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マンションに着くまでのことは、ぼんやりしていてよく覚えてない。
気が付いたら、私は自分の部屋の前に立っていて
アイツは自分のドアに鍵を差し込んでいるところだった。
「それじゃ、また明日な」
そんな言葉を残して、ドアの向こうへと消えていこうとするアイツ。
その背中に自然と声がこぼれる。
「家、寄ってく?」
「は?」
「大丈夫よ。今日は私一人だけだから」
「え、あ、、いや、、でも……それはさ。その……」
あわあわと慌てふためいて、家の鍵を落すさまを
しっかりと目に焼き付けておいてから言う。
「嘘よ。バカ」
呆気にとられた顔したアイツを残して家に飛び込む。
してやった。思いっきりしてやった。
背中をドアに預ける。
目を閉じてもまだアイツの姿が残ってる。
いつもは憮然としてるアイツの……
焦る姿がおかしくて。
戸惑う姿がおかしくて。
次々と浮かんでくる笑みを両手でこらえる。
バカみたい。あんなこと本気にしちゃって。
そう、今のは嘘。あれは嘘。
ただちょっとアイツをからかうための、ささいな嘘。
本気の言葉じゃない。ホントの思いじゃない。
素直になったわけでもなんでもない。
そう、あれは嘘。
だから―――
この胸の熱さも嘘にしなくちゃ。
洗面所へ向かう私の足取りが軽いのはきっと気のせい。
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