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DQBR一時投下スレ

1ただ一匹の名無しだ:2012/05/01(火) 18:33:27 ID:???0
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

前スレ
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/

547ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 14:02:12 ID:1do5p9y.0
アトラスが同等の大きさってどこから出てきたんだ?
モンスターズだとアトラスはメガボディでもっと小さいけど

548ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 14:17:09 ID:lphk2lxg0
個人的には有りでもいいと思うけど、反対意見多いならそこまで推すつもりもないよ
てかさっさと結論出さないとこの付近が書けない

549ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 19:39:00 ID:o/MjFU4I0
>>543
そうだけど戦闘画面だと枠内におさめるためにちっちゃくなったりするからあんまり参考にはならないよ
イベントシーンがあるとサイズ・Gモンスターって凄く大きく演出される
ギガデーモンはイベントシーンないけど

550ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 19:52:00 ID:Cpl6l26.0
常時巨大が不味いのなら、
普段は通常サイズで、自由に巨大化出来る能力ってことするのはどう?
勿論作者さんがそういう方向で修正することに納得してくれるならだけど

551ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 20:12:55 ID:i8llX6kQO
自由にサイズを変えられるのは流石に便利が過ぎるような……

元より大きくはなってるけどGサイズほどではない、くらいはダメなのかね?
なにがなんでも元のサイズじゃダメってわけじゃないなら、元より大きく、且つギガサイズほど支障にならない範囲の巨大化なら、
修正も少しで済むし、他の書き手さんへの影響も減るし

552ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 20:22:49 ID:o/MjFU4I0
サイズ・Gって明記するんじゃなくて本来よりも大きくなったって描写なら大丈夫かもね

553ただ一匹の名無しだ:2015/11/21(土) 21:36:09 ID:GC9qamR.0
>>549
そのイベントシーンとやらはギガデーモンにはないんだよね?
ならGサイズギガデーモンの大きさの基準になるのは>>543の動画だけなのでは?
で、その動画見る限り、そこまで周囲のキャラの行動に影響与える程の大きさではなさそうだけど
1エリア分くらい離れてれば「気付かなかった」で十分通りそう

554 ◆hXOmdUGUdg:2015/11/22(日) 00:05:41 ID:4OXSWODE0
皆様本当に申し訳ないです。
>>551様の通り、JOKERよりも一回りサイズを小さくするということでよろしいでしょうか?
具体的に、ほとんどMサイズ寄りのGとMの中間、通常建物5,6階相当のところを3,4階相当、さらに言えばトラペッタの外壁から顔若しくは肩が覗く程度、でどうでしょうか?
これくらいでしたら1stのアトラスと同等か一回り上程の大きさになりますし、外壁含め街を破壊できること及び作中の描写にも違和感はないのではと思います。

555ただ一匹の名無しだ:2015/11/22(日) 00:37:28 ID:oJiSW0Rs0
大きさで問題視されてるのは他エリアからも姿が見える場合のあれこれなんだよね?
だったらそれで問題ないんじゃないかと個人的には思うよ

556 ◆KV7BL7iLes:2015/11/22(日) 08:03:29 ID:jA9bvu3YO
自分もギガデーモンについてはそれでいいかと

それと、ジャンボについての指摘があったので
ジャンボという名前は公式配信でのキャラであるじゃんぼりぃから着想を得たものです
そもそも自分はソウラは未読ですし、性格面で似てしまったのは単なる偶然と思われます

557ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 11:16:13 ID:UE2KyYlA0
偶然なら偶然でそれでいいが、これは10主人公に限らずデフォルト名が存在してるのに違う名前にしてる理由はちょいと知りたかったり
デフォルト名だと何か支障あったりするんだろうかと思ってしまう。DQ5の娘なんか名前四文字超えてたりするし。10だと問題ないけど
まぁデフォ名が「ナイン」という8主人公の「エイト」と比べたらあまりにもあんまりな9主人公と、「エックス」だと某へぇ〜イイネ!が思い浮かぶ10主人公に関しては変えたくなる気持ちはわからんでもないけどw

558ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:04:24 ID:sh9ixqfw0
デフォ名じゃなきゃダメなんて決まりあったの?
1stとか2ndでも割りと自由に名前付けてたから何でもありかと思ってた

559ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:07:15 ID:0vbsFYO20
ちょっと待てちょっと待て
デフォルト名とかどうとか少し上のギガサイズ関連議論とか、最近どうでもいいことで騒ぎ過ぎじゃないのか?
そんなことで書き手のやる気を削いでしまう方がこの企画の為になってないって

いいからみんな少し落ち着こうぜ

560ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:22:55 ID:zF5Yr34Y0
そういやギガデーモンって修正とかするんでしょうか
内容そのままで>>554の大きさに関する補足入れるだけなんだったらもうwiki載せますが

561ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:34:18 ID:6VIcea320
そういうの雑談スレがあるんだからそっちでやって

562ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:35:25 ID:rwaOeBE60
ぶっちゃけ細かくディテール決めちゃうほうがよっぽど面倒くさくなるので、修正いらないよ

563ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 12:41:50 ID:UE2KyYlA0
単純に興味本位で聞いたつもりだったが、どうでもいい話だったな。すまんかった。

564ただ一匹の名無しだ:2015/11/23(月) 15:40:11 ID:B0SbJ8mI0
じゃあとりあえずそのまま収録しときます

565Rock 'n' Roll!! 修正 1/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:12:33 ID:.WvqDauo0
ロックンロール(Rock and Roll, Rock ’n’ Roll)は、
1950年代半ばに現れたアメリカの大衆音楽スタイルの呼称である。
 語源については、古くからアメリカ英語の黒人スラングで
「性交」及び「交合」の意味であり、1950年代はじめには
「バカ騒ぎ」や「ダンス」という意味もあった。
〜〜 ロックンロール ウィキペディアより抜粋 〜〜



ローレルはご機嫌だった。
爆弾岩の大きさそのものは一抱えほどだったが、その重量はゆうに100kg近い。
しかしその重さをものともせず、彼は爆弾岩を抱えてご満悦だった。
今まで魔物といえばどんなにローレルが親愛の情を示してもこちらを攻撃する
凶暴な性格の相手ばかりだった。
それによってパーティを危機に陥れ、トンンラやルーナに責められることもしばしば。
その場は反省しても、またそれを繰り返してしまうのがローレルだった。
なのでローレルがこんなにも近づけてしかも触れることができたモンスターなど
数えるほどしかいなかったのだ。
鼻歌交じりでローレルは平原の丘陵を歩く。
そこでふと気づいた。手に抱えている岩の魔物がこちらをギョロりとねめつけていることに。

「む、目が覚めたか?」

ローレルは爆弾岩をそっと地面に置いて、自分はその対面に座った。

「それがしはローレル。ローレシアの……肩書などお主相手に意味あるまいな。
 お主と友になりたいローレルだ、よろしく!」

そういって手を差し出すが、爆弾岩はとくにリアクションはない。
ただギロギロとローレルを見ている。
しかしそんな反応でもローレルはホッとしていた。
襲い掛かってこられなかっただけでも大金星を得た気分である。

「それがしはお主の敵ではない。ほれ、これがそれがしが持ってる道具だ」

ローレルは自分の羽織っているローブ、懐から銀色の匙、
そして腰に下げた剣を見せつける。

「……」

当然ながらとくに反応はない。
だが心なしか爆弾岩の視線から険が薄まったような気がして
ローレルは更に踏み込んでみることにした。

「あー、あなたーのおなまーえ、なーんですかー?」

目の前の魔物が人語を解するのかどうかは解らない。
しかしなんとかコミュニケーションをとろうと
変な外人のようなイントネーションで彼は語りかけた。

ばくだんいわはしずかにたたずんでいる。

「……」

「……」

「……」

「あーもしかして、名前はないのか?」

566Rock 'n' Roll!! 修正 2/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:13:16 ID:.WvqDauo0
そういった時、爆弾岩の視線に突如として殺意がこもった(ような気がした)。

(むぉ、まずいな怒っておる……ということは名前はあるのか)

だが相手が喋れないのであれば知る方法がない。
そう思った瞬間、彼はひらめいた。

そうだ、名簿があるではないか、と。

慌てて袋の中から名簿を取り出し、パラパラとめくる。
果たしてそこにはあった。
それによりローレルは彼の種族が爆弾岩であること。
そして名前がロッキーであることを知ったのだった。

「そうか! お主はロッキーというのか!」

ゴロゴロ……
爆弾岩の名を呼んだとき、はじめてリアクションがあった。
その場をゴロゴロと転がってまた元の位置へと戻ったのだ。
もしかして喜んだのかもしれない。

「そうか、ローレル、ロッキーで名前も似ておるな!」

『ロ』しか共通点はないのだが彼はそれが嬉しくてたまらず満面の笑みを見せる。

「しかし名前があるということはお主まさか誰かご主人様がいるのか?」

普通魔物に名前はない。
あったとしてもそれは人語を操るような知性高い魔物か、
誰かに飼われているかだ。
ロッキーが全く言葉を発する様子のないことから後者ではないかと
当たりを付けてみたのだが。

ニヤリ

ばくだんいわはぶきみにわらっている。

「やはり! そうかじゃあこの中からお主のご主人様がいたら教えてくれ」

まだ爆弾岩の笑いが肯定の意味と決まったわけではないのだが、
彼はそう決めつけて話を進める。
名簿を最初からパラパラとめくり、ロッキーの反応を見る。

パラ……パラ……

しばらくして、あるページでロッキーが反応した。

ニヤリ

ばくだんいわはぶきみにほほえんだ。

そのページにはアベルという紫のターバンをかぶった青年の姿があった。

「ほほ〜〜この人がお主のご主人様かぁ」

ローレルは思う。
どうにかこのアベルと話をつけてロッキーを譲ってもらえないだろうかと。
彼にとってここまでコミュニケーションをとることのできた魔物はロッキーが初めてなのだ。
是非とも今後の人生を共に歩みたかった。
アベルを前にしてどう交渉するかと妄想を馳せる。

567Rock 'n' Roll!! 修正 3/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:14:00 ID:.WvqDauo0
テーブルの上座に座るアベル。
その対面にローレルは座り、頭を下げる。
隣には寄り添うようにロッキーが佇んでいるのだ。

―― アベル殿! どうかロッキーをそれがしにお譲り下され!!

―― なんと誠実な男なんだ。よし、ロッキーは君に任せよう!

妄想が捗り、だらしない笑みを浮かべるローレル。

「でへへへ」 ドスッ

それをみて危機感を覚えたのか、ロッキーはゴロゴロと転がってローレルにぶつかった。
ただたいして勢いもついていなかったのでローレルを現実に戻しただけで
ダメージにはなっていない。

「ああ、すまぬなロッキー。お主を放って一人の世界に浸るなどあるまじきことであった」

慌てて表情を改め、優しくロッキーの表面を撫でる。

「一緒に行かぬか、ロッキー。お主のご主人様アベルを探しに」

ニヤリ

ローレルの言葉にロッキーは不気味な微笑みで返す。
彼にとってそれはもはや肯定以外の何物でもなかった。彼の中では。

「よし、ならお主の支給された道具を見せてくれぬか?
 何か使える物があるかもしれん。いや、無理にとは言わぬがな」

「……」

ローレルの言葉にロッキーは少し迷うようなそぶりを見せ(ローレル視点)
しばらくしてあんぐりと口を大きく開けた。

ペッ

口の中から吐き出されたのは袋だった。
これがロッキーの支給品なのだろう。

「感謝するぞ、ロッキー。中を見せてもらおう」

中をのぞくとそこには三つの道具が入っていた。
順番に取り出す。

一つは指輪。
罠抜けの指輪といって装備するとあらゆる罠が装備者に対して発動しなくなるらしい。

一つは巻物が三巻。
紐で一括りにされていて、どうやら三巻セットらしい。
罠の巻物といって使用すると、使用者の半径20メートルの範囲に
あらゆる罠が発生するのだそうだ。

この指輪と巻物のコンボはかなり強力であると言える。

「しかしこれではロッキーには使えぬなぁ」

指輪も装備できないし、巻物を読むこともできない。
これではまさしく宝の持ち腐れだ。

568Rock 'n' Roll!! 修正 4/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:14:37 ID:.WvqDauo0
あとで自分に使わせてもらえるように頼んでみようかと彼は考えた。
アベルを探すために必要な場面もあるかもしれない。
その為だったらロッキーも快く貸してくれるのではないだろうか。
そう思いながら彼は最後の道具を取り出した。

「おお、これは使いようによっては凄いかもしれん……」

それは壺だった。
合成の壺といってどうやら中に入れたアイテムを合成して
より強力にするためのものらしい。
一度中に入れると割らないと取り出せない為、
使用は一回限りであるから使いどころは難しい。

だがこれもロッキー自身が使用するのは難しそうだ。

「なぁロッキー。これらのアイテムはお主が使うのは難しそうだ。
 どうだろう? これらをそれがしに貸してくれないか?」

この世界には自分やロッキーのように殺し合いを良しとしない輩だけではない。
この先、アベルを探す過程で他の参加者に襲撃される危険もあるだろう。
その中でこれらのアイテムを有効に使えれば抜け出せる危険もあるかもしれない。
そう説明するローレルにロッキーは……ニヤリ、と笑った。

「そうか! ありがとうロッキー!!」

ロッキーが自分の提案を受け入れたこと。
自分を信じて強力な道具を自分に預けてくれたことに狂喜して
ローレルはロッキーを抱き上げる。

しかし座った状態から急に立ち上がったこと。
そしてロッキーの重量が災いして、いかな強力を誇るローレルも
バランスを崩してしまった。

「ぬわぁっ」

足をもつれさせ、ロッキーを抱えたまま……なんと合成の壺の上に倒れ込んでしまった。

ヒュポッ

まるで、いやまさしく吸い込まれるように彼らは壺の中へと入ってしまう。

その勢いでグラグラと壺は揺れ……グラリ、と大きく傾くとそのまま倒れてしまった。
ローレルたちが居た場所は丘陵のちょうど小さな丘の頂点付近。
つまりそこは坂道だったわけで当然――

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ

「ぬぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」

彼らは地獄のローリングを体験する羽目になった。
頭の中はパニックでどうすればいいのかすら何も浮かばず、ただ回転に身を任せる他にない。
真っ暗な壺の中、目が回りまるで魂までもシェイクされるような不快な感覚。
脳みそが撹拌されたように蕩けてしまいそう。

いつまでそんな地獄を味わっていただろうか。

突然、転がっていた壺が大きく跳ねた。

坂の途中にあった石ころにぶつかったのだ。

569Rock 'n' Roll!! 修正 5/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:15:46 ID:.WvqDauo0
そしてそのまま地面に叩きつけられ―― 割れた。

ガッシャーンッ

地面に投げ出され、衝撃にのたうつ。

「ぐあぁっ」

しばらく全身の痛みとこみ上げる吐き気を必死に堪えていたが、
もう一匹の存在が見えないことに気づき慌てる。
早く探さなければ――彼は名を呼んだ。

「ローレル! 何処だ!?」

あれ? ローレル? 自分が探すのはロッキーではなかったか?
いやローレルを探さないと。違うロッキーが見当たらない。

混乱し、頭を押さえて蹲る。

早く、あらゆる手を使ってでも……手? 手ってなんだ?
手は手だ。自分にもついている。

彼は己の手を見つめる。

「なんだ、これは!?」

何故自分に手がついている? 違う手は最初からあった。
それよりも何故手が岩のようにゴツゴツしているのだ?
違う前から自分は岩でできていた。

混乱に拍車がかかる。

「落ち着け! まずは自分を確認するんだ!!」

大声で叫ぶ。

そして――どれだけの時間が経ったのか。
彼はようやく事態を理解した。

「なんだ、何も悩む必要はなかった。それがしは……」

彼はニヤリと不気味にほほ笑んだ。

「いや、それがし達は……合体したのだ。」

ローレルとロッキー。
二人は合成の壺によって合成され、新たな一つの生命体として爆誕した。
よく見ると彼の肌は岩だけでなくうっすらと銀色の鉱石が混じっている。
オリハルコンの匙が混じったのだろう。耐久力は飛躍的に向上しているようだ。
その表面の胴体部分を中心に竜のウロコのような緑の肌が確認できた。
ドラゴンローブもまた合成されているようだ。
これにより呪文、ブレス耐性も大幅に向上している。

「それがし達は……違う、それがしは ―― ロッキール。

 そう、それがしの名前は『爆弾岩人ロッキール』だ!」

高々に叫び、彼は歓喜に浸る。

570Rock 'n' Roll!! 修正 6/6  ◆S0i4l3vvG2:2015/12/02(水) 20:16:13 ID:.WvqDauo0
憧れの魔物と一つになれたこと。憧れのご主人様の役により一層立てること。
二つの想いは交わり、一つになった。

アベル様の為に!

彼は元の位置に戻り、道具を回収すると走り出した。
使えるべき主人を探すために。


【D-4/草原/朝】
【ロッキール(爆弾岩人)@ローレル@DQ2+ロッキー@DQ5】
[状態]:健康 岩石とオリハルコンとドラゴンローブの合成肌
[装備]:天空の剣
[道具]:支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3
[思考]:アベルを探し、仕える

※ローレシアの王子と爆弾岩が合成されました。
 ロッキールが死亡した場合、ローレルとロッキーの両方が死亡扱いとなります。

571ただ一匹の名無しだ:2015/12/02(水) 20:17:08 ID:.WvqDauo0
ローレルの口調に違和感を覚えた方が何人もいらっしゃったようなので
修正をしてみました
これならどうでしょうか

572CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:11:25 ID:qMa5JxGY0
 


しゃきーん しゃきーん


 鋏の音が、甲高く響く。


しゃきーん しゃきーん


 何かが居たような気がして、そこに立ち止まる。


しゃきーん しゃきーん


 けれど、そこには誰も居ない。


しゃきーん しゃきーん


 男は、身を翻し、来た道を戻り始める。


しゃきーん しゃきーん


 般若が何を考えているかなんて、人には到底理解できないだろう。


しゃきーん しゃきーん


 鋏の音を響かせながら、男は街へと戻る。


しゃきーん しゃきーん

573CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:12:23 ID:qMa5JxGY0
 誰かいるかもしれないという期待から、マリベル達は街のある北へと進路を取っていた。
 街からとれる進路は西か南の二択、移動しようとする者達と出会う可能性も高く、悪くはない選択だった。
 そうしてサフィールと二人、肩を並べてぽつぽつと歩き始めていた、が。
「しっかし、人っ子一人いないわね」
 現実は、ご覧の有り様だ。
 人どころか魔物、ひいては生きているものにすら出会うことはなかった。
「どっかで派手にドンパチやってるもんかと思えば、意外とそうでもないのね」
「ドンパチやってて欲しいんですか……?」
 物騒なことを平気で口に出すマリベルに、サフィールは困惑する。 
「ええ、そりゃどちらかといえばね。ドンパチやってるってことは、そこに誰かがいるってことよ。
 悪い奴はぶっ飛ばして、いい奴を味方にすればいい、それだけのことよ」
 だが、マリベルは特に悪びれることもなく、当たり前のように言葉を返す。
 少し無茶苦茶な話ではあるが、言っていることは確かに一理ある。
 何かが起こっているということは、誰かがいるという確証なのだから。
「はぁ〜あ、全くツイてないわね。サフィールの巻物に、なんか書き込めば楽になったりすればいいのに」
 読みが外れた怒りか、歩き続けた疲れからか、マリベルはふとそんなことを口に出す。
 サフィールが支給された巻物には、何かしらの魔力は感じている。
 言われてみれば、何かを書き込んでくれと言わんばかりに真っ白だ。
「……あながち、それは間違いじゃないかもしれませんね」
 ふふっと笑い、頭にその可能性だけを置いて、サフィールはそう返す。
 そんなサフィールに、マリベルが少しムッとしたその時だった。
 ぴしゃり、と大きな音と共に、遠くに一筋の雷が落ちた。

574CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:12:51 ID:qMa5JxGY0
「勇者の、雷」
 それを見たサフィールは、思わずそう言葉をこぼす。
 あの雷は間違いない、いや、見間違えるわけがない。
「勇者?」
「はい、選ばれし天空の勇者だけが操ることが許される、勇者の雷。
 あれはただの雷じゃなくて、お兄ちゃんの雷によく似ていました……」
 サフィールがこぼした言葉に、マリベルが突っ込み、サフィールは質問に答えていく。
 そう、雷だけなら、魔物もそれを操ることができる。
 だが、今しがた見た"それ"は、彼女のよく知る雷によく似ていたのだ。
 ひょっとすれば、そこに兄が居るかもしれない、と彼女が考えた時だった。
「ふーん、雷なら、あたしも使えるけどね」
「ええっ!?」
 マリベルの口から放たれたのは、衝撃の言葉だった。
 驚くサフィールに、マリベルは淡々と言葉を続ける。
「驚くことはないわよ、ダーマ神殿に通って修行すれば、誰でも勇者になれるんだから。
 ちょっと面倒だけど、ね。それに、別に勇者じゃなくても雷なら使えるわ」
 そう言って、マリベルは少し軽めの雷を起こす。
 嘘ではないとわかったが、サフィールはやはり驚きを隠すことができない。
 マリベルが造作もなく生み出した雷、それもまた"勇者の雷"だったのだから。
「じゃあ"天空の勇者"って……」
 彼女の中の"何か"が、崩れそうな音を立て始める。
 誰も、誰しもが勇者のなれる、本当にそうだったのだとしたら。
 父は、苦しい思いをしなくても良かったのではないか。
「悪いけど、話はあとでいい?」
 思考の闇に陥りそうになったところで、サフィールの耳にマリベルの声が届く。
 はっ、と我に返ったところで、マリベルが気を張り詰めているのに気がついた。
「誰か、来る」
 少し遠く、そこに映ったのは、一人の女の姿だった。

575CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:13:29 ID:qMa5JxGY0
 


 遠くに映ったのは、二人組の少女。
 一人はふわりとしたパーマがかかった、栗色の髪の少女。
 もう一人は、黒髪のショートが目立つ、まだ幼い少女。
 間合いの少し外、万が一に応対できるように、そこで足を止める。
 それから少し考えを張り巡らせながら、スクルドは呼吸を整え、始めの言葉を口に出す。
「こんにちは」
 必要なのは、情報だ。
 それを引き出すための、始めの一手を打つ。
「ここは殺し合いの場だってのに呑気なものね」
 栗色の髪の少女から、返答が来る。
 初手の反応は、上々。
 即座に襲い掛かられるという最悪のケースを、頭から外す。
「いえ、そういう訳では。邪な気配を感じなかったので、警戒しなかっただけです」
「ふーん、随分と余裕じゃない? あたし達をナメてたってこと?」
「いえ、ですから」
「マリベルさん」
「冗談よ、ちょっとからかいたかっただけ」
 確かに、油断していなかったわけではない。
 最悪、戦いになったとしても、自分が優位に立てると踏んでいたから。
 それが滲んでいた、ということなのだろうか。
 なんにせよ、探りを入れられるのは、少し都合が悪い。
 慎重に言葉を選びながら、どう会話を続けようかと少し考え始めた時。
「ところで、あんた北から来たわね? 聞きたいことがあるんだけど」
 今度は、少女たちの方から問いかけが始まった。
 あらかた、質問の内容は予想がついている。
 なんでしょう、と返事をし、スクルドは続く質問を待つ。

576CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:13:54 ID:qMa5JxGY0
「北の街、そこに誰か居たかしら?」
 問いかけは、彼女の予想通りだった。
 二人組の少女で、能動的に殺しあう姿勢は見えないとなれば、仲間を探しているのはほぼ明確だ。
 恐らく、"誰か"とはそんな人間を指しているのだろう。
 揃った情報から素早く、かつ慎重に思考を重ね、最適の答えを口に出す。
「……いえ、軽く探しても、特には」
 それは、"嘘"だった。
 今、自分が欲しているのは戦力、それも前衛に立つ者だ。
 外見だけでもひ弱そうだと思う上に、誰かを探しているとなれば、彼女たちが前衛に立てないことは容易に分かる。
 そんな者たちを引き込んで、"あれ"に立ち向かえるだろうか?
 答えはもちろん、ノーだ。
 寧ろ、自ら死ににいくといっても過言ではない。
 だから、彼女たちだけで北に向かわせ、"あれ"に彼女たちを殺してもらうのがベスト。
 それはわかっている。だが、ここで誰かいると答えれば、何故それを置いてきたのか、と怪しまれることになる。
 ましてや、同行を拒めば尚更のことだ。
 だから、ここは"嘘"をつく。
 どうせ無力な少女二人組、放って置いてもいずれ死を迎えるのだから。
「そう、ありがと。じゃ、行くわよ、サフィール」
「え?」
 マリベルと呼ばれた栗色の髪の少女はそう答え、サフィールと呼んだ同行者の手を引く。
 サフィールは、困惑しながらも手を引かれていく。
「ここで引き返したら、なんだか"アイツ"の言うとおりになってる気がして、気に食わないのよ。ほら、早く行くわよ」
「え、でも……」
「ごちゃごちゃ言わない」
 そう言って、マリベルはサフィールの腕を強引に引いて、北へと行ってしまった。
 なんて都合良く事が運んだのだろうか。
 特に疑われることもなく、彼女たちは北へと向かっていった。
 ああ、彼女たちはまもなく、"あれ"の餌食になるのだろう。
 そう考えた後、彼女は進路を西へと取る。
 南には誰も居ないと、彼女たちが証明してくれたのだから。
 スクルドは浮かべてしまった笑みを消し、足を進める。
 次こそは"あれ"に対抗できる者に出会えることを、祈りながら。

577CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:14:32 ID:qMa5JxGY0
 


「さっきの雷が気になってるんでしょ?」
 不満そうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルははっきりとそう言い放つ。
 そう言われて目を見開く彼女を見て、ため息を一つこぼしてからマリベルは言葉を続ける。
「あれだけ目立つ雷を使うってことは、それだけの事が起きてるってことよ。
 そうでもしなきゃ行けない状況に、あんたは首を突っ込むっていうの?
 言ったでしょ? 別に雷が使えるのは珍しいことじゃない。
 あれがアンタのお兄ちゃんっていう確証なんて、どこにもないのよ」
 マリベルが言っているのは、確かに正論だ。
 あの場所には、あれほど目立つ雷、もといギガデインを放つ必要があったということ。
 それがどのような状況かは、考えなくとも分かる。
「……でも、あそこには人が居るって証ですよ。マリベルさんが言ってた、ドンパチやってる状況じゃないですか」
「それとこれとは色々と話が別よ、それとも何? あんたは死にに行きたいの? ならここで置いてくけれど」
 そこまで言われて、サフィールは閉口し、本当に口のへらない人だと、ため息をつく。
 だが、破天荒なように見えて、そこには真っ直ぐな一本の芯がある。
 その姿に少しだけ母を重ねながら、サフィールはマリベルと共に足を進めた。

 しばらくして、彼女たちは街へと辿り着いた。
 閑散とした空気は少し冷たく、確かに人の気配は感じられない。
「うーん、アテが外れたわね。ああいうキナ臭いのは、大抵嘘つきって相場が決まってるんだけど」
 先ほどの女性に胡散臭さを感じていたマリベルは、それを"嘘"と踏んでいた。
 故に、誰か居るのだろうと、半ば確信に近いものを感じていたのだが、それはどうやらハズレだったらしい。
 少し人を疑いすぎだろうか、と思いながらマリベルは頭を掻く。
「とにかく、街を探索してみましょう。どなたかがどこかに居るかもしれませんし」
「言われなくてもそうするわよ」
 サフィールの言葉に少しムッとしながら、一番目立つ大きな屋敷へと、マリベル達は足を進めていく。
 あれだけ目立つのだから、誰かが来たとすれば、真っ先に足を踏み入れていてもおかしくはない。
 そう思いながら、少し早足で辿り着いた屋敷の扉は、無防備にも開ききっていた。
「全く、行儀が悪いわね」
 そんなことを言いながら、屋敷へと一歩踏み入れ、ばたん、と大きめの音を立てながらドアを閉める。
 少し立ち止まり、何かの反応を伺うが、特に何も感じない。
 やはり、誰も居ないのだろうかと思いながら、マリベルはずかずかと屋敷の中を進み、階段を登っていく。

578CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:15:02 ID:qMa5JxGY0
「……ん?」
 その後ろを付いて行こうとしたサフィールが、ふと何かに気がつく。
 それは、ぴとりと水の雫が落ちるような音だった。
 音のする方へと体を向け、注意深く観察する。
 そして、それが何なのか、分かってしまった時。
「アイラ!!」
 マリベルの叫び声が、屋敷に響き渡る。
 急いで二階へと駆け登ると、そこに飛び込んできたのは、三つの影。
 ひとつは、マリベル。
 ひとつは、マリベルが抱きかかえている誰か。
 そして、もうひとつ。
 腕に仕込んだ巨大な鋏を掲げた、漆黒に身を包む一人の男の姿。
「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
 万が一を考慮して詠唱しておいた呪文を、即座に放つ。
 空気が圧縮され、膨張し、そして破裂して生まれていく爆発が、漆黒の男を包み込んだ。
「大丈夫ですか?」
「けほっ、けほっ……ったく、加減ってモノをしなさいよ」
 急いで駆け寄ったマリベルの姿に、特に怪我はないことを確かめ、サフィールはひとまず安堵する。
 そして、マリベルのすぐ側に居た黒髪の女性の姿を見て、息を呑む。
 おびただしい量の血は、一度ならず何度も突き刺されたであろう、痛々しい傷跡から今も流れだしていた。
 考えるまでもない、下手人はあの男だろう。
 そして、その結論に辿り着いた時、耳慣れない金属音が鳴り響く。
 しゃきん、しゃきん、しゃきん。
 それは、鋏の刃と刃が触れ合う音。
 この場で鋏を持っている者は、ただ一人だ。
「一旦逃げましょう、ここじゃ分が悪すぎます!」
「言われなくても!!」
 危険を察知した二人は、急いで部屋から飛び出し、屋敷の正面玄関へと駆け込んでいく。
 幸い、足はそこまで速くないらしく、追いつかれることはなかった。
 全力で駆けた後、まだ男が中に居るであろう屋敷を睨み、マリベルは言い放つ。
「サフィール、あたしはアイツをぶっ飛ばすわよ」
 その言葉に込められていたのは、サフィールが初めて彼女から感じ取った感情。
「アイラの仇、ですもの」
 それは、明らかな怒りだった。
 その姿に、母の姿を少しだけ重ねながら、サフィールは一つの提案をする。
「マリベルさん。私に考えがあるんです。数分、稼いでもらえますか」
「はぁ!? あたしをコキ使おうっての!?」
 言い換えれば、盾になってくれという依頼。
 共に前線に立つつもりはないという意思表示にも等しい。
 もちろん、そんな都合のいい逃げを、マリベルが許すはずはない。
「信じてください、読みが合ってれば、すぐに無力化できると思うんです」
 そうだと分かっていても、それを押し切ってまで頼みたいと思う、確信が彼女にあった。
 わずかにすれ違った一瞬、感じ取った気配。
 それは、呪われし装備の、禍々しい気。
 もし、男が"何かの呪い"によって凶行に及んでいるのだとすれば。
 そして、何気なく口にしたマリベルの言葉が、本当だとすれば。
 全てが噛みあえば、この場を一瞬で終わらせることができる。
 だからこそ、彼女は無茶な願いをマリベルへと通した。
「ったく……三分よ、いいわね?」
 揺るぎないサフィールの瞳に、折れたのはマリベルだった。
 それから、時を同じくして、屋敷から飛び出してきた男へと、真っ直ぐに向かっていった。
 そして、サフィールは巻物を開き、ペンを握った。
「……お兄ちゃん、私に力を貸して!!」

579CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:15:30 ID:qMa5JxGY0
 
「行くわよ化け物ッ!!」
 アイラの遺体の側にあった袋から取り出した、赤の宝石が目立つ一本の剣を構える。
 戦いにおいて、前線に立つことが多かったことに、今だけは感謝しながら、深呼吸を一つ挟む。
 しゃきん、しゃきん、しゃきん、と絶え間なく鳴り響く鋏の音を聞き流しながら、気合を溜め、集中していく。
「はあっ!!」
 かきん、と鳴り響く金属音、こすれあう刃と刃が拮抗しながら、マリベルは剣越しに男の顔を睨む。
「くっ……」
 力は五分、いやマリベルが少し劣っているか。
 鍔迫り合いを続けても、状況は好転しない。
 そう踏んだマリベルは、素早く身を引き、刃から逃れていく。
 どすん、と鋏が地面に突き刺さる音が軽く響く。
 見境なく、ただ生きるものを狩る、ということか。
 ならば、単純に向かってくるだけの魔物と、なんら差はない。
 強大な力に巻き込まれないように、立ち回れば良いだけ。
「駆けろ、隼ッ!!」
 素早く振るった二つの刃が、男へと真っ直ぐ向かう。
 特に避ける素振りを見せず、男はその刃を正面から受け止めた。
 だが、マリベルの表情は渋い。
 放った二つの刃は、まるで吸い込まれるように男の纏う闇へと、飲み込まれていったからだ。
 物理攻撃では分が悪い、ということか。
 だとすれば一転、状況は悪化する。
 不本意ながらも、彼女が得意とするのは至近距離戦だ。
 後衛用の技術は、あまり持ち合わせていない。
 ましてや、目の前のバケモノを倒すほどの技術となれば、尚更のことだ。
 ぎり、と少しだけ歯を鳴らす。
 時間は、まだ一分も経っていないだろう。
 早くしろ、と心の中でサフィールへと念じながら、彼女は次の一手を考える。
「ちまちま攻めてちゃ話にならない、なら……」
 手数ではなく、力。
 敵が全ての力を自分に向けてくるのだから、それに勝る力を叩きつければいい。
 一点集中、たった一度だけならば、目の前の男を超えられる。

580CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:16:00 ID:qMa5JxGY0
「我に宿れ、魔神の力ッ!!」
 そしてマリベルは、信じられるこの両手に、全てをかける。
 強く、強く剣の柄を握りこみ、ずしんと音を響かせて一歩を踏み込む。
 その両目が捉えて離さないのは、男の体。
 まさに今、鋏を振りかぶろうとしている、その姿に。
「っどりゃあああああああああああッ!!」
 魔神の如く、彼女は斬りかかった。
 何かが裂ける音が、閑散とした街に響く。
 闇が飲み込みきれなかった刃が、男の体を縫い止める。
 確かな手応え、それを感じたその瞬間。
 ぴくり、と男の鋏が動いたのを見て。
「神よ、迷える子羊に救いを与え給え――――」
 同時に聞こえ出したのは、サフィールの声。
 それは、彼女の兄が得意としていた解呪の呪文。
 いつも兄が口にしていたそれを、必死に思い出し、彼女は巻物に記していた。
「シャナク!!」
 それが今、放たれる。
 ぼうっと淡い光が巻物から飛び出し、男の姿を一瞬で包み込む。
 そして、光は四方へとはじけ飛ぶのと共に、かしゃんという音と共に、男が付けていた能面が地へと落ちた。
「読み通り、ですね」
「ったく、遅いのよ……」
 少し嬉しそうな表情を浮かべるサフィールに、マリベルは少し呆れたように笑った。
「……ここ、は」
 そんな二人をよそに、数回の瞬きを経て、男は小さくつぶやく。
「私は、あの面を付けて、それから……」
 思い出せない、何も、何一つとして思い出せない。そう、面を付けるまでの事しか、思い出せない。
 よもや、この面の呪いは正気を失わせる呪いだったのだろうか。
 自分の知識にない呪いに少し興味を示しながらも、男はまず目の前の状況に対処することにした。
「貴様達が、私を?」
「そうよ」
 問いかけの後、一歩ずつしっかりとにじり寄ったマリベルが、男の胸ぐらを掴んでいく。
「マリベルさん!」
「黙ってなさい」
 サフィールの声を振り払い、マリベルは男を睨みつけながら、言葉を続ける。

581CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:16:36 ID:qMa5JxGY0
「いい? まず覚えておきなさい、あんたは許されない罪を背負ってるのよ」
「罪……?」
「そう、私の仲間を、あんたが殺したのよ」
 鬼気迫る表情で、男へとマリベルは男へと真実を突きつけていく。
 正気ではなかった、で済まされる問題ではないのだ。
 だが男は、そんな彼女の顔を見て。
「だとすれば、どうした」
 当然と言わんばかりに、笑い飛ばした。
「何れ全ては滅ぶ。一人の人間が死んだところで、なんだというのだ」
「――――ッ!!」
 そこで耐え切れなくなったマリベルが、男の体を突き飛ばす。
 それから再び剣を構え、背を向けたままサフィールへと告げる。
「止めないでくれる? これは、あたしの戦いだから」
「ほう、剣を取るというのか」
 怒りを表すマリベルに対し、男は妖しくニヤリと笑う。
 そして男も、再び鋏を構えて、マリベルへと告げる。
「ならば、振りかかる火の粉は払わねばなるまい!」
 始まろうとしているのは、怒りという感情が渦巻く戦い。
 止められない、止まるわけがない。
 サフィールは、人よりその理由を知っている。
 怒りに狂う、あの時の父親の姿を、自分はすぐ側で見ていたのだから。
 だから、この戦いは止められない。
 私怨と、罪と、正義。
 何が正しいかなんて、彼女に決めることなんてできない。
 ただ、戦いの行く末を、見守る。

 それだけしか、できなかった。

582CURSE ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:17:01 ID:qMa5JxGY0
 
【I-7/森/1日目・午前】
【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ホーリーランス
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    西に行き共に追跡者と戦ってくれる者を探す

【I-5/リーザス村・アルバート家前/1日目・午前】
【ハーゴン@DQ2】
 [状態]:HP3/5、闇の衣により回避率上昇
 [装備]:闇の衣@DQ8 大鋏@DQ3
 [道具]:支給品一式
 [思考]
     1:火の粉を払う
     2:主催に反抗し、脱出する
     3:ピサロという男を探す

【マリベル@DQ7】
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:妖精の剣
 [道具]:支給品一式*2、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:ハーゴンをぶっ飛ばす


【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式
 [思考]:見守る。怖い人を無視してマリベルさんに流される。

※般若の面@DQ3が放置されています

583 ◆JQqRUp1HeY:2016/04/24(日) 15:17:35 ID:qMa5JxGY0
規制されてるのでこちらに。
以上で投下終了です。

584バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 03:57:30 ID:yJkiwlng0
正義は必ず勝つという理屈を持ち出すのであれば、正義はこちらにある。
獲物を狩って喰う。 己の縄張りを広げる。
どんな生き物とてやっている、種の本能に基づく行動だ。
そこにケチをつけるのであれば、それはもはや一生命体として機能不全を起こしているだけのこと。
神々や精霊に近い姿をしているからといって、人間だけが寵愛を受け魔族は一方的に淘汰されるなど傲慢にもほどがある。

かつて、バラモスは大魔王ゾーマに仕えて地上世界を恐怖のどん底に陥れていた。
天地魔界に恐れるもののない大魔王に、バラモスは強く焦がれていた。
バラモス自身とて、あらゆる魔物の中でもトップクラスの実力があるだろう。
だが、自らの実力に絶大なる自負をもつバラモスでさえ、ゾーマの力を知ると平伏せざるを得なかった。
それが屈辱なのかと言えば違う。むしろ逆だった。
例えて言うなら、ゾーマは悪のカリスマなのだ。
この者になら己の力を預けられる。 服従を誓うことができる。
心酔する大魔王ゾーマの懐刀、その栄えある一番槍として、地上世界を侵略する。
それは何物にも代えがたい至福だった。
己が認めた相手に、自分の価値を認められる。
これほど素晴らしいことがあるだろうか。
例え勇者という人物が攻めて来ようと、何ほどのことがある。
必ずや殺害し、はらわたを食らってくれよう。

そう、バラモスの魔王としての誇りはそこにあった。
自らが信奉する魔界の大魔王ゾーマの強さ。
魔王として数多くの人間を殺めてきた日々。
極めてシンプルな、『力』による序列。
食物連鎖の上にいるものは、下にいるものの生殺与奪を握っているという優越感。
それこそがバラモスをバラモスたらしめている要素であった。
では、それが失われるとどうなるか。

「はあ……どうすればいいのだ……」

こうなるのだ。
ため息をついたことなど、今まで一度もなかった。
それが、この島に連れてこられてたった数時間で、一生分のため息をついたかのようだ。
バラモスには今、重いものがない。
自身の行動の指針、今後の身の振り方、そういったものの決定を下す判断力が失われている。
身命を捧げた主君、ゾーマはあんなにもあっさりと殺され。
ならばとより強い力を持ったエビルプリーストに取り入ろうと思ってみれば、たった一人の人間にあわや死ぬ寸前まで追いつめられ。
つまり、既存の価値観が木っ端微塵に粉砕されているようなものなのだ。
自信と尊厳を失った魔王はこんなにも情けない存在に成り下がる。
かつて勇者アスナと戦った時は、四人がかりでもまだ拮抗に近い状態を造り出せていたのだ。
双方ともに、一手でもミスをすればその瞬間勝敗が決まるような、そんな鎬を削る戦い。
その果ての敗北だ。 これならば負けるのも致し方なし。
自身を打ち破った勇者に最大の賛辞を送ろう。
そして、その程度の強さでは自分を倒せても、大魔王ゾーマは倒せぬという最大級の皮肉を胸の内に抱え逝った。

「戻れるのなら、あの頃に戻りたい」

ああ、よりにもよって、かつて魔王と呼ばれ恐れられたゾーマは過去に戻りたいと願っている。
過去の栄光が、今はもう手元にないと認めてしまっているのだ。
過ぎ去りし日々に思いを巡らせ、あの頃はよかったと懐かしんでいる。
何の疑いもなく、死体の山を築いていたあの頃を。
胸を張って自分は魔王だと信じていられたあの頃をだ。
当てどなく彷徨うバラモスは、自然と誰もいないような場所へと足を運んでいた。

585バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 03:58:46 ID:yJkiwlng0
「何者だ!」
「ひぃっ!」

しかし、こんなとこにも人がいたようだ。
口から心臓が飛び出してきそうなほどに、バラモスは驚いた。
いや、それは人ではなかった。
バラモスは見たことない種族だが、ドラゴンの亜種だろうということはすぐに分かった。
戦闘を終えた後なのだろうか、手負いといった表現が似合う状態だった。
魔竜アンドレアルの名を持つ紫竜は、語気を鋭くしてバラモスに詰めよった。

「ワ、ワシはバラモスだ……」

バラモスは人間でなかったことに安堵する。
人間と魔族は敵対している関係上、どうやっても戦闘は避けられない。
しかし、同じ魔族ならば話は通じるのだ。

「魔族か……我が名はレミール」

対して、レミールはムシの居所が悪い。
エビルプリーストに臣従を迫られ、否応の余地なく殺し合いに放り込まれ。
新たに使えると決めた主を守るどころか石にされてしまい。
転落の人生と言ってしまえばそれまでだが、バラモスと似たようなものだ。
しかし、レミールは武人としての誇りを未だ失ってはいない。
悲観するにはまだ早いと決めているのだ。
両者の違いはここにある。

「よかったぞ……ここには恐ろしい小鬼がおってな、難儀しておったとこだ」
「ほう?」

そして、この二人の最も大きな違い。
それはベクトルの向いている方向だ。
方やエビルプリーストに反旗を翻す武人、方やエビルプリーストに尻尾を振るしかないと考える魔王。

「どうじゃ、ともに戦わぬか?」

バラモスの考えたことはこうだ。
かつて勇者アスナが四人がかりで魔王バラモスに挑んだように、今度はバラモスが徒党を組めばよいと。
他人の力を借りるなど魔王を名乗った者として屈辱だが、背に腹は代えられない。
他のモンスターと力を合わせれば、あの小鬼だってきっと倒せる。

「かつてワシを打ち破った勇者の小娘もおるのだ。 きっとお主とて一人ですべてを倒すのは不可能」

言葉に熱が篭り始めた。
口にすると、自分の考えた策がいかに効率的かも分かる。
自分より強い人間がいようと、数で勝ればどうとでもなるのだ。
トラウマを植え付けられそうになっているのなら、克服してみせようじゃないか。
そしてバラモスはかつての自分を取り戻し、もう一度世界を蹂躙するのだ。

「エビルプリースト……いやエビルプリースト様にお仕えするためにも、お互い生き延びようぞ」

ただ一つ、誤算があるとすれば。
レミールはジョーカーでありながら、エビルプリーストに対して明確に反旗を翻している魔物だということ。

「エビルプリースト、様……だと?」

586バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:00:26 ID:yJkiwlng0
そんなレミールに対して、最も言ってはいけない言葉を言ってしまったことにバラモスは気づいていない。
地雷原のど真ん中を踏んでしまったことに、バラモスは気づくはずもない。
魔族、というだけですでに自分側の立場だと決めつけてしまっているのだ。
よって、次のレミールの行動はバラモスには予測が不可能。
レミールの返答は、『一族』による制裁だった。

「もう一度言ってみるがいい!」
「なっ、ぐああああああああああああ!」

どこからともなく現れたレミールと同じ紫竜。
体格はおろか顔つきまで、何から何まで同じのレミールが現れたのだ。
目の前にいたレミールと、増殖したレミールによる三重奏の攻撃。
一匹はバラモスの頸動脈に食いつき、もう一匹は右足の大腿部に、残る一匹が左手に噛みつく。

「エビルプリースト様だと? あのような簒奪者に忠誠を誓うというのか!」

もちろん、バラモスにそんな事情は知る由もない。
ただ、より強い力を持つ者に従うという、シンプルな理論だ。
しかし、それを喋った相手が不味かった。
魔族の中でも特にピサロへの忠誠心が強かったレミールに、それを言ってしまえばこうなるのは必定。
バラモスは運が悪かったとしか言いようがない。

「や、やめ……ゴボッ!」

三体がそれぞれの意思を持ち、怒りと鬱憤を晴らすかのようにバラモスの肉を食いちぎる。
激痛にのたうち回ることもできず、一方的に攻撃を受けるだけだ。
絶叫すらも、喉からこみ上げる血液にかき消される。
三匹の首が別々の方向にバラモスを引っ張り、バラモスの肉がちぎれ落ちる。
皮膚はおろか肉さえも食いちぎられたバラモスは、ところどころに骨すら見え隠れしていた。
自業自得と言えばそれまでだが、あまりにも凄惨な光景だった。

(こんな……こんなことが……)

理不尽過ぎる。
バラモスの思いはそれだけだった。
声をかけた魔物がエビルプリーストに牙を剥く存在だったなどと、誰が想像できよう。
敬愛する大魔王ゾーマはあっさり殺され、自分よりもはるかに強い人間がいて、仲間だろうと思っていた魔族も襲い掛かってきて。
一体どうすればよかったというのだ。
一体何をすれば、かつての自分を取り戻せていたというのだ。
抵抗することもままならず、レミールに噛みつかれる度に、バラモスの大事な何かが無くなっていくのを実感する。
憎かった、自分からすべてを奪ったありとあらゆる全てが。
勇者アスナにやられた、誇り高き魔王として死なせてくれなかった全てが。
もはや指一本動かすことすらままならない魔王バラモスは、最後に憎悪を抱えたままその命を終えようとしていた。
たった一つ、胸に抱いた憎悪を手土産にし、バラモスは地獄へと再び堕ちていく。
全身の臓器はその機能を停止し、今ここに魔王バラモスは二度目の死を迎える。


【バラモス@DQ3 死――

587バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:02:25 ID:yJkiwlng0





                ――救ってやろうか?――








もはや風前の灯となっていたバラモスの脳裏に、はっきりと何者かの声が聞こえてきた。
いや、何者か、などではない。忘れるはずもない。
バラモスはこの声の正体をはっきりと知っている。
自分をこんな状況に追いやった憎き元凶、エビルプリースト本人だ。







                ――簡単な事だ。その苦しみから救ってやろうというのだ――







ふ、ざ、け、る、な。
バラモスは霞のかかった脳内で、その言葉を必死に絞り出す。
この男のせいで、すべてを失ったも同然なのだ。
その男が今更出てきて、こんな惨めな思いをさせた癖に、救ってやるとは何様だと。
救うというのなら、すべてを元に戻してみせろと。
死の直前を迎えている自分の傷を癒したところで、何の意味もない。
この心に刻まれた、絶対的な敗北感は消えたりしない。
戻すのなら、何もかもを戻さなければいけないのだ。









                ――ああ、もちろんだとも。元に戻してやろう――

588バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:03:20 ID:yJkiwlng0
バラモスの中に、熱い何かが芽生えるのを感じた。
煉獄の火炎よりもなお熱いそれは、バラモスの体全体に火をつけたかのように感じられた。
これは断じて癒しの光などではない。
禍々しいだけの何かであり、少なくともバラモスの想像していたものとは100%違う。
バラモスは心の中で絶叫を上げた。

(ク、オオッオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!)

もしも、バラモスの声帯がまだ生きていたのなら、おぞましい断末魔の叫びを上げていただろう。
変わる。何かが変わっていく。
バラモスの中の何かが、変異している。
骨がむき出しの脚部でも歩行ができるように。
いくら出血しようと行動の妨げにならないように。
あらゆる恐怖心を無くし、本能のままに動けるように。
バラモスの意思さえ消し去っていく。
失ったものを補うように、闇の力が増していく。
そこに残ったのは、純粋なる殺戮と破壊の欲求。
そして、かつてバラモスだったものの残骸と、それを動かすナニカ。






                 ――さあ、これで元通りだ。何一つ疑問に思うこともなく、己が暴威を示していたあの頃に戻れただろう?――







これこそがエビルプリーストによる救済。







                 ――お前は無敵の存在だ。恐怖心を無くした今のお前なら、トロデ王にも遅れはとるまい――







元々、バラモスにはそういう『仕込み』がしてあった。
最初からこの魔王は『再利用』されることが決まっていたのだろう。
エビルプリーストはそれを活用させてもらっただけだ。
そう、バラモスとして死んだ後も、伝説の三悪魔の一角として、ゾーマの居城を守護するはずだった存在。
その名を――

589バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:03:53 ID:yJkiwlng0






                 ――さあ、行くがいいバラモスゾンビ。まずは裏切り者を抹殺しろ――





バラモスゾンビ。
言葉もコミュニケーションも通じない、最悪のモンスターの誕生の瞬間だった。



◆     ◆     ◆




バラモスが完全に沈黙し、動かなくなったことを確認したレミールは『一族』を消して単独に戻った。
ゲマとの戦いも癒えてない状態だ。
『一族』すべてをまた戦闘ができるように回復するには長い時間がかかる。
その判断が仇となった。
今度はレミールの首にバラモスゾンビが噛みつく。

「バ、バカな!確かに死んだはずッ!!」

つい先ほどまで血だらけで伏していた存在に、ここまでの力がどうやって出せるというのか。
力まかせにバラモスゾンビを剥がそうとするができない。
とてもじゃないが、死にかけの存在の出せる力ではなかった。

「貴様は一体……ッ!?」
「クワアアアアアアアアアアアアアッ!」

言葉を操る知能さえ失われたバラモスゾンビだが、その代わりに得た腕力はそれを補って余りあるほどのメリットだった。
レミールはバラモスゾンビの首根っこを掴むと、適当な方向へ投げ飛ばす。
それでようやくレミールはバラモスゾンビの攻撃から逃れることができた。
しかし、受けたダメージがあまりにも大きい。
『一族』を呼びだすのさえ、ままならないほどだった。
そして同時に、ようやくレミールはかつてバラモスだったものをその目に捉えた。

(どう考えても普通ではない!)

かつて瞳があった場所には煌煌と暗い光が宿り。
むき出しの骨がところどころに見え隠れするというのに、意に介さず歩き。
それはまさにゾンビの名にふさわしき形相だった。
何かしらの超常的な力が働いてるとしか思えない。
そして、レミールのその推測は当たっていた。
高熱のガスを噴き出し、レミールは今度こそバラモスゾンビを倒そうとする。
防御行動すら取れず、バラモズゾンビに直撃した。

590バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:04:43 ID:yJkiwlng0
肉の焼ける匂いが充満する。
残っていたバラモスゾンビの衣服を完全に燃やしつくしてしまった。
なのに、痛覚すら消え失せたバラモスゾンビには効かない。
いや、効いているのだ。効いてはいるが、バラモスゾンビはその歩みを止めない。
痛みを感じる。恐怖におののく。そういった感覚や感情は邪魔だとエビルプリーストに取り除かれているのだ。
骨だけになった左手をバラモスゾンビが振るう。
レミールがそれ両腕をクロスさせてガードするが、勢いを殺しきれない。
それどころか、ガードした両腕の骨が折れたではないか。

(バカな!)

筋肉の無くなった骨だけに出せる力ではない。
骨の固さだけでこの威力は出せるものではない。
闇の力で強化されたバラモスゾンビの力は、ありとあらゆるモンスターの中でもトップクラスの威力を持っていた。

「ギイイイイイイイイイイイイィィィィ!」

射程圏内に入ったバラモスゾンビのラッシュ。
殴る、蹴る、噛みつく、ツメで引っ掻く。
それらがない交ぜになってレミールへと殺到する。

「ぐっ!がっ!」

本能のままに振るわれるバラモスゾンビの攻撃に手加減の余地はない。
そのすべてが全力であり、フルスイングだ。
反撃が反撃にならない。
レミールが尻尾を振るってバラモスゾンビに当てても、バラモスも同時に爪で引っ掻いてくるのだ。
痛覚のあるレミールの方が、結果として大ダメージを受けている。
攻撃を当てても、破壊の欲求だけで動くバラモスゾンビのカウンターが毎回飛んでくるのだ。
レミールは完全なジリ貧だった。

                  ――気に入ってくれたかな、アンドレアル? いや、今はレミールだったか――

レミールの脳裏に忌々しき声が響く。

(貴様!やはり貴様の仕業か!)

レミールの現在の主君だ。あくまでも名目上のだが。
主君と仰いだことなど一度もないが、敗北してしまった以上そうなるのが魔族の道理。



                  ――お前は人間を殺すどころか、人間の仲間になろうとした――


 
                  ――おまけに保険のための復活の玉すらそうそうに使ってしまうザマだ――



                  ――更生するならこれまでの不敬も不問にするとこだったが――



                  ――ちょうどいい手駒を見つけてな。お前に代わって仕事をしてもらおう――



                  ――という訳で、お前の処分はこのバラモスゾンビがやってくれる――

591バラモスの憂鬱/救済  ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:05:05 ID:yJkiwlng0



                  ――その絶望の魂をわたしの復活のための供物にしてもらおうか―― 



その言葉を最後に、エビルプリーストとの声は途切れた。
要するに、レミールは用済み宣言を受けてしまったのだ。

(お、おのれエビルプリースト……私は絶対に貴様を許さぬゾォォォ!!)

エビルプリーストの高笑いしているところが容易に想像できる。
しかし、吠えるだけの力はもはやレミールにはなかった。
動かなくなったレミールに、バラモスゾンビがさらなる追い打ちをかける。
ついにその手がレミールの胸部を貫くと、心臓までも破壊する。
バラモスゾンビはレミールに倒れることすら許さず、その腕でレミールの体を持ち上げる。
破壊衝動を満たしたバラモスゾンビの次なる欲求は、どん欲なまでの食欲。

(主殿……ピサロ様……)

ぐちゃ。
ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。

(無念……)

その音は自らの体を食うバラモスゾンビの咀嚼の音。
それに気づくことなくレミールが逝けたのはある意味幸福というべきか。
破壊と殺戮の化身、バラモスゾンビによる惨劇は、まだ始まったばかり。
かくして、最強最悪のジョーカーがここに誕生したのだ。



【レミール @JOKER 死亡】
【残り70名】


【I-2/森/1日目 昼】

【バラモスゾンビ@DQ3】
 [状態]:HP8/10 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊

※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます

592 ◆CASELIATiA:2016/04/25(月) 04:07:11 ID:yJkiwlng0
投下終了しました
見れば分かる通り

①主催介入ってありなのか
②バラモスゾンビってありなのか

この二点です。
この二つについて皆様の意見を伺いたいと思います

593ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 06:19:00 ID:rJqXEe.A0
投下乙です
エビチリさんに関しては、ジョーカー関連だから出てきたってことと、バラモスがコミュニケーション不可能な状態で他キャラには介入が分からないから大丈夫だと思います
3パーティもみんな遠くにいるからおかしいってすぐに気付けるキャラはいませんし

駒が使えなくなったから取り替えるという理由も納得いきますし、
他のジョーカーも大体強化されているので、新たな駒であるバラモスも元の状態から変わっても筋は通るかと

私は通しでも問題ないと思います

594ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 07:57:37 ID:GBBLmFyM0
乙です
あまりにもジョーカー離反が多いし海老プリンスが手駒を増やそうとしてもおかしくないかと
問題無いと思います

595ただ一匹の名無しだ:2016/04/25(月) 17:46:03 ID:W1fiBNyY0
同じく
問題ないと思います

596 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:04:27 ID:ZbUvWf.A0
本スレないのでこちらに投下します

597対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:07:46 ID:ZbUvWf.A0
「あ、あの、マーサさま」
「なんですかパパス」

マーサとパパス――いや、ゲマとカンダタは、山を下りるべく西に歩を進めていた。
二人が目指すのはこの近くにある街、トラペッタ。
その途上、カンダタがゲマに声をかけた。

「その…この変装と偽名、やめた方がいいんじゃないかなって…」
「なんですって?」
「ひ、ひいいいい!すみませんすみません何でもないです!」

ゲマに凄まれ、慌てて平身低頭して謝るカンダタ。
そんなカンダタのプライドのない姿を気に入らないと感じつつ、ゲマは口を開く。

「…一応聞きましょう。何故やめた方がいいとおっしゃるのか」
「は、はい。その…正直、今のままじゃ他の参加者と出会う度に不審がられるんじゃないかって思いますぜ」

カンダタの言い分はこうだ。
現在、ゲマはマーサの姿と名前を借りて行動している。
カンダタはパパスの名を借りている。
しかし、この殺し合いの参加者には顔写真つきで名簿を全員に渡されている。
つまり、マーサという人物の名前、あるいは姿を持った参加者がいないことを全員が知っている。
そして、カンダタもパパスも名前と顔が割れているのだ。

「ですから、このまま他の奴らに接触したら、さっきみたいに不審がられて、正体を見破られちまうんじゃないですかねえ」
「ふむ…確かに一理ありますね」

カンダタの話を聞いて、ゲマは腕を組む。
なるほど確かに、彼の言う通り先ほどはデボラによってあっさり正体を見破られた。
そして、一度失敗したやり方を性懲りもなく繰り返すのは、愚者のすることだ。
彼の言う通り、やり方を変えるべきかもしれない。

「となるとさて、どうしましょうか」

変身を解き、素顔をさらすというのはダメだ。
元の姿では殺気を隠すことが難しく、不審を与えることになる。
それに、改めて名簿を見てみれば、デボラ以外にも彼の夫や彼らの息子、娘などの姿がある。
彼らから自分の悪評は広まっているはずだ。

598対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:09:24 ID:ZbUvWf.A0
となると他の参加者の姿を借りるべきか。
だが、出会った参加者が別の場所で化けた人物に出会っていたり、あるいは化けたその人当人と出会った時、面倒になる。
そうしてしばらく考え込んでいた時、ふと、自身の持つ袋が目に入った。
そう、先ほど石化したデボラを入れた袋を。

「…なるほど、その手がありましたね」

ゲマは変化の杖を使い、再び姿を変える。
マーサだったその姿は、たちまちデボラへと変わってしまった。

「これなら、大丈夫でしょ」

デボラの口調と声色をまねて、ゲマは言った。
デボラは現在ゲマが持つ袋の中におり、この先他の参加者が彼女と遭遇するということは起こり得ない。
そして、彼女が石化前に出会ったのはおそらくはあの紫竜と自分達だけ。
他から情報が伝わっている可能性は低い。
故に、この姿なら不審に思われる可能性はかぎりなく低いという事だ。

もっとも、デボラが正体を見破ったように、彼女の夫のアベルや息子、娘たちは自分の変装に違和感を感じ取って正体を見抜いてしまうかもしれない。
しかし、もしそうなったとしても問題はない。
なぜなら今の自分には、【本物のデボラ】という人質がいるのだから。

(いやはや家族愛とはすばらしいものですねえ…こんなにも利用価値があるのですから!)

かつてアベルを人質にされてパパスが全く抵抗できなかったように。
石化したデボラの姿を見せれば、彼らは従順に自分に従ってくれるだろう。

「それじゃ、行くわよ」
「あ、あの…俺の名前は」
「ああ、そういえばそっちの問題もあったか。ったく、下僕のくせに面倒かけてんじゃないわよ」

出発を再び邪魔されたことに内心気に入らないと感じつつ、デボラに扮したゲマは面倒くさそうに思案する。
といっても、こっちの問題はすぐに解決だ。
元々彼にパパスと名乗らせたのはただの気まぐれにすぎない。
それが不都合だというなら、やめればいいだけだ。

「しょうがないわねえ、本名名乗っていいわよ。ただし、あたしの事はちゃんとデボラさまって呼びなさいよ!」
「は、はい!デボラさま!」

こうして、デボラに姿を変えたゲマは、下僕を引き連れ再び歩きだしたのだった。

「ところで、あんた名前なんだっけ?」
「カンダタですよっ!」

599対策、新たなる姿 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:09:52 ID:ZbUvWf.A0
【G-1/山/昼】
【ゲマ@DQ5】
 [状態]:HP9/10 MP4/5 デボラの姿
 [装備]:てっかめん  グレイトアックス@ダイの大冒険
 [道具]:支給品一式 変化の杖  デボラの石像
 [思考]:この殺し合いをぶち壊す。

【カンダタ@DQ3】
 [状態]:HP1/2 素顔
 [装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ 
 [道具]:支給品一式 こんぼう
 [思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
 呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
 (シャナク、万能薬、月のめぐみ等)

600 ◆OmtW54r7Tc:2016/07/02(土) 22:10:30 ID:ZbUvWf.A0
投下終了です

601 ◆.51mfYpfV2:2016/07/07(木) 22:46:25 ID:reO1xxo20
時間ギリギリになってしまいましたが、投下します

602命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:47:35 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。



この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。

ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。

恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー



ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。



わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。

頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。

「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」

敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。

603命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:48:25 ID:reO1xxo20
 




「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」

気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。

「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」

譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。

「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
 共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
 あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
 そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」

ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。

「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
 運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」

出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。

『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』

大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。

604命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:49:16 ID:reO1xxo20
 


「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」

例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。

「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」

言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。

「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
 私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
 確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」

生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。

「…………」

我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。

そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。

「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」

最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。

605命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:49:55 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
 他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
 そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」

自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?

目の前の姫は、奪った命を背負えているか?

「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」

ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。

「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」

やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。

「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」

ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。

(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)





「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」

無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。

606命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:50:39 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」

地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。

「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」

海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。

「私たちが意識するべきことはみっつ。
 ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
 ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
 そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
 私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」

地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。

「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
 ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」

次に、と言いながら指を動かす。

「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
 しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」

最後に東に指を滑らせる。

「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
 更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
 そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」

607命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:51:21 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。

「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」

追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。

「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」

言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。





身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。

(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
 私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
 私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)

チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。

我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。

(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)

もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。

608命の重さ、愛の固さ KinniSSM:2016/07/07(木) 22:52:07 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」

一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。

「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」

二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。

そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。



【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】 
[状態]:ショック 
[装備]:毒針 
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット 
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖) 
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う 
   アレフに会いたい 

【チャモロ@DQ6】 
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能) 
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5 
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み) 
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 
   ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。 

609KinniSSM:2016/07/07(木) 22:52:47 ID:reO1xxo20
以上で投下終了です。
指摘などがあれば、よろしくお願いします。

610 ◆.51mfYpfV2:2016/07/07(木) 23:14:11 ID:reO1xxo20
すみません、トリップミスしてしまってたので、新しいトリップで投下し直します

611命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:15:40 ID:reO1xxo20
殺し合いをしろ。
突然そう言われて、果たしてどれだけの者がはいそうですかと従うだろうか。
ローラとて、見知らぬ魔族に見知らぬ世界へと放り込まれ、初めは戸惑っていた。
きっかけとなったのは、やはり彼との出会いだろう。



この身に愛する人との子を授かったと気付いたのは、殺し合いに巻き込まれるほんの少し前。
自分の国を探すというアレフについて行ったものの、次第に体調が思わしくなくなり、慣れない旅に疲れたのだろうと判断したアレフの勧めもあって、一度ラダトームに戻ることになった。
もしやと思い侍女に相談し、医者に看てもらい、身籠っていると言われた時はいたく喜んだものだ。
父王は口では勇者アレフとの子ならばと言いつつどこか複雑な顔をしていたものの、ローラはそんなことにも気が付かないほど舞い上がっていた。

ーーアレフ様には、どのようにお伝えいたしましょう。
ーー名前はどんなものがよろしいかしら。
ーー男の子かしら。女の子かしら。男の子だったら、きっとアレフ様に似て勇敢な子になりますわ。
ーーアレフ様との子を授かり、私は幸せです。

恍惚と思考を巡らせながら、早速アレフにも報告しようと思っていた。
浮き足立ってアレフに宛がわれた部屋を訪れ、ノックをするも返事を待ちきれず戸を開け放ちーー



ーーそこで告げられた。最後の一人になるまで殺し合え、と。



わけが分からなかった。
自分は愛する人との子を授かり、幸せの中にいたはず。
見慣れた城の、見慣れた戸を開き、見慣れた部屋には最愛の人がいたはず。
なのに何故、今自分は絶望に染められた顔をしているのか。
見慣れない場所で、見慣れない魔族に、その最愛の人と殺し合えなどと言われているのか。

頭を混乱させながら支給されたふくろを受け取り、気付けば小高い場所にある小屋の前に立っていた。
大量の水によって少し冷えた空気に肌を刺激され、漸く冷静さを取り戻す。
そして真っ先に分かったことといえば、自分は今、竜王によって囚われた時以上の絶望の淵にいるということだった。
恐怖心から再び頭が混乱しそうになった時、声をかけてきたのが、他でもない彼。
ローラが毒を盛り、アレフがその首を斬り落とした男、ハッサンだった。

「嬢ちゃん……いや、その格好を見るに姫さんか。大変なことに巻き込まれちまったな」

敵意もなく、それどころか笑顔を見せて近寄ってきたハッサンを見て、ローラはその時は確かに、僅かながら希望を取り戻した。

612命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:16:38 ID:reO1xxo20
 




「答えて下さい! 貴女たちが、ハッサンさんを殺したんですかっ!」

気絶している間に助けてくれたらしいチャモロと名乗った少年が、鋭い眼差しを向けてくる。
誤魔化すことは、できない。
少ない手掛かりから導きだされた推測に誤りはなく、またチャモロ自身、確信を持って問い詰めている。
そして何より、ここで誤魔化しては、固めた決意が崩れさってしまうだろう。
震える掌を握りしめ、ローラは精一杯の力を込めた目を、チャモロのそれに真っ直ぐ合わせた。

「……ええ。私たちが……彼を殺しました」
「……ッ!」

譲れない決意を貫こうとする言葉に、分かっていたとはいえ、それでもチャモロは唇を噛む。
許せないと叫ぶ荒ぶる気持ちを辛うじて抑え込み、震える声を絞り出した。

「ハッサンさんは……決してこんな馬鹿げたゲームに乗るような人ではありませんでした。
 共に旅路を歩み、共にパラディンの道を歩んだボクには……あの人がこの世界において、どのような行動を起こしたかも予想できます。
 あの人は、戦う力のないであろう貴女を守り、この殺し合いを止めようと言ったのではないですか?
 そして、許されざることを平然と行う主催者を打ち倒そうとも」
「……その通りですわ」
「ならば、何故……!」
「だからです!!」
「!?」

ローラの悲痛な叫びに、思わず怯んでしまう。
怒りか悲しみか憎しみか、複雑に入り雑じった色をその声に滲ませ、ローラは溢れる言葉をチャモロにぶつけた。

「だからです……! それが人として選ぶべき道とは分かってます。でも……それではダメなんです。
 運良く生き延びることができたとしても、この世界を脱出する為には、恐らく私たちを呼び寄せたあの魔族と戦うしかないのでしょう」

出会ってすぐにハッサンが言っていたことを思い出す。
ハッサンがいた世界には現実と夢の二つの世界があり、魔王デスタムーアによって本来干渉し合えないはずの世界達を歩き渡るくことが可能になっていた。
デスタムーアを倒すことで、その力の影響は失われた。

『だから、あのエビ……エビ……アイツをぶっ倒せば、アイツの力で連れて来られた俺たちも、元の世界に戻れるハズだ!』

大柄な体格に見合う力強い声と、本気で気遣ってくれていることが分かる誠実な瞳に安心感を抱いていたローラは、その一言で希望を打ち砕かれたのだった。

613命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:17:19 ID:reO1xxo20
 


「私には戦う力はありません。ですが、それだけでは抗うことを諦めなかった……!」

例えば道具の管理や、ハッサンに支給されていた杖などでの仲間のサポート。
そういったことなら、戦いの心得がなくてもできるだろう。

「自らの行動が人道に悖ると自覚しているなら尚更、何故人殺しに走ったのですか……!」
「アレフ様の……我が子の為です」

言い切って、ローラは自らの腹部に手を当てる。
そこにいる赤子を想うと、それだけで手の震えは止まった。

「これだけの大規模なゲームを開催するほどの力の持ち主です。戦うとなれば、激戦になるのは必須のはず。
 私が傷付くだけならば、構いません。ですが、この子がそんなことに耐えられるわけがない。
 確実に、安全にこの子を生む為には……最後の一人になるしかないのです」

生き長らえながらも、自らに宿った命の火が消えてしまったとしたら。
考えた未来の中で最も恐ろしいのがその末路だった。
ゲームを生き残った者たちが協力して悪しき主催者を打ち倒す。
成程美談だ。しかし、それはローラにとってのバッドエンドに最も近いものでもある。
美談と引き換えに我が子を失うくらいなら、我が子の為に美談を捨て去ろうではないか。
それが、ローラの出した答えだった。

「…………」

我が子の為。その言葉に、チャモロは動揺していた。
ハッサンを殺めた彼女たちも、本来なら掴んでいたはずの幸せを踏みにじられた被害者だというのか。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ、いずれ誕生した子を腕に抱え、アレフという鎧の男と笑いあっていたのだろうか。

そこまで考え、再び怒りが燃え上がり始めた。
命を弄ぶゲームを強要するエビルプリーストへの……そして、ローラたちへの怒りが。

「……貴女を突き動かした理由は分かりました。ですが……ならば尚更、貴女たちを許すわけにはいかない」

最早激昂を抑えきることができず、次第にその声は険しくなっていく。

614命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:17:57 ID:reO1xxo20
「我が子の為という言葉で差し伸べられた手を自ら振り払って!
 他の道がないか、子を守って脱出できる術がないか、探ることすら勝手に諦めて!
 そんなのは、ただ逃げてるだけだ! 思考を停止して、楽な道に逃げてるだけだ! 貴女たちが手に掛けたハッサンさんの命から、逃げてるだけだ……!」

自分が辛い目に遇っているなら、誰かを傷付けていいのか?
我が子の為という言い訳があるら、人を殺めてもいいのか?

目の前の姫は、奪った命を背負えているか?

「貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!」

ローラの手が強く握られ、その表情は固くなる。
この地に連れてこられてからの数時間を思い出しているのだろう、目はぎゅっと閉じられた。

「…………。……そう、ですね。そうかもしれません。私は……命を背負う覚悟が、足りてなかったのかも……いえ、足りていませんでした」

やがてか細い声で、ローラは呟いた。
ハッサンを殺そうとして、アレフに見つかり慌てふためき。
アレフがハッサンの首を落として共に戦うと言ってくれたことに、とてつもない安堵を覚え。
思えば確かに、覚悟が足りていなかったように思える。
ただ命を奪うだけよりも許されないことだろう。

「……貴方のおかげで、目が覚めましたわ。ハッサンさんになんと謝ればよいか……」
「その気持ちがあるだけでも、多少は浮かばれるでしょう。命はもう戻らないけれど、向き直るには、まだ遅くはありません」

ローラの言葉に、チャモロは漸く気持ちを落ち着けることができた。
もうあの人の好い笑顔は見られないけれど、それでも、その死は無駄にはならないだろうから。

(ハッサンさん……貴方の命は、きっと紡ぎます。貴方の無念を、きっと晴らしてみせます!)





「それでは、早いところ今後のことを決めてしまいましょう。またあのターバンの男に襲われたら、私たちだけでは危険ですから」
「そう……ですわね」

無理矢理唇を奪われたことを思い出してか、ローラはぶるりと震えた。
それも愛する男の前でのこと、まだショックは残っているのだろう。
チャモロも本音を言えばアベルを止めたいところだったが、ドラゴンへの変化という切り札は既に意味を為さない上に、ローラを守りながら戦ったところで勝ち目はないと分かっている。
悔しいけれど、今アベルに再戦を仕掛けるわけにはいかないのだ。

615命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:18:54 ID:reO1xxo20
「私は貴女を南に向かったアレフさんの元に送り届け、彼が殺人を行うのを食い止めたいと思っています。ですが……今すぐ追うのは難しいでしょう」
「南……というと、あの人がいる方角ですね……」

地図を確認しながら、落胆してローラが呟く。
その腕から逃れても尚、アベルに捕らわれているように感じてしまう。

「それもありますが、もうひとつ。すぐに追い付けたところで、キラーマジンガが同行しているんです。迂闊に近付くことはできません」
「キラーマジンガ……アレフ様を痛め付けた、あの機械の魔物のことですか?」
「ええ。凄まじい威力の斬りつけに、矢による遠距離攻撃、更にはマホカンタが展開されていて魔法による攻撃も通じない……強敵です」

海底神殿などでの戦いを思い出す。
少しの油断も許されない、激戦と呼んでもいいだろう、厳しいものだった。
回復の手段が限られ、戦いの心得のないローラと二人で向かうのは無謀でしかない。
ドラゴンの杖による竜化も、キラーマジンガのドラゴン斬りの前には大した手段にはなりえないだろう。

「私たちが意識するべきことはみっつ。
 ひとつ、ターバンの男に見つからないこと。
 ふたつ、アレフさんたちに追い付くこと。
 そしてみっつ、これはできればですが、共に戦ってくれる仲間の確保。
 私はこれらを踏まえ、一度東の森に向かうことを提案します」
「東の森に?」
「ええ。といっても、今度はアレフさんたちに追い付くのが困難になるので、深く踏み込むことは避けますが」

地図を指差しながら、チャモロは説明を続ける。

「北の町に向かうなら、仲間の確保という点は達成されるでしょう。拠点とできる場所なら、人が集まりますから。
 ですが、ゲームに乗っているターバンの男も、ほぼ確実に現れる。下手を打てば、町に辿り着く前に追い付かれる可能性があります。危険度はかなり高い」

次に、と言いながら指を動かす。

「西に向かうなら、ターバンの男からは逃げられるかもしれない。
 しかし、更に西へ続く道もあるため、仲間を探すのは難しくなる。アレフさんたちからもかなり離れるので、彼らに追い付くという目的も達成しづらい」

最後に東に指を滑らせる。

「東では、北の町に向かうほど仲間を得られる可能性は高くないでしょう。ですが、東から行動を始めた場合、向かう先は限られてくる。西に行くよりは、人と出会い易い。
 更に、森の先に道はないので、ターバンの男も逃げてきた私たちが逃げ道の少ない場所へ向かうとは考えないでしょう。
 そして何より、南へ向かう道もそんなに遠くはない。最も合理的な選択のはずです」

616命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:19:30 ID:reO1xxo20
チャモロの説明にローラは成程と頷く。
アベルに会いにくく、尚且つアレフに追い付き易いというのなら、ローラに反対する理由はない。

「ですが、東で人に出会うことができなかった場合は、どうするのです?」

追い付くことはできてもアレフの前に出られない、というのは心苦しい。
そんな思いも込めて、尋ねる。

「東にも村があるのですから、そこにも人は集まるでしょう。最も、アレフさんが向かっている以上、追い付いた頃には戦闘になっている可能性も高いですが……」

言いつつ、チャモロは目を伏せる。
チャモロ自身その場合厄介な事態になるのは分かっているが、今はそれしか選ぶ道がない。
ローラな行動を逃げだと糾弾しておきながら運に賭けることが悔しいのだろう、複雑な顔をしていた。





身を整えるのもそこそこに、二人は早速東に向かって歩き出した。
しかしハッサンの死という出来事から、その間にある空気は張りつめていて、会話らしい会話すらない。
そこには、ひたすら静かな歩みがあるだけだ。

(アレフ様、待っていて下さい。このローラ、すぐにお側に参ります。
 私が追い付いたら、その時はーー今度は、アレフ様ひとりに誰かの命を背負わせることはいたしません。
 私も、共に戦い、共に命を背負いますわ)

チャモロの後に続きながら、ローラはアレフへの想いを巡らせる。
チャモロに突き付けられ、自分の覚悟の甘さは自覚した。
それでもローラは選んだ道を変えようとは思わなかった。
彼女を頑なにさせる理由。それはアレフにあった。

我が子の為に、既にアレフは手を汚しているのだ。
今更ひとりで改心して新たな道を選ぼうなどと、言えるはずがなかった。
アレフはローラとの愛の証、ローラとの子の為に、覚悟を以てハッサンを殺めた。
ならば自分も覚悟を以て、彼との愛を貫く為に戦おう。
そう、決意を新たにしたのだった。

(まずは隙を見て、チャモロさんを……殺さなければ)

もう命を背負う重さから逃げはしない。
再びアレフに会う為の、ローラなりのけじめとして。
まずは目の前の少年を殺そう。

617命の重さ、愛の固さ ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:20:35 ID:reO1xxo20
「ああ、ひとつ言っておきましょう」

一度歩みを止め、チャモロはローラを振り返る。

「貴女をアレフさんの元に送り届けるとは言いましたが、私は貴女方を許したわけではありませんから」

二人ともに逃げを選択させないこと。その為に貴女を送り届けるのです。

そう言うチャモロの目は、ローラを問い詰めた時と同じく、鋭いものだった。
ローラは何も言い返せず、ただ合わされたその目を逸らさないことしかできなかった。



【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:ショック
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
   アレフに会いたい

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   ローラをアレフの元に送り届ける、命から逃げるのは許さない
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

618 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/07(木) 23:21:33 ID:reO1xxo20
改めて、投下終了です。指摘などあればお願いします。
この度は初歩的なミスすみませんでした。

619 ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:56:38 ID:hs45yPTo0
予約分を投下します

620ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:57:31 ID:hs45yPTo0
瓦礫の崩れる音が収まり、トラペッタには不気味なほどの静寂が訪れる。
皆の待つ門へと向かう足取りは重く、しかし小さな足音はやがて事実を伝えるだろう。
ギガデーモンを倒したこと。そして。

「エルギオスとドラゴンは、死んだ」

ナブレットが告げると一同はそれぞれに表情を歪ませた。
ぼろぼろと涙をこぼしていたサンディがナブレットに向き直る。
見ている方が苦しくなるような悲痛な表情で、悲しみと怒りの感情がないまぜになった瞳で、サンディはナブレットを睨む。


「……どうしてよ!」

  ――あァ、近しいヤツを喪うのはツライよな。


「みんなで戦えば何とかなったかもしれないのに、」

  ――決意を胸に秘めてこっちにゃ背中しか見せてくれなくってよお。


「この門が使えないことを知ってたら置いて行ったりなんてしなかったのに!」

  ――気付いた時には遅いんだ。だってそうだろ? もう会えなくなるなんてこっちは思いもしねえんだから。


「なのに! 自分だけ無傷で安全なところにいて! 見届けたなんてエラそうなこと言っちゃってさ! そんなの……」

  ――だから、サンディ、よしてくれよ。


「見届けた? 見殺しにした、の間違いでしょ!!? アタシはそんなヤツゼッタイに――」

  ――そうやって俺を責めるフリをして、


「――ゼッタイに許さない!! 一生、何があっても許したりしないんだから……!!!」

  自分自身を、責めるってのは、よ。



やり場のない喪失感に、誰も、何も応えられずにいた。
泣きじゃくりながら勢いのままに罵倒の言葉を吐き捨て、サンディはその場から逃げるように飛び去っていった。

621ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:58:19 ID:hs45yPTo0
「ゲルダ。お前も傷だらけのところ悪いが、ガボたちを休ませてやってくれるか」
「それは構わないけど……。あのコ、大丈夫なのかい」
「ああ、俺が探してくる。見捨てるわけにはいかねえだろう。……俺にも一つ、思うところがあってな。二人で話がしたい」

ナブレットは表情を隠すようにシルクハットをかぶりなおした。

「ただ、これだけドデカい戦闘をやってのけたんだ。
 乗じて新たな敵襲が来るかもしれない。その時は構わず逃げてくれ」
「……わかったよ。そこの宿屋の二階にベッドがいくつかあったはずだ。アタシたちは一旦そこで休むことにする」

ゲルダはサンディが脱ぎ捨てた知識の帽子を拾い上げた。
飛び去ったサンディを追うために、ナブレットはもう一度北の階段を駆け上がる。








……アタシはなんてバカなんだろう。
ぜんぶ、ぜんぶアタシのせいなのに。
皆で逃げようとしたときにダンチョーさんが何か言いかけてたことにも気づいていたのに。
賢くなったつもりで、舞い上がって、このまま何もかもウマくいくんだって信じ切って、思いこんで。
それを人のせいにして、喚いて、怒鳴り散らして。
逃げ出して、こんな路地裏の隅っこに引っ込んで、拗ねたり泣いたりして。
サイテーじゃん、アタシってば。


膝を抱えて座り込むアタシにふっと陰が差す。
シルクハットをかぶった黄緑色の小さな体。

「……妖精は井戸のそばにいるってのは本当なんだなあ」
「何よ、ソレ」
「メギストリスって都の噂話さ。井戸には話好きの妖精が住んでいるんだと」
「そんなの知らないし、キョーミない。っていうかコッチこないでほしいんですケド」


ホラ、こうやって心配かけて、悲劇のヒロインぶって。また当り散らしてる。
あれだけ酷いコト、言ったのに。
もー、ぐっちゃぐちゃで、ワケわかんない。

622ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:59:27 ID:hs45yPTo0
「――サンディ。俺が憎いか」

「…………」

「お前の言った通りだ。俺は何もできなかった。
 犠牲を出さずに……ってのはどのみち無理だったろう。それは退却を選んだお前さんの方がよく分かってるよな。
 けど他にやりようはあったかもしれない。少なくとも、お前に悔いが残らない道ってのはあったはずだ」

「分かったようなこと言わないで。……もういいでしょ、ほっといてよ。ヒトリになりたいの」

「いいや放っておけねえよ。遺されるヤツの辛さってのは俺も知ってるんだ。だからお前をこのままにしておきたくない」





――俺のわがままだがちょっとした”昔話”を聞いてくれるか、とナブレットは前置きをして話し出す。



ナブレットには年の離れた妹がいた。この話は二人が暮らしていたオルフェアの町で起こった話。
妹には生まれつき不思議な力があった。それは未来を見ることのできる予知能力。
だがプクランド大陸の破滅を目論む悪魔に目をつけられ、やがてあらわれるプクリポ族の救世主の存在を予知するよう強要をされた。

「予知をしなければ町中の子供を食い殺すと脅された。
 だが当時――十五年前にはまだ救世主は生まれていなかったんだ。それを知った妹は悪魔と契約を交わした。
 救世主が生まれるまでの十五年のあいだは、絶対に子供たちに手を出すなと。
 そのかわり、十五年経てば、救世主だろうがなんであろうが子供たちを好きにして構わないからと」

そして十五年後の約束の日。
悪魔の手の届かない場所に子供たちを隠してしまうこと。それが妹からナブレットに託された役割だった。
サーカスの特別講演と称して町中の住民を集め、イリュージョンを使い子供たちをさらった。
そして『異世界』の扉の中に隔離し、妹の予知の通りに現れた冒険者、ジャンボとともに悪魔を討伐したのだ。


「……ずいぶん勝手な妹サンね。
 子供たちを守るなんてゴリッパだけど、アンタに面倒事を押し付けて、そんな強引なことをさせるなんてさ」
「まあそりゃあな。その頃には妹はいなかったんだ。――なにせそれよりも五年ほど前に死んじまったからな」
「え……」

プクランドに迫る危機は、その悪魔だけではなかった。
そして妹はもう一つ不思議なチカラを持っていた。
『異世界』の中でとある者に授けられた「何でも願いがかなうノート」
ただし願いをかけるのは3つまで。そして最後の願いごとを書いたとき……ノートの持ち主は破滅し、無残な死を遂げるという。

「何ソレ……じゃあアンタの妹さんは……世界を救うためにそのアイテムを使って、自分を犠牲にしたとか……そういうコトなの?」
「…………。
 それが、わからねえのさ。知らねえんだ。
 アイツが最後に何を書いたのか。そもそもどんな願い事をしようとしていたのか。アイツは何も話しやしなかった……」

623ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:00:34 ID:hs45yPTo0
 
……。同じだ。
たった今、エルギオスたちも、逝ってしまった。アタシには何も言わずに。


「運命ってなんだ? 使命ってなんだ? 俺たちはごく普通のただの兄妹だった。
 少なくとも神サマや精霊サマからなにか大それたモンをたまわるなんて存在じゃあなかった。
 なのにどうしてアイツが命と引き換えにそんなことをしなくちゃならなかった? 俺にはずっとわからなかった」

「…………」

「アイツの予知どおりに悪魔を倒してやった時、俺は何とも言えない気持ちになってよお。
 だってもうアイツはこの世にいないんだぜ。
 それに、子供たちを守るためにやったことだなんて言やぁ聞こえはいいが、皆を傷つけたことに変わりはねえ。
 町中の住人から責められても仕方ないと思っていた。すべてが終わった後、俺は町を去ろうと決めていた。
 そうすることでケリをつけたかったんだ。
 いや、消えてしまいたかったのかもしれねえな。何も言わずにいっちまったアイツみてえによ……。けど……」

「……でも。そんなの、ダンチョーさんが悪いわけじゃないじゃん……」

「そう、そんな風にな。子供たちがよお、言ってくれたのさ……」

一人も犠牲にならぬよう、一時的にとはいえ無理やり親元から引き離し、『異世界』の扉の中という得体の知れない場所に閉じ込めた。
怖くなかったはずがないだろう。悲しくならなかったはずがないだろう。それでも子供たちは言ってくれたのだ。

 ――団長さんを信じてたよ。助けてくれてありがとう!――
 ――いなくなるなんて言わないで! ボクたちサーカスが大好きなんだ!――
 ――あんたは子供たちの命の恩人よ。これからも町にいてちょうだいよ!――


「……いやあ、参ったよな。不覚にも涙がこみ上げてきちまってよお。許してもらえたから……それもあるが、それだけじゃなくてよ、」

ナブレットはシルクハットのつばをグイと押さえる。

「アイツにも聞かせてやりたかった……。そして……それは俺からも伝えたかった思いだったと気が付いた。
 先に死なれて、俺には心のどこかで納得できずにアイツを許せないような気持ちがあったのかもしれない。
 けど子供たちの言葉でわだかまってたものが消えていった。アイツに、ありがとうって、伝えたかった……。だから、サンディ」

上擦った声でそこまで言うと、顔を上げた。


「お前を探しにきたのは同情したからでもただ慰めたいからだけでもない。
 伝えたくて来たんだ。――助けてくれてありがとよ。いま俺やガボたちが生きていられるのは、お前たちのおかげだ――」
 

また、ぼろぼろと涙の粒があふれ出る。
何もできなかったのに。この胸には後悔しか残っていないのに。
自分の思い上がりでみんなを傷つけたと思っていたのに、それすらも思い違いだったっていうの。

「バッカみたい……ホンット、サイテー……」

624ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:01:24 ID:hs45yPTo0
誰かを助けるために自分を犠牲にする。そのためにすべてを失ってしまう。それでも思い通りにいかなくて、また傷ついて。
思い浮かぶのはアークの姿だ。アイツ、今どこでどんな顔をしてるの。

ナブレットはぐしゃぐしゃの泣き顔を覆うように、シルクハットをかぶせてくれた。



「……話のオマケだ。俺はよ、昔、シルクハットじゃなくてコック帽をかぶってたんだ。本当はケーキ職人だったんだ」
「え、それがどうしてサーカスのダンチョーさんになっちゃったわけ?」
「妹が言ったんだよ。――子供を集めるのにはケーキもいいけどサーカスなのっ!ってな。
 おかげで、曲芸のきの字も知らなかった俺が今じゃアクロバットスターなんて呼ばれててよ。まったく無茶なこという妹だったぜ、はは」

人生なんてどうなるかわからねえよな、と困ったように笑う。
それは少し照れくさそうな笑顔でもあって。

「何よソレ。……あはは、ダンチョーさんの妹さんって、ソートーな変わり者だったのね……」

――アタシもこんな風に笑える時が来るのかな。今は全然できそうに思えないケド。



「昔話はここまでだ。他のやつらには話すなよ? おおっぴらに語るようなことじゃねえしな。さて、ちょっとは気が紛れたか?」
「うん……ゴメンナサイ……アタシ、謝んなきゃ。ダンチョーさんにも酷いコト言って、みんなにも……けど……」
「ん?」
「今よりも、もっと。グシャグシャな顔になっちゃうかもだけど。それでも行かなきゃ……南の広場に」

見に行かなきゃいけない。向き合わなきゃいけない。
エルギオスたちが遺してくれた思いを受け止めなきゃ。
でなきゃきっと、ずっと後悔したままでいることになる。それだけは絶対に、イヤだ。だから。

「そうか。辛くなったら、俺の胸でいいなら貸してやるぜ」
「や……それはエンリョしとくワ。そのかわりこの帽子はもうちょっと借りておくわね」
「ははっ、そうしろい。……ううっ、今自分でもガラじゃねえこと言っちまって鳥肌がたってらあ」

 

 
二人は路地裏から広場へと向かった。

崩れた瓦礫、焼け焦げた炎の跡、血飛沫。

段上から見える戦闘の痕跡はサンディの想像以上に酷いものだった。

サンディはシルクハットを握り締めてひとしきり泣いた。ナブレットは何も言わずただ寄り添った。

泣きじゃくる声の間から、感謝を告げる言葉が小さく聞こえた気がした。

625ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:02:48 ID:hs45yPTo0
どのくらいの時間、そうしていただろうか。近づく気配に気づきナブレットは振り返る。

「なんだ? お前ら宿にいるんじゃなかったのか?」
「この子たちがどうしてもって聞かなくてね」

ゲルダとともにホイミンと、ライアンに背負われたガボが広場へとやってきた。

「おっちゃんありがとう。ここで下ろしてくれ」
「ガボ、大丈夫なの? 足、ひどいケガしてるのに……」
「ああ、ホイミンもありがとうな。けど背負ってもらったままじゃカッコがつかねえから」

全員が弔いに来たのだ。エルギオスとゴドラ、自分たちを守ってくれた二人を。
頷いたライアンはガボを下ろす。
と、同時にサンディに向き直り頭を下げた。

「サンディどの、すまない。皆も、私を助けようとしてくれたばかりにこのようなことになってしまった!
 しかし、なんと詫びればよいのか見当もつかないのだ……」
「チョ……やめてよね。アンタに謝ってほしいなんて思っちゃいないわよ。そうじゃない、そうじゃなくて……。
 謝んなきゃいけないのはアタシのほうよ! ゴメン、みんな、みんな一緒に戦ってくれたのに、あんな取り乱して……アタシ……」

消沈してサンディが俯くと、今度はガボが声を張り上げた。

「サンディ、オイラもだぞ!
 オイラがちゃんとぼうぎょできてたらみんなに加勢できてたんだ。そしたらちゃんとやっつけられたかもしれない!」
「ぼ、ぼくも! ライアンさんを助けるのに必死で、もっとまわりに注意できてたら……」

さらにホイミンが弱々しくふるえた声で後悔を口にする。
やれやれ、とゲルダも頭を振った。

「……こういうたられば話ってのは性に合わないが、この際吐き出しちまうべきなのかもね。
 アタシも見通しが甘かったよ。
 この町を脱出するルートは限られてたんだ。一番知っていたのに、アンタに全部丸投げした。その責任は感じてる」

「な、なによソレ。やめてよ……みんな……一人で泣いてたアタシが、マジダサイじゃん……」

しゅんと落ち込むサンディの姿に困った笑みを浮かべるナブレット。

「顔を上げようぜ。おんなじなんだ。皆、こいつらにもらった命だ」

626ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:03:45 ID:hs45yPTo0
表情を引き締め彼は皆へと伝える。
エルギオスとゴドラの勇姿とその思い。
打ち明けた最期の決意を、全員が胸に深く刻み込み、彼らを追悼した。


 
***


「さて、これからどうしようか」

各々に共通する目的。
ライアンはユーリルを、ゲルダは元の世界の仲間たちを、ナブレットはジャンボを、そしてサンディはアークを探すために行動していた。
そしてガボとホイミンは『みんな友達大作戦』をかなえるためにできるだけ多くの参加者を集めたいと思っている。

トラペッタを拠点にできればと考えていたが、今の戦闘で半壊してしまった。
さらにこの惨状。ギガデーモンの巨大な死体が残るこの場所が目的に適しているとも言い難い。
一同は地図を眺めながら頭を悩ませる。

「ここを離れることも視野に入れた方が良さそうだ。
 だが今から拠点を移るにしても、どこも距離がある。ゲルダ、どうだ?」
「そうだね……南の洞窟の滝の上には粗末な小屋があるだけで、何より逃げ場がないから却下だ。
 リーザス村まで行くとなると、木の多い一本道を橋を渡って行かなきゃならない。
 着いたところで出入りは西か東かの二択。もしどちらかが塞がれれば、結局今回と同じことになっちまうだろう」
「なら、西にあるトロデーン城が一番いいのか。しかし、この場所もどん詰まりだな」
「だが人が集まりそうなトコロってんなら最有力候補だよ。だけど……」

ゲルダが言いよどむ。

「ナブレット。大事な事を言うよ。――アタシの地理感覚をあまり過信しない方がいいかもしれない」
「どういうことだ?」
「ここから城に繋がる橋。これは昔とあるバカがぶっ壊して無くなっちまったはずなのさ。だが地図には記されている……」

「それって、この地図がニセモノってこと?」
「エビルプリーストがオイラたちをだまそうとしてるのか?」
ホイミンとガボが率直な疑問を口にする。

「いいや、違うね。きっと橋は”存在してる”。……おかしいのさ。この町にはもともと火事で全焼した家があったんだ。
 宿からここに来る道の途中にね。だがその家は、今”存在してる”んだ……。さっきこの目で確認したよ」
「――やっぱりこの世界は作り物、エビルプリーストにとって都合のいい『異世界』ってわけか」
「……それについては、ギガデーモンにも同じことが言えよう。
 私はかつて勇者殿たちとともに奴を打ち倒した。
 もとより巨大なモンスターではあったが、これほどまでに規格外な大きさではなかったはずなのだ……」
「それじゃあいつ、エビルプリーストのチカラで本当より強くなってたってことか!? そんなのずりーぞ!」

627ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:04:39 ID:hs45yPTo0
「あーーーーもうっ!!! まどろっこしいったらありゃしないワ!!!」
「サンディ?」


黙って落ち込んでいたはずのサンディが急に叫んだ。
フワリと飛び上がりゲルダの元に近づく。

「……アリガト。アンタが拾ってくれたのネ。アタシもこれ返すから、ソレ、返してもらっていい?」

サンディはシルクハットを差し出し、かわりに知識の帽子を指さした。
ゲルダはサンディからシルクハットを受け取ると、そのままナブレットの頭に戻してやる。

「……わかったよ。約束通りだ。ちゃんと返してもらったからね」
「おいおい、俺は物じゃねえっつったし帽子が本体ってやつでもねえぞ……」

げんなりとするナブレットを尻目にサンディとゲルダはくすくすと笑い合った。



――大丈夫。もうヘコたれてなんていらんない。
勇気を振り絞ってサンディはもう一度、知識の帽子をそうびした。


「……今アレコレ細かいことをあげつらっても混乱するだけだわ。
 アタシたちはあいつ――エビルプリーストの都合のいい世界の中にいる。まず前提として考えるのはソレだけでいい」

ギガデーモンのような差し金や世界のこともそうだが、あいつにとって都合のいいルールは他にもある。
そう、それはこれから始まる定時放送。

「禁止エリアが発表されるわ。みんな、どう動くかを決めるのはそれからよ」






【G-2/トラペッタ中央広場/1日目 昼】

【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給

品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
      ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
       ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。

628ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:05:08 ID:hs45yPTo0
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
    ホイミンたちを守る

【ガボ@DQ7】
[状態]:HP3/10 腕や背中にいくつか切り傷 全身打撲  両足骨折
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8
[思考]:ホイミンと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
   アウトロースキル39以上

【ナブレット@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
    みんな友達大作戦を手伝ってやる

※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています。


---
以上で投下終了です。

629 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:04:26 ID:WY6/oKtc0
投下します

630魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:05:41 ID:WY6/oKtc0
突如として、空気が震えた。
それに続き、肌を叩き付ける膨大な魔力を感じた。
そして竜の咆哮を思い起こさせるような轟音と、脳髄まで刺すかのような凄まじい閃光。
何かがーー否、戦闘が起こっているのだとサヴィオとコニファーが判断するには、十分すぎる光景だった。
やがて元の通り静まり返り、何事もなかったかのように空気は落ち着き、澄ましている。

「今のは……まさか、マダンテか?」
「え、コニファー知ってるの? もしかして、仲間が……」
「いや、俺の仲間にはマダンテを使えるヤツはいなかった。でもよ、その魔法があるってことはよく知ってる」

サヴィオの問いに答えながら、堕天使エルギオスとの戦いの最中、マダンテに何度か痛め付けられたことを思い出す。
膨れ上がり暴走した魔力は叩き付けるように押し寄せ、肌を灼き、コニファーたちを呑み込んだ。
それほど魔力が高いわけでもなければ敏感なわけでもないコニファーでも、枷が外れ、意志もなく暴れ狂う魔力をはっきりと感じ取れた。
寧ろ魔力に敏感ではなかったからこそ、あの凄まじい魔力のうねりが脳裏に焼き付いて離れない。
今しがた目にしたものは、離れていたところで発動したからだろう傷付けられこそしなかったものの、確かにあの時と同じ魔法だった。

「マダンテってのは、使ったヤツの魔力を全部ぶっ放して暴れさせるものらしい。その威力は……言うまでもねぇな」
「そりゃ、あんな光景を見れば分かるさ……ん?」

まだ呪文の使用者は確認できない距離だが、地面が穿たれ、岩肌が抉れているのは微かに見える。
あれだけの広範囲にわたって地形を変えてしまっているのだ、どれほどの威力か説明されるまでもなかった。
顔を引きつらせていたサヴィオは、ふと気付く。

「魔力を全部……だとしたら、あれを放ったのが誰であれ、マズいことになってるかもしれないのか……」

冷や汗を流すサヴィオに、コニファーは黙って頷く。
ゲームに乗る気のない者が襲撃者をマダンテで撃退したというだけなら、問題はない。
しかし、撃退できていない場合、マダンテの使用者は魔力もなしに戦闘を続けることになる。
逆に襲撃者がマダンテを使ったのだとすると、生存者がいたとしてもかなりの重傷は免れない。
最悪のパターンは戦闘がゲームに乗った者同士で行われていた場合だ。

「でもよ……」

ぽつりと呟いて、コニファーは来た道を振り返る。
その向きは南。パパスとイザヤールが向かった方角だ。

「旦那たちに危険な役割を受け持ってもらってんだ。後戻りなんてしたら……示しがつかねぇさ」
「……ま、そうだよねぇ。どのみち前進しかないよね」
「なァに、まだ距離はあるんだ。警戒しときゃ、どのパターンでも手は打てるだろ」
「もっと近付く前に気付けて良かったね。はあ……ホント、運が良いのか悪いのか……」

ぼやきつつもいつでも詠唱に入れるように神経を集中させるサヴィオににやりと口角を上げ、コニファーは彼よりも少し前を歩き出す。
パーティを抜けた後のサバイバル生活経験を活かして警戒に当たるのは適材適所というものだ。
援護は頼んだぜ、と小声で呟くと、偵察は頼んだよと返ってきた。
誰かと共に生きようとするのは久し振りだなと、なんとなく思った。

631魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:07:46 ID:WY6/oKtc0
 


束の間の静けさの後、響いてきた爆音を耳にした二人は、姿勢を低くし、更に慎重に歩みを進めた。
コニファーは弓に矢を番えながら、サヴィオは魔力を練り上げながらマダンテが放たれたであろう場所に近付いたものの、既に再びの静寂に包まれ、戦闘は終わりを迎えていたようだ。
やや安堵して力を抜き、辺りを見回したサヴィオの目は、二人の人影を捉えた。
動く気配のない大きな体躯と……見覚えのある僧衣。
そこにいたのは間違いなく。

「フアナ!」
「あ……」
「サヴィオのお仲間さんか。だが……再会を祝福、というわけにもいかねぇようだな」

フアナを庇うような体勢で灼け爛れ、絶命している大男。
先程聞いたばかりの爆音もあり、何が起こっていたかは想像に難くない。
フアナは焦点の合わない目を見開き、そこに仲間がいると認識した途端涙を溢れさせた。
ふらふらとした足取りで歩み寄ろうとする彼女をサヴィオは慌てて抱き止め、幼子をあやすように頭を撫でてやる。
信頼できる仲間と会えた安心感と、生きた人の温もりを実感してか、ついにフアナは声を上げて泣き出した。

おろおろとするカマエルを抱え、コニファーは二人から少し離れて辺りを警戒し始める。
まだフアナのことを詳しく知らないため、下手に慰めるよりは共に旅をしていたサヴィオに任せた方が良いだろうという判断だった。





いくら経った頃か。漸く泣き声が落ち着き、フアナはぽつりと呟き始めた。

「わた、し……私……」
「うん」
「私……謝ら、なくちゃ……」
「謝る?」
「謝らなくちゃ……いけ、ないのに……いけなかった、のに……」

ズーボーさんに。
そう言って涙に濡れた顔を上げ、もう動かない彼を見る。
あれだけ大きく見えた背中が、連発されたイオナズンによって小さくくすんでしまっていた。
ちょっと大股で歩けば、それだけで乗り越えられそうで、居たたまれなくなる。

「ありがとうって、それしか……それしか言えなくて……」

632魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:08:47 ID:WY6/oKtc0
殺し合いに放り出されてから半日にも満たない時を振り返る。
モンスターと認識したズーボーに襲いかかり、しかしその不可解な行動に戦き逃げ出し、ゼシカやバーバラと出会い。
ヘルバトラーに襲いかかられ、そしてズーボーは何よりも仲間を守る為に戦った。
二人だけでなくフアナもズーボーに守られ、その結果、今こうして生きている。

「モンスターだと思って、信用ならないって突っぱねて、そのくせ、守って、もら……て……」

一旦落ち着いたはずの涙が、またボロボロと溢れ出す。
ゴシゴシと目を擦り、それでもフアナはズーボーをしっかりと見据えて。

「何よりも、謝ら、なきゃ……いけな、かった……のに……私、最低な、こと……」
「……フアナ」

しゃくりを上げ、止めどなく涙を流すフアナに、サヴィオはそっと囁く。

「フアナはさ、正義感が強くて、間違いを許せなくて。でも見栄っ張りだから、自分がちょっと間違えることすらも許そうとしなかったでしょ」

いつだったか、THE・ガマン大会8668で熱い正義の心を手にしたんだと、自慢げに語っていたことを思い出す。
しかし堂々とした態度のその反面、輝かしい数々の経歴をことあるごとに披露するも何故かオチに回ってしまうようなどこか抜けているところを気にしている部分もあった。

「だから、そのズーボーって人のことも、モンスターと思って襲いかかった自分が許せなくて、間違ってないんだって思い込もうとして、突っぱねちゃったんじゃないかな」

こうして再会するまでの様子は見ていないから、分からないけれど。
共に旅をしてきた仲間なのだ、ある程度は予想できる。

「でも、間違えない人間なんていないんだしさ。ありがとうった言えただけでも十分だよ。
 それでもフアナは納得いかなくて、謝りたいと思ってる。最低なんかじゃないよ」
「でも……いくら、謝りたい、って、思っても……もう、ズーボー、さんは……ズーボーさん、には……届かないのに……!」

最期まで、バーバラの、ゼシカの、フアナの命を守り続けて、ついには声も満足に出せないほど灼き尽くされて。
ありがとうの言葉すら、届いたかどうか判断できないというのに。

「届くよ、きっと」

フアナの悲痛な言葉にやんわりと返し、サヴィオもズーボーの亡骸を見遣る。
惨たらしく灼け爛れているけれど、微かに分かるその表情を見れば、誰でも思うだろう。
ありがとうは、きっと届いてる、と。

633魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:09:53 ID:WY6/oKtc0
ーーごめんなさいだって、きっと届く。

その言葉に後押しされるように、そっとサヴィオから離れ、ズーボーの傍にしゃがみ込む。
恐る恐る幅のある肩を起こして、改めてその顔を見つめる。
表情全てまでは分からないが、魔障や幾重の爆発に耐え続けた彼の口元はーーそれでもほんの少しだけ、弧を描いていた。

「ズーボーさん……」

ふと、抱き起こす両手がいっぱいに広げられていることに気付く。
彼の亡骸は今も小さくなんてなかった。くすんでなんていなかった。
ならば、小さくなっていたのは、くすんでいたのは。
自分の心、だったのだろうか。

「もう、遅いかも……いいえ、もう、遅いけど……ごめんなさい。
 そして、もう一度……本当に、ありがとう」

漸く素直に吐き出せた謝罪と、誰かを守る者への、一番の餞となる言葉を紡ぐ。

「こんな私を……守ってくれて、ありがとう……」

ズーボーをそっと横たえ、フアナは祈るようにその手を組む。
誇り高きパラディンへ黙祷を捧げる中、時折落ちるぽつりという音だけが響き渡った。





やがて手を解くと同時に、泣き疲れたのか精神的に限界だったのか、フアナはぱたりと気を失った。
支える力を欠いた体をサヴィオは慌てて受けとめ、落ち着いた呼吸に安心して息を吐く。

「……フアナ、だったか。そいつ、大丈夫なのかい?」

時折様子を見ていたコニファーが声をかける。
自身も打ちのめされた僧侶が仲間にいるからか、どこか気になるようだ。
やや心配そうな声色の言葉に、サヴィオは曖昧に微笑んでみせた。

「まあ……多分。謝れたことで、フアナなりにケジメは付けられただろうし、その内立ち直るとは思うよ。
 でも見栄っ張りでさ、すぐ強がるから。今はこのまま休ませてやっていいかな?」

旅の途中もそうだった。
引っ込み思案なアスナやパーティで一番年若いホープに心配かけまいと、その性格も手伝って、フアナは自分の弱い姿は見せようとはしなかった。
そんな彼女をすぐ起こしたら、また強がるだろうから、ゆっくり休ませてやりたいのだとサヴィオは言う。
コニファーも了承し、平原の端まで移動してから腰を落ち着かせることにした。
フアナを抱きかかえ歩き始める前に、サヴィオはズーボーの亡骸を振り返る。

634魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:12:09 ID:WY6/oKtc0
「貴方のおかげで仲間に会えたのに、ごめんね。フアナが目を覚ましたら、必ず埋葬するから……少しだけ、待っててね」

頭を下げて、今度こそ歩みを進める。
一時的とはいえ埋葬をしないことへの罪悪感と、必ず弔うからという想いを胸に秘めて。





岩壁の付近でフアナを下ろし、彼女のことはサヴィオに任せ、コニファーは再び周囲の警戒に当たっていた。
教会からここまで誰にも出会わず、更には北に城があるということもあって、人が来る可能性は低いだろうとは思うが、それでも念には念を入れておく。

(俺は……生きてるんだよな。こうして、確かに生きてる……)

ちらりと視線をズーボーがいる辺りに投げ掛ける。
コニファーは確かに生きている。こうして立っているのだから。
コニファーは確かに生きている。亡骸と違い、こうして動いているのだから。
コニファーは確かに生きている。
けれど。

(こんな形で生きてるって実感するなんて、な……)

誰かの死によって、生を実感するなんて。
皮肉にしては質が悪い。

(なあ、アーク、スクルド、ポーラ……お前らは、大丈夫か?)

僧侶である彼女の弱った姿を見て。
死を以て生を教えてくれた彼を見て。
コニファーは、かつての仲間たちを思い返す。
アークやポーラの腕っぷしの強さはよく知っているし、スクルドもよく回る頭でパーティをサポートしていた。
そう簡単に死んだりはしないだろうとは思うが、過った不安は消えようとしない。

(お前らの命を犠牲に生きてるって実感するなんて、俺はゴメンだ。
 どうか、生き延びててくれよ……)

とにかく生きて、感覚を保つ。その想いに変わりはないけれど。
こんな悲しい形で為し遂げるのは、もうしたくはない。
それも仲間の命で、など。
そんなことを許容できるほど、コニファーの感覚は狂ってはいない。

635魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:04 ID:WY6/oKtc0
(ああ、ほら、また。なんでこんな嫌なことを考えるほど、自分の感覚に安心するんだ……)

がしがしと頭を掻き、目を逸らす。
きっと亡骸を見たばかりだから、気が滅入っているのだろう。
ならば煩わしいことは考えないようにと、警戒に神経を集中させる。

別のことでも、感覚は保てるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、コニファーは弓を強く握り締めた。



【C-4/平原/1日目 昼】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   サヴィオと仲間を探す。

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。コニファーと仲間を探す。
   フアナを休ませる。フアナが目を覚ましたらズーボーを埋葬する。
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP1/10 気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:???

※バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 がズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8 の入ったふくろがズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※バーバラとゼシカが付近にいることにはまだ気付いていません

636 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:44 ID:WY6/oKtc0
以上で投下終了です。
指摘などあればよろしくお願いします。

637ただ一匹の名無しだ:2016/07/24(日) 21:36:53 ID:xUlW7nbk0
投下乙です
フアナさんとサヴィオが合流したか
フアナさん立ち直れるだろうか…
他人の死を見て生を実感してしまうコニファー君も物悲しいねえ

64010の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 00:58:46 ID:/n5HYbQo0
青い空、白い雲、照りつける太陽。
本日は絶好の晴天なり。
そして同時に、絶好の殺し合い日和。

「いません!」
「うーん……」
「はてさて……」

フアナとサヴィオ、そしてカマエルは再びあの地へと戻ってきた。
フアナがズーボーを失い、気絶した場所。
地形を変化させるほどの大規模呪文が何度も爆発した激戦の地。

「僕もコニファーもいたけど、見落としはなかったと思うよ?」
「でも、死んでないんですよね?」
「それは僕も保証するけどさ」
「ワタクシも聞き間違いはないと思いました」
「けど、って何ですか?」
「いや、あの放送が真実とは限らない線もあって……ってそんなこと言いだした日にはキリが無いけど」

となると、バーバラとゼシカはサヴィオとコニファーが来る前にどこかへ移動した。
理由はすでにフアナとズーボーは死んだと勘違いしたため。
あるいは、生存が判明してるヘルバトラーか悪意を持った人間が二人を拉致した。
考えられるのはこのあたりか。

サヴィオが辺りをもう一度見回す。
魔の瘴気は緑豊かだったはずの場所を死の大地に変えていた。
急速に枯れた植物、紫に変色した土、あっという間に風化した岩石。
大自然の植物で満たされていた大地の中に円形に広がる、茶色の大地。
明らかに自然にできたものではない。
フアナが見た、ヘルバトラーの攻撃によるものだと推察される。
どれほど強大な敵と戦ったのかも自ずと知れる。

「そういえば……思い出してきました!」

円周率は軽く10万桁まで覚えてるほど記憶力の良いのがフアナという僧侶。
教会の教典の暗誦は4歳の頃にはすでにできていた。
あの時何が起こったのかを正確に思い出していく。
あの時、ゼシカとバーバラはとっておきの呪文を放とうとし、フアナはズーボーを死なせまいと前に出た。
そして、ヘルバトラーの魔の瘴気と二人の最強の呪文が激突し、フアナはズーボーに守られたのだ。
ゼシカ、バーバラとズーボー、フアナは離れた場所にいた。
そのことをフアナは思い出す。

「こっちです!」

フアナが記憶にある場所へと走り出す。
そこにはゼシカとバーバラこそいないものの、紙があった。
本来ならフアナの傍に置かれていたこの書置きが風で吹き飛ばされた結果、この場所に飛ばされたのは偶然なのか必然なのか。
ゼシカとバーバラの生存はこの時保証された。
同時に、ヘルバトラーや悪人に拉致されたという最悪の可能性も消えた。
しかしこんなものを残してフアナを置いて行く理由とはいったい何なのか。
期待と不安混じりに、フアナはその紙を手に取る。

64110の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:00:47 ID:/n5HYbQo0
『ごめん
 バーバラがどこか行った
 追いかける』

「これは……シンプルな文面からも、急いでることが滲み出てますねえ」

カマエルの言葉に二人も同意する。
文字はいかにも走り書きといった感じで雑で、大きさも統一が取れてない。
最低限の情報だけ書かれたメモは逆に不安を煽ることとなる。
どこかへ行ったとはどういうことなのか。

「目的地も告げず、ゼシカの同行も許さずに一人でってことみたいだね」
「はい。 けれどどうして……」
「ねえフアナ、バーバラって子は誰にも相談せずに突っ走るような性格だった?」
「いいえ。 私の目には元気な女の子という風にしか見えませんでした」

フアナの言を信じるなら、少なくとも正常な状態で下された判断ではないということか。
だとしたらそれは内的な要因なのか、外的な要因なのか。
例えば仲間の死で自暴自棄になったのか、それとも誰かにおびき寄せられたのか。
どちらにせよ、危険な状態にあることは確かだ。

「とりあえず探しに行こうか」
「はい、任せて下さい。 探偵事務所でアルバイトしてたこともありますから、人を探すのは得意です」
「あ、そう。 じゃあお任せするよ」
「タンテイ……とは何でしょうかご主人様」
「しっ、フアナの邪魔はしないで」

フアナがまず最初にしたことは自生している木に近寄ることだった。
その木を隅々と見渡す。
注目してるのは枝。 葉っぱではなく枝だ。
丁度良い枝を見つけると、フアナはバギでその枝を斬り落とす。
斬ったのは最も高い部分に近い細めの枝。
それを二つほど用意する。

「ダウジングマスターの称号を持ってますからね。 探し人から埋設された水道管まで、何でも見つけてみせます」

L字に近い枝を両の手に一本ずつ軽く握る。
あとはこの簡易L字ロッドが反応する方へ行けばいいだけだ。
これはフアナが土木工事に携わる際に習得した技術だ。

「スイドウカン、とは一体何なのですか?」
「聞かない方がいいと思う。 僕はもう突っ込むのは止めた」

アスナ一行はフアナに対して、事の真相を確かめないのが暗黙の了解になっている。

64210の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:02:41 ID:/n5HYbQo0
クイッ

「ふむ」

クイックイッ

「こっちです」

クイックイックイッ

「むむむ、近いですよ」

クイックイックイックイッ

「ズバリ、この近くです!」

グイーン

「見つけました! サヴィオ、ここを掘ってください」
「ええ? だってここは……」
「いいですから、早く!」
「はぁ……僕、肉体労働得意じゃないのに」

フアナの指示した場所を掘り返すサヴィオ。
スコップもないので時間がかかりそうだ。
毒々しい色をした大地を素手で触りたくはない。
途中からそう考えたサヴィオは手に持ってるろうがぼうで掘る。

(これ、地表の柔らかい部分はまだしも、固い土に当たったらどうしよう。
 ていうかそもそもゼシカとバーバラを探してるのに、何で土を掘ってるんだろう)

そんなことを考えていたら、固い感触にぶつかった。
石か何かと勘違いしそうになるが違う。
これはまさかゼシカとバーバラの装飾品か。
まさかこんなところにいたとは。
ろうがぼうの使用を止め、サヴィオは再び手での作業に戻す。
地中に埋まってた何かが出土された瞬間、地面が光る。

「こ、これはっ!」
「まさか!
「徳川家の埋蔵金!?」

テテレテテレテー テテテテー♪

なんと! サヴィオは バレットハンマーを みつけた!
なんと! サヴィオは オーガシールドを みつけた!
なんと! サヴィオは ウェディングドレスを みつけた!
なんと! サヴィオは アルゴンリングを みつけた!

「って、ちが〜〜〜〜〜〜〜う!!

フアナはダウジングロッドを地面に叩きつけた。

64310の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:04:23 ID:/n5HYbQo0
「こ、こんなはずじゃあ……!」
「いや〜、おかしいと思ったんだよね。 場所が場所だし」

サヴィオがチラリとある方向を見る。
そこには痛めつけられたズーボーの遺体があった。
そんなところに埋まってるはずがないだろう、常識的に考えて。

「き、きっと感度が高すぎたんです! 今度はちゃんと対象を生物に絞りますから!!」
「いや、久しぶりにポンコツな部分を見れて安心したけどね僕は」
「優秀な私がこんな屈辱……」

苦笑交じりにサヴィオはフアナの背中を見守る。
たぶんフアナは余計な技能や資格を取得せずに、僧侶一本だけに専念したら歴史に名を残すレベルの偉人になったんだろう。
それくらい優秀なのがフアナという人間だが、サヴィオはあえて口にしない。
フアナは今のままの方がきっと生き生きとしてて、サヴィオも見てて楽しい。
それ以上にフアナ本人が性格的に、僧侶というたった一つの道に縛られることを由とはしないだろう。
そこがまたフアナという人間の魅力だ。
完璧な人間よりは、完璧でない人間の方が見てて楽しい。
冗談、戯言、酔狂、与太、大いに結構だ。

「ねえフアナ。 どうしようか」
「何をですか……? あっ」

ズーボーの遺体の埋葬。
それは当初の二人の目的になってた。
しかし、状況は変わった、
ゼシカとバーバラが行方不明で、ゼシカの方はフアナ宛てに書置きを残す余裕がある。
一方、バーバラの方は良くない精神状態にあると推察される。
ゼシカ一人でバーバラを捕捉し、ここに連れて帰ることはできるのか。
ここでズーボーの埋葬を行い、二人を追いかけるのは後回しにするか。
ゼシカとバーバラの捜索を優先し、ズーボーの遺体は野晒しにしたままか。
きっと、それはどちらも正しいし、正しくもないのだ。
あちらを立てればこちらが立たず。
二兎を追う者は一兎も得ず。

「サヴィオ、お願い」

フアナの意図を察したサヴィオが地面に爆裂呪文を打ち込む。
空いた穴に二人がかりでズーボーを運び、今度は腐敗を遅らせるためにズーボーの遺体の周囲をヒャダルコで包み込む。
最後に土をかけるのだけは手作業だ。
棺桶も作る余裕がない今、これが二人にできる精いっぱいの葬儀だ。

「この気候だと痛みも早いだろうし、気休め程度だけどね」
「いいんです。 きっとズーボーさんも分かってくれる」
「キンキンに冷やしておいたからね。 天国で火傷が癒えてくれるといいね」
「うん……」

簡易的な埋葬を行い、全力でゼシカ、バーバラの捜索に当たる。
それがフアナの下した決断だった。

(ありがとう、ズーボーさん)

今は前だけを歩いて行こう。
そう決めたフアナは祈りを終わらせると、再び木の枝を握りしめた。
大きなオーガの、優しいパラディン。
フアナはズーボーの存在をいつまでも忘れない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

64410の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:06:27 ID:/n5HYbQo0

「ところでフアナ、もしかしてあれはゼシカかバーバラが肉体改造に成功した姿なのかい?」
「何を言ってるんですかサヴィオ」
「な、なんとも凶悪そうなモンスターですね……」

フアナとサヴィオが新たに発見したのは、よりにもよってヘルバトラーだった。
といっても、未だ気付かれてはいない。
かの魔物は巨木に背中を預け、休憩中のようである。
よく見れば体中が血まみれ、体の部位はところどころ欠損しており、生きてる方が不思議な状態だ。
さすがにあの超破壊呪文を受けて五体無事とはいかなかったようだ。

「これはチャンスです」
「かも」

長い期間を共に過ごしてきた二人。
そこには熟年の夫婦にも似た、阿吽の呼吸が生まれていた。
先手必勝、先んずれば人を制す。
あの魔物が完全回復すれば、また誰かが死ぬような死闘が発生するは必至。
亡きズーボーの仇を討つため、この殺し合いを終息させるため、今度はこちらが仕掛ける番だ。

「行くよフアナ。 魔法力は?」
「はい、なんとか。 呪文はもちろん」
「ああ、あれで行く」
「カマエルはお二人の成功を祈っております!」

紡がれる詠唱。
高まる魔力。
これまでの思い。
その全てをこの一撃に託す。

「「荒ぶる聖風」」

そう、二人で同じ呪文を唱えれば。
相乗効果でその威力は何倍にも増す。

「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」

ダブルバギクロス。
その威力はバギムーチョにも勝るとも劣らぬ。
荒ぶる竜巻は狙いをヘルバトラーに定め、進路上のものすべてを切り刻む。

「ッ! 何だと!?」

ようやくヘルバトラーが気付くが、遅い。
この怪我では思うように体が動かない。

「これで幕です。 ヘルバトラー!」

フアナが吠える。
ズーボーと、散っていった者たちの魂が安らぐことを祈って。

「貴様は!」

呪文を放った相手を確認するのと、バギクロスで全身を切り刻まれる。
ヘルバトラーはその二つを同時に味わった。
地面に伏したヘルバトラーの顔が屈辱で歪む。

「糞、くっそおおおおおおおおおおおお!!
 俺様が、この俺様がああああああああああ!」

64510の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:07:21 ID:/n5HYbQo0
まだ足りない。
人を殺し足りない。
恐怖の表情を見れてない。
戦闘の喜びを噛みしめ切れてない。
この力でもっともっと楽しみたいというのに、人間風情が何故邪魔をする。
ああ、ダメだ。
命が消えていく。
もっと血を、臓物を、悲鳴を寄越せ。
まだ死にたくない。

死 に た く な い!





                        何をしている





ヘルバトラーの命がまさに風前の灯火となった瞬間、神の名を僭称する悪逆の神官が囁いた。
エビルプリーストだ。
ヘルバトラーは藁にもすがる思いでその声に全力で耳を傾ける。





                  何のために貴様に10の世界すべての可能性を与えたと思っている
                  いや、つい最近新たな可能性が加わったのだが、まあいい





失望の声だけを浴びせに来るような男ではない。
この男がこうやって声をかけているということは、何らかの救済が見込めるはず。
それを期待するヘルバトラー。
せかいじゅのしずくや扱いやすい大剣を渡したりと、ジョーカーの中でも相性の良い道具を優遇されていた。
それは偏に、ヘルバトラーこそが最も戦果を期待できる存在だったからだ。

裏切りの恐れのあるアンドレアル。
知能が残念なギガデーモン。
所詮は元人間のバルザック。
弱肉強食の掟に忠実過ぎて、参加者の僕になってしまったキングレオ。

64610の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:08:57 ID:/n5HYbQo0
予見していたことだが、ヘルバトラーのみがエビルプリーストの任務に忠実なのだ。
ギガデーモンは支給していたインテリハットさえ装備すればもっと死人が出ただろうが、結果は街一つを滅ぼした程度。
純粋な魔物で知能も戦闘能力も高い、ピサロへの忠誠も薄く、己が欲求さえ満たせればそれで良い。
ヘルバトラー以上にジョーカーとしての適任はいない。





                  思い出すがいい
                  貴様の本当の力を
                  その魔瘴は何のためにあるのかをな
                  




魔瘴。
それはズーボーたちと戦った時に使用したような、単なる飛び道具ではない。
これは人を死に至らしめ、魔物の力を増幅させる気体。
そして10の世界すべての力を得たヘルバトラーが、こんなところで這いつくばっていていいはずがない。

(なるほど、そういうことか……)

潮の香りのする洞穴で、ドワーフの男と戦った記憶を思い出す。
あの時の自分も、こうして敗北してしまった。
だが、それで終わりはしなかった。
今までの自分の馬鹿さ加減に嗤ってしまう。
自分はこんなにも力の使い方を間違えていたのだ。

(感謝するぞ、エビルプリーストよ)

死んだかどうか確認するために近寄るフアナとサヴィオ。
ヘルバトラーにとってもはや二人は死を告げる死神ではなく、これから狩る絶好の獲物。

「っ! まだ生きて!」

立ち上がるヘルバトラーを見て、しかしサヴィオは動じない。
どう見ても死にかけ。
ここからの逆転の目など有り得ない。
そうだ、ついさっきまではそうだった。

「ククク、貴様らに見せてやろう」

魔瘴をその腕に集めるヘルバトラー。
いつの間にか、周囲には魔の霧が立ち込めていた。

「サヴィオ、あれを吸ったらダメ!」

フアナとサヴィオは後退を始めた、
わざわざ接近しなくても呪文がある。
それでなくても肉弾戦は得意ではない。

「魔瘴の、本当の使い方をなぁ!」

その魔瘴を、自分の体へと向けて開放する。
魔の霧がヘルバトラーを包む。


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