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【ミ】『撃的』

636『その拳はデルタを描く』:2021/06/08(火) 00:55:17
     ブロロロロロロォォォォ――――

     「(アカンな……時間は、ないで……)」

レンタルしたセダン車のアクセルを踏み抜きながら、
『マサ』はミントガムを噛み潰し、苛立ちに顔を顰めていた。
客先から掛かって来た一本の電話。

夜中であっても『電設業』を営む『マサ』には、珍しい時間帯ではない。
電話一本で現場に急行するのも当たり前だ。――――今回は客先が悪かった。

     「(電気トラブル……それも『新幹線』。
       よりにもよって、『瀬川』はんが手ェ入れた翌日たぁ……)」

『瀬川』は『マサ』が経営する『川島テクノ』に所属する『熟練』の老齢職人だ。
中でも『鉄道』に関連する『信号設備』、『照明設備』に関しての知見は深く、
独立して十年足らずの『マサ』がトントン拍子で業績を拡大できたのは、
早期退職した『瀬川』の『人脈』と二人三脚で培った『技術力』の賜物だった。

     P r r r r r r r . . .

     「『瀬川』はん!  解っとる、アンタは間違えない!
      唯、変電設備が狂ってしもうたら、『安心安全』は守れへんやろ!」

     「すぐに現場に向かってくれへんか!?
      ああ、こっちも電話がひっきりなしや!
      客先もカンカンや!  ――――ああ、ワイは……」

『潮時』か。経営者の身でありながら、『瀬川』を始めとする数多くの職人に支えられ、
好き勝手やらせてもらっていた。謎の『出張』にも疑いの目を向けることはなく、
現場を離れた己の代わりに仕事を続け、『こんぺいとう』の土産を受け取っていた。

     「ワイは、――――スマン!  今日はどうしても、外せん用事があるんや!」

『アリーナ』を蹴ってでも現場に向かうべきだった。
……だが、心が燻る。頭を過ぎるのは『記憶』。

――――地元には何でもあると思っていた。東京にも負けないと思っていた。
何もない地方都市だと軽んじていたその町には、己と同じ『スタンド使い』が集っていた。

     ┌──────────────────────────
     | 「『マサ』さん、発想は面白いと思うのですが、
     │  ……いや、私も『技術者』の端くれとして挑戦したいです。
     │  しかし、ここまで大がかりな『ギミック』は――――――
     └──────────────────────────

────────────────────────┐
   「ふざけんじゃねェぞ!  ソースくせぇんだよ!」 .   │
                                    │
   「道頓堀でドタマ冷やして来いやぁ!」           │
                                    │
   「関西のキツいノリを持ち込むなっつうの!」       │
────────────────────────┘

     ┌─────────────────────────────────
     | 「――――『吉田』さん。近々、このステージに『改装工事』を考えている。
     │  万が一、『エクリプス』が攻め込まれた時の『防衛拠点』として、だ。
     │  ……『下水道』に直結させる必要がある。そのついでなら、どうだろうか?」
     └─────────────────────────────────

アウェーの洗礼。ギミックを捻じ込む為の行脚。水圧に耐え得るステージと予算の試行錯誤。
楽しかった。拳が滾る。仲間がいる。胸を熱くする勝利。年甲斐もなく涙した敗北。

        ┌───────────────────────┐
        │「─────『マサ』サン、いっちょ闘りましょうや」    │
        └───────────────────────┘

     「今日だけや。今日が最後や。
      ――――ワイを、今日だけ『男』にしたってくれや!」

          PI♪

『湖西IC』を過ぎる。既に試合開始時間はとうに過ぎている。
――――時は追ってくる。もう大人になってしまった。……この日が来るのは解っていた。
だから、だから今日だけは、あの場所に行かせてくれ。


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