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【場】『 星見スカイモール ―展望楼塔― 』

363小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/08/01(水) 02:26:02
>>362

私に子供はいない。
自分の命を終わらせることにも躊躇いはなかった。
それでも私が生きているのは、彼との約束があるからだ。
『自分の分も生きて欲しい』と、彼は最後に言い残した。
だから、その約束を果たすために私は生きている。

  「――はい」

女性の顔を正面から見据えて、ただ一言だけ告げる。
その短い言葉には決して浅くない感謝の念が込められていた。
この包帯の下には、見るに耐えない自傷の傷跡が隠されている。
だけど、この傷跡が私を生の世界に繋ぎ止めてくれている。
これは、私が今を生きている証でもあるのだから。

  「ありがとうございました……」

  「気分が優れなかったので……
   何だか元気になれたような気がします……」

袖を元に戻してから、女性に向かって丁寧にお辞儀をする。
その表情には、最初に顔を合わせた時と変わらない、
穏やかな微笑みが浮かんでいる。
彼女とは初対面であり、ほんの短いやり取りを交わしただけかもしれない。
それでも、心の中には確かに温かいものが残っていた。
会話の中で抱いていた直感めいた感覚も忘れてしまう程に。

   ――治生さん……。

   ――私は、あなたとの約束を守ります……。

   ――だから……私を見守っていて下さい……。

  「少し、外を歩いてきます」

  「今は日差しも弱まっているようですから……」

  「よろしければ――またどこかでお会いできることを……」

  「では……失礼します……」

もう一度、深々と頭を下げて、展望台を立ち去った。
名前も知らない女性――もし再会できた時には、
その名前を尋ねてみたい。
そう、心に思いながら――。


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