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DQBR一時投下スレ

301 ◆YfeB5W12m6:2013/05/22(水) 21:11:13 ID:???0
以上で投下終了です。
問題なければ投下の方を宜しくお願い致します

302 ◆1WfF0JiNew:2013/05/22(水) 21:24:27 ID:???0
投下お疲れ様です。魔宮については後ほど感想を。
意見については大体前で言われて、結論づいてるので感想と追記だけを。

痺れるなあ、途中の状態表ぶち抜き。
それまで積み重ねてきたものがすべて壊れるカタルシスはやっぱりすごい。
たった一つの呪文で絶望も希望もごった煮ぶち壊しはインパクトがありますね。
それでも、希望を絶やさずにビアンカを護ったアリーナ達の強さが突き刺さりました。

今回は破棄という形になりましたが、自分としては楽しく読ませて頂きました。
色々とルールの抵触がありましたが、氏の投下を読んで面白いと思った読者兼書き手もいるということをお忘れなきよう。

303ただ一匹の名無しだ:2013/05/22(水) 22:22:42 ID:???O
さるった…すみません
どなたか手が空いたら代理してくれると助かります

304 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:02:16 ID:???0
これより修正を投下します。
話の中身は別物になってしまいましたが、前話「瓦礫の詩人達」の修正なので一応此方に投下します。
なお、話の切れ目として2話に斬った方が良いと判断したため、2話連続投下とさせていただきます。
一予約に一話を守れず、申し訳ありませんでした。

305無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:03:20 ID:???0
魔術の都、カルベローナ。
その強大な力を持って、繁栄していた都は、魔王の手により滅び去った。
現にはとっくのとうに消え去っている、幻。

その都が、存在することを許されている世界があった。
殆どの人々は知らない、だが誰も知らない訳ではない。
知っている人間は、その世界の事をこう呼んでいた。

幻の大地、またの名を「夢」と。

では、その大地の住人は、いったい何者なのか。
現の人々の夢や願望が彼らを生み出したというのならば。
彼らもまた、夢の一部なのではないだろうか。

きっと、死ぬことなどないだろうと思っていたから誰も知ることはなかった。
夢の世界の住人が、"死"んだらどうなるか。
その真実を、あの世界の誰も知ることはなかった。

だって、彼らは夢から生み出された存在なのだから。

死ぬことなど、ない。

……ここは狭間の世界。
夢と現実の境界、人の悪しき感情が蠢く場所。
時にそれは牙を剥き、「夢」や「幻」として襲いかかる。

ある少女は恋人の姿を。
ある魔王は恋人の姿を。
ある魔王は自分の姿を。

映し出された虚像に、翻弄されることしかできない。
それは、この世界が生み出した夢。
本人の願望、希望が形となり惑わせていた。

そして、今。
一人の魔女が、生き絶えた。
幻の世界の住人であり、本当は既にいない存在が、死んだ。

幻の世界の住人が死んだら、どうなるのか?

知らない、それは誰も知らない。
ただ、分かっているのは。
怪鳥が飛び去った後、少女が横たわっていたはずの場所には。

何もなかった、ということ。

306無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:03:44 ID:???0
 


ゆっくりと起きあがる。
少し固めのベッド、自分の体温で暖まっているシーツ。
大半の人間が屈してしまう眠気の魔力に、リッカはいともたやすく勝利していく。
寝ぼけ眼をこすり、あたりを見渡す。
すぐ近くには、側にいてくれた少女の姿。
だが、リッカはその姿に疑問を覚える。
と、いうのは何も髪が金髪になっているとか、そういう話ではない。
目を覚ますつい先ほどまで、"誰もいなかったような気がする"のに、目の前には少女、バーバラが居るからだ。
目を覚ました今でも、正直言うと人間の気配はしない。
でも、目の前には確かにバーバラの姿があるのだ。
「おはよ」
「おはようございます」
微笑みかけながら挨拶をするバーバラに、リッカは頷いて応じていく。
胸の中の違和感は、まだつっかえたままだ。
「あの……守ってくれて、ありがとうございました」
だが、そんな違和感よりも伝えるべきことがある。
自分が眠っている間、自分のことを守ってくれた彼女へ感謝を告げなくてはいけない。
自分も疲れているのに、それを押して自分の事を見てくれていた。
バーバラが居なければリッカは、とっくのとうに死んでいたかもしれないのだ。
ゆっくりと頭を下げ、バーバラへ感謝の意を示す。
「"守る"かぁ……」
その言葉を受け、バーバラはやけに深刻な顔をしながらも、苦く笑う。
何かが食い違っているかのような、そんな反応。
リッカは、バーバラのリアクションがいまいち理解できずにいた。
「結果的には、そうなっちゃったのかな」
そこでバーバラは笑うことをやめ、リッカの顔をまじまじと見つめる。
「あのねリッカ、あたし実はね……貴方を、殺そうとしてたんだ。
 殺す……ううん、違う。"救おう"としてた」
つらつらと語り出されたのは、衝撃的な告白。
共に過ごしていた少女は、自分の命を狙っていたと言う。
「……"救う"?」
どうしても引っかかった一言を、リッカは問い返す。
「うん」
リッカの問いに特に悪びれる事なく答え、そのまま真剣な表情で言葉を続ける。
「これは魔王の作った悪夢の続き。
 人々はもがき、憎み、苦しみ、絶望することしかできない」
この殺し合い開いた魔王、デスタムーア。
バーバラはかつて、その魔王と戦ったと聞いた。
だが、魔王は蘇った。
以前よりも強大な力を手に、人間を苦しめようとしている。
「だからあたしが、夢の住人である大魔女バーバラが。
 みんなを悪夢から救ってあげなきゃ、いけなかったの。
 みんなが苦しむ前に、絶望に打ちひしがれる前に、この手で……」
夢を描かせ、その夢を叶え、生まれた絶望を吸い取り、狭間へ押し込めていく。
だから、この場にいる人間が深い絶望を覚える前に。
人間として、醜悪な部分を見せてしまう前に。
みんなを、"救おう"と思っていた。
「ま、叶わなかったんだけど、ね」
そこでバーバラは、いたずらっぽく笑う。
それが叶わなかった、と言うことはどういう事か。
リッカが先ほどから感じている妙な違和感も、今の一言で少し分かった気がする。
「……私は夢の世界の住人、同時に誰かが思い描いた夢でしかない。
 そしてこの世界は夢と現の狭間の世界、夢は形を持ち、現から生み出され、人を惑わせていく。
 だから……私が夢となって、誰かの夢へ託したかった。
 いわば、無念の塊って感じかな」
フフッ、と嘲るように笑ってから、バーバラはリッカへと向き直る。
リッカは、少し前から俯いたままだ。

307無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:14 ID:???0
「……悔しいよ」
ぽつりと、俯いたままのリッカへとこぼす。
それが引き金になったのか、自嘲的な笑いから一転、怒りに打ち震えるような声になっていく。
「でも! 何度倒しても蘇ってくる! 悪夢はいつまでだって続く!
 今回の殺し合いをどうにかしたとしても! またアイツを倒しても!
 また悪夢は続く! みんなは絶望する! 夢を良いように弄ばれる!!」
希望を手に、道を切り開いても。
また顔を出すのは絶望だ。
"たまご"は、何度でもそれを運んでくる。
終わらない終わりを、輪廻する悲劇を。
「だから、私が……みんなが絶望する前に、救わなきゃ、いけなかったのに……!!」
だから、悲しみの連鎖に巻き込まれる前に、その命を救わねばいけなかった。
けれどももう、それは叶わない。
死んでしまっては、元も子も無い。
バーバラは、まるで子供のように泣きじゃくる。
「バーバラさん」
そんなバーバラに、リッカが声をかける。
流れないはずの涙をぼろぼろと流しながら、バーバラは上を向く。

ぱしっ。

「どうして……」
軽い音と共に、バーバラの頬が叩かれた。
「どうして誰かを頼らなかったんですか!!」
ここは夢の世界、リッカの眠りの中。
「人は弱いです、一人じゃ何もできない」
分かっているのに、どんな攻撃よりも痛い。
「でも、人が人同士で支えあえば、それは大きな力になるんです」
そして何より、リッカの口から出てくる言葉たちが。
「バーバラさんも、そうやって魔王に打ち勝ったんでしょう?」
今までの人生の、何よりも痛い。
「どれだけ絶望が来ても、前が向けるなら。
 そして共に前を向いてくれる人がいれば、立ち向かっていける、私はそう思ってます」
知っていた、分かっていた、けれど頼ろうとしなかった。
「バーバラさんにも居たんじゃないですか? 一緒に前を向いてくれる人が、立派な仲間が!!」
幻を、"夢"を正さなきゃいけないのは自分だから。
そんな思いこみを抱え、一人でどうにかしようとしていたから。
「魔王が倒せるほど、何度絶望が来たって立ち向かえる、そんな素晴らしい仲間がいたんじゃないですか!?」
答えは簡単だった、けれど気づかない振りをしていた。
そして、今気がついても、それは遅いこと。
「バーバラさん」
涙をぼろぼろと流すバーバラに、リッカは言葉を続ける。
「真っ先に"救われるべき"は、貴方です」
放たれる言葉に、再びバーバラの心は縫い止められる。
「それも殺す殺さないじゃない、死ぬ死なない、絶望するしないじゃない。
 貴方が気に病む事なんて何もない、憎むべきは魔王、それだけでいいんです」
絶望は続く、終わらない悪夢が繰り返される。
だから、殺して終わらせるしか、救うしかなかった。
けれど、リッカはそうじゃないと言う。
「だから、もう、無理しないでください」
真っ直ぐとバーバラの目を見て。
「人間は、前を向けますから」
そして、その先の未来を見て、彼女は魔女に言った。

308無限大な夢の後で ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:35 ID:???0
「そっ……か」
全てを察し、そして気づいた。
見えないフリをしていただけだと言うことに、気づいてしまった。
遅すぎる後悔が、バーバラを襲う。
「……リッカ、お願い」
もう、自分には何もできない。
肉体はとうに朽ち、夢も斬り裂かれた。
だけど、だけど。
「みんなを」
彼女なら絶望を、永遠の闇を切り開ける。
そう、確信した。
「助けて!!!」
最後の叫びと共に、光が満ちていく。



ぱちり。
目が覚める。
夢の中でも夢を見ていた、と言うことなのだろうか。
腕の痛みをこらえながら、リッカは器用に起きあがる。
「バーバラさん……?」
先ほど、といっても長い間眠っていたからそう近くはないが。
確かに隣に居たはずの人間はいない。
だが、リッカは分かっている。
もう、バーバラはいないのだと。
さっきまで見ていた夢が、それを教えてくれたから。
「……行かなきゃ」
自ずと、足が動き出す。
絶望しない、誰かと共に前を向く。
夢の中でそう誓ったから、人間はそれができると言ったから。

彼女は、前を向く。

【A-4/ろうごくのまち・居住区/夜中】
【リッカ@DQ9】
[状態]:右腕に重傷(矢が刺さったまま)
[装備]:なし
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:絶望しない、前を向く。
[備考]:寝ていたため、放送があったことを知りません。

309 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:04:55 ID:???0
ここで一話とさせていただきます。
続けて、残りのパートを投下いたします。

310 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:05:33 ID:???0
男は、純粋に恐怖していた。
血、怒り、殺人、躊躇いの無い眼差し、戦い。
今まで目にすることなど殆ど無かったものが、平然と行われている世界。
そして死にいく人間達の姿を見て、ふと頭に過ぎる。
次は、自分なのではないか?
「うわ、わあああああああああ!!!」
それを考えたとき、もう男に理性など残っているわけも無かった。
しばらく傍観していた場所から離れ、町から離れ、ただ只管に走り続ける。
どこが禁止エリアだったか? どこに向かうのが安全なのか? そもそもどこから来たのか?
そんなことを考える余裕がないほどには、男の精神は削り取られていた。



だってあんな惨劇を目にしたのなら、まともで居られるわけが無いのだ。



「ぐぬ……」
剣を片手に、ジャミラスは呻く。
それも無理はない、たった一人で複数人を相手にしているのだから。
目の前には強大な腕力を持つ少女、そしてたなびくマントが特徴的なさまよう鎧。
前衛の二人のコンビネーションを裁くだけでも一苦労なのだ。
しかもご丁寧に、腕力倍加呪文までかけられているから質が悪い。
さらに背後からの援護は強力呪文、極めつけに背中には戦えない荷物。
自分の思い通りに進まない現実に、ジャミラスは苛立っていた。
「どおりゃあ〜っ!!」
勢いよく地面を蹴り、両足を揃えて繰り出していく。
まるで弾丸のような一撃に、ジャミラスの体が大きく揺らめいてしまう。
その隙を逃さず、サイモンが一文字を加えていく。
致命傷ではないものの、ジャミラスの体力をしっかりと奪い去っていく。
「いけるよ、サイモン!」
即席のはずのコンビネーションを、瞬時に合わせながら次々に攻撃を仕掛けていく。
アリーナの類希なる戦闘センス、そして歩けば歩くほど経験を積むサイモンという存在。
この二人だから、できる芸当。

311"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:06 ID:???0

「おっほっほ、こりゃワシらの出番はなさそうじゃなァ〜」
まさに"ガンガンいこうぜ"と言って良いほどの進撃を見せる二人に、男魔法使いは舌を巻く。
同時に、前衛の二人に恐怖すら覚えていた。
在りし日のリンリンとカーラ、とまでは行かないにしてもそれに近い力はある。
今は仲間として後ろから援護している立場だが、自分が敵という立場に立ったとき。
ハッキリ言って勝算は無いに等しい。
隣で傷を癒しながら前衛を見つめる二人はともかく、前衛の二人は男魔法使いにとって一番やっかいな存在。
できるだけあの二人が傷を負い、かつ魔物も倒せるような展開に運ぶ必要がある。
老魔は呪を放ちながら、自分にとって都合のいい展開へ運ぶために、一挙一動を考える。
その時、背後に何かしらの気配を感じ、急いで振り向いていく。
「チッ、新手か!?」
振り向いた先にいたのは、傷ついたドラゴン。
血の臭いにおびき寄せられ、獲物を狙いに来たか。
放っておいてもいいのだが、この位置だと真っ先に狙われるのは自分だ。
老魔は躊躇い無く、上級の呪文を練り上げていく。
竜は依然としてこちらに向かって走ってくる。
その足は決して止まることはない。
だから、初めの内に迎え打つ。
「……んあっ?」
だが、練り上げた呪文が形になることは無かった。
何故ならまるで自分には興味がないと言わんばかりに、ドラゴンは自分の隣を通り抜けていったからだ。
そしてドラゴンはビアンカのそばに近寄ると、まるで彼女を守るかのように前に立ちはだかり始めたのだ。
「……リュカの感じがする」
リュカ、その名をビアンカが呟いたと同時にドラゴンも頷いたような気がした。
しかしビアンカの予測が当たっているとすれば、肝心のマスターはどこにいるというのか。
ドラゴンが来た入り口を見つめても、特に人の気配はしない。
「リュカは?」
言葉が通じるかどうかはわからないが、現れたドラゴンに問いかける。
すると、ドラゴンが少しだけ悲しそうな目をした気がした。
たまたまか、それとも意志が伝わったのか、それはわからない。
「……そう、でも大丈夫よ」
だが、ドラゴンが言わんとすることは分かる。
リュカは仲間を顎で使い、一人立ち向かわせるようなことをする男ではない。
ドラゴンがリュカの仲間という確証は「リュカの感じがする」というざっくばらんなものだが、それでもリュカの仲間だと思っていいだろう。
そして、何かしらの思惑があってドラゴンだけがここに来た。
そういうことなのだと、ビアンカは何となく感じる。
「ふふ、ありがと」
果敢にも前に立ちはだかろうとするドラゴンに感謝を述べ、ビアンカは優しく笑う。
「ミネアさん、彼の治療をお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
そして傷だらけの彼の体を、二人の癒しの光が包み込んでいった。

「よくわかんねぇけど、面倒な事になったな……」
その光景を遠巻きに見つめ、前衛の補助をしながら舌打ちしていたのは老魔だ。
魔物が人間を守る、なんて話は長い人生の中で一度も聞いたことはない。
だが、目の前ではさもそれが当然かのように行われている。
前衛には強固な攻撃陣、そしてひ弱だった光栄に魔物という大きな守り。
ここまで揃ってから崩すのは、流石に厳しいだろう。
かといって、無理に裏切れば自分の身を追いつめることになる。
協力しつつ、かつこの集団を崩す。
老魔は、そんな最善の一手を考え続けていた。

312"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:40 ID:???0
 


「そろそろ観念したらどう?」
強烈な蹴りをジャミラスに叩き込んだ後、足をトントンと整えながらアリーナは言う。
「ほざけ、この程度で圧倒したつもりでいるのならば、甘すぎるな」
「分かってたけど退く気ゼロ、か」
打撃に加え斬撃を加えても、まだまだジャミラスは立ち上がってくる。
サイモンとアリーナが手を抜いていたわけではない、ジャミラスがダメージを軽減する術をうまく駆使しているからだ。
しかし、それでダメージが無くなったわけではない。
じわじわと蓄積されているそれは、確実にジャミラスの体を蝕んでいた。
事実、今ジャミラスは少し荒目に呼吸をしている。
ダメージと疲労が体に溜まっている証拠だ。
「ふん……やはり人間の作りし武器などに頼っているのが間違いだったか」
ふと、ジャミラスはその一言と共に剣を投げ捨てる。
「やはり、この私の爪が一番良い。肉を裂くのも、潰すのも、この私の手ならば自由自在だからな」
剣で攻撃を防ぐという事を捨て、己の拳を武器にするという決意。
本気に変わった眼差しを受け、アリーナはグッと気を引き締める。
「サイモン、畳みかけるよ」
「御意」
仲間へ短く伝令し、ジャミラスの次の一撃に備えていく。
同時に、ジャミラスが羽を羽ばたかせながらアリーナ達へと近づいてい来る。
軌道は一直線、速度は上々。
だが、かわせない攻撃ではない。
アリーナとサイモンは、ほぼ同時に真逆の方へと飛び跳ねていく。
地面から空へ抉りとるようなジャミラスの拳は、空を切った。
怪しい、とアリーナが感づいたときにはほとんど手遅れだった。
黄金の螺旋を纏い、空へと上っていくジャミラス。
その腕に巨大な閃光を手にし、一直線に獲物へと向かう。
対象は、アリーナ。
飛び跳ねた際の着地の時間、その一瞬を突かれる。
慌てて防御の構えを取るアリーナ、構うことなく突っ切るジャミラス、駆け出すサイモン。
だが、間に合わない。
拳は無情にも振りおろされる。
「おいおい、ワシを忘れんとってくれ」
のほほん、とした気の抜けた声。
その声と共に、ジャミラスの目の前に一個の巨大火球が現れる。
このまま進めば、直撃する。
ジャミラスはチッ、と舌打ちをしながら手に貯めた閃光を火球へとぶつける。
一瞬のスパークと共に、その両者が弾け飛んでいく。
「危なかった……ありがと、おじいちゃん」
「ほほほ、こう見えてもまだ若いんじゃ」
少し遠くで笑っている老魔に、アリーナは感謝の言葉を述べていく。
あと少し遅ければ、どうなっていたかは分からない。
もう一度気を引き締め、ジャミラスへと向き合う。
「チッ、雑魚共が……」
「そう言ってられるのも今のうちだよ」
苛立ちを表に出すジャミラスに対し、アリーナは静かに告げていく。
攻め手が二人、援護の呪文もある。
たった一人のジャミラスに勝ち目などない。
そう、思っていた。
「サイモン、来るよ!!」
再び低空飛行を始めたジャミラスに対し、攻撃の構えを作っていく。
今度は避けるのではなく、空へと舞う前に叩きのめす。
相手の速度を利用して、己の拳の力を上げようと言うのだ。
すぅっ、と息を吸い、その時に備える。
「はああっ!!」
そして、最高速に乗ったジャミラスの体へ。
アリーナは真っ直ぐに拳を伸ばし、サイモンは渾身の一閃を放った。

313"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:06:54 ID:???0
 


それは、ジャミラスの体を傷つけることはなかった。

すんでのところで旋回したジャミラス。

空を切る剣と拳。

巨体が空へと舞った時、その先に見えたのは。

「邪魔だって言ってるのよ」

紫伝を纏いし剣を構えた、一人の少女だった。


.

314"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:12 ID:???0
人間の武器は使えない。
ジャミラスのその言葉は本心だ。
だが、剣を投げ捨てたのはそれだけではない。
人間の作りし剣が手に馴染まぬと言うのならば。
手に馴染む人間が扱えばいいだけのこと。
そう、唯一ジャミラスに力を貸す人間、リアへと渡せば良いだけのことだ。
余裕を持った言葉はいわばブラフ。
意識を自分だけに向けてもらう為の都合のいい要素でしかない。
本来の目的はリアに武器を渡すことだった。
それを体よく理解してくれたのか、リアはジャミラスの思い通りに体を動かしてくれた。
そして彼女は曲がりなりにもロトの末裔。
その小さな体に微弱ながら魔力を蓄えている。
魔力があれば、この巻物を読み解くことが出来る。
ジャミラスの勘が当たっていれば、一回はこの巻物の力を引き出せる。
そして、ジャミラスの読み通りリアは巻物の力を引き出した。
非力な少女が放つとはいえ、古の奥義の内の一つ。
歴戦の戦士と言えど、無傷でいられる訳など、ない。



爆発音と共に舞い、その場にいたであろう全ての人間の視界を奪った砂塵が、ゆっくりと晴れていく。
後衛に居た者はなんとか被害を免れたが、前衛はどうなっているか。
避ける暇など無かった、考えるまでもない。
しかし砂塵が晴れ、後衛の人間の目に真っ先に映ったのは。
"なぜか倒れ伏している"サイモンだった。

防御体勢はとれなかった、だが動けなかったわけではない。
剣を振りかぶっていたサイモンに対し、アリーナは即座に力を極限まで絞り。
必要最低限の力でサイモンを蹴り飛ばした。
防御をとれなかったサイモンは、アリーナの蹴りをもろに食らい吹き飛んだ。
だが、ある程度加減された蹴りはそこまで深手を与えたわけではない。
現に、サイモンは今ゆっくりと起きあがろうとしている。

では、蹴り飛ばした張本人はどうなったのか?

砂塵が、全て晴れていく。

315"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:31 ID:???0
 
煙が晴れた先、無情にも飛び込んできた光景。
真一文字に胴を斬り裂かれ、衣服を深紅に染めながらも立ちはだかる。
サントハイム王女、アリーナの姿。
普通なら、死んでいてもおかしくはない傷。
それでも立っていられるのは、何故か。
その時、ゴフッという音と共に大きな血の固まりを吐き出す。
「うわ……流石、に……ヤバ、いかな」
ふらつく体に対し、必死でバランスをとり、地面に立つ。
その目は、剣を持つ少女を見据えていた。
「アリーナ!!」
仲間たちの叫びが、空に響く。
「おっと、お前たちの相手はこの俺だ」
キィン、と剣の交差する音が聞こえる。
剣を持ったジャミラスが、サイモンの前に立ちはだかっていた。
「く……」
ジャミラスの追撃を避ける為に、サイモンは大きく飛び退く。
リアに戦いの心得がなかったからか、それとも非力な少女だったからか。
後衛陣にはさほど被害がなかったようで、老魔をはじめ、ビアンカたちにはそこまで目立った傷はなかった。
だが、攻めの要とも言えるアリーナは今いない。
この状況で、どう動けばジャミラスを倒せるだろうか。
「……頃合いか」
サイモンがそんな考えを巡らせていた時、老魔が言う。
何が頃合いだと言うのか、サイモンにはわからない。
まぁ、わからなくても答えは向こうからやってきたのだが。
間を置かず、一発の火球がサイモンを包み込んだ。
その場にいる誰もが息を飲み、老魔はそのまま動く。
立て続けに閃光があたりを包み込み、爆発音が鳴り響く。
竜と二人の女が煙で見えなくなったと同時に、老魔はジャミラスの前へと進む。
「なあ……」
ジャミラスは、老魔を警戒しながら二の句を待つ。
「手を、組もうぜ」
飛び出したのは、予想もしていなかった一言。

316"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:07:46 ID:???0
 


「邪魔だって言ってるでしょ」
二度目の爆発が近くで起き、砂塵が再び舞い上がる。
その中で、リアは冷たい眼差しでアリーナを見つめていた。
いつ死んでもおかしくはない、だというのにアリーナは立ち続けている。
「……悪いけど、ここは譲れないかな」
そこまで彼女をつき動かすのは、何か。
一本の柱、それが彼女の心にあるからか。
突如、ゆらりとアリーナの姿が消える。
死にかけが倒れただけ、そう思っていた。
だが、次の瞬間にはリアの視界が暗く染まる。
それとほぼ同時、何かに抱きしめられる感覚がリアを襲う。
「……寂しかったんだよね」
あと一歩で死ぬかもしれない、いやもう半分以上死んでいるはず。
そんな体のアリーナが、どこから振り絞ったのかわからない力を、全て移動に使った。
瞬時にリアの正面に移動し、傷だらけの体で抱きしめる。
突然の事態に、リアも反応することが出来ない。
「さっきの話、聞いてて思ったんだよね」
小さなリアの体をやさしく抱きしめながら、不自然なほど流暢に言葉を滑らせていく。
「無理ないわよね、誰も彼も話を聞いてくれないし、自分達の気持ちなんて考えてくれない。
 そんな世界にいたら、私だってどうかしちゃうと思う」
リアは動かない、動けない。
そんなに力は掛かっていないはずなのに、なぜか体が動かない。
そんな彼女に、アリーナは言葉を続けていく。
「だから、さ。私はあなたの"友達"になりたいの」
「ッ!!」
ようやく、アリーナの体を振り払い抜け出していく。
真っ赤に染まり始めていたドレスに、真新しい血がべっとりとついている。
「ふざけないで!!」
弾き飛ばされたアリーナは、それでも体勢を崩すことはなく。
ブレることなく真っ直ぐ、リアを見つめ続けている。
「こんなになるまで辛いことを抱えてきたんだね。
 お兄ちゃんにしか話せなかったんだね。
 誰も彼もあなたを勝手に評価して、遠ざかっていたんだね」
リアの過去は一般人が想像する何倍も壮絶なもの。
小さな体には、無数の心の傷が残されている。
では、この小さな体を傷だらけにしたのは、誰なのか?
言うまでもない、リアの世界の人間達だ。
もし誰か、誰かがそうでなければ。
彼女の心の寄り所が、兄だけでなければ。
こうはならなかったのかも、しれない。
「私は、そうじゃない。
 私は、あなたの話を、あなたの言葉が聞きたい。
 私は、ありのままのあなたを見たい」
でも、アリーナは今からでも遅くはないと思っている。
彼女が暴れているのは、誰にも話を聞いてもらえないから。
誰も話を聞いてくれないのだから、話を聞いてくれる兄と、永遠に共にいようとしている。
だったら、誰かが話を聞いてやればいい。
必要なのは同情でも、哀れみでもなく。
話を聞いてあげる事、それがあれば今からでも戻れる。
そう、信じている。
「だから、お願い」
アリーナは、すっと手を差しのべる。
「友達に、なってくれないかな」
誰かと話す、そんなことを知らずに育ってしまった少女へ。

317"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:02 ID:???0
 


差し伸べたその手は、弾かれる。



「……ふざけないでって言ってるでしょ」
リアは、怒っていた。
ほんの少しの話だけで、理解したつもりになっているアリーナに、怒りを露わにしていた。
今すぐ殺してやりたい、心の底からそう思うほどに。
「……そっか、突然誰かに優しくされたら、どうしたらいいかわかんないよね」
だが、アリーナは申し訳なさそうに笑う。
そうだ、リアは今まで"話を聞いてくれる人"を知らないのだから。
突然そんな人間が現れたとしても、対応できるわけがない。
「大丈夫、"あなた"をしっかり見てくれる友達は、一杯いる」
故に、アリーナは言葉を残す。
願わくば、少女が元の道に戻れるように。
叶うなら、少女に無二の友ができるように。
「だから、怖がらないでね」
そして何より、自分の気持ちを伝えるために。
言葉を、しっかりと紡ぎ、残す。
「あー、もう。もっ、とお話、したい、のになぁ」
時間切れ、それは誰よりも自分自身がわかる事。
再び大きな血の塊を吐き、体を大きくフラつかせる。
だが、アリーナは倒れない。
倒れたら、リアの話を聞いてやれなくなるから。
崩れ落ちそうになる足を振るわせ、渾身の力を込めて地面へ突き刺していく。
少女の目をしっかりと立って、見据える為に。
そして、そのまま。
目をしっかりと見開いたまま、長い長い眠りに、ついた。



「……何よ」
自分に特に危害を加えるでもなく、ただ言葉を吐き捨てて彼女は死んだ。
放っておくだけでもどの道、助からない命。
それが消えていった、それだけなのに。
「偽善者のくせに……」
どうして、心は晴れないのか。
どうして、心に何かが残っているのか。
この感覚、彼女ははっきりと覚えている。
勇者ロトを、この手で殺めたときと、全く同じ感覚。
動じる必要はない、何も気にすることはないのに。
何かがズシリと、心に残っていた。

後ろを振り向けば、煙が綺麗に晴れている。
その中央、まるで魔王のように君臨する一匹の魔物。
彼女は今の出来事を忘れようと、魔物へと歩み寄っていく。

決めきったはずの心には、綻びが生まれようとしていた。

318"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:19 ID:???0
 


「……手を?」
「そうだよ」
思わず問い返したジャミラスに、老魔は間を置かずに返答する。
先ほどまで敵として牙を向いていたはずなのに、なぜ。
「まあ、細かいことは抜きにすると、俺も片っ端から人間をぶっ殺そうと思ってるクチだ」
ヒゲをいじりながら、老魔は含んだ笑いと共に言う。
「……なぜ始めからそうしなかった」
「ハッ、魔物は揃いも揃って脳味噌がマヌケか?
 呪文が主体の俺が、あんな脳味噌まで筋肉な怪物少女に、真っ向から喧嘩ふっかけられっかよ」
ジャミラスの問いに対し、嘲るような笑いで答えていく。
思わず斬りつけそうになったが、グッと我慢をする。
「アリーナが死ぬまでその中に潜み、時が来れば内側から崩壊させる。
 だからそれまで待ってたって訳で、今がその時って事よ」
老魔は砕けた姿勢のまま、ジャミラスへとフランクに話しかける。
当のジャミラスは、まだ老魔の内心を探っている。
「では……貴様の誠意を見せろ」
「お安いご用さ」
ジャミラスの要求に対し、即座に返事をしながら老魔は動く。
振り向いた先には、一匹のドラゴンが老魔へと牙を剥こうとしていた。
だが、毒に蝕まれた体は上手く動かない。
よろり、と崩れた所を老魔は見逃さない。
老魔の手から放たれた氷刃が、ドラゴンの喉を貫く。
だが、ドラゴンは止まらない。
目の前の悪へ、狩るべき存在へ向かっていく。
一本、二本、立て続けに氷刃が体に突き刺さる。
それでも、止まらない。
かの男と約束したから、絶対に守ると約束したから。
目の前の男という悪から、彼女を守るために。
一歩、また一歩進む。
全身に突き刺さった氷刃から血が流れでようと、毒が体を動かすことを阻もうとも。
ドラゴンはひたすら前へと進む。
一歩、また一歩、また一歩。
そして、ようやく男を射程に納める。
目の前の男、駆逐するべき悪。
それに向かって、躊躇うことなく爪を降り下ろしていく。

319"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:08:37 ID:???0
 


「ふぅ、危なかったぜ……」
鋭利な爪を目の前にしながら、男は笑う。
氷刃を打ち込めど打ち込めど前へ進もうとするドラゴンに、初めは焦っていた。
どれだけ打撃を加えようと立ち止まる気配がなかったため、仕方なく手に持っていた杖の力を発揮させた。
砂柱の杖、どこからともなく砂の柱を発生させる能力を持つ未知の杖。
振りかざしたとほぼ同時に、自分の背丈の二倍ほどの砂柱が現れ、二人の間を引き裂いた。
そして、ドラゴンはその砂柱を引き裂き、そのまま息絶えていったのだ。
「さて、これで信用してもらえっかな?」
くるり、と振り向いて笑う。
呪文を打ち込んでいるときの容赦の無さ、そしてジャミラスの信用を勝ち得ようとしている姿勢。
ちゃっかりドラゴンの所持していた道具、装備を剥いでいる事実。
「なるほど、な」
否が応でも納得せざるを得ない。
差し出された爪を受け取り、事態が好転している事実に笑う。
「ねぇ、終わった?」
それと同時に、リアがジャミラスの元へと駆け寄ってくる。
より赤くドレスを染めた少女の手には、竜王の名を関する爪。
「……事情が変わった、だがもうすぐ終わる」
全てを察しながら、ジャミラスはニタリと笑い、リアに言う。
当のリアはジャミラスのその言葉には興味は無く、寧ろ隣の人間に不快感を示していた。
「よう嬢ちゃん、さっきは済まなかったな」
老魔……そう、先ほどリアの行く先を阻んだ男。
その男が何故この場にいるのかが、理解できなかった。
「これからは仲間だ、よろしくな」
先ほど奪ったナイフを、にこやかに差し出す老魔。
何を考えているのか、笑ったまま動かないジャミラス。
ぐるりと辺りを見渡し、状況を把握していく。
「……邪魔だけはしないでね」
「肝に銘じるぜ」
ぱしっ、と奪い取るようにナイフを受け取り、一睨みしてからジャミラスの元へと戻る。
こりゃ相当嫌われたなと思い、肩を竦めたとき、後ろで物音がした。
「あなた……なぜ……」
振り返ると、傷だらけになりながら自分を睨みつけている、先ほどまでの同行者の姿。
露出した褐色の肌には傷が増え、衣服は引き裂かれている。
……まあ、その要因は誰でもない、自分なのだが。
「全てを壊す、それだけよ」
短く、告げる。
息を呑むミネアを前に、老魔はちらと後ろを見る。
ニヤついているジャミラス、そして此方を意地でも見ようとしないリア。
「……なあ、助かりたいか?」
老魔はそれをチャンスと受け取り、ミネアに交渉を持ちかけていく。
「何を……」
「このままだと、オメーら全員あの鳥に喰われてオダブツだぜ?
 俺の言うことが聞ける、っていうなら助け舟を出してやっても構わねーが?」
老魔の言うとおり、このまま待っていれば間違いなくジャミラスに駆逐される。
サイモンと共に前衛を張ったとしても、勝てる見込みは薄い。
その要因は目の前の男であることだけは、確かなのだが。
悔しいが呪文の詠唱速度では勝ち目が無いし、攻め入る武器もない。
完全に、向こうのフィールド。
「……望みは?」
苦い表情をしながら、ミネアは老魔へと問う。
「まあ、待ってろ」
その返答を聞いてから、老魔はヘヘッと笑い、身を翻していく。
「なあ、ジャミラスよ」
剣を持ち、今にも襲い掛かろうとしていたジャミラスを止める。

320"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:09:12 ID:???0
「あの姉ちゃんは、どーーーーしても仲間を見逃して欲しいらしい。
 その為には何だってするって言ってるぜ?」
「なッ……!?」
「だろ?」
勝手に話を進めていく老魔に思わず声を上げてしまう。
確かに手札は無いとは言え、魔物に屈することがあって良いというのか。
だが、今の彼女にはこの老魔に頼ることしか出来ない。
遠くで倒れているビアンカを守る事など、今の彼女には出来そうも無い。
「あの姉ちゃんは僧侶だ、回復呪文の心得がある。
 だからよ、俺たちを回復してもらう代わりに、姉ちゃんとあいつらを見逃すってのはどうだ?」
老魔の要求を耳に入れ、状況を理解していく。
つまり、傷を癒せば見逃してもらえる、と言うことだ。
しかし、ここで魔力を使い尽くしてしまえば、ビアンカやサイモンを癒す力が無くなってしまう。
だが、この要求を蹴れば間違いなく"死"が待っている。
残されたサイモンとビアンカがどうなるかは、考えるまでも無い。
「なるほど……ならば、命だけは助けてやってもいいだろう」
「……リアは良いよ。それよりお兄ちゃんに会うまで魔物さんに死なれたら困るし、魔物さんを癒して欲しいかな」
「フッ、ナメられたものだな」
一人考えている中、ジャミラスはニヤリと笑い、リアは気だるそうな表情を浮かべる。
リアが回復を拒否した、ということが引っかかるが、それを気にしている余裕は無い。
「じゃ、頼むぜ?」
「……はい」
とにかく、従うしかない。
ゆっくりと手を翳して魔力を込め、敵として立ちはだかっていた存在の傷を消す。
やはり治りは遅く、最上級の呪文を重ねてようやく一つの傷が治せる程度だ。
特に負傷の酷い左手首を重点的に、ミネアは魔法を重ねていった。

321"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:09:28 ID:???0
 


「これで、良いでしょう」
汗を拭い、脇腹の痛みを堪えながらミネアは言う。
重ねがけの甲斐もあってか、ジャミラスの手首の傷は塞がり、翼の出血も止まっていた。
ジャミラスは手首をグルグルと回し、使用に違和感がない事を確かめる。
「……約束どおり、見逃してくれるんでしょうね」
「ああ、そうだな。約束どおり命は助けてやろう」
ミネアは契約を履行したことを告げ、ジャミラスはにこやかにそれに答える。
だが、言葉はそれで終わりではなく。
「"命"は、助けてやろう」
ジャミラスは、残酷な言葉を重ねていく。
「回復呪文が使える存在は貴重だからな、貴様にはこれからこの私に従ってもらう」
「なッ……!」
「ヒューッ……」
突然の隷属宣言に、ミネアは思わず言葉を失い、老魔は額から汗をたらす。
「どうした? 仲間がどうなっても良いのか?」
「くっ……」
歯がゆい思いをしながら引き下がるミネアと、悪魔の要求を平然と良いのけるジャミラスに感銘すら覚える老魔。
魔物の中でも、ここまで正直に欲望を放てる存在は初めて目にした。
その直球的な感情に、老魔は舌を巻くことしか出来ない。
「……我慢の限界です」
そんなジャミラスに、ついにミネアは本心をぶちまけていく。
「一度ならず二度までも、人を弄び踏みにじっていく」
ミネアがこうやって従わされるのはこれが初めてのことではない。
先ほどもジャミラスに蹂躙され、挙句の果てに肋骨の一本を毟り取られた。
そして今、自分に従えと強制してきている。
目当ては回復呪文、それ以外に価値は見出していないのだろう。
だから、自分が回復呪文を使わないと判断すれば、ジャミラスは即座に斬り捨てる筈。
これ以上悪事に加担したくない、そんな気持ちを正直にぶつけていく。
「そんな悪魔のクズの畜生に従うくらいなら、死んだ方がマシです!!」
ああ、こんな存在を少しでも信用してしまった自分が、憎くて仕方が無い。
せめて、せめて贖罪のために。
少しだけ取っておいたなけなしの魔力で呪文を紡ぐ。
その呪文は形となり、優しくミネアの体から離れ、ゆっくりと溶け出していく。

「ありがとう、そしてごめんなさい」

そんな声が、響いた気がした。

322"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:05 ID:???0
 


「下手に出ていれば良い気になりおって……」
首から上を失った死体を蹴飛ばし、ジャミラスは怒りを露にしていく。
一瞬とはいえただの人間にコキ下ろされたのだ、正常でいられるわけも無い。
「契約は破棄された、ならば俺が奴の言う事に従う理由も無い」
剣を取り、ジャミラスはゆっくりとビアンカに近づいていく。
もとより守る気も無かった契約を投げ捨て、本能のままに剣を振るおうとする。
ビアンカはまだ目を覚まさず、傷一つ無い体で横たわり、天使のような顔で眠っている。
「死ねぇッ!」
そんな天使に、悪魔は刃を振るう。
だが、聞こえるのは肉が裂ける音ではなく、金属が衝突する音。
「貴様……ッ!」
ジャミラスの目の前に現れたのは、老魔の火球に身を包んだはずの鎧の騎士だった。
片手にビアンカを抱きかかえながら、ジャミラスの剣戟を裁く。
「アリーナが、オレを助けてくれた」
その背に背負っていたマントは、半分が焼け落ちている。
「そしてミネアが、俺に力をくれた」
その胸に下げていた飾りは、光を帯びている。
「"ともだち"のいないお前らには、分からんだろうな」
再び現れた邪魔者に、ジャミラスの怒りは天を衝きそうになる。

「ねぇー、魔物さん」
そんな彼に、間の抜けた声が届く。
「リアはおにいちゃん探しに行きたいんだけど、まだやるの?」
そう、初めはアリーナとミネアが食い下がってきたので、仕方なく戦闘していただけ。
目の前には気絶した女と、鎧の騎士だけ。
彼らに構う理由など、何処にも無い。
ジャミラスにとっては参加者を殺す事は意義のあることだが、リアにとってはそうでは無い。
寧ろ、こうしている間にも兄に危険が迫っているかもしれないのだから。
不都合なこと、と言う方が正しい。
そうだ、怒りに身を任せて前を見失ってはいけない。
殺すべき存在はまだまだ居る、そしてその存在を殺すためにリアが必要なのもわかっている。
彼女の機嫌を損ねるのは、マズい。
「……命拾いしたな」
ジャミラスは剣を仕舞い、身を翻していく。
「言っていろ、クズめ」
サイモンもそれを追わず、じっと見つめていく。
ここで手を出すのは、あまりにも不利だ。
「行くぞ、魔力は温存しておけ、これから強敵と戦うからな」
「あいよ」
ジャミラスは二人となった同行者に一言だけ告げ、ほぼ全快と呼べる翼を広げ、大空へと飛び去っていった。
向かう方角は、東。
西より歩みを進めてきた自分達が進んでいない方角。
そして何より、禁止エリアの都合上、動きだす人間が多い。
ヘタに南に動くより、向こうから近づいてきてくれる可能性が高い方へと進む。
そこに求め人が居れば、更に良いのだが。
三者三様の考えをめぐらせながら、翼をはためかせて真っ直ぐに東へと向かっていった。



飛び去っていく怪鳥を見送った後、ゆっくりとビアンカを寝かせ、辺りを見渡していく。
全身に穴を空けながら横たわるラドン、首のないミネア、そして足を地面に埋め、立って死んでいるアリーナ。
動くことも無く、ただその場に立ち尽くし。
「……アリーナ、ミネア」
盾を置き、甲冑で出来たその腕を真っ直ぐ伸ばし。
「オレたちは、ずっと――――」
騎士は、ただ言葉を紡ぐ。

323"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:39 ID:???0
 




「"ともだち"だ」





それは、永久に続く誓いの言葉。





【アリーナ@DQ4 死亡】
【ラドン@DQ1 死亡】
【ミネア@DQ4 死亡】
【残り22人】

【A-4/ろうごくのまち/夜中】
【サイモン(さまようよろい)@DQBR2nd】
[状態]:騎士は、二人の"ともだち"。
[装備]:さまようよろい@DQ5、ミネアの飾り、アリーナのマント(半焼)
[道具]:なし
[思考]:思案中
[備考]:マホトーンを習得、今後も歩くことで何か成長を遂げるかもしれません。
     胸部につけているミネアの飾りが光り輝いています。

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康、リボンなし、気絶中
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9
[思考]:リュカ、フローラに会いたい、彼らの為になることをしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています
    ビアンカの傷が治っているのはミネアのメガザルによる効果です。

324"サヨナラ"って言えなかった事、いつか許してね ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:10:55 ID:???0
 
【A-4/南東部/夜中】
【ジャミラス@DQ6】
[状態]:HP6/7
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3、サタンネイル@DQ9
[道具]:剣の秘伝書@DQ9、超ばんのうぐすり@DQ8(半分のみ) 支給品一式*2
[思考]:リアを利用し、サマルトリアの王子(カイン)を労無く殺害。
[備考]:支給品没収を受けていません。飛行に関して制限なし。

【リア(サマルトリア王女)@DQ2】
[状態]:HP3/5 頬に傷 全体に切り傷
[装備]:竜王のツメ@DQ9、
[道具]:支給品一式*2、ツメの秘伝書@DQ9、不明支給品(本人確認済み)
[思考]:おにいちゃんを、ころす。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(中)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式、不明支給品(確認済み×0〜1)、どくがのナイフ@DQ7、ラドンの不明支給品
     消え去り草*1、弟切草*4@トルネコ
[思考]:ジャミラス達と共に、世界を破壊する。
[備考]:過去に盗賊を経験しているようです。
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【B-4/北西部/夜中】
【ホンダラ@DQ7】
[状態]:恐怖
[装備]:なし
[道具]:せかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9
[思考]:逃げる

325 ◆CruTUZYrlM:2013/06/03(月) 00:12:23 ID:???0
以上で投下終了です。
話の骨組みを根本から変えたため、前回での問題点そのものが無くなりました。
その他の点でなにかありましたらお気軽にどうぞ。
特に何も無ければ二話とも明日の夜には本投下したいと思います。

326 ◆TUfzs2HSwE:2013/06/03(月) 00:25:08 ID:???O
投下乙です。
仰る通り投下に関して問題はないかと思います。
感想は後に。とりあえず力作お疲れさまですと言わせてください。

327 ◆1WfF0JiNew:2013/06/03(月) 00:33:20 ID:???0
投下乙です、同じく特に問題ないかと。本投下時に感想は書かせていただきます

328 ◆HGqzgQ8oUA:2013/06/03(月) 01:32:40 ID:???0
大幅な改稿お疲れ様です、
すばらしい仕上がりだと思います
大したことではありませんが、ひとつだけ

>>311
男魔とラドンは過去に交戦してるので
ラドン乱入時、そのへんについて男魔の言及や懸念も多少あったほうがいいかなーと思いました
(それを踏まえても二者の方針自体には問題はないとは思いますが)

また同レス後半部、「後衛」が「光栄」になってる部分がありましたので、その誤字も報告させてください

329 ◆jOgmbj5Stk:2013/06/03(月) 20:04:36 ID:???0
長編をほとんど改稿されるという大変な修正お疲れさまでした。
その甲斐のある出来映えだと思います。
私からも一つ誤字報告を。

>>313
>
> 紫伝を纏いし剣を構えた、一人の少女だった。

これはおそらく紫電の誤字ではないでしょうか。

それでは本投下をお待ちしています。

330 ◆CruTUZYrlM:2013/06/04(火) 00:08:11 ID:???0
ご指摘、有難うございます。
それでは、本投下のほうにいってまいります。

331 ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:01:00 ID:???0
またかよ、って感じですが主催関連に関わる話なので仮投下いたします。

332ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:03:46 ID:???0
 
――――生きていたい。

大体の人間は、常にそう思っている。
無意識の内だったとしても、呼吸したり食事したり色々するのは、言うまでもなく生きていたいからだ。
全員が全員そうというわけではなく、中には自ら死を望む人間もいる。
だが、彼はそうではなく、ごく普通の"生きていたい"人間だった。
酒におぼれるし女は口説くし仕事もしない、傍から見れば完全にダメな大人。
けれども、彼は普通に"生きて"いたかった。
人生の途中で、ちょっと良い思いがしたいからお金を求めていただけ。
自分の望むまま、自由に生きていたかっただけ。
好きなことをたくさんして、幸せかどうかはまだわからないけど大往生を遂げる、それだけでよかったのに。

「はあっ、はあっ、クソッ!!」
息を上げ、肩を揺らし、それでも前に走り続ける。
逃げる、逃げる、何も考えずにただひたすら逃げる。
何から? 非日常から。
この場所では、当たり前など存在しない。
あるのは彼が"非日常"だと思っていたものばかり。
戦闘と殺人、他者を蹴落とすことになんの躊躇いもない人間たち。
正義だ何だと綺麗事を言っても、人を殺そうとしていることには変わりはない。
正当防衛? 他者を蹂躙する悪? そんなことは関係はない。
ホンダラからしてみれば、どちらも差はない。
力を以て相手をねじ伏せ、自分が正しいと主張する。
自分と意見の通わぬ者は、敵なのだから。
同時に、ホンダラはこの上なく恐怖している。
死が隣り合わせになっている場所。
強者が蠢き、自分の主張を遠そうとする場所。
恐怖と同時に、それに巻き込まれて死ぬのだけは"ゴメン"だ。

戦うことどころか、人殺しを何とも思わない、頭のネジが外れてるというより元々ない連中同士で、潰しあってくれればいい。
自分は生きたい、ただ平穏に生きたい。
人よりちょっと良い暮らしで、ふわふわのソファにふんぞり返りたい。
だから、巻き込まれたくない。
誰もいないであろう遠く遠く遠くへ、とにかく走る。
狂人たちの宴が視界に入らない、どこか遠い場所へ。
とにかく、走り続ける。



「ぬおっ!?」
ふとその時、大きく何かに躓いてしまう。
前を見るばかりで足下を見ていなかった故に、そこに横たわる少女に気づくことができなかった。
バランスを崩し、大きなモーションで盛大にコける。
そのまま、少女に覆い被さるような形で、ホンダラは倒れ込んでしまった。
「いてててて……」
強打した顔面を押さえながら、ホンダラは躓いた少女の姿を見て、驚愕する。
生々しく爛れた皮膚、無数の傷跡、あるはずの腕が片方無い。
服は貼り付いていると言った方が正しいくらいで、もはやただの布切れである。
よほど疲れているのか、それともホンダラの蹴り程度では動じないと言うのか。
少女は苦悶に満ちた表情のまま、眠り続けている。

おそらく、アルスやマリベルとそう変わらない年齢。
すらっとしたボディラインと、とても整った顔立ち。
さらけ出された乳と、寝息をたてている今の姿。
少女趣味は無いホンダラでも、吸い込まれてしまいそうな妖艶さがある。

けれど、ホンダラが考えているのはもっと別のこと。
甥であるアルスは死に、先ほど目の前では人が人を殺そうとする様を見せつけられ。
そして今、アルスとさして年齢の変わらない少女が、今にも死にそうな姿で横たわっている。

333ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:04:17 ID:???0
 
これが、当たり前。
この世界では、こうなるのが当たり前なのだ。
幼いとか、非力とか、個人の気持ちとか、そんなことは考慮されることもなく。
ただ傷つけられ、痛めつけられ、殺される。
何故か? 力がないからだ。

再び、ホンダラを恐怖が襲う。
いずれ、自分もこうなるかもしれない。
戦う力なんてミリも持っていない自分がこうなるのは、目に見えている。
「ふざけんな……」
けれど、それを受け入れたくはない。
ホンダラはただ、生きたい。
純粋にただ、生きていたい。
こんな殺し合いなんかに惑わされて、命を落としたくはない。

突き動かされるように、少女の荷物を漁る。
傷だらけのまま寝息をたてる少女は、起きる気配を見せない。
よほど消耗しているらしいというのは、素人目に見てもわかる。
それほど激しい戦闘を繰り広げてきた……この少女も、人殺しなのかもしれない。
正義だ何だか知らないが、ホンダラにとっては恐怖でしかない。
無我夢中で、道具を漁り続ける。
「何やってんだ、俺……」
ふと、我に返る。
今にも死にそうなほど傷ついている少女をの荷物を漁り、使えるものだけをかっぱらって逃げ出そうとしていた。
なぜか? 生きたいから。
実際、ホンダラが生きる為に使えそうなものは、少なかったのだが。
「俺はただ、生きたくて……」
誰も責めていないのに、正当化を始める。
これは正しいことだ、生き残るにはこうするしかないのだ。
繰り返し頭の中に言い聞かせようとする。
「違う、違う!!」
そんな彼の考えをあざ笑うように、もう一つの声が聞こえる。
声は、彼を「人殺し」だと罵る。
自分が生きたいから、自分が生きるためなら他はどうなろうとかまわない。
だったら、自分のやっていることも、あの人殺したちと同じだろう?
生きている人間に手をさしのべず、手前のことしか考えない。
それは人殺しの思考なのだと、声は言う。
「ああっ、もう、クソッ!!」
その声を振り切るように、なりふり構わずにホンダラは駆けだしていく。
少女の身体はもちろんそのまま、袋の口は空きっぱなし、中身は散らかしたまま。

違う、自分は人殺しではない。
ただ、生きたいだけ、ただ生きたいだけ。
自分は悪くなくて、悪いのは人殺しの連中。
自分は悪くない、悪いのは、悪いのは――――

334ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:04:35 ID:???0
 
「立ち去れ……」

ふと、聞き覚えのある声がホンダラの足を止める。
無我夢中でところかまわず走り続けていた彼は、ようやくあたりを見渡した。
「……ここ、どこだ」
大して冒険もしたことはなければ、記憶力もそこまでよくない。
おまけにパニック状態と決まりに決まりきったホンダラが、目的地を定めながら動ける訳がなかったのだ。
そして、そんな彼が不幸にもたどり着いたのは。

「これより先は禁域、立ち入ることは死を意味する」

禁止エリア。
甥の死んだショックで禁止エリアを忘れかけていたこともあったが、そもそも禁止エリアと方角の管理は男魔法使いに任せていた。
だから、ホンダラはここへ来てしまった。
運悪くも禁止エリアの発動とほぼ同時に、このエリアのど真ん中へ。

「これより時を刻む、定刻までに抜け出さねば、死が訪れる」

突きつけられる最悪の言葉。
突然の死刑宣告、ただでさえ響く声にパニックになっていたホンダラの頭の中は、瞬時に崩壊する。
声ともならぬ声を上げ、方角の確認などろくにもせず。
ただ、ただ、走り抜ける。
禁止エリアの、さらなる奥へ。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ホンダラは走る。
生ではなく、死に向かって。
一つ、二つ、死を告げる時が刻まれていく。
ただ、ただ、走る。
生きるために。
一つ、二つ、三つ、四つ……
時が刻まれていく間、ホンダラはずっと走り続ける。
生きたいから、死にたくないから。
生きる道へ向かって、走り続けていく――――

けれど、現実は残酷で。

「時は満ちた」

死が、突きつけられて。

「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!!!」

声にはならない声が響きわたって。

一つの命が、失われた。

【ホンダラ@DQ7 死亡】

335ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:05:01 ID:???0
 









「…………あれ?」
死んでいない、生きている。
首から上は繋がっているし、足もかすんではいない。
禁止エリアに居るというのに、自分は生きているのだ。
「……は、ははは」
久方ぶりの声を出す。
もう、叫びきって枯れていたと思っていても、出るものなんだなと感心しながら。
「やったああああああああああ!!!!」
腹の底から声を出し、心の底から喜んだ。
首輪の動作不良? 単なる気まぐれ? 何だって良い、自分は今生きているのだから。
「はははは!! はははははは!! やったぞおおおおお!!」
「うるさい」
は、と笑い声が止まる。
おかしい、あり得ない。
もう一人誰かがここにいるなんて、しかも、それがよりにもよって。
「あれだけやったにも関わらず、禁止エリアに来るとは……
 まったく、余計な仕事を増やしてくれるな?」
この殺し合いの元凶、大魔王デスタムーアだなんて。
「あ……わ……」
今度こそ声がなくなる。
いや、今更声が出たところでなにも変わりはしないのだが。
だって、目の前には魔王が居るんだから。
ホンダラがどうあがこうが、勝てる相手では無いのだ。
「……なんで、という顔をしているな」
大魔王は顎に手を当てながら、震える石像と化したホンダラに問う。
もちろん、ホンダラは答えられるわけがない。
「……簡単な話だ、その首輪はほんの少し魔力か籠もって居るだけの、ハリボテだからな」
まともに話が聞けるわけが無いホンダラに、大魔王は淡々と語り続ける。
「初めの爆発は私の呪文だ、そして初めに"首輪は爆発する"と話せば、首輪は爆発すると、思いこむだろう?
 そもそも盗聴やら何やらを六十人も管理できるか? ということだ、出来なくもないがメリットがなさすぎる。
 私の貴様等に殺し合いをして欲しいだけだからな……まあ、それを知っているのは私とアクバーだけだが」
呆然としているホンダラに、次々に事実が語られていく。
動作しない首輪、嘘の情報に踊らされ、命を握られていると思いこまされていた。
ふと、心に一つのことが思い浮かぶ。
もう出ないと思っていた声を絞り出しながら、ホンダラは魔王に問う。
「なんでだ?」
不思議と、声は震えていなかった。
「なんで、殺し合いなんだ?」
「いい質問だ」
ニヤリ、と魔王は下卑た笑いを浮かべる。
「強大な力を持って蘇り、そのまま直ぐにでも世界を手に納められる。
 だというのに反抗されるとわかっていて、何故歴戦の勇者たちを集めてこのような殺し合いをわざわざ開いたのか? ということだろう?」
「いや、そこまでは……」
自分が思っていた以上の返答をつきつけられ、ホンダラは言葉に詰まってしまう。
何を考えているのか、正直言って分からない。
いや、大魔王の考えなんて、分かりたくもない。
「それは……」

336ワン・チャンスも無くて ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:05:23 ID:???0
もったいぶった表情を浮かべながら、大魔王はニタニタと笑う。
正直、気味が悪いと思っていたとき。
ぶち、ぶちぶちっ、と何かが裂ける音が聞こえた。



次に目に映ったのは、肩までしかない自分の体と。

「禁止エリアで死ぬお前には関係の無いことだ」

全く笑っていない、大魔王の姿だった。



「まだ、首輪は爆発するもんだと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」

意味ありげな言葉を、もう何も聞こえない男の傍で呟いてから、仕事は終わったと言わんばかりに"幻影"を消し、大魔王は去る。
「殺し合いが必要である理由」それを明かすことは無く。
ただ、そこに残ったのは。
あたかも爆発で死んだかのように見える、一人の男の死体だけ。


【ホンダラ@DQ7 死亡】

【B-4/小さな湖付近/真夜中】
【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP1/25、全身に打撲(重・処置済)、全身に裂傷(重・処置済)中度の火傷(処置済)、左腕喪失(処置済) 睡眠
[装備]:星降る腕輪@DQ3 オリハルコンの棒@DQS
[道具]:場所替えの杖[6]、引き寄せの杖[9]、飛び付きの杖[8]、賢者の聖水@DQ9(残り2/3) ふしぎなタンバリン@DQ8
    銀の竪琴、笛(効果不明)、ヤリの秘伝書@DQ9、 光の剣@DQ2 ハッピークラッカーセット@DQ9(残り4個) 使用済みのハッピークラッカー
    草・粉セット(毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。)
    ※上薬草・特薬草・特毒消し草・ルーラ草は使い切りました。
     支給品一式×10
[思考]:全員殺す 世界を壊す たとえ夢であろうと その為に休息しつつ、片腕に慣れたい
[備考]:性格はおじょうさま

※B-3、西部にせかいじゅのしずく@DQ7(半分)、金塊@DQ9が放置されています。
※首輪は盗聴機能も爆発機能も無い"ハリボテ"ですが、それを知っているのはアクバーだけです。

337 ◆CruTUZYrlM:2013/06/17(月) 00:10:23 ID:???0
すいません、早速修正です。
>>336
「まだ、首輪は爆発するもんだと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」

「ふぅ、態々この場に現れんと手が下せぬというのは、厄介だな。
 しかしまだ……まだ、首輪は爆発する物だと思っていてもらわんと、困るのでな。
 ……時が来るまで、そう、"真実"を伝って奴等が"私の元に来る"にはまだ早いのだ」


以上で投下終了です。

問題点は
・首輪システムなどハナからなく、首輪単体はハリボテであるということ。
・禁止エリアの処理には、デスタムーアが自ら登場して首を爆ぜさせなければいけないということ。
・デスタムーアは「自分のところに来ること」を望んでいること
などなど、急に主催関連について情報を出しすぎたかな? ということです。

そのほか、何かご指摘やツッコミが有りましたらどうぞ。

338 ◆1WfF0JiNew:2013/06/17(月) 00:24:59 ID:???0
投下お疲れ様です、自分的には特に問題はないかと。残り人数も少ないですし主催についても進めてもオッケーです。

339 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/17(月) 06:50:30 ID:???0
投下お疲れさまです!
私も全然問題なしだと思います。とうとう主催出てきたか……

340 ◆jOgmbj5Stk:2013/06/17(月) 21:47:35 ID:???0
おおう、こうきましたか。
私個人は展開的に問題ないと思います。
本投下をお待ちしています。

341 ◆CruTUZYrlM:2013/06/18(火) 20:50:00 ID:???0
ご意見有難うございます。
特に問題もなさそうなので本投下してきます。

342 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:35:40 ID:???0
ソフィア、ローラ 投下します

343 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:36:26 ID:???0


てくてく。
二対の足は、大地を踏みしめて。
てくてく、てくてく。
勇者と王女は、森の外を目指す。
てくてく、てくてく、てくてく。
心に、それぞれの思いを秘めて。
てくてく、てくてく、てくてく、てくてく。
少女達は、前へと進む。


***

344 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:36:49 ID:???0



(ハーちゃん)

ふと、亡くした仲間の顔を思い浮かべてみる。
この狂った舞台に呼ばれてから、初めて出会った異世界の住人。
その世界では勇者に相反する立場にあったらしい、邪教の大神官。

(最初、すっげー顔色悪い奴かと思ったけど、魔物だったんだよな)

それくらい、人間くさい奴だった。
初対面は、確か自分が叫んでいた時だっただろうか。
全く無防備にも程があるぞ、と鼻で笑われた。

(そのくせ、アタシが逃げろって言ったのに、なんでか戻ってくるし)

いや、『なんでか』ではない、理由は解っている。
紛れも無く、彼は自分の『仲間』だった。


(ミーちゃん)

続いて出会った、黒髪の少女を思い浮かべる。
愛する人の死を信じれなかった為に、狂気に走った悲劇の姫君。
そういえば、後ろを歩くローラが同じ道を辿らなくて本当に良かったと思う。

(きわどい格好しちゃってさ、別嬪さんが。でも根は純粋でー…)

「あーん」と、素直に口を開けていた。
どっかの誰かさんはノッてくれなかったのに。
本当に姫君らしい、純粋な少女だった。
その純粋さ故、生まれてしまった狂気。

345 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:09 ID:???0

(ピー助)

一度は敵対し戦った、魔族の王。
かつての彼もまた、愛する者の死をきっかけに禁断に手を染めた。
それを乗り越えるのだと、取り戻すのだと、言っていたのではなかったのか。

(……コイツもハーちゃんと同じで大真面目野郎でさぁ、ほんと)

お陰で、冒険の間も、今回も、幾度と無く救われた。
どちらかと言うと考えるより先に動くタイプの自分には、彼のような冷静な者が必要だった。


(タバサ……だったよな、確か)

ローラと行動を共にしていたという、幼い少女。
話を聞くに、彼女は心に深い傷を負っていたらしい。
そして、あのフローラの娘だったそうだ。
彼女も、このゲームの被害者。

(……ったく、あのジジイはこんな事して何が楽しいんだか、××××がよぉ)

デスタムーアに対する暴言を心の中で吐き捨て、ソフィアは視線を地面から前へと向けた。

346 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:28 ID:???0

「おい、この森とももうすぐおさらばできるぜ」

数十メートル先には、木々が途切れる所。

「割と広かったですわ……」

少し疲れた声で、ローラが答える。

(そりゃそうだな。こいつもお姫様なんだ、森なんてそうそう歩かねーよな)

ここに辿り着くまでの間、よく後ろから「きゃっ」だの「あっ」だの「そんなひどい」だの聞こえていた。
その度に敵襲かと振り向くソフィアの前には木の根などに躓き体勢を崩していたローラが居た訳だが。

「すみませんわ、足手まといになってしまって」
「そんなこたぁねェよ。気にすんなって」

軽い口調だとはいえ、感情が篭ってないと少し恐いです。
ローラは心の中で呟いた。
そして、自分達の歩みが止まったことを好機に、気になっていた疑問を口に出す。

「ソフィアさんはなぜ、旅に、出たのですか」
「旅?」
「冒険……ですわ。世界を救うなんて、そう思い立ちませんもの。気を悪くしてしまったのなら、ごめんなさい」
「……」

347 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:37:46 ID:???0
最初から、世界を救う目的ではなかった。
では、何故。
何故、自分は、自分達は、世界を救ったのか。


「"導かれた"んだろうな、アタシ達は」

相次ぐ事件を解決するため。
世界一強くなるため。
伝説の剣を見つけるため。
父の仇を討つため。
全てを失った悲しみと、憎しみのため。

「みんな、それぞれ目的が違ったんだ、最初は」

不思議な運命の下、光は集い。
一つの思いを胸に抱いて。
それは、まさしく。
『導き』としか、言いようが無い。


「……導き」

ソフィアの言葉に、ローラは微かな既視感を感じた。
それは確か、あの人の言葉。
忘れる事などできない、運命の日。



***

348 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:38:45 ID:???0

「……今の音は、一体……?」
「!」

「お助けに参りました、ローラ姫様」

「あなたは……?」

「おっと、自己紹介もなしに、申し訳ありません」
「私の名はアレフ。まあ、巷では、『勇者アレフ』とは呼ばれておりますけれど、それ程では」

「勇者、さま……!」

「さあ、こんな薄暗い洞窟は姫様に似合いません、太陽の下へ行きましょう」

「一つだけ、宜しいですか」

「どうぞ、何なりと」

「勇者様は、なぜ私を助けて下さったのですか」

「旅に出るときに、姫様の噂を聞きましてね。尤も、抽象的な噂に過ぎなかったのですが」

「では、なぜここが……いえ、私が生きてなどいない可能性もありましたのに」

「簡単な話ですよ」
「私は姫様の事を耳にしたとき、不思議な縁のような物を感じました」
「そうですね、『導き』とでも言いましょうか、運命のような物を」

「導き……それは、やはり精霊神さまの」

「いえ、違うでしょう。ご先祖は精霊神の加護を得ていたと伝説にありますが、私は全く」

「でしたら、それは一体」

349 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:03 ID:???0
「『私』でしょう」

「?」

「いえ、感覚に過ぎないのですが」
「姫様の下へと、『私』が『私』を導いてきた、そんな気がするのです」

「『自分自身』が……」

「はい。時として、『自分』は自分以上の事を知っているものなのです」

「難しいお話ですね」

「いえ、これは私の祖母の受け売りに過ぎないのですが。お恥ずかしながら、私も良く解らないのです」
「さあ、ラダトームへ帰りましょう、ローラ姫様」

「…………ローラと、お呼び下さい」

「へっ、いえ、そんな」

「構いませんわ。何より……」

「?」

「私は、勇者様にそう呼ばれたいのです……」

「……!はい、解りました、……ローラ」





***

350 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:30 ID:???0
導き。

それは、誰かから与えられるものだ。
しかし、全てがそうとは限らない。


(今、解りましたわ、アレフ様)


自分を信じる気持ち。
誰かを信じる気持ち。
それらは全て、自分自身への導きなのだ。



「ここから、どうする」
「そうですね……」

ローラは首を傾げて考える。

「北、ですわ」
「北?」
「ええ、まだ一度も行ったことがありませんし、もしかしたらフローラさんに会えるかもしれませんし」

それに。

(あなたにも、会えるかもしれませんわ……アレフ様)

心の中でそっと、呟いた。

351 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:39:56 ID:???0
***





今、少女達を導く思いは唯一つ。




とても簡単な、それでいて世界一難しいこと。







――――生きる。

352 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:40:13 ID:???0



【F-4/森の外、西/夜中】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:HP4/5 表情遺失(人形病)
[装備]:奇跡の剣@DQ7、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:ソードブレイカー@DQ9、小さなメダル@歴代、オリハルこん@DQ9
KBP GSh-18(16+0/18)@現実、基本支給品*2
不明支給品(ソフィア(0〜1)、キーファ(0〜2)、カーラ(0〜1(武器ではない))
[思考]:終わらない 殺し合いを止める 北へ
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP4/5
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:生きる 北へ

353 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/23(日) 18:41:42 ID:???0
以上で終了です。
タイトルは「導きなんてないけれど」です
問題ないようでしたら、代理投下お願いします。

354 ◆MC/hQyxhm.:2013/06/26(水) 02:11:03 ID:???0
代理投下ありがとうございました。

355 ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:45:34 ID:???0
規制されてるのでコチラに投下します。

356ある愛の詩 ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:47:11 ID:???0
       





「「僕は彼女のことを愛していなかった」






#######





     
「やぁ、久し振りだね」

再会は、偶然で突然だった。
仲間にしたであろう魔物を引き連れて、暗い森から現れた蒼を僕が見逃すはずがない。
最初から重くなることはない、まずは気軽に。ちょっと散歩に行ってきたみたいに、彼女に声をかける。
約一日ぶりに見る彼女の姿は薄汚れていたけれど、美しさは違えていない。
両の瞳には清廉な意志を秘め、彼女は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
こんな時でも、彼女は貞淑な妻を貫いていたのだろう。

「あなた……お身体の方はご無事ですか? どこか怪我などしておりませんか?
 ああ、もうっ、服が汚れていますよ?」

オロオロとコチラへと駆け寄ってくる彼女に対して、自分は笑えているだろうか。
自分の中にある苦い感情を抑え込めているだろうか。
愛してなどいなかった事実を、隠し切れているだろうか。
きっと、どれもこれも見抜かれているのだろう。
彼女は僕と違って、聡明だから。それを知ってなお、僕を支えてくれる人だから。

「僕の方はこの通り五体満足さ。それよりも、君の方が怪我をしているじゃないか。
 おとなしくしてるんだ、回復呪文をかけるから」
「そんなことありません! あなたの方が!」
「いいや、君の方こそ必要だ」

嘘と偽りの関係で生まれた夫婦なのに、互いのことを最優先に考えていることがおかしかった。
滑稽だ、と皮肉げに口走りそうになる。僕は彼女のことを愛していなかったというのに。

357ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:47:36 ID:???0
       





「「僕は彼女のことを愛していなかった」






#######





     
「やぁ、久し振りだね」

再会は、偶然で突然だった。
仲間にしたであろう魔物を引き連れて、暗い森から現れた蒼を僕が見逃すはずがない。
最初から重くなることはない、まずは気軽に。ちょっと散歩に行ってきたみたいに、彼女に声をかける。
約一日ぶりに見る彼女の姿は薄汚れていたけれど、美しさは違えていない。
両の瞳には清廉な意志を秘め、彼女は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
こんな時でも、彼女は貞淑な妻を貫いていたのだろう。

「あなた……お身体の方はご無事ですか? どこか怪我などしておりませんか?
 ああ、もうっ、服が汚れていますよ?」

オロオロとコチラへと駆け寄ってくる彼女に対して、自分は笑えているだろうか。
自分の中にある苦い感情を抑え込めているだろうか。
愛してなどいなかった事実を、隠し切れているだろうか。
きっと、どれもこれも見抜かれているのだろう。
彼女は僕と違って、聡明だから。それを知ってなお、僕を支えてくれる人だから。

「僕の方はこの通り五体満足さ。それよりも、君の方が怪我をしているじゃないか。
 おとなしくしてるんだ、回復呪文をかけるから」
「そんなことありません! あなたの方が!」
「いいや、君の方こそ必要だ」

嘘と偽りの関係で生まれた夫婦なのに、互いのことを最優先に考えていることがおかしかった。
滑稽だ、と皮肉げに口走りそうになる。僕は彼女のことを愛していなかったというのに。

358ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:48:26 ID:???0
初っ端はタイトル間違えなので、↑から代理をお願いします。

359ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:50:08 ID:???0
「ともかく、無事でよかった」
「はい……!」

心底ほっとした表情を浮かべ、笑みを向ける彼女が、痛い。
涙の粒を目元に溜めた彼女が、辛い。
愛しているという偽りを、曇りなく信じている彼女が、怖い。
護りたいと願った僕の気持ちが、愛ではなく贖罪なのかもしれないと想うぐらいに。
もしくは、そうなのかもしれないけれど。
誰よりも知ってるはずの僕自身のことが、僕はわからないのだから本当に救えない。

「ですが、レックスとタバサは……」
「死んだね」

でもい、僕よりも二人の子供達はもっと辛い思いをしていたはずだ。
死んだ、そう、死んだのだ。
レックスもタバサもこんな地獄の掃き溜めのような場所で死んでいい子供ではなかった。
勇者という責務に縛られた時間を、取り戻して欲しかった。
どうしようもなく雁字搦めに詰んでいる自分と違って、彼らには未来があったのだから。

「タバサに僕らの関係を教えたのは君かい?」
「……はい」
「そうか……今となっては終わったこと、なんだろうね」

できることならば、二人が大人になるまで、僕らの事実を受け入れることができるまで。
大人の暗いことを知らずに生きて欲しかった。彼らは彼らの人生を謳歌して欲しかった。
だけど、そんな思いは今となっては意味が無いことだ。

360ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:51:14 ID:???0

「死んだ人は蘇らない。どんなに想っても、忘れないと叫んでも、二人共……もう、取り戻せない」
「…………っ」
「幸せになって欲しかった。そんなの、当たり前さ。僕らは親なんだからね。
 勇者に縛られた運命から、やっと逃れられて。これからだって思っていたんだから」

未来はもう砕けてしまった。
欠けてはいけないピースを、闇へと落として行方不明にしたんだ。
勿論、僕達は神様じゃない。都合よく、子供達のピンチに駆けつける英雄にはなれない。
僕も彼女も、そのことを受け入れられない程弱くはないけれど。
既に、僕は子供達の死を過去とし、受け入れてしまっている。
今も胸にわだかまりを残している彼女と違って、大切な人との別れは経験の差がある。
目の前で燃え滓になった父に手を伸ばすことすらできなかったあの時。
人の住む気配のない廃墟と化した故郷を歩かざるを得なかったあの時。
僕は、慣れてしまっている。大切なものを落とすことに順応してしまっている。

「だから、レックスとタバサについて考えても……僕らにできることは、生きることしか残っていない。
 彼らの思い出を想うことで救えるなら幾らでも想うさ。だけど、想いだけで人は救えないんだ」
「…………」
「ねぇ、フローラ。僕の言ってることは戯言だろうか」

答えは返ってこなかった。当然だ、元々答えを求めるような言質じゃない。
いくら僕達が嘆こうとも、二人は還ってこない。
僕らと子供達の関係は徹底的に終わってしまっているのだから。
そして、今まで騙してきた僕と彼女の関係もそう在るべきなのだ。

「ああ。それよりも戯言で傑作で最悪なのは……僕なんだろうね。
 今まで続けてきた」

終わるべきなのだろう。嘘と偽りで続けてきた愛を、これ以上続けることはきっと良くない。
今まで築きあげてきたものを全て削ぎ落とす。
その果てに残っているのは、愛か、打算か。今となってはわからない答えだけれど。

361ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:52:52 ID:???0

「僕らは……いや、僕は間違っていたんだ」

僕の気持ちに嘘偽りがないか確かめるためにも。
停滞していた愛と打算を。これまで積み上げてきた何もかもを終わらせる。
それだけは、間違いじゃないって信じたから。

「もう、止めにしようか。この関係を」

僕は、“初めて”彼女のことを正面から見つめよう。






#######






「私は彼のことを愛していた」






#######

362ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:53:53 ID:???0
わからなかった。否、わかりたくなかった。

「フローラさん……私、少し離れた所にいますね」

気を利かしたシャナさんが私達に背を向けて離れていく。
「行かないで下さい」と言う余裕はない。
今の私の頭の中にあるのは彼から告げられた言葉だけだ。
ほんの少しの静寂。されど、この瞬間は永遠にも感じられるぐらいに長く、重かった。

「どうして、ですか。このままでいいじゃないですか!」
「……駄目なんだよ、それじゃ」
「駄目じゃありませんっ! 私は今のままで満足しています! 貴方の後ろをそっと歩くだけで!
 だから、いいんです……! もう、いいんです……っ」

やっとの思いで出した声はすごくかすれ、とてもじゃないが聞き取りやすいとは言い難かった。
これから先、聞くであろう言葉が恐ろしくてたまらない。嫌だ、聴きたくない。
ただ、それだけの思いで、彼の言葉を無理矢理にでも遮った。

「だからこそ、駄目なんだよ。
 僕なんかにそこまでする必要も、どこまでもひたむきに付いてくる必要だってない」

過去をバッサリと切り捨てる彼の目は、いつもよりも冷たい。
これまで見てきた彼のイメージとは百八十度違っていた。
否、もしかするとこれが彼の本当の姿なのだろう。
幼い頃に父を亡くし、数年の間は奴隷として使われて。やっとの思いで帰ってきた故郷は滅びていた。
羅列するだけでも、痛々しい過去だ。

「僕は“独り”に慣れてるしね」

違う、と叫びたかった。独りじゃないと、否定したかった。
けれど、彼の目が否定を許さない。

363ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:54:36 ID:???0

「……君も気づいているはずだ。僕の気持ちを」

続く言葉は、私の胸の奥深くへと突き刺さる。
結婚してから現在まで、お互いに言い出さなかった嘘の関係。
病める時も健やかなる時も愛を貫くと誓った結婚式。
私が背を向けていた、唯一の嘘。

「子供達がいなくなった今だからこそ、言うべきだ。
 ここで全てを終わらせる。それが……子供達への何よりもの餞だ」

それでも、嘘と偽りで彩られた関係でよかった。
彼と子供達の傍にいられることが、私の幸せだったのに。
残酷で美しい世界で見つけた光が、消えていく。
掴み取った夢が砂となって零れ落ちていく。

「僕は君のことを愛していなかった。あの時、僕が君を取ったのは――」
「もう、いいです! やめ」
「――打算でしかない」

ぐらり、と世界が揺れた。私と彼が決定的に別れてしまった瞬間が、来た。
拒絶。排除。終焉。
これまで維持していた関係が壊れていく。
必死に取り繕っていた表情も歪み、苦渋へと変わる。

「もしもの可能性だ、僕らが無事にグランバニアに帰れたとしても……いずれは摩耗する。
 嘘でしかない愛で、続く関係じゃないんだよ、フローラ。
 関係に、小さなヒビはもう入っている。子供達も死んでいるしね」
「ちがっ」
「違わないよ。君自身理解できているはずだ。僕の嘘に気づいていた君ならね」

否定はできない。彼は正論を突き詰めて論を重ねていく。
これまで捩れていた嘘を丁寧に解いていかれるのを、私は黙っているしかなかった。
何てことはない、これは本来あるべき関係に戻るだけなのだ。
私と彼は、天空の盾がなければ結婚する運命ではなかった。
幾つもの偶然が重なって結ばれた関係だった私達が別れるのは当然だ。

364ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:55:27 ID:???0

「……いや」
「…………」
「そんなの、いやです……」

それでも、理解はできても納得はできなかった。
縋りたかった、失いたくなかった。それが彼の重みになるとわかっていながらも、捨て切れなかった。
目元から涙が垂れ落ちるのも拭わずに、私は彼に問いかける。
精一杯の虚勢を張って、拒絶の意志を投げつけた。
吐きだした渾身の言葉もあっさりと切り捨てられ、縋る両手は彼の心を動かすには至らない。
私と彼の間には、どうしようもない隔たりが感じられる。

「もう一度言うよ、フローラ。終わりにしよう」

こうなってしまったからには、もう止められない。
彼が一度決めたことに対して、必ず成し遂げる意志を持つことは、彼の傍にいた私が誰よりも知っている。
だからこそ、彼の言葉に私が反論できるはずもなく。

「はい……」

頷くしかなかった。
大好きだった人が、離れていく。手を伸ばしても、掴めない苦しみが胸を締め付ける。
これでいい、これでいいんだ。
何もかもが元通りになった関係。ただのフローラであっても、彼を想う気持ちは変わらない。
例え、どんなことがあっても――彼を愛し続けると誓ったことだけは嘘じゃないから。

365ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:56:24 ID:???0

           





「ねぇ、フローラ。終わりの後は―――」






最後に、彼はふっと柔らかい笑みを浮かべ。






「――――やり直せばいいんだよ」





私を強く、抱きしめた。

366ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:57:23 ID:???0
「……あ」

痛いぐらいに込められた力には熱が浮かぶ。
ほんのりとしたぬくもりが、現状を把握できていない私の震えを抑えていった。

「君に対して抱いてたのは愛なのか、罪の意識なのか。僕は今の今までわからなかったけれど。
 気づいてしまったんだ。教えてくれたんだ」

気のせいだろうか、数瞬前までよりも声が優しくなっているのは。
染み渡る彼の声が、私を包み込む。

「君がいて、レックスがいて、タバサがいて。グランバニアの国民に仲間の魔物たち。皆が僕を見てくれている。
 帰れる場所がないって嘆いていたけれど。僕を迎えてくれる場所は、人達はいたんだよ。
 僕の方こそ、彼らに背を向けて逃げていたんだ」

グランバニアの人達は彼のことを愛していた。仲間の魔物達も、レックス、タバサも。
……そして、私も。
皆、彼のことをしっかりと見ていた。独りにならないように、傍に寄り添っていた。

「僕はとっくに幸せだったんだ、救われていたんだ」

泣いているのか、笑っているのか。
一瞥では判断がつかない表情で、彼は私を抱きしめる。

「思えば、自分自身の気持ちがわからなかった。天空の盾があったせいで信じられなかった。
 僕の中に在る気持ちは本当なのか? 君やルドマンさんを欺いた僕が、幸せになっていいのかって。
 護りたいと願ったのは愛じゃなくて義務感じゃないのかって」

瞳から涙を一滴流して、彼は私の身体を離す。
正直、彼の身体のぬくもりが離れるのは嫌だったけれど。
それでも、彼の笑顔は離れない。

367ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/24(水) 23:59:08 ID:???0

「僕はありのままに話した。僕が思っていたこと、終わらせたいって思っていたこと。
 全部を精算して君と向きあいたかった。その結果、君が僕を嫌いになってくれるならそれでもよかった」

彼は憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔つきをしている。
私と彼が最初に出会った時に見せてくれたあの笑顔。

「今度こそ……正真正銘、嘘偽りなく君に伝えたい」

私を惹きつけた、笑顔。

「僕と、結婚してくれますか? 尽くすのではなくて。後ろでそっと付いてくるんじゃなくて。
 一緒に横に並び立って歩いて欲しい。僕らが一緒に幸せになれる世界を、作ってくれないか?」
「はい……喜んで」

彼が伸ばしてくれた手を、今度こそしっかりと掴む。
もう二度と離れないように。
そして、指にそっと嵌められるのは皮肉にも偽りの愛の象徴とも言える結婚指輪だった。

「あの、ですね。リュカ様」
「リュカでいいって。そんなに畏まることないからさ」
「それじゃあ、リュカさん。そ、そのっ!」

――キス、してくれませんか?

それは恋する女性なら、一度は思い浮かべる極上の夢。
愛する人と誓いの口づけを交わす最高の幸せを、私は口に出してしまった。
正直、すごく恥ずかしいけれど。私も、一人の女声であるのだ。
この程度の事を望んでも罰は当たらないはずだ。
顔を真っ赤にして俯いた私を、彼はクスリと笑う。
だけど、彼は私の言葉を否定しなかった。
私の瞳から零れ落ちる涙を指で拭って、顎をそっと上へと寄せる。
見上げたら、彼の唇が近づいてきた。
それに、私は啄むように唇を寄せて――そっと触れた。
彼の笑顔を受けて、私も笑顔を返す。
数秒間、世界から音が消えた気がした。
唇を離した後も、私と彼は笑う。
お互いに嘘を取り払った本当の笑顔で、笑った。

「一緒に幸せになろう」
「ええ。いつまでも、貴方のお側に。リュカさん」

368ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:00:56 ID:???0
    
     

   
    
     
        



   


 

――――とまァ。めでたしめでたしってやつにはいかねぇんだよなァ? ヒヒッ」
    
 
    

        

      
     
  
   

  
   
       
嘘が終わり、真実が始まった。
いつまでも続く幸せを、帰れる場所を取り戻す旅が、始まった。
もう覚めることのない夢の中で、始まった。

369ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:02:25 ID:???0

「あァ、さっきから黙って聴いていりゃあなんだ? あ? 何が幸せだ、馬鹿馬鹿しい」

嘘つきだった夫婦を祝福するかのように、、槍が二人を縫い止める。
永遠の愛を誓った彼らに相応しく、二度と離れないように強く、強く縫い止める。

「人間サマはいいねぇ、簡単に幸せになれてよォ。どんなに媚びへつらっても迫害されちまう、奪わなきゃ奪われる。
 クソみてぇな世界で生きてる俺とは大違いだ」

突き刺さった槍を抜くのと同時に、二人は折り重なるように地面に倒れさる。
彼らが抱きしめ合っている瞬間をつき、槍を突き出すのは道化を気取るよりも簡単だった。

「はっ、黄泉の国で永遠の愛でも誓ってろってんだ。はっ、一生番ってろや、地獄でよォ!」

最後の最後まで手を繋ぎ、死がふたりを分かつまで一緒に、生きていた。
それが、影の騎士には腹立たしくて仕方がなかった。
彼らの幸せそうな横顔が、諦めてしまった自分を馬鹿にしている気がした。

「あァ、最っ高にイライラしやがる。何だ、テメエら。嘘つきだろうとも人間サマなら幸せになれんのかよ。
 真っ正直に生きても、嘘をついて生きても。どんな生き方貫こうとも、幸せになれねぇ、幸せへのなり方がわかりやしねぇ俺が惨めでならねぇじゃねぇかよ!!
 俺と、お前ら。何が違うってんだ? 種族か? んなモンで決まっちまうのか!?
 ちげぇ、違うだろ! 同じ、幸せになりてぇ奴等同士だろうが!
 勇者でもねぇ! 英雄でもねぇ! ただの凡人でしかねーだろうが! なァ! なァ!!!!」

言葉を出すにつれ、くつくつと黒い感情が噴き出してくる。
飄々と道化を演じてきた自分が剥がれてしまう、底なしの沼に沈んでしまう。
これが、魔物。どんなに取り繕うとも、欲望の前に自分を抑えきれないモンスター。
一度走り出したら止まらない激情が、影の騎士を覆っていく。

370ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:03:46 ID:???0

「なァ、目を覚ませよ」

そうだ、モンスターだ。
だから、今も影の騎士は感情のままに行動する。

「幸せってなんだ?」

幸せそうに倒れた二人の首根っこを掴み、彼は問いかける。

「どうして、テメエラを見てるとこんなにもイライラするんだ?」

返ってくることのない答えを。

「答えろよ、答えてくれよ」

自分の中に生まれた黒の靄を。

「畜生、畜生が」

死人は何も語らない。それを作ったのは自分だ。他ならぬ答えを求めていた自分なのだ。
ただ、幸せを求めて生きているだけなのに。
駆逐されるだけの魔物には不相応だというのか。
ささやかな“夢”すらも与えられない狭い世界を生きるしかないのか。

「幸せになりてぇだけなんだよ、俺は」

骸骨の歯をカツカツと鳴らしながら、嘲笑うしかなかった。
“夢”すら掴めない底なし沼に引きずられる自分に。
いつかきっと、自分が幸せになれると“夢”を見た愚かさに。
もう覚めることのない“夢”を見続ける彼らに。

371ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:04:36 ID:???0
          


【リュカ@DQ5 死亡】
【フローラ@DQ5 死亡】
【残り16人】



【E-5/森林/真夜中】

【影の騎士@DQ1】
[状態]:右腕負傷
[装備]:メタルキングの槍@DQ8
[道具]:基本支給品一式、変化の杖@DQ3、ゾンビキラー@DQ6
    不明支給品(0〜3)
[思考]:闇と人の中に潜み続けて、戦わずして勝ち残る。
    争いを加速させるためあらゆる手段で扇動する。
[備考]:千里眼、地獄耳の効果は第二放送終了時に消失しました。
    「シャナ」という偽名を名乗っています。

372ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:06:03 ID:???0
          

























――――だけど、“夢”から覚める可能性が僅かにでもあったのならば。

影の騎士は気づかない。フローラが身に着けていた腕輪に込められた魔法を。
魔法の名前はメガザル。自己の全てを捧げることで奉仕対象の命を復活させることができる禁忌の魔法。
彼女の愛が、魔法を発動させることで願ったのは――愛する人の蘇生。

一度は失った明日への道。
ラストチャンスに、死してなお、届くのなら。
彼女は迷わなかった。独りきりになる彼のことを想うと、悲しいけれど。
彼が生きて幸せを掴めるなら、何の悔いもなくこの魂を地獄へと売り渡すことができる。






――――どうか、彼に天壌無敵の幸運と未来を。






【リュカ@DQ5 蘇生】

373ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:07:20 ID:???0
投下終了です。代理、ありがとうございました。

374ある愛の誓い ◆1WfF0JiNew:2013/07/25(木) 00:11:15 ID:???0
状態表付け忘れてました。


【リュカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:パパスの剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、祝福の杖@DQ5、王女の愛@DQ1、デーモンスピア@DQ6、結婚指輪@DQ9
[思考]:???

375少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:05:50 ID:???0



「――あ、魚焼けてる。もーらいっ!」



……がう。



「……あのさ、それ僕のなんだけど」



…………がう。



「え?そうなの?ごっめーんもう食べちゃった!」



………………がう。



「おいロッシュてめぇ」

「いたたたたた!暴力反対〜」



……………………がう!



「ねえ、その子呼んでるわよ?」

「うん?何?」

376少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:06:16 ID:???0



やっと気付いてくれた!
ごはんちょーだい、ごはん!


「……君さっきも食べたでしょ。お腹すくの早くない?」


いいの!
それとこれとは関係ないの!
お腹いっぱいでも、目の前にごはんあったらお腹すくよ!


「しょうがないなあ、僕の食べかけだけど、ほら」

「君のじゃないんだけどね……?」

「がう……」


ロッシュ、後ろの人怖いよ!
目が冷たいよ!
「ロッシュしばく」って目してるよ!


「食べないの?」


うん食べるよ!お腹すいたもん!!




「がうがう♪」









「ていうかなんでアンタ狼と会話してるのよ」


マリベルのツッコミは、風に流され華麗にスルーされた。


***

377少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:06:44 ID:???0
赤々と燃える焚き火を囲み、各々食べ物をつつく。


「本当に良く食べるね〜君は」


自分の食べかけの魚をがっつく狼を見て、ロッシュは満面の笑みで呟く。


「小動物がごはん食べてる姿って見てて和むわよね」


マーニャも微笑みながらそれに答える。
ちなみに、彼女が食べようと思っていたサンドイッチは黒いオーラを纏っていたカインに渡された。


「それには同意だよ」


サンドイッチで少し黒オーラが引っ込んだカインの頭に浮かんでいる小動物は狼ではない。

(リアは僕の作るホットケーキをおいしいおいしいって言って食べてくれたなあ)

浮かぶのはバターと蜂蜜たっぷりのホットケーキを口いっぱいに頬張る妹の姿。
年の離れた兄妹だ、カインにとってリアは十分小動物である。
話題にされている当の狼は魚を食べ終わり、くるりとロッシュの方を向く……が。


がしっ。


「がうっ!?」

「うふふ、あんたみたいなの見たらもふもふしたくなるのよね〜」


マリベルはそう言いながら狼を抱き上げ……いや、掴みあげた。
その光景は一見首を絞めているかのようにも見える。


「おい、やめとけよ。そいつ嫌がってるだろう」

「なによ!こんな美少女マリベルちゃんの腕に抱かれる事のどこが不満だって言うのよ!」

378少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:07:15 ID:???0

ぎゅうううう〜〜。

マリベルに思い切り抱きしめられ、狼は苦しそうにもがく。
もしかしたら本当に首が絞まっているのかもしれない。


「おい、かせって」

「ちょっと!?」


見るに耐えられなくなったのか、テリーが狼をマリベルの魔の手から救い出す。
彼の顔色はうっすら青い。
ごほごほと軽く咳き込んだ狼を指差し、フランクフルトを齧りながらマーニャが言った。


「それにしても、いつまでも『この子』とか『そいつ』とか呼ぶの可哀想よね。
 名前、決めてあげない?」

「名前か!いいね!……うーん、僕いいの思いつかないなあー。カイン君とかどうよ?」

「何その無茶振り……ロッシュ僕のこと嫌いでしょ絶対」

「いや、そういうの得意そうだな〜って思っただけだよ?
 別にセンスの欠片もないこと言って恥じかけばいいなとか思ってないよ?」

「おい」

「いいから考えてよ〜」


(困ったな。名づけとか、したことないよ)

そう思ってチラリと狼の方を見る。

(子供の狼、子……おおかみ……)


「……ベビーウルフ、とかはどう」


結構なドヤ顔だったかもしれない。
しかし、待ち受けていたのは気まずそうな顔をした仲間。
わりと自信あったんだけどな……。


「……」

「あー……」


羞恥で顔が赤くなるのがわかる。
表情は表に出さないタイプだと自負していたのだが。

379少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:07:44 ID:???0

(くそ……こうなったら。開き直ってやる)


「……なんか文句ある」


出来るだけ平静を保ち、じっと仲間を見る。
いや、と皆白々しく目を逸らし。


「うん、センスの問題じゃなかったね」

「……そのままじゃない」

「悪い。これは俺もフォローできないっていうか……」

「あ、あたしは嫌いじゃないわよ?カイン君のセンス」

「もうやめて」


マーニャのフォローが一番キツい。
僕は悪くない。
無茶振りしてきたロッシュが悪い。
怨念をこめて犯人を睨むと。

パンを握り俯いたロッシュの肩は微かに震えていた。
笑ってやがる。

(こいつ……覚えてろよ)


「テ、テリー、あんたはどうなのよ?」

「次は俺かよ……」


この場の何とも言えない雰囲気に耐えられなくなったマリベルにより、矛先はテリーに向いた。


「おおっイッケメーン!期待するよー!!」

「うるせえ」

「……みんな僕の扱い酷いよなー」

「自業自得だと思うよ」

「……」

380少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:08:34 ID:???0
茶々を入れてくるロッシュをガン無視して、テリーは真剣な顔で自分の腕の中の狼を見る。

(こういう時は色とかでつけるのが妥当か……?)

黒の毛並み、所々の白。

   黒 と 白 。
Black White

「……ブライトなんてどうだ」

「ブ、ラ……?どっから出てきたのよそれ?」

「いや、こいつの色って黒と白だろ?」


そう言ってテリーは狼を指す。
狼はキョトンとテリーを見上げる。


「ああ〜そうか!わかったわかった!やっぱりイケメンは考えることが違うね!」

「ブラックとホワイトでブライト……輝く、ね。やるじゃん」


皆から思った以上の(でも期待してた)高評価をもらい、テリーは得意そうな顔でマリベルを見た。
……が。


「何それ。かっこつけた名前ねー。あたしヤダ。却下」


マリベルが無慈悲にも切り捨てた。


「な、なんでだよ?俺的には全然オッケーだと思」

「ダメ!絶対ダメ!この子にはぁ〜もっとかわいい感じの名前が似合うと思うの!」


ワナワナと震えて尋ねるテリーを再び切り捨てるマリベル。
そして嫌がる狼を彼の腕から奪い去った。

((うわこの人こっわ……))

周りの男子二人がマリベルを畏敬の目で見るようになった事は言うまでもない。
パンを頬張りながら、ロッシュは口を開いた。

381少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:07 ID:???0
「ふぁに?ふぃんなおもふぃふかないふぁらふぉくがきめふぁうよ?
 (何?みんな思いつかないのなら僕が決めちゃうよ?)」

「ふーん、シスコン君いいの思いついたの?言ってみなさいよ?」


マーニャに促され、パンを飲み込んでロッシュは自信満々の笑顔ではきはきと答えた。


「はいっ!僕は、『ターニア』とかどうかなーって思うんだけど!どうかな?」

「「「「…………」」」」」


やっぱりか。
ロッシュを除いた四人の間にはそんな空気が漂っていた。


「うわ……分かってたけど、引くわ……(もうダメだわこのシスコン)」

「リーダー、あんたって奴は……(前からこれだもんな……)」

「何それ、引く……(ターニアってこの人の妹の名前なんでしょ……)」

「うん、理解できないね(崇高な妹の名前を獣なんかに付けるとか僕は死んでもしない)」

「えー何その全員一致のリアクション……凹むよ〜」


一人だけ違う理由で引いているなんて誰も気付く訳が無い。
まあそんな事はお構い無しに名前決めは続く。


「あたしは良いの思いつかないしー……マリベルちゃん決めちゃってよ」

「ほんと!じゃあね……」

382少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:23 ID:???0
マリベルは抱き上げた狼を目の前に持ってきて、にんまりとする。
見つめられている狼はかなりじたばたしているのだが、そんな事彼女には関係ない。


「でもアンタってふわっふわよね〜……あ、そうだ!!」


ぱっと明るい笑顔になってマリベルは宣言する。


「ウルフで、ふわふわ!アンタの名前は、『うるふわちゃん』よ!!!!」

「いやぁ可愛いじゃない!あたしもそれ気に入ったわ!よろしく、うるふわちゃん」

「……僕のと大して変わらない気がするんだけど……?」

「俺の方が狼らしい名前だったと思うんだけどなあ」

「うう……ターニア……」


こうして、マリベルの独断により、狼の名前は『うるふわ』となった。





「がう……」




***

383少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:09:50 ID:???0


ロッシュが盗って来た食料を三分の一ほど食べつくした所で、「眠い」とマリベルが言い出した。
ここには朝も夜も無いが、時間はきちんと過ぎている。
時計の上ではもうとっくに夜になっていた。

しかし、ここまで和んでいても忘れてはいけない、この場は殺し合いの場だ。
皆のんきに寝ていては全滅も冗談ではないので、交互に見張りと睡眠を繰り返しながら休息をとることにした。
ジャンケンの結果、最初の見張りはマーニャと僕に決まった。


「……みんな寝たみたいね。いいなあ、あたしも早く寝たいなあ」

「寝たいなら寝たら。見張りなんて僕一人で十分だし」

「だめだめ。カイン君ってそうやって無理して身体壊すようなタイプだと思うのよねー」

「……何その勝手なイメージ」

「お姉さんの性格診断ってやつよ。これでも結構当たるのよ?」

「……どうだか」

「つれないなあ。背中なんか向けちゃって。もうちょっと愛想あった方が人生楽よ?」


冗談のつもりで言ったのかもしれないけど。
冗談じゃないんだよな。
愛想なんて、あったとこで何が変わった?
周りからの評価が『お気楽者』になっただけだ。
……全く、気持ちよくない過去を思い出してしまった。
まあ、マーニャに悪気は無いんだろうけど。

(無理して身体を壊す、か)

そんな事は無かっただろ。
無理するほどの人生じゃ、無かった。
その筈なのに、なんでか、心に引っかかる。

(ていうか、なんか静かだな)

この人って、結構賑やかな人だと思うんだけど。
もしかして、あんな事言っといて、無理していたのは自分じゃないのか?
少しばかだなあとか思いながら振り向くと、そこには。

384少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:10 ID:???0

「あはははは!笑った!笑ったね、カイン君!!」


すっかり寝ているだろうと思っていた人が、凄い変な顔で僕を見ていた。
これまでに見たこと無いような、へんなかお。
思わず、口から笑いが漏れてしまった。


「いや、あんたってあんまり心から笑ってないからさ、笑わしたくなっちゃって」


目の前の女性は少しはにかみながら僕の方を見て笑う。


「そんな良い顔、出来るじゃない!」


(あ……)

その笑顔が、別の女性の笑顔とダブる。
この世界で初めに出会ったひと。
僕の話を始めて聞いてくれたひと。
僕が、救えなかった、もう一人のひと。
あのひとは、言った。
その命が消え行くときに。









『変わったな、って』








似ても似つかない言葉だけど。
思い出すには、それで十分だった。


「どうしたの?ぽかんとして」


突然話しかけられてハッとすると、マーニャが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「……何でもないよ」

「何よ?やっぱりつれないなあ」

385少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:31 ID:???0








ねえ、アイラ。

僕は本当に、変われたのかな。

自分じゃ、よく、分からないけど。

変わるって決めたけど。

わかったんだ。

やっぱり、まだ。

少し、こわいんだって。

でもさ、嫌な訳じゃないんだ。

だから、頑張るからさ。

もう少し、見てて、くれるかな。












「前を向くって、決めたからさ」

386少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:10:49 ID:???0
【C-8/夜中】
【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:HP6/10 脇腹打撲 肋骨が折れる、内蔵微損傷
[装備]:プラチナソード、ロトの剣
[道具]:支給品一式×6(特薬草を使用)、 不明支給品×1〜2(本人確認済み 回復道具ではない)、モスバーグ M500(2/8 予備弾4発)
    オーガシールド@DQ6、満月のリング@DQ9、世界樹の雫@DQ6、エルフの飲み薬@DQ5、デュランの剣@DQ6、もょもとの手紙
    毒入り紅茶 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:妹を捜す。自分を貫く。泣かない。休息。
※D-8のミレーユ、ククール、ピエールの支給品は回収されました。
※旅路の話をしましたが、全てを話していない可能性があります。少なくともリアについては話していません。

【ロッシュ@DQ6】
[状態]:睡眠中 HP9/10(回復)、MP微消費、打撲(ほぼ回復)、片足・肋骨骨折(ほぼ回復)
[装備]:はじゃのつるぎ@DQ6
[道具]:支給品一式 、白紙の巻物@トルネコ、聖者の灰@DQ9、食材やら水やら(大量)、調理器具(大量)
[思考]:前へ進む 休息。

【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/4
[装備]:なし
[道具]:猫車@現実、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     ミネアを探す、休息。

【うるふわ(ガボの狼)@DQ7】
[状態]:睡眠中 おなかいっぱい
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ガぅ(ごはんくれたからロッシュに従う、この名前いやだなあ)

【テリー@DQ6】
[状態]:睡眠中 ダメージ(中)、背中に打撲、MP消費(中)、焦げ、"   "
[装備]:雷鳴の剣@DQ6、ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない)
[思考]:休息。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
(経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:睡眠中 MP消費(小)
[装備]:マジカルメイス@DQ8 水のはごろも@DQ6
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜1)
[思考]:休息。

387少年少女前を向け ◆MC/hQyxhm.:2013/07/27(土) 22:13:05 ID:???0
以上です。
問題などありませんでしたら、代理投下お願いします

388 ◆MC/hQyxhm.:2013/07/28(日) 22:35:18 ID:???0
代理投下ありがとうございました

389 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:38:19 ID:???0
第三回放送投下します

390第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:38:55 ID:???0
「……宜しかったのですか?」
戻ってきたデスタムーアに、アクバーは問いかける。
何を? というのはもちろん、先ほど男との"会話"だ。
ふん、と鼻を鳴らしデスタムーアはアクバーに答える。
「どうせ禁止エリアは私が手を下さねばならなかった、そのついでに与太話をしただけよ」
そう、どうせ死に行く命。
そんな男に喋ったの単なる気まぐれにすぎない。
何を吹き込もうが、他の人間に伝わることなど無いのだから。
「それに……どうせ首輪のことはいずれ奴らにも分かる」
そう、何より首輪のことなど"いずれわかる"のだ。
それがどういった手段で判明するかは定かではないが、これから先どう足掻いても首輪がハリボテだという事はバレる。
もちろんデスタムーアはハナからバレるつもりだったので、問題はない。
それが参加者の手による解明か、はたまた時間経過による禁止エリア増大の自然解明か。
そのどちらであろうと、別に構わないのだ。
それも、計算の上なのだから。
「時にアクバーよ」
「はっ」
切り返すように、デスタムーアはアクバーへと問いかける。
「戦いの準備はできておるか?」
「いつでも、デスタムーア様の牙となりましょう」
その言葉に応じるように、アクバーは跪く。
「時が来たら……」
「承知しています」
「そうか、ならば行け」
「はっ」
"時"が満ちたとき、魔王の腹心の部下は牙を剥く。
けれど、今はまだその時ではない。
今は、まだ。

391第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:41:23 ID:???0
.


そして、会場に悪魔の声が響き渡る。



「18時間が経過した、定時の放送を行う。
 ……日の光など無いこの世界では、時間の流れが掴みにくいだろう。
 この狭間の世界では、昼も夜もない、ただ有るのは"空"だけだ。
 禁止エリアにも関わる事だ、時間管理はしっかりしておけ。
 さもなくば……命を落とす、それだけだ。

 ではまず、禁止エリアの発表だ。
 先ほど同様、六つ設定する。
 2時 B-5 F-5
 4時 A-4 C-7
 6時 E-5 G-3
 以上の六つだ、聞き間違えの無いよう、確認できるのならば確認した方が良いだろう。
 禁止エリアを頭に入れていなければ死ぬ、それは事実なのだからな。

 では、次に死者の読み上げだ。
 ヤンガス
 バーバラ
 アリーナ
 ラドン
 ミネア
 ルイーダ
 アンジェ
 竜王
 ホンダラ
 フローラ
 
 以上、10名だ。
 ……正直、驚いている。
 貴様等人間達がここまで血に飢えた生き物だったとは、思っていなかったからな。
 血を吸い、戦いの快楽に溺れ、そして59の屍の上に立つ。
 この調子ならば、簡単な話であろう?
 では、また六時間後に会おう。
 心の中の血の渇きを、思う存分に癒しておくことだな……」

笑い声が木霊する中、悪魔の声は空に解けていった。

【残り17人】

392第三回放送 ◆CruTUZYrlM:2013/08/15(木) 00:42:49 ID:???0
以上で投下終了です。
禁止エリアはまたまた独断で決めさせていただきましたが、もし「この方が良くない?」とかありましたら、是非お気軽に!

393LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:22:15 ID:???0
悪魔の放送が空に鳴り響く。
睡眠をとっている三人のためにも、この放送の内容は聞き逃すわけにはいかない。
筆記用具を手に持ち、紙にさらさらと必要な事だけをメモし、地図に印を入れていく。
呼ばれていく名に、知り合いの名は無い。
当然だ、ただ一人の肉親を残して、仲間も敵もとっくのとうに名前を呼び上げられているのだから。
強いて言えば、あの曾孫の祖先と思わしき"竜王"が死んだことぐらいか。
伝記上でしか知らないが、強大な力を以てアレフガルドを支配したと聞く。
そんな力の持ち主ですら、この場所では死ぬ。
討たれたのかどうかまでは知る由もないが、気を引き締め直す必要はある。
放送が途切れると同時に、カインは見張りの相棒に話しかける。
「なあ、マー……」
その声は、音として外に出ることすら叶わず、か細く途切れていく。
いや、恐らくカイン以外の人間でも、きっと声を出しきることは出来なかっただろう。
今し方声をかけた人間、マーニャは。
この地で初めて、いや人生の中でも初めてと言っていい。
それほど大きな粒の涙をぼろぼろと、輝く両目から止めどなく零していた。
思わず、言葉を失う。
圧倒されるほどの姿、本人は悲しい気持ちでいっぱいだというのに、それを見ている自分は美しいと思ってしまうほど。
言葉など、飛び出すわけもない。
「……ご、めん」
ゆっくりと顔を動かし、カインの方を向き、小さく言葉を漏らす。
その声は弱々しく、今にもたち消えてしまいそうなほどだった。
「ちょっ、と……風、当たって、くる」
途切れ途切れの言葉を残し、マーニャはその場からゆっくりと離れていく。
カインは、そんな彼女になんて声をかければ良いのか、わからない。
ましてや、彼女がどこかに行くのを止める事なんて、出来るわけもない。
「くそぉっ……」
誰かを信じる、前を向く。
以前のように「他人はどうでもいい」と思っていたときには感じなかった、初めての苦しみ。
それに対してどうすることも出来ず、ただただ地面を殴ることしかできない。
己の不器用さを、ただただ呪うばかりだった。

394LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:23:13 ID:???0
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怪鳥が空を舞う。
その背には、魔法使いの老人とか弱い少女。
いや、か弱いという表現は誤用かもしれない。
自分の祖先を殺し、自分を止めてくれた人間を殺した。
悪鬼羅刹にもっとも近く、この殺し合いでもっともまともに"狂って"いる。
だが、その心に少しだけ、綻びが生まれ始めようとしていた。

「このアレフ、お嬢様の思いに我が身を以てお答えいたしましょう」

憎んでいたはずの祖先は、自分がどれだけ罵っても眉一つ動かさなかった。
どれだけナイフで刺しても、どれだけ呪詛をぶつけても。
決して動じることなく、自分を抱きしめに来た。

「友達に、なってくれないかな」

ある女は、体が両断されてもおかしくない傷を負っているというのに、自分のことを気にかけていた。
もっと知りたい、だから友達になって欲しいと。
どうせ死に行く人間の最後の狂言と、リアは笑い飛ばした。
けれど、その女は最後の最後まで自分を見つめていた。

二人とも、勝手だ。
自分がどんな世界で、どんな苦しみを味わって、どんなに孤独に過ごしてきたかも知らないで。
自分が言いたいことだけを言っている。
受け止められるはずがない、受け止められるわけがない。
何も分かってない人間の、狂言にしか過ぎないのだから。

だけどどうして、心は揺らぐのだろう。
もしまともな世界で出会っていれば、自分の世界がああでなければ。
二人の言葉に、耳を傾ける余裕もあったのだろうか。

いや、そんな事を考えるのは時間の無駄だ。
もう、作り上げられた世界を変える事なんて出来ない。
そして、この場所では一人しか生き残れない。

兄のいない世界なんて、死ぬよりも辛い事だ。

早くしなきゃ、早くしなきゃ。
兄と一緒に死ぬために、兄と一緒に旅立つために。
もう、残り人数も少ない。
ということは、兄に危険が及ぶ可能性が高くなる。

兄に先に死なれては、困る。
兄のいない世界など、考えられない。
だから、兄とともに死ぬ。
兄のいない世界を味わう前に、自分も死ぬ。

だからお兄ちゃん、今、今。
リアが殺してあげるからね。

そんな思いで心を必死に塗りつぶしていく。
揺らがないように、綻びが生まれないように。
もう一度、心に深く刻み込んでいく。

そんな決意があるとは露知らず、怪鳥は西へ飛ぶ。
禁止エリアに追い立てられるように出てくるであろう参加者を、追いつめて殺すために。
魔法使いは力を磨く、世界の全てに破壊を齎すために。

395LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:23:43 ID:???0
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「あんっの……」
すうっ、と胸一杯に息を吸う。
「バカミネアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」
涙をまき散らしながら、空に響きわたるほど叫ぶ。
ふうっ、ふうっと肩で荒々しく呼吸をする。
落ち着かない、当然だ。
放送は死者を告げる悪魔の宣告。
その名にあったのは、かけがえのない仲間であるアリーナ。
そして、唯一の肉親であるミネアの名前。
揺らがない訳がなかった。黙っていられるはずがなかった。
二人とも正義感が強く、困った人を放っておけない質だ。
特にミネアは筋金入りで、道行く人が倒れようモノなら即ベホマ。
そんな彼女たちだったからこそ、マーニャの心には「誰かを守って死んでしまうのではないか」という不安があった。
だから、一刻も早く会いたかった。
あって無事を確かめたかった。
いつも通りに話して、いつも通りに笑って。
それだけで、良かったのに。

もう、叶わない。

アリーナのすっとぼけた会話を聞くこともない。
巨岩を優に砕く腕力を見ることもない。
心の奥底に秘める優しさを感じることもない。

妹のふんわりとした声を聞くこともない。
時に鬼のような恐ろしさを感じる占いを見ることもない。
時折見せる繊細さに触れることもない。

死んでしまっては、どうしようもない。

「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
ただただ、叫ぶことしかできない。
結局何も出来なかった無力な自分を呪うように。
声が枯れてしまいそうになるほど、叫び続けることしかできない。

「やだよぉ……行かないでよ、ミネアぁ……アリーナぁ……」
いつも強気な彼女からは考えられないほど、弱々しい声が漏れ出す。
誰が言っていたか、強気は弱みの裏返しだと。
この殺し合いが始まってから、頑なに妹を探し続けた理由。
それは、失ってしまうのが怖いから。
自分の中の支えであるものを、無くしたくないから。
分かっていたのだ、自分がそれに依存していることくらいは。
けれど、もうそれは失われてしまった。
柱を失ったことで、マーニャという一人の人間が音を立てて崩れ去っていく。
もう、強気でカジノ好きなマーニャはそこにはいない。
姉という肩書きすらも無くした、ただの一人のちっぽけな人間。
「うっ、うああ、うあああああああ!!」
無力で、惨めで、何も出来ない。
泣くことぐらいしか出来ないから、泣くしかない。
ずっと泣き続けている場合ではないことぐらい、分かってはいるけど。
せめて、後少しだけでいい。
大声を上げて、たくさんの涙を流させて欲しい。

396LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:24:14 ID:???0
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しかし、それすらも叶わない。
ピリッ、と背筋を走った殺気に、マーニャは素早く飛び退いて武器を構える。
喪失感に襲われているとはいえ、敵の気配を感じてもなおぼうっとしているほどバカではない。
腫れた目をこすり、殺気の飛んできた方向を睨む。
一匹の怪鳥が、こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる。
先ほどロッシュとテリーの口から漏れた、世界を支配する四魔王のうちの一人、ジャミラスの姿とよく似ている。
急いでカインの元に戻ろうとするが、向こうの飛行速度は段違いだった。
下手に背中を見せれば、余計な傷を貰いかねない。
進撃を食い止めつつ、仲間のところまで退く。
そうと決まれば、行動は迅速な方がいい。
「獄炎よ、牢となり彼の者を捉えよ! ベギラゴン!!」
素早く呪文を唱え、炎を練り上げていく。
足止めが目当てならば、一点に集中した火球より、殺傷を目的とした爆発より、天高くに伸びる炎の方が良い。
手を振りかざすと同時に、怪鳥を包み込むように炎が巻き起こる。
その炎を見つめたまま、マーニャは素早く後ろへ飛び退いていく。
早く戻って、彼らに伝えなくてはならない。
だが、その撤退行動は許されない。
炎が巻き起こるとほぼ同時に、無数の氷柱が地面へと刺さる。
氷柱達は、その身を溶かしながらも炎達を弱めて行った。
予想外の出来事に、思わず歯を鳴らしてしまう。
テリー達の話が本当なら、ジャミラスはそんなに強力な呪文を使えることは無いはずなのだ。
事実、呪文を唱える素振りは微塵も見えなかった。
つまり、どう言うことかは分かる。
「筋の良い炎だ、けど、ちっとばかし足りねぇな」
よりにもよって魔物に手を貸す人間が、居ると言うことだ。
怪鳥が剣を握り、舌をなめずり回しながらマーニャの体をじろじろと見つめる。
ニタニタと下卑た笑いは、どこまでも気分を不快にさせてくる。
早く次の一手を打って、この状況を変えなければ。
「その髪の色……ふっ、そうか、そういうことか」
魔物の口から飛び出してきた言葉に、マーニャは疑いの目を向ける。
「……どういうことよ」
心を探られないよう、慎重に言葉を選んでいく。
手札を悟られてはいけない、まるでポーカーのように慎重に進んでいく。
「先ほど、貴様によく似た女をこの手で殺してきたばかりだ」
だが、魔物が切ってきたのは、オールジョーカー。
あり得ない手札、刃向かいようのない手札、そして何より。
一番見たくない絵面の言葉だった。
「テッメェエエエエエエエエエエッ!!」
瞬時に炎を練り込み、今度は火球として放っていく。
一発ならず二発、三発。
目の前の怪鳥を燃やしつくさんと、次々に放つ。
それをかき消すのは、今度は氷柱ではなく同じ大きさの火球だった。
マーニャが即座に練り上げた三発の球を、意図も容易くかき消していく。
「ふん、余計な真似を」
「おいおい、案外危なかっただろうが。その台詞は無いンじゃねえのか?」
魔物の側で老人が笑う。
そんなやりとりをしている間にも、呪文は次々に飛んでくる。
それを老魔がいなしていくというのを繰り返しているうちに、リアが口を開く。

397LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:24:26 ID:???0
「ねえ、魔物さん……あんなのどうでもいいから、早く行こうよ」
こんな所で時間を使いたくないという焦りが、その言葉を生む。
「嬢ちゃんの言うとおりだな、ここは俺に任せて先に行けよ」
何かを言いたそうにしていたジャミラスよりも先に、老魔が言葉を被せていく。
「禁止エリアの都合上、この先に誰かが居ンのはほぼ間違いねえ。
 だからよ、先に行ってそいつ等をぶち殺してくれよ。
 誰もいなかったら居なかったで、すぐ戻って来りゃあいい。
 なあに、あの女一人くらいなら俺一人で十分よ」
最もらしい理論を並べ、怪鳥に先に進むことを勧めていく。
誰かいるなら殺せばいいし、誰もいないなら戻ればいい。
口にしてみればシンプルで、それでいて相手を納得させやすい言葉。
言葉を言い終わってから、老魔はにっこりと笑う。
「それに、何より嬢ちゃんが行きたがってるからな」
「……勝手にしろ」
「待てやァッ!」
その言葉と同時に飛び去ろうとした怪鳥にめがけて、マーニャが再び呪文を放つ。
「おおっと、悪いがアンタの相手は俺だ」
そのマーニャに、ナイフを持って一気に詰め寄っていく老魔。
見てくれからは想像できない俊敏さに、マーニャは思わず一歩退いてしまう。
「アレを追いかけたいなら俺を倒してからにしな」
飛び去る怪鳥を指さしながらにたりと笑う老魔を前に、マーニャは先ほどカインから譲り受けた扇を構える。
「……アンタ、何で魔物と連んでるのよ」
そして、純粋に思ったことだけを、口にしていく。
「ハッ、愚問だな……このクソったれた世界に、興味がなくなっただけの事よ。それと――――」
老魔はさぞ興味がないといった表情で、マーニャに告げる。
ふと、脳裏によぎったのは始めに出会った少女。
目の前の男も、彼女とは違うが、同じように絶望しているのか。
考えをよそに、老魔は言葉を続ける。
「俺が世界最強の魔法使いだって事を証明するために、テメーみたいな二流に負けるわけにはいかねえよ」
前言撤回。
いつぞやの賢者のように、この男もただのバトルジャンキーだと言うことなのだろうか。
「ハッ、生憎。魔物と連んでるような自称一流芸人にも負ける気はしないわね」
ありったけの皮肉をぶつけるだけぶつけて、マーニャは戦いの構えを作る。
老魔がナイフと杖を構えて、後ろに飛び退く。
マーニャが扇を構えて、後ろに飛び退く。

それが、戦いの合図。

398LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:25:01 ID:???0
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はあ、とため息を一つこぼす。
優しい言葉の一つすらもかけてやれない、そんな自分に辟易してしまう。
変わる変わると口で言っていても、現実はこんなものだ。
パチンと音がするだけで別人になれるのならば、この世の中はそんなに苦しくない。
だからこそ、人間というのはもがくのだ。
苦しみから解き放たれたい、今を、自分を、全てを変えたいと願うあまり。
……まあ、何もかもが簡単に変えられる訳じゃない。
実際に一度挫折しているのだから、それくらいは分かる。
「あー、くそっ」
こういう事を悩むのは、柄ではない。
だけど、どれだけ頭をこねくり回しても、優しい言葉の一つすら浮かばない。
なんてひねくれた愚か者なんだろうか。
「……随分お悩みのようだねえ」
そっと声がかけられる。
うずくまる姿勢から首だけで振り向くと、そこには少し悲しげな表情をしたロッシュが立っていた。
「なんだよ、寝たんじゃなかったのかよ」
「なんか、ね。寝付けなくて」
頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうに告げる。
はぁ、とため息を一つこぼし、カインはロッシュを見つめる。
この脳天気そうな顔を見る度に思う。
へらへらと表面を繕っていて、それでいて裏では深刻なことを考えていたりする。
……まるで、僕じゃないか。
「まあさー、上手くは言えないけど。そんなに悩むことはないんじゃない?」
いや、僕ではない。
僕より腕が立って、僕より前を向けて、僕より絶望していなくて。
「考え過ぎなんだよ、きっと。そういうことを言おう言おうと考えるから、言葉に詰まる。
 "きっともっと相応しい言葉がある"なんて考えるから、言えるモノも言えなくなる。
 だからさ、思ったことをそのまま言えばいいんだよ」
何より、僕が言えない"言葉"を、彼は持っている。
正直言えば妬ましく、疎ましい。
どうしてこんなにも恵まれた人間から、同じ空気を感じなくてはいけないのか。
「もっと正直になってもいいんじゃな〜い?」
……いや、よそう。
今はそんなことを考えている場合ではない。
それより、ロッシュの言うことの方が万倍もタメになる。
不器用だったとしても、一言告げることが大事なのだから。
「なるほど、ね。前向きに善処するよ」
ロッシュの提案に対し、カインはざっくりと答える。
「んも〜う、カイン君ったらぁ〜、もっとお兄さんのこと頼ってもいいのよぉ〜?」
すると、こちらの心を見透かしているのか、なんともウザったらしいリアクションが返ってきた。
……切らずにとっておいたカードを、何の躊躇いもなく切る。
「マリベルとテリーにさっきの惚気全開寝言を全部チクるよ」
「すいません許してください何でもしますから」
「ちなみにマーニャは全部聞いてたから」
「……何て言ってた?」
「死ねクソボケ同じ酸素吸ってるだけで恥ずかしいから速やかに呼吸を止めろザキザキザキザキザキ」
「ひどくない!? っていうかマーニャはザキ使えないじゃん!」
「ちなみに一部だから」
「もっとあるの!?」
「そう、他には――――」
「もういいですマジで死んじゃうからやめて」
あっという間に会話の主導権を握り、どこか誇らしげな表情を浮かべるカイン。
まあ、こんな風に誰とでも気兼ねなく喋れればいいのだが。
少しずつ、頑張ろう。

399LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:25:30 ID:???0

そんなことを考えていたときである。

「――――お兄ちゃん!!」

耳に覚えのある声が聞こえる。
心臓がドクリと一回、大きく跳ねる。
ずっと聞きたかった声が、耳の中で何度も何度もリフレインする。
声のする方を向く、見覚えのある姿が居る。
腐り果てたあの世界で、たった一人だけの"信じれる人"がそこにいる。

「リアッ!!」

その名前を、愛しき妹の名前を叫ぶ。

「お兄ちゃあああああああああん!!」

はちきれんばかりの泣き声と共に、リアの小さな体がカインの胸元へと飛び込んでくる。
カインはその小さな体をしっかりと受け止め、精一杯の優しい力で抱きしめてやる。
鼻をつく血の香りとか、今まで溜まっていた疲労とか、全てがどうでも良くなった瞬間だった。

「会いたかった……ッ」

ただ、その一言を告げる。
これは夢ではなく、現実。
目の前にずっと会いたかった妹が、居るのだ。



「羨ましいね……」
感動の再会を横目でみつつ、ロッシュはため息を一つこぼし、ぽつぽつと歩き始める。
同族の気配がするということもあって薄々感づいてはいたが、やはりカインには妹が居たようだ。
生きて出会えた、というのは幸せなことだ。
こんな場所では、いつどこで誰が死んでしまうかなんて、分かる訳がないのだから。
きっと、彼は今、この上なく嬉しくてたまらないだろう。
「……僕も、会いたいな」
つい、本心を漏らしてしまう。
会いたい、会いたい、けれどこの場にどころか、どこにも居ない存在。
夢は夢としてしか生きれない、分かっている。
けれど、異世界と異次元が混じり合うほどの世界だったなら。
少しぐらい、また夢見てもいいんじゃないだろうか。
「くだらない、な」
何かを振り切るようにそう呟き、くるりと振り向いていく。
「そう思うだろう? ジャミラス」
「ふん、やはり気づいていたか」
視線を飛ばした先から、ゆっくりと現れる一匹の怪鳥。
カインが感動の対面をしていたとき、ロッシュはその先にあった気配をいち早く察知し、その正体を掴んでいたのだ。
剣を構え、淡々とした声でロッシュは怪鳥に告げる。
「悪いけど、あの二人の感動のご対面は邪魔させられないよ」

400LOVE & TRUTH    ...more ◆CruTUZYrlM:2013/08/26(月) 23:26:04 ID:???0
その一言を聞いてから、少し目を丸くして、ジャミラスは笑う。
「……感動の対面? ククク、そうか、フハハ、ハハハハハ!!」
笑う、笑う、笑い続ける。
生まれて初めて道化師を見たような子供のように、笑う。
「何が可笑しいのさ」
冷たく問いかけてみても、怪鳥はずっと笑っている。
「フンッ、これから死に行く貴様には関係のない事よ。
 精々あの二人が出会わせたことを、精々後悔するが良い」
「どういうことだい?」
さも意味ありげな言葉を吐くジャミラスに問いかけてみてみるも、返答は拳。
端的に言えば「さっさと死ね」ということなのだろう。
振るわれた拳をひょいと避けながら、ロッシュは言う。
「そっか、教えてくれないか。そうだろうとは思ってたけどね。
 こんな傷だらけで、ボロボロで、今にも死にそうな人間にそんなことを教えてもしょうがないもんね。
 でもね、ジャミラス。僕はこんな体でも――――」
そして、深呼吸を一つして。
「君を止めるくらい、どうってことはないさ」
不適に、笑う。
「ほざけ!!」
怪鳥の怒号が、戦いの始まりを告げた。


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