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【場】『 星見スカイモール ―展望楼塔― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:02:24
今世紀に建造された『東海地方』を対象とする集約電波塔。
低層エリアには『博物館』や『ショッピングモール』が並び、
高層エリアの『展望台』からは『星見町』を一望出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
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★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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540鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/23(金) 00:38:16
>>539

(新発売の『黒糖最中アイス』…うん、美味いな)

スカイモール低層階に構えるアイス店、その中にある席の一つに、黒髪の学生服の少年が座っていた。
テーブルの上に買い物袋を置きながら、手にしたモナカに舌鼓を打っている。
ふと、比較的近くの声に反応して、そちらを見た。その声をどこかで聞いた事がある気がしたからだ。

(アレは…日沼さん?)

あの特徴的な髪色は、なかなか見間違えることはないだろう。同じ学年の日沼流月さんだ。
彼女も買い物、あるいは食事にでも来たのだろうか。
以前三枝さんとの会話で話題になったのを思い出しつつ、その様子を追ってみる。
…ひょっとして気付かれるだろうか?

541日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/23(金) 23:51:12
>>540

金とも銀とも言えない不自然色の髪。
流れに逆らった房がいくつかある、特徴的な髪型。
そう、彼女は間違いなく……『日沼流月』だ。

同行している少女も派手な髪の色をしていたが、
着ている制服は明らかに清月と別のデザインで、
彼女の方は、特に鉄にも見覚えはないだろう。

……しばらく同行の少女と言葉を交わしていた日沼。

「…………ん」

        キョロッ

「んん〜〜〜?」

だが…………やがて足を止めた。
そして、目が合ったのだ。

  ルナ
「流月どした〜? なんか面白いもんでもあった?」

そして目が合えば・・・

「面白いってか、あそこ。流月と同じ学年のヤツがいてさ〜〜ッ。
 んでねんでね、なんかあいつに言う事あった気がするんだよね。
 それにほら、こっち見てるし……ちょっと挨拶してくるわ」

        「先、席取っといて!」

鉄の方に歩いてくる、日沼。
気付いたどころか……絡みにくる気満々だ。

「ね、あんたさぁ〜〜〜、えーーーーーと。
  同じ学年でしょ! 清月のさぁ〜、それで、剣道部入ってるよね」

距離を詰め終わる前から、もう声を掛けて来ている。

もはや待ったなし、逃げ場もなし。
この存在、この事態は、鉄の対処可能範囲だろうか……?

542鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/24(土) 00:49:43
>>541

日沼流月の印象と言えば、やはり『不良』というのが個人的な所だった。
同じ学年でも、彼女の存在は時折耳にする。普段なら、あまり積極的に関わり合いにならない方だ。
もしも、三枝さんから彼女が『いい人』だと聞いていなければ。

(友人と買い物か…)モグモグ

その時に、今度会った時に言葉を交わしてみると約束はしたものの。ただでさえ女性が苦手な自分で、
そして日沼さんの同行者もまた女性だった。これは流石に、こう、なんというか、分が悪い。
なので、それは今度の機会にしようと思って諦めた瞬間。

「ッ?!」

目が、合ってしまった。
しかも、接近されている。逃げ場はなし。
いや、そもそもあからさまに人から逃げるのは失礼過ぎるのでできないが。


>「ね、あんたさぁ〜〜〜、えーーーーーと。
>  同じ学年でしょ! 清月のさぁ〜、それで、剣道部入ってるよね」

「あっ」「えっ」「え、あっ、その」

思わず目線を逸らしながら、言葉の内容を頭の中で反芻する。落ち着け、少しはこの前の病院で鍛えたはずだ。
とりあえず、この場は自己紹介だ。初対面には違いないのだから。

「くっ、鉄夕立、剣道部、二年」「ひ、日沼さん、だよね。キミは」

543日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/24(土) 01:37:51
>>542

「そうそう、クロガネ君だ! 流月は『日沼』で合ってるよ。
 んで、別に同い(年)なんだし呼び捨てでいいし。
 流月、サン付けされるほど偉いもんでもないしさ〜」

   「もちろんリスペクトしてくれてもいーけどね」

日沼流月は、不良だ――――レッテルでもなんでもなく、自称している。
補導されたとか極度に生活が乱れているとかは聞かない噂だが、
そういう噂がある人間とつるんでいるのは『事実』だし、隠してもいない。

鉄の既知とは、まるで属性の違う女子だ。
以前考えた通り『三枝』とはまるで違うし、
明るい態度も『今泉』等とは種類が違い、
鳥舟や竜胆、塞川のような『大人』でもない。

とはいえ――――

「それで〜〜〜、なんだっけ。
 流月、あんたに言う事あったんだよね。
 前に頼まれててさ。『千草』……あ〜。
 あんたは『三枝さん』って呼ぶのかな」

「真面目そうな感じの子。あんたと同じで……ぷぷ。
 中等部のね、分かる? あの子から伝言してくれって」

少なくとも『ツテ』はあるようだ。住む世界は違っても架け橋があれば問題は無い。

544鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/24(土) 01:57:20
>>543

>「そうそう、クロガネ君だ! 流月は『日沼』で合ってるよ。
> んで、別に同い(年)なんだし呼び捨てでいいし。
> 流月、サン付けされるほど偉いもんでもないしさ〜」

>   「もちろんリスペクトしてくれてもいーけどね」


(・・・・・・・・・・)

床を見て、少し熱くなってきた頬を擦りながら思う。
大変失礼だと思うが、想像していたよりも、とても気さくで話しやすい人柄だ。
本当に、三枝さんの言っていた通りかもしれない。しかも好都合な事に、今は一人のようだ。
まだ多少は話しやすい。

「オレも」「クロガネで、呼び捨てで、大丈夫」コクリ

そう言って、頷く。

「し、知っている。オレも、キミのことは三枝さんから聞いたから」
「親しみやすくて、そしていい人だ」
「そう言ってたから、彼女が」

「でも、『伝言』?」

それはなんだろう、と首を傾げる。ひょっとして、先に聞いているかもしれないが。

545日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/24(土) 03:31:39
>>544

「そぉ? そういわれると『逆に』君付けしたくなるな〜
 素直に従うのって、なんだか『シャク』だからさぁ!」

    「クロガネ君って呼ぼ。あえて。
     よろしくね。ひひ……ウケる」

いたずらっぽく笑う日沼。
確かに、不良というにはあまり『圧』が無い。
優等生というには、あまりに無遠慮ではあるけれど。

「マジ? ほんと? 千草ほんといい子だわ〜。
 流月のことやたら褒めるんだよね、なんか。
 マジメなのにさ、流月とは『逆』っぽいのに」

  ニヒ…

「いないとこでも褒めてくれてたんだ、泣ける!」

また別の種類の笑いを浮かべて、それから。

「えーとそれで、そう伝言」

「クロガネ……君にお礼が言いたかったっぽいよ。
 なんだっけ、『道に迷ってた時助けてくれてありがと』ってさ。
 伝言遅くなっちゃったから、だいぶ前の話かもだけど!」

大きなことではないが大事な伝言を、無事に伝えた。約束は果たした形だ。

546鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/24(土) 22:31:50
>>545

「…なるほど、『逆に』か。分かったよ、日沼」「…ふふっ」

ウケる、との日沼の言葉に小さく笑って同意する。
この自分たちの見た目で、自分が彼女を呼び捨てにし、彼女から自分に君付けされるというのは
側から見ているとなんとも奇妙で、確かに面白かった。そして笑えば、緊張も少しほぐれる。

「そうだな…三枝さんは真面目でいい子だからな」
「とはいえ、彼女の言葉に間違いはなかったと思っているよ」

伝言の内容に納得して、斜め下を見たまま頷いた。
彼女との出会いのきっかけは、道に迷っていたのを案内したからだ。

「あぁ…三枝さんと初めて会った時のことかな」「律儀な子だ」「君もだけれど。伝言ありがとう、日沼」

「…彼女は生徒会に入ったらしいね」「大きな夢を叶える為に、努力を続けているみたいだ」
「年下ながら、尊敬するよ」

「そういえば日沼は、何かそういう夢はあるのか?」

547日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/24(土) 23:52:53
>>546

「そう、『逆に』ね。それがしっくりくるんだよね」

跳ねた髪のひと房に指を絡めながら、
鉄の同意に頷いて返す流月。

「流月、約束とか『反故』にしないタイプだからさ。
 ま〜あとしばらくしたら忘れてたかもだし、
 あんたのこと探したりしてたわけじゃないから。
 親しみやすいってのは嬉しいけど〜〜〜
 『律儀』とかいい子とかマジメとかそーいうんじゃないワケよ」

「夢とかも……あんま無いしさァ」

「流月、そーいう決まった流れみたいなのに乗るの、ヤダから」

決まった夢を追う道は『まっすぐ』だ。 
切りそろえた前髪以外で、日沼流月に『直線』のシルエットは乏しい。
人は見かけによらないとしても、彼女の『自認』はそうなのだろう。           

「ま〜流月以外で、千草とかもそうだケド、
 そーいう立派な人生考えてる人は偉いと思うけどね」

            「流月はやりたいようにやるだけ!」

『夢』を『決まった流れ』と評するのも、自認に過ぎないのかもしれないが。

548鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/25(日) 00:46:52
>>547

「…成る程。ただの冗談と言うだけではないのか」

日沼の言葉に、何やら己なりの信念のようなものを感じ、笑みを消して頷く。
『反骨精神』、単純に言うとそれが近いだろうか。
流れに同調しがちと言われる日本人の中では、珍しい性質だ。それがしっくりくる、そういう性格という事だ。

「夢に関しては、オレもないんだけどな」「訊いておいてなんだが」

段々と、日沼流月という女性を分かってきた気がする。
少なくとも、今まで抱いていた一般的な『不良』のイメージとは少し違うようだ。
他人への同調を強制する人間にとっては、彼女はそう呼ばれるかもしれないが。

「…もっとも最近は、『目標』程度ならできた」
「日沼。君の周りで何か不可解な事件や、『通り魔』事件とかは起きていないか?」

彼女がもし、人通りの多くない所、あるいは夜に出歩くこともあるなら、何かしら
そういった事件の話を聞く機会があったかもしれない。

549日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/25(日) 01:22:42
>>548

「ま〜ね。流月、『逆らう』のが好きなワケ。 
 なんでもかんでも逆らうワケじゃないけどさ。
 例えば椅子に逆立ちしたりはしないワケだし? ぷぷ」

鉄の考え通り、『反骨精神』――――
それを隠すわけでもなく、日沼は口にする。
そういう性格なのか、そうあろうとしているのか。

いずれにせよ、表情に深刻さはない。

「夢とかあっても、しょうがないよね。
 なんてーの? 目標くらいなら……ん。
 あ、目標あるんだ、何、剣道大会で優勝?
 それとも、ぷぷ、『彼女欲しい』とか――」

           「――――通り魔ァ?」

鉄の出した剣呑な単語への反応も、
少なくとも『実体験』は無いのだろう。

「いや〜。そんなんあったら、テレビなりでニュースになってると思うケド。
 う〜ん、流月の友達の彼氏が隣町の不良にいきなり殴られたとかなら聞いたかな」

出てくる話題も――――不良なりの物ではあるが、『真剣み』が無い。
日沼がずぬけて不謹慎ならともかく、深掘りすればおそらく大した『事件』ではない。

「てか、事件って何で? 目標って、『報道部』に鞍替え? それとも探偵でも始めんの?」

550鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/25(日) 01:34:07
>>549

剣道大会で優勝と聞かれ、首を振る。
既に大会は終わって、ベスト8だ。もしビルでの戦闘後の治療に時間を取られなければと
考えた事もあったが、それは無意味だ。時間は返らないし、何よりその代わりに守れたものがある。


>           「――――通り魔ァ?」


怪訝そうな表情を浮かべる日沼に、少し安心する。目を見られないので、口元だけで判断したが。
あまりそういった話題に関わり合いがないということだ。
『不良』といえど、流石に一般学生の範囲を大きく逸脱しているわけではないか。

「別に、深い理由はないよ」「ただ、最近の世の中は物騒だからな」
「三枝さん、『血』とか『暴力』みたいなのがかなり苦手みたいなんだ」
「そういうのが、彼女みたいな人間に関わらなければ、それに越した事はない」

買い物袋に手を伸ばし、モナカの最後の一口を放り込む。そうして椅子から立ち上がった。

「…ところで、君の目標は?」「何かあるような口ぶりだったけれど」

551日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/25(日) 01:54:54
>>550

日沼は運動部の活動予定をほぼ知らない。
結果などはさらに知らない。振った首の真意も知らない。

「あ〜、ね。確かにね、暴力とか痛いもんね」

            サス

そして――――自分にも抱く感情の捉えづらい、
ほとんど無意識なのだろう動きで、手首をさする日沼。
何の傷跡もないが、記憶から消えるはずはない。

「千草とか見るからにそーいうの苦手そうだしね。
 ああ見えて『逆に』――――ってわけじゃ、
 あんたの言い方からすると、違うっぽいし?」

「あーいう子のこと考えたらさ、学園の近くとかで、
 なんか事件とかあったら怖いってのは分かるわ〜ッ」

内心、日沼は鉄の言葉に引っかかりを感じていた。
目標――――『三枝千草』に危険を近づかせない事が?
恋してんの? と言いかけたが、言葉の真剣味にそれは止めた。

「流月の目標? いや、マジで大したことじゃないけど。
 夢みたいなデカいレールがあると……邪魔だけどさァ、
 全部に逆らってあてもなく歩いてちゃ、どこにも行けないじゃん?
 それはレール歩いてんのと同じで、自分で決めてないってコトでさ。 
 だから、とりあえず今どっちに歩くかってコンパスは、あっていいかなって思うワケ」

           「そーいうのが、『目標』ってヤツなのかなってね。
             今の流月のは、『ボウリングのスコア』上げる事だけど!」

そして、立ち上がった鉄を見て、それから席を確保したらしい同行の少女を見る。
そろそろ立ち話も終えるべきか。挨拶のつもりが、日沼は意外に盛り上がってしまった。

552鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/08/25(日) 02:14:19
>>551

(・・・・・おや)

暴力は痛い、と言って手首をさする日沼に、僅かに眉が動く。
何か暴力沙汰か、あるいは単純に怪我でもしたのだろうか。
ただ、彼女は先ほど身の回りに『通り魔』などは起きていないと言ったし、
何となく、怯えのようなものは感じられない。深く訊ねる必要はないか。

「そうか。確かに、あくまで流れに逆らうだけじゃあ、その流れがなくては行動できないもんな」
「ひょっとしたら、それがキッカケで『ボーリングプロ』になったりするかもしれないし」

流石にこれは冗談だが。
しかし、彼女の行く末もまた面白そうだ。イエスマンが多いと言われる社会で流れに逆らう力を持つ彼女が
己の目標を持ったなら、凄まじい行動力がありそうで。それに惹かれる人間も少なからずいるかもしれない。

自分はそんな人たちの『夢』や『幸福』は守られるべきだと思っているし、そう行動するつもりだ。
特に、戦う力を持たないような弱い人間を襲う『理不尽』は、何よりも許せない。

「それじゃあ、オレは行くよ」「また今度、学校で」

軽く会釈をしてすれ違い、最後に手を振って店から出る。
良い出会いをした。人は見かけによらない、その言葉の意味がよく分かる。
一見『不良』に見えるような人間でも、危険だとは限らないということで。そしてそれは、逆も真である。
これ以上犠牲者が増える前に、止めなければ。その為の備えは欠かせない。

「とりあえず、公園辺りで試してみるか…」

ちらりと袋の中身を確認しながら、一人呟いた。

553日沼 流月『サグ・パッション』:2019/08/25(日) 02:28:31
>>552

鉄の顔に気づくほどは、日沼は繊細ではなかった。
それが今いい方向に働いたかどうかは分からないが。

「みんながすることしないならさ、
 なんか別のことした方が楽しいしね!
 もしプロになったらサイン書いたげるわ」

        スタ

「あーそうそう。流月も人待たせてるんだった。
 てかクロガネくんさ、噂と違って全然喋れるね。
 また学校で見かけたら声かけるからさァ、
 メーワクじゃなかったら構ってよ。 にへへ」

結局目は合わなかったが、
目を見て話すほど深刻な話は無い。
少なくとも、日沼はそう思っている。

「んじゃ、またね〜ッ」

             スタ

手を振り返し、確保してもらった席に歩いていく。

鉄の目標がどこにあるのか、それが何なのか。
今はまだ、知ることはなかった。
回る歯車に、流れに逆らう日沼は巻き込まれない。

                    ・・・少なくとも、今は。まだ。

554三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/13(金) 22:02:40

その日、千草は展望台にいました。
少し考え事をしたかったからです。
何日か前、猿渡先輩に言われたことについて考えていました。

(優しさも真面目さも、それだけでは毒にも薬にもならない)

その言葉を理解したつもりでした。
でも、まだ分からない部分が多いです。
ここ最近、ずっと考えていました。

「――どうしたらいいでしょうか?」

手の中には、『小さな人形』がありました。
昔から持っているもので、悩んだ時に相談すると考えが纏まりやすいのです。
名前は『ビケ』です。

555成田 静也『モノディ』:2019/09/16(月) 20:29:49
>>554

「そういえばまだスカイモールには行ったことがなかったな・・・」

今、オレはある意味での最大の危機の中にいた。

この前の一件ではからずとも手にした40万という学生個人が持つには多すぎる大金をいかに親から隠して
所持するかを苦心している最中にふと現実逃避が頭をよぎった。

そして休日である事もあり家を出て、バスに乗り、なんやかんやでスカイモールまでやってきてしまった。

「・・・考えなしに来てしまったが来たからと言って問題が解決するわけでもあるまいし…」

逃避した意識が現実に戻りため息をついたちょうどその時に

「―――どうしたらいいでしょうか?」と言う声を捕らえた。

その声の方向に顔を向けてみると、小学校高学年から中学の低学年くらいの女の子(?)が
小さな人形に悩みの解決の糸口を問いていた。

どうしたもんかと悩んでいると少女(?)の方がオレの存在に気付いてしまったようだ。

556三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/16(月) 21:29:32
>>555

その子供は、少年にも少女にも見えました。
どちらなのかは分かりません。
かなり背が低いことは確かです。

       チラ

ふと顔を上げると、眼鏡を掛けた方が見えました。
座る場所を探しているのでしょうか?
千草の隣には、誰も座っていませんでした。

「――空いてますよ」

だから、その方に声を掛けました。
見たところ、千草より何歳か年上のようです。
もしかすると、先輩かもしれません。
何となく、何か悩みがあるような表情にも見えました。
千草が悩んでいるから、そう思っただけかもしれませんけど。

        スッ

また人形に視線を下ろします。
きっと、この答えはすぐに見つかるものではないのでしょう。
でも、つい考えてしまうのです。

557成田 静也『モノディ』:2019/09/16(月) 22:49:16
>>556

「ああ・・・どうも。」

バツが悪そうに少年(?)の隣に座らせてもらう。

改めて服装を見たところ同じ清月学園の生徒のようだ。

「初対面で馴れ馴れしいが、なんか悩みでもあるのかい?話を聞く位ならできるぜ。」

やはり放っておけない性質故に目の前の少年の悩みを聞いてみることにした。

558三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/16(月) 23:16:50
>>557

服装はブレザーですが、これは清月学園の制服ではありません。
だから、服装から清月生だと判断するのは難しいです。
ただ、清月は大きな学校なので、清月生だとしても不思議はないでしょうけど。

「いえ……お話するような事では……」

「お気持ちは嬉しいのですが」

        ペコリ

誰かに相談したい気持ちもありました。
でも、それは人に頼る事です。
それをすると『立派な人』から遠ざかってしまう気がしました。

「あの――失礼ですけど」

「何か考え事をしてらっしゃるのでは?」

「よろしければ、聞かせて頂けませんか?」

『立派な人』に近付くためには、誰かのために何かをする事が必要です。
だから、この人の話を聞こうと思いました。
未熟者の千草に、大したアドバイスは出来ないかもしれませんが。

559成田 静也『モノディ』:2019/09/17(火) 00:01:05
>>558

「おや、当てが外れたか・・・。悪いなオレも転入したばかりでまだこっちの制服とか覚えきれてないんだ。」

「それとオレの悩みか・・・正直悩みはすれど大したことはないって断言してもいいかもな・・・」

何しろ自分はスタンドという特殊能力を持ち、それに関係する事件に巻き込まれた挙句に学生には多すぎる大金を
手にしたなんて、一昔前のオレだったら笑い飛ばしているところだ。

「だってさ多く手に入り過ぎた小遣いをどうやって管理しようってのがオレの悩みだぜ?笑っちまうだろ?」

わざとらしいくらいにおどけて見せた。

どうも目の前の少年はあまり詮索されたくないように感じる。本来なら無理に立ち入るべきではないのかもしれないが
性分なのかどうしても放っておけないのだ。

「良ければだけど・・・やっぱり君の悩みも聞かせてくれないかい?」
「人に頼りたくないようだが案外とどん詰まりを打破するのは自分以外の誰かの考えとかだったりするんだぜ?」

560三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/17(火) 00:14:54
>>559

「『貯金』するというのはいかがでしょう?
 若い頃に、あまり大金を持つのは良くないと聞きますし……」

もちろん千草は、その金額を知りません。
多分、お年玉くらいの金額だと思っているのです。
まさか『四十万』だとは考えていません。

「…………言われてみれば、そうかもしれないです」

「聞いてもらえますか?」

ここ数日、ずっと考えていました。
だけど、その答えは出ていません。
もしかすると、一人で考えていても分からないのかもしれません。

「『立派な人になる』という目標があります」

「『優しさも真面目さも、それだけでは毒にも薬にもならない』――――
 ある先輩に、そう言われました」

「それで…………少し悩んでいるんです」

561成田 静也『モノディ』:2019/09/17(火) 01:01:08
>>560

『立派な人』・・・確かにそれは難問だ。

例えばオレの親は社会的に見れば共働きで両者ともにそれなりの役職についている『立派な人』ってのになるだろう。

しかし家庭では本人たちが望む、望まないにしてもロクな会話もする時間もなくお互い不干渉なんて状況だ。

これでは家庭的に『立派な人』とは言えないだろう。

「『立派な人』か・・・大変で難し目標だな。」

「それに『優しさ、真面目さも、それだけでは毒にも薬にもならない』か・・・まあ、そりゃあそうだろうさ。」

「真面目だったり優しいだけだと行動できなかったり、中途半端になって問題が何も解決しない事が多いからな。」
「だから自分で考えて決めたことを突き進めば善かれ悪しかれ事態を動かすことができるもんさ。」

「オレはそう考えてる。あと一人の力なんざ大したもんじゃないんだからもっと周りに頼った方がいいぜ。」
「じゃねえとまたどん詰まりにはまったときに抜け出せなくなっちまうぜ?」

これは先の戦いで学んだことだ。石動さん、スタモンのみんながいなければオレ1人で勝つのは不可能だっただろう。

「こんなところだな。どうだい?これで少しでも助けになればいいんだが・・・」

少年に自分の考えを伝えてみた。

562三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/17(火) 05:18:28
>>561

「いざという時に『決断』して『行動』できる力――ですね……」

「それは、とても大事な事だと思います」

行動が伴わなければならないというのは、自分でも考えていた事でした。
それを他の人から言われたというのは、大きな意味があると思います。
その事が本当に大事な事だと改めて分かったような気がするからです。

「ありがとうございます。お陰様で、とても参考になりました」

      ペコリ

「一人で出来る事は限られているというのも、肝に銘じておきます」

千草は未熟者です。
だから、大した事はできません。
全てを一人の力でやれるとしたら、もっと『立派』になった後でしょう。

「三枝――『三枝千草』といいます。清月学園中等部一年生です」

「あの……失礼ですけど、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「もし何かあったら、その時はお手伝いしたいので……」

「『周りに頼った方がいい』――そうなんですよね?」

563成田 静也『モノディ』:2019/09/17(火) 23:11:31
>>562

「清月学園中等部三年、『成田静也』だ。よろしくな。」

『千草』に握手を求めて手を差し出す。

握手を返された後、思い出したように提案を出す。

「せっかくの縁だしもうひと付き合いしてくれると嬉しいんだが…」

「実はオレ、スカイタワーに来るの初めてでさ、どこか落ち着いて茶でも飲めるところを知ってる?」

照れくさそうに聞いてみる。

564三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/09/17(火) 23:49:40
>>563

「『成田先輩』ですね。どうぞ、よろしくお願いします」

    スッ

こちらからも片手を差し出して、先輩と握手します。
悩んでいる千草にアドバイスをくれた成田先輩は、尊敬できる人です。
その前向きな姿勢は、ぜひ見習いたいと思いました。
そういう人達と、たくさんの出会いを積み重ねていきたいのです。
それが、千草を『立派な人』に近付けてくれると信じています。

「『お茶』――ですか」

「分かりました。ご案内します。
 先輩の趣味に合うかどうか分かりませんが……」

               ニコッ

「――――付いて来て下さい」

人形の『ビケ』を内ポケットにしまい、千草は笑顔で言いました。
頼られるのは嬉しいです。
だから、千草は笑っていたのでしょう。
まだまだ未熟者ですが、いつか『夢』を叶えたいと思っています。
いつか、きっと――――。

565成田 静也『モノディ』:2019/09/18(水) 02:32:03
>>564

千草のその高い志を聞いて、改めて自分の最初の目標である『アリーナ』への挑戦を

覚悟しなければならない。

たしか前に聞いたアリーナの情報を持っている奴の名は―――

とりあえず今はこの店のコーヒーを飲んで一息ついてからでも遅くはないだろう。

566黒羽 灯世『インク』:2019/10/27(日) 02:52:39

髪をツーサイドアップにした、少女がいた。彼女が『黒羽』だった。
薄く長い……すらりと、しなやかな体躯を、振袖のように袖口を広くした学生服で覆い、
モール内の『ゲームコーナー』に備え付けられた、小さなベンチに座っていた。

「…………………」

それだけの話だが……『ゲームをしていなかった』。
UFOキャッチャーを一度やって外したあとは座ったままで、、
鋭い三白眼の、夕焼けのような色の瞳で、店内の何かを見ていた。

「…………………………………」

視線の先にいるのは、『人間』だ。趣味は人間観察、とでもいうのだろうか? ・・・不審者か?

567蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/10/31(木) 22:47:30
>>566

一人の人間がゲームセンター内にいた。
イヤホンをつけ、流れてくる音楽を聴いているのかリズム良く首が揺れていた。
ジップアップのパーカーを身にまとい、その上に和服の羽織を着ている。

「……」

特に何をする訳でもなくうろつき、時々筐体などを覗き込んでいた。

568黒羽 灯世『インク』:2019/11/01(金) 00:29:44
>>567

(! …………。違う。違うのだわ。いえ、違って当然)

(……気を取り直しましょう。
 そうでなくては『強い』とは言えない。
 彼ならもしかすると、例の件を『知っている』かも)

       スゥッ

(学生ではなさそうだけど、ゲーセン慣れしてそうだし)

ベンチから立ち上がった。
大股で歩き、『羽織の男』にゆっくりと近づいて行く。

「ねえねえ、ちょっと。そこのあなた!」

そして声を掛けた。

「羽織を着ているあなたよ。おわかりかしら?
 イヤホンを付けてるあなた。…………今、おヒマ?」

あまり分かりやすい『第一声』ではなかった。
やはり不審者か? ゲームの誘いという雰囲気でも、ない。

569蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/01(金) 00:38:21
>>568

羽織の背中には揚羽蝶の家紋。
暗い色の蝶が体の動きに合わせて舞っていた。

「ん?」

振り返る。
そして、声を発する。

「なに? なんて? 暇って?」

イヤホンは外した。
問題なく会話は可能だろう。

「ていうか、あんた誰? なんか用事でも?」

570黒羽 灯世『インク』:2019/11/01(金) 00:58:20
>>569

揚羽蝶の家紋を見た少女の目は、特段揺らがない。
和装そのものにも奇異の視線はない。
彼女の袖にも、そのようなエッセンスはあった。

「私は黒羽 灯世(くろばね ともよ)よ!
 清月学園で『新聞部』をしている者なのだわ。
 覚えておいて損はない名前だと思うわよ。……で。
 あなたに話しかけた用は、聞きたいことがあるから」

     キョロキョロ

「もちろんナンパとかではないのだわ」

周囲を見渡す。
人は多くはないが、声の聞こえないほど少なくもない。
それを受けてか声を若干落とし、黒羽は続ける。

「『ゲーセン』によく来てる人を、探してるの。
 『ゲーセン』で起きた……『事件』の噂を聞くためにね」

「特に話に心当たりがなかったりとか、
 実はヒマじゃなかったりとかするなら、
 他の誰かを当たるけど…………どうかしら?」

背筋を張っているせいか、口調か、言葉選びか?
どこか『上から』な雰囲気で、黒羽は問いかけてきた。
高圧的と言うには圧力が足りない気はするが・・・『高い』。

571蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/01(金) 19:21:02
>>570

「あぁ、清月の子か。なに」

「ナンパはこっちの方が困るから」

相手が声を落としたのを受けて、少しだけ耳を近づける。
聞くつもりはあるようだ。

「ゲーセンによく来てる人? 星見にいくつゲームセンターがあると思ってるの?」

高い口調に対して物怖じも嫌悪感もない。
実にフラットな態度だった。
さらに上を行こうとする雰囲気も持っていない様子である。

「いや、暇だから別に構わないけど」

「事件ってどんな? 灰皿フリスビーぐらいの話なら聞いたことあるけど」

572黒羽 灯世『インク』:2019/11/01(金) 23:17:23
>>571

「いくつでもある。だから全部回っているところなのだわ!
 まだ本当につい最近追い始めたばっかりだから、
 ここは小さいお店も合わせても『3軒目』だけど……
 今の所、何も収穫がない。しょせん『噂』に過ぎないのかしら?」

「そう思い始めていたところだったの!
 私のその『悪い予感』……
 ぜひとも、ここで断ち切りたい所なのだわ」

            パン

三白眼を細め、笑みを浮かべた。
そしてポケットからスマートフォンを取り出す。

「私がいま追っている『事件』は――――『喧嘩』よ」

喧嘩。
今時、『喧嘩』が『事件沙汰』になるのは『あまり聞かない』。
学校の中での喧嘩は、だいたいが学内で収束する話だからだ。

・・・もちろん、例外もある。

「ものすごく端的に言うと、だけどね。
 『ゲーセン』で『学生同士の喧嘩があった』らしいの。
 日付は今から『7日前』……あくまで事実と信じるなら、だけど」

              ゴソ

「『SNS』に、『目撃情報』が『あった』。投稿『されていた』――のだわ。
 この日、町内のゲーセンで『そういう事件があった』……聞いたこと、あるかしら?」

573蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/02(土) 00:08:17
>>572

「三軒ね。三軒分散見したわけね」

「大変だね……喧嘩のために」

三白眼を細める相手とは対照的に目を大きく開いて見せた。
この人間はそういうタイプではないのだろう。

「SNSに、目撃情報が、投稿されていた」

「……なるほど」

ほんの少し頭の中の引き出しを引っ張ってみる。
知識と記憶の棚から引きずり出す。

「あると言えばあるけど」

「ここじゃないよ、それ」

574黒羽 灯世『インク』:2019/11/02(土) 00:21:35
>>573

「知りたがっている子がいるの。
 別に、喧嘩に興味があるわけじゃないわよ?
 そういうのは、私の領分じゃないし……」

「『戦わずして勝つ』のも一つの『強さ』だもの。フフッ!」

なにに勝ったのかは分からないが、
とにかくそういうことらしかった。

少女の上背はそれなりに――年の割には高いが、
体の薄さを見るに、喧嘩に興味がないのは本音だろう。     

「……って!」

「あら、あら、あら! あなた……なにか、知っているのね!
 いいわいいわ。あると言えば、でいい、聞かせてほしいのだわ」

引きずり出した言葉は、彼女にとって望ましいものだった。
見るからに上がったテンションで、続きをせがんでくる。

「ここじゃないなら……どこかしら?
 やっぱり、治安の悪い『横丁』のほうにあるゲーセン?
 それとも……何か地下とかにあるようなヤバいゲーセンかしら!」

575蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/02(土) 00:34:04
>>574

「勝つんなら別にいいけど」

何と比べての勝ちなのか。
全てか。

「地下ゲーセンは教えられないかな、危ないし」

存在は否定しないらしい。
どこまで本気なのだろうか。

「うん、まぁ横丁の方だよ。やっぱりそういう土地だからかな」

「学生の喧嘩だろ。スジも通るでしょ」

576黒羽 灯世『インク』:2019/11/02(土) 01:05:56
>>575

「本当にあるの? 『地下ゲーセン』……いえ。
 今日はそれは深入りしないでおくのだわ。
 それより……横丁、やっぱりあっちの方なのね」

          チラッ

「あそこは『駅』の向こうだし、
 『学生』はあまり近寄らない。
 だけど。『不良学生』ならむしろ近寄る!」

『清月学園』や『スカイモール』は、
駅前を挟んで町の『北部』に位置する。
『大通り』なども含め、『北』に多くが集約している。

『歓楽街』だけが、『駅南』にある。
それは物理的な壁ではないが、学生心理には働きかけるものだ。

「先に巡っておくべきは、むしろあっちだったのだわ……!
 有益な情報をありがとう。これで『事件』にまた一歩近づける」

         ゴソ…

そして・・・上機嫌そうな笑みを浮かべて、財布を取り出した。

「そうだ。あなた喉は乾いていない?
 お礼に『缶ジュース』を『おごってあげる』のだわ!
 フフッ! 『エナジードリンク』はだめよ。だって、200円するから」

577蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/02(土) 01:17:57
>>576

「どう思う」

あくび混じりにそう告げた。

「乾いてるけど、おごりはいい」

「学生から巻き上げるようなことはしない」

大人だから、という感じではなかった。
純粋に君から何かを受け取るつもりがないようである。

「事件に近づいてどうするつもりなんだい」

「別に構わないけど、何かしたいことでも」

578黒羽 灯世『インク』:2019/11/02(土) 01:39:56
>>577

「私のジュースが欲しくないの?
 まあ、欲しくないなら別にいいけど……」

        ゴソ…

残念そうに、財布をポケットにしまい直した。
奢る事で『上を取ろう』としていたのかもしれない。

「何かしてやるって気でもないのよ。
 犯人を捕まえたいとかもないし。
 ただ……『記事』を書きたいだけ」

             フフッ

「だって、私、新聞部だもの」

「あのねあのね、この『事件』……発端に謎が多いのだわ。
 さっきもちょっとだけ言ったからおわかりかもしれないけど、
 真相を知りたがってる子もいる。ある事ない事言ってる子もいる」

          ジリ

ツーサイドアップの右側を指先で弄ぶ。

「聞きたいかしら? どんな謎があるか。
 ……聴きたいなら差しさわりの無い範囲で教えてあげるのだわ。
 ま、聞きたくないなら別にいいけど! フフッ……学生の話だし」

579蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/02(土) 01:51:25
>>578

「飲み会の上司みたいな言い分だな」

『私のジュースが欲しくないの?』という言葉は初めて聞いた。
酒に変えたら上司のニュアンスだ。
なんなので乗った方が良かったのかもしれない。

「新聞部ね」

ジャーナリズム的なものだろうか。
別に彼からすれば推奨する理由も止める理由もない。

「まぁ、聞きたいかな」

「学生の話だしね」

580黒羽 灯世『インク』:2019/11/02(土) 02:19:51
>>579

「あら失礼、あんまり『上等』じゃなかったかしら……」

「何かお礼をしたかったの。
 一方的に『貸し』があったりすると、
 それで『下』に見られたりするでしょう?」

飲み会、というたとえに、
『良くなさそう』な響きを感じたらしい。
弁解のようなことを言いつつ・・・

「フフフッ、聞きたいのね!
 それじゃあ聞かせてあげるのだわ。
 そう、もちろん『お礼』とかは結構よ」

「……さて」

             スイッ

シンプルに飾られたスマホの……画面を見せてくる。

「『謎』の一つは……『現場を見た証言』。
 SNSからはすでに削除されてるから、スクショだけど」

写真アプリが立ち上がっており、
表示されているのは確かに『スクリーンショット』だ。

            スッ

「ほら、これ。おわかりかしら?
 ――『清月生がゲーセンでケンカしてて』」

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
「『触られてもないのにブッ飛ばされてた』……『謎』としか言えない」

581蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/02(土) 09:08:38
>>580

「見ないよ下になんか」

「貸し借り云々も特に感じないし、気にし過ぎ」

弁解じみた言葉に価値観を上乗せ。

「触れてもないのにぶっ飛ばされてた」

「謎、ね」

謎だろう。
普通の人間からすれば、それは確かに謎だ。
しかし多くの物事がそうであるように、今回のことも見るものが見れば理解出来る。
知っているか知っていなかいかの境界線。

「……」

「そういうこともあるもんだね」

「悪霊のせいかもよ」

582黒羽 灯世『インク』:2019/11/04(月) 09:34:18
>>581

「そう………………かしら?
 まあ、そういう考え方も一つの『強さ』ね」

「物理的な『高低差』ではないものね、
 気にしないなら……無いのと変わらない」

著しい反応はない。
理解はしているが、共感ではない顔だ。

「……そう、『謎』」

     コクリ

「そこは要点とは言えないから残してはなかったけど、
 投稿者と会話相手はこの後『ゲリラ撮影』…………
 SNSでバズるための動画の撮影だったと結論付けた。
 実際…………それも『ありえる』話なのだわ。
 調べてもそんな動画は今の所投稿されてないけど、
 クローズドなコミュニティまでは調べきれないし」

「だからこそ『目撃者』を探してるの」

SNSの発達で、世界には『主観』が溢れかえった。
主観は事実とは違う…………とも言い切れない。
電子の羽は確かめる術に欠ける。それを、黒羽は現実の足で補う。

「もっとも、悪霊の仕業なら……フフッ、
 『目撃』は、出来ないかもしれないけど」

「『それもありえない話じゃない』…………のだわ」

知っているか知らないかの境界線。
彼女は…………『知らない』。

己も持つ『力』のサンプルが、この時点では少なすぎた。
悪霊と言うには穏当な力のみを、ほんの僅かに知っている。
だから即座には結びつけられない。が、可能性を受け入れる事は出来た。

「……さて! さっそく横丁のゲーセンに行ってみないと。
 今日はどうもありがとう、上等な取材が出来たのだわ!」

そして行くべき場所を決めた少女は、その場から立ち去ろうとする。

583蝶名林ルロイ紗英『ボブモ』:2019/11/04(月) 20:55:49
>>582

「目撃者ねぇ……」

「なぁるほど……?」

薄い笑みが顔に浮かんでいた。

「はいはい、上等どうも」

「……はは」

立ち去ろうとする少女を止めはしない。
その代わり、餞別替わりの体験を。
傍らに立つ人型のヴィジョン。
その名を呼ばれない。

584黒羽 灯世『インク』:2019/11/05(火) 05:59:20
>>583

「…………!」

その『名前』は知らない。
だが『意味』は分かった。

「あなた、それ……ッ! 『そう』なのね……」
 
(『可能性』はあると、思ってはいたけど……
 そう、そうだわ、『人型』ならそれが簡単に出来る!
 私の『インク』には出来ないからって先入観があった!)

それは勿論……『自白』ではないと、黒羽には分かった。
実体を持たない『力』の持ち主は『一人ではない』。

「そして『そういうこと』だと……」

>《これは、『ついで』に話すんだが……。
> 俺が出くわしたスタンド使いは、アンタで五人目だ。
> その中で『人型』じゃなかったのは、アンタと『鎖の男』だけ》

そしてその中でのマジョリティは、恐らく『人型スタンド』だ。
あの時は『鎖の男』の存在を重視していたが、点と点が繋がり線になる。

(ますます有益な『気づき』を得られたのだわ…………!
 この事件には『スタンドが絡んでいる』と考えたら自然になる!
 それなら、 『ありえない状況』が見間違えやフェイクとは限らない……!)

そのまま、それ以上の追及はしない。
立ち去ると決めているし、見せた意図は実際は謎だ。
危険がないとは言い切れない……そうでもなくとも、
無言でただ、見せた。つまり『語る』気は無いという事。

         チラ

(……彼にこそ聞きたい事はゼロではないけど、それは今じゃなくっていい)

立ち去る前にもう一度、その姿を見ておく。

スタンドについての話など聞いてみたいところはいくつかあったが、
今はその取材ではない。人は話題の塊。横道に逸れようとすれば無限に逸れられる。
だが、本質を見失う事になる。『好奇心』と『ジャーナリズム』は別だ。

…………いずれまた、会う時があれば。今日の事はメモ帳に書き留めておこう。

585ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/13(水) 21:33:53

『女』がいた。
白、青、紫のトリコロールカラーの髪色の長髪の女だ。
逆巻いた『羽衣』を背中に備え、両腕に『羽毛』が覆われ、
踵から『蹴爪』が生えている。

(こうして違った視点で『空から眺める』のも、また一興。
 普段ここまで高く飛ぶ事も、そうありませんけれど)

(そんな事をしてもエネルギーの無駄遣いですものね。
 こういうものを指す『言葉』が何かあったような……)

(…………『省エネ』?)

展望台の一角に腰を下ろして、街を見下ろす。
今は人気がないが、この格好は否応なしに目立つ。
もし誰かが来たら、目に留まるかもしれない。

586ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/15(金) 00:25:59
>>585

「…………『低燃費』?いえ、『ダイエット』?」

「あっ、『経費削減』?」

ブツブツと独り言を言いながら、その場を後にした。

587美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/05(木) 21:07:02

気分転換のために、ショッピングモールを歩いていた。
考えているのは、少し前にあった出来事についてだ。
気付いたら、何故か『救急車』に乗せられていた。
これといって異常はなかったので、すぐに降ろしてもらったのだが。
それにしても、一体何があったのだろうか?
生憎、その時の記憶は全く残っていない。
馴染みのバーで少し飲み過ぎた所までは覚えているが……。

「何だか知らないけど、この寒いのに上着を脱いでたし――――」

「頭の後ろに『タンコブ』は出来てたし――――」

「まぁ、『声』に傷が付かなかったのは幸いだけど」

とはいえ、記憶がないというのは不安だった。
何か、人に迷惑を掛けるような事をしていないだろうか。
そのような事を思いながら歩いているため、やや前方不注意だ。
もしかすると、誰かにぶつかるかもしれない。
あるいは、ぶつかる直前で気付くかもしれないが。

588不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/05(木) 23:52:45
>>587

「おっと」

かっ、と靴の音がした。
スニーカーからは出ないような硬い音だ。
音の主はぶつかりそうになった美作の前で立ち止まる。
ファーの着いたモッズコートのフードが揺れた。

「考え事かい、お嬢さん」

589美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 00:31:21
>>588

「ああッ!気付かなくってごめんなさい」

「ちょっとボンヤリしてたもんだから……」

    ザッ

「危うく傷が増える所だったわ」

慌てて立ち止まり、相手の姿を確認する。
初めて見る人間だった。
知り合いと偶然出くわす方が少ないとは思うが。

「そう、考え事をしてたの。どうも記憶が曖昧で……」

「それはそうと――素敵なコートね。よく似合ってるわ」

自分とは雰囲気の違うファッションを眺めて、率直な感想を漏らす。
引き締まっているような印象を受けた。
カジュアルファッションの自分とは、方向性が異なる。

590不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/06(金) 01:49:05
>>589

「別に構わないよ、私も考え事をしていたのは同じだしね」

そう言って薄く微笑む。
そして、美作の言葉に眉が八の字に曲がった。

「おや、怪我をしているのかい? ……それは大変だね。貴方のような人が傷を負うなんて悲しいことだ」

嘘っぽい感じはしない。
挨拶、というよりも本当に身を案じているようだ。
そういう人間なのだろう。

「ふふっ、ありがとう。貴方の素敵ですよ」

コートのジッパーがあげられているので中の服は分からないが、裾からダメージジーンズがのぞき、足元には黒いブーツがあった。

「記憶が曖昧と言ってましたけれど、何かありましたか?」

「どこかで頭を打った……とか?」

591美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 02:11:38
>>590

「いえ、怪我っていっても大したものじゃないの」

「まあ、頭にタンコブが一つ出来たくらいで」

言いながら、帽子の上から後頭部に触れる。
彼女の心配が言葉だけのものではない事は感じ取れた。
初対面の相手を気遣うというのは、中々出来る事ではないだろう。

「ええ、頭を打ったのは確かだと思うわ。
 何せ、こうして立派なコブを作ってるくらいだから」

「ただ、どうして頭を打ったのか覚えてなくて。
 その時は少しだけ飲み過ぎてたみたいで……多分そのせいね」

    アハハハ…………

バツが悪そうに、軽く笑う。
深酒して悪酔いするような事は余りない。
しかし、様々な要因が重なれば、そういう事も時として起こり得る。

「気付いたら、救急車の中にいたのよ。
 体は何ともなかったから、途中で降ろしてもらったんだけど」

「あ――『タンコブ以外』はね」

「理由は分からないけど、何故だか上着も脱いじゃってたし。
 何かやらかしてなければいいけど……と思って」

592不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/06(金) 02:23:54
>>591

「タンコブでも怪我は怪我さ」

「飲みすぎるというのも考えものだね……」

顎に手を当ててそんなことを言った。
なにか納得するような表情だった。

「救急車……それは驚いただろうね」

「上着まで、か……本当に何も無いならいいけど……あぁ、別に驚かそうって話ではないんだけどね」

状況が状況だけに気になったのだろう。
季節のこともあるし。

「まぁ、タンコブひとつで済んで良かったと言うべきなのかな」

593美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 02:46:04
>>592

「そうそう、『酒は飲んでも飲まれるな』って昔から――――」

「あはは……反省しなきゃね」

「ホントにタンコブだけで済んで良かったわ。
 何もなくしてなかったし、ヘンなコトも……多分されてない」

「逆に、『私がヘンなコトしてない』って保証はないものね。
 アハハハハ!
 …………何もしてない事を願うわ」

「誰が救急車を呼んでくれたかは知らないけど、
 きっと見ず知らずの人間を心配してくれる優しい人だったんだと思うわ」

出来るなら、会ってお礼を言っておきたい所だ。
もしかすると、何か迷惑を掛けているかもしれないし。
ただ、何処の誰かも分からないではどうしようもない。

「――――丁度あなたみたいにね」

    フフッ

「とにかく、その『誰か』のお陰で風邪も引かずに済んだわ。
 職業柄、喉の調子を崩すのが一番困るから」

声に悪影響が出なかったのは有り難かった。
何しろ、声で全てを伝える職業なのだから。
喉を潰してしまっては、仕事に差し障りが出てしまう。

594不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/06(金) 03:14:28
>>593

「どちらに転んでも、無事では無いかもしれないということだね」

笑う美作に笑みで返す。
深刻な話というよりも美作の笑い話として受け取り始めているのだろう。
琥珀色の目は確かに笑っていた。

「ん? 私かい? 何だか分からないけれど、貴方がそういうなら素直に受け取っておこうかな」

「ありがとう!」

爽やかな雰囲気だった。

「喉の調子って言うと話をする仕事かな? 営業職……というにはちょっと違うな……ふふっ、ちょっとしたクイズみたいだね」

「貴方の謎だ」

595美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 03:34:00
>>594

「どちらに転んでも――ね」

「本当に『転んだだけ』なら良いんだけど。
 ただ転んで頭を打ってコブを作ったっていうだけなら」

「でも、たとえ転んでもタダでは起きない性分だから。
 これも一つの話題になったと思えば、むしろお得よね。
 物事はプラスに考えなきゃ」

    ニコリ

至って明るい雰囲気で、朗らかに笑う。
酔って記憶をなくしたというのは、決して良い事ではないだろう。
しかし、トークの引き出しが一つ増えたという考え方も出来るのだ。
そう思えば、必ずしもマイナスにはならない。
もっとも、また同じ経験をしようとは思わないが。

「クイズ――――良いわねぇ。気に入ったわ」

「せっかくだから、この謎に少しだけ付き合って貰える?
 私の職業を当ててくれたら……
 そうね、ささやかなプレゼントを差し上げるわ」

「あなたの言う通り、お話をするのが私の仕事よ。
 でも、面と向かって話をする訳じゃあないんだけどね」

    フフッ

「――ヒントの方は、これくらいで十分かしら?」

596不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/06(金) 03:55:27
>>595

「これは上手く返されてしまったね」

また、くすりと笑う。

「あぁ、もちろん。貴方のように美しい人に付き合えるなんて光栄だね」

クイズに乗る意思を示し腕を組む。
どこか余裕そうな笑みを浮かべたまま、考える体勢に入った。

「面と向かうわけじゃない……となると落語家だとか漫才師はない……あぁ、頭の回転が早いようでしたので」

「……コールセンター、いやしかし……」

「ナレーター、アナウンサー、声優、話す仕事……」

「でも、貴方を画面の向こうで見たならきっと覚えられていたはず……」

目を瞑って思考を繋いでいく。

「ラジオのお仕事かな?」

597美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 20:13:54
>>596

「お見事!私のお仕事は『ラジオ・パーソナリティ』」

    パチッ

流れるように軽やかにウィンクして見せる。
こうした目に見えるアクションは、声では伝えられない。
まさしくボディランゲージならではの表現手段と言えるだろう。

「それでは、正解したあなたに賞品を差し上げます」

    スッ

ジーンズのポケットから名刺入れを取り出し、一枚を抜き取る。
恭しい動作で、それを目の前の相手に差し出した。
そこには、『美作くるみ』という名前が見て取れる。
『Electric Canary Garden』というのは番組名らしい。
『電気コードの付いた小鳥』のイラストが、隅の方に添えられている。

「はい――これが私からのプレゼントよ。受け取ってくれる?」

「んー……お返しと言っては何だけど……」

「あなたの名前を教えてくれない?」

「それで『おあいこ』っていう事で――――ね」

598不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/06(金) 21:39:35
>>597

「ふむ、当たってよかったね」

(まぁ、ラジオ関係ってだけならアナウンサーも、ナレーターも該当するんだけどね)

正確に当てるのではなく少しぼかした表現を使ったらしい。

「どうも……美作くるみ、ElectricCanaryGardenね……覚えておこう」

名刺をポケットの中に突っ込んだ。

「ん。名前か。そうだね」

「不知火琥珀、それが私の名前だよ」

599美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/06(金) 22:50:19
>>598

「『不知火琥珀』さん――――イケてる名前じゃない。
 そのままでもデビュー出来そうね」

    クスッ

「何だか長い立ち話になっちゃったわね。
 話を聞いてくれてありがとう。
 おかげ様で、少しスッキリした気分になれたわ」

「そうそう……もし良かったら『電話』してきて。
 その時は、私があなたの話を聞かせてもらうから」

           ザッ

「――――それじゃ、またいつかお会いしましょう」

    ニコリ

笑顔で片手を軽く振って、また歩き出す。
特に行き先は決まっていない。
少し軽くなった心で、気の向くままに歩いていく。

600不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/07(土) 01:52:32
>>599

「えぇ、また」

「素敵な貴方――――美作くるみさん」

言葉と微笑みを返す。
美作を見送る。
この女もまたどこかに消えているのだ。

601日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/09(月) 02:22:13

お金は目に見える価値の典型例だ。
けど、自分だけのための価値じゃない。
一番たくさんの人が使えてそれは大事だ。
けど、自分だけのための価値に代えるためのものだ。

『10万円』が、ある。
宝石という形である。
いつでも『10万円』に出来る。
そう思うと手持ちのお金は羽が生えたようだった。

「買いすぎちゃったな〜」

休憩スペースの椅子を三人分占領していた。
体は広げるどころか縮めていた。両手で持っていた買い物袋のせいだ。

買い物を終えたのは良いが、帰るのに困り、途方に暮れていた・・・・・・

602ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/09(月) 23:17:28
>>601

『カイコガ』を思わせる独特の風貌の少女の視線の先。
その前方から『鳥』のような女が歩いてきた。

背中に『羽』、両腕に『羽毛』、踵に『蹴爪』。
白、青、紫の三色の長髪をポンパドール風に纏めている。
もし知っていれば、彼女が『鳥とのコミュニケーション』を売りにする、
『ストリートパフォーマー』だと分かるかもしれない。
もちろん知らなかったとしても不思議はないだろう。

……そして、彼女の正体が『インコ』である事は誰も知らない。

(大空ではないにしても、こういう『空』も乙なもの)

『スカイモール』――ここから外を見た時の眺めは中々悪くない。
そう思い、ここ最近ちょくちょく来ていたのだった。

603日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/10(火) 22:04:00
>>602

(あれ。今日って『ハロウィン』だったかな〜?)
(クリスマスが今年もやってくる、季節なのに)

「んん〜〜〜」

奇怪な女だ。見たこともない…………
いや、見たことがあるような気はする。
知り合いではない。それが『確かなこと』だ。

「もしもぉーし、ねえねえそこのお姉さん」

こんな知り合いがいたら絶対に忘れない。
ともかく、気になった。立ち上がった。

そして声を掛けた。

「ねぇー、もしかしてあなたって……『トリ』?」

鳥のような風貌で、鳥を使うパフォーマーがいる。
そういう意図での言葉だが……『どう受け取られるか』

604ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/10(火) 22:59:23
>>603

    ピク…………

そこを通り過ぎようとしていた所だった。
しかし、呼び掛ける声を聞いて足を止める。
瞬間的に、『言葉の意味』について考えを巡らせる。

(『正体』を知られた?……いえ、有り得ない)

(決して有り得ない。絶対に有り得ない。何が起ころうと有り得ない)

『正体の秘匿』は完璧だ。
少なくとも、自分の感覚では『完璧』だと断言できる。
ゆえに、『知られた』などという可能性は有り得ない。

(ただ一つだけ可能性があるとすれば……)

唯一知っているのは『音仙』だけ。
彼女が『秘密』を漏らしたという可能性だ。
だが、彼女は『そういうタイプ』ではなかろう。
つまり、『秘密を知られた可能性』は皆無である。
そのように結論付け――――少女に歩み寄っていく。

「ええ、私は『鳥』です。
 鳥達と自由自在にコミュニケーションを取れる私を、
 そのように呼ぶのは決して間違いではありませんわ」

「しかし、もしお嫌でなければ、次からはこうお呼び下さい。
 『ストリートパフォーマー』の『ハーピー』と」

「私は、そう名乗っておりますので」

そう言って、恭しい動作と共に挨拶する。
相手の言葉を肯定しているようだが、
決して『正体』を明かした訳ではなく、そのつもりもない。
何でもかんでも『隠せば良い』というものではないからだ。
全てを隠し通すのではなく、急所に触れられない限りは、
敢えて認めてしまう方が安全な場合も多い。
『この身分』を名乗っているのも、そのためだった。

605日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/11(水) 09:41:51
>>604

「『ハーピー』! そういう名前だったんだねえ」
「メイクすご〜い」

          バサッ

「というか、特殊メイク〜?」

近付いてきたら、遠くから見るより『スゴイ』な。
驚いて思わず手を広げる。マントが大きく動く。
大きく見せるためのマントブラウスだから、それでいい。

「友だちがね、見たことあるって言ってたんだ〜」
「トリとお話しして好きに動かせるヒトがいるんだって」

「確かに……『見るからに』話せそ〜」
「『バイリンガル』って、頭良さそうで憧れる」

              ニコ…

「ねえねえハーピーさ〜ん、『鳥語』ってさあ、勉強して覚えたの?」

鳥と話せたら楽しそうだ。フライドチキンは、食べづらくなるか・・・

606ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/11(水) 20:23:42
>>605

「お友達はご存知のようですね。そう、その『ハーピー』です。
 私は色々な場所で『仕事』をしておりますから」

「――この機会に是非お見知りおきを」

「ご披露したい所ですが、生憎ここには『鳥』はおりませんので。
 申し訳ございません」

実際は一羽だけいる。
正確には『人に化けた鳥』が。
そして、それは知られてはならない『秘密』だ。

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

この格好は目立つ。
自然界において、目立つ事は命取りにもなりかねない。
それは人間界でも同じ事だ。

「私にとっては、これも『仕事』の一部ですからね」

だが、一方で違う部分もある。
自分から『目立つ事が必要な職業』を名乗れば、
必要以上の追及を避けられるという事だ。
そうする事で、ブリタニカは正体を知られる事なく、
人間界に溶け込んでいた。

「お見受けした所、あなたも『羽』をお持ちのようで」

「――お仲間ですね」

    バサァッ

少女の動きに合わせて、羽毛に覆われた両腕を広げて見せる。
そして、彼女が身に着けているマントブラウスを眺めた。
自分の翼とは違う趣を持った人工の羽。

「……『鳥語』ですか?」

「私は『ハーピー』ですもの。だから話せるのですよ」

人間界には、悪魔を名乗るミュージシャンもいる。
そして、その事に対して誰も突っ込みを入れたりはしない。
何故なら『無粋』だからだ。
だからこそ、自分もハーピーを名乗っている。
大抵の人間は、『そういう演出』だと納得してくれる。

「もしも私が『ハーピー』」でなければ出来ない事だったでしょう」

もっとも、時には納得しない人間もいる。
そういう相手に対しては、
『研究』とか『訓練』とかいう言葉を出す事にしていた。
それで、ほとんどの場合は解決する。

607日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/12(木) 00:38:09
>>606

「うんうん、覚えとくし、忘れないよ。約束する〜」
「また鳥がいるときに芸は見せてもらうとして」

      キョロッ  

   「ハネぇ……?」

        キョロッ

「ああ〜、このマントのこと! これね〜、飛べないけどね」
「んふ、『虫の羽』だからさ。でも食べないでねぇ」

大きく広げた両手で、マントの両端をつかんで、拡げた。

私の好きなカイコガは飛べない虫だ。
人間に世話をされて生きる。ずっと。ずっとだ。

「そっかあ、そうだよねえ」
「『喉』が違うもんね、『ハーピー』と人間だと」

鳥語。
実際のところ、信じる根拠なんてない。
目に見える根拠がない。
が、あえて疑ってかかる理由も、またない。

「ちなみに、どんな鳥とでも話せるの?」
「鳥っていっても色々いるし〜、ハトとカラスとか違う言語っぽいけどねえ」
「『ハーピー』さんは鳥のマルチリンガル? それとも『共通鳥語』みたいなのがあるの?」

608ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/12(木) 01:19:46
>>607

「フフフ、食べませんよ。今は食事には不自由しておりませんので」

最近は、店売りの『鳥用フード』が主食になっている。
たまには『動物タンパク質』も摂取すべきかもしれない。
舌が肥えてくるのも考え物だ。

「『個人差』はありますが、私の場合ですと、
 どちらかというと『種類』よりも『生息地域』によります」

「カラスとハトは『種類』は違いますが、
 『生息しているエリア』は同じようなものです。
 近い場所に住んでいると、
 最低限のコミュニケーションを取る必要が出てきます。
 そうしないと、『トラブル』の元ですので。
 ですので、『種類』が違っても、
 ある程度の意思疎通が可能なケースは少なくありません」

「そういった訳で、この地方に住む鳥とは全て話せます。
 この地方に限らず、大抵の鳥なら問題ありません。
 もちろん、多少の違いはありますが……。
 いわば『方言』のようなものですわ」

「あまりにも環境の違う場所で暮らしている鳥だと、
 固有の『訛り』が強すぎますので、ヒアリングは難しくなります。
 その場合は『外国語』に近いですね」

「――――そういった所です。お分かり頂けましたか?」

人間の言葉で説明すると、どうしても長くなってしまう。
こういう時は、実際に披露できれば手っ取り早い。
一瞬、短く息を吸い込む。

         「 『♪』 『♪』 『♪』 」

「……今お聞かせしたのは、最も基本的な『挨拶』の言葉です。
 『敵意がない』事を示す言葉でもあります」

発声器官である『鳴管』を震わせて、『鳥のような声』を発する。
普段は、こうして野鳥達を集めている。
今は他に鳥がいないので、独り言にしかならないのだが。

609日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/12(木) 02:06:17
>>608

「や〜ん不自由してたら食べるみたいな言い方〜」
「胸の肉『1ポンド』くらいなら売ってもいいけど」

     ニコォ…

「でも1ポンドってどれくらいか分かんないな〜」
「んふふ」「もちろん冗談だよ、全部ねえ」

自分の肉を食べたことはないけど、多分まずいだろう。
それに痛いだろう。だからこれは冗談だ。
出来るけど、やらない。

「そっか〜。方言って言われたら、そうなのかも」
「私も『ロシア語』とか全然わからないもんね」
「聞くのも読むのも書くのも……」

「鳥語も、分かんないって意味ではおんなじかな〜」
「声真似するにしてもいくつも覚えられないだろうし」

鳥の言葉と人間の言葉はそもそも違う。
ハーピーさんみたいな声は自分には出せないと思う。
いや、本当にどこから出してる声なの? ってなる。

「ねえハーピーさあん、『うちのゴミついばむのやめて』ってどう発音するの?」
「それだけ練習してカラスを追い払えるようになりたい」

「それともそういうの教えちゃうと、『人間びいき』で鳥にひんしゅく買っちゃう〜?」

610ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/12(木) 02:50:39
>>609

「ええ、もちろん分かっております」

「――――私の事も食べないで下さいね?」

「フフフ、これも冗談ですわ」

人間は鳥を食べる。
その範疇に『インコ』が入らないのは幸いだ。
もっとも、鳥も空腹が極限に達すれば、
人の体を啄ばまないとは限らない。

「いえ、お教えしても構いませんよ。
 鳥と人間の間を仲介するのも、仕事と言えば仕事ですから」

「ただ、その言葉だけを覚えても、大きな効果は見込めないかと。
 彼らは、そこが『有益な餌場』であると認識しているからこそ、
 その場所に来る訳です。
 彼らの認識が変わらない限り、何度でも来るでしょう」

「つまり、言葉で退去させるには『交渉』が必要になります。
 一つの言葉だけでは、『会話』が成り立ちませんので。
 『挨拶』のように簡単な言葉であれば別ですが……」

「もし『交渉』するのであれば――――
 『ウチのゴミ啄ばむの止めて』よりは、
 『もっと良い餌場がある』と言った方が食い付いてくるでしょう」

「そうですね…………では、こうしましょう。
 私が現場に出向いて、直接彼らと『交渉』します」

「この件を私に任せて下されば、
 『三日以内』に解決してご覧に入れます。
 彼らに、『もっと良い餌場』を紹介するアテがありますので。
 そうすれば、もう二度とゴミを啄ばみに来る事はなくなるでしょう」

「――――いかがです?」

要するに、彼らを『ハーピー』の傘下に加えるのだ。
パフォーマンスに協力してくれる代わりに食料を供給すれば良い。
今『契約』している野鳥達とも、そのような取り決めを結んでいる。

611日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/13(金) 11:34:19
>>610

「んふ、食べないよ〜」
「私、今日は鶏肉の気分じゃないから」

      フフフ

もうちょっと正確に言うと、『なくなった』から。
ついさっき食べたから。

「あそっかそっか、それはそうだよね」
「鳥が『食べものくれ』だけ言ってきても困るもんねえ」
「逆も同じだ」

納得できる話だ。

「そうだね〜、」
「『交渉』してくれるなら任せちゃいたいけど〜」

「『タダで』ってわけじゃないよねえ?」

            ゴソ

「いやむしろ、『タダ』って言われるほうが怖いんだよね」
「私ね、『わかりやすい』のが好きだよ〜」

財布を出して中身を探る。
当たり前だけど『鳥のための活動できれば満足』なわけない。
それなら鳥を『商売道具』になんかしない。分かってる情報で判断する。

612ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/13(金) 18:14:30
>>611

幸い、人間の世界には『法律』というものがある。
その辺を飛んでいる鳥を勝手に捕獲したり殺傷してはならない。
狩猟に関する決まりとは別に、動物愛護法というのもある。
いずれにしても、大っぴらに動物を傷付けるのは犯罪だ。
法律というのは人間のために作られるが、
動物にとっても利用する値打ちはある。

「いえ、代金は不要です。
 どうしてもと言われるなら、心付け程度に頂きますが。
 いわゆる『チップ』ですわ」

「『本業』の方も、特に料金が決まっている訳ではありません。
 あくまでも金額は自由です。出さない人もいます。
 当然ビジネスが成り立っているのは、
 『出してくれる人』がいるからですが……」

「必ずしも出して頂く必要はありません。
 ただ、私の事を話のタネにして下されば良いのです。
 『ハーピーのお陰で助かった』――――と」

「その話が広まれば、私の『知名度』が上がり、
 見に来る人々も増えます。
 ギャラリーが増えれば、
 当然『出してくれる人』も増えるという訳ですわ」

代金をもらって終わりにするよりは、
『宣伝』してもらった方が長期的なメリットが大きい。
だから、『交渉料』は求めない。
それを取るのは、もっと『需要』が高まってからの方が良いからだ。

613日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/13(金) 23:22:18
>>612

「ほんと? 約束だよ〜。チップだけは渡すけどね」

           ジャラ…

「前払いで500円」
「これはもし失敗しても返せとか言わな〜い」

「それでね、成功したら別でお金あげる」
「もちろん『噂』もちゃんとしてあげる。契約書書いてもいいよ」

「『お仕事』だから、あいまいなのはよくないしね」
「後でもめたりしたら嫌だもん」

財布から取り出した500円玉を目線の高さに掲げる。
500円玉。金色で、一番大きい硬貨だ。
仕事にしては少ないけど、大道芸人の『チップ』なら妥当だと思う。

「前からねえ、『網』掛けててもどかされたりしてね」
「カラスって頭いいんだって、ほんとなんだな〜って思ったよう」
「人間より賢いかも〜」

       ニコ…

「ハーピーさあん、よろしくね。私のクオリティオブライフを守って〜〜〜」

614ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/13(金) 23:57:22
>>613

「――――確かに頂戴致しました」

    ソッ

羽毛に覆われた腕を伸ばし、丁重に500円玉を受け取る。
人間以外の存在にとって、金銭は価値を持たない。
しかし、『人間界に紛れ込む人外』にとっては価値あるものだ。

「ええ、鳥は賢い生き物です。
 そして、それ以上に人間は賢い。
 このように巨大な建物を作り出せるのですから」

「ただ…………」

          フフフ

「もし人間が鳥と同じような大きさや身体構造だったとして、
 鳥より賢くなれたかどうかは分かりかねますね」

どちらかを持ち上げているとか見下している訳ではない。
鳥と人間では、元々の『条件』が違うのだ。
もし条件が同じだったとしたら、どうなるかは分からない。

「では、『場所』を教えて頂けますか?
 『交渉』するには相手方の情報が必要になります。
 そのために下見をしておきたいですわね」

「ところで……結構な大荷物ですね。一つ持ちましょう」

「『前金分』のサービスです。
 それに、その方が早く目的地に着けます。
 早く目的地に着けば、それだけ早く仕事に掛かれますわ」

重そうな買い物袋の一つに視線を向ける。
本来の自分であれば、到底動かすことの出来ない質量だ。
しかし、『ハロー・ストレンジャー』のパワーなら動かせる。
単純な事だが、これもスタンドの恩恵の一つ。
そして、『交渉』に用いる手段は『本体の技能』だ。

615日下部『アット・セブンティーン』:2019/12/14(土) 01:36:54
>>614

「脳みその大きさが全然違うもんねえ」
「脳みその大きさ、見たことないけど〜」

目に見えないものだが、確かなことだ。
鳥は人間よりずっと小さい。
でも……だから飛べる。

「それじゃあ、案内しようかな。これ持って〜」

           スッ

人間は飛べないけど大きい。
それに、腕がある。

手渡したのはぬいぐるみの入った袋だ。
落としても、雑に扱っても壊れたりしない。
最悪、服と違って家から出すものでもない。
人に任せるには、ちょうどいいものだ。

「私ねえ、荷物が多すぎて帰るのが大変だな〜って思ってた」
「鳥のことも解決しそうだし」「ハーピーさんに会えてよかった〜」

「あ、バス代は前金とは別で出すからねえ」

あとはバスに乗って、家に帰る・・・連れて行くだけだ。
当面の悩みが『2つ』減って、そのためのお金はあんまりかかっていない。
そういう意味で、この『大道芸人』との出会いは意味があるものになったのだ。

616ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/12/14(土) 19:00:04
>>615

「――――では、参りましょう」

              ザッ ザッ ザッ…………

鳥のような女が、カイコガ風の少女に同行する。
それから三日後、日下部家の周辺における烏の被害は、
キレイさっぱりなくなった。
同時に、『ハーピーのショー』に出演する烏が何羽か増えたようだ。

617比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/17(火) 00:22:37

休憩スペース――ベンチの下に一枚の『カード』が落ちている。
四隅に四つの『スート』が並び、中央には『道化師』の図柄。
それは『トランプ』に似ていた。
誰かの落し物だろうか。
通り過ぎていく人間は何人かいたが、まだ誰も気付いていないらしい。

618不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/18(水) 04:46:29
>>617

「ん?」

フードにファーの着いたモッズコートを着た人間がいた。
その視線は床に落ちているらしいカードを見ていた。
不審がる雰囲気の顔だが一方でどこかそれを当然と思っていそうな、ある意味関心の薄いところもあった。
なぜ落ちているのかと考えながら、落ちていても不思議ではないという顔。

「……」

手を伸ばす。
もちろん、カードに向けてだ。
興味が湧いたのだろう。

「なんでここに?」

619比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/18(水) 16:44:03
>>618

床の上に落ちている『カード』に気付いたのは一人だけだ。
その手が伸びていく。
指先が触れた瞬間、変化が現れた。

         ポンッ

一瞬の内に、『カード』が『兵士』に変わった。
『黒い鎧』を身に着けた『黒い兵士』だ。
それがスタンドである事は一目瞭然だろう。

          ジッ

しかし、『兵士』は動かない。
逃げもしないし、近付いてもこない。
その場に留まって、ただ相手を見上げているだけだ。

620不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/18(水) 23:09:44
>>619

「……ふむ」

なるほど、と頷いた。
思い当たるものがある。
となれば、目の前のこれをどうこうするのもどうなのか。

「……」

周囲に視線を向ける。
兵士には興味が無いようだ。

621比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/18(水) 23:41:04
>>620

    ザワ ザワ ザワ

周囲に視線を巡らせる。
行き交う人間は割と多いが、留まっている人間は少ない。
その中に、一人の男がいた。

「――――…………」

モノトーンのストライプスーツを着て、中折れ帽を被った男だ。
太い柱に背中を預けているらしい。
不知火から見ると、ちょうど柱の陰にいるような格好だ。
その視線は、不知火とは真逆の方向を向いている。
傍から見れば、ごく普通に店を眺めているように見えるだろう。

           スッ

『兵士』は、やや後ろに下がった。
それ以上の動きはない。
他に気付く者も、またいない。

622不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/19(木) 00:32:57
>>621

「ふぅ……イタズラも程々にした方がいい」

立つ。
そして傍に現れる真っ黒な甲殻の人型。
手には白い槍……しかし即座に消えてしまった。

「さて、君のご主人はどこかな?」

再び兵隊に視線を向けた。
そして、騎士が歩き出す。
何かを探しているようだ。

(そこまで気を張るようなことでもないのだろうけどね)

623比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/19(木) 00:55:56
>>622

『黒い騎士』と『黒い兵士』が向かい合う。
『兵士』は更に距離を取り、ベンチの足の陰に移動した。
出現したスタンドを警戒しているのかもしれない。

(『騎士』のスタンドですか……)

(以前、自然公園で見かけたものと似ていますね)

『鉄夕立』と名乗った少年を思い出す。
彼も、『騎士のスタンド』を持っていた筈だ。
偶然だろうが、珍しい一致だ。

(さて――――)

兵士の視界を通して、相手の動向を窺い続ける。
これは、ちょっとした試みだった。
『オルタネイティブ4』の一枚を設置し、離れた位置で待つ。
落ちているカードが何時気付かれるか、
誰が気付くのか、気付いた相手が何をするか。
それを確認するための試みだったのだ。

(何をして来るか……拝見させて頂きましょう)

624不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/19(木) 01:06:29
>>623

「……」

(まぁ、それほどこういうものを見た訳じゃないけれど)

こういうものの射程は長い。
自分のスタンドも人よりは長い射程を持っているだろうが。

(……でも、様子を見てるんだろう。カードが落ちていたんだから)

騎士が人を探そうと動く。
こちらからは見えず、向こうから見える場所。

「さて、どうしてあげようかな」

不知火琥珀は兵士に近づいていく。

625比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/19(木) 01:30:00
>>624

あからさまに隠れている人間は見当たらないようだ。
どの人間も、こちらかも向こうからも見える位置にいる。
そして、不知火の方を見ている人間もいない。

(本体で近付いて来ましたか。
 『オルタネイティヴ4』の特性を知っているとは思えませんが……)

『オルタネイティヴ4』は実体化している。
だから、人間でも干渉が可能だ。
それでも、パワーは人間並みにある。
そう簡単に潰されはしないだろう。
だが、不安要素と言えば不安要素ではある。

(スタンドも未知数。
 一応の警戒はしておきましょう)

ベンチの足が盾になるような位置で『兵士』を待機させる。
ここまでの動きを見ると、攻撃的な人物ではなさそうだ。
しかし、念には念を入れておく。

626不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/19(木) 22:38:29
>>625

「隠れんぼが好きみたいだね」

「……まぁ、敵意がないなら放っておいてもいいかと思うけれど」

ベンチに座る。

「さて、どうしようかな」

騎士が空中に手をかざした。
そして、握り込むと同時にゆっくりと白いものが現れる。
槍のような白い物体。

「……」

ゆっくりと手の中で槍が伸びる。

627比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/19(木) 23:32:58
>>626

(睨み合いを続けるというのは余り有意義とは言えない)

(…………少し試してみますか)

    ダッ

相手が座った直後、『兵士』が動いた。
擦れ違うような形で、不知火の足元を通り抜けようとする。
そのスピードは特に速くはないが、遅くもない。

(このまま何もないなら、引き上げても良いのですが…………)

『四枚のカード』を手の中で弄ぶ。
一つの行動サンプルとして、一応の収穫は得られた。
ここで自分が立ち去ってしまえば、後に禍根を残す事もないだろう。

(しかし、あの『白い槍』――多少の興味はありますね)

見た目だけで分かることは限られている。
しかし、深く知るには危険が伴う。
一時の関心のために、大きな危険を冒すつもりはなかった。

628不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/20(金) 00:17:52
>>627

「うーん、もういいか」

白い槍を途中で折って騎士が投げる。

「こちらから仕掛けよう」

白い槍の穂先の狙いは兵士だった。
真っ白なそれは実体化していた。
真っ直ぐに飛んでいく。
不知火琥珀は首を振った。
目を前に向けたまま横に何度が振っていた。

629比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/20(金) 00:51:12
>>628

    ヒュッ

折り取られた槍の穂先が飛んでいく。
スピードは『兵士』と同等。
しかし、その狙いは至って正確だ。

(おっとッ…………)

          クルッ

(これはいけませんね)

『兵士』が振り向いた。
しかし、避けようとする動作は見えない。
無防備に立ったまま、防御さえしようとしていなかった。

(少々冗談が過ぎましたか)

『兵士』の正体は『ジョーカー(>>623)』だ。
『ジョーカー』には『ダメージフィードバック』が存在しない。
だから、回避も防御もする必要はなかった。

630不知火琥珀『ポスティルヨネン』:2019/12/20(金) 01:50:23
>>629

穂先が当たる。
実態化した白い槍の穂先が落ちた。

「……む、なるほど」

頷くと槍が消えていく。
まるでドライアイスが煙を発するのに似ていた。

「帰ろうか」

倒れない兵士を見てそう判断したらしい。
スタンドを自分の傍に移動させ、解除する。
ベンチから立ち上がる。
帰るつもりなのかもしれない。

631比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/20(金) 02:10:54
>>630

(『槍』が『煙』に……?まるで舞台演出のような……)

(舞台の演出で使われる煙と言えば『ドライアイス』。
 あの『槍』も似たような性質を……?)

    ピッ

立ち上がる不知火を見て、『兵士』が敬礼した。
付き合ってくれた事に対する謝辞だ。
もっとも、伝わるかどうかは定かではないが。

        ――――シュンッ

そして、『兵士』の姿が消えた。
どうやら解除されたらしい。
懐から鎖付きの懐中時計を取り出し、時間を確認する。

「そろそろ戻るとしますか」

                    ザッ

時計の蓋を閉じて、足を踏み出した。
ストライプスーツの背中が、行き交う人々の中に溶け込んでいく。
そして、不知火と同じようなタイミングで立ち去る事になるだろう。

632ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/12/29(日) 01:54:15
こんばんわ。寒いですわね。皆さん元気?
まゆです。占い師の末石まゆです。
心の中じゃ『(偽)占い師』って名乗ってるけどね。

《  運命視   》
《占い 3000円カラ》

今日は出張営業中よ。
ショッピングモールの中に机置いてます。
手相の表なんか置いちゃってます。

633比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/29(日) 13:43:17
>>632

ザッ

(おや、『あれ』は…………)

ショッピングモールの一角を遠目から見て、足を止める。
進もうとしていた方向は、そちらとは逆方向だった。
しかし、こちらの方が面白そうだ。

      ザッ ザッ ザッ

「――――占って頂けますか?」

モノトーンのストライプスーツを着た男が、机の前に立つ。
人当たりの良い微笑を湛えた優男だ。
前に一度『カード占い』をしてもらった事はあったが、
『本格的に占ってもらう』というのも一興だろう。

634ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/12/29(日) 22:52:41
>>633
「 (げぇッ  ヒルマ) 」

《前回のあらすじ!》
《ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1453647631/856-883》
《偽占い師『ラフィーノ石繭』は、胡散臭げな優男『比留間彦夫』にしてやられたのだったっ!》

ぐっクソっ この男今回こそぎゃふんと言わせたるからなっ
あっこないだのこと思い出したらちょっと涙出たかもっ
だめよ私、堪えて!
涙なんて流したら私の綺麗な目が更に潤んでもっと綺麗になっちゃうじゃないっ


「――――――また逢いましたね」
「これも運命でしょうか」

     ニコッ

ああいう顔だけはいい手合いは笑顔の仮面をかぶって、
相手を自分の領分に引きずりこもうとしたり、
平気でうそをついたりするのよ…気をつけなきゃ…
こういうやつが詐欺とかやるのよ…変な商材とか売りつけるのよ…

 「お掛けください」
 「あなたは本日も『楽しんで』らっしゃるようですね  何よりです」

635比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/29(日) 23:27:00
>>634

「ええ、『お陰様』で」

投げ掛けられた言葉に淀みのない微笑みを返す。
事実、その通りだった。
『今も』楽しんでいるのだから。

「――では、失礼します」

         ガタッ

「こちらで『出張営業』していらっしゃると聞きまして」

「是非とも占って頂こうと、こうして出向いた訳です」

「先程から探していたんですが、見つけられて安心しましたよ」

    ニコリ

もちろん実際は違う。
たまたま見かけたから寄ったに過ぎないのだ。
普通の人間なら気付かないかもしれない。
しかし、『イカサマ』とはいえ彼女は鋭い。
見抜かれるかもしれないが――それはそれで面白い。

「ええと……『見料』は前払いでしょうか?それとも後払いで?」

「三千円『から』という事は、『上のコース』などがあるのでしょうか?
 こういった事には、あまり慣れていないものでして……。
 恐縮ですが、説明を願えますか?」

636ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/12/30(月) 21:49:16
>>635
「あら、ありがたい話です」

「―――説明しますね 
 おひとり様、お連れ様ご家族様、そのほか団体様であろうと、
 相談は一律で3000円 お話は30分まで。 
 料金は先払い。1時間500円で延長もできます」

「出張営業では『石』『星』『カード』までです。『透視』はちょっと…ここでは。」

「また、出張営業では『上のコース』は提供できません。
 私の館……要するに事務所なら予約制で『上のコース』があります」
「私のホームページは見られました?」

この『出張営業』は客をキャッチするためのやつね。
メインの営業は事務所でのそれ。
―――怪しいわ比留間。私の存在を知っててたら事務所に来るとは思うのよね。
事務所でも女子高生グループとか向けの『3000円コース』はあるから。
なかなか怪しいわ比留間。嘘とは断定できないけど。
公式ホームページで出張営業の告知とかしてるし…

あっご予約はホームページから。お願いします。
生活が懸かってるんです。ぜひ気軽にご予約を。お願いします。おねがい。

637比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/30(月) 22:20:26
>>636

「いえ、『まだ』見ておりませんね。後ほど拝見させて頂きますよ」
 
「教えて頂いて有り難うございます」

    ニコリ

『ホームページ』については軽く受け流す。
どのような業種であれ、それを設けるのは現代では常識と呼べる。
しかし、全ての人間が必ずチェックするとは限らない。
ここで更に突っ込んでこられると面倒だが、
そこまで追求するような話題でもないだろう。
時間に余裕があって、まだ覚えていたら、話のタネに見てもいい。

「『透視』にも興味はありますが、
 『石』と『星』と『カード』ですか…………」

「――――なるほど」

「『カード』というのは何となくイメージ出来ますが、
 『石』と『星』というのは?」

『カード』は既に体験している。
選ぶなら『石』か『星』か。
どちらにしても、『真っ当な方法』ではなさそうだ。

(もっとも――『だからこそ面白い』とも言えますが)

どのような手で来るのか。
自分が見たいのは『それ』だ。
そのために、こうして足を運んだのだから。

638ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/12/30(月) 23:07:03
>>635
あッ嘘ついたこいつ 嘘だ 
ホームページ見てないなら私の出張営業なんてわからないもん。
ショッピングモールの関係者くらいしか知らないわよ。
なんにせよ。ぜったい通りすがりに前にボコボコにした女がいたから
またとっちめて遊んでやろうって魂胆だ くっそォ 死ね

「伝統ある『星詠み』、
 あなたに同調する『パワーストーンの発見』…となっております」

 『占星』は相手の誕生日とかの『力のある数字』に合わせて、
  表に書いてある内容を照らし合わせるだけのお仕事。
  知識さえあれば楽。わたしの知識は中途半端だけど。

 『パワーストーン』は適当な色や選択肢を選ばせ、
  それっぽい『効果を秘めた石』を提示して買わせる商売ね。
  グッズを買わせられるんでもうけが出る。うれしい。

「まず、『氏名』『誕生日』『好きな色』等プロフィール、
 『相談したい内容』『お好みの占いの方法』などお書きになって」

比留間に、ひんやりとした紙切れとボールペンを渡す。


「書きたくなかったら白紙でもいいですわ その場合はこちらで進めます」
「紙とお代を受け取ったら、わたしが『視ます』」

余談だけど横に飾ってある手相表は貰いモンよ。
なんで、『手相』やってください!……と言われると深層意識(PL)が困る。
わたしがドタバタ困る様子を見たければこちらをどうぞ。

639比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/12/30(月) 23:43:58
>>638

「よく分かりました。ご説明に感謝します」

謳い文句は、いかにもそれらしい。
流石に商売にするだけあって、
『雰囲気作り』には気を遣っているのが窺える。
どのように『視てもらえる』のか、大いに『期待』したい所だ。

「それでは――――」

「おっと、『インクの出』が悪いですね。
 この季節では無理もありませんが…………」

    スッ
           サラサラ

「ああ、大丈夫ですね。失礼しました」

懐から手帳を取り出し、それにボールペンを走らせる。
しかし、あくまで『振り』だけだ。
別に特別な意味はない。
ただ、相手の流れに乗っているだけというのもつまらない。
ほんの少し『揺さぶってみよう』と思っただけだ。

                  サラサラサラ

      氏名:比留間彦夫
      誕生日:七月七日
     好きな色:スカイブルー
    相談内容:友人に関すること
      希望する占い方法:石

「――――これで宜しいでしょうか?」

ボールペンを机に置き、用紙と見料を差し出す。
名前に偽りはない。
『それ以外』については、多少の『脚色』は加えているが。


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