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チラシの裏 3枚目

703メルヘンメイズ やよいの大冒険 第25節 ◆NbzgKxMl4M:2009/10/23(金) 22:54:33 ID:x4lWW43E0
 第9話 女王の国  〜女王とウサギ、そして鏡の国〜

遠目に見える、広い岩肌の上に聳え立つ城。
もともとは立派な城だったのでしょうが、今ではところどころ壊れ、その姿に見るものはありません。
こんなところに… 女王がほんとにいるというのでしょうか?

「さぁ、行きましょう。あずさや律子たちも無事に帰れたでしょうし、これで最後です」
「…」
やよいはしばらく、その城のほうを見ていました。
これが、女王の住んでいる城…。

それを見て、やよいは少し悩んだような表情をしていました。
が、やがて意を決したようにウサギに尋ねます。
「ねぇ… 女王って… 誰なの?」

 誰なの。

「…どうして、そういう訊き方をするんですか?」
「私の知ってる人ばっかりが、こんなに鏡の国で見つかるなんておかしいです。だから、ひょっとして、
その女王というのも…」
やよいにも、何となくその答えが分かっていたのかも知れません。

「…分かりました。どうせ女王に会えばすぐに分かることですし、お話します」

長い沈黙の後、ウサギはようやっと口を開きました。
その一言がとても重いものである、と言わんばかりに…。

「あれは… 伊織なんです」

え?
伊織って、あのやよいのお友達で、かわいくてやさしくてうたがうまくて、そしてちょっと意地悪な…?

「そうです… やよいの友達の伊織です」
ウサギはポツリポツリと、しかし力のこもった声で話し始めます。まるで重い扉を開くかのように…。

「やよい、あの本のこと覚えていますか?『不思議の国のアリス』」
「うん、結構重たくて持って帰るのに苦労したかな…」
「あれはもともと伊織の家にあったもの、そしてあの女王を封じ込めてあった書物なのです…」
ウサギはそこで一度言葉を切って、
「考えてもみてください、子供向けの童話が、そんな重たい書物として作られると思いますか?」
「…」

ウサギの目は遠くを見つめながら、
「あれはその昔、女王と守護者、そしてその魔法のドレスやストローを封じ込めてあったものです。
そして、それは長らく開かれることはありませんでした。伊織の家に来るまでは…」
「伊織ちゃんか誰かがその本を開いたせいで…?」
「はい、もともと女王を解き放ったのは伊織です。女王はそのまま伊織を乗っ取って、鏡の国を支配
しようと動き始めたのです」
そこで、ウサギはやよいのほうに向き直って言葉を続けます。
「それがどう巡り巡ったのか、まさかやよいの学校の図書館に来るとは思いませんでした」
「それじゃぁ、私があの本を開いたときに…?」
「ええ、そのドレスとストロー、そして同時に鏡の国の守護者も解き放たれて、女王を止めるべく…」
「じゃぁ、今本物の伊織ちゃんは…?」
「女王と完全に一体化する手前、というところでしょう。女王をもし止めることが出来なければ、本物の
伊織もそのまま鏡の国… 夢の世界から永久に帰れなくなってしまいます」
「そんな…!」
やよいの顔が見る見る青ざめていきます。

「だから… お願いです、伊織を、鏡の国を何としてでも救ってください…!」
是も非もありません。
返事をすることも無く、やよいは城のあるほうへと駆け出していきました。
「…ウサギさん、お願い。最後まで私に力を貸して!」
振り返りながら、大きな声でやよいはウサギに向かって言いました。
「…ありがとうございます」
ウサギの目に、知らず知らずに涙がこぼれてきました。ウサギにとって、それは初めてのことでしたが、
不思議とそれを自分で訝しがることはありませんでした。そう、まるで普通のことであるかのように…。




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