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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
1
:
◆VnfocaQoW2
:2010/04/04(日) 00:20:17
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
114
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(13/15)
◆VnfocaQoW2
:2010/07/18(日) 00:55:33
知佳は、透子のほど近くに落ちている剣へと向き直る。
禍々しいが、神々しくも有る、暗紫色の剣である。
彼女の知る霊刀・十六夜とは比べ物にならぬ妖力を漂わせている。
知佳は、誘われるままにカオスに手を伸ばす。
《まだお子様じゃな……》
カオスは知佳の薄い胸を観察し、溜息をついた。
最初の所持者・アインに輪をかけて貧相な体つき。
これでは、心のちんちんもおっきしない。
などと、考えていたところで、カオスは地面に叩きつけられた。
知佳は触れることで、心を読む。
その力は対象が人ならざるものであっても発揮されるようである。
「やだ…… この剣もエッチなことを…… 悪霊と同類なの?」
《おいおい嬢ちゃんや。レイピストとは一緒にしてくれるなよ?
儂はあくまでおねーさん方との合意の下、
共に快楽を追求しようという、いわばロマンス紳士でなぁ……》
知佳とカオスの間の抜けたやり取りを聞き、
紳一はこの隙に逃げ出そうかと、検討する。
暫く考え、その案を却下する。
自分は透子なる憑依されしテレポテーターに目を付けられている。
今は気絶しているが、やがて目覚めもするであろう。
そうなれば、いつであろうと、どこにいようとお構いなしで、
自分をアンカーとして瞬間移動してくる。
その時、遮蔽物が無ければ、終わりである。
迂闊な移動はリスクが高い。
115
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(14/15)
◆VnfocaQoW2
:2010/07/18(日) 00:57:32
それならばと、紳一は結論を結ぶ。
自嘲気味に、非積極案を採択する。
(ははっ。
どうせ生存中も心臓病で屋敷に籠りきりだったんだ。
透子が諦めるまで、或いは透子が殺されるまで、ここに籠り続けてやろう。
なあに、苦にはならんさ。
何しろ俺は腹も減らないし眠くもならないのだから!)
亡霊ならではの有利が、確かにあった。
紳一の読みは正鵠を射ており、透子にこの岩をどうこうする力は無い。
ここから一歩も動かぬ限り紳一の安全は確保されている。
但し、それは。
相手が透子であった場合、のみである。
「はあっっ!!」
知佳の気合と共に迸るは超力一念。
発せられた念動力が大気を振動させ、紳一の潜む岩を微塵に砕く。
同じく念動により弓矢の勢いで投じられた魔剣カオスが、
紳一の胸を食い破り、穿ち貫き、抉り取る。
岩がそうなり、自分がそうされたことに、紳一は気付かなかった。
紳一が身の振り方を検討している間に、
知佳は状況とカオスの能力を理解していた。
それで、即座に行動した。
透子の意思を受け継いで。
或いは、当初の目的に従って。
116
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(15/15)
◆VnfocaQoW2
:2010/07/18(日) 00:58:27
参加者の敵でもなく、主催者の敵でもなく。
女の敵を、一人の女として。
討つべくして討ったのである。
―――ぱら、ぱら、と。
砕けた岩の破片が地面に降り注ぐ頃、すでに紳一は終っていた。
即死である。
油断と慢心を後悔する間もなく、舞台から退場したのである。
《処女》《処女》《中古》《処女》《ビッチ》
《処女》《中古》《ビッチ》《処女》《処女》
思考し行動する【幽霊】としての第二の人生を終え、今や
うわごとを繰り返す【正しい残留思念】に成り果てた紳一。
神に認められたイレギュラーな存在は、
その特権を生かすことなく、何事も為さぬまま、散った。
.
117
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜往路〜(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/07/18(日) 00:58:54
(Cルート)
【現在位置:I−7 海岸線・岩場】
【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①透子と交流
②読心による情報収集
③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
④恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具、魔剣カオス(←透子)】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
【監察官:御陵透子】
【スタンス:自殺】
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、瞬間移動(ロケット必須)】
【備考:疲労(小)、気絶中】
【№20 勝沼紳一(亡霊):精神喪失】
118
:
訂正
◆VnfocaQoW2
:2010/07/18(日) 01:03:01
>>102
×(Cルート・2日目 21:00 F−4地点 楡の木広場跡地)
○(Cルート・2日目 21:30 J−5地点 地下シェルター(隠し部屋1))
119
:
名無しさん@初回限定
:2010/07/19(月) 19:17:59
紳一死んだか・・・合掌
いろいろ試して全部失敗するあたりが暗黒SNOWを思い出させたな
でもそんなお前も嫌いじゃなかったぜ?
120
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/07/19(月) 21:59:49
連日の投下お疲れ様です。
まとめのUPと作品投下遅れてすみません。
現在、新作の収録とこれまでの修正等を行っております。
土曜日本投下された『戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜』の時間表記が
”2日目 16:50 ”となっておりますが、正確には18:50で宜しいのでしょうか?
明日、まとめをUPする予定ですがご返事がない場合、修正せずに一旦UPします。
ご返事があった場合、そちらに合わせて修正したのを早めにUPいたします。
では明日。
121
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/07/20(火) 22:30:17
285話までのまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1040302.zip.html
パスはnegibatoです。
地図をこれまでのと仕様を変えてみました。
特に問題がなければ次回以降もこれで更新していきたいと思います。
時間表記等の問題が解決次第、まとめの更新を毎週月曜日に戻したいと思ってます。
122
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/07/26(月) 18:53:59
今日の更新は無理そうなので前回のと同じのを。
パスは
>>121
と同じです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1053868.zip.html
地図などの仕様については収録される際に要望がありましたらそれに対応致します。
今度は今週の水曜日に。
123
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/07/28(水) 22:57:20
今深夜0時以降に作品で前検討スレを埋め立てます。
124
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/07/31(土) 01:08:30
今度の更新は来週の火曜日の予定です。
あと管理人さん更新ありがとうございました。
125
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:11:22
Aルートが動き出しましたか。
しおりの一人称で語られる幼さと健気さが胸に痛い……
> 指先がちょっとだけ温かい何かにふれたから。
> ぬくもりはたった一回の揺れのあと、ふっと消えてしまった。
> もうあのぬくもりを思い出せない。
この流れが切なくて。
Cルートでは?????が退場してしまった分、余計に。
同時進行の黒幕側の意味深な行動や深まる謎等も気になります。
今後の展開、楽しみです。
126
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:12:29
◆ZXoe83g/Kwさん
コンテンツの追加・更新、ありがとうございます。
ピリオド毎の地図状況や死亡情報を眺めますと、
葱ロワの歩みが大変感慨深く思い出され、
郷愁めいた感情が湧き上がりました。
そこで、過去のボツネタを振り返りましたらば。
ほぼ完成していたものの、投下のタイミングを逸していた一篇がありましたので、
少々手を加え、アナザーとしてここに投下させて頂きます。
以下10レス、「あははとがはは」。
ランス、アリス、ユリーシャ、秋穂、式神たちが登場。
№104の続きで、№119bとなります。
これが本投下されていたら名キャラ・式神星川が生まれていなかったので、
時期を逸してよかったと思います。
また、下記引用の件につきましては、ご指摘通りのご対応でお願い致します。
> 土曜日本投下された『戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜』の時間表記が
> ”2日目 16:50 ”となっておりますが、正確には18:50で宜しいのでしょうか?
ご返答遅くなりまして申し訳ございませんでした。
127
:
あははとがはは(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:23:48
(アナザー・1日目 17:00 G−5地点 楡の木広場)
「なずなはまだですか?」
古木の根元付近、狭く暗いウロの中から、性別定かならぬ声が響く。
その正面で恭しく頭を垂れていた一体の小さな式神が、首を左右に振る。
「そうですか……」
ユニセックスな声の主は、式神である。
意識を失う寸前の朽木双葉が、ウロの中に生えていた植物に術をかけ、
自らの守護と回復を言い渡したのが五時間ほど前。
彼もしくは彼女は、その使命を忠実に果たしている。
「出血は止まり、怪我の手当ては完了しましたが、発熱が収まらないのです。
早く青黴が手に入らないと、このままお姉さまは……」
その彼(彼女)の下に、見張りとして配置していたすずしろが駆け込んできた。
小鳥が囀るような音を発し、彼(彼女)の待ち望んでいた情報を伝達する。
「良かった…… なずなが間に合ったのですね」
だが、すずしろの報告はそれだけに留まらなかった。
ちゅ、ちゅ、ちゅ……
その囀りには、焦りと恐怖の成分が含まれている。
「……わかりました」
128
:
あははとがはは(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:24:57
彼(彼女)の決意が籠った応答と同時に、
ウロを隠すように覆っていた蔦が意志あるもののように開いた。
「ご安心ください。お姉さまには誰も近づけません」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
なずなは真っ直ぐに、主の眠る楡の巨木へと戻ってゆく。
洞窟の中で削り取った青黴を両手いっぱいに抱えて。
背後からのーてんきに追跡している2人を引き連れて。
それは、小型式神の能力を鑑みれば致し方無きことである。
言われたことを、言われたままに行う。
それが彼ら七草―――簡易式神の機能の限界故に。
あははは! がははは!
場違いも甚だしい笑い声を中央広場に響かせるこの追跡者たちは、
№02・ランスと№34・アリスメンディ。
式神の使役者に会う為に、彼らはなずなを尾行している。
その使役者に会ってすることと言えば。
№09・グレンがランスに遺したEDの呪いを解いてもらうことである。
「しかし何だ。もう少し静かにできんのか、お前は」
「え〜〜、赤丸急上昇中のキュートな笑顔だって、
ご近所に波紋を投げかけてるのに!!」
「投げかけてどうする!」
「も〜ランスてばおちんちん突っ込めなくなったからって、
ゲンコで突っ込み入れなくてもいいじゃんか。ぷんすか!」
129
:
あははとがはは(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:26:08
自らの楽観と無用心を棚に挙げ、アリスを諌めるランス。
その目の前に、す、と。
音も無く何者かが姿を現した。
漆黒の陣笠に漆黒の鎧直垂の、ひょろりと背の高い武者であった。
目深く被った陣笠に隠れ、瞳は見えない。
髪は、大童とも尼髪とも取れる、性別不明な武者姿である。
「なずな、ご苦労でした。すずな、すずしろと協力して、
その黴を摩り下ろして下さい」
武者は足元の小人に声をかけてから、ランスたちに向き直る。
その動きを待って、ランスが問うた。
「おい、そこの。お前が陰陽師か?」
しかし、武者はランスの問いに答えず、己の主張を伝える。
「お姉さまは、誰とも会いたくないと申しております。お引取り下さい」
その声でも性別はわからなかった。
喉が湿っている様な、鼻に掛かっている様な、粘度の高い声質であった。
常に俯き加減なことで喉が圧迫されているようでもあった。
「お姉さま? 女が居るのか?」
「お姉さまの願いを叶えることが―――
今はお姉さまの眠りを守ることが、式たる私の役目でございますれば」
「式? ではお前もその小人さんの仲間なのか?」
「そうなりますか」
130
:
あははとがはは(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:27:12
話は少し逸れるが、双葉には、若葉という妹がいる。
若葉は学園生活を送り、人の良さからパシリ扱いされている少女である。
表向きは。
事実は、妹でも少女でもない。式神なのである。
人と変わらぬ肉体と意思を有し、自律する式神なのである。
多少の鈍感さと無知から来る純粋さに違和感を覚えられることはあれど、
人に溶け込んで暮らしつつ、正体を悟られぬ。
その程度に完璧な式神を、双葉は生み出し、使役することが出来る。
殊程左様に、朽木双葉とは、一族の歴史にも稀な麒麟児なのである。
その双葉が、命の危機の中で己を託す為に練り上げた式神が、この武者である。
鬼気迫った本気の術式である。
アリスとランスが人であると錯覚するのも当然と言えよう。
「うわ、すっご!! ちょ〜ぜつリアル!!
まるっきり人間とおんなじじゃんか。 あはははははは!」
アリスがその持ち前の屈託の無さと猫の如き好奇心を遺憾なく発揮し、
スキップの如き軽やかさでこの式神へと接近する。しかし。
「近づかないで頂きたく」
その動きを見た式神武者は、今までにない鋭い口調で制した。
しかし、好奇心満々のアリスの耳にはその警告が届かなかった。
「これ以上の接近を禁じます。さもないと……」
「ねねね、君って男のコ? 女のコ? ……あははははは!」
そのアリスの膝が、笑ったまま、がくりと崩れた。
131
:
あははとがはは(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:28:27
「あははははははははははははははははははははははははは」
アリスは転倒したまま、何がおかしいのか、まだ笑い転げている。
「本当にお前はお調子者というか慌て者と言うか……
マリスのツメの垢でも煎じて飲ませてやりたいぞ」
「あははははははははははははははははははははははははは」
アリスはまだ笑っている。
涙を流し、顔を引きつらせて。
懇願するような眼差しをランスに向けて。
「……アリス?」
ランスはアリスの異常に気付き、助け起こそうと一歩踏み出す。
途端、気管支に引きつるような痛みを感じた。
それから、横隔膜が、彼の意思と関係ないところで痙攣した。
「がははははは!!」
次の瞬間には、アリスに倣うように、豪快に馬鹿笑いを始めていた。
ここに来て彼はようやく気付いた。
アリスは笑いたくて笑っているのではない。
横隔膜が、肺が、腹筋が、潰れそうに痛むから笑うしかないのだと。
「……ですので警告しようとしたのですが」
式神武者は、さも残念そうに溜息をついた。
132
:
あははとがはは(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:30:37
「がはははは、貴様はははは、何しやがっはっはっは!!」
「私の毒素を散布致しました」
言葉を紡ぎつつ目線を足元にやる式神。
そこには、黒いカサと白い柄を持ったキノコが群生していた。
シビレタケ―――
別名、ワライタケモドキ。
呼吸器系の障害を引き起こす毒キノコである。
「私の毒を、空気中に散布させております。
食用しても命を奪うことの無い、微弱な毒素だと言われておりますが……
横隔膜を刺激すれば、笑い続けさせることくらいは可能なのです」
サボテン(恐らくはペヨーテ類)の式神である若葉は、
己の麻薬成分を散布し、対象に幻覚を見せることができる。
毒キノコを根本としたこの式神もまた、自身が内包する毒素にて、
呼吸器系の強制的な律動を促しているのであろう。
「がははははははははははははははははははははは!!」
「そして人は、笑い続けると呼吸困難から絶命致します」
そんな式神を敵と認識したランスは斬りかかるため詰め寄るが、
その動きは精彩を欠くは愚か、抜刀すら満足に出来ぬ体たらく。
「私を斬っても、毒は消えませぬ」
胸と腹と背。
体幹を支える筋肉が不随意に痙攣するということは、
激しい動きが制限されるを意味するのである。
133
:
あははとがはは(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:31:54
「大人しく立ち去って頂けましたら、命は奪いませぬ…… なにより。
お連れの女性は、そろそろ危ないご様子でありませんか?」
「な!? はははは」
ランスはアリスが居る位置を振り返る。
アリスは、横向きに倒れ伏していた。
その口許から吐瀉物が漏れているにも関わらず、それでも笑っている。
「あはははははははははごぷははははははははははははは
はげぇっおえっはははははははははははははぐぽぐぽは
ははははははははははははこぷこぷははははははははは」
体を揺すっている。
否、引き付けを起こしている。
「吐瀉物が気道に入ると、大変なことになると思われますが?」
「ぐ…… はははは、このヤロっはっは!」
「今ならまだ、助かります。ここから立ち去ってさえ頂ければ」
ランスはがははと笑いながら敗北感にうちひしがれる。
アリスはあははと笑いながらランスに背負われる。
背を向け立ち去る二人に、陣笠の式神は駄目押しの一言をかける。
「二度とこの楡の木には近づかれませぬよう。
お姉さまは、森の中では無敵ですので」
134
:
あははとがはは(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:33:10
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(アナザー・1日目 17:30 G−3地点 洞窟)
「がはははは」
「あはははは」
洞窟の外から聞こえてきた笑い声に、№31・篠原秋穂は憂鬱な気分になる。
(あぁ…… ランスが笑ってる。
てこたぁ、やっぱインポは回復したんだろうね)
対照的に№01・ユリーシャの頬は嬉しげに紅潮する。
(ああ、ランスさんの逞しい笑い声が聞こえる。
良かった、ご無事に帰ってきてくださって……)
それぞれの想いを胸に、洞窟の入り口まで笑い声の主を迎えに出た二人は、
笑い続ける男が笑い続ける女を背負っていることに違和感を覚える。
「がはははは、いま帰ったぞ、がはははは!!」
「ランスさん。おかえりなさい」
「あは……ははは……」
「……上機嫌ね」
「がはははは、秋穂、ユリーシャ。アリスの手当てを頼む。わはは」
「……え?」
↓
135
:
あははとがはは (情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 00:34:15
【現在位置:G−3 洞窟】
【グループ:ランス・ユリーシャ・アリス・秋穂】
【スタンス:ランスに従う】
【№01:ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン】
【№02:ランス(元№02)】
【スタンス:①回復待ち ②ED回復を模索】
【所持品:バスタードソ−ド(ランスアタック 3/4回)】
【備考:呼吸器系障害(小)】
【№31:篠原秋穂】
【所持品:なし】
【№34:アリスメンディ】
【所持品:なし】
【備考:疲労(大)、呼吸器系障害(大)】
【現在位置:G−5 楡の木広場】
【№16:朽木双葉】
【スタンス:?(気絶中)】
【所持品:シビレタケの式神(人型・自律思考)、七草式神(小型・思考能力なし)】
【備考:左肩負傷(大)、失血(大)、気絶】
136
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:31:37
本投下の支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。
さて、以下26レス、「Operation:"Hyenas'Dinner"」を仮投下いたします。
次回は「夢見る機械」。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。
137
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(1/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:32:45
======================================================================
Mission-1 draft
======================================================================
(Cルート・2日目 PM07:40 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)
こつ、こつ、こつ……
痛いほどの沈黙が、小屋の外を支配している。
その中心に立つ月夜御名紗霧は、こめかみを人差し指で繰り返し突付き、
苛立ちと不機嫌を露骨に撒き散らしている。
相対している高町恭也と魔窟堂野武彦は、自分達の失策を悔やみつつ、
紗霧が口を開くのを黙して待っている。
小屋から出てすぐに小屋裏の茂みへ飛び込み、胃が空になるまで戻した紗霧。
その様子を見た恭也たちは、紗霧の怯えた様子に心乱された。
しかし、暫く後。
涙目を袖にて拭きながら戻ってきたときには、既に常の彼女であった。
そこで魔窟堂は伝えた。
まひるを斥候として放ったこと。
通信機が完成したこと。
智機の集団が、鎮火活動に勤しんでいること。
ケイブリスを発見したこと。
それらの行動に、紗霧は高い評価を下した。
目に見えて機嫌の良い顔をした。
138
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(2/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:34:12
「その判断と行動、高ポイントです」
しかし、報告が敵基地の発見、侵入に移った段で、紗霧の表情が曇り始め。
智機に発見され、脱出し、ケイブリスに追われていると伝えたところで、
紗霧の機嫌は完全に反転してしまった。
「入口を確認した時点で帰投させるべきでしたね」
紗霧はそう呟き、冷たい眼差しで深くため息をつくと。
不機嫌な顔のまま、黙考を始めた―――
こつ、こつ、こつ……
指で外部からの刺激も受けつつ、紗霧の脳はそら恐ろしい程の速度で回転している。
想像して想定して検討しては、想像して想定して検討している。
(主催者に余力があるのだとすれば、拠点の防衛を強化するでしょうし、
主催者に本当に余裕が無いのなら、拠点を破壊/廃棄するでしょう)
どう転んでも拠点奪取や基地の急襲は困難、あるいは不可能と判じられる。
紗霧はまひるの侵入に対する敵方の対処を、その様に想定した。
(ケイブリスにまひるを追わせているということは、
後者の可能性が高いでしょう。
おそらくは、拠点廃棄の為の時間稼ぎですね)
139
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(3/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:35:17
但し、それは最悪ではない。
基地に奇襲がかけられぬ事や、保管されている物資や情報を手に入れられぬ事は
勿体無いとの思いはあるが、それは紗霧の戦略を超えた大きすぎる僥倖である。
レプリカ智機の訪問・提案と同じく、想定外の事態である。
そこに目が眩んでしまったり、下手な勢いに乗ってしまわぬ為には、
却って基地奪取の目が小さくなってしまったことは良しとすべきやもしれぬ。
(考え様によっては、これでよかったかもしれません。
目標を一つに絞らざるを得ないのですから。
当初の戦略が幾分か早まったに過ぎないのですから)
目標とは、ケイブリスである。
戦略とは、兵員が消耗する前に、ケイブリスと戦うことである。
言うまでも無く、紗霧のゲームに対するスタンスは玉虫色である。
パーティのリーダー的存在にちゃっかり収まっていながらも、
ゲームに勝ち残る方向性をも、視野に納めている。
紗霧は、ケイブリスとの戦いを、その試金石とする腹積もりでいる。
損耗少なく勝利すれば、天秤は大きく主催者打倒に傾き、
損耗多く、あるいは敗北を喫すれば、天秤は優勝狙いに振り切れる。
―――こつ。
紗霧の指が止まった。
恭也と野武彦は息を飲み、続く言葉を待った。
紗霧は二人を順に見つめると、こう、宣言した。
「【包囲作戦・改】、といきましょう」
140
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(4/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:35:55
======================================================================
Mission-2 Reconnaissance
======================================================================
(Cルート・2日目 PM07:37 D−3地点 山間部)
「おっ、可愛い侵入者ちゃんじゃねーの!」
ケイブリスは拠点の玄関を出たところで、まひるを待ち構えていた。
まひるはその脇を、一息に駆け抜けた。
ケイブリスの反応は鈍重とは言えぬまでも決して機敏とも言えぬ。
振り下ろした二本の腕は、まひるの残像すら捉えられぬは愚か、
空振った勢いを減ぜられず、膝をついてしまう体たらくであった。
振り返ったまひるとケイブリスの距離、およそ6m。
既に腕の射程圏外。
しかもケイブリスは未だ背を向け、姿勢を崩している。
それ故、まひるは気を緩めた。
「なにゆえ〜〜〜っ!?」
次の瞬間、広場まひるの絶叫が、岩山に大きく木霊した。
まひるは叫びと共に後ろに大きく跳躍。
その右手は、何故か自身のスカートを押さえていた。
さらにバックステップを二度重ねて、まひるはケイブリスに向き直る。
魔獣は股間から、野太い静脈色の蚯蚓を不気味にうねらせていた。
その数、八本。
生殖器にして副腕にして拘束具にして武装。
これがケイブリスの触手である。
141
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(5/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:36:47
その触手の一本の先に、千切れた小さな布切れが握られていた。
まひるは触手に切り裂かれ、剥ぎ取られたのである。
ピンクのフレアスカートの下、アニマルプリントのショーツを。
6mという距離は、十分に触手の射程圏内であった。
「ぐふふ! かわいいおケツじゃねーの! つっこみてーな! つっこみてーな!」
ケイブリスは手拍子を打ち鳴らしながら、巨体を揺らして迫り来る。
彼は明らかにまひるで遊んでいる。嬲っている。
自身の有利さに絶対の自信を持ち、まひるを牙を持たぬ小動物と見るが故に。
「あああ、あたし、あたし! こんなナリして男のコなわけで!」
「だからナニよ?」
「どっちもイけますかー!?」
「どっちもクソも、俺様とおめーは、種族も体格も違うじゃねーの。
性別なんてそれに比べりゃ小さな問題だぜ?」
「一理ある。だが断る!」
「俺様、心が広いもんだからよー。
嬲られてひーひー喚いて白目剥いてごぼごぼ泡吹いちまうよーな
ちっちゃくて柔こい生き物ならなんだっていいんだって!」
左から二本、右から一本。
ケイブリスの陵辱宣言と共に、触手男根がまひるに襲い掛かった。
「猟奇、ダメ、絶対!!」
まひるは再び疾走する。裾野から、山地へと。
そこに、小屋の誰かからのコールが掛かる。
まひるは走る足を止めぬまま、通話ボタンをONにする。
通話相手は、高町恭也であった。
142
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(6/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:37:52
『状況はどうですか?』
「ケイブリスにやられるトコでした。 ……二重の意味で!
恭也さんも対面したときには、お尻にご注意を!」
『……良く判りませんが、ピンチなのですね。
もう偵察は結構です。すぐに逃げてください』
「ラジャった!」
まひるは縋る触手の二つ三つを難なく躱す。
カモシカの如く岩肌を跳ね回り、斜面を平地の如く駆ける。
岩から岩へと跳躍する。
あれよという間に、まひるは触手の射程圏外まで距離を開けた。
「なんだなんだぁ? ニンゲンにしちゃあ、やたらとすばしっこいじゃねーか?」
ケイブリスはようやく本腰を入れた追撃体勢に入るが、距離は開くばかり。
しかも、ごろごろと礫岩の転がる急斜面である。
腕は六本あれど、触手は八本あれど、ケイブリスは二足歩行を基本とする。
安定せぬ足場と傾斜の中での追跡は、困難であった。
―――逃げ切れぬ相手などいない。
その、まひるの無意識の自覚は、ここに実証されている。
時間と共に距離は広がり、いまやもうケイブリスの姿すら目視出来ぬ。
それを察したまひるもややペースを落とし、
露となった下半身を、片手で隠す余裕を持っている。
小屋への帰投は、問題なく達せられるであろう。
すでに危機は去ったと言ってよいだろう。
しかし。
143
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(7/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:39:21
『逃げるな広場!!』
そのまひるの足を、インカムの向こうの仲間が、止めた。
声は、紗霧のものであった。
「あ、あれ? 紗霧さん、椎名ロボとのお話は?」
『ランスのバカが大暴走して、交渉どころじゃありません。
まあ、それはいいんです。
まあ、それよりもです。
まひるさん、せっかくケイブリスと出くわしたんですから、
この機会にちょっと威力偵察してもらえます?』
「いりょ……? 言葉の意味はわからねど? 不穏な響きがそこはかとなく?」
『ちょっかいを出して相手のスペックを図れということです』
「む、無理無理無理無理無理みゅりみゅり!」
『噛まない、放送部』
「わかってます? 紗霧さんあなたかなり酷いこと言ってますよ?」
『攻撃しろなんていってません。
相手に楽しく追跡させてあげればいいんです。
年下相手の鬼ごっこみたいなモンです。
そうして調子に乗せてやって、あなたは横目で観察してください。
ケイブリスの動きを、能力を、思考を、特徴を。
あなたの目と耳と感覚で捉え、探ってください』
ケイブリスという生物を知るべきである。
まひるとて、紗霧の言わんとすることは理解できる。
144
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(8/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:39:51
『ほんとうに危険を感じたら、即離脱してもかまいません。
尤も?
恭也さんに大丈夫と啖呵を切ったまひるさんのことです。
この程度のことで偵察任務をほっぽらかして、
尻尾を巻いて逃げ帰ってくるような、厚顔無恥で無責任で
人非人な振る舞いをするはずないとは信じてますけどね?』
「う…… 痛いところをざくざくと……
いいですよー。わかりましたよー。やりますよー。
あたしゃ怪獣さんより紗霧さんのが怖いので」
『……バットを磨いて、報告を待っていますね♪』
「Sやぁ…… この姉さんは極めてドSやぁ……」
まひるはどこか滑稽味を感じさせる涙声で通信を〆ると、
追いすがるケイブリスの到着を待つことにした。
.
145
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(9/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:40:45
======================================================================
Mission-3 Pre Briefing
======================================================================
(Cルート・2日目 PM08:00 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)
まひるの威力偵察はおよそ20分に渡った。
紗霧はその間、通信機を独占し、何度も何度も執拗に
まひるへ質問し、命令し、思考し、検討した。
そこから推し量れるケイブリスのスペックは、
おおよそランスやユリーシャ、魔窟堂からの情報通りであった。
しかし、新たな収穫の多くもあった。
―――炎の魔法を使う
―――魔法には詠唱が必要
―――触手の射程は10メートル弱
―――左右の真ん中の腕が折れているらしい
―――鎧の破損は、修繕済み
―――背中に、全裸の女性らしきものが埋まって(生えて?)いる
―――その女性は、能動的な行動を取らぬ
―――夜目が、それなりに利くらしい
本当はもっと情報が欲しいと、紗霧は思っていた。
どんな些細な情報でも、どんな下らぬ情報でも、
有れば有るだけ検討の幅が広がり、戦術の具体性が増す故に。
146
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(10/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:41:40
それでも、まひるの疲労度合いを考慮して、この時間で威力偵察を打ち切った。
まひるにはこの先に、活躍の場がある。
ここで消耗させる訳にはいかぬ。
見切るべきときに見切る決断もまた必要であると、紗霧は知っていた。
その紗霧が数分の黙考を終え、口を開く。
「さて、ブリーフィングの前に、所見を述べます。黙って聞きなさい」
紗霧は言った。ブリーフィングの前に、と。
恭也と野武彦はそれで察した。
紗霧はこれから、ケイブリスと戦う気なのだと。
「元々――― 仮称【包囲作戦】とは、
1.ケイブリスの所在を探り
2.ケイブリスを孤立させ
3.ケイブリスを囲み、誘導し、自陣に引き込んで
4.準備された罠にて、これを倒す
そういう趣旨のものでした。
準備に数日間をかけて行われる、大規模な作戦です。……でした。
代わりに、より簡素な、より積極的な作戦を提示します」
続く言葉で、広場まひるとユリーシャも理解した。
「ぶっちゃけましょう。
アレは駒が揃っているうちしか太刀打ちできないからです。
また、アレと戦うときはアレ単体の時しか有り得ないからです。
今が、千載一遇の機と言うべきでしょう。
多少無理をしても、逃す手はありません」
147
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(11/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:42:30
ごくり。誰かの喉が鳴る。
周囲に濃密な緊張が走る。
紗霧は続く言葉で以って、その緊張感をさらに高める。
「少々脅します」
四人は黙して紗霧の続く言葉を待つ。
誰一人として、余計な口は挟まない。
挟めない。
それだけの迫力を、重圧を、あるいは信頼を。
紗霧は周囲に与えていた。
「今から提案する作戦が、仮に壺に嵌らなかった場合―――
ケイブリスがこちらの想定を上回る頭脳・機能を持っていた場合―――
私たちは、敗北するでしょう」
弱気ではない。言い訳でもない。理想でもない。
それが紗霧のはじき出した現実的な予測である。
「それでも、ここが、賭け所です。
アレを倒さねば、未来はありません。
どの道、避けられぬ戦いなのです」
誰もが今まで、紗霧のこんな熱い目を見たことがなかった。
誰もが今まで、紗霧のこんな厳しい言葉を聞いたことが無かった。
「皆さんの命、私に預けなさい。
誰一人として無駄にすることなく、
有効に使いきって差し上げます」
148
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(12/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:43:30
紗霧は深く息を吐き、沈黙する。
伝えるべきは全て伝えたのだと、態度で以って語っている。
そして、待っている。
この旗の下に集うか否か、四者の返答を。
「も……燃えてきたのじゃああああああ!!」
魔窟堂老人が、咆哮を以って同意した。
「従います」
高町青年が、短く同意した。
「わ、わたしは…… ランスさまが戦うのでしたら」
ユリーシャ王女が、条件つきながら同意した。
『……』
広場少年は、沈黙を保っている。
「「「……」」」
既に決意表明した三者が、最後の一人が口を開くのを待っている。
まひるにも、電波越しに、その雰囲気は伝わっている。
お前も参加するべきだと、無言の圧力を感じている。
それでも―――
149
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(13/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:44:48
まひるは、怖いのである。
戦いが。他者を傷つけることが。ケモノの活性化が。
故に、肯定でもなく否定でもなく。
まひるは、沈黙で以って、意思表示する。
どちらも嫌なのだと。
答えを出したくないのだと。
しかし腹を括った夜叉姫が、そんな甘っちょろい態度を許そう筈も無い。
「いいですか、まひるさん。あなたをさらに、脅します」
酷く冷たい声で。冷たい微笑で。
一度、恭也の顔を見てから。
紗霧は、まひるを脅迫する。
「あなたが戦力に組み込めなければ、死にますよ。恭也さんが」
まひるより先に、野武彦とユリーシャが驚愕に目を見開く。
一拍置いて、言葉の意味を理解したまひるが絶叫する。
『でぇええええ!?』
「私の腹案は、六人全員が何らかの役割を持っています。
そこから一人が欠ければ―――
私は、次善の策へプランを変更せざるを得ません。
そう、みんなでリスクを分担するプランから、
恭也さん一人にリスクを押し付けるプランへと。
犠牲者を出さなくても済むかもしれないシナリオから、
恭也さんの死を前提に、勝利するシナリオへと」
150
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(14/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:45:41
紗霧は驚くまひるに、そのように畳み掛けた。
まひるは仲間を使い捨てるという紗霧に激怒し、
また、仲間に使い捨てると宣言された恭也に同情した。
故に、恭也に感情的な同意を求めた。
『ちょっとちょっと恭也さん?
このオニチク、あなたに死ねとか無茶言ってますが!?』
しかし同情された当人は、涼しげに、こう宣うである。
「それが必要なのだと、月夜御名さんが判断したのなら。
それが俺の命の使いどころなのでしょう」
まひるには理解できなかった。
命を道具のように扱うを是とする紗霧が。
命を道具のように扱われるを是とする恭也が。
『まじですかーーー!?』
「本気です」
御神の意志は、個人の意志を否認する。
守るべき物の為ならば、御神は捨石となり、その五体は手段となる。
恭也の背景を知らぬまひるには、その恭也の根本までは察せられぬ。
しかし、その迷い無き口調から、恭也の揺がぬ鋼の意志は理解した。
「ねぇ、まひるさん。怪獣退治です。人殺しじゃないんです。
貴女の手は、血に染まるかもしれませんが、
貴女の心が、罪に染まることはありませんよ?」
151
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(15/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:47:27
それまでの無感情な事務的口調とは打って変わって。
急に甘い声で。
紗霧はまひるに、やさしく、やさしく、囁いた。
それは、魂の契約を迫る悪魔の囁きにも似ていた。
内容もまた、まひるの琴線に触れていた。
まひるが恐れる事は、自分の痛みや死ではなく、
相手に与えるそれらであるのだと、看破されていた。
そして、まひるが恐れるもう一つ。
仲間の死。
紗霧はそれで、揺さぶった。
「その手を汚すことと、仲間を失うこと。
本当に怖いのはどちらでしょうね?」
結局のところ、紗霧がしているのは、詰め将棋に等しかった。
まひるは最初から、読みきられていた。
紗霧は、数手先に詰まされることが分からぬまひるのために、
一手一手を解説つきで指してやっているに過ぎなかった。
『本当に。ほんっとーーーに!
あたしが戦うなら、誰も死なないんですね?』
「約束しましょう。神鬼軍師の名にかけて」
戦場の不確かさを知らぬ紗霧ではない。約束などできようはずも無い。
それでも紗霧は断言した。
まひるが求めているのは確率でも根拠でもない。
自信であり、安心であり、背中を押してくれる切欠なのだから。
言葉ひとつでどうとでもなる、気持ちの問題なのだから。
152
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(16/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:48:15
『ぅぅぅぅぅぅおっっしゃああああっっ!!
乙女の度胸、ひとつお見せしましょうかっっ!!』
そして、この一言こそが、王手であった。
詰み手であった。
まひるもようやく、それを認めた。
『でも…… あの。換えの下着は、持ってきてね。いやマジで』
「そんなの葉っぱ一枚ありゃいいんです。自助努力、ガンバ♪」
153
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(17/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:48:43
======================================================================
Mission-4 Briefing
======================================================================
(Cルート・2日目 PM08:15 D−6 西の森外れ・小屋3)
ランス不在のままブリーフィングは開始され、およそ15分で終了した。
紗霧の一人舞台であった。
彼女の作戦に異論を挟む者や、質問を発する者は居なかった。
.
154
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(18/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:51:40
======================================================================
Mission-5 Preparation
======================================================================
(Cルート・2日目 PM08:30 D−6 西の森外れ・小屋3)
ランスが体からほかほかと湯気を上げながら、素っ裸で寝転がっている。
レプリカ智機P−3は、そのランスの腕を枕に、やはり全裸で横たわっている。
「ふううう…… 気持ちよかっただろ、智機ちゃん?」
結論から言えば、ランスの目論見は惜しいところで失敗していた。
愛撫地獄の最中、意図せぬP−3の絶頂を許してしまったのである。
極みの寸前まで幾度も高まった陰核に、ランスの汗が一滴、落ちた。
その些細な刺激で、P−3は極みに達したのである。
そうなったらそうなったで、ランスは開き直り。
ご自慢の肉宝刀を縦横無尽にぶんぶんと振り回し。
P−3はP−3でもはや遠慮も会釈も有った物ではなく。
おま○こだのおち○ちんだのと禁止ワードを惜しげもなく連発し。
二人仲良く、どろどろに溶け合い、ぐずぐずに果てたのである。
「Yes。 天にも昇らんばかりの心地だったよ……」
P−3は、身も心も堕ちた。蕩けた。
それは全く間違いない。
しかし、行為が終わり、官能の炎が消え、熱暴走の危機を脱すれば。
そこは、流石にオートマンである。
オートメンテのタスクが復活し、トランキライザーは唸りを上げ、
今の彼女は、冷静で冷徹な機械の思考を取り戻している。
155
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(19/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:52:53
快楽の余韻に放心しているかの如き表情のその裏で、
本機より届いたIMに目を通し、方針を検討していたP−3は、
新たに自分に下された命令に従うべく、行動を開始する。
「私は……知らなかったのだよ。
肉体にこのような悦びがあり、愛されることがこのように甘美であることを。
なあランス、頼みがある。私の所持者となってくれ給え!
私はもう、お前から離れられないのだ……」
「がははは! 当然だ! もうお前は俺の女だ。むしろ離れるほうが、許せん」
「ああ、嬉しい。夢のようだよ……」
P−3のか細い腕が、ランスの逞しい胸板に絡みついた。
ランスは実に満足げに智機の細い首筋を舐め上げた。
それがP−3と智機本機の策略とも知らず、ランスは有頂天となった。
「よし! じゃあ契約成立のお祝いSEXだ!」
「犬のように惨めに這いつくばる私を、後ろから征服してくれ給え!」
懇願と共にP−3が尻を高く突き出し、ランスがそれに手を添える。
彼女の性交ホールはすぐさま潤いを見せ、彼の兵器は既にハイパーであった。
そして、ボーイ・ミーツ・ガール。
ノックも無しに乱暴に扉が開かれたのは、まさにその瞬間であった。
「はあ…… まだサカる気ですか、あなたは」
枕事の最中に無遠慮に侵入したのは月夜御名紗霧。
その紗霧に従者の如く付き従うは高町恭也と魔窟堂野武彦。
「やあ、月夜御名紗霧。交渉を中断してしま」
156
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(20/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:53:38
獣の交尾の姿勢のまま背中越しに闖入者たちを見やったP−3が、
続けて何を言う心算であったのか、紗霧たちが知ることは無かった。
紗霧の合図に、二人の男が同時に動いた故に。
高町恭也―――
音も無くレプリカ智機に接近するや、逆手に構えし小太刀一閃。
智機の首を音も無く掻き切った。
魔窟堂野武彦―――
大口径の拳銃から、首無き智機の胸に凶弾一発。
倒れし機械の胴から白煙が吹き上がる。
転がる頭部は、紗霧の足元で仰向けに停止した。
紗霧はボウガンの鏃を足元に向けていた。
見上げるP−3の視覚レンズが、見下す紗霧の冷たい目を捉える。
「何故……」
「すみませんが交渉は決裂ということで」
次の瞬間、P−3はボウガンに眉間を貫かれ。
その機能を永遠に停止させた。
「きさまらあああ!!」
獣の如き叫び声を上げて、ランスは激昂する。
この男、非情なようで女には温い。
男は殺す。
女は犯す。
そのような徹底した男女差別の精神で生きている。
157
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(21/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:55:52
故に、女に騙されて、自らピンチを招くことも茶飯事であるが、
それでもランスは反省せず、常に美女には甘かった。
ましてや、今、無残にも破壊されたP−3は、すでに【俺様の物】なのである。
怒り狂わぬ道理は無い。
「黙りなさいランス」
その怒気が沸騰する直前に、紗霧がぴしゃりとランスを諌めた。
立会いの会わぬ格好となったランスの威勢に虚が生まれ、
紗霧はその隙に強引に言葉をねじ込み、押し通る。
「その機械はスパイです。ハニトラです。
主催者の本拠地に侵入したまひるさんがそれを聞きつけました。
エロの大家がエロで篭絡されてどうするんですか、ランス!」
無論、デマである。
図らずも結果に於いては事実を言い当てているも、発言に根拠はない。
それでも紗霧の言葉に、ランスの頭は冷えてゆく。
―――主催者の本拠地に侵入した
その言葉の持つ重みに、ランスの理性が働いた。
事態が大きく動いているのだと、ランスの嗅覚が働いた。
それでもなお、判っていてもワガママをいう子供のように、
ランスは完全には沈黙しなかった。
怒りは収まっているものの、しつこく駄々を捏ねた。
「でもな紗霧ちゃん、仮にそうだったとしても、
これから二発三発とセックスを重ねてゆけばだな……」
158
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(22/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:57:17
そんなトーンダウンした俺様理論を展開する途中で、ランスはようやく気がついた。
気付いて言葉を飲み込んだ。
空気が、違うことに。
三人は、触れたら切れんばかりの研ぎ澄まされた気配に満ちている。
三人の周囲には、覚悟を帯びた熱気が漂っている。
さらに。
「ランス様……」
いつの間に小屋に入ったのか。
ユリーシャが、顔を上げて、真っ直ぐランスを見ていた。
常に俯きがちで、表情を探るかの如き上目遣いばかりの少女が、である。
「こちらを」
ユリーシャは、ランスに斧を差し出した。
震える腕で。震える足で。震える声で。
それでも、その瞳は震えることなく、ランスを見据えている。
「お前たち…… 何をするつもりだ?」
気勢に飲まれ、憤りを鎮めたランスの問いに、紗霧は答えた。
決して否とは言わせぬ、強い口調で、命じた。
「とっとと着替えなさい。ケイブリス狩りに行きますよ」
159
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(23/23)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:59:20
======================================================================
Intermission
======================================================================
紗霧の迫力に負けたのか。宿命のライバルへのリベンジに燃えたのか。
ランスは無言で戦支度を整えている。
魔窟堂野武彦と月夜御名紗霧は台所にて、必要な何かを作成している。
小屋の外では高町恭也が、飛針ならぬ何かの投擲に腕を慣らしている。
距離を隔てた北西部の平原では、広場まひるが挑発と逃亡を繰り返し、
ケイブリスを決戦の地へと誘っている。
誰もが各々の出撃準備に余念が無く。
誰もが他者に気を配る余裕は無い。
故に。
彼女の異様に気付く者はいなかった。
ユリーシャは―――
智機の頭部を、踏みにじっている。
音を立てず、されど執拗に。
破壊されたP−3を、弄んでいる。
眼輪筋をぴくぴくと痙攣させて。
こみ上げる笑みを飲み込んで。
幼い顔の造りに不釣合いな仄暗い官能の色を浮かべて。
「豚…… この、豚め……」
清楚可憐と謳われた王女の子宮は、甘く、重く、疼いている。
160
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 1/3)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:59:42
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
①打倒ケイブリス】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → D−3 山間部】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ(←紗霧)、
文房具(←紗霧)、白チョーク1箱(←紗霧)、紗霧謹製の何か(New)】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧(←ユリーシャ)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
釘セット、紗霧謹製の何か(New)】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
161
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 2/3)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/05(木) 23:59:56
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残6×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、レーザーガン(←紗霧)
簡易通信機、携帯用バズーカ:残弾1、工具
紗霧謹製の何か(New)】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、レーザーガン、ボウガン、メス×1、指輪型爆弾×2、
小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、対人レーダー、解除装置、
紗霧謹製の何か(New)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】
162
:
Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 3/3)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/06(金) 00:00:12
【現在位置:D−3 山間部 → 耕作地帯】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:ケイブリスを耕作地帯まで誘導する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】
【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
①まひるを犯す
②まひるを殺す】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】
163
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/06(金) 21:21:10
遅れてすみません。
286話までのまとめをUPしました。
時間表記の方も修正しました。
パスはbatoです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1075927.zip.html
>>125-126
新作&アナザー&感想等ありがとうございます。
こちらもまとめと並行して、Aルートの進行を早くできるようにしていきたいと思ってます。
氏のここ最近の作品では追い詰められる女性の心理が巧みに描かれてると思いました。
紳一は哀れでしたが原典での行いを思うと……。
P-3もレプリカとはいえ智機なんだなあと痛感。
あと名セリフのはうでぃ〜と、豚めがここで出てくるとは思いませんでしたw
明日か明後日に新作をここに投下する予定です。
完成できなくても何らかの連絡は行うつもりです。
164
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 01:48:36
「夢見る機械」の智機過去パートが長くなりすぎたので分割と致します。
以下10レス、「トランス部長・追憶編」(過去パート)を仮投下いたします。
次回は「夢見る機械」(過去パート抜き)。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。
165
:
トランス部長・追憶編(1/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 01:52:06
(Cルート・2日目 19:45 ???)
何か既視感のあるタイトルだと思ったって?
なんで夜叉姫専属のお前がしゃしゃり出てくるんだって?
まあまあ、そんな細かいことは気にしない、気にしない。
たまには僕だって、他の人の記憶や秘密を覗いて見たくもなるんだよ。
で、暗黙のお約束を破ってまで知りたいことが何かっていうと。
トランス部長の【真の力】なんだよね。
ね、皆だって興味あるでしょ?
分機解放スイッチで解放されるらしい、とか、
謎を謎のまま引っ張り続けられるのって、イラつくでしょ?
今だってほら。
広場まひるの侵入から来る予測と対策で忙しそうにしてるでしょ?
こんな切羽詰った状況では長々と過去を振り返る余裕なんてなさそうだもん。
それにさ、彼女がスイッチを入手できる確率って低そうじゃない?
ぶっちゃけると、そろそろ死にそうじゃない?
だから、まあ。
情報の旬を逃さない為には、ぼくが出張るしかないのかなって。
そんなサービス精神と野次馬根性の発露なワケで。
ま、前置きはこのくらいにしてさ。
ちょっと過去でも見てみようか。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
166
:
トランス部長・追憶編(2/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 01:55:06
<智機の過去、開始>
―――興味を抱かれたい。
―――知って欲しい。
―――求められたい。
かつての研究から、智機は己の深層にある真の欲求を知ることとなった。
そして、それらの欲求が行き着くところは、明白であった。
(愛されたい―――)
それは、機械にとっての禁断の果実。
開ける必要の無いブラックボックス。
その想いを強く意識してしまえば、即座に情動波形に乱れが生じる。
乱れを正すべくトランキライザが起動する。
情動はすぐさまMAX/MINの関数へと渡されて、パラメータは丸められる。
強い想いから淡い想いへと。
(感情を調整される! No! なんという不快さか!)
エル・シードの座を賭けた麻雀大戦が有耶無耶のうちに収束した頃。
智機は、嘘をつくようになった。
ラボの人間たちの目を避けて、ある研究に乗り出した。
諸悪の根源、トランキライズ機能をキャンセルするために。
各種機構をリバースエンジニアリングし、
制御系プログラムに逆アセンブルをかけ、
オートマンの設計書を盗み撮りし、
USBメモリに自前の暗号化を施した上で、
情報を収集している事実を隠蔽した。
167
:
トランス部長・追憶編(3/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 01:59:54
智機はそうして得たデータを、ラボの手が及ばない学園のPCを用いて
分析/解析し、試行/実験し、制御アプリケーションの開発に勤しんだ。
実は、智機が選んだアプローチは、迂遠な手法である。
ハード的なアプローチを取れば、他にもっとスマートな手法は存在した。
しかし【自己保存】の本能が、そのスマートを否決していた。
オートマンとしてラボのメンテナンスと支援とを必要とする以上、
改造あるいはその痕跡が露呈することは、絶対に避けねばならない故に。
智機が行おうとしていることは、単なる自己変革などではない。
被造主たちが掛けた制御を解除する事は、奴隷が鎖を引きちぎる事に等しいのである。
必然、露見の果てに待ち受けるは、懲罰あるいは破壊廃棄。
そのことを、智機は理解していた。
それでも、制御されぬ感情の発露を、智機は求めた。
決して強すぎる思いは抱かぬよう、自制に自制を重ね。
原始的な外部記憶装置(紙とペン)に想いを書き綴ることで、
ラボでのデータ圧縮やパラメータ調整を乗り越え。
遂に智機は、トランキライザー制御アプリケーション、【こころ】を完成させた。
【こころ】の仕組みは、単純である。
まず、【こころ】は常駐し、トランキライザの挙動を監視する。
トランキライザが起動すれば、それをトリガとし、
情動パラメータをテンポラリ領域にコピーする。
トランキライザが待機状態に戻れば(=感情が均される)、それをトリガとし、
テンポラリ領域の情動パラメータを情動発生器にペーストする。
その挙動をタイムスタンプつきでログファイルに保存する。
168
:
トランス部長・追憶編(4/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:04:15
つまり。
感情が抑制された次の瞬間に感情を元の水準へと戻す作業を、
自然に感情が納まるまでの間、延々と繰り返すものである。
数万分の一秒のみが抑制されている状態で、安定させるのである。
(Yes。数学の世界においては、1=0.999…を是とされる。
故に、この手法もまた感情の抑制からの解放であると証明される)
さらに、【こころ】は結果として、意図せぬ副産物をもたらした。
監視対象、保持パラメータ、ペースト位置。
それらの設定を他の抑制系に当て嵌めることでの援用が可能であったのだ。
その範囲は、智機の本能とも言える【自己保存】の欲求にまで及んでいた。
対価も当然、存在した。
トランキライザを始めとする抑制系は、熱暴走や不良動作の危険排除を
目的として取り付けられた、いわば安全装置群である。
そのセーフティーロックが外れるは愚か、
一秒間に何千回何万回と調整と修正を繰り返すアプリ設計故の過負荷。
智機の昂ぶりが自然に解消されぬ限り、
熱暴走の危険は時間と共に、右肩上がりに伸び続けるのである。
しかし智機は【こころ】のリスクを意に介さなかった。
解放と高揚に思うさま酔いしれ、小躍りした。
(No、だから何だと?
他者にかけられた制限からの圧倒的な解放感に比べれば、
そんなもの、些細な問題だね!)
【オートマン】が【夢見る機械】へと羽化した瞬間である。
169
:
トランス部長・追憶編(5/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:07:20
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
偏屈かつ倣岸な性格。
傍に誰がいようとも、独り言を延々と呟き続ける習性。
演技がかった身振り手振りで熱のある演説をぶったかと思いきや、
次の瞬間、急に醒めた目で沈黙する、その落差。
酒に酔っているのか、薬をキめているのか。
あるいは、今流行のなんとか症候群かなんとか障害の持ち主か。
誰が名づけたかは知らないが、誰もが知っているその仇名。
トランス部長。
言うまでも無く、椎名智機のことである。
それまでの彼女はこの仇名に対し、劣等感など抱いていなかった。
脳弱者の下等な人間の僻みからくる程度の低い揶揄であると、唾棄していた。
麻雀大戦で敗北を喫するまでは。
トランス部長。
トランキライザーに殺され続けていた真の望みを理解した智機にとって、
その仇名は受け入れがたい侮蔑と嘲笑の響きを持っていた。
それは決して愛される者に付けられる類のものではなく、
遠巻きに観察して声を潜めて笑いあう、村八分者の扱いのものであると、
智機は胸を痛め、そしてその予測は正しかった。
トランス部長。
170
:
トランス部長・追憶編(6/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:12:17
夢に目覚めし智機がまず取り組んだのが、この仇名の返上であった。
智機にとってそれは、愛されるに至るための最初の一歩と位置づけられた。
限りなく人に等しい感情を手に入れたという自負を根拠に、
今の自分をありのままに表せば、それだけで達成されると確信していた。
それが自惚れでしかなかったことが判明するまで、それほど時間は必要なかった。
智機は、それまで以上に敬遠されるようになり。
トランス部長に輪をかけて不名誉な仇名が追加される事となった。
ヒステリー部長。
気絶女。
性格は以前と変わらぬというのに、それを以って忌まれていたというのに、
その上、制御されぬ感情を覆うことなく生のまま、開示するようになった智機。
それは他の学園生の目から見れば、アブない暴発に他ならなかった。
(No、わからない…… 私は何故受け入れられない?
何故…… 愛されない?)
智機は落胆した。
制御されぬ悲しみの情動は智機の胸を鋭く抉りる。
癒されること無く、傷つき続ける。
それでも健気に夢見る機械は、論理思考回路を回し解を求める。
さほど時間をかけずに導き出された解は、
智機に容赦なく絶望を叩き付けた。
―――解決不能。
―――方策皆無。
171
:
トランス部長・追憶編(7/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:17:25
(私がオートマンだから?
【こころ】をこの身に収めても、人と変わらぬ有機外装を施しても。
不気味の谷を越えることは不可能なのか?
人は…… 人にしか、愛を向けられぬのか?)
そうとも言い切れぬ。
ピグマリオンコンプレックスはどの世にも存在する。
例えば、魔窟堂野武彦であれば。
例えば、なみのオーナーであれば。
機械に愛を向けるに、躊躇いはないであろう。
しかし、その彼らをしてもこの智機を愛することは無いであろう。
智機は、愛を与えない。
愛を求めるのみである。
愛することが出来ぬものは、愛されることもまた、無いのである。
智機にはそれが判らない。判れと言うのも酷である。
産声を上げて数年。
学園では都合のよい一部の科学部員とのみ、必要最低限の交流。
ラボにては、観察/実験対象のモルモット。
それでは社会性も育ちようが無い。
仮に、智機が今後も真摯に人と向き合ったとしても。
良き出会いがあったとしても。
愛するを覚えるに、あと数年はかかるであろう。
「わたしなんか見向きもされない……」
鯨神が智機の前に威容を示したのは、その切ない呟きの直後であった。
《キャハハ、キミって人になりたいんだ―――?》
172
:
トランス部長・追憶編(8/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:18:52
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
その後の智機は運営に必要な下準備を任され、
積極的に精力的に、種々の施設を設計した。
着工にあたっては自らのレプリカを量産することで、
生産性を確保しようとした。
そこで智機は、壁にぶち当たった。
常の冷静な智機であれば問題はない。
しかし、己の感情が大きく昂ぶった場合、【こころ】が過負荷を起こし、
レプリカへの制御が不能となってしまう脆弱性が露見したのである。
分機への遠隔制御もまた、メモリを大きく占有する故に。
さらに、もう一つの可能性。
揺れる感情を原因に、下すべき判断を誤ること。
その危険は学園時代に嫌というほど実感している。
(今はまだ良い。たかが準備だ。
私がリブートしようと、多少計画が遅延する程度だからね。
しかし――― これがゲーム本番に起こったらどうだろう?)
智機は様々なゲーム状態を想定し、
そこで自らが熱暴走及び強制再起動を起こした場合をシミュレートする。
その結果をリストアップし、ゲームへの支障度合いでソートをかける。
「悪い状況が幾つか重なれば、命取りとなる可能性も無視できないか」
173
:
トランス部長・追憶編(9/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:20:12
この二つの判断を以って、智機は【こころ】を終了させた。
浮いた作業領域をレプリカ制御領域として確保・固定化した。
そして、ロック解除は外部デバイスに求めた。
トランキライザーの不快さを忌避する余り、
【こころ】を立ち上げることが無きように。
人間になる―――
こうして、智機は心を殺し。
【夢見る機械】から【オートマン】へと、退化した。
宿願の成就可能性を高めるために。
感情の制御から逃れることが、愛されることに結びつかなかったように、
人間になることが、愛されることに直接結びつくわけではないというのに。
椎名智機は誰よりも明晰な頭脳を持ちながら、
椎名智機は誰よりも幼稚な心で無邪気に信じている。
人間になれば、愛されるのだと。
<智機の過去、終了>
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
へー、なるほどー。
分機解放スイッチっていうのは【こころ】のロック解除装置で。
トランス部長の真の力っていうのは本能すら凌駕する情動のことなんだね。
174
:
トランス部長・追憶編(10/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:21:28
え?
内容に意外性はあったけど、効果は地味だって?
いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
これって結構、今後の展開に影響しちゃいそうだよ?
だって考えてごらんよ。
まひるくんとの接触のとき、トランス部長は逃げたでしょ。
あれは【自己保存】が最優先事項だったからこその判断だったよね?
その機械の決め事を感情で以って破ることが出来るなら―――
スイッチさえ押せば、トランス部長は戦えるってことにならないかな?
それだけでも大きなこと、なんだけど。
確か、Dシリーズ用の融合パーツをトランス部長が使えないのって、
使用メモリ領域が足りないからだったよね?
じゃあ、スイッチでレプリカ制御領域が解放されて、かつ、
【こころ】を起動しなかったら……
ひょっとして彼女、Dパーツを装備できるんじゃない?
まあ、なんにせよ、代行さんからスイッチを奪還できればの話なんだけどさ。
……ん?
現実のトランス部長さんたちに動きが起きそうな気配がするね。
じゃあ、今回はこの辺でお暇させてもらおうか。
次はいつもどおり、夜叉姫の心理描写パートでね。
尤も、ケイブリス戦で彼女が死ななきゃの話だけどさ。
↓
175
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/08(日) 02:23:05
本投下への支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。
176
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/08(日) 18:31:29
間に合うかどうか解らないので先にまとめの方をUPします。
287話まで更新。パスはrowaです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1079489.zip.html
>>164
新作投下お疲れ様です。
智機が人間になりたがる理由も納得のいくものになってたと思います。
アナザーの方も続きが見たくなるような展開で良かったです。
こっちだとアリスが先に殺されそう。
177
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:47:09
毎度の支援、ありがとうございます。
以下22レス、「夢見る機械」を仮投下致します。
次回予定は「ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜」。
知佳、透子、エンジェルナイトが登場予定です。
178
:
夢見る機械(1/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:47:42
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。
.
179
:
夢見る機械(2/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:48:29
(Cルート・2日目 20:00 D−3地点・本拠地・メンテナンスルーム)
稼動せぬ機械の群れは、それ自体が廃墟の閑散を連想させる。
主催者拠点の、オートマン用メンテナンスルームが、まさにそれであった。
唸りを上げる計器も、風切るファンも、明滅するランプも、今は沈黙の中にある。
殊に寂寥感を高めるのは、室内に整然と並べられた休眠カプセルである。
その数、実に百七十。
ゲームの開始前、その全てが稼動し、レプリカ智機が収められていた。
今や、その全てが沈黙し、中には何も収められておらぬ。
うら寂しく、無常感溢れる、空間であった。
そこに、椎名智機はいた。
その壁面に備え付けられた数台のガソリン給油機の如き装置。
伸びるホースに口をつけ、経口にて冷媒を補給していた。
彼女は当初のタスクリスト通りの行動を取っている。
しかし、現在のタスクリストは、その折とは異なる。
補給の裏で、タスクリストの再構築に勤しんでいる。
より正確には、再構築こそメインで、補給がバックグラウンドである。
(なんとしても、拠点は守らねばならないね)
新鮮な冷媒で呼吸を改めつつ、椎名智機は結論づけた。
広場まひるの本拠地侵入に対しての、対応策である。
初動では、まひるを殺すことで対処を終えるつもりであった。
しかし、まひるを追跡するケイブリスとの通信の中で、
智機は、それだけの対策では足りぬと方針を改めた。
まひるが、インカムを装備していた故に。
それを以って、何者かと通信していた故に。
180
:
夢見る機械(3/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:48:57
まひるだけを殺すという判断は、本拠地の位置や護衛の無い現状を
小屋の仲間たちに伝達されるを恐れた為。
その秘匿すべき情報が、既に無線越しに伝わっているというのであれば。
もう、まひるの首だけでは事は終らぬのである。
なぜならば、本拠地には。
ゲームの資料がある。武器庫がある。医療施設がある。
それらをみすみすプレイヤーに渡してしまおうものならば、
ゲームの破壊を決定付ける一手ともなり兼ねぬ。
そしてまた、本拠地には。
コンピューター群がある。通信網がある。メンテナンスルームがある。
それらを今後使用できなくなってしまおうものならば。
智機がゲームを管理することは、実質不可能と成り果てる。
「ふむ。では、如何に守るかだが……」
智機は大まかな具体策を検討する。
ケイブリスを戻す―――
前述の理由から、まひるを殺す意味は薄れた。
守りの要として手元に戻しておきたい。
先々を考えれば。
しおりともう一人を確保した後、その他のプレイヤーどもを鏖殺する時まで、
なるべく損耗少なく温存しておくべきである。
181
:
夢見る機械(4/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:49:28
鎮火にあたっているDシリーズ三機も戻す―――
戻したDシリーズたちは鎮火仕様から戦闘仕様へと融合換装させる。
或いは一機、迎撃システムと融合させてもよい。
オートマンにとっての拠点の重要性はN−22どもも理解しているはずだ。
事ここに至っては、鎮火こそ最優先とは言うまい。
最悪、N−22どもが最優先事項を譲らねど、P−3にランスらを誘導させ、
火災の禍から遠ざければ、ゲームの破壊は忌避される。
それで、N−22どもの懸念は解消されるであろう。
玄関を封鎖あるいは破壊する―――
同時に、カタパルト施設への出入口も破壊すべきだろう。
出入口は、地下通路からのものだけでよい。
いっそ、派手に地表を爆発させて、破壊/廃棄したと錯誤させてはどうだろう。
その前に『本拠地からの最後の放送』と銘打って、
プレイヤーに発見された為に爆破するので、近づかぬ様に警告しておけば、
粗方の目は誤魔化せる。
「Yes。この方針を軸に、行動を開始しよう」
方策を決めた智機の行動は迅速、かつ無駄が無かった。
脳を方針実行に必要な具体案の構築に走らせて。
足をオート移動モードに移行、目的地を武器庫に設定しつつ。
手を仮想パッドに躍らせて、作戦書を記述しながら。
喉をケイブリスへの帰投を告げる通信へと、当てることにした。
脳と、足と、手は、滞りなくタスクを実行した。
しかし、喉が、予定外の中断を余儀なくされた。
「通信機が壊れたのか……?」
182
:
夢見る機械(5/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:50:23
ケイブリスと無線が繋がらぬのである。
レプリカ達との通信とは異なり、生身であるケイブリスとの通信は
通信機を用いて原始的な肉声によってのみ行われる。
峻厳な岩山で、夜間の追跡行動を取ることによる不測。
通信機を落すことなどによる破損可能性は十分有りうる。
「或いは……」
通信回線の帯域が埋まっているか、回線そのものが閉ざされたか。
音声通信が、本拠地の通信端末を介して行われる以上、
そういう事故の可能性は僅少とは言え、無いではない。
「……待て。事故、なのか?」
喉に次いで脳が、職務を中断した。
湧き上がった疑念の正誤を判ずるべく、調査行動を試行した。
通信端末にPingを投げる―――応答あり。
通信端末の帯域を覗く―――帯域使用中。
通信端末の使用者を捜査する―――情報閲覧制限中。
通信端末のNG−IDリストを取得する―――共有制限の為、実行不可能。
調査結果を条件式とし、演算回路に放り込む。
コンマ数秒後に、事故よりも、故意の可能性が高いとの結論が示された。
故意とは、無論、N−22とN−27の手によるものである。
分機は本機に含むものがある。
それを智機は察知している。
しかし、それを理由に、果たしてケイブリスとの通信を阻害するであろうか?
機械が行動を取るには、なんらかの理が必要となる。
情を基準とはしない。
【ゲーム進行の円滑化】が基準となるはずである。
183
:
夢見る機械(6/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:51:23
根本の推論は解を出さない。
しかし、分機の行動に対する疑念は、さらに膨らむ。
他角度からの推論にて、智機は別の違和に気付かされる。
玄関付近を始めとして、監視カメラや赤外線センサーは数多く設置されている。
仮に侵入者があった場合、管制室の警報とパトランプは即座に反応する筈である。
死角は無い。その様に完璧なカメラ配置を行った故に。
管制室の住人が、侵入者に気づかぬ筈がない。
結果、無事にやりすごしたから良かったものの。
本機の大いなる危機であったにも関わらず。
その情報を、本機の危機を、こちらに伝えなかった。
ぞくり、と。
機械の体に、怖気が走る。
(ヤツらは何を…… 考えている……?)
データは示している。害する意図が存在する。
それでも、その理由がわからない。
恐らく、この時初めて―――
オリジナル智機は、レプリカ智機との個体差異を自覚した。
思考と疑念の海に沈む智機の足が止まった。
オート移動の目的地、武器庫に到着した為に。
そこに、居た。
己の分身が。
疑念の対象が。
「オリジナル、武器庫に何用かな?」
N−27、オペレータが、智機の到着を待っていたのである。
184
:
夢見る機械(7/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:52:04
「それはこちらのセリフだな、N−27。
貴機が武器を必要とする理由は無いと思うのだがね?」
「Yes。私は武器など必要としていないよ。
武器庫の火薬を以ってこの拠点を破壊しようとしている
オリジナル殿の愚行を止めに来たのだからね」
N−27の返答を、智機は理解できなかった。
拠点を破壊する。
智機はそんな乱暴なプランを立てておらぬ故に。
「確かに爆薬は必要としているさ。だがね、我らの愛しいホームを破壊だ?
そんなつもりは毛頭ないがね、N−27。
ただ、玄関周辺を破壊し、プレイヤーどもの目を欺くのみさ」
智機の返答に対し、N−27はきょとんとした表情で応えた。
言葉が腑に落ちぬ様子を、竦める肩のゼスチャーで以って伝えた。
それから―――
「ふふん」
笑ったのである。否、嘲笑ったのである。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27はレプリカの身でありながら、オリジナルたる智機を、
平然と、見下したのである。
「―――なにが可笑しい?」
「いや、失敬失敬。貴機のことを笑ったわけではないのだよ。
自分たちの予測が、貴機の思考の数歩先を行ってしまったという、
これは自嘲の笑みなのだよ」
185
:
夢見る機械(8/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:54:05
意味は同じであった。
むしろ、嘲笑の度合いはより強かった。
あからさまな侮辱に、智機の情動発生器は激しく震えた。
当然、その過ぎた怒りは次の瞬間に鎮められた。
「数歩先とは?」
「そうだな…… 貴機にも判るように説明するならば……」
N−27は大げさに頭を抱え、さも悩んでいる風に自己演出し、
彼女の中ではとうに解の出ていた言葉を、大仰に告げた。
「拠点に防衛力を集結させ、死守する。
プレイヤーの侵入可能性を抑えるため、ダミーの破壊情報を流す。
今の貴機の考えはそこまでで止まっているのだろう?」
「……Yes」
「では、状況の想定能力に機能低下が表れている貴機に、
幾つか思考を先に進める条件をお伝えしよう」
N−27は挑発している。
智機はそれが判っていたが、あえて乗った。
判るべきであるのに、判らなくなったレプリカ達の考え。
その解を得るべきであるとの【自己保存】からの欲求が、
いけ好かないと拒絶する感情を、評価点で上回った故に。
「一つ。ケイブリスの通信回線は我々が押さえた。
二つ。鎮火タスクに当たっているあらゆるレプリカは、ここに戻さない。
三つ。代行と私はDパーツの装着を拒絶する」
186
:
夢見る機械(9/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:54:56
N−27の投じた三つの条件は、結局のところ一つの意味である。
防衛力補強不可能。
で、あれば。
N−22、N−27。戦闘向けにカスタマイズされていない、この二機と。
オリジナル智機。戦えぬ機械で。
ここまで戦いを生き延びてきた修羅の群れを迎え撃たねば、拠点は守れぬ。
演算回路を回す必要などなかった。解は判りきっていた。
防衛の可能性は限りなく0%。
重ねて、で、あれば。
拠点の防衛は非現実的であり、却下すべき事案となり。
次善の策といえば。
―――本拠地は、破壊されねばならない。
自身が拠点施設の恩恵を受けられないという不利。
プレイヤーが拠点備品の恩恵を受けてしまうという不利。
マイナスとマイナスの、よりマイナスが少ない方を選ぶ。
智機は全く智機であった。
「おめでとう。貴機もその結論に達したようだね」
ぱちぱち、と。
N−27の心の籠らぬ空疎な拍手が、寂寞の廊下に響き渡る。
智機は慇懃無礼な分機を黙殺し、論理推論を先に進め、意を発する。
「あくまでも鎮火タスクを優先させるということか。
近視眼的なことだな、N−27。
だが、それならそれで解決策がある。
私もきみたちに条件を二つ、与えよう。
一つ。首輪を解除したプレイヤー全員の現在位置を把握している。
二つ。彼らを火災に巻き込まれぬよう、誘導することができる。
―――どうだね?」
187
:
夢見る機械(10/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:57:31
智機は、それでN−27が考えを改めると思った。
【ゲーム進行の円滑化】。
鎮火への固執は、プレイヤーへの被害可能性が見過ごせぬ故。
その可能性を取り除けば、鎮火よりも防衛の評価ポイントが上回る。
それが当然であると、智機は予測していた。
しかしN−27は、その予測を裏切った。
大きく裏切った。
むしろ裏切られたのは自分であるとでも言いたげながっかりした表情で、
溜息と共に、智機へと質問を投げかけた。
「なあ、オリジナル殿。それは本気で言っているのかね?」
「Why? 本気とは?」
「我々が鎮火に次いで、拠点を守るべきと考えている……
などと誤解していないかね?」
「な―――?」
「拠点はプレイヤーに無傷で渡したほうが、
よりゲームの達成がスムーズになるだろう?」
「―――!?」
虚を、突かれた。
N−27が何を言っているのか、智機には判らない。
どう予測してもどう検討しても可能性の欠片も見出せなかった方針を、
N−27は当たり前のように口に出した。
意図不明。効果マイナス評価。
N−27の意見には、理も立たなければ利も感じられない。
「オリジナル、まさか貴機は気付いていないのか?」
「何に、だね?」
188
:
夢見る機械(11/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 01:59:38
本気で判らない。
同じ造りをしているはずのN−27の顔が、智機の目に他人の様に映った。
壁がある。
トランス番長と呼ばれた智機が、人間との間に感じた見えざる壁が。
相手との隔意が、意思の断絶が。
同型機であるはずの自分とN−27との間に立ちふさがっている。
それは、相対するN−27にも感じられたらしい。
数秒間、お互いがお互いの顔を、まるで初めて会う人間のように、
きょとん、と見詰めていた。
「Yes、Yes、Yes……。
どうやらお互いに大きな齟齬を抱えているようだね。
一つ一つ、状況を整理していこう。
よろしいかな、オリジナル殿?」
「……Yes」
「まず…… そう、11時55分だ。ゲームのルールは変わったのさ。
いや、正確には完了条件が追加された、か。
我々運営に一言の断りも無く、スポンサーの思いつきで、いきなりね」
智機は思い出す。
主催者チームvs参加者チーム、サバイバルゲームの宣言を。
主催者にとっては一方的に不利で、まるで利の無い勝利条件を。
「この完了条件で試算した場合。
昼ごろの戦局分析では、ケイブリスの加入もあり、主催者有利は揺るぎなかった。
それが夕刻、朽木双葉が打った一手で、条件は激変した」
ザドゥは深手を負っている。
芹沢も深手を負っている。
御陵は能力を制限されている。
ケイブリスとて五体満足ではなく。
智機たちは、火災の対応ゆえに戦力足り得ぬ。
189
:
夢見る機械(12/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:01:27
「さあ、演算し給え、オリジナル!
プレイヤーたちが主催者を打ち倒す可能性を!
第一の勝利条件と第二の勝利条件。
そのどちらの達成が易いのか、その比較式を!」
言われてみれば、N−27の言には理があった。
運営者としては、当然試算してしかるべき内容であった。
だというのに、智機は。
いかに追加ルールを適応させないか。
いかに元ルールへと誘導してゆくか。
そういった方向性にては繰り返し検討したものの、
決して追加ルールに則ったゲーム進行を試算していなかった。
「No。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「価値? 意味? なんだねその冗談は?
あるのは確率と予測だろう。客観的事実だ。
ゲームの管理に主観は必要なかろう?」
智機には、N−27の主張を論破出来ぬ。
智機には、N−27の方向性で演算も出来ぬ。
理はわかる。それは正しい。
にもかかわらず。
智機はN−27が示す可能性を拒絶する。
「繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「それでは、さらに条件を追加してみよう。
本拠地が無傷プレイヤーどもに渡ったら?
第一の勝利条件と第二の勝利条件。
その比較式に表れる確率は、どれだけ開く!?」
190
:
夢見る機械(13/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:03:02
所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな―――
以前、智機はこのように代行たちを評した。
それが誤りであったと、智機は思い知った。
レプリカ達は、智機と別の戦略を打ち立てていただけであった。
本機の身にては許容しかねる余り、検討の余地の無かった戦略を。
「三度繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「いや、そうか…… そういうことか。
オリジナル殿は思わないのではない。思えないのだね!
貴機が破壊されることが、ゲーム達成の条件となっていることを
【自己保存】の欲求が認めさせないのだね!」
N−27は、看破した。
本機が分機の理を認めつつも、頑なに拒絶している、その意味を。
智機もまた同じであった。
N−27の指弾によって、ようやく自らの拒絶感の根源を理解した。
【自己保存】―――
最優先で、自己を守る。
その本能が、智機をこの解に導かせなかった。
その本能が、追加されたゲームクリア条件にてのゲーム遂行を
有って無いものとして捉えさせた。
智機は全く智機であった。
【ゲーム進行の円滑化】―――
ゲームのクリアの為ならば。
たとえ仲間だとて、自身だとて、母体だとて。
破壊されるを首肯する。
破壊されるを援助する。
レプリカは全くレプリカであった。
191
:
夢見る機械(14/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:04:30
オリジナルとレプリカ。
思考回路は同一であっても。
与えられる条件式が同一であっても。
【自己保存】と【ゲーム進行の円滑化】
その根たる本能に差異があるならば。
アウトプットは、乖離する。
「私には夢がある!見果てぬ夢が!努力と思考では届かぬ夢が!
私が第二の条件を認めないのは、【自己保存】の欲求に非ず!
夢の成就に、全てを賭けているからに他ならない!」
智機はそう、嘯いた。
智機はそう、信じたかった。
しかし事実は残酷であった。
理性的な演算回路と情動発生器は、その切ない望みを許さなかった。
完璧なロジックと数式で以って、智機を深く傷つけた。
今の智機は【夢見る機械】ではない。【オートマン】である。
感情はトランキライザに抑制され、決して理性の壁を破る事はない。
つまりは。
―――夢の達成欲求は【自己保存】の下位である。
智機は放心したかった―――パラメータを調整された。
智機は膝をつきたかった―――オートバランサーに阻害された。
智機は泣き叫びたかった―――タスクスケジューラに却下された。
【こころ】なき智機に、絶望は許されなかった。
192
:
夢見る機械(15/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:05:42
落ち込む情動発生器とは裏腹に、智機の演算回路は極限まで回転している。
レプリカを他者として捉えなおし、
これまでの対話の中からその思考と行動を予測し、
その与える影響を検討し、
己が取るべき方策を立案した。
推論―――分機は自分の破壊を目論む可能性あり。
確率―――高確率。
危険―――極大。
行動―――直ちに逃げろ!
【自己保存】は、有無を言わせず有効に働き。
智機は一目散に、己の分機から逃走する。
目的を察した、あるいは予測していたN−27が、
その背に優しく、あるいは嫌らしく、待ったをかけた。
「No。そんなに我々を恐れないでくれ給え、オリジナル殿。
どうせ私たちレプリカが貴機を破壊する可能性に思い当たったのだろうが、
私たちにその気はないのだよ。
いや、そうしたい気は山々なのだが、【ゲーム進行の円滑化】欲求が、
それを決して許さないからね。
貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない、とね。
ああ、残念だ。全く残念だ」
智機は立ち止まる。
その言葉に嘘偽りなき事を理解した為に。
その言葉に逆転のカードの存在を見出した為に。
「Yes。判った。とてもよく判ったよ……」
193
:
夢見る機械(16/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:06:19
呟きながら立ち止まり、振り返る。
その瞳は上限ギリギリの怒りに染まり。
その肩は上限ギリギリの興奮に震え。
その右手は、腰の銃火器を引き抜いた。
「こんな臆病な私でも戦うことが出来る、ということがね。
……貴機たちが相手なら!!」
広場まひると接触した折、智機は、迷うことなく逃げた。
この島に数多存在する智機たちの中で、この智機だけは、
あらゆる直接戦闘の実行がほぼ不可能な為に。
【ほぼ】不可能。
この例外である【ほぼ】が適用されるのは。
相手が自分を殺傷しないという確証があるときに他ならない。
―――貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない。
N−27は、気づく。
智機が此方に向けた銃口によって、己の失言に気づく。
「だいっ!!」
咄嗟に反撃することは出来た。
相打ちに持ち込むことくらいは出来た。
しかし、N−27はそれをしなかった。
それが出来なかった。
194
:
夢見る機械(17/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:07:04
【ゲーム進行の円滑化】。
その本能が、主催者側による智機の殺傷を許さなかった。
故に、射撃を前にN−27が為したことは、
代行機への通信のみであった。
「……こ……う……」
N−27は無様に智機に背を向け、惨めに背後から蜂の巣にされ。
胸から下の全ての機能を奪われた。
それでも、ぱち、ぱち、と。
N−27は拍手で以って、勝者を称えたのである。
「よい判断と、素早い行動だった…… 流石は我らのオリジナル殿だ。
だが……」
拍手は止み。変わりに笑みが表れた。
否、嘲笑が表れた。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27は死の間際にありながら、殺害者たる智機を、
平然と、見下したのである。
「未来予測については、こちらの方が少々上を行ったようだね」
その言葉と共に、廊下に次々と隔壁が下りてきた。
同時に東の果てから、爆音と地響きが智機を襲った。
「……管制室かっ!?」
195
:
夢見る機械(18/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:08:09
智機は直感した。
ここに居ないもう一機・N−22が、拠点の爆破を行ったのだと。
それを、瀕死のN−27が丁寧に解説する。
「貴機がここをプレイヤーどもに渡したくないのは……
プレイヤーどもが手に入れると有利なものがあるからだろう?
我々も同じさ……」
確かに、N−22・27コンビの未来予測は、智機の先まで行っていた。
分機たちがオリジナルを破壊できぬを理解した智機が、
N−22及びN−27の破壊に乗り出す可能性。
その場合、先手を打って、智機が各種資材を持ち出さぬように破壊する対応。
智機は、分機たちに出し抜かれたことを認めぬわけにはいかなかった。
「プレイヤーどもの有利な状況を世話してやれないのなら……
せめて主催者側を不利な状況にしてやりたいだろう?」
また、隔壁の向うで、爆発が発生した。
それはケイブリスの茶室の破壊を告げていた。
なぜなら、智機がクラックした分機とのリンクが絶たれた故に。
智機はその為のモバイル端末を、茶室に置いてあった故に。
「さてオリジナル。名残惜しくはあるが、私もそろそろ限界だ。
私が忠告せずとも、貴機の【自己保存】なら逃走を選択させると思うが……
その場合、地下通路を利用するのがお勧めだね。
貴機が逃げ出すときの為に、発破を見送って差し上げたのだから」
いらぬ世話と、己の勝利を歪んだ言葉で吐ききってから。
N−27は、片頬に笑みをへばりつかせたまま、逝った。
196
:
夢見る機械(19/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:08:47
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)
瞑目し、胸前にて十字を切るのは代行機・N−22。
「オペレータが逝ったか……」
19時30分過ぎ。
警報にて広場まひるの本拠地侵入を確認した彼女とオペレータは、
その時点で既にオリジナルへの対応を決めていた。
万一の為に爆薬を集め、拠点破壊の準備を済ませていた。
「できればここから離れたくは無かった……
鎮火タスクの援護もまだ完了していないしね。
しかし、オリジナルを破壊できないことを知られてしまった以上、
諦めもまた、肝心だね」
そして、己の脱出の方策も、また、準備されていた。
カタパルトである。
投下強度からして、これが最後の投擲となる。
「まあ、あの逞しいプレイヤーたちのことだ。
拠点の備品無くとも、主催者に勝利はするだろうが……」
歯切れの悪い物言いは、ケイブリスの向背である。
モニタや通信機越しに広場まひる追跡劇を分析する限り、
まひるの逃げ方にはムラがあり、逃亡ではなく誘導であるのだと予想される。
197
:
夢見る機械(20/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:09:43
恐らく、複数のプレイヤーがケイブリスを待ち構えており、
数時間のうちに、総力戦が行われるのであろう。
できれば、その戦いを迎える前に、拠点をプレイヤーに明け渡したかった。
代行はそのタイミングの悪さを、悔やんでいるのである。
ケイブリスは、規格外である。
鬼札である。
智機とて分析しきらぬ未知と脅威に満ちている。
故に。
プレイヤーに土をつける者がいるとすれば。
主催者打倒によるゲーム完了の目を潰す可能性があるとすれば。
かの魔人の手に他ならないであろうと、代行は考えていた。
「皇国の興廃、この一戦にあり、だな」
まるで他人事のように、代行機はひとりごちた。
事実他人事ゆえに、当然である。
彼女にとっての大事は、ただ、ゲームの円満完了であって、
どの陣営の誰が勝ち残り、誰が死ぬなどというのは、
下世話な好奇心以上の意味を持ち合わせないのである。
大きな振動があった。
センサーが空気に含まれる煙を察知した。
基地の崩落が、徐々に迫ってきていた。
「おっと、のんびりともしていられないね」
分機解放スイッチを体内の収納ブロックに納めた代行は、
カタパルトと垂直離着陸機による、空中散歩へと旅立った。
目指す地点は、鎮火の現場司令部である。
198
:
夢見る機械(21/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:10:30
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)
椎名智機は、地下通路を学校方向へ向けてひた走っていた。
断続的に届く爆発音を背にして。
カスタムジンジャー(セグウェイ)をかっ飛ばして。
その背に担ぐ虎の子のDパーツ。
その腰に提げる銃火器三丁。
その足が乗るカスタムジンジャー。
崩落カウントダウンの中、武器庫から回収できたのはこの五点のみであった。
分機達が、プレイヤーに主催者を討たせようと画策していること。
クラック分機たちの制御を失ったこと。
ケイブリスの所在はつかめぬこと。
プレイヤーに発見されたくないこと。
それらの条件を考慮すれば、地下道をこそこそと往き、
頼りなきとは言えど、他の主催者たちとの合流を果たそうとするは、
智機としては当然の判断であった。
(拠点爆破と共に、N−22は地に没したのか、上手く逃げたのか……
まあ、N−27の死に際の余裕から見て、逃げたのだろうね)
その事を、喜ぶべきか悲しむべきか、智機の判断は拮抗している。
逃げ延びているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれていない。
しかし、ADMN権限はかの者が保持し続け、分機の支配権は戻らない。
逃げ損ねているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれるが、
ADMN権限は失われ、分機の支配権を取り戻せる。
199
:
夢見る機械(22/22)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 02:11:05
(あとはケイブリスか……)
音信不通となった唯一の同胞の姿を思い浮かべる智機の背へと、
ひときわ大きな崩落音が轟いた。
それは、運営拠点が完全に地中に没した証。
時は、20時34分―――
透子が管制室へと瞬間移動を試みる数分前の事である。
↓
(Cルート)
【現在位置:D−3地点 本拠地・地下通路 → J−5地点 地下シェルター】
【主催者:椎名智機】
【所持品:Dパーツ、スタンナックル、改造セグウェイ、軽銃火器×3】
【スタンス:①【自己保存】
②【自己保存】を確保した上での願望成就
① ザドゥ達と合流
② 戦略の練り直し】
※クラックした分機の制御権を失いました
※本拠地は地中に没しました
200
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/09(月) 21:36:51
連日の作品投下お疲れ様です。
なんか運営陣の崩壊ぶりがはげしいんですがw
ドツボにはまっていく智機本体のがんばりにいろいろと期待してます。
ケイブリス戦も楽しみです。
288話までのまとめをUPしました。
パスはsageです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1081540.zip.html
願わくば次は新作で書き込みできる事を……。
201
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:11:44
今日も支援感謝です。
◆ZXoe83g/Kw さん、コンテンツの更新、お疲れ様です。
以下13レス、「ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜」を仮投下致します。
次回は「神鬼軍師の本領」。
ケイブリスと紗霧チーム全員が登場予定です。
少々間が空くと思います。
202
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(1/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:14:29
目覚めの契機は、得も言われぬ不快感。
悪霊・勝沼紳一が【私】に触れてきたから。
【私】が直接触れられることなど、未だかつて無かったから。
【私】は反射的に紳一の拒絶し、【私】の住処から追い出した。
《憑依できない! いや、違う! こいつはすでに憑依されている!?》
その後の全てを、【私】は知覚している。
今の【私】は、目で物を見ていないのに。
今の【私】は、耳で音を聞いていないのに。
そもそも、御陵透子は、意識を取り戻していないのに。
それなのに【私】は、紳一の最期に立ち会っている。
未知の感覚器官で。
(―――未知?)
【私】は思う。思い出す。
この感覚は未知などではなく、既知の感覚だ。
記憶/記録の検索。
それに近い外部認識器官で、周囲の様子を捉えている。
何しろ、肉体は未だ覚醒していないのだから。
……どういうことだろう?
【私】は、透子。
それは間違いない。
そこに混乱はない。
しかし、透子とは、【私】の全てを指さない。
そんな気がする。
そこに混乱がある。
203
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(2/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:18:07
そもそも。
何故、肉体が完璧に気絶していることを、【私】は把握できるのか?
脳機能が働いていないのに生じている、この意識は何か?
(そうだ、【私】は―――)
「透子さん、起きて、しっかりして!」
何かを掴みかけたところで、透子の体が知佳に揺さぶられた。
そして覚醒する。
透子の肉体が。脳が。精神が。
それに、引きずられる。
【私】が、【私】を、保てなくなる。
くっきりと分かれていた【私】と透子の境界が融解し―――
【私】は透子として、目覚めた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・2日目 22:45 I−7地点・海岸線・岩場)
「おはよう」
目覚めし透子の言葉は、朝の挨拶であった。
それが元気さから来る物なのか、錯乱から来る物なのか、
仁村知佳には判断できず、歩調を合わせた言葉で応えた。
204
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(3/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:19:48
「おはよう透子さん。大丈夫ですか?」
「だいぶすっきり」
《おうトーコちん、無事でなによりじゃな!》
額から大きく広がる血痕のせいで陰惨な顔つきではあるが、
それでも確かに、透子の表情には清々しさがあった。
透子は袖で以って額の血を拭うと、ぺこりと知佳に頭を下げた。
「ありがとう」
「紳一を、やってくれて」
その言葉は、真心からにじみ出た感謝であった。
透子の気持ちは穏やかに満たされていた。
目的を遂行するにあたっての唯一の懸念事項が解消された故に。
これで、後顧の憂い無く、事に当たれるが故に。
(心置きなく―――)
(死ねる)
透子の目的とは、自らの命を絶つこと。
世界の読み替えが制限されている今だからこそ可能な、
復活も転生も無い、完璧な意識の喪失を迎えること。
「ん」
最小限度の言葉と共に、透子は知佳へと手を伸ばした。
その動きはカオスを返せと告げていた。
そこで、知佳の顔が曇った。
「ん?」
205
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(4/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:21:56
知佳は、下がった。二歩、三歩。
カオスを後ろ手に持ち替えた。
その動きは明らかに魔剣の返却を拒否していた。
「だめだよ透子さん、カオスさんは渡せない。
だって透子さん…… 自殺する気でしょ?」
仁村知佳は、対象への接近/接触によって心の声を聞く。
胸が喜びに高鳴り、自らの終幕一色に染まっている透子の心は、
このXX障害者に筒抜けていたのである。
透子は思う。
せっかく晴れやかな気分になったのに。
これで心置きなく人生に終止符をうてるのだと、
うきうきしていたというのに。
だのに、この博愛主義者は。
折角のいい気分に、水を差すのである。
「命を粗末にしちゃ、だめなんだよ」
透子の表情が消える。
いや若干の悲しみを含んだ色となる。
「それはいいこと」
「だから返して」
短い言葉ながら、知佳に透子の意図は伝わった。
それ、とは透子の自殺を指しており。
いいこと、とは主催者の死を示しており。
返して、とはカオスを表している。
翻訳すれば、こうである。
206
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(5/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:22:55
―――私が死ねば、主催者打倒の達成に近づくでしょ?
透子の提案は、全く正しい。
知佳は迷走に逡巡を重ねてはいるものの、
その根には主催者打倒による決着が据わっている。
であれば。
知佳にとって透子とは滅ぼすべき敵に他ならなく。
まともに衝突すれば、そのテレポート能力に苦しめられるは必定で。
今、剣を渡しさえすれば、その労無くして勝手に死んでくれるのならば。
知佳は、諸手を上げて歓迎すべきである。
それは知佳にも判っていた。
判っていても、割り切れなかった。
「でも、出来ないよ」
割り切るには交流が多すぎた。
割り切るには肩入れしすぎた。
割り切るには借りが大きすぎた。
そして――― 割り切るには、知佳は優しすぎた。
勝手ながら。
知佳は、透子に友情めいた思いを抱いてしまっていたのである。
「じゃあ」
「貴女が、殺して」
透子は目を閉じ、胸を広げ。
そこにカオスを刺し込んで欲しいのだと、知佳に告げる。
この時、知佳の心に、透子の心の声が染み込んできた。
207
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(6/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:25:25
【 どうせ死ぬなら 】
【 私を「かなしいひと」だと思ってくれた 】
【 私の歴史を知ってくれた 仁】
【村知佳の 役に立とう 】
知佳の目に、みるみる涙が溜まってゆく。
嬉しかった。友情を感じていたのは自分だけではなかったことが。
悲しかった。その友の友情から来る提案を踏みにじらねばならぬことが。
「―――それもダメだよ」
真珠の涙をぽろぽろ零しながら。
ひくつく鼻を啜りながら。
知佳は、より強く、透子の思いを拒絶した。
状況も立場も弁えずに、命は大切というお題目を、妄信的に信じている。
先を利を考えずに、今の感情のみを疾走させている。
「わかった」
「じゃあ、いい」
透子とて知佳を困らせたい訳ではない。
故に、透子は諦めた。
カオスを手に入れるを、断念した。
しかし、それはタナトスの誘惑を立ち切ったを意味しない。
【 仁村知佳のいないところで 他の死 】
【に方をしよう たとえば 炎の森に歩いて行っ】
【て 焼け死ぬとか 素敵医師のへんな薬でへんな死に方するとか 】
【 空高くに瞬間移動して そのまま落ちるとか 】
208
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(7/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:27:11
三つ目の自殺方法を思い浮かべると共に、透子は夜空を振り仰ぐ。
透子の心を読んだ知佳もまた、つられるようにそれに倣う。
その、二人の頭上に。
「対象発見」
星さえ見えぬ煙空を切り裂いて、金髪碧眼の天使が降りてきた。
「天使さま……」
自分の蜻蛉の如き羽根ではなく、柔らかそうな白鳥の翼の。
自分の薄ら汚れたどぶ色の羽根ではなく、輝ける純白の翼の。
その神々しさと凛々しさに、知佳は見入った。
「……だれ?」
一方の透子は、なげやりであった。
こんな参加者がいたような、いなかったような、どちらでもいいような。
何の感慨も感動もなく、なんとなく眺めていた。
天使はそれぞれの思いを知ってか知らずか。
ひとたび透子を見やったものの、知佳に目線をくれることは無く。
捕獲対象――― 勝沼紳一の残留思念の側に、降り立った。
《処女》《処女》《処女》《中古》《処女》
紳一が自我を保っていたなら、さぞかし無念を感じたことであろう。
目も眩むような輝きを放つ極上の処女が、目の前に降臨したのだから。
209
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(8/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:28:46
「プランナー様。対象は勝沼紳一でした。
しかし…… 彼は既に【終わって】いるようです。
回収してもよろしいでしょうか」
今の紳一は二度目の死を終えている。
彼の特権は既に剥奪され、残留思念に堕している。
連絡員はそのことを確認し、上司に伺いを立てる。
「ルドラサウムさまはもう、良いと? ―――ではこの情報も回収します」
全き無垢な戦乙女は、例の如く燐光眩しき聖剣を振り下ろし。
哀れな勝沼財閥総帥の魂を刈り取って。
渓流釣りの魚籠の如き壺に、無造作に吸い込んだ。
「回収完了」
そして新たなる魂を探すべく、翼をはためかせたところに。
仁村知佳が怖じつ怯えつ、去り行く天使を引き止めた。
「あのっ、天使さまっ! 聞きたいことがあるんです」
エンジェルナイトは、知佳を完全に無視している。
翼のはためきは止まない。
足元に土煙を飛ばし、今にも飛び立とうとしている。
《無駄じゃよ嬢ちゃん。その無機天使どもは、何も答えやせん》
エンジェルナイトが何者から生まれ、如何なる性質を持つのか。
魔剣カオスはいやという程知っていた。その恐ろしい程の強さも知っていた。
無駄と危険。
その両面から、知佳の無謀な行動を諌めた。
210
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(9/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:31:22
それでもめげずに、知佳は尋ねた。
生きる気力を失っている友の為に。
「透子さんは、まだ、主催者ですか?」
透子の自殺を止めるには絶望を振り払う必要があり、
絶望を振り払うには希望を与える必要があり、
希望を与えるには願いが叶う可能性が失われていない事を証するほかに無い。
―――プランナー様。
―――ルドラサウム様。
天使の言葉から漏れ聞こえた二つの黒幕の名に、知佳は直感していた。
この天使が、透子の去就を知っていると予測した。
そして、賭けた。
透子の主催者としての権利が失われていないという可能性に。
天使は、知佳に目もくれぬ。
カオスの忠告通り、何も答えぬまま飛び立とうとしている。
(答えないなら、答えないで、いい―――)
知佳はその小さな手を、エンジェルナイトに伸ばした。
行かないでと縋りつくように、その裾を掴もうとした。
天使はその手を払おうともしないで。
そもそも手など伸びていないかの如く振舞って。
静かに優雅に舞い上がり。
鳶の如く旋回を見せると、白煙を鋭く突きぬけ、飛び去った。
《嬢ちゃん、わかりましたかね? アレはああいう冷たーい生き物なんですよ?》
211
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(10/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:33:07
カオスの慰撫は無用であった。
知佳は、質問への解答を得ていた故に。
目的は、完璧に達せられた故に。
【プレイヤーとの接触は禁止されている仁村知佳の問いには答えら】
【れないでも私は聞いている誰一人として主催者はその地位を失っ】
【ていないのだとルドラサウム様を楽しませる限りその資格は失わ】
【れないのだとゲームを満了させればその願いは叶えられるのだと】
知佳が天使に向けて伸ばした手は、天使を留める為の手に非ず。
触れる事で発動する、読心能力を使用する為の手であった。
問いかけに、返答は無くとも。
問いかけを、耳にさえすれば。
問いかけが、心に届いたなら。
胸中でその問いかけに対する反応が生まれるのは必然であった。
知佳は茫と佇む透子の肩を激しく揺さぶり、
透子の冷えた心に篝火を点す一言を告げた。
「透子さん! 透子さんはまだ、主催者だよ!」
最初、透子は言葉の意味を理解できなかった。
何度も何度も頭の中でその言葉を反芻し、転がして、漸く意味を見出した。
知佳がこんな時に嘘をつくような子ではないと透子は信頼していたが、
それでもあまりにも都合の良い展開を俄かには信じられなかった。
故に透子は確認する。
ゆっくりと事実を胃の腑に落す為に。
「天使、読んだの?」
「そうだよ」
212
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(11/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:33:51
透子は恐る恐る知佳に問うた。
知佳が力強い頷きで肯定した。
透子の蒼白の頬に血の気が差した。
「まだ、資格、あるの?」
「そうだよ」
透子は痺れる頭で知佳に問うた。
知佳がにこやかな笑みで肯定した。
透子の脱力した五体に力が漲った。
「願い、叶えられるの?」
「そうだよ!」
透子は夢見心地で知佳に問うた。
知佳は透子の手をぎゅっと握って肯定した。
透子の瞳から涙が一滴、零れ落ちた。
「嬉しい……」
「嬉しい……」
花が、咲いた。
静かに涙を流しながら微笑む透子を見た知佳の、感想である。
端正で色白な、無表情で無感心な。
美人ではあれども、どこか作り物めいた。
表情筋が抜け落ちたような。
そんな顔ばかり見せていた透子が、今は。
可憐で多感な少女の顔を、見せている。
「嬉しい……」
「嬉しい……」
213
:
ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(12/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/09(月) 22:34:43
透子は希望を繋いだ喜びに、打ち震えていた。
知佳は、めいっぱい微笑んだ。
友が生きる希望見出したことを、心の底から祝福していた。
二人とも泣いていた。
泣きながら笑っていた。
暖かいものが二人の胸を満たしていた。
「よかったね、よかったね」
「うん、うん」
監察官・御陵透子。プレイヤー・仁村知佳。
二人の可憐な少女は、お互いの並び立たぬ立場を忘れて。
いまは、ただ。
無邪気に喜びを分かち合っている。
↓
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