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【場】『 星見スカイモール ―展望楼塔― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:02:24
今世紀に建造された『東海地方』を対象とする集約電波塔。
低層エリアには『博物館』や『ショッピングモール』が並び、
高層エリアの『展望台』からは『星見町』を一望出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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244薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/08/16(水) 01:33:39
>>243

「そう、ありがとう。まっ、言われなくても……
 スタンド使いのあんたと友情が持てるのは、私にも得よ」

      「私は、見た目よりオトナだから。
       損得勘定はしっかりしてるつもり」

            ニコ

損はない。自分が使う予定のない情報を、
ただ渡すだけで、役に立つ仲間が一人増える。

なにせ、スタンド使いには無限の可能性がある。

「『ギブ・アンド・テイク』って言ったでしょ。
 だからまあ。お互い上手い事、利用していこうじゃん」

それに……幸せな顔が見れるのは、素晴らしいことだ。
それを仕事にしている。だが、仕事だけじゃない。

「……ん、電話」 

「ああいいよ、べつにあんたの……
 上司ってわけでもないし。ごゆっくり」

        リン

スタンドを解除して、電話を取る斑鳩から一歩後ろに下がる。
もういい時間だ。親はいないとはいえ家族はいてもおかしくない。

            (私も、そろそろ帰った方がいいかな)

245斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/16(水) 01:48:07
>>244
「そう?友人相手じゃ固すぎる言い方だったかな…」

*Turururu*

              *Turururu*

ジーンズのポケットに入っていた黒いスマホを取り出して、耳に当てる。

 「はいはい、僕は見た目より子供ですよ…ッと」

   *click*

「もしもし? あっお祖母ちゃ……」

そう話しかけた瞬間、斑鳩はスマ―トフォンから耳を離した
それは離れている少女にも元気のいい老女の声が聞こえるだろう。

「御免なさいって!ちょっと友達と話しててそれで…というかお祖母ちゃんスマホ使えたん」
「あっ、もしかして家の黒電話?」

「え、スマホ使えるの?バリバリなの!?」

「あっ違……うんすぐ帰るって、走ったらすぐだから!」
「心配かけて御免、うん…じゃ。」

スマートフォンを切り、懐に入れる
電話の相手と話す様子は少女に会った時と同じように嬉しそうだった。
彼は流石に少し長居しすぎたのかもしれない。

「それじゃ、僕帰ります ……けど また会いましょうね。」
「同じような才能の友人は初めてですから。」

彼はそういってニッと笑った
何もなければこのまま階段を下りて家路につくだろう。

246薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/08/16(水) 02:04:21
>>245

「子ども扱いはしてないって。ほんとよ。
 あんたは私の友達の一人……対等な相手」

          クス

電話が繋がったら、黙って夜空を見る。
感傷とかじゃなく、星が綺麗な夜だから。

(お婆ちゃんと暮らしてるのね)

              ……そして。

「ん。そうね、気を付けて」

         「あ、そうだ」

     シュッ

懐から名刺を取り出して、投げた。
もちろんキャッチできる速さで。

「それ、私のメアドね。仕事中じゃなきゃ、
 メールはよく見てるからさ。いつでもどーぞ?」

        「んじゃ、またね。
          あんたに幸あれ」

    ヒラヒラ

それから手を振って、なんとなく展望台の奥へ歩いた。

――――他者との間には明確な線がある。
それを超えるのは益と情。待ち合わせの代わりに有益な友情を得た。

247斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/10/20(金) 02:12:06
星見スカイモール ―展望楼塔―
低層エリア:『博物館』 …その図書室にて。


無数の、ともすれば人を迷わせる迷路として構成されたのではと思える大型の本棚
その内の数冊…『星見町の歴史』等を取る手には、古いゼンマイ式腕時計が秒針を刻んでいた。

襟元のスカーフのように見える赤い布が、艶のある黒髪と共に書庫のクーラーに僅かに揺れ
黒に細い白ストライプの入ったジャケットが、博物館の窓を通した光を吸い込む。


       「――いちいち全部覚えてるわけじゃあないけど。」

10…いや、12人 ここ数か月今まで会っていて、気づかなかったとしても
何か性別に法則性が有るわけでもない、それを統計で取るにしてもサンプルが少ない
……『スタンド使い』か。


         「――多いな。」


           『スタンド使いは惹かれ合う』

――この論理、気づけば僕の中にあった、僕が考えたわけでも無いのに

 『重力』  『奇跡』  『スタンド』  『運命』 

この小さな町に既に12人、僕が会って無いのを含めても未だに多々いるに違いない
あの人一人が生み出しているとは考え難い…むしろ『発生』よりも『集中』に目を向けるべきだ

僕が原因だと考えるのもいい、だがむしろこの『星見町』自体に原因が有るのではないか?
重力を纏うスタンド使い達を引き寄せる、この町自体の重力……


          「――無駄足だったかな。」


 ページをめくる、殆どは興味を引かない歴史の話ばかりしか書いていない
 無論『スタンド』を知っていると知らないでは物事の捉え方が違うのだから……

( 当然これにもほぼ意味がなくなる、スタンドの痕跡を気に留めない…いや
 ――そもそも、スタンドは何時から発生したのだ? 何処からきて何処に行くのか? )


  分厚い塗り壁のようなえんじ色の本を閉じてひとり呟く
  テーブルに置くと若干大げさに聞こえるような音が出た。

  「やっぱり 僕のキャラじゃないよなあ、コレ。」
 
         (何か別の本でも読もうかなあ……何読もう。)

 (むしろ外に出て体でも動かそうかな……今日も快晴のいい天気してるんだし。)

248石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/10/25(水) 07:35:15
>>247
斑鳩から少し離れた本棚にその少年はいた。

「ここの図書館はよォ〜……。」
シャチのような白黒メッシュの入った髪で、漆黒の学生服に身を包んだ少年だ。

「本が充実しているのはいいんだが、本棚チョイと高くしすぎなんだよなァ〜……。」
本棚の前でブツクサ言い……

「上の方の本取りたいってのに、脚立が近くにありゃしねぇし……。」
キョロキョロと辺りを伺って……

「しょうがねぇなぁ〜……。」

「『パイオニアーズ・オーバーC』……『ヘブンズ・ティアー』……」
人魚のようなスタンドが傍らに現れ、『涙』をこぼしたかと思うと……

「よっと……。」
少年は宙をかいて、空中にふわりと浮かび、本棚上層の本に手をつけた。
まるで、バスケットボールの選手の『エアウォーク』のような跳躍だ。

249斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/10/26(木) 23:22:34
>>248

――決めた、さっさと出てしまおう
少なくともここで本を読んでいて得るものは、次の歴史の点数と僅かな雑学程度だ
分厚い本を元の場所に返そうと立ち上がった時に、視界の端に人影が目に留まる


              「…わーお。」

 斑鳩は目を丸くした、少なくとも空を泳ぐ人間は一度も見た事は無かったからだ。


  (凄いなあの人、空を泳いでるぞ…)
  (僕の目玉がイカレたかな…それとも想像力が文字通り飛躍したんだろうか)
  (人魚まで傍に見え…みえ……)


 ――『半透明の人魚』……?
 しかもおまけに傍の少年は『宙に浮遊している』ではないか
 ため息と多少の眠気に曇った脳が公式を那由多の彼方に吹き飛ばし、即座に結論をたたき出した。


         (……『新手のスタンド使い』かッ!?)


   「――明らかに浮いている(恰好に非ず)…深夜だったら夢を疑ったんだけどな」

   「何してるんだろうアレ。」


勿論、斑鳩の見る限りでは本棚の上層部に手を付けようとしているように見える   
他人に話そうと本来なら白昼夢扱いされる光景だろうが……

   (上の本を取りたいんだろうか、便利だなあの能力)
 
 何ともなしに受け入れている自分にもはや疑問も感じなくなっていた
 大分『慣れた』という事だろうか

    (僕だとああいう風にはいかないからなあ……しかし)


   「――如何いう相手だか確認する必要は…有るな。」

   
 ――頭をバリバリと掻きつつ、宙に浮く少年の方へ歩みを進める。


     (丁度向こうの奥がこの本の置いてあった所だし
          攻撃してくるなら逃げれば良し、と。)

250石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/10/27(金) 06:23:54
>>249
「よっ……と」(スタッ
ふわりとした長い滞空時間のあと、目的の本を手に、少年は床に降り立った。

「『S県のスポーツ史』……そうそう、これこれ。これが読みたかったんだ。」

「水泳のページは……と」
そして、立ったまま、手に取った本を読み始めた。
近づいてくる斑鳩に、気付いているのかいないのか……

251斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/10/28(土) 03:39:59
>>250

              ――カツン

 「――なあ」


 石動少年の背後で足音が止まる
 振り返ればそこに黒に白のストライプジャケットを身に着けた少年が――
 分厚い本を抱えて君を見ている


   「いま、君」

     「何をしたんだい?」


 黒い瞳には『疑い』を感じなかった、『確信』のみがその眼を輝かせていた
 古い湖の水底のような瞳には、人によっては
 吸い込まれるか、または透明な氷のようだと感じるかもしれない



 「僕の名前は『斑鳩 翔』」

  「突然で悪いけど、まだ信じられない…もう一度見せてくれないか」


 『嘘』だ、彼の声には自信にはっきりと満ちている
 君が先程したことを見ていた事に相違ないだろう
 彼の襟元に巻く赤いスカーフが、空調の風に僅かに揺れている。


  「今、――君がまるで『空を泳いでいる』ようだった。」

252石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/10/28(土) 18:22:15
>>251
斑鳩が声をかけると、石動は……

「あン……?」
本を閉じ……

「なんだァ、てめェ……?」
警戒心をあらわにした声で応えた。

   そして……!

      人魚のスタンド『……』         シュンッ……!

   その傍らに人魚のスタンドを再発現した!

      人魚のスタンド『オ……』         ボロッ……!

      人魚のスタンド『オオオ…………』    ボロボロボロッ……!!!

   人魚のスタンドは、嗚咽をあげながら、『泡の涙』をこぼしているッ……!

253斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/10/29(日) 00:56:09
>>252


              「……へえ!」
 
目の前の少年は興味深いといわんばかりに君の出したスタンドを眺めだす 
多少の驚きも声には混じっているようだ。

   「成程、間近で見ると
    こういう……しかし本体とは性別が…いや異形だっていたのだし」


一通り見ると口先に指を当て、何かを思い出すようなそぶりを見せる


 「涙を流す人魚か…まさしく『人魚姫』だな、原典だと泡になるが
  今のを見た限り空を泳ぐ……けど僕の探してた能力じゃあ無いな。」


 ――今までの様子に貴方を警戒する様子はまるでない
 まるで貴方の顔色が見えてないようにふるまっている。 


      「――おっと、悪いね 見せてくれて有難う」

             「君、名前は?」


  そこまで言うと目の前の少年は本を持ってないほうの手を差し出した
  これが普通の状況なら…恐らくは『握手』の為だろう。

254石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/10/29(日) 12:02:58
>>253
書き忘れていたが、スタンドの外観は『人魚を思わせる、美麗で中性的なヴィジョン』。
中性的ではあれど、人魚姫の姿ではない。

▽▽▽▽

斑鳩が握手のために、手を差し出す……


「……『こいつ』が見えるヤツは家族以外じゃ初めてだけどよ。」
……が、石動は警戒の態勢を解かない。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「しかし、ここまで怪しいヤツに声をかけられる、とはなァ……!!!」  シュバッ!

石動は斑鳩の手から逃げるように跳躍!
水泳で言えば、後ろ飛び込みのような美しい飛行機動!


「『ヘブンズ・ティアー』!」
      人魚のスタンド『オオオッ……!』    シュバッ!

と同時に、傍らのスタンドが斑鳩の足元の床に『泡』を放ってきた!

成人の投擲程度のスピードだ!(破E スC 精B)

『床を狙っている』ようなので、追ってこないのならば、当たらないだろう。

255斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/10/29(日) 23:43:10
>>254

 「うわっ あぶなっ!」


 『泡』に反応して咄嗟に回避行動をとる
  それもやや大げさ気味だが
  ナイフを突き出されてるようなものだと思えば
  あながち間違ってもいないだろう。


 「……『ヘブンズ・ティアー』か」
 「どうにも僕がファーストコミニュケーションを失敗してる気がする」
 「もはや笑顔で挨拶するのは昭和くらい前の礼儀なのか……」


 「…いや、ここだって博物館だ」
 「変に能力使って追いかけて、人目についたら不審者どころか」
 「星見町七不思議に+αされて八不思議になりかねない」


 「笑顔の練習でもしてみるかな」
 「ま、『収穫』は有ったのだし……次いってみよう。」


 『残念だなあ』という苦笑いと共に泡の接触した部分を割けて本を戻しに行く
  靴音を響かせながらぼそりと呟いて。


 「――確かに今 『家族以外で初めて』 って言ったのだしな。」

256石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/10/30(月) 07:41:55
>>255
斑鳩は咄嗟に回避行動をとる。

      パァン!
   威嚇射撃の『泡』が足元の床に接触して、破裂し、軽い衝撃波を放った。(破C)

   もしも、追っていたら、直撃を受けていただろう。

「『声かけ事例』っつーのかな、コレは……」

その間にも石動はひょいひょいと距離を取っていく。

「一応、名前を名乗っていたから悪質っつーには違うんだろうが……」

そして、本棚の陰まで移動すると、本棚の迷路の中を、スタタッと駆けていった。

追いつくのはもう無理かもしれない。

「……街中で能力を使う時にはもうちょっと周囲を確かめた方がいいみたいだな。いい教訓になったぜ。」

(本棚からとった本は後で受付に返しておいた。)

257斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/11/01(水) 01:04:44
>>256

――本を元の棚に納め、博物館外に足を運ぶ

 「次は何処に行こうかな。」

肌寒い乾燥した風の中を軽い足取りで帰路に就いた。



…to be continued?

258花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/11/14(火) 22:21:05

展望台に一人の男が立っている。
年齢は二十台半ば程だろうか。
平均的な身長よりも背は高い。
目に見えて体格が良いというわけではないが、体つきもそれなりに鍛えられていることが分かる。
服装はレザーパンツにライダースジャケット。
ジャケットの下にはワインレッドのシャツを着ている。
目立つ特徴といえば、ウルフカットにした髪を赤く染めている所だろうか。

「――いい眺めだ」

「やっぱり俺はここが好きだな」

「――ゾクゾクする」

眼下の街を見下ろし、誰に言うでもなく感想を漏らす。
実際のところ、男――蓮華は景色を楽しんでいるというのとは少し違っていた。
もし、ここから落ちたとしたら、間違いなく死ぬだろう。
それを想像した時に感じるスリルを楽しんでいるのだった。
だが、蓮華はマゾヒストではなく、自殺志願者でもない。
あくまでもスリルを求めているだけだ。
そうした光景は、客観的には単に景色を楽しんでいるように見えるかもしれない。

259七海 フランチェスカ『アクトレス』:2017/11/20(月) 22:37:52
>>258

「良い景色だよね〜? ここ」

いつの間にか隣に女がいた。
金髪で、猫のような顔立ちの少女。
両目の色が違う。それも猫のようだ。
不自然な緑と紫は、カラーコンタクトだろう。
年の頃は分かりにくいが、大人でも子供でもない。

「アタシも好きなんだ! 高い所ってさぁ。
 バカと煙よりアタシの方がきっと好きだよ」

        「アタシがバカじゃなければね」

ラフだが、洒落の分からない格好ではない。
安っぽいものでもない。野良猫のようで、そうではない。

「あッごめ〜ん、一人で浸りたい気分だった?」

                「・・・にゃは」

「アタシは人と話したい気分だったから、
 思わずキミに話しかけたって事なんだけど!」

ひとしきり勝手にしゃべり終えると、女は黙った。
静まり返った空に、返答を促すかのように風が吹いた。

260花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/11/21(火) 01:13:40
>>259

「なあに――」

「構いやしねえよ」

「俺だけの特等席ってわけでもねえからさ」

横目で相手の姿を見やり、軽い調子で言葉を投げる。

(変わった奴だな……。いや、俺も人の事は言えねえか……)

そして、再び視線は正面に向けられた。

「俺も高い所は好きだぜ」

「だから俺も馬鹿かもしれねえな」

「別に、あんたのことをどうこう言うつもりはねえんだが」

ここから落ちたとしたら、まず即死だろうな。
だが、それじゃあ意味がねえ。
死んじまったら、二度とスリルを味わえなくなっちまう。

「高い所から下を見下ろすのが好きでね」

「もし落ちちまったらと考えると背筋がゾクゾクする」

「その感覚が好きなんだな」

「ちょっとしたスリルを楽しんでるのさ」

「――あんたは?」

猫を思わせる少女の方を向き、何気なく問いかける。

261七海 フランチェスカ『アクトレス』:2017/11/21(火) 02:01:01
>>260

「んじゃあ、遠慮なく居座らせてもらうね。
 アタシも高い所から見下ろすのは好きィ」

      「スリル? ってわけじゃなくて」

「純粋に、上に立って見下ろすのが好きなんだよね〜〜」
 
                   ニヒ

無邪気と形容していい――
少なくとも、本人はそのつもりであろう笑み。

女は厳重な柵に手をかけて、眼下に広がる街を見下ろす。
その足取りは軽く、今にも浮き出して向こう側に行きそうなほど。

「こうして見てるとと、王様になったみたいでサ!
 大きい建物を建てたがる偉い人の気持ち、わかるよね〜!」

行きかう人々は顔も見えない。
だが、一人一人違う人間がいるのが見える。

「ホラ! 人生がいっぱいあるのが、こんな簡単に見えるんだから!」

しばらくして顔を上げて、女は蓮華に振り向いた。
その笑みの種類は、悪童のようで、大人しい物ではなかった。

「でもま、こうして目線を合わせて話せる相手がいてこそだと思うなぁ」

           「独り占めするには大きすぎる景色だから〜、ね!」

                        ニャハハ

意味のないウィンクを飛ばして、女は一人、楽しげに笑い続けるのだ。

262花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/11/21(火) 02:43:37
>>261

「人生がいっぱいか」

独特の言い回しを聞いて、口元に笑みを浮かべる。

「なかなか上手いこと言うじゃねえの」

「俺があんたくらいの頃なんて、そんな事は考えたこともなかったぜ」

「毎日くだらねえことばかり考えてたな」

「まあ、今だって大して差はねえけどよ」

思えば、昔から危険に片足突っ込むことばかり考えてたもんだ。
ナイフの刃先を目の前に突きつけるとか、ライターの炎を肌に近付けるとかな。
色々と考え、色々と試した。
そして、それは今も変わらねえ。
変わった所があるとすりゃあ、スリルを求める心が前よりも強くなったってことだけだな。

「高い建物を作りたがるには実用的な意味もあるんだろうな」

「たとえば、敵が攻めてくりゃあ遠くからでも分かる」

「バンジージャンプをするためでないことだけは確かだな」

柵に背中を預けて寄りかかり、七海を見やる。

「ああ、デカすぎる」

「それに今は独り占めはできねえな」

「言ってみりゃあ、俺とあんたで二人占めって所だ」

263七海 フランチェスカ『アクトレス』:2017/11/21(火) 03:17:28
>>262

「上手い? そう? だよね〜、アタシって詩人だからさ!」

             「にゃは」

「でも、それってくだらない事をきれいに言ってるだけなのかも!
 だってアタシも、いつもくだらないことばっかり考えてる気がして!」

それをいやだとは思っていない。女はそんな顔で返した。

その視界にはもう、高いビルの下はまるで入っていないようで、
高い建物に関する考察にも曖昧なうなずきを何度か、不規則に。だけ。

「二人占め。それってナンパ? ……なんちゃってね!
 アタシ、バカじゃない。ってことはケムリだからね、
 捕まえようとしたって……すり抜けちゃうってワケ〜」

新しく興味を示したことがあったから。
二人占めという言葉を境に。

緑と紫の目を瞬かせ、柵から手を放して、
身体ごとくるりと、軽やかに振り向いた。

「オッシャレ〜な言い回し。キミも詩人なのかな。にゃはは。
 それとも魔王様かな? 『今は』なんてさ、意外と野心家様なのかなぁ!」

            「あ、そういや、名前まだだっだよね。
              アタシの事はフランでいいよォ」

洋風の響きを持つ名前を、その女はふざけるように名乗った――言われてみれば、そういう顔だ。

264花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/11/21(火) 03:48:09
>>263

「――フラン?」

耳慣れない名前を聞いて、思わず聞き返した。
それが本名だとすれば、純粋な日本人という響きでもない。
最初に見た時から、何となく分かっちゃいたが。

「花菱蓮華だ。蓮華でいい」

「中華料理を食う時に使う道具じゃねえぜ。
 蓮の花って知ってるか?それのことだ」

「女の子が生まれた時のために用意してた名前をそのまま付けられたのさ。
 昔はからかわれたこともあったが、今は気に入ってる」

緩やかに秋の風が吹く。
やや肌寒さを感じて、ライダースジャケットのポケットに両手を突っ込む。

「俺は詩人でも王様でもねえ」

「大それた野心なんてのも持ったことはねえさ」

「あるとすりゃあ――デッドラインギリギリの危険を求める心だけだな」

燃えるように赤い髪が、風に靡く。
その下で、二つの瞳が爛爛と輝いていた。

265七海 フランチェスカ『アクトレス』:2017/11/21(火) 19:37:55
>>264

「そう、フラン! アタシ、こう見えてハーフなんだよねぇ〜。
 でも日本語も日本文化も分かってるし、蓮の花も見たことあるよ」

    「お互いお洒落な名前で何よりだよね〜、っと」

          ビュ
               オォォ

                    「ウワッさむ〜!」

吹き込んだ秋の風。緩やかではあったが、確かに冬を運んできている。

                 ステ
                     テ

大袈裟に身を震わせ、柵のそばから、つまり蓮華の横から数歩下がった。
フランと名乗る女の目にはすでに、展望台の出口が大きく映っている。

               トコ   トコ

そしてそのまま、歩を進めてすら行く。隣り合っての会話に飽いたかのように。

「アタシの寒がりはそろそろデッドラインオーバーしそうだから、
 今日はここらへんにしとこっかな〜、ゴハンも食べたいし」

「キミは寒さに強いワケ? それとも今も風邪ひきギリギリのスリル楽しんでる〜?
 にゃはは。アタシとキミってまた会う気がするよね〜。こういうの当たるんだ、アタシ」

燃えるような赤い髪をくすぐる秋風のように、この女の興味は次々と移り変わるようだった。
引き止めないならば、そのまま、来た時と同じように、唐突に立ち去って行くのだろう。

266花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/11/21(火) 22:17:50
>>265

「成る程な」

「言われてみりゃあ、そいつも一種のスリルかもしれねえ」

「お陰で一つ勉強になったぜ」

立ち去る様子を見せるフランに冗談めいた言葉を投げかけ、不適に笑う。

「――じゃあな」

そして、少しずつ遠ざかる背中に、短く別れの言葉を送る。
少女は風のように現れ、風のように消えていった。
やがて一人になり、再び眼下の街に向き合う。

(いきなり来て、いきなり帰りやがった)

(おかしな奴だったな)

(だが、面白い奴だった)

おもむろに手で銃の形を作る。
その先を自分のこめかみに当てて、発砲する真似をする。
もちろん弾など出る筈もないし、何の音も聞こえない。

(おかしな奴って事なら、俺も同じようなもんだ)

(いや、正確には同じじゃあねえか)

(俺の方は『イカれてる』って意味だからな)

やや風が強くなる。
それを受けて、赤い髪は先程よりも強く揺れ動く。
男――蓮華の中にある、危険への渇望の表れであるかのように。

   「ハァックションッ!!」
      
         「――さみぃな……」

盛大なくしゃみを一つし、フランが立ち去ってから数分後に、自らも展望台を後にした。

267七海 フランチェスカ『アクトレス』:2017/11/21(火) 23:00:40
>>266

「じゃあね〜! あ、この後ゴハン食べるなら〜、
 う〜ん、この下の階にあるイタリアンのお店がオススメかも!」

         トコ
                トコ

そう言い残して展望台を後にし、高層階のレストランに入る。
おすすめした店ではなく、『中華料理屋』。

「レンゲが付いてくる料理は……
 んん、五目チャーハンでいいかな」

            「ラーメンもつけちゃえ〜」

――少なくとも、名前は忘れない。

そして、二人にはいまだ知らざる『共通点』がある。
ゆえに、再開を予感する言葉は、『的外れ』ではないのかもしれない。

「あ〜、でもやっぱエビチリとかのが食べたいかも」

                 ≪『天使様』はどう思う? なんてね〜≫

           ズ
              ズ  ズ ・・・

268宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/17(水) 20:45:15

一人の男が、スカイモールを歩いている。
薄汚れた作業用ツナギを着た、短い黒髪の労働者風の男だ。
年の頃は四十台半ばだが背は高く、引き締まった体つきも相まって屈強な印象がある。
腰に巻かれたワーキングベルトには、仕事に使う工具類が入ったポーチが吊り下がっている。
足元は頑丈なセーフティーブーツで、両手は革手袋で覆われていた。
低層エリアを隈なく歩き回った後で、男は高層の展望台に立った。

「――驚いたな」

「いつの間にか、こんな塔が建っていたとは思わなかった」

「いや――二十年も経てば、それも当然か」

淡々とした口調で呟くように感想を漏らし、ベンチに腰を下ろす。
自分が刑務所に入った時は、まだ二十世紀であり、この場所は存在していなかった。
やがて、ポケットから一枚の写真を取り出し、しばらく無言で視線を落とす。
それをしまいかけた時、うっかりして手から取り落としてしまった。
手から滑り落ちた写真は緩やかに宙を漂い、裏返しの状態で床の上に舞い落ちた。

269一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/26(金) 00:15:29
>>268
テクテクと大人のものより小さな足音が近づいてくる。
途中から早歩きに変わった子供の足音が止まり小さく青白い手が写真を優しく拾う。

「おじさん、写真を落としましたよ」

小学生と思わしき子供が表を見ないように裏返したまま写真を男性に差し出す。
背丈からして小学六年生ぐらいだろう。配慮からして大人びた性格かもしれない。
透き通った肌は血管が薄く見えて、淡い青色に微かなエメラルドの反射が混じる瞳で男性を興味深そうに見つめる。
涼しく刺すような玲瓏とした風貌のあどけない少年だが、どことなく表情に暗い陰がある。

「なんだか疲れた顔をしてますよ。大丈夫ですか?」

270宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/26(金) 02:30:46
>>269

「ああ、ありがとう」

礼を言って写真を受け取り、元通りしまう。
やや色あせた写真だ。
大昔という程ではないが、それなりに古い写真のようだった。

「気を遣って貰って悪いが、大したことじゃない」

「見ての通り、仕事帰りだからな。
 それで少し疲れている。ただそれだけの話だ」

「それに、この年になれば昔と比べて疲れやすくもなる」

事も無げに告げた後で、少年の姿を見やった。
大人びてはいるが、その年頃の少年らしい少年という印象だ。
だからこそ、垣間見える暗い部分が目に付いた。

「君こそ、少し元気が足りないように見えるぞ。
 ちゃんと飯は食ってるのか?」

271一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/26(金) 04:23:57
>>270
痩せ細っているわけでもないが生者の持つ活力と呼べるものが希薄だ。
宝石めいた瞳にも輝きはなく暗いものを感じるかもしれない。

「ちょっと貧乏なんです。大丈夫ですよ、何も無い頃に比べたらずっとマシになりました。
青白い肌も、この瞳も、『中途半端』な体質のせいだから。大丈夫。大丈夫です」

うわ言のように「大丈夫」と繰り返して微笑む。
自然で柔らかな笑顔の作り方など忘れてしまった気がする。

「作業用の服。整備士さま? 土木のお方? とにかくお疲れさまです。
人のお役に立てるお仕事なのでしょう。知らず知らずの内にお世話になっているかもしれませんね。
本当にお疲れさまでした」

ほんの少し小学生にしては変わっている言いしれぬ何かを感じるかもしれない。
親の躾で目上の者に無条件の敬意を払うようにしているだけの可能性もある。

「古い写真のようですね。とても大事なものでしょうか。
思い出したくもないものを写真に収める方はいません。
どんなに今が変わっても写真は変わらぬ過去を見せてくれるから」

272宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/26(金) 08:21:00
>>271

押し黙ったまま、生気の薄い少年の顔を見据える。
その顔には、特筆するような感情は見受けられない。
単なる無表情というよりは、虚無的な雰囲気が色濃く漂っていた。
たとえるなら、燃え尽きた後に残った僅かばかりの灰といった佇まいだ。
疲れた顔をしているという少年の指摘も、実のところ間違いではなかった。

「そうか。
 まともに頭が働いて手足が動くなら大抵のことはできる。
 君が平気なら、それでいい」

抑揚の乏しい平坦な声で言葉を返しながら、頭の中では別のことを考えていた。
この少年には、何か抱え込んでいるものがあるようだ。
だが、それに対して不用意に踏み込むべきではない。
本人が大丈夫だと言っているのだから、尚更だ。
もっとも大丈夫には見えないが、それを遮ってまで問い質す権利は、少なくとも自分にはない。

「いや、配管工事をやっている。
 水道管やガス管の設置と点検、修理が主な仕事だ」

「どんな仕事も、どこかで誰かの役に立つ。
 会ったことはないが、たとえば俺も気付かない間に、君の父親の世話になっているかもしれないな」

「君が家に帰ったら、俺の代わりに御苦労様と伝えておいてくれ」

長い間、外界と隔離された塀の中で過ごしてきた身だ。
その間に起こった社会の変化には疎い。
近頃はこんな子供が多くなったのかという馬鹿な考えが一瞬頭を掠めた。
だが、そんなこともあるまい。
どちらにせよ、先程も思った通り、深く尋ねるつもりはなかった。

「そうだな。俺にとっては大事な写真と呼べるだろう。
 これを撮ったのは二十年ほど前になるか」

ぽつりぽつりと呟きながら、最初に落とした写真を取り出す。
昔を振り返るような遠い目で、写真を眺める。
そして、不意にそれを表向きにして少年に見せた。

「こいつが、さっき君に拾って貰った礼を言いたそうにしていたからな」

写真には、二十台前半の若い女が写っていた。
その表情には、幸せそうな明るい笑顔があった。
年齢的には娘の写真と言っても違和感はないが、写真に書いてある日付を見れば違うことはすぐに分かるだろう。

「大事なものというのは案外忘れやすい。こうして記録に残しておけば、忘れずに済む。
 嫌なものは、わざわざ記録に残さずとも、勝手に頭に焼き付いていつまでも離れない。
 難しいものだ」

273一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/26(金) 12:45:23
>>272
無意味に自動販売機を取り続けた自分の手元には無い笑顔の写真。
何となく写真に写る女性の笑顔は撮影者に向けられている気がした。
こちらに微笑んでいるように錯覚するほど真っ直ぐなものを感じるからだ。

「撮影者はおじさん? 何だか撮っている人に笑顔を向けてる気がしたから。
もしかして、奥さんの若い頃? とっても幸せそう!」

「私の義父は神父さま。聖教会の神学生は神学生のうちに結婚相手を探さなきゃいけないから大変だったんだぞ、って母との馴れ初めを聞くと愚痴り始めます。
もうちょっと夢のある話をして欲しかったけど、二人とも幸せそうなんです」

青白い肌の頬に赤みがさす。両親の事が本当に好きなのだろう。
貧乏であれ両親に愛されて育ったことが窺える。

「おじさんを元気にできたらいいのに。私の力は記憶を消すとか無理だし。
お役に立ちたいな…でも、『鎮静』とか怖いからやめよう…」

274<削除>:<削除>
<削除>

275宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/26(金) 20:16:04
>>273

「撮ったのは俺だ。
 慣れていないせいで被写体が中心からずれてしまっている。
 あまり出来の良い写真じゃないが、一番よく写っているのがこれだからな」

「そんなところだ。
 この頃は、俺も若かった。
 生憎ここには写っていないが」

そこまで言い終えて、写真を戻す。
本当は、妻になるはずだった女の最後の写真だ。
だが、今そんな話までする必要はない。

「初めて見た時よりも血色の良い顔になったな。
 君のような子供が幸せそうにしていることで救われる人間も世の中にはいる。
 無論、そう思わないつむじ曲がりもいることは否定できない」

「だが、人を元気にする方法には、そういうものもあるということだ。
 子供の笑顔には、特に強い力がある。
 だからといって、何も無理に明るく振舞えと言っているわけじゃないが」

感情の変化のない淡々とした口調で感想を語る。
両輪を愛してくれる子供。
そんな子供を持った彼の両親は幸せなのだろう。
少し運命が違えば、今の自分にもこの少年のような子供がいたかもしれない。
そんな考えが、ふと頭をよぎった。

「神父という職業の人間には一度出会ったことがある。
 俺が教会に足を運んだわけではないんだが」

刑務所にいた時に、神父が来たことがあったことを思い出した。
その出会いで、自分の中に劇的な変化は起こらなかった。
ただ、自分とは違った生き方の存在を実感したことは覚えている。

「俺は至って元気だ。
 怪我も病気もしていないし、心に大きな不安のようなものも感じていない。
 さっき言ったが、君のような子供の幸せそうな姿は、見る者を幸せにすることができる。
 それだけで、君は十分に俺を励ましてくれている。
 そうは見えないかもしれないが」

「ところで、記憶を消すというのも神父になるために必要な技能か?
 神父というのは神秘的な職業だと考えていたが、そこまでだとは思わなかった。
 『鎮静』ならば分からなくもないな」

「だが、もし記憶を消すことが可能だったとしても、俺は断るだろう。
 自ら忘れるというのは、過去から目を背けることに繋がる。
 どんなに目を覆いたくなる記憶であろうと、それと向き合うのが筋というものだ」

276一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/26(金) 21:03:06
>>274
自分のような薄気味悪い子供が元気にする姿を喜ぶ大人はいるのだろうか。
自分でも分からないが両親は私の笑う顔を見ると嬉しそうにしていた。

「これは、私の持論ですが人は心の奥底で自分は生きるに値しない存在だと、邪悪な罰せられるべき存在なのだと思っている。
義父は私に教えてくれました。神父さまのお仕事は赦しを与えてあげることなのだと」

「世の中の神父さまは特別な力を使ったりはしません。ですが、私には力が芽生えました。
人の『悪感情』を『鎮静』する不思議な力。そんなに凄い力ではありませんよ」

スタンド使いに関する知識を得た者であれば、この小さな少年がスタンド使いだと勘づくだろう。
攻撃を目的としたタイプの能力ではないかもしれない。

「過去と向き合って乗り越えたの? おじさんは強い人だ。すごい! ヒーローっぽい!
でも、おじさんからは虚しいって感じがします。心に大きな穴が空いてるみたいな」

277宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/26(金) 22:45:00
>>276

「君の考えに対して、全面的な同意はしない。
 だが、世間には、そういった人種もいるだろうな。
 自分の命に何ら価値はなく、自分自身が穢れた存在だと考えているような人間が」

表情には出していないが、まるで自分のことを言われているような気がした。
少年の言葉を信じるなら、彼の能力は心を読むようなものではないのだろう。
おそらくは偶然の一致か。
しかし、そんな偶然が起こるということには、奇妙な縁のようなものを感じた。
これが、藤原の言っていたスタンドを持つ者の間に働く引力というものかもしれない。

「ほう、そんな力があるのか。合点がいった」

不思議な力についての話を聞いても、特に驚いたような反応もせずに、変わらない調子で言葉を返す。
鋭い人間であれば、その態度から男がスタンド使いであることに察しがつくかもしれない。

「乗り越えた、か。ある方面から見ればそう言えるだろうな。
 昔、俺にとって大きな問題が持ち上がったが、それに対して俺なりに決着をつけ、その後始末も最近になって終わった。
 そして、俺は今ここに立っている」

かつて愛した女が殺され、殺した男を自分の手で殺し、法の裁きを受けて懲役刑を終えた。
復讐という面から見れば、乗り越えたと表現できるかもしれない。
しかし、それを本当に乗り越えたと呼べるかどうか、自分自身に確たる根拠がないのも事実だ。

「ただ、俺は自分を強いとは思わない。ヒーローのような人間でもない」

本当に強い人間ならば、私怨のための殺人など犯さないだろう。
復讐を行ったことに対しては少しも後悔していない。
だが、もしあいつの声が聞こえるならば、自分のせいで俺を殺人者にして人生を棒に振らせてしまったと嘆いているかもしれない。

「君も将来は神父になるつもりなのか?
 その道に関して無知な俺が言っても説得力に欠けるが、素質はあるように思う。
 少なくとも、今俺に言ったように、人の内面を分析する能力は確かなようだ」

278一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/27(土) 00:36:48
>>277

「むっ、信じてませんね! 他の人達に見えない透明人間を出せるんですからね!
手先が器用で家庭科の裁縫だって…あっ、いや、頑張りましたよ」

うっかり余計な事を喋った唇を噛みながら恥に耐える。
ミシンが怖くてスタンドに押さえてもらったり、彫刻刀の刃先が怖いから手伝ってもらっただけだ。
何も後ろめたいことなどありはしない。恐怖は人間の本能だから抗えないのも仕方ない。

「いや、強いと思います。降り掛かった困難を前に止まらなかったのでしょう?
如何なる方法を使おうと最後に後始末を終えれば、それはそれで良いと思います。
『納得』を得るか、得られなかったかの問題です」

「悪を成したなら悪を成さざるを得なかったことそのものが罰。
おじさんがケジメをつけたことを私は祝福します」

何とも聖職者の息子らしくないことを言う子供だと思われるかもしれない。
実際におじさんが犯罪で捕まっていた人だろうと些細なことだ。
私はこういった強い人が大好きなのだから励ましたくもなる。

「神父さまには成れないと思います。私は人の心が分からないのです。
虚しさを埋めたくて自分より正しい誰かに依存したい気持ちが強い気がします」

「捨てられたって気持ちが強いから誰かに縋りたいのかもしれません。
こんな自分は神父さまに相応しくない。否定されるべきなのです」

279宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/27(土) 03:26:39
>>278

「いや、信じてないわけじゃない。納得しただけだ。
 君の『スタンド』は細かい動きが得意で、悪感情を鎮静化させる能力を持っているのだろうとな」

この世にある全ての力がスタンドだとは思わない。
だが、この少年の言う力とはスタンドを指していると考えて間違いないだろう。
本人自身が口にしているのだから、それを指摘しても問題はなかろう。

「悪、悪か――」

「君にその言葉を言われたのが俺以外の人間でなくて良かった。
 それが事実でなければ、今頃は腹を立てていたかもしれないからな」

やや遠回しな言い方で、自分が過去に罪を犯した人間であることを暗に肯定する。
元々、特に隠したいと思っているわけでもない。
その事実を伏せているのは、あくまで相手を不快にさせないためだからだ。
仮に隠し通そうとしたところで、もし相手が調べようと思えば、すぐに知られるだろう。
そういう意味では、隠そうと隠すまいと大きな差はないと言える。

「人の心が分からないというのは意外な答えだ。
 少なくとも、俺の心はよく分かっているように感じたが。
 いや、それはむしろ、君と俺の心に似た部分があるということかもしれないな」
 
「俺の心には虚ろな穴が開いている。
 それを一時的に埋めるために、こうして俺は仕事をしているが、本当に満たされたと感じたことは一度もない。
 おそらく、これからもそれは変わらないだろう」

思い返してみれば、刑務所で過ごした二十年間を辛いと思ったことはなかった。
当人が苦痛を感じなければ、それは罰とは呼べないだろう。
だからこそ、今感じているこの生き甲斐のない虚無感こそが、自分が受けるべき本当の罰なのだと感じる。

「しかし一方で、俺にはないが、君にはあるものがある。将来だ。
 どんな人生を歩むかを考え、それを実行するだけの時間が、君にはあるだろう。
 君がどんな未来を選ぶかは分からないが、これから君が進んでいく道を、俺は祝福しよう」

280一抹 貞世 『インダルジェンス』:2018/01/27(土) 09:23:41
>>279
この屈強な男性が犯罪に手を染めていようと悪感情は芽生えなかった。
このおじさんは何か欠けている。ミロのビーナスが欠けているからこそ人々を惹きつけるように自分は男性の空虚さに惹かれているのだろう。

「世の中には邪魔な石ころを蹴り飛ばすくらいの軽い感覚で人を傷つける者が居て、それは単純に人の価値というものを理解していない愚か者だったりして、おじさんはそいつらと違う。
きっと、おじさんは逃げないで罪を償った。それだけでおじさんは悪なんかじゃないと思います」 
「打ち明けて楽になれるなら打ち明けてくださいね。神父さまのように導くまでは無理ですが。
お仕事の愚痴とか零してくださっても構いません。おじさんは特別ですから!」

小さな少年は純粋な好意を隠さず向けてくる。大人には難しいものだが子供は別だ。
エメラルドの反射が混じる瞳で真っ直ぐ男性を見つめる。

「どんなに理不尽な環境に陥ろうが、報われぬ立場に立たされていようが、人間は、それだけでは不幸であるとは限らない。今、自分の中で何が手つかずのまま無駄になっているか。
それを知っているか、知ろうとしているのか、それが人の価値を決める」

「昔、こんなことを義母が言っていた気がします。将来だとか、未来だとか、そんな考えをわすれていました。流石は妻帯者。格が違います!」

「おじさんは携帯を持っていますか? アドレス交換しませんか。
おじさんは興味深いし、他人とは思えないから。それに私、ぼっちですし…」

281宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/27(土) 19:05:05
>>280

「君は立派だ。俺が君ぐらいの時には、そんなことを考えたこともなかった。
 こんなことを思うのも、年を取った証拠だな」

そこで初めて、男は声のない笑いらしきものを見せた。
感情的ではない虚無的な笑いだった。
明るい笑いではなく、かといって自虐的な皮肉めいたものとも異なる。
かつては自然と行っていた笑うという行為の再現と呼ぶのが適切かもしれない。
それをやったのは、自分を励まそうとする少年の言葉に感謝の念を感じたからだった。

「大したことじゃない。年の功という奴だ。
 年を取るのはあまりいいことではないが、悪いことばかりでもない」

少年の言葉を聞いて、ほぼ仕事のためだけに使っている携帯を取り出した。
自分としてはなくてもいいのだが、現代では持っていないと仕事に支障が出る。
もっとも、これを使うのは電話を掛ける時か電話を受ける時かのどちらかだけだ。
そして、アドレス交換すること自体は、何も問題はない。
だが、別の部分に些細な問題があった。

「携帯は持っているが、仕事用として持っているだけだからな。
 俺はアドレス交換の方法を知らない。
 自慢じゃないが、こういった精密機械は不得手だ。
 君がやり方を知ってるといいが」

そう言って、少年に携帯を差し出す。
ケースや保護フィルムの類は取り付けられておらず、画面や本体に細かい傷が幾つも付いている。
設定も弄っていないようで、一見した限り購入した時の状態のままのようだ。

282『インダルジェンス』:2018/01/27(土) 20:24:36
>>281
これは酷い。差し出された携帯を見て憐れみを覚える日が来るとは思わなんだ。
設定が初期のままでは携帯も泣きたくなるだろう。使いやすく設定を弄り倒す。

「アドレス交換以前の問題です。お仕事の道具はちゃんとメンテしましょう。
おじさん向けの設定に変えますよ。迷ったらメモ帳を見てください。トラブルの解決法を書いておきます」

「昔は腕時計と靴を見て社会人は相手を値踏みしていたとか。道具を粗末に扱うのは駄目です。
性格のキツい人はそれを怠惰と見做します。見た目だけでもマシにしましょう」

怒涛の駄目出しが止まらない。貧困層の子供は見た目、臭いを原因に周囲の子供から迫害を受けるのだ。
常に些細な違いをネタに絡まれるので隙は潰さなければ気が済まない。

「交換が終わりました。初期設定より使い勝手はマシになったはずです」

「おじさんだって忘れてるだけで賢かったかもしれません。
私は周囲の皆と違って変わり者だし、立派じゃなくて変なだけです」

設定を弄り倒した携帯をおじさんに手渡す。
これだけ執拗に言ったのだ。これ以上は酷い事にはならないはず。

「あっ、おじさんの名前を聞いてなかった。
私の名前は一抹 貞世です。次はおじさんの番」

283宗像征爾『アヴィーチー』:2018/01/27(土) 22:21:16
>>282

「なるほど、勉強になった。余計な手を煩わせてしまって悪かった。
 君は詳しいようだな。いや、最近の子供ならそれが普通なのか」

携帯販売店の店員さながらの手際で調整された携帯を受け取った。
特に乱雑に扱ってはいなかったが、裸で使っている内に自然と今の状態になった。
壊れてしまえば差し障りがあるが、多少の傷があろうと正常に動作するなら大きな問題はないという考えだ。
設定が無変更だったのも、変えなくても自分が使用する分には影響が出ないからだった。
元々が実質偏重気味の性格だったこともあるが、長い刑務所での暮らしによって、それが助長されているきらいがあるとは思う。

「名乗られたら名乗り返さなければならないな。宗像征爾だ」

この名前が二十年前は新聞にも載ったし、ニュースでも報道されていた。
無論、今は時間の流れに押し流されて忘れられているが、調べれば当時の話は簡単に見つかる。
もっとも、この少年がそれをするとは思えないし、されたところでどうということもない。
やがて、一抹少年から少し離れると、地平線の彼方に沈む燃えるような夕陽に目を凝らす。
その強い光を見て、目で見る眩しさと同時に、心で感じる精神的な眩しさを覚えていた。

「だいぶ日が傾いているな。俺は、もう少しここにいるつもりだ。
 君はそろそろ帰らないと、ご両親が心配するんじゃないか?
 俺が送っていってもいいが、君の知り合いに誘拐犯と間違われても困るからな」

一抹少年が帰るのであれば、それを見送る。
残るのであれば、もう少しの間、会話を続けるだろう。
自分にとっても、この少年は他人とは思えなかった。
愛する者も憎むべき相手もいなくなり、生きる目的と呼べるものを喪失した俺の命に価値などない。
だが、この少年の長い人生において、俺との出会いが多少でも何らかの足しになったとすれば、燃えカスのような俺の命にも少しは価値が出てくるというものだろう。

284『インダルジェンス』:2018/01/28(日) 00:38:46
>>283
確かに帰らないと義父が心配して通学路に迎えに来そうな気がする。
実際、変な人物に声を掛けられたりと事件に巻き込まれやすい質だ。

「スマホからPCまで使えるのが普通みたいです。
私は疎い方で孤立してる状態ですね。みんな揃ってLINEで相互監視社会ごっこをしてます」

あの連中の相互監視社会に入るのは勘弁だ。鬱陶しくて仕方がない。
自分は好き勝手に歩き回っていられれば、それだけで満足なのだ。

「知り合いなんか居ません。炊き出しの時に遊んでくれるホームレスの皆様しか。
でもね! 今日から宗像おじさんも知り合いです!」

「じゃあね! 宗像おじさん! また、会おうね!
夕飯はカップラーメンで済ませちゃ駄目ですよ! 」

縦笛が顔を覗かせる色褪せた黒のランドセルを揺らしながら走り去る。
もし、子供が居たら今のように見送る事も、その逆もあり得たのだろう。
最後に振り返ると大きくお辞儀をして走り出す。小さな影が見えなくなっていく。

285霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/03(土) 21:21:21

              ゴ ォォォォ

風の強い日に展望フロアに来ていた。
今時こういう柵はしっかりしていて、
飛ばされる事なんて恐れる事も無い。
それどころかガラス張りの壁だってある。
それは空を切り取るようだけど、仕方ないのだろう。
 
「『東京タワー』よりは低いんだろうけど、
 ここだって十分高いわよね。
 ああ、今はスカイツリーのが良いのか」

          チチチチ

「『モール』って昔からどういう意味かわからねーのよね。
 どっかの国だとモグラの事をそう言うなんて聞いたけど」

         「あー? スカイは分かるっての」

こんなところまで伸びる木は無いから、
自分の肩を小さな燐光の止まり木にして、
街を一望しながら語らう――スタンド使いにしか聞こえない声。

286花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/03(土) 23:22:17
>>285

「――そりゃあ、おもしれえな」

「この場所は言ってみりゃ空の上だ。
 だが、モグラってのは地面の下にいるもんだよな」

「スカイモール(空の上)にモール(モグラ)がいるなんてのは、なかなか気の利いたジョークじゃねえか」

そこには先客がいた。
髪を赤く染めたレザーファッションの男だ。
その視線が、霞森の肩に向かう。

「もっとも、『妖精』なら空の上にいても不思議じゃねえか」

「おあつらえ向きに『羽』も生えてることだしな」

「それとも、『妖精みたいな何か』って言った方がいいか?」

287霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/03(土) 23:50:19
>>286

「最近詩人ッぽい男によく会うわね。
 あたしのルックスが『詩的』だから?
 ま、そーいうのは嫌いじゃねーですわ」

     チチチチチ

「『Q-TIP』って呼んでやりゃー良いわ。
 こいつらはそう呼ばれたがってる。
 あんたに聴こえるようには言ってないけど」

         「いわゆる『妖精語』ってヤツ」

   チチチ

カラスアゲハを思わせるこの服の、
肩の上の『燐光』――を纏う、妖精。
薄い羽、笑み、童話のような可憐な姿。
と、あまり褒め過ぎるものでもないけど。

「あんたは知ってんの?
 なんでここが『モール』なのか。
 英語勉強してるようなヤツなら、
 考えてみりゃすぐ分かるんでしょうけど」

それから、先客の男に尋ねた。
べつに本気で知りたいわけでもない。
そりゃあ、知れれば喉のつかえは取れるけれど。

288花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 00:19:15
>>287

少女の言葉を聞いて、軽く笑った。

「そいつも俺みたいなナリをしてたってのか?
 俺に生き別れた兄弟がいねえことだけは確かだな」

「ああ、その『Q-TIP』ってのは詩的なルックスしてると思うぜ。
 別にあんたのルックスが詩的じゃないって言うわけじゃねえがよ」

妖精――いや、妖精のスタンドから視線を外す。
視線の先には町がある。
より正確に言うなら、見ているのは町ではなく地面だ。

「知ってたら教えてやりてえが、あいにく知らねえな」

「色んな店やら施設やらが集まってるからじゃねえのか?」

「トンネルで複雑に繋がってる規模のデカいモグラの巣穴みてえによ」

冗談交じりに返しながら、ライダースジャケットの懐に手を突っ込む。
抜き出された掌に光るものがあった。
金属製のシガレットケースが、手の中に握られている。

289霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/04(日) 00:30:25
>>288

「あんたのが、今時って感じよ。
 まー今時のがイイとは限らないけど。
 こいつらも見るからに『古典派妖精』だし」

    チチチチ

「ああ、今時を悪く言うわけじゃーねえわよ。
 あんたのそのジャケットなんて結構イカすわ」

          「『巣穴説』も中々面白ぇし」

視線の先を追うようなことはしない。
『悪友』は追っているようだったが、
この男が見ているのが町でも空でも、
霞森にそれを咎める理由はない。
ここが学校で自分が教師でもないんだし。

「タバコ、良いんだっけ? ここ」

       ヒュン

「まー展望台に副流煙も何もないか。
 あたしは嫌いじゃねーんだけど、
 このご時世色々ウルさいものね」

   チチチチ

         「こいつもうるせーし」

煙たげに肩の上の『燐光』を払うが、
こんなのは本気じゃない。お互いに。
払った手を縄跳びのようによけて、また肩に止まった。

290花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 00:53:33
>>289

「そりゃどうも。自慢するわけじゃねえが、こいつはヴィンテージだ」

褒められて悪い気はしない。
実際、自分でも気に入っている。
コレクションしているジャケットの中でも、かなりふんだくられた方だ。

「ああ、ここは禁煙だな。なにせ向こうに喫煙所があるからよ。
 だが、俺は向こうへ移る気はねえな」

「別に、俺がエチケットのなってねえクソ野郎だからってわけじゃねえ。
 こいつがタバコじゃねえからさ」

シガレットケースを開いて、そこから一粒のキャラメルを取り出した。

「もし、タバコの火でジャケットの袖に焦げ跡ができたりしたら、たまったもんじゃねえからよ。
 だから、俺はタバコは好きじゃねえんだ」

「――こいつは好きだけどな」

そう言って、キャラメルを口の中に放り込む。
瞬間的に、口の中に甘さが広がった。
それは、タバコを吸うのとは大きく違う味だ。

「『Q-TIP』って言ったよな」

「そいつが今は何を喋ってるのか教えてくれねえか?」

「モールについての自説を披露したお返しによ」

291霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/04(日) 01:34:11
>>290

「ほーん、服に金かけるタイプなのね。
 道理で全体的に、洒落てると思った。
 あたしはあんまそーいうのねぇから、
 それの価値ってのは分かんねーけど」

服にこだわりが全くないわけじゃないけど、
男のこだわりがわかるほどの知見が無い。
まあ、見た感じ『いいもの』なのは分かるし、
似合っているのは間違いないから、それでいい。

「キャラメル一つ食べんのに、
 随分『イカす』事をすんのね。
 そーいうの嫌いじゃーねえわ。
 お返しってのをするには十分にね」

        チチチチ

「えーと、『Q-TIP』は今んとこ、
 『タバコが嫌い』っつー話をしてるわね」

                チチチ

「んで、キャラメルは好きなんだってさ。
 まー、こいつはモノ食わなくても死なねーけど。
 あんたとは気が合うかもね……って言ったら、
 そうは思わないと来たわ。『人見知り』なのよこいつ」

「あと、なんで煙草入れに入れてんのか気になるってさ」

直接喋れば早いのにとは思うが、
まあその辺は上手くやっていける所。
長年来の悪友だ。わざわざ無茶振りをする理由もない。

292花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 02:19:13
>>291

「聞いた話じゃ、モノの価値ってのは人の数だけあるらしいぜ。
 世の中には、ビンの王冠だとか割り箸の袋なんてのを集めてるやつもいる。
 出回ってる数が少ない品には、すげえ値が付けられることもあるんだってよ」

「俺には、そういうもんの価値は分からねえ。
 蓋や袋は必要だとは思うがよ。
 あんたが分からないのも、それとおんなじようなもんだろうぜ」

シガレットケースを閉じて、元通り懐にしまう。
それから再び少女の肩に視線を向け、話に耳を傾ける。
聞き終わると、興味深げに頷いた。

「さしづめ、あんたは妖精語の通訳ってところだな。
 人間語と妖精語のバイリンガルってやつか?」

「タバコ入れに入れてる理由は簡単だな。
 ちょうどいいサイズだからよ。
 この中に、俺が好きなキャラメルの小箱がスッポリ収まるのさ」

「俺のダチに喫煙者がいて、そいつがシガレットケースを使っててよ。
 それを見て、こいつは入れ物に丁度いいんじゃねえかって気付いたのさ。
 それで、こいつを使ってるってわけだ」

「ま、大体そんなとこだな。
 納得したかどうか、あんたの『ティンカー・ベル』に聞いてみてくれねえか」

その時、不意に思った。
もし自分のスタンドが喋ったら、どんなことを話すのか。
大方ロクなことじゃねえだろう。
なにせ本体がロクなやつじゃねえからな。

293霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/04(日) 19:19:33
>>292

「切手とかも昔流行ったわよね。
 あたしも『昆虫標本』なんか好きだし、
 コレクションをしてーって気持ちはわかる」

「人それぞれって事、納得したわ」

   チチチチ

『Q-TIP』の言葉に心を傾けつつ、
つらつらと思ったことを口に出す。

「通訳扱いしてんじゃねーわよ。
 まーでも通訳みたいなもんか」

       チチチ

「こいつは納得してるみてぇだし、
 あたしも納得した。万事オッケー。
 にしても『入れ物』ねェ……
 こいつを持ち歩くカゴを買う、
 ってのもいいかもしれねーわね」

              チチチ

「冗談だっての。……あー、喋ってたら腹減って来たわ。
 スカイモールで上手い飯屋、あんた心当たりってある?」

レストラン街があるのは知っている。
とはいえまさにモグラの巣穴のようなもので、
どこに何があるやら複雑だし、探すのも億劫だ。

この男は慣れた風だし、何か知っているなら聞くのが早い。

294花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 21:33:11
>>293

「そいつは悪かったな。珍しかったもんでよ。『俺の』は喋ってくれねえしな」

「なにせ無口な性格なんでな」

そう言いながら軽く頭を掻いた。
一応謝ってはいるが、大して悪びれもしていない様子だった。

「今、なんか文句言ったんだろ。あんたのカゴって言葉に対してよ。
 だんだん分かってきたぜ」

霞森に向けていた視線を動かし、その肩にいる燐光を纏う妖精に向ける。
俺には『Q-TIP』の言葉は分からないが、『Q-TIP』には俺の言ってることが分かるだろう。
別に意味はないが、打ち解けるための軽いコミュニケーションみたいなもんだ。

「まあ、そいつの『入れ物』なら既にあるんじゃねえのか?
 これ以上ないってくらい相性バッチリのがな。
 いや、入れ物って言い方は聞こえが悪いだろうけどよ」

「その意味じゃあ俺も一緒さ。
 俺の妖精は、今は俺っていう入れ物の中に収まってる。
 ただ、妖精なんてロマンチックなナリはしてねえけどよ

ひとしきり話した後で、柵から身体を離す。

「――東側の隅っこの方に、小さい喫茶店がある。
 場所が良くないからあんまり目立たねえが、そこのランチメニューは結構イケるぜ。
 そこらの飯屋に負けず劣らずの味は保障できるな。
 『巣穴の中の穴場』ってやつだ」

295霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/04(日) 22:01:54
>>294

「無口? 持ち主に似ないのね。
 ペットじゃねーんだし、そんなもんか。
 あたしと『Q-TIP』だって全然似てねーし」

            チチチ

「あんたもだんだんわかって来たじゃない。
 こいつは虫扱いされんのが好きじゃねーのよ。
 もちろん、あたしもこいつの事をそうは思ってねー」

     チチチチ

こういう時『Q-TIP』の人見知りは難儀だが、
この男の言っている推理は実際、当たっている。

「入れ物というか、乗り物というか。
 まー持ちつ持たれつってやつよね、
 他のやつの『スタンド』の事は詳しくねーけど」

              ザッ

特に意識せず、柵にもたれた体を起こす。
肩から燐光が一瞬だけ飛び立ち、逆の肩に舞う。

「喫茶店? 飯の好みも洒落てんのね。嫌いじゃねー。
 パスタやサンドイッチなんてのは結構好きだし、
 本でも持ち込んで、優雅な午後を過ごすのも悪くねーですわ」

人から見ればムッとした顔に見えるだろうが、
笑顔のつもりだ。べつにどう見られてもいいのだが。

「昼飯の場所も決まったし、そろそろ行くとしますか。
 あんたはここにいんの? つっても、あんた来たばっかりか」

296花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 22:28:30
>>295

「ああ、俺のはウンともスンとも言いやしねえ。
 その代わり、時々『ズドン』と言う時はあるけどよ」

軽口を叩きながら、両手をジャケットのポケットに突っ込む。
そして、展望フロアの出口へ向かって一歩踏み出す。

「いや、俺はあんたが来るしばらく前からいるな。
 頭の中じゃあ、そろそろメシでも食おうかと考えてたとこだ。
 実を言うと、今あんたに教えた店に行こうとしてたってわけさ」

言いながら、もう片方の足を踏み出す。

「――つうことで、行き先は同じってことになるな。
 ついでに、そこまで案内してやるぜ。
 初めてだと、ちと見つけにくいからな。
 俺みたいなのが同じ店にいたら、メシが不味くなるってんなら別だがよ」

軽く笑いながら、霞森の顔を見る。
パッと見ると、仏頂面のような表情だ。
だがまあ、おそらくは、これがこいつの笑った顔なんだろう。
価値観ってのは、人の数だけ世の中にあるもんだ。
それとおんなじように、表情ってのも人それぞれってことだろうよ。

297霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/04(日) 23:18:59
>>296

「『ズドン』ね、よくわかんねーけど、
 ほのぼのしたもんじゃねーのは伝わった」

「あー、景色を見るのに夢中で、
 先客に気づいてなかったわけね。
 あたしも案外ロマンチックなのかも」

    チチチ

       「んなわけねーか」

足並みを揃えるでもなく、
男のやや後ろを着いて歩く。
燐光が先導するように前を飛ぶ。

    チチチチ

「あん? 別に構いやしねーですわ。
 人が一人いるくらいで飯の味は変わらねー。
 人並み以上の恰好で、喋れるヤツなら特にね」

          「道案内よろしく頼むわよ」

人と食事を取るのが好きってわけでも無いが、
まあたまには悪くないものだ。奢りじゃあないとしても。

298花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/03/04(日) 23:54:16
>>297

「そりゃあ、妖精なんて連れてるくらいだしな。
 あんたがロマンチストだったとしても、不思議はねえな」

ここまで会話した限りじゃあ、そんな性格でもなさそうだが。
おっと、こいつは心の声ってやつだ。
わざわざ口に出して言うことじゃあねえからよ。

「さてと――それじゃあボチボチ行くとすっか」

一言言葉を投げてから、妖精を連れた少女と歩き出す。
我ながら妙な取り合わせになったもんだ。
そんなことを考えながら、歩みを進めていく。

(しっかし、あそこから見下ろす眺めってのは、いつ見てもいいもんだ。
 あの柵を越えて飛び降りた瞬間に、どんなスリルが味わえるかなんてことを、一瞬考えちまったぜ)

この名前も知らない女との会話がなければ、マジに飛び降りちまったかもしれねえ。
――なんてのは、ほんの冗談だ。
本気にするなよ。

「ま、今はとりあえずメシだな」

歩きながら、そんなことを呟く。
そして、二人の人間と一人の妖精の姿は、展望台から遠ざかっていった。
奇妙ではあるが、これも日常の一コマには違いないだろう。

299霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/05(月) 00:06:50
>>298

「まー連れてるっつーか、
 一緒にいるだけっつーか。
 趣味ってわけじゃないんだけど」

「ファンタジーやメルヘンが嫌いなワケでもなし。
 そこまで強く否定できねーのが痛いトコロね」

          チチチ

悪友は展望台からの眺めを名残惜しんでいるが、
こうも腹が減ってはせっかくの現世を楽しめない。
とりあえず何か入れよう。考えるのはそれからでいい。

「そーね、とりあえずメシ」

「とりあえずサンドイッチかパスタセット」

     チチチ

「あー、パフェなんてのも、悪かねーけど。
 甘い物よりは腹に溜まるものがいいわね」

                ザッ ザッ

                        ザッ

300今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/03/26(月) 23:16:21

休みの日の夕方。スカイモールでクラスの子達と遊んだ帰り。
帰り……なのにまだスカイモールにいるのは、一人で買い物したいから。
みんなと一緒の方が楽しいけど、ゆっくり見たいもの、っていうのもある。
それがフツーだと思う。私の場合、それは『マスキングテープ』だ。

一通り買い揃えて、今はレストラン街にでも行こうと思ってるところ。
お茶飲むくらいにするつもりだけど、晩御飯を食べて帰るのもアリかな。
 
           ザワ

               ザワ

「んっ?」

今、何か『変わったもの』があったような。あれは――――>>301
まあちらっと見えただけだし、わりとフツーのものかもしれないんだけど。

301夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/03/27(火) 00:22:44
>>300

――ピコン

その時、スマホにLINEの通知が届いた。
送信者は『ユメミン』だ。
極めて簡潔なメッセージが、興奮した文体で以下のように綴られている。

     『 ゆかいな店はっけん!! 』

それに付随して、一枚の写真が添付されていた。
中央には『ユメミン』がおり、かなりはしゃいだ様子で自撮りしている。
その首には、何か白いマフラーのようなものが巻かれている。

いや――それはマフラーではなかった。
よく見ると、それが大きな『白ヘビ』であることが分かるだろう。
背景に写ってる多くのケージの中には、様々な種類のヘビやトカゲなどの爬虫類がいるのが見える。

壁の隅の方に、その場所の名前が書いてあった。
『爬虫類カフェ:Funny Little Forest』。
どうやら、新しい店を開拓したようだ……。


そして――今泉未来は、『変わったもの』へと視線を向ける。

302今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/03/27(火) 00:41:09
>>301

――ピコン

「ん」

今着信が来るって事は、さっき遊んでた子達かな。
そういえば今日は楽しかったよってラインするの忘れてた。
そう思ってスマホを見たら、着信は新しい友達からだった。

ゆかいな店……なんだろ? 写真が読み込まれるのが遅い。
速度制限? それはまだだよね。電波が悪いってだけのはず。

「?」

これって服屋さんかな? この季節にマフラー?
そう思って写真を拡大したらわかった。わかっちゃったのだ。

「うわっ!」「これって……うわーっ」

蛇だ。ヘビ! や、べつに特別嫌いってわけでもないんだけど。
ユメミンはこういうの好きなのかな。『爬虫類カフェ』かあ・・・
一緒に遊びに行く時は、こっちで場所決めちゃった方が良いかも?
でも、フツーのところよりはこういうところの方がユメミン好みなんだろうな。

「……」

             ススススッ

と、一通りスマホを見てひとこと、『すごいお店ですね!』と返信してみた。
それと、画面を少しスクロールさせて…あった、驚いてる鳥のスタンプひとつ。
それから顔を上げた。さっき見えた変わった物(>>303)、なんだったんだろう?

303今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/03/29(木) 21:58:21
>>302

「……あれっ?」

顔を上げた時には変なものはなかった。元から何もなかったのかも?
まあ、フツーならフツーで全然いいよね。

そういうわけで、その後はフツーに食事を済ませてスカイモールから帰った。
その日はヘビの夢を見ちゃったけど、特別嫌いってわけでもないし複雑な夢だったかも。

304美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/11(月) 22:36:47

「――うー……ん……ッ」

スカイモールの一角にあるカフェで、私は軽く伸びをする。
ついさっき、ディレクターと番組の打ち合わせが終わったところだ。
彼は先に帰ってしまったが、私はもう少し残ろうと思っていた。
テーブルの上には、付箋や書き込みがされた資料の束が乗っている。
それらを脇に退けて、代わりにメニューを手に取る。

「すみません。注文してもいいですか?」

「どれにしようかな――じゃあ、コレで」

手を上げながら、近くにいたウェイトレスに声を掛ける。
頭を使った後には、身体が甘いものを欲しがる。
その要求を叶えてあげるために、アップルパイと紅茶のセットを注文した。

注文が来る間、特に何をするでもなく店内を眺める。
少ししてから、大学生のグループらしい団体客が入店した。
席は次々に埋まっていき、ほとんど満席の状態になってしまった。
空いているのは、私の向かいの席だけだ。
もし新しく別のお客が入ってきたなら、相席になってもおかしくはない。

305猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/11(月) 23:45:29
>>304

「え、相席ですか?」

たまには散歩でもと思い出かけてきた。
インドア派だが外に出るのは悪くない。
なにか食べようと思いカフェに入ったがどうやら満席が近いらしい。

「……あの、相席いいですかね?」

相席になるであろう人の席に近づきそう呟いた。

306美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/12(火) 00:28:06
>>305

「――ん」

その声を聞いて、ゆっくりと顔を上げる。
何も想定外の出来事ではない。
あらかじめ予想していた状況だ。

「ええ、どうぞ遠慮なく」

にこやかに笑い、自分の向かいの席を手で指し示す。
相手の人はどんな人だろうか。
失礼にならない程度に、それとなく見ておこう。

「さっきまで空いてたんですけどねえ」

「――あ、来た来た」

世間話をしていると、注文した品物が運ばれてきた。
アップルパイの乗った皿と紅茶のカップがテーブルに置かれる。
資料の類は、テーブルの隅の方へ追いやられている。

307猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/12(火) 00:55:58
>>306

「ありがとうございます」

軽く頭を下げて席に座る。
さて、何を頼んだものか。
あいにく紅茶やコーヒーというものに馴染みがない。
食べ物の好き嫌いはあるが突飛なものはないだろうから悩んでしまう。

「ん……」

それから相席している彼女の注文が来た。
店も混んでいる。注文するなら今だろうか。

「すいません、ボクも同じものを……あぁ、えっとコーヒーで。エスプレッソってできますかね?」

結局同じものを頼んでしまった。
別にそれが悪い訳では無い。
目に入って欲しくなっただけだ。それだけなのだから。

「……お仕事ですか?」

何となくテーブルの隅にある書類が視界に入り、そう質問した。

308美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/12(火) 01:37:39
>>307

「うん――まあ、そんな感じね」

「といっても、さっき終わったばかりなんだけど」

「だから、今は一休みしてるの」

幾らか砕けた喋り方で言葉を返す。
資料には、自分が担当するラジオ番組の構成や、新しい企画の案が書かれていた。
見られて困るようなものでもないから、特別隠そうとはしていない。

「君は、ちょっとお出かけってところかな?」

「――当たってる?」

まずは紅茶を一口飲んで、渇いた喉を潤す。
私は喋ることが仕事だから、喉の調子には常に気を配っている。
それからアップルパイに手を伸ばし、一切れ分を口に運ぶ。

「ここのアップルパイは結構イケるのよ」

「だから頼んで正解」

そう言いながら、クスッと笑ってみせる。
打ち合わせをする時には、ちょくちょく使っている店だ。
常連というほどではないが、そこそこ来ているという自覚はある。

309猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/12(火) 01:53:00
>>308

「そうでしたか」

左手を口元に当てる。
それから目の前の彼女から視線を切った。
集団の客が楽しそうに談笑していた。

(なんだあれ……はぁ)

「はい。散歩です」

「正解ですね」

視線を戻して笑う。
くだけた笑いというよりは目を細めて少しほくそ笑んだ感じだ。

「正解。もっとアップルパイが楽しみになりました」

そんなことを言っている間に自分の注文もやってくる。
まずはエスプレッソに口をつける。

(……苦)

それからアップルパイだ。
掴もうとした手が途中で止まる。
熱そうだ。ちょっと冷めるのを待とう。

「……美作さんはよく来るんです?」

310美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/12(火) 18:09:31
>>309

「ええ、時々ね。ここは雰囲気がいいから――え?」

名前を呼ばれて思わず聞き返す。
まだ名乗ってはいないはずだ。
しかし、知られていても奇妙ではない理由に心当たりはあった。

「もしかして、私のこと知ってるの?」

「――それとも、君は人の心が読めるのかな?」

静かに笑う少年の目を見つめながら、悪戯っぽい表情で問い掛ける。
誰かとお喋りするのは好きだ。
自分にとって、喋ることは仕事であると同時に趣味でもある。

「どっちが正解?」

そう言って、また笑う。
紅茶の表面に、その顔が映り込んでいる。
このやり取りを楽しんでいる表情だ。

311猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/12(火) 23:27:07
>>310

「んー」

左手を口にまた当てる。
トントンと二度、唇に触れた。

「ボクは超能力者です」

「人の心だけでなく経歴すべてがわかる……ってかー?」

へらっと笑う。
左手をのけて、そのままアップルパイを掴む。
いい具合の温度だ。

「冗談ですよ。ラジオが好きで、よく聞いてたんで知ってました……おいし」

もしゃもしゃとアップルパイを咀嚼した。

312猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/12(火) 23:27:10
>>310

「んー」

左手を口にまた当てる。
トントンと二度、唇に触れた。

「ボクは超能力者です」

「人の心だけでなく経歴すべてがわかる……ってかー?」

へらっと笑う。
左手をのけて、そのままアップルパイを掴む。
いい具合の温度だ。

「冗談ですよ。ラジオが好きで、よく聞いてたんで知ってました……おいし」

もしゃもしゃとアップルパイを咀嚼した。

313美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 00:06:29
>>312

「あら、それは残念。てっきり超能力が正解かと思ったのに」

軽やかに笑い返しながら、おどけた様子で冗談を飛ばす。
超能力者――か。

その言葉を聞いて、自分の力が思い浮かんだ。
だけど、私には人の心を読むことなんてできない。
私にできるのは、機械の心を読むことなんだから。

「でも――リスナーと会えて嬉しいわ」

これは冗談じゃなくて本心からの言葉。
電話でリスナーと話すことはあるけど、直接顔を合わせられる機会は珍しい。

「美味しいでしょ?お値段もリーズナブルだしね」

アップルパイが口の中で溶けていく度に、疲れた身体に糖分が染み渡る。
これぞ癒しって感じ。

「君は――ううん、私だけ君って呼んでるのも失礼よね」

「よかったら、名前を教えてくれない?」

314猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/13(水) 00:12:34
>>313

「残念、ですか」

実の所は超能力者と言っても問題は無い。
そういう力を持っている。
いつか引くための引き金を持っている。

「たしかに、美味しい」

アップルパイの甘味をエスプレッソが埋めていく。
苦味と甘味を交互に味わえる。

「別に、いいですよ」

「……猿渡楓です」

315美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 00:32:13
>>314

「猿渡君、ね。猿渡君は高校生かな?」

少年の風貌から大体の見当をつける。
おそらくは十台後半くらいだろうか。
青春の真っ只中という印象だ。

「いいわねえ。青春時代って感じ。
 その時期にしかできないことって色々あるものね」

ふと、自分が十台だった頃を思い出す。
アイドルとしての日々が忙しく、人並みに学校生活を満喫できたとは言い難い。
どちらかを選ばなければならなかった。

結局その選択が良かったのか悪かったのか。
それは、どちらとも言えないだろう。
いずれにしても、それらはもう過去の話だ。

「猿渡君は、何か頑張ってることってある?
 たとえばクラブとか、個人的にやってることとか……」

316猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/13(水) 01:03:18
>>315

「高二です」

現在十七歳だ。
青春真っ盛りと思われるのかもしれないが、彼自身はそういう気持ちはなかった。
この感情は未来から見れば可愛い感情なのだろうか。
もし二十年経っても青春を感じられないのならどうしたらいいのだろうか。

「クラブとかは別に……的当てとか体鍛えたりとか……後はラジオ聞いたりですけど」

317美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 01:26:18
>>316

「私としては、ラジオを聴くのは是非これからも続けて欲しいわねえ。
 何も、私の番組に限ったことじゃないんだけど……」
 
「もちろん、私の番組も聴いて欲しいんだけどね」

自分の番組が大切なのは間違いない。
だけど、私はラジオという分野自体が好きだ。
だから、それが自分の番組じゃなくても、
ラジオに耳を傾けてくれる人は大事にしたいと思っている。

「鍛えるってことは、トレーニングしてるんだ?
 私も喉の調子を維持するためにボイストレーニングは続けてるわ」

「『的当て』っていうのは?何かのスポーツ?」

体を鍛えるというのは何となく想像できる。
だけど、的当てというのは何だろう?
弓道とかアーチェリーとか、そういう競技の類だろうか。

318猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/13(水) 01:38:43
>>317

「……いつか、ラジオのパーソナリティになりたいんです」

そのための勉強と趣味だ。

「走り込みとか筋トレとかですかね。体小さいのでそういう所から強くならないと」

小さい分舐められたくないという気持ちがある。

「スポーツ……」

「んー……」

銃を撃つのが彼の的当てだ。
しかしどう表現したものか。
それこそ超能力者であることを明かさねばならないだろう。
どうしたものだろうか。

「射撃競技、クレー射撃とかそれ系のピストル射撃がしたいんですけど」

「出来る場所がないので、缶とか髪を的にして撃つんです」

319美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 02:09:02
>>318

「へえぇ!そうなんだ!」

少年の言葉を聞いて表情に喜色が浮かび、思わず声が高くなる。
仕事でもプライベートでも、今まで色んな人とお喋りをしてきた。
だけど、パーソナリティになりたいなんていう言葉は聞いたことがなかった。

「嬉しいこと言ってくれるわねえ。あ、もしかして私みたいな?
 なぁんてね。冗談よ」

「でも、すごく素敵なことだと思うわ。
 それが実現できるように、私も祈ってる」

もし彼がパーソナリティになったとしたら、その時の私はどうしているだろう。
まだ、この仕事を続けてるのかな?
それとも、結婚して家庭にでも入っているんだろうか。
たとえ結婚したとしても、私は今の仕事を続けたいと思ってる。
まあ、心配しなくても、今のところ浮いた話が来る気配は全くないんだけど。

「クレー射撃――なるほどね。そういうのなんだ」

言われてみれば、そういった競技もあったことを思い出す。
知識としては一応知っていた。
もっとも、あまり詳しくはない。

「ピストルねぇ……。
 じゃあ、今はエアガンみたいなものを使ってるってことかな?」

まさか本物を使っているなどという考えが出てくるはずもない。
それがスタンドであるという発想も当然ない。
だから、おそらくは擬似的な道具を使っているのだろうと想像していた。

320猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/13(水) 02:33:18
>>319

「はい。まだまだやることは多いですけど……」

夢だ。
そして目標でもある。
まだ暗中模索。何をすればいいのか具体的なことはわからないけれど。

「そう……今は持ってないんですけど……」

手の中に銃が現れる。足元にはダンブルウィード。
これはちょっとした悪戯心とサービス精神のようなものだ。
彼女が見える人間なら意味が分かる。
見えないのならただそれだけの会話で終わる。
ただ、それだけの事だ。

「有事以外では人に向かっては絶対に使わない」

「そう決めているんですけど」

321美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 02:50:04
>>320

少年の手中と足元に発現する精神のヴィジョン。
無意識の内に、それに視線が向いた。
その様子から、見えていることが分かるだろう。

「えっと――何ていうんだっけ」

「『西部劇』なんかで見かけるやつなんだけど……。
 こう――藁の塊みたいなものが転がっていくっていう光景。
 言ってること分かる?」

「それの名前が分からないのよね。
 見た目は、丁度『そんな感じ』なんだけど」

少年の足元を見ながら問い掛ける。
続いて、視線を手元に移す。
手の中にある『拳銃』を見つめる。

「納得したわ」

「それなら確かに『射撃』はできそうね」

いつの間にか、肩に『小鳥』が乗っている。
マイクとスピーカーを備えた『機械仕掛けの小鳥』だ。
少年のスタンドを見せてもらったお返しのつもりだった。

322猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/13(水) 22:57:46
>>321

「タンブルウィードですよ」

「転がる草でタンブルウィード」

足で草の塊を蹴るように動かす。
そして拳銃が手の中で回る。

「……なるほどですね」

肩にいるその鳥を見つめた。
なるほど、同じように超能力者だったか。

323美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/13(水) 23:43:29
>>322

「『タンブルウィード』――そういう名前なのね」

「一つ勉強になったわ。ありがと」

少年の動作の一つ一つを、目で追いかける。
拳銃――フィクションの中でしか見たことがない代物だ。
外見だけではなく、やはり中身も実物同様なのだろうか?
確かに異質なものではあるが、恐怖は感じていない。
この少年自身も言っていたが、彼がそれを無闇に人に向けるとは思えないからだ。

「初めてよ。自分以外に見える人に出会ったのは」

「名前を教えてもらったついでに、『それ』の名前も教えてくれない?」

「ここで出会った記念にね」

少年に向けていた視線を動かし、肩の小鳥を見やる。
小鳥は微動だにしない。
外見通りに機械的な存在のようだ。

「この子は『プラン9・チャンネル7』」

「――君のは?」

324猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/14(木) 01:02:55
>>323

猿渡自身、手の中にあるものはフィクションの中の存在だった。
現実には存在するが身近とは言い難い。
しかし何の縁かそういうものがあるのだと認識させられた。

「本当ですか、見える人に初めて会ったの」

「まぁ、疑う訳じゃないですけど」

手の中の拳銃に視線を落とす。
重みがあるようでない。冷たい機械のようで暖かい生物のようだ。
自分の半身。信じられないものだが。

「これは『ウェスタン・ホワイト・キッド』」

「そういう名前です」

325美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/14(木) 01:44:33
>>324

「あ、分かっちゃった?
 実を言うと、君で二人目なんだ。あははは……」

「ゴメン、ちょっとうっかりしてたの。私って案外ドジなとこあるから。
 この前なんて、寝ぼけて冷蔵庫の中にスマホ入れちゃって……。
 ウソついた訳じゃないから許してね」

顔の前で両手を合わせ、上目遣いで軽く頭を下げる。
以前に会った和服を着た少年のことは、もちろん覚えていた。
彼は独特の特徴があるから、一度見たら忘れない。

しかし、その時に自分のスタンドを見られたことを失念していた。
思えば、彼と会話した時はスタンドに関する話はほとんどしていなかった。
おそらくは、そのせいだろうか。

「『ウェスタン・ホワイト・キッド』――その形にピッタリって感じね。
 とってもカッコいいと思うわ」

『名は体を表す』という言葉がある。
スタンドという世界の中にも、それは存在する。
彼のスタンドも、そして私のスタンドも、例外ではないと思う。

「そうそう――」

「さっき間違えちゃったお詫びになるかどうか分からないけど、よかったらどうぞ」

まず、名刺入れから一枚の名刺を取り出す。
次に、資料と一緒に置いてあったボールペンを手に取った。
そして、名刺の空いている部分に、手馴れた様子で書き込みをする。

「――私から未来のパーソナリティに、ね」

テーブルの上に置いた名刺を、少年の前に差し出す。
『夢に向かってファイト!くるみから猿渡君へ』――
名刺には、そのように書いてあった。

326猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/14(木) 02:20:05
>>325

「別に怒ってないですけど」

「……ドジってるのはラジオでよく聞いてますから」

現在進行形で見るのは初めてだ。
人間なので思い違いや失敗くらいそりゃああるものだ。

「ありがとうございます。これもきっと喜んでる」

もしも銃に意識があればの話だが。
カッコイイという言葉は純粋に嬉しいものだ。

「お詫び……」

「……ありがとうございます。ボクは喜んでます」

名刺を受け取る。
そして財布を取り出しカードを入れるであろう部分に差し込んだ。
ポケットに入れるわけにはいかない。
未来の先輩からの貰い物だから。

「ボクから渡せるものは無いですけど」

「……いつか何かでお返しします」

アップルパイを口に入れた。

327美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/14(木) 02:45:42
>>326

「いいのよ、気にしなくて」

アップルパイを一齧りして、それから紅茶を一口飲む。
丁度いいバランスが心地良く感じられる。
こうして楽しく話せる相手がいると、それも尚更だ。

「そうだ――じゃあ、こうしない?」

カップを下ろし、少年にウィンクする。
その口元には笑みがある。
何か良いことを思いついたという感じの笑みだ。

「私は君のことを応援するわ。
 君も、私を応援していて欲しいの」

「つまり、お互いに応援しあうっていうこと」

「――それでどうかな?」

明るく爽やかな表情で、少年に笑いかけた。
自分と同じ世界を志してくれるというのは嬉しいことだ。
それが実現する時まで、自分もこの世界で頑張ろうと思えるのだから。

328猿渡『ウェスタン・ホワイト・キッド』:2018/06/14(木) 11:02:40
>>327

「ん……んー……」

左手を口に当て、視線を逸らす。

「ではそれで」

ほんの少し耳に熱がこもった気がした。

「お互いに」

応援しあえるというのはいい事だ。

329美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/14(木) 17:52:16
>>328

「うん――お互い頑張ろうね」

もしかすると、彼は未来の後輩になるかもしれない。
今のところは可能性でしかないけど、そういう話は気持ちが良いものだ。
だから、こうして私は笑っている。

「そうだ。せっかくだから、ちょっと意見を聞いてもいいかな?」

「リスナーとのトークのテーマのストックを増やしておきたくて」

テーブルの脇に置いてあった資料を中央に寄せる。
そして、その一ヶ所をペンの先で指し示す。
そこには『ウソのような本当の話』や『身の回りの変わった人』など、
多くのテーマが箇条書きされていた。

「リスナーの観点から見た意見を聞かせて欲しいな」

「――未来のパーソナリティさん」

現在のパーソナリティと未来のパーソナリティ。
その二人がテーブルを挟んで向かい合っている。
偶然から生まれた少し不思議な出会いが、そこにはあった――。

330斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/08(日) 15:00:24
――風が空を駆け、その足音が頬のすぐ傍を通り抜ける
7月、夏の中盤と言うべき6月と8月の間、僕の傍に置かれたラジオからは、僅かなノイズ交じりに
真夏日(まなつび)という言葉が繰り返されている。

辺りの草華は高温と日照に恵まれて、加熱されたアスファルトを引き立て役に、鮮烈な緑と色鮮やかな花弁を僕の瞳に映す
この展望台でさえそれは変わらないし、むしろ太陽が近いからなのか、それはより一層強烈なようにさえ思えた。

祖母の庭に見る7月の紫陽花はもう枯れかけで、パステルカラーの青と紫はくすんだ茶色に染まりかけている
逆に向日葵はこの展望台でも、ここぞとばかりに黄金色の顔を太陽に向けだす日々のようだ。

昼時の熱さで脱いだジャケットの袖を腰で結び。赤いスカーフを襟元に巻いた少年は
サンドイッチの入ったバスケットとラジオを傍に展望台の一つのベンチに座っていた。

視界に映るのは錆び付いた柵、100円を入れるタイプの古い望遠鏡
何処までも青い空を、突き抜けるような飛行機雲、中天に輝く太陽……。

「……そして新しいラジオ番組と夕ご飯のサンドイッチ!」

両面をバタで焼いたパンに、様々な彩りの具材をサンドした
祖母の手作りが所狭しと並んでいて、まるで幸福な胃袋のようだ

直ぐにでもお腹一杯食べたい所だが、まずは乾いた喉を潤すために
ベルトポーチのキンキンに冷えたコーラをひとつ取り出し、瓶の蓋に手をかけた。

「テスト勉強を終わらせた僕には中々の贅沢だよな。」

作り笑いをする必要もないのは、とても幸福な事だ。

331???????『????・?????』:2018/07/10(火) 01:10:56
>>330

  コソッ……

邪魔する者のいない落ち着いた時間。
その背後から、ひそかに近付く人影があった。
気配を殺し、足音を立てないように注意して距離を詰める。

       バッ

「――だーれだ」

両手で斑鳩の両目を隠し、唐突に質問を投げ掛ける。
同じくらいの年頃の少女の声だ。
どこかで聞いたことがあるような気がする。

332斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/10(火) 20:15:10
>>331

コーラ瓶をの蓋を歯で開けようとしていた時に、目の前が唐突に真っ暗になる。
一瞬遅れて目隠しをされた事でランチタイムの能天気さ(スタンドを使う云々その他諸々も)が吹っ飛んだかの様だ

「――うおわぁ!」  ヒュンッ

突如として目の前が真っ暗になった事に驚愕し、身体を震わせた衝撃でコーラ瓶を少女の目の前で空中一回転させる

 ワッ   タッ    パッシィァ!

続く声に驚きつつもキャッチできたのは奇跡と言う他ない

「えっ、だれ!でしょう!? まってまってちょっとまって」。

(お、女の人の声!で、僕と同年齢近く!そして多分知り合い!
 この町の知り合いで女の子だと、年齢で2人を除外して、残るのが3人)

(『蝙蝠傘の女の子』はきっとこういう事をしない性格だし
 『幸運猫招きの女の子』はするように見えるけど
 こういう風に現れる女の子を他に1人僕は知っている!)

コーラ瓶を結露した水で滑らないように握り込むと
かつての砂浜での光景と頬張ったアイス冷たさが、彼の頭の中で回転を停止した。

「ゆ、ゆ……夢見ちゃん!光の国の夢見ヶ崎ちゃん、だ!です!」

少年はそう早口で答えると、数舜して呼吸を忘れたかのように息を吐き出し
答えた事に安堵したかのように、斑鳩のスカーフが風にゆっくりと揺れ始める

そしてはたと、恐る恐る左手で眼を覆っている手に触れようとする
間違って気を悪くさせたらどうしよう?等という考え故に。

「……違ったら、ごめんね?」

333夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/11(水) 00:15:33
>>332

「――……」

解答が出されたが、まだ手は退かされなかった。
勿体ぶっているかのように『タメ』がある。
数秒の沈黙の後で両手が取り除かれ、目の前に『光』が戻ってきた。

「――ババンッ!!あったりぃぃぃ〜〜〜」

後ろを振り向けば、あの時と同じような姿の夢見ヶ崎が立っている。
パンキッシュなアレンジを加えたアリス風のファッション。
その顔には、相変わらずブルーのサングラスが乗っていた。

「こんかいゆうしょうした『いかるがせんしゅ』には、
 しょうひんとして、『アリスとおしゃべりするけんり』がぞうていされます!!
 ジャジャン!!」

勝手なことを言いつつ、躊躇いも迷いもなく隣に座る。
要するに、ただ単に話がしたかったというワケだ。
だけど、ふつうによびかけてもつまんなくない??
つまんないよね??ほら、やっぱりねぇ〜〜〜。
そんな脳内会議の結果、こういう風なアプローチになったのだった。

「で――さいきん、どう??
 なんか、おもしろいことあった??」

「わたしはねぇ〜〜〜、
 わたしとは『ちがうトコ』でスタンドもらったコとしりあった。
 わたしとおないどしの」

「『イズミン』っていうんだ」

自分から聞いておきながら、自分から喋りだす。
頭に浮かぶのは、『センセー』を連れた彼女のことだ。
『壊れたモノ』とか『ケガ』とかを治す能力を持ってた。

(ん??そういえば、ショーくんってなんかさがしてなかったっけ??
 たしか、『なおすスタンド』だったような……。
 なにを『なおす』んだっけ??ドわすれしちゃったなぁ)

頭の中で、そんなことを考える。
『治すスタンド』なのは覚えていたが、『心』という部分が頭から抜けていた。
――『センセー』のコト、おしえてあげよっかなぁ??

334斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/11(水) 02:54:09
>>333

ドキドキしながら待つ事一時、手を退かされると陽光が酷く眩しくなった気がして
咄嗟に目を細めてしまう

>『――ババンッ!!あったりぃぃぃ〜〜〜』

……まず一安心、聞き覚えのある声だったとはいえ
それに見知った顔が有ると無いのでは大違いだと感じる

「驚いたよ…うん、びっくりした。君の作戦は大成功だ。」

事実僕はスタンドで見るのを失念していたのだ
(まあそれをしたらズルだけど。)

「ほんと、ひんやりとさせて貰ったよね……えい。」

少年はベルトポーチからもう一本のコーラ瓶を取り出し
目の前の少女と同じ様な笑顔で、悪戯好きな女の子の頬にそっと押し当てようとする

「必冷、アイスコーラ 飲んでいいよ?」

そう言うと歯で自分の瓶の王冠をこじ開け
親指で王冠を弾き、落ちてきたところをキャッチした

(……うん、もう落ち着いたな。) 


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 >『アリスとおしゃべりするけんり』

「それは素直に嬉しいかな、うん
 少し不思議で、可愛い女の子とお喋り出来るんだから退屈もしないし。」

        ニッ

 「素直に受け取らせていただきます!」

 (癒されるよなぁ、こういう人がいると。) 

 特に嘘も必要ではない事だ、彼女に癒されてるのも確かにある
 ……もう7月なのだ、けれど求めるスタンド使いの手がかりすら掴めない
 元より砂漠で砂金粒を探して、其処から更に自分の欲しい砂金粒を探す作業なのだから
 当然と言えば当然なのだが。

 「面白い事かぁ」

 隣に座り込む少女を横目に、顎に手を当てて考え込む

 笑われた事ならこの前、畳の上で寝ていたら
 いつの間にやらまだ産毛もぱやぱやの子猫に耳をちゅぱちゅぱと吸われていた事くらいか
 それを見たお祖母ちゃんが微笑まし気に笑うので怒るに怒れなかった。

 (……ノーカウント!ノーカウントです!)

 正直に言いだしても僕は面白くない上に恥ずかしい
 思い出さなかったことにして斑鳩は目を雲の上に逸らした
 何が有るわけでも無いのだが。

「トクニオモイツカナイナー ホントダヨ それより……その、いずみん?」

 (いずみんいずみん・・・女の子かな?)
 (本当に『いずみん』何て名前じゃないだろうし、多分『いずみ』ちゃんだろうけど。)

 「僕達と同じガクセーの『スタンド使い』……なのか!
  ――ハッ そ、それって!どんな!どんな人なの!教えてよアリスちゃん!この通り!」

 斑鳩が必至に『四本』の腕で手を合わせる傍で
 携帯ラジオからはカナリアの囀りのような声が漏れ出ている
 最近の新しいラジオ番組のようだ。

335夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/11(水) 20:32:18
>>334

    パシッ

「おっ、いいねぇ〜〜〜。
 こういうアツいひは、こいつをいっぱいやるのがオツってもんだ。
 そとでのむのが、またイチダンとカクベツだぜ」

    グビッ 
    
        グビッ

ちょうど喉が渇いていたところだった。
ありがたくコーラ瓶を受け取って王冠を取り外し、
喉を鳴らして一気に飲み干す。
瞬く間に、瓶の中身は空になってしまった。

「くぁ〜〜、きく〜〜〜。
 『ごぞうろっぷ』にしみわたるぜ〜〜〜。
 こいつは、こたえられねぇなぁ〜〜〜」

口元を拭うと、思いっきりだらけた姿勢でベンチに体を預けた。
そして、しばし黙って少年の言葉に耳を傾ける。
頭の中で、新しい悪戯を考えながら。

         ――チラッ

何か意味ありげな視線で、隣の少年を横目で見やる。
その口元が笑っている。
屈託のない笑いではなく、何かを企んでいるような笑いだ。

「フシギなナマエだよねぇ〜〜〜。
 でも、ちかごろはもっと『ブッとんだ』ナマエのコだって、
 ゴロゴロいるからさぁ。
 だから、『イズミン』がホンミョウだとしても、
 ぜんぜんおかしくないよねぇ〜〜〜」

『まさか本名じゃないだろう』と思われていることを察し、
とぼけたような台詞を口走る。
もちろん本名ではなくニックネームだ。
しかし、そのことを知らない少年には即座の判断は難しいところだろう。

         ――チラッ

また横目で少年の顔色を窺う。
口元の笑いは、そのままだ。
ちょっとした悪戯を仕掛けて楽しんでいる――そんな顔だった。

「――だけど、わたしのしってる『イズミン』は、
 ホンミョウじゃなかったなぁ〜〜〜。
 『ミライ』ちゃんっていうんだよねー。
 『ミライ』だから『イズミン』。うんうん、『フツー』だな!!
 『イズミン』なだけに『フツー』!!」

自分で言って自分で納得し、うんうんと頷く。
喋っている本人としては、筋が通っているつもりだ。
少なくとも『頭の中』では。

『今泉未来』だから『イズミン』。
そして、『フツー』というのは彼女の口癖なのだ。
しかし、それらを口に出していないため、
辻褄の合わない意味不明な言葉を喋っていると思われても、
文句は言えない。

「んー??さては、ショーくん……『イズミン』に『アタック』するきだな!!
 『ししゅんき』だな〜〜〜」
 
「イズミンはねぇ、『フツー』がスキなコだよ。
 あと、よく『センセー』といっしょにいる」

「『イズミン』の『センセー』は――『なおすチカラ』をもってるんだー」

何気ない口調で、斑鳩少年にとってはとんでもない言葉を口にする。
彼が『何を治したいのか』は失念している状態だが、
『何かを治したい』ことは覚えていた。
そして、『コール・イット・ラヴ』は壊れた物や怪我を『補修』して治せる。

だから、ひょっとすると『コール・イット・ラヴ』の能力で、
治せるんじゃないかという考えが浮かんだのだ。
だが、『コール・イット・ラヴ』が、
『何を治せるのか』という肝心な部分を言わなかった。
単なる言い忘れであり、意図的ではないのだが。

336斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/12(木) 00:50:03
>>334

「……?」

スタンドの影の腕をしまう
――何か彼女の笑みに含みを感じる気はするけど
いや、それは今の僕に些細な事だ まさか彼女から聞けるなんて思ってなかったのだ。
頭を砂糖菓子のハンマーで殴られたようなショック、明日美選手に1ポイント。

「……うっ バレてました!」

僕の顔色が青くなる、あっさり言い当てられてるのだ
何だか敵わない気がするぞ、お祖父ちゃんの『女は怖い』とはそういう事なのか。
光の国の明日美選手、更に一点リード。

「最近の名前……そっかあ
 僕の名前は兎も角、そういう子は最近多いんだな、その……いずみん、ちゃん。」

自分の名前は父の性だ、この名前に僕は『誇り』がある
他人が同じかは知らないが間違えられていい気はしないだろう。

(失礼の無いようにしないとな…それで前に一回怒られてるし。)

明日美選手にさらに追加点。
彼女はうんうんと頷きながら、僕にその名を告げる。
その言葉に僕は頭を抑えた

「――って、其処まで引っ張って『いずみん』って名前じゃないの!!?ショック!!!」
「ハッ……さてはなんか僕で遊んでるなッ! 遺憾のイを表明します!」

(畜生!おもちゃにされてるぞ斑鳩!……でも、まあ彼女が楽しそうだからいいかなあ。)

口先だけの不満を言いながら辻褄の合わない言葉群が脳内でラインダンスを開始する
そういう子だと解ってきたのせいなのか、別に嫌いでは無いのだ。

「……はっ? あたっく?」

でも流石にこんな事を言われると口が開く
落ちた顎をそっと戻して数舜考え込み、理解して……赤面しながら手を振る。

「い、いやいやいやいや いいよ顔も知らないし、これから知り合うんだし…って
 違いますー!それを言い出したら君も思春期でしょ!」

ダブルショック!
悲しい事に立て続けのショックで僕の顔色は忙しいカメレオンの用だろう
青、赤、青、赤 或いは壊れた信号機か。

――ただ、彼女の次の言葉で僕は冷水に頭を突っ込まれた。
喉に違和感を感じ、急に世界の方が僕から遠くなったように感じる。


「『センセー』――『なおすチカラ』?」

(せんせーは…スタンドだよな)

一語一語を再度確認するかのように噛み締め、言い直す


(じゃあ、なおすちからは……能力……『僕の探している能力』!)


――『ロスト・アイデンティティ』は僕自身の求めた能力では無かった
『気が触れてしまった両親を治す』能力では無かった。故に『斑鳩翔』は『治せるスタンド使い』を探していた。
『両親を治せるスタンド使い』を、それは結果として彼自身の必要なかった『良心』まで治す事になっていたのは皮肉だったが。

……今、僕は砂漠の中から砂金粒を見つけた しかも僕の求めていた砂金粒を……。

「……嘘、でしょ?」

可能なら直ぐにでも確かめたい衝動に駆られる
今の彼には飛行機雲の生みの親が出す音すら届かず、耳鳴りだけが聞こえていた。

337夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/12(木) 21:26:51
>>336

「えぇ〜〜〜??ウソじゃないよー??
 『ホントのホント』で『マジのマジ』なんだよねぇ〜〜〜」

「あ、ヒコーキだ。あれって、ドコいきかな??
 わたし、まだのったことないんだー」

斑鳩少年の心中に気付かず、あっけらかんとした表情で言葉を続ける。
二人の頭上――綿のように白い雲が浮かぶ夏の上空を、
一台の飛行機が通り過ぎていく。
少年とは対照的に、音を聞いて思い切り飛行機の方を見上げた。
やがて顔を下ろし、再び少年の方を向く。
斑鳩少年の表情を、じっと観察する。

(――……??)

そこで、斑鳩少年に生じた変化に気付いた。
こう見えても、鈍いわけではない。
むしろ、こうした変化に対しては目聡い方なのだ。
こちらも、少し表情を引き締めてから、改めて話を続ける。
といっても、大きく変わっているほどではないが。

「――だって、わたしも『なおしてもらった』から」


           コール・イット・ラヴ
    ――『世界はそれを愛と呼ぶ;』――


            ――『補修ノ時間ヲ 始メマス』――


頭の中で、『イズミン』と初めて遭遇した時の光景がフラッシュバックする。
あの時、うっかり破いてしまった『ドリンク無料券』を『治して』もらったのだ。
それは偽りではなく、確かに間違いのない事実だった。

「『イズミン』の『センセー』は――
 『こわれたモノ』とか『ケガ』をなおせるんだ」

そして、次の瞬間――少年の期待を裏切る言葉が告げられた。
言っている本人に、少年を失望させようという気は少しもない。
しかし、それは斑鳩少年にとっては『残酷な事実』となるだろう。

ラジオからは、パーソナリティの声が流れている。
どうやら、リスナーから曲のリクエストがあったようだ。
パーソナリティに代わって、音楽が奏でられ始めた。

338斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/12(木) 23:00:43
>>337

――ラジオの音楽は雑音に、白い飛行機雲と青い空はモノクロに そして1秒を9秒に。

「『壊れた物』と『怪我』……」

     ――ガクン

「……『壊れた物』と『怪我』だけか」

ベンチから自然と浮きかけていた腰が落とされ、肺から自然と息が漏れ出す
全身に『鎖』が巻き付くような『ビジョン』が現れ、首を垂れる
僕には急に、肩と首が重くなったような気さえする。

(少しずつ少しずつ『運命』がぼくを気づかないうちにとり囲んで……ぐるぐると『鎖』で縛ってすぐに逃げられないように……
 そして『希望』で一瞬だけ喜ばせておいて…最後の最後でぼくの全てを『失わせて』去って行く
 『両親』の時も…『スタンド』の時も…)

                    ロスト・アイデンティティー
           ――『自分とは何かと問う時・それは失われている』――

僕の『スタンド』は簡潔に僕自身を表していた、それに気づいてないのは僕だけだ
見ないふりをしていた僕だけ……。

『残酷な現実』は急に僕を額縁に入れたような視界から、世界に色と音が戻ったように感じる
 追ってくる吐き気と眩暈に、両手で顔を抑えなければいけなかった。

 (この顔は他人に見せてはいけない…泣いて世界が変わるわけでも無い……
  けど悲しい時に涙が出るのは心の『反射』なんだ……どうしようもない。)
 
 「うう…うっ ううう」
 「……今日は日差しが強いなあ、汗が出るよ!」

 サンドイッチの詰まったバスケット、隣に座る少女の表情
 そのすべてが暑さでない理由で滲んで見えた。

339夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/13(金) 00:18:53
>>338

「――……」

『何でもない様子』の斑鳩少年の姿を目で追った。
正確に言えば、『何でもない風を装っている姿』を見ていた。
傍から見ていても、少年の失望は目に見えて明らかだったのだから。

(『センセー』のチカラは――『こわれたココロ』はなおせない)

少年の様子を目の当たりにしたことで、彼が探しているものを思い出した。
『心を治せるスタンド』――それが彼の求めているものだ。
同時に、図らずも自分の行動が彼を傷付けてしまったことを察した。

「――そうだね」

ややあって、ポツリと呟く。
先程までとは違い、静かな声色だ。
しかし、そこに暗い色はなく、どこか穏やかさを感じさせる口調だった。

「とっても暑いよ。今日は特にね」

事も無げに言って、おもむろに『サングラス』を外す。
これがなければ、自分は正常な視力を維持できない。
両の瞳が強い日差しに晒され、視界から徐々に『世界』が消えていく。

「私には――『光』がなかった」

「みんなが生まれた時から持ってるものを、私は持ってなかった」

「これから先も、ずっと……ずっとそうなんだと思ってた」

手の中で『サングラス』を弄びながら、ポツリポツリと言葉を続ける。
視力は既にほとんど失われており、何も見えていないのと大差ない。
それは、かつての自分に限りなく近い状態だ。

「……でも、今は私にも『光』がある」

「最初は信じられなかったけど……でも、今の私は『光』を持ってる」

「――私が言いたいことは、それだけだよ」

一時的に光を失った黒目がちの両目で、少年の顔を見つめる。
今この瞬間、自分の瞳には何も映っていない。
それでも、真っ直ぐな視線を少年に送る。

軽々しく『諦めないで欲しい』とは口に出さない。
だけど、『可能性』は常に存在するはずだ。
自分が『光』を得ることができたのと同じように。
だからこそ、彼にも『希望』を捨て去って欲しくなかった。
『壊れた物』や『怪我』を治せるスタンドが存在するなら、
『心』を治せるスタンドが存在する可能性だって、ゼロではないのだから。

340斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/14(土) 00:08:50
>>339

「夢見ヶ埼……明日美ちゃん」

――目の前には『奇跡』が有る、光の無いはずの眼に光が宿るという『奇跡』が。
  だから僕は無意識に彼女に『希望』を見ているんだ、『奇跡が有る』という希望を。

             「う゛う゛ん…!」

    両目を擦って涙を止め、自らの頬を両手で挟み込むようにはたく

(僕は…何を落ち込んでるんだ…失敗して落ち込むのは『今の僕』なら当たり前…
 60年に満たない人生で、もう何千、何万回も繰り返してるんだ、そしてこれからも必ず失敗する。)
 
                    カチン

「だのに、ぼくってやつぁ知り合いの女の子に気まで使わせてるぞ…斑鳩!よくない、全然えらくないッ!」

深呼吸してもう一度、夢見ヶ崎明日美の顔を、性格にはその視線を僅かに赤く腫れた眼で受け止める

  「僕は、めげるし、しょげるし、へこたれるけど…大事なのは失敗しても向かう事だ
   『向かい続ける意志を持つ事』だって思うから…

        …そして落ち込んでません!全然!ちょっと目に汗が入っただけですーぅ!」

若干上ずる声は無論空元気だが、それでも目の前の女の子に目を合わせ『もう大丈夫だよ』のサインを送らなくてはいけない
 それが出来るのは男の子の特権だと彼は勝手に考えているのだ、立ち上がって直ぐに起きるのは同級生にだってできる事だと。

    (こんな簡単な事につまずいて、転んだままなんて、彼女の眼だって見返せないじゃあないか
     とても恥ずかしいぞ……恥ずかしいと思ったなら恥を雪がなくてはいけない!)

  「……だから、サングラスかけていいよあすみちゃん、君が困るでしょ。
   『僕』は他人を困らせて落ち込みたくないや、僕も悲しいし、困るもの。」

 そう言いながら僕は笑顔を作る、作り笑いかは僕にも解らないが、偽物でも本物でも笑顔に違いは無い。
  だから今は少しだけ、ラジオから流れる音が耳に入るような気さえしてきた。

              グウウゥゥゥ……

「――それはそれとして何故か悲しいので『やけ食い』をします
 とめてくれないでやってください、あすみちゃん、この斑鳩はお昼ご飯がまだなのです。」

            ヒョイ 
                  モグゥ

     「サラダチキンにレタスとチーズでした、おいひい…たべる?」

 ……バスケットからサンドイッチを一つまみ。

341夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/14(土) 01:22:49
>>340

見ることのできない瞳で、少年を見ていた。
そして、少年の声を聞いて彼の様子を悟り、それから笑った。
彼のサインに応えるためには、そうしなくてはいけないと思ったからだ。

「ついでに教えてあげるよ――私の『秘密』を」

「私は――」

手元で弄っていたサングラスを、ゆっくりと顔に持っていく。
瞳がレンズで覆われると、日光が遮られ、少しずつ視界が戻ってくる。
まるで『世界』が蘇るような感覚を覚え、深呼吸を一つする。

「――サングラスをかけると『せいかくがかわる』タイプなのだ!!」

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

先程の真面目な態度が幻だったかのように、ケラケラと笑う。
『どっちが本当の自分か』と聞かれたら、こう答えるだろう。
多分どちらもが『本当の自分』なのだろう、と。

「おっ、いいねぇ〜〜〜。
 まちをみおろしながらくうサンドイッチは、またカクベツだなぁ〜〜〜。
 このセカイのテッペンとったきぶんで、レッツ・イーティング!!」

          ムッシャッ ムッシャッ

ありがたくサンドイッチを受け取り、大口を開けてかぶりつく。
目を閉じて、味を確かめるように咀嚼する。
飲み込むと同時に、その目が再び開かれた。

「あっさりしたトリのムネにくと、ジューシーなクリームチーズ、
 しょっかんとはざわりをたのしめるロメインレタス――」

「――うんうん、イイできだ!!『90てん』!!」

 『 L(エル) 』 『 I(アイ) 』 『 G(ジー) 』 『 H(エイチ) 』 『 T(ティー) 』

いつの間にか背後に立っていた盲目のスタンドが、『呟き』の後に姿を消した。
よく味わうために、『味覚』の強化を行っていたのだ。
そうして、まもなくサンドイッチは全て胃袋の中に吸い込まれていった。

「あー、くったくった。なんか、まえもタベモノもらったきがするなー……。
 あ!!そうか、わかった!!」

「――ショーくん……さては、わたしに『アプローチ』をかけてるな!!
 まさか、そんなふうにおもわれていたとは……。
 にくいな〜〜〜、このこのー」

悪戯を仕掛けた時のようにニヤニヤと笑いながら、少年の体を肘で突っつく。

「ラッキーなことに、いまわたしは丁度『フリー』だから……
 これは『だいチャンス』だ!!
 あっあ〜〜〜、『フリー』っていっても、『むりょう』ってワケじゃないからね??
 わたしは、そんなにチープなおんなじゃあないぞ!!
 なんたって、『アリス』だから!!」

何かを勘違いしているような言葉を吐きながら、
モデルのように足を組んで、気取ったポーズを取ってみせた。

342斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/07/15(日) 01:36:39
>>341

美味しそうにサンドイッチをパクつく少女を横に(当然おいしいにきまっている!と僕は思っている)
 二つ目に手を伸ばして少年はやけ食いという名の昼ご飯を続ける

    「いーえ、泣いてやけ食い中に女の子口説こうとする男の子なんかいません!」

       「……いませんったら!」

                        「泣いてませんけどね!」

 体を肘で突っつかれ、どうにもバツが悪いように頭を掻く
  涙は引っ込ませた、そうでないと彼女の笑顔に悪いと思ったからだ
感情的になりつつも其処まで考える余裕が有るのは、或いは『影』のせいかもしれない。

 (またからかっているのだろうな彼女……ううむ、何で僕は恥ずかしいのだろうか。
  よし、夢見ちゃんのせいにしておこう、なんもかんも夢見ちゃんがわるい。)

 『スタンド』の『影の四肢』が悩むように両手を腰と顎の下に当てる
 この状態の『L・I』は本体の意思で動くが、別に本体の動作の邪魔をしないので食べながら考えたりするのだ。

そして黒い影の頭部が、モデルのように足を組んで気取ったポーズを取る少女を見ながら、ある悪戯を閃いた。

    (そーだ、僕も真似してからかってやればいいんじゃないか?
     ……まあ出来ると思わないけど、口説いた経験ないし。…『ケンイチロー』君辺りならできるんだろうか。)

 「……そんな事を言ってさ、本気にされても知らないよ、アリスちゃんは。」
 
 食べ終わった手を払いって立ち上がり、少女に向かって振り向けば仰々しく『スタンド』と一緒にかしづいて頭を下げる。
  『L・I』と彼の二つの脳が、彼女をからかうための動きと声色の出し方を計算する……顔を見せないのは表情を繕えないからだが。

  「僕が出せるのは『スタンド』と『残りの人生』くらいだけど、全部出すから・・・君をください。」

          「――なーんて言われたら困るでしょ?」  ニッ

不敵な笑みを浮かべながら少年は顔を上げる、笑顔なら鏡の前で何度か練習しているのだ。
 すこし格好もつかないが、まあ僕ならこんなものだろう、笑いが取れれば上等だ。

(でも……もしこんな事してたって知ったら、ゲーセンで会った『オータ』君とか『血涙』流しそうだな……たぶん。)

少年の首に巻かれたスカーフが、夏風に揺れ、太陽が雲に隠れた
夏の風は展望台下の匂いをひろっきている……。

343夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/07/15(日) 21:18:19
>>342

「     え     」

『口説く真似』をされた一瞬、小さく一言だけ言葉を発する。
その直後に、一切の動きが停止した。
季節は夏だというのに、まるで凍り付いてしまったかのように硬直している。

    ――ババッ

そして、すぐさま両手で表情を覆い隠し、斑鳩少年から顔を背ける。
未だかつて、異性に口説かれた経験はなかった。
たとえ、それが『真似』であったとしても。

       フワッ……

リボンのような形で頭に巻いたスカーフに、風が触れた。
少年の首元のスカーフと同じように、風を受けて揺れ動いている。
俯いた顔の耳の辺りには、心なしか赤みが差していた。

「――……ッ」

顔を覆い隠したままの唇から、押し殺したような息が漏れた。
両方の肩が小さく震えている。
この光景を見る人間が周りにいなかったことは幸いだった。
もし『見られていたら』と思うと……。
やがて、その両手が静かに脇に退かされていく――。


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