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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
1
:
◆VnfocaQoW2
:2010/04/04(日) 00:20:17
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
264
:
孤爪よ、天を穿て!(12/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:33:37
そーだよな……
どうせ死ぬなら開き直らねーとな。
俺だけ死ぬのって納得いかねーよな。
屈辱喰らいっ放しで、終われねえよなあ?
あいつ口ほどにもなかったぜ、なんて、思われたくねえよなあ?
ニンゲンどもに舐められっ放しなんて、許せんよなあ?
「がはははは! そぅれそれぇ!」
特に、おめーだよ、おめー。
そこで得意げに笑ってるおめーだよ、ランス。
二度、魔王になるっつー夢を断ち切られてよ……
二度、惨めな命乞いを踏みにじられてよ……
二度、命を奪われてよ……
その二度が二度ともに、おめーは関わってんだぜ?
俺様のびくとりー・ろーどを断ち切ったんだぜ?
許せねーよなぁ?
生かしておけねーよなぁ?
……そうだぜ。
視覚が潰されちまったからって、ヤツらを全く捉えらねえ訳でもねえんだよな。
だって、聞こえてんじゃねーの、苛つくバカ笑いがよ。
それってつまり、俺の聴覚が死んでねぇってことだろ?
そいつを研ぎ澄ませばよー。
触手で爪をぶっ刺すことも、出来るかもだぜ……?
265
:
孤爪よ、天を穿て!(13/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:34:23
……なにが「かも」だよ。
弱気になってんじゃねーよ。
やるんだよ。
やらなきゃなんねーんだよ!
頭! ぼーっとしてる場合か!?
体! オラァ! もっと気合入れろ!
心! 泣き入れてんじゃねえ!
俺! 全てを統合しろ!
注ぎ込め! 六千年の歴史を!
注ぎ込め! 俺様の残る全てを!
ぽんこつになった、一本の触手に!
力に変えて、注ぎ込め!
「がはははは! 俺様最強!」
ああ、見えるぜランス。
見えなくなったこの目にくっきりと見えてるぜ。
暗闇の中に、ただ一本。
俺様とお前とを結ぶ触手の軌跡が、な。
行くぜランス、喰らいやがれ。
俺様の最大で最強で最速で最高で……
―――最期の一撃を!!
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
266
:
孤爪よ、天を穿て!(14/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:35:02
この件に関して、月夜御名紗霧を責めることは出来ぬ。
全ては想像されていた為に。
全ては想定されていた為に。
全ては検討されていた為に。
紗霧が入手したケイブリスに関する情報の全てが、
この戦いに生かされていた為に。
今、目の前で、しかし意識の外で起きようとしていることは、
彼女たちの手持ちの情報では想定が出来ぬ事態なのである。
起きるはずのない出来事なのである。
悪夢の如き奇跡なのである。
【魔人の超回復能力】
紗霧は、この重要なワンピースを入手できなかった。
故に立案してしまった。
時間をかけて嬲り殺すという戦術を。
その、かける時間の長さこそが。
友軍の安全性を高める為の手法こそが。
完璧なはずの作戦の瑕疵となった。
触手の有り得ぬ回復を許してしまう余裕を生んだ。
故に―――
死せる筈の触手が放った鋭い刺突に、反応できた者はいなかった。
それは、ターゲットとされたランスとて、例外では無かった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
267
:
孤爪よ、天を穿て!(15/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:35:33
ずぶりと、突き刺さる抵抗感。
熱い液体が、触手に滴る感覚。
「……はへ?」
届いたぜぇ……
俺様の生命の炎を燃やし尽くした一撃で、
ランスのドテッ腹に、風穴をぶち開けてやったぜ!
「……マジでか?」
ああ、よっくわかるぜランスよー。
その「信じらんねー」って気持ち。
こんなところでこんな死に方するなんて、ありえねーって思い。
さっきまで俺様も感じてたからな!
「ランスさまああああ!!」
おっ、いまの「ゴボッ」は血の塊を吐き出したな「ゴボッ」だな?
体がビクビク痙攣してるのも、触手に伝わってくるしよ!
なんかもー、上手く言えねぇが、最高にキモチーぜ、おい!
「いけませんユリーシャさん! ジジイ、止めなさい!」
268
:
孤爪よ、天を穿て!(16/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:35:59
いやいや、ちょっとちょっと。
確かに気持ちよくはあるんですけど。
マジで触手までいきり立ってきたんですけど?
嘗てないほどにビンビンなんですけど?
「あい判った!!」
ああ、あれか。へびさん魔人が言ってたやつか。
死ぬ間際にゃ生殖本能が刺激されて…… なんとかってやつ。
……突っ込んでみてもいいですか?
「なんなのアレ? なんなのアレぇぇ!!?」
まさか最後に犯すのが野郎のドテッ腹にぶち開けた穴だとは
想像もしてなかったがよー、
これはこれでちょーきもちイーぜ!!
そぅれ、入らなーい♪ 入らなーい♪ 無理にねじ込めー♪
「広場さん…… あなたは、見ないほうが、いい」
げへへっ! ランスがゲボゲボ吐いてんな!
見てぇなあ、目ン玉裏返ったアイツの汚ねぇツラをよー!
そしたらもっとキモチくなれんのによー!
「げびょっ!! ぎょぼっ!!」
そんなにビクビク痙攣すんなよ、ランス……
お前の腸の締め付けがどんどんキツくなるじゃねーか。
こんなんじゃスグにイっちまう!
269
:
孤爪よ、天を穿て!(17/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:36:43
「ぐぼぼぼぼぼぼ……」
ああ、とまらねえ、たまらねえ!
とまらねえ、
たまらねえ、
とまらねえ、
たまらねえ、
とまらねえ、
たまっおふっ!
……三擦り半で出ちまった。えへ。
「え、え? 触手の先っちょから、あれ? なんで?」
「なんという下衆……」
「家畜の分際でェェ! 身の程も弁えずゥゥ!!」
「……」
「紗霧殿? おい、紗霧殿、しっかりせぬか!!」
おーおー、ヤツらが揃いも揃って混乱してやがるな!
この隙を突いて、根こそぎ薙ぎ払ってやりてーが……
もう、触手、萎え萎えで動かねーしな。残念だぜぇ。
あー眠ぃー。
あー怠ぃー。
……こりゃもうダメだ。
体にも頭にも、もういっこも力、はいんねー。
射精と一緒に、残りの命までぶっ放しちまったみてぇだぜ。
まーいーや。
最期にちょっとスカッとできたから。
あとはさっぱりお陀仏だな!
270
:
孤爪よ、天を穿て!(18/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:37:28
お、ランスの体も大分冷えてきたなぁ。
もうピクリとも動かねえしよ。
一足先に逝っちまったみてえだな。
待て待て、ランス。俺様を置いていくなって。
おててつないで、一緒に行こうぜ?
楽しい楽しい地獄巡りによ!
ぐぇっふぇっふぇっふぇっふぇっ!!
ふぇっふぇっふぇっ!
ふぇっふぇ……
ふぇ……
……
。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
271
:
孤爪よ、天を穿て!(19/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:38:21
「がはははは! そぅれそれぇ!」
どうしたことか。
ケイブリスの道連れとなったはずのランスのバカ笑いが、未だに響いていた。
それどころか。
「あんにゃろ、あんなモン隠し持ってやがったのか!」
ケイブリスを中心に、声から90度の角度を隔てた位置には、
傷の一つも負っていないランスが、紗霧と共にいるのである。
「しかも壊したはずの触手が動いてました。やれやれ、とんだ生命力です。
今からは壊した触手や腕も、定期的に壊し直さないといけませんね」
紗霧は溜息と共に仲間たちに指示を送った。
それから、90度向こう―――
ケイブリスの触手が突き出された空間の直下に設置してある、
黒い小さな機械を見やった。
「がはははは! 俺様最強!」
ランスの馬鹿笑いは、その箱の中から垂れ流されていた。
カセットデッキである。
以前、磯部にて二人の監禁陵辱魔を嵌めた時と同様、
紗霧はランスの声で以ってケイブリスを騙し、
その最期の一撃を、見事に無効化したのである。
執念深い紗霧が。この神鬼軍師が。
奪えぬはずのない聴覚を奪わなかったのには、
歴とした理由があったのである。
272
:
孤爪よ、天を穿て!(20/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:39:51
「まあ、結果オーライとしておきますか」
紗霧にとって、カセットデッキは保険であった。
恭也や自分の遠距離攪乱が見破られた場合を想定し、
その際に攻撃が向かう方向を誘導する為に聴覚を残し、
聴覚に訴える音声を、友軍のいない方向に設置したのである。
確かに、潰した筈の触手からの攻撃その想定を外してはいた。
しかし、ケイブリスはランスの位置特定に聴覚を用いてしまった。
それで、魔獣の乾坤一擲は想定外である利を失ってしまい。
それで、音声の罠に嵌ってしまい。
結局、単なる誤差の範囲内に収まってしまったのである。
「ぐぇぶぇぶぇぶぇぶぇ……」
最後まで紗霧の掌の上で転がされていたことに気付くことなく、
焼かれた喉で、もはや声にならぬ音を発するケイブリスの顔には、
それでも、どこか満足げな笑みが浮かんでいた。
「ちょっとちょっと紗霧さん? 怪獣さん笑ってるみたいですが?」
「死に際に都合のいい夢でも見てるんでしょう。放っときなさい」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
273
:
孤爪よ、天を穿て!(21/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:40:28
(Cルート・2日目 PM23:45 E−5地点 耕作地帯)
腕。触手。爪。牙。
ケイブリスの武装を全て奪ったことで作戦行動の第二波は終わり、
最終ミッションである第三波へと移行して、既に一時間半が経過していた。
第三波の内容とは――― 【放置】。
紗霧たちは、仰向けに倒れているケイブリスを、遠巻きに囲んだ。
死にゆく巨凶をただ眺め、見張った。
触手等の復活を確認すべく、時折、恭也に投石させたりもしたが、
決して止めなどは刺さなかった。
更に一時間。
ケイブリスの流した血はドス黒く変色し、凝固していた。
傷口には目敏い蝿たちが集っている。
獣臭と血臭に、かすかに死臭が混じり出していた。
「魔人が死ぬとちっちゃい赤い玉になるのでは?」
「の、はずなんだがなぁ」
「しかしのぅ…… ありゃどう見ても死んどるぞい」
本来、死せる魔人は遺骸を霧散させ、ピンポン玉大の紅玉へと態を移行する。
【魔血魂】である。
それは魔王の血の縛りの証。
魔人の力の根源にして、魂の揺り籠。
但し、このケイブリスは魔王直下の魔人ではない。
プランナーがこのゲームのバランスを考慮した上で、能力を調整した魔人である。
274
:
孤爪よ、天を穿て!(22/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:41:12
プレイヤーの攻撃を無効化する無敵結界は故に解除されていたし、
死後の魔血魂化もまた、同様に取り消されていた。
魔血魂を呑んだ者が新たな魔人となる。
そこに生まれるゲームのバランスブレイクを忌避した為である。
理由はともあれ―――
野武彦の見通し通り、ケイブリスは既に死んでいた。
絶息の正確な時間はわからない。
第三波に移行してからの二時間半。
そのどこかで誰にも気付かれること無く、息を引き取っていた。
「しかし……哀れとは思わんが、えげつないな」
苦虫を噛むが如き顔つきでランスが呟いたこの感想を以って、
三時間超に渡る紗霧の作戦、【ハイエナ達の晩餐】は完了した。
誰一人傷つくことなく難敵を完殺するという、完璧な成果にて。
【ケイブリス:死亡】
―――――――――主催者 あと 4 名
↓
275
:
孤爪よ、天を穿て!(情報 1/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:41:59
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−3 草原】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×1、干し肉、スペツナズナイフ、
文房具、白チョーク1箱、レーザーガン、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
※銃(50口径)及び飛釘は撃ち尽くしました。
276
:
孤爪よ、天を穿て!(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/21(土) 23:43:50
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、白チョーク数本、
スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、簡易通信機、工具、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機
体操服の上(←ユリーシャ)】
※体操服の下、レギンスは装着済です。
※「?服」の一つは、体操服の上下でした。
277
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/23(月) 18:56:15
本編SS、地図、死亡者情報、ネタバレ名簿を更新したまとめをUPしました。
パスはroです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1107566.zip.html
まさか本当に無傷で勝利するとは恐るべし六人組……恐るべし神鬼軍師。
ケイブリスも紳一もらしい最期といえば最期だと思いました。
でもどこか不吉な予感は拭えないのが意味深。
まひるが夜に目覚める本投下で体操服を着用しなかったのはこのためだったのですね。
もうすぐ九回目の放送かな。次のパート楽しみにしてます。
まとめ管理人さん先週の更新ありがとうございました。
278
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:03:49
まだ完了はしていませんが……
本スレにての支援、ありがとうございました。
以下36レス「ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜」を仮投下致します。
今回気付いたのですが、この三部作のタイトルを今まで間違えていました。
「〜☆ちぇいす!」ではなく「〜☆ちぇいすっ!」でした。
お手数ですが >>◆ZXoe83g/Kwさん のまとめ次回更新時に、
「〜往路〜」のタイトル変更をお願いいたします。
また、「〜折り返し地点〜」の冒頭数レスの【私】視点パートは、
本投下時には削除しようと考えております。
次回は「知佳ちゃんハリケーン!」。
知佳、智機、レプリカN−21が登場予定です。
279
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(1/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:07:33
【タイトル:ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜】
(Cルート・2日目 23:15 I−7地点・海岸線・岩場)
灯台南部の磯は静寂の中にあった。
引く潮は穏やかに細波も立てず、北東の風は火災の禍を運ばず。
つい先ほどまで喜びの歓声を上げていた二人の乙女も、
今は、泣き疲れてか、笑い疲れてか。
腰を下ろし肩を寄せ合って、沈黙と共に、水面を眺めている。
(この二人、百合ん百合んか? 勿体無いのぅ……)
下品な魔剣も一応は空気を読むらしい。
下卑た思念波を発することなく心中で呟くに留めていた。
―――主催者は誰一人として地位を失っていない
―――ゲームを満了させれば願いは叶えられる
仁村知佳は先刻、エンジェルナイトから読み取った一通りの情報を
御陵透子に語って聞かせていた。
今、沈黙の中で透子は、それらの情報を咀嚼している。
殊に透子の意識を占めているのは、以下の一節であった。
―――蒼鯨神を楽しませる限り資格は失われない
実は透子は、この島に来てからの記憶/記録の検索の中で、
図らずもルドラサウムの記憶/記録にも幾度か触れていた。
つぶさに思い返してみれば、鯨神の記録は実にシンプルであった。
大別すれば二種類にしか分類できなかった。
280
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(2/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:08:52
楽しい。
つまらない。
その傾向も、実にシンプルであった。
動きがあれば、楽しい。
動きがなければ、つまらない。
ここでいう動きとは、心の動きではない。
悩んだり迷ったり勇気を振り絞ったりを指さない。
あくまでも体の動き、アクションである。
撃ったり刺したり燃やしたりである。
と、いうより。
ルドラサウムは、心を読んだりはしないらしい。
あくまでも表層の表れにのみ着目している。
耳目によってのみ、ゲームを鑑賞している。
例えば、椎名智機が学校にて鬼作らを制裁した折。
例えば、椎名智機が病院を急襲した折。
ルドラサウムは、笑い転げていた。
ゲームのルール云々などは一切関係なく、
主催/参加者の枠を意識することなく、
ドンパチや自爆や建物の崩壊を楽しんでいた。
そんな記録が、空間には残っていた。
故に、透子は決意した。
願いの成就の為、己が為すべきを改めた。
(私も、戦う―――)
281
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(3/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:10:08
であればと、透子は考えを進める。
今後の具体的な身の振り方を検討する。
自分のテレポートは有用ではあるものの、戦闘力に措いては非常に乏しい。
肉体的な能力が著しく低いためである。
それは、先刻の亡霊・勝沼紳一追跡の折に、身を以って知った。
そんな自分が単独で、海千山千のプレイヤーたちを向こうに回せるとは思えない。
力が、必要である。
ザドゥとカモミール芹沢。
この、戦闘に特化した能力を持つ同胞の力無しでは、勝ち抜けぬ。
その為には。
シェルターへ戻り、朝まで目覚めぬ二人を守らねばならぬ。
「ありがとう、透子さん」
唐突に、知佳が礼を述べた。
知佳はゆっくりと立ち上がり、姿勢を正し、深く頭を下げた。
その動きは、畏まったものであった。
その声色は、固いものであった。
その両方に、知佳らしからぬ硬質な冷たさが含まれていた。
「……なにを?」
透子は知佳の辞儀の意味を図りかね、問い返す。
「魔獣から逃げることができたのは、透子さんのお陰だよ。
あの時、私はあなたに命を救われたの」
地下通路で、知佳に襲い掛からんとするケイブリスを諌めた。
そんなこともあったなと、透子は思い返す。
282
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(4/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:11:10
「ううん」
「お礼を言うのは私のほう」
透子は姿勢を正し、深々と頭を下げて。
受け止めた知佳の感謝を、より大きな感謝で以って返礼した。
「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」
「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」
透子がこれほどの言葉を連ねるのは、何百年ぶりかのことであった。
その全てが、衷心からの言葉であった。
しかし、知佳の顔に笑みは戻らない。
硬質さはより一層増し、悲痛とさえ言える顔つきで透子から目を反らした。
そして、呟く。
「じゃあ…… もう、借りは返したってことで、いいね?」
何故、今更貸し借りなどと口にしたのか。
透子にその意図は分からない。
「ごめんね、とは言わないよ」
続けて紡がれたのは謝意を否定する形にての謝罪の言葉。
透子にその意味は分からない。
283
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(5/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:14:51
軽く混乱する透子が反応を返すのを待たず、
知佳はその表情のまま背を向け駆け出した。
北北東へと。
ちらりと見えた知佳の横顔には、確かに涙が一しずく浮かんでいた。
その涙の理由もまた、透子には分からない。
「逃げなくてもいいのに」
透子はしばし、呆然と知佳の背を見送り。
知佳が置いていった魔剣カオスの柄を握って。
地下シェルターへと戻ろうと意識して。
そこで、ようやく勘付いた。
自分のテレポート先と、知佳の走行方向が同じであることに。
【 朝まで目覚めぬ ザドゥと芹沢を 守らねばならぬ 】
読まれていたのである。
肩を寄せ合っていたのは読心能力を持つ相手だと分かっていたのに。
透子は、安心感ゆえの無防備で、その思念を漏らしてしまったのである。
主催者の内情を、危機を、秘中の秘を。
ごめんねとは言わないよ―――
この「ごめんね」とは、逃げる事に対する「ごめんね」ではない。
透子が折角取り戻した希望の芽を摘むことに対する「ごめんね」であった。
無防備なザドゥと芹沢の命を奪うことへの「ごめんね」であった。
284
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(6/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:16:04
知佳は、故に、走った。
逃げたのではない。向かっている!
「―――!!」
走り去る知佳の背はすでに小さく、遠く、迷い無い。
透子は念じた。
(知佳に――― 追いつく!)
ここに、知佳と透子の逃走/追跡劇が、幕を開けた。
―――灯台跡まで、あと1000m。
自分が撒いた種で、芽吹いたばかりの希望を、
その自分が、次の瞬間、引き千切り踏み躙る。
知佳がしようとしていることは、そういう行為である。
掌返しの裏切りである。
しかし知佳が心がけてきた、読心による情報収集とは、
まさにこうした情報を欲していた故であり。
その情報を遠方の恭也たちの為に最も活かせる行動が、
無抵抗の主催二名の暗殺であるのだから。
いかに友を傷つけようとも。
いかに友を裏切ろうとも。
この得難き機を見過ごすわけには、ゆかぬのである。
285
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(7/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:17:41
故に知佳は、ごめんねとは言わなかった。
本当は謝りたい気持ちで一杯であった。
それでも言えなかった。
言ってはならなかった。
ここでする謝罪とは自分の心を軽くする為の偽善でしかないのだと、
知佳には、分かっていた故に。
知佳が透子の呆然とした姿を頭に思い浮かべるのと時を同じくして。
その幻像が目の前に、実体として現れた。
透子に残存する唯一の【世界の読み替え】――― 瞬間移動である。
「すとっぷ」
知佳はその突然の出現に驚かなかった。
むしろ登場が遅いとさえ思っていた。
自分が今、為さんとしていることに思い当たれば、
或いは、その記憶/記録を読めば、
透子が自分を止めに来ることは、必然のなりゆき故に。
「気付いたんだ…… 気付いちゃうよね、どうしても」
「ん」
「透子さんを殺そうとは思ってないよ。どいて?」
「どかない」
知佳の頬には、涙の跡がある。
透子の頬にも、涙の跡がある。
しかし、それはあくまでも、跡である。
過去の名残なのである。
確かに咲いた友情の花は、無情の仇花でしかないのである。
286
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(8/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:18:20
「あなたがわたしを」
「殺せなくても」
「わたしはあなたを」
「―――殺せる」
その言葉に、知佳はショックを受けた。
そしてすぐに、ショックを受けた自分を恥じた。
透子を先に裏切ったのは自分である。
だのに、裏切られると悲しいなどとは、なんという身勝手さか。
《敵か? 知佳ちゃんは敵なんですか!?》
カオスが発した戸惑いの思念波で、知佳は我に帰る。
透子の言葉に嘘偽りはなく、既に、カオスは振り上げられていた。
「テレキ……」
テレキネシス、と。
反射的に知佳は反撃しようとして、逡巡した。
対する透子に躊躇は無い。
カオスは既に振り下ろしの体勢に入っており、
力弱いながらも、知佳の額をかち割らんとしていた。
「―――サイコバリア!」
透子が振り下ろしたカオスは知佳の額に到達しなかった。
知佳の前面に展開された、念動の障壁に受け止められた。
「ぁう!」
287
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(9/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:19:00
障壁は、不可視ではない。
その背のフィンに同じく、目視可能な透明である。
シャボンの膜の如き、オーロラの如き。
透明で有りつつも複雑に絡み合う色がうねりを見せる、力場である。
透子にダメージは無かった。
サイコバリアの強度が、緩く柔く、制御されていた為に。
足をふらつかせ、カオスを手放すに留まった。
殺そうとは思ってないよ―――
知佳のその言葉は、本気の発言であった。
それは、知佳が通すべき筋であり、
己に科した制約であり、
重い罪悪感への軽減措置であり、
また、透子に対する友情への未練でもあった。
「テレキネシス!」
知佳は透子の落としたカオスを念動にて吹き飛ばした。
透子は無言でカオスの飛ばされた先へテレポートし、回収をはかる。
知佳はその僅かなタイムラグの間に少しでも距離を稼ぐべく、疾走を再開する。
―――灯台跡まで、あと900m。
.
288
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(10/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:20:21
シェルター付近で待ち伏せする。
透子はそれをしなかった。
思いつかなかったわけではない。
できなかったのである。
《この追いかけっこ、どっちが勝つかな? どっちが勝つかな?》
透子は、掴んだのである。
厚き雲の上、星々の宿り、天空の遥か彼方。
そこから発せられるルドラサウムの記録を。
巨大な尻尾をぺちぺちと振り、童の如くはしゃぐその情景を。
(注目されてる―――)
透子は自分の判断に間違いが無かったことに高揚する。
そして緊張する。
ルドラサウムを――― 観客を、失望させてはならないと。
リクエストに答えねばならないと。
この追跡と戦いを半端に終らせてはならないと。
しかし、唯一の手持ち武器・カオスでは、
知佳の足を止めることが出来ぬは、既に実証されている。
サイコバリアに阻まれて、切り裂けぬを知っている。
(……武器が要る)
透子は、その思いで、心当たりの場所へと跳んだ。
289
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(11/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:26:05
―――灯台跡まで、あと800m。
例えるならば、サイコバリアとは「一枚の大盾」である。
前後左右、どの方向にも展開できるが、用を為すのは一方向のみである。
透子の攻撃が盾を構える正面から打ち込まれたなら、弾き返すのは易い。
しかし、盾の背後から打ち込まれたならば。
或いは、盾の側面から打ち込まれたならば。
その攻撃は無防備な知佳の柔い体に齧り付き、喰い破ることであろう。
それでも、武器がカオスであれば、問題は無い。
透子には、長剣に類されるカオスを、自在に振り回す腕力や技量が無い。
知佳はその運動音痴ぶりを既に【読んで】いる。
故に、たとえテレポート能力を駆使されようとも、
刀身が知佳を捉える前に、バリアを必要方向に移すことも可能である。
故に、今。
前面にサイコバリアを展開したまま、知佳は疾走を続けていた。
だが、その知佳の準備に透子が応える様子はない。
もう、それなりの距離を稼いだにも関わらず。
(待ち伏せ…… かな)
透子が知佳を止めるのを諦めた、とは考えられぬ。
何百万年もの間想い続けている愛しい人の復活が掛かっているのである。
その深き情と比せば、あらゆる事象は水溜り程の深さしか持たぬであろう。
増してや知佳との、ほんの僅かな心の交流など。
290
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(12/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:27:44
それでも透子が走行の妨害に現れぬということは。
追跡に分が無いを悟り、戦法を待ち伏へと変更したからであろう。
おそらくは地下シェルター付近で。
おそらくは武装を充実させて。
背水の陣を敷き、眠れる同胞たちを死守するつもりであろう。
その場合……
殺そうとは思ってないよ―――
知佳は自問する。
その誓いを、覚悟を、守ることが出来るのか?
身体能力に劣るところは無い。
それでも。
本気で、必死で、死に物狂いで向かってくるであろう相手に、
手心を加えた上でやり過ごすことなど、果たして可能であろうか?
(コレを使えば―――)
知佳はポケットに左手を忍ばせた。
指先に転がったのは小さな球体、二つ、三つ。
それは、知佳の配布アイテム。
それを、知佳は二度、使用している。
一度は悪漢を倒す為に。
一度は死地から脱する為に。
これ以上ないタイミングで、行使している。
その機を、見極めれば。
その機を、誤らねれば。
(―――透子さんを出し抜ける)
291
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(13/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:28:24
暗澹たる思いで、揺らぐ気持ちで。
それでも知佳は、疾走する。
―――灯台跡まで、あと700m。
「No。君の登場は本当に心臓に悪いな」
透子の目の前で驚愕するのは、レプリカ智機N−22。
二人が立っているのは、崩れた学校の瓦礫の中。
「残念な結果ではあるが……」
校舎の放送施設はやはり死んでいたのだと。
透子が夕刻に放置した通信機を回収したものの、
やはり本拠地との通信は不可能であったのだと。
N−22は突如目の前に姿を表した透子に、
己の任務の結果を報告しようとした。
「それはいい」
「銃を貸して」
しかし透子はレプリカの説明を遮った。
前置きも説明も無く、N−22が腰から下げる銃器へと手を伸ばした。
時間を惜しむ余りに。
292
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(14/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:29:50
シェルターまでの正確な距離の程は、透子には判らぬ。
しかし、知佳がそこにたどり着くまで、あと十分と掛からぬ。
その程度の事は理解できていた。
その焦りが、行動に表れていた。
「Why? 御陵透子、なぜ君が銃を欲する?
銃を預けるにやぶさかではないが、理由は聞いておきたいものだね」
「仁村知佳が」
「シェルターに向かってる」
「Yes。それは確かに必要だ。しかも急を要する」
N−22は腰に提げた軽銃火器―――グロック17を透子に渡した。
透子は魔剣カオスを放り投げ、銃を受け取った。
《うぉっ、乱暴じゃな!》
カオスの苦情が耳に届く前に、透子は消えた。
知佳を止めるべく、追跡を再開した。
「NO…… 事情はわかるが乱暴なことだな。
同僚の無礼、私が成り代わって謝罪させてもらおう、魔剣カオス」
《えーと…… ともきんちゃんでよかったかの?》
「Yes、魔剣カオス。 卑猥なのはNoと、最初に断わっておくよ」
《……つまらん嬢ちゃんじゃの》
―――灯台跡まで、あと600m。
.
293
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(15/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:30:55
仁村知佳が、走っている。
暗い闇の中を、一人、走っている。
既に周囲は磯ではない。
潮の臭いも届かない。
構造物も樹木も無い草原を、北北東へと走っている。
タン!
音は知佳の背後に聞こえた。
風圧は知佳の真横に感じられた。
銃撃である。
背後から放たれた弾丸が、知佳の脇を疾り抜けたのである。
(待ち伏せじゃなくて、武器の調達だったのね!)
知佳は振り返る。
その背後10mほどの距離に、後方に転倒しかけている透子がいた。
恐らくは始めて発射する銃の反動に膝を崩されたのであろう。
その臀部が地面に衝突する直前に、透子は消えた。
「―――!!」
知佳は咄嗟に身を翻す。
直感は正しかった。
その正面に、透子がテレポートしてきていた。
既に指がトリガーに掛かっている状態で。
タン、タン。
軽い発砲音、二発。
294
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(16/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:31:27
一発目は知佳の腹部を目掛けて飛来した。
銃弾はサイコバリアに弾き飛ばされた。
二発目は明後日の方向に逸れていった。
一発目の反動にて銃口が踊ったために。
そしてまた、透子は消えた。
知佳は、足を止め、周囲を警戒する。
一秒、二秒。
吸気、呼気。
透子は現れない。
(これは…… 危ない)
サイコバリアの利点と欠点は、先程述べた。
襲撃者が透子であり武装が剣であることでの知佳の有利も述べた。
しかし、銃器であれば、話は変わる。
速度。
射程。
威力。
その全てが、透子の運動能力に依存せぬ故に。
対してサイコバリアは、知佳の意思の元に展開されるものである。
発現にも方向転換にも、知佳のコントロールが必要になる。
その速度は、果たして弾丸よりも速いのか?
仮に早いのだとしても、別方向から間髪入れずに、射撃されたなら。
バリアの方向転換は間に合うのか?
知佳は周囲を見遣る。
遮蔽物は無い。
身を隠す手立ては無い。
295
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(17/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:32:01
タン、と。
知佳の一瞬の迷いを衝くかの如く、凶弾が迫り来た。
反応、左側面。
バリア旋回、左回り90度。
(間に合―――)
弾丸は念動の壁に喰らいつくが、食い破ることなく落下する。
(―――った!)
タン、と。
知佳の一瞬の安堵を衝くかの如く、凶弾が迫り来た。
反応、右後方。
バリア旋回、右回り120度。
そのバリア移動、100度ほどのタイミングで、弾丸は走り抜けた。
知佳の右足、太腿を掠めて。
(熱っ!)
擦過傷では済まなかった。
引き裂かれた皮膚から血が滲んでいた。
(このままじゃやられちゃう……)
知佳は、ポケットに左手を忍ばせる。
小さな球体の、虎の子の、支給品。
知佳はそれを、シェルターに侵入してから使うべきだと考えていた。
逃げ場も回避する空間も無い密室にこそ出番があると決めていた。
296
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(18/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:32:37
しかし、武器・銃器と移動手段・テレポートという組み合わせの妙。
その相性の余りの良さに、知佳は行く手を遮られた。
ほんの少しの油断で、命を奪われる危険に襲われた。
(他に手段、無ければ……)
知佳の左手は、未だポケットの中にある。
―――灯台跡まで、あと500m。
知佳がポケットに手を突っ込んだ。動きが止まった。
それはあからさまな隙であった。
透子はグロックのトリガを握り、発砲する。
しかし、弾丸は知佳を掠めもしない。
狙い定まらぬ射撃であった為に。
集中力を欠いた射撃であった為に。
(私は殺せる……)
そのはずであった。
しかし、銃撃の感触から自分の有利を確信した時。
気持ちだけの問題でなく、現実として知佳を殺せるのだと実感した時。
透子の胸は、痛んだのである。
とうの昔に失ったと思っていた感情が、切なく蘇ったのである。
(殺せるけど……)
297
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(19/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:41:10
知佳がシェルター襲撃を諦めてくれたらと、透子は思う。
殺せる覚悟は今なおある。
だが、決して殺したいわけではない。
殺さずに済むなら、それに越したことはない。
いっそ降伏勧告でも行おうか。
そう思い、口を開こうとした矢先に―――
透子は読んでしまった。
《あれれ? 決着つかない雰囲気? つまんないなー、肩透かしだなー》
蒼鯨神が、機嫌を損ねたという記録を。
それは、透子の希望の芽が摘まれる可能性を示唆していた。
それは、情に流されかけた透子を、非情の本流に戻させるに十分な記録であった。
(殺すしか……)
思い直した透子は、きょろきょろと周囲を警戒する知佳を見つめ、
為すべき必殺の方策を練り上げる。
まず、バリアの背面から、遠距離にて撃つ。
その弾丸が知佳に達する前に、テレポート。
出現ポイントは側方至近距離。すぐさま連撃。
遠距離のものと、近距離のもの。
その銃弾が同時に知佳に届くことが要である。
即ち――― ひとり十字砲火である。
透子はここまでの六度の銃撃の結果から、あたりをつけていた。
サイコバリアの欠点と、己のテレポートの利点を把握していた。
知佳の危惧は正しく、知佳が立つのは絶対の死地であった。
298
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(20/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:42:44
(……ばいばい)
空間跳躍。
知佳の背後15m。
―――知佳がポケットから左手を出した。
即座に射撃。
即座に空間跳躍。
―――知佳が左手に握った何かを地面に叩き付けた。
知佳の右側面5m。
即座に射撃。
移動、照準、射撃、タイミング。
土壇場で奇跡の如き集中力を発揮した透子は、
それら全てを理想通りに成し遂げた。
必殺のクロスファイアの完成である。
弾丸は疾り抜ける。
北から―――
東から―――
知佳の居らぬ空間を。
今の今まで、確かにいたはずの空間を。
(―――!?)
299
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(21/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:50:54
ばさばさと。
翼のはためく音が背後から聞こえ、透子は振り返る。
距離、目測にして15m。
そこに、知佳がいた。
大きく展開したエンジェルブレスが、知佳を空へと舞い上がらせる。
ありえない移動であった。
姿を消した瞬間に他の場所に移るなど、
透子の如き瞬間移動でもせぬ限り不可能であった。
(知佳にテレポート能力は)
(無いはず―――?)
透子は状況を飲み込めぬ。
飲み込めぬがしかし、知佳が飛び去ろうとしていることは理解した。
透子は、知佳の真下にテレポートする。
銃口を真上に向けて発砲する。
しかし弾丸は20mと昇らぬうちに力なく頭を垂れて、
あとは重力に引かれるままに、落下してしまった。
その結果を見届けてか、知佳は飛んでゆく。
透子の銃の届かぬ高度を飛んでゆく。
北北東へ。
ザドゥと芹沢が眠る地下シェルターへ。
―――灯台跡まで、あと400m。
.
300
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(22/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:51:20
仁村知佳にテレポート能力は無い。
それは事実である。
では、今見せた動きはなんであるのか?
いや、事は今だけに止まらぬ。
森の中で海原琢磨呂に詰め寄った際に為した不可思議な移動が、
新校舎にてDレプリカから逃走した際に壁を透過した挙動が、
テレポートで無いとするならば、一体何であったというのか?
回答は矛盾する。
知佳が為したそれら三つの機動は、テレポートであった。
回答は矛盾しない。
それは知佳の能力に非ず。配布アイテムの恩恵であった。
テレポストーン―――
今は亡きシャロンの出身地である影の一族の地下帝国。
遠く遥かな剣と魔法の世界。
そこであたりまえに売買され、使用される道具である。
効能は、瞬間移動。
但し透子のそれに比して、制約も多い。
同一階層であること。
自分が通過したことのある場所であること。
遠距離に過ぎぬこと。
等々の制約はあれども、魔力も超能力も必要とせず、
この小石を足元に叩きつけさえすれば瞬間移動が成るのであるから、
緊急避難・奇襲などに於いては、まさに虎の子であると言えよう。
301
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(23/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:53:03
テレポートには、テレポートで処す。
確かに知佳は予想通りに、透子を出し抜くことに成功した。
成功したが、これで透子は警戒するであろう。
もう虚は突けぬ。
手元に残る二個のテレポストーンを以ってしても。
(使っちゃったな……)
それでも、使いどころは間違っていない。
先刻の知佳は本当に死の崖っぷちに立っていた。
転移の判断が一瞬でも遅れれば、十字射撃のどちらかが、
知佳の体を貫いていたであろうから。
(しかたなかったんだよ、うん。 頭を切り替えないと)
知佳は沈む頭を切り替えようと、こめかみに拳を軽く当てた。
そこに、また―――
銃声が劈いた。知佳の耳に、はっきりと届いた。
銃弾は貫いた。知佳の濁った羽根、エンジェルブレスを。
「わわっ!?」
不幸中の幸いであった。
羽根は念動力が形を持ったものであり、目には見えども物質ではなく、
打ち抜かれたとて知佳にダメージを与えるものではなかった故に。
「嘘……」
302
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(24/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:53:58
しかし、知佳は戦慄した。
空中であれば、透子の銃撃はないと考えていた。
そうではなかった。
油断していた。
タン!
またしても、銃弾は逸れた。
しかし、知佳の怖気は益々強まった。
下方では無く上方から銃撃されたから。
地面では無く天空から銃撃されたから。
「嘘じゃない」
「現実」
知佳の耳に、抑揚の無い聞き慣れた声が届いた。
知佳の耳に、自らの翼ならぬ風切る音が届いた。
知佳はその声と音の発生源、上方を見遣る。
透子が、落下してきていた。
そして、消えた。
即時、出現。落下。
即時、出現。落下。
知佳は、透子の瞬間移動能力を甘く見積もっていた。
足場無き位置には跳べないとタカを括っていた。
透子の移動に、時間も場所も関係ない。
存在できるだけの空間さえあれば、どこであろうと、即時に。
303
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(25/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:54:52
出現。落下。出現。落下。出現。落下。出現。落下。
出現。落下。出現。落下。出現。落下。出現。落下。
テレポートを小刻みに繰り返せば。
透子は、スカイウォーカーとなる。
《凄ーい! 今度は空中戦だ! どっちが勝つかな、どっちが勝つかな♪》
大空は、決してセーフティーゾーンではなかったのである。
むしろ、危険地帯なのである。
なぜなら、テレポストーンが使用できない故に。
それは、地面に叩きつけて発動するアイテムであるが故に。
(為す術がないなら…… 前に進むしかない!)
覚悟を決めた知佳が、速度を上げた。
―――灯台跡まで、あと300m。
空中でテレポートを繰り返すという透子の閃きは、成功した。
ぶっつけ本番にしては、上出来であった。
今、知佳がひたすら速度を増したのは、
透子に意識を向けぬのは、
バリアを上方に展開したまま動かさぬのは、
透子が知佳を追い詰めたことを、如実に示していた。
(……決める!)
304
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(26/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/25(水) 23:57:02
タン! 側方に逸れた。
タン! 二の腕を掠めた。
タン! 下方に逸れた。
タン! 脇腹を貫いた。
タン! 大きく逸れた。
タン! バリアに弾かれた。
タン! こめかみを掠めた。
カチ!
カチ!
怒涛の連撃は、たった七発で終了した。
さらに二度の空トリガーを引いて、透子は漸く気付いた。
銃口から弾丸が発射されていないことに。
グロック17。
その名の通り、装弾数は17発であり―――
透子はその全てを、撃ち尽くしてしまったのである。
弾数のことなど、計算に無かった。
素人にありがちな判断ミスであった。
(新しい武器を……)
どこに取りに行けばいいというのか。
それを取って戻る時間の猶予はあるのか。
目を凝らせば、眼下に。
北北東の向こうに。
崩れた灯台の瓦礫の山が見えているというのに。
305
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/25(水) 23:58:01
知佳は穿たれた脇腹から血を滴らせ、
それでも速度を緩めずに、
透子を振り返ることもせずに、
ひたすらシェルターを目指している。
まずは十数秒。それだけの時間で、知佳はシェルターへとたどり着き。
さらに十数秒。それだけの時間で、知佳はザドゥと芹沢を永眠させる。
(なにがある?)
(なにができる?)
こうして透子が迷っている間にも、
銃数秒のうちの数秒が経過していた。
あと数秒で方針を決めねば終わる。
あと数秒で行動を起こさねば終わる。
(……なにもない!)
そう、武器は、何も無い。
有るとすれば……
(私……だけ!)
透子は、瞬間移動した。
知佳の真上に。
サイコバリアの真上に。
透子はクッションの如きそれに柔らかく受け止められた。
知佳は透子のその動きも反応しない。
脂汗を流し、歯を食いしばり、
ひたすらシェルターへと突き進む。
306
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(28/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:00:02
透子はサイコバリアの縁を掴み、身を乗り出し。
知佳の足首を、両腕で抱えたのである。
「……つかまえた」
―――灯台跡まで、あと200m。
この異能同士の追跡劇の最終局面は、キャットファイトとなった。
結局、極限まで追い詰められれば、それなのである。
矢尽き盾折れれば、人には、肉弾戦しか選択肢がないのである。
普遍的な、生き物と、生き物の、争いである。
不意に足を掴まれた知佳は、その重みにバランスを崩す。
瞬間、翼の制御を失った。
落下、数m。
呼吸を整え、翼を力いっぱい羽ばたかせ、漸く落下は止まったものの、
透子は、知佳の足にぶら下がったままであった。
知佳は、透子の顔を見た。必死の形相であった。
額に汗は滲み、端正な顔を醜く歪ませて。
瞳の焦点を合わせて、奥歯を噛み締めて。
親の仇とばかりに、知佳を睨みつけていた。
透子は、知佳の顔を見た。必死の形相であった。
額に汗は滲み、あどけないな顔を醜く歪ませて。
瞳の焦点を合わせて、奥歯を噛み締めて。
親の仇とばかりに、透子を睨みつけていた。
307
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(29/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:01:02
「離して」
「できない」
知佳のサイコバリアは霧消していた。
念動力をフィンに一点集中したが為に。
なぜならば。
フィンの制御を失うということは、飛行不能であるを意味し。
それは逃れられぬ墜落死へと、繋がるからである。
透子の狙いも、将にそこにあった。
故に透子は、なんとしても、知佳を叩き落さねばならぬ。
脹脛に爪を立てる。
ぶら下がり、大きく揺れる。
かと思えば、急に転移して。
知佳の小さな背に、ボディプレスを仕掛ける。
知佳も、透子のその意図を理解していた。
故に知佳は、なんとしても、透子を振り落とさねばならぬ。
蛇行して振り払う。
旋回して肘を入れる。
転移の隙に、体勢を整えて。
空中でバック転し、透子の背面を抑える。
「離して」
「できない」
.
308
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(30/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:02:49
銃撃ではない。
念動ではない。
武器でもない。
道具でもない。
喰らい合うのは、互いの肉と肉。願いと願い。
ぶつけ合うのは、互いの骨と骨、意地と意地。
しのぎ合うのは、互いの血と血、想いと想い。
命と、命。
「離して!」
「できない!」
知佳の眼前に現れた透子が右手を伸ばす。
透子のその手を知佳が左手で払う。
透子の払われた腕は知佳の髪を掴み、引っ張る。
知佳は引かれた勢いに乗り、透子の腹に頭突きを食らわす。
知佳の握られたままの髪が纏めて引き千切られる。
知佳が喚く。
透子が呻く。
二人が吼える。
指を使う。爪先を使う。肘を使う。膝を使う。
噛み付く。引っ掻く。踏みつける。しがみ付く。
309
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(31/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:04:12
なんと醜い戦いであろうか。
なんと剥き出しな戦いであろうか。
なんと生々しい戦いであろうか。
《ファイトだファイトだ、とーうこちゃん♪ 負けるな負けるな、ちーかーちゃん♪》
ルドラサウムの興奮が最高潮を迎えた頃。
ついに戦いは、幕を閉じる。
知佳の脇腹に。
グロック17が唯一穿ちぬいた風穴に。
透子が指を差し込んだのである。
「うぁあああ!!」
これまで感じたことの無い激烈な痛みが、知佳の脳髄を焼いた。
そして一瞬、失った。翼の制御を。
落ちる―――
確実な死の予感が、知佳の焼かれた脳髄に冷や水を浴びせた。
その瞬間、弾けた。周囲の空間が。
落ちたく無い―――
知佳の頭の中には、それだけしかなくなった。
死に物狂い。
その意味を、知佳ははじめて知った。
310
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(32/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:05:20
落下、反転、上昇。
知佳は透子をぶら下げたまま、天上を目指した。
昇れば落ちるから遠ざかる。
落ちるの反対は昇る。
そんな単純な考えに凝り固まっていた。
ぐんぐんと、知佳は上昇する。
ロケットの勢いで。
その重力加速度が、決め手となった。
知佳にとって、そのGは、既知の衝撃であった。
念動力の実験と称された病院での訓練にて、幾度も経験してきた。
透子にとって、そのGは、未知の衝撃であった。
故に透子には耐えられなかった。
不可避の急性貧血が、透子の視界をブラックアウトさせた。
意識も薄く延ばされ、四肢から力が失われ―――
「……あ」
透子が、口を開いた。無意味な発声であった。
呟きは木霊することなく、知佳の後方へと流れて行った。
―――灯台跡まで、あと100m。
.
311
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(33/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:07:09
透子を振り払った。その実感に知佳は安堵した。
安堵はエンジェルブレスの安定をもたらした。
故に知佳は無思慮な上昇を止めた。
透子は、すぐにテレポートしてきて。
透子は、すぐにしがみついてくる。
そう予想し、身構えた知佳の元に、しかし透子は現れなかった。
―――ぱちゃ。
後方から。地面から。
水風船が弾けたかの如き音が届いた。
小さい音であるにも関わらず。
知佳の耳に、はっきりと聞こえた。
いや、聞こえる筈はない。
それは、幻聴であった。
或いは、予兆であった。
虫が知らせる不吉の調べであった。
透子が噛んでいた腕が、痛む。
前歯の一本が、そこに刺さったままになっていた。
―――透子はまだ、現れない。
312
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(34/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:08:11
また、戦法を変えて来るのか。
そんな空々しいことを夢想しても。
―――透子はまだ、現れない。
透子を殺す心算は無い。
そう誓ったのは、果たして誰であったか?
―――透子はまだ、現れない。
肉弾戦になったとき、確かに思ったはずだ。
透子を振り払い、突き落とすのだと。
それは、殺意なのではないか?
―――透子はまだ、現れない。
自分は友の希望を踏み躙って。
裏切って。
誓いを破って。
その果てに、この状況が、ある。
―――透子はもう、現れない。
.
313
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(35/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:08:56
顛末を見届けること。
それは自分の責任であるのだと、知佳は覚悟を決める。
目を背ける訳にはいかないと、知佳は自分を激励する。
無防備に瞑目。
深呼吸、数度。
知佳は瞳を閉じたまま、降下する。
下りること80m余り。
深呼吸、数度。
そこで知佳は漸く震える瞼を開いて。
後方の地面を、見下ろした。
「ああっ……」
花が、咲いた。
地面に撒き散らされた透子を見た知佳の、感想である。
.
314
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(36/36)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:09:48
御陵透子は―――
加速度に、決して離れぬはずの知佳から引き剥がされ。
遠心力に、テレポートを思う間もなく意識を刈り取られ。
重力に、100mの上空から、身構え無しに引っ張られ。
その命と、引き換えに。
緑の草原に、鮮やかな薔薇の花を咲かせたのである。
《きゃはははは! 知佳ちゃんの、かちー♪》
【御陵透子:死亡】
―――――――――主催者 あと 3 名
↓
315
:
ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:10:26
(ルートC)
【現在位置:J−5 地下シェルター付近 上空】
【仁村知佳(№40)】
【スタンス:主催者打倒
①ザドゥと芹沢を殺す
②手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
③恭也たちと合流】
【所持品:テレポストーン(2/5)、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)、出血(中)、銃創(脇腹)、念動暴走(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
※透子のグロック17は落下の衝撃で大破しました。
※魔剣カオスはレプリカ智機N−21が持っています。
316
:
訂正とお詫び
◆VnfocaQoW2
:2010/08/26(木) 00:21:37
「ちぇいすと☆ちぇいす!〜復路〜」に大きな間違いがありました。
以下に訂正させていただきます。
×N−22
○N−21
317
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/26(木) 18:22:27
新作投下お疲れ様でした。
コミカルなタイトルながらも内容は知佳と透子の決戦だったとは……。
ロワによって変わってしまった知佳と透子の非情さと切なさと必死さが伝わる作品でした。
あとワーズワースネタが出て来た時は嬉しかったです。
292話までのSSまとめと地図を更新しました。
292話までのSS本編と地図を更新したまとめをUPしました。
ちぇいすと☆ちぇいすっ!のタイトルも修正済みです。
パスはrowaです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1112961.zip.html
318
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:11:04
本スレにての支援、
>>317
のタイトル修正、ありがとうございました。
以下32レス「知佳ちゃん〜」改め「ちかぼーツイスター」を仮投下致します。
この連作にて第8ピリオドが終了となります。
作中の状況が状況ですので、定時放送は入りません。
また、暫く長文が続きましたが、次の大きな山場を迎えるまでは
短めのレスの作品が続くと思います。
次回は「天覧席の風景」。
ルドラサウム、プランナー、エンジェルナイトが登場予定。
本作にて第9ピリオドも終了となります。
319
:
ちかぼーツイスター!(1/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:11:57
仁村知佳には、二重の戒めが掛けられている。
戒めの一つは、ピアスである。
念動力の出力をコントロールする際の補助具であり、
知佳の意思によらぬ力の遺漏を閉じ込める役割を持っている。
透子の契約のロケットに類するアクセサリーである。
戒めの二つは、内服薬である。
体外に発散できぬエネルギーは精神を不安定にさせ、臓器に負担を掛ける。
それらの不調を押さえる、或いは緩和する為の処置である。
種類は十を越え、一日あたりの摂取量は100gにも達する。
戒めは、知佳の平和な生活を保障する手立てであった。
戒めは、知佳が愛する者を傷つけぬ為の手段であった。
その戒めが、今は無い。
ピアスは砕けている。
内服薬も、もう二日も摂取していない。
それでも、知佳の心が穏やかであるならば。
知佳の頭が冷静であるならば。
その意思で以って、ある程度の暴走を押さえ込むことが出来る。
内にエネルギーを溜め込み、耐えることが出来る。
それが、透子と死の鬼ごっこを開始するまでの、知佳の状況であった。
現在の彼女は……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
320
:
ちかぼーツイスター!(2/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:12:32
(ルートC・2日目 PM11:30 J−5地点 灯台跡)
ぴしりぱしりと、静電気の如き音がしていた。
さくりがさりと、砂を蹴散らす如き音がしていた。
「はあ、はあ……」
光差さぬ灯台跡にたどり着いた小さな光は仁村知佳。
血に塗れた脇腹を押さえ、息を荒げて。
ふらふらと危なげな足取りで歩いている。
件の音は、その知佳の周囲で鳴っていた。
静電気の如き音とは、大気が切り裂かれる音である。
砂を蹴散らす如き音とは、瓦礫が砕ける音である。
よく目を凝らせば―――
念動力の視覚的特長である、薄い油膜の如きうねる虹色があった。
知佳を中心にアメーバの如き伸縮を見せていた。
その伸びる先で、次々と、大気と瓦礫の破砕が発生しているのである。
行為に意味などない。
知佳は、大気や瓦礫を壊そうとは考えていない。
そもそも、そんな無象に意識を傾けてはいない。
念動力が暴走しているのである。
暴走とは破壊の権化と化すを意味する。
外界に遺漏する念動力が、老若男女善人悪人動物植物器物建物
あらゆる全てに分け隔てなく、押し捻り拉ぎ潰すのである。
321
:
ちかぼーツイスター!(3/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:12:54
こうなることを、以前の知佳は忌避していた。
今の知佳は違う。
透子を殺してしまった罪悪感に、
不殺の誓いを破ってしまった自責の念に、
知佳の心が、ささくれ立っている。
負の方向に高揚している。
故に暴走の現状を、知佳は受け入れている。
制御するを捨て、荒々しい感情の為すがままにしている。
常に内に向かっていた力が、外に向かっている。
押さえ込んでいた心の壁を、取り払っている。
「はあ…… はあ……」
凶弾に穿たれた脇腹から、出血は止まらない。
それがかなり危ない状況に差し掛かっているのだと、知佳には判っていた。
逆に、直ちに適切な止血と処置を行えば、命に別状無いことも判っていた。
それでも、知佳は止まらない。
どこまでも、シェルターを目指して進んでゆく。
(ひとまず殺す。必ず殺す。少なくとも殺す。一度は殺す……)
知佳は、固執している。
殺してはいけない透子を殺してしまった自分には、
目的の為に踏み躙ってしまった自分には、
その目的を果たす責任があるのだと、
ザドゥと芹沢を殺す義務があるのだと、
この身と引き換えにでも為さねばならぬのだと、
そのような考えに凝り固まってしまっている。
強い責任感の、負の側面に支配されている。
322
:
ちかぼーツイスター!(4/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:13:22
「……ここだね」
知佳の眼前にはシェルターのドア。
遂に知佳は目的地にたどり着いた。
固く閉ざされたそれが、最後の関門であった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「No。透子も分機たちも無用心なことだな。
扉も閉めずに、敬愛すべき首魁様と同僚を放置するなどとは」
シェルター内で爪を噛み噛み、独り言を呟くのは椎名智機。
彼女の白衣は埃や泥に穢され、インナーは絞れるほどの汗に塗れ、
その硬質な髪までも鳥の巣の如く乱れていた。
一目に判るほど、憔悴の色を濃くしていた。
30分ほど前。
地下道を抜け、I−4に巧妙に隠してある出入り口に姿を現した智機は、
ジンジャーを静音モードに切り替えて移動した。
怯えながら、慄きながら、そろりそろりと息を潜めて移動した。
安楽椅子管理者・椎名智機が戦場に身を晒したのは、
実は、この二日間で初めてのことであった。
恐ろしかった。
不安だった。
生きた心地がしなかった。
323
:
ちかぼーツイスター!(5/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:13:53
漸く地下シェルターにたどり着いてみれば、透子もレプリカも居なかった。
ベッドに眠る芹沢と、ベッドから落ちて眠るザドゥしかいなかった。
智機も守ってくれる存在は、盾となるべき存在は、そこに無かった。
故に智機の不安は解消されず、故に智機は爪を噛んでいる。
「今ここで誰かに襲撃されたら……」
誰か、と、智機は対象を特定せずに口にはしたものの。
首輪を解除した六人は、本拠地跡に向かっているか魔獣と対峙しているであろうし、
しおりも森の中で泥の様に眠っており、暫くは目覚める様子もなかった。
候補となるべき対象者は一名しか該当しない。
「参加者№40・仁村知―――」
がちゃがちゃと。
シェルターの扉のノブが二度、回された。
「鍵、掛かってるね」
次いで、幼い声が聞こえた。
智機はすぐさま声紋認証を行う。
「知らない場所だから、テレポストーンも使えないし」
幼い声は続ける。
智機は平行して配布アイテム情報を検索する。
「うん。扉、壊そう」
324
:
ちかぼーツイスター!(6/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:14:15
声紋確認。アイテム情報一致。判断確定。
扉の向こうにいるのは№40・仁村知佳である。
噂をすれば影が差す。
諺は時に真実を示す。
智機の薄っすらと予感していた最悪の事態が、現実となった。
「だ、大丈夫さ、大丈夫。
このシェルターは某国の大統領が所持している物と同規格。
地震で有ろうと爆撃であろうと耐え切る設計さ。
たかが念動力程度、恐れるものではないよ!」
饒舌は不安の裏返しであった。
トランキライザは勤勉に働き、恐怖感は丸められたが、
それは恐怖の限界値にての安定を得られたに過ぎぬ。
智機は身を竦め、様子を伺う。
「Yes、大丈夫、大丈夫……」
しかし、その不安が現実となることは無かった。
叩きつけるような音が数度。
引き裂くような音も数度。
音はその度毎に大きくなっていくが、それだけであった。
「はあ、はあ…… やっぱりダメだよ。私のちからでも、壊せない」
知佳の破壊を諦めたかの如き口ぶりに、智機は胸を撫で下ろす。
このシェルターを逃亡先に選んだ自分の慧眼を褒めてやりたい。
自己肯定感が不安の情動パラメータを緩和させ、心に若干の余裕が生まれる。
「じゃあ、扉を壊さなくてもいいか。中身を、壊そう」
325
:
ちかぼーツイスター!(7/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:15:02
しかし智機は再び凍りつく。
扉の向こうから、不可解かつ不吉な作戦変更の宣言が為された故に。
変化はすぐに発生した。
家鳴りの如きラップ音がと共に、振動が発生したのである。
最初、智機はそれを地震なのだと判断した。
知佳の攻撃ではなく、自然現象なのだと判断した。
しかし、違った。
揺れているのは室内そのものであり、空間であった。
(これは……?)
まず、ボールペンが机の上で踊った。
次いで、ハンドライトや置時計の、小物電化製品が小刻みに震えた。
テレキネシスによる乱気流が、にわかに発生しようとしていた。
爆撃も大地震も洪水も防ぐ重厚な扉をいともあっさり透過して、
その力の奔流が、室内に流れ込んできたのである。
(No! 念動力には、こんな使い方があったというのか!?)
机の上で踊っていたはずのボールペンが、天井に突き刺さった。
ハンドライトは浮揚し、置時計は壁に叩きつけられ、大破した。
智機の白衣とスカートは捲れ上がり、
ザドゥと芹沢が横たわるベッドがぎしぎしと軋んだ。
力の奔流は益々強まる気配を見せている。
「に、仁村知佳! 取引をしよう!」
智機が声を裏返して、叫ぶ。
論理演算回路が状況を正しく把握し、正しく予測した故に。
シェルターの出入り口は、知佳が立ちふさがる扉、ただ一つ。
この念動竜巻から逃れる手段が、今の智機には見出せなかった故に。
326
:
ちかぼーツイスター!(8/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:15:34
「……その声には、覚えがあるよ。あなたロボットの人ね?」
「ああそうだ。ロボットだ。オートマンだ。椎名智機という」
「椎名さん。あなたがそこにいてくれて良かったよ。
だって…… 三人も纏めて殺せるんだから!」
知佳は智機の提案に耳を傾けない。
智機の存在を把握して、却って破壊衝動を色濃く表した。
「きみを優勝させてやる! そのためのあらゆる支援に尽くしてやる!」
局所的ツイスターは勢いを増してゆく。
小型軽量のあらゆる道具や調度が、渦巻く嵐に飲み込まれている。
もう、立ってなどいられない。
智機が姿勢を低くし、ベッドの足にしがみ付く。
「私は透子さんを殺しちゃったから……
その妨害を乗り越えてここに来たんだから……
だから、私は―――」
有り得ない言葉が、知佳の口から漏れていた。
(透子が、死んだ…… だと!?)
まさか、という思いが智機の脳内を駆け抜ける。
あの底知れぬ透子が。
瞬間移動を使いこなす化生が。
自分が唯一恐れる同僚が。
既に殺されていようとは。
「貴女たちを殺さないわけにはいかないんだよ。
透子さんを殺した責任を取らなければいけないんだよ」
327
:
ちかぼーツイスター!(9/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:16:08
知佳の理論は破綻している。
前後の関係のつながりが断絶している。
それでも智機にははっきりと判った。
その意志を短時間の間に曲げる事は不可能であると。
その不条理な理を唯一絶対の掟としているのだと。
「全部ぐちゃぐちゃにかき混ぜてあげるよ。
部屋の中をジューサーミキサーにしてね。
あなたも、ザドゥも、芹沢も、みんな、
ミックスジュースになっちゃえばいい!」
無軌道に、奔放に、室内は荒れ狂う。
ああ、ついに智機の体すら。
ああ、ザドゥや芹沢の体すら。
渦巻く念動に捕らわれて、その身を宙に浮かせてしまった。
智機は安定した思考能力を失ってしまった。
制動系の安定に、メモリの大部分を確保された故に。
そうして壁に叩きつけられ、天井に叩きつけられ、床に叩きつけられ、
ザドゥや芹沢と衝突して、家具や家電と衝突して。
擦れ、崩れ、潰れ、千切れ、砕け―――
最後は知佳の宣言どおり、ドロドロのスープと成り果てるのであろう。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
力の暴走は、リミットブレイクを意味する。
読心の力もまた限界を突破し、その射程距離を伸ばした。
知佳の意志に関わらず、範囲内に存在する者の心が勝手に流れ込んで来る。
知佳は扉の向こうで混乱している智機を読心し、勝利を確信する。
328
:
ちかぼーツイスター!(10/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:16:42
【No私の体が浮いているオートバランサーが制御不能にな】
【った制動系がメモリを占拠する思考にリソースを割り当て】
【られない交渉しなければ仁村知佳を止めでもメモリが思考】
念動には自覚的な制動が必要である。
しかし、今の知佳にそのコントロールの必要はない。
精密な動作も狙い定めも必要ない。
部屋の中の何を巻き込もうと、
部屋の全てが壊れようと、
その中にいる無抵抗の三人を殺せば良いだけであるから。
ただ、猛るテレキネシスを、感情の昂ぶるままに暴れさせればよい。
【 間に合った? ザドゥたちは無事? 】
背後に突然発生した第三者の思考。
同時に知佳の身体に電流が走った。強烈に。
「……っ!?」
電流とは、比喩ではない。
いつしか接近していたレプリカ智機のスタンナックルを、
知佳は無防備なうなじに受けたのである。
100万ボルト×25ミリアンペア×1秒。
その衝撃は命を奪うほどのものではないが、
全身を麻痺させるには十分な威力であった。
知佳の腰が砕ける。
念動の嵐が解ける。
329
:
ちかぼーツイスター!(11/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:17:30
レプリカ智機・N−21の追撃は、手にしたカオスによる袈裟斬りであった。
麻痺する知佳の体に、それを回避する力は無い。
知佳の右鎖骨から胸の中心に掛けて袈裟懸けに、ずん、ばらり。
《浅いぞ!》
知佳の肩から胸に、斜一文字に、鮮血が飛び散る。
しかし、深手とはならなかった。
カオスの言葉通り、浅い斬撃であった故に。
智機の運動能力は、文科系の平均的な女学生並に設定されている。
非力極まる透子ほどでは無くとも、カオスの重量は手に余るものであった。
「……」
ふらつくN−21を尻目に、知佳の背に熱量が膨れ上がった。
光と共に翼が展開された。
それはもはやエンジェルブレスなどと呼ぶも憚られるほど濁っていた。
天使の羽根ではなく堕天使の羽根であった。
意図を察したN−21が再び体勢を整えるが、
その動きに先んじて翼がはためき、知佳が浮揚する。
そして飛び去る。北へと。
麻痺した首を、腕を、足をだらりとたらして。
翼だけを動かして。
知佳は猛禽類に運ばれる死せる獲物の如き様相で、去ってゆく。
《ありゃりゃ、何で体が動くんじゃ? 知佳ちゃんはビリビリで痺れとったじゃろ?》
「念動は、体と別」
330
:
ちかぼーツイスター!(12/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:17:47
N−21の短い言葉が、全てを説明していた。
麻痺しようとも、切り刻まれようとも。
意識さえ保たれているのならば、生命のインパルスさえ発生すれば。
念動力は、発動するのである。
《追わんでええんか?》
「ザドゥと芹沢が」
「……心配」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
空を逃げる知佳は、己の不覚を悔やんでいた。
(あんなのに、やられるなんて……)
マインドリーディングは全方位に広範囲に、無造作に展開していた。
機械の心をも読める事は、シェルター内の智機本体により証明されている。
だのに、N−21は、その網に掛からなかった。
すぐ背後から麻痺攻撃を仕掛けてくるその時まで、聞き取れなかった。
無心であった筈は無い。
知佳に対する敵意、殺意は明白であった。
で、あるならば―――
(テレポートでもしてきたの?)
ありえない話ではない。
知佳の配布武器、テレポストーンを用意したのは主催者である。
故に、彼女らが所持していることになんら不思議はない。
331
:
ちかぼーツイスター!(13/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:18:13
(でも……)
でも、何であるのか。知佳には解答は結べなかった。
しかし消化しきれぬ違和感が、知佳の胸にしこりとなっている。
逃走を選択したのも、命惜しさではない。
このしこりと同根の何かが、留まるを忌避させたからである。
N−21と戦いたくはないと。
戦うべきではないと。
知佳はなぜか直感し、確信していた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
N−21は、念動の嵐が収まった室内に現れた。
鮮血を滴らせる魔剣を肩に背負って現れた。
ベッドから放り出されて尚眠るザドゥのすぐ脇に現れた。
シェルターの扉を開けることなくして現れた。
《カモちゃんとザッちゃんは無事かの?》
カオスが心配の思念波を発する。
N−21はザドゥのと芹沢の取る。
マイクロ乱気流の衝撃から未だ覚めやらぬ智機は、
一機と一本の遣り取りをを、漠と眺めている。
「……生きてる」
《やー、間一髪じゃったな》
「よかったよかった」
332
:
ちかぼーツイスター!(14/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:18:50
漸く混乱から脱したらしい。
智機がひび割れた眼鏡を掛け直し、目の前の分機に問いを発した。
「N−21か……?」
透子は理論的に分析する。この分機が行った、空間跳躍に至るプロセスを。
手がかりは、二つ。
N−21の手には新鮮な血が絡む魔剣カオスが握られているということと、
知佳の攻撃が止んだのは、N−21が登場する直前であったということ。
結論は、すぐに出た。
「貴機は、知佳からテレポストーンを奪ったのだね」
アイテムの選定・管理者でもある智機は把握している。
テレポストーンに在庫は存在しない事を。
知佳が持つものが全てである事を。
故に、この結論は自明であった。
そうでなければならなかった。
しかしN−21は、智機の結論を否定した。
オートマンらしくない間延びした、気怠げな発音で以って。
「のー」
否定された智機はN−21を観察する。
眼前でザドゥをベッドに戻そうと苦心しているN−21を。
新たな可能性を見出す為に、新たな情報を得るために。
その傍観者ぶりが気に入らぬのか、N−21は智機を手招いた。
「ぼーっとしてない」
「手伝う」
333
:
ちかぼーツイスター!(15/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:19:05
智機は、手招くN−21緩慢な動きに違和感を覚えた。
智機は、向けられたN−21の光宿らぬ瞳に記憶を喚起された。
智機は、N−21の途切れ途切れの言葉運びに言い知れぬ恐怖を感じた。
「はやく」
その白衣の胸元に掛けられたアクセサリが、鈍い光を反射した。
ひび割れた、銀のロケット。
「貴機は…………………………………………
.
334
:
透子嵐(16/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:19:37
…………………………………………透子なのか?」
視覚情報を信用するのならば。
それは、透子ではない。
それは、智機であった。
機体信号を信用するのならば。
それは、透子ではない。
それは、智機であった。
あらゆる観測データがそれをN−21であると裏付けている。
あらゆる論理演算がそれをN−21であると結論付けている。
それなのに。
問答無用に。
なぜか、智機には判った。
目の前の姉妹機は、姉妹機ではないのだと。
姉妹機でありながら姉妹機のみではないのだと。
「いえす」
N−21はおちょくるかの如き口調とは裏腹に、
無表情に、焦点の合わぬ茫とした眼差しで、
智機の言葉を肯定した。
その物腰は、全く透子のものであった。
「語彙が辞書ツール依存」
「……ちょっと違和感」
335
:
透子嵐(17/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:20:21
Yesと、Noと。
言葉の短さは確かに透子らしくはあれど、透子らしからぬ言葉の選択は、
どうやらオートマンの機能故らしい。
「はやく手伝う」
「ザドゥは重い」
エラーが、エラーが、エラーの嵐が、智機を襲い混乱させる。
聞き分けのない論理演算回路がN−21=透子を認めない。
条件式の不備を理由に、その結論は成り立たぬと聞く耳持たぬ。
結論だけが先に存在している。
この矛盾を解決せぬ限り、智機は負荷を蓄積してしまう。
軽減されぬ負荷は、やがて智機を熱暴走に追いやってしまう。
知佳のサイコキネシスが外界に対する台風であるならば、
透子の今の在り方は智機の内界に対する嵐である。
共に劣らず智機の【自己保存】を脅かせる脅威であった。
「Yes、Yes、Yes。
納得は出来ないが理解はした。君は透子だ、間違いない。
しかし、私の条件式と演算回路ではその解に辿りつけないのだよ。
どうだろう。
私が過負荷で熱暴走する前に、こうなるに至った事情など、
説明していただけないかね?」
諧謔でも慇懃無礼でもなく。
智機にしては、相当に謙った懇願であった。
しかし、この新たな透子は、その下手に出ている智機に対し、
気怠げな表情で不平を伝えたのである。
336
:
透子嵐(18/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:21:06
「えー…… 長いし」
「喋るの面倒」
智機は更に謙る。慣れぬ愛想笑いが彼女の頬を引き攣らせる。
「そこを曲げて、頼みたいのだよ、New透子…… さん
貴女もその体になったのなら、エラーの放置が致命的な結果を招くことは
把握されているだろう?
意地の悪い事は言わずにどうか、情けをかけてくれ給えよ」
今、彼女の内界で生じているエラーの嵐を解決するということは、
プライドの高い智機をそうまでさせる必要性があったのである。
「あ、そうだ」
「送ればいいんだ」
発言と共に、透子のカチューシャの触角が点滅し、智機のそれも明滅した。
無線LANによる、データ転送である。
機械同士ならではの、効率的な情報伝達手段であった。
「Yes、感謝するよ。New透子さん」
感謝の言葉と共に、智機は送られたプレーンテキストをオープンする。
それは、御陵透子が如何にしてN−21となったのか、
その出来事を抽出した、僅か二秒の、しかし濃密なログファイルであった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
337
:
透子嵐(19/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:22:03
(ルートC・2日目 PM11:25 J−5地点 灯台付近・上空)
今、御陵透子は落下している。
仁村知佳の高速飛行により発生したGに負け、意識を失っている。
二秒後に透子は地面に衝突し、原型を留めぬ程に潰れ、飛び散る事になる。
(私は……)
その二秒の間に、思惟生命体―――【透子】が、目覚めた。
より正確には、御陵透子の脳内で共生関係を結んでいた【透子】が、
透子という宿主が気絶しているにも関わらず、思考していた。
(御陵透子じゃ、なかった)
【透子】は、勝沼紳一に感謝した。
もし、勝沼紳一が気絶せし透子に憑依しようとしなければ、
思惟生命体は、【透子】と透子の区別を喪失したまま、
ここで共に朽ちていたであろうから。
自覚が、芽生えていた。
何百万年も【透子】は透子として生きており。
強く共生しすぎた余りに、思惟生命体と人間との区別が曖昧となっており。
【透子】の記憶を保ったまま転生を繰り返したことにより、
本来の肉体の主である透子が自我を発達させることは無く。
【透子】と透子は、融合したといってもよい状態で安定していた。
そこに。
紳一という名の楔が、打ち込まれたのである。
338
:
透子嵐(20/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:22:29
この楔が【透子】の【透子】たる自覚を促した。
この楔が【透子】の透子との差異を認識させた。
(死ねない―――)
(喪われた私の意味を)
(取り戻すまで)
御陵透子は落下している。
地面に衝突するのは一秒後である。
加速して、墜落する。
【透子】は、知っている。
この恐怖を、知っている。
これを、乗り越えている。
遠い遠い過去―――
彼女たち思惟生命体が群生し宿っていた恒星間宇宙船は、
流浪の果てに地球に不時着するを仕損じている。
墜落し、大破している。
その大災厄を、【透子】は多くの仲間と共に逃れている。
(……【共生】)
思惟生命体とは、姿無く、形なく、実体も無い生命体である。
単独では存在できぬ、曖昧な生命体である。
その思惟生命体が生きる術は、他者との【共生】にあった。
思考する能力のある物質/生物に宿り、その頭脳を間借りすることで
思惟という生命活動を送ることを可能とするのである。
339
:
透子嵐(21/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:23:14
遭難した【透子】たちは、この本能に従った。
地球に巣食う原生動物に。
思惟生命体が共生可能な程度には頭脳を発達させていた黎明の人類に。
その【共生】先を、移したのである。
1km以上の距離を隔てた彼らの群れに電波の如く飛び係り、
その脳に問答無用で共生したのである。
御陵透子は落下している。
地面に衝突するのは間も無くである。
しかし【透子】の思惟から焦りは消えていた。
自覚を取り戻し、記憶を蘇らせ、方策を得た故に。
もう、目星すらついていた。
【透子】は気づいている。
透子の視覚にも聴覚にも頼らず、単独で発見している。
距離にして200m西に存在する、新たなる【共生】先の存在を。
カスタムジンジャーを走らせ、学校跡からシェルターへと向かう存在を。
数分前に魔剣カオスとグロック17とをトレードした存在を。
御陵透子は地面に衝突した。
命が失われた。
しかし、その飛び散った脳には【透子】は存在しなかった。
【透子】は既に、【共生】先へと飛び掛っていた。
340
:
透子嵐(22/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:23:41
それは、易かった。
クマノミがイソギンチャクに潜むが如く。
コバンザメがジンベエザメに貼り付くが如く。
思惟生命体が共生の本能に従う―――
それだけのことであった。
さらに述べるならば。
【透子】とは元々機械より生じた生命現象であり、
このN−21はオートマンなる機械知性体であり、
その知能は、智機のAIは、
炭素系生命体の脳よりも遥かに寄生しやすく、
遥かに支配しやすく……
【透子】にとって良く馴染むものであった。
(AIがっ!?)
抵抗は一瞬。ワンセンテンス。
それだけでN−21は沈黙した。
そうして思惟生命体は、レプリカ智機N−21のAIに侵入し、
いとも容易く支配を完了し。
新たな透子としての機械の体を、得たのである。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
341
:
透子嵐(23/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:24:39
(ルートC・2日目 PM11:50 J−5地点 地下シェルター)
記録を読み終えた智機は震えていた。
恐怖でもある。
感動でもある。
透子に対するヘイトとリスペクトが、矛盾無く生じたのである。
透子の本体とは、機械より生じた生命体である。
自らと根を同じくし、何十万年も先行したモンスタースペックを有し、
さらには、自力にて機械というハードの制約を乗り越えた。
それは脱機械を目論む智機にとって、憧れと羨望の対象と映った。
それが、リスペクトである。
しかし透子とは、N−21に為した様に、共生する。
共生といえば聞こえはいいが、実質憑依である。
意志のハイジャックである。
しかも、殺しても、壊しても、意味が無い。
直ちに新たな共生先に移るのみである。
それが、ヘイトである。
「透子…… 様」
その二つの念を以ってして、表れは一つであった。
服従、である。
【自己保存】は最大出力で叫んでいた。
決して、この機械の神には、逆らってはならぬと。
「擦り寄るな」
「今更」
342
:
透子嵐(24/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:25:15
しかし、その智機の転身は、透子のお気には召さなかったらしい。
強い口調で、釘を刺した。
「No、透子様。これは胡麻摺りの類ではなく、
本心からの尊敬の念を抱いてだね―――」
「それが『今更』」
「私は知っている」
「お前がしたことを」
透子の切れ長の三白眼がぎろり、と、同じ顔の智機をねめつけた。
同時に、両者のカチューシャ触角が明滅する。
再びの、透子からの転送であった。
すぐに智機が目を通したその資料は、透子のものではなかった。
透子に共生される前の、N−21のログであった。
PM6:00前後のログであった。
「な―――!!」
智機の目が驚愕に見開かれる。
智機の膝が恐怖に笑う。
透子の怒りの根源を理解して。
「そういうこと」
智機が鎮火タスクの隙を突いてクラックしたのは、『四機』である。
P−3は、6人のプレイヤーへの交渉役に充てた。
N−48、N−59は、しおりの身柄確保役に充てた。
P−4も元はしおりの身柄確保用であったが、連絡員捜索役へと転身した。
そこに、N−21は存在しない。
343
:
透子嵐(25/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:29:45
では、このN−21とは何か?
それは、代行機・N−22と共に目覚めた機体である。
【自己保存】の要請により、固有ボディにてのプランナーへの謁見を忌避した
智機が起動させ、遠隔操作による間接的謁見を為した機体である。
智機はこの機体を、そのまま指揮下に置いていた。
クラックよりも早い段階で、島内に放っていた。
つまり。
N−22の記憶野には、残っていたのである。
プランナーと謁見した情報が。
智機が透子の能力制限を願った情報が。
そして、それが叶えられた情報が。
「だから信用しない」
透子の言葉に、智機が震える。歯の根が鳴動する。
己の導き出した、絶望的な予測によって。
因果は応報する。
この新たな透子に、自分が殺される。
それを逃れる術はない。
「大丈夫」
「殺すつもりない」
透子は芹沢を背後から抱きかかえながら、背中越しに、智機へ告げた。
それは許しを与える言葉ではなかった。
与えたものは執行猶予であった。
344
:
透子嵐(26/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:29:58
「また邪魔しない限り」
「言うこと聞く限り」
今の透子は無表情でも無感情でもない。
怖い声を出していた。
透子と離れていたこの六時間で、どんな変化がおきたのか。
今の透子は、時折感情を表に出すようになってきている。
「Yes…… なんなりと、ご命令を」
「ん、それじゃ」
「ザドゥと芹沢の」
「タオルを換えて」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
345
:
台風一過の花園で(27/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:30:40
(ルートC・2日目 PM11:55 H−3地点 花園)
島の北北東に群生する色とりどりの花たちの中から、
けふけふと、湿った咳払いが聞こえていた。
仁村知佳である。
背中の翼で命からがら灯台跡から逃亡した彼女は、
力尽きるまで飛行し、落下するように降り立って、
今は、花々に囲まれて仰向けに横たわっていた。
銃創に刀傷。
共に骨や臓器への影響は無かったものの、そこからの出血量は夥しかった。
体力の消耗と疲弊感も激しかった。
自らの傷口へと念動を向けて押さえつけ、血液の流出を留めてはいるが、
それでも、冷えを増していく体温を知佳は止められずにいた。
(保つかな……)
知佳の翼・エンジェルブレスは、日光をエネルギーに変える
光合成デバイスとしての役目をも持っている。
故に、朝日さえ出てしまえば、体力は回復に向かうであろう。
しかし、来光までの六時間余り、命を繋ぐことができるのか。
それが、知佳には判らない。
病院跡や集落へと戻ることも、知佳は考えたが、
移動に掛かる疲労消耗と、潜伏による消耗回避とを秤にかけた末に、
じっと朝を待つことを選択していたのである。
そこに――― N−21が現れた。
346
:
台風一過の花園で(28/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:31:09
「おはなばたけ……?」
唐突に、前触れ無く。
透子のテレポートと同じく。
気の抜けた感想を漏らしながら。
後ろ手に何かを持った姿勢で。
それで、知佳の違和感が解消された。
「透子さん、なの?」
「にありーいこーる」
N−21は曖昧に肯定した。
曖昧ではあるが、正しい返答でもあった。
「借りを返しに来た」
N−21――― 透子は、そういいながら後ろに回していた手を、知佳に伸ばした。
知佳は目を閉じる。
ここで撃たれても斬られても、それは自業自得であるのだと。
知佳は、透子の報復を安堵と共に、受け入れた。
「……寝たの?」
数秒後に透子から発せられた見当違いな質問に、知佳は目を開ける。
透子が知佳に伸ばした手に、銃器は握られていなかった。
魔剣も握られていなかった。
握られていたのは、薬箱であった。
「あげる」
347
:
台風一過の花園で(29/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:31:24
それは、素敵医師の薬品小屋からかき集めたまっとうな医療品であった。
朝日まで保たぬかも知れぬ知佳の命をそれまで維持させるものであった。
「説明、面倒」
「読んで」
知佳は透子の申し出通り、透子を読心にかける。
【これは鎮痛剤これは解熱剤これは睡眠薬頓服薬だから必要に】
【応じて飲んででも睡眠薬はザドゥたちのと同じで十二時間目】
【醒めないからそのつもりであと包帯と消毒液も持ってきた傷】
透子の心中には、薬品の説明が流れていた。
そこに知佳への報復を示す一切の感情は感じられなかった。
「借りを返す、って……」
知佳は戸惑う。
その言葉は、裏切った事に対して、殺害した事に対して、
殺意を持って向けられていたのだと思っていた。
そうではなかった。
逆説的な慣用句としてではなく。
正しい意味での感謝を、透子は抱いていた。
「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」
348
:
台風一過の花園で(30/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:32:04
「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」
そういう、借りであった。
「でも、殺されたし」
「お薬、あげたし」
「でも、そろそろ潮時」
「…………ね?」
貸し借りはこれで清算であると、透子は言った。
プレイヤーと主催者という立場に戻りましょうと、透子は告げた。
言葉の裏を捉えれば―――
それは、二人には淡く儚い友情が結ばれていたことを
確かに証している発言であった。
「ばいばい、知佳」
「さよなら、透子さん」
今度は戦うと、今度は殺すと。
その直裁な言葉のやり取りを無しにして。
それでもそういった意味を理解して。
二人は静かに決別する。
↓
【御陵透子(N−21):復活】
―――――――――主催者 あと 4 名
349
:
ちか/透子/一過(情報 1/2)
:2010/08/29(日) 02:32:37
(ルートC)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【主催者:椎名智機】
【スタンス:①【自己保存】
②【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
③【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、Dパーツ、改造セグウェイ、軽銃火器×3】
【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: ①願望成就
②ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
※ザドゥと芹沢はあと六時間は目覚めません。
350
:
ちか/透子/一過(情報 2/2)
:2010/08/29(日) 02:33:18
【現在位置:H−3 花園】
【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①潜伏。朝日を浴びて「エンジェルブレス」にて傷を回復させる
②手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
③恭也たちと合流】
【所持品:テレポストーン(2/5)、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(中)、出血(大)、脇腹銃創、右胸部裂傷】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
※強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
※傷は念動と医療器具で止血、縫合済みです
※薬品類は使いきりました
351
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/29(日) 13:33:58
深夜の投下&仮投下お疲れ様でした。
この展開は思っても見ませんでした。
亡霊紳一はこの為に登場したのですね。
知佳と透子の別れなど色々と安心させられる内容の話でした。
トランス部長……その単語をここで見る事になるとは思わなかったなあ。
293話までの本編SS、地図を更新したまとめをUPしました。
パスはrowaです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1118343.zip.html
次は明日の月曜日の夜、ここで何かを書き込む予定です。
352
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:44:45
>>351
更新、お疲れ様です。
以下9レス「天覧席の風景」を仮投下致します。
次回は、タイトル未定、例の長いタイトルものです。
ザドゥ単独、一人称を予定しております。
少し、間が空くかもしれません。
明朝が早いので、今回は本スレの投下を見送らせていただきます。
353
:
天覧席の風景(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:45:41
(ルートC・3日目 AM05:45 場所不明)
「なんでぷちぷち、じっとしてるのかなぁ……」
ルドラサウムの嘆息は、島内の戦局が段落したが為である。
【ぷちぷち】――― 人間どもの動きが止まった為である。
何しろ、島に居る殆どのぷちぷち達が、眠りについている。
動きを求めることのほうが無理であった。
ルドラサウムが最後に笑ったイベントは、三時間以上も遡ることになる。
広場まひるに夜這いをかけたランスが、
レギンスを微妙に盛り上げているアレに気付いて、
嘆きつつも大暴れして、
ユリーシャがオロオロして、
紗霧がバットでガツンした。
それを最後に、鯨神の興味を引くぱっとしたイベントは無い。
ルドラサウムは唯一動きを見せている集団に、視線を移す。
鎮火活動を行っているレプリカ智機たちである。
彼女たちが次々と破損し、爆発し、損傷してゆく様は、
ある種の感動のドラマとして、この鯨を愉しませた。
しかしそれも、二時間ほど前までのことである。
今や鎮火活動も、ほぼ完了していた。
Dシリーズ全機破損。
Nシリーズ32機破損。
そこから、被害は増えなかった。
今は残務処理に過ぎず、見所はもう無いと言って良い。
354
:
天覧席の風景(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:46:37
「あーあ、退屈だなぁ。物足りないなぁ」
ルドラサウムはバタンバタンと尻尾を縦に振っている。
縦の動きは苛立ちを表現するものである。
「ルドラサウム様、例の物、集まりまして御座います」
いやらしい含み笑いと共に現れたのは、鯨神に負けず劣らずの、異形の者である。
まず、全身が金色に発光していた。
体は、卵の如き楕円形をしていた。
そこから銀鱗に覆われた太い首が伸びており、
顔は亀に酷似する爬虫類のそれであった。
腕とも脚とも付かぬ極太の六本が伸び、指は存在していない。
これこそが、プランナーである。
この悪意に満ちたゲームの企画立案者であり、
ディレクターであり、スポンサーであり、黒幕である。
その点、厳密に言えば、ルドラサウムは黒幕ではない。
一部、キャストの勧誘にも指を伸ばしはしたものの、
基本的にはこの筋書きの無いドラマの、観客である。
この観客ただ一人の為に、
その退屈を解消する為に、
ゲームは企画されていた。
「もう待ちくたびれちゃったよ、プランナー。
持ってきてくれたんだよね、例の物?」
「こちらに」
355
:
天覧席の風景(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:49:32
プランナーの腕の一本に抱かれているのは、籐の如き素材の編み壺である。
連絡員・エンジェルナイトが腰に提げていたものである。
情報と称して、会場内の死者の魂を詰め込んだものである。
それは、献上品であった。
ゲームの終盤で盤面が膠着することを見越したプランナーが、
同じく、主のその癖と飽きっぽさと我侭さを見越し、
盤面が再び動き―――恐らくは最終決戦―――を見せるまでの間、
主の無聊を慰めるために用意した、玩具箱であった。
「ねえねえプランナー。【あの子】たちの分もあるのかな?」
死後、その魂が島内から離脱しようとしたために、
プランナーが張り巡らせた結界に捕らまえられ、
雲散霧消させられた、人ならざる者たちがいた。
【あの子】たちとは、その二人を指している。
ヤマノカミの眷属、№19・松倉藍(及びイズ=ホウトリャ)。
天津神の癒しの姫君、№22・紫堂神楽。
「断片は全て回収させました。
しかしこれを意味ある形に戻せるのはルドラサウム様だけに御座います」
「いいよ〜、それぇ〜、粘土こねこね〜♪」
プランナーが取り出した三つの魂の断片。
ルドラサウムはそれを器用に選別すると、己の体表を軽く擦って光る粉を出し、
それを残留思念の断片にまぶした上で、こね回した。
すると、どうであろうか。
356
:
天覧席の風景(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:50:22
《わたしの体なのに》《安曇村》《安曇村》
《堂島》《堂島》《還るょ》《ヤマノカミ》
《話し合い》《よかった…》《よかった…》
島の上空を覆う結界に触れて霧消した筈の魂たちが、
残留思念として明確な形を取り戻したではないか。
「流石のお手並みにございますな」
プランナーのお追従に、鯨神はしっぽを左右にぺちぺちした。
「ん〜、そお? そ〜でもないけどな〜?」
命とは、この鯨神の微小な破片や欠片に過ぎぬ。
全ての命はここより生まれ、全ての命はここへと帰ってくる。
ルドラサウムとは、魂の集合体であり、魂のふるさとである。
紛うことなき創造神なのである。
「これで全部そろったね♪ じゃあ、どの子から味見しよっかな?」
「は、今蘇らせました紫堂神楽など如何でしょう?
その死に際の記憶を神条真人などと共に味わわれれば、
無念や無情が極上のハーモニーを奏でること、請け合いでございましょう」
「……ホント、きみはそーいうの大好きだねぇ。わかった、一度試してみるよ」
ルドラサウムは臣下の進言を容れ、神条真人の思念を壺より引き抜いた。
《虎の仮面》《虎の仮面》《なんという……》
357
:
天覧席の風景(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:52:44
そして、真人と神楽の思念を、その赤く大きな口に、放り込んだ。
鯨神は目を閉じ、その舌の感覚に集中する。
噛み砕きも、嚥下もしない。
消化も初期化もしない。
ただ舌で転がし、記録/記憶を追体験するのである。
愉しむのである。
嬲るのである。
死ぬ間際にこう見えたであるとか。
殺すときにこう動いたであるとか。
そういった人間ドラマとアクションを、キャスト目線で愉しむのである。
マルチサイトで、殺す側と殺される側とを見比べるのである。
「神楽ちゃん、後ろ!後ろ!」
新しく与えられた楽しいおもちゃに、鯨神はすぐに没頭した。
既にプランナーの存在など眼中に無い。
その主の上機嫌ぶりを見て、金卵神はほくそ笑む。
(これであと二日――― いや、一日半程度は保ちますね)
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
プランナーの私室の如き空間には、天使たちが整列していた。
その数は100体を下るまい。
後ろ手に腕を組み、背筋を伸ばし、直立不動。
プランナー直属の精鋭たちである。
358
:
天覧席の風景(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:54:30
そこに、創造神への貢物を終えた主が、戻ってきた。
天使たちは一糸乱さず、深々と頭を下げる。
プランナーは軽く手を上げて返礼しする。
「情報の収集、ご苦労。ルドラサウム様もことのほかお喜びでしたよ」
「恐れ入ります」
「次に死者が出るまで、ここで待機していなさい」
「了解いたしました」
それは、連絡員であった。
主の労いに感動し打ち震えることも無く、淡々と返礼した。
エンジェルナイトとは、そうした存在故に。
「そういえば、悪魔フェリスはどうなっていましたか?」
プランナーはまた別の天使を指し、そう質問する。
「詳細は悪魔界に入らないとわかりませんが―――
強制解呪にて、ランスとフェリスとの契約が絶たれていました」
「まあ、会場はルドラサウム様のお膝元ですからね……
彼らもこちらと事を構えたくない以上、
不干渉に徹することにした、のでしょうね」
創造神ルドラサウムに対抗する勢力として、悪魔なる存在がある。
ルドラサウムの目を逃れて、魂を掠め取り、
ほんの少しずつ、ルドラサウムの弱体化を進めている集団である。
ほんの少しずつ、自陣営の強化を進めている集団である。
渦中のフェリスも、この末端に位置する存在であった。
359
:
天覧席の風景(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:56:09
弱小の反政府地下ゲリラが、強大な政府の拠点に攻め込む訳が無い。
相手にその存在を感づかれ、追尾でもされようものなら、
小規模な組織など一息に壊滅の危機を迎えるからである。
プランナーはそう分析し、そしてその分析は正しいものであった。
「であるならば、放置ですね」
相手が不用意な一度の侵入を無かったことにするのであれば、
此方もその一度の侵入を見なかったことにして、流す。
プランナーはそう結論付けたのである。
創造主サイドにしても、悪魔たちには不介入を原則としている。
それでも時折介入せざるを得ない状況というのは発生するのだが、
今回は面倒な諸問題を発生させてまで手出しすることはないと、
プランナーは考えている。
今やっていることは、ただの遊びである故に。
思いつきの余興であり、主の無聊を慰める暇つぶしである故に。
藪を突付いて蛇を出すような真似はしたくない。
「まあ、ランスには気の毒なことですが」
プランナーは、紗霧に請われたランスが召還を失敗した事を知っている。
失敗し、ほら吹き呼ばわりされた事を知っている。
その後も人目を避けて何度か試した事を知っている。
その徒労が今後も繰り返されると思うと……
プランナーは、愉しくて仕方なかった。
足掻き、もがき、悩み、苦しむ。
その上で、報われない。
この悪趣味な一柱は、そういった悲劇をこよなく愛するのである。
苦悩と怨嗟が大好物なのである。
360
:
天覧席の風景(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:28
その嫌らしい性質故に、このゲームは生まれたのである。
確かに、主・ルドラサウムを楽しませるためのものではある。
しかし隠し切れぬ彼の陰湿なサディズムが、この企図には滲んでいる。
「さて――― 八時までには、まだ間がありますね」
頭を切り替えて、プランナーが時間を確認する。
八時とは、ザドゥたちが目覚める時を指す。
その時間までに、プランナーは一つ、決めねばならぬことがあった。
シークレットポイントを使用したことによるペナルティ。
プランナーは、その具体的な内容を決めていなかった。
手落ちではない。
即興性を重視していた。
どうすれば、主の歓心を買えるのか。
どうすれば、己の濁った悦びを満たせるのか。
どうすれば、転落した主催者たちをもっと惨めに堕とせるのか。
プランナーの頭脳は回転する。
名の示す通り、番組をプランニングしていく。
より悲劇的に、より悪趣味に。
AM6:00―――
絶望の孤島に、また、朝日が昇る。
↓
361
:
天覧席の風景(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:56
(ルートC)
【現在位置:?】
【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者が出るまで待機
②死者の魂の回収
③参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】
※ここまでの全ての死者の魂は、ルドラサウムの手に渡りました
※紗霧パーティーが全員、まひるの性別(♂)を知りました
※フェリスの召還が不可能であると判りました
※東の森の火災は鎮火されました
362
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/30(月) 16:57:37
プライドがズタボロのザドゥ
くたばりかけのカモミール
とことん裏目のともきん
ルドの記録に振り回される透子
よくもまあこれほど主催者を落としめたもんだ
それがペナルティで更に追い込まれるとな?
いいぞもっとやれ!
363
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/30(月) 22:35:37
新作お疲れ様でした。
プランナーの嫌らしさがよく表現されてたと思います。
鎮火作業におけるコストと時間の消費が予想を大きく上回って少しびっくりしました。
フェリスはこれで退場ですか。上級悪魔の判断が適切。
やや不謹慎ですが
>>362
さんと同じくペナルティの内容に期待してます。
あと気になる点が一つ。
神人は神霊に選ばれた依り代で神楽の魂=大宮能売神ではないです。
原典の主人公とかは軍神の力と妖の魂を内包していますし。
また近いうちに。
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