった。

すると。


バチーン!!


マグヌス「ぶへっ!」

背後から近付いた何者かによってマグヌスは机の上から叩き落とされた。

???「コラー!!何をやってるんですか!みんな困ってるでしょ!早く机を元の位置に戻しなさーい!!」

それは緑ピカチュウだった。

マグヌス「ボウリョクはんたい!」

???「うるさーい!」

バチーン!

さらにもう一発、ピカチュウは尻尾でビンタを繰り出した。

マグヌス「ぐはっ!」

㌦「ちょっ、ストップストップ!!」

呆気に取られていた㌦ポッターが、ようやく止めに入った。

???「あっ!もしかしてタンニンのセンセー!?」

と、のんきな赤ヨッシー。

649ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:21:28 ID:5cqEJ83g00

インテリ「コテツは相変わらずバカですね…こんな若い先生がいるはずないでしょう」

㌦「いえ、先生です。皆さんのクラスを担当することになった㌦ポッターと言います。よろしくお願いします」

コテツ「ほらー!インテリくんのほうがバカー」

インテリ「なっ…!だってチェントゥリオーネとほぼ同じ見た目なのに…!」

㌦「それはチェントゥリオーネさんの成長が早すぎるだけかと…」

幼き弟「先生、優しそうな人だね」

ソーセージ「んー、頼りなさそうだけどホントに大丈夫か?」

チェン「えへっ、ねえ聞いた?わたし、成長早いって。ってことは、オトナの女性ってことだよ!」

マグヌス「おっさんだろ…」

???「口を動かす前に手を動かすっ!」

ばちーん!

マグヌス「ぶひゃ!」

㌦「こ、こらこら、暴力はダメです!すみませんが皆さん、机を元に戻すのを手伝ってください。みんなでやればすぐに終わりますから」

「「え〜」」

???「口答えしない!先生の言うことを聞きなさーい!!」

「「はーい」」

ピカチュウの一声で、生徒たちは渋々㌦ポッターの指示通りに机を元の場所へ移動させる。

㌦「助かりましたよ、暴力くん。皆さんに信頼されてるんですね」

暴力「えへへ、幼稚園でもガキ大将だったので!悪いことしてる人を暴力で黙らせてるうちに、みなさんから恐れられる存在になりました」

㌦「ええ!?いや、暴力はやめましょう…」

暴力「でも僕のうちではそう教わりました!暴力こそ正義だと!」

暴力ピカチュウは眩しい笑顔でそう言った。

㌦(こ、これは早急に面談をしなくちゃ……でも見た感じ、恐れられてるというよりはみんな本当に彼を信頼してるみたいだ。たぶん彼がマグヌスくんへの抑止力になってるんだな)

暴力「?どうかしましたか?先生」

㌦「暴力くん、このクラスの学級委員長になりませんか?」

暴力「えっ?」

㌦「みんなに信頼されてる君なら、僕も安心して任せられる。どうかな?もちろん強要はしないよ」

暴力「喜んで!僕もそのつもりでした!うちのお父さんは病院の院長なんです。だから僕も常にトップに立って、みんなを引っ張っていく存在になりたいんです!」

㌦「ありがとうございます!でも、暴力はダメですからね」

こうして暴力委員長が爆誕した。

650ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:22:38 ID:5cqEJ83g00





あれから一年。

浪人生は特に目的もなく適当に再び受けた大学に合格し、晴れて大学生となっていた。

その大学内で、女学生たちがウワサをしていた。

女学生「知ってる?すっごいイケメンの新入生」

女学生「知ってる知ってる!たしかリンク族だっけ?」

女学生「ファイターとか言われてる種族らしいけど、見た目ほぼ人間だし、全然アリだよね!」

女学生「頭も性格もめちゃくちゃ良いらしいよ」

女学生「運動神経も神だしマジ神すぎよねー」

女学生「何それ、完璧超人じゃん」

女学生「あっ、ウワサをすれば…」


ゴチンッ!

女教師「いたっ!」

よそ見をして歩いていた女教師が柱にぶつかり、尻餅をついた。

???「大丈夫ですか?」

落とした書類を素早く拾い上げるとともに、手を差し伸べたのは、一人の白リンク。

女教師「ご、ごめんなさい、つい見惚れ…あ、いや、ありがとう、純白くん…♡」

女教師は赤面しながらその手を取った。

純白「ふふ、気を付けてくださいね」

女教師「はい…♡」

女学生「キャーッ!何あのイケメン!」

それを見ていた女学生たちも騒ぎ出す。

そしてそれを見ていた不良たちは。

不良「チッ…気に食わねえなあの一年」

不良「ブッ潰そうぜ」

不良「ファイターだかなんだか知らねえが、あんなヒョロいの囲んでボコせば終わりだろ」

不良「クク…やっちまおう」

不良は集団で純白の方へ近づいていく。

不良「おいテメエ!」

純白「ん?僕?何ですか?」

不良「随分チヤホヤされてるみてえじゃねえか。目障りなんだよなァ」

純白「えぇ…?知らないですよそんなの僕に言われても…」

不良「まあまあ、ちょっとこっち来いや」

と、不良の二人がニヤニヤと笑いながら純白に肩を組み、人目のつかない方へ連れていこうとする。

純白「えっ、このタトゥーイカしてますね」

その腕に彫られたタトゥーを見て純白が言う。

不良「あ?」

純白「あ、先輩のそのピアス!あの有名ブランドのヤツですよね!僕も好きなんですよ!」

不良「お、おう…?」

純白「そちらの先輩の抱えてるヌイグルミのアニメ面白いですよね!」

不良「え…あ、ああ」

651ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:23:03 ID:5cqEJ83g00


それから数分後、純白はいとも容易く不良たちと打ち解けた。

不良「ぎゃははは!意外と面白えヤツじゃねえか!」

不良「今度飲み行こうぜ!」

純白「是非!あ、でもまだ未成年なので、あんまり大きい声で言わないでくださいよ、ふふ」

不良「おう、悪い悪い!んじゃまたな!」

不良たちは去っていった。

男学生「お、おい純白、大丈夫なのか?あんなヤツらとつるんで…」

離れて見ていた純白の同級生たちが寄ってくる。

純白「はは、大丈夫ですよ。ガラは悪いけどそんなに悪い人たちじゃないと思います」

男学生「そ、そうかぁ?思いっきりケンカ売られてたように見えたけど…」

純白「まあまあ、話してみなきゃどんな人かなんて分からないもんですよ。それより、次どこでしたっけ」

男学生「えーっと、第八教室だな…ってオイ、どこ行くんだ純白!」

純白「いや、あの人って…」

ベンチに大学生が寝転がっていた。

男学生「ん?ああ、よく知らねえけどずっとあそこいるよなアイツ。講義も出てないっぽいし」

純白「そうなんですか?」

男学生「うん、俺も話したことはないんだけどさ。そういやアイツもお前と同じリンク族か」

純白「ええ、だからなんか気になって…」

男学生「まあお前が話したいなら好きにすりゃいいけど…とりあえず今はもう行こうぜ。講義おくれるし」

純白「おっと、もうこんな時間でしたか」

純白たちは教室へ向かった。

652ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:24:09 ID:5cqEJ83g00



大学生「はぁ…なんだ俺は…何がしたいんだ…?」


大学生は仰向けになり、空を見上げて雲を眺める。

その目の下には濃いクマができていた。

大学生「…………………」

大学生「…ダメだ…何も考えらんねーや…帰ろ…」

大学生は講義にも出ず、そのまま帰路に着いた。


その途中。

不良「あぁ!?やんのかテメエら!」

敵不良「オレらにケンカ売るたあ、死にてえらしいな」

不良グループ同士が道の真ん中で争っていた。

その片方は先ほど純白に絡んでいた連中である。

大学生「ちょっと通りまーす…」

大学生はその後ろを通り過ぎる。

敵不良「オラァ!」

ドガッ!

不良「ぐえっ!」

殴られた不良が飛んでくる。

大学生「うわっ…」

べしっ!

大学生は咄嗟にその不良を払い除けた。

不良「あぁ!?なんだテメエ!」

大学生「は…?」

不良「邪魔だっつってんだよ!」

不良が殴りかかってきた。

ドゴッ!!

大学生「…すまん」

不良「ヤ、ヤス!大丈夫か!…き、気絶してやがる…」

不良「テメエよくもッ!!」

バキッ!!

またも殴りかかってきた不良を返り討ちにする。

不良「ぐはっ…」

大学生「やめろ…今は…」

不良「マイク…!オイ嘘だろ…!なっ…何なんだテメエはっ!」

敵不良「ぎゃははは!通りすがりにやられてやんの!ザコどもが!」

敵グループの不良たちはそれを見て笑う。

不良「んだとテメエら!!チッ、関係ねえやつは引っ込んでろよ…」

そう言って不良たちは大学生から敵グループへと向き直し、喧嘩を再開した。

大学生「何なんだよ…」

大学生が通過しようとすると。

敵不良「おっ、良いモン持ってんじゃねえの!借りるぜ!」

今度は敵グループの一人が、大学生の背につけたブーメランを掴んだ。

653ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:25:07 ID:5cqEJ83g00

大学生「汚ねえ手で触んじゃねーよ!!」

ドゴッ!!!

大学生はその不良を殴り、道沿いの塀に叩きつけた。

敵不良「ケンジー!!」

敵不良「オイオイオイ!調子乗ってんじゃねえぞコラ!!」

大学生「あぁ!?ざけんな!さっきから何なんだよ!喧嘩なら邪魔にならねートコでやれよ!これは学校のみんながくれた大事なブーメ…ラ……ン……」

と、そこで大学生は止まった。

敵不良「…あ?どうしたテメエ急に黙りやがって!」

大学生(……大事な…?コレが…?)

大学生は空間探査魔法の魔法陣が刻まれたブーメランを、じっと見つめる。

大学生(…コレも…アイツを見つけるために作ったんだよな…)

空間魔法研究に明け暮れた日々。

そしてブーメランを毎日毎日、何年も投げ続けてきた長い旅路の思い出が、脳内を駆け巡る。

大学生(…結局…何の意味もなかったのか…?全部……俺は…間に合わなかった…)

敵不良「オイ!!なんとか言えやァ!!」

不良が飛びかかる。

ギャリンッ!

大学生はクローショットで他の不良を捕らえ、盾にした。

バキッ!

敵不良「ぐえっ!」

不良はパンチの勢いを止められず、仲間を思いっきりブン殴った。

敵不良「うおっ!すまねえ!大丈夫か!?」

敵不良「あ、ああ…てんめえ…舐めやがって…!」

大学生「…もう…いいだろ…」

顔を伏せたまま呟く。

敵不良「いいわけあるか!!死ねや!!」

ドガッ!!

不良は蹴り上げられて宙を舞い。

ドシャッ…

落下。

敵不良「がはっ……」

大学生「…はは…てめーらじゃ俺には勝てねーって」

大学生は泣きそうな顔で笑いながら、不良たちを見る。

敵不良「ク…クソッ…何なんだよコイツはァ!」

不良「いい加減鬱陶しいな!こっちは真面目に戦ってんだよ!水差しやがってよ!」

どちらのグループの不良も大学生の存在が鼻につき、矛先が全て大学生へと向く。

大学生「………」

不良「決着は後回しだ!先にコイツをブッ飛ばすぞ!!」

大学生「…………まあ…たまには…こうやって遊ぶのも面白えかもな」

不良「!?」

大学生「…ケケッ…」

大学生は涙を零しながら、不気味な笑みを浮かべる。

大学生の頭の中で何かが弾けた。

654ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:26:14 ID:5cqEJ83g00


数分後。

不良たちはグループ関係なく、全員が大学生の足元に転がっていた。

大学生「…え?」

大学生は正気を取り戻し、周りを見る。

不良たちはかろうじて息はあるものの、無惨に血まみれになっていた。

大学生「俺が…やったのか…?」

???「そうだよ。よくもやってくれたな」

大学生「え…」

そこに、一人の緑ルイージが現れた。

不良「うぅ…リ…リーダー…」

???「おう、無理して喋るなよ」

大学生「お前は…」

???「地上最強のチェマ。コイツらの兄貴分だ。仇とらせてもらうぜ」

それはかつて片割れに負け、さらに鍛え続け強くなったチェマだった。

今ではその強さに惹かれた不良たちをまとめ上げる存在となっている。

大学生「か、仇って…俺はコイツらの喧嘩に巻き込まれただけだぞ!」

チェマ「問答無用!!」


ガキィン!!


チェマはいきなりパンチを繰り出し、大学生は剣で弾いた。

大学生「話を聞けよ!正当防衛だ!」

チェマ「テメエファイターだろ」

大学生「はあ!?それがなんだよ!」

チェマ「そりゃあ一般人なんか相手にもならねえだろうな。確かにケンカに巻き込んじまったのはすまなかった。俺から謝る。…だが…テメエにゃ無傷でこの場を離れることだってできただろ…!それをテメエは…!!」

大学生「!!」


ドガッ!!


チェマのドロップキックで大学生は大きく吹っ飛ばされる。

655ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:26:52 ID:5cqEJ83g00

チェマ「ここまでする意味があるか!?剣まで使ってよ!!」

倒れた大学生に向かって叫ぶ。

チェマが指差した先に倒れている不良の体には、大きな切り傷があった。

大学生「な…!あれも…俺が……?」

大学生は自分の背の剣に目をやる。

チェマ「この町じゃケンカに刃物は持ち出さねえって暗黙のルールがある…あれをできるのはテメエだけだ、クソ野郎が!!」


ドガガガガッ!!!


チェマは体を大きく広げて回転し、連打を放つ。

大学生「ぐあっ…!」

チェマ「オラァ!!」


ドギュオオオッ!!!


大学生「かはっ…」

チェマの燃えるアッパーが決まり、数十メートル上空まで大学生は飛ばされた。

ヒューー…

ドサッ…

大学生「ぐ…!」

チェマ「まだだ。これぐらいで許すと思うなよ」

コキコキと指を鳴らしながら、チェマは倒れた大学生に近付く。

警察「オイ!何してるんだお前たち!」

チェマ「……チッ」


こうして大学生は逮捕された。

656はいどうも名無しです (ワッチョイ 4757-a260):2024/01/05(金) 22:05:56 ID:A4ALUwHw00
悲しいな

657ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:13:03 ID:t36Wc5eg00




男「ここから出してやるよ」

後日面会に現れたとある男がそう言った。

大学生「…誰だよ」

男「お前があの不良どもと戦ってんのを見たぜ。随分強えじゃねえか。チェマの野郎にも引けをとらねえだろう」

大学生「…」

男「まあそう警戒するな。俺はこういうもんだ」

男は名刺を見せる。

そこには格闘ジムのスカウトと書かれていた。

大学生「スカウト…」

男「お前の力は格闘技でこそ使うべきだ。ファイターの参加できる特別階級になっちまうから、相手もかなり手強いが、それでもお前ならかなり上まで行けるハズだ」

大学生「…興味ねーよ」

男「ウチに来るって契約してくれるんなら、最強の弁護士を用意してすぐにでもここから出してやれるぜ?」

大学生「…別にいいよ…俺はもう…疲れたんだ…」

男「逃げんなよ!お前はすごい男なんだぞ!頼むから俺を信じてくれ!才能がもったいねえ!」

大学生「なんでそこまで……そんなに強え奴が欲しいなら、それこそあのチェマとかいうルイージをスカウトすりゃいいだろ…」

男「アイツのやってるのは格闘技じゃねえ、ケンカだ!町中のジムからスカウトされまくってるようだが全部断ってるみてえだしな。アイツは格闘技という枠に収まらない、"地上最強"を目指してるんだとか」

大学生「…そうかよ…」

男「それに比べてお前は体格、パワー、スピード、そして戦闘の基礎、技術!ただのケンカとは違う、バランスよく高い能力を持ってる!ウチに来りゃ最高の選手にしてみせるぜ!どうだ!?」

大学生「だから興味ねーって…つうか、あの時そこまで見せた覚えもねえんだが…」

男「フッ、スカウトの目を舐めるなよ。色んな修羅場を乗り越えてきたことくらい、一目で分かるぜ」

大学生「………はあ…分かったよ…」

男「おお!?」

大学生「別に他にやりてーことがあるわけでもねえ…やりゃあいいんだろ」

男「本当かっ!!ありがとう!!よし!すぐに弁護士を手配するぜ!」

失意のドン底にいた大学生には、自分を求めてくれるその男の言葉があっさり刺さったのだった。

658ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:13:29 ID:t36Wc5eg00



その後。

男「ただいま戻りました」

巨大な存在の前に、男は跪いて報告する。

???「おう。首尾はどうだ」

男「あっさり乗ってきましたよ」

???「やっぱりな。アイツはかなりの戦力になる」

男「でも、アンタがいりゃああんな病んだガキに頼らずとも、今の弱体化した須磨武羅組ぐらい潰せるんじゃないですか?」

???「てめえら一般人にゃ分からねえだろうが…ファイターの中にも格ってモンがある。人間や迫力が死んだとは言え、まだ須磨武羅組にゃあかつて俺を倒したA級がいる。俺は所詮"B級の漢"だ」

そう、そこにいたのはかつて須磨武羅組との抗争に敗れ、捕まった筈の茶ドンキー。

ヤクザB改め、B級の漢。

B級「あのガキが出てきたらクスリ漬けにして従わせろ」

男「しかし…あんな強えヤツが簡単に従いますかね?」

B級「フン…崖っ縁でフラついてるガキを闇に引き摺り込むことほど簡単なモンはねえよ」

659ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:14:08 ID:t36Wc5eg00




数週間後、大学生は無罪となり、晴れて拘置所を出た。

そして男に連れてこられたのは。

大学生「…は?ここがジム…?」

男「おう、事務所だ。なんつってな」

大学生「テメー…騙しやがったのか!?」

B級「まあ落ち着け」

ガシッ

B級が現れ、大学生の肩を掴む。

大学生「なんだテメーは…」

B級「俺はこの"B組"を取り仕切ってる者だ。まあ、B級とでも呼べ。俺たちはてめえの強さに惚れたんだ」

大学生「チッ…ヤクザだろテメーら。ヤクザに手ぇ貸すほど堕ちてねーよ…!」

B級「手ぇ貸せなんて言ってねえさ。てめえ…心に深いキズ負ってんな」

大学生「あ?」

B級「分かるよ。俺も昔、最悪の大敗を喫してよ、しばらくろくにメシも食えなかったもんだ」

大学生「一緒にすんじゃねーよ…」

B級「ファイターの痛みを分かってやれるのは、ファイターだけだ。ファイターは強え。だからこそ周りも本人も勘違いしがちなんだ」

大学生「勘違いだと…?」

B級「俺たちの体がいくら頑丈でも…心は普通の人間と何ら変わらねえってことさ。強がる必要はねえよ」

大学生「…」

B級「キツけりゃ逃げていいんだよ。逃げ道なんてたくさんある。だが、塞ぎ込んでると、その道すらも見えなくなっちまう。だからよ…俺がその逃げ道を照らしてやる」

大学生「…ヤクザに…何ができるってんだよ…」

B級「この世界にいるからこそ、できることもあんのさ」

するとB級は大学生の肩を抱き、周りに見えないように小箱を渡した。

大学生「…何だよこれ」

中には薬のようなものが入っていた。

B級「飲んでみろ。辛いことなんかすぐに忘れられる」

大学生「………」

660ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:16:18 ID:t36Wc5eg00




その夜。

大学生(クソ……何やってんだ俺…こんなもん受け取って…絶対やべークスリだろ…)

大学生は一人ベンチに座り、B級から受け取った薬を眺め、葛藤していた。


『キツけりゃ逃げていいんだよ』


優しい声色で放たれたB級の言葉が頭の中に反響する。

大学生はブンブンと頭を振り、それを必死に掻き消す。

大学生(…バカか俺は…アイツらヤクザだぞ…?俺を騙して…いいように利用されるに決まってる…)

661ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:16:51 ID:t36Wc5eg00




数日後、B組事務所。

ピンポーン

ガチャ…

B級「よう。渡したもん、気に入ってもらえたみてぇだな」

大学生「…全部なくなっちまった……また…くれよ…」

大学生は朦朧とした表情で小さく言う。

やってはいけないことをしている自覚はあるのか、周りの目を気にしながら、フラフラと大学生はB級の元へ歩み寄る。

B級「フッ、勿論だ。そろそろ来る頃だと思って用意しといたぜ。オイ、持ってこい!」

すると事務所の中からヤクザの仲間が、クスリを持ってくる。

B級「同じファイターのよしみだ。今回までタダでプレゼントしてやる」

大学生「ああ…ありがとう…」

B級「欲しくなったらまた来い。ただし少し働いてもらうことになるがな。金を払えるならすぐに渡すこともできるが、見たところそんな大金も持ってねえだろ」

大学生「な…何をすればいい…?」

B級「何、てめぇにとっちゃそう難しい仕事じゃねえ。こういう仕事やってると、面倒な敵も群がってきやがるのよ。それを"掃除"してもらうだけさ」

大学生「掃除…?」

B級「おう。簡単だろ?」

大学生「………ああ……このクソみたいな気分が楽になるんなら俺は……」


大学生「何だってやってやる……ケケッ…」



こうして大学生は壊れ、バッドエンドを迎えた。

662ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:24:31 ID:RcGE18ko00







ここはとある島国。

この国では野球がとても人気である。

そしてこの国の野球では、"バットはどんな物でもよい"という特別ルールがある。

より激しく豪快な野球を求める民衆に応え続けた結果、いつしかこうなった。


カキィィィン!!!!


実況「打ったああああ!!ホームラァァァン!!」

ゆえに、当たりさえすれば必ずホームランになるアイテム"ホームランバット"が高値で取引され、あらゆるチームで使われている。

この球界にもはやヒットは存在せず、全てがホームランなのだ。

が。

実況「さあここで四番、松井の登場です!」

打席に立ったのは、桃カービィ。

その手に持つのはホームランバットではなく…先端に星のついた杖だった。

松井「さて、飛ばすか」

実況「"不思議な星のバット"を携えホームラン予告っ!突如球界に現れたピンクボール、松井☆福耳☆秀喜!今宵も我々に流星のごときホームランを見せてくれるのかっ!」


カキィィィィィン!!!!


実況「ホームラァァァン!!やはりすごいこの男っ!!ホームランバット無しでホームランを量産するぅぅ!!」

663ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:25:07 ID:RcGE18ko00



試合後。

実況「ではヒーローインタビューに参りましょう。今日のヒーローはもちろんこの男、松井☆福耳☆秀喜選手です!おめでとうございます!」

松井「どうもありがとうございます」

実況「松井選手といえばその不思議なバットですが、やはりあれだけ飛ばせるのは、そのバットにすごい秘密が?」

松井「いえ、これはこの間お祖父ちゃんちの蔵を掃除してる時に出てきたものです。なんなのか僕もよく分かっていません」

実況「ええ!?ということは随分古いものですよね?何かすごいお宝なんじゃないですか?」

松井「どうでしょうね。素振りしてみたら妙にしっくり来たので、試合で使ってみようと。そしたらすごい当たるようになりました」

実況「やはりすごいものなんですね!ホームランバット以上に飛ばしていますし!」

松井「いや、あれは普通に僕がすごいだけです」

実況「なるほど!ありがとうございました!」

664ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:25:41 ID:RcGE18ko00



松井「ふぅ…今日もいいホームランが打てた」

松井が帰っていると。

子「ちょっといいですか?」

少年が立ち塞がった。

父である煙草マスターを討つべく旅に出た、リンクの子だ。

松井「ん?どうしたんだい?もしかして僕のファンかな?」

子「スターロッド…間違いない…」

松井「…!?これを狙ってるのか…!?ヒーローインタビューでも言ったがこれはそんなすごいものじゃあないぞ!ホームランバットのほうが飛ぶぞ!」

子「それを僕にください」

松井「いや、だからこれを使っても僕のようには…」

子「野球には興味ありません」

松井「ええ!?」

子「それはスターロッドという武器です。古い蔵の中に眠っていたのなら、もしかしたらあなたの遠い先祖が使っていたのかもしれません。元々カービィが使っていたものらしいですから」

松井「…たしかに昔、先祖の記憶で星の杖を持って戦ってるのを見たことはある…なんか似てるなぁとは思ってたけど、これ本物だったのか…」

子「気付いてなかったんですか!?」

松井「だって僕は野球一筋だし…先祖と違って戦ったことなんてないんだ」

子「そうですか…ではとりあえずそのスターロッドをください」

松井「とりあえずってなんだ!ダメだよ!これは僕の商売道具なんだから!」

子「この世の平和のために必要なんです。かくかくしかじかで…僕が戦わなきゃダメなんです。用事が終わったらお返ししますから」

松井「いやぁ…そんなこと言われても困るよ…」

子「…あなたのことは調べてきましたよ。本当に野球が好きなんですよね」

松井「ああ…だったら分かるだろう?僕にとってこれがいかに大事か…」

子「ええ、全ての原点とも言える野球道具を大切にし、有名選手になった今でもグラブ磨きを欠かさない。そんなあなたにとってバットを他人に渡すなど言語道断でしょう」

松井「分かってるじゃないか」

子「ですが本当にそれでいいんですか?」

松井「え…?な、何が言いたいんだ…」

子「だってそれ、バットですらないですよ」

松井「!!!!」

子「野球に興味ない僕が言うことじゃないかもしれませんけど、この国の野球は変だ。バットはどんなものを使ってもいいなんて…それでも、ホームランバットはまだ一応バットの形を成している。しかしあなたのそれは違う」

松井「い、いいだろう別に!ルール違反をしてるわけじゃない!」

子「自分の胸に手を当てて聞いてみてください。あなたが子供の頃夢見ていた野球選手は、そんな姿をしていたんですか?スターロッドは持ってもホームランバットを持たなかったのは、今の球界に不満があって、一石を投じたかったんじゃないんですか?」

松井「くっ……!!」

子「本当に野球と真摯に向き合うのなら…最高のプレイヤーを目指すのなら…!なんの変哲もないただのバットで戦うべきだとは思いませんか!?」

松井「……!!」

子「野球を心から愛するあなたなら、きっと僕なんかに言われなくたって、もう分かっているハズです」

松井「…………くっ…………!」

子「自分の心に正直になってください松井選手。そしてこの国に、本当の野球を取り戻してください」

松井「……本当の野球…か……フッ…ハハハハハ……!そうだな……負けたよ…完敗だ。持っていきなさい!」

松井はスターロッドを差し出した。

子「本当ですか!」

松井「ああ…だがこれを託すからには、必ず世界を救ってきてくれ…そして野球の未来を守ってくれ!」

子「はい!ありがとうございます。あなたも頑張ってください」

松井「ああ。君のおかげで目が覚めた。また一から鍛え直すよ」

こうして煙草マスターの子は、スターロッドを手に入れた。

665ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:26:55 ID:RcGE18ko00





ヨシオ族の里。

その中央広場では。

鳴りやま「よっしゃー!鍛えた俺の技を喰らえ殺意っ!」


ドガガガ…バゴォン!!


鳴りやまぬヨシオが吹っ飛ばされ、倒れた。

殺意「弱い。次」

奇跡「ありゃりゃ☆鳴りやまぬクン随分鍛えてたのに、全く差が縮まってないや♪」

勇気「それどころかむしろ差が開いてない?どこまで強くなるつもりなんだ殺意くんは…」

鳴りやまぬ以外にも多くのヨシオ族たちが殺意に挑み、ボコボコにされてそこらじゅうに転がっている。

殺意はヨシオ族を鍛えるため、こうして数週間に一度、みんなを集めて特訓の場を設けているのだ。

殺意「そう言えば勇気…お前んとこの子供、随分強いらしいな」

殺意は勇気のヨシオを睨んだ。

勇気「えっ!?勇者のこと!?」

殺意「それ以外誰がいるんだ。ソイツを連れてこい」

勇気「待て待て、勇者はたしかに天才だけどまだ子供だよ。殺意が戦って楽しめるようなレベルじゃないさ」

殺意「僕が勇者の歳の頃にはもうお前より強かっただろ」

勇気「いや、確かに勇者ももしかしたら僕より強いかもしれないけど…殺意くんだってその頃より遥かに強くなってるでしょ?」

奇跡「ん?勇者クンだ♪戦いたいのかな?」

勇気「えっ!?」

勇気の息子、勇者ヨシオがすぐ後ろに来ていた。

勇者「お父さん…僕、もう子供じゃないよ!戦わせて!」

勇気「ほ、本気か!?」

勇者「はい!」

殺意「いい度胸だ。来い」

勇者「よろしくお願いします!」

666ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:27:43 ID:RcGE18ko00

広場の真ん中で勇者は殺意と対峙する。

モブオ「最近飛ぶ鳥を落とす勢いで強くなってる勇者が殺意と戦うらしいぞ!」
モブオ「まじすか!こりゃ見るっきゃない!」
モブオ「頑張れ勇者!殺意をぶっ飛ばせ!」

モブヨシオたちが続々と集まってくる。

勇気「勇者…立派になって…」

奇跡「きゃはっ☆ホント、名前の通り勇者だねぇ♪」

殺意「安心しろ、ガキ相手に本気は出さない」

勇者「えいっ!」

ブンッ!

勇者は青いリボンから取り出した爆弾を放り投げた。

ペシッ!

殺意はそれを軽く払いのける。

ドドンッ!!

地面に当たり爆弾が弾ける。

殺意「!」

その瞬間に勇者は距離を詰めていた。


バチンッ!!


両者のビンタがぶつかり合った。

勇者(重っ…)

ドシャァッ!!

威力は遥かに殺意の方が高く、勇者が一方的に吹っ飛ばされる。

勇者「ぐ…」

殺意「立て。これくらいで終わらないだろ?」

勇者「も…勿論です…!」


ドドドォン!!!


勇者は爆弾を周囲に投げ、撹乱する。

殺意「チッ…そこか」

タンッ!

爆煙の中に見えた影に向かって殺意が飛びかかる。

ぼすっ!

そのまま空中で蹴りを繰り出すが。

鳴りやま「ごふっ!?」

殺意「は?」

それを食らったのは鳴りやまぬだった。

奇跡「鳴りやまぬクン!?何してんの!?」

勇者は倒れていた鳴りやまぬを陽動として放り投げていたのだ。

バゴッ!!

その間に殺意の背後へ忍び寄り、蹴りを繰り出す。

667ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:28:43 ID:RcGE18ko00

殺意「甘い」

勇者「くっ…」

しかし殺意はその蹴りを容易くガードしていた。

殺意「多少頭は使えるらしいが、一つ覚えとけ。そういうのは自分よりバカな相手にしか通じない」

勇者「…」

ひゅぅぅぅぅ…


ドドンッ!!


殺意「!!」

上空から降ってきた爆弾が、殺意のすぐ後ろで爆発した。

勇者「く…はずした…!」

殺意(コイツ…蹴りを止められることも読んで、あらかじめ爆弾を上に投げてたのか…?)

ガシッ!

勇者「ぐっ…」


ドゴッ!!


勇者「うあっ!」

殺意は勇者を掴み、地面に叩きつける。

タンッ

さらに跳ね返った勇者を追って殺意も飛び上がり。


バゴッ!!


下から薙ぎ払い、上空へ弾き飛ばす。

勇者「ぐはっ…!」

さらに殺意もプカプカと浮かび上がり。


バチンッ!!


ビンタをかます。

勇者「ぶっ…」

バチンッ!!

バチンッ!!

勇者が落ちてくるのに合わせて、さらなる追撃の連続ビンタ。

奇跡「ひえ〜、容赦ないねェ♪さすが殺意クン☆」

勇気「ストップ!ストップだ殺意くん!」

殺意「は?」

668ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:29:11 ID:RcGE18ko00


ドドンッ!!


殺意の気が一瞬逸れた瞬間、勇者が落とした爆弾が殺意に命中した。

殺意「けほっ…」

勇者「あ…当たった…」

殺意「……ふざけるなァ!!」


ドゴォッ!!


勇者「ぎゃっ!」

勇者が落ちてきたところに、殺意の頭突きが炸裂。

勇者は遥か上空へと舞い上がった。

殺意「プリプリ…」

そして機嫌を損ねた殺意は去っていった。

ひゅぅぅぅぅ…

ポフッ…

上空から落ちてきた勇者はそのまま倒れ込んだ。

勇気「だ、大丈夫か勇者っ!!」

勇気たちが駆け寄る。

勇気「ひどい怪我だ…担架を頼む!すぐに病院へ!」

669ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:29:53 ID:RcGE18ko00



勇者は病院へ運ばれ、処置を受けた。

勇者「…お父さん…?」

勇気「勇者!目を覚ましたか!良かった!」

勇者「…えっと……そっか……僕…負けたんですね…殺意さんに…」

勇気「ナイスファイトだったよ、勇者!爆弾の使い方もお父さんより全然上手かったし!」

鳴りやま「俺に何か言うことがあるよな、勇者」

勇者「すみませんでした。代わりになるものがなくて…」

勇者は頭を下げる。

奇跡「でも殺意クンがここまでするなんてねぇ…」

鳴りやま「ああ…アイツいつも俺らをボコボコにするけど、大怪我にはならないようになんだかんだ加減してくれるからな。結構焦ってたんじゃないか?まあ俺はそん時意識なかったから状況ぜんぜんわかんねえけどなっ!がははは!聞いた話じゃあ殺意に一発入れたんだろ?」

勇者「それは止めに入ったお父さんに殺意さんが気を取られただけで…僕もあんなつもりでは…」

勇気「ああ…殺意にも勇者にも申し訳ない…」

鳴りやま「だとしてもすげえよ!そもそもその歳で殺意に挑む勇気がもうすげえ!」

奇跡「普通に鳴りやまぬクンより善戦してたしねぇ♪」

鳴りやま「何ぃ!?そりゃ聞き捨てならねえぞ!勇者!怪我治ったら今度は俺と組み手しやがれっ!」

勇者「はは…良いですよ…」

鳴りやま「オイオイなんだよ元気ねえなあ!ってそりゃそうか、怪我人だったわ!」

勇者「……」

しかし勇者は怪我以上に、落ち込んでいた。

670ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:30:28 ID:RcGE18ko00

勇気「殺意くんに負けたことを気にしてるのか?大丈夫さ。殺意くんには里の誰も勝ててないんだし、歳も上なんだから。気に病むことじゃないよ」

勇者「でも……歳の差以上に、力の差を感じたんです。そりゃ鍛錬も経験も殺意さんの方がたくさんしてきてるから、勝てないのは分かってた…だけど…この先僕が殺意さんと同じ量、いやそれ以上に鍛錬を積んだとしても、追いつけるイメージが湧かない…それくらいの圧倒的な、根本的な力の差…」

鳴りやま「ああ、超分かるぜ!俺も死ぬほど特訓してるけど、差は開く一方だしな!ちくしょうムカつくぜ…もはや突然変異とか言われてるレベルだぞ!同期の俺ですらアイツが本当に同じ種族か怪しいしな!」

奇跡「だねぇ♪殺意クンはちょっとおかしいっていうか…」

勇者「…お父さん」

勇気「ん?なんだ?」

勇者「僕、里の外に出たい」

勇気「え!?どうした突然!」

勇者「旅に出て、いろんな人やものを見てみたい…この里で鍛えてるだけじゃ、永遠に殺意さんに近付けない…そんな気がするんだ」

勇気「外は危険なんだぞ!?」

勇者「分かってます。だけど、行かせてください」

鳴りやま「ハハハッ、良いじゃねえか!可愛い子には旅をさせろって言うだろ!?勇者くらい強けりゃきっと里の外に出てもやっていけるだろうしな!」

奇跡「きゃはっ☆奇跡ちゃんも勇者クン応援するよぉ♪里の外の話、また聞きたいなぁ♪」

勇気「……そうだな。分かった。ただ僕の一存じゃ決められないから、里長に相談しておくよ」

勇者「…!ありがとうお父さん!」

鳴りやま「小さな里から一人で冒険に出るなんて、本当の勇者みたいだな!"勇者ヨシオの冒険"てやつだ!ハハハハ!」

勇者「はは、からかわないでくださいよ」

鳴りやま「しかしそうなると俺との組み手も帰ってからだなー!俺もめちゃくちゃ鍛えとくから、お前も頑張れよ!」

勇者「はい!」


それから二週間後、勇者は里を出発し。

数ヶ月をかけて、いくつかの国を巡る。

そして最後に訪れた国の、とある村で。

勇者ヨシオは本当の〈冒険〉をすることになる。

671ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:46:24 ID:2JIdRYuY00





かつて、㍍アルザークが初めてクローンフォックスたちと交戦した星。

そのエネルギープラント内に、またもクローンフォックスたちが暗躍していた。

???「ふむ…龍脈のエネルギーを喰らった個体はやはりほとんどが即死。生き延びても身体的変異は見られない」

???「だがこの個体は、身体的変異が起きている。あの時と同じように」

そこには、巨大な獣のような宇宙生物が拘束されていた。

それはかつてエネルギープラントを襲ったものと同じ種の生物だ。

???「データを見る限り他の個体と身体的に大きな差異は見られなかったが、一つだけ突出している数値がある。魔力量だ」

???「ごく稀に生まれる魔力の高い個体だけは龍脈エネルギーに耐えることができ、さらに魔力と龍脈エネルギーが融合する事で身体に変異が起こる。現段階ではこの程度の仮説が限界か」

???「では予定通り、CR-344、CR-345を使い実験しよう。平均的魔力である344に対し、345は遺伝子操作を行い魔力を増幅させている」

???「仮説が正しければ、345にはこの個体と同じ異変が見られるかもしれない。この生物にのみ見られる現象という可能性もあるが、試す価値はある」

???「では実験を開始する。CR-344、CR-345、龍脈に右腕を同時に十秒間挿入しろ」

???「「了解」」

上官のようなフォックスの合図で、二人の若いフォックスが龍脈に腕を突っ込む。

???「「ぐあああああ…っ」」

そして十秒後に腕を引き抜く。

片方のフォックスの腕はそのエネルギーによって焼けただれ、ほとんど骨と化していた。

しかしもう片方のフォックスは、無傷だった。

???「CR-345、腕の具合はどうだ」

???「筋肉が変化しているのを感じる…」


ドゴォン!!!


その右腕で、隣の右腕を失ったフォックスを殴り、数十メートル先まで吹っ飛ばした。

???「…魔力を使わずにこのパワーだ。魔力をこめればさらに数倍の威力になるだろう」

???「まだ確実ではないが、仮説はどうやら正しいようだな」

???「あの時解析した変異生物のデータが㍍アルザークに奪われていなければ、ここまで時間を取られることもなかったのだがな…だがまあ、こちらもようやく緻密な魔力操作が可能になった段階。丁度いいタイミングでこのデータが得られた」

???「こうなれば奴の持つキューブも最早必要ないが…㍍アルザークが邪魔な存在である事に変わりはない。場所を特定し次第、小隊を送り込む」

宇宙生物「グオオオオ!!」

???「…時間だ。処分しろ」

???「待て。我々にはオリジナルに任されたもう一つの任務がある。この被験体は奴らを誘き出す餌として使える」

???「分かった。ではCR-338から346は第五基地へ帰還し、結果をオリジナルへ報告する。CR-345の変異した右腕の解析も始めておく」

???「了解」

672ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:48:04 ID:2JIdRYuY00





数日後、フォックスの村では。

カタカタカタカタ…

基地の待機室で、ドドンが何やらパソコンを操作している。

ポルス「ドドン、何してるんだ?」

ドドン「へへ、俺も爆弾職人として自分でも満足いく爆弾を作れるようになってきて、評判聞いた買い手も何人かついたからなドン。本格的に通販サイト作ったんだドン」

ポルス「おー、すごいなドン!」

ドドン「もちろん販売許可は貰ってるドン。これでもっと爆発のよさを広めることができるドン!」

ポルス「あれ、でもじゃあ、まさかドドンもフォックスとしての活動やめちゃうの?」

ドドン「まさか!そりゃ爆弾作りも大切だけど、それはただの手段だからなドン!俺が好きなのは爆弾より爆発そのものだドン。そしてそれが一番近くで感じられるのは、戦場だからなドン!」

ポルス「はは、そっか。さすがドドン、ブレないなドン!」

アルバロ「まったく…副業も程々にしておけよ。それで任務に支障をきたすようなら、貴様がどう考えていようが、アーウィンを下りてもらうぞ」

腕を組み偉そうに座るアルバロが睨みを効かせる。

ドドン「うひゃー、こえードン。アホのくせに」

ポルス「アホバロ」

アルバロ「何か言ったか!?」

ドドポル「なんにも〜」

アルバロ「言っとくがポルス、貴様もだぞ!最近休みにコソコソ出かけて、モノマネ芸人として活動してるらしいな!ナザレンコの真似のつもりか知らんが、任務に集中できんのなら出ていってもらうからな!」

ポルス「愚か者めがっ!我の芸は模倣だが、生き方まで他人を模倣したつもりはないわ!キッカケは確かにナザレンコだし、尊敬している…しかし芸人を目指すのは、まごうことなき我の意思だ!というか休みに我が何をしようと貴様には関係なかろう!」

アルバロ「わ、我の真似をしながら言うでない!」

ドドン「ふふふ、どうだドン。上から目線の喋り方ムカつくだろドン?これがお前ドン」

ポルス「フン、分かったら態度を改めることだな!ワーッハッハッハ!!」

アルバロ「う、うるさいわーっ!!」

673ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:48:21 ID:2JIdRYuY00

ウィーン…

ギル「おふざけはその辺にして。任務よ」

真面目な顔でギルティースが入ってくる。

ドドンたちもすぐに切り替え、真面目な顔で話を聞く。

ギル「南西の星に大型の宇宙生物が現れたわ。他の星からすでに何人か討伐隊や賞金稼ぎが行ったようだけど、全員撃墜されちゃったみたい」

アルバロ「ほう、強そうだな」

ギル「今近くで動けるのは私たちしかいないから、私、アルバロ、ドドンで行くわ。ポルスは待機して」

ポルス「え〜」

ドドン「ま、なんかお土産買ってきてやるドン。ご当地爆弾とか」

ポルス「そんなのあるのかドン?」

ドドン「さあ」

ギル「大型生物の討伐ならドドンの爆弾はかなり役に立つからね。ただしエネルギープラントの近くで暴れてるらしいから、絶対壊さないように注意すること」

ドドン「任せろドン」

アルバロ「ところでさっきから、その"ドン"というのは何なのだ、ドドン」

ドドン「ドドンのドンだドン。いわゆる語尾による鼓舞だドン」

アルバロ「…ギルティース、此奴は何を言っているのだ?」

ギル「さあ…?好きな言葉を語尾につけると気持ちが昂るってことかしら?」

ドドン「そんなとこだドン」

ポルス「お前らもやってみるといいドン」

アルバロ「フン、遠慮しておこう。さあ、無駄話はやめてさっさと準備を始めろ。最速で任務へ向かうぞ」

ドドン「無駄話って、お前が聞いたんじゃないかドン」

ポルス「やっぱアホバロだなドン」

アルバロ「ウザい…!ポルスのせいで二倍ウザい…!」

ギル「いいから行くわよアホバロ」

アルバロ「ギルティースまで!?」


それからギルティースたち三人はアーウィンで任務の星へ。

674ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:49:29 ID:2JIdRYuY00




ドドドドドドド!!!

宇宙生物「グオオオオオオオ!!」

三機のアーウィンが一斉に宇宙生物を撃つが、ほとんどダメージは入っていない。

アルバロ「思った以上に強いな!特にあの振り回す尻尾のパワーが尋常ではない!」

ギル「く…風圧で機体が揺れるわね…!ドドン、私とアルバロで急所が無防備になるように誘導するから、ボムよろしく!」

ドドン「了解ドン!」

アルバロとギルティースは宇宙生物の周囲を旋回し、注意を引く。

宇宙生物「ギャァァァース!!」


ドゴォォン!!

ズガァァァン!!


アルバロ「チッ、暴れ過ぎだ貴様ッ!」


ドドドドド!!


アルバロは宇宙生物の眼球を撃ち抜いた。

宇宙生物「グオオオオッ!」

ドドン「今ドン!!」

ドドンが爆弾のマークが描かれたボタンを押すとアーウィンの下部が開き、砲台が現れる。

ドドン「射出!!」

さらにボタンを押すと、砲台からボム兵が撃ち出され。


ドドォォォン!!!!


宇宙生物の首元にボム兵が命中し、大爆発が起きた。

ドシィィン…!

首は完全に破壊され、頭部が落ちる。

体も力を失い、仰向けに倒れた。

アルバロ「…目標完全に沈黙。任務完了だ!」

ドドン「よっしゃー!」

ギル「ふぅ…結構大変だったわね。二人で来てたら危なかったかも。それにしても、まーた威力上がってるわね、ボム兵…」

ドドン「日々の研究の成果だドン!」

アルバロ「それはいいが…威力を上げすぎて市街地にまで被害が出ないように気を付けろよ」

ドドン「うーん、考えておくドン」

アルバロ「考えるな!!」

ドドン「ははは、冗談ドン」

ギル「それじゃ任務も終わった事だし帰りましょうか」

ドドン「えー、せっかく来たんだしちょっとこの星の町に寄って行かないかドン?調べたところ爆薬売ってるとこもあるみたいなんだドン。ポルスに土産の約束もしてるしなドン」

ギル「…んー…まあそうね。ちょっとならいいわよ。私はスイーツ店でも探そうかしら」

アルバロ「フン、観光に来た訳ではないのだぞ。手短に済ませろ。我はここでアーウィンの整備でもして待つ」

そしてドドンとギルティースはアーウィンを停めると、町へと繰り出した。

675ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:51:24 ID:2JIdRYuY00

アルバロ「まったく…公私混同は控えてほしいものだ。最年長のギルティースまでスイーツなどにうつつを抜かして……まあ、彼奴はナザレンコが引退してからフォックスを先導すべく頑張っておったからな…たまの休息を許してやるのも我の務めか!ワーッハッハッハ!」

女性「そこのフォックスさん」

アルバロ「む…?我か?」

振り返ると、ガラクタを売っている小さな露店から、女性店員が顔を覗かせていた。

女性「はい。私、宇宙整備士なんですよ。それ、アーウィンですよね!」

アルバロ「ああ」

女性「ちょっと見せてください!本物のアーウィン見たの初めてで…!」

女性は目を輝かせる。

アルバロ「見るのは構わんが、勝手にイジるなよ。アーウィンはとても高度な機械だ」

女性「分かってますって!フォックスオタなんで!」

アルバロ「オ、オタ…!?」

女性「おおっ!ここはこんな風になってるんですね!お、これが反重力装置ですか!わっ、コックピットの中もかっこいいっ!ここのボタンは、レーザー砲の操作をするんですね!」

アルバロ「ちょ、オイ!勝手に乗るなよ!?」

女性「はっ!すみませんつい興奮しちゃって…!」

アルバロ「まったく…」

女性「ところでお願いがあるんですけど、ロボットに興味ありませんか?」

アルバロ「ロボット?」

女性「はい!私が独自に開発している戦闘ロボットがありまして、そのモデルとしてフォックス族の姿や動きを取り入れてるんです!」

アルバロ「ほう?ただのロボットに我々の動きなど再現できんと思うが…」

女性「勿論完璧とはいきませんが、フォックス族の任務中の映像なんかを宇宙中探してかき集めて、それを学習させたAIでロボットを動かしてます。見てみませんか?」

アルバロ「なるほどな。フン、まあ奴らが戻ってくるまでここでじっとしているのも退屈だ。一目見るだけなら構わんぞ」

女性「良かった!では呼びますね」

アルバロ「呼ぶ…?」

女性「ええ、自立式ロボットですから呼べばあっちから来てくれますよ」

アルバロ「ほう、面白いな」

女性が手元のリモコンを操作し、しばらくすると。

ガシン…ガシン…ガシン…

露店の裏から、白フォックスが歩いてきた。

女性「これが私の開発したAI戦闘ロボット…その名も"機動戦士"です!」

アルバロ「おおっ!?一瞬本物のフォックスかと思ったぞ!」

機動「俺は機動戦士!お前は誰だ?」

アルバロ「おお、喋るのか!我はアルバロだ!」

機動「アルバロ、よろしくな!」

女性「フォックスに関する記録を調べて、その口調もできる限り再現してるんです」

アルバロ「いいではないか!しかし肝心なのは動きだ。どんな事ができる?」

女性「はい!機動戦士、ファイアフォックスを見せてください」

676ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:54:20 ID:2JIdRYuY00

機動「いいぞ。…ファイヤーッ!!」


ボォッ!!


機動戦士は宙に向かって見事なファイアフォックスを放った。

アルバロ「おおっ!完璧ではないか!」

シュタッ!

機動「へっ!これくらい朝飯前さ」

華麗に着地した機動戦士は、腕を組んでドヤ顔を披露する。

女性「どれだけ映像を確認しても、どういう仕組みで燃えてるのか分からなかったので、取り敢えず頭部と脚部に火炎放射器と推進装置を仕込んで…」

アルバロ「ああ、アレは気合いだ」

女性「気合い!?」

アルバロ「我々フォックスにしかできぬ芸当だからな。解析できずとも無理はなかろう。それで、他には何ができるのだ?」

女性「フフ、すっかり夢中ですね。作り手として嬉しい限りです。それではお次は…」

それから機動戦士はフォックス族の様々な技を再現してみせた。

アルバロ「すごいぞ!威力やスピードは本物には及ばんが、見た目はまごう事なきフォックスだ!」

女性「そうでしょう!しかも実はさらに秘密があって…なんと戦闘機の操縦もできるんです!」

アルバロ「何!?ロボットが操縦を!?」

女性「機動戦士、見せてくれる?」

機動「お安い御用だ」

機動戦士は露店の裏に停めてあった小型戦闘機に乗り込み、しばらくすると。


キィィィィン…


戦闘機は飛び上がった。

アルバロ「おお!?」

女性「機械が機械を操作なんてちょっと変かもしれませんが…AIに記憶させれば、アーウィンだって乗りこなせます!」

アルバロ「ほう!凄いではないか!」

女性「ありがとうございます!」

アルバロ「ワハハハハ!こちらこそいいものを見せてもらった!礼を言うぞ!」

女性「いえいえそんな!本物のフォックス族の方に見てもらえて、こちらの方が感謝ですよ」

アルバロ「ならばこれからも研究に励むのだ!貴様の造るロボットはいずれは我らと共に宇宙を守る役目を担う存在になるであろう!ワーッハッハッハ!」

女性「そう言ってもらえると頑張り甲斐があります!…では、研究に関して最後に一つだけお願いがあります」

アルバロ「む?何だ?」

677ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:55:31 ID:2JIdRYuY00

そこに戦闘機が着陸し、機動戦士が降りてくる。

女性「この機動戦士を買い取ってもらえませんか?」

アルバロ「何…?」

女性「リアルな話、研究するにも莫大なお金が掛かるんですよ…本業はしがない整備士ですから、大した稼ぎもなく…この露店もそのためにやってるんですけど、全然儲からないし…正直ちょっと困ってるんです」

アルバロ「成程…しかし此奴はこれからの研究にも必要なのではないか?」

女性「いえ、本物のフォックスに近付けるためにさらに出力を上げるとなると、一から作り直さなくちゃダメだから、これ以上手は加えられません。それにこの機動戦士には見たものを記憶するメモリーがあるので、皆さんの動きや戦闘データを近くで見せてあげてほしいんです」

機動「メモリーはここだ。お前たちの動きを見れば俺のAIも更新できるし、今後の研究にも役立つ」

機動戦士が腕のところについたボタンを自分で押すと、頭部から筒状のメモリーがニョキッと出てきた。

アルバロ「そうか、これも研究の一環という訳だな」

女性「まあつまりそういうことになります」

アルバロ「フン、そういうことならお安い御用だ!実は我らも人手不足で困っておるのでな。少しでも戦力になるなら金を出す価値はある。Win-Winというやつだ」

女性「本当ですか!?ありがとうございます!」

アルバロ「いくらだ?」

女性「こちらになります」

女性は端末に金額を提示した。

アルバロ「たっっっ…!…い、いや、こんな高性能なロボットならそれくらいするのは当然…か…」

女性「これでも相当まけてます。正直かなり安いと思いますけど…」

アルバロ「う…うむ……ま、まあよい!!男に二言は無いわっ!!持っていけ!!」

アルバロは財布から札束を取り出した。

女性「毎度ありっ!」

女性は満面の笑みでそれを受け取った。

アルバロ「メンテナンスはどうすればいいのだ?この星へ来ればいいのか?」

女性「私、宇宙整備士なのでいろんな星を渡り歩いてるんですよねぇ。こちらに連絡くだされば私から出向きますよ」

女性は連絡先を渡す。

女性「とはいえ機構は意外とシンプルなので、別に私じゃなくても、ある程度宇宙で活動できるレベルのメカニックなら整備はできると思います」

アルバロ「成程、了解した」

女性「それとこちらが操作するリモコンです。電源のオンオフはこれでできます」

ポチッ

とボタンを押すと、機動戦士の目から光が消え、動かなくなった。

女性「離れた場所から呼び出したい時はこのボタンです。状況にもよりますが大体半径十キロ以内であれば届くハズです」

アルバロ「分かった」

女性「それでは、私は次の星へ行かなくちゃいけないので、これで!」

女性は露店を片付け、リュックにしまう。

アルバロ「そうか、研究頑張るのだぞ!」

女性「はい!あなたもお達者で!」

女性は小走りで去っていった。

678ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:56:27 ID:2JIdRYuY00


ちょうどそこへ。

ギル「おまたせアルバロ!…って何これ!?フォックス…のロボット!?」

アルバロ「買ったのだ」

ギル「はあ!?」

アルバロ「フッ、まあ見ていろギルティース。貴様も気に入る筈だ」

ポチッ

リモコンのボタンを押すと、機動戦士が起動する。

機動「俺は機動戦士だ。お前は?」

ギル「喋った!わ、私はギルティースよ。よろしくね」

機動「ギルティースか。よろしくな」

ギル「はえ〜、よくできてるわねえ」

そこへ。

ドドン「おーっす待たせたドン!ってなんだそりゃ!?フォックスのロボットかドン!?」

アルバロ「買ったのだ」

ドドン「買った!?」

ギル「コイツはドドン、爆弾魔よ」

機動「ドドン、よろしくな」

ドドン「おおっ、よくできてるなドン!メチャクチャ高かったんじゃないかドン?」

アルバロ「ま、まあな…」

ギル「でもこんなの買ってどうすんのよ」

アルバロ「性能は本物に劣るが、ちゃんと正常に動作したのは確認しておる。アーウィンも操縦できるそうだ。人手不足の我らにとっては、模造品でもいないよりはマシかと思ってな」

ギル「え…?まさか…」

アルバロ「今後は此奴も任務に同行する」

ギル「ええ!?大丈夫なの?それ…」

アルバロ「問題ない!機動戦士、もう一度ファイアフォックスを見せてみろ!」

機動「オーケー。ファイヤーッ!!」

ボォッ!!

機動戦士は空へ向かってファイアフォックスを繰り出す。

ドドン「おおっ!」

ギル「…んーまあ確かに見た感じは完璧だけど…」

アルバロ「そうだろう!」

機動「ウォォ!」

グシャ!!

アルバロ「グシャ…?」

見ると機動戦士は着地に失敗してバラバラになっていた。

アルバロ「は…はあああああ!?」

アルバロは目をまん丸にして、アゴが外れるくらい口を開けて驚く。

679ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:56:50 ID:2JIdRYuY00

ギル「あらら…壊れちゃったわね…」

ドドン「ドンマイドン」

アルバロ「そ…そんな…」

アルバロは膝をつく。

ドドン「あっはっはっは!これじゃあ機動戦士じゃなくて、起動戦死だなドン!」

アルバロ「笑い事じゃないわあああ!!」

機動「グギギギ…キ…起動戦死…名称ををを…上書きした…ぞ…」

地面に転がった頭部が喋る。

アルバロ「上書きせんでいいわっ!」

同時に、ジャケットの胸部分についた小さな画面に表示されていた"機動戦士"の文字が消えていき、"起動戦死"と入力される。

ギル「なんか可哀想よこの名前。あ、そうだ!星なんか付けてみたら?可愛いわよ」

アルバロ「何を言っておるのだ貴様までっ!」

ドドン「おもろいなドン!なんかこういうマークも付けてみろドン」

ドドンは地面に指で"ψ"を描く。

起動「…リョ…了…解……"ψ起動戦死☆彡"で上書きした…」

アルバロ「だからせんでいいわっ!!」

ギル「てか真面目な話、詐欺なんじゃないの?」

アルバロ「くっ…!だ…だが確かにこの目で見たぞ…!此奴は本当にフォックスの技を扱えるのだ!それだけは事実!恐らくAIの学習が甘く着地が疎かだったのだ…!」

ドドン「あ、騙された自分を肯定してるドン。詐欺被害者によく見られる傾向ドン」

ギル「どっちにしろこんな脆いんじゃ戦場には連れていけなくない?」

アルバロ「う、うるさあああい!!そ、そうだ!連絡先を貰っておったのだ!問いただしてやるわ!」

ピッ…

『こちらの番号は現在使われておりません』

アルバロ「ふ、ふざけるなあああっ!!」

680ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:19:40 ID:6VYKp6oY00





さらに月日は流れ。

大学では。

生徒「オイオイ…アイツまたいるよ…」

生徒「怖いよな正直…」

生徒「ウワサだと八浪してたらしい…しかも現在五留してるとか…」

生徒「そこまでオッサンには見えなくない?」

生徒「やっぱ何回も警察に捕まってるって噂もマジなのかな…?」

ベンチに寝転がっている大学生を見て、生徒たちは噂していた。

純白「退学になってないなら違うんじゃないですか?」

生徒「じゅ、純白くん…!そりゃそうか、ハハハ…」

生徒「でもよー、部の先輩に実際に見たってやつがいるんだよ、アイツがクスリやって捕まってるの」

生徒「マジかよ。なかなか抜け出せないって言うしな…それなら何回も捕まってるってのも嘘じゃないかも…」

純白「噂に惑わされすぎですよ…ちょっと話してみます」

生徒「えっ!?純白くん危ないよ!やめた方が…」

純白「大丈夫です。僕、強いので」

にこやかに言い、大学生の元へ歩を進める。

純白「あの、すみません。隣いいですか?」

大学生「あァ…?何だてめーは…」

純白「ハハ、そこ座りたいので、ちょっと脚を畳んでくれるとうれし…」

大学生「死にてえのかァ!?」

純白(あ、ダメだこれ。話通じないやつだ。目がイっちゃってる)

大学生「オイ!なんか文句あんのか!?八浪して五留してなんか悪いか!?目上を敬えよ真っ白野郎が!!」

681ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:21:33 ID:6VYKp6oY00


ガキィン!!!


大学生は躊躇なく剣を振り下ろした。

純白「あっぶないなぁ…!僕じゃなきゃ死んでるとこですよ」

純白はそれを容易く剣で受け止めていた。

大学生「はっ…!?」

純白「?」

大学生「ぼっ……僕…また……何を…っ!」

大学生は急に剣を引き、頭を抱えてうずくまった。

純白「だ、大丈夫ですか!?」

大学生「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!」

大学生は泣きながら何度も謝る。

純白(…これが本性…?何か精神を病んでるのか…?まさか本当にクスリを…?)

純白「前に君を見かけた時は、そこまで凶悪には見えなかった。一体何があったんですか?聞かせてください。人に話せば楽になる事だってありますよ」

純白は大学生の肩に手を置き、優しい口調で言う。

大学生「僕……僕は…僕は…!…誰だっけ…」

純白「え?」

大学生「僕って……なんでこんなとこいるんだろう…」

その顔はどこか小さな子供のようだった。

純白(現実逃避…か…?)

大学生「君は誰…?」

大学生は不思議そうに純白の顔を見る。

純白「…ぼ、僕は純白です」

大学生「純白…君もリンク族?家族以外のリンク族、初めて見たよ!」

今度は急に明るい表情になった。

純白「…僕もだよ。君は今、何歳?」

純白は子供と接するように優しく問い掛ける。

大学生「え?えっと…六歳…?だっけ…」

純白(やっぱり幼児退行してる…!?)

682ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:23:11 ID:6VYKp6oY00

大学生「いや…ちげーわ…俺は…十五…いやいやいや…二十…?」

純白(精神が不安定すぎる…一体何があったらこんなことに…)

大学生「ハァ……もういいや…なんでも…クソッ…!クソッ!クソッ!!」

純白「!?」

大学生「酒を…よこせ!!クスリ…!クソがッ!!」

ドガァッ!!

大学生は両腕を振り下ろし、地面を叩き割った。

純白「な、何やって…」

教師「大丈夫か!?」

そこへ教師が駆けつけた。

純白「先生!あぶな…」

大学生「あふぁ…?」

純白「…え?」

四つん這いの状態になった大学生の肩に教師が触れた途端、大学生は突然意識を失った。

教師「おい!しっかりしろ!…気絶したのか…?しょうがない、医務室へ連れて行く…」

純白「だ、大丈夫なんですか…!?」

教師「分からんから連れて行くしかないだろう…こいつは俺に任せて、お前たちはしっかり勉強しなさい」

教師はにかっと笑い、大学生をおぶって運んでいった。

純白「……」

生徒「じゅ、純白くん!大丈夫!?なんか斬りかかられてたように見えたけど!」

怯えて見ていた生徒たちが駆け寄ってくる。

純白「…大丈夫ですよ。言ったでしょう?僕、強いので!」

生徒「それならいいけど…」

生徒「もうあんなのに関わるのやめとけよ!」

純白「…そう…ですね…」

683ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:24:20 ID:6VYKp6oY00



教師「…ったく、Bさんはなんでこんなヤツ飼ってんだか…」

一目のつかないところで、教師は大学生を下ろした。

大学生は眠ったままだ。

プルルル…

教師「はい、もしもし」

B級『俺だ』

教師「Bさん…!」

B級『どうだ?あのガキの調子は』

教師「さ、最悪ですよ!さっき生徒もいる中でいきなり発作起こしやがって!危うく全部バレちまうとこでしたよ!」

B級『フン、まあそうなったらなったで別にいいさ。困るのはそっちだ。生徒の三割がクスリやってるなんて知れたら大学の評判は地に落ちるだろうなァ?』

教師「か、勘弁してくださいよぉ〜」

B級『クク…てめぇらの命運はウチが握ってること忘れんじゃあねえぞ』

教師「わ、分かってますよ…!でも、なんで大学通わせるんですか…?こんなヤベェヤツ、普通に退学して事務所で飼った方がそちらとしても動きやすいんじゃ…」

B級『学生っつう身分は色々都合のいいとこもあんのさ。裁判じゃ有利になるしな』

教師「そういうもんですか…」

B級『つってもソイツはヤンチャすぎて流石にそろそろ庇いきれなくなってきちまったが…最後は絞れるだけ絞って捨てりゃあいいだけだ』

教師「……」

B級『後で事務所に来いと伝えろ。用件はそれだけだ』

ブツッ

教師「はあ…ちくしょう…」

大学生「…あ……お前…?」

教師「!…目ぇ覚めたか」

大学生「ク……クスリ……!」

教師「チッ、そう焦るなって!さっきお前に飲ませた分でなくなっちまったよ」

先ほど肩に触れた時、教師は生徒たちに見えないようにクスリを飲ませていたのだ。

大学生を落ち着かせるための措置だったが、強烈な快楽作用と不安定な精神状態が合わさり気絶に至った。

教師「Bさんが後で事務所に来いとさ。クスリならそこで貰えんだろ、たぶん」

大学生「ハァ…ハァ…クソッ…!」

大学生はすぐにB組の事務所へと向かった。

684ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:25:21 ID:6VYKp6oY00



B級「よう…随分荒れてるじゃねえか」

大学生「いいから早く…っ…クスリくれよ…!」

B級「タダでとはいかねえな。コイツを潰せ」

B級は写真を見せた。

そこには緑帽子のピカチュウが写っている。

B級「コイツは片割れ。須磨武羅組の実質的なボスだ。俺でも敵わねえこの町で一番厄介な奴だが…てめぇなら勝てねえ相手じゃねえ筈だ」

大学生「…かた…われ……」

B級「今は須磨武羅組の事務所にいることは調べがついている。突っ込んで叩っ斬れ。クク…最高級の鉄砲玉だ。奴らもさぞ気に入るだろうぜ」

大学生「片割れ……潰さなきゃ……」

大学生はフラフラと事務所の外へ出た。

純白「何してるんですか?こんなところで」

そこには純白が立っていた。

大学生「あ…?誰だよテメーは…」

純白「純白だよ。忘れたの?」

大学生「……知らねーな…どけ…早く行かねーと…!」

純白「行かせませんよ!どこに行くのか知りませんけど、どうせヤクザに利用されてるんでしょ!」

大学生「っせぇな!!黙ってどけよ!!邪魔なんだよ!!」

ガチャ…

B級「あ…?なんだ、騒がしいと思って来てみりゃあ、コイツのオトモダチか?」

B級が事務所から出てきた。

純白「あなたが彼をこんなふうにしたんですか?」

純白は睨みつける。

B級「フン、コイツが勝手にハマっただけだ。ここはてめぇのような良い子ちゃんの来るとこじゃあねえぞ。痛い思いしないうちに帰った方が身のためだぜ」

すると、事務所からゾロゾロと武装した組員たちが現れた。

純白「…本気で言ってますか?」

ジャキンッ…

純白は剣を抜き、構える。

685ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:26:33 ID:6VYKp6oY00

B級「…………冗談だ。てめぇら退がれ」

組員「えっ?なんでッスか親分!こんなガキやっちまいましょうよ!」

B級「やめとけ。勝てねえよ」

その剣を構えた立ち姿に、B級は脅威を感じていた。

大学生「どけっつってんだろうがァ!!」

純白「!!」


ガキィン!!!


大学生はB級のことなど気に留めず純白に斬りかかった。


ガガガガガッ!!

キィン!!

ドガガガッ!!


組員「嘘だろ…!あのガキとまともにやりあってやがる!」

B級「アイツも恐らくA級…下手すりゃあそれ以上の逸材だ。チッ…勿体ねえ限りだぜ。あの目…ありゃあ真っ直ぐすぎてこっちの世界にゃあ絶対堕ちてこねえタイプの人間だ」

純白「落ち着いてください!ヤクザの言うことなんて聞いたって何も良いことありませんよ!」

大学生「はぁ!?知るかよ!!だったらテメーがくれんのかよクスリをよぉ!!俺を助けてくれんのかよ!?」

純白「そのつもりだよ!!」

大学生「意味…わかんねェーんだよォォ!!」

ダンッ!!

大学生は強く踏み込み、回転斬りを放つ。

純白「遅い!」


ガンッ!!


大学生「…っ」

純白はそれをかわして背後に周り、大学生の後頭部を剣の柄で殴った。

ドサッ…

気絶し倒れる大学生を、純白は体で支える。

そして再びB級の方を睨み。

純白「もう二度と…この人に関わらないでください」

B級「……チッ…てめぇ…何故そんな奴にそこまでする…?ソイツの事は監視させてたが、特に親しい奴はいねえ筈だ」

純白「ええ…友人というわけでもありませんし、なんなら喋ったのも今日が初めてですよ」

B級「あぁ…?」

純白「…なんででしょうね。同じリンクだからでしょうか。放っておけなかった。ただそれだけです」

純白はそう言い残し、大学生を担いで去っていった。

686ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:40:09 ID:6VYKp6oY00




大学生「え…?」

純白「目が覚めましたか」

目を覚ますと、小さな部屋にいた。

大学生「誰だよテメーは…!」

大学生はすぐに背負った剣に手を伸ばそうとするが、そこに剣はない。

純白「そう何度も斬りかかられちゃたまらないからね…寝てる間にこっちで預からせてもらったよ」

大学生「アァ!?なんだテメーは!何が預かっただよ勝手に剣盗みやがって何様だァ!?ドロボー野郎が!!」

純白「純白ですよ。良い加減名前覚えてほしいですね…」

大学生「返せやッ!!」

純白「無茶しないでください。今の君じゃ僕には勝てませんよ」

丸腰で飛びかかる大学生を純白はひらりとかわし、背後に回って関節を固めた。

大学生「いだだだだだ!!アァー骨折れた!!慰謝料よこせ五千万!!」

純白「いや折れてないから」

大学生「早く…早くアレをブッ殺して…!クスリ…!」

大学生は無理やり暴れて抜け出そうとする。

純白「ぐ…暴れないでください!本当に折れますよ!?」

大学生「だったら離せやァ!!」

純白「くっ…クスリなんて使わせません!…お酒とかタバコもダメです!君が今何歳だか分かりませんけど…少なくとも君がそういうのに手を出して、良いことがあるとは思えない!」

大学生「なんなんだよテメーは!!いきなり保護者ヅラしやがって!!」

687ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:40:46 ID:6VYKp6oY00

純白「それですよ、保護者!」

大学生「あぁぁぁ!?」

純白「何があったか知らないけど、君は時々子供みたいになる!だから僕が保護者になる!僕が君を守る!守りたいんだ!」

大学生「はぁ!?キッショ!!」

純白「自分と同じ顔の人間が、傷つくのも、傷つけるのも、見たくないんですよ!」

大学生「知るかァ!!勝手に見てんじゃねーよ真っ白野郎!!」

純白「同じ大学に通う同じリンク族なんだ!嫌でも視界に入っちゃうでしょ!僕はそれを見て見ぬふりなんてできないんだよ!」

大学生「余計なお世話だっつってんだよ!!」


ボフン!!


純白「うわっ!」

大学生は爆弾を落として爆発させた。

威力はほどほどだったがその拍子に純白は手を離してしまう。

大学生「バァーカ!!誰がドロボーに保護されるっつーんだよ!!同じ顔の他人見る暇あったら鏡見て自分の言動見つめ直しとけハゲ!!」

純白「誰がハゲだっ!」

大学生はその隙に剣を取り返し。

パリーン!!

そのまま窓をブチ破り、部屋を飛び出して逃げていった。

純白「ぼ、僕の部屋が…」

純白の部屋はぐちゃぐちゃになっていた。

純白「…ふ……ふふふ…!いいでしょう…だったら僕も全力で君を止めるよ…!!この僕から逃げ切れると思うなよ…!!」

ダンッ!!

純白も大学生を追って窓から飛び出した。


それから、純白は大学生に付き纏い、壊れた大学生のストッパーとして助けていくこととなる。

バッドエンドで閉じた幕は、こうして再び上がるのだ。

688ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:36:49 ID:p.3o6J2U00





隣国では。

レイア「うおおおおっ!!」


ドゴォ!!


魔物「プギイイイイ!」

レイア「なんだよこの数は!すげえなオイ!」

リア「いよいよ本格的に攻めてきやがったようだな。やれやれ、面倒事は御免だぜ俺は…」

レイア「ははっ、だが修行にゃちょうどいいじゃねえか!」

出すくん「修行?悠長だね…この地上はもうすぐ地獄と化すっていうのにさ!」

レイア「誰だっ!?」

出すくん「僕は口からミミズ出すくん。お前たちを滅ぼすため送り込まれた魔の一族さ!オロロロロロロ…」

ビチャビチャビチャ!

ミミズ出すくんはミミズの魔物を大量に吐き出す。

レイア「うおっ!気持ち悪りい野郎だな!」

出すくん「気持ち悪いだと!?ミミズかわいいだろ!許さん!いけっ、ミミズたち!」

ミミズたちは一斉に二人に襲いかかった。

リア「合わせろや、レイア!」

レイア「おう!」


ドガガガガガガッ!!

グシャッ!!

ブチブチブチ…!!


魔物「ぴぎぃぃぃ!」

二人は息の合ったコンビネーションで次々とミミズの魔物を潰していく。

出すくん「ぼ、僕のミミズたちが…!!くっ!なんて酷いヤツらだ!」

リア「攻めてきたヤツが何言ってやがる…」

出すくん「うるさいうるさい!!いけっミミズー!!」

ビチャビチャ!ビチャビチャ!

ミミズ出すくんはさらにミミズを吐き出す。

リア「チッ、キリがねえな。先にアイツを倒すぞ」

レイア「分かった!んじゃ俺が行くから雑魚は任せるぞリア・リエ!」

リア「はあ?なんで俺がコッチなんだよ。まあいいけど…しくじんなよ」

レイア「バーカ俺を誰だと思ってんだ!おっしゃ行くぞ!!」

ダッ!!

レイアはミミズ出すくんの方へと一直線に走り出す。

689ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:37:23 ID:p.3o6J2U00

出すくん「こっち来んな!オロロロロ…」

レイア「どけぇ!!」


ボゥッ!!


ファイヤーボールでミミズを焼き払い、出すくんの眼前へと跳ぶ。

レイア「オラァ!!」


ドガッ!!


レイアのドロップキックが出すくんの顔面にめり込む。

出すくん「ぐあっ!」

レイア「まだまだぁ!!」


ギャルルルル!!


レイアは空中で回転し、ドリルのように踏み潰す。

出すくん「あだだだだ…!」

レイア「うおおおっ!!」


ズドドドドド!!


さらに回転は勢いを増し、両手足を使ってトルネードのごとく連続攻撃を食らわせた。

出すくん「があぁぁっ!!」

ドシャァ!

レイア「っしゃあ!どうだ!」

出すくん「つ…強い…!クソッ、退散だ!」

レイア「あっ!?待てコラ!」

出すくん「誰が待つか!オロロロロ!」

ビチャビチャッ!

出すくんはまたミミズを吐き、肉壁を作り出した。

レイア「どけっ!!」


ドゴォッ!!


ウネウネウネウネ…


レイアが殴ると、ミミズたちはその腕に絡みついた。

レイア「くっそ!キモいな!」

その隙に出すくんはゲートを開く。

出すくん「フン、まあいいさ…目的は果たしたからね…」

リア「目的…?」

レイア「テメェ、待ちやがれ!クソッ!覚えとけ!俺は灼熱のレイア!親玉に伝えろ!今度来やがったらこの俺がまとめて相手してやる!!」

出すくん「バーカ、お前らなんか幹部たちに比べりゃカスだ。僕みたいな下っ端一人追い返したくらいで調子に乗るな。ははははは!」

そしてミミズ出すくんがゲートをくぐり終えると、ゲートは閉じていった。

レイア「ちくしょう、逃げられたか…」

リア「ったく…しくじんなって言ったよな?」

ミミズの魔物を掃除し終えたリア・リエが、不機嫌そうにレイアを睨む。

レイア「おう、すまん!」

リア「…まあいい。アイツの口振りじゃ、まだまだとんでもねえのがいそうだな。もっと鍛えるぞ、レイア」

レイア「おう!」


それから魔族たちによるこの国への侵略はさらに勢いを増していき。

この二人もまた、巨大な戦いへと巻き込まれていくことになる。

690ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:38:08 ID:p.3o6J2U00





魔界では。

出すくん「お前助け出すのにミミズめっちゃやられたんだから、ちゃんと働いてよ」

下半身「ああ。悪かったな」

ミミズ出すくんは、かつてムッコロズに負け収容所に捕まっていた下半身虚弱体質と話していた。

ミミズでレイアたちの気を引いている間に、ゲートによって魔界へと連れ戻したのだ。

と、そこへ。

ぽふっ

下半身「!?」

突然頭上に何かがのしかかり、下半身虚弱体質はバランスを崩す。

???「やあ。調子どう?」

それは赤カービィだった。

いかに虚弱と言えど軽いカービィに乗られた程度でドンキー族がバランスを崩すはずはないが、カービィがその肩に担いだ巨大なハンマーの重量がそうさせた。

下半身「し、下目使い様…」

出すくん「とりあえず下半身虚弱体質は連れ戻しました」

二人は膝をついて報告する。

下目使いは虚弱の頭上からぴょんと飛び降り、二人の顔を見下ろす。

下目「おっけー。戦力は一人でも多いに越した事はないからね。虚弱はもっと鍛えなよ。下半身とか」

下半身「返す言葉もありません…」

出すくん「ただ地上でちょっと面倒なヤツに出くわしまして…」

下目「は?」

出すくん「灼熱のレイアとかいうヤツなんですけど…もちろん幹部クラスには遠く及びませんが…雑兵の魔物たちでは歯が立たないレベルのヤツが、地上にも意外といるみたいです」

下半身「レイアとかいうのとは違いますが、私も地上のファイターと戦い敗れました…甘く見すぎると予想外の反撃を食らう可能性があります」

691ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:38:33 ID:p.3o6J2U00

下目「ふぅん…灼熱のレイアね。まあ一応妖魔様には伝えとくよ。でもお前たちがもっと強ければそんな報告する前に潰せたはずだろ」

下目使いはギロリと高圧的な目で二人を見下ろす。

出すくん「は、はい…精進します…」

下半身「申し訳ありません…」

デスエン「ハハハハ、まあそういじめてやるなよ。地上じゃあそういうのはパワハラというらしいぞ」

そこにΦデスエンペラーが歩いてきた。

下目「デスエン。お前には関係ないだろ」

デスエン「なんだよつれないな。もうすぐ地上に出るんだろ?だったらもう少し地上のことも知っておくべきじゃないのか?」

下目「知る必要ないでしょ。どうせ僕たちが全部踏み潰すんだ。それに本当の目的は地上じゃなくてその上…天界の神とやらを見下すことだ」

デスエン「フッ、痛い目を見ても知らんぞ?」

下目「勝手に言ってろ」

デスエン「まあいい。俺もちょっと準備があるんでな」

デスエンは去っていく。

下目「何?まーた何か企んでんの?」

デスエン「企みというほどのモンじゃあない。だが、上手くいけば面白い事になるかもしれんぞ。"お前の企み"のようにな」

下目「…何の話だよ」

デスエン「フ、俺に隠しても無駄だ。だが口を出すつもりもないさ。精々頑張れ」

下目「チッ…」

出すくん(下目使いの企み…?何の話してるんだコイツら)

692ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:39:07 ID:p.3o6J2U00





王国の城下町では。

???「初めまして!僕はÅライムライトÅと申します!」

ヒーロー「お、おう…?見ない顔だな?」

ヒーローの前に現れたのは黄色い服の少年だ。

ライム「はい。先日引っ越してきました。あなたが噂のヒーローさんですね?この町を守ってるとか…」

ヒーロー「ああ。守るも何も、この国は平和すぎてパトロールくらいしかする事がないんだがな」

ライム「良いことじゃないですか。うちの家族も、世界一平和な国だって聞いてこの国に来たんですよ」

ヒーロー「そうだったのか。フッ、それは光栄なことだ。もし何かが起きてもこのヒーローがご両親共々絶対に守り抜くから、安心して過ごしてくれ」

ライム「ふふ、心強いですね。まあうちお父さんはいないんですけどね…」

ヒーロー「…そ、そうか…」

ライム「あっ!誤解しないでくださいね!死んだとか、離婚したとかじゃないんです。海外でのお仕事が忙しくて、ずっと会えないんですよ」

ヒーロー「なるほど。寂しくはないか?」

ライム「いつも電話してるので平気です!会いたくないと言えば、嘘になっちゃいますけどね」

ヒーロー「そうか…そうだよな。もしよかったらこの国の名物を紹介するよ。F-ZEROというレース競技だ。あれを見ればきっと興奮で寂しさなんて忘れてしまうぞ」

ライム「F-ZERO…聞いたことあります!今度行ってみますね。ヒーローさん、ありがとうございます!」

693ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:39:32 ID:p.3o6J2U00





極道の町の町はずれの、とある一軒家。

???「うおおー!!やっぱヒーローかっこいい!!」

テレビのヒーロー番組を観ながらはしゃぐのは、青い服の少年。

母親「こらアマゾン、こんな朝っぱらから大声出さないの。近所迷惑になるでしょ。ヒーローなら他人に迷惑かけちゃダメ」

アマゾン「はっ!そうか…確かに…気をつける」

番組が終わると、アマゾンは机に自由帳を広げた。

アマゾン「ぼくがヒーローになったら…」

自由帳に大きく稚拙な妄想を描いていく。

アマゾン「このへんに星をつけて…ポーズは、こうだ!へんしーん!グレイトォー…アーマーゾン!!」

イスの上に立ってポーズを取る。

母親「だからうるさいってば」

アマゾン「あ、ごめんなさーい」

母親「それと…パパに電話しなくていいの?テレビ見終わったらするって言ってたよね?」

アマゾン「あ!わすれてた!」

アマゾンはタンスの上に設置された黒電話の元へと走った。

694ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:40:19 ID:p.3o6J2U00






数ヶ月後。

とある村。


ドドドドドドドドドド…!!!!


卍「なんだ…?この音…」

バロン「すごい地響きですね…地震…?揺れはそんな強くないですけど…」

卍「いや…何かイヤな予感がする。出るぞ!」

ジムでトレーニングしていた二人は、すぐに着替えて外へ出る。

住民「うわああああっ!!」

卍「!!」

バロン「こ、これは…!」

魔物「グオオオオオッ!!」

そこには大量の魔物が出現していた。

卍「なんという数の魔物…!!バロンムッコロス、パワードスーツを着ろ!」

バロン「は、はい!」


ドガガガガガッ!!!


二人は、というかほぼムッコロズが、次々に魔物を倒していく。



そして数十分後。

卍「はぁ…はぁ…くそっ…犠牲者が出てしまったか…」

魔物は全て倒したが、何人かの住民が血を流して倒れていた。

バロン「あ…あの数じゃ仕方ありませんよ…」

卍「俺たちだけでは限界がある…もっと戦える者を増やさなくては」

バロン「増やすって…どうやって…」

卍「住民を俺たちで鍛えるんだ。自分の身を自分で守れるように。ファイターじゃなくとも、武装して戦い方さえ覚えれば、雑兵程度ならなんとかなるはずだ」

バロン「なるほど…でもそもそも体を鍛えてない人を今からトレーニングするには時間が…」

卍「ああ、分かってる…侵略はもう始まっている。ある程度屈強な肉体を持っている者を集めるんだ。時間がない。すぐに始めるぞ。俺は軍に連絡するから、お前は周辺の町や村に連絡してくれ」

バロン「了解です!」

695ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:41:03 ID:p.3o6J2U00





動物たちの村では。

魔物「ギャオオオ!!」

ドゴゴォ!!

ゾウ「うわああ!!」

サイ「ぎゃああああ!!」

ここでも大量の魔物が暴れていた。

住民たちが次々と犠牲になり、建物は破壊されていく。

ねこ「やめろー!!」


ドガッ!!


魔物「グギャア!」

ねこ「はぁ…はぁ…くそ…急にこんな魔物が出てくるなんて…!これじゃとても守りきれません…!」

ねこは戦い続けてボロボロになっていた。

テングザル「ねこ、ここは俺たちに任せろ!」

ウォンバット「その体じゃこれ以上は無理だよ!逃げて!」

ねこ「そんな!ファイターのボクが逃げるわけにはいきません!」

テングザル「フッ、実は俺たちだってファイターなんだぜ!」

ねこ「えっ!?」

ピカーーン!!

テングザルとウォンバットの二匹の体が光る。

次の瞬間、二人はマリオとルイージになった。

テングザル「これが俺たちの真の姿だ」

ねこ「な、なんと!」

ウォンバット「行って、ねこ!さっきテレビ見てたら速報が入って、魔物はこの村だけじゃなくこの国の各地で暴れてるらしいんだ!」

テングザル「魔物はどんどん勢いを増してる…被害は世界中に広がっていくハズだ…!こんなところでお前を失うわけにはいかねえ!幸運を呼ぶお前が行って、世界を救うんだ!」

ねこ「で、でも…!」

テングザル「今のお前じゃ足手纏いだって言ってるんだよ!」

ねこ「…!わ…わかりました……!みなさん、どうかご無事で!」

ねこはヨロヨロと歩き、村を離れていく。

魔物「ギャオオオ!!」

そこへ数匹の魔物が走ってきた。

ねこ「うわっ!…………あれ?」

魔物はねこを素通りした。

ねこ「き、きづかれなかった…?運よすぎか」

その後も何度も魔物と遭遇するも、運良く気付かれず、やがてねこは村から完全に脱出した。

ねこ「はぁ…はぁ…なんとかして、魔物を追い払わなきゃ…でもボクひとりじゃとてもムリだ…いっしょに戦ってくれるつよいヒトをさがさなきゃ…!お兄さんをさがして旅に出た妹ちゃんは無事だろうか…」


それから程なくして、ねこは近隣の村に到着する。

そして国の状況を把握するためニュースを見て、故郷の村が完全に滅ぼされたことを知る。

696ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:42:23 ID:p.3o6J2U00





魔界。

地上を蹂躙していく魔物たちの映像が、空中に大きく映し出されている。

その前には大量の魔族が隊列を組み集まっていた。

???「…これが地上だ。貧弱な人間共など、我等の敵ではない…!時は来た!征くぞ!我らの世界を取り戻すのだ!!」

先頭に立つ巨大な青ドンキーが声を上げる。

魔族「ウオオオオオオオオ!!!!」

魔族たちもドンキーに続いて雄叫びを上げた。

???「フンッ!!」

ドンキーが両腕を大きく広げると、その隊列の横に大量のゲートが開いた。

下目「進め!魔族の力を知らしめるんだ!」

ヤミ「フハハハハッ!!地上の虫どもを蹂躙せよ!!」

ドンキーのすぐ後ろに控えた下目使いとヤミノツルギ†が号令を出し、一斉に魔族たちはゲートをくぐっていく。

下目「我々も行きましょう、妖魔様」

ボォッ…!!

ヤミノツルギはファイアフラワーから放つ炎を操り、大きな輪を作った。

そしてその火の輪はゲートとなって地上の景色を映し出す。

魔物「ギャオオオオオ!!」


ドドドドドドド…!!


そのゲートから、ゴブリンのような魔物たちが先陣を切って地上へ出る。

そして下目使いとヤミノツルギがゲートの左右に跪き。

ヤミ「さあ、お通りください、妖魔様」

ドンキーはゆっくりと歩を進める。

ザッ…

ザッ…

ザッ…

そしてゲートを越えた先には。

697ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:43:22 ID:p.3o6J2U00

???「…これが地上か…いつ以来だ、この景色は…」

魔物によって破壊されていく村。

逃げ惑う村人たち。

村人「きゃああああ!!」


ドォォン…!!

ズズゥゥン…!!


村人「う、うわああっ!!」

そして逃げた先に、そのドンキーとかち合ってしまった不運な村人は、足を竦ませ尻餅をつく。

村人「ヒィッ…!なんだあのゴリラは…!!」

ドンキーはギロリと見下ろし、言う。


???「我はキング・オブ・妖魔…!いずれ世界を我が手中に収める者なり…!」





第四章 完

698ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:53:32 ID:p.3o6J2U00
ここまで読んでいただきありがとうございます!
というわけで第四章は浪人生編?でした!
こうしてハイドンピー第一作目の〈勇者ヨシオの冒険〉に繋がっていきます
例によって書き溜めのためしばらく休みますが、クライマックスとなるであろう第五章を気長に待っていただけると幸いです
待ってる間に、四〜五章を繋ぐ勇者ヨシオの冒険や他作品もいかがでしょうか(宣伝)
感想等頂けると喜びます!

699はいどうも名無しです (ワッチョイ a417-3448):2024/04/12(金) 16:41:56 ID:VkdGbQ3U00
まだ回収されてない部分がどうなるのか気になる


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