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【ミ】『撃的』

644東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2021/06/21(月) 23:19:18
>>643

『マサ』さんは、もう長くない。今にも倒れそうな状態のはずだ。
なのに、この身体を締め付ける圧倒的な膂力。これが本当に、失神寸前の男の力か?
自分が『マサ』さんを追い詰めているとは思えない。互いに、一歩後ろは崖の状態で戦っている。

「ぐっううおぉおお…!!」

最後の試合だと『マサ』さんは言っていた。それが事実だとするならこの試合にかける情熱は一入だろう。
だが、だからこそ負けたくはない。ここで負ければ、万に一つも『マサ』さんは戻って来ないだろう。
どちらにしろ、彼が再び『アリーナ』を訪れることはないかもしれない。
それでも、僅かでも可能性があるなら、彼と戦う機会がまた訪れるように。
必ず、勝つ。深く息を吸い込み、頭を振り被る。


>           ゴスゥ!!


無我夢中で放った一撃。力を全て使い果たしたか、意識が遠のく。
敵の状態も自分の状態も、詳しくは分からない。ただ、実況の『電子女』の声だけは聞こえた。
そして、勝者として自分の名前が呼ばれたことも。
まだ実感はない。あるいは、既に自分は絞め落とされていて、これは自分が見ている幻影なのかもしれない。

「はぁっ・・・・・はぁーッ・・・・・!!」

締め付けから解放され、酸素が供給され始めたからか、少しだけ意識が戻ってきた。
『ザ・ナショナル』の姿はない。あるのは眼下の『マサ』さんの姿だけだ。
拍手の音が聞こえる。どうやら、自分は本当に勝てたようだ。
─────念願の勝利だ。本当に、勝ちたかった試合だ。
なのに、勝利を誇り吠える気にもなれない。『マサ』さんに声をかけ、再戦を煽る気にもなれない。


>       「後は、気張りやぁ……」

「………そがいなこと、言うなや………」

何もできず。ぽつりと呟き、歯を食いしばって立ち尽くす。


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