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灰羽連盟SSスレ

1I25127:2003/06/23(月) 01:22
 灰羽連盟関係のSSをアップするのに、一々あぷろだ等を使うの
が面倒だなー、という方は、このスレにコピペしてください。
 なお、設定上1回の書き込みの上限は「30行まで」「4096字まで」
ですので、これを越える場合は、本文を分割するなどして対応してく
ださい。

354/11:2003/07/27(日) 04:56
 その時だ。屋上への古くて重い扉が軋んだ音とともに開いた。
 神代さんだ。
 何をしに来たのだろう。
 いつもは私しか来ないのに。
 私はとっさに給水塔の影に隠れた。神代さんからは私の姿は見えないはずだ。
 神代さんは肩を震わせて泣いていた。
 私には理解できなかった。
 どうして神代さんが泣くんだろう。
 あんなに友達に囲まれて美人で人気のある神代さんが何故泣く必要があるのか解らなかった。
 神代さんは散々泣きじゃくった後セーラー服の袖で涙をふくと屋上から出て行った。
 私はとても腹がたった。
 泣きたいのはこっちの方だ。
 友達もいない。かわいくもない。頭も悪い。
 神代さんとは大違いだ。
 みじめだ。
 その日はあまりに腹が立ったので自転車のハンドルを強く握り締めながら家に帰った。

365/11:2003/07/27(日) 04:57
 朝、目覚まし時計が鳴っている。
 私はいつものとおりに意地の悪い寝癖を直して家を出る。
 庭の青いアジサイが形よく咲いていた。
 アジサイにお辞儀をして自転車に乗る。
 学校へ着くとやっぱり教室には神代さんがいた。
 神代さんは「おはよう」と言って来たけれど昨日のこともあったので私は挨拶を無視した。
 神代さんが泣くのは間違ってる。
 私はそう考えていた。
 神代さんが何か一言二言呟いたような気がした。
 私の耳はその音を拾わなかった。
 例え聞こえていたとしても無視しただろう。
 私はそれほど怒っていた。
 そしてそのまま誰とも何も会話せずに一日を過ごした。
 神代さんはやはりいつもと同じように笑っていた。
 昨日の涙のことなど微塵も感じさせない笑顔だ。
 腹が立つ。
 そして私はつまらない一日の後、屋上でつまらない風景を眺める。
 あーあ、つまらない。
 本当に誰か背中を押してくれないだろうか。
 すぐさま下へ落ちてやるのに。
 あまりにつまらないのでそんなつまらないことを考えている。
 と、誰かが屋上へ続く階段を登って来る足音が耳に入った。
 上履き独特の音。何となく頼りない足音だ。
 私はまた給水塔の影に隠れた。
 その足音の主は神代さんだった。
 そしてやはり泣いていた。
 一体なんなんだと言うのだろう。
 二日続けて泣いているなんて。
 わからない。
 神代さんは昨日と同じように大量の涙を流すとやはり同じように制服の袖で涙をふくと屋上をあとにした。
 今度は腹は立たなかった。
 腹が立つ以上に呆れていたからだ。
 私は本当に神代さんという人間がわからなくなった

376/11:2003/07/27(日) 04:57
 朝。
 やっぱり目覚ましが鳴っている。
 そしてやっぱり頑固な寝癖を直して家を出る。
 庭のアジサイは…枯れていた。
 私は枯れたアジサイにお辞儀をする。
 私は決めた。
 前から決めていたことだ。
 自転車を漕いで学校へ行く。
 その日私は教室へは向かわなかった。
 階段を登り古くて重い扉を開けて屋上へと出る。
 どんよりとした天気の中、無神経に輝く太陽が眩しかった。
 私は靴を脱ぐと転落防止用の柵を乗り越えた。

387/11:2003/07/27(日) 04:58
 端に立つ。
 下から吹き付ける風が心地いい。
 端から見える景色はいつもと同じようでいつもと何か違っていた。
 ここに立つとつまらない景色も何か面白く見えてくるから不思議だ。
 風が制服をなびかせる。
 何か歌でも口ずさんだ方がいいだろうか。
 私はそんなつまらないことを考える。
 でも何か楽しかった。
 希望が見えたからかもしれない。
 ここから抜け出す希望が。
 私は前方を見つめた。
 何かが、目に見えない何かが光っている。
 その光を掴もうと私は手を伸ばした。
 届かない。
 光を掴みたかった。
 だから―

 私は何もない空に一歩足を踏み出した。

 私の身体が宙に浮く。

 定規でまっすぐ線をひくみたいに

 私は空を落ちていく

 
 …

398/11:2003/07/27(日) 04:58
 …はずだった。

 私の身体は空中で止まっていた。
 足が痛い。
 誰かが私の足首を掴んでいた。
「――」
 誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 誰だろう。
 私は頭を天に向けて私の足を掴む誰かの顔を見た。
 神代さんだった。
 神代さんが身を乗り出して私の足首を掴んでいた。
 左手で柵を掴んで右手で私の体重を支えている。
 神代さんの手は震えていた。
 私、重いから。
「離して」
 私はぽつりと呟いた。
「離すもんか!絶対離すもんか!」
 神代さんの手には汗が滲んでいた。
「どうせ私なんか生きててもしょうがないんだし、離してよ」
「離すもんか!離すもんか!」
 神代さんは繰り返した。
「どうして?どうしてなの?どうして私なんか」
「そんなこと言うもんじゃない!自分を粗末に扱うな!!」
 神代さんは怒鳴った。
 神代さんは本気で怒っているようだった。
「どうして私なんかを助けてくれるの」
 私は逆さになったまま地面を見つめながら神代さんに訊いた。
「あたし、あたし!あんたと話したかった!一緒に話したかった!」
 神代さんは叫んだ。右手が苦しそうだ。
「同情なんていらないよ」
 そうだ。同情はいらない。そんなことをされるくらいならそれこそ死んだ方がましだ。

409/11:2003/07/27(日) 04:59
「違う!!」
 神代さんは私の言葉を打ち消した。
「同情なんかじゃない!!あたし、あんたがうらやましかった!!いつも笑っているあんたがうらやましかった!!あたしはあんたと友達になりたかった!」
 私は神代さんの言葉が信じられなかった。
 じゃあ、じゃあ、あの涙は。
「あたし、あんたと友達になりたくて!話したいことたくさんあるんだ!でも伝わんなくて、あたし、あたし、ずっと泣いてたんだよ!」
 神代さんの目には涙が浮かんでいた。
「だから、だから絶対あんたを死なせやしない!あたしはあんたを助けてみせる!」
 その言葉は神代さんの決意のように思えた。
 …
 私はやっと神代さんの言葉を信じられるような気がしてきた。
 信じる気になった。
 でも、もう遅かった。
 馬鹿な私。
「ありがとう、神代さん。でももういいよ。もういいんだよ。このままじゃ神代さんまで落ちちゃうよ。だから、手を離して。お願いだから離して」
 神代さんの右手には血が浮かんでいた。
 もう限界に違いない。
「いやだ!いやだ!離すもんか!」
 私は決めた。
 あいている方の足でえいっと神代さんの右手を思いっきり蹴る。
 神代さんが短く叫び、手を離す。
 私の身体は空へ浮かび、
 たった一人で地面へ向けて旅立っていく

4110/11:2003/07/27(日) 04:59
 はずだった。
 でも神代さんは手を離さなかった。
 神代さんが離したのは右手ではなく左手だ。
 私の足首を掴んでいる右手ではなく柵を掴んでいる左手だ。
 私と神代さんの身体は空に舞った。
 落ちていく。
 どんどんどんどん落ちていく。
 ただまっすぐに落ちていく。
 ふたりで一緒に落ちていく
 落ちていく途中ようやく私は理解した。
 結局、一緒だったんだね、私たち。
 弱くて、情けなくて、さびしくて。
 孤独で、おびえてて、ちっぽけで。
 ごめん、神代さん。
 私に勇気があったらよかったのに。
 私にもうちょっとだけ勇気があったらよかったのに。
 ぐんぐん地面は近づいてくる。
 地面はもうすくそこだ。
 頭の上に地面が見える。
 地面と触れる直前、私は目を閉じて神代さんの身体を強く抱きしめた。
 神代さんの体温が伝わってくる。
 あったかい。
 私、
 私―

4211/11:2003/07/27(日) 05:00













 

 


「私、生きたい!」
 
















 定規でまっすぐ線をひくみたいに
 私は空を落ちていく

 ただ灰色の世界へ―

43NPCさん:2003/08/21(木) 17:06
お借りします
8〜17のSSの続きなのでご注意を

44NPCさん:2003/08/21(木) 17:06
お借りします
8〜17のSSの続きなのでご注意を

451/17:2003/08/21(木) 17:07
 レキがいなくなって数日がたった。
 不思議なことにみんなの生活は変わらない。
 ラッカたちは新しく出来た二つの繭の世話にかかりっきりで忙しいみたいだ。
 カナなんかは仕事がどうしたこうしたとブツブツ文句みたいなことを呟いている。
 ボクはレキがいなくなって大変そうなラッカたちに迷惑をかけないようにオギョウギよくふるまっていた。そのへんボクはダイやハナよりオトナなんだ。
 ダイの言葉を聞いたのはそんなときだ。
「レキに会いにいこうぜ」
 ボクはびっくりした。ダイがおかしくなったのかと思った。レキはもういなくなってしまったというのに。
 ボクはダイに抗議した。
「レキは壁の向こうに行ったんだよ。会えないじゃないか」
 ちょっと怒った。レキにはもう会えないってことをボクがボク自身に言い聞かせようとしていたときだったからよけいに腹が立った。
「レキが壁の向こうに行ったんなら、オレたちも壁の向こうに行けばいいじゃないか」
 ダイは平然としていた。
「どうやってだよ」
 かなり怒った。ボクは子供だけどダイがかなり無茶苦茶なことを言っていることはなんとなくわかった。そのムチャクチャさがイヤだ。
 ダイは空を指差した。
 今日は晴れ。だから緑色の空がよく見える。ダイが指差した先には鳥が羽を広げて飛んでいた。鳥は壁を越えられる唯一の生き物だ。前にレキが言っていた。
「鳥になるんだ」

462/17:2003/08/21(木) 17:07
 ダイの話によれば、鳥はとべるから鳥なんだそうだ。
 オレたちの背中には羽が生えているけれど、空は飛べない。だから鳥じゃない。
 ダイらしい考えだ。
 じゃあ、オレたちがとべるようになれば、オレたちは鳥になれる。鳥なんだから、壁を越えても怒られない。
 ダイの鼻の穴は大きく開いていた。
 こーいうのを『ヘリクツ』っていうんだろうな。
 ボクはあたまのなかで思った。
 ダイが言うには、ボクたちの羽はとぶには小さすぎるらしい。もっと大きな羽があればとんで行ける。そう考えているらしい。そんな話どこから聴いたんだろ。
「鳥の羽を集めてくれ」
 ダイはボクにめーれーした。
「ハネ? そんなものどうするの?」
 ボクはダイに尋ねた。
 ダイは何も言わなかった。
 ボクとダイは二人でひみつのけーかくをはじめた。

473/17:2003/08/21(木) 17:08
「……なにしてるの?」
 燃えるゴミを両手に抱えたハナがボクたちに訊いた。
 ボクとダイはごみすてばで鳥を追いまわして落ちる羽を拾い集めていた。ダイがホウキで鳥を追いまわす役。ボクは落ちた羽を拾い集める役。自分でいうのもなんだけど、ハナから見たらものすごくバカみたいなかっこうに見えるだろうなあ。
すぐにダイがホウキを置いてハナにボクたちがやっていることをはなし始めた。鼻の穴が大きい。ちょっとだけ顔が赤い。ダイはハナのことがスキらしい。まえにダイがボクに話してくれた。しょーらいはけっこんするんだそうだ。ぼくはよくわからない。あ、この話はダイにクチドメされてるんだった。あぶないあぶない、気をつけよう。
「あたしもやる」
 ダイの話を聴いたハナが目を輝かせていた。ダイは少しとまどっていたようだったけれど、すぐにまあ、いいかといった風にハナの参加を認めた。
 ひみつのけーかくの参加者は三人になった。

 ハナが入ったせいかどうかはわからないけれど、予定の量の羽は二,三日ですぐに集まった。
「次は布だ」
 ダイの鼻の穴はいっそう大きくなっていた。鼻息が荒い。
 これはけっこう簡単だった。オールドホームの空き部屋を回って使われてないカーテンを破って一箇所に集めた。オトナたちに見つからないようにしんちょうにしんちょうに。
 そして、集めた布にのりで羽を一つづつ貼り付けていった。これはタイヘンだった。単純な作業だから飽きっぽいダイが最初にやめた。いいだしっぺはダイなのに。次にハナがさじを投げた。ボクは一人で羽を布にくっつけっていった。地味な作業で途中なんども辞めそうになったけど、ボクもレキに会いたかったから一人で続けた。一人で続けていたボクを見てハナが戻ってきた。ハナはやさしい。きっといいお嫁さんになるだろうな。ボクがハナと二人っきりでいたのが気にくわなかったのかダイが戻ってきた。ダイはぶつくさ文句をいいながら羽をのりで布にくっつけていった。
そうしてボクたちの羽は出来上がった。
 ボクたちの『羽』はマントような形をしていた。おとぎばなしのヒーローがみにつけているようなおおきなマント。違うのはそのマントの一面に羽がくっついているということだ。もとのカーテンの布地が見えないほどびっしりと羽をしきつめた。
 これがボクたちの羽。
 つくっているときはわからなかったけどなんだか『羽』を見ていると本当にとべるような気がしてきた。壁の向こうにとんでいって笑顔のレキに会えるような気がした。
 出来上がった『羽』を眺めながら、ボクたち三人はそれぞれみつめあった。
 そして、
 笑った。

484/17:2003/08/21(木) 17:08
 そして、次の日、ボクたちはけーかくをさいしゅうだんかいにうつした。
 決行の場所は、灰羽連盟のお寺の近くの崖。下には川が流れている。まんがいち、まんがいちだけど、落ちてもだいじょうぶだ。
 でもここで問題が一つ出た。
 いったい誰がこの『羽』をつけてとぶんだろ?
 ボクはやっぱりいいだしっぺのダイがいいんじゃないかなと推した。
 ダイはいちばんこーけんしたのはおまえだと言ってボクを推した。
 ハナはこういうことはおとこのこがといって自分以外を推した。
 ボク一票。ダイ一票。ハナ0票。
 ……
 結局、ながいながい話し合いのすえ、じゃんけんということになった。
 ボクはあんまりじゃんけんがすきじゃない。紙が石に勝つというのがいまいちなっとくがいかないからだ。紙で石をつつんだって石は生きているじゃないか。むかし、レキにそのことを話したらレキはただ笑っているだけだった。
「じゃあ、『さいしょはぐー』だぜ」
 ダイが拳を振り上げた。やるきマンマンだ。
 ダイがちょっとハナの方を見て何か口を動かした。なんなのだろう。ボクは別にきにしなかった。
「さいしょはぐー」
 ぼくたち三人は手を握って同時に石を出した。
「じゃんけんー」
 いったん手をひく。
「ぽ―」
 その時、ハナが叫んだ。
「あ、鳥」
 ハナがボクの後ろの方を指差している。
 反応してボクは振り向いた。
 鳥なんていない。
 緑色のきれいな空が広がっているだけ。
 ボクは思った。
 ハメられた!
 急にヘンなことを言われたからボクの手は紙だった。
 そして二人の手は案の定、はさみだった。
 いんぼーだ!
 ボクは抗議したけれど二人は認めなかった。
 ダイは今日は空がきれいだよなとしらばっくれていた。
 ハナはハナでガンバッテネとボクの肩をぽんっと叩いた。
 ひ、ひどい……。
 でも、ま、ま、まま、まあ、いい、か。

495/17:2003/08/21(木) 17:09
 逆に考えた。
 この『羽』でボクがとんでいけば、レキに会えるのはボクだけだ。
 むしろ、おトクじゃないか。
 ボクは首に『羽』を取り付けて、とびたつ準備を整えた。こうしていると図書館でネムが読んでくれたオトギバナシのヒーローになったみたいだ。背中の『羽』で飛び回って敵をばったばったとやっつけるヒーロー。
 三人で運んできたときはきづかなかったけれど意外に背中の大きな『羽』は重い。こんなんでとべるのかな。ちょっと不安になる。
 ちょっと崖っぷちに立って下のほうを確認する。
 くらくら。
 くらくらくら。
 たかすぎ。
 下の川がちっちゃく見える。
「やっぱ、無理なんじゃないかな」
 ボクはダイたちの方を見た。
「ここまで来てあきらめるのかよ」
「ガンバッテね」
 この場合ハナの応援のほうがつらい。
 うう。
 とぶしかないみたいだ。
 ボクはいったん崖っぷちから遠ざかった。逃げたわけじゃない。助走をつけるためだ。
 息を吸う。
 胸を膨らませる。
 足を一歩踏み出す。
 地面をしっかりと掴み取る
 そして、
 思いっきり駆け出す。

506/17:2003/08/21(木) 17:10
 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 ずりずりとあたまの後ろのほうで『羽』が地面とこすれる音がする。

 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 崖下の川が見える。ものすごくちっちゃい。怖い。

 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 アンド

517/17:2003/08/21(木) 17:10
 フルブレーキ

 ボクは身体を崖っぷちギリギリで緊急停止させた。
 やっぱり怖い。
 ちょっと息を吸おう。座って休憩しよう。
 別に逃げたわけじゃない。休憩だ。
「ねえ、ちょっとキュウケイしない……ってあれ?」
 ダイたち二人がいない。
 どこへいったのだろう、と首を回そうと思った瞬間のことだった。
 誰かがボクの身体を押した。
 おっとっととボクはバランスを崩して数歩ふらついた。
 ぽん
 ぽん
 ぽん
 あ  れ  ?

 行き着いた先に地面はなかった。
 ボクの身体は空中に浮いていた。



 ギニャ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 落ちながらボクは考えた。






 これはとんだとはいわない。

528/17:2003/08/21(木) 17:11
 どぼ〜ん
 ぶくぶくぶく

 く、くるしい。
 ボクは意識を失った。




 ボクは夢を見ていた。
 
 夢の中でボクは笑顔のレキと一緒にお花畑で踊っていた。

 お花畑の中でくるくる回って、


 ぷしゅー

 ボクは飲み込んだ水を噴水のように吹き出した。
「お、生きてたか」
 ダイが寝そべったボクのお腹の上に乗っている。
 重い。
「大丈夫?」
 ハナが心配そうにボクを見つめる。
 ハナの大きな目で見つめられるとちょっと恥ずかしい。
 背中の灰色の羽をぱたぱたと動かす。
「ええっと、どうなったの?」
 ボクは訊いた。確か『羽』をつけてとび出そうとしたら誰かに突き落とされて……そこから覚えていない。
 ダイとハナが顔を見合わせた。二人とも少し表情が引きつっているような気がする。
「やっぱ……無理だったか……」
「おしかったね」
 ボクを突き落としたのは、この二人だろう。
 なんて、やつらだ。
 二人に抗議しようと思ったけど、何か言う気力がボクにはなかった。
 レキに会うのはもう少し先になりそうだ……。

539/17:2003/08/21(木) 17:12
「レキに会いに行こうぜ」
 また、だ。
 あれから数日経っていた。
 ダイはまったくこりてないらしい。
 結局、ダイがしたことは『羽』を作ることだけだから、当然といえば当然だけど。
 ボクはあやうくしにかけたっていうのに。
「もう、『羽』をつくるのはいやだよ」
 あの『羽』はボクが溺れたときに首から外れて流されて行ってしまった。水と一緒に流れにのって…………ドコへ行ったのだろう? わからない。けれど、なくなってしまったことは確かだ。
「だいじょうぶだって。こんどは『翼』だ!」
 また、ダイがさっぱりわからない言葉をしゃべる。
 ボクが呆れ顔で口を開いて黙っていると、ダイはドコからもって来たのか古臭い本を取り出してボクに見せた。オトギバナシの本だった。まえに図書館でネムが読んでくれた本のひとつ。びんぼうな『しょみん』のおとこの人がお城に閉じ込められてかわいそうなお姫さまを助け出す話。さいごの場面でおとこの人がお姫さまと一緒にお城のかべを超えるんだけど、その場面には挿絵がついている。
 翼の生えた自転車。
 一言で言うならそんな感じだ。おとこの人はお姫さまを後ろに乗せてこの翼の生えた自転車で飛ぶんだ。飛んでいってその後どうなったかは本がそこで終わっているのでわからないけど。
 ボクはなんとなくダイのやりたいことを理解した。
「これ、つくるの?」
 と、ボクがきくと
「当然だろ!」
 と、ダイが鼻の穴を大きくして胸を大きく張って答える。
 なにが当然なんだろ。
「でも、ダイ。自転車はどーすんのさ」
 ボクの言葉にダイは『アタリマエのこときくなよ』というような目をした。
「カナのがあるだろ」
 予想通りの答えだ。
 ……いいんだろうか、それ。
「でも、この『翼』はどうするの?」
『翼』は前にボクたちが作った『羽』よりはずいぶん大きい。だいたい、挿絵を見るかぎり、この『翼』を作るにはちゃんとした材木やきちんとした道具がひつようだ。ボクたちにそんなものはない。いったいどうするというのだろう。
「さあ」
 ボクはおもいっきりずっこけた。
「おまえが考えることだろ!」
 さらにもう一回ずっこけた。
 か、かんがえてなかったのか……。
「ボクに言われたって……」
 まったく、ボクに言われたってしょうがないじゃないか、ボクだって何かできるわけじゃないのに。
「レキに会いたくないのかよ!」
 ボクだってレキに会いたいさ。でもボクは黙っていた。ボクがしゃべったことで何かできるわけじゃないから。
 ボクはむりょくだ。何も出来ない。
 何も出来ないけど、何かできることはないかな。ちょっと考えた。
 ……
 思いついたことがある。
 ボクはダイを連れて街へ向かった。

5410/17:2003/08/21(木) 17:12
 グリの街の外れの外れの外れの外れにあのおんなの子の家はある。
 ボクはおんなの子の家を訪ねた。
 彼女はまえにボクがオールドホームから抜け出して街で遊んでいたときに知りあった友達だ。
 あの子に助けてもらえないかな。
 こーいうのを『たりきほんがん』っていうのかなとも思ったけど、すぐにその想いを打ち消した。たまにはいいだろう。
 ボクはおんなの子の家の壊れかけた古いドアをノックした。
「はーい」
 かわいい声。
 ボロボロの家の奥の方からおんなの子の声が聞こえた。
「あら、あんた」
 おんなのこはボクを見るなり目を丸くした。ちょっとびっくりさせちゃったかな。
「いきなり、どうしたの?」
 ボクはおんなの子にじょうきょーを説明した。
「う〜ん、あたしに言われてもねえ……」
 おんなの子は悩んでいるようだった。う〜、やっぱむりだったか。
「あ、そうだ」
 おんなの子は手をポンッと叩いた。
「ついてきなさい!」
 ボクとダイはいきなり駆け出したおんなの子の後を走ってついていった。

5511/17:2003/08/21(木) 17:13
 グリの街の広場。
 ボクたちがおんなの子についていくとそこに辿り着いた。
 おんなの子はずいぶん先についていて、誰かと話している。
 話している人たちに見覚えがある。
 あれは、あの男の子たちだ。
 まえにグリの街に来たときに会った名前も知らない三人組の男の子たち。このまえはケンカしてたんだけどきっと仲直りしたんだろう。いまは仲良く話している。
「おもしろそうだな」
 三人組の真ん中のふとっちょの男の子が目を輝かせている。きょうみしんしんみたいだ。
「こいよ」
 真ん中の男の子がてまねきした。ついてこいということらしい。
 はなしをきくとこの男の子のお父さんが大工さんだそうだ。そのことを聞いた瞬間、ダイが身を乗り出して話しをしだした。ダイは大工さんになりたいのだ。ボクはケーキ屋さんになりたい。ショートケーキが好きだから。
 男の子についていくと街の外の何かがらくたみたいなのがいっぱいつまった古小屋に招待された。
 男の子たちの『ひみつきち』らしい。
 ボクたちはその『ひみつきち』で『ひみつのけーかく』を始めた。
 6人がかりのひみつのけーかく。

5612/17:2003/08/21(木) 17:14
 まず最初にボクとダイでカナの自転車を借りてきた。もちろん、カナには何もいっていない。急に自転車がなくなったのでカナはおどろいていたけど、レキに会いに行くためだしかたがない。ちょっとごめん。
 つぎにふとっちょの男の子のいうことにしたがって材木をひみつきちに運んだ。
「はは〜ん、そ〜いうことだったのね〜」
 ボクたちが『ひみつきち』に足をふみいれると頭の後ろから声が聞こえた。ボクは心臓が飛び出すかと思った。その声はカナにそっくりだったからだ。
 首を回して振り向くと、ハナだった。
 ボクたちの後をついてきたみたいだ。
 自分が呼ばれなかったことに腹を立てているらしい。
 仲間にいれないとカナにばらすわよときょーはくされた。しかたがないのでハナも仲間に入った。これでひみつのけーかくの参加者は七人になった。
 最後にボクたちは運んできた材木を自転車に組み立て始めた。ふとっちょの男の子がもってきたのこぎりで木を切ったり、布で『翼』を組み立てたり……。
 そうやってボクたちの翼は『完成』した。
 かんどーだ。
 でも、その感動はすぐに打ち消された。

5713/17:2003/08/21(木) 17:14
「はは〜ん、そういうことだったのか」
 完成のよいんにひたっていると頭の後ろでカナみたいな声が聞こえた。またハナかなと思ったけれど、ハナはおんなの子と一緒にべちゃくちゃ話している。
 じゃあ……ボクはぎぎぎと首を回して後ろを確認した。
 本物ののカナだった。
 ヒカリもいる。
 やばい。
 二人とも角が生えている。
 ボクたちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
 またたくまに、ダイが捕まった。ハナが捕まった。みんな捕まった。
 残ったのはボク一人だ。
「ショータ、走れ!」
 ダイが叫んだ。
「走れ〜」
 ハナが叫んだ。
「走れ」
 みんなが叫んだ。
 ボクは走った。走るときに、『翼』にまたがった。元は自転車だ。ペダルを漕げば、走るよりは速い。ボクはペダルを漕いで走り出した。サドルにお尻をつけると足が下まで届かなくなるから立ったまま全速力で。『ひみつきち』には『てき』にしんにゅうされたときのために反対側の方にもいざというときの出口が用意してあった。まったく準備がいい。ボクはその『ひみつのでぐち』から外へ飛び出した。
 ほおを横切る風が気持ちいい。
 これからドコへいくのだろう?
 ボクはボクに問い掛けた。
 決まっている。
 ボクがボクに答える。
 風の丘だ。
 目指すは風の丘のてっぺんだ。
 つくっている最中にみんなで話し合って決めたことだ。
 ボクはおもいっきりペダルを漕いだ。

5814/17:2003/08/21(木) 17:15
 風の丘のふもとに着く。
 上を見上げると首が痛い。
 ボクは『翼』に乗って坂を登る。
 坂はきつい。
 ペダルが重い。
 しんぞうがドキドキする。
 カナたちはボクを追ってきているだろうか。振り返らないからわからない。
 立ち漕ぎのままペダルを踏む。
 だんだん速度が遅くなる。
 ゆっくりになって
 そして、ついに止まる。
 ボクは自転車を降りて、押しながら走る。
 後ろは振り返らない。
 きつい。
 しんぞうがくちから飛び出そうだ。
 あとすこし、あとすこしだ。
 てっぺんまであとすこし。
 疲れて息をするのもつらい。
 ボクは最後の力を振り絞った。
 空が蒼い。
 目の下に西の森が見える。
 ボクは風の丘のてっぺんに立っていた。
 けっこうきもちがいい。

5915/17:2003/08/21(木) 17:15
 でもこれでおわりじゃない。
 ここからが本番だ。
 ボクは『翼』のついた自転車に飛び乗った。
 坂を下る。
 自転車はすごい勢いで走っていく。
 道がでこぼこしているから自転車が跳ねそうになる。
 ボクはひっしでハンドルを押さえた。
 跳ねるんじゃない。
 自転車は加速する。
『翼』のきしむ音が聞こえる。
 まだスピードが足りないのだろうか。
 ボクは立ち上がってペダルを漕いだ。
 走るそくどが速すぎてペダルが空回りする。
 それでもボクはベダルを漕いだ。
 まだ足りない。
 自転車が石を踏んで暴れる。
 跳ねるんじゃない!
 転びそうになるギリギリのところで無理矢理自転車を押さえつける。
 ボクはひっしでペダルを漕いだ。
 無駄とわかっていても漕いだ。
 頬のそばを何かがびゅんびゅん通り過ぎていく。
 ボクは歯をくいしばる。

6016/17:2003/08/21(木) 17:16

「飛ベーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―ー――ーーーー―――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」







 そのとき、
 風が吹いた。
 風に乗ってボクは―














 きもちがよかった

6117/17:2003/08/21(木) 17:17
 その時のことは実を言うとあんまりよく覚えていない。気づいたときには壊れた自転車と一緒に空を見上げていた。
 空はとても蒼かった。

 オールドホームに帰ると大人たちはやっぱり怒っていてこっぴどく叱られてた。
 しばらくショートケーキは食べれそうにない。
 結局、レキには会えなかった。
 カナの自転車は壊れた。
 すっごく叱られた。
 とても疲れた。
 
 でも、なんか、いいきもちだ。

62NPCさん:2003/08/21(木) 17:18
43、44重複してしまった鬱だ氏膿。

63NPCさん:2003/08/24(日) 14:06
お借りします

64ハァハァ:2003/08/24(日) 14:08
私は夢をみている。
夢の中でもールドホームの大きなベットに横たわっている。
誰かがゲストルームの中に入ってくる。
黒くて長いやわらかい髪の毛。あ、レキだ。
レキが近づいてきて私の躯に触れる。
だめだよ。服がしわになっちゃう。
レキは何も言わない。
くせだらけの髪の毛をなじられる。
レキは何も言わない。
うなじを噛まれる。少しいたい。
レキは何も言わない。
肩紐がほどかれて落ちる。この瞬間はすきだ。ちょっとだけ。
うしろからあったかい手がふれてくる。はずかしいから羽を動かす。

ぱたぱた。

レキが何か呪文を呟く。
……うん。
うなずく。
ゆっくりとレキの手が円を描いて動く。ヘンなきもちだ。
だんだんと重力がなくなっていく。
レキがつぼみに口づける。やだぁ。
羽を動かす。

ぱたぱたぱた。

私はレキを受け入れる。
ベットのシーツを強く握り締める。
光輪が揺れる。
無重力のせかいに落ちていく。
躯があつくなってほてってきて

ぱたぱたぱたぱた。


私はそらをとぶ。






朝。いつもより早く起きて下着を替えにいく。

65ハァハァ:2003/08/24(日) 14:08
お借りしました

66カナの時計 </b><font color=#FF0000>(F4otqVt2)</font><b>:2003/12/18(木) 16:50
お借りします。関東の最終回から一周年記念日ですね。それとトリップテスト。

67カナの時計 </b><font color=#FF0000>(yKdeBUHM)</font><b>:2003/12/18(木) 16:55
春はまだ、大分先になる、と教わりました。
あれから、皆、ゲストルームに集まって過ごす時間が多くなったように思います。

晩ご飯の後、いつもテーブルを囲んでお茶を淹れます。
〜時々、努めてなにげなく、レキのことも話題になりました。

                    *                    *            

「〜にしても廃工場の連中にも見えてたんだよな。レキを知ってるやつもいるんだろ、たしか」
「何も言ってこないね…関心ないのかな?」
「なんかあっちって、他所はあんまり関係無いって感じだしねー」

〜思わず言ってしまった。ヒョコさんもミドリさんも、河を越えてレキに自分の気持ちを伝えようと一生懸命〜
「そんなことないよ! 過ぎ越しの祭りのときの花火だってあのひとたちがレ・」 (★)
〜あわわ。思わず自分で自分の口を押さえたけれど…

「過ぎ越しの祭りの花火?」 「おっきな黄色い花火だったね…え、あれってなにか」
「〜あの花火がどうかしたの?」
ネムまで、読んでいた本を伏せて、こちらを見ています。〜そんなに大声だったっけ?

「…ラッカ、何か知ってるな?」

どうして人って、都合の悪い時だけ鋭いんだろう。 ま、まずい。ここは誤魔化さなくては。
「ううん、何も、何も知らないよあはははは〜…  あ、私もう寝るね明日早いし」 急いで席を立ってドアへ〜
「待った。」 後ろから、誰かにやんわりと光輪を掴まれて、、、う、あわわわわ、失敗したあ…

椅子にぺたんと引き戻されてしまいました。「離してよカナぁ〜、変な感じだよお」 「カナあ…」
「いーや、こういう秘密はよくない。ここはラッカさんに真実を述べていただかないと」
後ろから首に腕を回して、顔を寄せてきます。冗談めかしてるけど、カナ、眼が笑ってないよ…

カナが光輪に爪を立てると、背筋にピリリっと電気が走るような。
「し、知らない知らない、なんにも知らない」
「ラッカぁあ〜? “〜ふっふっふ、言いたまえ、隠すとためにならんぞ”」
うわ、こ、こわぃ…もう駄目だあぁ…

「う〜…… あ、あの花火はね …… ヒョコさんたちからレキへの…鈴の実の返事だったの」

一瞬、ゲストルームは静まり返って、そして。

「・黄色☆」 「うっわ〜こっぱずかしー」 「そんなこと言わないの! ステキなことじゃない〜(&hearts;)」
あああやっぱり大騒ぎ。「どうしてどうして」 「ヒョコさん…って、確か、レキとかけおちしたっていう人?」

あああああ。今度ヒョコさんに会ったとき、どうしよう〜。

68カナの時計 </b><font color=#FF0000>(yKdeBUHM)</font><b>:2003/12/23(火) 16:21
続きを付けてみました。(67承前)

                    *                    *

「…それから、ダイの里帰りの時に、 廃工場の子、名前はミドリって言うんだけれど、その子とね…」
ラッカの話は続いている。

西の森から、空に昇って行く光.。その光は、今までの全ての出来事を浄化してゆく光のように思われたのだけれど…


日が経つにつれ、やはり考えてしまう。


私は、もっと強く、レキに呼びかけていなければならなかったのでは?
もっと、レキの心の真実を、求め続けていなければならなかったのでは? 

川を挟んで、ずっと長い間、気持ちを伝えたがっていた二人。 ラッカは、ここに来て一年にもならない。
「…それで、過ぎ越しの祭りの日に、レキのためにって、ヒョコさんにお願いして…」


日が経つにつれ、やはり考えてしまう。


なぜ、レキが話をはぐらかす毎に、押して聞いてみなかったのだろう。
私が何もしなかったから、レキの苦しみはこんなにも永引いてしまったのでは?
最初の日、勇気を出して私から一歩を踏み出していれば?

今となっては、もう解らないことなのだけれど。

〜私の知らないレキは、どんな人間だったのだろう。それを知っている人がいる。
それに、これは私たちがやり残したことなのかもしれない。

「…ねえ、廃工場の子たちと集まって、一回話してみたいわね。 〜いい機会かもしれない。」

「そうだね」 「…う〜ん、いきなり招待っていうのもなんだし〜街で顔合わせに集まってみようよ」
「賛成!」 「“かるちぇ”あたりがいいかな…いつ席取れるか聞いてみよう」
「男子禁制?」 「別にいいじゃん」 「あっちの都合とかも聞いてこなくちゃね…誰が行こうか?」

「…私が行くわ。今度、図書館の帰りにでも寄ってみる。 ラッカ、一緒にお願いね。」
「…はぁい…」
「じゃあよろしく〜。ヒョコっていう奴は絶対出席な。でなきゃ楽しくない」
「そ、そんなあああ〜」


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