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SSスレッド

1板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/11(木) 00:39
支援目的以外のSSを発表する場です

 ・1つのレスの投稿文字数制限は
   IEで2000文字以内
   かちゅ〜しゃで1500文字以内(どちらも参考値です)

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 ・エロSSについては各自の判断でお願いします

このスレッドで発表されたSSについての感想も、ここに書いて頂いて結構です

192(編集人):2002/11/01(金) 13:26
朝です。
 今日も今日とて翡翠は志貴を起こしに来ました。
 もちろん、翡翠は志貴のメイドでありますし、起床を手伝うというのは当然の仕事であります。
 けど、仕事だから、と翡翠は割り切って志貴の部屋に訪れたりはしません。
 たとえ寝ていても、たとえ寝ぼけて見ていなくても、身だしなみはいつもキチンとしすぎるくらいにキチンとするし、
 扉の前では聞こえないように何度もコホンコホンと声を整えます。

 なぜでしょう? 聞くまでもありませんね。
 そう、一日に一番早く、誰よりも早く彼に会えるのがとても嬉しいからです。
 
 今日も翡翠は志貴を起こしに部屋に来ます。身嗜みもきっちりと。

「志貴さま、おはようございます」

 さて、志貴の目には、窓から差し込んでくる朝日と彼女の笑顔、
                              どちらがまぶしいでしょうか?

193(編集人):2002/11/01(金) 13:27
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)0時1分。
ROUND5.303レス目「ぴーおー」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

194(編集人):2002/11/01(金) 13:28
猟奇殺人事件。式が先輩を殺してしまった事件、僕が片瞳を失った事件でもある。
 あの日から、二週間と少しが経った。
 世間ではまだ狂気の垢が拭いきれず、夜の街には防弾チョッキに身を固めた警官が、巡回を怠らない。
 三月初旬の空は例年より寒く、どんよりと暗く、下界の人の心を映し出しているように思える。
 それでも人々の心の乱れは終息にむかっているに、違いなかった。やがて春が巡ってくるように。
 片方の瞳を失った僕は、そうやってセンチメンタルにおちいりつつも、怪我による休養を認められずに仕事をこなす毎日である。
 いや、あの人には期待する方が無駄だったというのは言うまでもないけれど。
 ただ、それは僕と式を二人きりにするために気を使ってくれていると思うのは、考えすぎというやつだろうか?

195(編集人):2002/11/01(金) 13:30
「幹也、危ない。ボーっとするなよ。轢かれちまう」
 ガーッ、と音を立てながら車が通り過ぎていく。排気ガスに咳き込みながら僕は顔をしかめた。
「あれは、スピード違反だよ。危ないなぁ。前もここで事故があったんだ。知ってたかい?」
「知らない」
 式は不満気に口を尖らす。苦笑して、今度はちゃんと向いた。最近、彼女は僕の体調等にひどく敏感になっている。無論、そんな彼女を見ながら僕は内心喜んだりしてる。
「ほら、もっとこっちに」
 左腕を、式の手がつかんで引き寄せてきた。よろりとよろけて、彼女の肩にもたれるような格好になった。見える右目でちらりとのぞくと、式は耳まで真っ赤にして、それでも真っ直ぐ前を見ている。
 式、なんで顔が赤いの?
 そう聞こうとして、やめておいた。そのセリフは昨日も一昨日も放っていて、新鮮味にかけるような気がしたから。
 頭の中で言葉を巡らす。どうやったら、一番かわいい式を見れるだろうか、そんなバチあたりなことを考えながら。

196(編集人):2002/11/01(金) 13:31
「寒い、な」
 隣で呟くような声。僕は発作のように、式の手に、自分の手を絡めた。
 式は何も言わない。ただ一度こっちを見ただけだ。
 三月の空気はそれでも冷たく鋭い。キンキンと冷えたそれは吐く息さえ白く濁らせる。
 体は冷えている。その中で左手だけがとんでもないくらいに、温かい。びっくりしてしまうほど、体温が伝わりあう。
 そして僕は、かたわらで子犬のような仕草でもじもじしている彼女を、抱きしめたい衝動を必死にこらえるのだ。

 この日々は間違いなく幸せだ。支え、支えられ、そんな関係。
 両儀式。
 殺人衝動を内包している。だから何なのか。
 直死の魔眼を持っている。だから何なのか。
 人を殺した。だから何なのか。 
 黒桐幹也は何度目になるだろうか、もう一度誓った。

「式、僕は君が好きだ。周りが全部敵だらけでも、一生、離さないよ」

「……望むところだ」

 今は三月。寒い三月。それでもしばらくすれば、温かい春がやってくる。
 けれど、と思う。
 春でも夏でも秋でも冬でも、僕らは寄り添いあい、流れていく季節を、ともに暮らしていく。

 

 終

197(編集人):2002/11/01(金) 13:32
『さっちん支援SS④』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)0時1分。
ROUND5.382レス目「七視さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

198(編集人):2002/11/01(金) 13:33
さっちん支援SS④

やはり、私はオカシクなっていたんだろう。
その、路地裏の入り口から聞こえてきた、透き通るような綺麗な声。
ここにはいる筈のない、でも私がずっと求めていた人の声。
ああ、なんですぐに気付かなかったんだろう―――
もうずいぶんと前から、一言一句聞き漏らすまいと思っていた声なのに。
「あ……?」
緩慢な動きで殺人鬼が振り返る。
そこには、ついさっきまで私が必死になって探していた人だった。
「志貴くん……!」
嬉しかった。やっぱり志貴くんは約束を守ってくれた。
私が本当にピンチの時は、彼は間違いなく助けに来てくれるのだ。
「テメエ……!まさか、そんな筈は……!」
殺人鬼は、突然の邪魔者に驚いている。しかし、それはすぐにくぐもった笑いに変わった。
「ヒヒヒ……ヒャヒャヒャヒャヒャヒャァ!!!そんなことはどうでもいいか!そうだよな、兄弟!」
狂ったように―――実際狂っているのだろうが―――大口を開けて笑い、殺人鬼は愉悦に満ちた表情を浮かべた。
しかし、私にはそんな殺人鬼の行動には見向きもできなかった。
兄弟―――?

―――『なんだ、オマエ、あいつの女か?』―――

殺人鬼は、志貴くんの事を知っている―――?
そこまで考えて、ハッとなった。
ここは袋小路になっている路地裏で、深夜であり、人がまったく通らない。
そして、そこにいるのは、私と、志貴くんと―――殺人鬼。
結果は火を見るよりも明らかだ。
「に、逃げて、遠野くん!」
このままでは二人とも殺されてしまう―――
「―――大丈夫だよ、弓塚さん」
しかし遠野くんは、いつか私に向けてくれた優しい、それでいて壊れそうな笑顔でそう言った。
しかし、私は見てしまった。
夜の闇のなかでもはっきりと判るほど、遠野くんの顔色が悪い。息づかいも荒い。
こんな状態ではとても―――
「もう何年前だか忘れちまったが……長年の恨みだ、死ねよ」
そこで私は、信じられないものを見た。
殺人鬼の体が、「消えた」。
次の瞬間、3メートルは離れた所にいた遠野くんが「こちらに」吹っ飛んできた。
「きゃあっ!」
「がっ……!」
とっさに、吹っ飛んできた遠野くんを受け止め、そのまま倒れこんだ。
「うう……と、遠野くん……」
「ゆ、弓塚さん……怪我はない?」
怪我はないが、それよりも遠野くんの方が心配だ。
「大丈夫だから……それよりも遠野くん、なんで、なんで……」
自分の喉が恨めしい。こんな時に限って思うように動いてくれない。
「約束は、守らないとね……」
私の台詞を悟って、遠野くんは冗談めかして微笑む。
それはちょっと、私には致命的だった。

「……バカ……」

違う、そんなこと言いたくないのに。

「これじゃあ、私のせいで……」

こんな事言ってもどうしようもない。

「そうだね、自分でもバカだと思う」

こんな時でも、遠野くんはいつも通りだった。

「でも、それでも、約束は約束だ」

ああ、もうダメだ。私はもう、ダメになってしまう―――

「テメエら、何いちゃついてやがんだよ……!」
再び近づいてきた殺人鬼が、その禍々しい腕を振るう。
反射的に身を引いた遠野くんは、なんとかそれをかわした。

―――カシャン

渇いた硬質の音が響いた。
それは地面を滑って行き、壁に当たって止まった。
その時私は、一瞬だけゾクッとした。
音に驚いたわけではない。ましてや殺人鬼の攻撃に怖気づいたのでもない。
ただ、それがはずれた、という事実に、訳のわからない感覚が体中に走ったのだ。

私の視線の先には、遠野くんの眼鏡があった―――

199(編集人):2002/11/01(金) 13:35
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)12時45分。
ROUND5.388レス目「瀬尾的」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

200(編集人):2002/11/01(金) 13:36
彼女の目はひどく綺麗で、それでいてとても繊細だった。
自分という存在がちっぽけに思えてしまうぐらい、彼女の眼差しは凛としていて、
瞬きする瞬間に自分が殺されて、息もせぬ物体に成り果てることを
ただ単純にその瞳は示唆していた。
 「コクトー……。何でお前は」
 彼女の言葉は僕に届く前に、その瞳から流麗に滴り落ちる涙によって掻き消された。
彼女が何て言おうとしているのか、僕には漠然とわかる気がする。
だから、躊躇わずに、僕は無意識のうちに声を発していた。
 「違うよ。僕は式を邪魔しにきたんじゃない」
 穏やかな微笑を投げかけ、僕は一歩近づく。
 「頼むから、近づかないでくれ……コクトー」
 大事に握られているナイフが心なしか寒さに震えているような気がした。
 ……式がもう一人の自分と対峙し、式自身の為に
そいつを殺さなければならないことは僕にだってわかる。
だけど、僕は、式を、少女のように泣いている式を、止めなければならない。

201(編集人):2002/11/01(金) 13:37
『(無題)』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)14時57分。
ROUND5.398レス目「鳥」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

202(編集人):2002/11/01(金) 13:38
夏になると、セーラー服の学校が羨ましく感じる。
 ブレザーのブラウスと違って、なんだか涼しそうなんだもの。

 職員室の扉を開けると、熱気を帯びた空気が漂ってきた。わたしは
うんざりしながら一歩外に出ると、失礼しました、と言って扉を閉めた。
 わたしは先ほど担任からもらった薄っぺらな紙を眺めた。『長期
休暇中の旅行届け』という見出しに、あとは氏名やクラスを書くための
スペースが数箇所記されている。
 まったく、こんな紙をもらうだけのために、なんで夏休みの学校に
来なきゃならないんだろ。そう思いながら、それを四つ折にして胸
ポケットに入れた。
 昇降口の前に冷水機に向かい、カラカラの喉を潤した。
 冷水機は学食の前にしかないので、嫌でも外に出なければならない。
水分を補給したばかりだというのに、夏の日差しは相変わらず強くて
ただれそうになる。
 風が吹いた。涼しげな風が足元をさらっていった。髪の毛の隙間から
入りこんだそれが汗ばんだうなじを撫であげる。気持ちいい。
 グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてきて、セミの大合唱と入り
混じる。ブラスバンド部の間延びした音がそれらのあとからついてくる。
 夏は好きじゃない。でも夏の学校は好き。
 わたしは唐突に学校中を廻ってみたくなった。

203(編集人):2002/11/01(金) 13:39
階段を上がって3階へ。教室棟の廊下はずっと奥まで続いている。
わたしの教室は、奥から2番目。
 夏休みの校舎ってどこか浮世離れしている気がして、冒険心がくすぐ
られる。
 リノリウムで敷き詰められた廊下を、ゆっくりと歩く。通り過ぎる教室
をひとつひとつ見ていく(夏休みの間中、窓は開けられているのだ)。
もちろん誰もいない。
 黒板の隅に書かれた『今日の日付』は一週間も前の終業式のままだった
り、既に2学期の始業式に合わせられていたり。その下に書かれた日番
の欄に見知った名前を見かけると、よくわからないけど嬉しくなる。
 そんな調子で自分の教室を覗いたときだ。
 わたしはドキリとして、思わず声を上げそうになった。
 そこに見知った顔が座っていた。知っているどころじゃない。一日たり
とも名前を忘れたことのないくらいだ。
 彼はただ何をするでもなく、窓から外を見ていた。
 時おり吹きこんでくる風に気持ちよさそうに目を細め、ひじをついて
この真夏の空気に身を委ねているようだった。
 見えた横顔があまりに綺麗で、わたしはその場から動けなかった。まる
で白昼夢のよう。
 やがて彼がわたしに気づいた。まるでわたしがそこにいるのがわかって
いたように振り向くと、柔らかに微笑んで言った。

204(編集人):2002/11/01(金) 13:41
「こんにちは、弓塚さん」
 そこでわたしは我に返った。
 なんでここに? どうしてわたしに声を? いろんな疑問が頭の中で
ぐるぐると混ざりあって、結局何も言い出せない。
「今日も暑いね」
「あ、えっと、うん。暑いね」
「弓塚さん、なんで学校に? ひょっとして補習?」
「え、違うよ。ちょっと職員室に用があって」
「そっか。そうだよなー。弓塚さん成績いいし、補習なんてあるわけないか。
俺、補習だったんだ。さっきまで」
「あ、そうなんだ」
 そう言うと彼は再び窓に向き直った。わたしはどうすればいいのかわか
らず、そのまま立ち尽くす。
「かき氷でも食べにいこっか」
 彼はそのまま言った。
 一瞬、頭の中のゴタゴタがピタ、と止まり、再び動き出した頃にはもう
わけがわからなくなっている。
「え?」
「かき氷。俺、今食べたいなーって思ってたんんだけど」
「え、え?」
「かき氷嫌い? あ、それともこれから用とかある?」
「え、あ、そんなことないけど」
「じゃ、行く?」
「あ、うん」
「それじゃ、決まり」
 彼はこっちを向いてにっこりと笑うと、ゆっくりと立ち上がった。
 鞄を手にとって廊下に出てくると、昇降口のほうに歩き出す。
「弓塚さん」
「え?」
「置いてくよ」
 我に返ったわたしは急いで彼の、遠野くんの背中を追った。

 −END

205(編集人):2002/11/01(金) 13:42
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)21時50分。
ROUND5.435レス目「七子さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

206(編集人):2002/11/01(金) 13:43
1/4
はじめて着た私服のスカートは足がすーすーして落ち着かない。
はじめて履いたハイヒールは歩きにくく、ひどくアンバランスな棒の上に立って歩い
ているかのよう。地面を全然噛み締められない。
習ったばかりの化粧を施した顔は、他人の視線を気にして真っ赤に染まりそうになる。
恥ずかしくて、俯きながら赤子のように覚束ない足取りで歩く。

----まるで拷問だ。
今まで他人(ひと)の目を気にしたことなんて無かったのに。
私の格好は周囲から見ておかしくないだろうか、なんて考えるなんて----

それに------------それに------------
----------------今の私を、幹也はどう思うんだろう?

どんっ!
「きゃっ!!」

頭がぐらぐらするほどの衝撃。

羞恥と煩悶で混沌とした思いに囚われていた私は、人にぶつかってしまったらしい。
どうしよう。
(化粧はずれなかっただろうか)
どうしよう。
(相手に謝らないと。幹也はこういう時ちゃんとしない女は嫌いだ)
どうしよう。
(でも、相手をしている内に待ち合わせに遅れてしまうかも知れない。
幹也が怒ってしまうかも知れない)
どうしよう-------!

207(編集人):2002/11/01(金) 13:44
2/4
「あ………」

------------------------なんて、無様。
何のことはない、私は電柱に激突したのだ。

信じられない。
どうかしている。
本当にどうかしている。
両儀式は洋服を着てデートになんて行く女じゃない。
周囲の目を気にしたことなんて金輪際無い。
こんなおどおどした私は----私じゃない。

それが、女のような悲鳴を上げるなんて------------!!

むかむかしてきた。
本当にむかむかしてきた。
憤然と身を起こすと、駅に向かってずかずかと歩き出す。
幼い頃からの訓練で培われた足腰は、慣れない履き物の違和感をでもまるで問題に
することなく歩道を進ませる。
こっぴどくぶつけた顔面は怒りで発する体温以上に熱を帯び、おそらくは軽い痣で
もできてしまっているだろう。

あいつのせいだ。
幹也のせいだ。
あいつが全部、悪い--------!

208(編集人):2002/11/01(金) 13:45
3/4
文句を言ってやる。
お前が悪いんだって。
どうしてくれるんだって。
謝ったって許してやらない。
そうだ、許してなどやるものか------!!

化粧なんて落ちてしまった。
こんな歩き方では、スカートもハイヒールも台無しだ。
かまうもんか。思えば中学の制服だってスカートだった。その時だって、歩き方に
気を遣ったことなんて無かった。

昨日は鏡の前で一晩眠れなかった。
それだけの苦労も、一瞬で台無しだ。なんて無駄で無意味なことをしてしまったん
だろう?
あいつのせいだと思うと腑が煮えたぎる。
あいつのせいで、私はあれほど心細い思いをした。殺してやりたい位むかむかする。
こんなに身体が震えるほど怒ったのは久しぶりだ。
だっていうのになんで------------私はこんなにも泣きそうになっているんだろう?

駅前にあいつの姿が見えた。
いつも通りの黒ずくめの姿。

こっちは一晩中悩み抜いたというのに。
あいつは平素のいつも通りだなんて。どうしてだ?
これじゃ私は莫迦みたいだ。
もう我慢できない。許せない。許せない。許せない。

だがあいつと目があった途端、私は金縛りにあったように動けなくなってしまった。

209(編集人):2002/11/01(金) 13:46
4/4
信号を渡ってくる式が見えた。

目を疑った。あの式が和服を着ていない。
スカートからすらりと伸びた足が覗くその歩みは颯爽と。
和服と比べれば式の女性らしい肢体の線が浮き出る洋装はとても-----

息が止まるかと思った。
僕の目には今日の式は神々しいまでに美しく見えた。

その眼差しが僕を見据え、刹那、もの凄い一瞥が僕を射殺した。
「ひっ!!」
こ、殺される?!
ドウシテ、ナンデ……
先ほどまでの天国からすさまじい高さを墜落し、僕は戦慄の地獄に叩き落とされる。
恐怖に心臓を鷲づかみにされた僕は、瞬時に氷の彫像と化した。

永遠とも感じられる瞬間が過ぎ、ふと急に式の顔がくしゃ、と歪んで…………

------------赤子のように泣き出した。

大通りの角に立つ雑居ビルの屋上では、二人の出刃亀が交差点を見下ろしていた。
横断歩道に立ちつくして身も世もなく泣き叫ぶ少女に、黒衣の青年が慌てて駆け寄る
姿が見える。

「式がこちらを見なくてよかったな。もし気づかれていたら結界ごと斬り捨てられた
かもしれん」
「驚きました。見せたかったいいものってこれのことですか、師匠」

集まりだした人だかりの中、少女は困惑する青年の胸をポカポカと殴っている。
しばらくおろおろとしていた青年は、意を決したかのように衆人環視の中、少女を
その腕に抱きしめた。

「……なんて、はずかしいやつらだ。そう思うだろう?鮮花」
「………やってられません」
言うと、鮮花は身を翻して去っていく。きっと、この著しい劣勢を立て直す起死回生
の策を練るために。その姿を見送った後、魔術師はつぶやく。
「伽藍洞だということはいくらでも詰め込めるという事だろう。この幸せ者め。
それ以上の未来が一体どこにあるというんだ」

210(編集人):2002/11/01(金) 13:48
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)22時13分。
ROUND5.445レス目「ぴーおー」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

211(編集人):2002/11/01(金) 13:49
とある日曜日の昼。僕は橙子さんに頼まれていた調査に、なんとか一段落をつけた。
 まだまだ物足りないところはあるけれど、とりあえず簡易報告くらいは出来そうではある。
 少しだけ満足な気分に浸りながら、僕は一度部屋に戻ることにして強い日差しの中、歩いて家へと戻った。
「ただいま……って誰もいない……あ、式が来てるのか」
 開け放ったドアの向こう、散らかった玄関には式の履物が行儀よくキチンと置かれていた。
「おーい、式? 返事くらいしなよ。もしかして寝てる?」
 靴をぬぎながら式に呼びかけて見るけれど、どうやらホントに寝てるようで返事はない。はぁ、と一つため息を零しながら部屋へと入った。
 案の定、寝床の上には着物のまま、体を丸めた式が静かに眠りに落ちている。
 このとき、もう慣れてしまったとはいえ、僕はいつも心配になる。
 彼女の寝ている姿は、ひどく静かだ。寝息は聞こえない。身じろぎもしない。死人と見間違えてもおかしくないくらい、静かだった。
 今すぐ起こしたくなる。目をあけて名前を呼んで欲しくなる。けれどそれは彼女にあまりにも悪い。
 注意深く見て、傷一つない白磁のような美しい肌に朱色の血の気が帯びているので、ようやく無事だということに一安心をつけるのだ。
「けど、」
 一歩、近づく。
 何故か、頭の奥が痺れるような感じがした。それはまるで何かにとり憑かれたような……
「ほんとに、綺麗だ」
 中性的で、まるで抜き身の真剣のような、危うさを漂わせる美しい顔。
 
 導かれるように、僕は禁断のそれに手を伸ばした。

212(編集人):2002/11/01(金) 13:50
やわらかく、それでいて芯のしっかりした黒髪に手を伸ばす。
 さらりと触れて、ただそれだけの事なのに心臓は今にも爆発しそうなほど鼓動を繰り返している。
「式……」
 それでも、離れる気にはならない。離れたくない。
 ギシリとベッドを軋ませて、寝ている彼女の横に座った。
「君は、なんでそんなに綺麗なんだ」
 手を伸ばし、頬に触れる。一度だけ人差し指で押してみて、彼女は、うぅん、と初めて声を漏らした。
 とても可愛らしい声だ。もう一度押してみて、また、ぅぅん、と声を漏らす。
 なにかしら、背徳感のただよう秘密を手に入れたようで、僕は一人笑った。
 もっと彼女の顔を見たくなった。手を頬に添えたまま、顔を近づけていく。長いまつ毛に、またドキマギしながら。
「式」 
 小声で呼びかける。まぶたがピクリと動いたようだけれど、多分気のせいだ。
「式、僕は君を愛している」
 だから、
「だから、君が欲しい」

 もっと近づこうとして、やめた。自分がヒドイ愚か者のように思えてきた。寝ている女性に付け入るなんて、あまりに情けない行為だから。
 でも、正直に本音を言えば、もったいない。そう感じた。
 だから一度だけその頬に唇を触れて、僕は飛び跳ねるように彼女から離れた。
 心臓は口から飛び出てきそうで、寝れそうもないのに恥ずかしくて目を閉じた。
 式のほっぺたは、とんでもないくらい、柔らかかった。

213(編集人):2002/11/01(金) 13:51
 まだ鼓動が耳に届く。こんなことは生まれて初めてのこと。きっと耳まで真っ赤になっている。
 一度身を起こして、そっちの方を向いてみた。
 スヤスヤと、実に気持ちよさそうに眠っている。こっちの気も知らないで。 
 そして、まだ熱をもっている頬に手を伸ばして、そっと撫でた。
 ここに、唇が。
 しばらく眺めて、触れた指を、そっと、ペロリと舐めてみた。
 すぐに顔が真っ赤になる。私は何をしているのか。自分がヒドイ愚か者のように思えた。
 腹が立って、私は立ち上がった。なんであいつのために、こんな思いをしなくちゃならないんだ。
 ベッドから降りて近づく。毛布に包まった幹也はムニャムニャ言いながら夢心地を味わっている。
「このバカ。私の気も知らないで」
 はたして、私の気とはなんなのか。深く考えないようにした。これ以上顔が赤くなっては困る。
 ストンと寝ている幹也の横に腰を下ろした。覗き込んで見る。傷痕が痛々しかった。けれどそれ以上に、自分のドキドキする気持ちに困惑した。
 ゆっくりと、手を伸ばしてみる。触れた幹也の頬は、柔らかく、けれど男らしさを少しだけ感じた。
 私は一度だけ深呼吸し、唇を幹也の頬に近づけようとした。
 高鳴る心臓に、これはさっきの仕返しなんだ、と言い訳をしながら。
 そのとき、口は勝手に何かを口走っていた。
「幹也、愛している」
 そして、
「そして私も、お前を感じたい」
 意を決して、幹也の頬に口付けしようとしたのを、止め、
 素早く、幹也の唇に、キスをした。
 ほんとに、チュッ、という音がして、私は顔を真っ赤、頭の中を真っ白にさせながら、ベッドに飛び込んだ。
 毛布で頭をくるめながら、起きたら絶対に文句を言ってやる。そう思った。


 そっと唇に手を伸ばす。そこには、ずっと求めていた相手の温もりが……

214(編集人):2002/11/01(金) 13:52
『さっちん支援SS⑤』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)22時32分。
ROUND5.454レス目「七視さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

215(編集人):2002/11/01(金) 13:54
さっちん支援SS⑤

空気が変わった、なんて生易しいものじゃなかった気がする。
もうすぐ夏も終わるというのに、いまだにねっとりと纏わりつく熱気が、凍りついたように止まった。少なくとも自分の感覚では。
その変化は、殺人鬼にも伝わったらしい。いぶかしげな表情でこちらを睨みつけていた。
「なんだ……?おい、テメエ何しやがった?」
答えられるはずもない。
ただ、どうしようもないほどに緊張した空気が三人の間を流れた。

「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――」

唐突に、荒い呼吸音が静寂を破った。
ハッとして見ると、遠野くんの顔色が今まで以上に悪い。
「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――!」
「ど、どうしたの遠野くん!?」
「ヒ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!なんだよ、もう限界かァ?そうだよな、夜は俺の時間だ」

ひた―――

殺人鬼が、一歩近づく。
「ひっ!?」
「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ゼェ―――ゼェ―――ゼェ―――」

ひた―――

殺人鬼がまた一歩近づく。
遠野くんの息は荒くなるばかりだ。
「とお―――志貴くん―――!」
私は、志貴くんの身体をギュッと抱きしめた。
どうしてそうしたかは自分でも分からない。ただ恐怖に怯えていたのか、助けてもらおうと思ったのか、助けようと思ったのか、諦めて覚悟を決めたのか―――
分かっていたのは、私の腕が震えていたという事だけだった。

ぽん―――

暖かい感触が頬に触れる。
「え―――?」
まだ息が荒いままの志貴くんは、ゆっくりと、優しく私の身体をほどいた。
そして、今まで私が見たなかで、最高に優しく、崩れ落ちそうな笑顔を向けると、ふらつきながらも立ち上がった。
「し、志貴くん―――」
「いいねェいいねェ、そうこなくちゃなァ」
「……」
志貴くんは応えない。
そこで私は気がついた。
呼吸が落ち着いている―――?
そう思った瞬間、志貴くんは目にも留まらないほどの速さで駆け出した。
「ぬあっ!?」
完全に不意を突かれた殺人鬼は体勢を崩し、志貴くんはその脇をすり抜けていく。
そのまま走り抜けるかと思いきや、袋小路の入り口で振り返った。片手にはいつの間にかナイフが握られている。

―――その蒼く輝く瞳に、ぞくり、とした―――

「―――んの野郎ォ!」
殺人鬼は腹部を押さえて志貴くんを振り返った。どうやら、すれ違ったときに一撃いれられたらしい。
殺人鬼が、まさに人外の動きで志貴くんに跳びかかる。
その一撃がとどく前に、志貴くんはすでに走り出していた。
殺人鬼は、志貴くんを追って駆け出していった。

袋小路には、腰を抜かして情けない格好をした。私、弓塚さつきだけが残された。
私はそのままの体勢で、
(そうだ、あの時の笑顔に似ているんだ―――私を助けてくれた時の笑顔に―――)
なんて事をぼんやりと考えていた。

216(編集人):2002/11/01(金) 13:55
『夢の名残』両儀式・支援
2002年7月30日(火)22時54分。
ROUND5.462レス目「七死さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

217(編集人):2002/11/01(金) 13:56
両儀式支援SS「夢の名残」

―――きみがいて、わらっているだけで幸せだった。

「黒桐だから、黒を着る? 莫迦じゃないのか、お前」
「別に、いいじゃないか、好きなんだから。黒。
 ・・・まあ、さっきの発言は、我ながらアレだったとは思うけど」

「じゃあ、式が選んでよ。僕の服」
「・・・いいぜ」
「え? ほんと?!」
「でも、いいんだな。俺は安物なんか選ばないからな?」
「え、あ、それは」



―――安心できて、不安なのに。

「そろそろ、ちゃんとご両親に会うようにしないと駄目だ」
「そんなこと、関係ないだろ。俺の居場所は、あそこじゃない」

「俺がここにいたら、邪魔なのか」
「あのね、誰もそんなこといってないだろ」

「じゃあ、別にいいだろ。幹也には関係ない」
「そんなことない」
「何で!!」
「式のご両親は、僕の義理の親になる人たちだから、関係なくなんて無い」
「・・・え、あ、それは」
 


―――君がいて、あるいているだけで、嬉しかった。


「ちゃんと、出席日数は足りてるんだ。えらい、えらい」
「どこかの大学中退者と一緒にするな」
「うっ、でも、僕も高校はちゃんと卒業したじゃないか」
「こんなとこに就職するぐらいなら、高校中退の方がましだ」

「ふむ、一理あるか」
「納得しないで下さい、所長」

「ちゃんと稼げよ、幹也。じゃないと――――」
「大丈夫。わかってる」
「・・・うん」




一緒にいれて、一緒じゃないのに。




「ねえ、式」
「何?」



「―――今、幸せかな?」


「何をいきなり、馬鹿なこと言ってるんだ、お前」
「あ、そんな言い方ないだろ!」
「馬鹿に馬鹿に言うのに、言い方なんて関係ない」
「・・・ますます酷いよ、それ」





――――それは、ほんとうに。




「――――幸せじゃないはず、ないだろ。馬鹿」





―――夢のような、日々の名残。


―――夢のような、日々の続き。

218(編集人):2002/11/01(金) 13:58
『(無題)』コルネリウス・アルバ支援
2002年7月31日(水)20時41分。
ROUND5.558レス目「ぴーおー」様によって投下。
 コルネリウス・アルバ(空の境界)
 三澤羽居      (月姫)

219(編集人):2002/11/01(金) 13:59
この計画に乗ったのは、アオザキへの復讐だ。
 私は、そう公言していた。彼にも、彼女にも、そして自分にも。
 否定はしない。ただ、真実ではない。
 アオザキに復讐しようと思ってたのは、魔術の実力による嫉妬なんかじゃない。
 私が彼女を嫌う理由は、唯一つ。

         
                  アラヤが、彼女のことを好いているから。

 
 昔からだった。いつも、彼の目には私など映っていない。きっとただの虫けらのように見えるのだろう。
 けれど、アオザキトウコは違う。あの二人が親密な関係だということなど、私の目から一目瞭然だった。
 不愉快極まりなかった。アオザキはきっと、私のアラヤに対する気持ちを知っていた上で、ルーンを専攻したのだ。そうに違いない。
 実力主義の世界観をもつ彼のこと。一番でない人間に興味を示すはずもなかった。
 かくして、私の思慕は伝えきれぬまま封印することにした。悔しいけれど、アオザキの能力の上を行くのは、不可能だったから。
 一時期はほんとに荒れた。アグリッパの末裔など何の関係もない。次期学院長がなんだというのか。
 一番、大切なモノが手に入らないのなら、何の意味もない。

 そして数年の月日。まさかの、アラヤからの連絡。
 それは、忘れようとして、ようやく重い枷から抜け出そうとしていた時だった。
 アラヤの言うことは、簡単で、根源にいたるための協力要請だった。
 嬉しかった。
 場所は日本。アオザキを始末させてやる。彼はそう言った。
 涙声を悟られないように私は必死に声を押し殺した。彼にもう一度会える。断る理由などどこにもない。
 正直アオザキのことなどどうでもよかった。ただ彼が望むのなら、そう思ってアオザキを殺すためという仮面を被って私は来日した。
 

 この仕事が終わったら、彼に気持ちを伝えよう。拒まれても仕方がないけれど、ケジメはきちんとしなければ。

 
『アラヤは、コルネリウス・アルバは、君が好きだ』



             終わっとけ(悶絶

220(編集人):2002/11/01(金) 14:00
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月1日(木)2時32分。
ROUND5.648レス目「七子さん」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド(月姫)
 シエル            (月姫)

221(編集人):2002/11/01(金) 14:01
1/3
「遠野くん…」
「その呼び方も久しぶりですね、"先輩"」
「どうしても、行っちゃうんですね」
「先輩には本当にお世話になったけど、もともとこのために俺は
 力を得たんです」

アルクェイドが眠りに付いた後、あいつをどうしてもあきらめ
られなかった俺は埋葬機関へと身を投じた。
千年城を探し出すため。そしてもう一つの目的を果たすため。
一つ目の目的は果たされた。俺はもう一つの目的を果たすため、
ここにいる。

「今の遠野君は私よりも強くなりました。それは認めます。
 でも、彼女は"真祖狩りの真祖"なんですよ!」
「だからさ、まずは軽く一度試したいんだ。大丈夫。逃げ足も
 あの頃よりもずいぶんと早くなったからね。」
「軽く試す………ですか?」
先輩が呆気にとられたような顔をした後、ほっと溜息を付いた。
「驚きました。あのアルクェイドを相手にそんなことが言える
 なんて。――――貴方ならもしかすると、本当になんとか
 してしまうのかも知れない。そう思えてきました……………
 ……正直、妬けますけどね。」

222(編集人):2002/11/01(金) 14:02
2/3
苦笑しながらシエルは言う。
そして瞬時にきりりと埋葬機関の上司となり、俺に命じた。
「代行者ウリエル。千年城へ潜入し、アルクェイド・ブリュンス
タットを眠りから醒ましなさい。使命を果たすまで、帰参報告
の必要はありません。神の意志を代行しなさい―――手段は
問わず」
「もとより………!」
「ナルバレックは私が押さえておきます。以前貴方と一千交えて
から、彼女もずいぶんとおとなしくなりましたからね。」
にんまりと"先輩"に戻ってシエルは笑う。
「でも、私がお婆ちゃんになる前に帰ってきて下さいね。
………行ってらっしゃい。遠野くん。
アルクェイドによろしく行っておいてください。」
「わかった。ありがとう。先輩も元気で。」
言葉と共に、俺は走り出す。山と見紛うばかりのゆらめく古城の
シルエットに向かって。

もうひとつの目的。
おれは生身のままアルクェイドを超えて強くなる。
吸血衝動を暴走させた"本気"のアルクェイドを止められる位に。

223(編集人):2002/11/01(金) 14:03
3/3
教会での"教育"を受けても、俺に他者を攻撃する魔力は一切身に
付かなかった。
だが、自分自身に掛ける術には、俺は適性があったようだ。
今ではかつてのシエル先輩のようにはいかなくても、「不死身」
と呼ばれる位には自分の肉体を自由自在にコントロールできる。
七夜として体得していた能力も多分に優利に働いたのだろう。

正直今の自分であいつの本気に立ち向かえるのかはわからない。
だが、俺は前に進むと決めている。打ちのめされても、死ぬまで
はあきらめない。あいつのことを。

だって。
彼氏であれば、彼女の"やんちゃ"ぐらいおさえてやれなくちゃ。
それぐらい出来なくて、どうするのか。
まだまだ先は永いんだから―――俺たちは!

ふと脳裏に浮かんだ。
あいつがいて、俺の傍で笑っている。そんな未来の風景。

いつかだった瀬尾という子が言っていた。
「志貴さんが金髪の外人さんと仲良くしている未来を見た」と。
未来視は"変わる"とも言っていたけど。
俺にも見えたその風景は本当になると信じている。
否―――本当にしてみせる。

今から行く。アルクェイド。お前に会いに。
以上

224(編集人):2002/11/01(金) 14:05
『自演S(シエル)S(支援)』シエル支援
2002年8月1日(木)5時55分。
ROUND5.666レス目「七紙 散」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド(月姫)
 シエル            (月姫)

225(編集人):2002/11/01(金) 14:06
[自演S(シエル)S(支援)]

今回の戦いを傍観する私の元へ、一通の手紙が届いた。

「檄文
 親愛なる○○ ○○○(好きなキャラ名を入れよう!)ファン同士諸君、
 ここで奴が勝ち残ることは、我々にとって憂慮すべき事態だ。
 奴、正ヒロインたる真祖の姫君、アルクェイドが!!
 アルクが決勝まで勝ち進めば、世界の力が流れ込むばかりか、
 霊長の意思さえも奴を後押ししかねない。
 標を失った大衆がカリスマの元に集い、
 ファシズムの恐るべき圧力を行使するだろう」

…つまり、浮動票がアルクに流れると言いたいのか…?

「○○○○(好きなキャラの愛称を入れよう!)萌えの同士諸君!
 今は苦汁を飲み下し、踏絵のようなこの行為に耐えながら、
 <<シエル>>先輩に票を投じようではないか!!
 彼女にならあるいは、ヒロインの中でも彼女になら、
 我々はそう思い、日々を過ごして来た筈だ。
 このような発言が明るみに出れば、
 我々は再びシエルファンに蹂躙されるやも知れぬ」

面白そうだからコピペ準備っと

「しかし我々は、○○ ○○○(キャラ名)に己の萌えを捧げた我々は、
 ○○○○(愛称)がヒロイン達に打ち勝ち、
 晴れの舞台で祝福されることが望みだ!
 我々にとっての全てだ!!
 その為になら背骨すら残さず邁進しよう!!!」

アツイ…、うむ、賛同しよう、同調しよう(ノリで)

「さあ、今こそ声高に叫ぼう!! 我らが……」

そう、我らが、ゆ…

「ネロ カオスの為に!!!」

え?

「叔父さま(愛称)の為に!!!」

なっ

「真祖を打ち倒せ!!!
 尚、この手紙は我が固有結界であり、
 見た者は最低でも5人に同じ手紙を送らねば、
 萌えキャラ投票日に呪縛を受けるであろう」

不幸の手紙かよ!! 今時!!
…私は、怒りとも罪悪感とも取れる不快感を抱きながら、
伏字を「瀬尾 あきら」「晶ちゃん」と書きかえることを考えていた。

おわり

226(編集人):2002/11/01(金) 14:07
『(裏姫嬢祭)』?支援
2002年8月3日(土)16時30分。
ROUND5.933レス目「七死さん」様によって投下。
 瀬尾晶  (月姫)
 遠野志貴 (月姫)

外部リンク型。このURLはHPのコンテンツ、「裏姫嬢祭」につながります。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/himejou.htm

227(編集人):2002/11/01(金) 14:08
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)0時1分。
ROUND6.101レス目「Ryo-T」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

228(編集人):2002/11/01(金) 14:10
その日、学校から帰ってきたさつきは、部屋に入るなりふらふらとベッドに倒れこんだ。
暖まっていない布団が妙に心地良い。
躯はいつも以上に疲れていた。それはそうだろう。
つい先程まで、彼女は生と死の境界線に立たされていたのだから。
だが、彼女は何故か眠る気にはなれなかった。
なんとなくどきどきして、そして、なんとなくぽかぽかする。

「遠野、志貴くん・・・」

頭から浮かんできた事をそのまま口にしてみる。
すると何故だろう。
さっき以上にどきどきして、ぽかぽかして、けど何だかそれでも安心している自分がいた。
こんな感じ、今まで味わった事がない。
けれど、それが一体何なのか、経験した事はなくても、見当はついていた。

「好き、なのかな・・・」

似たような事は少しはあった。
そういう事に疎いさつきではあったが、かっこいい同級生や先輩に友人と一緒に憧れたこともある。
けれど、今回は今までのものとは何処か違っていた。
ただのクラスメートだった彼。
特にかっこよくも、運動ができる訳でも、成績が良い訳でもない。
あまり目立たない、平凡な、男の子。

「だけど・・・」

多分、いや絶対に、自分は彼の事が好きになってしまった。
絶望の中から救い出してくれた彼を。
泣いていた私を、優しく慰めてくれた彼を。

「そうだ!!」

何か思いついたのかさつきは勢いよく起き上がった。

「お餅、用意しなきゃ」

そう言うと、さつきはパタパタとスリッパを鳴らしながら、キッチンへと向かった。
料理はあまり得意でないさつきであったが、
時間をかけながらも何とか望み通りのものを作る事ができた。
ほかほかのお雑煮。助けてくれた彼が、自分に勧めてくれたものだった。
とりあえず味見。それはなんだか体だけではなく、心まで暖めてくれるような気がした。
それにすごくおいしい。自分で作った物ながら、思わず感動してしまうぐらいそれはおいしかった。

「そう言えば、お礼も言ってなかったな」

お餅をつつきながら、ボソリと一人ごちる。
いつかまた言える日が来るのだろうか。
今のままでは多分無理だろう。
引っ込み思案な自分の性格は自分でもよく解かっていた。
けど、お礼を言いたい。もっともっとおしゃべりがしたい。
そのためには自分で話しかける勇気を持たないと・・・。

「うん。待っててね、遠野くん」

私の想いが。
彼への想いが。
いつか、彼へと届けられますように・・・。

229(編集人):2002/11/01(金) 14:11
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)0時43分。
ROUND6.122レス目「偽洗脳探偵」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

230(編集人):2002/11/01(金) 14:12
―それは、ある1日の、遠野家での出来事



 「第1回!!着せ替え翡翠ちゃ〜〜〜〜ん!!ドンドンパフパフーー」

 …大変です。姉さんがおかしくなりました。頭でも打ったのでしょうか?心配です。

 「あ、あの…、姉さん?一体なにを…?」
 「はいそこシャラ〜〜〜ップ!!」

 ビシッ、と、音が響いたかと思わせるくらい見事に、私の鼻先に指が突きつけられました。…姉さん、ノリノリですね…。

 「いいっ、翡翠ちゃん。これまでの統計によれば志貴様はズバリ!!保護欲を掻き立てられるような子に萌…じゃなかった、愛を感じるのよっ!!」

 姉さん…自信を持って断言するのはいいのですが…今何を言いかけたんですか?
 しかし確かに姉さんの言うことには一理ありです。志貴様には、弱い人を放ってはおけないようなところは確かにあります。ですが…

 「…な、なるほど、確かに姉さんの言うことにも一理ありますが…それと私の着替えに何の関係が?」

 本気でわからない私に対して、姉さんは口元を指をチッチッと振ってみせると―

 「甘いわ翡翠ちゃん!!確かにメイドさんは強力な燃え属性の一つ。しかしそれはどちらかというと男の独占欲と征服欲などを満足させるものなの!!志貴様に関しては劇的な効果は望めないわ!!」

 と、強い口調で諭されます。…ですが、なにやらおかしな表現があったのは気のせいでしょうか?…属性?でも、そのような質問を投げかける暇もなく、次に姉さんが放った一言が、私の胸に突き刺さりました。

 「…志貴様のこと、好きなんでしょ?」
 「ね、姉さんっ!!」

 ぼっ、と顔が染まるのが自分でもわかります。あまりの恥ずかしさに下を向いてしまった私を見上げるように、姉さんは顔を近づけると、くすくすと笑いながら

 「もう、翡翠ちゃんってばホントに可愛いんだから。ほら、おねーさんが協力してしてあげるから、志貴さんをゆーわくしちゃいなさいって」

 頷くしかない私に対して、そういって笑う姉さんは、本当に楽しそうでした。





 「…で、それはいいのですが…これは一体なんなのですか」

 姉さんの差し出した衣装を”しかたなく”着こんだ私は、そういって頭の”ソレ”を指差しました。衣装そのものは普段と代わり映えしませんが、頭についているそれは…

 「何って…翡翠ちゃん、”猫ミミ”知らないの?」

 …それくらいは知っています。たまにアルクェイド様に生えていますし。ですが、これと先ほどの、保護欲がどうとかに何の関連があるのでしょうか?そう思っていると…

 「それじゃ仕上げに入るわね?」

 というと、姉さんがどこからか下がった紐を、おもいきりひっぱりました。

 バシャーーーンッ


 …えっと。情報を整理してみましょう。床は水浸しです。…後で掃除をするのは私なのですが…。
頭上にはバケツがあります。どうやらさきほどの紐はこれと連動していたようです。
そして…私自身も水浸しです…。いくらなんでも酷すぎるのではないでしょうか?状況を改めて認識すると、なんだか泣きたくなってきました。

 「こ、これよ!!翡翠ちゃん、アルクェイドさんを悪戯な猫属性、レンさんを仔猫属性とするなら、捨てられて雨の中震える、いたいけな仔猫っ!!これで志貴様のハートをGETなのっ!!」

231(編集人):2002/11/01(金) 14:13
『さっちん支援SS⑥』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)1時35分。
ROUND6.141レス目「七視さん」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

232(編集人):2002/11/01(金) 14:15
さっちん支援SS⑥

数分後、私は全力で走って家まで帰った。
今まで、こんなに速く走れたことはなかったと思う。
後ろも見ずに駆け戻り、騒々しい音をたてて扉を閉めた。
我が家に帰り着いてほっとしたのか、気が抜けたのか、そのまま玄関でずるずると座り込んでしまった。

気がついた時には、もう夜が明けていた。いつの間にか、自分の部屋のベッドの中にいた。
いつもと同じように朝がきて、同じように日常が始まった。昨日と同じように太陽が昇り、昨日と同じように3軒隣で飼われている犬の源次郎が吠える。
昨夜の事は夢だった。
そう誰かに言われれば、そう信じてしまっただろう。それほどまでに、昨夜の事は現実離れしていた。
(そうよ、やっぱり夢だったんだ。だいたい都合がよすぎるよね。あんなに絶妙なタイミングで遠野くんが助けに来てくれるなんて)
そう思って、いつもと同じ時間に部屋から出た。
そこで気がついた。
「あれ、私、着替えなかったんだっけ」
しわになってしまった制服は、なぜかかなり汚れていた。

いつも通り朝食を食べている時に、何気なくテレビに目を向けた。
いつものニュース番組だった。少々はじけ過ぎの新人キャスターから、落ち着いた感じの女性にカメラが移された。
『今朝、早くに発見された死体は、損傷が激しく、男女の区別さえつかない状態だそうです。第一発見者の話によりますと……』

くらり、ときた。

落ち着いた感じの女性キャスターは、淡々とニュースを読み上げている。
次の瞬間、猛烈な吐き気を覚えて、トイレに駆け込み、今しがた食べたものをすべて吐き出した。
―――その日、私は学校を休んだ。

遠野くんの家に行こう、と思い立ったのはお昼を回ってしばらくしてからだった。
あのあと、遠野くんがどうなったのか、気になって仕方がなかった。
「よく考えたら、学校に行けば分かった事なんだよね」
まだ日が高い中、自分の間抜けさに呆れはてる。
ふと、足が止まった。
いつも通る、分かれ道だった。
―――右に行けば、学校へ。
―――左に行けば、遠野くんのお屋敷へ。
―――引き返せば、私の家へ。
数日前の事が脳裏をよぎる。
『私がピンチの時は、助けてね』
彼は、優しく笑って、OKしてくれた。
そんな夕焼けの中の出来事が、なんだかすごく嬉しかった。
同時に、とても不安になった。
「遠野くん―――!」
焦る気持ちを抑えられず、私は遠野のお屋敷へ続く坂道を走って登って行った。

233(編集人):2002/11/01(金) 14:16
『夏祭り(前編)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)16時55分。
ROUND6.189レス目「はね〜〜」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

234(編集人):2002/11/01(金) 14:17
弓塚さつき 支援SS  「夏祭り」(前編)


「あ、秋葉。ちょっと今日は用事があるから出かけてくる」
 いつも通りの朝食の後に、秋葉と一緒にお茶を飲みながら俺はそう切り出した。
「え? 兄さん、用事って乾さんとどちらかへ?」
 ティーカップをテーブルの上に置いて、秋葉が俺に尋ねる。
「いや、有彦は旅行中でね。そうじゃなくてちょっと野暮用さ」
 俺が遠野の屋敷に戻ってきてから秋葉と再開するまで色々とあったけれども、今ではかなり秋葉は素直になった。色々と口やかましいのは健在だが、俺の側にいる時は、本当に笑顔が多くなった。
 まあ寝るときの挨拶が、『兄さん、愛してます』なのは恥ずかしい事この上ないが。
「危険な事……ではありませんよね?」
 俺がはっきりと目的を口にしないせいか、秋葉が心配そうな顔をする。
「そういうのとは全然違うさ。ただ、さ。大抵の所なら秋葉やみんなと一緒でもいいんだけど、今日行く所は一人で行きたいんだ」
 今、俺は幸せだと思う。でも、そんな俺が唯一にして一番気にしている事。
 この一年、忘れた事は一度としてなかった事。
「そうですか……。わかりました、でも門限を過ぎて遅くなるようでしたら必ず連絡して下さい。兄さんは少しでも目を離すとどこか行ってしまいそうで怖いんです」
 そう言う秋葉の目を見ていると、例えどんなに危険な場所でも絶対に帰ってこなきゃいけないという気になる。でも、今日の目的は全然そんなんじゃ無いんだ。 
 俺は秋葉の髪をくしゃくしゃとなでた。
「大丈夫だって、心配しないで翡翠や琥珀さん達とゆっくり待っててくれよ。そんなに遅くもならないさ。じゃあ行って来るから」
 軽く秋葉へ笑いかけて、俺は翡翠の見送りで屋敷を出た。


 ジー、ジーと。
 外は、蝉の大合唱でかなりうるさかった。
 そして、屋敷の中は涼しいものの一度外に出れば、もの凄い暑さと熱気で嫌気がさす。 
「暑いな……」

235(編集人):2002/11/01(金) 14:18
夏祭り(前編)2/3

 暑いのも当たり前か。今は8月の真っ只中だものな。
 そんな中を、俺は彼女の両親から聞いた場所へ電車を乗り継いで行く。場所は隣町だから、それほど時間がかかるわけでもない。
 本当はもっと早く行きたかった。でも、いざ行くとなるとどうしてもためらってしまい、今日まで延び延びになってしまった。
『ピンチの時は助けてね』
 彼女の言葉が脳裏をかすめる。俺は、彼女の気持ちに気が付いて上げられなかった。そして、その約束も守れず、挙句にこの手で彼女を殺してしまった。
 弓塚さつき。
 俺のクラスメート。そして、俺の事を好きと言ってくれた女の子。
 俺に彼女の……弓塚の墓参りをする資格があるのかはわからない。でも、行かなければいけない。行って弓塚の前で謝らなければいけない。
 その内に、電車は30分もしないで目的の場所についた。

 さあ行こう。彼女が待っている場所へ。



 駅から降りて少し行った時、俺の目に神社がうつった。どうやら夏祭りの真っ最中らしい。でも、俺はそんな喧騒を通り抜けて目的の場所に急ぐ。
 今の時期だからだろうか、やっぱりかなりの人がいる。
 寺の入り口で花を買いながら、俺は大事な事に気が付いた。
「あ。考えてみたら、寺の場所は聞いたけど、お墓の位置を聞くの忘れた……」
 はは、我ながら馬鹿だな。まぁいいや、一つ一つ当たっていこう。きっと見つかるさ。
 それから、周囲を回る事しばらく。
 やっと見つけたときは、俺はすっかり汗だくになり、既に空は赤くなっていた。
『弓塚家之墓』
 そして横にある墓誌には、弓塚さつき、享年17歳という文字が確かに刻まれていた。
「は……はは」
 俺の頭の中では本当は認めたくなかったんだ、弓塚が死んだという事実を。けれど、その文字が嫌でもそれが事実だと俺に伝えてくる。

236(編集人):2002/11/01(金) 14:19
夏祭り(前編)3/3

「すっかりしおれちゃったな、花……ごめん」
 しばらく探しまわったのと暑さのせいで、手の中の花はかなりみすぼらしくなっていた。でも、正直もう一度戻って新しい花を買って、また迷わずにここに来れる自信は全く無い。
 近くにあった水くみ場で桶と柄杓を借りてきて、持ってきた布で墓をきれいにして……。そして、花を供える。
 とんだ偽善だ。こんな事をやってどうなるんだ。弓塚を殺した等の本人がこんな事をやって、一体何になるんだろうか。
 でも、俺はその手を止める事が出来なかった。
 そして、持ってきた線香にまとめて火をつける。
「…………」
 目をつぶって、手を合わせながら俺は考えた。
 一体、何て言えばいいんだろうか。いくつもいいたい事はあるのに、そのほとんどが細い糸のように絡み合って、俺は何も言う事ができない。
 その中で、ただ一言はっきりと言いたい事があった。
「会いたい……もう一度弓塚と会って、話がしたい……」
 心の中で留めるはずの思いは、知らないうちに口に出ていた。
 その時。
「私もだよ、遠野君」

237(編集人):2002/11/01(金) 14:21
『(無題)』翡翠・支援
2002年8月5日(月)20時17分。
ROUND6.206レス目「ぴーおー」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

238(編集人):2002/11/01(金) 14:23
結論から言えば、俺は翡翠を愛してる。
 それは間違いのないことで、きっと彼女もそうなのだ。

 小鳥の鳴き声で目が覚めるなんて、なんて贅沢なんだろう。
 そう思いながら、俺はまどろみから目を覚ました。まぶたをこすり、左腕を額の上に乗せた。
 全身を気だるい感じが包んでいるけれど、それ以上の幸福感が俺を支配していた。
 隣で、すぅ、という吐息が聞こえる。
 心が充足で満たされていくのが、わかった。口がにやけていくのを止められそうもない。
 愛しさなのか、嬉しさなのか、ただ満たされていくという事しかわからないけれど、それだけでよかった。
 きっとこれが、誰かを真剣に愛することなのだと思う。
 右腕の重みと、かすかな痺れに、俺は酔う。
 翡翠はそんなことも知らないで、俺の右腕に頭を乗せたまま、微笑を浮かべてまどろんでいる。
 ぅん、と。翡翠が寝息を漏らした。ひどく色っぽいと感じたのは、言うまでもない。もうすぐ起きるだろう、と思った。
 いつも翡翠はこんな寝息の後に目を覚ます。

239(編集人):2002/11/01(金) 14:24
「ぁ……」
 予想通り、翡翠はそのあとすぐに目を覚ました。まだ少し眠たそうな目で、虚ろな視線で見つめてくる。
 それも、ひどく艶かしくて、俺は不覚にも、ドキリとした。
「志貴、さま……?」
「うん、おはよう。翡翠」
 ほんのり赤くなってる頬、そしてピンと癖のついた髪が面白くて、俺は声を上げて笑ってしまった。
 翡翠は首を傾げるだけで、なんで俺が笑ってるのかよくわかっていない様子だった。
「志貴さま?」
「うん、ハハ。なんでもないよ、うん」
 いまだ翡翠の頭の下の右手で、軽く頭をなでてあげた。思ったより小さい頭が可愛いくて、もう一度笑った。
「あ、志貴さま……その、右腕が」
「うん? ああ、うでまくら、ってやつ」

 瞬間、本当にガバッという勢いで翡翠が飛び起きた。
「も、申し訳ありません。その、あの、昨夜は……乱れたとはいえ、こんな朝まで腕まくらをさせるなんて」
「いや、俺としては全然いいんだけど。もしかして寝心地悪かった?」
「いえ……とても、気持ちよかったです、けど……」
「そう、ならいいじゃないか。俺もすぐそばで翡翠の寝顔を見れて嬉しいし」
「ぁ、ぅ」
 翡翠は頬を真っ赤に染めて、うつむいた。朝から何度目なのか、俺はまた声を押し殺して笑ってしまった。
 なんで翡翠はこんなにかわいいんだ。
「ところでさ、翡翠」
 ただ、一つだけ問題があった。
「はい」

240(編集人):2002/11/01(金) 14:25
「あのさ、隠してくれないかな。目のやり場に困る」
 つー、と翡翠の胸に視線を走らせる。
 愛し合ったので、もちろん翡翠は生まれたままの姿であって、俺の視線の先はもちろん何もさえぎる物がなくて、肌が露になっている。
 とても綺麗な胸は、いつ見ても綺麗だった。
 よく、わかっていない翡翠は、パチクリと目を瞬かせた後、ゆっくりと顔を下ろして、
「あ、や――!」
 すごい勢いでシーツを被った。
「その、あ、志貴さま、最初から……」
「いや、うん、まあいいじゃないか」
「……志貴さま、Hです」
 プイッ、と目を背ける。
 翡翠、それは油に火を注ぐと言うんだよ。 

 もちろん、朝からそんなイイモノを見せてもらったこちらとしては、
 耐えられずに翡翠を抱きしめて、押し倒してしまうわけだけれども。

「ぁ、うん……あ!」

 どっとはらい。

241(編集人):2002/11/01(金) 14:26
『君去りし後』三澤羽居・支援
2002年8月6日(火)20時17分。
ROUND6.362レス目「七死さん」様によって投下。
 三澤羽居            (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/kimi_1.htm

242(編集人):2002/11/01(金) 14:27
『(無題)』三澤羽居・支援
2002年8月6日(火)22時57分。
ROUND6.419レス目「はね〜〜」様によって投下。
 三澤羽居            (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

243(編集人):2002/11/01(金) 14:29
「ね〜、秋葉ちゃん〜。知ってた? 今日、わたしの試合だよ〜」
「知ってるわよ、もちろん。今日はあんたの応援でしょ? そして明日は瀬尾」
 あ、秋葉ちゃんちゃんと知ってたんだ。でも、もうそろそろ試合が終っちゃうよ〜。
「あ、あの……遠野先輩。そろそろ投票をするならしないと、時間の方が……」
「晶ちゃん、いらっしゃ〜い。一緒に上にいけるといいよね〜」
「はい、そうですね! あ、でもそうなると次は先輩と私に……」
 えーと、日程表日程表……あっほんとうだ〜。
「しかしねえ、闘争心から無縁のこの2人がどうしてこんなに強いのかしら」
 うーん、どうしてだろう?
「あ、羽居も瀬尾もあんまり気にしないでいいぞ。遠野は自分が早めに落ちていらいらしてるだけだからな」
「失礼ね蒼香! だれがいらいらしてるですって!」
 わ〜、本当に秋葉ちゃん、いらいらしてる〜。
「駄目だよ、秋葉ちゃん〜。そんなに、怒ってると怖い顔がもっと怖くなっちゃうかも」
「三澤先輩……それは火に油を……」
「だれが怖い顔よっ!! 全く。<<三澤羽居>>に1票、と。これでいいかしら?」
 えへへ〜、それでも結局入れてくれるのが秋葉ちゃんだよね〜。
「ねえねえ、蒼香ちゃんも、晶ちゃんも〜、やっぱり秋葉ちゃん照れてると思う?」
「え、ええと……はい、多分」
「遠野は素直じゃないからな、まあ予想通りか」
 うんうん、2人ともよくわかってる。
「こら! あんたら人で遊ぶんじゃない!!」

完だよ〜(By羽ピン)

244(編集人):2002/11/01(金) 14:30
『(無題)』ネロ・カオス支援
2002年8月13日(火)0時17分。
ROUND6.684レス目「(不明)」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

245(編集人):2002/11/01(金) 14:31
ぽぉん。
 鼓動。
 ぽぉん。
 鼓動。
 ぽぉん。
 鼓動……
 人の鼓動。
 食餌の鼓動。
 時間だ。

* * *

 ――ネロ・カオス支援SS

* * *

 足りぬ。
 足りぬ。
 それでも、まだ、足りぬ。
 この飢えを満たすには足りぬ。
 この渇きを満たすには足りぬ。
 人が、人が、足りない。
 足りない。
 夢遊病者のよう、夢を傀儡するように、私は夜を闊歩する。餌食を求めて闊歩する。

 そうして私は巡り合う。極上の素材、卓越した存在に。
 だが。
「そうか、貴様の」
 私はひとりごちる。意を越えた偶然/必然に。運命めいたものさえ、私は覚えた。
 邂逅したもの。それは血を祖とするもの、それは死してなお追従するもの。
 目の前の形骸は、つまるところ“蛇”の血族だった。私はらしくもなく逡巡した。
 たとえ唾棄された落し子とはいえ、その命は根本に通ずる経路を穿たれている。
 暗闇の中で黙考する。死徒は既に私を発見しているが、警戒を続けるだけで挙動はない。一切を断ち、佇んでいる。
 まるで、私を待望するように。
「解せぬな。何故、踵を返さぬ」
 死徒へ、私は投げかける。答えは無い。答えに見合うだけの殺意も無い。
 無様なそれらの人間的感情は、既に排されているということか。分からない、が、代わりに私の葛藤は消え失せた。
 逃亡は既に否定された。交戦、そう、交戦の盟約は交わされた。死に合いの密議は成立したのだ。
 故に我は、容赦も無く、慈悲も無く、間断も無く迅速に。
 その身体を、喰らうとしよう。

246(編集人):2002/11/01(金) 14:32
 踊る踊る踊る、私が踊る。私が蠢く。
 三つの視界、一の私が駆けて行く。一の私が跳んで行く。一の私が飛んで行く。
 到達は瞬時、時は要らぬ、咀嚼に要する絶頂だけが、私の持ちうる時間感覚。
 捕捉に秒はいらない、三つの私が死徒へと触れる。三つの私があぎとを開く。あとはただ、砕いて、ゆくだけ。
 だが。
 眉をひそめて私は見る。末端に生じた異様に、私に生じた怪異に。
 それは私が揮発していく感覚。それは私が渇いていく感覚。三つの私が、どうしようもなく急速に干乾びてゆく違和感――
「――不可解だ。何をした、“蛇”の子よ」
 問う。
 少女の姿を模したその吸血種は、奇妙な、ひどく不愉快な笑みと、両の手を自らの眼前に掲げたままの体勢で、私を直視している。
「遠野くんはね……ううん志貴くんはね、あなたになんか殺されちゃだめなんだ」
「なに」
「志貴くんはね、わたしが……わたしが殺してあげるって、決めたんだ」
「戯れ言か」
「だから」
 死徒が、笑みを引きつらせた。ある種の嫌悪さえ引き起こす戦慄は――ひどく、禍々しい。
「あなたはちゃんと、殺してあげないと」
 余韻と共に、死徒が失せる。瞬間に私が反応するのが分かる。
 右後方、人智を越えた速度で迫りつつある異形に、私は私を解き放った。
 背が蠢く。排出された系統樹は、死徒を刹那の内に磨り潰す。
 ――筈。
 否、否。違う。この現実は、想定とは異なる未来を如実に映し出していた。
 わたし、が、涸れる。涸れていく。いとも簡単に涸れていく。
 水を失い、生気を失い、今まさに変色し萎えていくだけの雑草のように。
 わたしがかれていく。
 渇いてゆく。
 それは、何だ。
 次々と、次々と、復元呪詛を断たれていく私、私に還る事も叶わず崩れていく私、わたし。
 ――わたしの残骸、私の残骸が、並んでいる。それはまるで、まるで。
 枯渇の、庭園。
「――ク」
 私の顎が震えている。上下に、上下に、私は震えている。言いようも無く震えている。
 愉快だ。愉快だ。とてもとても、ユカイだ。
 何故に世界は、こうも愉悦に満ちているのだろう。何故に世界は、こうも歓喜に満ちているのだろう。
 私の退屈を、紛失させてくれるのだろう。
 了承した、“蛇”の子よ。

「――よかろう。おまえを、我が障害と認識する」

 加減は要らぬ。
 最大最速最高の密度てもって、貴様に滅びを与えよう。
 “巣”は、開いた。
 ――往け。

 枯れる。枯れる。私が枯れる。次々と、次々と、私が枯れていく。枯れる、枯れる、私は、枯れる。
 だが続く、だが延々と続く、私の疾走は続く。果てるまで、標的が果てるまで、私の駆動は限りなく。
 死徒へと迫る。その間合いは腕二つほど、充足と枯渇の狭間に私が踏み込む、瞬間、私は絶命する。命を枯らして地へ伏せる。
 だが往く。私は行く。途切れる事無く私は駆ける。
 彼の者に混沌を教示するまで、カオスを――原初と共に存在した未知という名の黎明まで、この内なる慈愛の洞へと導くまで。
 私は行こう。尽きる事無く教授しよう。終わる事無く示唆しよう。
「我が名は混沌、ネロ――ネロ・カオス」
 この混沌を。

                               ――了。

247(編集人):2002/11/01(金) 14:34
『さっちん支援SS⑦』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)18時1分。
ROUND6.765レス目「七視さん」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

248(編集人):2002/11/01(金) 14:35
さっちん支援SS⑦

「申し訳ございませんが、お引取り下さい」
私の前にいる同じ(だと思う)年頃の女の子は、そう言って深々と頭を下げた。

遠野くんの家へ続く長い坂道を必要以上に息を切らせて駆け上がり、聞いていた以上に圧倒的な存在感と威圧感を放つお屋敷に気圧され、やっとの思いで扉を叩いた。
出てきたのは、時代錯誤なメイド服を着た、少し冷たい感じのする女の子だった。
「あっあのっ!と、と、遠野くんはご在宅でしょうか!?」
まさかメイドさんが出てくるとは思ってもいなかったので、動揺した私はおもいっきりどもってしまった。
その言葉に対する返答がこれだ。身も蓋もないとはまさにこの事だろう。
しばし呆然としていると、メイドさんが怪訝そうな目でこちらを見ている事に気が付いた。
「あの……ご用件はそれだけでしょうか?」
「い、いえっ!じゃなくて……その……遠野くんはいないんですか?出かけてるんですか?」
ようやく落ち着いてきた心臓をなだめすかして、再度尋ねてみる。
「その前に、どちらさまでしょうか?見たところ、志貴さまのお知り合いのようですが」
「志貴さまぁ!?」
頭の上から素っ頓狂な声が出た。この娘は、遠野くんのことを『志貴さま』と呼んでいるらしい。
もしかしたら、遠野くん付きのメイドなのかもしれない。つい、頭のてっぺんから足の先までじ〜っと見てしまった。
「……あの……」
「あっ!?ご、ごめんなさい!私、弓塚さつきといいまして、遠野くんのクラスメイトなんです」
「クラスメイト……?ああ、ご学友ですね」
……?どうやら『クラスメイト』という単語を知らなかったようだ。
「!!」
そこでハッとなった。時刻はまだ昼過ぎ。授業はまだ終わっていない。
もし、遠野くんが学校に行っていたら、まだ帰ってきていないのである。
しかし、メイドさんはその事にまったく気が付いていないようだった。
「それでは、志貴さまのお見舞いでしょうか?」
「は、はい!そうです!」
お見舞い。
つまり、遠野くんは学校を休んだ、といった所だろう。
やはり、どこかに怪我をしたのだろうか。どれくらいの傷なのか。

昨夜の光景が脳裏をよぎる。
初めから顔色が悪かった遠野くん。
ニタニタと狂った笑みを浮かべる殺人鬼。
そして、おそらく私を救うためにあの場を離れた遠野くん。
その時に見た、あの笑顔が、痛かった。

「あ、あのっ!遠野くんの怪我の具合はどうなんですか!?」
その時の私の顔は、よっぽど切羽詰っていたのだろう。メイドさんはかなり引いていた。
「怪我……?志貴さまは、持病の貧血でお休みになられていますが……?」
「え……?」
貧血だって……?
確かに、遠野くんは貧血持ちだ。中学の頃からしょっちゅう倒れている。そのたびに、乾くんが保健室まで運んで行っていたのだ。
「なんだ……そうなんだ……」
気が抜けた私は、メイドさんが見ている前でへなへなと座り込んでしまった。

249(編集人):2002/11/01(金) 14:37
『夏祭り(後編)』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)19時18分。
ROUND6.771レス目「はね〜〜」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

250(編集人):2002/11/01(金) 14:38
【夏祭り】後編1/4

 一瞬耳を疑った。その声は確かに俺の知っている、懐かしい声だった。
 ゆっくり後ろを振り返ると。
「こんばんは、遠野君」
 弓塚の姿が俺の目にうつっていた。
 これは夢だろうか、それとも幻だろうか。もしそうならば消えないで欲しい、いつまでも。
「ゆ、弓塚……さん?」
「ありがとう、私のために来てくれたんだよね。嬉しいなぁ、私、ずっと遠野君に会いたかった」
 くるん、とふりかえってツインテールを揺らしながら俺に笑いかけてくれる弓塚。
「夢や幻……じゃないよね」
 違う、そんな事を聞いてどうするんだ。
「うん。遠野君は聞いた事無いかな? 死んだ人はお盆にだけこっちに帰ってくるって。私もなんだ。でも遠野君にここで会えるなんて思わなかった」
 そうか、じゃあここにいる弓塚は……幽霊みたいなものなのか……。
「ゆ、弓塚さん。俺は君に謝らないといけない事がたくさんあるんだ! 俺はどんな理由があれ君を」
 君を殺してしまった。そう言おうとした俺の言葉を弓塚は遮った。
「遠野君、謝らないで。そうだなぁ……今日1日だけ私に付き合って欲しいな、ね? せっかく会えたんだもん。私、ずっと遠野君と一緒に行きたいと思っていた所があるんだ」
 そう言って微笑みかけてくれる弓塚を見ていると、俺は何も言えなくなった。
 そうだ。俺がいくら彼女に謝ったところで、到底許されるものじゃない。だったらせめて彼女がしたい事があるなら、その為に一緒にいてあげよう。
「……こんな俺で良ければ、喜んで」
「ううん、遠野君じゃないと駄目なんだよ。ありがとう、それじゃあ行こう遠野君!」
 そう言って、弓塚は俺の側に寄り添ってくる。
 夕陽に照らされて俺と一緒に歩く弓塚の表情を見ていて……俺は、あの時一緒に学校から帰った時の表情と今の顔がダブって見えた。
 そして気が付くと、俺は弓塚の顔を見ていて涙が流れて止まらなかった。
「ど、どうしたの遠野君!?」
 そんな俺の姿を見て、弓塚が驚いたように俺のほうを見た。
 何やってるんだ俺は。
 俺が泣いてどうするんだ。俺なんかより、弓塚はあの時もっと泣きたかっただろうに。

251(編集人):2002/11/01(金) 14:40
後編2/4

「ごめん、なんでもないよ。で、どこに行こうか」
 俺は腕で涙を拭って弓塚のほうを見て笑った。
 そんな俺を心配そうに見上げながら……俺の質問に、弓塚がそっと答えた。
「あのね……実は私、ずっと前からお祭りに行きたかったんだ、遠野君と一緒に」
 ちょっと口ごもりながらそう答えた弓塚の顔が赤かったのはきっと、夕陽のせいだけじゃないんだろう。正直、俺もそれを聞いて、少し自分で顔が赤くなったような気がした。
「あ、うん。それだったら、近くの神社で丁度やってるからね。行こうか」
「うん!」
 そして……俺は弓塚と一緒に夏祭りに出かけた。



 神社に着いた頃には、日はかなり沈んできていて空も暗くなってきていた。
「わあ、見て見て遠野君。盆踊りをやってるよ」
「本当だ。結構多くの人が踊ってるね」
 太鼓の音が響きながら、多くの人が踊っている。まあ、とりあえずカップルが多いみたいだけど。
 その時、弓塚が俺の方をじっと見ているのに気が付いた。
「……遠野君、もし……良かったらなんだけどね」
 おずおずと、さっき以上に恥ずかしそうに
 う。なんていうか最後まで聞かなくてもわかる。いくら俺が鈍感でも。
「わ……私とその……ええと……」
 もう日は沈んでいるのに、弓塚の顔はどんどん赤くなっていく。ついでに俺の顔も。
「あ、ゆ、弓塚、さん。お、踊ろうか一緒に」
 口に出してみたら、恥ずかしいせいか俺までどもってしまった。こんな時に気の効いた言葉の一つもいえない自分が嫌になる。でも、弓塚はこくんと首を縦に振って。
「……うん」 
 小さな声でそう答えてくれた。

252(編集人):2002/11/01(金) 14:41
後編3/4

 ダンスだの踊りだのというのは、俺は何も知らなかった。
 けど、そんな作法なんか二人の間にはどうでもよかった。この限られた時間の中、一緒にいられればそれだけで幸せだったから。
『おい、なんだあいつ。一人で何やってるんだ?』
『さあ?』
 そんな声も聞こえてくるけれど、そんな周りの声もすぐに耳には入らなくなった。
「本当は私ね、ずっと前から、何年も前から遠野君と一緒にこんな風に出来たらいいなぁって考えてたんだ。うん、私の夢だったんだ。バカみたいだよね、もっと早くに自分の思いをうち明けていれば良かったのに」
「いや、むしろ気が付かない俺の方が問題だよ。よく妹に言われるよ、鈍感だとか朴念仁だとか」
「あは。でもそこが遠野君らしいところでもあるよね。私、遠野君のそういうところも含めて全部が好きなんだ」
 もし俺がもっと早くに弓塚の思いに気が付いていたら。そしてもし俺があの路地裏で秋葉ではなく、弓塚を選んでいたらどうなっていたのか。
 でも、その言葉を俺は決して言いはしなかった。
 それを口に出すのは、あまりに彼女にとって酷な事だから。
「それではお姫様、引き続き踊りのお相手を勤めさせていただきます」
「はい、とお……王子様」 
 二人でそんな冗談を言いながら踊る。今の時間が少しでも弓塚の思い出になるように。
 そして。
 最後に花火が打ち上げられて、祭りは終わりを告げた。
 あたりの人はどんどんと帰っていく。周りにある出店もどんどん片付けられていく。それを二人で黙って見つめていた。
 そして、ついに俺達以外には周りには誰もいなくなった。
「終っちゃったね」
「ああ……」
「今日は楽しかったよ、ありがとう遠野君」
「喜んでくれて……良かった」
 でも、そう言う弓塚の横顔は悲しそうだった。
 俺は何となくわかっていた。この祭りの終わり、今日という日の終わりが別れを意味する事が。

253(編集人):2002/11/01(金) 14:43
後編4/6

「本当に、楽しかったんだ。どのくらい楽しかったかって、帰らなきゃいけないのが……凄く悲しくなるくらい……でも、これは今日……1日だけなんだ」
 俯いてぽつぽつと喋る弓塚は、本当に今にも泣きそうなくらいの顔をしていた。
「弓塚……」
 何て言ったらいいのかわからない。けど、何か言わないと。
 そう思った時、弓塚が急に顔を上げた。
「でもね! 1日だけでも、今日が最高に楽しかった事は変わらないよね。だから、私の心から遠野君にありがとう、って言わせて下さい! 遠野君、本当にありがとう!」
 その顔は笑顔だった。
 それは見ていて悲しくなるくらいの笑顔。
「弓塚さん……どうしてそんな無理して笑うんだ……」
 俺は今日まで知らなかった。
 泣き顔よりも笑顔の方が悲しい事があるなんて事を……俺は知らなかったんだ。
「そんなこと、ない、よ。私……悲しくなんかないよ」
 嘘だ。こんなに側から見ていて心が痛くなるくらい辛そうに見えるのに。
「ごめん遠野君。もう時間なんだ、そろそろ帰らないと……」
 そう言って弓塚は後ろを向いてしまう。
「ばいばい、遠野君」
 駄目だ! 弓塚をこのまま行かせてしまったら……もう俺はきっと、二度と弓塚に会えない!
「待ってくれ! 一つだけ約束してくれ! これから毎年……今日と同じ日に会いに来て欲しいんだ」
 それは考えて言った言葉じゃなくて、自然に俺の口から出ていた言葉だった。それがどうしてなのか俺には分からない。けれど一つ言える事がある。
 俺にとっては、弓塚も大事な人であるということなんだ。
 その時、弓塚がゆっくりとこっちを向いたとき……俺は驚いた。
 弓塚が目に涙を溜めていたんだから。

254(編集人):2002/11/01(金) 14:45
後編5/6

「遠野、くん。そんな事いったら、私本気にしちゃうよ? それでも、いいの?」
 一言一言をゆっくりと、それでいてちょっとかすれそうな声で。
「俺は……冗談でこんな事言ったりはしないよ」
「今度の約束は……信じて、いいんだよね?」
「信じて欲しいんだ。俺にそんな事いう資格なんかないのかもしれないけれど」
 でも、俺は弓塚を放っておくなんて、そんな事できるわけがない。
 そして。
 とうとう弓塚は地面に座り込んで泣き出してしまった。
「私……泣きたくても泣けなかった……。悲しい事ばっかりで泣きかた忘れちゃったくらい……。それに、一度泣き出しちゃったら……もう止まらないんじゃないかって……」
「泣きたい時は泣いていいんだ……泣いていいんだよ」
「うっ、うっ……」
 弓塚がどれだけ辛かったのか、それはこの涙を見てるだけでわかる気がする。
 そして……泣いている理由が俺にある事も。気が付くと、俺も涙を止める事ができなかった。



 どのくらいそうしていたんだろう。
「ごめん、なさい。泣いたりしちゃって。恥ずかしい所見せちゃったね」
「いや。俺も同じだし」
 普通こういう時は胸を貸してあげたりするものだって言うのに、一緒になって泣くやつなんて俺くらいだろうか。
「あはは……。じゃあ本当にそろそろお別れなんだ。今日までだからね、ここにいられるのは」
 その言葉に俺は時計を見た。11時55分、あと5分で今日が終る。
「私、ひとつだけ黙ってた事があるんだ。今日が何の日なのか」
「え?」
 そう言って俺のほうを見ながら笑う弓塚。
「今日はね、私の誕生日。知ってたかな?」
「いや、全然わからなかった……」
 何て俺は情けない奴なんだ。そのくらいも俺は分からなかったなんて。

255(編集人):2002/11/01(金) 14:46
後編6/6

「だから……一つだけ欲しいかな、遠野くんから私へのプレゼント」
 そして、弓塚はゆっくり目を閉じた。
「弓塚……」
 一瞬頭に秋葉の顔が浮かんだ。けれど。
 秋葉、ごめん。俺は……弓塚も好きになっちゃったみたいなんだ。
 そして、俺はそっとキスをした。
「ありがとう、嬉しいよ……」
 その弓塚の言葉が、俺も嬉しかった。
 でも、今日はもう終ってしまう。
「どうして時間って言うのは止まってくれないんだ」
 もし時間が止まってくれたなら、ずっとこうしていられるのに。
「そうだね……私もそうなってくれたらいいのにって思う。でもね、今のこの気持ちはずっと消えたりなんかしないよ。だから、今はさよなら。じゃあね、ばいばい……志貴君……」
 そして。弓塚は俺の前からいなくなった。だけど、その心は俺の中にある。
「終電は……もう無いな。まぁいいさ、歩いて帰ろう」
 俺は絶対に忘れない。8月の15日を。
「また、必ず会いに来るよ。来年の同じ場所で、同じ時に……」
 そして、俺は神社を後にする。蝉の声がジージーと鳴く中を、ゆっくりと。
 そろそろ夏の暑さも終わりかな……。



【夏祭り】   完

256(編集人):2002/11/01(金) 14:47
『ガスコンロ』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)19時56分。
ROUND6.784レス目「(不明)」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

257(編集人):2002/11/01(金) 14:48
----------------------
ピーン、ポーン
間延びした呼び鈴が、家の中で響くのが聞こえる。
インターホンに耳を近づけてしばらく待つと、ガチャリ、と受話器を取る音。

「はい、どちらさまでしょうか?」

女性の声。
あ‥‥‥と、返事をしようとして、不意に言葉に詰まる。
間抜けな事に、どのように呼び出せばいいのか全く考えてなかった。
一瞬の逡巡の後、やはりオーソドックスなのが一番だと判断、息を吸い直して言葉を紡ぐ。

「あの、弓塚さつきさんとクラスメートの遠野志貴と申しますが、さつきさんはいらっしゃいますでしょう
か?」
「えっ‥‥と、遠野く!」

ガコンガコンと、落とした受話器をどこかにぶつけたような音が数回響いてそれっきり、あとは ツー という接続の切れた音しか聞こえなくなった。
どうやら受けたのは弓塚本人だったらしい、受話器を取り落とす程におもいっきり慌てさせてしまったようだ。
まあ、さして親しくもないクラスメートが休日の朝からいきなり訊ねてきたら、俺だってかなり焦ると思うけど。

258(編集人):2002/11/01(金) 14:49
ちょっと申し訳ない気分で待つ事数十秒、トタトタという足音が近づいて来て、玄関を開ける。

「おっ‥‥‥おはよう、遠野君。いきなりどうしたの?」

出てきた弓塚を、返事をする事すら忘れて、暫し呆然と眺める。
いつもは二つに縛っている髪の毛を解いて、真っ直ぐ後ろへと垂らした髪型。
肩の部分を紐で留めた、白いワンピース。
普段教室で目にしていた弓塚とは全く違った装いで登場した彼女に、意表を突かれて声が出なかった。
日曜日に自宅で制服を着ているわけないのだから、私服でいることは至極当然なのだが、今の今までまったくそのことに頭が回らなかった。
見慣れない姿に拭えぬ違和感と、見慣れぬ姿ゆえの新鮮さと。
クラスの男子が弓塚の事をカワイイと言うのも分かる気がする、などと変な事を考えながら、弓塚の顔から目が離せなかった。

「あ、あの‥‥‥遠野君?」

呼ばれてハッと、目が覚めたように我に返る。

「あぁ、ごめん。 おはよう、弓塚さん。 休みの日に朝から押しかけてきて迷惑だったかな?」
「うぅん、私は別に気にしてないけど‥‥‥その、何かあったの?」
「突然で悪いんだけど、ちょっと頼みたい事があってさ。 あの‥‥‥ガスコンロを貸して欲しいんだけど‥‥」
「ガス‥‥‥コンロ?」

見ると、案の定弓塚は、目を白黒させて俺を見ていた。


〜〜続かない

259(編集人):2002/11/01(金) 14:51
『(琥珀祭り)』琥珀支援
2002年8月15日(木)2時53分。
ROUND6.891レス目「amber」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)
 琥珀              (月姫)

外部リンク型。ここではまず「琥珀さん応援師団 注射数1 」の81〜82レス目
にリンクが張ってありました。そこで、多数の画像やSSが紹介されています。
それらの内、SSだけを抽出いたしました。
ttp://kscustom.cside8.com/kosstop.htm

260(編集人):2002/11/01(金) 14:53
『(無題)』琥珀支援
2002年8月15日(木)19時56分。
ROUND7【萌る躰】.9レス目「半透明」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)
 琥珀              (月姫)

261(編集人):2002/11/01(金) 14:55
調理場を覗き込むと琥珀さんがいた。
夕食を作っているらしい。
「美味しそうな匂いだね」
豪奢な家に住んでいようが財布の中身は雀の涙。
買い食いなんてもってのほかな俺にとって、夕食とは生きる喜びそのものなのだ。
「あ、志貴さん」
トン、トン、トン。包丁でリズミカルに野菜を切り刻みながら琥珀さんが振り向いた。
「ふふ、お腹が空いたんですか? わざわざこんな所まで来て」
「あはは、確かにそれもありますけどね。たまには琥珀さんの活躍する姿が見たいなー、とか思って」
つまり、単なる気まぐれなんだけどね。
琥珀さんは一瞬意外そうな表情をして、そして、嬉しそうに微笑んだ。
「あら、志貴さんったら嬉しいこと言ってくれますねー♪
 それならご期待に添えるようにがんばらないといけませんね」
一瞬、視線を宙に彷徨わせてから。
「志貴さんのために、腕によりをかけますから♪」
その一言だけで満足してしまう俺は、ある意味単純なんだろうなあ。
「えっと、それでですね。今日の夕食には私が裏庭から取ってきた…」
……琥珀さん、さっきからずっとこっち見ながら包丁動かしてませんか?
包丁の扱いに慣れているとはいえ、見ている方としては気が気じゃないんですけど。
指切らないかどうか心配だな。
話しながらリズミカルにトン、トン、トン。
絶え間なく続く音。トン、トン、トン。トン、トン、サクッ。
………『サクッ』?
「痛っ」
ほら、やっぱり指切って………って、落ち着いてる場合じゃない!
「琥珀さん、大丈夫!?」
慌てて駆け寄って琥珀さんの手を取った。
左手の人差し指から血が流れている。音もなく静かに。しかし流れる血は止めどなく。
どうすればいいんだ。焦りが混乱を招く。
「あの、志貴さん…こんな傷、『痛くない』って思えば平気ですから」
いつもの笑顔、そう呼ぶには確実に血の気が足りない。
…そうだ、血を止めないと。
「琥珀さん、ごめん!」
言ったきり、彼女から何か言われる前に。

血の流れる人差し指に、唇を吸い付けた。

262(編集人):2002/11/01(金) 14:56

ちゅぷ…
吸い付けるたびに、じわりと広がる独特の血の味。
琥珀さんの血。そう思っても、ただ痛々しいだけなのに。
琥珀さんの指。そう思うだけで、不謹慎にも紅潮する自分がいた。
傷は浅くはないが致命傷には至らない。
舌で舐めてだいたい把握した。
ちゅぷ…
もう血は止まっただろうか。
唇を離して傷口を見た。
まだ少し血が出ている。
再び唇を付けようとして、ふと目が合った。
「………」
目を伏せて、頬をうっすらと朱に染めて。
右手は躊躇いがちに俺の袖を掴んで、ふるふると震える。
声を掛けようとして、できなかったらしい、年相応の女の子と。
「………えーと」
二の句が継げなかった。
喉まで声が出かかるたびに、さっきまでの自分の行為が思い返されて、言葉にならなかった。
「ごめん…」
かすれた声で小さく謝るのが精一杯だった。
「し、志貴さんが謝ることないですよ…悪いのは私ですから…」
琥珀さんは琥珀さんで真っ赤になって照れてるし。
それはそれで可愛らしくて良いんだけれど。
「………」
「………」
むずがゆい沈黙。
いつもの調子で「あはー、志貴さん指チュパですねー」とか笑い飛ばしてくれたらどんなに気が楽な事か。
そんな都合のいいことを考えていると。
「志貴さんっ!」
琥珀さんが鋭く叫んだ。
瞳も声と同じく、射るように鋭く。
さっきまでの照れはそこにはなかった。
また血の流れが強くなってきた指を突き出して。
気圧された俺の前で、すぅっと息を吸い込んで。
「ま」
「…ま?」

「ま、まだ血が止まってませんよ…」

後半なんか聞き取れないくらいの小さな声で。
言い終えるのと同時に勢いよく俯いて、琥珀さんは耳まで真っ赤になった。

263(編集人):2002/11/01(金) 14:57
『(無題)』弓塚さつき(?)支援
2002年8月16日(金)23時1分。
ROUND7【萌る躰】.97レス目「戦闘開始」様によって投下。

※このSSは決勝戦の直前に投下されました。

264(編集人):2002/11/01(金) 14:59
ようやく暑気も収まりつつある時刻。今日も今日とて遠野家の屋敷に忍び込むべく、
1人の吸血鬼が公園を歩いていく。頭の中は日に日に過激になる遠野(妹)を出し抜くことで頭が一杯だ。
「し、し、神妙に勝負よっ!!」
 震えまくって不協和音すら発している声音で呼び止められ、アルクェイドが振り返る。
「……あなた、誰?」
 土曜20時に全員集合するコントでもお目にかかれないほど分かりやすくコケる、1人の女子高生。
「さつきよ! 弓塚さつき! これから24時間、志貴くんを賭けてあなたと戦う相手よっ!」
 彼女の中では目的と優勝賞品がやや歪んでいるようだったが、残念ながらこの場にツッコミ役は存在しない。
「えー…」
「何よ、その不満そうな表情の立ちグラフィックは」
 ちなみにこのssはDNML風味である。
「わたし、本家の人気投票で勝ってるからもう満足なんだけど」
 抜け抜けと他人のトラウマに岩塩を塗りこむ吸血鬼。
「そっちは良くてもこっちが困るの! あなたに勝てるチャンスなんて今後何百回トーナメントやっても
まずあり得ないんだから!」
「……哀れね…敗残者って…」
 ハンカチを出して涙を拭うアルクェイド。
「同情するならシナリオちょうだいっ!」
 そればかりは真祖の姫にも無理な相談である。神様(=作者様)に頼もう。

265(編集人):2002/11/01(金) 15:01
「…ま。嫌だって言っても見逃してくれないんでしょ?」
 にやり。
 擬音が聞こえそうなほどはっきり、表情を変えて。
 地上最強の生物が、戦闘態勢に入った。
「分かった。志貴の所に行くのは1日延期ね」
「…毎日夜這いしてるの…? うらやましい…」
 ピント外れのところで羨望のまなざしを向けるさつき。
「じゃ、始めるわよ」
「え……あ、うん!」

 こうして、最後の戦いがはじまる…。

266(編集人):2002/11/01(金) 15:02
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)0時12分。
ROUND7.【萌る躰】127レス目「社壊人」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

267(編集人):2002/11/01(金) 15:03
<<弓塚さつき>>支援SS

「あ、わたし、ちょっと教室に忘れ物」
「じゃあ、校門のところで待ってるね、さつき」
 バドミントン部の友達と別れ、昇降口から教室へ向かう。
 夕陽が赤く染める廊下に、わたしの足音だけが響く。校内には誰も残っていないようだった。
 2年に進級したばかりで、馴染みのない自分の教室に辿り着く。
 ドアを開け、中に入ろうとしたわたしの足が止まる。
 無人だと思っていた教室に、人がいたから。
 夕陽の中で窓際の席に座った、男の子。
 他の人とは違う雰囲気を纏った、クラスメイト。



会  話



 クラスメイトの名は確か…遠野、志貴くん。
 いつも学校一の不良(だとわたしは思っている)乾くんと一緒にいる男の子。
「…どうしたの?」
 遠野くんは、ゆっくりとこっちを向いて、そう訊いてきた。
 驚いた風でもなく、問い詰めるでもなく。いつもと変わらぬ自然さで。
 ――トクン。
 わたしの心臓が、一度だけ高鳴る。
「あ、うん、ちょっと、その、忘れ物…」
 …どうして、わたしはこんなに焦ってるの?
 誰もいないと思った教室に人がいたから? それとも…?
「…そう」
 遠野くんは、何事もなかったかのように答える。
 ――トクン。
 わたしは足早に自分の机に近寄って、プリントを鞄にしまう。
 その間も、遠野くんはこっちを見ている気がした。実際はそんな事ないのに。
「…あ、あの、何してたの? まだ、帰らないの?」
 静寂に耐え切れず、わたしはそんな事を話し掛けていた。
「…うん、もう少ししたら帰るよ」
 夕陽に照らされてよく見えなかったけど、遠野くんはちょっとだけ微笑んだような気がした。
 ――トクン。
「そう、なんだ。あ、あのわたし、もう帰るね」
 わたしはそそくさと、教室を出ようとする。胸の高鳴りに気付かれないように。
 だけどそんなわたしに、遠野くんが声を掛けてきた。
「…もうすぐ暗くなっちゃうから、気をつけてね」
 ――トクン。
「え…?」
 振り返ったわたしの目に、夕陽の中の遠野くんが飛び込んできた。
 今度は、はっきりと。微笑んでいる遠野くんが。
 でもその微笑みは、遠野くんだけが纏っている”何か”をも感じさせた。
 ――トクン、トクン。
「…う、うん、ばいばい」
「うん。ばいばい」
 まるで逃げるように、わたしは教室を出た。昇降口への廊下を駆け抜ける。
 ――トクン。
 昇降口についても、胸の高鳴りは収まらない。走ったせい、だけではなかった。


 …何だろう、この感じ…。
 何だか楽しいような、それでいて怖いような気持ち。
 こんな気持ち、初めてだった。これは…遠野くんの、せい?
 他人に合わせる事に疲れ始めていたわたしにとって、それは新鮮な出来事だった。
 …遠野くんと話せたら、またこんな気持ちになれるのかな?
 だとしたら、つまらなかった学校も、楽しくなれるかも。


 昇降口から校門へと向かう。夕焼けが濃くなり、夜のとばりが近付いてきていた。
 わたしは振り返り、自分の教室辺りを見上げる。
「…ばいばい、遠野くん。また明日」


 …これが恋だと気付くのは、もう少し先の事。
 …そして、遠野くんの纏っている”何か”を理解するのは、まだ3年も先の事。

268(編集人):2002/11/01(金) 15:05
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)0時26分。
ROUND7.【萌る躰】141レス目「戦闘開始」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

269(編集人):2002/11/01(金) 15:06

「じゃあ手始めに。どっちがより遠野くんのことを好きか、勝負だよ」
 この2人では当然仕切り役に回るさつきが、段取り良く進行していく。
ちなみに彼女は、大方の予想通り学級委員の経験が豊富だ。
「え? 普通に戦うんじゃないの?」
「力勝負であなたに勝てるわけないでしょっ!」
「あなた…見かけによらずワガママね」
 アルクェイドに言われたら、人として終わりかもしれない。
「ま、別にいいけど。自信あるし」
 頭の後ろで手を組み、余裕のポーズの吸血鬼。
「どういうこと?」
「わたし、志貴と毎日遊んでるよ」
「わ、私だって遠野くんと(脳内で)毎日お話してるんだから…」
 そこで何かに思い当たったのか。びしっ、とアルクェイドを指差して言い放つ。
「大体あなた、遠野くんと知り合ってたった3週間でしょ? 私なんて、
彼に(ストーカーという名の)片思いを3年間もしてるんだから」
「『愛に時間は関係ない』って志貴が言ってたよ」
「…と、遠野くんてば、そんな恥ずかしいこと言うんだ…」
 しばし忘我の表情で考え込むさつき。
 そして数秒後。実に気持ち悪い笑みを浮かべる。彼女の中で妄想が結実したようだ。
「…ね、ねえ…大丈夫?」
 ちょっと本気で心配するアルクェイド。
「ふ、ふん! そんなの、ぜんぜん羨ましいんだからっ!」
「やっぱりダメだわ。えーと、近くの病院は……」
「やめてよ救急車呼ぶの」
 テレホンカードを取り出す彼女を見てようやく正気を取り戻し、それを慌てて止める。
「ほんとに大丈夫? じゃ、続ける?」
「うん、いいよ」

「えっと…あ、志貴とキスするの好きだよ。口の中が溶けちゃいそうで」
「私は放課後の教室に侵入して遠野くんのリコーダー舐めたことあるわよ」
「………」
「………」

270(編集人):2002/11/01(金) 15:07
「やっぱり電話しよ」
「だから救急車はいいってば!」
 しがみつくさつきに、アルクェイドが優しい笑顔を見せる。
「大丈夫だよ、病院には電話しないから」
「ほんと?」
 上目遣いに媚びを売るその姿は、万引きを許してもらおうと必死の小学生のようだ。
「うん、警察に電話するだけ」
「なお悪いーー!」
 いったんは緩めた腕を締め、アルクェイドに抱きつく。
「だってさっき言ったこと、犯罪でしょ?」
「犯罪じゃないの! 愛ゆえの過ちと呼んで!」
「……言い方が変わっただけのような…」
 不審そうな目で眼下の女子高生を見る。
「違うの。思春期を迎えた少年少女が一度は通る道なんだよ」
「そういうものなの? そんな風習、聞いたことないけど」
「そうだよ! 絶対そう! 好きな人のリコーダーを舐めたいっていうのは人間として当たり前の欲求なの!」
 何のためらいもなく断言するさつきに、理解できないながらも押し切られつつあるアルクェイド。
「へえ……そうなのかな…?」
「そうだよ。あなただってそうでしょう?」

「え…わたし? そんなの、考えたことないよ」
 まさか自分が同類にされるとは思っていなかったのか、慌てて首を振る。
「じゃあ、遠野くんのリコーダーは汚いと思う?」
「汚くは…ないと思うけど…」
「ほら。他の人のリコーダーは汚いけど、遠野くんのリコーダーはきれい。これが愛の始まりなんだから」
「そう…かな…」
 弓塚さつき。この勢いで新興宗教を始めれば、そこそこの信者を集めそうではある。
「そうよ。ためしに、これから教室に行ってみる? 今の音楽の授業からして…アルトリコーダーならきっとあるわよ」
「アルトリコーダー?」
「そう。ソプラノリコーダーほどの背徳感はないけれど、表面積が大きいだけに満足行くまで味わえる。通好みの一品よ」
「へえ…そこまで言うなら…やってみようかな…」
 花が咲いたようににっこり笑うさつき。そういう笑顔はもっとまともなシーンで見せればよいと思うのだが。
「じゃあ、これから行こう。私が笛メイトの道を一から教えてあげるわ」
「ふ、ふえめいと…」
「そう、笛メイト。リコーダーを(別の目的で)こよなく愛する仲間のことよ。今からあなたもその一員だからね」
「うん。分かった」
 戦いのことなどすっかり忘れ、仲良く高校に向かう二つの影。それはそれで、実に幸せそうではあった。
 遠野志貴が幸せかどうかはさておいて。

271(編集人):2002/11/01(金) 15:08
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)1時12分。
ROUND7.【萌る躰】162レス目「七子さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

※4〜7ページは185レス目以降から投下されました。

272(編集人):2002/11/01(金) 15:09
1/
<日曜日 午後2:23:19 デパート9F インテリアコーナー 通路>
「まったく、どこへ行ったんだ、あいつは!」
焦燥を紛らすように俺は荒々しく吐き捨てた。

アルクェイドとはぐれた。
『デパートへ連れて行って欲しいい』
とだだをこねたたあいつのため、秋葉の目を盗んでまで
屋敷を抜け出してきたというのに。

デパートへ入った途端、「わぁ、すごい!」などと
大はしゃぎで駆けだして行ってしまったあいつを見失い、
かれこれ1時間だ。
はしゃいでるあいつの顔は可愛らしいから好きなんだけど…
そのあと人間ばなれしたスピードで走って行かれるとなぁ…
「はぁ・・・」

女性向けの売り場はすべて回ったというのに・・・
店の人に聞いても、"金髪美女"は見かけていないようだ。
あいつの外見で人の目を惹かないなんてないだろうし。
もしかすると、俺なんかは想像のつかない所に興味を惹かれ
たのかも。
まったく、あいつは。

273(編集人):2002/11/01(金) 15:12
2/
♪ピンポンパンポーン 「迷子のお知らせです―――

館内放送か・・・そうだ、あいつを呼び出して貰うことに
するのも手だったな。今からでもやろうか。

「――三咲町よりお越しの遠野志貴くん。遠野志貴くん―――
「ぶっ!?
踵を返そうとした俺は、放送の続きに思いっきりずっこけた

「――お姉さんがお待ちです。至急、5F紳士服売り場まで―――
「だ、誰がお姉さんだっ!!
言うなり、みなまで聞かずに俺は駆けだした。

人で溢れたエスカレータを避け、階段を二段飛びで駆け下りる。

<日曜日 午後2:25:26 デパート5F 紳士服コーナー 案内所>
アルクェイドは案内所の傍に立っていた。
その表情はシリアスな時のそれで、きりりと凛々しい。
と、その赤い瞳が俺の姿を捉える。

急転、その表情がぱっ、と明るくなる。あいつはにぱっと笑うと
「あっ、志貴、ここだよ!ここ!早く早く〜!

ぶんぶんと手なんて振った。

274(編集人):2002/11/01(金) 15:13
3/
「ああっ、もう、もう、もう!!」
赤面しながら案内所に駆け寄ると、アルクェイドの手を取る。

「どうもすみませんでしたっ!こいつの連れです!」
言うが否や、自分が下げると同時に手ではたくようにアルクェイド
の頭も下げさせ、
「ではっ!!」
脱兎のように逃げ出した。
後にはポカンとあっけに取られた案内嬢のお姉さんだけが残された。

<日曜日 午後2:30:52 デパート屋上 軽食コーナー ラウンジ>
「もーー、志貴痛い〜〜」
無言で歩き続ける俺に手を引かれて屋上まで来たアルクェイドは、
引かれていた左手を振ってぶーぶー文句をたれた。

「このばか女っ!なんだって急にいなくなるんだっ!」
大きな声にびくっ、と身を縮こませるアルクェイド。
おずおずとこちらを見上げてくる。

「志貴………怒ってる?」
「当たり前だ!いきなり目の前からいなくなったら…
……心配するだろっ!」
アルクェイドは神妙な顔つきで俯くと、
「ごめんなさい…………
こちらが悪く思うほどにしょげかえってしまった。

275(編集人):2002/11/01(金) 15:14
4/
「…あ、……うん…」
心底しょんぼりとしたその姿を見ると、さっきまであった怒りは
忽ち雲散霧消してしまう。

「…でも、どうして急にいなくなっちゃたんだ?」
「う、うん、あのね」
あのあの、と救いを見つけたように顔を上げるアルクィエイド

「あのね、志貴に、プレゼントを送ろうかと思って…」
「はあ?!
もじもじと、指を絡ませ顔を赤らめたりなんかして。
そっか、プレゼントか。
……走っていくほど、速く買いたかったのかな。
なんか、そういうのって

いじらしい。

「いつも、お世話になってるし……(もじもじ)」
「………
「志貴、よく私の我が儘も聞いてくれるし……(上目遣い)」
「………
「それに、好きな人にプレゼントってあげるものでしょ。
私、志貴のこと………大好きだから……(照れ照れ)」
がばっ
「きゃっっ!!」

276(編集人):2002/11/01(金) 15:15
5/
感極まって、俺はアルクェイドを抱きしめた。
「……ありがとうな、アルクェイド。」
「え、あ、うん。喜んでもらえたなら、私も嬉しい……
私、人間にプレゼントなんてしたの、初めて。
選ぶのって初めてで大変だったけど。何か幸せだった。
こんな気持ちにさせてくれたのは、志貴だけだよ。」

俺に抱きしめられたまま、か細い声でささやくアルクェイド。
そうだった。人との交わりを知らずに何百年もの時を過ごしてきた
こいつには、プレゼントをあげたりもらったりなんてことも一切
なかったのだろう。

たまらなくなった。ただ、強くアルクェイドを抱きしめた。

生まれてから一世紀近くも経って、はじめて誰かにあげたプレゼント。
参った。こんなものを受け取ったら、何をお返しにすればいいと
いうのだろう。

「アルクェイド…」
「なに、志貴。」
憂いを含んだ微笑で、腕の中のアルクェイドが見上げてくる。
その美しい貌を見ながら、真摯に言った。
「何か俺にお願いはないか、何でもいい。」

277(編集人):2002/11/01(金) 15:16
6/
アルクェイドは沈んでいく夕日の方を向いた。
そのまま、黙り込む。
ただただ、夕焼けをじっと見つめ続けている。
横顔には、険しさがある。が、怒りではない。厳しさ?
悲しみ? 何を、考えているのか、俺にはわからない。
ただ、腕の中にいるこいつが、とても遠い存在に感じられて。

やがて、ゆっくりと横を向いたままの唇がほころび、

死なないで。

空気を揺らさず、言葉が作られた。
「え?」

「なんでも、ないよ。」
あはは、と笑う。
すでに千年を生き、まだ生き続ける彼女と、
あと数十年も生きられない俺。

「志貴が選んだプレゼントが欲しいな。高いものじゃなくていいよ。
私もそんなに高価なものは送ってないから」
「ああ…………」
「貴方が選んでくれたものであれば、何でも、いいの。」
ぽす、と俺の肩に頭を預けてくる。

278(編集人):2002/11/01(金) 15:17
7/
「志貴…?」
「なんだい?」
「ひとつだけ、お願いして、いいかな…」
「いいさ、言ってごらん」
「今日は……ウチに泊まらない?」
「………………いいよ。」
「じゃあ今日はパーティにしよう?二人だけで。」
「やれやれ、TVでもやってたか?」
「むー、女の子の夢なのに」

いつもの調子に戻った彼女とじゃれ合いながら、俺もいつもの調子で
マンションへの家路を寄り添い歩く。
この何でもない日常が、アルクェイドにとっての永遠になるように。
いくら時が過ぎても、幸せだったと思い出せるように。
このお姫様に、平凡をプレゼントしよう。

おしまい

279(編集人):2002/11/01(金) 15:18
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)2時57分。
ROUND7.【萌る躰】194レス目「しゅら」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

280(編集人):2002/11/01(金) 15:19
深夜、いつものように志貴の部屋に窓から入り込むアルクェイド。
「志貴…」
 元気の無いアルク。
 どうした? と志貴が問い掛けるも、アルクェイドはそれに答えない。
「ねえ、志貴…私のこと、好き?」
「何言ってるんだよ、…そんなの、決まってるだろ?」
「ちゃんと、言って」
 何か必死なアルクェイド。
「………好き、だよ」
「……どの辺が?」
「…おまえ、一体どうしたんだ?」
「……お願いだから、答えて」
 涙目になるアルク。
「……全部、好きだよ」
 真っ赤になってうつくむ志貴。
「ああっ、もう! まどろっこしい!」
 アルクェイドの手を引っ張りベッドに押し倒す志貴。
 そのまま強引にキス。
「し、志貴っ、……ん、むぅ…」
 がくりとアルクの力が抜ける。
「教えてやるよ。どれだけ、お前が好きなのか」
 志貴の手がアルクの体を愛撫しはじめる。
「だめ…だめなの…」
 しかし、アルクは弱々しくも、抵抗する。
 いつもなら喜んで――いやさ、悦んで受け入れるはずなのに。
 そのことに怒ったのか、志貴の愛撫の速さが上がる。
「…ひぃぁううっ!」
 強く抱きしめて、強く愛撫して、強く抱きしめて、強くキスをする。
「ぁぁんっ、志貴、強すぎる、強すぎるよぉっ……んぁぁっ」
 姫君の懇願も逆に志貴をさらに煽るだけ。
「アルクェイド……。かわいいぞ、アルクェイド」
 志貴はアルクのスカートの中に手を入れて、ショーツを横にずらして
直接ワレメに触る。
 びくん、と激しく反応するアルク。
「んぅぅぅぅぅっ」
「なんだ。濡れてるじゃないか、ほら」
 志貴はスカートの中から真っ赤な手を抜き出した。
「……え?」
 まじまじと、自分の手を見る。

 真っ赤な。手。

「えええええええええええええ?!」
「う、うぇぇぇぇぇぇん………志貴、ごめん…ごめぇん……ひっく、
私のソコ、壊れちゃったよぉぉ…。お願いだから嫌わないでぇぇ……」
 ベッドの上はもーシッチャカメッチャカ。

281(編集人):2002/11/01(金) 15:21
――それからどしたどんどこしょー。

「いやー、まさか、生理知らないなんて思わなかったぞ」
「それは…その、800年生きていたとは言っても、実際動いていた
のはそんな長いわけでもないし、それに本来こういうところは封印が
かかっているはずなんだけどなぁ」
 うーん、と考え始めるアルクを志貴は抱きしめる。
「ま、いいじゃないか。どこも壊れてなくてさ」
「…うん」
 ぎうー、と二人は抱きしめあった。


「ほほー…、悲鳴が聞こえて、何事かと思ったら、そんなくっだらない
ことで私たちはたたき起こされたわけですか?」
 後ろから聞こえる、妹の声。
 多分檻髪発動中。
 その後ろに使用人二人の気配もあったり。
 皆思い思いのエモノ(具体的にはなぞのおくすりいりちゅーしゃきとか
おてせーのさつじんりょーりとか)を手にしている。

 アルクに抱きつかれて逃げるに逃げられない志貴。
 とりあえず、この場を円滑にまとめる言葉を捜す。
 しかし。
「ねーねー、生理がきたってことはー。……志貴の赤ちゃん、産めるかな?」
 姫君、さっきのお返しとばかりに爆弾発言。
 いや、本人は素でそう思っていることであろう。

 ぶつっとした音が後ろからみっつ。

 多分志貴くんの将来はばら色。真っ赤な血のように。
 そんなこんなでムリヤリ終わる。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

282(編集人):2002/11/01(金) 15:22
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)3時5分。
ROUND7.【萌る躰】198レス目「全系統異常アリ」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

283(編集人):2002/11/01(金) 15:23
月が出ていた。
中天に懸かるそれは、暖かくもなく、かと言って非情でもなく。
静かに私の影を縫いつける。
数年ぶりに立ち寄った、懐かしい街。
その小高い場所に在るそれは、以前と変わらず鬱蒼と茂った木々に囲まれている。
蒼い光に照らされながら。
厳めしい構えの門に立って、中を窺ってみる。
用事があるなら、堂々と中に入って行けば良いけれど、生憎と用事もアポイントも無い。
たまたま近く迄来たので足を伸ばしてみただけに過ぎない。
もしかしたら逢えるかも知れないとか、そう言う期待は勿論あった。
けれど、現実がそうそう都合良く行かないことも知っている。
小さな吐息を一つ漏らして、踵を返す。
「あれ、もしかして先輩?」
前言撤回、現実なんていい加減なもので、結構なるようになるものだ。
振り返った先には以前と変わらない姿。
いや、以前に比べると少し精悍さを増した彼が、手に16、7本の白い百合の花を持って立っていた。
「ごきげんよう、遠野君。元気そうですね」
「うん、シエル先輩も」
逢ったら言いたい事が沢山あった筈なのに、何を言って良いのか判らない。
どうやら、遠野君もそれは同じらしく何度か口を開きかけては、言葉に出来ずにまた閉じる。

284(編集人):2002/11/01(金) 15:24
そうやって、二人とも暫くの間、馬鹿みたいに見つめ合う。
「入りませんか、シエル先輩。
 その・・・時間があればですけれど」
「ありがとう。では、お言葉に甘えさせて貰いますね」
門から玄関に向かう迄の間、当たり障りのない会話を通して互いの近況を伝え合う。
「―――じゃぁ、今日は仕事の途中で?」
”もしかして”そんな僅かな憂いを滲ませた顔に向かって、安心させるように答えを返す。
「ええ、まぁ。でも、途中とは言っても後は帰って報告を済ませればお終いです。
 それに安心してください。事件があったのはこの近所じゃありません。ずっと遠くです」
「そっか。先輩には悪いけど、チョット安心したかな」
扉に手をかけて、遠野君がはにかんだ笑いを浮かべてみせる。
「今日は、泊まって行けるんでしょ?
 先に中に入って休んでいてください。琥珀さんにお茶をお願いしておきますから」
「遠野君は、入らないんですか?」
「ええ、チョット用事を先に済ませてきますから」
さっきから気になっていた、彼が手にしている百合の花束に視線を落としながら聞いてみる。
「あの、差し支えなければ一緒に行っては行けませんか?」
「え?」
チョットだけ驚いて、少し考え込んだ後で頷く。
「じゃぁ、こっちです」
そう言って遠野君はお屋敷の傍らに鬱蒼と生えている林の中に私をいざなった。

285(編集人):2002/11/01(金) 15:25
「ここは?」
彼が連れてきたそこは、生い茂る木々の中にぽっかりと隙間が空いていて、
そこから蒼い光がスポットライトの様に差し込んでいる場所だった。
「うん。秋葉にも内緒の場所。ここを知っているのは、先輩で二人目かな」
そう言って、かがみ込むと手にした百合を地面にそっと置いて瞳を閉じる。
百合の花が置かれ場所には、あまり大きくない石版が一枚。
白い百合は手向けの花だ。
「あ―――」
なんと言うべきか、私が言葉を選んで口を閉ざすのを見て、安心させる様に微笑んでみせる。
「琥珀さんにお願いしてね、秋葉に内緒でこっそり作ってもらったんです。
 弓塚さつきの事を忘れない様に、って。今日は、弓塚の命日なんです。
 花ってよく判らないから、女の子に送る用にって選んでもらって・・・」
そういって、彼は足元の石版に視線を移す。
「勿論、ここには遺体も遺骨もありません。この石版だけです。
 それでどうこうって言うつもりなんて無いです。ただ、他の誰が忘れても俺は覚えていようって。
 覚えて居なきゃいけないから。それで、無理言って作って貰ったんです。」
そう言って視線をまた私の方に戻すと、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「それで・・・申し訳ないんですけれど、彼女に祈りの言葉を先輩から贈って貰えないかなって。
 いきなり不躾なお願いなんですけれど。
 あ、勿論、単なる感傷だって判ってはいるんですけれど―――」
「良いんじゃないですか、それで。何をするでもなく、ただ覚えている」
なんだか後にいろいろ続きそうな言葉を遮ると、石版の前にかがみ込む。
少し遅れて、遠野君も私の隣に同じ様にかがみ込む。
石版に刻まれた祈りの言葉を、二人で静かに詠い上げる。

286(編集人):2002/11/01(金) 15:27
我ら 愛しきものを送らん
  汝が国の平穏の廟(みたまや)に
  汝がやさしき腕(かいな)の夢に
  我ら 大ならずされど小ならず
  遠く去り また生まれる
  ゆえに呼べ 遙かなるものなりと

  地をさまよいつつ
  我 汝を求めしも答えなく
  憂し世に影のみを見ん

  されど 我 恐るるを知らじ
  沈黙の言葉を知り
  見えざるものを見るが故に
  我ら汝なり 汝は我らなり
  遙かなるもの いま ここに送らん

287(編集人):2002/11/01(金) 15:28
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)9時44分。
ROUND7.【萌る躰】231レス目「社壊人」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

288(編集人):2002/11/01(金) 15:29
〜〜弓塚さつき支援SS〜〜
1/2

 空を見上げながら、遠野志貴は昇降口に立っていた。
「……当分、やみそうにないな」
 外は突然の夕立が降っている。
 小降りになるまで待とうと思ったとき、昇降口の奥から見知った顔が出てくるのを見つけた。
「弓塚さん、今から帰り?」
「え? あ、と、遠野くん!?」
 声を掛けられた本人――弓塚さつき――は必要以上に動揺した。
「と、遠野くんどうしてこんなところに……って帰るところだよね、でもあれ、なんで……」
「雨で足止めされてね」
 いつもと変わらぬ志貴の態度に、弓塚も落ち着きを取り戻す。
「遠野くん、傘持ってないの?」
「うん、残念ながら。小降りになったら走って帰るよ」
 そう言って、志貴は弓塚を先に帰るように促した。
 だが、弓塚は妙に落ち着かない様子で、帰る気配がない。
「?」
 ややあって、意を決したように弓塚が話し出した。
「あ、あの! よかったら、その、わたしの、傘……」
「え、弓塚さん、傘2本持ってるの?」
「あ、いえ、そじゃなくて、その……わたしの、傘で、送ろうかな、って……」
 弓塚の語尾が小さくなり、それに合わせるかのように俯いていく。
 言葉の意味に気づいた志貴が答える。
「じゃあ、弓塚さんさえよければ、送ってもらえるかな?」
「うん! がんばります!」
 弓塚のちぐはぐな返答に、志貴は気づかれないように苦笑した。
「傘、俺が持つよ」
 手渡された傘を開き、志貴と弓塚は雨の中へと歩き出した。

289(編集人):2002/11/01(金) 15:30
〜〜弓塚さつき支援SS〜〜
2/2

 校門まで来たところで、志貴はそれに気がついた。
 志貴は弓塚の方に傘を傾けようとするのだが、何故か押し戻されるのだ。
 ふと見ると、弓塚の右手が傘を押さえていた。
「弓塚さん、何してるの?」
「……ううん、別に」
 弓塚は、右手を志貴の視界から隠そうとする。
 だが、傘からの雫と降り注ぐ雨で右腕がびっしょり濡れているのを、志貴は見逃さなかった。
 志貴は立ち止まってため息をつくと、
「はい、ちょっとこれ持って」
 と言って、弓塚に自分の鞄を差し出す。
「う、うん」
 弓塚が鞄を受け取ると、志貴は傘を左手に持ち替え、開いた右手で……
「あ……」
 弓塚の右肩をつかんで、抱き寄せた。
「ごめん。こうでもしないと、ふたりとも濡れちゃうから」
 弓塚は真っ赤になって俯く。
「……うん、大丈夫」
 ようやく、小さな声でそう言った。
 ふたりは再び歩き始める。
「弓塚さん、ちょっと家に寄ってってよ。服とか乾かさなきゃいけないし」
「え!?」
 驚いた弓塚が顔を上げると、志貴との距離、3センチ。
 上げた時以上の勢いでまた俯いた。
「あ、あの、その、お邪魔しちゃ悪いし、それに、大して濡れてないし……」
「だーめ。こんなに右腕が冷たいじゃない。風邪でも引かれたら俺が気にするからさ、寄ってってよ」
 弓塚の体から、少しだけ力が抜けたようだった。
「……うん」
 ふたり、雨の中を歩いて行く。


 そんな、ある日の出来事。

290(編集人):2002/11/01(金) 15:32
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)11時37分。
ROUND7.【萌る躰】249レス目「七死さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

291(編集人):2002/11/01(金) 15:33
月。

ふと、空を見上げれば。

月が出ていた。

白い月。

それは、アイツを連想させる。

涙が頬を濡らす。止まらない。どうしようもなく、あふれる。

それでもいい、と思う。

一生分の涙を流してでも、アイツのために泣いてやろうと、思う。

ああ―

今夜はこんなにも、月がきれいなのに。

それは、月の姫を思い出させる。

(好きだから、吸わない)

卑怯だ。最後にあんな笑顔を見せられたら。

忘れる事さえ、出来やしない。

月。

教室から見えるそれの月は。

今まで見てきたどの月よりも。

美しいと。

志貴は思った。


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