したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

1ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:28:42 ID:1wMv/96g0
こちらはドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルを開催したら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。

参加資格は全員にあります。
初心者歓迎、SSは矛盾の無い展開である限りは原則として受け入れられます。
殺し合いがテーマである以上、それを許容できる方のみ参加してください。
好きなキャラが死んでも涙をぐっと堪えて、次の展開に期待しましょう。

まとめWiki
http://seesaawiki.jp/dragonquestbr3rd/

避難所
http://jbbs.shitaraba.net/game/30317/

前回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII
http://seesaawiki.jp/dqbr2/

前々回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアル
http://dqbr.rasny.net/wiki/wiki.cgi
http://seesaawiki.jp/dqbr1/

DQBR総合 お絵かき掲示板
http://w5.oekakibbs.com/bbs/dqbr2/oekakibbs.cgi

2ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:29:57 ID:1wMv/96g0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。


----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。

3ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:30:29 ID:1wMv/96g0
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。

※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。

 【座標/場所/時間】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。

※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。

4ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:30:52 ID:1wMv/96g0
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24



【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】

【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。

5ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:31:19 ID:1wMv/96g0
5/6【DQ1】○アレフ(勇者)/○ローラ姫/○竜王/○ゴーレム/●ドラゴン/○スライム
5/7【DQ2】○ローレル(ローレシア王子)/○トンヌラ(サマルトリア王子)/○ルーナ(ムーンブルク王女)
      .○ティア(サマルトリア王女)/●竜王のひ孫/●ネプリム(悪魔神官)/○ハーゴン
7/8【DQ3】○アスナ(女勇者)/○フアナ(女僧侶)/●ホープ(男盗賊)/○サヴィオ(男賢者)/○オルテガ
      .○カンダタ/○バラモス/○パトラ(イシス女王)
5/8【DQ4】●ユーリル(男勇者)/○ライアン/○ブライ/●トルネコ/●アリーナ/○クリフト
      .○ホイミン/○ピサロ
8/8【DQ5】○アベル(主人公)/○デボラ/○パパス/○リュビ(息子)/○サフィール(娘)/○ゲマ
      .○ばくだんいわ/○ゲレゲレ(キラーパンサー)
7/8【DQ6】○レック(主人公)/●ハッサン/○チャモロ/○バーバラ/○アモス/○ターニア
      .○デュラン/○ジンガー(キラーマジンガ)
6/7【DQ7】○アルス(主人公)/○マリベル/○キーファ/○フォズ/○メルビン/●アイラ/○ガボ
7/9【DQ8】○エイト(主人公)/○モリー/○ゲルダ/○ゼシカ/○ミーティア/○ヤンガス/○ククール
      .●マルチェロ/●トロデ
6/7【DQ9】○アーク(男主人公)/○スクルド(女僧侶)/○コニファー(男レンジャー)/
      .○ポーラ(女バトルマスター)○イザヤール/○サンディ/●エルギオス
7/9【DQ10】○ジャンボ(男主人公)/●魔勇者アンルシア/○勇者姫アンルシア/○セラフィ
      .○ヒューザ/○ナブレット/●ズーボー/○ザンクローネ
3/5【JOKER】○ヘルバトラー/●ギガデーモン/●アンドレアル/○キングレオ/○バルザック

66/82名

6ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:33:57 ID:1wMv/96g0
テンプレ終了
いつまでも一時投下スレ使うのもなんなので、こちらに本スレ建てさせていただきました

7ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:41:03 ID:0TTcKzhQ0
スレ建て乙です!

8 ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:26:17 ID:PxZETmTw0
投下します

9それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:27:13 ID:PxZETmTw0
「うおおおおおおおお!」

走る。
走る。
走りまくる。
ロッキールは今、全力でもと来た道を走っていた。
というのも、地図も見ずに東へ走っていた彼らは、川にぶち当たってしまったのだ。
岩人間と化したこの身体で泳ぐのは至難の業である。
新しく生まれ変わった興奮から少し落ち着いたロッキールは、そこでようやく地図を見て探すという方法に思い至った。
そして近くに城があることを知ったロッキールは、一国の主であるアベルならそこにいるかもしれないと当たりをつけ、東へ進んだ道を引き返しているのだ。

「おお、あれは!」

そうして休むことなく走り続けたロッキールは、見つけた。
先を歩く、3つの影を。
しかもその内の一つは、彼の…正確にはロッキールの半分の人格であるロッキーがよく知る背中だった。


「ゲレゲレ先輩ィィィィ!!」




背中から聞こえてくる声に、ジャンボ、ターニア、ゲレゲレは振り向いた。
そして、揃ってギョッとした。

10それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:27:40 ID:PxZETmTw0
「それがしでございますよ、ゲレゲレ先輩ィィィ!」

なにか、変な人間がこちらに迫ってきていた。
それは、ターニアがジャンボに対して抱いたそれよりも何倍も奇妙な感覚だった。
灰色の妙にゴツゴツとした肌。
それだけでも奇妙だが、所々に緑やら銀色の肌が混じっていて不気味さを煽っている。

「げ、ゲレゲレ、呼んでるよ…?」

ターニアがゲレゲレの方を向いて言うが、ゲレゲレも困惑しているようだった。
やがてこちらに怪しいゴツゴツ肌人間が追いついてきた。

「くううん…?」

ゲレゲレはじっとその人物を見つめる。
やはりこんな奇妙な人間には会ったことなどないはずだ。
だがしかし、かすかにだが覚えのある匂いを感じるような気もする。


「くうう…グルグルグル……!」


ゲレゲレは何かを思い出そうとしている!


「くううん…」


しかしゲレゲレは思い出せなかった!


と、ここでようやく現れた人物は正体を明かした。

「それがしですよ、ゲレゲレ先輩、ロッキーです」
「ガウ!?」

11それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:28:28 ID:PxZETmTw0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「人間とばくだんいわが合体ねえ…」

ロッキールから事情を聞かされたジャンボは、まじまじと見つめる。
何度見ても、奇妙という他ない。

「それでこんなヘンテコな化け物が誕生したってわけか」
「化け物とは失敬な!お主こそ奇妙な姿形をしているではないか!」
「あぁ!?誰がカビ団子だと!?」
「け、喧嘩はやめてください」

睨み合うロッキールとジャンボを、慌てて止めに入るターニア。
そんな彼女もやはりロッキールの外見にはなかなか慣れることができないようで、若干引き気味だ。

「えっと…ロッキールさん?とりあえず座ってください。かなりお疲れのようですし…」

ロッキールは先ほどまで、東へ西へと休みもせずに走り回っていた。
ローレルにとってもロッキーにとっても慣れないこの岩人間の格好での全力疾走は、相当に消耗が激しかったようで、先ほどから会話をしながら肩で息をしていた。

「いやしかし、一刻も早くアベル様のもとに行かなくては!」

そういってロッキールは走り出し……こけた。

「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ…」
「落ち着けよ、城にそのご主人様がいるとは限らないだろ?(うお、重いな)」

転んだロッキールを起こしてやりながら、ジャンボが言う。

「しかし、それがしは…」
「アベル様を守る、だろ?それなら体力くらい温存しとけ。いざという時疲れて力が出ないじゃ、シャレにならねえぞ?」
「ガウガウ!」

ジャンボに便乗して、ゲレゲレも止めに入る。

「むうう、ゲレゲレ先輩までそうおっしゃるならば仕方がない。少し休ませてもらおう」

制止を受けたロッキールは結局折れ、その場に横になった。

12それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:29:02 ID:PxZETmTw0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(しかし、ジャンボといったか…)

横になって目をつむりながら、ロッキールは同行者の一人について考えていた。
ターニアについては無害だと判断したが、彼についてはまだ完全に心を許したわけではなかった。
ロッキール自身は実際にジャンボと話してみて、そんなに悪い奴ではなさそうだと思ってはいるのだが…

「グルル…」

問題は、仲間であり先輩のゲレゲレであった。
ジャンボやターニアと話をしながらそれとなく様子を見ていると、どうにもゲレゲレはジャンボに対して敵意を示していた。
ゲレゲレは、一時は野生に帰ったとはいえ幼少期から人間と接してきた故か、理由もなくこのように他人に敵意を向けたりしない。
そんな彼が敵意を示すのは、なにもジャンボが人間ではない種族だからというわけではないだろう。
なにかが、あるのだ。
ゲレゲレに敵意を抱かせる、なにかが。

(ジャンボ殿、お主がもしもアベル様に害を為す存在であるならば…それがしが斬る!)

ひとまずは様子見だ。
ローレルとしての戦士の勘ではこのジャンボという男、かなりの手練れだ。
この慣れない身体と扱いにくい剣では返り討ちになるだけだろうし、もしも無害であるなら頼りになる存在だ。
その辺りはこれから見極めさせてもらおう。

(この剣もリュビ様に返さなくてはな)

支給されたローレルは知らなかったが、彼と融合したロッキーは知っている。
この剣は、天空の剣。
天空の勇者であるリュビの物だ。
アベル様の息子である彼は、少々気弱な所があるし、早く届けたい所だ。

(アベル様、デボラ様、リュビ様、サフィール様…みな、どうかご無事で)

主とその家族の無事を願いながら。

(そういえばルーナやトンヌラはどうしているであろうか…りゅうちゃんも無事だと良いのだが)

仲間や友の安否を気にかけながら。


全力で走って疲れていたのだろう。
ロッキールの意識は、ゆっくりと闇に落ちていき、眠りについた。

13それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:29:53 ID:PxZETmTw0
【D-4/草原/1日目 昼】
【ロッキール(爆弾岩人)@ローレル@DQ2+ロッキー@DQ5】
[状態]:健康 岩石とオリハルコンとドラゴンローブの合成肌、疲労(大)、熟睡
[装備]:天空の剣
[道具]:支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3
[思考]:アベルを探し、仕える ジャンボには一応警戒

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、道具1〜3
[思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:トロデーン城へ。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。

14 ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:30:28 ID:PxZETmTw0
投下終了です

15ただ一匹の名無しだ:2016/08/25(木) 21:33:27 ID:rwArT9Jk0
投下乙
ロッキールの不審さとキャラの濃さ半端ねえ…
ジャンボも順調に不穏なフラグ積み重ねていってるし、先行き不安しかない

16ただ一匹の名無しだ:2016/08/25(木) 23:19:45 ID:LaUL1hME0
投下乙です
ゲレゲレ先輩ィィィ!にワロタwロッキールは二人分の思考が入り乱れてややこしいなw
岩人間にカビ団子にキラーパンサーってすごい見た目だな。ターニア生きろ。

17ただ一匹の名無しだ:2016/08/28(日) 14:46:10 ID:cgcGRzE.0
てすと

18 ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:00:13 ID:OBqYEFU20
だいぶ前に予約してたアルス、クリフト、エイト、ブライ、ククール、ヒューザ、メルビンの話を投下します
長いのでご注意を

19『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:03:47 ID:OBqYEFU20
トロデーン王家家臣としてのエイトの責務。
それらの外的要素をすべて取り除いた、一人の人間エイトの倫理観。
エイトの心の奥で、二つが激しく衝突していた。
有事の際に非情になろうとしつつも、非常に徹しきれてない未熟さ。
実際のところ、そういった人間味のある部分こそミーティア姫とトロデ王は評価しているのだが、エイト本人はそれを知らない。

「……却下だよ」

おそらくククールの言葉から経過してるのは、時間にしてわずか数秒に過ぎないであろう。
しかし、エイトにとってはその何十倍もの時間が経過してるように感じていたはずだ。
苦々しい顔でしたククールへの回答は、ノーだった。
今はまだその時ではない。 それがエイトの見解だ。
状況を見極めるには、まだ何もかもが足りない。
この殺し合いでの身の処し方を決めるのには、あまりにも判断材料が不足している。
何より、殺し合いに乗るという道を選んでしまうと、容易に後戻りできるものではない。
人道的な意味でも、殺し合いに乗ったことを知られた場合への目撃者への対処という意味でもだ。
最悪の場合、1対70数名の可能性を背負ってしまうのだ。
それはあまりにもリスクが高すぎる。

エイトの目的はミーティア、トロデ両名以外の殺害などではない。
最優先の目的は両名の安全の確保と生存であった。
この二人が生き残るのであれば、他に何人生き残っていようが構わない。
そこに善人悪人の区別はない。
ゼシカ達も生き残ってくれると、エイト本人も嬉しい。 
何なら、こんなことを言ってきたククールだろうと生還しても問題ない。
エイトの目的は殺害ではない。 殺害はあくまで目的を達成する手段に留めるべきなのだ。

しかし、ククールは違った。
彼は最初から集団に溶け込み、時期を見て狩る方法ではなく、さっそくアルス達三人の始末を提案した。
彼にとっては殺害が目的なのだ。
両者の違いはここにあった。
普段のククールは皮肉屋な面もあるが、冗談でも皆殺しをしようという血の気の多い輩ではない。
それは長い間旅をしてきたエイトが自信を持って断言できる。

(おそらくこの殺し合いに呼ばれてから、私たち二人が再開するまで)

そこに、ククールを殺しの道へ進ませた何かがあるはずだろうと、エイトは予測をつけた。
しかし、今はその詮索をする時間がエイトにはなかった。

「へえ……」

エイトの言葉をある程度予測していたのだろうか。
ククールは怒気でもなく、失望でもなく、薄い笑みを浮かべた。
現状としては、ククールは自身の企みをうっかりエイトに漏らしてしまったばかりか、それをエイトがアルス達に伝えてしまえばもっと状況は悪くなる。
アルス達の反応次第では、ククールはたった一人で四人との戦いを演じないといけないのだ。
それが分からぬククールではあるまい。

20『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:04:21 ID:OBqYEFU20
「ここから去るんだククール。 せめてもの情けだ。 君だって四人相手に勝てるとは思わないだろう?」

本音を言えば、エイトとしてはククールを殺してしまいたいところだ。
ククールが本当に殺し合いに乗ってしまったのなら、それはもう立派なトロデーン王国、ひいてはトロデ王とミーティア姫の敵だ。
王家に仇名す敵ともなれば、殺さねばならない
だが、言うは易く行うは難い。
まったくの他人であるブライでさえ殺すことに躊躇っていた自分が、かつての仲間であるククールを殺せるのか。
仲間としての情を容易く振り払えるものなのか。
個人的な感情を持ち込んでは、槍の穂先も鈍る。
しかし、そこを乗り越えてこその忠臣だ。
やれるのかと聞かれたら、エイトはやってみせると答えるだろうが、今すぐには不可能な事情もある。

「そいつはありがたいんだが……いいのか? イエスと答えて油断させてから、俺のことをその槍で背後からブスリと刺すことも可能だったはずだ」
「君だって答えがノーである可能性は十分に考慮してるはずだ。 不意打ちは無理だった、そうだろう?」
「よく分かってるじゃないかエイト。 さすがは同じ釜の飯を食った間柄ってとこか」

ククールはレイピアを、エイトは砂塵の槍を取り出し、お互いに距離を開けていく。
言葉だけは応酬を続けつつ、二人の距離は物理的にも精神的にも離れていく。
きっと、元の世界に生還することができたしても、確実に二人の関係は変わっていくだろう。
もう以前のままではいられない。
エイトもククールも、それをなんとなくだが察していた。
修羅の道へと突き進むことを選んだククール。
いまだ修羅に至る道への途中で立ち止まっているエイト。
同じ道にいながら、二人のスタンスは明確に別れていた。
この時点で、前方を歩いていたアルス達三人がようやく異常事態を察知した。

「な……エイトさんククールさん! どうしたんですか!? 喧嘩ですか!?」

クリフトが仲裁に走ろうとしたが、それどころではないことに気付くのは時間はかからなかった。
剣呑な表情で睨み合うだけならまだ微笑ましいレベルだろうが、武器を取り出して構えているのだ。
殺気を隠そうともせず、引き絞られた弓のごとく張りつめた緊張感が漂っている。
今この二人の間に立つ、ということは命の覚悟すらしないといけない。
それだけの認識をクリフトは抱いていた。

(バ、バカな……二人は仲のいい友人だったはずでは……! 何が二人をここまで!?)

ブライもまた、二人を制止しようと動き出していた。
年の功が通用するかは分からないが、少なくともこの中での年長者はブライなのだ。
この場を治めるとしたら、それは自分の役目だ。

「ええい、二人とも今はそんなこと――」

そこまで言いかけたところで、ブライの口の動きが止まる。
エイトがククールに向けて放っている殺気。
あれはエイトに会った頃に首筋に突きつけられたものと、同種のものではないのか。
あの時、間違いなくブライは死を覚悟した。
冷や汗をかき、心臓が口から飛び出さんばかりの心境だったのをブライは覚えている。
迫真の演技だとしても、タチの悪い冗談だと怒り心頭に怒ったほどにだ。

21『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:05:37 ID:OBqYEFU20
(もしやあの時のエイトどのは冗談ではなく本気で……いや今は関係ないではないか!)

ブライは首を振り、降ってわいた疑問を振り払う。

「ククールが、私に提案したんですよ……手を結んで皆さんを殺さないかと」

さすがにアルスも、エイトのその言葉には驚かざるを得ない。
動揺が広がるアルス達三人を尻目に、ククールとエイトの言葉は続く。

「で、お前はそれを断った。 だが、答えを出すまでにえらく時間がかかったじゃないかエイト。
 本音を言ってしまえよ。 お前だって悩んでるんだろう?」
「勝手に決めないでくれ。 誰だって信頼できる仲間の口からそんなことを聞いたら混乱する。
 君の言ってることが聞き違いじゃないかと、飲み込むまでに時間がかかっただけだ」
「はっ、どうだかな」

エイトがククールを殺害できなかった理由はもう一つある。
ククールの殺害をするということは、その光景をアルス、クリフト、ブライの三名に見られるということだ。
この三名の承認を得ないことには、殺害はできない。
事後承諾ではダメなのだ。

ククールを殺すにしても、まずはククールが『悪』であると、三名に認識させないといけない。
ククールの言葉を聞いたエイトが、そんなことは許さないと一瞬で心臓を一突きにしたとして、それが三人の目にどう映るのか。
かつての仲間でさえも容易く手にかける、冷酷な人間との評価が下されかねない。
仕留め損なえばククールの口から、エイトも殺しに乗りかかっていることをしゃべられてしまうかもしれない。
もちろんつい先ほどまで赤の他人だったアルス達三人は、いつ自分らが殺されるのかと不信感を抱いてもおかしくはない。
そうなってしまえば、一緒に行動することすら拒否されてしまうかもしれない。
まずは集団に溶け込むことを選択したエイトとしても、それはできる限り避けたい事態だ。

ククールはこの殺し合いを加速させる行為を働く悪人である。
よって、こいつは確かに殺されても仕方ない。
エイトはそういう大義名分を三名から得ないといけないのだ。

(何なんだ。 ククールのこの余裕と笑みは……?)

エイトにはそれが不可解だった。
今の状況はククールにとって面白くない状況のはず。
今すぐにでも戦闘が始まって、ククールは数の暴力によって抵抗すらままならない可能性もあるのだ。
それが何故笑っていられるのか。
おそらく、ククールにはこの場を切り抜ける公算があるのだろうとエイトは見抜いていた。 
槍を握る力を強くし、警戒のレベルをさらに上げる。

「一つ、いいかな?」
「何だ、アルス?」
「どうして僕たちを殺そうと?」
「意味のない問いだな。 俺に正当な理由があれば、お前は大人しく死んでくれるのか?」
「それは嫌だなあ……」

最後にはははっと軽い笑いを浮かべて頬を掻くアルス。 
あまりにも軽い。 呆れるほどにいつも通り過ぎるのだ。
それに対して疑問を浮かべる人間は、場の雰囲気のためか今は誰もいなかった。

22『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:08 ID:OBqYEFU20
「エイト、忠告してやるぜ。
 俺たちが置かれてる状況は、きっとお前が思ってるよりはるかに切迫してる。
 悠長に構えてる暇なんてないはずだ」
「だから、君は殺し合いに乗ったのかい? 私が暢気だとしたら、君は急ぎ過ぎだククール。
 何があったかは分からないけど、それが分からない君じゃないだろう」
「もたもたしてる間に姫さんとトロデ王に何かあったらどうするんだ?
 そのせいで、あの二人がお前のいないところで死ぬ可能性だって――」

「有り得ないッ!!!!!」

その瞬間、エイトの表情が明らかに変わった。
決して踏み込んではいけない領域に、ククールは土足で突っ込んだのだ。

「私のいない場所であの二人が死ぬなんて有り得ない! あってはいけないんだ!!!!
 私はどんな時でもあの方たちの危機には駆けつけないといけない!
 関係ない場所で死んだなんてことは許されない!
 私はあの方の危機にはどのような状況だろうと、絶対に関係してないといけないんだッ!!!
 それができなくて何のための近衛だ! 何のための兵士だ! 
 例え病に伏していようと! 命に関わる怪我をしていようと! 私は這ってでも! あのお方たちの命を救いに行く!!!」

この魂も肉体も、すべてミーティア姫とトロデ王に捧げたのだから。
あの日、あの時、拾われたエイトは一生分の恩を受けたのだから、あとはそれを返していくだけだ。
そう言わんばかりのエイトの表情は、まさに鬼気迫るものがあった。
唾すら飛ばしかねない勢いでまくしたてるエイトに、それを聞いていたものの反応は様々だ。
クリフトとブライは忠臣かくあるべしと感心する一方で、常軌を逸したエイトの様子に対し空恐ろしいものを感じた。
エビルプリーストの何でも一つ願いを叶えるという言葉に、エイトが耳を貸してしまったらどうなのるかと。
もしも本当にミーティア姫とトロデ王が死んだ場合、彼はどうなるのかと一抹の不安を覚える。

「そうだよな。 温厚なお前が唯一怒るとしたら、トロデ王と姫さんのことだったもんな。
 忠誠心だか何だか分からないけど、お前のそういうとこ、欠点だと思うぜ? いつか命取りになる」
「言ってくれるね」
「老婆心みたいなもんさ。 つまらない場所でお前に死なれると俺も寝覚めが悪い」

そんなことは分かっている。
エイトにとってトロデ王たちは、命の恩人を通り越して殿上人のような存在にまでなっていた。
抱いている感情も感謝どころか崇拝の域にまで達しているのも、良くない傾向だとトロデ王本人に窘められたこともあった。
しかし、今更どうしようもないのだ。
そうやって優しい言葉をかけてもらう度に、エイトはまた忠誠心が高まっていくのだから。

「……皆さん、ククールを捕縛します。 最悪の場合、私が責任を持って討ちます!」
「エイトさん、それは……!」
「分かってください。 ここで彼を放っておけば、アリーナ姫をも傷つけてしまうかもしれない」
「そ、それは……!」

クリフトもようやくその可能性を考えたことで、覚悟を決めたのだろう。
声をかけられた三人がそれぞれ戦闘態勢を取ったことを、エイトは背中越しに悟る。

23『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:28 ID:OBqYEFU20
ついにエイトはこの場の流れを掴むことに成功したのを確信した。
ククールの明確な殺意を他の三人に証明し、仲間殺しの免罪符を得たのだ。
捕縛を第一条件にはしているが、ククールの口からは色々と語られたら困る情報が出てくる恐れがある。
エイトは最初から、どさくさに紛れての殺害を目論んでいた。
仲間殺しは辛いだろう。 ヤンガスやゼシカたちにも何かしら言われるだろう。
ここに来る前は確かに、エイトはククールのことを、またククールもエイトのことを、かけがえのない仲間だと思っていたのだ。
共に笑ったエピソード、共に傷つき助け合ったエピソードが山ほど思い出せる。
けれども、忠誠を誓った人たちのためならこの槍を振るえる。
楽しかった記憶も温もりも捨ててしまえる。
エイトは私心を殺してみせる。
今この瞬間、エイトは私情を捨てて、王家のために刃を振るう兵士へと変貌した。

(全てはあの人たちのために)

その言葉を心の中で呟いて、エイトは覚悟を決める。
溢れだす魔力が赤熱化して、エイトの周囲を渦巻く。
炎へと形を変えた魔力が、周囲の空気を歪める。
右手へ集束された炎がエイトの指先が示した方角へと、放射状に広がった。

「ベギラマ!」

大地を焦がしながらククールへと殺到するベギラマ。
それを見たククールの対応も素早かった。
一瞬で魔力を最大限まで高めて詠唱を開始する。

「神の御名において、我が敵に苛烈なる裁きを! バギマ!!」

ククールが腕を振るうと同時に、ククールの足元から竜巻が生じた。
押し寄せてくるベギラマの炎に、竜巻が正面からぶつかる。
炎が竜巻の勢いに呑まれまいと燃え上がる。
竜巻が炎を飲み込もうとその勢いを増す。
結果は両方消滅の相殺だった。
だがしかし、その結果が出る前から、エイトは槍を持って大地を蹴っていた。

(手加減はしない。 いや、できない!)

ククールの実力は嫌というほど知っている。
手心を加えると、逆にやられる可能性もあった。
故に、エイトは一切の雑念を捨てた。
槍の一番の利点は接近戦におけるそのリーチの長さにある。
その間合いの広さを生かして、終始ククールの射程外から攻め続けるつもりなのだ。
だが、対極的にククールはあくまでも冷静なままだ。

「バギクロス!」

今度はバギマよりもさらに大きな竜巻を創り出したのだ。
このまま竜巻に突っ込んだら、自身の体はズタズタになる。
余りの風圧に、エイトは一瞬目を閉じる。
エイトは停止して、回避か迎撃かの選択を迫られた。
だが、ククールの放った竜巻は進行を開始しない。
まるで、その場にとどまり続けることをククールに命じられたかのようにだ。
竜巻の向こうにかすかに見えたククールの笑みが、エイトをイラつかせた。

24『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:48 ID:OBqYEFU20
「邪魔だ!」

小細工ならすべて突破するまで。
エイトも魔力を最大限まで高めて、今度はベギラゴンを放った。
放たれた圧倒的な量の炎は、まるで絡み合う2頭の炎の竜。
バギクロスとぶつかりあったベギラゴンが、先ほどのベギラマとバギマのやり取りを再現してみせた。 その規模を数倍にしてだ。
最高クラスの呪文の使い手など、世界に一握りの存在だろう。
それはまさに、神話に語り継がれる神々と魔の者との最終決戦にも似た荒々しさ。
天変地異を想起させるほどの圧倒的な魔力のやり取りだが、結末はあっけないものだった。
互いの呪文が消滅すると、熱気を帯びた風が周囲に吹き荒れた。
最大級の呪文の応酬に、アルス達三人もこの戦いが本当の、かつての仲間同士による殺し合いだと思い知ることになる。
ベギラゴンとバギクロスが互いに消え去ったあとに残っていたのは、エイト、アルス、ククール、ブライの四人のみ。

「っ!?」

ククールがいない。

「死んだ……?」
「いや、呪文の威力はほぼ互角だったはずじゃ。 それに死ぬにしても骨くらいは残る」

アルスの声に、攻撃呪文のエキスパートであるブライが答える。
死体は確かにない。 だが、ククールの姿形がどこにも見当たらない。

「逃げられた……」

バギクロスとベギラゴンが激突している時間、確かにククールの姿は見えなかった。
その間に全速力で逃げたのか。
この場で一番納得できる推論を立てて、エイトは槍を地面に突き刺した。

「いや、追わないと」

しかし、エイトは再び槍を地面から引き抜いて、背中に装着して走り出す。
ククールこそが、エイトにとって現状で最も厄介な敵になったのだ。
他の人間に何を吹き込まれるかは分からないし、何よりもククールはトロデ王とミーティア姫に信頼されてる。
出会ってしまえば、ククールは労せずして二人を殺害できるのだ。
見知らぬ相手なら警戒もできよう。 接触する前に逃走することも可能だろう。
トロデ王の実力なら、大抵の人間には後れを取ることはあるまい。
だが、信頼できる人間が殺意を持っていたのだとしたら、逃げようがない。

「エイトさん!」
「すいません、ククールを追います!」

クリフトの制止も振り切って、エイトは駆けた。
だが、すぐに追いつかれることになる。

(どっちだ……どっちなんだ)

本来なら、二手に分かれてそれぞれの場所を目指す分岐点。
トロデーンにはブライとエイトが、トラペッタにはアルスとクリフトが向かうはずだった。
ククールにもその話はすでにしてある。
追跡を避けるために、この二方向以外へと向かう可能性も十分に考えられる。
となると、ククールの逃げた方向はいくつもの候補が生まれることになる。

25『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:07:14 ID:OBqYEFU20
(いや、変わらない!)

ミーティア姫とトロデ王が向かうのなら、間違いなくトラペッタよりもトロデーンだ。
道中にククールがいたのなら今度こそ逃がすつもりはない。
しかし、仕留めることよりも、まずは二人の安全の確保が優先される。
ククールの脅威を伝えて、二人に警戒を促すこともできる。
そう考えたエイトは当初の予定通りトロデーン方面へと走る。
だが、肝心なことをエイトは忘れていた。

止まらない胸騒ぎは、ミーティア姫とトロデ王に危機が迫っているためだと、エイトは思い込んでいた。
何故、ククールはエイトが誘いを断った後も、余裕の表情を浮かべていたのか。
目の前の現象は何かあるとエイトも感じつつも、その余裕の正体を見破れなかったのツケのようなものだった。
だが、それはツケと呼ぶには余りにも大きな代償だった。
即ち、その結果とはクリフトの胸に生えた一本の矢。
いや、生えたのではない。 矢が心臓の付近に刺さっているのだ。

「……がっ!?」

一瞬、クリフトは自身にも何が起きたのかも分からなかった。
ようやく自身の胸に弓矢が刺さっていると気づいて、激痛に顔を歪めるよりも先に、反射的に両の手で矢を掴んでいた。
矢を引き抜こうとするが、返しの部分が肉に食い込み更なる激痛を伴う。
膝から崩れ落ちたクリフトを見て、ようやくエイト、アルス、ブライも状況を認識した。

「バカなぁっ!? 何故矢がクリフトに刺さっておるのじゃ!?」

ブライが真っ先にクリフトに駆け寄った。
状況を説明すると、そうとしか言いようがない。
逃げ出したククールがどちらに逃げたのかをエイトが思案してたところに、クリフトの胸に突如として矢が出現したのだ。
ブライが倒れ込むクリフトの容態を確認するが、すでに目の焦点が合ってない。

「おい! おいクリフト! しっかりするんじゃ! 待て! 矢は抜いたらいかん! 血が吹き出る!」
「待って。 直前に矢の風切り音が聞こえてきた気がする」

アルスもそう言ったものの、自信はなかった。
クリフトに矢が刺さった瞬間を見ていた訳ではないからだ。
矢が刺さったという結果を説明するために、原因になりそうな事を言ってみただけに過ぎない。
そして、結果とそれに対する推測をすり合わせるとこういうことになる。
どこからともなく弓矢が飛んできて、クリフトを射抜いたのだ。
そんな気がする、程度の推測。

「エイト、そっちには」
「誰もいません!」

クリフトに刺さった弓矢を見れば、どちらの方向から飛んできたかはだいたいの見当はつく。
もしも弓矢が発射されたのならば、それはトロデーン王国方面になる。
にも関わらず、アルスもエイトも人影を見つけることはできなかった。
物陰に隠れての発射だったのか、確かに街道を外れれば身を隠すことのできそうな木や岩には事欠かない。

(あいつだ! あいつしかいない!)

26『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:07:40 ID:OBqYEFU20
それしかない。
確信を持って、エイトがトロデーン方面へと走り出す。
剣と杖と、そしてもう一つククールが得意としてた武器がある。 それが弓だ。
狙えばほぼ百発百中の腕前で、味方だった時は飛翔する魔物への攻撃などに大いに頼らせてもらった。
それが今はこうして影も形もなく忍び寄る、最悪の暗殺兵器へと姿を変えた。
魔法はたしかに便利であり、人間の文明を飛躍的に発展させた。
しかし、弓矢が飛び道具としての地位を完全に魔法に奪われることもなく、今も現役で生産が続けられるのは魔法にはない利点があるからだ。
激しい光や炎などの自然現象を伴わない。
また、呪文ほどの大音量を発することもない。 
呪文と違って資質の有無が必要でもない。
故に静かなる殺害が可能。
使い手の熟練が必要なものの、弓は呪文にはない利点を認められ、呪文との共存を可能にしている。

前方。
左右。
後方。
走りながらもエイトは周囲の確認を怠らない。
どこから弓矢が飛んでくるかも分からない恐怖も省みず、エイトはあえて火中へと身を躍らせた。
再度、砂塵の槍を構えて、神経を極限まで集中させる。
放たれた矢を叩き落とすなど、飛んでくる方向が分かればまだ対処しやすいだろう。
だが、どこから飛んでくるかも分からない弓矢に対応することなどできるのだろうか。
もしかしたら、自分はククールのいる場所をすでに通り越していて、ククールはエイトの背中に狙いをつけているのかもしれない。
見られている。 殺気も感じる。 だが、その出所がエイトにはまったく分からない。
いつの間にか、エイトはククールのペースに呑まれていた。

「何、だ……?」

突如として、エイトの進行方向の地面へと白い何かが現れる。
空中に現れたそれはひらひらと、そよ風に揺られつつも地面へと着地した。
あんなもの、数秒前までは存在しなかった。
エイトが瞬きをした次の瞬間に、どこからともなく湧いて出てきたのだ。
速度を落としたエイトが、その白い物体へと慎重に近づいていく。

(怪しい……)

さすがにこれに何の警戒も抱かないという訳にはいかなかった。
ククールがどういう方法でエイトたちの前から姿を消したのか、またどうやって居場所も知られることなくクリフトに弓矢を放てたのか。
バギクロスとベギラゴンの激突の瞬間に逃げ出した。 
隠れた場所から弓矢を撃ったから、誰にも気づかれなかった。
そういう風に強引な説明をつけることは可能だ。 だがしかし、完全に納得できないのもまた事実だった。
あまりにも不可解な点が多すぎる。 

「紙……?」

視界に入っていた白い物体の正体、それは支給された紙だった。 筆記用具の紙片だ。
日記に使うも良し、備忘録に使っても良しと、用途は多岐にわたる。
最大の問題は、その紙が何故こんなところに突如として現れたのかだ。
その紙片に何かが書いてあった。
エイトが警戒を怠ることなく、その紙片の文字へ目を通した。
瞬間、エイトは総毛立つ。

27『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:08:44 ID:OBqYEFU20
『お前の後ろにいる』

同時に、エイトの背後に何かが突きつけられるのを感じた。
エイトの心臓がある位置、そこの背中越しに冷たい感触が伝わる。
鋭い金属の感触だった。 見ることはできないが、確実にエイトを殺害可能な武器であると、それくらいはエイトにも分かった。
完全にエイトは背後を取られていた。

「エイト、お前は今までの俺のことはよく知っていても、ここに来てからの俺のことは知らない」
「ククール……!!」
「例えば、俺がこうやってお前の背後を取れた手段とか……な」

これがククールの自信の源。
エイトの勧誘が失敗に終わった場合でも、安全にこの場を離脱できる根拠。
あの場から逃げ出すことのできた方法、誰にも居場所を知られることなくクリフトを攻撃できた理由。
消え去り草というエイトにとって未知のアイテムが、その二つを線で結ぶ。

「エイト、どうしたの!?」

少し遅れてきたアルスには、状況がまだ把握できていない。
アルスの目に映ったのは、走る速度を落としたエイトがついには完全に停止し、そこから微動だにしない奇妙な光景。

「来るな!」

命令形のエイトの言葉には、尋常ならざる焦りが感じられた。
アルスはその場で制止する。 緊張を孕んだ空気が場に満ちる。

「たぶん、後ろにククールがいる」
「えっ?」

そうは言うものの、アルスの眼には背中を見せたまま動かないエイトしか映っていない。
エイトがこんな状況で嘘をつく人間ではないとは分かるものの、アルスにも未知の事態だった。

「ああ、いるぜ。 ついでにエイトにチェックメイトもかけている」

さすがにエイトの背後の何もない空間からククールの声を聞けば、アルスも疑いを持つことはできなかった。
しかも最悪なのが、相手の姿が見えない故にどういう対応を取るべきなのか分からない点だ。
あえてククールがしゃべったのはアルスに自分の存在を確信させ、下手な行動をとらないための牽制だ。

「まず、俺の言いたいことは分かるよな?」
「……くっ」

エイトが槍を手放した。
どうやってククールが背後に現れたのか、今はそれを詮索している暇はない。
おそらく、ククールの言う通り、ここに来てから得た何かでそれを可能にしているのだ。
情報が不足し過ぎているため、どうやってもエイトには答えにはたどり着けない。

「上出来だ」
「それで、次はどうするんだ?」

今エイトに必要なのは、ククールの透明化の原理を見破ることではなく、如何にしてククールの手から逃れるかだ。
殺されずにこうやって背後を取られていることから分かるように、ククールにとってエイトはまだ何かしらの価値がある。
選択肢さえ間違えなければ、まだこの窮地は十分に乗り切れる。

「もう一度聞く。 俺と手を組め」
「……」
「これが最後だ。 よく考えて答えろ」

28『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:09:26 ID:OBqYEFU20
ククールがレイピアをわずかに押す。
エイトの背中の皮膚に刺さったレイピアから、微かな血が流れだす。
ククールの手にもう少し力が篭ったら、必ずやエイトの心臓を貫くだろう。
いよいよククールも本気なのだと、エイトにもその覚悟が伝わる。
ここで答えを間違えてはいけない。
ククールの機嫌を損ねるような答えを出してはいけない。
アルスにも多少の期待はしているが、おそらく過信は禁物だろう。
むしろ、迂闊な行動を取ってしまわないかの方が心配だった。

(どうする……?)

ここで「はい」と答えるのは簡単だ。
だが、そう答えた場合、数十人の敵を作ってしまう。
かと言って、断れば即死だ。
ククールも断られた時のデメリットを考えると、相当なリスクを承知で今の行動に及んでいるはずだ。
下手な情けをかけはしまい。 エイトはそう考えた。
1秒ですら時間が惜しいこの状況。 迷えばそれだけ不利になる。

(考えろ、考えるんだエイト。 今この状況で何が必要なのか)

何かしらの外的な要因が加わっているとはいえ、ククールに背中を取られたことが悔しいのか。
ククールに屈するような形で、殺し合いに乗ってしまうことが恥なのか。
今ここでエイトの決断を邪魔しているものは何なのか。
エイト一個人のプライドがそんなにも大事なのか。

そうではない。
大事なのはエイトの面子ではない。
何よりも優先されるべきは仕えるべき主の安寧。
そういったものの前では、個人のプライドなど塵芥に等しい。

逆に考えるのだ。
今ここでククールの提案に乗れば、当面の危機は去る。
そして、幾多の修羅場を乗り越えた友を仲間にもできる。
出会ったばかりの行きずりの人間よりよほど信用できるではないか。
ヤンガスたちをもいずれは手にかけてしまうかも、なんていうデメリットは今は考えてはいけない。
背に腹は代えられない。 死ねばそこで終わりだ。
誇りや忠義なんていう立派な言葉も、死ねば途端にその重みを失ってしまう。

(ならば、私の言葉は――)



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



エイトの答えが決まりかけていたその一方で、アルスもこの場をどうにかしようと思案していた。
敵は何らかの方法で透明化したククール。
近づいて戦おうにも太刀筋がまるで見えない。
離れて戦えば、弓矢という飛び道具が襲い掛かってくる。
これに対処するのは相当な苦戦を強いられるとアルスは見た。

(なら、僕のやるべきことは――)
 
このままエイトへの被害も省みず、ククールを制圧する。
それが一番ベストの選択肢だと、アルスには思えた。
お人よしだなんてとんでもない。
アルスは他人からのそういう評価を、常に自身の心の内で否定してきた。

29『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:10:09 ID:OBqYEFU20
ただ、なるようになってきただけ。
もしも自分のやってきたことが世間の批判を受けたとしても、アルスは何も思うことはないだろう。
ひたすら熱心に物事に取り組めば、熱中できる何かが見つかるかもしれない。
最初の頃はそう思い、がむしゃらに人を救い、町を救った。
思えば、他人から見たアルスという人間の人物像は、その頃に完成されたのだろう。
人々の喜び、悲しみ、涙、不幸、愛情、幾多の人間模様。
それらを見ても、アルスの在り方は変わることはなかった。
何をしてもその心に火が灯ることもなく、いつしか惰性で冒険は続けられた。
自分を冒険へと連れだした友は、やるべきことを見つけた、と勝手なことを言って遠いところへ行った。

絶望なんてアルスはしない。
そういった感情すらも湧いてこないからだ。
自分はクズだった、という事実さえ分かれば良い。 そこにそれ以上のプラスもマイナスもない。
それなりに長生きしたいという思いはある。
それなりの生活水準だって維持したい。
しかし、そこにそれ以上の執着はない。
ダメだったと分かれば、アルスはあっさりと諦めてしまう。 

仕方ない。
しょうがない。
世の中はなんて単純なんだろう。
その一言ですべてが片付いてしまう。
それは何もかもを解決してしまう魔法の言葉なのだ。
今回はエイトの命と自身の命が吊り合うことなく、アルスの方に傾いただけ。

アルスはドラゴンキラーに手をかける準備をする。
手甲剣とも言うべき特殊な形状だ。
リーチはないが、その分取り回しに優れている。

(やっぱ、どんな経験でも積んでおくべきだね)

戦士としての経験が、しっぷう突きを可能にする。
エイトの背後にククールがいることまでは分かっている。
狙いをつけるのはさほど難しくない。 体のどこかに当てる自信はあった。
タイミングはエイトが答えを返した瞬間。 その時だけはククールもアルスへの警戒が薄れる。

(どっちでもいいんだよ。 エイトが死のうが生きようが、僕が死のうが生きようが)

多少は抗ってみせる。 でもダメだったら納得する。
そうやって生きてきた。 そしてこれからも。
アルスの刃が音もなく忍び寄る時は近い。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(何で、俺はこんなことをしている)

意外なことに、この場で一番戸惑っているのはククールだった。
消え去りそうで逃げる。
追いかけられても、エイトの背後を簡単に取れる方法はある。
そして事実、エイトの命運を握った。
なのに、ククールの心に達成感などはなかった。

30『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:10:28 ID:OBqYEFU20
一見万能にも見える消え去り草には、数量と効果時間という制限がついて回る。
その保険の為にも、エイトという得難い戦力を欲した。
断られたが、そこまでは想定内だ。
エイトから逃げおおせ、それどころか1対4の戦力差を覆す状況も作りだした。
しかし、そこからの行動はククール本人すらも予期してないものだった。
当初は断ったエイトを透明化して殺害し、なおも追ってくるのならアルスもブライも殺害するという算段だった。
なのに、自分はこうして再びエイトに誘いをかけている。
これを断られたらどうするのか、それすらも考えていない。
エイトの背後を取るククール。 そしてククールの姿は見えてないがククールの背後にいるアルス。
そういう位置取りになっている。
ここでエイトは殺せるだろうが、ククールの背中にいるアルスにも同時に対応しなければならないのだ。
透明化しているという情報は割れてしまっている。
自身が圧倒的な優位に立っているという驕りは捨てなければならない。 それは分かっている。
こんな相手を屈服させるような形で協力を取り付けた所で、エイトが不満を持たずにククールに味方し続ける訳がないのだ。
心と体が一致しない。 されど、今更この行動を中止することもできず続けるしかない。
ベットが済んだ後のルーレットのように、後は出た目の流れに身を任せるしかないのだ。
三者三様、それぞれの思惑を抱えながら事態は大きく動く。
四人目の人物によってだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「何故じゃ……」

幽鬼のような足取りで、しかしその瞳にだけは激しい怒りを宿しているブライ。
怒りだけではなく、その瞳には滂沱のごとく涙が溢れているではないか。
隠居も目前に控えたこの老魔法使いは、今烈火のごとき怒りを見せていた。
激流のごとき魔力の渦が、ブライを中心にして形成されている。

「クリフトは……?」
「死におった」

クリフトについてケガの様子を見ていたはずの、ブライが一人でここに追いついてきたこと。
その意味は考えるまでもない。 けれど、確認のためにもアルスはブライに問うた。

「姫様のことを頼むと、最期まで姫様のことを案じておった……」

クリフトはまだまだ未熟なところも多い。
ピンチの際には視野狭窄に陥り、ザラキの呪文を連発するような悪癖もあった。
だが、それ以上に実直で誠実な人柄だった。
何よりもまだ、若かった。
もはや死期を待つ日も近いブライと違い、未来がある。
アリーナと共に勇者の度へと同道し、エビルプリーストを倒すというこれ以上ない功績も積んだ。
クリフト本人は知らないだろうが、サントハイム国内では近々昇進や恩賞も検討されている。
期待の新星。 王が現役を退き、アリーナ姫の世代が国政に携わる時期が来れば、必ずや辣腕を振るってくれただろう。
サントハイムの明日を担ってくれる人物だったに違いない。
いずれは子を儲け、生まれてきたその子はさらにサントハイムを盛り立ててくれたであろう。

31『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:11:10 ID:OBqYEFU20
クリフトの秘める淡い想いについては、ブライは姫の教育係という立場上、何も言えなかった。
アリーナには、いつか様々な方面から縁談の話が舞い込んでくるだろう。
そして、それを受けてサントハイムはさらに繁栄するだろう。
現在、サントハイム王家に王子はいないのだ。
サントハイム王が新たな男児でも作らない限り、次代のサントハイム王族の義務はアリーナ一人の双肩にのしかかる。
それが王族としての責務なのだ。 国家という生物の為に、王族は故国に身命を捧げる必要がある。
だが、それでも……もしもアリーナが一人の女性として自由気ままに生きることができたのなら、その相手としてクリフトは申し分ない人物だった。
アリーナが悪い訳ではないし、もちろんクリフトも悪くない。
誰か悪役を作るのならば、互いの生まれた家が悪かったとしか言えない。

「何故じゃ……何故、わしから殺らなかったのじゃあああああ!!!」

自分はもう古い人間だと、ブライはそれを自覚していた。
光陰矢の如し。 月日が経つのはあまりにも早い。
若かりし頃のブライは、頭でっかちな上の人間を疎んじていた。
伝統、格式……そんな耳障りのいい言葉を使うことで、旧態依然とした制度を維持する貴族や諸侯たち。
既得権益にしがみつくことに必死な老害たち。
ブライはそんな老人たちを王家に蔓延るゴミだと軽蔑していた。
そうして、自分自身が人の上に立ち手本を示し、サントハイムを内部から変えようと躍起になった時期があった。

結婚の道はその時捨てた。
同期の出世頭にもなったし禄も増えた。 姫の教育係も任されるほどに王の信任も得た。
だが、家に帰っても出迎えてくれるのは使用人だけ。
それでも前に進む日々を続けた。

ある日、ふとブライは気付く。
自分の陰口を言っている者がいる、と。
しかもその陰口は、ブライの昇進を妬む同世代の人間の声ではなかった。
あのジジイは口うるさいとぼやく、若い世代の人間の声だった。

その時、ブライは自分の容姿の変化に気付いた。
老いてなお盛ん、というのは辞書の中の言葉だけに過ぎない。
髪は白く変色し、生え際を徐々に後退させ、歩くのには杖を使用するようになり、顔中に皺が生まれ、
腕にはところどころに斑点ができ、神経症も患い体の節々を痛めるようになった、非の打ちどころのない老人が出来上がっていた。

ああ、自分はもう老害を排除する側ではなく、老害だと揶揄される存在になったのだ。 
ブライは齢70近くにしてそれに気づいた。
人の持つ価値観は時代と共に変遷していく。 
自分の中の当たり前が、若い世代には当たり前じゃなくなっている。
そういえば、最近は近頃の若い者は……と愚痴ることが多い気がする。
そんなことにも気付くようになった。
クリフトのような若い世代の人間の言葉は、確かに一見したら正論のように見えることもあった。
しかし、それは現実を踏まえていない理想論があまりにも多かった。
地に足がついてないというか、少し考えれば壁にぶつかるものがほとんどで中身が無い。
だから、強く否定もした。 口うるさくしてしまったが、理詰めで却下した。

32『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:11:41 ID:OBqYEFU20
自分のやってきたことは一体何だったのだろうか。 ブライは自問自答する日が続いた。
かつての醜い老人の立場に収まって、若い者には疎んじられ、心を許せる存在も少ない。
だがしかし、今はまだ自分の力が必要だと、ブライは己を叱咤した。
世界にようやく平和がもたらされたこの時こそ、老いも若いもなく、皆一丸となって国の復興に尽くす。
若者の犯した失敗の責任を取る立場の人間が必要だ。
そして、世情が安定したその頃に、それでもと若い世代の人間が自分とは違う考えを出してきたその時は、大人しく従おう。
もう老いぼれの出番は終わったのだと、寂しく口にして。

教育係でありながら、ブライはアリーナの言うことにも理解が示せないことが多くなっていた。
アリーナは言う。 ブライは融通が利かないと。
ブライは反論する。 これもすべて姫様のことを思えばこそ、と。
二人のすれ違いは日増しに多くなっていった。
もはや、ブライは若者の気持ちに寄り添えない。
できることならそうしてやりたいが、それも難しくなっているのだ。
親から子へと、そして孫へと受け継がれる人の営み。
できる限り住みよい国を作り、後は若い衆に任せる。
それがエビルプリーストを倒した後の、ブライの細やかな願いでもあった。
なのに、現実は若いクリフトが死に、老いたブライが生きながらえた。
死ぬべきは間違いなく、クリフトよりも自分自身であったというのに。
クリフトは、断じてこんなところで死んでいい男ではなかった。

「かああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

慟哭の涙を流し、荒れ狂うブライの魔力が白霜を創り出す。
この季節に似合わぬ氷の暴風雨。 それがブライを中心に生み出されているのだ。
小さな氷は針のごとく鋭く、大きな氷は身を寄せ合い氷塊へと変貌していく。
ヒャドやヒャダルコの規模ではない。
それ以上の呪文を、ブライは怒りのままに放とうとしているのだ。
ブライの得意とするのはヒャド系呪文。 
相手は未知の方法で透明化しているククール。
そしてヒャド系の呪文は広範囲に被害をもたらす。
あとは至極単純な流れだ。
そこにエイトがいようとアルスがいようと構わない。
ただ、この激情にブライは身を任せるだけ。

「マヒャ――」
「待ってブライさん!」

巻き込まれてはたまらない。
どう考えてもククールだけへの攻撃とは思えなかったアルスは制止をかける。
それがブライの怒りを止める決定打になるかは分からないが、少なくとも状況を好転させる要素をアルスは見つけていたのだ。

「あれ!」
「む」

マヒャドの氷の嵐でククールの姿が見える。
いや、正確には巻き起こるブリザードがエイトの背後に人間の形を作っているのだ。
背丈から見ても、ククールとほぼ同じ。
マヒャドという呪文の吹雪が、透明なククールに施した雪化粧。
予期せぬ形で判明した消え去り草への対策法だった。
透明化しているだけで、その全てがすり抜けている訳ではない。
この発見は大きな進歩だった。
即ち、エイトたちには消え去り草のアドバンテージは完全に通用しなくなったのだ。

33『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:12:27 ID:OBqYEFU20
これは一転してククールの大ピンチ。
ククールの居場所が分からないなら、辺り一帯ごと凍らせてしまえばいい。
そう思っていたが必要がなくなったのと、この冷気のためか頭の冷えたブライに、他人の声を聴き入れる余裕ができる。
そしてそれを、アルスは見逃さない。

「ブライさん! そのまま呪文を維持して!」

言うが早いか、ドラゴンキラーを手にしたアルスが突進する。
この時、巻き込みを恐れたアルスはブライへ一声をかけている。
そのせいで動き出すのがワンテンポ遅れた。
しっぷう突きではなく普通の、それでも最大速度での突進。

(クソッ、不味ったぜ!)

決断を迫られたのはエイトではなく、ククールの方だった。
殺気と匂いでククールの存在を感知したガボの能力は驚愕に値するものだった。
しかし、それはあくまでガボ個人の優れた嗅覚によって成し得た技だ。
ガボだからこそできた、消え去り草殺しの個人技能に過ぎない。
まだ消え去り草のメリットが無くなった訳ではなかった。
しかし、呪文の使い手は決して珍しくはない。
少しでも頭の切れる者なら、透明化しているという原理を突き止められた瞬間にこの対策法は思いついてしまうだろう。
手にして間もない消え去り草への知識不足が、今回の事態を招いたのだ。
背後にアルスの殺気を感じるし、この状況では間違いなくエイトも動く。
ククールは同時にその二つに対処せざるを得なかった。

「はぁっ!!」
「なっ!?」

その方法とは即ち、ムーンサルトだ。
助走もなしに月面宙返りのごとく真上に飛ぶ。
一瞬遅れて、アルスのドラゴンキラーがククールのいた空間を切り裂いた。
槍を拾おうとしていたエイトに、勢いあまったアルスがぶつかってもみくちゃになる。
そして、ククールはアルスの背中に華麗に着地を決める。
苦悶の表情を浮かべるアルス。
極めることはしなかったが、嗜むことはしていた格闘のスキルが活きた形になる。
そして、アルスと団子状態になっていたエイトにもわずかながら被害は及ぶ。

(今度こそ……!)

アルスごとエイトも串刺しにしてしまえる。
凍てつく人工ブリザードの中、ククールは何度となく考えていた計画を実行に移すべくレイピアをアルスの背中に狙いをつけた。
この氷嵐のごとく、殺意を研ぎ澄ませる。だが――

(……!)

ククールが顔を顰めた。
またしても、ククールはその剣を血に染めることはできなかった。
最後のひと押しができないのだ。
結局、アルスとエイトの首筋に手刀を当て気絶させるだけに留まった。
今度こそ逃走を開始する。

「待たんか!」

ブライの声が響く。
ククールの居場所を探るために出力が抑えられていた氷の呪文が、再び勢いを増した。
しかし、ブライが再びマヒャド級にまで魔力を高めた頃には、もうククールは吹雪の範囲外に脱出していた。
ブライは追いかけようとするが、そもそも体力が圧倒的に違う。
マラソンをするような年齢ではないのだ。

34『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:12:52 ID:OBqYEFU20
さらに、追いかけるということは再び姿を消したククールの弓矢を警戒せねばならないということだ。
走りながら自分の周囲に氷の呪文を展開し続けることは、肉体的にも精神的にも持ちそうになかった。
ブライがやったのは、エイトとアルスを守るためにしばらくの間、人口の吹雪を形成し続けることだけだった。
弓矢も、この風の勢いなら真っすぐ飛ぶことはないだろう、との判断だ。
さすがに、種が割れた以上はククールも手は出してこなかった。
気絶させたエイトとアルスもいつかは回復してくる以上、ブライの魔法力が切れるまで待ちに徹する、という持久戦は危険だったからだ。

「ぜぇっ、ぜぇっ……!」

しばらくしてようやく呪文を解いたブライは、完全に息が上がっていた。
呪文を形成しつつ、放つことなくその場に展開し続けるなど、そうそうある経験ではない。
慣れない呪文の使い方をしたため、ブライの魔力は必要以上に消耗されていた。
吹雪も収まり、抜けるような青空を取り戻したその場所に立っているのはブライだけ。
よろめきながらクリフトの下へ戻る。
そこには、最期まで仕えるべき主の身を案じ続けた神官があった。
仇も討てなかった。
自分の様な老いぼれが生き延びてしまった。
ククールへの怒りよりも、喪失感が上回ったブライはもう一度慟哭の涙を流す。

「くっ、おっ……クリフト……クリフトぉ……!」

打ち所が良かった、という表現はおかしいのかもしれないが、エイトよりも先にアルスが目を覚ます。
周囲を見回して、どういう事情かは分からないがククールは去ったということは分かった。
ブライの元へ近づくと、クリフトの手を取って涙を流していた。
きっと、孫のように可愛がってたんだろうな。
それくらい、アルスにも想像はついた。

クリフトは身分の違いに苦しみながらも、愛する人のために尽くす人物だった。
恋愛感情。 そういうものがこの世にあることはアルスも知っている。
幾多の人々の思いを見届け何も変わらなかったアルスも、誰かを愛することができれば変われるかもしれない。
他人の何かを見ても変わらないのはもう分かっていたことだ。
ならば、自分が体験したことのない何かに打ち込んでみればいいのではないか。
そんな薄い望みも抱いていた。
山も谷もない。ただひたすらに平坦な道を歩むだけの人生。
それが終わる可能性をもった男がクリフトという人物だった。
しかし、覆水は盆に返らない。 死んでしまったのでその道は閉ざされてしまった。
自身の変わる切っ掛けになり得たかもしれない男の死に、アルスは抑揚もなく呟く。

「あーあ、死んじゃった」

過ぎたことを何時までも悔やんでいてもしょうがない。
残念だが仕方ない。 気分を切り替えていくしかない。
だから、ただ事実を述べただけ。
仕方ない。
しょうがない。
いつものようにその言葉を唱える。
幸運にも、その言葉がブライの耳に入ることはなかった。

35『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:13:35 ID:OBqYEFU20
【クリフト@DQ4 死亡】
【残り65名】


【E-3/平原/1日目 昼】


【アルス@DQ7】
[状態] HP9/10
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:本気になれるものを探す。
   :フォズには今はまだ会いたくない。
[備考]:「職業:なし」で、人間下級職10種を☆7まで習得しています

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP9/10 気絶
[装備]:砂塵の槍
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアと合流する それまでは危険分子を排除する

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP5/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:アリーナを探し出し、合流する


※支給品一式、クリフトの支給品1〜3がクリフトの遺体の近くにあります。




【ククール@DQ8】
[状態]:HP4/5 MP微消費 裂傷
[装備]:堕天使のレイピア オーディンボウ@DQ8 矢×29本
[道具]:支給品一式×1 消え去り草×1 道具0〜2個(本人確認済)
[思考]:優勝し、『元通りの世界』に帰ることを願う
    エイトが乗れば、アルス、クリフト、ブライを殺す
[備考]:杖スキル9以上

36孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:16:41 ID:OBqYEFU20
「ふむ、ヒューザどのは家族がいないでござるか」
「ああ」

メルビンとヒューザはピサロ達と別れた後、まっすぐにトラペッタを目指して進んでいた。
その道中、仲間を組むのだからと、メルビンはヒューザのことを色々と聞き出していた。
家族構成や生い立ち、趣味、友人関係、将来設計、どうやって生計を立てているのか。
一方のヒューザは答えはするが、メルビンに質問はしない。
彼は喋るのが苦手なわけではないが、会話が好きでもない。
強いて言えば、沈黙が苦ではない性分であった。

彼は数多くの冒険者のひしめくアストルティアにおいて、極めて珍しいソロのスタイルを取っていた。
たまに他人と組んで共同でクエストに赴くこともあったが、基本的には一人だ。
一人で魔物と戦い、一人で食事の用意をし、一人で寝床を確保する。
一人でいるのはヒューザ自身の性格や旅の目的に起因していた。
他人と馴れ合うのは性に合わないし、彼は他の冒険者とは少しばかり求めているものが違った。

キーエンブレム。
その功績を称えられた冒険者が、町や国の為政者から授与される勲章。
これは冒険者なら、誰もが喉から手が出るほど欲しがるアイテムだ。
新たに訪れた町を拠点に活動しようとする際にも、キーエンブレムを見せれば各方面への話が通りやすい。
その町の為政者に会うのも許可が下りやすい。
冒険者としての確かな腕前、そして功績を証明してくれる物なのだ。
しかし、ヒューザはそれすらも欲することはなかった。
現に、ヒューザはキーエンブレムを与えられるほどの活躍をしたことがあるにも関わらず、その授与を固辞した。
彼が欲しいのはそんなものではなかった。

自身の力を他人に認めさせるのに、そんな便利なアイテムはいらなかったのだ。
多くの、いやほぼ全ての冒険者はキーエンブレムを辞退するなど考えたこともないだろう。
そのスタンスの食い違いもあって、ヒューザは他人と関わることはほとんどなかった。

「それでずっと一人で旅を、でござるか」
「一人では無理そうな案件は仲間を集めてたぜ。 今回みたいにな」

ヒューザに肉親はもういない。 親の顔も覚えていない。
祖父はいたが幼い頃に死んだ。
それ以降はレーンの孤児院で育った。
祖父と過ごした記憶はほとんど消えかけてはいるが、ネコは殺してはいけないという言葉だけはよく覚えてる。
ヒューザはそれ以降、一人でずっと生きてきた。
そしてこれからもそのつもりだ。
孤児院から外の世界に出た時、この剣で名を上げてやろうと決めた。

この体一つで世界と向き合い、ひたすらに剣を振るう。
それはモンスターとの戦いというよりも、己との対話であった。
自分に何ができて、何ができないのか。
この世界に自分が生まれた理由は何なのか。
自分は一人でどこまでやれるのか。
天涯孤独となったウェディの青年ヒューザは何者であるのか、ただそれだけを知りたかった。

37孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:18:03 ID:OBqYEFU20
五大陸を股にかけ、縦横無尽に駆け巡る。
ラギ雪原、風車の丘、イナミノ街道、ザクバン丘陵。 
あちこちを訪れ、疲れがたまればウェナ諸島へと戻る。
そうやって流浪の旅を続ける中で、たまに知り合いともすれ違った。
ジャンボからは野生のヒューザだ、と珍獣のような扱いを受けた。
抗議をすると、フレンドになってないからいざ連絡しようにもできないせいだ、と逆切れ気味にジャンボに言われてしまった。

凶悪な魔物と戦い死にかけたこと、大勢の魔物の群れに囲まれて死を覚悟したことすら何度もあった。
それでも、彼は一人で戦い、一人で生きる道を選んでいる。
スリルを楽しんでいる訳ではない。
喉がひり付くようなバトルを楽しみたいような戦闘狂でもない。
ただ、一人でいることを望んだ。
孤高の剣技を磨き続け、戦い続ける日々だった。

夜、焚き木の火を消して、草っ原に大の字になって寝る。
見上げた夜空の星々は、この世界に生み出された宝石のように煌めいていた。
朝、滝の近くの川で顔を洗った時、その水の冷たさにハッと驚く。
街の裏通りで見かけたネコと目が合って、立ち止まる。
そんな何気ないひと時を、誰にも邪魔されたくなかったのかもしれない。
他人と組むと、今日はどこへ行こうか、とか明日はこれをしようよ……と、そんな風に他人に合わせないといけない。
自分のやりたいことだけをやればいい、というヒューザにとってそんなやり取りは苦痛でしかなかった。

「一人旅は危険でござるよ」
「分かってるよ。 メリットデメリットを比べた上でのソロなんだ。 文句は受け付けないぜ」

ラリホーで眠ってしまう。
やけつく息でマヒしてしまう。
野宿をする時も、決して熟睡できない。
他人と組んでる時には簡単に治る状態異常も、一人では死に直結する。
宝箱を開けて、それがミミックだった日には目も当てられない。
メルビンもお節介で言ってる訳ではない。
一人での冒険とはそれほどまでに危険なのだ。

「では家族を作る気はないのでござるか?」
「だから家族はいないって――」
「いないのは聞いたでござるよ。 結婚を考えたことはないのか、ということでござるよ」
「は――?」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔をするヒューザ。
家族とは失っていくものではなく、新しく作り増やしていくものだと、そういう考えがなかったのだ。
考えてみれば、それが当たり前なのにだ。

「家族というのはいいものだ。 そう思うでござるよ」
「思うってなんだよ」
「わしも家庭を持ったことはないでござるからな」

長く伸びたヒゲを触りながら、目を閉じるメルビン。
自分がヒューザ位の年齢だったことを思い出しているのだ。

「恥ずかしい話でござるが、わしも昔は『やんちゃ』してたでござるよ」 
「やんちゃって……」
「折しも、オルゴ・デミーラとの戦いも佳境に入り、わしは神様に封じられてしまった。
 もしもの時が起こってしまった場合の、最後の希望として、でござる」
「……そりゃご苦労なことで」
「時代がわしに所帯を持つことを許してくれなかったでござるよ。
 若い頃のわしが一人の女に縛られるのは嫌だ、と思ってたせいもあるでござるが」

38孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:19:39 ID:OBqYEFU20
だが、それでメルビンが家族の良さを知らないということにはならない。
彼にだって生みの親はいて人並みに愛情を注がれてきたし、周りには結婚した夫婦もたくさんいた。
仲睦まじい様子を見せる男女。
愛し合った人と、人生という物語を紡ぎだす夫婦。
二人の愛の結晶である子供は何物にも代えがたい宝物。
同じ道を目指す二人が結婚し、刺激し合ってさらに高みへと昇ることもあった。
愛する人の腕の中で眠る安心感。
どんなに疲れ果てて家に帰っても、出来立ての温かい食事と、帰りを待っていた妻と子供が出迎える。
愛情を注いだ子供が成長し、少しずつ大きくなっていく姿を見られる喜び。
我が子はやがて大人になり、愛する人を見つけ別の家庭を築く。
そしていつかは人は土に還る。 その人が生きていたという証は、子孫たちが証明してくれる。
静かな愛もあった。 燃え上がるような情熱的な愛もあった。 周囲の反対を押し切って成立した、大恋愛もあった。
そこには夫婦の数だけ、違う愛の在り方が存在した。
伝説の英雄と呼ばれたメルビンも、そんな人たちを見て弱き人々を守る決意を固めたのだ。

「ヒューザどのはまだ若いでござるよ。 今はまだやりたいこともたくさんあるでござろう。
 だが、いつかは愛する人を見つけ、家族を作り、生命という輪を繋いでいくでござるよ。
 でないと……わしのようになるでござるよ」

好々爺のように笑うメルビン。
それについて、ヒューザは聞き返す。

「結婚しなかったこと、後悔してんのか?」
「してると言えばしてるでござるし、してないと言えばしてないでござるな。
 結婚すれば、毎日奥さんと幸せにいちゃいちゃ過ごすことができたかもしれないでござる。
 しかし、わしはアルスどのたちと出会った。 かけがえのない戦友、でござるよ。
 結婚すれば、妻や子供のためにも時間を費やさねばならぬでござる。 となると、今の強さもなかったかもしれぬ。
 何か一つでも事情が違ったら、わしは後の世に送られることはなかったかもしれないでござる。
 そう思えば、結婚をしなかったこともあながち無駄ではなかったのかもしれないでござるな」

メルビンは本来、アルスたちとは違う時間に生まれた存在だ。
神により封じられていなければ、アルス達と出会うことは有り得ない。
アルス達と出会えたことは、人の力では実現不可能な奇蹟なのだ。
結婚してるかしてないか、なんていうのはその出会いには関係ないのかもしれない。
それでも、メルビンは前向きに物事を考えていく。
少なくとも、信頼できる戦友と出会い、宿願であったオルゴ・デミーラ討伐を成し遂げた今のメルビンは満ち足りた日々を送っている。
それだけは確かだ。

「……ちっ、何でこんなふざけたカッコしたじーさんに説教されなきゃなんねぇんだ」

こんな会話こそしてるが、実はメルビンはぬいぐるみを装着中だ。
ヒゲを触っていたのも、自前の白い髭ではなくねこひげの方である。
ネコの着ぐるみを身に着けた爺さんに説教をされる、というのはなかなかにシュールな光景であった。
これではどんなに正論を言われても納得しにくい。
しかも、ヒューザにとっては人間大の大きさをしたネコ、という姿がとある豚猫を思い出させるため甚だしく気分が悪くなる。

「いつかはヒューザどのも想像してみるでござるよ。 自分の隣に愛する人がいる光景を」
「んなこと言ったって、実感が湧かねえよ」

39孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:20:27 ID:OBqYEFU20
他人と馴れ合うことを好まなかった自分が、特定の人と死ぬまで共同生活をする。
ヒューザにとっては、水と食料なしでゴブル砂漠を横断しろと言われているようなものだった。
同じメンバーで長期に渡って冒険をするパーティーを俗に固定と呼ぶが、ヒューザはあれに理解が示せない。
毎日毎日、来る日も来る日も同じメンバーで組み続けて何が楽しいのかと思うのだ。
さらに言えば、結婚とは契約関係だ。
固定だろうと、問題が起きれば解散することも簡単だろうが、結婚はそうはいかない。
性格が合わなかった、だから離婚しましょうとは簡単に言えないのだ。
相手の気に入らない部分も、我慢していくしかない。
ウェディであるが故に、ヒューザは貞操観念も強い方に属される。
簡単にくっついたり離れたり、というのは許せないのだ。
結局、ヒューザが止む無くパーティーを組む場合は、金銭を介したその場限りのパーティーの方が後腐れ無くて楽だった。
結婚するよりも、今はまだ自分の剣技を磨く方が楽しい。

「待つでござるよ」

唐突に、メルビンの声のトーンが一段階落とされた。
険しい目つきで前方を見渡すメルビン。
ぬいぐるみの中身が見えないヒューザはメルビンの表情の変化には気づけない。

「誰かが見ているでござる」
「はあ?」

喋りながら歩いていたとはいえ、周囲への警戒は欠かしてないのだ。
一人旅が多いヒューザはもちろん、常にモンスターや野盗の類の気配を探っている。
にも関わらず、メルビンは誰かがいると言うのだ。
何言ってるんだじーさん。 そういう視線をメルビンに向けるが、メルビンはヒューザに構ってられない。

「何だよ、老眼で遠くが見えるとかってやつか?」
「違うでござるよ……ふむ、近いでござるな」

ヒューザの視力では捉えきれないほどの遠い場所にいるなら、ヒューザも納得できただろう。
しかし、メルビンは近い場所にいると言っているのだ。

「獣や魔物の出せる気配ではござらぬな……人間特有の粘ついた視線でござる」

伝説の英雄としての面目躍如といったところか。
メルビンは迷うことなく、ある方向へと一直線に進んでいく。
その後ろに、半信半疑のままのヒューザがついていく。

「そこでござるな」

メルビンが「そこ」と言った場所には何もなかった。
小石と雑草と多少起伏のある地面。
だが、ヒューザもなんとなくだが分かるようになってきた。
確かに、そこには目で見えなくとも何かしらの気配が感じられた。
例えるなら、緑色の中に一点だけ黄緑が混ざってるような、その程度の違和感に過ぎないが。

「怖がらずに出て来るでござ……怖がらずに出てくるにゃん」

姿を隠してる人間はもしかしたら、怖がって怯えているのかもしれない。
そう考えたメルビンは外見を利用して警戒心を解くために、語尾を無理やり変えてみた。
しなを作って、ネコらしいポーズもとってみた。

40孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:22:08 ID:OBqYEFU20
「何やってんだよ、じーさん……」

年の割に、茶目っ気もあるのがメルビンだ。
マスコットキャラクターみたく振る舞えている、とメルビン本人は思っているのだろう。
しかし、声を作ることは忘れているのか、バリトンボイスから繰り出される「にゃん」という語尾は強烈なインパクトを持っていた。

「ささっ、ヒューザどのも一緒に」
「誰がやるか!」

傍から見れば噴飯物のやりとりをしているのだが、観客はおそらく見えない何者か一人。
それにしたって、笑ったり噴き出したりと、何らかのリアクションを見せる気配はない。

「わしの名前はメルビン。 怯えることはないでござるよ」
「おい、もうキャラ作んの忘れてるぞじーさん」

一瞬、空気が変わった。
見えない何者が身じろぎをするかのような、衣擦れの音が聞こえてきたのだ。
メルビンのフレンドリーな対応が功を奏したのだろうか。 そんな淡い期待を抱く。
しかし、その淡い対応は無慈悲にも打ち砕かれる。
何物かがいるであろう場所の土が跳ね上がる。
同時に、メルビンが腰に差した刀を抜いた。
金属が打ち合う音が響く。 メルビンの抜いた刀からかすかに火花が散った。
やがて、つばぜり合いが終わったのだろうか、メルビンが刀を握ってる手から力を抜いた。
何物かの気配がメルビンから離れるのを、ヒューザも確認する。

「何だ!?」
「気を付けよヒューザどの、攻撃されたでござる!」

語気を鋭くしてメルビンが言う。
その手に握った刀はかがみ石とヘビーメタルがふんだんに使われた名刀、斬鉄丸。
極上の業物を握ったメルビンは、その刀の重さを自分の体に覚えさせるためか、何度か軽く振り回す。

「いい刀でござる」

伝説の英雄メルビンは、この斬鉄丸を当面の相棒とすることに不服はない様だ。
突如として襲い掛かってきた何者かの攻撃、そしてそれを受けきったメルビンの技量。
どちらも、ヒューザには驚異的な出来事だった。
ヒューザもダークナイトやシルバーマントとは何度も戦ったことがあるが、持っている武器すら見えない敵というのは初めての経験だった。
達人は見えない者が相手でも、心の眼で相手を捉えることが可能だという。
心眼とかいう、いかにも眉唾なものをメルビンは持っているというのか。
しかし、今はそれを考える場合ではない。
ヒューザもハンマーを取りだした。

「ちっ、軽い武器は嫌いなんだけどな……」

普段のヒューザは状況に応じて様々な武器を扱うが、一番のお気に入りは両手剣だった。
多数の敵と戦う時も、タイマンで戦う時も、両手剣を使う場面が一番多かった。
両手剣は後範囲への攻撃、単体への火力、その両方をバランス備えているのだ。
しかし、今はそれがない。
無いが、嘆いている場面でもない。

41孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:23:11 ID:OBqYEFU20
「透明な敵の対処。 判断を誤れば危険極まりないでござるな。
 だが、色々便利そうでござるが、欠点も多い。 例えば――」

メルビンがバギマの竜巻を作りだした。
その竜巻は地面の砂を巻き上げ、雑草を切り刻み、小石を浮かせる。
透明な何物かの居るであろう場所へ、竜巻は進路を定める。
バギマはそれなりに威力のある呪文ではあるが、ヒューザにはメルビンの言う通り透明な敵への弱点になるとは到底思えない。
速度、威力ともに決定打になりそうな雰囲気ではないのだ。

「正体見たり、でござるよ」
「……人が、いる!?」

しかし、メルビンは予想通りの結果に笑みを浮かべた。
バギマは対象の敵に対して、なんら戦果をもたらさなかった。
透明な何物かを傷つけた感触もなく、容易に避けられたのだ。
だが、重要なのはここからだ。
竜巻の起こした風は、竜巻を中心として渦巻くように形作っている。

当然、巻き上げられた埃や雑草も例外ではない。
そんな中、空中で葉っぱや小石が不意に止まったりしたら不自然だ。
しかも、それが人間の形になるよう集まり方をしていたらなおさらだ。
これが経験値の差。 自分の倍以上の時を生きてきた老獪のなせる業。 ヒューザが感心する。
戦いにおいてもっとも重要なのは技量や度胸でもなく、知識と経験と言われている。
相手がどんな攻撃をしてくるのか、未知の攻撃を繰り出してくる敵にはどう対処すればいいのか。
それを知っているだけで、勝率と生存力は飛躍的に高まる。
培われた知識と経験は、決してその者を裏切らない。

「じーさん、よくやった!」

ヒューザもこれを見逃しはしない。
居合のような形でハンマーを構えた。
次の瞬間、閃光が走ったかのような速度でハンマーを横薙ぎに振るう。
その凄まじい速度が、空気の断層を造り出す。
放たれたのは真空の刃。 無心でこうげきをして、飛ぶ斬撃を作りだしたのだ。

「っ!」

初めて何者かの声が聞こえた。
声の聞こえた辺りから、鮮血と桜吹雪がいくらか飛び散った。
体のどこかを傷つけることには成功したらしい。

「ヒューザどの!」

メルビンが声を上げた。
その原因はヒューザにも分かっている。
何物かはヒューザの方へ向かっている。
まずは仕留めやすいと見たヒューザの方からということだろうか。

「舐められたもんだ」

そんな襲撃者に対して、ヒューザも戦意を高揚させる。
駆け寄ろうとしているメルビンを制止せる。

「来んなじーさん! 巻き込まれるぜ!」

今ならヒューザにも対応はできる。
透明化した敵の武器を受けるという神がかり的な技量など備わってない。
が、武器を持った敵がこちらに殺意をむき出しにして迫っている。
それさえ分かれば、戦い方はいくらでもあるのだ。

42孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:24:06 ID:OBqYEFU20
「うらぁ!」

地面にハンマーを叩きつけた。
ランドインパクトを受けた地面は隆起し、波打ち、衝撃波を生み出す。
敵がどの辺にいるのか、大雑把な位置さえ分かってればこの手で十分に迎撃可能だ。
何故ならランドインパクトは自身を中心とした全方位への攻撃手段。
範囲内に対象がいるのなら、その方向はどこだろうと同じこと。
何物かに衝撃波が直撃するのを感じた。
直撃を受けた何者かは地面を転がっているのか、地面が何度か不自然に抉れ土が撥ねた。

「バギマ!」

直後、バギマの呪文が生成される。
メルビンが新しく唱えたのだ。 舞い上がる砂塵で常にその位置を割り出しておく必要がある。

「マホカンタ!」

しかし、敵もさるもの。
二度とその手段は食うかとばかりに反射呪文を展開させた。
魔力によって形成された鏡面は、バギマの呪文を綺麗に反射させる。

「おっと」

メルビンとヒューザは難なくバギマを避けたが、何物かの居場所を見失ってしまう。
しかし、バギマがなくとも、元々メルビンは相手の気配を察知するくらいはできていたのだ。
互いに武器を構えつつ、メルビンは気配を探り、ヒューザは気を抜かない。

「来ない……」
「油断するでないでござるよヒューザどの」
「ああ、分かってる」

やがて一分、二分と経ち……ついに五分が経過するも、何物かの気配は現れない。

「逃げたか……」
「ふむ、そうでござろう」

透明という、絶対的に有利な条件を揃えておきながら勝てなかったための逃走。
そう考えるのが一番自然だった。
伝説の英雄メルビンの前には、いかなる策も通じないのだ。
メルビンとヒューザが構えを解き、大きく息を吐いた。
全身の筋肉を弛緩させる。

「まさかあんなのがいるとは思わなかったな」
「うむ……しかし何故いきなり攻撃してきたでござろうか」
「相手の事情なんて考えたって仕方ないだろ」

敵への警戒心が薄れたまさにその瞬間。
何物かはずっとこの時を待っていた。

「何、でござる……?」

メルビンの頭上に極小の太陽のような光が生まれていた。
その太陽から生まれたのは、降り注ぐ光の矢の流星群。
敵の攻撃だ。 そう思った頃にはもう遅かった。
いや、少なくともメルビンだけは間に合っていただろう。 
全速力で逃げれば、なんとかなっていたはず。
しかし、隣には完全に気が抜けていたヒューザがいる。
抱えて逃げるには体格が大きすぎた。
窮地にあってメルビンがとった方法とは、両腕を広げ、降り注ぐ光の矢をその身ですべて引き受けること。
それ即ち、全ての攻撃を引き受けるにおうだち。

43孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:25:31 ID:OBqYEFU20
「……おい、じーさん!?」

ヒューザが気付いた直後、光の矢がメルビンの全身を貫いた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



この時を待っていた。
敵の警戒が緩むまさにその瞬間を狙った攻撃だった。
ククールはすでに消え去り草の効果も切れていながら、それでも粘り強く待ち続けたのだ。

エイトたちから逃走してたククールはいまだ消え去り草の効果を維持したまま、トロデ―ン方面へと歩いていたところだ。
人間大のぬいぐるみを着た何者かと、見たことのない青い肌をした亜人種――名簿を見る限り名前はヒューザ――が通りがかろうとしていた。
消え去り草の効果も切れそうな時間帯だったので、やり過ごすことを選んだのだ。
だが、ぬいぐるみの中に入っていた人間の方が曲者だった。
人間離れした気配察知能力を発揮して、ククールの居場所を突き止めてきたのだ。
そこまでなら問題はなかった。
怖かったから隠れていた、そう言い訳すればいいのだから。
しかし、ぬいぐるみの中の人間が語った名前がククールの本能に警鐘を鳴らした。
メルビン、と。
その名前は確かアルスの知り合いではなかったか。

トロデーン方面から東へ向かっていたこの二人は、よほど特別な目的でもない限りトラペッタを目指すはず。
つまり、この二人は自分が逃げてきたエイトやアルスに出会う可能性が限りなく高い。
もちろん、さきほどのククールとアルス一行のやり取りを聞かれたら、こちらへと戻ってくる可能性も高い。
メルビンの人となりを聞く限り、ククールのような人間は許しがたい存在のはず。
ならば、いっそのことこの場で殺すべきだと考えたのだ。
消え去り草の残り時間もおおよその見当は付いていた。
これが無くなれば、もう消え去り草は残り一つしかないのだ。
できる限り、殺せるうちに殺しておきたかった。
そして予想以上の抵抗にあい一度は諦めかけたが、なんとか一人を仕留めることはできた。

「―――っ!」

倒れたメルビンにヒューザが駆け寄り、何事かを叫んでいる。
そこでククールが考えたのは、このままヒューザも殺してしまうか否か、という選択だった。
さすがに、これ以上の時間のロスはエイトたちに後方を突かれる可能性が高い。
しかし、トロデーン方面へ向かおうにもヒューザが立ちふさがる。
この場でヒューザの殺害は時間がかかるだろう。
戦闘能力もある程度高いことは分かっている上に、弓矢という遠距離武器の存在も知られた。
不意打ちも二度は通用しまい。 そして時間がかかるということはエイトたちに追いつかれかねない。
以上からククールがとった行動は、街道を外れることだった。
二方向からの挟撃は避けたい。
そしてヒューザが追いかけてくるのなら、街道から外れた場所でじっくり時間をかけて殺せばいい、という思惑だ。
さすがに赤い衣服は目立つのもあって、ヒューザはほどなくしてククールの存在に気付く。
憤怒の形相で追いかけてくるが、ククールが意に介することはない。
むしろ、あの場で泣き崩れてた方がまだ命があったのに、と冷たい笑みさえ浮かべていた。

44孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:27:18 ID:OBqYEFU20
しばしの間の追いかけっこ。
互いの距離は縮まることはなく、そして街道からは確実に距離が離れていく。
そして、ククールが十分な距離を稼いだと感じた瞬間、反転してヒューザに向き直る。
逃げられないと判断したのではない。
誰の邪魔も入ることなく、ヒューザを殺すことのできる準備ができたためだ。
ククールにとって、今のヒューザは罠にかかった獲物に過ぎない。

だが、ククールの目にあるものが止まる。
ヒューザの右手にメルビンの片手剣、斬鉄丸が握られているのだ。

(形見として譲り受けたか?)

もしそうならお涙頂戴の展開なのだが、重要なのはここからだ。
ヒューザはさらに左手にハンマーも持ったままなのだ。

「お前、ククールなのか?」

右手に片手剣、左手にハンマー。
そこから繰り出されるヒューザのはやぶさ斬り。
通常のはやぶさ斬りの動きが終わった後に、さらにハンマーによる攻撃がククールに襲い掛かる。
ヒューザの二刀流は、はやぶさ斬りの二連撃を三連撃に進化させたのだ。
ただ持っているだけではない。 『装備』している。
明らかにヒューザはこの武器を別個に、そして自分の手足として使いこなしている。

(こいつ、ヘルクラッシャーの親戚か何かか?)

念のために引き気味に様子を窺っていたおかげで、ククールの袖を切り裂くだけで済んだ。
剣とハンマーを同時に使う。 便宜上の呼称は二刀流でいいだろうが、口で言うほど簡単なモノではない。
使いこなすにはそれこそ長い鍛錬と訓練が必要なのだ。
二刀流の剣士というのはごくまれにいるものだが、それぞれ違う武器を使っての二刀流はククールも聞いたことが無い。
マルチェロのあの剣と杖を使ったスタイルも、あくまであの時限定の戦い方のはずだ。

「ヤンガスの話と違うじゃねえか」

○○○にとって最強の武器は何か?
古来より、何度となく議論されてきたお題だろう。
例えば、魔法使いは様々な武器を扱えるが、結局は魔力を高められる杖が最強の武器という結論に落ち着く。
攻撃よりも回復を求められる僧侶も、攻撃に特化した武器ではなく、回復能力を補助または強化するような武器が求められる。
勇者の武器も、やはり伝説の武器が多い剣が最強だと相場が決まっている。
つまり、この手の話題はだいたい結論は決まっているのだ。

はやぶさの剣を使っての片手剣二刀流の連続攻撃か。
両手剣を使って天下無双の専用砲台になるか。
キャンセルショットとランドインパクトでトリッキーに攻めるハンマー二刀流か。
もろば斬りを駆使してのハイリスクハイリターンな戦法か。
宝珠とベルトで極限まで強化した二刀流火炎斬りか。
新装備、はやぶさの剣改を使って再び片手剣二刀流の連続攻撃の時代か。

しかし、これほどまでに激論が交わされ、最強の武器候補が目まぐるしく移り変わった職業は他にないだろう。
その職業の名はバトルマスター。
ヒューザが本職として選び、己の剣技を磨き続けた戦闘のスペシャリスト。

45孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:29:12 ID:OBqYEFU20
「どういうことなんだよ! あぁ!?」

どうやらヤンガスともすでに知り合っていたらしい。
それさえ事前に知ってれば、信用させてから後ろから殺す方法を取れたものを。

(ま、ヤンガスならここでもいつも通りなんだろうな)

捨て去ったはずの温もりに思いを馳せ、ククールもまたレイピアを抜いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ソロに適した職業は何か。
決して多くはないが、ソロの冒険者の間でも情報は交換され共有される。
第一に候補が挙がるのが旅芸人だ。
回復、攻撃、自己強化、敵の弱体化、これらを幅広く卒のないレベルでこなせるからだ。
もう一つ候補に挙がるのが僧侶やバトルマスターである。
僧侶は死ななきゃ安いを地で行く存在であり、説明は不要であろう。
 
そしてあまり知られてないが、バトルマスターは極めて攻守のバランスに優れた職業だ。
攻撃して死んで生き返って、また攻撃して死んで生き返って、という世間一般のバトルマスターに対するイメージは二流三流のそれでしかない。
一流のバトルマスターはまず死なないことを前提に行動する。
忠誠のチョーカーよりも、金のロザリオを身に着ける方が多いのだ。
アタッカーの役目は一秒でも早く天下無双やタイガークローをすることではない。
身の安全を確保してから攻撃することが何よりも重要なのだ。

死ねばそこで終了のソロであるヒューザは言わずもがなだ。
彼我の素早さに大きな差でもない限り、基本的に一呼吸の合間に繰り出せる行動は自分も敵も一回ずつ。
敵の攻撃を受ければ、回復するか攻撃を継続するかの選択を迫られる。
いくら僧侶の回復能力が高くても、敵に攻撃するチャンスがなければ永遠に倒すことはできないのだ。
その点、バトルマスターは攻防一体の特技ミラクルソードがあった。
回復と攻撃を兼ね備えたこの特技は、普段は出番が少ないものの、ソロになると基本にして究極の奥義と化す。
もちろん敵との相性の問題もある。
旅芸人では倒せるが、バトルマスターでは倒すのが難しい敵もいる。 逆もまた然りだ。
決して万能ではないが、ヒューザがこの職業でいることを選んだのは、様々なリスクを鑑みてこそだった。

「仲間ごっこを続けられるほど、この世界は甘くないってことさ」

ククールの言ってることはヒューザにも、いやむしろヒューザだからこそすんなりと受け入れた。
長い時間共に戦ってきた仲間といえども、意見の不一致や恋愛関係の縺れで解散したパーティーは星の数ほどある。
永遠の絆というのは強固なように見えて、脆い砂上の楼閣のようなもの。
一度パーティーを組んだからには裏切らない。 一蓮托生。 死ぬまで一緒。
そういう考えを持った人はククールの考えは理解できないだろう。
皮肉なものだ。 
ソロでやっていたヒューザは仲間と組む道を選び、特定の仲間と長期間旅をしたククールが一人で殺す側に回っている。

46孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:30:16 ID:OBqYEFU20
「それを聞けて安心したぜ」
「どういうことだ?」

ヒューザが斬りかかる。
二刀流による変幻自在の軌道が、あらゆる角度からククールに襲い掛かる。
しかし恐るべしは、一刀流にも関わらずそれを凌ぐククールの技量。
その全てをいなし、捌いていく。
レイピアは刺突に特化した形状故に、その刀身は細い。
鉄を斬るほどの名刀も、重量のあるハンマーもまともに受ければ刀身が曲がるかさもなくば折れる。
それを分かっているが故に、ククールは下がりながら受けている。

「てめぇを心置きなくぶっ殺せるってことだよ!」

ヒューザにとって最も胸糞が悪くなる展開は、ククールが自身と同じ目的だった場合だ。
その場合は些細な行き違いだったと、ククールのメルビン殺しを容認しなければならない。
もはやヒューザの怒りは、それなりの落とし前でもつけてもらわないことには収まりがつかないのだ。

「ふっ!」

下がり気味に受け続けていたククールが突如として攻撃に転じた。
ヒューザの首を狙うよう突き、しかもそれを瞬きするほどの時間で二度繰り返した。
ヒューザの目には、三つのレイピアが同時に襲い掛かってくるようにしか見えない。
神速の三段突きだ。
頸動脈こそ外したものの、ヒューザは薄く首筋を傷つけられた。

手に持った武器の数だけ強くなれるというのは、初心者が陥りがちな罠だ。
剣が一本しかなくても、いや例え剣一本でも訓練次第でここまで強くなれる。
かつてのマルチェロを圧倒するほどの技量を備えたククールは、間違いなく超一流に属する剣士だ。
レイピアは細いが故に脆い。 しかし、それは同時に軽いという意味でもある。
スピードで勝るのならば、こうして時折カウンターを混ぜるだけでも勝機はある。

「で、誰をぶっ殺すって?」

嘲るような含みをもった笑みだ。
腰を落とし、レイピアを水平に構えているククール。
その切っ先からはヒューザの鮮血がしたたり落ちている。
しかし、その程度で止まるヒューザではない。

「あの世でじーさんに詫びてこい」

ヒューザが斬鉄丸を一回転させて、腰だめに構えた。
その瞬間、すさまじいまでの闘気がヒューザに宿った。
精神統一をして、放たれるのはバトルマスターの心技体、そのすべてが合わさった連撃。

「くらいやがれ!」

バトルマスターを代表する奥義、天下無双。
その攻撃回数、実に秒間七連撃。

「何っ!?」

ククールの表情が驚愕に染まる。
斬鉄丸による唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、逆風、右薙ぎ、左薙ぎ。 そしてハンマーによる叩き潰し。
これらが一瞬の間にククールに襲い掛かる。
ククールはヒューザのことを侮っていたことを認めざるを得ない。
まさかここまでの剣技を習得していたとは、と。
意識のすべてを回避に向け、天下無双に対処する。
レイピアで軌道をそらし、バックステップで距離を取り、体捌きを駆使して紙一重で避ける。
しかし、それができたのも五段目まで。
左薙ぎによる太ももへの斬撃、ハンマーによる真横からの衝撃に耐えきれずに吹っ飛ぶ。

47孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:32:05 ID:OBqYEFU20
「ぶふっ!」

肺の中の酸素を吐き出してしまう。
胃の中が逆流しそうなほどの衝撃を受ける。
あばら骨も何本か折れた感触がした。

(ちっ、接近戦はやばいか)

至近距離であの天下無双を連発されて、無傷でいられる自信はククールにはなかった。
何も相手の土俵で戦う理由はない。
ならば、ミドルレンジからの戦いではどうだ。

「闇に在りて闇より昏き雷よ、この地に地獄を現出させよ!」

距離をとったククールがレイピアを一回転させて地面に突き刺す。
呼びだしたのは地獄の雷、ジゴスパークだ。
黒き霹靂はその範囲内にあるすべてに間断なく襲い掛かる。

「やってやろうじゃねぇか」

それを見たヒューザが刀を天に掲げる。
聖なる雷が斬鉄丸に落ちた。
ヒューザは斬鉄丸を光輝の刃へと変貌させたのだ。
そしてその光が、左手のハンマーにも宿る。
光の刃、その属性は魔と闇を滅する断罪の一撃。
ヒューザはギガスラッシュすらも二刀流で放つ。

「ギガ……スラッシュ!!」

交差されたヒューザの腕から、二つのギガスラッシュが放たれる。
斜め十字に交差したギガスラッシュが地獄の雷のテリトリーに踏み込んだ。
荒れ狂う闇の雷、その輝きを増すギガスラッシュ。
その結末を見るよりも先に、事態は動く。
ククールが飛び出す。
何も接近戦そのものを避けたいのではない。
チャンスがあればその都度ものにしていくだけのこと。

一方、ヒューザは心は熱くしたまま、その判断力だけは冷静に保っていた。
ククールが向かってくるのもすでに補足している。
天下無双だけがバトルマスターの真髄と思うことなかれ。
ヒューザがその手に持った武器を持ち替える。
右手ハンマー、左手に片手剣。

「ランド・インパクトッ!」

今度はハンマーだけでなく、斬鉄丸も地面に叩き付ける。
ギガスラッシュと同様に、その衝撃波も二重に発生する。

「その手は読んでる!」

ククールが大きく跳躍する。
如何に強力な攻撃だろうと、地表を這っているだけなら飛べばいいだけのこと。
猛禽類のごとく鋭さで、レイピアを突きだす。
対するヒューザも、迎撃に無心こうげきを放った。
翼なき人の身では、空中で回避行動はとれない。
ならばこの無心こうげきで勝負は決するのか。否。

48孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:33:47 ID:OBqYEFU20
「バギクロス!」

この手は悪手だった。
それを悟ったククールが咄嗟に真空の壁を造りだす。
二重に発生した無心こうげきもバギクロスの前には形無しだ。
そして余力を残したバギクロスは、ヒューザからの着地狩りを許さない。
着地を決めたククールは、己の認識を見つめなおした。
接近戦では向こうに分がある。
また中距離戦もほぼ互角の状態。

「お前のことをだいぶ見くびっていたようで悪かったな」

そう言いながら、ククールは袋から何かを取りだした。
残り最後の消え去り草だった。
これを使う価値のある敵だという、ある意味最大級の賛辞だ。

「だが、この勝負は俺が勝つ」

ヒューザも消え去り草の存在は知らない。
故に、そのアイテムは回復か何かをするものだろうと思っていた。
ククールの姿が消えかけた頃に、ようやくその効果を察する。

「クソッ!」
「あの爺さんにはお前の方から伝えといてくれよ。 悪かったってな」

ヒューザがククールの間合いに飛び込む前に、その姿は完全に周囲と同化する。
その剣を受けるような芸当はヒューザにはできない。
焦ったヒューザがランドインパクトを放った。
が、しかし手ごたえはない。
今度はヒューザの悪手だった。
透明化していようと、気配や外界への物理的影響は隠しきれない。
例えば足跡だったり、草をかきわける音。
それをランドインパクトはかき消してしまったのだ。
瞬殺されるのを恐れたヒューザの短慮が招いた行動だった。
これでは本当にどこに行ったか分からなくなった。
そして、これで退いてくれたと思うほどヒューザも楽観的ではない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ヒューザは一度も呪文を使ってはいなかった。
そして、近距離及び中距離の射程の特技しかない。 これは追いかけっこの段階でも予想はついていた。
ならば、最大射程において勝っているククールのとる行動は決まっている。
オーディンボウ。
とある神話の最高神の名を冠された珠玉の弓だ。
そしてバイキルトの呪文を唱える。
矢筒から弓を取り出し、番える。
風向きとその強さを計算に入れ、狙いを微調整した。
放たれたのは四連射。 息もつかせぬさみだれうちだ。
しかし、敵はバトルマスターのヒューザ。
天下無双で四本の矢すべてを叩き落とした。
自身の手から離れたものの透明化は解除されるようだ。
無敵にも思えるアイテムにも、落とし穴は存在する。

49孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:35:08 ID:OBqYEFU20
そして、矢の飛んできた方向から大まかなククールの位置の予想をつけたヒューザが迫ってくる。
またランドインパクトでもされたらかなわない。
今度はククールがバギマを使用する。
ヒューザがバギマをなんとかしようとしてる間に、ククールは場所を変える。

そして再びさみだれうち。 またしても天下無双で迎撃。
これは心を摘む戦いだ。
ヒューザの体力か気力が切れた時、その時勝負はつく。
見えない敵からの攻撃を長時間防ぎきるのは、体力的にも精神的にも消耗が激しいのだ。

(器用なヤツだ。 だが……こいつはどうかな?)

今度は矢を番えなかった。
しかし弦だけは引き絞る。
瞬間、光の矢が生まれた。
メルビンをハチの巣にした弓の奥義、シャイニングボウを放つ。

(さあ、そいつは剣で斬れないぜ?)

同じように実体を持った弓矢が飛んでくると予想をつけていたのだろう。
ヒューザは光の矢の出現に顔色を変えた。
泡を食ったように逃げ出すが、そのいくつかが体を貫く。

次はまたさみだれうちだ。
こうすれば、ヒューザは飛んでくるのがシャイニングボウかさみだれうちかをまず判断しないといけない。
気軽にククールのいる方向にも向かっていけない。
近づけばそれだけ、シャイニングボウがヒューザの体に到達する時間が短くなるからだ。
この距離だからこそ、ヒューザはいまだ致命傷は避けられている。

もう何度目だろうか、さみだれうちを撃つ。
体力が切れてきたのだろうか、ヒューザは矢を打ち落とせなくなってきた。
MP切れもククールが狙ってる作戦の一つだ。
ヤンガスやモリーがそうであったように、パワーファイター系の戦士はMPが低めな傾向にある。
ましてや天下無双はあれだけの威力と性能だ。
消耗の度合いも他の特技に比べて高いだろう。

(さて、お次はこれだ。 受けきれるかな?)

弓矢の攻撃に慣れさせるのも、それ以外の攻撃をヒューザに意識させないためだ。
祈りをこめて十字を切ったククールの手から生まれたのは奥義、グランドクロス。
僧職の道を目指し、頂きに辿り着いたものだけが扱える聖なる十字の裁きだ。
持てる火力の全てを駆使し、ククールはヒューザを殺害するつもりだ。
ヒューザが気付いた時にはもう遅かった。
グランドクロスは全てを飲み込み、浄化する。

だが、グランドクロスの進路上に突如割って入る者があった。

鎖帷子を着こんだ老齢の男性。 血だらけだ。
その男性が、鏡合わせのようにグランドクロスを作りだした。
忘れもしない。 名簿でアルスから知り合いだと教わい、そして自分が仕留めたと思いこんだ男。
ぬいぐるみを捨て去った伝説の英雄、メルビンだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「遅くなったでござる!」
「じーさん!?」

50孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:36:28 ID:OBqYEFU20
ククールの失敗はメルビンの死を確認してなかったことだ。
いかに出血が多量でぬいぐるみをの毛を真っ赤に染めてようと、それで安心してはならない。
満身創痍であることには間違いないが、メルビンはまだ死んでなかった。

「わしが……道を開くで……ござるよ」
「何やってんだじーさん! 死ぬぞ!」

戦いの場で死ぬるは本望。 ベッドの上で安らかに息を引き取ることなど考えたこともない。
死者の集う世界には、きっとかつての戦友が待っている。
長らく待たせてしまったが、今ようやくメルビンは彼らの下へ逝くことができるのだ。
共に武勇を競い合った仲間がいた。 夜、かがり火の下で猥談をして友情を深めた仲間がいた。
最後まで死なずに生き残ると、約束した仲間がいた。 結婚を控えた女性でありながら、オルゴ・デミーラとの決戦に赴いた仲間がいた。
そして、その全ての仲間に置いて逝かれた。

(みんな……今……逝くでござる。 土産話がたくさんあるで……ござるよ)

風前の灯となったこの命、使うのなら若い命を救うために使いたい。
いつまでも老人がでしゃばるような世界であってはいけないのだ。

「押し返すでござるよ、ヒューザどの!」
「くそっ、バカ野郎が!」

ヒューザも覚悟を決めた。
右手に片手剣、左手にハンマー。
今一度ギガスラッシュを生み出し、拮抗状態のグランドクロスを切り裂く。
続いて、メルビンが放ったのは凍てつく波動だった。
平和な世の中に戻った後も、人知れず職業を変えては鍛錬を積み重ねていた時に身に着けた特技。

「ヒューザどの!! 後は任せた!」

その言葉を最後に、メルビンは倒れた。
もう本当に虫の息だったのだろう。
託されたものの重みを感じ、ヒューザは走り抜けた。
ヒューザはもう、振り返らなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ヒューザが迷うことなく、ククールの下へと走ってくる。
さみだれうちをククールが放つが、ヒューザは正確にハンマーで叩き落としていく。
少し前までは迎撃すらままならなかったほど弱っていたヒューザが、だ。

(見えている!?)

メルビンが死の間際に放ったあれ。
あれが消え去り草の効果を消している。
マルチェロ以外に凍てつく波動を扱えるものがいるとは、ククールも思わなかった。
それほどまでに、この特技は使い手の少ないのだ。
また、消え去り草の効果を凍てつく波動で消せるのも予想外だった。
これもまた、消え去り草の知識不足が招いた結果だ。
ククールは知らないだろうが、レムオルという呪文がある。
それと消え去り草の効果がレムオルと同じであるならば、凍てつく波動で消せるのも納得の行く話。
メルビンとて、確証を抱いての行動ではなかった。
しかし、こうして伝説の英雄のとった最期の行動は一人の青年の命を救った。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板