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没ネタ投下スレッド

1名無しさん:2006/05/10(水) 23:42:47 ID:OKj1YCQ2
書いてたキャラを先に投下された
書いては見たが矛盾ができて自分で没にした
考えては見たが状況からその展開が不可能になってしまった

そんな行き場のなくなったエピソードを投下するスレッドです。

283雪解けの時10/31:2007/08/26(日) 00:01:32 ID:5RgYBWkA


(どういう、ことだ…?)
いくらかの時の経過の中で、さしものピサロも、ことの異常さを感じずにはいられなかった。

どれほど真空波を撃ったというのか。それでも小娘一人蹴散らすことができないでいる。
彼の強大な魔力を以ってすれば、さらに高度な呪文を撃ち込むことも可能だった。
しかし、まだ敵の多いこの状況で、むやみに消耗するわけにはいかない。
そう考えたからこそ、彼は魔力をほとんど必要としない真空波を選んだのだ。
魔力なくして使用できる分、威力は極大呪文に比べれば劣る。
だから、一発や二発程度ならば耐えられることもわかる。
しかし、幾らなんでも、目の前の現実は彼の予想を反しすぎていた。

ピサロは前を見た。そこには今もなおフォズが立っている。
全身血まみれで、既に両手を広げる力もない。どう見ても半死人以外の何者でもないのに、
それでも自分の足で立って、こちらを見つめている。瞳の色は…今もなお褪せてはいない。
彼女の意外なまでの打たれ強さを考慮に入れたとしても、
それをも越える不可解な何かが働いているように思えてならなかった。

「何故、そんな姿になってまで邪魔をする…?」
ピサロが改めて問わずにはいられなかった。
「私が死神の誘いに乗ったからといって、だから何だというのだ。
 お前は助けを求めて逃げ回れば済む話だろう。
 私がどうしようと、お前には関係のないことのはずだ。
 ましてや、そこまで傷だらけになってまで、どうにかする必要などなかったはずだ…」
「最初に、言いましたよね…?私は、あなたを止めたいのだって…」
「ここまでするほどの意味があるのか!そう聞いている!」
「はい…それだけの価値があります。だって、あなたは、私の命の恩人なのですから」
即答して、フォズが淡く微笑んだ。
その姿が誰かと重なって、ピサロの脳裏を痛々しく疼かせた。それがまた忌々しかった。

284雪解けの時11/31:2007/08/26(日) 00:03:31 ID:5RgYBWkA

「そこまで私の邪魔をしたいのか。お前は、あくまでも…」
「あくまでも?あ…」
フォズはピサロが言葉に仕切れなかった部分を洞察した。
出会ってこの方、ピサロが彼女に己の真意を語ったことはない。
脱出する方法の模索ならば幾度かした。時には声で、時には筆談で。
しかし、わかっていた。この人にとって、それは手段であり、過程にすぎないことを。

参加者全てが集められたあの始まりの場所。当然、フォズも居合わせていた。
あのおぞましい瞬間を、彼女は目の当たりにしていたし、
その結果、ピサロがどのような思いを巡らせたかも、今ならばわかる。
この人の真の目的は…おそらく…『あの主催者達に復讐すること』…

フォズは、首を振った。
「いいえ…私は、それを否定しません」
「何?」
「できようはずもありません。大切なものを奪われたあなたの怒りは、正当なものです。
 失うべからざるものを失ったことへの哀しみは、私にもわかるつもりですから」
伏しがちな瞳で語るフォズにも、ダーマを司る大神官としての苦い記憶がある。
転職の神殿の頂点に立つ長でありながら、かつて彼女は魔物に神殿の支配を許してしまった。
少女は牢獄の奥深く、長きにわたって幽閉され、
その間大勢の人々が魔物の姦計にはまり、絶望し、傷つき、そして命を落としていった。

少女は、怒らなければならなかった。彼女は、許してはならなかった。
神殿を巣食い、人々を翻弄する魔物たちを。それを防ぎ得なかった自分自身を。
命を慈しむ思いと共に、怒るべき時に怒る感情もまた、心ある者として当然のことだった。
許せないことを許せないと言って、いけない理由はない。
何もかもをただ笑って甘受するだけでは、忌むべき現状を覆す力とはなりえないのだから。
怒ること…時として、それは正しい。しかし、同時に忘れてはいけなかった。
そこにはともすれば陥りやすい悪魔の罠が仕掛けられていることを。

285雪解けの時12/31:2007/08/26(日) 00:04:29 ID:5RgYBWkA

「あなたが怒るのは当然のことです。
 しかし、だからといって憎んでは、恨んではならないのです」
「どう違うと言うのだ?小娘が小賢しいことを…」
「違います。悲しむこと、怒ることと、憎しみとは別のものです。
 憎しみに支配されてはいけません。
 愛しい人を奪った者たちへの恨みに心を委ねてはなりません。でなければ…」
そこでフォズは一瞬躊躇した。しかしすぐにその気持ちを振り切って、言い切った。

「でなければ…あなたは!あなたの大切な人を奪われただけではなく、
 誇り高きあなた自身の、その心をも奪われることになります。
 あなたの全てであり、あなたの大切な人が愛したであろう、その心を!
 それでいいのですか…?心を歪められて、それであなたは満足するのですか?
 私の言っていることは何か間違っていますか!ピサロさん!」
「!…黙れぇ!!」

ピサロが右手を高々と差し上げた。
…何も言い返すことができなかった…この、私としたことが!
だから、代わりに返礼をくれてやることにした。
彼の怒りをそのまま具現化したかのような高熱が、掌の上で充満し
やがてそれは集約され、一つの小さな光球となる。
もしその目映い光の中に美があるとするならば、それは呪われし滅びの美学に他ならない。
万物を砕く精霊の槌、イオ系最大の呪文・イオナズン。
それが、満身創痍の少女めがけて発射された。
既によける気も、その力もなかった彼女は、抗うことなく熱と爆風の荒波に呑み込まれた。

塔全体が揺れた。
構造が脆ければ一気に倒壊してしまいそうなほどの衝撃が、その時かけめぐった。

286雪解けの時13/31:2007/08/26(日) 00:05:42 ID:5RgYBWkA


「なんだっ!この衝撃は!?」

その余波は遥か下の階にいる別の人物の処にも伝わり、
不意に地震に襲われたかのようで、青年はバランスを崩して片膝をついた。
彼は先だっての放送直前にこのナジミの塔のある島に流れ着いた男。
トロデーン城近衛兵隊長エイトである。その胸には今、疑念が渦巻いている。

この戦いに参加させられた時点から既にそうだったが、この島に辿り着いてからも
彼は、自らの心を激しく揺さぶられる理由に事欠くことがなかった。
件の放送で、彼は、自分が守ろうとした姫君ローラが健在であることを確認した。
それが唯一の救いではあったが…一方で、彼はまた戦友ククールの死をも突きつけられた。
どこでどう死んだのかさえ知るすべもない。
それは、かつてレーベで救いえず、自らの不敏を忌々しく思い
今改めて放送でその死を確認させられたあのドラゴンの死とも重なって、
重苦しい衝撃を、エイトの内側に走らせたのだった。

しかも、この地でさらに追い討ちをかけるような状況を目の当たりにしたばかりである。
無為でいることに耐えられなかった彼は、何とかアリアハン方面へ向かう道はないものかと、
重くひきずる心と体に鞭打って探索を始めたところだったが、
まず彼が見つけたのは…道ではなく、死体だったのである。

その死体には、彼のよく見知ったはずの赤いマントがかけられていた。エイトは動揺した。
かの地へ旅立ったと言うククールのもの…では、これが『あいつ』なのか?と思ったが
恐る恐るマントを外してみれば、中からはククールの銀髪とはおよそかけ離れた
黒髪の青年が現れたのである。

ククールではなかった。しかしマントの存在が、この青年の死に
自分の戦友が一枚噛んでいるらしいことを、エイトは考えざるをえなかったのである。

287雪解けの時14/31:2007/08/26(日) 00:07:13 ID:5RgYBWkA

(…ククール、まさか君がこの人を殺したのか?)

不本意ながら、そんな疑惑もよぎったが、これは比較的早くに霧消した。
その理由は青年の死因である。彼は、胴を大きく切り裂かれていた。
明らかに凶器は剣。しかも一流の戦士が一流の剣を持った時にのみ許されるというべき、
見事な斬撃だったのである。

以上の状況から、犯人はククールではない。そうエイトには判断できた。
あいつも剣を扱うことはできたが、細身のレイピアやサーベルなどの扱いが本分で、
さらにはそれ以上に弓の腕を磨き上げていた。長剣を持ったことなどほとんどないはず。
このような斬撃を生み出すほどの大剣を、ククールが自在に使いこなすのは無理だ…

そこまで考えて、不意にエイトは青年の命を奪った凶器が何であるかが気になった。
彼との面識はないが、見るからに逞しく、味方にすればさぞ頼もしいだろうと思える。
そんな人の命を易々と奪った剣…そんな業物がこの世界にいくつもあるものだろうか?
エイトの推測が一つの方向に定まったのは、遺体のあった周辺を見てのことである。
幾つもの焼け焦げた跡。しかし火ではない。
膨大な熱量を帯びた何かに切り裂かれたかのようだ。おそらくは電撃、しかも高度なもの。
これらからエイトが導き出した結論は…『ギガデイン』
そして、青年に刻みこまれた鋭い刃の跡を重ね合わせて、彼の頭に浮かんだ凶器…それは、

(竜神王の剣…?)

確証はない。エイト自身がそうであるように、
ギガデインはその術者本人の能力かもしれないからだ。
しかし、畏怖するに足る恐ろしい力を持った剣が、
やはり恐ろしい力を持つ誰かの手にあることは、青年の死に様から明白であり、
まだまだこの戦いが終わりを見る時は遠いのかもしれない、と思わざるをえなかったのだ。

そんなことを考えて再び動き出した矢先に、彼は例の衝撃を受けたのだった。

288雪解けの時15/31:2007/08/26(日) 00:10:58 ID:5RgYBWkA

それは、奇妙な感覚だった。恐るべき、と言ってよいのか判断がつかないのである。
上層部で−おそらくはイオナズンによる−爆発が起こったことは間違いない。
その余波が、塔の一番下にまで伝わってきた…
本来ならばその術者の力、凄まじきものと見るところであったかもしれない。

しかし、一方で釈然としない部分がある。何故こんな下にまで影響が来るのか?と。
エイトは、自身はイオナズンの使い手ではない。しかし彼の仲間だったゼシカが
この呪文を得意としていたから、ある程度のことは知識として掴んでいる。

攻撃魔法は、レベルの高い術者が使うほどに威力は高まる。
そんなことは子どもでも知っている常識だったが、範囲は必ずしも広がるとは限らない。
魔法とは、その命名の通り、魔につながる呪法。
使い方次第で術者は世界を救う神にもなれれば、滅ぼす悪魔にもなれる。
それ故に、暴走することは許されない。
魔術を扱う者は、己の持つ力を高めることと同等、あるいはそれ以上に
自身を完璧にコントロールすることを求められる。
自らの目の届かないところまで効果をもたらしてしまうとすれば、
一見便利なようで、実際には始末に困る代物でしかない。

もし、この呪文の使い手が自分だったならば…逆に範囲を小さく絞るだろうとエイトは考える。
どのような意図があるにせよ、己の居場所をこんな遠くにまで露呈してしまうような手立てが
有効だとは考えにくい。たとえ目の前の敵を倒せたところでまた新たな敵を招いてしまうだけだ。
だから、彼は思う…この力はすごいが、『何かがおかしい』と。


いずれにせよ、上で何かが起こっているのは間違いない。
どうする、行ってみるか…?天井を見上げながらしばしの思案に頭を悩ませていた時、
「うわぁぁぁぁっ!!」
今度は下の方から誰かの叫びが聞こえてくる。エイトは苦虫を噛み潰した表情を顕にした。
荒波に揉まれた先で、どうやら僕はとんでもない場所に招かれてしまったようだ。
一体ここで何が起こっているというのだろうか?

289雪解けの時16/31:2007/08/26(日) 00:13:36 ID:5RgYBWkA

溢れてしまいそうなほどに膨れ上がった不安を抱え込んで、声の方角へ彼は駆けていく。
何を意味するか判断がつくはずもないが、少なくとも罠に類するものだとは思えなかった。
ナジミの塔の内部へ侵入したその矢先に、下りの階段があった。
声はおそらくこの先から聞こえたものに違いない。エイトは唾を飲み込んで歩を進める。
降り始めてすぐに、エイトは先ほどの声の主とおぼしき一人の戦士の姿を確認した。
左足を抑え、うずくまっている。酷い怪我だ。
この足で無理にでも進もうとした時に、先ほどの衝撃を受けて、転落してしまったのか。
近づいてエイトは気づいた。彼はその戦士を知っていた。ほんの短い間ではあったが、
今は既に崩壊してしまったレーベで、目の前にいる人物と会話もしたのだ。

「ア、アレフさん?」
「だ…誰だ?俺を呼ぶのは…」
痛みに震える体を起こし、アレフは血色の悪い顔をエイトの前に晒す。
「君は…確か…そうだ…エイト君だったか…どうしてこんな所にいるんだ…?」
それはこちらの台詞だ、とエイトは思った。
まったく、あの村での別れから数時間しか経っていないというのに、
アレフの消耗は著しく、とても再会を喜びあえるような空気ではない。
おまけに彼と同行していたはずのキーファの姿も見えない。
一体何がどうなれば、ここでこのような形で再び相見える状況となるのだろうか。

「とにかく、回復を!」
聞きたいことは山ほどにもあったが、今はそれ以前の問題だった。
全身傷だらけといって差し支えない有り様だったが、まずは一番の深手に見えた
左足の治療を優先すべきだと思い、エイトはアレフの傍で跪く。
掌にベホマの光を宿らせ、患部に当てようと差し出した時、
その視野の中にアレフの腰の鞘に納まっている剣が入った。エイトは目を見張った。

(!まさか、そんな…?)

290雪解けの時17/31:2007/08/26(日) 00:15:25 ID:5RgYBWkA

見間違えるはずもない。
アレフが所持していたその剣こそ、エイトの故郷・竜神族の里の至宝であり、
あの青年を害した可能性が高いと疑念を抱いた、竜神王の剣そのものだったのである。

「…どうしたんだ?」

エイトの奇妙な停止を、アレフは不審に思って声をかけたが、直ちには答えられない。
まさかアレフさんが?と思った。しかし、この疑惑もまたすぐに否定された。
先ほどの遺体は、既に死後硬直も全身に及び、およそ一日が経過していると予測できた。
一日前…つまり昨日の朝、この戦いが始まった直後のことである。
対して、エイトがアレフと面識を持ったのは昨日の夜、レーベでのこと。
その時の彼は、竜神王の剣を持っていなかった。だから、アレフにあの人は殺せない。
…つまり、−仮に竜神王の剣が凶器だということが事実だとすれば、だが−
あの人を殺した犯人は別にいて、その犯人が凶器を何らかの理由でアレフに渡した。
もしくは、アレフがその者から奪ったということになるのだろう。


いずれにせよ、ククール同様、アレフにもあの人は殺せない。状況がそれを証明している。
そして、さらに、その時エイトが気づいたのは―――

「似ている…」
「何?」
「似ている…アレフさんは、あの人に…似すぎている…」
「何だ?一体、何を言っているんだ?」

そこでようやく現実に立ち返る。
問われてエイトは説明した。この近くに死体があったこと。
その死体はおそらく昨日からのもので、胴を大きく切り裂かれていたということ。
そして、その顔が…今、目の前にいる彼、アレフと酷似していたことをエイトは告げたのだ。

291雪解けの時18/31:2007/08/26(日) 00:18:30 ID:5RgYBWkA

「俺に似た死体…?」
アレフは困惑した。知らない。彼に親兄弟はいない。
ローラを除けば、今は孤独の身であるはずだった。心当たりなどあるわけがない。
けれど、先祖子孫にまで枠を広げて考えた時…アレフの中に一つ閃くものがあった。
それは、かつて死ぬ前にサマンサがアレフに言ったことである。
彼の先祖であるあの勇者ロト・アリスがこの世界にいるのだと…

サマンサは話の中で『彼女』と言っていたから、勇者ロトことアリスは女性であるらしい。
かたやエイトの言う遺体は男のものだから、未だ見ぬ彼女とは一致しない。
だとすれば…その青年の正体は…?
過去の人間であるはずの勇者ロトと、自分とが同じ時代に放り込まれているように、
まさか、その死した青年は、自分にとってもしや…?アレフの鼓動が格段に速さを増した。

「一体…誰なんだ…君はその人を知っているのか…?」
「こんなふうに話しているくらいですから、どんな人物だったかまではわかりません。
 でも、名前だけならば。支給された名簿で確認しましたから」
「名前…?」
「ええ。確か…そう、こう書かれていたはずです。その人の名前は――」
その声は大きな愕然と化して、アレフの鼓膜を通じ全身を貫いた。

――ドクン
あの男の声が、俄かによみがえる…

『王ではない』
――――――ドクン

『もはや王とは名乗るまいよ。今のワシは、ただの――』

アレフの瞳の焦点が、狂った。

292雪解けの時19/31:2007/08/26(日) 00:21:01 ID:5RgYBWkA

「バ、バカ、な…!き、貴様…一体、何を…?」
「アレフさん?どうしたんですか!?」
エイトの目の前で突然、疲労や苦痛とは全く異質の変調をアレフは起こした。
瞳が揺れる。汗が噴き出す。全身が震える。自身の体が、まるで別の生き物であるかのごとくうごめく
エイトがしきりに声をかけた。しかし、その呼びかけは、アレフの耳には入らない。

「貴様…一体、何をした…何故その名を…どういう、つもりなんだ…」
竜神王の剣、あの名前、あの男。竜神王の剣、あの名前、あの男…!
それらが現れては消え、消えては再び現れる。
アレフの頭の中を目まぐるしく巡り巡らせ、かき乱す。
それらの事象を、疲労しきった心と体ではおよそ整合させることもかなわず…
彼の意識ははじけ、回廊の床にゆっくりと体を沈めてゆく。

「お前は…一体…何を…かんが、えて…」
「アレフさん?アレフさん!どうしたというんです!しっかりしてください!
 アレフさん、アレフさん、アレフさん―――――――――!」

声がだんだんと遠くなっていく…悲鳴にも近い叫びも届かず、アレフは意識を失った。
本当に、ここへ来てからというもの、エイトが思い悩む理由に事欠くことはなかった。
一体彼に何があったのか、一方、上で何が起こっているのか、全く判断がつかない。
気にかかることは山ほどにもあったが、ともかくも、
エイトとしては目の前で気絶したアレフを一人残していくわけにもいかず、
その場に留まり、しばし彼の介抱にあたることになる。
目覚めた時、アレフが何を思い、どう心に決め、どのような行動をとるのか、
全ては未だ闇の中に堕ちたままであった。


ただ一つだけ、確かなことは…
これらのことがために、彼らが、『彼ら』の元に辿りつくことは、ついになかった。

293雪解けの時20/31:2007/08/26(日) 00:23:28 ID:5RgYBWkA


―――そして、舞台は再び塔の高層部へ…

(何故だ…何故、どういうことなのだ…)
下の階層で二人の勇者を揺さぶった術者もまた、今は冷然とは程遠く、
沸き立つ疑問に答えを導き出せずにいた。イオナズンを撃った右手を突き出した姿勢のまま、
同じ言葉を幾度もピサロは頭の中で呻くように反芻する。
手応えはあった、間違いなく命中した。確信があった…なのに。

「何故、お前はまだ生きている?何故、まだ立っていられるのだ!?」
ピサロは彼の優れた視力をもってしても、未だ肉眼で確認できない相手に対して叫んだ。
舞い上がった膨大な粉塵の壁に、全てが遮断された空間。
比して相手は小柄すぎる体、既に感知できるほどの魔力もない。
塔の壁と同様、生きているどころか粉々に砕け散ったとしてもおかしくないのに。
「ピサロさん…」
それでも、やはりいた。
イオナズンの余波がおさまりつつあった爆心地で、やはり…まだ、立っていた。
フォズがまた、あの名前で呼んだ。ここまで虐げられて、ここまで痛めつけられてもなお、
彼女はピサロをデスピサロとは、ついに呼ばなかった。

「わからぬ…どうして生きていられる?不死身か何かだとでもお前は言うのか」
「まさか。それならどんなにいいかと思ったこともありましたが…ただの人間です、私は」
「ならば何故まだ立っていられる!?」
「それは…ピサロさん。それはあなたが、一番よくご存知のはずです」
「何だと…?」
ピサロは思わず目を見張った。心当たりなどなかった、はずだ、が…

「イオナズンも、真空波も、どれも十分な威力を持った技でした。
 本来ならば、いかな屈強の者をも打ち倒すほどの力があるはずでした。
 でも…わかりますよね、ピサロさん。あなたになら。
 これらの技が、術者の精神力に大きく左右されるものであるということは…」

294雪解けの時21/31:2007/08/26(日) 00:25:49 ID:5RgYBWkA

その言葉の意味が、ピサロの頭に浸透するのにはいくらかの時間を要した。
しかしそれを理解しえた時、彼の中で何かがはじけた。
まさか…?しかし、思い返せば全ての事象がそれを証明していた。

先ほどのイオナズンの時、『塔全体が揺れた』
それ自体は、ピサロの持つ魔力の恐ろしさを示すものだったが、
同時に、そこには全く逆の真実が含まれていた。別の場所で、エイトが予測したように。
すなわち、彼の呪文の威力がこれほどの範囲に広がったと言うことは、
翻せば、それだけ分散されて、中枢にかける力は薄まっていたということ。
中枢にかける力…つまりは、本来狙うべきであったこの娘に対して…?

「私が今、ここに生きて、こうして立っていられる。
 その事実こそがすなわち、あなたが殺戮者になりきれていない証拠なのです。
 でなければ…私なんかが、あなたの攻撃に対して、
 一発だって耐え切れるわけがないじゃないですか…」
少女の口調はゆっくりとしたものだったが、ピサロの世界をぐらつかせること甚だしかった。
あの時も…そうだ。そもそも最初にこの娘と対峙した時、
かつての宣告通りに問答無用で殺そうともせず、無為に時間を費やした。
思い残すことのないように、あるいはこちらの余裕を示すためと、思い込んでいた。
しかし、そんなもの元々必要なかったはずではないか?何故そんな無駄な理由をあえて作った?
本気で殺すつもりがあったのなら…真に、己がデスピサロであるのならば!

(莫迦、な…!)
ピサロは不意に震えだした自分の手を呆然と眺めていた。
ずっとこの娘に、無意識のうちに手加減をしていただと?私が?人間の小娘などに?
この期に及んでさえそんなふざけた道化に、気づかぬうちに私がなっていただと?
信じられない。認められない。認められようはずもない。
…しかし、でなければ…今相手を殺しきれていないこの事実を、彼は説明できなかった。

295雪解けの時22/31:2007/08/26(日) 00:27:19 ID:5RgYBWkA

「ねえ、ピサロさん…」
愕然とする魔王に対して、少女が変わらず静かに語りかけてくる。
「あなたは強い人です。あなたは、誰よりも恐ろしく、誰よりも誇り高い人です。
 しかし、そんなあなたは…誰よりも、危うい人です。
 きっと、あなたの大切な方は、そんなあなたの危うさを包み込むように愛し、
 そして…最期まで、あなたの行く末を案じられたことでしょう。
 確証も何もないことですが…私は、そう思います」

『ピ…サロさ…ま…来て…くださったのですね…』
ピサロは思い出す…ロザリーの臨終の言葉を。フォズは知る由もない、かつての死の場面を。
あの時、ロザリーは既に血まみれだった…今、目の前にいるこの小娘のように。
『ピ…サロさ…ま…お願いです…わたしの…最後のわがままを…聞いてください…』
なのに、彼女は…最期まで何一つ、誰に対しての恨み言も口にすることはなかった。
彼女が願い、望んでいたのは…最期の、最期まで…

『ど…どうか…野望を捨てて…わたしと…ふたりきりで…ずっと………』


「お願いです…ピサロさん。私は、あなたの目的を阻もうとは思いません。
 ですが、忘れないでください。それはとても危険な道なのです。
 一歩間違えれば、何もかもを闇に葬り去ってしまうほどの…
 だから、お願いです。どうか最後まで、あなたはどこまでもあなたでいてください。
 そう、あなたに愛された方が愛した、あなたのままで…
 ……だから…あなたが、この世界で、デスピサロとして命を奪う相手は…」
フォズがニコリと笑った。直後、視界が歪んだ。

「私が…最初で、最後です…」

296雪解けの時23/31:2007/08/26(日) 00:28:21 ID:5RgYBWkA

「……!」
来るべき時が来た。ようやく追いついた死神がフォズを捉える。
代償を受け取る時が来た。
最後の意地が、今まで気丈さを保ち続けていた足がついに限界に達したのだ。
膝から力が抜けると、もはや踏みとどまる気力もなく、少女の体が崩れてゆく。
ピサロの目の前で、ゆっくりと。

「………ぬ…な……!」

その時、ピサロは自分でも思わぬことを口走った。
一瞬、彼は己が信じられなかった。ありうるべきではなかったのだ。
その台詞は、魔王たる身が口にしてよいものではなかった。
あるとすれば、その相手は彼が自らの心の聖域に置く唯一の女性に対してだけであって、
断じて、目の前にいるような小娘にではなかった。
理性はそう言っていた。だが感情がそれを押し流した。だから、

隠すこともなく、彼は叫んだ。同じ言葉を、もう一度。

薄れゆく意識の中で、フォズは自分が呼ばれていることを知り、
ああ、これでまた、以前のようにこの人と話ができるだろうかと思いながら、
しかし、もはやそれを許そうとしない体の如何ともしがたさを感じながら、
彼女の心は、深淵の中へ堕ちていった…

297雪解けの時24/31:2007/08/26(日) 00:29:25 ID:5RgYBWkA

…チロリ、チロリ。何かが顔を刺激する。
チロリ、チロリ。くすぐったい。痛みよりも何よりも、その感覚が彼女をとらえた。
一体、何だと言うのだろうか。

うっすらと、少女が目を開けると、そこには一人の若者の姿があった。
フォズは驚いた。その人は、彼女にとって終生忘れることのできない恩人であり、
…そして、今はもう、この世にいないはずの人だった。

(アルス…さん?)

翠の頭巾をかぶり、柔和な印象を帯びたその少年はゆっくりと歩み寄り、
満身創痍で倒れ伏した少女の前で跪く。
痛かっただろう?と声をかけてくれた。そして、彼女の小さな頭を優しく撫でて、
よくがんばったねと褒めてくれた。フォズは泣きそうになった。

「アルスさん…アルスさん!」

フォズは叫んだ。正確には、叫んだ気になった。
ようやく意識がもどり、前を見れば、そこにやはりアルスの姿はなく、
(あなたは…)
一匹の蜥蜴・レオンが、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいるだけである。

(あなたは…せっかく危なくないよう置いてきたのに、結局来てしまったの?
 まったく、あなたは本当のご主人様に似て、のんびりしているようで無鉄砲すぎます)
自分のことも棚に上げて、フォズはお説教がしたくなった。
でも、ありがとう。少女はレオンに向かってお礼の言葉をつぶやく。
きっとこの子が、今はいない主の魂を運んで、自分にいい夢を見させてくれたのだ。
…それは、おそらくただの幻影だろう。彼女の願望が生んだ錯覚にすぎなかったろう。
しかし時として、真実より尊い虚構が、価値を許されることもあるのだった。

298雪解けの時25/31:2007/08/26(日) 00:31:00 ID:5RgYBWkA

それにしても、どうして再び目覚めたのだろうか。彼女は不思議に思った。
バランスを崩して倒れたあの時、ああ、これで自分は死ぬんだと感じたのに。
それがまだ生きて、しかも意識を保っているだなんて。
ひょっとして、実はとっくに死んでいて、今は冥土へ向かう道の途中なのかと思ったが…
「大人しくしていろ」
うつ伏せになっていて見えなかった背後に、
手が置かれている感触があるのを、ようやく彼女は察知した。

頭上から光の幕が舞い降りてくる。暖かい力が、流れこんでいた。
「ピサロさん…?これは…?」
「大人しくしろと言っている」
少女の体に注がれたのは、破壊や憎悪とは対極をゆく、心地よい癒しの力…

…それは、客観的に見れば、わずかばかりの延命行為でしかなかった。
まだ彼女は生きていたとはいえ、受けた傷はもはや致命的。
本来の世界ならばともかく、十分な回復効果を得ることのできないこの場所で、
いかにベホマの力をもってしても、彼女を再び立ち直らせることなどできようはずもない。

ピサロがしていることは所詮、亀裂の入った風船を膨らませるようなもので
溜めたはずの気は、すぐに虚無へと消えていく。
これからじわじわと死んでいく、その期間を長くしてやるだけでしかなかった。
しかし、当の治療を受けている本人には、そんな冷静な分析などできなかったし、
仮にできたとしても、そんなことはどうでもよかっただろう。
あのピサロさんが、全てを滅ぼすとまで言い切った、あの人が
自分のために魔力を減らしてまで手を施してくれている…

「暖かい…気持ちいい…嬉しい、です」
夢から醒めても、結局彼女は大粒の涙を流したのだった。

299雪解けの時26/31:2007/08/26(日) 00:32:04 ID:5RgYBWkA

(あ…?)
それは、随分久しぶりに思える、懐かしい浮遊感。
フォズの治療を済ませると―無理だと悟ったとも言う―ピサロは立ち上がり、
以前のように少女を抱きかかえて立ち上がる。つられてレオンも飛び乗った。
「…どこへ、行くのですか?これから」
焦点の定まらぬおぼろげな瞳で、フォズはピサロの顔を見つめようとした。

「まだ決めてはいない…お前ならばどう考える?」
「…珍しい。というより初めてですね。あなたが私にそんな意見を求めるなんて…」
「うるさい。せっかく聞いてやっているというのに」
迂闊にも失言をしてしまったことに、直後に気づいてピサロは軽く舌打ちした。
もはや残り時間の少ない者への、せめてもの情けのつもりだったのだが、
確かに『らしくもない』ことだった。
フォズにはそう感じたし、自分自身でも同じように思っているに違いなかった。

「…わかっています。お気遣いありがとうございます…でも、私はどこでもいいです。
 だって…一番来たかったところには、もう着いてしまいましたから」
フォズは柔らかく微笑んで、その頭を魔族の男の肩に預ける。
それもまた、らしくもなかった。
いつもなら気恥ずかしくてとても言えそうにもできそうにもないことが、今は自然にできた。

(ピサロさん…本当に、あなたはどこへ行くのでしょう?これから…)
ピサロの肩にもたれかかりながら、少女は考える。
ピサロ。冷徹な魔王という一面を持つ男。それは事実だ。しかしこれが全てでもないようだ。
魔の者とて、また今を生きる一つの命。悩むこともあれば、間違えることもある。
…でも、それでいいではないか。誰だって迷う。誰だって過ちを犯すもの。
答えは初めから決まってなどいない。皆戸惑い彷徨いながら、自らの道を選び、歩んでいく。
それが、『生きる』ということであり、それ故に命には価値があり、可能性があるのだから。

300雪解けの時27/31:2007/08/26(日) 00:33:05 ID:5RgYBWkA

この人、ピサロが選ぶ可能性…
全てを滅ぼす魔王になると、彼は言った。おそらくそれは嘘ではない。
少なくともその逆、全てを滅ぼしうる力など持ちたくないとなれば、はっきりと違う。
でも、フォズには何となくわかった気がする。とても面と向かっては言えないけれど、
自分自身でも理解しているか知れないけれど、この人が真になりたいと思っているもの。
それは、おそらく…

難問だった。彼にとってみれば、魔王になるよりも難しいことかもしれない。
少なくとも、現時点では完全に不可能なことだった。
それ故に、この人はこの後どうしてゆくのだろう。何に価値を見出して進むのだろうか。
気になった。気になって気になってたまらなかった。

これからも、今しばらくは、この危うすぎる人の行く末を見守っていきたいと思うけれど、
理不尽に奪われた大切な人の代わりに、傍で支えてあげられるのならばと願うけれど、
そのどちらも…私はもう、この人と共にあることはできない…と、わかっていた。
私にはもう祈ることしかできない。だから、せめて祈りたい。いつまでもいつまでも。
そう願った時、ふと少女の頭の中であの言葉が再びよみがえる。
彼女が信じた、信じていたかった、あの言葉が。


…生きとし生けるものの生き方、ここに表されし。
無限の可能性は各々違った形で自分自身に宿る…

魔物、人、生は平等なり。命は理解を深め、人は魔物にもなり、魔物は人にもなる。
人、いつか魔物の力を手に入れる。魔物も又等しくその可能性あり。
癒しの魔物、異世界の地にて、人と成る。
世界の勇者伝説を紡ぐ吟遊詩人となりて、また人々に語り伝える、その神話。
言うべきことは一つ。 誰にでも、何にでも未来は待っている…


『…ひとは、誰かになれる…』

301雪解けの時28/31:2007/08/26(日) 00:34:33 ID:5RgYBWkA

誰にでもあるはずの可能性を示す言葉…一度は否定してしまったその想い。
私は、誰にもなれないと思った。誰かになれる価値などないと感じていた。けれど。

(…私も、誰かになれたのかもしれません)
今は、そう思えた。

彼女がなれた誰か。それは、誰かを導く志を持った神官ではなく、
誰かの野望を阻む力を宿す勇者でもなく、
あるいは誰かを愛し、愛される女性でもなかった。
彼女がなれたのは…ただ、自分が出会った人々の行く末を案じて死んでいく、
いつかはやがて忘れ去られるはずの、名もない一人の少女だった。

強くもなければ立派でもない。傍から見れば、本当にちっぽけな、誰か。
それでも、フォズは嬉しかった。この不吉と不穏だけが全てを支配する世界の中で、
最期まで、誰も恨まず誰も憎まず、ただただ誰かの幸せだけを願って消えてゆける。
きっと、私は今、この上もなく、幸せなのでしょうね…
少女はかすかに微笑んだ、そして祈った。
私は死ぬ。だけど、私と共に生きてくれた人々は、僅かでも今もなおその命を繋いでいる。
それぞれの場所でそれぞれの思いを抱えて、痛んだ体と傷ついた心を抱いて…
苦しいだろう、辛いだろう。けれど、それでも前を向いてゆくのだろう、きっと。
だから、どうか。この得がたい想いをくれた人たちが、すぐにこちらへは来ないことを。
その生涯が豊かなものとなることを、心から、少女は祈った。

「私は…ピサロさん、私は…あなたを……わた、しは、あな、た、を………」

既に光が失われた両目から涙があふれ、
フォズの魂は窮まりのない闇の中に溶けていく。
大きく息を吐くと、その息吹とともに彼女の体内から生命の最期の煌きが零れ落ちた。
少女は静かに瞳を閉じて、ゆっくりとその頭を、自分を抱きかかえた男の胸の中にうずめる。

302雪解けの時29/31:2007/08/26(日) 00:35:46 ID:5RgYBWkA

私を…何だ?ピサロはかすかにしか聞こえなかった少女の呟きに耳を傾けていた。
しかし、声は二度と届かなかった。いくら時を待つことに費やしたとしても。
呼吸も鼓動も、ピサロを響かせるものは既に何もなかった。
そこにあったのは、ボロボロに朽ち果てて、
なのに何故か嬉しそうに微笑んで息絶えた、一人の少女の魂の痕跡でしかなかった。

二日目の朝。太陽の光がかすかに届く、薄暗いナジミの塔でのことであった。


「死んだのか……?」
ピサロが呟いた。反応はない。
少女の肩に乗っていたレオンがチロリと舌で今の主の頬を撫でたが、
幼い主人はもはや子蜥蜴に笑いかけてはくれなかった。
何度か同じことを繰り返した後、レオンは死者の顔を見つめて寂しげに小さく唸る…
(死んだのか?フォズ。私に殺されて、逝ったのか?お前は…)
何の誤解のしようもない。この娘は、間違いなく自分が殺したのだ。
(なのに何故、お前はそんなに安らかに眠っているのだ?
 自分を殺した者の腕に抱かれて、お前は…)
もはや答えを返しえないその小さな体を抱く腕に、自然と力がこもっていた。

愛しくなどなかった。かけがえのないものでもなかった。
だが、この胸によぎるものは何であろう…柄にもなく、後悔しているとでもいうのだろうか。
ばかげたことを、と一笑に付す気にはならなかった。
死した彼女の最後の忘れ物…この顔に残った安らかな微笑みが、
男の気持ちを和らげさせたのだろうか。かたくなな氷を、ゆっくりと溶かすように。
愛しくなどなかった。かけがえのないものでもなかった。
あるのはただ…虚しかった。

303雪解けの時30/31:2007/08/26(日) 00:37:26 ID:5RgYBWkA

『…私が…いるから……泣けない…あなたの…代わりに…私は、泣いて…います』

そんな莫迦なことを、人の悲しみを分かち合えると本気で思っていた娘はもういない。
代わりに流す者がいない涙がひとしずく、自身の頬を伝って流れて消えた。

…不甲斐ない。魔王として、あまりにも情けなさすぎる。私は生きるのだ。
自らの意志によって生き、滅びるとしても、それもまた己の意志によって。
何と言われようとも、ロザリーの命を奪ったあの輩どもを、やはり私は許さない。
野放しになどさせてはおかぬ。奴らには必ず誅罰を加えてみせる。
私は生きる。生きて、奴らの思惑をことごとく粉砕してみせるのだ。
私は、生きる…そうだ、奴等の掌で望んで踊ることなど、決してしない。

一陣の風が、男の中に降り積もっていた漆黒の雪を吹き飛ばす。
ピサロは決意を新たにした。その思い、それはすなわち、


―――今この時、ピサロの胸中で、この世界に来たときより、
    ここに至るまでずっと抱えていた、一時は完全に支配されつつあったはずの
    選択肢の一つが、完全に消えた―――


…そこに、もはやデスピサロの影はなかった。
あるのはただ、魔族の男と、命を失いし人間の少女。
喪主と死者だけの孤独な葬送行進が、静かに、しめやかに続いているだけだった…

304雪解けの時31/31:2007/08/26(日) 00:39:17 ID:5RgYBWkA
【E-3/ナジミの塔下部/朝〜午前】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/4 MP1/3 背中に火傷(軽) 左足に刺傷(治療中) 疲労 全身打撲 足元がおぼつかない 気絶
[装備]:竜神王の剣 ロトの盾  はやてのリング 風のアミュレット
[道具]:鉄の杖 消え去り草 ルーシアのザック(神秘のビキニ) 奇跡の石
     神鳥の杖(煤塗れ) 鉄兜 ゴンの支給品一式 ルビスの守り アサシンダガー
[思考]:ローラ姫を探し、守る 「アレン」への疑惑

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/2 左肩にダメージ 腹部と背中に打撃 火傷 疲労
[装備]:メタルキングの槍
[道具]:支給品一式 首輪 あぶないビスチェ
[思考]:仲間(トロデ・ローラ優先)を探し、守る  困惑しつつ今はアレフの介抱
     危機を参加者に伝える


【E-3/ナジミの塔上層部/朝〜午前】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/3 軽度の全身打撲 中量の出血(既に止血)
[装備]:鎖鎌 闇の衣 炎の盾 無線インカム
[道具]:支給品一式(二人分) 首輪二個 
天罰の杖 アルスのトカゲ(レオン) ピサロメモ
[思考]:ロザリーの仇討ちとハーゴンの抹殺を完遂させる しかしゲームには乗らない

【フォズ@DQ7 死亡】
【残り11人】※まだ生存者が12人だった時なのでこの数です

305 ◆9Hui0gMWVQ:2007/08/26(日) 00:44:07 ID:5RgYBWkA
以上で投下終了です。どうもありがとうございました。
自分としては、この話が初めて人を死なせてしまう展開だったので
大分慎重に書いた感があります。慎重すぎて冗長になってしまった感もありますけど。
あと、「愚かなる戦士たちの輪舞」と似たような状況描写がありますが
既に文章力が枯渇しているものだと生暖かく理解していただければ幸いです。

ちょっと懺悔
アレンについて聞かされた時のアレフの反応が本編と180°違いますね。
それにしても何だかこのパート書くたびにアレフを痛めつけてる気がします。
ごめんアレフ、悪気があるわけじゃないんだ。

306ただ一匹の名無しだ:2007/08/26(日) 22:47:47 ID:Gx5rqjtI
没ネタは壮絶な展開が多いですね。全員生還させた書き手がまた違った展開を。
アレンの死体についてはもっと疑心暗鬼に繋がってもおかしくないと思いましたので共感しました。
下手したらエイトとアレフが二人そろって竜王ヌッコロスになってた可能性もあるし。

あとフォズの不死身っぷり(最終的に死んだけど)と、ピサロのツンデレっぷりに不覚にもワロタ。

307ただ一匹の名無しだ:2007/09/07(金) 21:22:17 ID:auQgXO8k
うわわわわわわわわわ
◆9Hui0gMWVQ さん、いつのまに!
すごいなぁ
私がこんな(人数)長文書いたら絶対混乱する
人物描写もいい
こんな没ss読めるなんて贅沢だなぁ

このBRのピサロは魔王から、段々と人間みたいになってくなぁ。
それもハーゴン様の予想の内なんだろうか。

308ただ一匹の名無しだ:2007/09/07(金) 21:23:52 ID:auQgXO8k
しまった。黒幕間違ったw

309ただ一匹の名無しだ:2008/02/15(金) 02:30:41 ID:ylh1lWdM
暇つぶしにもならない没ネタ投下するよー
時系列的には最新話のifって形になるのかな、一応。


〜〜〜


SHTエイト、目にも留まらぬ速さで突きの一撃をマルチェロの足元の残骸を攻撃。
残骸の爆発に乗じて、マルチェロは高く高く跳躍。
そのまま、目に見える生物全て―後方の4人も含む―に、皆殺しの波動を一閃。
その数は7。かまいたちの風の力が加わり、かなりの高速で仲間たちへと襲い掛かる。
キーファとアリスは自身への刃もひきつけつつ、後方の仲間たちのガードへ。
エイトはかすかに残る紫炎に包まれたまま、マルチェロと1対1のタイマンへ。
三局面に分かれての戦闘開始。

マリア&アレンのところへ向かったキーファは、受け流しや二刀を駆使してそれを退ける。
マリア、アレンのわだかまりが解けたらしいことを察して、そのままエイトの援護へとんぼ返り。
一方、トロデ&ファルシオンの救援に向かったアリスは、
隼の剣が柄しか残っていなかったことや、左腕の後遺症が作用して脇腹を大きく負傷してしまう。
トロデの心配を無視してファルシオンに乗せ、その場の離脱を指示。
王者のマントで傷を隠し、脂汗は気合で止めて、彼女もエイトvsマルチェロの援護へと向かう。

エイトvsマルチェロのタイマン。かつて4対1でも苦戦を強いられたマルチェロの力は大きい。
槍術だけではダメだと判断したエイトは、ゼシカ譲りの体術も戦法に組み込んでいく。
槍で薙ぎ、踏み込んで正拳。槍を置き、大防御。多彩な戦術を用いてマルチェロに肉薄する。
マルチェロはこの奇策に、若干対処が遅れる。戦況は五部に戻ったかに見えたが、
大防御の隙を縫い、防御で防げない急所――眼球を狙って剣を突き出したことで状況が一変。
「これで対等だな」
マルチェロと同じように、左目を思い切り刺し貫かれてしまう。
失明後何時間も経過し、遠近の感覚もある程度把握、さらに傷口もふさがっているマルチェロと、
失明直後で感覚が分からず、さらに傷からの激痛に精神を磨耗していくエイト。

大勢が決した――それと入れ違いに現れたのがキーファ。
エイトには後退と回復を指示し、キーファが前線へ。だが、やはりすぐに押され始めてしまう。
やや遅れて現場に到着したアリス、エイトが負傷し、キーファが押されている状況を見て即断。
「私が時間と隙を作ります。必ず作ります。――信じて待っていてください」
キーファがその場に残したザックから愛剣ロトの剣を取り出すと、即座に疾走。
エイトは自身の目を治療しながら、アリスの進路からぽたりと落ちた血液を気にしていた。

かまいたちにより弾き飛ばされ、気絶したキーファと代わり、マルチェロの相手をすることになったアリス。
愛剣の力、勇者の力、二つを駆使してたった一人でマルチェロを追い詰めていく。
隙を作らずともこのまま倒せるのではないか…そう思った矢先、脇腹の傷によってアリスの動きが鈍る。
見逃さないマルチェロ、すぐにアリスに剣を突き出し、それは的確にアリスの急所へと吸い込まれた。
「かかりましたね」
口から血を零しながら、ニヤリと笑ってアリスは呪文を紡いだ。
「――アストロン!」

皆殺しの剣を体内に残したまま、アリスは鉄火した。
剣を抜くことも、呪いで装備を外すこともできないマルチェロに、絶対的な隙が出来上がる。
一寸遅れて切り札・グランドクロスを放つ体制をとるが、もう遅い。
言葉を信じて「隙」を待ち続けていたエイトが、赤と白の涙を流してマルチェロに飛び掛り――

310ただ一匹の名無しだ:2008/02/15(金) 02:31:20 ID:ylh1lWdM
 〜〜〜


ルート1:
エイトの攻撃は、そのままマルチェロを一閃した。
しばらくして鉄化の解けたアリスは、そのまま地へと崩れ落ちる。
看取るのはエイト、キーファと、戦闘終了を見て合流したマリア&アレン。
アリスは、刺さったままの呪いの剣を抜刀することを拒む。
「どういう理由であれ、私は人を殺してしまいました。
 素直に天国へ行くことは、きっとできないでしょう。
 ならせめてこの呪いも、一緒に地獄へ連れて行きます」
最後にマリアの吹っ切れた表情を見、「もう大丈夫ですね」と微笑んだあと、アリスは事切れる。
伝説の勇者は、生誕したその町を模した地で静かに息を引き取ったのだった。

ルート2:
エイトの攻撃は、マルチェロではなく、皆殺しの剣を打ち砕いた。
呪いの剣を破砕したことで、マルチェロは糸の切れた人形のように気絶する。
エイトはマルチェロの様子に、ラプソーンの魔杖に支配された姿を重ねていた。
もし本当に、別の意思に支配されて殺人を肯定していたのなら、その元凶さえ断てば、彼は元に戻るハズ。
何よりエイトは、ククールの異母兄であり、顔見知りであるマルチェロを、もう一度信じたかったのだ。
きっとククールは、この地においても彼を救おうとしていたのだろうから。

同時に、アリスの鉄化も解ける。
「レックス君と同じように、望まぬ殺しを強要されていたのかもしれません。
 今、私の体にあるこの呪いなら、大切な親族さえ殺すように仕向けるのも容易だったでしょう」
アリスもまた、マルチェロへの救いを示して息を引き取る。
気絶したマルチェロ、目覚めた時にどう動くのだろうか――
皆殺しの剣の無いころから普通にハッサンたちとか襲ってたし、結局マーダーのままやろ?
それとも伸ばされた救いの手を受け入れ、まさかまさかの改心ルートに突入か?
――といったところで、引き。


 〜〜〜


・マルチェロマジでチート杉
・エイトさんは怪我無視し杉
・竜王マリアトロデが空気杉
・カガミのフラグぶち折り杉
などなど、どう見ても没ネタです、本当にありがとうございました。

311ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:50:17 ID:xohX/KKo
もうかなり昔の没ネタをマルチェロの死を契機に供養のため投下


「マリア、大丈夫か?」
「ええ……これしきのこと、へこたれてはいられませんわ」
キーファはマリアに気遣いの言葉を投げかける。
走るマリアの顔色は真っ青で冷や汗が流れ続けているのだ。
腹部の傷が完治していないのに無理な運動をしているのだから無理もない。
怪我が完治していないという点はキーファも同じだが肉体の強靭さと傷の箇所に差があった。
(どうする? マリアを休ませようかか? それとも安全な所に置いて……いや、ダメだ!)
もはやこの町に安全が保障される場所などないと言っていい。
一人になどさせてマリアが襲われでもしたら後悔どころの話ではなかった。
だが宿屋での爆音からすると戦闘が起こったことは間違いない。
あれから随分と時間もたってしまっている。急がねばならなかった。
「大丈夫です、キーファさん。自分の体のことは自分が良く知っていますわ……今は、急がないと」
マリアはニッコリとキーファに笑みを向ける。
だがキーファはその笑みに無理があることに気がついてしまっていた。
(逆に気を使わせてどうすんだよ、オレ!)
キーファは己を脳内で殴りつけると、前を向いた。
「ああ、宿はすぐそこだ。行こう!」
そして二人は路地を曲がり大通りを出たところで……同時に立ち止まった。
何故なら彼らの正面には青い僧服を半分以上紫に染めた男が同様に立ち止まっていたからだ。
「この方…「てめぇえェッ!!」
「チ、貴様ら…」
目の前の男はキーファたちを見て露骨に舌打ちをした。
キーファはその男を知っている。
忘れもしない、彼とは絶対に相容れない存在だった。
「マルチェロ! まさか宿の爆発はアンタのしわざか!!」
「マ……それではこの人がククールさんの仇!」
僧服の男、マルチェロは油断なく二人に対し半身に構えた。
「フッ だとしたらどうする?」
「テメ…「挑発です、乗らないで!」

312ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:50:53 ID:xohX/KKo
マリアの咄嗟の制止によって頭に血が上りかけたキーファはかろうじて落ち着きを取り戻す。
その様子をマルチェロは面白くなさそうに見ていた。
(く、マリアの方がよっぽど落ち着いてるな……オレももっとしっかりしなきゃ誰も守れやしない。
 それにしてもコイツ…)
よく見ると彼の服は以前あった時に比べ、いくつもの裂傷が増えていて、いくつか焼け焦げた箇所があった。
服が斑に紫色に染まっている部分があるがそれは出血によるものだろうと容易に推測できる。
彼は消耗している。だがそんなことよりもキーファの目を引いた部分があった。
彼の持つ剣の刀身。前回戦った時はその剣は中途で断ち折られ半分しかなかったはずだ。
だが今は三尺もあろうかという長身であり……完全に拭い切れていない真っ赤な血糊が付いていた。
「まさか……斬ったのか……宿にいた人たちを……」
「さて……」
「ふざけないで、答えなさい!」
マリアが威嚇するように手に持ついかずちの杖をマルチェロに向けて翳す。
キーファも抜剣し、構える。
両の掌に痛みが走ったが我慢できないほどではない。
これなら短時間ならば充分戦闘に耐えそうだった。
「フン」
マルチェロは小さく鼻を鳴らし何事か考えているようだ。

/

(さて、どうする?)
マルチェロは突然現れた窮地に対し冷静に対処しようとしていた。
今の自分は大きなダメージを引き摺っていてまともに戦闘が行える状態ではない。
魔力も幾分か残っているとはいえ、今後の回復を視野に入れると無駄に消費するわけにはいかなかった。
数時間前に教会の前でやりあったキーファという男は戦闘力はまぁまぁだが頭に血が上りやすい性格のため、
こちらが冷静になりさえすれば御しやすい。
だが初めて見る魔法使いとおもしき女性は中々にやっかいだ。
先ほどの挑発を見破って制止した手並みといい、戦闘における駆け引きは心得ているようだ。
加えて即席といえど剣士と魔法使いのコンビネーションを今のマルチェロが抗しきれるとは思えない。
(なんとか……せめて女の方だけでも分断することができれば勝機はあるのだが……)
考える時間は少ない。

313ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:51:28 ID:xohX/KKo
向こうにしてみれば面と向かって問いただすより彼を取り押さえてから尋問したほうが手っ取り早いのだ。
焦れた末に向こうの主導で戦端が開けばマルチェロの敗北の未来はほぼ確定する。
ならばどうすればいいのか。
彼は瞬時に計画を立て、実行した。
「ローラ姫、といったかなあのドレスの似合う金髪の女性は……それと……恰幅の良い旅商人風の男。
 トルネコ……だったか」
「「!」」
自分が斬った者たちの名前を名簿を見た時の記憶と照らし合わせながら口にしてみる。
軽く探りを入れたつもりだったがキーファとマリアはその名を聞いて面白いように反応した。
「その二人をどうした!?」
キーファの荒げる声を聞いてマルチェロは唇を歪める。
(なるほど、かなり縁深い者のようだな……それにむしろ女の方が動揺が深い。好都合だ……)
まさかローラがマリアの祖先などとは露にも知らないマルチェロだが冷静に状況を分析する。
マルチェロの推測どおり先の言葉で動揺が深かったのはむしろマリアの方だった。
一度会って短い話をしただけのキーファと違い、マリアはトルネコを仲間と認め合った仲なのだ。
加えてローラ姫は自分の祖。
その名がククールの仇であり、不穏の現状である相手の口から出されたのだ。
動揺しないわけがない。
マリアの顔は真っ青に染まり、手に掲げる杖が小刻みに震えた。
「斬った……が、見てもらえば解かると思うが私も手痛い反撃を受けてしまってね。
 どちらもとどめを刺すにはいたらなかった。今ならまだ生きているかも知れんな……」
嘘ではない。
ローラ姫の方は殺したと思うが、生死を確認する余裕はなかった。
それにトルネコの方も手ごたえはあったが、竜王が側にいたこともあり
治療さえ受けることができていれば生きている可能性はある。
その事がわかったのだろう、キーファとマリアは互いに視線を合わせ戸惑っているようだ。
これでどちらかが―― 叶うならマリア ――あるいは両者とも自分と戦うよりも
宿へ行くことを優先してくれれば儲けものである。
「マリア、先に宿へ向かってくれ! オレはこいつを仕留めてから行く!!」
「キーファさん!?」
期待通りの言葉に思わず笑みがこぼれそうになってしまう。
だがここは我慢しなければならない。

314ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:52:25 ID:xohX/KKo
相手にいらぬ警戒を与えては、思わぬ薮蛇を突付きかねないのだ。
慎重に慎重を重ね事を進めるのがマルチェロのスタンス。
皆殺しの剣から手を伝って不満の波動が流れ込んでくるが無視した。
胸の奥から沸きあがる殺戮衝動を鋼鉄の意志力で抑え込み様子をみる。
二人はこちらを警戒しながら議論を交わしている。

「待って下さい、これは私たちを分断するためのあの者の策略である可能性が……」
「だからってもし本当だったら後悔することになる!」
「ならばここは退いて二人で行きましょう!」
「駄目だ、あいつを野放しには出来ない! 早く、間に合わなくなるかも知れないんだぞ!」

強いキーファの語調にマリアは逡巡しているようだ。
そんな彼らを見ながらマルチェロはこの場での彼らの選択肢は3つあると考える。
1つ。二人でマルチェロを倒し、宿へ向かうこと。
2つ。二人でこの場を離脱し、宿へ向かうこと。
3つ。マルチェロと戦う者、宿へ向かう者と二手に別れること。
この中で彼らにとって最善であり、マルチェロが最も取って欲しくない行動は1つ目だ。
彼らは確実にマルチェロを倒すことができ、悠々と宿へ向かうことが出来る。
犠牲の少ない確実な策だ。
だがマルチェロを倒すための時間は宿で治療を待つ者がいた場合、深刻なロスとなってしまう。
もしも自分が彼らの立場だったならばそんな不確定要素を考慮に入れないため、迷うことなくこの選択をするだろう。
だが目の前のキーファという男はその不確定要素を切り捨てられない。
もしかしたら――助けられるかもしれない。
そんな思考に捕らわれて最も愚かな選択をしてしまう。
その選択とは言うまでもなく3つ目だ。
全てを救いたいなどと世迷言を言い賭けに出てしまう。
そしてこのタイプは得てして賭けに負けて全てを失う可能性を考えないからタチが悪い。
マルチェロの最も嫌いなタイプだった。
救う対象が宿にいることが確定的な情報ならば話も変わってはくるが、この場合は話が違う。
希望、希望、希望……反吐が出る。

315ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:53:17 ID:xohX/KKo
2つ目を提案したマリアという女は状況が良く見えている。
1つ目をキーファが受け入れないと判断し即座に妥協案を示した。
彼らにとって最善ではないが次善の策だ。
最もこの選択を取ってもらう事がマルチェロにとっては最善であるが。
だが1つ目の選択を彼らが捨てた今、どちらをとってもマルチェロに有利である。
彼らが2つ目を採り、戦闘が回避できるなら最善。
もし3つ目を採って二手に別れるとしても残るのは十中八九、キーファの方だろう。
彼の戦闘スタイルは先刻の戦いで見切っている。
キーファとの1対1ならばこの傷ついた状態であっても確実に勝利する自信がマルチェロにはあった。
宿にまだ生きている人間がいることを匂わせ、
マリアを、もしくは両方をこの場から離脱させることがマルチェロの計画。
「マリア、アリスが言っていたろう? もし勝てないようなら逃げるさ、だから……」
「本当、ですね?」
向こうも話が纏まったようだ。
結果は――マリアの敗北。
キーファの激情と時間的余裕がない状況に押し切られた妥協だ。
マルチェロは心の中で唇を斜に歪め笑った。

―― 計画通り。

咄嗟に考えたにしては面白いように上手くいった。
後は不自然にならないようにマリアを通すだけだが……そう思っているとマリアはザックから杖を取り出した。
「!」
マリアがその杖を振るうと、先端から光球が飛び出しマルチェロへと向かい来る。
だがその速度はけっして早いとは言えず、傷ついたマルチェロでも容易に回避することが出来た。
追撃を警戒してマリアたちを注視したその瞬間、マリアの姿が掻き消える。
「なんだと!?」
彼女の姿を探して周囲を見渡すと、突然背後から足音が聞こえてきた。
振り向くといつの間にかマルチェロの背後に回りこんでいたマリアが宿の方向に向かって駆け抜けていくところだった。
(瞬間移動!? まさか!)
マリアが使ったのは飛びつきの杖。だがマルチェロはそんなアイテムの存在など知らない。
未知の力を目の前にして意識がキーファから僅かに逸れた。

316ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:56:40 ID:xohX/KKo
風を裂く音が耳に触れ、マルチェロは咄嗟に地面に倒れこんだ。
一瞬前までマルチェロの心臓があった場所を銀の刃が通過する。
「不意打ちとは卑劣!」
「おまえが言うかよ!!」
マルチェロはそのまま地面を転がり、追撃の刺突を回避。
遠心力を利用してそのまま転がりおきる。



↑書きあがったのはここまで。↓からはその後の流れ。


結局キーファがアリスの言葉を引き合いに出し、マリアは消極的納得。
マリアは宿に向かい、キーファとマルチェロの一対一となる。
体力回復し、星降る腕輪をつけたキーファと満身創痍のマルチェロ。
マルチェロは終始押され気味だったが、キーファが必殺の一撃を繰り出した瞬間
狙い済ましたカウンターで逆転。
「君はすでにわたしの敵ではない」
倒れたキーファを横目に背を向ける。

宿に向かったマリアは血の臭気を嗅ぎ取り、警戒しながら宿を調べる。
二階にてベッドに安置されたローラとトルネコの遺体を発見し呆然となる。
傷はどちらも太刀傷。そこに竜王が現れた。
どこでなにをしていたと激昂しながら問うマリアに人間の礼として花を採りに行っていたという。
見ればアレンも慢心相違だった。
何故ふたりを守れなかったと激怒するマリアに沈黙するアレン。
マリアは毒瓶を床に投げ、自害しろと迫る。
ハーゴンが用意した薬、きっと竜種の王たるアレンにも効果はあると。
アレンは静かに毒瓶を拾い上げ、握りつぶした。
まだ死ぬわけにはいかない。
これだけの過失をしてまだ生にしがみつくのかとマリアは激昂し、杖でアレンを打ちつける。
何回も何回も打ち付け、その間アレンは全くの無抵抗。
何故抵抗しないという問いにも答えない。
アレンを殴り続けるマリアだが次第に力が弱まり、ついに殴るのを止め嗚咽する。
アレンが悪くないことは解かっていた。だが理解することを理性が拒否した。
憎悪の対象を求めていた。
アレンは謝罪し、すまぬ、それでも殺されるわけにはいかないと語る。
アレンはアレンの出来なかったことをやらねばならない。
もっとも真アレンなら救えたであろう者たちを救えない愚者だが、それでも諦めるわけにはいかない。
この名を名のった以上はアレンを辱めることはできない。
トルネコの言葉を、ククールの言葉を、アリスの言葉を、リアの言葉を思い出すマリア。
「これからおこることは幻です。終わったあと全て忘れるように…」
そしてアレンに背を向けさせるとそのローブに縋り付いて大声を上げて泣きはじめた。
マリアはようやく竜王を認め、和解。
大泣きするマリアにアレンは困った顔でじっとしているしかなかった。


というお話だったとさ。
キーファがいいとこなしだけど、まだ生きていて次につなげる予定ですた。

317ただ一匹の名無しだ:2008/02/16(土) 11:58:25 ID:xohX/KKo
あ、「太陽は輝き、命は沈む」の次くらいに入る感じで。

318sage:2008/04/29(火) 02:14:15 ID:IDHHPhw2
2編ともマルチェロ大活躍。
きっと良い供養?になったことでしょう。故人達のご冥福を祈ります。
>ylh1lWdMさん
バトルが沢山あるのは嬉しい。
この構想実現したら、どのくらいの分量にナッテタンデショウカ。
・・・恐ろしい。
>マルチェロマジでチート杉
>エイトさんは怪我無視し杉
>竜王マリアトロデが空気杉
行間の文章次第ですね。
説明的にならないよう文で補えばなんとかいけるかなーうむむ。
>カガミのフラグぶち折り杉
は、普通に無視すれば誰かが拾ってくれそうだ。

是非とも結末はルート2で!!!

>xohX/KKoさん
マルチェロが理性が強すぎて、怖さ 。
マルチェロの理性が強いままでいくならキーファが生きているのは難しいような。

後半の竜王とマリアがぁあぁぁぁ。マリアと竜王の場面のGJです!構想聞いただけで泣ける・・・。
この部分の文章を読んで見たかったな。


おふたりとも凄い。
短編書きとしては、ただただ敬意を払うばかりです。

319sage:2008/04/29(火) 02:14:47 ID:IDHHPhw2
.

320痛恨の一撃:2008/04/29(火) 02:15:34 ID:IDHHPhw2
押し間違えました・・・。

321 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:32:45 ID:???

血肉が舞う。
骨片が散る。
翼は捩じ切れ、飛膜が焼け落ちる。
破壊神の腕は足場から外れ、だらりと力無く垂れ下がった。


「はぁっ、はぁっ……!!」

泥混じりの汗がやけに粘っこく感じられた。
顎を伝って落ちるそれと共に、全身にずしりと伸し掛る疲労もついでに落ちないものか。
疲弊しきったアレフはそんな馬鹿げた希望を願っていた。

「……ふ……っ」

大きく息を一つ、口元の血を拭い去る。
そんな傷すら軽く見えるほど、皆等しく血を流し汗と泥に塗れ傷ついていた。
目の前の邪神を彼らは、渾身の力を以て打ち破ったのだ。
無傷で切り抜けられるわけもなく、この負傷は当然と言えた。
声を上げるひとかけらの英気すら、彼らには残されていない。

「くっ……ゴホッ!ゴホッ!」

せっかく拭った口元がまた赤く染まってしまった。
これでは歓喜の雄叫びすら上げられないではないか。

「また……か!」

違う。
真実は、もっと絶望に傾いている。

「奴は……」

戦闘はまだ、終わってなどいなかった。

破砕音と共に、動かぬ腕が跳ね上がる。
千切れかけた下顎が、血反吐と共に動き出す。
呼吸をするかように、自然な振る舞いで神は─

322 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:33:21 ID:???
*  *  *




時は遡る、大凡四半刻。
だが、彼らには、それが一日にも、一週間にも、一劫にすら感じられた。
そんな永遠のような戦いを続ける彼らを突き動かすもの。
意地。
義憤。
あるいは憎悪。
だが、それでもまだ足りないと言うのだろうか。
『神』に抗うその為には。



いまや身につけるのは簡素な旅装と伝説の剣盾のみ。
勇者アレフは吹き飛ばされた先に浮かぶ巨大な天井の破片を蹴り、とんぼをきって着地した。

「ぐっ……!!」

苦虫を千匹は噛み潰したかのように表情を歪め、アレフは歯を食いしばった。

先程炸裂したピサロ、マリア両名による最大級の重爆であるイオナズン。
魔法のエキスパートとも言える二人が力を一つにしただけのことはあり、破壊力は凄まじかった。
空間を捏ねたかのように歪ませ、世界の残骸を尽く揺るがす。
巻き込まれた破壊神の右半身が消失したことにまるで疑問は無い。
疑問に思えるとすればそれは一つ。

「うぁあ、っ!?」

その失われたはずの右腕で殴られそうなことだろうか。
轟音を上げ、破壊神の豪拳が迫る。
頭を持って行かれ、自分が夕食のトマトの残り滓のような姿になる、そんならしくない幻影まで目の前に浮かんだ。
代わりに鉄兜が紙屑のようにクシャクシャにされただけで、事なきを得る。
そして引換えに、奴の右手首に先祖から受け継いだ名剣をすれ違い様に振り切った。
豹より疾く傍を通り過ぎる腕。
その鱗の継ぎ目が見えたわけではない、だががむしゃらに繰り出した剣は正確に外皮を貫き、肉を断つ。
勇者の資質か、神の悪戯か。
破壊神の右腕を一本、まるで魚の身を下ろすかのように美しく断ち割った。
所謂『会心の一撃』と評されるものだろう。
〆に盛り上がった肩の筋肉ごと、上半分の腕がスパリと斬り落とされる。
完膚なきまでの一閃、その感想やいかに。

「くそったれ……!!」

答えは、そんな汚い悪態だった。
思わずそれが口を衝いて出る程の現実を、目の前に突きつけられからだ。
千切れ落ちて半分になったはずの、そう決して握れはしないはずの右手。
それを意に介すこともなく、もう一本の右手が振りかぶられる。
こちらを砕く気満々のその手が炎に包まれる。
魔に満ちたそれは、赤々と燃えていた。
そしてその下、炎に照らされるように何がしかが蠢く。
それは、破壊神の肩からぶらさがるもう一本の右腕。
今は確かに、骨と肉の集合体に過ぎないかもしれない。
だが、それは屍に群がる蛆のようにざわざわと蠢き、変形を繰り返し。

「……そりゃ……」

復元した。
そして、蘇ったばかりにもかかわらず、一対の右拳が今まさに固く握られ。

「反則だろ……ッ!!」

振るわれようとしていたのだ。
邪神の怒りが、そこに乗せられているのだろう。
雷よりも鋭く疾く、獄炎を撒き散らしながら迫る豪拳。
かわしきれない。
そう判断して構えたロトの盾が、轟音を上げて軋んだ。

323 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:34:52 ID:???
炎に包まれたそれは、幾つかの岩壁を貫きながらやがて足場の一つに着弾する。
隕石ではなく、それは勇者だった。
壁に叩きつけられた彼を、エイトは破壊神の向こうに見た。
あのまま意識を失えば、異空間に転がり出されかねない。

「アレフさんっ!!」

声が届いたかは定かでない。
だが彼が強靭な精神力で立て直し、そうして足場にしっかりと立ち上がるのを見て安堵する。

「……っ」

辺りを見回して破壊神を見下すことのできる、ゆらめく高所の足場に目をつける。
今しかない。
注意がそれている隙をつきエイトは、ひた走る。
そして足場を伝って破壊神を見下ろす位置まで駆け上がり、そのまま歩みを止めずに虚空へと跳んだ。

「つぁあーーーーっ!!」

さながら飛竜が滑空するかのように勢いにまかせ、急降下する。
構えた槍の穂先は下へ。
森羅万象全てを貫く白銀の流れ星となり、エイトは破壊神に襲いかかった。
全体重を乗せた槍は筋肉を裂き、血管を突き破る。
そしてその奥、骨の継ぎ目を正確に狙い突き当たった。
突き通された槍が破壊神の左肩の関節を一つ、そして二つとぶち抜き突破する。
やがて大人が通り抜けることができるくらいの傷を肩口に穿ちながら、エイトは地上へと降り立った。
低い唸りと共に、破壊神の左腕が二本とも下がる。
腕の自重に耐え切れなかったのだろうか、筋繊維がびちびちと音を立てて裂けていく。
砕けた骨を傷口から覗かせながら腕はやがて切断され、落ちたそれは背後で足場を揺るがした。

「……はぁぁ……ッ」

大きく一つ呼吸を行い、攻撃が成功したことを安堵する。
だが彼が立つのは破壊神の間合いの内側。
せいぜい、呼吸ひとつが静止限界だ。
一刻も早く攻撃範囲からの離脱を試みなければ。
かけ出しながらエイトは駆け出す。
そして振り向いた目の前には。

「!?」

落ちたはずの左腕は未だ繋がっていた。
だが違う。
『落ちたはずの左腕』はそのまま正しく落ちたまま。
だが破壊神の左腕はそこにあり、掌をこちらに向けている。
エイトが視界の隅で巨大な肉塊となった左腕二本がグズグズと爛れるように消えていくのを確認した。
その直後だった。
細かな紫電が破壊神の掌で炸裂し、彼に殺到したのは。

「う、あぐぁあぁぁっ!!」

魔法から自身を守る力の込められた盾を咄嗟に翳すが、さしたる意味も得られない。
極雷召喚、ジゴスパークの渦中に抵抗むなしく包まれる。
過ぎたる魔に灼かれた盾を取り落とし、エイトはそこに崩折れた。
周囲を金属が焼けるような鼻を突く臭いが包みこむ。
最後まで握られていた槍が、力なく転がった。
やがて用の済んだ地獄の雷を、『生えたばかりの』巨大な二本の手が握り潰す。
破壊神の両の翼が妖しく羽撃き、破壊神の双眸が紅く輝いた。



「いけません!」
「エイトさんがっ……!」

天を飛翔する、純白の天馬。
その背には二人の少女、マリアとフォズが眼下の恐怖を見下ろしていた。
立ち向かった彼らの力を疑う者などここには居ない。
だが、破壊神はそんな二人を一蹴した。
右と左の、両の手のみで。
底知れない神の力を感じ、彼女らはあらためて戦慄する。

「フォズさん、あなたはこのままアレフさんの回復に向かってください」
「!何を?」

324 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:35:39 ID:???
マリアが破壊神にほど近い足場に目を落としながら荷物を探る。
あちらこちらに散った戦火が、空気を熱し風無き世界に風を生んでいた。
ファルシオンの翼を、彼女らの法衣を、熱い上昇気流が煽る。
その風を孕み、マリアが取り出した蒼き布が大きく膨らんだ。
秘宝、風のマント。
風の精霊の力を秘め、一度纏えば主を大地の戒めより解放すると言われる逸品である。
ムーンブルクの地に伝わる伝説の魔具を、まさか破壊神との戦いで使うことになろうとは。
一度目の冒険では思いもしなかっただろうことだった。

「エイトさんは私に任せてください。気をつけて!」
「ま、マリアさんっ!」

マント一つをその身に纏ってファルシオンから下馬したマリア。
彼女の姿を驚いて目で追ったフォズは、彼女が鳥と化したのを目にした。
無論、マリアは変身魔法モシャスを使ったわけでも、神鳥の魂をその身に宿したわけでもない。
蒼き外套はこの世界に残された幾何かの風の力を支えに、マリアへ翼を授けたのだ。
破壊神のすぐ側を不釣合な程優雅に滑空し、ふわりとまるで重力を感じさせぬままエイトの眼前に舞い降りる。
それはまるで、女神の降臨のようだった、とエイトが平常であったならば表現しただろう。
この戦場に似つかわしくない、気品を持った戦姫であった。

「う、ぁ……」

意識はある。
火傷も、咄嗟の防御の為か重度のものではないようだ。
だが、盾を構えたであろう左腕はひどく電熱により焼け爛れている。
すぐさま回復呪文ベホマをかけ、一刻も早くここを離れなければならない。
ここは破壊神の膝元だ、一つの油断が自分を肉塊へと変えかねない。
詠唱を急ぐマリアの足元の影が、突如巨影に塗りつぶされた。

「!!」

破壊神の顎が砲門のように開かれ、こちらに向けられていた。
但し放たれるのは砲弾などでは無い。
一度吸えば体の自由を奪われる、猛毒の瘴気である。
エイトは小柄ではあってもマリアに背負える体格では無い。
身動きがとれない今、打撃、ないしは呪文よりも長らく大気に残留する猛毒、太炎などのほうが彼らには恐ろしかった。
濃密な毒が、破壊神の邪悪な表情を覆い隠す。
その向こうで笑っているような幻が見え、マリアは嫌悪の表情を浮かべた。

(エイトさんはまだ動かせない!!)

回復を中断し、バギの詠唱を始める。
聖風を発生させて瘴気をかき乱し、毒気を振り払うことに希望を見出す。
彼女ができる手立ては今、それしか無かった。

「バギッ!!」

マリアが杖を構えて呪文を完成させた。
巻き起こる小さな嵐が破壊神の瘴気と交わる。
が、足りない。
滝のように止め処なく湧き出る瘴気が、風を物ともせず空間を埋めつくしていく。
マリアが風を起こし続けても、これではいずれこの場が覆われてしまう。
こうなれば、猛毒を吸い込む覚悟でエイトの回復に臨むしか無いか、と続けていた詠唱を止めかけた。
そのとき、風がマリアの外套を巻き上げた。
違う、自分の手元からでは無い。
一体誰が─

「マリアさーん!」
「エイト、マリア!そこを離れてくれーっ!」

風の出所は天馬に跨る二人からだった。
翠の守りが、天罰を下す杖が。
聖なる風を後押ししたのだ。

「……!ベホマ!!」

感謝を述べたいが、今は立ち止まっていられない。
幾度もの癒しを受けたエイトが、ようやく眼を開く。
無意識だろうか、手探りで槍を探している様子を見るに、どうやら戦意は潰えていない。
左手の傷は深いものの、概ねの傷をなんとか塞ぎきる。

「立てますか、エイトさんっ……!」
「す、みませ……ぐッ」

引きつった笑みを見せるエイトはどうにか立ち上がった。
早く破壊神の攻撃範囲から離れなければ。
槍を抱えたエイトを、マリアは支えて走り出した。

(破壊神の攻撃が来る……!!)

二人の背中を確認した破壊神の掌が、ぼぅ、と妖しい光に包まれる。
それは空間を、魔力を、全てを喰らい破壊する神の力そのもの。
破壊神は四つの掌全てに、それを顕在させたのだ。
ギラリと狙う眼光が、その後の惨劇を伺わせる。
食らえば間違い無く消失させられる技だろう。
四つの手のうち一つが、大きく振りかぶられる。
再び破壊の宴を巻き起こす、かと思われた。

「ライデイィーーーーーンッ!」

蒼き電光が一つ、破壊の邪気を打ち砕く。
虚を突かれたのだろうか、破壊神の動きが一瞬硬直した。
続けざまに、残りの掌の光球が次々と打ち抜かれる。

「まだ、終わりじゃありませんよ……!!」

325 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:36:49 ID:???
呪文の主、勇者アリスが掌越しに不敵に笑んだ。
連なって放たれた稲妻がやがて破壊神の頭上に収束していく。
電撃呪文の完全なるコントロール、それが複数のライデインを合体させることに成功した。
ギガデイン並に膨れ上がったそれはまるで、雷神の鉄槌そのもの。
そしてそのまま間髪入れず、槌は振り下ろされた。
まるで巨大な雷の牢獄、その全身を包み込む。
直撃を受けた破壊神の仰け反ったその身が、引き攣るように震えていた。

「……覚悟ッ!!」

アリスの勇壮なる突撃は終わらない。
放たれた雷の後を追うように、自ずから剣を構えて破壊神の眼前まで跳躍したのだ。
振り下ろされたメタルキングの剣が縦一文字の閃光となり、蒼雷諸共破壊神の肉体に亀裂を入れる。

「とぁーーーッ!!」

長い長い斬撃が、地面への到達と共に終りを告げる。
否、まだ彼女の攻撃は終了していない。
着地と共に、剣を横に目一杯振り切る。
十文字を描く勇者の剣閃は、巨躯を拘束する雷の魔力の流れを乱した。
やがてその一撃を破壊神をも苦しませる荒れ狂う爆雷へと変え、炸裂させる。
離れた足場まで吹き飛ばされる姿を一瞥し、剣を天に構えた姿勢で眼光鋭くこう告げた。

「名付けて……『デイン・ブレイク』ッ!」

意図せずして完成した勇者の必殺技。
父から受け継いだ念願が今ここに完成した余韻に、アリスは僅かに酔い痴れる。
天から見守る父に叫びたい。
今の私、勇者としてまた一歩前進しました、と。

「……それは言わなければならんのか?」

一部始終を目撃していたアレンは責めるでも呆れるでもなく、ただ疑問を口にした。
例えば何らかの協力を必要とする技ならば名をつける意味はある。
だが今行われたのは完全なる個人技。
本人の意思でのみ行われる技に、何故アリスは命名をしたのだろう。

「もちろん、その方が勇者らしいですから」
「……」
死闘の最中であっても、満面の笑顔を絶やさぬスタンス。
それを彼女は崩さない。
アレンは頭を掻きながら、己のが宿敵の先祖だけはあるな、と独りごちた。


*  *  *







「くらえ……!」

アレンが破壊の鉄球を装備する。
竜の膂力を持って、さながら砲弾と見紛うように投擲した。
唸りを伴い、破壊の名を宿す鉄球が同じ名の邪神を強かに打ち据える。
教会の鐘なんかとは比べ物にならないほどの鈍重な音が大気を引っ叩いた。

「ちいっ」

だが宙を舞う身体を地に叩き落とすにはまだ足りない。
まるでメタルスライムを攻撃したときのような弾かれる感触がアレンに伝わった。
対して邪神は、鱗を、骨を砕いたその攻撃に動じた様子もない。
自分の腹に減り込む鉄球を押さえ込み、アレンと力比べでもする気だろうか。

「そうはさせませんよ!!」

走る、走る。
極太の鎖の上を、曲芸師も腰を抜かす速さでひた走る。
勇者アリスは勇敢にも破壊の鉄球の鎖を渡り、破壊神に辿り着くまでの橋としたのだ。

「はぁーーっ!」

腰だめに構えられたアリスの剣が、巨大な胸板を断ち割るべく横に振り抜かれた。
研ぎ澄まされた刃の閃きは、鋭さをより一層増す。
だが。

(!?堅いっ!)


またも手に届く、鉛より重たく鈍い感覚。
攻撃を重ねても、先程までのようなダメージが通らない。
これは、先程までの闇の衣での防御とはまた違っていた。

「……これは!」

アリスはこれを知っている。
魔王討伐の旅路で幾度も経験し、この恩恵を自ら味わったことすらあった。

326 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:38:00 ID:???

「防護強化呪文スクルト!これは、魔力の障壁が武器を押し戻しています!!」
「!彼奴め、呪文までもッ!!」

肉体に殺意の指針が残ったように、きっと破壊神には大神官ハーゴンの力が、知恵が残留しているのだ。
嘗てマリアが対峙した破壊神には無い脅威があるとしたら、そこだ。
過度な回復を行い隙を晒すこともなく、自己の強化に時間を注ぐことも適所で行うだろう。
力の使い方を誤りはしない。

「死して尚牙を向けるか、ハーゴンよ……!」

そう、これは彼の殺意。
もはや自らの仇であるマリアだけに留まらず、生きとし生ける全てへ向けられたぞっとするような感情。
嫌悪も顕なアレンが竜神王の剣へと装備を持ち替え、雷撃による攻撃へと転じる。
しかしそこに、新たな声による高らかな詠唱が響いた。

「鉄が錆びるように……崩れ落ちよ、ルカナン!!」

駆けつけたマリアが、スクルトと鏡合わせである守備減退の呪文を放つ。
破壊神の肉体を護る光が失われ、外皮がバリバリと音を立てて変質していくのが目に見えて解った。
アレフの剣が、エイトの槍が。
恐怖を削るように、削ぐように、斬り開いていく。

「ハーゴン……あなたの牙など届きはしないわ」

マリアが努めて冷静に、言い放つ。
彼女はまた少し、敗けることはできないと思いを強めた。
憎き仇の力により強まった破壊神に、敗北すること。
それはもはや、ハーゴンの執念が成す力に屈することに等しいのだから。



*  *  *


五人が繰り出す怒涛の攻撃と激しくぶつかり合い、邪神の身体は徐々に負傷していく。
先程までと同じく、肉体が脈動を始め、悍ましき再生が行われる。
少なくとも今までと同じ繰り返しが誰にも予想できた。
だが、破壊神の悲鳴がここで漸く響く。

「喰らえ……ッ!」

ピサロが、人間で言えば盆の窪の辺りであろうか。
プラチナソードを、装飾が光る柄すら減り込まんばかりに突き込んだ。
巨体を鎖鎌で絡めとり、片腕という不自由な身で懸命にしがみつきここまで這い上がったのだ。
二対の腕が、後頭部のピサロに伸びる。
その身を躍りだし、迷うこと無く彼は高空から飛び降りた。

「ここだァーーーーーッ!」
「!!」

ピサロの、張り裂けんばかりの叫びを合図とし、一同は駈け出した。
アレフとフォズにより伝えられた、最終作戦。
勿論練習などできはしない、一度限りの本番だ。
しかしそれはまるで奇跡のように、彼らの意思は一つに収束していた。

327 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:38:40 ID:???


*  *  *



(あの肉体、常に再生状態にあるわけでは無い。大きな損壊を認識したその瞬間から、急速に再生が開始されるようだ)
(だったらどうすればいい?ヤツを一撃で消し去らなきゃならないじゃあないか!)

邪神の行う肉体の再誕は、回復呪文、所謂ベホマを超越する能力があった。
人間や魔物肉体を癒すには充分であろう完全回復呪文。
彼らが仮にそれで邪神の肉体を癒すとすれば、何人もの術者が命を賭けて快復に力を尽くさなければならないだろう。
神という巨大な存在を押し込めるための肉体もまた、人間の肉体をあらゆる点で超越しているのだ。
超越─そう。

(落ち着け。……邪神に"意思"が芽生え"策"を身につけた。
 故に、『微細な負傷は無視』され『動作に不都合になった時点』から合理的な考えに基づき、超速再生は準備されるのだ)

超越した肉体に宿るのは、神と並べれば矮小な"人"の知恵。
そこに生まれる、歪で、ちぐはぐな、肉体と思念のズレによる僅かなひずみ。

(そこを突く)



*  *  *

「!」
「今かっ……!!」

(限界まで、邪神の動きを阻害する程の負傷を与えるな……奴の肉体に『亀裂を与える』ようにやれ)

エイトとアリスが、破壊神の背に周り込みながら呪文を紡ぎ出す。
アレンもまた剣を取り、二人の後に続いた。

(そしてその亀裂を大規模呪文か何かの一撃で『繋げろ』。勇者、適役は解るはずだ)

マリアもまたひた走り、詠唱を始める。
すべてを砕く、破壊の鉄槌を打ち下ろすべく。
アレフはまるで姫を守る勇者のように、マリアの前を往く。

『……光の、裁きを!』

先んじて飛び出した、エイトとアリスの詠唱が最も早く完成した。
だが、先ほどのピサロの策がある以上、破壊神の行動は負傷による制限をされていない。
つまりそれは反撃を受けるリスクを背負うということ。
呪文をその手にしたまま、無防備な彼らを守らなければ作戦の成功はありえない。

「真空……波ッ!!!」

防風が幾千の礫のように、破壊神の外皮を叩いた。
未だ落ちゆくピサロの放った足止めだ。
風の大群に翻弄されるように、破壊神は体勢を大きく崩す。

「ぐわッ!?」
そのとき、予想外の声に全員の眼が見開かれた。
空を掻いたと思われた破壊神の手に、アレンの身体が拘束されたのだ。
この状態で手を捻れば、誇り高き竜王の身体もあっというまにぺしゃんこにされかねない。
そして、この作戦の一端を担う彼が囚われた─それは無論、危機である。

328 ◆I/xY3somzM:2011/10/29(土) 15:39:56 ID:???

「く、竜王ッ!」
「アレン……!」

アレフ、マリアが接近を試みる。
予定とは違うが、この鉄槌は竜王を拘束する手に放たれるよう狙いを変えた。
作戦の鍵の一本。
宝剣による雷を彼は所持しているのだから。
宿敵の名を呼ぶ勇者に、孤竜が返した答え、それは。

「うおッ!?」

アレフの胸に何がしかが投擲された。
それは殺意も敵意もない、託されたのは─

『行ケ、勇者!!』

竜王アレンの荷物全て、そして口から覗くのは竜の宝剣。
頭の自信はそうないアレフにも、察することはできる。
両者の意思は、まるで運命だったかのようにピタリと繋がった。
振り返る王女は、二人の全てを察し、大きく頷く。
その顔が愛しき姫を思わせ、覚悟を確固たるものへと変える。
剣を引き抜き、足元に荷物を投げ出し、勇者は今一度、姫の元から遠ざかる。
そこに別れは生まれないと、信じて駆けた。

『……ヌゥゥゥゥウッ!』

宿敵の行動を認めた竜王の身体がみるみる肥大化し、邪神の腕を食い破る。
今一度魔を束ねる王としての姿に立ち代わり、彼は大きく吼えた。
そして目配せをする。
恋しき姫が、彼の自由を確かめ、そして。
それを合図に破壊の槌が打ち込まれた。

「イオナズンーーーーーっ!!」



*  *  *


黒煙が肉体から立ち上る。
炭化した四肢が、ボロボロと朽ちて落ちていく。
王女マリアの最強の呪文が炸裂し、破壊神の肉体を一気に崩壊へと導いたのだ。
用を成さなくなった翼の残骸が動きを止め、ゆらりと破壊神の身体が傾く。
もがれた手足をばたつかせることも、今となってはできはしない。
見上げねばならなかった邪神の姿が、下へと立ち消えるように落下を始めた。
風を切り落ちてゆく肉体は、幾つもの足場を瓦礫へと変えていく。
そうして何度目かの衝突で、ようやく崩れぬ足場と出会えたようだ。
伸ばす手足も半ば無い今、尾のみを伸ばした黒焦げの破壊神は、うつ伏せの形をとるように寝そべった。
それは皆にとっての遙か眼下、しかし放置しておけば傷ついた邪神は幻のようにいなくなる。
このままでいれば、満身創痍を健在な姿へと着飾り、再び邪悪な姿を現してしまう。
そう、このままでいれば。


「正義のッ!!」
「……勇気の」
「覇者の─」

勇者はそれを許すだろうか。
巨大な邪悪をあと一押し、ほんの一握りの力さえ届けば、滅することができる。
それが、遙か彼方であろうと。
先の見えぬ暗闇の奥であろうと。
諦めない。
手が届かないくらいが、何だ。

勇者の意思は、魂は。
世界を、次元をも超えて届くと……誰もが信じている。

『雷ッ!!!』

白雷が、蒼雷が、そして遅れて黄金の雷が。
勇者の手から思いを連れて、宙へと向けて放たれる。
ギガデインの輝きが、今一度収束したのだ。
刹那の攻防故、未だ自由落下の真っ最中のピサロは、昼のような輝きを見せる魔法を見て思わず口を開く。
奇妙な偶然の末に出来上がった最強の雷─その、真の姿を目の当たりにした過去があるのは、今この場で彼だけだった。

「ミナデイン……!!」

爆雷は凝縮し、太陽のような球体となる。
そしてはるか真下の邪神を消し去る槍と化し─落ちた。





このあと何人か死ぬところでした。
よかったですリレーしてもらえて。

329 ◆BP.r.jLCXc:2012/01/02(月) 12:19:09 ID:???




それは、決戦のさなか
ある一つの、さまようたましいの思念

破壊神と7人の戦士たちが対峙し
幼き大神官が杖を掲げ、やみのころもを暴き
散っていった数多くの魂に導きを示した、その時に。


光りへ還ることも、抗い闇に堕ちることもなかった一つの魂があった。


絶望に果て握りつぶされた命が
ああ、確かに他の人間たちと同じだけのこの命が、
もはや鼓動を打つことはない筈のこの命が、揺り動かされるような気がした。


――そうか
――私の願いは
――果たされようとしているのか


戦士たちはその魂を知らない
唯一過去に関わりのあった王女も、その魂には気付かない


――欠片たちは集い、鍵は揃えられた


魂は確信した
かつて崇めた破壊の神が、今ここで潰えること
勝利は彼らの手の中にあることを


――さいごの鍵を手に入れた勇者に――開けぬ扉はないのだから――


なにかが魂を満たしていく。
微笑に似たわずかな気配を残して、魂は消え去った。







***
構想だけあったのを手早く文章化
オリキャラだけど好きだったぜアピール。自己満です

いやしかし改めて完結おめでとうございます!
◆I/xY3somzMさん本当にお疲れ様でした!

330ただ一匹の名無しだ:2012/04/13(金) 00:56:16 ID:???0
フフフ…まさかのエイト1話退場で
どうにかしてミーティア姫と合流したエイト、彼女を守るために獅子奮迅の戦いぶりを見せるが
目の前でミーティアが死亡してしまい静かに狂うステルスマーダー化という展開が没になりますた!

参加者の把握と現状をチェックしながら構想練ってた結果がギロチンだよ!!/(^o^)\

331ただ一匹の名無しだ:2012/04/13(金) 16:30:13 ID:???0
リアにGPS[おうじょのあい」を渡して、東に移動させようとしていたら進行方向にジャミラスがきたー
もだもだ回避策を練っていたら期限切れ+予約が入ったので新作に期待しつつ、話のネタだけここに埋葬します。

332ただ一匹の名無しだ:2012/08/12(日) 00:43:37 ID:???0
全話感想なるものに挑んでいたのですが
書き切る目処が立たなくなったので、とりあえず登場話までの感想を投下しときます
少しでも支援になれば嬉しいです


「破壊の宴」
実は本編投下が始まってから初めて見たんだけど、1stとはまた切り口が違って面白かったなぁ

「somebody to love」
第一話から壮絶すぎてびっくりしたwwフローラは前回とは違いひたむきにリュカラブだけど、不幸ぶりは相変わらずかも。ローラ姫の出てきかたが素敵

「話を聞かない男、地図の読めない女」
ぶれないテリーが新鮮。対象的なコンビの良さが、タイトルにも現れてる気がする

「人が好いのも困りものです」
ドルちゃんは杖ないとただの人だから、現時点ではどちらにも取れそう。そして始まるともえなげ伝説

「守護神」
デボラは強くて賢くていい姉だったんだろうな。ゴーレムがなんかカワユス。全部引きちぎるバラモスがすごい。

「牢獄の番人」
ギュネイ将軍vs勇者ロトとかかっこよすぎる。それをさくっと終わらせるキラマの怖さがもう

「scissors and foolish」
行動方針『たたかう』はまさに破壊神を破壊した男って感じ。影の騎士はどことなく愛嬌があるなぁ

「逆転遊戯」
使命に忠実な対主催ハーゴンとかかっこよすぎる。それを適度に茶化しつつ引っ張るソフィアとはいいコンビ。

「her style」
リッカは自分にしかできないことがあるって、ちゃんとわかってる女の子ですよね

「空を想う」
守るべき勇者とは別の勇者に出会うシンシアのお話、クロスオーバーのロマンが…。そういや彼女にはピサロって完全に敵だよなー

「Eternal promise」
DQ2にこんな解釈があったなんて目から鱗。OPに出てきたちょっとひねくれた感じのカインがこうなるとは

「希望を胸に、すべてを終わらせる時」
タイトルと一行目で盛大に吹いた。ホンダラのキャラが美味しすぎる。温泉最高

「あなたしか見えない」
チャモロの死をがっつり悼む仲間がいてよかった。じいちゃんかっけーと思ってたらまさかの危険人物でびっくり

「幸せは歩いてこないなら」
余談だけど、エイトが見ちゃったかもしれないバーバラのアレは白がいいよと言う意見

「少女A」
既に出てるもょもとカインがあれならあきなもまたねじくれてるわけで。マーニャの衝撃が伝わってくる

333ただ一匹の名無しだ:2012/08/12(日) 00:45:27 ID:???0
登場話感想2/3

「それを捨てるなんてとんでもない」
嫁落ちしたにも関わらずひたむきなビアンカが可愛い。このアレフにギルダーを思ったのは自分だけじゃないはず

「傭兵求む」
あんなにかっこよかった曾孫がまさかのギャグ担当に。ふしタンはいい支給品だったと思う

「I'll be back」
最強レベルの戦闘狂が鉢合わせ。カーラは女賢者にあるまじき凶悪さ。キーファは不運としか言いようがない

「彼女の胸は最強である」
いろんな意味で安定のゼシカだった。そして今回の竜ちゃんはやたら可愛い

「女主人と勘違い?」
親父の設定がいいなあ。違う世界のルイーダとのコンビも記憶喪失であればこそ生きる。今回壮年(?)キャラが少ないので期待

「最強の矛 最強の盾」
ツメ装備アリーナにメタ盾持ちのパラディン9主とか最強ww単純明快で好きなコンビ。頭の悪さはともかく

「美しい花が一つ」
まさかのミレーユマーダー。ククールとは共に見せしめで仲間を失ってたんだな。このピエールは出会いによってはかなり活躍した気がする

「義侠」
正義に燃えるヤンガス。兄貴に深い信頼を置いていたことが伺える。描写からしてきっと人情MAX?

「えっちなのはいけないと思います」
1stの某お色気回を彷彿するタイトル。ミネアがしっかりエロ装備担当でごちそうさまです

「Ma Cherie, Mon Ami」
ピサロのキャラは女子供がいるほど揺れ動く気がして面白い。ミーティアがローラとはまた違った押しの良さがあっていいな

「よく似た他人を追え!」
アルスサンディコンビはバランスいいなぁ。そしてグラコスとジャミラスのコンビが楽しいww短い中に四魔王の個性が見事に描かれている

「夢で逢えたら」
ロト戦闘狂パーティが見事に確定。師匠も強かったが彼女はその上をいっていた。夢を見ているという設定がこの先どう生きるか楽しみ

「鳥か? 飛行機か? いや――――」
カインは出逢いに恵まれている。アイラは今のところ唯一の銃持ちなんだな。DQ1のドラゴンは毎回色んなキャラになってて楽しい

「「Win⇔Win」?」
リアが進化し始めた…。計算高いジャミラスがリアを連れて行くというのが面白い組み合わせになったと思う

「Shot Gun Touch」
こっちもリンリンの怖さがヒートアップしていくなあ。テリーマリベルは戦闘時のコンビネーションも良いよね

334ただ一匹の名無しだ:2012/08/12(日) 00:47:35 ID:???0
登場話感想3/3

「王女と魔王と天使さま」
好きだった登場話。ムドーに愛嬌を感じる日が来るなんて。エルギオスががっつり対主催なのも嬉しい

「彼らの手札の使い方」
おっちゃん△。8組はキャラが安定してていいなぁ。ピサロは扱いが難しそうなキャラだが、信頼を勝ち取るヤンガスとミーティアがすごい

「王子達の落日」
ロッシュがひたすらかっこいい。『ラブアンドピース』なんて、このロワでは特に輝くなぁ。にしてもドラゴン極めたミレーユが怖い…



見落としあったらすみません
こうして見返してみて、やっぱり2ndは全体的に、
異色な設定と取り合わせが面白いんだなと思ったりしました
これからもがんばってください

335 ◆t1zr8vDCP6:2012/10/11(木) 20:44:26 ID:???0
放送が来たので没話投下するよー
現在絶好調のホンダラさん登場話だよー

336無題 ◆t1zr8vDCP6:2012/10/11(木) 20:45:51 ID:???0

ホンダラは混乱していた。

一体何なんだ! 意味が分からない!
いきなり見知らぬ土地に投げ出されて、武器を持って殺し合えだって?
冗談じゃない! なんで、おれなんだ!?

わけのわからない広間にいた者の中には、屈強そうな戦士達がごろごろいた。
戦いや争いに好んで関わりたがる連中。いわゆる荒くれ者って奴らだ。
おれはそんなんじゃない!
大体、武器を振るうだとか、そんなのは野蛮な連中のすることだし、第一、おれは平和主義者なんだ。
ただ毎日を穏やかに過ごし、楽をして生きる。それがおれのポリシーってやつなわけで。
なのに……。

チクショウ、どうしたらいいんだ!

地図を見ればこの場所は孤島らしい。逃げる場所は無い。
誰かに会えば殺される。そして死んじまう。あの荒くれ者どもに。嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!
ならばどうすりゃいい? ずっとどこかで身を潜めて誰にも見つからないようにするのか?
でも、首輪。そうだ。
この物騒な爆弾がそれを許してくれない。禁止エリアとやらにいれば爆発する!
そしたら死んじまう――嫌だ! おれはもっと生きたい!!

冷や汗が額からにじみ顎へと滴り落ちる。ガクガクと体が震える。
今にも背後から暗殺者が飛びかかってくるんじゃないか?
野蛮な刀だの斧だのを振りかぶって、ザクザクと斬りつけて、おれを血まみれにするんじゃないか?
真っ赤な自分の体を想像し、ホンダラは蒼くなった。――嫌だ嫌だ嫌だ!!

「後ろ――は嫌だ。敵に背を見せるなんて。したら、殺されるんだ――!」

先ほどから何度も飲みこんでいる生唾を、もう一度飲みこんだ。
ここから少し行けば岩山があるらしい。方角をしっかり確認して、コソコソと走り出す。
岩山を背にしていれば少なくとも後ろから襲われることはなくなる。とりあえず、そこまで行こう。
ホンダラはとにかくこの不安な思考から逃げ出したかった。

「この辺りは暗いな……木が多くて……その方が見つからずにすむのか……」

なんとか道なりに進んでいくと、暗がりに岩肌が見えた。
もう少し奥まで行った方が隠れるスペースも広いのだろうが、無事目標にたどり着けた安堵感がホンダラの足を止めてしまった。
だいぶ嫌な汗をかいた。とにかく、一息つきたかった。

「少しだけ……少しだけ休もう。それからどうするか――」

考えないと。

337無題 ◆t1zr8vDCP6:2012/10/11(木) 20:46:13 ID:???0

ホンダラはしかしどうにも心細かった。辿り着いた岩肌を背に、ぜえぜえと自分のつく息の音だけがしている。

一人は、怖い。
あの広場にはアルスやマリベルもいた。彼らがよく引き連れていた小僧や女の姿もあった気がする。
あいつらは一体どうするんだろう。殺し合う、のか? なかよく冒険だなんだとはしゃいでいたオトモダチ同士だったのに?

――手を、組む?

そうか。そういう手段もある、のか? 誰も一対一で戦わなきゃならないという決まりはない。
凶悪な殺人鬼があらわれたら協力してやっつけるなんてことがあるのかもしれない。
その後どうなるかなんてことはともかくとして、ひとまず誰かと助け合うことができるのなら、それはかなりの安心材料になる。
けれど、あいつらは? もしあいつらに会えたとして、快くおれを受け入れてくれる、なんて、期待して、いいのだろうか?

そう、ホンダラは確かに平和主義者(※ただし自分だけがそうであればいいという注釈付きの)だったけれども、
自分がエスタード島随一の鼻つまみ者だと思われていることも正しく理解していた。

――ダメ、だ。あいつらはきっと仲間にしてくれない。

あいつらは魔物と戦ったりだなんだとえらく物騒なことをしていたらしい。
だからこんな異様な事態にもうまく立ち回ってみせるのかもしれない。
けどそんな奴らからしたら、自分などただの足手まといだ。命を賭けて守ってくれるわけがない。
誰だって死にたくないんだ!
それに、あいつらがおれを見る呆れた視線だって、覚えている。
そんなものはいつか見返してやるんだとせせら笑っていたけれど、それはまあ、ともかく。

なら、どうする?
やるしか、ないのか? 自分から、殺され、る、前に――?

ガタガタと震える手でまだ確かめていなかった「ふくろ」の中のアイテムを探ろうとした時、
「――うわああああ?!?!?!」
岩だと思っていた背後の『それ』が動きだした!



【E-4/岩山のそば/朝】

 【ホンダラ@DQ7】
 [状態]:情緒不安定
 [装備]:なし
 [道具]:不明(支給品一式)
 [思考]:どうしていいかわからない

 【ゴーレム@DQ1】
 [状態]:正常
 [装備]:不明
 [道具]:不明
 [思考]:不明

339ただ一匹の名無しだ:2012/11/13(火) 23:01:13 ID:???0
てす

340 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

341 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:26:43 ID:???0

御中|∀・)<ダレモイナイ ガイデン トウカ スルナラ イマノウチ

342 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:27:34 ID:???0
**********

昔、まだ人々が『勇者』という存在に夢と希望を抱いていた頃の時代。

 勇者の血を引く三人の王族が、彼の地に伝説を刻まんと過酷な旅を続けていた。
 その物語は偉大なる祖先たちと並び、永劫語り継がれるであろう物語。
 しかし、吟遊詩人たちがどれだけ美しい詩と音色で飾ろうとも
 真実というものは何時だって冷淡で残酷なのである。

 今宵語りまするは、三人の勇者たちの物語。
 勇者ロトに連なる、この地にはびこる闇を振り払った3つ目の物語。

 一人は、勇者ロトの生まれ変わりと讃えられた膂力の王子。
 一人は、その力を仲間を民を家族を護る為に尽くした優しき王子。
 一人は、全ての魔術を英知に刻みし美しき亡国の姫。
 その三人の邂逅の物語。

 そんな極まり文句から、この叙事詩は語られる。

343 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:28:22 ID:???0
 **********

 ざぶざぶざぶ

 僕らは今、毒の沼地の真っ只中にいる。
 土と水と動物や魔物の腐肉が混ざった汚泥が体中にねっとりと絡みつき自由を奪う。
 吐瀉物と排泄物と腐った卵を絶妙な対比でブレンドしたような香りで意識を失いそうになる。
 一歩一歩進むごとに、確実に命が削り取られていくのが、嫌というほど実感できる。
 通りすがりの旅人が、男二人で毒の沼に胸までどっぷり浸かっている光景なんか目撃したら
 自殺志願者か何かだと勘違いするのだろうけど、別に今ここで死にたいわけじゃない。決して。
 ここには、すべての真実を映し出すといわれている神器『ラーの鏡』が眠っている…はずなんだ。
 
 大神官ハーゴン率いる邪教団に滅ぼされた王国ムーンブルク。僕やもょもとの国とは姉妹国でもある。
 思えばムーンブルク滅亡の知らせこそが、僕と もょもと を打倒ハーゴンの旅へと向かわせた発端だったけ。
 廃墟と化した王城へ立ち寄った際、王女『あきな』は存命しており
 ハーゴンの呪いで犬の姿に変えられてしまっているとう情報を入手した。
 さらに探索を進めていると、生き残りの兵士がいて、彼からラーの鏡の在り処の情報を聞き出し今に至る。
 泥の沼地に手を突っ込んで泥を掻き出しドブさらい。時にゴーグルをつけて潜ってみたり
 よく死なないなと我ながら思う。人間って案外頑丈にできているもんなんだなぁ。
 
 ムーンブルクの王女 あきな は100年に一度の魔術の天才と噂されている。
 歩くより先に杖を持ち、言葉を覚えるよりも早く真空呪文を唱えたとかバカみたいに誇張された話まである程だ。
 もょもとは魔法が使えない。僕も一応呪文は使えるけど回復か補助ばかりだ。
 今のところは順調に進んでいるけど、いずれ僕の呪文も、もょもとの剣も通用しない魔物に遭遇する可能性もある。
 そんな時に彼女の呪文は大きな戦力になる、仲間にして損は無い。そう考えたんだ。

 そういえば最後に彼女の姿を見たのは何時だったっけ?
 彼女が15歳になる誕生記念だったかに、サマルトリアとローレシアに肖像画が送られて来た事があったっけ。
 輝くような金髪と楽しげにクルクルと渦巻く髪の毛がリアに似ていて、やっぱり同じ血が流れているんだと思った。
 リアも将来あんな感じの美人になるのかと思うと、自然と口元が緩んだっけ。
 (その数日後に肖像画が忽然と消えてしまったんだけど、多分リアが勘違いしてヤキモチを焼いたんだと思う)
 うん、アレは絵だ。生身の彼女ではないけど、彼女と会う時の手がかりになるだろう。
 幼い頃に一度、三国の親睦を深める為のお披露目会があった気がするけど、正直、よく覚えてない。
 国家交流とか、そういう事情を察するには幼すぎる年齢だったからだろうし、興味も無かったのかもしれない。 
 ただ、その日を境に、父上の僕に対する態度が一変したのだけは覚えている。
 今思えば、両国の王の『うちの子自慢』が聞くに堪えなかったのだろうね。

 「あったぞ」
 過去の回想に耽っていたら、もょもと の声が聞こえた。相変わらず1ミリも感情が籠っていない淡々とした声だ。
 その両手には毒々しい紫色の泥に塗れた丸くて大きな塊…もといラーの鏡が握られていた。
 ―少しずつ泥が滴り、わずかに見える装飾と刻まれた魔術文字というのは情報と一致する形状だし
  何より泥まみれの僕が僕を見つめていた。鏡の向こうの僕は、僕を見て悲しそうに嗤っているような気がした―

344 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:30:08 ID:???0
 **********
 
 あの日以来、すべてを失ってしまった。
 敬愛していた父も、善良だった民達も、大好きだったマリーゴールドの庭園も何もかも。

 ムーンブルクは平和だった。穏やかな気候に恵まれ飢えることも無く、友好的な国家関係で争い事も無かった。
 父は温厚で誠実な人物だった。
 頻繁に領土視察を行っては、作物はどう育つのか、物流の仕組みはどうであるか、根にあるものの大切さを説き
 必要以上の税は取らず、慎ましやかなで、故に民からの信頼も厚かった。
 民たちも私を愛してくれたし、私も民とムーンブルクという国を愛していたし、永劫の平和を疑わなかった。 

 それを、あの男が、ハーゴンが彼が率いる魔物たちが、すべてを壊してしまった。
 血と炎と黒煙で赤黒く穢される白亜の城、魔物に引き裂かれる近衛兵達、食い散らかされた民の手足や内臓
 鳴り止まない轟音と悲鳴と断末魔、そして私をかばって生きながらにして焼き焦がされる父王。
 この世のものとは思えない生き地獄を目の当たりにした私は、父の名を叫び…そのまま気を失ってしまった。
 あぁ、私も魔物たちに嬲り殺されてしまうのだ。遠ざかる意識の中でそう思った。

 しかし、私の生き地獄はまだまだ続いた。

 次に目を覚ました瞬間、やけに空が高く感じたのを覚えている。
 目を傷めたのだろうか?色がぼやけて…いくつかの色が欠けて見える。
 焼け焦げた建物と死体の匂いで鼻がねじ曲がりそうだった…。
 立ち上がろうと両足に力を入れるが上手く力が入らず、ガクリと崩れ落ちてしまう。
 腰が抜けてしまっているのだろう、まるで立ち始めの赤ん坊のようだ、と我ながら呆れてしまった。
 床に付きっぱなしの手に力を入れる。腰から足があがらず、またも床に突っ伏してしまう。
 …おかしい。明らかに変だ。立ち上がりたくても立てない。体調がおかしいとかではなく
 体の構造がおかしい…?どういうこと?
 いう事を聞かない体を引き摺るようにして、用水路へと近づく。そして自分の姿を映してみる。

 私の姿は人間ではなかった。一匹の犬だった。 

 何日も野を駆け、森を彷徨い歩いた。
 慣れない犬の視野、解らない色。異様に発達した耳が、鼻が、掴み取る、獣達の荒い息が、死臭が
 見知った土地を『異界』へと変貌させる。人間であった頃の感覚が失われていくのが解る。
 それでも私の足を歩ませたもの。それは大神官ハーゴンへの憎悪では無かった。
 『生きたい』『こんなところで死にたくない』
 自分のすぐ後ろまで迫る『死』への恐怖に支配されていた。
  
 辿り着いたムーンペタにも『希望』など無かった。
 野外とは違い、雨風を防げるという優位点はあった。しかし、そこも野外とは違う『地獄』に過ぎなかった。
 心優しい子供から施しを受けることもあったが、所詮はすぐに飽きられ、そっぽを向かれた。
 飢えを凌ぐ為に雨水を啜り残飯を漁る事に抵抗が無くなるのに三日も経たなかった
 動物嫌いな人から理不尽な暴力を受けたこともある。雪のような白い毛並みは赤い花が咲いた。
 野良犬に襲われたこともある。暴力的な意味でも…貞操的な意味でも。  
 この時、初めて大神官ハーゴンと邪教団を憎いと思った。いっそのこと殺してくれた方が楽だった。
 それ以上に、我が身可愛さのあまり、父の事も国の事も民の事も忘れていた自分を恥じた。憎んだ。
 明日への夢も希望も無く、死ぬことも出来ずに過ごす日々が淡々と続いた。ただ ただ 淡々と。

345 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:30:26 ID:???0










 ゆめをみた。ひさしぶりの ゆめだった。

 ちいさいころ まだ おかあさまが いきていらっしゃったころの ゆめだ。

おとうさま と おかあさま は ほかの おくに の おうさま と たのしそうに おはなし していた。

 わたしは とおえん の おうじさま ふたり と あそんでいた。とっても たのしかった。
 










なつかしい においが する

346 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:32:39 ID:???0
 **********

 あきな は 泣いていた。

 ムーンペタの街に訪れたときから、おれたちに懐いていた犬にラーの鏡を使ってみたら、あきな だった。
 おれには解らなかったけど、カインがそうだと言ったので、そうなんだろう。
 最初は しばらく ぽかんとしていた。そして、思い切り、大声をあげて泣きじゃくった。
 泣きながら、「ありがとう」といって頭を下げていた。何度も、何度も「ありがとう」といっていた。泣きながら。
 
 小さいころ、乳母とさんぽをした。
 ちがう方向へ行きたかったので手を引いたら、そのまま引きずってしまった。体中すりむきながら乳母は泣いた。
       ・・
 勉強の時間にのびをした。後ろにいた先生の鼻にこぶしが当たって、先生の鼻がひん曲がった。
 鼻のよこから折れた骨が見えて血がでていた。鼻を押さえながらわぁわぁと泣いた。

 父上から言われて剣を教わった。指南役の兵士と手合わせをした。
 言われた通りにやっただけだが、兵士はうずくまって、うめき声をあげながら泣いていた。

 ムーンブルクから死にかけの兵士がやってきた。ムーンブルクは魔物に攻め込まれて滅びたらしい。
 それを告げると兵士は死んでしまった。女官たちはすすり泣いていた。

 大神官ハーゴンが魔物を集めて世界をめちゃくちゃにしようとしているらしい。
 ローレシアの国民たちは、みんな不安げにしていた。

 ひとは、痛いときに、苦しいときに、不安なときに、悲しいときに泣くんだな、と思った。

 あきな は どうして泣いているんだ?
 おれは「ありがとう」とは、だれかに感謝するときにつかえ、と教わった。
 あきな は 痛いのか?苦しいのか?不安なのか?悲しいのか?

 ムーンペタで宿をとった。
 夕飯を食べて、風呂に入って、部屋で一息ついた。あきな も おちついたようだった。
 だから、きいてみた。

347 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:33:40 ID:???0

 「あきな は どうしてあの時泣いたんだ?」
 「え?」

 カインが「君は何をいっているんだ?」と言って来たけどきにしない。

 「元に戻った時に怪我でもしたのか?どこか痛かったのか?苦しかったか?
 不安なことでもあるのか?悲しかったのか?」
 「…女の子にデリカシーの無い事を聞くんじゃないよ、もょもと」

 カインが眉を眉間によせている。なにか変なことを聞いただろうか?

 「…全部よ」
 「え?」
 「痛かったから泣いたの。苦しかったから泣いたの。不安だったから泣いたの。悲しかったから泣いたの。」

 そうなのか。全部なのか、辛かったんだな、あきな。
 あきな は もう一度、泣いていた

 「そうか。辛かったのか」
 「えぇ、辛かった。とっても辛かったわ…。でもね…それ以上に、嬉しかったの。
 優しかったお父様も、国のみんなも、何もかも失ってしまったのだもの。私だけ生き延びてしまったのだもの。
 犬にされてしまったのだもの。犬になっても…それでも人間の部分は残っていたのだもの!!

 狼や野犬に食べられてしまいそうになったこともあったし狩人の仕掛けた罠で足を怪我した事もあった!!
 残飯を漁ったり泥水を啜ったりもしたわ!!
 そんな風に過ごしているうちに、心まで犬になりかけていたのかもしれない。
 私、自分が誰であるかすら忘れかけていた。いっそのこと全部忘れてしまえば楽だった…。
 …楽だったのに、ひとつだけ忘れられない事があったの」

 もう十数年前になる三国の親睦会。おれたちが初めて出会った日だそうだ。
 あきな は 同い年のお友達が出来てうれしかったと語っていた。
 おれは剣の相手がいなくて退屈だったのを覚えているけどな。
 カインは、そんなこともあったね、と懐かしそうにうなづいていた。二人ともよく覚えているな。

348 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:34:22 ID:???0

 「自分が誰であったか、殆ど忘れかけていた頃に、その時の夢をよく見たの。
  そして、懐かしい匂いがしたから駆け寄ってみたら…貴方たちを見つけたの。
  二人とも、大きくなっていたけど、あの頃の面影が残っていたから、すぐに判ったわ。

  最初はね、気が付いて欲しくて、必死になって追いかけて、擦り寄ったりしたの。
  何度も挑戦する内に、『私は犬だもの、気が付いてくれるはず無いな』って、途中で諦めてしまったの。
  貴方たちがハーゴン討伐の旅をしていることは噂で聞いていた。
  こんな姿の私は何の力にもなれないし、みんなの仇討ちなんて絶対無理に決まってるって。
  それでも、貴方たちの傍にいると、自分が自分であった記憶と意識を鮮明に保つことが出来たから
  貴方たちは、いつかまた旅に出てしまうだろうけど、その間だけでも傍に居させて欲しかったの…」

 あきな は あきらめていたのか。

 「元の姿に戻れるなんて…貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかったから
  今まで、痛かった分だけ、苦しかった分だけ、不安だった分だけ、悲しかった分だけ、辛かった分だけ
  …いいえ、それを全部足しても全部足りないくらい…『嬉しかった』から…」

 今まで下を向いていた あきな が 顔をあげた。
 あの時のように泣いていた。あの時とは違い笑っていた。とてもとても幸せそうだった。

 「本当に…本当に、ありがとう…もょもと!カイン!」


 「だから、何で あきな は 泣いてるんだ?」
 「『嬉しいとき』にも涙は流れるものなの」

 あきな は おれに、嬉しくても人は泣くのだと教えてくれた。
 あきな が おれに、ありがとうを教えてくれた。

349 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:34:54 ID:???0
 **********

 「なぁ、カイン」
 「なんだい?もょもと」
 「人は、うれしい時にも泣くんだな」
 「そうだね」
 「カインは泣いたことあるか?うれしい時に」
 「………まぁね、リアに手作りの誕生日プレゼント貰った時とか」
 「そうなのか」
 「そんなもんだよ」
 「いいな」
 「ん?」
 「おれは無い、そういうの」
 「………ふーん」
 「カイン」
 「ん?」
 「もし、ハーゴンをたおしたら…ローレシアのみんな、泣くか?」
 「…そりゃ世界を破壊しようとしてる危ないカルト連中だもの
  ローレシアどころか世界中の人が感激して泣くんじゃないかな」
 「そうか」
 「そうだよ」

350 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:35:41 ID:???0
 **********

 (…そりゃ、ローレシアの皆は泣くだろうさね。
  厄介者が更に厄介になって帰ってきた、って…)

 もょもと が寝付いたのを確認して、カインは唇だけ動かした。声は出なかった。
 隣国ローレシアの王子の噂はカインの耳にも嫌になるほど入ってきた。
 一般的には勇者ロトの生まれ変わりと謳われる程の名将だと。
 『恐ろしい膂力を持った破壊の申し子』という噂は父や特権階級の者から聞いた。
 いや、否が応でも聞かざるを得なかった。

 「ローレシアの王子の件は鋼鉄の巨人をも粉砕するらしい」
 「ムーンブルクの王女の英知は勇者ロトと旅をした賢者に勝ると言われている」

 「それなのにお前は何だ?」「全く、ウチの王子ときたら」「なさけない」
 「叩いても伸びないし、磨いても光らない」「何のための英才教育?」
 「剣も魔法も二人に劣る」「何をしても中途半端だ」「ロトの血の持ち腐れだ」

 聞こえるはずのない、父の、国民の罵声と嘲笑がカインの頭の中に鳴り響く。

 「あぁ!まったく、もぅ!!」

 それを揉み消すかのように、頭を滅茶苦茶に掻き毟る。
 サマルトリアから出れば、違う世界が開けるかもしれない。最初はそう期待していた。
 いつの日か城を抜け出し、妹のリアと新天地を探して、二人きりで穏やかに暮らしたい。
 幼いころから抱いていた二人のささやかな夢がかなうかもしれない、と。

351 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:36:24 ID:???0
 でも、所詮、夢は夢で。現実は何処までいっても現実で。
 もょもと と 二人で様々な土地を巡り、様々な村へ赴き、人々と出会った。

 しかし、どこまで行っても勇者の血は勇者の血で。

 人々は邪教団に怯えるあまりに、ロトの伝説にあやかろうと無責任な加護を求めてくる。

 自分と妹の安息の地は未だに見つかっていない。

 仮に、自分たちの名が知られていない場所があったとしても
 大神官ハーゴンを討ち取った後はどうなるだろうか?そうもいかないだろう。

 自分たちはリアルタイムで世界の歴史に名を刻んでしまう。

 遠い山奥で世を捨てて暮らす聖なる仙人レベルの世捨て人でもない限りは

 「おぉ ゆうしゃ さま」と勝手に拝んでくるに違いない。

 (その前に、倒せるかどうか、だけどね)

 ベッドに横たわる美しい亡国の王女を見つめる。

 (あきな も 悲劇のヒロインの自分に酔っちゃって…)

 あの時、彼女は『貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかった』と言った。
 『貴方たちの事をずっと信じて待っていた』とは言わなかった。

 (つまり、ハナっから信用されて無かったってことですか)

 過度な期待はしていない。自分にも他人にも。
 戦力的にも、この糞みたいなくだらない旅がスムーズに進んで
 少しでも早く妹が待つ場所へ帰りたいだけだ。

 祖国に帰りたい、なんて口が裂けても言えるものか。
 ただ、自分と妹の居場所が、世界中にあそこしかないだけだ。
 例えどんなに罵声を浴びせられようと、蔑みの目で見られようと、あそこしか…。

 「…ふぁぁ。もう寝なきゃ不味いな。明日も早いんだし…」

 サマルトリアの王子カインは乱暴に毛布を被り、必死に羊の数を数えた。

352 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:37:11 ID:???0
 **********








  繰り返そう。

 【真実】というものは何時、如何なる時代であれ、如何なる世界においても

  最も冷淡で最も残酷な存在なのである、と。



                                  〜了〜

353 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:40:34 ID:???0

後書き

DQロワ2ndの、もょもとの最期とカインの成長にみwなwぎwっwてwきwてwきwたwwwwww
勢いで思いつくままに書いた。文法とか滅茶苦茶なうえ、視点が変わりまくりんぐで
読み難さがマッハだと思う。

だが私はオンドゥルルラギッタンディスカァー(0w0;)悪いのは全部ディケイドです

354 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 22:57:21 ID:???0
さっそくですが、>>342訂正お願いします(てへぺろ

**********

 遥か遠い昔、まだ人々が『勇者』という存在に夢と希望を抱いていた頃の時代。

 勇者の血を引く三人の王族が、彼の地に伝説を刻まんと過酷な旅を続けていた。
 その物語は偉大なる祖先たちと並び、永劫語り継がれるであろう物語。
 しかし、吟遊詩人たちがどれだけ美しい詩と音色で飾ろうとも
 真実というものは何時だって冷淡で残酷なのである。

 今宵語りまするは、三人の勇者たちの物語。
 勇者ロトに連なる、この地にはびこる闇を振り払った3つ目の物語。

 一人は、勇者ロトの生まれ変わりと讃えられた膂力の王子。
 一人は、その力を仲間を民を家族を護る為に尽くした優しき王子。
 一人は、全ての魔術を英知に刻みし美しき亡国の姫。
 その三人の邂逅の物語。

 そんな極まり文句から、この叙事詩は語られる。

355 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/18(月) 23:02:14 ID:???0
あ、
極まり文句→×、決まり文句

356ただ一匹の名無しだ:2013/03/18(月) 23:13:48 ID:???0
うおおおおおおおおお
なんて熱い外伝なんだ、投下乙です!!
「なんとなくこんなことがあったんだろうな」と想像していた部分を
ばっちり形にしてくれてうれしい
「ありがとう」のエピソードもいいなあ

357 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/19(火) 00:25:39 ID:???0
どんどん誤字を発見して恥ずかしさのあまり首ドブシャしたい。
機会があれば訂正版うpするかもしれません。

あと、書いていてカイン覚醒の真の理由がわかりました。
カイン、あなたロッシュと 道 化 装 い 策 士 キ ャ ラ が被ってるのよ…

358ただ一匹の名無しだ:2013/03/19(火) 22:46:35 ID:???0
投下乙です! 素晴らしい外伝だ!
もょもとは地の文までもょもとらしくて…w
気になるのはあきなの肖像画…どうなっちゃったんだろうw

359 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/19(火) 22:54:47 ID:???0
>>358

たぶん バラバラ に くだけちって いるんじゃないかな?

360 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/20(水) 10:22:05 ID:???0

ウォンチュウ|∀・)<ダレモイナイ 加筆訂正クワエタ カ>>342-352 トウカ スルナラ イマノウチ

361真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:25:07 ID:???0
 **********

 遥か遠い昔、まだ人々が『勇者』という存在に夢と希望を抱いていた時代。

 勇者の血を引く三人の王族が、彼の地に伝説を刻まんと過酷な旅を続けていた。
 その物語は偉大なる祖先たちと並び、永劫語り継がれるであろう物語。
 しかし、吟遊詩人たちがどれだけ美しい詩と音色で飾ろうとも
 真実というものは何時だって冷淡で残酷なのである。

 今宵語りまするは、三人の勇者たちの物語。
 勇者ロトに連なる、この地にはびこる闇を振り払った3つ目の物語。

 一人は、勇者ロトの生まれ変わりと讃えられた膂力の王子。
 一人は、その力を仲間を民を家族を護る為に尽くした優しき王子。
 一人は、全ての魔術を英知に刻みし美しき亡国の姫。
 その三人の邂逅の物語。

362真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:26:04 ID:???0
 **********

 ざぶざぶざぶ

 僕らは今、毒の沼地の真っ只中にいる。

 土と水と動物や魔物の腐肉が混ざった汚泥が体中にねっとりと絡みつき自由を奪う。
 吐瀉物と排泄物と腐った卵を絶妙な対比でブレンドしたような香りで意識を失いそうになる。
 一歩一歩進むごとに、確実に命が削り取られていくのが、嫌というほど実感できる。

 通りすがりの旅人が、男二人で毒の沼に胸までどっぷり浸かっている光景なんか目撃したら
 自殺志願者か何かだと勘違いするのだろうけど、別に今ここで死にたいわけじゃない。決して。
 ここには、すべての真実を映し出すといわれている神器『ラーの鏡』が眠っている…はずなんだ。
 
 大神官ハーゴン率いる邪教団に滅ぼされた王国ムーンブルク。僕やもょもとの国とは姉妹国でもある。
 思えばムーンブルク滅亡の知らせこそが、僕と もょもと を打倒ハーゴンの旅へと向かわせた発端だったけ。

 廃墟と化した王城へ立ち寄った際、王女『あきな』は存命しており
 ハーゴンの呪いで犬の姿に変えられてしまっているとう情報を入手した。
 さらに探索を進めていると、生き残りの兵士がいて、彼からラーの鏡の在り処の情報を聞き出し今に至る。
 泥の沼地に手を突っ込んで泥を掻き出しドブさらい。時にゴーグルをつけて潜ってみたり
 よく死なないなと我ながら思う。人間って案外頑丈にできているもんなんだなぁ。
 
 ムーンブルクの王女 あきな は100年に一度の魔術の天才と噂されている。
 歩くより先に杖を持ち、言葉を覚えるよりも早く真空呪文を唱えたとかバカみたいに誇張された話まである程だ。
 もょもとは魔法が使えない。僕も一応呪文は使えるけど回復か補助ばかりだ。
 今のところは順調に進んでいるけど、いずれ僕の呪文も、もょもとの剣も通用しない魔物に遭遇する可能性もある。
 そんな時に彼女の呪文は大きな戦力になる、仲間にして損は無い。そう考えたんだ。

 そういえば最後に彼女の姿を見たのは何時だったっけ?
 彼女が15歳になる誕生記念だったかに、サマルトリアとローレシアに肖像画が送られて来た事があったっけ。
 輝くような金髪と楽しげにクルクルと渦巻く髪の毛がリアに似ていて、やっぱり同じ血が流れているんだと思った。
 リアも将来あんな感じの美人になるのかと思うと、自然と口元が緩んだっけ。
 (その数日後に肖像画が忽然と消えてしまったんだけど、多分リアが勘違いしてヤキモチを焼いたんだと思う)

 うん、アレは絵だ。生身の彼女ではないけど、彼女と会う時の手がかりになるだろう。
 幼い頃に一度、三国の親睦を深める為のお披露目会があった気がするけど、正直、よく覚えてない。
 国家交流とか、そういう事情を察するには幼すぎる年齢だったからだろうし、興味も無かったのかもしれない。 
 ただ、その日を境に、父上の僕に対する態度が一変したのだけは覚えている。
 今思えば、両国の王の『うちの子自慢』が聞くに堪えなかったのだろうね。

 「あったぞ」

 過去の回想に耽っていたら、もょもと の声が聞こえた。相変わらず1ミリも感情が籠っていない淡々とした声だ。
 その両手には毒々しい紫色の泥に塗れた丸くて大きな塊…もといラーの鏡が握られていた。

 ―少しずつ泥が滴り、わずかに見える装飾と刻まれた魔術文字というのは情報と一致する形状だし
  何より泥まみれの僕が僕を見つめていた。鏡の向こうの僕は、僕を見て悲しそうに嗤っているような気がした―

363ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:26:52 ID:???0
 **********
 
 あの日以来、すべてを失ってしまった。
 敬愛していた父も、善良だった民達も、大好きだったマリーゴールドの庭園も何もかも。

 ムーンブルクは平和だった。穏やかな気候に恵まれ飢えることも無く、友好的な国家関係で争い事も無かった。
 父は温厚で誠実な人物だった。
 頻繁に領土視察を行っては、作物はどう育つのか、物流の仕組みはどうであるか、根にあるものの大切さを説き
 必要以上の税は取らず、慎ましやかなで、故に民からの信頼も厚かった。
 民たちも私を愛してくれたし、私も民とムーンブルクという国を愛していたし、永劫の平和を疑わなかった。 

 それを、あの男が、ハーゴンが彼が率いる魔物たちが、すべてを壊してしまった。
 血と炎と黒煙で赤黒く穢される白亜の城、魔物に引き裂かれる近衛兵達、食い散らかされた民の手足や内臓
 鳴り止まない轟音と悲鳴と断末魔、そして私をかばって生きながらにして焼き焦がされる父王。
 この世のものとは思えない生き地獄を目の当たりにした私は、父の名を叫び…そのまま気を失ってしまった。
 あぁ、私も魔物たちに嬲り殺されてしまうのだ。遠ざかる意識の中でそう思った。

 しかし、私の生き地獄はまだまだ続いた。

 次に目を覚ました瞬間、やけに空が高く感じたのを覚えている。
 目を傷めたのだろうか?色がぼやけて…いくつかの色が欠けて見える。
 焼け焦げた建物と死体の匂いで鼻がねじ曲がりそうだった…。

 立ち上がろうと両足に力を入れるが上手く力が入らず、ガクリと崩れ落ちてしまう。
 腰が抜けてしまっているのだろう、まるで立ち始めの赤ん坊のようだ、と我ながら呆れてしまった。
 床に付きっぱなしの手に力を入れる。腰から足があがらず、またも床に突っ伏してしまう。
 …おかしい。明らかに変だ。立ち上がりたくても立てない。体調がおかしいとかではなく
 体の構造がおかしい…?どういうこと?
 いう事を聞かない体を引き摺るようにして、用水路へと近づく。そして自分の姿を映してみる。

 私の姿は人間ではなかった。一匹の犬だった。 

 何日も野を駆け、森を彷徨い歩いた。
 慣れない犬の視野、解らない色。異様に発達した耳が、鼻が、掴み取る、獣達の荒い息が、死臭が
 見知った土地を『異界』へと変貌させる。人間であった頃の感覚が失われていくのが解る。
 それでも私の足を歩ませたもの。それは大神官ハーゴンへの憎悪では無かった。
 『生きたい』『こんなところで死にたくない』
 自分のすぐ後ろまで迫る『死』への恐怖に支配されていた。
  
 辿り着いたムーンペタにも『希望』など無かった。
 野外とは違い、雨風を防げるという優位点はあった。しかし、そこも野外とは違う『地獄』に過ぎなかった。
 心優しい子供から施しを受けることもあったが、所詮はすぐに飽きられ、そっぽを向かれた。
 飢えを凌ぐ為に雨水を啜り残飯を漁る事に抵抗が無くなるのに三日も経たなかった
 動物嫌いな人から理不尽な暴力を受けたこともある。雪のような白い毛並みは赤い花が咲いた。
 野良犬に襲われたこともある。暴力的な意味でも…貞操的な意味でも。  

 この時、初めて大神官ハーゴンと邪教団を憎いと思った。いっそのこと殺してくれた方が楽だった。
 それ以上に、我が身可愛さのあまり、父の事も国の事も民の事も忘れていた自分を恥じた。憎んだ。
 明日への夢も希望も無く、死ぬことも出来ずに過ごす日々が淡々と続いた。ただ ただ 淡々と。

364真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:27:26 ID:???0










 ゆめをみた。ひさしぶりの ゆめだった。

 ちいさいころ まだ おかあさまが いきていらっしゃったころの ゆめだ。

 おとうさま と おかあさま は ほかの おくに の おうさま と たのしそうに おはなし していた。

 わたしは とおえん の おうじさま ふたり と あそんでいた。とっても たのしかった。
 










 なつかしい においが する

365真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:28:25 ID:???0
 **********

 あきな は 泣いていた。

 ムーンペタの街に訪れたときから、おれたちに懐いていた犬にラーの鏡を使ってみたら、あきな だった。
 おれには解らなかったけど、カインがそうだと言ったので、そうなんだろう。
 最初は しばらく ぽかんとしていた。そして、思い切り、大声をあげて泣きじゃくった。
 泣きながら、「ありがとう」といって頭を下げていた。何度も、何度も「ありがとう」といっていた。泣きながら。
 
 小さいころ、乳母とさんぽをした。
 ちがう方向へ行きたかったので手を引いたら、そのまま引きずってしまった。体中すりむきながら乳母は泣いた。
       
 勉強の時間に伸びをした。後ろにいた先生の鼻にこぶしが当たって、先生の鼻がひん曲がった。
 鼻のよこから折れた骨が見えて血がでていた。鼻を押さえながらわぁわぁと泣いた。

 父上から言われて剣を教わった。指南役の兵士と手合わせをした。
 言われた通りにやっただけだが、兵士はうずくまって、うめき声をあげながら泣いていた。

 ムーンブルクから死にかけの兵士がやってきた。ムーンブルクは魔物に攻め込まれて滅びたらしい。
 それを告げると兵士は死んでしまった。女官たちはすすり泣いていた。

 大神官ハーゴンが魔物を集めて世界をめちゃくちゃにしようとしているらしい。
 ローレシアの国民たちは、みんな不安げにしていた。

 ひとは、痛いときに、苦しいときに、不安なときに、悲しいときに泣くんだな、と思った。

 あきな は どうして泣いているんだ?
 おれは「ありがとう」とは、だれかに感謝するときにつかえ、と教わった。
 あきな は 痛いのか?苦しいのか?不安なのか?悲しいのか?

 ムーンペタで宿をとった。
 夕飯を食べて、風呂に入って、部屋で一息ついた。あきな も おちついたようだった。
 だから、きいてみた。

366真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:32:31 ID:???0

 「あきな は どうしてあの時泣いたんだ?」
 「え?」

 カインが「君は何をいっているんだ?」と言ってきたけどきにしない。

 「元に戻った時に怪我でもしたのか?どこか痛かったのか?苦しかったか?
 不安なことでもあるのか?悲しかったのか?」
 「…女の子にデリカシーの無い事を聞くんじゃないよ、もょもと」

 カインが眉を眉間によせている。なにか変なことを聞いただろうか?

 「…全部よ」
 「え?」
 「痛かったから泣いたの。苦しかったから泣いたの。不安だったから泣いたの。悲しかったから泣いたの。」

 そうなのか。全部なのか、辛かったんだな、あきな。
 あきな は もう一度、泣いていた

 「そうか。辛かったのか」
 「えぇ、辛かった。とっても辛かったわ…。でもね…それ以上に、嬉しかったの。
 優しかったお父様も、国のみんなも、何もかも失ってしまったのだもの。私だけ生き延びてしまったのだもの。
 犬にされてしまったのだもの。犬になっても…それでも人間の部分は残っていたのだもの!!

 狼や野犬に食べられてしまいそうになったこともあったし狩人の仕掛けた罠で足を怪我した事もあった!!
 残飯を漁ったり泥水を啜ったりもしたわ!!
 そんな風に過ごしているうちに、心まで犬になりかけていたのかもしれない。
 私、自分が誰であるかすら忘れかけていた。いっそのこと全部忘れてしまえば楽だった…。
 …楽だったのに、ひとつだけ忘れられない事があったの」

 もう十数年前になる三国の親睦会。おれたちが初めて出会った日だそうだ。
 あきな は 同い年のお友達が出来てうれしかったと語っていた。
 おれは剣の相手がいなくて退屈だったのを覚えているけどな。
 カインは、そんなこともあったね、と懐かしそうにうなづいていた。二人ともよく覚えているな。

367ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:33:48 ID:???0

 「自分が誰であったか、殆ど忘れかけていた頃に、その時の夢をよく見たの。
  そして、懐かしい匂いがしたから駆け寄ってみたら…貴方たちを見つけたの。
  二人とも、大きくなっていたけど、あの頃の面影が残っていたから、すぐに判ったわ。

  最初はね、気が付いて欲しくて、必死になって追いかけて、擦り寄ったりしたの。
  何度も挑戦する内に、『私は犬だもの、気が付いてくれるはず無いな』って、途中で諦めてしまったの。
  貴方たちがハーゴン討伐の旅をしていることは噂で聞いていた。

  こんな姿の私は何の力にもなれないし、みんなの仇討ちなんて絶対無理に決まってるって。
  それでも、貴方たちの傍にいると、自分が自分であった記憶と意識を鮮明に保つことが出来たから
  貴方たちは、いつかまた旅に出てしまうだろうけど、その間だけでも傍に居させて欲しかったの…」

 そうなのか。あきな は あきらめていたのか。

 「元の姿に戻れるなんて…貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかったから
  今まで、痛かった分だけ、苦しかった分だけ、不安だった分だけ、悲しかった分だけ、辛かった分だけ
  …いいえ、それを全部足しても全部足りないくらい…『嬉しかった』から…」

 今まで下を向いていた あきな が 顔をあげた。
 あの時のように泣いていた。あの時とは違い笑っていた。とてもとても幸せそうだった。

 「本当に…本当に、ありがとう…もょもと!カイン!」


 「だから、何で あきな は 泣いてるんだ?」
 「『嬉しいとき』にも涙は流れるものなの」

 あきな は おれに、嬉しくても人は泣くのだ、と教えてくれた。

368真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:34:28 ID:???0
 **********

 「なぁ、カイン」
 「なんだい?もょもと」
 「人は、うれしい時にも泣くんだな」
 「そうだね」
 「カインは泣いたことあるか?うれしい時に」
 「………まぁね、リアに手作りの誕生日プレゼント貰った時とか」
 「そうなのか」
 「そんなもんだよ」
 「いいな」
 「ん?」
 「おれは無い、そういうの」
 「………ふーん」
 「カイン」
 「ん?」
 「もし、ハーゴンをたおしたら…ローレシアのみんな、泣くか?」
 「…そりゃ世界を破壊しようとしてる危ないカルト連中だもの
  ローレシアどころか世界中の人が感激して泣くんじゃないかな」
 「そうか」
 「そうだよ」

369真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:35:07 ID:???0
 **********

 (…そりゃ、ローレシアの皆は泣くだろうさね。
  厄介者が更に厄介になって帰ってきた、って…)

 もょもと が寝付いたのを確認して、カインは唇だけ動かした。声は出なかった。
 隣国ローレシアの王子の噂はカインの耳にも嫌になるほど入ってきた。
 一般的には勇者ロトの生まれ変わりと謳われる程の名将だと。
 『恐ろしい膂力を持った破壊の申し子』という噂は父や特権階級の者から聞いた。
 いや、否が応でも聞かざるを得なかった。

 「ローレシアの王子の剣は鋼鉄の巨人をも粉砕するらしい」
 「ムーンブルクの王女の英知は勇者ロトと旅をした賢者に勝ると言われている」

 「それなのにお前は何だ?」「全く、ウチの王子ときたら」「情けない」
 「叩いても伸びないし、磨いても光らない」「何のための英才教育?」
 「剣も魔法も二人に劣る」「何をしても中途半端だ」「ロトの血の持ち腐れだ」

 聞こえるはずのない、父の、国民の罵声と嘲笑がカインの頭の中に鳴り響く。

 「あぁ!まったく、もぅ!!」

 それを揉み消すかのように、頭を滅茶苦茶に掻き毟る。
 サマルトリアから出れば、違う世界が開けるかもしれない。最初はそう期待していた。
 いつの日か城を抜け出し、妹のリアと新天地を探して、二人きりで穏やかに暮らしたい。
 幼いころから抱いていた二人のささやかな夢がかなうかもしれない、と。

370ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:37:21 ID:???0
  
 でも、所詮、夢は夢で。現実は何処までいっても現実で。

 もょもと と 二人で様々な土地を巡り、様々な村へ赴き、人々と出会った。

 しかし、どこまで行っても勇者の血は勇者の血で。

 人々は邪教団に怯えるあまりに、ロトの伝説にあやかろうと無責任な加護を求めてくる。
 自分と妹の安息の地は未だに見つかっていない。

 仮に、自分たちの名が知られていない場所があったとしても
 大神官ハーゴンを討ち取った後はどうなるだろうか?そうもいかないだろう。

 自分たちはリアルタイムで世界の歴史に名を刻んでしまう。
 世界がひっくり返るくらい、壮大なエンターテイメントになるだろう。
 遠い山奥で世を捨てて暮らす聖なる仙人レベルの世捨て人でもない限りは
 「おぉ ゆうしゃ さま」と勝手に拝んでくるに違いない。

371真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:38:57 ID:???0

 自分たちの前に未来は無い。
 未来自体はある。
 しかしその先には夢も希望も無い。

 …いや、あきな には ムーンブルク復興という使命がある。
 彼女を呪いから解放した瞬間のムーンペタの住人の喜びようから
 ムーンブルク前王は噂に違わぬ名君だったに違いない。
 これ程までに民の信頼を得ているのだ、復興の可能性は無くはないであろう。
 ただし、それは果てしなく長い茨の道であるのは確実だ。

 もょもとだって、この遥かなる旅路において経験を積み
 他人の心を理解できるようになれば、文武に優れた良き国王となる可能性も
 極めて稀ではあるが存在すると思う。

 そう、彼らは天に才能を与えられた人間なのだからから。

 これから世界を救おうとする輩が
 自分たちの身に降りかかった不幸のひとつやふたつ
 欠落した感情のひとつやふたつ

 『か弱き民衆』により科せられる手枷足枷の三つや四つや五つや六つや七つや八つや九つや…………

 それしきの事、道端の小石を蹴飛ばすくらい容易に越えられなくては、お笑い種ではなかろうか。

 所詮は『凡才』の自分とは違う。同じロトの血脈のはずなのに
 その差は紙一重どころか天と地ほども遠い。

372ただ一匹の名無しだ:2013/03/20(水) 10:40:23 ID:???0
 人生五十年、とは誰が言ったか。
 『人生』という名の泥沼を数十年先延ばしにする為に
 どうして自分は切り裂かれ、叩きつけられ、噛みつかれ、燃やされたりしながら
 戦い続けなければならないのだろう?
 精霊のルビスによる蘇生の奇跡を受けてまで、果たすべき大義なのだろうか?

 (その前に、倒せるかどうか、だけどね)

 ベッドに横たわる美しい亡国の王女を見つめる。

 (あきな も 悲劇のヒロインの自分に酔っちゃって…)

 あの時、彼女は『貴方たちに気づいてもらえるなんて思ってもいなかった』と言った。
 『貴方たちの事をずっと信じて待っていた』とは言わなかった。

 (つまり、ハナっから信用されて無かったってことですか)

 過度な期待はしていない。自分にも他人にも。
 戦力的にも、この糞みたいなくだらない旅がスムーズに進んで
 少しでも早く妹が待つ場所へ帰りたいだけだ。

 祖国に帰りたい、なんて口が裂けても言えるものか。
 ただ、自分と妹の居場所が、世界中にあそこしかないだけだ。
 例えどんなに罵声を浴びせられようと、蔑みの目で見られようと、あそこしか…。

 「…ふぁぁ。もう寝なきゃ不味いな。明日も早いんだし…」

 サマルトリアの王子カインは乱暴に毛布を被り、必死に羊の数を数えた。

373真実〜冷淡で残酷なるもの〜:2013/03/20(水) 10:41:04 ID:???0
 **********








  繰り返そう。

 【真実】というものは何時、如何なる時代であれ、如何なる世界においても

  最も冷淡で最も残酷な存在なのである、と。



                                           〜了〜

374 ◆w9.p2zZjpA:2013/03/20(水) 10:43:11 ID:???0
まとめ読み用安価
>>361-373

375ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:58:20 ID:???0



「諸君等には今から――――」
絶望の始まりが、告げられる。
長い長い、血にまみれた数日間が始まるのだ。



力一杯に、地面を転がる。
殴られた頬を押さえつつ、ゆっくりと起きあがる。
「ずっと、決めてたからな」
現れた人間を、彼はよく知っている。
いや、知らないはずがない。
だって、彼は彼にとって。
「会ったら、殴るって」
唯一無二の、親友なのだから。

握り拳を作り、ゆっくりと駆けだしていく。



「レックス……様?」
飛び散る血、崩れ落ちていく人間の体。
人が物に変わっていく光景を、ただ見つめ続けることしかできない。
信じられるだろうか? 無垢で純真な彼が。
あんなにも狂った笑顔と共に、人を殺しているなんて。
「ああ……ピエール?」
屍の山の中心から、なんとも気だるそうに少年は言う。
「ごめんね、僕は悪党だから」
間もなくして、飛び交うのは刃。



目の前には無数の"死"を司る機械兵。
「悪ぃけど、ここは譲れねえよ」
「お言葉ですが、私もここを退くつもりはございません」
きっと誰でも絶望するだろう。
「そうか」
「ええ」
でも、彼らは絶望しない。
「じゃあ」
「二人で突破する、でしょう?」
共に剣を構え、絶望の軍勢へと立ち向かう。
「さすが、俺」
「いえいえ、私」
互いの背に、眠り続ける姫が居る限り。

彼らは、負けない。

376ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:58:46 ID:???0



ゆっくりと、槍を構える。
呼吸を一つ、深く。
まっすぐに見据える先は、ただ一点。
「ククク……悲しいなぁ」
道化師は、笑う。
「仲間が死に、あまつさえ手に掛け、私に殺されてしまうのだから」
一人の娘の死体を見せつけるように、バンダナの青年へと突きつけていく。
下品な笑いと共に、あざ笑うように。
勝ち誇りながら、魔力を解きはなっていく。

だが、魔は彼を包まない。
突き出された槍が、大きな"空"を作り。
同時に、道化師へと突き刺さっていたから。
「――――――――」
槍を、力一杯回す。
声は、届かない。



「姉さんのために」
弟は狂信者のように。
「テリーのために」
姉も狂信者のように。
狂う、狂う、踊り狂う。
美しきダンスを、人間の血で彩りながら。
「……あれが、私たち」
「認めたく無いけど、な」
そのダンスを眺める、もう一人の姉弟。
鏡写しのように写る自分たちの姿を、まるで同じ顔の他人のように。
「でもさ、姉さん」
眺めている方の弟が呟く。
その手には、彼が追い求めていた剣。
「俺たちは、俺たちだろ」
そのつぶやきに、姉は笑う。
その手には、弟が追い求めていた剣。

二人は、二人へと駆けだしていく。

自分を、否定しに。



煙草の煙が揺れながら、ムカつくぐらいのオレンジ色の空に溶けていく。
深呼吸とともに、何度も何度も白の呪文が空へと溶ける。
「悪いけど、さ」
真顔のまま、僧侶は倒れ伏す武闘家へ告げる。
「あんたの病気は、いくら金を積まれても治せないね」
わかっている、これは人間の手でどうこうできる類の病気ではない。
「はっ、病気の一つも治せずに天才僧侶だなんて、笑ってしまいますわ」
「違いないねぇ」
倒れ伏す武闘家の皮肉たっぷりの言葉に、思わず頬を綻ばせてしまう。
「でも、さ」
笑った表情のまま、僧侶は煙草をくわえ、武闘家の隣へ座り込む。
「人間が何でも治せたら、神様なんて必要ないさね」

377ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:59:02 ID:???0



「トルネコ、エルフの飲み薬……いや、魔法の聖水は」
「もう一滴もありません」
「やくそうの一枚くらいあっだろ」
「それが品切れでしてねえ」
「かーっ、背水の陣ってことか」
「そうなりますなぁ」

「……だがしっかぁ〜〜〜〜し!!」
「私たちに敗北の未来は無いっ!!」
「この給仕探偵ジェイドと!!」
「武装商人トルネコが組めば!!」
「サイコピサロだろうがなんだろうが!!」
「負ける気がしませんっ!!」
「ったりめぇよな!!」
「敗北はない、聞こえのいい言葉ですなァ!!」
「ほんじゃま、ぶっちぎるっ、ぜぇぇぇぇっっ!!」
「ひょーっほほほぉーっ!! タマんないですなァ!!」

間もなくして、飛び交う銃弾と全てを斬り裂く斬撃。



暗い、暗い、暗い空間の中。
誰もいない、声もしない、気配すらしない。
本当に一人なのだと分かりきった空間で。
彼女は、おびえている。
「ねぇ、どうして?」
彼女の気配がする。
それは彼女であって彼女でない。
「ねぇ、どうして?」
彼女の声がする。
それは彼女であって彼女でない。
「ねぇ、どうして?」
彼女の――――いや。
自分の、姿が、見える。
それは、彼女で、あって、彼女で、ない。
「どうして、どうして、どうして」
すっと細長い手が伸びる。
その手は血にまみれていて。
「お前は幸せそうなんだァァァァッッ!!!」
白と黒のハイライトを強烈に残しながら。
全てを憎む"自分の顔"が、自分を見つめている。

息が、できない。
くびに、ちからが、かけられていく。
だれ、か、たす、け、て。

ごとり。

378ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 22:59:14 ID:???0





――――誰かを愛した人達の物語と。





「人間が……………………」





――――終わりから終わりへ向かう人たちの物語が。





「……………………憎い」





――――交錯する、どこか。





【Dragon Quest Battle Royal Ⅰ+Ⅱ Not rise curtain....】

379 ◆CruTUZYrlM:2013/04/01(月) 23:00:23 ID:.6.10AAo0
エイプリルフールということで、本家ドラクエも1+2してるしDQBRも……
そんな嘘ネタでしたとさ。

380ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 23:07:39 ID:???0
うわああああい投下乙です!
1stと2ndの見事なコラボレーション、思わず見とれてしまいました
こうして見ると凄くかけ離れていると思っていたキャラが実はとてもよく似ている事もあって…

381ただ一匹の名無しだ:2013/04/01(月) 23:36:36 ID:???O
すげえ……!感動した!
GJ!!

382ただ一匹の名無しだ:2013/04/02(火) 00:56:42 ID:???0
トルネコwww


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