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没ネタ投下スレッド

1名無しさん:2006/05/10(水) 23:42:47 ID:OKj1YCQ2
書いてたキャラを先に投下された
書いては見たが矛盾ができて自分で没にした
考えては見たが状況からその展開が不可能になってしまった

そんな行き場のなくなったエピソードを投下するスレッドです。

359 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/19(火) 22:54:47 ID:???0
>>358

たぶん バラバラ に くだけちって いるんじゃないかな?

360 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/20(水) 10:22:05 ID:???0

ウォンチュウ|∀・)<ダレモイナイ 加筆訂正クワエタ カ>>342-352 トウカ スルナラ イマノウチ

361真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:25:07 ID:???0
 **********

 遥か遠い昔、まだ人々が『勇者』という存在に夢と希望を抱いていた時代。

 勇者の血を引く三人の王族が、彼の地に伝説を刻まんと過酷な旅を続けていた。
 その物語は偉大なる祖先たちと並び、永劫語り継がれるであろう物語。
 しかし、吟遊詩人たちがどれだけ美しい詩と音色で飾ろうとも
 真実というものは何時だって冷淡で残酷なのである。

 今宵語りまするは、三人の勇者たちの物語。
 勇者ロトに連なる、この地にはびこる闇を振り払った3つ目の物語。

 一人は、勇者ロトの生まれ変わりと讃えられた膂力の王子。
 一人は、その力を仲間を民を家族を護る為に尽くした優しき王子。
 一人は、全ての魔術を英知に刻みし美しき亡国の姫。
 その三人の邂逅の物語。

362真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:26:04 ID:???0
 **********

 ざぶざぶざぶ

 僕らは今、毒の沼地の真っ只中にいる。

 土と水と動物や魔物の腐肉が混ざった汚泥が体中にねっとりと絡みつき自由を奪う。
 吐瀉物と排泄物と腐った卵を絶妙な対比でブレンドしたような香りで意識を失いそうになる。
 一歩一歩進むごとに、確実に命が削り取られていくのが、嫌というほど実感できる。

 通りすがりの旅人が、男二人で毒の沼に胸までどっぷり浸かっている光景なんか目撃したら
 自殺志願者か何かだと勘違いするのだろうけど、別に今ここで死にたいわけじゃない。決して。
 ここには、すべての真実を映し出すといわれている神器『ラーの鏡』が眠っている…はずなんだ。
 
 大神官ハーゴン率いる邪教団に滅ぼされた王国ムーンブルク。僕やもょもとの国とは姉妹国でもある。
 思えばムーンブルク滅亡の知らせこそが、僕と もょもと を打倒ハーゴンの旅へと向かわせた発端だったけ。

 廃墟と化した王城へ立ち寄った際、王女『あきな』は存命しており
 ハーゴンの呪いで犬の姿に変えられてしまっているとう情報を入手した。
 さらに探索を進めていると、生き残りの兵士がいて、彼からラーの鏡の在り処の情報を聞き出し今に至る。
 泥の沼地に手を突っ込んで泥を掻き出しドブさらい。時にゴーグルをつけて潜ってみたり
 よく死なないなと我ながら思う。人間って案外頑丈にできているもんなんだなぁ。
 
 ムーンブルクの王女 あきな は100年に一度の魔術の天才と噂されている。
 歩くより先に杖を持ち、言葉を覚えるよりも早く真空呪文を唱えたとかバカみたいに誇張された話まである程だ。
 もょもとは魔法が使えない。僕も一応呪文は使えるけど回復か補助ばかりだ。
 今のところは順調に進んでいるけど、いずれ僕の呪文も、もょもとの剣も通用しない魔物に遭遇する可能性もある。
 そんな時に彼女の呪文は大きな戦力になる、仲間にして損は無い。そう考えたんだ。

 そういえば最後に彼女の姿を見たのは何時だったっけ?
 彼女が15歳になる誕生記念だったかに、サマルトリアとローレシアに肖像画が送られて来た事があったっけ。
 輝くような金髪と楽しげにクルクルと渦巻く髪の毛がリアに似ていて、やっぱり同じ血が流れているんだと思った。
 リアも将来あんな感じの美人になるのかと思うと、自然と口元が緩んだっけ。
 (その数日後に肖像画が忽然と消えてしまったんだけど、多分リアが勘違いしてヤキモチを焼いたんだと思う)

 うん、アレは絵だ。生身の彼女ではないけど、彼女と会う時の手がかりになるだろう。
 幼い頃に一度、三国の親睦を深める為のお披露目会があった気がするけど、正直、よく覚えてない。
 国家交流とか、そういう事情を察するには幼すぎる年齢だったからだろうし、興味も無かったのかもしれない。 
 ただ、その日を境に、父上の僕に対する態度が一変したのだけは覚えている。
 今思えば、両国の王の『うちの子自慢』が聞くに堪えなかったのだろうね。

 「あったぞ」

 過去の回想に耽っていたら、もょもと の声が聞こえた。相変わらず1ミリも感情が籠っていない淡々とした声だ。
 その両手には毒々しい紫色の泥に塗れた丸くて大きな塊…もといラーの鏡が握られていた。

 ―少しずつ泥が滴り、わずかに見える装飾と刻まれた魔術文字というのは情報と一致する形状だし
  何より泥まみれの僕が僕を見つめていた。鏡の向こうの僕は、僕を見て悲しそうに嗤っているような気がした―

363ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:26:52 ID:???0
 **********
 
 あの日以来、すべてを失ってしまった。
 敬愛していた父も、善良だった民達も、大好きだったマリーゴールドの庭園も何もかも。

 ムーンブルクは平和だった。穏やかな気候に恵まれ飢えることも無く、友好的な国家関係で争い事も無かった。
 父は温厚で誠実な人物だった。
 頻繁に領土視察を行っては、作物はどう育つのか、物流の仕組みはどうであるか、根にあるものの大切さを説き
 必要以上の税は取らず、慎ましやかなで、故に民からの信頼も厚かった。
 民たちも私を愛してくれたし、私も民とムーンブルクという国を愛していたし、永劫の平和を疑わなかった。 

 それを、あの男が、ハーゴンが彼が率いる魔物たちが、すべてを壊してしまった。
 血と炎と黒煙で赤黒く穢される白亜の城、魔物に引き裂かれる近衛兵達、食い散らかされた民の手足や内臓
 鳴り止まない轟音と悲鳴と断末魔、そして私をかばって生きながらにして焼き焦がされる父王。
 この世のものとは思えない生き地獄を目の当たりにした私は、父の名を叫び…そのまま気を失ってしまった。
 あぁ、私も魔物たちに嬲り殺されてしまうのだ。遠ざかる意識の中でそう思った。

 しかし、私の生き地獄はまだまだ続いた。

 次に目を覚ました瞬間、やけに空が高く感じたのを覚えている。
 目を傷めたのだろうか?色がぼやけて…いくつかの色が欠けて見える。
 焼け焦げた建物と死体の匂いで鼻がねじ曲がりそうだった…。

 立ち上がろうと両足に力を入れるが上手く力が入らず、ガクリと崩れ落ちてしまう。
 腰が抜けてしまっているのだろう、まるで立ち始めの赤ん坊のようだ、と我ながら呆れてしまった。
 床に付きっぱなしの手に力を入れる。腰から足があがらず、またも床に突っ伏してしまう。
 …おかしい。明らかに変だ。立ち上がりたくても立てない。体調がおかしいとかではなく
 体の構造がおかしい…?どういうこと?
 いう事を聞かない体を引き摺るようにして、用水路へと近づく。そして自分の姿を映してみる。

 私の姿は人間ではなかった。一匹の犬だった。 

 何日も野を駆け、森を彷徨い歩いた。
 慣れない犬の視野、解らない色。異様に発達した耳が、鼻が、掴み取る、獣達の荒い息が、死臭が
 見知った土地を『異界』へと変貌させる。人間であった頃の感覚が失われていくのが解る。
 それでも私の足を歩ませたもの。それは大神官ハーゴンへの憎悪では無かった。
 『生きたい』『こんなところで死にたくない』
 自分のすぐ後ろまで迫る『死』への恐怖に支配されていた。
  
 辿り着いたムーンペタにも『希望』など無かった。
 野外とは違い、雨風を防げるという優位点はあった。しかし、そこも野外とは違う『地獄』に過ぎなかった。
 心優しい子供から施しを受けることもあったが、所詮はすぐに飽きられ、そっぽを向かれた。
 飢えを凌ぐ為に雨水を啜り残飯を漁る事に抵抗が無くなるのに三日も経たなかった
 動物嫌いな人から理不尽な暴力を受けたこともある。雪のような白い毛並みは赤い花が咲いた。
 野良犬に襲われたこともある。暴力的な意味でも…貞操的な意味でも。  

 この時、初めて大神官ハーゴンと邪教団を憎いと思った。いっそのこと殺してくれた方が楽だった。
 それ以上に、我が身可愛さのあまり、父の事も国の事も民の事も忘れていた自分を恥じた。憎んだ。
 明日への夢も希望も無く、死ぬことも出来ずに過ごす日々が淡々と続いた。ただ ただ 淡々と。

364真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:27:26 ID:???0










 ゆめをみた。ひさしぶりの ゆめだった。

 ちいさいころ まだ おかあさまが いきていらっしゃったころの ゆめだ。

 おとうさま と おかあさま は ほかの おくに の おうさま と たのしそうに おはなし していた。

 わたしは とおえん の おうじさま ふたり と あそんでいた。とっても たのしかった。
 










 なつかしい においが する

365真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:28:25 ID:???0
 **********

 あきな は 泣いていた。

 ムーンペタの街に訪れたときから、おれたちに懐いていた犬にラーの鏡を使ってみたら、あきな だった。
 おれには解らなかったけど、カインがそうだと言ったので、そうなんだろう。
 最初は しばらく ぽかんとしていた。そして、思い切り、大声をあげて泣きじゃくった。
 泣きながら、「ありがとう」といって頭を下げていた。何度も、何度も「ありがとう」といっていた。泣きながら。
 
 小さいころ、乳母とさんぽをした。
 ちがう方向へ行きたかったので手を引いたら、そのまま引きずってしまった。体中すりむきながら乳母は泣いた。
       
 勉強の時間に伸びをした。後ろにいた先生の鼻にこぶしが当たって、先生の鼻がひん曲がった。
 鼻のよこから折れた骨が見えて血がでていた。鼻を押さえながらわぁわぁと泣いた。

 父上から言われて剣を教わった。指南役の兵士と手合わせをした。
 言われた通りにやっただけだが、兵士はうずくまって、うめき声をあげながら泣いていた。

 ムーンブルクから死にかけの兵士がやってきた。ムーンブルクは魔物に攻め込まれて滅びたらしい。
 それを告げると兵士は死んでしまった。女官たちはすすり泣いていた。

 大神官ハーゴンが魔物を集めて世界をめちゃくちゃにしようとしているらしい。
 ローレシアの国民たちは、みんな不安げにしていた。

 ひとは、痛いときに、苦しいときに、不安なときに、悲しいときに泣くんだな、と思った。

 あきな は どうして泣いているんだ?
 おれは「ありがとう」とは、だれかに感謝するときにつかえ、と教わった。
 あきな は 痛いのか?苦しいのか?不安なのか?悲しいのか?

 ムーンペタで宿をとった。
 夕飯を食べて、風呂に入って、部屋で一息ついた。あきな も おちついたようだった。
 だから、きいてみた。

366真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:32:31 ID:???0

 「あきな は どうしてあの時泣いたんだ?」
 「え?」

 カインが「君は何をいっているんだ?」と言ってきたけどきにしない。

 「元に戻った時に怪我でもしたのか?どこか痛かったのか?苦しかったか?
 不安なことでもあるのか?悲しかったのか?」
 「…女の子にデリカシーの無い事を聞くんじゃないよ、もょもと」

 カインが眉を眉間によせている。なにか変なことを聞いただろうか?

 「…全部よ」
 「え?」
 「痛かったから泣いたの。苦しかったから泣いたの。不安だったから泣いたの。悲しかったから泣いたの。」

 そうなのか。全部なのか、辛かったんだな、あきな。
 あきな は もう一度、泣いていた

 「そうか。辛かったのか」
 「えぇ、辛かった。とっても辛かったわ…。でもね…それ以上に、嬉しかったの。
 優しかったお父様も、国のみんなも、何もかも失ってしまったのだもの。私だけ生き延びてしまったのだもの。
 犬にされてしまったのだもの。犬になっても…それでも人間の部分は残っていたのだもの!!

 狼や野犬に食べられてしまいそうになったこともあったし狩人の仕掛けた罠で足を怪我した事もあった!!
 残飯を漁ったり泥水を啜ったりもしたわ!!
 そんな風に過ごしているうちに、心まで犬になりかけていたのかもしれない。
 私、自分が誰であるかすら忘れかけていた。いっそのこと全部忘れてしまえば楽だった…。
 …楽だったのに、ひとつだけ忘れられない事があったの」

 もう十数年前になる三国の親睦会。おれたちが初めて出会った日だそうだ。
 あきな は 同い年のお友達が出来てうれしかったと語っていた。
 おれは剣の相手がいなくて退屈だったのを覚えているけどな。
 カインは、そんなこともあったね、と懐かしそうにうなづいていた。二人ともよく覚えているな。

367ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:33:48 ID:???0

 「自分が誰であったか、殆ど忘れかけていた頃に、その時の夢をよく見たの。
  そして、懐かしい匂いがしたから駆け寄ってみたら…貴方たちを見つけたの。
  二人とも、大きくなっていたけど、あの頃の面影が残っていたから、すぐに判ったわ。

  最初はね、気が付いて欲しくて、必死になって追いかけて、擦り寄ったりしたの。
  何度も挑戦する内に、『私は犬だもの、気が付いてくれるはず無いな』って、途中で諦めてしまったの。
  貴方たちがハーゴン討伐の旅をしていることは噂で聞いていた。

  こんな姿の私は何の力にもなれないし、みんなの仇討ちなんて絶対無理に決まってるって。
  それでも、貴方たちの傍にいると、自分が自分であった記憶と意識を鮮明に保つことが出来たから
  貴方たちは、いつかまた旅に出てしまうだろうけど、その間だけでも傍に居させて欲しかったの…」

 そうなのか。あきな は あきらめていたのか。

 「元の姿に戻れるなんて…貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかったから
  今まで、痛かった分だけ、苦しかった分だけ、不安だった分だけ、悲しかった分だけ、辛かった分だけ
  …いいえ、それを全部足しても全部足りないくらい…『嬉しかった』から…」

 今まで下を向いていた あきな が 顔をあげた。
 あの時のように泣いていた。あの時とは違い笑っていた。とてもとても幸せそうだった。

 「本当に…本当に、ありがとう…もょもと!カイン!」


 「だから、何で あきな は 泣いてるんだ?」
 「『嬉しいとき』にも涙は流れるものなの」

 あきな は おれに、嬉しくても人は泣くのだ、と教えてくれた。

368真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:34:28 ID:???0
 **********

 「なぁ、カイン」
 「なんだい?もょもと」
 「人は、うれしい時にも泣くんだな」
 「そうだね」
 「カインは泣いたことあるか?うれしい時に」
 「………まぁね、リアに手作りの誕生日プレゼント貰った時とか」
 「そうなのか」
 「そんなもんだよ」
 「いいな」
 「ん?」
 「おれは無い、そういうの」
 「………ふーん」
 「カイン」
 「ん?」
 「もし、ハーゴンをたおしたら…ローレシアのみんな、泣くか?」
 「…そりゃ世界を破壊しようとしてる危ないカルト連中だもの
  ローレシアどころか世界中の人が感激して泣くんじゃないかな」
 「そうか」
 「そうだよ」

369真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:35:07 ID:???0
 **********

 (…そりゃ、ローレシアの皆は泣くだろうさね。
  厄介者が更に厄介になって帰ってきた、って…)

 もょもと が寝付いたのを確認して、カインは唇だけ動かした。声は出なかった。
 隣国ローレシアの王子の噂はカインの耳にも嫌になるほど入ってきた。
 一般的には勇者ロトの生まれ変わりと謳われる程の名将だと。
 『恐ろしい膂力を持った破壊の申し子』という噂は父や特権階級の者から聞いた。
 いや、否が応でも聞かざるを得なかった。

 「ローレシアの王子の剣は鋼鉄の巨人をも粉砕するらしい」
 「ムーンブルクの王女の英知は勇者ロトと旅をした賢者に勝ると言われている」

 「それなのにお前は何だ?」「全く、ウチの王子ときたら」「情けない」
 「叩いても伸びないし、磨いても光らない」「何のための英才教育?」
 「剣も魔法も二人に劣る」「何をしても中途半端だ」「ロトの血の持ち腐れだ」

 聞こえるはずのない、父の、国民の罵声と嘲笑がカインの頭の中に鳴り響く。

 「あぁ!まったく、もぅ!!」

 それを揉み消すかのように、頭を滅茶苦茶に掻き毟る。
 サマルトリアから出れば、違う世界が開けるかもしれない。最初はそう期待していた。
 いつの日か城を抜け出し、妹のリアと新天地を探して、二人きりで穏やかに暮らしたい。
 幼いころから抱いていた二人のささやかな夢がかなうかもしれない、と。

370ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:37:21 ID:???0
  
 でも、所詮、夢は夢で。現実は何処までいっても現実で。

 もょもと と 二人で様々な土地を巡り、様々な村へ赴き、人々と出会った。

 しかし、どこまで行っても勇者の血は勇者の血で。

 人々は邪教団に怯えるあまりに、ロトの伝説にあやかろうと無責任な加護を求めてくる。
 自分と妹の安息の地は未だに見つかっていない。

 仮に、自分たちの名が知られていない場所があったとしても
 大神官ハーゴンを討ち取った後はどうなるだろうか?そうもいかないだろう。

 自分たちはリアルタイムで世界の歴史に名を刻んでしまう。
 世界がひっくり返るくらい、壮大なエンターテイメントになるだろう。
 遠い山奥で世を捨てて暮らす聖なる仙人レベルの世捨て人でもない限りは
 「おぉ ゆうしゃ さま」と勝手に拝んでくるに違いない。

371真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:38:57 ID:???0

 自分たちの前に未来は無い。
 未来自体はある。
 しかしその先には夢も希望も無い。

 …いや、あきな には ムーンブルク復興という使命がある。
 彼女を呪いから解放した瞬間のムーンペタの住人の喜びようから
 ムーンブルク前王は噂に違わぬ名君だったに違いない。
 これ程までに民の信頼を得ているのだ、復興の可能性は無くはないであろう。
 ただし、それは果てしなく長い茨の道であるのは確実だ。

 もょもとだって、この遥かなる旅路において経験を積み
 他人の心を理解できるようになれば、文武に優れた良き国王となる可能性も
 極めて稀ではあるが存在すると思う。

 そう、彼らは天に才能を与えられた人間なのだからから。

 これから世界を救おうとする輩が
 自分たちの身に降りかかった不幸のひとつやふたつ
 欠落した感情のひとつやふたつ

 『か弱き民衆』により科せられる手枷足枷の三つや四つや五つや六つや七つや八つや九つや…………

 それしきの事、道端の小石を蹴飛ばすくらい容易に越えられなくては、お笑い種ではなかろうか。

 所詮は『凡才』の自分とは違う。同じロトの血脈のはずなのに
 その差は紙一重どころか天と地ほども遠い。

372ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:40:23 ID:???0
 人生五十年、とは誰が言ったか。
 『人生』という名の泥沼を数十年先延ばしにする為に
 どうして自分は切り裂かれ、叩きつけられ、噛みつかれ、燃やされたりしながら
 戦い続けなければならないのだろう?
 精霊のルビスによる蘇生の奇跡を受けてまで、果たすべき大義なのだろうか?

 (その前に、倒せるかどうか、だけどね)

 ベッドに横たわる美しい亡国の王女を見つめる。

 (あきな も 悲劇のヒロインの自分に酔っちゃって…)

 あの時、彼女は『貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかった』と言った。
 『貴方たちの事をずっと信じて待っていた』とは言わなかった。

 (つまり、ハナっから信用されて無かったってことですか)

 過度な期待はしていない。自分にも他人にも。
 戦力的にも、この糞みたいなくだらない旅がスムーズに進んで
 少しでも早く妹が待つ場所へ帰りたいだけだ。

 祖国に帰りたい、なんて口が裂けても言えるものか。
 ただ、自分と妹の居場所が、世界中にあそこしかないだけだ。
 例えどんなに罵声を浴びせられようと、蔑みの目で見られようと、あそこしか…。

 「…ふぁぁ。もう寝なきゃ不味いな。明日も早いんだし…」

 サマルトリアの王子カインは乱暴に毛布を被り、必死に羊の数を数えた。

373真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:41:04 ID:???0
 **********








  繰り返そう。

 【真実】というものは何時、如何なる時代であれ、如何なる世界においても

  最も冷淡で最も残酷な存在なのである、と。



                                           〜了〜

374 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/20(水) 10:43:11 ID:???0
まとめ読み用安価
>>361-373

375ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:58:20 ID:???0



「諸君等には今から――――」
絶望の始まりが、告げられる。
長い長い、血にまみれた数日間が始まるのだ。



力一杯に、地面を転がる。
殴られた頬を押さえつつ、ゆっくりと起きあがる。
「ずっと、決めてたからな」
現れた人間を、彼はよく知っている。
いや、知らないはずがない。
だって、彼は彼にとって。
「会ったら、殴るって」
唯一無二の、親友なのだから。

握り拳を作り、ゆっくりと駆けだしていく。



「レックス……様?」
飛び散る血、崩れ落ちていく人間の体。
人が物に変わっていく光景を、ただ見つめ続けることしかできない。
信じられるだろうか? 無垢で純真な彼が。
あんなにも狂った笑顔と共に、人を殺しているなんて。
「ああ……ピエール?」
屍の山の中心から、なんとも気だるそうに少年は言う。
「ごめんね、僕は悪党だから」
間もなくして、飛び交うのは刃。



目の前には無数の"死"を司る機械兵。
「悪ぃけど、ここは譲れねえよ」
「お言葉ですが、私もここを退くつもりはございません」
きっと誰でも絶望するだろう。
「そうか」
「ええ」
でも、彼らは絶望しない。
「じゃあ」
「二人で突破する、でしょう?」
共に剣を構え、絶望の軍勢へと立ち向かう。
「さすが、俺」
「いえいえ、私」
互いの背に、眠り続ける姫が居る限り。

彼らは、負けない。

376ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:58:46 ID:???0



ゆっくりと、槍を構える。
呼吸を一つ、深く。
まっすぐに見据える先は、ただ一点。
「ククク……悲しいなぁ」
道化師は、笑う。
「仲間が死に、あまつさえ手に掛け、私に殺されてしまうのだから」
一人の娘の死体を見せつけるように、バンダナの青年へと突きつけていく。
下品な笑いと共に、あざ笑うように。
勝ち誇りながら、魔力を解きはなっていく。

だが、魔は彼を包まない。
突き出された槍が、大きな"空"を作り。
同時に、道化師へと突き刺さっていたから。
「――――――――」
槍を、力一杯回す。
声は、届かない。



「姉さんのために」
弟は狂信者のように。
「テリーのために」
姉も狂信者のように。
狂う、狂う、踊り狂う。
美しきダンスを、人間の血で彩りながら。
「……あれが、私たち」
「認めたく無いけど、な」
そのダンスを眺める、もう一人の姉弟。
鏡写しのように写る自分たちの姿を、まるで同じ顔の他人のように。
「でもさ、姉さん」
眺めている方の弟が呟く。
その手には、彼が追い求めていた剣。
「俺たちは、俺たちだろ」
そのつぶやきに、姉は笑う。
その手には、弟が追い求めていた剣。

二人は、二人へと駆けだしていく。

自分を、否定しに。



煙草の煙が揺れながら、ムカつくぐらいのオレンジ色の空に溶けていく。
深呼吸とともに、何度も何度も白の呪文が空へと溶ける。
「悪いけど、さ」
真顔のまま、僧侶は倒れ伏す武闘家へ告げる。
「あんたの病気は、いくら金を積まれても治せないね」
わかっている、これは人間の手でどうこうできる類の病気ではない。
「はっ、病気の一つも治せずに天才僧侶だなんて、笑ってしまいますわ」
「違いないねぇ」
倒れ伏す武闘家の皮肉たっぷりの言葉に、思わず頬を綻ばせてしまう。
「でも、さ」
笑った表情のまま、僧侶は煙草をくわえ、武闘家の隣へ座り込む。
「人間が何でも治せたら、神様なんて必要ないさね」

377ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:59:02 ID:???0



「トルネコ、エルフの飲み薬……いや、魔法の聖水は」
「もう一滴もありません」
「やくそうの一枚くらいあっだろ」
「それが品切れでしてねえ」
「かーっ、背水の陣ってことか」
「そうなりますなぁ」

「……だがしっかぁ〜〜〜〜し!!」
「私たちに敗北の未来は無いっ!!」
「この給仕探偵ジェイドと!!」
「武装商人トルネコが組めば!!」
「サイコピサロだろうがなんだろうが!!」
「負ける気がしませんっ!!」
「ったりめぇよな!!」
「敗北はない、聞こえのいい言葉ですなァ!!」
「ほんじゃま、ぶっちぎるっ、ぜぇぇぇぇっっ!!」
「ひょーっほほほぉーっ!! タマんないですなァ!!」

間もなくして、飛び交う銃弾と全てを斬り裂く斬撃。



暗い、暗い、暗い空間の中。
誰もいない、声もしない、気配すらしない。
本当に一人なのだと分かりきった空間で。
彼女は、おびえている。
「ねぇ、どうして?」
彼女の気配がする。
それは彼女であって彼女でない。
「ねぇ、どうして?」
彼女の声がする。
それは彼女であって彼女でない。
「ねぇ、どうして?」
彼女の――――いや。
自分の、姿が、見える。
それは、彼女で、あって、彼女で、ない。
「どうして、どうして、どうして」
すっと細長い手が伸びる。
その手は血にまみれていて。
「お前は幸せそうなんだァァァァッッ!!!」
白と黒のハイライトを強烈に残しながら。
全てを憎む"自分の顔"が、自分を見つめている。

息が、できない。
くびに、ちからが、かけられていく。
だれ、か、たす、け、て。

ごとり。

378ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:59:14 ID:???0





――――誰かを愛した人達の物語と。





「人間が……………………」





――――終わりから終わりへ向かう人たちの物語が。





「……………………憎い」





――――交錯する、どこか。





【Dragon Quest Battle Royal Ⅰ+Ⅱ Not rise curtain....】

379 ◆CruTUZYrlM:2013/04/01(月) 23:00:23 ID:.6.10AAo0
エイプリルフールということで、本家ドラクエも1+2してるしDQBRも……
そんな嘘ネタでしたとさ。

380ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 23:07:39 ID:???0
うわああああい投下乙です!
1stと2ndの見事なコラボレーション、思わず見とれてしまいました
こうして見ると凄くかけ離れていると思っていたキャラが実はとてもよく似ている事もあって…

381ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 23:36:36 ID:???O
すげえ……!感動した!
GJ!!

382ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 00:56:42 ID:???0
トルネコwww

383ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 11:20:52 ID:???0
外伝二本目キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
か…金をとらないフィオ姐さん…だと!?

384ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 11:24:22 ID:???0
そうか、フローラおぜうさまの時は治療できそうな怪我だったら治療費要求したのか

385 ◆w9.p2zZjpA:2013/04/02(火) 23:36:41 ID:???0
外伝で1stと2ndのクロスがおkならば

386小さな『物』の『語』り:2013/04/02(火) 23:38:10 ID:???0

 **********

 とある物語をお話しいたしましょう。
 いえいえ。英雄たる人物の物語ではなく『物』について『語り』ましょう。
 偶には、こんなお話があってもよろしいではありませんか?

387小さな『物』の『語』り:2013/04/02(火) 23:39:15 ID:???0
 **********

 私たちは人を殺す為に生まれました。

 私のとある兄は水に溶けあい、塔の中の少女たちを死の連鎖へといざないました。
 私のとある弟は刃を伝い、強靭な英雄の体を蝕んだといいます。

 最初に私を手に取ったのは、不安げな表情の赤毛の少女でした。
 殺し合いなど出来るはずが無い、と途方に暮れておりました。
 程なくして響き渡る金属音とともに焦げ臭い匂いがしました。

 次に私を手に取ったのは金髪の少年でした。
 彼は私を使う必要がありませんでした。彼の手にはそれは見事な業物の剣が握られていましたから。
 ひとり、またひとりと出会う人々を血の海へと沈めていきました。
 おそらく、私と最初にであった赤毛の少女も彼の剣を伝う一滴になってしまったのでしょう。
    
 数刻が過ぎ、また周囲が騒がしくなりました。
 とさり、と私を入れていた袋ごとどこかに落ちる感覚がありました。そしてまた、浮遊感。

 次に私の手を取ったのは菫色の髪の毛をした少女。彼女の瞳は悲しみと絶望で濁りきっておりました。
 こういう人間が私を手に取る時、向けられるのは自分自身と相場が決まっております。
 これが私の使命なのか、と小瓶の蓋を解放されるのを待っておりましたが、それは訪れませんでした。
 いつの間にかやってきた黒髪の勇ましい少女に止められ、私も彼女も生き永らえました。

388ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 23:40:20 ID:???0

 太陽が昇り、沈み 、また昇る。
 これだけ短い間に、これ程の旅路を経験した兄弟はかつていたでしょうか?

 私はとある竜の体内を蝕んでおりました。彼は無力な自分を裁くために私を呷りました。
 そして最期の力でその身を竜と化し、己の仇を討たんと、私に蝕まれながら、その牙で炎で挑んでおりました。
 ついに精魂尽き果てようとした瞬間、私だけが消えていく…浄化されていく感覚を覚えました。
 誰かが解毒の呪文を唱えたのでしょう。…あぁ、目の前にあの少女がいます。
 この竜と同じように自ら私を飲み干して死のうとした、あの菫色の髪の少女が泣いていました。

 「……本当に……ごめんなさい……」
 「…詫び、るな……ワシ…は…」

 私たちは人を殺す為に生まれました。
 私のとある兄は水に溶けあい、塔の中の少女たちを死の連鎖へといざないました。
 私のとある弟は刃を伝い、強靭な英雄の体を蝕んだといいます。

 嗚呼、しかし私たちの兄弟の中で、このような光景を見た物はいるのでしょうか?
 人間と竜が心を通わせ合うという奇跡の瞬間に

 こんな光景も…悪くない 

 使命も果たせないうえに、そう思えてしまうのは一族失格なのでしょうか?

389小さな『物』の『語』り:2013/04/02(火) 23:41:35 ID:???0

















 **********
 最後に私の『弟』の武勇伝をほんの少しだけ語りましょう。
 少しだけで申し訳ないのですが、少しだけ。
 私の弟は、一族としての使命を立派に果たしました。兄弟として本当に誇らしい事であります。
 …弟自身が、誰一人殺すことが出来なかった不甲斐ない私をどう思うかは別として。

390小さな『物』の『語』り:2013/04/02(火) 23:43:18 ID:???0

 弟は小さな妖精から、お人好しの少年の手に渡り、とある少女によって強奪されました。
 少女は『虚無』でした。誰もが羨む武芸の才を持ちながら虚空であり
 それゆえに、一途に思い続けた人に追いつけず、追いつけず、それでも走り続けるしか無かったのです。
 少女は全てを憎悪しておりました。

 「オルテガ……」

 自分を、幼馴染を、『勇者』という『救世主』という過酷な運命に追いやった『すべて』を憎悪しておりました。

 「オルテガ……」

 そして少女は出会いました。自分と幼馴染を巻き込んだ根源に。

 「オルテガァァァアアア!!」

 少女は己の拳を根源に叩き込み続けました。本当ならば、彼女は彼女の拳でそれを打ち砕きたかったのでし

391390訂正:2013/04/02(火) 23:45:15 ID:???0
 弟は小さな妖精から、お人好しの少年の手に渡り、とある少女によって強奪されました。
 少女は『虚無』でした。誰もが羨む武芸の才を持ちながら虚空であり
 それゆえに、一途に思い続けた人に追いつけず、追いつけず、それでも走り続けるしか無かったのです。
 少女は全てを憎悪しておりました。

 「オルテガ……」

 自分を、幼馴染を、『勇者』という『救世主』という過酷な運命に追いやった『すべて』を憎悪しておりました。

 「オルテガ……」

 そして少女は出会いました。自分と幼馴染を巻き込んだ根源に。

 「オルテガァァァアアア!!」

 少女は己の拳を根源に叩き込み続けました。
 本当ならば、彼女は彼女の拳でそれを打ち砕きたかったのでしょう。

392ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 23:45:57 ID:???0

 「私は、あの子の未来のために――」
 「未来? 貴方が奪ったのよ」  

 しかし、彼女は弟を手に取りました。

 「苦しい?」

 弟の、我々の一族の性質をよく知った上で。

 「アレルはその何倍も苦しかったのよ」

 半月型の槍とともに

 「ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと苦しかったのよ」

 まずは槍で男の屈強な体を貫いてから

 「苦しみなさい、苦しんで苦しんで苦しみぬいて苦しみなさい」

 そして、弟をゆっくりとその刃に伝わらせながら

 「そして――――」

 弟は傷口を通して、英雄と謳われた男の血に混ざりあいながら

 「――――死になさい」

 じっくりと、ゆっくりと、その体を蝕んでいったそうです。
 少女の憎悪という名の毒を伴いながら
 その魂すら苦痛と絶望に染め上げながら。


                                                  〜了〜

 **********

393 ◆w9.p2zZjpA:2013/04/02(火) 23:50:34 ID:???0
まとめ読み用
>>386‐389 >>391-392

いりす症候群やってる途中で神動画か来た勢いで書いた。今は反省しているorz
一級チャモリストのリンリンかわいいよリンリン

394 ◆w9.p2zZjpA:2013/04/02(火) 23:52:13 ID:???0
まとめ読み安価ミスッたがな(´・ω・`)
>>386-389 >>391-392

395ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 23:52:37 ID:???0
おおおおおお!!
外伝だー!
「物」視点から見てみるとまた違った発見がある。
一個の毒を中心に色々な出来事があって…
とにかく、投下乙でした!!

398 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:31:18 ID:M3Ig3E1I0
サイレント執筆していた話のキャラが先に投下されたのですが、削除するのも勿体ないのでここに投下します。
投下作品や投下主氏への批判などの他意はありませんのでご理解いただければ。

399 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:32:20 ID:M3Ig3E1I0
(よくも……レックを……!)

(愚かな……やはり人間などとは相容れられぬ運命なのか……?)

勘違いで始まったキーファと竜王の戦い。
双方に双方の戦う理由がある。ただそれが微妙に噛み合わないだけなのだ。
レックが気絶しているこの時、客観性を保っているのはミーティアのみであった。

もしかしたらキーファの戦いの動機は勘違いなのかもしれない。
竜王が根本的な悪でないことを知っているミーティアとしては戦いを止めたいとは思う。

だけど、それには力が足りない。ミーティアが二人の戦いに割り込もうものならミーティアの儚い命など即座に塵と消えかねない。


(私にも……何か出来ることは……)

その時、第3回放送が始まりを告げる。
それでも放送の声では焦燥と怒りに駆られた戦いは止まらない。しかしその内容は、この戦いに明らかに影響を及ぼすものであった。

400 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:32:45 ID:M3Ig3E1I0



(ゼシカさん……モリーさん……ヤンガスさんまで……。)

呼ばれた仲間の人数が最も多かったのはミーティアだった。
最も大きな危惧であったエイトの名前こそ呼ばれなかったものの、それ以外の仲間の名前は全員呼ばれてしまったのだ。

(戦わ…なくちゃ……)

こうして様々なものを失った今、どうしても感じずにはいられない。
自分はエイトに頼りすぎていたのではないか。
待っていればあの人は迎えに来てくれる。あの結婚式の日もそう思ってただ待ち続けるだけだった。

だが、待っているだけでは解決しないこともあると分かった。
実力者たちがこぞって殺し合いに反逆していても、まだこの世界は闇に包まれたままである。
途中で別れることとなったポーラも、恐らくはこの世界の闇に呑み込まれてしまっている。
現実を見つめなくては何も変えられないのだ。

受け入れろ――竜王の言っていた言葉の意味がようやく分かった気がした。

401 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:33:46 ID:M3Ig3E1I0
(フォズさん……死んじまったのか……。あんな幼い子まで容赦なく……。やっぱり誰かの命を平気で奪うような奴は許せねえ……!)

キーファもまた、この世界で知り合った者の死を知らしめられた。ほとんど話をすることもなかったが、あの少女の死は不思議と心に刺さった。
別の出会い方をしていれば仲間として同じ道を歩めていたかもしれない――なんとなくそう感じていた。

フォズがどうして死んだのかは定かではないが、人が死んでいる以上どこかに「悪」は存在しているはずだ。
そして、それを止めるのは曲がりなりにも力を持っている自分のような者でなくてはならない。
キーファにとってこの放送は目の前の敵を倒す決意を更に固める結果となった。

402Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:35:02 ID:M3Ig3E1I0
しかし、竜王にとってはそうではなかった。

(ワシはずっと信じておった。悪という共通の敵が居るからこそ、人は結束出来るのだと。たった1人の人間でさえ世界を変えることが出来る、ならば結束した人間であればどんな絶望も打ち破ることが出来ると……。なのに……だというのに……)

「何故、貴様が死ぬのだ……!アレフ………!」

人間は脆弱で欲深い生物だから、勇者が脅威となろうとも世界の半分という餌を撒けば簡単に手懐けられると思い込んでいた竜王は、純粋に人々を守るために戦うアレフに敗れた。
竜王の世界はアレフに変えられたのだ。

(貴様は人々の希望ではなかったのか…?)

キーファの剣を魔力の波で押し返す。それでもキーファは攻撃の手を緩めず、再び向かってくる。

(このような力の矛先を間違えた人間たちを導くのが貴様のような者ではなかったのか…?)

惜しくもアレフは竜王の期待通りの行動を取っていなかったのだが、幸いにも竜王はそれを知らないままでいられた。

403Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:36:18 ID:M3Ig3E1I0
竜王が今見ている人間の姿は、ただ真っ直ぐ自分だけを見据えているキーファのみ。

揺らがない怒り、それが人間さえも強くすると竜王は知っている。
その力の矛先が自分という悪に向いているのは良い。

だが、自らの正義と力の矛先が食い違った力は脆い。
世界の半分なんかをチラつかせ、自らの欲望に傾いた力などいくらでも叩き伏せることが出来る。

勇者アレフはそうではなかったから、竜王は敗北した。
欲望に染まらずに正義を貫き、悪を打ち倒すだけの力も持っている。そんな人間がこの世界には必要なのだ。


「以上、14名だ。」

「えっ……?」

放送の終わりの声と同時にキーファの動きもピタリと止まる。

放送でレックの名前は呼ばれなかった。
竜王がレックを殺したのだと思い込んでいたが、それが勘違いだと分かったのだ。

そう、矛先を間違えた心は脆い。それが露呈した瞬間、簡単に崩れ去る。

(俺の…………勘違いだったのか?)

404Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:36:54 ID:M3Ig3E1I0
刹那、真っ直ぐに竜王を見据えていたはずの瞳は宙を泳いだ。
その隙を見逃す竜王ではない。

「今さら気付いたか、阿呆が。」

「ぐあっ!」

片手を掲げ、キーファの身体に魔力を流し込む。

「じゃがもう遅い。貴様はワシの誇りに噛み付いたのだ。」

「ちく……しょう……。」

魔力の波に阻まれキーファは動けない。
竜王の前で迷いを見せた旅人は皆、同じ運命を辿った。闇の世界に送られ、虚無の中に 消えていった。

ただし、その旅人たちの元には「仲間」というものがいなかったという。

「――させません」

これは本来は起こりえなかった「もしも」の話。
竜王に屈した心の前に、迷いを振り払った者がさらに立ち塞がったとしたら。

「この戦いを、止めに来ました」

「ミーティア姫……またワシの前に立ち塞がるか……。覚悟は出来ておるのじゃろうな?」

問うまでもなく、ミーティアの瞳には覚悟が宿っているのが見て取れた。
それでも対話から入りたいと思うのは、レックの影響なのだろうか。
人間というものを一度は認めかけた、その名残がまだ残っているというのか。

(ふっ……くだらぬ……)

405Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:37:29 ID:M3Ig3E1I0
自らの迷いに対し、竜王は自嘲気味に笑い飛ばした。
目の前にいるのは、自らの誇りを損なわせんとする者。

「力も無く立ち向かうのは蛮勇ではない!無謀と言うのだ!貴様はそれを、まだ分かっておらぬのか?」

言葉と共にベギラマを連射する。殺すほどの威力ではなくとも、1人の小娘の心を挫くには充分な威力。
しかしミーティアとて、何の策も無しに飛び込んできたわけではない。

ミーティアが袋から取り出した支給品、それはひとつの盾。
それ自体が呪文を軽減する力を秘めており、ベギラマの威力を最小限に抑えてくれる。

さらに、右手に装備した祝福の杖を自らに使用し、失った体力を少しずつ回復することで竜王の小手先の攻撃を防ぎ切った。

「私は知っています。人も竜も、隣に並び立てる存在だと」

ミーティアの覚悟、それは竜王を説得すること。
それが出来るのは戦いの実力があるキーファではない。

「貴方が自らの悪に従ってキーファさんを殺してしまったなら……
キーファさんが貴方という竜を悪として殺してしまったなら……」

ミーティアがミーティアである誇り、それは竜の血を引く彼を信じること。
だから、人と竜が同じ道を歩むことが出来ないなんて言わせない。
人と竜とが交われない存在だと認めてしまえば、それは―――


「―――それは私の誇りに背きます」

406Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:38:01 ID:M3Ig3E1I0
「くっ……くくくっ………」

防がれた。
殺すまでではなくとも、動けなくなる程度の傷を負ってもらうつもりで撃った呪文を放ってもなお、ミーティア姫は自分に立ち塞がる。
それは竜王にとっては、面白くないことではなかった。


(アレフが死のうとも……この姫ならばあるいは………!)

レックだけではなく、ミーティアの中にも皆の力の使い方を先導していけるリーダーとなれる人間の在り方を、竜王はミーティアの中に見た気がした。

(姫よ、それで良いのじゃ……貴様の誇りを貫いてみせろ!)

再び呪文を放つ。
ミーティアは盾で防ぎ、杖で回復する。
ここまでは同じ。だが、竜王には人よりも強い肉体がある。

「ぐっ………!」

ミーティアの背後に回り込み、蹴りを入れる。
反応など出来るはずもなく、華奢な身体が高原を転げ回る。

痛みを堪えて立ち上がるも、再び唱えられた竜王の呪文が肌を焼く。

「きゃああああ!!」
「姫さん!」

回復に制限のかけられているこの世界の下では、杖の回復力もなかなか働かない。
身体の痛みは次々と悲鳴を上げ、逃げるという選択肢は常に頭の中を支配する。
だけど、ここで挫けるわけにはいかない。誇りを曲げるわけにはいかない。

支給品袋の中にあった1冊の書物を握り込む。
それはミーティアに支給品として配られていた、まほうつかいの書。
敵の攻撃能力を打ち消す"月のはどう"ならば、殺すことなく無力化出来る。あとは発動する隙をいかに作るか。

「竜王さん、あなたを止めます」

「良かろう!貴様の誇りの全てを以てかかってこい!!」

囚われの姫が魔王に立ち向かう。それはただの無謀なのかもしれない。
それでも、ここで逃げては二度と自分を誇れない。
竜の血を引く彼の隣に並び立つために、あなたを悪と認めない。

それが、私の誇りです。

407Carry out your prides ◆2zEnKfaCDc:2019/03/27(水) 00:40:10 ID:M3Ig3E1I0
【D-7/荒野/2日目 深夜】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/15 気絶 MP1/7
[装備]:なし 
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。

※体力を使い果たした上での気絶状態です。手当などがない場合は、一定時間後に衰弱死します。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/12 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。周りの人間は邪魔するなら殺す。 
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/7 一時的な行動不能
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を倒す。古代船を見つける。 

【ミーティア@DQ8】
[状態]:HP 1/2 全身に傷 火傷
[装備]:祝福の杖@DQ7 みかがみの盾@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、まほうつかいの書@DQ9
[思考]:「まほうつかいの書」を使って竜王を止める。古代船のもとへ向かう

408 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 


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