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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その4

64『伝播のG』:2020/06/11(木) 18:33:04

>>62(林檎)

「有り難うございます。私も、この仕事が好きですから」

林檎の言葉を聞いて、儚が表情を綻ばせた。
『夜の仕事』に従事している林檎にとって、
香水を始めとした化粧品は身近なものだ。
そうした点が、林檎と儚の共通点と呼べるのかもしれない。

「林檎さんも『名刺』をお持ちなのですか?」

    ジッ

「こッ――――『これ』は…………」

意外そうな表情をしながらも、
儚は『林檎の名刺』を受け取った。
そこに書かれた文面を見て、彼女の顔に驚きの色が浮かぶ。
しかし、儚も車内で林檎と空織の会話を聞いていたため、
深く突っ込んでこようという気はないようだ。
無言で名刺を収め、再び林檎に向き直る。
ただ、動揺しているらしく、あからさまに視線が泳いでいた。

「…………ええ、いわば『闘技場』のようなものです。
 『選手』にとっては『力を発散する場』でもありますね」

         ザッ

「実を言いますと、私が『参加している理由』の一つでして……」

              ザッ

「……お恥ずかしい話ですが」

                  ザッ

歩きながら、儚は自身の『出場理由』を語る。
格闘を『見る』だけではなく、
『やる』のも好きなのかもしれない。
隣では、パートナーの空織が周囲を見渡していた。

>>63(空織)

「――光栄です。私も、空織さんのご職業を心から尊敬します」

『衣服』を専門とする空織と、『香水』を扱う儚。
それが、二人の共通する部分だ。
パートナーの林檎といい、
今日は『縁』の多い日なのかもしれない。

「もちろん全ての職業は必要とされているのであって……。
 その……貴賎の差などはないと言いますか……」

「……いえ、何でもありません」

やや歯切れが悪い口調で、儚は付け加えた。
林檎から『名刺』を受け取った時、何やら驚いた様子だった。
理由は分からないが、もしかすると『そのせい』だろうか。

        ザッ ザッ ザッ

歩きながら、周囲に目を配る。
敷地内は、さながら『キャンパス』のように緑が配されていた。
街の中ではあるが、自然と調和しているような佇まいだ。
おそらく、それは計算されたデザインなのだろう。
『ラジオ局』自体の形も、一般的なオフィスというよりは、
どことなく『モダン』で『文化的』な雰囲気が漂う。

>>(両者)

       ガァァァァァ――――――ッ

自動ドアを抜け、二人は『ラジオ局』――
『星見FM放送』のエントランスに足を踏み入れた。
二階建ての建物だ。
階段付近は吹き抜けで、一角がガラス張りになっているなど、
全体的に洒落た造りになっていた。
大手の放送局のような規模ではないが、
機能的に纏まっているという印象を受ける。
やがて、先を歩いていた儚が立ち止まり、受付に呼び掛けた。

「先日お電話した『紅』です。『例の件』で参りました」

「紅様――ですね。少々お待ち下さい……」

受付の女性が、何処かに電話を掛け始める。
『担当者』を呼んでいるようだ。
やり取りを終えた儚は振り返り、口を開いた。

「私の役目は『ここまで』になります。
 じきに『依頼者』がやって来るでしょう」
 
「――――『ご成功』をお祈りします」

       スッ

儚が身を引き、二人に向けて一礼する。
彼女の仕事は『ここまで』だが、二人の仕事は『これから』だ。
成功するかどうかは、空織と林檎の手腕に掛かっている。


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