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没ネタ投下スレッド
208
:
愚者
:2006/07/15(土) 01:46:26 ID:Zu3Hu.eA
これから、というところで、いつも邪魔がはいる。
何故上手く行かない!
走り出す。
気づかれた以上、すみやかに迎え撃てる体勢を整えなければ。
口の中が苦い。
このゲームが始まってから、一度も目標を達成していない。
無意識に舌打ちをする。
馴れない武器、相手の思わぬ行動。
苛立つ。
自分は何も誤りは起こしていないというのに!
私は何も間違ってはいない。
自らの手で生存を掴み取る。
このゲームにおいて当然の行為が、ことごとく失敗に終わっているとは!
屈辱。
もっとも、この世で1番嫌いな奴に助けられた時ほどではないが。
『・・・死なせないさ。虫ケラみたいに嫌ってた弟に情けをかけられ あんたはみじめに生き延びるんだ。好き放題やって そのまま死のうなんて許さない。』
今度こそは必ずこの手に、勝利を掴み取ってみせる。
武器にも馴れてきている。
先ほどの輩が追ってきていても、この状態で向こうから不意をつくことは難しいだろう。
追ってきていなければ、潜み、時間を置いて、別の目標を探せばいい。
私が負ける要素は少ない。
愚か者に会ったら、告げてやろう。
「いつか、私を助けたこと、後悔するぞ。と言った筈だ」と。
あの男の返答は、容易に想像できる。
『何度だって止めてやる』
生きて、返答できる状態ならば、の話だが。
『・・・それでも、オレは。忘れたことは無かったよ。』
「愚か者が」
短く吐き捨てた。
209
:
愚者
:2006/07/15(土) 01:55:17 ID:Zu3Hu.eA
色々と説明不足、描写不足な訳だがw
210
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/07/21(金) 19:42:15 ID:bJiG5pKk
ククールが無事にアリスと合流できたらアリスを口説くククールと、
その言葉にうろたえつつも照れまくるアリスを書いてみたかった…。
「ゆ…勇者をたぶらかそうするなんて、100万光年早いんですからね!!」
文句を言いつつも、真っ赤な顔でククールの手を思い切り握っているアリスと
握力200kgの怪力に悶絶するククール。
211
:
◆w9.p2zZjpA
:2006/09/24(日) 23:19:27 ID:FZKuSIsA
サマンサの外伝書けました。話が纏まらずに一度は挫折しかけましたが
新作ラッシュ&91話『サマンサ』に作成意欲を掻き立てられました。
でも、独りよがりな脳内設定&妄想が激しいために没ネタスレに投下させていただきます。
書き手さま、読み手さま、絵師さま。全てのDQBRを愛する人へ、愛を込めて。
212
:
光と影1/6
:2006/09/24(日) 23:20:55 ID:FZKuSIsA
魔王バラモスなる者が、魔物たちを操りこの世界を支配しようとしている。
この噂が広まったのは、私がまだ幼い頃だった。
『アリアハンの勇者』の異名を持つ戦士オルテガおじ様が、まだ赤ん坊だったアリスを残して
旅立ったのは、それから間も無くの事だった。
オルテガおじ様達は、近所に住んでいた私を実の娘のように可愛がってくれた。
娘のアリスが生まれた時も、ルイーダさんやお城の兵士よりも、誰よりも先に会わせてくれた。
目の前で元気良く寝息を立てる小さな命に目を輝かせていた私に、おじ様とおば様は言ってくれた。
「君の妹だよ、サマンサちゃん」
「これからこの娘…アリスに色々と教えてあげてね」
その言葉が嬉しくて、幼い私はとにかく夢中で勉強をした。苦手だった文字の勉強や、魔法の練習も
どんな遊びよりも楽しくなっていった。
オルテガおじ様の旅立ちの日、アリアハン中の人々が彼を見送った。
おじ様は寂しさに泣き出しそうな私の頭に優しく手を置いて、こう言った。
「アリスの事をよろしく頼む」、と。
私はこぼれ落ちそうな涙をこらえて、大きくうなずいた。
それ以来、私とアリスはずっと一緒だった。
好奇心のままに、ちょこまかと走り回る小さな背中を必死で追いかけたり、
小さなひざの上に、さらに小さな体を座らせ、様々なおとぎ話や武勇伝を聞かせた。
213
:
光と影2/6
:2006/09/24(日) 23:21:44 ID:FZKuSIsA
そんな平穏な日々の中、突然の訃報が飛び込んできた。
―勇者オルテガ、火山の火口に落ちて没する―
その日を境に、アリスは勇者への道を歩む事を運命付けられた。
幼いアリスの手を引いて城から戻ってきたおば様は、町の皆や王様に気丈に振舞っていた。
アリスは何が起こったのか分からないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。
おじ様の死と、そんな二人の姿が幼い私の心を深く痛めさせた。
それと同時に、アリスも、おば様も、おじい様も守ってあげなくては、と思った。
でも、私はまだ子供だし、体も強いほうではない。ましてはオルテガおじ様の様な
力強い戦士になれるなど夢にも思ってはいなかった。
だからこれからも、たくさん、たくさん勉強をして、大人になったら誰にも負けないくらい
強力な魔法使いになろう。そして、アリスと一緒に旅をして、その背中を守ってあげよう。
一緒にバラモスを倒して、皆が平和に暮らせる世界にしよう。そう心に誓った。
私がより一層、魔法や勉学に励みだした頃には、アリスもまた、小さな手にひのきの棒を握り締め
一生懸命素振りを始めていた。
214
:
光と影3/6
:2006/09/24(日) 23:22:36 ID:FZKuSIsA
そして、アリスの16歳の誕生日。彼女が勇者として打倒バラモスの旅へと向かう日がやって来た。
魔法の修行を終えた私はルイーダの酒場で登録を済まし、一足先にアリスを待っていた。
「……サマンサ?どうして此処に!?」
酒場に入るなり私を見つけて目を丸くするアリス。彼女がこんなに驚いた表情は初めて見た。
まさにハトが豆鉄砲を喰らったような顔だった。そんなアリスに私は思わず笑ってしまった。
「何を言っているの、アリス。私はあなた先生、あなたのお姉さんですよ。
私達はいつでも一緒。それはこれからも変わらないでしょう?」
「…サ………サマンサぁっ!」
強い意志を宿した瞳に感激の涙を浮かばせて、アリスが私に飛びついてきた。
「絶対!絶対に魔王バラモスを倒しましょう!!私とサマンサがいれば勇気100倍です!」
「ア…アリス…。く る し い〜!!」
今や、アリアハン一の熱血鉄腕少女の名の高いアリスに思い切り抱きつかれ、私は危うく窒息しそうになった。
それからアリスは、聖職者とは思えない程金にがめつく抜け目のない僧侶フィオと
孤独を愛する一匹狼な女戦士デイジーを仲間に加え、あの長く過酷な旅路を歩み続けた。
まるで引き絞られた矢のように、己が信じる正義への道を突き進んでいくアリス。
最初の頃は、そんな彼女の姿に不安を感じたし、実際危なっかしい事もよくあった。
私はその度にアドバイスをしていたが、死線を越えるごとにアリスは経験を重ね、確実に成長していった。
時には私よりも的確な判断力を発揮し、この一筋縄ではいかないパーティを見事に纏め上げていた。
そして、世界に散らばる6つのオーブを集め不死鳥ラーミアを蘇らせ、魔王バラモスを討った。
大魔王を追いかけ、ギアガの大穴から闇の世界アレフガルドへ赴いた。精霊ルビスの封印を解き、大魔王ゾーマを倒し
絶望の渦巻いていた世界に光をもたらした。
そしてラダトーム王から、真の勇者にのみ送られる『ロト』の称号を授かった。
215
:
光と影4/6
:2006/09/24(日) 23:23:23 ID:FZKuSIsA
祝賀パーティの夜、ラダトーム城のテラスで独り夜空を見上げるアリスを見掛けた。
その表情はどこか物悲し気で、声をかけずにはいられなかった。
「―どうしたのです、アリス?あなたらしくもない」
「サマンサ…。別に何でもありませんよ。今までの冒険を思い出していたんです。…父上の事とかを、ね」
勇者オルテガ。ずっと亡くなっているとばかり思っていたアリスの実の父親。
彼の最期の勇姿、最期の言葉を深く心に刻み込み、私達は大魔王ゾーマとの死闘に挑んだ。
ゾーマの強力な攻撃の数々、度重なるいてつく波動、その圧倒的な威圧感に何度押し潰されそうになっても
それを支えにして戦い続けた。そして、私達は勝利を収める事が出来たのだ。
「…あなたのお父上には、本当に良くしていただきましたわ」
幼い頃の思い出と共に、おじ様の最期の壮絶な戦いが頭をよぎった。
幼い頃から父の勇姿に憧れ、その背中を、面影を必死に追い続けてきたアリス。
ようやくその父とめぐり合えたと思ったら、死に別れてしまったアリス。
上の世界にいる掛け替えの無い家族とも二度と会えなくなってしまったアリス。
いくら二つの世界を救った救世主といえども、彼女はまだ16歳の少女である。
その心境はどのようなものであったのだろうか…?
「アリス……大丈夫?」
「はい、平気です!なんてったって私は勇者オルテガの娘、そしてアレフガルドの勇者ロトですから!」
アリスは元気に笑って自慢の力こぶを見せてくれた。
「あと!…私がこれからアレフガルドの人達の為に何が出来るのか、じっくり考えていくつもりです」
そう言ってアリスは再び夜空を見上げた。その瞳はいつものように揺ぎ無い情熱に燃えていた。
「そうですか。…立派になりましたねアリス」
アリアハンの街角で、私の背中を、私がその背中を、追いかけていた小さな少女は
いつしか私が思っていた以上に大きく、大きく成長していた。
私はそれをどんな事よりも嬉しく、誇りに思っていた。
「ありがとう、サマンサ。おやすみなさい!」
嬉しそうに笑って、アリスは足早に寝室へと向かっていった。私はその後姿が見えなくなるまで見守っていた。
―そして、それが彼女を見た最後になるなど夢にも思っていなかった―
216
:
光と影5/6
:2006/09/24(日) 23:24:25 ID:FZKuSIsA
―アレフガルドに太陽をもたらした勇者アリス・ロトが消えた―
翌朝、その重大事件にラダトーム中が大騒ぎとなった。
アリスが消えた…。私達にさえ何も一言も告げずに、独り去っていった。…何故?
昨夜、アリスは言った。『これから自分がアレフガルドの人々の為に何が出来るかを考える』、と。
まさか…これがあなたの出した答えなの?
昔、子供の頃アリスによく訊かれて答えに迷った質問があった。おとぎ話を読み終えた後のこんな質問。
『ねぇサマンサ。このひとたちは そのあとどうなったの?どんなふうに しあわせになって どこへいったの?』
私は頭を悩ませて、こう答えた。
『きっと、この人たちは私たちの心の中で幸せに生きているはずですよ。私のなかにも、アリスのなかにも
元気に生き続けているはずです』
あの日のおとぎ話の勇者達のように、彼女も人々の心の中でいき続けることを選んだのだろうか?
人々の前から姿を消す事によって…。
アレフガルドの民の心の太陽が、自ら『影』になる事を望んだのだろうか?
自らの栄光ある未来を犠牲にしてまで…。
考えても、考えてもその答えが導かれる事は無かった。
217
:
光と影6/6
:2006/09/24(日) 23:24:59 ID:FZKuSIsA
あれから数ヶ月が経った。私とフィオ、デイジーの三人はラダトーム城に仕え、世界を導く英雄として
忙しくも平和な毎日を過ごしている。
私達はあれ以来アリスに関する情報を求め続けてきたが、彼女の足取りは一切つかめていない。
ラダトームの宮廷魔術師として充実した日々を過ごしてはいるものの、私の心の中には
ぽっかりと風穴が開いたような空しさがあった。
それを感じるたびに、改めて私の中のアリスという存在の大きさを思い知らされる。
ポン、と肩を叩かれた。突然の事に驚き、振り向くとデイジーとフィオが経っていた。
「………サマンサ。そんな暗い顔をしていたらアリスに笑われる」
「そうさね、サマンサ。きっとあの娘なりに何か考えがあっての事さね。元気を出しなよ。
また魔王でも現われたら、その時はきっとラーミアにでも乗って颯爽とやって来てくれるさねぇ〜」
微笑みながら二人は言ってくれた。…そうだ。寂しいのは私だけではない。今の私には今の私の使命がある。
私とフィオとデイジーの三人で、ラダトームやアレフガルドの平和を守っていくという使命が。
きっとアリスもそれを望んでくれているはずだ。
「案外〜、旅の途中でどこかのイケメンに一目惚れして追っかけに行ったのかもしれないねぇ。
それを言うのが恥ずかしくて私達に黙っていっちゃったとか」
「……………男。カンダタじゃああるまいな」
「もう…!二人ともからかわないで下さい」
悪ノリし始めている二人の方に向き直ると、急に目の前が暗くなった。
顔を上げると、そこはラダトーム城ではなく、薄暗い大広間だった。どうやら私の他にも多くの人間や魔族、魔物が
集められているらしく所々からざわめきが聞こえている。
「…あれぇ?此処は一体何処さね…?」
聞き慣れた独特の口調。フィオだ。いつもマイペースで飄々としている彼女も動揺を隠し切れないらしい。
「フィオ!あなた、無事なのですね?」
私はフィオの存在を確認した。
「………フィオ。サマンサ…?」
―……………あぁ。まさかその声は…?―
「……アリス!?」
その瞬間、背筋が凍りつくほどのおぞましい魔力があたりを包み込んだ。
その魔力にその場にいた全員が一斉に正面を向く。
そこにいたのは、醜悪な魔神と思しき巨大な像の前に立つ一人の男。
頭に竜の羽根を模した飾りのついた頭巾を被り、悪魔の刺繍を入ったローブを着た男。
明らかに怪しく、邪悪な存在だった。
「ようこそ、選ばれし勇者達よ」
その声は脳髄に絡みつくような癪に障る声だった。冷酷で残忍。そして何より、何者をも締め付けるような
圧倒的な威圧感があった。
そして、その男は続けてこう言い放った。
「これから貴様等には殺し合いをしてもらう」
…to be continued DRAGON QUEST BATTLE ROYALE
218
:
◆w9.p2zZjpA
:2006/09/24(日) 23:25:51 ID:FZKuSIsA
以上、投下を終わります。
サマンサ可愛いよサマンサ!!
219
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/09/24(日) 23:39:36 ID:44.2uLdo
GJ!
サマンサいいねぇ
220
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/09/25(月) 00:00:12 ID:7/b7TVDE
乙!
フィオ、本当にグッドなお姉さんだ。
アリスも良い仲間に恵まれてたんだなぁ。
221
:
はじまりのその前に 1/8
:2006/09/27(水) 00:12:12 ID:K0tWxc8A
「ほら、リュカも来なさいよ!なんて綺麗な月」
バルコニーの欄干に身を預け、振り返ったビアンカがふわりと微笑う。
普段はしっかりと編みこまれた、月よりもなお輝く波打つ髪が夜風に揺れて、リュカはふと目を細めた。
先の王妃の誘拐に伴う王の出奔。
実に二十年近い歳月を経て、花嫁を連れようやく帰ってきた正統なる王の息子は、
かつての彼の両親と同じように連れ去られた妻を追い、行方知れずとなり、更に十年。
だが、その長きに渡る正統なる王を欠いた冬の時代も、ようやく終焉を迎えた。
どんな手妻か竜神の加護か、十年前と変わらぬ若さを誇る正統な王と、天の娘なる麗しの王妃、
幼子なれど、天空の勇者の再来なる兄王子と、比類無き魔導師である妹王女。
魔王を討ち、魔界からの帰還を果たした四人を頂いて、グランバニアは久方ぶりの平穏に酔っていた。
いや、何も平穏に酔っているのは国民ばかりではない。
つい先ほどまで両親の間に挟まれて話をねだっていた小さな双子は、今はすやすやと健やかな寝息をたてている。
子供たちももう十歳。普通ならばそろそろ親離れしたがる年頃なのだろうが、長いこと親元から引き離されていた
(正確を期すならば、自分たちの方が子供たちから引き離されたとするのが正しいのだが)
子供たちは、その埋め合わせをするかのように、片時も両親の傍を離れない。
小さな王女が何やらむにゃむにゃと呟いて、愛おしさに頬が緩む。
出来ることなら、この穏やかな日々がいつまでも続けばいい。
222
:
はじまりのその前に 2/8
:2006/09/27(水) 00:12:46 ID:K0tWxc8A
「もう、リュカってば!」
「すぐ行くよ、ビアンカ」
物思いから覚め、苦笑する。
最愛の子供たちと同じくらい愛しい妻の機嫌を損ねるわけにもいかない。
寝台から立ち上がろうとついた手の、夜着の袖がきゅうと引かれてリュカはぱちりと瞬いた。
「レックス。まだ起きてたのかい?」
「えへへ……だって」
もっと父さんと母さんと話したかったんだもん、とレックスは悪びれもせず笑った。
起き出して来ないところを見ると、タバサの方は本当に眠っているのだろう。
一つ溜息をついて、リュカは妻にどうしようかと視線で訊ねた。
何処の国でも、たとえ王族であっても、子供の教育に熱心なのは妻の方だと相場が決まっている。
その例に漏れず、家庭においては第一の権力者であるところのビアンカ王妃は、美しい弧を描いた眉を寄せて――やがて小さく肩を竦めた。
「……仕方ないわね。レックスもいらっしゃい」
女帝陛下のお許しが下り、晴れてレックスは小さく歓声をあげてリュカの腕に飛びついた。
その大分重くなった身体をぶらさげて、リュカは小さく笑う。
普段は“お兄さん”であるレックスはタバサの手前、両親になかなかくっつけないから、レックスは時折こうして妹の寝ている隙に思う存分両親に甘える。
親としては子供が夜更かしするのを喜ぶべきではないのだろうけれど、甘えられるのは素直に嬉しい。
「その代わり、明日は寝坊しないこと。いいわね、レックス」
「ええーっ」
「返事は“はい”でしょ!」
母親らしい小言を零す、ビアンカの声音にもまた紛れもない喜色が溢れていて、リュカはまた笑みを浮かべた。
223
:
はじまりのその前に 3/8
:2006/09/27(水) 00:13:22 ID:K0tWxc8A
ほら、とビアンカの指す月は見事な真円を描いていて、
まるで磨き上げたコインのようにぽかりと夜空に浮き上がって見えた。
「……ちいさなメダル型チョコみたい」
若しくは蜂蜜クッキー、とレックスがぼそりと呟く。
なるほど、黄金色のまあるい月は確かにちいさなメダルにも、たっぷり蜂蜜をかけた丸いクッキーにもよく似ている。
メダルそのものよりもそれを模したチョコレートが先に出てくる辺りは、やはり食べ盛りの子供ならではと言うべきか。
「チョコの方はすぐには用意出来ないけど、
なら明日のおやつはサンチョにクッキーでも焼いて貰おうか?」
「リュカ!」
またもビアンカが眦を吊り上げた。
パパスの代わりに小さなリュカの世話を一手に引き受け、また双子を幼い頃から見守り続けたこの老従僕は、
今やただの使用人の一人ではなく、家族の一人として遇されているようなところがある。
言わば、リュカの“もう一人の父”であり、双子たちの“もう一人のおじいちゃん”。
そして、世の祖父母たちの例に漏れず、孫のような存在である双子たちには滅法甘い。
その上、家事上手のサンチョが作る菓子類はそこらの店の物よりよほど美味しく、
ついついお腹に詰め込みすぎて、晩ご飯が入らなくなることもしょっちゅうだった。
――他でもないリュカとビアンカも、幼い時分はそうして叱られたものだったが。
224
:
はじまりのその前に 4/8
:2006/09/27(水) 00:14:06 ID:K0tWxc8A
「もう、またそうやって甘やかして……」
「いいじゃないか」
息子を抱えるのとは逆の腕で妻の肩を抱き寄せて、耳元で囁く。
「もう少しだけ、甘やかしていてあげたいんだよ」
何も、引き裂かれていた十年近い月日の溝を埋めたいのは子供たちばかりではない。
リュカだって子供たちが可愛くて可愛くて――失われた時間の分も甘やかしてやりたくてたまらないのだ。
「……虫歯になったらあなたの責任よ?」
唇を尖らせ、だが満更でもなく呟いて、ビアンカは素直に夫に身を預けた。
ビアンカとて、子供たちが愛しくて構ってやりたくてたまらないのは同じである。
ただ、父のそれとは違って、母の愛情はちょっとばかり過保護とも言えるほどの熱心な教育の形をもってもたらされることが多かったが。
親子は身を寄せ合って、雲が月を覆い隠していくのを眺めていた。
225
:
はじまりのその前に 5/8
:2006/09/27(水) 00:14:36 ID:K0tWxc8A
同時刻。
遥か海を隔てたサラボナで、一人の女が同じ月を見上げていた。
年の頃は二十の後半。もう娘と呼べるほど若くはないが、
娘時代はルドマン氏の掌中の珠、清楚ながらも艶やかな白薔薇のようだ、と称えられた美貌は
年月を経て女らしい艶を増し、ますますそれを際立たせていた。
長く垂らした絹糸のような髪の一筋が頬に影を落とす。
つと優美な仕草でそれを払って、女は――フローラは溜息をついた。
物憂げな美貌は甘やかに見る者の胸を締め付けるが、その吐息は苦く切ない。
「……どうして」
こんなことになったのだろう。
誰にともなく発せられた問いに、当然答えが返ってくることはない。
もとより、彼女はその答えをもう知っていた。
何不自由なく育った富豪の娘。
他人は彼女をそう評したし、フローラ自身それを疑ったことはなかった。
自分を愛してくれる両親。求めれば、手に入らない物など無かった――ただ一つを除いては。
そして、そのただ一つこそが、本当に欲しかったたった一つの物であり、
この満たされぬ心の原因なのではないか。
フローラは目を閉じて、その日のことを思い浮かべた。
涼やかな眼差しをした、優しい人。
一目惚れだった。
フローラ以外には決して馴れないはずのリリアンが不思議と彼には懐いて、
きっとこれは運命なのだと確信した。
その彼が自分の求婚者の列に並んでいるのを見て、フローラの胸は喜びと、彼に危険なことをさせたくないとの不安に張り裂けんばかりだった。
226
:
はじまりのその前に 6/8
:2006/09/27(水) 00:15:43 ID:K0tWxc8A
――だが、彼は彼女を選んではくれなかった。
試練を終えてサラボナに戻って来た彼の隣に、当然のように控えていた女。
ビアンカ。彼――リュカの幼馴染だという、金髪の娘。
組んだ手を強く握り締める。
ぷつと鈍い痛みが走って、薄い皮膚を突き破られた左手の甲に血が滲んだ。
それでも、最初は祝福出来ると思っていた。
この熱病のような恋情も、二人を見送った後のぽかりと空いた心の虚も、
全て少女らしい初恋の思い込みの激しさ故だと、そう割り切ろうとした。
幼い頃から一途に自分を慕うアンディの想いを受け入れたのも、
自分を愛してくれる人と共にいれば、この心の虚も埋まるだろう、いつか愛を返せるようにもなろうと、それ故だった。
アンディは良き夫であったと思う。仕事熱心で、かといって家庭を疎かにすることもせず、
たとえお嬢様育ちのフローラが満足に家事をこなせなくとも、とやかく言うことはなかった。
だが、それでも。フローラには彼を愛することが出来なかった。
注がれれば注がれるほど、優しさも愛もフローラを苦しめ、共に過ごす時間が長くなれば長くなるほど、違和感は誤魔化しようもなくその強さを増し、心の虚に吹き込む風は心を冷やした。
せめて子供を授かればこの虚も少しは埋まるだろうか。
だがそんな思いを裏切るかのように、いっこうに子供を授かる気配はなかった。
――子供がいれば、きっと叶わぬ夢を見て傷付くこともなかったのに。
かつてと変わらぬ若さのままでサラボナを訪れたリュカが、妻が行方知れずなのだと告げた時、
子供を授からなかったのは彼の後添いになるためだったのだと、フローラは本当にそう思った。だが。
季節が一巡りして、再びサラボナを訪れたリュカの隣には幸せそうに微笑むビアンカの姿があった。
想いはまたも裏切られた。
227
:
はじまりのその前に 7/8
:2006/09/27(水) 00:17:34 ID:K0tWxc8A
あの日のビアンカの姿を思い浮かべる。
フローラが虚ろな心を抱えて無為に重ねた年月も感じさせぬ娘姿のままで、愛しい夫と子供たちに囲まれて。
その影で泣く女のことなと、何も知らない清い顔のまま。
――どうして、あそこにいるのが私ではいけないのだろう。
――何故、彼と結ばれるのが私ではいけなかったのだろう――?
一度浮かび上がった疑念は、フローラの心をどす黒く染めていった。
このまま、生きていくほかないのだろうか。
ただ無意味に年齢を重ね、憎しみだけを湛えた虚ろな心を抱えたまま。
ぞくりと背中を走る寒気に、フローラは思わず己の身体を抱きしめた。
少し夜風にあたりすぎたか、今まで気にならなかったのが不思議なほど彼女の身体は冷え切っていた。
そろそろ部屋に戻ろうと顔を上げて、ふと気付く。
夜空に浮かぶ月は、血のように紅い。
『紅い月は凶兆』。
幼い頃に聞かされた言い伝えが脳裏を掠め、フローラは反射的に踵を返し――だが、その衝動を意志の力で押さえつける。
逃げて、それでどうなるというのだ。
もはや何の色彩も見出せない灰色の日常に、一体何の価値がある?
――もう、どうなってもいい。
魅入られたように、フローラはその白い腕を空へ伸ばした。
228
:
はじまりのその前に 8/8
:2006/09/27(水) 00:18:13 ID:K0tWxc8A
「……やだ」
雲の晴れ間から覗く月は禍々しいまでに紅い。
怯えたように口元を押さえた妻の髪を宥めるように撫でて、リュカもまた月を見上げた。
『紅い月は凶兆』。
たかが言い伝えだ、と笑うのは容易い。
だが、竜神や魔界の存在すら知る彼は、人智を超えた力というものが存在することを知っている。
「風邪をひかないうちに戻ろう。レックス」
「はぁい」
素直に部屋に駆け戻っていく息子を見送り、リュカはまだ不安げに空を見上げる妻に手を差し伸べ――硬直した。
紅い月光に晒されたビアンカの身体が、まるで幼い頃見た妖精のように透けている。
そして、彼女に向けて差し出した己の腕も、また。
――また、引き裂かれてしまう。
「――リュカぁっ!」
「ビアンカ!?」
「お父さん、お母さんっ!!!」
無我夢中で伸ばしたリュカの手がビアンカを捕らえ、抱え込むように抱き締める。
異変を感じたレックスが父の背中に飛びついて、その手が夜着の端を掴み――
その瞬間、国王夫妻と王子の姿は、まるではじめからなかった者のように掻き消えた。
そして後にはただ一人、何も知らない王女だけが取り残される。
⇒to be continued DRAGON QUEST BATTLE ROYALE
229
:
◆inu/rT8YOU
:2006/09/27(水) 00:22:26 ID:K0tWxc8A
投下完了。いつだかどなたかが本スレで言っていた、DQロワ外伝です。
多分に趣味に走った感がありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
書き手様、読み手様、絵師様、ネタ師様。そして死者たちに愛をこめて。
230
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/09/27(水) 10:04:21 ID:nJ9gsWPY
外伝第二段キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
ようやく幸せを掴んだグランバニア一族と、本当の幸せを掴めなかった令嬢か…。
読み方によっては、フローラの積年の嫉妬心がハーゴンやシドーと共鳴して
リュカたちまでもを巻き込んでバトロワの世界に送り込んだのかも知れないね。
幸せ家族の団欒を邪魔するハーゴン&シドーに怒り心頭だヒ(#^ω^)ビキビキ
231
:
最後まで呪われているのは誰だ?
:2006/10/08(日) 01:59:53 ID:fw/CsAFU
「フォルシオンを頼みます!」
へんてこな兜をいじり終ったかと思うと、トルネコは袋から幾つかの武器をとりだし、こちらに見せた。
「トロデさんも、何か使えそうな武器があれば、持ってください。」
「わしに、のぅ」
取り出された武器は3つ。破壊の鉄球、さざなみの剣、聖なるナイフ。
さて、どれを選ぶか。時間はない。
破壊の鉄球は文句為しに強いが、鉄球の重さはトロデの手に余る。
一番手軽で扱い易い、だが威力は疑問が残る、聖なるナイフ。
魔法を弾くさざなみの剣、切れ味も悪くは無い。
迷ったが、あるひとつのことに思い至り、ひとつだけ武器を取る。
「では、これをもらおうかの」
「後をお願いします」
「わかった。ワシに後は全て任せよ」
自信たっぷりに、ひとつ頷いて見せた。
トルネコが頷き返す。
「行って来ます。」
ククールのように、お互い再び会えないかしれなかったが、笑って送り出す。
トルネコが去った後、武器を握りしめ、袋を部屋の奥へと置き、宿屋の外へ。
まだ、夜は明けない。
白馬が落ち着くように、開いている片手でその腹をなでてやる。
外では、巻き添えを食う恐れが多すぎる。
「無理やりでも、部屋に入れてやるべきかのう・・・。」
フォルシオンの手綱を取って、宿屋の近くまで導く。
一瞬、目に光が横切る。
とっさに手綱を放し、地面に転がって室内へと逃げる。
遠くに去っていく蹄の音が聞こえる。
扉を閉める余裕は無い。
『また、服が汚れてしまったのう。』
頭上で、何かが破裂した音。
『煙?』
あたり一面、煙が立ちこめる。
「ゴ、ゴホゴホ。」
口が苦い。
目がしみる。
『ええい、仕方がないわい。』
煙から逃げるため、危険を承知で再び野外ヘ向かう。
「これは、これは。
おひさしぶりですな。
真に残念ながら、すぐにお別れですがね」
男が自分に向かって左手の鋭い刃物を突き出した。
咄嗟に、伏せながら、持っている武器で受け、弾く。
どうやら、間合いが同じくらいの長さであるらしい。
金属同士の高い響き。
伏せた状態では次は避けれない。
死を感じた。例えようも無い恐怖が背中伝う。
一心に、右手に武器を握り締める。
この武器を持っていた男の叫びが聞こえたような気がした。
『畜生・・・・・・俺は、何も・・・・・・できないで・・・・・・畜、生・・・・・・』
まだ、まだまだ死ねぬわ。
せめて、わずかばかりとも!!
顔を俯かせ、じりじりと上体を起こしながら、男のほうへ移動する。
「おやおや、降参ですかな。しかし、残念ながら、それは聞けぬのですよ!」
再び繰り出される刃。
捨て身で、至近距離から、握り締めた武器を右手で思いっきり突き出した。
五体満足のマルチェロであったなら、簡単に避けていたであろう刃は、左足を貫通した。
負傷した左目の死角には入りこんでの一撃。
だか、こちらも肩に刺されてしまったわい。痛いじゃないか。
あまりの痛さに武器を落としてしもうたい。
「悪い子には拳骨じゃ。若干、いつもより痛いかもしれぬがな」
にやりと笑ってみせた。
「よくも!」
男は距離を取り呪文を唱え始めた。
やれやれ、短気なことだのぅ。
動きたくとも肩の傷が・・・
強力な武器を持ってこなくて正解じゃったわい。
ナイフぐらいなら、エイトよ、問題あるまい?
なにせ、ワシ自慢の近衛兵なのじゃから。
「メラゾーマ!!」
それにしても、いつになったらあやつはわしを父と呼んでくれる のか の ぅ・・ ・。
232
:
最後まで呪われているのは誰だ?
:2006/10/08(日) 02:00:39 ID:fw/CsAFU
「くっ。思ったよりも、目のハンデが大きい。迂闊に接近戦は、できんな」
なまじ有利な状態で、右目に頼ってしまったのも原因だろう。
回復魔法で足の負傷を癒す。
切断されなかっただけ、運が良いと思うべきだろう。
残った目で焼けた死体を見る。
「隠しておくほうが、探しに来たヤツらを分散できるか?
まあ、念の為だ」
マルチェロは、緑の物体を引きずって、近くの家に放り込んだ。
【E-4/アリアハン城下町宿屋の外/黎明】
【トルネコ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:無線インカム
[道具]:ホットストーン さざなみの剣 破壊の鉄球
[思考]:皆の援護に行く クリフトをもう一度説得
他の参加者に危機を伝える ピサロといずれ合流
【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療)、左足に刺し傷跡(完治) HPほぼ全快 MP1/4
[装備]:折れた皆殺しの剣(呪い克服)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ
グスタフの弾(対戦車榴弾×1 発煙弾×1 照明弾×1)
聖なるナイフ
[思考]:先ほどの戦いを観察し、有利なら殺害。殺害が無理なら、宿屋を観察できるところまで戻って待機(休憩)
ゲームに乗る(ただし積極的に殺しに行かない)
※トロデの支給品は宿屋に置いてあります。
フォルシオンの行き先は次の書き手さんにお任せします。
【トロデ@DQ8 死亡】
【残り13名】
アトラス戦前にマルチェロの思考を書いてしまうと、アトラス戦を書く書き手さんに制限がかかるので、完全に没にします。
戦後に出してもたぶん、矛盾するだろうし、それにトロデの主役の話にしたかったんでマルチェロを書くと食われそうな気がw
でも一応修正したのでコソッとココに置かせて下さい・・・。
233
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/10/18(水) 10:41:29 ID:YRf1bojc
主催SSを考えてる時に生まれた設定の残りカス。本編には全く関係ない妄想の塊。
ハーゴンとアレンたちの戦いの時、悪魔神官は全部で12人いたという設定だった。
ぼくのかんがえた12にんのあくましんかん
01:ネピリム
齢100歳を超える最初の悪魔神官。ネクサスの祖父にしてハーゴンの師。
あらゆる呪術に精通し、全ての悪魔神官の上に立つ神官長。他の神官からは老師と呼ばれる。
最後まで誇りをもってアレンたちと戦い、老獪な戦術で圧倒する。が、あと一歩の所でスタミナが尽き
敗死した。しかし時間稼ぎの役割は充分に果たし、結果アレンたちはシドーの復活を阻止できなかった。
02:ネクロス
邪神軍の総帥を任せられていた悪魔神官の筆頭格。最後まで魔物の統率・指揮に専念していた為、
アレンたちとは遭遇していない。神殿崩壊後、人知れず信徒を率いて脱出した。
元々はムーンブルクの神官で、無実の罪を着せられ追放された。そのことでムーンブルクを怨んでいる。
03:ネイル
ネクロスをライバル視する自称、悪魔神官No.1。ネクサスを暗殺したり、いろいろと暗躍。
神殿に乗り込んできたアレンと一騎討ちをする。アレンの前で今まで倒された他の悪魔神官を貶し、
自分なら10秒でアレンを殺せると豪語したが、怒りのアレンの前に一刀のもと切り捨てられる。
決闘時間はわずかに2秒。絶好調時のアレンの力の前に成すすべなく敗れ去った。
それでもなんとか生き延び、ハーゴンが死亡した後、高笑いしながらアレンたちの前に現れる。
ハーゴンの代わりに破壊神を制御しようとするが、シドーには歯牙にもかけられず惨めに食い殺された。
04:ネクサス
ネピリムのひ孫。幼い頃から邪教に染まって生きていたが、アレンたちに出会って
自分達は間違っているのではないかと迷い悩む。マリアに仄かな恋心を抱いていた。
そしてハーゴン神殿ではハーゴンを裏切り、陰でアレンたちを導くがネイルによって暗殺される。
05:ネイム
武術に長けた悪魔神官。怪力による槌矛術と魔術で一騎討ちの相手ランドを追い詰める。
しかしランドも速度剣術と魔術で対抗し、互角の攻防を繰り広げる。
死闘の中、互いの実力を認め合う両者。そしてリアの未来のためにメガンテを使うランドを見て、
彼は自らの過ちを悟った。死の極光の中、彼はランドにザオリクをかけて消滅。
ランドは一命を取り止め、駆けつけたマリアに救われることとなる。
06:ネメシス
ネクロスの補佐官。能力は低い(※)が、実務能力に優れていた為補佐となる。
理想郷の実現を夢見て、ハーゴンを敬愛している。序列は並だが実力は悪魔神官の中で最低クラス。
ネクロスに想いを寄せている。
※あくまで悪魔神官の中では低いということ。当然地獄の使い以下とは一線を画した能力を持っている。
07:ネムリア
ハーゴンの愛人。マリアとの一騎討ちでど派手な呪文合戦を繰り広げるが、
マリアの愛の深さの前に自ら敗北を認め、イオナズンを無防備に喰らい消滅した。
08:ネオス
ネイルの弟。呪いが得意でハーゴンの命によりランドを呪うが、
世界樹の葉の生命の力により呪いを返されて死亡する。
09:ネルメス
シドー復活の儀式の補佐をしていたが、復活したシドーに喰われて死亡。
10:ネイヴィ
アトラス、バズズを倒して消耗したアレンたち。それを陰から不意討とうとするが、
ベリアルに邪魔だと後ろから一突きにされ死亡する。
11:ネスカル
シドー復活の儀式の補佐をしていたが、復活したシドーに喰われて死亡。
12:ネロ
末席でありながら最強の魔力を持っている最も新しい悪魔神官。アレンたちと最初に戦った悪魔神官で、
竜王の城にて圧倒的なまでの強さで彼らを全滅させた。しかし詰めが甘く死亡確認をしないで立ち去る。
その後復活した王子たちに激怒、ロンダルキアにて再戦。Lvアップした王子たちとも互角以上に戦うが、
彼らのコンビネーションの前に紙一重の差で敗れ去る。悪魔神官の脅威をアレンたちに刻み付けた存在。
234
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/10/18(水) 11:01:15 ID:YRf1bojc
ローレシアの牢屋の悪魔神官忘れてた( ´д`)
まあいいか。
235
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/10/18(水) 21:26:57 ID:4kVwc2DU
ネイヴィ=何セルにペチっとやられるミスターサタンを思い出したw
もしくは弟に木っ端微塵にされる戸愚呂兄かw
236
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/10/25(水) 00:58:16 ID:/nqUspPU
アトラス突撃する直後&ローラ組レーベ到着時に、夕食タイム&ティータイムネタを書きたかった
237
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/10/25(水) 00:59:57 ID:/nqUspPU
直後じゃなくて直前だったorz
念のためもう一回age
238
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/11/21(火) 22:18:46 ID:YjX55hHY
折角ネタをおもいついたのに、旬が過ぎていたので没スレに投下します
もしもDQBRがカードゲームだったら
「これでお前の参加者は全て終了、『ザラキ』の効果でお前のHPはゼロだ!
ヒャ〜ヒャッヒャッヒャ!やった〜〜!俺の勝ちだぁ〜!!」
「何勘違いしいてるんだ?」
「ヒョッ?」
「俺のバトルフェイスは終了してないぜ!!」
「な〜に言ってるんだ?もうお前の参加者は全部攻撃は終了したじゃないかぁ〜」
「即行魔法発動 『皆殺しソウル』!」
「『皆殺しソウル』?」
「手札を全て捨て…効果発動!
こいつは参加者以外のカードが出るまで、何枚でもカードをドローし、墓地に捨てるカード!
そしてその数だけ、攻撃力1500以下の参加者は追加攻撃できる!」
「攻撃力1500以下……ハッ!」
【参加者カード】黄金の勇者レックス:攻撃力1500
(――あの時…!)
黄金の勇者レックス『あははははは!!ハァッ!』ズバァ!!
「効果が発動した後は魔法カウンターは無くなる。レックスの攻撃力も300Pダウンするがな」
(遊戯の奴…そこまで考えて!)
「さぁ行くぜ!!参加者カード【緑頭巾の最強戦士】を墓地に捨て、【黄金の勇者レックス】追加攻撃!」
黄金の勇者レックス『ハアアアァァ!』
「ぐわあああぁぁぁ!!」
「二枚目ドロ−!参加者カード!―赤毛の魔術の長―」
「あ……あぁ!!わああああぁぁーーーー!!」(HP0)
「三枚目ドロー!参加者カード―麗しき夢占い師―」
「うわああああぁぁぁーーー!!」
「ドロー!参加者カード!―南国果実頭の格闘家―」
「ぐわああぁぁぁぁーーー!」
「ドロー!参加者カード!―銀髪の竜引き換え剣―」
「ぎゃああああーーー……あぁぁ…」
「ドロー!参加者かー…」
「もう止めて!遊戯ーーー!!」
「はーなーせぇっ!!」
「とっくに羽賀のHPはゼロよ!もう勝負はついたのよ!!」
「ハァ……ハァ……」
【参加者カード】ラブリーチャーミーな勇者 アリス
239
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/11/21(火) 22:22:34 ID:YjX55hHY
元ネタ
ttp://www.youtube.com/watch?v=ZMeGnPJnqFA
240
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/11(月) 20:08:14 ID:8X0v6kJc
ずっと俺のターンwww
241
:
第二回放送案 1/2
:2006/12/14(木) 23:50:04 ID:pAXGUrQ.
長い長い夜がようやく終わり、偽りの大地に偽りの太陽が昇る。
だが夜明けの光がもたらすのは希望などではなく、
照らし出されるのは闇に喰われた幾多の魂の抜け殻だけ。
「――これより、第二回の放送を行います」
重苦しい鐘の音の後、響いたのは昨夜のものとは明らかに異なる艶やかな女の声。
どこか音楽的とさえ言える響きの良い声だったが、
硝子で出来た刃のようなおよそ温かみのない冷酷さを孕んでいた。
「まずはこの一日を生き延びたこと、お祝いを申し上げましょう。
中には運良く生き延びただけの者もいるようですが、貴方がたの多くがその実力と才覚で戦い抜いたこと、疑いないでしょう。
ハーゴン様のご期待に沿えるよう、より一層の奮闘を望みます。
次に、この半日で閉鎖されるエリアの発表を。心して聞きなさい」
「これより3時間後、朝9時から【B-02】、正午から【C-02】、3時から【C-06】、
そして夕刻6時から【D-05】が禁止エリアとなります。
聞き逃した方は――己の不運を恨みなさい」
くすくすと、嘲り混じりの笑い声が零れる。
大陸中に散らばる参加者たちが怯えと不安を押し殺して、ただ静かに次の言葉を待つのを、
焦らすように、愉しむように、たっぷりと間を置いて再度声が響く。
242
:
第二回放送案 2/2
:2006/12/14(木) 23:50:44 ID:pAXGUrQ.
「最後に、日没の放送から夜明けまでの死者の名を読み上げます。
「バーサーカー」
「ハッサン」
「テリー」
「レックス」
「カンダタ」
「ヒミコ」
「ククール」
「ゴン」
「フローラ」
「クリフト」
「リア」
「アトラス」
「サマンサ」
――以上、死者13名、残り12名」
歌うように、一つ名前が読み上げられるたび、悲嘆と慟哭とが沸き起こり、
女はきゅうと唇の端を吊り上げた。
――だが、足りない。
もっと悲痛で苛烈で残酷で甘美な、狂おしいほどの絶望を。
それでこそ、彼女らの崇める神は強大な力を持って復活することが出来るのだから。
(ハーゴン様のため、シドー様のため、彼と私の未来のため。せいぜい踊り続けなさい)
「次回の放送は昨日と同じ、今から12時間後の日没に行います。
では、皆様ご機嫌よう。――我が神の加護があらんことを」
破壊と、死と、裏切りの加護を。
呪詛めいた祈りを最後に女の声はぷつりと途切れ、
あとには陰鬱さをいや増した鐘の音だけが取り残された。
243
:
第二回放送案+α 1/2
:2006/12/14(木) 23:51:25 ID:pAXGUrQ.
声を伝えるための集中を解いて、女は――悪魔神官ネメシスはゆるゆると顔を上げた。
首を振るとその動きに合わせて眩いばかりのプラチナブロンドがさらりと揺れ、
そのしなやかな指が仮面に伸びて、次の瞬間、声から連想される通りの怜悧な美貌が現れる。
「上手く、いったようですね」
元々ネメシスの魔力はその序列のほどには高くない。
その上、直前になって任された慣れぬ任務、満足に準備をすることも出来ず不安もあったが、
滞りなく勤めを終えることができ、知らず安堵の息が零れた。
そして、儀式それ自体も何の滞りもなく順調に進んでいる。
机の上に映し出された大陸図に目を落とす。
徐々に中央へと集まりつつある星は、今や開始時の三分の一以下までに数を減じていた。
その一つ一つを満足げに指でなぞり、不意に一つの星の上でぴたりと止まる。
それが持つ名を捉えて、ネメシスの形の良い眉が僅かに歪んだ。
マリア。彼女の想い人を放逐した月の王家の最後の一人にして、神殺しを為したロトの末裔。
(まだ生き残っていたのですか……忌々しい小娘だこと)
ぎりと唇を噛み締めようとして、だがと思い直す。
いずれ待つのは死なのだ。早々に退場するより、友も仲間も何もかもをも失って、絶望のうちに死んでいくことこそ、
神殺しの大罪人には相応しい末路であり、破壊神の御心にも適うというものだろう。
もっとも、この娘の父である愚王が彼を放逐しなければ、彼と自分が出会うことはなかっただろうし、
神殺しが為されなければ、十二使徒ただ二人の生き残りとして、
これほどまでに彼と近しく付き合うこともなかったのかもしれないのだから、
その点についてはこの娘に感謝しなくてはならない。
244
:
第二回放送案+α 2/2
:2006/12/14(木) 23:52:48 ID:pAXGUrQ.
(……ネクロスの任務は、まだ終わらないのでしょうか)
そういえば、盗聴の任に就いていた彼の部下たちの姿も見当たらない。
おそらくネクロスと共にハーゴンから下された任務に当たっているのだろう。
通常の任務を全て放棄してでも果たさねばならぬという大役に、彼が張り切る気持ちも分かるが、
交代で休憩を取っている部下たちはともかく、ほぼ丸一日働き詰めのネクロスは相当疲労が溜まっているはずだ。
会話の不穏さのせいもあったのかもしれないが、
最後に見た彼の顔色はあまり良くなかったし、あれからさらに数時間が経っている。
(ハーゴン様にお伺いをたててみましょうか)
ネクロスの方から声が掛かるまではと思ったが、
そうして要らぬ意地を張って彼に無理を重ねさせるのは本意ではない。
ハーゴンはまだ“扉”を開く儀式の最中だろうか。
儀式が一段落し、目通りが叶うまでにはまだ時間がかかるだろうから、
今のうちに腹を空かせているだろうネクロスの為に、何か温かいものでも作っておいた方がいいかもしれない。
どのみち聖杯の準備も放送も終わらせてしまえば、ネメシスのやるべきことはほとんど残されていないのだし、それに――
(私たちを拒んだ世界が滅び、誕生する新たな世界のはじまりの時を、
愛する人の隣で迎えたい、なんて)
ハーゴンが奇跡の帰還を果たすまで、残った信者をまとめ上げ、闇の祭器を守ってきたのだ。
これくらいのささやかな我が儘は叶えられてしかるべきだろう。
もうすぐ傍まで近付いて来た約束された幸福に酔う顔を、再び仮面で覆い隠し、
ネメシスは儀式の間へと続く長い長い回廊を、軽やかな足取りで歩いていった。
彼女の神がもたらす闇が、哀れな生贄たちの上のみならず、
彼女自身の未来にも影を射しかけていることに、気付くことなく。
【残り12名】
245
:
第二回放送案
:2006/12/14(木) 23:57:01 ID:pAXGUrQ.
一時投下スレが使われているようですので、こちらに失礼します。
以前投下された放送案は、放送役が代わったために使えなくなりそうですので
代わりの放送案を投下しました。
+αは「主催側は書かない方がいい」との意見が多いようならこのまま没ります。
何か問題点などありましたら、皆様指摘をよろしくお願い致します。
246
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/15(金) 00:19:54 ID:f9posWCk
投下乙です。ネメシスが健気で泣ける。・゚・(ノД`)・゚・。
247
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/15(金) 00:20:47 ID:hRW/iZHA
乙です。
細かい部分ですが、ゴンはドラゴン表記でいったほうがいいと思います。
ローラがドラゴンの名を知らなかったので。
248
:
第二回放送案
:2006/12/15(金) 00:29:50 ID:ABadA0sY
>>247
うっかりしていました、指摘有難うございます。
言いそびれましたが、禁止エリアは以前投下された方のものをそのまま使っています。
「もっと増やせ」「変えろ」等の意見もお待ちしています。
249
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/27(水) 22:17:44 ID:GPQrev3w
一通り放送前までたどり着いたので、本腰入れて打ち合わせしよう。
というわけでひとまずage。
ネメシス側の描写は現状のままで十分、ゴン→ドラゴンの修正は放送作者さんも把握済み。
となると後考えることは禁止エリアをどこにするかっていう話になるでしょうか。
といってもキャラの分布はアリアハン周辺(E−3,E−4)に密集してるので、
今からじゃあんまり禁止エリアの影響は高くないと思うんですが、考えられる選択肢は大体
1、アリアハン以外を適度に埋める(現状のまま、参加者への影響小)
2、アリアハン以外を過激に埋める(アリアハン&ナジミ以外の全エリア禁止とか)
3、むしろアリアハン周辺を埋める(E−3,E−4の禁止エリア化、参加者への影響大)
の3つくらいかと思います。
本スレで話されてる元日放送を実現させるためにも煮詰めに入ったほうがよさそうですね。
面倒ならそのままでもよさそうですが、個人的には2も十分ありかなーと思ったりも。
250
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/29(金) 08:31:19 ID:Rl1O6fzA
ペースを保つなら1、一気にいくなら2かな、って気がする。
レーベが消えた今、アリアハンが最後の拠り所みたいな感じだし
(打倒主催でいくのなら)決戦に赴く場としても最適かもしれないから
アリアハンを禁止エリア化するのは、今はまだ避けた方がいいような気がするね。
対主催にせよ参加者同士にせよ、平原や森でラストバトルを繰り広げるよりは
アリアハンで、て方がそれっぽい気がするんだけど、どうかな。
251
:
ただ一匹の名無しだ
:2006/12/29(金) 23:28:36 ID:i2hHRsDo
どちらでも対応可。
あえて言えば参加者を孤立させない方が良いかなー。
ピサロ・フォズは、遠くにいきすぎて話に絡ませづらかったからねぇ・・・。
252
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/03(水) 17:01:03 ID:fqebygZo
特にコレといって決め手がないなら、放送書き手さんが好きなようでいいのでは?
ただ、決めたら、本スレ投下前に一言教えてくだされ
253
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/04(木) 21:28:37 ID:vX2qfxiQ
放送書き手です。
禁止エリアについてですが、私の一存で封鎖するエリアの数を増やすのはまずいと思いますので、
封鎖するエリアの数はそのままで、
>「これより3時間後、朝9時から【B-02】、正午から【C-02】、3時から【C-06】、
> そして夕刻6時から【D-05】が禁止エリアとなります。
参加者への影響の少ない【C-06】を【C-03】(レーべ側地下通路入り口)に変えることで
参加者たちのアリアハン集結を図ろうと思うのですが、いかがでしょうか?
また、放送の日時についてですが、社会人の方でも予約しやすい曜日ということで
1月6日の土曜(土曜までに話がまとまらなければ翌日の日曜)、時間は22〜23時を予定しています。
以上、二点についての皆様の意見をお待ちしています。
254
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/04(木) 21:44:27 ID:RXJk1VvU
なるほど、つまりレーベ方面が完全に封鎖されるわけですね。
異存ないです。
255
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/04(木) 22:59:22 ID:p3LNhG0k
3時間毎に、B-2>C-2>C-3>D-5ですね。
了解です。
256
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/04(木) 23:38:10 ID:jBfAI9wc
把握しました。
レーベ、地下通路入口、祠方面への入口も封鎖ってことでほぼ
アリアハンーナジミに集わせることができそうですね。
洞窟のあるE−2も候補かもしれないと思いましたが、さすがにやりすぎかな。
257
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/01/05(金) 00:33:48 ID:bhFTmffM
了解で。
258
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/02/10(土) 00:27:29 ID:oVjPS1tg
.
259
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/02/25(日) 23:56:54 ID:gCDfV4AY
日光を弾いて揺れるドレス、黄金を細糸に加工し束ねたような髪。
月光の様に優美な立ち居振舞い。
遠目でも判る、輝くその姿。
会うのはどのくらいぶりであろうか。
心中に沸き起こる、再び会えたことの歓喜。
ゆっくりと、距離が詰まる。
距離が近づくにつれ、自分らしくもなく、心が震えているのがわかる。
かの姫が己を拒絶するかも知れぬ事への怯え。
だが、歩みを止められぬ。
ローラ姫が自分に気づいたらしく、歩くのを止めて此方を見ている。
逃げ出してしまうのではないだろうか?
「竜王さん」
自分の名を呟くのが耳に届き、姫はあろうことか、早足でこちらに向かってくる。
…無用心に過ぎる。これで、良く今まで生き残って来たものだ。
思わず口の端が釣り上がる。
変わらぬ。
初めて対面した時も怯えを見せなかった。
配下に幽閉した後の様子を訊ねたところ、護衛としてつけたドラゴンに対しても怯まなかったらしい。
お互い表情が判別できるまでに近づいた。
「久しいな、ローラ姫」
「ええ、お久しぶりです」
次に何を言えばいいか迷う。
いや、一つ、言わなければいけない事があるのだが。
すぐに伝えるのは、少し、ほんの僅かばかり癪にさわる。
「よく、今まで無事だったな」
口に出るのはそんな皮肉めいた言葉。だが、ローラ姫は気にせず会話を続ける。
「ええ、ゴンさんに助けてもらって、エイトさんにも助けてもらって」
「ゴン?」
「護衛として貴方がつけてくださったドラゴンさんのことです」
「ああ、あやつか」
みれば、ローラの顔が悲しげに曇っている。
「魔物には名前で呼び合う習慣が無いからな」
ローラは左右に頭を振った。
「ゴンさんは、私を庇って亡くなってしまって。竜王さんに会いたがっていたから、せめて竜王さんに彼の事をつたえようと。」
その為だけに、逃げずに自分に会いに来てくれたのか。殺されるかも知れぬのに。
「ゴンさんは、ずっと竜王さんと合流したくて、攻撃された事にも怯むことなく勇敢に戦って」
最も惹かれて止まぬ、姫の強い意思を宿す瞳が、涙を湛えて曇っている。
「そして、ずっと私を守って、守って、私を助ける為に戦って亡くなりました」
「…そうか」
おもわず手が伸ばし、指が姫の涙を拭う。驚いたのだろう、ローラが目を大きく見開いている。
我ながら、自分らしくない。本当に、らしくない事だ。
「…ごめんなさい」
今度は此方がギョッとする番だ。まさか謝罪を受けるとは思わなかった。
「気にするな。戦って死んだのなら、あやつも本望だろう」
かつては魔王たる私が、人を慰めるような言葉をかけるようになるとはな。
ともかく、安全な場所まで連れて行かなければ。
あたりを見渡そうとした時、聴覚に触れるものがあった。
「ローラ!!!」
聞こえた方向とは逆に、姫を突き飛ばす。
『メラゾーマ!!!』
マルチェロは大通りを伺っていた。
しばらくして宿屋の方向から人影が現れた。
「あれは…」
以前見かけた人ならざる者。
カール・グスタフをとりだし、人物にレンズの標準を合わせる。
周囲を威圧する気配と近くの宿に他の参加者がいたので襲撃しなかったのだが、あの時とは違ってかなり負傷しているようだ。隙を見せれば倒す事が可能かもしれない。
町の出入り口に行くのか。
マルチェロは出入り口にレンズをそちらに向ける。
そこに居るのは光の塊。否、光を反射させる衣服を纏う女性。
「出会えば、何らかの反応があるはずだ。」
攻撃するか?
しかし、この武器の弾は後一つしかない。しかも、連続して弾を打ち出す事が出来ない。
マルチェロは、あらゆるパターンを想定し、対処法を考える。
大通りを歩く二人が出会う。どうやら戦いを始めることは無いようだ。残念だ。
幾つかの案を捨てる。
話に集中しているのか、こちらに気づいてはいない。
呪文を唱えながら、大通りへ歩いて行く。
260
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/02/26(月) 00:45:51 ID:hDLjuQeQ
書いている途中で投下があって良かった。
この先どう書くか悩んでたし。
261
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/02/26(月) 01:48:25 ID:4wMTPg2o
一部分
262
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/02/26(月) 22:49:10 ID:2MPeu0vQ
実は一部分です。
投下されているアレンとmの戦いが途中で終ったので、後で使える可能性がある部分は省いてます。
263
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/03/28(水) 12:43:14 ID:B9WprV4c
旬を逃したネタ。
レックスの日記
【18:00】定時放送の鐘の音で起床。まだ眠い。顔を洗う。剣が折れて力が出ない。
目は覚めてるけど起きない。僕にはチャンスが無い。
【18:05】枕のかわりに膝枕で眠るフリをする。悪夢がウザイ。イヤになる。
「かわいそうに」マリアの言葉だ。うるさいんだよ。俺は勇者じゃないただの子供なんだよ。
「――畜生っ!」 うるせぇんだよこのモヒカンが。
【18:35】ダルいベッド異動開始。隣ではうるせぇ銀髪が口説いている殺すぞ。
【18:43】「アアアアアアア!」バーサーカーが叫んでいる。僕にどうしろっていうんだよ。
【18:50】ハッサン負傷。僕をキャッチした後トロデが振ってきたらしい。うだつの上がらない奴だ。
【19:03】今日は満月だ。気分が盛り上がらない。早くグランバニアへ帰りたい。
【19:05】バーサーカーがニヤニヤしている
【19:30】バーサーカー撃退。
【19:40】奇襲。
【19:45】みんなで戦闘。般若の面をしたテリーにみんなが凍りつく。
【20:20】シスコン男 登場。
【20:22】「あいつは姉さんを殺した……!」 相変わらず元気な奴だ。
「ギガデイン!!」本当はどうでも良い。折れた破片早く来い。
【20:40】炎の幕に襲われる。ウザい。心が緩んで力が出ない。
【20:42】「おじさま、逃げてください!」 マリアだ。タイミングが良すぎる。どこから見ていたんだ?
【20:43】「へぇ、そうだね。そういえばお姉さんには何度も眠らされちゃったっけ……」
さようなら、フバーハ、こんにちは漣マホカンタ。トロデがぐったりしている。
【20:45】「これで呪文は僕には効かない。さぁ、どうやって僕を無力化するつもりなのかな?」
ただのアイテム効果だ。
「なんだかんだと聞かれたら!」 「答えてあげるが世の情け!」
このセリフには飽き飽きしている。
20:49】戦闘終了。「僕を、どうするの?」 格好だけ聞いてみる。
【20:53】オリジナル人格が来た。
「ありがとうお姉さん……僕、何ができるか解らないけど、まずあの人たちに謝ります。
そしてハーゴンと戦います。そして……そして、僕は……」
遅すぎる。帰れ。うだつの上がらない奴だ。
【21:15】改心。道端でシスコンがボウガンの矢をセットして構えている。覆面パンツが泣きながらこっちを見ている。
いやがらせか?殺すか?
264
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/05/06(日) 23:58:10 ID:arr99sYo
突然ですが以下は駄文です。チラシの裏です。
今回の投下のことで色々言いたいことがあるのですが、全部を本スレで書くのもあれなので
没ネタとして処理させてください。一部それに関する話もありますし。
どうもすみません。色々無茶しました。
今にして思えば、やっぱり一時投下してからの間が半日しかないってのはどうなのよ?
という気がします。
後に控えておられる方がいるからと思い、確かにそれもあるのですが
平日だと十分に時間が取れる自信がなかったので、
この休みのうちにケリをつけておきたい、と考えたのも正直なところでした。
ただ結果論ですが、あの時間に投下して、自分自身では正解だったかもと思っています。
支援を入れてくださった方はご存知の通り、途中で見事に規制を喰らいまして
皆さんの援護を受けながら、延々2時間半に及ぶ投下になってしまいました。
平日や夜にはとてもじゃないですが、やっていられなかったでしょう。
もっとも、それならもっと早くに仕上げて、一時投下を早めれば済んだ話で、
どちらにせよ私の責任です。「早いよ」と思った方、改めて陳謝いたします。ごめんなさい。
それに時間がかかった理由はもちろん、「話長すぎ」この一語につきます。
最後まで書くべきか?どこかキリのいいところでバトンを渡すべきでは?と思いました。
実際、中盤のアレフがピサロの罠にはまってマヒャドを喰らってしまった
16/43のところが切れ目かと踏んでいました。ちょうど投下数も適当なところですし。
でも、こんなややこしい所で渡されても次の人が困るだろう、とも思い
あれこれ考えた結果、思い切って突き抜けてみることにしました。
265
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/05/07(月) 00:02:00 ID:6VNlYMeo
どう決着をつけるかも悩みの種でした。
最終的には「あそこまで引き伸ばして結局誰も死なないのかよ!」と
バトルロワイアルの名にふさわしいのかどうなんだ?という展開を選びました。
実は…2ヶ月ほど前に作った最初の構想ではアレフがここで死ぬ予定だったのです。
最初の展開は採用したものと同じで、吹雪に呑まれながらもアレフは諦めず
その姿に感銘?を受けたのか、アトラスの風のアミュレットがやはり発動。
吹雪を吹き飛ばして、一気にピサロを追い詰めてゆく。
そこでピサロを仕留めるかどうかまでは考えませんでしたが、
どう転んでも戦いが終わった後、疲れきったアレフがそのまま力尽きてしまう。
ピサロ(※生き残った場合)に「勝ち逃げか!?」と言われ、
エイトからは「ローラ姫に何て言えばいいんですか!」と嘆かれる。
そんなラストが最初の構想でした。
また、ピサロを追い込んだ時に、フォズが割って入って代わりに斬られてしまうという
展開なんかもありえました。とにかく、最初は誰も死なないはずではなかったのです。
それが大きく方向転換したのは、『影は光に追いついた』でローラが死んでしまったこと。
エイトの「ローラ姫に何て言えば…」という嘆きが意味を持たなくなってしまったのです。
そして何より、◆inu/rT8YOU さんのローラ姫の死の間際の描写に私自身が感動し、
何としてもローラの意志をアレフに伝えてやりたいと考えました。
…で、ローラはロトの剣を使った。アレフは確かロトの盾を持っていたよな?
そこから繋げられないか?てなところからアミュレットよりも前に
アレが発動することになりました。我ながらものすごい超展開だったと思います、あの周辺。
でもかなり気合を入れて書けたので、あの一連の話には自分では満足しています。
ええ自己満足。
266
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/05/07(月) 00:06:24 ID:6VNlYMeo
ということでまとまりがありませんが、要約すると
「ローラが生きていればアレフが死ぬ」
「ローラが死んだのでアレフが生き残る」というのが大まかな構想のまとめでした。
自分で書いておいてなんですが…報われないな…本来は将来の夫婦なのに。
他にも文章にはしませんでしたが、色々考えました。
そのうちわけがわからなくて、こんがらがってしまうこともしょっちゅうでした。
しまいには、いっそ戦いで脆くなったナジミの塔を崩落させてみんなまとめてー!とか
4人中3人までが死んでしまい、唯一生き残ったエイトが「思い通り!」と
どこぞのよく名前の似た主人公の最終巻での勘違い顔みたいなのが頭に浮かんだ日には
ああ、これはもう駄目かもしれんね。などと思ったりしました。アホかい。
まあ、どれも免罪符にはなりませんが新参者の私なりに一生懸命やったつもりです。
勝手がわからず、昨年末から出るたび余計なことをしてきた感がありますが、
それでも支援や感想等をつけてくださったこと、感謝の念に絶えません。
そして書き手の皆さん。私にまがりなりにでもSSが書けたのは皆さんのお陰です。
これまでの台詞や場面等の記述を思い切り利用させていただきました。
明らかに自力でなく、人の褌で相撲をとっています。本当に頭が下がる思いです。
267
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/05/07(月) 00:10:06 ID:6VNlYMeo
今後、修正あるいは、という話になる可能性もまだ残っていますが、
とりあえず現段階での務めは果たしたということで…後は、あれですね。
年の初めにいらんことを言ってしまった「私は、誰も〜」の後編とやらが残っています。
今回の「愚かなる〜」が無事採用されるか否かに関わらず、没にすることは決定済。
今回の話でナジミの塔でのピサロたち絡みの話が一応決着したと見なしてよいならば、
しばらくしてちょっと落ち着いた頃に見直しして、ここに投下しようと思います。
(没なのに見直すってのも不毛な話ですが、一応人様に見てもらう以上は)
しかし、その時のことも思い出して改めて…私はなんというトラブルメーカーなのか。
ホント出るたび碌なことせんな('A`)
では駄文はここまでです。
改めて、ありがとうございました。機会とアイデアがあればまた新作に挑戦させてください。
以上、チラシの裏でした。
268
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/05/07(月) 09:58:56 ID:21Bp1E.s
それでも◆9Hui0gMWVQ に乙といいたい
あなたには乙の輝きこそふさわしい
269
:
Z
:2007/05/11(金) 23:06:41 ID:vE4c3xR.
gj&お疲れでした。
DQBRでは矛盾が少なく、長文を書ける書き手さんと、尊敬しております。
何せ当方は、短いレスの矛盾だらけのSSを書いているもんで。
恐ろしい事に現在進行形です。
此方が迷惑かけてしまうことも在るかもしれませんが、これからも宜しくお願いします。
>4人中3人までが死んでしまい、唯一生き残ったエイトが「思い通り!」と
どこぞのよく名前の似た主人公の最終巻での勘違い顔みたいなのが頭に浮かんだ日には
ああ、これはもう駄目かもしれんね。などと思ったりしました。アホかい。
思わず茶をふきだしてしまいました。それはそれで…(マテ
270
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/06/13(水) 02:18:36 ID:pF89cF5A
没ネタ
「私が希望になります」と高らかに宣言したアリスに、マリアがキレる。
「だったら今すぐ、リアちゃんを生き返らせてください」
「そ、それは……」
守れなかったというトラウマをえぐられて愕然とするアリスに、マリアは罵詈雑言で追い討ち。
「世界を救った勇者だが知らないけど、あなたは女の子一人守れなかった。
あなたが弱いから、あの子は死んじゃったんですよ!
さあ早く! 今すぐあの子を生き返らせてくださいよ!!
私の希望になってくれるでしょう?
どうしたんですか? できないんですか?
そうですよね、できるわけないですよねぇ!
あなただって私とおんなじ、ちっぽけな人間なんだから!
――何が勇者よ。リアちゃんじゃなくて、あんたが死ねばよかったんだ!」
「う、あ……うああああああああああああああああああん」
気絶してた自分のことを棚にあげて完全に暴走するマリアに、
アリス大ショック。サマンサ死亡のショックからも立ち直れてなかったのがガチ大泣き。
マリアはそれを息を切らしながら冷ややかな目で見つめるが、
アリスにとってあまりに理不尽な要求をしてることは自分がよ〜〜く分かっていいたので
自分の心もズタズタ。それから逃避するために、自分が正しいと思い込もうと心を閉ざしちゃう。
結果、発狂同然の精神状態になっちゃう。
ここまで考えて、今回投下した展開の方が絶対気持ちいいと思って破棄。
もう少し俺の心が病んでたら、この展開で突っ込んだかもしれません。
多分その後は、「ンまぁーい」だったはずのアンチョビサンドが
実は直前にマリアが毒薬盛ってたことが判明して、トロキーはそのまま死亡。
アリスの毒だけは態々キアリーで解除して、瀕死のところをさらに言葉責めして
(「二人とも死んじゃったよ、やっぱり誰も守れなかったね」、とか)
アリスまで発狂しちゃう、ヤンデレ鬱展開とかになってた……かも。
271
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/06/13(水) 09:47:21 ID:AxiFiUvQ
壮絶だ…リレー企画って本当に色々なifがあるんですね。
272
:
空気よめなさ杉な一読み手
:2007/07/07(土) 18:09:09 ID:8ggEnIos
マリアのキレる描写次第だな・・・これは。
その展開も読みたかった。
dqbrの良いとこでもあるんだろうが、ドロドロ展開少ないよな。
ああ、フローラさんのドス黒さが恋しい
273
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/08/25(土) 23:46:09 ID:/32giy5Q
こっそりと没話投下します。以前話していた後編です。
随分長いこと間が空いてしまったので、
自分でもどんな状況だったか忘れてしまいそうだったのですが…
一応ここに至るまでの状況を整理しておくと
時間帯は二回目放送が終わってしばらくの朝〜午前にかけて。舞台はナジミの塔
人間たちに見切りをつけたピサロがアレフに深手を負わせて一時撤退。
フォズがその後を追っているという段階です。
また、(話に絡んではきませんが)この時点ではアリアハンの動乱が生じる前なので、
ローラやトルネコはまだ生きています。アリスたちは井戸の中です。
何だか改めて随分昔の話だな、と。
では投下始めます。
274
:
雪解けの時1/31
:2007/08/25(土) 23:48:43 ID:/32giy5Q
…『ひと』は、『誰か』に…なれる…?
ひとは、誰かになれるのか?誰でも誰かになれるのか?
彼女は答えを出すことができなかった。自分の中にその誰かが誰も、いないから。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくの如し…
人知れず見えずしかし確かに流れる時の中で、人は変わる。誰かになれるか否かに関わらず。
時に何かに出会い、時に何かと関わり、うつろう河の流れの如く人は、命は変わってゆく。
この世に生まれ落ちた魂は、世界の中で育まれ、やがて巣立つその時まで、
留まることなくそのあり様を変えてゆく。自分自身でさえ、気づかぬままに。
しかし変わると言うことは、常に代償をともなうもの。
新たな自分になるということは、過去の何かを代わりに失ったしるし。
成長したということは、かつての殻を脱ぎ捨ててきたことと同義であり、
新たな地へ赴いたということは、今までの居場所を置き去りにしてきたということでもある。
そして、新たな人に出会うということは、
その人を知らなかった頃の自分を消し去ってしまったということでもある。
新しく手に入れた何かと、等しいだけの失われたもの。
気づいた時には、あるいは気づきもしないままに、この手から零れ落ちてしまったもの。
それが、喜びに満ちたものであるならばよかった。
何の憂いもないならば、構わないはずだった。だが。
失われた重みは、悔いはいつも遅すぎる頃にやって来る。だから後悔というのである。
275
:
雪解けの時2/31
:2007/08/25(土) 23:49:45 ID:/32giy5Q
失われたもの。失ってはいけないのに、失くしてしまったもの。
それを思い知った時、人は変わる。変わらざるをえない。
もう二度とこの手に掴むことはかなわないから。
かといって、失ったものを知りもしなかった頃の、無邪気な自分にも戻れないから。
尊きものを呑み込みし奈落につながる崖の端先で、人は嘆き、しばし佇む。
そこで立ち止まってしまう者もいる。身も心も朽ち果ててしまうまで。
しかし再び歩き出す者もいる…『彼ら』もまた、そうだった。
それは悲哀のためか、怒りのためか、あるいはかすかな望みの故なのか。
生きている限り、彼らは再び走り出す。うつりゆく時の中で、うつろいやすい心と共に。
再び必要とされるであろう代償も顧みず、自らの求める何かを得たいがために。
…今、彼らを突き動かすその思いもまた、やがては消えてしまうもの。
いつまでも、同じままの自分ではいられないから。
しかしだからこそ、今だけの体、今だけの命、そして今にしかない願い。
それらを抱えて、彼らは今を確かに生きている。
深々と舞い落ちる雪のように、積もり積もらせてもいつかは解けて消えてしまうけど、
だけど、それでも彼らは、今を確かに生きている。
進む先にいずれ訪れるは一つの結末。されど、終われども止まらぬ時の流れ。
それは道の終わり、そして道の始まり。
冬来たりなば春遠からじ。過去と今を経て、繋がる未来への分岐点。
さながらそれは、一つの季節の終わり、雪解けの時―――
276
:
雪解けの時3/31
:2007/08/25(土) 23:51:21 ID:/32giy5Q
魔力の反応が近い。フォズは『あの人』がすぐ近くにいることを感じ取っていた。
ナジミの塔の上層部。柱と柱の間から、黄金色の光が差して見えた。
悪夢の幕開けからちょうど一日を経た。こんな狂った世界でも、一度沈んだ陽はまた昇るのか。
(…)
修行のために起床が早かったフォズにとって、
朝の陽の光は今まで、ある一時期を除けば毎日のように浴びていたもの。
しかし、この日のこの光景は、その瞳にかつてないほど感慨深く映った。
胸中に浮かぶ、悲壮な決意と共に。
今までピサロを追うことに必死だったフォズは、そこで唐突にあることを思い出した。
いけない、忘れ物があった。というより置いていかなければならないものがあった。
フォズは自分の胸元を掴んでひっぱり、服の中に潜んでいた者を手に取る。
アルスが生前飼っていた蜥蜴(に似た生き物)、レオンだ。
「今まで旅に付き合ってくれてありがとう。あなたがいたから、寂しくなかった」
レオンをそっと床に置くと、フォズは少しかがんで微笑みかけた。
事情も何も掴めぬまま、いきなり放り出されたこの世界。
どこへ行って、何をしたらよいのか、全くわからなかった彼女にとって
レオンは初めての心の支えだった。レオンがいたから、アルスのことを思い浮かべた。
彼を探すという目的で、へたりこんでいた足を動かす気にもなったのだ。
結局、元の主のもとへ返してあげるという、その願いがかなうことはなかったけれど…
277
:
雪解けの時4/31
:2007/08/25(土) 23:52:38 ID:/32giy5Q
「ありがとう。ずっと私に付き合ってくれて。
でも、もういけません。ここから先はとても危険なの。
あなたまで、こんな私のわがままに付き合わせるわけにはいきません。
だから、もう行きなさい。どこへ行けばよいかわからないけれど、
少なくとも、どこへ行ったってこの先より危険な場所はないだろうから…
だから、行きなさい」
意図が伝わるはずもないが、それでも言わずにはいられなかった。
レオンはしばらく目をパチクリまばたかせながら今の主の傍を離れずにいたが、
フォズがパン、と一回手を叩くと、急に飛び出し走り去っていく。
(ごめんね、驚かせてしまって。ごめんね、こんな所に置いてきぼりにして。
ご主人様に会わせてあげられなかった私を、どうか許してください)
幸せになってね。フォズは消え行くトカゲの後姿に
そんな当然の、しかしこんな場所ではひどく実現の難しそうな願いをこめた。
『幸せになりたい』…誰もが思うその願い。
皆がそれを知っていて、皆がその実現のために今を生きている…はずだった。
なのに何故、誰も辿りつくことができないのだろう?
そこへ行きたいと、誰もが追い求めているはずなのに。
どこかで進むべき道を誤ったのだろうか。
それとも…そもそも幸せなど願うこと自体が間違いだったのだろうか…?
278
:
雪解けの時5/31
:2007/08/25(土) 23:53:25 ID:/32giy5Q
(…いいえ、それは違います。誰にだって、幸せになる権利はあるはずです)
フォズはかぶりを振った。
それもまた綺麗事かもしれない。だけど、でなければ生きていく意味がないではないか。
ただ、見えなくなっているだけ。ただ、わからなくなっているだけ。
人の…あの人の求める幸せは、一体どこにあるのだろう?
少女はそんなことを考えた。勿論、昨日今日出会ったばかりの彼女には
正確に推し量るなどできないことだけれど。
しかし、どうなってはいけないのか、それだけはわかる…つもりだった。
その決定的な破局を回避するために、彼女は行かなければならない。
あの人をここまで追い詰めてしまった原因が、自分にあるのならば尚更。
幸せにしてあげたい、などとできもしないことを思うほど傲慢にはもうなれない。
だけど、このままでは確実に不幸になる。
あの人も、これからあの人に関わることになる多くの人々も。そして、自分自身も。
それは嫌だ。納得できない。だから、貫くしかない。泣くだけでは何もできないから…
フォズは決然とした面持ちを取り戻し、じっと前を見据える。
この階段を上った先。そこに、彼はいるはずなのだ。
279
:
雪解けの時6/31
:2007/08/25(土) 23:54:37 ID:/32giy5Q
治癒を終えた。完治とまではいかないが、腕の動きは魔王の要求に応えうるものだった。
その立ち直ったばかりの右で、男はエルフの飲み薬を手に取り、口に含む。
体の中で失われた魔力が俄かによみがえり、満ち満ちていくのを感じる。
さすがは悠久の時を生きる妖精の叡智が込められた秘薬というべきだった。
エルフの、という薬にかけられたわずかな言葉が、男の胸中に去来させるものは大きい。
それは愛惜であり、憐憫であり、あるいは憤怒でもある。
かけがえのない女性を、あの者らはこの手から奪った…ただただ、見せしめのために。
そのような所業を為した輩を見過ごすことなどできようか?否、断じて否だ。
何としてもあの者らの喉元に詰め寄り、打ち砕いてやらねばならない。
それが我が初心である。決して、見失ってはならない。
魔力と共に、精神力を回復してきたことで、ピサロは冷静な判断を取り戻そうとしていた。
同時に、蘇った力は彼に自分に近づく羊の気配を察知させた。
迷ったのではない。まっすぐこちらへ向かってくる。潜在魔力は…ほとんどない。
(…あいつか)
それが誰だがすぐに知れて、ピサロは忌々しげに舌打ちした。
賢いかと思ったこともあったが…蓋を開けてみれば、ひどく頭の悪い娘だった。
見た目は吹けば飛ぶほどか弱いのに、荒波にもまれてもいっこうに自分の考えを改めない。
頑固な奴だった。頑迷とさえ、言ってもよかった。
そして今は、あれほど脅しをかけたというのに、鴨は自らすすんで網にかかろうというのだ。
(言ったはずだ…今度私の目に映るのならば、殺すと)
ピサロは未だ姿の見えぬ方向を見据える。いっそ、丁度よいのかとも考えた。
これから彼が往くは修羅の道。全ての因縁にケリをつけるための旅。
その最初の踏み台としては、もっとも相応しいようにも思えたから。
ピサロは静かに待つ…そして、生け贄は自らの意思で『祭壇』に上がった。
280
:
雪解けの時7/31
:2007/08/25(土) 23:56:22 ID:/32giy5Q
階段を上った先でフォズは探しものを見つけた。あの人が、いた。
入り組んだ塔の中、緊張で高鳴る動悸を抑えながら、恐怖で強張る体を奮い立たせながら、
それでも少女は前を見て歩を進める。
あの時の言葉通り、『有無を言わさず』とは、彼はしなかった。
それはピサロが一時の激情から立ち直ったしるしであったかもしれなかったが、
「何故ここへ来た」
およそ楽観することなどできない凍てついた視線を、少女の瞳の中に叩き込む。
今までの彼女ならば、蛇に睨まれた蛙の如く、その場で立ちすくんでしまっただろう。
しかし今は違った。フォズは気を緩めればすぐに顔を出す怯えを振り切り、淀みなく返す。
「あなたを止めるためにです、ピサロさん」
あくまでもデスピサロとは呼ばない。予想通りだったが…つくづく意固地な小娘だった。
「ほう…私を止める?如何にしてだ。私を倒すつもりか」
「まさか。私の力であなたを倒すなど、到底不可能な話です」
「そうか…では、どうするつもりだ。この私を説き伏せようとでもいうのか?無益なことを」
「はい…それも無理だと言うことは、わかっています」
それを聞いて、ピサロが幾らか眉の角度を変えた。
どうせ説得に来たのだろう。ならばせいぜい戯言を吐かせてから仕留めてやろうか。
思い残すことのないように…そう思って、ピサロは仕掛けもせず話を聞いていたのだが、
どうも自分の予測とは違う方向へずれているようだ。
「今のあなたを言葉で止められるとは思っていません。
それができるものなら、とうの昔に、できていたはずですから」
「なるほど…しかし、ならば何をしにここへ来た?
力も言葉も駄目だと言うのならば、お前は何ができると思ってここへ来たのだ?」
「…わかりません」
フォズは、素直にそう言った。ピサロはさらに訝しげに眉をひそめた。
281
:
雪解けの時8/31
:2007/08/25(土) 23:57:57 ID:/32giy5Q
「わからない、だと?」
「わかりません。どうすればよいのか、私にはわからないのです。
でも、このままではいけない、それだけは確かだと思いました」
「だから、来たのか。力もなく、策もなく、何をしたらよいのかさえもわからず、
…ただ嫌だというだけで、来たと言うのか」
「…はい」
あっさりと認めた。ピサロは乾いた笑いを漏らす。ここまで頭が悪いとは思わなかった。
全く、こんな小娘のために、自らの身を投げ出しかけたことが甚だ愚かに思えてならない。
やはり、私は間違っていたのだ。そう決めつけることにした。
…しかしピサロは知っていた。決して理性だけが人を惹きつけるものではないということを。
かつて、自らの命の危機に瀕しながら、それでもあえて自分を害そうとする者の自由を願う。
その、一見すれば度し難いほどの愚かさ、あるいは清らかさゆえに、
彼の興味を惹いた女性がいたことを…ピサロは知っていた。だが、この時は黙殺した。
「お前は…つくづく愚かな娘だ。大人しく失せておればよいものを…!」
舌打ちしたピサロが右手をかざす。刹那、風が集まっていく。
沸き起こった空気の渦は、やがて無数の刃を持つ無色の剣を魔王の腕の中で作り上げた。
形をもたぬ変幻自在の大気の波動が、右手を振り下ろした主の命に従って空間を疾走する。
真空波だ。分散し、上下左右から迫り来るその技の本質を、フォズは看取した。
アトラスとの戦いの折にも見せた、彼女が知る限りでは、本来聖なる騎士の称号を持つ者が扱える高等技術。
それを、聖とは対極を行く魔の王者がいとも簡単に操ってみせたのだ。
迫る刃の渦を前に、少女はその手に握っていた天罰の杖を前に突き出す。
杖に込められたバギの力を使えば、相殺するとまではいかなくても、
いくらかの衝撃を軽減することができるはずだった。そう考えたから彼女は構えた…
…だが、やめた。
282
:
雪解けの時9/31
:2007/08/26(日) 00:00:27 ID:5RgYBWkA
(…!)
ピサロが眉を歪めた。真空の力を使うに見えたフォズが、何を血迷ったか急に杖を手放し、
さらにあろうことか両手を左右に大きく広げたのだ。
刃は、幼い体をあやまたず切り刻む。皮膚が裂け、鮮血がほとばしる。
全身を走る激痛に、フォズは悲鳴を上げ…かけたが、奥歯をぐっと噛み締め、
ふらつく足に力を入れて、こらえて立った。
「どういうつもりだ」
ピサロが問うた。それは、どう見ても自らをすすんで傷つける行為でしかない。
こいつの愚かしさは今更聞くまでもなかったが、それにしても。
対して、少女は体を紅に染めても、瞳の色だけはいささかも曇らせずに言い切った。
「あなたと同じです。あなたが私を助けてくださった時、その身を盾にしてくださいました。
ならば、私もそうしなければあなたを動かすことなどできない…そう思ったまでです」
結局、これしかない。これしか、フォズには思いつかなかった。
できるかできないかではなく、やるしかなかったのだ。
しかし、それもまたピサロの癇に触れた。
「それで…?そのまま私の攻撃を受け続けて、それで私を諫めようというのか?」
「あなたがお望みなら、そうします」
「ハッ…見くびられたものだ!この私の力、お前如きに耐え切れるものだと思われたとは!」
ピサロは拳を強く握った。再度、彼の掌の中で気流が集まり膨張を開始する。
「ならば、存分に喰らうがいい…それがお前の望んだ道ならば、喜んで受け取るがいい!」
風が走る。再びの真空波の前で、フォズは同じように手を広げ、そして、同じように切り裂かれる。
(ええ…喜びますよ、喜んで受けますとも)
二度も、三度も、何度でも。その果てしなく続く連鎖の中で、不意に彼女は微笑んだ。
(あなたが、ここで私に対して怒り、私に刃を向けているうちは…)
あなたは誰も殺せない。あなたは他の誰も、踏みにじることなどできないのですから…
283
:
雪解けの時10/31
:2007/08/26(日) 00:01:32 ID:5RgYBWkA
(どういう、ことだ…?)
いくらかの時の経過の中で、さしものピサロも、ことの異常さを感じずにはいられなかった。
どれほど真空波を撃ったというのか。それでも小娘一人蹴散らすことができないでいる。
彼の強大な魔力を以ってすれば、さらに高度な呪文を撃ち込むことも可能だった。
しかし、まだ敵の多いこの状況で、むやみに消耗するわけにはいかない。
そう考えたからこそ、彼は魔力をほとんど必要としない真空波を選んだのだ。
魔力なくして使用できる分、威力は極大呪文に比べれば劣る。
だから、一発や二発程度ならば耐えられることもわかる。
しかし、幾らなんでも、目の前の現実は彼の予想を反しすぎていた。
ピサロは前を見た。そこには今もなおフォズが立っている。
全身血まみれで、既に両手を広げる力もない。どう見ても半死人以外の何者でもないのに、
それでも自分の足で立って、こちらを見つめている。瞳の色は…今もなお褪せてはいない。
彼女の意外なまでの打たれ強さを考慮に入れたとしても、
それをも越える不可解な何かが働いているように思えてならなかった。
「何故、そんな姿になってまで邪魔をする…?」
ピサロが改めて問わずにはいられなかった。
「私が死神の誘いに乗ったからといって、だから何だというのだ。
お前は助けを求めて逃げ回れば済む話だろう。
私がどうしようと、お前には関係のないことのはずだ。
ましてや、そこまで傷だらけになってまで、どうにかする必要などなかったはずだ…」
「最初に、言いましたよね…?私は、あなたを止めたいのだって…」
「ここまでするほどの意味があるのか!そう聞いている!」
「はい…それだけの価値があります。だって、あなたは、私の命の恩人なのですから」
即答して、フォズが淡く微笑んだ。
その姿が誰かと重なって、ピサロの脳裏を痛々しく疼かせた。それがまた忌々しかった。
284
:
雪解けの時11/31
:2007/08/26(日) 00:03:31 ID:5RgYBWkA
「そこまで私の邪魔をしたいのか。お前は、あくまでも…」
「あくまでも?あ…」
フォズはピサロが言葉に仕切れなかった部分を洞察した。
出会ってこの方、ピサロが彼女に己の真意を語ったことはない。
脱出する方法の模索ならば幾度かした。時には声で、時には筆談で。
しかし、わかっていた。この人にとって、それは手段であり、過程にすぎないことを。
参加者全てが集められたあの始まりの場所。当然、フォズも居合わせていた。
あのおぞましい瞬間を、彼女は目の当たりにしていたし、
その結果、ピサロがどのような思いを巡らせたかも、今ならばわかる。
この人の真の目的は…おそらく…『あの主催者達に復讐すること』…
フォズは、首を振った。
「いいえ…私は、それを否定しません」
「何?」
「できようはずもありません。大切なものを奪われたあなたの怒りは、正当なものです。
失うべからざるものを失ったことへの哀しみは、私にもわかるつもりですから」
伏しがちな瞳で語るフォズにも、ダーマを司る大神官としての苦い記憶がある。
転職の神殿の頂点に立つ長でありながら、かつて彼女は魔物に神殿の支配を許してしまった。
少女は牢獄の奥深く、長きにわたって幽閉され、
その間大勢の人々が魔物の姦計にはまり、絶望し、傷つき、そして命を落としていった。
少女は、怒らなければならなかった。彼女は、許してはならなかった。
神殿を巣食い、人々を翻弄する魔物たちを。それを防ぎ得なかった自分自身を。
命を慈しむ思いと共に、怒るべき時に怒る感情もまた、心ある者として当然のことだった。
許せないことを許せないと言って、いけない理由はない。
何もかもをただ笑って甘受するだけでは、忌むべき現状を覆す力とはなりえないのだから。
怒ること…時として、それは正しい。しかし、同時に忘れてはいけなかった。
そこにはともすれば陥りやすい悪魔の罠が仕掛けられていることを。
285
:
雪解けの時12/31
:2007/08/26(日) 00:04:29 ID:5RgYBWkA
「あなたが怒るのは当然のことです。
しかし、だからといって憎んでは、恨んではならないのです」
「どう違うと言うのだ?小娘が小賢しいことを…」
「違います。悲しむこと、怒ることと、憎しみとは別のものです。
憎しみに支配されてはいけません。
愛しい人を奪った者たちへの恨みに心を委ねてはなりません。でなければ…」
そこでフォズは一瞬躊躇した。しかしすぐにその気持ちを振り切って、言い切った。
「でなければ…あなたは!あなたの大切な人を奪われただけではなく、
誇り高きあなた自身の、その心をも奪われることになります。
あなたの全てであり、あなたの大切な人が愛したであろう、その心を!
それでいいのですか…?心を歪められて、それであなたは満足するのですか?
私の言っていることは何か間違っていますか!ピサロさん!」
「!…黙れぇ!!」
ピサロが右手を高々と差し上げた。
…何も言い返すことができなかった…この、私としたことが!
だから、代わりに返礼をくれてやることにした。
彼の怒りをそのまま具現化したかのような高熱が、掌の上で充満し
やがてそれは集約され、一つの小さな光球となる。
もしその目映い光の中に美があるとするならば、それは呪われし滅びの美学に他ならない。
万物を砕く精霊の槌、イオ系最大の呪文・イオナズン。
それが、満身創痍の少女めがけて発射された。
既によける気も、その力もなかった彼女は、抗うことなく熱と爆風の荒波に呑み込まれた。
塔全体が揺れた。
構造が脆ければ一気に倒壊してしまいそうなほどの衝撃が、その時かけめぐった。
286
:
雪解けの時13/31
:2007/08/26(日) 00:05:42 ID:5RgYBWkA
「なんだっ!この衝撃は!?」
その余波は遥か下の階にいる別の人物の処にも伝わり、
不意に地震に襲われたかのようで、青年はバランスを崩して片膝をついた。
彼は先だっての放送直前にこのナジミの塔のある島に流れ着いた男。
トロデーン城近衛兵隊長エイトである。その胸には今、疑念が渦巻いている。
この戦いに参加させられた時点から既にそうだったが、この島に辿り着いてからも
彼は、自らの心を激しく揺さぶられる理由に事欠くことがなかった。
件の放送で、彼は、自分が守ろうとした姫君ローラが健在であることを確認した。
それが唯一の救いではあったが…一方で、彼はまた戦友ククールの死をも突きつけられた。
どこでどう死んだのかさえ知るすべもない。
それは、かつてレーベで救いえず、自らの不敏を忌々しく思い
今改めて放送でその死を確認させられたあのドラゴンの死とも重なって、
重苦しい衝撃を、エイトの内側に走らせたのだった。
しかも、この地でさらに追い討ちをかけるような状況を目の当たりにしたばかりである。
無為でいることに耐えられなかった彼は、何とかアリアハン方面へ向かう道はないものかと、
重くひきずる心と体に鞭打って探索を始めたところだったが、
まず彼が見つけたのは…道ではなく、死体だったのである。
その死体には、彼のよく見知ったはずの赤いマントがかけられていた。エイトは動揺した。
かの地へ旅立ったと言うククールのもの…では、これが『あいつ』なのか?と思ったが
恐る恐るマントを外してみれば、中からはククールの銀髪とはおよそかけ離れた
黒髪の青年が現れたのである。
ククールではなかった。しかしマントの存在が、この青年の死に
自分の戦友が一枚噛んでいるらしいことを、エイトは考えざるをえなかったのである。
287
:
雪解けの時14/31
:2007/08/26(日) 00:07:13 ID:5RgYBWkA
(…ククール、まさか君がこの人を殺したのか?)
不本意ながら、そんな疑惑もよぎったが、これは比較的早くに霧消した。
その理由は青年の死因である。彼は、胴を大きく切り裂かれていた。
明らかに凶器は剣。しかも一流の戦士が一流の剣を持った時にのみ許されるというべき、
見事な斬撃だったのである。
以上の状況から、犯人はククールではない。そうエイトには判断できた。
あいつも剣を扱うことはできたが、細身のレイピアやサーベルなどの扱いが本分で、
さらにはそれ以上に弓の腕を磨き上げていた。長剣を持ったことなどほとんどないはず。
このような斬撃を生み出すほどの大剣を、ククールが自在に使いこなすのは無理だ…
そこまで考えて、不意にエイトは青年の命を奪った凶器が何であるかが気になった。
彼との面識はないが、見るからに逞しく、味方にすればさぞ頼もしいだろうと思える。
そんな人の命を易々と奪った剣…そんな業物がこの世界にいくつもあるものだろうか?
エイトの推測が一つの方向に定まったのは、遺体のあった周辺を見てのことである。
幾つもの焼け焦げた跡。しかし火ではない。
膨大な熱量を帯びた何かに切り裂かれたかのようだ。おそらくは電撃、しかも高度なもの。
これらからエイトが導き出した結論は…『ギガデイン』
そして、青年に刻みこまれた鋭い刃の跡を重ね合わせて、彼の頭に浮かんだ凶器…それは、
(竜神王の剣…?)
確証はない。エイト自身がそうであるように、
ギガデインはその術者本人の能力かもしれないからだ。
しかし、畏怖するに足る恐ろしい力を持った剣が、
やはり恐ろしい力を持つ誰かの手にあることは、青年の死に様から明白であり、
まだまだこの戦いが終わりを見る時は遠いのかもしれない、と思わざるをえなかったのだ。
そんなことを考えて再び動き出した矢先に、彼は例の衝撃を受けたのだった。
288
:
雪解けの時15/31
:2007/08/26(日) 00:10:58 ID:5RgYBWkA
それは、奇妙な感覚だった。恐るべき、と言ってよいのか判断がつかないのである。
上層部で−おそらくはイオナズンによる−爆発が起こったことは間違いない。
その余波が、塔の一番下にまで伝わってきた…
本来ならばその術者の力、凄まじきものと見るところであったかもしれない。
しかし、一方で釈然としない部分がある。何故こんな下にまで影響が来るのか?と。
エイトは、自身はイオナズンの使い手ではない。しかし彼の仲間だったゼシカが
この呪文を得意としていたから、ある程度のことは知識として掴んでいる。
攻撃魔法は、レベルの高い術者が使うほどに威力は高まる。
そんなことは子どもでも知っている常識だったが、範囲は必ずしも広がるとは限らない。
魔法とは、その命名の通り、魔につながる呪法。
使い方次第で術者は世界を救う神にもなれれば、滅ぼす悪魔にもなれる。
それ故に、暴走することは許されない。
魔術を扱う者は、己の持つ力を高めることと同等、あるいはそれ以上に
自身を完璧にコントロールすることを求められる。
自らの目の届かないところまで効果をもたらしてしまうとすれば、
一見便利なようで、実際には始末に困る代物でしかない。
もし、この呪文の使い手が自分だったならば…逆に範囲を小さく絞るだろうとエイトは考える。
どのような意図があるにせよ、己の居場所をこんな遠くにまで露呈してしまうような手立てが
有効だとは考えにくい。たとえ目の前の敵を倒せたところでまた新たな敵を招いてしまうだけだ。
だから、彼は思う…この力はすごいが、『何かがおかしい』と。
いずれにせよ、上で何かが起こっているのは間違いない。
どうする、行ってみるか…?天井を見上げながらしばしの思案に頭を悩ませていた時、
「うわぁぁぁぁっ!!」
今度は下の方から誰かの叫びが聞こえてくる。エイトは苦虫を噛み潰した表情を顕にした。
荒波に揉まれた先で、どうやら僕はとんでもない場所に招かれてしまったようだ。
一体ここで何が起こっているというのだろうか?
289
:
雪解けの時16/31
:2007/08/26(日) 00:13:36 ID:5RgYBWkA
溢れてしまいそうなほどに膨れ上がった不安を抱え込んで、声の方角へ彼は駆けていく。
何を意味するか判断がつくはずもないが、少なくとも罠に類するものだとは思えなかった。
ナジミの塔の内部へ侵入したその矢先に、下りの階段があった。
声はおそらくこの先から聞こえたものに違いない。エイトは唾を飲み込んで歩を進める。
降り始めてすぐに、エイトは先ほどの声の主とおぼしき一人の戦士の姿を確認した。
左足を抑え、うずくまっている。酷い怪我だ。
この足で無理にでも進もうとした時に、先ほどの衝撃を受けて、転落してしまったのか。
近づいてエイトは気づいた。彼はその戦士を知っていた。ほんの短い間ではあったが、
今は既に崩壊してしまったレーベで、目の前にいる人物と会話もしたのだ。
「ア、アレフさん?」
「だ…誰だ?俺を呼ぶのは…」
痛みに震える体を起こし、アレフは血色の悪い顔をエイトの前に晒す。
「君は…確か…そうだ…エイト君だったか…どうしてこんな所にいるんだ…?」
それはこちらの台詞だ、とエイトは思った。
まったく、あの村での別れから数時間しか経っていないというのに、
アレフの消耗は著しく、とても再会を喜びあえるような空気ではない。
おまけに彼と同行していたはずのキーファの姿も見えない。
一体何がどうなれば、ここでこのような形で再び相見える状況となるのだろうか。
「とにかく、回復を!」
聞きたいことは山ほどにもあったが、今はそれ以前の問題だった。
全身傷だらけといって差し支えない有り様だったが、まずは一番の深手に見えた
左足の治療を優先すべきだと思い、エイトはアレフの傍で跪く。
掌にベホマの光を宿らせ、患部に当てようと差し出した時、
その視野の中にアレフの腰の鞘に納まっている剣が入った。エイトは目を見張った。
(!まさか、そんな…?)
290
:
雪解けの時17/31
:2007/08/26(日) 00:15:25 ID:5RgYBWkA
見間違えるはずもない。
アレフが所持していたその剣こそ、エイトの故郷・竜神族の里の至宝であり、
あの青年を害した可能性が高いと疑念を抱いた、竜神王の剣そのものだったのである。
「…どうしたんだ?」
エイトの奇妙な停止を、アレフは不審に思って声をかけたが、直ちには答えられない。
まさかアレフさんが?と思った。しかし、この疑惑もまたすぐに否定された。
先ほどの遺体は、既に死後硬直も全身に及び、およそ一日が経過していると予測できた。
一日前…つまり昨日の朝、この戦いが始まった直後のことである。
対して、エイトがアレフと面識を持ったのは昨日の夜、レーベでのこと。
その時の彼は、竜神王の剣を持っていなかった。だから、アレフにあの人は殺せない。
…つまり、−仮に竜神王の剣が凶器だということが事実だとすれば、だが−
あの人を殺した犯人は別にいて、その犯人が凶器を何らかの理由でアレフに渡した。
もしくは、アレフがその者から奪ったということになるのだろう。
いずれにせよ、ククール同様、アレフにもあの人は殺せない。状況がそれを証明している。
そして、さらに、その時エイトが気づいたのは―――
「似ている…」
「何?」
「似ている…アレフさんは、あの人に…似すぎている…」
「何だ?一体、何を言っているんだ?」
そこでようやく現実に立ち返る。
問われてエイトは説明した。この近くに死体があったこと。
その死体はおそらく昨日からのもので、胴を大きく切り裂かれていたということ。
そして、その顔が…今、目の前にいる彼、アレフと酷似していたことをエイトは告げたのだ。
291
:
雪解けの時18/31
:2007/08/26(日) 00:18:30 ID:5RgYBWkA
「俺に似た死体…?」
アレフは困惑した。知らない。彼に親兄弟はいない。
ローラを除けば、今は孤独の身であるはずだった。心当たりなどあるわけがない。
けれど、先祖子孫にまで枠を広げて考えた時…アレフの中に一つ閃くものがあった。
それは、かつて死ぬ前にサマンサがアレフに言ったことである。
彼の先祖であるあの勇者ロト・アリスがこの世界にいるのだと…
サマンサは話の中で『彼女』と言っていたから、勇者ロトことアリスは女性であるらしい。
かたやエイトの言う遺体は男のものだから、未だ見ぬ彼女とは一致しない。
だとすれば…その青年の正体は…?
過去の人間であるはずの勇者ロトと、自分とが同じ時代に放り込まれているように、
まさか、その死した青年は、自分にとってもしや…?アレフの鼓動が格段に速さを増した。
「一体…誰なんだ…君はその人を知っているのか…?」
「こんなふうに話しているくらいですから、どんな人物だったかまではわかりません。
でも、名前だけならば。支給された名簿で確認しましたから」
「名前…?」
「ええ。確か…そう、こう書かれていたはずです。その人の名前は――」
その声は大きな愕然と化して、アレフの鼓膜を通じ全身を貫いた。
――ドクン
あの男の声が、俄かによみがえる…
『王ではない』
――――――ドクン
『もはや王とは名乗るまいよ。今のワシは、ただの――』
アレフの瞳の焦点が、狂った。
292
:
雪解けの時19/31
:2007/08/26(日) 00:21:01 ID:5RgYBWkA
「バ、バカ、な…!き、貴様…一体、何を…?」
「アレフさん?どうしたんですか!?」
エイトの目の前で突然、疲労や苦痛とは全く異質の変調をアレフは起こした。
瞳が揺れる。汗が噴き出す。全身が震える。自身の体が、まるで別の生き物であるかのごとくうごめく
エイトがしきりに声をかけた。しかし、その呼びかけは、アレフの耳には入らない。
「貴様…一体、何をした…何故その名を…どういう、つもりなんだ…」
竜神王の剣、あの名前、あの男。竜神王の剣、あの名前、あの男…!
それらが現れては消え、消えては再び現れる。
アレフの頭の中を目まぐるしく巡り巡らせ、かき乱す。
それらの事象を、疲労しきった心と体ではおよそ整合させることもかなわず…
彼の意識ははじけ、回廊の床にゆっくりと体を沈めてゆく。
「お前は…一体…何を…かんが、えて…」
「アレフさん?アレフさん!どうしたというんです!しっかりしてください!
アレフさん、アレフさん、アレフさん―――――――――!」
声がだんだんと遠くなっていく…悲鳴にも近い叫びも届かず、アレフは意識を失った。
本当に、ここへ来てからというもの、エイトが思い悩む理由に事欠くことはなかった。
一体彼に何があったのか、一方、上で何が起こっているのか、全く判断がつかない。
気にかかることは山ほどにもあったが、ともかくも、
エイトとしては目の前で気絶したアレフを一人残していくわけにもいかず、
その場に留まり、しばし彼の介抱にあたることになる。
目覚めた時、アレフが何を思い、どう心に決め、どのような行動をとるのか、
全ては未だ闇の中に堕ちたままであった。
ただ一つだけ、確かなことは…
これらのことがために、彼らが、『彼ら』の元に辿りつくことは、ついになかった。
293
:
雪解けの時20/31
:2007/08/26(日) 00:23:28 ID:5RgYBWkA
―――そして、舞台は再び塔の高層部へ…
(何故だ…何故、どういうことなのだ…)
下の階層で二人の勇者を揺さぶった術者もまた、今は冷然とは程遠く、
沸き立つ疑問に答えを導き出せずにいた。イオナズンを撃った右手を突き出した姿勢のまま、
同じ言葉を幾度もピサロは頭の中で呻くように反芻する。
手応えはあった、間違いなく命中した。確信があった…なのに。
「何故、お前はまだ生きている?何故、まだ立っていられるのだ!?」
ピサロは彼の優れた視力をもってしても、未だ肉眼で確認できない相手に対して叫んだ。
舞い上がった膨大な粉塵の壁に、全てが遮断された空間。
比して相手は小柄すぎる体、既に感知できるほどの魔力もない。
塔の壁と同様、生きているどころか粉々に砕け散ったとしてもおかしくないのに。
「ピサロさん…」
それでも、やはりいた。
イオナズンの余波がおさまりつつあった爆心地で、やはり…まだ、立っていた。
フォズがまた、あの名前で呼んだ。ここまで虐げられて、ここまで痛めつけられてもなお、
彼女はピサロをデスピサロとは、ついに呼ばなかった。
「わからぬ…どうして生きていられる?不死身か何かだとでもお前は言うのか」
「まさか。それならどんなにいいかと思ったこともありましたが…ただの人間です、私は」
「ならば何故まだ立っていられる!?」
「それは…ピサロさん。それはあなたが、一番よくご存知のはずです」
「何だと…?」
ピサロは思わず目を見張った。心当たりなどなかった、はずだ、が…
「イオナズンも、真空波も、どれも十分な威力を持った技でした。
本来ならば、いかな屈強の者をも打ち倒すほどの力があるはずでした。
でも…わかりますよね、ピサロさん。あなたになら。
これらの技が、術者の精神力に大きく左右されるものであるということは…」
294
:
雪解けの時21/31
:2007/08/26(日) 00:25:49 ID:5RgYBWkA
その言葉の意味が、ピサロの頭に浸透するのにはいくらかの時間を要した。
しかしそれを理解しえた時、彼の中で何かがはじけた。
まさか…?しかし、思い返せば全ての事象がそれを証明していた。
先ほどのイオナズンの時、『塔全体が揺れた』
それ自体は、ピサロの持つ魔力の恐ろしさを示すものだったが、
同時に、そこには全く逆の真実が含まれていた。別の場所で、エイトが予測したように。
すなわち、彼の呪文の威力がこれほどの範囲に広がったと言うことは、
翻せば、それだけ分散されて、中枢にかける力は薄まっていたということ。
中枢にかける力…つまりは、本来狙うべきであったこの娘に対して…?
「私が今、ここに生きて、こうして立っていられる。
その事実こそがすなわち、あなたが殺戮者になりきれていない証拠なのです。
でなければ…私なんかが、あなたの攻撃に対して、
一発だって耐え切れるわけがないじゃないですか…」
少女の口調はゆっくりとしたものだったが、ピサロの世界をぐらつかせること甚だしかった。
あの時も…そうだ。そもそも最初にこの娘と対峙した時、
かつての宣告通りに問答無用で殺そうともせず、無為に時間を費やした。
思い残すことのないように、あるいはこちらの余裕を示すためと、思い込んでいた。
しかし、そんなもの元々必要なかったはずではないか?何故そんな無駄な理由をあえて作った?
本気で殺すつもりがあったのなら…真に、己がデスピサロであるのならば!
(莫迦、な…!)
ピサロは不意に震えだした自分の手を呆然と眺めていた。
ずっとこの娘に、無意識のうちに手加減をしていただと?私が?人間の小娘などに?
この期に及んでさえそんなふざけた道化に、気づかぬうちに私がなっていただと?
信じられない。認められない。認められようはずもない。
…しかし、でなければ…今相手を殺しきれていないこの事実を、彼は説明できなかった。
295
:
雪解けの時22/31
:2007/08/26(日) 00:27:19 ID:5RgYBWkA
「ねえ、ピサロさん…」
愕然とする魔王に対して、少女が変わらず静かに語りかけてくる。
「あなたは強い人です。あなたは、誰よりも恐ろしく、誰よりも誇り高い人です。
しかし、そんなあなたは…誰よりも、危うい人です。
きっと、あなたの大切な方は、そんなあなたの危うさを包み込むように愛し、
そして…最期まで、あなたの行く末を案じられたことでしょう。
確証も何もないことですが…私は、そう思います」
『ピ…サロさ…ま…来て…くださったのですね…』
ピサロは思い出す…ロザリーの臨終の言葉を。フォズは知る由もない、かつての死の場面を。
あの時、ロザリーは既に血まみれだった…今、目の前にいるこの小娘のように。
『ピ…サロさ…ま…お願いです…わたしの…最後のわがままを…聞いてください…』
なのに、彼女は…最期まで何一つ、誰に対しての恨み言も口にすることはなかった。
彼女が願い、望んでいたのは…最期の、最期まで…
『ど…どうか…野望を捨てて…わたしと…ふたりきりで…ずっと………』
「お願いです…ピサロさん。私は、あなたの目的を阻もうとは思いません。
ですが、忘れないでください。それはとても危険な道なのです。
一歩間違えれば、何もかもを闇に葬り去ってしまうほどの…
だから、お願いです。どうか最後まで、あなたはどこまでもあなたでいてください。
そう、あなたに愛された方が愛した、あなたのままで…
……だから…あなたが、この世界で、デスピサロとして命を奪う相手は…」
フォズがニコリと笑った。直後、視界が歪んだ。
「私が…最初で、最後です…」
296
:
雪解けの時23/31
:2007/08/26(日) 00:28:21 ID:5RgYBWkA
「……!」
来るべき時が来た。ようやく追いついた死神がフォズを捉える。
代償を受け取る時が来た。
最後の意地が、今まで気丈さを保ち続けていた足がついに限界に達したのだ。
膝から力が抜けると、もはや踏みとどまる気力もなく、少女の体が崩れてゆく。
ピサロの目の前で、ゆっくりと。
「………ぬ…な……!」
その時、ピサロは自分でも思わぬことを口走った。
一瞬、彼は己が信じられなかった。ありうるべきではなかったのだ。
その台詞は、魔王たる身が口にしてよいものではなかった。
あるとすれば、その相手は彼が自らの心の聖域に置く唯一の女性に対してだけであって、
断じて、目の前にいるような小娘にではなかった。
理性はそう言っていた。だが感情がそれを押し流した。だから、
隠すこともなく、彼は叫んだ。同じ言葉を、もう一度。
薄れゆく意識の中で、フォズは自分が呼ばれていることを知り、
ああ、これでまた、以前のようにこの人と話ができるだろうかと思いながら、
しかし、もはやそれを許そうとしない体の如何ともしがたさを感じながら、
彼女の心は、深淵の中へ堕ちていった…
297
:
雪解けの時24/31
:2007/08/26(日) 00:29:25 ID:5RgYBWkA
…チロリ、チロリ。何かが顔を刺激する。
チロリ、チロリ。くすぐったい。痛みよりも何よりも、その感覚が彼女をとらえた。
一体、何だと言うのだろうか。
うっすらと、少女が目を開けると、そこには一人の若者の姿があった。
フォズは驚いた。その人は、彼女にとって終生忘れることのできない恩人であり、
…そして、今はもう、この世にいないはずの人だった。
(アルス…さん?)
翠の頭巾をかぶり、柔和な印象を帯びたその少年はゆっくりと歩み寄り、
満身創痍で倒れ伏した少女の前で跪く。
痛かっただろう?と声をかけてくれた。そして、彼女の小さな頭を優しく撫でて、
よくがんばったねと褒めてくれた。フォズは泣きそうになった。
「アルスさん…アルスさん!」
フォズは叫んだ。正確には、叫んだ気になった。
ようやく意識がもどり、前を見れば、そこにやはりアルスの姿はなく、
(あなたは…)
一匹の蜥蜴・レオンが、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいるだけである。
(あなたは…せっかく危なくないよう置いてきたのに、結局来てしまったの?
まったく、あなたは本当のご主人様に似て、のんびりしているようで無鉄砲すぎます)
自分のことも棚に上げて、フォズはお説教がしたくなった。
でも、ありがとう。少女はレオンに向かってお礼の言葉をつぶやく。
きっとこの子が、今はいない主の魂を運んで、自分にいい夢を見させてくれたのだ。
…それは、おそらくただの幻影だろう。彼女の願望が生んだ錯覚にすぎなかったろう。
しかし時として、真実より尊い虚構が、価値を許されることもあるのだった。
298
:
雪解けの時25/31
:2007/08/26(日) 00:31:00 ID:5RgYBWkA
それにしても、どうして再び目覚めたのだろうか。彼女は不思議に思った。
バランスを崩して倒れたあの時、ああ、これで自分は死ぬんだと感じたのに。
それがまだ生きて、しかも意識を保っているだなんて。
ひょっとして、実はとっくに死んでいて、今は冥土へ向かう道の途中なのかと思ったが…
「大人しくしていろ」
うつ伏せになっていて見えなかった背後に、
手が置かれている感触があるのを、ようやく彼女は察知した。
頭上から光の幕が舞い降りてくる。暖かい力が、流れこんでいた。
「ピサロさん…?これは…?」
「大人しくしろと言っている」
少女の体に注がれたのは、破壊や憎悪とは対極をゆく、心地よい癒しの力…
…それは、客観的に見れば、わずかばかりの延命行為でしかなかった。
まだ彼女は生きていたとはいえ、受けた傷はもはや致命的。
本来の世界ならばともかく、十分な回復効果を得ることのできないこの場所で、
いかにベホマの力をもってしても、彼女を再び立ち直らせることなどできようはずもない。
ピサロがしていることは所詮、亀裂の入った風船を膨らませるようなもので
溜めたはずの気は、すぐに虚無へと消えていく。
これからじわじわと死んでいく、その期間を長くしてやるだけでしかなかった。
しかし、当の治療を受けている本人には、そんな冷静な分析などできなかったし、
仮にできたとしても、そんなことはどうでもよかっただろう。
あのピサロさんが、全てを滅ぼすとまで言い切った、あの人が
自分のために魔力を減らしてまで手を施してくれている…
「暖かい…気持ちいい…嬉しい、です」
夢から醒めても、結局彼女は大粒の涙を流したのだった。
299
:
雪解けの時26/31
:2007/08/26(日) 00:32:04 ID:5RgYBWkA
(あ…?)
それは、随分久しぶりに思える、懐かしい浮遊感。
フォズの治療を済ませると―無理だと悟ったとも言う―ピサロは立ち上がり、
以前のように少女を抱きかかえて立ち上がる。つられてレオンも飛び乗った。
「…どこへ、行くのですか?これから」
焦点の定まらぬおぼろげな瞳で、フォズはピサロの顔を見つめようとした。
「まだ決めてはいない…お前ならばどう考える?」
「…珍しい。というより初めてですね。あなたが私にそんな意見を求めるなんて…」
「うるさい。せっかく聞いてやっているというのに」
迂闊にも失言をしてしまったことに、直後に気づいてピサロは軽く舌打ちした。
もはや残り時間の少ない者への、せめてもの情けのつもりだったのだが、
確かに『らしくもない』ことだった。
フォズにはそう感じたし、自分自身でも同じように思っているに違いなかった。
「…わかっています。お気遣いありがとうございます…でも、私はどこでもいいです。
だって…一番来たかったところには、もう着いてしまいましたから」
フォズは柔らかく微笑んで、その頭を魔族の男の肩に預ける。
それもまた、らしくもなかった。
いつもなら気恥ずかしくてとても言えそうにもできそうにもないことが、今は自然にできた。
(ピサロさん…本当に、あなたはどこへ行くのでしょう?これから…)
ピサロの肩にもたれかかりながら、少女は考える。
ピサロ。冷徹な魔王という一面を持つ男。それは事実だ。しかしこれが全てでもないようだ。
魔の者とて、また今を生きる一つの命。悩むこともあれば、間違えることもある。
…でも、それでいいではないか。誰だって迷う。誰だって過ちを犯すもの。
答えは初めから決まってなどいない。皆戸惑い彷徨いながら、自らの道を選び、歩んでいく。
それが、『生きる』ということであり、それ故に命には価値があり、可能性があるのだから。
300
:
雪解けの時27/31
:2007/08/26(日) 00:33:05 ID:5RgYBWkA
この人、ピサロが選ぶ可能性…
全てを滅ぼす魔王になると、彼は言った。おそらくそれは嘘ではない。
少なくともその逆、全てを滅ぼしうる力など持ちたくないとなれば、はっきりと違う。
でも、フォズには何となくわかった気がする。とても面と向かっては言えないけれど、
自分自身でも理解しているか知れないけれど、この人が真になりたいと思っているもの。
それは、おそらく…
難問だった。彼にとってみれば、魔王になるよりも難しいことかもしれない。
少なくとも、現時点では完全に不可能なことだった。
それ故に、この人はこの後どうしてゆくのだろう。何に価値を見出して進むのだろうか。
気になった。気になって気になってたまらなかった。
これからも、今しばらくは、この危うすぎる人の行く末を見守っていきたいと思うけれど、
理不尽に奪われた大切な人の代わりに、傍で支えてあげられるのならばと願うけれど、
そのどちらも…私はもう、この人と共にあることはできない…と、わかっていた。
私にはもう祈ることしかできない。だから、せめて祈りたい。いつまでもいつまでも。
そう願った時、ふと少女の頭の中であの言葉が再びよみがえる。
彼女が信じた、信じていたかった、あの言葉が。
…生きとし生けるものの生き方、ここに表されし。
無限の可能性は各々違った形で自分自身に宿る…
魔物、人、生は平等なり。命は理解を深め、人は魔物にもなり、魔物は人にもなる。
人、いつか魔物の力を手に入れる。魔物も又等しくその可能性あり。
癒しの魔物、異世界の地にて、人と成る。
世界の勇者伝説を紡ぐ吟遊詩人となりて、また人々に語り伝える、その神話。
言うべきことは一つ。 誰にでも、何にでも未来は待っている…
『…ひとは、誰かになれる…』
301
:
雪解けの時28/31
:2007/08/26(日) 00:34:33 ID:5RgYBWkA
誰にでもあるはずの可能性を示す言葉…一度は否定してしまったその想い。
私は、誰にもなれないと思った。誰かになれる価値などないと感じていた。けれど。
(…私も、誰かになれたのかもしれません)
今は、そう思えた。
彼女がなれた誰か。それは、誰かを導く志を持った神官ではなく、
誰かの野望を阻む力を宿す勇者でもなく、
あるいは誰かを愛し、愛される女性でもなかった。
彼女がなれたのは…ただ、自分が出会った人々の行く末を案じて死んでいく、
いつかはやがて忘れ去られるはずの、名もない一人の少女だった。
強くもなければ立派でもない。傍から見れば、本当にちっぽけな、誰か。
それでも、フォズは嬉しかった。この不吉と不穏だけが全てを支配する世界の中で、
最期まで、誰も恨まず誰も憎まず、ただただ誰かの幸せだけを願って消えてゆける。
きっと、私は今、この上もなく、幸せなのでしょうね…
少女はかすかに微笑んだ、そして祈った。
私は死ぬ。だけど、私と共に生きてくれた人々は、僅かでも今もなおその命を繋いでいる。
それぞれの場所でそれぞれの思いを抱えて、痛んだ体と傷ついた心を抱いて…
苦しいだろう、辛いだろう。けれど、それでも前を向いてゆくのだろう、きっと。
だから、どうか。この得がたい想いをくれた人たちが、すぐにこちらへは来ないことを。
その生涯が豊かなものとなることを、心から、少女は祈った。
「私は…ピサロさん、私は…あなたを……わた、しは、あな、た、を………」
既に光が失われた両目から涙があふれ、
フォズの魂は窮まりのない闇の中に溶けていく。
大きく息を吐くと、その息吹とともに彼女の体内から生命の最期の煌きが零れ落ちた。
少女は静かに瞳を閉じて、ゆっくりとその頭を、自分を抱きかかえた男の胸の中にうずめる。
302
:
雪解けの時29/31
:2007/08/26(日) 00:35:46 ID:5RgYBWkA
私を…何だ?ピサロはかすかにしか聞こえなかった少女の呟きに耳を傾けていた。
しかし、声は二度と届かなかった。いくら時を待つことに費やしたとしても。
呼吸も鼓動も、ピサロを響かせるものは既に何もなかった。
そこにあったのは、ボロボロに朽ち果てて、
なのに何故か嬉しそうに微笑んで息絶えた、一人の少女の魂の痕跡でしかなかった。
二日目の朝。太陽の光がかすかに届く、薄暗いナジミの塔でのことであった。
「死んだのか……?」
ピサロが呟いた。反応はない。
少女の肩に乗っていたレオンがチロリと舌で今の主の頬を撫でたが、
幼い主人はもはや子蜥蜴に笑いかけてはくれなかった。
何度か同じことを繰り返した後、レオンは死者の顔を見つめて寂しげに小さく唸る…
(死んだのか?フォズ。私に殺されて、逝ったのか?お前は…)
何の誤解のしようもない。この娘は、間違いなく自分が殺したのだ。
(なのに何故、お前はそんなに安らかに眠っているのだ?
自分を殺した者の腕に抱かれて、お前は…)
もはや答えを返しえないその小さな体を抱く腕に、自然と力がこもっていた。
愛しくなどなかった。かけがえのないものでもなかった。
だが、この胸によぎるものは何であろう…柄にもなく、後悔しているとでもいうのだろうか。
ばかげたことを、と一笑に付す気にはならなかった。
死した彼女の最後の忘れ物…この顔に残った安らかな微笑みが、
男の気持ちを和らげさせたのだろうか。かたくなな氷を、ゆっくりと溶かすように。
愛しくなどなかった。かけがえのないものでもなかった。
あるのはただ…虚しかった。
303
:
雪解けの時30/31
:2007/08/26(日) 00:37:26 ID:5RgYBWkA
『…私が…いるから……泣けない…あなたの…代わりに…私は、泣いて…います』
そんな莫迦なことを、人の悲しみを分かち合えると本気で思っていた娘はもういない。
代わりに流す者がいない涙がひとしずく、自身の頬を伝って流れて消えた。
…不甲斐ない。魔王として、あまりにも情けなさすぎる。私は生きるのだ。
自らの意志によって生き、滅びるとしても、それもまた己の意志によって。
何と言われようとも、ロザリーの命を奪ったあの輩どもを、やはり私は許さない。
野放しになどさせてはおかぬ。奴らには必ず誅罰を加えてみせる。
私は生きる。生きて、奴らの思惑をことごとく粉砕してみせるのだ。
私は、生きる…そうだ、奴等の掌で望んで踊ることなど、決してしない。
一陣の風が、男の中に降り積もっていた漆黒の雪を吹き飛ばす。
ピサロは決意を新たにした。その思い、それはすなわち、
―――今この時、ピサロの胸中で、この世界に来たときより、
ここに至るまでずっと抱えていた、一時は完全に支配されつつあったはずの
選択肢の一つが、完全に消えた―――
…そこに、もはやデスピサロの影はなかった。
あるのはただ、魔族の男と、命を失いし人間の少女。
喪主と死者だけの孤独な葬送行進が、静かに、しめやかに続いているだけだった…
304
:
雪解けの時31/31
:2007/08/26(日) 00:39:17 ID:5RgYBWkA
【E-3/ナジミの塔下部/朝〜午前】
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/4 MP1/3 背中に火傷(軽) 左足に刺傷(治療中) 疲労 全身打撲 足元がおぼつかない 気絶
[装備]:竜神王の剣 ロトの盾 はやてのリング 風のアミュレット
[道具]:鉄の杖 消え去り草 ルーシアのザック(神秘のビキニ) 奇跡の石
神鳥の杖(煤塗れ) 鉄兜 ゴンの支給品一式 ルビスの守り アサシンダガー
[思考]:ローラ姫を探し、守る 「アレン」への疑惑
【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/2 左肩にダメージ 腹部と背中に打撃 火傷 疲労
[装備]:メタルキングの槍
[道具]:支給品一式 首輪 あぶないビスチェ
[思考]:仲間(トロデ・ローラ優先)を探し、守る 困惑しつつ今はアレフの介抱
危機を参加者に伝える
【E-3/ナジミの塔上層部/朝〜午前】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP5/8 MP2/3 軽度の全身打撲 中量の出血(既に止血)
[装備]:鎖鎌 闇の衣 炎の盾 無線インカム
[道具]:支給品一式(二人分) 首輪二個
天罰の杖 アルスのトカゲ(レオン) ピサロメモ
[思考]:ロザリーの仇討ちとハーゴンの抹殺を完遂させる しかしゲームには乗らない
【フォズ@DQ7 死亡】
【残り11人】※まだ生存者が12人だった時なのでこの数です
305
:
◆9Hui0gMWVQ
:2007/08/26(日) 00:44:07 ID:5RgYBWkA
以上で投下終了です。どうもありがとうございました。
自分としては、この話が初めて人を死なせてしまう展開だったので
大分慎重に書いた感があります。慎重すぎて冗長になってしまった感もありますけど。
あと、「愚かなる戦士たちの輪舞」と似たような状況描写がありますが
既に文章力が枯渇しているものだと生暖かく理解していただければ幸いです。
ちょっと懺悔
アレンについて聞かされた時のアレフの反応が本編と180°違いますね。
それにしても何だかこのパート書くたびにアレフを痛めつけてる気がします。
ごめんアレフ、悪気があるわけじゃないんだ。
306
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/08/26(日) 22:47:47 ID:Gx5rqjtI
没ネタは壮絶な展開が多いですね。全員生還させた書き手がまた違った展開を。
アレンの死体についてはもっと疑心暗鬼に繋がってもおかしくないと思いましたので共感しました。
下手したらエイトとアレフが二人そろって竜王ヌッコロスになってた可能性もあるし。
あとフォズの不死身っぷり(最終的に死んだけど)と、ピサロのツンデレっぷりに不覚にもワロタ。
307
:
ただ一匹の名無しだ
:2007/09/07(金) 21:22:17 ID:auQgXO8k
うわわわわわわわわわ
◆9Hui0gMWVQ さん、いつのまに!
すごいなぁ
私がこんな(人数)長文書いたら絶対混乱する
人物描写もいい
こんな没ss読めるなんて贅沢だなぁ
このBRのピサロは魔王から、段々と人間みたいになってくなぁ。
それもハーゴン様の予想の内なんだろうか。
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